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cocktails
- 1 名前:nishi 投稿日:2002年05月06日(月)23時46分16秒
- はじめまして。nishiと申します。
カクテルに限らず、
飲み物をイメージにマターリちょこちょこと。
お付き合いいただければ、嬉しいです。
- 2 名前:nishi 投稿日:2002年05月06日(月)23時47分10秒
- まずは一杯目。
<抹茶&Malibu>
- 3 名前:<抹茶&Malibu>0. 投稿日:2002年05月06日(月)23時48分40秒
- 「紫煙…」
白い煙を吐き出しながら、ボソッと声に出してみる。
どこをどう見たって、紫色には思えない。まぁいいのだけれど。
手もとのタバコをもみ消して、無意識のうちに次の一本を取り出す。
ふと箱の中をのぞくと、残りは二本。
「ウワ…量、増えたかも」
今取り出した一本を箱の中に戻し、その場を立つ。
いつからだろう、これが無いと落ちつかなくなってしまったのは――。
- 4 名前:<抹茶&Malibu>0. 投稿日:2002年05月06日(月)23時49分38秒
- 「おはようございまーす」
控室のドアを空けながら、朝の挨拶はさわやかに。笑顔も忘れず。
「おはよー」「うぃーす」「おはようございますっ」
仲間達がそれぞれに返してくれる。今日も1日が始まるのだと感じる瞬間。
もうこの生活を2年も続けているのだと、ざわついた室内を眺めながら思う。
いつからだろう、この毎朝の恒例行事を、「恒例」だと思い始めたのは――。
- 5 名前:<抹茶&Malibu>0. 投稿日:2002年05月06日(月)23時50分29秒
- 「おはよぉございまーす」
それから10数分、新たに響く声。
誰が来たのかなんて、わざわざ見なくても判る。
あたしは平静を装いながら、それでも全神経をこちらへ来る彼女に向ける。
彼女はあたしの隣に腰掛けながら、満面の笑みとともに…
「よっすぃ、おはよー」
いつからだろう、この笑顔がないと、あたしは――。
- 6 名前:nishi 投稿日:2002年05月06日(月)23時51分10秒
- ひとまず、ココで切ってみます。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月07日(火)18時39分31秒
- 誰だ?(w
あいつか?(w
楽しみにしてます
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月07日(火)23時07分39秒
- お、もしかしたら…♪
- 9 名前:<抹茶&Malibu>1. 投稿日:2002年05月08日(水)00時24分37秒
- <抹茶&Malibu>1.
とあるホテルのエレベーターホール。
単に設備が古いのか、それともレトロ調がウリなのか、
やや古びたドアの前でエレベーターを待つメンバーが数人。
「この遅さはヤバイよねー」
階数表示も無く、目当てのエレベーターが今何階にいるのかすらわからない。
「てゆうかさぁ、動いてんのかなぁー、コレ」
少し笑いを含んだ吉澤の言葉に、曖昧な返事を返しながら一歩前に出る後藤。
「んー…」
- 10 名前:<抹茶&Malibu>1. 投稿日:2002年05月08日(水)00時26分30秒
- そのままドアに、ぴたりと張りつく。
「ごっちん?なにやっ…」
突然の行動に首をかしげる吉澤の言葉を、後藤は真剣な表情で遮る。
「ホラ静かにぃー。聞こえないじゃん…。あ、一応動いてるよぉー」
後藤がドアから離れると同時に、すかさずドアに張りつく辻と加護。
それと対照的なのは、
―その場にいた誰が気付いたわけでもないけれど―一瞬動きが止まった吉澤。
そのとき彼女の中に生まれたのは、小さな小さな違和感で。
- 11 名前:<抹茶&Malibu>1. 投稿日:2002年05月08日(水)00時27分23秒
- 前触れも無く開くドア。
「うわっ!そんなイキナリ開かれてもッ!!」
「って、あいぼん、今音聞いてたんじゃないのー?」
「梨華ちゃん、一言多いわッ!」
1日の疲れを和ませるような雰囲気の中、エレベータは目的のフロアへと着く。
「じゃあね。みんな、しっかり休むんだよ。明日も早いぞー」
- 12 名前:<抹茶&Malibu>1. 投稿日:2002年05月08日(水)00時28分45秒
- 各々挨拶をすませ、吉澤もひとり割り当てられた客室のドアを開け、
ひとまず照明のスイッチへとカードキーを差し入れる。
薄明るい部屋の中、ふと脳裏をかすめるのは、先ほどの後藤の…
真剣な、だけどどこかいたずらっぽい笑みを浮かべた表情。
「っかしいなぁー。別に珍しい顔ってワケでもないんだけど…
まいっか。ちょっと疲れてんのかも」
テレビを眺めながら少しだけ休み、あとはシャワー、明日のスケジュール確認と、
寝る前の作業を淡々とこなしていく。人はこの習性を、几帳面と呼ぶのだろうか。
- 13 名前:<抹茶&Malibu>1. 投稿日:2002年05月08日(水)00時29分31秒
- 最初にエレベーターのドアに耳を押し当てたのが辻や加護であったならば、
別に気にも留めていなかっただろう。後藤だったから、少々意外に感じただけで。
世間で言われる「クール」という印象を当の本人から受けたことは無いけれど、
確かに、どことなく物憂げな雰囲気を醸し出していることの多い彼女だったから。
そう、さっきの違和感は、後藤の行動に対するもの――。
なんとなくではあるがそんな結論にたどり着いた吉澤は、早々に眠りに就いた。
- 14 名前:nishi 投稿日:2002年05月08日(水)00時37分26秒
- 抹茶マリブのまったり感といえば、このふたりしかなかろうと…
そこは私の個人的な酒観ですが(笑)。
>7さん。
早速のレス、ありがとうございます。
やっぱり嬉しいものですね〜。
果たして、「あいつ」だったでしょうか?
>8さん。
もしか…しましたでしょうか?
してなかったら、ごめんなさい(笑)。
- 15 名前:8です 投稿日:2002年05月08日(水)19時33分49秒
- もしかしました!!大期待〜♪♪
- 16 名前:<抹茶&Malibu>2. 投稿日:2002年05月17日(金)01時04分19秒
- <抹茶&Malibu>2.
あの日から、ずっとどこかでくすぶりつづける胸の中の違和感。
それを拭い去りたいがために、ひたすらに後藤を観察する。
「べっつに、いつものごっちんだよなぁ…」
「よっすぃ、どうかした?」
腑に落ちない顔で自分を見つめる吉澤に気づき、後藤が近寄ってくる。
「いや、ごっちん、どうかしたのかなぁ?って。なんか変な感じ」
- 17 名前:<抹茶&Malibu>2. 投稿日:2002年05月17日(金)01時05分11秒
- 「へぇっ?あたしはいつもと変わらないってば。
変なのは、よっすぃのほうだよー」
そう言ってへらっと笑った後藤は、すぐに表情を引き締める。
「なんかあるんだったら、言ってね。
よっすぃはあたしにとって、すごい大切な人なんだからねっ」
どくんっ。
そのときまたあの違和感が、よりいっそう大きな波となって吉澤を襲う。
- 18 名前:<抹茶&Malibu>2. 投稿日:2002年05月17日(金)01時06分02秒
- 「…よっすぃ?なんかほんと変だよ?」
ふと気付くと、眼前にはやや心配そうな後藤の顔。
我に返った吉澤は、しばしの間の放心をごまかすかのようにおどけた。
「いやぁ、ヨシザワ、ごっちんのどアップにノッカウされてましたぁー。
はぅぅっ。ハナヂ、ハナヂ出そうっっ!輸血の準備を〜〜」
その場におとずれる、一瞬の沈黙。
しまった、またはずしたか…そんな思いが吉澤の頭を過ぎった瞬間、
「ギャハハハハ!よっすぃ、なに変な口説き方してんだよー!!」
- 19 名前:<抹茶&Malibu>2. 投稿日:2002年05月17日(金)01時12分35秒
- 「吉澤ぁー、今のは口説くっていうより、むしろ変態ちっくだよ」
保田が苦笑しながらも話に乗ってきて、安心した吉澤はさらに口を開く。
「や、ほんとに。ごっちんのアップは、マジでよだれモンですって!」
「…アンタ、真剣に変態入ってるわよ」
「ギャハハハハ!!よっすぃいーよ!その変態キャラ、結構はまってるって!」
吉澤は立ちあがり、妙なガッツポーズをキメて続ける。
「矢口さんがそう言うなら、
ヨシザワ、うらやますぃーキャラは卒業して変態キャラを極めますっ!」
「ちょっ、吉澤、それでいいの?変態でいいの??」
- 20 名前:<抹茶&Malibu>2. 投稿日:2002年05月17日(金)01時14分23秒
- 瞬時にいつもの喧騒を取り戻した控室の中――
――矢口さん、今日もナイスなフォローありがとうございます。
まだ笑っている矢口へと、吉澤はそっと心の中で感謝した。
「ホラ、アンタもなにボーっとしてんの。アンタ変態に狙われてるよ」
少々固まり気味だった後藤に、保田が話を振る。
「ふぇ?あ、そーか。さてはよっすぃ、ごとーに惚れたな?
『うぅ〜んベイベェ、それは恋、恋煩いさっ』」
わざわざ振りつきでキメ台詞を言う後藤の、はにかんだ笑顔と甘い香り。
- 21 名前:<抹茶&Malibu>2. 投稿日:2002年05月17日(金)01時15分14秒
- どくんっ。
――ああ、まただ。
しかし今回は、吉澤もうまく切り返す。
「ごっちん!人のセリフ盗らないでよぉー!!」
「てゆーかごっつぁん、なんで狙われてんのに嬉しそうなんだよー!」
- 22 名前:<抹茶&Malibu>2. 投稿日:2002年05月17日(金)01時16分22秒
- 違和感。
…後藤の行動に対する?いや、むしろ自分の気持ちへの違和感。
「恋煩い、かぁ…。まいったなぁ」
ようやく、自分の心境の変化に気付いた吉澤だった。
当の本人に指摘されて―まぁ向こうは冗談だったのだろうけど―気付くなんて、
自分はちょっと鈍いんだろうか。そんな思いとともに。
- 23 名前:nishi 投稿日:2002年05月17日(金)01時20分16秒
- 遅くなりましてm(_ _)m。
>15:8ですさん。
ありがとうございます。
またーり、またーり。話の進展も、マターリ。ですが(笑)。
- 24 名前:オムらいっすぅ 投稿日:2002年05月17日(金)16時12分45秒
- いいですね、よしごま!
変態ちっくなよしこが好きです(笑)やぐっちゃんもナイス!
続きを楽しみにしてます〜^^
- 25 名前:nishi 投稿日:2002年05月19日(日)01時55分22秒
- <抹茶&Malibu>3.
仕事仲間。女のコ。そしてなにより、いちばん大切な親友。
壊すわけには、いかないのだ。…今の関係を。居心地の良い、最高な距離感を。
後藤への想いを自覚してからはや1ヶ月、違和感に苛まれることはなくなった。
しかしもっと厄介な気苦労が吉澤へと押し寄せる。
後藤を求める気持ち。反して、「決して気付かれてはならない」という警鐘。
- 26 名前:nishi 投稿日:2002年05月19日(日)01時56分04秒
- 胸に溜めた煙をおもいきり吐き出す。白い煙は、空気中に薄まって見えなくなる。
――この煙とともにこの想いも消えてなくなれば、どれだけ楽になれるだろう。
「うぉっぅわぁぁぁぁぁぁぁああああああどあおう!!!」
苛立ちにまかせて奇声をあげた吉澤の前に現れたのは、彼女を叫ばせた当の本人。
「よっすぃ!?」
- 27 名前:<抹茶&Malibu>3. 投稿日:2002年05月19日(日)01時58分04秒
- 驚いた表情の後藤の目線が、一瞬おいて吉澤の顔から右手へと移る。
「…よ…すぃ?」
「あ…」
「ちょ…なに吸ってんの!」
後藤はひどく慌てた様子で、吉澤の右手からタバコを奪い取り、そのままもみ消す。
「…なんで?」
先に沈黙を破ったのは、やや怒りを含んだトーンの後藤の言葉。
まさか本当のことを話すわけにはいかない吉澤は、すぐに言葉を返すことができない。
- 28 名前:<抹茶&Malibu>3. 投稿日:2002年05月19日(日)01時58分46秒
- 「ん…うち、父親がすごいヘビースモーカーでさぁ。ちっちゃい頃から煙に慣れてて、
なんか煙ないと、かえって落ちつかな…」
「嘘…」
吉澤の言い訳を後藤はたった一言で遮り、さらにそのまま続ける。
「吸い始めたの、1ヶ月くらい前からだよね」
「…ごっちん、なんで知ってるの?」
吉澤のもっともな疑問に、後藤は微妙な笑顔を浮かべて答える。
「やっぱり…」
- 29 名前:<抹茶&Malibu>3. 投稿日:2002年05月19日(日)01時59分23秒
- 「って、もしかしてカマかけ…」
「黙って」
またしても一言で吉澤の言葉を遮る後藤。椅子に腰掛ける吉澤に正対し、
少し身を屈めて両手で吉澤の頬を包む。お互いの吐息が届きそうな距離。
どくんっ。
――ウソ、ヤバイって。顔、ちかっ…
言われずとも話せるような状態ではない吉澤を支配していたのは、
その緊迫した雰囲気からはかなり場違いなものだった。
- 30 名前:<抹茶&Malibu>3. 投稿日:2002年05月19日(日)01時59分55秒
- 「身体に、悪いんだよ?」
「ぅ…ん」
ぎゅっと目を閉じて、やっとの思いで応える吉澤。
「バレちゃったら、大変なことになるんだよ?」
「うん」
「わかってるんなら、いいよ。
でも、後藤は、よっすぃがタバコ吸うのは、やっぱ…ヤだ」
「…うん」
それだけ伝えた後藤は、すっと吉澤から離れる。
恐る恐る目を開け俯いた顔を上げる吉澤に、ふっと微笑みかけて言う。
「もぅ、なんて顔してんのぉ。ホラ、一緒に楽屋戻ろ?」
- 31 名前:<抹茶&Malibu>3. 投稿日:2002年05月19日(日)02時00分34秒
- 差し出された手を取りかけ、しかし後藤と目を合わせられずその手を戻した。
「あ、うん。…ゴメン、やっぱ先行っててもらえるかな。すぐ戻るから」
「ん…わかった」
遠ざかる後藤の足音を耳に、椅子から立ちあがろうとして失敗した吉澤は、
そのまま床へとうずくまった。…次のタバコに、火をつけながら。
「あぁぁぁモォォォォォォ…おかしくなりそぉー…」
- 32 名前:nishi 投稿日:2002年05月19日(日)02時08分05秒
- 25、26、タイトル失敗…もぅ。
>24:オムらいっすぅさん
楽しみにして頂いて、ありがとうございます。
まぁ多分、そんなに変態ってワケでも…(笑
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月19日(日)12時36分48秒
- かなりいい、これ!
- 34 名前:<抹茶&Malibu>4. 投稿日:2002年05月24日(金)21時33分46秒
- <抹茶&Malibu>4.
メンバー達をホテルへと運ぶ車の中、吉澤は一人考えていた。
昼間、あの時現れたのが、後藤ではなかったら。
見つかった相手にも寄るだろうが、おそらく「厳重注意」どころでは済まない。
スタッフ、取材陣を含め、多くの関係者が出入りするコンサート会場。
写真の一枚でも撮られてしまえば、即クビだろう。娘。自体にも迷惑が及びかねない。
頭では理解していたつもりだったのだけれど、どうにも耐えられなくて。
- 35 名前:<抹茶&Malibu>4. 投稿日:2002年05月24日(金)21時35分22秒
- 我ながら理性的な方だと思っていた自分をここまで狂わせた張本人は、
いつもの指定席ではなく、真後ろのシートにいる。そう、今は隣にいない。
眠っているのだろうか。後ろの様子をうかがおうにも、振りかえる勇気はない。
「よっすぃ、疲れた?それともそれ、新しいキャラ?」
黙り込む吉澤に、慈しみとからかいを同時に含んだ声をかけたのは隣に座る矢口。
場の空気を読み、人の心を読み、なおかつ息苦しさは感じさせない気遣いが嬉しい。
- 36 名前:<抹茶&Malibu>4. 投稿日:2002年05月24日(金)21時35分59秒
- 「そんなトコです」
吉澤は、情けない表情のまま応えた。不自然に取り繕っても仕方がない。
なぜなら、なにもかも見透かしそうな彼女の目が、不思議と不快ではないから。
「まぁさぁ…いろんなコトが、あるよねぇぃ」
そう言ってイヒッを肩をすくめる矢口に、吉澤は目だけで笑って返す。
――あぁ。ほんとに、この人にはかなわないなぁ。
- 37 名前:<抹茶&Malibu>4. 投稿日:2002年05月24日(金)21時36分31秒
- 「お疲れサマでしたー」
車がホテルへと着き、各部屋へと移動する最中、吉澤の後ろから声がかかった。
「よっすぃ」
もうずいぶんと長い間後ろを振り返るきっかけを欲していたような気がする吉澤は、
その声の主へと勢い良く振り向く。
「よっすぃ、動きがおかしいよー」
「ィイシカワァァ!そんなのいつものコトだろうがッ。ホラ行くよ!」
不満の声をあげる石川をぐんぐんと引っ張って立ち去る矢口を、後藤はふと見やる。
- 38 名前:<抹茶&Malibu>4. 投稿日:2002年05月24日(金)21時37分21秒
- 「いつものコトって…」
苦笑気味の吉澤に視線を戻し、少し緊張した面持ちで後藤は用件のみを伝える。
「後で、さぁ…部屋、行ってもいいかな?」
「も、もちろん。じゃぁ待ってるよ」
一瞬の沈黙の後、精一杯の笑顔で吉澤が応えると、後藤も軽く笑った。
「じゃ、後でね」
去っていく後藤を見送ると、吉澤は大きなため息をついた。
- 39 名前:<抹茶&Malibu>4. 投稿日:2002年05月24日(金)21時39分45秒
- 相変わらず、動きがありませんが。(笑
>33
カナリ嬉しい、ソレ!
ありがとうございます。(^^
- 40 名前:nishi 投稿日:2002年05月24日(金)21時40分35秒
- あ、タイトル入れっぱだ…。
- 41 名前:<抹茶&Malibu>5. 投稿日:2002年05月31日(金)15時37分16秒
- <抹茶&Malibu>5.
自室へと戻った後吉澤の部屋を訪ねる準備を整えた後藤は、
ふとこの1ヶ月のことを考えていた。この1ヶ月の、吉澤のことを。
みんなでいるときにはそう感じられないが、2人でいるときの張り詰めた感じ。
決して避けられているとは思わないけれど、少しだけ距離とられていると感じる瞬間。
かと思えば、必要以上に優しく接してくれることもしばしばある。
- 42 名前:<抹茶&Malibu>5. 投稿日:2002年05月31日(金)15時37分54秒
- …優しい。確かに、後藤に対して吉澤は優しい。
いつだって、こちらの頼みや誘いを断ることはしない。
さっきだって、少し躊躇してはいたものの、「もちろん」と笑ってくれた。
その「少しの躊躇」が、なんとも言えない不安感を後藤にもたらしてはいるのだが。
そして、彼女の香りに微かに混じるようになった、タバコの香り…。
- 43 名前:<抹茶&Malibu>5. 投稿日:2002年05月31日(金)15時39分10秒
- なによりもあのタバコの香りにイライラさせられている自分に、後藤は気付いていた。
始めは、誰かのタバコの香りがうつるほど一緒にいる相手がいるのか、という苛立ち。
この頃ふと控室からいなくなることの多い吉澤が気になって、
今日は思わず後を追ってしまった。いやらしい、とは思いつつも。
突然の吉澤の叫び声に驚きかけ寄って、そこで目にした光景にさらに驚いた。
- 44 名前:<抹茶&Malibu>5. 投稿日:2002年05月31日(金)15時40分06秒
- 誰か特別な人ができたのではなかった、という安堵感に続き、
いろんなものが交じり合った感情の波が押し寄せてきた。
このことがばれてしまったら、という焦り。
様子がおかしいとは気付いていたのに、その理由までは探ろうとしなかった自分への怒り。
それを探らせようとはしなかった、吉澤への苛立ち。
こんな状況下なのに、一瞬でも安堵を感じてしまった自分への嫌悪。
気がついたら、何故か硬直している吉澤に、もっともらしい説教をしていた。
- 45 名前:<抹茶&Malibu>5. 投稿日:2002年05月31日(金)15時40分46秒
- 「なんで知ってるの、かぁ…」
昼間の吉澤の言葉を思い出し、ひとりつぶやく後藤。
「んなの、あたしだから、に決まってんじゃん」
物理的にも精神的にも、吉澤のいちばん近くにいるのは自分。
そういう自負が、後藤にはある。いや、あった、と言う方が近いかもしれない。
他のメンバーの誰もが気付かなくても、自分だけは気付いていた。
吉澤の様子の変化。そしてタバコの香り。そう、自分だけは。
- 46 名前:<抹茶&Malibu>5. 投稿日:2002年05月31日(金)15時41分37秒
- その自信が揺らぎ始めたのは、先ほどの車中での光景。
後藤に様子をうかがわれているとは気付きもしない吉澤は、なにやら矢口と話していた。
――こんな無防備なよっすぃ、久々に見るかも。
暗い感情が後藤の心を支配する。
――やぐっつぁんは、知ってるの?あたしが知らない、よっすぃのタバコの理由も。
時計に目をやると、もうかなりの時間が経っていた。
うだうだと考えつづけるのは性に合わない。小さく頷き、後藤は自室のドアを開けた。
- 47 名前:nishi 投稿日:2002年05月31日(金)15時43分07秒
- 更新です。
さぁ、話よ、動き出せ…(w
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月31日(金)22時38分22秒
- 後藤がんばれ〜!
- 49 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時48分38秒
- <抹茶&Malibu>6.
気合を入れて吉澤の部屋へと来たはずの後藤だったが、やはり話を切り出す事ができ
ずにいた。無言で2人、ベッドに腰掛けテレビを見る。会話が無いことなんて平気な関
係のはずだった。2人でだらだらしている、それだけで楽しい関係だった。しかし、この
沈黙は息苦しい。
かたや、相手の様子を懸命に探ろうとしている。かたや、相手に悟られまいと、自分の
気持ちを必死で押し殺している。テレビの内容なんて、頭に入ってこない。
- 50 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時49分18秒
- 吉澤の試みは、中途半端に成功していた。何について悩んでいるのか―後藤への気
持ちの整理だが―を隠すことには成功している。しかし何かについて悩んでいる、その
事実ごと隠すほどには、彼女は大人でも演技がうまくもなかった。
そのことが余計に、後藤の注意を吉澤へと向ける。隣でテレビを見て…否、眺めている
だけのこの大切な親友は、何を考えているのか。
――あたしには、知られたくないことなの?
- 51 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時49分57秒
- 右肩の方から17回目のため息が聞こえてきたとき、後藤は意を決して言った。
「そろそろ、寝なきゃだよね」
後藤の真剣な表情と言葉の内容のギャップに戸惑いながらも、ちらりと時計を確認した
吉澤は軽く頷く。
「ねぇ、よっすぃ。一緒に寝ても…いい?」
後藤には、吉澤の反応が容易に想像できた。
――ちょっと困った顔して、それでも…「いいよ」って、笑ってくれるんだよね…。
- 52 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時50分41秒
- 後藤への思いを自覚してからの1ヶ月、極力こういう状況を避けてきた吉澤。当の本人
に対して「嬉しい」とも「困る」とも言えるわけが無く…
――いぃ一緒に寝るって、別に友達ならふつ…ってか、あたしが意識しすぎっていうか、
あ、昔のあたし、昔のっ…。
必要以上にテンションをあげてしまった吉澤は、先にベッドに飛び込み一気にまくし立
てた。
「んもぅ、甘えたごっちん、カワイイなぁ〜。ホラおいでっ。僕があたためてあげるよッ!」
- 53 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時51分30秒
- 両手を広げてその言葉を発した瞬間、血の気がひいていくのが自分でもわかった吉澤。
当然ながら唖然とした後藤の表情、そして妙な沈黙。この状況を打開してくれる矢口は、
ここにはいるはずも無く。
「ふっ…ぁはははははっ!よっすぃ、なにそれぇ〜〜〜」
「あ、あはは!だ、だよねぇ〜〜〜」
「なんでひとむモードなのぉ。最高だよぉ。あはははははっ!」
――よかった…こんな妙なこと言ってもちゃんと冗談になるって、やっぱミスムン効果?
- 54 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時52分38秒
- 「じゃぁお言葉に甘えて…」
多少様子のおかしい吉澤ではあるが、そのおかしさも吉澤が後藤を大切に思うが故で
あることは、後藤も察していた。
――まだ、大丈夫。よっすぃは、あたしとの関係を大切に思ってる…。
少しだけ気が楽になった後藤は吉澤の隣へともぐりこみ、勢いに任せて抱きついた。瞬
間、吉澤の体が強張ったような気もするが、すぐに背中へと回された腕に安心する。
- 55 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時53分22秒
- 「あぁ〜、落ちつくなぁ…」
ぽそりと、後藤がつぶやく。テレビも消して、音の無い部屋の中。
「…そう?」
「うん…落ちつく。よっすぃはね、あたしの居場所、って感じがする」
――あたしは、落ちつけないよ。もう、おかしくなりそうなんだよ。ねぇ、ごっちん?
自分の心音が後藤にまで伝わりはしまいかと気になってしかたのない吉澤は、違う方
向へと考えを向ける。
- 56 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時54分19秒
- もしもこの気持ちが、後藤を抱きしめながらどうにかなってしまいそうな自分の気持ちが、
後藤にばれてしまったら…それでも、彼女は自分の隣で「落ちつく」と微笑んでくれるだ
ろうか。これまで築きあげてきた関係があるのだから、嫌われはしないだろう。きっと避
けられもしない。でも、こんなにも無防備には…今と、同じ関係では…。
――考えるの、やめよ。そうならないように、こんな思いして頑張ってるんだから…。絶
対に、気付かせないよ。
- 57 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時55分59秒
- 「昼間はさ、ほんとびっくりしたよぉ」
吉澤の葛藤には気付かずに、後藤が続ける。吉澤に絡めた腕の力が、自然と強まる。
「あのさ、あの時、あたし、嘘ついた…」
「嘘?」
「ん…身体に悪い、ばれたらヤバイ、でもわかってるんならしょうがない、って」
「うん」
吉澤の身体に良くないのも、ばれたら吉澤の立場がなくなるのも、本当。しかし、後藤
の中に生まれたいちばんの心配は―
- 58 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時56分40秒
- 「でもね、ばれてクビになっちゃったら、こんなにずっと一緒にはいられないんだよ?今
みたいに毎日会って、地方にも一緒に行って、本番も、ロケも、こうやって、一緒に寝て
いろんな話することも…」
「ごっちん…」
「ごめんね、なんか自己中なこと言ってて。でも、あたしそんなの、絶対やだよ…」
「うん。あたしも、やだ。本当に…」
そう言って後藤を抱きしめ返す吉澤の声は、どこか泣きそうでもあった。
- 59 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時57分58秒
- ――何をそんなに悩んでるの?どうしてあたしには、何も言ってくれないの?いつもい
つも、言ってるよね。あたしはよっすぃのことほんとに大切なんだよ。
そんな言葉をかろうじて飲み込んだ後藤は、複雑な思いで吉澤を見つめる。こう見えて
人の気持ちには敏感な吉澤だ。きっともう、後藤の気持ちになんて気付いているのだろ
う。気付いていて、それでも敢えて口を開こうとしないのだ。問い詰めて、これ以上吉澤
の負担を増やしたくはない。
- 60 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時58分32秒
- 「あのね、ごっちん。実は、さ…」
吉澤が重い口を開く。後藤は吉澤の顔を見上げるが、彼女は目を合わせてはくれず。
「ちょっと、不安になってた。このまま、あたしたち、どこいくんだろ…って」
「…うん」
「このままでイイのかな、って」
「ん…」
後藤の不安を紛らわすために、吉澤なりに必死で考えたタバコの理由なのだろう。そし
てさらに後藤を安心させるために、とってつけたような結論を口にする。努めて、明るい
口調で。
- 61 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)01時59分42秒
- 「でもね、さっき言ってくれたじゃん?あたしが、ごっちんの居場所だって。そんで…ごっ
ちんも、あたしの居場所なんだと思う。だから、いいんだよね、それで」
――よっすぃ、それ、意味わかんないよ。全然、話つながってないじゃん。まだまだ、嘘
つくの、ヘタだね…そんなんじゃ、あたしのことはだませないよ。
それでも、その嘘の最後の部分だけには吉澤の本音が含まれているような気がして。
- 62 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)02時00分39秒
- やや強張った笑みを浮かべる吉澤に、後藤はふんわりと微笑み返す。
「うん、それで、いいんだよ。あたしたちは、だいじょーぶ」
――…あたしがよっすぃの居場所だってのは、嘘じゃないよね?それを壊したくないか
ら、だから今、必死で嘘ついてくれてんだよね?
「うん、ありがと。スゴイ気が楽になった〜」
――その努力に免じて、今夜は特別に、だまされてあげる。
そう心の中でつぶやいた後藤は、そっと吉澤の頭を抱き寄せる。
- 63 名前:<抹茶&Malibu>6. 投稿日:2002年06月02日(日)02時01分10秒
- 突然の後藤の行動にしばらく思考停止していた吉澤をこちら側へ引き戻したのは、首
筋へとぽたりと落ちてきたしずくだった。
「ごっちん…泣いてるの?」
吉澤に指摘されてはじめて自分の涙に気付いた後藤は、自分もまだまだなのだと思い、
少し笑苦笑いしながら言った。涙の理由…吉澤への、小さな嘘を。
「今まで気付いてあげられなくて、ゴメンね?」
- 64 名前:nishi 投稿日:2002年06月02日(日)02時05分42秒
- 更新です。独白、多過ぎです。
>33さん。
前回、呼び捨ててました…ごめんなさい。
>48さん。
後藤さん、頑張れ…ませんでしたね。(^^;
応援していただいたのに、ヘタレでどうも…
- 65 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月02日(日)17時29分31秒
- 今、この小説を読むのが1番の楽しみです。
次の更新も楽しみにしています。
作者さん頑張って下さい。
- 66 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時38分03秒
- <抹茶&Malibu>7.
―だまされてあげる。
それは自ら決めたこと。だというのに、というべきか、だからこそ、というべきか、相も変
わらず後藤の気持ちは晴れない。いくら吉澤をだませたとはいえ、自分の気持ちまで
はだませないということだろうか。
「泣いちゃうしー、結局気になってしょうがないしー」
そんな自分に苛立って仕方がないとでも言うかのように、後藤は独り言を言う。その視
線の先には、もうひとつのイライラの素。
- 67 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時39分26秒
- 先ほどから痛いほどの視線に気付いていた矢口は、小さく笑い後藤のもとへと近寄る。
「ごっつぁん、隣イイ?」
「…どーぞ」
当惑するくらいの勢いでこちらに神経を向けていたくせに、いざ2人になると平静を装う
強情な後輩の隣に、ストンと腰掛ける。矢口としても、的外れな嫉妬の対象になる気は
さらさらない――なんて突き放してみても、本音はカワイイ後輩の心労を少しでも取り除いてやりたい
のだ。そして、自分自身の過去の記憶…。
- 68 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時40分04秒
- 「ヤグチはさぁ、もう一人、知ってんだよね」
「へっ?」
唐突に話し始めた矢口に、後藤は思わず間の抜けた反応を返す。
「今の、よっすぃみたいな状態になっちゃってた人。もう一人」
いきなり核心に触れる話題を持ち出され少々戸惑うものの、話の内容が気になる後藤
はそれとなく先を促す。努めて、冷静に。
「…どうゆうこと?」
- 69 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時40分45秒
- 「先例を知ってるからヤグチにはなんとなくわかっちゃうだけであって…よっすぃから直
接何かを聞いたりとか、そんなことは一度もないよ」
淡々とした矢口の口調に自分の子供じみた嫉妬心を見透かされているような気がして、
後藤はなんとなく気まずさを感じた。そんな後藤に、矢口は少し微笑んで続ける。
「ついでに言えば、今のごっつぁん状態だった人も、一人知ってる」
- 70 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時41分19秒
- その言葉に、もう何もかもお見通しなのだと観念した後藤は、ヘナッと机にうつぶせる。
そして恨めしそうな目で矢口を見上げ、言葉を返した。
「もぅ…やぐっつぁん、人が悪いよぉ…」
なんだとぉーっっと言って髪をかき乱そうとしてくる矢口と笑いあいながら、後藤は自分
の気持ちがほぐれていくのを感じていた。矢口には素で接している吉澤の気持ちが、
わかった気がした。…少しだけ。
- 71 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時42分21秒
- ひとしきりじゃれあった後、矢口がふと視線を遠くへ向けた。そこには、辻加護と戯れる
吉澤の姿。
「よっすぃもさ、演技、うまくなったよね」
「え?」
「だってさぁ、あの圭ちゃんが、なんとも思わないんだよ」
「ん…まぁ、そういやそうだけど」
明らかに様子のおかしかった吉澤を思い出しながらどこか腑に落ちない、といった表情
の後藤に、矢口はニヤリと笑ってささやく。
- 72 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時42分54秒
- 「だぁーかぁーらぁっ。ごっつぁんがよっすぃのことわかっちゃうのは、ごっつぁんにとって
よっすぃがトクベツだからだろーっ」
「ななな、やぐっつぁん、何言っ…」
顔を真っ赤にして抗議する後藤を尻目に、矢口はさらにつぶやく。
「でもさぁ、よっすぃにとっても、ごっつぁんはトクベツなんだろなぁ」
後藤の言葉が止まる。
「ヤグチには、そう見えるよ。よっすぃのポーカーフェイスが崩れるのって、ごっつぁんを
前にしたときだけじゃない?」
- 73 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時43分51秒
- 「え…」
「まぁごっつぁんはいつもよっすぃと一緒だから逆にわかんないんだろうけど」
「え、え、え?それって…」
「ごっつぁんの前じゃ、思わず本心が顔出しちゃうんじゃないの?」
――ホントは、ごっつぁんの前じゃ気持ちが抑えられなくなる、って方が正しいんだろう
けどね。
まぁそれは、自分が言うべきことではない、と矢口は最後の言葉を飲みこんだ。
- 74 名前:<抹茶&Malibu>7. 投稿日:2002年06月09日(日)19時44分30秒
- ――ごっちんも、あたしの居場所なんだと思う…
昨夜の吉澤の言葉が、後藤の頭を過ぎる。思わず声に出してつぶやく。
「居場所…」
「ん?何?」
「んーん、なんでもなぁーい」
そう言いながらも笑みが止まらない後藤に、矢口がツッコむ。
「なんだよー、ごっつぁん、キショッ」
「やぐっつぁん、さっきの、てーせーするよ」
「さっきのって?」
「んー、『人が悪い』、ってヤツ」
その言葉に、矢口はやれやれといった表情で笑い返した。
- 75 名前:nishi 投稿日:2002年06月09日(日)19時48分43秒
- すみません。更新速度が落ちてます…。
>65さん。
もったいないお言葉…ありがとうございます。
来週末もこの程度の更新量になってしまうと思いますが、
よろしくお願いしますね(^^;
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月09日(日)20時22分00秒
- 先例の二人が誰なのか気になる…。
マターリ待ってますので
無理せず作者さんのペースで頑張って下さい。
- 77 名前:にゃん 投稿日:2002年06月14日(金)12時48分58秒
- いつも読んでますYO!よしごまのまったり感がたまらないっす。私も先例の二人が気になりますね。やぐっつぁん、吉後の恋のキューピットになってくれー!
- 78 名前:<抹茶&Malibu>8. 投稿日:2002年06月15日(土)20時35分51秒
- <抹茶&Malibu>8.
後藤のソロの関係上、しばらく彼女抜きでの仕事が続いていた娘。本体。
吉澤は、どこか晴々とした、しかし空元気ともとれるような表情ですごしていた。
心かき乱される相手の不在――
それはある種、見えない何かからの解放のようにも感じられた。
解放。
自分が勝手に、彼女に絡めとられてしまっているだけなのだけれども。
そんな考えが浮かび、吉澤は軽く笑う。
- 79 名前:<抹茶&Malibu>8. 投稿日:2002年06月15日(土)20時36分36秒
- 「吉澤、なにひとりで笑ってんの。怖いわよ」
すかさず、保田のツッコミが入る。
「ちょっ、怖いってなんですかぁ〜〜」
後藤のことを考えていた最中だとはいえ、動じずに返すことができる。
はじめの頃こそ、この想いをメンバーに悟られはしまいかと気が気では無かったが、
後藤を前にしたときの緊迫感に比べれば、これくらいはどうでもよくなっていた。
- 80 名前:<抹茶&Malibu>8. 投稿日:2002年06月15日(土)20時37分40秒
- 極端な話、ここにいるメンバー皆に知られたって構わない。
彼女にさえ、気付かれることがないのなら。
神経が鈍くなってきているのだろうか?それならそれでもいいだろう。
――いっつも緊張しっぱだったら、胃に穴開いてぶっ倒れるっつーの。
後藤がいないというだけでこれだけの心の平穏が得られるのなら、
いっそ彼女と距離を置いてしまうのもいいかもしれない、そんなことを思う。
- 81 名前:<抹茶&Malibu>8. 投稿日:2002年06月15日(土)20時38分23秒
- しかしすぐに、あり得ない、と思いなおし、またふっと笑う吉澤。
「吉澤ぁッ!」
「っっ!!は、ハィィィ!」
吉澤のとった間延びしたリアクションに、その場にいたメンバー達がどっと笑う。
「ったく、カオリじゃないんだからっ」
「えぇっ?カオリあんなじゃないってば。ヒドイよ圭ちゃん」
「飯田さぁん、それ、飯田さんのが何気にひどいっすよぉ…」
なおも収まらない、笑い声。
- 82 名前:<抹茶&Malibu>8. 投稿日:2002年06月15日(土)20時39分02秒
- だって、この中にあの笑顔が無いだけで、こんなにも空虚な気持ちになるのだ。
足りない、満たされない、渇きがとまらない。
どっちにしろ、彼女には苦しめられるらしい。側にいても、いなくても。
息をさせてもらえない苦しさと、息をする気力を無くしてしまう苦しさと、方向性が違うだけ。
――どっちがどっちなんだろうなぁー。
「でさー、カオリ、思うんだけど…」
吉澤が物思いにふける間に、話題は移っていたらしい。
- 83 名前:<抹茶&Malibu>8. 投稿日:2002年06月15日(土)20時39分55秒
- 「ずーと坂道登ってるとね、脚、疲れてくるでしょ?」
一体なんの話なのだと、耳を傾ける。
「そのときはさ、後ろ向きに登ると、平気になるんだよねぇー」
まるで今の自分ではないか、そう思った吉澤は、軽く笑いながら口を開く。
「でも結局、疲れちゃいますけどね」
――脚の、違う筋肉使ってるだけなんだから。
- 84 名前:<抹茶&Malibu>8. 投稿日:2002年06月15日(土)20時40分28秒
- 「じゃぁダメじゃん、それ」
――まぁ疲れるのが好きなら、ダメでもないだろうけどなぁ。
絶え間無くにぎやかな控室の中を見渡しながら苦笑した吉澤は、
ずっと右手に握り締めていた携帯の送信ボタンをそっと押す。
30分後、部屋の主が収録へと向い静まりかえった控室の中、
吉澤の携帯が短く震えた。
- 85 名前:<抹茶&Malibu>8. 投稿日:2002年06月15日(土)20時42分18秒
- **********
新着−−−18:32
From: ごっちん
Sub.: マジで!?
――――――――――
カオリひどいねー(^
^明日、あたしが叱っ
たげるよ(笑) 明日
はやっと一緒の仕事だ
ね 早くよっすぃに会
いたいよー
――――――――――
**********
- 86 名前:nishi 投稿日:2002年06月15日(土)20時45分25秒
- 少量ですが。そして冗長ですが。
>76さん。
ありがとうございます。
マターリし過ぎないように、頑張ります。
>77さん。
ありがとうございます。
先例2人は…そのうちに。(笑
- 87 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月15日(土)23時18分07秒
- よっすぃーのもどかしい気持ちが伝わってきます。
がんばれよしごま!!
- 88 名前:<抹茶&Malibu>9. 投稿日:2002年06月22日(土)00時50分21秒
- <抹茶&Malibu>9.
少し離れたところから、ドアの開く音がする。
メンバー達が交わす挨拶を耳にしながら、吉澤は落ちつきの無い様子でうろうろしていた。
以前の吉澤なら、真っ先に駆け寄って挨拶を交わし、そのまま彼女の隣に居座るのが常だった。
しかし今のこの状況は…吉澤にとって、
心の大部分において至極心待ちにし、かつ少しだけ恐れていた瞬間。
実際久しぶりの彼女を目の前に、「平穏な時間」の終わりを認識する。
- 89 名前:<抹茶&Malibu>9. 投稿日:2002年06月22日(土)00時51分37秒
- そんな吉澤の思いを知ってか知らずか、構わず後藤が駆け寄ってくる。
「よっすぃーーーッおはよっ!」
身体ごとぶつかってくる後藤を、やや苦笑しながらも抱きとめる吉澤。
「ごぉっちぃ〜ん、朝から元気だねぇ…」
ふと真顔になって、後藤は小声で囁く。
「よっすぃ、量、また増えた?」
少しだけ表情の固まった吉澤に、仕方がないなぁ、と微笑みおどける。
「イイ女はぁ、ハナがキクんですぅ〜」
- 90 名前:<抹茶&Malibu>9. 投稿日:2002年06月22日(土)00時52分35秒
- 「あー、ハイハイ。ごっちんはイイ女だもんねぇ〜」
冗談めかした吉澤の一世一代の告白にも、後藤は気付かない。
「ナニそれー、心がこもってない!」
「心こもりまくりだっつーのー」
「どこがぁー。もぉー」
「大体さぁ、『イイ女はハナがキク』って、それ使い方オカシイって」
反論するために後藤へと正対した弾みに、彼女の唇へと目がいく。
それをきっかけに、彼女の体温、香り、ふとしたしぐさが吉澤の気持ちを揺さぶり始める。
- 91 名前:<抹茶&Malibu>9. 投稿日:2002年06月22日(土)00時53分12秒
- 吉澤は慌てて、しかし不自然ではないように気を付けながら、
後藤にまわしていた両腕を解いた。
「ん…まぁねー」
だが後藤はそれを気にする様子もなく、ごく自然に、少しの無駄な動作もなく、
―そうすることが当然だ、と言わんばかりに―吉澤の左腕をとる。
久々に過ごす吉澤との時間がただただ楽しくてたまらない、
とでもいうかのように屈託なく笑う後藤に、吉澤の笑顔は逆にゆがみそうになる。
- 92 名前:<抹茶&Malibu>9. 投稿日:2002年06月22日(土)00時54分06秒
- 「…誰のせいで増えてると思ってんのかな」
思わず本音が顔をのぞかせる。少しだけ。
「なに?あたしのせい??」
後藤は慌てて吉澤の顔をのぞきこむ。その表情は、真剣そのもので。
このまま時が止まってしまえ、などと心の片隅で思う。
今この瞬間、彼女の心の大部分を占めているのは、間違いなく自分だろうから。
――…あたし、なにやってんだ。
- 93 名前:<抹茶&Malibu>9. 投稿日:2002年06月22日(土)00時55分26秒
- 一瞬の間を置いて、我に返った吉澤が吹き出す。
「いや〜。イイね、ごっちんの驚いたカオ」
「もう、なに〜。びっくりしたよぉー」
2人並んで、仲良く肩を揺らす。ひとしきり笑ったところで、吉澤が言った。
「あ、まだ時間あるよね。なんか飲み物買ってくるよ」
自分の左腕に絡まる後藤の両腕を、すっとはずす。
いら立ちまぎれに髪をかきあげながら部屋を出ていく吉澤が、
その背中を見送る後藤の表情を目にすることはなかった。
- 94 名前:nishi 投稿日:2002年06月22日(土)01時02分00秒
- 短めです。
次で終わらせられれば、ちょうど10話完結だ…。
>87:名無しさん。
ありがとうございます。
「もどかしい」。そう言って頂けると、本望です。
- 95 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時04分26秒
- <抹茶&Malibu>10.
目の前に延々と続く階段を掛け上がる。
次第に重くなってくる脚と苦しくなってくる呼吸に
どうしてこんなことをしているのだろう、と疑問が沸いてくる。
――あれ?階段ダッシュだっけ…?
しかし、そんなはずも無く。
カンッカンッカンッカンッ―――
自分よりも約1階分上から聞こえてくるその音に、あぁ、と思い出す。
- 96 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時05分05秒
- 『アンタたち、どうしちゃったの』
――保田さん…。
『いいから、追っかけなよ!あのコ、なんか…いいから、早く!!』
――矢口、さん?
『あたしは…よっすぃと、距離、置いた方がいいんだよ…』
――ごっちん!!
そうだ。自分は、あの音に追いつかなければ。
追いついた先に何が待っているのかは、わからないのだけれども。
- 97 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時05分46秒
- 最後の一段を、登りきる。屋上へと続くドアには鍵がかかっている。
手を両膝につき肩で息をする吉澤へ、抑揚の無い声が降り注いだ。
「…バカじゃないの?なんで、追いかけてくんのよ」
逃げ場の無い最上階の踊り場へと追いつめたのは確実に自分のほうなのに、
その冷たい言葉になぜかこちらが追い詰められたような気分になる。
必死で息を整えながら、吉澤が応える。
- 98 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時06分47秒
- 「だ…ごっち…なんか急に、あたしのこと、避ける…し、
そしたら、イキナリ、距離置く…とか、言い出す、し…」
心なしか、壁にもたれた後藤の目が潤んでいるようにも見える。
この動悸は、その涙の所為か、それとも階段の所為か。
「自分で思ってたより、大変だったでしょ?階段。タバコのせいだよ」
そう言って、後藤は泣き笑いのような表情を浮かべる。
「なんで…ごっちんが、そんなカオするの?」
- 99 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時07分38秒
- 「あたし、さ。やっと、わかったんだよね」
噛み合わない会話に怪訝そうな面持ちのまま、吉澤が後藤へと歩みを進める。
「よっすぃの、タバコの理由。…あたしが、原因だって」
吉澤の足が止まる。
後藤の真剣な目に、その言葉の意味を理解するのが一瞬遅れた。
しかしゆっくりと、ここ最近の後藤の行動が、意味を成してくる。
「そっ…か…」
自分自身のかすれた声を、どこか人事のように思う。
――…避けられても、しょうがないよね。
- 100 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時08分13秒
- 受け入れられることはない。
この思いを自覚した当初から、その覚悟はあったはず。
それでも現実にそれを思い知らされるというのは、想像を超える辛さで。
「ごっちん、ゴメンね」
吉澤は自分でも何に対する謝罪なのかはよくわからなかったが、
とにかくそれだけを伝えて後藤に背を向ける。一刻も早く、この場を去りたい。
こんな場所で2人きりなんて、後藤だっていい気はしないだろう。
何よりも、自分が辛い。
- 101 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時08分59秒
- 「違うよ。よっすぃが謝ることじゃない」
背中ごしに、後藤の声が聞こえる。耳をふさいでしまいたい。
それでもその声にすがり付きたいと思ってしまう自分は、相当の重症だろうか。
「ッ…ゴ…メ…。重か…た…よね。ほんとに、ごめ…な…さい」
――そんな…泣くほどヤだった?…それとも、あたしのことを気遣って泣いてる?
ほんとに、最後の最後まで、優しいんだね。ごっちんは。
ただわずかに引っかかるのは、今の彼女の言葉…。
- 102 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時09分37秒
- 少しでも決別の時を先延ばしにしようとする自分が滑稽でたまらなかったけれど、
それでも吉澤は、もう一度後藤へと向き直った。
「ごっちん、『重い』って、なんのこと?」
吉澤の想像していた通り、後藤は涙を流しており、さらにその質問に俯く。
「あはっ…普通ごとーにそれを、言わせるかなぁ…
よっすぃってさ、優しいだけかと思ってたら、結構ひどいよね」
- 103 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時10分15秒
- 後藤が自分を『ごとー』と呼ぶのは、ふざけているときか、もしくは本当に素のとき―
吉澤は、そう認識していた。まさかこの状況でふざけているとも思えない。
どうせ最後なのならば、しっかりと後藤の本心を聞いておきたい、吉澤はそう思った。
「ひどくてもなんでもいいから、聞かせてよ…」
俯く後藤の足元にしゃがみこみ、その顔をのぞきこむ。
- 104 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時11分04秒
- 「あたし、ひとりで勝手に思いこんでた。自惚れてたッ。
…あたしは、よっすぃの居場所なんだって」
吉澤はそのどこが自惚れなのだと思ったが、さらに口を開いた後藤を見て、先を待つ。
「あたしの前だけでよっすぃがオカシイのは、あたしにだけは気を許してるからだってッ」
また声が震えだす後藤を前に、吉澤の表情が少しだけ変わる。
「…ごっちん?」
- 105 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時11分43秒
- 「でもさ、ホントは、そうじゃなかったんでしょ?」
後藤が何を言いたいのか、おぼろげながら見えてきたような気がする。
「あたしがあんまり『よっすぃ、よっすぃ』だから、それが重くなっちゃって」
吉澤はいたたまれなくなって、下から後藤の両手首を掴む。
「でも、よっすぃ優しいから、そんなこと言い出せなくってッ…」
「ごっちん!!」
耐えきれずに、遮るように叫ぶ。
- 106 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時12分26秒
- 吉澤は、全身の力が抜けていくのを感じていた。
同時に、全身の血が逆流していくかのようにも感じていた。
後藤に拒絶されたわけではなかったのだという思い。
しかし、自分の言動が彼女をここまで追い詰めていたのかという思い。
そして、こんなに好きなのに、どうして…。
自分の想像を遥かに超える展開に、吉澤の心もそろそろ飽和状態だ。
――でも、この誤解だけは解いとかなきゃ…。
- 107 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時13分08秒
- 後藤の両手首は掴んだままで、ゆっくりと立ちあがる。
「ごっちん、違うよ。それ、全然違う」
「違わないよ」
「違う!」
「だって、こないだ『誰のせいで』って言ってたじゃん。今だって、途中まで納得してた」
『…誰のせいで増えてると思ってんのかな』
あぁ、あれがひきがねか、とさらに自己嫌悪に陥りそうになる。
- 108 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時13分43秒
- 「ごっちんのせい、ってのは、あってる」
「…やっぱそうなんじゃん」
後藤の表情が、わずかに曇る。
「でも、今ごっちんが言ってたことは、全然違う。ホントに」
「じゃぁなに?もう、よっすぃのこと、全然わかんないよ」
理由はどうあれ、自らの言動で、後藤に自分への不信感を抱かせてしまった。
必死で守ろうとしていたものを、壊してしまった。他でもない、この手で。
- 109 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時14分35秒
- ――もう、ここでどうやってごまかしても、一緒かもしれないね。
「ねぇ、知りたい?本当の理由」
吉澤は自嘲的な笑みを浮かべながらも、まっすぐに後藤を見据えた。
――てゆうかもう、隠す意味なんてないよね。
いつになく緊迫した雰囲気をまとう吉澤に少々ためらいながらも、
後藤はゆっくりと頷いた。腕に、力が入っているのがわかる。
その両手首から手を離して、今度は両肩を壁へと押し付ける。
- 110 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時15分21秒
- 「じゃあ、教えてあげるよ」
吉澤は少しの間を置いて、自問自答してみた。
さぁ、今度こそ、覚悟はできただろうか?
大切な人と親友を、同時に失う…その覚悟は。
- 111 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時15分57秒
- ゆっくりと、後藤にくちづける。
異常な状況下ではあるけれど、それでも精一杯、優しく。
――これが、2人の、最初で最後のキスだね…。
「好きなんだ、ごっちんのこと」
「もう自分でも、どうしようもないくらい」
「今までいっぱい悩ませちゃったみたいで、ゴメンね。振りまわして、ゴメン」
「でも、好きになったことは、謝らない」
それだけは、譲れない。自分の中にある、最後のプライドだから。
- 112 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時16分36秒
- ――あたし、うまく笑えてるかなぁ。
おそらく、問題ないだろう。
今自分の目の前で固まっている人のおかげで、随分と演技は上達したはずだから。
第一今の彼女は、自分の表情にまで気が回っていないか、とも思う。
この言葉すら、彼女にまで届いているのか、怪しいところだ。
こんな状態の後藤を放っておくのは心もとない。
できることなら、家まで送って行きたいところだけれど。
- 113 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時17分18秒
- しかし、自分にそんな資格はないから。それでもやっぱり、心配で。
こんなときに思い浮かぶのは、あの小さくて大きな先輩。
いつもいつも頼ってばかりで、申し訳なく思うのだけれど。
――矢口さん、ごめんなさい。でも、これが、きっと、最後だから…。
「じゃあ、あたし、先に帰るね。お疲れ様」
それだけ後藤に言い残して、吉澤はその場を去った。
- 114 名前:<抹茶&Malibu>10. 投稿日:2002年06月23日(日)19時17分56秒
- 後に残されたのは、後藤。
下へ下へと遠ざかる吉澤の靴音が階段室に響くのを耳に、
壁にもたれたままずるずるとその場に座りこむ。
自分は今まで、吉澤の何を見てきたのだろうと思った。
気がつけば、いつのまにか乾いていた涙が、また溢れてきた。
「よっすぃ…」
- 115 名前:nishi 投稿日:2002年06月23日(日)19時20分07秒
- 10回では終われなかったワケで…。
始まって以来、初めての動き、かも。
- 116 名前:吉澤ひと休み 投稿日:2002年06月23日(日)21時46分26秒
- 一気に読ませて頂きました。
イイ!・・・の一言です。続きがんがって下さい。
期待してます。
- 117 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)19時55分29秒
- マジデ(・∀・)イイ!
よしごま最高です。
続き期待大!
- 118 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時03分50秒
- <抹茶&Malibu>11.
控室にひとり残っていた矢口の携帯が、着信を知らせて震える。
ディスプレイには、今まさに心配させられている人―正しくは、その片割れ―の名前。
素早く通話ボタンを押して、電話の相手に呼びかける。
「―――ッもしもし?」
『あ、矢口さん…』
その声が弱々しく聞こえるのは、できれば気のせいであって欲しい、矢口は思った。
- 119 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時04分25秒
- 「よっすぃ…」
矢口はなんと声を掛けていいのかわからない様子で、ひとまず吉澤に呼びかける。
『心配掛けて、ごめんなさい』
「…いいんだよ、そんなこと気にしなくて」
『心配掛けといて、こんなの図々しいんですけど…』
言いにくそうに言葉を切る吉澤に、矢口は優しく先を促す。
「何?言ってみて?」
『…ごっちんのこと、お願いできませんか』
- 120 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時05分06秒
- 『たぶんまだ、屋上のドアの所にいると思うんで。行ってあげてもらえませんか?』
電話越しだから吉澤がどんな表情をしているのかはわからないけれど、
こんな声を出しているのに、それでもまだ後藤のことを第一に考えているのか―
その強い想いに、矢口は―。ひとまず、控室を後にする。
「うん、わかった。ねぇ、よっすぃは…」
『大丈夫です』
間を空けずに、返事が返ってくる。
- 121 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時05分39秒
- 『ヨシザワは、大丈夫ですから』
自分に言い聞かせるように、念を押すように―そんな吉澤の声。
『今日はもう、家に帰ったら携帯切って寝ちゃいます』
「うん。じゃぁつながらなくても、心配しないよ」
『はい。で、明日には、ちゃんといつものヨシザワに戻りますから』
矢口はその声を聞きながら、エレベーターのボタンを押す。
「うん。でも、無理しちゃだめだよ?」
- 122 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時06分35秒
- 『無理っぽくなったら、また矢口さんに頼っちゃっていいですか?』
「…当たり前じゃん」
「てゆうかひとりで無理しちゃってたら、コントの梨華ちゃんみたく張っ倒すから。
『くぉぉぉの、いじっぱりぃぃぃぃっ』って」
散々頭を働かせて出てきた言葉がこれか、と矢口は自分を恨めしく思ったけれど、
電話の向こうの吉澤の声が少し笑った気がして、ほっとした。
- 123 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時07分11秒
- 「あ、エレベーター来たよ」
『それじゃ、よろしくお願いします』
「うん。よっすぃも、しっかり休んで。ごっつぁんのことは、心配しなくていいから」
『はい、じゃあ、失礼します』
動き出すエレベーターの中全身に下向きの重力を感じながら、矢口は電話を切った。
- 124 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時08分08秒
- エレベーターだけでは後藤のいるところまで行けないから、
最後の1階分を上るために、階段室のドアを開ける。
その音に、驚き息を詰めるような雰囲気が伝わってきた。
「ごっつぁん?大丈夫、ヤグチだよ」
「…やぐっつぁん?」
矢口が急いで階段を登りきると、そこには壁を背に座りこむ後藤の姿があった。
もう涙を流してはいなかったけれど、目が赤い。
- 125 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時08分50秒
- 矢口は後藤の側まで行き、しゃがみこんで告げる。
「ごっつぁん、話なら後で聞く。しゃべりたくなかったら、しゃべらなくてもいい」
「でも、ひとまず帰ろう」
そう言って、矢口は後藤の真上へと視線を向ける。後藤もそれに習う。
そこには、セキュリティ用の監視カメラがあった。
そのカメラからは、後藤たちのいる場所は死角となっていたが。
「よっすぃ、ちゃんとわかってたんだろうな…」
矢口が来てから、初めて後藤が口を開いた。
- 126 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時09分26秒
- 矢口は無言で、自分が掛けていた少しブルーの入ったグラスを渡す。
「うん。ありがと」
後藤はそれを掛け、立ちあがった。
「ごっつぁん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。あたしは、プロなんだから…大丈夫」
その口調に先ほどの吉澤を思い出し、矢口は少しだけ苦笑した。
「荷物とって、帰ろっか」
吉澤の荷物が消えた控室まで戻り、後藤に軽く顔を洗わせ、荷物をまとめた。
- 127 名前:<抹茶&Malibu>11. 投稿日:2002年06月27日(木)19時09分57秒
- 「今日さ、やぐっつぁんち、泊まってもいい?」
「うん、おいで」
「着くまでさ、コレ、借りてていい?」
今自分が掛けているヤグチのグラスを指差し、後藤は微笑もうとして失敗している。
「ヤグチそれ、大事にしてんだからな!トクベツだぞ!」
それを見て、努めて明るく答える矢口。
…早く仕事場から立ち去ろう。
そしてこの子をただの16歳の少女に戻してやれる場所まで急ごう…。
- 128 名前:nishi 投稿日:2002年06月27日(木)19時17分01秒
- 週も半ばに、イレギュラー更新です。
>116:吉澤ひと休みさん
ありがとうございます。最高の誉め言葉です。
>117:名無し読者さん
ありがとうございます。
よしごま需要、意外にあるんでしょうか?(笑
- 129 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)16時56分49秒
- <抹茶&Malibu>12.
翌朝の吉澤は、普段よりも1時間余計に時間をとって集合場所へと来た。
当然ながらまだ誰もいない部屋、その中の一つの椅子に腰掛ける。
それから数十分なにかを考えるようにして微動だにしなかった吉澤の体が、
突然開かれたドアの音に、びくっと震えた。
「お、吉澤、おはよー。早いじゃん」
「保田さん…おはようございます」
ふりかえった吉澤の顔を見て、保田は眉を寄せる。
- 130 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)16時57分25秒
- 「…吉澤、寝てないの?」
「あぁ〜、ちょっと…」
曖昧に笑ってごまかす吉澤を見て、保田も少し困った表情のまま笑う。
「どうしようもなくなったら、1人で抱え込むんじゃないよ?」
「はい。ありがとうございます」
「とりあえずまだ時間あるから、ちょっと寝てなさい」
ポンポンと、吉澤の頭を軽く叩く。
その振動に安心するかのように、吉澤は机にうつぶせた。
- 131 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)16時58分13秒
- 吉澤の寝息が聞こえてきた頃、メンバー達が集まり始めた。
室内は騒々しくなって行ったが、吉澤の眠りは深いようだった。
そんな中、矢口と後藤もやってくる。
こちらも二人そろって、寝不足のように見える。
昨日少々様子のおかしかった後藤と吉澤を思い出し、保田は納得した。
「圭ちゃん、おはよー」
「おはよ」
挨拶を交わしながら、吉澤をみやる後藤。
- 132 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)16時59分04秒
- 後藤は吉澤を挟んで保田とは逆隣に席を取り、その頭を優しくなでる。
「よっすぃ、きっと昨日、眠れなかったんだよね…」
その―多少目がはれてはいるけれど―穏やかな表情を目に、保田はその場から離れた。
少し離れたところから2人を見守る矢口の隣に移動し、声を掛ける。
「何があったかは知らないけどさ、あの2人は、大丈夫そうだね」
その言葉に矢口は軽く頷く。
「お疲れ様」
「うん」
- 133 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時01分23秒
- ふと目を覚ました吉澤の視界に入ってきたものは、至極見なれた茶色の髪。
自分の隣で何事も無かったかのように雑誌を読んでいるのは、紛れも無く後藤で。
まだはっきりしない頭で、吉澤は懸命に考える。
――なんかあたし、長い夢でも見てた?
あの必死の覚悟も、後藤の涙も、全て夢だったのだろうか…。
「あ、よっすぃ、起きた?おはよー」
- 134 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時01分54秒
- 自然に、あくまでも自然に吉澤に笑いかける後藤の目が、
それでもはれぼったいことに気付き、吉澤は余計にわけがわからなくなる。
――やっぱ、夢じゃないよね。あたし昨日、ごっちんに…。
「『何で普通なの』、って思ってるでしょ?」
ややトーンの落ちた後藤の声に、吉澤はとりあえず頷く。
それを見た後藤は、何から話すべきかと軽く首をかしげる。
- 135 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時02分53秒
- 「よっすぃはさ…」
「う…ん」
「あたしが、避けたり、『気持ち悪い』とか言うって思ってたの?」
「…え?」
「あたしが、そんな人間だと思ってた?」
後藤の言わんとすることが判って、吉澤は慌てて首を振る。
「そっそうじゃない!そうじゃない、けど…」
「…けど?」
- 136 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時03分34秒
- 先を促された吉澤は、室内の様子を伺う。
幸いに、今2人の周りには誰もいない。
少し離れた位置で、矢口と保田が自分たち以外のメンバーを巻き込み、
大騒ぎしている。
――また、助けられちゃったかな…。
改めて後藤に視線を戻し、吉澤は重い口を開く。
「でも昨日は、実際、ごっちんを失うのかな、って覚悟はした」
「うん」
- 137 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時04分14秒
- 「なのに今日は、ごっちん全然普通で…ごっちんにとって、
昨日のことなんてたいしたことじゃなかったのかなって思うと、それはそれでちょっと…」
ショックだ、と言いかけた吉澤に、後藤が言葉をかぶせる。
「たいしたことなくなんかないよ」
真剣な表情で、吉澤を見据える。
「いっぱい、泣いた」
「…ゴメン」
「昨日だけじゃないよ。今までだって、よっすぃのことわかんなくて、いっぱい泣いた」
- 138 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時05分04秒
- 吉澤はツアー先のホテルでいっしょに寝た夜のことを思い出す。
「そうだよね。ほんとゴメン」
「いっぱい、考えた」
次第に後藤の声が冷たさを帯びてくる。
「考えた結論、ハッキリ、言うね」
その言葉に、吉澤の身体が硬くなる。
「あたしは、今までよっすぃのこと、そうゆう風に考えたこと無かったから…」
先を、聞きたくはない。それでも聞かないわけにはいかない。
後藤が、誠意を込めて返してくれている返事なのだから。
- 139 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時05分38秒
- 「そうゆう意味で、よっすぃのこと好きかは、正直、わかんない」
「…うん」
覚悟はあったとはいえ、思わず涙が出てきそうになるけれど。
――泣いちゃ、ダメだ。困らせちゃう、ダメだ…。
「ホントはね、あたし、怒ってんだよ」
さらに続く抑揚の無い声に、吉澤はただうなだれるしかない。
「ん…ホントに、ごめんなさい」
- 140 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時06分20秒
- 「あたしがなんで怒ってんのか、よっすぃ、わかってる?」
「…振り…まわして、悩ませて…」
「そう。ごとーとしては、この精神的苦痛を、よっすぃに償ってもらいたいんだけどさ」
――『ごとー』?ごっちん、素なの?ふざけてるの?
「あたしに対して悪い、とかって少しでも思ってるんなら…」
冷静に考える余裕を既に無くしている吉澤が顔を上げたとき、後藤の言葉が放たれる。
「そばにいて」
- 141 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時06分56秒
- あまりに短く、そして予想外の言葉に、それでも吉澤は反射的に頷く。
「よっすぃ、ちゃんとわかってる?今あたし、結構ヒドイこと言ってるよ?」
「気持ちには応えらんないかもしれない、それでもいっしょにいて、って言ってるんだよ?」
吉澤は、今度こそ、深く頷く。
「いい…のかな…。いっしょにいて、いいの?」
先ほどとは別の涙が、溢れそうになる。
- 142 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時07分34秒
- 「てゆうかさ、今度ごとーに寂しい思いさせたら、よっすぃ、全力で殴る」
後藤の言葉に吹き出した瞬間、吉澤は涙をこらえきれなくなる。
そんな吉澤の頭を後藤が抱き寄せた瞬間、吉澤は息を飲んで固まる。
額に押し付けられた肩から、後藤が笑っている振動が吉澤に伝わってくる。
「やっと、わかったよ。よっすぃの、このリアクションの意味…」
「ごっ、ち…わざとやってんの、そうとう、趣味が悪い…」
それでも、吉澤の涙は止まらず。
- 143 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時08分12秒
- 「よっすぃ、ツライ?」
「ん…ちょっと」
「離れる?」
「…ううん、もう少し、このままがいい」
後藤は、穏やかな笑みを浮かべて、応えた。
「うん、わかった」
- 144 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時08分48秒
- 「あぁ〜〜〜!ごっちんが、よっすぃ泣かしてるぅ〜!」
室内に突如響く石川の甲高い声に、メンバー達の視線が2人に集中する。
ガンッと矢口に殴られる石川に笑いながら、
後藤が野次馬たちに負けじと声を張り上げる。
「いーの!合意の上なんだからッッ!!」
その言葉に、思わず吉澤も吹き出した。
「ごぉっちぃ〜ん、『泣かしてる』ってとこ、否定するべきでしょ、普通」
- 145 名前:<抹茶&Malibu>12. 投稿日:2002年06月30日(日)17時09分28秒
- 神様、どうやらタバコはまだまだやめられそうには無いけれど。
多少の苦味すら心地よく感じてしまう甘ったるさ。
そんなのも、悪くはない。
抹茶&Malibu―――終わり。
- 146 名前:nishi 投稿日:2002年06月30日(日)17時10分50秒
- ……。甘ッ!!!
- 147 名前:nishi 投稿日:2002年06月30日(日)17時12分11秒
- 次、先例2人の話をさくっと乗っけたら、この話は終わります。
読んで下さった&レスを下さった方々、本当にありがとうございました。
- 148 名前:吉澤ひと休み 投稿日:2002年06月30日(日)18時38分52秒
- 作者様、もう・・・・・(・∀・)イイ!っす。
終わるのがもったいない・・・・次回作も期待してます。
ほんとお疲れ様でした。
- 149 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月01日(月)01時09分29秒
- サイコー!
- 150 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月02日(火)08時45分54秒
- よしごまのお互いの心の葛藤が描かれた良作ですねぇ。
作者さんお疲れ様でした、そして有難うございました。
- 151 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時12分23秒
- <Tequila Sunrise>0.
「ごっつぁん、もう大丈夫だよ。頑張らなくて、いいよ」
後藤を自宅へと連れかえった矢口は、温かいミルクティーを後藤に手渡し、言った。
うつろな表情でそれを受け取ると同時に、こらえていたのであろう涙が溢れ出す。
「やぐっつぁんは、わかってたんだよね」
「ん?」
「…よっすぃの、気持ち」
その名を口にした瞬間、16歳にふさわしい顔に戻ったようにも思える。
「…うん」
- 152 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時13分43秒
- 「あたし、全然気付かなかったよ…」
後藤は、やりきれない表情で、天井を見上げる。
背中を預けたベッドの縁が、ギシッと音をたてる。
「まぁよっすぃは、全力でごっつぁんに気付かれないように振舞ってたからね」
吉澤のことを理解できなかった、それが悔しいとでも言うのだろうか。
矢口は、自然と言葉選びに慎重になる。
「よっすぃ、さぁ…どんな、気持ちだったんだろうね」
「どんな、気持ち?」
- 153 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時14分47秒
- マグカップを持つ後藤の手が、細かく震えている。
「あたし、なんにも考えずに、いっしょに寝たり、抱きついたり…
今考えたら、よっすぃそのたびに困ったカオして、でも受け入れてくれて…」
気持ちを悟られまいと四苦八苦していたのは吉澤。後藤に非は無いはずなのだが。
「ホント、よ…すぃに、ヒドイこ、してた…」
しゃくりあげる後藤を目の前に、矢口は言葉を失う。
「さっきの…キス、だって、どんっ…な、気持っ…ちでっ」
- 154 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時15分32秒
- 『親友』から突然キスされて告白された、そのこと自体へのショックよりも、
この子の中では…気付けなかった、という後悔の方が大きいのだろうか。
――気付けなかったって後悔?…違うよね。
ならば、無意識とはいえ吉澤を苦しめていた、そのことへの後悔か。
後藤の中に占める吉澤の存在がどれだけ大きなものなのか…
それを、矢口は改めて思い知らされた気がした。
しかしいくら後藤が自分を責めたとて、現状は好転するわけではない。
- 155 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時16分23秒
- それよりも、と、ふぅっと溜め息を一つつき、矢口は後藤に問い掛ける。
それは混乱している後藤に今後のことについて考える指標を与えるとともに、
矢口自身も気になっていたこと。
「ごっつぁんの気持ちは、どうなのさ」
「…あたしの、気持ち?」
「そう。例えば、よっすぃのこと、そうゆう意味で、好き?」
「わ…っかんない、よぉ…。突然過ぎて、混乱、してる」
後藤は流れ出る涙をそのままに、右手で頭を抱え俯いてしまう。
- 156 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時17分31秒
- それも無理はない、と思いながらも、矢口は質問を続ける。
「じゃぁ、友達としては?」
「大好き」
俯いたままではあるが、はっきりと言いきる後藤。
――即答じゃん。
矢口は苦笑しながらミルクティーを一口飲み、一呼吸置いて核心に迫る質問を浴びせた。
それは、吉澤の性格を考慮した場合に最も可能性の高い選択肢。
「じゃぁ、このまま、よっすぃがごっちんから離れてっちゃったら?」
- 157 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時18分20秒
- その質問に、後藤の表情が凍りつく。
長い沈黙のあと、後藤がようやく発した言葉は、
「…ムリ。考えらんない」
「よっすぃがいなくて、ごとーがやってけるわけないよぉ」
小さな声で、ぼそぼそと呟く。
「よっすぃ、いない、なんて…」
そんな後藤をしばしの間複雑そうな表情で見守っていた矢口は、告げる。
「じゃぁ、今のちゃんと、全部伝えなきゃ。ごっつぁんの気持ち」
- 158 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時18分56秒
- その言葉を受けて、後藤が勢いよく顔を上げかみつく。
「でも、そんなのっ…今までといっしょだよ!ただのあたしのわがままで…っ
付き合えないけど、そばにいて、って…それじゃよっすぃ苦しいまんまじゃん」
「まぁ、落ちつきなって。とりあえず、それ飲んで」
矢口は、後藤がしっかりと握り締めているマグカップを指差す。
「う…ん、ごめん」
「いや、大丈夫だよ。取り乱すのも、ムリないもん」
- 159 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時19分39秒
- 重い空気のまま、2人ミルクティーを飲む。
「確かに、それじゃよっすぃは苦しいかもしんないね。でも…」
唐突に切り出した矢口に、後藤の視線が上がる。
「…今までだって、なんでよっすぃが、苦しくてもごっつぁんのそばにいたか、ってことだよ」
「それは、あたしが心配しないように…よっすぃ、優しいから」
「うん。もちろん、それもあると思うのね」
マグカップを置きながら、矢口は続ける。その目は、まっすぐに後藤を見据え。
- 160 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時20分30秒
- 「でもさ、『親友』としてごっつぁんを好きな気持ちだって凄く大きいだろうし、
恋愛感情の意味からだって、苦しくてもいいからそばにいたいって気持ちも、さ…」
あるって思わない?と促すかのような矢口の言葉に、
後藤の中に今までの吉澤の言動がフラッシュバックする。
いっしょにいられなくなるのは嫌だ、と泣きそうな声で言う吉澤。
自分を、「居場所」なのだと言う吉澤。
そして、先ほどの自分の言葉を必死で否定する吉澤――。
- 161 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時21分43秒
- やや俯き加減に、後藤が口を開く。
「いい、のかな…あたし自惚れちゃって。
そばにいて、って言っちゃって、いいのかな?」
「いいんだよ」
それに少なくとも自分が見る限りは―と矢口は続ける。
「自惚れなんかじゃ、ないよ…」
「そ、かな」
久しぶりに見た後藤の心からの笑みに、矢口も安心する。―まだ泣き顔ではあるが。
「ん。そう、だよ」
- 162 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時22分41秒
- 「でもさ、よっぽどの作戦立てないと、よっすぃ『うん』って言わないんじゃない?」
先ほどまでの重い雰囲気からは一転して、いつものいたずらっぽい笑みで矢口が言う。
「え?」
「またごっつぁんのこと悩ませるんじゃないかって、グルグル考えちゃって」
「あぁ。なるほど。あと、あたしがよっすぃに気を使って言ってんじゃないか、とか?」
確かに、と後藤も相槌を打つ。
- 163 名前:<Tequila Sunrise>0. 投稿日:2002年07月05日(金)04時23分18秒
- 「お願い、っていうかもう、脅迫めいた感じにしちゃえ」
「脅迫っすか!!」
おかしそうに笑う後藤を見て、矢口もやっと、心から笑った。
――ごっつぁんは、もう大丈夫。てことはまぁ、よっすぃも…。
「ほんと、作戦立てなきゃー」
「ねー」
「よっすぃ、優しいからね」
「うん、だからそこにつけこむんだって」
さらに矢口が煽る。
ひとしきり笑った後、後藤は矢口に言った。
「やぐっつぁんも、優しいよ。ありがとね」
- 164 名前:nishi 投稿日:2002年07月05日(金)04時33分24秒
- 2杯目、<Tequila Sunrise>です。
えと…とても短く、次の更新で終わりますが(苦笑)。
<抹茶&Malibu>へのレスを下さった方々、本当にありがとうございました。
今後もお付き合い頂ければ、幸いです。
>148:吉澤ひと休みさん
次回作…といいますか、予告通り先例2人の話です。
>149:名無し娘。さん
…もったいないお言葉を…。
>150:名無し読者さん
葛藤…ハイ、うちの登場人物は、みんな少し内向的で。(^^;
- 165 名前:flow 投稿日:2002年07月05日(金)23時50分35秒
- 好きです〜、こういうじれったい(失礼!)展開。
よしごまの場合、やっぱり「親友」というのが前提なので、二人の葛藤みたいのは
すごく萌えます。むしろ燃えます(w
続き楽しみにしてますので、がんばってくださいね。
- 166 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月06日(土)21時01分11秒
- タイトルが読めない、それだけの理由で読まなかった自分が憎たらしい!(爆
かな〜りツボです、かな〜り楽しみです。
最近よしごま増えて(しかも良質揃い)、嬉しい限りですね。
- 167 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時49分26秒
- <Tequila Sunrise>
「そぉかぁー。そんなことがあったんかぁ」
「うん」
「大変やったな」
「そんなこともないよ」
ベッドの中、年上の恋人の腕に抱かれ、矢口は事の概略を話していた。
その体温と灯りを落としてある薄暗い室内は、ここ数日間の矢口の心労を癒してくれる。
ここは、矢口の居場所。
「でも、ヤグチ、よぉわかったなぁ〜」
「何が?」
「その、かたっぽの方が、もうかたっぽを好きなんやって」
- 168 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時50分38秒
- いくら恋人にとは言え、当の2人に無断でばらしてしまうのはマナー違反。
だから矢口は、2人の名前は出さずに話をしていた。
――まぁ、もう薄々勘付いてはいるんだろうけどね。
それでも敢えてそれを口にしない、そんな彼女をやはり大人なのだと思う。
「だってさぁ…」
矢口はその『大人』の顔をのぞきこみ、含み笑いを浮かべる。
「その子の態度、あのときの裕ちゃんと同じだったんだもん」
- 169 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時51分24秒
- その『大人』―中澤―は、その言葉に顔を赤らめる。
――なんや、アタシ、17の子どもと同レベルかいな…。
自分の言動にいちいち振りまわされて大人の表情を崩してしまう彼女を、
矢口はとても愛しく思う。
「裕ちゃん、カワイ」
ちゅ、と軽く音を立てて、その額にキスを落とした。
「まぁ裕ちゃんの場合、その子より悩むネタが、もイッコ多かったみたいだけどね」
「…なん?」
- 170 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時52分02秒
- 矢口の表情からは、明らかに良い予感はしないが、一応聞いてみる中澤。
それに、躊躇無く言い返す、矢口。
「―歳」
やっぱり…と、一瞬天井を見上げた中澤は、ぐっと身体を持ち上げ、囁く。
「アンタなぁ…そんな生意気、言えへんようにしたろか」
そのまま矢口をベッドに沈め、深くくちづける。
「――っん…」
矢口に覆い被さるような体勢のまま、中澤は少し顔をしかめる。
- 171 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時52分41秒
- 「なぁ、その2人は、結局仲良くやってんやろ?」
「うん…」
「やったら、なんで、そんな泣きそうなカオしとるん?」
「裕…ちゃん…」
矢口は中澤の首に両腕を回し、もう一度キスをねだる。
中澤はそれに応え、矢口の腰に腕を回して向かい合う格好で矢口の横に。
「なんか、さぁ…」
「うん?」
「その子…告白された方、が、言ってたんだ」
- 172 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時53分30秒
- 「その…相手の子がいないなんて、考えられないって。
その子無しじゃ、やってけないって」
「…そうか」
「そこまで言っといて、好きかどうかわかんない、なんて言うんだからさ、
…参っちゃうよね」
矢口の言いたいことがなんとなくわかる気がして、中澤は優しくその背中を叩く。
「ヤグチは、ね…たぶん、裕ちゃんがいなくても、生きてける…」
「うん…」
「こんなに、好きなのに。こんなに、大切なのに…」
- 173 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時54分28秒
- 矢口を抱く中澤の腕に、力が入る。
「それが、さ…大人になる、ってこと、なの?」
「ヤグチ…」
ゆっくりと、愛しい人の柔らかい金髪を指に絡めながら、中澤が呟く。
「アタシもな、たぶん、ヤグチがおらんでも死にはせんわ」
言いながら、矢口の髪にいくつものキスを落とす。
「でもな、一つだけ、誤解せんといてや」
- 174 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時55分09秒
- 「おらんな死ぬ、ってことと…
例えば命懸けてもいいくらい大切や、ってことは、全く別モンや」
中澤は、矢口の目を見て、ふわりと笑う。
「アタシはな、ヤグチのこと、そんくらい大切やと思てる」
そしてもう一度、優しいキスを。
どうして、この人は…矢口は、思う―
こんなところが、憎らしいほどに大人なのだろうか。
「あたしも、大切だよ…」
- 175 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時55分56秒
- 涙目になりながらも確かな意思を感じさせるその強い目に射すくめられ、
しばしの間言葉を失っていた中澤は、ふっと笑って肩をすくめる。
「ヤグチって…なんや、テキーラ・サンライズみたいやな」
「へっ?お酒?」
一気にただのいたずら好きの子供のような表情になった中澤に、やや拍子抜けして。
「ん?まず、色やろ?あの目が覚めるようなオレンジ色、アンタにそっくりや」
まだ呆けている矢口の頬を、右手で包み込む。
- 176 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時56分45秒
- 「んで、味も、めっちゃ甘い」
少し鼻にかかったような声で囁かれ、矢口はたまらずに目をそらす。
「ゆっ…裕子!ナニ恥ずかしいこと言ってんだよ!」
気にせずに、中澤は続ける。
「でも、甘い甘いて油断してたら…気付かんうちに、どうしょもないくらい、酔ぉてしまう」
その言葉は、あり得ないくらいに扇情的に響いて。
- 177 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時57分28秒
- 腕の中で赤くなっている矢口を、中澤はニヤニヤしながら見つめる。
「なぁ?アンタに、ぴったりやんか」
「だ…ダメじゃん!お酒弱いクセに!!」
照れ隠しに噛み付く矢口。目はそらしたままに、少しだけ屁理屈も。
「あたしがそのお酒だって言うんなら、ちょっと控えないとねー。」
そんな矢口の精一杯の反撃にも、中澤は動じることなく。
「大丈夫、二日酔いには、向かい酒がイチバンよぅ効くんやから」
――なぁ、ヤグチ?
- 178 名前:<Tequila Sunrise> 投稿日:2002年07月07日(日)16時58分08秒
- …酒で死ぬのは、ちょっと勘弁。
でも、あなたに溺れ死ぬのなら…
Tequila Sunrise―――終わり。
- 179 名前:nishi 投稿日:2002年07月07日(日)17時03分49秒
- 2杯目、終了です。
実は、この2人(=先例2人)も好きだったり。
すみません、なんだか説明が足りなかったようで…
<Tequila Sunrise>0.は、
時間的には<抹茶&Malibu>11.と12.の間のものです。
今後のよしごまの展開を期待して下さってた方いらっしゃいましたら、m(_ _)mです。
- 180 名前:nishi 投稿日:2002年07月07日(日)17時15分11秒
- >165:flowさん。
親友前提の葛藤、そう読みとって頂けると嬉しいです。
flowさんのところのよしごま(?)のような、
友情だとか愛情だとかを超えた絆、表現できたらと思います。
>166:名無し娘。さん
タイトルは、やっぱり大切ですね。痛感しています。
でも頑固に抽象タイトル続ける気です。(苦笑
そうですね。よしごま増えて、うれしいです。
- 181 名前:flow 投稿日:2002年07月07日(日)17時26分49秒
- 考えてみたら、矢口さんはもう20歳を迎える年代。
こういった大人な会話をしていても違和感がなくなってきましたね。
やぐちゅー、いいっす!
- 182 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月10日(水)00時58分05秒
- よしごまじゃなくてもここの雰囲気が好きなので満腹ですわ。
毎回楽しみなんですが、作者さん、お酒好き?(w 愚問かな?
- 183 名前:nishi 投稿日:2002年07月14日(日)22時16分48秒
- 今日はお返事のみ…。
>181:flowさん
ありがとうございます。自分の中では、矢口さん、カナリ大人です(w
激情矢口さんのお話が多い中、こんな矢口さんを書いてみたかったので嬉しいです。
>182:名無し娘。さん
これまたありがとうございます。推しCPでなくても好き、最高に嬉しいですね。
(自分を含め)よしごま好きの人って、他CPにも寛容な方が多くて助かります。
お酒?命の水ですが、何か?(w
さて、次のお話ですが…調子に乗って、その「他CP」に挑戦中です。
(よしごまメインに書いていきたいのは山々なのですが…なんとも、実力が伴わず…)
ある程度書き溜めたら、また持ってきますので。よろしくお願いします。
- 184 名前:nishi 投稿日:2002年07月14日(日)22時32分49秒
- 今日はお返事のみ…。
>181:flowさん
ありがとうございます。自分の中では、矢口さん、カナリ大人です(w
激情矢口さんのお話が多い中、こんな矢口さんを書いてみたかったので嬉しいです。
>182:名無し娘。さん
これまたありがとうございます。推しCPでなくても好き、最高に嬉しいですね。
(自分を含め)よしごま好きの人って、他CPにも寛容な方が多くて助かります。
お酒?命の水ですが、何か?(w
さて、次のお話ですが…調子に乗って、その「他CP」に挑戦中です。
(よしごまメインに書いていきたいのは山々なのですが…なんとも、実力が伴わず…)
ある程度書き溜めたら、また持ってきますので。よろしくお願いします。
- 185 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月17日(水)23時14分38秒
- 基本的にはよしごま推しなんですが、他カプの話も楽しみです。
実力が伴わないなんてとんでもないですよ。最高です、作者さんのよしごま!
- 186 名前:<Grass Hopper>1. 投稿日:2002年07月25日(木)18時51分27秒
- <Grass Hopper>1.
連日30度を超える猛暑。今年もまた、夏がやってきた。
簡単な連絡事項の伝達のみでホームルームは終わる。
クラスメイトがそれぞれに散っていく中、後藤は窓越しの空をまぶしそうに見上げた。
窓際のいちばん後ろのその席は、本来ならば特等席とも言えるのだが。
「後藤〜、その席、あっついでしょ」
近くにいた一人が、苦笑気味に話しかける。
「もぉねぇ…ハンパないよ。しかも焼けちゃう〜」
軽くぼやきながら被っていたタオルを外し、後藤は廊下側の席へと移動した。
残っていた数名のクラスメイトと、そのまま他愛も無い話を続けること10分余り。
開け放された廊下側の窓からは、廊下に響く足音、笑い声、様々な音が聞こえる。
- 187 名前:<Grass Hopper>1. 投稿日:2002年07月25日(木)18時52分41秒
- 既にざわついていた中に、ふと新たな音が加わる。
「あ、D組も終わったっぽい」
いち早く、後藤が反応する。
嬉々として帰る準備を整え出す後藤に、半ば呆れ顔の友人たちが言う。
「ほんっと毎週のことながらさぁ…アンタの耳はスゴイよね。隣のC組ならともかくさ」
「授業中に指名されたって、ほとんど気付いてなかったりするくせに、ねぇ」
「ま、関心度の差ってやつでしょ」
こともなげに言いきる後藤の言葉に、それはそうだと笑い転げる。
その笑い声に誘われるかのように、窓越しに姿を現したのはD組の吉澤。
「おーす。ナニそんなにわらってんの?」
「後藤さえその気になればぁ、世界征服もできそうだって話」
激しく脚色されてはいるものの妙に的を得た表現に、その場はまた笑いに包まれる。
「んぁー、世界、ねぇ…。別にイラナイや」
その言葉に、窓枠にひじをついていた吉澤も笑いをこらえることができない。
- 188 名前:<Grass Hopper>1. 投稿日:2002年07月25日(木)18時53分31秒
- そのまま二言三言を交わし、後藤と吉澤はB組の教室を後にした。
吉澤の所属するバレー部が休みとなる木曜日は、毎週2人でどこかに寄って帰る。
とりたてて約束を交わしているわけではないが、既に週に一度の恒例行事だ。
「どこ行くー?」
「えっとねぇー…」
色々と考えてはみたものの、結局いつも通り駅前のファーストフード店に落ちつく。
それぞれ適当なものをオーダーし、混み合った店内でどうにか席を取る。
ドリンクを手に取る吉澤の指先が、ふと後藤の目にとまる。丁寧に切りそろえられた爪。
――キレー…。多分、のばしても似合うよね。
話の流れとは全く無関係に、後藤はそんなことを思った。
「よしこ?」
「ん?」
ストローをくわえたままの吉澤が、眉をあげて応える。
- 189 名前:<Grass Hopper>1. 投稿日:2002年07月25日(木)18時54分24秒
- 「なんかいーことでもあった?」
「ハァ?」
「いや、今よしこさ、すっごい笑ってたよ」
あぁ…と頷きながら、吉澤はまた微笑む。
「なーんか、いいなぁー、と思って。こうゆう感じ」
「なにそれ。どうゆう感じ?」
相変わらずどこか掴み所のない親友だ、と後藤も笑いながら先を促す。
「ん〜。別にバレーがイヤ、とかじゃ全然ないんだけど」
「てゆうかよしこ、部活好きでしょ」
「ん、でもね。たまにはこうやって、学校帰りに友達とまった〜りするのも最高〜」
吉澤は空に近づいたドリンクの容器を軽く振り、ガシャガシャと氷の音をたてる。
- 190 名前:<Grass Hopper>1. 投稿日:2002年07月25日(木)18時55分18秒
- 「たまに、ってゆうか…先週もココ来たじゃん。あたしと」
笑いながら返した自分の言葉に、後藤は「あ」と思いつく。
「よしこってさ、イイの?たまの自由な放課後を、毎週あたしと過ごしてて」
予想外の言葉に吉澤は大きな目をさらに丸くして後藤の顔をのぞきこむ。
「いや、カレシとか欲しくないのかなぁ、って思って」
後藤の視線を追うように店内を見まわしてみる。確かにカップルの姿が目立つ。
「ん〜、カレシ、ねぇ。…別にいらないや」
わざとに先ほどの後藤の口調を真似てみて、ひとりでウケる吉澤。
それでもふと真顔になって、言葉をつなぐ。
「でもそれ言ったらさぁ、ごっちんもいっしょじゃん。欲しくないの?カレシ」
「あたしはさぁ…別に毎日よしこが遊んでくれるワケじゃないもん。
その気になれば、いっくらだってあるよ。カレシ見つける時間なんて」
- 191 名前:<Grass Hopper>1. 投稿日:2002年07月25日(木)18時56分00秒
- 妙な間が開く。
「なんだソレ。部活やめようかなぁ…」
沈黙を破った吉澤の言葉に、後藤は危うくコーラを吹きそうになる。
「あははははっ。心配しなくても、あたしはよしこのこと捨てたりしないよぉ〜。
だから、安心してバレーにいそしめ」
後藤は右手にドリンクを、左手は胸に、目には涙を浮かべながら笑う。
吉澤はなおも捨てられた子犬のようにいじけたふりをしていたが、
俯いて下から伺うように後藤を見るその目は確かに笑っている。
吉澤を上から見下ろす後藤の視線と、背を丸めて後藤を見上げる吉澤の視線。
その二つがかち合って、2人はさらに笑った。
「もぉ、今のでコーラ鼻に入ったよぉ。超痛いんだけど」
本気で涙目になる後藤を見て、吉澤の笑みはしばらく止まらないままだった。
- 192 名前:nishi 投稿日:2002年07月25日(木)19時00分36秒
- 新しいものにチャレンジ、ということで、アンリアルなぞ…。
気付いたら、よしごまになってたわけで。うーん、色々と模索中なのですが。
>185:名無し読者さん
ありがとうございます。
他カプ、楽しみにして頂いてたんですかね!?ぐはぁ、すみません。
- 193 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月25日(木)20時03分11秒
- 惜しい〜、あと少しでリアルタイムだったのに(w
っていうか吉澤に関しては異常に関心度の高い後藤に萌え。
アンリアルでも、よしごま萌えますね。それが例え友人同士でも恋人同士でも
ライバル同士でも姉妹同士でも(言い過ぎ?)
とにかく、作者さんの作品はツボ入りまくりで大好きなんで頑張ってください!
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)01時28分48秒
- 新作はグラスホッパーですか。
自分、カクテル好き&よしごまヲタなもんで、かなり楽しみにしております。
グラスホッパー同様、甘口を期待しちゃってよいのかな?
- 195 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時36分11秒
- <Grass Hopper>2.
『であるからして、生徒諸君には――』
教室の前方に備え付けられたスピーカーから延々と響く、夏休みを前にした学長挨拶。
この夏一番の暑さを記録しそうなこの日、少々珍しい形式での終業式が執り行われていた。
空調設備の無い体育館に全校生徒を集めるのは危険である、との措置らしい。
無論そんな状態で生徒たちが学長の話に聞き入るはずもない。
後藤もまた、日の照りつける自分の席で、何をするでもなく空を見上げていた。
ブッと低い音をたてて後藤の携帯が震え、メールの着信を知らせる。
なんの確証があるわけでもないが、それが吉澤からのものであると直感で悟り、
後藤は素早く新着メールを開く。ふと、思った。
――こんなあっついのに、ケータイって丈夫にできてるなぁ…。
『ごっち〜ん、校長の話、マジ長いよね。早く終われよって感じ(笑)。
今日さぁ、部活終わったら、泊まり行ってもイイ?』
- 196 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時36分52秒
- 校長の話題から何の前触れも無く本題に入るあたりが、なんとも吉澤らしい。
少しだけ笑って、後藤は返事を送信する。
『イイけど、明日部活じゃないの?』
『バスケ部が試合で体育館使うみたいで、明日は休みなんだよね。
じゃ、一回家に帰ってから行くね』
『おっけー。じゃぁ待ってるよ〜』
後藤が最後の返事を送信し終えても、学長の話はまだ続いていた。
◇
「…とうっ、起きなってば」
肩を揺らされる感覚に、後藤はゆっくりと目を開ける。友人の苦笑する顔。
「アンタ寝すぎだってば。もう終礼も終わったよ」
その言葉に教室を見渡せば、確かに既にクラスメイトの姿はまばらである。
「あ…寝てた…」
「てゆうかさ、よくその席で寝れるよね」
「ん、あたしもそう思う」
- 197 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時37分57秒
- とりあえず私物をバッグに放りこみ、ともに教室を後にする。
「あぁ〜、もうよしこ、部室行っちゃったかなぁ」
――帰りに、何が食べたいかとか聞こうと思ってたんだけど。
家族の留守がちな後藤の家に吉澤が泊まりに来る日には、
後藤が夕食の準備をする、それがなんとなく通例となっていた。
階段へと向う途中に、少しだけD組の教室をのぞき込む。
「あ…」
どちらからともなく、そんな声を発する2人。
中に残っていたのは、紛れも無く吉澤と―もう1人。
後藤たちは中の2人に気付かれないように、そっとその場を去った。
階段を降りながら、やっと後藤が口を開く。
「うぁー、ビックリしたぁ〜。こっちが汗かいちゃったよ」
「だねぇ。ありゃどうみても、告られてたよね、吉澤さん」
「よしこ、もてるとは思ってたけど、実際あぁゆう場に遭遇したのは初めてだぁ〜」
「そりゃ吉澤さん、あの顔にあの性格だもん。告る方も、腰引けちゃうんじゃん?」
- 198 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時38分34秒
- その言葉になるほど、と納得していた後藤に、友人がさらに語りかける。
「でもさぁ、確かに今日あたり、絶好の告白日和だよね」
「え、なんで?」
その意図を図りかねた後藤が問い返す頃、2人はちょうど昇降口へと着いた。
「だってさぁ〜。もし断られても新学期まで顔合わせなくて済むし、
んで、もしうまく行ったら、夏休み超楽しめるしー」
ロッカーから靴を取り出しながら、友人が応える。
――もしうまく行ったら―。
そのたった一言に何故かひっかかって、後藤は別に言わずとも良いことを口にした。
「でもこないだよしこ、カレシなんて別にイラナイって言ってたもん」
「へ?」
「それにあんなヤツに、よしこはもったいないよ」
「ちょ、後藤〜、あんたナニ娘を嫁にやる父親みたいんなってんの。
それに誰も吉澤さんのこと、どーとか言ってるわけじゃないでしょー」
「そーだけどぉ…」
呆れ顔の友人を尻目に、まだどこかいら立ちを抑えきれない後藤だった。
- 199 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時39分27秒
- 夕方、後藤宅に来客を知らせるチャイムが響いた。
後藤は急いで玄関まで走り、勢い良くドアを開ける。
「よしこ、おかえりぃ〜〜」
「うぁっ、た、ただいま〜…って、ごっちん」
苦笑気味の吉澤を、家へと招き入れる。
「あぁ〜、イイにおい…オムライスだぁ」
「ちょうどできたトコだよ。早く食べよっ」
後藤にせかされた吉澤は、慌てながらも戸惑うことなくキッチンへと向かった。
2人仲良く夕食とその後片付けまで済ませ、今は吉澤がシャワーを使っている。
後藤がしばらく雑誌を眺めていたところに、吉澤が戻ってきた。
「あぁ〜、ノド乾いた…ごっちん、なんか飲み物もらってイイ?」
「あ、あたしのも〜」
「おっけー」
既に後藤宅の勝手を知り尽くしている吉澤は、
冷蔵庫からボトル、棚からグラスを取り出して2人分のウーロン茶を注いだ。
- 200 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時40分17秒
- 「ハイ」
その一つを、後藤へと手渡す。
「ありがと」
時計の針は、10時を少し回ったところ。
2人ソファにならんでTVに向い、ああだこうだと画面に突っ込みをいれていたが、
その番組も終わり、CMが流れ始める。
「あー。どこも、ちょうどCMばっかだね」
チャンネルを適当に変えながら呟く吉澤に、後藤はぽつりと話しかける。
それは、実は今日の昼からずっと気になっていたこと。
「ねぇ、よしこ。今日さ〜、偶然、見ちゃったよ〜」
しかしあくまでも、どこか冗談めかした口調で。
「ん?」
「ホラ、A組の…」
「…あぁ」
すっかり汗をかいたウーロン茶のグラスを手に取り、一口飲んでから吉澤が応える。
「断ったー」
- 201 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時41分02秒
- その言葉にどこかほっとしながらも、少し驚く後藤。
「え、だって、あの人けっこー人気じゃん?」
『それにあんなヤツに、よしこはもったいないよ』
ああは言ったものの、後から考えてみればみるほど、断る理由が見つからなかった。
「うん、でもさぁー。別に、アタシは好きじゃないから、さ」
そう言って何故か情けない顔で笑う吉澤に、誠実さを感じて後藤は少しだけ嬉しくなる。
そういえば、吉澤とこんな話をしたことは無かったかもしれない。これだけ仲が良いのに。
「てことはー…よしこ、誰か好きな人いるんだ!?」
まだグラスを握っている吉澤の、一瞬の動揺も後藤は見逃さない。
「あぁぁ!図星!?吐いちゃえ吐いちゃえぇ〜。
あたしのよしこのハートをがっちりキープなヤツは、どこのどいつだぁ〜?」
――うわっ。どさくさで、『あたしのよしこ』とか言っちゃったし…。
ふざけてはしゃぎいでみせながらも、後藤は何故か空しさが胸に広がるのを感じていた。
「ご…ちぃ…ギブギブ!」
真剣に苦しそうな声を出す吉澤に気付き、後藤は慌てて吉澤の首に回した腕を解いた。
- 202 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時41分46秒
- 「も…ごっちん、力強すぎ…」
涙目で訴えてくる吉澤に、後藤は心底すまないと思うが―。
――あれ、なんか…うまくはぐらかされた?
なんとなく無言のまま2人TVを見つめる。
画面に映るのは、いつのまにか明日の天気予報になっていた。
『明日も全国的に晴れる模様です。特に関東地方では34度を超える見込みと―』
「ごっちん…」
「…ん?」
『―ので、熱射病には充分にご注意下さい』
「今、アタシに好きな人がいるとかいないとか、そうゆうことじゃなくって…」
いつになく真剣な口調で語り始める吉澤に、後藤は思わずそちらへと向き直る。
「あの、さぁ…」
普段からマイペース、という言葉がそのまま歩いているような吉澤が、
とてつもなく緊張しているのがわかる。心なしか、目が泳いでいるようにも思える。
そんな吉澤を目の前に、かわいい、という気持ちが先に立った後藤は、
自分にできる精一杯の柔らかい笑みで、優しく先を促す。
「なに、どしたの?」
- 203 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時42分24秒
- ふぅっ、と一つだけ息をついて再び後藤の顔を見たとき、
吉澤は既にいつも通りの―落ち着き払った、堂々とした、吉澤で―
その力強い目に、後藤は思わず息を飲んだ。
動悸が早まる―これから重要なことを打ち明けられるという予感のためか、それとも…。
「あたしさ、女の子が、好きなんだ」
きっちりと文節区切りで発せられた言葉。後藤はその意味を、ゆっくりと飲み込む。
その間の沈黙に耐えきれずに、吉澤が慌てて取り繕おうとする。
「あ、ゴメン。やっぱびっくりするよね?こんなこと急にっ」
「や、どっちかっていうと…超マジ顔のよしこに、びっくりした」
「はぁっ?」
またしばしの間が空く。
おずおずと、吉澤が口を開く。
「あの、さ…気持ち悪い、とか、そーゆーのって…」
「ないよ」
間髪いれずに後藤が応える。
- 204 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時42分58秒
- 「だってさぁ…そうゆうのって、男も女もないよ、きっと」
その言葉を聞いた吉澤は、脱力してソファの背もたれにうつぶせる。
「…ありがと。実は、言うの、相当緊張した…」
一気に、その場の空気が緩む。
「それにあたしはぁ、よしこのイイトコいっぱい知ってるし。
よしこに想われるんなら、そのコだってカナリ幸せだよね」
まだ見ぬその相手に多少の嫉妬を感じながらも、後藤は言葉をつないだ。
うつぶせた吉澤が、ゆっくりと顔を上げる。
「うぅ…ごっちん、誉めすぎ…」
「あはっ。よしこ、耳まで真っ赤!!」
後藤にいたずらっぽく微笑まれ、吉澤の顔はさらに赤くなる。
「うぁ…もぉ〜、勘弁〜」
まだ笑みを浮かべている後藤から視線を外し、深呼吸を繰返す。
- 205 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時43分33秒
- その穏やかな空気をまたしても止めたのは、何の気なしに後藤が発した一言。
「あたしもさぁ、その辺の男よりかは、よしこがいーな」
めいいっぱいに息を吸い込んでいた吉澤の動きが一瞬止まり、
今度はあり得ないくらいの遅さでゆるゆると、しかしぎこちなく息を吐き出す。
それを見た後藤が、ようやく自分の言葉の意味に気付いて固まる。
「あはっ、な、なにこの雰囲気!これじゃ、あたしがよしこに告ったみたいじゃん」
なんとかいつもの調子を取り戻した後藤がそういうと、吉澤も振りかえって苦笑した。
「もぉ〜、頼むよ、ごっちん」
その苦笑はいつしか心からの笑いに変わり―。
「もう、寝よっか」
「だね」
後藤の提案に吉澤が頷く頃には、TVからは1日のニュースが流れ始めていた。
- 206 名前:<Grass Hopper>2. 投稿日:2002年07月28日(日)21時44分09秒
- 自室へと向かおうとした後藤が振りかえると、吉澤が何かためらうようにたたずんでいた。
「よしこ、どうかした?」
「いや…あたし、ここで寝ようか?」
吉澤は今まで2人で腰掛けていたソファを指差す。
「もぉ、ナニ言ってんの。それともよしこ、あたしのこと襲っちゃう気分?」
後藤は自分のことながら、もうこんな冗談を投げかけられる自分に内心驚いていた。
「いやっ、それはあり得ない!」
慌てて首を振る吉澤を「それはそれで失礼な話だ」と軽く怒りながら、吉澤の手を引く。
「よしこ、ありがとね」
「ん?」
「大切なこと、打ち明けてくれて」
「こっちこそ、ありがと。…受け入れてくれて」
- 207 名前:nishi 投稿日:2002年07月28日(日)21時52分38秒
- うちの後藤さん…なぜか無意識にヒドイ。(w
>193:名無し娘。さん
後藤萌え、ありがとうございます。
後藤さんが本気モード入ったときの潜在能力は、
とてつもない…はずです。(w
>194:名無し読者さん。
はい。今回目指すところは、カカオの甘さ、クリームのマターリ感、
そしてミントの爽やかさです。(目標壮大過ぎ)
タイトルから推測して頂けるのは、こちらも楽しいですね。
…でも1杯目2杯目と、タイトルの必然性あったかどうか…。(汗
- 208 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月29日(月)08時44分08秒
- よしこ襲っちゃえ!…ダメっすか?(w
- 209 名前:すなふきん 投稿日:2002年07月30日(火)00時29分37秒
- 文章の雰囲気が、激しく自分好みです(w
応援してます、頑張ってください!!
- 210 名前:<Grass Hopper>3−1. 投稿日:2002年08月05日(月)16時59分21秒
- <Grass Hopper>3.
カチッ――カチッ――
薄暗い部屋の中に、時計の音だけが響く。
『同性愛』。
それを否定する気は毛頭ない。
軽蔑するつもりも、ない。
冷やかす、そんな気持ちもない。
しかし、自分には関係のないことだと思っていた。それも、一生。
それでも。突然に生まれた接点。しかも、いちばんの親友の口から。
―『突然に生まれた』?
違う。いつだって近くにあった。ただそれを、自分が知らなかっただけ。
―無自覚の無知ほど恐ろしいものはない。
誰か昔の偉い人が、似たようなことを言っていたような気がする。
なんの根拠もなく生まれた髭面の偉そうな顔のイメージを振り払い、後藤は考える。
…これまでの、自分と吉澤の全て。思い出せる全てを、記憶の底から引っ張り出す。
交わした会話、何気ないやり取り、ふとしたしぐさ―。
- 211 名前:<Grass Hopper>3−1. 投稿日:2002年08月05日(月)17時00分05秒
- 自分は、吉澤を傷つけたことはなかっただろうか?
知らず知らずに、追い詰めるような言動をしていなかっただろうか?
隣で眠る吉澤が寝返りをうったのをきっかけに、後藤は我に返る。
――そんなことしてたら、打ち明けてくれない、かぁ…。
月明かりに青く照らし出された吉澤の寝顔はとても無邪気で無防備で。
…さきほどの真剣な表情に、思わず見惚れたのも事実。
しかし同時に、吉澤がこの穏やかな表情を絶やすことなく暮らせるように、とも願う。
吉澤を起こさぬようにそっとその左手を取る。後藤はそこに、ゆっくりと口付けて。
「よしこは、あたしが、まもったげるから」
…別に全国の同性愛者を応援しよう、などと大それたことは思っていない。
ただ吉澤が悩んだり傷つくようなことが起こった場合には、全力で支えてあげたい。
それだけ決意した後藤は、既に明るくなり始めていた窓の外に軽く目を走らせ、
吉澤の左手をしっかりと胸に抱いたまま、自分も目を閉じた。
- 212 名前:<Grass Hopper>3−1. 投稿日:2002年08月05日(月)17時00分41秒
- ◇
「で、昨日から夏休みなんだよね」
「…そうや」
昨日吉澤が帰った後、一本の電話が後藤のもとへ入った。
「じゃ、なんで、あたし今会議室にみっちゃんとふたりっき…」
憮然とした表情の後藤ではあったが、向かい合う平家の表情に、思わず黙り込む。
「アンタがな…一学期の間、寝倒したからやわ…」
「…ハイ」
後藤に課されたのは、約2週間の補習。
特に授業が行われるというわけではなく、与えられた課題をひたすらに解くというもの。
その指導教員として抜擢された―もしくは押し付けられた―のが、新卒採用の平家。
「でもさ〜。先生がみっちゃんだったのが、せめてもの救いだね」
「まぁな、アンタ、運えぇわ」
自分で言うなよ、といって笑う二人。
まだ若くて生徒とも感覚が近く、さらにノリも良い―話せる新米教師、
ついでに新米な割には、独自の―自身の経験に基いた―ポリシーを持つ女、
それが生徒からの平家への評価であり、もともと後藤も彼女にはなついていた。
- 213 名前:<Grass Hopper>3−1. 投稿日:2002年08月05日(月)17時01分46秒
- 補習は毎朝9時から12時30分まで。
本来ならば蒸し暑い教室で行われるところだが、
平家の機転のおかげで、空調の効いた会議室を使えることとなった。
平家に迷惑をかけたくはないし、進級できないのも困る。
さすがの後藤も、黙々と課題をこなしていく。
椅子に腰掛ける平家はその様子を感心して眺めながらも、どこか懐かしむように
グラウンドから時折聞こえる野球部やサッカー部の掛け声に耳を傾けていた。
午前の練習が終わったのだろうか、彼らの声がやむ頃、後藤の集中力も途切れ出す。
時計を見れば、12時を少し回ったところ。後藤もかなりの量をこなしていた。
「ごっちん、おつかれさん。今日はあんたも頑張ったし、こんくらいにしとくか」
声を掛けられた後藤は、一瞬時計に目をやり平家を振りかえる。
「あ、でも一応半まではここに居ってな。アタシも怒られてまうから」
そう言ってニヤリと笑う平家に、後藤も満面の笑みを浮かべる。
「みっちゃん、不良教師ぃ〜」
後藤のからかうような口調にも、平家は笑って答える。
「サボリもしたことないようなヤツ、アタシは教師に向いとるとは思えんわ」
- 214 名前:<Grass Hopper>3−1. 投稿日:2002年08月05日(月)17時02分25秒
- 何気ないこんな一言が、平家に対する親近感のもとなのかも知れない、
そんなことをぼんやりと思いながら、後藤は平家に取りとめもない話をする。
その温厚さと人あたりのよさは周知の事実であったが、実際に話してみると深い。
――みっちゃんの考え、聞いてみたいな。
後藤は思う。平家なら、きっちり受けとめて彼女なりの解釈をくれそうな気がする。
「ねぇ、みっちゃん」
「ん?」
「女のコ、好きになったこと、ある?」
「…なんや、後藤、アタシに惚れたか?」
「違くて!!」
真剣な表情の後藤を前に、平家もその顔を引き締める。
こんな目をした子には、本心で向き合うべき…教師以前に人としての本能が語りかける。
「あるよ。…ちゅうか昔、付き合ぉてた」
食い入るような後藤の目に苦笑しながらも、平家は言葉をつなぐ。
「気持ち、最初に自覚するんには、時間かかったわ。まさか、て思てたからなぁ」
- 215 名前:<Grass Hopper>3−1. 投稿日:2002年08月05日(月)17時02分57秒
- 「どういう人、とか、聞いてもイイ?」
後藤の言葉に、ふと平家は立ちあがり背を向ける。
少し斜め上を見上げるようなその後ろ姿は窓からの日差しを逆光に、文句なく綺麗で。
「んーと…めっちゃカッコよくて、でもかわいくて、なのにビビリでヘタレでタラシで優柔で
好きキライ激しいコドモなくせにエロオヤジで、かと思えば妙なトコ繊細で―」
「あの、みっちゃん…」
「でもな、最高に素敵な人やったわ」
最後にそう言って振りかえった平家の表情こそ、『最高に素敵』だと後藤は思う。
そんな笑顔で相手を素敵だと言いきれる、そんな恋がしたい。漠然とだが、思った。
「オーイ、後藤!戻ってこーい」
「あ…」
「あんなぁ、今のトコで放心されたら、こっちが恥ずかしくてたまらんわ」
平家は照れくさそうに笑いながら、自分の持っていたペットボトルを後藤に手渡す。
その言葉にへらっとした独特の笑顔で返し、後藤はそのボトルに口をつける。
- 216 名前:<Grass Hopper>3−1. 投稿日:2002年08月05日(月)17時03分41秒
- 「アタシじゃなくて、アタシの友達なんだよ」
「ん?」
「ついこないだ、ナニ、カムアウト?された」
なるほど、と平家は後藤を見つめる。
「で、なんか…どうゆう気持ちなんだろ、って」
「ん…人を好きな気持ち自体はな、なんも変わらんよ」
カタン、と音を立てて、後藤の隣に腰掛ける。
「でもその子はアンタのこと、ホントに大切なんやろな」
少し猫背で微笑みながら言う平家に、後藤は自慢げな笑みで返した。
「自慢の親友ですから」
◇
- 217 名前:nishi 投稿日:2002年08月05日(月)17時14分28秒
- 半端な形ですが、更新です。
実はストックを飛ばしてしまいまして…。
時期が時期だけに(汗)ご心配をかけても、と思い、
こんな形ですがひとまずうPします。申し訳、です。
>208:名無し読者さん。
いいすね、それ!(ヲイ)でも自分的には、むしろ襲われて欲し(ry
そんな話、書いて見たいですが。えへ。
まぁそれをやっちゃうと、話終わっちゃいますんで、ご勘弁を…(w
>209:すなふきんさん。
ありがとうございます。文章の雰囲気ですか。
今回は自分でも色々と実験的な要素を詰め込んでますので、
おそらく文体も雰囲気も一定しなくて読みにくいかと思われますが…。
今回の話で得たものを次以降に生かせれば、と思っていますので
これからもよろしくお願いしますね。
- 218 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月06日(火)21時57分46秒
- ミチャーンいいこなのにね…
- 219 名前:名無し娘。 投稿日:2002年08月06日(火)23時06分20秒
- 一時の脱力状態からようやく復活しまして、また読ませていただいています。
「自慢の親友」……おそらく、現実世界でもそういう定義なんだろうなと思う
と泣けてきます。
会話がリアルで好きです。よしごまマンセー!!(みっちゃんの方が目立ってるけど)
- 220 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時45分46秒
- <Grass Hopper>3−2.自覚。
補習4日目の木曜日。12時半を回り、終了の時刻。
しかし平家の目にもすぐにわかるほど、今日の後藤には覇気がない。
「なぁ。なんか変なモンでも食べたん?」
「別に…」
「そやったら、体調悪いとか?」
「うぅん、大丈夫…」
「ほなら、吉澤とケンカでもしたか」
「へぇっ!?してないよッ」
突然力いっぱいに否定する後藤に苦笑する平家。
「ぃや、なんか、今日は迎えに来てへんやんかぁ」
これまでの3日間、補習が終わる頃になれば後藤を迎えに現れる吉澤に、
2人は本当に仲が良いのだと感心していたから、余計に違和感がある。
「今日は木曜だからバレー部休みなの!ケンカなんかするわけないじゃん」
「あはは、そうかぁ。ゴメンやわ」
- 221 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時46分43秒
- だらだらと帰る仕度をする後藤を見て、平家は少しだけ首をかしげる。
「そっか。後藤はほんとに吉澤のこと好きやねんなぁ」
平家にとっては何気ない一言なのだとは思うけれど、
吉澤のカムアウトを受けていた後藤にはどこか意味深に響いてどきりとする。
「そやなかったら、そんな元気なくなったりムキになったりせんもんなぁ」
「ん…まぁね。好きだよ、よしこのことは。…大切な親友、だもん」
半ばからかうような平家の口調に、後藤は努めて冷静を装い応える。
そんなムキになったような様子が、逆に平家のいたずら心を刺激する。
「んなら、吉澤が居らんくて元気のない後藤さん。一緒にご飯でも行くか」
「なにそれ!そんなのまるで、小学生じゃんかぁっ」
「まぁ小学生ほど単純な話でもなさそうやけどな」
最後の平家の言葉はイマイチ意図がつかめなかったけれど、
とにかく2人は共に食事に行くことになった。
◇
- 222 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時48分00秒
- それぞれが手早くオーダーをすませ、なんとなく手持ち無沙汰な時間。
思い出したように、平家が口を開く。
「そういえば…あのコとは、うまくいっとるん?あの、こないだゆうてた…」
「あぁ。うん、スゴイなかよしだよ。てゆうか、まぁ、いつも通りかな」
カムアウトを受けた相手が吉澤であることは、平家には言っていない。
お冷の入ったグラスを揺らして、平家は氷の音を立てる。
「まぁ、色々、悩んだりもする年代やろうから…」
「うん、そのときはね、支えてあげたいなって思ってる」
「やっぱ理解がない人も多いやろうから、傷つくこともあるかもしれん」
「あたしが、まもってあげる。どうしたらイイのかなんてまだわかんないけど、絶対」
ちょうどそのとき、注文したものが運ばれて来る。
店員が料理を並べるのを見ながら、平家は後藤の言葉をゆっくりと反芻していた。
おそらくこの年代特有の純粋な友情というものを、懐かしく少し羨ましく思うと同時に、
純粋さゆえの脆さのようなものがちらついて不安になってしまう自分を恨めしくも思って。
『友情』で片付けてしまうには過度にも思える熱っぽさが、2人に災いしないことを願う。
- 223 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時48分39秒
- 店員が一礼して去った後、穏やかな笑みとともにようやく平家は言葉を返した。
「アンタにとっても、そのコ、ほんとに大切なんやな」
「ん…ま、ね」
冷静でそっけなくて、しかしどこか照れたような後藤の返答に、平家は「あ」と思うが。
「さ、食べようや」
「でぇー、告白されてるの見ちゃって。そんで好きな人とか問い詰めちゃった感じで」
「あはは、なんやそれ。あんた彼女なワケでもないのに」
「ん〜、彼女ぉ…どっちかってゆうとね、『花嫁の父親』、な心境かな?」
「あぁ。ウマイこと言うわ。大事な大事な娘やんなぁ」
半分ほど食べ進める頃には、カムアウトまでに至った経緯が話題となっていた。
スプーンを握る右手を一旦止めて、後藤が考える。
「てゆうか…その辺の女のコにはあげない、あげらんない、気がする」
「アンタ、さっき『応援する』みたいなことゆうてた癖に。ジャマする気かぃ」
呆れ顔の平家の言葉に、それもそうだと後藤は返事に詰まる。
「じゃぁ例えば、どんなコやったらエエん?」
その右手は既にスプーンから離れ、目線を斜め下に向け真剣に考えこむ後藤。
そんな後藤の様子を見て、平家は先ほど自分のなかに生まれた考えを強めていく。
- 224 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時49分16秒
- 「なんか…ムカついてきた。別にアタシが考えることでもないし」
少々いら立ち気味に再びスプーンを手に取る後藤に、今度は平家がスプーンを置き。
「そのムカツキの素、アタシ心アタリあんねん。…聞きたいか?平家説」
後藤から目をそらさぬまま水を口に運ぶ平家に、後藤は怪訝な表情ながらも頷く。
「あんなぁ…」
コツッと、グラスをテーブルに置く平家。
「それは多分、アンタが―後藤が、…吉澤を好きやから、や」
充分な間を置いて、ようやく後藤が反応する。
「…てゆうか、なんでイキナリよしこが出てくんの?今の流れで?」
そう静かに問い返す後藤の表情は驚くほどに冷静で、むしろ冷淡な印象を受ける。
それでも白くなった爪は、スプーンを握る右手にかなりの力が入っていることを物語る。
「アンタな、自分では気付いとらんやろうけど。
吉澤の話しとる自分と、その『親友』の話しとる自分、全くおんなじ顔やわ」
――気になって仕方ないのに、照れと意地で素直になれへん、そんな顔―。
- 225 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時52分48秒
- 顔の前で手を組み、一瞬だけ外した視線を再び後藤へと向ける。
「吉澤がアンタに打ち明けたんは、アンタになら知っとって欲しい、思うたからやろ。
誰に知られても構わんワケや決してない。アンタにやから、ゆうたんや」
「あたし…そんなに、わかりやすい?」
瞬間前までの仮面を完全に剥ぎ取られ目を泳がせ始める後藤に、平家は優しく微笑む。
「アンタに悪気なんてないのは、わかっとる。ただ、もちょっとだけ、気ぃつけぇ」
彼女を守るどころか、自分が彼女の抱える秘密を暴露するところだった―
そんな思いが押し寄せ、浅はかな自分への情けなさが後藤の涙となって流れ出る。
「み…ちゃぁん…ありが、と」
「あぁぁ、もぅ…後藤、泣くなぁ」
後藤の涙に慌てた平家がなだめに入る。
「あ、てゆうかアレか?平家説、正しかったやろ!?ほなら、やっぱアンタ吉澤好きか?」
大きな動きに明るい口調、それに必死の表情でなんとか後藤を盛り上げようとする平家。
その平家の一生懸命さが嬉しくて、少しだけおかしくて、涙目のまま後藤はふわりと笑う。
- 226 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時53分33秒
- その笑みを、平家は肯定の意味と取ったらしく。
「あぁ、やっぱなぁ!アタシ、さすがやん。いや、みちよ、ステキッ」
まだも懸命にテンションをあげたままの平家を前に、後藤の涙も徐々に止まる。
後藤の笑顔を見て自分も満面の笑顔になる、そんな平家を前に、後藤は思った。
――あたしは、別によしこに恋愛感情は持ってないんだけど…。
それでも平家の笑顔を見ていれば、その誤解も特に不快には思えず。
「あ、そんなら一つだけ、ねぇさんから先輩としてのアドバイスや」
急に声のトーンを落とした平家に、グラスの水を飲む後藤が目だけで先を促す。
「女の人相手にやったらなぁ…相手その気にさして抱いてもらうより、
こっちが抱いてその気にさす方が手っ取り早いて思うわ、アタシは」
「ゲホッ」
勢いよく水を吹き出してしまった後藤を尻目に、平家は淡々と説明を続ける。
「ホラ、やっぱ女の人は、抱くのは慣れてないやんか。やから戸惑うん違うかな」
まだ咳き込む後藤を見下ろす平家の目は、ニヤニヤと笑っている。
「ムリヤリ、っつーのは言語道断やけどな、強引にっちゅーくらいやったらアリやろ」
- 227 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時54分27秒
- 水が気管に入って涙目になりながら、やっとの思いで後藤が口を開く。
「あのさ、みっちゃん…。さっきはもういっか、って思って言わなかったんだけど…」
「あぁ、でもその爪じゃぁあかん」
後藤の言葉をまるで気にしないかのように続ける平家は後藤の爪を指差す。
「爪…?」
きょとん、としたまま、長く整えられた自分の爪に視線を落とす後藤。
「そんなやったら、大切な人に、傷、つけてまう。痛い思い、さしてしまうやんか」
平家の言う意味がわかって、少しだけ顔を赤くする後藤だったが。
唐突に思い出されるのは、綺麗に切りそろえられた吉澤の爪。
先日ファーストフード店で心惹かれた、あの指先のイメージで。
心の奥の何かが、ザワザワと音を立て始める。
――あの指が、触れるのは、…誰?
- 228 名前:<Grass Hopper>3−2. 投稿日:2002年08月07日(水)21時55分20秒
- おもわず、とてもリアルにそのシーンを想像してしまう。
その知りもしない相手への強烈な嫉妬心が、後藤を襲う。
「…ムカツク」
「…後藤、どした?」
急に黙り込んだ後藤を心配して、平家がその顔をのぞきこむ。
後藤は、ゆっくりと顔をあげて―。
「今、わかった。…平家説、やっぱ、完璧だよ」
そう言って、既に冷めてしまったピラフを後藤は口に運んだ。
- 229 名前:nishi 投稿日:2002年08月07日(水)22時03分26秒
- 3の後半、更新です。不規則ですみません。
>218:名無し読者さん。
…ですよね。平家さん、自分はカナリ好きなんで、登場して頂きました。
なんか随分イメージと違うけど…これじゃむしろ姐さんかなぁ(汗
>219:名無し娘。さん。
「リアル」、ありがとうございます。嬉しいお言葉です。
今回の話は、後藤さん平家さんともに思考が飛びすぎてた感もありますが(w
- 230 名前:名無し娘。 投稿日:2002年08月07日(水)22時31分24秒
- >いや、みちよ、ステキッ
この小説の中で、声をあげて笑うことがあるとは……(w
すいません、みっちゃんの声でこの台詞が即座に頭の中で再生されました(爆)
自分の気持ちに気付き始めた後藤の心境が気になります。
- 231 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月09日(金)12時40分23秒
- ここのよしごま大好きです!平家説はすごいですね〜。さすがみっちゃん!吉子に対しての、ごとーのこれからの動きが気になります。
- 232 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時24分53秒
- <Grass Hopper>4.
補習5日目、金曜日。時刻は12時17分。
「よぉっし、今日はこれまでぇ〜〜〜」
「オイッ、アンタが勝手に決めんな!」
ガタンと席を立って大きく伸びをする後藤に、平家は間髪入れずに反応する。
12時を過ぎたあたりから後藤の落ちつきがなかったのは事実。
いつが切り時かと迷いながらも、そうそう甘やかしてばかりでもよくあるまい、
そう考えてそのタイミングをはかりかねていたのも、また事実。
――ちゅうか、自分で切り上げよったし。
そわそわと帰り支度を整え始めた後藤に目をやり、軽くため息を吐く。
「自分、なんやねん。今日もおっかしいなぁ〜」
「だって…もうすぐよしこ来ちゃうよぉ」
「はぁ?吉澤来て、えぇやんか。嬉しないんかぁ?
昨日は昨日で、吉澤が来んから、ってフヌケとったクセに」
そんな言葉を吐く平家に、後藤は今にも泣きそうな情けない顔で振りかえる。
「昨日と今日とじゃ、状況が違うんだよぉ〜」
後藤の表情に、言葉に、眉をひそめる平家。
「みっちゃんのせいだ…てゆうか、どんな顔して会えばいいのぉ?」
- 233 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時25分47秒
- ――昨日…アタシ、なんかしたか?
平家は軽く首をかしげ、昨日のことを思い出してみる。
「あぁ…」
少しばかり人の悪い笑みを浮かべる平家に、後藤の表情はさらに情けなさを増す。
「なんやぁ、後藤…えっちな妄想でもしてもうたかぁ〜?」
ばっと顔を赤くした後藤は、声を張り上げる。
「ばっ…ちがっっ、そっちじゃなくって!!」
「まぁ照れなさんな。若いんやもん、普通やわ。でも…まだ爪は切ってないねんなぁ」
ニヤニヤ笑う平家の目から隠すように、慌てて自分の両手を後ろにやる後藤。
「だから違うってばっ!アタシが言ってんのは、平家説の方っっ」
「…ん?」
後藤はきょろきょろと目を泳がせて、消え入りそうな声でやっと呟いた。
「だから、アタシが、よしこ…を…」
そのときドアの開く音と共に、世にも能天気な声が会議室に響き―
「ごぉっち〜ん、オツ〜」
あまりのタイミングの良さに、後藤も平家も一斉に吉澤へと振りかえる。
そのあまりの気迫に押された吉澤は、しどろもどろになりながら挨拶する。
「あ、へっ平家先生も、お疲れ様ですっ」
- 234 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時26分36秒
- 「…てゆうか、ごっちん?どうしたの、顔真っ赤だよ」
独特の間の取り方で続ける吉澤の言葉に、後藤の顔はさらに赤くなる。
それを見て笑いをこらえきれなくなる平家に、きょとん、とする吉澤。
「なんでもない…っ。よしこ、帰るよっ!」
場の雰囲気に堪えられなくなった後藤が、半ば強引に吉澤の手を掴む。
「ぅうわっ。じっじゃぁ、失礼します」
後藤に引っ張られながらも、平家に挨拶を忘れないあたりはさすが体育会系だ。
それに笑って返そうとした平家の中に、ちょっとしたいたずら心が生まれて。
「おう、じゃあまた来週なぁ。…それと後藤、さっさ爪切れやぁ〜」
後藤はものすごい勢いで振りかえり、力任せにドアを叩き閉める。
激しい音に続き、驚いて後藤を追う吉澤の声をドア越しに聞いた平家は、
ひとり残された会議室の中、窓から抜けるように青い空を見上げて笑った。
「冗談なんかと違うでぇ…ほんまに、さっさと素直になりやぁ」
目じりにじわりとにじむ涙を指でぬぐいながら、ふと自分の体勢に気付く。
過去の人の話を後藤に語ったときと同じく、窓に向かい斜め上を見上げて―。
――違う、この涙は、笑いすぎた所為や…。
- 235 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時27分21秒
- ◇
「ごぉっち〜〜〜ん、マジ、どうしたんだよぉ〜〜」
少し不機嫌な―そして真っ赤な―顔をしてどんどん歩いていく後藤の後を、
わけもわからぬままに懸命に追いかける吉澤。さすがにかなり困惑気味ではある。
「…ごっちん?ほんとに、どした?」
その吉澤の声にどこか不安げなトーンが混じり始め、後藤はやっと歩調を緩める。
そのまま駅までの道を並んで、しかし無言で歩くふたり。
「あの…さ」
横断歩道での信号待ち。おそるおそる、といった感じで吉澤が口を開く。
「アタシ、なんか…ごっちんのこと、怒らせた?」
信号が青に変わるまでたっぷりと待って、後藤は吉澤の手を握って渡り始める。
「そんなんじゃないよ…」
きゅ…と、吉澤の左手を握る後藤の右手に力が入る。その間に道は渡り終えて。
「なんか…。てゆうか、強いて言うなら、みっちゃんが悪い」
思わず左手の爪に目線を落とす後藤、それに目ざとく気付く吉澤。
「あ、そういえばさっき、ツメ切れとか言われてたよね」
ぴく、と後藤の右手が震えるのを、吉澤は感じる。
- 236 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時27分57秒
- ぐ、っと繋がれた手ごと目の前まで持ち上げて、吉澤は後藤の爪を見つめる。
「ん、ごっちんのツメ、キレーだよね。アタシも好き」
――あれ、ごっちん、照れてんのかな?
何故か再び顔を赤くして目をそらす後藤に、苦笑しながらも続ける。
「でも、あんな怒んなくても…」
「だって…」
後藤が立ち止まる。それに引きとめられ、吉澤もその場に止まる。
「女のコ…てゆうか、よしこのこと、抱きたいなら、切れ、って…」
「…… へぇっ!?」
「普通、怒るでしょ?」
うあぁぁ、と間の抜けた声をあげて天を仰ぐ吉澤。それでもなんとか、言葉を探す。
「平家先生、補習で何教えて…
ってゆうか、アタシならともかく、ごっちんにしたら、あの、迷惑、だよねぇ。
なんでアタシを、その、抱くとか抱かないとか、そんな話になんだろ。あは、あはは…」
後藤はそれには応えず、吉澤の顔前で繋がれている手を自分の胸元へと引っ張る。
「よしこってさ、いっつも、ツメ短いよね。きっと長いのも似合うと思ってたんだけど…」
- 237 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時28分55秒
- 後藤の意図が読めずに戸惑う吉澤の指先を両手でゆっくりとなぞりながら、
後藤は少しだけ上目遣いで吉澤を見上げる―やや、強張った表情のまま。
「誰か、いるの?…そんな相手」
その言葉に、今度は吉澤が真っ赤になる番で。
「えぇぇぇっ?!い、いるわけないじゃんそんなのっ。
てゆうかあたしは、ごっ…ってか、バレー!そう、バレーのためだってば!!」
必死な顔で弁明する吉澤に、後藤は顔を一気にほころばせる。
「よかったぁ…」
「…え?」
両手で吉澤の左手を握り締めたまま、後藤はふっと目をそらす。
「あたしね、ガマンとかって苦手だから、てゆうか
一回認めちゃったら、もぅ平気なフリとかってできないから、言っちゃうね…」
「みっちゃんが言ってたの、別に的外れでもなんでもないんだよね」
交差点を車が通りすぎる。
「なんか、みっちゃんがツメの話したとき、あたしよしこの指、思い出して…」
車の排気音の合間には、どこからかセミの鳴き声も。
「よしこの指が、その…誰に触れるんだろ、って思ったら…っ」
- 238 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時29分49秒
- 「ムカついて、ムカついて、…それが嫉妬なんだってわかって、気付いたの」
まっすぐと、吉澤へと視線を戻す。
「あたし、よしこのこと、好き」
我ながら驚くくらいに冷静な自分。
開き直った自分の強さに、内心後藤は感心していた。
しかしただ呆然とする吉澤に、後藤は力なく笑う。
「あ…なんか、ごめん。あたし、卑怯だよね。なんだろ…
よしこがすごい決意で打ち明けてくれたのに、なんか便乗してるみたいだし。
たぶんさ、よしこが女のコ好きだって知らなかったら、きっとこんなこと言えな…」
俯いて吉澤から手を離そうとした瞬間、その手をぎゅっと握り返されて言葉が止まる。
目線を上げれば、そこには吉澤の優しい笑顔があって。
ゆっくりと、繋いだ右手にくちづけられる。
「よし…こ?」
「この前…ごっちんも、してくれたでしょ?」
「…寝て、なかったの?」
目を見開く後藤を前に、吉澤は少しだけ困ったように笑う。
- 239 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時30分44秒
- 「あたしほんとは、ごっちんの隣でマジ寝したことなんてないんだよ」
「ふぇ?じゃ、ナニ、寝たふり?」
「ん…だって、寝言で言っちゃったら、ヤッバイじゃん。
その、だから…、『ごっちん、好きだぁ〜〜〜』とかって、さ」
明らかに照れている吉澤の顔には、暑さからだけではない汗も浮かんでいる。
「もう、さ…寝たふり、しなくていいよ」
もっと気の利いた言葉が出てこないものかと思ったが、今の後藤にはそれが精一杯で。
「ん…みたい、だね」
それでもふわりと微笑み返してくれる吉澤を、心底愛しいと思った。
◇
エアコンの効いた吉澤の部屋にふたり。
吉澤のベッドに無言で横たわる後藤と、その縁にもたれて床に座りこむ吉澤。
それでも繋いだ手を離すのがなんとなく名残惜しくて、ふたりの手はそのままに。
「ねぇ…」
「…ん?」
「あたし、ツメ、切ろっかな…」
- 240 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時31分27秒
- 自分の指先を眺めながらもらした後藤の一言に、過剰とも言える反応をする吉澤。
「え、あ、あの…ごっち」
「よしこは、イヤ?」
真顔で聞いてくる後藤を前に、吉澤は返す言葉を失う。
「ツメ切り、持ってる?」
淡々と言う後藤から目をそらせずに、思わず頷く。
「貸して?」
慌ててポーチの中を探して後藤に手渡した瞬間、後藤の目が笑ったように感じた。
「ねぇ、これって…。OKってコト、だよね?」
真っ赤になって目をそらす吉澤に、後藤は優しくキスをした。
パチンッ――パチンッ――
真剣な面持ちで爪を切る後藤に、それを微動だにせず凝視している吉澤。
爪の割れる音だけが響くその部屋は、一種微妙な雰囲気をたたえていた。
「っふ…くふふふふふっ」
突然笑い出した後藤。
「なんかさぁ、あたしたち、ハタメには超おっかしいよねぇ。
ふたりで真っ赤なカオして、すっごい真剣にツメ切って…」
その言葉に、緊張の切れた吉澤も吹き出す。続いて後藤の笑いもはじけて。
「あはっ、あははははっ! も、笑っちゃって、切れないよぉ〜〜〜」
右手の中指から小指の3本を残すのみなのだが、その3本にゆうに10分は費やした。
- 241 名前:<Grass Hopper>4. 投稿日:2002年08月10日(土)02時32分24秒
- なんとか切り終えた後藤が、開いた両手を前に突出し大きな声をあげる。
「よぉぉぉぉっし!完了ぉぉぉぉ!!」
「ちょ、ごっちん、張り切り過ぎ…」
わずかに不安げな表情を浮かべる吉澤へと振りかえった後藤は、笑って言った。
「自分でもね、ちょっと意外だよ」
トン、と吉澤の肩をベッドの方へ押しやりながら、続ける。
「あたし、こういうの、結構淡白な方だと思ってたから…」
軽く苦笑しながら、吉澤はそんな後藤を自分の方へと引き倒す。
「でもさ、ごっちんて昔から、いっぺん開き直っちゃうとすっごい大胆で」
――そんなトコも、好きなんだけどね。
最後の言葉は、後藤からのキスによって遮られ…。
「ん……、ッ…ふっ…」
「よしこは、さぁ…普段男前なクセに、いざとなったら受身なんだもん」
――だから、あたしが頑張んなきゃ。
「まぁそこも、カワイイんだけど」
ギシッと、ベッドが音を立てる。ふと短くなった自分の爪を見て、後藤は思った。
――みっちゃんにこれ見られたら…また、ニヤニヤされるんだろうなぁ…。
それでも、さり気なく首へとまわされた吉澤の両腕に、そんなことは頭から抜け落ちて―。
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