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加護のユメ
- 1 名前:sorari 投稿日:2002年04月06日(土)09時15分14秒
- 二度目の作品です。どうもsorariです。
辻と加護をメインで書きたくなりました。辻視点で終始話が進みます。
今月末までには必ず終わらせます。
まだまだ未熟者ですが、どうぞよろしくお願いします。
- 2 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月06日(土)09時16分19秒
- 今日は、春の日差しが気持いい、
よく晴れた暖かい日でした。
ののは、コンサート会場の近くの公園で、
木々の木漏れ日の中を散歩をしていました。
リハーサル迄まだ時間があるので
気分転換になればと外に出たのは正解でした。
公園は、暖かい日差しが爛々と振り注ぎ、
春の陽気の中、小鳥が歌を歌っています。
- 3 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月06日(土)09時17分03秒
- ふと、小鳥たちのコーラスに混じって、
背後からののを呼ぶ聞きなれた声が聞こえました。
振り向くと、やっぱりあいぼんが
片手を振りながら駆けて来ました。
「やっぱり、ここに、いたんか。
はよ戻らんと、飯田さん、かんかんやで」
ゼイゼイ呼吸を荒げながら途切れ途切れに話します。
額からたくさん汗を掻いて、とても辛そうでした。
「大丈夫れすか?あいぼん苦しそうれす」
心配して覗くあいぼんの顔は血の気が失せて
若干青白い色をしています。
- 4 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月06日(土)09時18分25秒
- 左手を膝に乗せたまま、屈みこんだ体勢で
何でもないという風に右手を上下に揺らします。
「大丈夫や、もう少し、休んだら、楽になるから」
そう言うと、胸を右手で抑えて何度も深呼吸をしてました。
呼吸もだんだん落ち着いてくると「ほらな」と言いい、
右手でののの左手を取ると「戻ろっか」と笑顔で言いました。
ののは、つられて微笑むと、一つ頷いて
いっしょに来た道を歩いて行きました。
- 5 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月06日(土)09時19分47秒
- 元来た道を引き返しながら、ののは、ふと疑問に思いました。
「ねぇ、あいぼん。どうしてののがいる場所分ったのれすか?」
その疑問を声に出して尋ねてみます。
すると、あいぼんは、ののの瞳を覗き込むと、
「何となく分んねん。ののの考えてる事」
と悪戯っぽい声で答えました。
ののは、なんだか悔しくなって、
「ののも、あいぼんが考えてる事分るれすよ」と言うと、
「何や」と挑戦的な言葉を返してきました。
「今日のお弁当は何なのれすかねぇ」
何も考えてなかったののは、咄嗟に思い付きを口にしました。
「ぶっ、あたりや」
あいぼんは、噴出して笑うと可愛い笑顔をののに向けます。
ののも、同じように笑顔を向けると、二人で声を出して笑いました。
二人で歩く並木道は、お日様と草木の香りがして
とっても、とっても幸せな気分になります。
今は、小鳥のさえずりと、ののとあいぼんの笑い声だけが
暖かい日差しの中聞こえていました。
楽屋に戻ると、飯田さんにたっぷりと怒られてしまいました。
ののは、唯々リハーサルが始まるのを待ち焦がれていました。
- 6 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月06日(土)09時20分34秒
- その日のコンサートは、大成功を収めました。
だけど、あいぼんは、曲の合間に
とても苦しそうにしていました。
近頃のあいぼんは過密スケジュールで
休む暇もないって言っていました。
きっと疲れがたまっていたんですね。
コンサートが終わってホテルに戻ると
ののは、あいぼんのお部屋まで遊びに出かけました。
あいぼんが泊まっている部屋は、
ののと違って綺麗に整頓されていました。
あいぼんは、備え付けの冷蔵庫から適当にジュースを二本取り、
一本をののに渡すと二人で並んでベットに座りました。
- 7 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月06日(土)09時21分37秒
- 明日には東京に戻るのですが、ののとあいぼんは、
帰ってから二日間お休みをもらっていました。
ののは、あいぼんにオフの間どうするのか尋ねてみました。
「そやな、何処かいっしょに遊びに行こっか」
「おぉ!デートれすね。いいれすよ」
あいぼんといっしょに遊ぶのは久しぶりだったので
プニプニした頬が思わず緩んでしまいます。
それから、どこに遊びに行くかを二人で話し合いました。
ののは、ディズニーランドに行きたかったのですが、
あいぼんが学校があるからと却下されてしまいました。
結局、人込みはイヤだという理由でののの家で遊ぶ事になりました。
あいぼんも、結構我侭ですねぇ。
それでも、久しぶりにあいぼんと遊べるので
ののは嬉しかったんですよ。
それから、少し話をしていたんですが
あいぼんがこっくりこっくりしてきたので、
ののは、あいぼんにおやすみを言って自分の部屋に戻りました。
ののもだいぶ疲れていたみたいで、
ベットで目を閉じると直ぐに眠ってしまいました。
- 8 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時08分11秒
- 学校から家に帰りついたのは、4時過ぎでした。
夕方に、あいぼんが家に来る事になっているので
ののは少しだけ仮眠を取る事にしました。
寝覚めたのは午後7時で、6時に最寄の駅で
待ち合わせをしていたので凄く焦りました。
既に1時間の遅刻です。
ののは、着の身着のまま駅まで出かけました。
愛車のモーニング・スター号に跨ると
猛スビードでペダルを漕ぎ、
何とか5分で駅に着きました。
駅には、あいぼんはいませんでした。
ののは、あいぼんはもう帰ったんだと思い、
慌てて携帯に電話しようとポケットを探りました。
その時初めて携帯を部屋に忘れてきた事に気づきました。
- 9 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時09分19秒
- どうしていいか分らずに、すっと駅の改札口の前で
駅の明かりを見つめてました。
辺りはすっかり暗くなり、
空には一つ二つと星が見え始めていました。
何だか情けなくて、悲しくて涙で視界が滲みます。
あいぼんが来るかもしれないので帰るに帰れず、
唯じっと駅の改札口からホームを眺めていました。
どのぐらいたったのか、電車がホームに止まり、
沢山の人が改札口から出て行きます。
人の流れは途切れることなく、
会社帰りのサラリーマンが疲れた足取りで通り過ぎます。
ふと、駅から出てくる沢山の人の中に、
ピンクのカットソーと赤チェックのスカートで
チェックの帽子に変てこな眼鏡をかけた
身長150センチ前後の女の子がいました。
両出には大きな鞄を持っています。
何処からどう見てもあいぼんでした。
変な変装が余計に引き立っていました。
- 10 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時09分59秒
- ののは、あいぼんの姿を見て安心したのか、
我慢できなくて泣いてしまいました。
あいぼんは慌ててののに駆け寄ると、
心配そうに顔を覗き込みました。
「ごめんなぁ、遅れて」
「電車で少し寝てたら、何時の間にか随分と乗り越してもうてん」
「何度も携帯に電話したんやで」
あいぼんは、口早に話すと、何度も何度も誤ってくれました。
謝る必要なんてないのに、ののも遅れたんだよって言いたいのに、
感情が波のように押し寄せてうまく言葉になりません。
あいぼんの優しさに甘えてしまう自分が情けなくて、
だから、余計に涙が溢れます。
- 11 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時10分40秒
- すれ違う人たちが、怪訝そうに目を向け、
少し離れたところでこそこそと話をしています。
何の話をしているのか容易に想像でき、
こんな時、芸能人である事が少し嫌になります。
ののは、涙を拭い、にっこり微笑むと、
「ごめんね。もう平気だから」と笑顔で答え、
「いこっか」と言うと、愛車を手で押しながら、
あいぼんといっしょに家に向いました。
帰っている途中で、実はののも寝坊した事を話したら、
あいぼんに呆れられてしまいました。
でも、何処かほっとしているようでした。
随分と遅れた事を気にしていましたからね。
- 12 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時11分35秒
家に着いた時は、既に8時を回っていました。
あいぼんを真っ直ぐ部屋に案内して、
ののは愕然としてしまいました。
なんと!お部屋がコンサートから帰ってきたままの
凄い有様だったのです。
あいぼんの目が掃除ぐらいしとけよと訴えかけています。
ののは、大急ぎで片付けると、どうにか二人で座れるぐらいの
スペースを確保しました。
あいぼんの鞄の中には、パジャマや替えの洋服や枕の他に、
カップラーメンやポッキーなどお菓子類が入っていました。
そういえば、二人とも夕飯を食べてないのを思い出したので、
のののお母さんに頼んで、ののの部屋まで夕飯を運んでもらいました。
のののお母さんは、三度の飯よりあいぼんが好きなので、
なかなか部屋から出て行ってくれませんでした。
気持ちは分かりますけどね。
- 13 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時12分46秒
- 二人で夕食を食べるといっしょにお風呂に入りました。
あいぼんは、また胸が大きくなったようです。
それに比べてののは……神様は不公平です。
ののの家のお風呂はそんなに小さくないのに、
二人で肩までお湯に浸かると結構窮屈になります。
ちょっとお湯が熱いようですねぇ。
「う゛〜ぃ。みずみずぅ」
体を起こして蛇口を掴むと、蛇口を捻って水を出します。
「ひゃぃ!つめたぁ!」
ちょうど、蛇口はあいぼんの傍にありました。
当然のように水はあいぼんにひっかかります。
驚いたあいぼんは、ののに飛び付くように抱き付きました。
さすがにちょっとドキドキです。
もちろん、あいぼんの要請で場所を入れ替えました。
暫くの間、延々と小言を言われたのは言うまでのありません。
それから、二人で背中を洗いっこして、お風呂を上がりました。
背中を洗う振りをして胸を触ろうとしたのだけど、
見抜かれていたようで阻止されてしまいました。
ちょっと残念。
- 14 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時13分28秒
その日の夜は、遅くまでゲームやお話で盛り上がりました。
お姉ちゃんの部屋に肝試しに行こうかと思ったのですが
後が怖いのでさすがに止めました。
夜も更けるとさすがに眠くなります。
あいぼんにはのののベッドに寝てもらって
ののは布団を敷いて寝ました。
暫く布団の中でお話をしていましたが、
次第に途切れがちになり、ついには何も話さなくなりました。
「のの……もう寝たんか?」
ののが、眠りに落ちようとしていたら、
あいぼんが話し掛けてきました。
「ううん。起きてるよ」
と言うとあいぼんの方に体を向けます。
- 15 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時14分56秒
- あいぼんは、ベッドから顔を覗かせてこちらを見ています。
「……そっち行ってもいいかな?」
「うん」
ののは、あいぼんが入るスペースを空けると、
おいでと言わんばかりに布団の横を少しだけ持ち上げます。
あいぼんは、ベッドから降りると、
ののが持ち上げた布団の隙間から体を潜らせて、
ののの隣に頭を出しました。
ののとあいぼんは、向き合い互いに微笑むとお話をしました。
- 16 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時15分44秒
- 二人の話は、殆どモーニング娘。のメンバーの話でした。
仕事は大変だけど楽しかったりとか、梨華ちゃんのキャラクターは
あれで良いのかなど、他愛のない話で盛り上がります。
不意に、あいぼんが真面目な顔をして尋ねました。
「なぁ、のの。ののの夢はなんや」
「夢れすか?夢は覚えてないれすね」
ののは、いつもぐっすり寝ているので
朝起きても夢を覚えている事は殆どありません。
「その夢やなくて、将来の夢や」
「将来の夢れすか?」
将来の夢と言われても、ののはまだ中学生ですし、
将来もこのまま続けるだろうと漠然と考えていたので、
改めて聞かれるとなんと答えていいのか分かりません。
- 17 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時16分28秒
- ののが返答に困っていると、あいぼんは微笑み、
布団の中で姿勢を変えると天井を仰ぎ見ました。
「うちな、夢があんねん」
そう言われると、どんな夢なのか気になります。
当然のごとく、どんな夢なのか聞いてみました。
「どんな夢れすか?」とののが言うと、
あいぼんは天井から視線を外してののの方を向き直します。
あいぼんは、「秘密や」と言いうと、
意地悪な微笑を浮かべました。
あいぼん、話題を振っておきながら秘密はあんまりです。
- 18 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月08日(月)21時17分12秒
- ののが文句を言いたそうな顔をしていたら、
「別にたいした夢やないねん。何か恥ずかしいやん」
と照れたように言いました。
「それじゃ、ののも秘密れす」
秘密も何も、具体的な夢なんて思いつかなかったのですが、
なんだか悔しかったので強がって言いました。
それから、ののとあいぼんは同じお布団で
向かい合ったまま寝りにつきました。
知ってましたか?
ののは、あいぼんといる時が一番幸せですよ。
- 19 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月10日(水)20時52分19秒
- オフ明け最初の仕事の日に、
ののとあいぼんは些細な事で喧嘩をしました。
番組の収録が終わって楽屋に戻ると、
ののが大切にしていたキャンデーの
最後の一個が無くなっていました。
その事をみんなに尋ねてみると、
それまで黙って聞いていたあいぼんが、
「あっ、それうちがもろたで、のののやったんか」
と言いました。
別にその事はどうでも良かったんですけど
ののは、今日の収録で旨く話せずイライラしていたので
つい、あいぼんに当たってしまいました。
- 20 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月10日(水)20時53分17秒
- ののは、言い掛かりを言ってあいぼんを責めます。
あいぼんも最初は謝ってくれていたのですが、
次第に食って掛かってきました。
「うっさいなぁ。たかが飴一つで、
うちの物はうちの物、ののの物もうちの物や」
「あいぼんはジャ○アンですか!」
売り言葉に買い言葉で、不毛な言い争いはいつまでも続きます。
仕舞には、飯田さんがまであいぼんの肩を持ちます。
「あんたたち、いい加減にしなさい」
「ののは悪くないれす」
怒られてふて腐れると、飯田さんは、ますます怖い顔で怒ります。
「はいはい、うちが悪いんやろ。
もう付き合ってられへんわ。
後藤さん、帰りましょう」
それまで聞いていたあいぼんは、呆れたように言うと
後藤さんと一緒に帰ってしまいました。
- 21 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月10日(水)20時53分58秒
- ののは、悔しくて、悲しくて泣いてしまいました。
ののは、本当は怒っていないです。
あいぼんは、歌もダンスもトークも上手で、
ののの方が早く生まれたのにののよりも何でもできて
だから、嫉妬していたんです。
だから、何もできない自分がとても悔しかったです。
後藤さんといっしょに帰るあいぼんを見て、
なんだか見放されたような気がしてとても悲しかったです。
飯田さんは、ののが突然泣き出したので
どうして言いのか分らないといった様子で
ずっと話し掛けてくれました。
ずっと慰めてくれました。
明日、ちゃんと謝ろう。
- 22 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時10分42秒
- 次の日、ののは、焦っていました。
学校から帰って、普段着に着替えると
いつものようにアロエヨーグルトを食べて、
それから車に乗り込みました。
そこまでは順調でした。
仕事場に向う道すがら、渋滞に巻き込まれてしまいました。
車が動き出さした頃にはすっかり遅くなってしまい、
久しぶりに遅刻をしそうでした。
車の中で時計を見るとギリギリで間に合いそうです。
テレビ局の近くで救急車がののの車とすれ違いました。
きっと、事故か何かで渋滞になっていたんでしょうね。
テレビ局に着くと急いで楽屋を目指します。
何となく慌しく感じましたが、
ののは、時間が気になって、
そのことを余り気にしませんでした。
- 23 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時11分44秒
- 楽屋に着くと、娘。のメンバーは殆ど来ていました。
楽屋の雰囲気は重苦しく、なんだか息苦しく感じます。
ののは、楽屋を見渡して、いつも一緒にいる人物を探しました。
でも、何処にもあいぼんの姿は見当たりませんでした。
みんな、涙ぐんでじっと俯いています。
何だか、とても不安な気持ちでいっぱいになりました。
「あっ、辻……おはよう」
飯田さんが、漸くののに気づいて挨拶します。
ののは、挨拶を返して疑問を口にしました。
「あのぅ……あいぼんは……」
みんなの視線がののに向けられます。
中には、泣いている人も何人かいました。
- 24 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時12分40秒
- 「加護は……さっき、楽屋で倒れた」
「急に、胸を抑えて、顔を真っ青にして、凄い汗をかいてて……」
「さっき、救急車で運ばれていった」
飯田さんは淡々と話します。
大きな瞳にいっぱい涙を溜めながら……
先ほどすれ違った救急車が不意に思い出されます。
あの救急車にあいぼんが乗っていたのだと思うと、
急に怖くなって体が震えました。
「あいぼん……行かなきゃ……」
ののは、あいぼんの後を追おうと楽屋を飛び出そうとしました。
でも、飯田さんに腕を捕まれて楽屋を出る事ができませんでした。
ののの顔を覗き込む飯田さんの姿が滲み、
楽屋の内壁が歪みます。
ののは、溢れる涙を瞳からぽろぽろ零すと、
堪え切れずに泣き出してしまいました。
- 25 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時13分20秒
- 飯田さんは、ののを抱きしめて諭すように話し掛けます。
「だめだよ、もう直ぐ打ち合わせが始まるんだから」
「みんな、心配なんだ。でも、みんな我慢してるんだ」
大きな瞳に沢山の涙を溜めて、
自分に言い聞かせるように言いました。
飯田さんは、ののの瞳が見えるように
両手でののの顔を挟み、視線を合わせると、
「仕事が終わったらみんなでお見舞いに行こう」
と優しい声で言いました。
ののは、ぐっと我慢しました。
本当は直ぐにでもあいぼんの所に行きたかったのですが……
でも、その必要は直ぐになくなりました。
結局今日の収録はそれどころではなくなり中止になりました。
- 26 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時15分03秒
- 楽屋に戻って帰る準備をしていると、
室内の隅にケーキが置いて在りました。
ののが不思議そうに見ていると
後藤さんが教えてくれました。
「それ、あいぼんが買ってきたんだ」
「ののと、仲直りしたくて、飴の替りだって……」
「昨日、ののちゃんと喧嘩した事凄く気にしてたよ」
ののは、ケーキのケースを両手で持ち上げると無言で見詰めました。
昨日喧嘩した事が思い出されて、余計に胸が苦しくなりました。
瞳に溜まった涙が、ぽたっ、ぽたっとケーキのケースに零れ落ち、
ケースの表面を滑り落ちると地面にぶつかって四散します。
どうして昨日は喧嘩なんかしたんだろう。
今更ながら、後悔が胸を過ぎり深い悲しみに包まれます。
ののは、あいぼんに早く会いたくて、
そして、昨日の事を謝りたいという思いでいっぱいです。
ののは、ケーキを持って、みんなと病院に向かいました。
- 27 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時17分35秒
- 暗く立ち込めた雨雲からヒトヒトと雨が降り出し、
病院へ向うタクシーのワイパーが一定のリズムで
フロントガラスに流れる雨の雫を払います。
太陽は西の空に沈み、辺りが夜の暗闇に包まれる頃、
のんぼたちは、あいぼんが運ばれた病院に着きました。
病院には既に凄い沢山のマスコミの方が押し寄せており、
ののたちは、裏口からあいぼんがいる病室まで案内されました。
あいぼんは病院の個室のベッドで眠っていました。
お医者さんが言うには、今は薬で眠っているらしく、
後1、2時間すれば目を覚ますだろうということでした。
あいぼんの顔色はほんのりと朱色が指し、
規則正しい寝息を立てていたのでほんの少しだけ安心しました。
ののたちが到着した事にマネージャーが気づくと、
飯田さんをつれて二人で病室から出て行きました。
ののは、ベッドの隣であいぼんが起きるのをずっと待っていました。
- 28 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時22分43秒
- 暫くして、飯田さんとマネージャーが戻ってきました。
飯田さんは、顔を真っ青にしてとても思いつめた表情をしています。
ののは、とても不安になりました。
眠っているあいぼんの顔をみて、また涙が溢れ出します。
飯田さんの様子から、あいぼんの様態が良くない事が
容易に想像できました。
ののは、あいぼんの様態を詳しく知りたいと思う反面、
何も知らされない事をありがたくも思いました。
矛盾した気持ちがののの心の中で交錯して、
どうしようもない不安で胸がドキドキしてとても痛くなります。
あいぼんは、ベッドの上で真っ白なシーツに覆われた掛け布団を
肩まで掛けて、すやすやと寝息を立てながら、
とても安らかな顔をして眠っています。
みんな、用意された椅子に座ると押し黙ってしまい
何も話そうとしません。
ののも、あいぼんが買ってくれたケーキのケースを両手で持って
膝の上に乗せて、ずっとあいぼんの方を向いていました。
- 29 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時24分39秒
- どれ位たったのか、長針と短針が二度目の挨拶を交わす頃、
あいぼんが目を覚ましました。
ぱちぱちと目を瞬かせて、辺りをきょろきょろを見回し
今置かれている状況を必死に整理しようとしています。
あいぼんは、漸く合点がいったのか、みんなの方を見て
「おはよう御座います」
と的外れな挨拶をしました。
他のメンバーは苦笑いをしたり、
ボケを突っ込んで笑っていました。
あさ美ちゃんは、
「おはよう御座います」
と挨拶を交わしていました。
ののは、椅子から立ち上がると
あいぼんに駆け寄り泣いてしまいました。
その時、ケーキのケースは下に落っこちてしまいました。
- 30 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時31分41秒
- 下に落っこちたケーキのケースは
嫌な音を立て床に倒れています。
一瞬にして部屋の中が静寂に包まれ、
誰も動こうとはしません。
ののの視線は床に落ちたケーキのケースに釘付けでした。
後藤さんが、ケーキのケースを拾って、
中を確認しようと空けて見ます。
ケースの中のケーキは、
予想通りぐちゃぐちゃになっていました。
- 31 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時32分19秒
- 「ごっごめんなさいれす」
ののがしゅんとなって謝ると、
あいぼんがにこって笑って、
ぐちゃぐちゃになったケーキを一つまみ摘んで
ひょいと自分の口に放り込みました。
「うん。おいしい」
と言うと、同じように一つまみ摘み、
ののの口元に運んでくれます。
ののは、あいぼんに食べされてもらうと
「おいしいれすねぇ」
と言って笑いました。
その後、みんなでぐちゃぐちゃになったケーキを食べました。
みんなで食べたケーキは、とっても甘くて
今まで食べた中で一番美味しく感じました。
- 32 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時33分07秒
どれ位たったでしょうか、
食べ終えたケーキのケースを片付けて
ののたちがお話をしていると、
病室のドアが空いて女の人が入ってきました。
「お母ちゃん」
あいぼんが、その女の人を見て言いました。
あいぼんのお母さんは、「大丈夫?」と声を掛けて
あいぼんに寄り添いました。
あいぼんは、ベッドの上に座った体勢のまま
お母さんに抱き付くと、急に泣き出しました。
飯田さんが、「あたし達はお邪魔だから帰ろっか」と言うと、
あいぼんのお母さんは、
「あの、私は先生とお話があるのでもう少し居て下さい」
と言い、あいぼんから離れ病室を出て行きました。
- 33 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時33分55秒
- それから、30分はたったでしょうか。
随分と長い間、お母さんとお医者さんはお話をしていました。
病室に戻ってきたお母さんは、
飯田さんと同じように真っ青な顔をしていました。
ののは、また、嫌な予感がしました。
勘が良いあいぼんはその事に気づいたらしく
凄く不安な表情をしています。
お母さんが病室に入ろうとすると、
マネージャーが「ちょっと」と言い
いっしょに病室を離れます。
ののたちは、じっと、二人が出ていった
ドアの方を見つめていました。
- 34 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時36分05秒
- 窓から覗く夜の空は雨雲が広がり薄暗く染め上げます。
地上にはビルや家の明かりが所々灯り、
雨で濡れたアスファルト上を走る車のヘッドライトが
幾多もの光の流れを作っていました。
二人が病室から出て行ってから暫くすると、
ののたちはあいぼんを中心にいつもの活気を取り戻しました。
あいぼんも、漸く笑顔を見せるようになり
他愛のない冗談を言い合う余裕も出来てきました。
不意に、ドアにノックがありドアが開くと
マネージャが顔を出します。
ののたちは、マネージャーに
話があるからと病室の外に呼ばれ、
みんな廊下に出て行きます。
ののも後について行こうとすると
ふいに服の袖を捕まれました。
あいぼんが、不安そうにののを見つめています。
ののは、「直ぐ戻ってくるから」と言い、
病室を後にしました。
- 35 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月11日(木)21時38分05秒
- ののたちが応接室のような部屋に連れて行かれると、
そこではあいぼんのお母さんが泣いていました。
マネージャーは凄く言い難そうにしていましたが、
いずれ分る事だからと話し始めました。
マネージャーの話は、ののの想像を越えていました。
「何から話せばいいのか……まだ詳しい事は分りませんが、
加護さんは特発性心筋症の疑いがあります。
一応、検査のために暫く入院する事になると思いますが
入院ともなりますといろいろ問題もある為、皆さんも
知っておいた方が良いだろうと判断したのでお話します。
この病気は……」
ののは、頭の中が真っ白になり、何も考えられませんでした。
後の話は殆ど耳に入らず、何を話していたのか覚えていません。
ののは、きっと、飯田さんやさっきのお母さんみたいな
顔色をしているんだと思います。
話も終わると、マネージャーは今夜はもう遅いので
帰るようにと促します。
ののは、さっきのあいぼんの約束を忘れて、
そのまま家に帰ってしまいました。
- 36 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月12日(金)20時54分15秒
- 翌朝、一晩中泣きはらして目は真っ赤になっていました。
洗面所の鏡の前で、顔を洗うと、笑う練習をしました。
きっと、あいぼんのお母さん次第で、
ののはあいぼんに嘘をつかなくてはなりません。
ののは、鏡の前でリハーサルをしました。
昨日から降り続いた雨も次第に雨足を弱め、
学校も終わり病院へ向かう頃には地面も乾き始めていました。
病院に着き、病室の前まで行くとノックをしてドアを開きます。
病室では、あいぼんとお母さんが二人で話をしていました。
ののが入ると、あいぼんのお母さんは気を利かせて
席を外してくれました。
- 37 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月12日(金)20時55分32秒
- あいぼんにののが近づくと、不安そうな顔でこちらを見ます。
「のの……なんで昨日戻ってくれへんかったんや」
あいぼんの口調が余りにも寂しそうで、
今更ながら昨日顔を出し忘れた事に
情けなさや申し訳なさで胸がいっぱいになります。
あいぼんや、お母さんの態度から、
まだ病気の事は話していないようです。
ののは、あいぼんに嘘をつきました。
- 38 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月12日(金)20時56分21秒
- 「あの後、もう遅いから帰りなさいって、
マネージャーに言われたのれす。
その事をあいぼんに伝えるように
お願いしたのれすが、聞いていないれすか?」
ののは、努めて明るく言いました。
「……聞いてない」
あいぼんは、寂しそうに目線を落とすと、
やや、トーンを落とした低い声で答えました。
「じゃあきっと忘れてたんれすね。
ごめんね。勝手に帰って」
ののが謝ると、「そっか」と納得したように頷き、
少しだけ元気になりました。
- 39 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月12日(金)20時57分37秒
- ののが挨拶もなく昨日帰った事に対する疑問が解決すると
もう一つの疑問が気になるのか、急に話題を変えてきました。
「なぁ、うちの事、何も聞いてないんか?」
「聞いていないれすよ。
早く良くなって、戻ってくれないと
ののたちも大変れすよ」
「そっか……そやな、早く良くなって
またいっしょに仕事したいな」
ののは、涙が出そうになるのを必死に堪えてずっと笑顔でいました。
あいぼんも、少しずつ元気になって、笑うようになりました。
ののは、あいぼんの笑顔を見るのが大好きだから
あいぼんが笑ってくれてとても嬉しかったです。
でも、次に会った日からあいぼんは笑わなくなりました。
- 40 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月15日(月)21時21分51秒
- 三日後、テレビ局の楽屋で、マネージャーから
正式に病気の事が告げられました。
やはり、突発性の心臓病の一種で、
発病する原因は一切分っていない病気だそうです。
その根本的治療法は現在心臓移植しかなく、
日本での治療は不可能に近いという事です。
聞けば聞くほど絶望的な現実に、
誰もが悲愴感を漂わせます。
全く治療法が存在しない訳ではないのですが、
それでも根本的な解決にはならず、
また個人差もあり、必ず回復に向かうと
いうものではないようです。
メンバーの誰もがショックを隠し切れず
唯、押し黙ったままマネージャーの話を聞いていました。
- 41 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月15日(月)21時22分42秒
- その日は、夜も遅くなった為に
そのままタクシーに乗って家に帰りました。
帰り間際に飯田さんから、
「辻が一番仲が良かったから、加護の支えになってあげてね」
と言われました。
支えになるという事が如何いう事かは分りませんでしたが、
今、本当に大変なのはあいぼんなのだから、
ののが出来る事は出来るだけしてあげたいです。
ののは、タクシーの中で、明日病院で何を話そうか
ずっと考えていました。
- 42 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月16日(火)20時55分23秒
- 日も変わり、四月だというのに蒸し暑く、
空には今にも雨が降りだしそうな灰色の雲が立ち込めています。
ののは、学校が終わるとそのまま病院に寄りました。
ののが病室の前でドアをノックしても、
返答は返ってきませんでした。
仕方なく勝手に病室に入ると、
室内では、あいぼんがベットの上で
上体を起こして座っていました。
そこには、先日までのお日様のような
笑顔を浮かべるあいぼんの姿はありませんでした。
あいぼんの瞳からは止め処なく涙が溢れ、
溢れる涙を拭おうともせずに
嗚咽を漏らしながら泣いていました。
- 43 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月16日(火)20時56分05秒
- ののは、嫌な予感がして、泣いている訳を
聞かずにはいられませんでした。
「あいぼん、どうして泣いてるの?」
あいぼんは、ののの方に顔を向けると
ゆっくりと話し出します。
「のの、うち、死ぬんやて……」
「うち、胸の病気やねんて……」
「もう、うち、歌う事も踊る事もでけへんねん」
「……もう、モーニング娘。にも戻れへんねん」
あいぼんは声を震わせて、涙混じりに言いました。
今も尚、瞳から留まることなく涙を流します。
ののには、如何すればあいぼんの涙が止まるのか
その方法が思い付きませんでした。
- 44 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月16日(火)20時57分32秒
- ののは、悲しくて、泣いているあいぼんを前に
何も出来ない自分が悔しくて、辛くて、情けなくて……
両目にいっぱい涙が溜まりました。
あいぼんの顔をみたいのに、
涙で滲んでよく見えませんでした。
泣いていたら、余計にあいぼんを心配させてしまうと思い
必死に涙を流さないようにしました。
でも、足掻けば足掻くほど、
いっそう涙が溢れて出そうになります。
ののには、こんな時に何ていって
声を掛けたら良いのか分らなくて、
でも、何か言ってあげたくて、
そして、不注意な発言をしてしまいました。
「元気出してくらさい。
アメリカでは完治した例があるって
マネージャも言ってたし……」
- 45 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月16日(火)20時58分09秒
- あいぼんは、はっとするとののの顔を覗き込みます。
とたんに表情が変わりました。
「なんやのの、知ってたんか……」
ののは、何も言えなくなりました。
黙っていた事で却ってあいぼんを逆なでしてしまい
見る間に表情が険しくなります。
「もう、良くならないって知ってて
もう、モーニング娘。には戻れないって知ってて
昨日はあないな事よう言えたな」
「あいぼん……あっ、あの……」
あいぼんの怒気を含んだ声で言われて、
ののは、掠れたような声を何とか搾り出します。
でも、強い眼差しで睨まれ、それ以上言葉が出ませんでした。
- 46 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月16日(火)20時58分48秒
- ののは、何も言えずに唯突っ立て居いました。
あいぼんは、ベッドの上で上半身を起こして座った体勢のまま、
ののの顔から視線を外し俯くと、シーツをキュッと握り締めます。
「出て行け」
「……あいぼん」
「出て行け言うてるやろ」
「……あいぼん聞いて……」
「うるさい!出でいけ!」
あいぼんは凄い剣幕で怒鳴ると、
手近にあった物を手当たり次第に投げてきました。
ののは、病室を出る前に「また明日も来るね」
とだけ伝えて出て行きました。
- 47 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月16日(火)20時59分26秒
- あいぼんの余りの変貌に驚いて、ののは、
顔を青くして病院の廊下を歩いていました。
あいぼんがどうしてあんなに怒ったのか
ののには分りませんでした。
でもそれは、きっと、ののが病気になった訳ではないからです。
ののには、今のあいぼんの本当の苦しさも悲しさも怖さも
本当の意味では分らないのでしょうね……。
昨日の帰り際に、飯田さんに言われた事が思い出されます。
飯田さん……ののには、あいぼんを支える自信がありません。
俯きながら、拳をきゅっと握り締めて、
ののは、病院の廊下を出口に向かって歩いていました。
ふと、トイレの方から泣き声が聞こえました。
トイレを覗き込むと、あいぼんのお母さんが泣いていました。
- 48 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月16日(火)20時59分59秒
- ののが歩み寄ると、鏡に映ったののの顔色を見て
何があったのか悟ったようでした。
「ごめんなさい。うち、あの子にこれ以上嘘つけなくて、
先生に言われた事をそのまま言ってしまって……」
「もう少しあの子に配慮してあげてれば、
あの子も辻ちゃんも傷つける事もなかったのにね……」
ののは、首を左右に振ると、
そのまま泣き出してしまいました。
最近のののは泣いてばかりです。
- 49 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月17日(水)21時06分53秒
- 翌日になり、いつものように病院へ向かいました。
ののは、昨日の今日でどんな顔をしてあいぼんに会えば良いのか
分からずにいました。
ただ、一晩立ってあいぼんも落ち着いてくれていれば、
ちゃんとお話が出来るのではと淡い期待をしていました。
でも、その期待は見事に打ち破られました。
あいぼんは、ののの顔を見ると、
「何しに来たんや」と怖い顔をして言いました。
ののは、あいぼんに睨まれて、
何も言えずに立ち尽くしていました。
これでは昨日と何も変わりません。
- 50 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月17日(水)21時08分37秒
- ののが、どうしたら良いのか分らずにいると、
あいぼんが、「何か言いや」と言ってきます。
ののは、躊躇いがちに素直な気持ちを言いました。
「……ののは、あいぼんに元気出して欲しいれす」
擦れるようなか細い声も、静まり返った狭い病室では
はっきりと聞き取れます。
あいぼんは敵意を込めた様子でののを見つめていました。
「元気出せやて?」
「ののは何も分ってへんねん。
うちの心臓は壊れてんねん。
もう、何も出来へんねん。
ののみたいに、もう歌ったりダンスしたり出来へんねん。
うちが出来る事は、こうやってただ寝ながら
心臓が止まるのを待つことだけや」
あいぼんは、ののの言葉に呆れたように返事を返すと、
激しい勢いで続けざまに言葉を紡ぎ出します。
- 51 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月17日(水)21時09分30秒
- ののは、心の動揺を隠すかのように、
震える声を必死に抑えながら言いました。
「そんな事無いれすよ。きっと良くなります」
「なんも知らないくせに、適当なこと言うな」
ののが何を言っても言い返されて言葉がつまり、
その度に自分が何も出来ないんだと実感させられます。
再び思い沈黙が訪れ、気まずい雰囲気がふたりの間に流れます。
「ようが無いんなら帰ったら?」
ののから視線を逸らし、沈黙に耐えかねたかのように
あいぼんが言いました。
ののは、あいぼんに邪険に扱われ、胸が張り裂けるようでした。
- 52 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月17日(水)21時10分23秒
- ののは、あいぼんに嫌われている事がショックで、
この場にいることがとても辛くなります。
逃げ出したい気持ちを必死に押さえ込むと、
この場にいる為の理由を探りました。
「ののができる事は無いれすか?」
「あるで……」
「なんれすか!何でも言ってくらさい!」
「ののの心臓ちょうだい。
そうすれば、うち良くなんねん。
そうすれば、うちは助かんねん。
ねぇ!ちょうだいよ!」
あいぼんは、視線を上げてののと向き合うと、
噛み付くように声を荒げて言います。
その声には、絶望と勝利とがこもっていました。
- 53 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月17日(水)21時11分10秒
- 全身の血液が凍りつくような感覚に囚われ
急激に吐き気を伴う程の寒気を感じます。
ののの顔が蒼ざめていのが自分でも分かりました。
ののの頭の中と心であらゆるものがよろめいていました。
ののは、あいぼんの理不尽な物言いに我を忘れて、
悲しみで恐怖でもなく怒りが湧き上がります。
ののは、知らず知らずの中に喧嘩腰で叫んでいました。
「分かんないよ!
あいぼんの事全然分かんないよ!
どうしてそんな事言うの!
どうしてののを責めるの!
ののは、あいぼんが……」
込み上げてくる涙が視界を遮り、
あいぼんがどんな表情をしているのか分かりません。
涙といっしょに言葉も飲み込み、
きつく歯を食いしばると必死に泣くのを耐えました。
「あいぼんなんか、もう知らない」
ののは、踵を返して勢い良く部屋を飛び出すや否や、
堪えきれずに涙が溢れてました。
- 54 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月17日(水)21時12分05秒
- 病院の廊下は、しんと静まり返って誰の気配もしませんでした。
綺麗に清掃された廊下に擦れるスリッパの音が
ののが歩く一定のリズムで木霊します。
泣いていくらか落ち着いたのか、冷静さを取り戻しました。
何であんなに怒ったのだろう。
何であんな言い方をしたのだろう。
本当はもっと違う事を言いたかったのに、
あいぼんに元気になって欲しかったのに、
逆にあいぼんの事を傷つけてしまいました。
あんな形で部屋を飛び出して、
あいぼんはどんな気持ちでいるのでしょう。
出口に向かうにつれて後悔の思いが増してゆきます。
今すぐにでも病室に戻ってあいぼんに謝りたい。
でも、引き返してあいぼんに会う勇気が持てませんでした。
病院を出ると、そのままレッスン場にタクシーで向かいました。
その日は、何をするにしても集中できずに
メンバーのみんなに迷惑を掛けてばかりでした。
- 55 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月18日(木)21時10分47秒
- 翌日は、仕事が早くからあるという事もあり、
病院には寄らずに仕事場へ行きました。
何よりも、あいぼんにどんな顔をして会えば良いのか分からず、
会うのが辛くて避けていたのかもしれません。
テレビ局の楽屋にいても、あいぼんの事ばかり考えて
ぼんやりとしていました。
次々にメンバーの皆も集まって少しずつ騒がしくはなるものの、
全体的に暗い雰囲気は払拭できないでいました。
その中に、一際重苦しい空気を纏った少女が楽屋に入って来ました。
「梨華ちゃん、如何したの?」
心配した吉澤さんが、梨華ちゃんに声を掛けます。
「あたし、この間あいぼんを見舞いに行ったんだけど、
凄い剣幕で帰れって追い返されちゃったんだ……」
「あっ、あたしも……」
「よっすぃーもそうなんだ……」
マイナスの因子と言うのは感染するもので、
二人の会話を聞いて、回りの皆も押し黙ってしまい、
楽屋の雰囲気がいっそう重くなります。
- 56 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月18日(木)21時11分35秒
- そんな中、扉の傍で話を聞いていた飯田さんが
不思議そうな顔をしていました。
「あれ?今日の午前中にカオリも行ったんだけど、加護泣いてたよ」
「えっ?本当れすか!?」
ののは、驚いて思わず立ち上がりました。
皆の視線がののに集まります。
「どうしたの?辻……」
飯田さんが大きな瞳をののに向けて、
怪訝そうに見つめながら言いました。
「……どうしよう。のののせいだ……」
ののが呟くと、皆、ののを心配するように周りに集まって来ました。
- 57 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月18日(木)21時12分15秒
- 飯田さんはののの正面に来ると一際大きな瞳を開いて
ののを見つめます。
「何があったの?辻、話して」
「実は……」
ののは、ここ数日で起こった出来事を全て話しました。
話しながらも涙が込み上げてきて、涙に咽びながら
一生懸命話ました。
飯田さんは、黙って聞いてくれました。
ののの周りで話を聞いていた皆も、静かに聞いてくれました。
「そっか、それで……」
ののが全て言い終わると、納得したように梨華ちゃんが呟きます。
- 58 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月18日(木)21時12分46秒
- 飯田さんはハンカチを取り出すと、涙で濡れたののの頬に宛がい
涙を拭き取って優しく微笑んでくれました。
「昨日加護はさ、梨華ちゃんには出て行けって追い返して、
辻には何か話したらって言ったんだよね」
飯田さんに言われてののと梨華ちゃんは首を立てに振りました。
ののと梨華ちゃんが頷くのを確認すると言葉を続けます。
「どうしてだと思う?」
「……どうしてれすか?」
飯田さんに尋ねられ、始めてその事を考えました。
でも、考えてもその答えは見つらず、逆に質問を返しました。
- 59 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月18日(木)21時13分21秒
- 飯田さんは、ののの姿が瞳に映るぐらい
真っ直ぐに見つめると続け様に話します。
「加護は、辻と話がしたかったんじゃないかな。
辻に元気を分けて欲しかったんじゃないかな」
「きっと、重い病気にかかって眠れない事もあったと思う。
毎日が不安で不安で堪らなかったんだと思う。
だけど……だからかな、辻に不安をぶつける事で
辻に助けてって言ってたんじゃないかな」
「それが、ちょっときつい言い方になって
辻の事を傷つけてしまった。
その事を凄く後悔しているんじゃないかな。
だから、今日泣いていたんだと思うよ」
「辻に酷い事を言われて傷付いたんじゃなくて、
辻を傷付けた事を後悔して泣いていたんだよ。
きっと……」
飯田さんが言い終わるか終わらないかの中に、
先ほど迄止っていた涙がまた込み上げてきます。
飯田さんは、ののが泣き止むまでずっと涙を拭ってくれました。
- 60 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月18日(木)21時13分51秒
- ののが泣くだけ泣いて落ち着くと、飯田さんに尋ねられました。
「辻は、加護に酷い事言われて加護が嫌いになった?」
飯田さんの質問に、ののは、首を横に振って答えました。
「加護に酷い事を言って後悔してる?」
こんどは首を縦に振って答えます。
「辻は如何したいの?」
「あいぼんに会って謝りたいれす」
ののが答えると、にっこりと微笑みかけます。
「それじゃ、明日会いに行こっか」
飯田さんに声を明るくして言われて、
ついついののも笑みを溢しながら頷いて答えました。
明日は飯田さんも付き添おうかと言ってくれましたが
ののは、あいぼんと二人っきりで話したかったので
丁重にお断りしました。
- 61 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月19日(金)21時39分29秒
- 日も変わり、今週最後の学校の授業も
あいぼんの事が気になってしまい集中できませんでした。
楽しいはずの給食でさえ、お代わりするのを忘れるありさまです。
午後の授業も無事に終え放課後になると、直ぐに病院へ向かいました。
昨日来なかっただけなのに、随分と久しぶりに着たように感じます。
最近では、連日のように押し寄せたマスコミ陣も取材に来る事もなくなり、
正面玄関から堂々と来れるようになりました。
と言っても、あいぼんが入院していなければ余り来たくない場所ですが。
病室の前まで行くと一呼吸置き、ドアをノックして返事を待ちます。
しかし返事はなく、仕方なしにドアを開けると中へ入りました。
室内では、あいぼんが一人静かにベットの上に座っていました。
ののが挨拶をすると、一度だけこちらを向いて再び目線を下げます。
- 62 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月19日(金)21時40分09秒
- ののは、あいぼんの傍に歩み寄ると、もう一度挨拶をしました。
あいぼんは、ののの方を振り向かずに話し始めました。
「もう、来えへんと思ってた」
「うちがあないな事言ったから、
うちの事嫌いになったんやと思った」
そう言い終えるか終えないかのうちにののの方を振り向くと
あいぼんは泣いていました。
「うち、ののに嫌われとうないねん」
あいぼんは、真っ直ぐにののを見つめて言いました。
- 63 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月19日(金)21時41分25秒
- ののは、あいぼんの純真なその瞳を見つめ返しながら、
昨日来れなかった事を謝りました。
「ごめんね。昨日は午後から仕事でした。
だから、お見舞いに来れなかったんれすよ」
ののが謝ると、あいぼんはこくんと一度だけ頷きました。
それから、あいぼんと目線が同じになるように少しだけ膝を曲げると、
顔を近づけてにっこり微笑みながら言いました。
「ののは、絶対にあいぼんの事を嫌いになったりしないよ」
あいぼんは、ベットに腰を降ろした体勢のまま両手を伸ばして
ののに抱きくと、その姿勢のまま声を出して泣き出しました。
- 64 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月19日(金)21時42分30秒
- あいぼんは、堰を切ったように泣き出すと、これまで抱えていた
感情を全て解放するかのように話し出しました。
「うち、ホントはののに嫉妬してん」
「うち、ののに負けとうなくて、ののよりもずっと真剣に
ダンスも歌も頑張って、漸く自信持てるようになったのに……」
「だから、うちだけが病気になってもうでけへん事を
ののがやってるのが羨ましかったんや」
「昨日ののが来なくてずっと考えてたんや。
うち、しにとうない。しぬのはイヤや。
でも、ののに嫌われるのはもっとイヤや」
「怖かった……もうののに会えへん思うたら
怖くて怖くて仕方なかった」
あいぼんは、ずっと泣きながら謝りました。
ののは、ずっと「ごめんね」としか言えませんでした。
こんな時、気の利いた事が言えたらどんなに良いのにと思いました。
あいぼんは、泣くだけ泣いたら最後に笑ってくれました。
明日からはまたコンサートです。
日曜日には帰って来れるので、帰って来たら直ぐに会う約束をして
今日は帰りました。
- 65 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月21日(日)19時58分23秒
- 辺りも暗くなり始めた頃に漸く東京に帰ってくると、
のの達は、そのまま病院に向かいました。
コンサートの終わりに、あいぼんをお見舞いに行く事を皆に話したら、
何時の間にか皆でお見舞いに行く事になりました。
こんなに大人数で押しかけて大丈夫なのか心配ではありますが、
突然皆で押しかけて、あいぼんが驚くかと思うと楽しみです。
程なく病院に到着し、病室の前まで辿り付くと、
ノックをして部屋の中に入りました。
あいぼんは、お母さんにりんごを食べさせてもらっていました。
ののは、「いただき〜」と言って、皿に乗っているりんごを
一欠片摘むと、ぱくっと口に入れました。
飯田さんから本気で怒られて、ののが謝りながら
りんごを頬張るのを見てあいぼんは笑っていました。
14人もいると、あいぼんの病室も凄く狭く感じます。
でも、それだけ皆を近くに感じました。
あいぼんも同じように感じたのだったらいいのにな。
- 66 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月21日(日)19時59分13秒
- ののたちは、近況報告や、コンサートの事を沢山話しました。
話を聞いている時のあいぼんは、とても羨ましそうにしていました。
でも、とても楽しそうに見えました。
流石に夜も遅く大人数なので、他の患者さんにも
迷惑が掛かるという事で余り長居は出来ませんでした。
病室から出ると、あいぼんのお母さんがののに御礼を言いました。
あいぼんが元気になったのはのののお陰ですって。
全然そんな事はないのに、そう言われてとても嬉しかったです。
少しぐらいはあいぼんの役に立てたような気がしました。
- 67 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月22日(月)21時30分38秒
- 学校が終わって病院に寄るのが習慣に成りつつあり、
ののは、何時ものように、あいぼんの横に座って、
学校での可笑しな出来事や最近見たテレビの話をしました。
あいぼんは、毎日ベッドの上で本を読んだりテレビを見る事意外に
やる事もなくて、一人でいる時は退屈でいるみたいでした。
あっという間に時間は過ぎ、仕事に出かけないといけない時間に
なりました。
明日は、ののは何の予定も無い筈なので、
のんびり出来るだろうと告げて、仕事場へと向かいました。
- 68 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時08分28秒
- 翌日になり、いつものように病院に行くと、
あいぼんの様子がいつもと違いました。
いつになく真剣な表情をしてののを見つめます。
ののは、いつもと違う雰囲気に飲まれて、
少し緊張した面持ちであいぼんの傍に寄りました。
「うち、ののに一番に聞いて欲しい事があんねん」
そう言うと、あいぼんは右手を胸に当て、
「ここ、手術すんねん」
と言いました。
突然の事で一瞬頭の中が混乱してしまいましたが、
手術と言う事は、あいぼん、良くなるんですね。
ののは、どういう手術か知らなかったので、
ただ、ばかみたいに喜んでしまいました。
- 69 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時09分34秒
- あいぼんは、喜ぶののを複雑そうな顔で見つめます。
凄く不安そうで、でも、真っ直ぐ見つめる瞳は
キラキラ輝いて見えました。
「なんやよう分らんけど難しい手術で、成功すれば
普通の生活が出きるぐらいには回復するらしいんや。
でも、個人差があるらしくって、手術したからって
改善するとも限らへんらしいねん」
「おまけに、根本的には完治する訳やあらへんから
しばらく通院せなあかんやろ」
「でも、もう踊ったりは出来へんやろうけど、
もしかしたら今の仕事続けられるかもしれへんやろ。
うち、今は話題性抜群やからね」
「……いつ、れすか……手術……」
「来週の水曜日」
そう言うながら、あいぼんはののに微笑みかけます。
本当はとても不安なはずなのに、とても怖いはずなのに
笑っていられるあいぼんが本当に凄いと思いました。
- 70 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時10分27秒
- あいぼんは、ののの顔をじっと見詰めていると、
突然、のののほっぺを両手で摘み、びろ〜んと引っ張ります。
本気で痛いです。何のつもりですか?
「はっ、ははひへふふぁふぁい。いふぁいれふ」
ののが、あいぼんの不当な行為に対して抗議の声をあげると、
あいぼんは手を離し、真っ赤になった頬に軽く両手を当てます。
「なに辛気臭い顔しとんねん」
あいぼんに言われて、ののが辛気な表情をしていた事に
初めて気づきました。
あいぼんが心配で胸が苦しかったけど、
ほっぺたがじんじんして痛かったけど、
出来る限りの笑顔を作りました。
あいぼんが病気と闘おうと一生懸命なのがとっても嬉しくて、
だからでしょうか、瞳にいっぱい涙を溜めていたけど
ののは笑っていられたんだと思います。
ののとあいぼんは約束しました。
きっと良くなって、そしてまた二人で会おうねって。
- 71 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時10分57秒
- 窓から眺める空が朱色に差し掛かり、
世界がセピア色に染まります。
一度だけ、大きく伸びをすると
先ほどと同じ笑顔でののに微笑みかけます。
「あいぼんは強いれすね」
ののが、正直な気持ちを言うと、
あいぼんは首を左右に振って否定します。
「強いのはののや」
「ふにゃ?どうしてですか?」
「ののは、どんな時も自然体で、自由で、
唯そこに居るだけで場の雰囲気が和んでしまう。
うちも、ののには随分と助けられたんやで」
そう言うあいぼんの表情は何処か穏やかで、
そんなあいぼんを見ていると何だか心が落ち着きます。
ののの方こそあいぼんが傍にいてくれて
どんなに助けられたか分りません。
- 72 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時11分32秒
- 「うちな、ここ2、3日ずっと考えていたんや。
うち、随分ののに甘えていたんやと思う。
だから、もっと強うなろう思ったんや」
ののは、首を左右に振りました。
「やっぱり強いのはあいぼんれすよ。
ののは、泣き虫で、こうしている間も
怖くてしょうがないのれす」
「へんれすよね。手術を受けるのはあいぼんなのに……」
「本当は、あいぼんが一番辛いはずなのに、
がんばってるあいぼんを見ていたらそんな自分が情けなくて、
だから、ののも強くならなきゃって思うのれす」
ののは、精一杯の笑顔を作って言いました。
あいぼんは、途端に涙目になって、
それでも、ののと同じように微笑を返してくれます。
- 73 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時12分09秒
- 「のの、うちとも約束してや」
「なんれすか?」
「うちの前ではずっと笑っていて欲しいねん。
そうすれば、きっとうちも笑っていられると思うから」
あいぼんにそう言われて、ののは強く頷きました。
「約束れす」
「約束や」
ののとあいぼんはお互いに見つめ合うと
本日二度目の約束をしました。
- 74 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時13分27秒
- 辺りはすっかり暗くなり、面会時間も残りわずかになりました。
これまで、一緒にいたあいぼんのお母さんもホテルの方に戻りました。
ののも帰るように言われたのですが、
もう少しだけお話したいと言って病院に残っていました。
もっと話したいこともいっぱいあるし、
もっとあいぼんと一緒にいたいです。
ののは、思い切って訪ねてみました。
「ねぇ、今日は泊まってもいいれすか?」
「ええけど、お見舞いの人って泊まってもいいんだっけ……」
「さあ……」
面会時間もとっくに過ぎ、消灯時間になりました。
巡回中の看護婦さんがあいぼんの病室を訪ねて電気を消します。
ののは、ベッドの中に隠れていました。
看護婦さんをやり過ごすと、二人で、声を殺して笑いました。
- 75 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時14分12秒
- 電気が消えた室内は、ずいぶんと薄暗く、
窓から差し込む月明りが室内を仄かに照らします。
ののとあいぼんは、お互いの顔が
はっきりと分る距離まで近づくと、
いろいろな事を話しました。
話しているうちに、自然とメンバーの話題になります。
他のメンバーも良く顔を出してくれているようです。
そういえば、あいぼんの病室にいろいろと物が
増えてきている事には気づいていました。
殆どが、メンバーからのお見舞いだそうです。
そういえば、ののは持ってきた試しがありません。
5期メンでさえ、お見舞いを持ってきているのには驚きました。
大抵は4人そろって時々見舞いに来ているようです。
そういえば、部屋の片隅に置いてあるピンクの花瓶に
ピンクのスイートピーやピンクの薔薇やピンクのチューリップが
迷惑そうに生けられています。
聞かなくても誰のお見舞いか分るのがあの人らしいですね。
- 76 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時15分15秒
- 暫くして、うとうとと眠くなったこともあり
話も途切れ途切れになって暫くの間静寂が続きました。
ののは、眠たいのもありましたが、
この、静かでまったりとした静寂が嫌いではなかったので
この無言の語り合いをしばし楽しんでいました。
あいぼんは唐突に話し始めました。
「なぁのの、この前ののの家に泊まった時に夢の話したやろ」
「…………」
「うちの夢は、大人になっても、
ずっとモーニング娘。でがんばって
そして、ののやみんなとずっと一緒に
この世界でがんばっていく事やねん」
「…………」
- 77 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時15分59秒
- 「あの頃は、しょーもない夢や思うてたけど、
今では絶対に叶えられへん夢になってもうた」
「けどな、のののおかげで新しい夢が出来たんや」
「うち、病気を治して芸能界に復帰すんねん」
「もう、モーニング娘。は続けられへんやろけど
でも、ののたちと同じ世界でがんばんねん」
「そう思えるようになったのはのののおかげや」
「…………」
「のの、聞いとるんか?」
「…………」
「何や、寝とんのか……おやすみ、のの」
- 78 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月23日(火)21時16分33秒
ののは、あいぼんに背中を向けて
必死に涙をこらえていました。
もう泣かないって約束したから、
何か声を出すと一緒に涙も出そうで、
だから、何も言えませんでした。
ベッドの中で蹲って、心の中で涙を流しました。
どうか神様お願いです。
あいぼんの手術がうまくいきますように。
- 79 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月24日(水)21時25分23秒
- 翌朝、ののはいつの間にか眠っていました。
目を覚ますと、あいぼんがにこって笑って
「おはよう」って挨拶しました。
おはよう、あいぼん。
テーブルには、何故か二人分の朝食があります。
あいぼんが苦笑いをしていたので
何があったのかは容易に想像できます。
看護婦さん達には、ののが居る事は
ばれていたのですね。
ののは、朝食を残さず食べると、
病院の廊下ですれ違った看護婦さんに
「いってきま〜す」って挨拶して、
それから一度家に帰りました。
もちろん、学校にはしっかりと遅刻しました。
- 80 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月24日(水)21時26分17秒
- ののは、学校にいる間中ずっと、
あいぼんに何かしてあげられる事は無いか考えていました。
あいぼんは、来週の水曜日には手術をします。
その事が頭から離れず、授業の事なんか何も覚えていません。
事業中もお昼休みも窓から空を見ながら考えを巡らせていました。
青い空にふわふわ浮ぶ雲、あの雲はドーナツみたいれすね。
あの雲はプリンみたい、あっちの雲はラーメンみたいですね。
スープを絡ませた麺をツルツルっと……はっ、そうです!
ののは、良いアイデアが閃きました。
これならきっとあいぼんも喜んでくれます。
ののは、さっそく学校帰りに文房具店により、
必要なものをお小遣いで買い揃えると、
そのまま病院へ向いました。
- 81 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月24日(水)21時26分56秒
- 病室では、いつものように、
あいぼんとお母さんがお話をしていました。
ののが、ノックして病室に入ると
あいぼんは、「会いたかったわ〜」
と言って投げキッスをしてくれます。
ののも、投げキッスを返すと、
ののの指定席となった椅子に腰を降ろしました。
それぞれの近況報告をしたりして、いつものように会話します。
と言ってもたいした話はしていないのですが……。
- 82 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月24日(水)21時27分34秒
- あいぼんのお母さんが入れてくれたお茶を啜りながら
あいぼんに買ってきたお見舞いのお菓子を食べていると、
あいぼんが、ののが持っている買い物袋を気にし始めました。
「なんや、のの、その袋は……」
「こっこれは……なんでもないれす」
ののは、さっと買い物袋を後ろに隠します。
「ふ〜ん」
明らかに疑ったその視線は買い物袋を追い、
不満そうに返事を返します。
「まぁええわ。そのうち教えてくれるんやろ」
「もちろんれす」
あいぼんは「楽しみに待っとるわ」と言うと、
いつもの元気な笑顔に戻りました。
その日は仕事があったので、
あいぼんに「またね」と言って仕事場に向いました。
- 83 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月24日(水)21時28分21秒
- 番組の撮影も終り、楽屋に戻ると
メンバーのみんなはそれぞれ帰る仕度を始めました。
12人全員が揃っているチャンスは今しかないと思い
ののは、みんなに話し掛けました。
「皆さん、聞いてくらさい!」
22の瞳がののに向けられます。
「みんな、もう知っていると思いますが、
あいぼんが、手術をする事になりました」
全員が頷き、思い出したかのように表情が曇ります。
ののは、話を続けました。
「そこでれすね。あいぼんに千羽鶴を渡したいのれす」
そこで、今日買っておいた50枚入りの折り紙を
24個取り出しました。
- 84 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月24日(水)21時29分09秒
- 「え〜と、白と黒は使いたくないので多めに買ってきました」
そこですばやく色とりどりのペンを、
みんなの前にじゃ〜んと取り出しました。
「それでですね。一枚一枚にあいぼんに
メッセージを書きたいのれすけど……
一人ではとても間に合わないので、
みんなにも手伝って欲しいのれす」
言い終わると、みんな、ののの周りに集まりました。
「良いねそれ、カオリ賛成」
「辻にしては冴えてるわね」
「あっ!あたしもやる」
「あたしも……」
みんな、折り紙の束から二つ手に取ると、
それぞれがペンを一本受け取りました。
あっという間に折り紙とペンは減ってゆき
最後にはののの分だけが残りました。
- 85 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月24日(水)21時30分01秒
- それぞれが帰っていく中、
ののは、飯田さんを呼び止めました。
「どうしたの?」
そう言うと、飯田さんは、
ののに目線を合わせるようにしゃがみ込みました。
「あの……飯田さん……」
ののが、言い辛そうにもじもじしていると、
「なに?」と聞き返します。
「鶴の折り方を教えてください」
ののが、意を決して言うと、飯田さんは思わず噴出し、
「辻が言い出しっぺなのにね」と言って笑っていました。
ののが、真っ赤にして俯いていると、
「ごめんごめん」と言い、
それから熱心に鶴の折り方を教えてくれました。
- 86 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月25日(木)21時30分36秒
- 翌日も病院に寄りました。
あいぼんは相変わらず元気です。
ののは、あいぼんにりんごを剥いてあげました。
残念な事に、皮の方が実が多かったのですが
それでも、美味しそうに食べてくれました。
今日は、病院のお庭を散歩しました。
お医者さんの話では、ずっと寝ているよりも
体を動かした方が良いという事です。
病院のお庭には、お日様の暖かな日差しを受けて
春の草花が小さなお花を沢山咲かせていました。
ののたちは、お決まりの散歩コースを
一回りしてお部屋に戻りました。
- 87 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月25日(木)21時31分32秒
- その日も仕事やレッスンがある為、
余り長くは病院に居れませんでした。
ののは、移動中も、休憩の時も、
一生懸命思いを込めて鶴を折りました。
一羽一羽、思いを込めて折った鶴が、
メッセージを乗せて神様まで届きますように。
あいぼんの病気が良くなりますように。
また、一緒にお仕事が出来ますように。
ずっとずっといっしょに居れますように。
鶴を千羽折ると一つ願いが叶うという話を聞いた事があります。
ののは、あいぼんの手術が成功するように願いを込めて折りました。
- 88 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月26日(金)21時50分08秒
- 日も変わり、いよいよ明日から最終コンサートが始まります。
ののたちは、夜のうちから出発する為長い時間あいぼんと
お話できませんでした。
荷物をまとめてバスに乗り込むと、ののは一心不乱に鶴を
折り始めました。
メンバーのみんなに聞いてみると、もう殆ど折り終わっており
ののだけがまだ半分も残っていました。
皆さん、鶴を折るの早いですねぇ。
バスの隣の席は、珍しく紺野ちゃんが座りました。
紺野ちゃんは、「私も手伝います」と言ってくれましたが、
やっぱり、自分の担当分ぐらいは自分で折りたかったので
丁重にお断りしました。
- 89 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月26日(金)21時50分51秒
- それまで黙って見ていた紺野ちゃんですが、
突然変な事を話し始めました。
「アメリカのなんとかって医師の話では、
『一日でも早く病気が治りますように』って祈る事で、
患者の病状の悪化を防ぐ事が出来るそうです」
「実際に、同じ病状の患者で、沢山の人に祈ってもらった患者と
そうではない患者では、10%も病状に差が出たそうですよ」
「こうして頑張っている辻さんの思いも、きっと加護さんに
届いていますよ」
さすがは紺野ちゃん、いい事を言います。
ののも、紺野ちゃんの言うとおりだと思います。
でも、そんな知識を何処で仕入れているのでしょう。
ますます謎が深まる紺野ちゃんでした。
- 90 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月27日(土)22時04分33秒
- コンサート1日目も無事終了し、
ののたちは飯田さんの部屋に集まっていました。
流石にコンサート前日にホテルで夜通ししたお陰で、
殆ど出来上がっていました。
コンサートに影響が出なかったのは、
日ごろの練習の賜物でしょう。
決してリハ中半寝の状態だったからではありません。
- 91 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月27日(土)22時05分45秒
その夜、ついに1000羽の鶴は完成しました。
あとは、あいぼんに千羽鶴を渡すだけです。
「辻、言い出しっぺなんだから、貴方が渡しなさい」
飯田さんの一声で月曜日にののが渡す事に決まりました。
みんなの同意により、月曜日のお昼にみんなで
あいぼんのお見舞いに行く事に決まりました。
久しぶりにあいぼんに会えるので月曜日が待ち遠しいです。
この千羽鶴を、あいぼんが喜んでくれると良いですね。
- 92 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月29日(月)22時08分25秒
- 月曜日になり、病院近くの喫茶店で12人がそろうのを待ちました。
はっきり言って、これだけの面子がそろうとかなり目立ちます。
喫茶店での待ち合わせは失敗でした。
飯田さんは、お花を綺麗に飾り付けた籠を持っていました。
喫茶店に入ってくるなり目に付いたのか、
「それ、どうしたんですかぁ?」
と梨華ちゃんが言います。
「アレンジメントフラワーだよ。知らないの?
花屋でお見舞いの花ですって頼んだら
大抵はこれを用意してくれるよ」
「そうなんですか?知りませんでした。
いつも、ピンクのお花を適当に選んでいたから……」
病室のピンクの花が思い出されます。
梨華ちゃん、貴方はそのままでいて下さい。
ののは、そんな貴方を応援します。
余談ですが、ここのストロベリーパフェは絶品ですね。
みんなで談笑していると、
タクシーに乗ったよっすぃーが到着しました。
家が遠いと大変ですね。
全員が到着すると、みんなで病院へ向かいました。
- 93 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月29日(月)22時09分08秒
- 病院では、あいぼんのお父さんとお母さんが見えてました。
どうやら、お父さんも会社を休んで駆けつけて来ていたようです。
あいぼんのご両親は、ののたちに気を使って席を外してくれました。
ののたちは、それぞれあいぼんに挨拶をしました。
あいぼんは、みんなで来た事に随分驚いているようです。
ののは、飯田さんに背中を押されて一歩前に出ると、
「みんなで作ったのれす」と言って、
紙袋から千羽鶴を取り出し、あいぼんに渡しました。
「鶴を千羽折ると、願いが叶うって言います。
この鶴には、一羽一羽みんなの思いを込めました。
きっと、あいぼんの手術は旨くのれす」
あいぼんは、千羽鶴を受け取ると、とても喜んでくれました。
明後日はいよいよ手術です。
旨くいく事を心から祈っています。
- 94 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月30日(火)23時49分22秒
- 日も変わり、いよいよ明日にはあいぼんの手術が始まります。
ののは、下校途中に一厘のフリージアを買いました。
今日は、「頑張ってね」とだけ言って、花を渡すつもりでした。
早くあいぼんに会いたくて、ついつい急いでしまいます。
ののが病院に着くと、何だかいつもより静かに感じました。
何度も通った階段を上って、真っ直ぐ病室に向かっていると、
不意に、看護婦さんに呼び止められました。
あいぼんの病室で会った時によくお話をするうちに随分と
仲良くなった看護婦さんです。
看護婦さんは、悲しそうにののを見つめると、
「亜依ちゃんは今治療を受けているから」と言い、
ののをナースステーション横の待合室まで案内してくれました。
- 95 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月30日(火)23時50分24秒
- 待合室では、あいぼんのご両親が祈るように長椅子に座っていました。
ののは、あいぼんのお母さんにどうしたのか聞きました。
「昨日の夜に、突然発作が起きて……
あの子、もうだめかもしれない……」
目にいっぱい涙を溜めて言います。
話に聞くと、ののが知らない時に、苦しそうにする事が何度かあった
ようです。
ですが、今回のように突然苦しみだして、そのまま集中治療室に
運ばれる事は初めてのようで、お医者さんからも最悪の場合の覚悟を
するように言われていたようです。
- 96 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月30日(火)23時51分14秒
- 昨日はあんなに元気にしていたし、あいぼんの元気な姿しか
知らないので、あいぼんのお母さんが言っている事を素直に
受け入れる事が出来ませんでした。
この時ののは、あいぼんの病気がどれほど大変な難病あるのかを
良く理解していませんでした。
それに、あいぼんがいなくなるなんて事は想像できません。
だから、あいぼんはきっと良くなると信じて疑いませんでした。
それでも、今非常に危険な状態である事は容易に感じ取れ、
何とも言い知れない不安と恐怖に飲み込まれて胸が苦しくなります。
ののは、同じように長椅子に座ると、あいぼんの様態が良くなる
ように一生懸命祈りました。
- 97 名前:加護のユメ 投稿日:2002年04月30日(火)23時52分33秒
それから数時間たって、担当のお医者さんが声を掛けてきました。
「もう大丈夫です。様態も安定しましたし、明日には面会できますよ」
そう言うと、あいぼんのお母さんは安心したのか泣き崩れてしまいました。
ののは、お医者さんにあいぼんに会えるのかを尋ねてみました。
今は薬で眠っている為話は出来ないようですが、外から眺める事は
出来るようです。
のの達は、ナースステーションの横にあるCCUと書かれた通路を通り、
大きなガラスで室内が一望できる場所に案内されました。
そこから、あいぼんの様子が伺えます。
あいぼんの鼻や口にチューブが入っており、
首から下は、大きなシーツが掛けてありました。
ののは、何も言えずにただ眺めていました。
お医者さんの話では、このまま2、3日様子を見て、
何もなければ一般病棟に戻れるとの事です。
その日は、これ以上居続ける事もできず、家に帰されました。
気が付いたら、今日買ったフリージアの花が無くなっていました。
- 98 名前:加護のユメ 投稿日:2002年05月01日(水)00時15分30秒
- 翌日には、普通に喋れるぐらい元気になっていました。
昨日つけていたチューブも外れており、
10分ほどでしたが面会もできました。
体力も順調に回復しており、明日にでも一般病棟に
戻れるだろうと話していました。
- 99 名前:加護のユメ 投稿日:2002年05月01日(水)00時16分05秒
- 次の日、あいぼんは以前の病室に戻っていました。
今は、余り無理は出来ないとの事で、
手術は一月程に延期になったようです。
顔色も良く、随分と元気そうで安心しました。
でも、時折辛そうにしているので
余り長居をせずにその日は帰りました。
- 100 名前:加護のユメ 投稿日:2002年05月01日(水)00時17分21秒
翌日の朝早くにののを起こしたのは病院からの電話でした。
- 101 名前:加護のユメ 投稿日:2002年05月01日(水)00時18分26秒
- その日は、学校に行かずに朝早くから病院に駆けつけました。
病院に着くと、ののは、霊安室まで案内されました。
霊安室には、既に、あいぼんのご両親と、
見覚えのある看護婦さんが数名来ていました。
霊安室は、ひんやりとした空気に包まれていて、
室内は、妙に薄暗く沈んで見えました。
あいぼんは、顔と体に白いシーツをかけれて、
簡素なベットの上に横になっていました。
あいぼんのお母さんは、ののの為に、
そっと顔を覆っている白い布を捲ってくれました。
あいぼんは、とても綺麗にお化粧をして、笑っているようでした。
まるで眠っているようで、もう、二度と目を覚まさないなんて
とても思えませんでした。
あいぼんのお母さんは泣いていました。
看護婦さん達も泣いていました。
ののはまだ、あいぼんの死を受け入れられないでいました。
だからでしょうか、涙は出ませんでした。
- 102 名前:加護のユメ 投稿日:2002年05月01日(水)00時19分17秒
あいぼんが居なくなってからもう一月半になります。
メディアも、初めの頃はあいぼんの事を連日放送していたのだけど
最近はすっかりしなくなりました。
あいぼんが居なくなって暫くの間はまるで魂が抜けたようで、
何をして、何を思ったのか殆ど覚えていません。
でも、日がたつ毎に、少ずつ元気を取り戻し、周りの人たち、
特にメンバーには本当に心配をかけてしまいました。
最近では、昔のようにちゃんと笑えるようになりました。
- 103 名前:加護のユメ 投稿日:2002年05月01日(水)00時20分26秒
- 初夏にしては、まだ、春の名残が漂う涼しい風が舞う、
気持ちの良い日差しの朝、ののは初めてあいぼんの夢をみました。
あいぼんは笑っていました。
「あいぼん……ののは、泣かなかったのれす」
「約束したれすからね」
「ののは、ずっとあいぼんに会いたかったのれすよ」
「モーニング娘。に入って、あいぼんに出会って本当によかったれす」
「あいぼんといっぱい遊んで、いっぱいお話して」
「あいぼんとの思い出は、一生の宝物れす」
「ののは、あいぼんの事が大好きれす」
あいぼんは、ずっと笑顔のままでした。
あいぼんはののに近づくとそっと額にキスしてくれました。
- 104 名前:加護のユメ 投稿日:2002年05月01日(水)00時21分19秒
- 夢はそこで終わりました。
夢が覚めてもまだ鮮明に覚えていて、
目が覚めても、まだ夢をみているようでした。
ののは、あいぼんに会えてとっても嬉しかったです。
枕が濡れていました。
ののは、このとき初めて泣いていることに気づきました。
哀しくて泣いているのではありません。
だから、泣いてもいいよね。
季節は移り変わって夏の木々が緑に生い茂り、
この辺りもすっかり暑くなりました。
のの達は、相変らずのハードスケジュールで
毎日精一杯がんばっています。
たくさんの思い出をありがとう。
あいぼん、ののはもう大丈夫です。
また、夢で遭えるといいね。
今度はディズニーランドに行こうね。
- 105 名前:加護のユメ 投稿日:2002年05月01日(水)00時22分33秒
〜fin〜
- 106 名前:sorari 投稿日:2002年05月01日(水)00時25分44秒
- これで、『加護のユメ』は終了です。
最後まで読んでくれた方がいるのか分かりませんが
今までお付き合い頂きありがとう御座いました。
- 107 名前:作者の感想 投稿日:2002年05月01日(水)00時51分09秒
- 折角ですので感想書きます。
まず、4月中に終わらせる予定でしたが、予想以上に原稿が捗らず、
数十分オーバーしてしまいました。
今回、日付に拘っていただけに残念です。
作品を通して読んでみると、もはや小説ではないですね。
日記風小説を目指していたのですが、
これでは○○の日記になってしまいました。
一応、テーマを決めて書いたのですが、伝わったでしょうか?
今回レスが全く無かったので、凄い孤独な作業になってしまい、
半分鬱状態でほぼ毎日更新していました。
殆ど、自分との戦いです。何度投げ出そうとしたか…
しかし、最後まで書き上げる事が出来てほっとしています。
所々矛盾や、書ききれていない所があり、申し訳なく思っています。
単に、作者の文章力の無さが原因です。申し訳ありません。
最後に、感想、ご意見等御座いましたら、レスして頂けると嬉しいです。
- 108 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月01日(水)03時34分22秒
- 完結お疲れ様でした。実は初回の更新から読んでました。
下げ進行で内容もシリアスなので、レスできませんでした。
何度レスしようと思ったことか。しとけばよかったのかな。
おそらく前に外部スレで白血病ネタについての話題だったとき、
心臓病ものを書くとおっしゃっていた作者さんでしょうか。
渋いですね、病気の選び方が。
辻の気持ちがとてもせつなくていいです。
純粋に加護を思う辻の気持ち。いいですねえ。
加護が辻に心臓頂戴といったところは、グッと来てしまいましたね。
うん、思い出しただけでもちょっと涙が……。
またCCU、特発性心筋症というマニアックな用語が
リアル感が出ていていいです。良くご存知で。
ところで、手術は何をする予定だったんですか?
個人的な欲をいえば、もっと続けて欲しかったかな。
とてもいい設定だと思うので、まだまだいけそうな気がします。
エンディングまでもっと引っ張って、切ない辻の姿を見てみたかった。
でもレスがつかなかったら、はっきりいってしんどい作業でしょうね。
でもロムは多そうな気がするのは私だけでしょうか。
次作も期待しております。やっぱり病院ものがいいなあ。
- 109 名前:ずっと読んでました 投稿日:2002年05月01日(水)19時52分04秒
- この話を見つけてからずっと読んでました。
せっかく話が順調に進んでいるので、レスするのは終わってからにしようと思っていました。
何か、すごい現実さのある話で、本当にあるんじゃないか〜とか思っちゃいました・・・
作者さん、お疲れ様でした☆
- 110 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月02日(木)00時51分37秒
- 人工心臓と言う手もあったのに加護さんかわいそう。
- 111 名前:sorari 投稿日:2002年05月07日(火)22時59分48秒
- GW明けに見てみたらレスが!
レス頂きありがとうございます。
>>108
初回から読んで頂いていたとは…感謝です。
実は、更新日付と話の日付を一致させていたので、
1日に1レスしか更新できない日もあるだろうと思いsage進行にしました。
確かにレス付け難いかな?とは思ったのですが全く無いとは…。
考えていた手術はですね…バチスタ手術です。
もう少し書きたい事もありましたが、マンネリになりそうでしたので止めました。
もともと4月中に終了させるつもりでしたし…。
約1月お付き合い頂きありがとうございました。
>>109
あぁ、やっぱり…話の節目で何度かageれば良かったですね。
出来るだけ現実の娘。を意識したのでそう言って頂けると嬉しいです。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
>>110
それを言われると…申し訳ないです。
ただ、タイトルを決めた時からラストは決めていたので…。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
- 112 名前:108 投稿日:2002年05月08日(水)12時55分32秒
- お答え有難うございます。
そうかあ、あいぼんは拡張型だったのですね。
Batistaの適応になるぐらいだったんだ……。
嗚呼、可哀想。
次作期待してます。
- 113 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月11日(土)04時14分55秒
- 一気に読みました。あまりこういう話しは苦手だったりするんですが
読み始めたら途中でぬけられなくなっちゃいました。
純粋な辻の視点によって切なさ,悲しさがより一層高められてる感じがします。
ちょっと辛い内容だったけど,ラストは素直に感動できました。
ホントにお疲れ様でした。
- 114 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月12日(日)00時41分12秒
- 完結されてからと思い、レスは控えてましたが・・・。
加護が辻に『心臓頂戴』と辛く当たる所、かなり泣けました。
悲しい話なのに読後感がさわやかなのは、辻の夢の場面があるからでしょうね。
辻が加護を大事に思っているのがホントに分かってまた泣けました。
レスなしで書かれるのはきつかったと思います。
(自分も書いているので分かりますが・・・)
最後に素敵な話をありがとうございました。お疲れ様でした。
- 115 名前:ロ〜リ〜 投稿日:2002年05月13日(月)02時44分31秒
- 今日、一気に読ませていただきました。
加護と辻の絆の深さに涙が止まりません・・・。
自分が加護の状況になったらと考えると・・・。
『心臓頂戴』・・・辛いですね。
今も画面が滲んでいるのでレスが支離滅裂になってますが・・・。
最後に感動できる作品をありがとうございました。
お疲れ様でした。
- 116 名前:読み人知らず 投稿日:2002年05月13日(月)05時35分26秒
- 今日見つけて一気に読みました。
「心臓ちょうだい」はもちろん、加護の夢を語るシーン、
辻が千羽鶴をみんなに頼むシーンで泣きました。
お疲れ様でした。
- 117 名前:sorari 投稿日:2002年05月13日(月)13時45分52秒
- 感想レス頂きありがとうございます。
>>112
次回作ですか…暫くは読者に戻って、
アイデアが浮んだらまた書き始めようと思います。
ただ、今回みたく切ない話にはならないと思います。
ありがとうございました。
>>113
ええ、辻視点は狙っていました。
そのほうが、加護を思う辻の気持ちをダイレクトに伝えられると思ったので。
ありがとうございました。
>>114
「…ちょうだい」の件で随分と反響があり、正直驚いています。
実は、その後のお泊りする所が一番泣けるだろうと思っていたので…。
>レスなしで書かれるのはきつかったと思います。
ええ、正直かなり(笑。
でも、思いのほか感想を頂き、書いて良かったと今では思っています。
ありがとうございました。
>>115
支離滅裂だなんてとんでもない。
こちらこそ、感想をレスして頂き感謝しています。
ありがとうございました。
>>116
随分と下がっていたのに良くぞ見つけてくださいました(笑。
こうして感想を頂けて大変ありがたく思っております。
ありがとうございました。
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