桜の想い出

1 名前:作者です。 投稿日:2002年05月01日(水)00時10分19秒
紫とかで書いてた者です。

これは学園物です。

更新ペースはそんなに早くはありませんが、お暇な方はお立ちよりください。

タイトルセンスは0なんで、読む気を無くすと思いますが・・・。
2 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時12分14秒


 桜が舞い散る。満開の桜が花を落とす。
 
 それは目を引き付けて止まない。

 その舞い散る桜の向こうに

 彼女はいた。


3 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時12分46秒

 新学年が始まる。
 もう慣れてしまった道を、1人歩く。
 今年の桜は早かったのか、風が吹くたびに散って…。
 時間が少し早い事もあって、周りに人はいない。
 少し眩しい朝日を体一杯に受けながら、散り行く花びらに
 手を伸ばした。
 通学路に生え揃う桜の木。
 ハラハラと舞い落ちてくる花びらが前を見て歩くと言う行為を
 邪魔した。

 「キャッ!!」
 不意に何かにぶつかって足が止まる。
 顔を押さえながら前を見ると同じように上を見て立ち尽くしていた
 女性がゆっくり振り返った。
 「ごっごめんなさいっ!!」
 慌てて頭を下げる。

 不意に風が少し強く吹いた。

 桜の花びらが二人の間を舞い踊った。

 金髪についた花びらから目が離せない。

4 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時13分23秒
 「いえ、こちらこそ。大丈夫?」
 私の顔を見て、心配そうに顔を傾ける。
 「あっ、大丈夫です。すみませんでした。」
 私は頭をさげて、再び顔を見た。
 「…じゃぁ。」
 そう言って、道のりを進んで行ったその後ろ姿を、
 私は忘れる事ができなかった。
 
 「2−Aか。」
 靴箱の前の掲示板に張られた新しいクラス割を見る。
 そのまま、タンタンと小さく聞こえる足音と共に階段を上がる。
 そのまま教室には行かずに自販機へ向かう。
 まだ時間があった。
 ホット紅茶を買ってベンチに座る。
 何気なく目線をずらすと、新入生らしい影が懐かしい教室の前に
 チラホラと見えた。
 
 期待に胸を膨らませて入った高校。
 そんな事もあったな、と1人紅茶に口をつけた。

5 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時15分13秒
 「あっ矢口!また同じだよっ!」
 教室に向かうと既に大半の生徒が来ていた。
 「おはよっ、紗耶香。」
 黒板に張られた名簿の席を確認して荷物を置く。
 「なんだよぉ、うれしくないの?」
 少し頬を膨らませて、それでもまたうれしそうに、
 私の前の席に座った。
 「うれしいに決まってんじゃん。他誰かいるの?」

 去年からのつきあいの市井紗耶香。
 行動を大抵共にとっている。なんでも話せて、なんでも話してくれる
 この学校の一番の親友といっても過言ではない。
 
 「何?見てないの?仕方が無いなぁ、矢口は。」
 つまらなさそうに紗耶香は私を見た。
 「市井は先輩とかのもだいたい全部チェックいれたのにさ。」
 「紗耶香がそうするだろうって思ってさ。矢口に教えてくれるでしょ?」
 当たり前のようにそう私が言うと、紗耶香は笑って私を見ていた。

 始業式が始まる。
 講堂へダラダラと移動する。
 担任が誰か、私の学校は式が始まるまではわからないのだ。
6 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時15分55秒
 「椅子ぐらい用意してろっての!ねぇ。」
 紗耶香が隣でブツブツと文句を言っている。
 「片付けるのに当たったら最悪じゃん。まっここでもたれてようよ。」
 壁にもたれたまま、窓の外を見た。
 
 桜が綺麗に見える。
 私の頭に金髪の女性が浮かぶ。
 
 桜の中の彼女は…。

 「矢口!紗耶香!!」
 元気のいい声が聞こえてきて、考えるのを止める。
 「なっち!おはよ。」
 「おはよぉ。」
 ニコニコと手を振りながら、安倍なつみ先輩が近づいてくる。
 先輩なんて呼ばないくらい仲が良いのだけれど。
 「今年は誰が担任なんだろうね。」
 私の隣の壁に背をあてて呟く。
 「誰だっていいよ。関係ないし。」
 「まっね。誰だって同じだよ。市井らにとっては。
  ただ根性ある方が面白い…かな?」
 
 去年、私達のクラスは、担任が3人も変わった。
7 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時16分36秒
 「新任も2人くらい入ってくるらしいよ。まっホドホドにね。」
 なっちはそう言って笑った。
 「なっち!あっ紗耶香に矢口!おはよう。」
 3年の列から一際背の高い女性が駆け寄ってきた。
 「カオリ〜。おっはよ〜。」
 紗耶香が手を振って迎える。
 「おはよっ。またなっちと同じクラスなの?」
 私がそう聞くと、うん、と笑ってなっちを見た。
 「これで3年間一緒だね。」

 そうこう喋ってる内にマイクの耳障りな音が講堂に響き渡る。
 私達はその場にいたまま始業式の開始を聞いた。
 
 次々に各担任が発表される。
 「…2−A 平家みちよ。」
 私達の担任だ。歴史を教えている先生。
 「なんだ、みっちゃんかぁ。」
 少し残念そうに紗耶香が呟く。
 「いいじゃん。他の先生よりマシでしょ?堅くないしさ。」
 椅子に座っている担任をチラッと見て私は笑った。
 「いいじゃん、みっちゃん。なっちのとこは誰だろうね?」
 なっちは隣で自分のクラスの担任の名を待ちわびていた。
 「…3−D 中澤裕子。」
8 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時17分06秒
 「…誰?矢口知らないや。」
 「市井も知らない。」
 「新任かな?まっ3年にもなったらあんまりクラス関係ないからね。」
 カオリがそう言ってあくびをした。
 
 私も関係ないと思っていた。

 彼女を見るまでは。

 マイクの前に現れたのは金髪の…

 桜並木で出会ったアノ女性だった。

 「3年Dクラスを受け持つ事になった、中澤裕子です。よろしく。」
 そう短く挨拶し、さっさと自分の席に戻って行く女性。
 私は目を離せなかった。
 「ふーん。じゃ、行こうか。」
 紗耶香が興味無さげにドアを開ける。
 私達4人は、まだ始業式は終わってなかったのだけど、講堂を後にした。
 
 私は最後にもう1度彼女を見た。
 閉まって行くドアの隙間から見えた彼女はじっとこっちを
 見ていたような気がした。

 それはきっと気のせいだろうけど。


9 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時18分40秒
 「あ〜お腹空いた…。」
 屋上に出て柵にもたれる。
 「紗耶香、そればっかじゃん。」
 「今日ってもう終わりだよね。終わったらみんなで何か食べに行こっか?」
 もう皆は先生の事なんか気にしていなかった。
 私は下に広がる景色を眺めながら今朝の彼女を思い返していた。
 ここの先生だったのか…。

 チャイムの音ですぐにそれは遮られたけれど。

 「じゃ、終わったら電話するよ。」
 「うん。それじゃぁね。」
 それぞれのクラスに戻って行く。
 「みっちゃんだったらさっさと終わるよね。何食べに行く?」
 「矢口はなんでもいいよ。」
 適当にお喋りをしながら教室に向かう。
 皆抜け出ていたのだろう。
 クラスメイトと思われる生徒が私達と同じようにチャイムの音にひかれて
 教室に戻ってきていた。

 「このクラスの担任の平家です。まぁ、1年よろしく。」
 そう自己紹介をすると、明日からの予定を説明して予想通りさっさと
 ホームルームを終えた。
 
10 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時19分12秒
 「あっ今日も掃除せなあかんらしいから、名簿の1から7の人頼むね。」
 紗耶香はその内に入っていたんだけど、気にする事もなく
 私の席に早々と荷物を持ってやってきた。
 「あっ電話すんね。」
 携帯を取り出してなっちにかける。
 数回の呼び出し音の後、声が聞こえた。
 「あっもしもし?終わった?」
 けれど聞こえてきた声はなっちじゃなかった。
 『あ〜…まだ終わってへんねん。』
 一瞬何がなんだかわからなくなる。
 「あれ?なっち?」
 『なっち?ちゃうで。今から代わるわ。』
 「は?何?」
 『あっもしもし?ごめん、まだ終わってないんだ。またかけるね。』
 なっちの声が聞こえたと思ったら、すぐに電話は切れてしまった。
 「どうしたの?まだだった?」
 紗耶香が不思議そうに私を見ている。
 「…まだ…みたい。」
 私は事態を飲み込めずに、携帯を眺めているしかなかった。
11 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時20分15秒
 「また終わったらかけてくるって。」
 そう紗耶香に伝えた時、みっちゃんが近寄ってくるのが見えた。
 「矢口さん、ちょっと手伝ってくれへん?市井さんは掃除やで。」
 紗耶香は適当に返事をして他の友達の所へ行った。
 「何ですか?」
 私はしかたなく席を立って後について行った。
  みっちゃんの荷物の半分を持って一緒に職員室に向かう。
 「ごめんな、こんな用事させて。」
 「別にいいですよ。まだ時間あるし。」
 職員室のみっちゃんの机の前まで持って行く。
 「はぁ、ありがとう。助かったわ。」
 「いえ、いいですけど。」
 「そんじゃ、また明日ね。」
 適当に言葉を交わして部屋を出る。
 ドアを開けた時だった。
 
12 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月01日(水)00時20分53秒
 「あっ。」
 思わず口に出してしまった。
 「?あぁ、朝の子?」
 あの女性だった。
 私を覚えていたらしい。
 「あぁ、そうです。」
 「…桜好きなん?」
 突然の質問。
 「えぇ、まぁ。」
 「そっか。これからは前も見やぁ。」
 関西弁。
 それに電話から聞こえてきた声。
 私は呆然と顔を見つめていた。
 「?何?」
 柔らかい表情でそう聞いてきた彼女の顔を何故か私は見てられなかった。
 「いえ、別に。失礼します。」
 私が足早にそこを立ち去ろうとした時、もう1度声が聞こえてきた。
 「式はちゃんと最後まででぇや。それと電話は外で使うように。」
 私が振り返った時、先生はもう職員室の中に入ってしまっていた。

13 名前:とみこ 投稿日:2002年05月01日(水)16時31分23秒
やぐちゅーですね!でもなっちと裕ちゃんの関係も気になりますです。
同じ板に書いてるもの同士、がんばりましょう!
14 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月01日(水)20時28分34秒
新スレ、ありがとうございます。
どんな学園ものになるのかめっちゃ楽しみです。
15 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年05月02日(木)03時41分58秒
これからの展開が楽しみです(W
16 名前:バンザイ! 投稿日:2002年05月02日(木)14時16分50秒
新スレ、おめでとうございます。
楽しみです。
17 名前:読んでる人 投稿日:2002年05月02日(木)15時57分05秒
作者です。さんの新作キタ━━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━━ッ!!
明学矢中安が今後どのように展開していくのか、とても楽しみです♪
18 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月03日(金)00時34分58秒
あぶねぇあぶねぇ、乗り遅れるところだった。
新スレおめでとうございます\(^▽^)/
姐さん、相変わらずカッケーっス!
続き期待しています!!
19 名前:作者です。 投稿日:2002年05月04日(土)02時37分01秒
レスありがとうございます。

>>13 とみこさん。
読ませていただきました!同じ板で、お互いがんばりましょう。

>>14 名無し読者さん。
お気にいっていただける学園物になればいいんですが…
マターリ更新ですが、また覗いてみてください。

>>15 やぐちゅー中毒者セーラムさん。
前のように痛い展開にはしないようにがんばります。

>>16 バンザイ!さん。
また読んでやってください。更新は遅いっすけど…。

>>17 読んでる人さん。
狩までも読んでくださり…いつも本当にありがとうございます。
ちょっとなんだか暗めなんですが、ちゃんと明るくしていこうと
思ってますので!

>>18 梨華っちさいこ〜さん。
裕ちゃんをかっこよく、そして明るく…
出だしの暗さに少々自分でびびってます。

皆さん、本当にレスありがとうございました。
それでは更新です。
20 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時37分46秒
 「矢口!!何見てんの?」
 急に後ろから誰かが抱き付いてきた。
 誰かって…紗耶香しかいないけれど。
 「いたた!紗耶香ぁ!!」
 私の鞄も持ってきてくれたみたいで、両手が空いていない紗耶香の頭を
 私は叩く振りをした。
 「なっちとカオリ、先下に降りてるってさ。いこっ。」
 私は自分の鞄を受け取って、最後にもう1度職員室を見て、
 紗耶香と並んで階段を降り始めた。
 「あ〜なんかみっちゃんに敬語使うのとか疲れる〜。」
 肩を回しながら言う紗耶香に笑ってしまう。
 はいはい、と適当にあしらって靴を履きかえる。
 「あっあそこにいるよ。なッち達。」
 外の門の所で並んでいるデコボココンビの元に、私達は走った。
 「おっ来た来た。じゃ、行こうか。」
 
 並んで朝通った桜並木を歩く。
 「どこ行く?」
 紗耶香達が店を決めているのを方耳で聞きながら、
 私は朝のように桜に目を奪われていた。
 1年に1回だけ。今しかみれない。
 それに、今はそれだけじゃない。
 この桜がまた…。
21 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時38分31秒
 近くのファーストフード店に入る。
 チラホラと同じ制服の学生を見かける。
 まぁ、今日みたいな日は誰も早く帰ったりはしない。
 それぞれ自分の好きなセットを買って席についた。

 「あっ矢口、ごめんね、さっきは。」
 なっちがポテトを摘みながら謝ってきた。
 「あぁ、あれ先生?」
 「うん、なんかいきなり出てさぁ、なっち超焦ったよ。」
 紗耶香が訳のわからないと言った顔で首をつっこんでくる。
 「なに?なんかあったの?」
 「さっきの矢口の電話さ、うちの担任がでたんだよ。
  結構皆びっくりしたよね。」
 カオリが紗耶香に説明してくれている間に私はなっちと話を続けた。
 「大丈夫だったの?」
 「うん。結構堅くない先生っぽかったよ。電話も別に怒ってなかったしね。」
 「あれ、相手が矢口だって言った?」
 「えっうんうん、何も。なんか言われたの?」
 なっちが心配そうに私の顔を見る。
 「ううん。何もないよ。それにしても変わってるよね。」
 私は話を変えた。


22 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時39分02秒
 なんであの人はわかったんだろう。
 私がなっちの電話にかけたって。
 あの声が私だって。

 私は凄く不思議で、気になった。
  
 私は他の先生に持たない感情をあの人に持っている。
 
 桜の時から気になって仕方が無い。


 「変な先生だね、中澤だっけ?」
 紗耶香がそう吐き捨てるように言う。
 「まっ変わってるね。多分。」
 相変わらず、何を考えているかわからないような声でカオリもそう言う。
 「そっかなぁ、なっちは結構気にいってるけどね。」
 「え〜、矢口はどう思う?」
 当然振られた会話に、私は…
 「どうでもいいよ。」

 気になって仕方がないのに。
 それを正直に口にだせる程、私は大人じゃなかった。

 結局、それ以上あの人の話題がでる事もなく、
 カラオケに行ったりして遊んだ。



23 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時39分34秒
 「は〜…眠い…。」
 慣れない早起きが足をのろくする。
 眠たくて、桜を見ようとも思わないまま、私は桜並木を歩いていた。
 今日も時間は早く、周りにあまり人はいない。
 あくびをしながら時計を見ると、まだ7時40分。
 「教室で寝よ・・。」
 
 ポンッ

 紗耶香?早くない?
 私は肩に触れた合図で何気なく振り返った。
 「おはよぉ。」
 にこやかな顔をしたあの人がいた。
 「あっ…おはようございます。」
 「いっつも早いんやねぇ。なんか用事あんの?」
 学校で、式で挨拶した時とは全然違う顔をした、職員室で出会った
 あの人がいた。
 「いやっ何も。いつも無意味に早いんです。」
 私は緊張しながら喋った。

 いつのまにか、私達は並んで歩いていた。

 「へぇ〜。何かしてんの?」
 「えっ?何もしてないですけど。」
 いろいろとされるなんでもない質問に答えて行く。
 
 何か、嬉しかった。
24 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時40分05秒
 門の前まで来る。
 「私中澤裕子って言うねん。もしかしたら教える事になるかもしれんし
  覚えといてな。」
 そう言ってあの人は教師用の出入り口に歩いて行った。
 私はその後ろ姿をまた見入っていた。
 「…。」
 姿が見えなくなったので、私も学校に入った。

 昨日のように、自販機で紅茶を買ってベンチに座る。
 今朝の出来事が頭に浮かぶ。
 笑うあの人の横顔が頭から離れなかった。
 
 私は2人で喋った事を、誰にも言わなかった。

 全然隠す必要なんてないんだけど、私は隠していたかったんだ。

 2人だけの秘密って…

25 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時40分40秒
 学校内ですれ違う事も何度かあった。
 私はあの金髪をすぐに、誰よりも先に見つけ出す事ができていた。
 知らず知らずの内に目でその姿を追う。
 すると、いつも視線をこっちに向けて軽く微笑んでくれた。
 隣にはいつも紗耶香がいたから、声をかけたりする事はなかったけど。
 私達は誰にも知らないところでコミュニケーションをとっていた。

 毎朝、桜並木で逢うのが日課になっていた。
 別に何か約束をしたりした訳じゃない。
 同じ時間にそこを通るだけ。
 
 私の1日の楽しみになっていた。

 「もう桜もすっかり散ったなぁ。」
 「そうですね。」
 緊張はするけれど、自然に会話ができるようになってきていた。
 
 でも、私はまだ名前を言っていない。
 私の名前が呼ばれた事はない。
 私も名前を呼んだ事はないんだけれど。

 「これから暑くなるんやろなぁ。嫌やわぁ。」
 「夏嫌いなんですか?」
 「ん?うん。あんまり好きちゃうなぁ。…好きなん?」
 「夏が一番好きです。」

 本当に、なんでもない会話。
 だけど、少しずつ少しずつ、私は彼女を知っていった。
26 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時41分14秒
 「学校で、あんまり笑ってないよなぁ?」
 ある時、彼女の話で笑っている時、急にそう呟いた。
 「え?」
 「いや、たまに見かけるけど、今みたいな顔してる時少ないなぁって思って。」
 「そうですか?」
 「まっ仲良くなれたって事かな。笑ってた方がかわいいで。」
 私は下を向いた。
 顔が赤くなって行くのがわかったから。
 「そうや、なぁなぁ、私の事呼んだ事ないよな。」
 「え?あぁ、そうでしたっけ?」
 意識的に呼んでなかったのだけど、私はとぼけたふりをした。
 「どうせなら裕ちゃんって呼んでや。まわりにはそう呼ばれてるし。」
 「え?無理ですよ!」
 「もう敬語もやめてえや。学校内ならあれやけど、今は外やんか。
  私もめちゃ普通に喋ってるし。なんか先生とか呼ばれるのむず痒いねん。」
 背中が痒いようなしぐさをする。
 
 その日から、私は裕ちゃんと呼ぶようになった。
 
 誰もそうは呼んでいない。
 私だけがそう呼んでいた。
 学校内では喋らないから呼ばないけど、
 毎朝、私は彼女を裕ちゃんと呼んだ。

27 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時41分51秒
 「あっなっち!!」
 授業の移動中、なっちを見かけた私と紗耶香は近づいていく。
 「おっ移動?」
 近くにいた友達と別れて近づいてくる。
 「うん。生物室だってさ。」
 「へ〜。じゃぁ、中澤先生いるかもよ?」
 「えっ中澤って生物教えてるの?そういえば知らなかったな。」
 紗耶香がそう言って私を見た。
 「どうなの?担任は。」
 なっちにそう聞く。
 「え?あぁ、別に。普通だよ。なっち的にはいいかんじ。」
 「あっそうなんだ。でも恐いよね。あの人。」
 あの風体からか、結構生徒に恐がられている所があった。
 関西弁で、金髪。
 目つきもそんなに良くないので知らない生徒は恐がっていた。
 「そう?実際は全然恐くないけどね。」
 なっちは結構裕ちゃんと仲がいいみたいだった。
 紗耶香はそんなに好きじゃないみたいで、普段すれ違っても見もしない。

 まぁ、紗耶香は先生という存在自体が嫌いなんだけど。

 生物室に行って席に座る。
 他の生徒と適当に喋っていると、奥から裕ちゃんが出てきた。
 
28 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時42分36秒
 初めての授業。
 何か緊張した。
 裕ちゃんは一瞬私をちらっと見たが、すぐに名簿に目を落とし、
 出席をつけはじめた。
 「はぁ、生物って何すんの?」
 隣で紗耶香が眠そうに教科書をめくる。
 「さぁ、理科系苦手なんだよね…。」
 私はそんな紗耶香と喋りながら、チラチラ裕ちゃんに目をやった。
 「市井さん。」
 裕ちゃんが紗耶香を呼ぶ。
 「はーい。」
 少し手を挙げて返事をする。
 そのまま出席を取り続け私の名前が呼ばれる時が来た。
 「矢口さん。」
 「はい。」
 裕ちゃんと一瞬だけ視線が絡む。
 
 私は初めて裕ちゃんに名前を呼ばれた。

 相変わらず朝の日課は続いていたけど、名前を言うタイミングは
 いつのまにかなくなっていたから。
29 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時43分10秒
 「えー、今日は私が授業を担当します。今年から入った中澤裕子です。
  これからも教える事があると思いますので覚えといてください。」
 
 そう短く自己紹介をすると教科書を開く。

 「ん?何?矢口、授業聞くの?」
 隣の紗耶香が教科書を開いた矢口を驚いた顔をして見る。
 「生物とかまったくわかんないんだよね。聞いててわかんなかったら
  すぐやめるけど。」
 「ふーん。わかったら教えてね。」
 そう言って紗耶香は寝る態勢になってしまった。
 私は何が何だか何もわからない教科書から目を離して裕ちゃんを見た。
 
 ちゃんと聞いたからなのか?
 それだけじゃないと思う。
 裕ちゃんの授業はすごくわかりやすかった。
 
 チャイムの音で紗耶香が起きる。
 「ん〜…どう?わかった?」
 あくびをしながら私のノートを見る。
 「結構。わかりやすかったよ。」
 「へぇ、理科嫌いの矢口がそう言うんだったらわかりやすいんだろね。」
 私達は立ち上がって出入り口に向かった。
 裕ちゃんは黒板を消している所だった。
30 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月04日(土)02時43分40秒
 学校で喋らないのは結構つらいかもしれない。

 いつのまにか、私はずっと裕ちゃんと一緒に居たいと感じる様に
 なってきていた。

 朝だけじゃ満足できない自分がいる。

 それでも、私はそんな事は口にできなかった。
 
 だって、私は、私達のクラスは、
 去年先生を3人も辞めさせている、問題のあるクラスなんだから。

 

31 名前:読んでる人 投稿日:2002年05月04日(土)10時35分32秒
中澤を気に入ってる、なっち。
中澤に特別な感情を抱き始めている矢口。
痛めの展開を期待してしまう自分は、他の読者さんと少し感覚が違うんだろうな・・・。

しかし、3人も教師を辞めさせたなんて・・・いったい何が!?
32 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月06日(月)13時21分46秒
姐さん科学の先生ですか(w
白衣が・・・(w
ごくせんの影響なんですか?
33 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月09日(木)00時58分25秒
市井ちゃん悪い子だな〜。
こっちの方も結構気になりますね。
34 名前:ヤグチュ〜みっちゅ〜狂患者 投稿日:2002年05月12日(日)00時59分03秒
金髪の裕ちゃんだ〜
今は艶だしチャパツだけど、やっぱり金髪の印象が強いんだね〜
そういや、中澤先生は生物や数学と言った理系が多いね〜
ハア。。。私、理系苦手なんだよね〜。。。。
あ、紹介が遅れたけど風板で裕ちゃんがパイロットの話を書いてま〜す。
ヨロシク!
35 名前:作者です。 投稿日:2002年05月13日(月)23時49分59秒
レスありがとうございます。
更新激遅で申し訳ありません。

>>31 読んでる人さん。
痛め、痛めへと進んでるような気がヒシヒシとしてます。
恐ろしい。でも明るく!!

>>32 名無しさん。
ごくせん白衣ですねぇ。はい、影響ありですねぇ。
家庭科のイメージはないですし、なんとなくこの教科にしました。

>>33 梨華っちさいこ〜さん。
早く暗な内容から明な内容に持っていきたいんですが、
筆が遅くて暗が深まってます。
市井ちゃんもなんとかします。悪い子のままでは…

>>34 ヤグチュ〜みっちゅ〜狂患者さん。
金髪、ショートのイメージが強いですねぇ。
というか、最近の裕ちゃんはごくせんでしか見てないので
イメージが強くないんですよね。金髪の時はよくテレビで見たので。
それに、個人的に金髪時の裕ちゃんが好きなんで。
自分もおもいっきり文系です。生物とかわかりません。
風、読ませてもらってます!
36 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月13日(月)23時50分41秒
 紗耶香を筆頭に、おもしろ半分で若い女の先生を虐めた。
 それはすごく幼稚な事で。
 ボイコットや私語。
 そんな事で若い先生は辞めていった。
 
 何も理由がなかった訳ではない。

 最後はおもしろ半分だったけど、最初はそんな事してなかったんだ。
 むしろ、皆その先生と結構仲がよかったんだ。
 あだ名で呼んで、いろいろ喋って。

 クラスで財布がなくなった子がいた。
 皆で学校中探した。
 でも、先生のあの一言が私達を変えた。

 『誰か盗ったんでしょ?』

 皆信じてたのに。
 先生だけは生徒を信用してなかったんだ。

 それから私達は先生を信用しなくなった。
 
 むしろ嫌いになったんだ。


37 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月13日(月)23時51分26秒
 そんなクラスに私はいる。
 クラス変えなんてほとんど変わってなかった。
 誰もが先生を嫌っていて。

 だから私は裕ちゃんと学校で喋る事ができないんだ。
 
 それは皆を裏切る事になるから。

 あの先生に一番犯人扱いされた紗耶香を裏切る事になるから。

 裕ちゃんを関わらせてはいけない。
 そう思った。

 もう皆を裏切ってるのかもしれないけど、
 私は裕ちゃんが大切なんだ。

 裕ちゃんも、誰かに聞いたんだろう、私のクラスの事を。
 学校内で喋らない事とか他の先生の事とか、
 1度も会話に出さなかった。
 
 朝だけの、それだけの関係を保つしかできないんだ。
38 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月13日(月)23時51分56秒
 「おはよー。」
 朝、いつもの道で会う。
 「おはよ、裕ちゃん。」
 「昨日めっちゃ授業緊張したわ。」
 初めての裕ちゃんの授業。
 皆喋っていて、私以外に聞いてる子は少ない。
 「やりづらかった?」
 そうに決まっている。
 「え?あぁ、矢口の前でやんのとか初めてやったやんかぁ。
  それはちょっとな。」
 少し照れたように頭を掻く。
 「じゃなくて…。」
  私が言わんとする事がわかったのか、あぁ、と言って何度か頷く。
 「別に。高校の授業なんかあんなもんちゃうの?
  ええんちゃう?受験に必要ないんやったら。でも矢口は聞いてくれてたやん。
  受験科目?」
 「いや、まだ何も決めてないから。」
 あっけらかんとした裕ちゃんの答えに戸惑ってしまった。
 「ふーん。聞いてくれてる子は1人はおるからな、
  その子にだけでもわかるように授業してんねん。
  まっ試験悪かったら成績悪くなるだけやしな。で、矢口はわかった?」
39 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月13日(月)23時52分27秒
 「うん。わかりやすかったよ。」
 そう私が答えるとニコニコと裕ちゃんは笑った。
 「そっか、よかったわ。」
 
 それよりも、私はすごく嬉しかった。

 裕ちゃんが、矢口、と呼んでくれていることが。
 
 裕ちゃんだったら皆信用できるのに。
 
 「じゃ、今日も1日がんばりや!」
 校門前でいつも別れる。
 「うん、裕ちゃんもね。」
 そう言って手をふる。

 明日までの別れ。

 同じ空間にいるのに、もう明日までは他人なんだ。

 それがなんだか辛い。

40 名前:桜の想い出 投稿日:2002年05月13日(月)23時53分00秒
 毎日のこの日課が、誰にも見つからない…なんて事はなかった。

 「矢口。先生と朝喋ってたんだって?あの金髪の。」

 朝、教室に入ると紗耶香がそう口を開いた。

 紗耶香の目は怒りを含んでいるかのような目。
 
 それでいて、悲しそうな目だった。


41 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月14日(火)00時54分30秒
あ!!更新だ〜。
待ってました(w
やぐちゅーはやっぱいいですわ(w
42 名前:ヤグチュ〜みっちゅ〜狂患者 投稿日:2002年05月14日(火)21時35分44秒
お〜、更新されてる〜
作者ですさんも、私の話読んでくれたんだ〜
構わないからどんどんカキコで批評しちゃってね〜
なにげに、戦闘機乗りのヤグチュ〜、なんてのも考えちゃおっかな〜
43 名前:とみこ 投稿日:2002年05月15日(水)12時57分01秒
やんっ市井さん怖いわ〜っっ
やぐちゅーいいっすねぇ!!!
44 名前:読んでる人 投稿日:2002年05月15日(水)14時27分21秒
現在は、「明学矢中安」というより「暗学矢中市」って感じですね。
まあ、自分としては全然問題ないんですけどね。
45 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年05月16日(木)01時35分21秒
裕ちゃんはどうなるんだろう?作者さんがんばれぇー!
46 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月22日(水)16時31分29秒
毎日待ってまーす。(w
47 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月01日(土)19時11分42秒
矢口と裕ちゃんの毎日の日課は
なくなっちゃうのかな。。。
続きが気になる〜〜
48 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月07日(金)03時39分10秒
かなりお気に入りの作品なのですが・・・
復帰こころよりお待ちしています!!
49 名前:作者です。 投稿日:2002年06月12日(水)16時39分05秒
本当に申し訳ございません。
更新0というか完全放置状態になってしまい。。。
PCが死を迎え、家で更新+書き溜めができなくなっていました。
今は大学から書き込んでいます。
諸事情でなかなかPCに向かうことができない毎日で
まったく手をつけることができませんでした。
少し落ち着いたので、遅くはありますが、また更新していきたい
と思っています。また遅く、迷惑がかかるようでしたら
削除依頼も考えています。
放置だけはしないようにと考えていますが。

レスありがとうございます。
更新できるだけ早くしようと思っていますので、
よければまた見てやってください。

失礼しました。
50 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月13日(木)01時48分47秒
パソコンのご不幸、非常に残念です。

放置しないでくれることを期待して、いつまでも待っています。
削除依頼は出さないで。
「作者です」さんのファンなんです。
これからも作品、読ませてください。
お願いします。

51 名前:読んでる人 投稿日:2002年06月13日(木)08時06分54秒
いつまでも待っているので、削除依頼なんて出さないで〜。
52 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年06月14日(金)17時37分14秒
削除依頼は勘弁せてください
いつまでも待ちます
53 名前:作者です。 投稿日:2002年07月02日(火)21時38分15秒
すぐ切れがちなんですが、気合で復活!!5分の命ですが。。。
>>50さん。読んでる人さん。やぐちゅー中毒者セーラムさん。
ありがとうございます。時間がないので簡単レスですみません。

PC強制終了するまでにいけるとこまでUPします!!
急ぐなり!!
54 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月02日(火)21時39分27秒
 「・・・。」

 私は何も言わずに荷物を置いた。
 紗耶香の刺さるような視線を感じながら、
 紗耶香だけじゃない、クラスメートの視線を感じながら、
 私は椅子に座った。

 「矢口!」
 イライラしたような、まるで嘘だと言ってくれというような声で
 紗耶香が叫んだ。

 教室に広がっていたざわつきが消える。

 「うん。喋ってたよ。」
 
 紗耶香の顔を見てそう、私は言った。

 だから見たんだ。

 私の返事を聞くや否や教室を飛び出して行った紗耶香の顔を。

 さっきみた、悲しそうな顔だった。
55 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月02日(火)21時40分06秒
 私は紗耶香を呼びとめる事ができなかった。
 顔が脳裏から離れない。

 「矢口、最低だよ。」
 「忘れたの?」
 
 クラスメートの声が聞こえる。

 でも、こんな事はわかってた。

 あの、桜を一緒に見た時からわかってたんだ。

 それでも私は裕ちゃんから離れられなかったんだ。

 
 「裕・・あの先生は違うの!!」
 私は押し迫る様に聞こえてくる声を跳ね飛ばすようにそう叫び、
 紗耶香の後を追った。

 一番わかって欲しいから。

 裕ちゃんのことを、紗耶香にわかってほしい。

 
 私は屋上に向かった。

 そこに紗耶香はいるだろうから。

56 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月02日(火)21時40分37秒
 「紗耶香!!!!」
 
 屋上に出る扉を開けて叫んだ。
 
 そこで紗耶香は柵にもたれながら空を見ていた。

 「紗耶香!!」
 私の声に何も反応しない紗耶香に近づきながら何度も叫んだ。
 振り返って欲しかった。
 私が傍に行くまでに。

 「違うの!!あの先生は違うんだよ!紗耶香!!」
 両腕を掴んで私と向き合わせる。
 「・・・・何が違うって言うんだよ!」
 心の底から吐き出す様に呟く。
 「今までみたいな、前みたいな先生とは違うの!!」
 必死だった。
 私は必死だった。
 少し息切れをしながら私は紗耶香を見上げた。
 「・・・何が違うって?わかんない!わかんないよ!!!」
 力いっぱい私の腕を振り解いて、そう7叫ぶ紗耶香は
 まるで泣いているみたいだった。
 
 「矢口!!どうしちゃったんだよ?忘れたの?
  市井ら疑われたんだよ?あの人も、最初はよかったよ!!
  でも最後は裏切られたんだ!!」
 
 紗耶香の口から聞こえる声は、力強かったのに
 泣いているみたいに聞こえた。
57 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月02日(火)21時41分17秒
 「もうHR始まるで?」
 
 突然聞こえた裕ちゃんの声。

 私が振り返ったと同時だった、
 紗耶香が駆け寄ったのは。

 「矢口を騙すなよ!!!」
 
 矢口の目に写ったのは、
 裕ちゃんを平手打ちする紗耶香の姿だった。

 ガシャガシャ!!

 裕ちゃんの持っていた本やチョークが落ちる。

 「2度と矢口に近づくな!!!」

 紗耶香の叫び声が屋上にコダマした。


58 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月02日(火)21時41分52秒

 「なっ!!紗耶香!!!」
 私は一瞬あっけに取られたけれど、すぐに2人に駆け寄った。
 
 裕ちゃんは、頬を少し赤くしていたけど、何も無かった様に
 紗耶香を見つめていた。
 紗耶香は少し目線を絡ませてから、走って屋上を出ていった。

 「ゆ、裕ちゃん大丈夫???」
 
 私の問いに答えず、裕ちゃんは落とした物を拾い上げる。

 「ゆ、裕ちゃん・・・。」
 
 「大丈夫。HR…始まるから行こか。」

 拾い上げた本などを確認しながら
 そうとだけ呟くと、私の背中を押して屋上をでた。

 「私ももうHRやわ。じゃぁね。」
 
 そう言って裕ちゃんは歩いて行った。
 

 裕ちゃんは1度も私の目を見てくれなかった。

59 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月02日(火)21時42分31秒
 教室に帰るとすでにHRが始まっていた。
 先生の視線とクラスメートの視線を一気に浴びる。
 そんなことは構わず、私は席に座った。

 紗耶香はずっと窓の外を見ていた。

 
 その日、結局1日中紗耶香は私の傍には来なかった。
 他の子とはまるでいつものような会話を交わしているのか、
 笑い声が聞こえて来たりした。

 他のクラスメートの視線を感じる。

 いつも一緒にいたから。

 でも誰もその事について触れない。

 私は1人だった。
 けれどそんなことはどうでもよかった。

 裕ちゃんの事が気になって仕方がなかったから。

 放課後、私は急いで裕ちゃんの教室に行った。
 なっちやカオリのクラスに。

 「あれ?矢口じゃん。」
 教室を覗くとなっちが笑ってこっちを見ていた。

 裕ちゃんはいない。


60 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月02日(火)21時43分15秒
 「どうしたの?あれ?1人?」
 鞄を持ってやってきた。
 「うん、なっちも1人なの?」
 「あれ?カオリに用?今ねぇ、担任に呼ばれて職員室行ってるよ。」
 「いや、用じゃなかったんだけど。そっかぁ。」
 職員室に行ってしまったのなら仕方がない。
 明日の朝でいいか。謝るのは。
 「矢口もう帰る?じゃぁ一緒に帰ろうよ。」
 なっちがニコニコ笑いながらそう言うので、
 私は帰る事にした。
 
 紗耶香を誘う事もなく、
 私達は2人で帰った。

 私は帰り道にいろいろと裕ちゃんのことを聞いていた。
 
 「んーなんかねぇ、悪くないよ。意外と面倒見いいしね。
  カオリも進路の事で呼ばれたんだと思うし。芸大としか
  考えてないみたいだからね、あの子は。なっち的には
  そんなに悪くないかな。まっ文系だから授業はノータッチだけど。」
 
 裕ちゃんはやっぱりいい先生なんだ、なっちの話は私にそう確信させた。

 次の日、謝ろう、説明しよう、そう決めて家をでた。
 
 けれど、裕ちゃんは来なかった。

 遅刻ギリギリまでいつもの道で待っていたけど、裕ちゃんは来なかった。

61 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)00時19分18秒
更新ありがとうございます。
楽しみに待っていますので、PCに負けずに頑張って下さい。
62 名前:名無し愛読者 投稿日:2002年07月03日(水)02時40分16秒
待ってました(w
よかった・・・削除依頼されなくて。
作者です。さんの作品大ファンです。
痛めの小説待ってまーす。
63 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月03日(水)03時06分08秒
お帰りなさい。
復活???ありがとうです。
気合で更新お願いします(w
64 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月06日(土)02時21分49秒
放置と思ってたら・・・復活(w
めちゃくちゃ嬉しいなり〜。
65 名前:作者です。 投稿日:2002年07月06日(土)22時16分25秒
どうやらたまに5分弱は接続できる模様。
生きている間にチビチビいきます。

>>61 名無しさん。
PCに負けず、がんばりますのでたまにの更新ですが
またみてやってください。

>>62 名無し愛読者さん。
削除依頼は出きる限りしないように思ってます。
変な言言ってすみませんでした。
痛い作品。。。そうなんです、明るいのを書くはずだったのに。。。
ファンだなんて恐れ多い。。アリガタヤ アリガタヤ

>>63 名無し読者さん。
ただいまです。気合で復活更新していきます。
気合のみでやってます。

>>64 名無し読者さん。
完全放置はしないように最善を尽くすつもりです。
放置していてすみませんでした。

66 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月06日(土)22時17分05秒
 教室に遅刻ギリギリで滑り込んだ。
 今まで1度もこんな事がなかったから、
 担任が少し不思議そうに私を一瞬見て、HRを始めた。
 少し息を切らしながら席に座ると
 紗耶香と目があった。
 すぐに紗耶香は目をそらしたけれど、その目はきつく感じられた。

 どうして裕ちゃんは来なかったんだろう。
 裕ちゃん、遅刻したのかな?
 それとも用があって早くきたのかな?

 なんにせよ、連絡をとるずべはなく、自分勝手な想像をする事しか
 私にはできなかった。

 不意に背中をつつかれ、手紙が回ってきた。
 紗耶香から。
 いつもの見なれた紙が適当に折られている。
 私はタンタンと授業をしている声をよそに
 手紙を開いた。

 『なんで今日は遅かったの?まぁ、いいけど。
  許さないから。あいつ。』

 ガタ!!

 「ん?矢口さん?どうかしました?」
 「いえ、なんでもないです。」

 振り返った私の目に入ったのは昔と同じ目をした紗耶香。

 先生の声が聞こえると知らぬふりをして外を眺めていた。

67 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月06日(土)22時17分38秒
 『関係ないよ!あの先生は。勘違いしないで!
  矢口は騙されてなんかないし。矢口が勝手にしただけだし。』

 そう、紗耶香の文字の後に書くと、私は手紙を回した。

 紗耶香に神経を集中させる。
 カサ、と紙を開く音がして、…それから、
 何も聞こえては来なかった。

 私は振り返れなかった。

 紗耶香の怒りが感じられたから。

 
 不幸なことに、今日、また生物の授業がある。
 裕ちゃんはまだ代わりを務めているんだろうか?
 いつもなら、今までなら、喜ばしい事だったんだけど、
 今日はいやだった。

 裕ちゃんの顔は見たい。
 けれど、
 このクラスで授業を、紗耶香の前で授業をして欲しくはなかった。

 また、始まってしまう。

 私は誰よりも先に生物室に向かった。

 向かったつもりだったけど、そこには紗耶香がいた。
68 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月06日(土)22時18分21秒
 「あっ矢口。どうしたの?早いね。」
 笑いながら私を見る。でも目は笑っていない。
 「紗耶香こそ・・・。」
 「ちょっとね、準備があったから。」
 「準備って?」
 そう聞く私に、紗耶香はまるで子供のような満面の笑みを見せて言った。
 
 「先公イジメに決まってるじゃん。」

 「もう皆には言ってあるし、誰も反対する子なんていなかったし。
  わかった?」
 紗耶香は小さい風船を膨らましながら笑っていた。
 「な、なんで?矢口のせい?」
 「違うよ。矢口は悪くないって知ってるよ。市井と矢口の仲じゃん。
  でも、だからだよ。」
 机の横に備え付けられている蛇口をひねりながら紗耶香は呟いた。
 「矢口を騙すなんて許せない。」
 風船に水が入る音がコポコポと聞こえた。
 「騙されてなんか…。」
 「市井が疑われた時、一番に先生に向かって行ってくれたよね、矢口。
  あの時本当に嬉しかった。それで、2度と先生を信じないって誓ったよね。
  そんな矢口がこうなってるなんて、騙されてるとしか考えられない。」
 キュキュと音をさせて、水風船を作り上げた。
69 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月06日(土)22時18分53秒
 「違う!!!」
 私は叫んだ。裕ちゃんはそんなんじゃない!!
 私が!私が!!
 「何が違うの?」
 紗耶香の問いに何も言えなかった。

 矢口は裕ちゃんが好きなんだ。

 そんな言葉を、私は口にする事ができなかった。

 廊下が騒がしくなってクラスメートがやってきた。
 紗耶香はうれしそうに、今まで作っていた風船を
 配っていた。
 クラスメートも笑いながらそれを受け取っていた。

 裕ちゃんに投げ付けるために。

 でも、私はそれを黙って見ていることしかできないんだ。
 私には何もできない。
 この教室を出ることも。

 隣で笑いながら喋っている紗耶香の声を聞きながら、
 私は奥の扉を開けるのが、裕ちゃんじゃない事だけを
 願い続けていた。

 私は紗耶香には逆らえない。


70 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月06日(土)22時19分29秒
 ガチャ
 ドアが開いて入ってきたのは、黒のスーツを着た、
 今日初めて見れた裕ちゃんだった。

 「授業を始めます。」
 裕ちゃんは名簿を見ながらそういうと名前を呼び始めた。
 まだ矢口を見てはいない。
 「市井さん。」
 「はーーーーい。」
 ニヤニヤと笑いながら紗耶香が返事をする。
 裕ちゃんは特に目をやる事もなく、すっと名簿に視線を落としていた。
 「矢口さん。」
 「はい。」
 裕ちゃんに名を呼ばれ、返事をした。
 けれど、裕ちゃんは私を見てはくれなかった。
 クラスメートの終わらないお喋りの雑音の中で、私は裕ちゃんを
 見つめ続けていた。

 「…じゃぁ、教科書開いてください。」
 ザワザワザワ
 誰も裕ちゃんを見ていない。聞いていない。
 隣で紗耶香はまだ水風船を作っていた。
 「…静かにしなさい。」
 ザワザワザワ
 笑い声交じりの騒音が続いたままだった。


71 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月06日(土)22時20分04秒
 裕ちゃんはあまり表情を変えずに、生徒を見渡していた。
 決して矢口の方は見なかったけれど。
 「そろそろかな。」
 隣で紗耶香がそう呟くと、作り貯めた水風船の1つを黒板に
 向かって投げた。
 ビシャッと音がして黒板が濃く染まる。
 裕ちゃんは表情を変えずにその黒板を見た。
 「黒板が汚くて見えませーん。」
 ザワついた教室中から水風船が飛び散る。
 裕ちゃんを省いた背後の黒板が水で染まり出す。
 「そこも汚い〜!」
 紗耶香が投げ付けた水風船は裕ちゃんの肩に当たって弾けた。
 「裕ちゃん!!!」
 私はそう叫んで立ち上がったけれど、一斉に飛びだした
 水風船が裕ちゃんに当たる音と、クラスメートの笑い声で
 消されてしまった。
 
 裕ちゃんは立っていた。
 何も言わず、髪から落ちる水をふき取ろうともせずに、
 ただ立っていた。

72 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月06日(土)22時20分47秒
 「意外な反応だな。」
 隣でそう呟いた紗耶香の1人言が耳に入った。
 「もう、やめてよ!!」
 私は紗耶香にそう言う事しかできなかった。
 裕ちゃんを見て笑う生徒の声がかき消そうとする。
 
 「なんで?去年は一緒にやったじゃん。」

 私は紗耶香の手を掴んだまま、何も言い返せなかった。
 「じゃ、行こうか?」
 紗耶香はそう言って席を立った。
 「・・・。」
 「矢口!」
 「いかない!!勝手に行ってよ!!」
 「・・・いいから!!」
 私の腕をつかんで立ち上がらせようとした紗耶香を私は思いっきり振り払った。
 そんなことしかできないんだ、私は。

 紗耶香はそんな私を少しの間だけ見て、
 そしてクラスメートと教室を出て行った。

 生物室には矢口と、びしょぬれの裕ちゃんしかいなかった。

 裕ちゃんは皆が出て行ったドアをただ見つめていた。

73 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月06日(土)22時21分32秒

 「…ゆ…裕ちゃん…。」
 私が恐る恐るかけた声にゆっくり反応する。
 「矢口も行った方がええんちゃうの?クラスメート行ったで。」
 
 その口調は優しかった。

 「ごめん!!本当にごめん!!大丈夫?」
 私は裕ちゃんの傍にかけよった。
 ピチャピチャと水が滴る服が、髪が。
 「大丈夫や。なんや、皆行ったから授業できひんな。」
 そう力なく笑うと、教科書を持って奥へ向かった。

 私は裕ちゃんの濡れた背中を見ていた。
 離れたくなかった。
 
 抱き着いて、しがみついていた。
 
 「濡れるで、離れぇ。」
 一瞬驚いた様に体が反応したけど、裕ちゃんはそう言って笑った。
 「嫌だよ!離れたくない!!」
 「なんや?どうしたん?とりあえず、服脱ぐから、な?」
 裕ちゃんは優しく私を引き剥がすと
 スーツを脱ぎ始めた。
 「帰りまでに乾くかなぁ?」
 そう言ってロッカーを漁っている裕ちゃんを
 私は見つめていた。

 言いたい事も、聞きたいことも
 いっぱいあるんだ、裕ちゃん。


74 名前:作者です。 投稿日:2002年07月06日(土)22時22分19秒
あ!!あげちゃいました。
すみません、他の作者の方々。。。。
75 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月07日(日)05時55分44秒
やぐなっちゅーなんですか?
やぐちゅーに見えるけど(w
今からなのかな?
76 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月07日(日)20時52分26秒
裕子頑張れ!
矢口頑張れ!
さやか頑張れ!
続きが読みたい(w
77 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年07月08日(月)02時24分04秒
五分間しか無い中
更新してくださって、本当にありがとうございます(感動)
しっかりと応援させて頂きます
78 名前:読んでる人 投稿日:2002年07月09日(火)21時43分37秒
確か、この作品は「明学矢中安」でしたよね?
あ、でも自分としては、こーゆー雰囲気のが好きなので
このままの雰囲気で突き進んで欲しいです。
79 名前:作者です。 投稿日:2002年07月13日(土)02時51分09秒
>>75 名無し読者さん。
ですよね。全然最初の設定にもとずいてないですよね、コレ。
でもやぐなっちゅーですので!ただ暗いです。。。明るい予定が。。。
おかしいですね、とっても。すみません。。

>>76 名無し読者さん。
そー言っていただけると本当にうれしいです。
更新遅いですがまた読んで見てください。

>>77 やぐちゅー中毒者セーラムさん。
はやくPCどうにかせぇよ!!って話ですよね。
まったく使えません、このPC。ただ、5分間は生きているので
なんとかなりそうです。バスく○見てます。。。オモロイデス。

>>78 読んでる人さん。
確か「明学矢中安」のはずでした。・・・が、書けば書くほど
暗く暗く。。。おかしぃですね。暗さが増して行くなんて。。。
本当にすみません。まだこんな調子でいきそうです…

80 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月13日(土)02時51分47秒
 裕ちゃんがTシャツに着替えているのを見ないように、
 私は部屋を見渡した。
 机とソファーと本棚。
 あとは人体模型が端の方で笑っているくらいだった。
 少し開いた窓からの風で笑っているようにカタカタと小さくなっていた。
 
 「んで、どうしたん?とりあえずクラスに帰ったほうがええんとちゃう?
  皆帰ったやろ?」
 私にソファーに座る様に勧めて、裕ちゃんは椅子に座った。
 ギシッと軋む音が部屋に響く。
 「あっ、そう。昨日はごめんなさい!!紗耶香がぶって。」
 少し捲し立てるように話す。
 「なんや、そんな事かいな。ええねん。別に気にしてないし。」
 「それだけじゃなくて…。」
 ん?と裕ちゃんが私を見る。
 「あっ…。」

 どうして今朝来なかったの?

 聞きたいけど、口から言葉がでない。
 「どうしたん?」
 怪訝そうに私を見る。
 「き、今日・・・。」
 裕ちゃんは黙って私の言葉を待っていた。
 「み、みんなが変な事してごめんなさい。」
 聞けなかった。
81 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月13日(土)02時52分24秒
 「ん?あぁ、うん。」
 濡れた髪を触りながら裕ちゃんは私から目線を変えた。
 「まっええよ。濡れただけやしな。」
 そう言うと、裕ちゃんは立ち上がって外を眺めていた。
 「矢口、次も授業やろ?はよ教室戻ったほうがええで。
 そろそろチャイムも鳴るやろうし。私も次の用意するわ。」

 私は立ち上がった。
 「うん、わかった。それじゃまたね。」
 また明日いつもの場所で。
 裕ちゃんはこの意味がわかったのか、振り返って微笑んでくれた。
 また、外をすぐに眺めていたけれど。

 私は裕ちゃんの部屋を出て、教室に戻った。
 このままじゃ、いつまでも裕ちゃんが標的のままだ。

 「紗耶香。」
 私は真っ先に紗耶香のところへ行った。
 「ん?何?」
 外を見つめたまま返事を返す。
 「話あるんだ。放課後空いてる?」
 
 「空いてるよ。」
 
 そう言って紗耶香はニッコリ微笑んだ。
82 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月13日(土)02時53分02秒
 生物室。中澤は窓辺に立っていた。
 
 部屋から矢口は出て行った。
 背後で閉まるのを確認してから振り返る。
 さっきまでそこに座っていた矢口。

 「…まさかな。…。」
 ため息を漏らして再び空を見上げる。
 「こうゆうやつやったんか。」
 フッと軽く微笑むと、中澤は次の授業の準備をし始めていた。

83 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月13日(土)02時53分37秒
 紗耶香と並んで廊下を歩く。
 2人とも何も言わずに。
 
 「ごめん、ちょっとトイレ行っていい?」
 紗耶香がそう言って離れたので私は壁にもたれていた。
 
 「先生ー!!」
 あれ?なっちの声だ。
 私が声のした方を見ると、なっちが走って追いかけていた。
 裕ちゃんを。
 2人の背中を見つめる。
 裕ちゃんがなっちの声に気がついて振り返る。
 なっちが手にしていたプリントを裕ちゃんに笑いながら渡す。
 裕ちゃんも微笑みながらそれを受け取ると、
 2人は仲良く喋りながら廊下を曲がって行った。

 「お待たせ。」
 紗耶香がそう声をかけるまで、私は二人の姿が消えた廊下の先を見つめていた。
 「どしたの?」
 紗耶香が私の視線の先を見る。
 「ううん。なんでもないよ。んじゃ行こうか。」
 私は焦った様にそう言うと、早歩きでその場を離れた。

84 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月13日(土)02時54分15秒
 私達は近くの公園のベンチに並んで座った。
 「で、何?」
 余裕の表情を見せながら紗耶香がそう言葉を発した。
 「今日の事、中澤先生を狙うのはやめて欲しいんだ。」
 「なんで?どうして矢口はあいつをかばうの?
  ってかなんで喋ってんの?」
 信じられないと言った顔で紗耶香はそう吐き捨てた。
 「また先生を信じたりしちゃってんの?」
 公園で遊んでいる子供達の笑い声がむなしく聞こえた。
 「あの人は、そういうのじゃないよ。矢口だって去年の事、
  あいつの事忘れたんじゃない。あいつの事は今でも
  裏切られたし、軽蔑してるよ。」
 ボールを蹴る男の子を見つめながら私はそう言った。
 隣で紗耶香が私の顔を見つめているのが視線の端に見える。
 「だったら!あいつも一緒!皆一緒だよ!」
 紗耶香のその声に1人の子供がこっちを見た。
 けれど、すぐにまた仲間とはしゃぐようにボールを追いかけていた。

 「あの人だけは違う、そう思ったんだ、矢口は。」

 紗耶香は私をずっと見ていた。

85 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月13日(土)02時54分47秒
 「そんなのわかんないよ!」
 紗耶香は立ち上がってそう言うと、どこともなしに歩き出した。
 「市井は矢口がわからないよ。」
 私も立ち上がって紗耶香の後をついて歩き出した。
 「紗耶香、前の時はちゃんと理由があったよね。
  今回のは何?理由がわからないから矢口はのらないよ。」
 「理由は、…矢口をだまらかしてるってことだよ。」
 
 「私は騙されてなんかないって言ってるじゃん!!!」

 遊んでいた子供達が何があったんだろうと
 みんな振り向いた。

 「もうやめてよ!!紗耶香の事全然わかんない!」

 紗耶香は目を丸くして少しの間私を眺めていた。
 小さく咳をして周りに目をやる。
 私達を眺めていた子供達が、またさっきまでの日常に帰った。
 そんな笑い声が紗耶香を動かした。

 「じゃぁ、誰ならいいの?」

 「矢口が決めていいよ。」

 「それならいいんだろ?」

 
 私は最低な人間なんです、裕ちゃん。

86 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月13日(土)02時55分19秒
 外が薄暗くなった生物室で中澤は1人携帯を握り締めていた。
 先ほどから何度も携帯を掴んでは机に放り投げる行動を
 繰り帰している。

 「はぁ〜。あーもぉ。」
 
 数回目の投げられた携帯がプリントの上に落ちる。
 何気なくそのプリントを持ち上げた中澤の目に写る文字。
 
 「はぁ…。」

 そのプリントを手に入れた時を思い出しながら
 これもまた数度目のため息を漏らしていた。
 
 
 光の指し込まなくなった窓の外は静けさに包まれていた。

87 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月13日(土)02時55分56秒
 今日も裕ちゃんは来なかった。
 ギリギリまで粘って教室に駆け込む。
 もう担任の平家に不思議がられる事もなくなった。
 最近は毎日こうだから。

 「おはよー!ギリだね!」
 紗耶香が笑いながら腕を突き出す。
 「なんのガッツポーズだよ。」
 おはよ、と言いながら席に座ると紗耶香が体を横から乗り出してきた。
 「今日はさ、全員後ろ向いておくとかでいい?絶対ガキ!!って言って
  切れると思うんだよね。」
 「うわー、まじでガキだね、それ。」
 そう冷たく答えると、紗耶香は決まってすがるような目をする。
 「矢口〜。」
 「ハハハ、嘘嘘。」

 私達は前の関係に戻っていた。

 朝遅刻する理由を、紗耶香は知らない。
 私はいつもの場所が見渡せる、いつでも裕ちゃんが見付けられる場所に
 毎朝隠れて待っている。
 でも、あの日以来、1度も一緒になったことはない。
 もうすぐ1週間になる。

 そして、裕ちゃんの授業もある。

 あの日以来、久しぶりに裕ちゃんと顔を合わせれるんだ。
88 名前:名無しマンボー。 投稿日:2002年07月13日(土)03時31分10秒
なんだかかなり面白くなりそうな予感(w
何様?って感じのレスですいません。
でも・・・自分的に期待の小説なんです。待ったぶん期待も大きく・・・(w
更新されてて本当に嬉しいです。放置と思ってました・・・すいません。
89 名前:読んでる人 投稿日:2002年07月13日(土)14時28分37秒
いや〜、読んでいてドキドキしますね〜。
この先、どうなっちゃうんだろう・・・。
90 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月14日(日)17時42分39秒
やぐなちゅーでもやぐさやゆうでも・・・さややぐなちゅー?でも(w
なんでもいいので頑張ってください。(w
91 名前:作者です。 投稿日:2002年07月15日(月)21時32分19秒
>>88 名無しマンボー。さん
放置にかなりなってしまっていてすみません。
かなり遅い更新ですが、完結は絶対にしようと思ってますのでまた見てみてください。
面白くなりそうですか?それはよかった。

>>89 読んでる人さん
ドキドキします?ってか暗いっす!!
今度からは完成させてから明暗を発表します。
今度があれば…の話ですが。暗い…くらい…

>>90 名無し読者さん
なんでもいいっすか?やぐなちゅーっすよ。
あぁ、でもさややぐなちゅーっぽいっすね。
もうそろそろ展開させていけそうです。

諸事情により、次の更新は遅いかもしれません。
1週間くらいあくかも… そうなったらごめんなさい。
92 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時33分00秒
 次が生物の時間。
 紗耶香はずっと私を見ていた。
 私はその視線を感じながら、移動の準備をする。

 どうして朝、会えないのだろう。
 嫌われたのかな?
 あの日、裕ちゃんの部屋に入った日以来1度も喋っていない。
 たまに後姿を見かける事があるけれど、喋りかけたりはできなかった。

 裕ちゃんの声を聞くのも、顔をちゃんと見るのも1週間ぶりだ。

 「矢口。」
 私の準備が終わるのを見計らって紗耶香が来る。
 『約束を忘れちゃだめだよ。』
 そう耳元で呟くと、笑顔で言った。
 「行こうか。」

 
 水だらけになっていた生物室に入る。
 そこはまるで、何事もなかったかのような静けさ。
 いつもと変わらない、生物室。

93 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時33分34秒
 チャイムと共に裕ちゃんが奥からやってきた。
 赤いパンツスーツの裕ちゃんは私達を見渡してから声を発した。
 「それじゃ、出席をとります。」
 1人1人名前を呼ぶ。1人1人返事をする顔を少し見る。
 私も時も同じように。みんなと同じように。

 「…授業を始めます。」
 出席簿をパタンと閉めて、そう言うとまた私達を見渡した。
 私達は、まるで先週の事など忘れたように各々ノートを開いたり、
 私語を交わしたり、普段の授業のように振舞った。

 私は裕ちゃんが少し表情を変えたのに気が付いた。
 少しだけ、少しだけ驚いた素振りを見せた。
 きっと今日も先週のような事になると裕ちゃんは思っていたんだと思う。
 けれど、裕ちゃんはすぐにその表情を消して、
 さっきの顔に戻った。
 少し緊張した、周りに意識を向けた顔。

 「教科書を開いてください。」
 パラパラと所々から聞こえる音と、生徒の私語が交わった生物室で
 授業は始まった。
 
 まるで何事もなかったかのように。

94 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時34分04秒
 私は授業を聞いていた。というより、裕ちゃんの声を聞いていた。
 淡々と説明が続く。
 「先週の事なんてなんとも思ってないのかな?」
 ボソッと隣で紗耶香が呟く。
 「普通もっと警戒したりしない?」
 不機嫌そうにそう言うと、まぁもういいけど、と言って机に顔を埋めた。

 やっぱりみんなにはわかってないんだ。
 裕ちゃんはずっと警戒しているよ。
 けれど、その警戒の仕方は他の先生とは違う。
 他の先生は恐怖の下で警戒するけれど、
 裕ちゃんはそうじゃない。
 
 わからないけれど。

 裕ちゃんは他の先生とは違っている、それだけはわかるんだ。

 終了のチャイムの少し前。
 「それじゃぁ、今日はここまで。」
 裕ちゃんはそう言って教科書を閉じた。
 私達を見続けたまま。
 ガーっという音が響いてみんなが立ち上がる。
 私は教科書などを片付けながら裕ちゃんを見ていた。
95 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時34分38秒
 数人が部屋を出て行くのを見ている。
 そして、少し不思議そうな顔をしていた。

 「矢口。」
 紗耶香がそう言って立ち上がる。
 「うん。わかってる。」
 そう言って立ち上がると私は紗耶香と裕ちゃんから離れたドアから部屋を出た。

 裕ちゃんの視線を感じながら。

 
 放課後、紗耶香と一緒に帰る途中だった。
 「おーい!!そこの2人!!」
 振り返るとなっちとカオリの姿。
 「久しぶりー!」
 3年は個々の受験対策の為にたいてい帰りが遅い。
 「今日は早いんだ、何?抜けたの?」
 「ちがうよー!今日はないんだよ。」
 なっちがそう言って笑う。
 「カオリは?」
 「カオリはねぇ、美大だから学校ではやってないの。
  いつも習いに行ってるんだよ。今日はカオリもないの。」
 
 久しぶりの4人。

 そのままカラオケに向かった。

96 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時35分10秒
 「最新曲とかわからないよー。」
 「全然知らないよね。」

 お決まりの文句を口にしながらペラペラと本をめくる。
 
 なんでもない時間。
 私は久しぶりに過ごしたと思う。
 4人でくだらない事を喋って、歌って、盛り上がって。
 
 外に出ると辺りはすでに暗くなっていた。

 「どうする?」
 「今日市井夕飯家でたべなきゃなんないんだよね。」
 「なっちも。食べて帰りたいんだけど。」
 「そっか。んじゃまた行こうよ。」

 小さな約束事。
 4人で集まったら用がない限り夕飯も食べて遊び尽くして帰ること。

 私達は2年間、律儀に守り続けている。

 カオリと2人で食べに行く事になった。

97 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時35分40秒
 「矢口と2人っきりなんて久しぶりじゃない?」
 「そうだよね。いつも矢口達の方が用事で帰ってるもんね。」
 
 4人の仲をずっと続けたいから作った決まり。 
 
 「でも矢口とゆっくり喋りたかったんだ。」
 カオリはそう言って笑った。
 少し寂しそうに。
 「どうしたの?なんでも聞くよ?悩み事?」
 「うん、ちょっとね。」
 
 私達は制服のまま、近くのファーストフードに入った。


 「なっちの事なんだけど。」
 注文を終えて席につくとカオリはそう話を切り出した。
 「なんかね、ちょっと変な道に入りそうになってるっていうか…。」
 少し言い難そうにそういうとドリンクに口をつけた。
 
 結局、言い難いのか、なかなか話は進まなかった。
 でも、なんとかカオリの悩みはわかった。

 なっちが黙って見過ごしてられない恋をしているようだ、と。

 「カオリは賛成できないんだよね、やっぱりもうすぐ大学生にもなるし。
  今は一種の気の迷いだと思うんだ。」
 「詳しくはわからないけど、やっぱり賛成しずらい恋なんだね?」

98 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時36分11秒
 「うん。賛成は…やっぱりできないなぁ。だって…。」
 そこで言葉をとぎる。
 「何?」
 「相手が女の人なんだもん。」

 なっちは女の人に恋をしているらしい。
 
 「やっぱりさぁ、こういうのって賛成できないでしょ?
  なんていうか、女子高だから憧れとかあるんだと思うけどさ。
  カオリには想像つかないからやっぱ賛成できないんだよね。」
 「う…ん。そうだよね。」

 女が女に恋をする。

 これはやっぱり一般社会に受け入れられない事実。

 なっちや私は受け入れられない人種なんだろうか。

 私はカオリの言う事がよくわかった。
 そういう社会で生きてきたから。
 
 
 それでもやっぱり、私は裕ちゃんが気になる。
 
 こんなにも気になる相手に私は今まで出会った事なんてなかった。

 矢口のこの感情は、恋なんだろうか?
 あこがれなんだろうか?

 恋だったら…気が付く前に終わっちゃったな…

 裕ちゃんはもう矢口の事が嫌いになっちゃったんだ。
99 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時36分54秒
 もう外は暗くなっていた。
 3年生の担任ともなればいろいろとしなければならない事が多く、
 常日頃帰るのは遅くなっていた。

 「中澤先生、大変そうですね。」
 普段は大抵生物室で1人こもってする仕事を
 たまたま職員室でやっている時だった。
 「あ、平家先生。」
 あまり喋った事はない、中澤が普段殆どここにいないからであるが、
 自分より少し若い同僚に喋りかけられた中澤は、
 人見知りする性格とはいえ、それ以上に動揺した。
 気が付けば職員室は2人だけになっていた。
 「先生も関西なんですか?私もなんですよ。」
 そう言って笑う平家は既に帰り支度をすませていた。
 「そうなんですか。関西…。」
 何かを思い出したかのように少し黙り込む。
 「この高校えらい指名していらっしゃったらしいですね。
  誰かお知り合いでも?」
 「いえ、まぁ…。」
 そう言って口篭もると、中澤は気まずそうに咳を一つした。
100 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月15日(月)21時37分24秒
 「まぁ、なんかわからない事があったらいつでも聞いてくださいね。」
 中澤の咳に気が付いたわけでもなく、平家は無邪気にそう言うと
 軽く礼をして中澤の横を通りすぎて行った。
 
 2−A 平家みちよ

 ふと、机に置いてあった名簿に目が行く。
 今日の生物の授業の名簿だ。

 「平家先生!」
 中澤は振り返るともう扉をでようとしていた平家を引きとめた。
 「はい?」
 突然の事におどろいた様子を見せながら振り返った平家に
 少し笑いかけると、
 「これからなんか用あります?」
 自分も荷物を片手で片付けつつそう話しかけた。
 「いえ、別に…。」
 「一杯やりにいきません?」

 平家は一瞬驚いたがすぐに、
 「ええ、よろこんで。」
 そう答えて、席をたつ中澤を扉をあけたまま待っていた。
101 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月16日(火)02時45分53秒
なんとなくやぐなちゅーに突入した模様(w
のんびりでもいいので待ってます。
102 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年07月16日(火)10時33分52秒
矢口は?なっちは?裕ちゃんはどうなるんだろう?
楽しみに待っております
バスくる・・がんばります
103 名前:読んでる人 投稿日:2002年07月16日(火)17時25分41秒
裕ちゃんは結構謎な部分が多いけど、
次回更新で少しはその辺が明かされるかな?
続き楽しみです。
104 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月25日(木)09時17分15秒
先が・・・よ・み・た・い・よ〜!!(爆
105 名前:作者です。 投稿日:2002年07月29日(月)01時26分28秒
レスありがとうございます。

>>101 名無し読者さん
やぐなっちゅーの気配はよーやくです。のんびり待ってもらえるとうれしいです。

>>102 やぐちゅー中毒者セーラムさん。
指大丈夫ですか?
更新遅いし量も少ないですが、ようやく発展していきそうですので
また見てみてください。

>>103 読んでる人さん。
更新量が少なく謎は…
次回。というか更新早くしようと思ってますので
もうちょっとその部分は逃がしといてください。

>>104 名無しさん。
更新遅すぎてごめんなさい。1週間どころじゃなく遅れてました。
よみたい、と言っていただけてうれしかったです。
106 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月29日(月)01時27分08秒
 今日もやっぱり裕ちゃんは来なかった。
 違う道を通ってるんだろうか?それとももっと早く来てるんだろうか?

 いつものようにギリギリに教室に入ると、少し空気が違う。
 「おはよ、どうかしたの?」
 私は紗耶香に近づいた。
 「おはよ。今日から担任もやる事になったから。」
 紗耶香は特になんでもないようにそう言った。
 「ふーん。そっか。」
 私は別に気にしないで席に座った。
 まだ平家先生は来ていない。
 何が待っているかなんて知らずにそのうち来るんだろう。

 どうでもよかった。
 平家先生がどうなっても。

 私は鞄の中のウォークマンのスイッチを入れて音楽に身を任せていた。

 平家先生が教室に入ってきた。
 音楽の音が大きくて誰が何を言っているかはわからないけど、
 いつもと違う生徒に戸惑っていて、少し身を小さくしている姿が見えた。
 
 私はそのまま机に伏せて、外を眺めていた。

107 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月29日(月)01時27分42秒
 昼休み、紗耶香と食堂に向かう途中、
 「矢口!紗耶香!」
 なっちとカオリに偶然会った。
 「ちょっと〜、聞いたよ。またやってるんだってね。」
 「担任だって?」
 「もう噂になってんの?早いなぁ、今日からだよ。」
 紗耶香が驚いたように言う。
 「も〜相変わらずなんだねぇ。」
 なっちが苦笑いしながら紗耶香の肩を叩いていた。
 
 私はなっちをずっと目で追っていた。
 裕ちゃんの事、相談できるのってなっちだけ。

 「食堂?一緒に行こうよ。」
 「うん、行こう行こう。」
 久しぶりに4人で食堂に向かった。

 「ってか受験もうやだよ〜。」
 「先が見えないよね。」
 カオリとなっちの受験の話を笑いながら聞く。
 「ってか矢口、笑ってるけど来年だよ?」
 なっちにそう釘を刺されるものの、やっぱり笑ってた。
 「市井らはまだ1年は遊べるもんね〜。」
 「そうだよ。まだまだ若いしね、紗耶香。」
 「あー!うちらを年より扱いしてんなー?カオリ!どうする?」
 「いいよ、来年笑ってやろう!」
 口口にそんな冗談を言いながら昼を過ごした。

108 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月29日(月)01時28分17秒
  昼休み、生物室の奥で1人で過ごす。
 中澤の耳にも、もう平家のことは入っていた。
 『2−Aで担任イジメが始まっているらしい。』
 生徒のお喋りがたまたま耳に入ってきた。
 
 (結構へこんだりしそうな感じやったなぁ。)
 コーヒーを手に昨日の姿を思い出す。
 2人で喋っていて、一番やはり話題になるのが生徒の事。
 他の先生へのイジメが耳に入ってきているらしく、
 平家はそれについて悩んでいた。
 (それが自分の身に降りかかるとはな。)
 もちろん、平家は1度あった中澤へのイジメなど知らなかった。
 何故か誰も知っている人はいないようだ。
 その後も無かった事から、きっと矢口が何かしたんだと思っていた。
 
 特にそれを感謝する、なんて事もなかったのだが。

 机の上の紙の目をやる。
 以前生徒からもらった紙。

 中澤はそれを手でもてあそびながらコーヒーをすすった。

 (そろそろ…やな。)

109 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月29日(月)01時28分50秒
 「遅いよ!もっと早く来いって!!暇じゃないんだからさ。」
 「だらだら何喋ってんの?うざいんだけど。」

 HRが始まるとクラスのあちらこちらからそんな声があがる。
 平家はあたふたとメモを小さな声で読み上げていた。

 「何言ってるかまったく聞こえないんだけど?もういいよ。」

 紗耶香のその声が合図となる。
 クラスの全員が立ち上がって、教室から次々と出始めた。
 私もその流に乗って教室をでる。
 
 何も言えずにそれを見つめるしか術がない平家。


 「ありゃもたないね。かなりきいてるよ。」
 紗耶香がつまらなそうにそう言って笑った。
 「けっこうもろいんだね、平家って。
  さ〜何日もつかな?これからどうするか楽しみだよ。」
 
 私は特になんの興味も無かったのでただ話を聞いていた。

 私がいじめに興味がないのを知っている紗耶香はそれ以上はその話をしてこなかった。

110 名前:桜の想い出 投稿日:2002年07月29日(月)01時29分25秒
 朝、4月からずっと変わらない時間に家をでる。
 時間が早く、同じ制服をきた生徒を見ることなんて殆どなかった。

 丁度、いつもの場所、私が裕ちゃんを待つ場所についた時、
 制服姿の女の子が目に入った。
 珍しいなぁ、としか思わず、特に意識もしてなかったのだけど、
 その後すぐに私の目に入った光景は私の意識を全てさらった。

 その生徒の元に、裕ちゃんが駆け寄ってきたから。
 
 久しぶりにこの道で見る裕ちゃん。
 けれど、裕ちゃんは私を見てなかった。
 今まではその眼の先には私がいたのに、
 今ではその視線の先は私ではなかった。

 裕ちゃんは私がよく見ていたあの笑顔だった。
 私の大好きな…。

 そして、裕ちゃんがその生徒の手をとって歩き出すと、
 その生徒も思いっきりの笑顔を裕ちゃんに見せていた。

 私の知ってるひまわりのような笑顔。

 
 なっちだった。 

111 名前:読んでる人 投稿日:2002年07月29日(月)13時55分45秒
おお〜、なっちと裕ちゃんが・・・。
矢口、ショックだろうな〜・・・この先どうなるんだろう?
続きをマータリと待ってます。
112 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)21時09分40秒
楽しみにまってます
113 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年08月02日(金)12時27分39秒
はい、指も、もう全快です、楽しみにまっております
114 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月02日(金)13時45分28秒
なっちゅーキター!!
どう展開していくのか・・・かなり期待!!
115 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月18日(日)01時43分57秒
まだですか(w
待ってまーす
116 名前:作者です。 投稿日:2002年08月20日(火)03時55分28秒
レスありがとうございます。めっちゃ遅くなってしまいました。
しかも、中途な量ですみません。
次は必ずや早急に更新しようと思います。

>>111 読んでる人さん
ようやくなっちゅーへ入りました。長かった…
こんなに遅いのにいつも読んでくださって光栄です。

>>112 名無しさん
遅くてすみません。その言葉が非常にうれしいです。

>>113 やぐちゅー中毒者セーラムさん
バスくるの更新すごいっすね。指も完治しまくりですね
他の所怪我しまくりっぽいですが(爆

>>114 名無し読者さん
ようやくです。本当に遅くて申し訳ありません。

>>115 名無しさん
ごめんなさい。やっと更新です。
待ってくださってありがとうございます。
117 名前:桜の想い出 投稿日:2002年08月20日(火)03時56分03秒
 裕ちゃんとなっちが終始楽しそうにこの並木道を歩いていた。
 私の目の前を。

 私は動けなかった。
 何もできなかった。
 ただその場で2人を盗み見る事以外…。

 なっちの好きな人は裕ちゃんだったんだ。
 そういえば、なっちは最初から裕ちゃんに結構好意を寄せていた気がする。
 カオリはなっちが裕ちゃんが好きだって知ってたんだ。
 それを私に相談して…

 私はどうする事もできない立場になった。
 なっちに相談することも、カオリの悩みを取り除くことも、
 なにもかも。

 
 その日、私は久しぶりに学校をサボった。
 誰にも会いたくなかった。
 裕ちゃんやなっちを見かけたくなかった。

 行くあてなんかどこにもなかったけど、
 私は歩き続けた。

 2人から離れるように。
118 名前:桜の想い出 投稿日:2002年08月20日(火)03時56分34秒
 買物や、休日以外にはあまりこない繁華街に私はいた。
 歩き出してそろそろ1時間ぐらい。
 ゆっくり、何も考えないで歩き続けていた私を我に返らせたのは
 携帯の着信音だった。
 何も喋りたくなかったけど、あまりにも音がうるさいので
 私は通話ボタンを押した。
 「もしもし?」
 『あっ矢口?どうしたの?休み?』
 紗耶香は心配そうな声をしていた。
 「うん。今日は休む。」
 『なんか元気ないね。風邪?』
 「ううん、サボリ。明日は行くから。」
 私は1人でサボったりなんかした事がなかった。
 いつも隣に紗耶香がいた。
 だから1人でサボるという事に紗耶香は驚きを隠せなかったようだ。
 『え?どうしたの?なんかあった?』
 
 紗耶香が親友でよかった。
 本当は人一倍優しいんだ。

 「ううん、なんかね、近くまで来たんだけど、急にサボリたくなちゃってさー。
  息ぬきだよ。別に何もないから。」
 明るく努めてそう言う。
119 名前:桜の想い出 投稿日:2002年08月20日(火)03時57分04秒
 少しの沈黙の後、紗耶香の声が聞こえた。
 『そっか。いいな〜 市井もサボればよかったなー。今どこに行ってるの?』
 
 気を使ってくれてるのがわかった。
 深くは聞かないでいてくれるその気持ちがうれしかった。

 「今渋谷〜 ブラブラ遊んで帰るよ。買物しちゃおっかな!
  またメールするね。」
 『ん、わかった。それじゃまたね。』

 電話を切ったら涙がでてきた。
 紗耶香の優しさがうれしくて…
 それに・・・
 裕ちゃんが忘れられなくて。

 どっちの涙かはわからなかった。

 
 渋谷の町は高校生が至る所にいて、
 忙しい社会人が至る所にいて、
 私を誰からも隠してくれた。
120 名前:桜の想い出 投稿日:2002年08月20日(火)03時57分38秒
 何もしないのは暇すぎて、ウィンドーショッピングをする。
 いや、暇だからじゃない。
 考えてしまうから。
 
 徐々に気分がほぐれてきていろんな店に立ち寄りだした。
 短いメール音と振動で、携帯を開ける。
 『ヤッホー!!元気にサボってるかい?今は何の店?どうせギャル服っしょ?』
 紗耶香の能天気なメールがますます気分を和らげて行ってくれた。
 『どうせ矢口はギャル服専門だよ!!今は無難に109笑 服ほしーよー』
 同じノリで返して服を見出す。
 久しぶりの買物で楽しくなってきた。
 
 『なんだなんだ?買う気満万じゃん!スカート欲しいの?』
 5分、10分置きになる電話は私の手に握られていた。
 『欲しくなりまくりだよ!スカート欲しいのあった』
 メールを返そうと文章を作っている時だった。
 あれ?なんで?

 思わず顔を上げたら、横に紗耶香がいた。
 少し額に汗をかいて。
 「ばーか!!気付くの遅いよ!」
 笑いながらそう言って私の頭を小突く。
 「え…学校は?」
 「市井もさぼっちゃった。」
121 名前:桜の想い出 投稿日:2002年08月20日(火)03時58分08秒
 どうやら電話を切ってすぐに学校を出たらしい。
 「だって市井もサボりたかったんだもん。矢口だけ遊ぶなんてずるいじゃん!」
 そんな事を言ってたけど、
 紗耶香は私を心配で来てくれたんだ。
 さっき紗耶香に気が付いた時、よかった、という表情をしていたから。

 紗耶香と私の服の趣味は全然違うので、ショッピングはやめ、
 お金もなかったし、移動する。
 「矢口の好きなプーさん人形取りにいこー!」
 そう言って紗耶香が向かった先はゲームセンター。
 クレーンゲームで悪戦苦闘する紗耶香の姿に
 私は知らぬ間に思いっきり笑っていた。

 「あっ!なんでそこで落ちるかなー!!ムカツクー!」
 「紗耶香が下手なんだって!矢口が次やるー!」
 2人で騒いぎまくって、やっととれたプーさん人形は静かに矢口の鞄に納まった。
 「いらないの?」
 「だって市井は好きじゃないもん。取るのが楽しいんだよね、これって。」

 紗耶香の優しさがこの人形に詰まっている気がした。
122 名前:桜の想い出 投稿日:2002年08月20日(火)03時58分40秒
 「矢口!プリクラとろ!!」
 「矢口!あれやろう!」
 「今度はあれやろ!矢口!」

 次から次へといろんなゲームをして、久しぶりに遊びまくった。
 
 「これは?かわいくない?」
 クレーンゲームの前で1つの人形を指差して矢口を見る紗耶香。
 「うん。かわいいね。」
 そう言った瞬間お金を入れてやり始める。
 「ちょっと〜、またとれないんじゃないのー?」
 「さっきは久しぶりだから!もう感戻ったもんね。」
 見事に1発で吊り上げる。
 「おー!!紗耶香すげー!!」
 「市井天才じゃん!」
 取りだし口から出してそのまま矢口にくれる。
 「ほい!!このプーさんマニア!」
 「サンキュー!めちゃかわいい!」
 
 遊びまくってその店を出たのは、紗耶香のお腹が鳴ったからだった。

 「いや〜久々にあんなに遊んだね。こんなに遊んでまだ昼ってのがびっくり。」
 ハンバーガーにかぶりつきながら紗耶香がニコニコしている。
 「うん。人形も増えたし♪この後どうする?」

 紗耶香のお陰で、私はすっかり忘れて時を過ごす事ができた。

123 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月20日(火)11時59分36秒
市井、めっちゃイイ奴だなぁ〜。
124 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年08月26日(月)12時21分49秒
こういう友達っていいですよね
作者殿、頑張って下さい
125 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月14日(土)14時12分10秒
作者さん頑張って〜
続き待ってるよ〜
126 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)19時30分58秒
待ってまーす。
127 名前:作者です。 投稿日:2002年10月23日(水)01時46分04秒
ここをチェックしてくださった方へ。

申し訳ございません。まったく手をつけられない状態で完全放置と化してしまいました。
実はあと1ヶ月程で卒論を提出の為、書く余裕がありません。
そして1ヶ月、やはり手をつけられません。
「ちょっとぐらい暇あるだろう。」などと思われると思いますが、当方かなり焦って
いまして、本当に無理・・・なんです。
2ヶ月放置して、また1ヶ月更新できないというのはかなりの我侭だと思います。
提出して落ち着いたら更新しはじめる決意はしていますが、
チョットイイカゲンニシロ!と憤慨している方もいると思います。
その場合、削除依頼だされてもかまいません。そのような場合は、深く反省し
放置駄作家として2度とスレを立てたりして迷惑をかけないように消えさせて頂きます。
1ヶ月後、まだこのスレが残っているのであれば、細々ながらやらせていただきたい
と思います。

本当に申し訳ございません。
勝手な言い分で筋が通ってないと思いますが、何卒ご理解いただけたらと思う次第です。

ありがとうございました。
128 名前:作者さんのファン 投稿日:2002年10月23日(水)16時04分20秒
いつまでも待ってますよ〜
129 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月24日(木)02時29分53秒
同じく。お待ちしています。
130 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年10月24日(木)02時43分21秒
このスレが落ちないように、
祈ってます
131 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年11月01日(金)13時17分54秒
放棄じゃないと判っただけで嬉しいです。
マータリと待っているので、卒論、頑張って下さい。
132 名前:128 投稿日:2002年12月02日(月)16時34分26秒
保全
133 名前:作者です。 投稿日:2002年12月08日(日)03時56分07秒
なんとか卒論を終え、一段落つきました。
このスレが残っていたのも、皆さん方のお陰です。
本当にありがとうございます。
全く話にも触っていなかったのでペースは早くはないとは思いますが、
勘を取り戻しつつも続きを書かせていただきたいと思います。

放置状態の間の、暖かいレス、本当にありがとうございました。
134 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月08日(日)03時56分55秒
 思い出してしまったのは昼を食べて、ブラブラと町を歩いていた時だった。

 「どうせなら二人も呼び出す?」
 なんの事情も知らない紗耶香はそう言って携帯を取り出した。
 なっち・・・
 私は動揺をうまく隠せたんだろうか?
 「んー。受験勉強あるんじゃない?」
 正直、なっちの顔を見て笑えないと思った。
 裕ちゃんの笑顔を思い出す。
 思い出さないでいられるわけがない。
 なっちに悪いところなんてありもしないけれど、
 私はなっちにいつものように笑えない。
 
 「それもそっか。じゃ、どこ行く?」
 紗耶香は気がついたのか気がついてないのかさっさと話題を変えた。
 「どこでもいいよ。」
 私は思い出さないように、忘れたくて、歩調を強めた。

 結局、行く所もなくてカラオケに入った。
135 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月08日(日)03時57分26秒
 「はーもう喉にきたよ。」
 結局、カラオケで簡単な食事もとって、帰る事になった頃には
 日はとっくに落ちてしまっていた。
 「だねー。矢口も久々に暴れて体にきたよぉ。」
 二人で騒ぎまくった。ソファーに立って大声で歌って踊って・・・
 無我夢中だった。
 「でもこんなに歌ったの久しぶりだったから楽しかったね。」
 「もう歌う曲なかったもんね。」
 懐かしい歌に笑った。
 そんな、ちょっとしたことで笑える時をすごせていた。
 
 帰り道も、ずっと私達は笑っていた。
 
 家、学校にどんどん近づいていたけど、私は笑っていた。
 
 そして紗耶香の家との分かれ道にきた。

 「じゃぁ、市井こっちだから。」
 「うん。」
 「今日は楽しかった〜。ありがとね、矢口。」
 「何言ってんの?矢口がお礼言うほうだよ!!」
 「ううん。じゃ、また明日!!」
 紗耶香はそう言って手を大きく振って、こっちを向いたまま道を進んで行った。


136 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月08日(日)03時58分56秒
 矢口に今まで付き合ってくれてた紗耶香の心使いが本当にうれしかった。
 そして、事情をつっこまず、自然に明日と声を掛けてきてくれたのもうれしかった。
 
 「うん。また明日!!」

 暗くて、紗耶香の顔が見えなくなるまで私は手を振り返し続けた。
 紗耶香もずっと振り続けてくれてたから。

 家まで歩いて5分といったところだろう。
 私はのんびり歩いていた。鼻歌なんかを歌いながら。
 まるで銭湯帰りのおやじみたいに、私は気分がよかった。
 近くのコンビニで雑誌でも買って帰ろう。
 雑誌を見ながら食べるおやつも何か買おう。
 そんなことを考えながらトロトロと歩いていた。

 コンビニの明かりに誘われるように近寄って、入ると流行りの曲が流れていた。
 頭の中で一緒に歌い、雑誌のコーナーでちょっと立ち読みをしていた。
 ちょうどその歌手のスキャンダル記事があったりして、私は結構な時間
 その場にいたらしい。
 下を向き続けるのが辛くなって顔をあげると左右の人が変わっていた。
 気に入った雑誌を掴んでスナックコーナーに移動した時、コンビニに入ってきた人の 顔が少し見えた。
 
137 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月08日(日)03時59分36秒
 私はあわてて隠れた。
 裕ちゃんとみっちゃんだったから。
 
 裕ちゃんとみっちゃんが仲がいいなんて事も知らなかったし、裕ちゃんには
 会い辛いし、みっちゃんにはサボった手前会い難くて
 私はスナックコーナーでワタワタと1人うろたえていた。

 しかし、場所は狭いコンビニである。裕ちゃんとみっちゃんはすぐに自分の目的の
 場所に品物をとりに別れたらしく、隠れる場所なんてなくてみつかってしまった。
 「あれ、矢口さん。」
 みっちゃんがそう呟いて私に近づいてきた。
 「ハハ、こんばんわ。」
 罰が悪かったのでその場を早く抜け出したかった。
 「なんや、今日さぼりやったんかいな。もーあかんでぇ。」
 困った様にみっちゃんはそう言った。
 「すみません・・・。」
 「なんかあったん??」
 もちろん理由なんて言える訳もなく、笑って誤魔化すしかなかった。
 はやく抜け出たい一心だったから。
 だって…
138 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月08日(日)04時00分07秒
 「……あれ?」
 今まで会いたくてたまらなかった裕ちゃん。後ろから声がした。
 「矢口?」
 聞きたくて仕方が無かった声。
 裕ちゃんの声。
 その声が私の名を呼んだ。
 「こんばんわ。それじゃ。」
 けれど、今は望んでない、望めないから。
 もう裕ちゃんは私を嫌いになったんだろうから。
 私はレジに向かって歩き出した。
  
 それなのに・・・・

 「なんや、そんな逃げんでもええやん。へぇ、今の子らその雑誌
  高校で読むんかいな。」
 裕ちゃんは親しげに、笑顔を私にむけた。

 私はわからなかった。
 突然朝こなくなった裕ちゃん。
 けれどなっちと朝楽しげにいた裕ちゃん。
 私に裕ちゃんと呼ばせる裕ちゃん。
 
 裕ちゃんは何を考えているのか?

 私にわかる訳がなかった。

139 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月08日(日)04時00分41秒
 「あれ、中澤先生と仲良いんかいな。」
 みっちゃんは不思議そうに私と裕ちゃんを見る。
 「え、いや…。」
 私は何て言ったら良いのかわからず、必死に言葉を探していた。
 「ちょっとね。何て言ってもこの高校で初めて喋った生徒なんですよ。」
 裕ちゃんはニコニコして私にも相槌を促した。
 「へぇ。そうなんですか。」
 私が相槌を言う間もなくみっちゃんがそう言い、
 私は言葉を飲み込んだ。たった一言の言葉だったけれど。
 「あっじゃぁ私、ちょっと飲み物とってきますんで。」
 気を利かせたのか、みっちゃんは私達から離れていった。
 
 二人で向かい合って立っている。
 私は裕ちゃんの顔なんて見れなかった。ずっと下を向いている事しかできなかった。
 
 「なんや、どうしたん矢口。元気ないやん。」
 表情はわからないけど、優しい裕ちゃんの声。
 「・・・。」
 何も言えなかった。
 ”元気です”と答えることすらも。
 ”裕ちゃん”って言ってしまいそうな自分がいて。
 けれど、もう裕ちゃんって呼ぶのは許されない気がして。
 
 何も言えなかった。


140 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月08日(日)04時01分12秒
 「・・・。」
 裕ちゃんも黙って私を見ているだけだったみたいで、
 それ以上何も言わなかった。
 みっちゃんがすぐに来たからかもしれないけれど。
 「あっ平家先生。」
 裕ちゃんがみっちゃんに何やら話し出したので、私は小さくお辞儀して
 レジに向かった。

 背後にある裕ちゃんの気配に意識はずっと向いていたけど、
 私はもう振り返らずに店をでようとした。

 「矢口さん!」
 名を呼ばれ、反射的に振り返る。
 「明日はちゃんと来なあかんで!!気をつけてね!」
 笑顔でそう言うみっちゃんに、さようなら、と言葉を残すと
 私は足早にコンビニをでた。

 ずっと裕ちゃんの視線を感じながら。

 みっちゃんの後ろにいた裕ちゃんは、笑うでもなく、ただ私を見ていた。
 まるで何の感情もない人形のように、
 視線だけを私にむけて、みっちゃんの後ろにいた。

141 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月09日(月)13時55分25秒
待ってました(w
更新ありがとうございます。
142 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年12月14日(土)10時57分51秒
待ってましたー!遅ればせながら読ませて頂きました
これからもしつこくチェックさせて頂きますんで(w
頑張って下さい
143 名前:作者です。 投稿日:2002年12月15日(日)02時20分38秒
>>141 名無し読者さん
レスありがとうございます。
お待たせしました。

>>142 やぐちゅー中毒者セーラムさん
レスありがとうございます。
とんでもなく遅くなってしまいましたが、読んで下さる方がいて
大変うれしく思っています。
これからもよろしくお願いします
144 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月15日(日)02時21分13秒
 何かにせかされているような、何かから逃げているような、
 そんな足取りで私は家までの道のりを急いだ。

 裕ちゃんのあの顔が頭から離れない。
 
 家に着くと、そのまま部屋に入る。
 母親が何か言っていたけど、適当に相槌を打ってドアを閉めた。
 朝から誰も入る事のなかった部屋は少しひんやりしていた。

 何を思っていたんだろう。
 どうしてあんな目で私を見ていたんだろう。
 
 久しぶりに言葉を交わした裕ちゃんは前みたいに、
 まるでよく喋ってた時のような口調だった。
 
 「そんな風に話しかけてくるんだったら、どうして朝来なくなったんだよぉ。」
 やるせない気持ちでクッションを抱いた。
 「わけわかんないよ…。」
 
 紗耶香がとってくれたプーさんの人形が鞄の中から私を見ていた。
145 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月15日(日)02時21分44秒
 朝、やはりいつも通りに家をでた。
 習慣でその時間にはすっかり用意はできてしまっていた。
 学校への道を進むにつれ、昨日の裕ちゃんとなっちの姿が思い浮かぶ。
 また、今日も二人で来てるんじゃないだろうか。
 楽しそうななっちの笑顔が頭から消えない。

 でも、もし裕ちゃんが前のように来たら?
 そう思った時、紗耶香の顔が思い浮かんだ。
 『約束だよ。』
 『うん。』
 『破ったら、もう矢口を信用しないから。』
 『わかった。』
 公園での会話。

 ―裕ちゃんとは喋らない。―
 これが約束。
 裕ちゃんが標的になるのは耐えられなかったから。
 私はその約束を守る事を誓った。

 朝、裕ちゃんと会うのを期待していたのに。
146 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月15日(日)02時22分14秒
 守っていたけれど、朝、この時間に通学してくるのは
 裕ちゃんに会いたかったから。
 結局、気持ちの中ではずっと紗耶香を裏切ってた事になる。

 一体どうしたらいいんだろう。

 まるで、たんぽぽの綿毛のようにふわふわと、
 私の気持ちは不安定で、この先の事など全くわからない状態だった。

 裕ちゃんが好き。
 でも紗耶香だけはどうしても裏切れない。

 考えれば考えるほど、答えがだせなくて
 私の足取りは遅く重いものになっていった。

 あの、桜並木の通りにさしかかった時、すでに周りには
 私と同じ制服をきた学生が溢れ出していた。

 「矢口ー!!」
 振り返ると、笑顔の紗耶香がその合間をぬって走ってきた。
 「どうしたの?会うなんて珍しいじゃん!!しかもすごくゆっくり歩いてない?」
 「え、うん。考え事してたからかな。」
 
 紗耶香と並んでこの、裕ちゃんとの想い出がつまる並木道を歩いた。

147 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月15日(日)02時22分47秒
 授業中何度も思った。
 紗耶香に言ってしまおうかって。
 裕ちゃんの事好きなんだって。

 裕ちゃんに思いは伝わらないけれど、どっちに対しても
 中途半端なままでいる事は駄目だと思う。
 裕ちゃんが駄目だから紗耶香と一緒にいる、なんてことは
 卑怯だと思う。
 けれど、紗耶香はこんな私を受け入れてくれるだろうか。
 二人とも失ってしまうんじゃないだろうか。

 怖かった。

 勝手だとおもうけど、怖かった。
 けど、今のままじゃ駄目だって事に気付いていた。

 私が、自分でどうにかしなきゃならない。
 二人を失う事になっても、仕方が無い事なんだ。

 私は二人とも、かけがえのない大切な人だって思ってるから。

148 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月15日(日)02時23分18秒
 裕ちゃんが私達のクラスを教えることはもう無くなっていた。
 変わりの先生だったから。
 だから、私が裕ちゃんを目の前にすることはずっとなくて…
 あの日以来、見かける事も無くなっていた。

 それから1ヶ月がたって…

 相変わらず、担任イジメはつづけられ、
 私達の日常はずっと変わらなかった。

 私の想いも。

 どんな時だって、目は裕ちゃんを探してる。
 紗耶香も私のそんなしぐさに気が付いていたけど、
 そんな日常が続いていたから気にしないでいたようだった。

 ずっと悩んでた。

 好きだって事を言ったら、騙されてる、と言って信じてくれない
 紗耶香の姿を夢で見ることも幾度かあった。

 どんどん月日は立って行く。

149 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月15日(日)02時23分49秒
 あの日、コンビニで平家先生と一緒に会って以来、
 見事なくらい矢口に会う事はなかった。
 それからもう1ヶ月はとうに過ぎた。
 
 自分のクラスの事で忙しくしていたと言えばそうだった。
 けれど…
 
 中澤は生物室で外の景色を眺めながら、ふとそんなことを考えていた。
 窓から入る風が生ぬるさを帯びている。
 夏…もうすぐ夏を運んでくるのだろう。

 中澤はこの間、ずっと平家と親しくしており、
 クラスの事をいろいろと聞いていた。
 イジメがまだ続いている、酔った勢いでもらした平家の
 言葉がいろいろな事を思い出させる。

150 名前:桜の想い出 投稿日:2002年12月15日(日)02時24分21秒
 平家は普段、決してイジメの事は言わなかった。
 誰にも言わず、全部自分の中に押し留めているようだった。
 (強いな。)
 噂で聞く度にそう思う。
 酒の席でたまに口にする言葉からは市井という名があがっていた。
 
 屋上での出来事を思い出す。
 授業の事も。
 けれど、矢口の名はなかった。
 
 「夏までに動くか…。そろそろやな。」

 中澤は、何か心に決めたようにそう呟くと、
 机の上に広がる、資料に目を落とした。

 心にひっかかりを少しだけ感じながら。
151 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年12月16日(月)19時11分55秒
作者さん、お帰りなさい!!!
好きな作品なので、再開を心待ちにしていました。
これからも頑張ってください。
152 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)01時19分00秒
おお、復活されてたんですね!
今頃気付きました…(不覚)
楽しみにしていますので、ガンバテ下さい。
153 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月29日(日)06時50分08秒
待ってますよ〜!
154 名前:GOO 投稿日:2002年12月31日(火)22時54分31秒
頑張っ続き書いてください。
待ってまーす。
155 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月04日(土)19時40分37秒
更新まってまーす。
156 名前:作者です。 投稿日:2003年01月10日(金)01時41分48秒
また遅くなってしまいました…
すみません。。。
しかも少量です。

待ってくださっている方には本当に申し訳無いと思っています。
つ、次は必ずや早く…
       できたらいいな、と思ってます。
157 名前:桜の想い出 投稿日:2003年01月10日(金)01時42分45秒
 朝の朝礼で全校生徒が講堂に集まる。
 私と紗耶香はいつも後ろのドアにもたれかかって前を眺めていた。
 人が溢れていてうるさい。
 ほとんど抜け出る事はなかったんだけれど、
 夏が近づいてきているからか、蒸し暑い講堂の中でじっとしていられる
 ほど私達は大人ではなかった。
 「いこっか?」
 「うん。」
 こっそりとドアを開けて、廊下にでる。
 人気の無い廊下は少しひんやりとしていた。
 「どこいく?」
 「うーんと、今日の朝礼って長い方だっけ?」
 私達の学校では月に一回、1時間目を全て使う、恐ろしく長い朝礼がある。
 いろいろな問題や規則をダラダラと説明するだけのものだ。
 「あっそうだよ。じゃ、ジュースでも買って屋上行こうか。」
 先生に見つかると注意されて連れ戻されるので辺りに注意を払って
 自販機にむかった。
158 名前:桜の想い出 投稿日:2003年01月10日(金)01時43分20秒
 「あー!!もうすぐ夏だー!!」
 屋上に出る扉をあけると、心地よい風が顔に触れた。
 紗耶香が伸びをしながら缶をあける。
 マイクを通した先生の声が風にのって少し聞こえてきた。
 「なんか最近つまんないよね。」
 そう言って私は紅茶の缶を一口飲んだ。
 「うーん。ほんとつまんないよ。なんかないかな?」
 壁に寄りかかって座りながら私達は空を眺めていた。

 
 朝礼に中澤達先生は特に出ている必要はなかった。
 平家先生などはきっちり出ているようだったが、中澤は面倒だったので
 ほぼ出ずに、生物室で過ごしていた。
 窓を全開にして風を入れる。
 風にのって先生の声が部屋に小さく流れてきた。
 コーヒーでも入れようと立ち上がり、窓辺に向かう。
 美しい緑色をした木々の葉が、風にざわめく音を聞いて、
 ふと頭にあの子の声がよぎった。

 「夏が一番好きです。」

159 名前:桜の想い出 投稿日:2003年01月10日(金)01時43分54秒
 「夏が好き…かぁ。そんなんゆーてたなぁ。」
 コポコポとコーヒーを注ぎながら呟いてみる。
 「確かに元気で夏っぽかったけど。」
 カップを持ってもう1度窓の外を見上げる。
 その時、中澤の目にとまったのは小さな矢口の姿。
 屋上にいる、あれは確かに矢口。
 中澤はその姿をずっと見いっていた。



 「夏休みになったらさ、一緒に旅行にでもいこうよ。」
 紗耶香がそう呟く。
 「うん。いいね、行こう行こう。」
 私はもちろんその計画に乗り気で身を乗り出した。
 「矢口はどうせディズニーとか行きたいって言うんでしょーが?」
 ニヤリを顔をほころばせ、私をみてきた。
 「な、なに?そりゃ行きたいけどさ〜。紗耶香はどこ行きたいのさ?」
 ズバリ、当てられてしまったので私は動揺を隠すように聞き返した。
 さすが長い付き合いなだけあって、私の考えはスッカリよまれていた。
 「うーん。そうだな〜。思いきって関東を離れてみたいかも。」
 関西。私の頭に裕ちゃんが蘇る。
160 名前:桜の想い出 投稿日:2003年01月10日(金)01時44分24秒
 「観光?海?」
 私は紗耶香に悟られないように言葉を続けた。
 「両方がいいよねー。沖縄とかまでいっちゃいたい気もするけど、
  高いんだろーなー。」
 遠くのテレビなどでしか見たことのない沖縄を想像しているのか、
 澄み切った青空を仰いでいる紗耶香の横顔は希望に満ちた
 美しい顔だった。
 「そーだねー…。」
 何も言わずにいるのは、何か変に思われそうで、
 曖昧に、そして話を一旦切るように、私は返事をすると
 残り少なくなった紅茶の缶をもてあそびながら立ち上がった。
 紗耶香はそんな私の動きに特に関心を持つわけでもなく、
 じっと空に浮かぶ雲を眺めていた。
 私は缶に気を払いながら、体を思いっきり伸ばし、
 フラフラと目の前に広がるフェンスに近づいて行った。

 そして、何気なく木や、立ち並ぶ民家の屋根を見渡しながら
 紅茶を一口飲んだ後、気が付いた。
 
 やっと気が付いた。

 小さな姿に。こっちをずっと見上げていた様子の
 裕ちゃんの姿に。

 確かに、その時私達の目は合ったんだ。
161 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2003年01月10日(金)15時12分35秒
そろそろやぐちゅーに新たな展開の予感。
162 名前:GOO 投稿日:2003年01月11日(土)00時01分25秒
中澤さん、謎が多すぎ。
そろそろ、わかってくるんでしょうか?
楽しみです!!
163 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年01月28日(火)00時34分21秒
これからの展開にかなり期待してます。
頑張って下さい
164 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月05日(水)20時13分36秒
気になるぅ〜!!お願いです。続きを書いて下さい☆
165 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月16日(日)12時48分42秒
すごい続きがきになるー!
166 名前:作者です。 投稿日:2003年02月18日(火)21時16分48秒
>>161 読んでる人@ヤグヲタさん
>>162 GOOさん
>>163 やぐちゅー中毒者セーラムさん
>>164 名無しさんさん
>>165 名無し読者さん

大変遅くなってもうしわけございません。
早くすると言い続けて毎回この有様…
もう言いません汗 嘘ばっかついてますから・・・
なかなか時間が取れず、こんなペースですが
これでもよければまた読んでやってください。
本当にすみません。毎日更新してた昔がなつかしい…です。
それでは更新します。
167 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時17分35秒
 「裕ちゃ…。」
 思わず口に出していた。
 
 一瞬目と目が合った。確かに。

 けれど、裕ちゃんは目が合っていないように自然に目を伏せ、
 姿を私の視界から消した。

 「なんか言った〜?」
 背後から紗耶香の声。
 「ううん、なんにも…。」
 私は振り返ってそう言い、もう1度裕ちゃんの居た所を見た。
 そこにはもう誰もいなかったけれど。
 風に揺れるカーテンだけだった。

168 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時18分05秒
 目があった。確かに。
 中澤が見つめていた矢口と目があった。
 そして、矢口は呟いた。
 『裕ちゃん』と。
 何度も耳にした言葉。
 間違えることはない。
 聞こえる訳はなかったけれど、中澤の耳には確かにそう聞こえた。
 それははっきりと。

 中澤は視線をはずし、矢口から見えない所に移動するしかなかった。
 矢口の目を見つづけられなかったから。
 手の中のコーヒーに口をつけた。
 すっかり冷めてしまっていた。
 
 「…。あかん・・あかんのや・・。」 
 中澤は力なくそう呟くと、まだ並々とカップに残っているコーヒーを
 流しにすてた。蛇口を捻り勢いよく水をだす。
 流れる水の音だけが部屋に響く。
 「私にはせなあかんことがあるんや…。」
 コトっと大きな音が響く。カップにみるみる間に水がたまり溢れだした。
 「……。」
 最後に呟いた中澤の言葉はかすれていて、中澤にしかわからない言葉だった。

 夏を迎えようとしている日差しが、窓から中澤の背中を照らそうとしていた。
 その肩は小さく、小刻みに震えているように見えた。
169 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時18分41秒

 ずっと見てたけれど、1度も裕ちゃんを見ることも感じる事もできなかった。
 まるであの部屋にはいないかのように、気配を感じる事はできなかった。
 風にゆれるカーテンだけが私の視界にあった。
 
 やがて時間がきて、私と紗耶香は教室に戻った。
 つまらない授業が始まり、私は無意味に黒板を見つめていた。

 さっき見た、確かに見た裕ちゃんの顔が蘇る。
 何か言いたいような顔をしていた気がする。
 それはきっと私の思い過ごしだけれど。
 
 気になって仕方が無かった。
 あの日、コンビニで見た顔じゃなく、毎朝見ていた顔。
 裕ちゃんの顔。
 
 今すぐ裕ちゃんの元に行きたかった。

 そして、言ってしまいたかった。

 裕ちゃんが好きだと。


170 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時19分23秒
 「矢口?どうしたの、ボーっとして。」
 いつの間に授業が終わったのか、紗耶香の声で我に返る。
 「え?あっごめんごめん。」
 不思議そうな顔をした紗耶香を見上げて笑顔を作る。
 「なんか最近ボーっとしすぎだよ、矢口。脳みそ腐っちゃったか?」
 「失礼な!!年頃の乙女なんだからいろいろ悩みあるっての!!」
 冗談交じりに会話を交わす。
 「移動だよ。行こっ。」
 紗耶香に促され席を立つ。
 もうクラスメートは半分くらいが教室から出て行っていた。

 3年生の教室前を通る。
 音楽室というのはどうして離れた場所にあるのだろうか。
 「音楽がうっさいからじゃない?」
 依然紗耶香はそうぶっきらぼうに言っていた。
 ふと思い出す。

 「あっカオリだ。」
 3年の教室の出口に反対を向いて立っている姿が見える。
 飛びぬけて身長が高いのですぐにわかる。
 「ほんとだ!!カオリ―!!」
 私がそう呼びかけるとカオリは振り返った。
 
 笑顔とも苦痛とも言える顔で。
171 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時19分55秒
 「どうしたの?」
 紗耶香がカオリに近寄る。
 「いや、別になんでもないよ。」
 一瞬でその表情は消え、笑顔になる。
 「受験?」
 「うん、まぁ、そんなとこ。」
 その時、一瞬だけ、カオリは私を見た。
 笑顔で。
 でも、何か伝え様としている顔。

 チャイムが鳴り、ざわついていた人達がそれぞれの教室に
 吸い込まれるように入っていく。
 「あっじゃ、またね。早くいきなよ〜。」
 無邪気にそう言って手を振って教室に入って行ったカオリを
 目で追っていた時、私は見た。
 
 いつも万面の笑みで私達を明るくしてくれる、
 なっちが俯いて涙で顔を濡らしている姿を。

 紗耶香は教室内に目を向けていなかった。
 そのまま私の数歩前を歩き始めていた。
 そして、私が後ろに居る事に気が付き、
 「矢口!はやくいこー!!」
 と、笑顔で言った。

172 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時20分29秒
 カオリの一瞬見せた表情。
 
 なっちの涙。

 私は裕ちゃんの顔を頭から拭えなかった。
 
 だってカオリは…
 アンナ笑顔ダッタンダ。

 裕ちゃんとなっちはきっと終わった。
 終わったんだ。  

 
 授業で先生が流しているクラシックが音量が上がったように耳に響く。
 それはなっちの終わりを告げているのか。
 私の希望を告げているのか。

 「何?この曲好きなの?」
 「え?」
 「だってすっごい笑顔だよ?」

 隣の席の友達に言われるまで気が付かなかった。
 私は笑顔だった。
 
 私は裕ちゃんとなっちの関係が切れたと聞いて
 こんな笑顔を顔に出していた。

 「え?矢口?ちょっと!!」
 友達の声が聞こえた。
 音楽に合わせて。
 だんだん小さく小さく…なった。
173 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時21分08秒
 気が付いた時、いや、我に返った時、
 白い天井の下だった。

 気分がまだ悪かった。

 覚えている。
 私は気分が悪くなったんだ。
 自分に対して。

 人の不幸を知って知らずと笑顔になった私。
 気持ちがわるかった。
 歪んでいる。私は歪んでいる。
 そう思った。

 一体私はなんなんだろう。
 醜い。

 消えてしまいたかった。

 
 誰も居ないのか、物音一つ立たないこの部屋で
 私は自分を誰にも見られないようにシーツで隠した。


 どうやらすぐ気が付いたみたい。
 その後チャイムが鳴って、紗耶香が来た。
 けれど、私は寝た振りをしていた。
 今は合わせる顔がない。こんな私を見られたくなかった。
174 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時22分02秒
 「大丈夫?…また後で来るね。」
 休み時間が終わる時までずっと横に居てくれた紗耶香は
 意識の無いふりをしている私にそう言うと、
 静かに出て行った。
 カラカラと小さく開くドアの音が聞こえ、
 またカラカラと閉じた音がした。

 紗耶香はなんでこんな私にあんなに優しいんだろう。
 こんな醜い私のどこを見て友達で居てくれてるんだろう。
 なんだか申し訳なくなった。

 カラカラとドアの開く音がした。
 先生かな?
 私はジッとしたままでいた。
 
 ドアを閉めて数歩歩く音がする。
 ぺラっという紙の音。
 在室記録でも見ているのだろう。
 ベッドからはカーテンで仕切られていて見えない。
 けれど、私はまるで身を隠すようにじっとしていた。

 ウロウロと歩く音が聞こえる。
 どこかのドアをノックして開ける音。
 少し戸惑った足音。
175 名前:桜の想い出 投稿日:2003年02月18日(火)21時22分35秒
 また歩く音がする。
 ガタ、という音がして、窓が開いた。
 風でカーテンが揺れ動く。

 私の居るベッドにも風が届いた。
 カーテンが揺れ動き、少しカーテンを開けたり閉じたりする。
 隙間は小さくて一瞬の光だけが刺し込む。

 私は風が醜い私の心をさらって行ってくれる気がした。
 気持ちよかった。

 また歩く音。
 ガタガタと言わして物を運ぶ音。
 きっと椅子か何かだろう。
 
 窓際に運んでいるのか。
 
 椅子を置いて座った音が聞こえた時、
 風がまた運んできた。

 覚えのある、大好きな、
 裕ちゃんがいつも付けていた香水の香。
 
 その香は風に乗って、私を包みこんだ。

176 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月19日(水)00時48分08秒
待ってましたよ〜★これからの矢口と裕ちゃんが、どうなっていくのか楽しみです!
作者さんのペースで頑張っていって下さい。
177 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年02月19日(水)00時58分46秒
待ってました〜!
やっぱり、やぐちゅー最高です!
178 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月23日(日)01時15分07秒
おお!復活おめでとうございます!
これから二人はどーなるんでしょうか?
楽しみにまってますからゆっくりでもいいんで頑張って下さい!
179 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月06日(木)14時28分19秒
保。
180 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月14日(金)05時22分17秒
181 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月16日(日)17時17分51秒

 私はますます動けなくなった。
 どうしよう?
 さっき目が合った裕ちゃんが同じ空間、すぐ近くにいる。
 
 裕ちゃん!!てカーテンを開いて叫びたかった。
 すぐにでもそうしたかった。

 カーテンの向こうに居る裕ちゃんの息使いが聞こえる。
 窓の外を眺めているのだろうか?
 何を想っているんだろうか?
 
 裕ちゃんは静かだった。


 カラカラ。
 「あっ先生。」
 裕ちゃんとは違う声が聞こえた。
 「どうも。」
 裕ちゃんの声。小さく聞こえた。
 立ち上がったのだろうか?椅子が床を引っかく音が聞こえる。
 「本当はねぇ…。」
 「すみません。いつも用意してもらって。」
 棚の扉が開く音がして、カサっと紙の音がした。
 「ありがとうございました。」
 
 再びカラカラと音がして誰かが出て行った音がした。
 裕ちゃんが出て行ったのだろうか?
 ぺラっという音がした後、カーテンが開いた。

182 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月16日(日)17時18分21秒
 「矢口さん?」
 私は目を閉じて寝ている振りをした。
 今のやりとりを聞いていた、というのは何故かいけないような気がして。
 「寝てるのね…。」
 呟いた声が聞こえ、静かにカーテンが閉じた。

 なんだったんだろう?
 聞いてはいけないものを聞いてしまったんだろうか?

 私は次のチャイムが鳴るまでじっとし続けていた。

 「矢口?起きた?」
 いつのまにか寝てしまっていたらしく、目が覚めたら紗耶香がいた。
 「あっ紗耶香…。」
 ぼーっとしたままの頭で返事をする。
 「大丈夫?いきなり倒れたんだよ?」
 心配してくれてる紗耶香の顔。
 「うん。なんか気分悪くなって…。」
 「もう少し寝ておいた方がいいよ。」
 
 チャイムの音がしてカーテンが開く。
 「あっ矢口さん。気が付いた?」
 保険医の先生が静かに聞いてきた。
 黙って頷くと、先生は紗耶香の方を向いて授業に行くよう促した。
 紗耶香は素直に頷いて、
 「じゃ、気分が良くなるまで無茶したらだめだよ。」
 と私に言って出て行った。
 
183 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月16日(日)17時18分58秒
 倒れた経過を聞かれ、その旨を伝える。
 保険医の先生は優しく、
 「もう少し寝てなさいね。」
 と、休む事を許された。
 先生は静かにカーテンを閉じ、私は1人ベッドに居た。

 紗耶香にも心配をかけている。
 こんな裏切っている私を心配してくれているのは辛かった。

 どうせなら嫌ってほしい。
 こんな私を。

 紗耶香に言おう。
 言ってしまおう。
 もう、紗耶香を騙し続けたくない。

 裕ちゃんが開けた窓からの風が私の顔に触れた。
 裕ちゃんの香がした気がした。
 
 目を閉じると裕ちゃんの姿が目に浮かんだ。


184 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月16日(日)17時19分44秒
 中澤は次の授業の準備をしてしまうと机の上に置いた
 小さな紙の袋を指でもてあそんでいた。

 あそこに、あの時、矢口がいた。
 カーテンは閉じられていて、何の物音もしなかったけれど
 矢口がいるのを中澤は感じ取っていた。

 ソワソワとしてじっとしていられなかった。
 在室記録を見て、あぁやっぱり。とカーテンを見つめた。
 
 何故ここに居るのだろうか?
 どうして今?

 中澤は部屋を出ようと考えたが、約束の時間だったため
 しかたなく部屋にとどまった。
 よどんだ空気が自分の周りを取り囲んでいるような気がして
 空気を入れ替えた。
 
 風がカーテンをめくった時、小さな隙間ができた時、
 胸騒ぎがした。


 中澤は保健室の事をゆっくり思い出しながら貰った袋を手にとってみた。
 頼んで手に入れてもらっている薬。
 少しそれを眺めると、自分の鞄の底にそれを仕舞い
 何かを思い出しているかのように外に目を向けた。

 
185 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月16日(日)17時20分15秒
 「あれ?もう大丈夫なの?」
 教室に戻ると一目散に紗耶香が駆け寄ってきてくれた。
 「うん。平気。ごめんね、心配かけて。」
 「ううん。矢口が大丈夫だったらいいんだけどさ。」
 まだ額に少し皺をのこしながらも紗耶香は笑顔を作ってくれた。
 
 「今日暇?」
 「うん。暇だけど…。」
 「ちょっとつきあってくれる?」
 「いいよ。でも体大丈夫?」
 「うん。」
 私の顔をじっと見つめた後、紗耶香は納得したかのような顔をして
 席に戻っていった。

 紗耶香… 
 
 私はその後ろ姿をずっと見つめていた。
 こんな風に会話することもなくなるかもしれない。
 
 今日、私は紗耶香に裕ちゃんへの気持ちを伝えるから。


186 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年03月17日(月)02時03分22秒
市井さんは矢口さんの告白にどんな反応するんだろう
そして、中澤さんがもらったのはどんな意味があるんだろう?
楽しみに待ってまーす
187 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月18日(火)21時13分58秒
ついに市井さんに告白するんですね!!どうなるんだろう??
それと、裕ちゃんともどうなるんだろう?気になる…
続き待ってます☆頑張って下さい(^_^)/~
188 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月24日(月)00時11分07秒
裕ちゃんの薬は何だろう?
気になる〜。
189 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時31分05秒
 私は紗耶香をどこに連れ出すか一人悩んでいた。
 二人っきりで話せる所。
 静かな所がいい。

 どんなに考えても、そんな所は知らなかった。
 騒がしい場所にばかり足を運んでいた私がなんとか適所を
 思い付いたのは、ここ、学校だった。
 あの、裕ちゃんが見えた屋上。
 あそこしかなかった。

 一緒に屋上に向かうのは何か躊躇われて、
 私は身を隠すように一人先に向かった。

 いいかもしれない。
 紗耶香と出会ったこの学校でけじめをつけるのは。

 屋上に繋がる階段を、私は駆け上がった。
 少し重い扉を開くと、夏の日差しと風が私を取り巻いた。
 
 裕ちゃんが見えた場所が目の前にあったけれど、
 私はそこにはいかなかった。

 どうしてだろう?
 
 いけなかった。

190 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時31分44秒
 どうやって切りだそう?
 なんて考えなかった。
 想いのままを紗耶香にぶつける。
 それしかないから。

 私は紗耶香が来るまで、ただじっと小さく見える帰宅しだしている
 生徒の頭を見ていた。

 「ごめん、遅くなった。」
 柵に寄りかかっていた私の背後の扉が開き、紗耶香が少し息を切らして
 姿を見せた。
 「ううん。呼び出したりしてごめんね。」
 
 私は落ち着いていた。

 「どうしたの?」
 人気のない屋上で、私達は肩を並べて座った。
 日差しはジリジリと肌を焦がすほどではなかったけれど、
 確実に私の体の中に浸透していた。
 「最後まで聞いてほしい。何も言わずに。」
 紗耶香は不思議そうな表情を一瞬見せたが、
 黙って頷いた。
191 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時32分23秒
 「びっくりすると思うんだけど、本当の事だから。
  矢口、今すっごく好きな人がいるんだ。気になって気になって仕方がなくて。
  紗耶香には今までよく相談してたよね、こういうこと。でも、
  今回はずっとできなかった。隠し続けることしかできなかった。
  それは、自分でも最初はよくわかってなかったから。」
 
 上手く説明できなくてもいい。
 気持ちを全部伝えようと思った。
 紗耶香は黙って頷きながら聞いていてくれた。
 
 暑かった。

 「自分の気持ちに気が付いたのは、結構前なんだ。
  それでもずっと言えなかった。誰にも。
  自分でも自分がおかしい気がしたから。
  でも、ずっと考えてたんだけど、この気持ちは本物なんだ。
  だから、どう思われても紗耶香にだけは
  矢口の口から伝えたかったんだよね。」 

 一呼吸だけした。

 「矢口、裕ちゃんの事が好きなんだ。」

192 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時32分58秒
 「…え?」
 紗耶香は小さく、かすれた声でそう言った。
 目は私を凝視していた。

 「中澤先生の事が好き。おかしいと思われると思うけど、
  自分でも最初はおかしいと思ったけど、好きなんだ。
  もうずっと裕ちゃんと喋ったりしてなかったけど、
  気持ちはどんどん大きくなってる。
  胸が・・痛くなるくらい、矢口は裕ちゃんが好き。」

 紗耶香は唖然とした顔で私を見ていた。
 何か言いたいのか、少し口が動いている。
 けれど、何も言わなかった。

 「だから、紗耶香との約束、もう守れない。
  矢口は裕ちゃんと喋りたいんだ。裕ちゃんがどうであれ。
  紗耶香にどう思われても、これは本当だから。」

 紗耶香は小さく喉をならして唾液を飲み込むと、
 やっと言葉を発した。

 「女だよ?」
193 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時33分35秒
 紗耶香の目は動揺を露にしていた。
 「うん。そうだよ。」
 私の返事に、また言葉をなくす。

 「…紗耶香、どう思ってるかちゃんとわかてるから。」
 私は立ち上がった。
 体内が熱く熱くなっていた。
 座ったまま、視線だけ私を捕らえている紗耶香を見下ろす形になる。
 「普通の反応だと思うし。矢口だって今までだったら考えられなかったし。」
 紗耶香は私を見上げたままだった。
 「バイバイ。今までありがとう。紗耶香の事、本当に好きだったよ。」

 私はそのまま屋上をでようと歩き出した。
 紗耶香の顔は、ずっと固まっていた。

 ノブに手をかけたとき、私の腕は勢いよく掴まれた。
 「ちょっと待って!!ちょっと待って…。」
 私の手を掴んだまま、紗耶香は少しの間黙っていた。
 
 黙って私を見つめていた。

194 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時34分07秒
 「どういうこと?」
 「え?」
 紗耶香の突然の問いかけに言葉がつまる。
 「どういうことか聞いてんの!!」
 「だから・・裕ちゃんの事が好きだって…。」
 「じゃなくて!!”バイバイ”ってやつ!!」
 紗耶香は怒っていた。
 私の手を掴んだままだった。
 「え?だって…。」
 「だってじゃないよ!何格好つけてんの?
  なんでそーなるのさ!関係ないじゃん!それとこれとは!!」
 私は紗耶香の顔を見ていた。いや、見続ける事しか動けなかった。
 頭が回らない。
 「矢口はさ、…矢口はさ、一人で勝手な事考えすぎだよ!!
  そりゃ、びっくりしてちょっと今正直なんて言ったらいいのか、
  自分がどう思ってるのかもはっきりわかんない状態だけど、
  決め付けちゃったりするのはおかしいじゃん!!」
 紗耶香はそこで一旦言葉を切った。
 一息いれてからまた口をひらく。

 暑かった。
 唇が乾いてかさかさになってる気がした。
195 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時34分38秒
 「そういう事で人を判断したりしないよ、市井は…。」
 生ぬるい風が私達にまとわりついた。
 風で髪が揺れる。
 紗耶香の顔は今まで見た事のないものだった。
 
 そうだ。
 私だったんだ。
 誰よりも偏見を持っていたのは。
 想像の偏見に震え、望んでないはずなのに、
 その偏見に当てはめて物事を考えていたのは。

 「ごめん。」
 そう言うのがやっとだった。

 「…まっ矢口の考えてたことなんてわかるけどね。」
 紗耶香は表情を緩ませてそう言うと、くるりと身を翻して
 屋上のフェンスの方に歩き出した。
 「人が人を好きになるのに理由はいらないってやつ…か。」
 「紗耶香…。」

 けれど…

196 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時35分11秒
 「矢口…。」
 フェンスに持たれかかっていた紗耶香のその声は今までとは違っていた。
 「女だからとかじゃなくて言うよ。
  中澤はやめたほうがいい。」
 紗耶香の目は冷たかった。
 「え…なんで・・?」
 声を搾り出すのがやっと。
 「あの人、何か隠してる。信用できない。」
 真剣そのものだった。

 「なんでそんな事言うの!?裕ちゃんと何かあったの??」
 「何もないよ。うまくは説明できないけど、市井を信じてよ。」
 「そんな…!!裕ちゃんは信用できる!!」
 信用できる保証なんて私にはない。
 毎朝喋ってただけ。
 けれど、裕ちゃんをそんな風に言う紗耶香に怒りを感じない訳がなかった。
 それに、裕ちゃんに騙される事もない。
 あの朝の姿が裕ちゃんなんだ。

 私は屋上を飛び出した。
197 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時35分50秒
 あたしは屋上で1人になった。
 矢口が怒ってとびだしていって、静寂が訪れる。
 矢口の行動は無理ないだろう。
 
 矢口が中澤の名を何度か口にしていたのには気がついていた。
 だからあたしはよく中澤を見るようになった。
 矢口が好意を寄せてるのはすぐにわかったし。

 けれど、あたしはすぐに中澤に不信感を抱き始めた。
 
 何度か目があったから。

 その目は感情を消し去った目。
 いや、感情は一つだけもれている。

 ―怒り―
 
 何故、そんな目で見てくるのかわからない。
 あたし以外の生徒にはそんな目はしていないのに。

 意味がわからない。

198 名前:桜の想い出 投稿日:2003年03月24日(月)04時36分25秒
 誰かといる時はあの目はしていなかった。
 屋上で中澤をぶった時も普通だった。
 あの日、生物室でもあたしはあの目に合わなかった。
 
 1人と1人の時、中澤はあの目をしていた。
 もめる前、出会ったときからあの目だった。

 何か考えている。
 企んでいる。
 
 けれど、この事を矢口に言っても仕方が無かった。
 証拠が無い。
 それに、矢口を傷つけたくなかった。
 矢口は中澤が好きなんだから。
 今日まではなんとか関わり合わないようにさせ続けられてたけど、
 これからはもうそうはできない。
 矢口は中澤の元へ行くだろう。 
 
 はっきりさせなきゃいけない。

 あたしはそう決心すると何気なくフェンスから背を離し、下を見下ろした。
 正直驚いた。
 中澤があたしを見ていたから。
 反射的に飲み込んだ唾が喉を通りすぎる。
 
 背中に汗が流れた気がした。
 暑いはずなのに、小さく身震いした。

199 名前:作者です。 投稿日:2003年03月24日(月)04時46分20秒
>>176さん  こんなペースですみません…
>>177 186さん やぐちゅー最高ですね。
>>178さん  二人はそろそろ進展です。。。どうであれ遅っ
>>179さん  保全ありがとうございます。
>>180さん  保全ありがとうございます。
>>187さん  がんばります。
>>188さん  薬は…もうすこし待ってください。

いつもながら遅い更新ですが…すみません。
とろとろと進んでるつもりですが停滞してるとも言いますね。
はやくドカンとすすませたいです。。。
本当にすみません。書き溜めなければ・・・
200 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2003年03月24日(月)11時41分37秒
久しぶりに読みましたが、相変わらず面白いですね。
やぐちゅーの行方、市中の対峙(?)の行方、今後の展開が非常に気になります。
201 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月24日(月)18時44分26秒
やぐっちゃんが自分の気持ちに素直になって良かったな〜って思ってるんですが、
裕ちゃん謎が多すぎ!!
続きがめっちゃ気になります 更新楽しみにしてます。
202 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)02時28分02秒
裕ちゃんはいったい何をたくらんでいるんだぁぁ!!気になる〜
203 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年03月27日(木)04時17分35秒
怒り・・・って
一体どういう事なんだろう?
続き楽しみに待ってます
204 名前:名無しくん 投稿日:2003年04月02日(水)00時09分26秒
ものすごく続きが気になってます〜。
205 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時29分39秒
私は紗耶香の言葉が信じられなかった。
信用できない…?
裕ちゃんが先生だから?
でも、何か違っていた。
紗耶香の顔はデタラメを言っている顔じゃなかった。
けれど、そんなこと信じられるはずなかった。
きっと紗耶香は何か思い違いをしているんだ。
そう思いたくて、そう思うしかなくて、
私は夢中で走り続けた。

もう我慢なんてしなくていいんだ。
私は…私はやっと裕ちゃんと逢えるんだ!!
裕ちゃんがどう思っていようと今の私にはお構いなしだった。

裕ちゃんに逢いたくて逢いたくて、私はいつのまにか
紗耶香の顔など頭から無くなっていた。

紗耶香が私を騙す事なんてないのに。


私は生物室の前にきていた。
中に裕ちゃんがいるかいないかなんてわからなかったけれど、
私はこの部屋の前にいた。
閉じられた静かな部屋の前で1度呼吸を直すと
軽くノックをした。
裕ちゃんの声が聞きたい。
206 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時30分15秒
「…はい。」
私は何も答えずに扉を開けた。
窓から光が差す向こうに裕ちゃんはいた。
「裕ちゃん…。」
裕ちゃんは少し驚いたような顔をして黙っていた。
窓際に居た裕ちゃんの顔は、
私には女神のように綺麗に見えた。
「裕ちゃん…。」
もう1度名前を呼ぶ。
「…矢口…どうしたん?」
裕ちゃんは驚きを上手く隠せないまま私に答えた。
「入っていい?」
何か、勝手に入ってはいけないような気がして、断りをいれなければならない気がして、
私は裕ちゃんに返事を求めた。
「うん。ええけど…いきなりどうしたん?」
裕ちゃんは窓の方を少し気にしたようにしていたけれど、
私を中に入れてくれた。
207 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時30分48秒
私は正直言って中に入るのもとがめられるような気がしていたから
拍子抜けした。

扉を閉めると私達二人っきりになった。
私は何を喋ればいいかわからなかったけれど、
紗耶香に告白したことで気が大きくなっていたのか、
どんどんと言葉が胸に溢れ出していた。

「どうして?矢口の事嫌いになった?」
「え?何?」
「裕ちゃん、朝来てくれなくなったじゃん…。」
涙よ、出るな。泣いたら駄目だ。
「朝?あぁ、それは…。」
少し戸惑ったように裕ちゃんは髪をった。
「ちょっと忙しくしてたから。」
「なっちと一緒に居たじゃん。」

私は裕ちゃんの何でもないのにどうしてこんなに気が大きいんだろう。
本当の事を聞いたら傷つくのはわかっていたのに
私の口からは隠していた気持ちがどんどん出始めていた。

裕ちゃんは私を見つめていた。
静寂が生物室を包む。
「どうしたん?矢口…。」
208 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時31分20秒
裕ちゃんがそう言うのはわかる。
だけど、それは後から。
今の私にそんな事は理解できなかった。
「どうしたんじゃなくって!!何も言わずに朝こなくなるなんて酷いじゃん!!」

勝手な私。
裕ちゃんの気持ちなんてお構いなく、いや構ってる余裕なんてなく
二人っきりの空間に叫んでた。

「ごめん。でも、矢口の事が嫌いになったとかじゃないんや。」
小さくそう言ってくれた裕ちゃんは私を見ていなかった。
「でも、別に約束してたわけじゃないやん。」

裕ちゃんがそんな事を言うなんて思っていなかった。
約束していたわけじゃない。
けれど、自然に毎日会う関係だったはず。
裕ちゃんの言葉はきつかった。
「…そうだよね…ごめん…矢口と朝会う事なんて別に決めてた訳じゃないもんね。」
裕ちゃんにとってはただの偶然だったんだ。
自分の通勤途中にタマタマあう。
私が思い違いをしていただけなんだ。
私はそのまま部屋を後にした。
勘違いした私は酷く滑稽だろう。
こんな無様な姿を裕ちゃんの前に晒しておきたくはなかった。
209 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時31分52秒
「ちょっとまって!!」
まさかの出来事。
裕ちゃんが私を引きとめるなんて思いもよらなかった。
腕を引かれ、再び部屋に入る。
裕ちゃんは扉を閉めた。
「ちゃうねん…ちゃうねん…ごめん。そんなんゆおーとしたんちゃうんや。」
裕ちゃんは頭を振りながら言葉を選んでいた。
「ごめん。ほんまに。矢口の事が嫌いになったとかじゃないねん。
それは信じて。」
「裕ちゃん、どうしたの?」
裕ちゃんが私のことを嫌いだって裕ちゃには何の問題もないはず。
どうして裕ちゃんがこんなに必死に言い訳しているんだろう?
「矢口…信じてくれる?」
裕ちゃんと私の視線が絡み合う。
「うん。」

私の腕は裕ちゃんに掴まれたまま。
裕ちゃんの手は凄く冷たかったけれど、
裕ちゃんの温もりを感じた気がした。
210 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時32分28秒
今の自分の状態に中澤は少なからずとも動揺していた。
はっきりしたから。
最初は中澤自身で矢口との関わりを切った。
…のにも関わらず、今完全に絶ち切れる瞬間、
頭よりも先に体が矢口を離さなかった。
何度も自分の中で、中澤自身も自覚していなかった所で
矢口にたいする思いがあった。

けれど、矢口に対する思いを優先できる状況にない事はわかってりる。
中澤はずっと悩んでいた。
安倍も、矢口も、
全て計画通りだったのに。
計画は微妙に狂いだしていたのだ。

(矢口が傍におったらあかん。)
そう思っても、矢口を掴む手は矢口を離さなかった。
矢口の温もりが心の中のものを溶かしていきそうだった。
溶かしてはいけないものまで…

211 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時33分01秒
目的を果たさなければいけないという思いが中澤を覆う。
そのために、今中澤はここにいるんだから。
けれど、中澤は矢口を今手放したくはなかった。
矢口はずっと中澤を見ていた。
心底心配そうに。
中澤はその視線に答えられるほど、まだ気持ちを立て直していなかった。
「…あんな…。」
ポツリと話し出す。
「裕ちゃん、大丈夫?体悪いんじゃないの?」
「え?全然…なんもないよ。」
心配そうに見てくる矢口の視線はただ中澤を心配しているだけだった。
「でも…。」
何か言おうとして止めた。
一体矢口が何を言いたいのか中澤にはわからなかった。
「朝…行くから…。」
意を決してそう呟く。
それが目的の障害になる可能性は高い。
中澤はそれをわかっていた。

けれど、矢口を離したくなかった。
気持ちは伝えられないけれど、一緒にいたかったから。
212 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時33分36秒
私は裕ちゃんに腕を掴まれたまま、裕ちゃんの傍にいた。
体大丈夫なのだろうか?
きっと昼間もらっていたのは何かの薬。
よっぽど体が悪いんじゃないだろうか?
けれど、その事を知ってるなんて言えない。
言っちゃいけない気がしたから。

裕ちゃんは優しいんだ。
矢口の我侭に付き合ってくれている。
矢口が裕ちゃんの事を好きだなんて言ったら
裕ちゃんはこの手を離すだろうか?
言おうと思ったけれど、言えなかった。
裕ちゃんは前のように矢口に接してくれるんだもん。
ここで言って全てが切れるより、二人の関係が前のようになるほうが
私にとっては最善の気がする。

「朝、また前みたいに話できる?」
「うん。行く。」
「別に無理しなくていいんだよ?」
「無理ちゃう。楽しかったし。」
裕ちゃんの顔が笑ってないように見えた。
笑ってるんだけど、どこかで笑っていられないような…。
わからないけど、そんな気がした。

けれど、高揚した私にはそんなこと関係なかった。
213 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時34分11秒
「おはよ!」
朝、あの道に私より先に裕ちゃんが居た。
私を見ると手を振ってこう言ってくれた。
「おはよー裕ちゃん。」
本当に来てくれたんだ…
期待で胸が膨らんでいたけど、不安がない訳じゃなかった。
来てくれないんじゃないか?そんな気がしてならなかった。
私は裕ちゃんの顔が見れて、本当に全ての不安が飛んで行ったのを感じた。
そう、全ての不安が。

「もうちょっとで夏休みやな。」
裕ちゃんが喋る。久々の会話に私はドキドキしていた。
「うん。裕ちゃんは何か予定きまってるの?」
「う〜ん。受験生の担任やしなぁ。学校と家の往復やわ。」
「えー、夏休みなのに?大変なんだねー。」
「そやで〜。先生は影でいろいろしてるんやから。」
まるで毎日交わしてきたかのような会話。
昨日まで全く話をする事がなかった二人の会話とは思えないくらい
自然な感じがした。二人ともそう作ってるのか?

数分の時間。私は久々の会話に酔いしれていた。
裕ちゃんが職員出入り口に消えて行くのを見送ってから
私は構内に入った。

後ろで誰かが私達を見ていた事になど全く気がつかずに。
214 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時34分46秒
中澤は自分の靴箱の前で、ふぅっと大きく息を吐いた。
自分は自然にできたであろうか?
何故、会話をしていたのだろうか?
朝、あそこで矢口と会うか最後まで悩んだ。
矢口との関わりは問題だから。
けれど、中澤自身の中では望んでいる。
そうは矢口に言えないけれど。
矢口は中澤の気持ちなど知る由もない。
一体何を中澤は考えているのか?
いや、矢口はそんな中澤の事情を考えることもないだろう。
結局は中澤自身の問題。

靴を履き替えながらも、中澤は喜びと後悔の思いを
うまく自分のなかで調和させることができなかった。
215 名前:桜の想い出 投稿日:2003年04月14日(月)00時35分28秒
あたしは矢口と中澤がどうなっているか気になっていた。
矢口は告白したのだろうか?
あの中澤に。
あたしは中澤がすんなり矢口とうまくいっておとなしく
学園生活を送るなんて想像もできなかった。
絶対何かある。
けれど、矢口の幸せを潰したくはない。
あたしは中澤と、いや中澤に真相を確かめなければならないと思った。
気が少しはやる。矢口はもう学校に行っているのだろうか?
どんな顔をしてるんだろう?
矢口の笑顔を壊したくない。
だからあたしは中澤の存在が気になって気になって仕方が無かった。
そして、あの眼が怖かった。
とても。冷たい目。
私しか知らない中澤の姿。

遅刻ギリギリまであたしは部屋の鏡の前で自分の目だけを見つめていた。

真実をみつめようと…。
216 名前:作者です。 投稿日:2003年04月14日(月)00時41分24秒
>>200 読んでる人@ヤグヲタさん 市井がそろそろ動きます。
>>201 名無し読者さん 中澤の謎はもうそろそろです。
>>202 名無し読者さん 裕ちゃんは…
>>203 やぐちゅー中毒者セーラム さん その謎はもうすぐ…のはずです。
>>204 名無しくんさん  遅くてすみません…。

ようやく更新です。遅すぎますね。
1ヶ月ごとって… もっと早くやりたいんですが…
すみません。。。
217 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2003年04月14日(月)10時15分21秒
面白い作品だから早く続きが読みたいという気持ちもあるけど・・・
焦らず作者さんのペースで更新していってください。
マータリと待っていますんで・・・。
218 名前:218 投稿日:2003年04月14日(月)21時20分26秒
いやー、こういうジワリとくるサスペンスは、小出し小出しで
焦らされたほうがかえって燃えるという考えも。
それにしても。
目的のために鋼の意志で自分を抑えようとするのだがそれでも矢口に
惹かれてしまいおのれの計画が徐々に狂っていくことを自覚し焦る中澤……
ど真ん中ストレートですな。ノーベル賞級です。
219 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月24日(木)17時05分20秒
すっごく続きが気になります!!ゆっくり作者さんのペースで頑張ってください(^^)/~~~
裕ちゃんにも矢口さんにも幸せになってもらいたい…
220 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月10日(土)10時33分16秒
中澤さんの謎が気になります!
更新楽しみに待ってます〜。
221 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月21日(水)17時01分52秒
ずっと、待ってますよ〜(^_^)/~ 
222 名前:sennju 投稿日:2003年05月27日(火)22時10分01秒
続き待ってます。
223 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)01時11分08秒
待ってますよぉぉ!!!
224 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)01時30分26秒
保全
225 名前:つみ 投稿日:2003年07月05日(土)19時07分17秒
まだかな・・・?
226 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年07月12日(土)03時20分03秒
まぁ焦らず、じっくり待ちましょうよ
227 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月03日(日)10時51分12秒
復活お願いします。
228 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月29日(金)11時07分54秒
保全
229 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/30(火) 02:05
保全
230 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 21:48
保全
231 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/13(木) 19:38
保全
232 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/03(水) 10:44
保全
233 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/20(土) 17:54
保全
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/15(木) 14:54
待ってるよ〜
235 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/14(土) 22:35
待ってます

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