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【霞】-Vanishing steady-
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)00時00分06秒
- 高樹のぶ子氏、著者の彩月の中の「月日貝」が元ネタです。
全て自分の文章ですが、一部本作の話の流れを用いた部分があります。
あらかじめご了承下さい。
もう既に脱稿しているので、一気にいきたいと思っています。
sage進行にご協力お願いします。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)00時00分47秒
- 列車の単調かつ簡素なアナウンスが次の駅を告げる。
外の景色は山間の緑から次第に海の青を映し始めようとしていたところだった。
眠らずにずっと手紙を読み返していた私はそっと手紙をたたみ、視線を車内に向けた。
数時間前までは大勢ではないにしろ、視線を上げればどこかしら数人の同乗者が捉えられたのに、
今は2両編成のもう片方に白髪のお婆さんの姿が確認できるくらいで、
小さなはずの空間が随分と広く感じられるようになっていた。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)00時01分17秒
- 心地よくさえ感じるその重圧、肩に凭れかかった彼女の髪からほのかに甘い匂いが漂う。
天使を思い立たせるような寝顔、小さく隙間を開けた口からスースーと僅かな息が漏れている。
――どんな夢を見てるのか?
願わくば、幸せな夢だったらいい。悲しい想いは二度とさせたくないから。
壊れそうなほど華奢な肩をゆっくり揺すって声をかける。
「梨華ちゃん、梨華ちゃん」
優しく、傷に触れるように気を遣いながら数回揺すっていると、
長いまつげが微かに上下して、それを確認した私はその手の動作を止めた。
「ん……」
蛍光灯の白光が眩しいのか目を細める。
「もうすぐ着くから降りる準備しよ」
私の肩に置かれていた頭を持ち上げ、手の甲で目の辺りを擦る。
その仕草が一瞬猫を連想させ、微かに微笑んだ。何だか似てる。
「…うん」
同時に頷く。はずみで髪の毛が一度だけ揺れた。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)00時01分50秒
- 向かいの窓には、遠くに小さな町が映っていて、
高くない家々の色とりどりの屋根の色が、モザイク柄を作り出していた。
外界から閉ざされた誰も知らない街。
なにかの映画で見た、そんな街に似てる気がした。
――昔、彼女もこの景色を見ていた。
ほんの少しの間そんな他愛もない想いを巡らせていると、
無垢で透明な彼女の瞳が私に向けられていることに気付いた。
「…ん〜とぉ…」
と、必死に何か思い出そうとしている素振りを見て、
気づかれないようそっとため息をつき、同時に心の中で首を横に振った。
「ひとみ、ひとみちゃんって呼んでいいよ」
「うん」
大げさに、嬉しそうに頷く。
こんなやりとりにももう慣れた。
もうすぐ目的の駅。
約束の時は、近い。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)00時02分29秒
- ◇ ◇ ◇ ◇
- 6 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時03分03秒
- 心地良い振動を背中に感じ、少しずつ思い出してきた。
全ての始まりは半年前――。
「ほら、紺野ポジションずれてる、常に周りを意識しろって言ってるだろ!」
「新垣ぃ、前も言っただろ、新垣だけソコ遅れてるんだって。
それじゃ先輩だけじゃなく同期のメンバーにも離されるよ!」
「いつまでも新人じゃないんだから!」
夏先生の激が飛ぶ。
当時、モーニング娘。は春のツアーに向けて、ダンスレッスンの毎日を送っていた。
そんな中。そう、あの日は無性に喉が渇く日だったのを覚えている。
夏先生がいつも以上に厳しい他は何も変わらない、いつもと同じ光景。
いや、でもそれは見えてただけで、
本当は起こり始めていた小さな変化に誰もが気付いていないだけだった。
もちろん私も…そして本人でさえも。
- 7 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時03分38秒
- 「じゃ休憩挟んで次ムスミンやるから」
暫しの間だけ厳しいレッスンから開放された
娘。達は各々多少なりとも疲れを拭い去ろうと、身体を休める。
私も部屋の壁に凭れかかり、足を真っ直ぐ投げ出した。
連日の仕事の多さから足がずいぶんと重く感じられていた。
- 8 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時04分15秒
- 「よっすぃー」
――始めは「ひとみちゃん」だったのに、いつの間にこう呼ばれるようになったんだろう。
考えた所で検討もつかなかった。
「はい」と手渡された紙コップを握ると、
ひんやり冷たい感触が触れていた面から放射状に肌を伝わっていった。
「それにしても暑っついよね」
Tシャツの襟元を掴んで空気を送り込む。
何気ない仕草が妙に艶かしい。思わず目をあっちの方向へ背けた。
- 9 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時04分58秒
- 彼女は、グループ内での良き理解者であり、時にライバルでもあった。
同じ時期に加入した2人、年も近いこともあって打ち解けるのに時間は掛からなかった。
つらい時期には互いを励ましたり、楽しい時間は分けあったり、
相手がセンターに立った時は祝福してあげて、でもどこか悔しかったり、
彼女だから分かり合えることがあったし、
彼女がいたからここまで出来たのかもしれない。
だから、一番信頼できる相手が私だって言ってくれた時は素直に嬉しかった。
当の私は、照れくささから本人の前ではもちろん、
カメラの前でもそんな類の言葉は発せなかったけど、
考えていたことは一緒。
一番大事な、これからもずっと同じグループでやっていきたい仲間だって。
いつだってそう心の中に留めていた。
あの時も、今だって変わらない。
- 10 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時06分05秒
- 「疲れたぁ、あたしももう年だね」
紙コップの中で波紋を描く清涼飲料水を1口含むと、自然とそんな言葉が出た。
「何言ってるのよ、よっすぃーだってまだ16じゃない」
「すぐに17だって」
「そっかぁ、4月に入ったらすぐだもんね。またみんなとパーティーしたいね」
昨年の4月、ツアー途中のホテルで行ったパーティーを思い出しているのか、
ふふふ、と彼女は思い出し笑いのようなものを浮かべていた。
その頃から私はそんな彼女の顔を困った表情にさせることが癖になったいた。この時だって。
「そう言えばさぁ、梨華ちゃんってさぁ、たった3ヶ月しか年上でいられないんだよねぇ」
ほんの数ヶ月前に誕生日を迎え1つ年上になった彼女が、やけに年上ぶった態度を取るのが借になっていた。
- 11 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時06分49秒
- 「もぉ、そんなことどうだっていいじゃない」
「ウソだねー、実は結構気にしてるくせに」
「もぉ、知らない」
そんな頬を膨らませる表情を見るのが好きだった。
怒りの表情を作っても子供を叱るようなしかめっ面でしかないそれは、
私にとっては一種の道楽でしかなかったから。
落ち込み易い彼女のことだから、時折本気で心配することもあったけれど、
何度も突っかかってくる彼女も内心嫌ではないと勝手に決めつけていた。
- 12 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時07分26秒
- 「よし、じゃあ始めるよー」
フロアいっぱいに夏先生の声が響き、梨華ちゃんとほぼ同時に立ち上がった。
「じゃあ、始めに1回通しでやってみて」
娘。達はその声にばらばらに返事をして、フロアに散らばった。
13人各々のポジションに付き私は小川の肩を取り、イントロに備える。
彼女は私から見て左斜め前に位置していた。
目前、手を前に組んだ新垣のソロパートがスピーカーから流れた。
転調の変化と同時に一斉に移動を開始する、私は人波を掻き分け前方へ、けれど、
「あ、あれ?」
軽やかなイントロに混じってそんな戸惑いを含んだ声が左側から聞こえ、
音は掠れながら中断し、私は足を止めた。
人数が多い為に移動のルートを誤るとすぐに誰かと衝突する。
人数が増える度、振りが複雑になる度、繰り返されていた光景だった。
ただ、その時だけは何かが違っていた。
- 13 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時07分58秒
- 「石川ぁ、何やってんだよ〜、おまえがミスってどうすんだよー」
「ごめんなさい、矢口さん」
珍しい光景だった。
いつも人一倍、もしかしたら私の倍以上、
と思わせるぐらいの努力を見せる梨華ちゃんがこれぐらいで間違うなんて。
加入当時は私と共に何度も見せた記憶があるけれど、
この当時は余程のことが無い限り滅多に見なくなった光景だった。
「すみません、なんか疲れてるみたいです…。ごめんなさい」
消えちゃいそうな声でそう言うと、誰にというわけでもなく頭を下げた。
- 14 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時08分40秒
- なんでこの時気付かなかったんだろう。って思う、今は。
梨華ちゃんのこと誰よりも分かっているつもりだったから――、
だったからこそ気付かなきゃいけなかったのに。
いや、それも今では単なる自己満足的な思い上がりでしかない。
何も出来なかった、してこなかった自分自身を正当化するものにしか過ぎないから。
本当は、気付いたところで何も出来はしなかった、どうにもすることが出来なかった。
私は何も持たない、誰かを救える術など持ちあわせてはいない。
後に、それを嫌というほど思い知らされることになることを、この時の私は知らない。
- 15 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時09分18秒
- その後は何も起こらず、予定通りにその日のレッスンは終了した。
この日を境に、私と彼女の運命の輪は動き出す。
そんなことに誰も気付くことなく、執拗なまでの静かさを抱えたままに。
- 16 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時09分48秒
- それから数日が経ち、その日も私達はダンスレッスンの為、スタジオに集合していた。
春の特番の収録は早々に終わっていて、常にと言う程ではないけれど、
この頃は娘。のスケジュールはライブリハ中心に回っていた。
「でさぁ――」
「えー、ヤグチそれ絶対ウソだよー」
新メンバーを乗せた車が遅れるとの連絡を受け、残りの9人は時間を持て余していた。
私はごっちんと矢口さん、安倍さんと4人で椅子を並べ談笑していたけれど、
意識は少し離れた鏡の前の梨華ちゃんに向けられていた。
あの時の失態をよほど気に掛けているのか、鏡の前で何度も振りを確認しては首を横に振る。
その内心の変化も知るはずもなく、同情も含めた想いでその姿を眺めていると、
矢口さんからの言葉に上手く応えられず、結果3人に笑われた。
その時から何か胸に引っかかっていたのに、その出所は分からなかった。
そういう真面目なことを考えるのは前から苦手だった。
- 17 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時10分26秒
- それから数分経ち、携帯の着信音と共に通路に出て行ったマネージャーが
車の到着を伝えると、9人はそれぞれに立ち上がり準備をし始めた。
防音の効果も含めた木製のドアの向こうからまばらな足音が聞こえる。
「おはようございまーす」
と、高橋が足を踏み入れた時だった。
「えっ、誰ですか? その子」
聞き間違いだと思った。
梨華ちゃんの声に似た小さかったはずの声は、閃光のようにフロアを一瞬にして駈けまわり、
その場にいた全員に足跡を残し消えた。
おそらく私を含む全員がその言葉を頭のどこかで反復し、
必死に意味を掴もうとしていたのだろう。漂う静寂に誰もが耳を澄ましたいた。
- 18 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時11分00秒
- 「石川、おまえ何つーこと言ってんだよ!!」
包まれた沈黙を貫く第一声は矢口さんのもので、同時に時間は再び流れ始める。
突如泣き出した高橋は来た道を引き戻し、その後を小川が追いかけた。
私を除く7人が梨華ちゃんに詰め寄り問い質すが互いに掻き消しあう声は上手くは伝わらない。
残った2人の新メンバーはただ呆然と梨華ちゃんを囲む光景を眺めるばかり。
私は見えない壁の向こうで、呆然と立ちすくむだけだった。
- 19 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時11分37秒
- 「石川、おまえ最近疲れ溜まってるみたいだから今日はいいから、病院行って診てもらってこい」
落ち着きを取り戻したかに見えるフロア、高橋と小川を除く11人の前で夏先生がそう切り出した。
この世界の長い先生もこんな状況は初めてだったのだろう。
その顔は疲れとも焦燥ともとれない複雑さが表れていた。
梨華ちゃんは無言でそれに頷くと、誰にも顔を合わさないように俯きながら、
若いマネージャーに連れられフロアを後にした。
- 20 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時12分13秒
- 問題が一時的に解決してからか、
安堵の表情でレッスンの支持を出そうとする先生を見ていて、
不意に物悲しそうな表情で傍らを通り過ぎていく梨華ちゃんの顔が頭を過ぎった。
その刹那、考えるより先に自然と言葉を発していた。
「あの先生、あたしも行っていいですか? 病院」
「何、吉澤もどっか具合悪いの?」
それまで全員平等に向けられていた先生の視線が向けられる。
その視線に、オーディション時の光景が目の前を通り過ぎた。
「いや、そんなんじゃないんですけど、梨華ちゃんの付き添いみたいな感じで、駄目…ですか?」
先生の顔が変わる、不快感丸出しの表情に見つめられ息が詰まりそうになった。
「今、大切な時期だって、おまえだって知ってるだろ。
2人いなくなるだけでどれだけレッスンが遅れるかもう分かるよな?」
「……はい」
トーンの下げられた声は普段よりも威圧感を含んでいて、
それ以前に先生の言ってることが正しいと分かったから、思わず後込んだ。
- 21 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時12分48秒
- 自分でもどうしてそんなことを口走ったのか分からなかったし、
マネージャーもいるから別に心配することでもないと、諦めかけていた時、
「先生、ちょっといいですか?」
矢口さんの声だった。
「あの、よっすぃーには矢口が後で教えておきますから、行かせてやってください。
よっすぃーがいれば石川もたぶん安心するだろうし」
先生はその声に、宙を仰ぎ考え込むような表情をし、そのまま少しだけ時間が経った。
「分かった。矢口が責任を持って2人に教えるんだぞ」
「え゛2人ですか?」
「吉澤、行ってもいいぞ」
と、顎で開けっ放しになっていたドアを差した。
「あ、はい。すみません」
先生に隠れ苦笑い気味にウインクを飛ばした矢口さんに軽く頭を下げ、私も楽屋へと向かった。
- 22 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時13分34秒
- あの時、悪い予感がしていた。
梨華ちゃんとマネージャーが診察室に消えて、早4,50分が経とうとしていた。
病院の廊下は白を基調にされて清潔さで溢れているのに、
逆にひどく頼りなく、不安感ばかりが煽られる。
その途中の椅子に1人残された私はありとあらゆる場合を想定してはかき消して、
そんな意味も乱脈もないことを繰り返していた。
思い浮かぶのは悪いことばかりで、そんな自分がとてつもなく酷い人間に思えた。
- 23 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時14分05秒
- 「吉澤」
「あ、はい」
マネージャーの声が無機質この上ない病院の廊下に響き、慌てて立ち上がった。
招かれるまま診察室に向かう。ブーツが床と擦れる音がやけに大きな音で響いていた。
診察室に足を踏み入れるとそこには普段は嗅ぐことの少ないだろう薬品の特有の匂いと、
何の目的にあるのかさえ分からないような器具が所狭しと置いてあった。
その場は廊下以上に無機質な気がして、どうしても不安感は拭いきれなかった。
診察を終えた梨華ちゃんとそれに向き合う形の40代前半と見られる白衣の男性。
その額には汗が浮かび、レントゲンの掲げられたボードから差す光がそれを強調していた。
背中を向けていた為に梨華ちゃんの表情は窺えなかったけど、
微かに見える横顔にその光は差すことはなく、
華奢な彼女の背中は場所のせいなのかいつも以上に頼りなく見えた。
- 24 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時14分40秒
- 「一通り検査をした結果、身体に特別な異常は見られないようです」
その言葉に緩い風が胸を通り過ぎる。
場の緊張は解けたかに見えたが、それは一瞬だけだった。
「ですが…」
その言葉に先程考えた幾つものケースが一瞬にして頭を過ぎる。
そんな想いを打ち消そうと、心の中で首を何度も横に振った。
「たいへん珍しいケースで、なんとも言いにくいのですが…」
と、話を濁そうとするその医者に苛立ちを覚えた。
――どうせなら一思いに知ってしまったほうが楽かもしれない。
けれど、一瞬のような時間で抱いたその想いは次の瞬間、後悔に姿を移した。
- 25 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時15分14秒
- 「おそらく脳が侵されているのではないか、と」
「………」
その後、なにかしら反応を待っていたのか、医者は押し黙っていたけれど、
やがて反応が返ってこないことを悟ったのか、言葉を続けた。
「CTで脳の検査を行った結果、側頭葉の神経細胞になんらかの異常が確認できました」
「どういうことなんですか」
いたって冷静な態度をとってマネージャーが訊ねる。
そんな態度がとれるのは彼女が大人だからなのか、私が子供だったからか――。
- 26 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時15分48秒
- 「側頭葉というのは記憶を司る部位なんです。
まだ症状は軽いようですけれど、
恐らくこれから徐々に症状が表面化していくと思われます。
始めに最近の出来事や浅いものほど早く記憶を失っていき…、
進んでいけば…自分が今何処にいて、自分が誰なのか…
それさえも分からなくなり、次第にそんな考えも起こさなくなるでしょう。
そして徐々に進んでいって、最終的には生活に必要な知識も、
朝起きて歯を磨くといったことまで、行動不可能な状態に陥るのではないか、と」
あやふやな表現を用いたのは、単に自信がないからか、
それとも言い難いだけだったのか。
一通り言い終わると、彼は一旦安心のような表情を浮かべ、額の汗を手の甲で拭った。
- 27 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時16分21秒
- 「直るんですよね?」
「…………」
「え…?」
不意に私が問い掛けた質問は返されることはなく、
短い沈黙は何かを悟るには十分だった。
「私も専門ではないので、はっきりと断言は出来ませんけど、
この症状から回復した、という例は聞いたことが今のところ…」
「嘘…」
絶句に近い状態で、どうにか押し出た言葉はそんな頼りないものでしかなく、
それに何か言葉を続けようとしたけれど、
自分のどんな言葉にもたいした意味がないと知るのに時間はかからなかった。
と同時に、医者の気まずそうな態度で自分の軽率な言動に後悔した。
- 28 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時16分57秒
- 帰りの車の中で、私は隣に座る梨華ちゃんに何かしら声をかけようとしていた。
傷ついた彼女に慰めの、気分を落ち着けるだけでもいいから言葉が必要だと考えていた。
でも、それは意識だけで1つとして音には変わらず、小さな空間は静寂で溢れ返り、
時折すれ違う車のエンジン音が遠くに聞こえるだけだった。
気を遣って場の空気を和らげようと運転席のマネージャーがラジオを付けたけれど、
気楽なDJの声は空気の重さを際立たせるだけでしかなかった。
沈黙は梨華ちゃんの家の近くで途切れる。車は路側帯を跨ぎ停車した。
誰の言葉も待たずに、ドア側にいた梨華ちゃんはドアをスライドさせ降車する。
私はその後姿をサングラス越しに眺めていた。
フィルター越しのせいか、先程は感じていた背中の頼りなさが薄れていたようにも思えた。
後姿に振り向く気配を感じて、咄嗟に足元を向き直した。
どんな顔をして向き合えばいいのか、考えもつかなかった。
- 29 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時17分31秒
- 「よっすぃー」
久しぶりに聞いた気がする声。いつもの高い声。
恐る恐る視線を上げると、そこにはいつもと何ら変わらないの彼女の姿が。
「ありがとね」
久しぶりに目を合わせたその瞳には、
陰りのない、ひどく眩しい煌きがあり、思わず自分の目を疑った。
「じゃあまた」
いつもと同じ台詞を残し、車のドアを閉める。
閉じていくドアの向こうにはいつもと同じ笑み。
無理なんかじゃなくて、いつも不意に目が合った時の
はにかみにも似た表情が真横から差す光に映えていた。
ドアが閉まる。
スモークで車内が見えないはずなのに、
彼女は車が動き出すまで、ずっと私に向けて笑いかけていた。
あの時、彼女は自分の運命を受け止めていたのだろうか――。
- 30 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時18分02秒
- その翌日、梨華ちゃんのことは風邪だと報告がされ、
数日の間、休養をとることが知らされた。
私を除くメンバーに事務所からはまだ何も知らされていなかった。
仕事の合間に安倍さんに探りを入れられ、何もかも話すことを考えたこともあった。
けれど、言ったところで現状がたいして変わるはずもなく、
それ以前に、どんな言葉を選んで言えばいいのか分からなかった。
私は弱かった。
- 31 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時18分38秒
- それから数日が流れる様に過ぎ、仕事の終わりに事務所の一部屋に呼び出しを受けた。
ラジオ収録の後で、もうとっくに外は暗くなり、昼間の温さもじんわりとした寒さに変わっている時間だった。
急な呼び出しに何事かと不安な想いも抱えていたけれど、通されたドアを開け、
部屋の中に長方形に並べられた簡素なテーブルとパイプイス。
そこに飯田さん保田さん、事務所の社長とチーフマネージャーの他に、
病院に付き添いで行ったマネージャーがいるのを確認した時、
ああ、このことか…。と無言で理解した。
- 32 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時19分20秒
- 「石川を辞めさせることにした」
――え?
あのマネージャーの短い説明の後で、
その隣のチーフマネージャーの放った一言に耳を疑った。
コンサートは無理だろうから、
特番をひとつ取り直して、それを最後のステージにする。
手元の予定されていたスケジュールと改定されたもう1つを見比べながら
差し替えられた予定等、淡々と機械的に言葉を羅列していく。
そこに感情の起伏なんて微塵も感じられることはなかった。
「これでよろしいですか?」
一通りのことを述べた最後の言葉に、社長は惜しむように首を縦に振った。
- 33 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時20分06秒
- その様子をスクリーンに映写された映画の様に、
架空の世界を見つめる傍聴者、そんな感じで遠くに眺めていた。
ただ、その中でチーフマネージャーのあの一言だけが何度もリプレイしていた。
いろんな色をした気持ちでが次々に積み重なり胸が詰まりそうになって、
それを少しでも開放しようとして何か言おうとしてたけど、何も言えなくて。
そんな混沌とした意識の中から1つの言葉が押し出された。
「何ですか、それ?」
決して狭くは無い部屋に、空調の音に混じって私の声だけが響いていた。
「だってそんなのあんまりですよ、本人の気持ちも聞かないで『辞めさせる』なんて」
誰も目を合わそうとはせずに、手元のこれからの娘。のスケジュールを見下ろしていた。
でも、その時の私の瞳にそれは映ってはいなかった。
ただ、導かれるままに、言葉を選ぶ余裕もないまま、口を開いていた。
「梨華ちゃんがどれだけ娘。のこと好きか、あたしなんかより全然娘。のこと思ってて、
ずっと娘。に入ること憧れてたって…、みんな知らないんですよ」
私の言葉に、そこにいた誰もが同じ様に顔を背けていた。
- 34 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時20分58秒
- 「石川が言ったんだってさ」
すぐ側から聞こえた声は飯田さんのもので、
その冷静な声が思考を更にぐちゃぐちゃに掻き回す。
「そんな…」
――梨華ちゃん、何でだよ…。ずっと一緒に頑張ろうって言ってたじゃん…。
みんなとの間に分厚い壁が立ちはだかっている様な、途端ひとりぼっちになった感覚を覚え、
苛立ちにも似た訳の分からないやるせなさがいつの間にか胸の中を支配していた。
- 35 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時21分29秒
- 「よっすぃー落ち着きなって」
保田さんが私の腕を引き、座るように促す。それを強引に振り払った。
行き場のないやるせなさは2人に向けられた。私は愚かだったろうか。
「飯田さんも保田さんもいいんですか、梨華ちゃんが辞めちゃったって?
メンバーの1人が辞めるかもしれないのに、なんでそんなに冷静でいられるんですか?
2人にとって梨華ちゃんってそんなもんだったんですか?」
「………」
言い放つ言葉は圧倒的な沈黙に姿を変え、
そうした中で飯田さんが歯切れ悪そうに口を開いた。
「圭織だって最初は反対しようとしたよ。
でも、続けられないんじゃしゃあないじゃん。
仲間である以前にウチらはプロだから」
- 36 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時22分13秒
- 「しょうがない…って、何ですか、それ?」
今になり思えば、飯田さんの考えは決して間違ってはいなかったし、
「石川がそう考えてる以上、どうしようもないんだって。
あたし達は本人の意思を尊重しなきゃいけないんだよ」
特に保田さんは痛いほど私の気持ちを理解はしていたのだけれど、
当時の私がそのことを知るは時間が短すぎたんだ。
「……んかない」
「よっすぃ…?」
――しょうがなくなんかない。みんな間違ってる…。
- 37 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時22分51秒
- グッと歯を喰いしめる私の次の言葉を、ふたりは何も言わずに待っていた。
私のことを理解し受け止めようとする程2人は大人で、
そんなふたりのことも分からない私は子供で、独り善がりで、無知だった。
「ぁ…たしも…」
幾千もの持ちうる感情の中でひとつの想いに光が照射された。
それは病院で症状を伝えられた時に思いついた事でもあり、
以後ずっと自ら押し込めていたことでもあった。
- 38 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時23分28秒
- 「…あたしも辞めます」
迷いはなかった。
「何言ってんの、よっすぃー!」
視線は何もない部屋の真ん中に向かっていたけど、
私に集中する視線だけは手に取るようだった。
「梨華ちゃんが辞めるんだったらあたしだって辞めます」
「冷静に考えなって!」
誰の声かも分からなかった。
「梨華ちゃんだって本当は続けたいんだ。
でも、でも……、でも娘。に…、大好きなモーニング娘。に迷惑が掛かるから、
だから辞めることを選んだって、みんな分かんないわけない!」
こんなことで誰も救われない。それだけは分かってた。
「本当に痛いのは誰か、みんな知ってるはずじゃん」
「分かるよ。でも、よっすぃーが辞めるのは何の解決にもなってない
「辞めるったら辞めるんです!」
その時の私の想いを捻じ曲げることは誰にも出来なかった。
- 39 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時24分13秒
- 「お願いです!」
思っていた。
こんなのって柄じゃないな、って。
これまでの生涯の中で、こんなに必死になったことあったのかな、って。
「長期休養でいいんです!」
――目の前でメンバーが辞めていく。
「たのみます!」
――別に初めてじゃないじゃん。なんでこんなにムキになってんの、アタシ。
「お願いだから!」
――梨華ちゃんだから…? そんなに大切?
「お願いだから!」
答えなんか、いつになっても出なかったし、そんなことは元から分かっていた。
- 40 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時24分47秒
- そうして、梨華ちゃんの名前で書かれた文章がFAXでマスコミに送られた。
飲み込まれていくその紙きれを、私は何も出来ずに後方でただ眺めていた。
- 41 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時25分49秒
- マスコミ各社様へ
私、石川梨華は
今日をもってモーニング娘。及びタンポポ、カントリー娘に石川梨華(モーニング娘。)
を卒業することを決意しました。急な報告で申し訳ありません。
現在、たくさんの人から応援され、
皆様からの期待を受ける内に、
自分に自信がなくてってしまったんです。
もともとの力不足もありますけど、
精神的な迷いやこれからの自分を不安に思うことが最近は増えてきました。
こんな気持ちのままじゃモーニング娘。として続けていくことが
出来ないことと、以前の気持ちにも戻れないということが分かったので、
自分なりに考えた上でこのような結論に達しました。
- 42 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時26分22秒
- 卒業後は芸能人として活動することはありません。
今後は、とりあえずゆっくり生活しながら
自分に合った生き方を見つけていきたいと思っています。
芸能界への復帰に関しては今は考えていません。
2年という本当に短い間でしたけど
このような世界で一瞬のような時間でも輝けたことは
私の大切な思い出です。一生忘れません。
短い間だったけど、周りで支えてくれたスタッフや友達、
いつも元気をくれたファンのみなさんのことは忘れません。
本当に今までありがとうございました。
こんな形で伝えることを許してください。
私のたいへんなワガママ、申し訳ありません。
石川梨華
- 43 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時27分01秒
- 桜の時。石川梨華はモーニング娘。を卒業した。
最後の番組では涙を流すこともなく、終始笑顔でみんなの言葉を受け止めていた。
最後に歌った「I WISH」の途中で私は声が詰まってしまい、
間奏途中に隣で目を合わせた時、堪えきれずに涙を流してしまった。
収録の後の短い打ち上げを終わると、彼女はいつもと何1つ変わらない様子でタクシーに乗り込んだ。
内に秘めた感情もなにもかも押し殺し、全てを矛先を自分に向けて。
作り笑いの下手な彼女の最後の笑顔は、涙から置き換えられたバレバレの作り笑いだった。
今では分かるんだ。
あなたがあの時既に、本当の笑顔も涙も何処か手の届かない所に置き去りにしていたこと。
- 44 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時27分50秒
- そして、私は――、
- 45 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時28分23秒
- 4月28日。
12人でのツアーのファイナルを終えると
私はホテルでの打ち上げを抜け出し、埼玉から東京へタクシーに乗り急いだ。
私のことは翌朝のメディアで報じられることになっていた。
このことは当人を除く11人のメンバーと関係者しか知らない。
- 46 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時28分56秒
- 空をすっかり闇が覆い隠してしまった頃。
エレベーターを降りた私は彼女の家の前に立っていた。
ドアを開けて出てきたのは、ピンクでお揃いのバンダナとエプロンとミトン、
左手におたまを持った想像以上に間抜けな彼女の姿。
「よっすぃー…」
「……はは」
何も変わらないその姿に笑みがこぼれた。
マンションの通路にいるということも忘れ大声で。
あんなに笑ったのは本当に久しぶりで、その時間を取り戻すようにいっぱい笑った。
「もー、何がおかしいのよぉ」
頬を膨らませるしかめっ面も、上辺だけの怒った声も、
少しの時間しか経ってないのに懐かしく。
そんな軽い意味しかないと思っていたものが
本当はすごく身近で大きなものだって、思い知った。
- 47 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時29分29秒
- 「梨華ちゃんに報告です」
飽きるほど笑った後で急に改まった態度を取ると、
「は、はい」
彼女もピンと背を延ばし、そのままで次の言葉を待った。
「私吉澤ひとみは今日を持ちまして娘。を辞めてまいりました」
初めて言った。
「え…?」
「正確には長期離脱だけど。
なんとなく、梨華ちゃんが心配だったから」
「………」
「ウチにも帰りづらいし、今日からお世話されちゃってもいい?」
実は、その場に辿り着くまでずっと迷っていた。
どんな言葉を使えばとか、どんな顔すればいい、
みたいなことが疎ましいくらいに頭の中を駆け巡っていたけど、
彼女に対し余所行きの自分を繕う必要はないって、本人を目の前にして気付いた。
- 48 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時29分59秒
- 「………」
彼女は何の感情にも属さない表情でほんの少しだけ黙っていたけど、
唐突に、フッと泣き笑いにも似た表情を向けた。
- 49 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時30分32秒
- 照り差す太陽の下、重いペダルを漕ぐ。
この長い上り坂を越えれば、眼下には東京の街並みが広がる。
坂の頂上、一瞬の静止とどこまでも続く鮮やかな景色。私達が生きる街。
この場所からは街の景色がよく見える。
- 50 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時31分02秒
- 目深に被ることことも少なくなった帽子、左手で軽く添えて風を思いっきり浴びる。
2枚重ねたTシャツの中を風が踊り、フワフワした心地良い感触が身体を包む。
近づいてく感覚、息切れすら覚える鼓動。
何度も見たはずの光景なのに、どうして胸はこれほどまでに高鳴るのだろう。
苦しくも嬉しくもある、胸の痛み。
そう、例え移ろうことがあったとしても、
そっと目を閉じて、一瞬一瞬をまぶたに焼きつけたあの日々は――、
- 51 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時31分39秒
- 「ただいま」
帽子を取り、右手に下げたビニール袋を掲げる。
そして彼女は穏やかに口許を緩めた。
「おかえり、よっすぃー」
- 52 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時32分16秒
きっと生涯忘れることはない。
- 53 名前:第一夜 投稿日:2002年04月04日(木)00時32分47秒
- 第一夜 -了-
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)00時33分21秒
- 明日も同じ時刻に更新します。
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)00時50分18秒
- なんだかすでに名作の予感が…
読みごたえもあって良いです。静かに期待
- 56 名前:いしよしよしよし 投稿日:2002年04月04日(木)00時58分05秒
- すごく心に響く作品だと、いま凄く感動しています。更新がんばってください。
- 57 名前:赤鼻の名無し 投稿日:2002年04月04日(木)03時01分47秒
- 凄くいいです。読み進めていくうちに、
「二人はどうなってしまうんだろう」と
もうドキドキ。
明日が楽しみです。
- 58 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)14時16分13秒
- 第一夜ですでに涙が・・・(T▽T)
激しく良いです!!! 期待!!!!
- 59 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時00分05秒
- 「ねえ、ひとみちゃん」
いつの間にか、呼び名は変わっていた。
- 60 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時00分37秒
- ふたりの生活が始まってもう2ヶ月が経とうとしていた頃。
始めの頃は朝を迎えることに怯え、その度に
「あたし誰か分かる?」なんて問い掛けたりもしていたけれど、
1日毎に重なる安心感と削ぎ落とされてく危機感に
そんな考えも次第に薄れていった。
――本当は病気じゃないんじゃないか。
こんな考えを持ち出したのもこの辺りだった。
この生活を始めた頃に持ち合わせていた思いは何もかも思い違いで
今まで通りと何も変わらないって―――、
そう自分勝手に思い始めていた。
- 61 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時01分19秒
- ふたりだけの空間は予想に反して充実。いや、正直楽しかったと思う。
昼過ぎまでだらだらと眠り、テレビを見てはくだらない会話を交わし、
夕方を迎える頃には晩御飯の相談をしてから、共に台所に立ち、
そんなに美味しくない料理に舌鼓を打つ。
周りが見えなくなるぐらい早い時間を生きていたから
こんな、砂時計のようにゆっくり進んでいく生活は心地良かった。
癖のある声に耳を傾け、全ての言葉に頷く。
それで笑顔を見せてくれれば、その度に深い安らぎで酔いしれる。
いつの間にか居たそんな自分が好きだった。
- 62 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時01分52秒
- 娘。の番組を一緒に見てた時、
あれは確か「ハローモーニング」で、
画面の中では辻と加護が、またも意味不可解な言動でメンバーを笑わせていて、
私達はそれを見ながら、昼食をどうしようか討論していた。
確か、あたしがパンで、彼女は夏だからと冷やし中華を推していたと思う。
不思議なものでその頃には11人のモーニング娘。がもう自然に見えていた。
「後悔してない?」
嫉妬とも取れる想いを抱いていると、不意にそう問われ、心が読み取られてるように感じた。
してない、というのはウソだったけど、
あの生活を選んで正解だと思ってるし、何よりそれを失いたくなかった。
もちろん、もう戻る気なんてなかった。
- 63 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時02分25秒
- 番組の終わりに差し掛かった頃、
頬杖をついた彼女の何気ない一言が、その後ずっと耳に残って離れなかった。
「なんかいいね、こんなのって」
――そう、きっとこんな時間がいつまでも続いてく。
そう思っていた。
でも、それはただの自分勝手に膨らませた妄想にしか過ぎず、
症状は地を這う風のように静かに誰にも気付かれずに進んでいった。
- 64 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時02分58秒
- 「この子カワイイね」
肩越しに背後から聞こえたその声がやけに自然に聞こえたのは気のせいだったろうか。
夕食も終わり時間も9時を迎えようかそんな時、
私はジャンケンで負け、夕食の後片付けをしていた。
何気に振り向くと同時に全身に悪寒が走った。鳥肌が立つのが本能的に分かった。
その視線の先には、ブラウン管の中、眩しい照明の中で踊る松浦亜弥がいて、
梨華ちゃんはテレビの前で膝を抱き、楽しげに口元を吊り上げていた。
- 65 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時03分41秒
- 晩夏を迎える頃、症状は急激に悪化していった。
私が少しの間だけ瞳を逸らしていたうちに、
坂はいつの間にか急な下り坂に差しかかっていたんだ。
気付いた所でもう遅かったし、何も出来やしなかったけれど。
呼び掛けても振り向いて笑うだけで、声を聞くことがめっきり減った。
次第に何を言っても首を傾げるようになり、いちいち説明することが増えた。
何でもないような日常の動作まで、そのつど何度も説明するようになった。
それでも、最低限の人格はギリギリで保たれていて、私のことは判別できていた。
- 66 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時04分19秒
- この頃になり、私は1人で懐旧することがまれになっていた。
1人の時間にまどろんでいるといつの間にか彼女のことを考えていたり。
昔の雑誌を見て「こんなことあったっけ…」と想い返していたり。
そこに彼女が現れると、慌てて雑誌を隠したり、
そんな自分がいることに気付く度、そんな自分が疎ましく思えた。
- 67 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時04分50秒
- ――忘れるのと、忘れられるのとどっちが辛い? 残される方が辛いに決まってんじゃん。
後悔じゃない、自分の運命を呪っただけ。
誰も悪くない、彼女も私もその他の生けるものも、みんな同じ時間を生きてるだけ。
ただ、願いが1つでも叶うのなら――、
――どうせなら、彼女の立場の方がましだった。
でも、奇跡なんて起こるはずがないと思っていたし、
ましてや神様なんているはずもないと確信していた。
そう、大きく空いた穴は誰にも埋められない。
彼女のも、私のも。
- 68 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時05分21秒
- 袖を通る風に冷たさを覚え、秋も終わりに差しかかった、
近づく次の季節を膝元に感じていた夜のことだった。
隣で眠る彼女の顔は、心なしか顔全体に赤みが差しているように見えた。
それは精神的にも幼さを取り戻している証拠なのだろうと、諦めに似た気持ちで自ら言い聞かせた。
まだ楽観的な思考が何処か残っていたのは、彼女の中にまだ私が存在していたから。
それだけは消えない。根拠もないことを嘘のように信じていた。
- 69 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時05分56秒
- 閉めきらなかったカーテンから外の光が漏れ、床に細く白い筋が延びていた。
閉めようかどうか、どうでもいいことで迷っているとその上部の大きな光に目が止まり、そのまま離せなくなった。
その隙間から覗く、琥珀色の弓張月。
それに何か、大切なものを重ね合わせ、
普段は気付けなくても時間を掛け少しずつ欠けていく月は梨華ちゃんそのものだと、
自虐的とも言える想いを思い浮かべた後、
こんなの柄じゃないな、と苦笑いを浮かべた。
- 70 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時06分33秒
- そうこうしてる内になんだか眠れなくなった私は、
心に刻まれた思い出を、かけがえのないものを仕舞った引き出しを恐る恐る開けてみた。
久しく開けることのなかった箱は、錆びついてしまい開けることにさえ苦労したけれど、
ひとたび開けてしまえば、それは何にも置き換えられない、宝箱だった。
昨日のことのようにも思う、オーディションのことやライブのこと。
彼女のことがあってから思い出さないようにしてたはずのことがどんどん溢れてきた。
- 71 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時07分08秒
- 失いかけて初めて思い出すものがある。
ドジって涙ぐむ梨華ちゃんや、落ち込む梨華ちゃん。
調子に乗って変な格好で踊る梨華ちゃん。
もっといい思い出なんて幾らでもあったはずなのに、
こんな大事な時に限って思い出すのはそんなことばかりで、
そんなものが本当は大事だったんだって、今頃気付いた。
そしていつの間にか持っていた感情にも――。
――何なんだよ、これ…?
そんなこと分からない。
気持ちが何なのかとか、そんなことよりも、いなくなってほしくない。
今はそれだけ。もっと時間が欲しい。
きっと、言葉にすればきりがない。
- 72 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時08分00秒
- 窓の外、遠くでビルの赤い光が点滅していた。
――私もあんな風になれればいい。
たくさんのものを導く光になりたい。
彼女を救える誰かになりたい。
きっと叶わない。それだけは分かってた。
そう分かっていて、願いが終わることがないことも。
なんとなく、何気なく。
暗闇の中で、彼女の手を探りだし力を込めずに握った。
離れないように、これ以上距離が出来ないように。
そう祈りを込め瞳を閉じると、意志を無視するかのように間もなく深い眠りについた。
- 73 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時08分39秒
- 目が覚めるとカーテンは全開で、
もう日は高いのか差し込む光に部屋は強烈に真っ白な輝きを放っていた。
白い床、壁、天井。白で溢れた部屋は病院で見たのとは違う、
誰も汚すことの許されない領域だった。
不意に隣を見ても彼女の姿はなく、ベットを抜けその影を追った。
リビングのドアを開けるとすぐに鉢合わせ、驚きと共に安心感を覚える。
安心感と同時に「おはよ」と声をかけようとすると、彼女の口が開いた。
- 74 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時09分12秒
- 「石川梨華っていうの、これからよろしくね。モーニング娘。一緒に頑張ろうね」
「中学2年生なの? 以外、年上かと思ってた」
「オーディションって緊張するね、私初めてなの」
- 75 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時09分50秒
- 意味も掴めない言葉の羅列に恐怖を覚えた。
目を閉じ慌てて耳を抑えた。痛みを感じる程、可能な限り力を込めて。
それでも、声は少しも衰えることなく、むしろ大きく感じるくらいに耳に入ってくる。
- 76 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時10分35秒
――恐い…
- 77 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時11分05秒
- 跳ね起きた。
息が荒い。息を吐く度に肩が上下する。
汗でTシャツがしっとりと濡れていた。
闇の中、それでも辺りを見回し闇の感覚を目に焼きつける。
夢だと気付くと、とてつもない安心感が雪崩れ込んでくる。
無意味に力を込めて、髪の毛をクシャクシャに掻き乱す。
そのままの手で顔を覆いかぶりを振って、夢の中の何もかもを否定した。
――そんな訳ない。絶対にない。ンなこと…在るわけないじゃん…。
- 78 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時11分39秒
- 少しずつ息が整い、冷静な判断が可能になってくると、だんだん周りが見えてくる。
最初に頬を覆っていた手に疑問を感じた。
そしてセミダブルベットの沈み方が偏っていることにも。
案の定、そこに彼女の姿はなく夢の中と同じ状況に不安が頭を過ぎる。
が、情景の違いから浮かんだ事項を真っ先に否定して強引に頭の隅に追い込んだ。
夜目の効く方だったし、暗闇の感触は焼きついていたから、
カーテンの隙間から差し込む月明かりだけの薄暗い部屋でも、
その存在はすぐに視界に捉えられた。
彼女は部屋の隅で毛布も被らず、膝を抱え震えていた。
- 79 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時12分11秒
- 部屋のその一角に近寄り、膝をつく。
フローリングの床はジャージの上からでも分かる程、痛いくらいに冷たかった。
「梨華ちゃん…ど、どうしたの?」
震える声はその時の彼女の心を映したのだろうか――。
「恐いの、無くなってくのが分かるの、どんどんね…消えちゃうの」
言葉が途切れると、カタカタと歯がぶつかる不快で痛々しい音が耳に届いた。
あの数ヶ月間で初めてだったと思う、あんなに怯えた表情を見るのは。
正確には私が見る限りほとんど無かったと言うべきか――。
だから、たくさんのことをいっぺんに分かったような、そんな気がした。
そうして、何も言えなくなった。
- 80 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時12分45秒
- 「思い出も、いろんなこと思い出せないの」
そこに存在するものはカーテンの隙間から差す弱く小さい明かりだけなのに、
円らな瞳はキラキラと光を灯し輝く。
涙だと悟った瞬間、むやみに唇を重ねていた。
重ねるだけ、数秒足らずの。
彼女の唇は震えていて、そして冷たかった。
「ひとみ…ちゃん?」
最初で最後の口づけの後に残ったものは疎ましい後悔と、
気付くには遅い喪失感、そして何も出来ない自分への嫌悪感だけだった。
氷のように冷たい唇かから伝わるのは、ドラマみたいな甘いもんじゃなく
彼女の抱えていた苦しみ、切なさ。そして寂しさ。
その全てが耐え難い苦しみを抱いて、共に肩を寄せ合い泣いていた。
- 81 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時13分20秒
- ――何なんだよ…。あたしって結局何なんだ。
大事なものが目の前で失われていく、分かっているのに何も出来ない。
本当はすぐにでも消え去ってしまいたかった。
これ以上、自分の弱さを知りたくなかった。
自分が何も出来ないなんて、そんなの目の当たりにしたくなかった。
- 82 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時13分57秒
- 「こんなこと…なるなんて、
ずっと…ずっとずっと、ひとみちゃんといられるって思ってたの」
私の肩に顔を埋め、掠れそうな声を絞り出す。
弱い重力のかかった肩が温かく、次第に湿っていくのが分かった。
「恐いの…、すごく恐い」
背中にしがみ付く力は予想通り弱くって、
それを補うかのようにめいいっぱいの力を両腕に込めた。
抱きしめるその身体から伝わる冷たさ。
それをすぐそばに感じながら私は何も言えずにただそうするだけだった。
それが償いになる。そんな思い違いさえ抱かなかったけど、それしか私にはなかった。
慰めの言葉すら、持ちあわせてはいなかったのだから。
- 83 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時14分42秒
- 最後の言葉から嗚咽が鳴り止むまで、
リビングの方から正時を告げる音が1回だけ聞こえた。
いったい何時だったのか、それは確認しなかった。
泣き止んだ彼女は何もなかったように安らかな寝顔を浮かべていた。
それは透き通るような、卑猥な言葉を使えば魂の抜けた、
余りにも綺麗で、余りにも切ない表情だった。
だらん、と腕の中で弛緩する彼女。頬を微かに濡らす滴を親指で拭った。
――梨華ちゃんのことだから、明日辺りは目腫れてるかも…。
グッと両手に力を込め、その体を抱えてベッドまで運んだ。
前よりもずっと軽くなっているような気がした。
何で――、それは考えなかった。
「おやすみ…」
- 84 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時15分12秒
- 再び眠りにつく頃、もう窓の外は紫がかった霞が漂っていた。
見た夢は記憶にも留まらない他愛もないもので、
でも、そんなものにさえ夢の中の私はすがり付いていた。
- 85 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時15分42秒
- 朝を迎え、ほとんど寝なかったはずなのに彼女よりも早く目が覚めた。
朝食の支度はこの頃もう完全に私の仕事になっていた。
数十分が経ち、テーブルの上に一通りの皿が並ぶ。
時間の掛からないトーストだけど、香ばしい匂いが食欲を誘っていた。
冷める前に――、そう思って奥の部屋へのドアを開けると、
彼女は既に身を起こしていて、ボーっと宙を眺めていた。
その姿は、昨夜のことなんて何もなかったのように、そう見えた。
だから私も何も無かったように自分を見繕って声を掛けた。
「おはよ、梨華ちゃん」
- 86 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時16分28秒
「だれ?」
一筋の涙が頬を伝った。
- 87 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時17分05秒
- 嵐が過ぎた後の夜空のように、彼女は澄んだ表情で笑う。
梨華ちゃんとは違う、純粋に瞬く星みたいに光の粒を送るんだ。
ただ単に昔の梨華ちゃんはこうだったのかもしれなかったけど――。
私は昔の梨華ちゃんを知らないから。
- 88 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時17分35秒
- こんな言い方は失礼で、本人に謝らなきゃいけないと思うけど、
彼女はたくさんのことを失って、それが返って幸せなようにも見えた。
新しい人生、やり直すにはまだ早いかもしれないけれど、
あんな辛い想いをしないで済むなら、こっちの方がずっと幸せだと考えた。
ただ、それが私の幸せには繋がらない。
一度忘れてしまったことを前と同じように思い出す可能性は皆無に等しい。
と、いつだったか検診に行った時に知らされた。
当時は現実感の無かったそんな台詞が、
やけに重くあんなにも残酷に背中に圧し掛かっていた。
目に映る何もかもが色を無くし灰色に見えていた。
- 89 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時18分35秒
- でも、私が取れる道は1つしかなかった。
――娘。を抜ける時にこれだけのことは覚悟してたはずだろ…。
これから来るであろう彼女との未来へと、進むしかない。
過去と現実、未来の間でもがきながら、
それでも私は彼女と生きることを選んだ。
- 90 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時19分06秒
- 生活は続いた。それは昔の梨華ちゃんを知る時間の連続だったけど。
貪欲に喜びを求め。無垢に透明に笑う。
仕草が少し前の弟とそっくりだった。
- 91 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時19分38秒
- そんな生活が続く中のある日、
紅茶を飲もうとカップとティーパックを準備して初めて気付いた。
小ビンの中の砂糖が切れていた。
梨華ちゃんのことだし、替えの分があるはずと、
カップを手にしたまま、思い当たる場所を手当たりしだいに探すけれど、
目的のものは一向に見つからない。
梨華ちゃんのこと、なにも分かってない。
そう思い知らされた気分だった。
単純に悔しかった。
ほぼ諦め、財布を取りに奥の部屋に行くと、
彼女がいつも座っていた化粧台が目に止まった。
何も考えず、ほぼ諦め気味に化粧台の引き出しに手を掛けた時だった、
- 92 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時20分27秒
- ――何で忘れてたんだろう。
ピンクの表紙に書かれた★DIARY★の丸い文字。
記憶の糸を手繰り寄せると確かにあった。
いつもどの場面にも片隅に映っていた存在。
厚いその表紙を手に取ると、その下にひっそりと佇む薄いピンクの封筒が目に映った。
よっすぃ→へ
隅にそう記された丸い字は確かに彼女の字で、
随分と見ていないものだった。
化粧台の低い椅子に腰を降ろし、日記帳を台の上に置いた。
そうしてから、ピンクの便箋に手をかけた。
- 93 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時21分07秒
dear よっすぃ
こんにちわ、よっすぃ。久しぶりで合ってるかな?
よっすぃがこれを読んでるってことは、
私はもういなくなっちゃってるってことなのかな。
なんだか不思議な感じ。想像できないの、自分のことなのに。なんか変だね。
今って言うのか分からないけど、これを書いてる時、
よっすぃはすぐそばで眠っています。寝顔がカワイイの。
きっと言いたいこと、私はうまく話せないと思うから、
直接じゃ言えないこと忘れる前に伝えたくて、手紙を書くことにしました。
- 94 名前:いしよしよしよし 投稿日:2002年04月05日(金)00時21分37秒
- 更新お疲れ様でした。やっぱり素晴らしいです作品です。
- 95 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時21分44秒
- 今よっすぃのそばには私はいますか?
いたら、新しい私は良い子にしてますか?
よっすぃに迷惑とか掛けてませんか?
前の私のこと、時々思い出したりしてくれてますか?
思い出して切なくなったりとかしてくれてますか?
そうだったらちょっとだけ嬉しいかも。イヤな女のコだね、ごめん。
初めて会った頃はこんな日が来るなんて思いもしなかったよね。
よっすぃのこと忘れるなんて、考えられないよ。
今、私の心の中一番占めてるのがよっすぃなんだよ、
なのにこんな気持ちもなくなっちゃうなんて。
そんなの、今でも信じられない。悔しいよ。
だから、お願い。
もし、前の私がいなくなって、
よっすぃのこと、吉澤ひとみっていう大切な人のことをなにもかも忘れてしまったら、
いっそよっすぃの手で私を天国に行かせてください。
私の背中をそっと押してくれるだけでいいんです。
恐くないっていうのはウソだけど、忘れることの方がずっと恐いから大丈夫★(だと思う)。
- 96 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時22分26秒
- 遺書はもう書きました。
化粧台の鏡の裏に、家族にあてた分と、みんなにあてた分と2通隠してあるので、
事後処理に使ってください。
詳しいことはこの手紙の2枚目にまとめておきました。
あの内容だったら誰にも怪しまれないと思います(自信バッチリ!!)。
よっすぃに疑いがかかるようなことはないはずです。
無理なお願いかもしれないけど、
そんな私耐えられないから、どうか叶えてください。
信じてるよ。約束だからね。
- 97 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時22分59秒
- いろいろしてくれてありがと。
今もまだよっすぃとの生活は続いてるけど、
今、ものスゴク幸せだよ、毎日が楽しくてしょうがないの。
娘。続けてたら、きっとこんな日々には出逢えなかったと思います。
そういう意味では良かったと思ってるの。こんなのって変かな?(笑)
全部終わったらみんなのところへ戻ってあげてください。
メンバー以外にもたくさんの人がよっすぃの帰りを待ってるはずです。
付きあわせちゃってごめんね。それと、ありがと。
あと、ひとつだけ。
新しい私を嫌いにならないで。
少しでもいいから、今まで通りに接してあげて。
わがままを許して。
どうか、私のこと忘れてください。
from 石川梨華
- 98 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時23分30秒
- ピンクの便箋に白のペンで書いた文は正直読み難かった。
けど、込められた想いは痛いほどに、肌を刺すように伝わった。
最後の行に記された名前だけを我に返るまでずっと見つめていた。
手紙の2枚目には、梨華ちゃんが子供の頃行っていたという、
海沿いの祖母の家のある町への行き方と、今はそこには自分を知る人は誰も住んでないから、
その小さな町の誰にも怪しまれない、と綴ってあった。
立ち上がり鏡の裏に手を伸ばすと2つの封筒はすぐに見つかった。
お父さんお母さんへ、とだけ書かれた封筒は読むのが躊躇われた為開けはしなかったけれど、
みんなへ、そう書かれた封筒の中には、
たくさんの人への感謝の気持ちと、別れの言葉を言えない申し訳なさだけが
短く要約された文章に綴ってあった。
目を通すと、胸が締め付けられるような、そんな気にさせる文だった。
- 99 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時24分05秒
- 日記のページを開けると、ページ一杯に並んだ見慣れた文字。
日付はふたりの生活が始まってからで、
その日1日の出来事から、私が喋ったこと、
昔の思い出まで、ページの白が見えなくなるぐらいに、
丸くて小さな字が所狭しとあの時の彼女の想いを語っていた。
2人の過ごした日々の記録、その中で私達は確実に生きていた。
2人しかいない小さい世界で。今、その小さな手の中にある幸せだけを見つめながら。
どのページも最後の行には、
忘れたくない。
と、一際大きい文字が書かれていた。
ページをめくるに従って、文字が稚拙になっていく。
漢字が減っていく、文体が幼くなっていく。
でも、最後の一行だけはいつまでも変わることはなかった。
- 100 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時24分46秒
- 最後のページ、厳密には私の知ってる梨華ちゃんの最後の日記。
震える指が開けたページには稚拙な文字だけが残っていた。
ひとみちゃん
書き殴ったような文章の中で読み取ることが出来たのは文頭のそれだけで、
それ以外はところどころその文字が何なのか分かるくらいで、意味を読み取れるまではいかなかった。
- 101 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時25分18秒
- 流れる涙はあっという間に頬を伝わり、余白に染みを作り出した。そして2つ3つと。
――何で、何で気付いてあげられなかった…。
苦しむ彼女を見の前に、私は何もしなかった。
彼女はひとりで懸命に戦っていたのに、
私は現実から逃げて、何も知らない振りをして笑っていた。
自省からくる自己嫌悪に、もしその場に自分1人しかいなかったなら、
勢いのまま命を絶っていたかもしれない。
- 102 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時25分45秒
- 「ひ〜、ひ、ひ…と…みぃ、ちゃ?」
妙に懐かしいその声に振り向くと、瞬間、その身体を抱き寄せていた。
肩口の髪の毛が鼻に押し付けられて、吸い込むと胸が訳の分からない想いで胸が一杯になった。
悲しみ、愛しさ、切なさ、絶望、様々な感情が心の中に押し寄せてきて破裂しそう。
流れる涙、鳴り止まらない嗚咽、
「どうしたの、どこか痛いの? 苦しい?」
優しく頭を撫でる手は、柔らかくて温かくて、
幼い頃よく感じていた母親の温もりを思い出した。
優しくて温かくて、悲しみを吸い取っていってくれる大きな手。
- 103 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時26分19秒
- ――ごめんね、ごめんね。
何に対してか自分でも分からずに、心の中で繰り返していた。
浮かぶ感情は何もかもがいびつで絡み合うことはなく。
それでも、その輪の中心には梨華ちゃんの姿が映し出されたままだった。
凍えるような慟哭に身を置き、何かを知った。
あの時、私の梨華ちゃんに対する想いは、友情ではなかったのかもしれない、と。
そして私は、弾き出された答えを静かに飲み込んだ。
- 104 名前:第二夜 投稿日:2002年04月05日(金)00時26分50秒
――望むんなら、私が梨華ちゃんを飛び立たせてあげるよ。
- 105 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月05日(金)00時27分25秒
- 第二夜 -了-
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月05日(金)00時28分28秒
- レスありがとうございます。
返事は完結後にしようと思ってます。
明日も同じ時刻に更新します。
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月05日(金)00時33分59秒
- 一言だけ・・・、胸が痛いです。すでに脱稿されてるとか、明日のこの時間を楽しみに待ちます。
- 108 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月05日(金)01時53分11秒
- 張り詰めた空気がたまんないです。
何夜まであるのかな?
早く読みたいような、読むのが怖いような…。
ともかく、待ってます。
- 109 名前:赤鼻の名無し 投稿日:2002年04月05日(金)02時06分42秒
- 思わず涙が零れ落ちてしまいました。
この物語には切ないという言葉がピッタリです。
明日も楽しみにしています。
- 110 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月05日(金)10時03分24秒
- …久々に鳴り響く作品に出逢った予感。
- 111 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)16時43分51秒
- 今日一気に読みました!文章の書き方がうまいですね。
切ないです…
- 112 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時00分37秒
- 約束を果たすため、今私は期待はずれの永遠と残された言葉だけを頼りに、この地を踏む。
- 113 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時01分11秒
- 降り立ったその駅は無人駅で、潮の香りがホームにまで漂っていた。
電車が行き去ると、その向こう側すぐ先にはパノラマの海が広がっていた。
「わぁ」
彼女は感嘆の声をあげると線路ぎりぎりまで近づいていき、
向こうのホームの金網めいいっぱいに首を伸ばす。
その姿はどう見ても17歳の女の子には程遠かった。
「お水いっぱいだね」
振り向き満面の笑みを浮かべる。
彼女は何も知らない。
「海」という存在も。
ここがどこで、自分にとってどういう場所なのか。
私が誰で、どう想っていたか。
そして、私が彼女の命を奪う、彼女との約束さえも。
そう、彼女は何1つ知らないんだ。
- 114 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時01分42秒
- ホームから誰もいない待合室を抜け、駅の駐車場に出ると、
都会のものと異質な、多くのエネルギーを蓄えた光の束に照射された。
秋も後半を迎えた今となっても眩しさを失わず満面の光を放射する太陽は
都会に住む私にとっては季節を見間違うかのようでもあった。
知らない町を行方知らずの風に乗って歩く。
手を繋ぐ彼女はどんなものにも注意を向ける。だから、なかなか前に進まない。
ただ、放し飼いにされてたニワトリには本能的に拒否反応を示し、近づこうとはしなかった。
この町に生きる人々は私達のことを知っているのか、
それともただ単に都会の人間が珍しいのか、すれ違う度に離れた目を向ける。
梨華ちゃんはそんな人々にも大げさすぐるくらいに深くお辞儀をする。
90度をゆうに上回る程に上体を屈める姿は、不自然さを感じさせずにはいられなかった。
でも、そんな姿に梨華ちゃんの面影を感じてしまう。
何でだろう、と思った。
- 115 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時02分22秒
- 下見。とでも言ったらいいのだろうか、
手紙に簡単に描かれえいた地図の端に書かれた海に訪れた。
時期が時期なだけに、海のイメージには程遠く肌寒さを感じる風が拭きつけている。
薄い灰色の砂の上には所々に何処からか流されてきた木片や、空き瓶が至る所に放置されていた。
時刻も正午を迎え、時間的には十分なのに釣り人の気配やその痕跡さえないのは、
ここが年中の観光地としては成り立っていないことを証明していた。
――こんな海岸でも真夏には海水浴客で溢れ返るのだろうか?
それでも、いつも見る海の光景と今目の前に広がる海岸の光景が重なることはなかった。
- 116 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時03分01秒
- 「お水お水〜」
靴のままで波打ち際へと掛け寄っていく。
砂に埋まっている貝殻を物珍しそうに手に取り、太陽に透かせてみる。
それを大事そうに力いっぱい握り締めると、寄せる波に咄嗟に身を引く、
そうしては引く波を追いかけていく。
砂浜の上で踊る彼女を、打ち上げられた木片に座って眺めながら、
――10年くらい前の梨華ちゃんもこうやって遊んだのかな…。
そんな想いを巡らせていたらいつの間にか顔が綻んでいた。
『そんな私耐えられないから』
手紙の一説を思い出し、何を考えているんだろう、と自分自身を叱咤し辺りを見渡した。
梨華ちゃんに対し、申し訳ない気持ちになった。
ここは海岸線自体が大きくへこんだ大きな入り江になっていて、海を挟んで左右に大きく陸が続いている。
右手には長く出っ張った岬の先にくすんだ色の灯台。
左手側は対照的に荒々しい岩峰がここから50m程向こうから続いてる。
地図によればあの向こうに行けば海岸に切り出た崖があると示されている。
- 117 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時03分35秒
- ――これでいいの?
胸の中の梨華ちゃんに問い掛けた。
明日の朝方、私は彼女をその場所に連れていき、
朝焼けを眺める彼女の背中をそっと押す。
その後で、こっそり旅館に戻り持ってきた遺書をバッグのに中に忍ばせ、
何食わぬ顔をして、旅館の従業員を叩き起こす。
何度反復しても馴染むことのないその工程。
分かっているんだ。ただ信じたくなかった。
そんなことを何度確認したって現実感なんて見つからないって。
苦笑いを浮かべ、再び視線を海岸に向けた。
すると、スニーカーを濡らした彼女が眉を八の字にして佇んでいた。
――今だけは忘れよう。
胸の中で「ごめんね」と呟いてから、靴を脱いだ。
- 118 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時04分13秒
- もっと町の中心部に行けば露天風呂があったり、
高そうな料理を置いてる旅館があったのだけど、
人目につくと何かと面倒だし、何より海の見えるところが良かった。
海岸から少し歩いたところの旅館。
玄関口を彼女の手を引き裸足で抜ける私に女将さんは驚いた表情で見つめていたけど
都会からの客と悟ったのか、急に改まった態度で頭を下げた。
予約の名前は偽名でとってある。これも梨華ちゃんの指示。
- 119 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時04分50秒
- 案内された先は最も景色のいい、この旅館での最高級の部屋。
大きく開かれた窓からは、私達がさっきまでいた海岸が夕焼けの赤い情景に映し出されていた。
聞くところによると、今日の宿泊客は私達ふたりだけとのこと。
「この時期はいつもこうなんです」
と苦笑いを浮かべながら説明する30代の仲居さんに、
「はぁ」と曖昧な受け答えをした。
この人に、もしものことを考えて一応病気のことだけ説明しようとしたけど、
変に関心を持たれるだけなので止めておいた。
――大丈夫、きっと大丈夫…。
何が大丈夫? そう問い掛けるもう1人の私を頭の隅に追い込んだ。
- 120 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時05分24秒
- 仲居さんが退室して、今一度部屋を見渡すと
彼女は物珍しそうに窓から見える海の景色を眺めていた。
リズムに乗って交互に膝を曲げ、幼い頃に聞いた覚えのある鼻歌を奏でる。
そんな仕草がこの胸を優しく揺り起こすことに彼女は気付いてない。
そんなところに鈍感なのは変わっていなかった。
- 121 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時05分54秒
- そうしているとすぐに料理が運ばれてきた。
仲居さんも言っていたけど、テーブルいっぱいに並んだ皿の数に料理人が腕を振るったのが分かる。
海の素材をふんだんに使った懐石料理は豪華とはいかないけれど、
素材の良さを活かした料理は暫しの間だけでも心の闇を拭ってくれた。
浴場。今日の客は私達だけと聞かされていたので、ほとんど家族風呂と変わらない。
磨かれた窓には暗い闇が張り付いていて、ずっと向こうの灯台の光が、時折闇の中に藍色の波を浮かび上がらせていた。
体を洗う、彼女はそんな何でもない動作まで誰かを頼らなければいけない。
私は目を逸らしながら、握られたスポンジを動かしていく。
手を動かす度にその部位はだらしなく形を歪める。
それが普通のように私の手を目で追う彼女に対し、耐え難い後ろめたさを感じた。
結局最後までこの行為に慣れることはなかった。
- 122 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時07分22秒
- 部屋に戻ると、当たり前に布団が2つ敷いてあって、
彼女はそれに飛び込んだ。振動で障子がガタガタと音をたてた。
意味不明に声を上げる彼女に、初めて外泊した幼い日のことを思い出して、
――あたしもこうだったかな…。
と思った。
- 123 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時07分55秒
- これが、最後の夜。
「おやすみなさい」
なのにあっけなく、しいては物足りなく、
既に布団を被っている彼女は目を閉じるとすぐに規則正しい寝息をたて始めた。
小さな振動で壊れそうな、そんな脆い笑顔を浮かべて。
――これで本当にいいの?
閉じた瞳に、もう一度問い掛けた。
永遠に眠りについた、笑顔もあの夜流した涙もそのままでいいの――。
脳裏に浮かんだ梨華ちゃんの影はゆっくり頷いた。
いつか――、
いつかあの日々を愛しく想えるように心を込めて――、
「おやすみ」
そう、これが最後のおやすみ――。
- 124 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時08分42秒
- 旅館自体はそんなに立派なところじゃないけれど、
手入れの行き届いた広くない中庭だけは風流な感じが漂っていて、
月明かりと、旅館の窓からこぼれる光が残り少ない紅葉を美しく飾り付けていた。
私はその中庭に面したベランダに出て、闇の向こうにあるはずの海を探していた。
ジャケットを羽織っていたから、肌寒さは感じなかった。
- 125 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時09分29秒
- もしも――、不意に思った。
――もしも、あなたが死んでしまって…、私はどうしよう。どう生きよう。
このまま年をとっていく?
これから誰かと恋をし結ばれて、お婆ちゃんになって死んでいく?
考えてはみても想像できない。
今が何よりも大切。
あなたと生きた、あの時間あの場所が別の次元のものの様に琥珀の光を帯びている。
手すりに乗せられた腕に滴が落ち、雨かな、と空を見上げると
星の並んだ空が滲んでいて、それが何なのか気付いた。
空気の澄んだ、初冬の夜空は悲しいほどに綺麗だった。
- 126 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時10分05秒
- 結局、私は一睡もしないまま早い朝を迎えた。
自然と眠気は感じられなかった。
これからの数時間を考えればそんなことはどうにも思わなかった。
白んできた空は何もかもを優しく包み込んでくれるから
きっと彼女の死さえも痛みもなく飛び立たせてくれるはず。
ただ、それだけ考えていた。
- 127 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時10分37秒
- 昨日の海岸へとふたりで出向いた。
朝の海岸は空と海の境目が分からないくらい一体となっていて、
1枚のおっきなカンバスをセルリアンブルーで埋め尽くした。そんな感じがした。
- 128 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時11分16秒
- 手を繋いで、ゆっくり岩峰を進む。
荒々しい周りの風景に、今のふたりの現状が嘘のようで、
まだ、夢だったら――、と願ってる自分がいた。
夢だったらどんなにいいだろう。
起きたらホテルの一室で、隣のベッドには梨華ちゃんが口を開けて寝ていて、
掛け布団や毛布、全部床に落ちている。
それを愉快に眺めていると、「早く起きなさいよ!」と保田さんにドアの外から怒られる。
今すぐにそこに飛べるなら、全てを捧げてもいいと思った。
- 129 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時11分50秒
- 心に残ったらどうしよう。
強くて悲しくて、そんなのが全部残ったら
それはあなたと過ごしたしるし。だけど、
いつか思い出した時、本当に笑みを浮かべて幸せに思えるの?
きっと――、
その先は考えなかった。
梨華ちゃんだけじゃなく、自分も傷つけたくなかった。
最後まで私は臆病で小さくて、ただそれだけの人間だった。
- 130 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時12分37秒
- たどり着いた崖の上、下を見ると、軽く30mはありそうな高さに思わず目を背けた。
「きれー」
彼女は下が見えてないのか、水平線に横一線に浮かび始めた光に顔を向け、
ボーっとまっすぐに見つめていた。
- 131 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時13分40秒
- あの日々のふたりとは別人みたいだ。
昨日のことのように思ってたはずのふたりが今は凄く遠くに見えて、
また、昔の思い出に逃げそうになった。
でも、約束は裏切ることは出来ない。
私が梨華ちゃんにしてやれることはこれくらいしかないから。
――あの頃、過ぎてしまった日々に今だけは背を向けよう。向けたい…向けさせてください…。
切に願った、何度も。誰でも構わないから、応えてほしかった。
- 132 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時14分10秒
- 指先は、凍えるほどに冷たい。
彼女の背中にそっと触れた手、ゆっくり力を入れる。
抗う力は何一つない、なすがままに背中は力を吸い込み
彼女の体を物理法則に従って動かした。
海の青と、白に混ざり始めた青と、2つの青が彼女を包んでいく。
息を止めて見つめると、長いまつげが揺れていた。
- 133 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時14分47秒
『ありがと…』
- 134 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時15分19秒
- 揺れながら青に墜ちていく彼女が発した言葉、本当に在ったのだろうか。
ただ、確実に存在したのは向けられていた安らかな顔。
幾度と無く向けられた彼女の作り笑顔。
そして、瞬間、宙を舞う細い手を握っていた、私。
- 135 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時15分50秒
- 華奢な体を抱きしめ、その小さな頭を抱えながら、
本能的な憧憬に似た想いを、考えた。
- 136 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時16分24秒
- ――もしも、神様がいるのなら…
――神様。私はどうなってもいい。
――思い描いたあの頃が戻らなくたっていい。
――望みが何ひとつだって叶わなくたっていい。
だから、その代わりこの腕の中の命だけ――。
- 137 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時17分01秒
- ぐるぐる回る視界、
浮かぶ数々の思い出。
走馬灯って見たことなかったけど、なんとなく分かった気がする。
メリーゴーランドから見る景色。
- 138 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時17分42秒
- ――お父さん、お母さん。ごめんなさい、さようなら。
- 139 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時18分25秒
- 欠落していく意識の中で最後に映ったのは、
見えるはずのない光のうずだった。
- 140 名前:第三夜 投稿日:2002年04月06日(土)00時19分47秒
- 第三夜 -了-
- 141 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月06日(土)00時21分06秒
- 次回が最後の更新になります。同じ時間に更新します。
- 142 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月06日(土)00時30分18秒
- …泣いてしまいました。
- 143 名前:赤鼻の名無し 投稿日:2002年04月06日(土)03時04分48秒
- 悲しすぎる。
何かの拍子でハッピーエンドになる事を祈ります。
- 144 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月06日(土)03時38分37秒
- 次回で最後ですか……
正直、もっともっと続いて欲しいのですが・・ダメですな。
最後の更新楽しみに待っとりますよぉ!!
- 145 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時00分01秒
◇ ◇ ◇ ◇
- 146 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時00分42秒
- 中庭に面した廊下を足音を立てないように進む。
窓の外は昨日の雪が跡形も無く消えて、
今は木漏れ日が厚いガラスをすり抜け、まばらな光を注いでいた。
- 147 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時01分18秒
- たくさん並んだドアの中から迷いもせずにひとつを選び、
白いドアをカラカラと音をたてて横に引いた。
部屋の仕切りを跨ぐと、驚く程の白さに包まれた。
蛍光灯も付けてないのに目を細めてしまうくらい眩しいのは、
南に臨む窓から息切れするほどの光が差し込むからか――。
この部屋からは街の景色がよく見える。
- 148 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時02分04秒
- 後ろ手にドアを閉めて、顔を部屋の中央のベッドに向けた。
ベッドに横たわり上半身を起こした彼女が
ニコッと痛々しいくらいの笑顔を作ったので、私も同じものを作った。
胸の中をフワッとした風が優しく通り過ぎていくのを感じた。
買ってきた缶ジュースのプルタブを開け、
ストローを差して手渡すと彼女は嬉しそうに首を縦に振った。
「ありがとー」
誰かに似た舌足らずな口調でそう言うと、
大げさに口を開けストローをくわえる。
白いストローが薄いオレンジ色に変わって、
「おいしー」と本当に嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなる。
- 149 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時02分42秒
- 少しの間、昔話をした。
私と彼女が共に生きた、あの頃の話。
彼女にとっては他人の思い出話でしかないけれど、
淡々と進んでいく話を、彼女はうんうんと興味深そうに頷きながら耳を傾けていた。
私は、その仕草に少しでも何かを取り戻す希望を望みながら、
途切れることのない物語を思うままに紡いでいた。
- 150 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時03分43秒
- 「オッス」
そんなに広くない個室だから、小さな声でも大きな音に変わる。
振り向くと、シックな出で立ちの女性が壁に手をつき佇んでいた。
「保田さん…」
「久しぶり、元気してる」
と、掛けていたサングラスを下ろし、チェーンのネックレスにそれを掛けた。
「はい、まぁ…」
半年以上も会うことはなかった保田さんはテレビで見るよりも大人に見えた。
相変わらず娘。は忙しそう、それだけは分かっていたけど、
最近はテレビも見ていなかったから、今の娘。がどうなのかはよくは分からなかった。
「時間できたから寄ってみたのよ」
つかつか部屋の中央のベッドに歩み寄ってくる。
と、ベッドの彼女は私の後ろへと身を隠した。シャツの背中を掴む手に温さと震えを感じた。
「失礼ね、先輩に向かって。忙しい中来てやったのに」
半分冗談で頬を膨らます保田さんに自分が愚痴られてる気がして、思わず苦笑いした。
- 151 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時04分45秒
- 「ちょっといい?」
開かれたままの後ろのドアに向かい指を差す。
私は無言で頷くと、ベットを向き直し心配そうな表情の彼女に一言二言告げてから再び部屋を後にした。
- 152 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時05分18秒
- 「医者は何だって?」
売店の前の喫煙スペースに設けられた椅子に並んで腰を降ろした。
すると、保田さんは手にしていた濃い茶色の帽子を傍らに置いてから目を合わせず言った。
「あ…、その…」
ある程度予想はしてたけど、言葉が詰まった。
「いいって、心の準備は出来てるから」
優しく投げられた言葉の意味を理解して、
一瞬のような時間でたくさんのことを考えた。
そうしてから、ゆっくり口を開いた。
- 153 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時06分30秒
- 「今はまずは傷の回復を待ってからって…、
それから医療施設に移して少しずつ…って、そう言ってました」
つい4日前の私が退院した日、あの時と同じ医師から聞いた結果をそのまま告げた。
私の頬にはまだ傷が残っている。
「そっか、まだ時間掛かりそうなんだ」
「まぁ、そういうことらしいです」
- 154 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時07分00秒
- その言葉を境にして沈黙が続いた。肌を直接刺すようにチクチク痛い。
場所柄もありいい気分はしなかったけれど、私は無理に言葉を探そうとはしなかった。
目前では、親子連れで見舞いに来たお母さんと男の子が、
自販機で紙パックのジュースを買い、私達の空気を読み取ったのか
母親が強引に男の子の手を引きその場から去っていった。
- 155 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時07分50秒
- 「ねぇ…」
寿命を迎えた蛍光灯が数秒だけチカチカと点滅し、その時不意に保田さんが声を掛けた。
「娘。に戻ってくる気…ないの?」
思いもよらなかった。娘。に戻ることなんてあの日から一生ないと思っていたから。
「みんな、寂しい気持ちしてるよ。あんたと…よっすぃーがいなくなって――」
- 156 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時08分31秒
- 言葉を続ける保田さんがどんな答えを待っているか何となく分かったけど、想いは決まっていた。
「よっすぃ、私がああなった時、自分のこと犠牲にして私についててくれたんです。
それが凄く嬉しかったんです。私、こんなになっても1人じゃないんだなぁ…って思えたから。
だから…、今度は私がそばにいて、昔のこと話してあげたいなぁ。って今は思ってるんです。
よっすぃのことはもちろん、私のこと、娘。のこと、メンバーのこと、もちろん保田さんも含めて…。
今の私に出切ることってそれぐらいしか、思い当たらないから――」
「そっか…」
「今でも思い出すんです、ふたりで過ごした時間のこと。それ、すごく大切だから。
だから、それだけは思い出してほしいんです」
――今日からまた過ぎていく日々、その中できっと思い出してくれる。
そう信じている、心から。
「……」
保田さんは大人だからこういう時は何も言わないでくれる。
それに、少しだけ感謝した。
- 157 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時09分25秒
- 「そうだ、あたしのことはちゃんと色をつけて良く話しときなさいよ」
思い出したように首を向けた保田さんの言葉の意味が分からなくて、一瞬だけ呆けた。
変にからかわれた気がして、だから私も思い出したように言った。
「はい、ちゃんと『おばちゃん』って言っておきますから」
「バーカ」
「なんですか、それー」
と、声を抑えて笑った。
場の緊張が和らいでいくと同時に、数ヶ月の間に出来た距離が一気に埋まっていくのが分かった。
そして、彼女と2人だけ現実から隔離されていた空間から、
一緒に手を繋ぎ解き放たれていくのを感じていた。
- 158 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時10分33秒
- 「ホッとした。1人だけ戻ってくるなんて言ったら、ぶっ飛ばしてるつもりだったんだから」
と、右手で作った拳を前に突き出す。
「ふふ、何か保田さんらしいですね」
コミカルなそのその動きを見て、自然と顔が綻んだ。
「何よ、それ」
「そういう意味ですよ」
そう言ってまた声を殺して笑った。
- 159 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時11分07秒
- その後、昔の同級生と久しぶりに会ったみたいに、保田さんと色んなことを話した。
彼女と過ごした半年間のことも、もちろん話し難いことだけ除いて。
保田さんも今の娘。のことをたくさん話してくれて、
今度のコンサートのチケットをこっそり2枚貰った。
そうしている内に時間はあっという間に過ぎ、保田さんは腕時計を見ながら立ち上がった。
- 160 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時11分37秒
- 「よっすぃーが全部取り戻したらさ、いつでも戻ってきなよ、ふたりで。
みんな待ってるんだからね、ふたりのこと」
帽子を右手で少し不器用に回しながらそう口にする優しい表情に、
――やっぱり保田さんは保田さんだ。
そう思ったけど、口にはしなかった。
「はい、喜んで」
「この後雑誌の取材。仕事入れ過ぎと思わない?」
と愚痴りながら帽子を目深に被って背を向けた。
「また今度はメンバー連れて来るから」
そう言い残し、保田さんは足早に病院を後にしていった。
その凛とした後姿に、軽く頭を下げた。
- 161 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時12分24秒
- 病室に戻ると、彼女は穏やかに目を閉じ穏やかに寝息をたてていた。
正午を過ぎ先程よりも差し込む光の量は少なくなっていたけれど、
眠る彼女の妨げにならないようにとクリーム色のカーテンを静かに閉めた。
薄暗い病室は少し蒸し暑い気がして不快な空間だったかもしれないけど、
目の前で無防備に眠る彼女の、たくさんのものを失っても
いつまでも変わらないその白く冴えきった表情に胸の中が優しくなるから、少しも気にならなかった。
- 162 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時12分59秒
- 昨日より減ったけれど、未だに大げさ捲かれている様に感じる頭の包帯を指先でそっと撫でる。
すると、温かくサラッとした感覚に居た堪れなくなった。
それは何を持ってしても表せない感謝の気持ちでもあるけど。
「よかってね、よっすぃ。またみんなと楽しくやれるよ。
戻れるんだよ、あの頃に」
- 163 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時14分22秒
10月18日(金) 天気:はれ
ひとみちゃんには本当にありがとうって気持ち。
大切なあなたのこと、ぜったいに忘れたくなかったけど、もうダメみたい。
- 164 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時14分56秒
ひとみちゃんにはずっとそばにいてくれて、本当にかんしゃしてるんだ。
いつも明るい笑がおを見せてくれるあなたのおかげで、
どれだけ心が楽になったか分からないよ。
ひとみちゃんのおかげで、あたしのさいごの思い出は
これまでの中で1ばんの思い出だよ。
- 165 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時15分32秒
ねえ、ひとみちゃん。
あたしが死んで、もしもあたしとの思い出が
あなたのじゃまになるのなら、あたしのこと忘れてください。
あなたのあたらしい日々のじゃましちゃうのならそれでもいいの。
いたい思いするのはあたしだけでいいよ。
- 166 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時16分21秒
でも、そういうのやっぱり辛いかも。あたしやっぱり弱いや。
だから、心のすみでいいから、あたしにいさせて。
ほんの少しでいいからあたしとの思い出のこしておいて。
そして、すぎていく日々の中で、いつかきっと思い出してね。
また、今度はやさしい思い出の中で会えたらいいな。
- 167 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時17分03秒
- あの思い出を胸に込めて、今はあなたとゆっくり時を感じよう。
明日も明後日もその次の日も、ずっと一緒にいられるように心を込めて――、
静かな寝息を立てる表情は、笑っているようにも見えた。
- 168 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時17分43秒
「おやすみなさい」
- 169 名前:第四夜 投稿日:2002年04月07日(日)00時18分58秒
- 【霞】-Vanishing steady-
-fin-
- 170 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月07日(日)00時21分06秒
- これで
【霞】-Vanishing steady-
は終了です。
拙い文章でしたが、お付き合い頂きありがとうございました。
今からはageても大丈夫です、
レスへの返事と後書きは後程にさせて頂きます。
- 171 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月07日(日)01時55分15秒
- なるほど〜そうなったのかぁ…
意表を突かれた感じです
いつか全部取り戻せるといいな
- 172 名前:赤鼻の名無し 投稿日:2002年04月07日(日)02時54分42秒
- あぁ・・・って感じです。
でもまだ救われるかなって。
凄くよかったです。いい作品を四夜連続ありがとう。
- 173 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月07日(日)03時06分14秒
- 自分も、意表を突かれまくりで・・・
なんというか本当に名作と言って良い作品ですねぇ。
感動しました。お疲れさま〜
- 174 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月07日(日)07時14分12秒
- いやぁすばらしいです。
2人がそれぞれを想う気持ち…いい感じでした。
とってもウルウルきちゃいました。
おつかれさまでした。
- 175 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月08日(月)00時01分16秒
- 短く後書きを書かせてもらいます。
良い感想をたくさん頂きましたが、
いい評価を貰ったのは自分では元のネタが良かったからだと思ってます。
もちろん作品として形に起こしたのは自分ですが、
助けられた部分は少なからず在ると、そう思ってもらえれば――。
元ネタで自分も感極まった記憶があるので。
これで自分は自スレに帰ります。
本当に感謝してます、ありがとうございました。
- 176 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月08日(月)00時01分46秒
- 名無しさん
>>55
名作は飛躍しすぎです。
書き方としては後ろから書いたようなものなので、
悪く言えばもったいぶった文章が上手く書けてると自分では思います。
いしよしよしよしさん
>>56
第一夜のラストは自分でも気に入ってるので、
そう言ってくださると、嬉しいです。
>>94
リアルタイムで読んで頂けるなんて、ありがとうございます。
素晴らしいというのは自分にとって最高の褒め言葉です。
赤鼻の名無しさん
>>57
14年4月4日は関係ありません。
実際は、脱稿できたのが4月3日だっただけです。
偶然にしては出来すぎですね。
>>109
手紙の内容を書きながら、自分も泣いてしまったので、
自分でも第二夜は一番切ないとは思ってます。
>>143
すみません、ハッピーエンドは最初から考えていませんでした。
ハッピーエンドとは言えないけど、
「そんなに悪くないじゃん」
って思えるようなエンディングにしたかったので――。
>>172
毎回のレスありがとうございました。
これからも何処かで今回のような作品を書くかもしれないので、
その時はなにとぞ宜しくお願いします。
- 177 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月08日(月)00時02分19秒
- 名無しさん
>>58
涙をさそう作品の方が得意だと思っているので、
そういう感想を貰えると、書いた甲斐があると実感します。
期待して頂き、感謝です。
名無しさん
>>107
執筆中の期待はプレッシャーですけど、
脱稿済みだったので期待されてるのが本当に嬉しかったです。
名無しさん
>>108
ラストを除くと、
終始そういう雰囲気を前面に押し出した文章だったので、
疎ましいかな、と思っていたのですけど、
そう言ってもらえてよかったです。
名無しさん
>>110
みなさんの印象に残るような作品を書けたらと
思って執筆していました。
そんな作品にできたでしょうか?
名無し読者さん
>>111
そんな良い言葉を頂いて、
短い春休みをこの作品にかけた甲斐がありました。
ありがとうございます。
- 178 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月08日(月)00時02分52秒
- 名無しさん
>>142
こんな文章で泣いて頂き感謝です。。
最後は笑って終われたかと思います。
お付き合い、ありがとうございます。
名無しさん
>>144
中編小説にすると構想中から決まっていたので、
申し訳ありませんが、これで終わりになります。
気合いを入れ過ぎずに読んでくれましたか?
名無しさん
>>171
この話に続きがあるのなら、
恐らくそうような展開だったと思います。
名無しさん
>>173
意表つかれてくれてありがとうございます。
名作は買いかぶり過ぎです。
ネタに助けられたところもあると思うので――。
名無しさん
>>174
最後までお付き合い頂きサンクスでした。
ウルウルしてもらって、書いた甲斐がありました。
- 179 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月08日(月)00時04分16秒
- HTML整形版+αはメール欄参照です。
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