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きりん

1 名前:G 投稿日:2002年04月04日(木)20時25分56秒
他板で書いてるものです。
花板という響きとはほど遠い、暗い話ですがお付き合いください。
2 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)20時28分50秒
キリンは泣かない。
子供をライオンに獲られても、親キリンはジッとそれを眺めているだけだ。



むかし読んだマンガに、そう書いてあった。


泣かないのは、強いからじゃない。
ただ、力が無いだけ…
反撃するすべを持っていないだけ。

自分の呪わしき運命を、そのまま受け入れるしか出来ないだけだ。


でも、その運命すら受け入れることが出来ないあたしは、
泣く事すら無かった。


3 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)20時31分48秒

横で市井紗耶香が、時計と双眼鏡を交互に見ている。
あたしはトリガーに指を添えて、静かにそのときを待っていた。


「後藤、あと30秒」


あたしは、スコープに掛かるカバーを外した。

ホテルの入り口には、黒塗りのリムジンが止まっていた。
ドアボーイが、そのリムジンのドアを開けている。
その横に、家族連れが見えた。
父親と手をつないでいる女の子は、うれしそうにスキップをし、
父親の腕を必要に引っ張っていた。
彼女の頭には、ミッキーの耳がついている。


幸せそうな風景だ。


スコープから見える景色は、ここから100メートル程離れた日常を切り取ったものだ。
手を伸ばせば届きそうに見えるのに、スコープから目を離せば、
それは決して手が届くことは無いという現実があった。

4 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)20時33分35秒

「標的、発見。灰色の背広に赤のネクタイ。5人…中央標的、前方2人、後方2人」
「標的確認」

100メートル先の人物と面識は無い。
写真すら見ていないのだ。
あたしら実行者は、このスコープ越しにしか、その人物を見ることは無かった。

「撃て」

人差し指が僅かに動き、それに伴う僅かな衝撃が肩に伝わった。
それと同時に、二発目の準備をして命令を待つ。

標的が倒れていく。

「撤収」

あたしは銃を素早く解体し、ビトンのバックに銃を放り込み立ち上がった。
突風が、あたしの髪を乱していった。
桜も散ってしまったこの季節になると、風も暖かく感じられるようになった。

5 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)20時35分27秒


「後藤…」


市井があたしに近づき、右手であたしの髪を撫でた。
あたしはされるがままにその場に立ち、感情の持たない目で市井を見ていた。

「いくよ」

市井に背中を押されたあたしは、無言のまま足早に市井を追いかけていった。



6 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)21時12分00秒

あたしは壁に寄りかかりながら膝を抱え、ミネラルウォーターを飲んでいた。
電気をつけていない部屋の中で、テレビが照明の代わりをしていた。

部屋には、このテレビとベッドしか置いていない。
フローリングの床にはゴミが散乱し、僅かながらも異臭を放っていた。
カーテンすらないないこの部屋は、今のあたしにはお似合いだった。

テレビからは、アイドルグループの歌声が流れている。

あたしとは無関係で、それでいてどこか憧れてしまう世界が其処にはあった。
でも、今のあたしには、彼女らの歌声は神経を逆撫でるだけの存在に過ぎなかった。
7 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)21時12分47秒


今日もまた、人を殺した。


あたしは、それを望んでこの世界に入ったのだ。
もう何人目なんだろう。

市井に言われるがまま現場に行き、
市井に言われるがまま人を殺す。

それ以外は、ずっとこの部屋にいた。
散乱したゴミの中に埋もれた携帯は、市井からの仕事の依頼の連絡
以外で、鳴る事は無かった。


8 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)21時13分46秒

初めて人を殺したのは、市井と出会う2年も前のことだった。
いや、ちがう。
あたしは、もうずっと前から、あたしの中で人を殺し続けていた。


なんだ、あのおっさんこっち見やがって…バーン。
うっせぇな、あそこの女…バーン。
息してんじゃねぇぞ…バーン。


あいつも、あいつも、あいつも、あいつも…
全部死にやがれ!

そうやって、何百何万の人を殺してきた。
そして、ついに、自分の手で人を殺してしまった。

9 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)21時14分42秒

理由は…覚えていない。
あの頃は、全ての事に腹を立てていた。
世の中全てが気に入らなかった。
自分自身に腹を立て、全てを呪い、全てのものに当たっていた。


気がついたときには、目の前に血を流して死んでいるサラリーマンがいた。
その血が、あたしの顔にもこびりついていた。

「なんだよ。見てんじゃねぇぞ。ブッ殺すぞ!」

遠巻きにあたしを囲んでいる人の中からは、すすり泣く声がしていた。

「どけよ」

だれも、あたしを止めようとしなかった。
だれも、あたしを捕まえようとしなかった。
遠巻きにあたしを見ているだけ…。
批難の眼差しを向けるだけ。
軽蔑の眼差しを向けるだけ。

遠くでサイレンの音が聞こえる。

あたしは足早にその場を立ち去った。

10 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)21時15分14秒

あれだけの目撃者、あんなにあたしを凝視していた瞳の数がありながら、
あたしが掴まることは無かった。

それが、あたしをもっと孤独にさせてしまった。

あのとき、掴まってしまえばよかったのかも。
どかかで、あたしを止めてほしかったのかもしれない。

テレビからは相変わらず、アイドルグループが楽しげにはしゃいでいた。

リモコンをテレビに投げつける。

リモコンは壊れ、乾電池が転がった。

「くっ!クッククククッ…」

乾燥した笑い声が、部屋に響く。

11 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)21時16分18秒



「ねえ、おねえちゃん。おねえちゃん、どうしてそんなに悲しい顔をしているの?」
「なに?」
「泣いてるの?」
「泣いてる?あたしが?」
「うん」



あたしは泣いてなんかいない。
もう泣かないと決めたんだ。

12 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)23時36分45秒


雑踏の中にいると心が落ち着く。
多くの無関心な他人に囲まれ、あたしは一人立ち止まる。
あたしと肩をぶつけながら、ほんの少しだけあたしを見て去って行く人たち。

ここで味わう孤独は、偽りの孤独。
ほんの少しだけ、自分を殺して笑顔を作れば消えてしまう孤独。

でも、あたしはその笑顔すら作れないでいた。

「後藤、前方赤いフリースの男」

市井が、すれ違い様にあたしの耳元で囁いた。

13 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
14 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)00時39分29秒

人垣の向こう側に、赤い色が見え隠れしている。
あたしは足早に男の背後へ近づき、小型の銃で正確に心臓を貫く。

男は打たれた瞬間、動きを止め、後を振り向こうとして崩れ落ちていく。

あたしは、その横を通り抜ける。
一瞬男の上目遣いの視線と目が合った。

死にゆくものの、光りを持たぬ目があたしを捉えた。

「ちっ」

あたしは、舌打ちをしながら、その場を足早に去った。
一瞬の間が空いた後、女性の甲高い悲鳴が聞こえた。

15 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)00時40分21秒

「それでいいの?」

「そうだよ」

「誰をころしたの?」
「ターゲット」

「うそ」
「嘘じゃない」

「振り返って見てごらん」
「そんな必要ない」
「怖いんでしょ?」
「違う」

「顔を見た?」
「見た」
「瞳は?」
「見た」
「いっしょだよ」
「なにが?」
「あなたの瞳と…」

堪らなくなり、走り出した。
人の流れに逆らい、何人の人にぶつかり、
躓き転びそうになりながらも走り続けた。
16 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)00時41分17秒

「あっ」

突然、腕を取られ立ち止まる。

「市井…ちゃ…ん」

“市井ちゃん”

あたしは彼女のことをそう呼んでいた。
親しみを込めていっているのではなかった。

小ばかにしたようなその言い方を、彼女自身も嫌っていた。

市井はあたしを立ち止まらせると、何も言わずあたしの顔を見つめていた。
その眼差しには、同情とも軽蔑の色とも違う表情が浮かんでいた。

「帰るよ」

それ以上の言葉は、いくら待っても聞こえてこなかった。

「ねえ、手放して」

市井はあたしの手を取ったまま、ずんずん歩いていく。

「ねえ」

市井はあたしを振り返り、ゆっくり一度瞬きをして、無言でまた前を見て歩き出した。
市井の手の温もりが、あたしに伝わってくる。
なんとも、むず痒くなる暖かさだった。

駅を通り過ぎ、人ごみが途切れ始めた頃、
市井が突然立ち止まり、あたしに微笑みかけた。

「後藤、あたしと一緒に暮らさないか?」

冗談のようなその台詞が実現するまでには、
それから半ダースもの命を奪うだけの時間が必要だった。

17 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月07日(日)21時29分00秒

市井の家は、池袋の駅からそう遠くは無い場所にあった。
8階建てのマンションの入り口は、ほとんどベニア板で塞がれ、
立ち入り禁止の札が貼られていた。

そのベニア板の切れ間から中に入ると、
エレベーターが動くこと自体奇跡に近いような程、ロビーは荒れていた。
天井から落ちたのであろうコンクリートの欠片が散乱し、
枯れてしまってからどのぐらい経つのか見当もつかないほど、
カスカスになった観葉植物が醜態をさらけ出していた。

饐えた匂いのするエレベーターを7階まで上がると、
明らかに生活のにおいのしないドアの列が並んでいた。

18 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月07日(日)21時30分10秒


「ガキみたいだな、この部屋」

外の廃墟に近い状態と異なり、市井の部屋は意外と女の子っぽい部屋だった。
花柄のカーテンとキティのぬいぐるみを見て呟いた。

「なにいってんだよ。このぐらい裕ちゃんだってやってるよ」

中澤裕子は、あたしが関わっている組織の一員の女だ。
市井は、彼女から仕事を請け負っていた。
三十路前の化粧の濃い関西人だ。
見た目が怖い割に、やたら涙もろい女だ。

「後藤、そんなところに何時までも立っていないで荷物降ろしなよ」

そういいながら、市井があたしの手から荷物を奪い取った。

「他の荷物は?」
「ない」


「…これだけ?」
「・・・」
「蒲団とか後で送ってくるの?」
「ない」

市井は大きく一つ溜息を吐くと、あきれた顔をした。

19 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月07日(日)21時31分17秒

「しょうがないな。来客用の蒲団つかいな」
「いらない」
「いらないって、あんた…」
「いちいち、うるせーんだよ」

困ったような、呆れたような顔をした後、
“好きにしなっ”と呟くように言った。

このマンションに、市井は不法占拠していた。
地上げだかなんだかされてしまったこのマンションの住人は、
市井と3階に住む、その筋のものが数人だけだった。

市井は、その3階の住人に恐れられているようだった。
市井の姿を見ると、そいつらは廊下の壁にへばり付き、
目すら合わそうとしなかった。

20 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月07日(日)21時32分25秒


「はい、これ後藤の歯ブラシ」


市井が紫色の歯ブラシを手渡した。


「歯ぐらい磨けよな」


市井が微笑んでいる。

いちいちむかつく女だ。
何も話さないあたしに、必要にからんでくる。

「あたし紫 キライ」
「贅沢だな。まあ、あんたがそう言うと思って、他の色も用意してあるんだよ」

そう言うと、市井は何色もの歯ブラシを取り出して、
あたしの前に広げた。

「ヒマだな、市井ちゃん」

「お前の、“市井ちゃん”に愛は存在しないよな〜」
「…ハッ 何にそれ。くだんない。
 あたしがどうしてあんたに“アイ”を示さなきゃいけないのよ。
 ええっ? い・ち・い・ちゃ・ん」

「あんたにしては珍しく、長い台詞だね」

市井が声を出して笑い出した。
あたしは、ムッとしながら目をそらした。

21 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月08日(月)04時08分28秒
作者さんに心当たりがあるのですが・・・。
22 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月08日(月)06時16分21秒
ばればれですね… こちらもよろしくお願いします。
23 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)00時08分33秒


「いつものある?」
「いくつ?」
「ひとつ」


新宿の街角に立っているあたしに、男が声をかけてきた。
180は超えてる長身に、痩せこけた体。黒ずんだ顔に、目だけをやたら
ギラつかせたこいつが、今回のターゲット。
目つきが悪いのは薬の所為だ。
薬漬けのこの男は、ほっといても勝手に死んでくれると思うのだが…。


24 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)00時09分11秒


あたしは頷くと、少しはなれた場所へ行き、隠した粉を取り出した。
その場所から男を見ると、男はガードレールにもたれかけ、こちらを見ていた。

男は、あたしの姿を認識すると、ゆっくりとした歩調であたしに近づいてきた。
あたしも、歩調を合わして歩き出す。
擦れ違い様に、金と粉の受け渡しをすると、お互いに振り向かずにそのまま歩いていく。
手元には、くしゃくしゃに丸まった5千円札が残った。


男と会うのは、これが最後だろう。
今回渡した粉は、特別のものらしい。
それで、男が死ぬのかは分からない。

ただ市井に、今回で最後だと告げられただけだ。
あたしとしては、死んでもらいたかった。
変装しているとはいえ、顔を覚えられている。

25 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)00時09分57秒

「ねえ、試してみる?」
「なにを?」
「もう一つ残ってるんでしょ?…粉」

ポケットに突っ込んでいる右手が、小さな袋に触れていた。

「楽になれるよ」

立ち止まり、辺りを見渡した。

あたしは何を探しているんだろう。

人々があたしの傍らを通り過ぎていく。
カラフルな服を纏い、誰も彼も幸せそうだった。
幸せそうに笑う他人の笑顔が、憎かった。

26 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)00時10分42秒


「羨ましいんでしょ?」
「そんなことない」
「さびしいの?」
「独りで十分だ」


焦ったようにキョロキョロと辺りを見回していたあたしの視野に、
市井の姿が飛び込んできた。

27 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)00時12分16秒


市井は、デパートの入り口に背をもたれ、何度も髪をかきあげていた。
ヘソが見える程短いTシャツに、デニムのパンツが良く似合っていた。
首には、銀のネックレスが光っていた。つまらなさそうな表情を除けば、
彼氏を待つ少女のようでもあった。

「い…市井ちゃん」

あたしは市井の元へと、走り出していた。

「どうした?」
「あっ…ううん…別に」

市井の姿に、ほっとしている自分に戸惑い、
…俯いた。
目が所在無さげに、泳いでいるのを感じていた。

「なんだよ〜。息切らしちゃってさ」

市井が、あたしの髪をくしゃくしゃと撫で回した。

「なんでもない…」
「ハハっ、なんか可愛いぞ、オイ」
「うっさいな」

顔が紅潮していく。

「終わったんだろ?」
「うん」
「焼肉でも食いに行くか?」
「…うん」

「なんだよ。今日はやけに素直だな」

市井があたしの顔を覗き込み、楽しそうに笑った。

28 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)00時13分23秒



「まだ生きていくんだ」



「…うん」


「何のため?」

「わかんない…ケド…」


あたしは振り返り、
雑踏の中に何かを探した。


「後藤」
「うん」


市井が呼んでいる。

29 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時20分23秒


「後藤、やっぱりあたしが行くよ」
「なんで?」


何時になく、市井がおどおどしている。
今日すでに3回目の台詞は、ついにあたしの目を見ることさえなくなっていた。


「行ってくる」
「だ…大丈夫?」
あたしは歩きかけた足を止め、振り返った。
「なに?…何がそんなに心配なん?」
「ううん、後藤が大丈夫ならいいんだ…けど」



市井の言葉の半分も聞かないうちに、あたしは再び歩き出していた。

「大丈夫じゃないのは、あんただよ」

たんぽぽが咲き乱れる土手を下りながら、ぼそりと呟いた。


30 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時21分57秒


川原には、野球グランドが幾つも連なっていた。
多くの人々が、そこでのんびりと野球なんかを楽しんでいた。
バッターが、自分の撃ちやすい球を要求し、
ピッチャーが、それに応じて、ゆるい球を投げる。
それを、また見事なまでにきれいに空振りをして、ひっくり返る。
今日みたいな、暑くもなく寒くもない日には、そんな間の抜けたほど
のんびりした野球が、お似合いだった。

川の流れが、ゆったりとした時間を作り出し、そこで過すものたちの
営みを見つめていた。

31 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時22分52秒


あたしは一度振り返り、土手の上にいる市井の姿を見つめた。
市井は、そこで動かないまま、ずっとあたしを見ていたらしい。
あたしと目が会うと、慌てて目線を足元に外し、
その後、ゆっくりと顔を上げ、あたしに照れ笑いを見せた。


市井は、何かをあたしに隠している。
最近の彼女の行動が、それを表していた。

ばか笑いしていたと思うと、突然 例えようもないほど絶望的な顔をし、
手入れをしていた銃を、突然ゴミ箱に投げ捨て、あたしをも動揺させた。

その行動は、ちょうど、この仕事の依頼を受けた時期と一致していた。

あたしは、それをソファーの上で、ジッと見ているだけだった。
それは、彼女の問題であり、あたしには関係の無いことだ。


32 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時24分30秒


橋の袂まで来ると、ブルーシートで作られた小さな小屋が数個目に入ってきた。
小屋の周りには、燃やされて黒くなったゴミの小山が、幾つも点在していた。


あたしは、変形したコンビニ弁当が、燃えずに残っている燃えカスの山を
幾つも通り過ぎ、一番端の一番小さな小屋の前に立った。
入り口の上方に張られているロープには、下着が物寂しげに揺れている。
もう何日も、そのまま干されているのだろう、色あせ、埃をかぶっていた。

玄関の板を引っ張ると、それは簡単に開き、二畳ぐらいの部屋の全貌が目に入ってきた。
小屋の中は、以外にも整然としており、幾つもの電化製品が並んでいた。

そして、小屋の真ん中に、主が座ったまま眠っていた。
日焼けした顔は極端に頬がこけ、油抜きをしたのではないかというほど干からびていた。
無精ひげにも力はなく、哀れなほど弱々しく顎に張り付いていた。

33 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時25分39秒


「だれ…?」


その声は、聞き取るのが困難なほどしゃがれていた。


「死神」


あたしの答えに、男はうれしそうに笑った。
もう、笑う力さえ残っていないのだろうか、歯の抜けた口を大きく開け、
声を立てずに笑う姿は、恐怖さえ感じられた。

「可愛い死神も、いたもんだな」

男の白く濁った瞳が、あたしを捕らえた。
でも、そこにあたしの姿は映っていないのだろう、
焦点は、あたしの遥か後方を見つめていた。

34 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時27分02秒

「やつに頼まれたのか?」
「…さあ」
「どうでもいいか。ほっといても、もう長くは無い」

男は苦しそうに咳き込み、身を捩った。

「あんたが死神なら、ちょうど良い。
 早いとこ殺ってくれ…」

そう言うと、男はまた激しく咳き込んだ。

何のために、この男を殺さなくてはいけないのだろうか?
殺しを頼むには、それなりのお金が必要だ。
そんな大金を払ってまで、この浮浪者を殺そうとする理由が、
想い浮かばなかった。
まして、この男はもう死を迎えようとしている。

35 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時28分22秒

昔の因恨?

でも、それだけのお金を払えば、この男が現在どういった状況に
置かれているのかぐらい、簡単に知ることはできるだろう。

それとも…、
それでも、病気なんかで、死なせはしないとでも、
思っているのだろうか?


人が人を憎む思いとは、計り知れないほど重い。
人の思いの中で、一番重く、持続するのが、恨みなのかもしれない。
それに比べると、“愛”は、なんて脆くて短命なのだろうか。

心臓が、バクバクと大きく脈打っている。
あたしは、男の姿すら直視することすら出来なかった。

36 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時29分31秒

「なあ、あんた名前はなんてんだ?」
「・・・」
「言えるわけ無いか」

小さな小屋には、男の消えそうになるほうど小さい ぜぇぜぇ という息つかいと、
取り出した銃に、消音器を取り付ける無機質な音だけが響いていた。

「ああ…ようやく終わる…」

男は目を閉じると、穏やかな笑みを浮かべ、そのときを待っていた。

「人はいつか死ぬ。今日、あんたみたいな可愛い娘に殺されるなんて…
 ぐふっ・・・おれの…俺の人生も、捨てたもんじゃないな。
 ぶっ…ぶほっ!
 あぁ…早くしてくれ、死んじまうじゃねえか」


37 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)01時31分04秒


土手をあがると、市井が待っていた。

「ひでぇ顔してるな」

市井は、あたしの髪を右手で梳くと、その手は、あたしの頬を包み込んだ。

「ごめん」
市井の笑顔が、涙色に染まっていく。

「なにが?」

突然、あたしは抱きしめられた。

「な…なんだよ」
「うっさい、大人しく抱かれてろ!」

市井の顔が、あたしの横で震えていた。


「泣いてるん?市井…ちゃん」
「なわけないだろ」


市井の腕に力が入り、あたしを強く包み込んだ。
雲雀が囀り、川原で走り回る子供らの甲高い声が、やけに響いていた。

38 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月28日(日)00時18分53秒

39 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月28日(日)00時19分36秒

市井の部屋は、いつも綺麗に片付いていた。
あたしは、片付けるのが苦手だ…。

だから、自分の部屋には、極力市井を入れなかった。
でも、居候の身であるあたしは、時々市井の抜き打ちのチェックを受け、
その度に部屋の掃除をさせられていた。

当然、リビングや風呂場を散らかせば、すぐに注意を受けた。

「うっさいんだよ。」

その度、あたしは市井を睨んだ。
でも、いつも市井は笑顔で受け流していた。
それが、気に入らなかった。
その余裕が癇に障っていた。

40 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月28日(日)00時21分20秒

今も、これ見よがしに、市井はリビングの掃除をしている。
あたしは、そんな市井を無視して、ソファーに寝転がりTVを見ていた。

「後藤、これあんたの靴下?」

市井の手には、丸まったあたしの靴下があった。

「うん」
「“うん”じゃないだろ。何で脱いだら脱ぎっぱなしなんだよ、後藤は」
「う〜ん」
「“う〜ん”じゃない。片付けろ!」

丸まった靴下が、あたしの口元に飛んできた。

「世話好きだよね」

口元を拭ってソファーから立ち上がろうとすると、
市井があたしの前に仁王立ちした。

「あんたが、ちゃんとしないからだろ」
「あんた母親かよ」

41 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月28日(日)00時22分26秒
ソファーから立ち上がり、靴下を洗濯機へ入れに行く。

「ついでに、洗濯機まわしといて」

市井の声が、後からした。
あたしは、ムッとして市井を振り返ったが、
市井は、掃除機を片手に自分の部屋に消えていくところだった。

靴下を放り込み、洗濯機をまわし始めると、
モーターの音が、響き始めた。

人を殺し、生きている事に投げやりなあたしの靴下が、
洗濯機の中で廻っている。

どんなに粋がっても、どんなに悲しくても、
生きている限り、あたしの靴下は何度も洗濯されていく。

自分が生きているんだと言うことを、廻っている靴下が教えてくれた。

42 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月28日(日)00時23分28秒


その日の夜、市井は一人で出かけていった。
一人で出かけることは珍しくは無かったが、この日、市井は銃を持って出かけていた。
当然、あたしには何も言っていかなかったが、一人で仕事とは考えられない。
どんな仕事も、二人以上でおこなうのがこの仕事の鉄則だった。
まして、中澤との打ち合わせなら、銃は必要無かった。


―― 関係ない。


あたしには、関係ないことだ。
市井が、どこで何をしようと、あたしには関係ないことだ。
晩飯が、ジャンクフードに変わるだけのこと…。

それでもあたしは、リビングのソファの上から動くことが出来なかった。
あたしは何時ものように、ソファの上で丸くなり、
見ているわけでもないテレビを見つめていた。

43 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月28日(日)00時24分44秒

そのテレビが放送の終わりを告げる頃、漸く市井は戻ってきた。
いつも二人きりのときは、無理してでも笑おうとしている市井が、
闇が顔に張り付いているかのように暗く、固い表情だった。

「ご、後藤…起きてたんだ…」
「…うん」

あたしに気づいた市井が、焦ったような口調で話し掛けてきた。

「待っててくれたの?」
「・・・」

テレビの画面がカラーバーへと変わり、甲高い音を発し始めた。
あたしは慌ててリモコンを取り、テレビを消した。

静まり返った部屋の中に、微かに街の音が入り込んでいた。

「もう、寝な」
「う…うん」

ソファを降りると、冷たくなったフローリングが、
あたしの足をつま先立ちにさせる。

44 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月28日(日)00時25分57秒

どうして、あたしは待っていたんだろう?
何をしたかったんだろう?

「後藤…」
「えっ?」

振り返ると、市井は悲しい表情のなかで、
ぎこちなく笑っていた。

「…おやすみ」

「うん」

あたしは、そのぎこちない笑顔を待っていたのかもしれない。
そして、なにより、あたしのこの行為の意味を分かってくれたことが、
うれしかった。

「関係ないんじゃなかったの?」

あたしは、部屋の電気を消しながら、
ふたりも良いと思った。


45 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月14日(火)23時32分34秒
つづけ
46 名前:名無し 投稿日:2002年05月15日(水)15時18分07秒
おもろい。
頑張れ。
47 名前:いきまっしょい! 投稿日:2002年05月18日(土)13時06分03秒

おもしろいです。
寂しい後藤の心が少しずつ癒されていってますね。
48 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)23時24分32秒

山の夜は、早い。
すでに、辺りは暗闇に包まれていた。

雨が降っている。

あたしは、そのなかで一人濡れそぼちながら、その時を待っていた。
雨粒が、頭上の木葉の上に一度集められ、大粒な水滴へと変わり、
あたしの背中を叩いている。
初夏とはいえ、雨が徐々に体温を奪い、ときどき体を震わせていた。

49 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)23時25分34秒


予定の時刻は、すでに過ぎている。


予定に無いことが発生した場合、中止されることが多い中、
今回は、異例と言えよう。


「後藤、聞こえる?」
「うん」
「あと20分で到着するって」

レシーバーから聞こえる市井の声は、軽い溜息と共に、
うんざりしている市井の表情まで、送ってきた。


市井は、中澤から仕事を受けている。
でも、中澤がボスと言うわけではなかった。
中澤もまた、組織の一員に過ぎない。

今回の仕事もそうだ。
あたしは、市井の命令に従って、引鉄を引くだけ。
市井は、他の誰かと連絡をとりながら、現場での状況を判断し、
あたしに命令を下すだけ。

仕事は完全に分担化され、お互いの顔すら知らないことも少なくない。


50 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)23時26分33秒


「ヒマだな。なんか話でもしない?」
「・・・」
「返事なしか…。まぁいっか」

市井が現場で、無駄口を叩くのは、珍しい。
必要最低限の動きと、選別された必要最低限の言葉が、
仕事を成功させる秘訣だ。

「ねえ、あたしら一緒に暮らすようになって、もう二ヶ月過ぎてんだろ?
 なのに、なんか、会話らしい会話したこと無いよね」

あたしは目を閉じ、返事をすることもなく、市井の言葉を聞いていた。


「なんかさぁ、いつもあたしが一方的に話し掛けてさ、
 あんたが、“うん”とか“あん”とか言ってるだけジャン。
 なんか、あんたからこう…なんていうか、話し掛けてくれない…

 うん、はっきり言おう。後藤に話し掛けてほしいんだ。
 
 …ねえ、聞いてる?」


夜の雨は、孤独が好きだ。
人里離れたこの場所で雨に打たれていると、漆黒の闇は、その雨と共に心へと染込み、
寂しさを増加させていく。

だから…
だから、市井はそんなことを言い出したのだと思った。


51 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)23時27分33秒


「何を話せば…」


話をするつもりはなかったのに、いつのまにか、言葉が口から零れ出していた。
あたしも、なにもないこの山奥の中で、自分の負の気持ちに
押しつぶされそうになっていたのかもしれない。


「な…何でもいいんだよ。
 その…趣味は?とか…好きな食べ物は?とかさ」


市井の焦るような早口が、少し可笑しかった。

52 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)23時28分44秒


「なんで生きてるの?」
「えっ?」
「人を殺してまで、どうして生きようとするの?」


しばらく返事はなかった。
そのまま、何の会話もなくターゲットが来ればいいと思っていた。
そのための口封じの台詞を、あたしはわざと選んでいた。

「こないだの橋の袂での仕事…覚えてる」
「・・・」
「あの浮浪者…
 あたしの養父なんだ…」
「・・・」

あの一件は、市井となんらかの関係があることは、容易に察することが出来た。
それが市井を激しく動揺させていた。あの夜、市井を待っていた夜、市井が握っていた
銃は確実に誰かを打ち抜いてきていた。

53 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)23時29分46秒

「あたし物心ついたときには、あいつのところにいたんだ。
 義理とか、恩義とか、そんなの感じたことはなかったけど…。
 それでも、知った顔が殺されるのは、良い気持ちじゃないよ。

ねえ後藤…聞いてる?


…あいつ、何で殺されなくちゃいけなかったんだろう。
 依頼人と何が有ったんだろう。
 
 あいつほんと良いやつなんだよ。あたしは、そんなのがガラに合わなくって、
 こんな世界へ足を入れてしまったけど…。

 なんで、あいつ死んだんだろう。
 殺されなくちゃいけないのは、あたしじゃなかったのかな。

 ねえ、後藤・・・

 あたし、生きていてもいいのかな・・・」


54 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月19日(日)18時00分08秒


その言葉は、そのままあたしの心臓に突き刺さった。
「あんたも生きててもいいの?」
あたしの中に居る悪魔が、笑いながらその言葉を囁く。
その言葉は市井の言葉と共鳴し、頭の中を走り回っていた。

「わかんないよ、そんなこと!
 生きたきゃ生きればいいじゃんかよ。
 あたしに許可なんかとんなよ」

声を荒げるあたしは、震えていた。


「わかってるじゃん」
「なにが!」
「生きたきゃ生きればいいんだよ。
 許可なんぞ必要ないし、生きてる事に無理やり意味なんか
 探す必要なんかないんだ。
 心臓が動いていれば、生きているんだし、止まれば死ぬ。
 …ただそれだけのこと。

だから、後藤…
死ぬまで生きてりゃいいんだよ」


まだ、雨が降っていた。その雨を時折吹く突風が横殴りの雨へと変え、
あたしに叩きつけている。でも、その雨の中、あたしの震えは修まり、
温もりすら感じていた。


「後藤、来たよ。準備しな」


あたしは銃を取り出し、遠くで灯る明かりに向けて、照準を合わせた。


55 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月19日(日)18時01分58秒
>>45 46 47 さん レス有難うございます。超スローペースですが、最後までお付き合いください。
56 名前:作者 投稿日:2002年06月03日(月)21時37分56秒
放置ではないど…
57 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月09日(日)13時46分02秒
ゆっくりお待ちしてます(w
58 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月11日(火)22時24分32秒
ガンガレー!
59 名前:(●´ー`●) 投稿日:2002年06月16日(日)23時51分29秒
来週かな
60 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月19日(水)01時32分37秒
死亡?
61 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)00時37分09秒

62 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)00時38分29秒

フライパンに落とした卵を注意深く掻き回すと、卵はぐちゃぐちゃになりながらも
一塊へと固まっていった。

料理をするのは久しぶりだった。それも人のために作ることなんか初めてだった。
きっかけは…わかんない。気がついたら、昼飯を作ってやるよと言っていた。

あたしの後では、落ち着きを無くした市井が椅子から腰をあげながら
やたらあたしに話し掛けてくる。あたしは適当に受け流しながら、オムレツと
格闘していた。

63 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)00時39分04秒

山盛りにしたチキンライスの上にオムレツを広げると半熟の卵が流れ出した。
その上にグリーンピースを乗せて、デミグラスソースを上からかける。


「できたよ」


出来上がったオムライスの皿を両手に持ちテーブルにとつくと、
やたら大げさに市井がオムライスの見栄えのよさを誉めている。
あたしは、それを無視して勝手にスプーンでオムライスに突き刺し
食べ始めた。

「おっ…い、いただきます」

慌ててスプーンを獲り口にオムライスを運ぶと、市井はまた大げさに
味を誉め始めた。

64 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)00時39分36秒

でも、その後会話はなくなった。
2人で黙々とオムライスを口に運んでいた。
スプーンがさらに当たる音だけが、やけに響いていた。


「…ありがとう」
「えっ?」

市井の言葉にあたしは途惑っていた。
こんなに面と向かってお礼を言われたことはなかった。
いつも面と向かって投げかけられていた言葉は、罵声と軽蔑の言葉の数々だった。

人は生まれてくる環境を選べない。
お金持ちの家に生まれてくるものと、あたしみたいに捨てられたものでは、
自ずから歩む道の方向が決められてしまう。

どうあがいてみても、投げかけられる言葉の質は変わらなかった。
負のエネルギーをいっぱい受けて育つ子供が幸せにはなれないのだ。

65 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)00時40分13秒


「ありがとう、おいしかったよ」
「う、うん」

顔がほのかに紅潮して行くのがわかる。

「また…作ってくれるかな?」


「・・・うん」

心臓の鼓動は激しくなり、なんだか落ち着かなかった。
仕事をするときの緊張感とは違うその感情にあたしは途惑いながらも、
心地よさを感じていた。


66 名前:書き人 投稿日:2002年06月24日(月)00時42分09秒
今更ながら少しだけうpです。
また、少しずつですけど更新してきたいです。
67 名前:死亡 投稿日:2002年07月03日(水)22時40分34秒
死亡2
68 名前:  投稿日:2002年07月07日(日)21時42分08秒
 
69 名前:  投稿日:2002年07月07日(日)21時43分06秒

あたしらの仕事が増えることは、良いことではない。
でも、仕事は少しずつ着実に増えていた。
そしてその内容も多種に渡ってきている。
初めはその筋の抗争か財政界絡みがほとんどだったようだ。
でも、あたしがこの仕事を始めた頃は、もっと普通の人が
遺恨や金銭トラブルで、人を殺す世の中に成っていた。
そして、それらをあたしらが請け負っているんだ。

だから、あたしが正義とか道徳とか言えるはずなかった。
でも…

70 名前:  投稿日:2002年07月07日(日)21時44分12秒

あたしは高倍率のスコープを覗いたまま固まっていた。
スコープの先に見えるターゲットは…

まだ幼さが抜け切れていない少女だった。砂場で小さな子供の姿を
ニコニコしながら見つめている姿は、微笑ましかった。


「後藤、どうした?」


街中での仕事は時間との勝負だった。
セッティングから撤収まで5分以内というのが鉄則だった。
市井からのGOサインが出てから、既に1分を過ぎている。

71 名前:  投稿日:2002年07月07日(日)21時44分55秒


「ターゲットに間違いないの?」
「…間違いないよ。砂場に居るピンクの服を着てるおさげの女の子だ」


市井の声は飽くまで事務的で、機械音のような響きに感じられた。


「周りに子供がいるよ」
「子供に当てんなよ」
「そうじゃなくって!」

「2分オーバー」

あたしは少しだけ、市井を好きになりかけていた。
一緒に暮らしている中で、あたしは市井によって少しずつ変わっていった。
でも、所詮殺し屋の神経なんて腐ってる。

72 名前:  投稿日:2002年07月07日(日)21時45分47秒

「後藤、お前は何も考えないで引鉄を引いてりゃいいんだよ」

イヤーフォンから流れてくる市井の言葉に、あたしの血液が反応し、
その流速を速めた。あたしはターゲットに向けられた銃口を外し、
市井の姿を探した。


市井はこちらを見ていた。
まるで、あたしが市井に銃口を向けることを初めから予測していたかのように
あたしを見ていた。


「後藤、ターゲットはあたしじゃないよ。

 2分30秒オーバーだ。
 後30秒しか残ってないぞ」


市井の目は、あたしに何かを問いかけているかのようだった。
なにを…

73 名前:  投稿日:2002年07月07日(日)21時46分33秒

あたしは再びターゲットに銃口を向けた。
ターゲットが子供に笑いかけていた。口元から零れる八重歯が
とてもキュートだ。


「後藤、あんたは引鉄を引きゃぁいいんだよ。
 なんでとか、引鉄を引いた後のこととかをあんたが考える必要なんかないんだ。
 あんたは命令通りに引鉄を引くんだ」

確かにあたしは組織の中の歯車のひとつに過ぎない。
でも、その歯車には血が通っている。
あたしは一度外した視線を、もう一度スコープへと戻した。


「後藤、撃て!」


あたしは照準を正確に合わせて、引鉄を引いた。

74 名前:  投稿日:2002年07月07日(日)21時47分25秒



「馬鹿野郎 外しやがって…」


市井の声は、少し嬉しそうだった。



75 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)22時50分39秒
ほぜむ?
76 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月17日(水)08時04分58秒
続き期待sage
77 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)15時37分37秒
いいかげん ry
78 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時47分41秒
 
79 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時49分01秒


あたしは何時もソファーの上にいた。

施設いたころ、施設の大きな広間の片隅に、一人掛けの赤いソファーが
何故かひとつだけあった。
質素な広間の中で、その鮮やかな赤は輝いており、あたしの心を虜にした。
それは、今思い出しても鮮明に蘇るほど綺麗な赤色をしていた。

当然、その場所は施設のみんなの憧れだった。
でも、それを手に入れるのは、力が必要だった。
あたしがどんなに頑張っても、年上の男の子には敵わなかった。
強いものが勝つ。
至極当たり前の社会の…生きるもの全ての法則を、初めて感じたときだった。

80 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時49分48秒

それでも諦めきれないあたしは、夜中にコッソリベッドを抜け出しては、
そのソファーの上で一人夜を過していた。

一人用にしては少し大きく、当時のあたしから見れば、それはひとつの部屋だった。
施設の中に自分の部屋を持つことなどは考えられなく、プライベートなんか全く無かった
あのころ、ソファーを占領しているときだけが安らぐことが出来た。
あたしはそこで、自分で作った人形やおもちゃを並べて、誰にも気兼ねせずに遊んだ。

でも、それは夜中だけのことだった。
昼間は年上の男の子が、そこを占領していた。

81 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時50分54秒

だから…
だから、あたしは力を手に入れようとしたんだ。

ちからは簡単だった。

あたしは庭に落ちていたバットを手にした。
…ただそれだけだった。
あたしの場所を手に入れるために必要な力を手に入れる唯一の手段だ。

82 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時51分39秒

でも、そのことで、あたしは施設を追われ、親戚の間をたらい回しされた後、

捨てられた。

あたしは捨てられたのだ。
それは初めから分かっていた。
東京へ行こう。
そう言われたとき、あたしは施設のときから持っていた人形を
ひとつだけ握り締めていた。

人込みの中で、その人たちが逃げるように離れていくのを
なんの感情も持たずに、ただ眺めていた。

9歳のことだった。

83 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時52分34秒

それから、新宿を拠点にあたしはひとりで生きてきた。
時には仲間のようなものとつるみ、浮浪者のテントを点々としていた。

でも、何処に暮らしていても、あたしが安らぐ場所は無かった。
あの赤いソファーを超える場所は見つからなかった。

84 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時53分24秒


今、 市井の部屋のソファーの上に居る。


二人用の黒い皮のソファーは、リビングの中央に鎮座していた。
あたしが此処に来てから数ヶ月、このソファーがあたしの場所だった。
もちろん、別に部屋が用意されているのだが、仕事の無い日は、日がな一日
このソファーの上にいた。

あたしにとって信じられる現実は、この上にしかなかった。

85 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時54分21秒

此処から見えるもの。

テレビ。
そこに映し出される虚像の世界。

大きな窓。
この位置からは、街並みは見えない。
見えるのは、青い空と白い雲だけ。

そして、台所。
台所には、スタンディングチェア―が1脚。

そのスタンディングチェア―には、ソファーを追いやられた部屋の主、
市井が居る。


86 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)20時01分15秒

あたしは、ずっとソファーの上にいたんだ。
施設に押し込められる前から、
新宿の街をうろついていたときも、
あたしはあの赤いソファーから、降りることは無かった。

ずっと
ずっとソファーの上で、外の世界を傍観し続けて来た。
あたしにとって、ソファーの外の世界はどうでも良いものだった。


「後藤、どうした?」


市井があたしを見つめている。


「買い物に付き合え、後藤」


相変わらず、無愛想で、高飛車な言い方だ。
あたしは市井の顔を見つめた。


「うん」


安らぐ場所か…

あたしは静かにソファーを降り、市井の元へと歩み寄った。


87 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時33分30秒
 
88 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時34分46秒


突然、夜中に目を覚ました。

暗い部屋の中で、天上が渦を巻いている。

まただ…

分かってるけど、もうあたしには止めることが出来ない。

「死ね」

幻聴だ。

「地獄に落ちろ」

幻聴だ。

「まだ生きてるのかよ」

うるさい。

全身の筋肉が、限りなく収縮をし始めている。
息をするのさえ苦痛だ。


89 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時35分42秒


止めてくれ!

「なんで?」
「まだ、生きる事に拘ってるのか?」

拘ってなんか…

「こっちを見ろ。俺たちの顔を見ろ」


いやだ。

…苦しい…

「苦しいだと?」

…い…市井ちゃん…


90 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時36分25秒


殺し屋といえば、ストイックで孤高な大人の男というイメージがあるが、
意外と女性の方が多い。女性の方が環境に順応しやすからだ。


そのむかし何処かの大学の教授が、サルの頭を固定したまま口元まで
水につけるという実験をしたらしい。
その結果、オスザルは必死にその状況から逃れようと暴れ、
10分もしないうちに胃に穴が開き、30分も続けると死亡するものさえいた。
その一方、メスザルはというと、最初の5分ぐらいはオスザルと同じように暴れているが、
その環境から逃れられないと悟ると、その環境に順応しようとし、ジッといつまでも
水の中に浸かっているんだそうだ。

その大学教授の話によれば、メスは子供を生み育てるという使命が遺伝子の中に
組み込まれており、どんな環境下においても素早く順応し、生き延びていくという
プログラムが書かれているんだそうだ。

人間とサルを一概に一緒には出来ないのだろうが、人間の社会の中でも昔からよく
言われる話だ。

91 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時36分55秒

女の方が生命力が強い。
だから、殺し屋という職業で残っていける率が高いのかもしれない。

男は鍛錬を重ねてそれを手に入れる。
女はそれを持って生まれてくるのだ。


でも、そういう意味では、あたしは男に近いのかもしれない。

人を殺すことは、少なからず自分自身を削っていく。
そりゃあ、初めの一人を殺したときと数十人を殺した今では
削られる量は異なっている。まあ、中には感覚が麻痺してしまうやつも
居るのだが、大半の場合、削り取られてなくなってしまった自分自身の
黒い空間に押しつぶされそうになる。

92 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時38分31秒

その黒い空間が、今あたしを包んでいる。
10本の指は大きく開かれ、反り返っている。

息を吸おうと懸命に首を伸ばすが、ほとんど空気が肺に入っていかない。

い…市井ちゃん……




「後藤!どうした?」


突然…

突然あたしの部屋の扉が開かれ、市井が飛び込んできた。
その瞬間、あたしは黒い呪縛から解放されていた。

「市井ちゃん!」

あたしはそう叫んだ。

93 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時39分58秒

…いや、叫んでない。
あたしが市井なんかの名前を叫ぶはずがない。
市井なんかに助けを求めたりなんか…


「後藤、大丈夫…大丈夫だ…」


市井があたしを抱きしめる。

あたしはただ、されるが間々に抱きしめられていた。


94 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時41分07秒


泣いていた。
声を上げて泣いていた。
市井にしがみついて泣いていた。


でも、悲しくは無かった。
寂しくも無かった。

こうしていたかった。
ずっとこうしていたかった。
市井にしがみついて、泣いていたかった。

いままで流さなかった涙の分だけ、
今、泣いていたかった。


夜が明ける。


暑い夏の朝のことだった。


95 名前:吉澤ひと休み 投稿日:2002年08月10日(土)17時01分19秒
面白い!痛いに好き(w 
作者さんがんがれー!
期待してまた〜り待ってます。
96 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)00時20分11秒
97 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)00時21分03秒

あの夏の朝から1年が過ぎた。

あの日以来あの声を聞くことは無かった。
市井と話をすることも…少しは増えた。

でも、まだ人を殺していた。
なぜ殺すのか、まだ答えは出ていなかった。
なぜ人は人を憎むのか、まだ答えが出ていなかった。
なぜあたしは生きているのか、まだ答えが出ていなかった。

でも、なぜ人は人と一緒に居たいのか、少しだけ理解できた。

それが、この一年の全てだった。

98 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)00時22分02秒

全てがゆっくりと変わっていた。
時はあたしを変え、
市井との関係を変え、

あたしの見ていたモノトーンの街に、カラフルな色を加えていった。


「い…市井…ちゃん」
「ん?」

最近“市井ちゃん”と呼ぶのが恥ずかしくなった。

「あり……」


「なんだよ?」


「コーヒー入れるよ」


ソファーから立ち上がり、コーヒーメーカーの場所まで小走りをする。

胸が高鳴っていた。

コーヒー豆の缶を両手で持ちながら、市井を振り返った。
あたしが座っていたソファーに凭れながら、テレビを見ている市井の横顔を見つめた。

あたしは何を言おうとしていたんだろう…。
胸の鼓動は鳴り止まなかった。


99 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時38分11秒

  ∇   ∇   ∇   ∇   ∇   ∇

100 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時38分56秒

人は安定を好む。

それがどんなに不幸な状況であれ、それが安定しているなら、
人は変わることを恐れ、今の状況が少しでも長く続くようにと考える。

でも、時は確実に流れ、その場に停まることを決してゆるさない。

101 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時39分41秒

それは、あたしと市井との関係も例外ではなかった。

変化をし続けてきたこの関係は、漸く安定期を迎えた。
それは、あたしが此処に転がり込んでから
優に1年以上の時間を費やした末の関係だった。

市井が、床に座っている。
あたしの座っているソファーに肩肘を付いている。

あたしは市井のソファーを陣取り、
窓の外の雲を眺めている。

そこには何も無かった。
何も語らず
何も聞かず
ただ2人が此処に居るだけだった。


 ―― でも、それで十分だった。


永遠にこの時間が続くと、信じていた。
終わりなどあるはず無いと、信じていた。


根拠の無い自信は、リスクを覆い隠し、
あたしを弱くしていく。

102 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時41分08秒



最悪なことは、突然やってくる。
前触れも無く背後から忍び寄り、一気に襲い掛かってくる。

考えられる最悪な状態を遥かに凌ぐ形となって。




103 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時42分29秒


その日の新宿の駅も、人で溢れていた。

電車が来る度に、大量の人を吐き出し、
大量の人を飲み込み電車は去っていく。

誰も視線を合わせようとしない人々は、何も見ていなかった。
誰も隣に立つ人に感心を持っていなかった。

それなのに…


104 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時43分32秒

市井が横に居る。

「後藤、お前最近良い顔になったな」
「前から良い顔だよ」
「あはっ、生言っちゃって」

市井があたしの髪を掻き揚げる。
彼女の指が、あたしの耳元をなぞっていく。
細い指が触れた瞬間、あたしの体は解けてしまうほどの
心地よさを感じていた。

「ホント、良い味した大人の顔になったよ」
「市井ちゃん…意味わかんない」
「あはっ、あははは、いい女になったてことだよ」

少し膨れながら市井を睨む。
市井の笑顔がそこにあった。

市井があたしを見て、幸せそうに笑っていた。


―― その瞳が永遠にあたしを見つめていると思っていた。


ホームに電子音が流れ、電車の到着を知らせていた。
笑っている市井の視線があたしから外れ、電車の方へと向かった。



――― それが、最後だった。


105 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時44分32秒


この部屋は、あたし一人には広すぎる。
真の主を失ったこの部屋は色あせ、壊れていった。


106 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時46分33秒


「後藤…部屋かたせよ」
市井ちゃんが片付けろよ。

ゴミに溢れた部屋は、ソファーの上以外足場が無くなっていた。


「後藤なら、一人でも大丈夫だよ」
うるさい。


「後藤は、もう一人前だよ」
殺し屋の一人前なんて…


「人としてだよ」
ちがう。
ちがう。
一人前なんかじゃない。
人は誰も一人前なんかにならないんじゃなかったの?
だから、人は誰かと一緒に生きようとするんじゃなかったの?

人は一人じゃ生きていけないって事を教えてくれたのは、
市井ちゃん…
市井ちゃんなんだよ。

107 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時48分02秒

「…ごめん」
ごめんじゃないよ!

…大体馬鹿だよ。大馬鹿
なんで、助けようとしたんだよ
散々人を殺したくせに。



「理由なんか無いさ。
 ――― ただ助けたかったから助けただけさ」
他人なのに?


「そうだな」
もし、線路に落ちたのが後藤だったら?

「おんなじだよ」

…それ、なんか寂しいな

108 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時50分13秒



――― なんで…



「それが人間なんだよ」

 

――― ばか



「ごめん」
ばか!


「怒んなよ」
馬鹿野郎!


「後藤…」
市井の馬鹿野郎!!!!


「後藤…」
市井ちゃん


「後藤」
市井ちゃん


「後藤」
・・・・



――― ありがとう

ありがとう
・・・市井ちゃん



「ありがとう。市井ちゃん!!」



あたしは、言えなかった言葉を
聞いて欲しかった人と暮らしたこの部屋で、叫んでいた。



109 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時51分03秒


  ∇   ∇   ∇   ∇   ∇   ∇


110 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時52分01秒


双眼鏡の向こうに、公園が見える。
そこでは、平穏で退屈な日常が営まれている。
ベンチには老夫婦が座り、何も語ることなく時を共有している。
その前を、子供が犬を連れて走っていた。


「1分前」


あたしの横で、加護が照準を絞り込む。
加護の小さな体から殺気が溢れ出してきた。

「ターゲット確認。黒の背広中央。右2人SP、左1」
「あの禿げおやじだな」

「…撃て」

加護の指が僅かに動くと、数秒遅れてターゲットの額に穴が開いた。

「撤収」

「なんか、全然手応えないな」

加護は分解し終えた銃を鞄に入れると、おもろないなぁ〜という顔を
あたしに向けてきた。

加護はまだ分かっていない。むかしのあたしのようだ。

111 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時52分39秒


キリンは泣かない。
子供をライオンに獲られても、親キリンはジッとそれを眺めているだけだ。


むかし読んだマンガに、そう書いてあった。


でも、キリンはそれでも生きていく。
自分の運命を受け入れることのできることは、強いことなのかもしれない。

112 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時53分14秒


都会の喧騒があたしらを包みこみ、存在を薄めていった。

「今日も暑くなるな」
「もう、すでに熱くて死にそうや〜」

屈託のない笑顔は、何も知らない赤ん坊のようだった。



「パフェでも食べに行こっか?」
「うん」



風が吹き、加護の髪を乱す。
あたしは何も言わず加護の髪を整え、静かに笑った。

「さあ、いくよ」


見上げると、市井ちゃんと出会った日と同じように
雲ひとつ無い空が広がっていた。

穏やかな

――― 穏やかな日だった。

113 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時54分16秒


   ――― 完 ―――


114 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)23時58分02秒
お粗末さまでした。
超遅更新にお付き合いし、読んでいただいた方に感謝致します。

レス頂いた方、有難うございました。
励みになりました。

それでは・・・
115 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月29日(木)23時40分46秒
泣きました。
素晴らしい作品、ありがとうございました。
116 名前:オガマー 投稿日:2002年09月01日(日)05時07分54秒
はじめて読みました。
重い話なんだけど、最後はなんだか優しい気持ちになれました。
素敵なお話をどうもありがとう。

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