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夏の城

1 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時43分52秒
掲示板形式がしっくりこないので、書き逃げになると思います。
突っ込みどころ満載かと思いますが、まぁ、気にしないでください。

すこしでも、なちごまって頂ければ幸いです。
2 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時44分57秒
 今になってわかったこと。

 空はどこまでも青くないということ。

 晴れているところもあれば雲に覆われて暗い空があるということ。

 どれだけ白い雲も、けして真っ白ではないということ。

 なにもかも白いものなんてこの世界には存在しないということ。

 純粋なものほどいろんなものが混ざり合っているということ。

 寂しいときほど笑顔になれるということ。

 あなたと、たしかに出会えたこと。
3 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時45分48秒
 夏は東からやってくる。ビルのむこう、まぶしく広がっているだろう外海を覆い尽くそうとするように、一面雲が沸き立つ。アスファルトに固められた道路わき、街路樹の根元のわずかに残った土から孵った蝉がうるさく鳴いている。見上げる空の半分が白い。雲の隙き間からみえる群青色は嘘のように透き徹っていた。
 その点々とした小さな空を眺めていると、突然腕をぐいと掴まれる。
「なっち、赤、赤。信号、赤だって」
 ごう、という音と軽い風圧に体を押され我に返った。トラックの鈍い銀色の荷台が目の端に一瞬映って、すぐに消えた。
「あ、……ごめん」
「ごめんって、なっちがあぶなかったんだよ」
 呆れたようななかに、かすかに心配そうな色をみせながら、のぞき込んでくる。腕に当てられている掌はやや汗ばんでいて、つながった腕から心を見透かそうとでもしているのか、その指に力がこもった。
「うん、ありがとね、ごっちん」
 詰まりながら告げると、目のまえの顔は向日葵みたいにほころんだ。
4 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時46分38秒
 小学生のころ理科の授業で育てた向日葵は、くるくる太陽を追って、成長しきると東を向いた。なつみは知らず視線をあげて、信号、信号のむこうにあるカフェテラスの二階の屋根、銀行の高い窓と、景色を順にたどりながら空をみる。つられて真希も東の雲を見上げた。
「なっち?」
 怪訝そうに名を呼ばれたけれど、気付かない振りをした。真希は「何が見えるの」と、額に手でひさしをつくって遠くをみる仕草をする。やがて、もう一度背の差分うえから聞き慣れた声が降ってきた。
「なっち?」
「夏って、おっきいなーって思った」
「はぁ?」
「なんでもないよ、行こ」
 真希の手がするりと腕から離れたのとほぼ同時に、信号が青に変わった。
5 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時49分46秒
 隣同士で同じところをみて、目に映るものは一緒だけれど、それを映す目はそれぞれ違うから、多分、人には見えないものが自分には見えていて、自分には見えないものがだれかには見えているのだろう。
 横断歩道を渡りながら、なつみは真希の髪が淡く陽に映えて揺れるのをぼんやりと視界に収める。
 なにが見えたんだろう。なにを見ようとしたのだろう。
 東京の空はやっぱり汚れていて室蘭でいつも見ていた空とは違っていた。
6 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時50分44秒
 その年の冬は暖冬で、雪も一度かたまって降ったきり、穏やかな日和が続いている。
「おーい、ごっつぁん。ちょっとちょっと」
 普段から大きい圭の声は、スタジオの中だと余計耳に響いて、気を抜いたときなどは特に心臓に悪い。暖房が効いて人ぼこりに淀んだ空気が部屋中を包んでいる。収録の合間でだれもが慌ただしく駆け回っているなかで、人と人の間を縫ってかろうじて呼ばれた方へ行きつくと、喧噪を避けるように圭は近付いた真希をさらに側に寄せた。
「なっつぁん、なにかあった?」
7 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時51分15秒
「なにかって、なにが?」
「だから、うーん、なんて言えばいいのかわかんないけど、さ、浮ついてるとかそういうんじゃなくて、なんか……なんだかなぁ」
「圭ちゃん、意味不明だよ」
「ああ、そうだね。たださぁ、最近、むやみに明るい気がするんだよなぁ」
「だれが」
「だからなっち」
「そっかなー」
「忙しくてテンパってるだけならいいんだど」
「そうだよ、キャスターとかドラマとかで忙しいだけだよ」
 言いながら不安になる。だから最後は自分に言い聞かせるように語調を強めた。
「圭ちゃん、考えすぎだよ。明るいのって、別にいいじゃん」
 圭はまだなにか言いたそうに眉間に皺を寄せている。その真似をしてからかうと、苦笑しながらアンタ呑気だねと呆れた声でつぶやいた。振り返るとなつみと真里が何ごとか耳打ちし合ってくすくすと笑っている。去年短くした髪がそれに合わせて揺れている。
 だんだん、遠くに行っちゃうような気がしたんだよ。
 ためらいがちに紡がれた圭の言葉が、耳について離れなかった。
8 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時52分00秒
 冷たいビルが冬空に向かって伸びている。夜空には色濃く何条かの雲の筋が引かれていて、月明かりは街の灯に負けて弱々しい。
 収録の合間にスタジオを出て、外の空気を吸おうと誘ったのは真希だった。なつみは一瞬渋ってから「仕方ないなぁ」とつぶやいて、押し切られる形で小走りに廊下を辿る。真希はなつみのやや前を先導するように行く。最初無理矢理取った手になんとなく意識を向けていると、ふいに強く握り返してくる。
 横目でなつみをうかがうと、平常心を装ってはいるものの、やはり照れがあるのか、こちらを見ないように妙な角度に視線を落としている。その翳った目もとに、疲れのせいだろう、隈が見えた。
9 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時52分31秒
「満天! ……の星空とは言えないねぇ」
 月ばかりが目立つ空を仰いでため息をつく。すると、ようやくなつみが明るい声をあげた。
「ばっちり曇ってるよー。ごっちんは星空をなっちにプレゼントしたかったのかい?」
 愉快そうな声につられて真希が口元をほころばせかけると、
「キザー、似合わないよー」
 と続けて、けらけら笑う。ひとしきり笑って、そのまま黙った。上空で雲を動かしていた風がゆるく地上にも降りてくる。つなぎあったままの手だけに熱がこもる。小さく「ありがと」という声が近くを走る車道の喧噪にまぎれて届いた。
 風の音かもしれなかった。
10 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時53分08秒
「ありがと」
 普段は、ことにメンバーのなかにいるときは、なにを言うときも大げさになる。当人いわく「スイッチがオンになる」
 だから、あの夏の日は、多分スイッチがオフだったのだろう。どことなく大人びて、静かな声だった。ビルよりも高速道路の高架よりも高いところで、濁りのない空にくっきり線を引いたような雲がそびえている。はじめはそんな入道雲を見ているのだろうと思った。
「ねぇ」
「うん?」
「ムロランの空って、やっぱり東京(こっち)よりきれいだった?」
「ったりまえっしょ。空気が違うよー。……でも、もう結構慣れたかも」
 だるいのか額の熱を冷ますように掌で前髪をあげて、うつむいた。
11 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時53分55秒
 単館上映の映画は、少しまえのフランス映画で、公開最終日も近くなって急になつみが観たいと言い出した。それも楽屋にたまたま二人しか居合わせていなかったときのことで、実質、それは遠回しな誘いだった。
「……いや、行きたいなーって……」
「後藤と?」
「あ、うん……そう、なるかな。あ、その、ごっちんが忙しいなら、いいけど」
 途切れがちな声を拾うつもりなのか、真希はなつみの横へ顔を近付ける。間近になったところで、かすかな花の香りに気付いて、
「あ、これぇ……」
「や、結構、大切に使おうと、思ってたり、するんだけど。っていうか、気付くの遅いべ」
「へぇー、ふうーん」
「なにさー」
「似合うじゃん」
 ほのかにラベンダーの香りのする香水は真希が誕生日プレゼントにとあげたもので、自然頬の弛んだ真希とは対照的に、なつみは照れからか、ひどく耳を赤くして視線を下げる。その格好のまま時間を止めたように二人固まっていると、多少の間隔をおいて他のメンバーが挨拶をしては入ってくる。同時にそれぞれの話し声が不規則な音の集合となって楽屋に充満する。
「映画。ごとーも行く」
 ささやきにも似た声だったけれど、周囲のざわめきの隙き間を縫って、それは確かになつみに届いた。
12 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時54分30秒
 夏の映画だった。
 仕事も家族もない男二人、捨てられた老婆、身寄りのない姉弟。行き場のない彼らは、たどり着いた一件の空家でレストランを始めようとする。家族になりかけたとき、男の一人がそこから離れていく。その後ろからついていく子犬。
『ついてくるな』
『ついてくるなよ』
 南仏の乾いた景色のなかでは、地平線に向かって伸びるアスファルトの色も白っぽく見える。その向こうに広がる空。
13 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時55分06秒
 スクリーンの中のフランスと室蘭とは、緯度も経度も違う。けれど、映画館を出てすぐ上を見上げたなつみは、たしかに故郷の空を思い出したのだろう。建物の影をみつけてコンクリの塀に背をあずけ、ぼうっとしている。自販機で買った缶紅茶のプリント地の色が、外の明るさにまだ慣れない目には、はじける花火のように映る。一度目をつむって疲れをとると、まだ余韻に浸っているなつみの、肩先からそれをすべらせた。
 ありがと。声が届いたのは、軽く驚いて軽く缶に頬を寄せて、角度の都合はっきりとはわからないが、多分軽く微笑んだあと。「これはごっちんのおごりだね」と続けて、けれどいつものようには笑わなかった。
「結構慣れた」とつぶやいたなつみに、かすかな不安を感じたのはそんな態度が原因なのだろう。
「なっち」
「うん?」
「ごめんねぇ」
「なに、なんで謝んの?」
「室蘭みたいにきれいな空じゃなくてさ」
 一瞬きょとんとしたあと、なつみは吐き出す息で「ああ」とつぶやいた。
「ごっちんが謝ることなんてないよ。それにねぇ、なっちは東京の空もきれいだって思ってるよ」
「そっかなー」
「そうだよ。だって」
 ごっちんのいる町の空だもん。
14 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時55分40秒
 その微笑みがまぶしくて、真希は思わず視線を逸らすと塀ごしの空を見上げた。薄鼠のざらざらしたコンクリートの向こうに見慣れた景色がある。混み合った家々の屋根と暑気に煙るビル、それを飲み込むように巨大な雲のかたまりが澄んだ空に挑むかにして広がっている。それはまるで天に向かって建つ城郭のようだった。
15 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時56分27秒
「雲に住んでみたいねえ」
 入道雲を仰ぎ見ながらなつみは空になった缶紅茶を近くのゴミ箱めがけて軽く放った。惜しいところで鉄の縁に当たった缶は、カラカラと手前のアスファルトの上を跳ねて転がる。残念と悔しそうにそれを拾いに行く背中を追って、真希は聞き返した。
「雲に住むの?」
「おう、メルヘンっしょ」缶を拾ってもう一度投げようと試みたが、やはり思い直したらしく今度はきちんとゴミ箱へとそれを収める。午後を過ぎて高くなった陽がさらに勢いよく照りつけている。じりじりと焼ける地上に比べて、ふくらんだ雲はどこまでも冷たい。
「……おう、メルヘンだあ」
「ちょっともー、今ばかにしたでしょー?」
 唇を尖らせて不機嫌な素振りをみせる。しかしどうも演じ切れていないようで、すぐに表情を崩して笑った。
「いけたらいいなーって思うくらい自由でしょ。いーっぱいお休みもらってさ」
 休みをとれたからといって叶う希望ではないだろう。真希は口を開きかけて途中でやめた。するとふたたび空を向いたなつみの後ろ姿がふいに陰った。顔を上げると、一団からはぐれた雲が風に流されて太陽にかかっている。
「なっちはねえ、どっか遠くへ行ってみたいよ」
 その瞬間、三メ−トルも離れていないなつみの背中が、ひどく彼方にあるように思われた。
16 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時57分20秒
 もう半年ほど前の回想をしながら、真希は夜気に身を震わせたなつみに肩を寄せた。薄手の衣装は冬の外気に対抗するにはあまりにも心許なく、早くも冷えきった肌を合わせると、その部分だけかすかに熱くなる。
「なに、ごっちん。今日は甘えん坊だなあ」
「うん」
「何かあった?」
 それは自分ではなくなつみの方だろうという応えを飲み込んで、真希は曖昧に頷いた。なつみは「そっか」と言って、大丈夫だよという言葉の代わりに軽く頭を真希のそれに当てた。
『だんだん、遠くに行っちゃうような気がしたんだよ』
 ふいに圭の言葉がよみがえって、真希は握り合う指をさらに深く絡める。圭の言う「遠く」がどこかは分からないけれど、それがもし現実になったとしたら、この手を離さなくてはならない。つなぎ合う手も触れあう肩もすぐ傍らで聞こえる柔らかな声もあたりまえのように向けられる笑顔もすべて、消えてしまう。それが厭だった。
「そろそろ帰ろ。みんな心配しちゃうよ?」
 それまでのこごった空気を融かすようになつみが深呼吸をして腕を引いた。
17 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時58分05秒
「ねえ、なっちぃ」
「うん?」
「……やっぱいいや」
「なあにー、気になるなあ」
「ないしょないしょ。帰るんでしょ」
 すっかり汗ばんだ手をもう一度握り直して笑うと「さぁもいっちょ、ガンバロー」などとなつみは一人で気合いを入れて空いている拳を振り上げる。そのまま騒ぎながら楽屋へ戻ると、待ち受けていたマネージャーに二人揃って叱られた。昔よく遅刻して、やはり並んで叱られていたことを思い出す。
 ふと隣を横目で見ると、なつみは神妙に小言を聞いている。じっとみつめていると、勘のいい彼女は、真希の視線に気付いて苦笑いを返してくる。
(心配してるんだぞ)
 その笑顔にほっとしながらも眉間に皺を寄せてにらむ振りをすると、なつみはたまらず大声で笑い出し、「反省の色がみえない」と小言はさらに延長された。
18 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時58分44秒
 最近よく空を見てるよね。
 ふいに掛けられた声に振り向くと、指でとんと額を小突かれた。今日最後の収録を終えてそれぞれに家路についたので、楽屋にはなつみと彼女のほか、誰もいない。
「圭ちゃん」
「なに見てるか知らないけど、さ、ちゃんとこっち戻ってきてよ。圭織を笑えないぞ」
「……ん。べつに交信してるわけじゃないんだけどね」
 刹那、圭の唇が「ごっつぁん」という名を形作ろうとしたのを目敏く捕らえて、なつみは申し訳無さそうに微笑んだ。「だれかに心配かけちゃってる?」
「とりあえず、サブリーダーが心配してる」
「大丈夫だよぉ」
「だといいんだけどさ」素っ気無いようでいてどこか意味ありげにつぶやいた。
「なっちは大丈夫だよ。圭ちゃんこそ気をつけないと、ここに皺増えちゃうぞ」
 なつみは眉間に指で線を入れてみせる。じゃあ、もう帰るから。新曲のサビを口ずさみながらなつみは圭の横をすり抜けた。ふわりと起こった風は香水のラストノートを漂わせて、すぐに消える。なつみの小柄な体が白い扉の向こうへ吸い込まれた後、残された圭は困ったような笑みを浮かべた。
「ちゃんと戻ってきてよ。ねえ、なっち」
 ぽつりと零した呼び掛けは、受け取る相手のいないまま、静まり返った楽屋に空しく響いた。
19 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)07時59分41秒
 翌日、なつみは単独で請けた早朝からの仕事をこなし午後からメンバーと合流した。息をつく暇もなく台本を片手に控え室へ入ると「あっべさーん!」という声とともに希美が勢いよく体をぶつけてくる。いつもはかろうじて受け止めることができるのだが、不運なことにその日は朝から足許が弱かった。勢い、折り重なるようにして床へ崩れ落ちる。
 唖然とことのなりゆきを眺めていたメンバーが、三人がかりであわてて希美を引き剥がした。
「怪我ない?」
 続けてなつみに伸ばされた手を、彼女はすぐには取らず、どこか心ここに在らずといったふうにみつめている。
「なっち?」
「あ、ごめん。……ちゃん」
20 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時00分20秒
 引き起こされると、圭織に叱られてしょげている希美に向かって「こら」と笑いかけた。手を貸した真里はひどく困惑した様子でその横顔をみつめている。やがて真里は楽屋の端で台本に書き込みをしていた圭の傍らへ、くっつくように座り込んだ。
「なに」年長の同期は台本に目線を落としたまま尋ねる。
「あのさ、なっちなんだけど」
 それまで興味なさそうにしていた圭が、ゆっくりと顔をあげた。「なっちが、なに」
「さっき、手、持ったらさ」
「うん」
「すごく、熱くて」
 メンバーと談笑しているなつみから具合の悪い雰囲気は感じられない。ぼんやりとした相づちを打った圭に真里はやや言葉を途切れさせながら続けた。
「ホントに、熱くて、でも、それだけじゃなくて」
「……」
「なっち、あたしのこと、福ちゃんって呼んだんだよ」
21 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時01分11秒
 話すたび視線の先で揺れる梨華の髪を、真希は不思議そうに眺めた。ひとみと梨華は先刻からなにが面白いのか朝見たニュースの話題で盛り上がっている。真希には、それよりも歩くたび笑うたび弾んでは戻る梨華のしなやかな髪が気になって、ずっと目を離せずにいる。だからたまになにかの同意を求められてもはぐらかすような返事しか返すことができない。
 そういえば、昔はなつみの髪も、今の梨華ほどではないけれどもっと長かった。その髪をショートにしてもうずいぶん経つが、はじめてそれを目にしたとき、なぜだか軽い喪失感があった。あのとき、なつみが断ち切ったのは髪だけだったのだろうか。
「ごっちん?」
 名前を呼ばれて我に返ると、ひとみと梨華が廊下の先で怪訝そうにこちらを振り返っている。急いで追いつくと「また愛しいアノ人のことでも考えてた?」ひとみが意地悪くからかう。
「お昼ごはん、なに食べたんダロー」
 声を変に裏返らせて嫌味に応じると、今度は梨華が怒り出した。
「ちょっと、ごっちんー?」
「梨華ちゃんが怒ったー」
22 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時01分47秒
 ふざけ合いながら楽屋へ入ると、中では圭織がもう点呼を取っており、休み時間の小学校の教室のような騒々しさがいつもどおり溢れている。しかし中へ入った途端、真希は奇妙な感覚におそわれた。
(あれ?)
 いつも無意識に視界に置いている姿がない。不安にかられて周囲を見回すと、胸のざわめきが急に大きくなった。
「なっちは?」
 だれに問いかけるでもなくつぶやくと、「さっき圭ちゃんが」とだれかが応える。その声は真里のようだったが、真希にはそれを確認するほどの余裕はなかった。それまで少しづつ育ててきた不安という名の芽がみるまに葉を茂らせ、胸の裡を鬱蒼とした蔭で覆う。じっとしていられなくなって真希は楽屋を飛び出した。遠くの方で引き止める圭織の呼び声がする。けれどそれすらも、自分の心臓の鼓動と喚び起こされたなつみの声にかき消された。
『なっちはねえ、どっか遠くへ行ってみたいよ』
 今捜さなければ本当にいなくなってしまうような気がした。
23 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時02分38秒
 廊下を当て所なく歩いていると、懐かしい人に出遇った。懐かしいとは言ってもメールでよくやりとりはしているし、最近も連れ立って食事に行った。それなのに「懐かしさ」を感じてしまうのは、置かれている立場がそれぞれ昔と違っているからだろう。紗耶香は軽く息を吐くと彼女の名を呼んでひらひらと手を振った。
「圭ちゃん。久しぶりー」
「あ、さやかだ」
 憂鬱そうに歩いていた相手はようやく気付いて、少し驚いた素振りを見せた。
「紗耶香、今日、仕事?」
「うん。仕事。打ち合わせ」
「そっか」
「圭ちゃんは?」
 仕事に決まってんじゃんと圭は笑って言った。ただ気のせいだろうか、語気がいつもより弱い。どうしてだろうと考えて少し黙って見ていると、圭は居心地悪そうに渋い表情を作る。
24 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時03分18秒
「なんだよー。そんなじろじろ見るなー」
「いや、圭ちゃん、元気ないなって思って。いつもの親父ノリがないなーって」
 圭は掠れた笑いを漏らした。それから心持ち俯くと「今、ヒマ?」突然切り出した。
「……うん、まあ、休憩時間だから、暇っちゃー暇だけど」
 戸惑いながらそう言うと、圭はちらと後ろを振り返って目で仮眠室になっている部屋を指し示した。「なっちがさ、ちょっと調子わるいんだ。寝てるかもしれないけど、よかったら会っていってあげて」
 その声はかすかに震えていた。ずっと以前に同じ声を聞いたことがある。紗耶香はぼんやり思った。それがいつだったかは憶えていない。ただ何となく、「退める」と伝えたときだったような気がした。
25 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時04分13秒
 活動を再開してから、なつみはよくメールをくれた。決まり文句ででもあるのか、着信履歴には「がんばるべさ」という言葉が並んでいる。歌詞カードにも同じフレーズを書いてくれた。最近はお互いに忙しく会える機会も減っていたから、圭の依頼は快く引き受けた。久しぶりにあの柔らかい声を聞きたかった。
 扉ごしに部屋をのぞくと白いシーツに横になった背中が見えた。
「なっち?」
 壁沿いに歩み寄ると、ベッド側にある窓から午後の陽が射した。その陽を避けるように身じろぎをして、なつみはようやく紗耶香の方を向いた。黒目がちな眸はまっすぐこちらに注がれているけれど、その中に見える光には靄がかかっている。汗で濡れた首もとが鈍く光った。
「さやか……?」
「うん、久しぶり」
 するとなつみはおかしそうに目を細めて「紗耶香、変なの」と弱々しく笑った。それから独り言のように「そっか、真里っぺと一緒にダンスレッスンしてたんだ」
26 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時05分24秒
「なっち? なに言って」
「そうだ、福ちゃんは?」
 思わぬ名前を聞いて紗耶香は絶句した。なつみは笑顔のまま息苦しそうに唾を飲み込んで、紗耶香の返事を待っている。先刻の圭の不自然な様子が脳裡によみがえる。圭はこの笑顔に遣りきれなくて逃げたのだ。咄嗟に紗耶香の口をついて出たのは、笑えるほど未熟な嘘だった。
「明日香? 明日香ならボイトレ行ってるよ」
 なっちも行こうかな。つぶやいたなつみを紗耶香は黙ってみつめた。彼女は汗で湿った前髪を払おうともせず、首をめぐらして窓から外へと視線をやった。紗耶香は締め付けられるような胸の痛みに耐えかねて、二、三、噛み合わない会話をした後、取り留めのない理由をつけてなつみに背を向ける。
 途端、ぐっと袖を掴まれてぎょっとした。
「さや、か」
「なに?」
「うちら、ずっと一緒だよね」
「うん」
「ずっと、娘。でいるよね」
 苦しげに歪められた眉の下のすがるような目に吸い込まれそうな錯覚に陥る。軽い目眩を感じて、紗耶香はたまらず首を振った。
「……ったりまえじゃん。ずっと、一緒、だよ」
27 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時06分08秒
 喉の奥が熱い。今すぐに部屋を出て行きたい衝動にかられて、服を掴んでいるなつみの手をぎこちなくはずすと、その腕は力なくシーツに落ちる。
「ウソツキ」なつみは声をいくぶん嗄らせて言った。紗耶香はゆるく目を閉じた。
「……なんで、嘘ってわかるの」
 答えは返ってこなかった。言葉を交わさないまま沈黙だけが紡がれる。一枚窓を隔てた外のざわめきが波のように寄せては引いて、銀の桟に四角く区切られた空を雲が早足で流れていく。
28 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時06分40秒
「もう行くね」ようやくのことで紗耶香が口を開いた。
「紗耶香」
 今度ははっきりとした声だった。振り返ると懐かしい笑顔がある。
「デビュー、おめでと」
 部屋を出て扉を閉めると、紗耶香はそれまで溜めていた息を一気に吐き出した。どうしてか寂しくてたまらなかった。それは小さい頃隠れんぼの鬼になったときの気持ちによく似ている。
29 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時07分28秒
 驚いて身を避けるスタッフに謝りながら、思いつく場所を勘を頼りに当たっていた真希は、捜している当の本人から声をかけられて一瞬呆然とした。
「ごっちん、なにしてんのさ」
「……なっちぃ?!」
 思わずその場にへたり込む。すると今度はなつみが驚いて真希の腕を取って支えた。疲れていたのとほっとしたのとで気が緩んだせいか、ふいに目頭が熱くなって、しまったと思ったときには無意識に涙がこぼれていた。悲しい訳ではないから、なぜ泣いているのかが真希自身にも理解できない。
 なつみは慌ててハンカチを差し出した。経緯を知らないものの目の前で泣かれて、少なからず罪悪感を覚えたらしい。しきりに「ごめんね」と言いながら、落ち着かせるように真希の背中を叩いてくれる。
 もともと理由のない涙だったので、それはすぐに止まった。
30 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時08分17秒
「やー、びっくりしたよー。急に泣き出すんだもん」
「ごめんね」
「いいよ。なっちの胸ならいつだって貸してあげるべ」
「ちっちゃいけどね」
「……ごっちん?」
「そっか、わかった。今レンタル中なんだ」
 優しく背中に当てられていた手が、思いきり頭をはたいた。本気で怒ったらしい。
「ど、どうせっ、なっちのは貧乳だもん! ごっちんのナイスバデーとは違うもん! ちょっとこっちは本気で心配してんのにもー。勝手にするべさ!」
「けど、だけどさぁ、ごとーだって必死にばかみたいに捜し回って、みたいじゃなくてさ、ほんとバカじゃん。心配して損した!」
「心配、してくれたの?」なつみはびっくりしたらしく見開いた眸で真希を覗き込んでいた。意地の張り合いを続ける気でいた真希は、開きかけた口をそのままに言葉に詰まる。
「ねえ、心配、してくれたの?」
31 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時08分50秒
 真希はなつみに対して当たり障りのないごまかし方を知らなかった。知っていてもできそうになかった。なつみは、そっかと一言頷くと、また「ごめんね」と言った。「大丈夫だよ」とも言った。それはまるで心配されることを厭がっているようでもあった。結局二人はふたたび捜しにきた圭に首ねっこをつままれるような形で楽屋へと引きずられた。楽屋へ戻ると、何気なく圭織がなつみの頭をぽんと叩いた。それを見ていた真希に圭が同じことをしながら「ごくろうさま」と囁いた。
32 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時09分33秒
 久々のオフに買い物に出た帰り、花屋の前で足を止めた。鮮やかに彩られた店先から少し奥まったところに、小さい紙パックに小分けにされた花の種が並んでいる。
 そういえば、例の「レンタル」発言をなつみはまだ気にしている。なにかあると「どうせ幼児体型だもん」と拗ねて、なかなか喋ってももらえない。本気で怒っているとは思わないが、根に持つにもほどがある。
(あれで、ハタチなんだもんなあ)
 少し考えて、真希は財布の中味を確認した。
33 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)08時10分38秒
ナチゴマ、ひとやすみ。
34 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時36分44秒
 いつか、一七の頃に戻りたいと何かで答えたことがある。あの頃は何も知らなくて、きっと雲にだって本気で住めるんじゃないかと思っていたのかも知れない。
 ソロの仕事の移動中は信じられないほど静かで、台本を読む以外時間の潰しようがない。バンの窓は遮光ガラスになっていて、薄暗いうえに外の景色はほとんど見えない。なつみは仕方なく目を閉じた。
35 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時37分18秒
『なっちはねえ、どっか遠くへ行ってみたいよ』
 あの夏の日、軽い気持ちで口にした言葉は、後ろでまだ紅茶を飲んでいた四つ年下の友人を途方に暮れさせた。眉を寄せて、どこか悲しそうな顔をこちらへ向けている。
『あのさ、なにかで読んだんだけど、どっか遠くへ行きたいってことは、ここにいたくないっていうのの裏返しなんだよ』
 彼女は緊張した面持ちで続ける言葉を探している。
『そうなのかな?』なつみは帽子を深くかぶり直しながら言った。
『そうじゃないこともあるかもしんない』
 わずかな期待を込めたのか、いくぶん安堵した表情で真希はつぶやいた。
『大丈夫だって、なっちはどこへも行ったりしないから』
 そう言うと彼女は、
『絶対だよ』
 勢い込んで叫んだ拍子に紅茶でむせた。
36 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時37分51秒
 あの約束を守れるのだろうか。
 マネージャーに見つからないように、窓を小さく横へ滑らせた。隙き間から光と風と埃がなだれ込んだ。細長くのぞいた薄曇りの空は、沈んでいく太陽を包み込んで、ほのかに桃色に染まっている。
37 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時38分21秒
「ああ、忘れてた」
 ふいにマネージャーが声をあげたので、なつみは慌てて窓を閉める。それを咎めるような様子もなく、預かりもの、と小さな紙袋を渡された。気になって中のものを取り出すと、緑と黄で包装された小さなパッケージに「ひまわり」とひらがなでプリントされている。添えられたメッセージカードには、
『このあいだは<レンタル>ごめん ごとー』
 なつみは知らず目を細めた。あとで圭に報告すると「胸と一緒に育てろってことだよ」とからかわれた。
38 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時39分21秒
 草の汁のような匂いが、雨の近いことを報せている。ぼんやりと低く垂れ込めた雲に、見渡す景色一帯が白くにじんでいた。朝の移動のバスでは、ほとんどのメンバーがつかの間の睡眠を貪っていて、時おり小声でなにごとか囁かれる以外はしんとしている。車外の騒音もあまり聞こえない。必然、チェロの弦を弾くようなエンジン音だけが耳の奥に響いてくる。
 たとえば「今日、雨降るね」と何の意味もなく交わされる会話にも似た、そんな声で、真希は午前のまだ重たい瞼を持ち上げつつ言った。
39 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時39分55秒
「あれさ、芽ぇ出たらさ、いちばんにごとー見にいくから」
 隣り合って、やはり眠そうにうつらうつらしているなつみが頷いた。
「いいよ。なっち、がんばるべさ」
「おー、がんばってくれー」
「それで、ごっちんに……いちばんに教えにいくね」
 語尾に向かって声がだんだんに消えていく。なつみか真希か、どちらかが眠ってしまったせいには違いないのだが、そんな他愛もないことを敢えて気にするはずもなく、二人の意識はぬるい空気の中に埋もれた。真希は些細なやりとりに満足したのか、かすかに微笑みながらなつみの肩を借りて眠った。香水の香りが鼻孔をくすぐったけれど、それも一瞬だった。
40 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時40分40秒
 夏の夢を見た。強い匂いに引き寄せられるように、夏がそこにあった。
 そのせいもあって、目覚めると予想外の肌寒い空気に思わず腕をさすった。ふと隣を見るとなつみはすでに起きていて、雨粒がひっきりなしにぶつかっては流れる窓の方を向いている。鈍い光に頬をさらしている彼女には、透明な膜で覆われているような、人を寄せつけない雰囲気があった。声をかけて振り向かせれば、その表情を見ることもできただろう。けれどわずかな不安と億劫さが重なって、真希はふたたび目を瞑った。
 夢は見なかった。
41 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時41分20秒
 ごっちん、ゆるんでる。
 番組収録中に突然頬をつつかれて、半分口を開けたまま振り返る。我ながらずいぶん間抜けな顔だと思ったが、それを指をさされて笑われたので少なからずむっとした。
「ゆるんでなんかないよ。よっすぃーだって万年ゆるみ顔じゃん」
 むきになって言い返すとその「万年ゆるみ顔」がきりりと引き締まる。どうやら相手も気分を害したらしい。真希とひとみはしばらくにらみ合って、それぞれに表情を崩した。
42 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時42分07秒
「なにか、いいことあったんでしょ」
「スルドイ」
「安倍さん絡みでしょ」
「う……」
 もういいじゃん。照れ隠しに視線をスタジオの奥へ投げると、機材の影に隠れるようにして中澤と向かい合っているなつみを目敏く捕らえた。瞬間、彼女は怯えたように肩をすくめる。その手前を中澤の右手がすっと横切りなつみの頬を軽く叩いた。距離を考えると聞こえる訳はないのだが、ぱちりとなにかがはぜたような音がした。
43 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時42分43秒
「……中澤さん、どうしたんだろ」そのまま黙っている気まずさに耐えかねたのか、ひとみが言った。
「………さあ」
 中澤はそのままなつみの肩を抱いて小声で何かを言い聞かせている。しきりに頷くなつみは肩を押されてやがてスタジオの外へ連れ出された。
「安倍さん、どうしちゃったんだろ」
 その答がもし解っていたとしたら、悩んだり言葉を交わしたりする前に後を追っている。真希は結局「さあ」と繰り返しただけだった。セットの裏手では希美と亜依がふざけ合いながらこちらに向かって手を振っている。佇んでいた二人は、やがて掛けられたスタッフの呼び声に返事を揃えた。
44 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時43分25秒
 収録後のミーティングが圭織の一声で解散になると、ざわめきがどっと生まれる。そのなかで、椅子にもたれて大きく背伸びをした真希に梨華が声をかけた。
「猫?」
 聞き返すと、眉で八の字を作っている梨華は、悲愴感を漂わせながらじっとこちらの反応を待っている。
「ダメ、かな?」
「急に、言われてもねえ。ウチ、犬もいるし」
「やっぱりダメなんだ」梨華は今日何度目かになるのだろうため息をついた。「ごっちん家だったら広いし大丈夫かなって、思ったんだけど」梨華は大仰に肩を落として、今度は並んで聞いていたなつみに上目遣いで尋ねる。「安倍さんも、ダメですよねぇ」
45 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時44分21秒
 家の前に捨てられていた子猫に最初に気付いたのは、早朝の仕事のため寝不足の目をこすりながら表へ出た梨華だった。不憫さから放っておくこともできず、仕方なく里親を探しにかかったものの、渋られてばかりでなかなか快い返事は返ってこない。
「……ごめんね、なっち、ずぼらだからさぁ、何かを育てるのってだめなんだよね」
 真希がちらと視線を送った。それには気付かず、なつみは申し訳なさそうな表情を添えて断わった。
「可哀想って引き取ってもきちんと面倒みられるか自信ないし」
「そうですよね、ごめんなさい。辻とかに聞いてみます」
 思い直したように顔をあげると、梨華は衣装のスカートを翻して慌ただしく駆けていく。その手の甲にいくつか引っ掻き傷があったことに真希は気付いていた。
46 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時45分11秒
「ごっちん?」
 名前を呼ばれて我に返ると、みつめていたなつみの顔が先刻よりも近くにある。息すらかかりそうな至近距離に驚いてのけぞると、相手は不思議そうな色をたたえた黒目でのぞきこんできた。
「なっちの顔に、なにかついてる?」
「ううん。べつに、なんでもない」
 なら、いいけど。怪訝そうに、それでも微笑んだなつみは、立ち上がってなぜか真希の頭を柔らかく撫でた。
「じゃあ、お疲れさま」
47 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時45分44秒
 掌からかすかに体温が伝わってくる。風に流れた雨が窓を打ってうるさく鳴った。梅雨にはまだ早い時期だが、数日続くという予報も出ている。当分止みそうにない。いくぶん憂鬱になりながら真希はなつみの服の裾をつまんだ。
「なっちは」
 問いかけになつみが体の向きを変えると、するりと服は指の間から抜けた。
「んー? も一個、お仕事」
 彼女は明るく手を振った。
48 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時46分30秒
「ごっちん、猫ねー、メイクさんがもらってくれるって」
 喜々としたやや高めの声を響かせて、梨華が真希の隣にすとんと腰を落ち着けた。朝から気を揉んでいた一件にようやく片が付いたためか、机の上に突っ伏して大きく安堵の息を吐く。赤い線をいくつも描いている彼女の手に、真希はそっと触れてみた。
「梨華ちゃん、手」
 心持ち真希の方へ顔をあげた梨華は苦笑して「なかなか懐かなくってねー。ゲイノウジンなんだからって、マネージャーさんに怒られちゃった」
49 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時48分34秒
「ねえ梨華ちゃん」
「なあに?」
「なにかを育てるのって、やっぱ面倒なのかな」
「……それはあ、状況によると思うけど。こーやって引っ掻かれたり、ね。好きでやってるうちはいいけど、それが義務になっちゃったら、結構つらいかも」
「そっか」
「……ごっちん?」
 梨華の手はひんやりと心地よかった。
50 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時49分17秒
 部屋の電気を落として窓を開けると、今まで闇に沈んでいた外の景色は、月明かりにほのかな彩りを浮かび上がらせる。まだ虫の音は聞こえない。真希は黙って空を見た。昼間の雨はあがり、強い風に流されて上空を走る雲に夜空が見え隠れする。
 なつみも同じ空を見ているだろうか。ふと考えて、自嘲する。見ているものはたとえ同じだったとしても、今はなつみの存在を以前より近くに感じることができなかった。
51 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時49分53秒
 住宅街の屋根がうっすら黒い輪郭を描いて、その上にやや白んだ雲が融けていく氷のように淡く、空の端を濁している。その濁りの切れたあたり、まだいくつか残る低い雲の合間で、星は燐めきながら散らばっている。瞬く光がやがてにじんだ。
52 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時50分48秒
 それは偶然だった。急いでいなければスタジオに通じる抜け道を使うことはなかったし、その抜け道を使わなければ薄暗い倉庫を横切らなくてもよかったはずだ。倉庫の隅から聞こえる声を空耳だと思ってしまえば、注意して視ることもなかった。そうしてその声が聞き慣れた声でなければ、真希は立ち止まることはなかっただろう。
「……圭ちゃん、だめかもしんない」
「なっち」
 以前の中澤がそうしていたように、暗がりのなかで圭はなつみの肩に手を置いている。なつみはその手に揺すられるまま、立っている姿にもおよそ意志というものが感じられない。しきりに喉を詰まらせたような声が聞こえるのは泣くのを必死に堪えているためだろう。
53 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時51分41秒
「つらくて、苦しくて……もう、息できないよ」絞り出すように言葉を繋いだなつみを、圭は一瞬ためらってから自分の胸に引き寄せた。
「ごっちん、ごめん……約束守れそうにない」
 その胸許でこもって消え入るように届いた声を、真希はまるで自分の聴覚ではないような奇妙な感覚で聞いていた。例えて言うなら、水の中で空気の泡に紛れて響く、くぐもった音を聞いているようだった。
54 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時52分30秒
 目の赤いのが引いてから来るんだよ、圭はそう告げてなつみ独りをその場に残した。なつみは無造作に転がされていた木箱に座って、鞄から手帳を取り出すとぎこちなく開く。真希がそのまま動けずにいると、なつみの手は手帳のある部分を開いて膝の上で固まった。
 俯いた彼女の顔は、ただでさえ暗いうえに影になってよく見えない。しかし、真希はなつみが今目を落としているであろうものを知っている。
55 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時53分09秒
スケジュール合わせをしてオフの確認をしていたとき、ふざけてなつみのそれを取り上げ写真入れを勝手に見てしまったことがあった。そこにはオリジナルメンバーでの集合写真があり、あわてたなつみは二枚目にある真希との写真をみせて、どちらも大切だということを必死に訴えていた。あのことがあってからもう一年経つが、写真を入れ替えたとは思えなかった。
「……ちゃん」
 小さく声が漏れる。真希は握っていた拳にぐっと力を込めた。
 その日、真希は一度もなつみと目を合わせることができなかった。
56 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時53分46秒
「こら」
 あまりに軽い声だったので、最初は自分に向けられているものとは思わなかった。降ったり止んだりのはっきりしない天気に気分も落ち着かない。昨晩あがった雨は、一日どんよりとした雲を空に残して夕方からまた降り始めた。長い収録後、傘立てにささっている色とりどりの傘の群れは次第に減っていったが、真希はわざと帰り仕度を遅らせて長椅子に寝転んで雑誌を読んでいた。そこにずいぶんと高い位置からぼんやりした声が届く。
57 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時54分52秒
「こら後藤」
 こっち向け。命令口調だが迫力はない。それを発している当人の表情も、真剣になればなるほど緊張感が抜けていくという、少し変わり種のものだった。起き上がって顔を上げると、彼女は整えられた長い髪を揺らして横に座った。考え込る人よろしく、組んだ脚の膝に片肘を置いて頬杖を作る。
「かおり」
「今はリーダーなの」
「……リーダー、なに?」
58 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時57分51秒
「圭織はね、一応後藤より年上だからね、一応経験もたくさんある訳ね。後藤はさ、エビ好きでしょ。その後藤がさ、お寿司屋さんでエビじゃなくてトロを頼んだら、おかしいじゃない」
「………うん」
「それで、みんなどうしたんだろうって思うでしょ」
「思うだろね」
「そしたらさあ、うちらは、きっとエビに愛想を尽かしたんだとかトロにやさしくされたんだろーとか、いろいろ想像すると思うんだよ。でも、ほんとうのトコロは解らないわけだよね」
59 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時58分46秒
 さすがに「説教は空が青いことから始まる」と明言しているだけあって、まわりくどい上に例えが唐突すぎてよく意味が分からない。一体何を言いたいのかと真希は首を傾げて「そりゃ、その本人じゃないんだから、わかるワケないじゃん」半ば呆れて言った。
「それだよ! 圭織の言いたいのは」
 圭織はぐっと拳を握った。
60 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)09時59分26秒
「後藤はさ、けっこう繊細なとこあるからさ、いろいろ悩んだりするだろうけどさ、それがもし寿司屋のうちらみたいに想像であーだろーとかこーだろーとか考えてるだけだったら、結局本当のことはわからないままで物事は進んでいくわけでしょ。それって、圭織どーかと思うんだよね。したらどっちもきっとつらいままになっちゃうじゃん。いやなのよ、ふたりがそんな風になるのが」
 どっちも大切な仲間なんだからさ。
61 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時00分32秒
 圭織は普通なら言いにくいことをさらりと言う。言葉に対して偏見がない。彼女ほどきれいに胸の裡をさらけ出せたら、と真希はいつも軽い羨望を覚えずにはいられない。
 多分、今日の不自然な自分となつみとの関係は注意してよく見なくとも周囲に伝わっていたのだろう。リーダーである圭織ならなおさら、それが気になったにちがいない。
 申し訳なさに直接顔を見ることができず、雨で煙る景色に気を取られた振りをしながら「ありがと」とだけ言った。その声は以前聞いたなつみの声に似ているような気がした。
62 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時01分32秒
 興奮すると高くなる笑い声、たまに人の話を聞きもしないで流す返事、無意識に出る方言、もう何年も側で聞き慣れた、少し低い地声。
 喋っているなつみの隣でその声を聞いて、ふとした拍子に呼びかけられる自分の名前の響きが好きだった。当初「真希」と呼んでいたのが「後藤」になり「ごっちん」に変わった。そして変わらない自分自身の代名詞。
『なっちはねえ』
63 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時02分09秒
 そうやって、照れたり得意になったり沈んでみたり、万華鏡のようにくるくる変わる表情を近くから遠くからどこかで目の中に置いていればそれでよかった。
 真希は落とした視線をくるむように両の掌を丸めた。
 圭織の言うようにすべて誤解なのかもしれない。そう信じようと思った。一日捨ててしまっただけで懐かしさを感じる、あの時間を取り戻したかった。
64 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時02分41秒
「ねえ、かおりぃ。ところで、今の説教?」
 ふと気になって尋ねると、先ほどまでの会話をすっかり頭の端に追いやったらしく、リーダーはテンションを元に戻して飄々と答えた。
「そうだよ。だから『こら』って言ったんじゃん」
65 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時03分12秒
 家へ戻るともう一二時近かったが、真希は携帯を握りしめると、思いきったようにアドレスを呼び出した。
『明日、なっちの家に行っていいかな?』
 相手も起きていたようで、すぐに返信されてきた。『たまのオフぐらいゆっくり寝かせろー』
『10時に行きます』
 今度はしばらく時間を置いて『…お土産くらい持ってくるように』
66 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時03分56秒
 メールの文字にハイハイと頷いて、真希は携帯に額をくっつけて笑いながらベッドに転がった。今頃は口を尖らせて悪態を吐いているはずである。
 真希の知っている彼女は文句を言いつつも明日は早起きをして部屋を片付け、加えて買い出しに行き昼の料理の仕込みをするに決まっている。そうして行けば行ったらで笑顔で迎えてくれるにちがいなかった。
67 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時05分14秒
 翌日、明け方一端止んだ雨は、八時を過ぎるころにはふたたび本降りになった。歩道のくぼみに水が溜まり、薄い水の膜がアスファルトを覆っている。そこにやや粗く波紋を作りながらなつみの家へ向かう。
 たどり着くころには足下は散々な様相を呈していたけれど、あまり気にならなかった。
68 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時06分34秒
 傘を払うと、乾いたコンクリートに雫が跳ねて点々と模様を描く。チャイムを押すと、驚くほど早くドアが開いて、なつみより先にタオルが顔めがけて飛んできた。
 当人はタオルを渡そうと焦ったためか途中でつまずき、情けなく床にへばりついている。反動で手放したタオルが、かろうじて目的のところへ到着したようだった。
69 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時07分21秒
「なっちぃ、大丈夫?」
「……顔、打った」
「あのさ、ハーゲンダッツ、買ってきたからさ、ストロベリー」
 コンビニのビニール袋を掲げると、なつみは自己嫌悪に陥っているのか渋い顔で受け取って、キッチンへとふらふら消えた。
 危なっかしい足取りに心配になって後を追うと「お客さまは台所に入っちゃだめなの」とリビングへと押し出される。何の気もなしに部屋を見回すと、テレビを中心に放射状にDVDやビデオカセットが散らばっていて、床の三分の一を占領している。
70 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時08分22秒
 その中に「娘。」のライブを収録したものがいくつかあって、手前に積まれていた一つを手に取ってみると、かなり旧い。
 ジャケットの写真で、今の自分とほとんど歳の違わないなつみが無邪気に笑っている。その隣には彼女の勢いに押され笑顔が半分苦笑いになっている見慣れない顔があった。
71 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時09分06秒
 真希はその人物をあまりよく知らない。正確に言えば、情報としては持っているのだが、直接会ってその人となりに接したことがない。
 ただ、彼女の名を口にするときいつもとは違う表情になるなつみの向こうに、その姿を垣間見る。
 なつみにとって彼女が別格の存在であることは周知の事実だった。
72 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時09分40秒
「ごっちん、紅茶でいい?」
 ティーカップをのせたお盆を器用に片手で支え部屋へ入ってきたなつみは、真希の手にしているものを見て、小さく「あっ」と声を漏らした。
「ごっめん。あのさ、整頓しようとしたらさ、なーんか懐かしくってねー。結局片せなかったよ。でもごっちんの部屋よりかはきれいっしょ?」
「シツレイな」
 むっとして見上げたその額を、なつみは指で小突いた。「梨華ちゃん言ってたよー。散らかった服が部屋の
住人なんじゃないかって」
73 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時10分24秒
 そういえば、と真希は思う。以前は泊まりにくると言えば何をおいてもなつみがもっとも多かった。夜通し騒いで目の下に隈を作ったうえ、揃って遅刻をしたこともある。
 あの頃は、笑った顔も落ち込んだ顔も普通に見ていたような記憶がある。メディアでの露出が増え、お互いにソロの仕事で忙しない身になって、今日オフが重なったのもずいぶん久しぶりのことだった。
 会って取り留めのない会話を交わして紅茶を飲む。昔なら何の気も止めずぼんやりと過ごしていたそんな時間が、今はかけがえのないものに思われた。
74 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時11分22秒
 厚手のマグカップには注がれた紅茶が静かに湯気をたてていて、琥珀色の水面に電気の白色灯が映り込んで光っている。なつみは小声で歌いながら散乱するディスクを片付け始めた。
 何を歌っているのか耳を澄まして聞いていると、真希の加入する以前のアルバム曲らしい。
 たとえば圭や真里ならそれに声を合わせることもできただろう。真希は言い知れないもどかしさを感じずにはいられなかった。
75 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時12分05秒
 ベランダに通じる窓から見える空は、その思いを代弁するかのように暗い。雨はさらに勢いを増した。
 なつみの薦める映画を観て、それが終わった後もテレビをつけっぱなしにしながら、雑然とした話題に耳を傾ける。そのあいだ真希はずっと奇妙なしこりを胸のなかに溜めていた。ふと、会話が尽きる。急に雨の音が大きくなった気がして、なつみと真希は同時にベランダに面しているガラス戸を見た。
「ひまわり、どうしてる?」
76 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時13分04秒
『10時に行きます』
 昨夜、突然のメールに驚きつつ、なつみはどこか安堵と不安がない交ぜになったような気分になった。
 その日の収録中、意識して避けられているような態度を訝しく思っていたこともあり、一方ではその不安が杞憂だったのだとほっとしたことは確かである。
 けれど、もう一方ではその理由を告げにくるのではないかと落ち着かない思いを抱いたことも事実で、結局ほとんど寝ていない。
77 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時13分39秒
 気を紛らわそうとDVDのラックをあさり、あれでもないこれでもないと取っかえ引っかえしているうちに過去の自分たちの映像をみつけて、思わず苦笑する。
「若い、若いよ、君たち」
 しばらく笑って、そのまま黙った。
78 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時14分12秒
 一七歳のころの自分は、ただ夢中で前に進むことだけを考えていて、未来(さき)は見えなくても確かに在るのだと確信していた。
 振り返ることを覚えたのは明日香の脱退があってから、それからいくつかの別れを経て、中澤の脱退のあと初めて過去にすがることを覚えた。
79 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時15分09秒
 未来は雲みたいなものだと思った。ちぎれたり固まったりしながら刻々と形を変える。はっきりと見えているのに決して掴むことはできない。
 まるで太陽を追って背を伸ばしながら、やがて諦めて東を向く向日葵になったような気がした。
80 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時15分51秒
 だから真希からその種をもらったときは、もう一度太陽を追いかけてみろと言われたようで、胸の裡にこもっていた空気に新しく風を入れられたような清々しさがあった。家庭園芸用に改良された品種でそう大きくはならないため、小型のプランターをベランダに置いて種を埋めた。
 気候が不順なこともあり、芽はなかなか出なかった。
81 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時16分30秒
「ひまわり、どうしてる?」
 なつみは言葉に詰まった。
「……そっか」
 その沈黙を真希はどう受け取ったのか、一言そう言うと俯いた。
「あ、あのね」
「もう、いいよ」彼女は床をみつめたまま続けた。「無理、しなくて」
82 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時17分02秒
「……ごっちん」
「息、できないくらい苦しいんでしょ」
 なつみは息を飲んだ。真希の口調は静かだったが、その裏で感情が昂っているだろうことは、震えた語尾で分かった。
(聞かれてた)
 倉庫での会話を聞かれていたとすれば、どう言い訳をしても誤解は解けないのではないかと胸が詰まって、余計なつみは何も言い出すことができなくなった。
83 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時18分09秒
「向日葵は」
「ひまわりじゃない。なっちは、あんな、あんなところで泣くぐらいつらいのに、どうしてうちらの前で笑ってんの? なんで自分は大丈夫じゃないくせに人に『心配するな』なんて言えるの? なんで平気な顔できんの? もう、わかんないよ」
「………」
「うちらさ、多分、裕ちゃんとか圭ちゃんには負けるけど、ずっと一緒にやってきたじゃん。なのに、なっちは、なんでも一人で抱えて込んで、そんなんで笑顔作ったって、ぜんぜんうれしくなんかないし」
 捲し立てる真希になつみは口を差し挟めない。もどかしい思いが喉のあたりで熱を持っているのを、なつみは唾と共に無理矢理奥へ押し込んだ。
 なにか言わなきゃ。床の上で握りしめた手が汗ばんでいる。
84 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時18分54秒
 すると真希は意外な名を口にした。
「なっちは、福田さんには話せて、後藤にはなんにも話してくれないんだ」
「なっ、明日香は関係ない」
「昨日だって写真見てたじゃん」
「あれは」
「おかしいよ。後藤の方がずっと近くにいるのに」
 なつみの目が虚ろな光を帯びる。雰囲気に押されて真希は黙った。
「物理的な、距離じゃないよ。明日香はいつもなっちの隣にいるよ」
85 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時19分49秒
 すぐ前を歩いてる。それを追っていくのに精一杯だとだけ応えた。
 けれど、それは今伝えるべきことではなく、これからどう言葉を繋げていいか良い考えが浮かばない。仕方なく、何度か逡巡したのち、なつみは「ごめん」とつぶやいた。何に対して謝ったのかはなつみ自身よく分からなかった。
86 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時20分32秒
 飲み干したまま置かれているマグカップは紅茶の熱を失って冷たくなっている。そのテーブルの向こうに転がっているビデオカセットのなかに、去年連れ立って観に行った映画のジャケットが見えた。
「約束。あれさ、もう忘れていいよ」
 疲れたような声で真希は言った。
「約束?」
「あげたやつ、種……芽が出たらねって話」
 しばらく考えてその意味を悟る。守れない約束、真希との約束、それは決して向日葵のことではない。
 違うと言いかけた声は寸でのところで自分自身によって止められた。
87 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時22分29秒
『なっちはどこへも行ったりしないから』
 その約束を守れないなどと、どうして彼女のまえで言えるだろうか。

 おもむろに立ち上がった真希は、なつみの方を一度も顧みることはなかった。
「もう、みんないいから。ぜんぶ忘れていいから」
「ごっちん」
「だって後藤は、ずっとなっちのことが、きらいだったよ」
88 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時23分36秒
 玄関を出て後ろ手にドアを閉めた。背後には引き止める声も立ち上がる気配もなかった。
 ただひどく哀しげな眸を自分の背中に向けている、そんな確信はあった。
 とめどなく雨は降る。今朝玄関の前に傘で作った小さな水たまりは、打ち放しの廊下の色をひとところだけ変えている。まだ乾ききっていないらしく、そこは濃いグレーの染みになっていて、触ると冷たい。
 真希はその部分を避けてしゃがみこんだ。
89 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時24分40秒
 自分の理不尽さは自分でよくわかっているつもりだった。なつみには罪はない。こちらが勝手に期待して裏切られたと思い込んで無闇に怒りを投げ付けただけだ。
 ただ、そうでもしないと遣りきれなかった。自分の想いはどこへいくのだろうと、不安に圧し潰されてしまいそうだった。
 そうしてなつみを傷付けることで、ほんの少し報われた気になった。
90 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時25分42秒
 少なくとも今は、なつみのなかで自分の占めている領域は「あの人」を超えている。どんなに汚くてもいい。この先永遠に目を合わせてもらえなくてもかまわない。そんな苦しいほどの幸せを両手に抱えて生きていくのもいいかもしれない。

 ほんとうに最低な人間だ。真希は笑いながら咽で行ったり来たりしている塊を転がし続けた。

 しばらく壁に背を預け天井をみていると、ポケットに入れてそのまま忘れていた携帯が鳴った。
91 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時26分21秒
「はい」かろうじて応じた声の、ひどい嗄れ具合に真希自身が驚いた。
『あっ、やっとつながった! あのさ、今どこ?』
 圭だった。
「んー、なっちん家のまえ」
『はぁ? なんでそんなところにいるのよ。じゃあ、なっち、いる?』
「いるんじゃないかな」
『ないかなって、どういうこと? なっちんとこ、さっきから家の電話も携帯も通じないから、後藤ならなにか知ってるんじゃないかって、今電話したんだけど』
92 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時27分07秒
 真希はくっと咽を鳴らして笑った。「なんで後藤がなっちのこと知ってるなんて思うワケ? 圭ちゃんの方がよっぽど知ってるんじゃない」
 圭は様子のおかしいことに勘付いたらしく、
『まさかアンタ、昨日の、見たね』
93 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時27分41秒
「後藤はなっちの悩みなんて聞いたことないし」
 厭な言い方だな。姉のように接してくれている圭に対して、まだ残っている良心が頭を下げた。耳もとで呆れたようなため息が聞こえた。
『真希さ』めずらしく下の名前で呼びかけられる。『いったい何年なっちと一緒にいた訳? 上辺だけの付き合いしかしてなかった? 少なくともなっちは真希のことをそんな風には見てない。明日香んときもそうだったけど、あの子、一番大事な人には自分の弱味を見せないんだよ』
94 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時28分18秒
 嘘だ。真希は口の中でつぶやいた。それだけ信頼されていないだけじゃないかとも思った。
 何があったのかとしつこく問いただす圭に根負けして、真希はぽつりぽつりといきさつを語った。次第にただの単語の羅列になっていく説明を、圭は黙って聞いてくれた。
95 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時29分10秒
『……たぶん、真希の聞いた約束の話は、向日葵じゃないと思う』
「なんで、圭ちゃんに、そんなことがわかるの」
『わかるよ』
「だから、なんで」
『なっちがさ、わかりやすい性格だからね。嬉しいこととか、すぐ話したがるでしょ。後藤の向日葵ってうんざりするぐらい聞いたもん』
「後藤にはなにも話してくれなかった」
『証拠あるよ』
「え?」
『メール』
「……」
『じゃあ、今から全部転送するから。最後まで読むんだよ』
96 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時29分43秒
 しばらくして再び携帯が鳴る。
 着信。四角い液晶をみつめた真希は息をのんだ。
『ごっちんから、ひまわりもらった!!』
97 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時30分21秒
 着信。
『咲くかな? すっごいかわいいのが咲くんだよ』
 着信。
『種まきまであと少し 早くあったかくならないかな』
 着信。
『今日種まいたよ!』
 着信。
『まだ芽がでません』
 着信。
『まだ出ない』
 着信。
『今日はさむいね。種大丈夫かな』
 着信。
『そろそろ芽が出そうな予感』
 着信。
 着信。
 着信。
98 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時31分06秒
 夏生まれだから、夏の花が好きなんだよ。
 もうずいぶん昔のことだから、そう言ったことすら、なつみは憶えていないだろう。天に向かって颯爽と咲いている花を思い浮かべて、真希はよく似合っていると応えた。
 するとなつみは苦笑して左手を頭上へ伸ばしわずかに自嘲のこもった顔を上向かせた。「似てるっていうのは、こういうとこかな」
99 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時31分39秒
 太陽に向かって高々と育つ向日葵が空に届くことは決してない。それと、雲に向かって手を伸ばし続けている自分の姿が重なるのだと言う。
 まだ、掴めてないなあ。ふと漏らしたため息のような声を、真希は忘れない。
100 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時32分29秒
 遠い記憶を思い起こしながら、膝のうえに組んだ両腕に顔を埋めた。携帯はリズムをとるように一定の間隔を置いて着信音を鳴らし続ける。
 握りしめていた指の力が次第に抜けて、やがてほどかれた手から携帯が滑り落ちた。それでもなお着信を告げることを止めようとしないそれの隣で、真希は低く嗚咽を漏らした。
101 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時33分04秒
 どれくらい経ったのだろうか、金具の軋む音がして、なつみの部屋のドアが開いた。ためらいながら上を向くと、ドアからのぞいたなつみと互いにすがるような視線を合わせる。
 彼女の顔は穏やかで、かけられた声も心地いいほど柔らかかった。
「アイス、食べよ。苺。ね?」
 苺の発音はいつもどおり訛っていた。
102 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時33分49秒
 黙々とアイスを頬張ったあと、それぞれにカップを持ったまま「ごめん」と声を合わせて言った。それから手の熱で次第に柔らかくなっていくアイスにスプーンを滑り込ませた。
 先に食べ終わったなつみは、一本のビデオをテーブルに置いて真希をみつめた。「憶えてる?」
「うん」スプーンを口に含んだまま頷いた。
「あのときさ、言ったことは?」
103 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時34分34秒
「雲……に住みたいって」それから、記憶をたどって目線をやや上へあげた。「でも、どこにも行ったりしないって」
「その約束を守る自信がなかったの。それで、圭ちゃんに泣きついたり、昔の写真眺めたり。でもごっちんにはそんなこと気付かれたくなかった。それに、ごっちんといるときは、楽しかったもん」
 かすかなためらいを見せて、なつみは笑いかけた。
「ごめんね」
104 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時35分18秒
 その言葉に真希の手が止まる。残り少なくなったアイスはすっかり融け切っていて、何度すくってもさらえることはできない。
「また、笑うんだ」
 カップを手許からテーブルへ移すと、真希はおもむろに膝を進めてなつみの両腕を掴んだ。
「なんで笑うの?」
「……じゃあ、なんでごっちんは泣いてるの?」
 指摘されて初めて自分の頬を涙が潤していることに気付く。手の甲でそれを拭うと、真希の指はなつみの耳にかかる辺りの髪に差し込まれた。「なっちが泣かないからじゃん」
105 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時36分11秒
 すくように手を後頭部へすべらせ、そのままなつみを抱え込んだ。
「苦しいなら苦しいって言ってよ」
 されるがまましばらく真希の肩口に顔を埋めていたなつみは、やがて呼吸を乱して叫ぶように言った。
「苦しいよ。つらくて痛くて」ふいに真希の両頬を手で抑え、激しく口付けた。やがて離れた唇から熱い吐息とともに震えた声が落ちてきた。「息も、できないくらい」
106 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時37分01秒
「でも、それでも」
「……ごとーもだよ。いつかなっちがいなくなるんじゃないかって、ずっと不安で、ずっと心配でたまらなくて、でもそんなこと言ったら本当になっちいなくなっちゃうって、思って、一緒にいるのが、つらかった」
 それでも、うれしかったんだよ。一緒にいれてうれしかったんだよ。
107 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時37分51秒
 込み上げる想いを懸命に声に出して言い切ると、真希は顔を持ち上げてそっとなつみと唇を合わせた。
 深く浅く絡み合わせると、艶やかな息が熱を含んで途切れ途切れにこぼれてくる。 
 真希はそのまま白い首筋に唇を滑らせた。その瞬間声にならない声がなつみから漏れ、きつく抱き寄せようとして回した真希の腕は、渾身の力で押し戻された。
108 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時38分37秒
「だめ、だよ。ごっちん」
 息なのか言葉なのかわからないほど掠れた声で告げる。
「だめだよ」
「どうして」
「きっと後悔する」
「なっち」
「後悔して、本当に、二度と会いたくなくなるって」
「なっち」
「だって今だって嫌いっしょ? こんな……」
109 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時39分40秒
 ふいに溢れ出してくる感情になつみは言葉が追いつかない。真希が自分の名を呼ぶたび理性の堰が崩れていく。とどめようとする意志に反してなおも何かを紡ごうとする唇に、すっと冷たい感触が走った。
 視線を下ろすと真希が人さし指を当てていた。
「言わなくて、いいよ。後藤は頭わるいけど、それぐらいはわかるんだよ」
110 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時40分37秒
 唇にあった指は頬の線をたどり、額へと移されて、なつみの前髪を柔らかく分ける。露になった額に真希は一度口付けると自分のそれをこつりと置いた。「ばかみたいだね、うちら」それぞれの吐息を間近で感じながら、やがてふたりはどちらからともなく口元を綻ばせた。
「みたいじゃなくて、ばかなんだべ」
「うん。ごとーもそー思う」
111 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時41分16秒
 しばらく肩を震わせて笑い合ったあと、「後悔しない?」もう一度なつみが尋いた。「よくわからない」と真希は答えた。
「よくわからないけど、なっちに印が残ればいいかな」
「印?」
「ずっと未来、後藤たちは一緒にいたんだよって、そんな印」
「……カラダのは消えちゃうよ」
「…………なっちのえっちぃ」
「なっ、ごご、ごっちんが言わせたんだべ?!」
112 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時41分52秒
 真っ赤になったなつみは、混乱しているのか意味もなくクッションを叩いて弁明する。真希はそんなささやかな被害に遭っているそれをよけると、すっと引いた額をなつみの胸許へ押し当てた。
「印は」耳を澄ますと心臓の音が聞こえる。
「シルシは、ここに残ればいい」
113 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時42分47秒
 一晩中雨を降らせた雨雲は、東の空に少しだけその名残りを残して風に散らされる。朝陽が昇るにつれて、灰色だった空は一時桃色になり、やがて目のさめるような青に染まった。
 向日葵はまだ芽を出さない。黒々とした土だけが白い朝の陽光を受けて、露に濡れたように光っている。
 寝着のままその土をそっと撫でるなつみの姿を、真希はまぶしそうにみつめた。
114 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時43分44秒
「もうすぐ、出るよ。たぶん」
「うん。もうすぐ夏だしね」
 土を割って、重たげにその頭をもたげる緑色の芽を思い浮かべて、真希は軽く笑った。そのときなつみはきっと大あわてで報せにやってくるにちがいない。メールで電話で最後に本人がまっすぐ自分のもとへ駆けてくる。
 そうして突き抜けるように青い夏空の下、ベランダの向日葵はやっぱり東を向いて黄色い花を咲かすのだろう。
115 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時44分16秒
 昨日の圭の電話は今日の集合時間が早まったことの連絡だった。あの後本題である一件を伝え忘れたことに気付いてもう一度電話をかけ直してくれた彼女だったが、なぜか甲高い声で笑うなつみと、やはり笑って息も切れ切れの真希を相手に、怒り半分呆れ半分といった様子で「明日おぼえてろー」などと喚いていた。
116 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時45分02秒
 もと遅刻常習犯二人は悪い習慣がもどってしまったのか、時間ぎりぎりで家を出る。
 そのどさくさに紛れて、真希はわざと傘を置き忘れた。それは遊びに行く口実でもあるし、かまってもらう話題でもある、ささやかないたずらだった。もちろんなつみは気付いていない。
117 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時45分41秒
「なーに、ごっちん笑ってんのさー」
「ないしょー」
「憎たらしいやつだなー」
「世にたばかるのだー。本日もがんばってぇいきまっしょい!」
 それを言うならはばかるだべ。脱力して立ち止まる。すると真希は引っ張るようになつみの手をとった。
「ほら、なっちもいきまっしょい」
「まだ、行けるかな」
「大丈夫だって。後藤もいるし、みんないるし。一緒に行こーよ。手ぇつないでさ」
118 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時46分12秒
 そうだね。雲を掴みにいこう。
 なつみは手を握り返すと、いつかのように思いきりそれを振り上げた。体勢を崩された真希があわててバランスをとる。手をつないだまま、ふたりは濡れて光る道を駆け出した。飛び越えた水たまりに空が映る。
119 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時46分51秒
 あなたの隣にいてわかったこと。

 寂しいときは笑顔にならなくてもいいということ。

 いろいろなものが混ざり合って、それでも純粋なものがあるということ。

 なにもかも白いものなんてありはしないけれど、ほんとうにきれいな白はあるということ。

 雲は影があるからより白く見えるということ。

 たとえ曇っていても、その雲の上に陽は変わりなくそそいでいるということ。

 空はどこまでも青くないけれど、

 これからあなたと見上げる空はかぎりなく

 青いということ。

120 名前:和泉 投稿日:2002年06月08日(土)10時49分46秒
終わったので、このまま沈みます。
短いのに、空板にあげてしまって、どうもスミマセン。
121 名前:ROM 投稿日:2002年06月08日(土)11時00分48秒
リアルタイムで更新クリックしまくり・・。
かたちは違うけど、それぞれの優しさがじわ−っと
伝わってくるようで、読み手まで優しくなれるよう
な感じがしました。
122 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月08日(土)22時04分16秒
久々に心が癒されました。
柔らかいっちゅうか温かいっちゅうか…
めっちゃ良かったデス。
123 名前:名無し娘。 投稿日:2002年06月09日(日)00時10分54秒
いい話読ませていただきました。胸にしみる場面が沢山あって
すごくよかったっす。ありがとうございました。
124 名前:和泉 投稿日:2002年06月10日(月)21時11分53秒
>>121-123
読んで頂けただけで、うれしいです。
感想、どうもありがとうございました。
125 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月11日(火)23時45分10秒
美しい。
この言葉が似合うお話です。
心から感謝します。素敵な小説をありがとう。
126 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月14日(金)05時27分43秒
凄く綺麗なお話でした。また、書いて頂けたら嬉しいです。
なちごまで綺麗な文章、(・∀・)イイ!
127 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)11時02分23秒
もうね、あまりに素晴らしすぎて思わず途中涙がぽろり。
綺麗な、それでいて淡々とした文章が良かったです。
十分なちごまりました。ありがとう。
128 名前:和泉 投稿日:2002年06月19日(水)06時02分48秒
>>125-127
本当に感想、うれしいです。レス、遅くなってすみません。
こちらこそ、書かせていただいてありがとうございます。

長編用の板にスレを立ててしまったことでお気を悪くされた方も
いらっしゃると思います。
残りの容量は、なるべく埋めるつもりですので、沈むまで目障り
かとは思いますが、今しばらくご容赦ください。
129 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月26日(水)14時11分52秒
>>128
次の作品もあるんですか!
超超超期待sageです。

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