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屋根の下のベース弾き

1 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月12日(金)21時20分26秒
初めまして。
いしよし絡みで下宿屋&バンドものを書かせていただきます。
更新は・・・遅いと思います(笑)。
それでは、よろしくお願いします。
2 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月12日(金)21時21分42秒

桜が咲き乱れる春のある日。
あたし―――吉澤ひとみは、これから4年間お世話になる下宿先へと向かった。
愛用のベース、リッケンバッカー4003とともに―――。
3 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月12日(金)21時23分01秒

メモに書かれた目的地にたどり着くと、決してイマドキの住まいではない、
ずいぶんどっしりした造りの日本家屋が目に入った。
は〜、かっけーなぁ。
屋根瓦がビッシリのってるけど台風の時なんかは大丈夫なのかしらん。

「ごめんくださーい!」
とりあえずインターフォンを押す。
『はい、どちらさん?』
聞こえてきたのは、関西弁の女の人の声だった。
「吉澤と申します。あの・・・」
『ああ、吉澤さんな。今鍵開けるから中入って。
梨華ー、ちょっと出てんかー。今、手ぇ離されへんねん』
言われた通り中に入ると、
「こんにちは!」
玄関に何か―――シャクレアゴがミョーに目に入る女のコが立っていた―――。
4 名前:猪木なオンナノコ 投稿日:2002年04月12日(金)21時28分42秒
「初めまして!石川梨華です」
アゴの彼女が笑顔で手を差し出した。
「初め・・・まして。吉澤です」
失礼だとは思いながら、あたしは石川さんのアゴから視線が外せないまま
握手に応じた。
「『シャクれてる』って思った?」
石川さんは手を離した後、笑顔で言った。
「い!いえ!そんな事ないっす!!」
「ウフッ、いいよ〜。うちの姉さんなんかあたしの事、
『おいシャクレ!』って呼んだりするから」
5 名前:猪木なオンナノコ 投稿日:2002年04月12日(金)21時30分03秒

「おいシャクレ!何玄関で立ち話してんねん!!」
言ってるそばから、さっきの関西弁が響く。
現れたのは、三十路は行ってるだろうと思われる、金髪の女性だった。
美人だけど・・・犬っ鼻。
「おーおー。遠いとこご苦労さん!ここの主の中澤や。
下の名前は『裕子』やから『裕ちゃん』て呼んでくれてもええで!」
「吉澤ひとみです。お世話になります」
聞きなれない関西弁に少々押されながら、あたしは頭を下げた。
二人に「さ、上がって」と促され、取りあえず上がる。
6 名前:猪木なオンナノコ 投稿日:2002年04月12日(金)21時31分54秒
「あんた、それギターか?」
中澤さんはあたしの背中の黒いケースにちらりと目をやった。
「いえ、ベースです」
「まあ、どっちでもエエけど・・・。
部屋で弾くんなら周りの迷惑にならんようにしてや。頼むで」
「はい」
そう思って先に送った荷物に、ちゃんとヘッドフォンは入れておいたのだ。
7 名前:猪木なオンナノコ 投稿日:2002年04月12日(金)21時33分25秒
「ひとみちゃん、ベース弾くんだ!カッコいい〜!!」
シャクレ・・・いや、石川さんは目を『はぁと』ってな感じにさせ、
極め付けに両手を組んで胸の辺りに持ってきた。
その一分の隙もないオンナノコ・ポーズにも目が点になったが、
知り合って間もないあたしを『ひとみちゃん』と呼ぶ事に正直
『なんだかなぁ』と思ったよ。
いや、石川さん、顔は可愛いんだけどね・・・。
8 名前:猪木なオンナノコ 投稿日:2002年04月12日(金)21時35分19秒
「ここがひとみちゃんの部屋だよ!」
『部屋に案内したり。ウチはメシの支度するさかい』
と中澤さんは台所に引っ込んでしまった。
石川さんは『いいって』とあたしが止めるのも聞かずに
大荷物を持って二階に上がり、部屋の前に『よいっ・・・しょ!』と言いながら
下ろした。
重いのに無理しちゃって。
「ごめんねー。ひとみちゃんの部屋、和室なんだけど・・・」
石川さんはすまなさそうな顔をして木の引き戸を開けた。
途端に新しい畳の匂いが鼻先をかすめる。
9 名前:猪木なオンナノコ 投稿日:2002年04月12日(金)21時37分00秒
いや、全然いいじゃん!
なんか、『下宿』ってカンジ!!
あ、窓が出窓になってる!!
「いい!いいっすよ!気に入りました!!」
素直に感想を述べると、
「よかった〜」
石川さんは安堵の表情を浮かべ、「エヘヘ」と笑った。
はあ、何だかいちいち可愛らしいヒトだなあ。
そう思って石川さんを見てると、
「新人さん、参上れす!!」
階段からけたたましい声とどすどすという足音が聞こえてきた。
10 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月12日(金)21時53分28秒
とりあえず本日分は終了です。
ちなみにヨシコのベースはポール・マッカートニーも使っているそうです。
それと訂正(笑)。
『2』と『3』に自分のHNを入れてしまいました。
正しくは『桜の日』です。
こんなあんぽんたんな作者ですが、レスしてやろうじゃねえか、というステキな方、
お待ちしておりますm(__)m
とりあえず、(0^〜^0)の生誕記念日にスレ立てれてよかったです。
HAPPY BIRTHDAY!!
11 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月13日(土)05時12分40秒
屋根の上のバイオリン弾き思い出した(w
どーでもいいけど石川はシャクレとは全く違うと思うんだけどね。
意味を誤解してる人多い。ケチつけるみたいでスマソ
12 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時07分57秒
「新入りさ〜ん、いらっしゃ〜い!れすー!!」
ベタな歓迎の台詞とともに、お団子頭のちっこい女の子が現れた。
「かっこいいお兄さんれす!あいぼ〜ん!早くー!!」
お団子が階段のほうを振り返って手招きする。
「ここは女しか入れへん下宿屋や。あほやなあ」
お団子の子とは違う、ゆっくりと階段を上がる足音と
中澤さんとは微妙に違う関西弁が聞こえた。
声もうんと可愛らしい。
「あ、そうれしたね。てへっ」
お団子少女は八重歯を見せて照れくさそうに笑った。
つられてあたしも微笑む。
13 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時11分21秒
「よく見ると美人さんれす〜」
「ハハ、ありがと(よく見ると・・・?)」
いささかの疑問も感じなくはなかったが素直に礼を述べ、
「よろしく!吉澤ひとみだよ」
彼女に手を差し出した。
「辻希美れす!」
握った手は、小っちゃくてあったかかった。

「ウチには挨拶ないん?」
後から現れた関西弁がぶすっとした感じで言った。
顔も声も可愛らしく、背も辻ちゃんと同じくらいで小柄だが、
何か―――感じ悪いガキ。
向こうもそれを察知したのか無言でガンたれてきやがった。
上等じゃねぇか!
14 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時16分31秒
「よろしく。あんたの名前は?」
「人様に名前尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀やろ」
「(このガキャ!!)吉澤ひとみだよ」
「加護亜依や」
ウチらは名乗った後もガンを飛ばし合った。
きっと火花が飛び散っていただろう。
このガキは敵だ!!
ウチの本能がそういっている。

15 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時19分31秒
「ケンカはダメれすよ〜」
「そ、そうだよ!ね、あいぼんもひとみちゃんも
 同じ下宿仲間になるんだし」
間に入った石川さんと辻ちゃんはオロオロしてる。
「あいぼん?何ソレ?あんたのあだ名?」
「うっさいわ!」
なおも止まぬ戦いを見かねてか、
「あいぼん、もう行くれす」
辻ちゃんが加護(敬称略。呼び捨てにしてやると今決めた!)の
服の裾を引っ張ってここから立ち去ることを促した。
16 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時21分39秒
加護は何も言わず、そのまま踵を返して階段を降りて行った。
あたしはしばらく階段の方を睨みつけていたが気を取り直し、
持ってきた荷物を自分の部屋に入れるべく、鞄に手をかけた。
「ひとみちゃん・・・」
眉をハの字にし、困り果てた顔の石川さんが視界に入る。
「何?」
「あいぼんは関西から一人で東京出て来たばっかなんだよ」
「だから?」
つっけんどんにあたしは返した。
17 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時24分22秒
「友達もさっきの、ののちゃん以外まだいないと思う」
「で、あたしにあいぼんのオトモダチになれと?」
「早く言えばそう」
「大体あの子いくつよ?どう頑張って見ても中坊なんだけど」
「えと、今度高校だって」
「高校!?あれで?ってかどう見ても『今度から中学生』・・・」
「悪かったな!」
声の方に振り返ると、加護が階段を上がりきった所で
怒った顔をして立っていた。
そのままあかんべーをして、チビは足音荒く去って行った。
18 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時26分36秒
「ひとみちゃ〜ん・・・」
顔は見てないけど、石川さんはまた眉をハの字にして
困っているのだろう。
声で分かる。
とにかく―――。
石川さんには悪いけど、あの加護亜依とはウマが合いそうにない。
19 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時33分34秒
その後、石川さんは「一人でやるから」というあたしの言葉を無視し、
部屋の片づけを手伝ってくれた。
先に送った荷物の中からベースのアンプ、ハードケースの中に
厳重にパッキングして詰めたアコースティックギターなんかを
見つけ出し、石川さんはいちいち「すご〜い!」を連発していた。
何がどうすごいんかサッパリ分からないが、その様子に苦笑する。
20 名前:珍客(?)乱入 投稿日:2002年04月14日(日)04時35分41秒
「あ、ねえ。ひとみちゃん」
片づけをほぼ終えてひと休みしてる時、石川さんが何か思い出したように言った。
「明日、何か予定ある?」
「いえ、なんもないっすよ」
「それなら・・・」
彼女がイタズラを企む子供のように笑う。
「みんなでお花見に行かない?」
21 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月14日(日)04時51分10秒
キリがいいのでここで更新終了します。

>名無し読者さん
レスありがとうございます。
ネタとしては使いましたが、自分もシャクレというよりは『細い顎』と思って
おります。
タイトルはご指摘通り(w
もじりました。
22 名前:池孫四葉 投稿日:2002年04月14日(日)08時43分41秒
こちらでは初めまして、池孫四葉です。

いいですね〜!
私も、娘。でバンドするならベースは吉澤さんがいいと思ってたので、
ホント嬉しいです!

それでは続き、期待してます。
23 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)15時47分00秒
花見ですか。
天敵、加護とはどうなるのか?
24 名前:姉妹の謎 投稿日:2002年04月16日(火)19時54分21秒
――― 翌日。

「いや〜、どこも満開やなあ」
桜並木の下で中澤さんが眩しそうに目を細めた。
「今年は早いよねえ」
石川さんも頷きながら立ち止まって仰ぎ見る。
「ほんまやなあ」
桜の中で二人は他愛のない会話を交わす。

25 名前:姉妹の謎 投稿日:2002年04月16日(火)19時56分11秒
早朝から姉妹二人は花見弁当をこしらえ、あたしも及ばずながら
おかずをお重に詰めたりするのを手伝った。
「ののもお手伝いするれす!」
やる気まんまんの辻ちゃんは、全く予想外にてきぱきと手伝いをこなし、
自分はおにぎりをこしらえながら、
「梨華ちゃん!ブリの照り焼き焦げるのれす!エビフライももう引き上げるれす!」
「は、はい!」
あれこれ指示し、完全に厨房の主と化していた。
「こら梨華より役に立つわ」
中澤さんの冗談半分のからかいに、石川さんは菜箸を握りしめながら
「ひど〜い!」と眉をハの字にし怒っていた。
26 名前:姉妹の謎 投稿日:2002年04月16日(火)19時58分29秒
「あいぼんをもう一度起こしてからののは行きます」
という辻ちゃんを残し、あたし達は先に出発した。
(ちなみに下宿人各自に家の鍵は渡されている)
桜に見入る姉妹を少し離れたところから見て、あたしは夕べ寝る前に感じた疑問を
反芻した。
『何でこの人達は苗字が違うんだろう』
二人とも結婚してる様子はない。二人で住んでるんだし。
それなら旦那と別居中?
いやいや、そもそも他人様のお家の事だし・・・。
昨日と全くおんなじ結論にたどり着くと、あたしは小さくため息をついた。
27 名前:姉妹の謎 投稿日:2002年04月16日(火)20時02分15秒
「あ、ひとみちゃん!ここ!」
たどり着いたのは大きな公園だった。
まだ11時前だがあちこちで花見客がゴザやレジャーシートの上で宴を繰り広げ、
すでにできあがって、赤い顔で手拍子打ち打ち大声で歌っているおじさん達もいた。
そういうあたしも、お天気がいいのでつい青空の下で弾きたくなり、ギターを持参した。
「へぇ〜、いい感じの公園っすね」
あたしは辺りを見渡しながら言った。
「でしょ、でしょ」
嬉しそうな石川さん。
その時、携帯の着メロが流れた。
28 名前:姉妹の謎 投稿日:2002年04月16日(火)20時09分56秒
「あ、あたしだ。はい。あ、ののちゃん?うん、そう。
この間の公園にいるよ、場所分かる?
分かんなかったらまた電話して。はい、じゃ、待ってるよ」
それだけ言うと石川さんは携帯を切った。
石川さん・・・着メロ『笑点』のテーマなんだ。
中澤さんは横で「エエ加減に着メロ変えろ、若い娘が」と文句を言っている。
石川さんは「いいじゃ〜ん」とか言ってるし、特に恥ずかしそうな様子もない。
つかめない人だ。
29 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月16日(火)20時37分21秒
更新&レスのお返事を・・・
( ´D`)<池孫四葉しゃん、ありがとうれす。よっすぃ〜は男前だからベースなのれす

 @ノハ@
( ‘д‘)<名無し読者はん、おおきに。よっすぃ〜には負けへんで!!

では次回花見でどんちゃか。
30 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月16日(火)20時45分49秒
着メロ 「笑点」… いいです!なんか…いいです。
31 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月22日(月)00時32分44秒
ムリヤリ加護を引っ張ってきた辻ちゃんと合流し、あたし達は再び歩き出した。
「お〜い!こっちこっち!姐さん、遅いがな!」
女の人の大声がしたかと思うと、中澤さんは
「みちよ〜!スマン〜!」
と負けじと大声で詫びながら、レジャーシートに座っている女の人に寄って行った。
あたし達もその後に続く。
「ホラ姐さん、大吟醸も持ってきたで!」
『みちよ』と呼ばれたその人はデーン!と一升瓶を前に置いた。
カ、カッケー・・・。
うちらがア然としていると、
「コドモはこっちな!」
『みちよ』さんはあたし達4人に傍らのペットボトルのジュースを指差した。



32 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月22日(月)00時36分36秒
「おう、吉澤はみちよと初対面やったな。紹介するわ、
こっちは中澤ハイツの方の住人で平家みちよや」
「平家ですぅ〜、初めましてぇ〜」
「『売れない』ろっくぼーかりすとなのれす」
「そー、オーディションで優勝して早や5年。全然芽が出やしまへんねんっ―――て!
何言わすねん!!コラ辻!!」
平家さんは笑いながら辻ちゃんに軽くヘッドロックをかける。
じゃれてる辻ちゃんも嬉しそうだ。
中澤ハイツも中澤さん家が所有してて、最初あたしが不動産屋で物件を見て申し込んだ所だ。
一部屋だけ空いていたのがタッチの差で埋まり、結局中澤家本宅で下宿する事になったのだけれど。
33 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月22日(月)00時50分49秒
中澤さんと平家さんの飲むピッチは信じられないくらい早い。
とうに一升瓶をふたりで空け、今はビールに移行した。
辻ちゃんの食べるスピードもそれに負けない。
「おいひいれす!」
順調なペースで(殆どひとりで)お重を空にしていく。
石川さんとあたしは思わず顔を見合わせて苦笑した。
加護は呆れ顔で
「自分、太んで」
ともっともなツッコミをしている。

「あ、いたべ!」
しばらくしてクーラーバックを肩から下げた、ベージュのジャージの女の人が現れた。

34 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月22日(月)01時04分30秒
「おう、なっち!なんや、アンタも花見か」
知り合いなのか、中澤さんと平家さんは気さくに片手を揚げて挨拶した。
「違うっしょ!ご注文のものを配達に来たべ!
も〜、ジョギングのついでに真里っぺの店に寄ったら、バイトの子が休んでるからって
配達頼まれたっしょ!なっち、今日休みなのにさ!ほんとに客使いの荒い店だべ!」
その『なっちさん』は文句を言いながらも、クーラーバックから大きなタッパーを取り出し、中澤さんに手渡した。
それと引き換えに中澤さんはお金を渡す。
「はい、これ。お釣りとレシートね。
それじゃまだ配達あるから行くべ!」
手を振りながらなっちさんは去って行った。
35 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月22日(月)01時06分53秒
中澤さんご注文の品は―――アイスクリームサンデーだった。
色とりどりのアイスとフルーツが段重ねでぎっしり詰まっている。
「おいしそう♪」石川さんは紙皿に取り分け皆に回す。
「溶けんうちに食べ。ウチのおごりや」
「お、おいしいれす!中澤しゃん、ありがとうれす!!」
辻ちゃんの食いっぷりだと、溶けないうちになくなりそうだった。
「はい」
石川さんから回ってきた紙皿を加護に渡すと、加護はものすごくイヤそうなカオで
無言で受け取った。
正直ムッとしたが、ここで怒るのも大人気ないし、ましてや今日は花見だ。
勘弁しといてやるか。
36 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月22日(月)01時14分35秒
「あ、いたいた!」
またまた来訪者が現れた。
今度は長身で髪の長い、綺麗な女の人だった。
旅行なのか大きなボストンバックを提げている。
「飯田やん。どしたん、新学期ギリギリまで北海道帰ってるんちゃうかったんか」
中澤さんは少し体をずらして、その人の座る場所を空けた。
「研究室にどーしても顔出さなきゃいけない用事が出来て、早目に帰ってきたんだよー。
はぁー、疲れた。なんか駅前でなっちにばったり会って、公園で裕ちゃん達がお花見してるってゆーからさー
、そのまま来ちゃった。はい、これおみやげの『白い恋人』ね。・・・あれ?」
辻ちゃんはすがるような目で飯田さんを見て、視線をその手元に下ろした。
視線のその先には・・・『白い恋人』。


37 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月22日(月)01時17分54秒
「・・・あなたは?」
不審がる飯田さん。
「辻希美れす。今度中澤さんのお宅で下宿する事になりました!」
「あ、そうなんだ。よろしくね、飯田圭織だよ。中澤ハイツの201号室に住んでるんだ。
今年から大学院なの。カオって呼んで」
「ののは今度高校生になるれす」
「あ、そうなんだ。隣のコも?やっぱり裕ちゃん家で下宿するの?」
今までぶすっとしてほとんど誰とも口を聞いてなかった加護がびくっとした。
「そうれす!あいぼんとののは学校も同じれす!」
辻ちゃんは加護の腕を取って嬉しそうに歌なんか口ずさんでいた。
対して加護の複雑そうなカオ。
悪いけど笑ってしまった。
38 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月22日(月)01時29分34秒
「ところで」
と中澤さん。
「後藤は来るんかいな」
「うん、夕べごっちんの携帯に留守電は入れたんだけど・・・」
石川さんは自分の携帯を取り出しディスプレイに目をやった。
メールが届いているか見ているようだ。
「あの後藤って子さー、生きてんの?カオ真上に住んでるけど、あの子引っ越してきてから
活動してる様子がないんだけど」
「ウチも隣やけどカオ見ぃひんなぁ」
平家さんも首を傾げる。
―――その時。
「んあ〜、皆そろって何してんの〜」
眠そうな目をした女の子が現れた。
39 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月22日(月)01時44分31秒
今回の更新はここまでです。
やっとゴマ登場・・・。
 
レスのお礼です。
(^▽^ )<名無し読者さん、気に入ってくれて梨華もうれしいです♪

今週はハロモニがない上にFUNもポップジャムも取りそこね(w

40 名前:傾きラストガール 投稿日:2002年04月28日(日)00時42分04秒
なるほどー(ニヤリ)
これからもちょくちょくのぞきますわー。
41 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月28日(日)09時28分49秒
「ごっち〜ん!留守電聞いてくれたんだー」
石川さんが立ち上がってその子に近づいて行った。
「んあ?留守電?」
彼女は上着から携帯を取り出すと、番号を押してしばらく耳に押し当てていた。
「入ってる?」
彼女の顔を覗き込む石川さん。
「あっは、ホントだ。梨華ちゃん昨日の夜にかけたんだね。ごとー寝てたかも」
後藤さんはテレくさそうに笑った。
42 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月28日(日)09時35分16秒
「後藤さんっていうんだ」
あたしも挨拶しようと立ち上がって後藤さんに近づいて行った。
「んあ、そうだよ。ここにいるって事は裕ちゃん家の新入りさん?」
「よろしく、吉澤ひとみっす」
「後藤真希だよ。ん〜、何て呼んだらいい?『吉澤さん』じゃ他人行儀だよねえ」
「ひとみちゃんは友達に何て呼ばれてるの?」
と石川さん。
「ん〜。ヨシコとかよっすぃ〜とかかな」
「あっは。ごとーは『ごっちん』でいーよ。よろしくね〜、ヨシコ」
「よろしく、ごっちん!」
43 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月28日(日)09時54分39秒
「あ、あのね。あたし達三人とも同じ大学なんだよ」
握手するうちらに、石川さんは何だか仲間に入れてもらいたそーに
モジモジと声をかけた。
「あ、そうなんだ。ごっちん何年生?」
「今年入学だよ〜。ヨシコは〜?」
「あ、ウチも。学部ドコよ」
「文学部英文科」
「マジ?一緒じゃん♪」
「あ、あの!」
と石川さん。
「あ、ごめん。石川さんは学部ドコ?」
「しゃ、社会学部なんだ。ちなみに今度2年だよ♪」
「あ、そうなんだー。先輩だねー」
石川さんには悪かったかなーと思ったけど、ごっちんとあたしは初対面なのに
何かウマが合い、その後しばらく殆ど二人で話してしまった。
44 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月28日(日)10時07分34秒
「ごめんねー、石川さん。何かごっちんと二人で話しこんじゃって・・・」
ごっちんとの会話がちょっと途切れた時、あたしは石川さんに詫びた。
「う、ううん!気にしないで!」
『気にしないで!』って無理のある笑顔で言われると、かえって気になるんスけど・・・。
石川さんはそのまま中澤家ご一行様レジャーシートに戻っていった。
45 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月28日(日)10時19分48秒
「あいぼん、おとなしいね」
黙って三角座りをし『白い恋人』(飯田さんの北海道土産。10スレ前参照)
を食べている加護に、石川さんは声を掛けた。辻ちゃんは飯田さんにじゃれている。
「大人の人が多くて緊張してる?」
「別に」
と、加護は素っ気無い。
「あたしでよかったら話相手になるよ」
石川さんはニコニコしながら言った。
加護はしばらく考え、
「なあ。聞きたい事あんねんけど」
「なあに?」
「中澤はんと梨華ちゃんは何で苗字ちゃうの。どっちも独身なんやろ」
46 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月28日(日)10時29分15秒
確信犯かただの無邪気か。
周りの空気が変わった。
辻ちゃんでさえ『白い恋人』を頬張る手を止める。
「ああ」
と中澤さんは振り返った。
「梨華はうちのおとんがヨソでこさえた子やからや」
こともなげに・・・言い放った。
「ついでに言うと、梨華は中澤の籍にも入ってへんから苗字が違うんや」
「異母姉妹ってヤツや。大体ウチと梨華、全然似てへんやろ?わっはっは」
中澤さんは缶ビール片手に豪快に笑う。
明るい太陽の下で―――ディープな家庭事情を知らされ固まってしまった
うちら新入り。
他のメンバーは加護の質問にちょっと表情を変えたくらいで、特に動揺も
せずそのまま飲んだり食べたりしていた。
47 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月28日(日)10時34分43秒
しばらくして、
「んあ、このギター誰の〜?」
ごっちんがあたしのギターケースを指差した。
「あ、ウチの」
「へえ、ギター弾くんだ。見てもいい?」
「いいよ〜」
「へ〜、モーリスじゃん(しかもコレ、D−28じゃ・・・)」
「ごっちん、ギター詳しいんだ」
「うん、少しだけどね・・・もしかしてベースとかも弾く?」
「あれ〜、何で分かったの」
ごっちんはそれには答えず、ただ黙って笑った。
「よっすぃ〜、何か弾いてほしいのれす」
辻ちゃんがうちらの間に膝を漕いで入ってきた。
正直あんなディープな家族ネタを披露された後だったので、ギター弾いて
歌でも歌って、気分を変えたかった。
48 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月28日(日)11時01分09秒
「あいよ〜。何かリクエストある〜?」
「『さくらさくら』がいいなっ」
すかさず石川さん。
「いいよー、ワンツースリーフォー・・・」
「『さくら さくら やよいの空は 見渡すかぎり 』」
「何か・・・カッコええ『さくらさくら』やなあ。ブルースみたいや」
平家さんはビールを飲みながらボソっと呟いた。
「『霞か雲か 匂いぞいずる』」
「へー、うまいモンやな」
中澤さんは感心したように言った。
「カッコいいれす〜。ね、いいらさん」
辻ちゃんはまた飯田さんのところに戻ってチョコンと
飯田さんの膝の上に座った。
「そだねー。何かミュージシャンみたいじゃん」
49 名前:春が来た。 投稿日:2002年04月28日(日)11時06分03秒
「(ひとみちゃん・・・カッコいい)『さくら さくら・・・』」
石川さんが合わせて歌う。
何か・・・彼女の独特な音程の声が色んな意味で耳に残る。
「梨華ちゃん・・・音痴やな」
加護がボソっと言った。
「うぅ・・・ひどい(泣)」

取り敢えず皆で『さくらさくら』を満開の桜の下でマッタリと合唱した。
風がとても心地よい。
色々あったけれど、それなりに悪くない春だ。
50 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月28日(日)11時28分53秒
ここでいったん切ります。

中澤&石川姉妹の会話

从#~∀~#从<ウチら姉妹の事は秘密ってほどのモンでもないんやけどな
(^▽^ ;)<裕ちゃん昔から全然隠してなかったじゃん(近所の人にも
     ベラベラしゃべるし・・・)
从#~∀~#从<あほやなぁ。隠すから人はかえって興味を持つんや
(^▽^ ;)<そ、そうなの?
从#~∀~#从<おぉ。でも吉澤に迫る時は『見えるか見えへんか』で
      勝負せいよ
(^▽^ ;)<・・・あの(汗
51 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月28日(日)11時43分11秒
レスのお礼です。

>傾きラストガールさん

煤i;´D`)<み、見つかってしまったれすか・・・。また来てくらしゃい!

おお、ハロモニが始まっている・・・。
ではまた。
52 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月28日(日)14時11分16秒
今回は後藤視点が入ります。
今日のハロモニ・・・花見クイズをやっていた。
いしよし幼稚園児が見れるのは来週か?
53 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)14時20分55秒
――― 後藤視点
 
『ナニかある』
よっすぃ〜を初めて見たときからナニかを感じた。
あはっ。別にひとめぼれとかじゃないよ(タイプじゃないし♪)。
ごとーの知ってる人に共通する・・・う〜ん、『ニオイ』っていうのかな?
感じるモノがあったんだ。
モーリスのギターを見た時その思いは強くなった。
梨華ちゃんのリクエストで『さくら さくら』を弾きだしたよっすぃ〜を見て、
ごとー、自分の予感が正しかった事を確信したんだ。
「このヒトはイケる」って。
何がイケるかって?
あはっ。それはまだ秘密。
54 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)14時23分02秒
誰かの携帯の着メロが響いた。
「あ、ウチだ」
よっすぃ〜はその辺りに置いてあった上着を取り上げた。
「これ『ヘイ・ジュード』か。えらいアレンジしてあんな」
「平家はん、分かるんか」
と加護。
「まあ、くさってもロックヴォーカリストやからな」
苦笑する平家さん。
「自分でアレンジして入れたんスよ。すぐ自分のって分かるじゃないすか」
「めんどくさそうれす〜。ののはフツーにダウンロードするのもめんどくさいのに」
「はい。あ、お母さん?え〜、入学式くんの〜?別に来なくっていいのに〜。
大学なんて親来るヒトいないよー」
電話でお母さんと話すよっすい〜の横顔を見て、
『この人しかいない』
ごとーはここで覚悟を決めたんだ。
55 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)14時26分09秒
――― 吉澤視点

携帯を切った後、ごっちんがニコニコしながら近づいてきた。
「ねえ、よっすぃ〜!」
「何、ごっちん?」
「入学式の後って何か予定ある?」
「ないけど・・・何?」
「ごとーにちょっと付き合ってほしいんだー」
ごっちんはそう言うとふにゃっと笑った。
56 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)14時38分01秒
入学式当日、あたしは見事に寝坊した。
「だああぁぁぁー!」
マッハで着替えを済ませ、ベーグルを口にくわえ、シャツのボタンを留めながら
ドカドカと階段を降りて行った。
「何や、朝からせわしないなあ」
中澤さんが台所からひょこっと顔を出した。
「スンマセン!寝坊したんス!」
「何や、スーツなんか着て・・・ああ、今日は入学式か。気ィつけて行っといで」
「行ってきます!!」
履き慣れないパンプスに足を入れ、あたしは外に飛び出して行った。
57 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)14時52分08秒
「ハア、ハア・・・」
ス、スカートは走りにくい・・・。
よりによってタイトだし。
駅までの道を走って行くと、前の方を紺のスーツを着た女の子がやっぱり走っていた。
「ごっちーん」
「あ、ヨシコ!あっは、ヨシコも寝坊?」
「そー。もー、ダメだねー。初日からこれじゃー」
「先が思いやられるねえ」
ごっちんは楽しそうにのんびりと言う。

走った甲斐あって何とか開始時間ギリギリで大学に着き、入学式会場のホールに入っていけた。
大遅刻チームのウチらはちょっと会場の注目の的にはなったけど。
58 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)15時09分53秒
入学式の後、お母さんとの待ち合わせ場所の校門前に行く。
案の定、さっきの遅刻現場を見られていて、
「お母さん、恥ずかしかったわ」
と軽く睨まれた。

「それじゃ、下宿の皆さんにあまりご迷惑かけるんじゃないわよ」
お母さんはそういうと待たせてあったタクシーに乗って帰って行った。
手渡された紙袋の中を見ると、うちの実家で作ってる最中が一箱、紫の風呂敷包み、
そして手紙が入っていた。
59 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)15時16分02秒
手紙を開くと、お母さんの達筆な字が目に飛び込んできた。
「ひとみ、入学おめでとう。もう大学生なんだしこれからは大人としての
自覚を持って行動しなさい。
最中は中澤さんにお渡しして。お赤飯は下宿の方たちにも召し上がって頂きなさい。
                              母より
追伸 今年の誕生日は多分帰って来られないだろうから、連休にでもひとみが
帰ってきたら皆でお祝いしましょう」

もう、お母さんたらいつまでも子供扱いして。
それでも、今年の誕生日は家族がいない初めての誕生日なんだなあと気づき
ちょっと涙腺が緩んだ。
60 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)15時24分37秒
「ヨシコ、すごい大荷物だけど、どしたの?」
ごっちんとの待ち合わせの学食前に向かうと、彼女はもう来ていた。
「ああ、母さんがさー、入学式だからって自分で炊いたお赤飯とー、
ウチ、実家最中屋なんだけど、中澤さんに渡せって最中持って来たのよー」
「へえー、いいお母さんじゃん」
「まあ、ね」
テレくさくてあたしは笑いながら鼻をかいた。
「んじゃ、これからちょっとごとーに付き合ってね」
ごっちんはあたしの腕を取り、歩き出した。
61 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)15時55分34秒
―――ごっちんに連れて来られたのは、いくつかある校舎の中で
一番古そうなところだった。

「いちーちゃーん!」
一階の突き当たりの、ローリング・ストーンズの例のロゴの
ステッカーとかがベタベタ貼られたドアをごっちんは開けた。
「連れてきたよー」
「おう、ご苦労さん」
かがんで何かゴソゴソしていた『いちー』さんは立ち上がって振り向いた。
「紹介するねー、こちらは市井沙耶香さん。ごとーの幼なじみ」
「よろしく」
「こちらは吉澤ひとみさん。ごとーと同じ英文科なんだー」
「へえ、うちも英文だよ。今度3年だけど」
「あ、先輩っすね」
「・・・ホントは4年だけどね」
「るせー」
市井さんはごっちんを軽く睨んだ。
62 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)16時03分07秒
「あっは、いちーちゃんアホだからダブったんだよねー」
何故かごっちんは嬉しそうだった。
「るせー、浪人したヤツに言われたかねぇよ」
あ、ごっちん現役じゃないんだ・・・。
仲間がいた事にちょっと安心した。
「それに・・・ただバンドに力入れ過ぎたんだよっ。
取れてる単位は全部『優』で通ってるよ!」
市井さんは留年がよほど悔しかったのか、握りコブシをわなわなと振るわせた。
63 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)16時13分00秒
「あ、あの!」
あたしは声を上げた。
「んあ。どしたの、ヨシコ」
「何か急用でも思い出した?」
ごっちんと市井さんが振り返った。
「あたしは何でここに連れて来られたんでしょーか」
あたしがそう言うと、ごっちんと市井さんは目配せし、
「ま、ソコに座って」
と市井さんはあたしのそばのパイプ椅子を指差した。
64 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)16時26分59秒
「単刀直入に言っちゃうけど・・・」
あたしがスカートの裾を気にしながら座ると、市井さんは自分もパイプ椅子を
持ってきて隣に座った。
「はい」
「吉澤さん、あたしのバンドに入ってくんないかなぁ」
「・・・へ?」
「いや、いきなしで悪いけど。何か、聞くとこによるとベース上手いらしいじゃん」
・・・この場合、どー考えても情報源は―――。
ごっちんの方をチラリと見ると、のんきに部屋にあった『きりり』を飲んでいた。
あたしと目が合うと、ふにゃっと悪気なく笑った。
「バンドは・・・ちょっとブランクがあるんスけど」
「どのくらい?」
「七ヶ月・・・になると思います」
「なんだ、そのくらいなら」
65 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)16時35分40秒
「それに・・・」
「ん、何?」
「実際音を聞いてからスカウトした方が・・・」
言ってしまってから、あたしはハッとなった。
しまった!
後輩の立場で生意気を言ってしまった!
気まずい思いでおそるおそる市井さんの顔を見上げると、
「気に入った」
ポン、と肩を叩かれた。
「って・・・へ?」
「自分の腕に自信を持ってないとなかなか言えない台詞だよなあ」
ニヤリと笑う市井さん。
66 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)17時30分47秒
「いやあのその・・・」
あたしがあたふたしてると、ごっちんが立ち上がり、壁に立てかけてあった
ベースを持ってこっちに来た。
「フェンダーだけど、構わないよね?」
市井さんは自分のギターをアンプにつなぎながら言った。
「え・・・」
「ピックはここに。ハイ、好きなの選んでね♪」
ごっちんは完璧な笑顔で机にありとあらゆるピックを広げた。





67 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)17時33分28秒
「はぁ、どうも」
大きく溜息をつくと、あたしは観念してベースをアンプにつなげ、自分も準備をした。
ピックをいくつか指ではさんで一番イイ感じだったのを借りる。
市井さんのギターはグレッチのホワイト・ファルコンだった。
めちゃ派手なギターで、ビジュアル負けしてしまう人も多いのに市井さんに
よく似合っていた。
「さて、準備はできたし。何弾こうか」
「ごとー、『I WANNA HOLD YOUR HAND』がいいなっ。いちーちゃんっ」
「吉澤は?」
『もう呼び捨てですか』と市井さんに問いたい気持ちだったが、
「それでいいです」
諦めてちょっと弦を爪弾いた。
68 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)17時48分44秒
「あ、ちょっと待ってね」
ごっちんはそう言うと鞄から何か取り出し、
「いくよ〜」
掛け声をかけた。
何が「いくよ〜」なんだろと思ってると、めっちゃくちゃカッチョいい
ブルース・ハープが聞こえてきた。
・・・え?
ごっちんが・・・吹いてんの?
「ヨシコ、遅い!もういっぺんね!」
ぼーっと聞き惚れてつい演奏を忘れ、ごっちんに怒られてしまった。
「あ、スミマセン・・・」
「ククク・・・吉澤びっくりしてんだよ。オマエの音に」
市井さんの言う通りだった。
69 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)18時05分33秒
「んじゃまた最初っからな」
と、市井さん
「OK。ワンツースリー・・・」
ごっちんの掛け声でウチらは演奏を始めた。

ごっちんのブルース・ハープにはさっき驚かされたが、市井さんのギターにも
あたしはガツンとやられた。
・・・ただのカッコつけでグレッチを弾いてる人じゃないんだ。
ちょっと試しで弾いてみてるだけなのに・・・カッコよすぎ。
上手いギタリストと弾くともう抑えられないくらい血が騒ぐ。
負けたくない!
珍しくそんな事を思い、普段よりかなり燃えて弾いてしまった。
70 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)18時27分17秒
「まあ、とりあえず、今度ライブやるから見に来てよ」
弾き終わった後、市井さんは引き出しからチケットを取り出し一枚くれた。
「ホントは二、三枚くらいあげたいんだけど、もう残り少なくってねぇ」
「すげ・・・ウチのいたバンドなんか余り放題でしたよ」
チケットを見ると、『CUBIC−CROSS』と書いてあった。
これがバンド名なのだろう。
・・・ん?
「・・・あーーーーーっ!」
突然絶叫しだし、あたしは立ち上がった。




71 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)18時36分25秒
「な、なに?」
「どしたの、ヨシコ?何か悪いモンでも当たった?」
二人はやや引き気味にあたしの顔を見た。
「キュ、『CUBIC−CROSS』って東京でめちゃ人気のバンドでライブハウスがいつも
超満員になるってトコじゃないですか!ウチ埼玉にいる時から知ってましたよ!
てか、インディーズ・デビューもしないのが不思議とか言われてて!」
「そ、そりゃどうも・・・」
どーして!
『市井沙耶香』って聞いた時点で気づかなかったんだ!
自分のアホさ加減にほとほとあきれてしまった。
72 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)18時46分19秒
「あの・・・ヨシコ。今気づいたの?」
「・・・うん」
ごっちんはフニッと笑うと、
「まあ、それはそうと・・・とりあえずバンドに入るかどうかは今度のライブ見てから決めても遅くないよね。
ね、いちーちゃん?」
「おぅ」
市井さんは机の端のハイライトをたぐり寄せ、
「吸っていい?」
「あ、ハイ。どうぞ」
何ともカッコよく口にくわえた。
73 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)18時52分02秒
「・・・ん?」
いちーさんはパーカーやジーンズのポケットを探って何やら探していた。
シュボッ。
ごっちんはまるでバーの女の人のような絶妙のタイミングで火を差し出す。
「サンキュ。・・・何そのライター、オンナノコみてー」
「オンナノコだもん」
むくれるごっちん。
ヴィヴィアン・ウェストウッドの少しくすんだソフトオレンジのライター。
ごっちんによく似合っていた。
「いちーちゃん、一本ちょうだい」
ごっちんもタバコをもらい火をつけた。
「・・・ごとー、ハイライトって好きじゃないなぁ」
「だったら吸うなよ」
「カプリないの?」
「ねぇよ」

ふたりを客観的に見た感想・・・。

『バンドマンとその女』
74 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)19時01分14秒
あの二人って・・・デキてるよな。
帰り道であたしはそんな事を考えていた。
ごっちんのあの屈託のない笑顔とそれを受け止める市井さんの、
何というか・・・『年上の余裕』って感じの態度。
誰と誰が付き合ってるとか、そんな事にはあまり関心はないが、
何故かあの二人は気になった。
75 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)19時12分27秒
――― 後藤視点

ヨシコと別れた後、あたしといちーちゃんはいちーちゃんの行きつけのショットバーに向かった。
「で」
あたしはいちーちゃんの顔を覗き込んだ。
「どうよ?生ヨシコのプレイは」
「どうって・・・プッ」
いちーちゃんはおかしくてたまらない、という風にオナカを抱えて笑い出した。
「ナニ?アイツ!あんな優男みたいなツラしてあの骨太な音!
いや、ごとーの言う事はたまには正しいんだな。びっくりしたよ!」
「(たまにはって・・・)あはっ、いちーちゃん好みの音だと思ったんだ〜。
ごほーびに今日は奢ってね♪」
「一杯だけな」
「ぶー、けちー」
隣で見るいちーちゃんの横顔はとても嬉しそうだった。


76 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)19時27分28秒
「吉澤ってごとーが引っ越したトコの近くで下宿してるんだっけ」
「中澤さんて人の家だよ。妹さんが同じ大学の2年だって」
「へえ、何てコ?」
「石川梨華ちゃん。え〜っと、学部はどこだって言ってたかなあ」
「石川梨華って・・・社会学部の石川梨華?」
いちーちゃんは少し表情を変えた。
「あ、そーそー。何だ、いちーちゃん知ってんじゃん」
「いや・・・面識はねえよ」
「何で名前知ってんの」
「いやまあ、誰かが話してんのを聞いたっつーか」
何でかいちーちゃんは決まり悪そうに言葉を濁した。
この話題を早く終わらせたいようだ。
「あ、分かった!」
「いちーちゃん、梨華ちゃんに手ぇ出したんでしょう!だから気まずいんだ〜」
「バカ、ちげーよ」


77 名前:グレッチ使い 投稿日:2002年04月28日(日)19時32分21秒
「あんな純情そうな子を・・・」
あたしは大仰にため息をついてみせた。
「ちげーっつってんだろ」
いちーちゃんはそう言うとバーボンをぐいっとあおった。
まあ、気になるけど今はこの事は触れないでおこ。

「マスター、バーボンもう一杯ね」
「オマエ、七杯目だよっ!」
いちーちゃんのおごりだと思うとおいしいねぇ♪
あはっ、ごとーまたいちーちゃんにおぶられて帰るのかな。
それもいっかぁ。
78 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月28日(日)19時44分02秒
とりあえず、更新終了〜。
ちゃむで引っ張りすぎたなー。

余力があればまた連休中に更新します。

( ‘ д‘)<いよいよウチとよっすぃ〜の決着がつくで!
( ´D`)<ケンカはだめれすよ
79 名前:手紙 投稿日:2002年04月28日(日)23時48分48秒
――― 4月12日。
その日はあたしの20回目の誕生日だった。

入学式から数日後、前期の授業も始まり、慌しい日々を送っていた。
明日は市井さんのライブの日だ。
ごっちんと一緒に行く事になっている。
80 名前:手紙 投稿日:2002年04月28日(日)23時52分41秒
「ただいま〜」
夕方中澤家に戻ると、何やら家中がバタバタしていた。
「あ、よっすぃ〜。おかえり」
廊下にいた辻ちゃんは、エプロン姿で頭に三角巾までつけていた。
「何かバタバタしてるけど、どしたの」
あたしは台所に行き、冷蔵庫から自分の缶コーヒー(マジックで『ひとみ』の名前入り)
を出してきて飲んだ。
「今日はパーティーれす!」
「何の?」
「新人歓迎会と、のの達の入学おめでとうパーティーを開いてくれるんれす!」
「へぇ〜、そりゃいいね」
「今日はすき焼きれす!お肉もどっさりれす!」
「カッケー!」
81 名前:手紙 投稿日:2002年04月28日(日)23時55分36秒
ほどなく居間の方から
「ののちゃーん!」
石川さんの声が聞こえてきた。
「はいれす!すぐ行くれす!」
「よっすぃ〜も手を洗って何かお手伝いするれす!」
「は、仰せの通りに」
辻先生に言われた通り部屋に荷物を置いて手を洗ってから、
足りない物の買出しを引き受けてスーパーに出かけて行った。
82 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)00時00分21秒
買い物から帰って来ると、ごっちんと飯田さん、平家さん達が居間にいた。
「ヨシコ、おかえりー」
「ごっちん、もう来てたんだ」
「んあ、今度はちゃんと留守電聞いてさ〜」
そばにいた石川さんがちょっと笑った。
83 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)00時02分44秒
「アンタが吉澤ね!」
見知らぬ女性にいきなり『吉澤ね!』と声を掛けられギョッとする。
「・・・へ?どなたですか」
「んま!ここの下宿人のくせにこのアタシを知らないの!?モグリね!
覚えておくがいいわ!アタシは世界の恋人・保田圭、保田圭よ!」
「はあ、保田さん・・・ですか」
「中澤ハイツ202号室の住人よ!覚えておくがいいわ!」
「・・・吉澤ひとみっす。よろしくお願いします」
保田さんのあまりのテンションの高さに、何だかエネルギー吸い取られ
しぼんじゃった感じだった。
84 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)00時04分15秒
「圭ちゃ〜ん、吉澤引いちゃってるよ〜。ダメじゃん」
飯田さんがフォローに入ってくれる。
「まだまだ青いわねっ、吉澤!」
保田さんは『口を開けてウィンク』という恐るべし必殺攻撃をかまし、
「ギャハハ!出た〜!圭ちゃん最高!!」
ごっちん達に何故か異常に受けていた。
「・・・こわいれす」
辻ちゃんはそっと飯田さんの後ろに隠れていた。
ウチも・・・こわいれす。
85 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)00時06分33秒
「みんな揃ったか〜」
中澤さんが皆に声を掛けた。
皆の前にはもうすっかり準備が整ったすき焼きが用意されている。
「あいぼんがまだで〜す」
辻ちゃんが手を挙げて言った。
「何や、まだ学校から帰ってへんのか」
「へいっ」
「もう7時回っとんで。遅ないか」
平家さんは壁時計に目をやった。
「ほんとれすね〜。あいぼん帰宅部なのに・・・」
辻ちゃんが少ししょぼんとしていると、玄関から物音が聞こえてきた。
86 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)00時08分13秒
「あ、帰ってきたれす!」
辻ちゃんは立ち上がって、どたどたと走っていった。
「なんや、可愛らしいなあ」
ビールを飲みながら、平家さんはしみじみと言った。
「コラみちよ!乾杯もせんうちに飲むな!」
中澤さんのお叱りが飛ぶ。
「姐さんかてさっきすき焼き作りながら日本酒飲んでましたがな」
「じゃかまし!味見じゃ、味見!」
「も〜、裕ちゃん。今日はお祝いなんだからさぁ」
石川さんが困った顔で止めに入った。
87 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月29日(月)00時14分35秒
中途半端ですが今回はここで切ります。
88 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時09分22秒
私服に着替えてきた加護も加わり、宴は始まった。

「それにしてもみちよ、アンタはいつ呼んでも来んなぁ。
ホンマに芸能人か?」
「姐さん、ウチは昨日まで営業で全国各地あちこち回っててんで」
「客、来るんかいな」
「・・・ひどっ、姐さん。そりゃないでしょ」
「名張の親御さんも心配してはるやろ」
「親のコト言われると弱いの知ってて、もー」

中澤・平家チームはビールを恐ろしい勢いで消費し、その合間合間にお互いを毒づき、
すき焼きもちゃんと食していた。
89 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時13分03秒
「保田さんって何してる人なんスか」
あたしは先輩に敬意を表して、保田さんにビールを注いだ。
「ホホ、ズバリ郵便局員よ!」
「・・・へ?」
「そこの駅前の局勤務よっ」
「え、てコトは・・・切手とかそこに買いに行ったら
保田さんが窓口にいるんスか!うわー!」
「ちょっと吉澤!悔しいけど面白かったわよ!」
「あっは!ご一緒に簡保もいかがですかぁ?とか言うの〜?」
「ごとー、カオリのダジャレ並みにダメダメよっ」
「ひど〜い!カオもっと面白いコト言えるもんっ」
「そうれすよ〜」
うちらは大して酒も入ってないのに、保田さんを中心に(?)
異常なテンションで盛り上がっていた。
90 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時16分05秒

――― 石川さんはというと。

ただ黙ってすき焼きを食べている加護が気にかかるのか、
さっきからしきりに話しかけていた。
「あいぼん、野菜も食べなきゃダメだよ」
「食べとる。ののやあるまいし」
「ののちゃんはお肉ばっかり取り過ぎだよねっ」
石川さんは愛想なく答える加護を少し持て余しているようだった。
困った顔で笑っている。
「梨華ちゃんは食べへんの?」
「今日はあいぼん達が主役なんだから、あいぼん達がいっぱい食べないと」
「・・・ふーん」
91 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時18分52秒
「あ、そうそう」

石川さんはエプロンのポケットから何やら取り出した。
「あいぼんとひとみちゃんに速達が届いてたんだった」
石川さんからクリーム色の封筒を受け取る。
差出人を見ると、幼なじみの亜弥からだった。

『ひーちゃん、誕生日おめでとう。
 東京には慣れた?もう可愛い彼女とかできたんじゃない?
 ひーちゃんすごいカッコいいから・・・。
 あたしもこっちの短大で今気になる人がいます。
 その話はまた今度・・・。
 それじゃ、また遊ぼうね〜。 
     
       大好きなひーちゃんへ  あやや     』
92 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時21分29秒

あやや、誕生日覚えててくれたんだ。
わざわざバースデーカードまで送ってくれて・・・。
嬉しくて、ニヤケながら何度も何度も読み返した。
93 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時23分22秒
ああ、今日でウチ、ハタチなんだよなあ。
改めて実感し、もう未成年だからと遠慮するコトもないよな、と
ビール瓶に手を伸ばした。
「未成年が飲んじゃだめれすよ〜」
辻ちゃんが瓶を取り上げようとする。
「あ、大丈夫。今日で法的にオッケーな年になったから」
「って、え?ヨシコ、今日誕生日なの?」
ごっちんがあたしの方を見た。
「うん」
「何だー。そういうコトは早く言いなよー」
飯田さんはあたしからビール瓶を取り上げ、グラスに注いでくれた。
94 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時26分07秒
「法的にオッケーな年って・・・何や自分大学浪人してるんや」
「あいぼんっ」
珍しく石川さんが声を荒げた。
「ああ、いいよ。ホントのことだし」
あたしがそう言うと、加護はプイっとそっぽを向いた。

「気にするコトあらへん。梨華なんかホンマやったら3年やねんで」
中澤さんが言った。
「そうなんですか」
「ああ。こいつアホやから留年しおってん」
どっかで聞いたような台詞だと思い、ふと石川さんの方を見る。
石川さんは照れくさそうに笑っていた。
95 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時28分56秒
「ひとみちゃん、どうしてお誕生日だって言ってくれなかったの〜。
ケーキくらい用意したのに」
石川さんにもビールを注いでもらい、あたしはちょっと酔ってきた。
「いや、何か自分から言うのってヘンじゃないですか」
「そんなコトないよ。来年はちゃんとお祝いしようね」
フフッと石川さんは微笑んだ。
可愛いなあ。ウチが男だったらホレるだろうなぁ。
あれ?あたしナニ考えてんだろ。
酔ってんのかなー。

ぼやけた視界の中の石川さんはとても可愛く。
何だかいい香りもした―――。
96 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時30分27秒
「あいぼん、誰からのお手紙れすか」
辻ちゃんは部屋の隅の方で手紙を開いてる加護に声を掛けた。
「親や」
「そうれすか。何て書いてあるんれすか」
辻ちゃんがそう言うと加護は黙って立ち上がり、
ごみ箱の近くに行った。
「・・・あいぼん!」
手紙を破ろうとする加護を辻ちゃんが慌てて止めに入る。
「何やねん!邪魔すんな!」
「て、手紙をいきなり捨てるのはよくないれす!お家の人からのなのに!」
「やかましわ!・・・何やねん!何でもかんでも金で解決しようとしやがって!」
加護がそう怒鳴ると、辻ちゃんはその場に固まってしまった。
怯えたような表情で、黙って加護の顔を見ている。
「・・・フンッ!」
加護は踵を返し、居間から走って出て行った。
97 名前:手紙 投稿日:2002年04月29日(月)11時34分33秒
その場に残された辻ちゃんは、加護の手紙を握り締めたまま泣きじゃくっていた。
「辻、気にしちゃダメだよ。加護にも何か事情があるのかもしれないし」
飯田さんは立ち上がって、辻ちゃんを抱きしめる。
「・・・ハイ」
「じゃ、とりあえず。今日はお開きにしよか」
中澤さんの一言で、皆各自の食器を片付け始めた。

何だか―――疲れる誕生日だった。


―――その夜は何だか眠れず、ビリー・ジョエルをベッドの中でずっと聞いていた。
98 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月29日(月)11時59分06秒

今回分の更新はここまでです。

何か、書いててすき焼きが食べたくなったきた(w

ちなみに新人歓迎会の『お肉消費量第一位』はお約束で→(;´D`)です

99 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月29日(月)15時00分53秒
間違いハケーン(w

<61<71
市井沙耶香→市井紗耶香

>62
振るわせる→震わせる

>97
聞いていた→聴いていた

まだ他にも間違ってるような気が・・・(汗
100 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月29日(月)15時18分07秒
ちょっとここで番外編。

・後藤浪人の理由


―――入試当日



( ´ Д `)<ZZZzzz・・・

夕方
 
( ´ Д `)<んあ〜、入試って今日だったっけ〜。

  ヽ^∀^;ノ<て、ヲイ!

ベタでスマソ。
101 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月29日(月)16時00分25秒
もうひとつ番外編

『市井紗耶香in後藤家家族会議』

((( ´ Д `))<やだやだ!いちーちゃんと同じトコ行く!浪人する!
          (じたばたじたばた)

(母´ Д `)<他に受かってるんだからそこでいいじゃないの

(♂´ Д `)<そうだよ、姉ちゃん

 ヽ^∀^ノ <後藤、そこに入れよ。ガッコくらい別々でもいいじゃん 
 
( ;´ Д `)<うっうっ・・・ごとー頑張って勉強したのに(当日寝坊したけど)
        いちーちゃんと同じ大学通いたかった・・・ぐすんぐすん

 ヽ^∀^ノ <・・・後藤


なんだかんだと後藤には甘い市井だった・・・

102 名前:オムらいっすぅ 投稿日:2002年04月29日(月)17時39分52秒
初めまして。…ご、ごま最高ぉ!!!
このボケボケ加減がいいです♪いち〜ちゃんにおぶられて帰るごま萌え〜
圭ちゃんのキャラも好き(笑)あ、梨華ちゃんのシャクレも(爆)
続き期待してます!!ファイト♪
103 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月29日(月)20時26分50秒
今日一気に読みました。
ヤッスーおもしろすぎです。サイコーです。
これからの展開が楽しみです。
104 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月29日(月)22時43分27秒
更新前にレスのお礼を・・・。

>オムらいっすぅさん

( ´ Д `)<んあ〜、いちーちゃんよりごとーの方が実はお酒強いんだよ〜
        いちーちゃん、量飲めないし。

      うちのゴマ、お気に召して頂けたようで何よりでございます(w
      小説、続き期待しております!(さっき見に行きました) 
       
>よすこ大好き読者。さん

( `.∀´)<アタシに目をつけるなんて、アナタなかなかの通ねっ!
        お目が高いわっ!!ファンクラブ会長に任命するわ!(ヲイ!)

      お名前は前から存じております。うちのヨスィコもよろしく
      お願いします(w



105 名前:今際のきわラストガール 投稿日:2002年04月29日(月)23時17分07秒
ここに来て「ええと…顔がわかんねー…モー娘。って
(ちょっと待て、「モームス」を変換したら「モー娘。」って変換できるってこのパソコン…! 私より詳しい?!)
何人だっけ…? あれ? この人は男なの? 女なの?
名前からして女だな。うん。たぶんそーだろー。
とか思いながら読んでる私はモグリか? モグリかっっっ?!
でもなんかテンションで読んでしまうぞ…。
ちなみに辻ちゃんが好きっす。
もっと食べさせてください。成長期ですし。
106 名前:いまわの際ラストガール 投稿日:2002年04月29日(月)23時21分32秒
ついでに神戸の美味しいケーキもいかがですか?
    ☆   ☆ ☆
   @ § @ § @ § @
  £££££££££££££
  │    │
│@@@@@@@@@@│
/ │    │ \
│ £££££££££££££ │
\_____________/
(入るのか?! これっっっ!)
107 名前:いまわの際 投稿日:2002年04月29日(月)23時22分28秒
はうあ!
やっぱずれました(涙)
もうしません。ごめんなさい(メソ)
108 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時33分06秒

―――翌日。

市井さんのライブ当日、あたしは新宿に来ていた。
7時の開演には少し早いが、ごっちんと5時に駅で待ち合わせていた。
「ヨシコー」
5時ジャストにごっちんは現れた。
「待った?」
「いんや〜」
「ちょっと早いし、お茶でもしようか」
「うん、この辺分かんないから店はごっちんに任すよ」
「オッケー」
109 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時40分51秒
ごっちんについて行くと、いかにも女の子の好きそーなコジャレたカフェに
着いた。
「いちーちゃんとよく来るんだー」
席に着き、メニューをあたしの方に差し出しながら、ごっちんは言った。
「市井さんと・・・付き合い長いの?」
入学式以来気になってる疑問―――『アンタたちデキてんの?』を聞き出そうと、
あたしはまず遠回し且つ無難な質問から始めた。
「ん〜?ごとーが2つか3つの時にいちーちゃんが近所に引っ越して来たの。
それ以来だよ」
「・・・へぇ」
「それがどうかした?」
「いや・・・その、付き合ってんの?」
110 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時42分24秒
その時のごっちんの顔を、あたしは生涯忘れないだろう。
目が点→笑いで小刻みに震えだす→ほっぺたが膨らむ→限界といった過程を経て
「ブハッ!」
ついに爆発して笑い出した。
「な、ナニそれ〜!ギャハハ!あ、あたしといちーちゃんが!や、やめてよ〜!!」
いや、やめてほしいのはこっちなんスけど。
店中の注目の的だし、オーダー取りに来たお姉さん、困ってるし。
「ごっちん、注文・・・」
「う、うん。あ、あたしアイス・カフェオレね・・・ひーひー」
ごっちんはオナカを抱え、涙まで流していた。
111 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時43分52秒
「ヨシコ、何でそう思ったのよ」
「・・・イヤさ、ごっちん、市井さんと同じ学校行きたいから浪人したって言ってたじゃん」
「うん」
「この前、入学式ん時もナンか息の合ったプレイしたり市井さんのタバコに火、点けたりとか・・・
彼女かよ〜って思うくらいだったよ」
「何でみんなそう見るのかな〜」
ごっちんは眉をひそめた。
「いちーちゃんとはただの幼なじみだよ?そりゃ、ごとー、すごいいちーちゃんには甘えてるし
大好きだけどさ」
112 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時45分44秒
『大好き』
市井さんの中では、この言葉はどう響いているのだろう。
ごっちんはちょっと拗ねた顔で、アイス・カフェオレのグラスの氷を
ストローでカラカラとかき混ぜている。
変なコト言ったな。
そう反省して、
「ゴメン」
素直に謝った。
「んあ、ヨシコはいないの〜」
「・・・へ?」
「す・き・な・ひ・と!」
「・・・えーと」
「いないんならいいよ」
「うん」
そう言えば・・・『好きな人』って言える人が自分には今までいただろうか?
そりゃ・・・友達はいたし、決して一人ぼっちではなかった。
恋愛感情ではなさそうだが、ごっちんのように『大好き』って言えるような特別な人が
・・・いたかな?
113 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時46分41秒


ごっちんがグラスの氷をかき回す、カラカラという音だけがあたしの頭に響いていた―――。
114 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時47分39秒
―――7時。

いよいよ開演だ。
周りのお客のザワザワと騒ぐ声が響く。
あたしとごっちんはスタンディング席の前の方にいた。
「いよいよだね」
興奮を抑えきれず、あたしは思わず声を上ずらせた。
「あっは。ヨシコ、テンパってる〜」
「う、うん」
115 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時49分24秒
会場内のライトが落とされた。
「ワンツースリーフォー・・・」
掛け声がステージから聞こえたと思ったら、挨拶も何もなく、いきなりプレイが始まった。
一曲目はドアーズの『ハートに火をつけて』。
市井さんは今日はこの前とは違うグレッチを弾いて歌っていた。
カ、カッケー・・・。
乾いた感じの曲に市井さんのギターと声がよく合っている。
あの入学式の日のビートルズも正直ビビったが、ここまでとは・・・。
116 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時51分02秒
あたしは呆然と口を開けて、ステージを見つめた。

目が慣れてくると、他のメンバーも見る余裕が出てきた。
今回助っ人だというベースは髪の長い綺麗な女の人だった。
あたしよりちょっと年上だろうか。

・・・あ!
なななな何で!
保田さんが!
ドラム!!
叩いてんの!!!
「ヤッスー!」
さっきから聞こえるこの声援は・・・保田さんへのソレだったのか。
「圭ちゃん〜!抱いてぇ〜!!」
だだだだ誰だ!
ディープなファンだ・・・。
そのファンに向けてか、保田さんはこの前ウチにして見せた『口を開けて濃ゆいウィンク』を披露していた。
「キャ〜!!」
声援はより一層大きくなった。
・・・保田圭、恐るべし。
117 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時52分34秒
ライブの中盤を過ぎてふと隣を見ると、ごっちんの姿がなかった。
「・・・ごっちん?」
トイレにでも行ったのだろうか。
そんな事を考えていると、
「ごとー、上がって来いよー!」
ステージの市井さんが言った。
「んあ〜、今行くよ〜」
声のする方に目をやると、ごっちんがまるで『マジシャンにステージに上がらされたお客』のように
どっこいしょてな感じでステージに現れた。
118 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時53分38秒
「ごっちーん!」
「真希ー!」
途端に客席に歓声が上がる。
「んあ〜、みんなコンバンハ。ごとーだよ〜」
何とも気の抜けるMCが始まった。
「あはっ。今日は新宿だしね〜、『歌舞伎町の女王』とか歌おうと思うんだ〜。
いいかな〜」
「いい!いい!」
「ありがとう〜。実は今日、コレも用意してきたんだ〜」
ごっちんはさり気に水色のボディーカラーのギターを持ち上げた。
デューセンベルグのスター・プレイヤーU・・・。
林檎を歌うからって、ギターまで林檎モデルを用意するか?
他の客もそう思ったのか、どっと沸いた。
「んじゃ、いくね〜。ワンツースリーフォー・・・」
119 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時58分06秒
―――さっきまで『キミはお笑い担当か?』と問いたいくらい
ボケまくっていたごっちんの姿はもうなかった。
市井さんとのツインギターで歌うごっちんは、客席を挑発するように激しく燃えている。
コピーかよ、と一瞬でも苦笑した自分を・・・馬鹿だと思う。
この前はブルース・ハープだけで分からなかったが、ごっちんのギターテクも相当すごかった。
市井さんに負けずとも劣らない。
保田さんも、あの助っ人のベースの人も―――マジすごい。


『このバンドに入るのか』

―――正直、怖くなってきた。

120 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)01時59分53秒
終演後、あたしはごっちんに連れられて楽屋を訪れた。
「ホホ、来たわね!」
入るなり、保田さんが抱きついてほっぺにチューしてきた。
「セ、セクハラっす!保田さん!」
「ウチのバンドに入んないと、もっとスゴイことするわよ!」
『どんなことなんだ』
恐ろしくて・・・とても聞けやしない。
「彼女が吉澤さんね」
奥のほうにいた女性が言った。
ベースを弾いていた人だ。
「あ、初めまして。吉澤ひとみです」
「木村アヤカです。よろしくね」
ニッコリ笑って、木村さんは片手を差し出した。
121 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)02時01分31秒
「木村さん!ウチ今日のプレイ、メチャ感動しました!もう〜鳥肌たったっス!」
「アヤカでいいよ〜。ありがとうね」
「てか、助っ人って、どっか他のバンドにいるんスか?」
「う〜ん、実は今、フリーなのよ。前のバンドは色々あって解散したし」
「そうなんスか・・・スイマセン」
「気にしないで。ハハ、今日は助っ人で出たつもりだったんだけど、このままキーボードで
ここに入ると思う」
「・・・へ?」
「本来はあたし、キーボードなのよ。圭ちゃんにどーしてもって頼まれて、今回はベースで出たんだけど」
周りのメンバーを見ると、黙ってニヤニヤ笑っている。
聞かなくても分かる。
あたしの『入ります!』の一言を待っているのだろう。
122 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)02時02分53秒
「あ・・・あたし」
「ほう、あたし・・・ナニ?」
周りのメンバーがずずいっと寄って来る。
「きょ、今日は失礼します。お疲れ様でした〜」
「あ、逃げた!」
これは市井さんの声。
「吉澤〜!覚えてなさいよ〜!!たとえ南極に逃げてもアタシは南極観測隊に志願して追いかけてやるから!!」
保田さん・・・そんな志願理由、観測隊の人も迷惑です。
123 名前:葉桜・前編 投稿日:2002年04月30日(火)02時07分06秒
はあ、ウチこのバンドでやってけんのかしら。
レベル、高すぎ。
客席のあの歓声。熱気。
ステージ上で一度味を知ったらやめられなくなる。
新しい世界に飛び込んでゆく怖さと、ライブのあの陶酔感を求めて抑え切れない衝動。
そのどちらもあたしの中で湧き上がっている。

ごっちん達と別れて、帰りの電車の中でドアにもたれかかり、
あたしはそんな事を考えていた。


「た、大変よ!ひとみちゃん!」
石川さんから電話があったのは、ちょうど駅の改札を出て中澤家に向かうところだった。
124 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月30日(火)02時25分31秒
前編はここまでです。
レスのお礼を・・・。

( ´D`)<今際のきわラストガールしゃん、大きな神戸ケーキありがとうれす!
      おいしかったのれ、ののひとりでたべました!
川 `〜`) <辻、間違ってるぞ(スレ違い、スマソ)

( ´D`)<それとれすね、ののからみなしゃんにお願いなのれすが・・・
      なにぶん駄文で恥ずかしいのでsageでお願いするのれす。
      ワガママでごめんなしゃい。ご協力お願いします
125 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)10時42分54秒
「どしたの」
「あ、あいぼんが・・・いなくなったの!」
「はあ・・・?いない――― って?」
「ひとみちゃん、今どこ?」
石川さんの声は震えていた。
「駅だけど・・・分かった、とりあえずすぐ戻るから」
126 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)10時48分56秒
――― 中澤家に戻ると、台所のテーブルで石川さんが
暗い顔をしてうつむいていた。
その横で辻ちゃんがひっくひっくとしゃくりあげている。
既にかなり泣いたのか、目が腫れて赤くなっていた。
「・・・で、何でいなくなったの」
あたしは二人の横に座った。
「ののが・・・ののが悪いんれす!」

二人の話はこうだった。
昨夜のあたしへの暴言、実家からの手紙を破り捨てた事など辻ちゃんに責められた加護は
逆ギレした。
言い争ううちに辻ちゃんはカッとして加護をひっぱたいた。
叩かれて動揺した加護は「のののアホー!」とわめくと、発作的に外に飛び出していった。

127 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)10時58分39秒
「あいぼんの気持ち・・・ののは全然分かってなくて・・・ひっく。
暴力まで振るって・・・ののは最低れす」
「そんなに自分を責めなくても」
あたしは辻ちゃんのちっこい頭を撫でた。
「これ・・・」
石川さんが何かぐしゃぐしゃの紙をあたしに差し出す。
「何?ずいぶんぐしゃぐしゃだけど」
「読んでみてくれる?」
「はあ」
受け取って伸ばしながら広げてみる。
・・・手紙?

そこには達筆な字で
『亜依へ』
と書かれていた。

「何これ、手紙じゃん。いくら何でも読むワケには・・・」
「いいから」
手紙をテーブルに置こうとするあたしの手を石川さんが引き戻した。


128 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時06分31秒
『亜依へ
入学式は和彦が急に熱を出して出席できず、本当にすまなかったね。
お母さんも毎日、亜依の事を心配しているよ。
たまには電話してあげてくれ。
遅くなったけど、お祝いのお金を亜依の口座に振り込んでおきました。
学校で必要なものを買いなさい。
体に気をつけて。
管理人の中澤さんによろしく』
129 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時10分53秒
「これは・・・加護のお父さんからの?」
読み終えて、手紙をテーブルに置く。
「そうれす」
辻ちゃんはしゃくりあげながら言った。
「『何でもかんでも金で解決』ってコレ?」
「ううん、違うの。ひとみちゃん」

130 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時21分08秒
加護のお母さんは加護が中学に上がる前に亡くなった事、加護が新しいお母さんに
なじめず悩んでいた事、義理の弟が生まれその事を中学校でからかわれ、それがきっかけで
シャレにならないひどいいじめに発展していった事。
石川さんは言葉を選びながらポツリポツリと語った。
「いじめに遭ったからこっちの高校受験したの?」


131 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時24分38秒
「うん・・・亡くなられたお母さんの母校に通わせたいっていう
お父さんの希望でもあったみたいだけど・・・あいぼんが引っ越してくる前、
お父さんわざわざこちらにいらっしゃって、裕ちゃんに『娘をお願いいたします』って
何度も頭を下げてらしたの・・・」
「親心で東京の高校に通わせてもらう事も、加護には『金で解決』なワケね」
「う、うわ〜ん!」
こらえきれなくなったのか辻ちゃんが大声を上げて泣き出した。
「ののが、ののがあんな事言わなきゃ・・・」
「ストップ!」
あたしは辻ちゃんの手を握った。
「誰が悪いかとかさ、とりあえず後回しにして今は加護を探そうよ、ね?」
「うん・・・」
辻ちゃんは目をこすりながらうなずいた。
132 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時28分28秒
「石川さん、加護が飛び出して行ったのは何時ごろ?」
「9時半・・・過ぎてたかな、ののちゃん?」
「ハイ」
今は10時40分。
9時半じゃ実家に帰るにしても、ここからじゃ新幹線の下りの
最終には間に合わない。
て事は、夜行列車、夜行バス・・・。
大体財布は持って出たのだろうか。
「ウチ、とりあえず駅の辺り探してみるわ。あ、そうだ。加護、携帯持って出てる?」
「持ってったとは思うれすけど・・・電源切ってるみたいでつながらないれす。
でもメールがきました」
そういって辻ちゃんは自分の携帯をあたしに見せてくれた。
133 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時40分07秒
『のの
さっきゴメン。ウチ、もうアカンかも。どこにも帰るトコあらへん。
元気でな。いろいろありがとう』

「―――何が『いろいろありがとう』だよ!カァーッ!
勝手にこんなメール送って後は電源オフかよ!」
メールを見てあたしの怒りが沸騰した。
石川さんと辻ちゃんは顔を見合わせて何ならコソコソ話している。
少し気になるが、今はそんな事はいい。
134 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時41分39秒
とりあえず、二人には家にいてもらい、あたしだけ探しに行くことにした。
中澤さんと平家さんは既に手分けして探しに出てるらしい。
駅までの道すがらあたしはコンビニに立ち寄り、念のため、雑誌コーナーで時刻表をめくり
関西方面の夜行列車とバスのダイヤを調べた。
てか・・・何でウチ、鞄はともかくベースまで持って出たんだろう?
バカじゃん・・・。重いのに。
ベースを担ぎなおし、気を取り直して店を出た。
135 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時55分25秒
しばらく歩いていくと、この前花見をした公園が現れた。
ふと思い立って、足を踏み入れる。
時間が時間だけに、誰もおらずガラーンとした空間が広がっている。
丁度中央に、この前下で飲み食いした桜の大木がある。
そばに行って、手のひらで木の幹をそっと撫でた。
桜はもう来年まで見れないな。
そばのライトに照らされる剥き出しの桜の葉。
葉桜、っていうんだっけ。

136 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時57分30秒
「う・・・わっ!」
頭上で子供の声がした。
こんなとこでこんな時間に?
でも・・・どっかで聞いた声だ。
「・・・あ!」
桜の木から少し離れて見ると、
「・・・何してんのよ」
加護は木の上にいた。
「そ・・・そっちこそ何や!おどかすな!」
「てか・・・あんたがいなくなったつーから皆心配して探してんでしょーが!」
ムカついて思わず怒鳴ってしまった。
「う・・・ウチはいなくなっても心配する人なんかおらへんわ!!」
「あ、そ。じゃね」
あたしは踵を返した。
「ま、待て!!」
途端に心細そうな声が追いかけてくる。
137 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)11時59分37秒
「あー?まだ何か用?」
「ここは『そんなコトないわよ!!』とか言うトコちゃうんかい!ったく、
東京モンはお約束っちゅーモンを分かってへんな」
「ウチ・・・埼玉だし」
加護の『そんなコトないわよ!!』は何故か石川さんのモノマネだった。
不謹慎ながら・・・激似で少し笑った。
「と、とにかく!ウチは別に出てったワケちゃうわ!ガキやあるまいし!!」
「・・・ふーん。えと・・・何だっけ『のの
さっきゴメン。ウチ、もうアカンかも。どこにも帰るトコあらへん。
元気でな。いろいろありがとう』だったっけ」
「・・・な!ひ、人のメール勝手に見んなや!」
「辻ちゃんが見せてくれたんだよ」
「・・・のののアホっ!」
138 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)12時07分12秒
「でさ」
「いつまでそこにいんの?」
ベースと鞄を置いて、あたしは加護に近づいて行った。
「うっさいわ!おまえにはカンケーないやろ!・・・ふあくしゅんっ!」
加護がハデにくしゃみをする。
「もう降りたら?夜は冷えるし」
「う、うるさ!・・・うわっ!!」
加護が木の枝で足をすべらせて上から降ってきた。
139 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)12時08分57秒
「・・・ぐっ!」
間一髪で受け止めて加護を抱きかかえたまま、あたしは地面に横向きに転がった。
「いてて・・・」
「加護・・・大丈夫?」
「あ、足・・・くじいた。よっすぃ〜のせいや!ちゃんと受け止めへんから・・・」
「助けてもらってその言い草かよ・・・まあ、大したケガがないんなら・・・ん?」
加護が小刻みに震えている。
「どした?どっか痛い?」
「・・・なさい」
「・・・え?」
140 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)12時12分06秒
「・・・ゴメンなさい・・・」
加護はしゃくりあげてあたしのパーカーに顔を埋めた。
あたしは少し笑って地面に寝たまま、加護の小っちゃい頭を抱きしめた。


141 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)13時15分20秒
―――その後。

石川さんに加護が見つかったと連絡すると、辻ちゃんと二人ですぐ公園に駆けつけて来た。
「あいぼん!」
辻ちゃんはまた泣いていた。
今度は安堵の涙だろう。
「ちゃんと謝んなよ、一番心配してたんだから」
ベンチであたしの隣に座って待っていた加護に言うと、
「わーっとる」
相変わらずふてぶてしく言った。
「帰りましょう、裕ちゃん達も連絡したからもう戻るわ」
「そだね、梨華ちゃん」
142 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)13時17分31秒
「・・・え?」
石川さんが一瞬固まった。
「どしたの、梨華ちゃん」
「う、ううん(・・・『梨華ちゃん』って、呼んでくれた!)」
・・・あたしはこの時、まったくもって無意識だったのだけれど、『梨華ちゃん』と連呼していたようだ。
まあ、『石川さん』も『梨華ちゃん』も大きな違いはないか。
「足、イタイー!」
「あいぼん、どしたんれすか?」
「くじいたんや」
「しょーがねーなー。ホラ、おぶってやるよ!」
少しかがんで、加護を背中に背負った。
「じゃ、あたし、ベース持つね!」
と、石川さん。
「ののはカバンを持つれす!」
4人で公園を後にした。
143 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)13時19分57秒
「ねえ」
背中の加護にこっそりあたしは話しかけた。
「なんや」
「あんた、何で木登りなんかしてたのよ」
「・・・子供の頃、よう登ったなーと思って何となく登ったんや」
「で、怖くて降りれなくなったと」
「うっさい!」
グーで軽くポコッと頭を殴られた。
「ケンカはダメれすよ〜」
辻ちゃんが止めに入る。
144 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)13時22分15秒
「・・・桜はキライや」
加護がボソっと言った。
「何で?」
「咲いたと思ったらすぐ散るからや」
「まあ、それが花のさだめだからね」
あたしは少し苦笑した。まあ、加護の言う事はもっともだけれど。
「また来年咲くじゃない」
梨華ちゃんが笑顔で言った。
そう、来年――― 。
人はこうしてまた繰り返し繰り返し、桜を見上げる。
去年と違う桜だけれど――― 。
生きてる限り、満開の桜にまた会える。
145 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)13時25分03秒
「・・・そっか」
加護はそう言うと黙ってしまった。
・・・何やら急に背中の重みが増した。
・・・コイツ!寝てやがる!
「あーあー、加護寝ちゃったよー。
いや、ウチも疲れたー。マジ、ハラへったー」
「ののもれす」
「帰ってラーメンでも作ろうか?」
確か、インスタントの買い置きがあったはず、
梨華ちゃんはそう言いながら、辻ちゃんと楽しそうに手をつないだ。
「・・・チャーシュー、大盛りにしてな」
背中から声が・・・。
「加護!オマエ、起きてんのかよ!」
4人でワイワイ言いながら家路に向かう。
146 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)13時27分15秒
帰宅すると、
「加護!」
中澤さんが走って玄関まで来た。
「・・・ゴメンナサイ!」
てっきりぶたれるとでも思ったのか、加護はとっさに身をすくめる。
「・・・よかった、よかった」
中澤さんは加護を抱きしめ、オンオン泣き出した。
後ろにいた平家さんも、
「よかったなあ。姐さん、ホンマ心配しててんで」
うんうん、というようにうなずいた。
「どう?これでも自分には心配してくれる人なんかおらへんってまだ言う?」
あたしがそう言うと、加護はむんずとあたしの胸倉を掴み、
『ブチュッ』と音がするくらいのキスをかました。
「っか、加護〜!!!」
「ホンのお返しや」
ニヤリと小悪魔は笑った。
147 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)13時29分20秒

その後は梨華ちゃんにラーメンを作ってもらい、みんなで食べた。
加護と辻ちゃんはお互いのチャーシューを奪い合って中澤さんに
「食べモンで遊ぶな!」
と怒られている。
湯気の向こうで見るみんなの顔はとても楽しそうだ。
148 名前:葉桜・後編 投稿日:2002年04月30日(火)13時32分29秒
あたしはどうも加護をキャッチした時腰を打ったらしく、
風呂上りに居間でうつぶせに寝て、梨華ちゃんに湿布を貼ってもらった。
「オバハンや〜」
そういう加護はくじいた足に湿布と包帯を巻いている。
「く〜、誰のせいだと・・・」
あたしがうつぶせのまま恨めしそうに言うと、
『チュッ』
「おやすみ!」
今度はほっぺにキスして加護は居間から出て行った。

「ひとみちゃん、寝ちゃったの?」
梨華ちゃんの声が夢の中で聞こえる。
とても心地いい。

「おやすみ、ひとみちゃん」
あたしに毛布を掛けて、梨華ちゃんも居間から出て行った―――。
149 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月30日(火)13時40分08秒
今回の更新はここまでです。(後編の最後まで書けた・・・(涙)
読んでくださってる方は、どれくらいいらっしゃるんだろうと思う
今日この頃・・・。
読んでいただいてる方やレスをくださる方、この場をお借りして
お礼申しあげますm(__)m
150 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月30日(火)15時08分16秒
補足として・・・。
>120のアヤカのフルネームですが、本名が漢字かどうか分からなかったので
苗字は漢字、下の名前はカタカナにしました。

>128の手紙に出てくる加護の弟の名前は作者の創作です。

後、ゴマはバンドの正式メンバーではなく、ツインギターが必要な時や
作中に出したおまけコーナーのような時に借りだされる、という設定にしました。

( ´ Д `)<んあ〜、人使い荒いよね〜
 ヽ^∀^ノ <オマエが言うなっ!

訂正もひとつ・・・。

>123 陶酔感を求めて抑えきれない→陶酔感を求め、抑えきれない

大して差はないのですが、少し気になったので・・・

151 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月30日(火)15時57分01秒
>133より・・・
      
      ブチーン
(0`〜´)¶←ケータイ

( ;´D`)<よ、よっすぃ〜、ブチギレたのれす・・・(こそっ)

( ;^▽^)<そ、そうみたいね・・・チョットコワイ


オチナシ、スマソ
152 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月30日(火)16時49分08秒
・市井紗耶香の『人生がもう始まってる』

厨房市井、後藤(小5)と自宅でBSのビートルズ・ライブ鑑賞中・・・

TV]<♪  (´ Д ` )ヽ^∀^ノ 

 ( ´ Д `)<んあ〜、ポールってカッコいいね〜。いちーちゃん
 
  ヽ^∀^ノ <そ、そうだな


翌日から早速ギターを始める市井・・・。
153 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月30日(火)17時16分58秒
・吉澤ひとみ編

小学校の音楽の授業にて・・・(ビデオ鑑賞)

            ポールカッケー
TV]<♪  (^〜^O)

―――数日後

((((0^〜^)<オイラもギター弾けるようになりたいYO! カッケー

煤i0^〜^)←不燃ゴミ置き場にてボロギター発見

(^〜^0三0^〜^)

三三三(0^〜^)))

・・・だが持ち去ったのはベースだった。









         
154 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月01日(水)08時23分49秒
市井ちゃん、ギター、ガンガレ!
155 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月01日(水)11時49分07秒
顔文字トーク笑えます(w
遅いんすけど、市井が石川のことで何か知っているようなのはなんなんでしょう?
気になります(w
156 名前:登場人物紹介 投稿日:2002年05月01日(水)13時33分10秒
(^〜^O):吉澤ひとみ(20)。この話の主人公。埼玉県出身。大学一年生。
       三度のメシよりベースが好き。中澤家で下宿を始めたばかり。

(^▽^ ) :石川梨華(20)。神奈川県出身。大学二年生。実母の死去により
       中澤家に引き取られた。裕子とは異母姉妹。吉澤が気になる。

(´ Д ` ):後藤真希(19)。東京都出身。大学一年生。中澤ハイツの住人。
       吉澤の同期生でベースの才能に一番最初に気づいた。よく寝る。

从#~∀~#从 :中澤裕子(供述拒否)。京都府出身。中澤家&中澤ハイツ管理人。
       三度のメシより酒が好き。座右の銘は『喧嘩上等』。梨華の頼れる姉。
       
157 名前:登場人物紹介 投稿日:2002年05月01日(水)14時02分09秒
( ´D`):辻希美(15)。東京都出身。高一。両親の海外移住・姉の留学の為
       日本に残り中澤家に下宿している。三度のメシどころか一日八食。
       
( ‘ д‘):加護亜依(15)。奈良県出身。高一。辻とは学校も同じ。
       父との確執の為東京行きと下宿を最初は嫌がっていた。

 ヽ^∀^ノ:市井紗耶香(21)。東京都出身。生まれは千葉県。大学三年生。
       後藤の幼馴染でバンドを組んでいる。三度のメシよりグレッチが好き

( `.∀´) :保田圭(23)。千葉県出身。郵便局勤務。中澤ハイツ住人で市井の
       バンドのドラム担当。『保田大明神』という妙な人形を集めている。


 
158 名前:登場人物紹介 投稿日:2002年05月01日(水)14時41分37秒
川‘〜‘)||:飯田圭織(22)。北海道出身。中澤ハイツ住人でこの春大学院
       修士課程に進学。絵が上手い。たまに交信モードに入る( ゜皿 ゜)

( `◇´):平家みちよ(25)。三重県出身。中澤ハイツ住人で(一応)歌手。
       中澤とよく居酒屋で飲んだくれている。遊園地なんかの営業もこなす

川‘ ▽‘)||:木村アヤカ(20)。東京都出身。大学三年生。市井のバンドゲスト
       出演がきっかけで加入。キーボード担当。帰国子女で英語ペラペラ。


   


159 名前:登場人物紹介 投稿日:2002年05月01日(水)14時46分27秒
(´ー`・)と(^◇^〜) は、またちゃんと登場してから書きます。
  
(矢口はまだ名前のみの登場だし(w)

実際のちゃむは千葉県出身ですがゴマと幼馴染という設定なので、千葉生まれの
東京育ちにしました。
アヤカはハワイや神戸、東京とあちこち住んでいたようなので、ここでは
『東京出身の帰国子女』にしました。(顔文字もあんまし自信ない(汗)

後、当然のことながら実際の娘達とは年齢が異なります(←今更かよっ)
160 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月01日(水)15時02分56秒
レスのお礼です。

>154の名無し読者さん。
 
ヽ^∀^ノ<あ、ありがとう。最近やっとFコードが気合で押さえられるように  
      なったんだ・・・くくく(汗)

(´ Д ` )<いちーちゃん、体の筋がおかしくなってるよ

>155の名無し読者さん

ヽ^∀^ノ<まあ、ここではちょっと・・・。
 
(^▽^;)<あ、あたしのどういう事を知って・・・?
 
そのネタは追々(w 細かいトコまで読んでくださってありがとうございます。


161 名前:オムらいっすぅ 投稿日:2002年05月01日(水)17時04分54秒
今回も面白かったです。
それにしても、まだごまといちーちゃんは付き合ってなかったんですね。
よっすぃ同様、私も二人はとっくにデキてるのかと…(w
いちーちゃんはごまの事好きなんでしょうね。ごまは…?
顔文字もいいですね〜。カオリの交信バージョンもちゃんとあるし。
ごまに振り回されるいちーちゃん最高!
162 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)22時51分35秒
――― 翌日。

朝、遅い時間に起きて部屋を出ると、廊下でTSUTAYAの青いバックを抱えた加護と会った。
「おはよ。あれ、ビデオ返しに行くの?」
「逆。借りてきたんや」
「へえ、いいな」
「何でや」
「ウチ、部屋にテレビもビデオもなくてさあ」
「不便やな」
「う〜ん、テレビは別に見れなくてもいいけどビデオが見れないってのはねー」
困った困った、と言って立ち去ろうとすると、
「駅前の電器屋でテレビデオが九千円くらいで売ってたで」
背中越しに声を掛け、加護は自分の部屋に入っていった。
「サンキュー!」
加護はちょっと笑って部屋のドアを閉めた。
163 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)22時54分18秒
天気もいいし、出掛けるかな。
ベースの弦も見に行きたいし。
確か、駅前に楽器店があったハズだ。
加護情報のテレビデオも見に行こう。

遅い朝食を食べた後、あたしはベースを担いで出かけて行った。


加護の言った電器屋さんを訪れると、店頭に『ご奉仕価格』と書かれた
テレビデオが確かに出ていた。
問題は『限定5台』で既に売り切れの札が貼られていた事だ。
「つい先ほど売り切れまして・・・」
店員さんが申し訳なさそうに言った。
「いや、いいですよ。また来ます」
とりあえず、帰ったら加護に情報提供のお礼を言おう。
164 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)22時57分12秒
電器屋さんを後にし、しばらく歩いて行くと、
『アベ楽器店』という看板が見えた。
あ、ここだ。
窓ガラスに『アルバイト募集』という張り紙がある。
「・・・すいませーん」
店に入って行くと、中はしーんと静まりかえっていた。
「どなたかいらっしゃいませんかぁ?」
遠慮がちに声を掛けると、
「今行くべー」
女の人の声が聞こえた。
行くべ?北海道かどこかの人だろうか。
「すいませんねー、お待たせして・・・あれ?」
現れた女の人は、あたしの顔を見て首を傾げた。
「何ですか」
「あの、この前裕ちゃん達と、そこの公園で花見してなかったかい?」
「・・・あ!あの時の!」
文句を言いながら、アイスクリームサンデーを配達しに来た人だ。
165 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)23時05分15秒
あたしが気づいたと分かると、
「今日はどうしたんだい?」
『なっち』さんは笑顔で言った。
「あの、ベースの弦を見せてください」
「どんなベースだべ」
「リッケンの4003です」
「ちょっと待つっしょ」
なっちさんは店の片隅に移動した。
「ニッケル?ステンレス?」
「ニッケルで」
いくらか持って来て、
「どれがいいべ」
カウンターの上に広げた。
「これで」
「自分でつけられるか?」
「ハイ、出来ます。いつも自分でやるんで」
なっちさんはふとあたしの背中を見た。
「それだべか」
「あ、ハイ」
「今、変えるかい?なっち、今なら時間あるべ」
「あ、いいんですか。お願いします」
あたしは背中のケースを下ろした。
166 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)23時10分53秒
「まあ、初回サービスだべ」
なっちさんは優しくそう言うと、ものすごくゴツいペンチを取り出して来て、
「その辺の楽器でも見てていいべ」
ベースの古くなった弦を切りだした。

ガラスケースの中にリッケンのものすごくカッチョいいギターが飾られていた。
「あれ・・・ジョージ・ハリスンが使ってたモデルですよね」
「そうだべ。あんた、ギターも弾くのかい」
「少しですが」
「ギターは何持ってるんだべ」
「モーリスのD−28です」
「・・・プッ」
途端になっちさんは吹き出した。
「あ、ごめんごめん。いや〜、何かここまで分かりやすいポールのファンって、なっち初めて
見たっしょ!紗耶香といい勝負だべ」
167 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)23時13分49秒
「紗耶香って・・・。もしかして姓は市井・・・?」
「あれ〜、あんた紗耶香の知り合いだべか」
「はあ、まあ・・・」
「ホント奇遇だねぇ、紗耶香はウチの常連っしょ!」
『知り合い』と言えば知り合いだが・・・。
――― 昨夜、ライブの後、めちゃレベルの高いプレイを見せつけられた事に恐れをなして、
バンドに入るかどうかの返事もうやむやにして帰って来てしまった。

『アンタが南極に逃げても、南極観測隊に志願して追いかけてやるから覚えてな〜!!』
――― 保田さんの何だかよく分からない脅し文句が頭の中でリピートされた(泣)。
――― あのアゴの特徴的なホクロが何だか宇宙の果てまでも追いかけてきそうだった(号泣)。
168 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)23時17分03秒
「紗耶香の知り合いとなれば話は早いべ!」
そう言うと、なっちさんはベースを作業机に置いて立ち上がった。
「え・・・何ですか?」
「あんた、社会人かい?」
「いえ、大学生っす」
「年はいくつだ」
「ハタチになったとこです」
「家は?」
「3丁目の中澤さんってお宅で下宿してます。実家は埼玉です」
「ますます文句ないべ!」
「・・・ハァ?」
「ウチでバイトしないかい?」
なっちさんはあたしの肩をポンと叩いた。
169 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)23時22分30秒
「・・・はぁ」
夕暮れの中、あたしはトボトボと家路についた。
――― なっちさんは、あたしが市井さんの知り合いだという事、あたしのリッケンのベースの
弦の巻き方を見て、『・・・使える!』と確信したそうだ。
その上、『リッケンのベース弾き(オトコマエな美人)が今度『CUBIC−CROSS』に入るかもしれない』という
情報をあらかじめ耳にしていたなっちさんは(モチロン市井情報)、『ライブに専念しやすいように、バイトの時間もなっちが融通が利くようにするっしょ!』
と――― 天使のような笑顔で言った。

返事は保留にしてもらい、取りあえず店を後にした。
何か――― 色んな事がいっぺんに起こる。
・・・疲れた。
170 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)23時25分33秒
「・・・ただいま」
帰宅すると、
「お帰り、ひとみちゃん!」
玄関先で、梨華ちゃんが靴磨きをしていた。
「あ、邪魔だね。今どくね」
広げていた道具を隅に寄せ、梨華ちゃんは立ち上がった。
「・・・どしたの?」
「ん〜、何が?」
「何かひとみちゃん・・・元気ない」
「そう?」
梨華ちゃんはあたしのそばに寄って顔を覗き込んだ。
「熱でもあるの?」
額に手を当てられる。
「・・・いや」
心配そうな顔にちょっと苦笑した。
171 名前:若きベース弾きの苦悩 投稿日:2002年05月01日(水)23時28分32秒
「昨夜居間でちょっと寝たから風邪引いたのかも・・・」
梨華ちゃんは『あたしのせいね、ゴメンね』と顔で言った。
まあ、30分後に中澤さんに『自分の部屋で寝ろ!』と叩き起こされたのだが。
「いいや。それより加護いる?」
「あ、あいぼんならさっき、ののちゃんと一緒に出かけたみたいよ」
「そっか。サンキュ」
あたしはそう言うと、自分の部屋に行こうと階段を上がった。
「あ、ひとみちゃん!」
「・・・ん?」
振り返ると、
「・・・困ったコトがあったら、何でも言ってね」
梨華ちゃんは靴ブラシを握り締めたまま、消え入りそうな声で言った。
「うん」
笑って、あたしはそのまま階段を上がって行った。
172 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月01日(水)23時40分50秒
本日分の交信終了〜。( ゜皿 ゜)ノ<カオノデバンフヤセー
自分の事になると、ヘタレなヨスコ(w 
(^〜^O;)<しょ、しょうがないYO!
実力はあれど、自信ナシといったところでしょうか。
173 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月01日(水)23時56分57秒
レスのお礼を。

>オムらいっすぅさん

( ´ Д`)<んあ〜。うちら、フツーに幼なじみなんだよ。

お察しの通り(w、ちゃむの片思いです。
ごま的には『大好きな幼なじみ』なようです。(一番キツイパターンかも)

さて、ここで告知をば。
200番のキリバンをGETされた方、リクエストにお答えして番外編で書かせて
いただきます。『ベース弾き』の設定ならどんなカップリングでもOKです。
(このまま行くと違うスレでかもしれませんが(w)
とりあえず、今回は自分で踏まないように気をつけます(爆)
174 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月02日(木)10時22分02秒
・市井紗耶香の『人生がもう始まってる(?)』

厨房市井、幼なじみ後藤(小5)の一言でギターを始める。(しかも左)
 
 ヽ;^∀^ノ<ぐすん、ぐすん・・・全然上達しない 。ポールになれない・・・
( ´ Д `)<何してんの、いちーちゃん(ソレ、右利き用のギターじゃん)
 ヽ;^∀^ノ<ポ、ポールみたいに左で弾こうとしてんだけど・・・できないよ!
( ´ Д `)<んあ〜、いちーちゃんは右利きなんだから右で弾けばいいじゃん
       (しかも弦、逆に巻いてるし・・・)
 ヽ;^∀^ノ<そ、そうだよな・・・

後藤の一言でメキメキ上達。
175 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月02日(木)10時46分13秒
・吉澤ひとみ編            

(^〜^O)))<弦を代えてもらうYO!

――― 近所の楽器店

(^〜^O)<おじさん・・・このギターの弦ください
( 大将 )<へ・・・?お兄ちゃん、これ・・・ベースだよ?
煤i0^〜^)<え・・・ギターじゃないの!?(セイベツ マチガワレテルシ)
( 大将 )<ずいぶんボロいねー、どしたのこれ?
(0^〜^)<あの・・・もらったの(ヒロッタトハイエナイ)

根本からズレていた吉澤(小6)だった・・・。
176 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月02日(木)18時31分29秒
市井⇒後藤。逆パターンなので、面白いです。
吉は、さっさと決めなよ!っと誰か言ってあげてほしい・・・。(笑

毎回おまけの、顔文字トークが楽しみです。
177 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)00時22分43秒
今回は辻視点です。
しかし、『うたばん』録画したのをさっき少し見ましたが、あのアイーン体操の
『頭に風車』はいつ見てもすごいっす(w
ヤグがボストンバックにすっぽり収まっていた。マジちっちゃいなぁ。

( ´D`)( ‘ д‘)<<アイーン!
178 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)00時29分15秒
――― 辻視点
新人歓迎会の時、いいらさんが言いました。
「辻はエライね〜」
「なんれれすか?」
「お家の人は皆海外にいるのに、一人で日本にいるんだから。寂しくない?」
「う〜ん、一人暮らししてるわけじゃないれすし、それに家族のみんなとは
メールとかしてるからさびしくないれすよ」
「そっかぁ」
そうれす。会おうと思えばいつだって会えるし(飛行機にうんと乗らなきゃいけないれすけど)、
さびしくはないれす。
179 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)00時31分14秒

次の日、ののは二階の梨華ちゃんの部屋に行って、借りていた辞書を返しに行きました。
「なぁ」
廊下で、あいぼんに呼び止められました。
「なんれすか」
「自分、昨日の手紙、どうしたん」
昨日の手紙――― 。
あいぼんのお家の人からのお手紙。
ののは読んでませんけど、捨てるに捨てれず、悩みに悩んで、自分の机の引き出しにしまいました。
「・・・ののの部屋にあります」
あいぼんは、ふーんというカオをすると、
「読んだん?」
と言いました。少し意地悪っぽく。
「読んでないれす」
「ふーん。どっちでもエエけど・・・ほかしといて」
180 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)00時36分11秒
『ほかしといて』
ののは最初、中澤しゃんがお台所で梨華ちゃんにそう言っていたのを聞いて、
何の事だろ、と思いました。
『捨てる』って事や、と教えてくれたのはあいぼんれす。
関西ではそう言うねん、とも言ってました。
だからののは、あいぼんが教えてくれたのもあって、この『ほかす』って言葉がちょっと好きれした。
何だか聞いてて楽しくて。
―――でも。
あいぼんが今言った『ほかす』は、何だかとても冷たくて―――。
とても悲しい気持ちになりました。
181 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)00時38分00秒
「お手紙をほかすのはよくないれす!」
部屋に入ろうとするあいぼんに、ののは思わず怒鳴りつけてしまいました。
「何やねんな。うちの手紙や。どうしようと勝手やん」
「待つれす!」
ののはダッシュして一階の自分の部屋に行くと、引き出しからくしゃくしゃになった手紙を出して
またあいぼんのところに戻りました。
あいぼんはもういません。
「あいぼん!」
あいぼんの部屋のドアをののはドンドン叩きました。
「うるさい!」
すぐ返事が返ってきました。
「開けるれす!」
「何でや!」
「お手紙を渡すかられす!」
「ほかせっつったやろ!」
「何で命令形なんれすか!とにかく開けるれす!」
オマエかて命令形じゃ、とか言いながら、あいぼんはドアを開けました。
182 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)00時39分06秒
「ハイ」
あいぼんに手紙を差し出しました。
あいぼんはそっぽを向きます。
「いらんっつってるやろ」
「ダメれす!」
「出てけ!」
あいぼんがドアを閉めようとするのをののは体ごと邪魔しました。
力でなら自信あります。
あいぼんも必死でののをひきはがして追い出そうとしています。
「しつこいで!自分!」
「あいぼんこそ!」
にらみ合いが続きます。
183 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)00時40分36秒
「何やねん、何怒ってんねん」
しばらくした後、観念したあいぼんがゼーゼー息をしながら言いました。
「ぜ、全部れす」
さすがにののも疲れて、荒い息をします。
「全部て何や」
「お手紙をほかそうとした事!よっすぃ〜にひどい事言った事れす!」
「ののにはカンケーないやろ!」
―――そう言われて、ののの頭は真っ白になりました。
気がついたら―――。
『パシーン』
あいぼんを―――ぶっていました。
184 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)00時43分11秒
「・・・あ」
ののは自分の手を押さえて、あいぼんの方を見ました。
叩かれた方のほっぺたを押さえて、あいぼんはキッとののを睨みつけます。
でも・・・目は真っ赤れした。
「・・・あいぼん?」
おそるおそる声を掛けると、
「・・・のののあほー!」
一言叫んで、あいぼんはダッシュして階段を降りて行きました―――。
185 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)00時52分45秒
今日はここまでです。
『加護プチ失踪事件』アナザーサイド・ストーリーという感じです。
傷つけ合って成長してゆくのもアリかなと。
本気でぶつかる相手がいるのは幸せなことカモ。
今気づいたが・・・辻が何も食ってない(w

( `D´)ノ<失礼れすね!
186 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)01時09分41秒
レスのお礼です。

>よすこ大好き読者さん。

(^〜^O;)<え・・・決めるって?

ウチのヨシコはんは何しろ『ベースバカ一代』なんで(w (^▽^ )に興味がなくもないのですが。
今んとこあんまし恋愛とか関心ないみたいです。顔文字・・・う〜ん。喜んでいただけて何よりです(w 

187 名前:理科。 投稿日:2002年05月03日(金)04時51分46秒
初レスです。ドキドキ。。。
目覚めに、一気に読みました。
( ^▽^)<ウガ〜♪
何か流れがいいですね。よすぃがカッケ〜かと。。。
それにしても更新量が半端じゃない!
ムリせず、がんがってください!
188 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月03日(金)11時21分37秒
>(^〜^O;)<え・・・決めるって?
バイトも、バンド入りもどっちも決めるのれす。

ののと、あいぼん。いい感じですね。
本気でぶつかり合えるって人って大切だと思うのです。
189 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)15時11分05秒
更新前にレスのお礼を・・・。

>理科。さん

(^▽^ )<クールでカッケーひとみちゃんが好きなんです!

お目覚めにこのような駄文を(汗。更新量・・・桃板でも言われましたが、ストック分を一気に
出したんです(w ありがとうございます!がんがります!

>よすこ大好き読者さん。

(^〜^O;)<ゴメンYO!作者もオイラもカン違いしてたYO!
(^▽^#)<ついでにあたしにも決めない?(キャッ、イッチャッタ)ドサクサマギレ

あいののはまだ少し続きます。ヨスコ入団等の件はいずれ(w

190 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)15時14分51秒
「どうしたの?ケンカ?」
梨華ちゃんが部屋のドアを開けて顔を出しました。
「・・・あ、あいぼんが!」
「ののちゃん!」
ののは急いで階段を降りてあいぼんを追いかけました。
玄関にあったあいぼんの靴がありません。
――― ののは真っ青になりました。『血の気がひく』とはこんな感じれしょうか。
「ののちゃん、一体どうしたの?」
梨華ちゃんが階段を降りてきます。
「う、うわーん!」
――― ののはこらえきれず、大声を出して泣き出してしまいました。
191 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)15時16分50秒
「泣いてるだけじゃ分かんないよ、ののちゃん」
梨華ちゃんがののを抱きしめて言いました。
「何があったか話して」
ののはさっきの出来事をしゃくりあげながら話します。
梨華ちゃんは黙ってうなずきながら聞いています。
「ののは―――あいぼんをぶってしまいました」
「叩いたのはよくないと思うケド―――ね、とりあえず今はあいぼんを探そ?」
ののは梨華ちゃんにしがみついたままうなずきました。
192 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)15時20分38秒
「『♪悔し涙ぽろり(あー)ぽろり(あー)泣かないと』」
お台所で、中澤しゃんが歌いながらビールを飲んでいました。
「カァーッ!フロ上りのビールはホンマウマいな!」
「裕ちゃん!」
「何や、梨華。オマエも飲むか?」
中澤しゃんはのん気に缶ビールを梨華ちゃんに差し出します。
「んも〜!こんな大変な時に!」
「何やねんな・・・ん?辻、どないしてん」
首に巻いたバスタオルで、中澤しゃんがののの顔を拭いてくれました。
「梨華にいぢめられたんか?」
何でよ!とすかさず梨華ちゃんがツッコミます。
ののは黙って首を振りました。
「そういやさっき加護がエライ剣幕で出て行きおったけど、何かあったんか」
ののと梨華ちゃんは顔を見合わせました。


193 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)15時27分54秒
「裕ちゃん・・・気づいてたんなら止めてよぉ〜」
梨華ちゃんはトホホ、という顔をし、眉をハの字にしました。
「な、何やねん。何があったんな」
「・・・実はね」
梨華ちゃんから事情を聞いた中澤しゃんの顔色が見る見る変わりました。
194 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)15時31分50秒
「いいい!家出やと!」
「まだ決まったワケじゃない!」
「探しに行かな!く、車や!」
「裕ちゃん、昨日修理に出したじゃない!落ち着いてよ!それに今も飲んでたじゃない!」
「そ、そうやった!あ、みちよや!みちよ!アイツならおるやろ!」
二人のやりとりを見て・・・やっぱりお母さんが違うとは言え『きょうだい』だなあ、とののは
思いました。『ぜつみょう』なコンビネーションれす。
そして――― へーけしゃんは中澤しゃんのアシ?とも思いました。
195 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)15時34分18秒
中澤しゃんとへーけしゃんはへーけしゃんの車であいぼんを探しに行きました。
一旦この辺りで一番大きい繁華街に出て、その後は車をどこかに止めて探すそうれす。
「どないしよ・・・ヨソ様の娘を預かってんのに」
中澤しゃんがお家を出る時、泣きそうな顔で言いました。
「姐さん、落ち着きィな」
「みちよは何で落ち着いてるんや」
「ウチかてそら心配やけど・・・ウチまで慌てふためいてたら使いモノにならんやろ?」
何らかへーけしゃんがカッコよく見えました。
おとなのひと、って感じれす。
「・・・うん」
へーけしゃんにうながされて、中澤しゃんは家を出ました。
196 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)15時46分42秒
ここでいったん切ります。
さあ、200GETはどなたの手に!?

初めての方に→200のキリバンをGETされたら、『ベース弾き』の設定で
お好きなカップリングをリクエストしてください。番外編で書かせていただきます。
シチュエーションにこだわるのも可です(w
出来うる限り、ご注文にお答えしようと思っておりマス。
よろしくお願いしますm(__)m
197 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)16時21分57秒
厨房市井、初めて髪を染める・・・
 
 ヽ^∀^ノ<♪〜
煤i ´ Д `)<!
( ´ Д `)<いちーちゃん、その髪・・・
ヽ^∀^ノ<おう!ちょっとバンドで目立とうと思ってな。似合うか? パツキン
(;´ Д `)<(どうしよ、ホントのコト言ったほうが・・・しかも絶対自分でブリーチしてる!
         根元、まだらに黒いし・・・)
 ヽ^∀^ノ<♪〜
198 名前:みぎみぎ 投稿日:2002年05月03日(金)16時28分46秒
へーけしゃん…かっけー。
いや、でも誰かが勢いよく泡くってくれると
周りの人は逆に毒気抜かれて落ち着いたりしますよね…。
199 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月03日(金)17時30分47秒
加護ちゃん今度はどこへ…
また木の上にでもいるといいんですけどね。

さあ、お次の方いよいよ200GETです。それではどうぞ〜♪
200 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月03日(金)17時46分39秒
200Get−−−−!!!(ww
一言だけ(w
いしよし♪お願いします♪それかいちごま(藁
201 名前:みぎみぎ 投稿日:2002年05月03日(金)22時04分58秒
sage…?
ああ! これかぁっ!
ちっちゃくって見えてなかった(汗)
ごめーん(T▽T)ノ
202 名前:みぎみぎ 投稿日:2002年05月03日(金)22時05分38秒
さがってるの?
どったらちゃんと下がってるかわかんの?
え? ねぇねぇちゃんとさがってるー?
203 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時32分56秒
梨華ちゃんとののは家にいるように中澤しゃんに言われたので、お台所で待つ事にしました。
ののはさっきの手紙を梨華ちゃんに渡しました。
「人の手紙を読むのはよくないけれど・・・」
と言いながら二人で見ました。
それは、あいぼんのお父さんからのお手紙れした。
『何でもかんでも金で解決しようとしやがって!』
あいぼんがゆうべののに怒鳴りつけた言葉が頭をよぎりました。
―――そのお手紙は、お父さんがあいぼんのことをとても心配しているのが
よく分かりました。新しいお母さんもきっとあいぼんが大切なのれす。
よその子の、ののにさえ分かるれす。
204 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時35分20秒
あいぼんは、ここに来た頃、ののに『ウチ、友達おらへんねん』と言いました。
「そうれすか?」
「ウン」
「あいぼんとののはもうお友達れすよ?」
と言うと、あいぼんは何とも言えない顔で、『勝手に決めんなや。誰が許可してん』と
憎まれ口をたたきました。
それれも・・・ののには大切なお友達れす。
205 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時36分55秒
「・・・どうしよう」
梨華ちゃんがぽつんと言いました。
「・・・のの、探しに行くれす!」
「ダメ!行くんならあたしが!子供がこんな時間に危ないわ!」
「ののはもう高校生れす!」
二人で押し問答をしてると、ののの携帯が鳴りました。
・・・あいぼんれす!
「あ、あいぼんからメールが・・・!」
あわてて携帯を取り出すと、
『のの さっきゴメン。
うち、もうアカンかも。どこにも帰るとこあらへん。
今までありがとう。元気でな』
206 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時38分40秒
―――ディスプレイを見て、ののは悲しくて悲しくて涙が止まりません。
あいぼん。
中澤しゃんのお家に来て、一番最初に出来た、ののの大切なお友達。
それなのに、ののは―――。
「う・・・ひっく、ひっく・・・」
「・・・何て書いてあったの?」
梨華ちゃんがののの頭を撫でてくれながら言いました。
ののは黙って梨華ちゃんに携帯を渡しました。
梨華ちゃんは受け取ってしばらくそれを見た後、
「ひとみちゃんに・・・電話してみるわ」
そう言って、居間の電話の所に行きました。
207 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時40分44秒
しばらくしてよっすぃ〜が帰って来ました。
さっきのあいぼんのメールを見せると、
「カーッ!ムカつく!!」
と言って怒っていました。
あいぼんとよっすぃ〜はたまにケンカしていたけど、よっすぃ〜がこんなに怒るのは初めてれした。
「・・・ブチ切れてるれす」
ののは隣の梨華ちゃんにコソっとささやきました。
「・・・そうみたいね」
梨華ちゃんもうなずきます。
208 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時44分11秒
よっすぃ〜が探しに出かけました。
ののと梨華ちゃんはまたお留守番れす。
「・・・ののが悪いのに――― 何もできないのがイヤれす」
「・・・ののちゃん」
「こうして待ってるだけなんて・・・」
中澤しゃんもよっすぃ〜も、
家にいろ、と言って出て行きました。
今すぐにでも探しに行きたいくらいなのに―――。
「それはあたしも一緒だよ?」
「梨華ちゃん・・・」
梨華ちゃんが親指でののの涙をぬぐってくれました。
「『オマエらは足手まといになるから家におれ』って裕ちゃんに言われたし。
こうして待つより他ないよね」
「・・・うん」
209 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時46分02秒
「でもね・・・もしあいぼんがひょっこり帰って来た時、誰かお家にいた方が嬉しいと思うよ」
「そうれすか?」
「うん、そう信じて待とう!」
梨華ちゃんは笑顔で言いました。中澤しゃんに梨華ちゃんはいつも『ヘタレヘタレシャクレ』
と言われてるれす。梨華ちゃんの情けなさそうな顔を見て、ののもそう思う時があります。
でも、やっぱり梨華ちゃんは『お姉さん』だと思いました。

居間の電話が鳴りました。
梨華ちゃんとののは条件反射でほぼ同時に立ち上がり、居間にダッシュして争うように電話を取りました。

『加護発見!』
受話器の向こうのよっすぃ〜の声はとても嬉しそうれした。
210 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時47分59秒
その後、梨華ちゃんは中澤しゃんの携帯にあいぼんが見つかったと電話しました。
中澤しゃんは半分泣いてて、何を言ってるか分からなかったそうれす。
その後、二人で公園に向かいました。
あいぼんとよっすぃ〜はベンチにいます。
「―――あいぼん!」
ののはまっさきにあいぼんにかけよりました。
「おう!辻くん、ご苦労!」
あいぼんはおっちゃんみたいに言いました。
「もう!もう!」
あいぼんにののは思わずしがみついてしまいました。
ホッとしたのと何だか色んな気持ちがごちゃごちゃになって、また涙が出るのれす。
「・・・ゴメン」
あいぼんはそっと言いました。
とても小さな声で。
211 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時53分17秒
お家に帰ると、中澤しゃんとへーけしゃんが戻っていて、中澤しゃんはあいぼんを抱きしめて
「この悪ガキ!心配ばっかりかけおって!」
よかった、よかったと泣いていました。
「・・・もうこんな事したらアカンで」
「・・・ハイ」
あいぼんも、ちょっと泣いていました。

おなかがすいたのれ、みんなでラーメンを食べました。
あいぼんとののはチャーシューの数でケンカになり、
「食べモンで遊ぶな!」
と中澤しゃんに怒られました。
へーけしゃんも梨華ちゃんもよっすぃ〜もそれを見て笑っています。
212 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時56分48秒
ののはその日の夜、寝る前にパソコンを開けてメールのチェックをしました。
お父さんにもらった、お古のノートパソコンれす。
学校のお友達と、お父さん、お母さんからメールが届いていました。
お友達のは、8段アイスのおいしい店情報れしたので、すぐお礼のメールを送りました。
あいぼんとも、今度行こうと思います。
213 名前:MAIL 投稿日:2002年05月03日(金)22時59分05秒
『希美、元気か?
高校は慣れたか。中学からそのまま上がったから友達も顔ぶれが変わらないと思うけど、
高校から入った子もいるだろうから、何か困っていたら助けてあげなさい。

お父さんとこっちに来て毎日色んな事があります。
希美はもう新しいお友達は出来た?
中澤さんの下宿はとても楽しそうね。
みなさんによろしく伝えてね。
この前言ってた、加護さんと仲良くね。
関西から一人で出てきてえらいと思うわ』

お父さん達のメールを読んで、ののはとてもほわっとした気持ちになりました。
「・・・えっと」
まず、何から話そうか。

夜は、ゆっくり更けてゆきます―――。
214 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)23時10分55秒
加護家出・のの視点バージョンはこれで終わりです。
いや、今回はなっちの台詞より難しかったです(汗
辻の『天然だけど繊細』な感じをあの台詞に絡ませるのが何とも・・・。
加護の繊細さとはまた違うというのを出したかったんですが・・・なにぶん筆力がついてゆかん(w
また機会があれば挑戦してみようと思います。


215 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)23時27分25秒
レスのお礼です。

>みぎみぎさん

ダイジャブ(w ちゃんとsageってます。HNが紫色になっていたらOKです。
自分もsageたつもりがageってた事はままありますので、お気になさらずに。
へーけしゃんは姐さんより年下ですがオトナなんです。

>199の名無し読者さん

(´D` )<前に書いた『手紙』の、ののの視点お話なんれす。作者の説明が
       足りなかったれす。ごめんなさいれす。

加護の家出を辻の視点から、というお話でした。加護の家出はもうないでしょう。
(多分(w)キリバンを次の人にゆずるなんて・・・
( `.∀´)<ニクイ人!アナタの時代よ!!代わりにアタシをあげるわ!!




216 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月03日(金)23時41分16秒
>200の名無し読者さん
(^〜^O)(^▽^ )<<ピードンドンドン♪
ヽ^∀^ノ(´ Д ` )<<パフパフ♪

おめでとうございます!!ご注文はいしよしorいちごまですね?
心を込めて(w、お作りいたします。
オーダー!『いしよし』もしくは『いちごま』〜!!
ウィ!ムッシュ!!

・・・はぁ、逝ってきます(w
217 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月04日(土)01時46分15秒
辻ちゃんのやさしい思いにちょっくら胸を打たれました。
MACを使ってることに少々ギャップを感じたり(w

ありがたく( `.∀´)頂かせてもらいます…

218 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月04日(土)12時30分45秒
普通店員さんに弦頼んでもギター(orベース)の種類まで聞きませんよね。
ゲージ聞くぐらいだと思います。
それに普通自分で弦交換って基本ですよね。

いや、文句を言うつもりは・・・。
楽しみにしてますよ。
219 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月04日(土)15時59分05秒
のの。いい子なのです・・・。感心感心。
吉が木の上にいたあいぼんを探すまで、こんなサイドストーリーが。
おもしろいです。続き期待。

ヤッスーファンクラブ会長??に任命されてるので・・・。(w
そろそろヤッスーは、でてくるかな??
220 名前:LIGHT MY FIRE 投稿日:2002年05月04日(土)20時05分03秒
―――(何故か)保田視点

ある土曜日―――。
アタシ―――世界の恋人・保田圭は休日の優雅な朝をお気に入りのカフェで過ごしていたの。
カフェオレとクロワッサン・サンド。
カフェ・カーテンの隙間から降り注ぐ、朝の柔らかな日差し。
それがアタシのお気に入り―――。
221 名前:LIGHT MY FIRE 投稿日:2002年05月04日(土)20時09分16秒
その頃―――中澤家台所。

「のの、おはよう」
先に起きていた辻に、加護は声をかけた。
「あ、おはようれす、あいぼん」
「自分も寝坊か」
「へい、ゆうべ夜更かしして・・・ふぁ〜、眠いれす」
「またネットか。やり過ぎは体に毒やで」
「そうれすね〜」
「休みやから朝飯頼むのも忘れてたしなぁ」
加護は頭をかいた。
「へいっ、冷蔵庫に私物の食べ物もないれす」
「う〜ん、何か食いに行こか。駅まで出たら色々食うトコあったやら」
「へいっ、お供するれす」
二人は連れ立って出て行った。
222 名前:LIGHT MY FIRE 投稿日:2002年05月04日(土)20時18分00秒
駅前通りを歩いて行くと二人の目の前に、ある看板が目に入った。
『喫茶・タンポポ』
目の前の店はこじんまりとしていて、派手すぎず地味すぎず、感じがよさそうではあった。
「何や・・・ベタな名前の喫茶店やな」
加護が率直な感想をもらした。
「でも、かわいいお店れすよ?」
「ほな、入ろか」
223 名前:LIGHT MY FIRE 投稿日:2002年05月04日(土)20時22分14秒
―――再び保田視点

『♪カランカラン』

「あら・・・」
今入ってきたチビッコ二人組、裕ちゃん家の辻・加護コンビじゃない。
んま、喫茶店でモーニング?コドモのくせに生意気ねっ。

「おはようれす」
「いらっしゃい!あら、見ない顔だけど、この辺の子?」
矢口ががカウンター越しに声を掛けてるわ。
「のの達は最近この辺で下宿を始めたんれす」
「下宿?もしかして、3丁目の中澤さん家?」
「お姉さん、知ってるんれすか」
「うん、裕ちゃんはここの常連さんだよ。そこの人もね」
・・・ちょっと矢口!急にこっちに振らないでよ!
カフェオレ吹いちゃったじゃない!!
224 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月04日(土)20時41分54秒
途中ですが、スレが足りなくなりましたので海板に新スレ立てました。

http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=sea&thp=1020511804

(´D` )ノ<泳いでくるれす!

(;`.∀´)<辻、海水浴に行くんじゃないいだから!

よろしくお願いしますm(__)m。

225 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月04日(土)21時21分38秒
レスのお礼を・・・。

>217の名無し読者さん

(´D` )←一番ギャップありそうなPCにしました(w 自分はWin派なんで
       Macを使いこなせる人は憧れでもあります。

>218の名無し読者さん

実は(w、「こんなおせっかいな店ねーよ!」と自分でツッコミながら書いてました。
初心者にアレコレ教えてくれたりはするでしょうけど。なっちがヨスコのベースを
見る、というシーンを入れたかったのでああいう流れにしましたが、ヨスコくらいの腕だったら
まず他人にさせないでしょうね。ご指摘ありがとうございます。
(^〜^0)<ゴチーンとカラマセ? 考えときます(w




       


226 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月04日(土)21時27分49秒
>よすこ大好き読者さん。

(´D`# )<いい子なんて・・・照れるれす

( `.∀´)<ホホ、スルドイじゃない!さすが会長ね!
        海板でもキリキリ逝くわよ!
よろしくれす〜。
227 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月04日(土)22時59分42秒
間違いハケーン

>221
あったやら→あったやろ

>224
(;`.∀´)<辻、海水浴に行くんじゃないいだから! ←ないんだから

ヘボイ間違いだなぁ(ニガワラ

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