SECOND LOVE

1 名前:ROM 投稿日:2002年05月30日(木)07時01分26秒
好きになってはいけない人がいる。

あんなに激しく求め合い、愛し合っていたのに、さよならを決めたのは私だった。
別れの原因は何だっただろう?
今ではもう思い出せないほど遠い記憶。

2度と愛してはいけない人がいる。
それは、とても悲しいことだけれど。
2 名前:ROM 投稿日:2002年05月30日(木)07時03分56秒
はじめまして。
吉澤&石川で書きます。
感想を頂けると嬉しいです。
3 名前:ROM 投稿日:2002年05月30日(木)07時05分35秒
「またボーッとしてる」
豆球の明かりでぼんやりと照らされた天井を見ていた時だった。
声の方を向くと、眠っているはずの真里がこちらを睨んでいる。
「ちょっと考え事。ボーッとしてた訳じゃないですよ」
「嘘」
「マージですって」
「じゃ、何考えてた?」
「今日のテスト。英語はまぁできたんだけど、数学がヤバいんで…」
「とかいってさぁ」
「ん?」
「別れた彼女のこと考えてたんじゃないのー?」

真里は鋭い。
「女の勘」って言葉があるけど、彼女にはそれプラス「野生の勘」も備わっていると思う。

「ないない。ないッスよ。だって、あたしから矢口さんに告ったんですよ?」
言いながら、体勢を変えて彼女を組み敷く。
「そりゃそうだけどさ…」
「先輩を口説き落とすの、どれだけ大変だったか」
あたしはわざと眉間にしわを寄せて顔を近づけた。
「アハハハ、何やってんのよっすぃ〜。」
「こんなに好きなんですよ?わかってくれてます?」
「わーかったよ!わかったからどいてよ。重いってば…もう…あ…」

ほら。
答えをはぐらかすのはこんなに簡単だ。
4 名前:ROM 投稿日:2002年05月30日(木)07時09分10秒
憂鬱なテスト期間を終え、明日から週末の2連休。
テストの結果はともかく、テスト勉強から逃れられた
(いや、次回のテスト前にはまた修羅場が来るのだけれど)
という解放感が、あたしたちを浮き足立たせていた。

自宅通学の真里が、ひとり暮らしのあたしのアパートに日参するのは当然の流れで。
自転車で15分という距離をいいことに、ここ2ヶ月はほぼ毎日遊びに来ている。
しかし、何度泊まっていくように誘っても「親がうるさいから」と断られていたのが、
今回は真里の方から「一緒にいたい」と言ってきた。
テストも終わったし、ずっと一緒にいられることが単純に嬉しかったあたしは、
その申し出に2つ返事でOKした。
いつも時間がなくて貪るようにしていたセックスも、
今夜はゆっくり楽しむことができた。
5 名前:ROM 投稿日:2002年05月30日(木)07時14分48秒
「明るくなっちゃったね…」
「…え?ああ、ほんとだ。5時半ですよ、もう」
「……」
「そろそろ眠らないと」
「目が覚めても、隣にいるんだよね?」
「いますよ。ここ、あたしんちですから」
口元だけで少し笑って、真里は瞳を閉じる。
「でも、浮気性だから。よっすぃ〜」
と、左手に細い指が絡まって来た。
「一応、ね。」
「信頼ないなぁ。手錠でもしましょうか?」
また少し笑って、だけど今度は何も言わずに、真里は眠りに落ちてしまった。

まださっきの微笑が残っているようなやすらかな寝顔。
映画やドラマなら、ここで「おやすみ」と言って
額にキスをするのかもしれない。
でも、なんとなくそんな気にはなれなくて、そのまま毛布をかぶる。
6 名前:ROM 投稿日:2002年05月30日(木)07時21分55秒
〜♪

9時25分。まだ半分眠っている脳をこじあけるように
能天気なメロディが聞こえてくる。
メールの着信音だと思い出すまでに、少し時間がかかった。

“マキだよ☆起きてるかー
週末は用事でよっすぃ〜んちの近くまで行くから遊びに行っていい?
でも休みだから、梨華ちゃん来てるかな?
おじゃまだったらまた今度にするけど”

「り・・・か・・」
心臓がキュッと縛られるような感覚。
真里が熟睡しているのを確認し、返事を打つ。

“梨華ちゃんとは別れた。
ちゃんと話したい。いつ来る?”

2度ほど文面を読み直し、覚悟を決めて送信ボタンを押す。
と、数十秒後。

「はぁぁぁぁぁぁ!?まじぃ?」

玄関先から聞こえる雄叫び。
あの声は・・・真希だ。
7 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月30日(木)13時23分43秒
ハジメマシテ。
これから梨華ちゃんがどう絡んでくるか楽しみです。
影ながら応援してますー。
8 名前:某読書人 投稿日:2002年05月30日(木)14時52分52秒
石川さんとの間にいったい何があったんでしょうか。
先が楽しみです。頑張ってください。
9 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年05月30日(木)15時52分19秒
ごっちんすごいよ。
いったい梨華たんとよしこには何があったんだろうか?
楽しみです。
10 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月30日(木)21時39分00秒
いしかーさんは元カノですか。
続き期待してます。
11 名前:とみこ 投稿日:2002年06月01日(土)22時30分57秒
おもしろそー!更新ミターイ
12 名前:ROM 投稿日:2002年06月02日(日)01時17分06秒
「いやぁ、ごめんねぇ?よっすぃ〜を驚かそうと思ってさぁ。
ピンポーンってやろうと思ったんだけど、
寝てるかもしんないなって。
よっすぃ〜、休みは昼まで寝てるっしょ。いつも。
だからあとで出直そうと思ったんだけどー、
でも、ひょっとしたら起きてるかもって。
いきなりあんなメールでしょ、もー超ビビったよ〜」

2人でやってきた駅前の喫茶店。
向かいあって腰を下ろした途端、真希がまくしたてる。

不測の事態に戸惑っているのか、その言葉は
饒舌なわりに要領を得ない。かくいうあたしも、
脳がまだ完璧には覚醒していないようで
うまく相槌を打てずにいる。

「矢口先輩には、後藤からも謝っとくから」
「気にすんなって。先輩も『後藤らしい』って笑ってた」
「でもさー、感動の再会のはずだったのに
・・・後藤、とんだお邪魔虫だよ」
「はは、それもごっちんらしいじゃん」

なんだよそれ、と、端正な顔立ちがとたんに崩れる。
懐かしい笑顔。
13 名前:ROM 投稿日:2002年06月02日(日)01時19分31秒
後藤真希が、隣県の女子高へ転校していったのは半年前。
転校後もしばらくはまめに連絡を取り合っていたが、
最近はお互いに忙しく、週に数回メールを入れあう程度だった。

そして突然の再会。

眠ったままの脳を起こそうと、運ばれてきたばかりのアイスティを
グラスのままくちをつけてゴクリと喉を鳴らす。
「あは、ストロー使わないの、相変わらず」と真希が笑う。
あたしはいきおいでくちに含んでしまった、
ちょっと大き目の氷の塊を、モゴモゴと舌でもて遊びながら
「ふふん」と笑って見せた。
真希もニコニコとあたしを見る。

鮮烈によみがえってくる、あの頃の記憶。
たわいもないおしゃべりとアイスティー。
あたしたち3人の放課後は、いつもこんな感じだったっけ。
14 名前:ROM 投稿日:2002年06月02日(日)01時21分55秒
互いの近況報告から学校の話題、最近のマイブームまで
ひとしきり話した後、ためいきをついてお互いに顔を見合わせた。

「はあ、よっすぃ〜はやっぱ変わんないね」
「そっちこそ。たかが半年くらいで変わんないっしょ、人間は」

答えてから、ハッとする。
半年。
あたし自身が変わらなくても、
あたしを取り巻く環境は確実に変化した。


「・・・梨華ちゃんのことだけど」
一瞬、間をおいて、真希が本題を切り出す。

「うん」
「話せるようなら聞かせてほしい」
「・・・」
「言いにくいなら、また今度でいいよ」
「うん」
「でも、いつかは教えて」
「・・・」
「梨華ちゃんは一応後藤の元カノなんだし」

そう。
かつてあたしが愛した人は、真希の恋人だった。
15 名前:ROM 投稿日:2002年06月02日(日)01時43分19秒
短いですが更新しました。
早速の感想、ありがとうございます。
ほかのスレで何度と無くお見かけしたお名前を発見し、
ぶっちゃけ心臓バクバクです…。
必ず登場人物たちをラストシーンまで導きますので、
最後までお付き合いください。

>7 名無し読者さま
応援ありがとうございます!
梨華ちゃんの登場は、もう少し先になりそうです。

>8 某読書人さま
ありがとうございます!
何があったか…それはまだ私の頭の中に…。
うまく伝えられると良いのですが。

>9 いしごま防衛軍さま
ありがとうございます!
そうです。すごいんです、ごっちんは(笑)。
彼女の描き方が、私の最大の課題なんです。

>10 ごまべーぐるさま
ありがとうございます!
ご期待に添えると良いのですが…精進します。

>11 とみこさま
ありがとうございます!
更新、短くてごめんなさい…。
来週からは、もう少しピッチをあげたいなぁと。
16 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月02日(日)05時31分36秒
ううむ、ごまもいしの元カノですか。
なかなか複雑そうですね。
がんがってください!
17 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月02日(日)13時16分35秒
ごっつあんと、吉の元カノが、梨華ちゃん??
う〜ん。この3人に何があったか、気になります。
がんがってください。
18 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月02日(日)13時20分09秒
切ないですねー。石川さんとの間に何があったのか気になる。
頑張ってください。
19 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年06月02日(日)23時24分29秒
なんと梨華たんはごっちんの元カノだったんですか。
この後が気になる。
20 名前:ROM 投稿日:2002年06月06日(木)06時40分34秒

SIDE:MAKI

いつもの喫茶店にあたしだけが呼び出された時、なんとなく気づいてた。
何を言われるのか。どんな表情をするのか。

分かりやすいんだよね、梨華ちゃんて。
3人で会っててもよっすぃ〜のことばっか気にかけてるのが見え見え。
っつーか、お互いに気にかけすぎて、無口になっちゃうんだよね。
よっすぃ〜も、梨華ちゃんも。
あたしをはさんで、右と左でシーンとしてんの。
もー、なに?なにごと!?って感じ。
時々さ、本当に、もう本当に一瞬だけなんだけど、
見つめ合ってるんだよ。
あたしに隠れるように。すごく切ない表情で。

恋に落ちるのに、『時間』はいらない。そして『理由』も。
それくらい、まだオコチャマなあたしにだって分かってるつもり。

感情論じゃないんだ。

運命とか、宿命とか、前世の記憶とか、
自分なんかの力じゃ抗えない『何か』が作用してるんだ、きっと。
だから、2人が惹かれあってしまったことを、
責める気はまったくない。
かえって「2人に悪いなぁ」って思ったよ。

だってさ、もしも梨華ちゃんが、あたしに出会うより先に、
よっすぃ〜に出会ってたら、
あたしに気兼ねすることなく付き合えたわけでしょ?
あたしが間にいるばっかりに、2人が運命や宿命を否定しちゃうのは、
間違ってると思うんだ。なんとなく。
21 名前:ROM 投稿日:2002年06月06日(木)06時42分52秒
あたしとよっすぃ〜は『恋敵』である前に、
中学から一番仲のいい親友同士。

あたしと梨華ちゃんは『恋人』である前に、
幼稚園からの一番つきあいの長い幼馴染。

単にその2人がくっついたってだけじゃん。
あたしとよっすぃ〜の仲は変わんないし、
あたしと梨華ちゃんは、昔の関係に戻るだけ。
それだけの話、でしょ。
2人とも考えすぎなんだよねぇ。

あ、別に強がってるわけじゃないよ。
そもそも、あたしは梨華ちゃんと本気で付き合ってたわけじゃないし。
といっても『遊びでした』って意味じゃなくて。

あたし、今はこうして男女関係なく付き合ってるし、
カラダの関係をもつことにも抵抗ないけれど、
最終的には、フツーの男の人とフツーに結婚すると思うんだ。

例えば、高校生同士のカップルが、どんなに愛とか恋とか語り合ったって、
将来その相手と結婚するケースはほとんどないでしょ。
一年後もすれば、半分以上のカップルは破局してる。
それって本気になるだけムダってことじゃない?。

特に、相手が同性だったら『結婚』そのものが100%ムリだから、
本気になったら悲しくなるだけ。
好きだけど、本気になるのはヤダ。
ちょっと乙女チックに言うとしたら
「傷つくのが怖いの・・・」って感じ?
別に乙女でもなんでもないか、アハ。

オトナになってケッコンして、
その相手とだけ、本気の恋愛をする。
それがあたしの理想なんだ。
22 名前:ROM 投稿日:2002年06月06日(木)06時45分27秒
「あたし・・・ごっちんとはもう付き合えない」

思ったとおりの表情で、思ったとおりのコメント。
ほんと、分かりやすいなぁ梨華ちゃん。
3人で来るときはいつも隣に座るから、
こうして向かい合ってると、なんか新鮮だよ。

「・・・あのね」

「よっすぃ〜でしょ?」

あ〜、驚いてる驚いてる。
そりゃそうか、バレてないと思ってんだもんね。

「梨華ちゃんさ、後藤のこと、本気で愛してた?」

「ええ?・・・えっと」

「女の子同士で付き合うことに興味があっただけ?」

「そ・・・それだけじゃないよ! それだけじゃ、ない。
確かに興味はあったけど、ごっちんが『好き』って言ってくれて
すごく嬉しかった。愛とか、そう言われると、分かんないけど」

良かった。
あたしと梨華ちゃんは、おんなじバランスで付き合ってたんだ。

「じゃあ、別れても関係は変わらないよね」

「?」

「ああ、ちょっと違うか。
えっと、恋人ではなくなっても、ずっと幼馴染だよね」

「・・・いいの?」

「いいも悪いも、今まで通り3人で遊べればいいよ、後藤は」

心配そうにあたしを見上げる表情は、
潤んだ瞳との相乗効果で、色っぽさが5割増。
今更あたしの欲情をそそってどうすんの。
そういう仕草はよっすぃ〜の前で見せなよね!
23 名前:ROM 投稿日:2002年06月06日(木)06時48分03秒
「よっすぃ〜はさ、本気だよ」

「本気?」

「あたしより、梨華ちゃんに対して本気ってこと。
だからきっと『重い』よ、よっすぃ〜は。
梨華ちゃんも本気でいかないと、潰されちゃうよ」

「うん。・・・ありがとう、ごっちん」

「なんだかなぁ。お礼言われるようなことは言ってないよ。
それより今日、よっすぃ〜は来ないの?」

「一緒に来るって言ってたんだけど、私、自分でごっちんに話したかったから
あとで連絡するって言ったの。あ、電話してみるね」

まもなくやってきたよっすぃ〜は、
躊躇無く梨華ちゃんの隣に座る。おやおや、ごちそーさん。

「そういうワケなんだけど・・・ごめん、ごっちん」

「んー、何で手を打とうかなぁ。お寿司食べ放題1年分ってどお?」

「1年分て何回だ!? まあとりあえすバイト代入ったら、奢る」

「さーんきゅー!よっすぃ〜太っ腹じゃん。後藤と付き合わない?」

「さっそく浮気させんの? 魔性の女だなぁ、ごっちん」

せまい店内に笑い声が響く。
ふと梨華ちゃんを見ると、真面目に心配してるような顔で
あたしとよっすぃ〜を見比べている。
笑わせてくれるよなぁ、梨華ちゃん。

よっすぃ〜がフォローして、それでもまだオロオロして。
そんな2人を見てたら、いつかのよっすぃ〜との会話を思い出した。
24 名前:ROM 投稿日:2002年06月06日(木)06時51分38秒
『男の子に生まれ変わったら何をする?』

一緒に見ていたTVのバラエティ番組で、
司会者がゲストにそんな質問をしていた時だ。

「あたしはナンパしまくってモテモテ君になる! よっすぃ〜は?」

「そうなあ。モテモテ君もいいけど、あたしはナイトになりたい」

「内藤?」

「違う。てか誰だよそれ。ナイト。お姫様を命がけで守る騎士だよ。
ひとりの女性を一途に愛する、硬派なオトコ。かっけー!」

その時は面白いヤツだなぁって思ってたけど、
今の2人を見てると納得、かな。
きっと梨華ちゃんのことを考えて、守りたいって思って、
ナイトになりたいって言ったんだよね。
何があっても、よっすぃ〜は梨華ちゃんを守り抜くんだろうな。

でもね、よっすぃ〜。
物語の世界だと、お姫様は王子様とくっつくんだよ。
王子様が現れたらナイトはお役御免。
だって、それから先は
王子様がお姫様を守ってくれるから。

ねぇ、分かってる?
25 名前:ROM 投稿日:2002年06月06日(木)07時18分27秒
更新しました。
思う所あって、すでに書いていた原稿を
大幅に修正してしまったのですが、
これが吉と出るか凶と出るか・・・。

>16 ごまべーぐる さま
はい、複雑になっちゃってます。
でもドロドロさせたくないので、
キレイな三角関係を目指します(笑)。

>17 よすこ大好き読者。
ありがとうございます!
3人にはこんなことがありました。
当事者の感情は、意外と単純なのかも?

>18 名無しさん
ありがとうございます!
喜びより悲しみより、切なさの表現の方が
難しい気がします。頑張ります。

>19 いしごま防衛軍
今回はごっちんのモノローグにしてみました、
いしかーさんとの関係、伝わりましたでしょうか?
26 名前:ROM 投稿日:2002年06月06日(木)07時21分33秒
勝手に敬称略しちゃいましたあああ!

>17 よすこ大好き読者。さま
>18 名無しさんさま
>19 いしごま防衛軍さま

・・・です。ごめんなさい。
27 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年06月08日(土)08時20分21秒
十分伝わりましたよ。ごっちんが切ないです。
28 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月10日(月)15時14分04秒
ゴチーン、いいヤツですね。
自分なら好きなだけ寿司を食わせてやります。
29 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時30分08秒
グラスの外側には大きな水滴がいくつも流れ落ち、
薄い紙のコースターにジンワリと大きなしみを作っている。

ふと真希の前に置かれたグラスを見た。
いや、正確には真希の前に置かれていたのはコーヒーカップで、
中には半分くらいの位置までコーヒーが注がれている。
真希は慣れた手つきでフレッシュの入った小さなカップを取ると、
器用に手首を使って黒い水面に白い渦巻きを描いた。

少なくとも半年前は、
真希はコーヒーが飲めなかったはず。

梨華がいつも飲んでいたミルクとガムシロップ入りのアイスコーヒーに、
ふざけて口を付けては「苦!」と顔をしかめていた。

「ごっちんさぁ、コーヒー嫌いじゃなかった?」

「そだっけ? ああ、今の学校の友達とドーナツ屋に行くんだけど、
そこ、ホットだけおかわり自由なのね。だからつい頼んじゃうかも」

こうして途中からミルク入れると、コーヒー味と
ミルクっぽい味の両方を楽しめる。
そう言ってコクっとひとくち飲み
「慣れると結構おいしいよ」と真希が笑う。
30 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時34分39秒
日常生活に何らかの変化が起こる時、そこには必ず「原因」がある。
何らかの「原因」があり、それによって「変化」が生じるのだ。

真希の場合、引越し・転校という「原因」が、
コーヒーが飲めるようになったという「変化」を生んだ。
ただ、それは真希が望んだからこそ生まれた「変化」だ。

飲めるようになりたい。
長い時間友達とおしゃべりするには、その方が都合がいいから。
もしもそのドーナツ屋が
『アイスティーのみおかわり自由』だったら、
真希は今でもコーヒーが飲めなかっただろう。

しかし、そうではなかったから真希は変わった。
生活に順応した、とでも言うべきか。
31 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時36分05秒
それならば、あたしと梨華ちゃんも「原因」があって「変化」して、
今に至った、といことになる。でも、

「あたしはそれを望んだのかな」
そばにいない人を思うよりも…

「その方が都合が良かった?」
そばにいる誰かを思う方が、楽。


「ちょっとよっすぃ〜?」

理論がめいっぱい空回りし始める。
今まで目をそむけていた事柄から、
今度は逆に目が離せなくなってしまう。

「梨華ちゃんのこと? なら今度でいいってば」

「あ。ごめん。少し整理して…電話するわ」

「よっすぃ〜らしい」

「なにが?」

「いつも、こう、特に大事な話になると短く
まとめてから話すじゃん? 余計なことを話さないっつーか。
だから冷たいとかクールとか言われるんだよ」

ちょっと怒ったように言って、真希はコップの中の
冷めかけたコーヒーを飲み干した。
わかってるんだ。
これは「余計なことも話していいんだよ」という真希のやさしさ。
痛いほど分かるから、余計に心配かけられない。

「ありがと」

「お礼を言うポイントが違う気がする。誰かさんもそうだったけど」

誰かさん。
梨華ちゃんのことだとなんとなくわかったけど黙っていた。
今はもう、関係ない。
32 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時37分52秒
2人分の会計を済ませて外に出ると、辺りはほんのりと薄暗かった。
5月の風はまだ冷たい。アパートまで歩いて15分。
真里へのお土産にケーキを買うと、ゆうに30分はかかる。
あたしは上着を持って出なかったことを後悔した。

「ごっちん、時間あるなら矢口先輩に会ってけば?」

「え〜いいよぉ。ちょうど大会前に引越しちゃったから
会わす顔ないっつーか、コレが」

「ああ! あたしが無理やり出場させられたテニス!」

「そー。1年に欠員が出たぁって、矢口先輩たち大慌て。
みんなも真っ青になって『よっすぃ〜に頼んでみますぅ』って。アハハ」

「…そうだ、ごっちん。梨華ちゃん今つきあってる人いてさ、
結構うまくいってるみたいなんだ」

「それは後藤にリサーチしろってコト?」

「ちげーよ。そっとしといてあげてってこと」

「吉澤くん、やさしー」

「だろ?」

優しかったらこんなことにはならなかったけどね。
心の中で自分に毒づいた。
今日のあたしは、少しおかしい。
33 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時40分46秒
真希と別れてアパートに戻ったが、ドアには鍵がかかっている。
おおかた買い物にでも行っているのだろう。
ポケットのキーでドアを開け、部屋に向かって「ただいま」と
言ってみるが、やはりそこに真里の姿はない。
スニーカーを脱いでいると奥から携帯の着信音が聞こえてきた。

そういえば、部屋に置き忘れたまま外出したんだっけ。
携帯を忘れるなんて、やっぱりどうかしている。
あわてて靴を脱いでテーブルの上に投げ出されている携帯を覗き込む。
ディスプレイの表示は「矢口先輩」。
初めて会ってまもなく、大会の助っ人をした後の打ち上げで
番号を交換した時に入力した表示のままだ。

「もしもし」

「やーっと出たよー! なかなか出ないから、
矢口いっぱいかけちゃったじゃん」

「すいません。携帯忘れちゃって…今どこです?」

「スーパーにいるんだけど、夕飯なに食べたい?」

「あ、合流します。荷物持ちますよ」

「いいよ。あんま寝てないじゃん、よっすぃ〜」

「行きます。矢口さんがスーパーの袋もって行き倒れたら大変です」

「キャハハ! じゃあ、捜索隊になってもらおうかな」

34 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時43分23秒
スーパーまではちょっと距離がある。
Tシャツの上から薄いシャツをはおり、財布と携帯をかかえて
早足でアパートの階段を駆け降りた。

途中、信号待ちで携帯の着信を確認すると…10件すべて真里だった。
どうやら本当にいっぱいかけまくってくれたらしい。
恋人が、元カノの元カノに会いに行ったんだから、
不安に思うのも当然だ。

朝からひとりで留守番をさせた上に、
心配性な真里に余計な気を回させてしまった。
申し訳ない気持ちに急かされるように再び走り出す。

スーパーの野菜売り場では、おそらくサラダにするのだろう、
レタスを両手にのせて何やら吟味している様子の真里。
カートにはまだ何も入っていないようだ。
近づいて名前を呼ぶ。交し合う笑顔。
カート係に任命されたあたしは、
前を行く小さな背中を見ながらゆっくりと歩く。
時々振り返る真里に、とびきりの笑顔を送って。
きっと誰が見ても、
仲むつまじいカップルの買い出し風景に違いない。
35 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時47分03秒
帰り道は荷物係。
両手に大きなビニール袋をさげたあたしの周りを、
くるくると踊るように歩く真里。

まるで太陽と地球のように。

真里はいつでもあたしを求めてくれる。
真里の前でならあたしはナイトになれる。
真里にはあたしが必要なんだ。


そうですよね?


「矢口さん」

「ダメ。お鍋かけてるから」

「カレーは煮込んだ方がおいしいですよ」

「ヤダ。いっつもそんなだから、じゃがいもがとけて
人参ばっかりのカレーを食べるはめになるんだよ」

「だから今日はキノコカレーにしたじゃないッスか」

「なっ!? アンタ最初っからそのつもりで…!」
36 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時49分41秒
こわばった肩が次第に緩んでいく。
見上げる瞳が少しずつ潤んでいく。
シャツのすそをたくし上げ、両手で腰を抱え込むように密着させる。
声にならない吐息が扇情的に響く。
わざと唇をはずして頬と首筋にキス。
じらして、じらして、じらして、じらして。

「真里」

耳元で囁くように名前を呼ぶと、
背中に回された指先がクッと食い込んだ。

「こ、こうゆう時だけさ…名前、呼ぶよね。
いつも…あ、うっ…ん矢口さんとか言っ…」

乱暴に唇を塞いでソファに押し倒す。
部屋いっぱいに充満する、衣擦れの音と隠微な水音。
合間に聞こえてくるかすれた声。

「…ずるいよ」

絞り出すようにつぶやいた真里の言葉は、
あたしをますます暴走させた。
シャツを胸の上まで強引に引き剥がす。
ボタンがいくつか飛んだかもしれない。
でも、そんなのはどうでもいい。
荒々しく抱き寄せて膨らみにむしゃぶりつく。
いつもより激しい行為にも真里は抵抗することなく、
小さくて細いカラダはまるで人形のようにさまざまな方向へと傾いた。
37 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)06時58分36秒
今日のあたし、おかしいんです。
携帯を忘れて外出しちゃったんです。
そんなこと今まで一度もなかったのに。
理由は、ごっちんのメールに動揺したから。
正確には、メールに書かれていた名前に動揺したから。

あたしはどこに向かっていますか?
あたしが望んだ未来はそこにありますか?

あたしは何を…望んでいたんだろう。

わかんなくなっちゃいましたよ、矢口さん。


38 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)07時10分08秒


喫茶店から出ると外はかなり寒くて、
長そでTシャツ1枚のよっすぃ〜は腕を組むようにして
しきりに両腕をこすってる。

じゃあまた、って手を振って、
そのままおとなしく帰ろうかとも思ったけどさ。

「そっとしとけ」?
そんなユルイ関係じゃないじゃん、あたしら。
やっぱり後藤は自分の目で見て、自分の頭で判断するよ。

たった今出てきたばかりの喫茶店に舞い戻る。
カードが使えないレトロな電話にありったけの10円玉を入れて、
指先の記憶のままにダイヤルを回した。

39 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)07時21分16秒
「…もしもし?」

「後藤。公衆電話から失礼〜」

「やだどうしたの? びっくりした」

「こっちまで出てきてるんだけど会わない?」

「ほんと? いくいく。どこ?」

「よく行った喫茶店。でさ、後藤、携帯忘れて
よっすぃ〜に連絡取れないんだ。梨華ちゃんかけてくれる?」

「え、あ…」

「あっもう10円玉ないや。じゃあ後で」

電話番号、覚えてるもんだね。
後藤の記憶力もたいしたもんだよ。
別に携帯見ればいいんだけど。
さ、どっちかが来るまで、席に座ってちょっと寝てよ。
40 名前:ROM 投稿日:2002年06月18日(火)07時40分22秒
更新しました。
うっかり自分で上げてしまいましたが、
特に問題はないです…よね?

前回の更新からかなり間が空いたので、
読んで頂いていた方に忘れられてしまったのではないかと、
ちょっと不安です。思い出したら読んで下さい^^;

>>27 いしごま防衛軍さま
ありがとうございます!
後藤さん、ちょっとせつない系のキャラですね。
私の恋愛観が色濃く反映されています(笑)。

>>28 ごまべーぐるさま
ありがとうございます!
きっとエビだけを12皿
一気食いしてくれることでしょう^^
41 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月18日(火)08時39分21秒
ヨスコが暴走したら、ただでさえちっこいやぐが…あわわ。
やぐがつぶれませんようお祈りいたしまス。
(^▽^)←いよいよですか?楽しみです。。。
42 名前:オガマー 投稿日:2002年06月18日(火)10時28分39秒
会うのですか!?会うのですか!?ドキドキ…
43 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年06月24日(月)20時05分04秒
ドキドキです!!
44 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月25日(火)20時10分37秒
うわーー気になる〜。(w
ごっちんは、策士ですな。
45 名前:ROM 投稿日:2002年07月06日(土)09時03分09秒
SIDE MAKI


夢を、見ていた。

この光景は…そうだ。
後藤が引っ越す直前、最後に3人で会った日。
なじみの喫茶店。向かいの席には、
いつにも増してニコニコしてる梨華ちゃん。
何かあった?って聞くと、
恥ずかしそうに右手の薬指を差し出した。

「よっすぃ〜がくれたの」

シンプルで少しごついシルバーリング。
細くてしなやかな梨華ちゃんの指には、はっきりいって不釣合い。
それにかなりゆるいんじゃないの?
ああわかった。コレ、確かよっすぃ〜がつけてたリングだね。
よく行く店の1点物で、すっごい気に入ってたやつ。
値段も結構したみたい。
なんで? 梨華ちゃんの誕生日は3ヶ月後でしょ?

「持ってて欲しいんだって。でも、ちょっと大きいんだよねえ」
46 名前:ROM 投稿日:2002年07月06日(土)09時06分03秒
困ったような顔をして、リングをクルクル回してる。
ほんとは嬉しくてしょうがないくせに。
誕生日でもクリスマスでもないのにプレゼントなんて、
よっすぃ〜もなかなかやるね。
梨華ちゃんはなんかあげたの?

「あげたいけど、あたしの持ってるリングじゃ絶対入らないもん。
だからね、バイトしようと思って」

え? 梨華ちゃんのお父さんて厳しいから
バイトやらせてもらえないって言ってたじゃん。
それに梨華ちゃん、超ウルトラスーパー人見知りなのに。

「お父さんはきちんと説得するつもり。
それにね、お金貯めて、高校出たら2人で家を借りたいんだ」

…マジで?

「今のよっすぃ〜の家、親御さんが借りてるマンションだから、
早く自立したいんだって言ってた。
でね、よっすぃ〜が、ごっちんも呼んで3人で住もうって。
おふとん川の字に敷いて寝るんだって」

後藤、真ん中に寝て2人のジャマしていい?

「え〜!? んーダメ。えっとね、真ん中はよっすぃ〜」

それじゃ“川”じゃなくて“小”の字だよ、梨華ちゃん。

「フフ、いつかほんとにそうなるといいな」
47 名前:ROM 投稿日:2002年07月06日(土)09時07分57秒
口先だけの言葉じゃないってことは、
10年以上つきあいのある後藤にはよく分かる。
梨華ちゃんとよっすぃ〜。
大好きな2人が夢見る未来に、
自分が存在していることが後藤は嬉しい。

こんな素敵なナイトがいるなら、もう王子様の出番はないかもね?



「でもね、このリング大きすぎるの…」

あれ? どうしたの梨華ちゃん。
なんか影が薄い…向こうの壁が透けて見えるんだけど。

「無くすの怖いからはずしておこうかな」

梨華ちゃーん!後藤の声、聞こえてる?

「無くすくらいなら、はじめから要らない…」


梨華ちゃん…泣いてるの?

48 名前:ROM 投稿日:2002年07月06日(土)09時11分17秒
「梨華ちゃん?」

目の前には頬杖をついて驚いた顔の梨華ちゃん。

「あ…寝てるのかと思った」

「うん寝てた。髪、切ったんだ。似合う」

やぁだぁ、とクスクス笑いながら口元に当てがう、
その右手の薬指にシルバーリングは無い。

「寝ぼけてるでしょ。フフ、待ち合わせ中に寝ないでよ。
 …すいませーん、アイスコーヒーください」

「よっすぃ〜は?」

「電話したんだけど出なかった。着信見てかけてくるかも
 しれないから携帯ここに置くね」

矢口先輩が部屋で待ってるんだもんね。
さすがにまたここまで出てくるのは気がひけたのかも。
それにしても、電話くらい出てあげればいいのさ、よっすぃ〜。

「後藤がかけてみるから携帯貸して。さっきかけたばっかだよね?」

窓際に置かれた携帯を取り、最新の発信履歴を見る。
そこにあるのは無機質な数字の羅列。
おそらくよっすぃ〜の携帯番号だけど、名前の表示はない。

「ちょ、あたしがかけるから…」

慌てて携帯を取り返そうとする手を
やんわりとさえぎって、

「よっすぃ〜のメモリー、消しちゃったんだ?」

泣きそうな目をしてうつむく梨華ちゃん。
ちょっと、やり方がいじわるだったかな。
49 名前:ROM 投稿日:2002年07月06日(土)09時13分36秒
「よっすぃ〜が好きなのは…あたしじゃないんだって。
 もっと小さくて、守ってあげたいって感じの人が好きみたい」

「だって…よっすぃ〜今、矢口先輩と付き合ってるんだよ?
 先輩、すごく女の子らしいじゃない。よく気が付くし、かわいいし」

「それにね、彼氏…できた」

なんの抑揚もなく淡々と話す梨華ちゃんは、
さながらベテランのニュースキャスターのよう。
気になるのは、さっきから一度も後藤と目を合わせないこと。
50 名前:ROM 投稿日:2002年07月06日(土)09時16分57秒
遅ればせながら更新です。
レスありがとうございます。
すっごくすっごく励みになるんです。

レスは次回更新と一緒に近日中に。

51 名前:吉澤ひと休み 投稿日:2002年07月06日(土)11時21分05秒
なんかごっちんも切ないなぁ・・・・・

でも(・∀・)イイ!っす。
作者さんがんがって下さい!
52 名前:オガマー 投稿日:2002年07月07日(日)04時48分39秒
何がぁーーー
一体何があったのでせう…
期待しながら更新待ってますw
53 名前:あおのり 投稿日:2002年07月08日(月)02時12分41秒
小の字になって眠る吉澤家・・・・
想像すると禿げしく萌えてしまうのですが・・・・

作者さんうますぎ。
54 名前:皐月 投稿日:2002年07月08日(月)14時31分46秒
梨華ちゃんに彼氏いいいいい〜〜〜〜〜?
吉澤&後藤どうするんだ?
55 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月14日(日)14時50分41秒
目が離せない展開です。
期待sage
56 名前:ROM 投稿日:2002年08月03日(土)05時10分22秒
後藤を差し置いてまで選んだよっすぃ〜との関係を
終わらせてしまったことに負い目を感じているのか。
俯きがちに喋る梨華ちゃんは、何だかとても小さく見える。

「後藤が知りたいのはよっすぃ〜や矢口先輩の気持ちじゃなくて
 梨華ちゃんの気持ちなんだよ」

「私の…」

蚊の鳴くような声。

「梨華ちゃん、今、幸せ?」

「……」

「いい恋愛してるならそれでいいんだ。
 でも、そうじゃないなら後藤は梨華ちゃんの選択に賛同できないし、
 梨華ちゃんの恋愛を応援することもできない」

相変わらず俯いたままの梨華ちゃん。
その表情はこちらからは読み取れない。

「よっすぃ〜のことキライになっちゃった?」
57 名前:ROM 投稿日:2002年08月03日(土)05時17分42秒
ビクッ

細い肩が一度だけ大きく痙攣する。
重苦しく続く沈黙の中、あえて梨華ちゃんの言葉を待った。
数分後。
いや数十分は経過してたかもしれない。
ゆっくりとコマ送りのように頭をもたげた梨華ちゃんは
今度はしっかりと後藤の目を見て、搾り出すような声で言った。

「そんなわけ…ない…でしょ」

潤んでふくらんだ瞳からポロポロと雫が落ちる。
小刻みに震える肩、荒くなる息遣い。

ああ、小さい頃によく見た光景だ。

意地っ張りの梨華ちゃん。
頑張り屋の梨華ちゃん。

ほんとは泣き虫の梨華ちゃん。
あの頃、涙を拭うのは後藤の役目だったけど…。

「よっすぃ〜、きっとまだ好きだよ。さっき話しててそう思った。
 さっきまで会ってて、なんかね、そんな感じした」

「…さっき?」

「ゴメン。事情は後で話すけど…よっすぃ〜さっきまでココにいたんだ。
 でも話が要領得ないっつーか、言動が意味不明で挙動不審っつーか。
 だからとにかく3人で話したかったんだってば後藤は」

梨華ちゃんは涙で頬に付いてしまった髪を丁寧にはがしながら、
意外なことにクスクスと笑い出した。
なんだよ。「あたしも一緒に話したい」って
言ってくれると思ってたのに。
58 名前:ROM 投稿日:2002年08月03日(土)05時22分04秒
「なんか笑かすこと言ったっけ?」

少し語気を強めた後藤に向かって、
梨華ちゃんは力なく首を横に振り

「遅いよ、もう」

と言った。

静かな店内にクスクス笑いが響く。
目の前の梨華ちゃんから発せられるそれは、
なぜかとても遠くのほうから聞こえてくる気がした。

「フフ、あのね、すっごいケンカをしたの。
 原因はアルバイトでね、私が『バイト始めた』って言ったら
 ひとみちゃん、『しなくていいのに』って怒っちゃった」
 
ひとことずつ、言葉を選ぶように梨華ちゃんは話し始めた。

「かといってすぐ辞めるわけにいかないから、私もバーッて
 言い返して…結局半年だけの約束で納得してもらったの。
 それからはお互い忙しくて全然会えなくなって、
 それでもメールで連絡してたんだけど、だんだん返事が少なくなって。
 このままじゃヤバイなって、終わっちゃうって思った。
 だから話をしようと思ってひとみちゃんのマンションに行ったの。
 そしたら部屋の、ドアの前に矢口先輩がいた」

脳裏のシーンを反芻するように目を閉じる。

「とっさに走り出してた。でも、ひとみちゃんは
 追いかけてこなくて、それっきり。
 フフ、その時にはひとみちゃんの気持ち、もう離れてたんだよね。
 私気づいてなくて、ひとりでドラマみたいなことやっちゃった」
59 名前:ROM 投稿日:2002年08月03日(土)05時26分54秒
『バイトしなくていい』と言ったのは、
梨華ちゃんに余計な心配をかけたくないという気遣い。
廊下でどうこうってのも、なんか理由があるはず。
大方、先輩の方から家に押しかけてたんじゃないのぉ?
あまり家に人を呼びたがらなかったから、よっすぃ〜は。

梨華ちゃんもきっとわかってる。
だから追いかけて欲しかったんだよね。
追いかけてくれれば、それを信じられたから。
よっすぃ〜を、信じたかったから。

「バイトしたいとか、もっと会いたいとか、
 私たくさんわがまま言ってたから、
 ひとみちゃんきっと疲れちゃったんだよ。
 …もう終わっちゃったんだよ」

あきらめたような口調でそう言って、梨華ちゃんは再び目をつぶる。
終わっちゃった?
さっきから呼び方が“よっすぃ〜”から“ひとみちゃん”に
替わってるのは、まだ割り切れてない証拠じゃん。

「あのね梨華ちゃん。よっすぃ〜はさ、お姫様を守るナイトになりたいって言ってた」

「じゃあ私はお姫様失格だね。わがままばっかでナイトを困らせて…」

「そういう自虐的な言い方やめなよ」

梨華ちゃんはグッと口をつぐむ。
思ってたよりキツイ口調になっちゃったみたいだ。

「…ごめん。後藤が言いたいのは、よっすぃ〜が
 そのくらい梨華ちゃんに本気だったっんだよってこと。
 梨華ちゃんだって遊びじゃなくて本気で付き合ってたわけじゃん。
 だったらお互いの気持ちを本気でぶつけ合わなきゃ。
 矢口先輩と会ってた理由、ちゃんと聞いたわけじゃないんでしょ?」
60 名前:ROM 投稿日:2002年08月03日(土)05時50分56秒
梨華ちゃんは口をつぐんだまま。
まったく、2人で話しててもラチが開かないっての。
あたしは黙って自分の携帯を取り出し、よっすぃ〜の番号を押した。
1回、2回、3回。
9回目のコ−ルで留守番電話サービスセンターに接続。

「もしもし後藤。聞いたら電話ちょうだい。っていうか喫茶店来てっ!早く!」

まだ矢口先輩に捕まってんの? いい加減に電話くらい出ろって。
苛つきに任せて勢いよく電話を切ってやった。
といっても“ピ”だもん、迫力ないよねぇ。

「よっすぃ〜が来てもどうにもならない。
 だって、お互いにもう別のパートナーがいるんだよ?
 もう言うことない。何にも。」

小さな声で梨華ちゃんが言う。

「梨華ちゃんには無くても、よっすぃ〜はあるかもよ?
 第一、最初に後藤が電話したとき、
 すぐによっすぃ〜が来てたら何を話すつもりだったのさ」

「彼氏の話とか…かな」

あーなるほどね。
そんでよっすぃ〜が矢口先輩の話をして、お互いに「今が幸せ♪」みたいな?
もうね、意地を張り合ってる2人の様子が目に浮かぶよ後藤は。

「彼氏ってどんな人?」

ええ、と大げさに驚く梨華ちゃん。

「よっすぃ〜には話すつもりだったんでしょ? じゃ、いいじゃん」

「うん…あのね、ごっちんも知ってる人。たぶん」

61 名前:ROM 投稿日:2002年08月03日(土)05時54分24秒
はいいい? ちょっと聞き捨てならないよ?
弟? まさかね、アハ。

「テニス部の先輩。あたしとごっちんが入ったときに3年だったから
 部活ではほとんど話さないまま引退しちゃった…和田さんて知らない?」

はい消えたー。
弟だったらそれはそれで面白かったんだけどね。
ええと和田、和田、和田? 和田…、和田。

思い出した。
あれ? 
その人ってさー、知ってるも何も…。

「3ヶ月前、かなぁ。偶然駅で会ったの。その後も学校とかバイトの帰りに
 よく一緒になってね、その、前から気になってたとか言われて」

気になってたって?

矢口先輩の彼氏じゃん、和田って。
それもかなり長い付き合いの。
梨華ちゃんの口ぶりからすると、そのことは知らないみたいだけど。

「いろいろ相談のってくれたんだ…いい人だよ」

いい人ねぇ。
悪いけど後藤にはあんましそうは思えない。
2組のカップルのパートナーが、ほとんど同時期に
入れ替わったってことでしょ?
そんなドラマみたいな展開、よっすぃ〜はどう思う?
…よっすぃ〜?
って、こら、よしこ!!
いい加減電話ぐらいしてよね、もう。
後藤、このままじゃ頭パンパンになっちゃいそうだよ。

再びよっすぃ〜に電話をしようと携帯に手をかけたその時、

「あたし、帰るね」

梨華ちゃんはバッグを抱えてのろのろと立ち上がった。
62 名前:ROM 投稿日:2002年08月03日(土)06時20分59秒
気づけば月をまたいでしまいました。
なんと申し上げて良いやら…引き続き読んで頂けると幸いです。

>41 ごまべーぐるさま
ありがとうございます!
暴走ヨシコはROMの願望です<嘘。
ヤグには、つぶれないよう上になって頂いて…あわわ。

>42 オガマーさま
ありがとうございます!
いやはや会っちゃいました(w
いかがでしたでしょうか?

>43 いしごま防衛軍さま
ありがとうございます!
私も、自分の頭の中で久々の再会を果たす2人に、
ドキドキしてしまいました。

>44 よすこ大好き読者。
ありがとうございます!
策士です。それも吉と石を思うがゆえです。
いや、単に3人で遊びたいだけかも?
63 名前:ROM 投稿日:2002年08月03日(土)06時48分56秒
>51 吉澤ひと休みさま
ありがとうございます!
メール欄の吉、カワイイです。
何がおいしいのでしょう?
また、(・∀・)イイ!と言って頂けるようがんがります。

>52 オガマーさま
ありがとうございます!
こーんなことになっております。
全貌は少しずつ明らかに…。

>53 あおのりさま
ありがとうございます!
想像するとカワイイですよね。
寝相の悪い吉に蹴り出されて
小さく丸まってる石とか(w

>54 皐月さま
ありがとうございます!
梨華ちゃんもお年頃なので…^^;
吉の活躍に期待するしか!?

>55 ごまべーぐるさま
ありがとうございます!
もうほんとに…。
ご期待に応えたいです。

何度もレスを入れて下さった方。
初めて感想を書いて下さった方。
見捨てずに読んで下さっている方。
本当にありがとうございます。

過去レスの繰り返しですが、
必ず3人をラストまで導きます。
64 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月05日(月)05時27分08秒
ごま!りかちゃんを止めろ!
吉澤はなにしてるんだー?続きに期待
65 名前:皐月 投稿日:2002年08月05日(月)20時03分23秒
つ・・・続きが気になる・・・(^o^)
更新楽しみに待ってます!
66 名前:ROM 投稿日:2002年09月12日(木)20時33分52秒
ご無沙汰、申し訳ないです。
仕事にかまけておりましたが、
いいかげん更新します。
来週、一気に。
67 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月13日(金)12時36分51秒
ううー気になります。梨華たん何をちまよったことを!!それでいいのか!!と言いたい。
ごっちん頑張れ!!できれば梨華たんをもう一度振り向かせてほしい。
更新楽しみにマターリ待っていますよほ。がんがってください!!
68 名前:ROM 投稿日:2002年09月18日(水)02時11分37秒
さっきから断続的に続いている耳障りなノイズ。
ベッドの横のカーテンを少しだけ上げて外を見ると、
窓についた水滴が街灯に反射してキラキラしている。
まるで砕け散ったガラスのように。

「雨?」

サラダボウルをかかえた真里が、台所からひょっこりと顔を出して聞いた。

「そうみたい。あとでコンビニ行こうと思ってたんだけど」

『今日も明日も快晴です』
天気予報は見事にはずれてしまったようだ。
おまけに風も出てきたらしく、
ビョオビョオと建物の隙間を抜ける音が
雨のノイズと交じって不協和音を奏でている。

小学校の頃、あたしは雨の日が大好きだった。
灰色のベールをまとったような町並みと、鼻をくすぐる水の匂い。
まるで見知らぬ場所に来たようにドキドキした。
台風なんか来ようものならあたしのドキドキも最高潮で、
校庭にたまった水が風に煽られて波のように弾ける様子や、
おそらくしまい忘れたものと思われるドッジボールが
ちょうど高波に翻弄される船のようにあちこちへ運ばれていく様子を、
窓にへばりついてずっと眺めていたっけ。

あたし、いつから雨が嫌いになったんだろう。
69 名前:ROM 投稿日:2002年09月18日(水)02時13分16秒
「ご飯そっちに持ってってー」

真里がそう言うのとほぼ同時に、携帯の着信音が鳴った。
カレーとサラダが乗ったトレイをもつ真里と、
「真希」の表示が出ている携帯を見比べて、
あたしは迷うことなく台所へと向かう。
そこには、真里と半日離れていたという負い目があったし、
それ以上に「真希なら後でかけ直して謝ればいい」という安心感があった。

「電話いいの?」

トレイを受け取るあたしを見上げて真里が心配そうに尋ねる。
いいんです、という意味を込めて大きくうなづくと、
安心したように、そっか、と言って少し笑った。
70 名前:ROM 投稿日:2002年09月18日(水)02時14分51秒
予定より1時間遅れの夕食はとてもおいしくて、
あたしは今日起きた憂鬱な出来事の半分くらいを忘れることができた。

雨の日が好きだったあたしが、もういないように、
夢中で梨華ちゃんを追いかけていたあの頃のあたしも、
この世には存在しないのだ。
物質も心も、すべて時間と共に形を変えてしまう。
それはもう痛々しいほどに。
永久不変のモノなど、ありはしないのだ。
だって、すべてを制御しているはずの、
自分自身の気持ちでさえ、無残に変化してしまうのだから。

残されている最後の砦は「今」という時間。
人生という長い長い時間軸の、ほんの一瞬。
うっかり見過ごせば次の瞬間には「過去」になってしまう、
この一瞬だけが、あたしに残された不変であり、
あたしが制御し得る唯一無二のモノなのだ。

今、この瞬間に、隣を見ればそこにいて、
手を伸ばせば触れることができる確かな存在…真里。
きっとあたしの異変を感じながらも、
黙って体を委ねてくれた、彼女こそが不変。

あたしはそう結論づける。
71 名前:ROM 投稿日:2002年09月18日(水)02時17分07秒
「なんかねぇ、すっごいムズカシイ顔してる」

真里はあたしの顔を覗き込んで、眉間を指差しながら言った。

「おっと。ダンディになりすぎました?」

一層、眉間にしわを寄せながら、
そう笑ってあたしは空いた食器を台所に運んだ。

「お風呂、先に入っちゃって下さい。あたし洗っときます」

「そ? じゃお言葉に甘えて。お皿割るなよ!」

はいはい。
って、ウチのお皿なんですけどね。
こんな真里のペースが心地良い。

その前に、ごっちんに電話を、と
携帯に手を伸ばした途端に再び着信音が鳴り響く。

「うわぁ!」

思わず大声をあげてしまい、咄嗟に真里の所在を確認する。
どうやらすでに風呂場に行ったらしい。
ホッと胸を撫で下ろして表示を見る。ごっちんだ。
72 名前:ROM 投稿日:2002年09月19日(木)08時17分41秒

「さっきは出れなくてごめ…」

「なんで来ないの!?」

は? 何? さっき会ったばっかなのに。

「早く来てって留守電入れたじゃん! 梨華ちゃん帰っちゃったよ」

「…何だよそれ。留守電はともかくさ、何事?」

梨華ちゃんは関係ない。
帰っちゃった? そんなの知らない。

「梨華ちゃんからの着信もあったでしょ? なんで無視すんのさ!」

「え、何時頃?」

「よっすぃ〜が喫茶店出てまもなくだよ、たぶん。
 梨華ちゃんがどんな気持ちでかけたか分かる?」

そのとき、携帯は自宅に置きっぱなしだった。
部屋にいたのは…真里。
あたしが見たのは、真里からの着信履歴だけ。

いくつかの事柄がぼんやりとつながって、
まっすぐなラインを描く。
あまり知りたくない、現実。
73 名前:ROM 投稿日:2002年09月19日(木)08時20分32秒
「あ…と、ごめん、ちょっとバタバタしちゃって。梨華ちゃんと会ったんだ?」

混乱しそうになる頭を軽く左右に振って、
あたしは強引に会話をつなぐ。

「和田って知ってるよね」

唐突な質問。予想外の言葉。
必死で忘れようと、もがいて、足掻いて、
無理やり頭の中から消し去ったはずの名前。
それでも結局忘れられず、無理やり自分から遠ざけることで
見ないフリをしてきた存在が、再び脳内を駆け回る。
体中にジンワリと汗が浮かんでくる。

「なんで黙ってんの」

言葉が、出ない。
沈黙の向こうに感じる、ごっちんの苛立ち。

「知ってるよね? 先輩の元カレで、梨華ちゃんの今カレ」

「ん、そのこと梨華ちゃんに言ったの?」

「先輩の元カレって? 言うわけないじゃん」

そんな事実を知ったら彼女は苦しむだろう。
真里に気をつかって、別れてしまうかもしれない。
74 名前:ROM 投稿日:2002年09月19日(木)08時22分01秒
「矢口先輩とあの男の策略にハマったんだよ、アンタ」

「どういうこと」

「矢口先輩だってアンタ狙いだったんだもん。2人の思うツボだって」

違う。違う。違う。
先輩は苦しんでいたんだ。
だからあたしが必要だった。
あたしにも先輩が必要だった。
あたしたちの関係は、必然。

「…矢口先輩は悪くないよ」

「何言ってんの? 彼が浮気してる、とか相談されたんでしょう。
 和田と梨華ちゃんが2人で会ってる所とか見せられてさ。
 梨華ちゃんの気持ちも確かめないまま身をひいたんだ。
 そんで何? あぶれたモノ同士で仲良くくっついて傷舐めあって」

「やめろよッ!」


自分の声に、耳がキンとする。
息が荒くなっていることに気づく。
あたしは何をそんなに興奮しているんだろう。
もうひとりの自分が、不思議そうにつぶやく。

矢口先輩のことを悪く言われたから?
それとも、気づかない振りをしていた事実を、
指摘されてしまったから?
どちらにしても、声を荒げる必要はない。
75 名前:ROM 投稿日:2002年09月19日(木)08時23分00秒
「…ごめん」

「泣いてた。泣きながら喫茶店出て行った」

「梨華ちゃんが? あ、和田さんとこに行ったんじゃ」

きっとそうだ。
梨華ちゃんにはもたれかかれる相手がいる。

「ばーか」

ごっちん独特の、気の抜けた声。

「和田んとこにも、自宅にもいない。
 お姫様のピンチを救うのは、ナイトの役目でしょ」

ブツッ。

そこで電話は切れた。
切れたのか、切ったのかはわからないけれど。

梨華ちゃんが泣いている。
ひとりぼっちで。激しく地面を打つ雨の中で。

このままじゃ風邪をひいてしまう。
そう。それが理由。
風邪をひいたら可哀相、だから、探し出さないといけない。
76 名前:ROM 投稿日:2002年09月19日(木)08時25分43秒
ジャージをはおって、ポケットに携帯電話とサイフをねじ込んだ…つもりが、
携帯だけうまく入らなかった。
フローリングの床に乾いた音が響く。

「何やってんだよあたしは」

焦燥を含む独り言。
次の瞬間、拾い上げようとしたそれは
目の前で真里の手に収まった。

77 名前:ROM 投稿日:2002年09月19日(木)08時42分18秒
更新しました。なぜか2日に分けて(謎)。

>64 名無しさんさま
ありがとうございます。
吉澤さんはこんなところでこんな状態です(^^;

>65 皐月さま
ありがとうございます。
次の更新も楽しみにして頂けると良いのですが。

>67 いしごま防衛軍
ありがとうございます。
後藤さんなりの愛のカタチ、最後はどう成就させようか
思案中です。うーん、どうしましょ?  ヲイッ>(^▽^;)


次回もさくっと更新。
78 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時00分14秒
『9.23 0:52』

もしもし

あ、ウチ。寝てた?

ううん、今電話しようと思ってたよ。

そっか。明日だね、ごっつぁん。

ねー早いよねー。ずっとピンと来なかったけどね、
今日の生放送で「わあもう明日だ」って、すっごいビックリした。

もう昨日だよ。12時過ぎたから。

あ、昨日。じゃあもう今日だ、ごっちんの卒業。

うん。

ごっちん卒業でしょ? 誕生日でしょ? ツアー最後でしょ?
なんかさーぜんぶいっぺんに終わっちゃう気がするね。

誕生日は違うじゃん。

え? あたし誕生日って言ったぁ?

うん。

さっきメールしたらねぇ、フフ、「今年もまた12時ピッタリに
よしこからメール来た」って。返事来たよ。

ああ、うん、送った。

79 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時01分25秒
一緒に買ったプレゼント、ちゃんと明日持ってきてね?

あ? 梨華ちゃんが持ってるんじゃなかった?

違うよ、あの時ひとみちゃんが上着のポッケに入れたでしょう。

・・・・・・・・・

もしもし?

・・・・・・・・・

ひとみちゃん?

アハハハまだポケット入ってた。あぶねー忘れてたー。

信じらんない、もう。

カバン入れた。

プッチもさ、タンポポもさ、明日が終わったら変わっちゃうんだよね。
なんかさー怖いよね、すごい怖い。

ん、怖いね。

2年? 2年、改めて考えると長い。
80 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時01分59秒
あーーーーっ!

なに?

長いねー。

なによ〜、フフ。

梨華ちゃんとあいぼんがタンポポ選ばれたんだよ。
ののと2人で「いいねー」ってさぁ、あーすげえ懐かしい。

プッチはその後だっけ?

そう、最初すげえ緊張した。

2人で「後藤さんコワイよね」とかって言ってぜんぜん話せなかったから、
ひとみちゃんがプッチに入ってどうなるんだろーって思った。

もーほんっと話せなかった。ハワイ行った時なんかさぁ。

あはははは、優勝して買い物一緒に行ったんだよね!

もう緊張で何買ったか覚えてなかったもん。
信じらんないくらい気ぃ使ってた。

でもすぐ仲良くなってたじゃない。

ああ、ね、うん、そう。

ラジオとかでもなんか楽しそうなんだもん。
ちょっと悔しかったっけなー、ちょっとだけ。

なんかさー、梨華ちゃんいっぱいメールくれたよね。
81 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時03分05秒
フフ、「何してた?」とか「どこにいるの?」とか送ったねー、いっぱい。
初めて携帯の料金が4000円を超えたもん。

ってゆうかそれまでが少なすぎだったよ、梨華ちゃん。

ひとみちゃんが多すぎなだけでしょ。
でも、あの頃から別々にお仕事することが増えたから、
ひとみちゃんと電話することも増えた気がする。

うん、そうだね。

そう、だからあの頃はごっちんにすごいヤキモチ焼いてた。
今思うと笑えるけどさ、なんで違うユニットなんだろーって…。
シャッフルでもバラバラだったし。

でも梨華ちゃんだって保田さんと仲良さそうにしてたじゃん。
へそで振り付け覚える時とかさぁ。

教育係だったもん。ひとみちゃんだってあの頃は矢口さんとずっと一緒だったじゃない。しょっちゅう矢口さんとご飯食べに行って…。

へそは楽しかったね。

話そらさないでよ。…いいけど。

クイズでウチら4人が最後まで答えらんなかったりしたじゃん。

あ、収録終わった後に中澤さんに注意されたの覚えてる?

「アンタらもっと前出てこな!」

ねー。
あ、あと、ごっちんのラッキーガール。
あいぼんも最後まで残ったけどダメで。

あーーーっ! あったねっ!
ごっつぁんは、こうさ、運がいいだけじゃなくて、
ウチらにないオーラが出てたよね。
82 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時04分30秒
うん、それは今でも思う。
一緒にふざけてる時と唄ってる時じゃぜんぜん違うから。
表情とか、雰囲気とか…。

ごっつぁんにはかなわないなぁって思う時、ある。

ハロモニでもちゃんと司会して、笑わせて、
打ち合わせでも大人のスタッフさんたちと普通に話してるのを見てたら
とても同い年と思えなかった。

うん、ハロモニ。

ハロモニのごっちんと言えば、文麿さま…。

それさぁ、最初すげーイヤだったんだよね。
今はもうなんでもないけど。

キスシーンでかなり接近したのよ。
あんな近くでごっつぁんの顔見たことなかったから
妙に緊張しちゃった。

・・・・・・・・・。

あたしの文麿さまぁ〜♪とかって。フフ。

あーもう、今でもあんましヤダ。なんで言うの?
収録の時はいいけどさぁ、別に今言うことないじゃん。

…怒った?

怒ってない。

うそ。

怒ってないよ。

ほんと?

うん。

ごめんね?

うん。

明日、いいライブにしようね。

うん。
83 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時05分01秒
プレゼント、喜んでくれるといいな。
3人おそろいのリングなんてキショイって言われたらどうしよう?

ウチが2つつける。

ごっちんのサイズじゃ入んないでしょ。

わ、ひでぇ。
でも入んないかも。

忘れないで持ってきてね。

カバン入れたってば。

ねえ。

ん。

ひとみちゃん、まだ辞めないよね?

だーかーらー、それはこないだ言ったじゃん。
辞めないってば。

だって…ごっちんだっていきなりだったし…。
あたしなんかがはしゃいでフザケてる時に、
ごっちんはすごく悩んで、考えて、決心したわけでしょ?
他のメンバーだって隠してるのかもしれない。
心の中ではもう卒業するって決めてるのかもしれない。
それってすごく寂しい…。
84 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時06分19秒
他のメンバーはわかんないけど。

うん。

ウチはまっさきに梨華ちゃんに言う。

うん、でも…。

信じて。

…うん。

そのかわり、梨華ちゃんも言うんだよ?
ちゃんと、ね。

ひとみちゃん。

ん?

あたしひとみちゃんに会えてよかった。

なんかお別れみたい、ハハ。
ウチが卒業する気分になってきた。

ヤダ笑わないで、ほんとだもん。

梨華ちゃん?

なに?

ミートゥー。

え、なに?
よく聞こえない。

じゃあいい。

なによ。

いいってば。

なに?

また明日ね。

なんなのよ!
85 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時07分49秒
いいライブになるといいね。

さっきあたしが言ったんじゃない、それ。

ヘヘ、そうだっけ?

もう…。
あ、1時半過ぎちゃった。そろそろ寝よう?

うん。

明日がんばろうね。

うん。ミートゥー。

は? ミートゥー? me to? 
…なんか微妙に意味わかんない。

ハハ、そうゆうこと。おやすみ。

いいの? うん、おやすみ。明日ね。

じゃあね。

ばいばーい。

切るよー。

いいよー。

じゃあねー。

はーい。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

ほんとに切るよー。

うん。

おやすみ、梨華ちゃん。

86 名前:ROM 投稿日:2002年09月23日(月)09時09分52秒

『9.23 0:52』  END
87 名前:オガマー 投稿日:2002年09月23日(月)21時15分25秒
あー。
よかったです。
ジーンとしました。
88 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月24日(火)02時05分07秒
読みながら、頭の中でふたりの声が聞こえてる気がしました。
すごくよかったです。
ほんとにこんな電話してそうですよね。
89 名前:通りすがり 投稿日:2002年10月16日(水)21時43分00秒
どういう事をするのも作者さんの勝手ですが。
自らの作品の流れをぶちこわすのはやめてもらえませんか。
完結してから、小品でやれば良いのでは。
気分が悪いです。
90 名前:通りすがり 投稿日:2002年10月16日(水)21時46分34秒
なんか嫌な言い方になってしまいましたが
それだけ真剣に読んでいたと言うことでお許しください。
91 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月22日(火)20時10分30秒
>>89-90

取り敢えずカルシウム摂れよ。 ホレ(ё)ノ ∴∵

なんだか知らねぇが作者たん、ドキドキしながら待ってるYO!
92 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月01日(金)00時46分54秒
短編よかったです。
会話のやりとりが目に浮かんで…うるっときちゃいましたね(w
途中で短編入れても良いと思いますが。むしろその方がうれしいです。
応援してます。がんばってください!
93 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年11月01日(金)08時41分26秒
あがってたから、続きかなとおもたらちごた。

短編、いいですね! 
ひーさまとチャミさまの携帯番号知りたい!

本編の続き有るんですか? 期待してます。
94 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月24日(日)23時42分36秒
短編、良かったです!
でも本編の続きもかなり気になる…。
ハラハラしながら待ってますよ〜。
95 名前:ROM 投稿日:2002年11月26日(火)09時09分54秒
いつからそこにいたんだろう。
まだ濡れたままの髪に洗いざらしのパジャマ。
肩にバスタオルをかけた真里が、あたしを見上げる。

「どこ行くの?」

そう言って差し出された携帯電話を、
あたしは真里の目を見つけたまま無言で受け取った。

「昼間、石川から電話あったよ」

表情ひとつ変えずに、真里が話し始める。

「よっすぃ〜が置いてった携帯、鳴ってたからさ、着信見たら石川なんだもん」

「・・・・・・」

「なんかハラ立ってさぁ。今更なに?って思うじゃん、やっぱ。
 だからいっぱい電話して履歴消しちゃった。
 ハハ、ちょっとヤグチあれかな。ズルイ女ってやつかな」

無表情で口だけ笑う。
その視線はあたしの心まで見透かすように強い。
96 名前:ROM 投稿日:2002年11月26日(火)09時11分08秒

「和田もさ、石川なんかに本気になりやがってさー。
 好きな人ができたからもう付き合えないとか言ってんの。
 マジムカついたから、ヤグチも石川の大事なモノ、奪ってやろうと思って」

もうそれ以上は。

「ヤグチ負けずギライだからがんばっちゃったよ」

それ以上は
言わないでいいです。

「おかげでこんなでっかい戦利品が。ねー。ハハ」

そう言って、少し笑いながら背伸びして、
真里はあたしの頭をポンポンと叩く。

「矢口さん」

「石川とはこれでおあいこ。ヤグチは満足」

「矢口さん」

「石川いなくなったんでしょ。電話、お風呂まで聞こえてたよ」

「矢口、さん」

「何してんの? 早く探しに行かな…」

言いかけた真里を、あたしは無我夢中で抱き寄せた。
小さなカラダは小刻みに震え、まるで何かに耐えるように熱を帯びている。
言わせてはいけないことを言わせてしまった。
彼女の心の中で昇華される時を待っていた“記憶”を、
とても辛辣な、まるでカサブタを引き剥がすようなやり方で、
あたしは再び“痛み”にすり替えてしまった。
97 名前:ROM 投稿日:2002年11月26日(火)09時11分55秒
和田先輩に別れを切り出された時、
真里はどんな風にその言葉を受け止めたのだろう?
彼を責めることも、目の前で泣いて彼を困らせることもせず、
かといって無理に微笑んで媚を売ることも無く、
ただひたすら彼を見つめたのだろう。
さっきあたしを見ていたような、強い目で。

もしも真里が、その場で彼を平手打ちしていたら、
もしくはボロボロに泣き崩れていたら、
傷はもっと早く癒えただろう。
だけど悲しいことに、真里は弱い。
自分の感情を、他人に向けて素直にぶつけられるほど、
強い人間ではないのだ。

あたしの使命は、それを再び“記憶”に返し、昇華させること。
そのために、あたしができることは…。

今にも崩れそうなこの人を。

あたしがいないとダメな、この人を。
98 名前:ROM 投稿日:2002年11月26日(火)09時12分51秒
「行きません」

真里の震えが止まる。

「先輩の、…真里のそばにいる」

サラサラの金髪を、あたしは精一杯やさしく撫でた。
これでいいんだ。
お互いに求め合う者同士がそばにいる、
それが普通なんだ。

「冷たいね、よっすぃ〜」

あたしのカラダを引き剥がしながら、真里が言う。

「ヤグチが好きなよっすぃ〜は、そんなコじゃない。
 どんな時も素直で、真っ直ぐで、自分の気持ちに正直で。
 悲しんでいる人を放っておけない、そんなヤツだったのに」

立ち尽くすあたしの前で、
あーあ、とわざとらしいためいきをついて大げさに肩をすくめて見せた。

「それにさ、同情なんかいらない。
 傷を舐めあう関係より、傷つけあうくらい本気の恋愛をしたい。
 ・・・よっすぃ〜と、石川みたいな」

ドン、とカラダを押される。

「雨ん中、悪いけど、帰ってくれる?
 あ、分かってると思うけど、ヤグチが振ったんだからね」

バタン。ドアが閉まる。
情けないことにあたしは、一言も言葉を発することができないまま、
玄関の外に押しやられてしまった。
99 名前:ROM 投稿日:2002年11月26日(火)09時40分38秒
更新しました。
勢いで書いた上に読み直しもせずアップした短編に対して
感想を頂けたことに、激しく恐縮、そして感謝。。。

>87 オガマーさま
ありがとうございます。
ちなみにオガマーさん、某いしよしサイトで
お見受けしたような・・・?

>88 名無し読者さま
ありがとうございます。
そう言って頂けると嬉しいです。
自分も書きながらずっと2人の声が
聞こえてました。ハイ

>89 通りすがり
アドバイス、ありがとうございます。
どうしてもあの日にアップしたくて、つい。
あとは本編に集中しますので、
引き続き読んで頂けると嬉しいです。

>91 名無し読者さま
ありがとうございます。
88と同じ方でしょうか?
食生活が乱れているのでカルシウムは
私が頂きます。
100 名前:ROM 投稿日:2002年11月26日(火)09時44分47秒
>92 名無し読者。さま
ありがとうございます。
亀の大更新状態ですが、ヒマを見つけて
ぼちぼちがんばっております。

>93 ひとみんこさま
ありがとうございます。
私はそれより2人の会話を盗聴したいです<病
続き、ありますのでよろしくです。。。

>94 名無し読者さま
ありがとうございます。
次もドキドキしてもらえるように
気合入れて書きます。
101 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月27日(水)23時45分08秒
更新、お待ちしてました。嬉しいです。
矢口さん、そうだったんですか・・
よっすぃ〜、早く雨の中を走れ!そして見つけてくれ!
とハラハラしております(w
102 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)14時46分09秒
この作品好きなんで更新待ってます
103 名前:ROM 投稿日:2003年01月01日(水)08時36分07秒
ババババババババ・・・

骨の折れたビニール傘に、風と雨はなおも強く打ち続ける。
ジーンズは水を吸って変色し、スニーカーは歩くたびに
グジュグジュと不快な音を立てる。
あたしは今、自分の部屋を追い出されて、
ほとんど人気のない街をあてもなく歩いている。
104 名前:ROM 投稿日:2003年01月01日(水)08時39分05秒
_________________


「先輩、ここあたしんちですよ!? 開けてくださーい!」

傘がない。カギもない。心の準備もできていない。
真里のそばにいようと心に決めたあたしは、その数分後に、
真里の手によって自分の部屋から追い出されてしまったのだから。
そして何より、真里の言葉の真意がわからない。
このままじゃどこへも行けるわけ、ない。

ドアの前で呆然と立ち尽くしていると、不意にノブが回った。

「傘」

目の前に差し出されるプラスティックの柄。
ドアはチェーンがかかったまま10pほど開き、
その奥には真里の泣き顔が見える。

あたしは傘の柄を、少し冷たい真里の指先ごと両手で包み込んだ。

「先輩…あたしは…」

「よっすぃ〜、泣きそうな顔してんだもん」

泣きそう?
あたしが?

「石川を、探しに行こうとしてたじゃん? 
 あの時のよっすぃ〜、怒ったような、泣いてるような、そんな顔してた」

そう言って、泣き顔のまま笑う真里。
あたしはそんな彼女に何と言えばいいのだろう。
黙り込んでいるあたしの顔に真里の右手が伸びて、
華奢な指先が、眉を、頬を、唇をそうっと撫でる。
愛しそうに、何度も、何度も。

「石川のことになると、あんな表情するんだね」

泣き顔で笑っていた真里は、いつしか笑顔で泣いていた。
105 名前:ROM 投稿日:2003年01月01日(水)08時40分39秒
あたしが梨華ちゃんを忘れられないことを知っていながら、
ずっとそばにいてくれた真里。
真里が離れていかないだろうということを分かった上で、
梨華ちゃんを思い続けていた自分。
どちらが悪人かなんて、火を見るより明らかだ。

「いつか、振り向かせてやろうと思ってたんだけど。
なんで石川じゃないとダメなんだろうなぁ。ちっくしょー」

ボロボロと頬を伝う涙を拭いもせず、
真里は笑っている。
すごく、キレイな笑顔だと思った。
それが自分に向けられていることが、申し訳ないような気がした。
あたしは、そんな優しく微笑んでもらえるような人間じゃないから。

「だけどあたしは、せ、先輩のことを好きに…なりたかっ…」

のどがつまる。
胸がひゅーひゅーと鳴ってうまく声が出ない。
そうか。泣きそうになってるんだ、あたし。

「あのねよっすぃ〜。恋愛って、“する”とか、“したい”じゃなくて、しちゃうんだよ。
したくなくても、しちゃうの。コントロールなんてできないの。
よっすぃ〜だって分かってるでしょ、本当は」

真里の言葉はまるで、自分自身に言い聞かせているように聞こえた。
そして、同時にあたしは真希のことを思い出した。
「恋をするのに理由はない」と言って、あたしと梨華ちゃんの関係を
認めてくれた真希。
2人の恋愛観は、どことなく似ているような気がした。
106 名前:ROM 投稿日:2003年01月01日(水)08時42分07秒
「よっすぃ〜に惚れるなんて、予定外だよなあ、ホント」

首をかしげ、眉をひそめて真里がつぶやく。
その表情があまりにも可愛らしくて。

「チェーン…開けてもらえないですか?」

「どうして?」

「最後にキスしたいです、先輩に」

「ダメ」

無表情のまま、真里はそう言って、

「一度したらもっとしたくなる。キスも、その先も。
終われなくなっちゃう」

と、続けた。

あたしは、両手で包んでいた真里の左手に唇を寄せて
触れるだけのキスをした。
そして傘の柄を握っている真里の手をやんわりと開いて傘を受け取ると、
何も言わずに背中を向けて歩き出した。
少しして、小さなつぶやきの後にドアの閉まる音が聞こえたけど、
真里が何を言ったのかは分からないし、あたしの空耳かもしれない。

マンションの敷地を出て傘を開くと、それはウチの傘立てに何年も置きっぱなしだった
古いビニール製で、錆付いた骨が少し折れ曲がっていた。
差してみると、体の半分に雨がかかってしまう。
だけど、この程度じゃあたしの罪は許されないと思った。
いっそ骨がポッキリと折れ、穴が開き、まったく役に立たない傘の方が、
今のあたしには相応しいと。

そんなことを考えながら、少しだけ泣いた。

107 名前:ROM 投稿日:2003年01月01日(水)08時51分57秒
明けまして更新でございます。

>101 名無し読者さま

ありがとうございます。
お待たせして申し訳ないです。
ヨシザワさん、次回は雨中を疾走予定です(w

>102 名無し読者さま

ありがとうございます。
私も好きです。<?
亀ながら更新しましたので、
また読んで頂けると嬉しいです。
108 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年01月08日(水)02時38分03秒
はじめまして!
チラッと見ただけでグイグイ引き込まれた読者です
石川・吉澤のもどかしさ、後藤・矢口の身の引き方、和田の忌々しさ(笑)がたまりません
早く梨華ちゃんを見付けてあげてくれ、よっすぃ〜
てことで作者さん応援してます
109 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月27日(月)11時35分01秒
続きが気になります
ラストまで一気に読んでみたい作品です
続き待ってますよ
110 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月27日(木)11時00分59秒
111 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月13日(木)22時19分33秒
ほぜむ
112 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)22時00分46秒
保全
113 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月05日(土)13時15分54秒
期待してほぜん
114 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月20日(日)14時03分36秒
保全
115 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月20日(金)00時39分44秒
hozen
116 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月04日(金)12時36分32秒
死んだか?
117 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月07日(木)00時37分31秒
hozen
118 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月30日(土)03時43分29秒
なんで飼育って吉澤石川モノが多いの?
うざいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
119 名前:名無し初心者 投稿日:2003年08月30日(土)06時35分07秒
うざいなら、来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
120 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)07時59分24秒
ochi
121 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/30(火) 02:04
ほぜん
122 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/17(月) 05:26
ほっほー

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