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クロール

1 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月14日(金)00時16分55秒
学園モノのなちごまです。
シチュエーションを楽しんでいただければ・・と思ってます。
よろしくお願いします。
2 名前:「クロール」 投稿日:2002年06月14日(金)00時18分07秒


泳いでる姿は優雅に見えるけど


水の中では結構必死にもがいているんだよ?



3 名前:1.天使にかまれる 投稿日:2002年06月14日(金)00時19分17秒

―信じらんない。

現在時刻、午前9時45分。

あたしは今、自転車をこいでいる。
澄み渡った青空、そしてやわらかい日差し。その中を自転車で走り抜ければ
あたしは爽やかな気分になれる・・・はずなのに。

―なんだって、こんな初日から!!
今日はあたしがはじめて高校に登校する日で。つまりは入学式で。
今日の為に新しく買ってもらった自転車はあたし好みのシンプルなデザインで。
軽量化されているフレーム、従来のチェーンを使わないベルト式の
その私の愛車は音も無く、軽やかに走り続けるけど。

4 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月14日(金)00時20分55秒

―マジ、信じらんない。
あたしは今。

―遅刻するってば!!
非常にピンチである。

何が間違いだったのか・・・。
あれはお母さんが、高校入学説明会に行ってきた日の事・・・。

「・・・んでお母さん、入学式は何時までに学校に行けばいいの?」
「ああ、ええと、入学式は10時から始まるらしいから、それまでに行けばいいんじゃないの?」
「ふうん。お母さんはどうするの?行くの?」
「来て欲しいの?」
「別に」

そんなやりとりがあって、あたしは入学式の前夜、ちゃんと準備を整えて早く寝た。
いや、じつはいつも早く寝てるんだけど。
そして入学式当日。学校までは大体15分くらいだから、9時30分過ぎに家を出れば
ちょうどいい時間になるだろう、なんて思いながらTVを見ていたら・・・。
9時30分に電話が掛かった。

5 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月14日(金)00時21分53秒

「後藤さんのお宅ですか?」
「あ、ハイ、そうですけど」
「私、○○高校、1年A組担任の保田と申しますが、真希さんはいらっしゃいますか?」
「あ、あたしですけど・・・」
「ああ、後藤さん?悪いけど、今すぐ学校に来てくれる?」
「ハイ?」

その、あたしの担任になる保田センセイの話によると
「10時から式ははじまるけど、9時10分までには新入生は集合して
説明を受けてもらう事になってたんだけど・・・。渡した資料に無かったかしら?」
という事らしいんだけど、そんなのぜんっぜんきいてない。

―頼むよ〜お母さん!
恨み言を言いたかったけど、その本人は仕事に出掛けてしまっていて
あたしにできることといえば、とにかく急いで家を出ることだった。

6 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月14日(金)00時22分54秒

「どいてどいて〜!!」
歩道をのんびり歩くおじいちゃんを、幅いっぱいに広がって歩くおばちゃんを
ベビーカーを押す若いお母さんを、あたしは巧みなハンドルワークと体重移動でかわしてゆく
ありったけの力を込めてペダルを蹴り、蹴っては腿を素早く体に引き戻す。あたしの愛車は
それに素直に答えてぐんぐんと加速してゆく。
猛スピードで通りを走り抜けると、風を受けてあたしの髪はくしゃくしゃになってしまった。
―せっかく朝整えてきたのにぃ!
あたしの朝の努力は台無しになってしまったけど、その甲斐あって普通に行けば15分掛かる
道のりを、8分に縮めることができた。途中何度かひやひやとする状況に陥ったけど
まぁ、私はこうしてぴんぴんしてるから結果オーライだ。
正門をくぐって、あたしの愛車を自転車置き場に置いて(この自転車置き場がまた、正門から
離れたところに置いてあって、ここでまた時間をロスした)
下駄箱に走りこんで、時計を見たら

7 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月14日(金)00時24分26秒

現在時刻午前9時50分

「間に合ったのかな?」
靴を履き替えて、とりあえずはほっとしたけど、この後何処行ったらいいんだか。
校内はしん、と静まり返って人の気配というものがしない。
とりあえず辺りを見渡したら、下駄箱から一段上がった廊下に簡易設置された
『新入生受付』と張り紙がしてある、折り畳みの机がぽつんと置いてあるのが目に入った。

「誰も居ないじゃん」
受付ならば、誰か居て欲しいものだ。
机に近づいて、その上に置いてある資料に手を伸ばす。
「第一学年教室案内・・・。」
資料によると、校舎の西側の棟が1年生の教室がある場所らしい・・・
「西側、か。で・・・あたしは今何処に居るわけ?」
ここは西なんだろうか?東なんだろうか?
できれば、入り口から右とか左とか書いておいて欲しい。

8 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月14日(金)00時25分23秒

―どーしよ・・・。
じきに時間が来てしまうが、いまさらじたばたしたってしょうがない気がする。

―まぁ、いっか。
だから、半ばあきらめにも似た心境でのんびりと資料を眺め続けた。

9 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月14日(金)00時26分45秒

開け放たれた扉から、時折そよそよと風が入って気持ちがいい。
いつのころからか長くしたままの髪は後ろで一つに束ねてあって、風に吹かれるとそれが
あたしの顔にかかってくすぐったい。
誰も居ない廊下で、こうして一人佇んでいると周りに取り残されたような気分がして

―こういうのもいいね。
あたしはそれを意識しないように、わざと雰囲気を楽しんでみた。

10 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月15日(土)06時10分23秒
なちごま好きです〜。なっちはいつ頃出てくるのかな?
楽しみにしてます。頑張って下さい!
11 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月16日(日)23時51分16秒
>10
レス&励ましありがとうございます。気楽に読んでいただければ、と思います。
なっちは30秒後、CMの後、すぐ!!(w
12 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月16日(日)23時52分46秒

―って、ここで黄昏てる場合じゃないよねぇ。適当に歩いて教室を探すべきかな?
そう思いはじめた時


「新入生の子?」


後ろからいきなり声がして、あたしは驚きで体がピクリ、となった。
いや、いきなり声をかけられて驚いたんじゃなくって。
凛、とした「心を震わす声」という名の音があたしを驚かせて
だから、その音に隠されている、不思議な力に引き寄せられる様に振り返った。


振り返ったら・・・。

13 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月16日(日)23時53分41秒

「場所、わかる?」
「!」

普段めったに驚かない、自分でもその事を自負しているあたしが
言葉も発せられ無いほど―


「大丈夫、案内してあげるから。何組?」


その人は―


あたしよりも小さくて、小柄で。
小柄な体によく似合う、ショートヘアーで。
きらきらと輝くような眼差しが、あたしを射すくめて。

これは、多分雷に打たれるようなカンカク。
雷に打たれた事無いからほんとにそうなのかわかんないけど。

14 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月16日(日)23時54分34秒

―信じらんない

今日は何度そう思ったっけ。


―この人

今感じてる「信じらんない」なら


―反則的に、かわいい

こんなのだったら何度でも味わいたい。



15 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月16日(日)23時56分35秒

目の前には、あたしが今日まで生きてきて見た事の無いような、かわいさと美しさが上手く同居
した女の人が立っていた。それは見た目のかわいさだけじゃない、全身から醸し出される
どこか近寄りがたい雰囲気、なぞめいた雰囲気と混ざり合っていて、それらがあたしを引き寄せる
「ん?どうしたの?」
しばらく動けずにいたあたしの顔を、その凛とした声の主が覗き込む。
「んあ・・・えっと・・・A組です」
思い出したかのように返事をすると、声が少しかすれてしまった。
「えーっと、じゃあ、こっちね」
そう言って、彼女は身を翻すと、左の廊下へとあるきだした。あたしは黙ってそれに続く。

先輩・・・に、なるんだろうか?
いや、あたしをこうして案内してくれるから、間違いなく先輩なんだろうけど。
あたしの前を歩くその人は、同い年のように見える。いや、下手するとあたしより年下に見える。
子供っぽいわけじゃないんだけど、童顔がそう思わせるんだろう。

16 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月16日(日)23時57分15秒

爽快なまでにさっぱりと切られた、その先輩のショートヘアーは歩くたびにさらさらと揺れる。
時々揺れる髪の隙間から、耳につけられたシルバーのピアスが顔をのぞかせる。
―ピアス・・・。ウチの校則、ピアスいいのかな?いや、あたしもしてるんだけどね。

ただ人が歩く、しかも今はじめてあった知らない人が目の前を歩いているだけ。それなのに
あたしはその後姿から目を離すことが出来ず、話しかける事もできず、ただ様子を伺いながら
後につき従う。
生徒たちはもう体育館に移動したか、教室で説明を受けているんだろう。静まり返った校舎の
廊下を歩くと、学校にはあたしと先輩だけしか居ないような錯覚を覚えた。
今動いているのは、歩いているあたしたちと、風で揺れる掲示板のはがれかけたポスターだけ。
そして風が吹くたびに揺れる先輩の髪・・・。
―あ。なんかいいにおいがする。
先輩からはシャンプーだろうか?コロンだろうか?なんだか甘い匂いがした。

17 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月16日(日)23時59分15秒

「じゃあ、後はわかるよね?」
ゆっくりと過ぎ去る時は、その一言であっさりと終わりを告げる。
―もう少し、この雰囲気を味わっていたかったな。
気が付くといつの間にかあたしは階段を上って、2階の廊下に立っていた。後はこの廊下を
進むだけでいいみたい。

先輩が返事も聞かずに歩き去ろうとする寸前
「あ、あの!」
名残惜しむように、あたしはようやく声を出して呼び止めた。
「あたし、後藤っていいます。あなたは?」
名前も聞かないでこのままさよならなんて、つまんないし。

18 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月16日(日)23時59分59秒

「安倍。3年の安倍っていうの。じゃあ、ね」
安倍さんはそう言って涼しげな笑みを浮かべながら、その余韻を周囲に残しつつ
人気の無い廊下を戻って行った。
廊下の窓から入り込む風が、安倍先輩のショートヘアーを揺らす。
あたしはしばらくの間、馬鹿みたいにその後姿を呆然と見送った。

ガヤガヤ―
「・・・・・!」
沢山の人の話し声と、足音がして、あたしはわれに返った。
「いっけね!行かなきゃ!」
教室へと走り出したら廊下にはすでに各クラスの生徒たちが並んでいて
中には移動を開始しているクラスもあって、あたしはその中を掻き分けながら
自分のクラスへと向かった。

19 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月17日(月)00時02分07秒

こうして、あたしは入学式早々大遅刻をしてしまった。
新入生が並ぶ廊下を掻き分けて進むあたしは、みんなの話の種になり、そのせいでちょっとした
有名人となってしまった。

―そんなのどうだっていいんだけどね。
やっぱり一番の事件はあの人にあった事。

―あーそういえば、お礼するの忘れた。

正直あまり期待の持てなかった高校生活は、こうして一人の先輩の出現に
鮮やかに色づき始めようとしていた。
20 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)22時37分24秒
もしかして、空板でなちごま書いた御方でしょうか?何となく、雰囲気で
そう思っただけなんですが。。。
惹かれる文体と展開に、激しく期待してます!
21 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)23時29分57秒
うおー♪ なちごまだぁ。めっちゃ好きです。
がんばってください。
22 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月24日(月)00時19分18秒
>>20
>空板でなちごま書いた御方でしょうか?
いえ、違います。しかし、空板のなちごまは名作ですね!
ご期待いただいているようで、嬉しいです。

>>21
ありがとうございます。なちごまは初めてなのでうまく書けるかどうか
心配なのですが、がんばります。
23 名前:2.影の無い少女 投稿日:2002年06月24日(月)00時21分38秒


センセーショナルな入学式から、あっという間に2ヶ月が過ぎた。


2ヶ月も過ぎれば友達の一人や二人、もしくは仲の良い人くらいは出来てもおかしくは
無いんだけど、あまり人付き合いが上手ではないあたしには、残念ながらそのどちらも
未だ出来ていない。あの入学式の大遅刻で、クラス中の有名人にはなったんだけど・・・。
―まぁ、べつにいいんだけどね。
それよりもあたしには大事な事がある。あの、入学式の日に出会った安倍先輩の事だ。
おかしな事に、この2ヶ月の間出会う事は一度も無かった。
いくら学校は広いとはいえ、学年が違うとはいえ、一度も会わないって言うのは
おかしい。実際、3年生の教室がある廊下を歩いてみたり、それなりに出会う確率が上がる
行動をとってみたつもりだったんだけど・・・。

―まさか、ウチの生徒じゃないとか?そんなわけないよねぇ


ピピーッ!!

突然ホイッスルがけたたましく鳴り響いて、あれこれと思いを巡らせていたあたしは顔をしかめた。

24 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月24日(月)00時23分26秒

「ごっちん、何ぼーっとしてんの?」

新たな友達が居ないあたしではあるが、この学校には、小学生の頃から仲の良い親友が居る。
まだ午前中だというのに、どこか眠そうな表情を浮かべながらあたしに話しかけるその子が
親友のよっすぃこと吉澤ひとみ。
その眠たげな表情のせいで、せっかくの美人な顔がすこしとぼけて見えるのはきっと
あたしだけじゃないはず。でも、それが美人特有のバリアを打ち消してフレンドリーに
見せている。だからよっすぃには友達が多い。だけど、その友達の多いよっすぃに言わせると
『まぁ、確かに友達は沢山居るけど、一緒にいて一番楽なのはごっちんだよ』
と、気が付くといつもそばに居てくれた。小学校から高校まで、ずっと。
耳にピアスをしたときも、失恋した時も、高校に受かった時も、いつも一緒だった。
・・・あたしのお父さんが居なくなってしまったあの日も。

25 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月24日(月)00時24分49秒

「・・・んぁ?なにぃ?」
「うちらの番だよ」
「んん??」
「ほら、行くよ!」
よっすぃに腕を引っ張られて、あたしは体育館の中央に進み出た。
―ああ、そっか。今は体育の時間で、バスケをやっているんだった。
気が付くと、あたしたちのチームの休憩時間は終わって、今まさに試合形式の練習が始まる
ところだった。

「じゃあ、CチームとDチームで戦ってもらいます。試合時間は5分。
全員がシュート出来るようにパス回しをしてね。それから・・・」
先生の説明もなんだか耳に入らない。ここ2ヶ月の間、大体こんな感じだった。

26 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月24日(月)00時26分10秒


―あの日、クラスを案内してもらっただけなのに。

そうだ、たったそれだけの出会いなのに。


―先輩の事が頭に焼き付いて離れない。

そう、自分でも可笑しいくらい。



27 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月24日(月)00時32分08秒

ピーッ!

またホイッスルがあたしの考え事を邪魔して、気が付くと、先生が放り投げたボールが天井へ
向かって高く舞い上がっていた。
それがてっぺんまで行くと、ボールはスローモーションのようにくるくる回って、それから床に
引き寄せられるように加速しながら落ちてくる。

バシッ!
落ちてきたボールを相手チームがはたき落とし、それをきっかけに皆が動き出す。
落とされたボールは、あたし達のチームの子ががっちりと掴み取り、そのままドリブルで敵陣に
運ばれていった。だけど、すぐに敵のガードに行く手を阻まれて、立ち往生してしまう。
「ヘイ!」
よっすぃが声を上げて、すかさずボールをもらいに行くと、そのまま鮮やかなフェイクで一人かわし
息も乱さぬ軽やかさで、レイアップシュートを決めた。
「きゃー!すごーい!!」
休憩中のチームが、まるで男子バスケ部のスターを見るような眼差しをよっすぃに送っている。

―やるねぇ。じゃ、後は任せてあたしはてきとーにやるか。
あたしはボールを追いかける振りをしながら、あの日の事を思い出していた。


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