インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板
BATTLE ROYALE in モーニング娘。
- 1 名前:hide 投稿日:2002年06月04日(火)23時10分37秒
- 他所から引っ越してきました。
どうぞ、ふつつかものですがよろしくしてください。
- 2 名前:辻 希美編 now, 13 musume remaining 投稿日:2002年06月04日(火)23時11分35秒
- 見晴らしの良い野菜畑のど真ん中で辻希美(女子9番)はただ黙って目の前の雑木林を睨んでいた。
極度の緊張からか何度も唇は乾き、そのたび舐めた。喉がこくっと鳴った。
今、辻の眼にうつっているのは陰湿な暗闇の雑木林と辻の顎下でぎらぎらした光を放っているコンバットナイフだけだった。――落ち着いている。大丈夫・・。コンバットナイフを持っている手が少しだけ、下がった。
何故、自分がこんな事をしなければならないのか?アイドルの自分が、こんな物騒なモノ(コンバットナイフ)を持ち、構え、緊張している。コンサートは?確か・・明日は生放送が入ってたと思っていたが・・。そう思った瞬間だった。
風も吹いていないのに空から、実際は雑木林から葉が数枚が振ってきた。その中の一つの葉が辻の目の前で旋回し、鼻先に触れた瞬間、(がさっ!!)雑木林の中から土埃と木の葉とともに人影が現れた。
- 3 名前:now, 13 musume remaining 投稿日:2002年06月04日(火)23時12分44秒
- 辻は鼻先の葉を手で払うと、右足を後に少し出した。
人影は左、5メートル離れた程度の所にいる辻を無視し、そのまま、幅跳びの選手の様に飛び、畑に降りた。ずざっ!!ぶちぶち・・・!!人影の足元の野菜の葉がこすれて千切れる音が辻の耳に届いた。
辻は素早くコンバットナイフを利き腕に持ち替え、腰を落とした。
戦闘!戦闘!戦闘!
「だ、だれでふか!?」
人影は辻の声に反応し、こちらを振り向いた。が、体がこちらを向いた瞬間に辻の眼にはその人影が腹部の辺りで構えているある武器に気が付いた。辻は右の方の足場を確認せず、出来る限りの速さで右へ飛んだ。だんっ!!蹴り上げた左足の下の土が少々、宙に浮き上がった。そして、雑木林と畑の境目の小さな急な段差を再び全力で蹴りあがると(三角飛びの要領だ)、もうすでに相手はすぐそこ――左足の先だった。
辻は手加減無しでコンバットナイフを持った右手を振り上げ、下ろした。
しかし、その途中、辻の耳にはコンバットナイフが風を切る音と別に、すたんっというプレス機の稼動音のような音が届いていた。それは――ボーガンの音だった。
- 4 名前:now, 13 musume remaining 投稿日:2002年06月04日(火)23時13分24秒
- びゅんっという風の音が辻の頬の辺りからして遠ざかって行った。
辻は瞬時これがなにかが飛来した音だという事も理解したし、危険なものだという事にも気が付いた。
その証拠に辻の頬はすでにちりちりとした痛みと熱を放っていた。
ずざっ!!辻はそのまま、地面に着地すると、再び、標準を合わせようとしている人影の動きに気付き、コンバットナイフを横に振った。足元では野菜の葉がぶちぶちと音をたてて千切れてた。人影は素早くそれをボーガンの本体で受け止めると(その反動でボーガンから一発、空に向かって矢が放たれた)コンバットナイフを絡め、辻の体を引き寄せ、足払いをかけた(辻は場違いだが思った。「運動神経がいいれすね」)。辻はそのままなんの抵抗もなく地面に倒れた。(辻には地面と空が一回転したように見えた)畑の土は柔らかかったためたいしたダメージは受けなかったが、でも少し、息が漏れた。辻は身をひねり起きると、今度は相手の足を目掛けて大きく足を振った。上手い具合に人影の足は辻の右足にひっかかり、ひっかかっている左足ごと右足を辻は蹴った。人影はよろけて、倒れたというか、すっ転んだ。転んだ拍子にボーガンが再び発射された。辻のすぐ目の前の土が、一瞬で抉れ、矢は回転しながら辻の頬の数センチ向こうを通りすぎていった。確実に危険は迫っていた。
辻は意識を集中させた。
- 5 名前:now, 13 musume remaining 投稿日:2002年06月04日(火)23時13分59秒
- 次、次に飛んでくるモノを避けることが辻のやるべきことで集中するべきことだった。
辻が立ちあがり、一歩、後に後退した時だった。
スタンっという軽快な音とともにお約束通りボーガンの矢が辻に向けて飛んできた。
一瞬で矢は辻の二の腕をかすめて雑木林に消えた。まずいのれす!この距離れは避けるもなにも・・!
再び、スタンっという軽快な音。矢は綺麗なとても小さな放物線を描き、真っ直ぐ辻の元へ向かった。
辻はそれを身をひねりかわし、(背骨がぱきっとなった。最近運動不足れすね)地に伏せた。地面の砂利で顔の皮膚が少々擦り切れて血が出たが今はそんなちょっとに構ってられない。
辻は腕の力だけで立ち上がると、全速力で雑木林目掛けて走った。
- 6 名前:now, 13 musume remaining 投稿日:2002年06月04日(火)23時14分43秒
- 雑木林までの数メートルの間に辻は自分が置いたデイバックを拾い上げると、あとはただ雑木林を目指すだけとなった。だが、あきらかにデイバックのおかげでスピードはダウンしていた。(もともとメンバーの中では<少々>ぽっちゃり、あくまでぽっちゃりね!していた辻はそれほど足は速くなかった)走りにくいのれす!辻がそう思い、デイバックを肩から下ろし、掴んで走ろうとした瞬間、大きな衝撃を腕から肩、そして全身に感じ辻は大きく体を揺らした。
辻は横目で衝撃も元――肩からかけてあったデイバックに銀色の矢が刺さっていた――を確認するとなおも雑木林目掛けて駆けた。(デイバックからぼたぼたと水がこぼれている。きっと中のボトルをかすったのだろう)
足元の野菜の葉の音が無くなり、一気に地面を駆け易くなった。辻はデイバックを後に捨てると(もともとコンバットナイフは手元にあったし、必要は無かったのだが、肝心の水が入っていたため拾っておいたのだ。しかし、水が大分漏れてしまった今、必要性は無い)畑と雑木林の境目の段差を一気に上った。が、急に足元の土が動く感触がした。
ずだんっ!!(!!?)気が付けば辻は空を見ていた。!!?なんれすか!?これ!?空中になにか紙がひらひらと浮遊しているのを辻の眼は捕らえた。あれは―――地図!!そうそれはゲーム説明の時に支給された地図だった。そしてその裏の白地には――辻の靴跡があった。(!)あの地図を踏んらんれすか!!辻はやり場の無い怒りに支配されたが、次の瞬間、地図を矢が貫いた(引き千切ったようにも見えた)のを見て、そんな感情は吹き飛んだ。
- 7 名前:now, 13 musume remaining 投稿日:2002年06月04日(火)23時16分04秒
- しまった!人影!辻は慌てて、起きあがると、人影を見た。この時、自分が初めて相手の顔を見た事に辻は気が付いた。そして――驚いた。メンバーのだれかであることは当たり前だったが、まさかこの娘。と当たるとは思っていなかった。
紺野あさ美(女子6番)!新メンバーの一人だ。辻は全力で地面を蹴ると、紺野に向かった。辻は思った。紺野ちゃんはますいのれす!何考えてるかわかんないのれす!スタンっというすでに少し聞き慣れた音が紺野の近くからした。と同時に銀色の光(それは月の光がほんの少し反射していた)が辻の足元に向かって伸びた。辻は右足を踏み込むと大きく跳び、それをかわし、紺野の3メートルほど目の前に降りた。そして前に踏み込んだ。が、再びスタンっという音がして今度は近いせいか少し速いスピードで辻の顔に向かって銀色の線が伸びた。辻は一歩も退かず、むしろ前進してそれをコンバットナイフで叩き落した(こんな芸当が出来るなんて、やればできるもんれすね)。ざくっという土の音がして、地面にアンテナが出来た。紺野はもう目の前だった。
紺野は慌ててボーガンを辻に向けようとした。
が、辻はそれを左手で阻止し、右手のコンバットナイフを紺野の頭を目掛けて振り下ろした。
と、ほぼ同時に左手で押さえていたボーガンの重力がふっと消えた。
ボーガンを手放した紺野は素早く、ポケットから何かを取り出していた。
辻は空を切ったコンバットナイフを素早く自分の胸近くに引き寄せると、構えをとった。
紺野の右手が辻の喉を狙い、ゆらりと動いた。(それはスローモーションのような動きであったが、実際は驚くべきスピードで振られていた)
- 8 名前:now, 13 musume remaining 投稿日:2002年06月04日(火)23時17分06秒
- 辻は一歩退いた。その瞬間、足元に何か大きなモノがぶつかり、じっとりと冷たい感触がした。
!!これはのののデイバックなのれす!!そしてデイバックの中から漏れていたペットボトルの水のせいで畑の土はすべりやすくなっていた。そして、案の定、こけた。辻は思った。モノを捨てたから罰が当たったのれす!あわてて起き上がり中腰の態勢になった時だった。
紺野はこの機会を逃さなかった。
大きく空を切った右手(その手にはバタフライナイフが握られている)の甲をひねると逆スローモーションのように再び辻の喉を狙い振った。
「!!!」
バタフライナイフが辻のお下げを半分程切った時、一瞬、紺野の足がほんの少し宙に浮き、体ごと後に倒れこんだ。
- 9 名前:now, 13 musume remaining 投稿日:2002年06月04日(火)23時18分03秒
- あれ・・・?と紺野は不可思議な顔をした。
紺野自身はまだ気付いていなかったが、紺野の胸部には銀色のアンテナ(ボーガンの矢)が立っていた。
少しも動かない紺野を見ながら辻はゆっくりとボーガンを握っている左手を下ろした。そしてトリガーを掴んでいた指の一本一本がトリガーから離れ、ボーガンは腐敗した柔らかな葉の上に小さな音をたて落ちた。
額に汗が浮き、呼吸は乱れ、意識は朦朧(もうろう)といていた。視界に霧がかかっている。これは意識からくるものなのか、それとも、本当に辺りに霧が出ているのかもしれなかった。
自分は人を殺してしまったのだ。
しかし、今は罪悪感に心を捕われている場合じゃない。辻はゆっくりと周りを見渡し、紺野(もうすでに事切れている。矢は心臓の位置にしっかりと食い込んでいた)に一言、静かに「ごめんらさい」と言い、その場を走り去った。
つんく♂タウン内 コンピューター室 ゲーム2日目 0:55
この時点ではまだ女子6番紺野あさ美の死亡を確認できず
- 10 名前:生き地獄 投稿日:2002年06月06日(木)17時03分11秒
- 雑木林の中をひたすら走りつづける事、約数十分。辻の体力は限界にきていた。額の汗はもちろんの事、足は度々もつれ、何度か転びそうになりながらも走った。紺野との戦闘のせいで擦り切れていた頬の傷は切れ目を中心に少し青くなっていた。乾いた血の跡が走る度、ぱりぱりと音をたてた。
「はあっはあっはあっ!!!も・・もう走れないのれす・・・」
辻はゆっくりとスピードを落としていき、大木の麓に腰を下ろした。
「はあっはあっはあっはあっ!!!!」
呼吸が元の調子を取り戻すにはもう少し時間が必要そうだった。辻は左手に何か持っているのに気が付いた。それはコンバットナイフだった。手を開いてみるとコンバットナイフのグリップの跡が手に出来ていた。ナイフを握り閉めながら走ってたのれす。辻は少しそんな間抜けな自分に苦笑した。だが、そんなぎこちない笑顔は数秒も持たなかった。そう、自分は人を殺したのだ。
- 11 名前:生き地獄A 投稿日:2002年06月06日(木)17時03分53秒
- ボーガンが胸に当たり紺野の顔が歪む映像が辻の頭の中に生々しく蘇った。あの生気を失った、とでもいうのだろうか?虚ろな目。思い出しただけで吐きそうだった。そして、頬に次々と涙が流れた。
昨日までは――メンバーだったのだ。紺野が新メンバーとして入ってきた時、歳の近い後輩が出来たようでうれしかった。ダンスがうまく踊れず、落ち込んでいる紺野を慰めたりした。手紙も何度か交換し、忙しくて学校に行けなかったが、寂しくはなかった。そのような学校のような雰囲気を作ってくれたのも紺野達、新メンバーだった。しかし、しかし――もう無いのだ。そんな平穏はもう無い。自分は紺野を殺した。その罪悪感を―――いや、罪を背負っていかなければならない。モーニング娘。はもう、無い。
- 12 名前:生き地獄B 投稿日:2002年06月06日(木)17時04分38秒
- 辻はいつのまにか自分がひっそりと泣いているつもりが、しゃっくりを上げ、大声で泣いているのに気がついた。声は何度もしゃっくりで止ったが、再び「あああ」という声を戻した。涙で視界は歪んで、ぼやけて見えた。
殺した!殺した!何度も頭の中、奥深くでそんな声がした。それは紺野の声に近かったかもしれない。殺した!そう、自分は殺した!泣いた。ただ、大木の麓で迷子になった子供のように、どうしていいか、するべきこともわからず、泣いた。いや、泣くことしかできなかったのだ。辻はコンバットナイフを背後の大木に向かって振り向かずに振った。がりっという音がして辻の腕に少々の負担がかかった。辻は再び、振った。またもやがりっという音がして、木はその体に比べると小さい傷をつけた。そして辻は何度も、何度もその腕を振った。まるで駄々をこねる子供のように、泣きながら、振った。
- 13 名前:生き地獄C 投稿日:2002年06月06日(木)17時05分27秒
- 雑木林はすでに途中から森へと変わっていた。鳥が大きく囀っている。日の光は大木の葉、一つ一つを擦り抜け、辻の元まで届いていた。辻は泣きつかれて眠っていたからだろう、真っ赤に膨らんだ顔を膝から起こした。
ゲーム開始から初めての朝を迎えていた。
「・・・お腹すいたのれす・・・・」
辻は生気も無く、そう言うと、立ちあがった。実は開始当初、支給された食料は全て食べてしまっていた。育ち盛りの辻にとってはあれほどの食料ではとてもじゃないが(もともと大食いなのだ)、一日も持たない。だが、食料無しではこのハードなゲームを乗り切れる自信は無い(乗りたくもないが)。辻はひとまず、色々考えるのは止めにして、食料を探す事に決めた。ポケットに入れておいた地図取り出し、広げた。ここは――、大木はご丁寧に地図にピックアップして載っていた。ここは、えっと地図の右側だから・・うーんと・・南?
- 14 名前:生き地獄D 投稿日:2002年06月06日(木)17時06分11秒
- 辻はごく適当に近くの民家を探した。島民が避難しているにしろ、なにか、食料は残っているに違いない。民家はあった。意外と近い。ここから十分もあれば着くだろう。辻は地図をしまうと、民家に向かって歩き始めた。
ややあって、辻は周りの景色がおかしい事に気が付いた。打ち付ける波の音、白い砂浜に大きな岩があるのが木と木の間からふと見えた。辻は慌てて再び地図を取り出すと、今、自分の辿ってきた道を調べた。そして自分が民家とは逆方向に向かっていたのに気が付いた。
「・・・」
辻はそのどうしようもない凡ミスにただただ、立ち尽くした。これほどまでに自分が情けなく感じられたことは無かった。辻は大きなため息を一息つくと、今通って来た道を再び戻り始めようとした時だった。 ガーーッボツッ!ボツッ!!大きな機械の歪んだ音が辺りに響き渡った。キィィーーー〜ンッ!!!そしてその不快な音は聞き慣れた声に変わった。
- 15 名前:生き地獄E 投稿日:2002年06月06日(木)17時06分47秒
- 「おーーう!皆、がんばってるかあーー!!?監督のつんく♂や!!」
それもまた、もう、不快な声だった。
「あんなあ、皆に説明すんの忘れ取ったけどなあ、皆のなあ、首輪ついてるやん?それ、実はなあ、どこにいても死んだらわかるようになってん。でな、この放送あるやろ?それで、死んだ奴発表していくから。何でそんな事するかわからんやろ?でも説明はせえへんわ。めんどいもん。まあ、どうせお前らあほやからわかれへん思うけどなあ!ははは・・!!」
辻は馬鹿にされたことよりも、その暢気な声に幾分、怒りを感じた。が、すぐに恐怖に変わった。きっとそれならば紺野の名前は出るだろう。もしかしたら紺野の名前だけかもしれない。そうすれば殺したのが誰かばれるかもしれない。ゲームに乗ったと思われて、自分は今まで一緒にモーニング娘。のメンバーの誰かに殺されてしまうかもしれない。その恐怖のスピーチは予告通り、死者を読み上げた。
- 16 名前:生き地獄F 投稿日:2002年06月06日(木)17時07分17秒
- 「じゃあ、いくぞーー?準備ええか?いくぞお?ええ〜〜っと・・女子ニ番、飯田圭織。ああ、これは俺が殺った奴やな・・・で、ええっと・・ええっ!!?これだけ!!?まじでか!!?おいおいっ!勘弁してくれやあ!シェキドルはもっと速かったでえ?」
シェキドルとモー娘。の人数の差を考えたらそれはもう比較にならないだろう。下手すればシェキドルは半日もかからなかったのかもしれない。が、それよりも――紺野、紺野の名前が出なかった。これはどういう事だろう?だが、しかし、なんにしろ、辻にはそんな事はどうでも良かった。名前は出なかったイコール紺野は生きている。そういう事なのだ。そう、きっとそう。罪が全て洗い流されるようだった。だが―――辻は思った。死にかけているだけかもしれない。ただ、ただ今の今までやっとこさ持っている状態かもしれない。そうなれば、結局、一緒だ。助けに行かなければ!そう思い、その場を去ろうとした時だった。
- 17 名前:生き地獄G 投稿日:2002年06月06日(木)17時08分12秒
- バンッという運動会のリレーのピストルのような(それよりも遥かに大きい)音が辺りに響いた。辻は反射的に身をかがめた。なんの音れすか!?辻は身をかがめたまま音のほうへと急いだ。自然と手は腰のコンバットナイフに向かっていた。が、しかし、その探索はすぐに終わる事となった。つんく♂ が嬉しそうに発表した。
「ええ〜〜〜?まじすかあ!?え〜〜とですねえ・・たったいまあ、連絡が入りましたあ!死者追加です!女子四番、小川麻琴!」
辻は驚愕の表情でつんく♂の声のするほうを見た。麻琴ちゃんが!?考える、悲しませる間もなく、再び、銃声が響いた。そしてさっきと同じように続いて発表があった。
「はははは・・!本当ですかあ?みなさん!また死者追加です!女子八番、高橋愛です!」
そして、そのまま、つんく♂のスピーチは終わった。辻はしばらく呆然とつんく♂の声の後の機械の歪んだ音を聞いていた。
女子四番 小川麻琴 死亡
女子八番 高橋愛 死亡(残り十人)
- 18 名前:瞬間 再会 投稿日:2002年06月07日(金)23時15分55秒
- ここ、早朝島(そうちょうとう)は住民はほとんど居ない。外部の人間も船で三時間もかかるところのため、観光でも滅多に誰も来ない。そのせいか、今なお、白い砂浜は汚される事なく、海も、海本来の美しさをキープしている。
しかし、今はその美しい海に禍禍しい黒のまるで悪魔でも乗っていそうな船がぽつん、ぽつんと浮いている。いや、本当に悪魔が乗っているのかもしれない。辻はそう思いながら海岸を歩いていた。
あの船は恐らく、つんく♂の言っていた監視船だろう。逃亡者をなんの躊躇無く殺すためだけの船だ。死神が乗っていると言っても過言じゃない。
辻はゆっくりと海岸の岩場に腰を下ろした。と、同時に何も食べていないせいか、急激な睡魔に襲われた。静かに呼吸を整えた。寝ちゃ駄目なのれす・・・。寝たら・・駄目・・・。こんな所で寝たらどうなってしまうか分からない。危険この上ないだろう。しかし、辻の意識は急速に薄まっていった。
- 19 名前:瞬間 再会A 投稿日:2002年06月07日(金)23時16分32秒
- ・・・何時間たっただろう?辻はふっと目を覚ました。辺りはオレンジ色に染まっており、海の方を見ると、太陽が今まさに沈む所だった。転寝(うたたね)をしてしまっていたようだ。辻は自分の頬に出来た岩の跡を触りながら思った。何時間寝てたんれしょうか?
辻は立ち上がり、ポケットから地図を取り出した。今から民家に向かうには夜の雑木林を抜けなければならない。危険だ。辻は地図上で夜を過ごせる場所を探した。この海岸の近くには・・灯台がある。辻は辺りを見回した。だが、灯台などは一切見あたらない。辻はここ付近では一番高い丘に上がってみる事にした。
丘の上に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。丘の頂きに立つと辻はすぐさま灯台の光が目に付いた。ここから約一キロ、あるかないか位の所にそれはあった。辻は仕方なく灯台に向かう事にした。
- 20 名前:瞬間 再会B 投稿日:2002年06月07日(金)23時17分44秒
- しばらく見えていた雑木林の姿が消え、灯台まで後少しというところで突然、それは襲ってきた。ばんっという音と共に、辻の足元の砂が舞い上がった。辻が訳も分からず音の方を見ると防波堤のブロックの上に人影が見えた。辻はすぐさま、前方に駆けた。ばんっという音がしてすぐ後で砂が再び舞い上がった。
敵れす!辻は腰元のコンバットナイフを抜き出し、装備した。が、そんなものじゃ勝てる訳が無い。辻は人影の見えた防波堤とは逆方向、右側に駆けた。とりあえず、ここは、逃げなくちゃいけないれす!
三度目の発砲音が辺りに響いた。と、その音は辻の向かっているほうから聞こえた。!?こっちにも誰かいるのれす!辻は急ブレーキをかけると、そのまま灯台に向かって駆け出した。両サイドから狙われたらさすがにまずい。辻は全速で駆けた。四度目の発砲音がしたその瞬間、このゲームが始まって以来、つんく♂以外の人の声が辻の耳に届いた。
「のの!!ワイや!」
辻はその声に体全体で反応した。この声は!!辻は声の方を振り返った。そこには――辻は自分の目から涙が溢れ出すのが分かった――ライフル銃を構えた加護の姿があった。
- 21 名前:瞬間 再会C 投稿日:2002年06月07日(金)23時19分20秒
- 加護は辻の方を見て、少し微笑むと、ライフル銃を防波堤――人影に向かって放った。どんっというくぐもった音が空気を震わせ、びりびりっと辻の頬がつっぱった。
「あいぼんっ!!」
辻は加護に向かって大声で叫んだ。加護は辻に駆け寄ると、「灯台まで走るで!!ののちゃん!!」と言い、ライフル銃の紐を肩に掛けると辻の手を引き、一気に駆け出した。(辻はその加護の手の温もりに、再び自分の目から涙が溢れるのが分かった。もう二度と体験出来ない事だと思っていた)
加護はデイバックから緑色の卵のようなモノを取り出した。辻には一瞬それがなんなのか分からなかったが、すぐに手榴弾だという事に気付いた。加護はそれを防波堤に向かって投げた。辻はすぐに爆破すると思い耳を塞いだが、爆破はしなかった。
「ののちゃん!!バックの中に手榴弾あるやろう!?それ、投げて!!」
辻は爆破しない手榴弾を投げる意義もよく分からないが、とりあえず言われた通りに投げた。何度か投げた後、防波堤の入り口付近は手榴弾だらけになった。加護が「もおええで」と言い、ライフル銃を手榴弾が溜まっている所に向けた。
- 22 名前:瞬間 再会D 投稿日:2002年06月07日(金)23時20分44秒
- と、次の瞬間、ばんっという音と共に握られている辻の手から加護の手の重力が消えた。加護の体が浮いているのが辻の目に映った。そして――落ちた。砂が舞い上がって、辻の頬の傷に触れ、少々痛んだ。が、今はそれよりも・・!
「あいぼん!!」
辻は加護に覆い被さるようにしゃがみ込んだ。そしてその身を揺らした。「あいぼん!!あいぼぉん!!」涙声に変わった。その時、加護の口が微かに動いた。続いて声がした。「そんなに大声出したら見つかんで」そして加護は防波堤を横目で睨むと、「ののちゃん、走って灯台まで行き。ここは任せえや」と言った。
辻は涙声で言った。「無理れす!!絶対やられるのれす!!それに・・それに加護ちゃんを置いて行けないのれす!!」
その瞬間、加護が起きあがり、辻を押し倒した。「!!?」辻は訳も分からずなされるがまま、砂浜に倒れた。加護が言った。「これだけ動けるから大丈夫や。辻ちゃん、このまま匍匐前進で灯台を目指しい!!」
そして、加護が辻に顔を近づけた。さらにそのまま、唇を重ねた。
「!!?」辻が驚きのままその場で止っていると、加護は手榴弾が溜まっている付近に向けてライフル銃のポンプを引いた。そしてライフル銃が光と炎を同時に噴出した。
- 23 名前:瞬間 再会E 投稿日:2002年06月07日(金)23時21分59秒
- 銃弾を吐き出したライフル銃の反動で加護の手が揺れた頃には、辻の耳に大きな爆発音が届いていた。急速に辺りが白くなり、耳にはきーんっという耳鳴りが起きていた。辻の目は、向こう(防波堤、ちょうど手榴弾が溜まっていた辺り)から砂の波がこちらに向かってきているのを捕らえていた。
砂の波が辻まで届いた瞬間、物凄い突風が辻の体を押し流した。辻は両足をつっぱって踏ん張ると、大声で叫んだ。
「あっ・・・あいぼぉんっ!!!」
辻が叫んだ時にはもう、加護はもくもくと煙を上げている防波堤の入り口に向けて走り出していた。ライフル銃を右手で持ち、左手で肩から下がっているデイバックの中から手榴弾を取り出すと、口で安全装置を抜いた。ここから防波堤まで、約20メートル!!加護は砲丸投げの選手のように大きく構えた。
防波堤の人影は爆破でぐらついてはいたものの、たいしたダメージは受けてはいないらしい。すぐさま、手元の(たぶん)ショットガンを加護に向けた。加護はそれに呼応する様に大声で叫んだ。
- 24 名前:瞬間 再会F 投稿日:2002年06月07日(金)23時23分56秒
- 「あああああああああああっ!!!」
加護は声を張り上げたまま、手榴弾を人影に向けて投げようとした。と、その瞬間に加護の体から大量の血が噴き出した。しもうた・・当たってもた・・・。加護は思った。加護の中学生とは思えないほどの豊満な胸から涌き水のように血が溢れだし、服が真っ赤に染まった。後ろ足が砂の上を大きく滑った。(正確には砂の上の血で滑った)加護の顔が砂に伏した時、辻が叫んだ。
「あいぼんっ!!!!大丈夫れすかっ!!!!?あいぼんっ!!!!」
加護の耳には本当に、本当に微妙な程しか声は届いていなかった。大量のノイズがすでに加護の聴覚を支配していた。思った。ののちゃん・・ごめんなあ・・・はよ・・逃げや・・・。加護は静かに目を閉じた。思った。ののちゃん、はよ・・逃げ・・・・。
加護が投げ損なった手榴弾は空中に投げ飛ばされていた。辻はその手榴弾に気が付いた。そして恐怖した。何故なら、このまま手榴弾が落下すれば、加護の体にちょうど当たってしまうからだった。辻は加護にその事を知らせようと叫ぼうとした。その時だった。
加護が手榴弾の存在に気付いていたのか、大きく身を捻り、ライフル銃を空中の手榴弾に向けた。そして、撃った。ところが、瀕死の加護には細かい手榴弾を撃つほどの余裕は無かった。銃弾は手榴弾の脇を通り過ぎた。加護は手榴弾を睨んだまま叫んだ。
「そこにおったら危ないでっ!!!!離れえ!!!」
- 25 名前:瞬間 再会G 投稿日:2002年06月07日(金)23時24分40秒
- そう叫んだ(声を絞り出した感じもあった)加護の口からやる気の無い噴水のように血が漏れ出た。辻はどうしていいかわからず、立ち尽くした。手榴弾が加護の体に向かってまっすぐと落ちていった。
加護はその身を横にそらすと、手榴弾が地面に落ちるのを横目で見送った。そして手榴弾が地面に着いた瞬間だった。加護はその手榴弾に覆い被さった。
「ののちゃんっ!!生き残りいや!!!」
そう叫び終わった瞬間、加護の腹部と地面の間が光った。そしてぼんっという塞ぎこんだ、でも大きな音がして、加護の背中から白い棒が突き出た。さらに、それの間を擦り抜けるようにして、ピンク色の臓器が空中に飛び散った。辻の目は、それよりも、加護の口から滝のように溢れ出す血を捕らえていた。大量の血液を失った加護の顔色は急速に白くなっていった。
「やああああああああああああああああああああああっ!!!」
辻は喉が潰れんばかりに叫んだ。涙が一気に頬を濡らした。
- 26 名前:now, 9 musume remaining 投稿日:2002年06月07日(金)23時25分57秒
女子五番 加護亜依 死亡(残り九人)
- 27 名前:後藤真希編 now, 09 musume remaining 投稿日:2002年06月07日(金)23時28分08秒
- ――何時間ここで過ごしただろう?
島の端にある廃校の暗闇の中で後藤真希(女子七番)の時間の感覚は、長時間の緊張と疲労で正常ではなくなっていた。唇は水分をもとめ、その度、後藤は唇を舐めた。逆に汗で湿った手には、オートマチックの銃が握られていた。後藤はポケットからその弾を床に並べ、残数を確認した。残り7発。(すでに装弾されているのを含めて、27発。)
後藤は大きく息を吸うと、周りを警戒した。さっきから動くものは何も無い。規則正しく並べられた机の影にも注意を怠らない。後藤は視覚と聴覚に神経を集中させ、そのまま背中のいやに冷たい壁に身を置いた。身を置いた瞬間、緊張が少し緩んだ気がした。(駄目だ、これでは。常に緊張して注意を怠らない事だ。でなければ生き延びる事など出来ない)弾を再びポケットにしまう。オートマチックを左手から右手に持ち直した。後藤はもう一度息を吸った。右手のオートマチックを包んでいる親指の爪の上に汗が落ちた。
目を見開いて教室をもう一度見渡す。と、後藤の服の袖を誰かが引っ張った。後藤が振りかえると、顔だちがはっきりした、美人というよりは――幼い、かわいい感じの女の子が座っていた。スカートの腰の部分に銃を突き刺している事以外は普通の女の子だった。今は顔が疲れ、頬は削げ落ち、目には涙が溜まっている。支給されたデイバックをしっかり抱きしめているその女の子は黙って後藤達が寄り添って座っている上、窓を指差した。指先が微かに震えている。後藤は眉を細めた。
- 28 名前:now, 09 musume remaining 投稿日:2002年06月07日(金)23時29分09秒
- 後藤はなるべく外に漏れないよう、声を細め、訊いた。「どうしたの?」
自分の想像していたより声が大きかったのに後藤はぎょっとしたが、周りに反応が無いのを確認すると、再び、更に声のトーンを落とし、訊いた。「どうした?りかっち?」
見ると、石川梨華(女子三番)の健康的なピンク色の唇が少し開いていて、その中から白い歯が見え、揺れていた。
カチカチと不規則な、不愉快な音をたてていた。後藤はそれで状況をほんの少し把握して、銃を握り締め、ゆっくり座った状態から身を起こした。しばらく座っていたので足の関節が小さくこきっと鳴った。
半分ほど身を起こしたそこで、後藤は窓の外に誰かいることに気が付いた。後藤はその人物と目が合った。後藤は隠れようとしたが、その窓の外の人物はすでにこちらに気付いていたらしく、銃を構えているのが見えた。後藤はすでに利き手に持ち直しておいたオートマチックを、すばやく構えた。右足を少し前に出し、背骨を真っ直ぐ、左手で標準を定めている右手を下から支える。そこまでの動作の間に相手はすでに2発撃っていた。
- 29 名前:狂乱 投稿日:2002年06月07日(金)23時33分18秒
- 一発目は後藤をかすりもせず空をきったが、ニ発目は後藤の左ひじを軽くかすった。ほんのちょっと火傷をした感じの痛みがして、そこに目をやると、えぐれたようになっていた。少し血が出ている。が、今はそんな<少し>に構ってはいられない。間違えれば痛みさえも感じる事が出来なくなるだろう。後藤はオートマチックの軽い引き金をしぼった。
ぱぱぱっという発砲音とともにオートマチックの先から激しい光とその元、火花が吹き出た。後藤は右手に走る衝撃に手を躍らせないように、低く構え直した。
オートマチックのフラッシュと闇が交互に起こり、後藤の目はいまいち、的(窓外の人)を捕らえてはいなかった。後藤の視界はすでに、写真撮影後のような残光に征服されていて、捕らえるものといえばその視界の端、オートマチックのフラッシュに反応し、その塞ぎ込んだ体を微動させている石川の姿だった。
- 30 名前:狂乱A 投稿日:2002年06月07日(金)23時34分06秒
- 「うあああああああああ」
後藤は絶叫し、姿の見えない敵(確認はしてないが)に弾をプレゼントし続けた。間髪入れずに撃たなければ撃ち返される気がして、当たっていないのはなんとなく気付いていたのだが、ただ、撃った。頭の奥では弾の無駄だと声がしていたが、恐怖に怯えた後藤の精神は引き金から指を離す事を受け入れなかった。結局、後藤はオートマチックがかちっという乾いた金属音を起てるまで撃ち続けた。心の何処かで声がした。一発も当たってねえな。才能ないよ、お前。
後藤はオートマチックの乾いた金属音を聞いてすぐ、身を伏せた。ポケットの中の弾がポケットの布越しに地面と触れ、かちっと音を起てた。呼吸が大きく乱れて、額に汗をかいた顔の前にオートマチックを持ってきて、空になったマガジンを引き出し、更にポケットから弾を取り出して床に並べた。そこまでしてから、後藤は隣りでまだ怯えている石川に言った。
「銃かして、梨華ちゃん」
石川は黙ってスカートの腰の部分に差していた銃(ベレッタ)を渡した。後藤は銃を受け取るとすぐに低く起ちあがって、窓の外に向かって撃った。そして、すぐ窓の下に隠れた。さっきより少し小さい音がしたが、それでも空気を震わせるほどではあった。窓の外にベレッタの弾を吐き出しながら後藤が叫んだ。
「オートマの弾を詰めて!!!」
- 31 名前:狂乱B 投稿日:2002年06月07日(金)23時35分05秒
- 後藤は再び身を低く起こし、外に撃った。石川は震える手でマガジンに弾を詰めていた。しかしながらまるで裁縫をしているかのような手際の良さで次々と弾は詰められていく。手が震えていても元々手先は器用だったので二十秒も要せず、マガジンには限界まで弾が詰め込まれた。石川は残りの入らなかった弾を拾いながら言った。
「できたよ、ごっつぁん!」
後藤は主に両手で撃っていたベレッタを右手に持ちかえると、左手を奥のほうからすいっと石川のほうに向けた。石川は頂戴の形をしたその左手に、弾のこもったマガジンを搭載したオートマチックを渡した。後藤は窓の外に撃ち続けながら受け取ったオートマチックを、ベレッタの発砲に合流させた。激しい光と蛍光灯より少し強いほどの光が交互に点滅した。
「ああああああああああああああ」
その点滅の中に新しい光が紛れ込んだ。後藤はすぐさま、銃の光であることにも気付いたし、すぐ隠れるべきというのにも気付いたのだが、遅かった。後藤の脇腹を細かい、集中した衝撃が膨れ上がった。撃たれた!これもすぐ気付いた。「ぐうっ」と声が出て、後藤は腹を抱えこんで倒れこみながら思った。まずい!撃たれた。まずい!
- 32 名前:狂乱C 投稿日:2002年06月07日(金)23時36分04秒
- すぐにその隙を狙い、相手は撃ってきた。まずい!本当に!後藤は地面に這いつくばると、そのまま部屋の角まで逃げようとした。が、その瞬間、後藤の頬、20センチ前。壁から小さい粒が飛び出していった。弾だ!後藤は視界が完全に捕らえなくともすぐにわかった。低く起き上がると窓の外の人物を見た。猟銃(本当はショットガンだが、銃の知識に乏しい後藤には分からない)!猟銃を持っている!構えた!
弾は壁を貫通して後藤を狙っていた。先ほどとは比べ様の無い激しい発砲音がした。と同時に頭の上の壁に穴が開いた。後藤は伏せながら石川に叫んだ。
「梨華ちゃんっ!隠れてな!どこでもいいから!隠れて!!!」
今思えば、その一言が致命傷だった。声で場所が完全に知られてしまった。その証拠に次の瞬間には、後藤の左手は弾に弾かれ、体が大きく半回転していた。握られていたベレッタは、握力を失った後藤の手に振り飛ばされ、部屋の奥に消えた。(ちっ!これで戦力半減だ!!)
石川はそのベレッタを拾いに行こうとしていた。後藤はそれを(声をあげると、今度こそ殺られるので)無言で手を振って制した。
- 33 名前:狂乱D 投稿日:2002年06月07日(金)23時36分51秒
- この野郎!ぶっ殺してやる!後藤はオートマチックを壁に向け、壁越しに敵を狙った。タタタタタッというオートマチック特有の連射の音がして、白い壁が薄い粉を吹いて細かな穴を開けた(壁は意外にも分厚かったので貫通はしていなかった。しかし、後藤は気付いていない)。右手だけで支えていたので、堪らず大きくオートマチックが揺れた。発砲の衝撃が左手に伝わる度、後藤は苦痛に顔を歪ませた。
石川はその間にベレッタを拾いに部屋の奥に向かっていた。たまに石川の頬付近を熱い風が通った。弾だ。石川はしかし、そんな事は(そんな事ってこともないが)気にせず、真っ直ぐに部屋の奥に向かって這った。
- 34 名前:狂乱E 投稿日:2002年06月07日(金)23時37分29秒
- ここであえて説明するならば、後藤達のいる部屋は教室だった。それゆえに、石川は机を倒すことで、ある程度の弾を避けることができたし、たまに机を貫通してくる弾もあったが、机を通った時点で弾道はずれていて石川に当たることはまず、無かった。だから石川は弾はたいして気にせず、ベレッタを拾いに行けた。弾除け(机)がなければ、拾いになど危な過ぎて行けたもんじゃない。
ベレッタは教室の一番奥まで投げ飛ばされていた。石川は黒い影を見つけると、すぐにそれを拾い上げ、更に逆の教室の端に投げて、後藤に渡そうとした――が、気付いた。今は後藤は左手が使えない。渡したところでどうにもならない。
石川は静かに、でも全力で、ベレッタを握った。目の前でがんっという音がして、机が揺れた。弾が当たったようだ。しかし、石川は驚かなかった。別の事に意識は集中していたからだ。
「・・撃とう」
石川は小声で呟いた。そう、今は撃つべき時だ。撃たなきゃ殺られる。冗談じゃない。殺られてたまるか。死なない。死なない。死んで堪るか!
- 35 名前:狂乱F 投稿日:2002年06月07日(金)23時38分32秒
- 再び、目の前の机が揺れた。石川はその瞬間、立ち上がり、窓(後藤がその下で伏せている)に向かって、正確には窓の外を狙って、引き金を引いた。
銃の衝撃は石川の想像の域を遥かに越えており、石川は体のバランスを失い、後ろに転んだ。そしてそのまま仰向けに倒れた。石川の両手(特に引き金を引いた右手)に痺れとグリップの跡が残った。石川は肘を立て、立ちあがろうとした。が、気付いた。その手にはベレッタの姿はなかった。慌てて立てた肘を下げ、顔を動かさずに視線だけでベレッタを探した。無い。
石川は体をひねり起こすと、地面に水平な目線でベレッタを探した。がんっ、がんっ、がんっ!三度、石川の後ろで机が揺れた。だが、今はそんなことに構っている暇はない。ベレッタ!ベレッタ!ベレッタ!暗闇の中に必死にベレッタを探した。目に涙が浮いてきた。
- 36 名前:狂乱G 投稿日:2002年06月07日(金)23時39分21秒
- ――その瞬間、石川の右足に激痛が走り、振り向くと石川の黒くて健康的な足に穴ができ鮮血が湧きでていた。石川は下唇を噛んでその痛みに耐えた。その唇からは苦しそうな吐息が漏れていた。吐く程の痛みで小さくなった声で助けを求めた。後藤は気が付かなかったけれど・・。
後藤はマガジンに残りの弾を全て詰め込むと、オートマチックの本体に押し込んだ。これが、最後の弾。後藤はオートマチックを眺めながら思った。失敗はしない。失敗は即、死に繋がる。
後藤はオートマチックの引き金に指を掛けたまま、立ちあがった。石川が驚きの表情で叫んだ。「ごっつぁん!!!」(この時初めて、後藤は、石川が負傷していることに気付いた。石川は叫んだ後、足を押さえ団子虫のように丸まった。それ程の痛みなのだろう。後藤の頭の中が怒りで真っ赤に染まった)後藤の体はもう窓から半分以上出ていて、絶好の的だった。後藤は怒りの支配した頭で思った。撃ってみなさいよ!!!ばーーーーか!!!!
- 37 名前:狂乱H 投稿日:2002年06月07日(金)23時40分17秒
- 敵の射撃の光が見えた。ほんの少し遅れて空気の震える音。後藤はその瞬間、光に向かってオートマチックの銃口を突き出していた。肩に激痛が走り、後藤は少しよろけたが、持ちこたえた。そして――引き金を絞った。
たたたたっと四つの弾が飛んでいくのを確認した。四つの衝撃が肩に走り、左腕の傷の痛みが膨れ上がった。その四つの光が向かった先に敵はいた。初めて後藤は今まで銃撃戦を繰り広げた相手の姿を確認した。ボサボサの髪に薄汚れた服、まるで浮浪者のような女が立っていた。女は隠れもせず、ただ立っていた。
後藤はその<ぼさぼさ>に弾が当たる瞬間を、いや、正確にはその身をくの字に曲げる所を見た。弾は綺麗に計四発、<ぼさぼさ>の体に刺さり、その反動か否かはわからないが、ぼさぼさの手元の銃から弾が吐き出された。その弾が当たり、天井の蛍光灯が貼りつくような音でばりんっと割れて、ぼさぼさの身に降り注いだ。
後藤は残りの三発を、間髪入れず撃ちこんだ。たたたっという規則正しい音が後藤の耳に届くころには弾はぼさぼさの頭をがくがくと大きく揺らしていた。ぼさぼさの目が少し大きくなり、やがて、はみ出んばかりにその目玉は食い出ていた。その眼球と瞼の間からは血が流れ出している。まるで血の涙だ。
「あああああああああああああああああ」
頭の揺れと呼応するように、テープの間延びしたような声をぼさぼさはあげた。
- 38 名前:狂乱I 投稿日:2002年06月07日(金)23時41分08秒
- 後藤はその瞬間、窓から飛び出て、一直線にぼさぼさのほうへ駆け出していた。そしてぼさぼさの顔の前まで来て、オートマチックを握った右手で、ぼさぼさの頭を殴った。今度は完璧に目玉が飛び出て廊下に汚い音をたて、へばりついた。石川がひいっと小さい悲鳴をあげた。しかし、それでも後藤の視覚から嗅覚にいたるまで、つまり全神経が、そのぼさぼさの頭に、殴る事に集中していた。再び殴った。
―――そしてその後、十分間、後藤はぼさぼさを殴り続けた。(ぼさぼさの顔は潰れたトマトのようになっていて、かろうじて残っていた片方の目玉も、廊下の壁にへばり付いていた)後藤の額は汗が浮き、返り血を浴びて真っ赤になっていた。
後藤は目の前のぐちゃぐちゃの頭を見て思った。――クソッ!クソッ!皆、皆死ね!!
- 39 名前:now, 8 musume remaining 投稿日:2002年06月07日(金)23時42分27秒
-
女子十一番 保田圭(ぼさぼさ) 死亡 残り十二名(残り八名)
- 40 名前:異変 投稿日:2002年06月18日(火)21時15分45秒
- 5
それはいつもと変わらない風景だった。
飯田にも石川にも加護にも辻にも保田にも新垣にも紺野にも高橋にも小川にも吉澤にも安倍にも矢口にも、そして、もちろん後藤にも、日常的な1コマにしか過ぎなかった。
綺麗に周りが青で覆われたバスに、モーニング娘。、十三人。辻と加護は相変わらず二人で騒ぎ、保田と矢口と安倍はなにかの映画の話をして、新メンバーは全員で学校の先輩の悪口、石川と吉澤はファッションの話をして、飯田は大きな目をぎょろつかせ、どこかと交信しているようだ。そして後藤は一人、窓から外の風景を眺めていた。
後藤が異変に気が付いたのは、バスは都心を抜け、さらにトンネルをいくつか潜り抜け、見た事の無い景色になった時からだった。この次は確か、<うたばん>の収録のはずだった。あれ?こんな道あったっけ?後藤は身を起こし、バスの外を覗いた。・・やっぱり見た事無い。
後藤は席を立つと、飯田の元へ行こうとした。が、体の力が上手く入らない事に気が付いた。あれ・・?何これ・・?後藤はふらついて、周りを見まわした。視界がぐらんぐらん揺れている。後藤の足がかくんっと折れ、頭が重力に導かれ、地面に向かって真っ直ぐに落ちそうになった。後藤は両腕に力を入れ、地面とのキスを避けると、バスの真中の通路ごし、向こう側を見た。そこには寝ているというか、死んだような格好の吉澤と石川の姿があった。
後藤は声をあげようとしたが、力の抜けた半開きの口からは唾液しか出なかった。本当・・・・に・・何・・・・これ・・・??後藤がそう思った時、ついに両腕から力が抜け、頭が地面に落ちた。
- 41 名前:異変 投稿日:2002年06月18日(火)21時17分00秒
- 吉澤に体を揺らされ、気が付けば、後藤と他のメンバーは教室のような所に閉じ込められていた。後藤が起こされる前から他のメンバーが起きていたらしく、辻や、紺野などが、泣いているのを飯田と矢口がなぐさめていた。後藤はまだ寝ぼけた感じで訊ねた。
「う〜・・・なにしてるの??ここどこ??」
吉澤はしかめっ面で答えた。
「わかんない。気が付いたらここにいたの」
後藤は身を起こし、立ち上がるとドアの所で泣いている辻達の方へ向かった。ここは・・教室か・・。古ぼけた感じの蛍光灯に薄暗く照らし出された教卓、部屋の角に規則正しく並べられている机、そして黒板。変わっているのは窓が無い位で、そこは見た感じ、教室だった。
「ジーツー(辻)、あんた、どうしたの??」
「ぐすんぐすんっ・・・あのれ、・・・ドアが開かないの・・」
後藤は辻の目の前にあるドアを開けようとした。しかし、ドアはびくともしなかった。と言う事は・・閉じ込められてるって事?後藤は黙って周りを見た。出入りできるのは、ここだけらしい。先ほど言ったように、窓のようなものは一切見当たらない。後藤は再び、ドアの方を向いた。
- 42 名前:異変 投稿日:2002年06月18日(火)21時17分43秒
- 「<うたばん>の悪ふざけかもよ・・・」
「え〜〜でもこれはやり過ぎじゃないかあ??」
飯田と矢口のそんなやり取りが聞こえた。確かに・・これはやり過ぎだろう・・。後藤は思った。確かに、<うたばん>は結構ひどい事をたまにする。でも、それにはちゃんと台本があったし、事前に必ず知らせてくれていた。今回はなんの連絡も受けて無い。
「ぐすんっ・・・・このまま辻達出れらいのからあ・・・」
「大丈夫だよ・・多分・・・」
後藤がそう、辻に言った時だった。ドアの鍵ががちゃっと鳴った。
- 43 名前:異変 投稿日:2002年06月18日(火)21時19分06秒
- 後藤はその時の事を未だに後悔していた。思い返せば、あれが唯一のチャンスだったのだ。千載一遇、貴重な機を逃してしまった。
ドアが開いたそこにはまことの姿があった。何故かいつものような明るさは見られない。それに加え――後藤はまことの肩からぶらさがっているものを見た。それはまるで軍隊、兵士が戦場にいるような感じを覚えさせた。よーし、しっかり狙え。相手は下等民族だ。オーケー、サー。機関銃だった。
まことはなにも言わず、その銃を後藤と辻の足元、ちょうど後藤と辻の中央を狙って定めた。後藤は一瞬、訳がわからなくなったが、すぐに辻を突き放した。と、同時に辻がちょうど立っていた所に綺麗な連続した音と共に一列の穴が開いた。後藤は辻を突き放して、バランスを崩した態勢のまま、まことの顔を狙って足を振った。
まことはそれを機関銃を振り上げて防ぐと(銃身は少し熱を持っていて、チリッとした痛みが後藤の足に走った)、右足を振り上げて、後藤の腹を抉った。後藤はううっとうめき、後に少し下がった形で床に伏した。まことが銃を後藤の頭にポイントするのが辻の目に映った。
- 44 名前:異変 投稿日:2002年06月18日(火)21時21分34秒
- 「だりゃああああああああああああ」
矢口が椅子を振り上げ、空中に浮いていた。まことはすぐさま後藤の頭から矢口の頭に向かってポイントを変えた。そして引き金を引いた。ばばばばばばばっという音がして、矢口が振りかぶっていた椅子が元の木の屑に戻っていった。矢口は「きゃあ!!」というと、そのまま、まことの目の前に木の屑がついた鉄の棒を持って降りた。まことがふっと息を吐き、体を捻らせているのが見えた。まことが半回転し、顔をこちらに向けたときには矢口の側頭部には衝撃が走り、目の前が一瞬真っ白になっていた。
がくっと膝をついた矢口の姿を見ながら、吉澤は一気に走り出していた。回し蹴りを放ったままの態勢の、まことの顔に、右ストレートを放った。まことの顔が後に吹き飛び、それに付いて行くように足が上がった。吉澤はほんの少し(矢口のような大ジャンプではなくて、適度に、あくまで適度に)飛んで、まことの胸の上に乗った。マウントを取ったレスラーのようだ。かっけ〜〜。
吉澤はまことの肩から機関銃の紐を外すと、機関銃を持ち上げた。そして、銃口を突き刺すようにまことの胸に向けた。
「・・・なんの真似?」
そしてまことが初めて口を開いた。その喋り方もまた、モーニング娘。は聞いた事も無い喋り方だった。
- 45 名前:異変 投稿日:2002年06月18日(火)21時22分59秒
- 「はあ、はあ、お前等は、はあ、もう、はあ、駄目だ、はあ、はあ、駄目、はあ、駄目、駄目、駄目!!」
吉澤を含めたメンバー全員がけげんな顔をした、その時だった。吉澤はすぐさままことから飛び退いた。後藤は何が起きたのか分からなかったが、ドアの所に誰か居るのが見えた。と、その人物を確認する暇なく、大きな音がした。体育祭などのリレーの始まりのような(忙しくて学校に行ってられなかったが)その音は、まさしく、発砲音だった。
まことの顔が歪んだ。
瞬く間にまことの顔から生気が抜けていった。近くにいた吉澤にしか分からなかったが、まことの全身が震えていた。ああ、この人は死ぬのだ。吉澤は犬が轢かれた瞬間を見ているような感覚を覚えた。あながち間違った感覚ではないだろう。まことの口から噴水のように血が吹き出た。それが引き金だった。
「きゃああああああああああああああああ!!」
「何これええええ!!!なんでえっ!!!!」
「嫌あああああああああっ!!!」
メンバーのほとんどが大声で騒ぎ始めた。吉澤だけがまことを見ていた。後藤はパニックになりながらも、新メンバーと辻と加護、つまりは年少組をドアから離れさせた。ドアを睨んだ。
半開きになっていたドアがしっかりと開いて、一瞬見た人影が後藤のよく知る人だという事がわかった。聞き慣れた声が狭い教室に響いた。
「はーーーい、お前等、元気かーー??」
つんく♂が銃を構えたまま、震えているまことの横に立った。後藤は自分が泣きそうになっているのに気が付いた。
- 46 名前:異変 投稿日:2002年06月18日(火)21時24分18秒
- 後藤は目を覚ますと、辺りは明るくなり始めていた。少しだけ身を起こすと、脇腹の傷がちりっと痛んだ。隣で石川が可愛らしい声でうん・・と言った。後藤は石川の足を見た。脹脛(ふくらはぎ)に痛々しく包帯が巻かれていて、白い包帯の真中に赤い染みが出来ていた。後藤は歯を少し噛んだ。きりっと嫌な音がした。
なんて夢だったのだろう。後藤は立ち上がると、窓から外を眺めた。遠くの岩山の向こう側が輝いていた。
後藤はふうっと息をつくと、左手の包帯と、肩の包帯を外した。新しい包帯を救急箱(廃校の保健室で見つけた。薬品系は使えないようだが、包帯は大丈夫そうだった)から取り出した。左手の腕の部分にしっかり包帯を巻きつけながら、後藤は夢の事を考えていた。いや、夢ではない。実際の出来事だ。後藤は肩にも包帯を巻きつけながら思い出していた。
- 47 名前:異変 投稿日:2002年06月18日(火)21時25分09秒
- つんく♂はまことの脇に立ち、そのまま、まことの頭を撃ちぬいた。それと同時にまことの目の黒い部分が眉毛の方へ向かい、瞼の中に消えた。後藤は慌てて年少組の視界を遮った。吉澤は器用にまことの血をかわし、まことから離れた。
「あははははははははははははははははははははは・・・!!!」
つんく♂の笑い声が部屋中に響いた。後藤はその笑い方にいささか恐怖を感じた。それは狂った、心が侵された人間の笑い方だった。辻がわあっと泣いた。加護もうっすらと目に涙を浮かべていた。吉澤は素早く拳を握り締め、突き出した。つんく♂は銃を握った手でそれを止めた。がきっと言うおかしな音が銃と吉澤の拳との間で起きた。吉澤は一歩引いて、飛び、体を半回転させた。つんく♂が身構えた。完全に回りきった瞬間、吉澤の足がつんく♂の顔の前を通りすぎた。しまった!距離を取りすぎたかな!?吉澤はそう思ったが、実際はつんく♂が一歩、素早く退いただけだった。機関銃をつんく♂に向けようとした瞬間、機関銃を支えていた腕に重力が発生した。吉澤の体が両膝から床に下りた。機関銃を持った腕の上につんく♂の片足が乗っていた。吉澤がどれだけ腕を動かそうとしてもぴくりとも腕は動かなかった。つんく♂が吉澤に銃を向けた。吉澤は静かに銃口を見つめた。
つんく♂が頬をつるように笑い、引き金を引いた。
Converted by dat2html.pl 1.0