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蒼の封印

1 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月09日(火)20時23分53秒
いしよし書きます。梨華ちゃん主人公。
初めてですがどーぞよろしく!

あるマンガのパクリです。
2 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月09日(火)20時27分58秒
―――ピピピ ピピピ ピピピ…

……朝?
それは分かる…分かるけど、頭がぼんやりして…。
鳴っているのは目覚まし…?

「え…と、ここ…は…?」

まだ思考が回らない梨華は、薄く目を開けたまま
ベッドの中でボーッとしていた。
その時、下から聞こえてきた声。

「梨華!!さっさと起きなさいよ!転校初日から遅刻する気なの!?」

その言葉を聞いてベッドから勢いよく起き上がる。
それと同時にガチャッとドアが開く。

「お…母さん?」
「引っ越してきた翌日から登校じゃ大変だろうけど、H・R前に
職員室行くんでしょ?早くしなさいね」

床にまだ残っている引越し用に使ったダンボール箱を見て、
微笑みながらまた部屋を出て行った。
3 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月09日(火)20時30分25秒
「……思い出した、転校初日―――よね」

鳴っていた目覚ましを手にとって見ると、その時針は
7時20分をさしていた。

―――ドダダダダダダダ!!!

静かな朝には似合わない、騒がしい梨華の足音が家中に響き渡る。

「あ〜ぁ、梨華ちゃん寝坊したのれす」

舌ったらずな口調でトーストにカプッとかじり付く。
その口からは小さな白い八重歯が顔を出していた。

「まったく、本当に高校生なんれすか?梨華ちゃんは」
「ののちゃん!一言多いわよ!!」

髪を結いながらキッチンに居る希美に向かってプウっと膨れた
頬を見せる梨華。

「梨華ちゃんは怒っても怖くないのれす」
「もうっ!ののちゃん!!…って、もうこんな時間じゃない!!
ののちゃん!これ貰うわよ!!」
「あっ!のののトースト…!」

希美が口にしていたトーストを奪い取り、さらに父の飲んでいた
コーヒーも全て飲み干すと、梨華は急いで玄関を出て行った。

「梨華!荷物まだ片付いてないんだから、早く帰ってきなさいよ!」
「トーストォ……」

大きな母の声と、ポツリと呟いた希美の訴えは梨華には届かなかった。

4 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月09日(火)20時31分36秒
「ああ〜、もうすぐ電車出ちゃうじゃない!!」

私の名前は石川梨華。高校2年生。
新興住宅地のこのマンションに昨日引っ越してきた。
転勤の多いお父さんのおかげで引越しも転校もおてのもの―――
のはずなんだけど…おかしいなぁ、
初日だからってあんなにボケたの初めてだわ。

人通りの多い駅のホーム。
走りながら改札口を抜けた梨華は、腕にしている時計を見た。

「よかった、これなら十分間に合う」

さっきとは違う、落ち着いた足取りで階段を上っていく。
何気なく手すりに掴まろうと手を伸ばした。

―――その時

       グラァッ

(えっ?)

急に視界が歪み、梨華はバランスを失った。

(めまい……!?)

ドンッ、と後ろに居た人にぶつかってしまう。

「あ、ご、ごめんなさい!」

なんとか体勢を立て直した梨華は、また走り出して階段を上った。

なんだか…気分悪い…。
ヘンなの、こんな事初めて…。



―――確かに、後で考えてみると
   この朝が全ての始まりだったのだ。
5 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月09日(火)20時32分29秒
この辺で終了。
続きは明日。
6 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)04時04分55秒
「―――というわけで、小学校で3回、中学校で2回
 転校しました。どうぞよろしくお願いします」

来る途中、あんな事が起こったけど無事学校に着いた私。
H・Rにも間に合ったし、よかった♪

にしても、女子高に入ったのなんて初めてだわ。
今までは共学だったのに、まぁちょっと憧れもあったからいいか。

「よし、じゃあとりあえず席は柴田の隣が空いてるな。
 柴田!手をあげろ」
「ハァイ」

先生に背を押され、空いてる机にゆっくりと腰掛ける。
カバンを横にかけると、柴田という娘がにこやかに話し掛けてきた。

「あたし、柴田あゆみ。よろしくね」
「こちらこそ」

その純な笑顔に梨華は自分ができる限りの笑顔を返す。

「よかったぁ、普通の人で。ここの学校ってお嬢様が多くって、
 ちょっと心配だったんだ。あなた見た目そんな感じだったから」
「ええ?そうかなぁ?」
「うん、でも今は見えない。あたしの事は柴っちゃんって呼んでね」
「うん、わかった」

さっき会ったばかりなのに、軽い調子で話し掛けてくれるあゆみ。

(よかった、上手くやっていけそう)

2人で笑いながら話していると、前から黒板消しが飛んできて
あゆみの頭に命中した。

「ほらそこ!授業始めるぞ!!」
「いったぁ……、はぁ〜い…」

梨華の初日の学校生活は上手くいくように見えた。
この時は―――。
7 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)04時09分04秒
午前の授業が終り皆が食堂に集まる時間、梨華はあゆみと
あと複数の生徒と一緒に昼食をとっていた。

「ふぅん、じゃあ前は千葉にいたんだ」
「うん」
「お父さん、何してる人なの?」
「銀行の支店長よ」
「へぇ〜、カッコイイ!」

食事をしている間彼女らの質問攻めにあっていた梨華。
しかし、朝におきたあのめまいが梨華を襲ってきた。
また…だ、気分が悪い……。

「でも石川さん、あなたってホントにきれいね」
「え」

急に変わった話に梨華はすぐに反応できずにいた。

「まつげも長いし、お人形さんみたい」
「そ、そんな事初めて言われた…」
「うそぉ!だって見てみなよ、周りの人たち。
 さっきからこっち見てるんだから」

顔を赤く染めて少し俯き加減になる。
そんな仕草もまたかわいいと言われて、先ほどの嫌な気分は段々
薄れてきた、が

「へぇ、見慣れない女がいるじゃん」

その言葉を聞いた途端、グイッと髪の毛を引っ張られ後ろを向かされる。

「A組の転校生ってアンタ?…フウン、けっこう可愛いじゃない」
「い、飯田さん…」
8 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)04時10分24秒
飯田…?誰なの?この人、妙に馴れ馴れしい…。

その飯田と呼ばれている少女、口調はきついものの美人だった。
少しウェーブがかった長い茶髪、大きな目、梨華よりも10センチばかり
高い長身。
しばらく見とれていた梨華だったが、あゆみに腕を掴まれ我に帰る。

「梨華、行こう!5時間目始まっちゃう!」
「え、う、うん…」

手を引かれ食堂から出ると、あゆみたちは口々に言い出した。

「あいつ、飯田香織っていって隣のクラスなんだけど、
 父親がウチの理事でさ、やりたい放題!!」
「いろいろ悪い事やってるみたいだって」
「石川さん、近づかない方がいいよ」
「うん…そう、だね…」

そんなこと今はどうでもいい…、それより何…?
この気分の悪さは何なの…!?
9 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)04時11分23秒


「―――熱はなさそうね」

体温計の示した温度は36.3度、平熱だ。

「新しい学校で緊張したのかしら」

あれから学校を早引けしてすぐ家に帰ってきた梨華。
心配そうに覗き込む母の顔に「大丈夫だよ」と言い返せない。
すると、とてとてと後ろから希美がやってきた。

「梨華ちゃんが緊張?そんな訳ないのれす、それはただの風邪か
 食べすぎなのれす!!」

キャハハハ、と言いながら走り去っていく希美に、いつもならば
怒鳴りつける梨華だが、それもできなかった。
それほどまでにつらい。

「疲れたのかもしれないから、お薬飲んだら寝なさい」
「…うん」
10 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)04時13分36秒
梨華は部屋に入ると服を着替え、そのままベッドに流れ込むように倒れた。

「っとに……何…これ…!」

気持ち悪い…!
喉が乾いたときに似てるけど水が欲しいわけじゃない。
空腹の胃の痛みに似てるけど何も食べたくない

なんなの一体、これは―――!?

そして梨華はそんな不快感を覚えながら、眠りに落ちていった。
11 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)04時18分14秒
更新終了。
12 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)06時40分48秒
いしよしですか。吉澤の登場に期待。
13 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)15時10分41秒
>>12さん
 レスどうもです。
 吉の出番は…もうちょっと後になりそうです。

本日2回目の更新。
14 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)15時12分18秒



「う〜…、まだ気分悪い…」

翌朝―――。昨日の不快はまだ取れていなかった梨華だが、
転校したばかりということでムリをして学校に来てしまった。

「お母さんの言うこと聞いて、学校休めばよかった…」

おぼつかない足取りで玄関までたどり着く。
ため息をつきながら教室へ向かおうとした。

「よぉ、また会ったね」
「えっ…!」

振り向いた途端、ドン、と壁に押し付けられた。
そこには昨日会った飯田香織と、その後ろ、5人ほどの生徒が
梨華の周りを取り囲んでいた。

「い、飯田…さん…?」
「へぇ、名前覚えてくれてたんだ」

そりゃあ、昨日あんなことあったら誰だって覚えるわよ―――。

「何の…用ですか…?」
「固ッ苦しい言い方よしなよ、カオリでいいからさ。
 それより学校なんてふけちゃって面白いとこ行こうよ」
「やっ…!放してっ…!」
15 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)15時13分34秒

飯田の腕を振り解き逃げようと試みるが、周りを全て取り囲められて
いるために、それは叶わなかった。

「………っ…!」
「カオリのお友達だよ、親切な奴らでね〜
 いつもカオリの恋愛のお手伝いしてくれるんだ」

そう言うと、何もできずにいる梨華の腕を掴み、無理やりつれて行こうと
する。梨華も必死に抵抗するが力では敵わない。
遠めから見ているほかの生徒たちも飯田の存在を知ってか、見て見ぬ振り
をするだけだった。

「ほら、行こう」
「やっ…!!」
「おい!お前たち、なにしてるんだ!!」

声のする方を見てみると、あゆみが先生を連れてきていた。
それを見た飯田達は、チッ、と舌打ちをすると去っていった。

突き放されよろけそうになったが、寸前であゆみに受け止められる。

「梨華ちゃん、大丈夫!?」
「柴っちゃん…」
「あいつ、梨華ちゃんが可愛いからめをつけたんだよ。
 気を付けて、何されるか分かんないから」

やっぱり…学校休めばよかった…。
16 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)15時16分15秒
授業中、やはり未だ気分が優れない梨華の顔は真っ青だった。

「梨華ちゃん、気分悪いの?保健室行ったほうがよくない?」
「…ん…」
「先生!石川さんが具合悪いそうです!」
「まぁ真っ青!柴田さん、じゃあ着いてってあげて」

あゆみに肩を支えられながら、2人で教室から出た。
ふらふらと静かな廊下を歩いていく。

「柴っちゃん、ごめんね…」
「なにいってんのさぁ」

―――昨日よりひどい、私どうしちゃったんだろう……。



保健室まで行くには1階まで降りなくてはならない。
階段を降りて、すぐ突き当たりの角を曲がる。
そこを通りがかったとき、なぜだかタバコのにおいがしたと梨華は
感じた。

梨華たちが去っていった後、後ろに複数の影があった。

「飯田さん、あの女」
「…!」

それは飯田達だった。タバコのにおいも彼女達である。

「…行くよ」
「はい」

飯田の言葉を合図とし、そこにいた者達はのそっと動き出した。
行く先はもちろん―――梨華のいる保健室。
17 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)15時20分52秒



「昨日からなの?それなら一度お医者さんに見てもらったほうがいいわ」
「…はい」

寒気がする、震えが止まんない―――。

「とにかく、ベッドで横になってなさい」

先生の手に導かれて、ベッドまで向かう。

「じゃああたし、教室戻るね」

梨華の様子を見ながらあゆみは出て行こうと、ドアノブに手をかけた。
しかしそのドアはあゆみが開けるまでもなく、勝手に開いた。

「あ、いたいた♪」
「!!」


梨華の姿を見つけた飯田は、ずかずかと上がりこんできた。

「な、なんですか!あなたたち、出て行きなさい、
 ここは保健室よ!」
「うっさいなぁ、カオリが用があるのはあんたたちじゃないの
 あんたたちこそ出て行きなよ、…ちょっと」
「はい」

飯田の後ろにいた生徒が先生とあゆみをつれて保健室を出て行く。
あゆみの「梨華ちゃん!!」という叫び声が保健室中に響き渡っていった。

そして残されたのは梨華と飯田。

「フフ、来な」
「なっ…!」

勢いよくベッドに押し倒される。

―――ドサッ!
「んうっ!?…んっ!!」
「大人しくしなよ」
18 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)15時22分57秒
口を手で抑えられ、叫ぶ事ができない。
そして次々に着ていた制服を脱がされていく。
少しずれた隙間からかろうじて声を出す。

「お願いやめて…!、気分が悪い…の」

それを聞いて飯田はクスッと笑みをこぼす。

「だから気分良くしてあげようって言ってんじゃない」
「やめ…!」

首筋を生暖かい感触が伝っていく。
今とは違う不快感、さらに梨華の気分が悪くなっていく。

―――気分が悪い…、内臓がひきつれる。そっとしておいて―――!!




いやっ―――!!

19 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)15時24分03秒
更新終了っす。
20 名前:とみこ 投稿日:2002年04月10日(水)15時28分40秒
スリルがあっていいですね!
21 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)15時50分17秒
>>とみこさん
 ありがとうございます、とみこさんのも読ませてもらってました。
 (過去にいしよしごまのを)
 モチロンこれからも。

すいません、言い忘れてました!
多分この話はオカルト(?)っぽい話になると思います。
22 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)16時16分25秒
期待してます。飯田香織ではなくて圭織ですよ。
23 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)19時42分02秒
>>22さん
 期待&修正ありがとうございます。
24 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)19時43分19秒
――――ドクンッ!






梨華の体がはねた。
その時同時に、梨華のしなやかな指が飯田のはだけた服から
白く綺麗な肌に触れた。

その手から、飯田の鼓動が伝わってきた。



トクン  トクン  トクン



「?」

その行動に意味がわからなかった飯田。
しかし梨華の落ち着いた様子を見て、再び笑みを浮かべる。

「フフ…ほんとはアンタも興味あるんでしょ?
 いいよ…、好きなだけさわんな」



梨華の細い手首を掴み自分の胸に押し付けた。
25 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)19時44分26秒


トクン


さっきよりも、さらに伝わる飯田の心臓の音。
梨華は今までにない気持ちに駆られた。




トクン






―――鼓動…、脈拍…



トクン



あたたかな血の流れ…



トクン


トクン


トクン



…生命の流れ――――




トクン―――




その最後の鼓動を聞いたとき、梨華の耳に届いたのは



「なっ、何!?いやっ…!キャアア―――ッ!!!!」



飯田の怯えたような叫びだった―――。
26 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)19時45分50秒



「ん…うぅ、ん…」



うっすらと目を開けるとそこは見慣れた天井。
梨華はゆっくりと体を起こす。そこにはもう昨日から続いていた
あのイヤな気分はどこかにいっていた。


「え…と、私確か……」

(そうだ、飯田さんに―――!)

はだけた白いYシャツ、脱ぎ捨てられた制服。
梨華は頭を抑えながらベッドから降りようとすると
足で何かを踏んづけた感触があった。



「服…?」

足元を見ると、床に自分が着ている制服と同じものがあり、
それは今まで誰かが着ていたものと思われる、抜け殻のようだ。
胸のネームプレートには《飯田》と記されていた。

「!?…どうして、服だけ…?」
27 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)19時47分09秒


ヒュウ、と少し冷たい風が梨華の頬をすり抜けていく。
そちらの方に目をやると、来たときには閉まっていたはずの窓が
なぜか開いていた。


「まさか、窓から…?」

そんなバカな、と梨華は落ちている制服を手にとる。





―――気持ち悪い、これじゃあ人間だけ消えたみたいじゃない…。



「!柴っちゃんと先生は…!!」



急いで服を着なおし、保健室から出て行く。
廊下はしんとしており何処に連れて行かれたのかまったく分からない。


「柴っちゃん……どこ?」

キョロキョロと辺りを見回すが、授業中なだけあって人影はない。

すると、向かいの用具室から小さな声が聞こえてきた。
梨華はためらわずドアを開けた。
28 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)19時48分49秒

―――ガチャ

「柴っちゃん…?先生?いるの?」
「!梨華ちゃん!!」



よかった…、無事だった…。


安心した表情であゆみに抱きついた。あゆみもホッとした様子だった。


「おい、飯田さんはどうしたの?やけに早いじゃない」
「そ、それが…急に窓から出て行った…みたいで」
「窓から!?」
「飯田さん!!」

生徒たちは驚き、走って保健室のドアを開けた。


「ちょっと何!?服だけあるわよ!」
「まさか裸で出て行ったの!?」

「え!梨華ちゃん?」

柴田も驚いて、梨華の顔を見つめた。
梨華はふるふると、顔を横に振り

「分からないの…、ちょっとボォっとして気がついたら居なくなってて」

「と、とにかく!この事は校長先生に報告します!!
 石川さん、柴田さん、あなたたちは教室に戻っていなさい」
「あ、はい…」
「梨華ちゃん、気分悪かったのはいいの?」
「ん…それはもう平気…」

ほんとに…あの具合の悪さがウソみたいに消えてる。



―――どういう事なの…?


29 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月10日(水)19時49分42秒
以上!本日はここまで…。
30 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)20時47分42秒
飯田さんはいったい何処へ?
よっすぃ〜はまだなんですか?
31 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月11日(木)01時24分01秒
この作品の雰囲気が好きです・・・
期待!
32 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)05時00分11秒
>>30さん
 その答えはあと少しで明らかになります。
 よっすぃ〜は…もうちょっと後…かな?
>>31さん
 ありがとうございます。
 期待に添えるようがんばります!

朝からちょい更新。
33 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)05時01分21秒


「何もなかった事にしてくれですって!?」

あれから授業をそのまま受けて、家に帰ってきた梨華。
ただ、一緒に学校長と理事長も梨華の家に訪れて帰っていった。

用件はと言うと、今日の事は他言するなということ。


「こんなもの持って頭下げに来たのよ!とんでもない学校だわ!!」


梨華の両親はこの事でもう1時間以上口論している。
梨華はソファに座ったままずっと俯いていた。
34 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)05時02分17秒

「まぁ、落ち着きなさい梨華には何も無かったんだから」
「何かあってからじゃ遅すぎるのよ!!」


これ以上いったら夫婦喧嘩になってしまうと思った梨華は、
おもむろに口を開いた。

「お母さん…私、明日学校休んでもいい?」
「ええ!行く必要ないわ、他の学校を探してあげます!!」
「うん、分かった…」


他の学校…それもいいかもしれない、
ここに越してきてからヘンな事が多すぎる。



―――でも



まるでかき消すように居なくなった飯田さん。
まさか…まさかよね、


人間ひとり消えちゃうなんて考えられない…!


35 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)05時03分25秒

「梨華、柴田さんから電話よ」



ピッ―――


「もしもし、柴っちゃん?」
『あ、梨華ちゃん?大丈夫?』

久しぶりに聞いたあゆみの声に、安心と不安が入り混じったような
感情がおきた梨華。

『梨華ちゃん、3日も学校休んでるでしょ、
 どうしてるかなぁと思って』
「心配してくれてありがと、嬉しい」
『ふふっ、どういたしまして!
 ね、また学校おいでよ?飯田なんて怖がらないでさ』


―――飯田…


その名前が出た途端、急に不安が体を支配した。


「そ、そういえば飯田さんあれから…どうしたの…?」
『あぁ、あいつならケロッとした顔で学校来てるわよ』
36 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)05時04分47秒

「え!?」

『さすがにあの翌日はサボッてたけど、昨日から
 しっかり来てたわ』

飯田さんが―――学校に来てる!?

「ほんとに?ほんとなの、柴っちゃん!」
『ほんとよ、だけど心配しないで。クラスの女の子たちも
 協力してくれるって言ってたから』
「…そ、そう、分かったありがとう」



電話を切って下にいる母に思いっきり叫んだ。

「お母さん!私、明日学校行く!!」

その言葉にパタパタというスリッパの音が続く。

「梨華、ムリしなくていいのよ!」
「ちがう、ホントに大丈夫」


だって、確かめずにはいられない。
あれが一体どういう事だったのか―――




37 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)05時06分59秒
とりあえずこの辺で中断。
38 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月11日(木)10時21分48秒
あれ?篠原千絵?
39 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)13時38分37秒
>>38さん
 あ″、ばれちゃいました?(苦笑
 なんとか自分でも少しづつ変えていこうと思ってるので
 しばらくお付き合いください……。
40 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)13時44分22秒




翌日―――

「あゆみちゃん」
「梨華ちゃん!よかった、出てきたんだね」

3日ぶりに会った友達。電話よりも実際に話した方が何倍もいい。
道行くクラスの女の子たちも次々に励ましの声をかけてくれる。

だけど今はそんなことよりも―――


「…ねぇ、飯田さんは…来てるの?」
「飯田?来てたよ、取り巻きつれてテラスにいたけど」
「テラス―――、私見てくる!」
「え!?梨華ちゃん!!」

振り向きもせず梨華は3階にあるテラスへと走っていった。



来てる!!
そうよ、バカだな私、人間が消えちゃうはず無いじゃない!
41 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)13時45分25秒


息を切らしながらテラスのドアの前に立ち、中を覗く梨華。
その後ろからやや遅れて、あゆみたちも追いかけてきた。

「ハァッ…ハァッ…ね?いたでしょ?」
「え?…どこにいるの?」

「どこって…真ん中にいるのが飯田じゃない」

「!?」


真ん中って……、あれ誰…?


訳がわからずに立ち尽くしていると、その飯田なる人物が梨華を見つけ、
テラスの手すりに寄りかかったまま話し掛けてきた。

「よぉ、梨華ちゃん出てきたんだ、今度こそデートしない?」
「い、飯田さん!これ以上梨華ちゃんに付きまとわないでよね!!」


飯田さん…!?この人が、飯田さんだっていうの!?


42 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)13時46分25秒


ちがう、ちがう…!まったく別人じゃない!!


背丈は同じくらい高かったが、茶に近い金のショートボブ、
ハスキーボイス、ボーイッシュな感じが3日前の飯田とは似ても似つかない。
しかしそうとうな美少女であることは変わっていなかった。


ボーゼンとしている梨華に、その飯田と名乗る少女が近づいていく。
顎をクイッと持ち上げられ見つめられる。


「せっかくそっちから来てくれたんだ、このままサボッちゃって
 この前の続きでもしようか」
「!!」


やっぱり…全然違う!!


「飯田さん、いい加減やめて!!行こ、梨華ちゃん!!」

あゆみに腕を引っ張られて、テラスを後にする。
後ろを向くと、あの少女がこっちの方を見て不敵な笑みを浮かべていた。

43 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)13時47分48秒


教室に帰るまでの間、梨華は3日前の事を反芻していた。


どういうこと?あの人は確かに飯田さんとは別人だった…、
かといって、皆で私をからかってるとは思えない、何がどうなってるの?



授業中も梨華はずっと上の空で、まったく耳に入っていなかった。




放課後になり、下校のチャイムが学校中に響く。
梨華は未だに朝の事を考えていた。


「梨華ちゃん?どうしたの、変だよ?」

どうしたのって…私が聞きたい、あのひとと飯田さんは
まったく違う人なのに……。

「ねぇ、柴っちゃんB組の飯田さん、みんなにはホントに本人
 に見えるの?」
「?見えるも何も…、飯田は飯田でしょーが」
「そう…」
(おかしいのは私の方…なの?)

44 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)19時30分36秒



「ホントにどうしたの?入学以来、あいつはずっと飯田だよ」

「ん……」


入学……!?


はっとしたように顔を上げ、あゆみに問い掛ける。


「柴っちゃん!入学したとき記念写真とったでしょ!?」
「あ、そりゃあクラスごとに撮ったよ、でも今、去年の入学式の
 写真なんて持ってる人いるかなぁ…」
「去年じゃなくてもいい!今年の記念写真は!?」
「それなら各自の分以外に、クラスで1・2枚保管してる筈だよ」

「それ見たい!!」


そうよ!以前の写真を見れば、ハッキリする!!

45 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)19時32分15秒

あゆみに連れられて、2−Bまでやって来た梨華。


「一体なぁに?ウチのクラスの写真なんて…」
「ごめん、りんね、でもアンタが管理してるんでしょ?委員長さん」
「まあね〜♪誰か目当ての男の子でもいるの?」
「そういうわけじゃないけど」

りんねは後ろにある自分のロッカーの中から1枚の写真を取り出し
梨華に手渡した。

「はい、石川さん」
「あ、ありがとう」


ゴクリとつばを飲み込み写真を見据え、飯田圭織の姿を探す。


「ほら、いるじゃない」

あゆみが指をさす。そこに写っていたのは、さっきの少女。



ウ…ソ…!!―――


じゃあ…あの保健室で会った飯田さんは……!?
夢なんかじゃない、まったく別人なのに……、どうして…!!

46 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)19時33分28秒
梨華はあゆみと別れ、1人帰り道をトボトボと歩いていった。
その間も頭にあるのは飯田の行方とあの少女の事―――。


絶対違う人なのに。私の頭がどうかしちゃったのかしら……、
あの写真にもちゃんと写ってたし……。

その時、梨華の足元をカサカサと音を立てながら、
1枚の枯れ葉が舞っていた。


「………そういえば…」

―――なんだろう、なにかひっかかる…。


「あの写真!!」

叫ぶなり、もと来た道を走って戻っていく。
グラウンドを駆け抜け、上靴も履かずに校舎に入っていく、
着いたのは2−Bの教室。


「え、と…確か……このロッカー」


先ほど見せてもらった時に覚えていた場所のロッカーを開け、
写真を取り出した。鍵は掛かっていなかったのでそれは容易な事。
47 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)19時34分18秒
「…やっぱり、この後ろにある木―――桜が咲いてない!」


本来、新しい学年になった場合、クラスごとに集合写真をとる。
それはどれも春に撮る事が多い。

しかしこの写真の後ろには、枯れた桜の木が写っている―――。



「これ、最近撮ったんだ…、多分私が休んでる間に……」

あの人はやっぱり飯田さんなんかじゃない!!



ギュッと写真を握り締め、自分の記憶が正しかったことを確信する。

48 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)19時35分20秒

「梨華ちゃん、なんかわかんないけど元気出してね?
 あたし部活で一緒に帰れないけど、気を付けて」
「…うん、ありがと」






その時、後ろからあの声が聞こえた。


「薄暗い教室に1人ってのは無用心ですね」
「!?」

ビクッと振り返るとあの飯田と名乗った少女の姿―――。
その顔は冷たく、表情が読めない。


梨華は逃げようとドアに向かって走り出すが、先回りされ
逃げ道を失う。
意を決し、少女に向かい今まで知りたかった事を口にした。


「あ…あなた、一体誰!?飯田さんじゃないでしょ!!誰!?」

少女は表情を変えずに梨華を見据え、低い声で答える。





「…私は、ひとみ」




「西家“白虎”の跡取」
「白…虎…?」



「私たちの家系は人間を食べる化け物を―――
 あなたを殺すためにこの世に生を受けた」




化け…物…?何?誰が…?


私が…人を食べる化け物……!?

49 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月11日(木)19時40分47秒

今日はこの辺で終り。

明日はよっすぃ〜のお誕生日記念として、短編集を少々…。
そこで!皆様にお願いを!!
吉さんと絡ませたい人、募集いたします、リクがあればレス立ててください。
勝手言ってスマソ(汗
50 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月11日(木)23時20分23秒
では、石川さんをリクエスト
それじゃあ本編と変わんないだろ!っていうことならば、変わりになっちをリクエスト
51 名前:名無し 投稿日:2002年04月12日(金)05時18分51秒
↑50さんと同じくいしよしを
52 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月12日(金)20時46分18秒
いしよしはやっぱり強いですねぇ。
それではいしよしで参りたいと思います。
53 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)20時48分05秒


「よっすぃ〜今日はね、ちょっと行きたい所があるんだけど」


仕事が終わって梨華ちゃんと家に帰る途中、そう言われた。
別に断る理由もないし、愛する梨華ちゃんの頼みなら断れないでしょう!

「うん、いいけど…何処行くの?」
「とりあえず、着いてきて」


少し歩いた所でタクシーを止め、「さ、乗って乗って」とあたしの背中
を押す。
梨華ちゃんはタクシーに乗り込むと、運転手さんの耳元でコソコソと
行き先を告げていた。あたしに聞こえないように。


「ねぇ、梨華ちゃん何処行くの?」


一応聞いてみる。教えてくれるわけ無いけど、なんとなく。


「ひ・み・つ」

やっぱり……―――でも

人差し指を口に当ててシー、という仕草を見せる梨華ちゃん。
……やばい、かわいいっす………、吉澤倒れそ。
54 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)20時49分25秒


目的地へ向かう間中、梨華ちゃんは終始無言のまま。
あたしが話し掛けても、うんうん頷くだけ。

あたし―――なんか悪い事したかな…?



「あ、ここだよよっすぃ〜!ほら!」
「……ぅわ、すっごい…」


タクシーに乗ってから30分ちょっと、着いた先はものすごくでっかい
超高級ホテル。1部屋10万とかのスィートルームがありそうな…。


「フフ、すごいでしょぉ?よっすぃ〜の誕生日だし
 思い切ってフンパツしちゃった」
「うん、すごい…。でもなんで?こんな高そうなホテル…」
「実はね、メンバーの皆も少しお金出してくれたの、「今日は2人っきりに
 しておいてあげる」って」


そういうことだったのか…。
道理でみんな、「おめでとう!」とか言ってはくれたけどプレゼントが無かったんだ。いや、プレゼント目当てって訳じゃないけどさ。


「そっかぁ」


ありがとう、飯田さん、安部さん、矢口さん、圭ちゃん、ごっちん、あいぼんに辻に高橋に小川に紺野に新垣に…、とりあえず皆!
今日が今までで最高の誕生日かもしれない!


「じゃあ、入ろう、中もすごい綺麗なんだよ」
「あ、待ってよ梨華ちゃん!!」

55 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)20時50分17秒


ホテルの玄関をくぐると、とにかくすごかった。
天井にはガラスの細工が施してある金に輝くシャンデリア、フロントはうすいエメラルド色の大理石、床は真っ赤な絨毯。どれをとっても高級ホテルって感じがする…。


「あれ?梨華ちゃんは?」


気がつくとあたしは1人でキョロキョロしてた。
梨華ちゃんはというと、フロントで予約してたらしい部屋のキーを貰っている所だ。梨華ちゃんの手に一つの小さな鍵が手渡されると、トコトコとあたしのところにやって来た。


「さ、行こ?1444号室だよ」


1444…?作者の陰謀だな…。ま、深くは考えないでおこう。


56 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)20時51分32秒

「わぁ〜!広〜い!」


部屋に入るなり歓喜の声をあげる。
う〜ん、いくらくらいしたのかなこの部屋…。


「見て見てよっすぃ〜、夜景も綺麗」
「うぉ〜!すっげ〜、かっけ〜!!」


14階から見下ろす夜景はホントに最高で、ん〜爽快!
この部屋で今日は梨華ちゃんと……エヘヘヘ……。


「よっすぃ〜?聞いてる?」
「ふぇ!?はいはい、なぁに?」
「もう…お腹減ってない?って聞いたの!」

お腹?…そういえば……、

―――グゥゥゥ……


「…減ったみたい」

なんとタイミングのいい、私の腹……。



「ルームサービスでいい?レストランだとばれるかもしれないから…」


そっか…、せっかく2人きりなのに邪魔されるのはイヤだな。


「うん、いいよ」
「じゃあ早速、よっすぃ〜何がいい?」
「う〜ん…梨華ちゃんとおんなじの」
「それじゃ聞いてる意味ないじゃない」
「だって、梨華ちゃんと同じヤツ食べたいんだもん」
「ダメ、ちゃんと決めて」


キッとあたしを横目で見る。
な、なんか今日の梨華ちゃん、あたしに冷たい…?気のせいかな?


「じゃあ…このコースで、量もちょうどいいし」
「わかった…、……あ、もしもし?ルームサービス頼みたいんですけど…」


やっぱ…気のせいだよね、うん。
57 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)20時52分29秒


「うっわぁ、おいしそ〜!」


フロントにコールして約30分後、ホテルマンの人がカートに料理を乗せてやって来た。料理はよくテレビで見るようなフォアグラとか、フカヒレとかなんだか珍しいものばかり。


「早く!早く食べよ!!」
「うん、それじゃあ、いただきま〜す」
「いただきま〜す!」


まず、前菜らしきスープをひと口飲んだ。


「………!」
「……おいしい!!」
「うん」

スープ以外の料理も次々と口に運んでいく。そのどれもが舌鼓をうつほどおいしくて、あたし達は夢中で食をすすめていった。


「…ふぅ、満足〜」
「私もう食べれない…」
「梨華ちゃん食べすぎだよ、ホントに」
「だってぇ…おいしかったんだもん」


そんなあたしもさすがにこれ以上は動けない、ちょっと意地張っちゃった。


「……ひとみちゃん、シャワー浴びてきたら?疲れたでしょ?」
「あ、じゃ一緒に入ろうよ」
「ううん、入ってきて。私少し休みたいから……」
「……そぅ、じゃお先に…」

58 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)20時53分20秒


寝室に梨華ちゃんを残し、1人寂しくバスルームに入る。
シャワーを浴びながら考えていた。

やっぱり今日の梨華ちゃんいつもと違う。
ノリが悪いっていうか、テンションが暗いっていうか……、とりあえずいつもとなんか違う。
…あたしなんか悪い事したの?心当たりない…。


………いやいや!今日はあたしの誕生日なんだし、こんな高そうなホテルのこんな高そうな部屋までとってくれたんだし!
多分ちょっと気分が悪かったとかそんなもんなんだ。
で、シャワー浴びた後は………



『よっすぃ〜…』
『り、梨華ちゃん…どうしたの?』
『よっすぃ〜、誕生日プレゼントあげたいの、最後に残しておいたヤツ』
『いいけど…な、何?』
『……プレゼントは……私なの…、貰ってくれる?』
『い、いいの?梨華ちゃん…、っていうか今更って気もするけど、いいの?』
『うん、貰って……』
『じゃ、じゃあ遠慮なくっ!!』

ガバァッ!!



――――――………




なーんちゃって、なーんちゃって!!キャ―――――!!!



59 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)20時54分34秒


「♪〜〜〜♪♪」

ウッフッフッフ、さぁ〜て梨華ちゃ〜ん♪よしこは出ましたよ〜♪
梨華ちゃんも早く浴びて、ベッドに来て〜〜〜……ってあれ?


バスルームから出てみると、部屋のドアの前に梨華ちゃんが立っていた。
?お腹苦しかったんじゃないの?


「梨華ちゃん?どうしたの、お腹はもういいの?…」
「触らないで」


彼女の肩にポンと手をかけたけど、パシッと払いのけられた。


「え…?梨華ちゃん、何?一体……」
「…触らないでって言ってるの」


振り向いてあたしを睨みつける梨華ちゃん。
その目はすごく冷たくて、まるであたしを見下しているような……。


梨華ちゃん…?…どうしたの……。



「私はこの日をずっと待ってたの」



え?何言ってるの?



「私はこの日から、あなたの前からいなくなるんだ」


梨華ちゃ……?


「さよなら、バイバイ」

―――バタン



さよならって……、梨華ちゃん?どこ行ったの……?

何?何で?意味わかんないよ……、いなくなるって…。

どういうこと?ねぇ、梨華ちゃん…、ねぇ!?




「梨華…ちゃ、ん…」
60 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)21時07分45秒


あたしは泣いた、訳が分からないまま泣いた。部屋から出て行った梨華ちゃんを追いかけもせずに、1人では広すぎる部屋の中で。



「…っく……!ひくっ…!梨華ちゃ……!」



泣きながらベッドの方に向かって行った。
白くて綺麗なシーツのかかった、大きなダブルベッド。



……こんなおっきなベッド…、1人じゃ眠れないよ………!
梨華ちゃんが…、梨華ちゃんがいないと……。
あたしが何かしたんなら―――、ひどい事しちゃったんなら…謝るから…、
だから…戻ってきてよぉ………梨華ちゃん―――!!


静かにベッドに倒れこんで仰向けになる。

目を腕で抑えながら、泣きながら、1人ベッドの上で。
いつの間にか、その格好のままあたしは眠ってしまった。


あたしの前から消えた梨華ちゃんを思いながら―――。

61 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)21時09分18秒












――――――チュッ


「……ん」


顔に暖かい感触―――

…何だよ……、人が落ち込んでる時に、ほっといてよ……。











――――――チュッ


また…、だからほっといてってば………。







――――――チュッ

「よっすぃ〜、起きてよ…」


ったく…、誰だよアニメ声であたしを起こすのは………。






……アニメ声!?

「梨華ちゃん!?んっ……!」




辺りを確かめようと上体を起こした途端、唇がふさがれた。
目の前にあるのは愛しくて会いたくて、たまらなかったあの人の唇。

62 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)21時10分18秒


「……よっすぃ〜!」


フッと口が離れたと思ったら、今度は思いっきり抱きつかれた。


梨華ちゃん…?本物だよね?……梨華ちゃん!!




「梨、華ちゃ……!!」
「ん〜、ゴメンねよっすぃ〜泣かないで」
「何…?一体、ど〜ゆ〜…事?」


少し体を離して彼女の顔を覗き込む。
ニヤ〜ッと微笑みながら梨華ちゃんは答えた。





「こういう事があると私のありがたみがわかるでしょう?」
「…へ?」
「これが私のプレゼント♪」
「……へぃ?」


なんですと?それじゃあ今までの事は………



「全部お芝居…?」
「ピンポーン、当たり!」
「それだけのために、こんな大掛かりな……」
「そうで〜す」

63 名前:最低なプレゼント 投稿日:2002年04月12日(金)21時11分31秒

……ハアァァァァ!?なんすかそれはぁっ!!!
こらぁっ!石川梨華ぁっ!!


真相が分かった途端、腰が砕けたような感じがした。


「もう、梨華ちゃん!!あたしマジでビビッたんだからぁ!!」
「エヘッ♪ゴメンなさい、許してね?」
「はあぁ…、もう心臓に悪いよぉ………」
「サービスするから、ね?……よっすぃ〜」
「ふぇっ!?あ、ちょ…ちょっと梨華ちゃん……!」
「ん〜、よっすぃ〜大好きだよぉ」
「あたしも……好きだよ」




今回のあたしのプレゼント、もうこれっきりにしてね……、梨華ちゃん…。

64 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月12日(金)21時13分06秒
更新終了……。
これでいいかな?なんか中途半端な気もするが…。
65 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月12日(金)21時49分46秒
石川の行動でどうなることかと思ったよ(w
66 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月13日(土)00時51分51秒
石川さんなかなかの策略化で(w
こういう話凄く好きです♪激しく萌えました!
67 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)07時06分38秒


「違う…、違う私じゃない、私…人なんか食べたりしない!!」

「違わない、あなただ」


スッと音も立てずに梨華に歩み寄っていく。
切れ長な冷たい瞳で見つめたまま、言い放った。

「あなたは人間を食べなければ生きていけない―――そう
 生まれついた、そして私はあなたを狩る為に生まれついた」

「…食べてない、人なんて食べてない!私知らない!!」


梨華は必死に叫び、訴える。
けれどその言葉はひとみには届かないでいた。

ひとみは梨華から目を逸らさずに変わらず冷たい口調で


「自覚が無いんですね。飯田圭織もあなたが食べたんでしょう?」
「え…!」


急に消えた飯田さん―――




私が…彼女を食べた……?






私が………

68 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)07時07分37秒



「そのときの気分はどうでした?」


え…、気分…?


「スッキリしていたでしょう?朝とは違う、ピンクのいい顔色してる」


確かにひとみの言う通り保健室で飯田が消えた後、気分が悪かったのが
ウソのように消えていた。むしろ、良い気分だった。

あの、イヤな気分が―――ウソのように。

「違う…、違う私じゃない、私…人なんか食べたりしない!!」

「違わない、あなただ」


スッと音も立てずに梨華に歩み寄っていく。
切れ長な冷たい瞳で見つめたまま、言い放った。

「あなたは人間を食べなければ生きていけない―――そう
 生まれついた、そして私はあなたを狩る為に生まれついた」

「…食べてない、人なんて食べてない!私知らない!!」


梨華は必死に叫び、訴える。
けれどその言葉はひとみには届かないでいた。

ひとみは梨華から目を逸らさずに変わらず冷たい口調で


「自覚が無いんですね。飯田圭織もあなたが食べたんでしょう?」
「え…!」


急に消えた飯田さん―――




私が…彼女を食べた……?






私が………


69 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)07時09分08秒
ちょっと更新…なんですけど、ヤバイ……。
違うレスにこの部分を投稿してしまった…。
70 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月13日(土)08時07分33秒
削除依頼を出した方が良いかと思われ。
さざえさんにお願いしてください。
71 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)14時09分44秒
削除依頼出してきました。
>>70さん
 助言、ありがとうございます。
72 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)14時28分24秒


急に、ひとみの力が緩んだ。


「蒼い火…!?」
「…!」


見ると、梨華とひとみの周りに蒼白く燃える小さな火が灯っていた。
その炎は一つ一つ、段々と増えていく。

「何、これ…?蒼い…火」

「しらばっくれないで、あなたの仕業でしょう」
「え!私が、この火を…?」


「…そうさこんな事、東家の“蒼龍”以外誰ができる!?」





――――東家の“蒼龍”……!?
73 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)14時29分34秒

「何の……事?と、東家なんて知らない…」



ブルブルと震える肩をなんとか持ちこたえ問い掛ける梨華。
一度止まったと思われたひとみの手が、また動き出す。



「いやぁっ!!」



叫ぶ。すると伸ばされた手にポッ、と炎が灯った。
ひとみの白い手に青白い炎が広がっていく。


「…つぅ…っ!?」


ぱっと手が離れた。

―――今だ!!



ひとみの体を突き飛ばし、教室から出て行く。
だが体が思うように言うことを聞かず、歩いていくのがやっとだった。



「待てっ!!」


ひとみは梨華を追いかけようとするが、手に燃え広がる火がそれを拒む。
チッ、と舌打ちをして空いているもう一つの手で手に重ねる。
目を閉じて深く念じた。ジュウウウという音と共に、炎は消え、手にはうっすらと火傷の跡が残っていた。

ペロッと火傷を舐めた。


「―――とうとう、“蒼龍”が現れた…」



ひとみは携帯を取り出し、ゆっくりと電話をかけた。


「………もしもし、私―――ひとみです。
 “蒼龍”が現れました、…ええ、でもまだ封印が完全に解け切っていません
 …分かってます、何人かこっちによこしてください。



 本格的に―――奴を狩る」




74 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)16時58分49秒


その一方、梨華は1人校舎の裏にある小さな林の中へ逃げ込んでいた。



「…ハァ、…ハァ、……ハァッ……!」


あの火は…、あの人の手に火をつけたのは私……!?
あの人の手に掴まりたくないと思った瞬間……いきなり……。


「体に…力が入らない……、さっきの心臓のショックで……?」

ガクッとその場に膝をついてしまう。
傍にあった木に体をあずけて、深く呼吸する。
この時、梨華の体にはあの気分の悪さがあった。




―――パキッ

「!?」
「“蒼龍”を見つけました!」


1人の男が梨華の前に現れた。
その手には黒い小型のトランシーバーがあり、誰かと連絡を取っているらしかった。

75 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)16時59分45秒

―――もしかして…あの、ひとみとかいう人の追っ手!?


「……!」
「逃げた!追え!!」


最初は1人だった追っ手が次々と増えていき、梨華を追いかける。
持てる力全てを振り絞り逃げようとするが、目の前に新たな追っ手がまた現れ
羽交い絞めにされてしまった。


「やった!捕まえたぞ!!」
「………っ!」
「よし、よくやった、これでひとみ様が来れば全てOKだ」




やっぱり…!このままじゃあの人に殺されてしまう!!

梨華は逃げようとする、だが力が入らない。
76 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)17時00分56秒


「…にしても、なかなか綺麗な女じゃないか、これが“蒼龍”だって?」


1人の男が梨華の細い顎を持ち上げ、マジマジと厭らしい目で見つめる。


「おい、やめておけ追い詰めるだけと言われてるだろう」
「フン、こんな女、ひとみ様の手をわずらわすまでもない、おれでも殺せる」


そう言って顎にあった手を首元に移動させていく。
力が加わった。


「ぐ……っ!?」




苦しい……いや、まだ死にたくない………






死にたく―――…ない!!








「なっ…何だ!?」



梨華の表情と瞳の色が急に変わった。
目の焦点が合っておらず、ポォッとした顔で宙を見ている。



「おい…一体……!?」


口に手を当て、そして雄叫びを上げる様にカァッ、と口を開いた。
男達がそこに見たのは不気味なほど白く輝く牙。


「う………ぅ…」


小さく唸り今度は頭を抱えた梨華。
プルプルと小刻みに震えている。頭から何かが見え隠れしていた。



「あ…あぁ…、角……!角が生えた!!」


上あごと下あご、両方に2本ずつ綺麗にそろった牙、
頭から天に向かって真っすぐ立つ1本の角、それらはまるで昔話に出てくる鬼の象徴に見えた。



「あれは……あれは鬼だ!!」

77 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)17時01分48秒
更新終了です。
78 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月13日(土)17時16分38秒
遅れました。
>>65さん
 ハラハラさせる事ができたでしょうか?
>>66さん
 石川さん、かなり深く考えたと思います(笑
79 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)05時51分15秒
もう普通の人生は送れないって感じ?
どうなるんだろ
80 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)10時22分15秒



「どうしたの!?」
「ひとみ様!!」


木々の間を抜けてひとみが駆けつけた。
ひとみの目に角を生やした梨華の姿が映る。



「封印が……解けたのか…?」


ジッ、とひとみを見つめる。
ひとみは目を逸らそうとするが、目の前にいる美しい鬼の、吸い込まれるように深い蒼の瞳からはどうしても逸らす事ができない。



ひとみの頭に幼い頃聞いた唄が響く―――











――――――鬼が来るよ…









――――――鬼火をつれて鬼が来る










――――――寝ぬ子はいぬか……






――――――泣く子はいぬか……?










――――――いい子にしないと食われるよ…………


81 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)10時23分37秒



「…………」


変化に魅せられて、その場にいた者は毒気を抜かれてしまった。
ひとみでさえも―――。

と、追っ手の1人がフラッ、と梨華に歩み寄る。
梨華は妖しく微笑みながら、ゆっくり手を伸ばし男を呼び寄せる。
その男はまるで吸い寄せられるように段々と梨華に近寄っていった。



「!……ま、待てっ!そいつに近づいちゃダメだ!!」

ハッと気付いたひとみが男の前に立ち、行く手を遮った。


しかしそれを梨華は片手でバシィッ!と突き飛ばす。
ひとみはそれだけで、軽く5メートルほど飛んでしまい、頭を打つ。



「――――…っ…ぅ!」





「!!」

ひとみが顔を上げると、梨華の手が部下の男の首に伸びていた。
手が首元に触れるとその部分がまたポッ、と蒼く光る。


「な、何する気!?やめ……!」


ひとみの言葉を無視し、笑みを浮かべながらペロリと舌なめずりする。そしてその蒼い光は強く大きくなっていく。
82 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)10時24分31秒

「ぅあ……っ……、あ、あぁ……!」


梨華の手に掛かった男がうめき声をあげた。
みるみるうちにその体が痩せ細っていく。梨華はそれを恍惚な表情で見送っていた。



ひとみはその様子に自分の目を疑った。








―――――鬼が来る





男の体が枯れていく。





―――――鬼が来るよ





皮と骨だけの姿。





―――――寝ぬ子はいぬか、泣く子はいぬか






ボロリ、とその体が崩れ灰になっていく。






―――――いい子にしないと食われるよ















―――――食われるよ……



83 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)10時25分33秒



地面の上に男の服だけが残った。梨華は満足げな笑みを浮かべながら放心していたが、ハッ、とすぐに正気を取り戻す。
梨華が気付くと、周りにいた者もそれにつられるかのように目を覚ました。



「私……私……!!」
「こ、殺せ!!“蒼龍”を殺すんだ!!」


ひとみが命令を出すと、男たちは一斉に梨華に飛び掛る。



「っ!?」



紙一重でそれを交わし、森の奥へと入っていく。




―――――私…私今度は覚えてる…………、








―――――人間を食べた………!!




84 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月14日(日)12時41分01秒
はじめまして、梨華っちさいこ〜と申します。
一気に読ませていただきました。なんかハラハラしますね〜。
続き頑張ってください。
85 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)16時18分27秒
石川さんカッコイイ!(w

なかなか無いタイプの作品で凄く面白いっす!!
作者さん頑張って下さい!!!
86 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)20時52分57秒


「追え!絶対逃がしちゃダメだ!!」




―――――人間の命を食べた……、私が………!




「今だ!捕まえろ!!」


「……いやっ!!」




手が伸びてきたと同時に梨華は飛び上がる。
すると信じられないほど高く飛び上がる事ができた。体が軽い。ゆうに、10メートルは越していたであろう。

近くにあった木につかまり、そこから隣の木、そのまた隣の木と移動していった。そうして、下にいる追っ手からは何とか逃げ切る事ができ、梨華はそのまま木の上で潜んでいた。





「………私、人を……」


自分が人間を食らう化け物だった。
あのどうしようもない不快感、あれは鬼である自分が空腹を訴えているものだったのか。保健室で消えた飯田も自分が――――。



「……っそんな…!私鬼じゃ…、鬼なんかじゃ…ない!!」


呪われた蒼い瞳から涙があふれ出る。止まらなかった。
木の上で1人、声を殺して泣いた。


自分は化け物なんかじゃない―――と、見えない誰かに言い聞かせるように。




87 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)20時53分57秒




「人1人食べておいて、何行ってるの?」



グッ、と首を掴まれ胸に手の感触があった。
見るとそこにひとみの姿。



「やぁっ!やめ…て、私違う!“蒼龍”なんかじゃない!!」
「往生際が悪いですね、さっきのアレは何なんですか」



後ろからものすごい力で梨華の腕を掴む。
梨華は捕まりながらも訴え、叫び続けていた。



「私は人間よ!前の街では普通にちゃんと暮らして来たんだから!!」

「あなたは鬼だ、この世にいてはならないもの、
 人を食べなければ生きていけない」
「違う!ここに来るまでずっと普通に暮らしてきた!!
 前の街に行ってみれば分かる、確かめてみればいい!!」


「いい加減認めなよ!!」


いつまでも自分の姿を認めない梨華に、ひとみは苛立ちを覚えいきり立ち、さらに腕に力を入れて梨華の顔を自分に向かせる。


「!?」


梨華が泣いていると分かると、次の言葉が出てこない。
その姿は鬼であっても、普通の女の子であるのだから。


「痛い…、腕放して……っ」
「…………っ…」

「わたし…違う…っ、鬼じゃない……!」


「……………」

88 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)20時54分39秒


何――――…?

こいつは“蒼龍”、鬼なんだ。こいつを殺すためにあたしは今ここにいる。
それが“白虎”の使命なんだ。


ひとみは梨華の姿に魅せられてしまう。
口から漏れる吐息が耳をくすぐり、濡れた頬がより一層悩ましく見えた。



あたしは…何を考えてるの……?
こいつは“蒼龍”で人を食らう鬼だ。



こいつを――――殺すんだ―――…。




89 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)20時55分30秒


「…?」


戸惑い何もしないでいるひとみに梨華は不思議に思い、ひとみを見つめる。


な…に……?この人は私を殺そうとしてるのに……、この人の瞳を見てると頭の中が真っ白になる―――。



2人とも、互いの相手を見つめそのままの体勢で動けないでいた。

どれ位そうしていただろうか、下から声が聞こえてくる。



「「!?」」
「ひとみ様!何処におられますか!?」

「…チッ」


小さく舌打ちをして、梨華の口を抑える。そしてその胸に―――心臓のちょうど真上にそれを置いた。


「殺……さないでっ…!」
「…!」

90 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)20時56分17秒


「殺さないで、私“蒼龍”とかじゃない…。“蒼龍”は人間を食べなきゃ生き ていけないんでしょ…?私17年間、普通に生きてきた」

「あたしの目の前で1人食べておいて、まだ言うの?」
「だから…!おかしくなったのはここに来てからなの!
 何か原因があるはずよ…」


梨華の瞳から、また大粒の雫が生まれる。


「お願いだから調べて…、私“蒼龍”じゃない……!」


不本意ながら梨華のその泣き顔に鼓動が高まる。
ひとみはブルブルと頭を振り、妄想を散らした。
91 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)20時57分06秒


――――たしかにそうだ、あたしたちは“蒼龍”を探す為に、日本中に網を張ってきた。なのにどうして今まで…17年間も石川梨華に気付かなかったんだろう………。



「調べて…“蒼龍”だと分かったらどうする?」

少し遅れて静かに返事を返す。


「…そ、そのときはあなたの好きにすればいい……」
「その言葉―――忘れないで」


フッと梨華から体を離した。


「…いいよ、あなたの住んでいた街に行ってみよう
 明日、あなたの家に迎えに行く、家族には上手く言っておいて」
92 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)20時57分40秒

梨華の有無を聞かずにガサッ、と木から飛び降りた。
その音でひとみの周りに男達が集まってくる。


「ひとみ様、ご無事でしたか!?」
「当たり前だよ、あたしを誰だと思ってるの?」
「“蒼龍”は!?どうしました!」
「……逃がした、もう少しだったけど…とにかく帰ろう、
 いつまでもこんなとこに居たくない」


そう言って、ひとみは男たちを引き連れ森から姿を消した。


「明日……迎えに…」



ひとみがいなくなった後も、梨華は木から降りなかった。
さきほどひとみが言った言葉を消え入るような声で呟いていた。

93 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月14日(日)21時01分56秒
更新終了。

>>梨華っちさいこ〜さん
 なんとかハラハラする話になってホッとしております。
 これからも頑張っていこうかと。
>>85さん
 梨華っちカッケ〜すか?よかった!
 応援よろしくです。
94 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)22時16分46秒
今日、初読みしました。
かなーり、わくわく。
楽しみにしまっす。
95 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月15日(月)00時04分58秒
惹かれあってはいけない二人が惹かれあう…
こおゆう展開大好きだぁぁ!!
二人のこれからに期待するっス。
96 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)06時50分18秒
>>94さん
 ありがとうございます。こんな駄文に付き合っていただけて、メチャ×2
 嬉しいです、ハイ。
>>95梨華っちさいこ〜さん
 期待していただきまして、どうもです。
 こういう展開これからもっと出ると思いますので…。
97 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)06時51分33秒

―――――――――


―――――……


日本を誇る和風の大邸宅。広さは一つの小さな町と同等。
中庭には立派な松、池には大きな鯉が2・3匹漂っている。
ひとみはそこで西家“白虎”としての使命を果たしながら暮らしていた。


「ひとみ様、裕子様がお見えになりました」
「…ん、今行く」


中庭で1人たたずんでいたひとみは、来ると分かっていた来客に少し不満げな表情を作り、広い和室まで足を運ぶ。

その来客はすでに部屋におり、部下が点てたであろう抹茶をすすっていた。



「お、来たか、まぁあんたも座り」
「……中澤さん」
98 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)06時52分50秒

「…“蒼龍”に1人食われたらしいな、どやった?」


今までヘラヘラしながら茶を飲んでいたのが、やや真面目な様子になり、声も少し落ち着きが出てきた。


「…すごかったですよ、話はしっかり聞いてたけど驚きました。
 金縛りにあったみたいで動けませんでしたよ」


「石川梨華…やったか?どんな娘なんや」
「どんな…って?」

「―――…“蒼龍”はメチャメチャ綺麗な鬼やそうや、
 その姿を見た者は男も女も魅せられ、恍惚のうちに≪生命≫も≪魂≫も奪わ れるいうからな」


言うまでもなくひとみは、あの時自分が梨華に何もできずにいた事を思い出した。


「―――そうですね、わかります…」

「………よっさん」


ひとみの何か思いつめた顔に、裕子はおもむろに口を開く。



「ミイラ取りがミイラになるんやないで、西家の当主“白虎”は今アンタなん や。“蒼龍”を倒すもんは“白虎”しかおらん、そんために西家は続いてき たんやからな」




「―――――…そんなこと…分かってますよ」


99 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)13時39分45秒

翌日、まだ完全に日も昇っていない頃、ひとみは梨華の家に向かって車を走らせていた。部下には1人で行くから絶対について来るなと念を押した。
なぜそう言ったのか自分でもわからない。
ただ今日は他の誰にも邪魔はされたくなかった。



――――邪魔ってなんの邪魔だよ……




ひとみは昨日裕子が言っていた言葉を思い出した。


『ミイラ取りがミイラになるな』


そんなことは絶対無い、無いはずだ。
あの娘は鬼で、自分はそれを狩る立場。
そんなことは絶対にあってはならないんだ――――。


そうこうしている内に、すでに梨華の家のマンションに着いていた。



「あたし……何考えてるんだか…」
100 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)13時40分35秒



ひとみは車から出ずにスッ、と目を閉じて何かを念じる。
頭に思い浮かべるのは梨華の部屋。


――――まだ寝てるか……



閉じられた瞳の中に、ベッドの上で眠る梨華のビジョンが映る。
スースーと規則正しく聞こえる寝息。まるで昨日の事など忘れてしまっているかのようだった。

ひとみはそこでさらに強く念じる。すると梨華の部屋に自分の分身を作り出した。
101 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)15時18分08秒

近くによって様子を見る。
こうして見ると普通の女の子にしか見えない。いや、普通の娘よりは断然にカワイイ。『美しい』という形容詞がピッタリ当てはまる。

(…バカ、ヘンな事考えるな!さっさと起こさなきゃ!)


パチン、と自分の頬を叩く。それから少しきつい言い方で梨華を起こした。


「早く起きなよ」
「…ん、ぅう…ん?……キャッ!?」
「迎えに来た、早く用意して」
「こ、こんな早くに!?しかもどうやって部屋に…!」
「いいから早くしてよ、下にいるから」


それだけ言うとひとみの影はすぐに消えた。
102 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)15時19分20秒





「乗って」

それから10分後、梨華はマンションから出てきた。どうやら急いできたらしく、髪の毛が起きたときのままだった。

車の助手席に乗り込んだ梨華。運転はひとみがする。


「運転できるの?」
「できるからこうしてるんでしょ?」

ブオッ、とアクセルを踏んで出発した。
ひとみは行き先を告げていないのに車を進める。


「あ、あなた私の住んでたとこ知ってるの!?」

「当然、本籍は神奈川、父親の転勤で大分・奈良・長野・千葉そして東京、こんなもの高校に提出した書類を調べて現地に問い合わせればすぐわかる」


――――私が転校してきて10日も立ってないのにそんなことまで…


(“蒼龍”じゃないと証明できなければ、本当に殺される―――)

103 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)15時20分12秒

もし自分が“蒼龍”だったなら…、そうなった時のことを考えると背筋に汗が流れた。沈黙を続けないために梨華は次々と謎だった事を聞いていく。


「あなたは…“蒼龍”を殺すために存在するって言ったわよね。“蒼龍”って何なの?あなたはどうしてそういう事知ってるの!?」


「…――――うちに…、西家に古い文書が残されてる



太古、日本には鬼が実在していた。その一族は鬼門と呼ばれ人間を支配し、人間を食らい生きてきた。…その代々の長を、“蒼龍”という」




“蒼龍”は―――鬼の長!?





「古文書には“蒼龍”は必ず復活すると記されてる、鬼門を蘇らせるためにいつの時代にか、必ず蘇ると―――」

「“蒼龍”は―――鬼門を蘇らせる…」
「そんな事させられない、人間が鬼のエサになる時代なんて冗談じゃない!」


ひとみは歯を食いしばりさらに話を続ける。

「だからあたし達は…いつ“蒼龍”が現れてもいいように網を張り巡らせて、代々の“白虎”に“蒼龍”を倒す能力を伝えて何千年と続いてきた」
「じゃあ、それだけ?古文書だけを信じてきたの!?」
「……でも古文書通り、あなたが現れた」

そう――――だけど、何故あたしたちは17年間も梨華をキャッチできなかったんだろう?“蒼龍”は人間を人間を食べずにはいられない、今まで梨華はどうやって生きてきたんだ?

104 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)15時21分02秒


「学校のみんながあなたを飯田さんだと思い込んだのも、あなたの能力?」

「そう、ちょっと暗示にかけただけ、“蒼龍”を殺すためならそれ位、たいした事じゃない」



たいした事であってもなくても…それができる事が怖い―――…


梨華はギュッ、と拳を握り、今まで何度も口にしてきた言葉を放った。


「でも私は“蒼龍”じゃない!鬼を蘇らせるなんて考えた事無い!!」

「だから、あなたが以前住んでた町でどう暮らしてきたか見せてもらう、あなたはここで初めて人間を食べたと言ってたけど、鬼は生まれついての鬼、今まで食べてないはずない」


明らかに冷たく、キツイ口調でいるひとみ。
自分の存在を否定されているかのような気の梨華は、自然と涙をこぼす。



…ちがう

海辺の小さな町…あそこでは何もなかった、赤い屋根と白いへいの二階家、あの家で私は静かに暮らしてきた。
あっちの友達は私が普通に暮らしてた事、みんな知ってる。


みんな…知ってるのよ―――!!



105 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月15日(月)15時21分57秒
更新終了っす。
106 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月15日(月)22時36分59秒
こういう伝奇もの好きなんで期待
107 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月15日(月)22時42分58秒
って、いうか更新めちゃめちゃ早いですね〜。
こりゃ毎日チェックしないと乗り遅れる!
108 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時32分26秒
>>106さん
 その期待を裏切らないようにがんばるっす!!
>>107梨華っちさいこ〜さん
 更新できるうちにしておこうと思って(W
 でもこれからはちょっと遅れていくかも…、学校あるんで…。
109 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時33分28秒





「着いたよ、降りて」

一時間ほど車を走らせ、梨華とひとみはある一軒の家の前に着いた。




「…そう!ここよ!!」


そこは自分が覚えている当時のまま、赤い屋根白いへい、自分の暮らした家。


「あの角の部屋が私の!となりがののちゃんの部屋、中1の時に越してきて一週間前まで住んでたのよ!」
「中学はどっち?」
「あっち、歩いて15分くらいのとこ」



丘の上を指差しひとみの先を行く。
その時、梨華の前に見覚えのある女性の姿が会った。



あれ―――となりのおばさん!
急いでるから挨拶だけでも…。



「おはようございます、お久しぶりです」




しかし――――






「え?」



その女性は知り合いに会ったというような反応ではなかった。
梨華にはそれが聞こえなかったが、ひとみはあえてそれを言わなかった。



110 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時34分11秒



「高校はこの先なの?」
「そう」



今登校時間なのか、制服を着用した生徒がちらほらと目に入る。
ちょうどそこに見覚えのある懐かしい友の姿。





「あ!明日香ちゃん、美貴ちゃん!よかったちょっと話が…!」

「「………」」

反応がない。もう一度問い掛ける。

「明日香ちゃん?美貴ちゃん?」








「あの…あなた誰……?」





「えっ……!?」







「あ、明日香ちゃん、何言ってるの!?私石川梨華よ、中1から高校までずっと同じクラスだったじゃない!覚えてないの!?」

「石…川さん?どこかで…会ったっけ…?美貴、おぼえてる?」
「え…私も、全然…ごめんなさい」



そんな……2人とも何言ってるの……!?



「ごめんね、もうすぐ始業のベルが鳴っちゃうから…」
111 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時35分09秒

明日香と呼ばれた少女が美貴という子の腕を引っ張り先に行こうとした。梨華はそれを食い止めようと手を伸ばすが、ひとみがそれを遮り礼を言った。



「こっちの勘違いでした、すいません、勉強がんばって」


ひとみがそう言うと2人は走って校門をくぐって行ってしまった。
ひとみに肩を押されながら、梨華は放心状態のままもと来た道を戻っていった。



どうして……?2人がウソをついてる訳ない……。なんで、こんな事―――。



その時梨華の思考にある一つの仮説が浮かんだ。




「あ、あなたの仕業でしょ!あなたが飯田さんと入れ替わった時と同じ様に、明日香ちゃんたちに暗示をかけて……!!」


自分を陥れるためにこんな事を――――。
だがそれはすぐに打ち砕かれた。


「あたしはやってない、暗示をかけたのはあなたの方でしょう」


――――え!?



「…確かにこれはあたしがやったのと同じ事みたいだけど、あたしはやってない。だとしたら他に考えられるのは…」
「わたしやってない!!」


ひとみの言葉を遮り叫びだす。しかしひとみは止まらずに続けていく。

「でもそう考えれば説明がつく、暗示をかけられてるのはさっきの高校生たちじゃなくて、あなたの家族の方。それであなたを家族と信じ込んでいる」

112 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時35分47秒



そんな…事……、あるはずない…!!



「あなたは…」



やめて……、聞きたくない!!



「【石川梨華】という仮想の人物を作り出して、なりきっているだけなんだ」



嘘―――――…!!




両手で顔を覆い、伝えられた事全てを否定するように俯いた。

「そんなことしてない!!私はお父さんとお母さんの娘よ!この町のことだって、ちゃんと覚えてる!!」


「それは……」







「それは故意にインプットされた記憶や」

113 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時36分31秒

「「!?」」


ひとみが説明をしようとした時、2人の背後から落ち着き払った関西なまりの声が聞こえてきた。





「“蒼龍”にはそれくらいどうって事ないやろ」

「中澤さん……!」



どうやらひとみの知り合いらしい。梨華は思わず身を引いた。

その関西なまりの女性はその場から動かずにひとみに顔を向ける。


「よっさん、“蒼龍”を殺すのにここまで来る必要があったんか?」


「それはこの娘の…梨華の生まれに疑問があって……!」

「そんなんはどうでもええ!問題なんは、その娘が人を食ったっちゅう事実や、何処で生まれ育ったかなんて関係ない!!」


気付くと周りに何台ものバイクや自動車が、梨華たちを囲んでいた。
裕子が引き連れたであろう、西家の追っ手達だ。



「西家は“蒼龍”を――――鬼門を殺すために存在してるんや!!」

114 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時37分21秒


「そんな事分かってます!!」
「分かっとるなら余計な事考えとらんで、さっさと殺さんかい!町には映画のロケや言うてある、遠慮はいらん!!」


梨華はガクガクと体を震わせ、必死に呟き続けている。


「やめて…こんなの何かの間違いよ……、私は人間よ…」



ひとみはそんな梨華に手が出せず、ただ戸惑うばかりだった。

「…………っ」

「よっさん!何しとる、殺せ!!」



耳に入る裕子の怒鳴り声に、とっさに梨華の手首を掴む。
驚いた梨華はその手を払いのけ逃げようとするが、どこからともなくバイクが突進してきて跳ね飛ばされてしまう。



ドサッ――――


「ぃっ……、!!」



1人跳ねられた梨華はなんとかそこから逃げ出した。



「よっさん!!」

「…分かってます!!」
115 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時39分02秒



梨華は何台ものバイクに追いかけられながらも、なんとか捕まっていなかった。


「…ッハ、……ッハァ…ッハァ……!」

私は梨華よ!それ以外知らない!!

私はなにも望まない、ただ静かに暮らしたいだけ。だけど何も分からないまま殺されるのはイヤ!!



「…これじゃ時間がいくら掛かっても“蒼龍”は捕まらんな…」
「中澤さ…!何を!?」

いつまでも捕まえる事ができない梨華に、裕子が銃を構えた。


そして―――――







ズキュゥゥゥン―――――!!







「…っく、ハッ…!」
「梨華…!!」


それはいとも簡単に、あっけなく発射され梨華の心臓は打ち抜かれた。

116 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月16日(火)19時40分09秒
更新終り。
今までで1番多い、かな?
117 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月16日(火)21時35分24秒
踏んだり蹴ったりですな
救いはあるのやら…
118 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月16日(火)21時57分40秒
そっこー大ピンチ。
どうなるどうなる・・・。
119 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月16日(火)23時51分43秒
えっ!? おい! ど〜なっちゃうの?
120 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月17日(水)12時53分00秒
緋子(漢字あってんのか?)は誰なのかな?
お兄ちゃんがいない代わりに、辻がいたんだけどひょっとして辻が…
この漫画好きだったんで…期待してます。
121 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月17日(水)16時31分09秒


梨華の胸がおびただしいほどの血で真っ赤に塗られていく。



「やった、“蒼龍”を殺ったぞ!」
「“蒼龍”を殺した!!」

周りの部下たちが歓喜の声を上げる。
自分も本来なら喜ぶべきはずが、ひとみにはそれが腹ただしく感じた。


「静かにしぃ、喜ぶんはまだ早い。見てみぃ」

裕子が梨華に指差す。
いつの間にか、梨華の頭にはあの白の角が生えていた。


「封印が解けたんやな…」



裕子は梨華から視線を逸らさずにそのままでいた。
全員が顔を見合わせる、すると普通の人間なら間違いなく死んでいるものを、梨華は胸を抑えたまま逃げようとしていた。



―――私…まだ生きてる……!?





122 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月17日(水)16時31分43秒

「心臓を撃たれようが頭を撃たれようが、“蒼龍”は死なん。殺す方法はただ一つ」



裕子はひとみを見据えた。



「“蒼龍”が人を食うように、“白虎”だけが“蒼龍”を食う事ができる。
“蒼龍”の生気をくって殺す事ができる。
せやから今、“蒼龍”を殺す事ができるのは、よっさんだけや」


しかしひとみは梨華を目で追い、動こうとはしなかった。



「…吉澤ァッ!!早く“蒼龍”を追いかけんかい!!」

「!……分かってます!!」


裕子の一括で走り出したひとみだったが、その足取りは少し重い様に感じた。





123 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月17日(水)16時32分48秒





梨華は撃ち抜かれた胸を抑えながら、一軒の家にたどり着いた。
ドンドンとドアを叩き、声をかける。


「誰か…お願い、開けて…!!」


しかし反応はない。よく見ると、朝からたくさん居たはずの人がまったく見えない。それどころか、その気配すらなかった。






―――無人…?これも西家がやったことなの、こんな事までできるの…?



「私ひとりを殺すために…ここまでするの…?」


梨華は力を振り絞り、2階のベランダからその家の中に侵入した。窓をこじ開けて確認するが、やはり中にも人はいない。

薄れゆく意識の中で、梨華は訴えていた。



私は…どこから来たの?一体何をすればいいの?どこを探せばそれが分かるの…、誰か教えて……!!

124 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月17日(水)16時44分45秒
>>117さん
 踏んだり蹴ったり、まさにその通りっす。これから先もさらに…!
>>118さん
 梨華ちゃんにはピンチが似合う気がするのは自分だけですかね?(オイ
>>119梨華っちさいこ〜さん
 えっ!?はい、こうなります!(W
>>120さん
 ちょっと(てかほとんど)話がこじれるかもしれませんが…。
 期待に添えるようガンバ!自分!(爆
125 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月17日(水)21時46分19秒
うーむ。。石川前途多難…
126 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月17日(水)22時44分08秒
梨華ちゃんを倒せるのはヨシコだけか…
んあ、切なくなったり甘くなったりするのかな。
127 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月17日(水)23時23分51秒
元ネタを知っているだけにどのように話が変わるのか楽しみです。
128 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月18日(木)14時49分20秒
>>125さん
 やっぱ梨華っちはこうでなければ…。

>>126梨華っちさいこ〜さん
 切なくなったり甘くなったり…>その予定は…未定っす。(意味不明;

>>127さん
 がんばるっす。なんとか変えて……。
129 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月18日(木)14時50分07秒







「おい、こっちもしっかり見張っておけよ」

ビクリ、と体を強張らせる。ひとみの追っ手がいるらしいが、どうやら梨華の存在には気付いていない。梨華はジッと身を潜めていた。


「しかし“蒼龍”が実在したとはな…あの文書は本当だったってことか…」
「ああ、俺も信じられないけどな…」



文書………?

ひとみのいっていた言葉を思い出す。





『古くから西家に伝わる文書がある』








文書…、それを見れば私の過去がわかるかもしれない。
西家に伝わる文書…それってどこに――――…。



130 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月18日(木)14時50分49秒

「アァーン……ファァァア…!!」

「!?」


その時確かに、梨華の耳に何かの泣き声が聞こえた。
誰も居ないはずの家から。


赤ちゃん…?


梨華はおそるおそる向かいにある部屋に顔を出す。
そこにまだ生まれて数ヶ月ほどの赤ん坊が、ベビーベッドの上で泣き声を上げていた。


「ファァ…アアァァー!!」


赤ん坊は泣き止む事を知らない。それどころか母親を求めるように一層激しく泣き喚く。


(…お願い、泣かないで!あの人たちに見つかっちゃう!!)



「ファアアアア!!アアアァァアァッ!!」


131 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月18日(木)14時52分01秒


「…!」



そこに、鬼である梨華の心が動いた。













―――――この子を食べれば……力がもどる………。






ゆっくりと赤ん坊の首に手を伸ばしていく。手がそれに触れた時、なんとも心地良い血液の温かさ。コクッ、と喉を鳴らす。




「ファアアアッ!!アアァァァン!」



「………っ…」




「アアアァァァ―――!!」




132 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月18日(木)14時52分46秒







「………ダメ…できない……こんな子を食べられない…!」

伸ばした手を引っ込める。
梨華はその場に崩れ落ち、そしてそのまま瞼を閉じた。


――――私…ここで、死ぬのかな…。




息が……続かない―――…。









――――グイッ


「…!」

意識がとびそうになった時、誰かに腕を捕まれ高々と上げられる。
見なくても分かる、分かってしまう。
今までさんざん自分を殺そうとした、西家の“白虎”ひとみ。




“蒼龍”を殺すために自分は存在すると言ったひとみ。確かに容赦なく私を殺そうとした。
でも、今度はもう逃げられない―――――。




133 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月18日(木)14時53分29秒




「………」


ひとみの細く長い指先が梨華の首を這った。

「アアアアァァァン!!」
「!?」


赤ん坊の存在に気付いていなかったひとみは思わず動きを止めた。


「赤ん坊?この家の子!?」
「そぅ…みたい、お願……ぉ母さんの所に……連れて…って…」

声ももう出なくなってきた筈なのに――――。


赤ん坊の事を気にかける梨華に、ひとみは信じられないといったような表情で再び梨華に問い掛けた。


「……、どうしてこの子を食べなかった…?食べればここから逃げ出せたでしょう……」




「私は……人間なんて食べたくない…!」

「……!」



134 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月18日(木)14時54分24秒



「私は鬼よ…それは、ょく分かった……。でも…人なんか食べたく…なぃ!もぅぃい…殺すなら殺して……!」


「梨華……」








ひとみは何かを決心したようにキュッ、と唇を噛んだ。
片手で掴んでいた梨華の両手を、グッと自分の首に近づける。

突然のひとみの行動に梨華は動揺を隠せない。



「…な、に……?」






「ここから逃げ出せるだけの生気を……、あたしから取って」

「え…!」





トクン



あったかい……生命の流れ……。


「早く、追っ手が来る!」


トクン



どうして―――――この人が、こんなこと…


「考えてる余裕なんてないでしょう!?ほら!!」



トクン



トクン


135 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月18日(木)14時55分04秒
今日はこれくらいで終。
136 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月18日(木)20時07分21秒
一気に読まさせていただきました。
ドキドキと、切なさが・・・・。
楽しみにしています。がんがってください。
137 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月19日(金)00時01分59秒
ヤバイ…こおゆう展開マジで弱いんスよ…。
なんかこう… 禁断の愛ってやつ?……
うおぉぉぉぉぉぉ!! いしよしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!(壊
138 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月19日(金)16時15分52秒






―――――ポウッ


2人の周りにあの蒼い火が現れた。



「う……っ!」

指の先からひとみの生気が流れ込んでくる。
常人とは比べ物にならない、ものすごい量の生気。

ある程度生気を取ると、梨華の撃たれた胸の部分に熱が集中していった。



「……っふぅ…」

ひとみの体がふらついた。体の力が失われているのが分かる。

それとは逆に、梨華の体はすごい量のエネルギーに満ち満ちていた。


139 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月19日(金)16時16分50秒



「!?」


胸の痛みが消えた。服をまくってみると、撃ち抜かれた所の傷は塞がり血は完全に止まっている。



「…たったあれだけの生気で……、すごい回復力だね…っ」



―――たった、って…“白虎”の生気、普通の人と全然違う…!!



「…もう動けるでしょ?行って」

息も絶え絶えに顎で裏口を指し示す。

「どうして…?何で私を助けてくれるの…?」
「……分からない。…あたしの気が変わらないうちに早く行って!」


ひとみが言っても梨華はそこから動こうとはしない。
140 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月19日(金)16時17分56秒

(この人――――…)



その時外から裕子の声が聞こえた。


「よっさん!居るんか――!?」

「!」


その声を聞いた途端、梨華はひとみの前をすり抜け、急いで外に出て行った。










「よっさん!?」

梨華が出て行ったすぐ後、裕子と部下たちが次々とやってきた。


「よっさん、“蒼龍”はどないした?」

「中澤さん…、すいません、逃がしてしまいました」





――――パァンッ!!

「…の、アホォ!!」


裕子の平手がひとみの頬に直撃した。
唇を切ってしまったらしく、ひとみ口から一筋の血が流れた。裕子はそれを、ただ冷たく睨むだけ。


「アンタさっきから何やっとんのや?しっかりせんかい!!」

「……はい…」





――――自分の立場はちゃんと自覚してる。けど、どうしてもあの“蒼龍”が邪悪な存在だとは…思えない。



それどころか、むしろ……。




141 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月19日(金)16時19分24秒




「梨華、どこ行ってたの!?」
「ごめんなさい…心配掛けて…」


あのあと梨華は自分の足で、結局自宅まで帰ってきた。
“蒼龍”の姿であればそんな事は容易かった。
もちろん家に入る前には、角を引っ込めて。


「遅くなるようならちゃんと連絡しろって、いつも言ってるだろう」
「梨華ちゃん、どこまでいってたのれすか?」


優しい両親、可愛い妹。けれど自分の本当の家族ではない。
そう思うと家族の顔がまともに見れなかった。



「もう…休むね、…ごめんなさい」


心配させた事を謝っていることの他に、いろいろな意味をこめた。
あなた方の娘が人間を食い殺してしまった事、知らなかったとはいえ自分自身を偽っていた事、―――本当の家族ではない事。

耐え切れなくなった梨華はすぐに部屋に戻った。




(ごめんなさい…!お母さん、お父さん、ののちゃん…)



私は……どこにいればいい……?


142 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月19日(金)16時20分54秒
更新終りっす。
いまさらだけど長いなぁ…。
143 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月19日(金)18時47分09秒
>>136よすこ大好き読者。さん
 がんがっていきますです。
 よっすぃ〜はいいですよね!どわぃ好きです。

>>137梨華っちさいこ〜さん
 おおぉぉぉ!?壊れないでくださぁ〜い!
 貴重な読者様が減ってしまうぅ〜!!(W
144 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月19日(金)21時59分11秒
中澤ねーさんのビンタで目が覚めました(w
監視役が中澤ね―さんとは、ヨシコに同情。
145 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)04時57分37秒










「おはよう!」


母に止められた学校通い。別の高校を見つけてくれると言ってたけど、せっかく仲良くなった友達ができたこともあり、昨日の事を少しの間だけでも忘れたいという願望が梨華を学校へ運んだ。


「おはよう、柴っちゃん」
「久しぶりだね〜、元気してたぁ?」
「うん、なんとかね」
「そうだよね〜、梨華ちゃんのその顔見たら分かるよ」



―――――梨華…


自分が作り出した仮想の人物の名前、その名前で呼ばれるたび、ますます自分が周りの人たちを狂わせるような気がしてならない。

“蒼龍”である自分が―――。
146 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)04時58分18秒



「…梨華ちゃん、どうかした?やっぱりダメ?」
「あ、ううん、そうじゃないよ、大丈夫」
「そっか、まぁ今日は飯田さん来てないから心配要らないよ」

「飯田…さん」



言える訳がない。
その人はもうこの世には存在しない、それは私が食ってしまった、など。
自分は鬼だったのだ、と―――――。

そしてそれになりきっていたひとみ。
自分を殺す為だけに現れた、その筈なのに、2度も自分を助けてくれた。
言ってる事とやっている事がバラバラで、一体何を考えているのか。



147 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)04時58分50秒

「…ちゃん、梨華ちゃん!」
「えっ!はい!」
「聞いてるの?今日また、転校生が来るんだってさ、うちのクラスに」
「え、あぁ…そうなんだ」

梨華の心境はそれどころではなかったが、
とりあえず今日はその事を忘れるために来たのだから、あゆみの話に聞き入る事にした。

「なんかね、どっか遠いとこから来たらしいよどこかは分かんないけど」
「へぇ、どんな人だろう…」
「いい人だといいね〜?」
「だといいよね」


2人はまだ見ぬ転校生の話で盛り上がっていた。

その時、校舎の屋上から楽しそうに話している梨華の姿を、不敵な笑みを浮かべて覗く、1つの影があった。





「“蒼龍”…やっと見つけた…フフッ」







148 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)04時59分39秒







前来たときと変わらず、ガヤガヤと騒がしいクラス。
話題はもう広まっているのか、誰もが今日来る転校生の噂をしていた。梨華が来る時もこんな感じだった、とあゆみに伺った。

「小さい学校だからね、広まるの早いんだ」
「でもすごいね、もうみんな知ってるんだ」
「1人が聞いたらそこから2、30人にまわるから…来たっ!」


ガラッ、と大きな音がすると、全員ピタッと口を閉じる。
入ってきたのは担任、そして後からこの学校の制服を着た見知らぬ女生徒。
一旦止んだと思ったざわめきが、また小さく起こり始めた。


「えー、みんなもう知ってると思うが…転校生を紹介します
 さ、自己紹介して」


先生が一歩下がり、転校生である少女に微笑む。
少女は別段緊張した風でもなく、どちらかというとめんどくさそうに、簡単に軽く挨拶した。
149 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)05時00分20秒



「えーと…後藤真希って言います…どーぞよろしく」


あまりにあっけらかんとした自己紹介。それだけ言うと真希は、ファァッ、と大きなアクビをし、潤んだ瞳をコシコシこすった。
なんだか寝起きのような彼女だったが、決してヘンな顔ではなかった。

少々たれ目がちだが切れ長な瞳、スッとして整った輪郭。
多分真面目な顔になると冷たい印象を受けるだろうが、お世辞でなくとも美人と言える。


「それじゃあ…席は...の隣だ、仲良くな」


あ、私の後ろだ。

ヒョイッ、と顔を上げ真希の様子を見る。真希の方も、隣に座る生徒の事より、前の席にいる梨華の方を見ていた。
心なしか目が合うと、梨華はなんだか戸惑うような気分になった。


―――――フッ…

あれ?今、私を見て笑ったみたい…。気のせいかな?
150 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)05時00分58秒







「よろしく」
「えっ!?」


前にいる先生の隣には誰も居なく、すでに後ろの席には真希が座っていた。
梨華が後ろに振り向くと、ニコッと静かに笑いかけてきた。


「よ、ろしく…」
(ビックリした…、いつの間に来たんだろう…)

「よし、それじゃ朝のH・Rを始めるぞ」


―――――……









授業中ずっと、梨華は後ろの真希が気になっていた。
別に何かされているわけではないが、
なぜかジッと見られてる気がしてならない。



―――なんだろう、何かあるのかな…。





かといって後ろをチラチラと見ていれば、自分がおかしな人に見られると思いそれもできず、淡々と、ただ時が過ぎるのを待った。



151 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)15時03分22秒







授業も終わって昼食の時間。
梨華はあゆみと一緒に食堂に行こうとした。


―――そうだ。




「ねぇ、後藤さん、一緒に行かない?」


後ろでダラリとうなだれている真希に声をかけた。
真希は朝の紹介の時と変わらずポケッとした顔で

「え、いいの?」
「行こうよ、ね?柴っちゃん」
「そだよ、ほら立った立った!」


あゆみが真希の腕を掴んで強引に食堂まで連れて行く。
それまでの間、ちょっとした談話を混ぜて。


「ねぇ、真希ちゃんって呼んでもいい?」
「うんもちろん、え〜と、柴っちゃんと梨華ちゃんでいいんだよね?」
「あ、もう覚えてくれたんだ!早〜い梨華ちゃんと大違い!」
「ちょっと〜、それどういう意味よぉ」
「だって梨華ちゃん初めてきた日さぁ…」
「キャアアァ!それは言わないで!!」


キャアキャアと騒がしい。
しかし梨華にはこの時が心地よく感じた。





――――あれ?そういえば…私、真希ちゃんに名前言ったっけ?
…気のせいかな、あぁ、カバンについてるネーム見たのかな?
そうだよね、きっと。

152 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)15時04分21秒


今の時間では当たり前だが、多くの人で賑わっている。
梨華たちは販売機で食券を買い、1番人数の少ない列の後ろに並ぶ。
梨華はそこでオムライスを受け取りあゆみたちが待っている席へと運んだ。


「なんだ、梨華ちゃんオムライス頼んだの?」
「おいしいんだもん、安いし」
「吉○屋?」

「キャハハハ!!真希ちゃん今のナイス!!」




あゆみと梨華のやり取りに真希も加わり、周りに笑いがあふれる。
最初はとっつきにくい感じの真希だったが、こうして見るとなかなか話題もおもしろく人懐っこい。


「……でねぇ」
「えー!マジで!?」
「でもそれって…」
「そう!そうなんだけど…!」

その後も3人のおしゃべりは止まることなく、先生に注意される事もあった。しかし、新しい友達ができたこともあり、その日を十分に堪能する事ができた梨華だった。






153 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)15時04分59秒






―――――キーンコーンカーンコーン

『下校時刻になりました、校内に残っている生徒は用事を済ませて速やかに下校してください』



校舎中にある古いスピーカーからアナウンスが入る。
外を見るともう夕日も沈みかけていた。

時が経つのは早いもの。すっかりあゆみ、真希と話しこんでしまった。
梨華達は重い腰をゆっくりと上げ、立ち上がる。


「それじゃ、そろそろ帰りましょうか?」
「だね」
「んぁ〜、おもしろかったぁ」
154 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)15時05分37秒


外靴に履き替え、校門の前に行くまでの間も変わらずおしゃべり。


「あ、ごとーこっちの方だから…」


真希が1人、逆の方を指差す。


「あー、真希ちゃん逆方向なんだ」
「残念、一緒に帰れると思ったのに」
「ごとーも2人と帰りたいけどね、まぁ今日はたくさん喋ったから満足だよ」

にっこりと微笑んでブンブン腕を振り回す。後ろ向きのまま歩きながら

「バイバーイ、また明日ー!」
「「バイバーイ!」」



2人の声を聞いてまた笑顔になり、クルッと前を向いて歩き出した。
茶色のストレートヘアーが夕日に反射してキラキラと輝いていた。


「さ、あたしたちも帰ろ」
「うん」


真希の姿を見送り、梨華とあゆみも反対に進んだ。







「ん?」





「梨華ちゃん?どしたの?」
「え、なんか…後ろから誰かに見られてる様な気が…」
「気のせいだよぉ」
「ん…そうだよね…」
「そう、そう!大体梨華ちゃんは…」


そういってまた歩き出した。
話し続ける梨華たちの後ろ、またしてもあの影が。

ポツリと小さく呟いた。






「本当の姿で会えるのは、いつになるだろうね……羅喉姉さん」



155 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)15時17分35秒
>>144梨華っちさいこ〜さん

 ナカザーさんにはこういうキャラが似合うと思うのはダメですかね?
156 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月21日(日)15時19分00秒
本日の更新終了。
レス154の最後のセリフ、【羅喉→らごう】と読んでください。

≪お知らせ(というほどでもない)≫
明日22日〜24日まで更新できません。ご了承下さいませ。
157 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月21日(日)23時13分35秒
いよいよオリジナル展開に入りましたね
これからどうなるのか楽しみです
158 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月21日(日)23時43分10秒
んあ、ごっちんは蒼龍側か。
ヨシコと梨華ちゃんの禁断の愛の障壁になるんですかね。

22日〜24日はお出かけですか? マターリ待ってます。イッテラッサーイ!
159 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月25日(木)20時59分40秒





「…ただいま」


玄関の白っぽく汚れたドアをくぐり、帰った事を告げる。その声は少し震え、今までのように明るく「ただいま!」などとは言えなかった。
「おかえり」と姿も見せずに母の声がキッチンから聞こえてくる。すでにそこには夕食のいい匂いが広がっていた。


「遅かったわね」
「うん、友達と話してて…、あれ、ののちゃんは?」
「部屋で寝てるわよ〜、あ、今日ね、紗耶香ちゃんが来るんだってよ」

「え、紗耶香さん来るの?」
「うん、何か休み取ってこっちの方に来たいって2・3日泊まるみたい」
「へぇ…めずらしい」



―――――ピンポーン


噂をすればなんとやら、その人物が現れたらしい。
ドアを叩く音が耳に入る。


〈ぅお〜い、開けてくれ〜い!〉
160 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月25日(木)21時00分58秒




「梨華、ちょっと出てくれる?」
「はぁ〜い」


――――カチャカチャ……ギイッ


閉めた鍵をまた開き、少し耳障りな音と共にドアを開けた。
その向こうにショートな薄い金髪にグラサンをかけ、黒いトレーナーにジーパンというラフな格好の女性が、大きな紙袋を片手に立っていた。




「おぉ!梨華ぁ〜、元気だったか?」
「いらっしゃい紗耶香さん、どうぞ」
「おっ、それじゃ遠慮なくぅ」


紗耶香は梨華のいとこにあたる。小さい頃から何かと一緒にいた記憶があるが、ただそれが自分によって作られた記憶であることに変わりない。
161 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月25日(木)21時01分46秒



「いらっしゃい紗耶香ちゃん!」
「お〜、おばさんこんちはぁ!コレおみやげ」

そう言うと紗耶香は手にしていた紙袋を母に手渡した。

「あらぁ、悪いわね、いつもありがとう」



いつも来た時にする同じ様な会話。何回目になるだろうか。
奥からペタペタと誰かの足音が聞こえる。


「んん〜…、られか来らのれすかぁ〜?」

寝ぼけ眼で余計にろれつが回っていない希美。その姿を見て紗耶香の明るかった顔はいっそう輝いた。


「おぉぉ〜!ののぉ、元気かぁ〜!?紗耶香ちゃんだぞ!」
「ふぇぇ?……ぁ、紗耶香さんなのれす!」
「未だにちっちゃいなぁ、お前〜」


ポンポン、と希美の頭を軽く叩く紗耶香。


「むぅぅ!子ども扱いしないで欲しいのれす!!」
「あはっ、悪い悪いつい…」




「は〜い、夕飯ですよ〜」


母の手の上にはトマトソースのパスタが綺麗に皿に盛られて乗っていた。

「紗耶香ちゃんもお腹すいたでしょ?さ、食べて」
「アハハ、でもおじさん待たなくていいの?」
「いいのれす、ののもお腹すいてダメれすから」

あまりよく話がつながっていないが気にする事もなく、梨華たちはパスタを食べ始めた。バターのきいた温かい麺に、新鮮なトマトの風味が絡み合っていて絶品なものだった。


162 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月25日(木)21時02分25秒





「ねぇ紗耶香さん、どうして今日いきなり来る事になったの?」

食べながら紗耶香に問い掛ける梨華。
紗耶香もパスタを口に含んだまま。


「ん?なんで?」
「だっていつも勉強優先で、休みなんて取ったことなかったじゃない」
「ま、そりゃそうだけどね、たまたまあたしの好きな教授が休みに入ちゃったからあたしも休んじゃえ、と思って」


普通、そんな事ぐらいで大学をほっぽっていいのだろうか?
すごいいいかげんだが、梨華はあえて言わなかった。


紗耶香は東京のある大学に行く為にそこで一人暮らしをしている。
専攻は日本の古代史、女性にしては珍しいがそこが紗耶香のちょっと変わった所で好感が持てた。



「その教授さんの授業ってそんなにおもしろいのれすか?」
「うん、っていうか、その教授がどうって訳じゃなくて…、あたしがやりたかった講習だったんだよね」
163 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月25日(木)21時03分08秒




「知ってるかな?結構テレビとかにも出てるんだけど、吉澤財閥っていうとこが関係してんだ」

「吉澤…?」


――――どこかで聞いた様な…。





「あ、ほら、ちょうどテレビでやってるよ」



テレビに視線を移す。画面には【吉澤財閥オーナー、吉澤ひとみ】という見出しのニュース。



吉澤ひとみ――――“白虎”のひとみ…!?


写っていたのは紛れもなく、自分の命を何度も狙ってきたあのひとみだ。



「オ、オーナー…!?この人が何で…!」
「亡くなった父の後を継いで齢16歳でこの大手グループのオーナーになったんだよ、本社は…確か赤坂だったかな?日本経済のほとんどに資本介入してるから日本は吉澤財閥に支えられてると言っても過言じゃないね」




財閥…!?西家の正体が…!


164 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月25日(木)21時06分52秒
>>157さん
 はい、やっとここまでこれました。
 でもまだ原作抜けてないところが…。がんばらねば…!!

>>158さん
 ただいま帰ってまいりました!
 本腰入れます。
165 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月25日(木)21時29分39秒
お帰りなさいませ〜♪
吉澤さん財閥のお人ですかぁ・・・
ますます禁断(w
166 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月25日(木)21時31分08秒
ちゃむまで登場ですか
期待大
167 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月25日(木)21時40分54秒
オカエリナサイマシー。
話がふくらんできましたね。これからも登場人物は増えていくのでしょうか?

オーナーヨシコ( O^〜^)カッケー
168 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月26日(金)10時11分09秒
>>165さん
 ただいまです。これから2人(いしよし)には
 もっと禁断の領域へ入ってもらわねば…。

>>167さん
 ただいまです。
 いちーちゃん、どういうキャラにしようか悩みました…。
 とゆーわけで親戚のお姉さん。

>>167梨華っちさいこ〜さん
 ただいまです。
 はい、バンバン増えていくと思います。>登場人物
 モー娘。メンバー全員出せたらいいなぁなんて。
169 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月26日(金)12時40分08秒
モー娘。メンバー全員…
やっぱりその内何人かは飯田さんのように…
170 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月26日(金)19時04分01秒
>>169さん
 そうですね、そうなる予定です。あとあやゃとかも出そうかななんて…。
 
171 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月26日(金)19時04分58秒



「吉澤の血はものすごく古い家系でね、この吉澤ひとみは百何十代の当主の筈だよ。噂じゃ、あの家の系図は天皇家よりももっと深くさかのぼれるんだってよ、まぁだからこそ科学者たちは、あそこの古文書を見たがるんだ」


「古…文書?」


「吉澤家には古代文字で書かれた門外不出の文書があるんだ、
それには太古、日本を支配し滅び去った一族の事が書かれてるそうだよ」



それだ!それがひとみの言ってた文書!!
それになら、多分私のことが書かれているかも…



「紗耶香さん…それ…、どこにあるんですか!?」
「え、いや多分吉澤の本家にあると思うけど…」

「ただ、本家の場所はわかんないんだ」
「え!?どうして!?」


「さぁ…、それがどういう事かは知らないけど、今まで吉澤の文書について調べていた学者たちはみんな帰ってこないか死んでるかのどちらか」
「…警察は…?警察は何もしてないの!?」
「吉澤は裏で政治も押さえ込んであるんだよだから…」



――――なんなのそれ…、そんなことがあり得るの…!?

172 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月26日(金)20時49分34秒



「…梨華、何考えてるのかは聞かないけど…、吉澤に手を出すなよ」

急に真剣な顔になり、梨華に忠告する紗耶香。
それはさっきまでの明るい親戚のお姉さんの紗耶香とは違った。


「わ、分かってるよ…」
「ならいいけど…ごちそーさま!」


そう言っていつの間にかパスタを平らげていた。
梨華は夕飯に手をつけられずに、頭にあるのはただ吉澤の古文書の事。
本家の場所すらも分からない、しかも相手は有力の財閥。そんな奴らをどうこうしようなんて今までの梨華ならば想像すらしなかっただろう。
しかし今回ばかりはそうはいかない。




「…吉澤の本家……」




173 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月26日(金)21時02分15秒
今日はこの位。
次はよっすぃ〜視点になります。
174 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)05時42分46秒










「というわけでして…」
「もういい、下がって」
「え?いや、しかしひとみ様…」
「下がってって言ったの聞こえなかった?」


命令された男はクッ、と眉を寄せて唇を噛んだ
そして深々と頭を下げ、ドアから静かに出て行った

明らかに自分の半分も生きていない少女に敬語を使い、その下で働くなんて事はどれだけ屈辱的なことだろう
ひとみは男の出て行くその背中を見ながらそんなことを考えていた
175 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)05時43分29秒

「…………」

何もかもが目障りで耳障りで、やる事なすこと全てが頭にくる
ひとみは昨日からずっとこんな感じだった
誰かが自分の所にやって来る度、肝心な事も聞かずにある程度しゃべったらすぐに追い返す、とりあえず周りに誰も置いておきたくなかった
少し広めの机、床に敷き詰められた高級そうな絨毯、黒く柔らかい皮製のチェアー、いかにも重役というような部屋の中
仕事に熱する者ならば、誰もがこのイスに座りたいと思うだろうが、ひとみからすればこんな物はただの牢獄でしかない


小さな頃から英才教育を受け、押し付けられた事をやっていればいい
そのため満足に友達もつくれず、遊びにすら行った事もないつまらない人生を歩んできた


そして“白虎”としての使命


“蒼龍”を倒すため、何千年として続いてきた西家
その家に生まれたため平凡な普通の暮らしなど、知る由もない
何百代も前の先祖の言い伝えなんて、まったく馬鹿らしいと思う


176 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)05時44分27秒





だから石川梨華を初めて見たときに、心の奥から憎しみがこみ上げてきた



彼女は自分と似たような境遇に立たされていた
生まれた時から望んでもいないものに縛られ、用意されたレールの上を歩いて行くだけ

しかし、梨華はそれに気付かず優々と幸せな日々を送ってきた
家族にたっぷりと愛情を注がれ、たくさんの友達に囲まれすくすくと育つ
ひとみが願う物を全て手に入れている


―――――憎かった、どうして自分だけ…どうしてお前だけ…






梨華を殺そうとした時、“白虎”としての使命だけじゃなく、その憎しみも込められていた
もしかしたらそれの方が大きいかもしれない
177 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)05時45分34秒

だがあの時、梨華を殺せなかった
それどころか助けてしまった
自分でもそうなったのは何故か分からない、分かりたくない


(もしかして…あたし……)





――――――ガチャッ

「誰!?ノックも無しに入ってきて…!」
「そんな事言わないでよ、ひとみ」
「!?亜弥…」


てっきり礼儀知らずの部下だと思っていたひとみは、ドアから入ってきた亜弥の姿に驚いた
まぁこの部屋に入る時にそんな事すらしない社員ならば、この先どの会社でもやっていけはしないだろう

178 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)05時46分59秒


「昔は『あやゃ』って呼んでくれたのに、最近全然呼んでくれないね」
「…なんか用?」
「ひとみ冷たぁ〜い」

キャラキャラと笑ってのける亜弥にひとみは何も言い返す気にはなれなかった「フゥ」と小さなため息をついて客用のソファに乱暴に座り込んだ


「今日はね、裕子さんに呼ばれたの」

座っているひとみの首に子猫のように甘えすがってくる亜弥


「中澤さんが…?」
「なぁに?あたしの事は全然聞いてくれなかったのに」
「…………」
「…はいはい、何かね、裕子さんが言うには“蒼龍”がどうのって…」


裕子が関係している時点で考えられるのはそれしかない
別段ひとみは驚く様子もなく、またため息をついた
179 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)05時54分46秒
ちょっと中断。
またあとでレスします。
180 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)15時18分21秒





「…ひとみ…」
「…っ!?」


クリッ、と首を回されたかと思うと唇が塞がれた
不意打ちを食らいひとみは不機嫌そうにそれを払いのけた

「ひどぉい、久しぶりに会ったのに……いいでしょぉ?」
「今は…そんな気には…」
「…やっぱり裕子さんの言った事、ホントだったんだ」
「え…?」


亜弥は体を離して立ち上がり、いつの間にかはだけていた胸のボタンを付け直しながら言った


「“蒼龍”に魅せられたって、だからひとみがおかしくなったって」
「…っそんな!」


そんなことある筈ない、とは言い切れなかった
自分でも薄々感づいてはいた、梨華のあの姿を見てから
181 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)15時19分05秒



「あ〜ぁ、ホントにそうだったなんて、あたし信じてなかったのに…キャッ!」

いつの間にか亜弥の手を掴んで自分の胸に抱き寄せていた

「ちょっと…もぅ危ないでしょ」
「…信じる必要なんてないよ」

そう言うとひとみはソファに亜弥を押し倒し、首筋にキスを降らせた
亜弥はひとみに体を預けてゆっくりと瞳を閉じた

「ん…、ボタンつける必要なんてなかったなぁ」







182 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)15時19分43秒







「ん…ぁ、ああ…ひと、み…」


掠れた甘い囁きが耳の中を支配する
ひとみは獣のように、夢中で行為を続けていく


「ひぁっ…!あんっ…ああぁぁぁ!」


亜弥が頂点に達した後も、胸の内の苛立ちは消えなかった



「……っん、ひとみ…好き……」



そうしてまた口付ける、ひとみもそれに答える
亜弥と出会う度、いつも同じ事をしている
相手が求めてくればそれを拒むようなことはしなかった

183 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)15時20分17秒



結局はいつもと同じになったが、今日は何故か行為を拒んでしまった

そもそも亜弥との行為に愛は無い
ただぬくもりが欲しかっただけ、どんな理由だとしても自分を受け入れてくれる人が居ればそれでよかった

亜弥本人にもそのことは言ってあるのだが、「別にいいよ、ひとみがそうしてくれるだけで嬉しいもん」との事
いわゆるGive&take.
自分が欲しい物をもらったなら、相手にもそれなりの物を返す



今日亜弥を抱いた時、ひとみは半ばヤケになっていた

“白虎”としての使命を忘れ、梨華に見惚れてしまった事
どうしても自分が許せなかった

184 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)15時20分49秒




突然体を起こし、乱れた服を調え始めた

「…ひとみ?」
「………ごめん、あたしちょっと出てくる」
「え、ちょっと…!」

――――――バタン




亜弥の制止も聞かずに、出て行ってしまったひとみ
部屋に一人取り残された亜弥は先ほどまで触れられていた自分の唇を指でなぞり、ひとみの唇の感触を思い描きながら小さく呟いた


「“蒼龍”…石川梨華……」






185 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月27日(土)15時22分17秒
よし!やっとあやゃ登場させられた…。
この位で終り。
186 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月27日(土)19時26分04秒
またもいしよし対峙する予感・・・
サブキャラの動きも楽しみです
187 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月28日(日)19時14分41秒
マツーラさん、このさき嫉妬心で暴走しなけりゃいいですけどね。
いや、でもなんかしそうだな〜。
188 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月29日(月)00時06分28秒
なるほど。あややは梨華ちゃんではなく
よっすぃ〜の方に食われたんですね?
189 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月29日(月)16時33分41秒

部屋から飛び出して数分、ひとみは外に出て風を感じ取っていた
火照った頬に冷たく穏やかな風が心地良い


「…っふぅ」


大きく深呼吸をする
肺に大量の酸素が送り込まれ、体を満たしていく

空を見上げるともう日が落ちかけている
鮮やかなオレンジや黄色や赤が、ちぎって紛れてとても美しい
その反対側には己の出番を待つかのように、銀に輝く満月がうっすらと浮かび上がっていた


足元から伸びている影が段々色濃くなっていった






――――――ん?


影が伸びたその先、微かにうごめく人影があったのを
ひとみは見逃さなかった
どこかしらコソコソしているように見えて、それの姿を確認しようと近寄った
少ない日の光で相手の顔が認識できる距離まで近づくと、ひとみは足を止めた



「……なっ!?」
「あ、ああ…あの……!」


それは一番思いがけない人物、今最も会いたくない人物




――――――石川梨華
190 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月29日(月)16時34分36秒


「こんな所で何を…」
「あのっ…私、お願いがあってそれで…!」
「はぁ?」

この娘は頭がおかしいのだろうか
自分を殺そうと、あれほど追い掛け回され酷い事実を突きつけられた相手の所にやって来るなんて
「お願い」をしに来たということは、ここがどういう所なのかあらかじめ分かっていたのだろうが、みすみす敵の陣地に乗り込むとは
それも丸腰で


「あなた…一体何考えて」
「お願いします!古文書を見せてください!!」
「古文書?」
「それに私の事が書かれてるんでしょう!?
 私…自分のことが知りたい…だから!!」

「…………」


ひとみは何も言えなかった
一言「ダメだ」と言えば簡単なのだが、腹の奥から出てくるのを阻んでしまう
かといって、易々とOKするのも無理な話
承諾する事も断る事もできないひとみは、梨華から視線を逸らしてしまう

なかなか「いいよ」と言ってくれないひとみに、梨華は思わず詰め寄り腕を掴む


「お願い…古文書を見せて!」

191 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月29日(月)16時35分19秒




パシィィン!!――――――


「「!?」」


その時、地面に何かを打ちつける様な鋭い鞭の音が響いた
ひとみはその音がする方に、とっさに顔を向ける


「ひとみ、その娘が“蒼龍”?」
「亜弥!?」




「いきなりなにするの!?」
「裕子さんに呼ばれたのはこのためなんだよ
 ひとみがまたおかしな事しないようにって監視役にあたしが呼ばれたの」


―――まただ…、またあたしを縛り付ける



小さい頃からひとみを教育してきたのは裕子だった
裕子はひとみの叔母にあたる、家族内でも一番仲がよかった
しかし、ひとみの両親はひとみが4つの時に事故に会い命を落としてしまった
それを裕子が引き取り今に至る

吉澤のグループの方は、ひとみが安心して事業を受け継げるようになるまで裕子が切り盛りしていたのだ
192 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月29日(月)16時36分30秒


「ねぇ…その娘が“蒼龍”なんでしょ?殺さないの?」
「亜弥…」
「ひとみが殺ってくれないと、あたしまで裕子さんに怒られちゃうんだから!
 ほら、早く!」


ひとみは戸惑い、どうする事もできない
見ると自分の腕にはまだ梨華の手がしがみ付いていた

ひとみの視線に気が付いたのか、梨華もひとみを見上げた
腕を掴んでいる手にさらに力が入り、今にも泣きそうな表情でひとみを見つめる


「っ………!!」
「ひとみ!?何してるのよ、さっさと“蒼龍”を殺しなさいよ!!」








「………さぃ」
「…?ひとみ?早く…!!」
「うるさい、うるさいっ!!西家の長“白虎”はあたしだ!!
 あたしの考えでやらせてもらう!ここでこの娘は殺させない!!」
193 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月29日(月)16時42分14秒
一応終了。
>>186さん
 恋に障害はやっぱり必要でしょう!!

>>187梨華っちさいこ〜さん
 なんかした方がいいですよね、この場合。うん。

>>188さん
 あぁ、そういう考えもアリですね!
 気付かないで書いてた…。(オイ
194 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月29日(月)18時32分59秒
あ、ヨシコ言っちゃったよ。知らないぞ〜。
でもカッケーぞ!!
195 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月29日(月)21時06分26秒
吉かっけ〜〜〜〜〜〜。
障害をどう乗り越えていくのか??
楽しみです。
196 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月30日(火)15時59分43秒

「ここでこの娘は殺させない!!」

ひとみのその言葉に、梨華は自分の耳を疑った
自分には好都合だけれどこうなる事を予想してはいなかった
当たって砕けろ路線でひとみのもとにやって来たのだ



「待ってひとみ…!!」

苛立ちと焦りが入り混じった様な亜弥
そんな亜弥をひとみは無視し、梨華の腕を掴み返した

「おいで!」
「えっ!?」
「本家に行くよ!古文書が見たいんでしょ!?」
「……はい!!」

梨華の言葉にコクン、と頷き、手を引いて裏にある駐車場に向かった
そこに前にも乗った見覚えのある車が駐車してあった
ひとみがその車に走り寄る様を見て助手席に乗り込む、車のフロントガラスを覗き込むと100m先から亜弥が追いかけてくるのが見えた
すでに連絡されたのか、亜弥の後ろからも何人かの追っ手の姿

「チッ……、思ったより早いな」

あの状況からして亜弥がスタッフを集めたということは有り得ない
もしそうならあの時すでに、亜弥はスタッフ達を取り巻いてひとみと梨華の前に現れている筈だからだ

そうではないという事は――――――


「…急ごう!中澤さんならどんな手を使っても追いついてくる!!」

思い切りアクセルを踏み込んで突き進んだ
車は大きなエンジン音と共に、段差をつき抜け道路へと飛び出し太陽の沈む方向に走り去っていった
197 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月30日(火)16時00分19秒


夕日が眩しいのか、それとも簡単にひとみと梨華を逃がしてしまった事を悔やんでいるのか、どちらともつかない表情で裕子は車を見送っていた

「ひとみ……」
「…あかんなぁ、遅かったか…」
「どうして…?ひとみ…」

ひとみの名を延々と呟き続ける亜弥を尻目に裕子はスーツの懐から携帯を取り出しどこかの番号をプッシュした


「…もしもし、アタシ中澤や
 言わんでも分かるな、なっちと加護を呼んどいたって
 …そや、一応アンタも来たってな、ええな?」

それだけ言うと再び懐に携帯を戻し、亜弥の肩をバシッと一発叩く

「ほら、アンタもボサッとしとらんで!そんな顔しとったら、加護に馬鹿にされんで!?」

亜弥は少々よろめいたが、すぐに体勢を立て直し「はぃ…」と裕子に返事を返した、そして二人ともビルには戻らずにこれからやって来る者たちを迎えようと、その場を動かなかった

198 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月30日(火)16時01分06秒


車を走らせる事数十分、辺りにはもう人も車も家も無く
ただただ森の続く道路を走っていた


「あの…聞いても、いい?」

梨華は思い切って口を開く
しかしひとみは何も答えず、黙々とハンドルを切っていた
それに構わず梨華は続ける

「どうして…文書を見せてくれる気になったの…?」

それを聞くとチラッ、と横目で梨華を伺いまた前に向き直った

「見せて欲しかったんじゃないの?」
「そうだけど…、だって…あなたあれ程私を…」
「殺そうとしたから―――って?」

信号に捕まりブレーキをかける
それと同時にひとみは喋り始めた

「…自分も興味があったからかな…」
「でも…それだけで…?」
「………別に“蒼龍”を無理に殺そうとしてるんじゃ無い
 誰も殺さずに済むんなら、あたしはそっちを選ぶ
 犠牲者は…一人でも少ない方がいい、もちろんあなたも含めて」

今度はちゃんと顔を梨華の方に向けて答えた
憂いを含んでいるが美しく、優しい笑み
ひとみが初めて梨華に見せた笑顔だった


――――――な、何…?顔が熱い……ヤダ!もう、どうして…?


胸の鼓動が急速に早まっていくのを感じた
それに頬が赤くなっている事を予測し、髪で顔が隠れるよう俯く仕草を見せる
もっとも、ひとみはすでに車を走らせているので気が付く訳もないのだが
199 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月30日(火)16時01分49秒

しばらく恥ずかしがっていて終始無言の梨華だったが、鼓動が落ち着いたのを見計らってひとみの顔を見た
運転に熱中しているひとみのその横顔は普段の端整な顔立ちをより一層映えて見せた

(この人……すっごい綺麗な顔してるんだ…)

また鼓動が早くなってくる
それでも構わずジッ、とひとみの顔を眺めていた

(肌も白いし…うらやましいなぁ、……ん?)

ひとみもまだ梨華の視線には気付いてはいない
それをいいことに、梨華はやや近寄ってひとみの首筋を見つめた

(えっ…!これってキスマーク……だよね…?)

ひとみのシャツがはだけた部分から梨華が見たものは、薄い小さな赤い跡
さっきの亜弥との行為の時に亜弥がつけたものであろう

(そうだよね、こんなにキレイなんだもん、恋人くらい居るよね…)




「あのぉ…何してるか聞いてもいい?」
「えっ!?」
200 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月30日(火)16時02分32秒

我に返った梨華が顔を上げると、すぐそこにひとみの顔があった、その手にはしっかりとひとみのシャツの襟がつままれている、無意識のうちに襟を掴んでキスマークを眺めていたのだ
梨華は慌てて手を離し、また黙りこくってしまった

「あの…ごめんなさい……」
「いや、いいけど…、ねぇちょっと後ろの袋取ってくれない?」

そう言われて後ろを振り返ると、そこに少し大きめなベージュの紙袋がシートの上に置いてあった
手に取るとそれほど重くなく、非力な梨華でも片手で持てるほどの重さだった

「コレ?」
「そうソレ、その中にベーグル入ってるでしょ?それ半分頂戴」
「あ、うん」

紙袋の中を覗くと紙に包まれたベーグルが一つと、卵が5〜6個転がっていた
ひとみに言われた通り、半分に千切ったベーグルを手渡す

「ありがと、もう半分食べていいよ」

言うなりパクッ、とベーグルに食いついた
その顔はどこか嬉しそうで、口に入っているのを飲み込まずにもう一度口に頬張る
梨華は思わず吹き出してしまう

「ん?何?」
「ううん、何でも…」

「そう」と言うと、またベーグルを口に運んでいく
よほど好きなのか飲み込んでは食べ、飲み込んでは食べ、無くなるまで口の中のベーグルが途切れる事はなかった

クスクスと笑いながら梨華もベーグルを口に含んだ
程よい甘味が口いっぱいに広がり、梨華も自然と笑顔になった

「おいしいでしょ?」
「うん!とっても」
201 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年04月30日(火)16時06分08秒
>>194梨華っちさいこ〜さん
>>195よすこ大好き読者。さん
 よかったぁ、カッケ〜よっすぃ〜になって。一安心っす。
 (まとめてしまいすいませんです)
202 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月30日(火)17時08分37秒
愛の逃避行の始まりか!!と、思いきやいきなりデートっぽい雰囲気。
特にイシカーさん。はしゃぎすぎ(w
203 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月30日(火)23時30分37秒
更新ペース速いですね、読者には嬉しい事です
なんとなく逝っちゃいそうな人が一人…
原作ネタを感想に書くのはまずいですかね?
204 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月02日(木)05時08分04秒
>>202梨華っちさいこ〜さん
 二人の逃避行はながぁ〜くなりそうです。
 ここまで来てやっといしよしの絡みが書けました…。

>>203さん
 書いては出し、の繰り返しですからね、早い早い。
 原作ネタは…一応自分の中では変えていこうと思ってるのですが、時々原作を引っ張り出してくるトコもあるのでなるべく控えていただきたく…。ワガママ言ってすいません…。
205 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月02日(木)20時29分22秒
吉にべーグル&ゆで卵。やっぱこれっすね!(笑
吉の幸せそうな顔が浮かびます。
逃避行は、なが〜くなるのか〜
続き楽しみにしています。
206 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月02日(木)20時32分44秒



「ねぇ、裕ちゃんまだぁ?なっちもう疲れちゃったよ!」
「うちももう飽きてきたわ、なぁ亜弥ちゃん、中澤さんどこ行ったねん?」
「安部さんもあいぼんも!二人ともまだ5分くらいしか待ってないじゃない!
 少しは忍耐ってものが無いの!?」

日の光も射さない薄暗い地下室、円形のテーブルを中心に3人の少女が時間を持て余し、気の抜けた談話を続けていた

「むぅぅぅぅ〜…、お腹すいたぁ、誰かに頼んで何かもって来てもらうかな」
「だからあいぼんっ!!」


――――――カチャ

「あんた達何やってんの、外にも響いてるわよ」
「あ、オバちゃんや」
「加護、いいかげんにしなよ…」

オバちゃんと呼ばれたその女性は手にしていたファイルを高々とかかげ、加護と呼ばれた少女の脳天に振り下ろした
パコンッ、となかなかいい音が部屋に響いた

「痛い…なにすんねん、もぅ……」
「あんたでしょ、もとは!」
207 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月02日(木)20時33分32秒




「はいはい、二人とももうええ加減にしぃや、松浦キレてんで」

漫才を繰り広げている二人の後ろから、タバコを片手にした裕子の姿
そこにいた全員が亜弥に視線を向ける
亜弥はトントントンと指でテーブルを突付いている、何も気にしてないという素振りを見せているが、目を閉じギュッ、と口を結んで苦悶の表情を浮かべていた


「裕ちゃんが遅いんだよ、なっちももうキレそうだべ…」
「そりゃ悪いことしたな、堪忍」
「で?私たちを呼んだ訳って、なんなの?」

「圭坊、少しくらい間を持って話させてくれ

亜弥はモチロンの事、もう話さんでも検討はついとるはずや」


亜弥はピクリ、と肩を震わせた









「よっさん―――――ひとみを殺してまえ、アタシが許す
 ひとみを殺した者に、次なる“白虎”の資格を与える」

やっぱり、と言うように亜弥の表情は変わらなかった
その瞳は遠くのどこかを眺めているように見えた



「裕子さん」
「ん?なんや松浦、まだなんかあるんか?」
「あの…、どうしてもひとみは殺さなきゃいけないんですか…」
「何言ってるべさ、亜弥ちゃん!」

「そうや!亜弥ちゃん、今更…」
「違う!違うの…、だってひとみは……」
208 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月02日(木)20時34分41秒

そう言って口をつぐんでしまった亜弥に、保田が優しい口調で伺う

「亜弥…、何が違うの?ひとみは西家を裏切って、あろうことか“蒼龍”と行動をしてるのよ、それを…」
「違います!!ひとみは…ひとみは裏切ってなんかありません!!」


叫びだす亜弥にその場全員が言葉を失った
それから亜弥は周りだけでは無く、自分にも言い聞かせるように何度も繰り返し呟いた




「ひとみは……“蒼龍”に操られてるのよ…、そうよ、そうでなくちゃ…ひとみが私の前からいなくなる筈ないもの……」









「“蒼龍”が…あいつが悪いのよ……」





209 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月02日(木)20時35分36秒
とぉっても短い!しかもいしよし出てない!
でも終了。
210 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月02日(木)20時38分10秒
>>205よすこ大好き読者。さん
 ベーグル&ゆで卵は必需品ですよね。
 長い長い逃避行、二人が落ち着くのはいつ頃になるのか…。
211 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月03日(金)00時27分38秒
マツーラさん、だいぶキテますね。もうちょっと押すと
「はしゃいじゃってよいのかな♪」状態になりそうですね。
ぶっ壊れ&暴走キャラが大好きなので、そんなのもちょっと期待っス。
212 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月03日(金)11時04分42秒
姐さん……。吉殺しちゃうのかい?
こりゃ〜どこまでも、逃避行するしかないべさ!(笑
213 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月06日(月)08時39分34秒

深い闇に包まれ前も後ろも視界が消え失せてしまいそうな小道
ひとみが手にしているライターの火で、かろうじて自分たちの足元は分かる


「…まいったな」
「…どうしよう…」

梨華たちは立ち往生していた
車のエンジンが故障したらしく、車はまったく動く気配すら見せない


「直せない、かなぁ…」
「いくらあたしでもさすがに車は…ちょっと」
「そっか…」


二人そろってため息をついた
それはそうだろう、車が止まってしまったのはよりにもよって森の中
当然の如く、人家や売店などは一切ない
唯一あるといえばパーキングエリアくらいだが、今は夜中の11時、そんな時間に人が居るとは到底考えない


「本家まではあとどのくらいかかるの?」
「車だと1時間くらい、歩いたら…ゆうに4時間はかかる
 歩けない距離でもないけど夜の道を歩くってものほど危険な事はないね」

ひとみが心配しているのは方向の事
真っ暗な道をやみくもに歩いて迷ってしまったりしたら意味がない
時間を無駄にするヒマなどないのだ
214 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月06日(月)08時40分21秒

「でもあの人たち、追ってくるんじゃないの?」
「そりゃあね、だからってこんな時間に歩き回るのもどうかと思うけど」


「まぁ大丈夫だと思うよ、幸いエンジンがやばい、と思った瞬間に森の中に停めることできたから、そう簡単には見つからないでしょ、…多分」

最後の言葉にやや不安が残る梨華だったが、ひとみの言葉を信じる事にした







「今日はもう車で寝るしかないね」
「ふぇ!?う、うん…」
(へ、変な声出しちゃった…、もう!なんなのよぉ…
っていうか、なんでドキドキしてるの私…!ただ車で寝ようって言ってるだけじゃない!!そもそもこの人は私が“蒼龍”かどうか調べるために同行してるのよ!?どうして…)
215 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月06日(月)08時40分54秒


「…………」
「…あのさぁ」
「え!?はははい、なななに?」
「なんて呼べばいい?あなたの事」
「ふぇっ!?」

唐突な質問に梨華はさらに間抜けな声を発生した

「いやーなんかさ、こう本人を目の前にして、しかもまだそんなに知り合った仲でもないのに呼び捨てってのは……」
「あ、そうだね…」
「あはは、学校ではなんて呼ばれてるの?あたしもそれにする」

前日とは全然違う警戒心の解いた顔
昨日の今日まで「殺す」などと言われ続けてきた筈なのに、そんなことはまったくもって微塵も感じさせない

「え…と、学校では…「梨華ちゃん」とか…」
「ん、じゃあたしも梨華ちゃんって呼ぶね」
「う、うん」

照れる必要は無いのに顔の温度が段々と上昇していくのが分かり、ひとみの顔を正視できないでまた俯いてしまう

「どした?気分悪くなった?」
「ううん、違う…なんでもないよ」
「なんでもないワケないでしょ、顔赤いし」

(ちょっ…、そんな近くに顔寄せないでよ…!)


216 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月06日(月)08時41分35秒





「…やっぱ、怖い?」
「え…?」
「さっきからあたしの顔見ようとしない、そんなに怖かった?だったら謝るよ、…ゴメン」

憂いを帯びた表情で梨華を見つめる
自分が悪い事をしたわけでもないのに、梨華はまるで自分が責められているかのような気持ちになった

「違うよ…!私そんなつもりは…、あなたの事怖いなんて思ってない!!
 そりゃ…始めはいきなりあんなことされたからそういう気持ちもあったけど、今はそんな事全然思ってないし!」
「………」
「だから、私…!!」





「…ありがと」





周りは闇、暗い暗い闇、何があるのかも分からない

だけどそんな場景のなかでもひとみの笑顔ははっきりと見えた




217 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月06日(月)08時45分04秒
>>211梨華っちさいこ〜さん
 松浦さんはとりあえずお邪魔なキャラにします。
 どうしようかな…、この後…。

>>212よすこ大好き読者。さん
 二人の愛の逃避行、報われるのはいつになるのか…。
 …ずっと逃げてる、ってのもいいかと思われ。(w
218 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月06日(月)10時36分57秒
きてるっス! いしよしきてるぞぉ〜♪
ヨシコが「梨華ちゃん」って呼んでくれんだから、
梨華ちゃんも「あなた」じゃダメだぜ〜。
219 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月06日(月)12時31分01秒
逃げ続けるのもありという事で…。(w
車での一夜。何かありそうな予感♪
220 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月09日(木)21時28分28秒






―――――あたしは何やってるんだろう…




隣の助手席には例の“蒼龍”がちょこんと座っている
車の中は先ほどから沈黙が続いていて、窓も開けていないのに外の野鳥の鳴き声が聞こえてきそうなほど

(朝までずっとこのまま…?なわけないか)

あんなに憎らしかった鬼、なのに今の生活を捨ててその鬼と共に行動している
今ごろ裕子たちも必死になって自分たちを探してる事だろう

梨華と二人きりの今、殺そうと思えばできないことはない
大勢で追いかけるよりも単体行動の方がひとみにはやりやすい、なにより他人任せにすると信用できない
自分で殺った方が確実だからだ
221 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月09日(木)21時29分03秒



しかし今のひとみにそんな思考は存在していなかった

確かに文書は見てみたい、でもそれをこの娘と一緒に見る必要はない
一人で言って一人で確かめれば済むことだ

(なんで梨華ちゃんと一緒に居るんだろう…あたし)


ふと横を見ると、梨華がポーッとしたまま窓の外を眺めている


「寝ててもいいよ」
「…え」
「眠いんでしょ?無理しないで寝なよ、明日は多分すごく歩くよ」
「あ…でも」



「…別に寝首をかこうとか考えてないからね、あたし約束は守る人だから
 ちゃんと本家まで梨華ちゃんを連れてく」
「あの…そうじゃなくて、あなたは寝ないのかなって」

「え、あたし?あたしの事は別に…」
「ダメだよ、私来る途中に結構居眠りしてたんだから、あなた運転しっぱなしでしょ?あなたこそ眠った方がいいよ」
「や、いいって、あたしそんなに疲れてないし…」
「いいの!寝て!!」

(いや…ホントに眠くないんですけど…)

梨華に言われて一応目を閉じた
けど眠くもないのに眠れるワケがない、努力はしてみるもののやはりダメ
222 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月09日(木)21時29分45秒











「あのさぁ…」
「寝てないの?」
「…眠くないからムリ、なんだけど」
「あ、じゃあ子守唄歌ってあげようか?」
「…は?」

いきなり何を言うのかと思ったら、そんなに眠らせたいのだろうか

「い、いいよ…そんな歳でもないし」
「あら、よく眠れるのに」
「まさか」
「試してみようか?」

(いいって言ってるのに…)

まさに歌う気マンマンの梨華を見ていると断ろうにも断れず、ふぅ、と一息ついてから「どうぞ」と答えた
それを聞いてニコッ、と一度だけ微笑むと前を向いて歌いだした

223 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月09日(木)21時30分28秒




♪ひとりぼっちで少し退屈な夜
 
 わたしだけが淋しいの?






ひとみは聞いていて、悪いが大して上手くはないと感じた
けれど、しっとりとしたメロディーと梨華の高く甘い歌声は、ちょうどよくマッチしており聞いてて不快ではない

歌っている梨華の姿は、頭の中にかろうじて残っている母の姿に照らし合わせていた、梨華を見ているだけでもなんだか眠れそうな感じになる






♪人生って素晴らしい


 ほら誰かと


 出会ったり恋をしてみたり






ゆっくりとしたテンポで囁くように歌い続ける梨華
ひとみも歌を聞いていて、段々と瞼を閉じていく
座っているシートに移った自分の熱が、余計に睡魔を誘ってきた

(なんか…ねむ…)





♪Ah素晴らしい


 Ah夢中で


 笑ったり泣いたりできる




224 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月09日(木)21時31分08秒







「…ふぅ、…どう?」

しばらく歌い続けていた梨華だが、頃合を見計らってひとみに聞き返した
案の定、ひとみはすっかり子守唄を聞いてトロンとしていた

「うん…なかなかいいね」
「でしょ?」
「ん…、あたしも…ちょっと眠たくなって、きた……」

目頭を抑え呼吸も少しずつ小さくなってきた
もう少しで眠ってしまうと思ったとき、「おやすみなさい…」と言う梨華の声が耳に届き、その声でなぜかひとみは安心感を持った




そうしていつのまにか、ひとみは眠ってしまっていた


今までで一番、心地良い夜だった





225 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月09日(木)21時35分05秒
>>218梨華っちさいこ〜さん
 う〜ん、梨華ちゃんにいつ名前で呼ばせようか…。(悩

>>219よすこ大好き読者。さん
 んじゃ永久に逃亡という事で。(w
 すいません、車での一夜、歌って終わりました…。
226 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月10日(金)04時32分57秒
もうチャーム(魅惑)の魔法にかかってますねぇ吉澤(w
227 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月11日(土)20時31分52秒
I WISHって歌詞がきれいですよね。
しっとりと歌いあげるI WISH…いいな〜。
228 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月15日(水)22時48分27秒




(どうしよう…昼間っからお昼寝してたから、全然眠たくないよぉ)



先ほど言っていたようにここまで来る途中、車の中で寝ていたのは事実
隣のひとみは子守唄によってすでに熟睡、スヤスヤと遊び疲れた子供のように寝入っている


車の中が少し蒸し暑く感じたため、梨華は外の空気を吸おうと一旦外に出る事にした、暗い闇に囲まれた自分、この前までの梨華だったならば真っ暗な外に一人で出向こうなんて事は考えもしなかっただろう

しかし、人間を食らうという恐ろしい鬼であるかもしれないと告げられている今の梨華に、暗闇などたいした物ではなかった
229 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月15日(水)22時49分07秒




――――“蒼龍”だと証明できなければ、殺される




今の今まで忘れていた言葉を不意に思い出した


(そうだ…私が今あの人と一緒にいるのは…)





『あなたを殺すために存在してる』






(もし“蒼龍”だったら…私はあの人に殺される、あの人の手で…確実に…)

もしかしたら、と感じてはいた、それを認めたくなかったために、今まで必死に首を横に振ってきた

自分が鬼かもしれないということに


けれどあの保健室で、校舎の裏の林で、人が消えたのは事実
しかもそれら全てに自分が関わっている、自分が追い詰められた時に




(戻りたい…!もとの…今までの生活に…!!)





「…!」


梨華は周りを見渡した
ここにいるのは自分一人、ひとみは車の中でぐっすり眠っている
梨華の頭に一つの考えがよぎった



(―――今ならここから…逃げ出せる)


たとえここから逃げたとしても西家は再び追ってくるだろう、“蒼龍”という形容が自分のところから消えない限り
しかし梨華はそんなことを考えてはいなかった
少しの間でいい、この状況から逃げ出したい、それしか思い浮かばなかった

ググッ、念を強めると頭のてっぺんに力が集中する
それと同時に体に何かが駆け巡っていくのが、手に取るように分かる

230 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月15日(水)22時49分47秒







『あたし約束は守る人だから、ちゃんと本家まで梨華ちゃんを連れてく』

「!」



ひとみの言葉が思考を掠めた、途端、体の力が一気に無くなっていった


(…この人の声が、ずっと残ってる…)




周りには何もなく静かであるはずなのに、ひとみの声がうるさいほど耳に残っている

「…どうしてだろう、この人なら…ひとみなら
 何とかしてくれるって思える…、あんなに酷い目に合ったのに」


窓越しに見えるひとみの顔は本当に安らかなものだった
その顔を壊さないために、そっと音を立てずに車に乗り込んだ
多少、車が揺れたり、念のために掛けるように言われた鍵を掛ける音が響いてしまったりしていたが、ひとみは起きなかった


(…こんな所今すぐ逃げたい…、…でも)






「もう少しだけ…このままで居たい、って思うのは気のせい…?」





231 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月15日(水)22時54分02秒
>>226名無し読者さん
 もっと惑わされてしまえ〜!(w

>>227梨華っちさいこ〜さん
 モー娘。の歌ってバラード系が少ないような気が(気のせい?)
 まぁ、全部好きですけどね。
 
232 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月15日(水)22時56分35秒
最近ここ更新が遅れまくってて、読んでくださってる方々本当に
申し訳ないです…。
多分、土・日とかを中心に更新進んでいくと思います、メチャクチャ
言っちゃってすいませんです。
233 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月16日(木)03時32分01秒
束の間の休息って感じですね
234 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月16日(木)08時09分58秒
ツ ボ に は ま り す ぎ て て ヤ バ イ で す 。
235 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月16日(木)11時15分17秒
続きが読めるんだったら、何日でも待ちますよ。^^
平穏な時間は長くは続かないんでしょうね?
続き楽しみにしています。
236 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月18日(土)04時49分33秒






――――カチャッ



「ん…?」

小さな音で眠りから目覚めた
瞳を開くと明るい日差しがガラスを通して差し込んでいる、どうやら朝になっているようだがいつ眠ってしまったのかは覚えていない

完全に開ききっていない瞳をこすりながら動こうとした時、見ると胸の上に何かがのっているのに気付く


見覚えのあるその黒のジャケットはひとみのものだった



手に取りマジマジと見つめる
自分には少し大きめのそのジャケットは、生地がやや厚い、素材が良い、といった他にも別の暖かさが感じられた
237 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月18日(土)04時50分14秒



「かけて…くれたんだよね」


車の中には自分以外誰も居なかった
急にいたたまれない気持ちに駆られ、車から降りる
暖かい光と少し冷たい風が一つになって当たり気分がいい

昨日とは違う外の雰囲気にしばらく放心していた

238 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月18日(土)04時50分52秒







「起きた?」



足音が聞こえたので、来るという事は分かっていた
すばやく寝起きの顔を整え、2・3回ペチペチと頬を叩く
よし、と何か気合をいれ決心し振り返った



「おはよう、ひとみちゃ……」



梨華はそこで口が動かなくなった、それどころか体中が全て麻痺したかのように固まってしまう


「おはよう、梨華ちゃん今…」

「…ッキャ――――――!!!!!!」
「えっ!?」



やっと動けると思ったとき、一番最初に出たのがめいっぱいの金切り声
事態が飲み込めていないひとみはただオロオロするしかない


「梨、梨華ちゃん?一体…何?」
「キャアッ!!お、お願いっ、近寄らないでぇ!!」
「え…!」

その言葉にいささかショックを受けたひとみ
しかしその心配はすぐ打ち消される事となった
239 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月18日(土)04時51分29秒







「私…!鳥ってダメなのぉ!!!」





「え…?…あ!」

ひとみの肩を指差し顔を覆い、その場にうずくまった
白く美しい羽毛を携えた可愛らしい小さな小鳥が、ひとみの肩で毛づくろいをしていた




「ゴメン!今放すよ!」


ひとみは両手で掴み、勢いよく空に向かって放り投げた


「…もう、いない?」
「うん、飛んでったよ」
「そぅ…」

おそるおそる辺りを見回した
周りに例のものが居ないことを確認すると、安心したのかその場にそのまま座り込んでしまった


「梨華ちゃん、鳥キライだったんだね」
「…うん、どうしてもダメなの…」
「ゴメンね、あっちの方行ってたら急に飛んで来てさ、案外懐かれちゃってそのまま連れて来ちゃったんだ」

やや微笑して肩をすくめる、その仕草はまるで少年のようで好感が持てた


「ホントゴメンね、大丈夫?」
「ぅ、うん」
「よかった」
240 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月18日(土)04時52分18秒

「…………」
(まただ…、またドキドキしてる…)


ひとみがこちらを向いて微笑む度、自分の名前を呼んでくれる度に感じる高鳴っていく鼓動

こんな感情を梨華は感じた事がなかった





「梨華ちゃん?梨華ちゃん?」
「えっ?な、なぁに?」
「さっきさぁ、あたしの事…」


―――――ボサッ


「「え?」」

何かが落ちた、それは間違いなく自分たちの上部から落下している
なんだか分からないままひとみは近寄ってみる、あやしい物はすぐに調べないと気の済まないたちなのだった




「!?」
「どうしたの?何が…」


「ダメ、梨華ちゃんは…見ないほうがいい」
「え…」


重い口調になったひとみのその顔は、さっきまでとは違う、“白虎”のひとみになっていた
尋常じゃないことを察知した梨華は、ひとみの言うとおりそれ以上近づく事はなかった





「誰…?一体…」

梨華には聞こえないような小さな呟きを発した




ひとみの視線の先にあったもの、それは今さっき飛び立っていった小さな小鳥










ただその小さな体は―――――真っ二つに切り裂かれていた






241 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月18日(土)04時56分12秒
>>233名無し読者さん
 こんなシーンを書けるのはいつぐらいまでなのか…。

>>234梨華っちさいこ〜さん
 はまっていただけて、光栄です。感謝。

>>235よすこ大好き読者。さん
 ありがとうございます。わがままな作者でもうしわけありません。(汗
242 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)17時59分01秒
そろそろ邪魔者登場か…?
243 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月18日(土)22時29分05秒
うわぁ、ついに来たな。ちょっとドキドキ。
244 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)04時21分23秒



(もう、追いついたのか…?それにしちゃ早すぎる!)


神経を研ぎ澄ませ、あらゆる所へと目線を送る
ひとみの見る限りでは辺りに気配はない
それほど相手の力が上なのか、と動くに動けないでいた

そんなひとみの様子を察し、同時に梨華も動けなかった


(なんだか分かんないけど…、何があったんだろう)

口を開きたいがそんなことは許されないような空気に何も出来ない
その時、ひとみが急に瞳を閉じた

すると、ひとみの影からもう一人のひとみの姿が映し出され、段々と実体化していく
やがてそれは等身大の人型となり、もう一人のひとみが創り出された


「…そ、それ」
「『白影』あたしの特技だよ、梨華ちゃんの鬼火と一緒」
(私の部屋に入った時も、コレを使ったんだ…)
245 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)04時21分53秒


影のひとみは音も立てずに、静かに森の中へと進んでいった
ひとみ本人は瞳を閉じ、その場でただじっとしているだけ





しばらくその状態が続きようやくひとみは目を開けた

「…どうしたの?」
「もうあたしたちの場所がばれてるのかもしれない」
「えっ?」
「早めにここから離れた方がいい、行こう」

車から必要最低限の荷物を降ろし、二人で手分けして持つことになった

「重たくない?」
「うん、コレくらいは、ほとんど自分のだし」
「じゃあ行こう、グズグズしてらんない」
「うん」

行った途端歩き出す、ワンテンポ遅れて梨華もその後を追う
車で入り込んだその場所にはやや広い獣道が出来ており、梨華たちは道路は進まずその道に沿って目的地に向かっていった
それは目立たぬ所を進みなるべく見つからないように、とのひとみの考え
が、その道は野草が生え散らかっており、周りの木から落ちた枝や枯れ葉が散乱していてひどい状態だった

246 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)04時22分27秒




1時間ほど経ち、二人は変わらず道を歩いていた
ひとみはまだ余力が残っていてスイスイと歩いていくが、梨華にはやや苦しい道のりであった

「…っふぅ、…ふぅ」
「…辛い?荷物もとうか」
「うぅん、…平気」
「ん、じゃああっちに確か小さい川があったはずだから、そこに着いたらちょっと休もう」
「うん」

休憩を伝えられた事により、足取りも軽く感じた
けれどやはりそれだけで楽になったとは言えない

(もう少し…、もう少し……でもやっぱりキツイ…)






「はい」
「……え」

2・3歩ほど手前から差し出された手

「引っ張ってくよ」
「あ…りがと」
「どういたしまして」

本気で疲れていたため梨華は遠慮もしなかった

ひとみとしては早く先に進みたかったという気持ちが強かったので、真面目な顔になっていた、その顔に冷たい印象を受けた梨華だったが、繋いだ手はそれとは反対にとても暖かい
247 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)04時23分01秒



ひとみの手に引っ張られて足を動かそうとしたその時、急に引き寄せられちょうど抱き合う体勢になった


「なっ…!?ちょっと…!!」
「……………」

その状態なら否がおうでも下から見上げてしまうことになる
そんなひとみに思わず見とれてしまう

「……何?」
「…来た」
「え…?」
「走って!早く!!」



―――――ピシュッ

「っ…!!」
「ひとみちゃん!?」

どこかから何かが飛び出しひとみの腕をかすめた
苦痛に顔を歪めるひとみ、抑えた二の腕の部分にうっすらと血が滲みはじめてきている

「腕が…!大丈夫!?」
「っ…、大丈夫…それより何だ、コレ…」
「太い…針、みたい、こんなの刺さったら…」
「針…!?まさか…」
248 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)04時23分35秒








「そのまさかだよ」
「「!?」」

いつの間にか二人の背後につかれていた、とっさに後ろへ下がり間合いをとる

「久しぶりだね、ひとみ」
「懐かしいなぁ〜」
「…なつみさん、…亜衣」


驚く様子も見せず歯を食いしばる、前に居る二人に対しあきらかに不快を覚えている



「何年ぶりかな、2年?3年?もっと経ったかな」

自分より幾分低い身長、ショートの茶髪の少女
もしかしたら自分と同じ、それ以上と梨華は思う

「さぁ…?思い出したくないですね、今は…」
「なんや冷たいなぁ〜、せっかく会えたっちゅ〜のに」

なつみの横、中学生くらいであろうか、亜衣と呼ばれた幼い顔の関西弁の少女
自分たちの前に立ちはだかる二人、なんとも爽やかに白い歯を見せて笑っている、しかしその瞳の奥に得体の知れないものを梨華は感じ取っていた
249 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)04時24分18秒

「せめてもうちょい優しい言葉くらいかけてぇな、姉妹なんやから」
「えっ!?嘘…、ホント?」
「…血は父親としか繋がってないよ、異母兄弟なんだ
 住んでる所も違うし、生まれた場所も違う、方言もバラバラだし」




「そうなの〜、で、せっかく会えて喜びをかみしめたいとこなんだけど、そうもいかないんだよね、コレが」
「あたしも…ちょっと急いでるんだよね、二人とも中澤さんに呼ばれてきたんでしょ?」
「そ、さっすがひとみ、よく分かってるべさ!…って誉めるわけにもいかないんだ、悪いけどひとみには死んでもらわなきゃ」
「な…!?」

なつみはにこやかに笑顔のまま言う、亜衣も隣でただにやにやしているだけ
250 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)04時24分55秒



「…あたしは中澤さんに裏切られた、ってこと?」
「当たり前やん!“白虎”としての使命を忘れて、“蒼龍”と一緒になるなんて切り捨てられて当然!!裏切られたんはこっちや!」
「!?ちょっと待て!!」

まくし立てるように話し続ける亜衣を、ひとみが遮った

「誰が一緒になるって言った!あたしはただこの娘に文書を見せてあげるためにここまで来たんだ!!勘違いしないで!!」



(そう…だよ、この人がここにいるのはあたしが“蒼龍”なのかを調べるため、自分の役割を果たしているだけ……)

ぎゅぅ、と胸が圧迫されたように息苦しくなる

梨華は『勘違いしないで』というひとみのそのセリフが、なんだか自分に言い聞かせられたような気がしてならなかった





―――――カンッ

「!?」

ひとみの横を何かが通った、振り向いてみると後の木にあの針が深々と突き刺さっていた
それを確認するのと同時に、冷たい声が耳に入る


「そんなのどっちだっていいんだよ、とりあえず死んでよ」

なつみはもう笑っていなかった、その瞳は明らかに私たちを狙っている
獲物を捕らえるハンターのようだった
251 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)04時25分37秒
ちょっと中断、またレスします。
252 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)13時52分33秒

「ひとみが死ねば、なっちはもっと偉い人になれるんだから
 もっとすごいことできるんだから」
「ついでに“蒼龍”もな」


「なるほど、そういう理由…」

「ねぇ…、あの人たち…」

心配そうに問い詰めてくる梨華、その心境を察しひとみは「大丈夫、何でもない」と囁く、何でもない訳はないのだが今は逃げる事を先に考えたい


「後でオバちゃんも来る言うてたで」
「圭ちゃんも?ずいぶん豪華なお出迎えで…」

軽く受け流し、さもどうでもいいような口ぶりだが、内心ひとみは焦っている

西家の一族は全員が“白虎”になれるため教育を受けている、そのときに一番力の強い者が長となりグループを任されるシステムだ
裕子・亜弥、そして圭も“白虎”となる資格を持っている、ひとみの父が亡くなった後の“白虎”は裕子だったのだ

裕子と亜弥と圭の三人はひとみに比べると西家一族の血が薄く、“白虎”の権限はひとみが優先である

しかしそれが自分の血を分けた姉妹なら話は別だ

なつみ・亜衣、ひとみと姉妹のこの二人ならば優先などは関係ない、ひとみよりも力が弱いというだけであって長になれることは十分可能だ
現に姉であるなつみを追い越してひとみがオーナーなのだから
弱肉強食、弱い者は肉となり強い者に食われろということ

ひとみがいなくなればなつみは“白虎”となり、事業を引き継ぐ事ができる
亜衣の力は姉二人には及ばない、相手になどしていなかった
253 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)13時53分04秒




なつみが腕を高々と掲げ、一気に真下に振り下ろした
銀色に鈍く輝く物が二人に向かって放たれる

「伏せてっ!!」
「キャッ!?」

――――――カン、カン、カン


針が木に突き刺さる、休む間もなく後から次々と針は二人を狙って飛んでくる


「逃げられないっしょ!!圭ちゃんが来る必要もないべさ!」
「なっちゃん、後で怒られても知らんで」
「亜衣はそこで見てればいいの!!」

ぷっ、と頬を膨らませ仕方ないとでも言うように亜衣はその場に座り込んだ


(人が死にそうになってる時にこいつは…)

ひとみは一瞬亜衣に視線を逸らしてしまった、それをなつみが見逃すはずもなく



――――――ドンッ


「くあっ…!!」
「ひとみちゃ…!?」
「命中〜♪」
254 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)13時53分39秒


針はひとみの右の太ももに突き刺さっていた
当然の如くそこは出血し赤く染まっている、ひとみはその場に膝をついた


「ぐっ…!くそぉっ!!」

ひとみはそれをすぐさま引き抜いた、ズブリという感触が伝わりなんとも気色悪かった


「うっわ…痛そやな」
「…痛いんだよ」
「そんな足じゃ自由に動けないよね、もう終りだね」
「…っ!」

なつみは最後にもう一度ニコッと微笑むと、再び腕を掲げ


「バイバイ、ひとみ」


――――――シャッ

「…!!!」





255 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)13時54分22秒









――――――ボウッ

「えっ!?」
「なっ…!何や!?」

蒼い火柱があがる、なつみの放った針は火柱によって落とされてしまった

そんな事ができるのはこの場でただ一人―――








「梨華ちゃん!!」

ひとみの前に梨華が立ちはだかる、その頭には白い角が出現していた


「本性が出たか“蒼龍”…なっちが倒してやるべ!!」
「梨華ちゃん!!」
「…大丈夫、ひとみちゃんは待ってて…」

すぅ、と息を深く吸い込む



――――――――ゴオオオゥッ

「きゃああああっ!!?」


今度は蒼い炎がなつみの周りから発火した、反撃されパニックに陥るなつみ
それを見届けると梨華はひとみに駆け寄り、腕を肩にまわした
256 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)13時54分52秒

「んしょ…立てる?今のうちに逃げよう!」
「ぅん…ありがと…」


自分よりも大きなひとみを担ぎながら山道を歩くのは辛い、おまけになつみは食いとどめているが、梨華はまだ亜衣が残っている事に気付いていない

「待って梨華ちゃん!まだ亜衣が…!!」
「えっ!?」
「あ〜ぁ、忘れ去られとったんか、悲しいなぁ
 中学生やからってなめたらあかんよ」

亜衣はやれやれといったように立ち上がると顔の横で右手の爪を鳴らした
その爪は磨がれたばかりの刃物のように、綺麗で鋭い
よく見ると爪の間に血痕が残っている、おそらく亜衣はあの小鳥をこの爪で切り裂いたのだろう

257 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)13時55分22秒






「加護、やめな」
「ふぇっ?」

亜衣の背後から声が聞こえた、梨華は聞き覚えのない声だったが、ひとみは誰なのか分かるらしく少し顔を歪めた

「あれっ、オバちゃんいつ来たんや!」
「今よ、それより…ひとみ久しぶりね」
「圭ちゃん…」


「もう分かるわよね?あたしたちが何故集められたのか…」
「…あたしのせい、なんでしょ?中澤さんが“白虎”の長としてとんでもない行為を犯したあたしを…」
「まあ、表向きはそうね なっちと加護に伝えられたのはそれだけだし」

圭が何を言っているのか、ひとみは理解できなかった
表向きということは他にも何か理由があるのだろうか、もっと重要な…?
258 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)13時55分53秒


「ひとみ、…その娘と一緒にいるのだけは止めなさい
 これは忠告じゃない、命令よ」

圭は梨華を指差した

「後で後悔する事になるわ、あんたも…そしてその娘も…」
「…どういう事?」
「それは後になって自分たちが見極める事よ、でもそれじゃ遅いの
 絶対…後悔する、出会わなきゃよかったってね…」
「圭ちゃん…?」

圭の瞳を見つめる、強い意志の奥底に深い悲しみの色が見えた

「オバちゃん、何言うてんのや!ひとみはうちらを裏切ったんやで!?」
「亜衣うるさいよ、…ひとみ分かったわね、その娘から離れるのよ」

「…梨華ちゃん、鬼火使って…今すぐ」
「え…でも…!」
「いいから!!」
「………!」
259 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)13時56分27秒


――――――ゴオオオオゥッ

再び火柱が現れた、今度は圭と亜衣の周りを取りかこんでいく

「逃げよう…そんで、文書のとこに…」
「でも、その足じゃ…!」
「ちょっと休めば回復するよ、普通の人間じゃないんだから
 ほら!早く行こう」

二人は本家に向かって歩き出した









しばらくすると炎はシュウシュウと音をたて消えていく
完全に消えてなくなると、圭は気絶していたなつみを介抱する

「あ〜ぁ、ほんまに何考えてんの?オバちゃん、せっかくのチャンスやったのに…もったいない」
「オバちゃんって言うなって言ったでしょ」
「にしても、何であんなこと言ったん?『その娘から離れろ』て…」
「…本当のこと言っただけ、それよりなっち起こさなきゃ、本家に行くわよ」
「はぁ〜い」
260 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)14時04分04秒
>>242名無し読者さん
 とりあえずこの3人を出しました。 ナカザーさんとあやゃはもうちょっと後。
 しかも邪魔者らしきキャラもまだ…。

>>243梨華っちさいこ〜さん
 この後ハラハラドキドキワクワク、な展開に!!…なったらいいな(オイ
261 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月26日(日)14時04分46秒
更新終了っす。
262 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月26日(日)23時47分35秒
いやぁ緊迫した状況になってきましたね…
263 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時13分38秒



チョロチョロと静かに流れる川を見ながら一人、ひとみは木に体を預けていた

(…っ、少しキツイな…半分くらい刺さったから)

右太ももを手で抑え、ふぅと一息つく
傷を負った部分には出血を抑えるため、無理やり梨華が巻いたハンカチ
「汚れるから」と断ったが「ハンカチは汚すためにあるの」と

その梨華は今、誰もいないことを確認するため見回りに出かけている
ひとみの足が完治するまでここで休憩という事になり、行ってくる!と元気よく駆けていった
別に追ってくる様子もなかったから様子見の必要はないのだが、ひとみはあえて何も言わなかった

264 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時14分22秒


「まさかみんな来るとはな…、中澤さん相当キテるんだろうな」

ひとみは困惑していた、まさか“蒼龍”と一緒に行動するだなんて、今更ながら思っても見なかった、それに西家グループ全体が動いている
それに加え亜弥・なつみ・亜衣・圭の登場

極めつけの圭のあの言葉


『後悔するよ、出会わなきゃよかったってね』


(あたしは“白虎”だし梨華ちゃんは“蒼龍”、この二人は運命的に出会うことになるって小さい時に聞いた気がする、そんな二人が出会わなきゃよかったって事は…出会ったから悪かったって事だよね…)

ブツブツと独り言のように呟いていくひとみ
そこで一つの仮説を立てた

(…もしかして…好きになっちゃう、とか?ハハッ、まさか!)







「……まさか」
265 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時14分56秒

そんな事はない、あり得ない…事ではない
あの保健室の事件で梨華を追い詰めた時、少なからず胸が高鳴った

「いや、だからって…そんな…」
(でもあたし、最初あんなに梨華ちゃんのこと嫌ってたよな…
 今は…?なんで一緒に行くことにしたんだろう)

「そうなの?そうなの?これって…!」
(いや待て!よく考えろ…!!何やってんだあたし…)

「やっぱりあたし、梨華ちゃんが…?」



「なぁに?」
「うわぁっ!?」

急に木の後ろから梨華がぴょこっと顔を出した、足の傷も忘れてひとみは思いっきり前に飛び出した

「お…おかえり早かったね」
「…うん、結構ゆっくり廻ってきたつもりなんだけど」

(危なかった…もうちょっとでその先を聞かれる所だった…)
266 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時15分53秒


違う意味の鼓動の高鳴りに冷や汗が止まらない
苦笑しながらひとみは元の位置に戻っていった

ひとみが再び腰掛けると、梨華もその横に座り込んだ



「…………」
「…………」


しばし沈黙が流れる
先に口を開いたのは梨華の方だった、しかも思いがけない言葉が耳に入る



「ごめんなさい…」
「え?」

いきなり突拍子もなく謝られてしまったひとみは眉間にしわを寄せて梨華の方を向く、驚いた


「なっ、何で泣いてるの!?それに何で謝るの!?」
「…私が無茶なこと言…ったから……そ…れで…それで…あんな事に…」

『あんな事』というのはなつみたちの事だろう
自分が文書を見せて、とひとみにお願いをしてしまったばっかりに、ひとみは自らの姉妹たちと争う羽目になってしまったのだと思い込んでいるのだろう

「いいよ別に…、姉妹っつっても仲がよかった訳じゃないし」
「ごめんなさい…ごめ…な…さいっ…!」
「いや…だからね?」
「………っく…ひくっ…」

本格的に泣き出してしまった梨華、ひとみはどうする事も出来ずただうろたえるしかない、しまいにはいくら言っても泣き止まない梨華に段々苛立ちを感じ始めた
267 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時16分26秒




「あんま、気にしないで」
「……っく…っく…」
「………ね?」
「…ひっく…んくっ…」
「…………」
「…………ひっく…」
「あ―――!!もういいって、いい加減泣きやめって!!」



びくっと肩が震えた、一瞬ではあったが梨華は泣くのを止める
が、またすぐ瞳は潤み始めてくる


「今言ったじゃん!気にするなって!!あたしがいいって言ってんだから!別に梨華ちゃんのせいだなんて思ってないし、あたしが間違った事したなんて思ってもないし、深く考えるなって!!」

ついにキレてしまった、これ以上何か言うとますます梨華は落ち込んでしまうと考えてはいたが止まらなかった、言いたいことを言うだけ言うと梨華から視線を逸らした

「…たく、泣いたってどうしようもないんだからね」
「………はぃ…ぐすっ…」
「だーから止めろって、いい事ないよ」
「………っく…」

268 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時17分11秒



「だぁっ!!笑ってた方が可愛いんだから、ほら!!」
「………!」

ピタリと泣き止んだ、両手で鼻と口を抑え目を丸くしてそのまま制止している
心なしか頬が赤くなっているように思えた

「…………」
「…………」

気まずい雰囲気に飲まれそうになる
言ってしまってから後悔した、わざわざそんな事を言わなくても他に慰めの言葉ならいくらでもあったはずなのに…、と
しかし言ってしまったことを取り消す事など出来ない、ひとみは割り切って続ける事にした

「いや…嘘じゃ、ないから…」
「…………」

何も答えない梨華、ひとみを見ることもなく制止したまま
訳も分からず謝る

「…ゴメン」
269 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時18分29秒

「ううん…ありがとう、…ひとみちゃん」
「!」

戸惑った、梨華の笑顔にドキッとさせられただけでなく、名前で呼ばれた事に
さっきから名前で呼ばれていたのは知っていた、だがこう改めて言われるとどうにも照れる
「どういたしまして」とそれだけ言うと顔を背けてしまった



その後もしばらく小川のせせらぎを聞いているだけだった



270 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時19分42秒
>>262名無し読者さん
 甘いのとかも書きたいんですけどね…、こうなっちゃいます。
271 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月27日(月)07時20分15秒
朝からだけど更新しました。
272 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月28日(火)00時25分21秒
ヤッスーが、ある意味キーパーソン?
吉は、自分の気持ちに気づいたようですが、前途多難ですね。
続き楽しみにしています。
273 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月29日(水)05時41分24秒
前半のハラハラするところもいいけど、後半のマターリもいいなぁ。
梨華ちゃん専用の呼び方「ひとみちゃん」は最強。
274 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月30日(木)07時39分07秒

塀の周りには幾人ものガードマン
24時間昼夜問わずその包囲網がとかれる事はない


『こちらA−3班、異常なし』


時折聞こえるトランシーバーでの対話
中には連絡を忘れ、そのチームのリーダーにこっぴどく叱られる者も
口々に不満不平を撒き散らす男たち
そんな部下たちのやり取りを、裕子は窓からぼーっと眺めていた




「祐ちゃん」


不意に名前を呼ばれ、振り返る
「圭坊か?入ってええよ」と一言、少しひなびた障子がスーッとすべる
その向こうには予想通りの人物

視線を再び窓の外に戻す
後ろから圭が近寄ってくるのが分かる
それに構わず裕子は外から視線を外さないで、口を開いた


「あいつらは、どないしたん?」

「なっちは今休ませてる
 亜衣は亜弥と一緒にいるみたいだけど、どこ行ったのかは分からないよ
 ま、でも外には行ってないでしょ」
「…そ、か」
275 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月30日(木)07時39分47秒


「ねぇ、祐ちゃん?」
「あん?」
「…ひとみを置いてきちゃったのは、ホントによかったの?」

視線を圭に戻す

「…せやな、手遅れになるかもな」
「だったら何で…」
「さぁ?自分でもよぉ分からんわ」

憂いを含んだ微笑
何故かそれ以上問い詰められないような気がした圭



「自分で分かんないんじゃ、アタシにも分かんないね」
「フフ……、ただな…」


言いかけて途中で止めようと口を閉じるが、圭の顔を見るとまた話し出した


「あの子には…ひとみには、アタシと同じ思いさせたくないのは確かや」
「祐ちゃん…」
「ああ見えてあの子は弱いからな、立ち直れなくなるかもしれん」
276 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月30日(木)07時40分19秒



開けていた窓を閉めて、立ち上がる裕子
横目で圭を見ながらまた少し微笑んだ


「そう思ってるのに、なんでやろな…」
「………」





言って圭の横を通り過ぎ、出て行こうとするのをとめる


「祐ちゃんも…弱いんじゃないの?」

裕子の手首を握り、ちょうど目線の高さまで上げた
つけていた少し古いシルバーのブレスレットがシャラッ、といい音を立てた


「……かもな」
「似たもの同士」
277 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月30日(木)07時40分50秒


ヒラヒラと手を振り、圭は裕子より先に出て行く
圭の背中を見送り、自分の手首に視線を落とす



「矢口…」



裕子は、ブレスレットをもう片方の手で包み込みキュッ、と握った


278 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月30日(木)07時41分45秒
更新です。レスお礼の返事はまた後で…、すいませんです。
279 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月30日(木)21時32分46秒
こちらでは初レスです。
原作は友人から借りたのをバーッと読んだ記憶が。。。
こういう世界観、好きです。
続き楽しみにしてます。
280 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月31日(金)00時29分12秒
ほう、やぐちゅーですか、そうですか……

ツ ボ に は ま り ま く り 第 2 弾 !!

姐さんの回想シーンに期待。
281 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年05月31日(金)03時41分13秒
>>272よすこ大好き読者さん
 ヤッス〜は祐ちゃんと吉を繋ぐ掛け橋的な存在です。(多分
 大事なキャラです。

>>273梨華っちさいこ〜さん
 やっぱりいつまでも『あなた』じゃいけませんよね。
 早く二人の絡みまで行きたい…。
>>280
 マイナーですが、やっぱり王道ですからね!がんがるっす。

>>279ごまべーぐるさん
 ありがとうございます。たま〜に原作の部分が出てくるところが
 あると思いますが、なるべくそうならないようにしていきます、ハイ。
282 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月02日(日)13時20分00秒
姐さんと矢口の過去に何が!!
それが、石と吉に関係することなんですよね?
続きが楽しみです。
283 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時49分31秒



「裕子様!失礼いたします!!」



ドタドタと慌しく耳障りな足音、それが一気に裕子を不機嫌にした

「うっさいわ、なんやねん」
「…はい、ひとみ様が…」
「よっさんが?」

ひとみの名前が出た途端、目の色が変わる
さっきのまでの不機嫌な心はどこへやら

「西口から進入した模様です
 見張りしていた数名が気を失っており、監視モニターにひとみ様の姿が…」
「そうか分かった、圭坊らを呼んでき」
「はっ」

一礼を返し、風のように去っていく


「さて、と…」


ようやく部屋から出て行くことができた
ゆっくりと歩を進めながら裕子はある一つの考えを思い浮かべていた

よし、と自分に言い聞かせるように小さく呟くと、裕子は自分の書斎へと向かった


284 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時50分13秒










「…よし、ここには誰もいない」

梨華を後にひとみは先を進んでいく
ヒラッと音を立てずに塀から飛び降りる


「居ない?」
「うん、降りても大丈夫だよ」
「わかった」

ひとみの後に続き、梨華も塀を降りた
285 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時50分45秒

ストッと地に着いた、その瞬間



ビ―――――――ッ!!!

「「!?」」

けたたましいサイレンが鳴り響いた
その音を聞きひとみは自分が過ちを犯したことに気付く
あちらこちらから見張りの足音が聞こえてくる

「やばい!」

梨華の手を引いて隠れられそうな所を探す
しかしここにそんな都合のいい物は無い、侵入者を絶対に許さないのだ


「くっ…!」
「ひとみちゃん…!!」




286 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時51分19秒


―――――ダダダダダッ

「ここかっ!?」
「この辺りに何かがいたのは間違いない、じっくり探せ!」


次々にガードマンたちが現れてきた
7〜8人が庵の下やら草むらの中やらをしらみつぶしに探している


「どうだ、居たか?」
「いいや」











「…………」



ひとみと梨華は見張り達がやってくる前にとっさに木の上に逃げ込んだ
息を潜めてジッと枝の上で様子を探る
ちょうど木の芯の所に梨華が寄りかかり、ひとみは梨華の目の前の枝ぶりのと
ころで動けないでいた
とっさの事だったので梨華を先に木へ登らせて、後から自分も登り始めたのだが、途中で見つかると思いそのまま止まってしまったのだ

木の下に誰かが通る度、心臓が止まりそうになる
287 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時51分55秒


(ひとみちゃん、そこだと下から見えちゃうよ!こっち来て)
(今行く…)

ゆっくり梨華の方へと歩み寄っていく
ひとみが一歩一歩踏み出すと、枝が揺れてしまう







「…いないみたいだな」
「誤作動でも起きたのか?まったく…」

(ホッ……)


しばらくすると男たちは諦めたらしく、それぞれグチを言い始めた
足音が段々と遠ざかっていくのを感じ、二人は胸をなでおろす





「いや、待て木の上は探したか?」

(!?)

「そういやぁ…」
「念のためだ、調べよう」
「ん〜…と?」

(…見つかる!!)
(えっ…!?)


288 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時52分27秒






――――――ガサッ

「! おい!誰かいるぞ!!」
「あっちだ、追え!!」

間一髪、木に半分以上のぼって来たところで、また降りていった
音がした方へ全員が走り出し、やがてその場に誰もいなくなった











「……行ったみたいだね」
「…うん…」

辺りから声がしなくなったのと同時に、ひとみは口を開いた


「…ゴメン」
「あ…別に……」

二人とも顔を赤くして下に降りようとはしない
気まずくて動けないでいる
289 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時53分06秒

さっき、見張りに見つかりそうになったひとみは、慌てて梨華の場所に飛び乗った
しかし勢いが余り上手く着地できず、前に倒れてしまう
体を支えようと木に手をつこうとしたが梨華がいるのでそれもままならず、
そのまま梨華に覆い被さる形になった

迂闊に動くと見つかる可能性があったので、離れる事が出来なかった



「お、降りよう…」
(梨華ちゃん、いい匂いしたな 体細いし…)

「うん…」
(びっくりした…、でも嫌じゃなかったな…もう少しあのままでいたかったかも)

290 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時54分10秒



ひとみが先に降り、手を差し伸べて梨華を下ろす
木から降り立った二人だが、お互いの顔が見れないまま本家の中へ忍び込んだ











そんな二人の行動を、屋根の上から観察している二つの影


「あの子、かっこいいねぇ」
「…………」
「どしたの?」
「くだらない事言ってないでさっさと行くぞ
 あのままだと梨華は“蒼龍”としての力が失われる事になる」
「…はいはい」

291 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月02日(日)17時56分54秒
今日はこの辺にします。

>>282よすこ大好き読者。さん
 関係あるというのかな?でもその二人にとって大切な事です。
292 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年06月02日(日)20時35分56秒
おおぉ、新キャラですか。今度はどうやら蒼龍側のようですね。
う〜ん、誰だろう? 話が膨らんでいって楽しみです。
293 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月03日(月)05時47分42秒


ひとみと梨華は忍び込む事になんとか成功した
西家の本家ということでひとみに付いて行けば、と考えていたのだが先ほどからひとみの様子を見ていると大きすぎる建物の中をあっちこっち右往左往していて、文書の場所へは未だ辿り着いていない

不安なあることをおそるおそる聞いてみる

「ねぇ…文書ってどこにあるの?」
「…分かんない」

予感が的中した



「な、何で?知ってるんじゃなかったの?」
「ここに文書があるっていうのは知ってたけど、どこにあるかまでは…」
「……はぁ」

がっくりと肩を落とす
目的地に着いたまではよかったのに、その先が分からないのならばまったくもって意味が無い、こんな事をしているうちに捕まってしまう
294 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月03日(月)05時48分27秒


ひとみは頼りになるのかならないのか、初めはキリッとした印象が強かったのに今では手のかかる子供のようだ
もしかしたらこれが本当のひとみであって、いままではただの偽りであったのかもしれない

「もう!どうするの!?来たって何にもならないじゃない!!」
(わっ…!シ――――!!見つかっちゃうよ…!)
「あっ…!」

慌てて口を抑えるが後の祭り

「もう遅いよ」
「…圭ちゃん」
「うちもおるで!」




「まったくアンタは全然変わってないね」

苦笑しながら肩を竦める
圭と亜衣の後ろには数名のガードマンたち
この状況で逃げられる可能性は0に等しい
295 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月03日(月)05時48分57秒

「どぉもありがとう…逃がしてくれる…訳ないよね」
「もちろん、言った筈よね その娘から離れなさいって」
「そう?覚えてないよ…」

言いながら構えるひとみ
今の今現れた敵にすでに戦闘態勢に入っている

(簡単に捕まる訳にはいかないんだよね…)
「言っとくけど、なんて言われようとあたしは梨華ちゃんに文書を見せるよ
 約束したんだか…」
296 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月03日(月)05時49分32秒


「…ひとみ」



圭と亜衣の後ろから何度も何度も聞いた少し幼い高い声
その姿に視点を合わせる前に名前を呼んでいた


「…亜弥?」
「ひとみ…!」
「!!」

迷わずひとみの胸に飛び込んできた亜弥
声を殺して泣き出している
背中に痛いほど爪が食い込み、ひとみは顔をしかめる
しかし亜弥の顔を見ているとどうにもできなかった

抱き締めようと腕を回そうとする
その時梨華と目が合った


「!……」
(あ…)


すぐに目を逸らされた
何故かそこでひとみは腕をとめ、力を抜いた

抱き締める事も振りほどく事もしないまま、ひとみは亜弥にされるがままになっていた

297 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月03日(月)05時50分55秒




そんなひとみたちを尻目に、圭はくるっと後に向き直し歩き出した
圭の行動に?のひとみ

「来なさい“蒼龍”と一緒に、祐ちゃんが呼んでる」
「中澤さんが…?」

思いっきり不信の念を抱く
当然だ、自分ひとりならまだしもあれほど殺せ殺せと豪語していた梨華と話をするなど前代未聞の出来事だ

「とりあえずついて来なさい、何もしないから今の所は」



圭の言葉に納得はいかないが、ここで反抗するのは正しい選択ではないと思い
ついて行くことにした

「行こ…」
「…ぅん」
「ほら…亜弥も」

亜弥の肩を優しく掴んで体を離そうとする
しかし亜弥はますます強くしがみ付いてきた

「嫌…!離れないで!!」

「…亜弥」
「…………」

仕方なくひとみは亜弥の肩を抱いて裕子の元へ向かった
その間、複雑な思いの梨華はひとみたちの後から二人のことをただ無言で見つめているだけだった




298 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月03日(月)05時54分33秒
>>292梨華っちさいこ〜さん
 誰なのかは…次の次くらいの更新で明らかになります。

299 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月03日(月)09時46分03秒
「祐」ちゃんの誤字が、少し気になったのですが・・・
間違い易いですからね。
やぐちゅーに、期待してます。
でも、痛そうな予感。
300 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年06月04日(火)08時00分38秒
姐さんからの呼び出し…もしかしたら核心に近づくのか?
やぐちゅーのエピソードなんかも聞けるのかな…?

300ゲトズザザー
301 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時12分47秒






――――――コンコン

「裕ちゃん、入るよ?」

――――――カチャ

有無を聞かずにさっさとドアを開ける



「ちょっと待てや!いいゆうてから開けるやろフツー!!」
「いいでしょ別に、それより連れて来たよ二人とも」

「ほら、中入り」
「あ、あぁ…」
「亜弥も一旦ひとみから離れなさい」

離れたがらなかった亜弥であったが、ギュッとひとみの腕を強く握ると静かに手を離した
ひとみは亜衣に後押しされて渋々、梨華と裕子の書斎へ足を踏み入れる
小さい頃記憶していた匂いがなんだか懐かしい気がした
302 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時13分21秒

部屋の中は高そうな家具で統一されている
人間国宝がこしらえたという一つ何十万もする大きな壷が、ひとみたちを緊張させるのに十分だった


革張りのソファーで踏ん反りがえる裕子
偉そうに足を組み、コーヒーなんかを口にしている

「よぉ来たな」
「来たくなかったです」
「言うようになったな、アンタも」

警戒は解かない、いつどこから弾が飛んでくるかも分からない
裕子とある程度距離をおいて立ち止まった

「文書はどこにあるんですか」
「それも分からずに忍び込んでくるとはな…さすがや」
「質問に答えてください」

ひとみはまったく裕子の話など聞く気がなかった
これ以上関与していれば、あとでどうなるか分からないというひとみの苦肉の策だった
303 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時13分55秒

しかしそんなひとみを遮り、裕子は話を進める



「これだけ言わせてや、アタシはあんたらを殺そうとしとった
 これはウソやないで、ほんまのことや」
「…分かってます、だから逃げてるんです」
「そぉか、そんならええか?文書は見せたる、せやから明日帰るんや」

最後の一言を梨華に向かって、落ち着いた口調で言い放つ

「あんたらは一緒にいたらアカン、絶対に…絶対に」

何も言えない梨華の代わりにひとみが答える

「どうしてなんですか、どういう事なんですか?」
「どうしても何も…“蒼龍”と“白虎”が仲良く一緒にいられる訳ないやろ」
「確かにそうですけど、でもそれだけじゃないでしょう?
 他に何があるっていうんですか!?」





「アンタは言うとおりしたらええんや!!黙っとき!!」

「!!…」


裕子の一括にひとみは勝てず、そのまま口を噤む
周りにいた者も一瞬言葉を失った
304 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時14分26秒


スッと裕子が立ち上がり仕事机の上に置いてある古ぼけた一冊の巻物を手にした

ひとみの胸にそれを突きつける


「これがその古文書や」
「…!!」
「読んでみ、その娘のことも書いてあんで」

巻物をひとみに渡し顎で梨華を指す


「いいんですか…中澤さん」
「あぁ…ええからはよ読んでみ」
「…ひとみちゃん」
「…開くよ」


梨華はひどく緊張した
この巻物の中に自分の出生の秘密が書かれている…かもしれない
もし何も書かれていなければ待っているのは死

そんな梨華とは裏腹に、ひとみは構わず一気に文書を開いた



「…『“白虎”に命ず、“蒼龍”を葬るべし』」
305 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時14分56秒

古代文字で書かれている文面を読み上げる
巻物は古すぎて読みづらいものであったが淡々と途切れることなく読み続ける


「『“蒼龍”鬼の長、鬼門を統べる為いつ何時にも蘇りそれが絶える事は無い
 “白虎”に命ず、“蒼龍”を葬るべし
 “蒼龍”が蘇りし時、それは鬼門の復活を意味する』」


“蒼龍”の名前が出る度、梨華は鼓動を高鳴らせる
今更ながら不安の色を見出した

(人間になる為の方法…本当にあるの…?)


「『東に“蒼龍”西に“白虎”北に“玄武”南に“朱雀”
 これ鬼門に属する鬼の一族なり
 しかし我が家、他家に疎まれし家なり
 いつの頃からか我家に怪しき血が生まれり
306 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時15分30秒



 我家、他家と交わると彼の者の力失せり』」






「え…?」

顔を上げる
今の言葉が頭の中でぐるぐる回る

『彼の物の力失せり』


「力失せり…っていうことは、“蒼龍”としての力を無くせられるって事?」
「…ぅん、多分そういう事だと思う…」
「……!!」

思わずその場にへたり込んだ
手で顔を覆う、自然に涙が溢れてくる

(あった…人間になれる方法…よかった…!!)

「よかった…ひとみちゃん、あったよ…!」
「…ぅ…うん…」
「おいおい、嬉がっとる場合やないで、その方法アンタわかっとんのか?」
「え…?あ、『交わる』だっけ…」
「…意味わかるか?」

梨華の顔を覗き込み聞いてくる裕子

「えっと…交わる…、彼の物と我家…交わる…交わ……!?」
「分かったらしいな」


見る見るうちに顔が真っ赤になっていく

(え…ま、交わるって…その、アレだよね…その)




307 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時16分08秒



「西家の奴とアンタが寝ればええんや、そうすりゃ“蒼龍”としての力は消える」














「ふぅ…」


あれから梨華は客用の寝室に連れて来られた
適当な西家の男をつれて来るまでここに泊まる事になった

『西家の男いうてもそんな簡単にホイホイ差し出すわけにいかへん
 まぁ最終的には人間にはしたるさかい、安心しぃな
 それまではアタシらの監視下にいてもらう』


障子を開ければ和風の庭、なんだか新鮮で心地良い
小さな池の中で跳ね上がる鯉を見ながら、縁側で一息ついていた
308 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時21分21秒
>>299名無し読者さん
 ぐぅあああ〜!!また間違えてるぅ〜!!
 すいません…、ご報告ありがとうございます。

>>300梨華っちさいこ〜さん
 はい、もうそろそろ話の本題に。
 裕ちゃん&やぐっちゃんの過去はまだ少し後です。
309 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月05日(水)17時21分58秒
中途ハンパに切ってますが…更新終了っす。
310 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年06月05日(水)22時10分14秒
別な意味でハラハラしちゃう展開っス。
311 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月10日(月)19時21分46秒
目が離せないです。
続き、楽しみにしてます。
312 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月15日(土)19時14分58秒



(あんなこと…いきなり言われても…)

嫌に決まっている
誰か特別な人がいるわけではないが、多分会ったこともないであろう見知らぬ男に抱かれるなんて

「もぅ…なんなのよ、あの人たちは勝手に話進めていってるし
 私だってその辺は…その…ちゃんとした…人と…」






「ちゃんとした人と…何?」
「えっ!?」
「ご飯持ってきたけど…」

黒いお膳に豪華な和風料理をいくつものせてやってきたひとみ
白飯、味噌汁、刺身、漬物、煮物、卵焼きとたくさんの皿がのっかっていて見た目は重そうだが、ひとみはそれを軽々と片手で運んできた

「はい、冷めないうちに食べなよ」
「あ…りがと」
「どういたしまして」
313 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月15日(土)19時15分31秒


縁側から部屋の中へ移動しテーブルの上に置かれた料理の目の前に正座した
両手を合わせ「いただきます…」と小さく言うと、最初はさっぱりとした漬物に手をつけることにした


「よかったね」
「え?」
「…人間になる方法が見つかって」
「…ぅん、そうだね…」


本来なら死ぬほど嬉しい、しかし今梨華はそんな気分にはなっていない


「あんまり嬉しそうじゃないね」
「嬉しいよ…嬉しいけど」
「けど?」
「…………」
「ゴメン…ヘンなこと聞いた、そうだよね」


男と寝る、そうすれば“蒼龍”の力は失われ、平凡な普通の生活に戻れる
ただそこまで辿り着くまでの過程に梨華は困惑していた

314 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月15日(土)19時16分08秒

「…そういうのは好きな人と…したいよね」


梨華が今一番気にしている事を聞き、反省しているのだろうか
ひとみの声のトーンは暗かった



「ひとみちゃんは…いいね、ちゃんと好きな人が居て…」
「え?」
「あ、変な意味じゃないの
ホントに好きで付き合ってる人がいてうらやましいな…って、私誰かと付き合ったこと全然ないから」


きょとんとしているひとみ

「あたし…言ったっけ?誰か好きな人いるとか…」
「え…だって首に……あ!」
「首?」


時すでに遅し、ズボンのポケットから小さな鏡を取り出し自分の首を確かめる
315 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月15日(土)19時16分41秒

「あ…キスマーク」

昨日と比べると少し消えかかっていたがまだ目には見える


「ごめんなさい…」
「いいよ、でもこれいつ頃見つけた?」
「…昨日車に乗ってるとき…」
「あぁ、襟めくってた時ね…」





「…あたし梨華ちゃんが言ってるような、キレイな人間じゃないから」


思いつめたように呟いた
暗かった表情がますます暗くなる
316 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月15日(土)19時17分17秒

「え…?」
「…亜弥、分かる?」
「あ…肩ぐらいの髪の毛で、…さっきひとみちゃんに抱きついてた…」

言葉が出ない、自然に唇が重くなってくる

「そう」
「その子がどうしたの?」


「これつけたの、亜弥なんだ」

と言いながら首筋のキスマークを指差した
その時、何故か胸が苦しくなる
317 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月15日(土)19時17分48秒

「…そぅ、なんだ…」
「でも…あたしは別に亜弥の事が好きなんじゃない」
「え…」
「誰でもよかったんだ、あたしを必要としてくれる人なら」

襟を整えながら静かに話す
その瞳の中には少し悲しみを宿していた

「最低でしょ?こんな…誰とでも寝るやつ…自分の弱いところを認めようと
 しないで…ただ逃げてるだけ…」
「…………」

なんて言っていいのか分からない
励ましの言葉も、叱咤の言葉も、梨華には思いつかなかった
泣きそうなその顔を胸に収めるしかできなかった
力強くひとみを抱き締めた
318 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月15日(土)19時18分18秒


「梨華ちゃん…」


梨華はただ黙ってひとみを抱き締めていた
初めて見せたひとみの弱さに内心嬉しいとも感じる
ひとみも梨華の胸に顔を埋めてされるがままになっていた

いつまでそうしていたのだろうか、ひとみはゆっくりと顔を上げて梨華の瞳をみつめた

「梨華ちゃん…」
「…なぁに?」
「こんなこと…言っても信じてもらえないだろうけど、あたし…梨華ちゃんのこと好きだ」
319 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月15日(土)19時24分23秒
>>310梨華っちさいこ〜さん
 コレ書いてる自分も別の意味でハラハラっす。(w

>>311ごまべーぐるさん
 ありがとうございます。なるべく更新はしていきたいと思ってるのですが…。(汗
320 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月15日(土)20時52分29秒
ますます目が離せません。
期待sage
321 名前:吉澤ひと休み 投稿日:2002年06月16日(日)22時11分39秒
(・∀・)イイ!
期待してます!また〜りがんがってくださいな。
322 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月22日(土)07時07分19秒

「え…!?」

二人は見詰め合ったまま制止した
ひとみの表情は真剣そのもので、「冗談ばっかり」と笑って誤魔化すことなどできなかった

そして、今度は梨華がひとみに抱き締められる体勢になった

「ゴメン…いきなりこんなこと言って、だけどウソじゃない
 初めてなんだ、こんな気持ちに…なったの…
 人から必要とされるんじゃなくて自分が必要だと思う気持ちに…」
「ひとみちゃん…」

ポタッと肩に暖かい感触


ひとみは泣いていた
泣き叫ぶなどという風ではなく、ただ静かに涙していた
大きな瞳から大粒の雫が溢れてくる
323 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月22日(土)07時07分53秒


「ゴメン…梨華ちゃん、ゴメン…」

繰り返し繰り返し謝った
そんなひとみの背中に腕を回して、梨華はゆっくり口を開いた

「どうして…謝るの…?」
「…怖いんだ…自分から想いを伝えるっていうのが…
 もし、嫌われたら…って考えると、あたし…
 でもコレだけは梨華ちゃんに言いたかった…ちゃんと…」

それ以上は言わなかった
かわりに、抱き締める力が一層強くなる

「梨華ちゃんにとって必要ないならそれでいい…そう言って
 でも、あたしはホントに…ホント…に…っ!」
324 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月22日(土)07時08分24秒

梨華はひとみの口を塞いだ、自分の唇で
1秒にも満たない口づけだが、それはひとみを落ち着かせるのに十分すぎる方法だった

「梨…華ちゃん…?」
「…………」

仕掛けた本人が一番動揺して何も言えなくなってしまった
そもそもキスするという事自体、梨華は初めてだった
ファースト・キスをこんなにあっけなく終わらせてしまうなんて、自分で自分が驚きだった


「…ひとみちゃん言ったよね?必要としてくれるなら誰でもいい、って…」
「あ…ぅん」
325 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月22日(土)07時08分55秒


「…最低よね」
「……うん」

ひとみから顔をそむけて淡々と冷たい口調で話しはじめる梨華

「私そういう人って、どちらかというと…嫌い」
「…………」
「自分が勘違いしてるのに気付けないし、無理に付き合ってもらってるカンジがするし」
326 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月22日(土)07時09分32秒


「なのに何でだろうね、ひとみちゃんだけは…嫌いにならないよ」
「…梨華ちゃん」
「ひとみちゃんが必要だって、思うよ…」

梨華はゆっくり瞼を閉じた
見なくても分かる、お互いの顔が段々と近づいてくる








次の瞬間、二人の唇は重なりあっていた





327 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月22日(土)07時21分19秒
>>320ごまべーぐるさん
 こういうシリアス系って難しいですね。
 自分がお笑い系みたいなもんだから…。(w

>>321吉澤ひと休みさん
 ハロモニですね?それ見て大笑いしました、うち。
 ありがとうございます。なるべく更新は…したいです…。
328 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年06月22日(土)07時22分08秒
久しぶりです。申し訳ありませんが今月中は更新できない状況にあります。
普段からあまり更新してないのですが…。
読んでくださってる方本当にすいません。
329 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月23日(日)09時52分48秒
いや、萌えますた。この場面だけでもオナカいっぱいです(w
どうぞご無理なさらずマターリと…。テストもがんがってください。
330 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月25日(火)18時07分25秒
忙しそうですね。マターリ待っています。
331 名前:ミニマム矢口 投稿日:2002年06月27日(木)04時30分45秒
お〜〜オモシロイッス!
で・・・裕子さんと矢口さん気になる
勿論いしよし もね。(ごっちん は相変わらず影有りが似合う)

今後の展開に来たい。
332 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月30日(日)04時27分35秒
うはっ(吐血)
シリアスな中にある、ちょっとした甘さ…最高です。

更新、マターリとお待ちしていますよほ
333 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月22日(月)15時06分15秒
復活期待!保全しときます。
334 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月24日(水)01時55分04秒
マジで続きが気になりマス!
マターリ待ってますのでいつか更新を〜〜〜……
335 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時04分41秒




「ギャアアアアアッ!!!」



突如屋敷中に響いた断末魔のような悲鳴
慌てて唇を離した

「な、何っ?」

その時にはもう何も聞こえては無かった
しかし今のは幻聴などではない、おまけに恐怖を感じ取っている
その証拠に体中に鳥肌が立っている

「…誰か、誰かいないのか!?」

その声からただならぬ事態を瞬間的に察知したひとみは見張りの者を呼びつけた
しかし辺りはシーンと静まり返り、誰かの気配も無い
ただ二人の元に近づいてくる気配はあった
が、それは殺気に満ち満ちていた
336 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時05分31秒



―――――――ボウッ



「っ!?」

その時ひとみの体に黒い炎が燃え上がった
いくら振りほどいてもいっこうに消えはしない

「ひとみちゃん!!」
「つっ…誰だっ!?」

梨華が近づくと炎は一瞬で消えた


「危ないだろう」
「「!?」」

庭から見知らぬ女性の声



「迎えにきた“蒼龍”」

いつの間にやら庭には一つのシルエット
少しづつ近づいてくるその影が姿を見せた時、梨華は絶句した



337 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時06分11秒

「あ…あ…!」
「…梨華ちゃん?」

ひとみが梨華の顔を覗き込むが、まったく話を聞いていない




「…紗、耶香さん…!」






「やぁ梨華」

にっこりと返す笑顔は親戚の紗耶香お姉さんそのものだった
ただ違うのは、頭にある角と白く輝く牙

「ここの奴ら、生気がマズイなぁ 一体何食ってんだか」
「ど…ゆこと…?何で、紗耶香さんがここに…?」
「あぁキチンと自己紹介してなかったね」

338 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時06分43秒

「あたしは鬼門、北家“玄武”の紗耶香、どうぞお見知りおきを“蒼龍”」

梨華に向かってペコリ、と一礼を返す

「なっ!?」
「う…そ、紗耶香さん、嘘でしょ…?ね…?」
「嘘には…ならないよ、梨華」

ヘタッとその場に座り込んでしまう
そんな梨華を尻目に紗耶香はその黒い瞳を、今度はひとみの方に向けた
紗耶香と目が合ったひとみは、背筋が凍るような感覚に襲われた
明らかに梨華を見ているときとは違う、瞳の奥に殺気と感じ取れるものが潜んでいたからだ

負けてはいけないと逸らさずにらみ合っていたところに、


339 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時07分13秒



「いちーちゃん、終わったよ」
「おぅ!ごくろーさん、お前もうこっち来ていいよ」

遠くからする声に、梨華は耳を疑った
これ以上認めたくない出来事が起こるのを予期した
紗耶香に呼ばれ現れたその少女
ストレートの綺麗な茶髪、その上部に生えた角

「やっほ、梨華ちゃん」

信じられない、信じたくない

340 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時07分43秒




「真希ちゃん…!」





間違いなかった
突然の転校生、一日で仲良くなり遅くまで居残ってしたおしゃべり
その時の話し方、仕草全てが一致していた


「そんな…!真希ちゃ…」


「なかなかいい名前だろ?あたしがつけてやったんだよ」
「え…?」

何を言っているのか分からない、という表情の梨華に真希と紗耶香は顔を見合わせそしてまた視線を戻す

「真希ってのは『今』のこいつの名前」
「ひどいなぁ、あたしのこと忘れちゃったんだ、羅喉姉さん」


「羅喉…姉さん?」




「あたしの前の名前は『計都』あなたの妹だよ、梨華ちゃん」
「!?」




(妹―――――!?)

341 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時08分13秒

「そうか、まだ記憶が戻ってないんだな
 なら説明してやろう」

そう言って紗耶香はおもむろに口を開いた





「数百年も昔、この世は鬼門の支配下にあった
 人は鬼の食料としてのみ存在し、生き長らえた
 鬼門は、北家・南家・西家・東家の四つに分かれそれぞれ役割を持っている
 何年も何年も、そうやって生きてきたんだ」

落ち着いた口調でゆったりと話し始める
その目は優しく、小さい頃から知っていた紗耶香の瞳だった

 
「しかしある時、この鬼門の世界に破滅が訪れた」

声のトーンを下げ、瞳をひとみの方に向け睨みつけた
342 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時08分44秒

「西家のやつらがあろうことか、人間と恋におち、駆け落ち逃げさった
 やつらは人間たちを守るため、残った鬼門をあらかた殺した
 当時西家の力は鬼門の中でも1・2を争うほどの強さだったから
 西家以外の鬼門のやつらはほとんど死を迎えた

 そして西家のやつらは、最後に鬼門の破壊を試みた

 やつらが狙ったのは鬼門の筆頭
 鬼門を統一していた―――――東家の長“蒼龍”
 
 我々はいつの日か鬼門の再興を願い、“蒼龍”を西家のやつらの目が
 届かない所へ封印した
 



 それが『羅喉女王』


 あたしたちは待ち続けた
 いつか“蒼龍”の封印が解かれ、再び鬼門が蘇える事を



 梨華、お前の本当の名前は『羅喉』西家の筆頭、鬼門の長“蒼龍”
 そしてこいつ――――真希はその妹である『計都』」
 
「思い出した?『姉さん』」

343 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時09分17秒



ようやく知った自分の真実
梨華は何も言えないままそこで放心していた



「それだけ分かれば十分だろう?さぁ、あたしたちと一緒に戻ろう
 鬼門のやつ等が待って…」

柔らかく笑って梨華に手を差し伸べる紗耶香
しかしそれをひとみが払いのける

「…何する」
「梨華ちゃんは帰らない、…帰らせない」

「どけろ、梨華は鬼門にとって大切な役割を持っている
 それを邪魔するなら容赦はしない」

そう言われてもひとみはそこから動こうとはしなかった

344 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時09分50秒

「言っとくがあたしと真希が同時にあんたに飛び掛ればあんたに勝ち目はない
 ましてや、梨華に助けを求めようとも今の梨華の力はまだあたしたちには及ばない」
「…ならどうして梨華ちゃんが鬼門につかなきゃならない?
 妹のその子でもいいんじゃないの?」

顎で真希を指して軽く睨みつける

「それができりゃ、とっくにやってるさ」
「? どうゆう…」





345 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時10分21秒





「よっさん!!無事かっ!?」


ひとみが言いかけたとき、裕子が慌てて部屋に乗り込んできた
その服は汗と血にまみれ変色していた

「中澤さん!?」

裕子の方に目をやる
それと同時に紗耶香も顔を向けるが返ってきたのは意外な言葉


「へぇ…どっかで見た顔だね、確か何十年か前に…」
「!?あんたは…!」

裕子も紗耶香の顔を見るなり目を丸くする
紗耶香はクスッと笑った

「西家のやつらは何年経とうと変わりはしないね」

346 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時10分53秒


笑顔になったかと思うと表情を一変させ、今度は冷たく目を細めひとみを指差した

「同じ過ちを次の世代にまで繰り返したくはないだろ?裕子」
「!?」

それだけで裕子は紗耶香の言葉を理解したらしく、
ひとみに詰め寄った
ひとみもそんな裕子の心情を察知して、少しためらってはいたが決心した


「ごめん…中澤さん」
「よっさん、アンタ…あれほど“蒼龍”に深入りするな言うたやろ!!」
「…ごめん、でもあたし…梨華ちゃんの事…」
「なんでや…、なんでなんや…!」
「…中澤…さん?」

ひとみの肩にうな垂れている裕子は、怒りというよりは悲しみ嘆いているようだった

347 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時11分24秒




「いちーちゃん、いいの?」
「気が変わった
 “白虎”のひとみ、そいつから話を聞いてみな
 おもしろいことになりそうだよ…」

そうして紗耶香は裕子を指差し、真希と共に軽々と塀を飛び越え去っていった




348 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時18分50秒
>>329ごまべーぐるさん
 本当にすいませんです。マターリしすぎてしまいました…。

>>330よすこ大好き読者さん
 こちらもまたまた…マターリしすぎてしまい、すいません。(ぺこり

>>331ミニマム矢口さん
 やぐちゅ〜・いしよし・いちごまでござります。王道ばかり…。
 期待ありがとうございます。

>>332名無し読者さん
 こちらもまたまたまた…マターリ(r

>>333名無し読者さん
 保全、非常に嬉しいです。ありがとうございます!

>>334名無し読者さん
 いや、ホントに申し訳ないです。やっと更新できますた。。。
349 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月25日(木)17時20分36秒
皆様、お待ちいただいてくださった方々、ありがとうございます。
長すぎました、休暇期間が…(オイ
これからはなんとか更新していきます。放置はいたしませんので…。
350 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)01時47分49秒
おお、久しぶり!役者がそろったって感じ?
更に面白くなりそうですね
351 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時43分09秒







「だから!一体何が起こったのかちゃんと教えて言うてんの!!」

ぷうっと頬を膨らませ、周りの大人たちに必死で講義する亜衣
バンッとテーブルを叩く音が響く

「あたしが子供やから言うてなんも分からんと思ったら大間違いやで!!」
「亜衣ちゃん…ちょっと落ち着いて」
「亜弥ちゃんかて気になるやろ!?よっすぃ〜も巻き込まれてるんやで!」

止めに入った亜弥にまで火の粉を撒き散らす
こうなってしまっては簡単に亜衣の怒りは収まらない


352 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時43分41秒

「亜衣少し静かにしな」
「オバちゃん!いつまであたしらを子ども扱いすんねん!!」

―――――ゴンッ!!!

「オバちゃんって言うなっつの…」
「んぐううううぅぅ…」


真剣な話の最中に、いつもと変わらぬ姉妹達に苦笑いのひとみ
梨華もそんなやりとりを見ていると冷や汗が出てくる

その空気をいい加減破ろうと、ひとみは裕子に問う
353 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時44分12秒


「あの…中澤さん…あいつが言ってた事、教えてください」
「…紗耶香か…せやな」
「何なんですか?一体…」

裕子はひとみの目を見つめしばらく何も言わずにそうしていた
しかし、ほぅ、と一つため息をつくと今度は梨華を見た

「ひとみ…もぅ変わらんのか?あんた、この娘の事…」
「はい」

間もなくひとみは答えた
その中に偽りではない本気の想いが窺える


354 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時44分47秒


「あたしは…梨華ちゃんが好きです」
「…ひとみ!」

ひとみの決心の言葉に、いち早く反応したのは亜弥だった

「ごめん亜弥、あたしは…」
「…そんな…」

ひとみの言葉も聞かず、亜弥はその場に泣き崩れた
亜衣はなんだか状況を把握していないようだが、そこにいる全員はとりあえず
無視する事にした



「その気持ちは…変わらんのやな?」
「はい」

「そうか…」

力強いひとみの答えに裕子は落胆した
しかしそれと同時にどこかしら微笑んでいるようにも見える

「あんたはアタシそっくりやな」


355 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時45分18秒



「17年前のアタシに…」
「えっ…!?」


17年前と言えば自分はまだ生まれていないか、生まれたばかりかのどちらか
当の裕子は12歳、小学生の頃の筈だ
そんな小さな頃に裕子は何があったというのか

「中澤さん…どういう…」
「その前に…コレ見てみ」

裕子は皆に見えるように、テーブルの中心に1枚の古い写真を置いた

そこには今と変わらぬ裕子と、小柄な金髪の少女の姿があった

356 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時45分52秒


「これが…何か…」
「17年前のアタシの写真や」
「えっ!?」

ひとみはひどく困惑した
17年前とまったく変わっていない裕子の姿
もう一度よく確かめてみるが、これはまぎれもなく裕子本人の写真だ

「アタシは歳を取らん」
「不老不死…?」
「少しちゃうわ言い方が悪かったな、年を取るのが遅いだけでアタシかて首ち
 ょん切られたらやっぱ死ぬわ」

「な…なんやねん!うちさっぱり訳分からんわ!!」


戸惑う亜衣に裕子は思いつめたようにゆっくりと話し出した

「その写真に一緒に写ってるちっこいのが矢口、…アタシの恋人や」

357 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時46分23秒



「矢口は…先代“蒼龍”やったんや」
「「!?」」

ひとみと梨華は顔を見合わせる

「“蒼龍”の後継ぎは血が繋がっとるとは限らんのや
 “蒼龍”が死んでしまえばその生気はあるどこかの子供に受け継がれていく
 そしてその生気を取り込み、生まれた子供が新たな“蒼龍”となる」
「…じゃあその17年前っていう数字は」

ひとみは梨華に視線を合わせる


「私の…生まれた年…」
「そういう事や、矢口の次に“蒼龍”の力を受け継いだんが梨華なんや」

358 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時46分54秒



「どうして…どうして言ってくれなかったんですか!?」
「…アタシと同じ目に合わせたくなかったんや
 アタシと…矢口みたいな目にな…」

裕子の説明に思考がまとまらないひとみに、圭が落ち着いた口調で
説明し始めた

「ひとみよく考えて、梨華さんが“蒼龍”の力を受け継いでいるという
 事は、その矢口さんは…」

「…死んだ?」

「そうよ」



「話たるわ、17年前に起きた事…」






359 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年07月28日(日)11時48分45秒
>>350名無し読者さん
 これからドンドン出してこうと思います。
 面白く書けたらいいなぁ…(メチャ願望)
360 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月12日(月)02時09分22秒
一気に読まさせていただきました!
すんげぇ面白いです(^0^)
続き期待して待ってまーす!
361 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月24日(土)05時29分11秒
まだかなぁ…
362 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月01日(日)01時23分25秒
マチ。
363 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年09月08日(日)20時19分12秒



17年前…アタシは今のひとみと同じ、“白虎”として“蒼龍”を打ち倒すた
め、財閥の力で日本中を探し回っていたんや
金に物を言わせてありとあらゆる情報を思いのままに操ってた

『裕子様、西の方には“蒼龍”の情報はありませんでした』
『裕子様、東の方にも“蒼龍”の情報は…』

あたしはうんざりやった
毎日毎日おんなじことやらされて、友達なんて言えるもんも少ないし、まして
や好きな奴とか恋人とか、作り方も分からへんかった
狭っ苦しい部屋ん中で、同じような事ばっかして…つまらんかった

364 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年09月08日(日)20時19分51秒


繰り返される生活に飽き飽きしとった、そんな時やった

『北西の方角に多大な生気が発見されました!』
『よし!今すぐそこへ向かうぞ!!』
『裕子様!お支度を!』

“蒼龍”らしいでっかい力の生気が感じ取られたらしく、その当時“白虎”で
あったアタシはそういうんが見つかればすぐさま現場に送られた




『この辺りですね』
『ホンマにいるんか?こんな都会のど真ん中で』
『裕子様、お静かに』

あたしは信じとらんかった
何回もこういう事がたくさんあったからな
“蒼龍”らしい生気が見つかったとかなん十回も聞かされ続けてな、耳にタコができたわ

でも、この時はホンマのことやったんや



『あの娘らしいです』

部下が街中を歩いとる一人の娘に目ぇつけた



それが矢口やった――――――――


365 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年09月08日(日)20時20分21秒


『氏名・矢口真里、19歳普通の女子大生です』

ちっこいくせして金髪で、なんや派手なねーちゃんやな、て思てたわ

『どーせまたハズレやろ、さっさと確かめてはよ帰ろ』

ひねくれてたわ、アタシも
始めっから決め付けてたんや



アタシはまず矢口に近づく必要があった
大学の教授らに暗示かけて、新しく入った助教授として潜入した
矢口は懐いてくれた
普通に呼ぶのつまらんから言うて、『裕ちゃん』なんて呼んできたりしてな
その距離もだんだん近づいて、よく話かけてくるしアタシも話し返した
ガッコの先生をやった事ある訳やないけど、ホントの教え子みたいに感じて
楽しかったわ

その娘が“蒼龍”なんて、まったく気になっとらんかった
のめり込みすぎたんやわ
366 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年09月08日(日)20時20分57秒


『裕ちゃん、コレわかんないよー!』
『アンタ真面目に講義聞いとらんかったからやろ!!』
『だって眠いんだもん、仕方ないじゃん』
『寝とったんかい!!』


でもそれがいけなかったんや




『裕ちゃん』


あの声で呼ばれる度






『裕ちゃんってば』


あの笑った顔で見つめられる度






『裕ちゃん』


アタシは矢口に惹かれていった



367 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年09月08日(日)20時21分33秒


>>360名無し読者さん
 そんなぁ…こんなあいまいな作者に…嬉しいっす!

>>361名無し読者さん
 おまたせすぎました。(ワケワカラン

>>362名無しさん
 感謝!!


びっくりしました。とっくに放置されてるかなと思ってたので…
こんなに待たせておいてコレだけの更新とは…情けないです、ハイ…
そのうち紫板の方も更新いたします
368 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月08日(日)22時38分22秒
久々の更新、楽しく読ませていただきました〜。
また、マターリお待ちしております〜。
369 名前:360 投稿日:2002年09月10日(火)12時07分12秒
ヤッタ−!作者さん復活(^0^)
楽しみに待ってまーす!いつまでも(w
370 名前:名無し読者の一人 投稿日:2002年10月10日(木)01時30分30秒
私待ちますわ
371 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年10月19日(土)13時14分41秒

アタシらが恋人っちゅう関係になるまで、そう時間はかからんかった
矢口もアタシの事好きや言うてくれて、ほぼ毎日一緒に居た


そんなアタシの心情に気ぃついたんかついとらんかったのか知らんけど、
周りの人間はいい顔はせぇへんかった
そらそうやろな、西家の長“白虎”が作戦実行もせんでぬくぬくと普通の
大学教授やっとったんやからな



それにアタシはまだその時、矢口が“蒼龍”とは思えんかった




『どしたの裕ちゃん?ポーっとして』
『ん…あぁ、なんでもあらへん…それよりアンタこの公式解けたんか?』
『ぶー…ちょっと待ってってば』
『もう20分待っとるわ』


いつ力が目覚めるか分からんからな、ほとんど近くにいた
講義中はモチロン、昼食時間も帰った後も
でもいつになっても矢口は、力どころかその生気さえも感じさせんかった

アタシは、正直ホッとした
矢口が“蒼龍”ではない事に
この幸せな時間がずっと続くと思ってたから

372 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年10月19日(土)13時16分07秒


せやけど、世の中そんなに甘くないな
ある日、アタシは矢口と一緒に出かけるところやった
確か…どっか近くのレストランやったか……ま、そんな事はいいんや
夜に二人で車に乗っとった

外は暗くてな、何も見えへんかった
そんな時、車に何かぶつかったんや
なんや猫でも引いてもうたんかと思て車から降りた、矢口も一緒に



でもな、そこに居たのは猫やあらへんかった
ましてやそいつを引いてしもた訳でもない

あいつがいたんや、あたしらの前に




『迎えに来た、“蒼龍”』



373 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年10月19日(土)13時17分06秒

梨華は背中に汗が流れるのを感じた
言わなくても分かる、その言葉、その人物
自分に向けられたものと全く同じ
裕子が話している、その時のその現状が思い浮かぶ様だった

あの冷たい黒い瞳で薄笑いを浮かべ、ゆっくりこちらに差し伸べるあの手


そして裕子はさらに話を続けた


374 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年10月19日(土)13時18分02秒


――――アタシは最初、西家の者が耐え切れずに使者をよこしたと思た

『…矢口、車に乗れ』
『え…裕ちゃん?』
『乗っとれ!』

西家の者やったらアタシにかなう者はいなかった
アタシ一人で何とかできると思ってた
紗耶香がどんな奴かも知らんかったし

『アタシにかなう思てんのか?』
『“蒼龍”を迎えに来たと言ったろう』
『…それはあかんな、アタシはまだ何の命令も出してない』
『オマエの命令なんて知ったこっちゃない』
『あんた…西家の者ちゃうのか…?』
『………』
『まぁどっちでも構わん…矢口は渡さん』



その瞬間やった
アタシは体の自由がきかなくなった
375 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年10月19日(土)13時18分49秒



―――――――――


「ここで一つ…紗耶香の能力はマインドコントロールや」
「マインドコントロール…?精神制御?」
「そうや、相手に思うままの感覚を与え、自分の思うままに操れる」
「それが…北家の能力…」


――――――…



その間、紗耶香は矢口にもその力を施した
矢口の中に眠っていた“蒼龍”の力を無理やり引き起こさせた

『やあぁぁっ!離してぇっ!!』
『無駄だ…ただの人間があたしから逃げられる訳が無い
 まぁ、“蒼龍”としての力が目覚めれば…話は別だが…』


そして…アタシの目の前で矢口は“蒼龍”と化した



376 名前:だしまきたまご 投稿日:2002年10月19日(土)13時19分34秒


>>368さん
 やっとこさ、更新しました…少しだけ。

>>369さん
 またふっか―――――つ!!(w

>>370さん
 お待ちいただいて光栄ですわ(w
377 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)01時15分57秒
更新キテタ━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!!
待ちに待ってました!
それにしても市井、2人相手にすげぇ・・・

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