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愛の病

1 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時35分49秒
初めまして。シューヤと申します。
学園物、ちょっと固めの一人称で書いていきたいと思います。
かなりの初心者なので至らない点もあるかと思いますが、
自分なりに頑張りますので、お気づきの点がありましたら遠慮なくお願いします。
2 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時38分45秒



■□■ 愛の病 ■□■


3 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時40分04秒



立ち入り禁止と書かれた鉄の扉をいつもの様に無視して押し開けると、
ギッと鈍い音と共に眩しい光が差し込んで来た。
右手に付いた赤錆を適当にスカートで拭いて、ガシャガシャとうるさい
落下防止ネットにもたれかかった。

今日は風が強い。わざわざ給水塔まで登る気にはなれない。
誰も見てないと分かってるのに
スカートの裾を押さえながら梯子を上るなんて、馬鹿っぽすぎる。


足元に水溜りが出来ていた。つま先をつけると映り込んでいた空が乱れた。
ポケットから煙草を取り出して100円ライターで火を点ける。

風に煽られた髪が煙草に絡みそうで慌ててそれを放った。
水溜りに落ちた煙草はジュッと短く音を立てて一瞬赤くなると白い煙を立てた。
邪魔にならないように髪を押さえてからパッケージを覗いたら空だった。


まだ吸ってもいなかった水浸しの最後の一本を少しだけ見つめて、踏み潰した。
舌打ちしてパッケージも握り潰す。



4 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時41分16秒



別にどうしても吸いたい訳じゃないし。

自分に言い聞かせるみたいに呟いて、視線を水溜りから逸らした時、金属の軋む音がして
あたしが入ってきた扉が開いた。
そっちに目をやると扉越しに茶色のショートカットが見えた。
想像通りの光景に溜息をついてるあたしに、何が嬉しいのか笑みを浮かべたまま
長い足でひょこひょこ近付いてくる。


5 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時42分18秒



「やっぱココにいたんだ」

すぐ傍まで来てしゃがみこむ。スカートの裾からすらりと伸びた脚が白い。
強い風に目を細めてあたしを見て笑っている。

「教室見たらいなかったからさ、きっとココだと思って」

教室じゃなかったら屋上、それでもなかったら保健室かな、なんて得意そうに
あたしのエスケープ先を挙げる。


「授業サボってばっかじゃダメだよ」

そういうあんたはどうなんだと言いかけて口をつぐむ。
わざわざこいつと会話してやる気なんて毛頭ない。
無視を決め込んで顔を背けると嬉しそうに短い声があがった。

つられて視線をやると、水溜りとあたしを交互に見比べている。


6 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時43分20秒



「煙草、止めたんだ?」

ちっとも吸わないままに水溜りに浸かったそれと、握り潰されたパッケージ。


「別に。止めた訳じゃない」

黙ってるつもりだったのが返事を返してしまう。
否定しておかないとこいつはどこまでも自分の都合の良いように解釈してしまう。


「あたしが注意したからじゃなくて?」
「違う」
「なーんだ。でも止めた方が良いよ」

顔を合わせる度に煩く煙草を止めろと偉そうにのたまう。


7 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時44分05秒



「あんたに関係ないでしょ」
「あるよー。煙草には主流煙と副流煙ってのがあってね――」


そのまま延々と煙草の害について語りだす。
いつまでも終わらなさそうなそれを途中で遮って。

「何であんたそんな詳しいの」
「ん? 今、保健の授業だったから」

センセイの受け売りだよと軽く笑う。



「別にどーしても吸いたい訳じゃないんでしょ?」

図星をつかれて少しドキリとしたけど、いつも通り無表情を装って無言で返した。


8 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時45分36秒



「ただ口が淋しいだけだったらチュウしてあげるからさ」
「要らない。のしつけて返す」
「ちぇっ、つえないなー」

すくっと立ち上がると捨てて置いた空のパッケージをつま先で器用に蹴り上げてキャッチする。


「ごっちんって凄いあたしの好みのタイプなんだけどなぁ」
「悪いけどあたし、そっちの気ないから」

別に悪くなんかない。自分で思い返してからあたしを見てにこにこと笑ってるその顔を見上げる。
全体的に細い身体。少し外ハネの癖のついた茶色い髪に白い肌。
そしてややタレ気味の犬みたいな大きな瞳。常に人の良さそうな笑みを浮かべている。


9 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時46分23秒



ていうかごっちんって。

「後藤だからごっちん。可愛いでしょ?」

そう言って自分勝手に笑う。
こいつに関しては良い噂しか聞いたことがない。
曰く、一年生にしてバレー部期待のアタッカーだとか。
曰く、人当たりが良くて同輩は勿論、先輩や先生にも評判だとか。
曰く、女子高で出逢いが少ないにも関わらず他校の男からの呼び出しがやたら多いとか。
聞いてもないのに耳に入って来る噂は掃いて捨てるほどあって、そしてそれは殆ど真実らしい。

そんな奴が何であたしに構うのか分からない。
何か目的があるにしろ、冗談にしろ、あたしであるメリットは考えられない。
付き合う相手は選り取りみどりのはずだ。


10 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時47分16秒



「だってごっちんが好きなんだもん」

けろっとした顔で躊躇うことなく述べる。
一つ文句を言うと三つくらい薀蓄入りで返って来るのが分かってるから、
もう『ごっちん』については追求しなかった。

何と呼ばれようがあたしはあたしだ。



「とりあえず、さ」

長身を屈めて水溜りの煙草を拾うとパッケージに放り込んで。

「あたしはいつでもオッケーだから。気が向いたらいってよね」
「あんたに心配されなくても男は充分足りてます」


11 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時48分30秒



決して見栄やはったりじゃなく。
街を歩けば馬鹿で軟派な男なんかは、ほいほいと寄って来る。
適当にあしらって奢らせる事くらい、いつものことだ。

顔も見ないで冷たく言い返すと、外人みたいに肩をすくめて姿勢を戻した。
ご丁寧にまとめたゴミを引っ掴んであたしに背を向ける。



スタスタと扉まで歩いた背中が、

「あ」

呟きと共に振り返った。


「それからさ、『あんた』じゃなくて吉澤ひとみ。
 よっすぃーでいいからさ」

にっこりと笑うと“よっすぃー”はまたね、と扉の奥に消えた。



――――変な奴。



12 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月13日(土)15時56分17秒
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今日の更新はここまでです。
学校始まったばっかりでかなり忙しいので、
今後は一週間に一度、更新出来ればと思います。
13 名前:とみこ 投稿日:2002年04月13日(土)19時21分22秒
おもしろい!がんばってください!
14 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月14日(日)22時37分00秒
名作の予感!!期待しる!!
15 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月16日(火)11時33分11秒
学校内のパソでコソーリ。背後に司書さんの視線を感じつつ/怖

>13とみこさん
ありがとうございます!
僕もいつもとみこさんの読ませて頂いてます。
頑張りますので宜しくお願いします!

>14名無しさん
め、名作なんてとんでもないです。
ご期待に添えるように、自分なりに精一杯頑張ります。

一泊研修の都合で今週のupは早目かもです。
16 名前:親からもろた、立派な名前 投稿日:2002年04月18日(木)00時27分08秒
雰囲気好きです。応援してます。
完結させてね(w
17 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)20時54分37秒



■□■愛の病



18 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)20時56分08秒



『あたし、もう行くから』


  やだ、行かないで。


『元気にしてろよ』


  なんで、笑ってられんの?



見知らぬ人ばかりが行き交う、飛行場の広いロビー。
逆行の中、微笑むシルエット。


  ひとりにしないって。ずっと一緒だって。
  誓ってくれた言葉は嘘だったんだ?



『じゃあね、バイバイ』


飛行機の飛び立つ轟音と甲高い耳鳴り。
白く染まりゆく視界と共に薄れる意識。


  もうあなたにあたしは必要ないんだね。
  ――――バイバイ。



19 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)20時56分52秒



■ 2. feverish



20 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)20時57分59秒



「…とう、後藤!」

ただの音として耳に入ってきた言葉が
自分の名だと気付くのと同時に、頬への刺激を感じた。

ゆっくりと瞳を開くと目の前には眩しい白。
そして怒った顔の、でもどことなく困った表情の保健医。


「気がついた?」

ぱしぱしとまばたきをして、自分の両の手のひらを見つめた。
それから白いシーツ、白い壁、白いカーテン、
そのカーテンと共に揺れる白衣を着た圭ちゃん。




21 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)20時59分04秒



「…あたし」

また倒れてた?


問い掛けは軽く引かれた顎で肯定される。
ゆっくり起き上がって、渡された体温計を無造作に脇にはさんで上を向いて。
肝心な事を思い出した。


「誰?」
「何が」
「発見者」

それだけで言葉は足りたらしい。
何か書き物をしていた手を止めて、圭ちゃんは苦笑した。




22 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)21時00分06秒



「吉澤だよ。屋上への階段トコで倒れてた、って
アンタを抱えたまま血相変えて飛んで来た」
「………」


何というか、予想通りだ。

言葉を返す代わりに電子音を立てる体温計を引っこ抜いて手渡した。
眼鏡越しに少し目を細めてそれを見た圭ちゃんは、平常と呟いて再びペンを握る。

「37度8分って立派な微熱じゃん」
「アンタは平熱高いでしょ。よくそれ理由にサボってたくせに」
「否定はしないけどさ」
「――それに」




23 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)21時00分58秒



言葉を切った圭ちゃんは、ぼーっと宙を見つめるあたしを見据えて低く、言った。


「原因は熱なんかじゃなくて紗耶香でしょ?」




『――じゃあね、バイバイ』

フラッシュバックする言葉と耳鳴り。
別れに不釣合いな笑顔と赤いスーツケース。
あの日も風の強い日だった。




24 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)21時01分59秒








「後藤!」


強く肩を掴まれて、初めて圭ちゃんが近寄って来ていたことを知る。
まばたきと共に額から汗が流れ落ちた。

「今、完全にトリップしてたわよ」

しっかりしなさい、とネコみたいな瞳が告げている。


いちーちゃんの事を思い出すと耳鳴りがする。
いちーちゃんの事を思い出すと頭痛もする。
いちーちゃんの事を思い出すと意識がなくなる。

学校で倒れたのは、いちーちゃんが居なくなってからコレで何回目だろう。
授業もサボってばっかで、たまに出ても寝てるか倒れるか。
今ではすっかり虚弱体質扱いだ。




25 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)21時03分33秒



「後で吉澤にお礼言っときなさいよ」
「………」
「6限始まる頃にアンタ連れて来てから、ずっと心配そうに傍にひっついてたよ。
大丈夫だから授業出ろって散々言ってんのに」

また苦笑いを浮かべた圭ちゃんは窓の方を向いてベッドにもたれかかった。

「呼びに来た部活の子にまで、アンタの目が覚めるまで居るとか駄々こねてたし。
起きたらちゃんと知らせるからって言い聞かせて、さっきようやく帰らせたんだから」


朝学校に向かう時、廊下ですれ違った時、それからあたしがサボってる時。
ことある毎にあいつはあたしの前に現れてはちょっかいを出してくる。
何度適当にあしらっても、シカトを決め込んでも、めげた様子も見せずにしつこく付きまとう。

年齢はおろか男女までも問わず、告白してくる人が後を絶たないというのに、
全部『好きな人がいるから』と断ってるらしい。




26 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)21時04分37秒



「良い子じゃない」
「…何であたしなんだろ」


ずっと不思議に思っていた事。
何で。

あたしには何もない。
あたしには誰もいない。


「さぁ」

窓から差し込む夕陽に目を細めて呟いた圭ちゃんは振り返って笑った。
部屋が、白衣が、同じような暖かなオレンジ色に染まっている。

「…本人に、訊いてみれば?」




27 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月20日(土)21時11分26秒
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今日の更新はここまでです。
早めになるかもと言いつつ変わらない土曜日の更新でした。
最近家に着く9時を過ぎててネット繋ぐ時間もないんですよね…。

>16親からもろた、立派な名前さん
雰囲気お好みですか? ありがとうございます。
僕も自分で付けた名に誇りを持って、最後まで書き切りたいと思います。

次も多分、土曜更新です。
28 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月21日(日)23時54分12秒
なんかこういうの好きです。
頑張ってください!
29 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時17分47秒



■□■愛の病




30 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時18分40秒



人を信じちゃいけない。
人に頼っちゃいけない。

人と関わっちゃいけない。


パパもママもお姉ちゃんも弟も、みんないなくなった。
――いちーちゃんも。

あたしの周りから、どんどん居なくなっていく。





じゃあ。
何であいつは近付いて来るの?


放っておいて。
あたしは、あたしは独りで大丈夫。




31 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時19分13秒



■3.overlap




32 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時20分27秒



「おはよ〜」

能天気な笑顔と共にヒラヒラ振られる大きな手。
いつもの様に上がった屋上には先客がいた。


「………」
「あ、待ってよー」

くるりと踵を返すと、焦った声と共に腰掛けていた給水塔のてっぺんから飛び降りる。
結構な高さがあったにも関わらず、バランスを崩すこともなくキレイに着地した。
運動神経が良いというのは本当らしい。


「もう大丈夫なの?」

大きな瞳を瞬かせて。
昨日、圭ちゃんにしつこく言われたあたしは仕方なく体育館に向かって、
そこら辺にいた一年生っぽいのを捕まえて、起きたことを知らせるように言った。
とてもじゃないけど直接お礼なんて言わない。…言えない。




33 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時21分31秒



「…聞いたでしょ」

疑問じゃなく、肯定。
聞いていないと言わせない為の、防衛線。

「聞いた、けどさ。やっぱ本人から聞きたいじゃん?」

人の好い、笑顔で促す。
それは、強要?


「……見ての通り。ちゃんと生きてます」
「よかった」

大きな眼を細めて。いつもの様に眩しそうに笑う。




34 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時22分30秒



「ダメだよ〜? ちゃんとご飯食べなきゃ」
「…何で」
知ってんの、と言いかけた言葉の上にかぶせて。

「だってごっちんが何か食べてるとこ見たことないもん」


低血圧のあたしはたいがい寝起きが良くない。
朝はボーっと過ごすことが多くて、ご飯なんてもっての外。
たいがいその怠惰感を昼まで引きずってるから、昼も水を飲む程度で食べ物は喉を通らない。
せいぜい夜に適当に何かつまむ程度だ。

この一ヶ月で12kg痩せた。
やせらんないよ〜なんて下らない悩みで盛り上がってたのが、随分昔の事のように思える。




35 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時23分19秒



「心配されなくても、死なない程度には食べてるから」

半分本当で半分嘘。
食事とも呼べない、ビタミン剤をミネラルバランス系の水で呑み込んでるだけの、作業。


今度こそ帰ろうと本当に背を向けたあたしを、再び声が追って来た。

「ねぇ、知ってる?」

低く穏やかな、しかし無視することを許さない声。


「人間はね、食べ物だけじゃ生きて行けないんだよ」

振り返った先には悟りきったような笑み。


「愛がないと、生きて行けないんだよ」




36 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時24分21秒



似てるとこなんて何一つない筈なのに、…なのに。
目の前で微笑むヨシザワとあの人が一瞬だけ重なって、あたしに混乱を招いた。


モノクロォムに切り取られた世界。急に鮮やかな色を失って。
静寂の中で対峙するあたしたち。
フェードアウトする視界…。




37 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時25分21秒



ダメ、意識を手放しちゃいけない――。
そう叫ぶあたしの意思とは裏腹に、身体から力が抜け落ち膝がカクンと折れる。
ヨシザワが慌てて駆け寄ってくるのを他人事のように感じながら、2日連続で倒れて
こいつの世話になるなんて、と薄れていく意識の中でぼんやり考えた。

あたしを抱き止めるこの腕が、あの人のものだったら良いのに。
あたしの傍に居てくれる人が、いちーちゃんだったら。


必死に呼び掛けてるらしいヨシザワの顔しか見えなくて、
心底困ったその眉の角度に、喉の奥で声を立てて、笑った。




38 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月25日(木)23時30分14秒
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今日の更新はここまでです。
ヒサブリに時間が出来たので木曜ながら、ちょこっと更新。

>28名無しさん
ありがとうございます! 頑張りますv

調子乗って更新しました(笑
土曜にも更新予定です。
39 名前:しーちゃん 投稿日:2002年04月26日(金)11時30分41秒
更新楽しみです!がんばって下さい。
40 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時09分17秒



■□■愛の病




41 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時10分11秒



フワリ、フワリ、扉を開けて。


漂う世界は真白に等しく、
ただ現世の形借りて。


フワリ、フワリ、夢の中。




42 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時10分56秒



■4.illusion




43 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時12分15秒



「ごっちんって意外と保田先生に懐いてますよね」
「…意外って何よ」
「あ、いや、別に意味は…」
「まぁ、いいけど。後藤はね、アタシと幼馴染みなの。
家が近所でね。…昔はよく三人で遊んだわ」


ぼそぼそ聞こえてくる会話。すぐ近くに気配は感じるのに、壁越しに届いてくるように
不明瞭ではっきりしない。
身体もちっとも動かない。巧く回らない思考で、これは夢かなぁと考えたりした。


「…三人?」
「後藤とアタシ、それに…紗耶香」
「――市井さんも?」
「アタシと紗耶香や後藤なんかは結構年が離れてるけど、親同士が仲良かったからね」




44 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時13分19秒



言葉というよりも音として耳に入ってくるそれは、ふんわり右から左へと抜けるように
穏やかに響き、そして頭に残らない。

こんな圭ちゃんの喋り方は久し振りだ。
最近の圭ちゃんはいつも怒ってるか悲しそうにしてるか、どっちかだから。


「アンタしかいないと思ってるんだよ」
「え?」
「アタシじゃ中立的な立場にいすぎるから。
第三者のアンタじゃなきゃ無理なのよ」

「何が…ですか?」
「後藤を紗耶香…『いちーちゃん』の幻影から抜け出させること」




45 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時14分17秒



――いちーちゃん。
頭の中でいちーちゃんの笑顔と、さっき見たヨシザワのそれが重なった。
これは、夢だよね。
…どこからどこまでが夢なのかなぁ?




46 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時20分17秒
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予告通り土曜更新です。
中途半端に短いので、イレギュラーながら
今夜中に再更新したいと思ってます。

>39しーちゃんさん
更新張り切ってます! ありがとうございますv

十時頃には多分…。

47 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時52分56秒



■5.concern




48 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時54分06秒



圭ちゃんに揺さぶられて目が醒めた。
カーテンの向こうにはすっかり闇が降りていて、校舎にも所々明りが灯っている程度。


「いつまで寝てんの? もう九時よ」

何時の間にかすっかり眠り込んでたみたいで、目を擦りながら起きようとしたら、
衝立を退けた圭ちゃんが苦笑しながら引っ張り起こしてくれた。


「圭織には連絡しといたから」
「あー、ありがと」

カオリは北海道からウチの学校に来て、専用寮の寮長をしている。
生徒会長まで兼任して、いつも嬉しそうに忙しがってる変わり者。
あたしからすれば二つも年上なのに、
カオリでいーよ、なんて気さくな人で。…ちょっと天然入ってるけど。

――カオリもいちーちゃんと仲良かったから、友達になれたんだよね…。




49 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時55分03秒



「圭織、心配してたよ。最近後藤が元気ないって」
「………」
「無理して笑わなくても良いけど、心配かけちゃ駄目よ」
「…うん」


ハンガーに掛けてあったブレザーに腕を通しながら辺りを見回した。
見慣れた圭ちゃんの白衣と、仄かに漂う消毒臭。

「圭ちゃん、だけ?」

器用に片眉だけを持ち上げた圭ちゃんは、質問の意味が分かったのか意外そうに笑った。




50 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時55分56秒



「だけだよ。吉澤もずっとくっついてたんだけどね。
試合が近いらしくって三年に引っ張ってかれたよ」
「…ふーん」
「珍しいじゃない。アンタが興味持つなんて。どしたの?」
「……別に」

リボンタイを結びながら呟いた。
そう、別にたいして意味はない。

…じゃあ何で気になるの?




51 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時56分52秒



「あたしは」

デスクの書類を纏めていた圭ちゃんが頭を上げた。
ぶつかった視線を外して床に落とす。

そのまま床の木目を数えていたら、
「あたしは?」と優しく促された。


「あたしは誰とも馴れ合う気なんて、ない」

圭ちゃんのまっすぐな視線をしっかり見れずに、口元のほくろを見ながら言った。
何か言おうとしてる言葉を遮って。

「誰も好きになんて、ならないよ」


大好きだった家族のみんな。
それにいちーちゃん…。

「これ以上いなくならないで」

あたしを独りにしないで――。




52 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)21時57分48秒



「後藤…」

弱々しい呟きと共に、強く抱き締められた。
圭ちゃんの震えがそのまま身体に伝わってくる。

「紗耶香の、バカ…」


圭ちゃんの涙なんて何年振りかな、なんて思いながら、
あたしよりちょっと背の低いその肩に、眼を閉じて顎を乗せた。

泣けないあたしの代わりに泣いてくれた圭ちゃんに、心の中でごめんねと呟いた。




53 名前:シューヤ 投稿日:2002年04月27日(土)22時04分58秒
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再更新終了です。
来週からは多分普段通りの更新となるでしょう。
54 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月27日(土)23時12分18秒
なんかこういう後藤スキです
更新頑張ってください♪
55 名前:カム 投稿日:2002年05月01日(水)02時53分58秒
同じ板で書かせてもらってる者です。

最初から読ませていただきました。
吉後で学園モノ!?自分の好きな設定どまんなかです(w
今後の展開がとても気にがかりっす。頑張ってください、期待してます!
56 名前:ルパン4th 投稿日:2002年05月02日(木)23時53分09秒
オォーよしごま小説発見!面白いし文も読みやすいです。
よっすぃ〜「いちーちゃん」の幻影からごっちんを救うのだ!(w

続き頑張って下さい。期待してます。
57 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時30分22秒



■□■愛の病




58 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時31分17秒



『あたし、好きだよ。ごっちんのコト』


  曇りのない笑顔で。
  裏なんて無いんだろうと思えるからこそ、無性に腹が立つ。



『ごっちんがどんな風に思ってるかは分からないけど、本気だから』


  あたしがどう思ってるかなんて、…あたしにも分からない。



『あたしが女だとか、ごっちんが女だとか、関係ないんだ。
ホントにただ、好きなだけ』


  幾ら本気だろうと何だろうと、
  あたしはもう決めたんだ。

  誰も好きになんて、ならないよ。
  …だから誰もあたしを好きにならないで。




59 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時32分04秒



■6.encounter




60 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時33分00秒



寮に帰ったら電話があったとカオリから聞いた。
名前も知らない、どこで会ったかも覚えていない、行きずりの男。
興味がないからと突っぱねたのに、いつまでもしつこく追って来ていた。
制服で学校を割り出したらしい。


「最近校門らへんで生徒に声かけてる若い男がいるって聞いてたんだけど、そいつみたい。
茶髪で髪の長い娘知らないか、とか…後藤のこと調べてたんだと思う」

真剣な顔でカオリは形の良い唇を噛む。




61 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時33分46秒



「寮からの電話は親戚関係からしか取り次げないからって断ったけど、
ああゆうタイプはしつこいから…」

カオリの言葉に何とか顔を思い出した。ほんと、いかにもストーカーって顔。

「一応先生たちにも話はしておいたけど、
どう出てくるか分かんないんだから、気をつけるんだよ?」
「…うん」
「何かあったらすぐに呼びな? 飛んでくから」

カオリが言うと、本当に飛んで来そうで少し笑えた。


「…ありがと、カオリ」

おう、という返事と共に、わしゃりと髪を撫でられた。




62 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時35分10秒



部屋のベッドに転がって、カオリの言葉、圭ちゃんの言葉、
それにヨシザワの言葉を思い返した。

男に不足してないというのは嘘じゃない。
嘘じゃないけど殆どが今みたいな一方的なストーカー紛いの男ばっかりだ。
街で声をかけられたり、電車で後ろにぴったりくっついて立たれたり、
学校の行き帰りに後を付き纏われたり。

男の皆が皆、そんな奴ばっかりではないんだろうけど、あたしにはそんな印象が強い。
その所為かどうか知らないけど男と付き合おうとなんて思わないし、
だからといって女に興味がある訳じゃない。




63 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時35分52秒



「何であたしに構うんだよ」

一人には広い空間に、ポツリと呟く。
縦割り制の都合でルームメイトだったいちーちゃんが居なくなってから、
独り言が増えた気がする。

「放っておいてよね…」

保健室で散々寝たにも関わらず、睡魔が襲ってきた。
別にしたいこともしなきゃいけないこともない。

ざっと熱いシャワーを浴びて、何も考えなくて済む眠りに身を任せた。




64 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時36分38秒



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「――忘れてた」

ため息をついて立ち止まった。
あれから圭ちゃんにも担任にも生徒指導主任にも言われたのに。


あたしの正面にはウワサのストーカー紛い。
そしてここは全く人気のない公園。
夕暮れというには日は落ちすぎていて、何とか顔の判別がつくくらい。

学校帰りにレンタルショップでCDを借りて、
寮までの近道になるここを突っ切ろうとしたところに立ち塞がった影。


「やっと会えたね」




65 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時37分24秒



心なしか息が荒い気がする。
不恰好に大きいメガネをずりあげて。

「ずっと待ってたんだ」

嬉しそうに上擦った声。
あたしはこんな奴、待ってない。


日頃の行いが悪いのか、振り返った先には2mに近いフェンス。
三方は金網、向かいには笑みを浮かべた男。
四面楚歌ってカンジだ。


「ねぇ、何で逃げるの、真希ちゃん?」

一歩一歩近付かれて、思わず後退る。
名前を呼ばれて鳥肌が立った。




66 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時38分15秒



全速力で突っ切れば、男の傍は抜けられる気がする。
けど、不自然にジャンパーのポケットに突っ込まれた右手に、
どうしても嫌な予感が付き纏う。

「ああ、気になる?」

あたしの視線に気付いたのか男は笑ってポケットから手を出した。

「大丈夫、真希ちゃんを傷つけるつもりはないよ」


今日はつくづく運が悪い日なんだろう。
予想通り右手に握られた抜き身のナイフ。

「この世の中にはボクのことを悪い風に言う奴が多すぎるんだ。
そいつらを黙らせる為に持ってるだけだよ」


見せびらかすようにかざした刃に鈍い水銀灯の光が反射した。
こんな時に限ってポケットの中のケータイは圏外。おまけにそろそろ電池切れ。




67 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時39分12秒



だいたいこいつはナイフをあたしに見せて何がしたいんだろう。
安っぽいAVみたいな展開だけは、絶対にゴメンだ。


「真希ちゃんはボクと一緒に居てくれるだけで良いんだ」

一緒に居てくれる。
あたしにはそんな人は居ない。
あたしは必要ない。


「…気安く呼ばないで」

あたしの言葉に男の太い眉毛がピクリと動いた、時。



「何やってんの?」

酷く場に不釣合いな、のん気な声がした。




68 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時42分43秒
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予定&宣言通り土曜更新終了です。

>54名無しさん
僕もこういうストイックな?後藤さん好きです。
今後彼女がどう変わっていくか…お楽しみに(w
69 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時49分14秒

>55カムさん
いつもお世話になっています。というか、連載の切っ掛けはカムさんです。
色々教えて頂いてありがとうございますー。
カムさんのも楽しみに読ませて戴いてますよv

>56ルパン4thさん
いつも雪の方コソーリと読ませて戴いてます(w
読みやすいですかー? レスも少なめですし読みにくいかなーとか
実は不安だったんですが。ありがとうございます。
これからも頑張りますー。
70 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)14時52分21秒

何か中途半端に、というか思わせぶりに切ってしまったんで、
近いうちに再更新したいと思います。出来れば今夜中。

お気軽に感想等書いて戴けると励みになりますv
71 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月04日(土)19時37分25秒
待ちに待ってました、土曜日の更新!
良い展開だぁ〜〜はあとはあと
72 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時04分42秒



■7.accident




73 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時06分00秒



振り向いた先にはフェンスにつかまってこっちを見てるジャージ姿。
余りにもタイミングの良い現れ方に、
こいつもあたしの後つけてたんじゃないだろうかと、少し現実逃避した。


「ねー、何してんの?」

不思議そうにあたしと男を見比べて。この暗さで凶器は見えてないらしい。


「…名前も知らないストーカー男にナイフ付き付けられて、付き合えって脅されてる」

特に後ろめたい事でもなかったので正直に答えた。
ヨシザワの細い眉がひそめられる。

「――ごっちん、嬉しい?」




74 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時06分53秒



余りにも的外れな質問に、思わずきつく睨み付けてしまった。
脅されてるって言ってるのに嬉しいわけがない。…天然にも程がある。

「誰が歓迎するってのよ」

言い捨てた途端に、あーよかったと息を吐く。
そのまま良かった良かったと繰り返しながら、長い足を持て余すことなく
高いフェンスをするするとよじ登ってこっち側に飛び降りた。


「ウチ的には絶対反対なんだけど、やっぱ本人の意思がイチバン大事だしね」

訳の分かったような分からないような事を揚々と言いながら、
あたしと男の間に立ち塞がった。
それまでポカンとヨシザワの様子を見ていた男が急に喚く。




75 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時08分56秒



「だっ、誰だよお前!」
「吉澤ひとみ、ごっちんを愛する16歳。
高校からごっちんと一緒になりました」
「ま、真希ちゃんが通ってるのは女子高だぞ!」
「歴とした女だよ、バカヤロー」

ムッとしたようにヨシザワが言い返す。
地声もやや低めでスラリとした長身、髪がショートで顔立ちも端整な彼女は確かに、
遠目には男に見えるのかも知れない。

…それにしても馬鹿っぽい会話。




76 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時10分06秒



「だいたいなぁ!」

腰に手を当ててビシッと男を指差す。

「失礼な上に卑怯だぞ。あたしだってごっちん好きだけど、
無理やり付き合わそうとしたことなんて一度もないんだかんね」

ねー?と同意を求められて仕方なく頷く。
確かにいつも強引で一方的だけど、無理強いだけはしてない。
まぁ、あたしを脅迫することなんて殆ど不可能だけど。


「うるさい! お前には関係ないだろ!」

ナイフを付き付けられているにも関わらず、
どんどん近付くヨシザワに男が怯えて後退る。




77 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時11分00秒



「カンケーなくないよー? 実はウチの父さん警視庁の偉いさんでさー。
こーゆーの放っておけないんだよね」

ジャージのポケットからケータイを取り出してプッシュすると、耳に当てる。

「あ、もしもし――?」
「くそっ」

覚えてろ、なんて有りがちな台詞を残して、男は駆け出した。
出入り口のポールに引っ掛かって無様に転び、じたばたしながらも必死で逃げて行く。


「馬鹿な奴だなぁ…」

男が転んだ場所に膝をついたヨシザワは、呟きながら何かを拾い上げた。




78 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時12分22秒



「免許証落としてやんの。これでちゃんと警察に届けられんね」
「…ちゃんと?」
「あ、さっきの話ウソだから。
本当は青森に単身赴任中のしがないサラリーマン。嘘もついてみるもんだねー」
「………」

馬鹿らしくなって膝についた砂を払うヨシザワの隣りを通り過ぎる。

「あ、ちょっと待ってよー」

振り返って睨み付けたら、きょとんとして首を傾げた。

「何か見返りでも要求するつもり?」
「…? ああ、違うよー! そんなんじゃさっきの奴と一緒じゃん」
「じゃあ何よ」
「またあんなのが居たら危ないからさ、送ってくよ」




79 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時13分18秒



目じりを下げて、へらっと笑う。
そのままあたしの歩幅に合わせて歩き出した。


「別に危なくない」
「何でーさっきみたく武器持ってたら抵抗できないじゃん」
「脅したって無駄だよ。ナイフなんて怖くない」
「…え?」
「死んじゃったっていい。…生きてる意味なんてないもん」


ヨシザワの足がぴたりと止まる。




「何でそんなこと言うの」


腕を掴まれて振り向かされる。
いつもへらへら笑ってるヨシザワの、初めて見る真剣な顔。
大きな瞳に見透かされそうで、視線を外した。




80 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時14分33秒



「死んでも良い人なんて居ない」

感情を押さえたような低い声。

「何でそんなこと分かるの」
「死んだって良いコトなんて何にもない!」
「生きてたって良いことないよ!
いちーちゃんはもう居ないもん! 会えないもん!」
「生きてれば会えるじゃんか! 死んだらもう会えないんだよ!?」
「生きてたって会えないよ!!」


ヨシザワの言葉に触発されたように、どんどん押し込めてた感情が溢れてくる。




81 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時15分24秒



『じゃあね、バイバイ』


別れの言葉。
『またな』でも『待ってろよ』でもなく。

別れの言葉。別離の言葉。拒絶の言葉。


例えいちーちゃんが帰って来ても、あたしはもういちーちゃんに会えない。
会えないなら生きてる意味なんてない。



なのに。何でこいつはむきになるの?


まだ何か言おうとしてたヨシザワの肩を強く押して、
両腕ごと道路端の塀に縫い止めた。




82 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時16分26秒



「…っ」

逆立てられていた柳眉が痛みにしかめられる。
少しだけ高い位置にある大きな瞳を睨み付けた。


いつでも真っ直ぐな眼差し。
困惑が混ざった瞳の色。








「――――――」


無抵抗の唇に口吻ける。
レモンの味なんて勿論しない。
唇は唇の味。
あえて言うならヨシザワヒトミの味。




83 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時17分34秒











どれ位時間が経ったんだろう。
息苦しさからピクと身動きしたヨシザワに、弾かれるように離れた。

押さえつけられてた腕から開放されて、ヨシザワがずるずると力なく座り込む。
紅く潤んだ瞳に見上げられて金縛りにあいそうになった身体を叱咤して、
その場から後ろも見ずに駆け出す。


――ヨシザワは追い駆けて来なかった。




84 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時20分09秒
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無事再更新終了です。
BS放送ビデオ予約しながらこれ打ってるんですが、ちゃんと録れてるか不安…。
85 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時23分57秒
>71名無しさん
待ってて頂けるなんて嬉しい限りです。
今後の展開、ちょっと意外な方向へ持っていってみたんですが、如何でしょう?
これからも更新頑張りますので宜しくお願いします。
86 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月04日(土)22時28分58秒
実は数日前から眼の調子が思わしくなくて、左眼が殆ど見えていないので、
誤字・脱字等あるかもしれません。お見苦しい点がありましたらお詫び申し上げます。

平日は授業、休日はバイトで、唯一土曜日がオアシスです。
速度は遅いですが着実に進むことを目標に、次も土曜更新目指して頑張ります。
87 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月06日(月)08時50分53秒
体調には気をつけてくださいね。
よしごま好きです、しかも何やら気になる展開・・・!続き、楽しみに待ちます。
88 名前:nanashi 投稿日:2002年05月08日(水)00時56分40秒
よしごまだ〜、しかも何やら固めな感じで好みです。
初めて読みましたが、続きが楽しみっす!!
作者殿、がんばってくだされ。
89 名前:スコール 投稿日:2002年05月09日(木)19時52分25秒
ごっちんに引き込まれました。続きがすごく気になります!
体調悪い時はあまり無理をせず体を休めてあげて下さい。
ゆっくり更新をお待ちしてます。
90 名前:さるさる。 投稿日:2002年05月09日(木)23時11分45秒
久々に素晴らしい小説に出会った感じです。
文章とイメージがスッと自然に頭に入ってきます。
自分はまだまだだなぁと感じますねぇ笑
虚無感だらけのごっつぁん好きです。
救ってあげておくれぇ、よっすぃぃ。
更新待ち遠しいです、がんばって下さい。
91 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時22分26秒



■□■愛の病




92 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時23分04秒



『死んでも良い人なんて居ない』



『死んだって良いコトなんて何もない』



何でそんな拘るのさ。
あたしが死んだって、あんたには関係ない。

関係ないんだよ。




93 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時23分42秒



■8.feeling




94 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時24分38秒



「あたしの何が分かるってのさ」

淡色のクッションを抱えて、乱暴にソファに腰を落とす。
コーヒーを淹れてた圭ちゃんが振り返って苦笑した。

「最近よくココ来るね、後藤」
「? いつもじゃん、別に」

体調が悪かったりサボりたい気分の時は大抵、屋上か保健室。
ここに来ることなんて珍しい事じゃない。


「そうじゃなくてさ。いつもは黙ってベッド占領してる癖に、今日は愚痴ってばっかじゃん」
「そ…かな…」


そう言えばいつもより感情が表に出てることに気付いて口をつぐむ。
急に黙り込んだあたしの頭を少しだけ撫でると、圭ちゃんがコーヒーを手渡してくれた。




95 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時25分26秒



「…圭ちゃん」
「何?」

砂糖なら入ってるわよ、という圭ちゃんの声に首を振った。


「どうしたら…良いのかなぁ」


傷付けるつもりじゃ、なかった。
好きでもないけど、別に嫌いな訳じゃない。

自分が傷付きたくないからこそ、誰かを傷付けたくはない。


「後藤は優しい子だね…」
「違うよ。ごとーは弱いだけだよ」



圭ちゃんの綺麗な指が白いマグカップをもて遊んでいる。




96 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時26分15秒



「まずは、さ。後藤の気持ちを伝えてみたら?」
「ごとーの気持ち…?」
「そう。吉澤は自分の気持ちを後藤に伝えてるでしょう?
後藤だってちゃんと伝えなきゃ分かんないよ」
「うん…」

マグカップの中のコーヒーを見つめながら少しだけ頷いた。
あれから三日が経つけど、ヨシザワは一回も姿を現してない。


「後藤から動かなきゃ吉澤だって動きにくいでしょ?」
「…うん……」

カタリと圭ちゃんが机の上にカップを戻した。


「吉澤ね、ホントは引っ越す筈だったのよ」




97 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時27分13秒



「え…?」
「お父様のお仕事の都合でね、青森に」
「うそ…だって単身赴任、て…」
「そっか、後藤にはそう伝えたんだ…」

膝の上の手を組み替えると圭ちゃんは椅子にもたれかかった。
シンプルグレーの背もたれが、ギシと音を立てる。


「本当は一学期までで転校する筈だったんだけどね。
こんな後藤を放っておけないって、無理やり頼み込んで一人暮らしさせて貰ってるらしいよ」
「………」




98 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時28分10秒



放っとけないと言われても。
それまでにヨシザワとの関わりなんてなかったし。


「矢口ってバレー部のマネージャーでしょ? 紗耶香とも仲良いし。
後藤のことはそこから聞いてたみたい」

やぐっつぁんから…。
事実が二割増しくらい脚色されてそうな気がする。


「隣りのクラスに凄い好みのタイプの子が居るなぁって
ずっと気になってたのが、後藤だったらしいよ」

どっかで聞いたような台詞に生返事を返してコーヒーを一口飲んだ。



「――つーかさ」

ずっと黙ってたあたしが口を開くと圭ちゃんが顔を上げた。

「…何でそんなに圭ちゃん詳しいの?」




99 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時28分58秒



パチパチと目を瞬かせた圭ちゃんは、ああと頷いた。

「直接聞いたから。吉澤に」


サラッと言われて一瞬固まる。


「え?」
「吉澤もよく来るんだよココ」

しょっちゅう授業サボってね、と呟く圭ちゃんの膝を、思わず身を乗り出して叩いた。

「圭ちゃん、相談された内容ペラペラ喋ってそうすんのさ!」
「ん? あー、いいのいいの。吉澤から後藤に伝えて欲しいって言われったから」
「あ…そ……」

どんな相談だ。




100 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時29分49秒



「だいたいねー、後藤がいつまでもハッキリしないから悪いのよ!」
「な、何がさ」
「紗耶香のこと! 好きなんでしょ?
男は足りてるとか女に興味ないとか言ってないでさっさと認めなさいよ」
「別に男とか女とか関係ないもん! ごとーはいちーちゃんが…」
「だからそれを吉澤に伝えて来いっての」

立ち上がった圭ちゃんが乱暴にあたしの頭に手を乗せる。
思わず首をすくめたら、そのままわしゃわしゃ撫でられた。

「吉澤だって男も女も関係ないって言ってたでしょ?
…分かったらちゃんと伝えておいで」


久し振りに圭ちゃんと本音でいっぱい喋った気がする。
ドアを閉める前に一瞬圭ちゃんがウインクをくれるのが見えた。




101 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時34分58秒
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本日の更新終了です。
今日は臨時バイトで一日中クマの着ぐるみ着てました。

>87名無し読者さん
眼の具合はだいぶ良くなってきました。ありがとうございます。
僕もヨシゴマスキーですよ★

>88nanashiさん
よしごまです。吉後です。
後藤さんの心境の変化に従って、微妙に言葉遣いなんかを変えてたりするんで、
そこら辺も何気にチェックして頂ければ嬉しいです。
102 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時40分12秒
>89スコールさん
あ、こちらでは初めましてですねー。
お気遣い頂いておりがとうございます。
今日バイト帰りに病院で点滴打って貰ったんで今は元気いっぱいです。

>90さるさる。さん
そんなに誉めていただけるとは…嬉しいです。ありがとうございます。
固定した視線で書きつつ、周囲に違和感の無い文章が目標なんで。
よっすぃーには頑張ってもらいます(w
103 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月11日(土)21時43分18秒
気付いたらもう100を超えてるんですねー。
これからも自分なりのペースを守りつつ、マターリと書いていくつもりなんで、
宜しければお付き合いください。

引き続き感想等お待ちしております♪
104 名前:さるさる。 投稿日:2002年05月13日(月)00時11分06秒
更新だ^^
後藤がなんだかまるくなった気がするのは
よっすぃの愛の力がじわじわ効いてきたのか?
いちーちゃんの幻影から早く解放される事を願います。
105 名前:nanashi 投稿日:2002年05月14日(火)23時25分58秒
最近、よしごまにはまりつつあるのですが、小説の影響力ってバカにできませんね。
ここの吉澤×後藤の微妙な関係が進展することを祈りつつ、楽しみに続きを待つとします。
106 名前:カム 投稿日:2002年05月16日(木)14時52分38秒

よっすぃカコイイ!ごっちんへの想いの強さが滲み出てますねぇ。

目を悪くされたとあったので心配ですがその後の具合は大丈夫ですか?
どうか無理はしないで、マターリといってください。
107 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時33分41秒



■□■愛の病




108 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時34分27秒



ごとーはいちーちゃんのことがすき。



いちーちゃんの笑顔がすき。
いちーちゃんの仕草がすき。
『ばぁか』って言いながら細める目がすき。










好き? ――すきって何だろ。

ヨシザワは、あたしのどこがすきなんだろう。




109 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時34分59秒



■9.realize




110 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時35分45秒



保健室を出たのは放課のチャイムが鳴ってしばらく経ってからで、
殆どの人が部活に行ったか帰宅したらしく、校舎はガランとして廊下にも人気は無い。

教室に寄って、授業を抜け出したままになっていた机の上の物を鞄に放り込もうとして、
筆箱の下に挟んである紙に気付いた。




111 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時36分36秒



折りたたんであるそれを開いて見ると、『ごっつぁんへ』と見出しのついた
カラフルな文字が目に付いた。
あたしが抜けてからの授業の主な内容と宿題、それから今日のSHRについて。

見慣れた丸文字は『また暇な時で良いから職員室に顔を見せにくるように! なっち』
という言葉で結ばれていた。

どこからどう見ても、多分逆さに振っても学生程度にしか見えないなっちは、
それでも一応教師で、うちのクラスの担任だ。
高校生に見えはしても、大卒の社会人には決して見えない彼女は、自分のことを
自らなっちと呼んではばからない。




112 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時37分24秒



なっちからのプリントを私物もろとも鞄の中に突っ込んで教室を出たあたしの耳に、
聞き慣れた声が届いた。


聞き間違いだろう、この時間帯に教室に居る筈はないのだから。
頭ではそう思いながらも、何故か下足箱に向かって歩くスピードが緩む。
廊下を通り過ぎながら、開いていた扉から隣りの教室をチラと覗き込んだ。





「――――っ」

風を受けてふくらんだカーテンの向こうに、見慣れた茶髪。
細いけど広いその背中には見知らぬ女子生徒の腕が回されていて。
その娘の顔を覗き込むようにして、あいつは何か喋っていた。




113 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時38分16秒



知らない間に握り締めていた手に力がこもったらしく、扉がガタンと大きな音を立てた。
振り返ったあいつの驚いたように見開かれた瞳と、一瞬視線が重なった気がした。










「待って!」



あげられた声に我に返ったかのように身体が動く。
気付いた時には、既に駆け出していた。




114 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時39分22秒



「待って、ってば」


飛び込んだ踊り場の先は階段下の倉庫。
振り返った先には息を僅かに弾ませているヨシザワ。


「何で、逃げるの?」
「…あんたが追い駆けて来るから」
「………」

逃げたのはそっちだろうと言わんばかりの沈黙が癇に障って、
顔も見ずに刺々しい言葉を放つ。




115 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時40分07秒



「あの子と仲良くしてれば良いじゃない」
「あれは違うってば、呼び出されて急に…」
「何でも良いよ、何であたしんとこ来るのさ!
あたしは関係なんか無いんだから!」

ゆっくり近付いてくるヨシザワを睨んで声を荒げる。
いつもと違う何を考えているのか分からない表情が釈然としなくて、思わず腕を振り上げた。

相変わらずの無表情のままフイと軽くかわされて、逆に後ろの壁に押さえつけられる。




116 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時40分47秒



「…ねぇ、だったら」

乾いた、声。
腕を掴む力は強く、逃げられそうも無い。


「――何で怒ってんの?」




117 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時44分33秒
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本日の更新終了です。
何か短い上に中途な切り方で申し訳ありません。

>104さるさる。さん
包み込んでじわじわ効きます。ハイ。半分は優しさで出来てます(違)
さぁてこの後、どうなるんですかー?
118 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時48分54秒
>105nanashiさん
僕もよしこ&ごまの仲良しっぷりからこの世界入ったんですが、
決定打はやはり小説でしたねー。よしごま、はまっちゃって下さい!

>106カムさん
メール届いてないです…すみませんがもう一度送って頂けますか? ごめんなさい。
眼の具合は随分良くなりました!心配して頂いてどうもありがとうございます。
またお暇がありましたら、HPの方にも遊びに来て下さいねー。
119 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月18日(土)23時52分58秒
今回はカナリ切羽詰ってまして、文章推敲も何も無しに載せてしまったので、
今更ながらちょっと後悔しています。

本当に忙しい毎日なんですが、
吉後への愛を原動力に、そしてマターリ更新を心の合言葉に(笑
頑張って行きたいと思います。

それでは、来週の土曜日に。
120 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月19日(日)05時36分50秒
よしごまハケーン!
更新楽しみな作品が増えて嬉しいです。
121 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月19日(日)12時47分22秒
ああ、なんかごまがかわいい!
122 名前:カム 投稿日:2002年05月24日(金)11時32分09秒

戸惑ってるゴチーンが初々しくて可愛いらしいですのほ。
ヨシコはこの後どんな行動をとるのか楽しみっす。
あ、HPお邪魔したらメルアド変わってたみたいなんで、
そっちに再送しときました。
123 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時33分24秒



■10.refuse




124 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時34分14秒







息が、つまった。






何で? 何で怒ってんの、あたし。


抵抗の力が抜けた事に気付いたのか、ヨシザワが腕の力を緩めた。






何で? 関係ないじゃんあたしには。
こいつが誰と付き合おうと。
こいつが何と言おうと。




125 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時35分11秒



頭の中で色んな光景がグルグル回り始めた。

屈託なく笑うヨシザワ。
錆びた手すり。
屋上の給水塔。
消毒液の匂いと白いカーテン。
立ち昇る細い煙。
あたしに別れを告げるいちーちゃん。
あたしに想いを告げるヨシザワ。
――――――……。




126 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時36分06秒











「きらい」











何も考えない内に、口に出していた。
整った白い顔がわずかに歪む。




分からない事はきらい。
こんな自分はきらい。

だからあたしをこんな気分にさせるこいつも、


「きらい、だ」







127 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時36分58秒















どれだけ続いたんだろう。
終わらないと思えた静寂と沈黙が、ヨシザワのまばたきで破られた。

長いまつげを伏せたまま。


「ごめん。ごっちんのコト、考えてなかった」

聞き取れない位のかすれた声。
ゆっくりと腕を放し、追い詰めていた壁から離れる。




128 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時37分55秒



「うるさくしてごめん。…もう、つきまとわない、から」

語尾が震えている。
光の抜けた瞳で虚ろに笑って。
力なく向けた背中が、迷子の子供のように不安定で。

思わず伸ばしかけた手を強く握り締めて、唇を白くなるほど噛んだ。
突き放したのも、傷付けたのも、あたしだ。




129 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時38分46秒










「きらいだよ」

どれだけ時間が経ったのか。独り立ち尽くしたまま。
もう一度、呟いた言葉がいつのまにか降り出した雨の音に溶けて、誰もいない階段に響いた。


…カサ、持って来るの忘れたな。




130 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時42分52秒
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臨時更新終了です。
本当は前回ここまで載せる予定だたんですが、何故か中途に切ってしまったので。

>120名無し読者さん
よしごまですよー。難航してますが。
更新楽しみにして頂けてるなんて、幸せです。
131 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時48分00秒
>121名無しさん
ごま可愛いっすーv 今のところ意地っ張りで強情ですが…。
ごとーさんを可愛く書ければ良いな、と思います。

>122カムさん
メール届きましたー。ありがとうございます。
よしこじゃなくて、ごとーさんがこんな行動に出てしまいました…あわわ。
アドレス変わってました? 確かどっちに送って頂いても受け取り先は同じですので
御好きな方でどうぞー。
132 名前:シューヤ 投稿日:2002年05月24日(金)20時52分24秒
明日は予定では更新日なんですが、
教習所で終了検定があるにも関わらず、バイトが入ってしまっているので
なかなかハードな一日になりそうです。

日曜もバイトで、月曜提出のレポートが二つもあります。
更新できなかったら、ごめんなさい。
取り敢えず、今日はここまで。
133 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月26日(日)20時53分01秒
何だか切ねえな〜(w
ここのよしごまのもどかしい関係が最高です!
134 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月27日(月)12時49分34秒
こういった微妙な気持ちのすれ違い、話の設定はよしごまならではですね。はまり
まくってると思います。いよいよ先が気になるな〜。
135 名前:名無し娘。 投稿日:2002年05月29日(水)10時04分31秒
 文章がうまくていいっす。
 先が気になる・・・どうなるんだろう?
136 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時44分56秒



■11.-interval-




137 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時45分53秒



「…落ち着いた?」


まだ水滴が滴るほど濡れた頭にタオルを乗せたまま、
煎れたての温茶を両手で包み込むようにして持っている吉澤に声をかけた。

瞳を伏せてゆっくりと頷いた吉澤から視線を外して自分の分のコーヒーを煎れる。




138 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時46分59秒



校舎が施錠される時間まで続いた仕事を終えて。
帰宅途中に、学校の近くにある公園に人影を見た。
件の不審者が懲りずに現れたのかと恐る恐る立ち寄った其処で、ぼんやりとブランコを漕いでいたのは
表情の欠けた吉澤だった。

アタシが近付いても気付いた素振りはなく。
その尋常のなさに思わず掴んだ腕は、信じられない位に冷え切っていた。





『あれ、保田先生、どうしたんですか?』


『雨? …降ってたんですね。気付かなかった』




139 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時48分09秒



虚ろな笑いに耐えられなくなって、アタシの住んでるマンションへ引っ張ってきた。
吉澤も特に抵抗する素振りもなく大人しく付いて来た。

身体の芯まで冷え切った吉澤を風呂場に放り込んでちゃんと温まるように言って、
生徒指導主任の裕ちゃんに電話をかけて、吉澤を今晩ウチに泊める許可を取った。




140 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時49分00秒





タンスから出してきた、アタシの持ってる服の中で一番大きなシャツを着込んだ吉澤は、
やや所在無さ気にソファの上で三角座りをしている。



「頭、ちゃんと乾かさないと風邪ひくわよ」


ぼんやりしたまま頷いた吉澤の頭に手を伸ばした。
ため息をついて湿った髪を乱暴にふく。

襟から覗く細い首が、漂白したカッターより白かった。




141 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時49分46秒









「せんせぇ」


ウチに来て初めて吉澤が口を開いた。




「んー?」

手を止めない様にして聞き返す。
後ろ側に立っているアタシには、その表情を窺い知ることはできない。










「あたし、フラれちゃいました」


抑揚に欠けた、静かな声。






142 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時50分54秒














「ごっちんに。きらいって言われちゃった」







指先の僅かな動揺に、吉澤は気付いただろうか。

――――後藤が、吉澤を、ふった?





「きらいにもなりますよね、こんなしつこいやつ」

違うと言いたかったが、今の吉澤には肯定の言葉にしか聞こえないだろう。
言葉を返さないで、ただその茶色っぽい髪をふく事だけに集中した。




143 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時51分49秒





「また、あたし、救えないのかなぁ?」

髪をふく手を止めた時、微かな呟きが聞こえた。


「おんなじこと、繰り返すしかできないのかなぁ?
 …それとも、あたしに誰かを救うなんてこと、始めっからムリだったのかなぁ?」


ズキリと心臓に響く痛み。
声音の静けさが吉澤の本当の心情を切に語っているようで。

どうする事も出来ない自分を悔やみながら、その頭をそっと撫でた。



ゆっくりと吉澤が振り向く。
その横顔は涙こそ流れていなかったが、確かに、泣いていた。






144 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時52分47秒



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--


お茶に混ぜておいた安定剤が効いたのか、吉澤は静かに寝息をたてている。
蒼褪めていた頬にも随分血色が戻ったようだ。

カーテンを開けて、雨のあがった夜空に浮かぶ儚げな月を見上げながら、
すっかり冷たくなってしまったコーヒーを飲んだ。

東の空が白みかけている。


明けない夜は無い。…この子たちの夜は、いつ明けるのだろうか。




145 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)20時55分55秒
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更新終了です。
今回はインターバルという形で、圭ちゃん視点のお話です。

>133名無し読者さん
早く素直になれぃと思ってしまう位のもどかしさを目指して(違
切ないと思って頂けたら幸いです。
146 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)21時01分07秒
>134名無し読者さん
これがいしかーさんだと、やっぱりしっくりきませんよねー(笑
別にいしかーさんが嫌いな訳では無いんですが。寧ろ好きな方ですが。
それでも吉後推しなんです。

>135名無し娘。さん
吉澤後藤推進委員!! 何て素敵な委員なんだ…僕も混ぜて下さいv
誉めて頂けて光栄です。いちお、文学部在中なんで。…情報系なんで余り関係ないですが。
今回は外伝ですので。話の先はもう少しお待ち下さい。
147 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月01日(土)21時03分36秒
改行を間違えて少しヘコみ気味だったりします。
デカいサイズのブラウザで見れば多分大丈夫なんでしょうが。嗚呼…。

次回からはまた本筋に戻った視点で話を書きたいと思います。
キリキリ更新していきまっしょい!
148 名前:名無し娘。 投稿日:2002年06月01日(土)22時12分23秒
さりげない(くない?)自己主張に気付いていただき、ありがとうございます(w
土曜日ごとに、更新を楽しみにしてますよ。
圭ちゃんは何だか色々と詳しそうですね・・・吉澤、あんまり凹むな〜
149 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月03日(月)10時27分34秒
い・し・よ・し
150 名前:カム 投稿日:2002年06月03日(月)17時50分11秒


更新お疲れさまです。
よっすぃの意味深なセリフが気になりますね
過去に何があったんだろうかと、展開が気になって仕方ないです。
ここはひとつ、オトナな圭ちゃんの活躍に期待してます!

151 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月04日(火)16時18分42秒
いつもサイトの方ではお世話になっております。
こちらでも素敵な作品を掲載されてますねー。凄い文章が綺麗で引きこまれます。
これからも楽しみにしていますので、頑張って下さいね。
152 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時14分02秒



■□■愛の病




153 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時14分44秒



いつだって、そうだ。

本当のことを言えずに損をする。



『いってらっしゃい』

 涙を隠して。

『平気だもん』

 笑って見せて。


『行かないで』

 って、言えなかった。



いつだって、あたしは天邪鬼。




放っておいて。構わないで。

どこにも行かないで。あたしだけを見て。




154 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時15分15秒



■12.sigh




155 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時15分58秒



何かが、足りない。


髪が乱れるのも気にせずに机につっぷして眼を閉じる。
チョークの欠ける音も教師の喋り声も教科書を捲る音も、ただのノイズにしか聞こえない。




あの、今にも泣き出しそうな瞳の吉澤が、焼きついて。


『うるさくしてごめん。…もう、つきまとわない、から』


掠れた声が頭から離れない。

きらいだと言った筈なのに、どうして吉澤の事しか考えられないんだろう。




156 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時16分40秒



「………」

ため息をついて、立ち上がった。

頭ん中がぐちゃぐちゃしてる。
こういう時は圭ちゃんの所にでも行って、寝てしまうのが一番だ。



「先生」

黒板にひたすら数式を書き連ねている教師の後姿に一応声をかけた。

「気分悪いんで保健室行ってきます」
「ああ」

チラリと振り向いた教師はまたか、みたいな表情をして黒板に戻った。
一瞬だけあたしに集まったクラスの視線と注目も、再び教師の手元に移る。


机の横にひっかけた鞄を掴んで廊下にすべり出た。
授業中で静まり返った廊下をぺたぺたと歩いていく。




157 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時17分35秒



風に乗って、声が聞こえた。

保健室の手前で立ち止まる。



「……?」
風の具合かまた静まったそれは、よく知った生徒指導主任のものだった。

「せやから…」

いつもの明るい感じの裕ちゃんの声じゃない。
時折真剣に生徒を叱る時のような。真面目な声音。


圭ちゃん相手に何話してるんだろうか。
今入っていったら、また授業サボって!って怒られるかもしれない。





「それは、吉澤だって同じでしょ?」

続けて聞こえてきた声に、思わず扉に伸ばしかけた手を引っ込めた。
開けようとしたドアの元にしゃがみこんで、中を窺う。




「あの子たちの年代で、身近な人を失うって事は相当なストレスになるのよ?」
「それはまぁ、せやろな。そんなんウチかてかなんわ。大事な人がおれんくなんのは」




158 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時18分27秒



「せやけど吉澤は元気そうに見えるけどなぁ…少なくとも後藤よりは」
「…吉澤はどんなに元気に振舞ってても、確かにあの事を引きずってる。
 アタシや裕ちゃんの前ではおどけてるけど、家じゃどうしてるんだか…」

「家、て…」


心なしか裕ちゃんの声が強張った気がする。
少し、間があいて。



「そう、あの家」
「…何も一人暮らしすんのに、あそこで住まんでも…寮とか何とか、あるやろうに……」
「だから、引きずってるって言ってるのよ」




159 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時19分44秒



沈黙が続いて、不意に不安にかられる。
一体裕ちゃんたちは、何の話をしているんだろう。



「今みたいに明るく振舞ってるのが、奇跡みたいだよ。
 あん時の吉澤は、後藤以上に…自暴自棄になってた」



淡々とした声で圭ちゃんが今の吉澤からは考えられない挙行をあげていく。

姿が見えない分、どこか夢の中の話を聞いてるみたいで、
伸びた人差し指の爪で手の甲にかすり傷をつけた。

ちゃんと痛い。
夢じゃない。
圭ちゃんたちの話は本当?






「まぁ、そうもなるかもしれんわな。あんな…」



不意に、鳴り響いた終礼のチャイムが裕ちゃんの言葉を遮る。




160 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時20分26秒



もっと良く聞こうと、ドアに耳を近づけた途端。
煩い音を立てて携帯が鳴り響く。

慌てて踵を返して、反対側に走った。

ディスプレイには【やぐっつぁん】の表示。



『ごっつぁん? 大変だよ!』

通話ボタンを押すと、幾らか焦ったようなソプラノ。
それでもこんなテンションは良くある事で。


「…なに?」

自然と、不機嫌な声。
廊下の隅に身を潜めて。

『いい? ごっつぁん、落ち着いて聞きなよ?』
「だからなに?」
『紗耶香が――――』




161 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時21分20秒



聞こえてきたやぐっつぁんの言葉が耳を通り抜けても、その意味が頭に入ってこない。

「…ぇ?」

間抜けな声で、聞き返した。



『ちょっと、聞いてる?
 だから、紗耶香が! 帰って来るんだって!!』




興奮気味に喋るやぐっつぁんの声も、どこか遠い事のように思えた。


いちーちゃんが、帰ってくる?

言葉にしても実感の湧かない其れを、何度も何度も頭の中で反芻した。














――――いちーちゃんが、帰ってくる。




162 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時25分25秒
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更新終了です。
全く書き溜めてなかった為、寝不足&疲れ眼をおして頑張りました…。

>148名無し娘。さん
楽しみにして頂けてるなんて幸わせですv
保中の大人コンビは色々詳しいですよ。して、今回もまた。謎が。
よしこは今回お休みですね。次の登場は何時になるのやら…。
163 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時31分53秒
>149名無し読者さん
よ・し・ご・ま

>150カムさん
謎を思わせぶりに増やしてしまっただけで、ちっとも進展してはいないんですが、
一応、更新しました(汗
よしこさんの過去は一体!?て感じですかね。
164 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時35分00秒
>151名無し読者さん
某Bって…!! いつもお世話になってます(ペコ
素敵だなんて言って頂けると…調子乗ります(笑
これからも頑張りますー!
165 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月08日(土)22時37分19秒
この一週間の合計睡眠時間が10時間もなかったりします(汗
蒸し暑いのヤですねぇ…食欲も皆無です。でも何とか生きてます。

小説までじめじめしないように、頑張って行きたいと思います。
ふぁいとでーす、がんばでーす。
166 名前:名無し娘。 投稿日:2002年06月08日(土)22時53分16秒
 お、おおおお〜!!な展開に。
 なんと10時間ですか>睡眠時間。。。
 取り合えず、私はこの話の先が気になって眠れませんが、何か?(w
167 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月09日(日)14時34分58秒
痛めでしょうか?こういう系統の話は好きです。
作者さん、がんばってくださいね。
168 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月10日(月)16時38分02秒
最高‥‥こんな話を待ってましたよ。しかもよしごま。
(・∀・)イイ!
169 名前:にゃん 投稿日:2002年06月11日(火)12時48分34秒
わー、あの人が帰ってくるんですね。吉子の過去もメチャ気になります。作者さんまったりでよいんで頑張ってくださいね。よしごまLOVEっす。
170 名前:カム 投稿日:2002年06月15日(土)01時22分46秒

元祖男前の登場で更に痛くなっていきそうな気配…
ああ、目が離せません!明日になるのが待ち遠しいです。
期待してます、マターリがんがってください。
171 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月15日(土)15時18分06秒
所用に拠り家を空けますので本日の更新は取り止めさせて頂きます。
明日の午後には更新出来ると思います。
更新を待って頂いていた皆様、ごめんなさい。レス返しも、その折に。
172 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月18日(火)09時46分54秒
済みません。家のPCがピヨってダイアルアップが出来なくなりました…。
何とか今週中には窓ごとインストールし直して、続きをアップしたいと思います。
本当に申し訳ありません。
173 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月19日(水)00時54分22秒
なんか、大変そうですね〜。
マターリお待ちしてますので、頑張って更新して下さいね。
174 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時27分42秒



■□■愛の病




175 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時28分29秒



■13.truth




176 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時29分20秒



「――後藤?」


不意に扉がガラリと開いて圭ちゃんが顔を覗かせる。




「………」

「…やっぱり」


廊下の隅にいたあたしを見つけると少し困った様に呟くと、腕を取って。
しゃがみこんでたあたしを立たせる。


「聞き覚え、あったから。着信音」
「………」
「授業、今終わったとこでしょ? 抜け出してきたの?」
「………」


「…後藤?」




177 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時30分20秒



怪訝そうに眉をひそめて顔を覗き込んできた圭ちゃんの腕にぎゅっと縋り付く。

うまく言葉が出てこなくて、何度か口を開けて、また閉じた。
手の中の携帯は何時の間にか静かになっている。

何と言えばいいのか分からなくて取り敢えず聞いた事をそのまま、口に出した。





「――ゃんが、…てくる、て」

掠れた上に震える声。

「え? 何?」
聞き取れなかったのか圭ちゃんが聞き返す。






「いちーちゃんが…帰ってくる、って」




178 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時31分16秒



まさか、と呟いて、圭ちゃんが大きな眼を更に大きくしてあたしの顔を見たまま立ち尽くす。



「…誰に聞いたの?」

「今、電話。…やぐっつぁんが」



まだ何か言おうとしていた圭ちゃんの後ろから、ひょこりと裕ちゃんが顔を見せた。

「どしたんや、圭坊。後藤、やっぱ聞いとったんか?」
「…裕ちゃん」


あたしと裕ちゃんを交互に見て軽く頭を振ると、細い眼鏡のフレームを押し上げながら
圭ちゃんは白衣をひるがえしてあたしの背中を押した。



「取り敢えず、後藤、こっちおいで。…話があるから」




179 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時32分29秒






休み時間にも関わらずいつもと変わらない独特の静寂さを保つ保健室のデスクの上には
ブラックコーヒーの入った圭ちゃん愛用のコーヒーカップ。
穏やかなオレンジのソファのサイドテーブルには裕ちゃんのだと思われるアイスコーヒー。
その隣りに常連のあたし用のマグカップがことりと音を立てて置かれた。

両手で抱え込むようにして持って、中のホットミルクに口をつける。
いれてくれた圭ちゃんが片手鍋を簡易シンクで洗うのを見ながら裕ちゃんが笑った。


「後藤がホットミルクて…意外やなぁ」

無言でチラリと見上げると、青いカラーコンタクトの入った目を細めて続ける。

「別に悪いイミちゃうで? 何か可愛らしいわ」

なぁ?と同意を求められた圭ちゃんが、手を拭きながら振り返って微かに頷いた。



「そだね。…吉澤に、似てる」





180 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時33分45秒



ピクリと手が強張るのが、自分でも分かった。



「吉澤ぁ? 何や急に」
「さっき言ったでしょ。ウチに来たって」

視線は裕ちゃんの方を向きながらも、言葉は確実にあたしに向かってきてる。



「似てるよ。…そやって、少し項垂れて。相手のこと考えて、傷付いて」
「ちがっ…」

「違わない」



吉澤のことなんて考えてない。
いちーちゃん。
いちーちゃんのこと、考えてるのに。

あたしの言葉は簡単に圭ちゃんに切り捨てられて。




181 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時34分31秒



「後藤、吉澤のことフったんだって?」

鋭い、視線と言葉。

拒絶は、許されずに。


「…圭ちゃんには、カンケー、ない、じゃん」

弱々しい言葉を返す。





「関係ないよ。…ないけどね」

ため息をついた圭ちゃんは髪をかきあげて椅子に腰掛ける。

「アタシは養護教師として、何より幼馴染みとして、アンタを放っておけない。
今までもそのつもりだった。勿論、これからも」




182 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時35分20秒



「圭ちゃん…」

「余計な干渉かもしれない。アタシのただの自己満足かもしれない。
けど、嫌なんだよ。後藤が、後藤でいられない今の状態が」



言葉は荒くてきついのに。その端々に圭ちゃんらしい優しさがにじんでいて。


少しなら。
ほんの少しなら他人を頼りにしてもいいのかな、なんて考えがふと過ぎった。






183 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時36分25秒






雰囲気から察したのかフワリと表情を和らげて圭ちゃんが笑う。

「後藤も笑えば良いんだよ」
「………ぅん」





「それから、吉澤のことは…」

まだその言葉に過剰反応してしまう。
一瞬あげかけた顔を伏せて、ホットミルクを一口飲んだ。


言葉の続きを待ったけど、圭ちゃんもコーヒーを啜るだけで何も喋らない。
仕方なく自分から口火を切った。



「アイツは何を、ひきずってるの?」

それまで黙ってコーヒーを飲んでいた裕ちゃんもハッと顔を上げる。

二人の反応から、何かがあることを確信して。
確信した自分に、今更のように気が付いた。



突き放したのに。
嫌いだって言ったくせに。

何で、あたし。ヨシザワの事なんか気にしてるんだろう…。




184 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時39分57秒
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更新終了です。

お待たせしてしまって本当に申し訳ありませんでした。
今もPCの調子が悪くて、いつ落ちてしまうか気が気じゃありません(汗
来週からは本来のペースで更新したいのですが…自宅から無理そうだったら学校から。
頑張ります。
185 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時46分16秒
>166名無し娘。さん
お、おおおお〜!!と、思って頂いたにも関わらず…
こんな気の抜けた更新で申し訳。
気合入れ直しますので、見放さないで頂ければ幸いです。

>167名無し読者さん
痛め…ですかね?
いちおラストは決まってますので、それに向かって邁進するのみなのですが。ハイ。
イメージの大本、かつスレタイトルにもなっている「愛の病」を聴いて頂ければ、
この先の展開が分かる…かもです。
186 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時50分28秒
>168名無し読者さん
ありがとうございますー。最高だなんて。あわわ。
よしごま(・∀・)イイ!ですよ。

>169にゃんさん
まったりしすぎました。イヤ、焦ってインストールし直したんですがね。
よしこの過去は次の更新くらいで明らかに…?なるとかならないとか。
187 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月22日(土)22時54分14秒
>170カムさん
元祖男前〜♪って僕まだ娘。歴半年も無いんで、
リアルタイムでの彼女を良く知らないんですが(汗
色々研究した上で書きたいと思います。
お待たせしてしまってすみませんでしたー。

>173名無し読者さん
はいぃーありがとうございますっ!
頑張って更新しました。読んで頂ければ幸いです。
188 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月23日(日)08時45分06秒
待ってましたよ〜!
やっぱり、切ないなあ。お圭さんの立場、なにげにオイシイ(w
189 名前:名無し娘。 投稿日:2002年06月23日(日)22時03分19秒
見放すだなんて、ありえませんよ。遅くなろうが何だろうが、
最後まで付き合う気満々です。
後藤が弱いのって、どうしてこんなに萌えるんだろう(w
190 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時30分03秒



■□■愛の病




191 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時30分28秒



■14.focus




192 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時31分03秒



「ヨシザワのこと、あたし、何にも知らない」

アイツはあたしのこと、色々知ってるくせに。
あたしがアイツに関して知ってる事は、あくまでも噂話でしかない。
思い返せば驚くくらいヨシザワについて、あたしは知らない。


サイドボードにマグカップを置いて、目の前の圭ちゃんを見上げた。


「聞かせてよ。ヨシザワだってあたしの事、圭ちゃんから聞いてるんでしょ?」




193 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時31分35秒



あたしの言葉に、迷ったように裕ちゃんが視線を向け、その視線を受けた圭ちゃんが
少し目を伏せて手元のコーヒーを眺める。


「…アタシから話すべきじゃないかも知れない。聞いてから後悔するかも知れない。
それでも、聞きたい?」

圭ちゃんの、言葉に。

アイツの事なんか気にしないと決めた筈なのに。
瞬間的に、それでも意識的に、あたしは頷いていた。




194 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時32分09秒





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------
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屋上へと通じる錆びた鉄の扉。
押し開けると鈍い音がして僅かに軋む。


給水塔の壁にもたれ掛かって、ずるずると座り込んだ。
あの日以来、何故か手をつけていなかった煙草に火をつけて、吸わずにその煙を眺める。
少し強めの風に流されて、視界の端で空気に混じって溶けていく。淡い、白。




195 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時33分42秒



『煙草、止めたんだ?』


不意にあの笑顔が浮かんできて、目を細めた。


『なーんだ。でも止めた方が良いよ』

『別にどーしても吸いたい訳じゃないんでしょ?』



ひときわ強く吹いた風が煙を運んで。
伸ばしっぱなしになっている茶色い髪と一緒に、不規則に揺れた。




196 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時34分34秒



『ごめん。ごっちんのコト、考えてなかった』


『うるさくしてごめん。…もう、つきまとわない、から』


何度目になるんだろう。泣きそうな顔と掠れた声が頭に蘇る。



あの端正な顔を歪ませてるのは、あたしなんだ。
そう、自覚して。
さっきからヨシザワの事しか考えられなくなってる自分に気付く。




197 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時35分20秒



「興味なんか、無いんじゃなかったっけ」

戯れに呟いてみても、所詮自分で自分を誤魔化すちゃちな手段でしかない。
真実は、あたしの中にあるっていうのに。


現に、あれだけ心を騒がしたいちーちゃんの事が、今ではすっかりヨシザワの方に移行している。

それは別に、圭ちゃんから聞いたヨシザワの話が予想外に大きくて心を奪われたからとかじゃなくって。



圭ちゃんに話を聞いて、確信した事。




198 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時36分09秒



認めるのは、多少癪だったけれど。
自分の心なんて、自分でどうにか出切るもんなんかじゃない。




「…冗談、キツイよ」

自嘲気味に呟いて。
口角を持ち上げる。

短くなった煙草を一口吸った。
たいして美味しいとも思えない、ただの苦味が口の中に広がる。




199 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時36分47秒













――どうやら、あたしは。ヨシザワのことが好きらしい。







200 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時39分42秒
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更新終了です。
土曜じゃないです。本ッ当にすみません。

>188名無し読者さん
お待たせ致しましたー。
圭ちゃんオイシイですよー。やっぱプッチの絆は固いというコトで。
これからも活躍(暗躍?)して貰おうと思ってます。
201 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時42分26秒
>189名無し娘。さん
ありがとうございますーv
最後までお付き合い頂ける様、全力で頑張ります。
弱いごとーさん良いですよねー。でも今回はちょっと強めで(ω
202 名前:シューヤ 投稿日:2002年06月30日(日)21時47分22秒
直したつもりでしたが、やっぱりまだ駄目でした。ウチのPCさん。
仕方がないので30mほど離れた幼馴染の家に原稿持って押しかけて、
何も言わずにパソコンと回線を暫く貸して下さいとお願いしました。
…持つべきものは友達ですね。

えーと来週からもこんな不安定な状況が続きそうですので、
土曜更新を基本としつつ、更新出来る時には随時更新していきたいと思います。
こんなこと言っておいて次回はまた土曜になるのかも知れませんが。
有限不実行な作者でごめんなさい。
203 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月04日(木)11時12分32秒
ちゃむの登場が楽しみなような怖いような…
とにかく大人しく更新待ってます。
204 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月04日(木)23時25分57秒
青板の回転が速いのかどうか分からないけど、今日初めて更新されているのに
気が付きました。うは〜、ちょっと得した気分!(w
あまり根詰めないようにリラックスしてがんがってくださいね。
マターリ待ってますんで。
205 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月05日(金)22時51分42秒
続きカナリ期待してます!
ヨシザワさんの過去が気になる!!
206 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時18分59秒



■□■愛の病




207 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時19分30秒



■15.-2nd interval-




208 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時20分18秒



「もう、あれから半年になるんだね」

風に乗って、火をつけた線香の匂いが辺りに広がる。
持ってきた花束を墓石に見せつけるように持ち上げる。

「お花、持って来たよ。ちゃんと、お姉ちゃんが好きなピンクのやつ」



お線香に混じって、フワリと花の匂いがした。

『ひとみちゃん』

1コしか年の変わらないあたしを呼ぶ甘い声。
花の香りは、いつだってお姉ちゃんの声を思い起こさせる。




209 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時21分02秒





『いってらっしゃい』

いつもと変わらない朝。
朝練にバタバタ出掛けてくあたしを見送ってくれた笑顔。
それがあたしが見た最後の生きてるお姉ちゃん。







210 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時21分54秒



最初に見つけたのは、あたしだった。



夕食時間になっても部屋から出てこないお姉ちゃんを呼びに行って。
ノックしても呼びかけても、返事はなくって。


首を傾げながらドアを開けたあたしの眼に一番に飛び込んできたのは、
宙に浮いた細い足首。

部屋にはカーテンがかかってなくて、まだほんのり薄明るい外からの光で
柔らかく照らし出された身体。

ゆっくり視線をあげていった先には、静かに目を閉じるお姉ちゃんと
その細い首に巻きつくロープ。





あたしは悲鳴をあげることすらできずに。
いつまで経っても降りてこないあたしの様子を見に来たお母さんがやって来るまで、
もう二度と息をすることのない、お姉ちゃんの青白い顔をただただ見つめ続けていた。




211 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時22分41秒



『学校で、虐めにあってました』


几帳面な字で残された遺書。

そこには誰よりも仲の良かったあたしですら全く知らなかったお姉ちゃんの
本当の気持ちが語られていた。


髪色を少し明るくしたことが切っ掛けで、色々文句をつけられるようになったこと。
それまで友達だった子も、どんどん離れていってしまったこと。
唯一それでも自分を慕ってくれてた後輩の子まで苛められるようになったこと。



『パパ、ママ、本当にごめんさない。
それから、ひとみちゃん。頼りないお姉ちゃんでごめんね』




212 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時23分18秒



お葬式には担任だった男の人と、生徒代表だという学級委員、
そしてお姉ちゃんの遺書にも残されてた後輩が参加した。

形式通り、という風にお焼香だけを済まして帰った二人とは違って、
黒髪をおだんごにした後輩の子は辺りをはばからず始終涙を零してて。
笑ったらすごく可愛いんだろうなって思える、時々覗く八重歯。
泣きじゃくるその子を前に、お姉ちゃんの遺書を思い出してた。



『頼りないお姉ちゃんでごめんね』




213 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時24分55秒



頼りなかったのはお姉ちゃんじゃなくて、きっとあたしの方だ。


お姉ちゃんが悩んでること、気付けなかった。
お姉ちゃんが苦しんでること、分からなかった。

自分の不甲斐なさを責める一方で、ほんの少しだけ、お姉ちゃんを恨んだりもした。
どうして、どうしてあたしに何も話してくれなかったんだろう。
たったひとりの妹なのに。




214 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時25分38秒



主のいなくなった部屋の、お姉ちゃんが大事にしてたクマのぬいぐるみ。
抱き締めながら何回泣いたか、お姉ちゃんは知らないでしょ?


でも、そのお陰で分かるようになった。
大好きだった人が、居なくなってしまうことの悲しみ。
大好きな人が、いつか居なくなっちゃうんじゃないかって不安。

優しいお姉ちゃんのことだから、あたしに余計な心配させないように、
何もいわずにずっと一人で悩んでたんだよね。抱え込んでたんだよね。
…それがちょっぴり悔しいけれど。



215 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時26分21秒






「…だからね、お姉ちゃん」


閉じてた目をそっと開けて、墓石を見つめる。

「ごっちんが、幾らあたしのことが好きじゃなくても…ううん、嫌いでも。
あたしはごっちんのことが好きで、だから助けてあげたいんだ。
例えそれがお姉ちゃんを救えなかったあたしの罪滅ぼしで…自己満足だろうとね」


持ってきた花を均等にいけて、もう一度手を合わせる。


「ごめん、辛気臭い話ばっかしちゃったね。
…今度は明るい話ができれば良いんだけど」




216 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時27分06秒



ふと、ごっちんの笑顔を思い出した。
あれはまだ、市井さんが、お姉ちゃんが、いた頃。
初めは、普段のやる気のなさと、市井さんを前にした時の無邪気さとの
物凄いギャップに、惹かれたんだっけ。

――もうあの笑顔を見れることはないのかな。
少し、胸が痛い。





「また来るね」


小さく手を振って。
澄み切った高い空を仰いで、踵を返す。

風に乗って、高い、甘い笑い声が届いた気がした。




217 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時28分56秒
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更新終了です。

>203名無し読者さん
お待たせしました、更新です。
実はいちーさんは……。
218 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時35分04秒
>204名無し娘。さん
いつもありがとうございますv
ふと気付いたら更新されてて一気に読めるのって、何か得した気分ですよね。
気付かなかった自分にツッコミいれつつ(笑

>205名無し読者さん
お待たせしました。二回目のインターバル、今回は吉澤さん視点です。
事情説明しつつ、吉澤さんの思いも入れつつ。
なるべく説明っぽくならないようにしようと心掛けたんですが如何でしょうか…?
219 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時40分52秒
相変わらず更新日を過ぎててごめんなさい。
PCはもう直ったんですが、僕の方が参ってるらしくて。
昨日もデパートで倒れてました(汗

貧血気味の虚弱体質なので、夏は毎年こんなもんなんです。
ご心配かけて申し訳ありません。
取り敢えずまぁ生きてはいるんで大丈夫です。
220 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月07日(日)18時44分18秒
追伸。
いしかーさんファンの方ごめんなさい。
悪気はないです。僕もいしかーさん好きです。

今回で一応11人体制の頃の娘。さん全員出せました。
直接出てない娘も何人かはいますが。どこに出たんだよ?って娘もいますが。
遊びみたいなものなので、興味ある方は探してみて下さいな。

マターリ更新でがんがります。
また、次回。チャオー♪
221 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月07日(日)19時10分49秒
シャッフルが始まり、よしごま強化週間突入です。

吉澤と石川がこういう絡みだったとは。珍しい感じがしますね。
でも泣ける…何が痛いって、石川さんが〜あ〜(涙
毎回、次回が楽しみなところで切る作者さん、ナイス(w
222 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月08日(月)01時41分28秒
昨日は更新ないのかなーと思っていたら、今日ばっちり更新されてて嬉しいです。
何だか色々と大変そうですが、ここのよしごまの微妙な空気が気になって仕方ない
ので、楽しみに待ってます。頑張ってくださいね。
223 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)00時59分50秒
まあ・・・石川はご愁傷様です(w
でも吉後が幸せなら良し!それが良し!作者さん、マターリがんばれ。
224 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時03分52秒



■□■愛の病




225 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時04分20秒



■16.gentle




226 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時04分53秒



「…やっと帰って来た」


しゃがみこんでた玄関から、服の埃を払って立ち上がる。
向かい合って半ば睨みつけるように顔を合わせた。



「……、ぇ?」

大きな瞳を見開いて、戸惑ったように小さく声を漏らす。
身体から、ほんの少し白檀みたいな線香の匂いがした。




227 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時05分26秒



「あの…」
「話、しにきた」
「何で、家…」

「圭ちゃんに聞いた」

少し納得したように頷きかけたヨシザワから視線を外さないまま言葉を続けた。

「お姉さんのことも」





「………っ」

怯んだように息を呑んで、ヨシザワが言葉に詰まる。




228 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時06分03秒



「こないだ。酷いこと言った」
「え、ぁ…」

急に話を変えたあたしに瞬きしてヨシザワが応じる。

「あれは――あたしの方が悪い、よ。
ごっち…後藤さんのこと、考えてなかった」

俯きがちな視線とぶつかって。
先に眼を逸らせたのは、ヨシザワだった。


「あたしも。何も考えないで、酷いこと言った」




229 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時06分37秒












「…何か」


暫くそのまま沈黙が続いて。
フワリとおもむろに吹いた風に乗せられるようにして、ヨシザワが呟いた。

「後藤さん、変わった、ね」
「…そう?」

少し憂いを含んだ表情で、頷く。
外向けにはねた髪が光に透けて見える。

「変わったとしたら…アンタの所為だよ。きっと」



驚いたように目を丸くしたヨシザワが、ふわぁっと優しく微笑む。




ころころ変わる表情に惹かれてしまう、自分を止められない。




230 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時07分18秒



「良かったら、あがって? 何にもないけど」

ぎこちないヨシザワの言葉に頷いて。
今のあたしを圭ちゃんなんかが見たら吃驚するんだろうなって思いながら、
ヨシザワの背中に続いて家の中に入った。


広い家の中はしっかり片付けられてて、あたしの寮部屋とは大きな違い。
一人で暮してるなら使わない箇所もある筈なのに、埃ひとつ落ちてない。



「殺風景でしょ。父さんたちが…あ、引越しのことも保田先生から聞いた?」

無言で頷き返すと、ちょっとだけ苦笑する。

「嘘ついて、ごめんね」
「…別に」




231 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時07分50秒



「引っ越す時に家具とか持って行っちゃったから、殆どあたしの物しかなくて」



そう言って扉を開けたリビングには、落ち着いたブルーのラブソファーが
同系色のサイドテーブルと並んでいた。




「座ってて。お茶いれるね」
「あ、別に…」

断りかけたあたしを、にこりと微笑んで座らせる。
以前ほどの勢いはないにしろ、こういう所はやっぱり強引だ。


「くつろいでて」




232 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時08分19秒



「食器もそんなに数ナイんだけどね…」


キッチンに消えるスラリとした後姿を見ながら呟く。





「…あたし、多分」

「ん?」



小さな声が届いたのか、ヨシザワが振り返って顔を出した。

高い位置にあるその瞳を見つめながら。



「あたし、多分。…アンタのこと好きだよ」




233 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時11分21秒
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更新終了です。

>221名無し娘。さん
強化週間ですかーv って週間ならもう終わってます?(汗
僕の中では、いしかーさんとよしこさんは仲の良い姉妹、
もしくはご近所さんって感じですかねー。結果こんな配役になりました。
234 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時15分24秒
>222名無し読者さん
不定期更新で申し訳(汗
微妙な空気から、一歩前進な感じです。
ラストに向けて気合入れてがんがります♪

>223名無し読者さん
いしかーさん…ごめんなさい。
きっと吉後コンビを草葉の陰から見守っていてくれる筈です(w
235 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月14日(日)22時19分09秒
書き込もうと思ったら物凄い下まで下がってて吃驚しました。
一週間であんなに下がるもんなんですか…?
ていうか他の方のスレは下がってないのに何故かウチだけ…?
まぁ消えた訳ではないので良いんですが。

日曜更新が板についてきた感じです。駄目人間です。
一応当初の予定では20話完結なので、
もうラストスパートに入ろうかという処なのですが。
更新出来るだけ頑張っていこうと思います。テスト前ですが(笑
236 名前: 投稿日:2002年07月14日(日)22時41分47秒
更新お疲れ様でした。
いつも楽しみに読ませていただいてます。
後藤さんの氷が段々と溶けているようで、とても好きな感じです。
応援しています、テストの方も。
237 名前:すなふきん 投稿日:2002年07月14日(日)22時53分34秒
週末の更新を、毎回楽しみに待っている自分です。
もうすぐラストということで。
終わってしまうのは寂しいですが、最後まで付いて行かせて貰います!(w
238 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月15日(月)00時01分38秒
凄く良い所で切ってますね。その引っ張り具合が好きです(w
次回の更新も楽しみに待っていますので、
無理せず作者さんのペースで頑張って下さい。
239 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月15日(月)12時00分33秒
レス、出遅れました…(汗
ちなみに強化週間は必要ないことに気付きました。最近よしごま常に
ひっついてるし(w
それより作者さん、切るとこ上手過ぎ。( ^▽^)<どうなるんですかー!
240 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時41分38秒



■□■愛の病




241 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時42分08秒



■17.emotion




242 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時43分01秒



「…っ」


振り向いたヨシザワの表情が、凍りついたみたいに固まって。

「い、いま、何て」
「…二回も言わす気?」


珍しくどもったヨシザワの視線から逃れて語尾を上げると、
勢い良く首を振るのが気配で伝わってくる。



「…でも」

暫くの沈黙の後、嬉しげにそっか、と繰り返し口にして。



「ごっちん、あたしのこと好きでいてくれるんだ」




243 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時43分36秒



「…あくまで多分だからね、多分!」

「多分でも良いよ」



つい声を荒げてしまうあたしの顔を見たまま相好を崩したヨシザワが。


「っ、…へへ」


急にくるりと後ろを向いて。
ほんの少し、震える背中。




244 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時44分15秒






「ほん…とに、嫌われてたら、どぉしようかと、思ったぁ」




途切れ途切れの言葉。

背中を向けてるけど、泣いてるのが声でバレバレ。
息を吸うごとに少ししゃくりあげてるし。


「嫌いじゃ、ないよ。少なくとも」

何だか子供を泣かせてるみたいなちょっとした罪悪感に捕らわれて声をかける。
ぴくりと動いた身体がこっちを向きそうだったから、
ソファーに座りなおしてテーブルを見ながら呟く。




245 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時44分48秒



「自分の気持ちに気付きたくなかったから。あたしが傷付かない為に『きらい』って言った。
…アンタが嫌いな訳じゃ、ない、から」

「…ん」

掠れた声と、ずって鼻をすする音。
ガタイは良いくせに、ホント何か子供みたい。

「ありがと」
「…礼言う事じゃないよ。あたしが悪いんだし」
「ん。でも、ありがと」

鼻声で何度も礼を言われて変な気分になった。
本来なら、あたしが何度も謝るべき立場なのに。




246 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時45分25秒



「じゃあ、さ。ちゅーしてイイ?」
「は?」

聞き間違えたのかと振り返れば、何かを期待したかのような、
さっきの涙は何処に行ったんだろうってくらい真剣な顔。


「…ヤダ」

「なぁんでさぁー!」

途端に端正な顔がへにゃりと崩れて情けない表情に変わる。


「なんでも何もないよ。嫌なだけ」
「だってこないだはしてくれたじゃん」
「こないだって…」

何時さ、と問い掛けようとしてあの晩の事を思い出す。
ナイフを持ったストーカー男が、あたしの前に現れた時。




247 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時45分54秒



「…っ、あれは! 事故!」
「事故ぉ?」

悲しげにうめく姿が何かに似てて。
…ああ、コイツ、犬っぽい。
きっとしっぽなんかが生えてたら、間違いなく垂れ下がってるんだろう、今。



「あの時は好きじゃなかったもん。だから、事故!」

落ち込んだように肩を落としてたヨシザワが、ふと顔を上げて。

「あの時は、ってことは、今は好きでいてくれてるって思って良いんだよね?」
「なっ」

反論しようとして見上げた先には、嬉しそうに優しく微笑むヨシザワ。




248 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時46分27秒



余りにも幸せそうにするから、否定しないでおいた。


あの時は、確かに好きじゃなかった。
いちーちゃんに見捨てられたと思ってた。
あたしの生活に首を突っ込んでくるコイツが、鬱陶しかった。



――じゃあ、今は?

自分自身で問い掛けて苦笑する。
いちいちコイツの言葉が気になって。
ころころ変わる表情に翻弄されてる。




249 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時47分03秒



「…んっとに、あたしらしくない」

小さくぼやいて。

「? 何か言った?」

小首を傾げるヨシザワに顔を横に振って答える。

「何でもない」
「んー?」

それでもまだ不審気な表情に向けて、呟く。



「もっと。ずーっとして、それでもまだあたしが、アンタを好きだったら。
しても良いよ。…キス」









思いっきりはしゃぐヨシザワを視界の隅に、
自分を誤魔化す為の自嘲気味なため息を一つ、ついた。

頬に笑みが浮かんでるのが、自分でも分かった。




250 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時47分53秒

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更新終了です。

>236凪さん
僕も銀板の方、楽しみに読ませて頂いてます。
他人様のスレに書き込みするのは苦手なものでROMってばかりでごめんなさい。
応援して頂いて有難う御座います。テストも(w
昨日の独逸語は散々でした…(汗
251 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時48分39秒

>237すなふきんさん
微妙な不定期更新具合ですみません(汗
段々ラストに近づいてきてますねぇ。
是非、最後までお付き合い下さいませv

>238名無し読者さん
引っ張ってますかねー? 余り自覚ないんですが(w
こういう切り方は、得意かもです。
今日は正常に珍しく土曜更新でした。
252 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月20日(土)20時49分22秒

>239名無し娘。さん
こうなっちゃいました…如何でしょうか。
よしこさんとごま、最近ずっとくっついてて嬉しいです。
もう少しよしざーさんが元気でいてさえくれれば…。

いよいよ終盤に入ってきました。
予定では後三話で完結なんですが、予定通り行けるかどうか。
あと少し、お付き合い頂ければ嬉しいです。
253 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月20日(土)23時34分55秒
吉後が段々と良い方向に向かっているようで嬉しいです。
殺風景な部屋でのやり取りが、とても微笑ましいですね。
あと3話ですか……終わってしまうのは寂しいですが、最後まで応援させてください!
254 名前:カム 投稿日:2002年07月23日(火)03時57分07秒

嬉し泣きするヨスィと、それを見て柔らかく笑うごっちんが目に浮かびます。
自分も終わってしまうのはとても残念です。
どんなラストが待っているのか期待していますので、頑張ってください!
255 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月27日(土)23時57分03秒



■□■愛の病




256 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月27日(土)23時57分27秒



■18.past




257 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月27日(土)23時57分49秒



「もう、知ってるかもだけど」

ぽつりと呟いて、その声にこっちを向いたヨシザワの視線を受け流して
キッチンサイドのテーブルの上に手を伸ばした。

アルミフレームのフォトスタンド。
写ってるのは仲の良さそうな夫婦、その間に仲の良さそうな姉妹。
その片割れは、勿論ヨシザワ。

幸せそうに満面の笑みを浮かべて。


「あたし、家族いないんだ」




258 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月27日(土)23時58分17秒



「いないっていうか…一年前、事故であたし以外……
 パパもママもお姉ちゃんも弟も、みんな――死んじゃった」

ヨシザワの返事はない。

けど、背を向けているソファーから視線を強く感じる。
あのまっすぐな瞳。


「皆はお出掛けしてて…ごとーだけ、いちーちゃんの試合見にガッコ来てて…
夕方に迎えに来てもらう途中に対向車線の車がウチの車にぶつかってきて、ね。
居眠り運転だったよ。…よくあるハナシ、なんだってさ」




259 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月27日(土)23時58分49秒



自嘲気味にちょっと笑って話を続ける。
相変わらず後ろから感じる視線はそのままに、
写真の中の、今より少しだけ若い、ヨシザワに向かって。


「いちーちゃんは自分を責めてたよ。自分が試合に誘わなかったら
ごとーの家族は事故に遭わなかったってさ。
幾らごとーが違うって言っても聞かなかったよ。
…そうやって自分を保ってたんだろうね、きっと」




『後藤』

『後藤、謝ったって許して貰えないのは分かってる。
代わりになんてなれないけど…市井がいるから。市井がずっと後藤の傍にいる。
約束する』




260 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月27日(土)23時59分39秒



「ごとーはバカだったから。その言葉、鵜呑みにしたんだ。
何処行くのもいちーちゃんと一緒。何するのもいちーちゃんと一緒」


そして、突然いちーちゃんはいなくなった。

「圭ちゃんに言われるまで、ごとーはいちーちゃんに捨てられたんだと思ってた。
ごとーがあんまり引っ付くから、うっとおしくなったんだって思ってた。
…本当は一年間の短期留学だったんだけどね。」



でも、いちーちゃんが約束を破ったことに変わりはない。
いちーちゃんが傍に居てくれなくなったことに変わりはない。


「だから、あたしは独りで生きようって、思ったんだ」




261 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月28日(日)00時00分09秒



「――どうして欲しい?」

低く、穏やかな声。

振り向こうとしたら不意に肩に両腕を回されて、引き寄せられた。


「ど、う…?」
「約束はしない。守り通せるって誓っても信じて貰えるものじゃないし、
絶対なんて言葉、この世にないから」

じんわりと体温が移動する。
平熱が高いあたしの身体から、むきだしの細い腕へ。




262 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月28日(日)00時01分02秒



「ずっと一緒にいるなんて約束できないよ。したって無駄だし」

あたしは二回。コイツは一回。
それについては身を持って経験してる。


「だから。ごっちんはあたしにどうして欲しい?」



ぎゅっと腕に力がこもる。
痛いくらいに優しさの溢れた力強い抱擁。


あたしはこの腕を取ってもいいのかな。
もう一度、信じるってことをやってみてもいいのかな。






『後藤の、傍にいる』



「…じゃあさ、傍にいてよ」




263 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月28日(日)00時01分41秒



ピク、とヨシザワの動きが背中から伝わってくる。



「ずっと、とか、絶対、とか。約束しなくていいから。
――あたしが寂しい時、傍にいてよ」


大きく息を吸って止める。
吸い込んだ息を吐き出すことなく、回された腕にぽそっと顔を埋めた。





「…モチロン」

数秒後に帰って来た返事は明るい声。

「ごっちんがヤだって言ったって、離れないんだから」



見なくたって分かる、嬉しそうな笑顔。
大きな手のひらに顔をうずめたままにしていたら、心配そうに声がかかった。


「…ごっちん?」




264 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月28日(日)00時02分05秒



「泣いてなんかないよーだ」


べーっと舌を出して振り返って見せると――鳩が豆鉄砲食らったって
きっとこんな顔なんだろう――素できょとんとした表情を浮かべて
目を瞬かせる。

その腕の中からスルリと抜け出して、ついでに耳元にボソリと囁く。


「そんな簡単に弱みなんて見せてやんないんだから」



リビングを出て玄関で靴を履く。
寮まで送るよ、という背後からの声に右手を上げて応えた。
今は一人で考えながらゆっくり歩きたい気分。




265 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月28日(日)00時02分32秒



寮に着いたら圭ちゃんの顔でも覗きに行くか。
大きな眼をさらに大きくして瞬きする圭ちゃんの顔が目に浮かぶ。
思わずひとり、くすりと笑ってヨシザワの家をあとにした。

夏の終わりの大きな雲が風に吹かれてゆっくり流れていた。
誰かに影響される人生も、悪くはないのかも知れない。

固く結んだ靴の紐を確かめて、帰路へと一歩、踏み出した。




266 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月28日(日)00時03分07秒

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更新終了です。

今回は怒涛の謎解き編。というか禁忌の説明台詞のオンパレード(汗
ここでようやく『愛の病』らしき文章に近付いてきたかな、と。
イメージはあるんですがなかなか言葉が追いつきません。修行不足。
267 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月28日(日)00時03分42秒

>253名無し娘。さん
いつも応援ありがとうございます。
一歩ずつ、着実に。二人の関係が近付いていけばと思ってます。
三話…ひょっとしたら二話になるかも……(汗


>254カムさん
御復活おめでとうございます。
わざと会話描写増やしたんですが、好評みたいで良かったです。
なるべくご期待に添えるように、頑張ります。
268 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月28日(日)00時04分24秒

最後のシーンをどうしようか、未だに考えあぐねています。
八月に入るまでに終わりたかったので、一気に更新するかもしれません。
あくまで予定ですが。

それではまた、次回に。
269 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月28日(日)01時41分33秒
なんかドキドキしますた…
適度な緊張感が好きっす。っていうか、1話減るのですか!?殺生な〜(w
楽しみに読んでるので、何も申しませぬが、できれば(ry
270 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時10分49秒



■□■愛の病




271 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時11分26秒



■19.-last interval-




272 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時12分01秒



『ごめんね、圭ちゃん』

『自分勝手なのは、分かってる。
…でも、試したいんだ。自分の力を』



旅立ちを決めた時。

深夜にわざわざ電話で訪問を告げた紗耶香は、
数軒と離れてない近所からやってきてアタシに頭を下げた。




273 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時12分39秒



家に来るまでに少し泣いたんだろう、やや赤い目をした紗耶香は、
それでも真っ直ぐな目をしてアタシに、予想もしなかった言葉を告げた。



一年間の海外への留学。
そこで相互単位交換性の高校へ通って自分に出来る事を探してみたい。

――そして、後藤と少し距離を置きたい、と。




274 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時13分31秒



『後藤の傍にずっと居てやるって、約束した。
でも、その所為で後藤はあたしにべったりになっちゃった。
他人にも興味を示さないし。…このままじゃ、いけないと思うんだ』


家族が事故に遭った時、後藤は勿論だったが、紗耶香の落ち込みも相当だった。
幾らアンタの所為じゃないと伝えても力なく首を振るだけで。

その紗耶香が立てた贖罪方があの約束だった。
…それを自ら破る、と。
紗耶香の目は真剣だった。




275 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時14分03秒



『例え嫌われても構わない。もう決めたんだ。
自分勝手だと思うけど…後藤のこと、頼むね』



自分だって人一倍泣き虫で、寂しがり屋だったくせに、
いつも後藤の前ではお姉ちゃんぶって。

後藤を怒らせたり泣かせたりしては、いつもアタシんとこに駆け込んできた。
アタシは駆け込み寺じゃないんだからねって何度たしなめても、
やっぱ圭ちゃんは頼りになるなぁなんて笑って誤魔化して。

後藤と紗耶香の仲裁役はいつもアタシだった。




276 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時14分36秒



『後藤なら、大丈夫だよ。きっと。
散々大泣きして、またへらって何もなかったみたいに笑うんだって。
後藤は、強いから』

あたしと違ってね、と下手な苦笑いを浮かべる。


『後藤には直前まで黙っとく。
目の前で泣かれたら、弱るんだよ。
…決心が鈍る訳じゃないんだけど、やっぱ困るから』




277 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時15分08秒



ねぇ、紗耶香。
アンタは大丈夫だって言ったけど、後藤の孤独は深かったんだよ。
幼馴染みのアタシにだって、到底救えないくらいに。



『あたしは誰とも馴れ合う気なんて、ない』

『誰も好きになんて、ならないよ』

アタシをまっすぐ見ることすらせず呟いた後藤の言葉を聞いた時、
以前のように屈託なく笑う後藤はもう見れないんだって思った。
それぐらい後藤は排他的で周りの殆どのものを拒絶してた。

何もしてやれずにそんな後藤をただ見守りながら、
長年一緒に居ながらそこまで読めなかった紗耶香と、
その紗耶香を止める事のできなかったアタシ自身を。強く、責めた。




278 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時15分48秒



『保田せんせー!!』

ついさっきまでこの保健室で大騒ぎしていた吉澤の明るい声を思い出す。


『聞いて下さいよー! さっきごっちんが笑ったんです!!』
『笑ってなんかないよ! ちょっと顔が緩んだだけだもんね』

膨れっ面で吉澤を追いまわしていた後藤の顔は、本人も気付いてないんだろうけど
紗耶香が居なくなってから一番いきいきしていた。



『じゃー失礼します。自慢しに来ただけっすから』

笑いながらそう言うと、さり気なく封筒をアタシのデスクの上に置くと
吉澤は後藤に追われながら出て行った。
封筒の中にはあの子らしいのびのびした字で書かれた
家に泊めた雨の日の謝罪と礼の言葉。




279 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時16分27秒



吉澤が。同じ痛みを分かってる優しい子が。
傍に居てくれたからこそ、後藤は立ち直れたんだよ。


アタシからは勿論、アンタだって、
何回礼を言っても足りないね。

心の内で紗耶香に話し掛けて卓上カレンダーを見る。
明日の欄に大きな赤丸。





そう、明日――紗耶香が、帰ってくる。




280 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時17分04秒

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更新終了です。

主役は後藤さんの筈なんですが、圭ちゃん出番多いですねー。
彼女しか知らない事実がほんとに盛り沢山。
裏の主役決定ですね(w
281 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時18分09秒

>269名無し娘。さん
ご期待に応えて?やはり全二十話構成にしました。
とは言っても今回もインターバルなんですが…。
山場の後の外伝。個人的に好きなパターンです。焦らしてるとも言います(w
282 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)16時19分00秒

この後は余り伸ばしたくないので、
出来れば今夜中に最終話をアップしたいと思います。
では、その折に。
283 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月31日(水)17時24分20秒
今夜中ですか……待ってますよ!!
ついにあの人が出てくるんですね。何故か自分が緊張します(w
284 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)21時24分56秒
後藤さんと圭ちゃん脱退ってマジだったんですね…。
ちょっと凹みすぎて泣けてきました。
更新は予定通り行いたいと思います。
285 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時39分32秒



■□■愛の病




286 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時40分08秒



■20.loose




287 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時41分07秒



「ごっちーん」

お昼を過ぎた頃。
チャイムと同時に寮のあたしの部屋の前で大きな呼び声。


「…何?」

放って置くと更にうるさくなるので早めにドアを開けて。
扉の向こうからにこにこと微笑むヨシザワは機嫌が良さそうだ。


「あんね、さっき矢口さんから聞いたんだけど、
今日、市井さんが帰って来るって」




288 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時41分47秒



頭の中に昨日やぐっつぁんから掛かって来た電話が蘇った。


『あのね。紗耶香、明日の朝の便で日本に帰って来るって。
何かガッコの手続きで一時帰国だって。
ヤグチは駅まで迎えに行こうと思うんだけど、ごっつぁんは…どうする?』


嫌なら来なくて良い、と前提した上でやぐっつぁんは言葉を続けた。

『でもね、圭ちゃんにも聞いたと思うけど、
紗耶香はイジワルであんな事言ったんじゃないんだよ?
ごっつぁんの為に…』

分かってる、って小さく呟いた。
いちーちゃんは、そういう人だから。




289 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時42分26秒



『ありがと、ごっつぁん』

『紗耶香を分かってくれて、ありがと』


今なら紗耶香とも、逢えるんじゃない?
受話器の向こうから、そう問われて。無言で返した。


『明日、駅で待ってるからね』

明るいやぐっつぁんの一言で、電話は切れた。


あたしはベッドに転がって、手の中で携帯をもてあそびながら長い一夜を過ごした。

やぐっつぁんに返すべき言葉は、未だ見つかってない。




290 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時43分04秒



「…行かない」

あたしの言葉に、ヨシザワの眉がぴくと跳ねる。

「あたしまだ何にも言ってないのに…」
「駅まで迎えに行こう、でしょ?」
「分かってんじゃん。じゃあ行こうよ」


どこまでも明るいヨシザワに首を振って答える。

「いーじゃん、行こう?」
「ダメだってヤだ、ムリ」
「ほらほら早く」

半ば強引にあたしの腕を引いてヨシザワが連れ出そうとする。

「いちーちゃんだよ?」




その手を、ぐいっと引っ張って立ち止まらせた。




291 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時43分37秒



「市井さんだと、ダメなの?」
「…だって」
「だって?」

立ったまま言葉の先を促す口調は、あくまで柔らかい。


「あたしが、好き…だった、人だよ?」
「それならなおさら行かなきゃ」

大きな眼を細めてにこりと笑う。


「ホラ、早くしないと駅、着いちゃうよ」

急かすヨシザワに引きずられるようにして、部屋を出た。




292 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時44分15秒



「お、後藤」

呼ばれて振り向けば書類の束を抱えたカオリ。

「紗耶香迎えに行くの?」
「ん…」
「良いなぁー。カオリこれから会議あるから行けないんだよね。
あ、紗耶香にこっちにも顔見せるように言っといてよ。
裕ちゃんやなっちも会いたがってたから」


よろしくな、って片手を挙げてカオリが去って行くと、
ヨシザワが嬉しげに顔を覗き込む。

「頼まれちゃったからには、やっぱ行かないとね」
「…分かったよ」




293 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時45分14秒



そうは言ったけど。



「――やっぱりヤだ。いかない」


寮の近くの公園手前で立ち止まる。
あたしの硬い声に、前を行くヨシザワが振り返った。


「もー、強情だなぁ、ごっちんは」

知ってたけどね、と腕組みして口を尖らせる。


「せっかく帰ってきたんだから迎えに行ってあげなきゃ。
市井さんだって喜んでくれるよ」

「もし…もし、だよ?
今いちーちゃんに逢って、それで…
やっぱりいちーちゃんの方が好きだったら、――どうする?」





294 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時46分47秒



あたしの今一番の不安。

いちーちゃんよりヨシザワが好きなのか。
いちーちゃんの代わりにヨシザワを選んだのか。
いちーちゃんに逢ったら、この気持ちは変わってしまうのか…。


自分でもどうにもならない心の内を打ち明けて。
目の前のヨシザワを見上げる。





295 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時47分26秒








一瞬きょとんとしたヨシザワは、すぐに破顔して親指をぐっと立てた。





「そん時はまたごっちんを振り向かせてみせるよっ」








296 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時48分11秒



行こうって引っ張られて、つられたように走り出した。


手を伸ばせば届く距離にあるヨシザワの髪が逆光に透けて輝く。
思わず見惚れて足を止めそうになったあたしを振り返って。


「どしたの、置いてくよー?」



このドキドキは走ってるせいじゃないよね?


今までにないうずうずした感じが押さえられなくて、
前を走る背中を追い駆けた。

いちーちゃん。
もう心配だ、なんて言わせないよ。











「待ってよ、よっすぃー!」




297 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時48分53秒




 fin.






298 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時50分09秒
----------
更新終了です。

中途半端かも知れませんが、作品としてはここで終わらせたいと思います。
この後の事はご自分でご想像下さい(w
299 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時50分45秒

>283名無し娘。さん
いつも有難う御座います。
あの人…僕自身の娘。歴が浅い事もあって知らない事が多すぎる為、
現在視点であの人は出さない事を決めてたんです。
もしご期待頂いてたらごめんなさい。
300 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時51分23秒
お礼申上げついでにラスト隠し。

今までお付き合い頂いた皆様、本当に有難う御座いました。
ここでもう一度御礼申上げます。
301 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時51分48秒
本当はスレもまだ容量が余ってますし、吉後を中心に短編なんかを
細々とやって行こうかなー等と考えていたんですが。
二人の娘。卒業ニュースを見てマジで凹んでしまいまして…。
今後は一応未定、です。
302 名前:シューヤ 投稿日:2002年07月31日(水)23時52分23秒
色々ありましたが、一応これでこの作品は完結、です。
ご意見・感想等、何でも書き込んで頂ければ嬉しいです。
303 名前:すなふきん 投稿日:2002年08月02日(金)19時54分33秒
本当にお疲れさまでした。
終わり方が特徴的で、すごく自分好みだなぁと。
段々心を開いていく後藤さん、微笑ましかったです。

後藤・保田。
2人の卒業。
自分には、今後の更なる飛躍を願うのみです。
304 名前:名無し娘。 投稿日:2002年08月02日(金)21時05分56秒
後藤・保田の脱退発表に凹んでいたところ、この作品が終わっていることに
またショックを受けました(w
でも希望のある終わり方でよかったです。前向きな吉澤が好感持てますね。
急かすようで悪いですが、是非新たな作品にも期待しています!(出来ればヨシゴマで)

後藤が最後までちょっとひねくれてて可愛かった……
305 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)12時18分18秒
レス返し&近況報告をば。


>303すなふきんさん
有難う御座います。
この話は吉後より、後藤さんの成長の方がどちらかと言えばメインだったので、
そう言って頂けると本当に嬉しいです。

両名の今後の更なる発展を。僕も祈っております。

>304名無し娘。さん
毎回レス頂いて本当に有難う御座います。
最後はこうしようと結構前から決めていて、こういう形になりました。
ヒネた後藤さんとポジティブな吉澤さんが今回のテーマです(w

新作、密かに(?)始めました。違う板ですが。
このスレの残りでも短編を書きたいと思います。勿論、吉後でv
306 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)12時21分45秒
後藤さんと保田さんの卒業が発表された訳ですが、
僕は変わらず吉後を書いていきたいと思います。
此処も容量が余ってるのでアンリアルの短編か中編などを。

個人HPも持ってます。アドレスはメール欄に。
リアルの吉後を中心に、矢安・保石・小高等。
趣味に走ってますが宜しかったら是非お越し下さいませ。
307 名前:カム 投稿日:2002年08月07日(水)04時27分22秒

レスが遅くなってすみませんでした(汗。

完結おめでとうございます!
こういう余韻のあるラスト、自分は好きです(w
今回の件は自分もひどくショックですが、
それをバネに更なる吉後萌え小説が書けるように邁進するつもりです。
アンリアル短編・中編、期待してますよ〜!
308 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月09日(金)23時59分55秒



「やったー、イチバン乗りっ」

嬌声をあげてごっちんが駆け出す。


「あっ、ズルイよごっつぁん、ヤグチも!!」

つられるように走り出した矢口さんと、
滑るから危ないよ、なんて諭しながらも後をついてく安倍さん。




「よっすぃー、早くー」


先を行くごっちんに楽しげにパタパタと手を振られて、
小さくため息をついてその背中を追いかけた。




309 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時00分38秒



「やっほーぃ!!」

矢口さんの高い声と共に、派手な水しぶき。

「やっほーぃ!!」

その真似をして飛び込むごっちん。
うきわで浮かんだ安倍さんの周りで、楽しそうに戯れている。

そしてあたしはそんなお子様(矢口さんも安倍さんも年上だけど…)たちの
おもり役。


ホントだったらごっちんとふたりでくる筈だったんだけどなぁ…。




310 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時01分10秒



『プール? 行く行くー♪』


事前から準備しておいたチケットを手に。
学校の近くのプールへデートのお誘い。


愛しのごっちんは二つ返事で承諾。
万事は上手く行ったように思えた。




――が。




311 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時01分47秒



『よっすぃー! プール行くんだって?』

『え、ホント!? なっちも行きたいよー』


どこで聞いてたのか、1コ上でごっちんのルームメイトである
矢口さんが廊下で飛びついてきて。
その背後にはいつも一緒の安倍さんがもれなくついてきて。

嬉しそうに期待に目を輝かせる矢口さん(と安倍さん)を断れる筈がない。


かくしてあたしの“ごっちんとふたり★プールでデート作戦”は、
あっけなく崩れ去った。




312 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時02分24秒



ぼけーっとこれまでの経緯を回想していたら、
不意に足元をすくわれて一気に水中に沈んだ。



慌てて蹴上がろうとしたら肩に重みがかかって。
薄く目を開けた先には穏やかに漂う茶色の髪。


(ごっちん…)




やり返してやろうと腕を伸ばしたら、反対に腕を引き寄せられて。


そして――――。










313 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時02分53秒



ザバリと水面から顔を出すと、一緒についてきたごっちんも
髪を後ろへおいやって正面から飛びついてくる。


「よっすぃー♪」

「ご、ごっち」

驚きと酸素不足から軽くむせてるあたしを目を細めて楽しそうに見つめながら。




「あたしがやぐっつぁんたちとばっかり遊んでるから不満?」

「ばっ…」




314 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時03分34秒



思わず口元を手の甲でおおう。
さっきのキスの余韻が、まだ唇にあった。


「そんなんじゃないよっ」

「図星でしょー? よっすぃー顔真っ赤だよ」


うつむいて視線を落とした水面に、ゆらゆら揺れるあたしの顔が映る。
これでも分かるくらいなんだから、きっと実際はホントに真っ赤なんだろう。



くすくすと笑い声が聞こえて、不意にごっちんが耳元で囁く。



「今度はふたりで来よーね」



甘い声と共に、顔を少し離して上目遣い。




315 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時04分13秒



ハッと我に返った時にはもうごっちんは傍に居なくて、
矢口さんや安倍さんに混じってビーチボールで遊んでいた。

そのまま後ろ姿を見ていたら、ふと振り返って悪戯っぽく笑みをくれる。


「………」



どうやらまだまだ当分、あたしはごっちんには勝てないらしい。


夏の熱い日差しが水面に反射して、キラキラと眩しく反射していた。
そう、チャンスならまだあるさ。

――夏はこれから。




316 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時05分05秒
----------
吉後短編でした。

>307カムさん
レスありがとうございますv
ご期待に添えたかどうかは疑問ですが、アンリアル短編です。
これからもぼちぼちやっていきますので気が向いたら見てやって下さい。
317 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月10日(土)00時05分47秒
突発で何か書きたかったので背景も構成も何も考えてませんが。
ごとーさんに翻弄されるよしざーさんが好きなので(笑
これからもこういう路線で書いて行くと思われます。

こういうシチュの話が見たい! 等、もし希望ありましたらどうぞ。
なるべくご期待に添えるよう善処します。
カプは吉後でお願いしますー。
318 名前:名無し娘。 投稿日:2002年08月10日(土)23時48分48秒
なんか読んでるだけで涼しそうな感じですね。
やっぱり後藤さんが無邪気に吉澤さんにまとわりつくのが好きみたいです、自分(w

んで、リクしてもいいですかね……?とりあえず、後藤さんが子供泣き(大泣き)して
吉澤さんが困ってオロオロする話とか読んでみたいです。
自分の中で、吉澤さんは困ってるところが好きなんで。曖昧過ぎますか…(w
319 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月11日(日)23時21分43秒
遅ればせながら、「愛の病」完結おめでとうございます。
初レスながら、毎回楽しみに読ませていただきました。
固めのよしごま、ということで微妙に緊張しつつ読んでいたのですが、
爽やかな締め方がとても巧いな、と思います。
短篇も楽しみに待っています。
320 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)13時00分36秒
本日はレス返しのみで。

>318名無し娘。さん
僕も無邪気な後藤さん好きですー。
構ってと言わんばかりに吉澤さんにまとわりつく…v
リクもこんな感じで良いですかねー?
頑張って書かせて頂きます。

>319名無し読者さん
ありがとうございます。
季節を具体的に確定しないまま書き始めてしまって、
描写がいまいちになってしまったかな、と少し後悔しているんですが、
目指してた爽やかさは出せたみたいでホッとしました。
短編も、頑張ります。

雪板で新しい吉後を書き始めました。
お暇があれば、是非探してみて下さい。
リクエスト、引き続き受付中です(w

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