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YOUTHFUL DAYS
- 1 名前:サジー 投稿日:2002年05月26日(日)16時10分35秒
- はじめて書かせて頂きます。
かなりつたない文章ですがよろしくお願いします。
とてもありふれた学園ものがたりです。
年齢設定は実際と異なります。
(特にハロプロのみなさん)
いしよし、です。
よっすぃー視点で。
あとから梨華ちゃん視点になったりもします。
完結しているのでさくさくいきます。
- 2 名前:1.ダディドゥデドダディ! 投稿日:2002年05月26日(日)16時11分45秒
- 屋上で見上げた空はどこまでも広くって、
ひんやりしたコンクリートの上にごろりと寝そべったあたしは
吸い込まれちゃいそうな感覚に少し怖くなってぎゅぅっと強く目をつむった。
どこからか聴こえてくる吹奏楽部のへたくそな演奏。
優しくて柔らかい風が髪を揺らせて頬をくすぐる。
薄く目を開けると、一瞬白んだ視界の中に現れた空には、
ゆっくりと雲が流れていた。
雲の切れ間が形を変えていくのをぼんやりと見つめる。
- 3 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時12分51秒
「いっかいーきりぃーのせぇーしゅんー」
お気に入りの歌を口ずさんでみると思いっきり音程がはずれていた。
「うおーーーー!」
照れ隠しに今度は大声で叫んでみたけど、そのあとさらに照れた。
一回きり、一度だけの青春。青春真っただなかのはずの16歳。
- 4 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時14分13秒
- だけど悲しいことにあたしは退屈で単調な毎日を繰り返していた。
学校と家の往復だけのまいにち。
特別なことも刺激的なことも何も起こらないあたりまえの日々。
クラスメイトは、なんて言うんだろ。
発情期?あはは。それはさすがに言葉が悪いかな。
とにかく毎日毎日飽きずに恋愛のはなしばかり。
あたしだって興味がないわけじゃない。
だけど小さなことで一喜一憂し、ささいなことまで
報告しあう彼女たちを見て、一緒に大騒ぎする気分にはなれなかった。
- 5 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時14分50秒
- 昼休みになるとこうして教室をふらりと出てきてしまうことが
日課になりつつあった。
季節は春。春はお別れの季節です。
そんなうたをぼんやり思い出すけど、
あいにくうちの学校は中等部からのエスカレーター式なので
高校生になった今、変わったのは制服のデザインぐらい。
退屈、たいくつ。ああたいくつ。
- 6 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時15分31秒
- あたしが住んでいるこの街は海と山とに囲まれた、わりと静かなところで
田舎というほどじゃないけれど、都会ってわけでもない。
高校を卒業するときにこの街をでていく人もわりと多い。
将来。夢。そして恋愛。
あたしにとってそれらはまだリアルじゃなかった。
- 7 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時16分38秒
予鈴の音が鳴り響き、あたしはゆっくりと起き上がった。
重たい腰をあげスカートの汚れをぱんぱんと叩き落とす。
午後はなんだっけっかな。ふわぁ眠い。
欠伸をかみ殺しながら階段を下っていくと、いきなり衝撃的映像が飛び込んできた。
階段の踊り場で抱き合うふたり
うわぁみちゃったよ
キスし…てるんですかね
しっしかも
ふたりとも女のコだ
えええ!!
- 8 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時17分30秒
- その時、背の低いほうの女のコと目が合ってしまった。
…あ。
そんな時スマートに振舞うことが出来ないあたしは、
(つまり黙って通り過ぎる事が最善の方法だったと思うのだけれど)
その目を凝視したままその場で凍りついてしまった。
り、梨華ちゃん…。
それはひとつ年上の、石川さんちの梨華ちゃんだった。
- 9 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時18分13秒
- 梨華ちゃんとは家がすぐ近所で、幼なじみだったのだけれど、
彼女が中学に上がった頃から微妙な距離が出来てしまい
今ではただのご近所さん的な関係になってしまっていた。
見かけることはあったけれど、なんとなく照れくさくて
簡単なあいさつ以上の言葉をかわすことは無かった。
小さな頃はいつでも一緒にいて、お互いひとりっこだったせいもあって
まるで姉妹のようにくっついていたのに。
どちらかというとひとつ年下のあたしではなく、
梨華ちゃんのほうが妹って感じの関係だったけど。
- 10 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時18分43秒
- はぁ。 あの梨華ちゃんがねぇ大きくなって…。
いや、あたしのほうが大きいか、どーみても。
ていうかちがうよ、そういう意味じゃなくってさ
だってさっきの顔ったら、すっかりおんなのひとだよ
そんなことを混乱しきった
あたまでぐるぐると考えつつ
こんがらがった思考回路の回線を一旦切ると
もう目の前にはあの二人の姿はなくて、
階段の踊り場にひとりたたずむあたし
あれ?
- 11 名前:1. 投稿日:2002年05月26日(日)16時19分28秒
- ふと下に目を向けると階段を下り終えた梨華ちゃんの後姿が見えた。
あ。
くるりとこっちを振り返った梨華ちゃんは真剣な目をして
あたしを見上げていた。
あたしの視線に気がつくと、ゆっくりとやわらかく人差し指を唇にあてた。
…ナイショ?
そのあまりに大人っぽい仕草にまたもや固まってしまったあたし。
彼女はふわっと清潔そうな微笑をみせて廊下に消えて行った。
瞬きができなかった
まぶしかったんです、なんか
- 12 名前:翔 投稿日:2002年05月26日(日)18時59分46秒
- おぉ〜いしよしだぁ!頑張ってください!
- 13 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年05月26日(日)19時36分06秒
- 梨華ちゃんが可愛いですね(^^
続き期待♪
- 14 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月26日(日)20時40分06秒
- おもしろそうですね。
続き期待してます。
- 15 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時50分31秒
「……でさぁ、やっぱり日曜に彼と行くならお台場よりディズニーシーかなぁ?」
あれって相手のひと誰だったのかなぁ
「ねぇ?だからさぁー、お台場とぉ…。」
背は梨華ちゃんよりも高かったような
「んおーい。きいてんの?」
髪も長かったような
「よっすぃーってばー。ねぇ!」
「うん。聞いてるよ、だからさ、いくら女子高だからって
女のコ同士の恋愛ってどうなのかなアリなのかなってハナシ?」
「んあ?」
あ、やべぇ。あたし今なんて言った?
目の前のごっちんはきょとんとしてあたしを見つめている。
- 16 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時51分11秒
- 「あ、あのなんでもないから、その。」
ニヤーーリ。ものすごくイジワルな顔しやがって。
なに考えてんだろ。クラスのなかで唯一親友って呼べる
彼女はなぜだか嬉しそうに笑って言った。
「へえぇー。よっすぃーがねぇ。やっぱりねぇ。」
ん?
「あ、だいじょーぶだよ。ごとーはねぇそういうのあれだから。偏見とかないから。」
いやいや、ちがくってさ
「やっぱよっすぃーはさー、
どっちかっていうと女のコにもてるタイプだもんねー。」
だからちょっと待て、ごとう。しかも失礼じゃないかな、それって。
- 17 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時52分05秒
- 「ちっがうの。そういうわけじゃなくって!」
ばんと机をたたいたあたしに
だったらどういうわけなのさ?と不満顔のごっちん。
しぶしぶあたしはついさっき目撃したことを話した。
もちろん匿名で。あたしはこういうとこ、わきまえてるほうだ。
自分で言うのもなんだけれど、年相応じゃないなあってたまに思う。
「なんだーつまんなぁい。そんなんよくあることじゃん。
けっこうこのガッコ、カップル多いんだよ?」
「ほー、そうなんだ。へ?」
あまりに普通に言われたので、あたしまでさらりと
聞き流しそうになってしまった
カップル!女のコ同士で?まじでか。
- 18 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時52分43秒
- 「そうだよー。3年の矢口先輩と安倍先輩とか。それから生徒会長の飯田先輩とさぁ
2年の石川先輩だって付き合ってるらしいし。」
げげっ。し、知ってたんだ、ごっちん。
「それって、みんな知ってるの?」
「うん、けっこう有名かな。目立つもんね、あのひとたち、特に。」
たいした興味もないらしくごっちんはあふ。とあくびをしながらそう言った。
なんだよぅ。そいじゃあ別にあたしに口止めする必要ないじゃんか、梨華ちゃん。
それにしても相手のひとって、飯田先輩だったんだ。
生徒会長を務めているあの先輩は少し、いやだいぶ変わっていて
朝礼のあいさつは校長先生よりも長いし、そのうえ意味がわかりにくいので
そのたびに全校生徒がため息をつかされていた。
空が青いことから始まるその熱い演説を、
つい思い出しかけてしまい頭をぶるぶる振る。
- 19 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時53分28秒
そっかぁ飯田先輩か。
しかも矢口先輩と安倍先輩が付き合ってるだなんて。
矢口先輩はあたしと同じバレー部の先輩だってのに、全然知らなかった。
そういや、安倍先輩ってよくバレー部に顔出してくるしなぁ。
それであたしとも顔見知りなわけだけど。
ただ仲いいなぁってくらいにしか思ってなかったよ。
そのあとごっちんの悩みはディズニーシーとディズニーランドに移ったけれど
あたしの耳にはぼんやりとしか届かない。
え、うん聞いてるよどっちでもいいんじゃん?あれ?なんで怒ってるのごっちん。
- 20 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時54分13秒
その夜、あたしは自分の部屋から石川家を眺めてみた。
はす向かいの緑色の屋根。
確か、2階の右側が梨華ちゃんの部屋だったよな。
明かりは消えている。
まだ帰ってないのかなぁ。それとも居間のほうにいるのかな。
小さな頃はあの部屋でよく遊んだっけ。
あたしはなぜか一番に、梨華ちゃんの部屋の本棚にぴしりとならんだ
「ガラスの仮面」を思い出した。
あの窓とこっちの窓とで糸電話つなごうとして
あそこの庭の柿の木から落ちたこともあった。あんとき梨華ちゃん、
めちゃくちゃ泣いたんだよな、確か。ケガしてんのはあたしなのにさ。
そんなことをぼんやり思い出していたら、白いひかりが何度か点滅し
部屋に明かりが灯った。
- 21 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時54分53秒
- うわ、こんなによく見えるんだ、部屋んなか。
そこには制服姿の梨華ちゃんがベッドに腰掛けているのが見える。
部屋の中にはピンク色がいっぱい見えて
女のコらしい梨華ちゃんの趣味が伺えてなぜか赤面するあたし。
「お、おかえりぃ。」なんてつぶやいてしまい
そんな自分に更に赤面するあたし。
ていうか、お年頃なんだからカーテン閉めろよ!
なんてこっそり覗いている自分を棚に上げて、
あたしはハラハラしてしまった。
「ひとみぃー、お風呂はいっちゃいなさーい。」
急に耳に飛び込んできたお母さんの声に
飛び上がるくらい驚いたあたしは
思わずカーテンを強くつかんでひっぱるように閉めた。
その時一瞬梨華ちゃんがこっちを見ていたような気がした。
たぶん気のせい。
- 22 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時55分46秒
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ぼいーんぼいーんぼいーーん
りぃかです りーかです
うひょーうひょーーー
ちょ、ちょっと梨華ちゃん
なに?そんなヘンな動きして
あたしの知ってる梨華ちゃんは
もっとこう、おとなしくってめちゃくちゃ女のコらしくって
- 23 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時56分23秒
- なんだか目を疑うような、そして背けたくなるような動きをした梨華ちゃんは、
気づくとすぐ近くまで来ていて、あたしの首に手を回してくる
どきん
ちょちょっと梨華ちゃん…
上目遣いにあたしを見上げる梨華ちゃんは
なんていうかものすごくかわ…いい
思わず抱きしめてしまったあたしを責めないでください。
ふかこうりょくとかいうやつだよきっと。
…セクシィベイベー
- 24 名前:1. 投稿日:2002年05月27日(月)12時57分08秒
- 「ひとみちゃん。」
ひゃあ。かわいい声
「ひぃとみぃちゃん。」
ぐわぁ。甘い声 やばいあたしドキドキしてる、どうして?
「ひとみちゃあああんんん」
エコーがかった声
ん?エコー?
「ひぃとぉみぃいいいいい!起きろつってんのぉぉ!!」
耳元で叫ばれたたき起こされたあたしは、
反抗期ってわけでもないのに朝食のあいだお母さんと口をききませんでした。
- 25 名前:サジー 投稿日:2002年05月27日(月)12時58分26秒
- 更新終了です。うひゃー。
読んで頂くのってこんなに
嬉しいもんなんですね。感動。
レスありがとうございます。
>12 翔さま
ありがとうございます。頑張ります。
>13 名無しどくしゃさま
ありがとうございます。よろしくお願い致します。
>14 名無し読者さま
ありがとうございます。駄文ですがよかったら
最後までよろしくお願い致します。
- 26 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月27日(月)20時56分46秒
- おもしろいっす!
これからどうなっていくのか楽しみです!!
続き期待してます。
- 27 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月28日(火)01時29分27秒
- 面白いです。続きが楽しみです。
隣の家、ぜひ覗いてみた…(r
がんがってください。
- 28 名前:翔 投稿日:2002年05月28日(火)02時24分32秒
- よっすぃ〜面白いです!
続き期待してます!
- 29 名前:2.恋はロケンロー 投稿日:2002年05月28日(火)13時28分37秒
「あれー、よっすぃー、めずらしぃじゃん。」
口をもぐもぐさせながらごっちんが言う。
「んー。今日はホラ風が強いからさ。」
だってなぁ、もしかしてまた遭遇しちゃったら
気まずいし、どんな顔していいかわからない。
変な夢を見てしまったせいもあって
今朝からずっと梨華ちゃんのことが頭から離れないでいた。
- 30 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時29分42秒
- そんなあたしを、昼休み教室にいるのがめずらしいらしいのか
いろんなコたちがぐるりと取り囲む。
「今日のよしこ、おかしいよ、なんか。」
突然そんなこと言われて その声の主を見る。
柴ちゃんだ。うしろに村田さんたちも引き連れて。
へ?疑問顔のあたしに
「いやさー、朝からずぅっと一点見つめて
ボーっとしてるよ。で、たまににやにやしてる。どうしたの?」と、柴ちゃん。
「そうだよ、おかしいよ。」
「たしかに、おかしいよ。」
- 31 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時30分34秒
- なんだよーこいつら。ほっといてほしぃんですけど。
「柴ちゃんはよっすぃーウォッチャーだもんね見逃さないよ、そりゃ。」
そう言い放ったごっちんは隣の席から身を乗り出して
「恋ですか、よっすぃー。」
そう言ってデコピンをかましてきた。
いってぇ。何いってんの、ごっちん?
- 32 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時31分26秒
午後の授業の体育はソフトボールだった。
あたしは柴ちゃんやごっちんに言われたことを振り払うように
ものすごい気合で試合にのぞんでいた。
あたしの真剣なピッチングに、誰ひとり当てることすら出来ないでいる。
「ちょっとーよっすぃー、体育なんだからさー。」
「あいつなに本気になってんの?」
そんな場外のやじに耳もかさず
「しまってこーーぜーーーー!!」
後ろのナインたちに声を掛ける。
「……おー。…」
なんだよ、しらけるなぁ。
次のバッターは、お!ごっちんだ。
よっしゃ、みてろよ。
- 33 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時32分14秒
- すぐさま2ストライクに追い込まれたごっちんは、
きぃっとこっちを睨み付けてきた。
そしてバットの先をゆっくりと空に向ける。
なにを?それってホームラン宣言て
やつですかー。
そんなのマンガでしかみたことない!
かっけぇごっちん!
ついそのバットの指している方に目を向ける。
雲ひとつ無い青空がひろがっている。
ゆっくりと視線を戻しながらふいに眩しい光を感じて目を細めた。
校舎の窓がキラキラ反射してまぶしいや。
あ。
キラキラの向こうの2階の窓際に梨華ちゃんの姿が見えた。
こっち、見てる?
一瞬、時間が止まって梨華ちゃん以外のものが
全部あたしの視界から消えた、気がした。
- 34 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時33分02秒
- 「うぉーーい。」
はっとしてごっちんに視線を戻すと得意のイジワルな笑顔。
くそぅみてろよ。
すぅと息を吸い込むとボールを掴む手に力を込める。
投げる瞬間、2階からの視線を意識した。
その日いちばん速かっただろうそのボール
カキ――――――――――――ン
ごっちんの撃ったホームランはきれいな放物線を描いて、どこまでも飛んでいった。
- 35 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時33分39秒
「だからぁーよっすぃーは恋をしているそうです。」
「ほほう。それは事件ですね。」
「そう、あんなにもててもてて、もてまくってたよっすぃー。
そのくせに恋愛なんか関係ないって冷めた顔してたよっすぃーが!」
「よっすぃーが!!」
「恋を!!」
「恋を!!! あがが。いたいいたいよっすぃー。」
「おまえら、いーかげんにしろよ。まじで。」
これだからいやなんだ、女子校ってやつは。つまんない噂がもう流れてる。
中等部の加護と辻はあたしにヘッドロックをくらったまま、腕の中でじたばたしている。
「なにすんねん!ひどいわ、よっすぃー!」
「はなせーはなせぇー!!」
いやひどいのはさ、本気であたしの腕に爪や歯を立てているそっちじゃないかなぁ?
- 36 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時34分09秒
- 放課後、バレー部の練習のため体育館に向かったあたしは、
渡り廊下でこのアホどもに足止めされていた。
中等部の悪ガキふたり組。
接点のないこのふたりと仲良くなったのは、
(ていうか勝手に懐かれてるだけだけど)
中等部の卒業式の時に学年がひとつしたの
高橋さんというけっこうかわいいコが、
あたしに告白ってやつをしてきたことがきっかけだった。
同性からの告白をまったく真剣に受け止められなかった
あたしは、その時も例外にもれず、やんわりと断った。
「ありがとう。でもきっとすぐ好きな男のコできるよ。」
「ありゃあ。もういいです。」
そう言ってテッテケテッテーと走り去った彼女をぼんやりと見送っていたら
ものすごい形相で、ちいこいのがふたり現れたのだ。
- 37 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時34分46秒
- 「ちょっと待てー!」
「待てー!!」
「オマエがよしざわゆうやつやな。」
「だな。」
そんなことを初対面で言われて笑顔で応えられるほどおとなじゃないあたしは
「なんだよ、おまえら。」そう言って二人を冷めた目で見下ろした。
「うわ、こわ。ちょ、ちょっとのの、言うてやってください。」
「へ?あいぼん、ののこわいよぅ。」
なんなんだよ。そんなにびびられてもちょっと悲しい。
それにどうして関西弁なんだろ。
「用が無いんなら行くよ?」
さっさと立ち去ろうとしたあたしは、
「なんにんおんな泣かせたら気がすむねん!!」
「そうだ、そうだーーー!!」
ものすごく人聞きの悪いセリフを、大音量で後頭部にくらってその場にへたりこみたくなった。
おんな泣かせたらおんな泣かせたらなんにんおんな泣かせたら リフレイン
- 38 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時35分38秒
- 「あのぅー、なんなんですかね。」
ゆーっくりと振りえかえって顔をひきつらせ、怒りのあまり
なぜか微笑んでしまうあたしに、さっきとは違う恐怖を感じたらしいふたりは
ぶるぶるとふるえながらも早口でキレ始める。
「だってまずあれやろ。松浦せんぱいそれから小川ちゃん、
それとそれと今の愛ちゃん先輩。
とにかく!みんなあんたに泣かされてんねん!」
「そうだよ!新垣ちゃんだって、えっとそれから紺野ちゃんだって!」
ああ。紺野さんてコは印象が強かったからよく覚えている。
彼女の告白を即答で断ったあと、しばらく返事が無かったから
あたしはずっと固まったままで、彼女もずっと固まったままで。
ものすごく長く感じた時間の果てに
大きく目を見開いた紺野さんは
「…はい。」と一言呟いた。
独特の間にのまれて、とても疲れたんだよね、そういえば。
- 39 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時36分10秒
- 「うーん。よくわかんないけど、みんなあたしを好きだって言ってきたひとたちのこと?」
「そうや。」「そうです。」
「だったらおかしーでしょ。みんな女のコじゃん。あたしだっていちおう女なんですけど!」
「そこや、そこなんですよ!」
急に声を高くしたちびっこは得意気にこっちを見上げた。ああ、鼻ふくらませちゃって。
「あんなぁ?みんななんで泣いてるかっていうたらな?
そんなん、振られたからっていうのはあたりまえやん。
そんなことはしょうがないことやねん。どうにもならないことやねん。
みんなが一番傷ついてる理由ってのはな、本気にしてもらえなかったってとこやねん!」
一気にまくしたてるちびっこ。だからなんで関西弁?迫力あって怖いんですけど。
- 40 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時36分47秒
- 加護と辻。そう名乗ったそのちびっこたちは、
女のコの告白をのらりくらりとかわして
本気に受け止めないあたしのことが相当頭にきていたらしいのだ。
全く部外者のくせに、勝手に正義感に燃えてるとこが、なんだかすこし微笑ましかった。
ほんとは優しいコたちなんだろうか。
「だからな?さっきの愛ちゃんやって、ずーーっと想ってたんやで?
それで勇気ふりしぼって愛の告白…だじゃれじゃないですよ?
つまり告りにきたわけです。しかも卒業式に。泣ける話やないですか、なぁのの?」
「うん。切ない話です。」
けどそんなこと言われても、あんまりよく理解できない。
男の人だってちゃんと好きになったことのないあたしに、
本気だの愛だの言われてもぴんとこない。
大体あたしのどこを好きになったんだよ?
話したこともないくせにさ。
- 41 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時37分20秒
- そう言って反論するあたしに加護は小さくウィンクして言った。
「お子様やねんな、よっすぃー。」
なっ。オマエが言うなよ!しかもあだ名で呼びやがった。
そしてなぜ関西弁?ねぇ?あー、もう。
めんどくさくなって、深いためいきをついたあたしに
なぜだかにんまりと機嫌を直したらしいふたりは、
「卒業おめでとう!お子様!!」
「おめでとう!お子様!!!」
おこさまおこさまとぐるぐるあたしのまわりをまわる。
くそ。バターになっちまえ。
- 42 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時37分51秒
- あれ以来あたしの何が気に入ったのかはわからないけれど
なにかとつきまとってくるふたり。
あたしの腕の中でもがいているふたりのつむじを見下ろして、ふとわれに返る。
「やべ。もう行かないと。」
そう言って解放すると真っ赤な顔をしたふたりは口々に
「ひどいわーよっすぃー!!」
「ひどいよーよっすぃー!!」と叫んだ。
……なんでいつでも揃ってんだよぅ
頭いってぇ。
「話はまだ終わってないで! ちょぉまちーや!!」
「そうだよぉ!まてぇ!」
小さくなっていくそんな声にかまわず、全速力で廊下を駆け抜けた。
- 43 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時38分32秒
その日の練習でミスを連発したあたしは、
帰り道でがっくりと肩を落としていた。
「吉澤!てめぇやる気ないんならやめちまえ!!」
そんな言葉が胸にささっていた。ほんっと口がわるいよな、矢口先輩って。
練習中、ごっちんが言ってた矢口先輩のうわさも
けっこう気になっていたあたしは、
知らず知らずのうちに先輩のことを観察してしまっていた。
ミルクティーいろのショートカット。
小さい上に体も華奢な矢口先輩は
裏表の無いさっぱりとした性格と頭の回転の速さで
バレー部内だけではなく、学校内でも人気者らしい。
- 44 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時39分27秒
- 背ちいこいよなー。
いっくらうちのバレー部弱小だからって
あれは小さすぎるんじゃ…
彼女だってうわさの安倍先輩は、確か美術部だったかな。
飯田先輩も美術部だ、そういえば。
物凄い絵を描くって噂だもんな、飯田先輩。
どういう経路で、ふたりはつきあうようになったんだろー
そんなこと聞けるわけないしなぁ
でも安倍先輩ってかわいんだよね
いっつも笑っててさ
あたしは安倍先輩の向日葵みたいな笑顔を思い浮かべていた。
バシ――ン
いってぇ。
- 45 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時40分10秒
- 目の前でバウンドしていくボールを呆然と眺めていると
視線をだいぶさげたところに、矢口先輩が仁王立ちしていた。
ご丁寧に腰に手を当てている。
「うわぁ。」
「うわぁじゃねーだろ。どうしたの、吉澤。」
急に声を掛けられたあたしは、あせってとんでもないことを口にしてしまった。
「あ、安倍先輩のどこを好きになったんですか。」
「は?」
「うわ。いやなんでもな…。」
「ばかじゃないの、オマエ。練習中になに考えてんだよ!」
顔を真っ赤にさせた矢口先輩はめちゃくちゃ怒ってたけど、すこしかわいかった。
照れ屋さんなんだな、ああ見えて。
それでもそのあともミスを連発したあたしに
先輩はとうとうキレて叫んだのだ。やめちまえーーー!!って。
- 46 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時40分51秒
はぁーあ。
なんだかねー、このもやもやした感じ。
石ころを蹴飛ばしたいかんじ。そんなときにかぎって石ころは
足元にありません。そんなかんじ。
近道の公園を通り抜けるあたしはむしゃくしゃしていたので
気がつかなかったのだ。わかっていたなら遠回りしたのに。
梨華ちゃんと飯田先輩が公園のベンチに座っていた。
あたしはつい、銅像の影に身をひそめてしまった。
ふたりがこっちに気づいた様子はない。
- 47 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時41分23秒
- きのうといい、あたしは実はストーカー気質なんだろうか。
なんか情けないなぁ。そんな気持ちとは裏腹に
しっかり二人の様子を伺ってしまうあたし。
こっそり聞き耳までたててしまうあたし。
…くっそう、よく聞こえないよ!
何かをぽつりぽつり話す飯田先輩の
言葉を、真剣な様子で聞いている梨華ちゃん。
話を終えたらしい飯田先輩の顔が深刻そうに俯く。
梨華ちゃんはただ優しく笑っている。
- 48 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時41分57秒
「それじゃ。」そう言って立ち去る飯田先輩。
「さよなら。」と呟く梨華ちゃん。
あれ?梨華ちゃんは帰らないのな。これじゃ出て行けないよ。
飯田先輩を見送るその笑顔が泣き顔に変わった瞬間を見てしまった
あたしの胸はぎゅうっと音がするんじゃないかってくらい苦しくなった。
これは、ごっちんの言う恋というやつなんでしょうか。
見上げると一角獣の銅像が遠くの星をみつめていた。
あ。いちばん星だ、あれ。
- 49 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時42分29秒
ちゃぽーん
お風呂につかってついさっきの出来事を思い返してみる。
梨華ちゃんは最初は静かに涙をぽろぽろこぼし
それから声をあげて、子供みたいに泣き始めた。
その涙を見たとき、あたしの中で何かが生まれた。
あたしはよっぽど飛び出していって、その肩を抱きたいなんて思ってしまった。
だけどあたしにはそんなこと出来るはずなかった。
だってその理由が見つからなかったし。
彼女がひとしきり泣いて、落ち着いたあとその場を立ち去るまで
あたしはただ黙って見つめていることしか出来なかった。
- 50 名前:2. 投稿日:2002年05月28日(火)13時43分05秒
- 梨華ちゃんはどうして泣いていたんだろう
あたしはなんでこんなに梨華ちゃんのことが気になるんだろう
言葉を交わしたわけでもない そりゃ昔の思い出はたくさんあるけど
これはひとめぼれと変わんないのかなー
それじゃ、今まであたしに好きだって言ってくれたコたちと同じってことだよな
それにやっぱり気になるのは、女のコなんだよね、あたしも梨華ちゃんも
うーーーん
わかんない。めんどくさい。けどもやもやする。
ザッパ――――ン
お湯に潜ってみたところで、答えはなんにもでてきやしません。
そりゃそうだ。
- 51 名前:サジー 投稿日:2002年05月28日(火)13時43分57秒
- 昼間っから更新終了です。
大体、更新は仕事場からになると思うんで(ナイショだけど)
おひるどきになります。これからもよろしくお願い致します。
>26 名無し読者さま
ありがとうございます。おもしろいって言ってもらえるなんて
泣きそうに嬉しいです。これからもよろしくお願い致します。
>27 よすこ大好き読者。さま
ありがとうございます。がんがります!確かに覗いてみた…(rです。
駄文ですがよかったら最後までよろしくお願い致します。
>28 翔さま
ありがとうございます。笑ってもらえると最高に幸せです。
ここのよっすぃーはかなりピュアです。眩しい、ですホント。
- 52 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月28日(火)15時32分42秒
- テンポが良くて凄く読みやすいです♪
所々に入るネタや表現がツボ突きまくりで
おもしろいであります!
仕事場からの更新頑張って下さい(w
- 53 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年05月28日(火)20時16分17秒
- 小ネタっぽいのがおもろいです(w
楽しみな展開になってきましたねぇ
仕事場から更新ごくろう様ですm(_ _)m
- 54 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月28日(火)20時55分51秒
- 初レスです。
おにゃんこクラブ(こんな字だっけか)の歌や某絵本の『ぐるぐる回ってバターになれ』
とか、かなりツボをつかれました。
恋に目覚め始めてるヨシコが何だか可愛いです。
がんがってください!
- 55 名前:もっちー 投稿日:2002年05月29日(水)02時28分15秒
- サジー様。
初小説、すべりだし好調のようですね。ソフトな語り口がとてもすてきです。
梨華ちゃんの本棚に並ぶ「ガラスの仮面」、んん〜、いいですねぇ〜。
お昼どきのないしょの更新、がんがって!!
- 56 名前:ぶりさん 投稿日:2002年05月29日(水)22時06分33秒
- もっと読みたいな!ぶりばりガンガッテ!
- 57 名前:ぶりさん 投稿日:2002年05月30日(木)10時47分32秒
- おはよーございます!今日は学校休んじゃいました!楽しみにしてます。
- 58 名前:3.インスピレーション! 投稿日:2002年05月30日(木)13時09分29秒
「ねぇ、ごっちん?」
「んー?」
「ごっちんは彼いるよねぇ?」
「え、うん…。」
「どんなかんじ?」
「へ?あー、最初はやっぱ怖かったけど興味もあるしねー、最近はけっこうきもちよく…」
「うわわ!!!ちがう!すとっぷ!ごめんなさい!」
真っ赤な顔したあたしにごっちんは「あはは。かわいい。」と笑った。
あたしは照れくさくって、食べ終わったベーグルの袋をくしゃりと握りつぶした。
顔をあげるとめちゃくちゃ優しい目をしてあたしを見つめるごっちん。
昼休みの教室はいつもどおり、笑い声と噂話でにぎわっている。
- 59 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時11分07秒
「うんとねぇ、よっすぃーには言っちゃおうかな。あたしが彼っていってるのはね」
「うん?」
「実はね」
「実は?」
「女のひとなんです!あはっ!言っちゃった!」
はぁ。おまえもかよ。何なんですかね、あたしの周りは。
あれ、でも、慣れてきたのかなあたし。そんなに驚いてない。
「でもあのひと男らしいからついつい彼っていっちゃうんだよね
ふつーに。すごく頼れるし、おまけにめっちゃやさしーんだよぅ。」
「へぇ。」
「ごとーもさぁ?中学の頃はふつーに男のコとつきあってたよ?
けどさー、そんなんかんけーないなっておもったの、いちーちゃんに会って。」
「いちー…ちゃん?」
「うん。なんかどーでもいいの、性別とか。どーでもいいってのは違うかな。
あたしは今、女の人としてのいちーちゃんが好きだから。
とにかくごとーはいちーちゃんがいいの。いちーちゃんじゃなきゃだめなの。」
- 60 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時11分46秒
なぜかはわからないけれど、あたしは感動していた。
普段ボーっとして、何を考えてんだか何も考えてないんだか
よくわからない相棒が、こんなに熱く語れる恋をしている。
聞いてるだけで恥ずかしくなるような言葉で、恋を語っている。
前だったらあたしは。
多分こんな気持ちにはならなかっただろう。
それがわかってたからごっちん話さなかったんじゃなくって、
話せなかったんだろうな。 ごめんね、ごっちん。
なんかいーなぁ。かっけぇーなぁ、ごっちんてば。
「それにねいちーちゃんって夢があるひとでね。」
「うん、うん。」
「そういう話するときすっごくかっこいいの。」
「うん、うん。」
- 61 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時12分24秒
あたしは、初めて見る表情のごっちんを素直にかわいいなって
おもった。なんだかあたしまで嬉しくなってきた。
「でさぁいちーちゃんってえっちもうまいのね?だってきのーだって…」
「うわうわああ!!すすとっぷ!ほんとすいません!!」
ごめんなさい、やっぱりあたしにはまだ刺激が強すぎる。
高校生だってのにこれだから、お子様っていわれちゃうんだろうな。
加護アンド辻の「お子様!」「お子様!!」があたまんなかをエンドレスでまわりはじめた。
これってかるいトラウマってやつなんじゃないでしょうか。
「トラァ!」「うまぁ!!」
うっせぇよ、がきども。
- 62 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時13分06秒
- ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
※あたしは梨華ちゃんとなにがしたいんだろうリスト
1 自転車のふたり乗り
2 窓と窓とでのおさななじみ的な会話(よくドラマである感じ!)
3 ハンバーグをつくる
4 ゆで卵殻むき競争
「なしかちゃんてだれ?」
「なしか?」
「いや、これはりかって読むんだよ。ばかだなぁ、りんね。」
「りかって誰だろ。」
- 63 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時13分42秒
- んー うっさいな…
おかーさんもうおなかいっぱいだよー…
「よしこが好きになったのって女のコなんだ?」
「あんなに馬鹿にしてたくせにねー。」
「ほんとだよ。どういうこと?」
んん?がばっ。
飛び起きたあたしを囲んでいる
顔、顔、顔。
「あ、よっすぃー、よだれ。」
「汚れてるよ、大事なリストが。ぶふふ。」
- 64 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時14分18秒
「うわああ!!じっ授業が終わったんなら
起こしてよ、ごっちん!!」
そう叫んでとなりを見るとぐっすり眠ってるごっちん。
ああ、しあわせそう。一方のあたしは地獄逝き未来船。
「ねぇねぇ、よっすぃー!りかちゃんてだれ?」
「あさみ、ゆで卵の殻むきってのはやめたほうがいいと思う。」
「そうだよ。りかちゃんだって嫌がるよ、きっと。で、りかちゃんで誰?」
あたしとしたことが、うかつすぎる。
この戦場でこんなもの広げたまま寝ちゃっただなんて。
古文の授業が退屈すぎて、なんとなくノートに書きつらねた言葉は
なぜか梨華ちゃんのことばかりだった。
ここ1週間ほどは、梨華ちゃんのことを見かけることも無かったのだけれど
あたしの心のかたすみにはなんとなくだけれど、確かに梨華ちゃんの存在があった。
- 65 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時14分53秒
よかった、前のページには全然似てない似顔絵なんて書いてある。
こんなの見られちゃった日にはあたし崩壊しちゃうよ。
それにしてもなんて言ってごまかしたらいい?
その時教室の扉のほうから聞こえた天使のひと声。
「よっすぃー!おきゃくさんですよー。」
うっほう、助かった、とりあえず。ちょっとごめんなさいねとおしてね
不満そうな声がたくさんあがるけれど、聞こえないふりをする。
- 66 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時15分24秒
教室の入り口で申し訳なさそうな顔をして彼女は両手を合わせていた。
「ごめんね?今ちょっといい?」
「り、梨華ちゃん!」
「!」「!」「!」「!」「!」
好奇に満ちたたくさんの視線を
刺さりそうなほど感じながら教室を出たあたしは
二度とここに戻りたくないと強く思いました。
- 67 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時16分01秒
「ど、どうしたんですか。」
「あ。敬語なんだ。」
「いや、だって話すのすごく久しぶりだから、その」
中庭のベンチに腰掛けた梨華ちゃん。
隣に座ったあたしは目を見ることも出来ず、俯いていた。
ちらりと横目でのぞくと梨華ちゃんの髪が陽に透けて違ういろに見えた。
つい気恥ずかしくなってしまい、目をそらす。
「で、でもこないだ会いましたよね、踊り場で。」
言ったあと墓穴を掘ったことに気がつき、おそるおそる横顔を見ると
顔を真っ赤にさせた梨華ちゃんが俯いていた。
この間は大人に見えたけれど、こういうとこはやっぱり梨華ちゃん変わってない。
すごく恥ずかしがりやだった、そういえば。
- 68 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時16分32秒
その梨華ちゃんはというと、なかなか本題に入れずにいるみたいで
足をブラブラさせたり、指をポキポキ鳴らしてみたりと落ち着きがない。
沈黙に耐えかねて、指の関節太くなりますよ、そう言おうとした瞬間
意を決したように梨華ちゃんは切り出した。
「あ、あのひとみちゃんって今、付き合ってるひとっている?」
「へ?」
「ごめんね、突然。」
「い、いないです。ぜんぜん!まったく!」
なに必死に否定してんだろ。
あたし今、耳まで真っ赤だよぜったい。
- 69 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時17分04秒
- 「ほんとう?よかったー!あのね、私の友達がひとみちゃんのことを
とっても気になってるらしくって。で、私が幼馴染ってこと話したら
どーーしてもってお願いされちゃって、私もそういうのってあんまり
得意じゃないから一度は断ったんだけど、でもそのコが一度でいいから
会ってみたいっていうのよそれでほんと申し訳ないんだけど
「いいですよ。」
「え?」
「会えばいいんですよね?」
- 70 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時17分36秒
- なんだか早口でペラペラと言い訳をつづける梨華ちゃんが気の毒になって
あたしはついそんなことを言ってしまった。
梨華ちゃんって昔っから頼まれるといやって言えないタイプだった、そういえば。
「そのひとって…うちの学校ですか?」
「うん、2年。同じクラスなの。」
やっぱり女のコなんだ。ていうかあたりまえのように
女のコをショーカイしてくんのってどーなんだろーね。不思議。
自分の中に生まれつつある、かすかな感情のことはとりあえず無視した。
- 71 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時18分08秒
「ありがとう。ごめんね、無理言っちゃって。
じゃあ、連絡したいから、携帯きいてもいい?」
そう言って携帯を取り出す梨華ちゃん。
「はぁ。あのぅ。いっこ聞いてもいいですか?」
「うん?」
「女のひとがー、女のコを好きな気持ちってどういうことなのかなって。」
携帯を操る梨華ちゃんの指がぴたりと止まる。
「…。」
「あっ。すいません、いきなり。」
- 72 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時18分39秒
あたしの質問に面食らった梨華ちゃんは、一瞬悲しそうな顔をしたけれど
すぐにやわらかく微笑んでゆっくりと、とても生真面目に答えてくれた。
「ううん。うーーん、多分おんなじ、だよ。」
「おんなじ?」
「そう。男の人を好きになるのも、女の人を好きになるのも、気持ちの
部分はおんなじだと思う。ただ、そのひとを好きだって気持ちは。
会いたいとか、声が聴きたいとか、触れたい、とか。」
遠くを見るような、それでいて愛しいものを見るような目で
言葉をひとつひとつ噛み締めるように、梨華ちゃんは言った。
- 73 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時19分11秒
- その声はどこまでも真剣で、あたしは触れたいだなんて、
きゃあ!なんてふざけたことも言えずに。
今梨華ちゃんが思い浮かべたひとは飯田先輩なんだろうな、やっぱ。
「ひとみちゃんもひとを好きになれば、わかるよ。」
そうだよね。でも今はっきりとわかってしまった。
あたしの好きなひとはたぶん
「ひとみちゃんって優しいし、かっこいいからモテるでしょ。」
今、目の前にいるあなたなんですけど。
まぁ、そんなこと直接顔見ていえない。言えるわけがない。
- 74 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時19分57秒
携帯から意識を離せなくなって5日目の夜。
待ち受けのスパイダーマンを見つめながら
梨華ちゃんのことをぼんやり想う。
あれ以来、学校では毎日毎日からかわれて。
「あーあ、愛しい梨華ちゃんお昼ご飯なに食べたんだろう、ねぇ?よっすぃー?」
「石川先輩でしょ?やっぱりクロミリパンじゃない?」
「あーそうだよぜったい。」
なにがぜったいだよ。勝手なうえにしつれーだぞ、おまえら。
「あー、よっすぃーが怒った!それは恋!恋煩いさ。きっと梨華ちゃんと出会ったから!」
「あーそうだよぜったい。」
- 75 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時20分36秒
- だから、イヤなんだってば女子校って。ひとの恋がそんなにおもしろいのかな。
飽きずに繰り返される光景を思い出して、ため息をついた。
そんな気分を吹き飛ばしてくれたのは、やっときた梨華ちゃんからの着信。
ドキドキした気持ちを隠すようにぽつりぽつり話すあたしに
「なんか、怒ってる?やっぱり迷惑だよね。」
少し高めのかわいい声。電話だと余計にかわいく聴こえるみたい。
意識すればするほど、ぶっきらぼうになってしまうあたし。
「怒ってないっすよ。」
「ほらー、怒ってる。」
あたしたちってカップルかよ!って言いたくなるくらい梨華ちゃんの声は甘い。
思わずあはは。と笑ってしまった。
- 76 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時21分06秒
- 「えっと、明日の放課後なんかどうかなって。ひとみちゃんあいてるかな。」
「あいてます。」
即答。部活あるくせにあたし、いいのかな。いいよね。
「よかった、それじゃ4時に学校前のカフェでいい?」
「ハイ。おっけーです。」
「じゃあ…。あ、ひとみちゃん今、おうちにいる?」
「え?ハイ。そりゃあもうバッチリ。」
「ふふ。なにそれ。ちょっとカーテン開けてみて?」
あたしはコンマ何秒かってくらいのスピードで
カーテンを掴んでいた。
- 77 名前:3. 投稿日:2002年05月30日(木)13時21分41秒
- もうちょっとゆっくりじゃないと不自然だったかな。
そう思ったときは既に遅く、破りそうな勢いでカーテンを開けると
視線の先には携帯に耳を当てたまま笑顔で手を振る梨華ちゃん。
「うわー。こんなによく見えるんだね。」
「は、はい。」
「あ、あれ思い出しちゃった。ねぇ覚えてる?」
うん、覚えてるよ
『「 糸電話。 」』
くはぁ。うれしくってつい笑顔になってしまったあたし。
あ、梨華ちゃんもわらってる。
「うふふ。なんか、あの頃に戻ったみたいだね。」
うん、とおおきくうなずいた。
- 78 名前:サジー 投稿日:2002年05月30日(木)13時22分20秒
- 更新終了です。
昨日完結の某板名作を読んで激しく感動しています。ほんとまだ泣きそう。
いつかああいう痛くて優しい素晴らしい作品書けるようになりたいですね。
ここで言うことじゃないかもだけどすいません。これは恋ですねきっと。
>52 名無し読者さま
ありがとうございます。ツボだなんて嬉しいです。
ぐわぁ、嬉しい。がんばります。
>53 名無しどくしゃさま
なぜかついつい小ネタに走ってしまいがちですが
笑って頂けるとほっとします。温かいレスほんとに嬉しいです。
>54 ごまべーぐるさま
ありがとうございます。初めまして。いつも楽しくROMらせてもらってます。
あの絵本大好きだったんです。あとHNはふかい意味はないんだけれど
ザジ、大好きです!ひさしぶりに観たくなっちゃいました。
- 79 名前:サジー 投稿日:2002年05月30日(木)13時22分56秒
>55 もっちーさま
ありがとうございます。ガラスの仮面てほんとおもろいですよね。
ハラハラしておりますがよかったら最後までよろしくお願い致します。
>56、57 ぶりさんさま
ありがとうございます。頑張ります。
温かいレスありがとうございます。
レスはsageでお願い致します。
更新の時のみあげさせて頂きたいので、よろしくお願い致します。
言うの遅くなっちゃってすみません。
- 80 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月30日(木)13時34分39秒
- >>更新終了です。
昨日完結の某板名作を読んで激しく感動しています。ほんとまだ泣きそう。
ってなに?
- 81 名前:サジー 投稿日:2002年05月30日(木)14時52分33秒
- >80 考えなしの勝手なコメントしちゃって申し訳ないです。
次の更新は明日になると思います。これからもよろしくお願い致します。
- 82 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月30日(木)20時54分10秒
- おもしろいです!!
なにげに純粋なよっすぃーがかわいいですね。
よっすぃーが紹介される相手は誰なんだろう…
これからも期待してます。
がんがって!!
- 83 名前:4.好きな先輩 投稿日:2002年05月31日(金)13時39分51秒
「よしざわぁ!待てコラァ!!」
やっべ。すごい勢いでこっちに向かってくる矢口先輩を見て
放課後の下駄箱で上履きを突っ込んでいたあたしはがちんと固まってしまった。
「どこいくんですかー。体育館はあっちでちゅよ、よっすぃー。」
「ゴホッ、グオホッ。ごめんなさい、やぐちせんぱい。
おなかが痛くって…。」
「ほー。それは大変だねおだいじに。てそんなわけいくかこらぁ!」
そう叫んであたしの首根っこをつかもうと背伸びしてくる。
あちゃあ。こりゃあもう逃亡しかないな。ごめんなさい、矢口先輩。
「あっ!安倍先輩が中庭でゲリラライブやってましたよ。
かっこいっすねー。ブルーハーツ唄いこなしちゃって。」
「ぬぁにぃ!!聞いてないよ!まじで!」
- 84 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時41分10秒
- ダッシュで消え去る矢口先輩。ああ、恋ってやつは本当に盲目なんですね。
どんなに恐ろしい逆襲が待ってようとも吉澤ひとみ、行かせていただきます。
ゆうぐれがー
ぼくの そらをー
のっくするころにー
あなたをぎゅっと抱きたくなってるぅー
調子はずれな歌を口ずさみながら、
あたしは今日の待ち合わせの本当の理由を
忘れかけていた。
- 85 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時41分41秒
「えっと、こちらが私と同じクラスの
アヤカちゃん。で、こちらがひとみちゃん。」
「それはわかってるわよ。ハァーイ!」
「は、ハァーイ…。」
反射的にそう答えて目の前のアヤカさんを見つめる。
思いのほかきれいなひとでびっくり。
そっか、忘れてたけどこのひとあたしのことを。
でもどうしてだろう。すごくきれいなひとなのに。
大きな瞳に黒くてきれいな髪。
おとなっぽいひとだなぁ…。
- 86 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時42分26秒
- あたしはすごく照れくさくって
アイスティのストローをがじがじと噛みしめた。
学校のすぐそばにあるこのカフェは待ち合わせにつかわれることが多く
今もおんなじ制服のコがちらほらと座っている。
「うーん、やっぱりキュート!吉澤さんすごくかわいい。」
あたしのことを嘗め回すように見たあと
アヤカさんは突然そんなことを言い始めた。
「へ?」
一瞬で顔が熱くなるあたし。
「私、キレイな女のコってダイスキ!」
そんなこと大きな声でいわないでください。
案の定、周囲の視線はこっちに注がれていて
あたしの顔はさらに熱くなった。
- 87 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時43分06秒
「A−ha! ごめんごめん。それにしても梨華と吉澤さんが幼馴染だったなんてね
最近まで知らなかったからびっくりしたわよ。」
「そうだね、言ったこと無かったね。」
梨華ちゃんが、笑いながら答える。
「私たちけっこう騒いでたじゃない?吉澤さんのこと。
なんではやく教えてくれなかったの?」
「うーん。なんとなく。ひとみちゃんとられちゃうみたいで。」
な、なんてことゆーんだ、梨華ちゃんてば。最近まで話もしてなかったのにさ。
帰国子女だというアヤカさんのワールドワイドなお話の数々を聞いて
あたしの緊張もすっかりほぐれた頃、ふいにアヤカさんの声のトーンが変わった。
- 88 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時43分51秒
- 「で…、今、吉澤さんは好きなひととかいないの?」
き、きた。よし。
「います。実は。」
『「えっ。」』
「ごめんなさい。つい最近好きな人できたんです。」
アヤカさんの目を見てきっぱりと言い切ったあたしは
ぺこりとちいさく頭を下げた。
こういうのはね、はっきりさせるべきなんだ、きっと。
あたしはそういうことを今までわからないでいたけれど。
しかもその好きな人は斜め前の席であんぐり口を開けているのだけれど。
- 89 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時44分32秒
- 「そうなんだぁ。なんだぁ。羨ましいわね、その相手。」
さばさばしたかんじのひとで良かった。
別れ際、じゃあこれからは友達って事で!そう言って笑ったアヤカさんは
すこしだけムリしてるように見えて、あたしは切なくなったけれど
笑顔で見送ることしか出来なかった。
ありがとう、アヤカさん。嬉しかったです。
- 90 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時45分14秒
帰り道、ふたりきりになったあたしと梨華ちゃんはなぜか沈黙に包まれていた。
やっぱ、まずかったかな、アヤカさんのこと。
この間は付き合ってるひとなんかいないって言っちゃったし。
まぁそれは嘘じゃないんだけど。
「あの、ごめんね?なんか、気まずい思いさせちゃってさ。」
「……。」
「ほんと、ごめん。梨華ちゃんのお友達なのに。」
「………。」
「うー。やっぱり会わないほうがよかったのかなぁ。」
「………くっ。」
- 91 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時45分49秒
- え?
「ぷはぁ。あはは!かわいー、ひとみちゃん。ひとみちゃんは謝ることないの、全然。
むしろありがとうなの。ほんっとありがと。」
「ええ?ひっどいなー。じゃあなんで黙ってんの。怒ってるかと思うじゃん。」
「だって嬉しかったんだもん。」
「なにが?」
梨華ちゃんは立ち止まり振り返ると、にっこり笑って言った。
「敬語。やめてくれたね、やっと。」
あ。
いつのまに、あたしってば。
- 92 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時46分22秒
- 「なんかほんと嬉しい。」
「いや、その、あの。」
「アヤカのことはほんとに気にしないでね。私が言うのもおかしいけど。
あのひとしょっちゅうなの。
しょっちゅう、『みつけたわよ!あたしのハニー!』とか言って
大騒ぎなの。ホント困っちゃう。」
「え?」
「だからね、だいじょーぶ。」
うっそー。あたしすっごい真剣に受け止めて…。
でもそういやなんにも言われてないよね。
うわまじかよ はずかしーー
- 93 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時47分02秒
- 「だってこないだ、きもちがどーのこーのってレクチャーしてくれたじゃん、梨華ちゃん!」
「あ。あれは…。私の話っていうか。やだ。はずかしー。」
そう言ってあたしの腕をばしばし叩いてくる梨華ちゃん。
好きな人ではありますが、かるぅくむかついたのは気のせいじゃない。
もしかしたら嫉妬ってやつだったのかもしれないけれど。
「はぁー。わかりましたよ。くっそう。ずっと敬語つかってやる。やるです。」
「えーー!ごめんってば。やるですってなによ?あはは!」
「くーー。もう!帰りますよ、石川先輩。」
「あー!先輩って言った! なによー、もう。」
「先輩!石川せんぱーーい。」
「なんで、もう!やめてよ!」
「変わんないなー、すぐむきになるとこ。ほんとかわいーんだから。」
「えっ。」
一瞬で真っ赤になる梨華ちゃん。
- 94 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時47分37秒
- あたしはというと多分それ以上に真っ赤になっているはずで
通り抜けようとしていた公園がすでに暗くなっていることにほっとした。
「ちょっと遊んでこうよ、梨華ちゃん。」
そんなことを言い出せたのはたぶん、照れ隠しと、
一歩梨華ちゃんに近づけたような気がして嬉しかったせいなのかな。
思い切りブランコを漕ぐとふわぁって体が浮いてきもちいい。
となりではあたしに負けじと必死にブランコを漕ぐ梨華ちゃん。
どこからか夏のにおいがして、あたしはしあわせな気持ちになりました。
人生ってすばらしい。 なんていうのはおおげさかな。
- 95 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時48分08秒
「それでそれで?」
「ん?それだけ。」
「それだけ?夜の公園で好きな人とふたりでブランコ乗って帰ってきたっていうの?」
「うん、すっげー楽しかったよ。」
一斉にためいきをつくクラスメイトたち。
ていうかなんであたしこんなこと逐一報告させられてるんだろ。
こんなのあたしのキャラじゃなかったはず。
- 96 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時48分55秒
- 「だいいち、梨華ちゃんはよっすぃーの気持ち知らないんでしょ?
告白しちゃえばいいのに。」
「そうだよー。今いちばんいいタイミングかもしれないよ?」
「ん?どういう意味?」
「だからー、石川先輩、飯田先輩と別れたでしょ?どうやらフラれたのは石川先輩だって
噂だし。しかも飯田先輩、他校の彼氏できたらしいよ。男もいけるんだね。」
「ええ!!」
「よっすぃー…。知らなかったんだ。あんたほんっとつめが甘いよね。」
「でもよかったじゃん。らっきーじゃん、よっすぃー。チャンスだよ。」
だんだん遠くなるみんなの声。
- 97 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時49分30秒
「でもーあさみはね、まだはやいとおもう、告るのは。」
「そうかな?まいは今だ!って思うね、石川先輩ってなんか寂しがりやっぽいし。」
「えー。そっかなー。もっとこうさぁ仲良くなってからだってよくない?」
「そしたら梨華ちゃん誰かにとられちゃうかもだよ?あのひとすっごくモテるし。」
「あーそれもあるかー。」
けんけんごうごうと、本人を無視して低レベルな作戦を企てている彼女たちを背に
あたしはこっそり教室をあとにした。
- 98 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時50分14秒
ひさびさだなー 屋上くるのも
すぅ。はぁ。
深呼吸をしてみる。
そっか。やっぱりあの時あたしが見たのは別れの瞬間てやつだったんだ。
それにしたって前日だよなぁ、キスしてたのって。
飯田先輩って勝手だな。事情はわかんないけど。
あたしが怒れる立場ではないこと、わかってるけどむかむかしてきた。
梨華ちゃん、飯田先輩の顔見て笑ってたよなー ムリしちゃってさ。
「おんなじだよ。」
「人を好きになればわかるよ。」
そんな言葉を思い出してはっとする。
そういえば、あたし、失恋したばっかりの梨華ちゃんにあんなこと聞いちゃったってこと?
あのとき思い浮かべてたのは飯田先輩?どんな気持ちだったんだろー 梨華ちゃん
- 99 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時50分45秒
梨華ちゃんの天使みたいな笑顔が浮かぶ。
気づいたらあたしの目からはポロポロ涙がこぼれ落ちていて
びっくりしたけどそれはいっこうに止まらなくって
しゃくりあげるほど泣くなんていつぶりだろう。
涙の理由もうまく説明できそうにない。でも止まらない。
飯田先輩のばかあほひとでなし そんなことをつぶやきながら
ひとしきり泣いて呼吸を落ちつけようと何度か深く息を吸い込む。
なんだってんだ、こんなあたし。
目をごしごしこすってためいきをつく。はぁ。かっこわる。
- 100 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時51分24秒
「落ち着いたかー。」
げっ。突然頭上から降ってきた、聞き慣れた声に飛びあがった。
「いいい、いつからそこに?やぐちせんぱい。」
「んー。さっき。よしざわがくる少し前。」
「い、いるならいるって言ってくださいよ!」
あまりに恥ずかしかったので、つい責めるような口調になってしまった。
「えー。だってなんかねぇ、泣きたい顔してたし。」
- 101 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時52分02秒
優しい声でそう言うと矢口先輩はスタッと
屋上の入り口の屋根から飛び降りてきた。
「いてて。足の裏じんじんする。」
しかめた顔をこっちに向けると
ニィっと笑ってあたしにハンカチを差し出してくる。
「顔あらってけよ。ぶぶっ。ひどい顔。」
なんにも聞いてこない矢口先輩ってやっぱりおとなだ。
ちょっとカッコイイかも。
「いやぁ、青春ですね、よっすぃー。」
あたしの隣に座って空を仰いだ矢口先輩はいつもよりなんだか凛々しく見えた。
風に煽られた茶色い髪が、さらさらと揺れている。
- 102 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時52分43秒
- 「ねぇ、先輩?」
「うん?」
「恋ってなんかめんどくさいですね。」
「ははっ。そーかもだね。」
「けど…なんかいいですね。」
「うん。そーだね。そっか。吉澤もちょっとだけ大人になったんだ。」
「いや、そんなことは全然ないけど。」
「照れるなよー。矢口は吉澤のこと応援しちゃうよ。なんてったってかわいい後輩だもん。」
そのシンプルな言葉はじんわりと胸にひろがった。
矢口先輩が人気のある理由がまたひとつわかった気がした。
- 103 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時53分13秒
「吉澤?」
「はい?」
「いい恋しようね。」
「ぐはっ。そんな、そんなことよく真顔で言えますね。」
「うっさいなー。いいんだよ、青春まっただなかなんだから。」
照れ隠しにぶっきらぼうにつぶやく
矢口先輩のほっぺたはほんのり赤くなっていて
あたしは自然に笑顔になっていた。
- 104 名前:4. 投稿日:2002年05月31日(金)13時54分02秒
「せいしゅんかー。そうっすね。あ、矢口先輩、青春って歌知ってますか?
あたしあれダイスキなんです。
時間がほんとにもうほんとぉにー止まればいいのになー♪ってやつ。
あれって誰の曲だっけかな。」
「よしざわ? それはあれだ、ハイロウズだよ。」
「あっ、そっか。そーだ。ブルーハーツじゃなくってハイロウズだ。」
ん。
なんかやっべ。地雷踏んだかも。
一瞬にして鬼のような顔になってますよ、矢口先輩。
「てめぇこのやろー!!なっちのライブはいつはじまんだよこらぁー!!」
追いかけて来る声を背中にあたしは階段を2段置きに駆け下りた。
「忘れてたくせにー。」
そう叫んであははと笑う。
ありがとう矢口先輩。 握り締めたハンカチはうすい水色で、夏の空みたいな
からっとした気持ちをあたしにあたえてくれた。
- 105 名前:サジー 投稿日:2002年05月31日(金)13時56分03秒
- 更新終了です。
>82 名無し読者さま
ありがとうございます!純粋すぎるほどのよっすぃーをこれからもよろしくお願い致します。
アヤカはそういえば髪茶色いんだった!
なんてぼんやりBSK観てて思ったけれどあえて黒髪の頃ってことで。
書きながらアヤカの制服姿をかるく想像して照れちゃったことは内緒にしといてください。
- 106 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月31日(金)14時36分37秒
- アヤカとは予想外でした。
自分の住んでるトコでは今『美少女日記』をやってます(^^;;
(藤本美貴がママハハにいぢめられてる)
…読んでくだすってて嬉しいやらはずかすぃ〜やら(ポッ)
ありがとうございますm(__)m
では続き楽しみにしてます。
- 107 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月31日(金)21時37分08秒
- アヤカだったのかぁ〜!全然想像ハズレ-でしたが、おもしろかったです!!
文章、全体的に読みやすくておもしろいですね!
これからどうやっていしよしになるのか期待してます。
これからもがんがってください!
- 108 名前:5.恋愛ってなぁに? 投稿日:2002年06月03日(月)15時11分39秒
「よっすぃー、ナイッシュー!!」
体育館であがる歓声。
キュッキュッとバッシュの音がひびく。
クラス対抗球技大会。あたしはバスケに参加していた。
運動神経だけは人一倍あるあたしは
うちのクラスのチームのポイントゲッターだ。
それにしても歓声が凄い。
女子高なのにどういうことでしょう?なんて
思ってたらみんなあたしの名前を呼んでいる。
- 109 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時12分42秒
「よしこってばすっごいね。」
柴ちゃんがぼそりとつぶやく。
「最近のよっすぃーはさらに人気急上昇なんだよ。優しくなったんだって。知ってた?」
ううん、知らなかった。あたし優しくなったんだ。へぇ。
クラスメイトたちの情報通っぷりにはほんと頭が下がります。
- 110 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時13分19秒
「あー、なんかわかるそれ。」
ゲームのあと、ポカリをごくりと飲み干したごっちんは
ぷはぁと息をついてから、そう言った。
「なんかさー、今まで冷めてたもん、よっすぃー。
今はああやって騒いでるコたちをバカにしてないでしょ。」
そうかな?
そうだよ。
「さてあと一試合。さっさとおわらせよー。」
ごっちんは立ち上がって手首をぐりぐりと回し始めた。
あたしたちのチームは順調に勝ち進んでいて、つぎの試合は決勝だ。
相手は2年生か。2−Dと書いてあるゼッケンを見ていて思い出した。
梨華ちゃんのクラスじゃん。
- 111 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時13分58秒
- きょろきょろと視線を張り巡らせるといた、いた。
ひとごみのなかに一段と輝いている笑顔、発見。
どきんと心臓が音を立てる。
梨華ちゃん、なにかを見てる。
梨華ちゃんの視線を辿っていくと
コートの脇に飯田先輩、発見。
ずきりと心臓が音を立てる。
「………っすぃー。よっすぃーってば!」
はっと気づくと相手チームのジャンパーと審判があたしを睨んでいる。
ああ、ごめんなさい。ジャンプボールあたしだっけ。
- 112 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時14分33秒
ピ―――――――
笛の音が鳴り響き、
頭上に高く放りなげられたボールに向かってジャンプ。
ばしん。
「ちょっとよっすぃーどこ打ってんの!!」
ボールは勢いよく場外へと飛んでいった。
「きゃあっ!」
座ったまんま後ろにひっくり返る飯田先輩。
あちゃあ、ごめんなさい。ほんとに無意識だったんです。たぶん。たぶんね。
あせって飯田先輩のところまで走っていってひっぱり起こす。
- 113 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時15分12秒
- 「すいません。」
「ううん…。いいのいいの、勝負は全力でのぞむものよ。どりょーく!!」
イマイチわけわからないけれど、飯田先輩ってなんか憎み切れないよなぁ。
おでこを真っ赤にさせながらも目を見開いて
握りこぶしを固く掲げた飯田先輩を見てそう思った。
試合はさっさと再開されていたので
急いでコートへ戻るとさっそくぱしんとパスが飛んでくる。
そのまんま速攻でゴール下までドリブルで走りこんで
マークを振り切ってシュート。決まった、いえい。
- 114 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時16分01秒
- 「キャーー!!」と湧き上がる歓声につい目を向けると
なぜか梨華ちゃんがその集団にいる。
あれ?ああ、アヤカさん。
敵チームのクラスからの声援にビシリと親指をたてる。
「きゃあああ!よしざわさああん!!」
アヤカさん、恥ずかしいから、よしてよして。
そんなあたしを見ていたクラスメイトたちはにやりと笑う。
ああ、そういうこと。うーん。でもこれは優しさとかって問題じゃ…
「ひとみちゃーん!カッコイイ!!」
こ、このアニメ声はまぎれもなくあのひとだ。
あたしは赤面して固まってしまい気がつかなかった。真正面からのボールに。
視界がぐらりと揺れる。
ひとみノックアウト。
- 115 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時16分39秒
「あははは!ほんっとウケる、よしこ!」
更衣室でみんなに笑われているあたしの鼻には
ティッシュがぎゅうぎゅうにつまっている。
至近距離からのパスを顔面で受けたあたしは
そのままばたんと倒れベンチへと運ばれた。
試合開始そうそうポイントゲッターを失ったうちのチームは
ぼろ負け。あー、ダブルメンゴだよ、みんな。
- 116 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時17分18秒
- みんなはそんなことどうだっていいらしくって
げらげらとあたしの様子を笑っている。
そんなみんなにつられてあたしも笑う。
「よっすぃーってば梨華ちゃんにマジでノックアウトなのね。」
そう言ったごっちんについ、こくりとうなずく。
うわー、よしこが素直だ、どーしちゃったの頭も打った?
大騒ぎしてるみんなを残してあたしは保健室へ向かった。
- 117 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時17分59秒
ガラリと保健室の扉をいきおいよく開ける。
「やすだせんせーー、ポケットティッシュあるー?」
そう言いながらずかずか保健室に入るとそこには、保田先生じゃなくって
飯田先輩がいた。おでこに湿布を貼っている。
思わず吹き出しそうになってしまった。だめだよ、あたしのせいなんだから。
「あ、先生今いないみたい。」
そう言って飯田先輩は戸棚からがさごそポケットティッシュを取り出してくれた。
「そ、それさっきの、ですよね。ホントすみませんでした。」
「ああ、全然気にしないで。吉澤さんも大変だったね。」
- 118 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時18分32秒
- あれ。あたしの名前。
そんなあたしの疑問に気がついたみたいで飯田先輩は言った。
「あれだけ騒がれてれば知ってるって、カオだって。」
飯田先輩、自分のこと名前で呼ぶんだ。かわいいかも。
でもなぁこのひとが梨華ちゃんをあんなに泣かせたんだよな。
「カオの顔、なんかついてる?あ、だじゃれ言っちゃった。カオ、やっぱ天才かも。」
つい見つめてしまっていたあたしは、慌てて目を反らす。
だじゃれ?ああ。あはは…。どうしよう、笑えねぇ。
「それで吉澤さんは梨華のこと好きなのね?」
- 119 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時19分17秒
- ガシャ―――ン
いきなりの直球ストレートな質問にあたしはびびって保健室備え付けの
洗面器を倒してしまった。やっべ、保田先生に怒られちゃうよ。あわててもとに戻す。
しかもそ、それでってなんですか。脈略ないじゃん、ぜんぜん。
「吉澤さんわかりやすい。」
そう笑った飯田先輩の目はぎらりと輝いていて少し怖い。
このひとに嘘はつけない、そんな気がした。
「でっでもどうして。」
「さっき見てて思ったから。梨華の声で吉澤さん固まってたからさ。」
す、すごいや、飯田先輩。ボーっとしてるようであなどれない。
「付き合ってたんですよね、飯田先輩。どうして別れたんですか?」
初対面でそんな立ち入った質問はするべきじゃないと思うんだけど
あたしはがらにもなく熱くなっていた。
- 120 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時19分57秒
「ああ…。うん。付き合ってたよ。カオはほんとに好きだった。」
ん?それってどういう意味だろう。
だって飯田先輩がふったんだって誰か言ってたよね
あたしだってそれ目撃してるし。
「うん…。別れようって言ったのもカオなんだけどね。
あ、吉澤さん見てたから知ってるよね。」
ちょ…ちょっと飯田先輩あなどれなさすぎる。気づいてたの?
だったら平気で別れ話続行しないでください!
「うん…。ごめん。」
きゃあ、このひとあたしの心読んでる?ま、まさかね。
「まぁ、いろいろあったわけよ。」
そう言って立ち上がる飯田先輩を呆然と見送るあたし。
いろいろってなんだよ。あの噂の彼氏のこと?
…そこまでは聞けないよな、やっぱ。
- 121 名前:5. 投稿日:2002年06月03日(月)15時20分36秒
- こっちに背中を向けたまま飯田先輩は小さな声で言った。
「カオはもう他の人のこと好きだから…。だからってわけじゃないけど
吉澤さんのこと応援してる。勝手かな。」
勝手だよ。こころのなかで答える。
あんなに梨華ちゃんのこと泣かせたのに。
でも不思議と怒りは感じなかった。
なんだか飯田先輩の背中が寂しそうにみえたせいかな。
よくわかんないよ。恋愛って不思議。恋愛ってなぁに?
保健室の扉から出ようとしていた飯田先輩は
勢いよくぐるりと振り返ると、目を見開いて叫んだ。
「恋はミステリー!」
ガッシャ――――ン 再びひっくりかえった洗面器と
ひっくりかえったあたしを残して飯田先輩は颯爽と消えて行った。
飯田先輩ってエスパー?い、石井ちゃん?
- 122 名前:サジー 投稿日:2002年06月03日(月)15時21分27秒
- ちょこっと更新終了です。
>106 ごまべーぐるさま
ありがとうございます。更新がんばってください。
楽しみにしています!
これからもよろしくお願いします。
>107 名無し読者さま
ありがとうございます。凄く嬉しいです。
これからもがんがります。
いしよし的には少しまどろっこしいかも
しれませんが初恋、青春てことで(?)
長い目でよろしくお願いします。ああ戻りたい。
- 123 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月03日(月)22時00分35秒
- >飯田先輩ってエスパー?い、石井ちゃん?
か・かなりワラタ!!もう、面白すぎです。(笑
素直な吉がこれまたイイ!!
続き楽しみです。
- 124 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時05分51秒
「ああ、重たい。だってのにやってられん。」
ひとりぼやきながら階段を駆け上がる。
放課後の校内は人影もまばらで
あたしのナイロンのジャージの音がシャカシャカと響く。
部活にいく途中で、つかまってしまった世界史の先生に
返却を頼まれた資料はずっしりと重たくって
3階にある図書室に着くころには
あたしの足取りも重たくなっていた。
- 125 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時07分03秒
- しかたなく足でがらりとドアを開くと
図書室の中には誰もいないみたい。
あれ、これどこに返したらいいんだろ。
「きゃっ。」ドサッ
奥のほうから小さな悲鳴が聴こえたので
カウンターに資料を乗せてから
声がした方へ近づき本棚の隙間から覗いてみる。
そこには小さな脚立と文庫本が数冊、そして
愛しいあのひとが転がっていた。
- 126 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時08分01秒
「梨華ちゃん。大丈夫?」
そう言って手を差し伸べると
びくっとして見上げてきたその目に
驚きの色が浮かぶ。
ゆっくり差し出してきた右手を掴んですとん、と立たせて脚立を起こす。
梨華ちゃんの制服の胸のバッチが目にはいった。図書委員だったんだ。
というか図書委員の存在自体はじめて知った、あたし。
梨華ちゃんはよっぽど痛かったみたいでしばらく呆然としていた。
「大丈夫?」
もう一度聞くと梨華ちゃんは制服の乱れを直しながら
「ありがと…。きのう大丈夫だった?」
そんなことを突然言い出した。
ああ、バスケのあれだね。はずかしい。
- 127 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時08分49秒
- 「うん。鼻血しばらく止まらなかった。」
笑わせようと思って軽くそう言ったのに
梨華ちゃんは心配そうな表情で右手をのばしてくる。
ちょっとえっ梨華ちゃんなっなにっ
「もう痛くない?」
瞬間ひんやりとした指の感触を頬に感じてあたしは固まる。
痛いどころか溶けちゃうかもしれないですこれじゃあ。
だけどそれはほんとに一瞬のことで
梨華ちゃんはすぐにあたしから離れると
落ちていた本を拾い集め始めた。
- 128 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時09分34秒
- あたしもあわてて一冊拾い上げる。
サリンジャー?ナインストーリーズ。
「それ読んだことある?」
甘い声にふるふると首を振る。
正直言ってどっちがタイトルだかもわかんないよ。
「私けっこう好き。そのひとの書く子供が大好きなの。」
そう言って丁寧な手つきで本を受け取る梨華ちゃん。
思わずあたしは
「それ貸してください。7泊8日で。」
なんて言ってしまった。
レンタルビデオ屋じゃないんだから
そう言ってくすくす笑った梨華ちゃんはカウンターまで戻ると
図書カードとかいうやつに記入をはじめる。
- 129 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時10分17秒
陽が傾きかけた夕方、図書室のなかは
ぼんやりとしたオレンジ色に染まっていた。
なんだか通い慣れた学校の中だってのに別世界な空間。くらくらする。
天使はカウンターの中で微笑むと
「来週の木曜が返却日です。」
業務的にそう言って本を差し出してきた。
だけどあたしには来週の木曜また会えます、そう聞こえた。
ちょっと怖いかもあたしの耳。しかも天使、だなんて。
- 130 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時10分55秒
「えええっ!!」
滅多にそんなふうに大声を出さないごっちんは隣の席で
この世のおわりみたいな顔をしてあたしを見つめている。
どしたの?ごっちんの震える指がさしているのは
あたしの手元の文庫本。そゆことか。
失礼しちゃうねごとうさん。
きのうの夜から読み始めた本は
ちんぷんかんぷんなんだけど
短編集ってやつだから、まあ読みやすいし
わりとおもしろいような気もしてきた。
それに何よりも梨華ちゃんに近づけるような
その感覚が嬉しくって
休み時間にもついつい頁を開いてしまっていた。
- 131 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時11分51秒
「うっわあ!文学少女気取りですか、よっすぃー。」
「うっわあ!よっすぃーがよっすぃーではない、すでに。」
おまえはだれやだれやねんだれですかーーと背後から
あたしの頭をぐしゃぐしゃとかきまわすちびっこふたり。
「なんだよ!なんでここにいるんだよ厨房が!」
いつもどおりいきなり現れた加護と辻はあたしの威嚇に
なぜだかそそくさと消えて行った。あれ、めずらしい。
いつもならしつこいくらい絡んでくるくせに。
やだ、ちょっとこころが痛むじゃん。
だけど廊下から聞こえてきた大声に、罪悪感は一気にふっとんだ。
- 132 名前:5. 投稿日:2002年06月04日(火)14時12分41秒
- 「ちょっと背伸びしてるよっすぃーってすてきね!」
「恋ってすてきよね!!」
廊下に飛び出したあたしを見てふたりはぴゃーと
一目散に逃げていった。
「よっすぃー、おっちゃんよろしくなー!」
おっちゃん?なに言ってんの?
しかしむかつく。廊下中の視線を振り払う。
教室に戻ってどかっと席に座りためいきをついたあたしに
「恋ってほんとすてきよね。」
うっとりとつぶやくごっちん。
そうですね。素敵ですかね。
- 133 名前:サジー 投稿日:2002年06月04日(火)14時13分32秒
- ちょこっと更新終了です。
梨華ちゃんがサリンジャーって!
と思われた方、もしいらっしゃったらすみません。
ちょっと悩みましたが
自分が高校生の時感動した本を
使わせて頂きました。うひゃあ青くさい。
>123 よすこ大好き読者。さま
ありがとうございます。
文才が無いからってネタばっかじゃん!
って言われそうでコワイんですが笑って頂けると
ほんとにほんとに嬉しいです。
今後もどうぞよろしくお願い致します。
- 134 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月04日(火)14時51分59秒
- サリンジャーなつかすぃ。
またちょっと読み返したくなりました。
- 135 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月04日(火)15時58分15秒
- 辻加護がいいですね。
なんちゃっての吉澤くんも可愛いし。
がんがってくらはい。
- 136 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月04日(火)17時52分22秒
- サリンジャーもだけど、映画版『耳をすませば』また見たくなりました。
( ゜皿 ゜)ノ<コイハミステリーーーッッ!!
やっぱりここのいいらさんも電波ってるんですね(w
ではがんがってください!
- 137 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年06月04日(火)19時36分46秒
- プッ。おもわわず吹き出しましたぁ(w
作者様の小説は読みやすいですよ。アハハッ
- 138 名前:6.ポップコーン☆ラブ 投稿日:2002年06月06日(木)20時03分24秒
「おかあさん、あたしの小さい頃のアルバム見せて。」
お母さんは、ひとみがそんなこと言うなんてめずらしいね
そう笑って引き出しからアルバムを引っ張り出してきてくれた。
もとの色がわからないくらい陽に焼けたうすいオレンジ色の表紙を開く。
いた、いた。
幼稚園の頃から小学校にかけて
あたしの隣にはほとんど梨華ちゃんが微笑んでいる。
- 139 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時04分28秒
- 小学校の入学式で大きくてぴかぴかなランドセルを背負ったあたしの隣で
少しお姉さんぶってる顔の梨華ちゃん。
町内のお祭りで浴衣姿の梨華ちゃん。
あたしは…なんではっぴなんだろ…
ねじりはちまきまでしてる。
ひどいよおかあさーん
これは、学芸会かな。
ピンクのかつらでにっこり微笑んでる梨華ちゃん。
「かーわいい…。」
つい呟いてしまったあたしに
「ああ、梨華ちゃん?」とお母さんの声。
やだ、お母さんてば隣で一緒に覗き込んでたんだ。
- 140 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時05分01秒
- あせったあたしには気づかずにお母さんは
「あんたこの頃大きくなったら梨華ちゃんと結婚する!
なんて言ってたわよ、よく。」
そんなことを言い出した。
「それはムリよって何度も言ってもきかないんだもの、あんたたち。」
そう言って懐かしそうに笑うと台所のほうへ消えて行った。
あたしは真っ赤になって床から動けずにいた。
あんたたち。梨華ちゃんも?そんなこと言ってたんだ。全然覚えてないよ。
け、結婚って…。子供ってすごいね。すっごいね。
- 141 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時05分50秒
待ちわびた木曜がやってきた。
3階までノンストップで駆け上がったあたしは
深呼吸して髪をかるく整えてから図書室のドアを開ける。
読み終えた本はすぐに返しに来ても
よかったんだろうけど木曜なら梨華ちゃんに会える気がした。
お昼過ぎから振り出した雨は
しとしとと振り続いていて
外は薄暗く、図書室の中は電気が灯っている。
…やっぱりいた。
カウンター越しの
梨華ちゃんは茶色い縁の眼鏡をかけていて
手元の本に視線を落としている。
あたしにはまだ気づいていない。
なんだかちょっと見ていたくなって
音を立てないように近くの席にそっと腰を下ろす。
- 142 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時06分23秒
- 周りには何人かの生徒が
参考書なんか広げているあいかわらずの別世界。
感心ですねぇ。
そのうちのひとりがあたしを見て
「えっ。」って顔をした。
失礼ですね。話したこともないでしょうが。
梨華ちゃんに視線を戻す。
あ、笑った。
お、怒った。
え、なんか悲しそう。
ころころ変わる梨華ちゃんの表情。眼鏡似合ってるなぁ。
それにしてもいったいぜんたい何の本を読んでるんでしょう?
- 143 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時06分57秒
- そーぅっと近づいていって
「なに読んでるの?」
覗き込んでみた。
「きゃっ。」
そう叫んでばたばたと閉じるその表紙には
『12星座 恋占い 乙女の心理学 』ってピンクの大きな文字。
真っ赤になってこっちを見上げる梨華ちゃん。
あはは、かわいい。女のコですねー。
あ、あたしもか。
- 144 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時07分31秒
- 「今日は部活無いの?」
あたしの制服姿を見て梨華ちゃんがたずねてくる。
「うん。やすみ。これ返しにきました。」
バッグから本を取り出す。
なんだかよくわかんないけどよかった
たいしたことも言えないあたしに
嬉しそうに微笑む梨華ちゃん。
梨華ちゃんは眼鏡をそっとはずすと窓のほうを見て言った。
「雨まだ降ってるのかな。」
なんだかその声が少し困っているように聴こえたので
「カサないの?それならさ待ってるから一緒に帰らない?」
返事を待たずに一気にそんなこと言ってしまった。
- 145 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時08分20秒
- あくまでも自然に言ったつもりだったけど
口から出てきたのは早口でしかも裏返った声。
だけど梨華ちゃんはぱあっと笑顔になる。
「ありがとう。助かっちゃう。あと少しで終わりだから。」
それを聞いてあたしも笑顔になる。
やったね。
相合傘。そんなフレーズが頭の中に浮かぶ。
最近のあたしの思考はなんだか少女漫画じみてるなぁ。
こないだ授業中柴ちゃんに借りた『恋愛カタログ』のせいかな。
前はああいうのって、かゆくってくすぐったくって
読んでられなかったあたしだったのに。
- 146 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時09分06秒
気づくと図書室のなかには誰もいなくなっていて
「お待たせ。」
そう言った梨華ちゃんとともに図書室をでる。
鍵を返しに職員室へ向かう途中で
「ひゅうひゅうー。」
と、聞こえてきたその声に目を向けると
矢口先輩と安倍先輩が廊下の向こうから歩いてきた。
ひゅうひゅうって…。そんなのドラマの再放送ぐらいでしか
聞いたことないよ、せんぱい。
「お似合いじゃん、ふたり。」
さらにそんなチンピラみたいな寒いことを言う矢口先輩。
となりには笑顔の安倍先輩。そっちですよ、お似合いなのは。
- 147 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時09分52秒
- 「なにゆってんですか!あたしたちはただの幼なじみなんです。ね?」
あせってそう言って隣の梨華ちゃんに同意をもとめる。
うん、うんとしっかり頷いている梨華ちゃんにちょっとショック。
でも事実ですからね。仕方ない。
帰り道、雨は勢いを増していて
あたしは神様にありがとうと言いたかった。
あたしの左肩はすでにびしょびしょで制服が重たいくらい
雨にぬれていたけれど、そんなのぜんぜんかまわないって思った。
だって隣には梨華ちゃんが。
大好きなひとが。
あ、つまづいた。
- 148 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時10分32秒
雨の中をふたりで帰ったあの日以来あたしたちの距離はぐんと近づいた。
というよりも小学生の頃の関係に戻った感じなんだけれど。
あたしの部活の無い日なんかは自然に帰りに誘えるようになったし
朝だって家の前でばったり会えば、一緒に通うようになった。
実はあたしがこっそり登校時間を30分遅らせて梨華ちゃんに合わせたんだけど。
そのせいで学校ではあたしたちが付き合ってるって噂もたっているらしい。
全然そんなんじゃないのに。悪い気はしないけれど。
それと、ふたりとも観ているドラマがある日なんかは
終わったあと窓ごしの電話も欠かさなかった。
- 149 名前:6. 投稿日:2002年06月06日(木)20時11分08秒
- 普段テレビなんかアニメとガオレンジャー、あ、今はもうハリケンジャーだ。
それくらいしか観てなかったあたしは
驚くくらいテレビっコの梨華ちゃんに話をあわせるために
滅多に観ない恋愛ドラマなんか観るようになっていた。
「月9みたぁ?」「みたみたぁ!」なんて言っちゃって。
こういうのってなんかカッコワルイけどそんなに悪いもんじゃないね。
いつだって梨華ちゃんと交わす会話は他愛もないことだったけれど
あたしにとって、それは一日の中で一番素敵な時間だった。
高校生になってはじめての夏休みはもう目の前に迫っている。
- 150 名前:サジー 投稿日:2002年06月06日(木)20時11分49秒
- 更新終了です。
レスすっごく嬉しいです。
こんな駄文を読んでくださって感謝感激です。
みなさんありがとうございます。
>134 名無しさんさま
ありがとうございます。
ほんとに懐かしいですよね。
>135 名無し読者さま
ありがとうございます。辻加護は書いてて最高に
楽しいってことがわかりました。今後も多分大活躍(?)の
予定です。なんちゃって吉澤くん伝わって嬉しいです。
>136 ごまべーぐるさま
ありがとうございます。メール欄めちゃくちゃかわいい。
あの映画、昔一回観た時その良さがわかんなかったんです。
最近、人にすすめられてもう一度じっくり観てみようって
思ってたところだったのでビックリしました。
ごまべーぐるさんてエスパー?
>137 名無しどくしゃさま
ありがとうございます。
吹き出してもらえると嬉しいです。
- 151 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月06日(木)21時29分56秒
- ヨシコ、ナイトだなあ。自分は雨に濡れてもいしかーさんは濡れないようにする!
オトコマエ!
( ^▽^)¶ <ウフフ アハハ>(^〜^0)¶
窓越しの電話、萌え〜。
>ごまべーぐるさんてエスパー?
さて、どうでしょう(w?
- 152 名前:6. 投稿日:2002年06月07日(金)14時41分14秒
「ねぇ、よっすぃー。梨華ちゃんとはどうなってんの?」
「んー。どうって?それにしても梨華ちゃんてさ、なんであんなにかわいいのかなー。
きのうだってさ、電話の途中でキャッなんて声だしてさ
どーしたのかと思えばあたしの横に人影が見えたんだってさ。
なんだか上半身だけのサラリーマンだったらしいんだけどさー
そんなんいるわけないじゃんねー、しかもさー」
「あのー。いいですかー、よっすぃー。お話あるんですけど。」
あたしの話をばさりと中断したごっちんは
何かのパンフレットをばんと机に広げてみせた。
- 153 名前:6. 投稿日:2002年06月07日(金)14時42分29秒
- んー?熱海 温泉の旅。温泉か。梨華ちゃんて浴衣とか似合うだろーな。
ぼんやりと想像して微笑んでしまうあたし。
「うぉーい、よっすぃー!このいろぼけが!
コレだから恋愛遅咲きのやつってイヤ。」
うわひでぇ、ごっちん。あんなに喜んでくれてたのに。
唖然としているあたしに
「イヤにもなるよ。朝から晩まで梨華ちゃん梨華ちゃんって。
だったらさっさとものにしちゃえ!っておもうの、あたしは。」
ごっちんは意気揚揚とそんな恐ろしいことを言い出した。
モノニ?ものに。なんてことを。
- 154 名前:6. 投稿日:2002年06月07日(金)14時43分26秒
- 「そこでですねー。これなんです。
ハイ、タイトルはダブルカップル熱海、温泉の旅。」
なんだかセンスがないうえに
殺人事件ってつけたくなるようなタイトルだね。
「あのねー、ごとー、いちーちゃんと行く予定なんだけどさー
やっぱりここはよっすぃーのことも協力したいじゃんね?」
「え。梨華ちゃん誘って4人で旅行ってこと?」
「そゆことです。めずらしくハナシがはやいね、よっすぃー。」
うわ。そんなの。なんて素敵な計画なんだろう。
でもせっかくふたりきりのところに悪いんじゃないかな。
そう言い出したあたしに、ごっちんはハイテンションに早口で言う。
「ううん!ぜんぜん!部屋だって別々だしさ。
それに4人って言ったほうが親とかも安心すんじゃん。」
- 155 名前:6. 投稿日:2002年06月07日(金)14時44分07秒
- ほほう。市井さんってごっちん家では彼氏として存在してるんですか?
あたしはこの間見せてもらったプリクラの市井さんを思い出した。
ごっちんの携帯の電池パックの裏に、金髪のショートカットで
涼しげに微笑んでいる市井さんは確かに魅力的で
なんとなくごっちんがベタ惚れな理由もわかったような気がした。
それにしても嬉しい提案。小学生の頃から貯めていた郵便貯金も
けっこうある筈だし、ここは勇気出して誘ってみよう。
「よし、それじゃあさっそく行ってくるよあたし。」
「すごいね、よっすぃー。熱いねー。」
「燃えてるねー。」
いつもどおり場外から声があがるけど笑顔でスルー。
- 156 名前:6. 投稿日:2002年06月07日(金)14時44分46秒
「あ、よっすぃー、さっきのハナシだけど、いるよ。たまぁに見える。」
「んん?ごっちんなに?」
「だから、半分だけのひと。サラリーマンの。
だいぶまえにツージーたちが連れてきてさ
よっすぃーのとこおいてったもん、こっそり。
でも大丈夫。悪いひとじゃないみたいだし。」
はぁ?なんのハナシしてんだよ。
辻が?さらりーまんを?はんぶん?
「なんの霊なんだろーねー。」
- 157 名前:6. 投稿日:2002年06月07日(金)14時45分29秒
- なんでもない感じに呟いたあと、ごっちんはあくびをして
机のうえにごろりといつものお休みの体勢。
「ええ!オバケってこと?まじでー!?
かっけぇ!まーいいや。とにかく行ってくる!」
「すっごいね。霊なんてどーだっていいからとにかく梨華ちゃんだ。」
「ほんとよしこ、アホ度が増してるよね。とり憑かれてんじゃない?」
うるさい、何とでも言ってろ!
でもあたし確かにとりつかれてるかもしれないな。
だってあたまのなかほとんどりかちゃん、だもん。
- 158 名前:6. 投稿日:2002年06月07日(金)14時46分22秒
- 2年のクラスに飛び込んだあたしは
梨華ちゃんの姿を見つけると嬉しさのあまり思わず叫んでしまった。
「梨華ちゃん!熱海へいくぞ!!」
「は、はい。」
わけもわからず圧倒されて返事する梨華ちゃん。
「オー!コングラッチュレーショーーンズ!!」
アヤカさん率いるおねえさんチームが立ち上がって拍手する。
「素敵なプロポーズね、吉澤さん。」
「うん、ほんと感動したわ。」
拍手喝采の見知らぬひとたち。どうもありがとう。幸せにします。
ってそうじゃねぇよ、あたしなんてことを。
けどなんでプロポーズ?熱海って言っただけなのに。
疑問に思って梨華ちゃんを見つめると彼女は真っ赤になって俯いていた。
- 159 名前:サジー 投稿日:2002年06月07日(金)14時48分27秒
- ちょこっとですいません、更新終了です。
>151 ごまべーぐるさま
ありがとうございます。うひゃあかわいい。
いつも温かいレス本当に嬉しいです。
やっぱりエスパーだ!
今後もよろしくお願い致します。
- 160 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年06月07日(金)17時06分54秒
- キャーな展開になってきましたね。
それにしてもちょびっと切ないですね。
- 161 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月08日(土)00時41分46秒
- >「梨華ちゃん!熱海へいくぞ!!」
ワラタ
霊にとりつかれてるのに頭のなかりかちゃんなヨスコにカンパイ!
( ´ Д `)ノ□<んあ〜
喜んでいただけて何よりです(w
- 162 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時23分04秒
「もー。はずかしかったよ、ひとみちゃん。」
「いや、ごめん。でもどうして。」
「あの時、ちょうどね?結婚したら新婚旅行は
どこに行きたいかって話をしてたの、みんなで。」
「え!」
「アヤカは地中海とか言って、ミカとれふあちゃんはハワイだったかな?」
「で、り、梨華ちゃんは?どこ行きたいって?」
「………熱海。」
「ええ!」
「熱海って言ってみんなに笑われてるとこに、ひとみちゃんが飛び込んできたの。」
うわー、そりゃあナイスタイミング!じゃないよね…。
あたしってどうしてこう…。まじでとり憑かれてるかも。
- 163 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時23分57秒
- 「けど、どうして熱海なの?だって新婚旅行でしょ?」
「昔ね、家族で旅行に行ったときすっごく楽しかったから。
あの時の思い出が、私にとってにばんめの宝物なの。」
「二番目?一番目は?」
あ、笑って流された。こんなふうにごくたまにだけれど
梨華ちゃんはなにかを曖昧にごまかすことがある。
そのたびになんとなく飯田先輩の存在を思い浮かべてしまって
あたしの胸はちくりと痛む。
でもそっか。そーなんだ。家族旅行か。
そういえば梨華ちゃんちはわりと複雑な家庭環境にある。
小さい頃からお父さんがあんまりお家にいなくって、お母さんはなんていうんだっけ。
お妾さん?そういうやつらしい。つまりお父さんには他にも家庭があるってことだ。
あまり詳しくは知らないけれど。
- 164 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時25分10秒
- それでも梨華ちゃんちお母さんはいつでもニコニコと笑っていて
あたしは幼いながらに梨華ちゃんちおかあさんはキレイでいいなって思ってた。
うちの両親も全然普通に接していたから
梨華ちゃんが近所のコたちにいじめられているのが不思議で、そして許せなかった。
何度も何度も戦ってケンカして、ようやくあたしがここいらの
ボスになったときみんなを並ばせて言ったんだっけ。
「梨華ちゃんを泣かせる人ははんごろしにします。」
今考えると恐ろしい子供だったかも。
- 165 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時25分44秒
気が付くといつもの公園に辿り着いていた。
最近はこうやって一緒に帰るときは必ず
この公園のベンチでおしゃべりするのが2人の日課だった。
「なに考えてるの?にやにやしちゃって。」
ベンチに先に腰掛けた梨華ちゃんはあたしを見上げて
おもしろそうな顔してる。
「思い出してた、昔の梨華ちゃん。」
「えー。やめてよ。恥ずかしい。」
「なんで?めちゃくちゃかわいかったくせに。」
「…。ひとみちゃん言ってから自分で照れるようなこと
言わないでよ、こっちが恥ずかしいんだから。」
「はは。照れてなんかいませんよー。」
「うっそ。顔あかいもん。まっかだもん。」
「自分だって。」
- 166 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時26分20秒
恋愛経験が皆無に等しいあたしだって、この雰囲気が
ただの友達とか幼なじみ以上のものだってことはなんとなくわかる。
それが妙に心地よくって
逆にあたしを縛り付けていた。
もし気持ちを伝えたら、壊れちゃうのかな。
こうやってただ笑いあってるだけでしあわせなはずなのに
それでも梨華ちゃんを思う気持ちは日に日に大きくなって。
あたしは… このままでいいのかな。
- 167 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時27分13秒
「んなわけあるかぁ!あほかーー!!」
ええっ!!
「そだよ。だからよっすぃーはお子様だと言うとるわけです。」
「そや。ん?のの関西弁になっとるで。」
「あ。ほんまや。ほんとだ。あはは!うつったー。」
「うつった!関西弁苦手なくせにぃ!うつったで!!」
「あはは!そやそうやー そうやねんおこるでしかしぃーー」
「なんやねん!なんでおまえらここにおんねん!!」
「あはは!よっすぃーもうつった!」
「うつった、うつった!!」
- 168 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時27分57秒
- …あー、あったまいってぇ。
梨華ちゃんと別れたあと家に帰ってきたあたしは
既に部屋で待機していた子悪魔ふたりの存在を知る訳もなく
制服のままベッドにダイブすると心のうちをぶつぶつと語ってしまった。
どこにいたの?あ、ふつうに座ってたんだね。気づけよ、あたし。
「どうやってはいりこんだ?」
「な、ひとを空き巣みたいに言うたで、こいつ。しつれーな。
おばさんがあげてくれたわ。紅茶だっていただきました。」
「ごちそさまでした。」
それにしたってこのふたりが家に来るなんてはじめてのことだ。
加護と辻はカラフルな私服姿で、クッションのうえにちょこんと正座している。
- 169 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時28分34秒
- 「で、どうしたの。」
「あ、ほんとの用事はな、おっちゃん連れにきたんや。おっちゃん。」
「あ、いた杉本さん。」
な、なにいってんのこのコたち。誰に向かって話してんだよ。
部屋の中をぐるぐる見回すあたしを無視して
ふたりの視線はあたしの肩越しのほうへ向かっている。
「お礼言いやー。お世話になりましたって。」
はぁっ?
「あはは。杉本さん寂しがってるよぅ、あいぼん。」
「ほんまや、よっぽどよっすぃーのそばが気にいったんですねぇ。」
「ちょっと待て。さっきから。杉本さんてだれだよ!」
- 170 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時29分06秒
えっと簡単に言えば地縛霊みたいなもんです。前、うちにいたんだけど
先月はどうしてもだめだったんです 泊まりにきてたお客さんと気が合わなくって
お客さんはねーおねえちゃんのギャル友達でなかざーさんってひとだったんだけど
けっこう年なのにギャルーな感じでカラコンいれててねーののびっくりしたんですー
目が!目がーって!しかもねなかざーさんってネイルもこっててーすごいんですつけ爪が
いきなり機械みたいに早口で説明を始める辻。ノンストップのの。
なんかこわいよ。背中に電池とかはいってないよね?
「わ、わかったちょっと待って。そのなかざーさんの説明はいいから。」
「あー。そーですか?ののはダイスキなんですけどね、中澤さん。
それで、その杉本さんをあずかってもらってたわけです、よっすぃーに。」
- 171 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時29分43秒
- え、杉本さんの説明は無いんですか?
でもそういやごっちんもなんか言ってたっけ。
「ふぅん。それで今日迎えにきた、と。」
そうそう。と頷くふたりに、あっさり信じたあたしは
「でもどうして?その杉本さんってあたしにくっついて回ってるんでしょ?
わざわざうちにまで来ることないじゃん。」
そう尋ねると、ふたりは照れくさそうに顔を見合わせた。
「いやねぇ、よっすぃー。うちらも忘れてたわけじゃあないんだけど
期限が今日までだったんです。」
「きげん?」
- 172 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時30分30秒
「そう。ほんまもんの地縛霊になってしまうんです。このまんまじゃ。」
「そう。今日をのがすと杉本さん成仏できないんだよね。」
「それをさっき思い出してねー。いやあ、あせったあせった。」
「それではさっさと終わらせて頂きます。」
ええ?ここで?やだなぁなんか。しかも確実に忘れてたんだろ、おまえら。
ふたりはすっくと立ち上がると変な動きを始めた。
『「 ぶりんこう○こがかがやいてみえるー みえるー みえるー 」』
- 173 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時31分18秒
- え。それで成仏できるのかな、いいの?杉本さん?
『「 釈迦 しゃか 釈迦 しゃか なー なー なー なー 」』
どんどん激しくなるふたりの動き。
あ、あれは…
杉本さん!あたしにも見えちゃったよ。うわー。まじで上半身しかないや!
うん確かにいい人そうだけど…普通のおじさんだ、ね…。
このひとずっとあたしの近くにいたってこと?やだなぁ恥ずかしい。
杉本さんは何かの力によって、ぐるぐる部屋の中で回転し始めた。
うわぁ、行くんだね。逝くんだね!杉本さん。さようなら!
- 174 名前:6. 投稿日:2002年06月10日(月)16時31分53秒
杉本さんの姿が完全に見えなくなる直前に
「よしざわひとみーー あんたの恋は叶うよーーどんといけぇーーーーー!」
そんなうめき声みたいなのが聴こえた。
一瞬背筋が冷たくなったけど
杉本さんなりのお礼みたいなもんだったのかな。
目の前でへばってるちびっこふたり。
なんなんだろ、こいつら霊媒師ってわけ?
飯田先輩はエスパーだし、このふたりは霊媒師。へぇ。
なんだかジャンプで連載してそうな話ですね、とあたしは思いました。
- 175 名前:サジー 投稿日:2002年06月10日(月)16時32分42秒
- この話はいったいどこに向かっているんだろう、と作者は思いました。
更新終了です。
>名無しどくしゃさま
ありがとうございます。
…切ないんです。そうなんです。
今回は、すいません…。
>ごまべーぐるさま
ありがとうございます。
カンパイ!ごっちんかわいい…。
- 176 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月10日(月)17時02分38秒
- 新婚旅行に熱海ですか。熱海の観光協会が涙を流して喜びそうですね(w
ワールドカップの客が思ったより全然入ってないそうだから。
>「梨華ちゃんを泣かせる人ははんごろしにします。」
さすが昔のあだ名が「凶暴女」だっただけのことはある(w
- 177 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年06月10日(月)19時29分10秒
- ん〜切ない。切ない系は結構好きなので…いいのですがな(W
熱海での絡みに期待期待。
- 178 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月10日(月)20時04分56秒
- 从 #~∀~从ノ<紹介します。こちら幽霊の杉本さん。背は低いけど優しいヒト。
お父さんと一緒で釣りが趣味なの(ry
以前、新幹線のこだまに夜乗って『夜も更けて参りました、次は熱海〜』っていう
アナウンスを聞いてから、熱海は気になる存在です。
- 179 名前:名無しドクシャ。 投稿日:2002年06月11日(火)00時10分20秒
- すみません、本編もさることながら
>この話はいったいどこに向かっているんだろう、と作者は思いました。
にウケてしまいました。
どこだって つ い て 逝 き ま す。
- 180 名前:ぶらぅ 投稿日:2002年06月11日(火)00時50分33秒
- この話いいですね〜。
自分好きです!学校生活の頃を思い出しながら読んでます(w
自分は熱海の近くの妻良ってとこに逝ったことを思い出しました
どこまでもついて逝きますのでがんがってください。
- 181 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月11日(火)11時22分15秒
- ポップ文体でこの甘酸っぱい展開!
さてわオヌシタダモノデハナイナ?(w
おもしれぇのです。熱海旅行に期待。
- 182 名前:7.せんこう花火 投稿日:2002年06月13日(木)14時16分11秒
「ぅあちー。」
体育館の脇の水道で水をがぶがぶ飲んだあと
顔をばしゃばしゃと洗う。
夏の日差しがゆっくりとやわらかいものに変わっていく時間。
バレー部強化合宿は今日でおわり。
練習も終わって、あとはみんなで打ち上げを兼ねた夕食を食べて解散。
あたしの胸は終業式の日からずっとドキドキと高鳴っている。
夏休みがこんなにわくわくするなんて小学生以来かもしれない。
- 183 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時17分12秒
- バレー部の練習は、この合宿さえ終わればあとはしばらくお休み。
そしたらあれですよ。旅行!熱海!梨華ちゃんに会える!いえい!
この合宿だってほんとにお泊り会みたいなもんで気楽なものだったし。
うちのバレー部、弱小でよかったかも。
なんて矢口先輩が聞いたらめちゃくちゃ怒るだろうな。
矢口先輩は3年生なので、この合宿が終わったら引退だ。
すでに練習は終わっちゃったから
もう一緒にバレーすることもない。
そう思ったら少し切なくなった。
ついさっき終わった最後の練習試合を思い返す。
コートの中をいつも以上に飛び回っていた矢口先輩。
あたしたち1、2年の後輩チームに大差で勝って
試合終了の笛が高く鳴ったとき先輩は
「おわったーーーー!!」
と叫んでボールを高くたかく打ち上げた。
- 184 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時17分57秒
永遠のように思える時間は確実に過ぎていて
何年か後にはこの学校にはあたしたちはいないんだよね。
もしかしたらこの街にだっていないかもしれない。
みんなバラバラになっていく。
あたりまえのことだけどそんなふうに
考えたこと無かったな。
「ホラ、吉澤。」
その声に振り向くとタオルを差し出す矢口先輩。
受け取ってごしごし顔を拭いて、なんとなく頭を下げる。
「ありがとうございます、矢口先輩。」
「なにかしこまってんのー?似合わねー、よっすぃー!」
- 185 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時18分42秒
- 矢口先輩はふざけて
水道の蛇口を思い切りひねってこっちに向けてきた。
「うわ!つめて!」
なんてことすんだ、このひとは。
一瞬で水浸しになるあたしを見て大笑いしてる先輩。
あたしは突進して隣の水道を陣取って、矢口先輩に向けて水を飛ばす。
「きゃーきゃー!冷たいよ、よっすぃー!」
なぜか嬉しそうに水をかぶる先輩。あはは。
あたしたちの声につられて、みんなもやってくる。
- 186 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時19分39秒
―1時間後
バレー部全員分のTシャツが色取り取りに風に揺れるのを
ぼんやりと見つめていた。
ゆっくりと夏の夕暮れが近づいている。
「どしたの、なんかセンチメンタル南向き?」
そう言って、隣に矢口先輩が腰を下ろしてきた。
「ううん。そんなんじゃないですよ。っていうか意味わかんないよ。」
そう答えて笑うと、矢口先輩も照れくさそうに笑った。
その横顔をぼんやりと見つめる。
先輩はほんの少し年上なだけなのに、もういろんなこと考えてるんだよねきっと。
こんなにちいこいのに。それは関係ないけどさ。
- 187 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時20分20秒
「矢口先輩は卒業したらどうするんですか?」
「矢口はねー、東京行く。夢があるから。」
「ゆめ?どんな?」
「それは言えないよー。不言実行ってやつです。」
ほほぅ。かっこいーですね。そっか、東京か。
先輩の目はきらきら輝いちゃっててなんだか眩しい。
「叶うといいですね。その夢。」
そう言うと先輩はとても嬉しそうに微笑んで呟いた。
「ありがと。」
あたしは応援します、なんてったってかわいい先輩ですから。
いつかの矢口先輩のセリフを心の中でつぶやく。
照れくさいから口には出さないけれど。
それにかわいいってなんだよーって言われるだろうしね。
- 188 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時20分59秒
「こんにちわー。差し入れでーす。」
背後からいきなり聞こえたその声に、ふたりして振り向くと
安倍先輩がニコニコといつもの笑顔で立っていた。大きな袋を抱えている。
「な、なっちどしたのさ?」
あせって駆け寄る矢口先輩の後ろから
ひょいと袋の中を覗き込むと、そこには花火がぎっしりつまっていた。
- 189 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時21分46秒
安倍先輩が加わったおかげで夕食のカレーはとても美味しかった。
てきぱきと料理をする安倍先輩と
そのまわりをうろちょろする矢口先輩はなんだかすごく微笑ましい。
陽はすっかり落ちて最後の夜がやってきた。
部員のみんながきゃあきゃあ花火を楽しんでいるのをぼんやり見ていたら
「ハイ、これ。」
隣にしゃがみ込んだ安倍先輩が線香花火を差し出してきた。
「競争しない?先に落ちたほうが負け。」
微笑んでいる安倍先輩に
「いっすよ。何か賭けますか?」
そう言いながら笑顔で受け取る。
- 190 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時22分24秒
- 安倍先輩はしばらく真剣に考え込んだ後、ちらりと向こうの方に目を向けた。
そこには、きゃーきゃー言ってロケット花火と格闘している矢口先輩の姿が見える。
こっちに視線を戻すと安倍先輩はぽつりと言った。
「なっちね、ずっと悩んでることがあるの。それを賭ける。」
それって勝負にならないんじゃ…と思ったけれど
その言葉がとても真剣だったので口には出せなかった。
あたしは何となくわかったような
わからないような気持ちで安倍先輩を見つめていた。
いつもの笑顔は消えていて、初めて見る表情の安倍先輩は
普段よりも少し大人に見えた。
- 191 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時22分57秒
- 「よっすぃーは?」
つられてあたしは梨華ちゃんのことを考えてしまった。
何につられたんだかよくわかんないけど、今安倍先輩が
考えてるのはきっと矢口先輩のことなんだろう。
よし、ここはのっかろう。
あたしはもし負けたら梨華ちゃんに気持ちを伝える。
でも負けたらってのはなんかヤダな。
よし、勝ったら。あたしが勝ったら梨華ちゃんに気持ちを伝えよう。
それでいいかな。そんなんで決めていいのかな。
それでもどこまでも真剣な安倍先輩の眼差しにあたしはつい決心してしまった。
「決めました。あたしも悩んでたことあって。」
- 192 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時23分33秒
- そう伝えると安倍先輩はライターを取り出して
カチリと火をつけた。一緒に花火に火を点ける。
ジリジリ音を立て始めた二つの線香花火。
小さな火花が安倍先輩とあたしの顔を照らす。
あたしは祈ってしまった。
心から、とても強く。
どうか落ちないで。どうか、どうか。
そうかあたしやっぱり伝えたいんだよね。
自分の気持ち。わかってはいたけれど
それは確実に、確信へと変わっていた。
安倍先輩も同じなのかな。
そう思って表情を伺うとその目になにか光るものを
見たような気がして慌てて目を反らす。
- 193 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時24分11秒
その時。
ポトリ。
あたしの持ってる線香花火の先端が落ちた。
と、同時に安倍先輩の花火も落ちた。
まったく同時に。
「あはは。一緒でしたね。」
安倍先輩の顔を見る。やっぱりね。
「答えでましたか。」
そう言うと先輩はうん、と深く頷いて顔を上げた。
いつもの眩しいくらいの笑顔だ。
- 194 名前:7. 投稿日:2002年06月13日(木)14時25分01秒
- すぅと息を吸い込んだ安倍先輩はいきなり
「やぐちーーーー!ずっと一緒だぞーー!!」
そう大声で叫んだ。
びっくりして尻もちをついてしまうあたし。
向こうのほうから大慌てで走ってくる矢口先輩。
顔真っ赤にしちゃって。
その様子を見てあたしと安倍先輩は顔を見合わせて笑う。
よかったね、先輩。よくわかんないけどあたしも嬉しいよ。
誰かが「おめでとーーー!」なんて叫んで
特大花火に火を点けた。16連発?すげー。
バシュッ バシュッ
と打ちあがるしょぼい花火は、あたしたちの夢や希望や
その他もろもろのいろんな気持ちを乗せて飛び立って行った。
- 195 名前:サジー 投稿日:2002年06月13日(木)14時25分44秒
更新終了です。
レスがいっぱいで嬉しいです。
恐縮です。給食です。
>176 名無し読者さま
ありがとうございます。
熱海、大好きなんです。がんばれ熱海!
>177 名無しどくしゃさま
ありがとうございます。
今後けっこう切ないかもです。
>178 ごまべーぐるさま
ありがとうございます。
そのアナウンスはかなり気になりますね。聴きたい、とても。
- 196 名前:サジー 投稿日:2002年06月13日(木)14時26分26秒
- >179 名無しドクシャ。さま
ありがとうございます。
ほんとに?(う、うん。)うわ…嬉しいです。
>180 ぷらぅさま
ありがとうございます。
そう言ってもらえるの凄く嬉しいです。
自分も遠い目をして書いています。今後もよろしくお願い致します。
>181 名無し読者さま
ありがとうございます。ほんと嬉しいです。
超うれしい。最後までよろしくお願い致します。
- 197 名前:名無しドクシャ。 投稿日:2002年06月13日(木)16時43分17秒
- はぁ〜やられたぁ〜
水道周りでバシャバシャ遊ぶ光景が
なんだかキラキラまぶしくて遠い昔を思い出し
ああ、なんかいいなぁこういうの、めちゃくちゃ作者さんウマイ!なぁ
と思っていたら!!
>センチメンタル南向き
でブハーっと吐き出しちゃった。(・∀・)ヤラレタ!
- 198 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月14日(金)17時15分00秒
- なちまりも萌えました。
(・´ー`・)<やぐちーーーー!ずっと一緒だぞーー!!
青春だ。
>センチメンタル南向き
自分もやられますた(爆
- 199 名前:7. 投稿日:2002年06月16日(日)14時44分23秒
「ひとみぃー。お醤油切れたー。おねがーい!」
はいよー。なんだよ、サッカーいいところだったのに。
だけど今のあたしはとびきり上機嫌なのですばやく立ち上がる。
あたしはTシャツと短パンという素敵ないでたちのまま
ビーサンをつっかけて近所のコンビニに向かった。
店内に足を踏み入れると
冷房がガンガンに効いていて一瞬にして汗がひく。
おー。今日ジャンプの日だ。忘れてた。
あと旅行になんかいるもんないかな。
お。これいいんじゃないの、プチ花札。
カゴに放りこんだあと
ごっちんの「んあ?」って顔が浮かんできてなんとなく棚に戻す。
- 200 名前:7. 投稿日:2002年06月16日(日)14時45分34秒
- 店内で流れてる有線の
「しーあわせですかー いまのあなたーはーしあわーせなんですかー」
という歌声に、ああしあわせさ。と心の中で呟く。
旅行はもう明後日に迫っていてあたしはかなり浮き足立っていた。
家の中でもじっとしていられなくって、
うろうろしたり突然叫んだりして両親にうざがられていた。
なんてったって親と一緒じゃない旅行なんて初めてのことだし。
それに梨華ちゃんに会うのもけっこうひさしぶりなんだよね。
梨華ちゃんはいま進学ゼミの夏季短期なんだかコースに通っていてわりと忙しいみたい。
- 201 名前:7. 投稿日:2002年06月16日(日)14時46分31秒
それでもたまに来るメールが、あたしを飛び跳ねるくらい喜ばせてくれる。
『合宿がんばってね!ファイッ!』とか
『旅行すっごく楽しみだね!』とかならまだしも
『ごめーん!ひとみちゃん今日の真珠夫人ビデオ録れる?』とか
『これやってみて!FW:これはアメリカで流行っている心理ゲームです…』
…こんなチェーンメールまで保護ってるあたしはきっとバカだよね。
そのせいであたしの携帯の受信メールボックスは
ほとんど梨華ちゃんからのものでマンタンになっている。
それをぐるぐるスクロールして見てるのがしあわせなんだから仕方ない。
- 202 名前:7. 投稿日:2002年06月16日(日)14時47分22秒
ジャンプとお醤油と一番お気に入りのアイスのスーパーカップバニラをぶら下げて
鼻歌を歌いながら帰る途中で事件は起こった。
「あらあら、ひとみちゃんじゃないの。」
「あらあら、吉澤さんちの。」
「あらあら、本当だ。」
うがぁ。近所では嫌われていてうちの母親なんかも
かなり煙たがってる噂好きのおばさんトリオに鉢合わせ。
こんな時間まで井戸端会議ですか。もう夕ご飯時だってのに。
「こんばんはぁ。」
ニッコリとつくり笑顔ですり抜けようとしたけれど
おばさんたちにわらわらと行く手を阻まれてしまう。
- 203 名前:7. 投稿日:2002年06月16日(日)14時48分39秒
- 「ひとみちゃんも知らない間にすっかり大きくなってねぇ。」
「ほんとねぇ。」
「これじゃ、男のコほっとかないでしょう。」
うわ。助けて…。こういうのすっごく苦手なんだよね、あたし。
しかもあたし今こんなだるだるの格好だってのに。嫌味ですか?
「ほんときれいになっちゃって。」
「石川さんち娘さんもねぇせっかくあんなきれいに育ったのにねぇ。」
「そうよねぇほんと。」
は?なんでここで唐突に梨華ちゃんのことが出てくるんですか。
唖然としておばさんたちを見つめる。
そんなあたしの様子には全く構わずにおばさんたちは声をひそめて話し続ける。
「あのコったらあれでしょ?前に見かけたけれど女の子と…ねぇ?」
「信じられないわよね、最近の若いコは。」
「やっぱりホラこんなこと言ったらあれだけど石川さんちはねぇ親も親だから…」
「いい加減にしてください!!」
- 204 名前:7. 投稿日:2002年06月16日(日)14時49分38秒
- 突然大声を出したあたしにおばさんたちは言葉を無くして固まった。
あたしは怒りのあまりぶるぶると震える拳を堅く握りしめて
その場を逃げるように立ち去った。
コンビニの袋がガサガサ音を立てて揺れる。
あの人たちまるで気持ち悪いものを見るような目をしてた。
すごく意地の悪い声で話してた。
梨華ちゃんのことを、あんな目で。あんな声で。
なんにも知らないくせに。なんにもわかってないくせに。
梨華ちゃんのいいところなんてなんにも知らないくせに。
涙が浮かんできそうになって歯を食いしばる。くそ。くそくそくそ!
何ひとつ言えずに逃げ出した自分が悔しかった。
ごめん、梨華ちゃん。
こんな時にまで飯田先輩の存在に嫉妬してしまう自分が情けなかった。
ごめんね、梨華ちゃん。
その夜に食べたアイスはしょっぱくってちっともおいしくなかった。
- 205 名前:サジー 投稿日:2002年06月16日(日)14時51分08秒
ちょこっと更新終了です。
>197 名無しドクシャ。さま
ありがとうございます。キラキラ眩しいってのが書きたかったんで
素敵なレスほんっとに嬉しいです。
>198 ごまべーぐるさま
ありがとうございます。
センチメンタル南向きはホント名曲ですよね。ワチゴナドゥ!
- 206 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月16日(日)16時37分04秒
- 真珠○人とチェーンメールに大笑いさせていただきました(w
小ネタ満載で飽きがないすね〜
更新頑張って下さい♪
- 207 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月16日(日)18時56分50秒
- 真珠○人とかの小ネタ((〜^◇^)/<見てるのかよ!)も笑いましたが、
いや、切ないっす。
いしかーの為にキレるヨスコ、辛いでしょうけど、がんがるのだ。
- 208 名前:. 投稿日:2002年06月17日(月)00時33分43秒
- いいっ!
もう、矢口の登場シーンには必ずため息ついちゃいます。
「青春ってなんか素敵やん・・」とつぶやいちゃいます。
楽しくて、切なくて・・・最高。
執筆、頑張ってください。
- 209 名前:8.理解して!>女の子 投稿日:2002年06月18日(火)18時39分25秒
ヒュルルルルルルル―― ド――――――ン
夜空に大きく咲いた花火は
あたしたちの笑顔を照らして闇の中に溶けていった。
「あー。終わっちゃった。今ので最後だね。」
そう言って振り返る市井さん。
熱海の花火大会はあたしたちのような観光客も多いため
湾岸沿いの道路は人で埋め尽くされている。
- 210 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時40分52秒
あたしたちの泊まる旅館は純和風の老舗旅館。
高校生のくせにいいのかな。そう言ったあたしは
吉澤らしいね、なんて初対面の市井さんにまで笑われてしまった。
さんざんごっちんからあたしの話を聞かされていたらしい市井さんは
あたしどころか梨華ちゃんのことまで詳しく把握していた。
一緒に出てくるつもりだったのになぜだか梨華ちゃんは
駅で待ち合わせというシチュエーションにこだわった。
「だってそのほうがなんかわくわくしない?」
そういうもんですかね。女のコって不思議。
自分だって女のコ(一応ね)なくせに梨華ちゃんといると
どうしても男らしく振舞ってしまうあたしがいた。へんなかんじ。
駅にふわりと現れた梨華ちゃんは真っ白なノースリーブのワンピースで
この間のことで凹んでいたあたしの気持ちを一気に明るいものに変えてくれた。
- 211 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時41分43秒
- 「ほいじゃあ、旅館に戻りますかー。」
そう言った市井さんの腕にしっかりつかまってるごっちん。
なんだか自然なカップルってかんじ。
人混みをかき分けるように進む二人の背中にぼんやり見とれてしまった。
半年前のあたしならあのふたりがカップルだなんてこと絶対気づかなかっただろうな。
「きゃっ。」
隣にいる梨華ちゃんがよろける。
花火が終わったあと、一斉に動き出す人の群れは駅の方へ向かっていて
目的地が逆方向にあるあたしたちにとって、帰り道は少し困難な道のりにみえた。
「大丈夫?」
覗き込んだ梨華ちゃんの目は少し怯えていて
あたしはこれだから女のコは。なんてまたもや思ってしまった。
これだから、かわいい。守ってあげたいって思っちゃうんだね。
- 212 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時43分00秒
- 「ハイ、いこ。」
そう言って梨華ちゃんの手を握るとぎゅっと
握り返してきたその手はちいさくって細くって。
あたしはこのまま一生旅館に辿り着かなければいいのになんて思ってしまいました。
小さな願いはあっさりと打ち砕かれあっという間に旅館の玄関に到着したあたしたち。
急に人混みから解放され、照れくさくなったあたしは梨華ちゃんの手をぱっと離した。
豪華ではないけれど、品のある旅館。
海沿いにあるその旅館の派手な柄の絨毯に足を踏み入れると
仲居さんがにっこり笑って言った。
「花火はきれいでした?」
『「はい。とっても。」』
- 213 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時43分41秒
- 夕方頃チェックインしたあたしたち市井様ご一行は、一旦荷物を置いてすぐに
花火大会へと出かけていたので、温泉にもまだ入っていない。
鍵を受け取って、エレベーターに乗り込む。
ごっちんたちはもう部屋でくつろいでいるのかな?
隣り合わせにとってある二部屋は和室で、夕食は四人一緒に
市井さんたちの部屋で食べようってことになっていた。
そのまんま通り抜けるのもあれなので、一声かけようと隣の部屋をノックする。
返事がない。出かけてるのかな?そう思いながらも無意識に
ノブに手を掛けると、くるり。あれ?鍵かかってないや。
- 214 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時44分34秒
- 梨華ちゃんと目を見合わせながらゆっくりドアを開ける。
「おーい、ごっちん?」
内側の襖を少し開けると部屋の中は薄暗い。やっぱり出かけてるのかな。
となりの梨華ちゃんがあっと小さく息をのんであたしの手を引っ張った。
わけのわからないあたしを廊下に引っ張り出して
そうぅっとドアを閉める。
「なになに?どうしたの?」
- 215 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時45分16秒
- なぜか真っ赤になってる梨華ちゃんは恥ずかしそうに
「あの…。邪魔しちゃわるいよ。」と呟いた。
ん?邪魔?
「え?中にふたりいたの?」
「うん、あの…キスしてたみたい。」
ええっ!見えなかった!そっかぁあのふたりはカップルなんだもんね。
いきなりドアを開けちゃいけないのか。キス…。へぇ。
もう一度ドアのノブを掴もうとしたあたしは
冷たい視線を感じて、われに返った。
- 216 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時46分06秒
「もぅ。信じらんない、ひとみちゃん。」
「だから冗談だってば。」
仕方なく自分たちの部屋に戻ったあたしたちは
2人にしては大きすぎるテーブルの端と端とに座っていた。
なんか不自然なのかな、この距離。
ふたりの時間にもだいぶ慣れてきているあたしだけど
このシチュエーションはやっぱり緊張する。
おまけにとなりの部屋の様子も気になって
妙な緊張感がふたりを包んでいた。
緊張してるのはあたしだけかと思っていたけれど
畳に座ってかちん、こちんに正座をしている梨華ちゃんは
やっぱりどう見ても緊張してる。なんでかなぁ。変なの。
- 217 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時46分49秒
「今回は決めてきなよ、よっすぃー。」
明るい無責任な声を思い出す。
終業式の日、みんなはあたしの背中をばしばし叩いて
「花火どかーんのあと告白!それしかないよ、よっすぃー!」
「そしたら温泉!きゃあ!よしこがっついちゃダメよ!」
なんてありがたい応援メッセージをたくさん頂きました。
…どうもありがとう、みなさん。
この旅行で気持ちを伝える、だなんてあまりにも単純な考えだけれど
そういうのもいいかもなぁ。
ぼんやりと思い出す
線香花火と安倍先輩の笑顔、それに、杉本さん(故)の言葉。
- 218 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時47分39秒
- 加護と辻に言わせると、あんなふうに霊が去り際に言葉を残すのは
かなり珍しいことらしい。
それを無駄にしちゃいけないってわけじゃないけど
とにかくなんとなくあたしは背中を押されて前に進める気がしていた。
梨華ちゃんの中で飯田先輩の存在がどれだけ残ってるのかは
想像もつかないけれど少しずつ、あたしを見てくれないかな。
- 219 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時48分49秒
- そんなこと本人を目の前にして考えていたら
「あのーぅ。はいってもいいですかー?」
おそるおそるといったかんじにドア越しからごっちんの声がした。
多分少しほっとしたんだろう梨華ちゃんは笑顔でドアを開けた。
「ねぇ梨華ちゃん、お風呂いこ?」
旅の道中ですっかり梨華ちゃんに懐いたごっちんは
甘えた声で梨華ちゃんを誘ってふたりは嬉しそうに部屋を出て行った。
あたしは?そう目でごっちんに訴えると
「よっすぃーはだめ!ねー梨華ちゃん?」
「う、うん。」
なぜか置いてけぼりをくらってしまった。
- 220 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時49分32秒
- 確かに一緒に温泉にはいりたいような、はいりたくないような
微妙な気持ちだったからそれは逆にありがたかった。
だって梨華ちゃんと一緒に温泉なんかはいったら
まともに会話なんて出来ないだろうから。どこ見ていいかわからないしねぇ?
はぁ。あたしってばまたそんな男のコみたいなこと。
「誰としゃべってんの?」
いつのまにか声に出してたらしくって
部屋の入り口に立った市井さんはきょとんとあたしを見つめていた。
- 221 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時50分07秒
- 慌てて咳払いしてごまかしたあたしに
「どこが見たいって?梨華ちゃんの。」
そう言ってにやりと笑う。
「あー、そのいじわるな顔ごっちんにそっくりですよ。」
そう言うとなぜだか照れくさそうに前髪を掻きわける。て、てれてんのか?
「吉澤と梨華ちゃんはつきあってどのくらい?」
ぶぶっ。あたしは飲みかけていたお茶を吹いてしまった。
- 222 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時50分52秒
- 「あたしたちそんなんじゃないですよ!」
「へ?」
ごっちんから聞いてると思ってたけどそのへんは曖昧だったんだ。
「でもさー、どう見てもカップルに見えるよ、きみたち。」
そうですか?嬉しさを隠して冷静を装ったあたしに
そうだよ?と全てお見通しなかんじの笑顔。叶わないなー、市井さん。
「だってどうみたって吉澤は梨華ちゃんのことダイスキ!って感じじゃん。」
「そりゃ、まぁあたしはそうだけど…。」
「あ、梨華ちゃんの気持ちは知らないんだ、吉澤。」
- 223 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時51分33秒
はたから見たらわかることも当事者たちにはわからないんだね
と意味深な言葉。どういう意味ですか?
「だからー。梨華ちゃんはどう見たって吉澤のこと好きだよ。」
へ!なに言い出すんだ、このひとは。
「いちおくえんかけたっていいよ。」
幼稚な賭けだなぁ。でもなにを根拠にそんなこと言えるんだろう。
ぶつくさ言うあたしに
「うーん、例えばさ後藤ってさ、あたしのこと見るときどんなふうに見てる?」
そう自分で言ったくせになぜかすごく照れてる市井さん。
「どんなふう…。すっごく、何て言うんだろう、
愛しいってかんじで見てますよね、市井さんのこと。」
- 224 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時52分21秒
- 自分で聞いてきたくせに、またもやすごく照れてる市井さん。
このひとって一見クールそうだけれど、こんなかわいいとこもあるんだ。
このギャップに女のコはくらりとおちる。なるほど。
「だからさ、そんな感じなの。梨華ちゃんが吉澤を見る目も。」
へぇー。なるほどねー。目、ですか。愛しい、目ねぇ…。
ってえええ!!梨華ちゃんがあたしを?梨華ちゃんがあたしを!!
「どうしよう、市井さん。」
「どうしようって?」
「あたし嬉しすぎてどうにかなっちゃうかもしんない。」
- 225 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時53分00秒
- どうしようどうしようと頭をぐしゃぐしゃかきまわす。
そんなあたしの手をがしっと止めると市井さんは顔を近づけてきて言った。
「今日だ、吉澤。気持ち伝えなよ。よっすぃーの人生がもう始まっている!」
うわ、市井さん微妙にお酒くさい。なんで?
「…強くなんなよ、吉澤。梨華ちゃんを守んないと。」
急に真面目な顔をした市井さんはあたしの目をまっすぐ見て言った。
そして優しく笑うとあたしの頭をぽんぽんと軽く叩いて
ぐるぐると腕を回しながら妙な動きで部屋を出て行った。
そのあとどれくらいぼーーっとしていたんだろう。
梨華ちゃんが部屋に戻ってきたことに気がつかなかった。
- 226 名前:8. 投稿日:2002年06月18日(火)18時53分43秒
「どしたの?」
ふいに声をかけられて見上げると浴衣姿の梨華ちゃんが立っていた。
髪をタオルでぱんぱん挟みながら。なんかすっごく。…色っぽい。
どきん
はぁ。やっぱり浴衣似合うな、梨華ちゃん。
市井さんの言葉が浮かぶ。
ま、まさかね。そんなことあるわけないじゃん。
冷静になろうと頭をぶるぶるふって立ち上がる。ぐあ、立ちくらみ。
「あたしもお風呂行ってくる。梨華ちゃんあっちの部屋行ってなよ。
もうすぐごはんだろうからさ。」
ふらふらしながら早口で言って
意味無くタオルでびしびし肩を叩きながら部屋を出るあたし。
市井さんのせいだー、顔見れないよ。
- 227 名前:サジー 投稿日:2002年06月18日(火)18時55分51秒
- 更新終了です。
>206 名無し読者さま
ありがとうございます。笑って頂けるとほんとに嬉しいです。
小ネタもそろそろ尽きてきましたが最後までよろしくお願いします。
>207 ごまべーぐるさま
ありがとうございます。確かに見てんのかよ!って
話ですよね。ビデオ録ってまで!って。
いつもありがとうございます。感謝です。
>208 さま
ありがとうございます。すっごく嬉しいです。
矢口さんって後輩思いなんだろうなーなんてなんとなく思ってました。
最後までよろしくお願いします。
- 228 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月18日(火)20時40分04秒
- 風呂上りの浴衣姿でコレだから、一緒に入ったりしたら鼻血ブーか失神して倒れて、
後ろ頭打ったりするかもしれませんね。
酒が入ってるとは言え、いちーちゃん、オトナ!(0^〜^)<カッケー!
決めてくれ!今夜!!(意味不明、スマソ(^^;;)
- 229 名前:オガマー 投稿日:2002年06月19日(水)00時29分12秒
- 市井さん、リスペクト(爆
作者さま、ずっと読んでますよー。
青春って感じがイイ!
よちこがんがれ…(ドキドキ
- 230 名前:9. おもいで 投稿日:2002年06月20日(木)16時51分51秒
露天風呂は最高に気持ちよくってあたしは上機嫌になった。
目の前には海がひろがっている最高のロケーション。
はしゃいだあたしはばしゃばしゃと泳いでしまって
他の泊まり客の人達にじろりと睨まれてしまった。
「梨華ちゃんはどう見たって吉澤のこと好きだよ。」
ついその言葉を思い出してしまってお湯に浸かったまま固まる。
まじで?いやいや、市井さん酔ってたもん。
あてになんないよ。大体あのひとは大人ぶってるけど
まだ18歳でしょうが。お酒なんか飲んじゃいけないんですよ。
ぶつぶつ口に出して言ってみるけれど
さっきの言葉は頭にこびりついて離れない。
- 231 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時53分05秒
ザッパ――――ン
勢いよくお湯に顔をつけてみたけどやっぱり言葉は離れない。
「ぷはぁ!ウッソだよそんなの!ふぅ、苦しい。」
ぎりぎりまで我慢して顔を上げて叫ぶと
周囲の人達があたしを見る目は
さっきの迷惑そうなものからすこし怯えたものに変わっていた。
- 232 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時53分49秒
ちょっとのぼせちゃったみたい。ふらふらと部屋のほうへ戻る。
ごっちんたちの部屋はすでに凄いことになっていた。
「よっすぃー!!」
襖を開けたとたん飛びついてくるごっちん。ん?お酒くさい。
「市井さん!何やってるんですか!」
そう言ってごっちんに抱きつかれたまま市井さんに目を向けると
すでに目がすわってる。なんなんですか、これは。
だめじゃないですか…あたしたちは健全な高校生で…
がしっ。
足もとに何かがしがみついた。
- 233 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時54分30秒
- うわっ。
よろけながら見下ろすと顔を真っ赤にした梨華ちゃんが
「ごっちーーーん。さわんないでーー。」
なんて言ってる。梨華ちゃんまで…。
「あはは!吉澤!もてもてじゃん!」
そう言って笑ってる市井さん。
もう。みんなしてなんだよ。
あたしは仕方なくずるずると梨華ちゃんとごっちんをひきずったまま歩くと
ふたりはひぃとかきゃあとか言って畳に転がった。
テーブルの上に目をやると
あたしのぶんの料理は手付かずに残っている。
待っててくれたっていいのに!
ていうか待ってるだろ普通。
なんて子供みたいにふてくされて
あたしは新鮮な海鮮料理をがつがつ食べ始めた。
あ、おいしい。これなんだろ。
- 234 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時55分08秒
- そのあいだもずっと梨華ちゃんとごっちんは飲んだくれていて
「あたしたち名コンビだねー。」
「どこがぁ?」
なんて言い合っている。
それを見ていたあたしの百年の恋は冷めた。
ってのは嘘だけれど。
でもさこの調子じゃ今日伝えるのはむりっぽいよ。
むりっぽいっていうより絶対無理だよ。
がっかりというよりホッとした気持ちのほうが大きいあたしは
意気地なしってことなんだろうか。
- 235 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時55分56秒
気づくと部屋の中は静かになっていて
あちこちから寝息が聞こえる。ええ?まじで?
時計に目をやると午後10時半すぎ。まだこんな時間。
あはは。たのしいね、旅行って。
お布団を敷きにきてくれた仲居さんは、あたしたちの様子を見て苦笑していた。
市井さんとごっちんをずるずると布団までひきずって寝かせる。
「うーーん。」
うーんじゃねぇよ。
酔い潰れてるくせにしっかり市井さんのほうの布団にごろんと
転がってくるごっちんに驚いた。うわ、こわ。ゾンビみたい。
そのまま市井さんに抱きついてるごっちん。
うあ、ちょっちょっと待って!
よくわかんないけどちょっと待て!ステイ!!
- 236 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時56分40秒
- あせって梨華ちゃんを抱えて自分たちの部屋へ戻る。
うわ。梨華ちゃん軽い。
梨華ちゃんをお姫さま抱っこしてる自分がなんか嬉しくって
廊下で意味無くくるりと一回転してみる。
だけどお姫様は目を覚ましません。
…なにやってんだあたし。
よいしょ、梨華ちゃんを布団に寝かせて、はぁとためいきをついた。
こんなはずじゃなかったのになぁ。
じゃあどんなはず?わかんないけど。
それでも梨華ちゃんの寝顔はとてもかわいくて。
この寝顔をみるのは本当にひさしぶりなんだよなぁ。
すやすやと安心しきっている天使の寝顔。
しばらくその寝顔を眺めてみる。
- 237 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時57分17秒
あたしはなんとなく、今までのことを思い出していた。
飯田先輩と梨華ちゃんのキスシーン。
それから公園で目撃した別れのシーン。
あの頃からあたしの片想いは始まったんだよね。
梨華ちゃんのことを好きになったのは
考えてみたら、まだほんの3、4ヶ月前ぐらいなんだけど
なぜかこの梨華ちゃんの無防備な寝顔を見ていたら
物凄く懐かしいような、いとおしいような
何とも言えない不思議な気持ちになった。
- 238 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時57分52秒
- なんだろう胸が熱い。
梨華ちゃん。
好きだよ。
大好きだよ。
なぜか涙が溢れそうになって慌てて目を背ける。
梨華ちゃんは眠っているんだから慌てなくてもいいんだけど。
ちょっとおかしいな、あたし。どうしたんだろ。
散歩でもして気持ちを落ち着けてこようかな。
あたしは服に着替えるとこっそりと部屋を出た。
- 239 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時58分30秒
夜の海は強い風が吹いていて
寒いくらいだったけれど、今のあたしには気持ちいい。
人工的な砂の海。人気は無く明かりも
道路沿いから照らしているほんの少しのものだけだから
あたりは暗く、波の音だけがとても大きく聴こえる。
振り返るとあたしたちの泊まっている
旅館が道路沿いのすぐ目の前にあって
あの中で梨華ちゃんは眠っているんだなぁ
なんてあたりまえのことを思ってしまう。
- 240 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)16時59分19秒
よくわからないんだけど
さっき梨華ちゃんの寝顔を見ていて
浮かんできたこの感情はなんなんだろう。
まだ胸が痛いような気がする。
…あたしは何か大事なことを忘れているような気がする。
ああやって梨華ちゃんの寝顔を見つめたことがあったよね、確か。
うーーん…。あれはいつ?
- 241 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)17時00分05秒
暗い海を見つめながら考える。
やっぱ思い出せない。思い違いかな。
その時、すぐ後ろの通りを一台の車が通り過ぎていった。
その音に振り返ったあたしは
急に眩しいヘッドライトの光を感じて目を細める。
頭の中で一瞬のフラッシュ。
ふいに思い出す。
梨華ちゃんの幼い寝顔。
夏の午後のにおい。
タオルケットの感触。
あれは、いつだっけ―――
- 242 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)17時00分54秒
―――あの夏の暑かった日。
まだあたしたちが幼かったあの夏の日。
公園で見かけた梨華ちゃんは男のコたちに囲まれていて
「おまえなんか愛人のコなんだろ!」
「どっか消えちゃえよ!!」
暴力よりもひどい言葉を震える小さな体で浴びていた。
気がつくとあたしはひとりであいつらに飛び掛かっていた。
- 243 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)17時01分26秒
- なんども殴られた。なんども蹴られた。
相手も幼い子供だから力はそんなに無かったはずだけど
加減を知らないせいか、あたしはすぐに鼻の奥にぬるっとしたものを感じた。
それでもあたしは
「あやまれよ!梨華ちゃんにあやまれ!!」
それだけをまるで呪文のように繰り返して
あいつらひとりひとりに立ち向かった。
立ち向かったというより最後はもうしがみついている状態だったけど。
- 244 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)17時02分05秒
あのあと梨華ちゃんの部屋で、泣きながら梨華ちゃんは
あたしの顔や腕のひっかき傷にバンドエイドを貼ってくれたんだ。
あたしは実は心の中でマキロンで消毒したほうがいいよなぁなんて
冷静に考えていたけれど、梨華ちゃんが泣き続けながらも
とても一生懸命だったので、そんなことは言い出せなかった。
- 245 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)17時02分46秒
- しくしく泣きながら
「ごめんね?ごめんね?」
と繰り返す梨華ちゃんを思い出す。
あたしはそれがとてもかわいそうでかわいそうで
ずっと梨華ちゃんの頭をなでながら
「梨華ちゃんは悪くない。絶対わるくない。」
そう言い続けたんだ。
そのうち泣き疲れて眠ってしまった梨華ちゃんに
うすいピンクのタオルケットをそっと掛けて
あたしはずっと見つめていたんだ、あの寝顔を。
そうだ、あの時。
あたしは幼い自分が決意した気持ちをはっきりと思い出した。
お母さんの言ってた言葉が浮かぶ。
- 246 名前:9. 投稿日:2002年06月20日(木)17時03分24秒
そっか。あんなに小さな頃からあたしは。
涙が浮かんできて慌てて鼻をすする。
どうして忘れていたんだろ、あんな強い気持ち。
その時。
「ひとみちゃん。」
空耳?違う。
風と波の音にかき消されそうになりながらも
確かに聴こえた震える声に振り返る。
- 247 名前:サジー 投稿日:2002年06月20日(木)17時05分13秒
- 更新終了です。
>228 ごまべーぐるさま
熱いレスありがとうございます。市井ちゃん!
ご期待に応えられるかどうか微妙ですけれども頑張ります。
あとちょこっとです。ほんとにいつもありがとうございます。
>229 オガマーさま
ありがとうございます。初めまして。
楽しくROMらせてもらってました。短編、完結お疲れさまです。
あと少しよろしくお願いいたします。
- 248 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月20日(木)18時13分25秒
- ああああ!いいとこで!(w
おもしろい〜切ない〜
なんかもう純粋すぎるヨシコに胸キュンですよお!
はあ〜ため息ボーボーでます。
- 249 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年06月20日(木)18時40分06秒
- くぅう!ドキドキですよ。
こうゆう小説待ってた!(w
…もうちょいで完結ッスか…ちょび淋しい。
次の更新楽しみにまっとります。
- 250 名前:208 投稿日:2002年06月20日(木)19時34分30秒
- ははは、女房子供がいる時間に
ROMは失敗・・泣くっちゅ〜の。
ほんと、最高です。
- 251 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月20日(木)23時43分49秒
- (0ノ〜Tメ)<梨華ちゃんはオイラが守る!
ヨスコ!それでこそオトコだ!
終わるのは寂しひけれど…穏やかな気持ちで待つとします。
- 252 名前:オガマー 投稿日:2002年06月21日(金)04時24分53秒
- んあ〜、胸がジーンとします
声の主とはこの後…??
- 253 名前:やま 投稿日:2002年06月21日(金)21時53分10秒
- サジー様。この作品大好きです!!今にも涙が出そうです。。
これを読んで、僕も小説書いて見る事にしました。最初がかなりかぶりぎみなのが心配ですが。。
更新楽しみにしてます。
- 254 名前:10.電車の二人 投稿日:2002年06月22日(土)15時46分32秒
―――――夢を見ていた。
あの約束を覚えているのは私だけなのかな。
- 255 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時47分47秒
世間では複雑だと言われる家庭環境に育った私。
でも私は自分のことを一度だって不幸だとは思わなかった。
母は強くて優しくて、ときおり会える父は堂々としていて逞しくて。
そしてなによりも。
いつだってあのひとが隣に居てくれたから。
幼い頃、いつでも隣にいて私を守ってくれた幼馴染。
- 256 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時48分58秒
- 小さな頃、いつも近所で虐められていた私をかばって
その度に傷だらけになっていたあのひとはにっこり笑って言った。
「ずーーっと守ってあげるから。」
「ずっと?大人になっても?」
泣きながら言った私の頭を優しく撫でて
「そうだよ。大人になっても。
ずーっと一緒だよ、梨華ちゃん。結婚するんだから。」
「結婚って私たち女のコでしょ?」
「いいの。あたしは梨華ちゃんと結婚するって決めてるの。ずっと守るの。約束だよ。」
約束だよ。
そう言ってくれたね。
- 257 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時49分37秒
- 今思うと、それは幼いゆえの無責任な言葉だったのかもしれないけれど
そのぶんまっすぐで純粋で私の心にしっかりと響いた。今でも残ってる。
それは私にとって一番大切な宝物だから。
眩しい笑顔を思い浮かべる。
ひとみちゃん。
なによりもだれよりも大切なひと。
- 258 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時50分20秒
中等部の3年生になっていたひとみちゃんは
いつのまにかすらりと背が伸びていて
校舎裏に彼女の姿を見つけた時
私は一瞬それがひとみちゃんだということに気がつかなかった。
たまに見掛けても、会話すら出来なくなってしまった幼馴染。
それでも私はどんどん素敵に成長しているひとみちゃんを
遠くから見ているだけで胸がいっぱいだった。
言葉を交わすことは出来なかったけれど気持ちは幼い頃と同じで
そして、それよりももっとはっきりしたものになっていた。
- 259 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時50分53秒
- 私はその日、裏庭のそうじ当番だったことに感謝した。
ひさしぶりに話し掛けてみようかな。
なんて言おう?「また背伸びた?」こんな感じかな。
どきどきしながら歩み寄る。
その時、
「吉澤先輩。」
私とは逆方向から幼い声が聞こえて立ち止まる。
- 260 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時51分31秒
- あれは松浦さん。確か、ひとみちゃんの一学年下の。
クラスメイトのアヤカがやけにきれいなコがいるって騒いでいたので
私は彼女の名前をすんなり思い出すことが出来た。
松浦さんはひとみちゃんに駆け寄ると
「来てくれてありがとうございます。」
そう言って小さく頭を下げた。
顔を上げた松浦さんは、頬をピンクに染めていたので
なんとなくこの状況を察した私は、ふいに物陰に隠れてしまった。
やだ、こんなの立ち聞きじゃない。
そう思ったけれど体は動かない。
- 261 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時52分16秒
- 「ずっと好きだったんです。付き合ってもらえませんか?」
そう松浦さんが言ったあとのわずかな沈黙。
そのあとひとみちゃんが沈黙を破って言った言葉。
それを聞いてしまった私は、しばらくその場から動けなかった。
ふたりがその場を立ち去った後も動けなかった。
今もその言葉が頭から離れない。
- 262 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時52分52秒
「ごめん、あたしも女のコなんだ、いちおう。
やっぱ恋はほんものの男のコとしないとおかしいでしょ、お互いに。」
あの声はとても優しかったけれど。
そしてそれは世間一般的に言ったら
当たり前の言葉だったのかもしれないけれど。
それでも私は。
ずっとずっとひとみちゃんを想っていたその気持ちに
そっと蓋をするしかなかった。
- 263 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時53分31秒
飯田先輩と付き合い出したのは、そのあとしばらくしてからだった。
弱かったのかもしれない。ずるかったのかもしれない。
初めは好きなひとがいるって断り続けていたのだけれど
「カオが忘れさせてあげるよ。」
ついその言葉に甘えてしまった。
忘れることなんて出来ないってわかっていた。
だってひとみちゃんを想う気持ちは
私の体の一部のようにずっと生き続けてきたものだったから。
それでも甘えてしまった私はやっぱり弱かったんでしょう。
好きだって言ってくれる彼女にありがとうと呟く私。
一度も好きって言えなかったな。
それでも私にとって彼女は大切な人だった。
- 264 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時54分14秒
屋上に出る手前の踊り場で飯田先輩にキスをされた時
視界の片隅に映ったひとみちゃん。
最初は幻想かと思った。
キスの最中にひとみちゃんを
思い出してしまうことはよくあったから。
それでも目を見開いて、恐ろしいものを見たかのような
彼女の様子でそれが現実であることに気がついた。
- 265 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時54分50秒
- その目を見て私はこれで、終わった。そう思った。
始まってもいないけれどなぜかそう思った。
私の小さな頃からの小さな恋は終わったんだ。
誰にも告げずにひっそりと終わるんだ。
そう思って精一杯の強がり。大人な顔をつくる。
内緒、だなんて一番知られたくない相手に言ったって意味無いのに。
ひとみちゃんに微笑みかけたけれどうまく笑えたかな。
彼女が視界から消えた瞬間
泣き崩れた私を黙って見つめる飯田先輩。
- 266 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時55分29秒
先輩に別れを告げられたとき
仕方ないって思った。
ただなぜか泣けてきた。
いろんな気持ちが混ざり合って飯田先輩に申し訳ないきもち
感謝のきもち、なぜか少し寂しい勝手なきもち
途中からはひとみちゃんのことも
ついさっき見たマウンドでかっこよかったひとみちゃんの姿が浮かぶ。
その日5時間目の数学の時
何気なくグランドに目を向けるとそこにはひとみちゃんがいた。
あまり視力が良くない私なのに
なぜかすぐに見つけてしまう自分に苦笑した。
- 267 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時56分17秒
- マウンドに立っているひとみちゃんがふいに
こっちの方に目を向けた時、私は
「ばいばい、ひとみちゃん。」
なんて失恋に酔ってる女のコみたいに、心の中で呟いた。
それでも授業が終わるまで私はひとみちゃんをずっと目で追ってしまった。
その後、飯田先輩に彼が出来たと聞いたとき
少しほっとした自分に腹が立った。
- 268 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時56分57秒
ひとみちゃんとまた幼馴染の関係に戻れたのは
アヤカのおかげなのかもしれない。
アヤカに吉澤さんと会わせてほしい。
そう言われたとき
すこし戸惑った。本当は嫌だった。
けれど何度目かに頼まれた時、ふと思った。
ひとみちゃんは女のコを恋愛対象に見れないんだから
会わせても問題ないじゃない。
そんなふうに思う私は本当にずるいと思う。
もっとずるいのは
私がひとみちゃんを誘う口実が出来たってことを
心のどこかでこっそり喜んでしまったこと。
いまさら、何よ、私。そう思ったけれどやっぱり。
- 269 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時57分42秒
中庭のベンチで隣に座ったひとみちゃん。
近くで見る彼女はやっぱりとても素敵で
昔よりもかっこよくって
私の胸はとくんと音を立て始める。
会いたいとか、声が聴きたいとか触れたい、とか。
ひとみちゃん、全部あなたのことだよ。
あなたのこと、だった。過去形にしなくちゃ。
優しいあなたは真剣な目をして聞いてくれたね。ありがとう。
ひとみちゃんに好きな人がいる。
それを知った日。
私はショックだったけれど、悲しくはなかった。
それよりも、昔のように笑い会える関係に戻れたことが嬉しくて
それだけでもう十分だって思ったから。
- 270 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時58分12秒
それでも、あの日、あの図書室で
私はぼんやりと
返却された本を棚に戻しながら
ひとみちゃんのことを考えていた。
まるで学園ドラマのヒーローみたいなひとみちゃんは
前日の球技大会でもとても輝いていて
あんまり声援がすごいから
私はつい大きな声で彼女の名前を呼んでしまった。
あの時アヤカたちびっくりしてたな。
私自身も驚いていたから
ひとみちゃんが倒れているのに気づいたのは
それを見た女のコたちが騒ぎ出してからだった。
あのあとひとみちゃん大丈夫だったのかな。
- 271 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時58分51秒
- そんなことを考えていて
ふと脚立から足を踏み外して床に落ちてしまった。
私は理不尽にも
もう。ひとみちゃんのせいだよ。助けてよ
なんて冗談ぽく勝手に思っていたから
本当に目の前にあらわれて手を差し出す
ひとみちゃんを見たとき
あまりに驚いて声が出なかった。
同じ学校なんだから
そんな偶然はあるのかもしれないけれど
私はなんだか泣きそうになってしまった。
やっぱりこのひとが好きだなぁなんて思ってしまったから。
- 272 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)15時59分24秒
だから本を返しに来たひとみちゃんが
一緒に帰ろうって言ってくれた時、私は小さな嘘をついてしまった。
私はこっそり折りたたみの傘を隠した。
胸がドキドキしていた。
雨に濡れるひとみちゃんの肩を見て、何度もごめんねって胸の中で呟いた。
傘の中のきれいな横顔を見上げながら思い出す。
バレー部の先輩に否定するひとみちゃんの様子が切なくて
つい声が出なくって、頷くことしか出来なかった。
そんな私の様子は気づかれていないよね?
- 273 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)16時00分03秒
それからの日々はとてもしあわせで
いつだってひとみちゃんは優しくてかわいくてかっこよくって
気づけば一番近くにいて
まるであの頃みたいに。
彼女と過ごす時間は本当にしあわせに満ち足りていた。
それは真実だったけれど心の中にどんどん欲が生まれる。
もうちょっと
もうちょっと近づきたい
胸の気持ちを打ち明けたい
でも気持ちを伝えてしまったら
あのひとはいつかのセリフを今度は私に向けて言うんだろう。
- 274 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)16時00分37秒
それでも私の気持ちはどんどん大きくなっていって
もう破裂しそうだった。
たまにひとみちゃんが甘いそぶりをみせることがあったけれど
私はそれを幼なじみゆえの家族に対する思いみたいなものだろうと思っていた。
そう思い込もうとした。
それでも。やっぱり。
だんだんと変わっているひとみちゃんがいて。
だんだんと甘く流れる時間が増えて。
- 275 名前:10. 投稿日:2002年06月22日(土)16時01分09秒
- 私は気持ちを伝えて
ひとみちゃんを失ってしまうことが
ずっとずっと怖かったけれど。
大丈夫。きっと失うことはない。
想いは届かないかもしれないけれど。
きちんと伝えよう。それで蔑まれても仕方ない。
ちゃんと伝えて終わりにしよう。
- 276 名前:サジー 投稿日:2002年06月22日(土)16時02分20秒
- 更新終了です。
>248 名無し読者さま
ありがとうございます。
嬉しいです。もうちょいです。
>249 名無しどくしゃさま
ありがとうございます。うわ、恐縮です。
自分もとても寂しいです。嬉しいです。
- 277 名前:サジー 投稿日:2002年06月22日(土)16時03分17秒
- >250 208さま
ありがとうございます。
そんなこと言われたら泣きます、嬉しくて。
>251 ごまべーぐるさま
ありがとうございます。
傷だらけのよすぃ!かっけーです。
- 278 名前:サジー 投稿日:2002年06月22日(土)16時04分23秒
- >252 オガマーさま
ありがとうございます。
ジーンとして頂けると本当に嬉しいです。
>253 やまさま
ありがとうございます。
そんな、恐縮です。頑張って下さい。
- 279 名前:208 投稿日:2002年06月22日(土)21時48分19秒
- >
更新、お疲れ様です。
今夜は、マイHD本棚に保存作業
↓
最初から読んで泣く・・予定です。
ラストが近い感じだけれど、頑張って下さい。
- 280 名前:オガマー 投稿日:2002年06月23日(日)02時00分59秒
- ドキドキ…
梨華たむ…そうだったのですね
切ないー…がんがれ
- 281 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月23日(日)09時33分36秒
- いしの気持ちの流れが丁寧に描かれててとてもいいです。
ふたりの今後に期待。
( ^▽^)<…ひとみちゃん
いしかーに『ひとみちゃん』と呼ばすの大好き人間ですが何か(w?
- 282 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時06分10秒
目が覚める。
長い夢。
だけどそれは現実で。
ぼんやりと天井を見上げる。
ひとみちゃんが誘ってくれたこの旅行で告白する事を決心した私は
ラッキーカラーだった白のワンピースなんて着て
ラッキープレイスは駅で待ち合わせ!なんてことにこだわってみたけれど。
そんなこと知ったらひとみちゃんは呆れるかな。笑ってくれるといいな。
- 283 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時07分27秒
- 告白…。あれ、今、何時?
私はとても緊張してしまっていて
つい市井さんにすすめられて滅多に飲んだことのないお酒を
飲んでしまった。そのあとのことはよく覚えていない。
ここは私たちの部屋だよね?
ひとみちゃんが運んでくれたのかな。
薄暗い部屋の中にひとの気配はない。
立ち上がって電気を点けてみる。やっぱりいない。
隣に敷かれているお布団は使われた様子も無くきれいなまま。
ひとみちゃん、どこだろう?
ごっちんたちの部屋?それともお風呂かな?
- 284 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時08分16秒
すっかり目は覚めてしまって、障子を開けて外の景色を見る。
湾岸沿いにあるこの旅館の目前には海が拡がっている。
夜の海って少し怖い。
真っ暗なその海をしばらく見つめていた。
あれ?
暗くてよくわからないけれど海岸に誰か座ってる。
よく目を凝らす。
その時、通り過ぎた一台の車がその人影を照らした。
あっ。
一瞬だったけどあれはひとみちゃんだ。間違いない。
- 285 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時09分05秒
- 行かなくちゃ。なぜか急かされるように部屋を飛び出す。
エレベーターが待ちきれなくて階段を駆け下りる。
旅館のフロントには誰もいなくて
自動ドアを通り抜けた私はすでに息が切れていたけれど
それでも走った。さっきムリに飲んだお酒のせいかな
頭がずきりと痛いそれでも
走りながら私は。
どうして今こんなに必死になっているのかわからなかったけど
あのひとは私のことをどうおもってるのかなんて
ぜんぜんわからなかったけど
それでも私はずっとずっと
- 286 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時09分47秒
足が止まる。――い、た。
息を落ち着ける。夜の海は風が強くてすこし肌寒い。
道路沿いに海岸がひろがっている。
その手前の石段にこっちに背を向けて座っているひとみちゃん。
なぜか背中が寂しそう。
海を見ているの?
何を考えているの?
- 287 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時10分38秒
- 私はもう
走ってきたのと
さっきみた夢と、それだけではない何かで
胸が痛くて苦しくて
目の前のあのひとが愛しくて
「ひとみちゃん。」
そう震える声で呼びかけて振り返ったひとみちゃんが
心から驚いた顔をするのを見たら
なんだか可笑しくなってしまってつい笑ってしまう。
笑いながら頬が冷たい事に気がつく。
どうして、私。
- 288 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時11分24秒
- びっくりした様子のひとみちゃんは
立ち上がるとすぐそばに来て
「どうしたの?どうして泣いてるの?」
そう掠れた優しい声で呟いた。
そして次の瞬間
私はふわっと抱きすくめられていた。
どうして泣いてるんだろう。
私にもわからない。ごめんね、ひとみちゃん。
ひとみちゃんのTシャツはすでに
私の涙でぐしゃぐしゃになっている。
- 289 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時12分17秒
- それでも初めて感じるひとみちゃんの腕の中は
とてもあたたかくって安心できて
「あ、ごめん。黙って出てきちゃって。」
そんなことを慌てて言うひとみちゃんはどこまでも優しい。
違うのそうじゃない。
すう、と深呼吸する。胸の中で呟く。
今までほんとにありがとう。
あなたがいてくれてほんとうによかった。
私は、あなたのことが
「好きだよ。」
- 290 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時13分02秒
- え?今の私の声じゃない。
見上げると暗がりでもわかるくらい真っ赤な顔をしたひとみちゃん。
なぜか目も赤いみたい。長い睫毛がぬれている。泣いてるの?
まだ夢を見ているのかと思った。
でもひとみちゃんからはしっかりと体温が伝わってくる。
その体は少し震えている。震えているのは私?
「…もう一度言って?」
「好きだよ。梨華ちゃんのことが。ずっと好きだった、みたい。」
ひとみちゃんが真剣な目をして言ってくれた言葉は
もう聞き間違いじゃないよね。
一度止まった涙が溢れ出す。でもちゃんと伝えなきゃ。
「私も好き。ずっと好きでした。」
- 291 名前:10. 投稿日:2002年06月23日(日)17時13分51秒
- ぱっと離れるひとみちゃん。
「い、いまなんて?」
「ずっと好きだったの、ひとみちゃんのこと。ずーっと。」
うっそーーーと飛び上がったひとみちゃんは
走り出して海の方へ。
ちょっとひとみちゃん風邪ひいちゃうよ。
ばしゃばしゃと波打ち際を走り回るひとみちゃんは
なんだか子犬みたいでとても可愛い。
それは本当に幸せな光景で
私はこれが夢でも現実でもいいから
ずっと覚めないでほしいと思った。
祈るようにそう思った。
- 292 名前:11.いいことある記念の瞬間 投稿日:2002年06月23日(日)17時15分01秒
「うわ…。夢じゃ、なかった。」
目の前で寝息を立てている梨華ちゃんの寝顔。
きのう、あれから2人で手を繋いでゆっくり海岸を歩いた。
黙ったままでずっと歩いた。
伝えたいことはたくさんあったけれど胸がいっぱいで何にも言えなかった。
旅館に戻ってきたあたしたちは
繋いだ手を離すことが出来なくってそのまま一緒に眠った。
- 293 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時16分16秒
一緒に布団に潜り込んでいろーんな話をしたあとのやわらかい沈黙。
一瞬目が合ってあたしは吸い込まれるように
梨華ちゃんの唇にキスをした。
震える唇を押し付けるだけの不器用なキス。
自分でもぎこちないってわかった。
ふたりの唇が離れた後あたしは照れくさくて
まっすぐに見つめてくる梨華ちゃんの目を見ることができなくって
そのまんま梨華ちゃんを抱きしめた。体中が震えていた。
- 294 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時17分11秒
- 梨華ちゃんの腕があたしの背中に回ってきたとき
あたしはがちんと固まってしまったんだけど
梨華ちゃんに髪を撫でられているうちに
だんだん力が抜けてきてそれは本当に心地良くって
すごく安心できて、そのまま眠ることができた。
お子様どころか赤ちゃんだよ、あれじゃ。
思い返して赤面してしまう。
- 295 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時18分00秒
はぁ。なんか信じられないなぁ。
ほんとに夢じゃないんだよね。
あたしの髪からは潮の香りが微かにする。
あの時海岸にいきなり現れた梨華ちゃんのことを
あたしは一瞬きゃあオバケ!なんて思ってしまった。
だって髪は風に煽られてものすごいことになってたし
浴衣はなんだかぐちゃぐちゃになってたし。
あんときあたし叫んで逃げなくてよかったよ、まじで。
そんなことを思ってくすくす笑う。
しあわせすぎて怖いなんてよく聞く言葉を思い出す。
ちょっと違うなぁ。しあわせすぎてなんか笑える。
「あはははは。」
声に出して笑ってみる。
「…ひとみちゃん?」
あ、ごめん。起こしちゃった。
- 296 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時18分53秒
「ゆ、めじゃないのかな。」
そうつぶやく梨華ちゃん。気が合うね。夢じゃないみたいだよ。
起き上がった梨華ちゃんは自分のほっぺたをつねっている。
あはは、マンガみたいなことして。ほんとカワイイ。
「ねぇ梨華ちゃん。」
「ん?」
「ずっと一緒にいようね。」
「…。」
うわ、つい口に出しちゃった。
あんまり梨華ちゃんがかわいかったから。
いいや、この際だからちゃんと伝えよう。
- 297 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時19分49秒
あたしは梨華ちゃんの目を見て、子供の頃言った言葉をもう一度伝えた。
泣きだした梨華ちゃんをそっと抱きしめる。
「よく泣くなぁ。」なんて言ってみたけど
実はあたしも泣きそうだってことはナイショ。
…うわぁ。すっげぇ。
あたしは今。思っちゃったよ、梨華ちゃん。
生まれて初めて浮かんできたその言葉にあたしは感動してしまった。
あたしは、女のコとしての梨華ちゃんをあ、あ、あいしてる。
…まるごと愛してる。かも。うわぁ。
- 298 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時21分10秒
馬鹿なあたしはすこし遠回りをしちゃったみたいで。
ごめんね、梨華ちゃん。
でもきっとそれは無駄じゃなかった、はず。
ぼんやりと思い出す。
屋上にひとりでいた矢口先輩。
ごっちんの携帯の裏に隠されたプリクラ。
安倍先輩の大人びた表情。
そしてあのおばさんたちの汚い中傷。
今度あのおばさんに何か言われたらあたしは。
堂々と梨華ちゃんと手をつないで笑ってやる。絶対に。
市井さんの言葉に今なら強く頷けるよ、あたし。
- 299 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時21分58秒
- ねぇ梨華ちゃん。
一緒にいようね。
一緒にハンバーグつくるでしょ。クリスマス過ごすでしょ。
それから、それから…。えーーっと。…何を考えてんだあたしは。
思わず抱きしめてる腕に力が入っちゃったみたいで
梨華ちゃんは何かを感じ取ったらしく、びくっとあたしを見上げてくる。
その目すら直視できないあたしはやっぱり…
ちゅっ。
小さな音と柔らかい感触を頬に感じて
またもやがちんと固まってしまったあたしはやっぱりどこまでもお子様で。
- 300 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時22分36秒
…ねぇ梨華ちゃん。
あたしたちにはさ
これからいろんなことあるだろうけどさ
もしかしたら楽しいことばっかじゃないかもしれないけどさ
それでも一緒にいれたらいいね 一緒に笑っていられたらいいね
それでいつか、いつかまたこの場所に来ようよ
梨華ちゃんの望んでる旅行としてふたりで来れたらいいね
…なんてことまではまだ口に出せないけどさ。
- 301 名前:11. 投稿日:2002年06月23日(日)17時23分33秒
将来。夢。そして恋愛。
あたしにとってのそれらは全部、今あたしの腕の中にいる。
力を込めてぎゅうっと抱きしめたあと
あたしはそっと梨華ちゃんに2回目のキスをした。
今回は…うん、いい感じ。
おわり
- 302 名前:サジー 投稿日:2002年06月23日(日)17時24分33秒
- 終わりました。
>279 208さま
ありがとうございました。
ラストどうなんだろー?と少し不安ですが
奥さんとお子さんの居る空間で読んで頂いても
多分だいじょうぶ。だと思います。
にやにやしてくれたら嬉しいけれども!
>280 オガマーさま
ありがとうございました。
温かいレスほんと嬉しかったです。
新作のほう楽しくROMらせて頂いてます。
がんがってください!
- 303 名前:サジー 投稿日:2002年06月23日(日)17時25分03秒
- >281 ごまべーぐるさま
ありがとうございました。ほんっと感謝しています。
読んでくれてるひといるのかなーなんて思ったとき
ごまべーぐるさんのあったかいAAを見てほんと泣きそうになりました。まじで。
自分はここのよすぃばりに涙腺が弱いんです。ご自分の更新も大変だと思うのに。
ほんとにほんとに。好き!あ。告っちゃった。
- 304 名前:サジー 投稿日:2002年06月23日(日)17時25分42秒
- 訂正がひとつ
269 笑い会える→笑い合える
投稿した後、誤字を発見した時って涙でるんですね。
あと自分がはじめて書いてみてわかったことは
娘。がホント好きだなぁなんて。
思ってしまいました。
読んで下さった方、温かいレスを下さった方、
本当にありがとうございました。
- 305 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年06月23日(日)18時25分46秒
- 胸キュンです!(T▽T)
カナリ楽しませてもらいましたぁ^^
笑いあり感動ありで(涙
ホントにお疲れさまでした。
- 306 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月23日(日)18時29分04秒
- 脱稿お疲れ様でした。
いしよしはあまり読まないんですが、すごく良かったです。
これを機会に色々読んでみようかな。
幸せな気分にさせてもらい、ありがとうございました。
- 307 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月23日(日)18時34分24秒
- 脱稿お疲れ様でした。
いや、何だかほのぼのとしてしまいました。
これからのふたりって感じですね。
レスがなくてヘコむとか不安になる、とかはとても分かります(w
私も森板の最初の頃は殆ど手ごたえなく書いてましたし。
サブタイトルの曲のチョイスも毎回ニクかったです。
いや、ヒサブリに胸にジンとくる、あったかい物語を読んだなって気がします。
ありがとうございました。私もがんがるとします(w
- 308 名前:じゃない 投稿日:2002年06月23日(日)19時01分44秒
- 面白かったぽ。
- 309 名前:ROM野郎 投稿日:2002年06月23日(日)19時16分39秒
- 初レスですが、ずっと読ませて頂いてました。
心理描写とか、情景描写(っていうんでしょうか?)が
すごく上手で引き込まれるように読んでました。
飯田さんとのキス目撃シーンでの両者の気持ちなんて
なんか涙が出そうでした(特に梨華ちゃんの方)。
ありがとうございました。
また、サジーさんの新しい作品が読みたいなぁ〜なんて(w
- 310 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月23日(日)21時49分22秒
- いやはや、本当に感動さしていただきました(T▽T)
私の心の名作集にドカリと入れさしていただきますw
更新ご苦労様でした♪
- 311 名前:名無しドクシャ。 投稿日:2002年06月23日(日)22時00分01秒
- とても幸せな気分にしていただきました。
素敵な作品をありがとうございます♪
はぁ、でも明日からの楽しみがなくなって少し悲しい。
私も新しい作品読みたいです〜♪
サジーさんの娘。好きな気持ち、同じく娘。好きには
すっごく伝わってきましたよ!
- 312 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月23日(日)23時14分18秒
- お疲れ様でした。
ヲタならではの小ネタ使い、そしてこの揺さぶり加減、
久々に王道らしいいしよしをゴチになりました。
たいへん美味しゅうございましたよ
願わくば続編若しくは新作を期待れす。
- 313 名前:208 投稿日:2002年06月23日(日)23時42分43秒
- 脱稿お疲れ様でし。
何ていうか、忘れかけていたものとか、
懐かしさとか・・胸にジーンと響きました。
サジーさんの小説、すごく好きなのでまた読みたいなぁ。
今はとにかく、お疲れ様でした。
- 314 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)02時17分29秒
- お疲れ様でした。
更新される度に読んでました。
小ネタを見つけては喜んでみたり。
海での告白シーン、「ハミルトンアイランド」の波打ち際の二人が
浮かんできました。
次回作、期待してもいいですか?
- 315 名前:オガマー 投稿日:2002年06月24日(月)03時04分07秒
- お疲れさまです。
最後の最後がヨカタ!!
もちろん、全部よかったんですけどねぃ♪
- 316 名前:やま 投稿日:2002年06月24日(月)04時00分42秒
- お疲れ様です!!最高でした!なんというか、もう、泣きそうです!
さしでがましいようですが、次回作をぜひぜひ楽しみにしてます!
最高ですよ。。貴方は!
- 317 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月24日(月)15時22分39秒
- 完結お疲れ様でした。
旅館の二人の、感情の動き梨華ちゃんの本当の気持ち
感動しました。ありがとうございました。
続編or番外編はあるんでしょうか?期待したかったりする(笑
- 318 名前:名無し男 投稿日:2002年06月25日(火)01時12分56秒
- 物凄い勢いで感動しますた!!
涙鼻水ドッパドパ出まくりーのヨダレ垂らしまくりーの状態です
いい作品をありがとう!!
- 319 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月25日(火)11時34分29秒
- 完結お疲れ様でした。
久しぶりに泣けて笑えて感動できる小説に逢いました。
ほんと最後のほうは悲しくてボロボロ泣いて二人共よかったねぇでうれし涙
ボロボロ。そしてちらほらと見つかる小ネタにニヤーリ。
次回作もしあったら激しく期待しております。
- 320 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月03日(水)21時11分48秒
- 今日初めてこの小説知って一気に読まさせていただきました!
もっと高校生活楽しむべきだったなぁと思いました。
夏休みの情景がリアルで高校の頃にトリップできました(^^)
小ネタもかなり私のツボに入りまくりで。特に杉本さんが。
もうサジーさん…
だーい好き!ホントにすばらしい作品どうもでしたー。
次回作も楽しみに待ってまっす!
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