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RADIO

1 名前:HHH 投稿日:2002年05月08日(水)23時37分29秒
以前に書いていた「溢れる思い」がData落ちしたのでスレを立てます。
余裕があれば短編を何作か書いていきます。
タイトルは1作目のものです。
1作目は、矢口、安倍、福田で書かさせて貰います。
2 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時41分01秒

「だから、あたしはもう2度と歌う気なんかないの!」
『なんでなの、福ちゃんはあんなに歌うことが好きだったじゃん…』
「あたしはアイドルなんてやりたくないのよ。あんな恥ずかしい事は2度とね」
『そんな…なっちはね…なっちは一生懸命に』
「とにかくもう電話かけてこないで!じゃあね!」
『福ちゃ』
ガチャッ…ツー…ツー
3 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時41分41秒

あたしは電話を叩き切った。
本当にしつこいったらありゃしないよ、なっちの奴め。
ここ最近は毎日のように電話をかけてきては「再デビューして」なんて言ってくる。
以前からも時々は言ってきた気がするけど、最近はしつこすぎる。
あたしは、もう二度と芸能界に戻る気なんてない。
まして、なっちと並んで歌うなんて恥ずかしいことは絶対にイヤ。
4 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時43分10秒

思い出したくもない昔の出来事が頭をよぎる。
いつもなっちは可愛いかった。
テレビなんかに出たりすると必ず「かわいいね」なんて言われてた。
正直、あたしはうらやましかった。

それに引き換えあたしは…

来る日も来る日も(何でお前みたいな普通の子がアイドルやってんの?)みたい
な好奇の目にさらされ、オチにされていた。
司会者達のキツイ言葉は、あたしを深く傷つけた。
あたしの役目は、歌の下手糞ななっちのフォロー、そして、なっちの可愛さの
引き立て役…
それでも、まぁ歌を歌えるから仕方が無いと思ってモーニング娘。を続けてはいた。
5 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時44分15秒

でも、抱いてHOMで、あたしとなっちの2人が並んで歌うことになった時だった。
ダンスのビデオチェックを見てあたしは泣いた。
細くてキラキラ輝くキレイななっちと、地味で太っている自分。
キレイななっちの隣にいる、あまりにも惨めな自分の姿…

だからあたしはモーニング娘。を辞めた。
勉強の為に辞めたなんて嘘。
なっちと比較されるのがイヤだったから、
なっちの引き立て役になるのはもうイヤだったから…
だから、あたしはモーニング娘。を辞めた。
6 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時45分09秒

「あすか!ご飯の準備ができたから来なさい」
お母さんの声が聞こえる。
あたしは部屋を出てキッチンに向かった。
テーブルでは、お父さんと弟が黙って夕食を食べていた。
無言の食卓…あたしがいる時は父親も弟も何も話はしない。
高校を中退してからというもの、家族はあたしの事を疎ましく思ってるようだ。

まぁ、当たり前か…あれだけ大騒ぎして芸能界を辞めて入った高校を半年で
勝手に辞めちゃったんだから…

特に弟のあたしを見る目はキツかった。
…まるで汚いものを見るような目だ。
今のあたしを愛してくれてる人なんていないと思う、家族も含めて…
結構、寂しいし、結構こたえるものだ。
でも仕方がない、自分で選んだ道だし。
7 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時45分45秒

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8 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時47分40秒

携帯電話を握ったまま、なっちが放心状態になっている。
(また明日香のやつかよ)ちょっと憎々しく思う。
ったく、あのヤローは…
(取り敢えずなっちを元気付けなきゃね…)
あたしはなっちに抱きつく。

「なっち!何、暗い顔してるんだよぉー」
「あっ、矢口。何でもないよ。別に暗い顔なんてしてないべさ」
9 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時48分19秒

なっちがニコッと微笑む。うーん、やっぱ可愛いよ、なっちは。
傷ついてるのにあたしを心配させまいとする笑顔…でも、ちょっと無理があるよ。
まぁ、付き合いの長いあたし以外のメンバーにはわからないだろうけどさ。
でも、気付かないふりをしてあげるよ。

「あっ、そーなんだ。心配して損した」
「そんな言い方ないべさ」
「キャハハハ」
「んもうー」
「この仕事終わったらこの前言ってた店行こうよ、パスタ美味しいらしいよ」
「うん、わかった」

なっちの顔から曇りが取れる。
やっぱ、なっちはこうでなくっちゃね。
10 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時49分09秒

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11 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時50分18秒

「お疲れ様でしたぁー!」

テレビ番組の収録が終わってあたし達、モーニング娘。は控え室に戻っていく。
こういう時には、大抵、あたしはなっちの横にいる。ごっちんとよっすぃー、
辻と加護、5期の子達、ここら辺が固まってるのはいつもの光景。
それぞれが談笑しながら通路を歩いていく。あたしもなっちと手を繋いで控え室
への通路を歩いていく。

あたしとなっちは、いわゆる親友同士ってヤツ。
……でも、あたしがいつもなっちの側にいるのは、別の理由。
12 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時51分50秒

それは、裕ちゃんがモーニング娘。を卒業する一月ほど前の事だった。
その日、あたしは裕ちゃんに「大事な用があるから」って言われて、仕事が
終わった後、裕ちゃんのマンションに行った。

(裕子、セクハラなんかしたら許さねぇからなー!)
あたしを部屋に招き入れた裕ちゃんは、身構えるあたしを余所に俯いて難し
そうな顔をしていた。
いつもだったら「やぐちー、愛してるでー」なんて言って襲って来るんだけど、
この日は違った。
裕ちゃんの表情からも大きな悩みがあるって事がすぐにわかった。
13 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時52分36秒

あたしは裕ちゃんの言葉を待った。
10分、20分…時間だけが過ぎていく。さすがに待ち疲れて、自分から言葉
をかけようと思った時に、やっと、裕ちゃんは口を開いた。

「やっぱり、矢口しかおらへんな…」
「……何、裕ちゃん」

その深刻な声は、事の重大さをあたしに悟らせた。
裕ちゃんは、缶ビールを一気に喉に流し込むと、あたしを真剣な表情で見据えた。
その目はライブの時のあの真剣な目、否、それ以上だ。

「矢口、お前はなっちと親友やな?」
「うん、そうだけど」
「なっちを見捨てるなんて事せぇへんな?」
「当たり前じゃん!裕ちゃん、怒るよ」
「……これから言う事を聞いて欲しい」
14 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時54分02秒

裕ちゃんの話には本当に驚かされた。
まさか、なっちの寿命があと1年だって!
ドラマじゃないんだから!

詳しくはわからないけど、遺伝性の免疫症候群みたいなものらしい……
なっちが多くの人々を魅了する「儚さ」は本物の「儚さ」だったんだ……

裕ちゃんが泣き出した。本当は娘。に残りたかったらしい、なっちを守る為に。
事務所にも、そう伝えた。でも、事務所は『方針』とかで裕ちゃんの卒業を強
引に決めてしまったらしい。
裕ちゃんは、悔しい、悔しいって何度も泣きながら呟いていた。
その姿は、いつもの強くてしっかりした裕ちゃんと違って、とても儚げで弱々
しかった。あたしは裕ちゃんをきつく抱き締めた。
15 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時56分58秒

なっちは、病気の事を、ずっと事務所に隠していたらしい。
でも、恋レボの頃にとうとうバレてしまった。
事務所は療養に専念する事を薦めたが、なっちはそれを断った。
「死ぬまで、歌手としてやっていきたい」というのがなっちの希望だった
16 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時57分44秒
事務所は迷ったらしい。病人を働かせてたなんて事がばれたら、マスコミに
散々叩かれるだろう。それに、メンバーの士気にも影響する。
でも、モーニング娘。最大の功労者のなっちの願いも叶えてあげたい。
事務所は、病気の事をメンバーにばれないようにする事を条件に、なっちの願
いを聞き入れた。
でも、実は事務所は、人気のあるなっちを使えるとこまで使い切って、いよいよ
危険になったらクビを切ればいいって考えたんだと思う。
17 名前:RADIO 投稿日:2002年05月08日(水)23時58分58秒

病気の事がバレないように、なっちは人一倍、頑張ってきた。
本当は普通に生活する事ですら難しい身体なのに、異常とも言える娘。のハード
ワークにも耐えてきた。
でも、病魔が蝕んでる身体が音を上げる時もある。
なっちは何度も倒れかかった。
その度に裕ちゃんは、誰にもばれないように隠し続けてきた。
18 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時00分03秒

治療法の無い病気……あと1年しか生きられないなっち……病院に閉じ込めるよ
りも、好きな事をやらせてあげたい……そう、裕ちゃんは考えていた。
裕ちゃんがポツリと漏らした。

「ウチ、間違えてるのかもしれんな…」
「…いや、裕ちゃんは間違えてないと思う…」
「…矢口、ありがとな」
「…裕ちゃん、これからは裕ちゃんの代わりに、矢口がなっちを守るから…」

裕ちゃんは大きな声をあげて泣き出した。「ありがとな、ありがとな」って何度
も言いながら、あたしを抱き締めて泣き続けた。

以来、あたしはなっちの病気をメンバーに隠す事に奔走している。
19 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時00分59秒

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20 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時02分06秒

最近、なっちの病状が悪化してきている気がする。
ファンデーションで誤魔化し切れないほど顔色が悪い時もあるし、収録後に
意識を失う事すらも度々だ。
いつまでメンバーを騙し続けられるか…正直、不安だ。
21 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時03分38秒

今日も、番組収録後に控え室でなっちは意識を失って倒れかかってきた。
最悪のタイミングだ。周りにはメンバー全員がいる。
…ヤバイ、ごっちんや圭ちゃんがこっちを見ている。
あたしは必死になっちを受け止めた。そして無理矢理に笑顔を作って叫んだ。

「なっち、すぐに矢口に抱きつくなんて!まるで裕子みたいだぞ!
 ま、裕子と違って可愛いから抱きしめてあげるね」

あたしの能天気な声に呆れたのか、圭ちゃん達の視線が別の方へ向いた。
なんとか誤魔化せたみたいだ。冷や汗が流れたよ。

「ありがと、矢口……」

なっちが微笑んだ。青白い顔をして……
あたしの腕の中で呼吸を整えた後、なっちはバッグから携帯電話を取り出した。
22 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時04分27秒

「…なっち、ちょっと電話をかけてくるね」

まだ、なっちの顔色は蒼いまま…電話の相手はどうせ明日香だろう。
その結果、なっちが傷付く事なんて簡単に想像できる。

「ねぇ、後にした方が良くない…まだ、顔色が悪いし…」
「…ありがとう…でも、なっちには時間がないんだよ…後悔したくないし」
「でも…さぁ」
「大丈夫、なっちは明日香にふられ慣れてるから」

なっちは冗談っぽく微笑んで外に電話をかけに行った。
病気の事、言えばいいじゃんっていつも思う。
でも、なっちは絶対に言わない。

…なんて不器用なんだろ…
23 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時05分01秒

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24 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時05分31秒

正直、あたしにはなっちの気持ちがわからない。
ある日、思い切って聞いてみた。

「何で、そこまで明日香に拘るの?
 明日香は、なっちやあたし達を捨てて出て行った人間なんだよ…」

あたしは、いつも感じてる疑問をなっちにぶつけた事がある。
なっちは優しく微笑んで答えてくれた。

「明日香は弱い子なんだよ。たくさん傷付いて辞めただけ。
 なっちが守ってあげなきゃいけないんだ。」

あたしには、なっちの言葉が理解出来なかった。あたしの中の明日香は、いつも
冷静で自分の意思を押し通す強い人間なのだから。
でも、この言葉を紡いだ時のなっちの目は慈愛に溢れてて、本当に綺麗だった。
25 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時06分21秒

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26 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時07分15秒

あたしは1人でラジオ局に向かっていた。今日はANNの生放送の日だ。
移動車に一人、王様気分を満喫する。

「さて、今日は何のネタを話そうかな…」

頭の中でラジオでのネタを組上げる。辻の体重がいいかな…それともカオリネタの
方がウケるかな…
突然、携帯が着メロを奏でた。液晶画面を確認する、圭ちゃんからだ。
(圭ちゃんが仕事中に電話してくるなんて珍しいな…)
あまり気にせずに通話ボタンを押した。
圭ちゃんの叫び声が飛び込んできた。
27 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時08分38秒

『なっちが倒れちゃった!今、救急車が来て連れてった』
「へ……」

一瞬、あたしは圭ちゃんの言葉を理解できなかった。

『だから、なっちが倒れちゃったんだよ! こっちは、もう大騒ぎ!
 救急車が来て、そしてマスコミもなっちを追っていっちゃった』

ようやく圭ちゃんの言葉が理解できた。でも、頭の中はパニック状態だった。

「何、どこの病院なの!」
「場所はね…」
「わかった、今から向かうよ!」
「矢口は生放送があるでしょ、終わってからきて」
「そんな場合じゃ!」
「仕事をほっぽりだして病院に行っても、なっちは喜ばないよ」
「……」
28 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時09分29秒

圭ちゃんが言う事は正論だ。でも、それはなっちの病気の事を知らないから。
あれからもう1年経つ。なっちの命の灯火はいつ消えてもおかしくない。
なっちは二度と目を覚まさないかもしれない。
しかしモーニング娘。の矢口真里としては、どんな理由であれ、仕事をさぼる訳
にはいかない。なっちや裕ちゃんが長い時間をかけて築いてきたものを壊す事は
許されない。
…でも、やっぱりなっちの事が心配だ。
このまま目を覚まさないなんて…悪い方へと想像は膨らむ。

「仕事が終わったらすぐに向かうから…圭ちゃん、なっちをお願いね」
「…わかった」
29 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時10分15秒

携帯を切った。
あたしは悪い想像を懸命に振り払う。
そうだ、今、あたしがなっちの為にできる事は何かを考えよう。
…明日香だ、明日香を呼べば!
なっちの本意じゃないかもしれない。
でも、明日香がそばにいればなっちは頑張るはずだ。
昔からそうだった。
なっちは明日香が隣にいると持ってる力の何倍のパワーを出していた。

今回だってきっと…

あたしは明日香の携帯に電話をかけた。
…繋がらない、何回もかけたけど繋がらない。
パニックになりながら、ずっと電話をかけていたが、留守番サービスの単調な
声が聞こえてくるだけだった。
30 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時12分40秒

「本番5分前です」

スタッフの声がかかる。もう時間はない。
あたしは「なっちが倒れた。圭ちゃんに連絡して」と明日香にメールを送った。
見ててくれるといいんだけど…

前半が終わる。
これからはミニモニ。のコーナーとカオリのコーナーだ。
あたしは急いで圭ちゃんに携帯電話をかけた。

「圭ちゃん、矢口だけど。なっちはどう?」
『ダメ、全然目を覚まさない…どうしよう、矢口…』
「…明日香からメールか電話があった」
『…来ないけどさ…
 それよりも…なっち、大丈夫かな…なっち…』

圭ちゃんはマネージャーからなっちの病気の事を聞いたらしい。
いつもは冷静な圭ちゃんが取り乱して泣きじゃくっていた。
泣きじゃくる圭ちゃんを慰めて電話を切る。
31 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時13分22秒
そして、明日香に電話をかける…やはり留守電のままだった。
何度も何度も電話したけど、明日香には繋がらなかった。
ふと、時計を見たら、もうOAまで時間がなかった。

「ハーツ」

あたしは息を大きく吐き出した。
まだ、あたしがやれる事はある。
その後、問題になるだろうし、下手したらあたしのクビが飛ぶかもしれない。
でも親友の為だ、やる!
あたしは覚悟を決めた。
まずは手早く明日香にメールを入れた。
32 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時14分48秒

後半の放送が始まる。
あたしは深呼吸をした。
不思議と心が落ち着いた。
(さぁ、いくぞ!)
あたしは出来る限りの大きな声で叫んだ。

「明日香! 聞いてる! なっちが倒れたんだ!
 圭ちゃんに連絡して病院に行ってあげて!」

スタッフが騒然としてる。マネージャーがあたしを止めようとブースに駆け
込んできた。ここで止められるわけにはいかない。この言葉だけでは、明日香
は病院に向かわないと思う。
あたしはマイクを掴んで叫んだ。
33 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時15分35秒

「明日香!なっちを救えるのは明日香だけなんだ!
 明日香が卒業してから、ずっと、なっちは明日香が戻って来るのを待ってたんだ!」

マネージャーがあたしをマイクから引き剥がそうとしている。
負けない、これで負けたら全て無意味になる。

「お願い、明日香…病院に行ってあげて…あすか…」
34 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時16分29秒

OAのランプが消えて、放送が打ち切られてた。ANN初の放送事故かな…
マネージャーのお説教を聞きながら、あたしは妙に冷静になっていた。
明日香は絶対にあたしの声を聞いていた…なぜだか、そんな気がした。
35 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時17分20秒

マネージャーのお説教の後、あたしはなっちのいる病院に向かった。
病室の外の椅子に圭ちゃんが座っていた。圭ちゃんはあたしの姿を確認すると
飛び付いてきた。

「なっちの意識が戻ったよ!」
「マジで?」
「うん、突然、明日香が来て…そして、なっちの手を握って泣き出したんだ。
 何度も、ゴメンね、ゴメンねって。」
「うん」
「そしたら、なっちが目をゆっくりと開けたんだよ…
 『福ちゃん、泣かないで』ってね。そして明日香の手を握ってた」

あたしはなっちの病室に飛び込んで、なっちを抱き締めたかったけど、
後にする事にした。
今は2人っきりにしてあげよう…そう思った。
知らない間に、目から大粒の涙がぽたぽたと滴り落ちていた。
36 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時17分58秒

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37 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時18分35秒

都心のマンションのベランダ、あたしは風に当たって頭を休める。
部屋の中にはギターやらキーボードやらが散乱している。
さっきまで作曲をしていた。
今度のアルバム用にあと3曲書かなければいけない、あと2日で…
我ながら無茶なスケジュールで引き受けたもんだ…自分を嘲笑する。
街の明かりを見ていると、ふと、半年前の事が思いをよぎる。

38 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時19分10秒

あの時、あたしは1人で部屋にいた。
矢口から何度も電話があった事は知っていた。
でも、話す気になれなかった。
キラキラと輝いてる昔の仲間、
腐っていじいじしてる自分。
正直なところ、彼女達とは会いたくも、話したくもなかった。
でも、なぜかあたしはラジオのスイッチを入れていた。
その理由は自分でもわからない。
矢口からの電話が気になった?違う、
自然に手が伸びたとしか思えなかった。
その瞬間、スピーカーから、矢口の叫び声が聴こえた。
不自然なCMが流れ出すまで、あたしは動けなかった。
信じられない位に多くの涙が溢れて泊まらなかった。
39 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時20分08秒

そして、なっちについて考えさせられた。
現役時代、いつもなっちはあたしの傍にいた。
あたしがウザがって逃げようとしても着いてきた。
…しつこかった、でも…
あたしがキツい事を言っても、決して怒らなかった。
あたしが落ち込んでいると、すぐに慰めに来てくれた。
あたしの前ではいつも笑顔だった。
…いつも、あたしを可愛がってくれていた
…いつも、あたしを愛してくれていた
40 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時20分39秒

あたしは圭ちゃんに電話をかけて、病院へ向かった。
マスコミでごった返していたけど、上手く中へ入る事ができた。
病室へ入ると、ベッドに寝て人工呼吸器を当てられているなっちがいた。
圭ちゃんが教えてくれた。なっちは二度と目を覚まさないかもって事を…
例え目を覚ましても、なっちの命はほんの僅かだって事を…
41 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時22分29秒

なっちの姿を見て涙が止まらなかった。
こんなあたしの事を最後まで気にかけて、そして愛してくれたなっち…
そんななっちをあたしは逆恨みしていた、憎んでいた。
なっちの手を握って、あたしは大声で泣いた。
そして謝った。
…今まで冷たくしてた事
…今まで素直になれなかった事
42 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時23分00秒
優しい声が聞こえた気がした。
「福ちゃん、泣かないで…
 福ちゃん、泣いちゃだめ…」
なっちがゆっくりと目を開けた。
そして、あたしを見つめた。
その瞳は昔と同じで、とても優しかった。
「なっち、一緒に唄おうね。絶対にね」
命の灯火が消えかけているなっちにこんな約束をしていいのかとも思ったけど、
あたしの口からは自然にそんな言葉が出ていた。
なっちは嬉しそうに微笑んだ。
43 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時23分38秒

その後すぐにあたしは復帰の意志をつんくさんに伝えた。
つんくさんは喜んで引き受けてくれた。
そして今、シンガーソングライターとしてのあたしがいる。

44 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時24分54秒

少しだけ、瞳が潤んでしまった。
こんなのあたしらしくない、
「よし、やるぞ!」あたしは声を出してギターに向かう。
今、作ってる曲はアルバム用じゃなくて、矢口に贈る曲。
矢口は再来月にソロデビューする事が決まった。
つんくさんに頼んで、カップリング曲を書かせて貰う事になった。
全てを捨てる覚悟であたしを救ってくれた矢口。
ハンパな曲は書けない。
あたしの全ての力を注いで作っている。
ギターを弾きながら、譜面にコードを書き込んでいく。
いい曲が書けそうだ。
サビとAメロBメロは完成した。
一段落ついた。
45 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時25分40秒

「食事ができたよー」
緊張感の無い声がキッチンから聞こえてくる。
「わかった、今行くから」
あたしはギターを置いてダイニングキッチンへ向かった。
…今日も味噌汁にアレ入れてるなんて事、ないよなね。


46 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時26分32秒

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47 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時29分09秒


開けっ放しの窓から風が吹き込んできた。
譜面台にある楽譜がパラパラ音を立てている。
その譜面の上の方には「For Yaguchi  Title Night Highway」と書いてある。
部屋の真ん中のテーブルの上にも一枚、「For Ginnan  Title RADIOの奇蹟」
と書かれた譜面が置いてある。
…その歌詞は赤と青の2色で色分けされていた。

48 名前:RADIO 投稿日:2002年05月09日(木)00時29分47秒

-----END-----
49 名前:HHH 投稿日:2002年05月09日(木)00時35分32秒
一作目終了です。
なっちの病名は適当です、よくわかりません、申し訳ありません。
矢口主人公で書くのは初めてだったので個性が出なかったかも。
ネタ的に古いかもしれませんが、読んで頂いた方には感謝いたします。
次回作は未定です。
読んで頂ける方がいらっしゃるのであれば、Data落ち前に更新したい
と考えています。
50 名前:名無し池 投稿日:2002年05月11日(土)15時52分56秒
矢口語り好き。
無理に個性なんて出さなくても、
矢口の気持ち充分伝わってきましたよ。

次回作も期待してます。
51 名前:nori 投稿日:2002年05月11日(土)20時40分22秒
おもしろかったです。
矢口いい奴だぁ…。
HHHさんのなっちはなんかいつもぐってきますね。
52 名前:完名無 投稿日:2002年05月12日(日)02時04分49秒
屈折した明日香が、たいへんツボでした。
「こういうコト考えちゃうときも、本当に、あったかも知れない」
と思えました。なっちがここまでハンデを背負った状態でないと
素直になれない、という設定も、とても頷けてしまうんですよね。
安倍×福田というカップリングの根本を考えさせてくれる
私にとってたいへん有用な作品でした。ありがとう。
53 名前:完名無 投稿日:2002年05月12日(日)02時09分42秒
>>52
「この作品自体は安倍×福田カップリング作品ではないとしても」
の一文が抜けておりました。申し訳ございません。
54 名前:1111 投稿日:2002年05月14日(火)00時44分13秒
明日香の引退は今となってはすでに伝説化してしまっている。
「もう一人の明日香」を読んでも、その心の内ははっきりとはわからないわけで。
この小説の明日香引退の理由も真実かもしれませんね。

もう一回、銀杏コンビがみたいな。
今のなっちなら明日香に負けないパワーと表現力を持ってるから・・・。
55 名前:名無し 投稿日:2002年05月28日(火)14時47分39秒
とても良かったです。
なっち・あすかにハマリ気味〜
次回作も期待してます。

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