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見捨てられた花
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月30日(土)10時38分58秒
- 短編をいくつか書きたいと思います。
拙い駄文かとは思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。
- 2 名前:月明かりに照らされて 投稿日:2002年03月30日(土)10時41分04秒
- 夜空に浮かぶ、青白く輝く月が照らし出したあなたの微笑みはとても綺麗で、訳もなく悲しみが込み上げてくる。
私たちはただ見つめあうだけで、何の言葉も発しなかった。
いや、何も言えなかった。何か言えば、溢れ出してしまう。抑えてきた全てが。
けれど、このままでは埒があかない。意を決して、私は言葉を紡いだ。
「どうして…私たち出会ちゃったのかな…?」
違う。私が言いたいのはそんな事じゃない。
- 3 名前:月明かりに照らされて 投稿日:2002年03月30日(土)10時42分49秒
- 「どうして、私は女なのかな…?男だったら…良かったのにっ…」
なのに、堰を切ったように、言葉が溢れてくる。
「…なんでぇ…女同士で愛し合っちゃいけないのかなぁ…?」
悲しい言葉ばかりが口をついて出る。
ドウシテ…ナンデ…?
幾ら嘆こうと、何の進展もない。それぐらい分かってたはずなのに。
耐え切れなくなって零れ落ちた涙が、私の頬を伝って、落ちた。
- 4 名前:月明かりに照らされて 投稿日:2002年03月30日(土)10時44分37秒
- 「ひとみちゃん…泣かないで…」
「梨華ちゃん…」
優しく抱きしめられると、余計涙が込み上げてくる。その優しさに、安心したためだろうか、それとも、受け入れられぬ者の悲しみか。私にはわからない。ただ、涙が零れる。
- 5 名前:月明かりに照らされて 投稿日:2002年03月30日(土)10時46分38秒
- 「どっか…遠くに行こう?誰も知らないとこでさ…二人で暮らそう?ずっと…一緒にいよう…?」
そんな夢のような事を言うあなたは、未だに優しい微笑を称えていて。
私の知らない何かを知っているような、もしかしたら、全てを諦めているような、優しい、優しすぎる微笑で…。
ただ私は、あなたの言葉を信じる事でしか、この悲しみを慰める術もなく…。
- 6 名前:月明かりに照らされて 投稿日:2002年03月30日(土)10時48分20秒
- 恐らく、私たちは今の生活を捨てる事も出来ず、かといって離れる事も出来ずに、永遠に涙を流しながら生きるのだろう。けれど、二人でなら構わない。強くそう思った。…いや、そう思うことにした。
- 7 名前:月明かりに照らされて 投稿日:2002年03月30日(土)10時49分18秒
おわり。
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月31日(日)00時12分06秒
- これは切ない…
- 9 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時50分10秒
- 降りそそぐ太陽の光。鳥の囀り。舞う蝶々。優しい風…
テレビで見たような、素敵な人…。
全てが私の望むように、私を囲んでいる…
- 10 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時50分44秒
- 「…ん…夢、か…」
都合が良すぎると思った。そりゃあ、夢だよなぁ。
寝ぼけ眼で時計を見ると、10時半。いくら休みだからって寝すぎだ。
少しづつ視界がハッキリしてくると、隣で寝てたはずの梨華ちゃんがいない。
けどまぁ、これはいつものことだからさして気にすることもないか。
- 11 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時51分33秒
- 梨華ちゃんが寝てたとこには、代わりとでも言うように一切れの紙切れとキャップが外したままのペン。
そこには、「ごめんね、よっすぃー、探さないで。」
「…ちょっとは考えたじゃん」
そう独りごちながらベットから降りる。
- 12 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時52分07秒
- 梨華ちゃんはいつもあの手この手で確かめてくる。
不安なのだろう。人一倍、ネガティブだから。
「探さないで…ってことは探してやればいんだよなぁ…」
自分に問いかけながら、適当に部屋の中を探す。
クローゼットの中、風呂、トイレ。
…あれ?いない…
- 13 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時55分25秒
- ふと思いつき、ベットまで戻るとペン先を紙の上に走らす。
出ない。ということは、大分時間が立ってるって事だ。
「面倒臭いなぁ…もうっ!」
苛立ちを言葉にして叫ぶと、私は立ち上がり、着の身着のまま外に飛び出そうとした。
するとその時…確かに聞こえた。どこから…?
目を閉じて、耳を澄ます。それは、ベットの下から聞こえてくる。
恐る恐る覗き込むと、そこには窮屈そうにしながら寝息を立てる梨華ちゃんの姿があった。
- 14 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時56分01秒
- 「…梨華ちゃ〜ん」
ベットの下に手を突っ込んで肩を揺すってやると、「…んん」
「起きた?」
「…よっすぃー」
「探したよ…」
「えへへ…よっすぃー、好きぃ…」
「はいはい。私も好きだよ」
私たちはお互いに好きと囁くけれど、その意味は若干異なる。
私は梨華ちゃんを引っ張り出してやると、優しく抱きとめてやった。
- 15 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時56分38秒
- 「何時からベットの下にいたの?」
「えっとね〜、5時…かな。そのまま寝ちゃった」
そう言って無邪気に笑うと、本当に可愛い。
「好きだよ…よっすぃー」
梨華ちゃんの好きはつまりLOVEって意味で。
「ん…。」
私の好きはせいぜいLIKEとLOVEの中間ぐらいの、中途半端な気持ち。
- 16 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時57分13秒
- なのに、梨華ちゃんに愛を告白された時、私は梨華ちゃんを抱きしめていた。
幾つかの選択肢の中から、私は欲張って全てを手に入れようとした。
…っとに、誤算だよなぁ…。私は普通の恋愛だってしたいのに、全部御破算。
だって梨華ちゃんは私を放してくれそうにもないし、私も梨華ちゃんを離せそうにない。
- 17 名前:置手紙 投稿日:2002年03月31日(日)11時57分53秒
-
おわり。
- 18 名前:作者 投稿日:2002年03月31日(日)12時00分03秒
- >8 名無し読者さま。
レス、感謝です。そう感じていただけたなら、思うツボ(w。もとい、幸いです。
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月31日(日)13時49分54秒
- なんだかんだで幸せそうな吉澤がいいですな(w
- 20 名前:空の向こうから 投稿日:2002年04月03日(水)16時26分48秒
- いきなりの通り雨で、意味もなく辿ってきた誰かの足跡が流されてわかんなくなった。雨が止めば、またいつもの乾いた風が私の頬を撫でて過ぎていく。
──そっちの風はどんなんだったけ?
近頃良くそう思うけど、ちっとも思い出せやしない。
- 21 名前:空の向こうから 投稿日:2002年04月03日(水)16時28分16秒
- 自分の夢の為とは言え、慌しい日々に溜め息も出る。でもそれは充実感を伴なう、愛おしいものだ。この広い空の下に、私の歌を響かせたい。道は険しいが、着実に進んでる。その実感がある。だから、今日も頑張れる。
- 22 名前:空の向こうから 投稿日:2002年04月03日(水)16時29分23秒
- 息抜きの散歩から帰ると、家のポストに手紙が一通。
珍しいなと思いながら眺めると、宛名に懐かしい名前があった。
私は急いで封を切った。なかには、
「Dear SAYAKA
久しぶり、元気してる?私は元気だよ。――――
- 23 名前:空の向こうから 投稿日:2002年04月03日(水)16時30分30秒
- …許してくれてないと思った。だって、私は逃げた。一緒に頑張ろうって誓ったのに。私は、夢の為とか言って、逃げた。
――相変わらずこっちは忙しくて、休みなんかほとんどないけど、とりあえず楽しくやってる。――――
…彼女も、私と同じ夢を描いてた。だから、同じ不満を抱いてたはずだ。
- 24 名前:空の向こうから 投稿日:2002年04月03日(水)16時31分44秒
――そっちはどう?順調に進んでる?――――
…けれど、彼女は残った。そして、私は去った……。
――いつかまた会える日を楽しみにしてるよ。アンタがシンガーソングライターになって戻ってくるまで、私は頑張るよ。――――
…なぜ、こんなに強くなれるのか…私には分からない…。
――アンタが夢を叶えるのを、遠くで願ってます。From kei」
- 25 名前:空の向こうから 投稿日:2002年04月03日(水)16時33分09秒
涙が零れて、手紙の文字を滲ませる。
けど、ちゃんと伝わってくる。
「今度…電話でもしようかなぁ…」
今はただ願う。再び会う時は、胸を張っていられるようにと。
- 26 名前:空の向こうから 投稿日:2002年04月03日(水)16時33分53秒
- おわり。
- 27 名前:作者 投稿日:2002年04月03日(水)16時36分50秒
- >19 名無し読者さま。
本当はもっとドロドロにしようかと思ったんですけどね。出来ませんでした。いしよし好きなんで(w
- 28 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時19分01秒
- 鳴り響く警報の中、私は人の流れに逆らいながら、火の上がる方向を目指し走っていた。人々は何か喚いていたり、泣いてたりした。
「待て!そっちは危ない!」
不意に肩を掴まれて、私は後ろに倒れそうになった。
それをどうにか耐えて振り向くと、見知らぬ中年男性だった。
- 29 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時19分59秒
- 「母が!家にいるんです!」
その手を振り切って、私はまた走り出す。
「……っ!死ぬなよ!」
…親切な人だ、と思った。そして、あんな人から死んでいくんだろうな、とも。
この時代を生き抜くには、あまりにも人が良すぎる。
- 30 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時21分00秒
- ようやく、かつて我が家があったところに辿り着くと、そこにはただ瓦礫が山を成しているだけだった。
…母は足が悪かった。恐らくこの下に…。
嫌な考えが脳裏に浮かんだ。もしかしたら誰かが助け出してくれたかもしれない。その可能性もあるにはあったが、それを信じるには涙が枯れ過ぎていた。
- 31 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時21分50秒
頭上を金切り声と共に戦闘機が飛んでいく。
…あれは私たちを守ってくれるものじゃない。街をこんなにした奴等のだ…。
私は思わず足元の石を拾って投げつけた。もう豆粒以下の大きさになっている戦闘機に向かって。
すると、奴は戻ってきた。ぐんぐんその大きさを増してくる。私はそれをただ見ていた。
- 32 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時22分20秒
- 不思議と恐怖は感じなかった。ただ、絶望と諦めが私の足に絡み付いていた。
けたたましく銃声が響く。どうやら私も殺すつもりらしい。この街のように。
目の前の石ころがその銃弾に弾かれる。まるで見えない獣が走ってくるように思えた。その獣が私に襲いかかろうとしたその時…視界が、揺れた。
- 33 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時23分05秒
「馬鹿やろう!後藤!死ぬ気かよ!」
「…いちーちゃん?」
そこには、バンダナを巻いた、確かに見覚えのある顔があった。
「どうしてここに!?」
「…!伏せろ!」
再び戦闘機が旋回して戻ってくる。再会を喜ぶ暇すら与えない気だろうか。
結局何度か旋回を繰り返して私たちの頭上をうろついた後、戦闘機はどこかに飛び去った。
- 34 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時23分58秒
「…後藤、無事か?」
「うん…。ねぇ…、どうしてここにいるの?どっかに逃げたんじゃなかったの?」
「…誰がそう言った?」
「皆…言ってるよ。いちーちゃんは私たちを置いて安全な所に逃げたんだって」
少し困ったような顔をして、頭を掻くと、「実は今、なんつーかな、自警団みたいな事やってんだ」
- 35 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時25分33秒
- 「…じけーだん?」
「うん。要は今みたいに、人助けとか…」
「そんな!危ないよ!いちーちゃんが死んだらどうすんの!?」
「…いちーはいいんだよ。もう…家族もいないし…悲しむ人、いないから…」
「そんなことないっ!いちーちゃんが死んだら私泣いちゃうよ!」
「うん…。そっか。ありがとな」
- 36 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時26分18秒
- そういいながらいちーちゃんは微笑むけれど、どこかに私が知らないものを隠しているようで嫌だった。
「ねぇ、やめよ?一緒に逃げよ?」
「それは駄目だよ…。出来ない」
「じゃあ、私も一緒にいく…!」
「…それはもっと駄目。お前は家族のとこに帰りな」
「……お母さん…、死んじゃったもん…」
- 37 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時27分13秒
- 「お前の母ちゃんは生きてるよ」
「無責任なこと言わないでよ!」
「仲間が先に避難場所まで連れてった」
「え…?」
驚いて顔をあげると、そこには悪戯っぽく笑っているいちーちゃんの顔があった。
無責任って、酷い事言ったのに…
- 38 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時28分06秒
- 「さ、もう行きな。母ちゃん、待ってんぞ?」
そういっていちーちゃんは私の肩をぽんと叩いた。
- 39 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時28分48秒
その次の空襲で、結局母は死んでしまった。それから何回目かの空襲のあと、私は道端で倒れているいちーちゃんを見つけた。
また誰かを庇ったんだろうか。何故かすぐには涙は出なくて、頭が勝手に分析を始める。
- 40 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時29分23秒
- 道の真ん中であお伏せに倒れていて、その両手は広げられていた。誰かの為に戦闘機の前に立ちふさがるいちーちゃんの姿が浮かぶ。なら庇われた誰かは何処にいったのか。…逃げたんだろう。いちーちゃんを置いて。
- 41 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時30分09秒
- …ほんとの馬鹿はいちーちゃんだよ…。いまごろになってようやく涙が出てきた。
一度でてくるともう歯止めが利かなくて、私はいちーちゃんの前で暫く泣いていた。
- 42 名前:青空 投稿日:2002年04月04日(木)22時31分31秒
- 小高い丘に墓を立てた。
その前で手を合わす。…私はある決意を固めていた。
…いちーちゃん、聞いたら怒るかなぁ?
私はいちーちゃんのしてたバンダナを腕に巻く。
……こっから、見守っててね。いちーちゃん……
そう呟いて、私はいちーちゃんのもとを後にする。
空には、突き抜けるような青空だけが広がっていた。
- 43 名前:作者 投稿日:2002年04月04日(木)22時32分06秒
- おわり。
- 44 名前:火の海の中で 投稿日:2002年04月04日(木)22時56分09秒
- 「…っん」
爆発音と共にまたどこかで火が上がる。
「あっ…ん…」
結構近いな、なんて思いながらも私は梨華ちゃんを愛撫する手を休めない。
- 45 名前:火の海の中で 投稿日:2002年04月04日(木)22時58分16秒
- 空襲のたび、戦闘機が空に舞うたび、街が火に包まれるたびに、私たちはお互いを愛しあった。
大抵、私が梨華ちゃんのもとに来る。そして、梨華ちゃんは私を待っている。
- 46 名前:火の海の中で 投稿日:2002年04月04日(木)23時00分51秒
こんな時期だから、私たちの関係は許されるものじゃない。寧ろ、迫害の対象だ。
だれかが血を流して戦ってる時に。どこかで、誰かが泣いている時に。
貶める言葉ならいくらでも浮かぶ。
- 47 名前:火の海の中で 投稿日:2002年04月04日(木)23時01分27秒
- 「ああっ…!ひとみちゃんっ…!!」
梨華ちゃんが、果てた。脱力して、私に身体を預けたまま、肩を上下させている。
窓の外は火で真っ赤に燃えている。
- 48 名前:火の海の中で 投稿日:2002年04月04日(木)23時02分48秒
- …私たちはこのときしか愛し合えない。街が燃えて、法がその力を失った時しか。
まだ息の荒い梨華ちゃんの顎を持ち上げて、深いキスをする。
梨華ちゃんはそれを嫌がるでもなく受け入れる。
- 49 名前:火の海の中で 投稿日:2002年04月04日(木)23時03分36秒
- まだ足りない。もっとだ。もっと燃やせ。焼き尽くせ。こんな街も、法律も。
不謹慎だが、それが私の、いや、私たちの本音だ。
- 50 名前:火の海の中で 投稿日:2002年04月04日(木)23時04分13秒
- いつしか梨華ちゃんは私の上に跨っていた。
もしここが燃え尽きても、私はここに来るのだろう。梨華ちゃんのもとに。
そして、もし私がここに来れなくなっても、梨華ちゃんはここで私を待つだろう。火の海の中で。
梨華ちゃんを見つめながら、なんとなくそう思った。
- 51 名前:火の海の中で 投稿日:2002年04月04日(木)23時04分47秒
- おわり。
- 52 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)05時08分36秒
- 暗いけど激しい感じ。けっこう好きです
- 53 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時19分08秒
- 嫌な夢を見て、目が覚めた。
何度も見たことがあるような、それでいて全く思い出せないような、そんな夢だった。その余韻に眠りを妨げられた私は暗闇の中で目を開ける。
- 54 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時19分52秒
- 不意に頬にかかる誰かの寝息に気付く。
あぁ、そういえば今日は泊まりに来てるんだった。
思えば、あの嫌な夢を見るのは決まって彼女が泊まりに来た日なような気もする。
- 55 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時20分31秒
- 目と鼻の先にある彼女の寝顔に、息を呑む。綺麗な顔立ち。
柔らかく折れた腕に私の腕を絡ませる。起こしてしまわないようにそっと。
ずっと見つめていると、ふと彼女が凄く遠くに感じる。
- 56 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時21分20秒
- 「…好きだよ、ひとみちゃん」
そんな言葉で繋ぎ止めれるわけ無いのに、私はそっと呟く。
そして、帰ってくるはずの無い返事を待ってた。
- 57 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時22分24秒
- 「愛してるよ、世界で一番…」
彼女の返事の無いまま、私は更に呟く。
寝てるときなら幾らでも言えるのに。
どうして普段はいえないのだろう。
- 58 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時23分30秒
- 馬鹿らしい口先だけの愛を虚しく語るだけで、いつからかお互いに本当の愛の言葉を囁く事なんてなくなってた。
心の底で湧き出た言葉は、胸の迷路に迷って、そのまま言葉になることは無い。
その一端が見えたところで、私がそれに見惚れている間に消えてしまう。
- 59 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時24分20秒
- お互いを探り合うたびに嫉妬に汚れて、触れ合うたびに不安に溺れて。
とはいえ離れていれば胸が焦がれて。雁字搦めになりながらも今なお終わりを告げる事も出来ずに。堕ちていくだけだ。真新しい闇に。
- 60 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時25分46秒
- いっそのこと、彼女がこのまま起きなければいい。
目覚める事の無いまま、何も無いように変わらない朝が来て。
そして、私は愛を語る。眠ったままの彼女に。心からの、愛の言葉を。
- 61 名前:愛の言葉 投稿日:2002年04月06日(土)01時26分24秒
- おわり。
- 62 名前:作者 投稿日:2002年04月06日(土)01時27分51秒
- >52 名無し読者さま。
レス、感謝です。こんなん多いですが…そう言ってもらえて幸いです。
- 63 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)07時02分12秒
- う〜ん、耽美な世界
- 64 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時08分26秒
- 昼下がりの、人影も疎らな礼拝堂に、ステンドグラスから七色の光が舞い降りる。
どこからか、聞こえるはずの無い賛美歌を誰もが聞こえたつもりになるような、そんな厳粛な雰囲気の中、この教会のシスターである梨華は、今日もまた神に祈りを捧げていた。
- 65 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時09分53秒
- 「相変わらず熱心ですね、シスター梨華。お茶が入りましたよ」
年老いた神父が梨華に声をかけた。けれど、梨華は何の反応もしない。祈りに集中しているようだ。その様子を老神父は満足げに眺めていた。
- 66 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時11分14秒
- やっと祈りが終わると、梨華は、はっと顔をあげた。
「神父様。いらっしゃってたんですか?」
「えぇ、だいぶ前から」
「え…」
苦笑交じりに言う老神父に、梨華は恥ずかしそうに頭を俯いた。
- 67 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時12分56秒
- 「また…やっちゃいました?」
老神父はその問いに、にっこりと頷いた。
「熱心なのはいいことですよ…けれど心配でなりません。やはり、今日はだれか呼びましょうか」
今日老神父は他の教会での集まりに出席する事になっていた。
- 68 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時13分48秒
- 梨華はその留守番を買って出た。けれど、留守を梨華に任せるのは甚だ不安だ。
しかしこの教会には今、神父と梨華だけなのだ。
「いえ…お任せください。神父様のご心配には及びません」
「…わかりました。けれど、今宵は満月。くれぐれも戸締り等怠らぬよう、頼みますよ。では、行ってきます」
- 69 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時14分44秒
- 草木も眠る丑三つ時、真っ暗な礼拝堂の中に蝋燭のほのかな明かりだけが揺らいでいた。高い所にある窓から、ちょうど満月が見える。
梨華はまだ祈りを捧げていた。彼女の信じる神を模した像の前に跪き、両手を胸の前で握り合わせて。いつものように完璧に祈りに入っているから、満月の光が何かの影に遮られた事にも気付かなかった。
- 70 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時15分35秒
- 高窓が静かに開けられる。そこから入る冷たい風に蝋燭の炎が揺らされ、消えた。
そこから、翼のある異形の者が羽音を響かせ梨華の目の前に舞い降りた。
黒く無機質な翼は、いかにも人々に忌み嫌われるような質感で、鈍く輝いていた。
- 71 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時16分46秒
- 「…長かったぁ。ずっと狙ってたんだよね」
誰に言うでもなく異形の者は囁く。当然祈りに集中している梨華は気付かない。
異形の者は後ろに回りこむと、梨華の胸に手を這わした。
- 72 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時18分45秒
- 「あはっ、やっぱり柔らかいや。私の目に狂いはなかったね」
その感触をゆっくりと堪能した異形の者は、手はそのままに梨華の首筋に舌を這わす。じっくりと時間をかけて舐め回した後、そっと首筋に尖った歯を立てた。
「いたっ…」
- 73 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時19分37秒
- その行為にようやく梨華が小さく声をあげた。
「あはっ、やっと気付いた?」
「あなたは…?えっ…」
自分の置かれている状況をやっと把握した梨華は困惑した。
- 74 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時20分37秒
- 異形の者の存在よりも、自分の中に湧き上がる感情に、だ。
背徳と、羞恥。そんな戒めも、どんどん湧き上がる快楽の渦に飲まれていく。
「私はマキって言うんだよ。覚えといてね」
そんなこと言いながらもその愛撫を止めることはなかった。
- 75 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時21分18秒
- 「何で…ここにいられるのっ…?」
「満月の夜はパワーアップするのさぁ〜」
――もうどうなってもいい…
遂に自分の重みさえ支えきれなくなった梨華はその身をマキに預けるように寄りかかった。それを受けてマキは怪しく笑う。
- 76 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時21分52秒
- 「それってもうオッケーってことかな?じゃあ、遠慮なく…」
と手馴れた動作でマキは梨華を自分の下に組み敷くと、その衣服を優しく脱がせ、投げ捨てた。肩で息をしている梨華の目はもう視点が定まってなく、頬はその興奮に比例して紅潮していた。
- 77 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時22分22秒
- 「んあ〜、予想通りのいい身体!堪んないね。…あれっ?」
何かに気付いたマキが梨華から離れ、先ほど投げた梨華の衣服を掴んだ。
急かすような視線に気付き、「ちょっと待ってね」と優しく諭すと、衣服を神の像の顔に投げかけた。
- 78 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時22分56秒
- 「覗き見は良くないよ、神様」
- 79 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時24分23秒
- 礼拝堂の天井を見上げたままのまだ立ち上がろうとしない梨華に、マキは神の像から衣服を取って着せてやった。
「また…今度の満月に来るからね。あの邪魔な神父なんとかしといてね」
そういってマキは高窓から飛び去っていった。梨華は座り込んだまま、ぼやけた視界でずっと高窓を見つめていた。
- 80 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時25分16秒
- その日以来、梨華は満月のたびに老神父に外出をせがむようになった、というのは余談である。
- 81 名前:あの世で罰を受けるほど 投稿日:2002年04月07日(日)17時25分54秒
- おわり。
- 82 名前:作者 投稿日:2002年04月07日(日)17時28分52秒
- >63 名無し読者さま。
れす、感謝。耽美、わざわざ調べてしまいました(w 自分なんかには勿体無いです。
- 83 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月08日(月)07時13分37秒
- デビル真希萌え(w
▼ノハヽ▼
/|\( ´ Д `)/|\
⌒⌒~ (っ )っ~⌒
▼〜.(/(/
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月09日(火)04時23分07秒
- 黒いごっちんが・・(;´Д`)ハァハァ
- 85 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時03分39秒
- ―こんなに他人を想ったのは生まれて初めてだったのに…
―同じ気持ちだって言ってくれたくせに…
―どこに行くの…?私を置いて…?
―……行かないで…
- 86 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時04分17秒
- 天気予報では今日は快晴のはずだったのに。窓の外には晴れ渡る空の代わりに灰色の雲がひしめいていた。当てになんないな。最初っから信じちゃなかったけど。
時計を見ると正午を回っている。
気だるい体を起こして、辺りを見回す。やはり、彼女はいない。当たり前か。
夢から覚めるたびに、もしかしたら彼女が隣にいるのではないかという気持ちになってしまう。今までのように。…ありえないということはよくわかっているのに。
- 87 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時05分01秒
- いつもの癖で手帳を見る。これによると今日は遅くまで仕事らしい。今日だけでなく、ずっと先まで仕事で埋められている。
…未来の事などどうしたって縛れやしないのに。現にずっと一緒だと言ってくれた彼女は、去ってしまったではないか。
馬鹿らしくなって手帳を壁に投げつけると、私はまたベットにその身を投げた。
夢の中では、あの日のまま、彼女が笑いかけて受け止めてくれるから。
- 88 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時05分36秒
- 意識が朦朧としてきた頃、呼び鈴が耳障りに響いた。
無視して眠ろうとすると、また響く。
イライラしながら扉を開けると、「…梨華ちゃん」
そこには割かし見慣れた顔が怯えるように待っていた。
- 89 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時06分26秒
- 「…どうしたの?」
「…中澤さんに後藤さんの様子を見て来いって…言われて…」
梨華ちゃんは自分の方が年上のくせに私に敬語を使う。理由は聞いたが忘れた。
うざったいので帰らせようと思ったが、
「…入りなよ」
その理由を考えるのも面倒になって部屋に招き入れてしまった。
- 90 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時07分19秒
- 「思ったより元気そうで安心しました」
さも知ったような顔で言う。私は適当に相槌を打つと、早く帰れと言わんばかりにベットにもぐりこんだ。
けれど梨華ちゃんはなかなか帰る素振りを見せない。私はだんだん苛立ちさえ覚えてきた。
「…中澤さんに言われてきたんでしょ?私は大丈夫だから。もういいよ」
「……」
何の返答もない。私はベットから上半身だけ起こして向き直り、
「もういいって言ってんでしょ!心配してる振りなんかしなくていんだよ!」
「違う…私は本当に後藤さんのことが…」
潤んだ瞳と甘く掠れた声に、私の中の何か邪悪な思いが芽生えた。
- 91 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時07分53秒
- ベットから飛び起きると、私は梨華ちゃんに襲い掛かるように抱きついた。
彼女を失ってもだらしなく溢れ出る思いは 醜くその形を変えていた。
梨華ちゃんの耳元に顔を埋めて、そっと囁く。「じゃあ…かわりになってよ」
肥大したこの思いを、少しだけでいい、受け止めて貰えれば、収まるはずだから…
答えを待たず、両手で顔を固定して唇を奪う。
必死に顔を背けようとする抵抗も、私の力の前に何の意味も為さなかった。
「…口、開けてよ…」
絞り出すような声に、何を感じたのだろうか、恐る恐る閉じられた口が開く。その気弱な優しさにさえ、私は付け込んだ。
- 92 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時08分30秒
- 私の舌が梨華ちゃんの口内で暴れ回る。犬か何かが自分の縄張りを示すかのように、少しの隙間も残さずに舐め回す。
空いた手で梨華ちゃんの服を捲り上げる。
「やぁ…」
梨華ちゃんの控えめな悲鳴に、ようやく自分がしている事に気付いた。
- 93 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時09分10秒
- 私の想いはこんなに無様で虚しいものだったのか?
満たされていく欲望とは別に心は醒めていく。
私は間違っているのだろうか?
縋るような視線を君に送る。私は全ての答えを君に託した。
梨華ちゃんはその紅潮した顔を縦に振った。
- 94 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時10分04秒
- 梨華ちゃんは私の罪に、罰ではなく赦しを与えてしまった。
乱れ飛ぶ声にかき消されていくのは誰かの面影。
思い出さなくていい。そんな必要はないのだ。私は今、あの時と同じ気持ちを抱いているのだから。心の中で呟く。薄れろ。薄れていけ。悲しみと共に。
抱きしめるたびに重ねていく思いに、塗り潰されてしまえ。
ただひとつ、いつかと同じようにこの腕の中の彼女を愛せれば、それだけでいい。
- 95 名前:同じ気持ち 投稿日:2002年04月13日(土)00時10分41秒
- おわり。
- 96 名前:作者 投稿日:2002年04月13日(土)00時16分32秒
- レス、感謝です。
>83 名無し読者さま。
だいぶ外道な事してるのに許されてしまう。デビルの利点(w
>84 名無し読者さま。
無邪気な感じにしたかったんすけど、やっぱり黒いっすね。まぁいいか(w
- 97 名前:至上のゆりかご 投稿日:2002年04月15日(月)23時02分02秒
- 目の前が霞んで、あなたが泣いているのか、笑っているのかさえ分からない。
「…梨華ちゃん」
あなたを見つめたまま、じりじりと後退する。
やがて踵に抵抗を感じ、その段を一つ上る。次はない。
それは天国への階段にしては短すぎる。地獄への踏み切り台ならば充分だ。
- 98 名前:至上のゆりかご 投稿日:2002年04月15日(月)23時02分46秒
- 両手を広げると、吹きすさぶ風が私を押し戻そうとした。
あなたがなにか叫んだように見えたけれど、風の所為で聞こえなかった。
私は目を閉じて、足元の都会に耳を澄ます。
車のクラクション。機械音。
今日もいつも通りに、夜は更けていくだろう。
- 99 名前:至上のゆりかご 投稿日:2002年04月15日(月)23時03分22秒
- 風が止んだ。
「ひとみっ…ちゃんっ…!」
あなたが私の名を呼んだ。
それは私の耳に優しく響いて。あなたが一層愛しくなる。
――それが引き金になった。
- 100 名前:至上のゆりかご 投稿日:2002年04月15日(月)23時03分54秒
- 足に絡みつく縛めを振り切り、空に身を委ねる。
ただひとつ、あなたに詫びるとしたら、私の弱さを許して欲しい。
私は、こんな方法でしかあなたを癒せない。あなたの苦しみを打ち砕けない。
…もし、あなたがあの境界線から顔を出したなら、笑顔を渡そう。出来る限りの笑顔を。最後の思い出に。
- 101 名前:至上のゆりかご 投稿日:2002年04月15日(月)23時04分50秒
あなたに抱きしめられると、単純に嬉しかった。
その手に込められた愛情を感じる事が出来て。
だから私も、手探りながらあなたを満たそうと努めた。
もし、あなたの笑顔を曇らせるものは、絶対に許さない。私が、守って見せるんだ。
そう願っていたのに。
- 102 名前:至上のゆりかご 投稿日:2002年04月15日(月)23時05分26秒
- 「…ひとみ、ちゃん……」
…涙声を隠したね。黙ったから嫌でも分かった。
――あなたといると息苦しい…
知らなかったんだ。そんなに苦しめていただなんて。
――あなたの愛情は深すぎて…
…私の中のこの想いはもう消す事は出来ないよ…。だから…。
- 103 名前:至上のゆりかご 投稿日:2002年04月15日(月)23時05分57秒
あなたの笑顔が見える。あれは思い出の中のあなただろうか。それとも、そこに本当にいるのだろうか。どっちでも良かった。ただ、優しい、優しい微笑み。
瞬間、脳が心地よく揺れて、私は眠りへと落ちていった。
- 104 名前:至上のゆりかご 投稿日:2002年04月15日(月)23時06分37秒
- おわり。
- 105 名前:さくしゃ 投稿日:2002年04月15日(月)23時07分15秒
- オチを
- 106 名前:さくしゃ 投稿日:2002年04月15日(月)23時07分46秒
- かくしてみたり。
- 107 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月16日(火)02時38分23秒
- はじめまして、梨華っちさいこ〜と申します。
いやぁ、深いです。文は短いのに読むのに時間がかかりました。
逆ですかね、短いから時間がかかるんでしょうね。
これからもがんばってください。
- 108 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時42分01秒
- 明け方の部屋に呼び鈴が鳴り響く。
「ねぇ、誰か来たみたいだよ」石川がそれに気付いて眠そうに言った。
「放っとけばいいよ」吉澤は目も開けずに言う。
すると今度はドアノブがガチャガチャとやかましく鳴り出す。
「なんなんだよ、もう」
吉澤は頭を掻きながらドアまで行くと、覗き穴を覗いた。
- 109 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時43分21秒
- 穴の向こうには見覚えのある青白い顔があった。
「いい加減にしろ」吉澤は一喝した。「私たちの休みを邪魔するな」
最近は働き詰めだったから、吉澤の怒りは尤もだった。
吉澤は知り合いの中から穴の向こうの顔を探し出そうとしたが、面倒になってやめた。
- 110 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時44分33秒
- 「そこにいるんだろ」ドアの向こうで青白い男が叫んだ。「でてこい」
返答の変わりに吉澤はドアを思いっきり蹴った。
「いって…」
どうやら足を痛めたらしい。
「このまま殺されてたまるかよ」
「知るか、そんなこと」吉澤はドアに背を向けてベットに戻った。「勝手にしろ」
- 111 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時45分27秒
- 「お昼ご飯何にしようか」石川が呑気に尋ねた。「パスタがいいなぁ」
「べーグル…」
吉澤は石川の背に手を回しながらそう囁いたが、石川の咎めるような視線に気付き、「なんでもいいよ」と言い換えた。
「このドアを開ければいいんだ」
ドアの向こうではまだ青白い男が叫んでいた。「死にたくないんだ」
その声は次第に悲しい響きを持ち出していた。
- 112 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時46分40秒
- 窓の向こうが急に暗くなって雷がなった。
「きゃ」石川が吉澤に抱きつく。
「近いね」吉澤が抱きしめ返しながら答える。
「頼む、開けてくれ。殺さないでくれ」
掠れかけた声は雨音に消された。
- 113 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時48分16秒
- 「あんなに晴れてたのにね」石川が窓の外を見ながら言った。「天気予報外れたね」
「当てになんないよ、天気予報なんて」吉澤は窓の外など見ずに答えた。「先のことなんて誰にもわかんないよ」
近くの川が溢れ出して、洪水が起きた。
誰かの家が流されていく。
- 114 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時49分42秒
- 「お願いだよぉ。死にたくないよぉ…」青白い男が情けない声を上げた。「やだよぉ…」
雷が落ちて家が燃えた。どこかからサイレンが聞こえる。
洪水の中を鯉が流れに逆らって泳いでいった。
悲鳴のような雄たけびが聞こえた。かくして鯉は龍と化したようだ。
「これだと明日仕事無しかな」石川が無責任に願った。「だといいなぁ」
- 115 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時50分28秒
- おわり。
- 116 名前:窓の外 投稿日:2002年04月18日(木)00時51分35秒
- オチ隠し。
- 117 名前:作者 投稿日:2002年04月18日(木)00時55分40秒
- >梨華っちさいこ〜さま。
レス、感謝。はじめまして。拙い文ですが、そう言って頂けると嬉しいです。
- 118 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月18日(木)03時05分11秒
- んあぁぁ〜… またむずかし〜
いっよっしゃぁぁ! 脳みそフル回転で分析するっス!!
……
( ゜皿 ゜)<<ガガ…システムエラー、システムエ……
- 119 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月19日(金)21時16分14秒
- 初めましてです。一気に読みました。
なんか…こう…グッとくるものがあって…。オチをなんとか解明しようとしてるのですが…いっこうに。
でもいしよしがたっくさぁん♪嬉しいっす!
- 120 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時42分05秒
- 転寝から醒めると、そこは楽屋だった。
頭がボーっとして、前後の事が良く思い出せない。
目の前には、皆が思い思いに時を過ごしている、見慣れた風景。
それなのに、この違和感は何だ?
入る部屋を間違えたような、己の存在の場違いさに似た感覚。
肩に圧力を感じる。私の肩には梨華ちゃんが身を委ねて寝ていた。
- 121 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時42分52秒
- 「起きた?」
ごっちんが笑いながら話し掛けてくる。
「お疲れみたいだねー」
「…私どれぐらい寝てた?」
「んー、三十分ぐらいかな?」
私が話し出したためか、梨華ちゃんが目を覚ました。
まだ眠そうに眼を擦って言葉にならないような声を上げる。
「全く、二人とも遅くまで頑張りすぎなんだよー」
矢口さんが嘲笑うように話に入ってくる。
その言葉になぜか梨華ちゃんは顔を赤くしていた。
- 122 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時43分40秒
- 「何をですか?」
身に覚えがなかった。昨日はたしか早めに仕事が終わってとっとと家に帰って寝たはずだ。一人で。
「それ矢口に言わせる気?」
「やらしいんだ。梨華ちゃんに聞いてみたら?」
「梨華ちゃん…私たち、なんかした?」
「…覚えてないの?」
顔を更に紅潮させ、俯きながらの上目遣いで私に問い掛ける。
「…うん」
「……H」
「へ?」
今なんていった?私の耳がおかしいのか?
「H」
どうやら私の耳を正常らしい。
- 123 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時44分32秒
- 呆然としていると、
「いいなー。アツアツで。私もいちーちゃんのとこ行こうかなぁ?」
「矢口も裕子んとこ行こうっと」
二人とも私たちを残してどこかに去ってしまった。
…一体何なんだ?私は騙されてるのか。たちの悪いイタズラかドッキリか?
そう思ってメンバーの顔色を窺おうと辺りを見回すと、誰もいない。
いつのまにか楽屋には私たちだけが取り残されていたらしい。
いや、きっとどこかから私の様子を見て嘲笑ってるんだ。そうに違いない。
- 124 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時45分45秒
- 「…二人きりだね」
「うん」
そうだね…ってこの首に回された手は何だ?
「よっすぃー」
どうして目を閉じるの?なんで唇を突き出すの?そこまでやる気か。
「ねぇ…梨華ちゃん」
「…なに?」
あからさまに不満を表した表情で、梨華ちゃんは答える。
こんな演技上手かったっけか?
「何の真似?」
「…なにが?」
まだしらばっくれるつもりらしい。いい加減イライラしてきた。
「なにが、じゃないよ。なにその…私たちがHしたって。どうして私と梨華ちゃんがそんなのしなきゃいけないの?」
私を見つめる瞳が潤んでくる。その雫はやがて重力に耐え切れなくなり落ちた。
- 125 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時46分30秒
- 「…ひどい。ひどいよ!」
梨華ちゃんは弾かれたように楽屋を飛び出していった。
足音がだんだんと小さくなる。
いくら演技だと思っていても、その真剣としか思えない様子に私は申し訳ない気持ちで一杯になった。なんで私がこんな思いしなきゃならないんだ。
誰だ。こんなのを考えやがったやつは。
私は楽屋を隈なく探し始めた。どこかで見ているはずの仕掛け人たちを探して。
…けれど、どこにも彼女達はいなかった。
……本気だったのだろうか?そうとしか思えない。そもそも梨華ちゃんがあんなに演技が上手いわけないじゃないか。
梨華ちゃんを追おうと思い、扉に向かうと私が手を掛ける前に扉が開いた。
- 126 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時47分03秒
- そこには飯田さんが立っていた。
「すいません」
そのすぐ横を通り抜ける。梨華ちゃんはどっちに行ったんだろうか。右か、左か。
「石川なら右に行ったよ」
「え?」
背中越しに飯田さんの声が届く。
「あぁ、あんたから見たら左だね」
「あ、ありがとうございます!」
何か釈然としないまま私は左に向かって走り出そうとした。
「吉澤」
またしても背中越しに飯田さんの声。
「あんた誰?」
「はぁ?」
この人は何を言っているのだろうか。私が私以外の何者だというのか。だいたい今さっき名前を呼んだじゃないか。
「吉澤は吉澤だけど。あんたは私の知ってる吉澤じゃないね」
- 127 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時47分52秒
- また、だ。さっきも感じた。私が問い掛けるよりも早く、答えが来る。…まるで私の心を読んでいるかのように。
「あれ?私の電波知らなかったっけ?……なんだ、あんた、迷い込んじゃったんだ」
「迷い込んだって…どこにですか?」
「こっちの世界にさ」
こっち?そんなあっちこっちに世界があって堪るか。
「ん〜、疑問は尤もだけどね。いいよ、説明してあげる…」
そのあとの飯田さんの説明はよく意味がわからなかった。
可能性だとか、平行に存在する世界だとか。
- 128 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時48分27秒
- 「要は…こっちの世界の『私』と私が入れ替わった、ってことですか?」
「まぁ、そういうことだね」
という事は…梨華ちゃんは演技でも何でもなくて…誰も私を騙してなんかなかったんだ…。それなのに、私はなんてことを…。
この世界―梨華ちゃんたち、私を除く全ての人―にとって、私が『嘘』だったんだ。
「そんなに落ち込まなくてもいいよ。今日中に謝れば石川は許してくれるよ?」
「……」
けれどそれは自分自身を偽る事だ。
「それはあんた次第だよ」
また心を読まれた。
逃げ出したい。この現実からも、この自己嫌悪からも。
- 129 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時49分11秒
- 「あぁ〜、戻るとか、考えない方がいいよ。あっちの事は忘れた方がいい。儲けものだと思わない?石川が彼女なんだよ?…あんたみたいに迷い込む確率はホント天文学的数字だから。それがおなじ人間に二度起こる確率は…言わなくてもわかるね?」
…諦めるしかない、ってことか…。
「でもね…、人間は与えられた条件を甘受するか、足掻いて変えていくか。それしかないのね?だから、迷い込んだからってあんまり変わらないの」
気のせいか、飯田さんの頭から煙が上がっている気がする。ところで…この人は本当に飯田さんか?失礼にもぺたぺたと触ると、妙に硬い。
- 130 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時49分44秒
- 「飯田さん…?」
何者ですか?と問いかけが終わる前に、
「ナニイッテンノ。カオリハカオリダヨ?」
と嫌に機械的な発音で返して下さりやがった。
「ヘンナニホンゴ」
悪いんですが…片言のあなたにだけは言われたくないです。
「カオリヲバカニシテナイ?カオリハ…ガガ…」
どうやら限界らしい。煙が量を増していく。爆発でもする前に逃げるとしよう。
- 131 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時50分34秒
- 私は梨華ちゃんが戻ってくるのを楽屋で待った。
荷物はまだあるからきっと戻ってくるはずだ。
案の定、梨華ちゃんは戻ってきた。
「まだ…帰ってなかったんだ」
ばつの悪そうな顔をして、なるべく私と目を合わせないようにしているのが見て取れる。
―集団と個人。多勢と無勢。どちらに嘘をつくか。私の心は決まっていた
- 132 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時51分10秒
- 「ごめん。私が悪かったよ」
囁きながら、梨華ちゃんの肩をそっと抱く。
逃がさないように、少しづつ力を込めた。
「どうかしてた。私には梨華ちゃんしかいないよ」
そういえば、私と入れ替わってしまった『私』は上手くやれてるのか?
なんとなく気になった。
- 133 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時51分47秒
- 梨華ちゃんは私の首に手を回して、目を閉じて唇を突き出した。
私はその唇にそっと自分のものを重ねた。
唇が離れると、梨華ちゃんは恥ずかしそうに微笑んだ。
…儲けもん、か。そうかもね。
このぶんなら、私の嘘が真実になるのはそう遠い事じゃなさそうだ。
- 134 名前:嘘と真実。 投稿日:2002年04月21日(日)23時52分19秒
- おわり。
- 135 名前:作者 投稿日:2002年04月21日(日)23時53分01秒
- オチ隠し。
- 136 名前:作者 投稿日:2002年04月21日(日)23時57分14秒
- >梨華っちさいこ〜さま。
再び、レス感謝です。フリーズしてしまわれた(w
>だしまきたまご
レス、感謝。はじめまして。いしよしは好きなんで一番比率多いすね。頑張ります。
やっぱ分かりづらいすね。すんません。筆力不足。精進いたします。
- 137 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月22日(月)00時33分50秒
- ( ゜皿 ゜)<…ガガ… ピッ
ノ( ゜皿 ゜)ノ<ヲォォ! イシヨシ キタァァァ!!
…たしかに梨華ちゃんがいきなり彼女なんてうらやま(略
ヲタ的発言、すんません。
- 138 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月22日(月)11時17分43秒
- じゃあ、もしかしてあっちの吉澤はエロエロの吉澤になってるとか(w
そっちも見たい……
- 139 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月22日(月)23時21分10秒
- 飯田さんまさに( ゜皿 ゜)な感じですね
あっちのよすぃは暴走してないと良いのですが・・・
いや、してて欲しいけど(w
- 140 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時30分06秒
- 二人が出逢ったのは、ある暑い夜だった。
年々気温は上昇し、生態系は狂い、その中で人々は生きていた。
- 141 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時30分37秒
- 後藤は何をするでもなく、壁に凭れかかって空を見つめていた。
雲があるでもないのに、星は全く見えない。ただスモッグのようなものが空を覆い尽くしていた。
それでも後藤は星を見つけ出そうとしていた。
見つけたら、願い事を祈るつもりだった。
こんな世界から私を助け出してください、と。
平凡に過ぎていく日々には何の問題も無かった。だからこそ、不満だった。
不意に、誰かの足音が聞こえた。それも、のんびり歩くでもない、なにかに急いでいるような足音。
後藤の胸は高鳴った。きっと、この足音の主は私をこの退屈から救い出しに来てくれたに違いない。今すぐ出向かいに行かなければ。通り過ぎてしまわぬうちに。
- 142 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時31分37秒
- 石川は追われていた。
羽織ってきた長い布きれが足に纏わりついて走る事を妨げる。足が痛い。足全体が熱を帯びているようだ。
それでも必死に走った。捕まればどうなるか…考えただけで石川の背筋は凍った。
幾つ目の角を曲がった時か、石川の目の前に高く無機質な壁が立ち塞がった。3メートル程度だろうか。石川の額から汗が一筋、流れて落ちた。
―これぐらいなら行ける…
石川はその壁を飛び越えようとした。多少危険は伴なうが、勝算は充分にあった。
そのとき、すぐ横の家の扉が開いた。
- 143 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時32分14秒
- この暑さのなかで、石川の格好は異質だった。
羽織った長い布切れ。しかしそれは後藤の期待をより高めさせた。
場違いな格好。誰かに追われている。これ以上ない条件だった。
「追われてんの?」
後藤は石川に声を掛けた。その膨れ上がる期待を抑えながら、平常心を装って。
だが石川は何も答えない。後藤の落ち着いた様子に警戒したためだ。
「…入りなよ」
後藤がもう一度石川に声を掛けた。石川は戸惑っていたが、追手の足音が二つ、近づいてくるのに気付いて遠慮がちにその扉の中へと入っていった。
- 144 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時33分25秒
- 後藤が石川を匿ってから何秒も立たないうちに、追手は現れた。
石川と同じように壁を見上げて、諦めたように溜め息を吐く。
「ヤロウ、壁の向こうにいっちまったか?」
片方が肩をすくめながら、もう片方に声を掛けた。
「…だな。くそっ!せっかく金にありつけると思ったのに!」
追手はその辺のゴミ箱を蹴飛ばすと、そのまま去っていった。
「…なんなの?あいつら」
後藤の問いに石川は首を横に振った。
- 145 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時34分08秒
- 「なんで追われてるの?」
「…すいません。…言えません」
石川は俯いて申し訳なさそうに言った。
「なにか悪い事でもしたの?」
「何にも…してないです。信じてください!」
石川は強く訴えたが、後藤は別に石川が殺人鬼だろうとなんだろうと構わなかった。
ただ、自分をこの退屈から救い出してくれる使者であれば。そして石川はその資質を充分に持ち合わせているように思えた。
「名前は?」
「石川…リカです」
「――そ。私はマキ」
- 146 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時34分59秒
- 「暑くないの?それ」
後藤は石川の羽織っている布切れを指して言った。
「大丈夫です」
「…なんでそんなの羽織ってるの?」
「…言えません」
そういわれると、余計気になるのが人情で、後藤もその例外ではなかった。
その布を剥ぎ取ろうと手を伸ばす。
「いやっ、やめてください」
石川が抗議の声を上げたが、後藤は構わずその布を奪い取った。
その布のなかに、石川はTシャツを着ていた。が、不自然にその背中が破られていた。
そして、石川の背中には…翼があった。
- 147 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時35分53秒
- 「これ…」
狂った生態系の中で、人々は生きていた。
翼有る人間も―人間の絶対数から考えれば微々たる物ではあるが―さして珍しくも無かった。
「だから…やめてくださいって…」
石川の目から涙が零れた。後藤は自分のことをどうするだろうか。売り飛ばすだろうか。有翼人は高く売れる。さっきの追手もそれが目的だった。
いや、それよりもどう思うだろうか。気味悪く思っただろうか。石川の中に疑問が渦を巻いた。そして、それは涙になって表出した。
石川の考えとは裏腹に、後藤の胸は一層高まった。間違いない。自分はずっとこの人を待っていたのだ、と。
- 148 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時36分35秒
- 「これからどうする気?」
後藤は何も見なかったように言った。
「え?あの…なんとも思わないんですか?」
「なにが?その翼のこと?かっこいいね」
石川は戸惑った。この翼が生えて以来―石川は後天的に翼が生えた―こんな風に接して貰った事は無かった。…嬉しかった。
- 149 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時37分31秒
- 「…私みたいな人が集まる森があるって聞いたんで…そこに行くつもりです」
後藤もその話は聞いた事があったが、作り話だと聞き流していた。
「どこにあるか…わかるの?」
「分からないんです。恥ずかしながら。でも…辿り着けそうな気がするんです。…おかしいですか?」
「いや、なんかわかるよ」
「…良かった」
「少し寝なよ。疲れてるでしょ?」
後藤はベットを指差しながら言った。
「でも…、私はその辺で結構ですから…」
「いいから。遠慮しないで」
そう言うと、後藤は石川を抱き上げ、ベットの上に横たえさせた。
暫くすると石川は寝息を立て始めた。それを確認すると、後藤は床に横になって寝始めた。
- 150 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時38分05秒
- 「ねぇ。足、大丈夫?腫れてるよ」
太陽が真上にある頃、後藤が石川の足の異変に気がついた。
「…これは、折れてるね。無理して走るから…」
「そんな…」
「大丈夫だよ。治るまでここに居ていいから」
石川は足が完治するまで滞在する事にした。
- 151 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時39分28秒
- それから、後藤と石川の奇妙な同棲生活が始まった。
昼は外には一歩も出ずに。夜は人目をはばかりながらも、リハビリを兼ねて散歩した。二人の間のぎこちなさも無くなり、関係は良好に見えた。
すくなくとも、後藤は前のように退屈と感じる事は少なくなった。
- 152 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時40分20秒
- 石川の足も完治する頃、後藤の心は完全に石川に奪われていた。
一方の石川も、物語にある森を探すという情熱はすっかりと冷め、一生をここで終えてもいいという気になっていた。
けれど、その思いは己の背中の翼に遮られた。
このまま自分がここにいては、後藤の迷惑になるだけだ、と。
そんな思いを悲しげに吐き出した石川に、後藤は囁いた。
「翼が無くなればいいんだよ」と。
- 153 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時40分52秒
- 後藤はどこかで石川がいつかその翼でもって飛び去ってしまうような気がしていた。
後藤にとって、翼は自由の象徴であった。もし石川が飛び去ってしまったら、私はまた平凡で退屈な日々の中に逆戻りだ。そんな恐怖心が、後藤を狂気のような行動に走らせた。
- 154 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時41分32秒
- 後藤はナイフを良く磨いで、火に当てて殺菌した。
そしてそのナイフを石川の背中の忌まわしき翼に押し当てる。
「あうっ!」
血に汚れた羽根が舞い、石川の悲鳴が響く。けれど後藤にはもう何も聞こえていなかった。
―もう、飛べないよね…?
誰に言うでもなく、後藤は胸の中で囁いた。
―もう、どこにもいけないよね…?
後藤はもう片方の翼にもナイフを押し当てた。
「これで…ずっと一緒だよね…?」
石川の問いに、後藤は小さく頷いた。
それに安心したのか、石川は事切れたように瞳を閉じた。
その後、後藤は石川の背中に包帯を巻いてやると、疲れきったのかすぐに寝てしまった。
- 155 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時42分06秒
- まだ空も明けきらぬ頃、悲しげに佇む石川の姿があった。
布を羽織り、紙に何か書き置くと、扉から外へ出た。
空は相変わらずスモッグに覆われて、そこを飛ぶ鳥は一羽もいなかった。
後藤は昼過ぎに目が覚めて、石川がいないことに気付いた。
ただ紙に書かれた謝罪の言葉と血で汚れた羽根が残されていて、布もその姿もどこにも無くなっていた。
- 156 名前:退屈な自由と籠の鳥 投稿日:2002年05月01日(水)16時43分30秒
- 後藤が有翼人の翼が再生することを知ったのはそれから後の事だった。
後藤は石川の言っていた森を探すことにした。
何の確証も無かったが、石川はそこにいる気がした。
だが、不思議と自分が辿り着ける気はしなかった。
それでも、後藤は森を探すことにしたのだ。
石川の血で赤く染まった羽根を、一本だけポケットに忍ばせて。
それが、もしかしたら導いてくれることを願いながら。
- 157 名前:作者 投稿日:2002年05月01日(水)16時44分20秒
- おわり。
- 158 名前:作者 投稿日:2002年05月01日(水)16時45分36秒
- オチ隠し。
- 159 名前:作者 投稿日:2002年05月01日(水)16時52分14秒
- >梨華っちさいこ〜さま。
レス感謝です。気になさらずに。自分も似たようなもんですから(w
>138さま。
レス感謝です。「そっち」はもう少しお待ちを。あくまで期待はしないでください(汗
>139さま。
レス感謝です。ロボですね、おもいっきし(wあっちのはきっと暴走してるでしょう。
だいぶネタ切れです。
- 160 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月01日(水)22時17分11秒
- 相変わらず不思議な魅力が満載ですね。
翼の生えた石川さんはさぞかし美し……いかん、最近俺、こんなんばっかり。
後藤さん、退屈な生活から開放されたことになったのでしょうか。
- 161 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月02日(木)04時16分11秒
- 一種の羽衣伝説のような…
面白かったです
- 162 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 163 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時25分43秒
- 「本日は…地球では最高気温…」
ブラウン管の向こうでアナウンサーが流暢に喋る。
地球では、ね。こっちじゃ、寒いぐらいだ。
心の中で、そっと毒を吐く。
眠い目を擦りながら、身支度を済ませる。
日焼け止め。カバン。ピストル…。
その日、私はいつものように仕事に出て、いつものように家路についていた。
そこで、ヒトミちゃんにあった。
覚束ない足取り。捨てられた子犬のような瞳。なぜか、放っておけなかった。
- 164 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時26分27秒
「なにしてるの?」
「…わからない」
「どっから来たの?」
「…わからない」
「記憶…無いの?」
私はそれほど驚かなかった。
人間にはこの星は合わないのか、記憶障害などにかかる人は多かった。
「名前、言える?」と私が尋ねると、
「…ヒトミ」とそっけない返事が来た。
「そ。ヒトミちゃんね。私はね、リカって言うの」
「…リカ、ちゃん?」
「うん。…どこ行くの?」
「…わからない。でも…ここにいちゃいけない…」
「じゃあ、うち来る?」
「でも…」
すこし渋っていたけど、そこは強引に手を引いた。ヒトミちゃんは抵抗せずに、引っ張られるまま、私についてきた。
- 165 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時27分24秒
不意に、ヒトミちゃんの足が止まった。振り向くと、悲しそうな目で、路地裏にある「何か」を見ていた。
「あれ…」
ヒトミちゃんがその「何か」を指差す。その先には――打ち捨てられた人形のように動かない、人型の…アンドロイドが、横たわっていた。
「…きっと、捨てられたんだね。もう、バッテリーも切れてるみたい」
確かに嫌な気持ちになったが、それほど珍しい事でも無かったし、第一彼ら―アンドロイドには、感情は無い。きっと捨てられたとわかったときも、眉一つ動かさなかった事だろう。
- 166 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時28分45秒
- 「可哀想…なんで、あんなことするの…」
だから、可哀想なんて思った事は無かった。
いや、きっとどこかでは思っていたんだろう。でも、無理矢理に自分を納得させてきたのだ。彼らは、アンドロイドなのだから、と。
人の為に造られ、人の為に働き、人によって捨てられる。アンドロイドがその役目を終える過程は、酷く悲しい。
でもそこに感情が無ければ。
そう思い込もうとしていたのかもしれない。
急にとても悲しくなって、涙が溢れてきた。
「そうだね…なんでだろうね…」
それと同時に、ヒトミちゃんに対してのなにか情の様なものも湧いた。
もしかしたら、それは打ち捨てられたアンドロイドに向けられるはずだったものかもしれないが。
- 167 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時31分02秒
- 「ねぇ、本当はどこに行くつもりだったの?」
ヒトミちゃんが家に来てから数日。私は前から疑問に思っていた事を聞いた。
「わかんない…ただ…あれをみてた…」
そう言ってヒトミちゃんは空を指差した。そこには、青い地球が浮かんでいた。
「地球に行きたいの?…でも、地球には選ばれた人しか行けないんだよ。お偉いさんとか、ね」
不意に、耳障りな呼び鈴がなる。
- 168 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時31分42秒
- 「誰か来たみたい。ちょっと待っててね」
私は引き出しを開けて、ピストルを取り出す。
「リカちゃん…どうして…そんなのもっていくの?」
「…悪い人かもしれないでしょ。自分の身は、自分で守らなきゃ」
事実、地球から離れたこの星では、管理体制は充分とは言えず、犯罪が多発していた。だから、護身用のピストルを持つ事は、極ありふれた事だった。
「……そんなの、かなしいよ…」
「…みんな、ヒトミちゃんみたいなら良いんだけどね」
また、呼び鈴が鳴る。私はヒトミちゃんに片手でごめんとやりながら、ドアへと向かった。
- 169 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時32分25秒
- 「はい。どちらさまですか?」とドア越しに声を掛ける。
「こういうものです」
と来訪者は、のぞき窓の向こうで小さな手帳を見せる。
「なにか、あったんですか?」
私がドアを開けながら尋ねると、
「この写真…見覚えありませんか?」
その写真には…ヒトミちゃんが写っていた。
- 170 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時33分13秒
- 「…この人が、どうかしたんですか?」
自然、声が強張る。警察が、ヒトミちゃんを捜している。この事実から連想できるものは、いずれもあまり好意的なものではなかった。
「人…じゃないんですけどね。――アンドロイドです」
「え…?」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。ヒトミちゃんがアンドロイド?信じられなかった。だって、ヒトミちゃんにはちゃんと感情があった。捨てられたアンドロイドを見て、可哀想と言った。それなのに―?
- 171 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時33分56秒
- 「こいつは、欠陥品でしてね。処分される予定だったのが、消えちまったんだそうで。お宅の近くで見たって人がいるんですがね?」
「…欠陥、ってどんなのですか…?」
「それは…ちょっと…」
「感情がある…?」
来訪者の顔色が変わった。
- 172 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時34分37秒
- 「…ここにいるんですね。渡してください。アレは危険です」
アンドロイドが感情を持つ。それがとても危険な事だということは、私もわかっている。
感情は、判断を狂わせるからだ。結果、どうなるか――反乱が起こるだろう。
人間に捨てられた無数の人形たちが、その恨みを晴らすだろう。
- 173 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時35分10秒
- 「…退いてもらいましょうか」
「退きません」
「何故?」
「彼女が…ヒトミちゃんが、なにかしたっていうんですか?なにもしてないじゃないですか!」
「なにか仕出かしてからじゃ遅いんです」
私は来訪者をきっと睨みつけ、隠し持ったピストルを向ける。
「帰ってください。ヒトミちゃんは渡しません」
- 174 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時35分49秒
- 「正気か!?」
「私は正気です」
私は努めて冷静に言い放つ。――狂ってるのは、お前達だ。
来訪者の足元に向けて、銃を撃つ。
驚いてよろめいた瞬間に、力いっぱい押し出して、ドアを閉める。
素早く鍵を掛けると、私はヒトミちゃんのもとへと急いで戻った。
- 175 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時36分36秒
- 「リカちゃん…どうしたの?」
心底心配そうな顔で、ヒトミちゃんが問う。
「なんでもないよ」
この表情のどこに危険があるというのか?
人間以上に、人間らしいのに。
- 176 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時37分12秒
- 「ほんとう?」
「本当だよ。心配ないよ」
そう言うと、ヒトミちゃんは安堵の表情を浮かべた。
もしかしたら、人間らしい、って事が危険なのかもしれない。なんとなくそう思った。
- 177 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時37分47秒
- 「お出かけしようか?」
「どこに?」
「地球に」
窓の外を指差しながら言った。
するとヒトミちゃんは満面の笑みを浮かべて、「うん!」と頷いた。
- 178 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時38分22秒
- 「どうしてまどからでるの?」
その問いには答えずに、ひょいっと窓から飛び降りる。
「さぁ、ヒトミちゃんもおいで」
「うん…」
ヒトミちゃんも軽やかに着地する。
- 179 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時38分56秒
- 「待て!!」
後ろから怒号が聞こえた。さっきのやつだろうか?
「逃げるよ」
「どうして?」
まさか、あなたがアンドロイドだから、とは言えない。
ヒトミちゃんは自分が人間だと思っている。だから、笑っていられる。
- 180 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時41分02秒
- きっと、自分がアンドロイドだと知ったら、ヒトミちゃんは笑っていられなくなるだろう。
私は、ヒトミちゃんの笑顔が好きだ。
だから、私は嘘をつく。ヒトミちゃんの笑顔を守るために。
「あの人たちは悪い人たちなんだよ」
もちろん、これからもつき通すつもりだ。
- 181 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時41分34秒
「走るよ?」
「うん」
私はヒトミちゃんの手を取って走り出した。空に浮かぶ、蒼い球体に向かって。
その先に何が待つか、わかりきっていながら。
- 182 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時42分21秒
おわり。
- 183 名前:妖精といた夏 投稿日:2002年05月17日(金)16時43分34秒
- ――――――――――――――――――
- 184 名前:作者 投稿日:2002年05月17日(金)16時49分09秒
- >160 梨華っちさいこ〜さま。
レス、感謝。毎度どうもです。目的が出来たんで、退屈ではないでしょう…。
>161 名無し読者さま。
レス、感謝。面白かったって言われるのは、単純に嬉しいです。
>162 梨華っちさいこ〜さま。
あ…。すんませんすんません。
謝りついでに、更に更新が遅くなるかも知れません。ネタが…
- 185 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月17日(金)17時58分41秒
- 作者さんの都合も考えずに更新を催促するようなことをしてしまいました。
大変申し訳ありませんでした。深く反省致しております。
今後も作者さんの作品を楽しく、時には頭をひねりながら読ませていただきたいと
思っております。ゆっくり待ちますので頑張ってください。
- 186 名前:作者 投稿日:2002年05月18日(土)00時18分44秒
- >梨華っちさいこ〜さま。
そういうつもりじゃなかったんですが…(汗。誤解させてしまったようで、申し訳ないです。
どうか気になさらずに。レスに励まされる事も多いので今後も読んで頂けたら幸いです。
更新はネタが出来次第。…あんまし期待はしないで下さい(汗
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)06時23分10秒
- こういう設定の話好きなんで良かったっすよ
- 188 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月18日(土)07時41分10秒
- えと、じゃあ、普通に感想を。
私はいろいろな機械を扱うのを仕事としています。
なんだか最近運転の不手際による警報音が機械からの文句に聞こえたり、
点検不足で機械が壊れたりすると、悪いことをしたとか思うようになっています。
ただの鉄の箱でもこんなんですから、アンドロイドなんか大変なことになりそうです。
ましてやそれがヒトミのように美しいアンドロイドだったら…。
- 189 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時29分52秒
- 『雨』が降る。
永遠に降り止まない雨が。
今日もまた、街から『穢れ』を洗い流していく。
『雨』が、灯火を消していく。
- 190 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時30分25秒
- 大規模な爆発。
神の怒りのように空を覆い尽くす雨雲。
そして、地球が負った火傷を癒すように、降り注ぐ雨。
『雨』が観測されたのは、それが最初だった。
- 191 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時31分18秒
- 「さむっ…」
悴んだ手に息を吹きかけ、擦り合わせる。
空はいつものように厚い雲に覆われていて、まだ昼前だというのに辺りは薄暗い。
―『雨』が降る前に済まさないとな…
すこし歩みをはやめた。
- 192 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時31分58秒
- やがて目的の物を見つけた。それは、道の真ん中に佇んでいた。
栗色の髪、整った顔立ち。輝きを失った瞳。……永遠に鼓動を止められた、美しき『人形』。
『雨』の被害者だ。
こりゃ高く売れそうだ…。心の中で呟く。当分食うには困らなくてすむ…。
どこの世界にも悪趣味なやつはいる。それは金持ちに比較的多いようだ。
『人形』の行く末など、知ったこっちゃない。
- 193 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時32分40秒
- 『雨』は人間を人形と化した。
原因は定かではないが、『雨』を浴びてしまった人間は、まず皮膚が固まる。
次に、筋肉。この時点で動きは奪われ、やがて『雨』は心臓まで浸透し、その鼓動を奪う。
これで、『人形』の出来上がりと言うわけだ。
ある人は言う。「これは人為的なものだ。爆発によって撒き散らされた化学兵器だ」
別の人は嘆く。「神の怒りだ。人類は、神の怒りに触れたのだ」
誰かが笑う。「世界の終わりだ。くだらねぇ。これでおさらばだ」
結局、その原因はわからぬままだ。
- 194 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時33分27秒
- 金を受け取ると、逃げるようにその金持ちの前から消える。
あいつの目が気に食わない。品定めするような、そんな目だ。
外に出ると、雲の濃度が増していた。
『雨』が降る前兆だ。急いで帰らないと。今度は私が誰かに売られる。
- 195 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時34分04秒
- 見慣れた家に着き、慣れた手つきでドアをくぐる。
すると、
「ひとみちゃん」
私の名前を呼びながら梨華ちゃんが抱きついてきた。
タダイマと言おうとした唇が塞がれる。
いつもこうだから、タダイマなんて言えた試しがない。そういやオカエリって言われた事もないな。
- 196 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時35分18秒
- 唇がやっと離れると、私は梨華ちゃんを抱き上げてベットの上まで運んでやる。
その間、梨華ちゃんは至福の表情。これから来るであろう快楽にその頬を緩める。
私はその表情になぜか複雑な想いを抱いた。
- 197 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時36分49秒
- 梨華ちゃんは、別に淫乱って訳じゃない。
―身体しか、求められていないのか?
愛しか、信じられないのだ。
―身体を重ねることが、愛なのか?
ただ、純粋なんだ。
―コワレテルンダ。
- 198 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時37分31秒
- 梨華ちゃんからは、幾つかの感情が欠落している。
怒りもしない。悲しみから泣く事もない。空腹を訴える事もない。
ただ、愛を求めてる。
- 199 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時38分08秒
- 片手で頭を浮かしてやりながら、首筋に唇を落とす。
空いた手で、服を脱がす。
形の良い乳房を弄りながら、そっとその先端に歯を立てると、梨華ちゃんの甘い声が聞こえてくる。
―満たしてあげたい。私の手で。望むもの全てを、与えてやりたい。
- 200 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時38分49秒
- 「明日も雨降り。太陽は死にました。」
ラジオのスイッチを入れると、やかましく喚きだす。すぐに気分が悪くなって、消した。
気だるい空気の中、ベットの中でお互いの身体を温めあっていると、
「雪だ」
梨華ちゃんはそう言って外へと飛び出していった。
私は慌てて飛び起きて、何も着ないままその後を追う。
- 201 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時39分21秒
- 雪が、降っていた。
しんしん、しんしんと。
アイボリーの色をした雪が。もしかしたら、白が汚れただけかもしれないが。
真っ暗な空に、何もない空に、輝いていた。
梨華ちゃんは、その中で手を広げ、その雪を全身に浴びていた。
このままでは、梨華ちゃんまで『人形』になってしまう。
それなのに。
「綺麗…」
なぜか、とてもさめた気持ちで、私はそう呟いていた。
- 202 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時40分04秒
- 私は一歩一歩梨華ちゃんに近づく。
皮膚が凝固を始めてそれを阻もうとするが、そんなもので今の私は止められやしない。
梨華ちゃんの下に辿り着くと、その身体をぎゅっと抱きしめた。
梨華ちゃんはとても幸せそうな表情を浮かべたまま、固まっていた。
やがて、その鼓動も止まるだろう。
- 203 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時40分50秒
- けれども、それは終わりではない。始まりなのだ。
ここから、私たちの永遠は始まるのだ。
私たちは、永遠を手に入れた。
やがて、私たちは誰かに売られるだろう。
あの嫌な目つきの奴にかもしれない。さぞ高い金を払う事だろう。
それを思うと吐き気がしたが、すぐにどうでも良くなった。
- 204 名前:雪が降る街で 投稿日:2002年05月26日(日)11時41分40秒
- 満ち足りていた。薄れていく意識の中で、私は幸せを噛み締めていた。
雪はただ、深深と降り続けていた。
- 205 名前:作者 投稿日:2002年05月26日(日)11時42分34秒
- ―――――――――――――――――――
- 206 名前:作者 投稿日:2002年05月26日(日)11時48分53秒
- >187 名無し読者さま。
レス、感謝。俺もこういう設定好きです。生かしきれてないけど…。
>188 梨華っちさいこ〜さま。
レス、感謝。そういう話ってよく聞きますけど、愛着湧くとやっぱりそうなるんですかね。
- 207 名前:作者 投稿日:2002年05月26日(日)11時50分04秒
- ―――――――――――――
- 208 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月26日(日)20時35分30秒
- やっと気づいたんですが作者さんの作品は心理描写が少ないんですね。
心理状態が全然わからないから難しく感じるのでしょうか?
今回はヨシコの心理状態を考えながら楽しませてもらいました。
- 209 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時38分56秒
- 恋人はサンタクロース。
そんなフレーズが街に氾濫する季節とは一番遠い、真夏日。
背の高いサンタクロース。
寂しげな、泣いている様な高い歌声が、突き抜けるような青空に吸い込まれていく。
太陽はただ燦々と全てを照らし出していた。
- 210 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時39分35秒
- 道には人がうじゃうじゃ。
さながら歩行者天国。
都会はソリなんて無理。
まして、都会は休むことなく輝き続ける。
赤鼻のトナカイはその役目をなくして、また元のいじめられっこに戻ってしまっただろう。
- 211 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時40分49秒
砂煙が舞い、裸足の子供が走っていく。
異国の空の下をとぼとぼと歩く、旅人が一人。
名は吉澤ひとみ。職業、サンタクロース。
赤いコートも、ましてや立派な髭も持ち合わせてはいないが。
小さなバーの戸をくぐる。金具の甲高い音がいつまでも響いた。
- 212 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時41分24秒
「砂漠化が進んでね…そろそろ、ここも危ないよ…」
マスターがシェイカーを振りながら愚痴る。
店の中は人影も疎ら。誰もが疲れた顔をしている。
「このままじゃ、うちらはおしまいだよ…」
小さなグラスに、宝石を思わせる輝きを放ちながら、カクテルが満ちていく。
吉澤はそれを一息に飲み干すと、さっと席を立った。
「大丈夫だよ。私が何とかしてあげる」
吉澤は流暢な英語で、マスターに言ってやった。
- 213 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時41分59秒
石川はひとり、朝食を食べていた。
同居人が居なくなった部屋は、嫌に広く、寂しく感じた。
そんな石川の心を慰めてくれるのは、一通の手紙。
言わずもがな、送り主は元、同居人。
『次のクリスマスには帰るね』
クリスマスはずっと先。石川は返事を書きながら、すこし泣いた。
サンタクロースの唯一の休日は皮肉な事にクリスマス。
世界中の親たちが、自慢げな顔をして子供の枕下にプレゼントを置く。
世界中の偽善者が、聖者づらして人助け。
だから、本職のサンタクロースは休養日。
- 214 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時43分49秒
- 吉澤がサンタクロースになったのは、ほんの少し前。
日も高いうちから酒臭い、ベンチに横たわりながら文句をたれている赤いスーツ姿の女性に声を掛けたのが運のツキ。
知らぬが仏。触らぬ神に祟りなし。そんな言葉が我物顔で歩く世で、吉澤のそれは最早性分であった。
当然の如く赤いスーツの正体はサンタクロース。仕事に嫌気がさして昼間から酒を浴びていたのだった。
- 215 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時44分19秒
- そんな彼女がのこのことやってきた獲物を逃すはずもなく、あれやこれやで吉澤はサンタクロースになることを決めた。
もともと困っている人は放って置けない性格。断る理由はなかった。
いや、理由はあった。しかし、その理由の張本人が、吉澤の背中を押したのだ。
「やりたいようにしていいよ。待ってるから」
言葉の影に、一抹の不安とエゴを隠しながら。
- 216 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時45分01秒
- 砂漠の上をふわふわと飛ぶ影が一つ。
その手から正に湯水の如く、水を垂らしながら。
サンタクロースの不思議な力。小さな奇跡を起こす力。
それを行使して、吉澤は水を生んでいた。
砂漠化の進行を止めんとしていた。
水は砂に吸い込まれ、すぐに跡形もなくなる。
それでも、吉澤は水を生み続けた。
頭に浮かぶは悲しげな顔をしたマスターが笑う顔。
無論、水は永遠生み出せるわけではない。
顔には疲労が色濃く出ていた。
- 217 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時45分43秒
- 吉澤は結局同僚のサンタクロースに担がれ、雪の中にある家まで運ばれた。
朝方に燃やした暖炉の火はだいぶ前に消えたらしく、吐く息が白かった。
同僚はすぐにまた出かけていった。
サンタクロースの仕事は忙しい。
世界中の困っている人を助けるのがその仕事。
- 218 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時46分14秒
- 吉澤は横になりながら、サイドボードに置いてある何通かの手紙に手を伸ばした。
何度も読み返した古い手紙。
送り主は、世界中の良い子達。
可愛らしい字で、サンタさん、プレゼントありがとう。
残念ながら、それは私じゃないよなんて吉澤は苦笑いしながらも、日々の苦労も報われる思いがした。
- 219 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時46分53秒
- 次に目を向けたのは、吉澤の背を押してくれた人からの手紙。
『寂しい…』
震えた文字が、その心情を反映しているようで悲しかった。
会いにいけるのはずっと先。吉澤は歯がゆく思いながらも、ずっとそのときが来なくてもいい気がしていた。
- 220 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時47分26秒
- 時間は人の心を変える。ウサギは寂しいと死ぬ。
私の可愛いウサギには、死んで欲しくない。吉澤は思った。例え、誰か私以外の人の優しさに依ったとしても。
もし、ウサギが新しい優しさを手に入れていたのなら、吉澤は潔く手を引くつもりだった。
己の選んだ道。困らせたくはない。後悔は、しない。
- 221 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時48分03秒
そびえるツリーを彩るライト。
辺りには、無責任にその日を楽しむ人々。
吉澤は見つからないようにびくびくしながら、何人かの子供にプレゼントを配った。
それは物であったり、目には見えないものであったり。
やっとのことで、久しぶりに見慣れたドアの前に立つ。
- 222 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時48分36秒
- 小さなツリーに頂点に、布で出来た星を飾る。
テーブルの上には、すこし奮発したクリスマスケーキ。
その上に、柊の実をトッピング。
準備は万端、後は待つだけ。
石川は落ち着かない様子で、部屋をうろうろしていた。
やがて、呼び鈴が鳴る。
- 223 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時51分38秒
- 石川はパタパタと玄関へ走り、ドアを開けた。
その先には、変わらぬ微笑を称えた、吉澤の姿。
照れくさいような気持ちで、石川も微笑んだ。
「ただいま」
吉澤が頭を掻きながら、呟くように言う。
「おかえり」
その言葉だけで、二人の空白は埋まった。
やがてその距離がなくなり、お互いの温もりを確かめるように抱きしめあった。
明日、また二人は離れ離れ。
そんなこと、二人とも忘れていた。
- 224 名前:恋人はサンタクロース 投稿日:2002年06月04日(火)01時52分09秒
- おわり。
- 225 名前:作者 投稿日:2002年06月04日(火)01時52分42秒
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- 226 名前:作者 投稿日:2002年06月04日(火)01時54分56秒
- >梨華っちさいこ〜さま。
レス感謝。毎回ホントどうもです。
ばれましたか…。まぁどう思うかは人次第だと思うんで、色んな読み取り方をしていただければ幸いです。
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月04日(火)05時02分49秒
- 1人のためだけのサンタであってほしいけど
- 228 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年06月04日(火)07時30分22秒
- サンタクロースの休日は実はクリスマス。
意外に思われそうですが結構納得のいく設定ですね。
でもヨシコにしてみれば、クリスマスの日は梨華ちゃんのためだけの
サンタになるのということで年中無休なのかな、と。
(0^〜^)<サンタさぁ〜〜ん
終了ですか…。作者さんの作品が読めなくなってしまうのは残念ですが、
不思議な雰囲気の作品をありがとうございました。
お疲れ様でした。
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