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セルロイドエイジ
- 1 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月09日(火)23時23分45秒
- 元ネタは同名の漫画から。
話の内容自体は結構違うのでご了承ください。
基本CPはいしよし予定です。
かなり遅い更新になると思われますが、頑張って書きますので
よろしくお願いします。
- 2 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月09日(火)23時24分33秒
少女は走っていた。
全速力で。
心臓破りのペースを一向に落とすことなく。
「……なんで……っ!!」
口の中がカラカラに渇き、息をするにも不快感がこみ上げる。
こんなに泣いているのに、汗と涙の区別がつかない。
「何で、こんなことに……」
路上駐車してある車のフロントガラスに映った自分の姿を見て、
絶望したように呟いた。
あの時の少女の言葉が頭の中でこだまする。
- 3 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月09日(火)23時25分49秒
『セルロイドエイジってゆーんだよ』
夢なら覚めて……
- 4 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月11日(木)06時54分28秒
- 期待してます。
- 5 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月14日(日)22時38分02秒
- --1--
「梨華ちゃん、日曜日どうする?どっか行きたいとこある?」
「ん〜とね〜……ひとみちゃんが行きたいとこ行こうよ。いっつも
私に合わせてるじゃない」
週末の帰り道。私は可愛い彼女と一緒に下校していた。
二人で過ごす休日の予定を立てながら笑い合っている、ごく普通の学生だった。
「だったら、久しぶりに海に行こうか。電車にでも乗ってゆっくり行こう」
「じゃ、10時に駅で待ち合わせね」
- 6 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月14日(日)22時40分20秒
- そう。
約束もして、日曜日になればデートするはずだったんだ。
いつものように人目をはばかりキスをして梨華ちゃんが家に入っていくのを
見届ける。
少女に出会ったのは、その直後だった。
「あなたは石川梨華の恋人?」
喋り方が子どもらしくない事に違和感を覚えたがそれ以上に
初対面の小学生にイキナリそんな質問をされるとは考えてもいなかったので
私は目を丸くした。
「……違うの?」
あどけない表情で答えを要求してくる。
「いや、恋人だよ。君は梨華ちゃんの親戚か何か?」
- 7 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月14日(日)22時40分53秒
- 「なっちは…梨華ちゃんの保護者だった」
「えっと……梨華ちゃんが君の保護者って言いたいのかな?」
「ちがうさ。なっちが梨華ちゃんの元保護者だったんだべ」
耳を疑った。
梨華ちゃんの親は彼女が幼い時に亡くなっていると聞いていたし、
その後、引き取ってくれた人は4年前に失踪してしまったらしい。
「悪い冗談だ。ほら、早く家に帰りなさいって。お母さんが心配するよ」
- 8 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月14日(日)22時41分25秒
- 「心配する人なんていないべ。なっちは……いないから」
悲しそうに呟くその横顔は確かに10歳くらいの子どもなのに
どこか疲れきった大人の顔に見えた。
「……いない?」
眉を寄せて怪訝そうな顔をすると、少女は苦しそうな顔で声を絞り出した。
「……セルロイドエイジってゆーんだよ」
まっすぐな澄んだ瞳で私を見据えてそう言い残した少女はくるりと
踵を返して駆けていった。
(セルロイドエイジ?……変な娘だな……)
そのときから、全てが始まったのかもしれない。
運命の歯車が錆び付いた音を立てて廻りだしたのが聞こえてきた気がした。
- 9 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月14日(日)22時45分09秒
- 短いですが、本日はここまで。
>4
期待はずれにならないよう頑張ります。
初めに書き忘れてましたが、一応今回は基本的にsage進行で書いていきます。
- 10 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月15日(月)20時53分40秒
- --2--
「ねぇ、またいるよ、あの娘」
「誰かと待ち合わせてんのかな」
日曜日になるたびに、いつもその人は駅にいた。
余所行きの格好で、女の子らしいおめかしをして恋人でも待っているかのように。
しかし、彼女の待ち人が現れたところを見た人は一人もいない。
- 11 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月15日(月)20時59分55秒
- 「それにしても、“あの娘”って、私らより年上でしょ」
「気にしなーい。なんかね、恋人が突然連絡も無しに消えちゃったらしいよ。
で、その前にここで待ち合わせの約束してたからずっと待ってんだってさ」
「……へえ……あんな可愛い人を置いてどっか行くなんて、
馬鹿なヤツもいるもんだね」
私なら、絶対に手放さない。
きっと何が何でも側にいると思う。
取り残して何も言わずにいなくなるなんて本当に信じられない。
しかも、彼女に愛されてるというのにだ。
その後の連絡も無いなんて、酷すぎるんじゃないだろうか。
彼女への同情よりもその相手に激しい嫉妬心を抱いた。
- 12 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月15日(月)21時00分45秒
- 「麻琴ちゃん……ごめんけど、ちょっと先に行っててくれるかな」
「うん、OK〜」
ニマニマとした笑顔で手を振って改札口へと向かっていく。
一人になった私は素早くベンチに腰掛けている彼女の元へと歩いていった。
警戒されないように心がけながら笑いかける。
「こんにちは。隣、いいですか?」
「あ、どうぞ」
控えめな笑顔で答えるその人は、遠めで見たときよりも可愛かった。
- 13 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月15日(月)21時01分17秒
- 自分よりも年上なのに、威圧感が全くといって良いほど無い。
感じの良い人だった。
「あの、誰か待ってるんですか?」
「……なんで?」
「いつも人待ち顔でここにいるから」
「噂、知ってるでしょ?」
その人は「あれは真実なのよ」と自嘲気味に笑った。
- 14 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月15日(月)21時01分52秒
- 恋人を待っている、と。
今でも愛しているから。きっと相手も愛してくれているとわかっているから。
そう言った。
「なんで、そんな言い切れるんですか?だったら連絡くらい入れるはず
でしょう!?生きてるか死んでるかすらわかんないのに……――」
「どっちでもいい」
光を失ったような目をして、独り言のように小さく呟いた。
無気力とは違う、もっと別の何かを感じる。
「生死に関わらず、きっと来てくれるから。私は待つの」
- 15 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月15日(月)21時02分23秒
- 「……名前、なんていうんですか?」
「恋人の?吉澤、ひとみ……」
その名前を口にした瞬間が今までで一番綺麗な表情だと気付き、
私の嫉妬心はより一層大きく燃え上がった。
その為か、次の言葉は少し強い口調になってしまった。
「違います。あなたのです」
「石川梨華」
「私は紺野あさ美です。石川さん、私はあなたが好きです。ずっと見てました」
唐突な展開に頭がついていっていない様子の彼女は驚きの表情で固まる。
- 16 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月15日(月)21時03分16秒
その少し後方で二人の様子を見ている小さな影が自動販売機の陰に
隠れるようにして密かに会話を聞いていた。
大きなひとみの少年のような少女。
その表情はそこら辺にいる子どもと同じではなく、大人びた雰囲気を
醸し出していた。
- 17 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月15日(月)21時06分47秒
- 本日はここまで。
話が進んでいくと死人が出るかもしれないので
そういうのが駄目な人は、気をつけてください。
場合によってはグロテスクな表現があるかもしれません。
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月15日(月)22時33分02秒
- けっこう硬派な雰囲気ですねぇ
時系列が割とバラバラ?なのが妙に引き込まれます…
- 19 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時41分36秒
- --3--
最後に交わした言葉は約束。
あなたは約束を破ったことが一度も無かった。
だから、その日は胸騒ぎがして……見事に予感は的中した。
あの日からずっと、私はあなたを待っている。
約束した場所で。
いつでもデートにいけるようにオシャレして。
あなたが「遅れちゃってごめん」と小走りで駆け寄ってくるのを
待っている。
- 20 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時42分11秒
- ねぇ、ひとみちゃん。
ちょっと遅すぎるよ。
もう約束の時間だいぶ過ぎちゃってるよ。
携帯もずっと変えてないよ。ちゃんと毎月止められないように
お金も払ってるし。
あなたからの着信はもう履歴に残っていないほど昔になってしまった。
電話のベルが鳴るたびにあなたかもしれないとディスプレイの文字を
ちゃんと確認する見る癖がついちゃった。
あなたの携帯はもう繋がらなくなってた。それでもアドレスは消していない。
消せないよ。
- 21 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時42分47秒
- あなたのことだから何か事情があるんだろうと思う。
だから、私は待ってる。
あなたが私の前に現れて、その事情を話してくれる日が来るのを。
ずっと、待ってる。
好きだから。
- 22 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時44分02秒
- --4--
その日まで、私は確かに存在したんだ。
“17歳の吉澤ひとみ”として。
ある日突然失踪する人間がいる。
そして帰ってこない確立は……かなり高い。
死んでいるかもしれない。
本当に逃げている人もいるのかもしれない。
- 23 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時44分40秒
- でも、ほんの一握りの確立かもしれないけれどこんな人達もいる。
帰りたくても……帰る場所が突然なくなってしまった人達。
もちろん、そんなこと考えたこともなかった。
ましてや私自身がそうなるなんて、夢にも思っていなかったんだ。
- 24 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時45分14秒
雨が降ってきた。
春になったとはいえ、まだまだ朝と晩は冷え込む。
駅のホーム雨宿りをしていても、服を湿らせた雨が体温を
どんどん吸い取っていく。
いつまでもここには居られない。
午後8時過ぎ。
そろそろ駅員や警察官が煩くなる頃合だ。
- 25 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時45分52秒
- 別に16,7の人がその時間帯に駅で呆けていようと、誰も気に留めはしない。
でも、今の私は……
どこからどう見ても、小学生くらいのコドモなんだから
- 26 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時46分28秒
今頃家はどうなってるんだろう。
警察に届け出ているだろうか?友人達に連絡を取って探しているだろうか?
どちらにせよ、心配をかけてしまっているのは確かだ。
この身体になる直前の記憶。
急に内臓が焼けるように熱くなって、身体の節々が強烈に痛み始めたのは
覚えている。
- 27 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時47分00秒
- そして、意識を取り戻した時。
やけに大きな服を着ていた。靴も腕時計も。
辺りを見回すと全ての物体が巨大化している。
その異常な変化に気付くまで、時間はかからなかった。
- 28 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時47分30秒
- 心臓は不安のせいで大きく伸縮を繰り返している。
あまりに動揺が大きく、身体が震えて止まらない。
「どうなってんだよ……」
カサッと小さく草を踏む音が響いた。
ビクビクしながら振り向くと、そこにはいつかの幼い少女が立っていた。
「……今の自分の状況は理解できてる?」
かわいらしい外見とは裏腹に、大人びた喋り方をする少女の問いかけに
無言で首を振り答える。
- 29 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時48分12秒
- 「そう。ま、当たり前だべさ。名前は?」
「……吉澤ひとみ……」
「なっちは安倍なつみだべ」
「ねぇ、セルロイドエイジってなんなの!?私はこれからどうなっちゃうの?
答えてよぉっ!!ねぇっ!!?」
必死になって少女の肩を掴み、問いかける私とは両極に冷静な返事が返って来た。
「……突然若返ったり、時が止まったり……自分の身体の中でだけ同じ時間が
メビウスの輪のように繰り返しループしてしまう。セルロイド製の時間」
「不老不死ってこと!?ずっと……――」
- 30 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時48分54秒
- 涙は止まらない。
少女は目を閉じて首を横に振って再び口を開いた。
「死はあるよ。ただ、普通の人よりも長いだけ……それと」
そう言うともう咲き終わっり、枯れたひまわりの伸びている花壇の方へと進み、
足元から一つ、種を拾い上げた。
少女はそっと両手でそれを包み込む。
「――!!」
次の瞬間、息を呑んだ。
少女の手には大輪のヒマワリが握られている。
「この手の中の時間だけ、進めることが出来るんだべ」
- 31 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時50分40秒
- 本日はここまで。
- 32 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時54分46秒
- >18
今作は、硬めの雰囲気にしようと考えています。
時系列がバラバラなの大丈夫な方で良かったです。
結構読みにくく感じる方も多いと思うので。
- 33 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月20日(土)19時56分58秒
- あぁ、間違ってageちゃったよ……鬱……
- 34 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月21日(日)14時14分35秒
- ウワァァン
かわいそすぎ……
- 35 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月28日(日)00時41分53秒
- --5--
ずっと、耳に残っている。
大丈夫、なっちを死なせたりなんかしないから。
初めて見つけた自分と同じ、セルロイドエイジ。
命の無駄遣いをして限界にあった私を助けて矢口は消えてしまった。
死んだとは思わない。思いたくない。
きっと、どこかで生きている。きっと、どこかで私を探している。
その微かな希望の光のみが、私をこの世に繋ぎ止めている。
でも。
- 36 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月28日(日)00時42分41秒
たとえ生きていたとしても、限界は近い。
私も、一度限界を超えている。二度目は無い。
だから、せめて……――――
矢口の近くで過ごしたい。
一瞬でもいい。
この命が尽きるその瞬間に、矢口の気配を感じていたい。
- 37 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月28日(日)00時43分26秒
本格的に捜索を始めてもう4年になる。
一向に手がかりは見つからない。
この街に戻ってきたのは、なんとなくだった。
もちろん梨華ちゃんがどうしているのか気になったのも確かだ。
すれ違ったとしても気付かれる事のない身体なのはわかっていても
やはり一時は育てていたあの娘の成長振りを見ておきたかった。
- 38 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月28日(日)00時44分05秒
- そして、彼女に会う。
梨華ちゃんの隣で優しく微笑む少女。
本当に好き合っているという空気が二人を包んでいるのを見て
安心した。
二人はずっとそのまま幸せな毎日を送ってもらいたいと心から願った。
- 39 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月28日(日)00時45分26秒
- それなのに、彼女は矢口と同じ感じがした。
初めて矢口とであった時と同じ。懐かしい感覚。
この娘、もしかすると……
あんなことを口走ってしまったのはきっと心のどこかで
予測していたのかもしれない。
- 40 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月28日(日)00時46分11秒
直感とは案外当たるもので。
次の日、自分と同じ位の目線で混乱している彼女を見る羽目になったのだ。
自分と同じように、セルロイドの時間を刻む彼女と。
- 41 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月28日(日)00時47分54秒
- 本日はここまで。
- 42 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月28日(日)00時52分33秒
- レス有難うございます。
>34
可哀相な人、まだまだ出て来る予定です。
- 43 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月28日(日)04時59分14秒
- 重い作品世界に引き込まれます……
- 44 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月29日(月)21時08分13秒
- 重いですね。重いけど、続きがとっても気になる。
謎が多いです。
がんがってください。
- 45 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)01時02分36秒
- --6--
「あなたが好きです。ずっと見てました」
生まれて始めて自分の気持ちをこんなに素直に口にした。
元々引っ込み思案で、喋るのは得意じゃなかった。
好きな人が出来ると人は変われるというのは本当らしい。
目の前にいるその人は驚きを隠せない様子だ。
気まずい間が出来てしまった。
- 46 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)01時04分47秒
「……あの……私は……――」
「いいんです。その吉澤さんの事をまだ好きだって。
私はあなたに愛してくれとは言いません」
何かのゲーム歌のような台詞だと思ったが本心なのは仕方がない。
「だったら、何で……?」
「知っていてほしかったんです。あなたを想っている人はここにもいるって
“吉澤”さんだけじゃないんだって」
もちろん、私のことを好きになってくれるのが一番嬉しいんだけど。
イキナリそんなことは無理だろう。
「だから……友達から始めてみませんか?」
- 47 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)01時05分43秒
- そう言った直後、小さな少女が視界の端に映った。
あちらは私がその存在にに気付いた事を知らないらしく、
じっと石川さんのほうを見つめていた。
それはまるで、昔から知っている人を見ているようなまなざしで。
(どうしたんだろう?あの娘……)
そんなことを考えていると、急にその少女が苦しそうに蹲った。
「――――!!」
驚いた私はすぐさま少女に駆け寄る。
- 48 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)01時06分52秒
- 息はしている。ただ、間隔が短くて苦しそうだ。
身体を起こそうとすると痛みがあるらしく、一層辛そうな表情を浮かべる。
「紺野さん?」
後をついてきた石川さんの声が聞こえる。
倒れている少女を見て顔色が変わるのが見えた。
「ちょ……どうしたの、大丈夫!?」
「とりあえず、病院へ連れて行きましょう」
そう言って少女を抱き起こすと、小さく途切れ途切れの声が聞こえた。
「病院……は、駄目……大丈夫だから」
「じゃぁ、お家は?送るから」
- 49 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)01時07分50秒
- 石川さんの優しげな声に、泣きそうな顔をしながら俯いてその娘は
尚、首を振って拒否の意を示す。
小学校中学年くらいだろうか。身長は私よりも小さい。
「あのねぇ、それじゃどうしようも出来ないでしょ」
お手上げといった感じの表情でため息をつく。
こんなに苦しそうにしているのに大丈夫なはずはない。
ついさっきまで僅かだが確かにあった反応が消えた。
異常に気付き、軽く肩を揺さぶると「ずるり」と私の身体に体重を預けたまま
滑り落ちた。
「――っ!!どうしたの!?」
- 50 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)01時09分42秒
- 呼びかけても、反応は無い。
心臓は動いている。苦しそうだが息もしている。
額には脂汗が浮かんで、熱もあるようだ。
「とりあえず、家に連れて帰ろう。すぐ近くだから」
「あ……はい」
その提案により少女を石川さんの家へ運ぶことになった。
空手で鍛えているため、少女を抱き上げるのは苦ではなかった。
こんな形であっても、石川さんの家に上がれるということに喜んでいる
自分がいることに少々不謹慎だなと思ったのは根が優等生だからだろうか。
少女は軽く、頼りない。かよわさが残る子どもの体だった。
- 51 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)01時10分14秒
- 本日はここまで。
- 52 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)01時15分21秒
- レス有難うございます。
>43
有難うございます。
今の雰囲気を壊さないように書いていきたいと思います。
>44
素晴らしいHNですね(w
続き、頑張って書いてますので気が向いた時にでも見ていただけると幸いです。
- 53 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月03日(金)14時31分40秒
- この状態で出逢っちゃって、果たしてどうなるのやら…
- 54 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月05日(日)19時45分57秒
- --7--
急に目の前で倒れたその娘を家に連れて帰ったのは人として当然のこと。
つまりは、そのとき私にはこの娘の保護しか思い浮かばなかっただけなのだけれど。
紺野さんは見かけによらず力があるようで少女をひょいと抱き上げて運んでくれた。
その姿で不意に思い出した。
全然似ていないのに、あなたに重ねて見てしまった。
心の底で密かに謝罪する。
ごめんね、ひとみちゃん。
- 55 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月05日(日)19時46分45秒
- 「大丈夫かなぁ……」
相変わらず具合はよろしくなさそうだ。
小さくもらした独り言が聞こえたらしく、紺野さんが視線をこちらに移した。
「やっぱり病院に連れて行ったほうが……」
正論だ。
しかし、この娘は病院は“駄目”と言っていた。
“嫌”ではなく“駄目”と。
どんな理由があるのかは知らないが、ここまで拒絶する理由があるというのに
気を失っているうちに勝手に本人の意思を無視して連れて行くのは気が引ける。
「……とりあえず、解熱剤買ってくるからこの娘、見ててあげてくれる?」
家には常備薬がなかった。
- 56 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月05日(日)19時48分10秒
- 以前ひとみちゃんに何回か注意を受けたことがあったっけ。
気を付けようと思っていたが、ついつい買い置きしておくのを忘れてしまう。
こういう事態を予測していれば話は別だったと思うが、無い物は仕方がない。
アパートのすぐ近くに薬局がある。そこなら往復で15分くらいですむだろう。
「はい。いいですよ。気をつけて行って来てください」
にっこりと笑って細い声で答えを返してくれたのを背中に受け、
財布をつかんで家を出た。
- 57 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月05日(日)19時49分00秒
- 薬局に着くと、いつもと同じように平家さんが店の品物を並べていた。
平家さんは気の良い人で、薬を買いに来た時意外でもよくお世話になっていた。
ひとみちゃんが突然いなくなった時も私を励ましてくれた。
「お?梨華ちゃんやん。久しぶりやなぁ、どしたん?風邪でもひいた?」
「こんにちは。私は元気なんですけど、子供用の解熱剤ってどんなのがあります?」
「……梨華ちゃん、いつの間に子ども産んだんや……」
急に声のトーンを落としてそう問いかけてきた平家さんに首を強く振って否定する。
- 58 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月05日(日)19時49分35秒
- 「違います!!え〜と……親戚の子が熱出しちゃって、それで……」
「あぁ、なんや〜。そっか。子どもっていくつくらい?」
「小学生くらいです」
薬が並んでいる棚のほうへ行き、いくつかの箱を手に取る。
その中で一番安くてよく効く薬を選んで私に渡してくれた。
お金を渡すと平家は思い出したようにその薬が入った袋の中にスポーツドリンクを
一本入れた。
「これ、サービスしといたるわ。水分取らせたってや」
「あ、はい。有難うございます」
- 59 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月05日(日)19時50分17秒
- やっぱり、平家さんは良い人だ。
薬屋のほかにも副業をしているらしいし、あまりお金に余裕があるようには
見えないのに、こういう事を見返りを期待せずに出来る人って
そういないんじゃないかな。
優しさが身に染みていくのを感じながら、あの子達の待つ自宅へと
足早に向かって行った。
- 60 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月05日(日)19時51分05秒
- 本日はここまで。
- 61 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月05日(日)19時54分39秒
- レス有難うございます。
>53
どうなるのかは、とりあえず次回更新で動きがある予定です。
- 62 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月05日(日)21時18分01秒
- みっちゃんいい子。
続きも気になります…
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月06日(月)04時38分27秒
- 重たい感じっすね。
期待してます。がんがってください。
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月06日(月)04時40分28秒
- ageちゃった…
ごめんなさい。逝ってきます。
- 65 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時43分49秒
- --8--
石川さんが薬を買いに外に出て行ってすぐ、私は少女に話しかけた。
「……石川さんもう行っちゃったよ。もう意識は戻ってるんでしょう?」
「よく、分かったね……なんで?」
「呼吸の仕方が違ったから。こういう知識は人並み以上には持ち合わせてるから」
「なるほど」と納得した少女は上体を起こし、先程よりはほんの少しマシになった
顔色を見せた。
色白で綺麗な肌をしている。
- 66 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時44分39秒
- 「ちょっと気になったんだけど、駅で倒れた時より少し縮んでるのはなんで?」
その問いかけに、少女はぎくりとした反応を見せた。
普通に考えてありえない現象。
でも、この娘は普通の娘じゃないと私の第六感がしきりに訴えていた。
何故だろう。この妙に大人びた瞳のせいかもしれない。
茶色い大きな瞳。悲しそうな、迷子のような瞳。
「……君には誤魔化しは利きそうにないね。信じられない話なんだけど、
ホントの話をする。梨華ちゃんには言わないで」
- 67 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時45分15秒
- 俯きながら話し始めたその話は、本当にあるはずのない出来事の話だった。
セルロイドエイジ。
ある日突然身体が縮んでしまう、無限ループの中を生きる生き物。
この世界には存在してはいけない生き物。
「もう、人間ですらないのかもしれない」
「元の年齢には戻れないの?」
「さぁ?わからないよ。本当に、時の流れは全てランダムでその間隔にも
統一性がないんだ」
「本当なら17歳?石川さんの一学年下の」
「……なんか、もう殆ど理解してるみたいだね。頭のいい娘だ」
- 68 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時45分47秒
- その少女、いや、吉澤さんは対して驚いた風でもなく、自嘲気味に笑って返した。
確かにそれは小学生の顔なのに、17歳の吉澤さんの顔が見えた気がした。
「何で、そのことを石川さんに言ってあげないんですか?石川さんはあなたが
失踪してからずっと待ってるんですよ」
もう何ヶ月もずっと。
来るはずのない恋人をあの駅のホームで待ち続けて。
「私がここに来たのはね、“吉澤ひとみの死”を知らせるためなんだよ」
- 69 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時47分21秒
- 数秒、思考回路が停止した。
吉澤ひとみの死を知らせるために吉澤ひとみがやってきた。
それはなんて滑稽な話なのだろう。
「私はいない人間だから、私なんかの為に梨華ちゃんの人生を狂わせるわけには
いかない」
「何を言ってるんですかっ!!」
「君にはわからない!セルロイドの時間じゃ……彼女を幸せにするなんて
出来ないんだ!!」
お互いの怒鳴り声が響く。
そして、沈黙。心の中に言い返す言葉はたくさん思いついていた。
それなのに何故か言い返せずに、沈黙だけが落ち着いたピンクで統一された
石川さんの部屋を支配していた。
- 70 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時48分08秒
- --9--
玄関を開けると、重々しい空気が流れているのがわかった。
何があったんだろうか。
あの娘はいつのまにか意識を取り戻していて、紺野さんと向かい合わせに
座っていた。
カサカサとビニール袋の揺れる音がやけに大きく聞こえる。
「お帰りなさい、石川さん」
紺野さんは笑顔だったが、かえってそれが不自然に思える。
愛想笑いという感じではないけど、なんか違う。
少女は目を合わそうとしないどころか、顔を見せてくれない。
- 71 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時48分59秒
- 「解熱剤買ってきたから、これ飲んでね。え〜と……お名前は?」
二人の間に緊張が走った。
何故だろう。ただ名前を聞いただけなのに。
少し間を空けて少女が答えた。
「……よしこ……」
「よしこちゃんって言うんだ。私は石川梨華。ゆっくりしてっていいからね」
そっぽを向いたままのよしこちゃんは首を振った。
紺野さんの表情が固くなっている。
喧嘩でもしたのかな。
- 72 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時49分43秒
- 「私は、吉澤ひとみの友人の妹です。吉澤さんが亡くなった事を伝える為だけに
この街に来ました。だから、もう用は済んだので帰ります」
「――――――え?」
理解できなかった。理解したくなかった。
その言葉はおそらく、一番聞きたくなかった言葉。
ヨシザワサンガナクナッタコトヲ
ナクナッタ
- 73 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時50分19秒
- ひとみちゃんが?
もう、この世にはいない?
そんなの嘘だよ。
だって、約束してたのに。
『久しぶりに海にでも行こうか』
あんなに楽しみにしてたのに。
『電車にでも乗ってゆっくり行こう』
笑顔でそう言ってくれたのに。
ねぇ、ひとみちゃん?
- 74 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時51分02秒
- 「石川さん!!」
遠くで声が聞こえる。
だんだん意識が朦朧としてきて、重力に身を任せる。
床が近づいてくるのが見えた。衝撃に備えて瞼を閉じる。
もう、どうでもいい。
- 75 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時51分33秒
- --10--
「石川さん!!」
あまりにもショックが大きかったのだろう。
吉澤ひとみの死亡を知らされた彼女はその場に崩れ落ちた。
もっとも、床に叩きつけられる前に私が受け止めたので怪我はしていないが。
「……あなたはこれでいいと思ってるんですか?」
「君は梨華ちゃんが好きなんでしょ。チャンスだよ」
その一言が何故か無性に頭にきて、思わず吉澤さんの頬を平手打ちしていた。
- 76 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時52分07秒
- 手加減はしていたけど、それでもかなり痛かったはずだ。口の端も切れている。
しかし、吉澤さんは無表情だった。叩かれた事実が存在しないかのように。
その顔を見ていると、血が出ていた口元の傷がみるみる消えて言った。
「――――……っ!?」
「……これ、遺言。梨華ちゃんに渡すかどうかは任せるよ」
そう言って白い封筒を置いて吉澤さんは部屋を出て行った。
置き去りにされたその封筒を見ながら石川さんが目覚めるまでの間を過ごした。
- 77 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時52分46秒
- これを渡したら、石川さんは吉澤ひとみという人間をきっと一生忘れられない。
これを渡さなければ、石川さんは吉澤ひとみが死んだという事を受け入れられない。
これを――――…………
どちらにせよ、石川さんは吉澤ひとみに縛られている。
きっと、本当に死んでいたとしてもそれは同じことだ。
ならば渡すしかないじゃないか。
私の心はすでに決まっていた。
- 78 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)17時53分51秒
- 本日はここまで。
- 79 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月06日(月)18時00分28秒
- レス有難うございます。
>62
みっちゃんはいつもいい子です(w
>63
有難うございます、頑張ります。
別にageても良いです。お気になさらずに。
気分次第でage進行にするかもしれませんし。
- 80 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月06日(月)20時34分28秒
- 重い…。けど、吸い込まれるように読んでしまいます。
続き楽しみにしています。
- 81 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月06日(月)21時04分47秒
- 人の死を受け入れるというのはねぇ…。
それが大切な人ならなおさら(泣
- 82 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月07日(火)02時42分06秒
- 辛いなぁ……どうあっても幸せは来ないのか…
- 83 名前:くわばら。 投稿日:2002年05月08日(水)02時11分15秒
- すんごい引き込まれてしまうストーリです。
- 84 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時19分17秒
- --11--
梨華ちゃんへ
突然いなくなったりしてごめん。
詳しい事情は分け合って話せないけど、
私は、病気をしてしまって長く生きていられません。
- 85 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時20分03秒
- この手紙を届けてくれた娘は、私がお世話になった人の妹さんです。
可愛い子でしょ?
きっと、私と梨華ちゃんの子どもがいたとしたらあんな感じじゃないかな。
私似の可愛い子。
でも、実際産むんだったら梨華ちゃん似の子でもいいね。
あぁ、話が逸れてきてるねごめん。
- 86 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時20分38秒
- この手紙を梨華ちゃんが読んでいるということは、私はもうすでに
この世にいないと思います。
短い人生だったけど、梨華ちゃんに出会えて本当に良かった。
それが、私の生きてきた中で一番嬉しく思えることです。
私は一生梨華ちゃんを愛していたよ。
梨華ちゃんには幸せになって欲しい。
だから、私の事は忘れちゃっていいよ。
いなくなった人間なんだから、いつまでも縛られることはない。
梨華ちゃんは私よりも良い人を見つけて、幸せを掴んで下さい。
それだけが、私の願いだから。
吉澤ひとみ
- 87 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時21分23秒
- --12--
嘘の遺書。
本音ばかりのなかにやさしい嘘が並べられた、生きているのに死を伝えた大嘘つきの遺書。
そんな紙切れを持って、石川さんは静かに泣いていた。
肩を震わせて。
声もなく、ただ涙を流すだけ。
チャンスじゃない、あさ美。
傷心の人の心に付け入ることほど容易い事はないのだから。
今なら石川さんをモノにすることは簡単。
私の耳元で、黒い声が囁く。
- 88 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時22分08秒
- 石川さんの震える肩にそっと手を置いた。
「石川さん……」
返事はない。
手紙の一点のみを見つめたまま無表情で泣いている。
胸の辺りが締め付けられるような感じ。
もう心が現実から離れていく寸前の状態の人を放っておけるわけがない。
「吉澤さんは生きてますよ」
その言葉は、まるで魔法の言葉。
光を失っていた瞳に生気が戻ってきたのがわかる。
ようやく顔を上げた石川さんの頬をつたう涙を拭う。
- 89 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時23分05秒
- 損な役回り……馬鹿だ、私。
そう思っても、私は石川さんが壊れていく姿なんか見たくなかった。
吉澤さんは言うなといっていたけれど、私は「はい」とは言っていないし。
「さっきまでここにいたじゃないですか。あの娘が吉澤さんですよ」
「……どういう……ことなの?」
私は促されるままに知っていることを石川さんに話した。
全て話し終えると、石川さんの瞳から涙は消えていた。
代わりに、強い意思を持った光を宿している。
何も言わなくても、考えていることはわかる。
いいですよ。私もついて行きます。
ここまで関わったんですから、今更後には引けません。
石川さんは真剣な顔でその台詞を言った。
「ひとみちゃんに会いに行くわ」
- 90 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時23分50秒
- --13--
「……早かったね。ちゃんと言えた?」
「ええ。安倍さんは、本当に会わなくて良かったんですか?」
梨華ちゃんの家を出てすぐ、待ち合わせていた近くの公園のベンチに座っていた
安倍さんは爪先で所在なさそうに土を掘りながら口を開いた。
「なっちは駄目だべ。童顔だったからこの姿でもきっとバレちゃうべさ」
「……梨華ちゃんにって訳じゃないけど、私もバレちゃいました」
「え!?」
- 91 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時25分09秒
- 驚いて顔を上げた安倍さんに紺野という娘の話をすると、やはり興味を示した。
紺野あさ美はとろそうに見えるのに実は頭の回転が速く、腕力もある。
状況の把握が瞬時に処理できる能力はきっとそこら辺の学生の中でも
飛びぬけているだろう。
あの短い時間でわかったのはこれくらいだ。
「その娘、梨華ちゃんに言うかな……」
「大丈夫だと思いますよ。梨華ちゃんの娘と好きみたいですし。
こんなチャンスを逃す馬鹿な娘じゃないでしょう……それより」
「早く移動しようか。どうやら予想よりも早く奴らが嗅ぎつけたみたいだべ」
- 92 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時25分57秒
- 公園の脇に静かに止まった黒い乗用車。
窓には外側から見えないようにシートが張られている。
目を凝らしてこっそり盗み見てみると、人影が3つ確認できた。
とにかく一刻も早く人通りの多いところへ行かなければ。
こんな人気のない薄暗い公園にいたら奴等の思うつぼだ。
私たちは目で合図し、走り出した。
- 93 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月11日(土)23時26分41秒
- 車が後ろから追ってくるのはわかりきっていたので、
狭い路地に入り込み、全力で走りぬける。
ここが一番危険なところだ。
子どもの走る速さなんてたががしれていると自分たちが一番良く理解しているから。
きっと、元の年齢なら捕まらずに逃げ切れる。
しかし、運が悪いことに私は先程も退行してしまったばかりだ。
リーチがない。体力がない。
計算通りいけば、ギリギリで大通りに出られるはずだ。
そうすれば奴らも滅多なことは出来やしない。人ごみに紛れて逃げ切れる。
- 94 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時27分11秒
- (あともう少し……!)
大通りに続く一本道。
あと数メートルで予定通りの場所に出るはずだった。
それなのに。
「ゲームオーバーだね、おちびちゃん」
女の人の声が頭上から聞こえてきた。
恐怖で顔を上げられないでいた私はただただ、その人の鈍く光る革靴を見て
唇をかみ締める。後ろを向いているため背中合わせになっている安倍さんも同じようだ。
「さぁ、おいで。何も怖いことなんかないんだよ。少しだけお手伝いを
してくれればいいんだ。簡単な、ね」
優しい言葉とは対照的な撃鉄を起こす音が耳元に響いた。
- 95 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時32分59秒
- 本日はここまで。
- 96 名前: 投稿日:2002年05月11日(土)23時33分37秒
- レス有難う御座います。
>80
相変わらず重いままでスイマセン。
続き頑張って書きます。
>81
そうですね。
今回で石川さん一応ネガティブモードから復活しましたが。
>82
幸せは自ら動いて掴んでもらいたいものです。
>83
有難うございます。これからも精進します。
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月12日(日)02時10分45秒
- 紺野が頼れる存在になりそうですな
敵の存在も気になる…
- 98 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月12日(日)19時05分14秒
- 黒紺野さんになりそうだったけど、いい子でよかった。
これからの展開が非常に気になります。^^)
楽しみにしています。
- 99 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時29分50秒
- --14--
冷たく光る銃口を見つめて考える。
ここで抵抗をして殺されるのと、奴らに捕まるのとではどちらが良いだろう。
いっそ、撃たれて死んだほうが楽かもしれない。
もう4年。
矢口は見つからない。
私は何のために生きているのだろう。
生きている意味なんてあるのだろうか。
家族にも会えない。帰る家もない。
諦めの文字が脳裏に浮かんでは消える。
全てが消えた後、再び浮かび上がってきたのは……
- 100 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時31分14秒
- 「私たちは君たちに危害を加えるつもりはないんだよ。基本的には」
黒いスーツの女が話しかけてくる。銃口は、依然私たちに向けられたままだ。
そうだ、捕まるわけにはいかない。
私たちは自らで解除できない爆弾を抱えているのと同じなのだから。
発言するために始めて顔を上げた。
ツリ目の猫顔だ。ちょっと怖い感じがする。
しかし、ここで震える声を出しても逆効果だろう。
私はしっかりと落ち着いて口を開いた。
「こんな状態で言われても何の説得力もないべさ」
- 101 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時32分01秒
- 「でも、こうでもしないと君たちは強行突破を試みるだろう?
逃げられたら困るんだ」
背後からの返答。
よっすぃ〜の方からも銃を突きつけられているようだ。
こっちは二人とも丸腰のうえに子ども。太刀打ちできるわけがない。
「さぁ、来てもらうよ」
- 102 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時32分56秒
- 腕を掴まれた次の瞬間、どこからか空き缶が飛んできて壁に跳ね返り、猫顔の女の
後頭部にヒットした。カンッと軽い音が狭い路地に響く。
「な、なんなのよ!?」
頭をさすりながら振り返ると同時に、今度はよっすぃ〜の方から「ぐっ!!」と
くぐもった声が聞こえた後、銃の落ちる音が続いた。
そのどさくさに紛れて、黒スーツの二人から離れると見知らぬ少女が
私たちを守るような形で前に立つ。
そして動揺した猫顔の右手を蹴り上げ、銃を弾き飛ばした。
「もうすぐ警察が来る。そこで寝てる人を連れて早く逃げた方がいいと
思いますけど?」
- 103 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時33分30秒
「……――圭ちゃん、一旦引こう」
蹲っていた方が起き上がって苦しそうに言うと、猫顔のほうも
頷いて二人で走り去っていった。
鮮やかに私たちを窮地から救ってくれた髪を二つに結んだ少女は、
その影が見えなくなるまでずっと二人が走っていた方向を見つめていた。
- 104 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時34分32秒
- --15--
本当は、凄く怖かった。
石川さんの意のままに吉澤さんを探してたら、そういう場面に出くわして。
拳銃なんて本物を見たのは初めてだったし、下手すれば死んじゃうところ
だったんだから、そりゃ、怖いよ。
でも、ただならぬ雰囲気だったし、警察を呼んでもそんな数秒で駆けつけられる
わけがない。第一、説明に困りそうだ。
- 105 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時35分25秒
……――でも、そんな理由はあとで考えたから出てきただけで。
ホントは自然に身体が動いてた。自分でも驚くほどすんなりと。
いったい、私はどうしちゃったんだろう。
闘うことがこんなに楽しいなんて、怖い。
何の抵抗もなく殴る。怒りや、憎しみからくる衝動ではない。
何も感じなくなってしまう方がまだマシだったのに。
(……まだ、大丈夫……私はまだ私のまま……)
自分の力がコントロールできなくなってしまいませんように。
そう願うことしか出来なかった。
- 106 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時36分52秒
- 「あの……ありがとう、助けてくれて……」
背後から吉澤さんじゃない方の少女の声が聞こえた。
おそらく、この娘もセルロイドエイジなのだろう。
「別に気にしないでください。それよりも……帰りましょう」
石川さんの家に。
そう言うと、二人の顔色が変わった。
すぐに吉澤さんが血相を変えて腕にしがみつき、怒鳴るような口調で言ってきた。
「……梨華ちゃんに言ったの……なんで!?言わないでって言ったじゃんか!」
- 107 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時37分36秒
- 腕を振り解くことは出来なかった。
そのままやや見下ろす形で呟くように言う。
「石川さんは壊れる直前でした。私は、私のためにあなたの言いつけを破ったんです」
そう。すべて私のエゴ。
石川さんが笑ってくれるのなら、私はなんでもする。
たとえ、それがどんな結果を招いたとしても、それは私が作った運命の流れ。
後悔は…………しない。
- 108 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時38分09秒
- 「今の見たでしょう!?私たちの側にいると危険なの。普通の人間の
あなた達はこんな目に会う必要はないでしょう?さぁ、帰って!!」
「……なんで、私に言うんですか?ちゃんと石川さんに説明してあげて下さい!」
「よっすぃ〜……行こう。これ以上長居するわけにはいかないべさ」
少女は私のほうを見て少し困ったような、苦しそうな微笑を見せ、
「ごめんね」と一言だけ。
- 109 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時38分58秒
- 天使のような空気を持つ少女。
それはセルロイドの時間が作り出した特異なものではなく、きっと本来
彼女の持って生まれたものなのだろう。
「行かせません」
私は静かに二人の前に立ちはだかり、威圧した。
数秒の時間稼ぎでいい。
だって、全力で走ってくる石川さんの姿はすぐそこに見えているのだから。
- 110 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時40分55秒
- 本日はここまで。
- 111 名前: 投稿日:2002年05月18日(土)00時46分26秒
- レス有難うございます。
>97
紺野は頼れる存在になります。唯一の格闘技経験者ですし。
>98
黒紺野さんも考えてたんですが、やっぱりいい子であって欲しいなと。
せっかくの期待を裏切らないよう頑張ります。
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)08時37分36秒
- 薄幸のいしよしは、もう一度恋人同士として向かい合えるのだろうか?
こういう切なく萌える展開好きです…
- 113 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時50分14秒
- --16--
私は一生梨華ちゃんを愛していたよ。
私は梨華ちゃんを愛しているよ。
梨華ちゃんには幸せになって欲しい。
だから、私の事は忘れちゃっていいよ
ホントは忘れないで欲しい
梨華ちゃんは私よりも良い人を見つけて、幸せを掴んで下さい。
きっと私はそれでもあなたを愛し続ける。
- 114 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時50分55秒
- あの手紙にはもう伝えられない想いが詰まっていた。
きっと、二度と会うことのない別れだから。
そう、思っていたんだよ。
でも、なんでかな。
あなたは必死で私を追いかけてくる。
私はもうあなたの知っている私じゃなくなってしまっているのに。
- 115 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月19日(日)20時51分56秒
今、あなたは誰を見て涙を流しているの?
誰に向かって走っているの?
何で、そんなにまっすぐに突き進めるの?
- 116 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時52分47秒
- こんな身体じゃ、抱きしめることさえ容易じゃない。
どんなに甘い言葉を囁こうと、どんなに強く抱きしめようと
所詮子どもがじゃれついているのと同じ。
あの頃のようには愛せない。
私の想いは変わっていないのに。
- 117 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時53分36秒
- --17--
体育は得意じゃなかった。
テニス部の部長だって、人よりずば抜けて上手いからって理由で
選ばれたわけじゃない。
なのに、こんなに走っている。
紺野さんは私よりもずっと速く走れるみたいだったから先に行ってもらって
正解だった。
もし、私に合わせたペースで走っていたら、よしこと名乗った少女はもう一人の娘と
一緒にどこかへ言ってしまっていただろう。
- 118 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時54分19秒
- 目が合った。
切なそうな瞳で私を見たあと、紺野さんの方へ向き直り強行突破を試みる。
しかし、やはり子どもの身体では無理があるようだ。
ようやく追いついても、こっちを向こうとしてくれない。
「よしこちゃん……あなた、本当にひとみちゃん?」
- 119 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時55分17秒
- 返事は無い。
無言は肯定。でも、きっと今の状況では否定も肯定。
ひとみちゃんの横で気まずそうにしている少女の方に目をやると
それは確信に変わった。
そこには、私の姉代わりだった人が確かに立っていたのだから。
「安倍さん……?」
「…………」
小さな安倍さんは本当に私の知っている安倍さんのミニサイズそのもので
何の違和感も抱かないほどにすんなりと事実を受け止めることが出来た。
あぁ、セルロイドエイジは本当なんだ。
- 120 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時56分08秒
- ひとみちゃんは、まだ逃げようとしている。
紺野さんに体当たりしているところを後ろから抱き上げた。
やはり、軽い。
あの大きかった恋人をこうして抱き上げる日が来るなんて、思いもしなかった。
「離してっ!梨華ちゃんは帰って!!」
「ひとみちゃん……」
「私は吉澤ひとみなんかじゃない!吉澤ひとみは死んだの!もういないんだよ!」
- 121 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時57分36秒
- 手足をばたつかせて声を上げるひとみちゃんは本当に子どもようだった。
いつのまにか涙を流していることに気付き、一度地面に下ろす。
もちろん、逃げられてはいけないので膝を突いて両肩は持ったまま。
「ひとみちゃん……なんで、逃げるの?」
「それは……」
「セルロイドエイジだから?時間が戻っちゃって子どもの姿になったから?」
「…………………」
- 122 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時58分16秒
- 「そんなの理由にならないよ!ひとみちゃんは約束してたのに破った!
安倍さんだって、何にも言わずにいきなり帰ってこなくなって……」
そこまで言うと、涙で景色が歪み、喉が痛くて、呼吸が苦しくて。
ひとみちゃんの肩を掴んだまま泣きじゃくる私の背中を紺野さんが擦ってくれていた。
「梨華ちゃ……」
「もう、一人にしないで……これ以上、寂しくなるのは嫌……
私を置いていかないでよぉ……」
- 123 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時58分51秒
- 掠れた声でそれだけ言うのがやっとだった。
一度目は両親。
二度目は姉代わりだった安倍さん。
そして三度目は恋人のひとみちゃん。
- 124 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)20時59分45秒
- もう、一人で取り残されるのは嫌。
もう、置いていかれるのは嫌。
一人にしないで
私を一人にしないで
- 125 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)21時00分26秒
- 本日はここまで。
- 126 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)21時03分56秒
- レス有難うございます。
>112
有難うございます。
幸薄い人達には頑張ってもらわねばなりませんね。
- 127 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月20日(月)01時11分05秒
- ああ、必死の思いが痛い・・・
- 128 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時47分01秒
- --18--
ここはどこだろう。
私は今、生きているのか死んでいるのか。
答えてくれる人はどこにもいない。
小さな身体には慣れていたけれど、孤独にはどうしても慣れるということが
出来なかった。
彼女を助けたのも、私を知っている人が存在し続けて欲しかっただけかもしれない。
結局、自己中心的な考え。
どこまでも、自分本位で、我侭な行動だったかもしれない。
- 129 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時47分40秒
- 実際、彼女は今生きていて辛いことも悲しいことも苦しいことも、普通の人間より
はるかに多く感じているはずだ。
特異な時間の流れの中で、必死に孤独と戦う少女。
初めて出逢った時、歌ってたね。
涙を流しながら歌うその唄は知らない曲だったけど、すんなりと耳に入ってきて。
…………一目惚れだったんだ。
- 130 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時48分10秒
- その声と、笑顔は今でも鮮明に思い描くことが出来る。
天使のような永遠の少女。
私のたった一人の愛しい人。
今頃どうしているのだろう。
泣いているかもしれない。
もう泣かせたりしないと心に決めていたのに。
原因を自分が作ってちゃ世話ないね。
- 131 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時49分10秒
- 命の限界。
それは見えないものだけれど、確かに存在するもの。
ずっと、疑問に思っていた。
自分の身体の時間はメビウスの輪のように先へ延びることは無いのに
何故この手の中の時間を進めることが出来るのだろう。
何故、自分の命を削る力など存在するのか。
本来ならば時間に干渉することはタブーのはずなのに、
何故、このセルロイドの時間が存在するのか。
何故、何故、何故。
疑問ばかりが頭の中を飛び回る。
- 132 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時50分27秒
- 昔、何かの本で読んだ言葉を思い出した。
『時間と人権は、みんなに平等にあるもの』
笑いがこみ上げてくる。
『みんなに平等』
じゃぁ、私は一体なんなんだろう。
- 133 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時51分19秒
- この時間は何を運んでくれるのだろう。
もうとっくの昔に諦めていたというのに。
存在しない人間に人権など無い。
この身体には何一つない。
あるのは、意思。………自分の意思だけ。
私は、変われるだろうか。
不意に、あの少女に会いたくなった。
「……なっち……もうすぐ会えるよ」
ボロボロの鞄を背負って、スニーカーで大地を蹴る。
その小さな身体の中には、確かに大きな意思が存在した。
- 134 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時52分52秒
- --19--
自分で言うのもなんだけど、人並みに何でも出来て、顔も見れないことは無いと思う。
そりゃ、方言は未だに抜け切れてないかもしれないけど、個性よね。
うん。自分じゃちゃんと標準語のつもりだし。
あさみちゃんと待ち合わせしていたのに何故か来たのは麻琴ちゃん。
がっかりしたのが顔に出てしまったらしく、彼女は苦笑いを浮かべた。
「そんなにあからさまな顔しないでよ〜。冷たいなぁ、愛ちゃん」
- 135 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時54分20秒
- 「あさ美ちゃんは?」
「……“恋は盲目”とでも言っておこうか」
「はぁ?」
「ねぇ、あさ美ちゃんなんかよりも私に乗り換えたら?」
麻琴ちゃんの台詞はいつもこんな感じだ。
お調子者の言うことだとわかってはいるのだけれど、真剣味もあるし。
内心ハラハラしてしまう。
でも、気まずくなるのは嫌だからいつものように返しとこう。
- 136 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時56分56秒
- 「私はあさ美ちゃん一筋なんです〜」
「私のほうがお買い得だと思うけどなぁ」
「なんで?」
「私が愛ちゃんの事ちゃんと好きだから。あさ美ちゃんは愛ちゃんのこと
友達としか思ってないよ。別の人が好きみたいだし」
- 137 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時57分32秒
- 痛いところをついてくる。
確かにそうなんだけど、自分でも嫌と言うほど自覚してるのを人に指摘されると
無性に悔しくなるのは何故だろう。
「……いいもん。人の気持ちは変わるの!」
「そうだね。だから、愛ちゃんは私のことが好きになるよ」
ニコニコしながら断言する。信じられないほどストレート。
この人を好きになったら楽なんだろうな。
あさ美ちゃん相手じゃ、こうはいかない。
でも、きっと私の気持ちはこの人に向けられることはないと思う。
根拠は無いけど、多分きっとそうだと思う。
- 138 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時58分02秒
- 「ん?あの娘、迷子かなぁ?さっきからきょろきょろしながら
同じ道行ったり来たりしてるけど」
路地の方を見ながら麻琴ちゃんが呟いたのでそちらに視線を移すと
確かに小さな女の子が不安げに道を歩いていた。
しかし、表情よりも目を引いたのは金髪。
小学生も髪を染めるような時代になったんだなぁ……
ジーと見ていると、視線を感じたのだろうか。
その娘はこちらを向いてそのまっすぐな瞳を見せた。
- 139 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)14時58分35秒
- 本日はここまで。
- 140 名前: 投稿日:2002年05月26日(日)15時03分13秒
- レス有難うございます。
>127
必死の思いが痛いまま視点を変えちゃってスイマセン。
登場人物がどんどん増えてます。
現メンはたぶん全員出演するはずなのでまだ増えます。
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月26日(日)23時22分00秒
- 矢口?
本筋にどう絡んでくるのか楽しみ
- 142 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月30日(木)01時49分44秒
- おっ?!
高紺!(w
うまくいくといいなぁ・・・
矢口もどうくるのか気になります(w
- 143 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時19分21秒
- --20--
もうすぐ会える。
そう思ったのだけれど、相手は自分と同じセルロイドエイジ。
いつ成長してるかわからないので“何歳くらいの”とか“背はどれくらいで”
とか外見的特長を聞いて廻っても無駄な上に、名前もいつまでも同じ名を
名乗っているとは限らない。
それでも、大まかな場所の特定は何とかできた。
どうやら一人じゃないらしいということもわかった。
しかし、それから先が掴めなくて足踏み状態のまま、もどかしい時間が過ぎていく。
- 144 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月01日(土)23時19分58秒
- この街にいるのは確かなんだ。私の中の何かがなっちはこの近くにいるって
強く訴えかけてきてる。
でも、なんか迷っちゃったみたいだ……さっきから同じトコばっかりぐるぐる
廻ってる気がする。いや、気がするんじゃなくてホントにそうなんだけど。
あぁ、何でこうなるかなぁ。
ふと人の視線を感じて顔を上げると、二人組がこちらを見ていた。
中学生くらいだろうか。
二人とも目に特徴がある。大きく開かれた目と気の強そうな目。
- 145 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時20分42秒
ギシッ
「――――っ!!」
突然の苦痛に顔を歪める。
来た。頭の中に骨のきしむ音が響く。
退行が、成長が始まる。
早くここから逃げて人気のないところに行かないと……
無我夢中で走って近くの公園のトイレの個室に駆け込んだ。
- 146 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時21分21秒
- まず、膝。
次に内臓。
どんどん痛みが増してくる。
「……〜っ痛……ぅ……くっ……」
涙目になって脂汗が流れる。
歯を食いしばっても痛いモンは痛い。
この痛みは一体何年分の痛みなのだろう。
- 147 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時22分02秒
- 元々小さな身体な私でさえこんな痛みを感じるんだから、普通の身長のなっちは
もっと酷いんだろうな。
ひとしきり痛みが去ったあと、鏡を見る。
「……動きやすい年齢になったのは不幸中の幸いかな……」
そこには19歳の少女が映っていた。
- 148 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時23分11秒
- --21--
なまらめんこい娘がいるべさ。
葬式の会場で不謹慎だと思いながらもその子から目が離せなかった。
神奈川の遠い親戚の訃報を聞いた両親は多忙のため葬儀の会場に来ることが出来ず
代わりに東京の高校へ通うため上京していた私をそこへ送り込んだ。
石川家葬儀場――
聞いたことがあった気もするけど、顔は知らない。
夫婦の遺影を見ても知らない顔だということしかわからなかった。
- 149 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時24分18秒
- そんな中、声をあげずに密かにすすり泣く小学生くらいの少女を見つけたのだ。
どうやらこの夫婦の子どもらしい。
「……くっ……ふぇっ……っ」
こんなに小さな子なのに、涙を堪えることを覚えてしまったのか。
そう思った瞬間、胸が締め付けられた。
それなのに、親戚連中は両親を亡くした彼女を引き取ろうとしない。
“ウチにはそんな余裕はない”
“遺産だってこんなに少ないのに引き取っても損するだけじゃないか”
- 150 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時24分53秒
- 負の感情がこもった言葉ばかりが少女の周りを飛び交う。
本当にこいつらは大人なのか?
正直、そのときは頭に血が上ってて自分でもなにを言ったのかよく覚えていない。
ただ、この一言以外は。
「この子は私が引き取ります」
- 151 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時25分57秒
- それから両親にその話をした。
いつものように“好きにしなさい”と返ってくるのはわかっていた。
放任もいいとこ。
連絡したその日にその子の養育費を振り込んでくれた。
お金なら腐るほどあるはずだ。
今回のことも、金持ちの道楽程度にしか考えていないのだろう。
結局、自分の子どもは勉強がある程度できてれば他はどうでもいいんだ。
- 152 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時26分38秒
- 「お名前はなんていうの?」
「石川……梨華……」
「ふーん。梨華ちゃんかぁ。なっちは安倍なつみ。よろしくね〜
今度から梨華ちゃんのおねぇちゃんだよ」
「おねぇちゃん?」
「うん。おねぇちゃん」
「……おねぇちゃんは梨華を一人にしない?」
「あたりまえだべさ。一人になんかしない」
そう言うとその子は華のような笑顔を見せて笑った。
「うん」
まさかその約束が数年後に破られるとは思っても見なかったんだろう。
…………お互いに……
- 153 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時27分10秒
- --22--
一人にしないで
やはり私では彼女の傷を癒すことなど出来なかったのか。
きっとそれは私じゃなくても同じなんだろう。
彼女は吉澤ひとみが必要なのだ。
どんな姿であっても。
吉澤さんもそれは同じだろう。
石川さんを巻き込みたくなかったのにもかかわらずこの街に彼女に自分の死を伝え
に来た。諦めてもらうために。
ごく普通の人生を自分によって縛られることなく歩いてほしくて。
……その結果、見事に巻き込んでしまったのだけど。
- 154 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時27分49秒
- 石川さんは吉澤さんの腕を掴んだまま俯いて泣いている。
吉澤さんは無言のまま石川さんを見つめている。
その光景は美しくはあるけど痛々しかった。
「泣かないで……」
水を打ったような静けさの中に吉澤さんの声が静かに流れた。
「私と一緒にいると、怪我をするかもしれない。もしかしたら
死んでしまうこともあるかもしれない……」
石川さんの頬を伝う涙を親指で拭いながら微笑んで続ける。
「それでもいいなら、一緒に……いてくれるかな」
- 155 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時29分07秒
- 次の瞬間、そこにあったのは笑顔。
私の知らない、幸福そうな笑顔がそこにあった。
その優しさに満ち溢れた笑顔を、私は一生忘れないだろう。
「今更ついてくるなって言っても無駄だよ?逃げても追いかけていく。
この手で抱きしめるまで諦めないんだから」
「ははっ……そりゃ怖いね……」
アンバランスに抱き合う二人は本当の恋人同士にしか見えなかった。
悔しいけれど、一時休戦しとこう。
勝ち目がないのはわかっていても石川さんへの想いはまだ燃え尽きてないんだから。
- 156 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時29分57秒
- 「で、これからどうするんですか?」
「私たち以外のセルロイドエイジを探すの。あいつらに捕まらないうちに」
「闇雲に探しても時間の無駄です。具体的には?」
私の問いに答えてくれたのは安倍さん。
視線を地面に落としたまま口を動かして答えてくれた。
「矢口真里、それから福田明日香。今はこの二人がこの付近にいるらしい
ということだけしかわからないから……」
「……いろいろ聞きたいことはあるから。とりあえず家に帰ろう」
その石川さんの提案により4人で作戦会議をすることになった。
まさか、つい数時間前まで話した事もない人と命の危険を伴うことをする
はめなるとは思いもしなかった……
- 157 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時30分40秒
- こんな状況なのに、愛ちゃんと約束をしていたことを思い出した。
麻琴ちゃんが代わりに言ってくれてるとは思うけど、悪いことをしたなぁ。
次に会ったらちゃんと謝っとかないと。
でも、許してくれるかな……
私は誰にも聞こえないようにため息をついた。
- 158 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時31分17秒
- --23--
「のの……夢でも見たんちゃう?」
「ちがうもん!ホントなんです!飯田さんは信じてくれますよね!?」
「あぁ〜……信じるも信じないも、実際カオリが見たわけじゃないから
なんとも言えないんだけど……辻が嘘ついてるようには見えないし」
8段アイスを買ってくると言って一人ご機嫌に歩いていった辻が帰ってくるなり
「縮んだんです、人が、落としちゃって、8段アイスを、公園で、6段!!」
と意味不明なことを口走り始めたもんだから、カオリは加護と目を見合わせて
その解読を試みた。
- 159 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時31分55秒
- 辻の手には2段のアイス。つまり8段アイスのうち6段を落とした、と。
おそらく場所は公園よね。
で、残ったのは“縮んだんです”と“人が”……人が縮んだ?
そう聞き返すと辻は動揺したままコクコクと頷いた。
「しかしなぁ……人がイキナリ縮むって……そんなんあるわけないやんか」
加護はまだ半信半疑のようだ。
まぁ、当然と言えば当然か。冷静に考えて人がイキナリ伸びたり縮んだりする
はずはないんだから。
しかし、辻のこの動揺ぶりは演技とは思い難い。
「とりあえず、そこに連れてってくれる?」
話はそれからだ。
もっとも、まだその現場に人がいるとは思えないけど。
- 160 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時32分31秒
- 案の定、公園はがらんとして人の気配はなかった。
錆び付いた鉄棒とジャングルジム、滑り台に砂場にブランコ。
至って普通の小さな公園。
「ほんとうなんです!」
「んなことゆうても、おらんやないか。そんなバケモンおるわけないやろ」
「バケモンじゃないです!あの人言ってました。“これは手品だから”って」
「イキナリ縮む手品なんか聞いたことないわ!」
あぁ……また始まった……
辻と加護の口論はキリが無さそうなので適当なところで間に入って止めなきゃ。
「はい、二人とも喧嘩しない。……辻、その人と話したんだ?」
- 161 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時33分10秒
- 先程の言葉“これは手品だから”ってのは明らかに相手に向かって言う台詞だ。
その人が言ったってことは相手は辻ということになる。
「はい。なんか苦しそうでしたけど、ののが怖がってるのに気付いて
無理してニコッて笑ってそう言ったんです」
しかし、やっぱり動揺していた辻は怖くて走ってカオリのトコに逃げてきた
ということらしい。
「……これは手品、ねぇ……」
辻の言うことは信じているが、聞けば聞くほどわからなくなってきた。
とりあえず、縮んだと言うこと以外は何もはっきりとしたことがわからない。
3人で黙り込んでいると、背後から突然声をかけられた。
「ねぇ、明日香サン?やっと見つけたよ」
- 162 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時33分54秒
- 振り向くとそこには茶髪の高校生くらいの少女が立っていた。
一見どこにでもいる都会の女子高生に見えたが、手に持っているその容貌に
不似合いな鉄の塊を確認した時、カオリはこの子はヤバイって思った。
「……う〜ん……どっちが明日香サン?よく覚えてないんだよね。
名乗り出てもらわないと二人とも連れてかなきゃなんないし面倒なんだよね」
眠そうにしゃべっている間も隙を見せない。
明日香とは誰の事だろう。人違いだと言っても通用するのだろうか。
とにかく、今カオリの頭の中にある任務は一つだけ。
――――なんとしても、辻加護を守らないと……!
- 163 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時35分33秒
- 本日はここまで。
- 164 名前: 投稿日:2002年06月01日(土)23時39分50秒
- レス有難うございます。
>141
はい、矢口です。とりあえず19に戻ってもらいました。
これから本筋にもちゃんと絡んできます。
>142
高紺好きなんです。
いしよしごまよりも小高紺(w
- 165 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月02日(日)03時42分54秒
- ウワァァン!いしよしの愛の深さに涙涙。。
続々増えてく新キャラにも期待っす
- 166 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月02日(日)13時10分44秒
- 梨華ちゃんかわいそうです。(T▽T)
でも、吉の愛で立ち直ってくれれば・・・。
これからの展開が楽しみです。
- 167 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時39分58秒
- --24--
「これは手品だから」
なんて子供だましな台詞なんだろう。あの子はやはり怖がってたみたいだ。
地面に広がる6色の甘い匂いのする塊はすぐに溶けて液体になってしまう。
こんなに些細なことで短い時間の流れを感じるようになってしまったのはいつからだろう。
自分の身体の時間は一向に上限よりも前に進む気配などないのに。
本当なら18歳。
でも、本当にここに存在している私は12歳。
本当の“本当”は一体どっちなんだろう。
- 168 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時40分50秒
- “奴ら”はもうすぐ私を捕まえるために動き出す。
さて、どうしたものか。
向こうの目的については大方の予想はつく。
セルロイドエイジはいい研究素材になるだろう。
不死ではないけれど長寿。そして、何より不老。
喉から手が出るほどこのデータが欲しい人間がいてもおかしくはない。
しかし、協力は出来ない。
どんな理由があったにせよ、時間の流れに干渉すべきではないのだから。
「私たちは自らで解除できない爆弾を抱えているのと同じ」
そう言い始めたのは、なっち。
うん。私もそう思う。
- 169 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時41分36秒
- ……でも、ある程度の環境が揃えば自らで解除できるかもしれないよ。
自分の、セルロイドエイジの身体を研究する設備があれば……
頭の中には一つの案があった。
それは確実に設備が揃うけど、かなり危険を伴うかもしれない案。
それでも、今は他に方法が思いつかないんだ。
……だから……賭けてみようと思う。
大丈夫。
きっと上手くいくよ。
私の武器は、この身体と頭だけで十分なんだから。
- 170 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時42分23秒
- --25--
やっと部活も終わって疲労感に耐えながら帰宅している途中。
私はなにやら厄介なことに巻き込まれてしまったらしい。
その公園は家に帰るときの近道で、斜めに突っ切ると結構時間か短縮できるため
この時間帯によく通っていた。
いつもなら人っ子一人いない寂しい公園に流れるその声がやけに新鮮に聞こえたのを
覚えている。
誰かいるんだ。珍しいな。
- 171 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時43分00秒
- しかし、距離が近くなるに連れてだんだんと状況がおかしい事に気が付いてきた。
茶髪の女子高生の人の前に小さな子2人を庇うようにして立ちはだかる背の高い女の人。
その手足は細く長い。
それに引き換え、女子高生の方はかなり力がありそうだ。
右手に何か黒いものを持っているのが見えた。
「――――……っ!!」
拳銃だ!
その銃口は真っ直ぐに長身の女の人に向けられて、いつでも引き金を引ける状態にしている。
- 172 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時44分11秒
- 早く逃げないと。
気付かれないようにそっと忍び足で。
今来た道を引き返そうとした時、一瞬、ほんの一瞬だけ、迷った。
このあと、あの3人はどうなるんだろう。
相手は拳銃を持っている。
恐らくあの様子じゃ、向こうは丸腰。
もし争いになったとしたら、結果はどう考えてもわかる。
だからって、私がそこに言っても何が変わるわけじゃない。
自分まで殺されるかもしれないのに、そんなことできるわけない。
不要な犠牲が増えるだけ。
- 173 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時45分14秒
- 振り向くと、小さな子の一人と目が合った。
純粋無垢。
その言葉が似合う綺麗な目をしている。
たぶん、私とちょうど同じくらいの歳だろう。
その口が音もなく動いた。
八重歯がより一層その子を幼く見せて、可愛い。
に げ て !
声は出ていなかったけど、口の動きは確かにそう動いていた。
それがわかったのに、私は気が付いたら女子高生の背中に思い切り体重を乗せて
体当たりしていた。
きっと、ダンスやスポーツと同じ。
頭で考えるより先に身体か動いた。
それだけだったんだ。
- 174 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時46分05秒
- --26--
「ぐっ……!?」
わき腹に走った強い衝撃により体勢を崩し、地面に手をつく。
突然の予想していなかった出来事に何が起こったのか分からなかったが
どうやら小さな女の子が頭から私に突っ込んできたようだ。
「こっち来て!はやく!!」
ここで逃げられては今までの捜索活動が水の泡だ。
- 175 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時47分03秒
- 私が片膝をついたままで銃を構えると明日香かも知れない女の子の一人が
戻ってきて、私の右手を銃と一緒に押さえ込んだ。
「はよ逃げて!警察呼んでや!」
なかなか行動力がある子だ。
頭もそんなに悪くなさそうだし。この子が“福田明日香”なんだろうか。
でも、関西弁とは聞いた覚えがない。
そんなことばかりを考えていて手を振り払うのを思い出したときには
もう3人が小さく見えるようになってしまったあとだった。
- 176 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時48分38秒
- 関西弁の子はまだ私の手を地面に力いっぱい固定している。
「ねぇ、怪我したくないなら話してくれるかな?警察が来たら色々と拙いんだ」
「嫌や、離さん!警察に突き出したる!!」
やれやれ。
女の子にはあんまり手荒なまねはしたくないんだってば。
とりあえず少し力を入れてその少女を軽く突き飛ばし、立ち上がった。
そして中腰になりその子に手を差し伸べる。
- 177 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時50分00秒
- 「さて、いきましょうか。お姫様」
「行かんで。うちは“明日香サン”やない!あんた一体何なんや!?」
かなりの興奮状態にあるみたいだ。
敵対心が剥き出しの眼差しでこちらを睨んでくる。
「いいよ」
「は?」
- 178 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時50分45秒
- 「明日香サンじゃなくていいからさ、おいで」
明日香サンじゃなくてもいい。
本当は明日香サンじゃないほうがいい。この子は良い子だ。
気に入った。
連れて行く理由はそれだけで良い。
だって、この子は永遠の少女が似合うと思うから……――
- 179 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時51分38秒
- 本日はここまで。
- 180 名前: 投稿日:2002年06月10日(月)00時01分29秒
- レス有難うございます。
>165
いしよしの愛は深いです。
なんか徐々に人数が増えてきてうまく動かせるかどうか不安です(w
>166
ここの梨華ちゃんは薄幸な感じなので。
これからの展開、期待を裏切らないよう頑張ります。
相変わらず話が進むのが遅くてごめんなさい。
- 181 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月10日(月)00時35分55秒
- 訂正
176の
ねぇ、怪我したくないなら話してくれるかな?
↓
ねぇ、怪我したくないなら離してくれるかな?
でした。
- 182 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月10日(月)11時25分58秒
- 拳銃少女はあの人かなぁ
- 183 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月16日(日)00時36分39秒
- たぶんあの人だよねぇ。
- 184 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月16日(日)10時12分31秒
- 拳銃少女よりも部活帰り体当たり少女が気になる……
まさか
|ё)
- 185 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時41分47秒
- --27--
「ねぇ、そんなにピリピリすることないじゃん」
「うっさいわ!ウチは明日香サンやない、加護亜依や!
あんたウチになにするつもりなんや!?はよ帰せ!」
やれやれ。人違いだったのはよくわかった。
拳銃にびびってる様子はあったが虚勢を張っている。
どうもこの子は威勢がよすぎ。こういう子って嫌いじゃないけどね。
- 186 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時42分26秒
- この関西弁も誰かさんを思い出させて親近感が沸く。
年を尋ねると「なんでんなもん教えんなあかんねん」
初めは名前も言うつもりがなかったらしいが福田明日香じゃないなら
本名を教えてよと言うと簡単に名乗った。
案外扱いやすいのかもしれない。
まぁ、どんな言葉を交わしても最後には必ず、
「いい加減にしぃや!何でウチがあんたと一緒におらなあかんねや!」
これだ。
取り付く島も無い。
まさかこんな子相手に暴力はおろか、銃を使うわけにも行かないし。
- 187 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時43分04秒
- 「なんか凄く威勢のいい子を連れてきたなぁ」
「市井ちゃん……お帰り〜。そっちはどうだった?」
「あ〜……もう少しだったんだけど……ねぇ」
苦笑いをする市井ちゃんの肩越しに、浅いため息をつき表情を曇らせる
圭ちゃんが見えた。
「なんか知らない女の子が邪魔しに入ってきてね……予想外だったわ」
「えっ?そっちもなの?」
「そっちもって……後藤のほうも?」
- 188 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時43分47秒
- 私は頷いて今日の出来事を圭ちゃんと大雑把に説明しあった。
その会話の中でわかったことはどうやら私たちの邪魔をしたのは
同一人物ではないということ。
ほんの一瞬の出来事だったから私も良くは覚えていないけど、
話を聞く限りではまったくの別人だろう。
私が会った少女は圭ちゃんたちのほうに現れた少女のようにスマートに動けてない。
むしろ闇雲に後先を考えずに突っ込んできた感じだったし。
なにより時間的な問題がある。
私たちの行動はほぼ同時刻と言って良いのだからどう考えても一人じゃ無理だ。
- 189 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時45分09秒
- 「それにしても、一体どうしたんだろうね……ここ数年こんなこと
一度も無かったじゃない。セルロイドエイジと一般人の必要以上の
接触なんて……どういうこと?」
「……今日の子達、一度調べてみたほうが良いかもしれないね。
成果は期待できないけど……」
圭ちゃんと市井ちゃんが真面目な顔をしてそんなことばかり言っているのを
尻目に私は加護のほうへ向き直った。
- 190 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時46分00秒
「加護は関西弁うまいねぇ、どこの人?三重?」
「……奈良」
「……奈良って鹿と大仏のとこだよね。そっか、奈良かぁ」
「あんた変わったひとやなぁ……関西言うたら普通大阪って聞かれるで」
あ、今ほんのちょっこっとなんだけど笑顔が見れましたぞ。
そっけない言い方に聞こえたけど、数分前とは違う呆れたような笑顔が
ほんの少しだけ垣間見れたことが嬉しくて、ついつい頭を撫でてしまった。
もちろん、ものすごい勢いで怒られたけど。
「なっ!なにすんじゃボケェッ!!」
私のここ数年の経験上では……関西の人って照れると怒るんだよね。
- 191 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時47分25秒
- --28--
「飯田さん〜、あいぼんが、あいぼんがぁ〜……」
「こら、泣くな!辻!」
警察に駆け込んで一通り事情聴取を受け、自宅に帰るころには
すっかり日が落ちていた。
帰り際に聞いた警察の人の話ではどうやら聞くことだけは一応聞いたが
何か起きるまでは動きませんよという姿勢でいるらしい。
加護のことは誘拐事件として大掛かりな捜査はしてくれないとも言っていた。
何のための警察なんだろうか。
- 192 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時48分17秒
「あの……ごめんなさい……」
左やや後方から小さく聞こえた声に振り向くとこちらも泣きそうな顔をしている。
制服の袖は涙をぬぐった跡で少し色が違う。
「謝らないで。ナイスタックルだったよ。頭は背中に拳は脇腹にクリーンヒット
新垣のおかげでカオリたちは助かったんだから、ね?」
「拳は偶然なんですけど……加護さんが捕まっちゃったのに私は……」
一つ呟く度に空気が重くなっていくのがわかる。
こういうくらい重い空気はすきじゃないんだよね。
- 193 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時48分53秒
「ネガティブになんな!ったくよぉウジウジしてても済んだことは
済んだことでしょうが!しゃきっとしな!」
「は、はいっ!」
「ほら、辻も!加護を助けるんでしょ?」
右腕にしがみ付いて泣きじゃくる辻の頭をぽんぽんと軽く叩くと
ようやく泣きやんでくれた。
「……あいぼんをどうやって助けるんですか?」
「それは……――」
- 194 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時49分26秒
……考えてない。
とは言えるわけがない。どうしよう。
辻の期待に満ちた眼差しが、かなり痛いわ。
「あの……私の友達に力になってくれそうな人がいますけど……」
でかした、新垣!
心の中で大きくガッツポーズしたのを悟られないように
その話を促した。
「紺野あさ美ちゃんっていう子なんですけどね……――」
- 195 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時50分45秒
- 本日はここまで。
- 196 名前: 投稿日:2002年06月16日(日)23時55分16秒
- レス有難うございます。
>182
拳銃少女はこの人でした。
師弟ということで。
>183
予想はあたっていたでしょうか?予想通りな気がしますが (w
>184
|ё)<その通りよ!
……大当たりでした(w
- 197 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)01時58分03秒
- 人物が増えてきますねぇ…
話もいい感じに膨らみそうで楽しみ
- 198 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時10分14秒
- --29--
電柱の隣にある屋台でビールのジョッキを傾ける金髪の女が二人。
どちらも関西弁でどことなく似た雰囲気を漂わせていた。
「へぇ、あんた薬屋なんかぁ……調合とかもするん?」
「そりゃ〜しますよ。薬剤師の資格もってますねん。姐さん仕事はしてはるんすか?」
「あんたと似たようなもんや。研究やけどな」
そう言って「かかか」と軽く笑った顔を見せる。
- 199 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時13分05秒
- その瞳はブルーのカラーコンタクトで覆われていて本来の色がわからない。
一人で仕事帰りの一杯を味わっていると隣に色白の美人が座った。
普段なら別にそんなことお構い無しに一人で呑むんやけど
そのときは、何故か少し興味がわいてジロジロ見てしもうたんや。
それに気付いたんやろか。
「見せ掛けの金髪碧眼も悪かないやろ」
見ず知らずの他人を凝視する自分も悪いが、初対面でいきなりそう言われたのは驚いた。
離してみると案外気さくな人で、なんと言ったらいいんやろ……
波長って言うんかな……妙にあってる気がしたんや。
同じ周波数を持っとる人や思うた。
- 200 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時13分57秒
「あんた、気にいったでぇ!なんつー名前なん?」
数分前のことを思い出していると、その一言と共にバシバシと
背中を叩かれた衝撃で急に元の時間に引き戻された。
「げほっごほっ、ちょい痛かったわ……へ、平家みちよ」
「じゃ、みっちゃんやね。ウチは中澤裕子ちゅーねん。裕ちゃんでええよ」
それから、儲かってないとか、なかなか研究が進まんとか
他愛のない話で盛り上がり、結局朝まで二人で飲み明かした。
- 201 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時19分01秒
- --30--
少し長い話だよ。
そのうえ、私たち自身把握出来てない部分も沢山ある。
そう言って二人は説明を始めてくれた。
「あいつらはセルロイドエイジを分析して不老長寿を現実にしようとしてるんだよ。
詳しいことは私たちも知らないんだけど、もしそんなことになったとしたら
世界がどうなるか……予想はつくでしょう?」
「それが可能かどうかはなっちたちにもわからないし、なっちたちのせいで
時間の秩序を根本から破壊するなんてしてはいけないことなんだべ」
- 202 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時20分02秒
- “時間の秩序”
今まで普通に生活して来た中でそんなもの真剣に考えたことなんでなかった。
きっと、この二人のセルロイドエイジに出会わなかったら一生そんなこと
考えなかったかもしれない。
いや、出会わなければ年を重ねて老いていく自分を感じたとき不老を夢見ただろう。
いつの時代だって人間は愚かな生き物なのだから。
思うように動かなくなっていく身体で若さに憧れる。
それは不自然なことなんかじゃない。
でも。
- 203 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時20分52秒
もしそんなことが現実になってしまったら?
多発する深刻な問題。
麻痺していく時間感覚。廃れてゆく人の心。
対応できる人間が一体何人いるのだろう。
解決の糸口が見つからなくなったとき行き着く先は……――
――……絶望。
死と言う逃げ道を残しているのはきっとそこに辿り着いたときの保険。
- 204 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月22日(土)20時21分38秒
「私は大人になりたいよ」
ポツリと小さく呟いたのは吉澤さん。
その言葉の中には“単純に大人になりたい”のではなく
“心の成長に伴った身体の成長”を望む強い感情が感じ取られた。
やや間を置いてそれに続くように安倍さんも呟く。
「普通の時間を望むことすら、なっちたちには許されないのかな……
ただ、そこに存在することさえも嘘になる人間には」
その表情のみが子どもの姿とは裏腹にやけに大人びて見えた。
初めて吉澤さんと目が会ったときと同じ。
あの寂しい瞳。
- 205 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時22分29秒
「ひとみちゃんも安部さんも、もう少しポジティブになったほうが良いよ」
明るい声が部屋に響いた。
その場にいた三人の視線は石川さんに一気に向けられる。
「いない人間って言ってたけど、いるじゃない。ここに。
こんなに確かな証拠はないんじゃないかな」
それはとても単純明快な小学生でもわかること。
でも、私も含めてここにいる人たちはそんな簡単なことさえも忘れてしまうほど
頭が硬くなりすぎた。
わかりきったことの中に真実は隠れているのに。
状況が状況だからと言ってしまえばそれまでなんだけど。
- 206 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時23分23秒
石川さんの声は不思議だ。
こんなに異常な事態なのに、不思議と空気が軽くなる。
何とかなりそうな気がしてくる。
なんでだろう。
数時間前まではあんなにネガティブで後ろ向きだったのに。
「……うん」
吉澤さんの表情も柔らかくなっている。
そうだ。
石川さんが変われる理由なんて一つしかない。
恋人の存在が、彼女をどんどん強くする。輝かせる。
悔しいけど、やっぱり認めざるを得ないじゃないか。
- 207 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時24分00秒
やはり時間は誰にでも平等に流れている。
だって私の中にあった石川さんの恋人に対する激しい嫉妬心はもう殆どない。
ほんの少しずつだけど、私自身も成長している。
数時間前よりも、数分前よりも、数秒前よりも。
わからないくらい少しずつ。でも、確実に……。
『ピピピピピピピピピピピピ』
穏やかな空気を切り裂く音に全員がびくりと身体を跳ねらせた。
- 208 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時24分30秒
「――――っ!!?」
一瞬何かの警報かと思ったが私の横に置いていた携帯の着信を知らせる音だった。
人が真剣に考え事をしているときに寝る携帯なんてろくなヤツからの連絡じゃない。
そう思いつつ未だ収まらない動悸でかすかに震える手で光るディスプレイを見る。
『高橋愛』
- 209 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時25分08秒
- 本日はここまで。
- 210 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)20時29分32秒
- レス有難うございます。
>197
人物が増えて繋がりも複雑で頭が混乱しそうです(苦笑
期待に応えられるよう頑張ります。
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月22日(土)21時16分56秒
- 成る程、敵の目的がはっきりしてきた。。
- 212 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月23日(日)01時10分56秒
- 敵は武力で鎮圧すべきであります。
- 213 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時11分32秒
- --31--
『あさ美ちゃん?今どこにいるの?』
通話ボタンを押すといつもの愛ちゃんの声が聞こえてきた。
どこと言われても、どう説明していいのかわかんないし。
「えぇっと……知り合いの家、かな。どうしたの?」
『理沙ちゃんが警察に捕まって……――』
少々興奮気味の口調で早口に言う。
理沙ちゃんが警察に捕まった?
頭の中で繰り返していると受話器の置くから遠くに声が聞こえた。
『ちがうちがうちがう!!愛ちゃん、かわって!』
「理沙ちゃん?」
- 214 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時12分55秒
- どうやら先ほどの台詞は愛ちゃんの報告ミスのようだ。
しかし、警察が絡んでいるようなことに首を突っ込んだのか……
大変なことに巻き込まれてなきゃいいけど。
『あのね、私と同い年くらいの子が誘拐されたの。その子を助けたいんだけど』
「助けるって……警察には通報したの?要求はなんて?」
目的のある誘拐なら、なんらかの要求があるはずだ。
サイコ野郎じゃない限り、大半は金がらみ。
理沙ちゃんの家なら軽く出せる額かもしれない。
- 215 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時13分35秒
- 『要求なんかないの。だから警察も動いてくれなくて』
要求がない?
じゃぁ、何の為に……可愛かったから連れ去ったとかそういう類だとしたら
一番厄介だ。
『犯人は、人違いで誘拐したの!福田明日香って人を探してたみたい
なんだけど、そのこと間違えて……銃とかも持ってたし』
「――……福田 明日香……――!?」
聞き返す私の声に石川さんたちが反応した。
おそらく、間違いない。例の組織が動いたんだ。
セルロイドエイジを捜し求めて……――――
- 216 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時14分05秒
- きっと、またすぐに吉澤さんたちを狙ってくるはずだ。
とにかく今はまとまっていた方が良いだろう。
『あさ美ちゃん?』
武力を所持しない私たちは圧倒的に不利なんだから
人数は多いほうが良いかもしれない。
本当は巻き込まれて欲しくなかったのだけど。
もうすでに遅いみたいだし。
目の届かないところにいられるよりは、近くにいてくれるほうが良い。
「とりあえず、合流しよう。こっちに来てくれるかな?場所教えるから」
- 217 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時14分43秒
- --32--
『あーちゃん、あそぼーよー』
『まだ宿題終わってないでしょ。ほら、ちゃんとしないと』
『あとでいーよ。あーちゃんは勉強しすぎ!子どもはお外で
遊ばないといけないんだよぉ!」
いつも私が駄々をこねてたっけ。
“あーちゃん”は私よりも年下なのにしかっりしてて、お姉さんみたいだった。
- 218 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時15分34秒
- 古い一枚の写真。
その中で幼い少女が二人仲良く笑っている。
少しぶれていて、良い出来とはいえない写真だけど私はこの写真が大好きだ。
“あーちゃん”とのツーショットはこれ以外持っていないから。
「市井ちゃん」
後ろから投げかけられた声に振り向くと後藤がお菓子の袋と
ジュースを持って、ドアのところに立っていた。
さり気なく気付かれないように写真たてを伏せる。
「あの子はどうしたの?」
「圭ちゃんと一緒にゲームしてるよ。ねぇ、一緒に食べよー」
- 219 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時16分25秒
ふにゃふにゃした笑顔を見せながらカーペットに座り込む。
きっと、甘えたくなったんだろう。
いつも甘える側の後藤があの子に対しては逆に甘えさせようとしていた。
その反動だろう。
「あの子はちゃんと家に帰してあげないといけないんだぞ」
「……加護は永遠の少女が似合うと思うんだ……」
先ほどまでの甘えた感じの声じゃない。
真剣なトーン。
後藤は福田明日香と間違えて連れて戻ったと言っていたけど、
それは嘘だ。
いま、確信が持てた。
- 220 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時17分09秒
- 「ねぇ、あの子被験者にしよう。きっと成功するよ?それに」
「後藤!」
怒鳴りつけるように名前を呼んで遮ると後藤は少し驚いた顔をして
潤んだ瞳でこちらを見つめる。
「あの子は関係ない子だ。これ以上巻き込んじゃいけない
わかってるだろ?成功率も低い。実験段階で無関係な人を
巻き込んじゃいけない」
「……だって、市井ちゃん……」
「私はいいんだよ。自分で決めたことだから」
- 221 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時17分56秒
- そう言うと後藤は私に抱きついて来た。
私は背中をなでてやることくらいしか出来ない。
一度自分で決めたことだ。いまさら取り下げるわけにも行かない。
電気スタンドだけが光る部屋の中で、しゃくりあげる声だけが響く。
私はどこかで何かを間違えたのだろうか。
机の上に伏せた写真立てを見る。
“あーちゃん”ならどういう道を選んだんだろう。
もう一度……もう一度だけでいい。
――あなたに会いたい。
- 222 名前: 投稿日:2002年06月30日(日)22時19分18秒
- 本日はここまで。
- 223 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月30日(日)22時24分53秒
- レス有難うございます。
>211
これから敵の方にもスポットライトを当てていきます。
>212
そうですね。
武力を手に入れるまではちょっと無理ですが(w
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月01日(月)03時26分18秒
- 明日香がキーパーソンか・・
市井の過去も気になる
- 225 名前:名無し作者 投稿日:2002年07月06日(土)18時02分31秒
- 今週の土日は更新できません
ちょっと仕事の関係で急遽出張に行かなければならなくなりまして……
火曜水曜あたりには更新できると思います。
- 226 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時46分23秒
- --35--
「おばちゃん、ウチいつまでここにおればええの?」
「おばちゃん言うな!私はまだ20代前半のセクシーギャルよっ!
好きなだけいればいい。加護は早く家に帰りたい?」
「……ののがおるし。あいつ絶対泣いてる」
のの?あぁ、後藤が言ってた加護の友達のことか。
まぁ、目の前で得体の知れない人間に友達が連れ去られりゃそうだろうね。
でも、今泣いてるのはその子だけじゃない。
紗耶香の部屋へ行ったきり出てこないあの子もきっと……
「後藤も、泣いてるよ」
「え?」
- 227 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時47分16秒
素っ頓狂な顔。口は悪いけど、愛嬌がある子だ。
確かにこの純粋な少女のままでいて欲しいと願う気持ちは分らなくない。
“永遠の少女が似合う”と後藤が惚れ込むのも無理ないな。
もっとも、大きな割合を占めているのは紗耶香への想いなんだろうけど。
後藤も馬鹿だ。
紗耶香の心はもうずっとここには無いのに。
10年前のあの日から……――
代わりの被験者がいなければ紗耶香が被験者になる。
それは紗耶香自身が裕ちゃんに申し出たことだ。
その理由を知っている私は紗耶香を止めようとは思わなかった。
止めても無駄だし。
それなら協力して私の出来る範囲で紗耶香を守れば良い。
- 228 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時48分03秒
『頼りにしてるよ、圭ちゃん』
ある日を境に、その言葉を何度となく聞いてきた。
その日までは紗耶香は明日香ばかりを頼りにしていた。私も同じ。
年上に頼られて、寄りかかられて、明日香は苦しかっただろうか。
自分の許容範囲外の重荷を背負わせていたのかもしれない。
私たちのせいで、子どもなのに子どものままでいられなかった。
本当ならゆっくり一段ずつ上る階段を二段飛ばしで
駆け上がらせてしまったかもしれない。
紗耶香はきっと知っている。
- 229 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時49分15秒
明日香の今の苦しみ、想い。
やっと本当の大人に近づいていたのに。
突然のありえないUターン。そしてリピート。
子どもなのに大人の頭脳。頭に身体がついて行かない。
制限される行動。
限られた世界。
自由なのに不自由。
矛盾が当たり前の顔をしてそこかしこに転がっている世界。
紗耶香にとってこの計画は懺悔。
私にとっては十字架。
- 230 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時50分47秒
ねぇ、明日香。
あなたはきっとすべてを自分の力で解決しようとしている。
他人を頼ろうとしない。
それは、優しさ。
それは、猜疑心。
それは、孤独。
明日香が私たちの行動の真意に気付くのが早いか、
私たちが明日香に悟られることなく“私たちの任務”を遂行できるか。
勝負だね。
私は負けないよ。これは私の意地だから。
- 231 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時51分39秒
- --36--
一人暮らしの狭い部屋に9人。
普段はそんなに感じていなかった狭さを思い知らされる。
そんなすし詰め状態の中で各人の簡単な自己紹介と状況報告が行われた。
紺野、高橋、小川、新垣は友人同士らしい。
飯田さんと辻ちゃんは親戚との事。
そして、私とひとみちゃんと安倍さん。
この三つのグループは本来ならば何の接点も無い、あかの他人同士。
そんな私たちを結んでいる線は間違い無くセルロイドエイジ。
- 232 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時53分03秒
話によると高橋と小川は、はっきりとセルロイドエイジ及び例の組織に
接触はしていないらしいが、どうも気になるのは二人が今日見かけたと言う
金髪の子ども。
「矢口は金髪なんだべさ!もしかすると……」
可能性は十分ある。
だって、これは偶然にしては出来すぎている気がするから。
ふと顔をあげた。話し合う8人が見える。
「――!」
- 233 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時54分58秒
ぎくりとした。
なんだろう、この感じ。どこかで見たことがある。
デジャヴ。
私は知っている。この先になにがあるかを。
知っている。
シッテイル。
しっている。
ワタシハ、シッテイル。
- 234 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時55分30秒
「梨華ちゃん、顔色悪いよ?大丈夫?」
「……うん。大丈夫……」
無理して笑顔を作っても、ひとみちゃんには通用しなくて。
有無を言わさずに手を引かれて部屋の外へ出た。
玄関口で止まり、ひとみちゃんが私の肩を押さえてしゃがみ込ませた。
目線を合わせるためなんだろう。
以前はひとみちゃんが少し身体を傾ける方だったのに。
- 235 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時56分26秒
少し、泣きたくなった。
理由は分らないけど。
ひとみちゃんはひとみちゃんなのに。
目線を合わせる。
たったそれだけの些細な行動がこんなにも心に突き刺さる。
そんな私の心境を知ってか知らずか。
私の瞳に映るひとみちゃんは、心配そうな表情でほんの少しだけ怒っていた。
- 236 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)23時57分24秒
- 本日はここまで。
- 237 名前: 投稿日:2002年07月10日(水)00時01分28秒
- レス有難うございます。
>224
よくあるパターンですが、明日香がキーパーソンですね。
今のところは。
市井の過去も話が進むにつれて徐々に。
- 238 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月10日(水)06時49分36秒
- デジャヴ?石川さんのその感覚はなんだろう…
- 239 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月10日(水)16時42分56秒
- 今日初めて読みました
切なくて引き込まれる内容にただただ感動しました
一人一人の個性もしっかりしていてとても読みやすいです
期待してます 頑張って下さい♪
- 240 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時14分33秒
- --37--
本当は怒りたくないのだけれど、梨華ちゃんがこんなに顔色悪いのに
私は何も出来ないのを思い知らされるのって結構きつい。
ただでさえ今の自分の姿に引け目を感じているのだから。
「梨華ちゃんはいつも無理しすぎるんだよ」
「……本当に大丈夫なの。ただ、何かひとみちゃん達が話し合ってるの見て
変な感じがしたからちょっと気持ち悪くなっちゃっただけ」
「変な感じ?」
うん。と頷いて梨華ちゃんは難しい顔をした。
- 241 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時15分27秒
- 「何か見たことある気がして。それに、この先に何があるか
知ってる気がするの」
「知ってるって……予知夢でも見たの?」
「違うの。たぶん夢とかじゃなくて、何かもっと別の……」
頭を私の方に預けて、そこで言葉が切れた。
そのまま数秒、ピクリとも動かない。
「梨華ちゃん?」
「…………」
え?
「ちょっと、それ一体どういう……」
- 242 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時16分06秒
- ボソッと本当に小さな声で呟いたその言葉の意味がわからずに
聞き返そうとすると梨華ちゃんは腕をつかんだ手に少し力をいれて
ゆっくりと顔をあげて優しく微笑む。
確かに梨華ちゃんの顔なのに、その顔は私の知らない顔だった。
「――り……――」
ひとつ瞬きをするとその違和感は消え、いつもの梨華ちゃんが目の前にいた。
「どうしたの?ひとみちゃん」
きょとんとした顔で口を動かす。
この様子では、さっきの台詞など覚えていないだろう。
- 243 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時16分58秒
- 心配性な彼女にこれ以上負担を与えてはいけない。
先程の数十秒の出来事はまだ胸に秘めておこう。
「いや、とにかくあんまり無理しないでね」
目一杯優しく微笑んで言い、かるく人差し指で頬を押した。
柔らかい笑顔が咲いた。
うん。
まだ梨華ちゃんはここにいるね。
胸に秘めておくことにしたのは正解だったと思うけど
部屋に戻っても先ほどの台詞が引っかかっていた。
『きっと大丈夫だから。頑張ってね』
- 244 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時17分46秒
- --38--
急に具合悪そうになった石川さんを連れて外に出たと思ったら、
今度は吉澤さんの方が顔色が優れない。
一体何があったのだろう。
気になるけれど今聞いていいものかどうか……
頬杖をついて外窓のをみると、金髪の少女と目が合った。
年は私よりも上っぽいが、身長はかなりのミニサイズ。
(――!?“矢口真里”!?)
「安倍さん!来てください!早くっ!!矢口さんがっ!!」
- 245 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時18分34秒
彼女から目を離さずに叫ぶように呼んだ。
矢口と言う単語に過剰反応をした安倍さんは物凄い勢いで窓の下を見た。
「……――あ……」
二人の目が合って、驚きと喚起の入り混じった表情を浮かべた直後。
黒い車が矢口さんの隣に急停止した。
「ヤグチッ!!」
「安倍さん!危ない落ちたら怪我じゃ済みません!」
窓から身を乗り出し、飛び降りそうな勢いの安倍さんを止める。
- 246 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時19分50秒
「だって!ヤグチがっ!!」
地上では矢口さんが必死の抵抗を見せる。
しかし、車から出てきたその人物は何のためらいもなく彼女の
みぞおちに一発、拳を埋め、力なく崩れ落ちた彼女を車に詰め込み
一呼吸置いてこちらを見上げた。
サングラスで目は見えない。
ただ、口の片端だけを微かに上げて笑ったのは確認できた。
黒い車が去ったあとには、階段を急いで駆け下りた安倍さんの
小さな後ろ姿だけ。
まるで、何事もなかったかのように静まりかえった道路を降り始めた雨と
綺麗な涙が濡らしていた。
- 247 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時20分31秒
- --39--
「やっと一人GETだね、圭ちゃん」
「……ファイル003矢口真里、19歳、身長145cm……間違いないわね」
後部座席で気を失っている金髪の少女をミラーで確認して、ため息をついた。
それが聞こえたらしく、不服そうに紗耶香が口を開いた。
「なにさ?嬉しくないの?せっかくセルロイドエイジを捕まえれたのに」
「……別に」
- 248 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時21分09秒
やはり紗耶香に運転させれば良かった。
私が外に出て捕まえれば良かった。
そんなことばかりを考えていると顔に出てしまったのだろう。
やたらと勘のいい紗耶香がこちらを睨んでいる。
「なに?そんなに私がこの人殴ったのが気に入らないわけ?
ああするのが一番手っ取り早いし安全じゃない。分ってるくせに」
「……かわったね。昔の紗耶香は女の子に手をあげるなんてマネ
出来なかった」
そう。あの頃は。
いつだって泣き虫で。でも、優しくて。
『あーちゃん、あーちゃん』って言って明日香に泣きついてた。
- 249 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時21分56秒
色あせた思い出を記憶の置くから引っ張り出していると
現在の紗耶香が私を現実に引き戻した。
「昔の私はもういないんだよ。過去は振り返らない主義だから」
「嘘。今ここにいること自体が過去に未練たらたらな証拠じゃないの」
「――……分ってるんだったら……ほっといてくれよ……
いつでも見限ってくれていいから。無理して私に付き合うことないよ」
信号に引っかかり、止まったのを見計らったように
うつむいて少女に金髪を優しくなでながら私と目をあわさずにそう言った。
- 250 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時22分26秒
「無理してない。私は私の好きなようにしてるだけ。
紗耶香を見限る時がきたとしたら、それはきっと……」
言い終える前に、紗耶香は小さな寝息を立てて眠ってしまった。
「……やれやれ……寝顔は昔のまんまなんだから……」
青へと変わった光を見て、仕方ないなと言う顔で笑って
起こさないように静かにそっとアクセルを踏んだ。
- 251 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時22分56秒
- 紗耶香を見限るとき……
――それはきっと、私が私じゃなくなったときだよ
私が私である限り、決してありえないことだから。
- 252 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時23分44秒
- 本日はここまで。
- 253 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)22時26分25秒
- レス有難うございます。
>238
デジャヴについてはまだ引っ張ります。
>239
初めまして。
そう言っていただけて光栄です。
期待外れにならないように頑張ります。
- 254 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月15日(月)23時42分24秒
- なちまり再会が…
- 255 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時33分16秒
- --40--
ここはどこやろ。
確かに自分の部屋にかえって眠った記憶はあるのに。
目を開けると知らない天井。
唯一見覚えのあるものは、ベッドの脇の机に置かれている指輪。
姐さんのつけていたもんに間違いない。
- 256 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時34分26秒
- 姐さんは時々凶器に満ちた目をする。
言葉もなくただ一点を見つめるその恐ろしいほど澄んだ綺麗な青は
強い意思と決意を感じさせた。
一体、何をしようとしとんやろ。
研究。
その内容を詳しく聞かなかったし、聞かせてはもらえなかった。
ただ、何か引っかかった。
酔っ払っている間にポツリと洩らした断片的な言葉。
- 257 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時35分07秒
- 『梨華、ごめんなぁ……ほんまにごめんなぁ』
“梨華”……梨華ちゃんのことやろうか。
姐さんと梨華ちゃんはどういう知り合いなんやろ。
梨華ちゃんから姐さんらしき人の話は一度も聞いたことがないし
一方的に知ってるだけなのかもしれない。
何故?
胸騒ぎがする。
- 258 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時35分43秒
- 梨華ちゃんの恋人、吉澤ひとみの失踪の時と同じ嫌な感じだ。
うちのこの手の予感は外れたことがない。
それが余計に不安を増幅させる。
上体を起こし、頭を抱えているとかちゃりと小さな音が耳に届いた。
ドアの方へと視線を移すと、そこには濡れた金髪をタオルでがしがしと拭く
姐さんが笑顔で立っていた。
- 259 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時36分18秒
- --41--
「おはようさん」
姐さんはニッっと口の端を上げてベッドに腰掛けてきた。
「おはよう……うち、何でこないなとこにおるんでしょう?」
「寝てる間に運ばせてもろたんや。ピッキングつこうて部屋に忍び込んでなぁ」
何でそんなことをする必要があったんやろか。
それって犯罪だとおもんやけど。
- 260 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時36分59秒
- 口に出す前に先回りをしたように姐さんが答えた。
「ま、誘拐やな。みっちゃんには手伝って欲しいことがあるんや
もちろん、断るなんて選択肢はない」
あぁ、またや。
あの瞳。
そんな瞳で見据えられたら何も出来ない。
「うちの研究はな、不老長寿やねん。若いまま生きて、若いまま死んでいく
それを現実にするんや」
「……馬鹿なことを……そんなことしたら世界がどうなるか……――」
- 261 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時37分30秒
- 分っていないはずはない。
そこまで馬鹿なら迷うことなく長寿ではなく不死の方を考えているはず。
「何の為に?理由があるはずでっしゃろ、姐さん」
「……そのうち、話すわ。今は返事が欲しい。
みっちゃんが自分の意思でうちらに協力すると言う返事がほしい」
……もしかすると、うちはこの人に惚れたのかもしれない。
そうでなかったら、こんな話に乗るはずないんや。
空気の流れる音が聞こえてきそうなほど静まり返った部屋の中で
ゆっくりと首を縦に振った。
- 262 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時38分16秒
- --42--
やっと会えた。
私の願いは叶ったはずなのに。やっぱり人は欲深な生き物で。
目が合った瞬間、一目会えたら死んでも良いなんて考えは吹っ飛んだ。
矢口が生きてた。
もう一度話をしたい。抱きしめて、笑いながらキスをしたい。
せっかく再会できたのに……私はヤグチがさらわれて行くのを
止めることが出来なかった。
自分の無力さをこれほど呪ったことは無い。
もっと力があれば……
- 263 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時38分53秒
- 私の心を反映したかのように雨が降り始めた。
こんな小さな手じゃ、守りたいもの一つ自分で守れやしない。
落ちてゆく水滴が水溜りに波紋を作る。
その中のいくつかは自分の涙。
そこに映っている私の顔が水の揺れにあわせて歪んでいく。
『泣かせないよ』
耳によみがえる、いつかのヤグチとの会話。
- 264 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時39分30秒
『なっちが泣いたら、ヤグチも泣いちゃうから』
『何でさ』
『好きだから』
『……ばか……』
- 265 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時40分51秒
- 軽く肩を叩かれる感触で、我にかえった。
振り向いて見えたのは紺野。
この子、私とどこか同じにおいがする。
北海道のおおらかな自然に包まれた感覚を持ってる。
「大丈夫です。生きてることが分っただけでも収穫ですよ。
加護さんと一緒に助けちゃえば良いんですから」
にっこりと笑って、ゆっくりとした口調でそう言った。
それがいとも簡単に出来ることのように。
- 266 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時41分29秒
「安倍さんが助けるんです。安倍さんの力で」
何の力も無い私がどうやってヤグチを助けられると言うのだろう。
この小さな身体で。
何の武器も持たずに。
「小さな身体も立派な武器になるんですよ」
- 267 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時42分03秒
- 本日はここまで。
- 268 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)00時44分21秒
- レス有難うございます。
>254
なちまり再会、一度目はこんな形になってしまいましたが
今後の動きで二度目が……
- 269 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月22日(月)01時16分30秒
- 中澤と石川にも関係が?
どうなるんだー…
- 270 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時06分49秒
- 42--
お父さん、お母さん。
わたし、新垣理沙は混乱しています。
もしものときのために、こうしてメモをとって置こうと思います。
きっと訳のわからないと文章になってるとは思うけど
私自身事態が掴めきれてないの。
心配かけてごめんなさい。
今まで何不自由なく育って、幸福に包まれていた平凡な日常。
それが、一瞬でこんな非現実的な別世界のような話に巻き込まれて。
このことに付いての詳しいことは書けません。
どう書いていいのかわからないから。
- 271 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時07分30秒
- 巻き込まれて、自分だけさっさと日常に戻る気はさらさら無いの。
一度かかわってしまった以上、最後まで見届けたいから。
でも、なんでだろう。
分らないけどこの状況を心のどこかで楽しんでいる自分がいる。
それは愛ちゃんも麻琴ちゃんも感じているみたい。
ただ、あさ美ちゃんだけはどこか違う。
事態を楽しむとかじゃなくて、重い使命を背負ってるような感じ。
多分それはあさ美ちゃんにしかできない。
- 272 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時09分34秒
- いつもは『ぽや〜っ』とした柔らかい雰囲気で包まれているのに
今は加えて何か一本筋が入ったような……頼もしさが目に見えてわかる。
『この人と一緒にいたらすべて上手く行く』って思える。
だから。
多分この手紙がお父さんやお母さんの手に渡ることはないと思う。
だって、わたしはちゃんと家に帰るんだから。
そこまで書いて、わたしは筆記用具を鞄にしまった。
もうこれ以上書く必要は無いと思ったからだ。
- 273 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時11分35秒
- ――わたしはちゃんと家に帰る。
そう……帰るんだ。
家に、帰るんだ。
すべてのカタがついたら、ね。
顔をあげるとあさ美ちゃんと目が合った。
意味も無く微笑み合う。
うん。
きっとすべて上手く行く……――
- 274 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時12分21秒
- --43--
この数時間でわかった事がある。
明日香と紺野は同等の頭脳を持っているのではないだろうか。
理解力はもちろん、行動力、知識の豊富さ。
どこで身につけたのだろう。
場数を踏んでいないと出てこないであろう『落ち着き』も
備えている。
たかだか中学生の少女が。
- 275 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時12分55秒
- 「なっちのこの身体が武器って?」
「……かなり危険を伴いますが、最も手っ取り早い方法です」
そう言って紺野は斜め下を見ながらゆっくりと話し始めた。
「奴らから逃げていてはきっと持久戦になります。
そうなるとこちらの不利は明らかです。わかりますよね?
だから、わざとこちらから奴らの懐に飛び込んでいくんです」
「はぁ!?気でも狂ったの?」
- 276 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時14分47秒
- 奴らに捕まればセルロイドエイジが悪用されるのを容認することになる。
どう考えても敵地では有利に動くことは出来ないのだから。
「奴らのところには研究する設備がありますよね。
セルロイドエイジの分析が奴らに隠れて奴らよりも速く出来れば
安部さんたちは元の身体に戻れるし、奴らも研究材料を失います」
なるほど。
しかし、研究者よりも早く分析など出来るのだろうか。
出来たとしても、それに何年費やすことになるのだろう。
考えれば考えるほど気が遠くなりそうだ。
- 277 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時15分18秒
- 「これより良い方法は今のところ思いつかないんです
私を信じてくれませんか?」
「ねぇ……カオリたちはどうしたら良い?」
「奴らと接触した以上口封じのために狙われる可能性があります。
それに、加護さん。自分たちで助けに行きたいですよね」
強く頷いたのは辻。
もちろん辻を一人で行動させるはずも無く
圭織と新垣もそれに続いて頷いた。
- 278 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時15分50秒
- そして……――
視線は梨華ちゃん、高橋、小川の三人へ向けられた。
「石川さんは……置いて行ったりしたらまた危険を顧みずに
とんでもない方法でも使って追いかけてきそうですし、
吉澤さんも目の届くところにいて欲しいようなので
一緒に行きましょう」
「うん!有難う紺野さん」
「……呼び捨てでいいです。“さん付け”で呼ばれるのはちょっと」
- 279 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時16分26秒
- 照れ笑いを浮かべる紺野に素直に頷く梨華ちゃん。
それを見て軽くすねた表情を浮かべたよっすぃ。
こちらの視線に気付いたよっすぃは苦笑いを浮かべて小声で言った。
「別に嫉妬するような事じゃないってわかってるんですけどね」
微笑ましいカップルだ。
- 280 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時16分56秒
- さて。
残るは高橋、小川。
「愛ちゃんたちは家に帰ったほうが良い。
奴らも存在を知らないはずだから日常に戻っても大丈夫なはずだよ
わざわざ危険な目にあわせるわけにはいかないし」
確かに。
彼女たちは敵と接触していない。ヤグチらしき人物を目撃したというだけ。
必要以上に無関係な人を巻き込むのは避けたい。
- 281 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時18分42秒
- しかし、そんな思惑など知りもしないのか高橋は首を振った。
小川は隣でニコニコ笑っている。
「ここまで来て、私たちは無関係なんて納得できないよ」
「愛ちゃん、ホントに危ないんだってば」
「あさ美ちゃんだって危ないのに!私も役に立つもん!
運動神経も良いし!」
早口で顔を真っ赤にしながら一気に喋る。
さすがの紺野もたじたじのようだ。
- 282 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時19分20秒
- 「それに……あさ美ちゃんに何かあったら……」
あ。
わかった。
そうか、高橋は紺野のこと……なるほどねぇ。
「大丈夫だって」
「やだっ!!一緒に行く!」
これじゃ、いつまでたっても話が進まない。
仕方ない。助け舟を出そう。
- 283 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時19分50秒
- 「まぁまぁ。いいじゃない。もう既に人数多いんだし
二人くらい増えても関係ないっしょ」
自分が高橋の立場ならって考えたら紺野には悪いけど
こっちの肩を持ちたくなってしまうのだ。
小川も1人だけのけものは嫌だろうし。
とにかく、これで全員が敵地の乗り込むということは決まった。
もう、なるようになれ。
半分ヤケになっている自分がいた。
- 284 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時21分19秒
- 本日はここまで。
- 285 名前: 投稿日:2002年07月26日(金)20時23分40秒
- レス有難うございます。
>269
中澤と石川の関係はこの先明らかになります。
- 286 名前: 投稿日:2002年07月27日(土)00時00分21秒
- すいません、今更訂正。
ナンバー打ち間違いです。
>270……→--43--
>273……→--44--
- 287 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月27日(土)06時10分04秒
- ドキドキの展開ですな・・
紺野( ゚Д゚)カシコー
- 288 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月27日(土)21時11分07秒
- 紺野超カッコいい。
ってか、展開にわくわく。
おもろいです。
- 289 名前: 投稿日:2002年08月02日(金)23時55分00秒
- --45--
「離せよっ!あんたら自分たちがしてることが犯罪だって
ちゃんとわかってんの!?」
目の前にいる2人は確かにさっき自分を誘拐した2人。
そう、誘拐犯で人体実験をもくろむマッドサイエンティストだ。
犯罪者だ。
「あ〜……完全に敵対心剥き出しだな……まぁ落ち着けって、矢口」
- 290 名前: 投稿日:2002年08月02日(金)23時56分04秒
「馴れ馴れしく呼ぶなっ!あんたら何者?」
「市井紗耶香。で、あっちのが保田圭」
にっこりと笑って名乗っているのは先刻みぞおちにパンチを入れた
少年のような少女。
同じくらいの年だろうか。
その後ろであさっての方向を向いている女は間違いなく年上だろう。
頭が良さそう……というよりいつも冷静で落ち着いているっぽい。
おそらくバランスを考えたコンビなんだ。
以前も何度か捕まりかけたことがあるが、そのときも2人で動いていた。
「私たちはあんたの味方じゃないけど、完全な敵でもないよ」
- 291 名前: 投稿日:2002年08月02日(金)23時56分51秒
- 不意に“保田圭”が口を開いた。
目線がゆっくりとこちらに向けられる。
「どういうこと?」
「……大人しくしていれば、殺させはしない。絶対に生かして帰す」
「――……どうだかね。第一そんな話この状況下で信じると思う?」
暫しの沈黙。
目線はお互いの瞳を見据えたまま。
- 292 名前: 投稿日:2002年08月02日(金)23時57分47秒
なんだ、この感覚……プレッシャー……違う……悲しみ……?
この人……悲しい瞳をしている……強い意思と同居した悲しみ。
「信じなくてもいいよ。ただ、私は命を懸けても守るから」
抑揚のない口調。
強固な意思を読み取るのには十分すぎる瞳。
視界の端に映った“市井紗耶香”は一文字に閉じた唇を動かすことなく
頷いていた。
- 293 名前: 投稿日:2002年08月02日(金)23時58分31秒
- --46--
やれやれ、まさかこんな高度な設備があるとは思わんかったわ。
壊したらどないしよ……
こんなん壊した日にゃぁ、軽く億単位の請求されそうやな。
ドサッ!バサバサバサッ!
その大きな音に心臓が跳ね上がった。
全身が心臓になったようにバクバクと脈打っている。
なんやねん!びびらすなっちゅ―ねん!
音のした方向に顔を向けると資料に埋もれている人影が見えた。
- 294 名前: 投稿日:2002年08月02日(金)23時59分18秒
……おいおい……とりあえず助けたらんとあかんかな……
まだここに来て一日たっとらんのにこれで何度目やろ
後藤真希を救出するのは。
「おーい。生きとる?」
書類をどけて腕をつかみ、上半身を引き上げると「へへへっ」と
笑いながらその可愛い顔を見せた。
「ごとーはいつでも大丈夫〜。有難うね、平家さん♪」
「いや、別にええけど……とっとと
どいたらんと下の子ヤバイんちゃうか?」
「あ゛……」
- 295 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)00時00分10秒
ごっちんの下敷きにされてる子は、ほんの少し震えていた。
もちろん怒りで。
「い〜つ〜ま〜で〜人の上に腰掛けとる気やぁっ!!ゴルァ!」
「いやぁ、ごめんごめん。わすれてた〜。あはっ」
「……『あはっ』……やないやろ〜!」
ごっちんの台詞のところはしっかりと物真似をしていうあたり
まだ余裕はありそうやな。
しかし、このこも関西人やからなぁ……怒っててもお笑い精神は
旺盛そうやし。
- 296 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)00時00分50秒
「うわ〜、すごいね。似てる似てる」
こっちはこっちで気を削がれる発言ばっかやし。
「……ハァ……ちょっと昼寝してくるわ……」
呆れたようにそう言い残して加護ちゃんは研究室を出ていってしまった。
ごっちんはごっちんでニコニコ笑ってうちのとなりでひらひらと手を振っている。
「こんなとこでなにしとったん?鬼ごっこ?」
「見学だよ。加護が研究室見てみたいって言ったから」
「……姐さんの許可は……――」
おりている訳がない。
- 297 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)00時01分33秒
自分の部屋にこもりっぱなしで調べ物をしてるみたいやし。
そんなときにごっちんと会話を交わすとは考えにくい。
「……あぁー、まぁええか……あんまあばれんやないで」
「うん。でも、平家さんがここに来た時はびっくりしたよ。
薬屋は潰れたの?値引きやらサービスやらしすぎるからだよ〜」
「かってに潰すな!あやっぺが臨時で入ってくれてるから問題ないわ」
そう。店はまだ残っている。正直な話、経営はヤバイが。
あやっぺは昔からの知り合いでアルバイトに来てくれていた時期もあった。
今はもう結婚してしもうたから主婦やけど。
- 298 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)00時02分39秒
ごっちんは以前からウチの店によく来てくれる常連さんで
そのうちプライベートでも会うようになって……
今では友達と言っていいんやないかな。
ボケボケしてるとこはあるけど基本的に素直で良い子やと思う。
「……ねぇ、平家さんは全部知ってるの?」
「いや。殆ど何も知らんねん。ただ、言われた通りに調合したり
データを取ったりしとるだけやし……ただ……――
嫌な予感はするんや。とんでもない事の手伝いをしとるような」
- 299 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)00時03分28秒
試験管を置いてごっちんの方向に振り向いた。
怖いくらい純粋な子供のような瞳を少し潤ませている。
「だったら何で断らなかったの?」
「惚れてるからかな。ウチ姐さんのこと好き見たいやねん
あの人ほっとくと過労死しそうな勢いやろ?側にいたかったんや
ごっちんは何でここにおるん?」
「いちーちゃんと圭ちゃんがいるから。ごとーは二人を守るんだ」
あはっといつものように笑った後、一瞬表情が曇った。
今にも泣きだしそうなその顔は子供にも大人にも見えた。
- 300 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)00時04分31秒
- 本日はここまで。
- 301 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)00時12分55秒
- レス有難うございます。
>287
主役じゃないはずなんですが紺野目立ちまくりです
これは既に紺野小説になってしまってるんでしょうか(w
>288
紺野はカッコ良くて完璧ですから
ふと気がついたんですが、
敵側脱退メンバー勢揃いだったりしますね。
なんか複雑な気分です。
- 302 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月03日(土)08時25分09秒
- >敵側脱退メンバー勢揃い
ホントだ…何か不思議ですねぇ…
- 303 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時25分37秒
- --47--
こんなはずじゃなかった。
今でもまだ夢に見る。
一家4人で過ごしていたあの頃の幸せな夢を。
……――戻りたい……全てが輝きに満ちていたあの頃に。
でも、
それは不可能だと知っているから。
それはしてはならないことだとわかっているから。
過去を変えることは出来ない。
それなら、戻っても辛いだけ。
忘れることさえ許されない。
- 304 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時26分20秒
……梨華……
「あんたの人生をめちゃくちゃにしたのは、事実以外のなんでもない」
謝罪はしない。
口には出さない。
ただ繰り返す。心の中で。
胸のうちはいつだって罪悪感が潜んでこびりついている。
「許してくれなんて言えんからなぁ……」
もう、ほかに方法がない。
ならばいっそこの手で送ろう。
大丈夫。
あんたの罪はうちが自分の罪と一緒に持っていく。
何も悲観的になることはない。
- 305 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時26分55秒
何がホントの幸せかなんて人それぞれだと思うけど
全ての終わりには不幸はないから。
だって、終わりのあとには何もない。
幸せもないかもしれないけど不幸もない。
コルクボードに貼った写真を見る。
幸せそうな梨華の顔。隣には同じように微笑む少女。
何枚も、何枚も。
- 306 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時28分01秒
一振りのナイフを机の引き出しから取り出し、無表情に
それにめがけて投げた。
二人の間にナイフが突き刺さる。
冷たく光るそれを引き抜かずに写真を切り刻む。
「……やっぱ、あの時一緒に殺しときゃよかったわ」
写真の残骸が散らばる部屋の中、ポツリと呟いた。
- 307 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時28分39秒
- --48--
研究所を出て近くの川土手に行くと圭ちゃんが写真をとっていた。
真剣に、でも嬉しそうな顔をして。
その手に持っているカメラはやけに古くて性能も良いとは思えない。
でも、私は圭ちゃんがそのカメラ以外を使っているところを見たことが無い。
「後藤、どうした〜?」
後姿で声をかけられ、ドキッとした。
「何でわかったの?」
「足音と匂い。それに、こんな時間にここに来るのはあんたくらいだろうし」
- 308 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時29分20秒
カメラから顔を離し、振り向いた。
平べったい大きな石の上に座って左隣を手のひらでタスタスと叩いている。
ここに座れという意味なんだろうと解釈してそこに腰をおろすと
「よしよし」と小さく頷いた。
「で?何があった?」
単刀直入。でも、圭ちゃんらしくて嬉しかった。
「……なんか、ごとーの好きになる人は決まって別に好きな人がいるなぁって」
「平家さん……?」
涙がこぼれないように頷く。
そういえば市井ちゃんのときも圭ちゃんに聞いてもらったな。
- 309 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時30分03秒
「そっか。でも、後藤はまだ紗耶香のことが好きだと思ってたけど」
「市井ちゃんはもちろん大好きだよ。でも、恋愛感情じゃないんだ。
前みたいな好きと違う。ごとーも平家さんのこといい人だとは思ってたけど
まさかこんなに好きになってるとは思わなかったよ。
だから平家さんがここに来たとき無茶苦茶喜んでる自分にびっくりした。
平家さんね、裕ちゃんが好きなんだって、あはっ。お似合いだよね
やっぱごとーみたいな子供より裕ちゃ……――」
「ストップ、ストップ!息継ぎできないほど早口で喋んなくて良いから。
落ち着きなさいよ」
どうやら、途中から思いつくままどんどん口に出していたらしい。
自分でも自分の言おうとしていることが良くわからなくなってきた。
- 310 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時30分33秒
「……大人になりたい……」
「たぶんあんたの場合あんまり変わんないわよ」
ひどい。
拗ねと非難の混じった視線を送ると苦笑いして付け加えた。
「年を取るのは簡単だけど、難しいんだよ」
そう言って圭ちゃんは古いカメラを大事そうに持ち直した。
- 311 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時31分21秒
その言葉が理解できる日が来るのかわからないけど
それとは別にわかったこともある。
やっぱり、圭ちゃんは優しい。
案外自分はラッキーなんじゃないだろうか。
恋愛感情を抱ける程魅力的な人がいて、大好きな友達がいる。
そう考えると、まだ笑っていられると思った。
- 312 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時31分55秒
- --49--
その夜、私は夢を見た。
あのときの夢。
あのとき?
私の両親は私の目の前で殺された。
違う!
目の前が紅く染まるのを見た瞬間全ての感覚は麻痺した。
違う!知らない!そんなの、知らないよ!!
思い出せ。あの惨劇の夜を。
頭に響く声が消え、無声映画のようにそれは映し出された。
- 313 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時32分34秒
女を庇い鋭利な刃物で切りつけられる男。
泣き叫ぶ女。
既に足を負傷しており、身体を引きずりながら逃れようとする。
後ろには、“鬼”。
まるで狩を楽しんでいるように、じりじりと壁際に追い詰めていく。
逃げ場が無くなった女は痛みに顔を歪めながら“鬼”を見据えた。
その瞳に映る光に諦めの色は感じ取れなかった。
唇が微かに動いた。
- 314 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時33分14秒
それは無音のなか、声としてではなく思念として頭に響いた。
育ててあげれなくてごねんね、梨華……――
女はこれから殺されると言うのに、穏やかな顔をして
ゆっくりと目を閉じた。
次の瞬間、全てが紅く包まれた。
(嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)
- 315 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時33分49秒
「――――――!!」
声にならない悲鳴をあげて、飛び起きた。
まだ全身が心臓になったみたいに脈打っている感じがする。
嫌な汗が髪をぬらしていた。
「……う……?梨華ちゃん、どうしたの?」
隣で眠っていたひとみちゃんが目を擦りながら起き上がった。
「あ……なんでもないよ〜、起こしちゃってごめんね」
「ううん。どうせもうすぐ起きなきゃ行けない時間だし
みんなも起きるよ。奴らのとこに乗り込むんだから
張り切ってるだろうし」
- 316 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時34分36秒
そうだ。
今はこっちに集中しなきゃ。あんな夢、忘れよう。
……夢なんだろうか……本当に?
『育ててあげれなくてごめんね、梨華』
「……お母さん……」
「ん?なんか言った?」
洗面台のひとみちゃんが歯ブラシを加えたまま振り向く。
「ううん。何にも言ってないよ」
そう?と言って再びシャコシャコ音をたてて歯磨きを再開する。
部屋を見渡すと、安部さんが気持ち良さそうに寝ていた。
- 317 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時35分12秒
私はどんな状況でも自分の命と引き換えなんて真似はしない。
残された者の痛みは一番良くわかってるつもりだから。
出来る限りのことをしよう。
誰も傷つかないように。
みんなで、笑って戻ってこれるように。
- 318 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時35分47秒
- 本日はここまで。
- 319 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)22時40分02秒
- レス有難うございます。
>302
娘。じゃないですが
個人的に( `◇´) は本当に予想外でした。
- 320 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月10日(土)06時23分14秒
- 石川家の過去の事件気になる・・・
一見、セルロイドエイジ絡みとは関係無さそうに思えるけど・・
- 321 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時14分34秒
- --50--
「おはようございます」
訪問者を告げるインターホンが鳴り、ドアを開けると紺野がいた。
心なしか落ち込んでいる感じがする。
「おはよう、みんなもいるみたいだね。入って」
「はい……理沙ちゃん以外は……」
「以外って……――?」
紺野は梨華ちゃんの質問に曖昧な表情をしたあと、
「おじゃまします」と部屋に足を踏み入れた。
それに飯田さん、のの、小川、高橋の4人が続く。
- 322 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時15分14秒
安部さんと梨華ちゃんは疑問を浮かべた表情を見合わせている。
私は、なんとなく嫌な予感がした。
新垣は直接顔を知られている。妨害行為もした。
……最悪の事態でないことを祈るしかない。
「……はじめる前に、理沙ちゃんの事を話しときます」
無表情の紺野が淡々と告げた言葉は、私の思った通りだった。
- 323 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時16分05秒
新垣は誘拐されたらしい。
犯行時刻は昨日の深夜。
第一発見者は新垣家に長年勤めるお手伝いさん。
夜中に新垣の部屋から悲鳴らしき声と窓を乱暴に閉める音がしたので
様子を慌てて見に行ってみると、既に部屋は物抜けの殻だったらしい。
警察へ通報はしたものの依然捜査の進展は見られず期待は出来ないようだ。
「……理沙ちゃん、あいつらに捕まったんですか?」
ののが泣きそうな目で紺野の両腕を掴んだ。
首を縦に振る。
紺野は優しい眼差しで辻を見て口を開いた。
「大丈夫ですよ。取り返せばいいんです。加護さんと一緒に」
- 324 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時16分43秒
もっとも、生きていれば、の話だけど。
紺野もそれをわかってる。
だから敢えて新垣の生死については触れないようにしているのだ。
「じゃぁ、はじめましょうか」
いつもと変わらないトーンの声で話を切り変え本題に入った。
- 325 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時18分18秒
- --51--
敵の施設内に正面から侵入するのは出来るだけ少人数の方がいいと思い、
部隊を三つにわけた。
飯田さん、辻さん。
石川さん、愛ちゃん、麻琴ちゃん。
安部さん、吉澤さん、私。
「私たち3人は敵に顔を知られてますから、堂々と正面から行きます。
石川さんと飯田さんにはこれを渡しときますから、
この通りに動いてください。その後は随時携帯で連絡を取り合います」
そう言ってメモ用紙を一枚ずつ渡す。
- 326 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時19分25秒
「では、十分後に動きます」
とりあえず指示を出し終えた私はベランダに出た。
早朝、この時間の空気は澄んでいて気持ちがいい。
伸びをすると同時に背後に気配を感じた。
「……愛ちゃん」
「一緒にいていい?」
もちろんだよと頷くと大きな目を細めて微笑を浮かべ
隣に立ち、柵に持たれた。
「気持ちいいね〜。こんな時間に起きてる事めったにないから新鮮」
ときどき吹く風は少し冷たくて湿っている。雨が降るかもしれない。
- 327 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時20分00秒
「うん。でもね、北海道はもっと気持ちいいんだよ」
「あ、そっか。あさ美ちゃん転校する前は北海道にいたんだっけ
いいなぁ。行ってみたいね……」
「いいとこだよ。なんかのんびりしてるの。全部が」
「今度、でっかい休みに入ったらさ……一緒に行かない?」
俯き加減で愛ちゃんが言った。ちょうど髪で顔が隠れているので
どんな表情かはわからなかった。
- 328 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時20分34秒
「うん、そうだね。案内するよ」
「本当にいいの!?約束だよ、絶対だよ?やったー!」
顔を赤くして興奮気味に愛ちゃんが抱きついてきた。
いい匂いがする。
が、息がしにくい……。
「あ、愛ちゃん……苦しい……」
- 329 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時21分12秒
- --52--
「飯田さん、あいぼん大丈夫でしょうか……」
「加護はああ見えて結構頭いいからね。何とかなってると思うよ」
「……辻は、足手まといにならないですか?もしなるんだったら……」
「辻、怒るよ」
飯田さんは怒鳴るわけではなく、静かに諭すように口を開いた。
それがかえって迫力があり、口をつぐむ。
- 330 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時22分00秒
畳と畳のあいだの溝を見ながら怒られるのをビクビクして構えていると
予想外に優しい声が聞こえた。
「辻、カオリって背が高いでしょ。辻には見えないとこも見えてると思う」
「……?」
「でも、それは辻も私の見えない部分が見えてるかもしれないって事だよね
視点が違うんだから当然でしょ?それはきっと時計の針と同じだと思うの。
だからね、辻は必要なんだよ。頼りになるんだよ」
「ののが……必要……?」
「うん」
にっこりと満面の笑顔で頷いてくれた飯田さんに抱きつく。
- 331 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時22分33秒
嬉しかった。
話してる内容は良くわからなかったけど、必要としてくれたことが、
頼りにしてると言ってくれたことが。
たまらなく嬉しかったから。
「飯田さんのことはののが護ります。絶対に、約束です」
「フフッ……ありがと」
軽く抱き返してくれる腕の中はとても優しくて、あったかくて。
あぁ、やっぱりののは飯田さんのことが大好きなんだ。
同じくらいあいぼんも好き。
だから、ののは頑張る。
あいぼんと飯田さんを護るために。
- 332 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時23分16秒
- --53--
窓の方を見ると愛ちゃんがあさ美ちゃんと話していた。
凄く嬉しそうな顔。
私の大好きな表情。
愛ちゃんが一番いい顔をする瞬間は決まってあさ美ちゃんがいる。
その表情が私に向けられるときは来るのだろうか。
「……可愛いなぁ……」
「高橋が?」
「当然じゃないですか!見てくださいよ、あの大きな目。輝く笑顔!!
どれを取っても極上としか言いようのない可愛さじゃないっすか!」
- 333 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時23分59秒
ん?
勢いあまって本当のことをべらべらと話してしまったけど、誰の声だったんだろう。
左に顔を向けると、小さな女の子がいた。
「あ、なんか用ですか?安倍さん」
「う、うん。ちょっと話がして見たくて……」
……話?何だろう。
少し黙って考えていると、安部さんが続けた。
「小川はなんでこの計画に手を貸そうと思ったの?危ないのに」
あぁ、なんだ。そんな簡単なことか。
- 334 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時24分29秒
「危ないからですよ」
「……はい?」
「愛ちゃんに危ない目にあって欲しくないから参加するんです。
どうせ止めても聞かないでしょう。あさ美ちゃんにぞっこんですし。
あさ美ちゃんがらみのときの愛ちゃんの表情全部大好きなんです。
それなら目の届くとこにいていつでも護れるようにしてたら
一石二鳥じゃないですか。最高ですね」
それ以外の目的なんかない。皆無だ。
セルロイドエイジとかよくわかんないし。
私にはあんまり関係ないし興味ない。
そう告げると、安部さんは一瞬目を点にして、
そのあと声を殺して目に涙をためながら苦しそうに…………大笑いしていた。
- 335 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時25分15秒
「あ、安倍さん?」
ひとしきり笑った後、顔を上げた安部さんは笑顔のまま
私の肩をばしばしと叩いた。
「うん!いいね。結構好きだべ、そういうのって」
「は、はぁ……」
あっけに取られていると、呼吸を整えて落ち着きを取り戻した安倍さんが
小さな声で耳打ちをした。
「自分の思った通りにすればいいべさ。それが叶わなくてもね、
その想いは何かを残すから」
- 336 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時25分59秒
- --54--
「ひとみちゃん、気を付けてね」
「うん。梨華ちゃんもね」
壁を背もたれにして隣り合って座り、片手だけ繋ぐ。
小さく感じていた梨華ちゃんの手……今は自分の方が小さい。
いざというときに、私は梨華ちゃんを護ることが出来るだろうか。
こんな小さな手で。
「ひとみちゃん、そんな顔しないの。ポジティブ!!」
突然の高い声。
ビックリして梨華ちゃんを見ると怒ったような表情にちょっとだけ
笑みを浮かべて私を見ていた。
- 337 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時26分35秒
「信じてるから」
「え?」
「もう、私を一人にしないんでしょ?」
「……うん。まかしといてよ!」
梨華ちゃんが笑顔だから、私も笑っていられる。
梨華ちゃんがいるから、私は頑張れる。逃げずに前に進める。
「全部終わったら、さ……デートしようね。あのときの約束まだ有効?」
「破ったら怒るよ」
迫力のない可愛い声で即答。
それが何故かすごく可笑しくて。嬉しくて。
久々に、心から笑った気がした。
- 338 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時27分22秒
みんな、大切なものを護るために戦うんだ。
計画の始動時間を知らせるアラームが鳴る。
それぞれの想いを乗せて、運命の歯車は確実に未来へ向かって動き続けている。
その音は、既に錆付いた音ではなくなっているように思えた。
- 339 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時28分12秒
- 本日はここまで。
- 340 名前: 投稿日:2002年08月13日(火)20時36分29秒
- レス有難うございます。
>320
石川家の過去の事件は物語の鍵の一つです。
そこら辺も追々明らかに。
さて、とりあえずはここまでで一区切りとなります。
第一部〜発端〜終了。
第二部〜突入〜へ向けて続きますのでまだ読んでやろうと言う方は
引き続き付き合っていただけると幸いです。
- 341 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月14日(水)10時10分14秒
- 登場人物のつながりがしっかりしてきたなぁって感じ。
第ニ部も期待。
- 342 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月25日(日)21時35分35秒
- 作者待ち保全。生きてるんだろうか。
- 343 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時20分17秒
--55--
「平家さん、データ取れました。ほぼ予想通りの結果になってます」
消毒液の匂いの中、誰かの声が響いた。
朦朧とした意識を無やり総動員して瞼をこじ開けようとするが、
出来ない。
どうやら麻酔の効果らしい。
「おお、ありがとさん。いや〜福井ちゃんきてくれてホンマ助かっとるで」
「いえ、私こそこんな研究に関われて幸せです」
どこかで聞いたことのある声だ。
どこだろう……?
- 344 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時20分54秒
「あ〜そろそろ麻酔切れる頃やな。その子部屋に連れて帰ってくれる?
可愛い顔して暴れるモンやから自由に部屋から出してやれんのや」
余計なお世話だ。
こんな人体実験されるのわかってて大人しく出来るわけがない。
隙あらば抜け出して、なっちのとこに行くんだ。
「わかりました。では」
ガラガラという音にあわせて振動が伝わってくる。
あぁ、きっとあの病院ドラマでよくみるコロコロつきのベッドだ。
うわっ、病人みてぇ。
オイラどーなっちゃうんだろ。
- 345 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時21分42秒
そのまま五分くらい移動しただろうか。
ゆっくりと止まって、ドアを開ける音が聞こえた。
少し段差があるため、部屋の中に入るとき一段と強い振動が脳を揺らす。
そのおかげか、何とか体の自由が利くようになってきた。
「……もうちょっと優しくしてくれよ〜……」
ドアが閉まる音を確認した後にようやく開けるようになった口でそう呟くと、
ぽかっと軽く頭を叩かれた。
「贅沢言わない。人がせっかく来てやってんのにさー、相変わらずだね矢口」
この喋り方。
このトーン。
そうだ。どこかで聞いたことあるはずだよ。
- 346 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時23分06秒
確信を胸に顔をあげると、その人はメガネとロングヘアーのかつらを外し、
久しぶりだねと微笑んだ。
「明日香!?」
「しー!!ばれたらどうすんの!今は福井今日子」
思わず大声を出してしまった私の口は瞬時に明日香の右手によって押さえられた。
「でも、どうやって内部に入り込んだの?顔を知られてたはずじゃ……」
「私、写真は嫌いなんだ。おそらくセルロイドエイジの中で
一番資料が少ないはずだよ。ここ、慢性的に人手不足らしいし
いい具合に実年齢に戻ってるからその期間を利用して研究データを盗もうと
思って。上手く行けばセルロイドエイジから抜ける方法を見つけれる
かもしれないし」
ただ、いつ自分の中の時間が動くかわからないのが不安要素なんだけどねと
軽く笑った。
- 347 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時24分14秒
明日香なら出来るかもしれない。
微かな希望の光を大きくすることが出来るかもしれない。
喜んでいる自分がいる反面、“かもしれない”を繰り返しながら
絶望の道も選びかねない自分もいる。
「おいら、出来ることあるかな?」
「大人しくしてること」
かつらとメガネを付け直しながらあっさりとそう返して部屋を出て行った
明日香の背中はとても大きく見えた。
- 348 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時25分28秒
- --56--
「さて、なんで今更私たちに手を貸そうと思ったのかしら?」
保田圭と名乗ったその人は車を運転しながらそう問いかけてきた。
そのすぐ後を追うように助手席に座っている市井紗耶香がこちらへ身体を
捻って口を開く。
「気を悪くしたらゴメンね。でも、一度は私たちの邪魔をしてるから
気が変わった理由が聞きたいんだ。ええっと……紺野……だっけ?」
「はい。あのときは普通の子が襲われているんだと思ったので……
でも、この人たちがセルロイドエイジだということを知って……
……――興味を持ったんです。知的好奇心からの行動ですね」
隣で気を失っている二人を横目で見ながら答える。
私の手刀で気絶させたのだ。
この二人が見ている目の前で、組織側に寝返ったふりをする為に。
- 349 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時26分02秒
「興味、ねぇ」
「私も研究に携わりたいという条件は飲んでいただけるのでしょうか?」
その問いかけは短い沈黙をよんだ。
居心地の悪い空気がまとわりついてくる。
「……ちょっと調べさせてもらったんだけど、君のIQは異常だね」
「……………………」
「210なんてそこらの中学生が叩きだせる数字じゃない。この事について
何か言っておきたいことはある?」
ひらひらとそのデータの書かれた紙切れを目の前で躍らせながら聞いてきた。
口調は先程と変っていないが、試されてるような感覚を覚えた。
- 350 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時26分40秒
「その数字が出たのは事実ですが、正確なものかどうかは知りません。
偶然運良くそうなったのかもしれませんし」
「……まぁ、いいさ。施設に着いたら簡単なテストをさせてもらう。
それで君の運命を決めよう。脳波を計りながらの検査だからくだらない
小細工は通用しないよ」
小細工なんかするつもりは無い。
あの数値が嘘じゃないのは私が一番良く知っているし、
その数値を出さなきゃこの計画は上手くいかないんだから。
全ては私の頭にかかってる。
きっとこの私に不似合いな頭脳はこのときの為に運命が用意してくれた力。
わかっている。
……気付いてしまったから。
頭に響く声に、気付かされてしまったから。
本当の私はとっくの昔にもういないことくらい……わかっているから……
- 351 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時27分15秒
- --57--
「……うっ……痛〜っ……なんなんや、一体」
後頭部の鈍い痛みを感じながら目を覚ますと、誰かの後姿が見えた。
同じくらいの体型だ。
真ん中でピシッと分けた髪を二つに結んでいるその少女には見覚えがある。
「あれ?あんた公園でうちらを助けてくれた人やな?何でここに……っ!」
うちの声に反応して振り返ったその子の手には折れた箒の柄。
それをいきなり脳天めがけて振り下ろしてきた。
かろうじて後ろに避ける事が出来たものの、動揺は収まらない。
- 352 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時27分46秒
何故この子にぼこられなきゃあかんのやろ。
うちのせいでこの子も組織の奴に捕まったから怒っとるんやろうか。
「――っちょお待った!!どないしたんや!?なんでこんなっ」
「……て……いだか……し」
その子は問いかけには答えずに、うわごとのようにぼそぼそと何かを呟いて
棒を持ち直した。
そして、またそれを振り回してうちの方へ攻撃してくる。
丸腰のままでは何も出来ずに必死の思いでそれを避けるしかない。
薄暗い部屋の中で窓からの光がその子の顔をうっすらと照らした。
「――――――!!」
- 353 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時28分30秒
おもわず、息を飲む。
その表情はまるで廃人そのものだった。無気力で焦点の定まっていない
うつろな瞳。
前にあったときはこんな表情じゃなかった。
ほとんど別人と言ってもいい。
それに、胸のあたりからは大量の血液が流れ落ちて服を赤く染めていた。
「……い……から……」
「え……」
また手が振り下ろされる。
『どかっ』と派手な音をたてて机がいびつな形に歪んだ。
「……出来るわけないやん……」
複雑な感情が胸の中を渦巻く。
うちが何とか聞き取ることの出来たその言葉は、
あまりにも悲しすぎる言葉だった。
――『お願いだから、殺して』
- 354 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時29分01秒
- --58--
「新垣さん、理沙は処分しました。ええ。里沙ちゃんの方は
無事に手術終了しました。もうそちらにお送りしましたので……
はい。報酬はいつものところに……はい。有難うございます」
電話を切ると、嫌悪感がこみ上げてきた。
たぬきおやじが……
本当は声も聞きたくないがこれくらいは仕方がない。
大切な金づるなのだ。
- 355 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時29分39秒
新垣里沙は昨年、心臓病にかかってしまっていた。
本来なら2年持たない身体だったが、彼女にはもう一つの心臓があった。
理沙の心臓だ。
人間のクローンは非合法なので普通は認められていない。
しかし、私は13年前、金欲しさに手を貸してしまった。
理沙を愛情なく育て上げ、心臓病が発覚したとき一時的に抵抗力を
高める為に入院させる際に周囲に不審がられないよう里沙の記憶を
理沙に移し変えて外へ送り出した。
移し変えるという言い方は適当ではないのかもしれない。
マインドコントロールと言ったほうが近い。
催眠状態にした理沙に里沙の身の周りの出来事をあたかも
自分の身の周りで起こった出来事のようにに植え付ける。
そして、全て上手くいった。
新垣理沙は里沙が戻れば必要のない人間だ。
それどころか、新垣社長にとってはスキャンダルの種になりかねない
邪魔者。百害あって一利なし。
だから里沙の治療がすんだ今、理沙は処分されるべき“もの”。
- 356 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時30分09秒
それにしても、運が良い。
ごっちんが連れてきた加護にもこちら側の人間になってもらわないと
困ると思っていたところだからちょうど良かった。
心臓の移植手術を終えて、ぼろぼろの心臓を埋め込まれた理沙は
あまりの苦痛に絶えられず、そのショックからマインドコントロールの
箍が外れて暴走している。
その理沙と同じ部屋に加護を放り込んでおいた。
加護が理沙を殺せば加護の命は助かる。
理沙が加護を殺すのが先なら傷口の開いた理沙も出血多量で死ぬだろう。
一人死ぬか二人死ぬかの違いだ。
大して変わらない。
顔をあげると、鏡に金色の髪をなびかせた鬼が映っていた。
- 357 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時31分13秒
- 本日はここまで。
- 358 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時34分21秒
- レス有難うございます。
>341
有難うございます。
期待して頂いてるのに更新遅くなってスイマセン
>342
保全有難うございます。
一応生きてます。
- 359 名前: 投稿日:2002年08月31日(土)20時43分03秒
- ちょっと沈みすぎなのでageておこう。
- 360 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月03日(火)02時23分44秒
- おおう、怖い雰囲気になってきた
でも続きを見守ります……
- 361 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時46分38秒
--59--
あさ美ちゃんは大丈夫だろうか……
別に私が無理を言って付いて行っても足手まといになるってわかってる。
だから余計にもどかしい。
こうして指示に従ってここで待機している間もあさ美ちゃんの身は
危険にさらされていると言うのに、何も出来ないなんて。
「高橋、心配しすぎだよ。ほら、紺野の位置はこれでわかるし
連絡なくてちゃんと動いてるうちはこれを追っていけば
居場所はわかるから。今は間隔をあけてついて行こう」
- 362 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時47分42秒
そう、あさ美ちゃんは発信機をつけてる。でも、施設に入る頃には
おそらく見つかって捨てられると言っていた。
だからそれまでは一定の距離をとって見つからないように後をつけて来いと。
私たちは車で尾行組み。飯田さんと辻さんは今のところ石川さんの家に待機。
十分に間隔をあけて車に乗り込んだ。
運転席に石川さん、私と麻琴ちゃんは後部座席。
助手席は乗らないほうが良いと思うという石川さんの発言に従い
こういう席割りになった。
石川さんの手がキーをひねり、エンジンをかける。
- 363 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時48分32秒
「あれ?動かない」
「石川さん、サイドブレーキ上がりっぱなしです。
チェンジレバーもPに入ったままです」
アクセルを踏んだまま困惑の表情を浮かべる石川さんの肩越しに
麻琴ちゃんが運転席の方を覗き込んでそれぞれの場所を指差しながら
助言した。
「え〜と、これのことかなぁ……」
えいっと言う掛け声でブレーキを上げ、レバーを動かした瞬間
車は急発進した。
「あははっ、動いた動いた。じゃぁ出発進行ー」
- 364 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時49分05秒
心臓に悪いよぉ〜。
……あれ?確か石川さんってまだ高校生って言ってなかったっけ……
「あの、石川さん……免許は……」
「持ってるわけないでしょ。まだ私18になってないもん。
運転するのも生まれて初めてなんだよ〜」
さらりとそう言って更にアクセルを踏み込んだ。
- 365 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時49分45秒
飯田さんから借りたこの車がAT車ってことが唯一の救いか……。
しかし、フロントガラス越しに見る景色は左右に忙しく揺れ動く。
信号は無視しまくり。
と言うかブレーキの存在を知っているのだろうか?
さっきからエンジンブレーキ以外使ってない。
「ねぇねぇ、高橋〜、小川〜。これどうやったら一時停止とか出来るの〜?」
…………………神様、たすけて…………………
今はあさ美ちゃんの心配よりも自分の命の心配をした方が懸命かもしれない。
- 366 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時52分03秒
--60--
「飯田さん、なんか辻は上手いこと施設に乗り込み組から
外された気がするんですけど……」
「き、気のせいじゃないかな?」
言えない。
紺野から渡された指示に
『辻さんは危ないから全てが終わった後に
迎えに行くだけにさせてください。飯田さん、本人に悟られないよう
何とか誤魔化してください』
って書いてあったなんて。
- 367 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時52分40秒
でも、
『万が一、お二人の力が必要な場合は連絡しますのでそのときは
よろしくお願いします』
とも書いてあったし……。
「辻もあいぼんを助けに行きたいです」
「今は紺野からの指示を待とう、ね?今は待機。
ここで指示を待つのも大事な役割なんだよ。拠点を任されてるんだから」
納得してくれただろうか。
辻は急に黙り込んで俯いた。
「辻?」
- 368 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時53分12秒
やっぱり駄目かな……。カオリ誤魔化すとか苦手なんだよ。
顔を覗き込もうとすると、今度は急に立ち上がった。
「…………あいぼん、お腹空かせて帰ってきますよね。
おやつとか用意して待ってましょう!」
「……辻……」
「拠点を……ここを、護るんですよね。あいぼんが帰ってくるから」
テヘテヘ笑う辻は本当はきっといろんなことが見えている。
カオリの誤魔化しとか、紺野なりの優しさとか。
気付かない振りをしてくれている。
「いつのまにか、大きくなったね」
小さく呟きがもれた。
それが聞こえたらしい辻は、少し申し訳なさそうに言った。
「……体重、そんなに増えてない……と思います」
- 369 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時54分39秒
- --61--
所狭しと並べられた本棚の下で明かりも付けずにガサガサと資料を
あさる。ざっと見たところ、セルロイドエイジ自体については
まだほとんど解明されていないということしかわからなかった。
平家さんは中澤裕子のところに行って来ると言っていたし、
少しの間は時間がある。今のうちに少しでも調べておきたいところ。
ガサガサと更に資料漁りを進めていくと施設関係者のリストでふと手が止まる。
見覚えのある字面が目に飛び込んできたからだ。
保田圭に……市井紗耶香……。
懐かしい名前。
もう10年も昔になる。
- 370 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時55分19秒
写真を見ると、やはり子供の頃の面影が残っている。
紗耶香はいつも私の手を引っ張って元気に振り回していた。
まるで私の方が年上みたいにそれをたしなめてたんだよね。
で、その様子を圭ちゃんがパシャパシャ写真撮ってたっけ。
不思議なことに写真嫌いだった私でも圭ちゃんのシャッターの音は
嫌いじゃなかった。
まるで楽器を鳴らしてるみたいに聞こえて楽しかったのを覚えてる。
それはきっと圭ちゃんのファインダー越しの目が優しかったから。
無償の優しさに私は飢えていたのかもしれない。
実際に取れた写真はほとんどがブレてて見れたもんじゃなかったけど。
唯一、マシな写りの写真は私と紗耶香が持ってる2枚だけ。
- 371 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時55分54秒
「……この世界には、失うまで気付かないことが多すぎる」
三人で過ごした時間。
時が経てば経つほど眩しく思えてきてしまう。
今の二人は私を見てどういう反応をするだろうか。
セルロイドエイジの福田明日香として見るか。
それとも、幼馴染だった福田明日香として見るか。
どっちにしろ、邪魔はさせない。
これは私一人の問題じゃないから。
矢口、なっち……彼女たちを助ける方法をなんとしても見つけ出す。
もしかしたら他にもセルロイドエイジがいるかもしれない。
迷子は、迷ったまま戻れなくて泣いている。
また、帰ることが出来るのだろうか。
資料を元に戻すと同時に表情を引き締め、福井今日子になりきる。
福田明日香の過去に浸るのは全てが終わってからでも遅くはないはずだ。
- 372 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時56分25秒
--62--
どんどんと激しくドアを叩く音が廊下に響き渡る。
このまま放っておいたらドアが壊れそうなほど強い力で叩く。
叩く。叩く。留守な訳がない。たいていこの時間は部屋にいるはずだ。
がちゃりと小さな音をたててドアを開いた姐さんは眉間にしわを寄せ
不機嫌そうにため息をつきながら私を部屋に招き入れた。
「姐さん……何考えてますの?なんであないなこと……――」
「……言ったやろ?そのうち話すって」
「今、答えが欲しいんです!こんなん、人殺しやないですか!!」
- 373 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時57分13秒
少女の血まみれの死体。
同じ部屋には隅の方で膝を抱えて泣いているもう一人の少女。
その瞳は既に現実から逃げ出し、震えていた。
「姐さん、答えてぇな!」
その問いかけに、少し俯いた感じの姿勢のままで答える。
その金髪の隙間から見える青い瞳は血が凍るほど冷たい。
「うちは……とっくの昔に人殺しや。みっちゃんも殺されとう
なかったら逆らいなや……本気で殺すかも知れんからな」
無気力な瞳で見つめられ、長い爪の付いた指が喉元にそっと触れた。
- 374 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時57分52秒
心臓が、止まりそう。
きっと本気だ。私には何も出来ない。
かと言って、死ぬ勇気もないし、逆に殺す勇気もない。
ごくりと喉が鳴る。
「もう逃げれんで。あんたもうちと同じ……鬼なんやから」
「…………姐さん」
言葉を遮るように唇が塞がれた。
わずかな隙間から暖かい舌が入り込んでくる。
息継ぎも許さないようなしつこい乱暴な口付け。
薄れ行く自我の中で悲しそうな青だけがハッキリと見えた。
もう、私は、逃げられない。
この美しい金色の鬼から……――
- 375 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)20時58分43秒
- 本日はここまで。
- 376 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)21時00分27秒
- レス有難うございます。
>360
怖い雰囲気まだ続きます。
生暖かく見守って頂ければ幸いです。
- 377 名前: 投稿日:2002年09月08日(日)23時53分53秒
- 訂正
>363
えいっと言う掛け声でブレーキを上げ、レバーを動かした瞬間
↓
えいっと言う掛け声でブレーキを下げ、レバーを動かした瞬間
上がってるブレーキを上げてどうする、自分。恥っずかしー
- 378 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月09日(月)02時56分39秒
- こういう大人な感じ好きかも
- 379 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時22分43秒
--63--
「加護……加護……ねぇ、ちょっとは食べないと……」
スープをすくい、スプーンを口の近くまで持っていっても無反応のまま。
あと一秒あの部屋の異常に気付くのが遅れてたら
加護の方が殺されていたかもしれない。
- 380 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時23分24秒
普段使われていない物置と化してしまった一室から何かをぶつける音。
それに被るように加護の悲鳴が聞こえた。
ドアを開けようとしても鍵が掛かってて、開かない。
ガチャガチャとノブを回して中にいるであろう加護に呼びかける。
「加護っ!!どうしたの!?」
応答の代わりに、内側から強くドアを叩く音が響いた。
(とろとろしてたら間に合わないかもしれない!)
そう思って、銃を構えた。
- 381 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時23分55秒
「加護、ドアから離れててね!」
2秒後、引き金を引く。
壁に囲まれている場所なためいつもの銃を撃ったときの衝撃とあわせて
反響した音が耳を攻撃してくる。
鍵が破壊されたドアは一蹴りであっけなく壊れ、私に衝撃的な画を見せた。
血まみれの部屋。
血まみれの二人の少女。
それは、まるでホラー映画のワンシーンのように映った。
- 382 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時26分35秒
そして動き続けるその映像は、まさに、加護に襲い掛かっている少女が
武器を振り下ろそうとした瞬間だった。
条件反射のように銃を構え直す。
引き金を引こうとすると、言葉と言うより叫びに近い加護の声が耳に届いた。
「ごとーさん!撃たんといてぇっ!!」
加護は、私に気をとられて避けるモーションが少し遅れた。
少女は正気を失った目をして何のためらいもなく腕を動かす。
乾いた爆発音が響いたのは、思考回路が復活するよりも先だった。
- 383 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時29分17秒
5分くらい経った後だろうか。
平家さんが銃声を聞きつけてここに来てくれたのは。
私が分っている範囲での事情を説明すると、
神妙な顔つきで頷いたあと、
『加護はごっちんに任せるから、あとの事とかこの部屋はまかせといて』
と血まみれの部屋から私達を優しく追い出した。
- 384 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時30分06秒
「……加護……もう、戻ってこれないの?私があの子を撃ったから?
私に手はあまりにも血で汚れすぎてるから?」
反応は、ない。
心の中に大きな穴が開いたような感じがした。
あの五月蝿いくらいの笑い声、実年齢よりも少し幼く見える笑顔。
全てを自分が奪ってしまったような気がして。
無意識の間に、頬に一筋の道を作っていた。
- 385 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時30分37秒
私はどうしたいんだろう。
今の状態の加護なら簡単に被験者として利用できるのに。
私はそれどころか、護ろうとしている。
いや、取り戻そうとしている。
あの生意気な関西弁を喋る愛らしい悪ガキを。
「……大丈夫……きっと大丈夫……」
守りたいものが増えた。
二つが三つになった、たったそれだけのことだと思い込ませるように
独り言を呟いた。
- 386 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時31分24秒
--64--
机に向かう少女が映っているモニターにマイクで声をかける。
「紺野、ご協力有難う。とりあえずテストは終了したから。
ドアを出て右にある部屋を自由に使っていいよ」
『わかりました』
カメラに向かって無表情に返事をして席をたった。
白い箱の中が無人になったのを確認すると映像を切り、
改めて紺野について紗耶香と話し合いを続ける。
- 387 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時32分07秒
尋常じゃない。
それが、このデータを見たときの率直な感想。
「データに偽りなし……か。よく今まで普通の生活してきてるね」
「まぁ、表立ったデータじゃないし。念のためって事で受けさせられた
再テストでは平均ど真ん中に“上手く合わせてる”みたいだったから」
横から紗耶香がつけたす。
私たちの目の前には紺野あさ美の採点済みIQテストがおいてあった。
IQ値200オーバー。ありえない数値だ。
「回答中の脳波にも異常は無し。多少緊張してもいいもんだと思うけど」
- 388 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時32分51秒
緊張すらしていない。
そういえば、銃を持った私たちに向かってきたときのあの落ち着きよう
普通の中学生とは思えなかった。
「どう思う?圭ちゃん」
「……さぁね……とりあえず、形だけでも裕ちゃんに話を通しておかないと
紺野の真意が見えないうちは完全に信用するわけにもいかないし、それに……」
「新しく入ってきた子が気になる?」
無言のまま頷いた。
『福井今日子』と言う新人は何やら影でこそこそと不穏な動きをしている
という情報が後藤から入ってきている。
実際に会ったことはまだないが、写真を見る限りは知らない顔だ。
紗耶香はどこかで見たことがある気がすると言っていたが、
よく思い出せないとギブアップした。
「……とにかく、現時点で判明しているセルロイドエイジは揃った
研究を早急に進めていこう」
- 389 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時33分29秒
- 本日はここまで。
- 390 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)20時35分16秒
- レス有難うございます。
>378
あの二人には年相応にしてもらおうかと。
- 391 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月16日(月)09時36分53秒
- う〜む。この頭脳がどう活躍するのか楽しみです・・
- 392 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月20日(金)00時14分23秒
- おもしろいッス。
これからどうなるか期待して待ってます。
- 393 名前:ぶらぅ 投稿日:2002年09月21日(土)16時06分07秒
- うぅ〜ん、続きが気になりますね・・・
どうなるんだろ・・
- 394 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時24分17秒
- --65--
「……安倍なつみ、吉澤ひとみ……それから……」
福田、明日香……――
一通り書類に目を通すと顔をあげて圭坊の目を見る。
いつものように警戒心の強い目。心の扉をがっちり閉めてガードしている。
まるで見られてはマズイ物を隠しているように。
- 395 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時25分26秒
「福田明日香の写真、以前の面影も無い見たいなんやけど……
また誤認やないやろうな……二度目の失敗は許されんで」
「大丈夫、裏付けは取ってあるよ。ここまで高いIQを持った子は滅多にいないし。
写真はどれも10年以上前の物ばかりだもの……当てにならないわよ」
確かに、極度の写真嫌いだったらしい福田明日香の写真はほとんど無い。
いまとなっては、類稀な頭脳が彼女の最大の手がかりとなっているのみ。
(……もう少し泳がせとくか……)
- 396 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時26分10秒
保田は相変わらず一定の緊張感を保っている。
悟られないように、自然に振舞うふりをして。
「わかった。じゃ、捜索チームも研究の手伝いに回ってや」
「了解」
用件を終えた圭坊は短く答えてすぐに踵を返し、
部屋の外に出て行ってしまった。
一人残された私はもう一度資料に目を落とした。
- 397 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時26分41秒
安倍なつみ。彼女はあの事件の後から石川梨華の保護者だった。
吉澤ひとみ。彼女は石川梨華の恋人だった……いや、今も梨華の心は
彼女に縛られている。
セルロイドエイジ4人中2人が石川梨華と直接関わりのある人間。
しかも、かなり親密な。
「梨華、こんなにもあんたを中心に事件が起こる」
石川梨華。彼女は……――
- 398 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時27分34秒
--66--
カチャッ!
手元が狂ってキーボードの違うとこを押してしまった。
「全員捕まえたみたいって……残りの3人全部ですか?」
「あ〜、なんかそうらしいで。捜索部隊も研究の手伝いに回ってくれるて」
全員……ヤグチはもう捕まってるから吉澤って子となっちと福田明日香
……私、だよね?
“全員が捕まった”
確かに、今、平家さんはそう言った。
- 399 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時28分07秒
……じゃぁ、ここにいる私は誰だっての?
いや、福井今日子じゃなくて。
福田明日香の偽者が現れた?
そう言えばIQテストがどーのとか言ってたような……って事は
頭の程度は私と同等かそれ以上ってことか。
一体、誰なんだろう。
それ以前に、何の為に……どうやって……
予想して無かった事態だ。計画が狂う。
- 400 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時29分15秒
頭の中に鈍い痛みが走った。
マズイ。私の体の時間が流れてしまう。
苦しい、痛い、息が……しにくい……
「福井ちゃん、大丈夫?顔色良くないで?」
「……ちょっと、疲れちゃっただけなんで……大丈夫です」
「や、今日はもう部屋戻って寝とき。無理は禁物や」
人使い荒くてごめんなぁと言って背中を押した平家さんの方こそ
ひどい顔色だった。さっき、何かあったんだな。
気になるが、簡単に口を割りそうに無い。
なにより、私の身体が人の近くにいることを許してくれない。
深くは追求せず、好意を有り難く受け取って研究室を後にすることにした。
- 401 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時30分05秒
自室に戻ってメガネとかつらを外す。
関節が、内臓が、酷く痛む。
その痛みに耐え切れずに膝をついた。
頭が割れるように痛くて、息が出来ない。
ぎゅっと目を閉じ、痛みが過ぎ去るのをじっと待つ。
逃げる方法も、和らげる方法も無い。
ただ、時間が動くのを耐え忍ぶ。それだけしか出来ない。
- 402 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時30分43秒
どのくらいそうしていただろう。
嵐のような痛みが過ぎ去り、ゆっくりと目を開くとまず時計に目をやる。
2分28秒。
そんなもんか。
文字盤に映りこんだ自分の顔は、10年前写真と同じの懐かしい顔だった。
「やれやれ。やっぱ退行しちゃったか」
ため息は、誰にも聞かれること無く白い壁に飲み込まれていった。
- 403 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時31分26秒
- 本日はここまで。
- 404 名前: 投稿日:2002年09月22日(日)22時41分10秒
- レス、有難うございます。
>391
この頭脳には頑張ってもらいたいんですが作者のIQ低いので
動かしかたに四苦八苦してます(w
>392
有難うございます。
期待を裏切らないように頑張ります。
>393
話の進みは相変わらず遅いままですが、少しずつ動いて行ってますので
引き続き、期待に添えるよう頑張ります。
- 405 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月23日(月)02時17分11秒
- ふむ、確かに動いてきてますねぇ
石川も鍵になるのかな…
- 406 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時19分32秒
- --67--
「安倍さん!安倍さん!!」
薄暗い部屋の中に自分の名前を呼ぶ声がこだました。
そうだ、たしか捕まったんだっけ……。
紺野に気絶させられて、奴らに引き渡されたんだ。
「……紺野は?」
「別の部屋に連れて行かれました。なんか知能検査とかするらしいですよ」
「そう……」
- 407 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時20分38秒
矢口は、どこにいるんだろう。捕まってるのは確かなんだ。
その瞬間を目撃してるんだから。この建物のどこかにいるはず。
「鍵は……かかってるか、やっぱり……」
「安倍さん“今は大人しく”です。紺野に言われたでしょう?」
「でもさー……」
この部屋でじっとしてると、どうしても悲観的な考えばかりが
頭の中を支配してしまう。
一刻も早く矢口の無事を確認したい。
- 408 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時21分25秒
こんなところで再会したくはなかったけど、会えないよりはよっぽどいい。
やぐちヤグチ矢口……
窓、床、天井。
どこかに出口はないか探していると、天井の角に監視カメラが見えた。
「……い〜い趣味してるもんだべさ……」
その声に反応してよっすぃも視線を上に移した。
こういう見張り設備だけは整ってるらしい。
ドアのところもよく見ると赤外線センサーが設置されている。
「まるで囚人扱い……」
- 409 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時22分15秒
何とかここを出ないと。
こうして座ってるだけじゃ何も始まらない。
「外から扉を開けたときがチャンスですね。それ以外は無理です」
外から……人体実験される直前まで待てってことか。
……ん?今のよっすぃの声……なんか変だったような……
「……ありゃ?」
「?どうしました?」
緊張感を保ったままの声が聞こえる。
改めてちゃんとその声の主を見てみると、やっと違和感の正体に気付いた。
- 410 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時22分48秒
「時間、動いちゃってたんだね〜。よっすぃ、背ぇ大きかったんだべ〜!」
「は、はぁ……」
目が覚めてから今までの間、全く気が付かなかった。
ヤグチのこととかここからどうやって出るかとかばっかり考えてたから。
本人曰く、ここに放り込まれてすぐくらいに成長が始まったらしく
その痛みで私よりも先に目が覚めてしまったと言うことだそうだ。
「ねぇねぇ、身長いくつあんの?」
他愛のない話で空白の時間を埋めたかったから。そんなどうでも良いような
質問ばかりを畳み掛けるように浴びせる。
扉が開くその直前まで、よっすぃは曖昧に笑うばかりだった。
- 411 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時23分24秒
--68--
いつのまにか運転席には私ではなく小川が座っていた。
助手席には高橋がナビゲートしている。
そして、後ろの席で小さく座っているのが私。
「次の曲がり角左やよ」
「うん。愛ちゃん、訛りが出始めてるよ」
「訛って無いです〜」
「……アクセントの位置が凄いと思うよ、ホントに」
そのやり取りを聞きながらやれやれと肩を竦ませる。
この二人、なんだかんだ言って息が合ってるみたいだ。
- 412 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時24分01秒
高橋は一刻も早く紺野の元へと行きたいのか、小川に安全運転よりも
スピードを要求する。それに対して小川は高橋の命を預かっているの
だからと安全運転に勤めている。しかし、結構なスピードを出している
あたり、小川も紺野の事が気がかりなようだ。
「ねぇ、ねぇ。私も運転したいなぁ〜……なんて……」
そう言って二人の方を見ると、小川はミラー越しに、高橋は身体を
ひねってこちらを向き、声を揃えて答えた。
「「私達もまだ死にたくないんです!」」
……私の方が年上なんだけどな……
出発から10分しないうちに力関係は完全に逆転してしまったようだ。
- 413 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時25分01秒
(ひとみちゃんと安倍さんは大丈夫かなぁ……)
心配したところで、何か出来ることが増えるわけじゃないけど
心配せずにはいられない。なんせ、二人ともセルロイドエイジだし。
敵は何するかわからない得体の知れない集団だし。
一時間ほど車を走らせると、あたりはほとんど人の気配がなくなってきた。
建物も目の前に見える一軒だけ。
「……ここで反応が止まってますね。動く気配がない」
高橋がレーダーを見ながらあたりを見回す。
レーダーの倍率を変えて見ても一定の範囲から大きく動くことはない。
と言うことは……
「ここが基地なわけか。普通の小さい病院に見えないこともないけど」
- 414 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時26分04秒
小川の視線の先には白い建物。
二階あたりの高さに控えめな看板がついている。
白い看板に黒い文字で――中澤科学研究所――
「……――!?」
……中澤……まさか……
その名前を見たとき、目の前に映し出されたあの映像。
血まみれの手をした、鬼。
「どうしました?石川さん」
高橋の声にはっとして我にかえる。
しっかりしなきゃ。
今はひとみちゃんたちを助ける為に動かないといけないんだから。
「なんでもないよ〜。ここら辺で車止めたほうがいいね」
- 415 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時26分34秒
その言葉に従って、小川が建物から死角になるように木で隠れる
位置に車を止める。
「もう少しここで待機か……」
紺野は大丈夫なのだろうか。
高橋も、さっきから平気そうに笑ってるけどどこか空元気な感じ。
セルロイドエイジの安倍さんやひとみちゃんはすぐに殺されるとかいうことは
ないと思うけど、紺野は普通の一般人と同じだから危険度は二人よりも
ずっと高い。
「大丈夫」
誰にも聞かれないように小さな声で呟く高橋の声が耳に届いた。
- 416 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時27分08秒
--69--
どっと疲れが押し寄せてきた。
何時間も集中してあんな単調なテストさせるのは拷問に近いものがある。
しかも、終わった後に福田明日香になれとか……どういうつもりなんだろう。
本物を探し出せないからって私を福田明日香にして捜索を打ち切りたいだけ
なのだろうか。
ベッドに仰向けに寝転んで伸びをする。
「わっかんないなぁ〜」
「なにが?」
頭上から振ってきた声は、幼い声。
- 417 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時27分42秒
上体を起こして入り口の方へ目を向けるとぽっちゃりした小さな少女が
白衣を引きずりながら部屋に入り、ドアを閉めていた。
「……どちら様でしょうか?」
「人に名前を聞く前に自分が名乗るもんでしょう」
この外見とかけ離れた落ち着いた大人の口調。
意図的に気配を消せるところといい、この子もセルロイドエイジなのか。
- 418 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時29分05秒
確信は持っていたけれど、一応指示された名前を名乗る。
「福田明日香」
「じゃなくって、本名は?」
「紺野あさ美です。はじめまして、福田明日香さん」
言葉で全て言わなくても理解できる。
私たちはどこか似ている部分があるから。初対面なのに何故かそう思えた。
よろしくと差し出された右手に応じると、福田さんはほんの少し微笑んだ。
それが、私と“福田明日香”とのファーストコンタクトだった。
- 419 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時29分56秒
- 本日はここまで。
- 420 名前: 投稿日:2002年09月29日(日)20時31分56秒
- レス有難うございます。
>405
じわじわと動いてます。石川さんは、主要人物の一人なので。
- 421 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)11時48分02秒
- 事件が同時進行してるんで緊迫感がありますな
- 422 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月06日(日)15時40分02秒
- 最初、少し読みにくい感じがしたので(私の読解力のなさです、はい。)
どうしようかなと思っていたのですが、ぐんぐん引き込まれて一気に・・。
こんこんは・・・一体何者?
梨華ちゃんは、どう核心に絡んでくるの?
わくわく、どきどきです。
運転のシーンでは思わずワロタ。
ふっ、と息を抜かせてくれる、上手いです〜ね。
続き、期待してま〜す。
- 423 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時10分59秒
--70--
初対面なのに、知っているような気がした。
そのぷくぷくとした頬がほのぼのとした空気を強調する。
「じゃぁ、明日香さんはセルロイドエイジの研究内容を
盗めたんですか?」
私がここに忍び込んで平家さんと一緒に研究を進めていた
ことを話すと紺野は期待に満ちた瞳でそう言った。
- 424 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時11分41秒
「盗めるような情報はなかったよ。ただ、分ったことはある。
これは病気なんかじゃない」
「……データは全て正常だったからですか……」
察しの良い返答に頷く。
この子が相手だと話が早い。もしこれが矢口やなっちだったら
もっと時間が掛かっていただろう。
「血液中にもDNAにも異常はない。ウィルスも見当たらないの。
つまり、本当の意味で原因不明」
お手上げ状態だよと仕方なさそうに浅いため息をつく。
紺野はなにか思うところがあるようで、思いつめた表情のまま
口を開いた。
- 425 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時12分41秒
「……おとぎの国……」
聞き取れるか聞き取れないかの境目。
それくらい小さな声で呟いて、独り言のように話をすすめる。
おとぎ話に出てくる世界がパラレルワールドのように実在するとしたら。
ピーターパンに出てくる子供だけの楽園、エバーランドのように。
その中に迷い込んだ人がセルロイドエイジになっているのだとしたら。
見えない迷路の中でぐるぐると迷い続けているのだとしたら……――
その手を引っ張ってこっちの世界に……本来いるべき世界に引き戻して
あげることが出来れば、セルロイドエイジから抜け出すことが可能
なんじゃないか?と。
「非科学的な話だね」
「セルロイドエイジの存在自体が科学的ではないのですから」
- 426 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時13分50秒
たしかに。
実際自分がその立場じゃなければ信じやしないだろう。
それだけありえないことなのだから。
「安倍さんから聞いた話によると、自分の手の中の時間だけは
動かすことができるらしいですね」
「……あんまりやりすぎると死んじゃうけどね……
現になっちは一回死にかけてるし」
なっちはその力の元が自分の命だと言うことを知らずに枯れた花を
咲かせたり傷ついた動物を健康状態に戻したりしていた。
まるで自分の存在意義を見出すかのように。
そして力の使いすぎでしにかけていたところを偶然矢口が見つけて
同じように矢口の命を削ってなっちを助けた。
私はただ見ているだけで、何もしなかった。
- 427 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時14分55秒
だから、何かをしたくてここに潜入した。
私の思考回路を読み取ったかのように紺野が無言で微笑んだ。
不思議な安心感。
私とは違って彼女は剥き身の刀じゃない。
むやみに人を傷つけない為にちゃんと鞘に収まってる。
ただ、その中身が諸刃の剣に思えてならない。
この子がその鞘に収まったままであるように。
私は出来る限り子の子を護ろう。
- 428 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時15分38秒
--71--
「後藤、後藤!!どうしちゃったんだよ!?」
「セルロイドエイジの部屋の鍵は?」
「渡せるわけないだろう!」
鍵を渡すことを拒否するが後藤は勝手に私のポケットを漁って
束になっている鍵を取り出した。
「どの鍵がどこの部屋か教えてくれる?」
- 429 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時16分08秒
子供がお願いするときの表情で銃口を向ける後藤が何を考えているのか
理解できなかった。
部屋に戻ったら突然殴られて後ろ手に縛られて……部屋の角に座らされた。
まさか、今まで自分がセルロイドエイジにしてきたことを後藤にされるとは。
「教えない。なぁ……何をしようとしてるんだ?」
問いかけに無言で眼差しだけを向ける。
子供の顔をしたかと思えば、急に大人の顔で鋭い空気を向けてくる。
セルロイドエイジよりも不安定な感じを受けるのは、身体の成長が
普通だからだろうか。
余計にたちが悪い。
- 430 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時17分26秒
「後藤!」
「市井ちゃんは、何をしようとしてたの?」
二人の声がほぼ同時に部屋の中を走った。
何をしようとしてたか?
セルロイドエイジを捕まえてただけだ。明日香を探す為に。
明日香を元の身体に戻す為の“サンプル”を集めていただけ。
“実験体”を集めていただけ。
「市井ちゃんは知ってたの!?裕ちゃんが何をしようとしているか……
市井ちゃんたちがどう言うことの手助けをしてるか!!
関係無い人以外なら殺してもいいっての!?」
「……後と――……」
「私は、裕ちゃんを許せない……どんな理由があっても」
- 431 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時18分24秒
ちがう。私は……私たちは裕ちゃんとは違う。
セルロイドエイジの命は絶対に護るつもりでいる。
それが明日香の願いだと思うから。
計画が成功すれば、裕ちゃんを裏切るつもりでいる。
でも、それをここで言ってもいいものなのだろうか。
こんなとき痛感する。
私は今まで自分で決めて自分の力で動いてきたと思い込んでいた。
でも、本当はどうだろう……改めて考えて見ると気付く事が出来た。
自分が思っているよりもずっと圭ちゃんに頼りっぱなしだったんだと。
- 432 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時18分55秒
これじゃ、圭ちゃんがいないと何も出来ない子供じゃないか。
いつまでも依存して、寄り掛かったままで……
私はいつでも負担をかけてばっかりだ。
あーちゃんに。圭ちゃんに。
背中で語りかけてくる後藤に私は言葉を失う。
ただ、幼い頃の映像が頭の中を延々と流れていた。
三人で遊んでいた頃の思い出が。
- 433 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時20分33秒
- 本日はここまで。
- 434 名前: 投稿日:2002年10月06日(日)21時25分26秒
- レス有難うございます。
>421
緊迫感、ちゃんと出せてるみたいで安心しました。
>422
いえいえ。私自身も読みにくい感じだと思っていますので。
続きも期待を裏切らないように頑張ります。
- 435 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月08日(火)18時28分59秒
- 着実な更新で楽しませてもらっとります
修羅場多しですなぁ…
- 436 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時08分13秒
--72--
胸騒ぎが止まらない。
何でだろう……この建物を見た瞬間に感じた嫌な感じ。
背筋が凍る。
あさ美ちゃんからの連絡はまだない。
連絡を取る手段が途絶えてしまっているのだろうか。
発信機は既に見つかってしまって敵が罠を仕掛けている最中なのだろうか。
連絡の出来ないような状態なんだろうか。
どんどん悪い方向に想像は膨らんでいく。
- 437 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時08分47秒
見えない何かから身を護るように自分を抱きしめると
右肩にポンと手が乗せられた。
「大丈夫、でしょ?」
勝ち気そうな目を少し細めて、柔らかな声をくれたのは麻琴ちゃん。
こういうときに頼りにしてしまう。
利用するとかそう言うつもりはサラサラないのだけれど結果的には
麻琴ちゃんの気持ちを利用していると思う。
都合のいい時だけ寄り掛かって、すぐに離れていく。
私ってすごく酷くて卑怯なヤツだ。
- 438 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時09分25秒
謝ろうか謝らずに普段通りに振る舞おうか迷っていると、麻琴ちゃんは
いつものへらへらした表情で私のほっぺたを軽く突付いた。
「……愛ちゃんはあさ美ちゃんのことだけ考えてりゃいいから」
「へ?」
「私に変な気ぃ使わなくていいから。あさ美ちゃんのことだけ気に
してなさいって言ってんの。利用できるもんは利用しなさい」
- 439 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時10分19秒
短くため息をついて仕方が無いなぁと言う表情で笑うその人は
確かに私の親友だった。
気持ちに応えることは出来ないけど、本当に純粋に友達として
大好きなお調子者の優しい女の子。
「麻琴ちゃん」
「ん?」
「ありがと!」
合図も何もなしに右手を挙げると麻琴ちゃんの右手がそれを叩いて
気持ちいい音を響かせた。
……それでも、この嫌な胸騒ぎは一向に収まらなかったのだけれど。
- 440 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時10分54秒
--73--
足音が近づいてくるのを聞いて息を潜めた。
ヒールのある靴特有の音が廊下を進んでくる。
「ねぇ、誰なのかな……」
「……さぁ……」
その足音が無気味に響くのを聞いていると鳥肌がたってきた。
身体が元に戻って服が入らなくなってるからベッドにかけてあった
シーツをまいているだけという格好をしていて、ただでさえ体感温度が
低いのにより一層寒気をさそう足音。
安倍さんが私の身を包むシーツをぎゅっと握り締める。
- 441 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時11分36秒
その音はドアの前で止まった。
張り詰めた空気の中を緊張が走る。
ガチャガチャと鍵を開ける音がした後にギギギギッと軋む音を
たててゆっくりとドアが開く。
逆光で顔がよく見えない。わかったのはシルエットだけ。
女物の香水の匂いが微かに漂っている。
安倍さんを庇うように片膝をついたままの体勢で警戒心を
隠そうともせずに睨みつける。
「あなたは誰ですか?」
問いかけに応じることはなく、その人は顔色一つ変えずに紙袋を
投げるようにおいてすぐに出て行ってしまった。
鍵をかける音がして、ヒールの音が遠ざかって行く。
- 442 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時12分11秒
「……何だべ、これ……」
「軽い音だったしあんな風に無造作に投げたって事は爆発物とか
危険物ではなさそうですけど」
逃げ腰で袋の口をそっと見てみると、布が見えた。
細心の注意を払って取り出すと、何の変哲もない普通の衣服だった。
「Tシャツに……ジーンズと下着?あと長袖の上着……」
「サイズおっきい。よっすぃが着ろって事なのかな」
それ以外に考えられないけど……とりあえず不審なとこがないか
叩いてみたりバサバサと降ってみる。
何にも出てこない。
- 443 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時12分48秒
「……そのカッコのままじゃ動けないし、着た方がいいべさ」
「そうですね……寒いですし」
少し不安に思いながら袖を通す。
心なしか大きいようだが、小さいよりはよっぽど良いので問題ない。
ボタンをしめている時にふと自分の手を見つめてしまう。
久々に見る本来の年齢の自分の本当の手。
「……なんだ、意外と大きな手だったんだ……」
今なら、護りたいものを守り通せるような気がした。
- 444 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時13分34秒
--74--
「圭ちゃん、手を挙げて」
ジョークにしては笑えないなと思ったのはいつもと変わらない
トーンで言われたからだろう。
あの聞きなれた声がその台詞を流すこともある程度予測していた。
きっと、後藤は知りすぎてしまったのだ。断片的に。
ほんの氷山の一角。
運の悪い事にその一角はあまりにも許しがたいものだったというだけ。
部屋の中で紗耶香に銃を突き付けている。
私が逆らえば紗耶香を撃つと言いたいのだろうか。
- 445 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時14分16秒
ズボンのポケットに手を入れ、片足に重心をおいた。
後藤はまだ次の言葉を言わない。
手も視線も動かさずに、止まっている。
紗耶香の目は死んでいない。
その鋭い眼差しに込められた言葉はきっといつか交わした約束。
『もしどちらかが死んでも残った方が計画を進めるんだよ』
『何かあっても一人生き残らせるように行動しろっての?』
『そう。例えば私が人質に取られたとしよう。圭ちゃんが私の命と
引き換えにこの計画から手を引くように要求されてもそれを飲んじゃだめ』
『見殺しにしろっての?』
『……私が逆の立場でも同じだよ。恨みっこなし』
この状況はどうなんだろう。後藤は何がしたいんだろう。
- 446 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時15分04秒
そもそも私たちの目的を知っているのか。
……わからない。
「とりあえず状況が把握出来ないから、説明して。理由がなかったら
こんなことしないでしょ」
しばらく静寂が三人の間を支配した。
それをはじめに崩したのは後藤の嗚咽だった。
「後藤……?」
「……ひっ、く……加護が、っ殺され、かけた……ううん……
もう半分死んでる……」
戻ってこないんだよぉ……そう搾り出すように声を洩らし、膝から
崩れ落ちるように床にへたり込む。
力が入らなくなったのか、右手から銃が滑り落ちてカラカラと回りながら
後藤から離れていった。
- 447 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時15分41秒
「……話を聞く前に、紗耶香を自由にしてあげてもいい?」
頭を出来る限り優しく撫でて聞くと、しゃくりあげながら途切れ途切れに頷く。
紗耶香の方を見るともう自分で縄を解いていた。
私と目が合うと後藤に見えないようにウインクをして短い棒を袖口から抜いて
その縄を私に手渡す。
(あらかじめ手の間に挟んでおいたのか)
縛られた後にその棒を抜けば当然縄にたるみが出来てすんなりと外すことが出来る。
紗耶香は後藤の事をちゃんと考えているようだ。
- 448 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時16分19秒
後藤に聞こえないように耳元で小さく話す。
「余計なことしちゃった?」
「いや、どこで外していいかタイミングがわからなかったから助かった」
ホッとした。お互いに、まだ余裕があることに。
静かに口の片端を上げるだけの笑いを交わして、すぐさま真剣な表情へ戻す。
後藤の話はある程度予測できているだけに、話を聞く体勢になった
その瞬間から当分笑えるような空気になることはない思ったから。
- 449 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時16分53秒
- 本日はここまで。
- 450 名前: 投稿日:2002年10月18日(金)00時22分11秒
レス有難うございます。
>435
今回更新遅くてスイマセン。
修羅場まだ続きます。
ここのところ私事でちょっと多忙になってきておりまして
更新が不定期になることがあるやも知れません。
マターリお茶でも飲みながら待っていてくだされば嬉しいです。
- 451 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月21日(月)17時36分44秒
- マターリ待ちまする。
- 452 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月27日(日)08時34分54秒
- 茶〜しばきながら、まてます。
- 453 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時30分16秒
--75--
2件程仕事を片付ければ1年間くらいは辻を養っていくのに
十分なお金が手に入る。
その甘い誘惑にまんまと嵌り、闇家業に手を染めたのは2年前の話。
あれから私は6件の仕事をこなした。
良心と引き換えに得た冷酷さと残忍さで得たお金は、
結構な額になって預金通帳の中は不自由という言葉を知らなくなった。
初めて人を壊してお金を貰ったとき、人の命は案外安い値で
取引されてしまうものだと思った。
慣れとは怖いもので、私は人を壊すことに何も感じなくってきた
ことに気づく。
- 454 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時31分02秒
それでも、日常が続いてくれるのなら、そんなことはどうでも良いと
諦めたように首を振る自分も見えてくる。
こんなことに巻き込まれても、辻が無事なら日常と変わらないと
錯覚できる。
そんな中携帯に入ってきた依頼のメールは、錯覚すらも無理やり
動かそうとしているように感じた。
『電話をくれ、仕事をやる』
久しぶりに入ってきた依頼内容は一切書かれてなく、
電話をかける時間の指定だけしてきた。
こんなことする客の依頼は基本的に蹴るようにしていたのだけれど
依頼人の名前を見たら、断れなかった。
彼女には返しきれないほどの恩があるから。
弱みも握られているから。
- 455 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時32分08秒
それにしても……
自分が時間指定したくせに10コールしてもまだ出てこない。
信じられないよ、ほんとに。
『はい、もしもし?カオリか?』
「もっと早く出てよ!こっちだって忙しいの」
電話の向こうに向かって乱暴に言葉を投げつける。
しかし、相手はまるで気にしていないように空笑いでそれを流したあと
タバコに火をつける音がかすかに聞こえた。
患者さんとかには体に良くないから吸うなとか言ってるくせに。
『久しぶりやな。あの子は元気なん?』
「おかげさまで元気すぎて困るくらいよ。すごく仲のいい友達もできてさ。
病気だったなんて信じられないくらいね」
- 456 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時34分31秒
その仲のいい友達は今誘拐されてるなんて言ったら、彼女はどういう
反応をするだろう。
相談してみようか?
迷っていると受話器から得意げな声が聞こえてきた。
「その子の名前当てたろうか?」
自身ありそうに次の言葉を続ける。
「加護亜依……やろ?で、今は誘拐されてると」
鳥肌が立った。
何故そのことを知っているのだろう。
警察は信じていない。事件として扱ってくれていない。
当たり前だけど、もちろんTVも新聞も取り上げていない。
その事実を知っているのは、私たちだけのはずなのに。
そう、私たちと犯人だけ……
- 457 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時35分24秒
「依頼、受けてくれるよな?あのこと一緒に病院に来てや。
あ、今は研究所か。NOとは言えんはずやで。スイッチはまだ持っとるからな」
電話が切れたあとも、しばらくはピクリとも動けなかった。
辻が心配そうな顔でこちらを伺っているのに気づいても、
目を合わせることができない。
結局、私は辻がいなくなるのが怖いから、ほかのものを壊すことが
簡単にできてしまうのだ。
それによって辻が悲しむなら、優しく残酷な嘘をつき続ける。
ばれたときの事など、そのときになるまで考えない。
辻がいなくなったら、私は生きていく理由が見つからないから。
「辻、加護のとこに行こうか」
こうやってまるで誘拐犯のように辻の興味を引くキーワードで
警戒させないように釣るのは、二度と御免だ。
早く、全て終わればいいのに。
私の日常だけでいい。早く返して。
- 458 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時36分12秒
--76--
生まれてすぐに捨てられた私が初めて親をのことを知ったのは
薬の力だった。
当時そこそこ名の売れた研究者だった叔父が薬を作って
人体実験をするために私にそれを飲ませた。
DNAの記憶がどうのって小難しいことを言っていたけど、
よく覚えていない。
なんか、私の実の先祖の記憶を見せてくれるらしかった。
聞いた話によると両親ともにセルロイドエイジの研究者だったらしい。
- 459 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時37分00秒
瞼を閉じて、トリップする。
少し赤いフィルターとかけたような映像が頭の中に流れ込んでくる。
ゆっくりと、体をひこずりながら歩いていた。
白い壁に血まみれの手をついて体重を支え、紅い絵の具で落書きを
しているように、鮮やかな痕跡を残しつつ。
息が上がる。体温が低くなっていくのがはっきりとわかる。
ぼやける意識の中で、ぼそりと一人つぶやいた。
そこでトリップは終わる。
何度やっても、そこから先へは進まない。
おそらくそのすぐ先には死という名の無があるのみなのだろうけど。
最後に何を呟いたのかが気になる。
あの怪我の理由とか。血まみれになって動くこともしんどいのに
あんな状態でどこへ向かって歩いていたのか。
それを知るときはくるのだろうか。
- 460 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時37分42秒
捨てられたからといって、恨んではいない。
捨てられたことも、それでよかったのかもしれないと思っている。
そうしないとマズイ事情があったのだと勝手に思い込んでいる。
親がセルロイドエイジを研究していたと知っても、私は不老には
全くと言って良いほど興味が無いし意思を継ごうとは思えない。
ただ私は彼女たちを楽にしてやりたいだけだ。
セルロイドエイジとして生きているよりも、一思いに殺してあげたほうが
ずっといい。
たとえば、地球上の全ての研究者を消したとしても同じようなことを
考えるやつは次から次へと沸いてくる。
そして、研究が進んでいくうちに、第二第三のセルロイドエイジが
人工的に作り出されてしまう可能性がある。
幸せな平凡な人生をある日突然奪われてしまう人がまた増えてしまう。
- 461 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時40分57秒
- だから、なんとしてもここで食い止めなきゃならない。
歴史は繰り返されるものなんだから。
それなら、些細な抵抗で流れを歪ませてやる。
私にできることはその程度だってわかってるから。
- 462 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時42分39秒
- 本日はここまで。
- 463 名前: 投稿日:2002年10月29日(火)15時49分40秒
- レス有難うございます
>451
マターリ待っていて頂いて嬉しいです。有難うございます。
>452
お茶、おいしかったですか(w 待って頂いて有難うございます。
そろそろ新スレに移動します。次スレは次回更新のときに立てます。
- 464 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月30日(水)06時24分51秒
- 誰の独白なんだろう…
- 465 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月31日(木)12時55分28秒
- アート引っ越しセンターを呼んだんで、準備おーけーです。
- 466 名前: 投稿日:2002年11月02日(土)21時59分34秒
- レス有難う御座います。
>464
それは後々まで伏せておきます。お楽しみに。
>465
わざわざ引越しセンター呼んで頂いて有難う御座います(w
というわけで新スレ移動。今度は銀板にご厄介になります。
新スレ
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