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深み―。
- 1 名前:名無しどす。 投稿日:2002年05月29日(水)20時39分59秒
- 以前書いてたのを復活させようと思いまして…。
待っていてくださったみなさん、時間がかかってしまい
本当にすみませんでした。
ではよろしくお願いします。
- 2 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時41分31秒
- ―私がここに来たのは、桜の満開の季節だった。
カントリー学園の学生寮はその日、華やかに―。
そしてざわめいていた。
今日は恒例の新入生歓迎会だ。この寮は最近新しく出来たばかりで、
中等部から高等部まで、わずか120人が寝起きする。
「あはは!見た?新入生の顔!」
「大成功だね。」
毎年恒例の御担ぎ―。
この歓迎会、上級生が趣向をこらして新入生をだますという伝統がある。
とりとめない期待に胸膨らませ入ってくる新入生達は、どんな嘘にでも、
他愛なく引っかかってしまうのだ。
その日、A号棟4階の入り口には、次のような張り紙が張り出された。
1、男子禁制
1、起床5時・朝食前には5キロのランニング
1.上級生には敬礼し、道をゆずること
これを読んだ新入生はひとしきり心細そうな目を見返した。
上級生の自己紹介には
『未婚の母あり』
『同性愛に悩む者あり』
『盗癖に悩む者あり』
新入生達は目が眩むようにただただ溜め息を
漏らしていた。
- 3 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時42分25秒
- 実際、平凡な生活を送っている優等生ばかりで
そんな生徒は一人もいないのだ。
さて―。
新入生の不安を一刻も早く解消してあげようと、
私は彼女達が待つお部屋に行く事にした。
その時、どっと笑い声が巻き起こった。
「何を笑っていたの?」
前に座っていた子が力なく、フニャっと笑いながら
「ごとーにここの規則なんか守れないよって
話してたんです。あは。」
私もつられてニッコリ笑ってしまった。
フと、私は顔を上げて見渡した。
みんながニコニコしてるのに、一人だけ
とても冷たい目線で
ジっと私を睨みつけてる奥の子と目があった。
背筋に冷たいモノが走り、私はゴクリと唾を飲んだ。
「おい!石川。んなトコに突っ立ってたら邪魔だろ?」
「あ…矢口さん。」
「って…お前、顔が真っ青だぞ?後は矢口となっちで
やっとくから、部屋に戻って寝てろよ。」
「ありがとうございます。」
「梨華ちゃん、無理はいけないよ?」
- 4 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時45分20秒
- 矢口さんは口は悪いけど、とても優しい頼りになる。
背は小さいけど、本当に元気でパワフルな人だ。
もう一人は、中々地元の方言が抜けない安倍さん。
いつもニコニコしていてとても可愛らしい人。
二人供、私の大好きな人であり、そして
信頼できる頼もしい先輩。
私は二人の言葉に安心し、自分のお部屋に戻った。
―――――――
- 5 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時46分06秒
- あれからどれくらい眠ったのだろう?
時計を見る。あれからすでに4時間が立とうとしていた。
私はベットから起きあがり、窓を開け、外の景色を見た。
今日は少し風があり、白やピンクの花びらが冷え冷えした大気の中
を舞う様は風花と言うのだろうか、夕日の光を浴び、キラキラ反射
していて、雪が舞いあがっているような風情だった。
「おっす〜♪生きてっか?石川」
「梨華ちゃん、もう夕食の時間だよ?」
「あ。もうそんな時間ですか?」
私は窓を閉め、ニコニコしながら私を見ている
二人の側まで近寄った。
「さ、飯行こうぜぃ。」
「はい。」
―――――――――――
- 6 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時46分47秒
- 食堂の入り口に、今日のセットメニューが張り出されていた。
カレーと、パイナップルのサラダ、茄子の煮物だった。
「何だか、残り物を組み合わせた感じしないか?」
「…矢口、鋭いツッコミだべ。」
私はトレイにメニューの皿を取り、お茶を3人分入れて、
矢口さん達と向かい合った。
「そう言えばさぁ…今日の新観で、妙に落ち着いてたヤツ
いたよなぁ。」
「いたいた!奥に座ってるコっしょ?」
しみじみとそう言って、スプーンを口に運ぶ矢口さん。
私は、すぐにあの子を思い出した。
飲みかけていたお茶を、プっと噴出しそうになったけど
ゴクリと飲みこんでやる。
「たしか…吉澤ひとみだっけ…?」
「たしかそんな名前だった。」
吉澤ひとみ―。
彼女のあの鋭い視線が未だに私に注がれてるようで
ゾクっとした。
- 7 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時47分46秒
- 「…あたしが何かしましたか?」
「「う、うわぁ!!」」
「…何ですか?先輩達があたしの名前、呼んだんじゃないすか。」
低い声がする。
私の後ろに、何時の間に立っていたのだろう。
隣には、あの笑顔が印象的の後藤さんがボーっとした
顔で一緒にいたのだった。
「い、いや…何でもない。悪かったな…。」
「そそそうだべ!矢口!いけない子だねぇ〜…ってアレ?
吉澤さん、そのピアス…クロム?」
私は恐る恐る後ろを振り返り、彼女がしてるピアスを
見た。シルバーの十字架の形をしたピアスが光っていた。
一瞬、目が合って私はとっさに目を反らし、
テーブルの上に存在を忘れられてる
ちょっと乾いたサラダ達を見つめた。
(…恐い。)
- 8 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時48分43秒
- 「あ…よくわかりましたね。はい。あたし、コレ好きなんです。」
「矢口もなっちも集めてんだけど…高いよなぁ〜どこで買ったんだよ?」
「これですか?ごっちん、ペン持ってる?」
「ううん。よっすぃ〜、持ってない。」
「…だよねぇ。後で紙に書いて持っていきますよ。」
「マジで?絶対だぞ?約束だぞ?よっすぃ〜。」
チラっと吉澤さんを見たら、キョトンとした顔で
矢口さんを見ている。きっと、いきなり『よっすぃ〜』なんて
呼ばれて面くらった感じがした様だった。
「はい。約束します。じゃ…」
「何だよ?ここで一緒に食おうぜ?」
「…いや。でも…石川先輩が先ほどから邪魔よって
無言で訴えているようで…。」
「石川〜。ホントか?あ!もしかして、よっすぃ〜に
見惚れてたんじゃないのか?」
え?私?何で?
「そ、そんな事、思ってない!!」
「お、おい!ウソだよ!何でそんな怒るんだ?」
「…いいんですよ。あたしは、ごっちんと別の場所で食べますから」
彼女は一瞬、とても寂しそうな顔を覗かせた。そして
スタスタと何事もなかったかのように、吉澤さん達は行ってしまった。
私が目を反らしちゃったからいけなかったのかな?
- 9 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時50分06秒
- …誤解されちゃったんだ、きっと…。
「石川…何かしたのか?」
「…梨華ちゃんは悪くないさ。チラチラ見てたから
誤解されちゃったんだよ。」
安倍さんはそう言って、パイナップルを口に運ぶ。
『酸っぱいなぁ』なんて言いながら、ニッコリと笑った。
私は急に食欲がなくなって、
ほとんどご飯に手をつけなかった。
――――――――――
- 10 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時50分36秒
- あの食堂の一件から、6日が立とうとしていた。
あれから吉澤さんと会う度に、どうしても喧嘩腰に
なってしまう。私とは正反対に矢口さん達は
彼女ととても仲良くなっていて、部屋に遊びに
行くようになったのだった。
今日は土曜日で―。
午後の授業も終わり、私は誰もいないお部屋に
戻ろうとしていた。フと外を見ると、
あんなに綺麗に舞っていた桜の花びらも
通学路やキャンパス一面に貼りつき、
白い花の筵のようで、なまめしかった。
―――――――
- 11 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時51分08秒
- 「あ〜…疲れた。」
一人ベットに横になり、私は大きく寝そべったまま
伸びをする。微かに窓の外からは、生徒達の
華やいだ声が聞こえてくる。
明日は休みだけど、別に何もやる事がなく
ただただボーっとして退屈な時間を過ごすのが
日常になっていた。
「…休みかぁ。」
「おい!石川!!居るか?」
「ヤッホ〜♪元気にしてた?」
「矢口さん、安倍さん!」
いきなり部屋に飛びこんできた2人に私は
凄くビックリした。ガバっと起きあがり、
捲くれたスカートを急いで直す。
「ど、どうしたんですか?」
「明日さぁ、ヒマだろ?」
「はい…。」
「じゃあさ?今日の夜から海にでも行かない?」
「って言うか行くんだよ!駅に6時集合だぞ!」
『じゃあな!必ず来いよ!来なかったら絶交だ!』なんて
人の返事も聞かないで2人は出て行ってしまった。
私は、あっけに取られ呆然とドアを見ていた。
でも…たまにはいいかなって。
- 12 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時53分27秒
- 「えい!」
ベットから跳ね起き、少しだけ窓を開ける。
サーっと気持ちのよいそよ風が頬を通り抜け、
部屋中に立ちこもる。
大きく背伸びしながら空を見上げた。
窓辺にチョコンと肘を付き、
私はそれを楽しむかのように静かに目を閉じた。
―――――――――――
- 13 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時54分59秒
- 「…クシュン!」
何時の間にか私は崩れかかって眠っていたようだった。
外を見ると、うっすらと暗くなっていて。
あんなに賑やかだった生徒達の声も聞こえなくなっていた。
「…眠っちゃったんだ。」
窓を閉め、ボーっとお部屋の中を見渡した。
何か忘れているような…
…そうだ!
「あぁ!今って…」
ベットの棚の上にある、お気に入りのアフロ犬の時計を
見ると、針はすでに5時を少し回っていた。
「急げば間に合うよね…」
私の頭の中で、カンカンに怒りながら
地団駄を踏む矢口さんの姿が
グルグル回っていた...。
――――――
- 14 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時55分30秒
- お風呂上りの肌に香水を密かに振り掛け、
真新しい下着をつける。
細めのデニムのパンツに、ピンクのTシャツ。
そして少し早いけど夏のサンダル。
お昼から何も食べてなかったけど、
あまりお腹は空いていない。
でも一応バックにお菓子を詰め、
私は急いで駅に向かった。
―
- 15 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時57分22秒
- チラチラと街のネオンが揺らめきあっている
駅の周辺は他の学校の生徒や、仕事帰りの
サラリーマンでごった返していた。
中々前に進む事が出来ず、人の波と
格闘しながらも何とか駅までたどり着けたのだった。
滲んだ汗を拭き取り、時計を見ると6時を回っていた。
…しかし、言い出しっぺの矢口さんと安倍さんの姿は
見当たらない。もしかして先に行ってしまったのだろうか?
「…先輩?」
「きゃ!…って…え?あ…吉澤さん?」
急に後ろから声をかけられ、私は驚いてしまった。
野球帽を目深に被り、ショルダーバックを肩にかけ、
大きめのTシャツとパンツを
履いた彼女が立っていた。
初めて見る彼女の私服姿は
何だか男の子みたい。
でもとても似合っていた。
…どうしてここに?
あ、そっか。
きっとお買い物に来たんだろうな。
- 16 名前:深み―。 投稿日:2002年05月29日(水)20時58分25秒
- 「あの…矢口さん達は…?」
「矢口さん達って…もしかして吉澤さんも海に行くの?」
「はい…絶対海行くぞ!って…言われたんですけど。」
彼女も一緒だなんて私は微塵も聞いていなかった。
あっけに取られた私を横目に
『おかしいなぁ。』なんて言いながら、見るからに
焦っていた彼女は
ポッケから携帯を取りだし矢口さんにかけたのだった。
「もしもし?今どこですか?…はぁ?って…!ちょっと!
矢口さん!矢口さ…切られた。」
「…あの。何て?」
「…2人で行ってこいって。」
2人?私と吉澤さんしか居ないよね?ここには。
「…置いてきますよ。」
「わ、私行かない!」
「…今、帰ってきたら絶交するって…先輩に言っとけって。」
え…?絶交?や、やだよ!
絶交なんて...。
もしかしてはめられたの?やっと私は気づいた。
そんなに親しくない彼女と海に行ったって
面白いハズがない!何を話していいものか…。
でも…絶交なんてイヤだし…。
「早く!」
「…ま、待ってよ!」
何時の間に切符売り場まで移動したのか...。
逆光でよく見えなかったけど、彼女が 密かにやんわりと
笑っていたように見えた。
――――――――――
- 17 名前:名無しどす。 投稿日:2002年05月29日(水)21時01分24秒
- 前回までのをうpしようとしたのですが
ちょっと疲れました(w
もしかしたら後でまた更新します。
- 18 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月29日(水)21時31分18秒
- 復活されてとても嬉しいです。
がんがってください!
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月30日(木)00時59分49秒
- 復活 ありがとうございます!
二人の さき が見れるかと思うと本当に嬉しいです。
がんばってください。
- 20 名前:名無しどす。 投稿日:2002年05月30日(木)15時38分51秒
- >>ごまべーぐるさん。
ありがとうございます、がんがります。
>>名無し読者さん。
二人のさきですか?期待に添えられるように
がんがります。
- 21 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時42分04秒
- ガタガタと揺れる電車の中には珍しく
私と彼女と一人の男性しかいない。
隣には腕を組んで、静かに寝息を立てて眠ってる吉澤ひとみ。
こうしてマジマジと彼女の顔を見るのは初めてだ。
睫毛が長く、私とは正反対な白い肌。
同性なのに見惚れてしまうくらいだった。
(…キレイな顔。)
そして…さっきから気になってはいるんだけど、
席がたくさん開いてるのに…
目の前には、こんな早い時間から酔っ払った
おじさんが立っていた。
何だかイヤラしい視線に私は身をよじる。
私は何度も吉澤さんを起こそうとしたけど…
意気地なしの私は出来ないでいた。
(…あ〜...どーしよう…)
一瞬、私とその叔父さんとの目が合った。
すると千鳥足でフラフラしながら、
その叔父さんは私の隣に座ったのだった。
(…ヤだなぁ。いっぱい空いてるのに…)
その瞬間、背筋がゾっとした。
スっと何かが触れたような…
- 22 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時45分19秒
- (き、気のせいだよね…。キャ!)
気のせいではなかった。
確かにお尻から太ももにかけて
男の手がモゾモゾと動めいていた。
恐くて声が出ない。
ごつごつした手―。
荒い息遣いに、何だか吐き気がする。
(やだよぉ…)
ギュっと手を握る。相変わらず
ハァハァと荒い息遣いが耳元へ届く。
どうしようもないくらい気持ちが悪く
恐かった。
私は目を瞑り下を向いた。
(…あれ?)
さっきまでのイヤな感触がなくなった。
フと顔を上げると、隣で寝ていた彼女が
恐い顔をして男の手を掴んでいた。
何時の間に起きていたんだろう。
私が黙ってその様子を見ていると
グイっと引っ張り、床にそのまま投げ飛ばし、
胸倉を掴むと、目線を同じ高さに合わせ・・・
「…いい度胸してんな?コラ!オヤジ!!ブン殴るぞ!」
- 23 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時46分16秒
- 『ひぃ!』と小さな悲鳴をあげ、男はおぼつかない
足取りで隣の車両に逃げて行った。
ジーっと男の姿が見えなくなるまで、吉澤さんは
目で追っていて。
私はただ、ボーとしていて彼女の顔を見上げた。
フーっと息をつき、振り向いた彼女と目が合った。
するとすぐに視線をずらし、帽子を深く被りなおしたまま
何も言わずに一番端の席に座りこみ、
何事もなかったかのように腕を組んでまた目を閉じたのだった。
私も私で助けてもらったのに 何だか恥ずかしくて
『ありがとう』の言葉が喉の奥に引っかかっていた。
――――――――
- 24 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時47分02秒
- …華ちゃん。梨華ちゃん…。」
「…ん…。お母さん…?」
「…お母さんって。…先輩。終点だって。」
「ち、ちょっと!な、何よ!」
目の前に映ったのは、私の顔を覗きこんでいる彼女の顔が!
ここのところ、睡眠不足のせいか…
どうやら私はまた眠っていたようだった。
「…追いてきますよ。」
ムっとした顔をして、いそいそと早足に彼女は先に
電車から降りていってしまった。
…これから先、私は彼女と過ごす長い時間に
不安を抱きながら、彼女の後を少し離れて追ったのでした。
―――――――
- 25 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時50分19秒
- 駅を降りて私は唖然とした。
今時…こんな何もない場所なんてあるのかと。
パチパチと点滅する電灯の灯りの周りには
小さな蛾が張りついていた。
切れかかった選挙のポスターには、目に画鋲が刺さられていて…
そして一番ビックリしたぼが改札口。
いつも使う改札口ではなく、ただ切符を箱に
入れるだけのシステムなんて。
バックからとにかく切符を出し、私はその小さな箱に
入れる。彼女はそんな私を横目に、
フっと笑い、そのまま素通りしていたのだった。
「あの、切符入れた?」
「誰も居ないのに、入れる事ないでしょ?」
帽子を取り、大きめなポッケにそれを
しまいこむ。ちょっと茶色かかったサラサラな髪を
かきあげる仕草が妙に色っぽくて
私は怒る事を忘れていたのだった。
「視線が痛いんすけど…。」
「…え?」
「…先輩の熱い視線。」
「な…!み、見てないよ!」
「…そぉですか。」
クスクスと首をすくめて笑う吉澤ひとみ。
見てないとは言ったものの…
私は知らず知らず彼女を目で追っている。
大きな瞳に私が映る。
何てキレイな色なのだろうか...。
- 26 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時51分56秒
- 「先輩!」
「きゃ!ビックリするじゃない!」
「ほら!上!」
小さな小屋のような駅を出て、私は彼女に言われるまま
空を仰ぐ。漆黒の夜空に満天の星がまたたいていた。
「…きれい。」
「…スゲ〜っすね…。」
これほど星の多い夜空を、私は見た事がない。
無数の星が無窮の彼方にざわめき揺れていて
今にもそれらが落ちてきそうで…
という実感を持ったのはこの土地に来て初めてだった。
(…え?)
一瞬ビックリした。
何も言わず、吉澤ひとみは私の手を握ったのだ。
温かい大きな彼女の手が私の手を優しく包む。
何だかそれが懐かしく感じられた。
目線を彼女に移すと再度、帽子を被り
顔を赤らめた彼女がそこにはいた。
ドキドキと鼓動が早まり、今にも
聞こえそうなほど高鳴っている私の心音。
遠くでは波の音と、微かな潮風の匂いが
流れてきて。
私はギュっと彼女の手を握り返した。
そのまま私達は何も言わず、ただ真っ直ぐに
伸びた道をひたすら歩いていたのだった。
――――――――
- 27 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時53分07秒
- どれくらい歩いたのか。
彼女がいきなり手を解いた。
私の手持ち無沙汰の手が名残惜しそうに空をさ迷っていて
密かにもっと繋いでてほしかったなんて
言えるワケもなく。
隣の彼女に目をやると、何やらモソモソと
ポケットをまさぐりはじめ、煙草を取り出していた。
ポンポンと手馴れた手つきで煙草を一本取り出し、
ライターを両手で覆い、それにつける。
美味そうにゆっくりと吸いながら、
キョトンとしている私の顔を見て
「吸います?あ…メンソール系っすか?」
って…!
「吉澤さん!アナタまだ高校生でしょ?!」
メンソール系かって?私は吸わないよ!
ポカンと咥えた煙草が落ちそうになるのを、
指で掴み、彼女は高々に笑ったのだった。
「わははは!今時の高校生は吸うんですよ。」
彼女が吐く白い煙が、真っ暗な夜空へと
吸い込まれて行った。段々と波の匂いが
強くなる一方、煙草の煙が私の鼻につく。
でも、イヤではなかった。
- 28 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時54分06秒
- 「…先輩ってやっぱ可愛いね。」
「…はぁ?か、からかわないでよ!」
ポイっと煙草を捨て、ジ...っと私の顔を見つめる。
何度も視線を外そうとしたけど、彼女の大きな瞳が
それを許さないでいた。
(…え。)
いきなりの口付け。
少し湿った唇の感触。
それと煙草の匂いと潮の匂い。
私の唇が塞がれたのだった。
(あ…。)
...まるで2人の時間がそこで止まってしまったかのような
深い感じがした。
一瞬、頭の芯がドロっとする。
「…や!」
私は彼女を強く突き飛ばした。
しかし彼女はよろける事なく、少し悲しげな表情で
私を見つめ続けていた。
咄嗟に我に戻った私は、そんな彼女の顔なんて
見ていられるハズもなく…。
私は暗闇に溶けるように、その場から
走り逃げ出した。
―――――――
- 29 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時55分02秒
- 「…ハァハァ。」
どこまで走っても暗闇は付いて来る。
なぜ吉澤ひとみがあんな突拍子もない行動を
とったのか、私には全く解らなかった。
夜風も段々強くなってきて。
コールタールみたいな重たい波が、
黒く沈んだ浜にしぶきを上げて打ち寄せている。
「きゃ…!いった〜い...。」
無我夢中で走っていた私は
重みのある砂に足を取られハデに転んでしまったのだ。
しかもその拍子に足首を捻ったようで
少しでも動かそうならば激痛が走る。
「...もぉ、ヤだぁ…。帰りたいよぉ。」
ツー…っと涙が頬を流れる。
こんなハズじゃなかった。
何だか自分が凄く情けなくなってきた私は
その場でワンワン泣いた。
周りは何も変わらず、微かな月明かりと
荒い波しぶきが音をたてていた。
隠しきれない後悔と悔しさがこみ上げて来る。
- 30 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時55分51秒
- 「…ねぇ?何泣いてんの?」
「一人?」
「...え?」
私の周りを2人の男が見下ろしていたのだった。
さほど寒くもないのに、なぜだか私は全身に鳥肌が走った。
「…ひ、一人じゃありません。」
「だって一人じゃん…。」
ボソボソと話しこむ2人―。
立ちあがって逃げたかったけど、
体に力が全くといっていいほど入らない。
(…え?)
男達は ニタリとやらしく笑うと、私の体の自由を奪った。
「…誘ってんだろ?なぁ?…おい!しっかり掴んどけよ!」
「わかってるって…!早く!次は俺だぞ!」
一人の男がいきなり押し倒し
私のお腹の上に馬乗りし、
着ていたシャツを捲し上げる。
もう一人は真上で私の手首を掴んで離さなかった。
- 31 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時56分21秒
- (…やだ!)
「いやぁ――――!」
―パチンー
「…静かにしろよ!すぐ終わっからよ…。」
ジーンと頬が熱くて。
ポロポロと涙がその熱くなった頬に流れ落ちる。
…もぉダメだ。
ダメなんだ…私は。
もはや抵抗する力なんて残っていない。
「…そうだ。…そのまま黙ってなよ。」
男の口からタレ流れて来る荒々しく、
そして生臭い息づかい。
ギュっと私は目を閉じた。
「…楽しそうだな。俺も仲間に入れてくれよ?
最後でいいからさ。」
ピタリと男の手が止まった。
…まだ仲間がいたのだろうか?
「…いいぜ。じゃあ、お前は見てろ。」
「ああ…。」
再び動く男の手。モゾモゾと忙しなく蠢く手。
ユックリとその手が下へ伸びそうになったとき―
- 32 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時56分58秒
- 「ぐわぁ!」
手首を掴んでいた男が叫び、そして視界から消えたのだ。
一体何が起こったのか、私ともう一人の男が
フっと視線を向けると、ゴロゴロと転がりながら
お腹を押さえもがき苦しんでいた。
さっき来た男の人が、それを追い
激しく殴りつけていたのだ。
悶える声ー。
その声を追いかけるかのように
鈍い音が私と、乗っかってる男にダイレクトで
耳に入ってきた。
「な、何やってんだよ!てめぇ!」
乗っかっていたのっぽの男が仲間の元へ走り寄り
その人に殴りかかったのだけど、
それを交わし、のっぽの男の顔面に
力の入ったストレートをお見舞いした。
- 33 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時58分50秒
- 『ぐわ!』
波の音に混じりながらも、生々しい男のうめき声に
私は心底脅えていたが、私に走り寄って来るその顔を
見たらそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。
「…ひとみちゃん!」
「…梨華ちゃん!立てる?早く!逃げるから!」
「…足。くじいて…」
「!!!」
ひとみちゃんが私をいとも簡単に抱き上げた。
「しっかり掴まって!」
「う、うん!」
彼女の細い首に、私は言われた通りに
しっかりと手を回す。
そしてギュって目を瞑った。
まるで映画でも観ているような…そんな感じがした。
うっすらと目を開け、彼女の顔を見る―
必死で走るひとみちゃんの顔。
月明りに照らされキラキラと光り、流れ落ちる
その汗がなぜだか妙に綺麗に映った。
――――――
- 34 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)15時59分42秒
- 「…はぁはぁ。ゴホゴホ…!」
何年も使われていない味のある小屋。私達はその中にいた。
月明かりが、割れた窓の間をスポットライトのように私達を
照らし出す。これから始まる序幕に相応しい演出―。
まるで今が夜ではないような感覚にとらわれ、私は呆然と周りを見渡していた。
ホコリが宙を舞っていてキラキラと舞い散る
雪のように見えた。息を整えながら私は辺りをぐるりと
見渡す。
部屋の中には網やらロープやら色々な物が乱雑に
置かれていた。部屋の中は一段と潮の匂いが鼻につく。
「…フー。ここも時間の問題だろうね…。」
ひとみちゃんのしゃがれた声に、私は現実に戻された。
ふいに背中がゾクっとした。あの男達にされた事よりも、彼女の
くぐもった声に私は敏感に感じてしまったようだった。
なぜか私の下半身は熱を帯びていて。
ハァハァと知らず知らずのうちに、自分の息使いが
また荒くなっている事に気づきはじめた。
そんな私とは対照的に、ひとみちゃんは
私の様子に全く気づいてはいない様子だ。
チラリと彼女に目を向けると
やっと、ひとみちゃんは息を整える事が出来たようだった。
- 35 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)16時00分20秒
- 「梨…先輩?!!…あ!」
私を見て顔を背ける彼女。いそいそとTシャツを脱ぎ始めた。
(…何で脱ぐの?もしかして…ひとみちゃん!)
「…先輩。コレ…。走って汗かいちゃったけど…着ないよりはマシだから…。」
ひとみちゃんは白と黒のTシャツを重ね着していて。
顔を背けたまま、私に着ていた白の方のTシャツをスっと差し出してくれた。
何が何だか分からず、とにかくひとみちゃんの手からそれを取り、
ただただ彼女の背中を見る事しか出来ないでいた。
シーンと静まり返ってる中を、ボソボソとひとみちゃんの声が破った。
「…Tシャツ…やぶれてるっす…。」
「…え?キャー!!」
あらわになった私の日焼けした小麦色の肌が恥ずかしそうに顔を出していた。
そうだった!私はあいつ等に…
今更になって、さっきの悪夢が甦る。
ガクガクと震えが止まらない。
ツーっと流れ落ちる汗。
そして彼女のTシャツを抱き寄せる。
- 36 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)16時01分20秒
- 恐い…!
「…大丈夫ですよ。先輩は…私が守ります。」
ひとみちゃんの温かいぬくもりが私を包んだ。
小さい頃私が泣いてると、よくお母さんがこうやって
抱きしめてくれたっけ…
懐かしい思い出が体中を駆け巡る。安心しきった私は
何も言わず、彼女を抱き返していた。
「…やつ等が来ます!」
「…どーして分かるの?」
さっきまでの優しかった顔が、急に強張った瞬間…
波の音に混じりながら、遠くの方で狂喜の声が聞こえてきたのだった。
落ちついた様子でスタスタとひとみちゃんは歩き出し、古びたドアを開け、
私の手を引っ張り、網の中に引きずり込む。
そして私を包み込むように抱きしめ横になった。
「…ちょっと苦しいっすけど、我慢してくださいね…」
「…ん。」
ほとんど顔が触れるほどの距離だった。ちょっと唇を突き出せば
キスが出来る。こんな場面で私は一体、何を考えてるのだろうか。
それにしてもキレイな顔だ。
人形のような長い睫毛―。
何でも見透かされそうな大きな瞳―。
- 37 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)16時02分00秒
- 「おい!小屋があるぞ!」
「探せ!!くっそ〜…あの野郎!!タダじゃすまさねぇぞ!!」
((!!))
ギュっと私を抱く手に力が入る。
余計に私は彼女を感じてしまう。
「…でもよぉ、ドアが開いたまんまだぜ?ここに来て逃げた後って感じだぞ?」
「…いや!探せ。…畜生。殺してやる…」
ひとみちゃんは私をさらに強く抱きしめた。恐い…恐くて仕方ない。
だけど…どっかで私は沸きあがって来るスリルを楽しんでいた。
かくれんぼの時と同じだ…。ひとみちゃんと会ってから、私はよく
小さい頃の思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る事が多くなった。
男達の足音がだんだん近くなってくる。一歩…ニ歩…。
その音と私の心臓の音が、見事に比例していた。
(…!もぅダメ…!)
今までで一番強く、彼女は私を強く抱きしめた。
- 38 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)16時02分56秒
- 「おぅ!あっちにも小屋があるぞ!」
「そっちか?」
網に手が触れかけていた。
ドタドタと男達の足音が遠のいていく。そしてバタンと強くドアを
閉めた…。
パラパラと上の方からホコリが舞い落ちてきて。
この部屋を出て行ったと分かっていたが、体は硬直したままだった。
どっちから離していいのか、つまらない譲り合いが何だかもどかしくて…。
「…へへ。やったぁ。」
「…ふふ。やったね?」
ぎゅ〜っと私達は抱き合った。そして低く笑い合った。
何だか凄く可笑しくて…そして何か勝った気がした。
私達は勝者なんだ。
…ひとみちゃんの笑顔が可愛かった。あぁ、こうやって笑うんだっけ…
なんて懐かしく思い、私は知らず知らず、彼女にキスしていた。
暗闇で見えなかったけど、彼女の口が微かに
切れていた。
鉄錆びの味が、私の口の中いっぱいに 広がって。
なぜだか、そんな彼女が愛しくてたまらなかった。
- 39 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)16時03分48秒
- ゆっくりと唇を離す。目の前にキョトンとした彼女の顔。
そして一気に頬を真っ赤に火照らせて首をすくめたのだった。
いつもの吉澤ひとみではなかった。
いつもクールなくせに。
減らず口を叩くくせに。
今日の彼女は生意気な態度は微塵もみせない。
それが何だか可愛くて…
もう一人の私が顔を出すのに、さほど時間はかからなかった。
「…ひとみちゃん、今…何考えてるの?」
「…な、何も…。」
「…うそ。」
私は再び彼女にキスをする。そして離してはまたキスし、
今度は舌でひみちゃんの唇の形を確かめるように、
キスを落とす。
そして私の為に流してくれた血―。
乾いて固まっていたはずの血が、少しだけど
また流れ出す。
その流れ落ちる血の味を味わうように
一心不乱で舐める。
- 40 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)16時06分18秒
- 「…ん。」
彼女の口から漏れた小さなハスキー声。ゆっくりと楽しむように私はその
仕草をやめない。網を抜け出て、その上で私達は激しく感じ合った。
月の明りを背にし、私は彼女の前で服を脱ぐ。
何も言わずに彼女はキレイに澄んだ
大きな瞳で私を見つめる。
「…ひとみちゃん。…苦しいの。」
「…先輩…。一体…」
それからのことは…私は何も覚えていない。
ただ...部屋の中には私達の激しい息遣いと、
潮な香りでいっぱいだった。
―――――――――
―――――――――
- 41 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)16時07分22秒
- 「…先輩。」
トロンと、少し潤んだ瞳で私を見上げる。
「…さっきみたいに梨華って呼んでよ。」
「…どーしちゃったんすか…。」
「…わかんない。」
「…。」
行為が終わり、私は何事もなかったようにTシャツを着る。月の光が私を指す。
捻った足首が痛むのを忘れていたらしく、ズキズキと大きく脈をうってきた。
「…帰ろっか…。」
「…はい。」
スっと立ちあがる彼女。何とか私も立ちあがろうと必死だった。
「あ…」なんて気の抜ける声。
再度、私の前にしゃがみこみ
「…おぶります。」
素直に彼女の背中に抱きつく。よたつく事なくひとみちゃんは
立ちあがった。ゆっくりとその部屋を後にした私達。
砂浜を歩く。さっきまで耳に入ってきていた荒荒しい波の音が止んでいた。
うっすらと黄色がかった朝日が昇ろうとしていて…
何だか幻想的だった。
誰も居ない駅で電車を待つ間も…
電車の中でも…
寮の自分の部屋に戻るまで…
私とひとみちゃんの間には、何一つ交わされる言葉はなかった。
―――――――――――
- 42 名前:深み―。 投稿日:2002年05月30日(木)16時08分24秒
- 更新しました。
前と少し変わってかすが
ご了承ください。
- 43 名前:夜叉 投稿日:2002年05月30日(木)17時49分21秒
- 復活おめでとうございます。
この先の二人が気になります。頑張って下さい。
- 44 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月31日(金)03時21分24秒
- 復活ありがとうございます。すごくうれしいです。
または初めから読めて、続きも読めるんですね。
楽しみにしています。がんばってください。
- 45 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月01日(土)19時59分19秒
- >夜叉さん。
ありがとうございます。
頑張りますです。
>よすこ大好き読者さん。
ありがとうございます。
期待に答えれるよう、頑張らせていただきます。
- 46 名前:深み―。 投稿日:2002年06月01日(土)20時01分38秒
- 真っ暗い夜の海に私は一人立っていた。
月明かりさえない砂浜と海は、ただただ静かに
波の音を響かせていた。
...黙ってそれに耳を傾ける私―。
「…ん。」
カーテンの隙間から太陽の光が射し込む。
そっか…あのまま寝ちゃったんだっけ。
何だか体が重苦しくって。
起きあがるのにさえ、気だるさを感じるほどだった。
その時、ふと微かに潮の匂いが鼻についた。
「…あ。ひとみちゃんに返さなくちゃ…。」
彼女のTシャツ―。
なぜ…私は昨日、あんな行動に出てしまったのだろうか?
たしかに私は、ひとみちゃんを自分から…抱いたのだった。
- 47 名前:深み―。 投稿日:2002年06月01日(土)20時03分02秒
- 「おっはよ〜!…昨日はいかがでしたかな?石川さん♪」
「悪かったねぇ〜、なっちと矢口、急に用事が出来ちゃって!」
「矢口さん、安倍さん。おはようございまます。」
ニタニタしながら私の顔を覗きこむ2人。
「昨日、行ったんだろ?…よっすぃ〜と二人で。」
「どうだった?どうだった?」
ずいっと私に顔を近づける。何だか無償に可笑しくて。
「酷いです…二人供。私…二人供来ると思っていたのに。」
シクシクと嘘泣きしてみる。ギョ!っとした顔になる二人。
さっきまでの笑顔はどこへやら。
私は必死に笑いをかみ殺す。
(…この位のウソ…いいよね?)
「わ、悪かったよ。石川…よっすぃ〜と仲良くさせたくってさぁ。」
「…騙してゴメンね?お、お昼はおごるから。」
「約束ですよ?」
「じゃあ、さっさと着替えて、食堂行こうぜ。」
ひとみちゃんのTシャツを脱ぎ、潮の匂いで
篭もった部屋を後にした。
- 48 名前:深み―。 投稿日:2002年06月01日(土)20時04分58秒
…重苦しい頭の痛みで目が覚めた。横ではごっちんが
静かに寝息を立てている。サラサラな髪を軽く撫で、
起こさないように私はベットから身を乗り出す。
部屋の中は潮の匂いで満ちていた。
すっとカーテンを開け、そして窓を開ける。
心地よい風と、
繁り放題に伸びた桜の木々の間からは微かに陽がこぼれていた。
鏡の前に立ち、もう一人の自分に挨拶。
そして唇の形を確かめるように、私は指で撫であげた後、
点々としたキスマークの数を数えていた。
「…先輩。」
どうして先輩から…。
カーっと頭に血が昇り息苦しいほど胸がドキドキしてきた。
いつか結ばれる事を、私はずっと待っていたはずだったのに。
恥ずかしさからか、急に私はベットにもぐりこんでしまいたくなった。
- 49 名前:深み―。 投稿日:2002年06月01日(土)20時05分49秒
- 「…よっすぃ〜。おはよ…。」
「ごっちん…。おはよ。」
まだ完全に起きあがっていないごっちん。
両手で目を擦り擦り、そして大きく背伸びをする。
「…ねぇ。昨日…誰と海行ってきたの?」
「…矢口さん達だよ。何回も言ってるだろ?」
またその質問か…。しつこいように質問攻めだった。
うんざりだった。もう、たくさんだ。
ズキズキと頭痛が激しくなる。
あの後、帰ってきてから私は体を求められた。
ごっちんとの関係は…入学した頃から今に至る。
私は彼女に先輩を重ねていた。
酷い事をしているって分かっていても…いつも思うのは
…石川梨華―。
- 50 名前:深み―。 投稿日:2002年06月01日(土)20時06分55秒
…そして昨日、念願だった夢はかなったのだ。
人間は欲の塊だ。
人間はエゴの塊だ。
一つ欲望が叶うと、またさらに
追求したがる。
…人と言うものは、そう言う物だ。
限がないのだ。
汚い生き物だ。
私もその一人に入っているのだ。
「…わかった。お昼行こっか?」
「うん。」
悲しそうな目で私を見るごっちん。
その視線を断ち切り、私はTシャツを脱ぎ捨て
学校指定のダサい体操着に着替える。
ギュっと腰に回された手に、一瞬体を強張らせた。
「…ねぇ。キス…。」
じっと、ごっちんの顔を見つめる。
ここで拒んでは、後々厄介だと思った私は…
また先輩の事を思う。
さっきまでの罪悪感はない。
…私の心は先輩でいっぱいだった。
軽い触れるだけのキスをし、私とごっちんは
食堂に足を運んだ。
部屋の中は…まだ潮の匂いで満たされていた。
私とごっちんは、食堂に足を運ぶ。
隣で何か喋っていた、ごっちんの声が
私の耳を通りぬけていって。
…心の中は先輩の事でいっぱいの今の私は
少しごっちんが邪魔な存在に思えた。
- 51 名前:深み―。 投稿日:2002年06月01日(土)20時08分04秒
- 「ねぇ?よっすぃ〜聞いてんの?」
「あ、うん。お腹減ったね。」
「…もぉいい!」
ごっちんは、ぷぅっと頬を膨らませ
私を残して走り去って行ってしまった。
すると私に向かってクルっと振り返り、
あっかんべーをした。
私はそれを苦笑いしながらただただ見てる事しか出来ない。
その後ろ姿を見えなくなるまで黙って目で追っていた私は
何も考える事も、追う事もしないでいた。
しないんじゃない―。
出来ないんだ。
私にはそんな資格なんてないのだから。
そんな事はどーでもいい。
...ボーっとしたまま一歩、一歩踏みしめるように
階段をゆっくり降りて行く。
もしかしたらバッタリ会えるかも
…なんて期待を胸に一人でドキドキしてる私は
バカなんだろう。
- 52 名前:深み―。 投稿日:2002年06月01日(土)20時08分41秒
- 「…重症だな。」
中学の時にも、くたくたになりながらも淡い
恋心を胸に部活帰りドキドキしながら
帰った事が頭をよぎる。
自転車をこぐ手が震えて。
ゆっくり時間をかけてフラフラしながら帰ったっけ。
結局あの時は残念ながらあの人とは会えず、
家路に着いたっけ。20分で着くはずなのに
いつも1時間、かけて―。
でも毎日毎日が楽しくて仕方なかった。
クスっと私は笑った。誰かが見てたら
きっとおかしいと思われるんだろうな。
―そして卒業式に、私は思いきってその人に告白した。
「…あんな思いするくらいなら」
「石川って変だよ!やっぱ。」
「そんな事ないですよぉ。」
- 53 名前:深み―。 投稿日:2002年06月01日(土)20時09分51秒
- 私は耳を疑った。
間違えるハズはない。
あの声は先輩だ。
胸の鼓動が早くなる。昨日の今日だし
私はどんな顔で先輩に挨拶すればいいのか
変に意識してしまえば、矢口さん達に怪しまれるし。
後ろでは他愛ない会話が放たれていた。
「お!よっすぃ〜じゃん♪おっはよぉ〜」
「あ…おはようございます。」
「おはよう。よっすぃ〜。今からお昼?」
先輩が見ていた。全身の血が顔に集中してんじゃないかって
ぐらい、きっと今の私の顔は真っ赤だろう。
意識しないように…なんて思えば思うほど
恥ずかしさは増していく。
「…矢口さん、安部さん…行きましょう。」
スっと私の横を通りすぎる先輩。
その顔は…とても冷たかった。
私は呆然とその場に突っ立っていた。
微かに潮の匂いが先輩の後を追う。
何で…何かしたのだろうか。
何だか涙が出そうになった。
ガ―ンと金槌で頭を殴られたように
頭に劇痛が走る。
ただ一言…
…ショックだった。
「お、おい!石川!待てよ!」
「よ、よっすぃ〜ゴメンね!」
「…いいんです。」
静かに流れ出した涙。
私はその場を逃げるように
部屋に戻ったのだった。
―…
- 54 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月01日(土)20時11分00秒
- 更新しました。
毎日の更新は仕事の都合上
ムリですが、出来るだけ頑張りますので
よろしくお願いします。
- 55 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月01日(土)21時28分49秒
- このお話大好きなんで、毎日じゃなくてもいいですよほ。
これからどんな展開になっていくのか楽しみです。
- 56 名前:たろ 投稿日:2002年06月01日(土)22時08分51秒
- 初めて読ませていただきました。
この先2人はどうなっていくんだろう。すごく楽しみです。
無理なさらずにがんがってください。
- 57 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月04日(火)05時33分51秒
- >よすこ大好き読者さん。
ありがとうございます。そんな風に言って
いただくと、緊張しないで進めれます。
>たろさん。
嬉しいお言葉ありがとです。
はい。ムリしないで頑張ります。
っつーか少しはムリしろって感じなんですが(w
- 58 名前:深み―。 投稿日:2002年06月04日(火)05時34分51秒
- あれから私は先輩と一言も言葉を交えないまま
季節は梅雨を迎えた。
一週間ほど私はパニック状態に陥っていて。
でも...今の私の心の中では先輩の存在はあまり
大きな物にはなっていなかった。
いや…無理にそうさせていたのかもしれない。
春には桜の花が咲き乱れる通学路も
この時期は紫陽花の花が咲き乱れていた。
その花の上には蛙が嬉しそうに鳴いていて。
何だか私までもが嬉しくもなった。
「…今日も雨だ。」
むし暑い日々を、
あたしはヒマさえあれば音楽室に篭もり、
大好きなCDを持ち出しては聴いていた。
大きな音で流しても、しっかりした防音設備が
きいてるので、決して外には漏れる事はなかった。
最近、私は洋楽にハマっている。
- 59 名前:深み―。 投稿日:2002年06月04日(火)05時35分46秒
歌詞の内容なんてわかんないけど
ここんとこ、ずっとかける音楽は決まって洋楽だ。
今日は友達から借りた『Usher』って人の
歌を聴く事にしていた。
何年か前にアメリカでは大ヒットした歌らしい。
早速、私はオーディオの前に立ち、
CDを入れ、再生ボタンを押す。
ゆったりとした音程で始まったその曲に耳を
傾け、私はジュータンが敷いてある床に寝そべった。
―This is what you do this is what you do
This is what you do this is what you do〜…
(…なんちゅう歌詞だよ。)
―『君が僕をそそるのさ 君が僕をこんな気持ちにさせるんだ』―
- 60 名前:深み―。 投稿日:2002年06月04日(火)05時36分23秒
- ここの部分くらいならバカな私にも分かった。
知らず知らずの内に私は先輩の事を想った。
まったくその通りだと一人、感心してしまっていた。
ガバっと跳ね起き、私はデッキにあった歌詞カードに目を
配る。この先の意味が知りたくて…
必死になって追って見たけど…
いつのまにかその曲は終わっていたのだった。
私はもう一度、その曲を聴く。
ついでにリピートボタンを押し、今度は椅子に座りながら
聴く事にしたのだ。
―…
- 61 名前:深み―。 投稿日:2002年06月04日(火)05時37分34秒
- 「…ダメ。わかんない。」
何回聴いたのか。私は―。
わからないものほど、知りたがる。
そんなエゴを持っているのは私だけじゃないはずだ。
人ってそんなモンじゃない?
最近の私は なぜかエゴについて考える。
足りない頭で必死になって考える。
けれどもそんな難しいことなんて解るはずがなくて。
何時の間にか、外は暗くなっていた。
荒れ模様の放課後で、打ち続ける雨の音に混じって
葉桜の木々の騒ぐ音―。
ガラス窓がガタガタと鳴り、何だか恐くなった。
「帰るか…。」
デッキからCDを取り出し、カバンに詰め、
私はドアの前まで歩み寄った。
―その時だった。
「…あ。」
- 62 名前:深み―。 投稿日:2002年06月04日(火)05時39分00秒
- 懐かしいその独特の声の持ち主が目の前に立っていた。
突然、胸が苦しくなった。
何だか息が出来ないような、窓がひとつもない
部屋に閉じ込められたような…そんな感じがした。
急に恥ずかしさが顔を出す。ここに
長く居たくないと思った私は先輩に礼をし、音楽室を飛び出した。
「待って…!」
腕を掴まれた部分が、カーっと熱くなる。
どうしてここに居るんだろう。
私はごっちんにも誰にも教えていなかった。
ただ一人知ってると言えば、音楽の先生の
平家先生しかいないのだから。
しかも絶対に私がここを使ってる事を秘密にと
頼んでいたのに。何だか裏切られた気分だ。
「…離してください。」
「…ヤだ。」
華奢な先輩の腕を払いのける事なんて簡単だ。
…口では離してなんて言ってるけど、ずっとこのまま
私は先輩の体温を感じていたかった。
封印していたはずの感情が、
その時、パァっと解き放たれたのだ。
- 63 名前:深み―。 投稿日:2002年06月04日(火)05時40分29秒
- 「…同じ曲、何度も聴いてたね。」
「…関係ないっすよ。」
…私は変だ。そして先輩も。
矢口さん達といる時の先輩と―
先輩といる時の私の態度は―
一変する。
私は弱くなる―。
弱くなるんじゃない。
私と先輩の性格が変わる…?
「…何でここに?」
「…わからない。でもここに居たの。」
たしかによくわからない説明だった。
とうの本人でもわからない事が、どうして私なんかに。
わかる訳ない。
「…とにかく私は帰ります。」
「…ひとみちゃん。」
ドキっとした。あの浜辺での出来事が
フラッシュバックする。
あの小さな小屋で確かに私達は愛し合ったのだ。
それがまるで昨日のように感じた。
今度は私からあの様に求め合って
しまうかもしれないと私は強く感じていた。
早く帰って英語の辞書で歌詞の内容でも調べよう、
必死で気持ちをかけ離そうと思った。
「…失礼します。」
先輩を取り残し、私は逃げるように
走ってその場を離れた。
―その後姿を見て、先輩がクスっと微笑した事を私は知らない―。
―…
- 64 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月04日(火)05時41分39秒
- 朝早くに更新しました(w
読んでくださってる方々、更新が
遅くて大変申し訳です。
- 65 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月04日(火)20時37分31秒
- 毎回楽しみに待ってますよ〜♪
マタ-リと作者さんのペースでやってください〜。
- 66 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月10日(月)15時03分19秒
- マターリ、お待ちしてます。
がんがってください。
- 67 名前:ぷー 投稿日:2002年06月11日(火)00時21分38秒
- こんちわ!ケイタイで見てたときから
おもろくてずっと読んでたんですけど
タイトル忘れてず〜っと探してたんですよ!
で今日偶然見つけられてラッキー♪
ということでマイぺでがんがってくさい。
- 68 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時08分43秒
- >名無し読者さん。
マターリしすぎですかね(w
頑張ります。
>ごまべーぐるさん。
マターリお待ちください…。
なんせダメなヤツですから(w
>ぷーさん。
携帯でですか!お金使わせてしまいましたね(w
マイペでがんがります。
すみません。
全然、更新できなくて(汗
有難いですね…こんなダメ作者に
付き合ってもらって(涙
- 69 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時10分16秒
- 授業の終わりのチャイムの音と供に、まっすぐ図書室へ飛んでいく。
今日は部活もなく、あの歌の歌詞を少しでも解読してやろうと
辞書と歌詞カードをギュっと握り締める。
ここまで来ると意地になる。
昨日、あれから部屋に戻った私は、ごっちんとのまったく愛のない
行為に没頭した。久しぶりに先輩と会話…した事により、
あまり行為はイヤなモノではなかった。
何度も何度も私は先輩の事を想い、そして重ねながら―。
罪悪感はあったけど私は変わらずそんな感情を無視していた。
「…調子狂うね。」
図書室は、時にその静寂が息苦しいことがあるけど、
そこはやはりもう一人の自分に出会う、懐かしくも
恐い場所でもあった。
シン...と静まり返った部屋の中には、書物の番人をするため
生まれてきたような女性がいて―。
すべての貸出事務は整然と行われ、本の保存状態もとてもよかった。
保田さんというその女性は22歳で、地味で無口で…
学校の近くのマンションに3匹の猫と一緒に暮らしているらしい。
- 70 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時11分10秒
- そんな彼女と目が合った。私は軽く会釈し、一番奥の
本棚に挟まれてる場所に陣取った。
さっき売店で買った真新しい大学ノートを開き、
その上にカードと辞書を置いた。
まずは一通り、歌詞に目を通し、解る単語のトコだけを
ノートに書きこむ。これが後々大変な作業になるなんて、
今の私には分からないでいた。
「…やっぱバカだよ。」
時計をチラリと見ると、ここに入って来た時間から
2時間はたっていた。さっきまで曇り空だったのに、
外では雨の音が響いていた。
帰ろうかと私がカバンにそれらを
入れようと―
「なんだ、もぉ帰んの?」
「は?私…ですか?」
「そ。君以外に誰も居ないけど。」
- 71 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時12分21秒
- クスっと笑う彼女。その笑い方、猫。
よく猫が食事した後に顔を拭く仕草に似ていて
何だか妙にムズ痒かった。
「何よ?アタシの顔がそんなに可笑しいの?」
「ち、違いますよ。」
『ま、いつもだけどね』って軽い溜め息を吐き、そして嘆く。
そんな番人にいきなり話しかけられたんで
体が硬直してしまった。
「ん…?あ〜解読してたんだ。本も読む気配もしないし、
何やってんかなぁ〜って思ってたんだ。」
「は、はぁ…。」
何食わない顔で、テーブルの上にあった歌詞カードを
拾い上げ、保田さんは何も言わずそれを目で追っていた。
私はそんな保田さんを、ただ見ていた。
「…ふぅん。中々熱い内容じゃん。」
え?熱い内容?…って事は、この人はもう
解読してしまったのだろうか?
それほど時間はたっていない。
ホンの1、2分だったはずだ。
- 72 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時12分52秒
- 「…英語。」
「え?」
「英語読めるんですか?」
保田さんは照れたみたいで、首をすくめて笑った。
…この人の前世は、きっと猫だったに違いない。
「読める?って…言うのかな。この場合は。」
「あの、教えてください!私、知りたいんです!
この内容がどうしても…。」
ポカンとした顔で私を見ていた保田さんは、
クイっと丸い銀縁の眼鏡を上に上げながら
特徴のある含み笑いをし、
「いいよ。」
と言った。
「ただし、条件付きね。世の中はそんな甘いモンじゃないよ」
- 73 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時13分23秒
- 『世の中はそんな甘いモンじゃないよ』
たしかにその通りだ。私が2時間かけても
全然理解出来ないでいた。
それを保田さんは意図も簡単に解読してしまった。
彼女は2年間、アメリカのNYに留学していたらしい。
それじゃあ当たり前だねって思ったけど、もし私が
2年間留学して、本当に英語が出来るようになるのか?
って思った。
「ちょっと。…アンタも圭織みたいに交信出来んの?」
「交信って?」
「いや。何でもない。」
ゴホンと咳払いをした保田さんは
顔を赤らめたのだった。
圭織なんて聞いた事もない名前だった。
まぁ、私にはどうでもいい事だ。
「条件ってなんですか?」
「うん。簡単な事だよ。毎日通ってくれればいいだけのこと。」
「私、部活やってるんですけど。」
「そうなの?」
「バレーやってます。」
- 74 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時13分56秒
- 保田さんは、残念そうに『そうだよね。若いから青春しなきゃ』
なんて訳わかんない事を言ってたけど
その後に、ポツリと言った言葉が何だか切なくて。
『話し相手が出来るかなって思ったけど、そんなうまくいかないね。
世の中、そんな甘くないんだから』…って。
そんな保田さんが何か可愛く感じてしまった私は
咄嗟に...
「終わったらでも顔出しますよ」
「ホント?吉澤?」
「え…?私、名前言いましたっけ?」
「アンタ、有名だよ。ここに閉じこもっていても、
吉澤の話は耳に入ってくるからね。」
「…どう言う意味ですか?」
「ま、悪い噂…じゃ〜ないから安心しな。始めるか。」
この人は突拍子もない人だ。
挨拶が済んだと思えばいきなり本題に移るんだもんな。
私の噂って…大体分かってるけど。
でも保田さんにはイヤな感じはしなかった。
むしろ好感がもてた。
―…
- 75 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時14分33秒
- 「じゃ、今日はここまでにしょっか。」
「はい。じゃあ、また明日。」
「また明日ね。いい響きだ。…どうしてこの内容が
知りたくなったかなんて聞かない。
どんな形でも、興味を示すことはいい事なんだから。
頑張んな。そしてまた明日。」
「はい。また明日。」
2回も『明日』って強調して繰返す番人が何だか可笑しい。
よっぽどヒマしてんだなって。
―君が僕をこんな気持ちにさせるんだ
彼女との関係 これから起る事に想いをめぐらせているよ
君が僕をこんな気持ちにさせるんだ
君の存在が 僕をその気にさせるんだ
君が僕をこんな気持ちにさせるんだ…―
乱雑にペンを走らせノートに書きこみ、私は図書室を後にした。
―…
- 76 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月11日(火)19時15分07秒
- 少しですが更新しました。
- 77 名前:ぷー 投稿日:2002年06月12日(水)00時28分32秒
- どこからともなく更新情報をキャッチしぶっ飛んで来ました!
そうですケイタイ代はすんげえかかりました。2ま(ry
あらやだ圭ちゃんいい人ねえ…。吉を助けてあげて。
- 78 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月12日(水)19時35分57秒
- ヤッスーは司書ですか。高校の図書館でバイトしたコトありますけど、確かにたまに話し相手は
ほしいかも。
では、がんがってください。
- 79 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月16日(日)20時34分25秒
- >ぷーさん。
どこからともなくですか(w
携帯代、払わなくちゃ(w
ヤッスーはいつでもどこでも
いい人です(w
>ごまべーぐるさん。
密かに金板&海板…読ませていただいております。。。ナムナム
がんがりますよほ。。。
- 80 名前:深みー。 投稿日:2002年06月16日(日)20時37分49秒
- 今日もまた、ボーっとしたままつまらないお経を唱える
教師の話はそっちのけで。
最後の授業を何とか受け、
私はチャイムの音と供に体育館へ走った。
部活中も、その先の内容が気になって練習どころではなかった。
売店で買った菓子パンをほお張り、牛乳で流し込む。
図書室に向かう途中、私は矢口さんと先輩の姿が
視界に入った。いつもと何も変わらない2人。
からかうのが楽しくて仕方ない矢口さん。
泣きそうな顔の先輩―。
「あ、よっすぃ〜。終わったのかぁ?」
「はい。…相変わらずですね。矢口さんに、石川先輩。」
「相変わらずって何よ!失礼じゃない。」
「いえいえ…いつも通りで結構です。」
ぷぅっと頬を膨らます先輩を笑って受け流した。
そうだ。いつも通りだ。
何で私はこんなにも
落ち着いていられるのだろうか?
そんな事は今はどうでも良かった。
今は早く…図書室に向かうだけ。
「私…用事があるんで失礼します。」
「ああ。後藤にもヨロシクな。」
「はい。」
- 81 名前:深みー。 投稿日:2002年06月16日(日)20時40分06秒
- ―石川視点―
この前、音楽室で会った彼女とはまるで別人だった。
…出会った頃の吉澤ひとみ。
何も変わらないのは、今でもつけてる
耳に光る2つのクロムハーツのピアス。
私達に背を向けた時、キラっとなびく髪の間から
光ったのが印象的だった。
「なぁ。石川って何でさぁ、よっすぃ〜をそんなに嫌うんだ?
あ…もしかして…好き…とか?」
「…嫌ってないですよ。それに…好きとか…」
「…え――?す、好きなの?」
矢口さんが少しばかり大きな声を出して
私を見上げた。誰もいない廊下に響き渡る声。
「あ…ゴメン。」
「いいんです…。」
ハっと我に返った矢口さんがシュンとした顔で
私から顔を背けた。
どうしてそん驚くのか解らなかったけど。
「…あの、話しはかわるんですけど。後藤さんって」
「え?後藤がどうかしたの?」
- 82 名前:深みー。 投稿日:2002年06月16日(日)20時43分40秒
- 私の話しが終わらないうちに、矢口さんは話しを続けた。
「…後藤と、よっすぃ〜っていつも一緒にいるじゃん。
…なんか怪しい噂がたってんだよね。」
「怪しい…噂?」
そんな噂なんか私は1度も耳にした事なんてないよ。
チラチラと彼女の視線が突き刺さっていたような感じがしたけど
私は気づかないフリをし、そのままボンヤリと天井を見ていた。
正直、ちょっとショックだったけど…
「その…毎晩...って〜!矢口に何言わせるんだよ!」
「いいから!話してください!」
「い、石川…痛いって。な、なんだよぉ〜。
―…耳を疑ってしまった。矢口さんが私に
ウソをついてるんだ、って事はないよね。
「いいか?誰にも言うなよ?」
「…軽蔑した?」
「「あ…。」」
- 83 名前:深みー。 投稿日:2002年06月16日(日)20時45分59秒
- いつの間にか私と矢口さんの後ろには
後藤さんが立っていた。
その表情がとても冷たくて。
背中にスーっとした
汗が流れ落ちるのがわかった。
「ご、後藤…いつのまに?」
「…どこから聞いてたの?」
「ん?毎晩ってとっから。でもね?間違ってる。
毎晩なんかヤってない。…梨華ちゃん。」
ツカツカと歩みよってきた後藤さんは
私の顔を見る。
隣にいる矢口さんには目も触れず―。
「…梨華ちゃんと海に行ってから、よっすぃ〜は…
ううん。何でもない…。」
「い、石川?…って後藤!お前、ヤるとか言うなよ!」
「……」
「ま、本当の事…知りたかったら今晩、あたしとよっすぃ〜の
部屋に来ていいけど。」
後藤さんは手をヒラヒラさせながら行ってしまった。
矢口さんは私と後藤さんを交互に見ていた。
本当なのだろうか?
そして後藤さんは一体、何を私に話すつもりだったのだろう?
ただ事実が知りたい。
「石川、よっすぃ〜と何かあったのか?」
「いえ。何も。さ…安倍さんが待ってますから帰りましょうね。」
「お、おう…。」
―――――――
- 84 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月16日(日)20時48分35秒
- 忙しくて中々、更新できずにすみません(汗
全部一応書いてたのが、いきなり消えてしまいまして。。。
どこまでこの作品は呪われて(?)るんだろうと…。(w
そぉとぉ困っております。。。
- 85 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月16日(日)22時49分44秒
- 作者さん、がんがってください。
ここのいしよし、すごい好きです。
自分も森板の時、ストックが2/3消えたという憂き目に遭いますた。
マターリ待ちます。
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)08時54分53秒
- このお話大大大好きです。欠かさず更新チェックして楽しみに
待っています。ただ、お話を小出しにすると、小説としての
面白さが半減するかもしれません。えっもう終わりかよって
肩透かし食らう感じで感情移入が難しい。でもマメな更新も
ありがたいしなー。ファンとしては悩むところ。勝手なこと
言ってスマソ
- 87 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月19日(水)20時57分00秒
- >ごまべーぐるさん。
ありがとうございます。
ストックが消えるというのは恐ろしいことですね(w
あんまりマターリ待たさないように
がんがりますです。
>名無し読者さん。
欠かさずチェックですか(w
どうもです。(照
いえいえ。マジな感想、ありがたいですよ。
正直、長たらしく書いていいのかな?って思ってたんで。
見捨てず最後までお付き合いください。
- 88 名前:深み―。 投稿日:2002年06月19日(水)20時58分47秒
- 少し前まではお風呂や、廊下での
他愛のない話でざわめいていた寮内も今はもう
静寂の中にあった。
後藤さんの言葉が気になった私は
じっとしていられなくなり
とうとうベットに起きあがった。
部屋を抜け出し、足音をしのばせて後藤さん達の部屋に向かった。
フロアに灯っている蛍光灯が寒々しく
ゾクっとするような冷気が漂っていた。
(ここだよね。でも…やっぱりイヤ。)
今更ながら、自分のしている事に
嫌悪感を覚え、自分の部屋に戻ろうとした。
後藤さん達がいる部屋の前を目前にし、
私はクルリと背を向けた。
(…え?)
- 89 名前:深み―。 投稿日:2002年06月19日(水)20時59分40秒
- 私は耳を疑った。
ぴったりと閉じられたドアの向こうで、
ベットの軋む音が聞こえた。
さらにその音に重なって、密かな息遣いが漏れて来る。
はっと私は体を強張らせた。
押し殺した微かな呻き声は…後藤さんで。
荒い息遣いは…ひとみちゃんとしか考えられない。
…それがどういうことなのか、とっくに分かってはいるけど、
こうして実際に身近で聞く事が今までになかった。
「…ん!よっ、すぃ〜…あぁん!ダメ…」
「…何が…ダメなんだよ?」
頭に血が昇り、息苦しいほど胸がドキドキした。
このまま駆け戻って、ベットにもぐりこんでしまいたかった。
だけど私は、そのまま進んで、静かに部屋の前を通りすぎる―。
――――――――
―家に帰ってベットに横になっても
君のことが頭から離れなかったよ
君が僕をそんな気持ちにさせるんだ―
- 90 名前:深み―。 投稿日:2002年06月19日(水)21時00分26秒
- ―吉澤視点―
私はまた今日も、保田さんがいる図書室にきていた。
ただ昨日と違う事は、先生がいないってこと。
部活をさっさと終わらせ 待たせてはいけないと思いながら
息をきらしながら走ってきて私は勢いよくドアを開けた。
けど…そこには番人の姿はなかったのだ。
いつもの席に座り、ボーっと外の景色を見ていた。
部活帰りの生徒の傘が色とりどりで、その光景が
まるで花のようにキレイだった。
今日も雨が降っていて、いつもと変わらず
嬉しそうに蛙達が歌っていた。
「ご、ごめん!遅くなった!」
「いいっすよ。私も今、来たトコですから。」
パチンと手を合わせ、必死な顔で頭を下げる保田さん。
「ホント、ごめんね?」
「じゃあ、今日は結構…教えてもらおっかな♪」
「仕方ないね。アタシが悪いんだから。さ!本題に入るか。」
『昨日はどこまでやったっけ?』
- 91 名前:深み―。 投稿日:2002年06月19日(水)21時01分10秒
- 私は歌詞カードの、ちょうど真中辺を指差す。
『そうだった』なんてと言ってポリポリと頭をかく保田さん。
時計はすでに7時を回っていた。
本当は、図書室の閉館は7時と決まっている。
私はチラチラと時計を気にしながら
歌詞カードを見る。
「どした?時間が気になるか?」
「はい…大丈夫なんすか?」
「うん。校長にさ、許可もらってっから。」
クイっとまた眼鏡を上げ、恥ずかしそうにまた首をすくめて
笑う。私はそんな保田さんって凄いと思った。
何が凄いっていわれても、よくわからない。
けど、この人の事は私は嫌いではない。
…ここで過ごす時間は今の私にとって
大事な事のように思えた。
部活で疲れた体も。
私生活での心の疲れも。
何だか洗われるようで。
- 92 名前:深み―。 投稿日:2002年06月19日(水)21時01分59秒
- 「アタシさぁ。ここ好きなんだよね…。」
「え…?」
ペンを走らせていた私の手元がピタリと止まる。
「図書室。あんま生徒は来ないんだけど、こうして好きな
本を読んで…お金貰ってんだもん。幸せだよ。ずっとここで仕事…
していたいよ。もし…ここがクビになってもさぁ、アタシはいつでも
本に囲まれてるような仕事したいよ…。へなちょこだけど
一応、アタシの夢。」
そんな想いは私にも分かる。こんな風に丁寧に
整理整頓が出来てるし、いつもキレイにしてんだから。
夢…を語る保田さんが、何だかあたしにはカッコよく映った。
簡潔に、好みや…将来の夢…未来など語れる自信なんて、あたしにはない。
未来なんていつも…曖昧模糊とした霞がかってるのだから。
「保田さんなら…ずっとこの仕事…出来ますよ。」
「サンキュ♪さ、進もうっか!」
- 93 名前:深み―。 投稿日:2002年06月19日(水)21時02分47秒
- この人は、何も私に聞かない。
私も何も聞かない。
それが暗黙の了解となっているのは、
保田さんも私も言わないけど分かっていた。
「…ひとつだけ言っていいですか?」
「ん〜...?何?」
ゴホンと軽く咳払いをしたあと、あたしは静かに保田さんを
見た。保田さんはノートに視線を落としていたけど、銀ぶち眼鏡を
くいっとあげ、柔らかに微笑みながらあたしの顔を見る。
「…ここ。好きです、あたし。なんか…素直になれるって言うか」
「そっか。良かったよ。」
そう言って、彼女はすぐさまノートを見つめた。
少しばかり耳が赤くなっていて、見ていたあたしさえ
なぜか恥かしくなった。
たった一言、二言だけの会話だけだったけど、
言いたいことが伝わったような感じがしたんだ…。
―僕はどうすればいいの?
自分の気持ちに正直になればいいのかな?
とにかく宙ぶらりんさ―
―――――――――――
- 94 名前:名無しどす。 投稿日:2002年06月19日(水)21時04分15秒
- 更新しました。
- 95 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月21日(金)00時27分05秒
- いしかー、とうとう事実を…。
続き、楽しみにしてます。
- 96 名前:an 投稿日:2002年06月21日(金)11時14分00秒
- 吉澤はなんで後藤とやっちゃうのさ・・・
- 97 名前:あおのり 投稿日:2002年06月25日(火)02時39分06秒
- やっすー大人ですな。非常に魅力的です。
続きをまっとります。はい。
- 98 名前:ぷー 投稿日:2002年06月27日(木)02時38分49秒
- グロイ…ごっちんグロすぎる…。
うわあああん!!やばいこのままじゃ
せっかくのクリスマスがグロくなっちゃうよー!
圭ちゃん助けて…。
- 99 名前:名無しどす。 投稿日:2002年07月02日(火)20時51分22秒
- >ごまべーぐるさん。
期待されてドキドキです(w
(;^▽^)<何で?
>anさん。
(O;^〜^)<…スマソ。
( ´Д`)<…いいんだよ。
>あおのりさん。
ヤッスー、大人で偉大です(w
そして魅力的(ww
更新遅くてすみません。
>ぷーさん。
( ´Д`)<グロいかなぁ…ごとー...。
この先、保田さんにも作者にもどーなるかわかりません…。
クリスマス…そうか。
更新遅くてすみません(汗
いろいろありまして。
この先はなるだけ早く更新出きるようにはしたい
と思っております。
- 100 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 101 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
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- 105 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時44分37秒
- 同じ……?
- 107 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月03日(水)11時38分25秒
- 作者さ〜ん
重複してますよー(泣)
- 108 名前:名無しどす。 投稿日:2002年07月03日(水)12時55分50秒
- あわわわ(汗
ほ、ホントだ!削除依頼だしましたので…。
ホント、すみません!
夜にでも多めに更新致しますです。
>>名無しさん、名無し読者さん。
すみませんすみません(汗
教えていただきありがとうです。。。
- 109 名前:深み―。 投稿日:2002年07月04日(木)05時17分18秒
- 「ねぇ、よっすぃ〜。部活終わってからさ、どこ行ってんの?」
「どこにも行ってないよ。」
「…ウソ!だって帰り遅いじゃん!」
保田さんが居る図書室に通う事になって
はや1週間が過ぎようようとしていた。
こうしてごっちんんとのやり取りは、ここ
1週間、毎日のように行われていた。
険悪な雰囲気がいつものように流れ、あたしはいい加減
ウンザリしてくる。キュっと身が縮まるような胃の痛み―。
「…早く朝ご飯食べにいこうよ。」
「…いらない。」
そっぽを向いた彼女。
機嫌はそうは簡単に治らないのはいつものことだし。
フー...っと軽い溜め息を吐く。
あぁ…またこれで幸せが一つ逃げちゃったよ。
ごっちんを部屋に残し
私は一人食堂に向かうことにした。
- 110 名前:深み―。 投稿日:2002年07月04日(木)05時18分28秒
- ―石川視点―
私はお部屋の中で...ジっとひとみちゃんに返しそびれたTシャツを
眺めていた。昨日から降り続いていた雨も止んでいて。
久しぶりの晴天だった。木々の隙間からたまに見せる太陽の光が
優しく紫陽花達に降り注いでいて、葉にたまっていた雨の雫が
キラキラと輝いている。
今日から3連休。
…でもこれといって特別何もやる事がない私は
少し憂鬱になっていたのでした。
あの後藤さん達のお部屋に行き、事実を知った日から
一人モヤモヤした日々を送ってる事など、
矢口さん達は知りもしない。
「石川〜。飯だぜぃ!」
「梨華ちゃん、何をボーっとしてるのさ。」
「あ…おはようございます。」
- 111 名前:深み―。 投稿日:2002年07月04日(木)05時19分45秒
- いつもと変わらないのは、毎朝私をこうして
迎えに来てくれる矢口さんと安倍さんに挨拶し、
食堂までの、そう遠くはない距離をダラダラと私達は
献立のお話をしながら足を運ぶのだった。
「今日は何だろうな?」
「ねぇねぇ。今日、ご飯食べたら、出かけないかい?」
「いいなぁ。石川も行こうぜ。」
「…今度こそ3人でですよね?」
「お前なぁ〜。」
「あ!よっすぃ〜だべ。お〜い!よっすぃ〜、おっはよぉ!」
スタスタと階段を降りていた彼女の動きがピタっと止まり
そして、ゆっくりと私達の方へと振り返る。
何だか今日はいつもと違って元気がないように見えた。
- 112 名前:深み―。 投稿日:2002年07月04日(木)05時23分51秒
- 「おはようございます。矢口さん安倍さん…先輩」
「…おはよう。吉澤さん。」
「おお!!石川が…!よっすぃ〜に挨拶したぞ!なっち!!」
「な、なっちも聞いたべさ!」
矢口さんと安倍さんは、そんな私達のやり取りを見て
目を丸くし、とても驚いた表情をしていた。
そんな二人はほっといて…私は彼女の顔を黙って見ていた。
クスっと笑みをこぼした表情が、とても優しく感じられ
恥かしくなってしまう。
「嫌われていても…挨拶ぐらいなら交わしますよね?先輩」
「ちょ…!朝から何なのよ!…嫌い。嫌いよ!吉澤さんなんて!」
「…そーですか。じゃ…失礼します。」
ニタっと勝ち誇ったような感じの笑顔だったけど
なぜか嫌味など微塵も感じられない…。
スタスタとまた一人で歩いて行ってしまった…吉澤ひとみ。
「ほ、ほら。石川…。行こうぜ。」
「そ、そだね。早くご飯食べて出かけるのが一番っしょ!」
バツが悪そうに二人は固まっている私の手を
強引に引っ張り、食堂へと向かったのだった。
――――――
- 113 名前:名無しどす。 投稿日:2002年07月04日(木)05時24分51秒
- 昨日の夜に更新するとか言って…。
すみません。
少しですが更新致しました。
- 114 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月04日(木)23時35分28秒
- 更新お疲れさまです。何かハプニングがあったようですが、
( ^▽^)<ドンマイ♪
よすこの
(0^〜^)<…先輩
って呼び方に何故だか萌えてる今日この頃です。
- 115 名前:ぷー 投稿日:2002年07月04日(木)23時49分46秒
- コウシンオツカレサマデ〜ス♪大変でしたね。
でも圭ちゃんがいっぱいでおもろい(w
早く仲直りしてほしいんだけど
ケンカっぽい場面の方が逆に好きかも?
- 116 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年07月06日(土)15時53分19秒
- 確かに吉の「先輩」に、萌え〜(w
続き楽しみにしています。がんがってください。
- 117 名前:名無しどす。 投稿日:2002年07月21日(日)20時41分24秒
- >ごまべーぐるさん。
…ハプニング続きで鬱になってますた。
自分が悪いのですが(w
>ぷーさん。
…大変ってか何やってんだ!自分!って感じですた。
圭ちゃんですか(w
>よすこ大好き読者さん。
(O^〜^)<…先輩。
( ^▽^)<…よすざわさん♪
…逝ってきます(w
- 118 名前:深み―。 投稿日:2002年07月21日(日)20時45分49秒
- 「あ〜!ハラ減った!…って…よっすぃ〜?」
食堂の入り口で、私達は信じられない光景を目にした。
ひとみちゃんが2人組みの生徒に向かって
激しく殴りかかっている。
誰も止めはしていなかった。
…ううん。
恐くて誰も止められないって言った方がいいのかな…。
急いで私達はその場まで足を運ぶ。
一体何があったのだろうと、
安倍さんが近くの生徒に聞いていた。
矢口さんは必死で
小さいその体で止めようとしていたのだった。
「あ、安倍さん?」
「なんかね?圭ちゃんって知ってるっしょ?あの
人…クビになったんだって。なんでも、放課後、
生徒と一緒に…その…。で、それを近くで聞いてた
よっすぃ〜がいきなりキレて殴りかかったみたい。」
「…おらぁ!もういっぺん、言ってみろよ!」
2人の生徒の胸倉を掴み、ひとみちゃんは顔を真っ赤に
しながら睨みつけていた。うっすらと額に浮き上がった血管は
今にも破裂しそうな勢いで。
懸命にひとみちゃんを押さえつけてる矢口さんと、
矢口さんの隣にいた生徒が一緒に
なって必死でお腹周りを抱きしめつけてる生徒の顔からは
大量の汗が流れ落ちている。
- 119 名前:深み―。 投稿日:2002年07月21日(日)20時49分25秒
- 怖さで固まったまま、その彼女等はワンワン泣きわめきながら
鼻からは以上なほど真っ赤な血がドクドクと流れ落ちている。
きっと…その生徒って言うのが、ひとみちゃんなんだって
すぐに感づいた。海に行った時、電車の中で
私のお尻を触った男に食ってかかった時と同じだったから。
「…おい!よっすぃ〜止めろよ!…吉澤!!
いい加減にしろ!!!…鼻折れてんぞ!」
やっとの思いで矢口さん達はひとみちゃんを引き離し、
床に押さえつける。
グっとしかめっ面し、我に返る。
肩で大きく息をしながら彼女は今までに見せたことのない
弱々しい表情をした。
なぜか私までもが悲しくなって―。
矢口さんを押しのけ、ひとみちゃんは立ちあがり
自分の赤く染まった拳を見つめる。
そして肩で大きく息をして食堂を出て行った。
「…ひと」「……うぅ…」
目にはいっぱいの涙を貯めながら―…。
―――――――――
- 120 名前:深み―。 投稿日:2002年07月21日(日)20時50分37秒
―吉澤視点―
私は保田さんが居るハズのない図書室に全力で走った。
視界が歪んでいたあたしは、幾度も転びそうに
なりながらもひたすら覚束無い足取りで懸命に走り図書室に向かう。
くいっと眼鏡をあげる仕草をしながら恥ずかしそうに笑う
保田さんの顔が何度も頭を過った。
「…ァハァハァ。…先生!…保田さん!!」
鍵がかかってなかったのだが、電気が消されていて
中はいつもよりもキレイに掃除されていた。
部屋にあたしの声が響くだけで。
あたしは泣いていた。さっきよりも激しく泣いていたことに気づく。
今でもあの番人が、もしかしたら
ヒョコっと顔を出し
『おっす!吉澤。よく来たね。』
なんて聞こえてきそうな気がした。
そしてまた恥ずかしそうにやってきては
首をすくめて笑うんだ。
- 121 名前:深み―。 投稿日:2002年07月21日(日)20時51分53秒
- 『どした?何で泣いてんのよ?』
って…。
だけど。
いくら目をまなこにしてみても、保田さんの姿はなかった。
ぼんやりとしたまま、ゆっくりと番人の席に私は向かう。
日の光がやけに眩しく感じられた。
あたしは目を乱暴に拭い、突き刺さる光を
全身に浴びさせた。
ふと―。
机の引出しに
何かが挟まっている事に気付き
私はすぐさまそれを引っ張り、乱暴に
中に入ってる手紙を読んだ。
………
- 122 名前:深み―。 投稿日:2002年07月21日(日)20時52分46秒
- 『吉澤へ。 え〜っと。クビになっちゃいました。
そうそう。あたしが悪いんだなんて思っちゃいけない。
絶対ね!わかった?それでさ、あの続きなんだけど
―今のところ 僕にはどうすることも出来ないよ
彼女を傷つけるつもりなんてなかったんだ
けれど、彼女に別れを言わなくちゃ
彼女が僕の気持ちを解ってくれないとしたら
今の状況をどう説明すればいいのさ
君への想いを打ち消そうと努力したよ
なのに 想いがつのっていくばかり
君が僕をそそるのさ
君が僕をこんな気持ちにさせるんだ―
…この歌詞ってアンタの今の気持ちと一緒じゃない?
ってさ、アタシは思ったよ。どう?
でもね、自分に正直になりなよ。気が楽になるハズ!
おせっかいかもしれない。でもいいの。
アタシが前に言ったアンタの噂。
吉澤カッケ〜けど、近寄りがたいってコト。
ね?そんな大したコトじゃないでしょ?
でもアタシはそうは思わないわ。
- 123 名前:深み―。 投稿日:2002年07月21日(日)20時53分45秒
- …まぁ、アンタがこの歌詞に当てはまる(?)
その子に出会った事で、
優しくっつーか、トゲが取れたのかもね。
って。ただそれだけ。よくわかんないわ。
でもさぁ、人と人の出会いって…いいよね。なんか。
なんかって言ったって良くわかんないけどさ。
よくわかんなくなっちゃったから…以上ね。(笑)
それと…最後の授業もこれで終わりだね。
何かさ…寂しいよ。やっぱ世の中そんなに甘くないね。
でもアタシは後悔してない。じゃあ、弱音はくなよって思ったろ?
...吉澤。アンタがこの歌詞の内容と今の自分を当てはめてた
のかは知らない。何回も言うけど正直に生きな。それとさ、
きっと生きてりゃまたいつかどこかで会えるだろうし。
あ!もしアンタが今気になってるコとうまくいったなら
万歳ね!アタシも嬉しいかも!ってかやっぱ意味わかんないわ(笑)。
…元気でね。
番人・保田圭より。 』
- 124 名前:深み―。 投稿日:2002年07月21日(日)20時55分36秒
- 最後の方の文章は、涙で滲んでよく見えなかった。
保田さんには全部お見通しだったんだ。
人と人の出会いっていいよ、保田さん…。
心も体も…キレイになっていくような感じがするんだもん。
自分に素直に。
他人に優しく。
あたしは保田さんと出会って、あんなに自分が嫌いだったのに…
少しは自分が好きになれたよ。
好きな人だって出来たんだよ。知ってるんでしょ?
…もぉ、恋なんかしないって…あの時、決めたはずだったのに…。
「…世の中そんな甘くないね」
保田さんの口癖。
いつもいつも言ってたっけ。
本当だね。保田さん…。
…苦しい。
…苦しいよ。
何だか知んないけど、苦しいよ…。
あたしはその手紙を握り締め、
部屋に戻り、お金と一枚のCDを手に寮を飛び出した。
――――――――
- 125 名前:名無しどす。 投稿日:2002年07月21日(日)20時57分52秒
- 中々、更新しないですみませんでした…。
- 126 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年07月22日(月)00時20分32秒
- ヤッスー(T〜T0)
悲しすぎます・・・・。
続き期待!がんがってください。
- 127 名前:ぷー 投稿日:2002年08月03日(土)01時39分46秒
- ケメ子かっけ〜!!でもカナスィー…。
がんばって正直になるんだ吉子!
そして作者さんもマイペでがんばって♪
- 128 名前:名無しどす。 投稿日:2002年08月05日(月)20時12分37秒
- >よすこ大好き読者さん。
がんがりたいのですが…
ホント、行き詰まってます。
(OT〜T)<タスケテー。
>ぷーさん。
ちょとマジメなヤッス〜を書かせていただきました。
マイペすぎますね、私(w
- 129 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時15分05秒
- 「…やっぱり折れてましたね。」
「…あぁ。」
二人の生徒を保健室に連れて行き、
あとの処理は先生に任せて
私と矢口さんは長い渡り廊下を肩を並べて歩いていた。
一言も喋らない矢口さん。
凄いショックだったのだろう…。
いつも元気で明るい矢口さんの姿はなかった。
そんな矢口さんを見ていた私に…
「…石川。よっすぃ〜と何かあっただろ。」
「え…何かって?」
ジっと真剣な眼差しで見つめながら
フーっと溜め息をついた。
ここ最近、しつこいようにその質問ばかり。
「…海行ったでしょ?」
「…何もありませんよ。」
「…嘘だ!…石川!!」
「キャ!」
いきなり矢口さんが私に抱き付いた。
その腕は小さく震えていた。
- 130 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時16分26秒
- 「…さっきよっすぃ〜が出て行った時の二人の目が…
おかしいんだよ…。どうおかしいって言われても
わかんないけど…矢口、石川のことが好きなんだ…!
最初は…矢口となっちで…よっすぃ〜と石川をくっ付かせよう
って話だったんだけど…。何か知らないうちに…矢口の中で
石川が…凄く気になってきちゃって…。
石川とよっすぃ〜は…付き…合ってんだろ?
だからお前等、隠そうとしてあんな態度取るんだ!」
「…矢口さん…。吉澤さんとは…何でもないんです。」
私のことを、そんな風に思っていたなんて。
いつもバカにして、いつもからかわれて。
でも…いつも優しかった。
胸の奥が絞めつけられる―。
ドクドクと流れる鼓動―。
思考回路が崩れ落ちる―。
「…私…わからないんです…。あの…その…」
小刻みに震えてる矢口さんの顔を、私は右手で軽く上にあげる。
「…いし、かわ…?」
大粒な涙が一筋、流れ落ちるのと同時に
私は矢口さんの制服に付いた、少し乾いて黒くなっている血の
あとを眺めながら…
そっと矢口さんの唇に自分を重ねていた―。
―――――――
- 131 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時17分09秒
- あたしは電車に乗っていた。
何も考えずに…フラフラと電車に乗ったんだ。
ちょっと日の光で色あせた中吊りには、少し前に流行った
ダイエットの特集を組んだ雑誌の紹介が載っていて。
あたしはただただ眺めていた。
楽しかった保田さんとの日々に思いを巡らせては
手紙の内容と…先輩の顔が交差する。
「お客さん、終点ですよ?」
「…あ、ハイ。」
年配の駅員さんがニッコリ微笑んで
優しくあたしに呼びかけてくれた。
駅を出ると
途中、また雨がパラパラと降りだし
傘を持ってないあたしに降りそそがれた。
髪からポタポタと流れ落ちる雫。髪をかきあげ、天井を仰いだ。
丁度良く、今日から3連休で。
部屋にも、あの寮にも居たくなかったし、
これと言ってどこへ行く宛もなかった。
そしてお金もある。今のあたしは自由だ。
- 132 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時17分52秒
- ただ一つワガママを言っていいなら
隣に石川梨華がいてほしいってこと。
あの時はすでに真っ暗で―。
電車の窓から見える景色は、黒一色に染まっていたっけ。
今なら少し曇りがちだけど、小さな入江がうねうねと続き、
集落が隠れ里めいたひっそりしたたたずまいを見せている。
海べりまで山が迫っているけど、それは低くて浅かった。
(…今日はこんなにキレイに見れますよ。先輩。)
フラフラと電車を降りる頃には、雨は止んでいた。
コンビニで何か食べ物を買おうと思い、あたしは辺りを見渡した。
けど…そんなお店らしい物はなかった。
お店もなければ、民家もない。
遠くで小さな漁船が、ポツリと寂しく見えるだけだった。
あの船の上では、新鮮な魚をツマミに一杯やってんのかな
なんて考えたら、余計にお腹は空いてきて…
頭が痛くなってきやがった。
しょうがないので、内海岸沿いの堤防に座り、ポケットから
少し雨で湿った煙草を取り出した。
波風が少し強くてライターの火が中々つかない事に
少々、苛立ちを隠せないでいた。
- 133 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時18分46秒
- 「なぁ。兄ちゃん。」「なあ。兄ちゃん。」
やっと火がつき、煙草に素早くそれをつける。
ジジジ…と葉が焼ける音と一緒に、私は大きく吸いこんだ。
「なぁってば!煙草吸ってる兄ちゃん!」
「あ、あたしぃ?」
「何や。ネェちゃんかい。カッケ〜ネェちゃんやなぁ。」
「そうですね。あいぼん。」
とてもよく似た二人があたしの事をさっきから呼んでいたのか?
兄ちゃんってさぁ…あたしはれっきとした女だよ。
でも仕方ないか…今日の私のファッションは
ダボダボのジーンズに、お気にいりのFUBUの黄色の
Tシャツ。ここんトコずっとB系の服がお気に入りだ。
右側にいた少女が、二ィっと八重歯を覗かせながら笑った。
「はい。あげます。」
「飴?くれるの?あたしに?」
「そうなのれす。」
ポーチから飴を2、3つ取りだし、私にくれた。
『ミルクアメ』と書いている包装紙を
煙草をくわえながら剥いて、そしてそれを口に放りこんだ。
朝から何も口にしていなかった為か、ほっぺたがジーンと痛くなる。
- 134 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時19分29秒
- 「…すっげ〜ウマい!朝から何も食ってなかったから。」
「え?そうなんかい?ウチなら死んでまうわ!」
「ののもれす。あ!あいぼん。」
二人がボソボソと何やら話し始めた。
そしてウンと頷き、
「はい。ホンマはここで、ののとおにぎり食べようかと思ってたんやけど、 兄ちゃんにあげるわ。」
「ののの分もあげるのれす。」
「いや…悪いからいいよ。」
まだ兄ちゃんって…
「なんや!ウチのおむすび食べれへんのかい!」
「のののおむすびは天下一品なのれすよ!」
ずいっと差し出される可愛いラップに包まれたおむすび4つ。
そのおむすびの後ろでは、真剣な顔の二人が今か今かと
私が取るのを待ってるかのようだった。
「…ありがとう。大事に食べさせてもらうから。」
「へへ…。ウチ等は家に行けば食べれるからな!な?のの。」
「そうなのれす。」
- 135 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時20分05秒
- 貰ったおむすびを食べながら、二人と話しこんでいくうちに
関西弁の少女が加護亜衣ちゃんで、八重歯が印象的な子は
辻のぞみちゃんだと言う事。そして加護ちゃんは
辻ちゃんの親戚で、遊びにきていたとの事だった。
「あたしさぁ、最初見た時 姉妹だと思ったよ。」
二人はニッコリと顔を見合わせて笑った。
「よく言われるん。」
「そうなのれす。そして…ののにとっていちばん
だいじなひとなのれすよ…。なんかはずかしいれす…。
あいぼんは…どーですか?いつもはっきりいってくれないんれすが…」
頬を赤くして嬉しそうに私を見上げた。
「…あ。のの、そろそろ薬の時間やないの?」
「あぁ!いけない!あいぼん、帰るのれす!…そうやってまた
はなしをずらすんれすよねぇ。」
「…うちは、もう少しこの兄ちゃんと話しがしたいねん。」
辻ちゃんは あたしに『今度は一緒に食べましょー。』と
言い残し、砂浜をあとにしたのだった。
途中、ちょっと大きめのオーバーオールの裾をまくって
波打ち際を小走りに走っていく辻ちゃんに、
残された加護ちゃんとあたしは
辻ちゃんが見えなくなるまでブンブンと手を振り続けた。
- 136 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時20分35秒
- 「座ったら?」
「…ん。」
あれ?どうしたんだろ?
さっきまでの元気がない。
あぁ、そうか。大好きな辻ちゃんが
帰っていっちゃったんだもんな。
「…ののな?」
「え?のの…あぁ辻ちゃんね。」
コクリと頷く。
「…すっごい重い病気やねん。いつ…死んでも…
おかしくないんやって…。」
「…え?ウソでしょ?」
「ウソやない!…そんなん…ウソでも言えへんねん。」
グラリと自分の体が傾く。
軽い冗談だと思っていた。
でも…この加護の落胆した姿からは
とても冗談とは言えないものと察した。
けど。
なぜか信じきれない。
…このコは何を言ってるのだろう?
だってあんなに元気なんだよ?
ウソに決まってる…。
- 137 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時21分08秒
- 「…ののも知っとるん。自分が死んでまうって…。
でもなぁ…ののは強いんやで?いつ死んでもいいように
ののは楽しく、そして後悔のないような死に方をするのれす…
って…。ニコニコして、そー答えんねん。普通、あの年でそないな
考え出来ひん…。ウチなんか…ウチなんか…狂いそーになるわ!」
ワーって泣き出す加護。
心なしか波の音が強くなってきたかな。
私はそんな加護を抱きしめた。
ただ抱きしめた。
何も言わずに泣きじゃくる、小さな体を受けとめた。
真上で鴎も鳴いていた。
『泣くんじゃないぞ。辻ちゃんの前でなんか泣いちゃダメ。
でも今なら思いっきり泣いてもいいぞ?見てるのはオイラと
そこの男前』
って…。
そう聞こえた。
鴎語なんて理解できない。
ってか鴎語なんてあるはずなんてない。
それに解釈なんて出来るハズないじゃん。
ある訳ないんだから…。
あたしは男前でも、一、人間。
…でも、たしかにそー言った。
そー聞こえたんだよ。
- 138 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時21分45秒
- 「…鴎からの伝言。」
あたしはポンと加護の頭を撫でるように軽く叩く。
「…え?」
ぐしゃぐしゃになった顔をあげると
加護は不思議そうにあたしの顔をじっと見つめた。
「…泣くんじゃないぞ。辻ちゃんの前でなんか泣いちゃダメ。
でも今なら思いっきり泣いてもいいぞ?見てるのはオイラと
そこの男前…だって。」
「…ふぇ?」
何を言ってるんだ?って感じの表情の加護は、心なしか
多少、笑っているようにもとれた。
「…だから鴎が、そー言ったんだってば。今なら思いっきり泣いて
もいいけど、辻ちゃんの前でなんか泣いちゃダメ。今、見てるのは
鴎と…この男前だけだからって。」
真上を飛んでいる鴎を指差し、あたしは加護に顔で
合図した。加護はゆっくりと視線を上げ、気持ち良く空を
飛んでいる彼等を、目で追っている。
「…おかしなよっすぃ〜やな…。でもなぁ…スッキリしたわぁ!
…ののん家に居ると泣けへんから…。…へへ。
…なぁ?明日もここおる?一緒に3人でおにぎり食べようや?」
「いいよ。どうせヒマだからね。絶対3人で食おうぜ。
さぁ、もー今日は帰ったら?辻ちゃんが心配してるよ?きっと」
- 139 名前:深み―。 投稿日:2002年08月05日(月)20時22分28秒
- ニッコリ笑う加護。
ちょっと赤くなってる目が気になるものの、
あたしはそれを軽く指でなぞる。
「…もー大丈夫やで♪今日はこんな男前と出会えて
ラッキーやったな。ほな、また明日。あ!明日は朝の9時に
会おうや。ののは早い時間の方がええみたいやから。じゃーなぁ!」
夕日に染まった小さな体が見えなくなるまで、
あたしはその姿を追った。
何度も何度も私の方を振り返り名残惜しそうな加護は
足が砂浜に絡みつき、途中転びそうになっていたけど
転ぶことなく走っていってしまった。
お腹も満たされ、心も満たされた私は
波の音をBGMに…その場へ横になった。
スイスイと真上を、鴎達が気持ちよさそうに
羽を広げている。
「…さっきはありがとな。」
『気にすんなよ。オイラ達も気になってたからさ。
…明日は何かがあるかもよ。男前は男前。
決して弱みを見せんなよ。見せんなよ。』
本当に今日の私は どうかしてる…。
鴎の歌が聞こえるなんて…
―――――
- 140 名前:名無しどす。 投稿日:2002年08月05日(月)20時24分50秒
- 更新しました。
- 141 名前:夜叉 投稿日:2002年08月07日(水)22時26分36秒
- なんだか一部、急展開な兆候が見え隠れしてますが。。。(^^;;
カモメと交信できる吉兄、素敵です(爆)。
無理しない程度にがんがってください。
- 142 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年08月14日(水)20時54分08秒
- 鴎と話せる吉くん萌え〜
続き期待しています。ガンガッテください。
- 143 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月24日(土)13時14分26秒
- 続き待ってます!
- 144 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月23日(月)23時15分54秒
- ぽっぽっ保゜ー
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月22日(火)18時38分23秒
- 保全
- 146 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月30日(土)01時13分23秒
- マターリ待ってます。頑張ってくらさい!
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