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Tonight  Spend  Together

1 名前:瑞希 投稿日:2002年04月04日(木)23時32分45秒
以前、同じ板で、同タイトルで書いてました。
前スレは倉庫にありますが、続き、というワケでもないです。
(ある程度の設定は前スレのままですが)

「みちごま」メインで、書きたいと思います。

スレの乱立を指摘されるのも覚悟のうえです。

更新も、実は見切り発進に近いのでかなり不定期ですが
それでも読んでいただければ、小心者なので、大変光栄に思いますデス。

ではでは、よろしくお願いいたしマス。
2 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時34分25秒
きっかけは、ちょっとした気持ちの擦れ違いだったかも知れない。

「明後日ぇ?」

部屋中に、素っ頓狂な平家の声が響き渡る。
ソファに腰掛けていたカラダも、
言葉の勢いと一緒に少し前屈みになった。

「…はい」
平家が座るソファの前でちんまりと正座しながら、後藤は上目遣いで頷いた。

「やっぱ、ダメ?」
「…ダメっていうか、そんなん、いくらなんでも急すぎるわ」
「でも、その日はオフだって…」
「確かにオフやけど、用事あるもん。…やからダメ」

食い下がる後藤ににべもなく言い放ち、
平家はゆっくりソファから立ち上がった。
3 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時35分23秒
「じゃあ、その用事が終わってからでもいいですから」

「何言うてんの。そんなんいつ済むか判らんよ。
…それに、ごっちんかて久々のオフなんやろ?
別にあたしまで連れて行かんでも、普通に親孝行したら?」

「あたしは平家さんといたいんだもん!」

まっすぐな言葉に、嬉しさでドキリと胸が高鳴る。
それでも平家は平常心を装って首を横に振った。
4 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時37分11秒
「ダメ」
「…っ、何で!」

「…あのなあ、ごっちん? こんなん言いたないけど、
あたしにかて友達おるんよ? せっかくのオフやねんから、
滅多に会われへん友達と会いたいって思たらアカンの?」

後藤の肩が揺れ、反論出来ずに唇を噛む。

「……ずっと前から約束しててん。久々に会うし、
出来たら時間とかも気にせんと会いたい。やから、ごっちんの家には行かれへん」

俯いてしまった後藤に、正論を述べたはずなのに、
何故か平家のほうが罪悪感に捕らわれる。
5 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時37分58秒
後藤の実家には何度か訪ねたことがある。

後藤に半ば強引に誘われるままとはいえ、
突然行ったにもかかわらず、イヤな顔ひとつせず歓迎してくれた後藤の家族に、
申し訳ない気持ちにさせられることも多くあったけれど、
信頼されているのだ、という雰囲気がもたらす、
居心地の好さは平家にも否めなかった。

だから決して、行きたくない、という気持ちは微塵もなかったのだ。
6 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時39分15秒
「…また今度な」

ぽすぽす、と、あやすように頭を撫でてやると、
それを嫌うように振り払われた。

「ごっちん?」
「……子供扱い、しないでください」

告げると同時にキッと強く見上げられ、
その視線の強さにたじろいで平家は顎を引いた。

「…子供やんか」

そんな言葉は後藤を更に傷つけるだけだと判っていても、
年上というプライドが声にさせる。

強かった視線が思った通り傷ついたように揺れて、
平家の鼓動も罪悪感と一緒に跳ねた。
7 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時40分11秒
「もう子供じゃないよ…っ」
平家を追うように立ち上がって、後藤は平家の手首を捕まえた。

「ごっちん…?」
強く引かれ、バランスを崩しかけたカラダが後藤の腕に抱きとめられる。

しかしホッとしたのも束の間で、平家はそのまま後藤の腕に抱き上げられた。

「え? あ…、ちょっ、こら、待ち」

後藤の行く手が寝室だったことで次の事態が読めた平家は、
自らのカラダを揺らすことで、
自分を抱き上げている後藤の腕から逃げようと試みた。

けれど、
それがあまり効果的な反抗にならないことも判りきっていたので、
ベッドに降ろされるまで大きな反抗は見せなかった。
8 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時40分59秒
いつもなら、まるで労わるような優しさでゆっくり横たえられるのに、
そのときの後藤の行動はひどく乱暴だった。

放り投げられるようにベッドに降ろされ、
態勢を整える前に覆い被さってきた後藤に、
さすがに平家もいつもとは違う雰囲気を読み取り、少なからずカラダを震わせた。

「ちょっと、待……っ」

平家の声は後藤の唇によって遮られた。

荒々しさしか感じられない一方的なキスが不快で、
平家は拒絶を示すように強く後藤の肩を押す。

しかし、押さえつけるように自分に覆い被さる後藤を押し退けることは出来なかった。
9 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時42分05秒
「んっ、んん!」

頭を振ってキスから逃れたとき、後藤の歯が平家の顎にぶつかった。

硬質な痛さが走って思わずお互いに口元を押さえて目を閉じたけれど、
先に痛みの薄れた後藤が、平家の足に手をのばしてきた。

穿いていたミニのタイトスカートの裾から、
後藤の意外と骨ばった指がするりと中へ滑り込んでくる。

「や…っ、イヤや!」

言葉で拒絶を示しても、後藤の指の感触を覚えているカラダは正直だった。

「…子供じゃないですよ」
耳元で、低く囁かれる。

「…子供がこんなこと、しますか?」
10 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時43分57秒
「あ…っ」

スカートの中で蠢く指先に、平家のカラダも顕著に反応を返す。

「平家さん…」

囁く声と一緒に吐息も耳の奥に吹き込まれ、カラダが大きく跳ねた。

耳朶を舐められ、甘噛みされる。

生暖かな舌の感触がますます平家に震えを呼び起こさせ、
その反応が後藤の欲望を煽る。

平家の足を撫でながら唇を奪おうとして反抗に遭う。

両手を顔の前で交差させ、カタく閉じられた平家の目尻に涙が見えた。
いつもならそこで怯む後藤も、今日は怯まなかった。
11 名前:stay with me 投稿日:2002年04月04日(木)23時45分54秒
足の付け根にまでのびてきた後藤の指。

決して嫌いではないその指の感触が、今は平家を自己嫌悪に陥らせる。

拒んでも拒みきれない、思考とは裏腹な、正直すぎる自分のカラダ。

乱暴に衣服を剥ぎ取られたことで生まれた羞恥心さえも、
肌を滑る唇や指に、意識が薄れ、溺れ始める自分に気付く。

思考に砂のカケラほどしかない理性という名の感情を残し、
平家のカラダは、打ち寄せる本能と快感に攫われていった……。
12 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)02時04分32秒
うふふふ。やっぱりみちごまよね。がんがれ!
13 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)21時11分24秒
このタイトル見つけて、すっごいうれしいです。
また瑞樹さんのみちごまが読めるなんて!
以前のみちごま・やぐちゅースレの最後で言ってたこと、ほんとだったんですね。

のっけから重そうな展開だけど、がんばってくらさい。
14 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)21時14分05秒
あ゛〜、>>13のカキコで、HN間違えました。
申し訳ないです。
瑞希さんっ。
15 名前:LINA 投稿日:2002年04月07日(日)04時56分08秒
瑞希さんハケーン!
最近みちごまにハマっている自分がいます…(w
がんがってください♪
16 名前:瑞希 投稿日:2002年04月12日(金)07時53分01秒
>12さん
>やっぱりみちごま…
そうなのれす、瑞希の原点は、ココなのれす!
がんがりまっす!


>13、14さん
あい、このタイトル、自分でも気に入ってますです。
のっけからかなり重いし、痛いですが、
前スレみたいに、いずれは甘く……なるかなあ <何
あ、あと、HNの間違いはお気になさらずに(^−^)
読んでいただけてることがウレシイんですよ〜(照


>15:LINAさん
うわっち、ハケーンされてしまった(w
>みちごまにハマっている……
……( ̄∀ ̄)vニヤリ
何気に「みちごま」普及に貢献してるみたいですな。
がんがりますよ〜〜♪



では、続きです。
17 名前:stay with me 投稿日:2002年04月12日(金)07時54分10秒


ぎし、と、ベッドのスプリングの軋む音を背後に聞く。

部屋中に漂う、刺さるような空気が、
お互いの肌に、思考に、ただ痛かった。

「平家さん…」

先ほどまでの乱暴さは声には感じられなかった。

後藤自身が、自分の起こした行動を悔やんでいると、
その声だけで読み取れる。

「……レイプされた気分や」

ぽつりと呟くように発した平家の声で、
ざわっ、と、空気が目に見えずとも震えたのが判る。
18 名前:stay with me 投稿日:2002年04月12日(金)07時55分01秒
横たえていたカラダを起こし、
後藤に背を向けたままで剥ぎ取られた衣服に手をのばす。

「そ、そんなつもりじゃ……」
「ああ、でも、あたしも感じててんから、レイプとは言わんか」

後藤の言葉を遮るように、
けれど抑揚のない声色が後藤を不安にさせていく。

抱きしめたいと思うのに、
拒絶を示すように自分に向けられる華奢な背中に、
カラダが強張り、動けなくなる。
19 名前:stay with me 投稿日:2002年04月12日(金)07時56分30秒
「………帰って」

そう言われることは後藤も予想していた。

―――けれど。

「もう…、顔、見たない」

もうこの部屋に来るなと言われたことはあった。
けれど、顔を見たくないと言われたのは初めてだった。
20 名前:stay with me 投稿日:2002年04月12日(金)07時57分34秒
「平家さん、それって……」
「聞こえんかったんか?」

振り返りもせず言って平家がベッドを立つ。

「帰れ」

強い命令口調に後藤のカラダが大きく震えた。
それを悟ったように平家が先に部屋を出た。

ドアが閉じられ、
別の場所のドアが開く音にハッとして平家を追いかけると、
ちょうどバスルームのドアが閉じられた。
21 名前:stay with me 投稿日:2002年04月12日(金)07時58分25秒
「平家さんっ」

開けようとドアノブを握って、そこでためらう。

開けて中に入るのは簡単だけれど、平家はきっと、顔を見てくれない。

「…っ、ごめんなさいっ、あの、あたし…っ」
「……帰れ!」

言い放つ声の強さが後藤のカラダをまた強張らせていく。
22 名前:stay with me 投稿日:2002年04月12日(金)07時59分49秒
同時に、これ以上ここにいても、
平家は自分を許すことも、認めてくれないだろうということも判る。

自分が招いた事態だ。

一時の昂ぶる感情だけで行動し、
こんな薄いドア一枚でさえ、遠く感じるようにしてしまったのは。

「……ごめん、なさい」

どんな言葉も今は言い訳にしかならない。

そのとき出せる精一杯の誠意でそれだけ言うと、
後藤は静かに、平家の部屋を出た。
23 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)13時41分06秒
なんか痛いなぁ・・・。みっちゃん冷たい(泣
私だったら号泣して謝ってます
24 名前:瑞希 投稿日:2002年04月15日(月)23時10分22秒
>23さん
>私だったら号泣して……
ワタシも同じことするかも…(^^;)


では、続きです。
25 名前:stay with me 投稿日:2002年04月15日(月)23時11分11秒
玄関のドアの閉じる音を聞いてから、
平家はゆっくり、浴室へと続く扉を開けて中に入った。

シャワーの蛇口を捻り、顔にも飛沫を浴びながら、
まだ全身に残る後藤の指の感触と汗を流す。

しかし、汗は流れ落ちても、
後藤の指や唇の感触は少しも薄れなかった。

崩れるように膝をつき、浴槽の縁に手を置く。

背中に打ち付ける飛沫が頬へと流れ、口元にまで流れ落ちてくる。

味を感じて、その水滴の本来の姿に気付き、平家は自嘲気味に笑った。
26 名前:stay with me 投稿日:2002年04月15日(月)23時12分23秒
悔しかった。

それだけを感じているワケではないのが余計に悔しくて、
情けなかった。

抵抗らしい抵抗など出来ず、されるがままでも、
カラダは後藤から与えられる快楽に溺れることだけを求めていて、
思考もいつしかそれに直結していく。

それが好きという意味なのだと、認めてしまえばラクかも知れない。
27 名前:stay with me 投稿日:2002年04月15日(月)23時13分31秒
後藤を好きなことは平家も認める。
否定はしない。

このまま、後藤の腕の心地好さに甘えて、
見栄や羞恥など、さっさと捨てしまえばラクだろう。

けれど、何もかもされるがままでいるのは、
平家の年上としてのプライドが許さなかった。

なのに、もう、自分の発した言葉に後悔している。
28 名前:stay with me 投稿日:2002年04月15日(月)23時14分20秒
後藤には子供のままでいてほしい。

いつか、という見えない未来に怯えずに済むくらい、
まだまだ自分を見ていてほしい。
そばにいてほしい。

けれど、今のままでいたら、本当に手放さねばならなくなったとき、
自分は笑って後藤を送り出せる自信がない。

だったら、もういっそ、このまま別れてしまおうか。

これ以上傷ついてしまう前に。
これ以上…、後藤の笑顔を、曇らせてしまう前に。
29 名前:stay with me 投稿日:2002年04月15日(月)23時15分53秒
ふと平家の脳裏を過ぎった考えは、立ち昇る湯気のように、
曖昧なものでしかなかったけれど。

新しく零れた味のある滴が、それを、決意に変えた。
30 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月21日(日)01時04分50秒
まさか・・・みちよさん!
31 名前:瑞希 投稿日:2002年04月23日(火)23時42分01秒
>30さん
まさか…、まさか…?
どーするのよ、みっちゃん!? <ヒトゴトみたいに言うなって!


では、続きです。
32 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時43分03秒
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
33 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時43分54秒
「ごっちん?」

控え室の窓のそばで、
頬杖をつきながらぼんやりと外を眺めている後藤に、
心持ち心配そうな声色で呼びかけたのは吉澤だった。

けれど聞こえなかったのか、それとも考え事の真っ最中なのか、
窓の外に視線を向けたまま、後藤は振り返らない。

普段からマイペースで無表情、という雰囲気の彼女が、
今朝は集合場所に現れたときから元気がなく、
今は見るからに落ち込んでいる、という雰囲気を醸し出しながら、
幾度となく深い溜め息を繰り返していた。
34 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時45分01秒
「…おーい、ごっちーん? 聞こえてるー?」

懲りずにもう一度呼ぶと、大きく息を吐き出しながら、
ゆっくりと吉澤のほうへと振り向いた。

「……聞こえてる」

ぽそりと、元気のない低い声で、後藤は答えた。
その様子には、吉澤もさすがに困惑する。

「なになに、もー、めちゃくちゃブルーじゃん。何かあったワケ?」
「……別に」

少しも『別に』という雰囲気ではないくせに、
それでもあえてそれを装おうとする後藤に、吉澤も閉口するしかなくなる。
35 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時46分10秒
平家とのことは、後藤はメンバーの誰にも話していない。

唯一、気付かれていると思われるのが矢口で、
その矢口の想い人で恋人でもある元リーダー中澤は、
平家の以前の恋人でもあるし、
後藤と平家が両思いになるきっかけを作ってくれた、
いわば恩人でもあるから勿論知っているけれど、
他には誰にも話していないし、気付かれてもいないハズだ。

後藤自身は正直話したくてたまらないのだけれど、
平家があまりそのことに対していいように返事をくれないので、
中澤と矢口以外には、
おそらく『仲が良い』ぐらいにしか思われていないだろう。
36 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時47分06秒
「別にって顔してなーい」

諦めずにもう一度、今度はひょいっと前に回りこんで、
吉澤は俯き加減の後藤の顔を下から覗き込んで言った。

けれど後藤は、
吉澤のその視線から逃げるように目線を床に落とし、
くぐもった声で答えた。

「……ごめん、よっすぃー。今はひとりにして」

同い年の後輩の心配は判るけれど、
今の後藤の頭は平家のことでいっぱいだった。
37 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時48分11秒
「ごっちん……」

優しくされたら、泣きそうになる。

傷ついたのは平家なのに、
ひどい仕打ちをしておきながら、思い出すだけで涙が出そうだった。

「ごめん、ごめんね」

後藤の声色と雰囲気から何かを察したように、
吉澤はそっと後藤の頭を撫でてからゆっくり離れた。

そのときの吉澤の優しい手のぬくもりはどこか平家を思わせて、
また目頭が熱くなる。
38 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時49分09秒
平家はもう、ホントに自分とは会ってくれないような気がした。

今まで何度もワガママを言って困らせたことはあったけれど、
昨夜のように腕ずくで平家を抱いたことはなかった。

あのときは、子供扱いされたことがとても不愉快で、
自分でもどうしようもない歳の差と、
自分にはないオトナの余裕を見せつけられたようで、
気付いたときには、腕の中で、平家が唇を噛み締めながら震えていた。

そのあとの平家の口調や声は頭の奥にこびりつき、
痩せた背中は、瞼に灼きついている。

「…へーけ、さん…」

謝っても謝っても、もう、届かない想いのようだった。
39 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時50分09秒
熱くなる目頭を押さえたとき、
鞄の中にしまいこんだままだったケータイが唐突に鳴り響いた。

その着信メロディは平家からのもの。

それに気付いて、後藤は慌てて鞄の中に手を突っ込んだけれど、
焦っているせいか、なかなか手につかない。

メロディがキリのいいところまで奏で終えた頃にようやくそれを掴み、
ボタンを押して耳に当てた。
40 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時51分10秒
「もっ、もしもし、平家さん?」

電話の向こう側では、名乗る前に呼ばれたことに一瞬戸惑ったようだった。

けれど、すうっと深く息を吸い込んだのが、
小さな機械を通していても伝わってきた。

「……今、電話してても、平気か?」

昨夜、あんなひどい仕打ちで傷つけたのに、
こんなふうに気遣ってくれるところがまたオトナの余裕のようで、
後藤には、少し、切なかったけれど。
41 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時52分02秒
「大丈夫っ」

思いがけず声を聞けたことが、何より、嬉しかった。

一応周囲を見回して、誰もいないことにホッと息を吐く。

「……あの、昨夜は…」
「あのな」

神妙な声色で、
けれど、きちんと誠意も込めて謝罪しようとしたとき、
後藤の言葉は平家の力強い声で遮られた。
42 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時52分50秒
「…返して、欲しいんや」

それだけ言って、平家は黙り込んでしまった。

「え? あの…?」

平家の言葉の意味がすぐには読めず、
思考を精一杯巡らせて理解を試みたけれど、
後藤にはまだ、平家の言葉の真意が判らなかった。

「……鍵。うちの部屋の合鍵、ごっちん、持ってるやろ?」

がつん、と鉛が頭を直撃したような衝撃が後藤を襲った。

「返して」

更に力強く、決意をも思わせる響きが、後藤の耳の奥でこだまする。
43 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時53分33秒
この電話は、この通話は、
いつものような、挨拶メールや連絡コールではない。

「…へー、け…、さん? それって……」

少しずつ、少しずつ、
呼吸するたびに息苦しくなり始めた。

「今、アンタら、どこにおるん? スタジオか? 局か?」

平家の声はもうとっくにアタマが、
いや、後藤自身の感覚が覚えきっていたはずなのに、
機械を通しているからか、
それとも別の何かの想いが含まれているからか、
まるで、初めて聞く他人の声のように聞こえた。
44 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時54分54秒
「今から取りに行くから」

見知らぬ他人のような冷たい声が、後藤の耳に残る。

「……どういう、こと?」

いやだ。
いやだ。

「……判らんか?」

判りたくない。
判りたくない。

「……冗談?」

言いながら、乾いた声で笑ってみたけれど……。

「…に、聞こえるか?」

返って来た平家の声は、
後藤が願うような響きを持っていなかった。
45 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時55分41秒
「…どういう意味か、判るよな?」

いっそ、判らないぐらい子供だったらよかった。

けれど、
自分は昨夜、そうではないと言って平家を傷つけたのだ。

カラダや心だけではなく、
恐らく、平家自身のプライドも。
46 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時56分51秒
「……イヤ」
「ごっちん?」

聞き返してきた声が、さっきよりほんの少しだけ、
弱々しく感じられた。

「イヤ! 返さない!」

言って、後藤は通話を切った。

吐き捨てるように言った自分の声を自分自身で反芻しながら、
大きく溜め息をつく。
47 名前:stay with me 投稿日:2002年04月23日(火)23時58分31秒
確かに昨夜はとても、とてもとてもひどいことをしたけれど、
平家の気持ちが、もう、
自分から離れてしまったなんて思いたくなかった。

傷つけたけれど。
今までずっと困らせてばかりいたかも知れないけれど。

それでも、平家が自分のもとから遠ざかるなんて、考えたくなかった。

またかかってくるかも知れないと考えて、
それを別の誰かに気付かれたくなくてバイブモードに切り替えたけれど、
そのあと、後藤のケータイが平家からの着信を知らせることは、なかった。
48 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月29日(月)19時51分16秒
きぁ〜〜〜痛い!痛い!
気になりまくりです!このまま本当に・・・?
49 名前:遊希 投稿日:2002年05月01日(水)17時42分13秒
みちごまらしからぬ痛い雰囲気・・・続きが気になります!
がんがってください。
50 名前:瑞希 投稿日:2002年05月04日(土)23時48分03秒
>48さん
>このまま本当に・・・?
うう、どうする気なのよ、みっちゃん・・・<またヒトゴトなんか・・・


>49:遊希さん
>みちごまらしからぬ痛い雰囲気・・・
「みちごま」って、ほのぼの系ですもんね。
ワタシもそっちのほうが好きなんだけどなあ・・・<嘘くせぇ・・
がんがりまっす。


では、続きです。
51 名前:stay with me 投稿日:2002年05月04日(土)23時49分39秒



「お疲れー」
「また明日ね―」

メンバーの挨拶の声も、後藤には遠くにしか聞こえない。

後藤の様子がいつもと違うことはメンバー全員が気付いていたけれど、
本人がそれを堪えるように唇を噛み締めながら仕事に向かう姿勢を見ては、
誰も、何も、口出しは出来なかった。
52 名前:stay with me 投稿日:2002年05月04日(土)23時51分16秒
「ごっつぁん?」

メンバーがそれぞれ帰宅の途に付いているのに、
まだ楽屋内の椅子に座ったままでいる後藤を、
矢口の心配そうな声が呼んだ。

ぽす、と頭を撫でるように軽く叩く。

「帰んないの?」
「……帰るよぉ」

ふにゃ、と眉をハの字に下げた後藤の無理した笑顔に、
矢口の胸も何だか痛くなる。
53 名前:stay with me 投稿日:2002年05月04日(土)23時53分12秒
「……みっちゃんと、何か、あった?」

びくっ、と震えた肩に、それが的を得た問いかけであったことを悟る。

「……ど、して…、そこで平家さんの名前が出てくるの」

「え? あ、だって昼間、みっちゃんから電話あったんだ。
今日、どこで仕事してんのかって。ごっつぁんも一緒かって」

矢口の答えを聞いた途端、
後藤は何かに追われるように急に椅子から立ち上がった。
54 名前:: stay with me 投稿日:2002年05月04日(土)23時54分40秒
「おっ、教えたの?」
「う、うん。…だって」
「やぐっつぁんのバカっ、何で教えるのっ」

バカ、と言われて、矢口は少しムッとなる。

まだ楽屋内に残って着替えの途中だった安倍と保田の視線も、
矢口と後藤に向けられた。

目線が少し上の後輩を見上げながら、
心配してるのに、と文句を言ってやろうかと思ったけれど、
焦った様子で身支度を整え始める後藤に気をそがれた。
55 名前:stay with me 投稿日:2002年05月04日(土)23時56分06秒
「どしたの、急に」
「帰るの」
「え、みっちゃん、来るんじゃないの?」
「会いたくないの」

会えば、きっと、言われる言葉がある。

電話でははぐらかすことも出来た、
逃げられた、その言葉を。

それだけは聞きたくない。
なにがあっても。
56 名前:stay with me 投稿日:2002年05月04日(土)23時57分34秒
「ごっつぁん?」

後藤の様子が、吐き出された言葉とは違う雰囲気なのが引っ掛かる。

「ごめんね、やぐっつぁん。…バイバイ、なっち、圭ちゃん」

鞄を抱えた後藤がそう言ってドアノブに手を掛ける。

不意に向けられた意識と声に、
保田と安倍は顎を引き気味に頷き返したけれど、
ドアを開けた後藤が弾かれたように部屋の中へ一歩後退したのを見て、
ふたりと、そして矢口の3人は同時に眉をひそめた。

「……平家さん」
57 名前:stay with me 投稿日:2002年05月04日(土)23時58分38秒
ドアを開けた後藤に隠れて見えなかった人物が、
後藤の言葉のあと、姿を見せる。

「あれっ? みっちゃん?」

意外な人物がいる、と言いたげな保田の声に、
平家は苦笑して右手をひょいと挙げた。

「久しぶりー」
「どしたの?」
「あー、うん…、ちょっと、な」

苦笑しながら肩を竦めて、
挙げたぱかりの右手を下げてポケットに突っ込む。

それからゆっくり、
自分のすぐそばに立つ後藤に視線を向けたのだけれど。
58 名前:stay with me 投稿日:2002年05月05日(日)00時01分25秒
「あ…、あたし、急ぐから!」

その平家の意識から逃げるように、
後藤は平家の顔も見ないまま、
彼女の横を擦り抜けて楽屋を出た。

「えっ、ちょっと、後藤?」

保田の非難するような声が背中に聞こえても、
後藤は振り返らなかった。
59 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月05日(日)18時07分34秒
おおおおお(泣)
甘いのが読みたい・・・な。
がんがってくださいね。
60 名前:名無し殺生 投稿日:2002年05月08日(水)21時11分04秒
ダー・・・
ずるい、ずるいよ平家さん。あう〜
61 名前:瑞希 投稿日:2002年05月15日(水)00時27分01秒
>59さん
……甘いの、ですか…?
すんません、当分は無理かと…<何

>60:名無し殺生さん
新しくたててるから、このスレでは、もしかしたら初めましてかしら…?(w


では、続きです。
62 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時28分12秒
「何なの、あいつ…」

呆れと心配と、そのどちらとも解釈出来る保田の声を聞いて、
平家はそっと目を伏せた。

「いつもなら、ウルサイぐらいみっちゃんに懐いてるのに」

「……用が、あるんやろ」

目を伏せながら、口元だけで笑って言った平家に、
それをただ見ていただけの矢口が悲痛そうに眉根を寄せる。

「……みっちゃん」

気付くと、名前が口から漏れていた。
63 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時29分37秒
呼ばれてゆっくりと目を開けた平家の視線が自分に向いて、
その視線の切なげな色に、矢口の脳裏には、
さっき見たばかりの、後藤の作り笑顔が浮かんだ。

「それよりみっちゃん、誰かに用なの?」

着替えを済ませた安倍がとことこと平家に歩み寄ってくる。

「え? あ、うん、えーと……」

安倍に向き直った平家の言葉が濁ったことで、
声を掛けた安倍だけでなく、保田も不審そうに眉をしかめた。
64 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時30分54秒
「あっ、あのっ、矢口。矢口が呼んだの」

何となくいたたまれない空気になって、
矢口は咄嗟にそう口走り、平家の細い腕に自分の腕を絡ませた。

「矢口が? どーして?」
「あのっ、えとっ、ゆ…、裕子、裕子のことで、聞きたいことあって」

聞くからに言い訳のような答え方をしてしまい、
カンのいい保田にはすぐ気付かれそうだったけれど、
他にうまい逃げ口上は、矢口には見つけられなかった。
65 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時31分37秒
「……うん、そう。やぐっちゃんに呼ばれてん。
姐さんのことで相談あるって。ホラ、一応、付き合いだけは長いから」

矢口の言い訳に乗ってきた平家の表情は、
矢口が見る限りでは、いつも通りに見えた。

「…て、ことやから、やぐっちゃん借りるけど、
姐さん来ても、あたしが連れ出したんはナイショにしとってな」

人差し指を立てて口元に当て、『秘密』を強調する。

平家の様子がいつも通りなことと、矢口が平家を呼び出した理由に納得がいったのか、
保田は軽く腰に手を当てながら小さく息をついた。

「ハイハイ」
「まかしといて」

安倍の笑顔にも見送られながら、平家と矢口のふたりは揃って楽屋を出て、
そのまま無言で玄関へと向かう通路を歩いた。
66 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時32分43秒
「……ありがとな」

角を曲がって玄関ロビーが見えたとき、
腕に回されたままの矢口の腕をやんわりと解きながら平家は告げた。

その声の抑揚は数分前の軽快なものとはまるで違っていて、
自分では独り善がりの勝手な判断ではないかと思えた行動も、
平家にとっては、少なからず助け舟になったのだと矢口には思えた。

「……ホントは、ごっつぁんに会いに来たんだよね」
「うん。…けど、あんなふうに逃げられるのも覚悟はしてたし」

―――そうなって欲しいと、心のどこかで、期待もしていたから。
67 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時33分47秒
平家の自嘲気味な笑みが、ますます矢口をいたたまれなくする。

「……ねえ、何があったの? みっちゃんと後藤、付き合ってるんでしょ?」

驚くかも知れないと思った矢口の問いかけに、
平家が動揺を見せることはなかった。

「……知ってたんや、やっぱり」

「…あっ、ち、違うよ。ごっつぁんに聞いたんじゃないよ?
裕子に聞いたんでもない。でもあの……」

「うん、判ってる。あのふたりは、そんなん、言わんから」

疑う、ということすらしない、絶対の信頼、絶対の安心。

それは他の誰をも踏み込ませない、
彼女たちでしか判り合えない、見えない絆のような……。

その純粋さは、ほんの少しだけ、矢口の胸に小さな痛みを訴えた。
68 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時34分48秒
「……心配してくれて、ありがと。
けど…、何があったかは、ちょっと、言われへんねん」

自分の決意も、誰にも言えない。

ひょっとしたら、気付かれているかも知れないけれど。

「…無理には、聞かないけど」

自分のすぐそばで、小さな少女が心配そうに見上げている。

言葉にしなくても、心配の度合いがどれほどなのか、
その瞳だけで推し測れるほど本当に純粋な色をしていて、
平家は苦笑するしかなくなる。

「……やぐっちゃんはホンマ、優しくてええ子やなあ。
裕ちゃんには、勿体ないわ」

ぽんぽん、と軽く矢口の頭を撫でて、そっと抱きしめる。
69 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時35分37秒
「えっ、み、みっちゃん?」

唐突な平家の行動に、さすがに矢口も焦った。

ふざけているときに抱きつかれたり抱きついたり、なんてことは、
日常茶飯事の出来事だから、感覚でとっくに慣れている。

それを振り払うための言葉と抵抗を、
矢口も勿論、いつも心構え的に持ち合わせてはいたけれど、
今のこの状況下はいつもとはまるで違う。

平家はふざけてない。

だから矢口は、その平家の腕を振り解く術が判らない。
70 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時36分23秒
「…みっちゃん?」

「……ゴメン」

弱々しい声が矢口の胸をまた痛くする。

抱きしめられながら、矢口は、
平家が本当は『抱きしめて欲しがっている』ことに気付く。

泣きたい気持ちを、堪えているのだと。

「……あたし、あの子の前では、もう泣かれへんねん。
泣いたらアカンねん」

『あの子』が後藤のことを差していることはすぐに判った。
けれど、言葉の意味は判らなかった。
71 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時37分17秒
「どーして?」

聞き返しても、平家は何も答えない。
答えないまま、ゆっくりと、矢口から離れた。

「……決心、揺らいでまうんや」

俯き加減に告げた平家の雰囲気から、
後藤が平家を避けた理由に察しがついた。

「みっちゃん? ……まさか」

顔を上げないままで聞いた矢口の声には、
驚きと一緒に疑問も含まれていた。
72 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時38分17秒
「な、なんで? ごっつぁんのこと、キライになったの?」

自分から離れたばかりの平家の細い腕を、
縋りつくように捕まえて矢口は問うた。

平家の態度や声から、
自分の言葉が間違いであることを確認するように。

けれど平家は苦笑しただけで、矢口の問いには答えなかった。

「……ゴメンやけど、裕ちゃんには、黙っててもらえる?」

そう言って、やんわりと矢口の手を離す。

「……ゴメンな」
もう一度言って、平家は矢口に背を向けて歩き出した。
73 名前:stay with me 投稿日:2002年05月15日(水)00時39分54秒
自分よりも背丈のある彼女を、
自分よりも年上の彼女を、
こんなにも頼りなく感じたのは初めてだった。

引き止めて、
思い直すよう諭さなければならないのは判っているのに、
矢口の意識は平家に向けられたままでも、
足は、少しも動かなかった。

たとえ追いかけても、
平家の決心が揺らぐことはないと判るから。

おそらく、後藤自身の涙でない限り―――。
74 名前:名無し殺生 投稿日:2002年05月17日(金)20時46分57秒
んげ〜んげ〜んげ〜!!!
だったらごっつぁん、泣けー!泣き落としだ。
絶対の信頼、絶対の安心をそう簡単に放り投げれるのか?
二人の絆は切ったはずでも、切れないよみっちゃん。
75 名前:瑞希 投稿日:2002年05月23日(木)00時29分05秒
>74:名無し殺生さん
>だったらごっつぁん、泣けー!泣き落としだ。
そうだ、泣け、泣くのだ、ごま!<またヒトゴトかいっ


更新ペース、今までに比べたらメッチャ遅くて、しかも週イチぺーすで、
ホンット、すみません…。
でも、ちゃんと完結させますんで、見捨てないでくださいね(T_T)

では、続きです。
76 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時30分14秒



予定通りにオフの朝を迎え、
この日にしようと後回しにしていた部屋の掃除も手際よく済ませる。

午後少し前には身支度を整え、約束していた時間と場所に平家が赴くと、
久しぶりに会う友人の姿は既にそこにあった。

平家が手を挙げて居場所を知らせるより先に、
その相手は笑顔で駆け寄ってくる。

「みちよ〜!」

そんな風に呼ばれるのも、久しぶりだなあ、と、ぼんやり思う。

「ホンマ、久しぶりやなあ」

嬉しそうに笑いながら、ばしばしと無遠慮に背中を叩く。
勿論、そんなに強く叩かれているワケではないので、痛くはない。
77 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時30分57秒
「そっちも元気そうやん」
「元気元気。それしか取り得ないもん」
「せやせや、アンタが病気になったん、聞いたことないしな」
「なんやと〜?」

しばらく会っていなくても、会った途端に空気が変わる。
時間が戻ったような気分になる。

「ゲーノー人になっても、みちよは変わらんわ」

ほんの少しホッとしたような口調に戸惑いも感じたけれど、
やっぱりトモダチって、いいよなあ、なんて、思いながら、
平家は久々に会う友人と連れ立って歩き出した。
78 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時31分38秒
「グラサンとか、せーへんの?」

歩きながら、目線は自分より少し高めの相手が、
上体を屈めてじっと平家の顔を覗き込んでくる。

「別に、必要ないよ、そんなん。
そんなトコでカッコつけても、しゃあないやん」

正直に言えば、今、自分の隣を歩いているのが一般人だから、という理由もある。

これが後藤だったら、彼女のほうに必要な小道具だな、と考えて、
平家は思わず苦笑いする。
79 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時32分26秒
ちょっとした空き時間が重なって、
強引に誘われるまま買い物に出かけて、
案の定ファンに見つかって追いかけられたことも、
実は一度や二度ではなかった。

そのたびに、勘弁してくれと訴えては、
耳を垂れた子犬みたいに反省する後藤がまた可愛くて、
それに負けて、最後には許してしまう自分を知っている。

そしてまた、同じことを繰り返したりして。

結局、自分のほうが、強く、深く、
あの無邪気なコドモに溺れているのだと、痛感させられて。
80 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時33分10秒
「…みちよ?」

不意に呼び掛けられてハッとする。

「なんやの? 思い出し笑い?」
「…べっつに?」
「なんやのなんやの。ヤラしいなあ」
「うっさい、そんなんとちゃうわ」

今でさえ、
こんなにも無意識に後藤のことを考えている自分に戸惑い、
誤魔化して笑いながら、平家は思った。

後藤と離れたら、
こんな風に思い返す事柄も、もう、限られてくるのだ、と。
81 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時33分48秒
「…それより、どっか行きたいトコないん? 案内したるで?」

不審そうに見つめていた友人の目元がやわらぎ、
内心ホッとする。

きっとこの先、何度でも思い出す。
そして、悔やむ日がくる。

そうと判っていても、決意は強くなるだけだった。
あの笑顔を、曇らせたくないと。

だからせめて、今は、今だけは、
後藤のことを、忘れていたかった。
82 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時34分33秒

友人との待ち合わせは食事を済ませてからにしていたので、
互いに空腹感はなく、
適当に街を歩いてから、最近人気のカフェに立ち寄った。

世間的にも休日の今日は、さすがに店内もぼぼ満席状態だった。

けれど、ちょうど運良く向かい合わせの席が空き、
そこへと腰を落ち着かせる。
83 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時35分31秒
オススメ、とされたメニューをオーダーして、
店員の後ろ姿を見送るように椅子の背凭れに重心を預けたとき、
不意に友人が笑った。

「? なに? どしたん?」

笑う理由が判らず、身を起こして友人のほうに顔を近づけると、
彼女は笑いを崩さず顔の前で手をヒラヒラ振った。

「なんか、年上の世話女房みたいや」
「は?」
「前やったら、注文とりにきたら、一緒にいつまでも悩んでたのに、
今はさっさと注文したやん。あたしに文句も言わさん勢いで」
84 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時36分19秒
「な、なんや、他に飲みたいもんでもあったんか?」
「ちゃうって。しっかりしてるって、言いたいんよ」

笑いの種が自分であることに不快感を感じないワケではないが、
他意もイヤミもない笑いがその感情を鎮める。

「独り暮らししてたら、やっぱ、しっかりしてくるんかなあ」
「……それって、前のあたしは鈍くさいって聞こえるんやけど?」
「カンも良うなった」
「アンタなあっ」

笑い声を抑えながらも綻ぶ友人の口元を見て、
平家は少し拗ねながら腕組みをする。

狭くはないけれども混み合う店内。
あまり賑やかにして注目を浴びたくはない。
85 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時37分13秒
「…けど、正直、元気そうでホッとしたよ」
「なんで?」
「ひとりでやってくみちよなんて、想像つかんかったもん」
「……そんな頼んないんか、あたしは」
「頼んないっていうか、危なっかしいんやもん、アンタ」
「……あんま、言われて嬉しい台詞とちゃうな」

唇を尖らせつつ、テーブルに頬杖をつく。
チラリと友人を見ると、ニヤニヤと、口元は意味ありげに笑っている。

「…なに?」
「……カレシ、年下なん?」

唐突な、けれどかなり核心に近いことを声にされて、
みちよの顔は一瞬で真っ赤になった。
86 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時38分06秒
「…あれま、図星かいな」
「そ、そんなん、おらんっ」
「付き合うてないん? 片思い?」
「やからっ、そんなんおらんて!」

厳密に言うなら後藤は男ではないので『カレシ』ではない。
だから、平家の言葉も、間違いではないのだけれど。

「そんな嘘言うても顔には出てるで? 『好きなヒトは年下です』って」

ニヤニヤ笑いを崩さず的を射てくる友人に、
平家は観念したようにテーブルに突っ伏した。

そういえば、学生時代の恋の相談相手は、
いつでも、今、自分の目の前にいる彼女だった。
87 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時39分04秒
「……勘弁、して」

思い出したくないと、
せめて今だけでも思い出さずにいられるようにと、
必死で頭の隅のほうへと追いやっているのに。

「……思い、出ささんとってよ…」

平家の小さな声が聞こえたとき、
注文したケーキセットが運ばれてきた。
88 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時39分54秒
訝しがる店員に気付かれないように頭だけは上げて、
目線は友人とも合わせないで、平家はさっさとフォークを持った。

「…みちよ?」

店員が去ってから、
目前の友人が両手での頬杖を崩すことなく呼びかけてくる。

「……なに」

顔も見ず答えた声に、他意を含んでしまった。
けれど、言い訳しようという気にはならなかった。
89 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時40分58秒
そんな平家に気付き、友人は溜め息をつく。

「言いたくないんやったらええよ」

声色に労わりを感じて目線を向けると、目が合った友人が小さく微笑む。

「美味しそぉやなあ」

既に食べ始めている平家を追うように彼女もフォークを持って食べ始める。

追及しないで知らんフリしようとしていると、
これが彼女なりの気遣いなのだと、
気付けないほど付き合いは短くない。
90 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時41分46秒
「……ゴメン」
「なにが」

ケーキを頬張る友人の目元は優しくて、
年上の元恋人を思い出させる。

年上のくせに、どこかコドモでもあった彼女は、
平家の手に負えるひとではなかった。

いつでも、どんなときでも、
自分の、自分だけの恋人だと言える自信をくれなかった。

なのに、
抱きしめる腕だけは誰よりも優しくて、あたたかくて、
いつかきっと、その甘さに自失するほど溺れてしまいそうで、
怖くなって、別れたのだ。
91 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時42分41秒
そのあとで現れた後藤は、
年下、という点を差し引いても、まだまだコドモだった。

無邪気で、真っ直ぐで、
およそ、恋愛における駆け引きなどとは程遠い。

理性という言葉よりも、
本能という感情が先立つことなんて、しょっちゅうだった。

でもそれに困惑しながらも、
正直、楽しんでいた自分も、平家は否めない。

それが、後藤なのだと思うだけで楽しかった。
自分のほうが夢中になってると思うことさえ、嬉しくもあったのだ。
92 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時44分02秒
『大好き、平家さん』

わざわざ、思い出す、ということをしなくても
自然と思い起こせる後藤の声と顔。

今だけでも忘れていたい、と思うのは、
いつでも、どんなときでも、思っているからだ。

「ゴメン」
「やから、なにが?」

もう一度謝罪した平家に、友人はまたそう答えて首を傾げた。

言ってしまえばラクだろう。
けれど、自分だけが苦痛から逃れてはいけない。

後藤はきっと、今も、ひとりで悩んでいるだろうから。

また後藤のことを考えている自分に気づき、平家はそっと、苦笑した。
93 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時45分02秒



カフェを出て、夕暮れ時になった街をゆっくりめの歩調で歩く。

時間帯としてはもう帰宅時間でもあるので、
擦れ違うひとは、平家達に比べればいくらか急ぎ足だ。

「……さて、みちよは明日、仕事?」
「ん? うん、でも午後からやから、まだ時間はええよ」
「世間は休みやのに、大変やなあ」
「んー、でも、好きなコトして忙しいんやから、満足やわ」
「…楽しい?」
「もちろん」
94 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時45分57秒
歌うことは好きだ。
夢だったのだから、
忙しくても後悔はないし、毎日も充実している。

「そっか。…なら、ええねん」
「なんやの、急に」
「やって、芸能界って、コワイとこって聞くやん。
みちよがしんどい思いしてるんやったら、イヤやもん」
「なんでアンタがイヤやねん」
「友達がしんどい思いしてたら、イヤに決まってるやろっ」

がう、と噛み付かれそうな勢いに平家が少し顎を引くと、
友人は、ぴこん、と平家の額を小突いた。
95 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時47分09秒
小突かれた額を手のひらで覆い隠しつつ、
上目遣いに友人を見ると、
彼女はほんの少し、怒っているように見えた。

「…なに?」
「……別に、なんでもあらへん」

表情に確かに見えたはずの怒りを隠すように肩を竦め、
彼女は平家を置いてスタスタと歩き出す。

「な、なんやねんな、もー」
「なんでもないって言うたやろ」
96 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時47分49秒
増してくる人波をふたり並んでかきわけながら歩く。

行くべき場所があるわけでもないので、
自然と足は駅のほうへ向かっていたけれど、
ふたりの間に会話らしい会話はなかった。

平家の脳裏に、さっき見た友人の複雑な表情が引っ掛かり、
無闇に言葉を吐くことをためらわせていたせいもある。

けれど不意に立ち止まった友人の、視線の先にギクリと胸が鳴った。

「……うわ、なんや、コレ」

友人が足を止めて、
感嘆とも、驚愕ともとれる言葉を漏らして見上げた先にあるもの。

それは………。
97 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時48分36秒
「誰がこんなん買うんやろな…?」

友人の声も、平家には遠く聞こえた。

半年ほど前に見たままの光景。

西洋のおとぎ話にそのままでてきそうなほど、
大仰で、大層で、
けれどもアンティークな造りがあからさまにはそう感じさせない、
天蓋つきのダブルベッド。

シーツの色と、枕のカタチは確かに変わっていたけれど、
それ以外は何ひとつ変わることなくそこに展示されている、
夢の国の眠り姫が寝ているようなベッド。
98 名前:: stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時50分31秒
―――そう言えば、無理だと知りつつ、買ってやりたいと思ったこともあった。

当時は、キャッシュどころかローンを組んだって
簡単には購入など出来ないと思われた天文学的数字も、
当時よりは幾らかプライスダウンしていた。

もちろん、それでも、並みの稼ぎでは、到底追いつけない金額だけれど。

「どしたん?」

立ち止まった友人の隣に立って、
同じようにそのベッドを眺めていた平家に友人が尋ねる。
99 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時51分21秒
「……欲しいん?」

―――それは、あたしが、あのコに言うた。

「……みちよ?」
「……いらん」

―――こんなん、いらん。

欲しくない、こんなもの。
後藤がいないなら、あったって、無駄になるだけ。

後藤が笑ってくれないなら、
後藤がそばにいてくれないなら、意味など、ないのだ。
何も。何もかも。
100 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時52分57秒
「……ごっちん」

考えないようにしていたのに、
するりと、平家の口からその名前が出た。

イヤだ。
イヤだ。
このまま、別れるなんて。

決意をしたはずなのに。
あの笑顔を曇らせたくないと、そう心に決めたはずなのに。

なのに、思い浮かぶのは、
昨日、ひどく傷付いたように自分を見た、怯えた瞳。

そして、今なお、強く心に留まろうとする幼い笑顔。
101 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時54分54秒
泣かないでいようと思ったのに、
まるで、堰き止めていた何かが崩れたかのように、
平家の目には涙が溢れてきた。

「えっ、ちょっ、みちよ?」

突然の涙に、困惑したのは友人のほうだ。

「なに? なあ、どしたん、急に?」

突然、それも往来で泣きじゃくり始めた友人に、
彼女は慌てながらも宥めるような優しい声音で聞く。
102 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時55分52秒
「……ん、…ごっちん……、ごめ……」

両手で顔を覆いながら泣き声で紡がれるのは、
ふたつの言葉だけだった。

『ごめん』
『ごっちん』

そしてそのとき、
平家の心には今、『ごっちん』以外の誰も存在しないことも同時に知らされる。

確かに真横にいるはずの『自分』さえ、いないことに。
103 名前:stay with me 投稿日:2002年05月23日(木)00時57分42秒
行き交う人々の視線が次第に集まってくる。

このまま立ち止まっているワケにもいかないので、
彼女はそっと平家の肩を抱き、ゆっくりと歩き出した。

逆らわずに従う古い友人の頼りない肩は、
胸を打つ痛みとなって、切なさを教えた。

『ごめん』
謝罪する平家の真意は判らなかったけれど、
『ごっちん』
それが、誰を指しているのかは、明白だった。
104 名前:名無し殺生 投稿日:2002年05月26日(日)01時49分29秒
ほらほら、いくら自分の心を隠してもダメなんだよ。
みっちゃん、素直になろうよ。
そういうの良くないと思います!
友人よ、なんとか力になってあげて下さい。
105 名前:瑞希 投稿日:2002年05月28日(火)23時27分51秒
>104:名無し殺生さん
>友人よ、なんとか力になってあげて下さい。
さて、チカラに、なって、くれるかな?


では、続きです
106 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時29分01秒

ふたりは、平家が泣き出した場所から少し離れた場所の、
落ち着いた風情の喫茶店に立ち寄った。

半ば自失気味の平家を気遣って、
友人の彼女が人目につかない奥の座席を希望すると、
受け付けた初老の店員も、何かを悟ったように快く頷いて誘導してくれた。

席に座り、コーヒーをふたつオーダーして、
友人はゆっくりとバッグの中からハンドタオルを取り出した。

「……とりあえず、落ち着き?」

差し出されたそれを受け取り、小さく頷く。

その仕草は、学生時代とあまり変わらないものだったので、
突然泣き出した平家に最初は面喰った彼女も、何となく、ホッとする。
107 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時29分52秒
静かに運ばれてきた香りの良いコーヒーの湯気が鼻先をくすぐる。

「……ちょっとは、落ち着いたか?」

こくん、と、再び小さく頷いた平家に、またひとつ安堵の溜め息が漏れた。

ほんの少しだけミルクを足し、ノンシュガーで口に含む。
程よい苦味が、逆に、彼女に次の発言権に対する余裕をくれた。

「……ほな、遠慮なく聞くで?」

俯き加減のまま、平家の肩がびくりと震える。

怯えた子供のようなそれは、
さすがに躊躇という気持ちを思い起こさせたけれど、
ここで引くワケにはいかない。

知らないフリでこの場をやり過ごしてはいけないと、
何かが強く、頭の奥で訴えていた。
108 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時31分11秒
「…『ごっちん』って、『ゴマキ』のことやんな?」

友人の口から出たあだ名に、
世間での通りは、後者のほうが主流なのかと、ぼんやり思う。

平家のほうは、その呼び名はあまり好きではなかったから、
少なからず、不快感が湧き起こる。

「……アンタ、ゴマキなんかと仲ええんか?」

明らかに、不快感と、少なからずの軽蔑が、声には含まれていた。

「……なん?」
「あのゴマキやろ? ええ噂なんか全然ナイやんか。 何であんな子と」

まだ少し涙の残る目で見上げた先は、
やはりぼやけたもので鮮明ではなかったけれど、
湧き上がった気持ちは、反比例したかのように強いものだった。
109 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時32分19秒
「……そんなん、根も葉もない噂や」

後藤に対する想いと、
友人に対する長い付き合いの中で確立した信頼と、
その間で揺れている自分を感じながらそれだけを告げる。

「そぉか? 火のないとこに煙はたたんって言うやん。
みちよがゴマキと仲ええなんて、ちょっと、ショックやわ」

友人の言葉は、平家を思っての心配と、彼女なりの誠意もあったと思われる。

けれど、『後藤真希』という存在が、
平家にとって何にも代えがたい存在価値であると痛感した今、
その言葉は不愉快なものでしかなかった。
110 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時33分06秒
「まだ高校生のくせに、結構派手なこともしとるみたいやし?
付き合い方も考えやんと、ええように利用されるんちゃう?」

もし怒りの感情に、沸点、というものがあるなら、
おそらくその瞬間がそうだった、と平家はあとになって思った。

「あのコはそんなんと違う!」

ばし、とテーブルを強く叩きながら、
ガタン、と大きく音を起てて椅子を立ち、そう怒鳴る。

「アンタに…、アンタなんかにあのコの何が判るねん!」

見上げる友人の驚いたような顔も、
一斉に向けられた店内の視線も、気にならなかった。
111 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時34分20秒
「…あたし、あんな真っ直ぐで一生懸命なコ、他に知らん。
そのへんにいるような、ただのアホなコドモやったら、
いくら後輩やからって言われても、面倒見たらなアカンとか思わんわ」

『聞いてくださいよぉ、平家さぁん』
脳裏にこだまする、甘えたようなコドモの声。

「アンタの言うような、くだらん噂にイヤな思いもしとるくせに、
そんなん知らんって顔して笑うんや」

『あたしって、そんな、軽そぉな人間に見えますぅ?』
ちょっと哀しそうに呟いて、背中から抱きしめたときの腕の心地好さ。

「あんなしょうもない記事とか噂とか、腹立てて怒ってもええのに、
何でもないって、笑うんやで?」

『でも、平家さんはあたしのこと、信じてくれるもんね』
テレくさそうに言いながら、ほわっと、綻ぶ笑顔の無邪気さ。
112 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時34分58秒
好きだ。
好きだよ。
キミの、何もかもが。
113 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時35分39秒
「あたしが、あたしだけが信じてくれたら、そんでええって…」

繋いだ手を、ずっと離さないと誓った。
いつまで、なんて、そんな見えない約束で縛るつもりなんかない。
でも、ずっと一緒にいたいと思った。

世界の終わりが来る日まで。
いや、たとえ世界の終わりが来たとしても。

なのに、その手を、自分から離そうとしていたなんて。

「…あのコのこと何も知らんクセに、判ったようなこと言わんとって」

強い眼差しでそれだけ告げると、
平家は財布から一番高額の紙幣を一枚テーブルに叩きつけるように置いて、
そのままひとりで店を出た。
114 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時37分17秒
外は、いつのまにかもうすっかり陽も沈んでいて、
辺りを歩く人影は判っても、その表情までははっきりとは見えなくなっていた。

どこへ向かうともなく歩き始めた平家を、当然、友人は追いかけてきた。

呼ばれてゆっくり振り返る。
出来れば、あまり向き合いたくないとさえ思った自分にも嫌悪しながら。
115 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時37分57秒
「……なに?」

「なんでやの? あたし、アンタのこと言うたんと違うやんか。
せやのに、なんでそんな怒るん? そんなに大事なんか? 『ごっちん』が」

言い改めたその呼び方に、
それまでとは違った別の意味合いも感じ取った平家の肩が揺れる。

「…みちよ?」

失うかも知れない。
どちらかを選べば、選ばれなかったもう片方を。

それでも、今の平家にとって、
選択肢の片方が『後藤真希』なら、迷うことは何もなかった。

「……そぉや。だったらどうやっちゅーねん?」
116 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時38分40秒
真っ直ぐに、一点の曇りも見せず、平家は友人を見つめた。

その瞳の色に、そのときだけの先走ったような、感情の荒い波は見られない。

「…あたしはあのコが大事や。何より大事なんや。
今更やけど、アンタのおかげで、それがよう判ったわ」

「みちよ……」

「アンタがどう思おうと、そんなん、もうどうでもええ。
こんなあたしがいらんかったら、もう会わんでも構わへん。
けど、あたしからあのコを奪るようなことだけは、せんとって」

自分から手を離そうとしたくせに他人の介入は拒むなんて、
自分のほうこそ、余程コドモじみた独占欲の持ち主ではないか。

そう思って、口元だけで平家は苦笑した。
117 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時39分38秒
「……十年来の友達より、あんなコドモのほうが大事やって言うんか」

「…っ、そぉや! なんべんも言わせんとって!
アンタには『あんなコドモ』でも、あたしには大事なコなんや!」

離さない。
離すものか。

自分でも驚くほど、こんなにも大事な存在になっていたのだと、
本当に、今更になって、他人の言葉で気付かされる。

「これ以上あのコを侮辱するなら、もうアンタと話すことなんて何もないわ」

「…友達のあたしより、あんなコドモを選ぶってことか!」
118 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時40分41秒
くるりと、振り切るように踵を返した平家の背に、
強い口調のくせに、
まるで、一度切れた糸を手繰るような、哀しげな口振りで友人は叫んだ。

そして平家は、最後の審判でも下すような面持ちで振り向く。
そこに、否定の言葉を待つ、友人を見るために。

「そんなに好きなんか!」

それを言ってくれて、言葉にしてくれて、むしろ嬉しいほどだった。

「……好きやで? 世界中の誰よりも、何よりもな」

哀しげな友人の瞳にもためらわず、平家はきっぱりと告げた。

花のように、嫋やかに、微笑みながら。

平家のその表情と言葉に、友人はもう、それ以上何も言えなかった。
119 名前:stay with me 投稿日:2002年05月28日(火)23時42分35秒
俯いてしまった友人を顧みることなく再び踵を返した平家は、
ゆっくりと、自分の行くべき道を確認して、歩き始めた。


会いに行こう、あのコドモに。
無邪気で、真っ直ぐで、一生懸命な、愛しいコドモに。


朝まで抱いていた決意はもう、粉々に砕かれた。

そして、まるで正反対の新たな決意が、今、確かに平家の心に生まれていた。
120 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月29日(水)01時24分53秒
瑞希様
いい。すんごいいい。素直な感想です。
週末の更新を楽しみにしております。
121 名前:LINA 投稿日:2002年05月30日(木)04時40分31秒
やばいっす!ぼろ泣きっす!!!
ごま〜〜逃げないでみっちゃんを受け止めるんだ〜!
瑞希さん、続きがんがってくださいね。
122 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月30日(木)14時08分47秒
みっちゃん、思い直してくれてよかった・・・(泣
しかしみなさん「ゴマキ」っていう呼び名嫌いなんですね^^;
自分もよく思ってないですが。

続き気になります、がんがってください♪
123 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月30日(木)19時01分58秒
感動の嵐……
124 名前:瑞希 投稿日:2002年05月31日(金)23時34分24秒
>120さん
ありがとうございます。
なんとか、宣言通りの週末の更新、間に合いました。

>121:LINAさん
>ボロ泣きっす!!!
……………(/∇\*)
がんがりまっす!!!

>122さん
>「ゴマキ」
うーん、他の方はどうか判らないですけど、
自分は、どーも、この呼び方、好かんのです、ハイ。

>123さん
……………(照


では、続き………ですが、
でも今回の更新分は、ちと、もどかしいかも……(^^;)
125 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時35分48秒



平家が友人と会っていた午後、後藤宅には、矢口真里の姿があった。

昨日の平家と後藤の様子を心配して、
電話一本で無理を言って押しかけたのである。

「やぐっつぁん……」

玄関のドアを開けて矢口の顔を見るなり、
後藤は、ふにゃ、と表情を崩して泣き笑いの笑顔になった。

少し腫れた目元が、昨夜の後藤自身の様子を物語る。

「なんだよぉ、急にさぁ」

減らず口が何だか逆に痛々しい。

矢口は、きゅ、と唇を引き結ぶと、
勝手知ったる何とやらで、後藤の腕を引っ掴んで彼女の部屋に向かった。
126 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時36分40秒
「…大事な話が、あんの」

部屋に入るなりそう言って、小首を傾げてきょとんとなっている、
自分より背の高い後輩(厳密に言えば矢口より低い後輩はいないのだが)を見た。

矢口の表情から、彼女自身も、
幾らかの緊張と、それとはまた違った大事な何かを抱えていると、後藤も気付く。

ふたり向かい合って床に正座して、しばしの沈黙が流れた。

「……遠まわしに言っても始まんないから、率直に言うけどさ」
「…うん」

矢口の声色があまりにも真剣味を帯びていて、
答える後藤の声もいつもよりずっと慎重で神妙になる。
127 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時37分30秒
「みっちゃんと、何が、あった?」

突然来訪した矢口の用件が100パーセントそれであると気付いていても、
後藤はどんな言葉を返していいか、見当もつかなかった。

だから俯いたまま、何も、言えずにいた。

「……昨日、ちょっとだけ、みっちゃんと話したんだけど」

後藤からの返答はもともと期待してなかったのか、
あまり間を空けずに、ゆっくりと、息を吐き出すように話し出す。

と、矢口がそこまで告げただけで、
俯き加減だった後藤の頭が、ばっ、と上げられた。
128 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時38分22秒
「なっ、何を?」

勢いのよさに思わず顎を引いた矢口だったけれど、
ほんの少しだけ渇いた唇をちょっと舐めてから、
縋るように自分を見ている後藤を見つめ返した。

「…別に、たいしたことは話してないよ。
ただ、ごっつぁんと、何かあったってのが判っただけで」

本当に、おそらく肝心なことは何も言葉としては交わしていない。

けれど、
平家が漂わせていた雰囲気がそのすべてを物語っていたのだ。

目元を少し腫らせた、今の、後藤みたいに。
129 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時39分16秒
「……平家さん、怒って、た?」

隠していた悪戯を子供が母親に告白するような、
恐る恐る、といった感じで上目遣いに聞かれた矢口は、
その言葉で、また少し、状況が飲み込めた。

「…怒らすようなこと、したんだな?」

やぶへび、という様子で、びくん、と肩を竦めてまた俯く。

普段はマイペースなくせに、
こういう一面を見ると、年下なんだと、改めて知らされる。

「……怒ってたっていうより、淋しそうだったよ」

また大きく後藤の肩が揺らいだ。
そしてそのまま、黙り込んでしまう。
130 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時40分01秒
「……もう、ぶっちゃけた話するけどさ、
ごっつぁん、みっちゃんと付き合ってんだよな?」

一瞬、答えに詰まったようだけれど、
俯いたまま、頭だけが小さく上下した。

「…そんで、ケンカして、みっちゃん、怒らせたんだ?」
「お、怒らせたっていうか……」

ぽそぽそと、頼りなさ気に口ごもって語尾がはっきりしない。

「なんで謝んないのさ? 昨夜だってさ、
せっかくみっちゃん会いにきたのに、なんで、逃げたりしたんだよ」

「だ、だって…」
「……だって、何?」
131 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時41分08秒
「……平家さん、あたしと別れようって、言いにきたんだもん。
そんなの、聞きたくなかったんだもん」

気付いていたのか、と矢口は思った。
よく考えれば、それも当然なのだけれど。

ふぇ、と、崩れた表情が今にも涙を呼びそうで、
少なからず矢口の内心は焦り始める。

「…泣くなよ」
「だって、だってぇ…」

ガマンしきれない、後藤の気持ちも痛いくらいに判るけれど。

「…っ、泣くな、バカ! 泣きたいのはみっちゃんのほうだよ!」
132 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時41分51秒
崩れかけた後藤の表情が矢口の声で強張る。
いや、凍ったといったほうが近い。

「…あたし、ごっつぁんのこと、ホントはちょっとだけ羨ましかったのに。
みっちゃんのこと、すっごい好きなんだって、気持ちだけじゃなく全身で表現してて、
みっちゃんも、そういうごっつぁんが可愛いんだろうなって。
ごっつぁん、みっちゃんにすっごい信頼されてんじゃん。
あたし…、あたしは、素直になれないし、いつもワガママばっかで、
ごっつぁんみたいに可愛くないし、こんなあたしの、ドコがいいんだろって……」

言葉にしていくうちに昂ぶりだした感情のせいで、
どんどん論点がズレ始めていることに気付き、慌てて矢口は口を閉ざした。

後藤を見ると、少し驚いたように目を見開いている。

「……羨ましいって…、やぐっつぁん…?」
133 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時42分51秒
ほんのちょっと、頬が上気して見えて、恥ずかしさが増していく。

「…ごっつぁん、贅沢だよっ。みっちゃんにあんなに信頼されてんのに、
怒らせるようなコトしたんだったら、何があったって、
どんなにみっちゃんに落ち度があったって、絶対にごっつぁんが悪い!」

喚いてる自分の言葉がどれほど間抜けで、
かつ突拍子ないかを、声にしてから改めて自覚する。

後藤に向けた言葉と感情は、
自分自身の、恋人の前では素直になれないジレンマも入り混じっている。

後藤がそのことに気付くのも、おそらく時間の問題だろう。
134 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時43分34秒
「……みっちゃんのこと、好きなんでしょ」

こくん、と大きく、頭が上下する。
矢口を見つめる目も、真っ直ぐで、強かった。

「…だったらちゃんと謝んないと。逃げてちゃダメじゃん」

「だ、だって、もし平家さんが……」

「……大丈夫。ごっつぁんが誠心誠意、真心込めて謝ったら、
みっちゃんだって、きっと許してくれるよ」

矢口の言葉はもっともだけれど、
自分たちの間に起こった出来事を知らない彼女に、
それを理解してもらうのは、少し難しいだろう、と後藤は思った。
135 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時44分22秒
「……もし、それでも許してくれなかったら……?」

謝罪の気持ちなんて、いくらでもある。
けれど、重要なのは、平家の気持ちなのだ。

どんなに後藤が自分の過ちを悔いて謝罪しても、
平家が許してくれないなら、何の意味もないのだから。

「…じゃあ、諦めるか?」

予想外の言葉に驚いて俯き加減だった顔を上げると、
矢口は腕組みしながら、少し怒ったように後藤を見ていた。
136 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時45分13秒
「……ごっつぁんのみっちゃんに対する『スキ』って、そんなもんなの?
許してくれそうにないからって逃げたり、
振り向いてくれそうにないからって、諦めたり出来るくらいなの?」

矢口の言葉が、まっすぐに、
けれど、何の違和感もなく、すとん、と後藤の気持ちの中に落ちてきた。

「そんな簡単なの?」

僅かに、けれどちゃんと目に見えて判るくらいの明確さで、
矢口の目元が哀しそうに歪んだ。

「違う」

きっぱりと、そして、はっきりと、言葉に出来た。
137 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時45分52秒
「諦めない」

諦めたくない。
平家に対する、この気持ちだけは。

それは、平家を好きになったときに、決意した想いだ。

たとえ振り向いてもらえなくても、
ほんの少しでいいから、何か繋がりが欲しいと思っていた頃の。

「……諦めたり、しないよ」

後藤の声に、それまでとは違った力強さを、矢口も感じた。
138 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時46分27秒
「だったらさ、ごっつぁんのやるべきことって、もうたったひとつだよね」

大丈夫。
漠然と、けれど多くの自信を持って、矢口はそう思った。

後藤も平家も、ただ、相手を思いやりすぎているだけなのだ。

『裕ちゃんには、黙っとってな』

保身かと思われた平家の何気ない一言も、
実は、後藤自身が中澤に対して持っている、
以前の恋人、という立場の人間への引け目に対する気遣いだったと、
今なら容易に理解できる。
139 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時47分31秒
「うん」

微笑んで頷いた後藤の表情には、
矢口がこの部屋に入ったときに見たような、
あまりにも頼りなさげな雰囲気は、もう見られない。

「バカだね、あたし。最近、いろんなことが幸せで大事なこと忘れてた。
大事なのはさ、好きって、気持ちだよね。
あたしが、どれくらい平家さんを想ってるかっていう、さ」

たとえ叶わない想いでも。
報われない恋だったとしても。

平家を想う気持ちだけは、誰にも負けない自信があった。

その相手が、誰であっても。
140 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時48分10秒
そのとき、ふと、後藤の頭にある人物が思い浮かんで、
自分の目の前で、幾らかホッとした面持ちでいる自分より背の低い先輩を見た。

「やぐ…」

呼ぼうとして、その声は見事に小さな機械が鳴らす音に遮られる。

「あ、ゴメン」

言いながら手のひらを見せて後藤の言葉を遮り、
矢口は自分の鞄の中からケータイを取り出してボタンを押した。
141 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時48分44秒
「もしもーし。…うん」

喋り方や雰囲気から、その相手はおそらく中澤だろう、と後藤は思う。
勿論、その考えに間違いはない。

「うん、そーだよ。なんで知って…。え…?
あ、…うん、まあ…。…え?」

矢口の表情が、俄かに赤く染まっていく。

「うそ、なんで?」

短く疑問符で言ったとき、
後藤の部屋にも繋いでいる内線電話のベルが鳴った。
142 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時49分22秒
「真希ちゃん?」

数度のコール音で応対に出ると、母親の軽快な声が後藤の耳に届いた。

「中澤さん、いらっしゃったけど」

「え…? ええっ?」

後藤は内線電話の受話器を、
矢口は自身のケータイを、
それぞれ右手に持ったまま、お互いの顔を見合わせた。
143 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時50分01秒


後藤と矢口が揃ってリビングのある階下に下りると、
中澤は、さも当然、といった堂々とした様子で、
なのにちっともイヤミのないキレイな笑顔で、
リビングのソファに姿勢よく座っていた。

「ゆ、裕ちゃん? どーして」

矢口の言葉に、中澤は営業用スマイルを崩すことなく答えた。

「矢口を迎えに来たんやんか」
「む、迎えにって、なんで……」

そこまで告げてから、その場には後藤の家族もいることに気付き、
矢口も当り障りのなさそうな言葉を探す。

それに気付いてか、中澤の笑顔がまた少しやわらいだ。
144 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時51分25秒
「何言うてんの、今日はこのあと、夕方から一緒の仕事やんか。
ごっちんのとこ寄ってから行くから、迎えに来てって言うたくせに」

「そんな……」
そんな約束なんてしてない、とは言えなかった。

言えば後藤の家族がきっと不審がるし、
それに対しての説明なんて、絶対出来ないと判っているからだ。

「話はもう済んだんか?」

笑顔の向こうに見える憂いた瞳に、
軽快な口調とは裏腹な別の想いを感じ取って、
後藤と矢口は顔を見合わせた。
145 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時51分57秒
きっと、中澤は知っているのだろう。

どんな手段で何をどこまで知り得たかはこの際もうどうでもいいとして、
心配している彼女を、すぐにでも安心させてあげなくてはいけない。

「うん、大丈夫」

矢口の代わりに後藤が頷きながら答えた。

「…そおか」

その答えに対してもう一度頷いた後藤は、
横から見上げる矢口にも判るくらい、晴れ晴れとした笑顔だった。

「…ほな、そろそろ行こか、矢口?」
「え…? あ、うん」

ソファを立った中澤に続くように、慌てて矢口は返事を返す。
146 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時52分56秒

「あらあら、まだいらしたばかりですのに、もうお帰りになるの?」
「すいません。また今度ゆっくり、もっと時間のあるときにお伺いします」

心底残念そうな後藤の母親に、
中澤は申し訳なさそうに眉尻を下げながら告げた。

「矢口さんも、いろいろ忙しそうで、大変ね」
「いえいえ、楽しいですから」

中澤に合わせて笑顔で答え、母親の背後にいる後藤に軽く手を振る。

「…玄関まで送る」

母親もついてきそうなのをやんわりと断って、
玄関口に向かう中澤と矢口のあとを歩く。
147 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時53分34秒

「……ホンマは、ガツンと言いにきたつもりやってんけどな」

靴を履くふたりを一段高い位置から見下ろしていた後藤に、
中澤の静かな声が届く。

「え?」
「みっちゃん泣かしたら、タダじゃ済まさんって、言うたやろ?」

履き終えて振り向いた中澤の目が、一瞬鋭く光ったように思われて、
後藤は、ごく、と唾を飲み込んだ。

「……けど今回は、矢口に免じて、なかったことにしといたる」

ぽす、と矢口の頭に手をおいて、
それからくしゃくしゃっと髪をかき混ぜるように撫でる。

「もーっ。やめてよ、グシャグシャになるじゃんか」

わう、と子犬が吠えたのを見下ろした中澤の目尻が、
愛しいものを確認するように揺れたのを見る。
148 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時54分06秒
「……誰に聞いたんだよ、あたしがごっつぁんの家にいるって」

中澤の手から逃げて、矢口は髪の乱れを直しながらそう問うた。

「誰にも聞いてへん。でも昨夜、みっちゃんと喋ってる矢口、見たから」
「えっ?」

「偶然やけどな、ちょうど通りかかって。話も、ちょこっと聞いた。
でも矢口、みっちゃん追いかけへんかったし、
ひょっとしたら後藤のとこに行くつもりやったんかなって、
ここまで来てからそう思て、それでさっき、電話したんや」

………ああもう、ホントに、適わない、この年上の恋人には。

矢口は内心、自分自身に毒づいて、にっこり微笑む中澤を見上げた。
149 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時54分50秒
「…もし、いなかったら?」
「そらもちろん、後藤シメとったよ」

にや、と笑って、中澤は後藤に振り向いた。

「…よかったなあ、後藤? 後輩思いの優しい先輩がおって」

本当にやりかねない元リーダーに、
後藤と矢口は改めて、逆らわないでいよう、と思った。
150 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時55分58秒

午後を少し回った頃に矢口が来たはずなのに、
矢口と、その矢口を迎えに来た中澤のふたりを送り出すために門扉の前に来た頃には、
太陽も既に沈みかけていて、かなり西日となっていた。

「…ほな、しっかりな」
「うん」

ぽん、と後藤の頭に軽く手を置いて、
口の端を上げているのにイヤミのない、独特な笑顔のまま、
中澤が矢口より先に門扉の外に出る。
151 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時56分32秒
「……月並みなことしか言えないけど、頑張ってね」
「うん、ありがと、やぐっつぁん」

答えて微笑む後藤の声は少し小さかったけれど、
昨日のような覇気のなさは感じられない。

ホッとして、矢口も中澤を真似るように手をのばして後藤の頭を撫でた。

「大丈夫だよ」
「うん、頑張る。諦めたり、しないから」

相手に不快感を与えない程度に柔らかく崩れた笑顔が矢口の胸を鳴らす。
それは、頼りなさげにも見える後輩の、内面の強さを感じられる、笑顔だった。
152 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時57分04秒
「…じゃ、また明日ね」
「うん。ホント、今日はわざわざありがとね」
「やーぐちー、まだかー?」

先に外に出ていた中澤が門扉のすぐ前でタクシーを拾い、
それを足止めしたまま、矢口を待っている。

「今行くー」

慌てて答えて小走りにタクシーのもとへ向かい、
後藤に向き直って手を振ってから矢口が先に乗り込む。

それを追って中澤も振り向き、軽く手を挙げる。
後藤は、それにはただ頷くことだけで応えた。
153 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時57分42秒
ふたりを乗せて走り出したタクシーを見送ってから、
後藤も家の中に入る。

自分には、いや、自分と平家には、
なんて力強くて頼もしい、そして優しい理解者がいるんだろう。

こんなことで終わらせてはいけない。

強い決意を胸に自室へ向かう階段を昇りながら、
それでも、と、後藤は思う。

今日はもう、会えないな、と。

『久々に会うんやもん、時間とか、気にせんと会いたい』

そう言っていた平家の言葉を思い出したからだ。

電話して、会いに行く、と言うのは簡単かも知れないけれど、
彼女のプライベートな時間を削りたくない。
154 名前:stay with me 投稿日:2002年05月31日(金)23時59分55秒
それに、矢口や中澤には諦めないと言ったけれど、
その気持ちに勿論嘘はないけれど、
正直なところ平家に会うのはまだ少し怖くもあったし、
たとえばふたりの間にある結果が『別離』だとしたら
(そんなこと、考えるだけでも胸が痛むけれど)、
ちょっとでも先へ引き延ばしたい、という気持ちもあった。

だから、明日にしよう、と、考えていた。

一晩ゆっくり、もう一度、平家に対する気持ちを、
自分の中で、落ち着いて見つめ返してみよう、と。

勿論、今の気持ちが覆されることは有り得ないとも思いながら。


………数時間後の、本日3度目となる、
突然の来客が誰であるかを、家族から告げられるまでは。
155 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月01日(土)00時42分08秒
更新万歳。すんごいイイ。以上。
156 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月01日(土)03時56分08秒
ねーさん、めちゃくちゃカッコいいvv
157 名前:瑞希 投稿日:2002年06月06日(木)23時52分10秒
>155さん
簡潔で率直な感想、ありがとでっす(/∇\*)

>156さん
ヘタレな姐さんも好きですが、カッコイイ姐さんも大スキなのれす(/∇\*)



さて、本日の更新分で『stay with me』は完結です。
では、どうぞ。
158 名前:stay with me 投稿日:2002年06月06日(木)23時53分02秒



「今日は、いろんなひとがいらっしゃるわねえ」

半ばぼんやりしながらベッドに寝転んでいた後藤は、
受けた母親からの内線電話で、
まさに文字通り、ベッドから飛び起きた。

来客が誰なのかを知らされ、
もつれる足取りで階段を駆け下りて、
どこか晴れ晴れとした顔付きで玄関先にいる、
細い肩の持ち主の、恋しいひとを、見た。
159 名前:stay with me 投稿日:2002年06月06日(木)23時53分57秒
「こんばんは」

何か吹っ切ったように微笑まれて、後藤の胸が、
切なさと愛しさとがごっちゃになって、締め付けられるように痛む。

「どうぞ、上がってくださいな」
「あ、はい、お邪魔します」

「…あっ、あの、部屋、行きましょう?」
「うん」

後藤の声に答えた平家の態度は、今までと何ら変わらない。
でもそれはきっと、家族の前だからだ、と後藤は思っていた。

部屋に通したら、きっと、こんな穏やかな空気は、流れないだろうと。
160 名前:stay with me 投稿日:2002年06月06日(木)23時54分34秒
「しばらく、誰も来ないでね」

先に平家を部屋に行くよう促して、
嬉々としてお茶菓子やらを準備しはじめた母親にクギをさす。

「どーして?」

途端に肩を落とした母親に曖昧な笑顔で返すと、
用意してくれた客向けの菓子を持って、後藤も自室に向かった。
161 名前:stay with me 投稿日:2002年06月06日(木)23時55分31秒

部屋に入ると、平家は幾分くつろいだ様子でベッドに腰掛けていた。

後藤は、心なしか震えている手で、
けれどなんとか平静を装って、持ってきたお茶菓子をテーブルに置いた。

「……つ、つまんないものですけど」

他人行儀な言葉なうえに声まで震えてしまったことに後悔してももう遅くて。

「ごっちん?」

呼ぶ声が、ずしん、と、耳の奥に、重く響く。

わざわざ家に来てくれたのに。

おそらく、友人との貴重な時間を割いてまで、
自分のことを考えて、来てくれたのに。

後藤はまだ、真正面から、平家の顔を見ることが、出来ずにいた。
162 名前:stay with me 投稿日:2002年06月06日(木)23時56分10秒
「……あ、あの、すいません、わざわざ来てもらっちゃって」
「ううん、こっちこそ、急に来てゴメン」

「と…、友達、は?」
「…そのことは、ええから」

顔を見ることが出来ないから、
声だけで様子を推し測るしかなかったけれど、
答えた声は、どこか、曖昧に誤魔化すような響きに聞こえた。
163 名前:stay with me 投稿日:2002年06月06日(木)23時57分29秒
「……ごっちん」

呼ばれるたびに胸が高鳴っていく。

それは、緊張と嬉しさと、そして、怯え。

言われるだろう言葉を、
何度も何度も、頭の中で繰り返しては打ち消してきたのに、
結局はそれに勝てる言葉が、どうしても見つからない。

ベッドに腰掛けている平家の前で、
まるで叱られている子供のように無意識に正座していた後藤は、
平家の足元しか見つめられなかった。

顔を上げて、平家の顔を見るのが、言葉を聞くのが、ただ、怖くて。
164 名前:stay with me 投稿日:2002年06月06日(木)23時58分23秒
「…あの、な」

すう、と、小さく息を吸い込む音が聞こえたあとで発せられた、
とても真剣で、それでいて耳に優しい、愛するひとの声。

けれどその続きは、おそらく後藤にとっては、
一生聞きたくない言葉のはずだ。

聞きたくない。

そう思った次の瞬間、後藤はぎゅっと目を閉じたまま、
幾らか大きな声で、半ば叫ぶように言った。
165 名前:stay with me 投稿日:2002年06月06日(木)23時59分29秒
「…ごめんなさいっ」
「え…?」

顔は上げないまま、更に目も閉じてしまったので、
返ってきた平家の声だけでは、まだ、彼女の様子は判らない。

判らない、ということが、後藤の気持ちをまた少し焦らせた。

「も…、もう、あんなヒドイことしません。
ワガママも言わないし、困らせるようなことも言わない。
だから、だから……」
166 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時00分35秒
好きなんです。
ずっとずっと、一緒にいたいんです。

「……だから、別れるなんて…、言わない、で……」

語尾は、掠れて、ちゃんとした音にはならなかった。

「……許してください、なんて、勝手な言い分だけど、
でも、他のことなら何でもするから、平家さんの言う通りにするから、
だから、別れるなんて言わないで」

あたしに出来ることなら、本当に何だってするから。

だから、その言葉だけは、言わないで………。
167 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時02分10秒
俯きながら、更にはかたく閉じた目と、噛み締めた唇。

「………ホンマに、何でもするか?」

平家の次の言葉の予測など出来なかった後藤は、
その答えに、少なからず肩透かしに似た気持ちを味わった。

何故ならそれは、許してくれる、という意味でもあるからだ。
平家の言う言葉に従えば、聞きたくない言葉を聞かずに済む、と。

しかしそれが、
自分にとっては過酷で辛いものかも知れないと、思い直す。
168 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時03分07秒
「……何でもします」

俯きながら、けれど、力強く答える。

何だって出来る。
平家が望むなら、たとえ、それが何であっても。

「……いろいろ、あるで? それでも?」
「それでも」

あなたが許してくれるなら。
あなたのそばにいることを、許して、くれるなら。
169 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時03分58秒
「…ほな、まず顔見せなさい」

命令口調でありながらも、平家の声は何故か甘く聞こえる。

後藤は、ゆっくりと息を飲み込んでから、
そっとそっと、頭を上げた。

そこに、おそらく、呆れ顔の平家がいると考えながら。

「…へー、け、さん」

恋しくて恋しくてたまらないひとの名前だけが、後藤の口から漏れた。

「なんや?」

後藤が見上げたそこには、
やわらかく微笑んで自分を見ている、平家が、いた。
170 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時04分52秒
「……ごっちん」

呟くように、いや、囁くように呼んで、
平家が腰掛けていたベッドからゆっくり降りてくる。

そして、後藤と正面から向き合って、
正座した膝の上で、
拳を作った状態でぎゅっと強く握り締められている後藤の両手に触れる。

「何でもするって、言うたよな?」
「はい…」
「でも、何もせんでええよ?」
「え?」

意味が判らない、と言いたげに眉尻を下げた後藤に、
平家の口元が、ふっ、とまた少しやわらいだのが判った。
171 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時05分48秒
後藤の手に触れていた平家の手が、
ゆっくりと、愛しいものを包み込むかのように、
今度は後藤の頬に触れてくる。

「何もせんでええ。ごっちんは、ごっちんのままでおって」

頬に触れる平家の手が、思っていたより冷たかった。

けれどその冷たさは逆に、
頬だけでなく全身が火照り始める後藤には、気持ちよくさえ感じられた。

「そのままのごっちんが、好きやよ」
「へー……」
172 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時06分30秒
続きの言葉は、平家の唇によって遮られる。

もう何度となく重ね合わせた唇のはずなのに、
まるで今初めて触れたみたいな新鮮な感動と感触に、
後藤のカラダも知らず知らず震え出す。

「……コドモでもオトナでもない。ごっちんは今のままでええねん。
他の誰でもない、アンタやから、好きなんや」

カラダの震えが次に何を呼び起こすか、後藤は知っている。
173 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時07分15秒
「……やから、あたしのそばに、おって欲しい。
いつまで、なんて、そんなキッチリでなくてええから、
アンタが望むだけ、あたしのそばにおって」

目の奥が、少し、痛い。
それはきっと、堪えているから。

「好きやよ」

もう一度繰り返され、堪えていた糸が切れる。

もう二度と、聞けることなどないと思っていた言葉だった。
174 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時08分12秒
「平家さ…っ」

声が途切れる。
溢れ出した自分の涙を、止めることは、出来なかった。

「平家さん…、平家さん…っ」

もうそれ以外の名前なんて、知らなくてもいい。

このひとが、また、この腕の中に戻ってきてくれるなんて。

握り締めていた手を解き、
感情のままに、後藤は平家に強くしがみ付いた。
175 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時09分25秒
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「…なんで、あやまるん?」

後藤の右頬に、平家の右頬が触れている。
ゆっくりと、髪を撫でられているのも判る。

聞き返してくる声の優しい響きだけが、
後藤の、平家への気持ちをどんどん膨らませていく。

「だって、だって……」

言葉なんて、何も思い浮かばない。

ただ嬉しくて。
ただ、恋しくて。

「……もう…、もう、ダメだって、思ってたんだもん……っ」

答えながら、しがみ着く腕にだけチカラを込める。
176 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時10分22秒
離さない。
離したくない。

力任せに抱きしめてしまえば、
ひょっとしたら、痣になってしまうかも知れないと思えるほど、
細くて華奢な、このひとを。

頼りなさげに微笑むくせに、芯は、とても強い、このひとを。
177 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時11分27秒
「……ダメになったら、どうするつもりやったん?」

自嘲気味の声に、後藤は思わず腕の力を弱めて平家から離れた。

「諦めないよ!」

強い意志が、その瞳の奥に見えた気がした。

「……そ、そりゃ、そんなの、イヤだけど。でも、諦めないから」

答えて、再び平家を抱きしめる。

けれど今度はゆっくりと、
そっとそっと、腕の中に、守るように。
178 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時12分22秒
「…平家さんを想う気持ちは誰にも負けてないつもりだし、
この気持ちごと、諦めないで、頑張る」

後藤の告白を聞きながら、
平家はうっとりと、その声と想いに、幸せを噛み締める。

そして、改めて、強く思う。

自分にとっての『至福』が、いつでも、この腕の中にあることを。

「……じゃあ、ずっとずっと、ごっちんのこと、好きでいさせてな」
「それはあたしの台詞ですよぉ」

ほんの少し上体を離して、互いの額を押し付けあって、
どちらからとなく、唇を寄せ合った。
179 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時13分29秒

「……やっぱり、ひとつだけ、お願いが、あるんやけど」

互いのぬくもりを、匂いを、
互いの肌で感じ合うようにして抱き締め合ったあと、
平家は後藤の髪をやんわりと撫でながら、
ぽつりと呟くように言葉を漏らした。

「なんですか?」

ゴロゴロと喉を鳴らす猫のように、
後藤が自分の頬を平家の肩にすり寄せる。

その甘えた仕草は、平家の胸の奥を、
とてもとてもたくさんの幸せで満たしてくれる。
180 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時14分31秒
「あたしのこと、ずっと、好きで、いてくれる?」

改まって言う言葉ではなかったかも知れない。
けれど、どうしても、聞いておきたかった。
いや、言っておきたかった。

「あ、違う」

きょとん、となっている後藤に、
平家は慌てて自分の言った言葉を訂正した。
181 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時15分29秒
「好きで、いて、欲しい」

それは甘い告白のようでいて、
その反面、相手の自由を奪う言葉だ。

強い執着をも意味する、束縛という、独り善がりな想いでもあり、
そして、想いをがんじがらめにさせる、拘束という、見えない言葉の鎖。

平家は知っている。

その言葉が、後藤にはまだ、表面上の甘さしか伝わらないことを。
そして自分が、その辛さを、背負うのだということも。
182 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時16分35秒
それでいい、と思っている。

伝わらなくていい。
伝えるつもりもない。

先に恋に落ちたのは、後藤かも知れない。
けれど、この愛に溺れたいのは、自分のほう。

そしてそれすらも、甘い、誘惑という名の、至福なのだ。

どれほど多くの痛みも、憂いも、
どれほど多様な切なさも、淋しさも、
胸の奥から訴えかける愛しさと恋しさには、勝てないのだ。
183 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時17分17秒
「………それ、平家さんの、プロポーズだね」

テレたように頬を僅かに染めて、嬉しそうに微笑んで、
後藤は再び平家を抱きしめる。

「好きですよ。ずっとずっと、平家さんのことだけ、好きでいます」

甘い誘惑。
甘い罠。

言葉にすれば不愉快な気分にさえなるのに、
そんなものさえ、今は嬉しく感じる自分がいる。

そんなことさえも、望んでいる、と。
184 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時18分05秒
後藤の腕は、居心地がいい。

後藤の腕の中にいるときだけは、
平家も、自分自身に正直でいられた。

先なんて見えなくていい。
今はただ、自分を抱きしめているこの腕があればいい。

「ずっとずっと、そばにいます」

耳元で聞こえた後藤の声を意識とカラダで感じたとき、
ゆっくりと、頬に唇が触れたのが判った。

「好きです」

何度となく聞かされた告白を聞き届けて、
その唇を自分と同じもので受けるために、平家はそっと、目を閉じた。
185 名前:stay with me 投稿日:2002年06月07日(金)00時18分53秒
――― END ―――
186 名前:瑞希 投稿日:2002年06月07日(金)00時19分45秒

はい、スレたててから2ヶ月たって、やっとこ終了です(^^;)
長々と(ダラダラと、が正しいかなあ…)、お付き合い下さり、
ありがとうございました。
187 名前:瑞希 投稿日:2002年06月07日(金)00時20分25秒
なんだかちょっと意味シンなENDですが、
ワタシにとって、このふたりはまだまだ『END』ではないので、
正直なところ、『Endless』って感じで(爆)

てか、この続き、今書いてますから(笑)
勿論エロ路線の甘々で <氏

ので、また近々、新作が出来次第、戻ってまいります。
それまでしばしお待ちを。
188 名前:瑞希 投稿日:2002年06月07日(金)00時22分11秒
ラスト隠しのために、もういっちょ(笑)

……このスレ、マジで『みちごま』オンリーにしようかしらん(笑)
でも、さすがに王道ほどの需要はないかな(^^;)
……負けないけどね(笑)


では、感想などありましたら、また、よろしくお願いいたします。
189 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月07日(金)01時17分45秒
更新キター!
いいです。是非ともみちごまでエンドレスで。
作者さんは大阪に行かれるのですね。自分は新宿で壊れてきます。
今後も更新楽しみにしております。
190 名前:名無しごまファン 投稿日:2002年06月08日(土)01時32分23秒
待ってましたー!!!!
良かったです、ホントに良かった〜
甘くて切なくて、でもやっぱり甘い瑞希さんのみちごま最高です!!
みちごま需要ないんですか??自分は大好きですが…
てか、瑞希さんの書かれるみちごまが大好きです!!!
是非みちごまオンリースレにしちゃってください(笑
応援してます!!
191 名前:瑞希 投稿日:2002年06月16日(日)02時03分49秒
>189さん
いいんですか? みちごまエンドレスで。
調子に乗っちゃいますよ?(w

>190さん
ありがとうございます。
みちごまって、やっぱ、王道に比べたら需要、少ないと思いますよ。
自分はこのふたりが最高にイチ推しなんですけど…。
……接点、なさすぎるから?(w



ではでは、
インストアイベントで平家さんのナマ歌聴けて上機嫌なので(w
この勢いのまま、仕上がったばかりの甘々な「みちごま」、
いってみましょ〜〜〜!
192 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時04分43秒
「ほな、そろそろ帰るわ」

自分を抱き締める腕をやんわり解いて、
平家は目前のコドモの頬に軽く唇を寄せた。

「えっ、もう?」

言葉とおなじくらい、本当に残念そうに眉尻を下げて、
後藤は縋るように平家の服の袖を掴む。

「だって、明日は仕事、午後からでしょ?」
「…何で知ってんの、アンタ」

思わず苦笑いして、手をのばして髪を撫でる。

「泊まってけばいいじゃないですか」

ぷう、と頬を膨らませた後藤に、
平家も、この年下の恋人に対する自分の甘さを自覚する。
193 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時05分25秒
「…いきなり来て、しかも泊まってくなんて、
さすがにちょっと、非常識やと思わん?」
「でも、きっとおかーさん、平家さんのぶんの晩御飯、作ってるよ?」

言うなり、そばにあった内線電話の受話器を上げる。

「あ、おかーさん? …うん、……あ、やっぱり?」

ふにゃ、と笑って、平家を見る。
とてもとても、嬉しそうに。

それだけで、もう、心臓を鷲掴みされたみたいに、胸が鳴る。

「食べてくよね? もうその気だよ、おかーさん」

あの笑顔での頼みごとを、
断れる人間がいるなら会ってみたい、と平家は思った。
194 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時06分04秒


そして結局、夕飯をご馳走になって………。

「…もう遅いですし、泊まっていかれますよね?」

箸を置いた途端に柔らかな声音で言われて、
平家は手を合わせたまま、思わず顔を上げる。

声と同じくらい柔らかな微笑みは、
娘同様に、断れない雰囲気を持っていた。

縋るように後藤を見ると、
そんな平家の心情にはまるで気付いてない素振りで、
けれど嬉しそうに、とても満足そうに笑っている。
195 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時06分43秒
「…でもあの、きゅ、急ですし……」
「こちらのほうこそ、
いつも娘がそちらにお邪魔してお世話になってますのに」

ここで強く断ってしまうのは容易かも知れないが、
せっかく、自分に持たれている良い心証を失ってしまうのは、
さすがに、今後のことも考えれば避けておきたい。

「……じゃあ、お言葉に甘えて……」

それを聞いた後藤が、
両手を挙げて歓喜の声を出したのは、言うまでもない。

196 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時07分24秒


「へーけさんっ」

一緒に入る、と言われても、
それだけは断固として拒否した入浴後、
まだ髪は少し濡らしたままテレビに向かっていた平家に、
後藤が甘えた声で呼びながら背中から抱きつく。

鎮めたはずの胸に秘めた切なさと愛しさが、
たったそれだけで、また激しく高鳴り始める。

「……ごっちんは、明日、何時からなん?」
「平家さんと一緒、午後から。でも収録だけ」
197 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時08分19秒
「直接入り? 送迎なし?」
「ないよ。おかーさんに送ってもらうつもりだったんだけど、
明日は平家さんと一緒に行く」

にゃは、と嬉しそうに言って、肩越しに平家の頬に唇を寄せる。

「憧れの同伴出勤だよぉ」
「…アホなこと言うてるし」

背中から伝わる愛しい重みに幸せを噛み締めながら、
それでも減らず口で答えてしまう。

勿論、つれなく聞こえるそんな言葉も、
今の後藤には嬉しくてたまらないのだけれど。
198 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時09分19秒
「……ごっちん?」

不意に声が途切れて、
平家に抱きつく後藤の腕の力が強まる。

「どした?」

背中から抱きつき、そのまま肩に額を押し付けられてしまったので、
後藤の表情は、何ひとつ平家には見えない。

けれど、強まる腕の強さが、後藤の心情を伝えてきた。

「……おるよ、ここに」

ぽすぽす、と、あやすように手をのばして頭を撫でる。
199 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時10分16秒
その仕草は、おそらく後藤にとってはコドモ扱いなのだろうけれど、
平家にとっては愛情表現のひとつだ。

この前は伝わらなかったそれも、
今はちゃんと伝わっているという自信がある。

「ちゃんとおるやろ?」

頭を撫でて、その、キレイな髪に指を絡める。

「コラ。…顔上げて、こっち向き」

ちょっと強めの口調で告げると、
恐る恐る、といった感じで、後藤が顔を上げた。
200 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時11分34秒
「……好き」

少し涙目のままでの突然の告白に、思わず平家は目を見開いた。

けれどすぐに小さく笑うと、
態勢を変えて、真正面から後藤を見つめ返す。

「あたしのほうが、ごっちんのこと好きやよ」

平家の告白は、後藤には意外な答えだったらしい。
驚いたように、けれど少し心外そうに唇を尖らせる。

「あ…、あたしのほうが、もっと好きだもん」
「うんにゃ、あたしのほうがもっともっと好き」
「そんなこと……っ」

続けて反論しようとした可愛いその唇を、
平家が先に自分と同じそれで覆って言葉を奪う。
201 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時12分29秒
軽く触れただけの唇が、弾かれたように小さく震えたのが判る。

ゆっくり離れて、平家はそっと微笑んだ。

「……この部屋、鍵、掛かるやんな?」
「え…?」
「ウチのひと、もう寝はったかな」

それに対する答えは聞かないままで、
平家は静かにベッドに腰掛けた。

積極的な平家の行動に、僅かに頬を赤らめた後藤。
その彼女に、平家は微笑みを崩すことなく手を差し延べる。

「……して?」

それに答える代わりに、
後藤は差し出された平家の手を取って、ぎゅっと強く、握り返した。
202 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時13分08秒


ゆっくりと、細いその肩を撫でながらベッドに押し倒す。

唇に触れ、軽く吸い上げて舌先で輪郭を辿ると、
続きをねだるように、平家の腕が後藤の背にまわされてきた。

顎に軽く噛み付いて、唇だけでそこを滑り、
甘くなる吐息が漏れるのをすぐそばで聞く。

見慣れない新しいパジャマを着た愛しいひとの、
僅かに上気する頬の色が後藤の気持ちに拍車をかける。

「平家さん……」

囁いて、顎から喉へと唇を滑り落としていく。

幾らか喉元の開いたパジャマのボタンをすべて外し終えたとき、
肌を守る下着を何も身に付けていないことにやっと気付く。
203 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時13分43秒
「……キレイ」
思わず声が出た。

「…んな、ジロジロ、見んとってよ」
照れ臭さを隠すような拗ねた口ぶりが愛しかった。

湯上がりの火照りがまだ残るのか、
頬とはまた違った朱でうっすらと上気している肌。

ボタンを外したパジャマの合わせをそれぞれの手で左右に広げ、
ゆっくりと唇を滑らせていく。

唇の先から、平家の高鳴る鼓動が伝わるようだった。

ちろりと、舌先できめ細やかなその肌を舐めると、
生暖かなで淫らな、けれどそれとは裏腹なほど愛しい熱に、
ぴくりと平家のカラダが震える。

ちゅ、と僅かに音を鳴らして吸い上げ、朱色の痣を残す。

自分の、しるしを。
204 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時14分24秒
「……ん…」

鼻にかかったような吐息が聞こえてすぐ、
誘われるように後藤は薄く口を開き、平家の胸の尖端をその中へと含んだ。

「あ…っ」

吸い上げて、転がすように舐めて、軽く噛む。

「んんっ」

同じことを数度繰り返しただけで、平家の吐息は艶やかさを増していった。

「や…、あ…、ごっちん……っ」

平家の胸に顔をうずめたままの後藤の頭を、
小刻みに震えた細い腕が堪えきれないと言いたげに抱き締める。
205 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時15分02秒
胸のふくらみの輪郭をまた唇で辿り、
そのままゆっくりと、更に下方へと滑らせる。

けれど、腹を越えた辺りで、次の障害物にぶつかった。

パジャマを掴んでいた手を離して、
平家のカラダのラインに沿うように、その細い腰を両手で撫でる。

「……あ、ぁ…」

ちゃんとした声ではない声が後藤の胸を鳴らす。

膨らむ欲望に逆らわず、
腰を撫でていた手にそっとチカラを込めて、
穿いているパジャマに手をかけようとした、そのとき……。
206 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時15分40秒



〜〜〜♪♪♪



甘い雰囲気を漂わせていた部屋の空気を裂くように、
平家のケータイが不躾に鳴った。

突然鳴ったその音に、弾かれたようにふたりして飛び起きる。

けれど、その着信音が流れるままでも、
平家はすぐに、後藤の首に腕をまわしてベッドに横たわった。

その腕に引かれるようにもう一度平家に覆い被さってはみたものの、
鳴り続けるメロディに後藤の気持ちは削がれてしまう。
207 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時16分15秒
「…いいの?」
「ん…、大丈夫。…アレ、メールの着信」

そう平家が答えた途端、音も途切れた。

「…見ないの?」
「あとでええよ。メールってことは、それほど急ぎでもナイってことや」

優先順位が自分であることに嬉しさが込み上げる。

仄かに赤らむ頬に唇を落とし、
腰に添えられていた手にもう一度チカラを込めた。

……平家の腰が、その後藤の気持ちを察したように、少し、浮いたのが判った。
208 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時16分46秒
ズボンだけでなく、下着も一緒に一気に引き下ろし、
頬に落とした唇でもう一度胸を滑る。

「…あ…っ」

小さく音を起てながら、
一度通った順序を繰り返すように滑り落ちていく後藤の唇に、
平家のカラダの芯の熱がザワつき始めた。

腹の上を滑る髪の感触さえも、欲望に火を灯す。

「…ごっちん……っ」

腰を撫で、ズボンを引き下ろした手が平家の足を撫でる。

ゆっくりと円を描くようにしながら、
その手が内側へと移動してくるのが判る。

けれど、まだ、肝心な場所には触れてこない。
209 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時17分24秒
「…や、…あ……っ」

漏れ聞こえる自分の声が何だかとてもいやらしく聞こえて、
平家は思わず自分の口を覆い隠した。

後藤の手が、ゆっくりと平家の足首を捕まえた。
そしてそのまま、ふくらはぎを撫でて膝の裏側にまわる。

チカラの強さが変わったのを悟ったとき、
平家のもっとも敏感な箇所は、後藤の目の前に晒されていた。

「…いや…っ、ごっち……、ひぁっ!」

幾らか尖ったような、けれど痛みはない舌先の生暖かさが触れる。

ちゅ、と、淫らでいやらしい音が耳に届いても、
聞こえるその音の要因が何なのかを知っていても、
それに勝る快感が平家の思考を襲う。
210 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時18分09秒
「…っ、あ…っ、ん…、ん…っ」

柔らかなくせに挑戦的な感触が平家の秘密の泉のもとを探り当てる。

上の蕾をゆっくりと吸い上げられたあとでそっと差し込まれて、
その感覚に全身を電流が走る。

「あぁ…っ!」

爪先にまで、その熱が、響くようで………。

「や…、あ、ん…っ、ああ…っ」

生暖かな舌の触感は、敏感な箇所には、ひどく熱をもって届く。

その熱はむしろ動物的で、自分自身の性欲と欲望とをいつも顕著に示す。

出来れば、今自分を抱いているこのコドモには知られたくない、
真っ白で無邪気な彼女の腕の中だからこそ、
逆にひどく汚ならしくさえ感じる、その、願望。
211 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時18分56秒
「…や、も…、もう………」

切なげな吐息と一緒に吐き出された声にも構わず、
後藤は舌先だけで平家のそこを掻き乱した。

唇だけでそっと挟み込んでみたり、
あるいは、突き上げるように奥へ差し込んでみたり。

優しさと、もどかしいくらいの小さな意地悪に、
計算されたようなその狡猾な愛撫に、
理性は飛ばされ、本能に溺れてしまいそうになる。

いや、ココロはもう、溺れているのだけれど。

「…く…、んぁ…、あ…、ああっ」

声と一緒にしなった背中が、一瞬ののち、崩れるようにベッドに沈んだ。
212 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時19分42秒


「…ココ、イイの?」

短く問い掛けただけで、返事も聞かずに、
再度、後藤は舌先を沈ませていく。

「ひぁ…っ、や…、やめ…、ごっちん…っ、いや……」

一度は放たれたハズの熱と快感が、
後藤から与えられる喜びにすぐさま舞い戻ってきて平家のカラダを再び弄び始める。

ぴちゃ、と、湿ったような水音が耳に届くたびに、
羞恥と快感とが同時に押し寄せてくる。

「ご…っ、ごっちん…っ、ああ……!」

腰を震わせる平家の指が後藤の髪の中に差し込まれる。
213 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時20分52秒
指に髪を絡ませながら、喉を反らして、
自分自身の声を聞かずに済むようにと、唇を噛む。

「…ん、…んん…っ」

けれど、後藤は既に平家のツボを心得たようで、
舌先でそこに触れ、優しく舐め上げながらも、
ゆるりと手をのばして、そっと、足の付け根を撫でた。

そして、以前、平家本人からは好きだと言われた、
関節の並びが不揃いで骨ばった指を、迷うことなく、そこに沈める。

「んあっ」

思いがけない手と指の動きに、平家も思わず唇を開いた。
214 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時21分28秒
その声を聞いた後藤は、
今度は上体を起こして、平家の顔が見えるように態勢を変える。

けれど、沈めたばかりの指を抜いたりはしない。

僅かに睫を湿らせて何かを堪えるように唇を噛んでいても、
後藤はもう、以前のように、それを見ただけで怯んだりはしない。

堪えている何かが羞恥であることも、
そして、噛み締められた唇が、
その気恥ずかしさからくる取り繕った表面上のポーズであることも、
後藤はもう、知っているから。

まだ沈めたばかり指先を濡らす蜜と、
その指先さえも締め付けようとする感触とが、明白に教えてくれる。
215 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時22分16秒
「平家さん…」

理性の砦を崩しにかかるような、
囁く声の甘さと、疼くカラダの熱。

「…ご…、ごっち…っ」

後藤の気持ちを手繰り寄せるように、
そして、自分自身の気持ちをも再確認するかのように、
カラダを小刻みに震わせながらも、
平家は手をのばして後藤にしがみ付いた。

「……ごっちん…っ」

ぎゅうっ、と強くしがみついて、後藤の首筋に鼻先をつける。
216 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時23分02秒


離さないで。
抱き締めていて。

217 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時23分39秒
言葉にする代わりに、その首筋にそっと噛み付く。

「…平家、さん?」

ほんの少しカラダを揺らせたあとで聞こえた戸惑い気味の声が、
とてつもなく優しい響きで、平家の耳に届いた。

「………好、き…っ」

本当は、そんな言葉だけでは、全然足りないくらいに。

想いを乗せて、恥ずかしそうに自分を見下ろした恋人の唇を塞ぐ。

と、応えるように、深く深く、口付けを返される。

後藤の頭のうしろへのばした手で彼女の髪を掴む。
指に絡め、撫でて、その感触を指に覚えさせる。

もうとっくに覚えているけれど、それでも、と、更に、強く。
218 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時24分16秒
重ねられた唇を少しずらして、呼吸を繰り返す。

もういっそ、このまま息が止まったっていい。
それぐらい、幸せな、腕の中。

「……いいよね?」

何が、と問う前に、後藤の指が、平家を貫いた。

「ああ…っ!」

唇が離れて、声が漏れる。
その声を飲み込むような勢いで、もう一度、同じもので口を塞がれる。

「ん…、んぅっ、…ん…っ」

こもる自分の声が逆にいやらしく聞こえて、羞恥の度合いが増す。

けれど、それに打ち勝つ快感と、至福。
219 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時24分52秒
「んんっ、ん…っ、…ふ、…あんっ!」

自分の中で蠢く、平家のカラダを知り尽くした幼い指。

「…っ、あ…、そ、そんな…っ、ん…っ」

突き上げるように、更に奥へと沈んでくるその指の激しさとは対照的に、
平家の顔中に降らされる優しいキスの嵐。

「…や…っ、も、もう……、…ぃ、く……っ!」

快感に打ち震え、強張っていく過程をすべて自身のカラダで感じ取っていた後藤。
その腕の中で、平家のカラダから、ゆるゆると、その緊張が解けていく。

浅い呼吸が、何度も後藤の腕の中で繰り返される。

その息遣いが幾らか落ち着いた頃、自分を見下ろす心配気な瞳をそこに見つけた。
220 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時25分33秒
「……大丈夫?」

行為後、いつも後藤は、少し不安気にそう尋ねる。

「……うん」

恥ずかしさもあって目線を外しながら答えると、
横たえられていたカラダを引き起こされ、ゆっくりと抱き締められる。

「…ごっちん?」

呼んでも何も言わない相手の肩に、甘えるように、そっと頬を寄せる。

「…何、心配しとるん? 別に、痛いことなんかなかったで?」
「……だって、いっつも、無理強いしてる気がして」

自分を抱き締める腕の頼りなさが、
言葉の度合いを、反比例するように顕著に示していた。
221 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時26分16秒
「アホやな、ごっちん」
「だって……」

もたれた肩から頭を起こして、眉尻を下げて自分を見ている恋人を見る。

「ほんなら、もっとして。もっといっぱい愛して?」
「……平家さん?」

顔を近づけ、少し目を見開いた相手の唇を奪う。

「……あたしのことだけ、愛して」

唇を離してそのまま耳元に滑らせ、そう囁いて、首のうしろに手をまわす。

「…イヤって、言わさへんで?」

思いがけないことを聞いた、
と言いたげな面喰らい顔で平家を見つめた後藤だったけれど、
平家の好きな、柔らかな笑顔で笑ったあと、嬉しそうに、大きく頷いた。
222 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時27分38秒




朝になって、窓から差し込む陽射しに、
思っていたよりも寝坊してしまったことを知らされる。

慌てて起き上がろうとして、
すぐ隣の無邪気な寝顔にその気持ちが失われた。

満足そうな寝顔は、平家の気持ちをいとも簡単に安らぎに変える。

ちょん、と指先で頬を突付くと、僅かに眉間にしわが寄せられた。

「…ん…、…へーけ、さん……」

寝言で自分の名前を聞くことほど、
恥ずかしくて、けれど、嬉しいくてたまらないことはない、と思う。
223 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時28分22秒
昂ぶる気持ちが、
平家に、後藤の頬へキスを落とす、という行動を起こさせる。

「……真希ちゃーん、朝ですよー」

普段から滅多に呼ばないファーストネームで呼ぶと、
その呼び方が彼女の覚醒のキーワードなのか、
あまり大きな声ではなかったのに、ゆるりと、瞼が持ち上がった。

「…にゃ? 平家さん…? ……あ、そっか」

目を開けたらそこにいた愛しいひとに、
覚醒直後はさすがに困惑した様子を見せたけれど、
すぐに状況を把握して、ほわん、と微笑む。
224 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時28分53秒
「昨日、泊まったんだっけ」

テレくさそうに呟いて、ますます嬉しそうに笑う。

「……毎朝こうだといいのになあ」
「何が?」
「毎朝、目が覚めたら、平家さんがいるの。
あたしの目の前に平家さんがいて、あたしを起こしてくれるの」

うっとりした声で言いながら、
また夢の世界へ戻るみたいに瞼を伏せてしまった後藤に平家は苦笑する。

「…こら。夢から帰っておいで。そろそろ支度せんと、遅れるで?」

軽く戒めるような口調で言って、平家が先に起き上がる。
225 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時29分24秒
「んー。…あ、そうだ。平家さんの着替えだ。取ってきますね」

言うなり起き上がり、
ベッドを降りて部屋を出て行った後藤の残像をドアに見る。

借り物の真新しいパジャマを着てはいるけれど、
さすがにこの格好では部屋から出られそうにない。

いくら面識があると言っても、ここはいわゆる、他人の家なのだから。

それを言う前に悟ってくれたことが、正直嬉しかった。
226 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時29分57秒
数分後、キレイに折りたたまれた平家の着替えを手にして後藤が戻ってくる。

「…ゴハンとか、どーします?」

「あ、ゴメン、悪いけど、いっぺんウチに戻ってもえーかな?
今日持ってくもんとか、全然持って来てないねん」

渡された自分の服に着替えながら言うと、
後藤の顔がほんの少しだけ、朱に染まった。

「? なに? あたし、何かヘンなこと言うた?」
「……ううん、嬉しくて」
「は?」

「だって、昨日は友達と会ってたんでしょ?
でも、一旦帰ってからじゃなくて、
友達と別れたあと、そのままウチに来たってことでしょ?」
「そぉ、やけど……。 けど、何でそれが嬉しいん?」
227 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時30分36秒
「それって、少しでも早くあたしに会いたかったってことじゃないですか」

判りやすい言葉にされて、平家の顔が一瞬で真っ赤になる。

「……恥ずかしいこと、サラッと言わんとってよ」

ぺし、と後藤の肩を軽く叩いてから着替えの手を進める。

「恥ずかしくないですよぉ。大事なことじゃないですかぁ」
「うーるーさーい。…アンタもとっとと支度しなさい」

今度は腰を撫でてきた後藤の手をぱちん、と叩いて、
人差し指でその額を押し返す。

「ぶー」

声にもして唇を尖らせた後藤に、着替えを済ませた平家は軽く口の端を上げた。

「……同伴出勤、したいんとちゃうの? 放ってくで」

その言葉のあと、後藤も慌てて支度を始めた。
228 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時31分11秒


とりあえずの支度を済ませて階下に向かうと、
後藤の母親が既にタクシーを手配してくれていた。

「わざわざすいません」
「いえいえ。また、いらしてね?」
「はい、ありがとうございます。
昨夜は突然お邪魔して、すいませんでした。失礼します」

ぺこり、と、深々と頭を下げて、玄関先で待っている後藤を追う。

タクシーに乗り込んで、自宅マンションの近くの住所を告げて、
シートに深く背を預ける。

隣にいる後藤は、やはりまだ少し眠そうだ。
229 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時31分47秒
「……着くまで寝ててええよ。起こしたるし」
「…うん」

答えて、ゆっくり、瞼を伏せる。

それを見て思わず口元を綻ばせたとき、
鞄に詰め込んだケータイがメール着信のメロディを奏でた。

忙しい勤労学生の恋人の、
貴重な睡眠を妨げたくなくて慌ててそれをバイブモードに切り替えたけれど、
後藤はその音に少なからず安眠を妨害されたようだ。

「……そーいえば、昨日のメール、誰でした?」

シートに凭れ、目は閉じながらもそれは後藤の思考に引っ掛かったらしい。

後藤の言葉の差すものを平家も思い出し、
受信ボックスを開こうとして、同時に昨夜のことも思い出す。
230 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時32分33秒
頬が熱くなって、軽く手のひらを顔の前で振って風を送りつつ、
今来たメールを先に読み出す。

それはマネージャーからで、
今日の予定は何の変更もないので遅れないように、とだけ書かれていた。

それから昨夜のメールを見て、その送信者に少なからず心音が跳ねた。

「……平家さん?」

返事が返ってこないことを訝しんだ後藤が、
今にもくっつきそうな下瞼と上瞼とを必死にこじあけて平家を見つめる。

「…うん、昨日会うてた友達」

答えると、うん、と頷いて、また目を閉じた。
231 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時33分05秒
昨夜受信したまま、放っておいた友人のメール。

そこには、
『ヒドイこと言うてごめん。ごっちんと仲良ぅな』
とだけ、書かれていた。

口は悪いけれど、決して、彼女自身は悪人ではない。

彼女は彼女なりに自分を心配して、
そして、彼女なりの誠意でもって、平家を助けたいと思ってくれたのだ。

「……損なヤツ」

後藤には聞こえないくらいの声で呟いてから、ケータイを再び鞄の中へ落とす。

今更返信するのも憚られたし、
何より、相手もそれを望んではいないだろう。
232 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時33分46秒
そっと盗み見るように、自分の右隣に座っている後藤を見た。

目を閉じて、心地好さげに車の揺れに揺られている年下の恋人の、
穏やかそうな、憎めない横顔に安らぎを感じる。

平家は左腕で窓に頬杖をつきながら、右手を後藤の手にのばした。

触れて、びくり、と後藤がカラダを揺らせたのを感じ取ってから、
顔ごと窓の外に向ける。

そして、運転手には気付かれないように、
触れたその手をそっと握り締めた。

顔を背けているせいで後藤の表情は判らないけれど、
少し頬を染めて、そっぽを向いている自分の横顔を見つめているのは判る。
233 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時34分24秒
ゆっくり視線を後藤に向けて、
そこに思った通りの嬉しそうな笑顔を見つけて、
平家の胸の奥も、じんわりと、あたたかくなる。

「…寝とってええよ。なんなら肩も貸したるし」

幾らか口元を綻ばせて告げると、
後藤は小さく頷いて、平家の肩に頭を預けてきた。
勿論、平家からのばされた手は、繋いだままで。

肩に感じる幸せな重みに胸が鳴る。

繋いだ手に少しだけチカラを込めると、
応えるように、後藤も握り返してくる。

手のひらへと伝わってくるその熱が、ただ愛しかった。
234 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時35分42秒


―――離さんとってな。
―――離しませんよ。


言葉にしなくても、声にしなくても、伝わるその想い。

気付いてよかった。
キミが、何より大事だということを。

気付けてよかった。
キミ以上に大事なひとなんていないことを。


そして、繋いだ手は、いつまでも………。
235 名前:いつも いつでも いつまでも 投稿日:2002年06月16日(日)02時36分12秒

――― END ―――

236 名前:瑞希 投稿日:2002年06月16日(日)02時39分03秒
はい、予告していた、
『stay with me』の、続きのエロ路線の甘いふたりでした(w

いやあ、久々に楽しかったわ〜(/∇\*)
サクサク書けたわ(w
237 名前:瑞希 投稿日:2002年06月16日(日)02時45分46秒
さてさて、次回はちょこっと、お時間をいただきとうございます。

というか、この板だけでなく、金も雪も、しばらく更新は出来なくなりそうです。
(特に金板のほうは……(^^;))

放棄や放置するつもりは毛頭ないのですが、
ちょうどどの板もキリがいいので(金板はかなりお待たせしてますが…)、
しばらくの間、ちょこっと、こもってこようと思います(w <どこにだよ!

また、ストックできたらすぐ戻ってきますんで、
ワタシの、こんな駄文でも楽しみにしてくださってる方がもしいらっしゃいましたら、
お待ちいただけたらな、と思います…、ってか、願います。


ではでは。
238 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)04時20分54秒
みちごまが上手く纏ってホントに良かったはあとはあと
みちごまも好きですが、やぐちゅーも好きな自分としては、
この話の中澤視点が読みたいです。
(モチロン、後藤家から去った後の2人の会話等々も込みで)
239 名前:しーちゃん 投稿日:2002年06月17日(月)11時53分30秒
みちごまイイ!最高ッス!!
良い作品を読ませて頂いてありがとうございました
240 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月06日(土)01時51分37秒
作者さんお腹減ったあ。
みちごま食べたーい。
241 名前:瑞希 投稿日:2002年07月07日(日)20時42分17秒
>>238さん
書きたいモノしか書けない宣言をした、ある意味怖いもの知らずな私にリクがきた…。
かなりチャレンジャーですね(w
んー、うん、書ければ、どっかで披露するかも、です。<どこだよ

>>239:しーちゃんさん
ありがとうございます。
まだまだ頑張りますよぉ(w

>>240さん
さて、今回の更新で、果たしておなかイパーイになるかなあ(^^;)


ではでは、今朝仕上がったばかりの新作です。
おヒマつぶしになればいいな。
242 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時44分03秒
「平家さぁん?」

上がり調子の語尾に、
ハートマークがつきそうなくらいの甘えた声色で呼ばれ、
平家はゆっくり振り向いた。

振り向く前から呼んだ相手が判っていたので、
表情には嬉しさも愛しさも込められている。

「うん?」

何でもないように返事しながらも、振り向いた先にいる年下の恋人の、
ふわっ、とした笑顔に口元が綻ぶのは隠せない。
243 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時44分56秒
「どしたん? 入っておいで」

楽屋の扉を開けたのに、
中には入って来ないで頭だけを出して部屋の中を見る相手に、
平家はにっこり微笑んで手招いた。

なのに、嬉しそうに入ってくると思われた恋人は、
何故だか少し困ったように、けれど幾らか頬を染めながら、
扉の前で突っ立ったまま、中には入ってこない。

「…ごっちん?」

呼ばれて、ハッとしたように少し肩を揺らして、
後藤は恥ずかしそうにちょっと目線を落としながら、
急いでドアを閉めて平家のもとへと駆け寄ってきた。

すとん、と、平家の座る椅子の横にある椅子に座って、
首を傾げている平家を見て、ふにゃ、と笑う。
244 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時46分03秒
「…久しぶりですね」
「うん」

頷いた途端、なんだか胸のあたりが、きゅうっ、と締め付けられたような気がした。

なんだかんだとお互い忙しくて、
前回こうして向かい合ったのは、もう1週間も前になる。

電話やメールはほとんど毎日しているけれど、
それでもやっぱり、実際に本人を目の前にすると、
嬉しくてたまらない自分に気付かされる。

「『ハロモニ。』自体、久々やからな、なんか、ちょっとテレるわ」

指先で自分の鼻のアタマを撫でながら、
平家は少し、目のやり場に困っていた。
245 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時47分39秒
今日は久々の『ハロモニ。』出演。
しかも、歌だけではなくコントのほうにも出ることになって。

自分の役柄は前回のとおり、バス停前にある病院の女医。
そしてそして、今回は、実際には直接絡まないけれど、
後藤演じる美少年、綾小路文麿が、
平家女医の勤める病院に入院しているという設定だ。
(入院理由は、どうにも情けないが)

このコントが始まってからというもの、
後藤の男装に平家はいつも以上にドキドキしてしまって、
収録中の後藤と擦れ違うことは、出来る限り避けていた。
246 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時48分37秒
自分でもバカみたいだとは思ってはいるけれど、
なんだか妙に、けれどしっくりハマっている後藤が、
平家のよく知る『後藤真希』ではないようにも思えて、
なのに、あまりにも似合いすぎて、ずっと見ていたいとも思ったりして……。

小さいけれど、平家には、ちょっとした悩みのタネでもあったのだ。

そして今、平家の目の前にいる後藤はいつもの学生服ではなく、
ブルーの半袖のパジャマを着ている。
入院している、という設定なので、パジャマなのは当然なのだけれど。
247 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時49分43秒
男装して、それが似合うからと言っても、結局はまだ高校生の少女の体型。

けれど、自分よりはるかに肉感的な艶のある彼女の、
幾らか胸元の開いたパジャマから覗く素肌に、
どうしても目が吸い寄せられるように向いてしまう。

―――…こんなん、ただのエロオヤジと一緒やんか、もー。

心のなかだけで毒づいて、
平静を装いつつ、平家はにっこり微笑んで見せる。

すると後藤は、急に頬を朱に染めて、
もじもじしながら上目遣いに平家を見つめてきた。
248 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時51分03秒
「…あのぉ」
「うん?」

何となく、いろんな意味を含んだおねだりをされそうな雰囲気に気付き、
平家もつられたように頬を赤くした。

「……なんや?」

聞くより早く、後藤の手が平家の着ている薄いピンクの白衣にのびてきた。

「えっ、え? ちょっ、ごっちん?」

白衣の胸元辺りを掴んで左右に広げる。
そしてそのまま椅子から立った、というより降りた後藤が平家の前に跪いた。
249 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時52分33秒
白衣の中は私服に程近い衣装を着ていた平家が穿いているタイトスカート。
その短さ故に覗く膝に、後藤はゆっくりと唇を近づける。

「…ごっちん……?」

不安気な、けれど甘くも聞こえる吐息混じりの声に後藤の胸の奥が震えた。

「……今日の平家さん、いつもよりずっとセクシーなんだもん」

髪をうしろでひとつに束ねている後藤の嬉しそうな表情が見えた。

いつもなら、キレイでサラサラな長い髪に隠されて見えないその顔に、
平家の鼓動も自然と跳ね上がる。
250 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時53分53秒
「…シチュエーションも、なんか、いやらしいよね?」

もう一度、膝頭に唇を押し付け、ちらりと見上げてくる。

可愛いくせに少し意地悪な、
けれど、打算や悪意は微塵もない、素直な子悪魔。

「…やらしいな」

口の端を上げ、指先を後藤の髪の中へと差し込みながら告げると、
後藤が満足そうに小さく微笑む。

「……でも、こんなトコで、せんといてや?」

軽く戒めると、後藤の頬がぷうっ、と膨らんだ。

「判ってますよぉ。あたしだって、いくらなんでもそこまでしません」
251 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時55分24秒
拗ねた口振りが可愛くて、平家の口元も自然と綻ぶ。
そして、浮かんだ言葉をそのまま声にしてみた。

「「…ホントはしたいけど」」

後藤の声と平家の声が綺麗に重なり、
平家は後藤の判りやすい心情に、
後藤は平家に読まれた子供じみた欲望に、
それぞれの複雑な、けれど幸せな感情に笑ってしまった。

「平家さんのイジワル」
「そんなことナイよ」

きゅ、と後藤の鼻をつまんでから、唇を尖らせた恋人の髪を撫でる。
252 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時56分57秒
「…ごっちん、ちょっと立って」

平家の前に跪いていた後藤が、言われるままに立ち上がる。
それに倣うように平家も立ち上がって、自分が座っていた椅子を指差した。

「ここ座り」

逆らうことなく腰を降ろした後藤。
その彼女の膝に、平家がゆっくり腰をおろした。

「えっ、平家さん?」

突然のその態勢に面喰ったのは後藤自身。
平家は、といえば、驚いて頬を染める後藤に満足気である。
253 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時58分04秒
「…重くない?」
「ぜっ、全然っ!」

答えた後藤の腕が平家の腰にまわる。
態勢が横向きなので後藤の腕の中にあっさり抱き込まれたけれど、
少し上体を後藤のほうへ捻って、平家は彼女の肩に手を置いた。

「ごっちん」

呼ぶと、頬をいくらか朱に染めながら見上げられる。

期待して待っている年下の恋人の唇に、
平家は応えるようにそっと唇を寄せた。

軽く触れただけですぐに離れようとしたけれど、
名残り惜しそうに追いかけてくるそれに逆らわず、
深く、押し付けるように重ねた。
254 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)20時58分47秒
ちゅ、と音を起てて離れたら、
後藤の頬はますます朱に染まっていた。

「……今日の平家さん、大胆」
「そぉか?」
「そんなふうに誘われたら、止められなくなっちゃうよ?」
「止めんでええよ」

思った言葉をそのまま口にしたけれど、
後藤はますます拗ねたように唇を尖らせた。

「…ずるい。するなって言ったのに」

遮るように尖った唇に再度同じものを重ね、
ゆっくり離れてから鼻筋を滑る。

瞼にも額にも触れて、顳に押し当てた。
255 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時00分13秒
「…うん、ココではせんとって」

耳元に程近い場所で囁くと、後藤のカラダが震えたのが伝わった。

「……じゃあ、今日、平家さんの部屋に行っていい?」
「アカン言うたら、けぇへんの?」
「ううん、行く」

即答に、思わず平家の口元が綻ぶ。

「…うん」

もう一度顳に口付けたとき、
腰にまわされていた後藤の手にもチカラが入った。

「…そっちじゃなくて、こっちにしてください」

ちょい、と顎を上げて唇を突き出してきた後藤に、
平家は笑いながら頷いた。
256 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時01分27秒
「…ええよ」

ほんの少し顔を傾けて、
両手で後藤の顔を挟むようにしながら顔を近づける。

知らないうちに、…いや、
そうだと意識しないくらい、当たり前のようにそばにいたせいで、
いつのまにかかなり伸びていた平家の髪の先が後藤の首筋をくすぐる。

慣れない感触に少し身を捩らせた後藤だったけれど、
それでも平家の腰を抱く手のチカラは弱めなかった。

しかし、互いの唇がそれと感じ取ったその瞬間、
楽屋の扉を、申し訳なさそうにも聞こえる弱めのノックが叩いた。
257 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時02分47秒
思わず身を起こしたふたりだったけれど、
腕はどうしてか、離れてしまうことを拒むように、
お互いのカラダに巻き付くようにして、まわされている。

「…あのぉ、石川です、けどぉ」

鼻にかかった彼女特有の甘い声に驚きながらも、
平家はゆっくり後藤から離れて立ち上がった。

勿論、名残惜しげに。

後藤もつまらなさそうに唇を尖らせはしたけれど、
キスや抱擁の余韻は、
1週間分の寂しさをほんの少しだったけれどやわらげてくれたので、
強くは逆らわず、腰にまわした手のチカラを緩めた。
258 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時04分00秒
「なんや? 入っておいで」

後藤から完全に離れ、それでも手の届く範囲の位置に立ちながら、
平家はドアに向かって告げた。

そろりそろりと開かれたドアから、石川がひょっこりと頭だけを覗かせる。

「あっ、ごっちん、ホントにここにいた」
「え?」
「探してたんだよぉ。そろそろ出番だって」
「え? もう?」

平家も同じことを思って、
ふたり一緒に柱に掛けられている時計を見上げると、
確かに、収録開始予定時間は迫っていた。
259 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時04分53秒
「…判った、すぐ行くから、梨華ちゃん、先行ってて」
「ダメだよ、連れてこいって、中澤さんに言われたの」

つまらなさげに唇を尖らせて言ったけれど、
続けて出てきた名前には平家も眉をしかめた。

「裕ちゃん?」

平家と後藤の脳裏に、
ニヤニヤ笑って自分たちを見下ろす中澤の顔が浮かんだ。

―――…お見通しってヤツですか、姐さん?

溜め息をひとつ吐き出して、平家は後藤の腕を掴んで椅子から立たせた。

「…大丈夫、すぐ行かせるから、ちょっと外で待ってて」

平家が微笑みながら告げると、小さく頷いて石川がドアを閉める。
260 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時06分00秒
「…平家さん?」
「しー」

首を傾げた後藤の耳元に囁き、
幾つか並ぶピアスに唇を押し付ける。

それに気付いた後藤がほんの少し肩を揺らして、
けれど悟ったように平家の腰に腕をまわす。

「……平家さん」

自分を呼ぶ恋人の甘い声に溺れそうになりながらも、
平家もそっと後藤の背に腕をまわす。

「…早いトコ終わらせて、今日は一緒に帰ろ?」
「うん。もっとゆっくりイチャイチャしたい」
「…うん。早く、1週間分、キスしてほしい」
261 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時06分53秒
思いがけない言葉に後藤のほうが恥ずかしくなったけれど、
抱き締めるチカラをちょっとだけ強め、
顎を引き気味にしながら平家を見つめた。

「今、しちゃダメ?」
「……ダメやないけど、石川、待ってるしな」

答えた平家が、掠め取るように後藤の唇を塞ぐ。

「……ずるーい」

何だか誤魔化されたような気分になって唇を尖らせた後藤に、
満足気に平家が微笑む。
262 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時07分44秒
「…こんなあたし、キライやないやろ?」

微笑みに悪戯っぽい雰囲気が読み取れて、
それに適わない自分に悔しさもあったりするけれど。

「うん、大好き」

答えて、頬に唇を押し付けた。

「じゃあ、またあとでね」
「うん、あとでな」

頭を撫でた平家の手にも唇を押し付けてから、
後藤は楽屋を出て行った。
263 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時08分33秒
甘い匂いが残る室内に残されて、
奇妙なくらい、後藤が現れるまでは重かった空気が、
今はもう、完全に払拭されている。

恋人との逢瀬を邪魔した彼女には、少なからず腹立ちもあるが。
264 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時09分16秒
「…まあ、えっか」

恋人と会っていると、時間を忘れてしまうなんてことはよくあるから、
遅刻して、周囲に迷惑が及ばないようにと、
おそらく、それを気遣ってもくれたのだろうし。

それに、石川が現れなければ、
今でも後藤の膝の上で彼女に甘えていたとも思えるし。

「……結構、重症やねんなあ」

後藤の腕や声、匂いに包まれる自分が意外と好きだ、なんてことに気付くたび、
それを自覚して、逆に幸せを噛み締めてみたり。

自分自身の気持ちの強さに戸惑いつつも、
後藤といるときの空気は、何よりも居心地がいいから。
265 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時09分58秒
後藤の姿や声を思い浮かべて、
ひとりで顔を赤くした平家が鼻の頭を指先で撫でたとき、
楽屋をノックする若いADの声がした。

「平家さん、そろそろスタンバイ、お願いします」

「あ、はーい、すぐ行きますー」

軽快に答えて、平家はもう一度息を吐き出し、
後藤との甘い夜を思って頬を染め、
それに自己嫌悪しながら、楽屋をあとにした。
266 名前:かわいいひと 投稿日:2002年07月07日(日)21時10分43秒
―――END―――
267 名前:瑞希 投稿日:2002年07月07日(日)21時15分13秒
はい、「かわいいひと」終了でーす。

いつもいつも、書いてる自分だけが楽しい駄作で申し訳ないです。
が、ちょこっとでも、楽しんでいただけたのなら、嬉しいなー。

んもう、ホンキでこのスレ、「みちごま」オンリーにしますんで(笑)。

しかーし、次回作は未定でございます(爆)

てか、夏の間はちょこっと更新速度が遅くなりますです。
いろいろ諸事情もありまして(^^;)

ではでは。
また新作が出来たら、すーぐ戻ってきます(w
ので、のんびり、マターリ、お待ち下さい。

感想などありましたら、またよろしくです。
268 名前:世捨て人 投稿日:2002年07月07日(日)22時26分30秒
今回はじめてレスします、前から読んでいたんですけどやっぱり自分
みちごま好きです。
自分みちごまが大好きなんでぜひ続けて欲しいです。
269 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月08日(月)14時16分58秒
いちごまオンリースレになるんですね(w
楽しみにしります。
金板の救済編も密かに首を長く待っています(w
270 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月08日(月)22時57分33秒
素晴らしい。本当にありがとう。
このみちごま不足の飢饉を生き延びることができそうです。
更新もまたーりお待ちしております。
271 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)01時26分59秒
>269
みちごま、みちごま(w
272 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)23時18分39秒
 ICHIGOMAに
MAKIとMICHIYOのMをつければ
MICHIGOMA

嗚呼、みちごまキボンヌ。
273 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月14日(日)21時44分25秒
やっぱりみちごまはいいなぁ・・・。
この2人は甘甘が最高に似合いますね
274 名前:瑞希 投稿日:2002年07月18日(木)23時23分46秒
>>268:世捨て人さん
初レス、ありがとうございます。
お言葉に甘えて、続けさせていただきますデス(^−^)

>>269さん
>いちごまオンリースレ…
う、打ち間違いですよね?(^^;)
金板も、ぼちぼち、マターリ、頑張りますデス。

>>270さん
>みちごま不足の飢饉…
私なんぞの駄文で生き延びてもらえるなんて……(°Å)
よし、他にもいる(いるんか?)みちごまに飢えている人たちのためにも、
マターリいきましょう!<マターリかよ!(w

>>271さん
訂正、ありがとうございますm(_ _)m

>>272さん
おおっ、そういう見解でくるとは、面白いですねえ……φ(。 。 )メモメモ
はい、このスレは「みちごま」オンリーですよん♪

>>273さん
私も甘〜い「みちごま」が大好きなんで、ホントはいっぱい書きたいんですけど、
どーしても、痛い感じのほうが書きやすくて……。
まだまだってコトですね。頑張ります!
275 名前:瑞希 投稿日:2002年07月18日(木)23時24分47秒
さて、「みちごま」新作は、かなり作者の趣味に走ってしまいました。<何
更に! またしても見切り発進でーす♪ <嬉しそうに威張るな!
つまり、また連載になっちゃうってコトなんですが、
週イチ更新を目指しますんで(でも金板もあるんで、ホント、マターリになると思いますが)、
おバカな内容ではありますが、よければ、お付き合い下さい。


ではでは、
『そのままのキミが好き』、スタートでっす。
276 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時26分08秒
朝起きたらベッドに見知らぬひとがいた、なんていうのは、
ドラマや小説によくある話だけれど、
昨夜確かに恋人と一緒にベッドに入ったのに、
目覚めたらその姿がない、というのは、どういうことだろう。

先に目が覚めて、帰ってしまった、とは、考えられない。

何故なら相手はかなりの寝ぼすけ大王であるし、
現在時刻は午前5時という、
いくらなんでも、目が覚めたから帰る、と言える時間ではなかったからだ。

もうひとつ疑問なのは、確かに昨夜寝る前に相手が着ていたパジャマが、
ベッドの中に残されていることだ。
277 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時26分51秒
「……ごっちん?」

思わず呼んで、そのベッドの主、平家はベッドから起き上がった。

まさか、素っ裸でベッドから出て、
シャワーでも浴びているというのだろうか。

恋人の性格を考えたらそれも有り得なくはないので、
密かに期待しつつベッドを降りようとしたとき、
その足首に、何かが転がるように落ちてきた。

「? …なんや?」

小さな小さな、手に掴めるくらいのそれに手をのばしかけて、
平家はまさに文字通り、凍り付いた。
278 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時27分36秒
人形かと思ったそれが、平家の手が触れる直前、
もそもそと動き出したのだ。

「ひ…っ?」

思わず腰が抜けてベッドに座り込むと、
その小さな物体は、覚醒を示すようにますます動きを活発にした。

そして、静かだったからこそ聞こえたくらいの小さな小さな声で、
平家が聞き慣れた、あの、甘ったるい心地好い声で、言ったのだ。

「…おはよー、平家さん」

まだまだ寝足りないと言いたげな、半覚醒の、あの声で。
279 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時28分15秒
「う、うわぁぁぁぁっ、ごっ、ごっちん? ごっちんなんか?」

折畳式のケータイぐらいのサイズになっている恋人に、
平家は手をのばしながら叫んだ。

平家の叫び声は、ミニチュアサイズになってしまった後藤には轟音のようで、
絵的に表現するなら、声に吹き飛ばされる、といった感じだろうか。

「…あ」

うろたえる平家とは対照的に、
後藤は自分の状態と平家を交互に見て、困ったように眉尻を下げた。

「……縮んじゃった」
280 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時28分46秒
「なっ、なに呑気にそんなこと言うてんねんっ? なんやねん、コレはっ!」

あわてふためきながらも、
両手にそっと後藤を乗せて、顔の前まで近づける。

「…うわあ、平家さんのどアップだあ」

平家の手のひらで四つん這いになりながら、
ほんのり頬を染めて呟いた恋人に平家も脱力する。

「…なんでアンタ、そんな呑気やの?」
「………だって、こーゆーの、初めてじゃないから」
「ええっ?」

平家の声に、後藤が耳を塞ぐ。

「平家さん、声、おっきいよぅ」
281 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時30分04秒
「す、すまん。けど、びっくりしてんねんから、おっきくもなるっちゅーねん。
なんやねん、初めてやないって? 病気か? 新種のウイルスか何かか?」

「………わかんない」

拗ねたような口振りで言って、後藤はぷう、と頬を膨らませた。

そんな後藤の可愛さに、
心ならずも胸をときめかせた自分を叱咤しつつ、平静を装って聞き返す。

「わからんって、初めてやないんやろ?」
「初めてじゃないけど、理由はわかんないよ。このサイズにまでなったのは初めてだし」

そこまで言って、後藤は頬を赤くしながら平家を見上げた。

「それより平家さん。ハンカチか何かない? このままじゃ、恥ずかしいよ」
282 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時31分00秒
手のひらの上でしゃがみこんだ後藤が何も着ていないことにようやく気付き、
平家は慌てて後藤をベッドに置いて、タンスの引出しから紺色のハンカチを取り出した。

「ありがとー」

受け取ったハンカチを広げ、自分のサイズに合わせて折りたたみ、
腋の下からカラダに巻き付ける。

「……すぐ、戻るん?」
「うん、たぶん」
「たぶんって……」
「前はね、中学に上がる前の春休みだったの。
でも、サイズはこんなにちっちゃくなかったなー」
283 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時32分30秒
「か、家族は知ってはんの?」
「ううん。前はあたしだけひとりで留守番してるときだったの。
でもそのときは半日で元に戻ったんだよ。
だから、あんまり気にしなくてもいいよ。すぐ戻るよ」

事態を重く見るのは、平家自身が常識人だから、というのもある。
けれど、いくら世界は広いと言っても、
まさかカラダのサイズが10分の1以上も縮んでしまう現象なんて聞いたことがない。

「……前は、どれくらい縮んだん?」
「んーーーと、普通の赤ちゃんくらいはあったと思う」
「何もせんと戻ったんか?」

あまりにものんびりした後藤に、平家のほうは苛立ちを隠せなかったけれど、
状況の把握はしておいたほうがいいと考え、疑問は出来る限り解決しようと試みた。
284 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時34分42秒
「何もしなかったわけじゃないよ。すんごいびっくりしたんだよ。
でも病院なんてひとりで行けないじゃん、何されるかわかんないし。
だからずーっと家でおかーさんが帰って来るの待ってて、
そしたら、気付いたら寝ちゃってて、起きたら戻ってた」

それは、つまり、何もしなかったということでは……?

「……おかーさんには言うたん?」
「言ったよー。でも信じてくれなかった」

そりゃそうだろう、目の前にしている平家自身でさえ、まだ信じられないくらいなのに。

それにしても、いくら中学進級前の子供だったとは言え、
もう少し驚いたり焦ったり、もっと言えば泣いたり、なんてことはなかったんだろうか。
285 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時35分35秒
気付いたら寝てて、起きたら戻ってた、なんて、
聞かされた側にしてみれば夢だと思って当然だ。

後藤の母親も、きっと夢を見たと思ったに違いない。
平家にしても、同じ状況だったらきっと相手になんてしなかった。

けれど、そうではないのだ。

現実に、今、平家の目の前で、
恋人である後藤真希が、手のひらサイズに縮んでいるのだ。

夢なら一刻も早く覚めて欲しい。

そう思っても、それを誰も責めることは出来ないだろう。
286 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時36分10秒
「…平家さん」
「あっ、ゴメン、なんや?」

心細げな声に気付き、
ぼんやり考え事をしていた平家は慌てながら後藤を見た。

のんびりそうに構えているけれど、
実際の彼女が、のほほんとした外見とはまるで違った人間であることは、
恋人である平家自身がよく知っている。

自分だってパニック寸前だけれど、当人はもっと不安なのかも知れない。

そう思いながら、ベッドに立っている後藤に、
カラダを屈ませながら目線を合わせた。
287 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月18日(木)23時38分18秒
「どーした?」

「……おなかすいた」

腹のあたりを撫でさすりながら訴えたミニチュアサイズの恋人に、
平家は脱力して、ばふっ、とベッドに顔を埋めた。

………前言撤回。
やっぱり大物ですわ。
288 名前:ぴとむくん 投稿日:2002年07月18日(木)23時55分11秒
>瑞希さん
ドキドキドキ・・・初レスですぅーーー(爆)
ずっとレスしようかと思ってたんだけど、勇気でなくって・・(なんの?)
んで、この度みちごまスタートっつうことで!!!
はぁ〜(/∇\*) 今回もイイねぇーーーーーー
ミニマムごっちん欲すぃーーーーてか、ごっちんになりたひ・・・(爆)
更新、すっごい大変やけどマタ−リ頑張ってくらさい( ´Д`)
289 名前:瑞希 投稿日:2002年07月23日(火)23時10分49秒
>>288:ぴとむくん
おっ、ぴー…、あ、いけね、改名前の名前を呼んでしまうところでした(w
はい、頑張りますよぅ(^−^)


では、続きです。
290 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時11分43秒
腹を空かせた恋人に何か食べさせようと、
料理はあまり得意ではないけれど、
朝食の支度ぐらいなら出来るから、と
手のひらサイズの後藤を肩に乗せて、平家はキッチンに立った。

テーブルで待ってろと言っても聞かないので、
仕方なくこうしているのだけれど。

「…落ちんとってや」
「うん、大丈夫」

肩口の辺りが少し引っ張られている感じがするのは、
後藤の手が平家のパジャマを掴んでいるからだろう。
291 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時12分14秒
パンを焼いて、卵を割って適当にベーコンと絡め、
味付けしてから皿に盛る。

サイズがミニだから、
食べる分量だって平家のモノを少し分ければいい。

要するに、ひとりぶんの朝食。

「なーんか、いいね、こーゆーの」
「うん?」

用意が済んでテーブルに後藤を降ろすと、
幾らか嬉しそうに微笑みながら、
けれど、どこかテレたように告げられ、平家は首を傾げる。
292 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時12分49秒
「朝起きて、好きなひとが作ったゴハンを食べるなんて、
新婚さんみたいだよね」

サイズが標準ならね。

「…あ、困ったな、ストローとか、おっきいよなあ」

けれど、平家自身も同じようなことを思っていたので、
何だか気恥ずかしくて、話を逸らした。

「…ちっさいスプーンで口につけたるから、それでガマンしてな?」
「うん、大丈夫」

出来るだけ小さめのスプーンでオレンジジュースを掬い、
後藤の口元に運ぶと、それでもなんとか喉は潤せたようだった。
293 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時13分27秒
パンをちぎって渡しても、後藤にはかなり大きめのパンになる。
でもそれは、後藤には嬉しい誤算だったようで。

「おなかいっぱい食べても、全然余るね」

にこー、と微笑むその可愛さは、サイズが変わっても何の変化もない。

平家の高鳴りも、いつもと変わらない。

「そぉか、好きなだけ食べてええよ」

スクランブルにした卵をフォークでついて後藤の口元に持っていきながら言うと、
それを頬張る後藤がますます嬉しそうに笑う。

その笑顔を見ていて、それまでどこか気持ちの中で焦りもあった平家だけれど、
少しずつ、冷静になることができていた。
294 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時14分07秒
パニックしていても仕方ない。

後藤自身が、前にも経験して半日で元に戻った、というなら、
とりあえず半日待ってみてもいいだろう。

幸い、今日と明日は後藤も平家もオフだし、
明後日も、平家は夕方にラジオのゲスト出演が入っているけれど、
後藤自身は午後から取材が控えているだけだ。

時間はまだ、ある。

テーブルの上で正座して、
鼻歌混じりにパンにかぶりつく後藤を見ながら、
平家はそっと、息を吐いた。
295 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時14分46秒
朝食を済ませて私服に着替え、
平家が洗濯機を動かしている間も、後藤はずっと平家の肩にいた。

「……ナウシカがテトを乗せてるのって、こんな気分なんかなー」

渦を描きだした洗濯槽を見て、ゆっくり蓋を閉めてから告げると、
後藤が平家の肩先で首を傾げた。

「テト?」

独り言のつもりだったのだけれど、呟いた内容は後藤にも判ったらしい。

「キツネリスの?」
「あっちは動物で、あっちのほうが今のアンタよりでっかいけどな」
「あれ、可愛いよねー」
296 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時15分16秒
あっちよりも、断然こっちのほうが可愛いんやけど。

なんて、冷静になればなるほど、
どうしようもないくらいのバカな気持ちが湧き上がってきたり。

「…さて、何しよ。外はめっちゃいい天気やけど、
今のアンタ連れては、どっこも行かれへんしなあ」

何の他意も含まず言ったつもりだったけれど、
それは見事に後藤の心に突き刺さったようで。

しゅん、と平家の肩口で、後藤が頭をうなだれさせた。

「……ごめんなさい」
「え…? …あ、ちゃう、ちゃうで」

焦った平家が後藤の前に手をかざし、
その手のひらに飛び移るよう指示すると、戸惑いながらもそっと降りてきた。
297 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時15分48秒
「迷惑してるわけと違うから」

手のひらで座った後藤を両手で守るようにして、
平家はゆっくりソファに腰を降ろす。

「……あ、せや。どーせやったら溜まってるビデオ見よ。
前はごっちんがこの部屋にくるたび、ビデオ見てたやん」

前、なんて言ってから、ふと思い出す。

その頃はまだ、後藤との関係も『先輩・後輩』の枠を越えてなくて、
確かに好意は持っていたけれど、
それを恋愛感情だとすぐに認めてしまえるほど、
平家は後藤を語れなくて。

なのに、今ではもう、
誰よりも後藤を語れる人間になりたいと思っている。
298 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時16分20秒
「…ナウシカ、ある?」

ミニチュアサイズの恋人が、上目遣いで聞いた。

「あるで。それも見たいか?」
「うん、見たいっ」

ぱぁっ、と顔を綻ばせた後藤が、
平家の手のひらからぴょんっ、と跳ね上がって
シャツの胸元に飛びついてきた。

「うわっ、と。…こぉら、危ないやんか」

胸元にしがみ付いている恋人を両手で守りながら、
言葉だけで軽く戒めて、ビデオのリモコンに手をのばした。
299 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時16分51秒
ビデオとDVDと。
幾つか観終えた頃にはさすがに肩も凝ってきた。

平家はテレビに向かい、ソファ自体を背凭れにしていて、
後藤はといえば、平家が凭れているソファに寝そべりながら、
それでも決して平家からは離れようとしないで。

「…次は何観る?」

なのに、ビデオのエンドロールが画面を滑る中、
背後にいるはずの後藤に呼びかけても返事は返ってこなかった。

不思議に思って振り向くと、小さくなった恋人は、
更にカラダを丸く、小さくさせて、すやすやと眠りに落ちていた。
300 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時17分38秒
「…よぉ寝る」

思わず込み上げてくる笑いに口元を押さえつつ、
平家はビデオのスイッチをオフにする。

音の途切れた空間に、後藤の寝息だけが、微かに響き渡る。

ソファに肘を置き、頬杖をつきながら後藤の寝姿を眺めていた平家は、
一向に起きる気配のない後藤に笑みを浮かべながら、
静かに立ち上がって時計を見た。

朝、かなり早起きしたせいで、時刻はまだ正午を過ぎたばかり。

ソファにいる恋人は、おそらくまだまだ眠り続けるだろう。

「……すぐ帰るからな」

指の腹で、起こさないようにそっとそっと、後藤の髪を撫でて、
平家は財布を持って、部屋を出た。
301 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時18分30秒



1時間ほどで、平家は紙袋いっぱいの荷物と一緒に戻ってきた。

まだ寝ているかも知れない恋人を起こさないようにと、
そうっと鍵を開けてドアを開けたら。

「わぁぁぁぁぁん!」

後藤の泣き声がした。

「えっ、あっ、起きたんか、ごっちん?」

部屋中に響き渡るのは、後藤の悲痛な泣き声で。

焦って靴を脱いだ平家の足元に、
小さな姿になった愛しい恋人が、必死になって駆け寄ってきた。
302 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時19分07秒
「平家さんっ、平家さんっ、平家さん!」

泣きながら、平家の足に必死にしがみ付く。

「どこ行ってたのぉ?」

心細そうな声が平家の胸を切なくする。

「ひ、ひとりで…、淋しかったんだからぁ」
「…ごめん、ごめんやで」

そっと身を屈ませて、両手で後藤を包み込む。

ゆっくり持ち上げて視線を合わせ、
目にいっぱいの涙を溜めて自分を見つめる後藤に胸の痛みが増す。

「め、目が、覚め、たら…、い、いないんだ…もん。こ、心細かった…、よぅ」
303 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時19分40秒
しゃくりあげながら訴えて、手のひらの上で座り込んだまま、
後藤はますます泣き出してしまう。

「ごめん」

頬に後藤をすり寄せて、
小さくなってもちっとも変わらない、綺麗でサラサラな髪に唇を寄せる。

「ごめんな」

自分自身がどれほど軽率な行動をとったのか、
後藤の涙に教えられる。

小さくなっても落ち着いているように見えた後藤だって、
本当は、心細くて、不安なはずなのに。
304 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時20分15秒
「……ひとりにして、ごめん」

独り暮らしには慣れた平家でも、
後藤の存在が平家自身の心のほとんどを支配している今、
ひとりきりで過ごす部屋は、とても、淋しい。

そんな中で、
いつもよりずっとずっと、目に見える世界が大きいものだらけの後藤が、
心細さを感じないわけがないのに。

顔を近づけ、心の底から謝ってくる平家に、
後藤も次第に涙を薄れさせていく。

「…も、もう、ひとりに…、しない?」
「せえへん。もう絶対にごっちんのこと、放っぽってどこにも行かんから。
せやから、許して…、な?」
305 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月23日(火)23時21分37秒
上目遣いに自分を見上げてきた後藤が、
ゆっくり両手を伸ばして平家の頬に触れてくる。

それから目尻に唇を近づけて、小さく音を鳴らしてキスをした。

「……許す」

幾らか恥ずかしそうに、頬を染めながら。

「ありがと」

答えて、平家は再び後藤を胸に抱き寄せた。
306 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月23日(火)23時57分04秒
もう最高!(w
これからどうなんのか楽しみすぎ!
責任とって書きまくってくださいね!
307 名前:ぴとむくん 投稿日:2002年07月24日(水)00時12分46秒
だめだぁー かわいすぎて顔がにやけてしまふ・・・(/∇\*)
でも、後半のごっちんには胸がしめつけられました・・・(゚Å)ホロリ
ホント最高っす!!!!
もうしばらく小さいままでいてください(爆)

>瑞希さん
こっちサイトではぴとむでよろしくぅーーーーm(_ _)m
308 名前:瑞希 投稿日:2002年07月27日(土)23時10分44秒
>>306さん
ありがとうございます。
でも、なんつーか、もう、ただの趣味なんですけど(^^;)
自分でも既に引っ込みつかなくて、わたわたしてます(w
…でも楽しい(w


>>307:ぴとむくん
>もうしばらくこのままで……
そっすね、もうしばらくは、このままだと思われます(w
ってか、ワタシも欲しいんです、実は(w


では、続きです。
309 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時12分55秒
平家の左肩は、
もう既にそこが彼女の定位置になってしまったようだ。

「……どこ行ってたの?」

後藤を肩に乗せながらソファに腰を降ろしたときに聞かれ、
あっ、と思い出して右手に持っていた紙袋の中身をテーブルの上に広げる。

「…服、買いに行ってたんよ」
「服?」
「うん、アンタの」

近所のデパートのおもちゃ売り場で、
目に付く、後藤に似合いそうな着せ替え人形の着替えを、
次から次へとカゴの中に放り込んで。
310 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時13分44秒
「…気ぃついたら、結構夢中になって選んでた」

苦笑いしながらパッケージを破って洋服をテーブルに並べていくと、
後藤が肩から飛び降りて、並べられた服を手に取った。

「ちょっとおっきいかも知れんけど…。でも似合うと思うで?
あ、コレなんか真っ先に目についてん。ちょっと着てみて」
「…うんっ」

頷き、みるみるうちに歓喜の表情で平家が選んだ服を着込む。

下着とかも揃えたので、
実質、素っ裸の状態から着替えることになって、
さすがに気恥ずかしさからか、
『いいって言うまで、目、つぶってて』
なんて、言われたりして。
311 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時14分52秒
両手で顔を隠しながら下を向いて、
お許しの声が出てから手を外すと、
そこには、やっぱり何を着ても可愛い恋人がいた。

「どう? 似合う?」
「うん。…んー、でもやっぱ、ちょっとおっきいかな」
「ううんっ、裾も袖も、折れば平気だよ!」

嬉しそうに微笑んで、また、跳ねるようにして平家に飛びつく。

「ありがと、平家さんっ」

可愛くて可愛くて、たまらなくなってくる。
312 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時15分41秒
「……でも、ごっちんが元に戻ったら、こんなんただのゴミやなあ」

何とはなしに呟くと、それまで嬉しそうだった後藤が、
今度は真剣に平家を見つめてきた。

「ん? どした?」
「…あたし、元に戻るかなあ」

ほんの少しだけ、心の中を読まれたような気がして平家はうろたえた。

「な、なんで? 前はちゃんと元に戻ったんやろ?」

今のままでも、楽しいだなんて。
今のままでも、全然、構わないだなんて。
313 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時16分56秒
「……もしかしたら、あれこそ夢だったのかなって。
だってこんなにちっちゃくなったんじゃないんだもん。
3歳ぐらいの体型だったもん」

新しく着替えた服の裾をぎゅっと握り締めて、
俯いてしまった後藤の肩が震えている。

「…ごっちん」

不安や焦りは、きっと、後藤のほうが強い。

小さなカラダで、
まだまだ子供の想いで、
どれほど、ガマンしているんだろう。
314 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時17分40秒
「…きっとこれは、ゆっくりしろってことなんよ」

指先をのばして、ちょい、と後藤の顎を撫でると、
目を涙で潤ませながら頭を上げた。

「……どういう、こと?」

自分の顎を撫でた平家の指にしがみついて説明を待つ。

「今のごっちんたちって、毎日毎日、忙しいやん。
滅多に休みもないし、あっても1日ぐらいで、
そんなんやったら、どっこも出かけられんと寝て終わってまうやろ?
今回の休みも、ごっちんはあたしといてくれること選んでくれたけど、
ひょっとしたら、もっともっとゆっくりせえってことなんかも知れんよ?」
315 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時18分14秒
指にしがみついた後藤と同じ高さまで平家も目線を下げ、
どこか戸惑っている相手の頬をもう一方の指の腹で撫でる。

「ごっちんに、カミサマがくれたお休みやと思たら?」

「……こんなにちっちゃくしといて?」

「そんだけちっちゃかったら、おやつなんか食べ放題やん。
遊びに出ても、きっと誰にも見つからんやろな」

不安そうに見上げていた後藤の表情がほんの少しやわらぐ。

両手で包み込むようにして後藤を持ち上げ、
そっと胸に抱き締める。
316 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時19分21秒
「……でも、今日はあたしがごっちんを独り占め」

小さくなっても、愛しいぬくもりは一緒。

「平家さん…」
「…なーんてな」

胸に抱き締めた小さな恋人をゆっくり左肩に乗せ、
戸惑いがちに自分を見つめている彼女に冗談っぽく舌を見せた。

ホントは、全然、冗談でもないのだけれど。

指の腹で後藤の頭を撫でると、
後藤は言葉を詰まらせたように唇を噛んで俯いた。
317 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時20分06秒
「…ごっちん?」
「……」
「え?」

聞き取れなくて耳を寄せると、
肩の上で立ち上がった後藤が平家の耳に顔を近づけてきた。

そして、その耳元で、囁くように声を出す。
耳を寄せた平家にしか聞こえないような、小さな小さな声で。

『あたしだって、平家さん、独り占め』

囁いた後藤のちっちゃな手が、
きゅっ、と平家の髪の一房を掴む。
318 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年07月27日(土)23時21分41秒
「平家さん、大好き…」

ちゅ、と、僅かだけれど確かな感触が平家の耳に触れる。

「……うん、あたしも」

指先で後藤の頬を撫で、その手の中に包み込む。

「…やっぱり独り占めしたいし、今日はどっこも行かんでもええか?」
「うん」

笑って頷いた後藤に、平家はそっと微笑んで、
もう一度、小さくなった愛しいぬくもりを胸に抱き締めた。
319 名前:ぴとむくん 投稿日:2002年07月28日(日)00時21分47秒
ぐはっっっっ
・・・・・・・・・・イイっす!!!!!(≧∇≦)ノ
毎日ここに来てチェックするの日課になりました(爆)
320 名前:ギャンタンク 投稿日:2002年07月28日(日)11時14分29秒
最高。
今後も応援してきますので更新よろしゅうに。
321 名前:瑞希 投稿日:2002年08月03日(土)23時50分40秒
>>319:ぴとむくん
>日課に……
そう言ってもらえるのはすごく嬉しい!
書いてる側としては、とても励みになります、ありがとう!

>>320:ギャンタンクさん
ありがとうごさいます。
更新…、更新は、マターリになると思いますが、いいですかね?(^^;)


では、続きです。
322 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月03日(土)23時52分17秒



夕暮れになっても、後藤は元の姿に戻らなかった。

半日以上たっても元の姿に戻らないことに、
平家も後藤も、勿論焦りを感じていた。

けれど互いにそれを表面上に見せることなく、
見えないまま押し寄せてくる不安と焦りを隠すように、
身を寄せ合って、くだらない会話で過ごした。

不意に、後藤の腹が空腹を訴える。

平家はソファに凭れ、後藤はその平家の胸の辺りにしがみついていて。

お互いのぬくもりを感じ取れるそんな格好のまま、
ちょうど静かになった空間にその音は見事に響き渡った。
323 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月03日(土)23時53分27秒
「ぷはっ」

思わず込み上げてきた笑いを堪え切れずに吹き出すと、
胸元にいた後藤が恥ずかしそうに頬を膨らませる。

「…あー、もう。そんな可愛い顔しなさんな」

膨れっ面なのにひどく可愛い後藤に、
平家の口からはするりと本音が漏れる。

珍しく直球ストレートなホメ言葉に後藤のほうがたじろぐと、
それを感じ取った平家の頬も朱色に染まる。

「…でも、どーしよ。冷蔵庫の中、何もないねん」
「カップラーメンとかも?」
「それはあるけど、今のアンタに、それはどうやろ」
324 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月03日(土)23時54分12秒
後藤の今のサイズを考えたら、
米粒ひとつにしたって手のひらに乗るくらいの大きさなのだ。
インスタント麺など、味だってきっと別物になってしまう。

しかし、後藤の腹が再び空腹を訴えて、
今度は笑いではなく困惑が平家の脳裏を過ぎる。

「……んー、ホンマは、あんまり気がすすまんのやけど」

誰に言うともなく言って、後藤を手に包み込んで、ゆっくり立ち上がる。

「ごっちんをひとりにさせたくないから、一緒に行こか」
「…どこに?」
「近所のコンビニ。おにぎりとかのほうがいいやろ」

平家の言葉に、後藤の表情が華やいだのは、言うまでもない。
325 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月03日(土)23時55分13秒
「わかってると思うけど、人がおるトコで絶対喋ったらアカンで?
ポケットから顔出すんもやめてな?」
「うん」

マンションを出て、徒歩で5分もないところに目指すコンビニがある。

「窮屈やろうけど、ええって言うまで、じっとしててな」
「うん、大丈夫」

胸の辺りの愛しい重みを感じながら、
平家は内心、何も知らずに自分と擦れ違っていく他人に、
優越感にも似た感情を抱いていた。

後藤の秘密。
ふたりだけの秘密。

たとえそれが世界的な規模の秘密だったとしても、
こんなに胸が弾んでる自分に、平家自身でさえ、戸惑いながら。
326 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月03日(土)23時56分08秒
平家の言いつけをちゃんと守り、
清算が済んでコンビニをあとにするまで、
後藤はピクリとも動かなかった。

「…もーええよ」

マンションの入口で、
周囲に誰もいないのを確認してから胸元に向かって囁くと、
待ってましたとばかりに後藤が頭を出した。

「苦しくなかったか?」

エレベーターに乗り込んで、
買い物袋を下げてないほうの手を後藤の前に差し出す。

その手のうえに、後藤がぴょんっと飛び出してきた。
327 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月03日(土)23時57分04秒
「うん、平気っ」

言うが早いか、器用に平家が着ているシャツを肩までよじのぼってくる。

「…ホンマ、そこがアンタの指定席やなあ」

ちょこん、と座った後藤がもう、可愛くてたまらなくて、
抱き締めてしまいたい気持ちをぐっと堪えて、平家は苦笑した。

「ね、ね、何買ったの?」

肩に座って左手ではシャツを握り締めながら、
わくわくした面持ちで、右の手のひらで平家の頬を撫でる。

「…ナイショ」

平家が悪戯っぽく笑ったとき、
エレベーターが目的階への到着を信号音で知らせる。
328 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月03日(土)23時58分00秒
「…おっと」

扉が開いたと同時に、平家はそっと手で肩にいる後藤を隠す。

けれど降りた場所に誰もいないことを確認して、その手を外した。

幸運にも、部屋へと続く廊下にも人通りはなく、
幾らか急ぎ足で廊下を進み、部屋のドアを開けた。

「ただいまー」

誰もいない部屋に向かって後藤が叫ぶ。

その彼女を右手で包み込んでゆっくり床に降ろすと、
小さな恋人が大急ぎでリビングに走っていく。
329 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月03日(土)23時59分04秒
「平家さん、早くぅ」

玄関先で靴を脱いでる間にも、
後藤の甘えたような声が平家を急かす。

「待て待て、そんな慌てなさんな」

コンビニ袋の中に手をいれ、
それをテーブルの上に広げようとして、
テーブルの下で楽しそうに自分を見上げて待っている後藤に気付き、
平家は先に彼女をテーブルに乗せた。
330 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月04日(日)00時00分02秒
「あっ!」

短くて、けれど、とても楽しげな声。

「スイカだあ」

透明のパックを出した途端、
赤くて瑞々しいそれに後藤がますます嬉しそうに笑った。

「さすがに丸ごとは無理やからな。
これぐらいやったら、もし残っても、あたしが食べきれる」

適量のカットスイカ。
季節的にも、今が一番食べ頃だ。
331 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月04日(日)00時00分45秒
「あとはー、チキンライスのおにぎりとー、いなり寿司とー、
んーと、冷凍のピザ、それからえーと、あ、サラダも買うたから」

商品を次々とテーブルの上に出して広げていくうちに、
途中までは確かに平家が袋から取り出すものに目を輝かせていた後藤が、
全部出し終えたときには、不思議そうに平家を見上げていた。

「…ねえ」
「ん? どした?」
「平家さんのぶんは?」
「…あっ、忘れてたっ」

小さくなってしまった後藤でも食べられそうなものばかり選び、
更にはそれしかカゴにいれてなかった自分に少し驚いた。
332 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月04日(日)00時01分43秒
「……ごっちんのことしか考えてなかった」

ぽつん、と、呟いたつもりが、意外とはっきりした声になって。

「……平家さん」

呼ばれて、顔を赤くしている後藤を見て、自分の発した言葉に気付く。

「あ、いや、その…、あたしは、ほら、カップ麺とかでもいいし」

ごにょごにょと言葉尻を濁す平家の手に後藤が小走りにやってくる。

「スイカ食べたい」

戸惑う平家にはまるでお構いなさげに、
ちょん、と、テーブルに触れていただけの平家の指先に、
後藤の小さな小さな手が触れる。
333 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月04日(日)00時02分36秒
「へ? ……あ、うん。ちょっと待ってな」

フィルムをはがして、
プラスチックのフォークで後藤の口に合わせた大きさに崩そうとすると、

「あ、いいよ、そのままで」

はっきりした声に、思わず平家の手も止まった。

声に従って手を止めた平家の、
フォークを持っているほうの手首に後藤がよじのほる。

「…ごっちん?」

そしてそのまま、スイカが入った透明パックの中にダイブした。
334 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月04日(日)00時03分46秒
「ええっ?」

ぎょっとして声を張り上げ、
テーブルの上に顎をつきながらパックの中の後藤を見つめると、
彼女は、幾らか恥ずかしそうに笑った。

「あたし、これでいい」
「は?」
「これだけでおなかいっぱいになるよ。
だからそっちのおにぎりとかサラダは平家さんが食べて?」

にこーっと笑って、小さくなった後藤の顔以上に大きいスイカにかぶりつく。

「あまーい!」

歓喜の声のあと、しゃくしゃく、と耳に心地好い感じで響く齧る音に、
平家の胸の奥がなんだか切なくなってくる。
335 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月04日(日)00時05分57秒
「…アカン、スイカだけなんて、おなか壊す」

言いながら、きょとん、となった後藤を横目に、おにぎりのフィルムをはがす。

箸で適当な大きさに崩し、色のついた米粒を指先につまんで、
それを後藤の顔の前に差し出した。

「…半分ずつにしよ?」

自分より10分の1も小さい恋人と食べものを半分ずつにするなんて、
どう考えたって、バカげた提案ではあるが。

「うんっ!」

けれど、後藤のテレたようなはにかんだ笑顔は、
平家にも、幸せという名の甘い熱を伝えた。
336 名前:ぴとむくん 投稿日:2002年08月05日(月)03時30分03秒
更新お疲れサマです!!
メール欄、いろんな意味でよかたです(T∇T)
これからも、頑張っていきましょーね!!
毎日覗きながら、読み返してニヤけて・・これ日課っす(爆)
337 名前:瑞希 投稿日:2002年08月12日(月)00時06分09秒
>>336:ぴとむくん
いつもいつもレスくれて、ありがとう!(^−^)
がんがりまっす!


では続きです。
338 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時07分21秒



少し早めの夕食を終えて、
団欒、というにはなんだか気恥ずかしい空間で、
ソファにもたれる平家の胸に、後藤がしがみつく。

「…眠いん?」

けれど、その強さが少しずつ頼りなくなっていき、
彼女が睡魔と闘っていることを悟る。

「…んー」

苦笑気味に聞いた平家に答える声がもう、敗北を示している。
339 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時08分24秒
「ベッド行くか?」
「…んー。でも、平家さんが…起きてるなら、まだ、寝ない…」

寝室だって、後藤ひとりには広い空間だ。
それが判って、平家は胸元の小さな恋人を両手でそっと包み込んだ。

「じゃあ、ここで寝てええよ?」

しかし、平家のその言葉のあと、
何かを思い出したのか、弾かれたように後藤は飛び起きた。

「な、なんや?」
「…どうしよう、平家さん」
「え? なにが?」
「…メール、朝から全然見てない……」
340 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時09分14秒
後藤の言葉に、平家もハッとした。

「け…、ケータイ、鞄か?」

頷いた後藤をソファに残し、
寝室に置きっ放しになっていた後藤のバッグを持って戻る。

それから彼女の見ている前でバッグの中を見て、
底に沈んでいるケータイを取り出した。

折畳式のケータイを開閉するのも後藤には困難なので、
開けてからテーブルに置く。
どうやら、メール着信数だけでも、かなりの数になっていたようだ。
勿論、着信だって何件も入っているだろう。
341 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時10分01秒
「…うわ」

器用にボタンの上を飛び回ってディスプレイに表示していた後藤の口から、
短いけれど、はっきりと動揺してると判る声が漏れた。

さすがにプライバシーもあるので、
平家はケータイが見えない位置に移動したけれど。

「…何件ぐらい?」
「…54件」
「げっ」
「そのうち12件が圭ちゃん、15件がよっすぃー、5件がなっちで、
あとは家からとか、いろいろ」

送信相手の半分が『プッチモニ』のメンバーである保田と吉澤からだったことで、
メール内容が仕事絡みであることは平家にも推測できた。
342 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時11分01秒
「電話も結構してくれてたんだなー。ずっとバイブにしてたし、気付かなかった」

ぴょんぴょん飛んで、それでもなんとかすべてを読み終えたあと、
後藤が困ったように平家を見上げてきた。

「…どうしよう。電話したほうがいいよね?」
「そりゃあ…。仕事のことやろ?」
「うん、それもあるけど」
「……ああ、ごっちんの今の状態のことな」

こく、と元気なさげに頷いた後藤の目が潤んでいた。

「…今まで全然連絡しなかったんだから、きっと心配してるよね。
でも、どう言えばいいかなんて、わかんないよ」
343 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時11分58秒
ケータイの上で、ぺたん、と座り込んで、
本当に困ったように、ディスプレイを見つめる。

「……いや、今はまだ言わんでもええんちゃう?」
「え?」
「まだ言わんでええよ。言うてもびっくりさせるだけやし、きっと信じてくれへん」
「でも、でも…」

不安そうに自分を見る後藤に手をのばし、
指の腹で彼女の頬を撫でる。

「…大丈夫、充電切れてたん、気付かんかったって言うたらええよ。
なんなら、代わりにあたしが説明したるし」
344 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時12分55秒
平家の言葉に、後藤の目が驚いたように見開かれる。

「い、いいの?」
「ん? なにが?」
「あたしが今日、平家さんといること知ってるの、おかーさんたちだけなんだよ?
説明って、よっすぃーや圭ちゃんに知られちゃってもいいの?」

言われて平家も思わず顎を引いたけれど、
以前のように、恥ずかしいから隠しておきたい、
という気持ちはもうなくなっているし、
今後を考えれば、むしろメンバーには知っておいてもらってもいいかも知れない。
345 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時13分41秒
「…うん、ええよ」

平家がそう答えたとき、後藤のケータイが震えた。

急な振動に驚いた後藤は思わずケータイから飛び降りようとしたけれど、
ディスプレイに表示された名前に、降りること自体、躊躇してしまった。

「誰?」

言いながら、平家が左手で後藤を包み込み、右手でケータイを持った。

「…あ、圭ちゃんやんか」
「ど、どうしよう」
「……あたしが出てもええかな?」

困惑気味な後藤を左肩に乗せたあと、返事を聞く前に通話ボタンを押し、
ゆっくり右耳に近づけた。
346 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時14分37秒
「もしもーし」
「あっ、後藤! やっと捕まった!」
「ごめん、ごっちんやったら、今、お風呂やねん」
「えっ?」

保田が驚いたときに見せる顔が思い浮かんで、思わず平家の口元が綻ぶ。
それから、左肩の小さな恋人に向かって、人差し指をたてて唇に押し当てた。

「…その声、ひょっとして、みっちゃん?」
「うん」
「なんでみっちゃんが後藤のケータイに出てんの? ってか、風呂?」
「そう、昨日からウチに泊まりに来てるねん」
「昨日から?」
「うん、今日も泊まる」

ケータイの向こうで、保田が言葉を失っている姿を思い浮かべたら、
不謹慎だとは思いつつ、何だか笑いが込み上げてきた。
347 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時16分30秒
「伝言あるなら聞いとくけど…。急用? 呼ぼか?」
「いっ、いや、いい。じゃあ伝言、頼むわね。
明後日、午後から取材なんだけどさ、その集合時間、1時間早くなったからって」
「うん、了解」

「で、そのあと、新曲の打ち合わせ入ったって」
「打ち合わせ…、ね。うん、判った。言うとく」

言いながらちらりと後藤に視線を向けると、
彼女も判った、と言いたげにこくりと頷いた。

「朝からメールしてんのに全然返事こないし、電話しても出ないし、
どーしたのかと思ってたんだよ」
「あー、バイブやったし、充電も切れてたみたい。さっき繋いだとこ」

けれど、保田はそれきり黙りこんでしまった。
348 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時17分20秒
「…圭ちゃん?」
「……なんでって、聞いてもいいよね。
ケータイ出るってことは、聞かれること、覚悟してるでしょ?」

保田の真剣な声が、平家には、なんだかとても嬉しく聞こえた。
決して、非難しているワケではないと、判るから。

「…圭ちゃんの、思てる通りやと思うで?」
「いつ、から?」
「んーと、もう1年半くらい」
「1年半っ?」
「うん。今までよぉ誰にもバレんかったなあって、思う。
てか、姐さんは知ってるけどな」

返答がないことで、保田がまだ少し困惑していることが伝わる。
349 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時17分54秒
「心配せんでもあたしはホンキやし、ごっちんのこと、大事にしてるで?」
「……泣かせたら、怒るよ」
「うん、気ぃつける」

まさか今日、泣かせてしまったとは言えなかった。

「…じゃあ切るわね。吉澤にもメールしとけって言っといて?」
「うん」

終話ボタンを押して、ホッと一息ついてから肩にいる後藤に振り向く。

「吉澤にもメールしとけって。…出来る?」

頭を少しうなだれさせたまま、後藤が小さく頷いた。
350 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時18分44秒
「…どした?」
「……ごめんなさい」
「? なんで謝るん?」
「だって、ホントは秘密にしておきたかったんでしょ?
あたしとのこと、誰にも知られたくなかったんだよね?」

頭を上げた後藤の目が潤んでいた。

「…あたしがこんな姿にならなかったらさ、そしたら平家さん、
無理して圭ちゃんにバラすようなこと、しなくてもよかったんだよね」
「ごっちん……」

後藤の言葉が、平家の胸の奥を射抜く。

そんなふうに思わせてしまった自分が腹立たしくさえ思えた。
351 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時19分16秒
「…違う」

平家はそっと手をのばして後藤を包み込み、テーブルの上に移動させる。
それから彼女の目線まで自分の目線を下げ、テーブルに顎をついた。

「それは違うよ。秘密にしときたかったんと違う。
誰にも知られたくなかったんでもない」
「…平家さん?」

指の腹で後藤の頬を撫でると、
その指に後藤がしがみついてきた。

「恥ずかしかっただけやもん。
でも、よぉ考えたら、ごっちんとのことを恥ずかしいって思てるってことやし、
そんなこと思てへんねんから、もういいかなって」

………ホントは、ただの、独占欲。
352 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時19分47秒
「メンバーにオープンにしといたら、いろいろ得かなーとも思たし」

目に大粒の涙をためて自分を見つめる後藤に、
平家の胸の奥はどんどん熱くなっていく。

「たとえばライブのときとかさ、楽屋に遊びに行ったら、
これからはみんな、気ぃつかってくれるやろ?
あたしらのこと知らん子らの目とか気にせんでええようになるやろし」

「………ホント?」

まだどこか心配気な後藤の声に、平家は笑って大きく頷いた。
353 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時20分21秒
「うん。…てか、今まであたしがごっちんに嘘なんてついたことある?」
「ない」

即答が嬉しかった。

「やろ?」

指先に感じていたチカラが強くなる。

ぎゅうっと強く強くしがみつく後藤が、愛しくて愛しくてたまらなかった。

「…ってことで、公認です」

とは言うものの、保田の性格からして、
すぐさまメンバー全員に広がるとも思えないが。
354 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月12日(月)00時21分22秒
「好きやで、ごっちん」
「あたしも、平家さんのことが大好き」

指先に、唇の感触。

「コラ、そんなとこにせんと、こっち」

手のひらに後藤を乗せて、そっと唇を突き出すと、
後藤の小さな手が平家の両頬に触れてきた。

そして、ほんとに小さな、けれどとても愛しい感触が、
平家の唇にも触れた。
355 名前:ぴとむくん 投稿日:2002年08月12日(月)01時38分25秒
いい展開だぁ〜♪
次の更新も、楽しみに待ってます!!
356 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月13日(火)00時46分09秒
最高です
357 名前:ギャンタンク 投稿日:2002年08月13日(火)01時28分24秒
す、素晴らしい。
358 名前:関鯖 投稿日:2002年08月14日(水)23時51分19秒
書き込み初めてなんです。
優しくしてください。きゃ<撲殺
小さい後藤さんがたまりません。
今後の展開も楽しみにしてます。ガムバッテ!
359 名前:瑞希 投稿日:2002年08月23日(金)23時22分15秒
>>355:ぴとむくん
キミには、ホント、いつもお世話になってますm(_ _)m
更新でしかお礼は、返せないのが心苦しい…(°Å)

>>356さん
ありがとうございますっ!

>>357:ギャンタンクさん
ありがとーございますー!
「みちごま信徒」さんかしら?

>>358:関鯖さん
うわーい、初レス、ありがとうございます(*^∇^*)
脳内シェイク、されてます?(w
…てか、どーして『鯖』なんですか?(w


こちらもお待たせしました。
更新いたします(^^;)
360 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時22分54秒
「ごっちん、風呂どーする?」
「一緒に入るー」

思っていたとおりの返答に、平家は微笑みながら、
右の手のひらでそっと後藤を包み込んで持ち上げた。

元の姿だったら絶対了承しない一緒の入浴も、
今回ばかりはさすがに断れない。

「…さすがに湯船は危ないから、洗面器にお湯張ろか」
「わーい」

昼間のうちに用意していた今の後藤サイズの着替えやタオルを持って、
平家は、後藤と付き合い始めてから初めて、一緒にバスルームに入った。
361 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時23分30秒


「ジロジロ見んとって」

カラダを洗う平家を、
お湯を張った洗面器の淵に凭れながら嬉しそうに後藤が眺めている。

「湯気で見えないよぉ」
「嘘や、絶対見えてる」
「どーして?」
「笑てるもん。どーせ貧相なカラダですよーだ」

つーん、と声にも出して後藤から顔を背けると、

「そんなことないよ!」

すぐさま反論の声が飛んできた。
362 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時24分24秒
「平家さん、キレイだよ。すっごいすっごいキレイだよ」

「…ごっちん」

「どーしていいかわかんないくらい、ホントにキレイだよっ」

少し唇を尖らせながらも、
それでも必死に気持ちを伝えようとする後藤が、
平家には愛しい存在でしかない。

いつまでもいつまでも、
後藤の目に映る自分は『キレイ』でいたい、と思う。
363 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時25分07秒
「…ホンマに?」

泡のついた指で後藤の頭を撫でると、
訴えるような視線で平家を見上げてくる。

「ホントだよ」
「そっか…。ごっちんがそう言うてくれるんやったら、
他の誰に何言われても、そんなんもうどうでもええわ」

指先で後藤の頭を撫でると、小さな泡が髪についた。

撫でられた頭を自身の両手で撫でて、後藤がテレたように笑う。
364 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時25分52秒
「…でも、あたし以外の誰にも、平家さんのカラダ、見せないでね?」
「へ?」
「こんなふうに一緒にお風呂入るのも、あたしとだけにしてね?」

困ったような、
けれど少し強い意志の見える訴えるような目で見上げられ、
平家の心音が跳ね上がる。

後藤の上目遣いは、平家には必殺だと思う。

ある意味、ストレートな告白の言葉よりも、弱いかも知れない。
365 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時26分26秒
「…そ、れは、ちと、難しい」
「えーっ!」
「せやかて、カラダ見せんなって言うても、
友達と温泉とか行くことになったらイヤでも見られるし、
もう何回もメンバーとかに見られてるし」

言い訳がましく聞こえるけれど、さすがにその約束は難しい。
職業柄、他人に肌を見られるのは、仕方のないことでもあるし。

「そういうことじゃなくて」

平家の指先にかぷ、と軽く噛み付いて、拗ねた口振りで後藤は続けた。
366 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時27分00秒
「仕事のこと言われたら、あたしだって見られるじゃん。
そうじゃなくて、あたしといるときの平家さんの時間は、
あたしのことだけ特別扱いして」

そう言われて、ようやく平家も納得する。

「…そんなん、とっくに特別扱いですけど」

語尾を敬語にすると、後藤も少しテレたようだった。

「絶対だよ? あたし以外のひとに、触らせちゃダメだよ?」
「当たり前やん、今のあたし、ごっちんだけやで」

指の腹で後藤の頬を押し返す。
367 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時27分30秒
「っていうか、他の誰に触られたって、
ごっちんじゃないなら感じたりせえへんもん」

聞いたほうが恥ずかしくなるような台詞を言って、
平家はくるりと後藤に背を向けた。

本当に、今の自分が後藤以外の誰に触れられても、
何の感情も起こらないことが判る。

触れて欲しいのは後藤だけ。
触れていいのも、後藤だけだ。
368 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時28分03秒
「…そろそろ上がるで? ちゃんとカラダ洗えたか?」
「う、うん」

テレ隠しで聞くと、返って来た後藤の声も、心なしか上擦っていた。

自身のカラダの泡を落として振り向くと、
後藤も長い髪を小さなタオルでまとめている。

「もうええか?」
「うん」

答えた後藤を両手で包み込んで、先に脱衣所へ連れて行く。

「こっち片付けたらすぐ行くからな」
「はぁい」

甘い返事を聞き届けてから、適当に片付けて、平家もバスルームを出た。
369 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時28分42秒

「さて、そろそろ寝ますか」
「んー」

入浴も済むと、さすがに1日中張っていた緊張感も一気に溶けたようだ。

平家の言葉に、
後藤は目をこすりながら、大きな反論もなく頷いた。

水玉模様のパジャマを着込んだ後藤を胸に抱いて寝室に向かい、
ベッドに降ろして、部屋のライトを消す。

「枕んとこでいい? 一緒に寝たら、潰しそうやし」

タオル地のハンカチがちょうどいい上掛けになる。

適当に折りたたみ、そこへ後藤を横たわらせると、
ゆっくりと見上げられた。
370 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時29分15秒
「どした?」

既に真っ暗になった室内では、さすがに後藤の表情までは読めない。

けれど、眠そうな目で、不安気に見上げているだろうということが、
何故か薄暗闇の中でも平家には伝わった。

「……戻る、よね?」

明日の朝、目が、覚めたら。

「戻ってるよね?」

明日の朝、目が、覚めたときには。

「うん。きっと、なーんや、夢やったんやーって思えるわ」
371 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時29分49秒
見上げる後藤の顎を撫で、そのまま頬も撫でる。

「…あんま考えやんと、もう寝よ?
もし戻ってなかったら、それはそのとき考えよう」
「うん…」

まだ不安そうな後藤の髪を撫でてやってから、そっと唇を近づける。

「ごっちん」

耳元で囁いて、少しカラダを揺らした後藤の髪に口付けた。

「大丈夫。明日は、きっともとに戻ってるから」

言いながら、平家はそのまま枕に顔を埋めた。
そのすぐ脇で、後藤がちょこん、と正座している。
372 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時30分29秒
「…そーだよね、大丈夫だよね」

答えた声がほんの少しだけ明るくなって、平家も微笑んだ。

「おやすみ、平家さん」
「おやすみ」

答えた平家の唇に、微かな感触。

「…へへっ」

テレたような笑いが聞こえても、平家は何も答えずにいた。

やがて小さな、
耳を澄ませていなければ聞こえないような本当に小さな寝息が聞こえてきた。

それを聞きながら、平家の胸の奥は、
言葉にならない切なさだけが渦巻いていた。
373 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時31分01秒
もとに戻ってほしい。

そう思う自分とは全く正反対の場所で。

もとに戻らなくてもいい。

確かに、そう思っている自分がいた。

もとに戻らなければ、世間が騒ぎ出す。
そしてそれは、きっと、後藤のためにならない。

けれど、もしもとの姿に戻らなければ、
後藤は、ずっと、平家だけのものになる。
374 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時31分34秒
常識人の自分と、本能的な欲求に正直な自分と。

そのどちらもが自分自身であることに、平家自身が困惑を隠せない。

考えれば考えるだけ、
自分自身の醜い独占欲が顕著になって、
平家はそれを振り切るようにぎゅっと目を閉じた。

もしこれが夢なら、永遠に、眠り続けるのに。

そう、思いながら。
375 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月23日(金)23時32分57秒
―――しかし翌朝、
平家は、後藤の泣き声で目を覚ました。

そしてそこには、昨夜となにひとつ変わらない、
手のひらに乗ってしまうほど小さな、後藤の姿があった。
376 名前:ぴとむくん 投稿日:2002年08月24日(土)02時07分11秒
更新、待ってましたぁーー
いつもながらに、瑞希さん最高ですっっm(_ _)m
377 名前:関鯖 投稿日:2002年08月24日(土)23時14分21秒
ぎゃー。泣いてる後藤さん――!
独占欲とか、大人の立場とか、すげい好きですー。
瑞希さんリスペクツー。
378 名前:みちごま信徒ことギャンタンク 投稿日:2002年08月29日(木)23時23分06秒
「ミニごま」すばらしい。
これでまたしばらくみちごま不足を補えそうです。
379 名前:瑞希 投稿日:2002年08月31日(土)23時13分18秒
>>ぴとむくん
>>関鯖さん
>>ギャンタンクさん
ありがとうございます。
レスいただけるのが、本当に励みになります。

本編、作者にもやっと先が見えてきましたが、
個人的諸事情のため、ちょっと更新ペースが落ちるかと思います。
でも、書き出して、それを公開したからには完結させるのが義務だと思ってますので、
のんびりになるかと思いますが、もうしばらくお付き合い願います。


では、続きです。
380 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時14分37秒



なかなか泣き止んでくれない後藤を、
胸の上で髪を撫でながら宥める。

「…も、もう、もとに、戻んない、のか、なあ……」

しゃくりあげて泣き続ける後藤が、平家には辛い。

「そんなことないよ」

言ってはみたものの、自分自身の言葉に自信がない。

「大丈夫、オフはもう一日あるし、それまでには絶対戻るって」

後藤の髪を指の腹で撫で、
手のひら全体で彼女を包み込む。
381 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時15分38秒
「やから、そんな泣かんとって」

笑顔のイメージが強いだけに、
後藤の涙は、とても切ない痛みを平家に訴える。

「ごっちんに泣かれたら、どーしてええんか、判らんよ…」

平家の淋しげな声色に後藤も反応した。

しがみついていた平家の胸元で頭を上げ、
平家と目が合った途端、肩先までよじ登ってきた。

「…ごっちん?」

それから、平家の肩先で両腕をいっぱいに広げ、顔に擦り寄ってくる。
382 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時16分31秒
「……平家さぁん」

ちっちゃな手のひらが触れる頬に伝わってくる、
僅かだけれど、とても愛しい熱。

それだけでも彼女の不安が流れ込んでくるようで、
平家の胸の奥も、しくしくと痛み出す。

「…ゴハン、食べよか?
これは、カミサマがごっちんにくれたお休みなんやし」

自分から言い出したこじつけのような言葉に、
後藤がゆっくり身を離した。

「…もう一日、あたしにごっちんのこと、独り占めさせて?」

頭を上げて自分を見つめてきた小さな恋人に、平家はゆっくり唇を寄せた。
383 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時17分12秒
起きて、食事して、洗濯をする。

昨日とまったく同じ姿の後藤と、
昨日とまったく同じことを繰り返す。

ただ違うのは、
互いの胸の奥に渦巻く不安の要素。

言葉にしてしまうと現実になりそうな恐れが強くて、
それは自然とふたりを無口にしていく。
384 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時17分44秒
「……あのね」

午後を過ぎた頃、昨日と同じように、
ソファに座る平家の胸元にしがみついていた後藤が声を出す。

不意だったけれど、その声は、とても不安気な声色で平家の耳に届いた。

「どした?」

空気から伝わる不安要素が、平家の声も少なからず震わせる。

「…平家さん、こんなあたしといて、イヤじゃない?」
「は?」

いきなり何を言い出すのだ。

「…突然、なに言うん?」
「だって、だってさ…」
385 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時18分38秒
平家から微妙に目を逸らし、唇をほんの少し尖らせる。

拗ねた風でも、不安でいるのは隠し切れてないが、
可愛さは充分に備わっていて、平家の鼓動が高鳴る。

「…あたしさ、昨日から全然平家さんの役に立ってないじゃん」
「はいぃ?」

「平家さんがいなきゃ、ひとりで何にも出来ないんだよ」
「…そりゃ、仕方ないやんか」

手のひらサイズなのだから、それは仕方のないことだ。

けれど、そのことに対して驚きはしていても、
迷惑だとか、イヤだとか、そんな風には一度も思わなかったのに。

平家は、そう言いたかったのだけれど。
386 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時19分37秒
「…ごめんね」
「? なんで謝るん?」
「だって、だって」

後藤の声色が涙混じりになって、平家の胸の高鳴りも増す。

「…こんなあたし、ホントなら気味悪がられても仕方ないじゃん。
それなのに平家さん、優しいし、逃げないし」

どうして、もっと、後藤の立場になってあげられないんだろう、と平家は思う。

彼女の不安は、自分が思う以上のものであるはずなのに。

そしてそれをどれほど耐えているか、
気付いてやらなければいけない立場に、自分はいるはずなのに。
387 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時20分19秒
「…あのな、ごっちん」

胸元の愛しいぬくもりをそっと手のひらで包み込む。

手のひらにおさまってしまうほど小さなそのぬくもりは、
平家にとって、他の何にも代えがたい存在だった。

「もうちょっと、あたしのこと、信じてくれへんかな?」

指の腹で、何度も何度も、彼女の髪を撫でた。

彼女の不安が、少しでも薄らげばいいと願いながら。

「あたし、ごっちんが好きって言うてるやん。
それはごっちんの見かけだけやなくて、
『後藤真希』っていうオンナのコの、丸ごと全部って意味なんやで?」
388 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時21分06秒
ゆっくりと頭を上げて平家を見つめる後藤の目が、
ほんの少しだけ涙で濡れていた。

「たとえばごっちんの手足がなくなっても、
ごっちんの目が見えへんようになったり喋られへんようになっても、
それが『後藤真希』やったら、そんでええねん」

「平家さん……」

「…言うてる意味、判る?」

こくこく、と、何度も何度も頷いて、後藤が平家にしがみ付く。

「そのまんまで、ええよ。
なーんも心配せんでも、あたしは、ごっちんが好きやよ」
389 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年08月31日(土)23時22分32秒
たとえば、もう、その優しい腕で、自分を抱き締めてくれなくなっても。

たとえば、もう、そのあたたかな瞳で、自分を見つめてくれなくなっても。

たとえば、もう、その甘い声で、自分を呼んでくれなくなっても。

キミが、そばに、いてさえくれれば。

「ごっちん」

愛しいひとの名を告げて、そのぬくもりを抱き締める。

このまま、時間が止まってしまえばいい、と平家は思った。

そうしたら、心の奥で渦巻く不安の要素すべてを、忘れてしまえるのに、と。
390 名前:ギャンタンク 投稿日:2002年09月01日(日)03時23分38秒
平家さんのごっちんへの深い愛情に感動しました。
ところで、明日の「ヘッチャラ平家☆よろしくヨッスィー」スペシャルの
ゲストがごっちんらしいという噂。みちごまが現実に?
391 名前:ぴとむくん 投稿日:2002年09月01日(日)05時24分04秒
切ない・・・・(T∇T)
瑞希さんのペースで更新してってくださいね!
392 名前:ギャンタンク 投稿日:2002年09月01日(日)16時54分12秒
「吉澤と縁の深いあのGさんがゲスト!」って噂だったので、
ごっちんかと思ってたら、ガッツ右松だったという初歩的な罠。
393 名前:瑞希 投稿日:2002年09月09日(月)23時21分30秒
>>390,392:ギャンタンクさん
>>391:ぴとむくん
今回、自分の趣味だけで突っ走ってはいけない、ということを、
身を持って知った作品になってます、ハイ(>_<)

けど、こっちも終わりが見えてきましたです。
気合い入れます!!


では、続きです。
394 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時22分27秒



日が暮れる。

まだ、後藤の姿は戻らない。


自分の姿が変化してしまった昨日より、
格段に元気を失くして、言葉数も少なくなっている後藤に、
平家はどんな言葉をかけていいか判らなかった。

ただ、ひとりきりになる、ということを嫌っているのか、
会話はなくても、後藤が平家から離れることもなくて。

夕飯の買出しに出かけたときも、それをレンジであたためている間も、
ゴハンを食べるそのときでさえ、平家の胸元から離れようとしなかった。
395 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時23分25秒
「…ごっちん、なんか喋って」

無音が耳に痛くて、思わず平家もそんなふうに言った。

「喋ることなかったら、あたしの名前呼んで。…黙られてたら、ちょっと、淋しい」

後藤の自分を呼ぶときの声はとても優しくて、甘くて、
平家はいつもいつも、それだけで、胸を鳴らしていた。

けれど今日は、まだあまり、呼んでもらえてもいなくて。

「…平家さん」

平家の請いに、後藤も小さくその名前を告げた。
396 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時24分03秒
「もっと呼んで?」
「平家さん、平家さん、平家さん」

呼びながら、胸元にしがみつく後藤が愛しくてたまらなくなる。

同時に、彼女の抱える不安も平家の心の底へと、流れ込んできた。

「………怖いよぅ」

呟かれた一言が、平家の全身を篤い熱で覆い始めた。

小さくなっても、平家にとっての存在の大きさは変わることのない後藤。

その彼女が、不安に耐え切れず漏らした言葉。
397 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時24分43秒
「…このまま戻らなかったら、どうしよう」

ちくちく痛み出す平家の胸の奥での、人知れずの葛藤の中、
後藤の涙声が、常識人の理性を呼び戻す。

「…もし、もし戻らなかったらさ、こんなあたし、きっとファンの子は気持ち悪く思うよね。
おかーさん達にも、きっといらないって、言われちゃうよね」

「ごっちん…?」

「ひとりで何にも出来ないあたし、もう、みんなにいらないって、言われちゃうよね」

……ああ、そういえば。
今日はまだ一度も、後藤の心からの笑顔を見ていない気がする。
398 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時25分26秒
「みんなみんな、あたしのことなんかいらないって、言うよね」

平家の胸の上でまた涙声になっていく後藤の髪を指の腹で撫でる。

「……どうしよう。どうしたらいいんだろう」

心細げな、独り言のような言葉に、平家は少し乾いた自分の唇を舌先で湿らせた。

「……あたしが、おるだけやったら、足らん?」
「え?」

「あたしがごっちんのそばにおるよ。
あたしはごっちんにいて欲しいし、いらんなんてちっとも思わへん」

たとえ、その姿が、誰の目にも異質な存在として映っても。
399 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時26分11秒
「他のみんながごっちんのこといらん言うても、あたしにはごっちんが必要やもん」

言葉にしながら、
こんなにも強く後藤を想っていたのかと、自分自身が驚いてしまうくらいに。

「ちっちゃいとか、ひとりで何も出来へんとか、そんなん関係ないもん」

愛しているのは、その存在。

惹かれてやまないのは、その、想い。

「……ホント?」
「平家さんがウソ言わへんの、ごっちんがよう知ってるやろ?」

答えの代わりか、後藤はますます平家にしがみついた。
400 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時27分04秒
「ずーっとおるよ。ごっちんのそばにおる」

小刻みに震え始めた小さなぬくもりが、
今、どんな想いでいるのかを、目を閉じながら思った。

「…ひとりになんか、せぇへんよ」

だから、ひとりに、しないで。
キミひとりで、すべてを悩もうと、しないで。

その言葉は、飲み込んで。

「……でも、そしたら平家さんまできっとヘンな目で見られちゃうよ?」
「ごっちんがおったら、誰になんて言われてもええよ」

それが、どれほど浅ましい束縛欲であるかを、悟らせないように。
401 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時27分43秒
「気持ち悪がったりするヤツおったら、逆に自慢したるわ。
こーんな可愛いごっちん、独り占め出来るん、あたしだけなんやでーって」

手のひらの愛しき存在を、そのぬくもりを知ってしまった今、
手放してしまえるワケなどないのだから。

「…平家さんの仕事、減るかも」
「アンタそれ、イヤミか?」

拗ねた口調で返した平家に、胸元の後藤のカラダが小さく揺れる。

少なからず空気が和んだことにホッとしながら、
平家はずっと考えていたことを、夢見ていることを、言葉にした。
402 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時28分21秒
「……でも、せやな。もしごっちんがこの世界辞めなアカンようになったら、
あたしも辞めて、ふたりのこと、誰も知らん国に行こか?」
「え?」

戸惑いと緊張を孕んだような声が返って来て、
平家は閉じていた目をそっと開いた。

そしてそこに、頬を少し赤くさせている小さな恋人を見る。

「どーせなら南のほうの、あったかい国がええなあ。
あたしらのこと、名前すら聞いたことないって言われるような」

誰の目も気にする必要のない国。
誰も、ふたりのことを、知らない国。
403 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時28分51秒
「平家さん……」

呟くように呼ばれて目線を戻すと、
怯えていたさっきとは違うと判る涙を浮かべた後藤が平家を見つめていた。

「そしたらあれやな、今よりずっとずっと一緒におれるな。
ごっちんがもとに戻らんかっても、楽しいこと満載やなあ」

いつまでもいつまでも、
たとえ世界の終わりが来ても、繋いだ手は、離さないと誓ったから。

「なかなか、ええアイデアやと思わん?」
「………平家さんっ」

にっこり微笑んで告げると、
ぎゅう、とまた、小さな恋人は強くしがみついてきた。
404 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時29分23秒
けれど、そのぬくもりは、平家の胸の奥にある独占欲を、逆に際立たせていく。

触らせたくない。
触って欲しくない。

自分以外の誰にも。
自分以外の誰をも。

渦巻く黒い欲望と願望と、そして、そこに差し込む、一筋の光。

後藤に対する想いの、何にも代え難き自信。
405 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時29分53秒
「…でもな」

常識人の平家の理性が、本能に似た願望を打ち崩しにかかる。

「それは明日になってもごっちんがもとに戻らんかったら、やで?」

ぴく、と、胸の上で愛しき恋人が肩を揺らす。

「明日になって、ごっちんがもとに戻ってなかったら、
一番最初におかーさんに言わんとアカン。それから事務所にも。
ひょっとしたらホンマに新種のウイルスかも知れんから病院にも行ったほうがええし、
キチンとメンバーにも話さんとアカン」

俯いたまま動かないでいても、ちゃんと平家の言葉を聞いているのが判る。
406 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時30分47秒
「……言うてること、判るよな?」

俯いたままで、こくり、と後藤の頭が上下する。

「…きっとみんな、びっくりするね」
「うん、そらな。あたしかて、腰抜けるかと思たし」

昨日の朝、足元に転がった後藤の姿を目の前にした、あのときは。

「……怖いか?」

声をやわらげて言うと、また小さく後藤は頷いた。

「…だいじょぶ、平家さんが一緒についてったるから、何も怖いことないで?」

また少し目元を潤ませている後藤を、そっとそっと手のひらで包み込む。
407 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時31分40秒
「あたしが一緒におかーさんとこについてったる。
勿論事務所の社長んとこにも、メンバーのとこにも。やから、何も怖がる必要ないで?」
「平家さん…」

見上げる後藤の潤んだ瞳から涙が零れ落ちる。

「…う、やっぱ、あたしやったら頼んないか?」
「そんなことないよ!」

力強い声が平家の胸を鳴らす。

「そんなことない。平家さんがいてくれたら、嬉しい」

きゅ、と小さな音が聞こえそうなくらい、平家の胸元のシャツを握り締める。

「平家さんがいてくれたら、怖くないよ」

熱くなる胸と湧き上がってくる想いに頭の奥が痺れそうだった。
408 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時34分13秒
手のひらに包み込んだ後藤をそっと持ち上げて、
その頬に唇を寄せる。

突然キスされて大きく目を見開いた後藤だったけれど、
すぐに両手を広げて平家の頬を撫でた。

「…どーして平家さんが泣くの?」

自分がどれほど浅ましいオトナか、それを知ってしまっても、
そんなふうに笑いかけてくれるだろうか。
409 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月09日(月)23時35分19秒
「……泣くほどごっちんが好きってことやん」

自分の中に渦巻く黒い膜のような独占欲が、
この無邪気な恋人にだけは、伝わりませんように。

その黒さで、彼女を汚してしまいませんように。

後藤には見られないようにして、
平家はそっと、自分の涙を、零れ落ちる前に拭った。
410 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時23分41秒

さっきと比べれば空気も幾らか和んで、昨日と同じようにふたりで入浴も済ませる。

濡れた髪をゴシゴシとタオルで拭いながら、
それを見ていた平家を、後藤が不思議そうに見上げてくる。

「…ごめんね、平家さん」
「ん? なんや急に?」

ドライヤーで乾かした髪をさらりと揺らして、温風を弱にして、その風を後藤に送る。

「んーと、いろいろ」
「なんじゃ、そら」

とん、とドライヤーを持ってないほうの手で後藤の額を軽く小突くと、
突付かれた額を両手で押さえながら、彼女は、ほわ、と微笑んだ。
411 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時24分48秒
「…うん、ごっちんは、やっぱり笑てるほうがええよ」
「え?」
「ごっちんの笑てる顔、あたし、めっちゃ好き」

この2日間で、何度その言葉を口にしただろう。

普段は恥ずかしくて、気持ちはあるのにどうしても言い慣れなくて。

「平家さん…」

それはきっと、後藤も気付いているだろう。

けれど、決して、不安がる後藤を安心させたくて言ってるワケじゃない、ということも。
412 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時25分22秒
「……さて、明日に備えて、そろそろ寝よか」

指先で後藤の髪に触れて、そっと撫でて、
乾いたことを確認してからドライヤーのスイッチを消す。

「…ねー、平家さん、抱っこして」

ドライヤーを片付けて振り向いた平家の目に映る、
両腕を伸ばして、そう要求してきた恋人の可愛さといったら。

「……いっそのこと、どっか閉じ込めといたろか」

思わずカラダごと背を向けて、そう口走ってしまうほどで。

「平家さん?」
「…今日のごっちん、かなり甘えたさんやなあ」

何とか平静を装いつつ、両手のひらでそっと恋人を包み込んで持ち上げる。
413 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時25分55秒
「寝るのもね、平家さんの胸の上でいい?」
「えっ?」
「何にもしないよ」
「…当ったり前やろ」

何をするつもりだ、10分の1のカラダで。

部屋の電気を消して、後藤を胸に抱いたままベッドに潜り込む。

上掛けは、肩まで被ると胸の上にいる後藤には重いだろうから、
胸のすぐ下辺りまでにして。
414 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時26分52秒
「…へへっ」

軽く、嬉しそうな笑い声がした。

「なに?」

平家が問うと、後藤は平家の胸元でそっと立ち上がった。

暗がりに沈んだ部屋でも、
そのシルエットは平家に愛しい人間の表情を教えてくる。

「…たとえばね」
「うん?」
「たとえば明日、もしあたしがもとの姿に戻らなかったらさ」
「…うん」

出来れば明日のことなんて、考えずにいたいけれど。
415 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時27分30秒
「そしたら、そしたらさ……」

何となく気恥ずかしそうに俯くように動いた影を守るように、
平家はそっと、手をのばす。

すると後藤も、その手に応えるように、ゆっくりと凭れてきた。

「…みんながみんな、あたしのこと、気持ち悪いって、言ってもさ」

もしそんなことがあったら、きっと、今みたいには、笑っていられないだろうけれど。

「それでも平家さんはあたしのこと、好きでいてくれるもんね。
あたしのそばに…、いてくれるもんね」

後藤の言葉が、平家の胸を打ち鳴らした。
416 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時28分10秒
「…うん、おるよ」

たとえキミがどんな姿でも。
キミが、キミ自身でいてくれたら、他には何もいらないのだから。

「ごっちんのこと、何があっても好きやよ」

キミの抱える不安を分け合えることが出来たら、
どんなにキミは、ラクになれるだろう。

その小さなカラダで、その無邪気な心で、
計り知れないほどの不安を抱えていると、判っているのに。
417 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時28分50秒
「……ありがと、平家さん」
「礼なんていらんよ。…ごっちんこそ、あたしのこと、いらんって言わんとってな?」
「なっ、当たり前じゃん! あたしがどれくらい平家さんのこと好きだと思ってるの?」

ぽかぽか、って、軽く胸の上に拳を喰らうけれど、痛みは感じるほどでもなくて。

「…でも、もしこのまま戻んなかったら、
もう平家さんのこと、抱き締めてあげられないんだなあ」

確かにそれは、淋しいことではあるけれど。

「……じゃあ、今までのぶん、あたしがごっちんのこと抱き締めたるわ」

手のひらで後藤を包み込んで、その指に彼女が噛み付くのを待つ。
418 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時29分20秒
「これからもこの手は、ごっちんを守るための手やで?」

指先に触れた唇の感触を愛しく感じながら、そっと目を閉じる。

しばらくして、胸の上の重みが移動してきて、平家の唇に触れてきた。

「……大好き、平家さん」
「あたしも、ごっちんが好きやよ」

頬のあたりにあるぬくもりをもう一度手に包み込んで、
胸の上へと移動させると、どうやら眠気が襲ってきたのか、
ゆるゆると、カラダを横たわらせていく。

「…おやすみ」
「おやすみ…な、さい…」

途切れがちの言葉が聞こえて、平家は口元を綻ばせた。
419 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時29分54秒
やがて、暗闇に沈む部屋に、後藤の寝息だけが響き渡る。

その寝息を聞きながら、
胸の上に、確かに小さな存在のぬくもりを感じながら、
平家は、これは自分の見ている夢かも知れない、と思っていた。

本来なら、自分なんかよりもっともっと、相応しい人間がいるハズなのに、
自分自身が後藤の足枷となって、
後藤を想うこの気持ちが、彼女の未来を歪めているような、そんな気がして。

いつまでも続く夢ならいい。
ずっと覚めない、夢ならいい。

いつまでもいつまでも、
この手の中に守られて、閉じ込めておけるような、
誰にも見せられない、後藤でいればいい。

けれどそれは、彼女の、『後藤真希』本来の魅力を、失わせることにも、なる。
420 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時30分45秒
後藤には翼がある。

その気になれば、
いつだって自分の元から飛び立っていける翼が。

希望という名に満ちた未来に飛び立つための、
まだ本人でさえ自覚のない、大きな翼が。

そして平家自身が、その翼をもぎ取る立場になるか、
癒して、育てて、強くする立場になれるか、
すべては、まだ、未知の選択であると、彼女は、おそらく、気付きもしないで。
421 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時31分18秒
後藤の背を包んでいた手を持ち上げて、
暗闇の中、平家はその手を自分の目の前にかざした。

暗さにも目が慣れ、ぼんやりと浮かび上がる自身の手の輪郭。

この手が、後藤を守る手でありたいと、願う。

この手で、後藤を堕落させたいとも、願う。

そのどちらも本心であり、けれど、虚偽なのかも知れない。

そばにいても、抱き締められていても、愛しさは、募るばかりばかりだから。
422 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時31分51秒
もっとそばにいて。
もっと強く、抱き締めて。

もう他へと向かわない想いの強さを思い知るたび、
その願いは、平家を、黒い渦の中へと連れ去ろうとする。

独占欲だけが、平家を支配していく。

そのたび生まれる葛藤には、いつも辛うじて理性が打ち勝ち、
そしてまた、自身の負の部分を、見せ付けられる。
423 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時32分41秒
誰にも触らないで。
誰にも触らせないで。

誰も近付かないで。
誰も近付かせないで。

いつも、いつでも、自分のほうだけ見つめていて。

言葉にするのは容易いことだと、知っている。

そしてその言葉を、後藤が喜んで受け止めてくれることも。

けれどそれで後藤を縛り付けてしまうことだけを、恐れていたから。

だからきっと、これは、自分が見ている、夢なのだ。
424 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時33分23秒
目を閉じて、もう一度、胸元にいる小さなぬくもりに手をのばす。

「…ん……」

触れたぬくもりは、平家の手に、無意識のようにそっと甘えて擦り寄ってくる。

後藤の姿が小さくなっても変わらない自分の想いの深さに、
正直、呆れもしたけれど。

彼女のこの安らかな寝息が、いつまでもいつまでも、続けばいいと、心の底から思った。

そのためなら、自分はきっと、何だって出来るから。
425 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時34分45秒
「…おやすみ、ごっちん」

明日になって、キミがもし今のままでも、
キミを想う強いこの気持ちは、何も変わらないから。

だから、泣かなくてもいいよ。
そのときは、ふたりでどこか遠い国へ行こう。

………ふたりだけで、だーれも知らない、遠い国へ、行こう。
426 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)22時59分35秒


◇◇◇

427 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時01分04秒

確かにキチンと引いたハズのカーテンから一筋の朝日が差し込んできて、
寝室をぼんやりとだけれど、明るくしている。

気配と空気の流れで、朝が来たことを、カラダと神経が平家の脳に訴えている。

けれど、何故か息苦しさだけがそのときの平家を包み込んでいて、
朝だという認識はしていても、何故かカラダは動かなかった。

手足を動かそうとして意識は働くのに、
何かがそれを押さえつけるように阻止しているような。
428 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時02分04秒
「……ん…、う…? …重、い…」

自身の声を耳に届けて、平家はハッとして目を覚ました。

そして自分の目の前にある、
長くてキレイなサラサラストレートの髪を見る。

自分に覆い被さるようになりながらも、
幸せそうな寝顔でまだまどろみの中にいる恋人を、見る。

自分と同じ大きさの、恋人を。
429 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時03分00秒
「ごっ、ごっ、ごっちん!」

平家の声に、後藤はゆっくりと目を開いた。

「………りゃ? 平家さん、おっきくない……?」
「戻ってる! 戻ってるで、ごっちん!」
「え…、ええっ!」

まだ眠そうに瞼をこすりながら、きょとん、とした面持ちでいた後藤に告げると、
その言葉に反応したように、がばっ、と起き上がった。

「う、うわっ」

起き上がった後藤を見て、平家は短く喚いて両手で顔を覆った。
430 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時03分36秒
「ご…、ごっちん、ちょ、ごめん、何か着て!」

昨夜まで着ていたはずの手のひらサイズの洋服は見事に破かれていて、
後藤はまさに、生まれたままの格好で平家の前にいた。

「あわわわ」

言われた後藤も、さすがに恥ずかしそうに、
そばにあった上掛けをそのままカラダに巻きつけた。

少ししてから、そぉっと手を退けた平家と、目を大きく見開いている後藤の目が合う。
431 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時04分14秒
「……戻ってる、よね?」
「うん」
「夢じゃない、よね?」
「うん。ごっちん、ちゃんともとに戻ってる」

最初はお互いに抑揚のない会話を交わしていたけれど、
じわじわと押し寄せてくる安心と歓喜とが、ふたりの表情を次第に崩れさせていく。

「「やったぁ!」」

ふたり同時に叫んで、腕を伸ばして抱き合った。

「よかったー、ホントによかったよー」
「うんうん」

後藤の腕に抱き締められながら、平家も大きく頷き返す。
432 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時05分03秒
けれど、自分の唇や腕が直接後藤の肌に密着していると気付いて、
慌てて腕を突っ張らせて後藤から離れた。

「…ごっちん、お願い、何か着て」
「えー、いーじゃん、別に、今更さあ…」
「アホ! 恥ずかしいこと言うな!」

顔を真っ赤にしながら顔を背ける平家に、
後藤はもう、いつもの悪戯好きそうな顔になっている。

「…でもホンマ、もとに戻ってよかっ…、ひゃっ!」

横を向いたままの平家の耳に、後藤がそっと噛み付く。

噛み付かれたときの唇の感触がじわりと、けれどはっきりと平家の腰まで響いてきた。
433 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時05分34秒
「…ちょ、…ごっち…んっ」

ぺろりと、舌先が平家の耳の奥へと差し込まれる。

その生暖かさが、ぞくり、と平家の背筋に甘い痺れを滑り落としていく。

「…あ、アカン…て」

軽く甘噛みされて、誘惑へと導くその痺れは全身へと火を灯し始める。

けれど、後藤の手が平家の胸元に伸びてきたとき、
オトナの理性がそれを何よりも強く阻んだ。

「や、やめんか!」

泣きそうにも聞こえる声とともに、
ばしぃ! と、小気味良くも乾いた音が、寝室中に響いた。
434 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時06分31秒
「いったーい!」

頭を殴られた後藤が、その頭を両手で抱えながら、
不満そうに唇を尖らせて平家を見上げる。

「あ、朝っぱらから何するつもりや!」
「何って、愛情の確認を…」
「アホゥ! もとに戻ったってのに、もっとこう、喜びの表現とかないんかっ」

平家の言葉に、後藤はますます唇を尖らせた。

「……だから、表現してるんじゃん」

声色が、表情よりもずっとずっと真剣で、平家の胸がドキリと高鳴る。

そのせいで、再び自分へと伸びてきた腕を振り払うことが出来なかった。
435 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時07分16秒
「…こーやって平家さんのこと、また抱き締められて、
あたし、めちゃめちゃ喜んでるよ?」

抱き締められて、その腕の心地好さが平家を至福へと誘う。

耳のすぐ近くで聞こえる後藤の声は、まるで、
必死に押し留めている平家の理性の箍を外そうと、画策しているようだった。

「平家さんは? 嬉しくないの?」

呼ぶ声の甘さは小さかったときと少しも変わらないのに、
身を持って知らされる、包み込まれる安心感。

抵抗する力を失くしたように、平家は、後藤の肩へと額を押し付けた。
436 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時07分48秒
「………嬉しい」

ぽつん、と呟いて、そのまま後藤の背中に腕をまわすと、
少し揺らいだ後藤のカラダが、彼女自身の喜びを教えてくれた。

ゆっくりと、体重を掛けられて、ベッドに押し倒される。

顔中に触れてくる後藤の唇が、吐息が、平家のカラダを熱くしていく。

本当に、心の底から、
またこうして後藤の腕に抱き締められることが、平家には嬉しかった。

けれど、ベッドに横たえられたときに視界の端に見えた時計に、
それまで確かに甘かった空気は、いっぺんに吹き飛んでいた。
437 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時08分21秒
「…じ、時間!」

枕に一度沈めた頭を再び上げてそう口走った平家に、
後藤は表情に不満を隠さない。

「時間? 時間がどーしたの?」
「アンタ今日、午後から取材やろ!
しかも集合時間が1時間繰り上げやって、昨日圭ちゃんから電話あったやんか!」
「あっ!」

そこまで言われてようやく思い出したのか、
焦ったように後藤は平家から離れてベッドから飛び降りた。

「やばいっ、このままじゃ遅刻しちゃう! 平家さん、シャワー借りるね!」

上掛けを持ったまま、ぴょんっ、と寝室から飛び出していった後藤を見送って、
平家は、深く深く、溜め息を吐き出した。
438 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時09分00秒
それからゆっくり、平家もベッドから降りる。

寝室を出て、タオルや着替え類を用意してバスルームに向かい、
シャワーの音を聞き届けてからキッチンに向かう。

後藤がバスルームから出てくるタイミングをはかって適量の麦茶を注ぎ、
現れた恋人にコップを差し出した。

「ありがとぉ」

にこー、と微笑んでコップを受け取り、一気に飲み干す。

「間に合うか?」
「ん、だいじょぶ。ドライヤー貸してね」

ブォォォンという機械音が響く中、髪を乾かす後藤を彼女の背後で見つめる。
439 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時09分37秒
音が止んで、片付ける手を引き継いで、後藤の着替えとメイクを見守っていると、
平家の視線に気付いた後藤が不思議そうに振り向いた。

「どーしたの?」

言われるまで、無意識に目で追っていた自分に気付かなかった。

「あ…、いや、ホンモノやなあって」

確かに昨日の夜までは、メイク道具すらその手に持てないほどのサイズだったのに。

平家の言葉に、最初はきょとん、となった後藤も、
意味を察して、また、ほわっ、と笑った。

「うん」
たった一言だったけれど、頷いた後藤の安堵が平家にも伝わってきた。
440 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時10分09秒
「……ちょっと、ふたりで海外逃亡っていうのも、してみたかったけどね」

メイクを済ませた後藤がゆっくり立ち上がって平家に歩み寄る。

ほとんど自分と同じ目線にいる年下の恋人が、
微笑みながら、ゆっくりと腕をのばして平家を抱き締めた。

「……ふたりでどっか遠い国に行こうって、アレ、嬉しかった」

抱き締める後藤が、平家の耳のすぐ後ろで小さく笑った。

そうっと平家を離して、まっすぐにその目を捕らえて。

近付く唇に、何の迷いも戸惑いもなく、平家は目を閉じた。
441 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時10分47秒
「…んー、もーちょっとこうしてたいけど、タイムリミットだぁ」

名残惜しそうに平家から離れ、自分の荷物を持って、玄関に向かう。

その彼女を見送るために、勿論平家も玄関先までついてきた。

靴を履いて、さあ準備万端、と思ったとき、後藤がゆっくり振り向いた。

「…ごめんね、平家さん」
「へ?」
「なんか、せっかくのオフだったのに、すんごい大変なオフになっちゃって」

申し訳なさそうにハの字に下がった眉毛が、無性に可愛かった。

「…めっちゃ楽しいオフやったけど?」

誰にも言えない、ふたりだけの秘密の時間を過ごせた、2日間だったのだから。
442 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時11分30秒
「ってゆーか、ごっちんと一緒やったら、何が起きても楽しいで?」

下がっていた眉が、今度は嬉しそうな下がり方になった。

「行って来ます」
「はい、行ってらっしゃい」

先手必勝、という言葉が浮かんで、返す言葉と一緒に後藤の頬に唇を押し当てた。

平家が触れた頬を手で押さえた後藤がちょっと悔しそうに唇を尖らせる。

それに満足して、平家はその唇も素早く奪った。

「…着いたらメールしてな?」

オトナの余裕を装って、真っ赤になりながら頷いた後藤を、平家は笑顔で送り出した。
443 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時12分01秒
玄関から後藤の気配が消えて、
平家はずるずると、壁伝いにそこへしゃがみ込んだ。

両手を広げ、それを自身の目の前にかざす。

まだ、確かに手のひらに残る、小さい後藤のぬくもりが、
平家の胸の奥を締め付ける。

本来の姿に戻ってくれて何より嬉しいはずなのに、安心もしたのに、
心のどこかでは、それを残念に思う自分も、確かに存在していて。
444 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時12分34秒
「…ごっちん」
『なーに?』

瞼に残る残像が、聞き慣れた甘い声で、返事する。

夢なら、覚めて欲しくなかった。
夢のままで、いて欲しかった。

この手で守れるぐらいの、この手しか、頼れる術がないくらいの、
小さくて、愛しくて、大切な、存在。
445 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時13分36秒
「……ごっちん…」

自分を抱き締めてくれる腕はちゃんと戻ってきたのに、
たとえようのない喪失感が平家を包む。

知らずに、涙が溢れ出していた。

失ったワケじゃない。
何かが変わったワケでもない。

それでも、胸の奥に、ぽっかりと大きな穴が開いたような感じだった。

そして同時に、自分にとっての『後藤真希』の存在の強さをも、痛感した。
446 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時14分08秒
頬を伝う涙を拭い取って、ゆっくり立ち上がる。

それから、寝室に置きっぱなしにしていたケータイを取ると、
ついさっきまでこの部屋にいた恋人の電話番号を押した。

コール音はすぐに途絶え、聞き慣れた甘い声が耳の奥に響き渡る。

「平家さん? どーしたの? あたし、何か忘れ物した?」
「いや…、ちょっと、声、聞きたいなあって」

電話の向こうで、戸惑う後藤が容易く想像できる。

「……2日間もごっちんのこと独り占めしてたからかなあ、
なんかあたし、めっちゃ淋しいねん」
「え?」
447 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時14分53秒
「ごっちん、怒らんと聞いてくれる?」
「…? うん?」
「……一緒に、暮らさへん?」
「へ?」
「急になんやって思うかも知れん。でももうアカン。淋しいねん。
ごっちんが帰ってまうんも、それを見送るんも。
やから、あたしと一緒に暮らして。あたしのとこに、帰ってきて」

戸惑いと、緊張と、おそらく、感動もあると判る雰囲気が伝わってくる。

平家はケータイを耳に押し当てたまま、ゆっくりと目を伏せた。

ほんの少し、涙声になる後藤の声を、ちゃんと、自身の頭の奥へも、記憶させるように。
448 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時15分51秒
やがて、平家が想像した通りの答えが、
手のひらの小さな機械を通して、返ってきた。

「…うん!」

それは、胸の奥だけでなく、
全身を駆け巡らせるような篤い情熱を乗せた、愛しい声で。

聞き届けた平家の閉じられた目尻から、
また一滴の涙が、零れ落ちた。
449 名前:そのままのキミが好き 投稿日:2002年09月12日(木)23時16分22秒
--------END--------
450 名前:瑞希 投稿日:2002年09月12日(木)23時17分22秒
はい、以上で『そのままのキミが好き』終了です。

作者の趣味をぶっ飛ばしただけのアホぅな話に長々とお付き合いくださり、
ありがとうございましたm(_ _)m
451 名前:瑞希 投稿日:2002年09月12日(木)23時18分38秒
さて、このスレもいい感じでピッタシ消化できそうです。

ひょっとしたら読者の方の中には予想ついてた方もいらっしゃるとは思いますが、
金板と花板の完結を同時期にしたワケは、飼育からの撤退を決めていたからです。

昨年の夏にココを知り、自分としても楽しい遊び場所だったんですけど、
最近のリアル厨房に、ちょっと居心地の悪さを否めなくなりまして、
というか、ぶっちゃけた話、イヤになりまして、撤退を決意しました。

しばらく傍観者に徹しよう、と。

まったく書かない、ってことはないんで、なんだかんだ言っても、
そのうちまた舞い戻ってくるとは思いますが、当分は地下に潜ります。

勝手な言い分です。でも、ココはそれも有りだと思ってます。
だけど引き際はキレイに、ね。<…愚痴ってますけども(^^;)

拙い文章でしたが、
今まで読んでくださった皆様に多大なる感謝の気持ちを乗せつつ、
長々とお付き合いくださり、本当に、本当に、ありがとうございました。

またお会い出来る日まで、ごきげんよう。
452 名前:ギャンタンク 投稿日:2002年09月13日(金)01時45分42秒
瑞希様
素晴らしい作品でした。
撤退は悲しいけど、お帰りになる日をお待ちしてます。
みちごま最高!
453 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月15日(日)22時30分36秒
ありゃ。まじですか。ざんねんです。

どこかで瑞希さんの作品をハケーンできることをねがっています。

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