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The kind traged

1 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月19日(日)15時52分02秒
以前 書いていた話しです。
完結させずに倉庫に逝かせてしまったので
かなり手直しして初めから書きたいと思います。
よろしくお願いします
2 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)16時06分09秒

皿の割れる音。

男と女の罵り合い。

堅く閉ざされた部屋。
もう何もかもが嫌だった。

「ちょっと出掛けてくるね〜」

それでも笑っていられたのは‥‥。

『もうすぐ大会が近くて練習がハードで、
最近肩こりがひどいよぉ〜。
ひとみちゃんはバレー頑張ってる?
確かレギュラーになったんだっけ?‥』

延々と続くメール。
受信日は、もう一ヶ月も前。
中学二年の夏、初めて蝉の声をわずわらしく感じた。

3 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)16時18分29秒

「…えっ?」


――しばしの沈黙ののちに、梨華は小さく首を傾げた。

(今、愛ちゃん何か言った気が…。私の聞き間違えかな?)
足元に転がっている最後の一球を拾い、愛を見ると、梨華の微妙な表情に、愛は焦れったそうな視線を向けていた。
(ん〜、愛ちゃんのこの様子からすると、気のせいじゃない訳だ)合わせたきりなかなか外してこない黒い瞳に耐え切れず
「愛ちゃん、ごめん。もっかい言って」
お願いっ、とばかりに梨華は上目遣い&両手合わせポーズをするが
「きゃっっ!!」

その瞬間、手にしていたラケットが梨華の頬に見事にヒットした。

4 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)16時20分33秒
合わさる筈だった両手はすぐさま頬を包み込む。
「痛ぁ〜い!」
梨華の小麦色の肌に微かにガット痕が赤く浮き出している。
この悲劇の様な喜劇に愛は目を見開いたが、すぐに柔らかい眼差しに戻ると、腫れ始めた頬をなぞる梨華を瞳に映した。

そして、

「ぷっ…ぷっ、あっはっはっはぁ〜っ」

何故この人はこんなにも素敵なのだろう、と口には出さずに笑う。笑う愛の瞳に揺れているのは生真面目で負けず嫌いな…少しマヌケな可愛い人。

(私の最高な先輩…)

愛は、ただ梨華が好きだった。

5 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)16時25分53秒

テニスボールの入ったカゴに寄り掛かり、腹を抑えながら愛は、夏の香りが漂う星空に思いきり笑った。

「…笑い過ぎ」

この笑いっぷりに梨華は怒るが、表情は照れ臭そうに眉を下げていて、その手は今だにラケットを握っている。抗議の声に軽く白い息を吐くと、愛は梨華を見上げた。
「ごめんなさい」
「……まだ顔笑ってるよ」
緩む頬に渇をいれても、梨華の顔を見ると、さきほどの情景が頭にリプレイされ、愛はつい笑みをこぼしてしまう。
「さっきのは流してほしかったなぁ」
「流せないですよ〜」「年上は大切に」
「1才しか違わないじゃないですか」
「ん〜‥‥‥」
何も言い返せない悔しい瞳を愛から伏せ、ラケットをくるくると回し拗ね始める梨華。 こんな仕草が愛の心をくすぐらせる。
6 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)16時28分29秒

この人を見ていると、もっと意地悪したくなる。

でも今日はここまで。風がでてきて寒くなってきたし、時計が19:00を過ぎている。…付け加えるなら、梨華が早々とネガティブモードになり始めたからだ。
「先輩拗ねないの。片付け終わったし、帰りましょう」
部室に戻ろう、と梨華を促し、校舎を振り返る。
まばらな教室の灯りが闇に浮かんでいた。

7 名前:ぶらぅ 投稿日:2002年05月19日(日)18時33分53秒
はじめまして!これ前から気になってたんですよ!
再開嬉しいっす(w
ですけど前のどこだったか忘れてしまったんですよ・・・
よければ教えてくれませんでしょうか?(^^;
8 名前: 投稿日:2002年05月19日(日)18時38分48秒
続きが楽しみです!
頑張ってください☆
9 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月19日(日)22時10分06秒

ぶらぅさん>
レスありがとうございます。
前のは‥月板の過去ログにあるかと。
前のと内容 全然違うくなるので御期待の作品になるかどうかは不明です(汗

翔さん>
レスありがとうございます。
楽しみにしていただけると嬉しい&有り難いです。
10 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)22時11分29秒

「‥‥‥」

反応しない、否、自分を無視する梨華のラケットを回す手を掴むと、愛は校舎へ歩き出した。
掴んだ瞬間、わずかに強張った指先だが、そのまま数歩 進むと強張りは解け、ずっと繋いでいたかのように梨華の手は愛に馴染む。しかし、それも束の間だった。
「もうっ!すぐ子供扱いする〜」
愛の右手を振りきり、顔を背けて梨華は早歩きで愛の数歩前へと進んだ。
その歩調に愛も合わせるが、梨華は愛を自分より前に行かせまいとムキになり、競歩の如く足を早める。
そんな行動が子供扱いされる所以だと気付かずに。
11 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)22時13分01秒
校舎内に入っても無言の競争は続いた。

「‥‥‥」

「‥‥‥」

誰も居ない校内の空気は夏であるにもかかわらず、肌をピリピリと冷たく刺してくる。 靴を履いているのに、足の裏へ廊下の氷った温度が伝わってきた。
12 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)22時14分49秒

何処かに何かが潜んでいるような異様な雰囲気がたちこめていた。非常口を示す緑の明かりに照らされた二人から伸びた薄い影が、真っ直ぐに続く廊下を先に歩いている。

「‥恐いですね」

沈黙に負けたのは愛だった。
沈黙、と言うよりも、廊下に響く二人の足音に意味もなく感じた不安にだ。
「‥‥‥」
なかなか返ってこない梨華の反応。
怒ってる?と横目で様子を伺うっても、肩まで垂れた茶色の髪に阻まれて分からない。
愛の視線に気付いた梨華は、
「‥やっぱり‥夜の学校って恐い、ね」
愛に目線を流し、曖昧に微笑んだ。

13 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)22時18分21秒

愛ではない誰かに向けるように梨華は夢見心地に喋る。
「他の季節の夜はそうでもないけど。夏って苦手。夜が暗く感じるから」
「夜が暗い?」
愛はナンセンスと言いたげな笑みを浮かべるが、梨華の顔は笑っていなかった。
「夏の夜は空気までじっとりと暗くて…」 「そうかなぁ〜。私は冬の方が暗い気がしますけど」
さっきまでの愛の不安がうつったのか、そう言うと梨華は両手を自身の華奢な体にまわした。
そして、自分自身に囁くように付け加えた。

あの夏を まだ忘れられないから‥かな

14 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)22時20分37秒

白い壁に絡みつく薔薇の蔦。

むせかえるような甘い香り。

部屋に充満する夏の怠惰な空気。

本能で分かっていた。何も怖がる必要はないと。
だから、窓に手をかけた。

「あなたは‥‥」

門の前に佇む影。


『うちも練習が毎日あるから死にそう〜。
梨華ちゃんのスコート姿見たいな♪』

一ヶ月経って返ってきたメール。
受信日は‥たった今。それが何を意味をするのかを理解するには幼すぎた中学二年の夏の夜。

15 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月19日(日)22時32分46秒

千切られた紙を寄せ集めて復元された記憶はそこまで。
鮮明に覚えているのは、月の下で鈍く輝いていた薔薇の蔦と、体にまとわりつく湿気。
そして、門に立つ彼女の幻。

「ひとみ‥ちゃん?」


思わず口に出してしまった言葉に梨華は口元を抑えて愛を見る。
「ん?なんですか?」「う、ううん。別に」あまりにも小さかったその囁きは、どうやら愛には届いていないようだ。
梨華が慌てて下を向くと、それが愛には落ち込んでいるように映ったらしく
「石川先輩。そんな顔してると益々暗くなっちゃいますよ〜」
梨華の俯いた顔をのぞきこみ愛はニッコリと笑った。
梨華もつられて何故か笑ってしまった。
「そうだね」
こうゆう時の愛の笑顔は良いと思う。
さっきまでの雰囲気と一転し、二人は他愛のない話をしながら、部室へと向かった。

16 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月20日(月)03時21分23秒
以前の作品知らないんですけど面白そうですね。期待
17 名前:ぶらぅ 投稿日:2002年05月20日(月)19時03分08秒
ありがとうございました。
見つけました(w
前のとやはり少し違うようですけど、これはこれで楽しみです♪
がんがってください
18 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月21日(火)16時45分42秒

ドアを引いて中に入った瞬間、二人の頬を冷たい空気が掠めた。 「…なんか寒いくないですか?」
風で乱れる髪を耳にかけながら愛は隣にいる梨華を見上げる。
「何でだろ?…あっ、窓開いてるからだよ」そう言った視線の先にカーテンが風にひかれ窓の外に揺れているのが分かった。
「夏の夜風は意外に寒いんだよね〜」
梨華が窓を閉めようと近づいた時、室内に小さな物音が響いた。

「!!?」

二人がたてていない確かな音。

「……何してんの?」

不機嫌な声。

愛が電気をつけると奥の窓際に、ダークブラウンの髪を風に撫でられている 恐ろしく色の白い少女が立っていた。

19 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月21日(火)16時49分45秒

「ひとみちゃん‥」

梨華は、頭の片隅から離れない記憶の残像へなのか、目の前にいる少女に対してなのかも分からないままに少女がいる方を見つめて名前を呟くが、
しかし、少女は微かに顔を歪めただけで何も返事をしない。
「吉澤先輩!?驚かさないで下さいよ〜」
「…驚かせたつもりはないけど」
電灯の明るさに慣れてきた愛と梨華の瞳に、暗闇を溶かしたような黒いコートに身を包んだ吉澤ひとみがハッキリと映る。
ひとみは梨華と愛に、二人がこの場にいることを面白くないと言いげに目を逸らした。

20 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月21日(火)16時51分58秒

「ひと‥吉澤さんこそ何してるの?」
「‥‥ただ空見てただけ‥で、そっちは?」「部活の片付けだよ。って、吉澤さんまたサボったでしょう」
「‥‥‥」
梨華の言葉に気怠く髪をかき上げると、ひとみは窓辺から離れ部屋を出ようとバックを掴んだ。
突然に向けられた黒い背中に梨華は慌てて声をかける。
「帰るの?一緒に帰らない?…よね」
誘おうとしたものの、今も今までもひとみが誘いにのったためしがない事に気付き、梨華は語尾を濁す。
(そうよ。いつだってひとみちゃんは‥)


私を見ようとはしない‥


21 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月21日(火)16時53分28秒

言ってしまったら、ひとみの端正な顔が険しくなる気がして、その思いが言葉になる前に喉の奥へと押し込む。伝えたくても伝えられない気持ちを込めたように、瞳を自分から一瞬も外さない梨華に、振り返ったひとみは、もちろん…と言いたげな皮肉っぽい笑みを浮かべた。
ひとみの微笑みに、梨華とひとみのやりとりを傍で居心地悪く見ていた愛は寒気を感じて目を見開く。
(吉澤先輩って綺麗なんだけど‥なんか恐い人なんだよね‥)
小さく体を震わせて、今まさに立ち去ろうとしているひとみの横顔を見つめた。

22 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月21日(火)16時55分00秒

染めていないと言っても不思議ではない茶色い髪、引き込まれてしまいそうな大きな瞳、陶磁器のような白肌。

そして‥

「片付けお疲れ様」

ひとみを盗み見ている愛へ、さきほど梨華に向けた笑みとは違う笑顔が向けられる。

「あっ、は、はいっ」

そして、何よりも一番に 人を引き付けるのは、その日本人離れした顔立ちだった。

23 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月21日(火)23時34分21秒
レス遅くなりました。申し訳ないです。

名無し読者さん>レスありがとうございます。
期待に添えるよう頑張ります。

ぶらぅさん>レスありがとうございます。
以前のは‥なかったことにして下さい(汗
前の作品知っていてくださっていたのは嬉しいです。
24 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月24日(金)02時50分38秒
謎っぽいですねぇ吉澤さん
25 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月29日(水)09時05分01秒

やっぱ‥綺麗なモノは綺麗だなぁ。

容姿だけで見れば、ひとみ以上の生徒はまだまだいるだろう。
しかし、ひとみの整った顔立ちは、ただの飾りモノ的な美しさではない。
言葉では言い表せないもっと深いもの‥。
決して言葉遣いが丁寧なわけじゃないが、穏やかな、トーンを抑えた話し方もその要因の一つであろう。

ひとみの微笑みに、愛は息をするのも忘れ立ち尽くす。

「じゃ、お先に」

そんな愛の様子にお構いなく、コートに手を突っ込み、ひとみはすぐさま部室を出ていった。

26 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月29日(水)09時06分20秒

呆気にとられる梨華と、ひとみの笑顔の余韻に浸る愛。
少しして、ひとみの足音が聞こえなくなると愛はハッと目を覚まし、悔しそうな声を発した。
「てゆーか、吉澤先輩部室に居るくらいなら片付け手伝ってよ!」「吉澤さんが手伝うわけないでしょう」
「‥確かに」
「…着替えよっか」
溜息混じりの声で梨華は そっと制服を手にとった。
愛も続いて 制服に手を伸ばした。
そこで ふとある事が頭に浮かんだ。
「石川先輩」
「何?」
ちょうど上着を脱いでブラウスに腕を通そうとしていた梨華が振り返る。
27 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月29日(水)09時07分25秒

一瞬 見えた梨華の無防備な姿に、愛は顔を真っ赤にして俯く。
「ねえ、なぁに?」
愛の様子に不思議そうに首を傾け、梨華は何も気にしないで 早々と着替えを進める。
(ちょっとは意識してほしいな)
自分を目の前にして、照れもせずに着替える梨華を恨めしく思いながら愛は顔を上げ、
「あの‥石川先輩と吉澤先輩って‥どうなんですか?」
特に深い意味はない質問。
ただ少しだけ、二人が向き合った時に間を居心地の悪い空気が漂っていたことに対しての一言だった。
28 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月29日(水)09時08分37秒

だが梨華は、

「そう、ね。どうなのかな‥」

なんとも言えない真剣な表情になり、リボンを結ぶ手の動きが鈍くなった。
意外な梨華の反応に、愛の手は鈍くなるどころか完全に止まる。
(どうゆうこと?)
なかなか それ以上を話し出さない梨華を黙って見つめる。
ここではない彼方に向いてる梨華の横顔が、幼い頃に一度だけ行った教会のマリア像の静けさに似ている、と愛は思った。

29 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月29日(水)09時10分22秒

鈍い足音が古びた床に吸い込まれる。

どこか遠慮がちに、
それでも無邪気な笑顔で話しかけてくる貴女が憎い。大嫌い‥大嫌い。
(‥‥でも、ダメみたいだよ)
薄いとは言え 夏だとゆうのにコートに身を包む ひとみ。
神経質そうな表情と、不機嫌な足音とは裏腹に、無意識にその心は微かな幸福感が溢れていた。
しかし、廊下に映し出された窓枠の十字の影に気付くと、つい今まで弾みかけていた心は、空気を抜かれたボールのように あっとゆう間に萎んでしまう。(危ない、危ない)
ひとみは大きく首を振り、気持ちが沈んだにもかかわらず安堵の息をつく。
30 名前:The kind traged 投稿日:2002年05月29日(水)09時13分54秒
コートに突っ込まれていた右手で 首にかかっている冷たい金属を撫でた。

「全て忘れろ」

幾度となく唱え すっかり舌に馴れた呪文。なのに、
(何故ですか?)
なんでこんなにも苦しい思いをしなければ。呟く度に胸を締め付ける。
「こんなものっ」
金属を撫でるのを止めて、その細いチェーンが引き千切れるくらい強く握った。
と同時に、首に痛みが走る。
生暖かい筋が肌の上を伝っても尚ひとみは握る手を止めない。

「っ‥はぁ‥はぁ」

これくらいの痛みなんて どうってことはないんです。
あの日の痛みに比べたら。


どんな痛みでも消えない。
‥‥だから、忘れられない。

31 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月29日(水)09時18分29秒
更新しました。

名無し読者さん>レスありがとうございます。
無理あるかと思っていたのですが、謎っぽく見ていただけて嬉しいです。

32 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月29日(水)16時03分12秒
いや、ホントにどういう関係なんでしょうねぇ・・・
33 名前:ぶらぅ 投稿日:2002年05月29日(水)20時54分34秒
ますます謎めいて逝く。。。
二人の関係がどうなのか凄く気になりますね・・・
34 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月24日(水)19時27分09秒
またーり待ってます。。。
35 名前:皐月 投稿日:2002年07月25日(木)16時00分16秒
謎めく2人・・・・
2人の過去が気になります!
36 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月01日(日)01時33分16秒
マツ。

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