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ブランコの思ひ出

1 名前:PUNK 投稿日:2002年06月12日(水)19時11分02秒
初投稿です。(頑張れ自分!)
恥ずかしがりや(/Д\)なので、sageで進行していきます。
メインは石吉後で、他にも誰かしら登場する予定です。
駄文ですが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
2 名前:ブランコの思ひ出 投稿日:2002年06月12日(水)19時16分20秒

あの日のことは、今でもよく覚えている。


梨華ちゃんの小学校入学式前日。夕暮れ前の公園・・・。

頭から血をいっぱい流しながらブランコの前で倒れてる梨華ちゃんを、私はただ、見下ろす事しか出来なかった。


『こんなに血が出るのは痛いだろうな・・・』そんな事を考えながら。

3 名前:ブランコの思ひ出 投稿日:2002年06月12日(水)19時18分09秒
どのくらい、倒れた梨華ちゃんを眺めていたんだろう?

すごく長い時間のように思えた。

しばらくしたら、梨華ちゃんのママがすごい勢いで走ってきて梨華ちゃんを抱きかかえた。
「梨華、梨華ぁ!しっかりして、梨華ぁ!!」

おばさんの腕の中で、血に染まった梨華ちゃんの顔・・・すごくキレイに思えた。

『ああ、このまま梨華ちゃんは死んじゃうのかもしれない』
そう思った私は静かに口を開いた。
4 名前:ブランコの思ひ出 投稿日:2002年06月12日(水)19時20分43秒

「おばちゃん・・・ご、ごめんなさい。りかちゃんブランコから…あたしが…あたし、りかちゃんをつきおとしちゃったんだ」


気が付いたら、目に涙を浮かべた真希が私の手を力強く握っていた。

それは、梨華ちゃんが記憶を失った日の思い出。

血に染まる梨華ちゃんのキレイな顔…
必死に梨華ちゃんの名前を叫び続けるおばさんの声…
そして、あたしの手を握る力強い真希の感触・・・

私が絶対に忘れる事のないブランコでの思い出…。
5 名前:石川梨華(17歳)の高校生其の一 投稿日:2002年06月12日(水)19時41分45秒
−1−


「今日はやっぱ…うどんにするべ」

学食のメニューを見ながら、顔に寝跡をつけた真希ちゃんはそう呟く。
今日の日替わり定食はロールキャベツだった。

「えっ?ロールキャベツじゃないの?」

食堂に向かう途中、真希ちゃんはスキップしながら『ロールキャベツソング』(本人作詞・作曲)を歌っていた。
だから絶対にロールキャベツを選ぶと思ってたのに…。

「あはっ。だって、梨華ちゃんローキャベにすんでしょ?だったらあたしは、梨華ちゃんから少し貰えば良いわけだし」
満足そうに微笑んで、真希ちゃんはうどんの食券を購入した。
今度は『うどんの歌』(同じく本人作詞・作曲)を口づさみながら。

私も続いて日替わり定食の食券を購入する。
真希ちゃんの『ロールキャベツソング』を歌おうかと思ったが止めた。
だって、絶対に「音痴」って言われるのがオチだから…。
6 名前:石川梨華(17歳)の高校生活 其の一 投稿日:2002年06月12日(水)19時46分59秒
食堂はほぼ、満席状態だった。
うちの女子校には中学校、高等学校そして更には短大も付属している。
早い時間に来ないと学食はすぐに人であふれ返る。

「げっ!じぇんじぇん座るところないじゃんか!」
真希ちゃんは口を尖らせながら文句言う。
彼女が文句言う時のお決まりの顔だ。

「真希ちゃんが悪いんだよ。授業終わっても、寝つづけるから…」
そう言い終えた後に『しまった』と思う…。

「だって眠いんだもん!ってか、誰かさんのせいで昨日寝たのは3時過ぎだったんですけどねぇ」
そう言って真希ちゃんは私を軽く睨む。


昨日、私はついに携帯電話を購入した。
しかし手にしたものの、使い方がまったく分からない。
説明書を読んでみるもののチンプンカンプン…。
手っ取り早く私は、隣の家に住む真希ちゃんに使い方を教えてもらう事にした。
『電話をかける』『受け取る』はすぐに覚えれたものの、メール機能が全然覚えられない。
結局私が自分の部屋に戻ったのは、2時少し前だった…。
7 名前:石川梨華(17歳)の高校生活 其の一 投稿日:2002年06月12日(水)19時51分53秒
「ご、ごめんね…でも真希ちゃんのお陰で助かったよ」

「ったくさぁ、梨華ちゃんは歌どころかメカも音痴だもんね、あはは」

結局そのオチを言われるなら、食券買うとき『ロールキャベツソング』歌っておけばよかったな・・・なんて思ってると真希ちゃんに腕を引っぱられた。
突然だったので手にしたトレイを落としそうになる。

「ちょ、ちょっと急に引っぱらないでよ」

「梨華ちゃん、ほら、あそこ空いてるよ。飯田先輩の横んとこ」
真希ちゃんが指差す方を見ると、4月に短大へ進学した飯田先輩が誰かと談笑しながら食事する姿が目に入った。

なぜか、一瞬ドキとする。
先輩と一緒にいるという事はもしかしたら…と思ったけど、こちら側に背を向けるその人の髪型はショートカットだった。
真希ちゃんもそれに気付いたみたいで「あれ?髪の毛切ったのかな?」と言いながら飯田先輩たちのテーブルへ近づいていった。
私も真希ちゃんのあとに続いた。
8 名前:石川梨華(17歳)の高校生活 其の一 投稿日:2002年06月12日(水)19時55分34秒
「お隣空いてますぅ?」
真希ちゃんはおどけながら、飯田先輩の隣の椅子を引きながら話し掛けた。

「お、後藤に石川じゃん」

「どこの席埋まっててさぁ、相席してもいいですよね?」
真希ちゃんは先輩の返事も聞かずに着席した。

「どーぞどーぞ」と先輩は笑顔で迎え入れてくれる。
普段、真っ黒な長い髪をおろしている先輩は食事の為だろうか…一つにまとめていた。
先輩が、高校時代よりも大人びて感じ取れるのは初めて見る私服姿のせいかもしれない。
9 名前:石川梨華(17歳)の高校生活 投稿日:2002年06月12日(水)19時59分08秒


「梨華ちゃんも座んなよ」

トレイを持って突っ立っている私に、椅子を引きながら髪の短い子が話し掛けてきた。


「ありがとう・・・ひとみちゃん」

そう答えて私は、オムライスをスプーンですくっているひとみちゃんの隣に座った。


「ひとみ、髪切ったんだね?」
私も訊ねようとしていたことを真希ちゃんが口にした。

「うん。伸ばそうかとも思ったんだけどね。もうすぐ大会も近いし…短い方が手入れも楽じゃん」
前髪を掻き分けたひとみちゃんからは、いい香りがした。
何のシャンプー使ってるのだろう?

「後藤、あんた授業中寝てたでしょ?顔に寝跡付いてるよ」
先輩が寝跡の付いている真希ちゃんの右頬を軽くつまみあげた。

「いててて。っていうか、聞いて下さいよ。昨日梨華ちゃんがね…」

真希ちゃんは昨晩の『携帯電話講習会』の話を始めた。
どーせ勝手に脚色しながら真希ちゃんは話すんだろうな。
人をバカにするのが好きなんだから・・・。

10 名前:石川梨華(17歳)の高校生活 其の一 投稿日:2002年06月12日(水)20時03分20秒

「・・・で、結局梨華ちゃんが帰ってったのが2時前。けど、その後がもう大変でさぁ。梨華ちゃんメール送ってくるのはいいんだけど、送った直後に電話掛けてくるんだよ。『メール届いた?』って。で、私が返信するとまた電話が掛かってくるの。『メール届いたよ』って。もう、それの繰り返し…。本当、何の為のメールなの?って感じでさぁ…」
真希ちゃんはテーブルを軽く拳で叩く。

「あっはっはっはっは。石川面白いね」
先輩はお腹を抱えて笑っていた。しかも涙目で。
そんなに面白い話なのだろうか?って他人の話のように思ってしまう。

「そんな訳で、後藤は寝不足なんですよ。梨華ちゃんのせいでね」
うどんをすすいならが、睨む真希ちゃんに私は頭を下げた。

「だから、謝ってるじゃん。ごめん、真希ちゃん…。はい、ロールキャベツあげるから怒らないでよ」
と真希ちゃんにロールキャベツを差し出した。
我が物のように、真希ちゃんはロールキャベツを受け取り頬張った。
11 名前:石川梨華(17歳)の高校生活 其の一 投稿日:2002年06月12日(水)20時06分35秒

「で、石川はメールは送れるようになったんだね」
ハンカチで目頭をおさえる先輩。
そんな、なにも泣かなくたって…。

「ええ、でも全部ひらがなで送りつけてきますけどね」
真希ちゃんは私への攻撃の手を緩めない。

ポケットから自分の携帯を取り出し、私が初めて送ったメールをみんなに披露する。

『まきちゃんへ。けいたいでんわからのめーるです。りかより。』

真希ちゃんはアニメ声で(私の物真似らしいが)そのメールを読み上げた。
恥ずかしくなって俯く私をよそに、先輩の笑い声は更に大きくなった。



「でもなんか、梨華ちゃんらしいよね」
オムライスをキレイに平らげたひとみちゃんは微笑みながら言う。


ひとみちゃんは、私をバカにしたりはしない。
ひとみちゃんは優しいから。
私の事を絶対にバカにはしない。

12 名前:石川梨華(17歳)の高校生活 其の一 投稿日:2002年06月12日(水)20時17分02秒

「もう、ひとみ他人事のように言わないでよね。こんなのに付き合わされた私の身になってよぅ…」

トホホ顔する真希ちゃん。
私の方もこんな話を暴露されてトホホだよ。


「梨華ちゃん、番号とアドレス教えてよ。私もメール送るよ」

「あ、うん。えっとね、アドレスがね、chermy・・・」

「えー、ちょっと待って。覚えられないよ…」

ひとみちゃんが飯田先輩の方を見ると、先輩はカバンから取り出した自分の手帳を一枚やぶり、ペンと一緒にひとみちゃんに渡す。
そして、ひとみちゃんは当たり前のように紙切れとペンを受け取った。

そんなやり取りを見た私はまた、ドキっとしてしまう。

先輩にはひとみちゃんの求める事が分かるんだ。

言葉にしなくても・・・。


ひとみちゃんは私の携帯番号とアドレスをメモして、更に何かを続けて書いていた。
そしてメモを半分に切ると
「はい、これ。私の番号とアドレスね」と渡してくれた。


ひとみちゃんの書く字が好きだなって思う。
真希ちゃんの字もキレイだけど、ひとみちゃんの字からは、なんかとても真っ直ぐなものを感じる。
13 名前:石川梨華(17歳)の高校生活 其の一 投稿日:2002年06月12日(水)20時26分35秒

「じゃ、私行くね。梨華ちゃん、夜にでもメールするよ」
と言ってひとみちゃんは立ち上がった。

「石川、早く漢字変換覚えなよ」
先輩も携帯の文字を打つ素振りをしつつ、立ち上がる。


「梨華ちゃんが、漢字変換覚えるには最低でも一週間はかかりますよ」

「酷いな真希ちゃん、私だって変換くらい出来るよ!」
そう、私だってカタカナくらいは打てるようになったんだから…。

「あはは、じゃあまたね」
ひとみちゃんは、ごく普通に先輩のトレーも手にして席をあとにする。
飯田先輩は、こちらに手を振りながらひとみちゃんを追いかけた。

二人に手を振りながら真希ちゃんがボソっと呟いた言葉に、本日三回目の『ドキッ』を感じた。


「あの二人…続いてたんだね」


14 名前:PUNK 投稿日:2002年06月12日(水)20時29分50秒
とりあえず、ここまでです。
夜中に時間があれば、続きを更新します。

っていうか、レイアウト?みたいなものが難しいですね。
改行とかの使い方とか…
うーん、勉強しなきゃな。
15 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月12日(水)21時43分48秒
機械オンチないしかーさんがいい感じです。
冒頭の過去のシーンもいい掴みかと。
メール欄の作者さんの「自分励まし」にも笑わせていただきました。
では続き、期待してます。
16 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月13日(木)13時28分00秒
すごく、おもしろいです。
飯田先輩とひとみの関係がいい感じで好き!
続き、楽しみにしてます。
17 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月13日(木)20時51分49秒


−1−


梨華ちゃん、ひとみ、そして私の3人はいわゆる幼馴染だ。
うちの家と梨華ちゃんちはお隣さん同士で、
ひとみの家は道を挟んだ向かい正面にある。
物心ついた頃にはすでに2人の事は知っていたし、
幼稚園の頃はいつも3人で遊んでたんだよね。
(あ、たまにユウキも入れて4人だったこともあるけど)

よくやったのは『チャーミーごっこ』。
梨華ちゃんがチャーミーって名前のお姫様で、あたしが王子様役、
そしてひとみは『天国から来たチャンピョン』役。
(未だにこの役の意味が分からないのだが…)
チャーミー姫が「○○○が欲しい」と要求すると、
王子様のわたしと天国から来たチャンピョンひとみは、それを探しに行く。
要はチャーミー姫のワガママに付き合う、王子とチャンピョン…ってな訳だ。

18 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月13日(木)20時58分44秒
その頃の梨華ちゃんは、一番年上なのにワガママで、
泣き虫で…そして甘えん坊な女の子で。
梨華ちゃんとは反対に、ひとみはとてもヤンチャで、いたずら好きな女の子だった。
(いや、坊主?)

ある日、チャーミー姫が「どうぶつをかいたい」と言い出した。
幼稚園児にペットショップで動物を買うお金なんてものはあるはずもなく、
私は悩みに悩んで、粘土で猫を作る事にしたんだ。
やっとの思いで出来上がった粘土の猫はかなり不格好で、
到底猫には見えなかったんだったけど、梨華ちゃんはすごく喜んでくれた。
「おうじさまありがとう」と言って、チャーミー姫は王子のホッペにキスをする。

ひとみの方は、梨華ちゃんの要求を聞いて外へ飛び出てったっきり、
中々戻ってこなかったんだ。
もしかしたら、チャンピョンは諦めて家に(いや天国か?)
帰っちゃったのかも…と思った頃、顔も服も泥だらけになったひとみは、
手に何かを隠し持ちながら戻ってきた。
19 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 投稿日:2002年06月13日(木)21時08分52秒

「はい、おひめさま、めをとじて。てをだして」

言われるがままの通りにしたチャーミー姫の掌に、
天国から来たチャンピョンはトカゲを置いた。
笑顔で目を開けたチャーミー姫は…。


「ひとみちゃんなんてだいきらい!もうぜったいいっしょにあそばないんだから!はやくそれすててきてよ!」

「なんでりかちゃんこんなことするの?トカゲさん死んじゃん!」

目を開けたお姫様は掌のトカゲびっくりして慌てて払いのけると、
とっさに私が作った粘土の猫を思いっきりトカゲに投げつけたんだ。
床には、頭部分がつぶれたトカゲの死体と、
トカゲ同様頭部分が潰れてしまった粘土の猫…。
ワンワン泣き叫ぶ梨華ちゃんの頭をあたしはずっと撫でてあげた。
ひとみは悲しそうな表情を浮かべながら、死んだトカゲの体を撫でていた。

翌日、ひとみはあたしだけを家に呼び寄せると一つの箱を見せてくれた。
その箱には、ひとみのきたない字で『とかげとねこのおはか』掛かれていた。
そしてあたし達は、公園の花壇のとこにその箱を埋めたんだ。

「まきちゃん、このことはりかちゃんにはないしょだからね」

そう言ったひとみの目は、涙で濡れていた…。
20 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月13日(木)21時16分23秒

そーいえば、こんなこともあった。
「オレンジジュースがのみたい」と言ったチャーミー姫に、
チャンピョンはオレンジ色の絵の具を水に溶かせて飲ませたのだ。
この時ばかりは、さすがのひとみも少しは反省したらしい。
絵の具ジュースを一口飲んでしまった梨華ちゃんは、1週間近く幼稚園を休んだ。
天国から来たチャンピョンの方は…こっぴどくお父さんに叱られたようで、
お尻を摩りながら「せかいでいちばんこわいのは、おとうさんだね」
と言っていたのを覚えている。


とにかく、あの頃はそんな風に過ごしていたんだ。
ひとみが梨華ちゃんを泣かすのは毎度の事。
あたしが梨華ちゃんを慰めてあげるのも毎度の事。


今じゃ絶対にありえないような関係 ────

21 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月13日(木)21時22分24秒

−2−


一足先に幼稚園を卒園した梨華ちゃんは、
あたしたちよりも1年早くランドセルを手に入れる事となる。

そして梨華ちゃんの小学校入学式の前の日…そう、あの事件が起きた日、
あたしとひとみは梨華ちゃんにランドセルを見せてもらたんだ。
ランドセルを背負って嬉しそうに微笑む梨華ちゃんは、
いつもの泣き虫な梨華ちゃんには見えなかった。
何て言うか…いつもよりもお姉さんな感じに見えた。

「りかちゃんがしょうがっこうにいったら、いっしょにあそべなくなっちゃうね」
ひとみはちょっと拗ねたように呟いた。

「そんなことないよ。しょうがっこういっても、ひとみちゃんとまきちゃんとあそべるよ!」

「だって、おべんきょうとかしなくちゃいけないんでしょ?ほかにもたくさんおともだちもできるし…」

「おべんきょうしても、ほかにおともだちができても、わたしはひとみちゃんとまきちゃんとあそぶよ」

梨華ちゃんが笑顔で「これからもあべるよ」と繰り返すたび、
あたしとひとみにはそれが嘘のようにしか聞こえなかったんだ。
梨華ちゃんが遠くへ行っちゃうような…そんな思いがしてならなかった。

22 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月13日(木)21時39分21秒

梨華ちゃんが「こうえんにいこうよ」と言い出した。
どちらかと言えば、家で遊ぶ方が好きだった梨華ちゃんがそんなことを言うのは珍しい。
やっぱり梨華ちゃんの方も、
小学校に行ったらあたし達と遊ぶ時間が少なくなる事を感じていたのかもしれない。
梨華ちゃんのママが「明日は入学式なんだから大人しく家で遊んだら?」と言ったけど、
梨華ちゃんはそれを無視するかのようにあたしたちを公園へ連れ出した。

公園に着くと、ひとみは「チャーミーごっこをしよう」と言った。
だけど梨華ちゃんはブランコに乗りたがった。
家から100メートルと離れてないその公園には、ブランコは2つしかない。
いつもは、ひとみは絶対に一人でブランコを独占したがるから、
あたしと梨華ちゃんはよく二人乗りしたもんだ。
23 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月13日(木)21時42分26秒


「きょうはあたしがりかちゃんとブランコにのる」

そういうとひとみは梨華ちゃんを座らせて、立ち漕ぎを始めた。
最初は梨華ちゃんも「キャーキャー」言いながら楽しんでいるようだった。
けど、ひとみはどんどん強くブランコを漕ぎ出した。
そのうち、梨華ちゃんもちょっと怖くなったんだと思う。

「ひとみちゃん!ちょっとスピードおとしてよ!」

泣きそうな顔をして、梨華ちゃんはひとみに訴えた。
それでもひとみは梨華ちゃんを無視してブランコを漕ぎ続ける。
そしてついに梨華ちゃんは泣き出しちゃったんだ…。

あたしは、ひとみに注意した。
「りかちゃんがいやがってるからやめなよ!」

だけどひとみはあたしの言葉も無視し続けて───




24 名前:PUNK 投稿日:2002年06月13日(木)21時52分11秒
ちょっと途中ですが、とりあえずここまでです。
えっと、ミスがあったので訂正です。

>19
トカゲさん死んじゃん!× → トカゲさんしんじゃったじゃん!○
ミス発見すると恥ずかしくなりますね…いやはや。。。

>15 ごまべーぐる様
感想お寄せ下さってありがとうございます。m(__)m
初めてのレス…嬉しゅう限りです。(:_;)
ちくしょう、今日はごまべーぐる祭だ。(意味不明)

>16 名無し読者様
「すごくおもしろいです」だなんて…。
とっても励みになります。本当…。
もう寝ようかと思ったけど、えぇーい!てやんでぃ!
今日は明け方まで張り切っちゃうぞぉー。(半分嘘です…)

ってなことで、夜中にまた少し更新いたします。であであ。
25 名前:brett 投稿日:2002年06月14日(金)01時46分59秒
天国からきたチャンピョンいいですね。期待しています。がんばって!
26 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時02分04秒



─── なんでこんなことになっちゃったんだろ?


明日から、梨華ちゃんは小学生になるはずだったのに…。

真っ赤なランドセルを背負って小学校に通うはずだったのに…。


27 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時07分50秒

あたしは、梨華ちゃんのママを呼びに走った。
途中でつまづいて激しく転んだ。それでも一生懸命走った。
このままじゃ、梨華ちゃんが死んじゃうと思ったから…。
梨華ちゃんの家に向かってひたすら走り続けた。


その後の事はあまり良く覚えてない。
覚えているのは、ただ立ちすくんでいるひとみの手を握った事。

梨華ちゃんが救急車に運ばれた後も、
ひとみはずっとブランコの前に出来た赤い水溜りを見つめていた…。
あたしは、梨華ちゃんの真っ赤なランドセルの色の方がキレイだなって考えながら、
ひとみと手を繋いでいたんだ───。


28 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時14分46秒

−3−


救急車で病院に運ばれた梨華ちゃんは、3日間、昏睡状態が続いたらしい。
あたしもお見舞いに行きたかったけど、お母さんに「今はダメよ」と言われた。

梨華ちゃんに宛ててお手紙をいっぱい書いた。
ユウキと一緒に鶴もたくさん折った。
梨華ちゃんのママにそれを渡すと
「もう少ししたらまた一緒に遊べるようになるからね」と言ってくれた。

私はまた3人で遊べるんだと信じて疑わなかった。
けど…事件が起きてから、あたしは梨華ちゃんどころか、
ひとみと会うことも許されなかったんだ…。

29 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 投稿日:2002年06月14日(金)04時17分02秒

ひとみが梨華ちゃんをブランコから突き落としたという話は、
すぐにうちの町内に広まった。
同じ幼稚園の友達もひとみの悪口を言い出した。
「ひとみちゃんはあくまだ」って。
許せなかった…。とっても悔しかった…。

ずいぶん後になって聞いた話だと、
ひとみは児童相談所というところに通わされていたらしい。
例の「オレンジジュース事件」もあったからだろう。
『問題児』とされちゃったんだよね。

あたしは、それでもひとみに会いたかった。
もちろん、梨華ちゃんにも会いたかった。
毎晩毎晩、二人に会えますようにとお祈りをした…。

30 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時20分33秒


───事件から半年後、あたしの願いは一つだけ叶う事となる。

梨華ちゃんが退院して家に戻ってきたからだ。
お母さんに「すぐには梨華ちゃんと遊べないのよ…」と言われたけど、
退院の日、幼稚園から戻るなりあたしは、梨華ちゃんの家を訪ねた。
ドキドキしながら、ピンポンを鳴らす。

梨華ちゃんと何して遊ぼうかな?
梨華ちゃん背大きくなったかな?
そんな事を考えながらドアが開くのを待つ。

すると梨華ちゃんのママが出てきた。とても申し訳なさそうな顔をして…。

「ごめんね。梨華とはまだ遊べないのよ」
やっぱりまだ遊ぶのは無理なのかな…って思ってたら

31 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時25分22秒


「ママ、だぁれ?」
梨華ちゃんが出てきた。


あたしは嬉しくって「梨華ちゃん!」と叫んだ。
遊べなくてもいい。
少しだけでもお話がしたかった。
おばちゃんの後ろに立つ梨華ちゃんは、
あたしが名前を呼ぶなり一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔でお辞儀をした。



「はじめまして。いしかわりかです」──────



32 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時30分13秒


家に戻ったらお母さんが梨華ちゃんの状態を説明してくれた。
『きおくそうしつ』というものらしい。
梨華ちゃんは、それまでの記憶も、思い出も全部失っちゃったんだ。
自分のパパやママのことも、そしてあたしやひとみのことも…
悲しい事に、全部忘れちゃったんだ。

だけど、しばらくしたら梨華ちゃんとはまた一緒に遊べるようになった。
記憶を失った梨華ちゃんに、あたしは色んな事を教えてあげた。

絵本を読んであげたり、折り紙を折ったり、ひらがなも教えてあげた。
始めの頃はね、すごく丁寧に教えてあげてたんだよ。
だけど梨華ちゃんは「わからないよ」といってすぐに泣き出しちゃうから。

『昔の梨華ちゃんに戻って欲しい』

泣き出した梨華ちゃんの頭を撫でてあげたかったけど、
あたしは心を鬼にして色んな事を教えつづけた。

33 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時33分17秒

そして3月になると、あたしは幼稚園を卒園した。
4月からは小学生になる。
真っ赤なランドセルも買ってもらった。
梨華ちゃんもあたしと一緒に1年遅れで小学校に通えるらしい。
「おなじクラスになれるといいね」なんて話したりした。



そんなある日、ひとみがお母さんと一緒にうちに挨拶に来た…。


一年ぶりに会ったひとみは少し背が伸びてて、
でもちょっと痩せたように見えた。
うちのお母さんは、家にあがるよう進めたけど、ひとみのお母さんはそれを遠慮した。

34 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時37分18秒

玄関先での挨拶…。

ひとみは親元を離れることになった。
田舎で一人暮らしするおばあちゃんと暮らすらしい。
親同士が話をしている間、ひとみは終始俯いたままだった。
まるで、あたしからの視線を反らすかのように。

「真希ちゃん、今までひとみと仲良くしてくれてありがとうね」
おばさんの目はちょっと赤くなってた。
ひとみと離れ暮らさなきゃならないんだから、おばさんも悲しかったんだと思う。
あたしも、何か言わなきゃと思ったけど、
何て話し掛けていいのか、分からなかったんだ。

結局ひとみとは、視線も、言葉も交わす事はなかった…。

35 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時49分57秒

ひとみが旅立つ日は、梨華ちゃんがうちに遊びに来ていた。
一緒にぬり絵でもしながら遊んでたんだと思う。

お昼過ぎ頃、外で遊んでいたユウキが家に戻ってきた。

「ねぇ、まきちゃん。いまそとでひとみちゃんにあったんだけど…」

その言葉を聞くなり、あたしは靴も履かず裸足で外に飛び出た。
ひとみの家の前には車が止まっている。
ちょうど、ひとみが車に乗り込んだところだった。

「まきちゃん、くつはかなきゃだめだよ」
梨華ちゃんがあたしの靴を持って表に出てきた。

あたしは車に近づいた。でも車はすぐさま走り出してしまう。

「梨華ちゃん!走るよ!!」
あたしは梨華ちゃんの腕を掴んで、その車を追いかけた。

「真希ちゃんどうしたの?」
訳が分からないなりにも、梨華ちゃんも一生懸命走って付いて来てくれた。

後ろの窓からひとみが顔を覗かせる。
あたしたちに気が付くと、窓から顔を出して思いっきり手を振ってくれた。
36 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)04時59分17秒


「ひとみちゃーん、ひとみぃ───!!」


あたしは思いっきり叫んだ。
ひとみも何か叫んでいるように見えた。
梨華ちゃんもあたしを真似て、一緒に叫んでいた。

「ひとみちゃーん、ひとみちゃーん」

でも車は止まってはくれなくて…
そして、そのまま走り去ってしまった…。
あたしも梨華ちゃんも、視界から車が消えてもなお、ひとみの名を叫び続けた。


涙が止まらなかった───

ひとみとのお別れはとても悲しかった───


「まきちゃん、なかないで」

梨華ちゃんはあたしの頭を撫でてくれた。


でも、梨華ちゃんは何であたしが泣いているかなんて分からないんだ…。

ひとみと会えなくなるのに、梨華ちゃんはひとみの事なんて覚えてない…。

そう考えたら、ますます悲しくなった…。

37 名前:過去を振り返る後藤真希(16歳) 其の一 投稿日:2002年06月14日(金)05時03分11秒


家に戻ると、ユウキから不気味な粘土の塊を渡された。


「これをまきちゃんにわたしてほしいって。あとこれはりかちゃんへって…」


手渡された粘土の塊は…

あたしが作った物よりも、もっと不恰好な猫だった。


そして梨華ちゃんは…

ユウキから渡されたパックのオレンジジュースをとても美味しそうに飲んでいた。






38 名前:PUNK 投稿日:2002年06月14日(金)05時10分34秒
更新は以上です。

次回は、吉澤視点になります。


>>25 brett様
レスありがとうございます。
最初は「ガッツ」にでもしようかと思ったんですけど、
なんとなく勢いで「天国から来たチャンピョン」にしちゃいました。
もっと真面目に考えないとあかんのですけどもね。。。ヾ(´▽`;)ゝエヘヘ
39 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月14日(金)16時23分42秒
ヨスコが切ないです(涙
切ない別れからどのように現在につながるのか。
この先が楽しみです。
祭りまでして頂いて恐縮です(w
40 名前:ニコル 投稿日:2002年06月14日(金)18時11分58秒
ひとみの不器用な純粋さが切ないですね。
ますます、面白くなってきて次の更新が楽しみです!
41 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月14日(金)22時43分33秒
やっべ、すでに泣きそうになってきた。。。
続きがんばって。
42 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月14日(金)23時18分32秒
うむ。。今後の展開が楽しみですね。
がんがって下さい。
43 名前:吉澤ひとみ(17歳)の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)09時57分29秒


−1−



───なんだか気分が冴えないまま部活に出た。

部室で救急箱をロッカーに閉まってると、市井先輩が入ってきた。

「おう、吉澤!あれ、髪切ったんだ?」

「お疲れ様っす…」
中途半端に挨拶しちゃったなと思ったら、案の定、おもいっきり頭をはたかれた。

「痛っ」

「新入部員も入ってきたんだからシャキっとしろよ!」

「へい…」

「声が小さい!」

「はい!」
ってか、あたし…今は気分が沈んでるんすよね…。

市井先輩は夏の大会の後、飯田先輩の跡を継いで、部長となった。
と同時にあたしは副部長に選ばれた(いや、させられた…)
去年は市井先輩が副部長だったから、次の部長はあたし?!
と考えるのは、今は忘れておこう…。
44 名前:吉澤ひとみ(17歳)の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時00分10秒
市井先輩との出会いは中1の秋だ。
おばあちゃんが亡くなって、実家に戻ってきたあたしは、
真希たちが通う公立の中学ではなく、私立のこの学校に編入した。

小学校の頃からずっとバレーボールやってたし、
向こうの中学でもバレーを続けたあたしは
迷うことなくこの学校でもバレーボール部に入った。
それにしても、この学校のバレーボール部は強かった。
市井先輩が3年の時には、全国大会にも出場した(一回戦で敗退したが…)。
先輩はそんなに背が高い方ではなかったけども、バレーはすごく上手かった。
いわゆる部員達の憧れの的。
よく部活が終わった後、先輩が告白されている現場をみかけたものだ。
(まあ、女子校ならではの光景だけど)
あたしも先輩みたいに上手になりたかったから、
だからどんなにキツイ練習でも耐えた。
お陰であたしは、市井先輩に並ぶ実力を手にした。
(自分で言うのは恥ずかしいもんだね…)
高校に進学しても、1年生で唯一レギュラーに選ばれたんだから
我ながら「かっけぇー」と思う。
成長したあたしを先輩はすごく誉めてくれて、それがすごく嬉しかった。


45 名前:吉澤ひとみ(17歳)の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時04分36秒


「吉澤、先にコートに行っててよ。着替えたらすぐに向かうからさ」
ブラジャー姿だった先輩に、一瞬ドキっとしてしまう。


「あの…先輩…」

「ん?」

「爪切り持ってますか?」

「は?爪切り?救急箱に入ってんじゃないの?」

「それが見当たらないんすよね…」
普段、救急箱に入っているはずの爪切りは誰か片付け忘れたのか、なくなっていた。

「でも、そんなに爪伸びてないじゃんか。それ以上切ったら深爪もんだよ」

「いやぁ、ちょっとでも伸びると何か落ち着かないんですよ…」
いや、普段ならこれくらいでも我慢してるはず。

「保健室なら、あるんじゃないの?」

「ああ、そうですね」
と言って先輩を見ると、ブルマを履くところだったので、慌てて目をそらした。

「でも今日は圭ちゃん休みだから、鍵開いてないかもしれないよ?」
圭ちゃんとは、ケメコ…。
いや、保健の養護教諭兼、我がバレーボール部の顧問でもある。

「じゃ、職員室に寄ってみます」といって部室を出ようとしたら

「あんま長居してサボんなよぉ」
先輩の言葉に、その手もあるなと思ってしまう。

46 名前:吉澤ひとみ(17歳)の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時13分27秒


−2−


職員室に向かう途中の渡り廊下で、真希に会った。

「んあ、これから部活?」
いつもより、スカート丈の長い真希の姿は珍しい。

「その前に保健室の鍵を取りに職員室に…真希は?」

「進路指導室に…ハゲに呼び出しくらったんだよね。ちぇっ。あたしもひとみのクラスが良かったなぁ」
なるほど、だからスカート丈を戻したんだね。

「まあ、みっちりと、ハゲタカに絞られてきて下さいな」
ハゲタカは、真希と梨華ちゃんの担任のあだ名。ただ単に禿げてる理由で…。

「ねぇ、もちろん、いちーちゃんも練習してんだよね?」
真希は、あの天下の市井先輩のことを「ちゃん付け」で呼びやがる。

「いちーちゃん様は部長ですから」

「あは。じゃあ、あとで見に行っちゃおうかなぁ」
ああ…真希が嬉しそうだ。

「練習の邪魔をしないならどうぞ」
あたしは何気なく真希の指先を見た。
部活にも運動にも興味のない真希の長い爪は、キレイに手入れされていた。

47 名前:吉澤ひとみ(17歳)の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時17分35秒

「なーんてね。今日は、あたしデートなんだよね」
真希は、この前の春休みに彼氏が出来た。
先週、たまたま家の近くで会った時にその彼の事を紹介されたけど、顔も名前も忘れた。

「タカシがね、ひとみによろしくだって」
ああ、タカシって名前だったっけ。

「こちらこそ、へっちゃら平家ヨロシクよっ…いや、何でもない」

「ってなことで、早く行かないと。ハゲタカ校内放送で呼び出しそうだから」

「うん、じゃーね」

そのまま真希と別れようとした時
「あっ、ひとみ!」

「ん?」

一瞬、何か躊躇してる様子だったけど、すぐに言葉を口にした。
「梨華ちゃんに…ちゃんとメールしてあげてね。
 『ひとみちゃんメールくれるかな?』って楽しみにしてたからさぁ」

真希は、梨華ちゃん思いだな…。

「うん、分かった。ちゃんと送るよ」
親指を突きたてながらそう答えると、真希も同じポーズを返した。

大丈夫。真希に言われなくたって、あたしは梨華ちゃんにメールする事は忘れていない。

48 名前:石川梨華の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時30分02秒


−1−



「あれ?」

図書室の窓から何気なく渡り廊下に視線を向けると、
ひとみちゃんと真希ちゃんの姿が目に入った。

何を話しているんだろう?

真希ちゃんの呼び出しの事かな?

もしかして、しつこくまた私の携帯ネタ?

でも…それだったらちょっと嬉しいかも。




2年生になると、私は部活を辞めた。
テニスを続けたかったけど、私はあまり勉強が得意ではない…。
両親は、私が大学に進学する事を望んでいる。
その為には、私は人より努力をしなければならない。

最近は放課後、こうして図書室で勉強をしている。
たまに真希ちゃんも付き添ってくれるけど、いつも机に伏せて居眠りしてるだけ。
真希ちゃんにとっての学校とは、寝るだけの場所なんじゃないか?って思ってしまう。

49 名前:石川梨華の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時32分32秒

とりあえず、今日の授業内容だけはまとめてから帰ろう。

英語、英語、英語………。

えっと…やっぱ先に古文から手を付けようかな。


カバンを開けると、真新しいピンクの携帯電話が目に入った。
お昼の、ひとみちゃんの言葉を思い出してしまう。

────『梨華ちゃん、夜にでもメールするよ』


ひとみちゃんがメールをくれるということは…ということは?

私は、ひとみちゃんにメールを返信するということ…。

「!!!」


今日はもう帰らなきゃ。私にはやる事があるんだ。
勉強なんかよりも、先に学ばなきゃならない。

『メールの漢字変換』を。

50 名前:石川梨華の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時39分51秒


−2−


昇降口に着くと、何となく隣のクラスのロッカーに視線を向けた。
たまに真希ちゃんは、勝手にある人のロッカーを開けて確認する事がある。
私はいつも「真希ちゃん止めなよ」って注意してるんだけど、
今日は私も真希ちゃんと同じ事をしたくなってしまった。

誰かいないか、思わず周りを確認してしまう。

(開けてすぐ閉めるだけだから…)
(そんなの見てどうするの?)

(今日も入ってるのかなって思って…)
(ラブレターをチェックするなんて趣味悪いよ)

(大丈夫、誰も見てないし)
(見てる見てないの問題じゃないでしょ!)

そんな思いが交錯した。

51 名前:石川梨華の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時42分47秒

───『 H.YOSHIZAWA 』


ロッカーに書かれた名前を見るだけでドキドキする。
(私って変なのかな?)
(はっきり言って変態です)
(そんなはっきり言わなくても…)

目を閉じて深呼吸。
でも最後にもう一度周りを確認…。
(誰もいない、よし!)

『ガッ』

…………。(あれ?もう一回)

『ガッ』

…………はぁ。

(石川さぁ〜ん、そのロッカーは鍵が閉まってますよぉ〜)
自分で自分へのツッコミ。

恥ずかしくなって、慌てて自分のロッカーに戻った。

(…一体、私は何をやっているんだろう…)
52 名前:石川梨華の放課後 其の一 投稿日:2002年06月15日(土)10時48分22秒

校舎を出るとテニスコートに目を移す。
スコート姿の元仲間達。
テニスがすごく大好きだった。
私が勉強できる子だったら、今頃あそこで一緒に練習していたのに…。

私の視線に気付いたのか、テニス部の子が手を振りながら叫んだ。
「梨華、もう帰るのぉ?」

「うん!」

「気をつけて帰ってね!!」

「うん!バイバイ」

「バイバーイ!!!」

自分がその輪にいないことに、妙な虚しさを感じた。

成績があがったら、お母さん…またテニスやってもいいですか?
私、一生懸命お勉強、頑張るから…。




「石川ぁ!」
背後から声を掛けられて、振り返る。

(私ってタイミング悪いなぁ…)

何となく会いたくない人…飯田先輩がそこにいた。

53 名前:PUNK 投稿日:2002年06月15日(土)11時21分04秒
更新は以上です。
次回は、「梨華ちゃん放課後」の続きからです。


>>39 ごまべーぐる様
レスありがとうござマッスル。
吉澤さんには、苦労をかけさせちゃいましたが、
これからもっと…いや、救ってやりたいのが本望です。(笑)
あと、某板の作品、拝見させて頂いております。m(__)m

>>40 ニコル様
レスありがとうございます。
純粋な吉澤さん…まあ、
「純粋な瞬間を〜♪あなたは〜♪知ってるぅ〜♪」ってなことで(意味不明)

>>41 名無し読者様
レスありがとうございます。
感動して頂けて何よりです。(:_;)
続きも頑張りますよ〜!!!よぉーし。

>>42 名無し読者様
レスありがとうございます。
今後の展開…。本当、どーなってしまうんでしょう。(己がな…)
がんがって、日々、更新していきたいです。はい。
タバコの誘惑。。。「誘惑しているのは私〜♪」(ゆ・う・わ・く)より


また今宵にでも、更新します。メイビー。
54 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月15日(土)17時07分17秒
今宵を楽しみにしてるぜ!
55 名前:姫子 投稿日:2002年06月15日(土)19時19分45秒
切ないのにさわやかな感じがして面白いです。
ちょっとした言葉の選び方がいいです。好き。
56 名前:姫子 投稿日:2002年06月15日(土)19時21分30秒
ごごごごごごめんなさい!!
sage忘れちゃいました。
どうしよう・・・・オロオロ。
57 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月15日(土)20時43分45秒
いしかーさんのひとりボケ&ツッコミがいい感じです。
読んでいただいてありがとうございますm(__)m
58 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時08分12秒

「今、帰り?」
「はい。先輩も終わったんですか?」
「うん。一緒に帰ろうよ!」

「あ…はい」
嘘ついて断れば良かったかな?
この人と、どんな会話をすればいいのか分からない…

「実はね、圭織、免許取ったんだ」
満面の笑みを浮かべる先輩。とても優しい笑顔だ。

「すごいですね!」
私も精一杯の笑顔で答える。

「でしょ?で、今日は車で来たの。だから石川を家まで送ってあげるよ」

(先輩の運転で家まで?)
「えっ?いや、あのぉ…。いいですよ。駅までとかで」

「…もしかしてさぁ。今、圭織の運転には乗りたくないって思ったでしょ?」
(さすがぁ、先輩。その通りです!)

59 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時10分31秒

…それにしても、身長のある飯田先輩の睨み顔には迫力がある。

「いや、そんな事ないですよ…。
 ほら、だって、うちまでの道のりとか分からないんじゃないかなぁと思って…」

よく真希ちゃんに『梨華ちゃんはいい訳が下手だよね』って言われるけど、
今回は中々、上手ないい訳だったと思う。
でも、その言葉は墓穴を掘る形となった…。


「大丈夫、任せてよ!だって、石川んちって、吉澤のとこと一緒でしょ?」


そっか…

そうだよね。

ひとみちゃんの家を先輩が知らないはずない。



だって、二人は付き合ってるんだもんね。


60 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時13分36秒

飯田先輩の車は、可愛らしい黄色の車だった。

「石川…」

「はい?」
先輩、そんな真面目な顔されてどうしたんですか?

「ちゃんとシートベルトするんだよ」

「?はい」
シートベルトは…ちゃんとしてる。
うん。OK。

「じゃ、出発するからね」

「はい…」
どうぞ出発して下さい。

「覚悟は…いい?」

「へっ?」
先輩の顔つきが変わった気がした。
も、もしかして…。この人は、ハンドルを握ると人格が変わるのでは…!?


───と思った不安はすぐに解消された。

61 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時17分31秒

「あははははは」

「もう、笑わないで下さいよ…」

先輩の車、黄色のビートルは70年代に生産されたものらしく、
そもそもあまりスピードは出ないらしい。

「だってさぁ、あははははは」
一瞬、先輩はスピード狂なんじゃないかと疑った私が、
「先輩!お手柔らかにお願いします!!」と言ったことが、
どうやらツボに入ったらしい。
お昼の時といい、今日はこの人に笑われっぱなしだ…。

「ああ、可笑しい。だって、吉澤が初めてこの車乗った時もね、さっきみたい騙したの。
 そしたら『先輩、落ち着いて下さい。いいですか?先輩落ち着いてくださいよ』って
 真顔で言いやがんの。あはははは」

やっぱりひとみちゃんもこの車に乗ったんだね。
今、私が座ってるこの助手席に…。
ひとみちゃんは、何回乗ったことあるんだろう?
ドライブとか行っちゃったりするのかな?
そして、別れ際に…車の中でキスとかしちゃうのかな?
62 名前:石川梨華の放課後 投稿日:2002年06月17日(月)03時21分04秒


…………。

勝手に、先輩とひとみちゃんのキスシーンを想像してしまい、恥ずかしくなった。
頭を切り替えなきゃ。

「そういえば、短大生活って楽しいですか?」

「うーん…。4年制よりは大変かも。
 本来なら4年間かけて学ぶことを2年間で学ばなきゃならないし…。
 短大入ってから、全然遊びに行ったりしてないんだ。
 だって、毎日のようにレポート提出があるんだもん」

前向いて喋る先輩の唇をずっと見ていた。

艶のある厚みがかったキレイな唇…。
この唇に、ひとみちゃんの薄い唇が…。
また勝手に想像してしまう。

けど…今度は胸が痛んだ。

63 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時23分02秒


「じゃあ、デートも出来ませんね」

胸が痛んだ私は、核心に触れたくなった。ひとみちゃんと、先輩の関係…


「デート?誰と?」

「………ひとみちゃんと」

「………」

「だって、ひとみちゃん普段は部活あるし。先輩も忙しいなら、なおさらじゃないですか」
私は何にムキになってるんだろう?


「…石川ってさぁ、吉澤からどこまで聞いてるの?」

「どこまでって…」

「圭織と吉澤の関係。どこまで知ってるの?ってこと」
先輩と目が合った。その眼差しの力強さに、思わず目をそらしてしまう。
64 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時26分35秒
「ひとみちゃんからは、何も聞いていないです。
 ひとみちゃんは私にそういう話しないですから…。
 でも、二人を見てれば私にだって分かります。
 付き合ってるんだなって事ぐらい…。みんなも噂してるし…」

「噂ねぇ…」

そう言ったっきり先輩は黙ってしまった。

無言が続いたまま、家の近くのコンビニに着く。
先輩はそこに車を止めた。

「ここでいいかな?」

「充分です。ありがとうございます」

「家の前まで送ってあげたいけど…。いつも吉澤はここでいいって言うから」

「こっから家まではすぐですから、大丈夫です」

「……あのさ、さっきの話だけど」

「はい…」

「圭織の口からこんな事、話していいのか分からないんだけど」

「はい…」
すごくドキドキする。聞きたくないけど、とっても聞きたい。
自分が傷つくのが分かってても…知りたい。
65 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時30分25秒


「その前に…」

先輩は、何かを覗うような表情で私を見た。



「石川に一つ質問してもいいかな?」

質問?先輩が私に??
「何ですか?」

「答えたくなかったら、答えなくていいけど」

「はい…」
何を聞かれるんだろう?違う意味でドキドキしてきた。

「石川はさぁ、吉澤の事どう思ってるの?」

「えぇ?!」

それを私に聞くんですか?

私がひとみちゃんをどう思ってるか?

私がそれを答える?

でも答えなくてもいい?どっち?

私は答えるの??

なんて答えればいいの???

66 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時33分58秒

「ど、どうって…いや。ひとみちゃんは、そのぉ…私は、ひとみちゃんとは、普通の…」

自分の顔がどんどん赤くなっていくのが分かった。


「普通の?」

俯いてしまう私の顔を伺うように見る先輩。
何だか誘導尋問を受けてるような気分…


「普通の…友達で…」

全てを見透かされてる気がした。
私が返答に困れば困るほど…


「普通の友達?」

この人は、私の気持ちを知っててこの質問をしてるんだ…。
嘘をついたって意味がないよね…。


「普通の…友達…普通の友達以上に…私は…好きで…。
 好きなんです。私は、ひとみちゃんの事が好きで…」


最後まで自分の想いを口にすると、不思議と恥ずかしさはなくなった。
逆に、自分が強くなれた気がする。
何に対してかは分からないんだけど、自分を誇れるような思い。
67 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時37分17秒


「…だから知りたいんです。ひとみちゃんと先輩がどういう関係なのか」
私は顔をあげて先輩と視線を合わせた。

そう、私は知りたいんだ。
ひとみちゃんのことが好きだから。


「ふふふ。石川は素直だね。なんだか圭織は嬉しいよ」

ライバルであるはずの人物に誉められても、何故か嫌な気はしなかった。
たぶん先輩の笑顔が優しすぎたから…。


「圭織と吉澤がどんな関係…。うーん、確かに普通の先輩・後輩の仲じゃないと思う。
 でも『付き合ってる』という訳でもない…」


(『付き合ってる』という訳でもない…)

先輩の言葉が頭の中で繰り返された。


「しいて言うなら『需要と供給』『ギブアンドテイク』ってとこかな」

「ギブアンドテイク…」

「そう。『誰かを愛したい』圭織と、『誰かに愛されたい』吉澤」

「………」
誰かに愛されたいひとみちゃん…。

68 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時40分37秒

「石川だって知ってるでしょ?吉澤が親元離れて、田舎暮らししてたこと」

「それは、ひとみちゃんが…すごいお祖母ちゃん子だったから一緒に暮らしてたって…」

「ねえ。いくら、お祖母ちゃん子だからって自分の子どもと離れて暮らす親なんていると思う?
 吉澤はね、自分が親から捨てられたと思っているんだよ。吉澤は言ってた。
 『あたしは悪い子だから、親に捨てられたんです』ってね」


ひとみちゃんが親に捨てられた?…なんで?


「捨てられた思いがあるから…。自分はいらない子だって…。
 だから、圭織は「あなたは必要なのよ」って言ってあげるの。
 吉澤はその言葉が欲しいから、私の事を……」


先輩の大きな瞳が閉じられる。
そして、そのまま言葉を続けた。
69 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時46分36秒


「…言葉が欲しいから、吉澤は私を抱くの。抱かれた私はそれで満足。
 私はご褒美に『吉澤が必要だよ』って言ってあげる…。ね?需要と供給はそこで成立する」

普通に「付き合ってるよ」という言葉を聞いた方が、
私はここまで傷つかなかったんじゃないかと思ってしまう。
気付いたら涙がこぼれてた。けど、それを拭う気力がない…。

涙に気付いた先輩は、私の頭を胸元に引き寄せて、抱きしめた。

「どうしてぇ?石川ぁ泣かないでよ…ごめんねぇ…。石川に泣かれると圭織も悲しくなるよぉ」
70 名前:石川梨華の放課後 其の二 投稿日:2002年06月17日(月)03時48分52秒


私は何が悲しいのだろう?

二人の関係を知ったから?
違う。

親に捨てられたと感じてるひとみちゃんへの同情?
違う…
違う!違う!!違う!!!

私が悲しいのは…

大好きなひとみちゃんの事を、何一つとして知らないからだ…。



「っうう…私…私は…ひとみちゃんが好きなのに…っうく…」

先輩は、私が二人の関係を知って悲しんでいると思ったのかもしれない。
私の頬を両手で包んで持ち上げるとこう言った。

「ねえ、石川。石川が吉澤を助けてあげて。圭織はもう…吉澤に何もしてあげれないんだ」

先輩の伸びた爪が頬にささって、ちょっとだけ痛かった。

71 名前:PUNK 投稿日:2002年06月17日(月)04時11分03秒
更新終了です。
うーん、難しい。
一度書いても、読み直すと変な内容で…
で、また書きなおして読み直すと訳分からなくて…。
そんなの繰り返して、もういいや、これで。最初のインスピレーションが当たてるんだ!
と言い聞かせて、更新しました。それでいいのか、、、。反省。。。

>>54 名無し読者様
レスありがとうございます。m(__)m
更新遅くなり申し訳ございません。
メール欄。これが一番時間掛かってたりするかもです。(笑)

>>55、56 姫子様
レスありがとうございます。
内容全体が暗くなりすぎるのが嫌なので、ちょっと、梨華ちゃんに「笑い」を求め。。。
age、sage、mage、hoge etc…気になさらないで下さい。
こんな駄文が上にあるのが恥ずかしいだけなので。
姫子さんってもしかして、「UWASA」の「姫子」さんですか?

>>57 ごまべーぐる様
レスありがとうございます。
いしかーさんは、「己」を知ってる人だと私は分析してるんですよ。
自分が「笑い」を取れるってことを知ってる。
だったら、笑わせてもらいましょうってことで。。。(笑)
ごまべーぐるさんの作品…。鼻に詰め物しながら読んでます。はい。
72 名前:オガマー 投稿日:2002年06月17日(月)04時53分49秒
だんだん吉の現状があきらかになってきましたね。
はじまった時から読ませて貰っています。
今、一番楽しみな作品かもしれません。
次の更新も楽しみにしています。
73 名前:姫子 投稿日:2002年06月17日(月)11時53分04秒
切ないのに暗く感じないのはサブタイトルの妙でしょうか。
後藤さんがどう絡んでくるのかもちょっと楽しみです。
ぼろぼろになっていく吉澤さんがツボなので激しく期待(笑)
74 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)17時52分00秒


−1−


職員室で鍵を借りてから保健室に向かったものの、
爪切りを探し出せずにいた。
「ケメ子め…どこに閉まってるんだか…」

結局私は爪切りを探しを諦めて、
誰もいないのをいいことに保健室のベッドに寝転がった。

(あと10分したら戻ろう…)

そもそも、爪なんて伸びていた訳ではない。
腹を立ててるだけなんだ。
そう、あたしは飯田先輩の長い爪に対して腹を立ててる。

75 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)17時54分10秒


−2−

昼食後、あたしと先輩は車の中にいた。
何で車の中なのか?
二人っきりになりたかったから?どーだろう?
車内に乗り込むと先輩は、私の首に腕を絡めて顔を近づけてきた。
キスされると思ったから、目を閉じる。
だけど、先輩は…笑い出したんだ。

「何がそんなにおかしいんですか?」

屈辱的な気分だった。

「ん?いや、なんでもないんだけどね。目を閉じた吉澤はキレイな顔だなぁって思ってさ」
この人は、あたしを怒らせたいのだろうか?

76 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)17時57分20秒


「人をからかって面白いですか?」

「ん?別にからかってなんかないよ…」

といって先輩は自分の爪先を見る。
去年の夏まで短く切られていたはずの長い爪には、赤いマニキュアが塗られていた。
先輩はバレーボールをもうやらないのかな?



「吉澤に質問です。顔が近づいてきたら、キスをする。マルか?バツか?」

突拍子もない質問をされて、
いつもならキレイだなと思えるその笑顔をむちゃくちゃにしたくなった。



「マル」

私はそう答えて、やや強引に先輩に口づけた。
彼女は抵抗しない。いつだって、素直にあたしを受け入れるから。
舌先で先輩の下唇をなぞりながら、指で口を開かせる。
そのまま、口内に舌を滑りこませる。
舌が絡み合ういやらしい音が、脳内に響き渡った。


77 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時02分54秒


突然、先輩は両手であたしの頭を抱え込み、
そのまま髪の毛を鷲掴みして思いきり引っぱり上げた。

唇と唇が離れる。
そのままの状態で先輩と見つめ合った。


しばらくの沈黙の後、先輩が口を開く。

「圭織には…もう吉澤が必要じゃなくなりました。
 それでも、顔が近づいてきたら…キスをする。マルか?バツか?」


これが別れ話なんだということはすぐに分かった。
先輩があたしを必要としてない。
それは、あたしがもう先輩を抱かないことを意味する。

78 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時11分35秒

先輩の長い髪の毛に指を絡ませるのが好きだったな…
すっごくサラサラなんだ。

大きな瞳に、自分が映るのが嬉しかった…
私を見てくれるんだって実感出来たから。

細い首筋…一度、キスマーク付けたら叱られちゃいましたね。
あの時はごめんなさい。

先輩の指先…。前は短かったのに。
伸びた爪が背中に刺さるのは、結構痛かったです。


「マル…」

私は、再び先輩にキスをする。
唇と唇が触れるだけの、優しいキスを。


「でもこれは抱くためのキスじゃなくてお別れのキスだから…」

先輩がロマンチストだからカッコ付けたけてみたけど、
ちょっと臭いセリフだったね。
自分で言っておきながら、可笑しくなって笑ってしまう。

79 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時14分38秒


「よかった、吉澤が笑ってくれて。もしかしたら泣いちゃうかなって思っちゃった」

「泣きませんよ、吉澤は。大丈夫です」
ええ、泣きませんよ。吉澤は泣きませんとも…。


「じゃ…もう、お昼休み終わるし…。吉澤…、元気でね。うん、これからも頑張って…」

「頑張ります。じゃ…」



最後って結構あっけないものだ。
「やっぱ最後にもう一回」と言ってキスしてみるとか、
はたまた「嫌だ、あたしには先輩しかいないんだ」と言ってすがり付いてみるとか…。
もしくは何も言わず涙を流してみるとか…。

あたしには『未練』というものはないのかな?

80 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時18分41秒


(もう吉澤は必要じゃなくなりました)

何?あたしはまた独りになるの?
車を出てから私に襲いかかってきた感情は、先輩を失った悲しみではなかった。
再び、独りになる事への寂しさ…。
そう、孤独感…。


あ、やべ、何か涙出そう。
違う事を考えるんだ、吉澤ひとみ!

81 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時21分30秒


(これからも頑張って)

頑張って。何を?勉強?バレーボール?
ああ、バレーボール辞めた人になんか言われたくないねぇ。
ちくしょう。先輩の長い爪、ありゃ何なんだよ?
バレーボールやめた途端、爪なんか伸ばしやがって。
あたしだったら、バレー辞めたって伸ばしたりしないよ。
絶対に。バカバカしい…爪なんか。


孤独を感じない為に、先輩の爪に八つ当たりするあたし。

大丈夫、孤独なんかじゃない。

長い爪が憎いだけだ。

爪に腹を立てておこう。


82 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時25分36秒


−3−


どうやら、あたしは居眠りしていたみたいで外はだいぶ陽が落ちていた。
慌てて、保健室を出ると鍵を返しに職員室へ向かう。
その途中、廊下に壁掛けられている鏡に映った自分の顔を見て驚いた。
あたしの目元が濡れていたから。

(泣いてたんだ…)

あたしって眠りながら泣けるんだな。
起きてると泣かないのにね。



鍵を返した後、顔を洗った。
泣き濡れた顔で、部活に出るわけには行かない。
体育館に着くとすでに練習は終わっていて、新入生たちが後片付けをしていた。
あたしは随分長い間、居眠りをしていたらしい…。

83 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時28分26秒

「ねえ、みんなはもう帰ったの?」
新入生の一人に声を掛けた。

「あ、お疲れ様です、体調大丈夫なんですか?先輩達は、もう部室に戻られましたよ」

「へ?体調?」

「さっき部長が吉澤先輩を呼びに行きましたけど、具合が悪くて寝てるって…」

「ああ、体調ね。うん、大丈夫。もうバッチシ」
どういう事がわからなかったけど、そういう事になってるらしい。
だったら、そういう事にしておこう。
にしても、保健室にあたしを呼びに来た市井先輩…。

ということは、あたしが寝ながら涙流しているとこを見られた?

84 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時32分18秒

部室に戻ると、もうみんな帰った後だった。
とりあえず着替えようとロッカーを開ける。

…ない。

自分の荷物がない…。
あれ?どうしてないんだ?


「吉澤の荷物はここにあるよ」

振り返ったら、その声の主はあたしの荷物を持っていた。

「あっ。市井先輩…」

「保健室にさ、荷物持っていってやろうと思って。
 したら鍵閉まってたから、ここにまた戻ってきた」

「すみません…です」

「早く着替えなよ。一緒に帰ろう」

「…はい」

85 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時38分27秒


−4−



帰り道、あたしと先輩は他愛もない話をした。
新入部員のこと。今度の大会のこと。
圭ちゃんに彼氏が出来ないのは色気がないからだ、とかそんなことを。(すまんケメ子)
先輩はあたしに何も聞いてこない。
保健室にあたしの様子を見に来たはず。
けども、あたしを起こさないで、具合の悪い事にしていてくれた。
たぶん、眠っているあたしが泣いていたから…。

この人の気遣いが心に染みた。


「先輩、今日は…あの、すみませんでした」

「ん?何が?」

「いや、そのぉ…部活さぼって…。気付いたら寝ちゃってて。すみませんでした」

「ああ…うん。まあでも、次サボったらグランド100周な」
と言って笑う先輩。どこまでも優しい人だと思う。

86 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時41分32秒


「何で…聞かないんですか?」
自分から話を振ってみた。


「何でって?何を?」

「あたしが泣いてた理由…」
何も聞かれないと、自分から話したくなるものだ。


「うーん…。じゃあ、何で泣いてたの?」
あまり興味が無さそうな言い方。
気を遣ってるのではなく、本当に興味がないだけなのかもしれない…。


「自分でも判りません…」

「ふ〜ん…」
ふ〜んって…。それだけですか?


「…あのぉ、普通そういう時は『隠さずに話してみろよ』とか
『泣きたい時は泣けばいいさ』とか。そういう事言いませんか?」
あたしは、何を言ってるんだ?
87 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時45分44秒

「じゃあ、隠さずに話してみろよ」

「それは嫌です…」

「…じゃあ泣きたい時は泣けばいいさ」

「……そうですね」

「うん…そうだよ」
もしかして、泣いていたあたしを心配して保健室に荷物を届けようとしてくれたり、
こうやって、一緒に帰ろうって言ってくれたのかもしれない…
なんて感じてしまった自分が恥ずかしい。

この人は、他人のことにあまり興味がないんだ。
…って、あたしは同情されたかったのかな?



「じゃ、ウチこっちだから」

「はい、また明日…。お疲れ様でした」

交差点で先輩と別れて、一人で家に向かう。
結局先輩には何も話さなかった。
人には人のルールがあって自分には自分のルールがあるんだ。
先輩は、あたしが泣いても自分のルールに沿って理由は聞かない。
下手な同情を貰うより、そっちの方が楽な時もある。

88 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時49分54秒


「ちょ、待って吉澤!」
振り返ったら、交差点で別れたはずの先輩がすごい勢いで走ってきた。


「あ、先輩?どうしたんっすか?」
何事だろう?やっぱ、さっきのことを気にしてくれたのかな?


「はぁはぁ。ごめん。吉澤に、話さなきゃいけない事があるんだ…」

「は?話?」

「本当は、何で吉澤が泣いていたか…気になった」

「……」

「でも、聞けなかった…」

「…はい」

「何となく分るから…吉澤が泣いてた理由…」
泣いていた理由が分かる?なんで先輩が?
89 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時55分48秒



「部長…じゃないや…。飯田先輩…」

「………」


「…飯田先輩取ったんだ吉澤から。…二人のことを知って…知ってるのに」

「………」

「知ってるのに、あたしは飯田先輩と寝た。ごめん…」


ああ、やっぱこの人はいい人だと思う。
あたしに泣いていた事に興味がなかったんじゃない。

同情していてくれた。
だから保健室に迎えに行ったり、一緒に帰ってくれたり…。
自分のせいで、あたしから飯田先輩から捨てられたから同情してくれてるんだ。

独りぼっちなあたしへの同情…。
あははははは、人の作るルールは面白い。


「いいんです。あたし達、付き合っていた訳ではないですから…」

あたしが、笑顔を見せたからであろう。
先輩は、一瞬ほっとした表情を浮かべる。
けど、なんかそれがムカついた。

90 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)18時59分59秒


「あは。でも先輩も飯田先輩と寝たんですね。
 どうでした?飯田先輩…圭織は首筋が弱いですからね。
 でも首を攻めると言葉では嫌がるのに、いやらしい声あげる淫らな人ですよね」


「吉澤…そんな言い方やめろよ…」


「あ!それとも市井先輩が受身だったんですか?それならあたしも、試してみたいな。」

市井先輩の首筋を指先で撫でてみた。
怖い物を見るよう先輩の顔。
そんな怖がらないで下さいよ。
ちょっとからかってるだけですから。



「そんな先輩に質問です。顔が近づいてきたらキスをする。マルかバツか…」

そう言ってあたしは先輩に顔を近づけた。
先輩の顔がどんどん強ばっていく。
唇と唇が触れそうになった時、先輩は思いきりあたしを突き離した。


「ふざけんなよ!あたしと飯田先輩はお前とは違う!一緒にすんな」
その言葉を聞いて、なんか嬉しくなった。
91 名前:吉澤ひとみの放課後 其の二 投稿日:2002年06月18日(火)19時03分43秒



あたしは飯田先輩や市井先輩とは違う。

一緒じゃない…。



「ご安心下さい。あたしと飯田先輩は所詮こんな付き合いでしたから。
 市井先輩の方がお似合いですよ。そこに『愛』があるって感じで。どうぞ末永くお幸せに」

ニコリと微笑んでから、先輩に背を向け歩き出した。
今、先輩はどんな表情してるんだろ?
すごい怒ってるんだろうな。
ごめんなさい先輩、悪気はなかったんですよ。
なんかね、同情された事に腹が立って…。



…いや、違う…。

ん、何が?



ああ…やっぱ、あたし…飯田先輩に『未練』たっぷりなんだ。


92 名前:PUNK 投稿日:2002年06月18日(火)19時16分16秒
更新終了です。
次回はごちーん視点になります。
今のところ絡みの少ない後藤さんですが、今後はキーパーソンとして頑張ってもらう
予定は未定…。(どっちだ?)

>>72 オガマー様
レスありがとうございます。
オガマー様の作品も拝見させて頂いております。
そして、アヴァンチュールがひと夏だけでないことを祈ってます(笑)。

>>73 姫子様
サブタイトルなくても別に構わないんですけどね。
誰の視点かが分かりづらくなるかと思ってんで、てきとぉーに…(悪い癖ですが)
姫子さんの作品、切ない吉に涙涙です。
石との掛け合いもすんげぇ、面白いですね。

ってなことで、夜中頑張れたら再度更新しま…?
93 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月18日(火)20時32分03秒
本編もよいですが…(『爪のせい』って言い訳が若造だ、吉澤(w)
自分的にはメール欄劇場にバカウケですた。
保紺、激しくキボーン 川o・∀・)<アヒャッ 
94 名前:オガマー 投稿日:2002年06月19日(水)00時40分11秒
なんとも言えぬ
微妙な2人?(笑)
吉が切ない…っぽぃ
僕の読んでくれてるなんて嬉しいです!
作者さま、がんがってください。夜中の更新…またあるかな??
95 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)21時56分13秒


−1−


怒りが覚めやらぬまま、道を歩く。
冷静になろうと、あたしは今日の出来事を振り返ってみた。


朝、梨華ちゃんと一緒に登校。徒歩で20分。今日は遅刻しなかったんだよね。

1時間目…何の授業だったかな。確か英語。「ぐっともーにんぐ、えぶりわん」って言ってた。

2時間目…音楽。梨華ちゃんの音痴な歌声を聞かされたから覚えてる。

3時間目…うーん。何の授業だったかな。歴史?覚えてない。

4時間目…古文。昼食前は腹が減って眠りが浅かった。

お昼…うどん食べた。梨華ちゃんからローキャベ貰った。で、飯吉カップルと相席した。

5時間目…食後なので異常に眠かった。授業は…記憶なし。

6時間目…睡眠続行中の為、記憶なし。

ホームルーム…机に伏せてたらいきなりハゲタカに出席簿で頭を叩かれた。
「後藤、あとで進路指導室に来なさい!」
96 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)21時59分18秒

たぶん、この呼び出しから、ついてなかったんだよ。
これが無ければ今ごろもっと楽しい気分だったのかもしれない。

「授業中なんでずっと寝てるんだ!」とか、「スカートの丈の短さは校則違反だろ!」とか、
「その髪の色明るすぎるぞ!」とか。
ハゲタカの小言を1時間も聞かされた。ってか、1時間もだよ?
あいつはちょっとサドの気があるんじゃないかな。
若い女子高生を叱ることで喜びを得てるとしか思えない。うげ、気持ち悪りぃ。

で、ハゲタカから解放された時、タカシとの約束時間はとっくに過ぎてて。
携帯チェックしたら7通のメール。

(今どこにいるの?)

(おーい、まだかよ?)

(ノド渇いたのでお茶してる)

(アイスコーヒーも飲み終えちゃうよ)

(お前もしかして忘れてる?)

(どーでもいいけど携帯の電源くらい入れとけよ!)

(もういい)


97 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時03分52秒


−2−


電話しても着信拒否されているらしくすぐに話し中になっちゃうから、
あたしはタカシの家に向かったんだよね。
で、タカシが一人暮らしするアパートに着いて…。
家には入れてくれたものの、もう完全に怒っちゃって何も喋ってくれない。
あたしは必死に謝って弁解して…
(っつーか、ハゲタカが悪いのに)

したら、アイツ…あたしの制服を脱がし始めて……
(結局それかよ!)って思いながらも
(これで許してもらえるなら)って。

あたしもバカなんだろうな。
まだまだ子どもだ。そんなんで流されちゃうんだから。
そうだ…今日も言えなかった。
避妊して欲しいってこと。
中に出す出さないの問題じゃなくてさ、そういうのは男の方で気を付けてもらいたいんだけどね。

って、こんな話はどうでもいいんだ。
アイツと寝てしまった事実は今更弁解してもしょうがない。
それはこの際置いておこう。

そうそう。腕枕をしてもらってたんだよね。うん。
で、あたしがあの話を始めたんだ。



98 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時08分58秒

「昨日ね、梨華ちゃんが携帯買ったんだ」

「梨華ちゃんって?」

「前に話したじゃん。隣に住む幼馴染みの梨華ちゃん」

「ああ」

「けど、梨華ちゃん携帯の使い方が分からないって言って、夜にうちに来てさぁ」

「うん」

「夜中の2時くらいまで携帯の使い方教えてあげたんだよ。
 だからあたし今日授業中ずっと眠かったの」

「うん」

「ねぇ、聞いてる?」

「うん聞いてるよ」

「で、授業中ずっと寝てたら担任に呼び出しくらってさ」

「うん」

「だから、今日遅れちゃったんだよ。ごめんね」

「うん」

「でもね。うふふ、梨華ちゃん面白いんだよ。メール送ると電話してくるの」

「なんで?」

「メール届いてる?って。で、あたしが返信するとまた電話してくるの。メール届いたよって」

「ふーん」

「しかも全部ひらがなのメールなの」

そういってあたしは、お昼同様、梨華ちゃんが送ってくれたメールを見せた。


『まきちゃんへ。けいたいでんわからのめーるです。りかより。』


99 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時17分02秒


後悔先に立たず…

転ばぬ先の杖…

えっと、死んでからの医者の話(違うか?)

メールなんか見せなきゃ良かった。
本当、あたしがバカだったんだと思う。


タカシはメールを見るなり、思いきり吹き出した。

「あっはっはっははっは。何なのコイツ?ちょっとバカなんじゃないの?」

「…え?」

「だってさぁ、こんな幼稚な内容のメール、全部ひらがなだし…。
 あはははは。お前と同い年なのにロクに携帯も使えないのか?」

「いや、違うよ、梨華ちゃんは…」
あたしは、きちんと説明しようとした。
なのにアイツはあたしの話を遮って…こう言いやがった。




「お前の幼馴染み、頭弱いんじゃないの?」




気付いたら、グーって思いっきりタカシの顔を殴ってた。
2,3発。いや、もっと殴ったかな。
顔を抑えて丸まってる裸の男をよそに、
あたしは急いで制服を着て、自分の荷物を持ってバカ男の家を出た。


100 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時22分05秒



悔しかった。
梨華ちゃんをバカにされた事。
何であたしは、あんなバカ男と今まで付き合ってたんだろ?
腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ!!!
あんな男に服脱がされて抵抗しなかった自分…。
すっかり酔いしれて、
調子に乗ってバカで低脳な男に携帯を見せてしまった事が一番腹立たしい。



梨華ちゃんはバカじゃない!

梨華ちゃんの頭は弱くなんかない!!




梨華ちゃんはただ…


ちょっとだけ…人よりも…


物事を記憶するのに時間が掛かる…


それだけの事なんだ…。



101 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時26分30秒



−3−


小学校に入っても、梨華ちゃんは自分の名前を漢字で書けなかった。
漢字どころか、算数の計算だって出来ない。

だから、いじめられた。
子供って残酷だよね。
梨華ちゃんは本当なら学年が一つ上であること。
なのに漢字も書けない。足し算も出来ない。
それだけの理由でいじめる。


いじめられる梨華ちゃんを見ていられないあたしは、悪口言う子達に刃向かった。
馬乗りになって殴りかかったこともある。
その度に梨華ちゃんは泣きながらあたしを止めた。

「私の努力が足りないだけだから。真希ちゃんケンカしないで」って。

勉強出来ない理由を、頭の怪我のせいには絶対にしなかった…。

102 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時28分17秒


梨華ちゃんはすごい頑張り屋さんだ。
学校から戻ると、その日の授業を毎日復習した。

あたしも、梨華ちゃんに付き添って一緒に勉強した。
弱気な梨華ちゃんを励ましたり、時にはきつく叱ったり。

そのうちに、梨華ちゃんは授業についていけるようになった。
2年生の時、初めて理科のテストで100点取った時は二人で喜んだよ。
あたしも自分のこと以上に嬉しかったし。

梨華ちゃんは頑張れば何だって出来るんだ。
その結果、こうやって高校にも進学できたんだから。


103 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時30分54秒



−4−


家に帰ると、お姉ちゃんとユウキが晩御飯を食べていた。

お母さんは、夜、仕事をしている。
うちには、お父さんがいない。
ユウキが生まれてまもなく、他界した。
あたしには写真で残っている優しそうな笑顔のお父さんの顔しか知らない。
優お父さんが、もし今も生きていたら、帰りの遅い不良娘を叱ってくれるのかな?

「お帰り。こんな時間までどこふらつき歩いてたの?ご飯は食べた?」
最近のお姉ちゃんはちょっと口うるさい。お母さんに似てきたなって思う。

「どうせ男んとこだよ。あはははは」
バカユウキ。殺す!
不出来な弟の頭にゲンコツを一発見舞わせてから、あたしは風呂場へ向かった。

あの男に抱かれて、シャワーすら浴びてなかったから。


104 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時34分10秒


ついさっきまで、あんなに大好きだった彼。
あたしたちは、確実に愛し合ってたと思う。
お互いがお互いを必要としてた。(たぶん)
プー太郎で、だらしのない男だったけど、愛さえあれば大丈夫だと思ってた。

けど、今は顔を思い出すのも嫌だ。
あんな男に溺れていた自分が情けなくなるほどに。

不思議だなと思う。
彼が梨華ちゃんのことを悪く言っただけで、
あたしの中ではランク外の男になってしまうのだから。



お風呂から出て、軽く食事を済ましてから部屋に戻った。
あたしの部屋の窓からは梨華ちゃんの部屋が見える。
梨華ちゃんの部屋には電気が点いている。
今ごろ勉強してるのかな?
ちょっと梨華ちゃんの顔が見たくなった。

たぶん、あたしがメールを見せてしまった事に罪悪感があるから。


105 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時39分09秒



−5−


石川家のチャイムを鳴らすと、おばさんが出てきた。
「あら、真希ちゃん」

「こんばんは」

「梨華なら部屋にいるわよ。どうぞ」

「お邪魔しまーす」
おばさんにお辞儀してから梨華ちゃんの部屋に向かう。



「梨華ちゃーん遊びに来たよ」

「きゃっ」
部屋のドアをノックしないで入ってたら、
机に向かっていた梨華ちゃんは携帯を片手に驚いた。

「もう、真希ちゃん。入るなら入るって言ってよ」

「あははは、ごめんごめん。何?まだ携帯いじってるの?」

「うん…漢字変換がね…」


あれ?お昼に「変換くらい出来るよ」と言ってたのに。
でも今はなんとなく突っ込むのを止めよう。

「どれ?ちょっと見せてみ」
ベッドに腰を掛けて、梨華ちゃんからピンクの携帯を受け取る。

106 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時42分48秒


「カタカナは打てるの。このボタン押せばカタカナ。もう一回押すとアルファベットで、これで数字でしょ?
 だけど漢字変換するには、どれ押していいのか…」

梨華ちゃんもあたしの隣に腰掛けた。

「うんとね、ここを押せばいいんじゃないのかな?」
あたしは適当な言葉を打ってから変換キーを押す。


「わあ、すごい真希ちゃん!」

「ほらね、漢字に変換するには、ひらがなで打ってからここを押せばいいんだよ」
梨華ちゃんは携帯を受け取ると早速自分でもチャレンジしていた。

「えっと…文字を打って…ここ押せばいいんだけ?
 あ!すごい。出来た!真希ちゃん、漢字変換出来たよ!」

携帯片手に喜ぶ梨華ちゃん。理科のテストで100点取った時みたいだね。

107 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時46分55秒


「そーいえば、ひとみからメール来た?」

「え?…いやまだだけど…」
さっきまで満面の笑みだった顔は曇り顔に変わってしまう。
聞かないほうが良かったのかな?


「帰りにひとみに会った時、念押しといたんだけどね」

「あ、渡り廊下で?」

「何で知ってるの?」

「いや、放課後図書室から渡り廊下で話してる二人が見えたから」

「そっか。でも大丈夫だよ。もうすぐ送ってくるんじゃないの?
 何なら梨華ちゃんから送ってみればいいじゃん」

「うん、でもひとみちゃん送ってくれるって言ってたし…
 私から送るとメールを催促してるみたいで恥ずかしいから…」

梨華ちゃんの頬が赤らんだ。梨華ちゃんって本当、ひとみが好きなんだね。


「ま、気長に待ってなさいな」

「う、うん…。そういえば、今日の呼び出し大丈夫だった?」

「あ、うん。ハゲタカに1時間も説教受けたよ。授業中寝てる事とかさぁ。」

「デートだったんでしょ。待ち合わせ遅れたんじゃない?」

「うん…。ま、それはいいじゃん」
タカシのことは話したくなかった。

108 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時51分16秒


「どうしたの?何かあったの?」
こういう時の梨華ちゃんは中々するどい。

「うーん…別れたんだよね。あはははは」
笑ってごまかしておこう。

「え?真希ちゃんも別れたの?何で?」

(真希ちゃんも?)
も??
も?って事は他に誰が?

「『も?』って他に誰か別れた人がいるの?」
不思議に思ったことを素直に質問してみた。

「あ…いや…。うん、知り合いがちょっと別れたっていうか…。
 でも、何で真希ちゃん別れちゃったの?高校卒業したら絶対に結婚するって…」

(知り合いって誰だ?)
ま、いっか。
「うーん。何かもう嫌になっちゃってね。だってロクに職につかない奴なんて先行き不安でしょ?
 あははは、いいんだよ、もう。よーし、次を探そう!」
意味なく拳を突き上げる。

とりあえず明るく振舞っておこう。
今回のことはあまり梨華ちゃんに触れられたくない…。


109 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時53分35秒

「真希ちゃん落ち込んでるんでしょ?だからうちに来た……
 って、ちょっと!どうしたの?これ!?」

梨華ちゃんは、突き上げたあたしの拳を手に取った。
拳には、出来立てのかさぶたがあった。
あたしもお風呂に入るまで気付かなかったんだよね。


「ああ…うん。別れ際、ちょっと殴っちゃったんだよね…えへへへへ」

梨華ちゃんは机の引出しからキティちゃんのバンソコウを取り出し、傷口に貼ってくれた。

「殴るって…真希ちゃん女の子なのに…。
 どういう理由で別れたのかは知らないけど、ダメだよ。もっと自分を大事にしなきゃ…」
そう言ってバンソコウの上から傷口を撫でる梨華ちゃん。

痛かった。すごく痛かった。傷口ではなく、あたしの胸が痛かった。
梨華ちゃん、ごめんなさい。ケンカするの大嫌いなのにね。
あたし、悔しくってさ。
あの男にメールを見せてしまった事が、梨華ちゃんをバカにされた事が…。


110 名前:後藤真希の放課後 其の一 投稿日:2002年06月19日(水)22時55分39秒



「やだ、真希ちゃん泣かないでよ…。大丈夫だから。
 真希ちゃんなら、またすぐにいい人見つけられるよ」

あたしの肩を抱きしめてくれる梨華ちゃん。
大切な大切なあたしの幼馴染み。



しばらくの間、梨華ちゃんの胸で泣き続けたあたしは、ふいに彼女の前髪を手で持ちあげた。

おでこと生え際の間にある、見るからに痛々しい梨華ちゃんの古い傷…。

あたしはそこに口付けをした。まるで何かの儀式のように。

悲しい事があると、あたしは梨華ちゃんの傷にキスをする。

そうすれば、あたしは自分を奮い立たせる事が出来るから…。


「ありがとう梨華ちゃん」

そう言って、梨華ちゃんの部屋を跡にした。


111 名前:PUNK 投稿日:2002年06月19日(水)22時59分35秒
更新終了です。
結構、本日、筆が進んだんで、明日とかに結構多めに…いや、嘘かな?

>>93 ごまべーぐる様
レスありがとうございます。
保紺劇場。今回もありますが、この二人で小説を書く事はありえそうにないです。(笑)
まあ、爪のせいにするよしざーさんは、まだまだお子ちゃまって事で。

>>94 オガマー様
吉を切なくさせたいが故に書いたようなもんです。(笑)
いやはや、オガマー様のサイトもROMらせて頂いてます。
日記?が面白いです。いしよしネタ。笑かせてもらってますm(__)m
112 名前:オガマー 投稿日:2002年06月19日(水)23時17分25秒
リアルタイーーム!!
で読んでました(笑)。
ウチのサイト来てくれてるんスか?ありがたいです…(T‐T)
しかも面白いなんて。
しかし、ここのごまはトテーモ優しいですね…なんか壊れものでも扱ってるような
そんなごまの姿にホロリ
113 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月20日(木)00時01分09秒
いしとごまの雰囲気がいいカンジっすね。
いっそこのまま…
いや、何もないです 無視して下さい…
114 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月20日(木)17時26分19秒
うう・・・泣ける・・(T▽T)
石もゴマも吉もみんな頑張れ・・
115 名前:就寝前の石川梨華 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)17時34分09秒


−1−


真希ちゃんが帰ってから、私は勉強をしていた。
それにしても、真希ちゃんがあんなに大泣きしたのは久しぶりだ。
よほど、彼との別れが辛かったんだろうな。
おでこの傷にキスをされるのも久々だった。
あの瞬間は…
私の傷に真希ちゃんの唇が触れる瞬間というのはとても胸が締め付けられる思いがする。
そして、最後に決まっていう言葉…

「ありがとう」───

それを聞くと、すごく悲しくなる。何でだろう…。

結局、真希ちゃんには、ひとみちゃんと飯田先輩の事は話せなかった。
飯田先輩は、私を信じて話してくれたんだと思うから。

116 名前:就寝前の石川梨華 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)17時37分39秒

そういえば、まだメールは来ない。
時計の針は11時を少し回ったところ。

(もう寝ちゃったのかな?)

私は、窓から向かいのひとみちゃんの部屋を見た。
カーテンは閉まってるものの、明かりは点いている。
ひとみちゃんは今、何を考えてるのかな?飯田先輩のことかな?
真希ちゃんみたいに、涙を流していたりするのかな?


飯田先輩との会話が思い出される。

(私は、ひとみちゃんの事が好きで…)

ああ、恥ずかしい。ついに口にしっちゃったんだね。
今まで真希ちゃんに
「梨華ちゃん、ひとみの事好きでしょ?」って聞かれても誤魔化してたのに…。

何であの時は、素直に自分の気持ちを飯田先輩に伝える事が出来たんだろう?

いつか、ひとみちゃん本人にも、私の気持ちを伝える日が来るのかな?


117 名前:就寝前の石川梨華 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)17時42分14秒



−2−


中学1年の秋に、向かいの家にひとみちゃんが戻ってきた。
初めて話をしたのは、真希ちゃんの家で遊んでた時だ。
大人びた顔立ちをする彼女は、とてもキレイな子だなって思ったのを覚えてる。
真希ちゃんは、ひとみちゃんとずっと手紙のやり取りをしていたみたいで。
再会して、気軽にお話する二人を見た時、
ちょっとだけ自分が仲間外れにされた気分だった。
ひとみちゃんがおばあちゃんの家に行く前は、3人で遊んだこともあったらしい。
残念ながら、私は覚えていないのだけれども。


118 名前:就寝前の石川梨華 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)17時44分55秒


一つだけ、幼い頃の記憶がある。

ひとみちゃんが、おばあちゃんの家に行く日。
真希ちゃんに手を引っ張られながら、ひとみちゃんの乗る車を追いかけた。
あの時初めて、真希ちゃんからひとみちゃんという子の話を聞いたんだ。
「りかちゃんもともだちなんだよ」って真希ちゃんは言ってた。


実家に戻ってきたひとみちゃんは、私立の中学校に通ったから、
私とはあまり会う事も話す事もなかった。
たまに家の近所とかで帰りが一緒になって少しだけ話をしたくらい。

バレーボールをやっているというひとみちゃんは背が高くて、髪が短くて、
なんかカッコよかった。
人見知りするタイプなのかな?
真希ちゃんとは普通に話しているのに、私といる時は俯いている事が多くて。
私も真希ちゃんみたいに、手紙を出してれば良かったなぁ。

でもね、ひとみちゃんはすっごく優しい子。
私がつまづいて転んだけでも「梨華ちゃん大丈夫?」って手を差し出してくれる。
真希ちゃんだったら「梨華ちゃんドジだねぇ」って言って笑うだけだよ?

119 名前:就寝前の石川梨華 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)17時47分48秒


ひとみちゃんが発する「梨華ちゃん」って言葉が、
いつの頃からか胸に響くようになってた。

気付いたら、ひとみちゃんが好きになってた。
女の子だって分かってても、ひとみちゃんを見るとドキドキする。

低い声で「梨華ちゃん」って呼ばれると嬉しくなる。

だから、高校もひとみちゃんが通う学校を選択した。
両親は他の学校にしろって言ったけど、
私はもっとひとみちゃんに近づきたかったから…。

去年は3人とも別々のクラス。
今年こそは!って思ったけど、ひとみちゃんだけ隣のクラスだった。
はあ、来年はひとみちゃんと同じクラスにして下さい。

お願いします。神様…。

…神様でいいのかな?このお祈りは。
クラス分けは、担任の先生が決めるのかもしれない。
ということは、ハゲタカにお祈り?

それでもいいです。

とにかくお願いします、神様、ハゲタカ様…。


120 名前:就寝前の石川梨華 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)17時52分08秒



−3−


しばらくの間、ひとみちゃんの部屋を眺めていた。

ひとみちゃんらしき人物の影が見える。
カーテン越しだとぼんやりとしか見えないから何をしているかまでは分からない。

ん、ちょっと待って?
もしひとみちゃんが偶然にも外を見た時、
私がひとみちゃんの部屋を覗いているたら…。

(恥ずかしい…)

私は部屋の電気を消してからカーテンを少しだけ開け、
再びひとみちゃんの部屋に視線を送る。

(よし、これなら向こうから見えない!)

121 名前:就寝前の石川梨華 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)17時54分22秒


それにしても、放課後ロッカー覗こうとしたり、今のこの状況といい…
こういう行為をストーカーと呼ぶのかもしれない…。

でもいいじゃん。私はひとみちゃんが好きなんだから。
ひとみちゃんの事が知りたいだけなんだから。



20分くらい眺めてた頃、突然ひとみちゃんの部屋の電気が消えた。

(え、嘘?もう寝ちゃうの?メールは??)

ああ、やっぱひとみちゃんは私にメール送る事なんか忘れてるんだ。
そうだよね。飯田先輩の事もあったし。
私なんかにメールを送ってる場合じゃないんだよ。
諦めてカーテンを閉めると、私はベッドに横になった。


122 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)17時57分18秒



−1−


今日は家に帰ってきてからすぐに自分の部屋に閉じこもった。
晩御飯も食べなかった。
家族の顔も見たくなかったし。

一度、お父さんが部屋に来た。

「母さんがせっかくご飯を作ったのに食べないとはどういうことか?」と聞かれた。

私は「具合が悪いんです。ごめんなさい」と謝った。

「それならそうと、帰ってきてからちゃんと母さんに伝えなさい」と言われた。

私は「今後は気をつけます」と答えた。





123 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時00分25秒



−2−



田舎から実家に戻ってきても、
どうも自分の家族というものに慣れることが出来ないでいる。

下の弟は、あたしが田舎に行ってから生まれた。
夏休みとかに家族は田舎に遊びに来てくれたけど、
弟をかわいがる両親を見て、自分の親のようには思えなかった。

おとといの夜、食事中に伸びかかったあたしの髪の毛がお味噌汁に入ってしまった。
父親はそれを見るなり「髪の毛ぐらい結わいてから食事をしなさい」と。

翌日、あたしは美容室に行った。
美容師さんに「どれくらい切りますか?」と聞かれて
「食事中に髪の毛が邪魔にならないくらいに」と答えた。

その人はとても不思議そうな顔をしていた。


124 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時04分29秒


この家は『あたしの家族が住むべき家』であって、
『あたしが住むべき場所』ではない。
ここに戻ってきてから、ずっとそう思っている。
家にいるよりも、学校に行ってる時の方が楽しい。
部活で、バレーボールをしている時はもっと楽しい。



高校に入って間もなくの頃、
中々帰らないで部室に残っていたあたしに飯田先輩は優しく声を掛けてくれた。


「吉澤、まだ残ってるの?」

「もうすぐ帰ります」



───「ねえ、圭織んちに遊びに来ない」

それが始まりだったんだ。

125 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時11分29秒



−3−


地元の議員の父親を持つ飯田先輩の家は、お屋敷と呼ぶにふさわしい家だった。
先輩の部屋は、なんて言うんだろう。すっごくキレイで、広くて…。
お姫様ベッドみたいな…一人で寝るには充分に大き過ぎるベッドが真中にあった。
『お嬢様の部屋』という感じ。こんな部屋、テレビでしか見たことがないや。



「吉澤は、何でいつも最後まで部室に残ってるの?」

一番聞かれたくない質問を、先輩はいとも簡単に口にする。
他の人に同じ事を尋ねられたら、違う風に感じていたかもしれない。
でも飯田先輩は、ごく自然に質問をしてきた。だから、あたしは正直に話をした。

幼い頃おばあちゃんの家に預けられた事、家族とあまり上手くいってない事…。
あたしが淡々と話をすると、先輩は「そっか」と一言つぶやいたっきり、
それ以上は聞いてこなかった。


126 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時13分24秒

翌日、先輩はまたあたしを家に誘ってくれた。
その翌日も、そしてその次の日も。

部活の後、ほとんど毎日あたしは先輩の家に遊びにった。
家には部活の子とミーティングしてると適当な嘘を付いて…。

先輩と一緒にいると気分が楽になれた。
とくに何か話をしていた訳でもない。
ただ、先輩の部屋で雑誌を読んだり、テレビゲームをしたり。
先輩も自分がしたいことをして過ごしているようだった。

127 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時16分35秒


−4−


そんなある日、先輩とテレビドラマを見ていた。
名前は忘れたけど、キレイな女優さんが主演のドラマ。

そのキレイ女優さんが、同じく名前を忘れてしまった男優さんとキスをする。
どうやら両思いになれたようで…。



「ああ、圭織もこの人とキスがしたいな」

「この俳優さんですか?かっこいいですもんね」
そんなにかっこいいとは思わなかったけど、先輩の気持ちを察してそう答えた。

「違うよ。この女優さんの方とキスがしたいの。すっごくキレイじゃない?」

「へ?だって、この人、女の人ですよ?」

私は自分の耳を一瞬疑った。(女優さんの方?)

128 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時19分18秒


「圭織はね、女の人が好きなの。それってダメなことかな?」
あまりにもストレートに告白する先輩に、あたしは何も言えなかった。

「世の中にはさ、男と女しかいないんだよ?女が男だけを好きになるとは限らない」

「そ、そうですね。でも…」

「でも?」
先輩の大きな瞳があたしの顔を覗き込む。

「でも…先輩キレイですし、男の人にモテるんじゃないですか?」
あたしは先輩から目を反らした。

「うふふふ。自分で言うのも変だけど圭織はモテるよ、すっごく。でも女の人が好きなの」
先輩の顔が少し近づいてきた。

「吉澤もモテるよね?女の子に」
先輩の手があたしの頬にそっと触れる。あたしは再び先輩を見た。

129 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時23分29秒


「ねえ、吉澤」

先輩の、このキレイな目で見つめられたら…
あの俳優も、何なら女優さんだって視線を反らせなくなるはず。


「キスしてもいい?」

何の言葉も発する事が出来ないでいたあたしの唇に、先輩の唇が触れた。
あたしは目を瞑った。

これが、キスなんだ…。

頭の後ろが少し痛んだ。

先輩の口が少し開いてから、舌先があたしの中に入ってくる。
驚いたあたしは、思わず唇を離した。


「…大丈夫、圭織を受け入れたら気持ちよくなれるから」

先輩は、あたしの背中に腕を回して強く抱きしめると、再び同じ行為を始める。
今度は先輩の舌先を受け入れた。
先輩の舌先を自分の口内で感じると、さっきよりも、頭の後ろが痛んだ。


でも、その痛みは、すぐに快感へと変わった…。


130 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時26分59秒



その日、初めて女の人と寝た。
(といっても男性経験があったわけでもないんだけど)

初めてだったあたしは、導びかれる通りに先輩の体に触れた。
部活では見ることの出来ない先輩の艶やかな表情にドキドキした。

次の日も、その次の日も、誘われればあたしは先輩を抱く。

「家に帰りたくなければここにいればいい」

「圭織には吉澤が必要だよ」

その言葉が嬉しくって、その言葉が欲しくて、先輩を抱き続けた。
彼女と一緒に過ごす時間は、あたしに安らぎを与えてくれた。

ここにいていいんだという安心感。

家では感じることの出来ない思い。



始まりがあれば、終わりがある…。

あたしの安心できる場所はなくなった。
飯田先輩にはもう、あたしが必要じゃないから…。
飯田先輩が必要なのは、市井先輩だから…。

あたしはもう飯田先輩を抱く事はない。

そして先輩から言葉を貰うこともない。


131 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時30分47秒


−5−


お風呂に入った後、宿題をやった。
2年になってから宿題が増えた気がする。
来年は受験生だしね。
親は大学に行けと言ってるけど、あたしは社会に出ようと思っている。
理由は、家を出たいから。それだけの事。

梨華ちゃんにメールを送ろうと時計を見た。
針はとっくに11時を過ぎていた。
もしかしたら寝ているかもしれない。
あたしは、窓から梨華ちゃんの部屋の明かりを確認しようとした。

ん?でもちょっと待てよ。
もしあたしが部屋から梨華ちゃんちを覗いていて、偶然にも石川家の人に見られたら…。

(恥ずかしい…)

あたしは自分の部屋の電気を消した。

(よし、これなら向こうから見えない!)

そっとカーテンを開けて、梨華ちゃんの部屋を見る。

132 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年06月20日(木)18時33分11秒

(あ、暗い…もう寝ちゃったかな?)

一度はメールするのを諦めようと布団に潜った。
でもな…。梨華ちゃんに約束したから、メール送るって。
真希にも念を押されたし…。

思い直して、部屋の電気を点けると
カバンからメモを取り出して、お昼に聞いたアドレスと番号を携帯に登録した。


(なんてメールしようかな…)

考えてみると、梨華ちゃんにメールを送るのは初めての事で。
電話だってしたがない。

真希にならチェーンメールとか、
アイドルの顔を裸の女性にくっつけた写真とか気軽に送れるけど…。
(梨華ちゃんに送ったら気を失うかな)

『もう寝ちゃったかな?メール遅くなってごめんね。
 お風呂入ったり、宿題やってりしているうちに遅くなっちゃった。明日も学校頑張ろう!』

よく分からない内容だけど、(明日も学校頑張ろう!って何だよ…)
梨華ちゃんにメールした。返事は明日、貰えるかな?

電気を再び消してベッドに入った。
でも一応、携帯は枕元に置いといた。

133 名前:PUNK 投稿日:2002年06月20日(木)18時55分40秒
更新終了です。
こっから先、ちょっとペースダウンしそうな予感...。
己を信じて頑張ります。

>>112 オガマー様
レスありがとうございます。
ごまは、妹ペンギンに魚を取ってきてあげるくらい優しい子なのです。(笑)
本当にごっちんは優しい子だと、彼女に会った事のある人から聞いたので、
そのカラーを出せたらなと思いながら書いております。
オガマーさん、イラストもお上手ですよね。
充分に妄想させて頂いております。m(__)m

>>113 名無し読者様
レスありがとうございます。
この場合の石吉後は三角関係とは、やや違う関係で…。
いずれは、そうなるのかもしれませんが、いや、ならないかな。
どっちだ?うーん、真実は恐らくハゲタカ様のみぞが知る…。(?)

>>114 名無し読者様
レスありがとうございます。
本当、作者自身もこの3人に頑張ってもらいたいものです。
あたくしの意図で、すっごい不幸にもなれますし、幸せですか?にもなれますし。
ただ、みんなを救ってあげたい気持ちは充分にございますよ。

皆様のレスはとても励みになります。
本当にありがとうございます。m(__)m
134 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月21日(金)00時42分59秒
クラス委員長みたいなヨシのメールに萌え(w

 川o・-・)紺野先生なら、バラを1本くらいなら捧げてもいいです(ケチごま)
135 名前:オガマー 投稿日:2002年06月21日(金)03時56分51秒
メールかぁいい(氏
吉に新しい光をぉ…
ごっちんは優しい人なんですねー。その人がうらやまし(略
妄想のお役にたてて嬉しいです(笑
136 名前:就寝前の石川梨華 其の二 投稿日:2002年06月22日(土)02時53分14秒


−1−


一度布団に入ったものの、やはり携帯が気になる…。
もしかしたら、夜中にメールをくれるかもしれない。


ネガティブ梨華(いや、ひとみちゃんはもう寝てるんだ。電気だって消えたじゃない)

ポジティブ梨華(でも、ひとみちゃんなら、ちゃんと約束は守ってくれるよ…)

ネガティブ梨華(前向きに考えたい気持ちは分かるけど、ひとみちゃんは今日、飯田先輩と別れたんだよ?
        ショックで私の事なんか覚えてるはずがない…)

ポジティブ梨華(それでも私はひとみちゃんを信じる。
        ひとみちゃんは優しいから絶対にメール送ってくる)


137 名前:就寝前の石川梨華 其の二 投稿日:2002年06月22日(土)02時55分23秒


−2−


突然、携帯が鳴った。
ポジティブ梨華、おめでとう!あなたの勝ち。


ネガティブ梨華(と思って携帯見ると、真希ちゃんだったりするんだよ…)

ポジティブ梨華(ネガティブはもう黙って!)



私はベッドから起き上がると、慌ててメールをチェックした。


受信時間【23時42分】

題名  【初メール☆】

差出人 【ひとみちゃん】



本文【もう寝ちゃったかな?メール遅くなってごめんね。
   お風呂入ったり、宿題やってりしているうちに遅くなっちゃった。明日も学校頑張ろう!】


138 名前:就寝前の石川梨華 其の二 投稿日:2002年06月22日(土)02時58分26秒



ひとみちゃん、私は起きてたよ。

メールが遅くなるくらい、全然構わないのに…。

あ、お風呂に入ってたんだ?
そりゃ、ひとみちゃんだってお風呂ぐらい入るよね。

宿題?何の宿題だろう?うちのクラスとは違う宿題かな??

明日も学校頑張るよ。ひとみちゃんに言われたら、いつもよりも頑張れる。
(でも何を頑張ればいいんだろう)



携帯買った直後は全然使い方分からなくて、
こんな物が世の中に本当に必要なんだろうかって思ったけど…。
ああ、携帯ってなんて素晴らしいんでしょうか。
私は、何でもっと早くに携帯を買わなかったんだろう。
好きな人からメールを貰える事がこんなに嬉しいなんて思いもしなかった。

139 名前:就寝前の石川梨華 其の二 投稿日:2002年06月22日(土)03時00分12秒


−3−


早速、ひとみちゃんに返信しようと思うものの、何て返事をしようか悩む…。


『メールありがとう。電気消えちゃったから、ひとみちゃん寝たのかと──』
ダメだ。私がひとみちゃんの部屋を覗いてた事がバレちゃう。消去。


『ひとみちゃんからメール来るのに寝る訳ないでしょ──』
遠まわしに告白してるみたい…。消去。


『ひとみちゃんからメールを貰ってから目を覚ましました。まだ起きてたんだね──』
これじゃ、ひとみちゃんが気を悪くしちゃう。
もっと、気軽な感じで返信しないと…。消去。


『お風呂入ってたんだ?ひとみちゃんはいつもどこから洗うの?私は──』
…………。消去。




結局、私がひとみちゃんにメールを返信出来たのは、受信から20分も過ぎた頃だった。


140 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の二 投稿日:2002年06月22日(土)03時02分57秒


−1−


突然、耳元で鳴った着信音で意識が戻る。
どうやら、あたしは半分夢の世界へと旅立っていたようだ。

(梨華ちゃんかな?)
携帯のメールをチェックする。


差出人 【石川梨華】



本文  【メールありがとう。ひとみちゃんって何のシャンプー使ってるの?】



(………………………)

梨華ちゃんっておかしなことを聞いてくるんだな。
まあ、いいや。返信しよう。


『梨華ちゃんもまだ起きてたんだね。シャンプーはマシェリっていうやつだよ。
 親が買ってきたのを使ってるだけ。梨華ちゃんは何を使ってるの?』

これでよし。送信っと。
梨華ちゃんのことだから、また返信をくれるだろう。
でも何分後かな?たぶん、まだメール打つのに時間が掛かるのかもしれない。
梨華ちゃん、まだ寝なくて平気なのかな?


141 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の二 投稿日:2002年06月22日(土)03時08分05秒


−2−


返信メールは思ったよりも早く届いた。



本文 【私も起きてたよ。話が変わるけど、ひとみちゃんって学校のロッカーの鍵を閉めてる?】



(………………………)

あまり深い事を考えるのは止めよう…。
梨華ちゃんはたぶん、自分が疑問に思う事をメールしているだけなんだ。
(って、あたしの質問には無視かよ)

でもなんで学校のロッカーの事なんか…。
まあ、いいや。

142 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の二 投稿日:2002年06月22日(土)03時09分37秒


普通に返信すると、この質問メールは永遠と続くような気がした。
こういう時はどちらかが断ち切らなければならない。
梨華ちゃんは優しいから私が返信すれば、また返してくるだろう。
ここで、上手に話をまとめなければならない。



『最近閉めるようにしているよ。こんなに遅くまで起きてて梨華ちゃん平気なの?
 夜更かしはお肌に良くないから、そろそろ寝なきゃね。おやすみ』

うーん。さりげなく寝ることを薦める文章。我ながら上出来じゃない。
これで、今日は寝れる。
よし、送信。



あたしは、携帯を充電器に置いてから布団に潜った。
しばらくしてから、再び部屋に響き渡ったメールの着信音。
おそらく【おやすみ、ひとみちゃん】とでも書いてあるんだろうな。
明日の朝、チェックすればいいや。おやすみ梨華ちゃん…。


143 名前:就寝前の吉澤ひとみ 其の二 投稿日:2002年06月22日(土)03時12分04秒


−3−


そのまま夢の世界へ旅立とうとした時、またメールが届いた。
また梨華ちゃんかな?どうしたんだろう?
何かまだ質問があったのかな?


起き上がって、携帯を確認。
新着メール2通。



【今から電話してもいい?】




【ダメかな?】




困った表情を浮かべる梨華ちゃんの顔が想像できた。
何か嬉しくなって、あたしは笑顔で携帯のボタンを押した。


144 名前:PUNK 投稿日:2002年06月22日(土)03時28分32秒
更新終了です。
うーん、今更ながら、小説書く事の難しさを知りました。
本当、他の皆様、すごいですよね。
とくに、感情表現とかが難しい。
普段、いかに自分がいい加減な会話の中で生きてしまってるかを思い知らされました。
とまあ、余談はさておき。

>>134 ごまべーぐる様
レスありがとうございます。
石には距離を置いてる感のある吉からのメールということで。
にしても、ごまべーぐるさんも「グレイな瞳(not グレイトひとみ)」お気に入りでしたか。
もう、何かに取り付かれたかのように毎日会社で聴いています。


>>135 オガマー様
レスありがとうございます。
吉に新しい光ですか…
実はこの小説のテーマは「苦難」だったりします(いや嘘?)
でも、新しい光を見る時は来ることでせう…

では、おやすみなさい。zzzzz
145 名前:姫子 投稿日:2002年06月22日(土)03時58分13秒
いやぁ梨華ちゃんの空回る姿というのはよく似合うなぁ。
かわいいです。
そんな梨華ちゃんに対する非常にまっとうな吉澤さんの対応もちょっとツボ(笑)
146 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月22日(土)05時53分57秒
一気に読みました、すごくイイです!
石川さんの記憶に関すること?はどれくらいの人が知ってるんでしょうか…
幸せになってホスィ。
続き期待してます〜
147 名前:オガマー 投稿日:2002年06月22日(土)05時59分18秒
電話!デンワ!!(脇アイアイポーズで@氏
苦悩ですよねぇ〜。それは重々(タブン)承知です。
でも、いつかは…
148 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月23日(日)09時45分48秒
本物のいしかーさんも同じコトしてそう(w

ヨスコって黒か白か作品によって割とハッキリ分かれるけど、ここの彼女は
成長してるとこが見られるからいいです。

149 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時37分01秒

私の方から電話をするつもりだったのに、
ピンクの携帯はひとみちゃんからの着信を知らせてくれた。
通話ボタンを押す手がかすかに震える。
ただの電話だよって自分で自分に言い聞かせても、
この緊張をほぐしてくれる材料にはならない。



「もしもし(声裏返ってないよね?)」


『あ、梨華ちゃん?ごめんね、すぐに電話出来なくて…』
(携帯越しで聞くと、ひとみちゃんがいつもより近くに感じる…)

「こっちこそごめんね。私から掛けようって思ってたのに。ひとみちゃん、もう眠いよね?」


『ううん。あたしは全然平気だよ。梨華ちゃんこそ眠くないの?』

「私は大丈夫…何かひとみちゃんと電話で話すのって初めてだね。
 ちょっと緊張するかな…(緊張ってより、恥ずかしいかな…)」


『うふふ、そうだね。普段もあまり梨華ちゃんと話す機会ないしね。あたしもちょっと緊張してるかも』
(ひとみちゃん…照れ笑い?)

「あ、メール!…ありがとうね、うん…(おーい、梨華!もっと会話を弾ませないと…)」

150 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時38分40秒


『こちらこそ。でも、いざ梨華ちゃんにメール送ろうと思ったら何て送っていいか結構悩んだよ』
(そうだよね…。あまり共通の話題もないしね…)


『それにしても、梨華ちゃんのメールの内容って面白いよね』
(私、どんな内容で送ったんだっけ?あ、シャンプーの事か)

「いつも、ひとみちゃんいい匂いするから…なに使ってるのかな?って思って…(確かに変な質問だったかも…)」


『家の人が、適当に買ってきたやつを使ってるだけだからさ。本当は、ちゃんと髪の毛のケアっていうの?
 そういうのも考えないといけないんだろうけどね。梨華ちゃんは髪長いから、ちゃんとお手入れしてるんだろうね』

「ううん。私も結構、適当だよ。……………うん(ああ、なんでもっと上手に返答できないんだろ)」

151 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時42分27秒


『あたしも切ったばっかだけど、髪の毛伸ばそうかなぁ』
(え?ひとみちゃん伸ばしちゃうの?)

「そんな…ひとみちゃんはショートが似合うよ、絶対に!
 ひとみちゃんに長い髪は似合わないと思う(ちょっと、ひどい言い方だけど、ショート維持の為なら…)」


『に、似合わないかな…。でも、いつかは伸ばそうかなって思うん…』

「ダメ!私はひとみちゃんのショートヘアーに一票!(なんなら、真希ちゃんにも協力してもらって二票にするんだから)」


『い、一票って…うん…まあ、しばらくはショートでいるよ…』

「うん、その方がいいと思う(しばらくとは言わずに、ずっとショートでお願いします…)」


『そういえば梨華ちゃん、ロッカーの鍵がどうかしたの?』
(ひとみちゃんのロッカー覗きたかっただけなの…なんて言えない)

「あ…ほら!結構、盗難とか多いみたいだし、ちゃんと鍵した方がいいのかなって…」


『ああ。あたし前は全然鍵してなかったんだけどね。何かたまに………あ、いいや…』

「ん?たまに?」


『いや、なんか…たまに入ってたり…してるというか…』

「入ってる?」

152 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時44分32秒


『いや…うーん…』

「………手紙?」


『……うん』

「ラブレターとか?」


『……そう』

「ひとみちゃん、すごいモテるもんね」


『いや、そんなことないよ!全然。たまに入ってるぐらいだし…』
(私は知ってるんだから。バレンタインデーの日、真希ちゃんがロッカー開けたらチョコたくさん入ってたもん)

「でもラブレターとか貰ったら嬉しいでしょ?」


『うーん…どうだろう?自分に好意を抱いてもらうのは嬉しいけど…返事に困るというか…』

「いつも何て返事するの?」


『返事はしてない…』

「えっ?何で?」


『だって、返事に困るから………。梨華ちゃんだったらどうする?』

「私だったら?」


『うん』

「ラブレターを貰ったら?」


『そう。例えば「石川さんのことが好きです」って書いてあったらどーする?相手は女の子だよ?』
(ひとみちゃんの声で「石川さんのことが好きです」って言われると照れちゃうな…。いや、今は例え話なんだ)

153 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時46分56秒

「うーん…きちんと断るかな…付き合えませんって」

『何で?相手が女の子だから?』


「ううん。女の子だからとか…そういう偏見、私は持ってないよ…(というか実際にひとみちゃんが好きな訳で)」

『あたしだって同性同士の恋愛があったっていいとは思ってるよ。ただ…やっぱ、好きじゃない人とは付き合えない…』


「だったら、そう答えてあげれば…」

『一度、そういう風に答えたことがあるんだ。
 そしたら、吉澤さんに好きな人が出来るまで付き合って欲しいって言われて…』
(その子すごい行動力だね…ちょっと尊敬しちゃう)


『そこまで言われると、どうにも返答のしようがない…。だから無視しちゃう…』


「でも他の子まで無視しなくても…。告白するのってすごい勇気がいることだし…」

『それは分かるんだけど……』


「きちんと話せば、相手は絶対に分かってくれると思うんだ。私だって、誰かに告白して無視されたら、すごいショック受けるよ…(ひとみちゃんに無視なんかされたら)」

『うん…。確かに面倒臭いことから逃げてただけかもしれない…でも、まあ最近はそういうのも減ったからもう大丈夫かな』

154 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時50分03秒

「減った?」

『うん。何か、変な噂が流れてるみたい、あたしに付き合ってる人がいるって。
 梨華ちゃんだって聞いたことあるんじゃない?真希からも聞かれたよ。噂は本当なのってね』

「………噂って…」


『あたしと飯田先輩が付き合っているっていう噂。どっからこんな噂が立つんだろう?
 確かに飯田先輩とは仲いいけど、付き合ってるって…あははは、みんな勝手に話膨らませるのが好きだよね。あははは』
(ねえ、ひとみちゃん…無理して笑わないでよ?本当は悲しいんじゃないの?)


「やっぱり違うんだ?ごめん、私ももしかしたらそうなのかなって思ってた(確かに二人は付き合ってると思ってた…)」

『なんだ?梨華ちゃんまでそんな話信じてたの?やだなぁ、あははは』
(でも違うんだよね?二人は付き合ってた訳じゃない…)


「だって、今日も二人でお昼食べてたし…」

『そりゃ、飯田先輩は元バレーボール部の部長さんですよ?ご飯ぐらい、一緒に食べることだってあるよ』


「家にもよく遊びに行ってるって聞いた事あるし…」

155 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時52分10秒

『あ…、それは…何て言うか、先輩が暇だから遊びにおいでよって。
 でもね、先輩の家すっごい広いんだよ。自分の部屋とかにお姫様ベッドみたいなのが置いてあるの』

(……そのベッドでひとみちゃんは先輩を抱いていたのですか?)



『でも、もうあまり遊ぶこともなくなるかな。お昼休みに言われちゃった。
 短大の勉強が忙しいから吉澤に構ってられないってね』

(知ってるよ。飯田先輩に言われたんだよね…「吉澤は必要じゃない」って)


『それにしても、いつになったら噂って消えるんだろ?
 あたしは別に構わないんだけどね。でも先輩が嫌な思いしてるかもしれないし…』

(それでも飯田先輩の事を心配してあげるんだ…)


『もしもーし?梨華ちゃん??』


「あ、うん、ごめん…。大丈夫だよ。噂なんてすぐ消えるから(そう大丈夫。飯田先輩との思い出もすぐに消えるよ…)」

『そうだね……すぐ消えるよね』


「誰がその噂してたら、ちゃんと違うよって言ってあげるし…」

『あははは。ありがとう、梨華ちゃん』



156 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時54分30秒



私は窓を開けると、向かいの部屋を眺めた。
あの真っ暗な部屋にいる人は…寂しさを隠しながら電話をしている。
自分が抱え込んでいる孤独を…私には語ってくれない…。


ねえ、ひとみちゃん。

私じゃダメですか?

私だってひとみちゃんが必要なんだよ?

飯田先輩の言う「需要と供給」なんかじゃない。

私はひとみちゃんが好きだから…

私ならひとみちゃんを捨てたりはしない…

157 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時56分22秒



「さっきの話だけど…」

『ん?さっきの話?』


「もし、私が誰かに告白をされたらって話…」

『うん』


「私だったらきちんと断るって言ったでしょ?」

『うん』


「何で断るんだと思う?」

『何でって…。うーん、相手の子を好きじゃないから?』


「それもあるかもしれない」

『他にも理由があるの?』


「うん」

『どんな?』


「……私には好きな人がいるから。だから付き合えませんって言って断るよ」

『え?!梨華ちゃん好きな人いるんだ?』


「うん」

『だれ?私も知ってる人?』


「それは……」
ひとみちゃんです。って言える勇気はまだない…。

158 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時58分03秒


「……秘密」


『えー、何で?真希は知ってるの?梨華ちゃんに好きな人がいるって』

「真希ちゃんにもまだ話してない」


『わかった、中学の時の同級生でしょ?』

「ううん、違う」


『へぇ、でも梨華ちゃんの好きな人ねぇ。かっこいいの?背は高い?』

「うん、かっこいいし、優しいし…。背は私よりは高いかな」


『そりゃ、そうでしょ?梨華ちゃんより背の低い男の子あんまりいないよ。あははは』
(そっか。普通は相手が女の子だとは思わないよね…)


『梨華ちゃんは女の子らしいし、かわいいから。うん、大丈夫だよ。自信持っていいと思うよ』
「ううん。そんなことない…。だって、その人とあまり話す機会もないし…。私のことなんて、何とも思ってないよ…」


『そんなの分からないじゃん。だって告った訳じゃないんでしょ?ダメだよ、ネガティブに考えちゃ』

「うん……そうだよね」


『あたしは応援するよ。梨華ちゃんの恋が上手くいくように』


「……ありがとう」

好きな人から、自分の恋を応援されるって…不思議な気分。
嬉しさ半分、悲しさ半分…

159 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)01時59分34秒


『そろそろ寝なくて大丈夫?』

「あ、ごめんね。何か遅くまで…話し込んじゃって…」


『ううん、全然構わないよ。なんか、梨華ちゃんとこうして話が出来て…うん、楽しかった』

「私も、楽しかったよ」


『今日ね…ちょっと嫌な事があってさ。それなりにへこんでたんだけど、
 梨華ちゃんと話してたら気が紛れたっていうか…元気になれたよ』

「……そうだったんだ。私なんかとの会話で、ひとみちゃんが元気になれるんだったら、いつでも電話してきてくれて構わないから…」


『ありがとう。またメールもするよ』

「私もメールするし、電話もする。明日も朝練なんだよね?寝坊しないで頑張ってね」


『あははは。真希じゃないから大丈夫だよ』

「そうだよね。じゃあ……おやすみなさい…」



『おやすみなさい、梨華ちゃん』



160 名前:就寝前の石川梨華 其の三 投稿日:2002年06月24日(月)02時00分39秒


電話が切れても、私はしばらくの間、ひとみちゃんの部屋を眺めていた。



今は、まだ距離があるかもしれない。

けれど私は、ひとみちゃんに近づいて行く。

こうやってメールをしたり、電話で話をしながら……

少しずつかもしれないけれど、ひとみちゃんとの距離を縮めて行くんだ。


そしていつか、ひとみちゃんが抱えている孤独を私に教えて欲しい……。


161 名前:PUNK 投稿日:2002年06月24日(月)02時21分47秒
更新終了です。

ペースダウンしてます。
すみません。。。


>>145 姫子様
レスありがとうございます。
梨華ちゃんには、今後も益々の空回りっぷりを披露してもらうことになりそうな。。。

>>146 名無し読者様
レスありがとうございます。
石川さんの記憶に関しては、次次回あたりで説明していく予定でございます。

>>147 オガマー様
レスありがとうございます。
書き始めてから知ったんですが、人の苦悩を表現するのは難しい。(笑)
不幸にさせるのはある意味で簡単なんですけどね(笑)

>>148 ごまべーぐる様
レスありがとうございます。
一番好きなキャラというのは、もう救い様の無いくらいに痛々しい「黒よしこ」なんですけどね。
けど、自分には無理でした。(;_;)

明日も職場が暇でしたら、更新しまーす。m(__)m
162 名前:オガマー 投稿日:2002年06月24日(月)03時33分48秒
デンワ、よかったです!(笑)
不幸にさせるのが簡単ってわかります(笑)
がんがってくださいね!!
163 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月24日(月)17時36分50秒
電話のビミョーな距離がいい感じです。
がんがってください。
164 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時25分47秒


−1−


傘を差しながらの歩く通学路。
五月に入ってからは雨が多い。
梅雨はまだ先なのに…

あたしは雨は嫌いだ。
だって靴に雨が染みこんでくるし、傘を差すのが面倒臭いから。


あの男と別れてから3週間になる…
といっても、私の生活にはとくに何の変化もなかった。
変化があると言えば、最近の梨華ちゃん。
携帯を買ってからの梨華ちゃんは、すごく機嫌がいい。
理由はただ一つ。
毎晩やり取りされているひとみとのメール。
165 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時27分09秒


「ひとみちゃんね、昨日部活中に突き指したらしいよ」

「ふーん、それは大変だ」

「ちょっと!真希ちゃんは心配じゃないの?」

「そりゃ心配だよ。でもさぁ、突き指なんてしょっちゅうじゃん」

「もうすぐ練習試合もあるって言ってたのに…大丈夫なのかな?」

「まあ、大丈夫でしょう。ひとみなら」

「そうだよね。ひとみちゃんなら大丈夫だね」


これだけ、ひとみの事を毎日聞かされるのに
「梨華ちゃん、ひとみの事が好きなんだね」って言うと、激しく否定する。
素直に認めればいいのに…。
ってか、あたしにはバレバレですよ。


166 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時28分58秒


−2−


教室に入る前の廊下で、朝練を終えたひとみに会った。

「あ、おはよう、お二人さん」
ひとみスマイルによって、梨華ちゃんもとびきりのスマイル。

「おはよう、ひとみちゃん」

「んあ」


あたしが適当な返事をすると、ひとみは包帯の巻かれた左手の人差し指を、目の前に突き出した。
包帯には、マジックで顔のような物が書かれていた。

「オハヨウ、ゴトウサン」

何の真似なのかは分からないが、包帯人形をお辞儀させた。
これは、きちんと挨拶をしろという事なのか?

「ん、おはよ、突き指君」
とりあえず、包帯に向かってお辞儀し返した。


167 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時30分37秒

「ああ、真希は相変わらず朝弱いですねぇっ…」

「雨嫌いだからね…傘差すのめんどいし」

「じゃあ、差さなければいい」
そりゃそうだね。面倒なら差さなきゃいい。

「でも濡れるのは嫌だ…」

「いずれ乾くよ」

「でも風邪ひきたくない」

「風邪ひけば学校休めるよ」

「ひとみ、いい事言うね」
あたしは、親指を突き上げてそう言うと、二人で同時に笑った。
梨華ちゃんはあたしを見ながら呆れ顔をしていた。


168 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時32分36秒


−3−


教室に入ると、クラスのほとんどの子がすでに登校していた。
仲のいい者同士、ワイワイとお喋りをしている。

梨華ちゃんの席は、一番廊下側の前から3番目。
あたしは、窓側から2列目の一番後ろの席。

席に着くなり、睡魔が襲う。
これはもう、あたしの習慣だ。
この空間で、この位置にいると眠くなるんだ。

あたしが、机に頭を伏せた途端、前の席の子に話し掛けられた。
噂話が大好きで、あたしはあまり好きなタイプの子じゃない。
どちらかと言えば嫌いだ。

169 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時34分00秒


「おはよう、ごっちん」

「ん、おはよ」


「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「ん?勉強の事なら全然分からないよ」


「違うよ。他のこと」

「なに?」
あたしは仕方なく起き上がった。


「隣のクラスの吉澤さんって…昔、何かしたの?」

「………何かしたって?」


「うちの親戚がね、ごっちんちの近くに住んでるんだけど。吉澤さん子どもの頃、人を怪我させて施設に入れられたって…」
─── は?コイツは何を言ってんだ?


170 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時36分28秒


「ごっちん、吉澤さんとは幼馴染みなんでしょ?」

「そうだよ」
ひとみも梨華ちゃんも、あたしの幼馴染みだよ。


「だからその事、詳しく知ってるのかなぁって…」
お前が詳しく知ってどうすんだよ?


「やっぱ本当の話なの?」

この女ムカツク……



「本当も何もさ、あんたはその親戚の人の話を鵜呑みにするわけ?」

「そういう訳じゃないけど。だから、ごっちんに聞いてるんじゃん」


「ひとみは何もしてないし、施設なんかにも入ってない。勝手な噂、立てないでくれる?」
怒りを抑えるように、小声で言った。

「でも、吉澤さんは親元離れて暮らしてたんでしょ?」
それがどうした?

171 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時38分40秒


「田舎のおばあちゃんとこで暮らしてただけだよ」

「何で?」
コイツはケンカ売ってんのか?


「何でって…それこそ、何でアンタに説明しなきゃなんないの?」

「おばさんが…うちの親戚が、あの子はちょっと気を付けた方がいいわよって言ってたから…」


あたしは机を思い切り叩いてから立ち上がり、その子の胸倉をつかみ上げた。
「じゃあ、気を付けるんだね。今度勝手にそんな噂流したら、アンタとそのおばさんの鼻…あたしが圧し折るから」



さっきまで騒がしかった教室内が一斉に静まり返った。
みんなの視線を感じる。
梨華ちゃんもすごく驚いた顔で私を見ていた。

あたしは、その子の胸倉を手から離すと何事もなかったように机に頭を伏せた。
すぐさま、梨華ちゃんが掛け寄ってきた。

172 名前:後藤真希の憂鬱 其の一 投稿日:2002年06月24日(月)18時41分32秒


「真希ちゃん…どうしちゃったの?」

「なんでもないよ」

「だって、今…」

「ちょっとした意見の食い違いがあっただけ」
前の子が、一瞬こちらを見る。
あたしが笑顔を浮かべると、慌てて前に向き直った。


「でも何も胸倉掴まなくったって」

「そうだね」

「この前のことだって…なんか真希ちゃん最近変だよ?」

「変かな?」

「とにかく、もうこういう事、しちゃダメだよ?」

「うん、もうしないよ」

「本当に分かってるの?」

「本当に分かってるよ」
直後、ハゲタカが教室に入ってきたので梨華ちゃんは席に戻った。


最近のあたしは変?
確かに変かもしれない。
バカ男殴ったり、ムカツク女の胸倉掴んだり…

さっき、廊下で会った時のひとみの包帯人形を思い出す。
突き指君、すまないね。
今は、こんなことしか出来ないあたしを許して欲しい…
でもいつかは、君を救ってあげたいと思う。
もう苦しまなくて済むように。
あたしが、解放してあげなきゃいけないんだ。

173 名前:PUNK 投稿日:2002年06月24日(月)18時51分15秒
短めですが、ごっちん視点の更新完了です。

>>162 オガマー様
レスありがとうございます。
電話の会話を文章にするってのは、偉い難しかったです(汗)
一番の不幸は殺してしまえばいいのですが、
意味なく殺すのは可哀想なので…(笑)
まあ、今後も苦しんでもらうということで、まとめておきます。。。

>>163 ごまべーぐる様
レスありがとうございます。
この微妙な距離を梨華ちゃんが今後どう縮めてくれるのか。
案外、ひとみちゃんの方から縮めてくれるのか。
はたまた距離は縮まらないのか…
いや、前向きな方向で。。。

では、また夜にでも。
いや、明日の朝かな?うーん、、、明日の夜までには確実に。
174 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)20時28分09秒
後藤かっけー。良い子ですなあ。
この三人には幸せになって欲しいです。作者さん、ガムバッテ
175 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)21時02分24秒
今日初めて読ませてもらいました。
はぁ〜すごく切ない話しで、胸が苦しいです。
これから3人がどうなるのか?とても気になります。
と同時に更新も気になります(w
早くラストを読みたいような、このまま続きをずっと読んでいたいような
そんな気分です。これからも頑張って下さい。
176 名前:オガマー 投稿日:2002年06月25日(火)04時09分44秒
ごっちん…
2人の苦しみを背負ってしまったいるのか??
うぅ…(涙)かっけー、かっけーよごま
177 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時12分08秒


−1−


高校に入学する際、両親は学校側に私の怪我の事を話した。
幼少の頃、頭を怪我して記憶を失った事。
普通の生活を送る分には何の支障もないが、
学習面では人よりもやや『文字を記憶する能力』が劣っている事。
しかし、それは本人の努力次第で充分に補う事が出来る事。

耳から入る会話などは、すぐ頭に入り覚えていられるけど、
文字から読み取る情報を、私の脳は中々理解してくれないらしい。

小学校に入った頃は、勉強出来ない事を理由にいじめられたこともある。
けど、私は勉強が出来ない理由を頭の怪我のせいにはしたくなかった。
怪我をいい訳にすることは、今の自分を否定されている気がするから。
記憶をなくした自分が、今の私だから。
だからクラスの子とかには、その事を言わなかった。


178 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時13分10秒


−2−


放課後、図書室に向かう前に保健室に立ち寄った。
入り口のドアをノックしてから室内に入ると、保田先生は笑顔で迎え入れてくれた。

「石川、勉強頑張ってる?」

「もうすぐテストですからね。それなりに頑張ってますよ」

保田先生は、私の怪我の事を知っている数少ない内の一人。
私が勉強の事で悩んだりしてるのではないかと、色々気遣ってくれる。
最初はちょっと怖い先生かと思ったけど、サバサバした性格にすぐ親しみを覚えた。

「もうちょっとで手が空くから。適当に座っててよ」
先生はそう言うと、机に向かって日誌のようなものに何か書き込み始めた。

179 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時15分17秒

私は、窓から校庭を眺めた。
雨はすっかり止んだようだ。
テニス部の子達がグラウンドを走っていた。

部活前は、まず一年生がコートにネットを張る。
それからみんなで校庭を10周して、柔軟体操。
そしてサーブの打ち込みなど各自に練習する。
中学時代に比べるとこの学校のテニス部はきつくなかった。
雨が降ると部活は休みになったし、土日も休みで朝練もない。
だから、弱かった。去年の試合もほとんどが一回戦敗退…。


それに比べ、ひとみちゃんのいるバレーボール部はかなり厳しい。
朝練はもちろん、大会前になると土日にも練習がある。
一度くらい、お休みの日にひとみちゃんと一緒にお出かけでもしてみたいと思う。

うーん、どこに行こう…。

遊園地だと恥ずかしいかな。何かデートみたいだもんね。
やっぱ無難にお買い物に行くのが一番いいのかな?
けど、どうやって誘おう…

「欲しいものがあるんだけど、一緒に付き合ってくれない?」

いや、「暇だから買い物でもいかない?」

こっちの方がいいかな。今度、ひとみちゃんに休みがあったらそう言ってみよう。
電話よりもメールの方がいいよね。
うん、その方がいい。

180 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時16分57秒


「やっぱまだテニスに未練あるの?」

テニス部を眺めながらも、ひとみちゃんの事を考えている私に、保田先生は背後から声を掛けた。


「いや…休みがあったら買い物に行こうかなと…」

「え?買い物?」

先生の不思議そうな顔を見て、私は会話が噛み合ってない事をやっと理解する。


「あ…テニス。はい、またやりたいなって思います…。この前、母に言ったんです。『今度のテスト成績が良かったらまたテニスやってもいい?』って」

「で、お母さんは何て言ったの?」

「母は『大学に行ったら思う存分テニスすればいいじゃない』って…。やっぱ無理みたいですね。テニス大好きなんだけどなあ…」
俯き加減にそう答えた私に、保田先生は優しくと微笑んだ。

「うちのテニス部は練習も厳しくないからね…勉強を優先しながらでも充分に続けられると思うわよ。石川が、どうしてもテニスを続けたいなら、例えば週に2,3回だけでも部活の日を設けるとか。それならお母さんも許して下さるんじゃないかしら?」

「そうですね…ダメ元でもう一回、母に相談してみます」

181 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時19分14秒

「顧問の先生にも聞いてみるわ。ただ、そうなると他の部員の子たちがちょっと不信がるかもしれないわね…。まあ家が厳しいとかって説明すれば納得してくれると思うけど」

「部活やクラスの子に、本当の事話しても別に構わないんですよ。けど、やっぱ、同情みたいなのをされちゃうと辛いというか…そもそも、怪我をしてしまったのは自分の不注意な訳だし…」

「石川の怪我の事…学校で知ってる人は後藤だけ?」

「はい。あ、でもたぶんひとみちゃん…吉澤さんも知ってると思います。家が近所なんで」

「吉澤とも近所なの?」

「近所っていうか、家が前なんですよ」

「あら、そうだったの。確かに吉澤は後藤とすごく仲がいいみたいだしね」

182 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時20分13秒

「ひとみちゃんは子供の頃はおばあちゃんとこで暮らしてたから、遊んだことはなかったんですけどね。でも怪我する前は真希ちゃんと3人で遊んだりしてたみたいです」

「そう…。何か吉澤って人を寄せ付けないオーラみたいなのを発してるというか、うーん、全ての事を一人で抱え込んじゃうというか。だからちょっと心配だったのよね。この子は心許せる友達とかいるのかしらって。もちろん、部活でもクラスの中でも友達はいるんだろうけども。でも後藤も石川も幼馴染みなら安心ね」

先生に『幼馴染み』と言われて、やや疑問に思う。
あたしも、ひとみちゃんと『幼馴染み』と呼べるのだろうか?
真希ちゃんには、ひとみちゃんと幼い頃一緒に遊んだ記憶がある。
けど、私にはない。
私にあるのは、こっちに戻ってきてからのひとみちゃんの事。


183 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時21分27秒


「ひとみちゃん、部活頑張ってますか?何か昨日突き指しちゃったみたいですけど」

「吉澤は真面目に練習してるわよ。まあ、突き指は毎度の事ね。今朝も朝練のあとにここに来たけど、包帯巻いてあげるなり『マジックありますか?』って…何か変な顔書いてたわよ。吉澤のああいうお茶目な一面を見たのは案外始めてかもしれない」

先生はひとみちゃんのいたずら書きを思い出したか、クスリと笑った。


「もうすぐ練習試合ですもんね。先生はまだ部に顔出さないで大丈夫なんですか?」

「今日はね、この後にちょっと人と会わなきゃならないの。ほら、部長の市井って子いるでしょ?あの子に体育大学から推薦の話が来てて」

「え?市井先輩にですか?すごいですね」

「あの子なら確実に推薦で行けると思うわ。まあ、今年の大会でどこまで行けるかにもよるけど。去年は、飯田にも話が来てたんだけど。あの子は、もうバレーしたくないですって言って…。来年は吉澤にも話来るんじゃないかしら?」

184 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時25分08秒


「ひとみちゃんにも…ですか…」

「そうよ…。あら?石川は嬉しくないの?幼馴染みが推薦で大学に進むのは?」

「いや…嬉しいですけど。何か…置いていかれちゃうみたいで寂しいかなって…」

「石川もちゃんと勉強すれば大学に行けるわよ。それよりも、後藤の方が心配よ。話聞くと、授業中いつも寝てるみたいじゃない。週に一回はここに寝に来るしね」

保田先生は、ヤレヤレといった顔をすると、自分のカバンに荷物をまとめだした。



「じゃあ、先生。私ソロソロ図書室に行って勉強します」

「そう?頑張ってね。またいつでもここにいらっしゃい」
保田先生は、私を迎え入れてくらた時と同じ笑顔をふりまく。

「はい、ありがとうございました」
私も笑顔で返してから、先生にお辞儀をして保健室を出た。

185 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時27分30秒


−3−

保健室を出てから進路について真剣に悩む。

大学かぁ…。
さすがに私が体育系の大学に進むことは無理だろうな…。
テニスがすごく上手い訳でもないし…。
親は文系に行けって言ってたな。

でも、私は何がしたいんだろう?

将来についてなんか、全然真剣には考えてなかった…

真希ちゃんはどうするんだろうか?
前にヘアメイクになりたいって言ってたけど、
それも気まぐれの発言にも思えるし…。
かといって、一生懸命勉強して受験する真希ちゃんの姿は想像つかない。

186 名前:保田先生と石川さん 其の一 投稿日:2002年06月25日(火)18時29分58秒

あ、そうだ。

今朝の真希ちゃん…どうしちゃったんだろう?

何か悩み事でもあるのかな?

前の彼氏のこと、まだ引きずってるのかな?

だからイライラしてて…

あの機嫌の悪さは雨が降ってただけが理由だとは思えないし。
学校の帰りに真希ちゃんちに寄ってみようかな。

でも私が「何かあったの?」って聞いたところで、
絶対に「何もないよ。大丈夫だよ」っていうのがオチだろうしなぁ。

うーん………。

あっ。
ひとみちゃんにさりげなく聞いてもらうのがいいかもしれない。

よしっ!

あとで、ひとみちゃんにメールしておこう。

187 名前:PUNK 投稿日:2002年06月25日(火)18時40分55秒
更新終了です。
職場で書くほうが筆が進みます。
家だと全然書けなくなる。なんでだろ?

>>174 名無し読者様
レスありがとうございます。
3人は、幸せを掴むために色んな事で悩んでしまうのでしょうか…
いずれは幸せにしてやりたいと思ってはいます。(笑)ガムバリます。

>>175 名無し読者様
レスありがとうございます。
ラストはまだしばらく先になってしまうかと………
こんな駄文でよろしければ、今しばらくお付き合い頂けると嬉しいです。

>>176 オガマー様
いつも、レスありがとうございます。
ごま=いい子の構図が作者の頭の中にある限り、
ごまはいい子なのです。(笑)
しかし一番苦しんでいるのはごまだったりする罠…
いや、どうなんだろうか?

MUSIX見て不機嫌にならなければ、夜また更新したいと思います。m(__)m
188 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月25日(火)20時35分11秒
ケメコ、いい人だ。
ごまもとてもいい子。
いしかーさん、愛されてますね。

189 名前:PUNK 投稿日:2002年06月26日(水)02時44分57秒
うぎゃーーーー!!!!!!

会社にFD忘れた…
190 名前:オガマー 投稿日:2002年06月26日(水)04時17分18秒
いいですねー
会話の噛み合ってない梨華ちゃん萌え(笑
なんか淡々とした雰囲気が素敵ですな、このシーン
ごま、がんがれ!!進路も…
191 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月26日(水)12時44分41秒
始めて読ませていただきました。
今まで知らなかった自分のバカー!!って心境です。
決して軽い内容ではないのに、所々で笑いあり。
もーどこまでもついていきます。
続き楽しみにしています。
192 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時34分17秒


−1−


部活の練習が終わって、一人部室に残っていた。
今日は当番で、日誌を付けなければならない。

一人で部室に残ってるのは久しぶりだ。
飯田先輩の事があってから、また部室に居残る生活が始まるかと思えたけども、
最近は少しだけ家に帰るのが楽しみになった。
帰り道に携帯をチェックすると、必ず梨華ちゃんからのメールが入っているから。
相変わらず大した内容ではないんだけど、あたしにはそれがとても嬉しい。
そして、寝る前に梨華ちゃんと電話で話す時間も楽しみだ。

ここ数日間で梨華ちゃんという存在が少し身近に思えるようになった。
前は、何となく自分から梨華ちゃんには距離を置いて接していたところがあったと思う。
あたしには負い目があるから…
梨華ちゃんに対して…
梨華ちゃんは何も知らないから、あたしに普通に接してくれる。
それはそれですごく嬉しいことなんだけど、たまにすごく怖くもなる。

怪我の原因があたしであることを梨華ちゃんが知ってしまったら…

梨華ちゃんはもう、あたしにメールも電話もしてくれなくなるんじゃないかと…

梨華ちゃんに嫌われてしまうのではないかと…

193 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時35分48秒


人が部屋に入ってくる気配を感じて顔をあげると、市井先輩がいた。
先輩とは、この前の一件以来、事務的な会話しかしていなかった。
何となく気まずさを覚え日誌を手に部室を出ようとした時、先輩から声を掛けられた。


「吉澤…ちょっと話しない?」

先輩だって、あたしには声を掛けづらかったんだと思う。
それなのに話掛けてきてくれている訳だから、ここはきちんと向き合わなくてはならない。


「はい…いいですよ」

「日誌…職員室に届けるんだろ?先に校門のとこで待ってるから…」
先輩はそう言い残すと部室を跡にした。

194 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時37分19秒


先輩の話とは、この前の話であろうことは予測がついた。
しかし、今更あたしと何を話したいのだろうか?

自分が飯田先輩をあたしから奪った事への謝罪?

それとも、まあ気軽に今まで通りやっていこうという話?

どちらにしても、今のあたしにはやや荷が重い。
飯田先輩を失って、ある一つの事に気付きつつあるから。


あたしのことを必要だと言ってくれた人。

あたしに安らぎを与えてくれた人。

愛の言葉なんて囁き合う事はなかったのに。

自分の居場所として利用していたはずなのに。

失って初めて気付いた想いが「愛」というものである事に気付きつつあるから。


ううん、違う。
もう自覚しているんだ。


あたしは飯田圭織を愛していた。


そして彼女を忘れられないあたしがまだここにいる。


195 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時39分01秒


−2−


職員室で当番の先生に日誌を提出してから、学校を出た。
昇降口から校門までの距離がいつもよりも長く感じる。
けど、時間は過ぎていく訳で…
歩き続けたあたしの足は校門まで辿り着く。

市井先輩は、あたしの姿を確認するなり何も言わずに歩き出した。
あたしも先輩に数歩遅れて、彼女の後に続いた。

沈黙が続く中、あたしは先輩の背中をずっと見ていた。
ピンと伸ばされた背筋からは、先輩の力強さのようなものを感じる。
この背中に、飯田先輩のあの爪が食い込んだのだろうか?


「飯田先輩のことだけど…」

先輩はそう言って立ち止まる。
あたしの位置が先輩に並ぶと、再び歩き出した。
先輩の視線は相変わらず前を向いたまま。

196 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時40分42秒


「ずっと好きだったんだ。高校に入ってから…ずっと」

「…………はい」

「だから吉澤と先輩の噂を聞いたときはショックだったさ」
先輩はあたしを見て、少しだけ微笑んだ。


「高校に入って、バレーボール部に入部して…。キレイな人がいるもんだなって思った。けどその頃は、バレーやるのに必死でさ…高1年の時、あたしが肩を脱臼したの知ってるよね?」
中学と高校では部活の練習場所が違うから直接は知らないが、先輩が脱臼したことを話には聞いていた。


「ボール追いかけてダイヴしたら、肩から落ちたとかって…」

「そう。自分のミスなんだけど悔しくってね。中学の時から一筋縄で頑張ってきたバレーボールを出来ない事が。試合に出れない事が…。何ていうかな、初めて味わった挫折というか…。本当悔しくって悔しくって。八つ当たりっていうの?練習終わった後にさ、ボールを思いっきり蹴飛ばしたんだよね。体育館で思いっきり。そしたらさ…」
思い出し笑いだろうか?先輩はクスリと笑った。

197 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時46分22秒

「そのボールが飯田先輩の頭に直撃しちゃったんだよね。先輩はまるでスローモーションかのように床に倒れこんでさ。びっくりして慌てて倒れた先輩に駆け寄ったの。で、必死に謝って。先輩は倒れたままの状態であたしを睨むなり『八つ当たりをボールにぶつけるな』って。んで何事もなかったかのように起き上がって…そっから説教が始まった。そもそも無理なボールを追いかけていったから脱臼したんだろって話から、ボールにも命があるんだって訳分からない話まで」

飯田先輩の説教内容が何となく想像がついてしまい、思わず吹き出してしまった。


「吉澤も分かるだろ?飯田先輩の訳分からない説教…。最初はボールぶつけてしまった罪悪感から素直に説教聞いていたんだけど、途中からこの人は何が言いたいんだろう?って思ってね…。でも最後に言ってくれたんだ。『紗耶香が脱臼して辛いのは、あんただけじゃないよ』って。『紗耶香と一緒に試合に出れない事は、私達だって辛いんだから』って。何かね、すごくその言葉に救われた気がした。そして思えるようになったんだ。早く治して先輩達と一緒に練習がしたい、試合に出たいって。自分の為だけに治すんじゃなくてね…」



198 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時47分24秒

少し遠い目をしてから、先輩は右肩を押さえ腕を回した。

「で、気付いたら、飯田先輩を好きになってた。思いもしなかったよ、自分が女の人を好きになるなんてね…。かと言って自分の気持ちを先輩に伝えようとも思わなかった。このままの先輩後輩関係でいいって思ってた。うん。このままでいいって思ってたんだよ………先輩から、吉澤のことを聞くまでは…」

「………でもあたし達はそういうんじゃ…」

「知ってるよ。圭織…飯田先輩から全部聞いた。付き合っていた訳じゃないって」

「………はい…付き合ってた訳じゃ…」

「付き合ってはいないけど、先輩のことを抱いた…」

「………そ、それは……」

199 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時48分30秒

「吉澤は自分の居場所として先輩を求めてた…。先輩もそれは承知だった。じゃあ、何で先輩はお前に抱かれたいと思うんだ?」

先輩の視線が少しだけ痛い。


「答えは簡単だよ。飯田先輩はお前が好きだから。吉澤が欲しいから…。自分は吉澤に利用されるだけの人間でも構わないって。それで吉澤が満足してくれるなら、それでいいってね」

──── 飯田先輩があたしを好き…

「だけど気付いたんだろうね。吉澤の心までは自分のものにはならないって…」

──── 違う、あたしも先輩が好きだったんだ。

「だから先輩は嫌になった。吉澤との関係がね。だけど吉澤を失いたくもない…」

──── あたしだって先輩を失いたくなかった。

200 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時50分29秒


「新学期が始まる前に飯田先輩に偶然会ったんだ。先輩にお茶でもしようって誘われた。最初は他愛もない話してたんだけどね…途中から泣き出しちゃって。あたしに全部話してくれたよ。吉澤との関係、吉澤への思いも…」

「…………」

「噂で聞くよりも先輩の口から直接聞く方が断然辛かった。でも同時にやっぱりあたしはこの人が好きなんだって思ったよ。だからあたしは先輩に言った。吉澤なんかとは別れたほうがいいって。…あたしなら先輩を愛せるからって…」


──── あたしだって飯田先輩が好きだったんだよ?


「お前に対しては、すごい罪悪感を感じたよ…。でも、吉澤がどういう理由で先輩を必要としているかなんて知ったことじゃない。あたしは吉澤よりも先輩が大事なんだって思ったら…罪悪感なんてすぐになくなった」

「…………」

201 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時53分02秒

「今、あたしは先輩と付き合ってる。もしかしたら先輩はまだお前のことを思ってるかもしれない。けど、あたしはそれでもいい。お前といる時の方が、先輩は傷つくから。あたしは先輩を傷つけたりはしない。先輩を、ちゃんと愛してるから。体だけの関係なんかじゃないよ。あたしには、自分の心も先輩にあげることが出来るんだ…」



これ以上、話を聞きたいとは思わなかった。
あたしには分かるから。
市井先輩が話をしなくても、充分に分かる。

人は、愛することよりも愛されることを望むんだ。

自分の気持ちに気付いてたのに、あたしは飯田先輩にその想いを伝えなかった。


先に自分の気持ちを伝えた市井先輩の勝ち。
先輩のサーブの方があたしよりも早く決まっただけ。

市井先輩はバレーも恋愛も…あたしより上手だ。

202 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)20時57分11秒


「ありがとうございます。ちゃんと話してくれて嬉しく思いますよ」

「いや…こっちこそ…すまなかった。『お前とは違う、一緒にすんな』とか言っちゃったりして…」

「いいんですよ。前にも言いましたよね?飯田先輩と市井先輩はお似合いですよ、本当に。あたしは、利用してただけですから…飯田先輩のことを。おっしゃる通りですね。あたしは、心までを飯田先輩にはあげられなかった…」

「でも吉澤…。お前は何をそんなに思いつめてるの?あたしなんかに聞く権利なんかないかもしれないけど………」

「何も思いつめたりしてないですよ。まあ、思春期特有の悩みってやつですかね?自分でもよく分かりません」
あたしは先輩にニッコリと微笑んだ。

「この前のことで、ちょっと気まずい感じになっちゃいましたけど…また、今まで通りに接して下さいよ。あんな事した、あたしが悪いんですけどね、へへ。でも市井先輩まで失いたくないんで」

「吉澤……。そうだな、今まで通りに」
先輩は微笑みながらあたしの軽く背中を叩いた。
203 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)21時03分02秒


「飯田圭織の事はあたしに任せろ」

背中を叩いた先輩の手がそう言ってるように思えた。


うん、これでいいんだ。

あたしはあたしの道を歩いていこう。



「もうすぐ練習試合ですね。あたし突き指しちゃいましたけど…」
今朝、真希に見せた包帯を先輩にも見せる。

「ガンバッテイキマッショイ」

先輩に向かって指をお辞儀させると、先輩は少し微笑んでから
「頑張っていきまっしょい」と指にお辞儀を返してくれた。


204 名前:市井先輩と吉澤さん 其の一 投稿日:2002年06月26日(水)21時06分54秒


−3−

それから先輩とは今度の対戦校について話をした後、この前の交差点で別れた。
前向きな気持ちになったものの、一人になると再び飯田先輩のことを思い出しそうになる…。

あたしは携帯の電源を入れた。
梨華ちゃんからメールが届いているはずだ。
それがあたしの気を紛らしてくれる。

メールを確認すると2通。
1通目はやはり梨華ちゃんから。

【部活お疲れさま。家に戻ったら連絡くれますか?】


2通目は、真希からだった。

【帰ってきたら連絡くれぃ】


はて、二人揃って何の用だろう?
とりあえずあたしは梨華ちゃんに電話をすることにした。

205 名前:PUNK 投稿日:2002年06月26日(水)21時13分15秒
更新は以上です。
今日は、全然書く暇がなかった。。。

>>188 ごまべーぐる様
いつもレスありがとうございます。
ケメ子いい奴です。ごまもいい子です。
更に、いしかーさん、愛されキャラです。
そしてよしざーさん、孤独な人です。。。(泣)

>>190 オガマー様
レスありがとうございます。
梨華ちゃんは怪我に関係なくボケキャラなんで、
会話が噛み合わないのは致し方ないのレス。( ´D`)テヘテヘ

>>191 名無し読者様
レスありがとうございます。
テーマは重いかもしれないんですけども、
作者自身の人生のモットーは、「心にいつも笑いを」なものでして…。
今後も、駄文ですがお付き合い頂けると嬉しいです。


次回はちょっと更新が…厳しいくなりつつ…あり…ま…
206 名前:オガマー 投稿日:2002年06月26日(水)22時12分43秒
梨華ちゃんは理由がわかってるけど、
ごまは何を話すのだろうか…
吉、ちょっとひねくれてるかな?(笑)
でも、一番やはり実態がつかめないスね、吉。
207 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時12分01秒


−1−


学校から戻ってきて、すぐに昼寝をした。
今日は学校で、ずっと机に伏せたままだったけど全然寝れなかったから。
原因は、前の席の子に言われた事。

「吉澤さんって…昔、何かしたの?」
この言葉が頭の中を巡り続ける。


ひとみは何かした?

─── 梨華ちゃんを怪我させた…


どうやって?

─── ブランコから突き落として…


それでどうなったの?

─── 梨華ちゃんは記憶を失った。


ひとみはどうなったの?

─── おばあちゃんの家に預けられた。


自分はどう思った?

─── 梨華ちゃんの記憶がなくなったことが悲しかった。


ひとみに対しては?

─── 同情した…


何で?ひとみは梨華ちゃんを突き落とした張本人だよ?

─── それは………


208 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時13分40秒


−2−


目が覚めた時、外はもう真っ暗になっていた。
起きてからリビングに向かうと、お姉ちゃんとユウキと、
なぜか、制服姿のひとみが一緒に食事をしていた。

「おう、やっと起きたか」
ひとみは、ご飯を頬張りながら微笑んでいる。

「っつーか、なんでひとみがうちで飯食ってるの?」

「あんたが、ひとみちゃんに連絡したんでしょ?ずっとひとみちゃん、携帯に電話してたみたいよ?
 あんたが出ないから直接うちに来たの。で、一緒にご飯を食べてる訳」
代弁してくれるお姉ちゃんに、ひとみはウンウンとうなずく。

「そうだ。ひとみにメールしてたんだったね。忘れてた、あははは」

「忘れてたんかいっ!何だよ、せっかく来たのに…」

「まあまあ、ゆっくりしていってよ」
ひとみの肩を軽く叩いて、あたしも食事の準備をした。

209 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時16分22秒

「あれ?」
自分の茶碗を戸棚で探してみたが見つからない。

「ねえ、お姉ちゃん。あたしの茶碗がないよ?」

「あ、ひとみちゃんが使ってるから。あんたがお客さん用の使いなさい」
ひとみを見たら確かに手の中に、あたしのお茶碗がある。

「何でひとみがあたしの茶碗使ってるの?普通ひとみがお客さん用使わない?」

あたしの抗議に対して、お姉ちゃんとひとみと、どさくさに紛れてユウキまで声を揃えて言う。

「「「起きないあんたが悪いんでしょ!」」」

言い返せずに、お客さん用のお茶碗にご飯を盛る。
ちぇっ。

席に着く時、お約束のように不出来な弟の頭にはゲンコツを落としておいた。
やや涙目のユウキが抗議してきたが無視をした。

「お姉さんの作る肉ジャガ上手いっすねぇ」
ひとみ…お姉ちゃんにコビ売っても何の利益もないぞ?

「そんなことないわよ。ホラ、どんどん食べてね。残してももったいないから」
料理を誉められた姉はまんざらでもなさそうだった。

210 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時19分34秒

「うん、残すと朝も食べなきゃなんないからひとみ、どんどん食っちゃって」
お姉ちゃんはあたしに向かって足を蹴り上げた。
しかし先読み出来たあたしはそれを上手にかわす。
代わりに姉の蹴りをユウキが受け止める羽目となった。

「痛っ!なにすんだよ!」

「あははははははは」
あたしの甲高い笑い声が食卓に響き渡る。
ユウキは足を押さえながらあたしと姉を交互に睨みつけている。

「真希んとこは姉弟、仲いいよね」
笑いながらひとみが言う。

「そんなことないですね!いっつもこの怪力女達にやられっぱなしで。ちっとも仲良くなんかないっすよ!」
ユウキは立ち上がって流しに食器を置いてから、自分の部屋に戻っていった。

211 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時20分26秒

「その通り。ちっとも仲良くなんかないよ。しょっちゅうケンカばっかり。
特に真希がね。私にケンカ売ってきたり、ユウキを殴ったりで」
姉の言葉を無視して、あたしは黙々と食事を続けた。

「でも言うじゃないですか。ケンカするほど仲がいいって。ウチじゃ絶対にないですね。
弟とケンカすることも、言葉もロクに交わさないですよ」

「でも、ひとみちゃんとこは、年離れてるし。ケンカする理由もないんじゃない?」

「そうかもしれないですけど…」


あたしには、何となくひとみの言いたい事が分かった。
ひとみが家族と折が合わないことを知っているから。
前に一度、話したことがある。
ひとみは家が嫌いだと言っていた。
帰れるもんなら田舎に戻りたいと。

212 名前:後藤真希自宅にて 投稿日:2002年06月28日(金)01時22分02秒


−3−

食事を終えてからお姉ちゃんが作ったゼリーを持って、ひとみと部屋に戻った。
缶詰のみかんで作ったゼリーはお姉ちゃん得意のデザートで、週一回は作ってくれる。
素朴な味だけど、中々上手い。

「これ美味しいね」
ベッドに腰かけたひとみは、一気にゼリーを平らげた。

「簡単に作れるから、毎週作ってくれるよ。まあ、シンプルな味だけどね」
あたしは勉強机の椅子に座った。

「最初はメールをしたんだけどね。全然返信ないから寝てるのかなって思ってさ」

「ごめんね、全然気付かなくってさ…」

あたしは携帯を手に取った。着信が3件。メールが1通。


「梨華ちゃんからも連絡が欲しいってメールが入ってて。家に戻ってから電話したの。
そしたら、なんか真希の様子が変だって言うからさ…」

梨華ちゃん心配してくれてたんだ…。

213 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時23分57秒

「にしてもすごいね。クラスの子の胸倉掴んで『鼻圧し折るから』って言ったんでしょ?すごいよ、かっけぇーよ、真希」

ひとみは他人事のように笑う。


「まあ、何があったのかは知らないけど。でもそのことでメールくれたんでしょ?」

「……いや、そういう訳でもないんだけど…」

「でどうしたのよ?何があったの?」

「ん…いやぁ…その事はもういいんだ。何と言うか、それはもう関係ない話であって…」

「真希が関係ないっていうならそれはそれでいいけど…」

「ただ、まあ、あたしも色々と考える訳よ…」

「うん」

「実はさ、タカシと別れたんだよね」

「は?いつ?」

「三週間くらい前。ムカツクこと言うからあたしが切れちゃって」

「ムカツク事?」

「まあその内容はどうでもいいんだけど…キレてしまったあたしは、タカシをボコボコに殴っちゃった…あはははは」

「あはははって…笑い事で済む話なの?」

「え?済まされないかな?」

「いや…でも普通殴る?腹立って切れてしまったのは仕方ないにしても…」

214 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時25分57秒


「許せなかったんだよね」

「何が?」

「いや、それはもう、どうでもいいんだよ…」

あたしが、核心を避けて話そうとしてることに気付いたのかな?
ひとみはちょっと不機嫌そうな顔をした。


「あのさ、真希は何らかの話がしたくてあたしに連絡してきたんだよね?」

「うん…」

「それは、今日の学校の事にも関係あるし、そのタカシって奴を殴ったことにも関係ある。そうでしょ?」

「いや…うーん…」

「さっきも言ったけど、真希が言いたくないなら言わなくてもいいよ。けど、それだとあたしは何も答えてあげる事は出来ないよ」

「うん…確かにそうだね」

「で、真希は何が言いたいの?」


いざ本人を目の前にすると、何も言えなかった。
ひとみを救ってあげたいと思うものの、
このことについて、触れてはいけないのかもしれないという迷いがあったから。

梨華ちゃんが記憶を失ったこと…

そのことで、今もひとみは苦しんでいるのに…

話に触れるべきか、それとも触れないべきか。

どっちがひとみの為になるんだろう?


215 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時27分48秒


「ひとみはさぁ、今、幸せだなぁって思える?」

「は?何をいきなり?それが聞きたかった事なの?」

「いや、そうじゃないんだけど」

「訳わかんねー。あはははは」
そのままひとみはベッドに寝っころがった。


「幸せねぇ…どうだろ?幸せ…平和で無事に過ごせてる事が幸せなんだとしたら、幸せなのかもしれないね」
天井を見上げたまま、ひとみは呟くように言った。

「そっか…」


「でも…この17年間で一番幸せだったのは?って聞かれたら、幼稚園の頃って答えるかな」

「…うん」


「何にも考えないで毎日が過ぎてた気がする、あの頃って。幼稚園に行って、真希や梨華ちゃんと遊んで…。
ふふふ、チャーミーごっこだっけ?あれ楽しかったね」

「そうだね、楽しかった」

216 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時30分15秒

ひとみの方から、あの頃の話をするとは思わなかった。
でもね、ずっとあたしは話したかったんだよ。
あたしだって、あの頃は楽しかったから。
梨華ちゃんは失くしてしまったけど、
あたしとひとみには残っている大切な思い出…。


「こんな日がずっと続くもんだと思ってたよ…。結局は、あたしが全部…自らそれを壊してしまったんだけどね…」

「でもそれは…」


「ねえ、真希。…今までごめんね。真希にも辛い思いをさせちゃったよね。真希は梨華ちゃん大好きだったからね。
あたしはいつも梨華ちゃんをいじめてたけど、真希は必ず梨華ちゃんをかばってた…」

「…………」


「あの時だって、真希はブランコ止めさせようとした。……なのにあたしはブランコ止めなかった。
それで、梨華ちゃんはブランコから落ちた…」

「あれは事故なんだよ。ひとみが悪い訳じゃない」

217 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時32分14秒


「ううん、悪いのはあたしだよ。梨華ちゃんに絵の具のジュースだって飲ませるような悪い子なんだから…。
あの後、児童相談所に通ってたの知ってるよね。そこで毎日のように聞かれるの。
『なんでお友達を怪我させるような事をするの?』って。
けど、あたし答えられなくてさ。一生懸命考えたんだよ、何でだろうって。
何で梨華ちゃんを怪我させちゃったんだろうって。だけど何も答えは出てこなかった…」

「だって別にひとみに悪気があった訳じゃないじゃん。わざとじゃないから…」


「していい事と、してはいけない事。良い事と悪い事の区別がつかないからだよって教えられた。
悪気がなかったとしても、してはいけない事をしてしまったら、それは悪い子になるんだ」

「そんなの違うよ。ひとみは悪い子なんかじゃなかったもん。だって、一緒にお墓作ったじゃん。
トカゲと粘土の猫のお墓。ひとみは優しい子だったよ」


涙が出そうになったけど、堪えた。
あたしが泣いたところで、ひとみの過去は変えられないから。

218 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時37分16秒

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。
でもね、区別がつかない悪い子は親から捨てられるんだ。
あたしさ、その時になって初めて心から反省したの。
もう二度としません。梨華ちゃんをいじめたりしません。
泣かせたりもしませんし、怪我も絶対にさせませんって。
梨華ちゃんが記憶を失ってから反省するんじゃなくて、自分が親から捨てられそうになって初めて反省する…。
だからあたしは梨華ちゃんに優しくするんだ。真希が梨華ちゃんのためを思って厳しく接してきたのは知ってるよ。
梨華ちゃんに一生懸命勉強を教えてあげて…。真希は偉いなって思うよ。あたしには出来ないからね。
冗談でも梨華ちゃんをからかうなんてことは、もう出来ない。だって、あんな思いを二度としたくないからさ…。
だからあたしは梨華ちゃんには優しくする。ズルイよね。本当に卑怯な奴だと思う…」

「ひとみは自分を責めすぎだよ。もう誰もそんな事思ったりしてない…」

「うん、もう誰もあたしを責めたりなんかはしないよ。梨華ちゃんは怪我の原因だって知らないんだし…。
だけどあたしが犯した事は…梨華ちゃんに怪我を負わせた罪は大きい」

219 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時39分41秒


「けど、その代償だって大きかった…」

「そだね、大きかったよ…」


「だからもういいじゃん。ひとみは充分に苦しんだんでしょ?それでいいじゃん」

「よくないよ。だって、それが事実だから。あたしが梨華ちゃんに怪我をさせた事。
そのせいで梨華ちゃんに記憶障害がある事だって…真希の気持ちはすごく嬉しく思うよ。
けど事実は変わらない。あたしが犯した罪は……なくならないんだ」


「じゃあ何?ひとみが苦しみ続ければ、事実が変わるわけ?」

「…そうじゃないけど」


「苦しんでも事実が変わらないんだったら、苦しむ必要なんてないじゃん」

「そりゃ苦しまなくって済むもんなら苦しみたくなんかないよ。
でもね、実際に見せ付けられちゃうんだよ。
梨華ちゃんが大好きなテニスを辞めてまで勉強している姿を…
現実として突きつけられるんだ。あたしが怪我させてなかったら、梨華ちゃんは今もテニスを続けられた。
そうでしょ、ねぇ違う?」

「…………」


「だから、あたしはそれを受け止めなきゃいけない。事実をきちんと…」

220 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時42分11秒

ひとみはちゃんと事実を受け止めている。
卑怯なのは、あたしだ。
ひとみを助けてあげたいと思うのに、現実から逃げている。
逃げることで、自分が楽になりたかったんだ。



「ごめん…。あたしさ、忘れたかったんだよね。あの事故のこと、もう忘れたい。
タカシに梨華ちゃんのひらがなメール見せたら、あいつバカにしたんだよ。
『お前の幼馴染み頭弱いんじゃないの』って。
クラスの子には、ひとみの事を聞かれた。
『ひとみは人を怪我させたの?』って。
だから殴った。だから胸倉掴んだ。あたしはもう忘れたいのに…」


「…真希がそんなことしたって誰も喜ばないよ。あたしも…梨華ちゃんだって」

「そんなの分かってるよ!喜んで欲しくてそんなことした訳じゃない!」


「でも真希が忘れたいと思う事実を、あたしには忘れることが出来ないんだ。自分がしてしまった事だから…」

221 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時44分51秒

「……じゃ、どうすればいいの?どうすればひとみは…」

「それは分からない…。
でもいつか、梨華ちゃんにも全部話さなきゃいけないんだろうなって思う」


「ダメ!そ、それはダメだよ。
そんなの…梨華ちゃんのママも、梨華ちゃんには怪我の原因を隠してきてるんだよ?
ショック受けないようにって。梨華ちゃんだってその事を知ったら…」

「確実に嫌われるだろうね。だから怖い…。けど、謝りたいとも思うんだ。
謝ったら少しは楽になれるんじゃないかって。
だけど今は、楽になりたいっていう気持ちよりも、
梨華ちゃんに嫌われたくないという思いの方が強いんだ。
もう自分が傷つくのが嫌なんだよね。本当に弱虫だよ、あたしは」



やっぱりあたしは、ひとみに同情する。

梨華ちゃんを突き落とした人に同情する。

自分が……

ひとみのような思いをしなくて良かったなって……


だから、あたしはひとみに同情するんだ。


222 名前:後藤真希自宅にて 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時47分30秒


「そう考えると、やっぱ今のあたしは幸せじゃないかもね」


「……なら、あたしも幸せじゃないよ」

「何で?」


「だって…幼馴染みが…、今もまだ…昔の事で苦しんでるから……」


泣くつもりはなかったのに、涙がこぼれた。
ひとみは、あたしに近づくと頭の上をポンポンと軽く叩いた。



「マキ、ナクナヨ」

目の前には包帯姿の突き指君。
それを見たあたしは、更に大きな声をあげて泣いた。


卑怯なあたしには、まだ君を助けてあげる事が出来ない…。



223 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時49分55秒


−1−


もうすぐテストが始まる。
昨日からほとんどの部活は休みに入った。
ひとみちゃんのいるバレーボール部は本日練習試合。
けど、明日の日曜日からはさすがに休みに入るらしい。

これはチャンスではないかと思う。
ひとみちゃんと出かけるチャンスは明日なんじゃないかなと…。

しかし今はテスト前。
ましてや、試合で疲れてるかもしれない。
久々の休日くらい、家でゆっくりとしたいかな?

あ、でも…テストが終わったら、今度は大会が始まっちゃうよ。
そしたら全然休みはないはず…。
強いチームだから勝ち進んでいくだろうし。
はぁ、どうしよう…。

勇気を出して誘ってみますか?

それとも諦めますか?

224 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時51分43秒


−2−


夜になって、ひとみちゃんからメールが入った。

【試合は楽勝だったよ。明日は久々の休みだから嬉しい】

そうだよね。
久々の休み…嬉しいよね。
うん、今回は誘うの諦めよう…。


【試合お疲れさま。勝利おめでとう!明日はゆっくり休んでね】

私は、泣く泣く送信ボタンを押した。
これでいいんだ。ひとみちゃんは、明日は体を休ませる日なんだ…
梨華はチャンスを諦めます…。
アーメン…



数分後、またメールが届いた。


【梨華ちゃん明日は暇?もし何も用がなかったら、映画見に行かない?】

225 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時53分46秒

ああ、神よ…。

あなたは、私を見捨てないで下さったのですね。

それどころか、ひとみちゃんの方から…

これは夢なんですか?

夢だとしても嬉しすぎる。

それとも、私の目が錯覚してるのでしょうか?

錯覚でもいい。
明日、私は暇です。

暇じゃなくても、ひとみちゃんと映画を見ます。

ううん、スクリーンなんて見ていられないかもしれない。

隣にひとみちゃんが座ってたら…


226 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時56分02秒

【うんいいよ。何時くらいにする?】


どっかで待ち合わせとかするのかな?
でも家は前なんだし…
もしかして朝、迎えに来てくれちゃったりするのかな?

「梨華ちゃん、行こう」
手なんか差し出してくれちゃったりして…

「うん、行こうひとみちゃん」
私は恥ずかしそうにその手を握り締めて…

ああ、どうしよう。今からすごい緊張する。



【映画がお昼からなんだ。11時に家の前でどう?】

お昼からって…
映画の時間もう調べてくれたの?
もしかして、随分前から、考えてくれてたのかな?
何の映画なんだろう?
ラブストーリー?
どうしよう、キスシーンなんかがあって…。
見終わった後に、その話をしてて…

「あのキスシーン、見てて恥ずかしくなっちゃった…」
あたしが恥ずかしそうに言うと、

「そう?キスなんて普通だよ。何ならしてみる?」

「………………」


キャーーーーーーーーーーーー!!!!!
もう、今日は寝ることも出来ません。

227 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月28日(金)01時58分39秒

−3−


本当に寝れなかった。
羊の数も千匹以上数えた。
少しは寝ないと、明日映画の途中で眠くなってしまうかもしれない…。
時計を見たらもう4時。
目の下にクマが出来ちゃうかも。

あ、そうだ。何を着ていくか全然考えてなかった。
ワンピース?
あれじゃ、まだ寒いかな。
でもその上から羽織るもの着ていけばいいのかな?
ん?いや、わざと着ていかないという手もあるかも。

「どうしたの?梨華ちゃん寒いの?」

「うん、でも大丈夫だよ」

「ダメだよ。風邪ひいちゃうよ?」
といって、私にひとみちゃんが着ていた上着を掛けてくれて…。

ナイスアイディア!
わざと薄着で行こう。
はあ、早く寝なきゃね。
えっと、どこまで数えたっけ?
あ、そうだ。
羊が1444匹、羊が1445匹、羊が1446匹、羊が1447匹…

……もしかして羊って数えると眠くならない罠?
羊じゃないのを数えてみようかな。
何を数えよう…。

ひとみちゃんが一人、ひとみちゃんが二人、ひとみちゃんが三人、ひとみちゃんが四人…

ひとみちゃんを数えた私は、どうにか寝る事が出来ました。
羊に乗ったひとみちゃんの大群の夢を見ながら…

228 名前:PUNK 投稿日:2002年06月28日(金)02時05分36秒
中途半端ですが、更新完了です。
昨日、今日と職場が忙しくなってきたしまったので
続きが遅くなってます…。まあ、忙しいのは当たり前のことなんですけどね。

>206 オガマー様
レスありがとうございます。
吉の実態、自分も掴めなくなりつつあります…。
ごちーんの部屋での会話はもう何十回と書きなおした書きなおした…。


当初、想定したストーリーとはどんどんかけ離れて行って、
無事エンディングに辿りつけるか不安な日々…。
229 名前:PUNK 投稿日:2002年06月28日(金)02時06分45秒
↑あげてしまった。
バカだバカだ。
すみませ。。。
230 名前:オガマー 投稿日:2002年06月28日(金)02時08分27秒
リアルタイムw
ごまは結構、激情型なんですなぁ〜
ヨシはあきらめ?梨華ちゃんは何もしらないだけだけど。
やっぱりごまの年齢で自分でない大切な人のこととなると憤りを感じて
しまうのでしょうかね。
エンディングにたどりつけるように影ながら応援してますw
231 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月28日(金)06時48分30秒
吉もゴマも切ないですな・・・
でも、何も知らない石川さんのハイテンションっぷりに
笑いました(w
更新頑張って下さい!!
232 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月28日(金)08時20分16秒
ひとり盛り上がりないしかーさんに萌え(w
よすこもごまも救いがあってほしいだす。
233 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時21分41秒


−4−

目が覚めたら本当にクマが出来ていた。
しかも、起きたら10時45分…。
ノンビリ準備をしている時間さえもない。

いつになく、ものすごい早さで仕度を整えた。
クマはファンデーションでごまかしたものの、やっぱ目立つ。
もうこれは諦めよう。いいじゃない。
ひとみちゃんならクマが出来てても、バカにはしないよ。

「お母さん、ちょっと出かけてくるね」
リビングにいたお母さんに声を掛けて玄関に向かった。
234 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時22分35秒

「梨華、どこ行くの?テスト前でしょ?」

「ひとみちゃんとね、映画見てくる」

「ひとみちゃんって?前のお宅の吉澤さん?」
お母さんはなぜかすごく驚いた顔をした。

「うん、前の家のひとみちゃんだけど…。どうかしたの?」

「い、いや。珍しいわね、一緒にお出かけするなんて…」
あれ?お母さん、今動揺しなかった?

「確かに、一緒に出かけたりするのは初めてかな」

「あまり遅くならないうちに帰ってらっしゃいよ。それから…」

「ん?それから?」

「…まあいいわ。とにかく、事故のないよう気を付けなさいね」

「子供じゃないんだから、大丈夫だよ。じゃ、行ってきまーす」

ちょっとだけお母さんの様子が気になった。

235 名前:デートですか?石川さん 投稿日:2002年06月29日(土)08時24分04秒


−5−

ひとみちゃんは自分の家の塀に背中を付けながらしゃがんでいた。
ジーパンに大きめなパーカー姿。
かっこいい。本当にかっこいいよ、ひとみちゃん。

「おはよう、梨華ちゃん」

私に気付くと立ち上がってから、優しい笑顔を私にくれた。
朝からその笑顔を見れるなんて…私はとっても幸せです。

「おはよう、ひとみちゃん」

「ごめんね、急に誘っちゃったりして。テスト前なのに…」

「ううん、全然平気だよ」
たとえテスト中でも、ひとみちゃんとならお出かけしますよ。

「昨日ね、試合の後コンビニに行ったの。そしたらさ、くじ引きみたいなのやっててね。
で、引いたら、映画鑑賞券が当たったんだ」

「すごいね、私そういうの当てたことないもん」

「しかも5枚もくれたからさ、部活の子に2枚あげて」

「へぇ、5枚も?すごいね。……………ん?」

ちょっと待って?

5枚貰って2枚あげました。
ということは、残りは…………何枚?
236 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時26分50秒


「んあ、おはよ」

背後から聞き慣れた声がした。
誰の声かなんてすぐに分かったけど…。

振り返って真希ちゃんの眠そうな顔を見た時は、一瞬、意識が遠のきそうになった。
確かに、ひとみちゃんは二人っきりで映画を見ようだなんて一言も言ってない。
私の勝手な思い違いな訳で…
昨日の夜は寝ないで色んな事考えてたのに…
「全てが泡となる」っていう言葉はこういう時に使えばいいんだっけ?
はぁ、一瞬にして泡は弾けました…。


「遅いよ、真希」

「ごめんごめん。あたしにしては早い方だよ。ん?梨華ちゃんどうかしたの、そんな怖い顔をして?」

無意識とはいえ、人間って怖いですね。
気付いたら私はものすごい顔をして真希ちゃんを睨んでいたようです。

「なんでもないよ!」
明らかに、私の返事は怒りに満ちていたと思う。

「じゃ、行こうか?」
ひとみちゃんは笑顔で歩き出したけど、私はまだショックから立ち直れてないようで足が動かない。

「おーい、梨華ちゃん行くよ?」

目の前に差し出されたのは、真希ちゃんの手で…

本当は、この手は、ひとみちゃんのはずだったのに…


237 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時28分20秒


−6−


電車に乗って街に出てから、映画館に向かった。
その映画館では現在、2本の映画が上映中。

「この映画館共通のチケットなんだけど、どっち見る?」
ひとみちゃんは、チケットを手にしながら尋ねてきた。

「どっちって…」

私は目の前にある映画の看板を見た。
1つは「E.T.」の特別篇のリバイバルで、
もう1つはアニメの「クレヨンしんちゃん」…


「おら、しんのすけの方が…」

「E.Tの方で!」
真希ちゃんのモノマネを無視して(悔しい事にかなり似ているんだけど)
私は、すかさずE.Tを選択した。

「そ、そうだよね。どう考えてもE.Tの方だよね…」
やや、引きつりながら笑うひとみちゃん…。
もしかして、ひとみちゃんもしんちゃんが見たかったの?

「ちぇっ、仕方ないな。おい、行くぞ、みさえ」
相変わらずしんちゃんのマネを続ける真希ちゃんが私の腕を引っぱって館内に入った。

…ってか、みさえって誰よ!私?

238 名前:デートですか?石川さん 投稿日:2002年06月29日(土)08時30分58秒


館内はガラガラで、私達は真ん中辺りに座った。


「映画館の椅子って座り心地がいいよね」
売店で買ったホットドックを頬張りながら真希ちゃんはシートにすっぽりと収まった。

はぁ…
真希ちゃんが3人の真ん中に座るのね。
お陰でスクリーンに集中出来そうです。


「真希、絶対に寝るでしょ?」

「うん、すでに眠いよ、あははは」

「寝るくらいなら来なきゃいいのに…」
私は小さく呟きながら真希ちゃんを睨んだ。

「ん?何?」

「いや、何でもない…」
239 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時41分12秒

平静を装った私に対して、ケチャップをつけた真希ちゃんの口元がニヤリと微笑んだ。

「まあ、梨華ちゃんが真ん中に座ったら映画に集中出来ないだろうと思ってさ…」

「ど、どういう意味、それ?」

「まあ、そういう意味ですよ」

ああ、悔しい!真希ちゃんは意図的に真ん中に座ったんだ。
もう、口元にケチャップついてること教えてあげないんだから。

もし、ひとみちゃんの口元にケチャップついてたら?
「ケチャップついてるよ」って指ですくってあげちゃうかな。



「真希ケチャップついてるよ」

「んあ、ありがとう」
ひとみちゃんは、真希ちゃんの口元についてるケチャップを指ですくい取った。

ああ、何でそうなっちゃうんだろう…。
それなら私だってホットドック食べたよ。口元にケチャップつけたよ。
神様って不公平なんですね…

240 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時44分57秒


−7−

上映が終わり、館内が明るくなっても私の涙は止まらなかった。
だって、すっごく感動したんだもん。
案の定、上映が始まってすぐに真希ちゃんは眠りについた。
私はそんな真希ちゃんに対して腹立たしい気持ちになりながらスクリーンを見ていたけど、
そのストーリーにどんどん引き込まれていった。


最後のお別れのシーンで女の子がE.Tの鼻にキスをした。

そのシーンは何だか、真希ちゃんが私のおでこにキスするのに似ていて…。

ちょっと胸が痛かった…。



「梨華ちゃん、ハンカチはないんだけど…これで良かったら使いなよ」

席を立っても泣き止まない私に、ひとみちゃんはハンドタオルを差し出す。
「いいよ、汚れちゃうから…」

丁重に断ったけどひとみちゃんは、そのタオルあげるよと言って強引に私に渡してくれた。
使い慣れた感じのする水色のハンドタオル…。
普段、部活の時にでも使ってるのかな?
私の涙を吸収してくれるそのタオルからは、ひとみちゃんの優しさが感じられた。
今度、新しいハンドタオルをプレゼントしよう。

241 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時46分43秒


映画館を出てから、ファーストフード店に入る。
朝ご飯を食べてなかった私は、ハンバーガーとポテト、ドリンクを頼んだ。
ひとみちゃんはポテトとアップルパイという偏ったメニュー。
ホットドックを食べたはずの真希ちゃんは、ハンバーガー2つも頼んでた。


「結構、感動したね。しんちゃんにしなくて正解だったよ」
ひとみちゃんは、映画を見終わった後に購入したパンフレットを眺めていた。

「ねえ、ひとみちゃんはどこが一番感動した?」

「うーん、男の子とE.Tが自転車で飛ぶところかな。月のシルエットになるじゃん?
あれ、すっごい感動した。鳥肌立ったよ。あたしも自転車で飛んでみたいなぁ」

パーカーのフードを被ってから、自転車を漕ぐ仕草をするひとみちゃん。
その動きは、何かいたずら少年っぽくて……胸の奥がくすぐられた。


「でも、一度枯れたお花が再び咲くところも良かったな」

「私もそこが一番感動した。ああ、E.T生き返ったんだって…。もうあそこから涙が止まらなかった」
ひとみちゃんと同じシーンで共感できるのが嬉しかった。
当初とは計画がずれちゃったけど、一緒に映画を見れて良かったな。

242 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時47分57秒


「あたしはね、女の子がE.Tにキスするところかな…」

「あれ?真希寝ないで見てたの?」

「ううん、寝てた。でもE.Tは、ビデオで何回も見たんだ」

そっか。
見たことがあったから、真希ちゃんはクレヨンしんちゃんを見たがったのかな?



「女の子がさ、E.Tにキスするのって、お別れだけの意味じゃないと思うんだ。
女の子にしてみたら、たぶんE.Tは自分より弱い存在なんだよ。
地球に一人残されて、少し不器用なE.Tに対して、何ていうのかな…
『困った時はいつでも助けてあげるよ』みたいなさぁ。
『私が守ってあげるから』っていうような意味が含まれてると思うんだよね」

真希ちゃんが、私のおでこにキスするのも、同じ意味なのだろうか?
あのキスは私に『守ってあげる』と言ってくれてるのかな?
真希ちゃんより弱い存在で、不器用な私に対して………


243 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年06月29日(土)08時49分23秒


「E.Tって誰かに似てると思ったんだけど、ちょっとひとみに似てない?」

「ゴホッ」

真希ちゃんの言葉に、ひとみちゃんはポテトをつまらせた。

「全然、似てないじゃん!どこがだよ?」

「目の大きいところとか、首の長いところとかさ」

愛嬌たっぷりのE.Tを一度思い出してから、ひとみちゃんを見た。

「言われて見れば…似てるかも」

「ひどいよ、梨華ちゃんまで…」
ポテト詰まらせて涙目のひとみちゃんを見れば見るほど、E.Tに見えてきた。

E.Tとひとみちゃん…。

ひとみちゃんもいつかE.Tみたくどこかに行ってしまうのかな?

宇宙船に乗り込もうとするひとみちゃん、お別れの場面。

その時は、私がひとみちゃんにキスをしよう。

『困った時はいつでも助けてあげるよ』

そして『私が守ってあげる』────
244 名前:PUNK 投稿日:2002年06月29日(土)09時09分31秒
更新終了です。
土日の更新が厳しそうなので、中途半端ですが都合の良いところまで…。

>230 オガマー様
レスありがとうございます。
今の段階では、誰よりもごっちんが「三丁目の熱い奴ら」ってな感じですね。(ワケワカ)
けど、わたし的には単純な「熱い奴」にしたくないところもあったりでして…ウフフフフ
エンディング…実はこれだけは出来上がってるんですな。アハハハハハ
あと、連載お疲れ様でした。でも続編激しくキボウです。(リカタン視点モネ)

>231 名無し読者様
レスありがとうございます。
なるべく重い話の後には、軽い話を入れるよう努力してます。
ってか、梨華ちゃんのみが軽いんですけどね(笑)
ってか、梨華ちゃんが一番軽いキャラとして書き安いという理由も…

>232 ごまべーぐる様
レスありがとうございます。
いずれは、いしかーさんの
一人盛り上がり小説でも書いて見たいものです(ウソよねん)
実は吉を救わせるのは簡単なんですが、ごちーんが…ムズカシイ。
でも実は…グハッ。


ってなことで次回は、月曜日に更新出来るかと思います。
でわ。m(__)m
245 名前:オガマー 投稿日:2002年06月29日(土)11時22分05秒
嗚呼、梨華たむ…
藁ったし、ジィーンときましたー。
あっちでも、レスありがとうございます!!
246 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月29日(土)17時36分03秒
一気に読みました。
すごくいいです!涙ぐんでしまいました。
幼い時の傷とか感情は、結構大人になっても残っているものですよね。
続き期待しています。がんがってください。
247 名前:ななしさん 投稿日:2002年06月29日(土)21時36分02秒
何か、いいっす。
よしこに幸あれ。
248 名前:ななしさん 投稿日:2002年06月29日(土)21時37分55秒
上の名前欄、色かえシパーイ
スレ汚し、スマソ
249 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)14時45分20秒


−8−

ファーストフード店を出た私達は、買い物をしようとデパートに入った。
真希ちゃんとひとみちゃんはお気に入りのショップが同じらしく、
その店に入ったら私なんかそっちのけで、あれかわいい、これ良くない?と商品を手にしていた。

何となくピンクのTシャツが目に入った。

「梨華ちゃんなら、それ似合うんじゃない?」
向こうでアクセサリーを見ていたはずのひとみちゃんが、隣に立っていた。

「そうかな?」

「うん、鏡で見てごらん」

鏡の前に立つと、ひとみちゃんは私の背後からTシャツを当てた。
ひとみちゃんの掌が、私の肩に触れる…

「ほら、似合うよ梨華ちゃん」
鏡に映るひとみちゃんの顔は微笑んでいた。
その笑顔を見て、私はこのTシャツを買うことを決めた。

250 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)14時48分16秒

「じゃ、これ買おうかな。ひとみちゃんは何か買わないの?」

「うーん、あたしもTシャツ欲しいんだけど、これっていうのがなくてね…」

「なら、私が選んであげる」
ちょっとだけ勇気を振り絞ってから、私はひとみちゃんの腕を掴んだ。
ひとみちゃんが私のTシャツを選んでくれたから、
今度は私がひとみちゃんのTシャツを選んであげたかった。

「ひとみちゃん何色が好き?」

「黒とか白とか…シンプルな色かな」

「じゃあ、これは?」
目の前にあった黒のTシャツを広げてみた。
そのシャツはシンプルなデザインだったけど、

『新垣仮面』って…何?


「こ、こういうのは着ないよね…」

「うん…。別に色は黒にこだわってる訳でもないし。ハハハハ」
ひとみちゃんも、そのTシャツはお気に召さなかったようで、今度は白色のシャツを手にした。
251 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)14時48分55秒

「それ、かわいいよ」
ひとみちゃんが手にしたシャツは、白地にカラフルなペイントの入ったものだった。

「うん、これにしよっかな」

「鏡で見てみる?」
さっきやってくれたように、今度は私がひとみちゃんにシャツを当てた。
私の掌にひとみちゃんの肩の感触……


「ひとみちゃん、似合ってるよ」
そう言ってから鏡を見ると、鏡に映ったひとみちゃんと目が合った。
私の掌からは、ひとみちゃんの小さな呼吸のリズムが伝わってくる。

「じゃ、これにしよっかな」

鏡の中で目が合ったまま、ひとみちゃんが優しく微笑むから…
私の顔は真っ赤になってしまった。

252 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)14時50分07秒


−9−

会計を終えてから、真希ちゃんがトイレに行きたいと言ったので、
私とひとみちゃんはトイレ前のベンチに座って待つ事にした。
しばらく経って、トイレから真希ちゃんはすごく顔色が悪い。

「なんか、急に気持ち悪くなって吐いちゃった…」

「大丈夫?ちょっと座りな」
ひとみちゃんは真希ちゃんの肩を支えると、ベンチに座らせた。

「食べすぎかな。吐いたら楽になったんだけどね」
と言うものの、おでこにはかなり汗をかいているようだった。
たまたま近くに自動販売機があったので、私はお茶を買って真希ちゃんに渡してあげた。

「真希ちゃん大丈夫?これでお口直ししなよ」

「ありがとう、助かるよ」
真希ちゃんはものすごい勢いでそのお茶を飲んだ。

「ぷはぁ。ああ、しんどかった…」

「でもいきなりどうしたんだろ?風邪じゃなきゃいいけどね」
ひとみちゃんは、真希ちゃんのおでこに触れる。
心配そうに、とても優しく。

253 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)14時51分51秒

「でももう大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」

「無理しない方がいいって。大事を取ってさ、もう帰ろう」
ひとみちゃんは、自分と真希ちゃんの荷物を手にまとめ始めた。

「そうだね。今日は帰ろう。真希ちゃん、立てる?」
私は、真希ちゃんの腕を取って立たせようとした。
正直言うと、まだもうちょっと買い物をしていたかった…
でも真希ちゃんの具合の方が心配だ。


「大丈夫、大丈夫だって。二人はまだプラプラしてなよ。あたしは一人で帰れるから」
真希ちゃんは私の手を軽く払ってから、勢い良く立ち上がった。

「いいよ、一緒に帰ろうよ。心配だし…」

「まだ4時前だよ?ひとみは久々の休みなんだから満喫しなさいって」
真希ちゃんはひとみちゃんから、自分の荷物を強引に奪い取る。

「でも真希ちゃん、帰り道また具合悪くなるかもしれないよ?やっぱ一緒に帰った方が…」

「梨華ちゃんもさ、毎日勉強ばっかじゃ疲れるでしょ?たまには息抜きしなよ」
私の肩を叩きながら、真希ちゃんはいたずらっぽく微笑んだ。

そして私に更に一歩近づいてから、
「ひとみと二人っきりになれるチャンスだよ」
と、真希ちゃんは私の耳元で小声でささやいた。
254 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)14時52分46秒

(ああ、もう隠せないんだ。真希ちゃんは完全に気付いてる)

今まで真希ちゃんに自分の気持ちを誤魔化し続けた事が恥ずかしく思えた。
と同時に、真希ちゃんの気遣いがすごく嬉しかった。
真希ちゃんには話さなきゃいけないな。
私のひとみちゃんに対する思いを…。


「じゃ、あたし帰るから。二人は楽しんでおいで、バイバーイ」
真希ちゃんはそのまま歩き出した。

「ちょっと、真希」
ひとみちゃんの呼びかけに対して真希ちゃんは振り返ることなく、手でバイバイする。



「真希ちゃん本当に大丈夫かな…」

「本人は大丈夫って言ってるけどね…」

真希ちゃんのことは、本当に心配だった。
追いかけて一緒に帰ろうかとも思った。
でも、真希ちゃんのさっきの言葉…

「二人っきりになれるチャンス」

私の気持ちを悟って、真希ちゃんがせっかく作ってくれたチャンスなんだ。
これを無駄にしたくはない。



255 名前:PUNK 投稿日:2002年07月01日(月)14時53分33秒
ちょっと出かけなくてはならなくなったので、
後ですぐに続きを更新します…
256 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)16時09分13秒


−10−

ひとみちゃんと私はとりあえず、デパートを出ることにした。
そしてどこに行く訳でもなく、ただなんとなく街中を歩いた。
今度のテストの話とか、部活の話とかをしながら。
そして会話が途切れてしまうと、二人の間に沈黙が流れる。
ここ数週間、毎日のようにメールしたり電話で話したりしてるのに、ひとみちゃんは相変わらずあまり自分の事は話してはくれない。
ひとみちゃんに少しでも近づけたと思っていたのは、私のうぬぼれに過ぎないのかな?



気付いたら、駅の近くに来ていた。

「さてと、どうしよっか?梨華ちゃん、まだ見たいものある?それとも帰る?」
ひとみちゃんは改札口に視線を向ける。

もしかしたら、ひとみちゃんはもう帰りたいのかな?
テスト前だし、勉強もしなきゃいけないもんね。
そんなことを考えていたら、ひとみちゃんは急に私の手を握った。

「梨華ちゃん…もうちょっとデートしようか?」

「えっ?」

そして私の手を引っぱるように、今歩いてきた来た道を戻っていく。
257 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)16時10分49秒

あまりに急なことで、何が何だか訳分からない。

デ、デート?っていうか、今ひとみちゃん、私の手を握ってるよ?

どうしちゃったの?私の思いが一気に通じた?これは喜んでいいの?

私、もしかして顔が真っ赤になっちゃってるんじゃないかな?

口から心臓が出てきそう…

やばい、握った手から心音が伝わっちゃうんじゃないかな?

あ、手に汗かいちゃってるかもしれない。どうしよう…



「あれ?吉澤と石川じゃん」

背後から声をかけられて、ひとみちゃんは立ち止まる。
何でひとみちゃんが急に私の手を握り締めて歩き出したのか?
振り返った私は、すぐにその答えがわかった。


「飯田先輩…」

先輩は、笑顔で私達に手を振っていた。

そして先輩の隣には……ん?市井先輩?

258 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)16時12分32秒

ひとみちゃんは私の手を一度強く握りしめてから、ゆっくりと笑顔で振り返った。

「飯田先輩に市井先輩じゃないですか」

「あ、もしかして二人でデート中?」
飯田先輩は、笑顔で私達に近づいた。

市井先輩の方は、やや俯き加減のまま。


「やだなぁ、そんなんじゃないですよ。休みだから映画見て買い物してたんですよ」
ひとみちゃんが無理に作る笑顔はとても痛々しかった。

「うふふふ、そういうのをデートって言うんだよ。これからどこ行くの?
 圭織たちは、ご飯でも食べようかと思ってて。良かったら一緒に行かない?」

飯田先輩は何を考えてそういう事が言えるのだろう?


「いやぁ、いいですよ。お二人の邪魔になっちゃいますし」

痛々しい笑顔のまま、ひとみちゃんは飯田先輩と市井先輩を交互に見る。
ひとみちゃんの言葉で私は気付いた。

そうか、市井先輩は今、飯田先輩と…

259 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)16時14分07秒

「いいじゃん、行こうよ。圭織のおごりだよ?どう?」

「いや、でもあたし達まだ買い物してるんで…」
ひとみちゃんは、肩に置かれた飯田先輩の腕を払う。


「圭織…いいよ、行こう。吉澤達は別の用があるみたいだし…」
市井先輩が、飯田先輩の腕を引っぱった。

「何で?紗耶香は嫌なの?たまにはいいじゃん。こんなメンバーで食事する機会なんてめったにないよ?」

この人が怖いと思った。
全ての状況を知っていて、なのに私達を食事に誘う。

先輩は何がしたい?

ひとみちゃんに対して、市井先輩との今の関係を見せ付けたいの?

それとも、私に対して…自分とひとみちゃんとの過去を見せ付けたいの?



「ねえ、石川も嫌なの?お腹空いてない?行こうよ、美味しいイタ飯の店があるんだ」
先輩はなおも笑顔のままで、今度は私の肩に手を置いた。

この人に負けたくないって思った。

260 名前:デートですか?石川さん 其の一 投稿日:2002年07月01日(月)16時16分45秒


「…いいですよ、行きましょう。私もちょっとお腹空いてたとこだったんです」
先輩に劣らないくらいの笑顔で返事をした。


「よぉし、じゃあ決まりだね!」
先輩はそう言って歩き出した。
市井先輩は私達に申し訳なさそうな視線を送った後、飯田先輩の後に続いた。


「ひとみちゃん、行こう」
俯いたまま動かないひとみちゃんを引張って、私も歩き出した。
そして今度は、私がひとみちゃんの手を強く握り締める。

大丈夫だよ、ひとみちゃん。
怖くなんかないんだから。


だって…

『困った時はいつでも助けてあげるよ』

そして、

『私が守ってあげる』────

261 名前:PUNK 投稿日:2002年07月01日(月)16時23分54秒
更新以上です。
最近、ちょっと進み具合が悪いです(^-^;

>245 オガマー様
レスありがとうございます。
梨華タン視点に感動させてもらってますわ♪

>246 よすこ大好き読者。様
レスありがとうございます。
幼少の頃の思い出というのは、私自身も今でも鮮明に残ってたりします。
特に嫌な思い出というものは…(笑)

>247 ななし様
レスありがとうございます。
よしざーさんに幸があること、
私も心から祈ってますです。


最近思うこと。
本当にこの作品、エンディング迎える事が出来るのかな。
もちろん、途中放棄は絶対にしませんが、
当初の予定と全然違う内容になっちゃってる…(泣)
262 名前:オガマー 投稿日:2002年07月01日(月)17時26分53秒
いいらさん、何を考えているんだろう…
でも、きっと悪いようにはしないような…
Tシャツ笑いました(笑)
その後のシーンのドキドキ感もよかったw
感動…嬉しいお言葉です、ありがとうございます!!
263 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時38分16秒


−1−

あたしの手を力強く握ったまま、梨華ちゃんは何も言わずに歩き続ける。
やっぱ気付いちゃったよね?
前に電話で飯田先輩とは何でもないなんて言ったくせに…
あの場面で突然手を握ったりなんかしたら、バレバレだよね。

二人の姿を見かけてすぐに、飯田先輩と目が合った。
と同時に、あたしは咄嗟に梨華ちゃんの手を握る。

(飯田先輩のことなんかもう忘れました)
(今は、梨華ちゃんが側にいてくれるんですよ)
そう見せつけることが出来ると思ったから…。

そんなあたしの卑怯な態度に、梨華ちゃんは何を聞く訳でもなく付き合ってくれる。
まるで、あたしを二人から庇うかのように…
力強く握られた手は、あたしを守ってくれているように感じた。


264 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時41分33秒


−2−

飯田先輩お薦めのイタ飯屋さんは、繁華街からちょっとはずれた静かな路地にあった。
あまり広くはない店内の照明はやや暗めで、各テーブルには小さなキャンドルが灯されている。

店員さんに席を案内されると、真っ先に飯田先輩が一番奥に腰掛けた。
続いて梨華ちゃんが、飯田先輩の前に座る。
あたしは梨華ちゃんの隣に座ろうと思い椅子を引くと、メニューを見ていた飯田先輩が顔を上げた。

「吉澤は圭織よりも石川の隣がいいの?」


あたしは、その言葉に固まってしまう。
笑顔でそういう事を口にする先輩の真意がまったく分からない。
あたしに、隣に座れと言いたいんですか?
あなたには市井先輩がいるんですよ?

265 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時42分20秒

「ひとみちゃんはここに座りますから」

梨華ちゃんは、あたしの腕を引っぱると隣の椅子に座らせた。


「ちぇ、つまんないの…」
飯田先輩は唇と尖らせて再びメニューを見る。

「何だよ?お嬢さんはあたしの隣じゃ嫌なんですか?」
市井先輩が笑顔で飯田先輩に話し掛けながら腰掛けた。

「うん、嫌だ」

「わがままですね、飯田お嬢様は」
市井先輩は、あやすように飯田先輩の頭を撫でた。


胸の奥の方が痛む…

ああ、やっぱ来なきゃ良かった。

真希が帰ったときに、一緒に帰ればよかったんだ…。

そしたら今ごろ、こんな思いをしないで済んだのに。



266 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時43分51秒

「飯田様、こちらで宜しいですか?」
店員さんが見せたものはワインボトルだった。

「あ、はい。それでお願いします」

「ダメだよ、圭織。みんな未成年じゃんか」
市井先輩が慌てる。

「紗耶香は硬いね。いいじゃん、少しくらい飲んだって」

「全然良くないよ」

「大丈夫、このお店はパパがお得意さんだから。飲んだってバレないよ」

「バレるバレないの問題じゃないでしょ?酔っ払っちゃったらどうすんだよ?
 吉澤だって石川だって、親に怒られちゃうよ?」
市井先輩の言う通りだと思った。
あたしは家族に顔を合わすこともないだろうけど、梨華ちゃんが酔っ払って帰ったりなんかしたら、梨華ちゃんのお母さんが慌てふためくに違いない。


「じゃあ、紗耶香だけ飲まなきゃいいじゃん。吉澤も石川も飲むでしょ?」

「いやぁ…あたし達もお酒はちょっと…」

「はい、頂きます。ひとみちゃんも飲むよね」

梨華ちゃんは自分のグラスとあたしのグラスを店員さんに差し出した。


梨華ちゃん…一体どうしたの?

気のせいか、さっきからやけに飯田先輩に対してムキになって…ない?

267 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時45分12秒


−3−

結局あたしも、市井先輩もワインを飲む事にした。
初めて飲んだ、ワインはちっとも美味しいとは思えなかった。
赤いからグレープジュースみたいな味かと思ってたのに。

飯田先輩が頼んだ料理が次々に運ばれてきて、テーブルは料理で埋め尽くされた。
その料理をつまみながら、他愛もない会話が続く。
と言っても会話の内容はほとんど飯田先輩の短大への不満話で、梨華ちゃんがそれの聞き役となっていた。
あたしと、市井先輩は無言のままワインと食事を交互に口にする。


「紗耶香も吉澤も大人しいね。美味しくないの?」

「「そんなことないですよ」」

市井先輩とハモって答えてしまい、思わず目を合わせる。
短い沈黙の後、どちらともなく笑いだした。
結構、お酒が回ってきてたのかもしれない。
あたしも市井先輩もしばらく笑いが止まらなかった。
268 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時46分42秒

「なにがそんなにおかしいんだか…」

笑い続けるあたしたちに呆れたのか、飯田先輩はワイングラスを一気に空にする。
そしてなぜか梨華ちゃんまでもがワインを一気した。


「はぁ。ワインって結構強いんですね」

「石川、さっきからいい飲みっぷりだね。見てて気持ちいいよ」
飯田先輩は、梨華ちゃんのグラスに再びワインを注いだ。

「でも正直、お酒飲むのは今日が初めてなんですよ」

梨華ちゃんは微笑みながらグラスに口を付ける。
顔は相当赤くなっていた。これ以上飲ませるとヤバいかも…

「梨華ちゃん、あまり飲み過ぎない方がいいよ…顔も相当、赤くなってるし」

「私は大丈夫だよ、ひとみちゃん」

「大丈夫じゃないよ。梨華ちゃんはまだお酒の限度を知らないから…二日酔いなんかになったら大変だよ?」
あたしは、梨華ちゃんからグラスを取り上げると店員さんにお水を頼んだ。


「おお吉澤、優しいじゃん。かわいい石川の為なら何でもしてあげるって感じだね」

先輩はあたしを見てニヤニヤと笑っている。
けども、あたしは先輩の言葉と態度を無視して小皿にパスタを取り分けた。

269 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時48分24秒

「ねえ、吉澤。何でさっきからシカトすんの?」

飯田先輩はかなり酔っ払ってるようだった。

「別にシカトなんてしてないですよ」
店員さんがお水の入ったグラスを4人分持ってきたので、あたしは梨華ちゃんの前に一つ置く。


「圭織の分のお水は取ってくれないんだ?」

その言葉にグラスを取ろうとしたら、あたしよりも先に市井先輩が飯田先輩の前にグラスを置いた。


「ちょっと飲みすぎじゃない?」

「紗耶香、それは圭織の事を心配してくれてるの?」

「もちろんだよ」

「それで昨日のこと許してもらおうって訳?」


恐らくこの二人は昨日ケンカでもしたのだろう。
それを飯田先輩は今でもそのことを根に持っていて…
だからさっきから妙に人を挑発するような発言をしていたのかもしれない。
けどもそれは二人の問題な訳であって、あたしには関係ない。
そのとばっちりを受けなきゃならないのは傍迷惑な話だ。
270 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時50分01秒


「……今はその事は関係ないじゃん」

「ねえ、紗耶香は自分が仏様にでもなったつもり?圭織に触れることも出来ないくせに!」

「いい加減にしろよ!」

市井先輩が飯田先輩の肩を掴んだ。
けど、飯田先輩はその手を払いのけて話を続ける。


「ねえ、吉澤聞いてよ。紗耶香はね、圭織がお願いしても抱いてくれないんだよ。
 それどころか、汚らわしいものでも見るような顔するの」

「圭織!」

市井先輩の掌が飯田先輩の頬を叩いた。
頬を押さえてる先輩の少し潤んでいる目は相変わらずキレイだなと思った。


「紗耶香と違って、吉澤だったら…」

市井先輩と違ってあたしだったら?


「吉澤だったら、圭織を抱いてくれるよね?圭織が必要としていたら…吉澤は抱いてくれる。そうだよね、吉澤?」


あたしは目を閉じる。

自分が呼吸をしているのか、確認するため。

…大丈夫、どうにかまだ息をしているみたい。

もしかしたら、すごく酔っ払ってるのかな?

よく分かんないや。飯田先輩の言ってることがよく分からない…
271 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時54分34秒


「いい加減にして下さい…」

隣から梨華ちゃんの弱々しい声が聞こえた。
と同時に、あたしの指先に暖かな感触が伝わった。

あ、梨華ちゃん…また手を握ってくれたんだ。


「…それは飯田先輩と市井先輩との問題ですよね。ひとみちゃんには関係ない…。
 たとえ、飯田先輩がひとみちゃんを必要だったとしても、ひとみちゃんはもう戻りませんよ。
 っく…だって…私がいるから…。っうう、も、もうひとみちゃんを…傷付けさせたりは…っし、しないんだから…」


何で梨華ちゃんが泣くの?

みんな変だよ。

ワイン飲みすぎちゃったんだね。

やっぱ未成年は飲んじゃダメだ。

272 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)03時55分16秒

「石川の言う通り、これは吉澤には関係ない。ごめん、自分達で解決しなきゃならないことなのに…。
 昨日、あたしが飯田先輩にとてもひどいことを言っちゃったんだ。とても傷つく事を…。
 あたしが言うのもなんなんだけど…飯田先輩を許してあげて欲しい…。悪気はなかったと思うんだ…」

市井先輩は、あたしと梨華ちゃんに頭を下げる。
そして飯田先輩は、市井先輩の肩におでこを当てると、声をあげて泣き始めた。


あたしは、梨華ちゃんに手を握られたまま目の前のワイングラスを眺めた。


次に飲む時は20歳になってからにしなきゃ…


273 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時01分11秒


−4−


その後、梨華ちゃんも飯田先輩もは完全に熟睡してしまった。
店を出る際、市井先輩はタクシーを呼んだ。
2台呼んでくれようとしたけど、あたしは断った。
ワイン飲んで酔っ払ってる梨華ちゃんを、そのまま家に帰らす訳にはいかないから。


「けど、この状態でどうやって帰るの?」

「おんぶして帰りますよ」

「石川をおんぶしたまま電車に乗る気?」

「まあ1駅ですからね。歩けば何とかなります」

「タフガイだね、吉澤は」

「ひどいですね、タフガイって…」

「かっこいいぜ、吉澤」
笑いながら市井先輩はあたしの頭をクシャクシャっとした。

274 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時02分19秒
タクシーが来てから、あたしと市井先輩は、寝ぼけて暴れる飯田先輩を押さえつけて強引にタクシーに乗せた。

本当に世話の焼ける人だ。


「じゃ、また…。今日は本当に申し訳なかった…吉澤に嫌な思いをさせちゃって…」

「あたしは大丈夫ですよ。それより早く飯田先輩と仲直りして下さいね」

「うん、ちゃんと話し合うよ」

ドアが閉まり、先輩達を乗せたタクシーは走り去った。

さてと、梨華ちゃんを一旦起こさなきゃ…

275 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時03分09秒

「梨華ちゃん、梨華ちゃん?」

揺らしてみたものの、テーブルに頭をつけたまま全然起きる気配はない。
半ば強引に梨華ちゃんの身体を起こした。


「ん?もう朝?」

「朝じゃないよ。梨華ちゃん、家に帰るんだよ?」

「いい、眠いから」

「ダメだよ梨華ちゃん。はい、おんぶしてあげるから、ここに乗って」
あたしは梨華ちゃんの前にしゃがんで背中を差し出す。


「どうやって乗るの?」

「どうやってって…梨華ちゃんおんぶだよ」

「…変なひとみちゃん」
変なのは梨華ちゃんの方でしょ。

276 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時03分58秒

結局お店の人にも手伝って貰って、やっとの思いで梨華ちゃんをおんぶした。
店を出て歩き出したあたしはすぐに後悔する事となる。
梨華ちゃんをおんぶするだけなら簡単かと思われたものの、あたしは二人分の荷物を持たなくてはならなかったから。


「やっぱタクシー呼べば良かったかな…」

「ん?」
背中から梨華ちゃんの声がした。起きたのかな?

「梨華ちゃん、起きたの?」

「起きてないよ」

「………そうか」

「うん、そうだよ」
はぁ、今の梨華ちゃんにまともな会話を求めちゃダメだ。


「ひとみちゃん…」

「ん、何?」

「吐きそう…」

「げっ、マジで?」

「おえ」

「ちょ、ちょっと梨華ちゃん!?」

「なーんてね、嘘だよ。あははははは」
もしこれが真希だったら、間違いなく背中から放り投げたね。

277 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時05分35秒

「ひとみちゃん重い?」

「ん、大丈夫だよ」
ちょっと嘘つきました。そろそろ手にしびれが…

「テニス辞めたから太ったかも…でもね、今度のテスト結果が良ければまたテニスが出来るんだ。お母さんが許してくれたの」

「そうなんだ、良かったね」
そうか、梨華ちゃんはまたテニスが出来るんだ?


「だから、その為にもテスト頑張ります」

「ん、頑張って。応援してるよ」

「ありがと。よいっしょっと」

梨華ちゃんは、勢い良くあたしの背中から離れた。
一人で立てるみたいだけど、まだちょっとフラついてるみたい。


「大丈夫、梨華ちゃん?歩ける?」

「手繋いでくれたら歩けるよ」
差し出された梨華ちゃんの手をあたしは握った。

今日、何度となく握った梨華ちゃんの掌…
久しぶりだったね、梨華ちゃんと手繋ぐのって。
昔は、よく真希と3人横に並んで手を繋いで歩いたんだよ?

278 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時06分50秒


−5−

途中、コンビニでお茶を買った。
会計の時、財布を落として小銭が散らばってしまう。
だって、梨華ちゃんが全然握った手を離してくれなかったから…
小銭拾うのにも手を繋いだまま…
もう梨華ちゃんにお酒を飲ますのは本当にやめよう。


コンビニの正面にあるバス停のベンチにあたし達は腰かけた。
「梨華ちゃん、これ飲んで酔い覚まさなきゃ。はい」

「開いてないから飲めないよ…」
梨華ちゃんってこんなにワガママだったっけ?

あたしは、ペットボトルのフタを開けようと梨華ちゃんから手を離した。
けどまたすぐに繋がれてしまう…

「梨華ちゃん、手離してくれないと開けられないよ…」

「じゃあ、飲まない」

トホホ…
あたしは、股にボトルを挟んで空いてる手でフタを回した。

279 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時08分54秒

「はい、これなら飲めるでしょ?」

「ありがとう、ひとみちゃん」

この調子じゃ酔い覚ますのにまだ時間が掛かるな…。
時計を見たら10時前だった。

「梨華ちゃん、家に連絡しなくて大丈夫?お母さん心配してるんじゃない」

「大丈夫だよ。だってもう高2だよ?少しくらい帰りが遅いほうがいいの」
意味がよく分からなかったけど、納得することにした。


「お茶飲んだら寒くなちゃった」
お酒飲んだからそんなに寒いとは思わなかったけど…
よく見ると梨華ちゃんは5月にも関わらずノースリーブで。
280 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時09分35秒

「ああ、寒い寒い…」
ワザトらしく体を凍えさせる梨華ちゃん。

「じゃあ、これ着なよ」
あたしは一端繋いだ手を離して、パーカーを脱いで渡した。

「そう、これ!これだよ、ひとみちゃん!」
何がこれなんだ?よく分からないけど梨華ちゃんが喜んでるからまあいいや。


「温かい。ひとみちゃんは寒くない?」

「下に長袖着てたから大丈夫だよ。でも梨華ちゃん、何でもうノースリーブなんて着てんの?」

「それはですね…」

「それは?」



「教えられません…」

「…そっか」

あたしは何だかちょっと楽しい気分だった。
かなりワガママで、訳の分からない会話ばっかりだし、握った手を全然離してはくれないけど、酔っ払った梨華ちゃんはかわいかった。
281 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時12分22秒


「今日はごめんね…飯田先輩のこと。あたし前に梨華ちゃんに嘘付いた…」

「ううん、私の方こそ謝らなきゃ…。本当は知ってたんだ。ひとみちゃんと飯田先輩のこと…。
 前に飯田先輩に尋ねた事があって…」


そうだったんだ。
梨華ちゃんは全部知ってたんだ…。
もう隠す必要はないよね。


「付き合ってはいないって…でも大体のことは話してくれたよ。市井先輩の事は知らなかったから…それには驚いたかな」

「…あたしさ、好きだったんだよね飯田先輩の事。
 だけど自分の気持ちを伝えないまま、いい加減な関係を続けた。そしたら捨てられちゃった。
 市井先輩から飯田先輩と付き合ってるって聞いたときは…ものすごいショックだった。
 でも、気持ちを伝えなかった自分が悪かったんだって…二人のことは見守ろうって思ってた。
 そしたら今日、二人が歩いてるところを見かけて……」

「私の手を握った。でしょ?」

「…うん。あの場ですぐに飯田先輩とは目が合ったんだ。ずるいね、あたしって。
 逃げるように梨華ちゃんと手を繋いで…」

282 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時14分24秒
「飯田先輩に声掛けられた時に全部分かったよ。
 先輩から話を聞いた時は、ひとみちゃんの気持ちまでは分からなかったけどね。
 ああ、ひとみちゃんはこの人が好きなんだろうなって思った」

「先輩への気持ちは封じ込めたつもりだったんだけど、ダメだったみたいだね…。
 お店に入ってからも結構辛かったな。真希と一緒に帰っておけば良かったって思ったよ。
 飯田先輩が妙に絡んでくるしさぁ。でも梨華ちゃんが庇ってくれた時はすごく嬉しかった。
 本当にありがとう」

「そんな…感謝される程の事はしてないよ。私もムキになっちゃってただけだし。
 何で飯田先輩そういうこと平気で口にするんだろうって」

「けど今日でもう諦めがつくかな。あの二人がお互いを必要としてるのは充分に伝わったし…。
 飯田先輩があんだけ荒れたのも、結局は市井先輩の事が原因でしょ。あそこまで見せ付けられると…」


飯田先輩があたしに絡んだ理由。

それは自分を抱いてくれない市井先輩を嫉妬させたかったから。
けども市井先輩はそれさえも分かっていた。
あの人は、とても深い愛情で飯田先輩を包んでいる。
あたし達にお辞儀する姿を見た時、そう思えた。

283 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時16分37秒


「今、悲しいなって思う?」

「うーん…悲しくないといったら嘘になるけど…。
 でも飯田先輩に捨てられた時にへこむだけへこんだし…。
 あとはもう、回復していくしかないよね」

「そっか…。けど何か嬉しいな。ひとみちゃんが自分の事話してくれるなんて」
梨華ちゃんは繋いだ手をブラブラさせた。


「最近はメールや電話で話す機会増えたけど、部活の事だったり、学校の事だったりで…。
 私ってあまり信用されてないのかなって思ったりしてたから」

「そんなことないよ。ただ、あんまりいい話でもないし…。
 先輩とは付き合ってないけど、こういう関係ですとは言えなくて…」

「こういう関係ってどんな関係?」

しまった。
梨華ちゃんそこまでは知らなかったのかも。

「いや…それは、そのぉ…関係と言うか…」

「あは、ひとみちゃん顔赤いよ?大丈夫、それも飯田先輩から聞いたから」

梨華ちゃんはクスクスと笑った。
酔ってる梨華ちゃんはかなり手強い。

284 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時18分24秒


「そーいえば、真希大丈夫かな?」

「風邪とかじゃなきゃいいけどね…」

「もうすぐテストあるし。まあ、風邪ひいてなくても真希は勉強しないだろうけど」

あたしは真希にメールでも送ってみようかと思い、カバンから携帯を取り出した。
不在着信が3件、新着メール5通。
普段に比べてやけに多いなと思った。
不在着信は全て真希からだった。
メールは1通はクラスの子からで、残り4通は全て真希から。


「真希からたくさんメールが来てる。電話もくれたみたい…」

「何かあったのかな?」

「留守電には…何も入ってないな」

285 名前:デートですか?吉澤さん 其の一 投稿日:2002年07月04日(木)04時20分01秒

メールを確認する。



【帰ってきたら電話くれ】

【ちょっと、まだ帰ってきてないの?】

【今日はもう寝るから連絡明日でいいや】

【度々すまん。明日、学校終わりに時間くれないかな。大事な話があるんだ。でも梨華ちゃんには内緒ね】


「真希ちゃん何だって?」

「あ……なんかね、あんまり大した用じゃないみたいだよ。暇だったんじゃないかな?」

「そっか」


電話を3回かける。
メールを4通送る。

真希にしてはかなり珍しい。
普段、連絡取れなければもう面倒臭いからいいってすぐ放り投げるのに…
それくらい大事な話なのかな?
けど梨華ちゃんには内緒の話?

一体、何だろう?



あたしは、ちょっとだけ嫌な予感がした…。



286 名前:PUNK 投稿日:2002年07月04日(木)04時23分14秒
うひゃーーーーーー!
更新完了です。
疲れたです。
最近、ちょっと仕事が忙しくなりましてですね…
全然書く時間がないのレス( ´D`)テヘテヘ
次回の更新ももしかすると、出来たら週末には。
週末逃すとちょっと出張に出てしまうので、1週間くらい無理かもです。
なるべくがんがります。

>262 オガマー様
レスありやとうです。m(__)m
287 名前:PUNK 投稿日:2002年07月04日(木)04時26分02秒
しまった。途中でエンター押しちゃいました…

>262 オガマー様
いいらさんは、本当はいい人なんでしょうけどね。
素直過ぎて態度がすぐ表に出てしまうキャラかと。。。?


それでは、おやすみなさい。
288 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月04日(木)05時34分22秒
梨華ちゃん可愛いですね!
最初から読んでましたが、初めてレスしました。
ごっちんの以上なまでのメール…
内容が気になります。
作者サマ、がんがってください。
289 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月04日(木)12時36分52秒
作者さん、お初お目にかかります。
前から楽しみに読ませて戴いてましたが、
レスがしたくなり、登場してしまいました!
ほんとにこの話、面白いです!
梨華ちゃんに内緒の話ってなんだろう・・・3人の過去の話かなぁ?
続きが気になります!!

何かとお忙しい様ですが、仕事と執筆の方
どちらも頑張ってくださいね!
更新、楽しみにお待ちしてます。
290 名前:オガマー 投稿日:2002年07月04日(木)14時25分33秒
梨華ちゃんかわいすぎw
いいらさん、そんな理由があったのですね。
ごっちんはどうしたんだろう…
気になります。
更新がんがってくださいね!
291 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月04日(木)21時51分54秒
酔ったいしかーはかなり手が掛かるだろうな(ニガワラ
男気(?)のあるちゃむに萌え。
(#゜皿 ゜)~~  
酒癖悪いいいらさん、ステキです。
292 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月04日(木)23時12分56秒
うう…ごっちんまさか……
…嫌な予感だけは当たるんですよね(w
石吉後がそれぞれ幸せになれるよう願ってます。
293 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時37分21秒


−1−

朝、お姉ちゃんがあたしを起こしに来て、すごく驚いた顔をされた。
そりゃ、そうだろう。
いつもだったら、起こされても中々起きないあたしがすでに制服に着替えてるんだから。

今日は、一睡も出来ないまま朝を迎えた。
夜中にひとみから着信があったけど、あたしは出なかった。
ちょっと前まではすぐにでもひとみに話したかったけど、色々と考えているうちに話す必要はないのではないかと思い始めたりして…
そもそもまだ決まった訳じゃないんだ。
自分で冷静に判断しないと、周りには『迷惑』だけを掛けてしまうだろう。


梨華ちゃんには【先に行ってます】とメールを送ってから、いつもより30分早く家を出た。
普段通り一緒に登校しても良かったんだけど、自分が弱くなってる時は梨華ちゃんに会いたくない。

そういえば昨日は梨華ちゃん、楽しめたのかな?
帰りも遅かったみたいだし、晩御飯でも一緒に食べたのかな?


294 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時39分27秒


−2−

「今日は雨でも降るのかしらね、後藤さん」
校門の前で突然、肩を叩かれた。

「あなたがこんなに早くに登校するなんて珍しいから」
保田先生が空を見上げる。

「あいにく天気予報では降水確率ゼロでしたよ」

「じゃあ天気予報士は、後藤の登校時間まで予測出来なかったのね」
先生はクスっと笑った。

「今日は日直か何かなの?」

「いや、違いますよ。テスト勉強したくて早く来ただけです」
自分で言っときながらも、可笑しくなって笑ってしまった。

「なら絶対に雨降るわね」
保田先生はまた空を見上げた。

あたしも空を見上げる。
雲一つない、青い空。


295 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時40分50秒


「保田先生って高校生の時どんなことで悩んだりしました?」

「悩み?そうね…やっぱ恋愛のこととか…」

「保田先生が?」

「失礼ね!私だって恋愛くらいしたわよ」
思いっきり背中を叩かれた。痛い…。

「悩みは自分で解決したんですか?」

「何?後藤は何か悩み事でもあるの?」

「あると言えばあるような…」

「一人で悩んでてもどうしょうもない時は、友達に相談したりしたかな」

「友達か…」

「悩んでる時って、ネガティブな考え方しか出来なくなるから。第三者の人の意見は大切よ」

296 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時42分41秒


「自分で冷静に判断しても解決は出来ないのかな?」

「冷静に判断して解決できる事ならそれは悩み事にはならないんじゃない?」

「確かに、そうですね」

「まあ10代のうちは、悩むだけ悩むといいわよ。そういう経験が社会に出たときに絶対に役立つから」

「そうなれればいいですね」

「私でよければ話ならいくらでも聞いてあげれるし。たまには保健室にサボリ以外の目的でいらっしゃいよ」

「ありがとうございます」
そのまま保田先生と昇降口で別れた。


悩み事…
自分で解決できなければそれは悩み事…。
この問題をあたし一人で解決できる?
ううん、出来ないはず。
やっぱひとみに相談しよう。
それにしても、この経験も社会に出たときに役に立つのかな?
いや、こんなことは今後あってはならないんだ。


297 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時43分49秒


−3−

教室についた時、まだ誰も来ていなかった。
何となく梨華ちゃんの机に座ってみる。
あたしとは違って、教科書を置いて帰ったりはしない空の机。
机の端にはシャープペンで書かれたと思われるいたずら書きがあった。

【TENNIS】【VOLLEY BALL】

テニスとボレーボール?
あ、バレーボールか。
自分とひとみの好きなスポーツってことかな。
ってかなんだよ、梨華ちゃんはあたしの好きなものは書いてくれないわけ?
あたしは、シャーペンをカバンから取り出して机にもう一つ単語を付け加えた。

【TENNIS】【VOLLEY BALL】【SLEEP】

睡眠はスポーツじゃないけど、これでよしと。

あたしは自分の机に戻り顔を伏せた。


298 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時47分00秒


−4−

お昼になって梨華ちゃんに起こされるまで、あたしは授業中ずっと寝てたみたい。
夜は全然寝れなかったのに。
でもお陰で頭の中が少しスッキリした気がする。

「真希ちゃん、もしかしてまだ具合悪いんじゃないの?」
学食で梨華ちゃんは心配そうにあたしの顔を覗き込んだ。

「いや、寝不足なだけだよ」

「何で寝不足なの?」

「テスト勉強しすぎてね」

「うそ、真希ちゃんが!?今日早く登校してたし…雨でも降るんじゃない?」

「保田先生みたいなリアクションだね」

「え?保田先生がどうかしたの?」
ったく、どいつもこいつも…
あたしが早く登校したり勉強することがそんなに不思議なことなのかな。

299 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時49分19秒


「そーいえば、昨日あの後どうしたの?」

「あ…うん…」
梨華ちゃんはちょっと頬を赤らめて下を向いた。
そんなに嬉しいことでもあったのかな?


「デパート出てからしばらく歩いて…で、ご飯を食べて、ベンチに座った」

「は?ベンチに座った?」

「うんとね、話すと長くなるんだけど…」
梨華ちゃんは周りをキョロキョロ見渡した。


「大丈夫だよ、ひとみはいないよ」

「違う、そういうんじゃなくて…」
赤い顔がもっと赤くなる。おもしろいね、梨華ちゃん。


「その前にちゃんと説明しなきゃいけないことがあるの」

「説明ですか?」

「説明っていうか…ちゃんと真希ちゃんには話さないと。でも真希ちゃんはもう気付いてるよね?」

「何に?」

「もう!白々しいなぁ、真希ちゃんは」
口を尖らせて拗ねてしまう。
っていうか白々しいのは梨華ちゃんの方でしょ?

300 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時52分53秒

「話してくれなきゃ分かんないよ」

「そうだよね。気付いてると思うけど…あたし、ひとみちゃんが…」

「好きなんでしょ?」

「…うん」

「いつから?」

「…ちゃんと自覚したのは最近。でもたぶんもっと前から好きだったと思う…」

「どんなとこが好き?」

「どんなとこって………優しいからかな。うん、優しくて思いやりがあって…」

「で、昨日はどうしたの?もしかして告白でもした?」

「ま、まだ、そんなの…違くて、そのことは置いといていいの」

「はい、置いときましょう」
梨華ちゃんへの誘導尋問はちょっと楽しい。
あたしが刑事で、梨華ちゃんはひとみに惚れている…ん?犯人でいいのか?

「うんとね、昨日ひとみちゃんと歩いてたら…突然手を握られたの」

あたしは飲んでたお茶を吹き出しそうになった。
ちょっといくらなんでも展開が早過ぎやしないか?
梨華ちゃんから手を繋ぐならまだしも、ひとみから?
何?ひとみも梨華ちゃんを実は好きだったとか?
え?じゃあ、飯田先輩とは?
301 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時55分11秒

「手を握られた?ひとみに?」

「しーっ。真希ちゃん、声大きいよ」
梨華ちゃんは周りを見ながら指を鼻の前に立てる。

「でもそれにはちゃんと理由があったの…。そこには飯田先輩と市井先輩がいたから」
飯田先輩といちーちゃんがいて、梨華ちゃんに手を繋ぐひとみ?
訳わからん。でも何か楽しそうな話かも…


「4人でご飯を食べる事になったの。で、ワインを飲んだら結構みんな酔っ払っちゃって…。
 あ、その前に座る場所で飯田先輩がひとみちゃんに隣に座らないのか聞いたりしてて。
 でも私はひとみちゃんを隣に…」

手を繋いで4人でご飯食べながらワイン飲んだ?座る場所は飯田先輩の隣?


「ちょ、ちょっと梨華ちゃんさ。頭から順追って話してくれない?急がなくていいから」

「あ、ごめんね。とにかく色んな事がありすぎちゃって…。ちゃんと頭から説明するね」

302 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)18時59分02秒

梨華ちゃんの説明によると、昨日2人は飯田先輩といちーちゃんに会った。
ひとみはそれがショックで梨華ちゃんの手を咄嗟に取る。
飯田先輩の誘いで食事をすることになり、未成年だけどもワインを飲んだ。
前日にケンカしたらしい飯田先輩は、ひとみに絡む。
で、梨華ちゃんは腹を立てて「ひとみちゃんを傷つけさせたりしない」と宣言。
そのまま酔っ払ってしまって寝てしまい、気付いたらひとみにおんぶされてた。
酔い覚ますために、ベンチに座ってしばらく話をした…


「何となく流れは分かったんだけど、何で飯田先輩といちーちゃんが一緒にいたの?」

「二人は今付き合ってるみたい…」

「付き合ってる?あの二人が?えっ、ひとみとは?」

「ひとみちゃんと飯田先輩は…元々は付き合ってなかったんだけど、別れたみたいで」

「付き合ってないけど別れた?どういう意味?」

303 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)19時03分13秒

「それは…そのぉ…何ていうか、そういう関係だったみたいで。
 でもひとみちゃんは飯田先輩が好きだった」

「そういう関係って…やることやっちゃってるけど、付き合ってないってこと?」

「真希ちゃん、そういう言い方がいやらしいよ!」

「でもそういう事なんでしょ?ひとみって、中々すごいことするねぇ」

散々尋ねても「付き合ってないよ」という答えてたのにはそういう理由があったんだね。


「じゃ、今はいちーちゃんが飯田先輩と付き合ってるってこと?それでひとみは捨てられたの?」

「うん…簡単に言うならそういう事。
 ひとみちゃんは二人が付き合ってることは知ってたんだけど、
 実際に二人の姿を目にしたらショックだったみたいで…。
 私も悔しくってさ。ひとみちゃんに対してひどい事言う飯田先輩が許せなくって」

「でも何でいちーちゃんは飯田先輩を抱かないんだろうね…」

「もう!真希ちゃんの心配点はそういうところなの?」

「いやいや、ちょっと気になっただけ。でも梨華ちゃんすごいね。
 ひとみを泣きながら庇うなんて。しかも『傷つけさせない』って言ったんでしょ?
 告白しちゃってるようなもんじゃん」
304 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)19時08分28秒

「その時は酔ってたから。でも今思い出すと…ちょっと恥ずかしいかな。
 帰りは自分から手を繋いじゃったし…」
ひとみと繋いだと思われる手の方を梨華ちゃんは照れくさそうに見つめた。


「ひとみには辛い出来事だったけど、梨華ちゃんにはかなりラッキーな話だね。
 ひとみは失恋した。梨華ちゃんは心置きなくひとみに近づける」

「私はそんな卑怯なこと思ってないよ!」

「だって、失恋から立ち直るには新しい恋を見つけるのが一番だよ。
 だからこそ梨華ちゃんにチャンスがあるってな訳よ。
 傷ついてるところを梨華ちゃんが癒してくれたら…ひとみはイチコロだよ」

「そ、そんな簡単には…」

「大丈夫だよ。とにかく梨華ちゃんはひとみを心配してあげること。
 ああ見えて、かなり落ち込んでるだろうからね」

「うん…。ねえ、真希ちゃん。
 何でひとみちゃんはお婆ちゃんの家に預けられたか知ってる?」

「それは…ひとみがお婆ちゃん子だったからでしょ?」

305 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)19時14分34秒

「私もそう聞いてるんだけど。でもね、飯田先輩が言ってたの。
 ひとみちゃんは『自分は捨てられた』って思ってるみたい。
 その事ですごく傷ついてる…」

おいおい飯田先輩…
梨華ちゃんに余計なこと話すなよぉ…
そのことは、梨華ちゃんに知られてはいけないんだから。


「まあ、ひとみの家には何らかの事情があったんじゃない?
 でも本人はそんな気にしてないと思うけどね。田舎生活楽しかったみたいだし。
 この年齢って些細な事で悩むんだりするもんだよ」

「でも…」


「そういう事、ひとみに尋ねちゃダメだからね。
 ひとみは悩みを表に出さないタイプの人間だからさ、
 その事に触れたりしたら余計にひとみを追い込んじゃうよ」

「一人で抱え込むよりは、誰かに相談するだけでダイブ楽になれると思うんだけどな」

306 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)19時15分45秒

「それが出来る人と出来ない人がいるんだよ」

「真希ちゃんは悩み事あったら誰かに相談する?」

「あたしは…する時としない時があるかな」

「そっか…。私は一人で抱えられないからすぐに話すと思う」

「嘘だぁ。ひとみの事好きだって…全然話してくれなかったじゃん」

「けど結果的には話たでしょ?だから真希ちゃんも悩む事があったら私には話してね」


そう無邪気にあたしに笑いかける梨華ちゃんの笑顔が、あたしの胸を締め付けた。
ごめんね、梨華ちゃん。
あたしもひとみも、梨華ちゃんには話せないことが多すぎるんだ…
それは梨華ちゃんを傷つけたくないから。
これ以上、傷つく梨華ちゃんを見たくない。


307 名前:後藤真希の悩み事 其の一 投稿日:2002年07月05日(金)19時17分09秒

「あと…人の机に勝手に落書きしないでね」

「あは、バレてた?」

「しかもスリープって。何か他に思いつかなかったの?」

「だって寝ることが好きなんだもん。あたしはこれからも時間があれば寝続けると思う」

「寝てばっかだと、将来、素敵な奥さんにはなれないよ」

素敵な奥さん…
あたしも結婚する日がいつかは来るのかな?

「ねえ梨華ちゃん、素敵な奥さんってどんな奥さんなのかな?」

「え?うんと…料理が上手で、旦那様から子供からも愛される奥さんかな」

「愛される奥さん…」

「そう。子供から『ママが世界で一番好き』って言われちゃうくらいに愛されるの」

旦那様に子供。
子供、子供、子供…。
ママが世界で一番好き。

もし、そうだとしたら?


もし悩んでる事が真実だったら?




あたしはすでに『ママ』なんだ────


308 名前:PUNK 投稿日:2002年07月05日(金)19時35分07秒
更新完了です。
日曜からかなり忙しくなってしまうので、
明日までにもう一回くらいは更新したいと思ってるのですが…
きびちいかな?

>288 名無し読者様
レスありがとうございます。
最初から読んで頂いてたなんて嬉しい限りでございます。m(__)m
ごっちんがメールしてた理由は、まあお察しの通りなのですが…
これからもガンガリます。m(__)m

>289 なっつぁん様
レスありがとうございます。
楽しみにして頂いて誠に光栄でございます。m(__)m
真希ちゃんのお話は、まあこういう訳でございまして…
なるべく早くに3人を幸せにさせてやりたいものです。。。(傲慢作者)

309 名前:PUNK 投稿日:2002年07月05日(金)19時38分56秒
>290 オガマー様
レスありがとうございます。
いいらさんのキャラって勝手に書く分にはとても書きやすいお方です。
一番難しいのはごっちん…
テレビ見てても何考えてるのかサパーリわかりません。(笑)

>291 ごまべーぐる様
レスありがとうございます。
ちゃmのことは実はよく知らなかったりするのですが、
熱い女(男?)なのかなって思ってます。
実際に正義心も強い人なのかもしれないですね。

>292 名無し読者様
レスありがとうございます。
現段階ではまだ予感的中かどうか定かではないのですが…
なるべく悪いようにはしたくはないと思ってるんですけどもね…
3人の幸せへの道は、まだまだ続くかと思いますが、
お付き合い頂けると嬉しい限りでございます。m(__)m


では、今日はラーメンでも食べて帰ります。
310 名前:PUNK 投稿日:2002年07月05日(金)19時40分10秒
ちょっと、更新内容隠しの為、書き込みを…
すまそ。m(__)m
311 名前:オガマー 投稿日:2002年07月05日(金)22時50分56秒
マジかYO!
うひょー
…失礼、とりみだすますた…
ま、まさかそんなこととはぁー んあーーー
312 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月05日(金)23時26分42秒
なるほど・・・そーゆー訳だったのね!
そりゃあ、純情な梨華ちゃんには話しずらいかも・・・

なかなか盛り上がってきましたね!
次回の更新も楽しみです。
作者さん、頑張ってくださいねー
313 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月06日(土)15時42分39秒
いやな予感があたった…
どうなるんだろぉ…
314 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)07時51分51秒


−1−

今朝、梨華ちゃんと一緒に通学した。
真希が珍しく早くに登校したようで(雨でも降るんじゃないかな?)、
あたしが朝練もなかったということもあり梨華ちゃんが迎えに来てくれた。

昨日の一件で、あたしの事を心配してくれてるんだろう。
梨華ちゃんの心遣いがすごく嬉しかった。


それにしても真希はどうしたのかな?
昨晩、帰ってきてから電話したけど出なかった。
そして今日は一人で早めに登校してるようだし…。
何かがあったとしか思えない。


315 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)07時53分05秒


−2−

放課後、ホームルームを終えてから隣の教室に向かった。
とっくに真希のクラスはホームルームを終えていたようで、真希も梨華ちゃんの姿さえもなかった。
とりあえず、学校を出たら携帯に電話を掛けてみよう。
どこかで待っているのかもしれない。



「ひとみちゃん」
ロッカーから靴を取り出した時に、声を掛けられて「しまった」と思う。


「あ、梨華ちゃん。まだいたんだ?」

「うん。ひとみちゃんも帰るんだよね?一緒に帰ろうよ」
(いえいえ、今日はあたくしは真希から梨華ちゃんには内緒の話を聞かなくてはならないのです)
とは言える訳もなくて。


「あ…今日は…ちょっと寄らなきゃいけないところがあるんだ」

「そっか…。じゃあまたね」

「うん、また」
梨華ちゃんに手を振って校舎を出ようとしたが、あたしは入り口で立ち止まってしまった。

316 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)07時54分03秒

「あれ?ひとみちゃん、どうした……あっ!雨降ってる…」

後ろから来た梨華ちゃんもその場に立ちすくむ。
今朝、天気予報見た時は降水確率0パーセントって言ってたのに…。

「やっぱ真希ちゃんが早起きしたから…」
降りつづける雨を眺めて梨華ちゃんがボソっと呟く。
同じ事を梨華ちゃんも考えたんだな。

「たぶんね。ところで、梨華ちゃんは傘持ってるの?」

「ううん。天気予報をまんまちゃったから…」

「じゃ、ちょっと待ってって」

あたしはロッカーの所に戻ると、中から赤の折り畳み傘を取り出した。
随分前から置き忘れていた物だけど、久々に役立つ時が来た。

「梨華ちゃん、これ使っていいよ」
戻るなり、梨華ちゃんに傘を差し出した。

「え?だって一本しかないんだよね?ひとみちゃんはどうするの?」

「あたしは走るから大丈夫」

「そんなのダメだよ。ひとみちゃんの傘なんだし…。ひとみちゃんが使いなよ」

「いいって、梨華ちゃんが使って。あたしは本当に大丈夫だからさ」
半ば強引に梨華ちゃんに傘を渡す。

317 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)07時58分32秒

「だって、そのせいでひとみちゃんが風邪でもひいたら責任感じちゃうよ…。それだったら私も濡れて帰るから」
今度は梨華ちゃんの方が強引に傘を突き返した。

困ったぞ。梨華ちゃんは中々強情だし…。
それなら一緒に帰って一度家に戻ってから真希に電話した方がいいかもしれないと思った矢先、
目の前を同じバレーボール部の里田が通りかかった。
しかも傘を差している。
これはチャンス。

「あたしね、今日、里田と約束してるんだよ。里田に入れてもらうから、梨華ちゃんはこれを使ってよ」
里田の方を指しながら、もう一度梨華ちゃんに傘を渡した。

「そうだったんだ?じゃあ、遠慮なくお借りします」
梨華ちゃんは笑顔で傘を受け取ってくれた。

318 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)08時00分02秒

「じゃあ、また」

「あっ、ひとみちゃん!」
走り出そうとしたら梨華ちゃんに呼び止められた。

「えっと……あっ!もし帰る時に雨止んでなかったらどうするの?」
梨華ちゃんはそんなところまで心配してくれるんだね。

「その時はどっかで傘買うから大丈夫だよ」

「…そっか。じゃあね」

「うん、バイバイ」

「ひとみちゃん!」
再び呼び止められる。早くしないと里田の姿を見失っちゃう…

「ん?どうしたの?」

「えっと…雨だから滑らないように気を付けてね…」

「ありがとう、気を付けるよ。じゃあね」

梨華ちゃんに手を振って、今度こそ里田の方へ走り出した。

319 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)08時01分47秒


−3−

「里田ぁー、ごめん。途中まで入れてくれないかな?」

「おお、びっくりしたぁ。あれ?よっすぃーさっき昇降口でイシカ…」

「傘忘れちゃってさ。悪いんだけど途中までいいかな?」

「それは全然構わないけど…途中までってどこまでよ?」

「えっとね…あ、その前に電話しなきゃいけないんだ」
真希に電話を掛けようと思い、携帯の電源を入れた。


「ひとみちゃん!」
呼ばれてから振り返ると、あたしの折り畳み傘を差しながら梨華ちゃんが走ってきた。

「ど、どうしたの、梨華ちゃん?」


「いやぁ…、大した用じゃないんだけど…」
梨華ちゃんは一瞬、里田の方を見て軽く頭を下げた。
里田も軽くお辞儀を返す。

「…明日の朝も…よかったら一緒に学校に行かないかなと思って…」

なんだ、そんな事か。
息切らして走ってくるから、もっと重大な話かと思っちゃった。

320 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)08時03分11秒

「うん、喜んで」

「じゃあ、今日と同じ時間に…」

「了解です」
あたしは敬礼ポーズを取る。

「じゃあ、また明日。バイバイ」

「うんバイバイ」
梨華ちゃんはそのまま走って行った。
この事が言いたくてワザワザ走ってきたのかな?


「へぇ…なるほどねぇ…」
里田が梨華ちゃんの走る後ろ姿を見て呟いた。

「ん?何が?」

「いやいや。ってか、よっすぃーどこまで行くの?」

「あ、そうだ。電話するんだ」
再び携帯を見ると、新着メールが届いてた。
差出人は真希から。

【駅前のプリンが美味しい店(名前忘れちゃったけど分かるよね?)にて待つ。】

プリンの美味しい店?
あ、『パステル』の事か。
321 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)08時05分44秒

「里田って駅から電車だよね?」

「うん、そうだよ」

「じゃ、駅前まで入れさせて」

「いいよ。誰かと待ち合わせでもしてんの?」

「そう。真希と待ち合わせをしてて」

「ほおほお。後藤さんとは家近いんだっけ?」

「うん、近いよ。ついでに梨華ちゃんちも近い。」

「あ、なんだ。そういう事なのか…」
里田は何か感心している様子だった。


「へ?何がそういう事なの?」

「さっき昇降口で、よっすぃーと石川さんが傘押し付け合ってるのを見て、
 何やってんだって?思ったんだよね。石川さんと知り合いだと思わなかったから」

「あ、本当は傘持ってたんだけど梨華ちゃん持ってなかったから貸してあげてたんだ」

「けど何か石川さん傘借りるの嫌がってたじゃん?」

「それは、あたしが雨に濡れちゃう事を心配して。ちょうど里田が通ったから
 『入れてもらう』って言ったらやっと納得してくれたという訳」
322 名前:相談役?吉澤ひとみ 其の一 投稿日:2002年07月07日(日)08時06分36秒
「にしても、何で石川さんはワザワザ走ってまで『一緒に学校行こう』って伝えに来たんだろうねぇ?」

里田はあたしの顔を覗き込んだ。
それはあたしにだって分かりません。
ただ、言える事があるとすれば、それは梨華ちゃんだからです。
梨華ちゃんの行動は一言で言うならば『謎』が多い。


「特に何の理由もなく走ってるだけだと思うけど…」

「とか何とか言っちゃって。本当は自分でも気付いちゃってるんじゃないんですか?吉澤さんは!」
里田は肘であたしの横腹を突っついてきた。

「は?何に?」

「あらら。よっすぃーって鈍感?」

「いや、勘はいい方だと思うけど…」

「じゃあ、ヒントをあげよう」
一本指を立てながら、里田はとても得意気な顔をする。

ってかヒントって何なのよ?
あたしが鈍感?何に対して?
気付いてる?梨華ちゃんが走った理由にですか?

323 名前:PUNK 投稿日:2002年07月07日(日)08時13分37秒
区切りが悪いのですが、
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=purple&thp=1025997161
に引っ越します。m(__)m

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