十二支物語 弐

1 名前:りょう 投稿日:2002年06月18日(火)23時33分26秒
紫板からの続きです
十二支物語
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=purple&thp=1008772651

ジャンルはファンタジー。
まだまだ拙い文章ですが、宜しくお願いします。
2 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時36分26秒

矢口真里
種族:子
戦闘型:スピード
属性:『風』
得物:サイズは普通の剣と同じだが、子族に代々伝わる両刃の宝剣『ラット』

実の所、彼女は近辺の街から魔物討伐の応援要請時意外、
さしたる戦闘教育を受けていない。
しかし彼女が戦闘で他の面々と遜色なく戦っていけるのは『子』の力。
子は知っての通り十二支の中でトップの存在である。
その機転の利く頭と戦闘能力で彼女を引っ張っているのだ。

3 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時37分13秒

安倍なつみ
種族:丑
戦闘型:パワー
属性:『土』
得物:組み立て式だが唯一無二の強度を誇る斧『バトルアクス』

丑族が住んでいた村の周りは普段から魔物が多く、
安倍も例外ではなく人に危害を加える魔物を退治してきた。
彼女は丑族で唯一傷を癒す力『ヒーリング』の能力を持っており、
戦場で回復役を努めることも多い。
しかし何故このような回復能力を持ったのか。

『丑』は本来、その強靭な肉体とは反対に自然をこよなく愛し、
他人の痛みに人一倍敏感な者だった為、この能力が備わったのだ。
よって、安倍は丑の血を完璧に引き継いでいると言えよう。
4 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時37分57秒

小川麻琴
種族:寅
戦闘型:バランス
属性:『火』
得物:少し刃渡りの長い短刀『ファング』

寅族は極端に戦闘を好む。
その理由は『寅』にあった。
寅の性格は荒く、十二支に入った理由も「暴れられると思ったから」である。
事実、寅が人間界を収める年には戦争など何らかの動きがある。

そんな中彼女は心が安定していないのだろうか。
あまりその性格を出していない。その為獣化は非常に難しく、
コントロールの大部分を寅に任せ何とか出来る様になっている。

5 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時39分01秒

石川梨華
種族:卯
戦闘型:スピード
属性:『風』
得物:四肢に装備し防具の役割も果たす攻撃補助器具『ボール・ガード』

彼女は卯族のとしての性格はあまり出ない。
それは今まで午族と共に過ごして来た日々がそうしてるのだろう。
それにより、卯族特有の柔術もあまり見られない。
その代わり型に捕われない柔軟な格闘術を身に付け、
自分流にアレンジしている。

ちなみに豪快な格闘術を魅せる保田に憧れを持ち、
密かに部分獣化の特訓をしている事は彼女意外誰も知らない。

6 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時40分17秒

後藤真希
種族:辰
戦闘型:バランス
属性:『火』
得物:身長と同等位の長さを持つ三又の槍『ドラゴン・ランス』

彼女の性格を一言で現すと「天真爛漫」
自分の思った事を素直に行動に移す。
しかし『辰』の性格は何にも興味を示そうとしない気まぐれな性格だったと言う。
大方、その気まぐれな性格が彼女に受け継がれその時の気分で今の性格に変えたのだろう。

そして彼女は十二支で唯一『属性』を見ることが出来る。
属性を使う攻撃は使い方を間違えると恐ろしい物になる為、
他の十二支の属性は彼女に会うまで封印されている。
彼女と会う事によりその封印を解くことが出来るのだ。

7 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時42分10秒

高橋愛
種族:巳
戦闘型:バランス
属性:『水』
得物:装備する物の戦闘能力に合わせ長さを変える鞭『テール・ウィップ』

巳族は『寅』の性格をそのまま受け継ぐ寅族とは違い、
『巳』の惨忍な性格の反動で大人しめな性格をしている。
彼女も例外ではない為、巳との相性が非常に悪い。
よって条件を付ける事により、ようやく小川と同じく
コントロールの大部分を巳に任せているが獣化する事に成功している。

彼女が振るう『テール・ウィップ』は巳族が生まれた時からあると言われ、
巳の尻尾の一部ではないかと言う説もある。

8 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時42分58秒

飯田圭織
種族:午
戦闘型:パワー
属性:『土』
得物:午族でさえ扱えなず、彼女しか持つことが許されない両刃の大剣中の大剣『ホース・ソード』

彼女達午族はその他を圧巻させる大きな身体と、十二支の中でも1、2を争う怪力で戦う
正に『巨人』と言う言葉が似合う種族である。
悪を絶対に許さないその性格は魔物に対して容赦はしない。
しかしその一面では、丑と同じく自然を愛する心を持っている為、
普段は温厚な優しい性格をしている

9 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時44分09秒

辻希美
種族:未
戦闘型:パワー
属性:『土』
得物:当人以外出し方を知る者はいない暗器『ウール』

未族は『未』の陽気な性格を見事に受け継ぎ、
サーカス団を結成して人を楽しませる事に喜びを感じる種族になった。
魔物を倒す事も『芸』だと考え、次々と知らぬ間に飛び出てくる暗器は
未族の為に作られた様なものである。

羊族に受け継がれている暗器の出し方は基礎はあるものの、それは精々数十個が限度である。
そこから各々が応用を利かせ、さらに数を伸ばしていくのだ。
『ウール』の数は数千とも数万とも言われ、それを性格に取り出す彼女は
未を受け継いだ者の、痣と等しい程の証拠となっている。

10 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時44分53秒

加護亜依
種族:申
戦闘型:パワー
属性:『火』
得物:名工加護藤次郎が造り出す『桜』シリーズの一振り『夢桜』

申族を一言で言うならば『忍者』
その偏りの無い運動神経で周りの町や村を人知れず守り抜いてきた。
加護亜依もその1人。
申族では生まれた時から忍者として育てられ、遊びと言えば木刀を持っての稽古や、
野山を駆け回る事である。

彼女の振るう『夢桜』は『桜』シリーズの中でも特質で、扱う物を選ぶ。
選ばれない者がこの刀を持つと、その者の身体が発火するのだ。

それは齢千歳を裕に超える『申』の力で属性の封印が少し解かれていたのかも知れない。

11 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時45分58秒

吉澤ひとみ
種族:酉
戦闘型:スピード
属性:『風』
得物:吉澤源三の弓を造る姿を真似て自己流に造り出した『ウイングス』

元々『酉』はそんなに堅い性格ではない。
しかし、いつからか弓を扱う酉族は『弓術』から『弓道』に力を入れていった。
よって弓道を嫌い、弓術ばかり行っていたひとみには確かに酉が宿っていると言えよう。

彼女が戦闘中引く『ウイングス』
弓道で使う弓より少し短めに造られている為、
素早い行動を伴う射を可能にし、『離れ』の後の振動を少なくする役目も果たしている。

*『離れ』弓道の型である『射法八節』の中の1つで、
 弓を実際に放つ動作の事を言う。


12 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時47分08秒

保田圭
種族:戌
戦闘型:スピード
属性:『水』
得物:なし

『戌』の性格は乱暴な所もあるが情に熱く、無意味な戦闘は極力避けようとする。
よって戌族は完全な武闘派集団だが、寅族の様に自ら戦いに走る事はしない。

戌族にはナックルなどの武器は多々あるのだが、彼女はそれを装備していない。
何故なら、彼女は自分で編み出した腕だけを戌の腕に変える『部分獣化』を編み出し、
もはや武器など要らない物になってしまったからである。

13 名前:十二支 投稿日:2002年06月18日(火)23時48分43秒

紺野あさ美
種族:亥
戦闘型:ブレイン
属性:『水』
得物:彼女が設計、開発まで1人でこなした『K−アームズ』

『亥』には戦闘に関しての能力はあまり無い。
しかしその卓越した知力で正に十二支の中の『頭脳』として常に役立って来た。
その頭脳をそのまま受け継いだ紺野には他の亥族の者でさえ考え付かない様な
発明を数多くしている。

彼女が背負っている『K−アームズ』もその内の1つで、
近距離ではナイフ、長距離ではライフルまで攻撃範囲は十二支随一であり、
その構造は彼女以外誰も知らない。
いや、説明好きの彼女は嬉しそうに説明をするのだが、
誰も理解出来ないと言うのが本当の所だろう。

14 名前:比較 投稿日:2002年06月18日(火)23時49分33秒

速←                 →力
卯・子・酉・戌・辰・巳・申・寅・午・丑・未

この図は、左にいく程力は無いが攻撃速度が速く、
右に行く程攻撃速度は遅いが力が強い者を表してる。

しかしこれは『速』では100m走、『力』では腕相撲をした時の
比較であり、戦闘と言う面ではまた別である。

紺野の場合、何も使わないと2競技共最下位になるが、
『K−アームズ』使用時はどちらも2〜3番手にくる。

15 名前:終結〜十二支〜 投稿日:2002年06月18日(火)23時50分36秒

―――

「なんじゃありゃ!!?」
矢口が叫ぶのも無理も無い。
突然空から謎の巨大物体が子族の村の外に降りて来たのだから。

それまで自由行動を取っていた面々もその物体の周りに集まってくる。


魔物なのか…?


全員非常時に備え戦闘態勢を取った。
そしてその一部がゆっくりと開き、中から飛び出してきたのは―

16 名前:終結〜十二支〜 投稿日:2002年06月18日(火)23時51分21秒

「お姉ちゃ〜ん!!!! 助けてー!!」
全速力で走り出てくる梨華の姿だった。
梨華はそのまま飯田に飛び付き後ろに隠れる。

「梨華ちゃん!!逃げてないで早く答えを出しなよ!」
「そうだよ〜!」
続いてひとみと後藤が駆け降りて飯田の前に立つ

「ほら!お義姉ちゃんの後ろに隠れてないで!!」
「あっ、お義姉さんお久しぶりです♪」
「ちょ、ちょっと、何でごっちんまでお姉ちゃんをそう呼んでるの?」
「え?だってよしこがそう呼んでるから」
「もう……、お姉ちゃんからも言ってやってよ。
 この2人が―」
「む…、婿候補が2人になった!?」
「いや、そうじゃなくて…」

17 名前:集結〜十二支〜 投稿日:2002年06月18日(火)23時53分36秒

「はいはい、そこまで」
ゆっくりと物体から降りて来た保田が2人の襟を掴み梨華から遠ざける。

その保田のもとに矢口が歩いてきた。
「圭ちゃん、久しぶり」
「矢口。久しぶり」
「圭ちゃん達がいるって事は…」
「そう、やっぱり亥族がいたの。
 それでこの娘が―」
そう言って風林火山の方を向くが、例の少女は現れない。

「…あれ?」
「あのー」
「ひぁっ!?」
突然背後から言われ保田は飛び跳ねて驚く。

「もう、いるんだったらいるって言ってよ」
「…すみません。つい…」
「まぁ良いわ。
 みんな聞いてこの娘が亥の痣を持つ娘。紺野あさ美よ」

「皆さん始めまして。亥族の紺野あさ美です」
そう言って紺野は深く頭を下げた。

18 名前:集結〜十二支〜 投稿日:2002年06月18日(火)23時54分27秒

「この飛空挺『風林火山』を造ったのはこの娘なのよ」
保田が補足するように全員に言う。

「へぇ〜、凄いねぇ。どうやって造ったの?」
「あっ! 矢口それ言ったら」

保田が気付いた時には既に遅く、紺野は完全に説明モードに入っていた。
「いいですか?まず設計ですが―」
「紺野!いいよ!!」
保田が必死に止めると紺野は例の表情をし
「そうですか……」
と言って黙ってしまった。


その空気を変える様に安倍が口を開く
「…ま、まぁ、これでともかく―だね♪」
「うん、そうだね」
飯田が応えると共に、全員嬉しそうに頷いた。

19 名前:集結〜十二支〜 投稿日:2002年06月18日(火)23時55分30秒



こうして遂に、12の神獣達の種族の娘『十二支』全員が此処子族の村で集結した――


20 名前:しんご 投稿日:2002年06月18日(火)23時59分34秒

早速ですが修正点を2点。
作者名ですが「りょう」では無く「しんご」です。
>>15>>16のタイトルは「終結」ではなく「集結」です。
肝心な出だしで躓いてしまいすみません…

あと、感想等のレスは大歓迎なので良かったらしてやって下さい。
21 名前:世捨て人 投稿日:2002年06月19日(水)00時38分50秒
前レスから読ませてもらってます。ぜひ頑張ってください。
22 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月19日(水)01時30分44秒
新スレ移転お疲れさまです!
後はあの人だけですね・・・w
期待してます!!
23 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月19日(水)03時15分40秒
新スレおめでとうございます!
圭ちゃん、何だかんだと言って仕切ってますね(w
後ひとりは…楽しみにしてます。
24 名前:たけし 投稿日:2002年06月19日(水)10時43分55秒
オレはこの小説が大好きだ、それだけです
これからも気張ってください!!
25 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月19日(水)20時49分57秒
新スレおめでと〜〜〜!!・・ございます。
やっぱりあの動物は流石にでてきませんね。
    
26 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月22日(土)21時22分54秒
がんばってくださ〜い
27 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月22日(土)22時35分11秒
期待sage
28 名前:祭〜十二支〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時00分29秒

その夜、子族の村では大きな火を囲み盛大なパーティーが開かれた。
魔物と敵対していく日々。
それが彼女達の手で無くなると思うと、騒がずにはいられなかったのだろう。

踊り、

歌い、

はしゃぎ回る。


勿論それに参加した主役達も一緒になって笑い合った。

火の回りで円になって踊っている外でひとみと後藤が梨華を引き合う。
「梨華ちゃん!一緒に踊ろう!!」
「あ〜!よしこ私が先だかんね!!」
「3人で踊ればいいじゃない…」


3人の反対側では辻と加護が大勢の人の前に立っている。
「さぁ皆さん!とくとご覧あれ!
 今から私未の辻希美と」
「申の加護亜依が織り成す!」
「「エンターテイメントショーの始まりです!!」」


その少し離れた所で安倍と紺野が向き合って座っている。
「いいですか安倍さん、まずあの風林火山についてですが……」
「ふんふん。いやぁ、紺野ってホント賢いんだねぇ」
「いやぁ、それ程でもないですよ」
29 名前:祭〜十二支〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時01分12秒
そしてそれを上座で酒を煽りながら保田と飯田と矢口の3人が眺めていた。
「いやぁ、楽しそうだね〜
 おいらこんな盛り上がってるみんな見るの初めてだよ」
「そりゃそうだよ。私もみんな揃って嬉しいもの」
「よ〜し!今日はとことん飲むぞ〜!!」


こうして、戦士達の短い休息の夜は賑やかに更けていった。
30 名前:結束〜十二支〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時03分16秒


翌朝、
風林火山内、会議室――

大きな円卓にちょうど12個の椅子。
どこに座っても良いのだが、何故か矢口から時計回りに順に座った。

矢口が全員に目をやる。
「さて…、と、みんな揃ってるね。早速だけど本題に入ろうと思う。
 今から、この船で『あそこ』に向かいます」
その言葉に全員の顔に緊張感が生まれる。

「みんな…、覚悟はイイ?」
改めて全員の気持ちは一致し、部屋全体に心地良い団結感が覆った。

31 名前:結束〜十二支〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時04分07秒


『あそこ』とは?
世界中誰もが知っている、つんくの根城が存在する島の事である。

南方に位置するその島の周りには、黒い雲が漂い、海には高い波と巨大な渦が交じり合う、
正に『悪魔の居場所』だった。

船で海を渡ることは以前、勇気あるハンターが試みた事があると言うが、
その者達はその後帰って来る事が無かった。
島に到着できず海の藻屑となったのか、はたまた島に潜入できたが返り討ちにあったのか、
おそらく前者だろう。

32 名前:結束〜十二支〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時06分14秒

「紺野、到着予定日は分かる?」
「はい。これを見てください」
紺野がそう言うと、矢口の後ろから巨大な世界地図が登場した。
子族の村の所に、赤く点滅した点がある。
「現在私達のいる座標C−25からW−18まではこの風林火山で
 直線で航行して一週間です」
「そう…、一週間。
 この一週間でここにいる全員、更に強くなろう。
 私達は属性を知ってからまだ日が浅い。
 これからの戦いはこの力を十分に発揮しないと勝てないと思うの。
 この船には一人一人に個室とトレーニングルームが設けられてるから、
 自分の属性と戦闘スタイルをもう一度見直して、
 自分に合った力の使い方を作り出して欲しい」

矢口の言葉に一同は頷いた。
「よし…、じゃあ行くぞ!!」


おぉ!!!!!


全員の掛け声が船全体に響き渡り、
風林火山は大地から離れ、大空へ向かっていった。
33 名前:矢口真里の一週間〜子〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時09分14秒

一日目、
矢口はトレーニングルームの真ん中に座り、
抜き身の剣を眺め考え事をしている。
「う〜ん、この『ラット』と私の力を最大限に使うには……」

そのまま考え続けること小一時間、
未だその場所から動かず考え続けていたが、流石に頭が煮えてきた様だ。
「えぇ〜い!!このまま考えても拉致があかない!!
 とりあえず戦ってみるか!」

そう言って立ち上がった矢口は壁にあるパネルに近付き、
「えぇ〜っと、戦闘シュミレーションは…っと」
おもむろにパネルを操作する矢口。


実は離陸してから直ぐの事、
紺野から全員に個室とトレーニングルームについての説明があった。
昨日の夜から続けて二度も説明が出来るとあって、
紺野の顔はどことなく嬉しそうだったが、専門用語を惜しみなく使う説明に、
受け側は必死に喰らい付いていた。


「これでよしっ」
最後のボタンを押すと、周りは少し暗くなり、
部屋には10体前後の擬似モンスターが現れた。
34 名前:矢口真里の一週間〜子〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時11分36秒

「いくぞぉ〜!!」
矢口は獣化し、勢い良く一体に間合いを詰め一刀両断し、
そのままの勢いでもう一体といこうとしたが、
横から体当たりしてきた魔物に阻まれ、
勢いを失った矢口は魔物から少し距離を置いた。

「そっか、こいつらのレベルはそこらの魔物と訳が違うって紺野言ってたっけ。
 自分から突っ込むのは考え物だな…。
 いや、一振りで数体やれれば私のスピードで特攻出来るか…
 だったら、こいつのリーチが長ければ…」

閃いた矢口は一度深呼吸をし神経を集中させる。
すると剣先に風が集まり、『ラット』の刃渡りと同じくらいの長さの真空の刃が
付け足された。

「ふぅ、これならどうかな!」
矢口は再び魔物の方へ向かい横一線に切り払うと、
2体の胴を切り離し、伸びた剣先が当たった1体の魔物は少し傷が浅かった。

「う〜ん、風の剣の切れ味が本物より弱いか…」

35 名前:矢口真里の一週間〜子〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時14分58秒

こうしてこの性能を伸ばすべく2日3日、4日と特訓を積み重ね、
五日目―

「大分鋭さが近くなってきたかな…。
 …、ちょっと加護の様子でも見てこようかな」

午前中特訓を詰み昼食を取った後、廊下に出てみる。
「加護の部屋は…と」
一つ一つ部屋を確かめながら歩いていると、
前からひとみと後藤が大声を上げながら歩いて来た。

「おっ、よっすぃーとごっちんじゃん。
 なに騒いでんの?」
「やぐっちゃん聞いてよ〜。
 よしこが作り出している技教えてくれないんだよ」
「だから、まだ自信が無いから後で教えるって言ってんじゃん!」
「今知りたいの!」
「ダメ!」
「けち!!」
「おいおい…、それ位にしとけよ」

矢口は一応注意したが、そのまま2人は歩いていってしまった。
「まったく…、仲が良いんだか悪いんだか…」
36 名前:矢口真里の一週間〜子〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時15分51秒
苦笑いを浮かべながら矢口は再び歩き出し、
加護の部屋の前に到着する。

「加護〜、調子はどう?」
トレーニングルームの扉を開けると、
とてつもない熱気が矢口の身体を覆い、入って間もないと言うのに汗が出始めた。
「(何これ!? 熱い!)」
汗を拭いながら加護の方へ目をやると、
加護は座禅を組み瞑想をし、彼女の身体を激しい炎が包み込んでいた。

「(私が入ってる事に気付いてない…、
  相当集中してるね…。私も巻けてらん無いな)」
そう思い、矢口はその部屋からそっと出て、自分の部屋へと歩き出した。
37 名前:矢口真里の一週間〜子〜 投稿日:2002年06月23日(日)00時16分27秒


そして六日目――
ようやく矢口の新技、
自分の得物の刃渡りを真空の刃により二倍にする『ダブルラット』が完成した。

38 名前:しんご 投稿日:2002年06月23日(日)00時25分05秒
誠に申し訳無いのですが、少しの間更新が止まります。
再更新日は正確には決められませんが、7月7日〜7月14日の間には更新出来る様に頑張ります。
本当にすみません…
39 名前:しんご 投稿日:2002年06月23日(日)00時37分59秒
>>21世捨て人さん
こちらでも宜しくお願いします。

>>22さん
>後はあの人だけですね・・・w
さて、どうやって登場するのでしょう?(w

>>23ごまべーぐるさん
>圭ちゃん、何だかんだと言って仕切ってますね(w
年長組が仕切らないと何するか分からない人がいますしね(w

>>24たけしさん
>オレはこの小説が大好きだ
嬉しいです。これからも頑張っていきます。

>>25さん
>やっぱりあの動物は流石にでてきませんね。
う〜ん、どうでしょう?(w

>>26さん
ありがとうございます。
何気ない一言にやる気が湧きます。

>>27さん
期待に沿えるよう全力を尽くします。
40 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月23日(日)10時33分53秒
>年長組が仕切らないと何するか…

確かに(w

(0^〜^0)<♪( ´ Д`)<? (;^▽^)<…

冒頭のパーティーシーンも束の間の休息って感じで和みます。
41 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月13日(土)11時17分28秒
そろそろかな・・・?(ドキドキ
42 名前:安倍なつみの一週間〜丑〜 投稿日:2002年07月14日(日)01時07分08秒
一日目
「う〜ん、どうしようかなぁ…」
安倍は自室にある椅子に腰掛け、テーブルに身体を預けながら呟いた。


「私って、力はあるけどどっちかって言ったらみんなの傷を癒す後方支援が
 主なんだよな…」
そう言いながら席を立ち、トレーニングルームへ向かう。

「だったらあまり攻撃的過ぎる技を考えてもなぁ…」
おもむろにパネルに手を伸ばし操作する。
すると先程まで硬かった床が地面に変わり、
人間より一回り大きな擬似モンスターが一体姿を現した。
それと共に安倍は獣化し、攻撃態勢を取る。

「グァアアアアッ!!」
雄叫びを上げながら突進してくる魔物を斧でいなし、
そして斧を地面に叩きつけると、岩交じりの土が破裂するように柱を形成する。
その柱は魔物に命中し、魔物は一撃で姿を消した。

43 名前:安倍なつみの一週間〜丑〜 投稿日:2002年07月14日(日)01時08分14秒
「あっ、しまった。魔物のレベル低くしすぎちゃったかな」
後ろ頭を掻きながら困った様な顔を浮かべる安倍は、ふと自分の能力について疑問を持った。
「『土』の能力って、地面の土や岩とか、何かを媒介にしないと効果を発揮してないんだよな…
 何も無い空中で岩を創れたらイイかも…」

すぐに答えを出した安倍は早速実行に移した。
神経を集中し、空中に岩が出来るイメージを膨らませる。
しかし現れたのは人差し指と親指で摘める程度の小石だった。
「ありゃ、そう簡単には出来ないか…」

44 名前:安倍なつみの一週間〜丑〜 投稿日:2002年07月14日(日)01時10分04秒

二日目。
安倍はパネルを操作し、部屋の中央に巨大な岩を設置した。
「まずはイメージを固めないとな」
そう言ってその岩に触れる。
「ひゃぁ、岩って結構冷たいんだ…」

こうして岩と触れ合う事数時間、時計の針は昼食時を刺していた。
「お腹すいたなぁ、
 そうだ。今日はちょっと食堂に行ってみようかな」

この風林火山には個室に自動調理機械があるものの、食堂も存在した。
コミュニケーションを取る為なのかどうかは分からないが、何故かあるのである。

早速部屋を出て食堂へ向かう途中、廊下を歩く梨華に出会った。
「あっ、安倍さん」
「おっ、梨華ちゃんじゃん。
 なっち今から食堂行くんだけど一緒に行かない?」

安倍の誘いに梨華は申し訳なさそうな顔をして答える。
「すみません、私ちょっと保田さんに用があるんです」
「そっか、じゃあしょうがないね」
「はい、それじゃあ」
「うん、バイバイ」

梨華と別れて食堂に到着した安倍は、1人でカレーライスを見つめる紺野を見つけ、
不思議そうに尋ねた。
「紺野なにしてんの?」
「安倍さん…、私…、少し悲しいです」

45 名前:安倍なつみの一週間〜丑〜 投稿日:2002年07月14日(日)01時12分16秒
突如紺野の泣きそうな顔を突きつけられた安倍は驚いて聞く。
「えっ!?どうしたの?」
「はい…、カレーライスの中に含まれるじゃが芋の比率が、
 私の設定したのと違うんです…。個室のは完璧だったのに…」
「へっ?そうなの?」
「そうなんです…、これじゃあ駄目です。
 私、ちょっと厨房を見てきます」
そう言って紺野は席を立ち、食堂の隅にある扉へ向かって行った。

「ちょ、紺野? このカレーどうするの?
 食べないんだったら私が食べてもイイ?」
「……、良いですけど…、きっと美味しくないですよ」
「そんな変わんないって」
「そうですか、では」

複雑な顔をした紺野はそのまま扉の奥へ消えていった。
「ホント完璧主義者なんだから…」
そう呟いて安倍は紺野の座っていた腰掛け、カレーライスをスプーンで一掬いし、
口の中に頬張ると、幸せそうな顔を浮かべる。
「う〜ん、オイシイ♪」

46 名前:安倍なつみの一週間〜丑〜 投稿日:2002年07月14日(日)01時13分20秒


その日の午後からまた、安倍は大岩と戯れる。
そして三日目も終わりに近付いた時、
安倍はようやくその大岩と同じ大きさの岩を造り出すことに成功した。
「やったー!」
そう言ってその岩に触れる安倍だが、触れた所から亀裂が入り、
音を立てながら崩れ去っていく。

「あちゃぁ、硬さが足りないか…」
47 名前:安倍なつみの一週間〜丑〜 投稿日:2002年07月14日(日)01時13分56秒

その後、四日目、五日目とイメージを高め、
遂に六日目。

瞬時に空中に大小硬軟様々な岩を作り出す技
「フラッシュ・ザ・ロック」
が完成した。

48 名前:しんご 投稿日:2002年07月14日(日)01時16分45秒


更新を再開します。
しかし最近忙しさが増して来た為、少し更新頻度が落ちると思います。
最低週に一度は更新出来るように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
49 名前:しんご 投稿日:2002年07月14日(日)01時19分47秒
>>40ごまべーぐるさん
いつもレスありがとうございます。
戦士にも休息は必要ですよね。

>>41さん
ギリギリ間に合いました。
遅くなってすみません…
50 名前:名無し 投稿日:2002年07月14日(日)01時34分59秒
再開ありがとうございます。ずっと待ち焦がれていました
早速読ませて頂きます。では・・・
51 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月14日(日)12時49分05秒
川o;-;)<ジャガイモの比率が…

笑いました。

気にせず食べてるなっちにも萌え。(・´ー`・)<うまいべさ!
52 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時02分07秒
再開だ〜♪
楽しみに待っておりましたー

こんこんおもしろすぎです(w
53 名前:小川麻琴の一週間〜寅〜 投稿日:2002年07月22日(月)00時12分42秒


一日目。
昼を過ぎた頃、小川は個室のベッドに仰向けになって考え事をしていた。
「どうしよう…。何も思い浮かばない…」

小川がこんなに思い悩んでるのも、
午前中、ずっとトレーニングルームに篭って特訓したにもかかわらず、
未だ新技の構想が練れないままだったからである。

「荷物の整理でもしてみようかな…」
そうやる気の無い声を発し、重い身体を起こすと荷物の整理を始めた。
中には必要最低限の物しか入っておらず、
何かヒントになるような物があるかもという期待も薄れてきた時、
指先に懐かしい感触がしてその物を取り出すと、
マメ状のプラスチックが詰められた袋型のクッション
いわゆる『お手玉』が数個現れた。

「あれ?こんなの入れたっけ?
 ……、でも懐かしいなぁ。これで良く千佳をあやしたっけ…」
そのお手玉を器用に操りながら、小川は思い出に浸りそして閃いた。


「そうだよ!これがあるじゃん!!
 ってか前にこれ武器を通してやった事あるじゃん!!
 なんで気付かなかったんだ!?」
そう叫びトレーニングルームに向かい走り出した。
54 名前:小川麻琴の一週間〜寅〜 投稿日:2002年07月22日(月)00時14分18秒
そしてパネルを操作し、少し大きめの擬似モンスターを一体出現させると、
闘争心を高め獣化し、神経を集中させた。

すると小川の身体の周りが熱を帯び、その熱は幾つかの塊を形成し始める。
その塊は炎の球となり小川を囲むように空中に漂った。

「いっけぇー!!」
そして気合と共に炎球を魔物に向かって放った。

が、魔物に当たった途端その球は弾ける様に消え去り、
無傷の魔物がそこに立っていた。


「げっ!?」
まるで苦痛の表情を浮かべず、自分の方へ向かってくる魔物を見て
何とも言えない声を出した小川は、
魔物の攻撃をかわしつつ2本のダガーで全身を切り刻みその場を片付けた。


「あれじゃシャボン玉じゃん……」
消え行く魔物の姿を見ながらそう呟いた小川は、
球力の向上をこれからの課題としたのだった。
55 名前:小川麻琴の一週間〜寅〜 投稿日:2002年07月22日(月)00時17分28秒

そして二日目、三日目と特訓を重ね、
その度に球力は上がり続けた。


四日目。
「今日は愛ちゃんの所に行ってみようかな」
昼食後、日課となったお手玉をしながらそう思い立った小川は、
さっそく部屋から廊下へと足を運び、高橋の部屋へと向かっていった。


自屋から高橋の部屋までは結構距離が近く、
小川の予想より早く扉の前に到着した。

「愛ちゃん…、いる…?」
そう言ってトレーニングルームの扉を開けると、
部屋の中は薄暗く異臭が立ち込め、所々黒い穴が開いているのが確認できた。
「な…、なにこれ…愛ちゃんは!?」

小川は部屋の中に入り高橋を探し出す。
そして見つけた高橋は部屋の隅でうずくまっていた。

「あ…、愛ちゃん…?」
声が届いたのか、高橋は素早く反応し小川の方に顔を向ける。
その顔は小川が見てきたどの表情でもなく、何か別人の様な気さえした。
「(もしかして…これが『巳』!?)」
56 名前:小川麻琴の一週間〜寅〜 投稿日:2002年07月22日(月)00時18分42秒
そう思い表情が強張る小川。
しかし小川を見た高橋の表情は少しだけ戻り、
代わりに目に涙を浮かべながら言った。
「あ…まこっちゃん…。
 はは…まいったな…。ごめんね。折角来て貰ったのにこんな臭い所で…」
「ううん…、でもどうしたの…?」
「大丈夫…。私は大丈夫だからお互い頑張ろうね…」
「う、うん…」
「ほら…、早く特訓を続けないと私の方が強くなっちゃうよ」

そう言って高橋は腰を上げ、小川を扉の方へ向けて背中を押し始める。
「ちょ、ちょっと愛ちゃん」
「ホント…、ホント大丈夫だから」

高橋に押されるまま扉の外にでた小川に
「それじゃまた」
と言い微妙な笑顔を浮かべ手を振りながら扉を閉めた。

「愛ちゃん…」
小川はその場で扉を見つめていたが、
しばらくすると自室の方へ足取り重く歩き始めた。



五日目。
小川は高橋の事が心配だったが、
共に強くなっていくと言う高橋との約束を信じ、特訓に励んだ。
57 名前:小川麻琴の一週間〜寅〜 投稿日:2002年07月22日(月)00時19分33秒


そして六日目。
無数の炎の球を身体の周りに出現させ攻撃する技
「ビーンバッグ」
が完成した。

58 名前:しんご 投稿日:2002年07月22日(月)00時22分42秒


ギリギリ…、ではなく一週間を過ぎてしまいましたね。
お待たせしてすみませんでした。
もっと早く更新出来る様頑張ります。
59 名前:しんご 投稿日:2002年07月22日(月)00時27分39秒
>>50さん
貴方の満足がいく作品になっていれば良いのですが…

>>51ごまべーぐるさん
>気にせず食べてるなっちにも萌え
彼女は食べ物を粗末にはしませんから(w

>>52さん
お待たせさせないように頑張ります。
60 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月23日(火)12時31分41秒
高橋がちょっと切ないです…。 ∬´▽`∬ <…愛ちゃん
続き楽しみにしてます。がんがってください。
61 名前:石川梨華の一週間〜卯〜 投稿日:2002年07月28日(日)18時48分17秒


一日目。
トレーニングルーム中央で、肩を動かしながら呼吸する梨華。
そして梨華を中心に数十体の擬似モンスターが次々と姿を消していた。
「ハァ…ハァ…ハァ……」

風林火山に搭乗してから一日中部屋に篭り戦いを続けていたが、
梨華は属性を使用する攻撃の特訓はしていなかった。
「……なかなか出来ないな…。」
彼女がずっと続けていた特訓とは、
「…部分獣化…」

そう、梨華は保田が編み出した『部分獣化』を自分の物にしようと
努力していたのである。
梨華が十二支の一部にさせる部分は、足。
ただでさえ十二支一の脚力を持つ梨華が、卯の足を手に入れたならば、
目で彼女を捉えれる者は激減するだろう。


なんとか膝に手をつき立っていた梨華だが、
流石に耐えられなくなりその場に仰向けになった。
「はぁ〜。レベルを下げてたとは言え、流石に一日中戦うとしんどいな」
そう漏らし、瞑っていた目を開け天井を見つめると少し残念そうに言った。
「やっぱり保田さんに教えて貰わないと出来ないなぁ…
 よし、明日の朝保田さんのトコに行ってみよ……」

最後の「う」を言う前に梨華は眠りに落ちたようだった。
62 名前:石川梨華の一週間〜卯〜 投稿日:2002年07月28日(日)18時50分41秒

二日目。
「……ん…、あれ?
 私…、寝ちゃったのかな…
 でもこのシーツは誰が…、ってうわぁ!!?
 ごっちん!?」

目覚めた梨華の横には、いるはずの無い後藤の寝顔があった。
「んぁ? あぁ、梨華ちゃんおはよ〜」
「あっ、おはよ〜。…、じゃないよ!!なんでごっちんがココにいるの?」
「いやぁ、もうすぐお昼ご飯の時間だから、
 梨華ちゃんと一緒に食べようかなぁって思って来てみたら、
 可愛い寝顔がそこにあったからつい添い寝をしてしまいました」

にゃははと後頭部を掻きながら笑う後藤に梨華は呆れる。
「もぅ、『つい』じゃないよ…
 …、って今『お昼』って言った!?」
「うん、ほら」

後藤が指差す方向にある時計は、昼食時の少し前を提示していた。
「あぁ!!しまった!!」
そう叫ぶと梨華は跳ね起き、小走りで自室の方へ向かった。
「何で梨華ちゃん小走りなんだろ? 普通に走った方が速いのに…」
後藤は少し疑問を抱きながらも梨華の後を追った。

63 名前:石川梨華の一週間〜卯〜 投稿日:2002年07月28日(日)18時54分15秒
後藤が自室に入ると、チンッと鳴るベルと共に焼けた食パンが出てきた。
それを取った梨華はそのまま口に頬張る。
「梨華ちゃん何も付けないで食べるんだぁ〜。
 …で、それを食べてるって事は私とお昼ご飯食べないの?」
「ぼべんべ…うぐっ!」
「あぁ、ほらほら。食べ終わってからでイイよ」

急ぎすぎて喉を詰まらせた梨華に後藤は牛乳の入ったグラスを渡すと、
梨華はそれと共に口の中の物を胃に流し込んだ。
「ごめんね。今日は保田さんのトコに行きたいんだ」
「圭ちゃんのトコ!? なんでまた?」
「私の特訓に付き合ってもらおうと思って」
「でも梨華ちゃんと圭ちゃんの属性違くない?」
「属性攻撃じゃない特訓だよ」
「ふぅ〜ん。 じゃあ後藤は1人寂しくご飯を食べるよ」
「ホントごめんね。じゃあ私行くから」
後藤の寂しそうな顔を見る暇もなく梨華は一直線に扉の方へ向かい廊下に出て行った。

64 名前:石川梨華の一週間〜卯〜 投稿日:2002年07月28日(日)18時58分52秒
廊下を歩いていると、少し笑みをこぼしている安部に出会った。
「あっ、安倍さん」
「おっ、梨華ちゃんじゃん。
 なっち今から食堂行くんだけど一緒に行かない?」
「すみません、私ちょっと保田さんに用があるんです」
「そっか、じゃあしょうがないね」
「はい、それじゃあ」
「うん、バイバイ」


安倍と別れた梨華は不思議そうに呟く。
「今日は何で食事に2度も誘われたんだろう…
 まぁ、そんな事考えてもしょうがないや」


そして梨華は再び歩き出し、保田が居る部屋の前に立った。
65 名前:石川梨華の一週間〜卯〜 投稿日:2002年07月28日(日)19時00分06秒
「保田さんの事だから、きっとトレーニングルームにいるよね」
そう独り言を言って扉を開けると、
案の定保田は一体の大型擬似モンスターと戦っていた。

「誰!?」
誰かが入って来る気配は感じたものの、
その方向へ顔を向けない程集中している保田は少し大声で尋ねた。
「あっ、石川です!」
それと同じくらいの大きな声で梨華が答える。
「石川!? ちょっと待ってて、今終わらせるから」

そう言って保田は接近していた魔物との距離を広げ、
部分獣化した腕に集中する。
「ハァッ!!」
そしてその腕を振るうと、五本の爪から澄んだ液体が飛び出し、
鋭利な刃物の様になり、魔物に襲い掛かった。
しかしそれは少し傷を負わせた程度で、致命傷には至らなかった様だ。
「チッ!」

保田は舌打ちをすると再び接近し、強力な拳を魔物の腹部に叩き込むと、
魔物はその場に倒れ込み消えていった。
66 名前:石川梨華の一週間〜卯〜 投稿日:2002年07月28日(日)19時00分56秒


凄い…かっこいい。

それが梨華の素直な感想だった。

67 名前:石川梨華の一週間〜卯〜 投稿日:2002年07月28日(日)19時05分30秒

「ふぅ…、で、石川は何の用で此処に来たの?」
やっと梨華の方へ向いた保田は少しやわらかい笑みを浮かべて尋ねた。
「えっと、保田さんに『部分獣化』を教えて貰おうと思って」

その言葉に保田の顔は一変した。
「…、石川」
真剣な目をする彼女に梨華は少し緊張する。
「あなたは、この少ない時間で課題を2つにしたのよ。
 『部分獣化』と属性攻撃。
 それをクリア出来ると思ってるの?」

保田の言葉から少し間が空き、梨華の言葉から出て来た言葉は

「…はい。やってみせます」

その目は少し前の頼りない梨華の雰囲気を微塵も感じさせない
何かを決心した目だった。

その目に保田は負けた様だ。
「…、そう、じゃあやってみようか」
「はい!!」
「ただし、私の特訓は厳しいわよ」
少し悪戯そうに笑みを浮かべて言った保田の言葉に梨華はもう一度、
笑顔で返事をした。


その後、保田の部屋から2人は一歩も出ず、
昼夜を問わず特訓を積み重ねる事となった。
68 名前:石川梨華の一週間〜卯〜 投稿日:2002年07月28日(日)19時06分09秒


そして六日目。
遂に梨華は自分の足を『卯』の足に変える『部分獣化』をマスターし、
獣化した足から飛び出す鋭利な刃『風の刃』が完成した。

69 名前:しんご 投稿日:2002年07月28日(日)19時08分36秒


頑張ってはいるのですが更新速度は上がらないまま…
もっと精進します。
70 名前:しんご 投稿日:2002年07月28日(日)19時14分18秒
>>60ごまべーぐるさん
これからも頑張りっていきますので、宜しくお願いします。
71 名前:なな〜し 投稿日:2002年07月29日(月)16時45分59秒
待ってました!
はやく全員の一段、強くなる姿を拝みたいものです
72 名前:きゃは 投稿日:2002年08月04日(日)15時58分13秒
うふふっ ( ̄\  / ̄) 
      \  |  |  / 
        | |_| | 
      r//彡ミ\|
     ノノ|/彡ノノハミ) 
     |( | ∩  ∩|)| 
     从ゝ  ▽  从 
    / ̄ ̄ ̄| ̄ ̄\ 
    |___/\__| 
   ,,,,//|  ◯ |\\,,,, 
  ⊂;,,;//     \\;,,;⊃ 
    /        \ 
    (________) 
       |  | | 
      / ̄ ̄| ̄|_ 
      |     ̄)  )
73 名前:うまい棒メンタイ味 投稿日:2002年08月09日(金)16時40分46秒
いや〜
初めて見たけど面白いっすね

石川を取り合うよしとごまにも笑った
ごまや加護の新兵器も気になるところですが・・・


ただ自分が今書いている話と
繋がるところがあったりしてちょっと困ってる(w

これからもガンバッテ下さい
74 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年08月17日(土)05時59分49秒
圭ちゃん、かっけーです。
いしかーさんも部分獣化をマスターし、何よりです。
ここのところ実際の彼女たちには色々ありましたが、がんがってください。
75 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月25日(日)14時31分46秒
(・e・)ノ<ここまで読んだ。
76 名前:子橘 投稿日:2002年08月25日(日)14時31分53秒
作者さんは何処へ・・・?
77 名前:しんご 投稿日:2002年08月25日(日)20時57分30秒
先ず、今まで更新が停滞していた事をお詫びします。
すみませんでした。
ここ最近、やらなければいけないことが沢山あり、中々話を進める事が出来ませんでした。
もう少しこの状態が続きそうです。

しかし決して放置な訳では無いことをお伝えしたくてレスしました。

本当にすみません…
78 名前:子橘 投稿日:2002年08月27日(火)19時08分29秒
この作品、すごく気にいりました。
更新されるまで気長に待ちます。
79 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)00時51分19秒
一日目。
後藤はトレーニングルームの壁に背を当て、
何を見ているのか分からないような目で天井を向いていた。

「う〜ん、こんな感じだったかなぁ…」
数十分後、そう呟くと目を瞑り、全身の力を抜き神経を集中する。
すると後藤の全身から炎が滲み始めた。

それは後藤の身体をつたい頭の頂点から一本の線の様になり、
部屋の中を徘徊する。

次第に線は太くなり、一本の巨大な丸太位いの太さになった。
そしてその先はある獣の顔が創られ、後藤の身体をようやく離れる。

部屋をうねる様に動く炎の獣。


そう、龍である。
80 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)00時52分10秒
これは『辰』の召喚に近いが、実質的には異なる。
一度完全獣化した後藤が『辰』像を思い浮かべ、
自らの炎でそれを創り出したのである。

この技は誰にでも出来る技では無い。
感性豊かな想像力、そしてそれを創り出せるまでの精神力を持つ
後藤だからこそ成せる業だと言えよう。
81 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)00時52分50秒

しかし、その火龍は数分もしないうちに消えてしまった。
後藤はその場にへたり込む。
「うへぇ〜。疲れたぁ〜。もう火の粉も出せないよ。
 ………、寝よ」


そう言うと後藤はよろよろと思い身体を動かし、
ベッドの上に横になると、ものの数秒で眠りについた。

時は正午過ぎ、後藤の部屋には静かな寝息が聞こえるだけだった。
82 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)00時54分02秒

二日目。
「んぁ…、今何時だろ…」
ふと目を覚ました後藤は手探りで時計を探し時間を確認する。

「まだこんな時間か…、今から修行するのは嫌だしなぁ〜。
 ………。」

暫くの間うつ伏せになって黙っていた後藤だが、
おもむろに起き上がると、部屋から廊下へ足を運び、
スタスタと歩き始めた。


歩みを止めた場所はある扉の前、
ノックもせずに扉を半分開け、中を覗き込みながら言った。
「り〜かちゃ〜ん。起きてるかなぁ〜?
 って、いないじゃん」
梨華がベッドの上にいない事に気付き拍子抜けした後藤は
詰まらなそうに部屋の中に入って行った。

「ホントにいないのぉ〜?」
そう呟き歩きながら辺りを見回すと、
トレーニングルームの中央で横たわる人影を発見した。

「梨華ちゃん?」
後藤が梨華の方へ近付き、寝ている事を確認すると、
溜息を1つついた。
「はぁ〜。梨華ちゃん、なんて可愛いんだろ。
 ………。」

少し考えた後藤はベッドからシーツを一枚持って来ると、
梨華にかけ、その横に潜り込み嬉しそうに梨華を見る。
「おやすみ。梨華ちゃん」

そうして、後藤は見事な二度寝を始めた。

83 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)00時55分11秒
「……わぁ!!?」

梨華の叫びに反応してようやく後藤は目を覚ました。
「んぁ? あぁ、梨華ちゃんおはよ〜」
「あっ、おはよ〜。…、じゃないよ!!
 なんでごっちんがココにいるの?」

(びっくりしてる梨華ちゃんも可愛いな)と思い、笑みを浮かべながら答えた。
「いやぁ、もうすぐお昼ご飯の時間だから、
 梨華ちゃんと一緒に食べようかなぁって思って来てみたら、
 可愛い寝顔がそこにあったからつい添い寝をしてしまいました」
「もぅ、『つい』じゃないよ…
 …、って今『お昼』って言った!?」
「うん、ほら」


後藤は時計の方へ指を向けると、昼食時の少し前を提示していた。
「あぁ!!しまった!!」
そう叫ぶと梨華は跳ね起き、小走りで自室の方へ向かった。

「何で梨華ちゃん小走りなんだろ?
 普通に走った方が速いのに…(まぁ、そこも可愛いけど)」
後藤は少し疑問を抱きながら梨華の後を追う。

84 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)00時57分01秒
後藤は自室に入ると、チンッと鳴るベルと共に焼けた食パンが出てきた。
それを取った梨華がそのまま口に頬張る。
「梨華ちゃん何も付けないで食べるんだぁ〜。
 …で、それを食べてるって事は私とお昼ご飯食べないの?」
「ぼべんべ…うぐっ!」
「あぁ、ほらほら。
 食べ終わってからでイイよ」
(喉を詰まらせる梨華ちゃんも可愛いなぁ)とまた笑みを浮かべる
後藤は急ぎすぎて喉を詰まらせた梨華に牛乳の入ったグラスを渡すと、
梨華はそれと共に口の中の物を胃に流し込んだ。

85 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)00時58分13秒
「ごめんね。今日は保田さんのトコに行きたいんだ」
「圭ちゃんのトコ!? なんでまた?」
「私の特訓に付き合ってもらおうと思って」
「でも梨華ちゃんと圭ちゃんの属性違くない?」
「属性攻撃じゃない特訓だよ」
「ふぅ〜ん。 じゃあ後藤は1人寂しくご飯を食べるよ」
「ホントごめんね。じゃあ私行くから」
後藤の寂しそうな顔を見る暇もなく梨華は一直線に扉の方へ向かい廊下に出て行った。


1人残された後藤は梨華が去って言った扉を見ながら言った。
「チッ。私の『お願い』攻撃は必死な梨華ちゃんの前では効かなかったか…。
 でも、色んな梨華ちゃんが見れて私は満腹だ♪」

浮かれ気分の後藤はスキップ気味の足取りで自分の部屋に戻り、
再び修行を開始した。
86 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)01時00分41秒

彼女は一度集中すると時間の概念も無くなりかける。
気付いた時には、すでに五日目に突入していた。

「んぁ〜。もうほぼ出来てるかな。
 じゃ、今日はよしこんトコにでも行ってみようかな?」

そう思い立った後藤は早速動き出し、
ひとみの部屋の前に立つ。
「よしこは結構修行家だから、こっちの方にいそうだなぁ」
そう思った後藤はトレーニングルームの扉に手をかけ、扉を開けたその時、
突然の突風と共に部屋に引きずり込まれ、後藤は宙に浮かび上がった。
87 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)01時01分44秒
「え!?ごっちん!!?」
ひとみの驚愕の声と共に風は治まり、後藤は床に着地した。

「あぁ〜、びっくりしたぁ〜」
「ごっちん、大丈夫!?」
「あ、うん。大丈夫だけど…、今の…何?」
後藤の質問にひとみはばつが悪そうな顔をして応える。
「え?え〜っと……。な、内緒だよ」
「内緒ぉ!?何それ?教えてくれたっていいじゃん!」
「い、今は自信が無いから後で教えて上げるよ!」
「えぇ〜!!」

嫌がる後藤にひとみは無理矢理話題を変える。
「そうだ!食堂行ってご飯食べよう!梨華ちゃんも誘ってさ!!」
「そんなんで後藤は騙されないよ!」

そうは言いながら、後藤は部屋を出るひとみの後に付いて行った。
88 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)01時03分14秒
廊下でも後藤はしつこくひとみに食い下がっている。
その時正面から矢口の姿が見えた。
「おっ、よっすぃーとごっちんじゃん。なに騒いでんの?」
「やぐっちゃん聞いてよ〜。
 よしこが創り出している技教えてくれないんだよ」
「だから、まだ自信が無いから後で教えるって言ってんじゃん!」
「今知りたいの!」
「ダメ!」
「けち!!」

「おいおい…、それ位にしとけよ」
矢口の注意も聞かずに、2人はそのまま歩いて行った。



梨華の部屋覗くと、梨華の姿はどこにもなく、
がらんとしていた。
「あれぇ〜。梨華ちゃんどこ行ったんだろう…」
「そう言えば、梨華ちゃん圭ちゃんトコ行くって言ってたよ」
「ふぅ〜ん…、って、なんでごっちんがそんな事知ってるの?」
ひとみの問いに笑みを浮かべながら後藤は答える。
「さぁ〜、何ででしょう?」

立場逆転。

そのまま2人は食堂で賑やかに食事を取り、
再び修行を始めた。
89 名前:後藤真希の一週間〜辰〜 投稿日:2002年08月30日(金)01時04分29秒


そして六日目。
大小自由な大きさの炎の龍を創り出す

『フレイム・コイル』

が完成した。
90 名前:しんご 投稿日:2002年08月30日(金)01時07分35秒
やっと更新できました…
一ヶ月を過ぎてしまう程滞ってしまい、本当にすみませんでした。
次の更新はもう少し早くする様に心がけます。

訂正
>>88梨華の部屋覗くと→梨華の部屋を覗くと
です
91 名前:しんご 投稿日:2002年08月30日(金)01時14分50秒
>>71さん
強くなり過ぎないように気をつけます(^^;

>>72さん
耳はそんな感じですかね?
服装がそれだと戦えませんし(w

>>73うまい棒めんたい味さん
同じジャンルの作者同士、お互い頑張りましょうね!

>>74ごまべーぐる
現実では色々ありましたね…

>>75さん
読んで頂きありがとうございます。
これからも頑張ります。

>>76>>78子橘さん
本当に遅れてしまってすみませんでした。
ますます気に入られる様、頑張ります。
92 名前:皐月 投稿日:2002年08月30日(金)20時10分51秒
おおっ!更新まってました!影ながら応援してたものです(笑。
更新楽しみに待ってます!
93 名前:高橋愛の一週間〜巳〜 投稿日:2002年09月28日(土)00時26分13秒


どうして私だけ彼女と接点が全く無いんだろう…

これじゃみんなの足手纏いにしかならない…

そんなの嫌…


もしかしたら…

私が彼女を拒絶しているだけ?

私の心にもあんな……


94 名前:高橋愛の一週間〜巳〜 投稿日:2002年09月28日(土)00時27分34秒
この船に13室あるトレーニングルームはひどく殺風景だ。
ただの白い空間がそこにある、と言った感じである。
それは例のコントロールパネルによって各人に応じて状況を変えれるように造られているから。
しかし、高橋には他の十二支よりそれを感じていた。

彼女は修行を開始するよりまず、パネルを操作し、
その部屋を広大な草原へと変えた。
中央には木立が一本立ち、日が照り付けるが湿度が低いためさほど暑さを感じず、
爽やかに抜ける風が頬を擽った。


木立に身体を預け、両足を投げ出すような格好で座った高橋は、
木漏れ日の中で目を瞑った。

瞼の奥に映るのはこれまでの旅の記憶。
自らの十二支によって半ば体を乗っ取られていた自分を助けてくれた仲間。
小川麻琴との出会い。
寅との戦いで自分の不甲斐無さを再確認した。

そしてやっとのことで身に付けた獣化。

しかし巳とは已然離れたまま。
その距離に歯痒さを感じていた。
95 名前:高橋愛の一週間〜巳〜 投稿日:2002年09月28日(土)00時28分21秒
暫く考えた末、出した答え。

自ら彼女に近付いたら―?

獣化が出来る様になりはしたが、
属性を使う攻撃はしっくりくる物が思い浮かばない。

『巳』という惨忍な存在を遠ざけ、無理矢理にも似た戦い方をしてきた。
その力を使っているにも関わらず…
96 名前:高橋愛の一週間〜巳〜 投稿日:2002年09月28日(土)00時29分25秒

意を決したように目を開け、立ち上がった彼女にはこの場は相応しくない。
腕だけを少し動かし鞭をしならせ、パネルのリセットボタンを叩く。

すると瞬く間に草原は元の白い空間に戻った。

パネルから戻った鞭の先端を再びパネルへ。
すると高橋の前方に一体の蛙型擬似モンスターが現れた。


(始めからそうすれば良いのよ。さあ、私が『巳』の戦い方を教えてあげる…)


既に獣化している彼女は迫り来るモンスターを軽々と交わし、
それと同時に腕の根元に鞭を巻き付かせる。

モンスターは振り返り再び襲い掛かろうとする足を止めた。
否、止められたのだ。
彼女の凍てつくような鋭い目に。

正に『蛇に睨まれた蛙』

さらに気付いた時には巻きつかれた腕が地に落ちていた。
腕の根元は異臭と、白なのか黒なのか分からない煙と共に爛れている。
次の瞬間、モンスターは無数にも見える鞭によって原型を留めれないほど溶かされてしまった。
その後次々と現れるモンスターに表情1つ変えず淡々と消していく。
97 名前:高橋愛の一週間〜巳〜 投稿日:2002年09月28日(土)00時30分05秒

この時、彼女は三大欲求さえも抑え付け、1つの欲求に従って行動していた。
『戦闘欲』と言う欲求に。

不眠不休。
眠らず休まず、ただ現れるモンスターを溶かしていく――
98 名前:高橋愛の一週間〜巳〜 投稿日:2002年09月28日(土)00時31分01秒

四日目。
彼女が正気に戻った時、辺りは異臭と煙、
黒い穴が点々とする部屋にただずんでいる自分に気付いた。

そして恐ろしくなった。

部屋の隅に壁に頭を当てうずくまる。
「(何これ…、怖い…)」

(なに言ってるの、貴方はこれを望んでいるのでしょう?
 戦っている時の貴方、嬉しそうだった)

「(嘘…、嘘だ……。私は………)」

99 名前:高橋愛の一週間〜巳〜 投稿日:2002年09月28日(土)00時33分04秒
「――愛ちゃん?」
急に自分の名を呼ばれ、驚き振り返ると、
表情が強張っている小川の姿が。

「(まこっちゃん?どうして此処に…?
  …いや、そんな事よりこの状況をごまかさないと…
  まこっちゃんに迷惑かけちゃう…)」


高橋は必死に涙を堪えながら小川に言った。
「あ…まこっちゃん…。
 はは…まいったな…。ごめんね。折角来て貰ったのにこんな臭い所で…」
「ううん…、でもどうしたの…?」
「大丈夫…。私は大丈夫だからお互い頑張ろうね…」
「う、うん…」
「ほら…、早く特訓を続けないと私の方が強くなっちゃうよ」

そう言って高橋は腰を上げ、小川を扉の方へ向けて背中を押し始める。
「ちょ、ちょっと愛ちゃん」
「ホント…、私なら大丈夫だから」

高橋に押されるまま扉の外にでた小川に
「それじゃまた」
と言い微妙な笑顔を浮かべ手を振りながら扉を閉めた。


扉を閉めた後ずり落ちる様に座り込み、まだ辛うじて白さが残っている床に涙をこぼした。
「こんな力…、私に……」


その後彼女は死んだように深い眠りに付いた。
100 名前:高橋愛の一週間〜巳〜 投稿日:2002年09月28日(土)00時34分01秒

六日目。
高橋は重い身体を起こしトレーニングルームに向かう。
部屋はまた、白い空間に戻っていた。

「もう後一日しかない…早く技を編み出さないと…」


しかし彼女は編み出せない。
鞭から滲み出る液体『デス・ウォーター』を既に習得しているのだから…
101 名前:しんご 投稿日:2002年09月28日(土)00時40分07秒
>>92皐月さん
レスありがとうございます。
やはり更新を待っていて下さる方がいると、かなり励みになりますね。
これからも速度は落ちましたが頑張り続ける思いです。
102 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2002年09月28日(土)18時25分28秒
はじめまして。
楽しみに読ませていただいています。

これからも更新楽しみに待ってます。
103 名前:きゃは 投稿日:2002年10月02日(水)17時57分40秒
高橋のデス・ウォーターとモニフラどっちが強力なんだろ?
104 名前:飯田香織の一週間〜午〜 投稿日:2002年10月26日(土)23時07分32秒
4日目。
森林の中、1人の女性が大木に身体を預け瞼を閉ざしている。
その身体は今にもその大木の中に吸い込まれ自然と同化してしまいそうな程だ。
しかし彼女の腕や足には小さな穴が数箇所あり、周りの衣服を血で染めている。

「(…、来た…)」
そう感じると周りの地面は岩となり前身に吸い付く。
次の瞬間、どこからか無数の針が彼女の左肩辺りに向かって襲い掛かった。
ほとんどはその岩によって食い止めるが、1・2本は岩を貫通し左腕を突き刺す。

飯田は少し表情を曇らせたが、すぐに落ち着きを取り戻し、
岩を元の場所へと戻した。

「(まだまだか…)」

105 名前:飯田香織の一週間〜午〜 投稿日:2002年10月26日(土)23時08分48秒
彼女が成そうとしている事、それは「完全防御」である。

一対一で戦う場合、いかに相手より速く動き、自分の間合いを支配するかに尽きる。
しかし彼女は機敏な動きは持ち合わせてはいなかった。
一日目、遠距離で攻撃できるようにと岩の塊を飛ばしてみたが、何かしっくり来ない。

そこで彼女は考えた。
「だったら敵の攻撃を全部受ければいいじゃない」
106 名前:飯田香織の一週間〜午〜 投稿日:2002年10月26日(土)23時09分48秒

先程彼女を傷つけた者の正体はと言うと、
自分の射程距離内に入った獲物に全身に生えている、
通常の岩なら豆腐に箸を入れるほど簡単に貫通できるほどの威力を持った針を飛ばす魔物である。
しかし、一度に全ての針を飛ばす為、仕留められなかった場合は針が生え揃う数時間、
得物から素早く逃げてしまう。

この針が全て跳ね返せるようになれば、彼女の技は一通り完成する事になるだろう。
107 名前:飯田香織の一週間〜午〜 投稿日:2002年10月26日(土)23時11分56秒
彼女がまた深い呼吸をし始めた時、針猿とは違う気配を感じた。
「(この気配は……)
 辻?どうして此処にいるの?」

「ありゃ、ばれちゃいました?」
飯田が辻の名を呼ぶと、木の陰から辻が姿を現した。
手にはスケッチブックと鉛筆を持っている。

「どうしたの?」
「えっとですね。飯田さんを描いてもいいですか?」
「うん。いいよ」
「へへへ…」

あっさりと承諾した飯田に、
少々照れくさそうにしながら近付き、少し離れて座り対面する。

「じゃあ始めますね」
「あっ、ちょっと待って」
そう言って飯田は立ち上がりパネルに近付くと、
『魔物出現』のページを開き、OFFにした。
「ごめんね。さぁどうぞ」


数分後、未だ辻は真剣な眼差しで飯田を見つめ、
慣れた手つきで鉛筆を動かしていた。
「ところで、描いた絵は何に使うの?」
「内緒です♪」
「ふぅん…」

ここ数日ずっと気を張っていたからだろうか、
辻の持つ独特な雰囲気に飯田は包み込まれていた。
と同時に、少し悲哀な感情を抱き口を開く。
「辻はさ…、どうして戦ってるの?」
「へっ?」
辻は突然投げかけられた質問に少し驚き手が止まった。
108 名前:飯田香織の一週間〜午〜 投稿日:2002年10月26日(土)23時32分41秒
「辻だけじゃない。加護とか、紺野とか…、
 まだ子供なのにこんな運命背負っちゃって、もっと楽しいことがしたいでしょ?」

「はい。したいです」
「だったら――」
「だから、辻は戦ってるんです」
「?」
「魔物がいる世界で遊んだって、ちっとも楽しくないです。
 楽しいことができない世界なら、自分で作るんです。
 未も言ってます。
 『悪い奴をさっさとやっつけて、楽しい事がいっぱいしたいね』
 って。
 辻は他の人達より強いです。
 だから、辻は戦ってるんです」

辻は笑顔だった。
これから諸悪の根源と戦おうと言うのに―

その笑顔を見て飯田も自然と口の端が上がる。
「…そうだね。早くやっつけようね」
「はい!」
109 名前:飯田香織の一週間〜午〜 投稿日:2002年10月26日(土)23時33分38秒
5日目。
岩を纏う彼女の周りには針が散乱している。
今日の衣服に血の色は無い。
「(よし、仕上げだ…)」

パネルを操作し森林と針猿を消すと、
替わりに巨大な斧を持つ魔物が現れた。

飯田はそのままの姿で魔物に近付く。
「ガァァァァッ!!!!」
魔物は咆哮と共に斧を振りかざし飯田に襲い掛かるが、
一太刀目で斧は崩れ去ると、彼女の大剣は魔物の肩口から切り込み、
両断した。
110 名前:飯田香織の一週間〜午〜 投稿日:2002年10月26日(土)23時34分21秒


そして6日目。
地上最硬を誇る究極防御術『岩結界』が完成した。


111 名前:しんご 投稿日:2002年10月26日(土)23時37分22秒
>>102ななしのよっすぃ〜さん
ありがとうございます。これからも頑張り続けます。

>>103きゃはさん
それはもちろん(略
112 名前:ななしむすめ。 投稿日:2002年11月03日(日)15時48分35秒
いつも読ませて戴いてます。ひとりひとりの娘。の扱いに愛が感じられて凄くいいです。
複数のキャラクターに均等に活躍を割り振るのはなかなか大変でしょうけど、
あと、「香織」じゃなくて「圭織」だよ〜(w
113 名前:辻希美の一週間〜未〜 投稿日:2002年11月17日(日)23時53分18秒
1日目。
『未』と書かれたドアの向こう。トレーニングルームには誰もいない。
代わりに寝食が可能な自室に1人の少女が椅子に腰掛け、
目の前のテーブルに置かれた山の様に置かれた料理を一心不乱に食べている。

「(まずは腹ごしらえをしないとね)」

数十分後、
皿の上には元から何も乗っていなかったかと思えるほど綺麗になっていた。

「さて、そろそろやりますかぁ!」
自分で自分に喝を入れ、トレーニングルームへと移動する。


一呼吸おき、静かに獣化した。
そしていつものように何処からかナイフを取り出し、地面に突き刺す。

「……」

辻がそのナイフに力を送ると、ナイフの周辺が盛り上り人形を形成していく。
その人形は段々と形を変え、最終的には辻よりも低い両刃の剣を持つ金髪の少女。
子族の矢口真里となった。その姿形は本物と非常に類似している。
唯一見分けがつく所と言えば、身体全体が土色を帯び、
うなじの辺りにナイフが刺さっている事ぐらいだ。
114 名前:辻希美の一週間〜未〜 投稿日:2002年11月17日(日)23時55分14秒
その姿を見た辻は両手を上に挙げ喜声をあげた。
「やったー!!矢口さんかんせ〜……、っておっと」
喜びの束の間、少し気を緩んだだけで茶色の少女は崩れ始めていた。
慌てて修正した辻は、そのままパネルを操作し、擬似モンスターを出現させる。

「よし…」
辻が矢口へ気を送ると、彼女は本物とまではいかないが、
それと大差ないくらいのスピードで魔物との間合いを詰め、
右脇腹から横一文字に切り裂いた。

「戦闘もちゃんとコピー出来てるじゃん!!私ってもしかして天才?」
崩れ行く土人形を尻目に自己陶酔している辻は、
これからの計画について考え始めた。

「えっと、1日よび日をおくとして、6日で全員をコピーするには1日……
 んと、11わる6だから………えと………2人…くらいかな…?」

惜しい。

「まぁそんな細かい事は気にしない気にしない♪次は安倍さんだ!!」


こうして、辻は残りの十二支をコピーすべく修行を再開した。
115 名前:辻希美の一週間〜未〜 投稿日:2002年11月17日(日)23時56分38秒
4日目。
「う〜ん…」
腕を組み、悩んでいる辻の目線の先には長身の、
大きな剣らしき物を持っている土人形。

「飯田さんがイマイチ出来上がんないなぁ…」
そう言っている間にもそれは形を変え続けている。

「…よし、こうなった飯田さんのトコ行こ」
思い付いたらすぐさま行動に移す。
荷物の中からスケッチブックを手に取り、足早に廊下に出て行く。

が、

「あ、鉛筆忘れちゃった…」
すぐさま引き返し、再び飯田の所へ向かった。
116 名前:辻希美の一週間〜未〜 投稿日:2002年11月17日(日)23時58分46秒
そうして午のトレーニングルームの前に到着し、ドアを開けると、
目の前には生い茂る森林が広がっていた。

「(飯田さんは特訓の真っ最中かな…
  ジャマするのは嫌だし、そっと近付いてさっと書き上げて帰ろうかな…)」
そう考えた辻は森の中に入り、飯田を探し始めた。


数分後――
「(いた…)」
ようやく飯田を見付ける事が出来た辻は早速スケッチブックを開こうとしたが、

「辻?どうして此処にいるの?」
気配を消す事が苦手な辻はあっさりと自分の名を呼ばれてしまった。

「ありゃ、ばれちゃいました?」
これ以上隠れるのは無意味だと考えた辻は素直に飯田の前に現れた。

不思議そうな表情をした飯田が口を開く。
「どうしたの?」
「えっとですね。飯田さんを書いてもいいですか?」
「うん。いいよ」
「へへへ…」

あっさりと承諾した飯田に、
少々照れくさそうにしながら近付き、少し離れて座り対面する。

「じゃあ始めますね」
「あっ、ちょっと待って」
そう言って飯田は立ち上がりパネルに近付くと、
『魔物出現』のページを開き、OFFにした。
「ごめんね。さあどうぞ」

117 名前:辻希美の一週間〜未〜 投稿日:2002年11月18日(月)00時00分27秒
辻は真剣な眼差しで飯田を見つめ、慣れた手つきで鉛筆を動かす。
「ところで、描いた絵は何に使うの?」
「内緒です♪」
「ふぅん…」

別に喋っても良かったのだが、何となくタネを明かす事になりそうなので止めておいた。
スケッチブックに目を落とし作業を再開すると、飯田から突然質問を投げかけられた。
「辻はさ…、どうして戦ってるの?」
「へっ?」
その質問に少し驚き、動いていた手が止まる。

飯田は続けた。
「辻だけじゃない。加護とか、紺野とか…、
 まだ子供なのにこんな運命背負っちゃって、もっと楽しいことがしたいでしょ?」
「はい。したいです」
「だったら――」
「だから、辻は戦ってるんです」
「?」
「魔物がいる世界で遊んだって、ちっとも楽しくないです。
 楽しいことができない世界なら、自分で作るんです。
 未も言ってます。
 『悪い奴をさっさとやっつけて、楽しい事がいっぱいしたいね』
 って。
 辻は他の人達より強いです。
 だから、辻は戦ってるんです」

そう言って辻はいつもの笑顔を見せると、飯田もつられて口の端が上がった。
「…そうだね。早くやっつけようね」
「はい!」
118 名前:辻希美の一週間〜未〜 投稿日:2002年11月18日(月)00時03分03秒

こうしてまた特訓を再開し、5日目。
イメージを高める事が得意な辻は、5日目で11人全てを人形に写し出す事が出来た。
「これで全員かんせ〜い!!
 後は私が戦いながら動かせる人数を決めないとね♪」

そして意気揚々と辻はパネルを操作し始めた――
119 名前:辻希美の一週間〜未〜 投稿日:2002年11月18日(月)00時04分47秒



6日目。
土人形に十二支の面々の形を写し戦わせる
(ただし、自分が戦いながらだと動かせるのは1体、属性攻撃まで写し出せないなどの制約がある)

『お友達』が完成した。


120 名前:しんご 投稿日:2002年11月18日(月)00時06分56秒

今回の更新
>>113>>119
121 名前:しんご 投稿日:2002年11月18日(月)00時10分15秒
>>112ななしむすめ。さん
レスありがとうございます。
>複数のキャラクターに均等に活躍を割り振るのはなかなか大変でしょうけど、
出来る限り頑張ります…。

>「香織」じゃなくて「圭織」だよ〜
しまった…。御指摘ありがとうございます。
以後気を付けます。
122 名前:加護亜依の一週間〜申〜 投稿日:2002年12月26日(木)23時05分45秒
一日目。

「クッ!」
口から少しだけ漏らす吐息とともに、目の前の魔物は上半身と下半身、
見事な真っ二つに切り裂かれる。
傷口はその後激しく燃え上がり、再び結合する事を許さない。

そんな燃えさかる死体が数十体になったところだろうか、
彼女はようやく魔物の血で染まった刀を一振りし、刀を納めた。
今まで続けた急激な運動と、部屋の温度によって小さな身体からは
高熱になった体温を身体に留めない為の汗が溢れ出ていた。


「こんなのじゃない…」
これだけの数を切り払っても、彼女は納得していない。
「こんな力を持ったって、ごっちんに追い付かない…」
123 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月26日(木)23時06分56秒
加護は今でも思っている。
「初対面で闘ったとき、たとえ後藤が属性攻撃を繰り出さないでも、
 私は負けていた」と――

あの日から今まで彼女と旅を供にしてきて、
戦いの「才能」というものを見せ付けられてきた。
攻撃、防御、相手の弱点を見抜く能力。
加護もそれなりに自分の「強さ」に誇りを持っていたが、
正に井の中の蛙だったのだ。


「……」
そんな事を思っているうちに部屋中に横たわる焼死体は
自動処理システムによって次々と消されていった――


124 名前:加護亜依の一週間〜申〜 投稿日:2002年12月26日(木)23時09分56秒
その時疲労しきった加護の耳に不思議な笑いと共に聴き覚えがある声が脳を刺激する。
『ほっほ。主の様な若造には自力でわしの力は出せんのかのう…』
声の主は加護の内に存在する八番目の十二支―申―。

『そのような修行を何日積んでも、何も得ぬぞ』
「…っ!?どう言う事ですか?そんな事やってみないと―」

『わかるわい。主はただ炎を外に垂れ流してるだけじゃ。
 わしの力はそんな芸の無い力じゃないわ』
「外に出す力じゃない…?」
『えぇい。考える暇があったらそこに座禅せい』
「…??」

訳も分からず座禅を組んだ加護に申は続ける。
『良いか?これからわしの力をいつもより大目に解放してやる。
 それを主の内に留めてみせい』
「自分の…、内……」
『ほれ、いくぞ!』


その瞬間、理解しかけていた加護の身体から激しい炎が迸った。
「!!??」
その力は自分が体験した事の無いような力で、
座禅していた身体は脆くも崩れ浮き上がり、壁に激突した。

「くっ…」
よろめきながらも立ち上がり、再び座禅を組んだ。
すると再び身体から炎が迸る。今度は飛ばされずに座禅を組み続けた。
その力を御しようと――
125 名前:加護亜依の一週間〜申〜 投稿日:2002年12月26日(木)23時10分37秒


二日目――

126 名前:加護亜依の一週間〜申〜 投稿日:2002年12月26日(木)23時12分15秒


三日目――

―まだだ――

127 名前:加護亜依の一週間〜申〜 投稿日:2002年12月26日(木)23時12分50秒


四日目――

128 名前:加護亜依の一週間〜申〜 投稿日:2002年12月26日(木)23時13分23秒


五日目――

129 名前:加護亜依の一週間〜申〜 投稿日:2002年12月26日(木)23時14分37秒

六日目。
彼女の身体の周りに炎はない。
ずっと閉じていた目をゆっくりと開き、パネルに向かって歩き出した。
落ち着いた手付きでそれを操作すると、数メートル後方に擬似モンスターが現れる。


彼女が振り返ると、魔物は咆哮と共に向かってきた。
「……。」

一瞬一太刀――
石川にも匹敵するスピードで、辻にも匹敵するパワーで、
彼女は魔物を両断した。

しかし、抜いた刀を鞘に収めた瞬間、その場に倒れ込み、
半ば気絶のような状態で深い眠りに着いた。
130 名前:加護亜依の一週間〜申〜 投稿日:2002年12月26日(木)23時15分12秒


この瞬間、加護は自分の内に豪炎を宿し爆発的な身体能力を発揮する
『心炎』が完成した。

131 名前:しんご 投稿日:2002年12月26日(木)23時26分58秒


今月の19日でこの『十二支物語』のスレを立て、更新し始めた日から一年経ちました。
生まれて初めて小説を書き、生まれて初めてスレを立てた自分がここまで書き続けれたのも、一重に皆様の心温まるレスのおかげだと思ってます。
まだまだ話は続きますが、これからも読んで頂けたら幸いです。
132 名前:名無し 投稿日:2002年12月26日(木)23時41分13秒
待ってました。
133 名前:吉澤ひとみの一週間〜酉〜 投稿日:2003年01月10日(金)00時21分41秒
一日目―

――タン
広いトレーニングルームは弓道場に変わり、矢が的に中る音だけが響き渡る。

数十分後―
「……ふぅ。」
ひとみが放った数十本の矢が全て的の中に収まった頃、
ようやく射位から外れ一息ついた。


旅の前、弓道の『心』を学んだひとみ。
しかし旅に出ると再び弓術を使う日々を送っていた。
そして今、久し振りに弓道を行い彼女は実に清々しい気分だった。
134 名前:吉澤ひとみの一週間〜酉〜 投稿日:2003年01月10日(金)00時22分44秒

「さて…と、そろそろ始めようかな。」
そう言うと白い羽を広げ天井近くまで浮遊する。

「……。」
すると、ひとみの周りの空気が変わった。いや――


――無くなった。
135 名前:吉澤ひとみの一週間〜酉〜 投稿日:2003年01月10日(金)00時24分06秒
つまり真空。

始めはひとみの半径3m位だったものが徐々にその範囲を広めていく…。が、
「ぶはぁっ!」
突然吐き出される息と共に、真空は消えて無くなった。



ひとみの成そうとしている事、それは『能力を広範囲に散布する技』。
同じ風属性の矢口や梨華が風を具現化しようとしたのに対して、
彼女は逆の発想で修行しているのだ。
(勿論ひとみ自身は彼女達の技を知って自分の技を決めた訳ではない)


二日目―
彼女は1つの事柄を長く続けるのを嫌がる。飽きるからだ。
その為午前中は弓道をし集中力を養い、午後から修行をすると言う形を取った。

136 名前:吉澤ひとみの一週間〜酉〜 投稿日:2003年01月10日(金)00時26分16秒
そして五日目――
この日にはひとみが作り出す真空はトレーニングルーム全体に広がるまでになった。


その時突然扉が開き、
廊下の空気が入り込むと共に1つの人影が宙を舞いながら飛び込んできた。

「え!?ごっちん!!?(なんで!?)」
ひとみは驚愕したがすぐに能力を風を止めるように変換し、後藤は床に着地した。

「あぁ〜、びっくりしたぁ〜」
「ごっちん、大丈夫!?」
「あ、うん。大丈夫だけど…、今の…何?」
後藤の質問にひとみは少し困った。
元々天才肌の彼女は修行中の技はあまり見られたくなかったのだ。
「え?え〜っと……。な、内緒だよ」
「内緒ぉ!?何それ?教えてくれたっていいじゃん!」
「今は自信が無いから後で教えて上げるよ!」
「えぇ〜!!」

嫌がる後藤にひとみは無理矢理話題を変える。
「そうだ!食堂行ってご飯食べよう!梨華ちゃんも誘ってさ!!」
「そんなんで後藤は騙されないよ!」

後藤はそうは言ったが、ひとみが構わず外に出ると後に付いて行った。
137 名前:吉澤ひとみの一週間〜酉〜 投稿日:2003年01月10日(金)00時28分14秒
廊下でも後藤はしつこくひとみに食い下がっている。
その時正面から矢口の姿が見えた。
「おっ、よっすぃーとごっちんじゃん。なに騒いでんの?」
「やぐっちゃん聞いてよ〜。よしこが作り出している技教えてくれないんだよ」
「だから、まだ自信が無いから後で教えるって言ってんじゃん!」
「今知りたいの!」
「ダメ!」
「けち!!」
「おいおい…、それ位にしとけよ」

矢口の注意も聞かずに、2人はそのまま歩いて行った。


数分後。
梨華の部屋に到着し覗いてみると本人の姿はどこにもなく、がらんとしていた。
「あれぇ〜。梨華ちゃんどこ行ったんだろう…」
「そう言えば、梨華ちゃん圭ちゃんトコ行くって言ってたよ」
「ふぅ〜ん…、って、なんでごっちんがそんな事知ってるの?」

ひとみは問いながら後藤を見てはっとした。目の前には有利に立った者の笑顔があった。
「(ごっちんがにやけてる…、まさか…。)」
「さぁ〜、何ででしょう?」
「(やっぱ教えてくれないのね…。)」
立場逆転。

その後2人は梨華の捜索を諦め、賑やかに食事を取った。
138 名前:吉澤ひとみの一週間〜酉〜 投稿日:2003年01月10日(金)00時28分54秒
六日目―
自分を中心に半径50mまでの範囲に能力を展開し、大気を操る技。
『エア・エリア』が完成した。

(なお、『エア・エリア』は通常は半径50mの球状だが、その体積分なら形状を変えることが可能)
139 名前:しんご 投稿日:2003年01月11日(土)19時21分34秒
>>132さん
今回もお待たせしてしまってすみません…。
また週一更新ができるように頑張ります。
140 名前:保田圭の一週間〜戌〜 投稿日:2003年01月16日(木)22時05分22秒


一日目―
「…、人型モンスターは骨の構造も人間とほぼ同じなのね…」
うつ伏せに伏した魔物の背中に跨り、腕を取り間接技をきめた彼女はそう呟き、
それを確認すると、よっ、と重心をずらし魔物の骨を粉砕した。

関節技・締め技等の敵と接触する技はパーティーでの戦闘では他のメンバーの邪魔になり、
例え1人での戦闘であっても外で使用するにはリスクが多すぎる為、今まで使わなかったが、
管理の行き届いているこの空間ならその危険性が無い為、彼女は思う存分に技をきめていた。

その後も保田は延々と戦闘を続ける。
彼女の技は豪快かつ繊細で、美しさも垣間見える。
素手での一対一の戦いにおいて彼女に勝てる相手はそうはいないだろう。

141 名前:保田圭の一週間〜戌〜 投稿日:2003年01月16日(木)22時07分47秒
二日目――
保田が軽快な手付きでパネルを操作すると、中央にかなりの大きさを持つ魔物が現れた。
すぐさま懐に飛び込み頭部に向かって回し蹴りを仕掛けるが、
相手の丸太のような腕で防御された。

「ガァア!!」
咆哮と共に防御した腕を振り回し、保田を吹き飛ばすが、
彼女は難なく着地する。

「(やっぱりコレぐらいのレベルが相手じゃないとね…)」
闘争心を掻きたてられた彼女は自分の腕を獣に換え、再び間合いを詰める。

獣の腕から繰り出した右ストレートは左腕で防御され、
そのお返しと言わんばかりに魔物は右腕を薙ぎ払うかのように振るった。

しかしその拳が彼女の頭部に当たる瞬間、
身体を勢い良く回転させその攻撃を受け流し、
その遠心力を加えた右裏拳を魔物の顎にヒットさせた。

インパクト時は見えなかったものの、手応えはあった。
倒れこんだ巨体がそれを物語っている。
しかし、それはすぐに起き上がり、再び吼えた。

「(そろそろ属性攻撃を開発しないとな…)」
そう思い立った保田は魔物と距離をとり腕に神経を集中させる。

「ハッ!!」
彼女の腕から放たれた液体は鋭利な刃物となり魔物を切り刻む――
142 名前:保田圭の一週間〜戌〜 投稿日:2003年01月16日(木)22時08分31秒

―はずだった――

143 名前:保田圭の一週間〜戌〜 投稿日:2003年01月16日(木)22時11分10秒
バシャッ、とホースで水をぶちまけた様な音がすると、
目の前には水に濡れた魔物の姿。

「へっ?(もしかして私、属性攻撃苦手な人?)」
自分自身に拍子抜けしていると、
その間に距離を縮めた魔物の腕が頭上から降ってきた。

「うわぁ!」
危機一髪避けはしたが、自分の驚愕の欠点を見つけショックが続いているのか、
戦いは防戦一方になってしまった。


しかしそこは保田圭。
持ち前の冷静さで落ち着きを取り戻した。
そしてこの戦いで具現化出来るように自分で課題を出し、
再び魔物に向かっていく。

144 名前:保田圭の一週間〜戌〜 投稿日:2003年01月16日(木)22時12分53秒
数時間後―
戦闘は未だ続いている。具現化も形になりかけていたその時だった。

扉が開く音がし、誰かが入って来た気配がした。
「誰!?」
しかし、今は魔物から目を離せる状況では無かった。
相手に聞こえるように少し大きめの声を出す。

「あっ、石川です!」
「石川!? ちょっと待ってて、今終わらせるから」

そう言って保田は接近していた魔物との距離を広げ、
部分獣化した腕に集中する。
「ハァッ!!」
そしてその腕を振るうと、液体が鋭利な刃物の様に変わり魔物を襲った。
しかしそれは少し傷を負わせた程度で、致命傷には至らなかった。
「チッ!(まだ形なって無いけど石川が来てるし終わらせるか…)」

保田は舌打ちをすると再び接近し、強力な拳を魔物の腹部に叩き込むと、
魔物はその場に倒れ込み消えていった。


「ふぅ…、で、石川は何の用で此処に来たの?」
やっと梨華の方へ向いた保田は尋ねた。
「えっと、保田さんに『部分獣化』を教えて貰おうと思って」

145 名前:保田圭の一週間〜戌〜 投稿日:2003年01月16日(木)22時14分39秒

「…、石川」
少し間をおき真剣な目をする保田に梨華は少し緊張したようだった。
「あなたは、この少ない時間で課題を2つにしたのよ。
 『部分獣化』と属性攻撃。
 それをクリア出来ると思ってるの?」


保田の言葉にさらに少し間が空くが、梨華の言葉から出て来た言葉は
「…はい。やってみせます」
その目は少し前の頼りない梨華の雰囲気を微塵も感じさせない
何かを決心した目だった。

「…、そう、じゃあやってみようか」
「はい!!」
「ただし、私の特訓は厳しいわよ」
少し笑みを浮かべて言った保田の言葉に梨華はもう一度、
大きな声で返事をした。


その後、保田の部屋から2人は一歩も出ず、
昼夜を問わず特訓を積み重ねた。
146 名前:保田圭の一週間〜戌〜 投稿日:2003年01月16日(木)22時15分30秒


そして六日目―
獣の爪から放たれる具現化された鋭利な液体、
『水の刃』が完成した。

147 名前:紺野あさ美の一週間〜亥〜 投稿日:2003年01月23日(木)22時36分12秒

一日目――
トレーニングルームの中央で『K-アームズ』を担ぎ五感をフル稼働させる紺野。
その周りには人間の男性大の魔物が5匹囲んでいる。

紺野の指がピクリと動いた瞬間、魔物たちは一斉に襲い掛かってきた。
しかし彼女は表情を変えずにブーストを噴射。
天井近くまで上がると左右の背中に降りてきたマシンガンを乱射し、
一箇所に溜まった魔物は粉々になり消えていった。


「ふぅ…。」
再びブーストを何回かに分けて噴射し、静かに着地したが、
その直後彼女の背中の武器は熱を帯び、白煙を上げ始めた。

「あちゃ、やっぱり冷却装置なしで戦闘するのは無謀だったな」
と呟きながら個室の方へ歩き出す。


個室に入ると背中の物を部屋の隅にあるスタンドにセットする。
すると白煙は静まり、スタンドは自動的に『K-アームズ』の調整を始めた。

次に紺野は椅子に腰掛け、デスクの上に設置しているディスプレイに目をやり、
おもむろにキーボードを叩き始めた。
148 名前:紺野あさ美の一週間〜亥〜 投稿日:2003年01月23日(木)22時38分10秒
二日目――
昨日『自分の能力で武器の発熱を防ぐ方法』の研究を始めたのだが、
80%進めたところで何故かに脱線し、艦内のチェックを始めたため、
結局今日の昼頃までずっとディスプレイとにらめっこし続けていた。


「……お腹すいた…。」
急にそう発し立ち上がり、
自動調理機の方へと行かずに部屋を出て食堂の方へ向かった。

昨晩部屋の自動調理機で作り食べた夜食はすっかり消化され、
今だけは、世界が誇る紺野の頭の中は食欲が支配しているだろう。

149 名前:紺野あさ美の一週間〜亥〜 投稿日:2003年01月23日(木)22時38分59秒
食堂に着くと、早速カレーライスを注文する。
すると数秒後、カレーライスが入った食器と水が入ったグラス、
それとスプーンがトレイに乗って出て来た。

それを手に取り誰もいない食堂で1人笑みを浮かべながら椅子に座りトレイを置き
さあ今から食そうとした時、彼女は愕然とした。



設定したじゃが芋の比率が違うのだ。
150 名前:紺野あさ美の一週間〜亥〜 投稿日:2003年01月23日(木)22時39分42秒

紺野の思考―
じゃが芋が多すぎる。

これじゃあ食べる度に口の中でじゃが芋ばかりが目立って本来の美味しさが
損なわれてしまう。


なんてことだ。艦内で料理関係は特に力を入れていたと言うのに…。
しかも昨日チェックしたばっかりじゃないか…。
151 名前:紺野あさ美の一週間〜亥〜 投稿日:2003年01月23日(木)22時41分31秒
呆然とカレーを見つめていると、
「紺野なにしてんの?」
そう聞こえ振り向くと、そこには安倍の姿があった。

安倍は笑顔で彼女を見る。その笑顔に何を感じたのか、
急に情けなくなり口を開いた。涙腺が少し緩む。
「安倍さん…、私…、少し悲しいです」

安倍の笑顔が驚きの表情に変わり、事情を聞いてきた。
「えっ!?どうしたの?」
「はい…、カレーライスの中に含まれるじゃが芋の比率が、
 私の設定したのと違うんです…。個室のは完璧だったのに…」
「へっ?そうなの?」
「そうなんです…、これじゃあ駄目です。私、ちょっと厨房を見てきます」
そう言うと紺野は席を立ち、食堂の隅にある扉へ向かって行った。

「ちょ、紺野? このカレーどうするの?
 食べないんだったら私が食べてもイイ?」

本当は彼女の美学では食べて貰いたくないのだが、
いかにも食べたそうな安倍の目を見ると、断りきれなかった。
「…、良いですけど…、きっと美味しくないですよ」
「そんな変わんないって」
「そうですか、では」
152 名前:紺野あさ美の一週間〜亥〜 投稿日:2003年01月23日(木)22時42分36秒

厨房で調べた結果、設定には問題なかったのだが、
調理の段階でバグが発生していたのだ。

調理機を調整し直した紺野は再びカレーライス手に取り、
椅子に座り食べ始める。
安倍は既に帰っており、食堂には紺野以外誰もいなかった。


「うん。美味しい。完璧だ。」
そう言ってカレーライスを口に運ぶ彼女の背中は
不思議な哀愁が漂っていた。
153 名前:紺野あさ美の一週間〜亥〜 投稿日:2003年01月23日(木)22時43分32秒

この失敗が残っているのか、その後の研究には一層熱が入った。

そして五日目――
遂に研究は完成し、紺野は早速行動に移した。
連闘しても『K-アームズ』に熱は発しない。

火力を抑えているものの、
グレネードランチャーを発射しても白煙1つ上げなかった。

154 名前:紺野あさ美の一週間〜亥〜 投稿日:2003年01月23日(木)22時44分29秒


六日目――
最終調整を加え、攻撃による『K−アームズ』の発熱を防ぐ
純度100%の液体『冷却水』が完成した。
155 名前:しんご 投稿日:2003年01月23日(木)22時52分22秒



本来この各々が成長する「一週間」編はさくさくと書き上げる筈だったのですが、結局六ヶ月も掛かってしまいました。
正直、話のリズムが悪くなったと思いますがどうでしょうか?

これからも放棄だけはせずに頑張りたいと思いますので、良かったらお付き合い下さい。

それでは。
156 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月26日(日)16時28分22秒
毎回楽しみにしてます。
頑張って下さい。
157 名前:一読者 投稿日:2003年01月27日(月)14時21分09秒
サイコーっすよ!
毎回楽しみにしてます!
更新がんばって下さ〜い♪
158 名前:到着 投稿日:2003年01月30日(木)23時52分38秒

亥族の科学と紺野の頭脳で造り上げた『風林火山』が子族の村を飛び立って、
遂に七日目を迎えた。

会議室――
「梨華ちゃーん!!」
「あ、よっすぃー。久し振り…ってうわぁ!」
梨華が会議室に入った途端、
先に来ていたひとみが猛スピードで向かってきて両手を強く握った。

「ごっちんから聞いたよ!圭ちゃんトコにいたんだって!?」
「う…うん…」
ひとみの隙間から奥にいる後藤を覗くとにやけた顔でこっちを見ている。

「大丈夫?変な事されなかった?? 梨華ちゃんに何かあったら…。」
真剣な顔でそう言うひとみを見て苦笑いをする梨華。何故なら―
「保田さん…、後ろにいるよ…。」


「へっ?」
ひとみが振り向く前に、保田の腕が彼女の首に入る。
「吉澤ぁ〜、私がそんな事すると思ってるの?」
口の端は上がっているが、目は本気そのものだった。
「ぐぐぐ…、冗談だって。 てかホントにキマってるから…。」
159 名前:到着 投稿日:2003年01月30日(木)23時57分41秒
ひとみがもうすぐ三途の川を過ぎようとしていた時、
出発前に世界地図が出ていた場所に、突然荒れ狂う海と黒い空が現れた。
海には大小様々な渦潮が所狭しと存在し、
雷鳴轟く黒雲が本来青いはずの空を覆いつくしていた。


その光景にひとみを締め付ける保田も、それを笑いながら見ていた梨華と後藤も、

はしゃいでいた辻、加護も、それを微笑ましく見ていた飯田も、

なにやら話し込んでいる様子の小川と高橋も、

にこやかに談笑している矢口と安倍も、

遅れて気付いたひとみも、

沈黙の中全員それに釘付けになった。


すると、会議室に6つあるドアの1つから紺野が入ってきた。
「紺野、コレって…。」
「現在の外の映像を映し出しました。」
矢口の言葉に淡々と応える紺野。

「そしてもうすぐ見えてくるのが……。」
画面には黒と黒の中間、挟まれるように1つの塊が小さく浮かび上がってくる。
「目標とする島です…。」
160 名前:到着 投稿日:2003年01月31日(金)00時00分16秒
カッ!っと一際大きな雷が一瞬辺りを黄色く染め、
再び黒い世界に戻ると、始めは小さく見えた島が少し大きく見えた。


「……、正に『地獄』って感じね…。」
真剣な表情の中に微笑を浮かべる保田のひとみを締め付ける腕の力はすでに抜けており、
そのままひとみの肩の上に乗っていた。
ひとみはその腕が少し震えるのを感じると、自分も真剣な顔でそれを見る。
161 名前:到着 投稿日:2003年01月31日(金)00時06分44秒


数時間後――

島の一番端には数10キロに及ぶ深い森が広がり、自然の外壁を造っていた。
そこの上空を通ると、今度は逆に一本の木も無い世界が広がる。

少し高い丘の上に着地させ外に出た。すると目の前になだらかな下り坂があり、
その数キロ先のふもとには最終目的、つんくの城が見下ろすように見えている。

しかしその城には濃い霧が立ち込めており、おぼろげに見えるだけだが、
大きな塔が聳え立っていることが確認できた。



「おかしいわね…。」
「…うん。」
不思議がる保田に飯田が相槌を打つと、辻が反応した。
「何がおかしいんですか?」
「此処に来る今まで向こうが何も仕掛けて来なかった事よ。
 あいつの力なら島に近付いていることぐらい分かってるから、
 敵を送るなり攻撃するなり出来たはずなのに…。」
「あっ、そういえば…。」
162 名前:到着 投稿日:2003年01月31日(金)00時09分25秒
その疑問に紺野の口が開いた。
「それは簡単ですよ。敵は楽しんでるんです。
 ちまちま島の外で攻撃したってつまらないと思ってるんでしょう。」

「じゃあこのまま中に入れてくれたりして♪」
後藤が冗談交じりでそう言うが、紺野はいたって真面目に答える。
「それはないと思います。あいつは派手好きですから…。
 だから私の考えが正しければもうすぐ…。」

そう言ってもう一度城の方を見る紺野に合わせて城を見ると、
全員信じられないといった表情で自分の目を疑った。


数千、いや数万の魔物の大群がこちら目掛けて土煙を上げながら向かってきていたのだ。


「嘘でしょ…?」
あっけにとられてそう口にするひとみの横で梨華が魔物群を睨みながら呟く。
「けど…、私達がやらなきゃ…」

その言葉に矢口が頷き全員に向かって言う。
「そう、やらなきゃあいつを倒せない…。みんな、準備はイイ?」

各々戦闘体勢を取り、魔物に向かおうとしたその時、

後方から轟音が響き渡って来た――
163 名前:しんご 投稿日:2003年01月31日(金)00時14分36秒


今回の更新終了です。
白板から見ると最後の3レス表示されるのですが、レス隠しの為のレスをしても良いんですかね?
2スレ目の此処まで書いて言う台詞じゃ無いかもしれませんが(w
164 名前:しんご 投稿日:2003年01月31日(金)00時17分15秒
>>156さん
毎回楽しみにして頂けるとは光栄です。励みになります。

>>157一読者さん
>>サイコーっすよ!
だなんて…、ありがとうございます。頑張ります。
165 名前:ソーマ 投稿日:2003年02月05日(水)00時32分31秒
紺野の多機能兵器と加護の必殺の一閃に萌え。
いや、燃えか。
166 名前:目には目を。歯には歯を。大群には大群を。 投稿日:2003年02月07日(金)00時28分10秒


鼓膜に響く轟音に五感を最大限に引き出していた全員が振り返る。

――挟み撃ち!?―

最悪の状況を考えた11人に、「間に合った」と喜ぶ1人。


その轟音の正体は、11体の飛行船。
『風林火山』とは少し違うが、こんな物が造れるのは1人しかいない。
その1人に全員の目が移る。
「…完璧です。」
「なぁにが『完璧です』よ!」

笑顔でそう言う紺野に保田の蹴りがヒットした。
「そういう事してるんなら早く私達に言いなさいよ。
 ったく…。って紺野聞いてる?」
「痛い…。」
「圭ちゃん…、本気で痛がってるよ…」

蹲る紺野を癒しながら安倍がそう伝えると、
急に保田はオロオロしながら弁解を始める。
「あ…、いや…、その…、
 やっぱツッコミって必要じゃない?だから…。」

それを冷ややかな目で見つめる10人。
「……。ごめんなさい…。」
167 名前:目には目を。歯には歯を。大群には大群を。 投稿日:2003年02月07日(金)00時30分01秒



傷が癒えた紺野が1つ咳払いをして説明を始めた。
「こういう状況になる事は予想できてましたし、
 そうなれば、こっちも大群で闘った方が良いですから…。」

その頃飛行船は次々に着陸し、中からゆっくりと人々が降りてきた。
それはただの人間ではない。立派に十二支の血が通っている戦士達である。
168 名前:目には目を。歯には歯を。大群には大群を。 投稿日:2003年02月07日(金)00時31分15秒
子族―
「おじいちゃん!?それにみんな!?どうしてココに?」
「真里達が行ったあとこの鉄の塊が来てな。
 聞けばわしらの力がいるそうじゃないか。これはわしらが行かん訳にはいかんじゃろ。」


丑族―
「おばあちゃん!?」
「ほっほ。孫のピンチは助けてやらんとな。」


寅族―
「親父…。」
「よっ、麻琴久し振り!なんかココだと思う存分暴れられるらしいな!!」


卯族―
「お父さん…、お母さん…、それに…。」
「…、やはりわしらは修羅の中に生きる運命か…。」


辰族―
「おっ、みんな来てくれたんだね♪」
「はい!後藤さんのためなら例え火の中水の中魔物の中ですよ!」


巳族―
「お父さん…。」
「…、愛だけに辛い思いはさせられないよ。」
169 名前:目には目を。歯には歯を。大群には大群を。 投稿日:2003年02月07日(金)00時32分15秒
午族―
「お父さん。」
「圭織。この時の為に私達は剣術を学んできたんだよ。」


未族―
「パパさん。ママさん。お仕事は?」
「サーカスは一時休演だ。今から魔物の大群を倒すショーが始まるからな。」


申族―
「御爺様。」
「うむ。申族の忍術をとくと見せてやろうぞ。」


酉族―
「爺ちゃん!年寄りが来てどうすんのさ!」
「馬鹿者!わしはまだまだ現役じゃ!!」


戌族―
「父上…。」
「圭…、あともうひとふん張りだ。」


亥族―
「有難う御座います。」
「いえ、やはり主任は凄いですね。こんな事まで読んでいるなんて…。」
「そんな事ないですよ。これぐらいしか私には出来ませんから…。」
170 名前:目には目を。歯には歯を。大群には大群を。 投稿日:2003年02月07日(金)00時34分33秒

「――え〜、マイクテストマイクテスト―」
紺野がマイクに向かって声を出すと、
拡声機を通して数百人になった仲間の耳に入る様になった。

「えっと。皆さん集まって頂いて有難う御座います。
 魔物が迫ってきているので早速ですが端的に作戦を伝えます。
 まず飛行船の砲で攻撃し、城への道を確保します。
 しかしこれは一時的なもので、すぐに他の魔物が埋めてしまうでしょう。
 そこで皆さんが道が閉まる前に左右の魔物を抑えて下さい。
 飛行船はその後長距離後方支援に回ります。
 その道に私達が通って城へと向かいます。」


そこまで言うと紺野は一息つき、突然マイクを矢口の前に出す。
反射的にマイクを取ったが戸惑う矢口にそっと耳打ちをした。
「最後は矢口さんが良いと思います。」
「私が!?」
「はい…。」
「…。分かった…。」
171 名前:目には目を。歯には歯を。大群には大群を。 投稿日:2003年02月07日(金)00時38分57秒
「これは矢口さんにしか出来ない事ですから…」
紺野が誰にも聞こえない程度に呟く中、


矢口はマイクを握り直し、全員を一望した後、マイクを通し話し始めた。
「オイラ達は色んな旅をして、成長しました。
 こんな素晴らしい仲間にも出会う事が出来ました。
 今から闘う相手はとても強大で、
 もしかしたらその大切な仲間を失う事になるかもしれない―」

矢口は一度目を瞑り、さらに強い目で見つめる。
「いや…、失いたくない。失わせない。だからみんな…」


「…頑張ろう。」


矢口の最後の一言がスピーカーから鳴り止むと、
十二支の血を引き継ぐ者達の士気が最高潮に達し、
叫びともとれる歓声が響き渡った。

172 名前:しんご 投稿日:2003年02月07日(金)00時41分53秒


今回の更新
>>166-171
173 名前:しんご 投稿日:2003年02月07日(金)00時44分36秒
>>165ソーマさん
紺野と辻の武器は物語中に全部出せないかも知れません(w
174 名前:しんご 投稿日:2003年02月07日(金)00時45分06秒
レス隠しです。
175 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月07日(金)17時31分58秒
いつのまにかこんなに更新されてた…。
頑張ってください
176 名前:突入 投稿日:2003年02月11日(火)20時28分50秒


――戦争―
ここからは戦争と呼ぶに相応しいものになった。

『風林火山』を始めとする12機の飛行船の正面にある砲台に光が集まり、
そこから収束した光線が放たれる。
綺麗に棒状になった光は魔物の群を切り裂き、城への道を開いた。


しかし紺野の予想通り、すぐに左右の魔物がその道を塞いでしまう。

同時に子・卯・戌・寅・巳・申・辰・丑・午・未・酉、
そして十二支を己の中に宿す者達の順に魔物に向かって緩やかな坂を下っていく。

177 名前:突入 投稿日:2003年02月11日(火)20時30分18秒
三回目の砲撃を行った後、遂に魔物の間に割り込む事に成功した。
左右から迫りくる壁の様な魔物群をいの一番に切り裂く子族。
魔物と魔物を高速に叩きつける卯族。
腹部に自らの拳で大きな穴を開ける戌族。
両手のダガーで体中を切り刻む寅族。
目、耳、鼻を鞭で潰し撹乱させる巳族。
様々な忍術で確実に消し去る申族。
一番喧しく闘い、槍を振り回す辰族。
見事な真っ二つに割る丑族。
大きな剣をものともせず首を飛ばす午族。
死角からナイフ等で蜂の巣の様にする未族。
少し後方からピンポイントで急所に命中させる酉族。

その誰もが、同じ目的の為に自分が傷付こうとも闘い続ける。

割り込み後の飛行船は魔物群の両端から消していく作戦に移っていた。


魔物の壁と仲間達の壁、交互に押し合う中、
12人の選ばれし者は城へ向かって突き進んで行った――
178 名前:突入 投稿日:2003年02月11日(火)20時33分26秒

一体何km走っただろうか。
多くの魔物の血液の中に、仲間のものと思われる血液も見られた。
しかし彼女達は止まらない。止まったらそこで終わってしまうから。


流石の彼女達も全力疾走と緊張で少し肩で息をし始めた頃、
ようやく城の前まで辿り着くことが出来た。
後ろではまだ魔物の雄叫びと仲間達の声とがぶつかり合っていた。

「しっかし…、なんなんだろうねこの霧は…。」
「一応毒性反応は出てませんけど…。」
城を覆い隠している霧を見てそう漏らした矢口に紺野が応える。

遠くで眺めたのとは別の圧迫感を感じるその霧は、
近くでは城壁さえも見えにくい程だった。

「とりあえず、入るしかなさそうね。」
保田が先陣をきって霧の中に入っていくと、
それに続き全員がその中へ姿を消して行った。


以外にも数十歩進んだ所で簡単に霧を抜ける事ができ、
門らしき物を確認する事が出来た。

しかし、どこか違和感がある。
さっきまで執拗に入ってきた魔物の咆哮も、
後押しするかのような仲間の声も耳に入らなくなっていた。
179 名前:突入 投稿日:2003年02月11日(火)20時36分00秒
「何にも聞こえなくなっちゃいましたね…。」
小川の言葉に反応するかのように、飯田が梨華にふった。
「梨華は?何も聞こえない?」

耳に神経を集中させた梨華でさえ、首を横に振った。
「うん…。なんでだろう…。」
「そう、加護、ちょっと手裏剣を霧に向かって投げてくれない?」
「え?あ、はい。」

そう言われて加護は手裏剣を1つほど取り出すと、後ろを振り返り投げつけた。
霧に向かって鋭く走った手裏剣は、霧に入ると同時に跡形も無く融け去ってしまった。
「えっ!?御爺様が造った手裏剣がこんな簡単に…。」
「…不思議ですね。いま調べた所毒性反応が出ました。
 しかもかなり強い…。メーターを振り切っています。」
「敵さんまで一方通行って訳ね…。」


ここまでの高濃度の毒霧を城を覆い隠せるほどの範囲にわたって
散布出来る程の能力。
これから戦おうとする相手の強さを目の当たりにした彼女達に物理的ではない圧力がかかり、
数秒の沈黙が訪れた。

180 名前:突入 投稿日:2003年02月11日(火)20時38分25秒


「…、おもしろいじゃないですかぁ!!」
その沈黙をぶち壊すかのような声を張り上げたのはひとみだった。
右手に拳を作り胸の辺りまで上げている。
「そんなに倒して欲しいんなら倒してやろうじゃないの!!
 さぁ梨華ちゃん行くよ!!」
「へっ?なんで私だけに…ってわぁ!」
「うおぉぉ!!」

急にトランス状態になったひとみは誰にも止められない。
梨華を強引に引っ張ると門まで一直線に走り出してしまった。
「あぁ〜!梨華ちゃんを攫うなぁ!!」
目の前を駆け抜けたひとみと梨華に続いて後藤も飛び出した。

「こら!あんた達何してんの!って後藤言葉間違ってるよ!!」
それをいつもの様に追う保田。


そんないつの間にか定着していたやりとりを見せ付けられ、
歴史を変える戦いを任された彼女たちの堅くなった表情も少しほぐれ、
皆、少し苦笑しながらそれに続くように走り出した。
181 名前:突入 投稿日:2003年02月11日(火)20時39分13秒


――こんな所でプレッシャーを感じてちゃいけない。
  大丈夫。きっとやれる――

182 名前:しんご 投稿日:2003年02月11日(火)20時41分55秒




レス隠しです
183 名前:しんご 投稿日:2003年02月11日(火)20時42分58秒
今回更新分
>>176-181
184 名前:しんご 投稿日:2003年02月11日(火)20時45分11秒
>>175さん
不定期更新で申し訳ないです…。
185 名前:1F 投稿日:2003年02月17日(月)23時11分20秒
―ギィィィ

2mをゆうに超える、いかにもという感じの門をひとみが開けると、
おそらく2階分の高さと思われる天井をもつ1階の風景が現れた。

薄い灰色の床の上に門から綺麗な一直線にしかれた幅数mの赤絨毯の先には、
少し上るように出来た階段と、そこから踊り場を挟むようにして
2階の4つの扉にむかう4つの階段が伸びていた。

どこから光が出ているのかは分からないが、
フロア全体を見渡せるほどの明るさはあった。


最後の紺野が城の中に入ると、
大きな音を立てて門は独りでに閉まった。
「…、ご親切にどうも。」
後ろを振り返り、嫌味を口にした保田が向き直し進み出そうとしたその時、
前を歩いていたひとみ達が突如現れた強烈な光に包まれ見えなくなった。

その光は一瞬で収まり、眩んだ目を何とか戻し事態を把握しようと辺りを見渡す。
立ち止まっているひとみの前に、紅い絨毯を黒い焦げが円状に造られていた。


「みんな上!!」
梨華がいち早く感づき叫ぶと同時に、天井から黒い巨体が降ってきた。

全員がそれを避けながらも反射的に戦闘のフォーメーションをとり、
着地したその巨体の正体を見た。
186 名前:1F 投稿日:2003年02月17日(月)23時12分46秒
その巨体とは猫。
少し長めの毛並みは艶が出るほど黒く、
そこから除く白い目は鋭く彼女達を見据えていた。
身体の周りにはパチパチと黄色い線が見えている。

それを見た辻が加護に訊いた。
「電を操るのかな…?」
「多分…、油断するな、のの。いつ来るか解らんから。」
「うん…。」

そう襲ってくると予想していた彼女達をよそに、
電気を収めた猫は自分の周りを黒い光で包み始めた。


光は徐々に膨らんでいき、彼女達の前の方まで広がってくる。
その光は禍々しいものだったが、あるはずのない自分達との共通点を感じてしまった。
「これって…。」
「私達の獣化と感じが似てる…。」
小川に続き高橋が呟く。
187 名前:1F 投稿日:2003年02月17日(月)23時14分20秒

その光はしばらくして中心の方へ収縮していく。
光が完全に収まる頃には光を発した猫の姿はなく、
変わりに小さな人影が立っていた。

正に少女と言った印象を受けるその人物は非常に小さく、
子族の矢口と同程度だった。
さらに特徴的なのは額をおしげもなく出すように左右に結んだ長い黒髪、
それによって露わになった少し太い眉。

その眉を歪め、眉間にしわを寄せこちらをずっと睨んでいる。
身体に合わせた小さな口が少し開いた。

「やっと…、会えた…。」

188 名前:しんご 投稿日:2003年02月17日(月)23時20分47秒

―やっと会えた!?――

小さな少女にそう言われ、全員が自分の記憶を探った。
が、脳内に彼女の姿がないと分かると、アイコンタクトで皆にそれを伝える。


彼女はというと、12人をぐるりと匂いを嗅ぐように見渡すと、
1人の十二支各族一小さい者に焦点を合わせた、
すると次の瞬間、急に大声を張り上げながら飛び込んで来た。
「お前かぁっ!!」

言い終わる頃には目標到達点まで近付き、勢いをつけた右腕を振り下ろす。
ターゲットはとっさに剣でそれを防いだ。
「なっ!?オイラお前なんか知らないぞ!!」
189 名前:1F 投稿日:2003年02月17日(月)23時23分38秒
相手の右手の五本の爪は鋭く伸び、身に覚えの無い矢口の剣とかち合っている。
「ウソをつくな!お前からあの鼠の匂いがするぞ!!」
「確かにオイラは子族だけど…。」
「問答無用!」

剣を跳ね除けた反動で自ら間合いをとった少女は身体から雷光を放つ。
しかし矢口へと伸びた稲妻は虚しく空を切るだけった。
「なに!?どこへ行った!??」
戸惑う少女は辺りを見渡すが狙った獲物の姿はそこには無く、
変わりに自分の周りに微かに風が上へ昇っているのを感じた。

しかし彼女がそれに気付いた時にはすでに遅く、
天井より獣化した矢口は剣を少女の右肩口を狙って振り下ろした。

190 名前:しんご 投稿日:2003年02月17日(月)23時24分39秒





レス隠しです。
191 名前:しんご 投稿日:2003年02月17日(月)23時25分50秒
今回の更新。
>>185-189
192 名前:しんご 投稿日:2003年02月17日(月)23時27分17秒
次回はちょっと更新が遅れるかもしれません。
193 名前:子橘 投稿日:2003年02月20日(木)18時56分12秒
・・・ようやく出てきた、最後の一人。(泣)
出てこないんじゃないかと心配しました。
更新遅れてもかまいません、頑張って下さい!
194 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月21日(金)16時37分05秒
よかった。
彼女も仲間入りですかね。
195 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月22日(土)11時31分43秒
13人目やっとキタ━━━━(T∀T)━━━━!!! 早く前髪作ってねw

更新遅れるのは問題無いと思いますよ、放置じゃなければw
楽しみに待ってますので最後まで頑張って下さい。
196 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時27分06秒




少女の腕から血が伝わり、爪から滴り落ちる。
さっきのお返しともとれる攻撃に、
そのままやられていれば確実に右腕は無くなっていたが、
とっさの反射神経で右肩を後ろに逸らし、それを間逃れていた。

しかし致命傷に至らなかっただけであり、
この戦闘で右腕を使う事は不可能な状態だった。

傷を抑え、それでも少女は矢口を睨む。
「ハァ…ハァ…、くそ…。」
しかし使い物にならない右腕を抱えたまま矢口と戦い続けるのは自殺行為だと理解し、
その場に腰を下ろして睨んでいた目を下に向けた。

「とどめをさせ…。私はもう戦えない。」
「……。」
彼女は無言のまま剣を鞘に収めた。
その目は一直線に手負いの少女を見つめる。

「…、どうした?」
「…今獣化した時、子の記憶が流れてきた。あんた…、神界の者だね。」
「…今頃思い出したか……。」

矢口の言葉にそれまで戦闘を見届けていた11人は驚きを隠せないと言った表情で
近くの者と眼を合わせた。

197 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時28分41秒

先程の彼女達は少女を思い出そうとした時、“自分”の記憶しか探らなかったのだ。
彼女達はそれとは別に“十二支”がまだ獣神だった頃からの記憶も持ち合わせている。
しかし、常時二つの記憶・人格を持つというのは精神の崩壊を招く恐れがあり、
本能的に普段は“自分”としての人格が主となり、
“十二支”は“自分”が望まない限りあまりそれに関与して来ない。
だが獣化の状態は“十二支”が顔を出し、“自分”の意思とは関係なしに記憶も流れてくる。

先程の戦いにおいて、矢口は『ダブルラット』を発動させれば確実に仕留められたのだが、
それをしなかったのは獣化した瞬間“子”の記憶が入り込んだからだろう。

198 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時31分31秒

「どうして神界の猫がつんく側に…?」
その理由を聞こうとした矢口に、
今まで下ろしていた目線を上げ、矢口を尚も睨みつける。
「お前が…、十二支としてのうのうとしているからだ。」
「…、そんな事言ったって、君が審査会場に来なかったからじゃないか。」

その言葉に更に怒りを露わにして大声を上げた。
「鼠の記憶が流れているのにまだそんな事言ってるのか!!
 お前が私を騙したから私は行けなかったんだ!」
「なっ!?子は誰かを騙すなんて事は絶対しない!!」
矢口もそれに感化されたのか、言葉を荒げる。


「しらを切り通そうとしても無駄だ!今でも覚えているぞ!
 審査日の前日、私に審査日が変わったと嘘をついたじゃないか!!」
199 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時33分08秒
◇一時の沈黙◇


興奮気味に叫んだ少女は傷の痛みもあってか少し肩で息をしている。
その少女に冷静を取り戻した矢口は少し間抜けた声で応えた。
「あの…、その日は丑と一緒にいたはずなんだけど…。」
いきなりテンションが下がった相手に少女は少し言葉を詰まらせた。
「まっ…また騙そうとしても無駄だぞ…。」
「いやいや、本当だよ。ねぇなっち。」
「うん。丑の記憶にも残ってるよ。」

安倍もあっさりとそう答え、少女の心は少し揺らいだ。
「そんなこと…、ある訳無い……。」
「あぁ、それ俺やで。」
混乱している少女に向かって放たれた突然の男の声。
全員がその方向を向くと、肩から一枚の黒いマントで全身を覆っている男が
それまで全く彼女達に気配を感じさせないまま踊り場に立っていた。
200 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時37分21秒

先の戦いとは違い人間の姿をしていた。
金色に近い髪、人間の歳で考えると中年ぐらいだろうか。
しかし、距離が近くないのにも関わらず、何故か耳に通ったその声、
十分に感じるオーラにそれと認識するには十分だった。

「つんくさん…。今…、なんて…。」
少女の消えるような声につんくは少し笑みを浮かべながらあしらう。
「まだ解らへんか? 鈍い奴やなぁ。
 俺が万が一神に負けた時に復活す為に力のある奴が必要やろ?
 そこでお前を十二支の所為にして騙しとけば、すんなり仲間に出来る思ったんやけど、
 こうも上手くいくとはなぁ。俺って結構役者やん。」
「そんな…。」

ショックを受けて呆然としている少女を見ながら話を続けた。
「そのついでに十二支と遊んでるとこ見たかったんやけど、簡単に負けちゃうんやもんなぁ。
 …つまらへん。お前、もう必要ないから消えてええよ。」
そう言ってマントから右手を出し、少女に向かって人差し指を向ける。
その爪先には黒い光が収束していっていた。

「ほなな。」

次の瞬間、集まった光は一気に放たれ、
座り込んでいる少女に向かって襲い掛かった。
201 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時41分56秒
少し周りに余波を残しながら線がつんくと少女を繋ごうとする。

しかし、その光は彼女を貫く事はなかった。
突然現れた厚い空気の層によって阻まれていたのだ。
少女の頭上には白い翼を背中に纏ったひとみが『エア・エリア』を発動していた。
「梨華ちゃん!」
「うん!」

吉澤に呼ばれたと同時に動き出した梨華は一瞬で少女を脇に抱え、
その場から離れた。

「クッ!」
その後すぐにひとみの唸り声と共に空気の層は破られ、
光線は誰もいない床を焦がしていた。

その光線を放ったつんくは黒くなった床を見ながらフッと少し笑った。
「中々やるなぁ。まぁええ、お前は生かしといてやるわ。
 そっちも面白そうやしな。」
出していた右手を再びマントの中に納めると、今度は身体が透け始めた。
「それじゃあな。
 あっ、そうそう。さっきのアレ、10分の1の力も出してへんからな。」
言い終わる頃にはつんくの姿はそこには無く、
代わりに聞こえたのは少女が拳で床を殴った音だった。
202 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時43分10秒
少女の拳からは血が滲み出ている。
「愚かだ…、私は獣神だと言うのにそんな事で騙され、
 挙句の果てにつんくの復活まで手助けしてしまったというのか!
 私は…、私は…………!!」
両腕を床に着き、身体を丸める。
腕と腕の間には零れ落ちた少女の涙が放物線上に広がり、
床の灰色を少し濃くしていた。


暫くして、安倍がそっと近付き少女をふわりと抱きしめた。
少女の身体が一瞬ビクつく。
「!?…、何を――」
「なっちもね、ちょっと似たような経験があるんだよ。」
203 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時45分36秒
安倍の身体がほんのりと光を帯び、その光が少女の傷口を覆い始めた。
「そうだなぁ…、なっちが3歳くらいの時かなぁ。
 ちょっと町のはずれの方に遊びに行った時にね、
 旅人にやられたのかな、傷付いたスライムがいたの。
 その時から小さな傷くらいなら癒せる能力が出始めてて、
 でも善悪の区別がその歳になってもまだ良く分かってなかったの。
 だからそのスライムを見た瞬間『かわいそう』って思って、
 そのスライムの傷を癒しちゃったんだ。
 すると何日か経って、スライムの大群が町を襲撃。
 スライムって言っても大群になると結構手強かったってお父さんが言ってた。
 その時スライムに関わったのなっちしかいないから、
 幼心にも『何故か解らないけどなっちのせいで沢山の人が傷付いた』
 って言うのは一目瞭然、かなり落ち込んだね。」
204 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時48分31秒
微笑みながらそう語る安倍に少女は不思議と暴れる事無く聞いていた。
「そんな時、おばあちゃんが言ってくれたの。
 『済んだ事は仕方ない。大事なのはそこからどうするかだ』
 って。その通りでしょ。その時から、なっちは失敗してもあまり悩まなくなった。
 その代わりに解決策を考えて、考えて。
 貴方も…、って、いつまでも名前知らないんじゃ呼びにくいね。名前は?」
「あっ…。新垣…里沙…。」
安倍の問いに少女の口は何故か簡単に開いた。
「そう…、良い名前だね。新垣の場合もそれと同じ事だと思うの。
 新垣がつんくを復活させてしまった罪は重い。
 でもその罪に捕われてばかりいたって、何も変わらないよ。」
205 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時49分16秒

「……。」
新垣は何も言えなかったが、安倍には彼女の言わんとする事が解った気がした。
「なっち達と一緒に行く?」
「…えっ?」
「新垣ももつんくを倒すのに協力するの。どうかな?」
「でも…、私……。」
「言ったでしょ。くよくよしてたって何も始まらないよ。
 ほら。見てみて。」


安倍が向いた方を見ると、そこには矢口も含めた11人の微笑みがあった。
新垣の頬にさっきとは別の意味を持つ涙が伝う。

「……ありがとう…ございます。」
206 名前:1F 投稿日:2003年02月25日(火)19時50分15秒


こうして、神界の住人、雷を操る“猫”の新垣里沙が加わり、
彼女達は13人のパーティーになった――

207 名前:ひとみの企み In Final Stage 投稿日:2003年02月25日(火)19時56分09秒
2階へと続く階段へ向かう途中、
新垣はひとみと梨華の方へ寄ってきて一礼した。
「先程はありがとうございました。」
「あぁ、お礼なんてイイよ。なんか身体が勝手に動いちゃったんだから。」
「そうそう。私なんてよっすぃーに言われる前に動いちゃった気がするもん。」
「なに?それってやっぱり愛が成せる――うぐっ!」
ひとみが喋り終わる前に梨華の左肘鉄がひとみの脇腹を襲った。
「へっ?今何か言いました?」
「んーん。なにも言って無いよ。」
明らかに造った様な梨華の笑顔の横には蹲るひとみの姿。

「えっとね、私とよしこは梨華ちゃんを取り合う恋敵なんだよ。」
「はぁ…。」
「…!?ってごっちんいつの間に新垣の後ろにいたの?」
「もう、ごっちん違うって。梨華ちゃんは私に惚れてるんだからね。」
「よっすぃーもここぞとばかりに乗らないでよ…。」
208 名前:ひとみの企み In Final Stage 投稿日:2003年02月25日(火)19時57分09秒

「こら!そこ!! 何やってんの!早く来なさい!」
「あっ、ほら、保田さんが呼んでますよ。」
「うう…。私はもうこの2人から逃れられないのかな…。」
「ねっ。梨華ちゃんは私だよね。」

前に追い付こうとする2人の背中を見ながら後藤は思う。
「ごっちん!何ボーっとしてんの?置いて行かれちゃうよ!」
走りながらそう呼ぶ梨華に彼女はへにゃっと微笑みを返した。
「んぁ、今行くよぉ。」

――いつまでも、この戦いが終わっても、みんな一緒にいたいなぁ―
209 名前:しんご 投稿日:2003年02月25日(火)19時59分32秒





レス隠しです。
210 名前:しんご 投稿日:2003年02月25日(火)20時02分42秒
2スレ目にしてようやく連載当初の娘。メンバーが揃いました。
しかし現在の娘。メンバーとは違うというのが娘。らしいですね(^^;
211 名前:しんご 投稿日:2003年02月25日(火)20時08分13秒
今回の更新
>>196-208


>>193子橘さん
>出てこないんじゃないかと心配しました。
本当に遅くなってしまいましたね…(^^;

>>194さん
>彼女も仲間入りですかね。
度々先の読みやすい小説ですみません…。

>>195さん
>最後まで頑張って下さい。
はい。必ず良い形で終わらせる事が出来るように頑張ります。
212 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時33分27秒



――私は此処まで来てもまだ迷ってる


  答えなんてとうの昔に出てるのに――

213 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時34分16秒

「廊下…、だね。」
扉のうちの1つを開けて中に入ったひとみが呟く。
ひとみの言葉通り、天井が3m程度の、
柱も無く壁に模様があるわけでも無い、ごく普通の廊下だ。

それに続いて飯田と梨華も2階へと足を踏み入れた。
214 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時35分00秒
◇ ◇ ◇
215 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時37分25秒
時は少し遡って、踊り場の上。
彼女達の目の前には4つの階段が2階へと昇り、
それぞれに扉があった。

「何で4つあるのかな〜?」
後藤が不思議そうにその内の1つの扉の前まで上がると、
無機質な扉に彫られた文字に気が付いた。
「あれっ?何か書いてあるよ。」
踊り場で今後の事について話し合っていた飯田がその言葉に反応した。
「なんて?」
「んと、『丑・卯・酉』って…、
 これってカオリと梨華ちゃんとよしこの事かなぁ?」
「う〜ん…、新垣。これに書かれた人が入れって事?」

「…はい。多分その先には、4人の側近がいます。」
「側近?」
「はい、つんくの側近は私を含めた5人で構成されてて、
 4人が2階で十二支を分散させて戦い、私はつんくの傍で待機だったんですけど、
 私が勝手な行動を取ったから、今つんくは1人の筈です。」
216 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時39分29秒
「なんだ。別にわざわざ奴の言いなりになって分散しなくても良いんじゃないの?」

ひとみが話の中に割って入ると、新垣がそれをゆるりと否定した。
「いえ、扉に書かれた人意外が入ろうとすると、高圧の電流が流れる仕組みになっています。
 いくら十二支を宿しているといっても抗体も無しにいきなり受けるとショック死しますよ。
 私は属性雷なんで大丈夫です。…ってこの力はつんくから貰ったんですけどね。」
最後の自分の言葉に自嘲気味に笑う新垣に「そんな事言わないの。」と安倍に制される。


「そっか。じゃあその通りにするしかないね。
 他の扉には何て書いてあるのかな?」
飯田がそう言うと、
誰が言う訳でも無く加護、辻、紺野が扉の前まで昇っていった。
飯田はそれを見て“チームワーク”の良さに少し顔がほころぶ。
「『辰・戌・亥』…。」
「こっちは『丑・寅・巳』って書いてあります。」
「『子・未・申』ですね。」
217 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時40分12秒
「え〜。じゃあ私梨華ちゃんと離れ離れになっちゃうの〜?」
それを聞いた後藤は普段から気だるさそうな顔をさらに強調させ文句をたらした。
「残念だったね。」
ふん。といった感じでひとみが威張る。
「あんた達…、ここまで来て何やってるのよ…。」
保田はもう咎める気も失せてしまった様だ。
がっくりと肩を落としている。


それを見ていた新垣は「ハハ…。」と冷や汗を一筋流した後、
気を取り直して話を始めた。
「…でもどの部屋に誰がいるか分かんないので、
 4人全員の特徴を言っておきますね――」
218 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時40分52秒
◇ ◇ ◇
219 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時42分28秒

「よっすぃー。さっきから何にやけてんの?」
真っ直ぐの廊下を進む3人。梨華がふとひとみを見ると、
何故か目じりが下がり口端が上がっている。
「ん?だって久し振りに3人きりになったんだもん♪
 ねっ、お義姉ちゃん♪」
「そうだねっ♪」
飯田も何故かノリノリである。
「も〜…。」

そんなやり取りをしている内に、廊下の先の扉の前に着いた。
「っていうかさぁ、この廊下って何か意味あるのかな?」
「さあ…。」
「まぁ此処にずっといるのもなんだし、先に進みましょう。」
「「はーい。」」
何だかんだ言って仲が良い3人は、揃って中に入る。
視界には何も無い部屋の向こうに立っている、1人の男の姿。


新垣の話によると、側近で男といえば1人しかいない。
「あなたが…!?」
その男の名を言おうとした飯田の動きが突然止まる。
「お姉ちゃん!?」
「な…!?」
「よっすぃー!!?」
220 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時43分40秒
2人の足元には無数の黒い蟲がこびり付き、蠢いていた。
その数は脛から下が見えない程だ。
飯田とひとみはその場から動けなくなってしまった。
「く…そ…。気付くのが遅かった…。」
「よっすぃー!?大丈夫?」
力の無くなる様な感覚に襲われる2人に対して、
慌てる梨華の様子を見てその男は一通り激しく笑った後口を開いた。
梨華はその男を睨む。
男の足元には、2人に付いている蟲と大きさは似ている様だが、
明らかに種類の違う物が漂っていた。
「大丈夫だよ。その蟲は噛み付いた相手を痺らせる毒を持ってるけど、
 致死性は無いから。ちなみに僕が死ねば毒は消える。
 君達なら暫くすると喋るくらいは出来るかもね。」
男のぎょろりとした目が更に広がりにやりと笑った。
「しかし…。梨華ちゃんはホント僕の思い描いたとおりの人だ。
 可愛さの中に妖艶さまで持ってるなんて最高だよ。
 インスピレーションを感じちゃうな。」
221 名前:2F〜丑・卯・酉〜 投稿日:2003年03月04日(火)21時45分04秒
いやらしそうな顔に梨華の背筋に悪寒が走る。
「あっそうそう、僕の名前は――」
「和田…薫…。」
今まで笑顔だった顔が少し驚くが、すぐにまたにやけた表情に戻った。
「そっか。新垣に聞いたんだ。
 でも、梨華ちゃんの口から僕の名前を呼んで貰えるなんて光栄―!?」
突然、彼の足元にいた蟲が飛び上がり和田と梨華の間に壁を作った。
次の瞬間、蟲は弾け飛び、
蟲の切れ間から再び現れた梨華の足は“卯”のものへと変貌を遂げていた。


「……、早く終わらせて、お姉ちゃんとよっすぃーを自由にしたいの。」
222 名前:しんご 投稿日:2003年03月04日(火)21時45分35秒










レス隠しです。
223 名前:しんご 投稿日:2003年03月04日(火)21時46分17秒
二回目のレス隠しです。
224 名前:しんご 投稿日:2003年03月04日(火)21時47分51秒
今回の更新。
>>212-221
225 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月06日(木)18時50分46秒
川o・-・)ノ< 非常に良い感じです!!

 更新おつかれさまです。
226 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時05分24秒



『風の刃』にやられた蟲がボトボトと落ちる中、
和田はこの状況下においても、未だその表情は崩していない。
「…、残念だったね。この蟲は僕が操る事も出来るけど、
オートで僕の身を守ることも出来るんだ。」
見ると、失った蟲を補充するかの様にズボンの裾から湧き出るように
蟲が這い出てきた。

ズボンの中で何が起こっているのか考えたくも無い梨華は、
自動で身を守る武器を持つ相手との柔術は避けると判断した。
刹那、梨華はその場の床にひび割れを残し、常人の目から消えた。

和田自身はそれほど動体視力が言い訳では無かったようだ。
梨華の繰り出す蹴りに目が追い付かず、
彼の『自分を守る』と言う意思の下、
蟲がかろうじてそれを防ぐだけだった。

彼女はというと、厚い蟲の層を蹴る反動でその場から離れ、
そのまま壁を蹴り上げ再び攻撃を開始している。
227 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時06分27秒
物理法則において、壁に接触し、そこから跳ね返る運動をすると、
たとえ跳ね返り係数が1であっでも、
接触前の速度をそのまま接触後に繋げるだけである。
それ以前に、人間でのその運動は不可能に近い。
この世界に重力がある限り。

しかし彼女はそんな事はお構い無しに接触前のスピードを殺さず、
壁を蹴り上げる事により更に加速度を増している。


戦闘開始から、彼女は一度も床に足を付けていなかった。

228 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時07分22秒
「この戦い、もうすぐ終わるかも。」
「えっ?」
何とか会話が出来る程度回復した飯田が呟いた。
「よっすぃー、今梨華が見える?」
「うん…。かろうじてだけど。」
「そう。私はもう見えないに等しいわ。あいつも蟲が少なくなってるし。」
「ホントだ…。」
明らかに、彼を取り巻く蟲の層が薄くなっているのを確認できた。


「ク…。」
あれほど余裕の笑みを浮かべていた和田の顔が曇ってきた。
「(蟲の生産が追い付けない…。クソ…。)」
彼の当初の脳内予定像では、先ず飯田・ひとみを一時的に動けなくし、
その間に梨華を死なない程度に痛めつけ、梨華の見ている前で2人を殺し、
きっと泣きじゃくるであろう梨華を自分流に調教する。
というものだったのだが、
第2工程で早くも崩れ去り、攻撃さえも出来ない状況になってしまった。
229 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時09分01秒
初攻撃から24度目の攻撃に残っている全ての蟲を使い防御を行うが、
彼女の脚は蟲へと伸びず、床に付いた。
「(フェイント!?) グフゥッ!!」
着地した瞬間少し速度が弱まりその姿をやっと確認できた時にはもう遅かった。
和田の右横腹を梨華の脚がめり込む。

「グハァ!…ハァ…ハァ…。」
口からめり込んだ脚に持ち上げられた体液を吐き出し、
呼吸が上手く出来ないのか、苦悶の表情を浮かべている。
「ハァ…ハァ…。ここまで…やるなんて…。
 しょうがない。コレだけは…やりたくなかったんだけど…。」
「…?」

苦しそうに喋る和田の言葉に首を傾げる梨華の視界に、
強烈な映像が飛び込んできた。

四つん這いになった和田の装備品が次々と弾け跳ぶ。
腕と脚は身体に対し垂直に細く伸び、その先には鋭い爪が一本の残るだけになり、
その間から左右にもう1つずつ同じ脚が生えてきた。
身体は腰から下が大きく丸く膨らみ、
顔は人間のそれとは全くの別物になってしまった。

「これは…蜘蛛!?」
230 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時12分12秒
完全に人の形ではなくなった和田の姿を見た梨華が言う。
彼女達が見たものは、全長2〜3mはある巨大な蜘蛛の姿だった。

「これでさっきのダメージも無くなった…、
 今からは遊ぶのをやめてお前を本気で殺す!!」
先程と姿形だけではなく、口調も変わった和田の口から、
大量の糸が吐き出され、梨華の脚に巻き付いた。
「!!?」
「お前…、さっきから見てるとずっとその脚でしか攻撃してないよな。
 さては、お前は拳を使えないんじゃないのか?
 脚に十二支の力を注ぎ込み過ぎて――」
一瞬驚いたものの梨華の表情はすぐに平然に戻し、
それどころか、闘気を更に上げていた。

次の瞬間、縛られた両足で床を蹴り上げ、
一瞬で間合いを詰めた梨華は、大蜘蛛の頭を持ち上げ垂直にした。
そして、持ち上げた両腕は頭から離れると同時に消えた。

再び現れた時には、垂直にした身体全域に拳によって造られたクレーターが幾つもでき、
彼女の両拳からは、血が噴出していた。


「貴方の言う通り、確かに私は拳の耐久力がない。
 もしかしたら、拳が砕けるかもしれなかった…。
 でも…、私は…、そんな事で立ち止まるわけにはいかない…。」

231 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時13分28秒
そう呟き緩んだ糸をほどき、再び大蜘蛛から離れると、
攻撃のショックだろうか、下半身と腕だけ蜘蛛のまま上半身と頭は人型に戻った。
しかしまだ血走った目に生気がある事を確認した梨華がとどめを誘うとした時、
和田は6つの脚と額を床に付けた。
「あんたすげぇよ。もう僕じゃ敵わない…。」
頭を上げて、真っ直ぐ梨華の目を見つめる。
「僕を仲間にしてくれないか?
 僕だったらつんくの弱点を知ってる。
 これで解った。もう戦うのは嫌になったよ…。」
232 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時16分09秒
和田の“仲間”という単語を聞いた飯田はハッとし、梨華に叫び掛けた。
「梨華!!――」
しかし、ひとみの腕が飯田の前に伸び静止のサインを出していた。
「よっすぃー!?なんで?」
「よく知らないけど、これって梨華ちゃんにとって大事な事なんでしょ?
 2人の顔を見れば解ったよ。
 だったら…、本人が乗り越えなきゃ、何も変わらないよ。」
「……。」
ひとみの言葉を聞き叫ぶのを止めた飯田は、梨華の方をもう一度見やった。


梨華と和田の2人は、未だ沈黙のまま対峙している。
暫くして、何かを決心したように目を閉じた梨華は部分獣化を解いた。
そして和田の方へとゆっくりと近付いていく。

「(梨華!!!?)」
233 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時18分21秒
「信じてくれるんだね。ありがとう…。
 嬉しいよ…。」
2人の距離は縮まっていく。
「嬉しすぎて…。」
そして梨華の身体が和田の間合いに入ったその時、
先程まで涙目だった表情が急変し、和田の爪は梨華を2等分にした。

「お前を殺しちゃうよ。」
ゲラゲラと笑い始めた和田だが、
1つ妙な事に気付いた。
視界に入るのは2等分した筈の梨華。
しかもその身体はしっかりと付いたまま。
さらに、自分の首の辺りに違和感を覚え、
今は脚となっている右腕でその辺りを探ると、
自分の視界が床面ギリギリまで下がり、意識が無くなった。

彼の首は、彼が攻撃する前に、既に捻じ切られていたのだ。


「やっぱり……、無理なんだね…。」
234 名前:2F〜卯・午・酉〜 投稿日:2003年03月11日(火)10時19分20秒
和田が絶命した事により、脚に噛み付いていた蟲は灰となり消えていた。
「梨華!!」
「梨華ちゃん!!」
自由になった2人が梨華の傍に駆け寄ると、
梨華は顔を隠すようにひとみの胸にうずめた。

「よっすぃーごめん。ちょっとの間だけ…、こうしていさせて…。」
「……。」

ひとみはただ、少し震える梨華の頭を撫でていた。
235 名前:しんご 投稿日:2003年03月11日(火)10時20分39秒













レス隠しです。
236 名前:しんご 投稿日:2003年03月11日(火)10時21分34秒
今回の更新。
>>226-234
237 名前:しんご 投稿日:2003年03月11日(火)10時23分47秒
>>225さん
>川o・-・)ノ< 非常に良い感じです!!
ありがとうございます。
それが持続出来るよう頑張ります。
238 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年03月25日(火)22時41分01秒


―もう…あんな思いはしたくない…


 でも、心の中に留めるくらいはいいよね…?――


239 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年03月25日(火)22時42分11秒

『子・未・申』と書かれた扉のノブを矢口が握る。
何故この組み合わせなのか少し疑問を抱いたが、
まぁ、あのつんくの事だと考えるのを止め、ゆっくりとその扉を開けた。


扉の向こうには、とても室内とは思えない森林が広がっていた。
さらに、照明を落としているのか辺りは暗く、
目の前の木々がやっと確認できるほどだった。

「はぁ〜、こんなの作るなんてつんくも暇人ですねぇ〜。」
「ホントホント。 ねぇ、矢口さん。」
「えっ、あ、そうだね。」
すこしピントのずれた話題を振られ、返事にすこし戸惑ったが、
2人の無邪気さ、辻にいたっては感嘆の声さえ漏らしているのを聞き、
顔が少しほころぶ。

しかし、加護の方を見ると、
辻の前ではいたっていつもの辻に向ける笑顔で話してはいるが、
時折目線を下に向けていた。
矢口と同じく、この場所が前に一度訪れた事のある場所に酷似していることに気付いていた。
いや、新垣から側近の話を聞いた時にはもう覚悟していたのだろう。


「(やっぱり、オイラ達の相手はあいつだろう…。
  もしかしたら、加護は戦えないかもしれない。
  その時はオイラと辻だけで…!)」
240 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年03月25日(火)22時46分00秒
暫く進むと、数10m前がぼうっと明るくなっているのに気付いた。
「なんだろう? あれ…。 って、あいぼん?」
突然走り出した加護を、辻が慌てて追いかける。
「……。」
その後ろを矢口が追った。


視界が開けると、そこは月光草で埋め尽くされた円形の開けた場所になっていた。
彼女達を下からの淡い光が覆う。
奥には、後ろを向けて座っている少女の背中。
彼女達に気付いたのか、すっと立ち上がると振り返った。

この場所で、その顔、さらに服装まで全く同じと言う現実に、
加護は少し目を細めた。


少しためらいながら辻が少女に話しかける。
「あなたが……っ!?」
少女は笑顔のままだが、右手を中心に突如刀が現れ、
それを握り辻に向かってほんの数秒で間合いを詰めた。

「辻っ!?」
矢口にはその動きが見えていたものの身体まで反応できなかった。
3人の中で一番疾い自分でさえこうなのだから、辻に至ってはもう…。


そう覚悟したが、刀が辻の肉体を裂く最悪の光景はなく、
代わりにキィィンという金属音が響き渡った。
少女の刀は、加護の刀によって遮られていたのだ。
241 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年03月25日(火)22時48分13秒
「チッ!」
少女は初撃を逃れられ舌打ち交じりに後方に跳び上がり、
再び間隔をとった。

「早速1人を殺れると思ったのに残念だなぁ。」
すこし微笑ながらそう言う少女に加護は冷たい視線を送る。
「…貴方は私が倒したはずだ。」
「あぁ、あれ? あれは私であって私ではない。」
「…?」
「あれはつんくさんが私を元に造り出した分身みたいな物だよ。
 てか、そんな事どうでもいいじゃん。
 それよりも久し振りの再開を喜び合おうよ。
 “亜衣”ちゃん…。」

「…私を“亜衣”と呼ぶな。
 そう呼んでいいのは、十二支の仲間と里沙ちゃん…。
 それと、亜弥ちゃんだけだ。」
「だから、私が亜弥――」


「貴方は亜弥ちゃんなんかじゃない! 敵だ…!!」

そう言い放った加護の肩は、少し震えていた。
242 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年03月25日(火)22時51分11秒

「やっぱこいつは敵なんだね? よーし。私が…」
「のの。ちょっと待って。」
「へっ?」
意気込んで亜弥に向かおうとした辻を加護は片腕を伸ばし制した。
彼女の瞳は、決意した瞳だった。

「…、矢口さん…。 私、1人で戦います。」
「…大丈夫か?」
「はい…。」
「そう…。分かった。」
「??」



2人の会話を不思議そうに見つめる辻を矢口は自分の方へ呼んだ。
「辻、後で事情を話すから、こっちにおいで。」
矢口へ近付いた辻に、加護には聞こえない程度の声量で囁く。
「私がGOサインを出したら、加護がどんなに嫌がってもあいつを攻撃して。
 分かった?」
矢口の真剣な表情を覗き、辻も目付きを変え頷いた。
243 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年03月25日(火)22時52分13秒
月光草畑の中心近くに2人は対峙する。
「イイの? 1対1でも?」
「ええ。貴方如きには、私1人で十分です。」
その言葉に亜弥の眉がピクリと動いた。
「……。言うね。」


次の瞬間、獣化した加護と亜弥の刀が再び交差した。

244 名前:しんご 投稿日:2003年03月25日(火)22時52分44秒












レス隠しです。
245 名前:しんご 投稿日:2003年03月25日(火)22時53分34秒
更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。
次の更新はもう少し早く出来るよう頑張ります。
246 名前:しんご 投稿日:2003年03月25日(火)22時54分20秒
今回の更新。
>>238-243
247 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年04月05日(土)21時01分30秒




交差した刀は亜弥の力により再び離れる。
間髪いれずレイピアと見紛う様な鋭い突きの連撃。

冷静にそれを最小限の動きでかわした加護は、
右頬の横を抜けた最後の一撃を左下から放った一閃で弾き、
そのまま空いた胴へ振り下ろした。

しかしそれを読んでいたかのごとく弾かれた瞬間に後ろへと跳び上がった
亜弥に加護の刀は空を切った。


再び離れた二人の距離。
亜弥は少し乱れた息を整えると、また笑みを浮かべた。
「…、五分ってトコかな?」
「そう思うのなら今の内に止めておいた方が良いよ。」
「冗談。それはそっちでしょ。私の力はそんなモンじゃないよ。」

そう言うと、刀を右手だけで握り左手の平を開く。
すると先程と同じように突然と刀がもう一振り姿を現した。


「今度は本気で行くよ!!」
「!!?」
間合いを詰めた亜弥の刀の一本が肩口を狙う。
それを刀を上げて受けるが、もう一本が胴を狙う。
集中が分散された加護は致命傷には至らないものの、
割れた装備の隙間から血が滲みだした。

その後も、加護は防戦一方。
傷がみるみる内に増えていった。
248 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年04月05日(土)21時02分16秒
二刀流との戦いが全く無い訳ではない。
村での訓練も受けた。
では何故避ける事しか出来なくなってしまったのか?
それは亜弥の驚異的なスピードにある。
刀を2本持つと言う事は単純に考えても1本の時よりスピードは劣る筈である。
しかし彼女は1本の時と変わらず、
いや、攻撃を繰り返す内に興奮の為か、さらに上がってきていた。


「ほらほら!どうしちゃったの!?」
「クッ!!」
なおも続ける亜弥の攻撃に、一旦大きく後退し距離を取ると、
戦闘中であるにも関わらず目を閉じた。

「なにを…!?」
近付こうとした亜弥の足が止まる。
加護の身体から薄い蒸気が立ち昇り始め、
何物も寄せ付けない何かを感じたからだ。

それを戦場から離れた場所でじっと見つめる矢口と辻。
「あれは…。」
「あいぼんの技ですか?」
「うん。でもあの技は多分…。」
「多分?」
「いや、なんでもないよ。」

「(私の不安が当たらなければイイんだけど…)」

249 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年04月05日(土)21時03分32秒


技が完了したのか、瞼を上げた加護の口がゆっくりと開いた。
「これで…、終わりです…。」
「何言って――!?」

次の瞬間、2人の間が一瞬で縮まった。
亜弥は先程と同じ様に変則的に2本の刀を振るうが、
何故か2撃とも防がれてしまった。
「!!?」
加護は、1撃目を止めた後2撃目が来る小数点以下の時間の間に刀を移動し2撃とも弾いていたのだ。

段々と攻防は逆転し、
遂には加護の刀一振りに対して亜弥は二振りを駆使してやっと防御できるまでになっていた。
それどころか、徐々に亜弥の身体からも創傷が見られ始めた。

なんとか避ける事が出来る時もあるが、
勢いあまって地面に突き刺さる刀を中心に大きな亀裂が発生する。
それを確認する度、亜弥の頬に冷たい汗が伝う。



一際高い刀音が響き渡った時、亜弥の刀は別々の方向へと宙を舞っていた。
共に左肩口から一直線に降りた刀が亜弥の左腕を地面に落とす。
そして膝を付いた眉間の先に、加護の刀が伸びた。
250 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年04月05日(土)21時05分27秒
亜弥が初めて“死”を覚悟したその時だった。
加護の身体から異常な程の蒸気が溢れ出し、表情が苦悶に満ちた。


その状況を逸早く理解した矢口が叫ぶ。
「やっぱり!!あの身体でそんな運動に耐えられる訳ないんだ!
 辻!行くよ!!」
「へいっ!!」
「待って!!!!!」

矢口が地面を蹴り、辻があらかじめ刺しておいたナイフから土人形を造り出そうとすると、
加護の轟音が響き渡った。
「私はまだいけます!!」
「無茶だ!!これ以上続けたら死んじゃう!!!」

「!!!」
加護が注意を怠った一瞬の隙に亜弥の右手からは脇差程の刀が現れ襲っていた。
それをすんでの所で受ける。
勢いに負けて仰向けになった加護に亜弥は馬乗りになり鍔迫り合いが続いた。
「どうせ死ぬんなら…。お前も道連れだ……。」
既に虫の息の相手とは思えない力に、
蒸気と共に力が抜けていく加護は最後の力を振り絞る。

「うぉぉぉ!!!!!」
弾き返し身体が開いた亜弥の腰に刀が入る。
そして彼女の上半身は下半身から転げ落ち、
両半身とも月光草の光の中で灰になり消えていった。
251 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年04月05日(土)21時07分12秒

「……」
「加護!!!!」
「あいぼん!!!!」
蒸気の量が増す加護の身体は何とか立ったが、
直ぐに膝を着き続いて両手で光源である花弁を潰しうなだれた。
2人は加護に近付き手当てをしようとするが、
超高温に達した身体に触れる事が出来なかった。

「クソッ!!どうしたらいいんだよ!!」
「あいぼん!あいぼん!」
悔しがる矢口に、ただ加護の名を連呼し泣きじゃくる辻。



生気が消えかけている加護に2人がこまねいていると、
突然加護の周りにまばゆい程の光が覆い始めた。
混乱していた2人はこれと同じ感覚を子族の村で感じた事を思い出し加護の身体をじっと見つめる。
「これは…?」
252 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年04月05日(土)21時09分41秒
そしてゆっくりと光が消え、そこには加護ではなく八番目の十二支“申”の姿があった。
『まったく…。命知らずな宿主じゃ…。』
「どうして“申”が…。」
少し戸惑う矢口の横で“申”の身体にしがみ付く辻。
「あいぼんは…、あいぼんは??」
『安心せい。宿主の意識は今わしの中で眠りにつかしとるわ。
 “心炎”も、元々わしの力じゃからの。わしが出てくればなんて事ないわ。
 暫くしたら戻っても大丈夫じゃろう。』
そういってキセルを手に取り左手の人差し指で火をつけ一服しだした。

それを聞いた2人は、ようやく安堵の表情を浮かべた。
「…良かったぁ……。」
「あいぼぉん…。」
253 名前:2F〜子・申・未〜 投稿日:2003年04月05日(土)21時11分26秒




加護は夢を見ていた。
そこには見慣れた光に包み込まれる、笑顔の亜弥と自分がいた。

そして加護は思う。


本当の“松浦亜弥”は此処にいると――
254 名前:しんご 投稿日:2003年04月05日(土)21時13分47秒







レス隠しです。
255 名前:しんご 投稿日:2003年04月05日(土)21時15分16秒















レス隠しです。
256 名前:しんご 投稿日:2003年04月05日(土)21時17分21秒
今回の更新。
>>247-253
257 名前:みっくす 投稿日:2003年05月08日(木)16時22分33秒
保全
258 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月19日(月)00時45分31秒
ho
259 名前:いきまっしょい 投稿日:2003年05月26日(月)13時15分31秒
待ってますよ〜♪
おもしろすぎっす!
260 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時07分07秒



――もっと強くなりたい―

―その力で世界の平和を守りたい――

――でも―


――力の出し方…、間違っているのかな?――

261 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時08分44秒
「えらいことなっちゃったねぇ…。」
「「はい…」」
安倍の少し抜けた一言に、小川と1人だけ獣化している愛が同意する。
そして彼女たちを覆う薄い膜の向こう側には、室内全体を無色透明の液体が浸していた。


遡ること数分前。2階の部屋に足を踏み入れた瞬間壁の一部が大きな口を開け、
そこから間髪入れずに大量の液体がなだれこんで来た。

はじめ酸か何かと思い焦ったが、ただの水だったことに安堵した。
しかし見る見る内に天井との距離が縮まる、
とっさに獣化した愛がどうにかその水を操り、
自分達の周りだけにシャボン玉の様に薄い膜を張ったのだった。
262 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時10分41秒
「けどまあ、高橋がいてくれて良かったよ。
 圭ちゃんだとこんな器用な事出来そうに無いからね。」
「いやいや。そんな事ないですよ。
 …でも、こんなに水で埋めたってことは…。」

「安倍さん!」

逸早く気配を察知し顔を向けた小川の目線の先には、
水中に浮かぶ1つの人影が見えた。
人影は普通の人間の、外見上17・8歳位の少女の様だった。
もっとも、水中に平然といられる点で既に“普通”では無いのだが…。

少女は3人と目が合うと少し笑みを浮かべ、口を開いた。
「あんた達が私の相手?」
「貴方達の勝手なルールで言うとそういう事になるわね。“藤本美貴”さん。」
「……あ、そっか。新垣が裏切っちゃったんだよね。まっどうでもいいけど。」
安倍にとって皮肉のつもりの言葉も難なくかわされ、藤本は続けた。
「って言うか、やる気なくなっちゃったな。
 やっぱ水中で行動できないような人達とやったってつまんないもん。
 あ、なんならこの水抜こうか?」
263 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時11分44秒

ケタケタと笑う藤本に対し、愛の表情がピクリと動いた。
「いいですよ。このままで。」
そう言いながら膜の外にでた愛は、
自分の周りにだけ身体の線をなぞる様な別の膜を張った。
「愛ちゃん!?駄目だよ1人でなんて!」
小川が愛を止めに入ったが、愛はそれを笑顔で返す。
「大丈夫だよ。まこっちゃん火属性だから戦うのキツイと思うし。
 あいつに誰が一番の水使いか教えてあげてくるから。」
「愛ちゃん…。」
「高橋…。」
安倍の両掌が淡く光出し、それに対し愛は頷く。
264 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時13分22秒


小川は愛に違和感を感じていた。
戦闘前の興奮の為なのかも知れないが、あの愛が好戦的な言葉を発した事。
それと、愛を纏う“巳”のオーラが少し違っていた事…。
265 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時14分06秒
戦いは始まった。

先手を取った愛が藤本の上半身に向けて鞭を放つがやはり水中ではスピードは落ち、
藤本はそれを身体を逸らしてかわした。
身体を元の状態へ戻すとすぐにその場で拳を作った右腕を大きく振るった。
「………?」
愛が敵の行動に一瞬困惑したその時、腹部にバットがめり込む様な激痛が走る。
「グハァッ!」


蹲る愛を見て、藤本は再びケタケタと笑い出した。
「言ったでしょ?水中は私のテリトリー。
 部分的に水圧を変える事だって出来るんだよ。
 さらに…。」
今度は拳だった手を広げ、その場を切るように鋭く振るった。

此処までくると誰にでもこれから何が起こるか予想できるだろう。
愛は微かに感じた水の動きに合わせてほぼ勘で身体を逸らす。
「クッ!」
何とか致命的なダメージにはならなくてすんだが、
凝縮され、鋭利な刃物と化したそれは左上腕部をかすめ、
そこから飛び散った血が水の中を漂った。
266 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時17分40秒
幸いにも鞭を握る右腕は無事だ。
既に痛みは感じない左腕を無視して鞭をしならせる。
1撃目より幾分かマシになった攻撃だが、
それも大きくかわした藤本は愛の上方まで移動し、
両腕を身体の前で交差した。


十二支の適応速度は凄まじい。
早くも水中での戦いに慣れ始めた愛は2撃ともかする事無く避けた。

「なっ!?」
完全に仕留めたと思っていた藤本の顔には初めて見える動揺の色。
「なに? まさか今ので私を殺せると思ってたの?」
「!!」
愛の滅多に口にしない挑発的な言葉に藤本の表情は“怒”に変わり、
発狂したかのように連続的に攻撃を開始した。



それから数分間、細かなダメージの削り合いが始まった。
しかし攻撃形態の差か、愛の身体の傷が藤本に比べ増えて来ていた。

「(くそ…。このままじゃ負ける…。 もっと…もっと……)」

267 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時18分42秒


―グチャグチャニシテシマイタイ――



268 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時19分52秒
「!!?」
自分の意に反した言葉が脳裏を過ぎった瞬間。
愛の身体は変化した。
長い黒髪は妖艶に揺らめき、顔や腕の皮膚の一部に白色の鱗が見え隠れしている。


藤本を始め、小川や安倍がそれに気付いた時には遅かった。
「うわぁぁ!!?」
藤本の叫びと共に、彼女の皮膚は次々とただれ落ち始めていた。
愛の“デス・ウォーター”が発動し、水を強硫酸に変化させたのだ。

慌ててその水を排水した藤本。
しかし水が抜け切るまでに益々身体は溶け続け、
部屋に2・3個の水溜りができ異臭が全体を覆う頃、
藤本の顔の半分は爛れ落ち、左腕は既に無く右腕も皮一枚でようやく胴体に繋がっている状態。
そして腹部からは人間の小腸に良く似た長い管がだらりと垂れ下がっている。


声にならない声を発している藤本を、
一瞬でミンチの様に細切れにした高橋の切れ長になった目の片方から頬には一筋の涙が流れていた。
269 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時21分20秒

静かに割れた水の膜から小川が愛に駆け寄る。
「愛ちゃん!!」
「来ないで!!!」
その場にうずくまり叫ぶ愛に小川の足が数m前で止まった。

愛の身体からは煙が数本昇る。
本人にはダメージは無いのだが、
どうやら愛の身体全体を“デス・ウォーター”が濡らしているようだった。
「来ないで…。私…またやっちゃった…。
 もうみんなに迷惑かけられな――!!?」
肉を焼く時のようなジュゥという音と共に、小川は愛の身体を抱きしめていた。
2人の間から煙が舞い上がる。

「まこっちゃん!!? 何してるの!?
 そんな事したらまこっちゃんの身体が!!」
自分から染み出る硫酸を抑えれなく、慌てふためく愛に対して小川が呟いた。


「大丈夫……。大丈夫だよ。
 愛ちゃんは良くやった。誰も愛ちゃんが迷惑かけてるなんて思ってない。
 もし今みたいになっても…、私がいるじゃん。
 って言っても、私が愛ちゃんに勝てる物なんてあんま無いけどね。」
自嘲気味に笑う小川に「そんなこと…。」と愛が返す。
「とにかく…、こないだみたく1人で背負い込まないで…。」
「まこっちゃん……。」
270 名前:2F〜丑・寅・巳〜 投稿日:2003年06月01日(日)01時22分51秒
愛の身体を光が包む。
その光は“巳”からなのか愛からなのか分からない。
しかし光が消えた時、獣化の解けた彼女がそこにいた。

涙を浮かべた愛が振り返り、礼の抱擁を交わそうとしたが、
小川の首下から膝にかけて見事にただれているのを見て目を丸くする。
「まこっちゃん!?」
「あぁ、これ? 別に全然平気だよ。」
言葉通り、彼女の顔はその身体に似つかわしくないほど笑顔である。


「まったく。普通なら激痛でショック死してるよ。」
感心しているのか呆れているのか。
安倍は小川の身体を自分の方へ向け光を当てる。

ブツブツ言いながら傷を癒す安倍を見た後、
顔を上げた小川はふと愛と目が合った。


そして2人は笑いあった。
271 名前:しんご 投稿日:2003年06月01日(日)01時25分15秒




レス隠しです。
272 名前:しんご 投稿日:2003年06月01日(日)01時31分08秒
二ヶ月弱の沈黙すみませんでした。

その間>>257みっくすさん。>>258さん。
保全ありがとうございます。

>>259いきまっしょいさん。
>おもしろすぎっす!
ありがとうございます。その言葉が自分の栄養剤です。
273 名前:しんご 投稿日:2003年06月01日(日)01時32分30秒
今回の更新。
>>260-270
274 名前:メロソジャ 投稿日:2003年06月06日(金)19時12分29秒
更新乙〜
マジ最高です
これからもがんばってください
275 名前:みっくす 投稿日:2003年07月02日(水)23時07分55秒
保全
276 名前:みっくす 投稿日:2003年08月02日(土)08時12分12秒
保全
277 名前:みっくす 投稿日:2003年09月04日(木)22時15分22秒
保全
278 名前:センリ 投稿日:2003/09/10(水) 19:47
保全
続きはないんですか?
279 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2003/10/02(木) 00:11


―彼女は誰よりも強い人

  彼女は誰よりも優しい人

   彼女は誰よりも勇敢な人



そして、私の大好きな人――

280 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2003/10/02(木) 00:12
“辰・戌・亥”と書かれた2階への扉を開け、
中へと入った3人は数メートル歩くと後ろを振り返る。
先程まで自分達がいた所には新垣の姿。

「じゃあ、入りますね。」
安全だと分かっていても頭の片隅に不安があるのか、
顔をすこし強張らして既に開いている扉のこちら側へと入ろうとする。
境界線である扉の敷居に足が付いた瞬間、
扉の枠から無数の光の帯が彼女の身体を容赦なく襲った。
体中に流れる高圧電流に動じず、歩を進める。
光はしつこく新垣の身体を掴んでいるが、3人の前まで来るとようやくその手をほどいた。


「ふぅ…。」
「お疲れ様です。」
「凄いね〜。新垣ちゃん。」
「流石は獣神っていったトコね。」
電流から開放され安堵の息を漏らす新垣に、
それぞれ思い思いの言葉を口にしている。
彼女は日頃耳に入る頃の無い賞賛の言葉に頭を掻き少し照れていた。
281 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2003/10/02(木) 00:13
「そういえば、何で後藤さんは私をこっちに呼んだんですか?」
当初、安倍と同じ扉から入る予定だった新垣を、
側近の名前と特徴を言った直後、彼女を呼んだのは後藤だった。

「んぁ? だってその人が側近の中で一番強いんでしょ?
 だったら人数多い方がいいじゃない♪」
新垣の質問に、前に進みながら軽く言う後藤に少し困惑する。
「えぇ。そうですが…、この先に彼女がいる保障はないですよ。」
「ん〜。でもそんなカンジがしたんだ。何となくだけどね。」
「はぁ…。」
まぁ4分の1の確立だけどねと付け加え、
前を歩く保田にちょっかいをかけ始めた。

282 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2003/10/02(木) 00:15
廊下はやはり洋館風で、絨毯から外れ剥き出しになっている両端のフロアには、
甲冑が壁に背を向け等間隔で並んでいた。

「私達のフォーメーションは、
 分かってると思うけど私の接近戦を後藤が補助して、
 そして紺野と新垣は後方から……ってオイ!」
確認するように後ろを向いた保田の視界には新垣の姿しか無く、
変わりに後藤のはしゃぐ声が耳に入った。

「ねっねっ。紺野ちゃん。これカッコいいねぇ♪」
「これは何で出来てるのでしょう? どうやら鉄ではないようですし…。」
「すごーい。紺野ちゃんの“ソレ”ってそんなことも出来ちゃうの?」
2人は甲冑の1つを興味津々にペタペタと触る後藤の傍で、
紺野が背中に背負っている“ソレ”から生えた線を繋ぎ、甲冑の材質を調べていた。
当然保田の声など届いていない。


「ええ。まぁ一通りの実験器具も入れてますけど…。」
「?」
「この島に来てから全然役に立って無いんですよね…。」
まるでこの島の空のようなダークな気配が紺野を包み込んだ時、
「そんなことで落ち込むなぁっ!!」
保田の“蹴り”によるツッコミが炸裂した。

どうやら戦闘のフォーメーションより、
漫才のフォーメーションの方が先に出来てしまったようだ。
283 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2003/10/02(木) 00:16
「痛い…。」
「もぉ〜。圭ちゃんヒド過ぎ。紺野ちゃん痛がってるじゃない。」
蹴られた辺りをさすりながら抗議する後藤と、
こっちに背を向け普通に痛がっている紺野を見て保田は呆れて頭を抱え、
新垣は保田に掛ける言葉を捜していた。



「…とにかく、さっさとしないと先に行くよ………!!?」
気を取り直して2人を急かし前を向きなおした直後、
妙な気配が前方から4人に向けて放たれた。
「何…、これ…。
 殺気でも、敵意でない…。それと……冷気?」

あらゆる武術を極め、気配を探る事はお手の物の筈の保田でさえ困惑し、
紺野もこの身体を包むひんやりとした何かに緊張した。
新垣は感じたことのある気配に後藤の勘が当たった事を伝えようとしたが、
その前に目を丸くして飛び出す後藤の姿があった。
「ちょっ! 後藤?!」
「「後藤さん!!」」
慌てて追いかける3人だが、
後藤は既に数十メートル先の角を曲がり視界から消えていた。


数秒後、同じ角を曲がった3人は、
開けっ放しの扉の向こうに後藤がいるのを確認し、
さらにスピードを上げその横へと並んだ。

284 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2003/10/02(木) 00:18
部屋の中へ入るとやはりそこには奇妙な気配と、
足元がぼやける程の白い冷気があり、
その向こうには艶やかに光る短い黒髪の女が立っていた。
彼女の手にはすらりと一直線に伸びる槍が握られている。

突っ立ったままの後藤に対し、3人は瞬時に戦闘態勢へと移行した。
「あんたがいち――? 後藤?」
黒髪の女に向かって彼女の名を言おうとした保田を、
後藤が腕を伸ばしそれを制す。


保田がその腕を伝って顔を見やるが、後藤は保田の方は全く見ず、
彼女をずっと見つめ続けている。
それを確認した保田は直感的に感じた。“この2人には何かある”と。
そしてその読みはすぐに的中した。
285 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2003/10/02(木) 00:19
暫くすると目線の先の女性はふっとにこやかに微笑み、
まるで10年来顔を合わせていない親戚同士が出会ったような口調で言った。
「久し振りだな後藤…。大きくなったなぁ。」

言い終わるか終わらないかの狭間で、
獣化した後藤がその手の槍で女を突いていた。
女はそれをまるで知っていたかのように顔色ひとつ変えないで自身の槍で防御する。



先程から全くの無表情の後藤の口が静かに開いた。
「こんなトコでなにしてんのさ……。市井ちゃん。」
286 名前:しんご 投稿日:2003/10/02(木) 00:25




折角読んで下さっている方々がいらっしゃるのに、
PCトラブルや諸事情が重なり書けないでいる自分に苛立ちを感じています。
すみません。もっと努力します。
287 名前:しんご 投稿日:2003/10/02(木) 00:31
>>274メロソジャさん
ありがとうございます。これからも最高と言って頂けるようがんばります。

>>275>>276>>277みっくすさん
度重なる保全ありがとうございます。
この保全に値するよう全力を尽くします。

>>278センリさん
続きはありますが、まだ文章に起こせていません。
この物語の最後まではもう少しなので、それまでお付き合いして頂けたら幸いです。
288 名前:しんご 投稿日:2003/10/02(木) 00:31
レス隠しです。
289 名前:みっくす 投稿日:2003/10/02(木) 07:50
更新おつかれさまです。
いやー再開うれしいかぎりです。
続きたのしみにしてます。
290 名前:センリ 投稿日:2003/10/18(土) 12:50
あはっ!更新おつかれさまです。なかば諦めていたんですけど・・・。
再開ー超感激です。続きもがんばってください!!!
291 名前:そーま 投稿日:2003/10/23(木) 01:56
更新乙です。
知り合い同士が殺しあう展開
イイ!ですね、王道のひとつですヨ。
292 名前:みっくす 投稿日:2003/11/28(金) 22:16
保全
293 名前:名無し 投稿日:2003/12/21(日) 23:41
hozen
294 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/21(水) 15:44
295 名前:みっくす 投稿日:2004/01/22(木) 04:36
保全はsageでね。
おとします
296 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/25(日) 12:13
飯田さん。リアルでキター!!。
297 名前:名無し 投稿日:2004/02/09(月) 19:02
保全
298 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/09(月) 23:19
保全はsageでね。 半角で。
おとします
299 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 00:40
ほぜむ
300 名前:しんご 投稿日:2004/03/16(火) 20:22
メルマガを見ましたので、生存確認の為レスさせていただきます。
併せて、これまでレスをしていただいた方々に感謝の言葉を書かせてもらいます。
ありがとうございます。
もう少しで書ける状態に持っていけそうなので、それまで待っていただけると嬉しいです。
301 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 07:27
待ってますよ!!
作者さんのペースで頑張っていただきたい!
302 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/07(水) 13:36
待ってるよ〜☆
303 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/26(月) 20:44
はじめて読みました。え〜?あいぼん猿〜?って思ったけど他の人が描いてないあいぼんですっげ〜はまりました。
続き待ってます楽しみにしてます。
304 名前:レオ 投稿日:2004/05/02(日) 23:11
初めましてです。
今すごくハマッテマス!
続き、すごい気になりマス。。。
楽しみに待ってるんで、頑張ってください☆
305 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/12(水) 09:49
まだかな〜?
306 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/29(土) 10:03
楽しみにしてます
307 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/20(日) 01:14
>>300のようなコメントだけでも良いので作者さんからのコメントが欲しいです。
それだけで安心できますんで。
308 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/20(日) 19:14
はじめまして。
一気に読みました。おもしろいですね。
これから宜しくお願いします。
更新待ってます。
309 名前:ミッチー 投稿日:2004/07/12(月) 16:08
この話大好きです。
市井ちゃん・・・
310 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:07





「そんなの無茶です!!」
日頃大声では喋らない紺野が、柄にもなく血相を変えて後藤に向かって叫んだ。
理由はほんの数秒前に後藤の口から静かに出た言葉。
311 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:07




―「ここは私1人で戦う」――




312 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:08
「いいですか後藤さん! 私達の目標はつんく!!
 ここは4人で時間を掛けずに叩くのが得策です!
 貴方ほど人が、どうして!!?」

後ろで問い掛ける紺野の方には向かず、
少し申し訳なさそうに後藤が呟いた。

「紺野ちゃん…。ゴメン。
 でも、やっぱりどうしてもこの戦いは1人でしたいの…。」
「何故ですか!? きちんと理由を言ってください!!」

さらにけしかける紺野の目に、保田の背中が映る。
「やす…だ……さん?」


「後藤…。本当にそれで良いんだな?」
「…。うん。」
「そうか…。じゃあしょうがないな。」
「ありがとう…圭ちゃん。」
313 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:09
そのやり取りで紺野はさらに奮起する。
「保田さんまで何言ってるんですか!??
 新垣ちゃんも私の意見に賛成だよね!?」
急に話を振られた新垣は紺野の剣幕に少し驚きながらも応えた。
「えっ?…ええ。市井さんの力は側近の中でも
つんくの右腕を担うほどですから…。」
「ほら!!これで意見は2対2です!
 どんな力を使うか分からない奴を相手に
全員で戦わないなんで非合理的過ぎます!!
 私の計算でも――!!?」

そこまで言った所で突然強い衝撃を受けた紺野は目を見開いた。
普段冗談でしか仲間に手を上げない保田が、
今にも殴りかかりそうな形相で紺野の胸ぐらを掴んでいた。
「な、なにを…!?」

「いいか紺野!!! 世の中にはなぁ、合理的だとか、多数決だとか、
 お前の頭や物差しなんかで計れねぇモノなんて腐るほどあんだよ!!
 この戦いを良く見とけ!!」

保田は後藤の方へ振り向きざまに叫ぶ。
 「いけぇ! 後藤!!!」
同時に地面を蹴り上げた後藤は市井との距離を詰めた。
314 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:10
後藤の槍が市井の身体を休み無く襲うが、
いま此処で戦いが起きているのを気付いていないかの様に軽く避ける市井。


「無理だよ。後藤。今の私にお前は勝てない。」
「くっ…!!」
最後の一突きを放った三又の矛の間に自身の槍を入れ鍔迫り合いになった。
「しかも、この力がある――」


直後、後藤は只ならぬ違和感を覚える事になる。
周りの空気が凝縮する感覚。
そして――
315 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:12


後藤はそこで何が起こったのか一瞬理解できなかった。
もちろん、戦いを見ていた3人も。

十二支の扱う武具は地上界では採取出来ない鉱物、
人間には真似出来ない製法で造られている。

その世界に2つと無い槍、「ドラゴンランス」の刃が
いとも簡単に氷の塊の中に閉じ込められてしまったのだ。

「なっ!?!?」
驚きのあまり市井との距離を一旦大きく取った後藤は凍った刃を見て呆然としていた。
「後藤!!来るぞ!!」
保田の激ではっとした時には既に遅く、氷の塊が腹部を殴打する。

「ぐはぁ!!」
2〜3M後ろへ吹き飛ばされたと同時に、
その衝撃で凍りついた槍を手放してしまった。


「だから言っただろう。私には勝てないって。」
後藤の方には向かわず、槍の前まで来た市井は、ふっと笑って凍りついた刃へ
自分の刃をあてがった。

「な…、何をする…?」
「先頭時に武器を落とすなんて、後藤は相変わらず間抜けだな」

そう言った瞬間、市井の槍は氷を突き抜け、
結果、数秒前までそこに存在していた刃は氷と共に砕け散った。
316 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:13

「……。」
「なんだ。辰もたいした事ないねぇ。」
言葉も出ない後藤にクスリと笑う市井に向かい、
紺野は両脇から飛び出した中距離用ライフルを構えた。
「なに?もう約束破っちゃうの?」

「五月蝿い!!もう我慢の限界です!
 保田さんが止めても無駄ですよ!」
紺野の両手の人差し指がトリガーにかかる寸前に保田が場に相応しくない程
ポツリと言葉を漏らす。
「止めるも何も、後藤はまだ全然戦えるよ。」
「何を言ってるん――!?」

紺野も気付いた様だ。ゆらりと立ち上がる後藤の姿に。
いや、ゆらりと立ち上がったのではない。
後藤の周りにだけに異様な大気が充満し、光の屈折上そう見えるのだ。
317 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:13
――――
318 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:14
なんで私立ってるの…?
『もう終わりか?』
…誰?
『主はまだ私の力の半分程しか開放していないというのに…』
“辰”か…。そんな事言ったって無理だよ。
もう槍も壊れちゃったし、勝てっこないよ…。
『……。』
…何よ。

『主はあの様な刃を使わなければ戦えないのか?』
だって―
『常識を捨てろ。周りに捕われるな。
 何よりも高く、何よりも自由。それが辰。』
―!!
『見せてやる。今主の目の前に居る、戦うべき者の心の中を……。』

319 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:14
――――
320 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:15


「…そう…、だったんだ…。」
後藤がそう呟くと、市井の眉間がピクリと動いた。

「見せてあげる…。」
右手を柄しか残っていない槍に向けると、
一瞬でそれは後藤が握っていた。
「私の力を!!」

そう叫んだと同時に、砕けた刃の根元の部分、
いびつに避けていた柄は修復され、
一本のすらりと伸びる棒に様変わりした。

そして後藤の背後から現れる『フレイム・コイル』
しかし炎でかたどった龍は市井へと牙を向かず、
ゆっくりと棒の先へ吸い込まれるように消えた。


次の瞬間、そこへ燃えた大気が収束し、
幾重にも枝分かれする蒼白い炎で創られた刃が姿を現した。
321 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:15
「「!!?」」
驚きを隠せ無い紺野、新垣。
保田も一連の流れをじっと見つめている。

「いいねぇ。後藤。キてるよ。
 そろそろ私も本気を出すよ!!」
そう言い放った市井は、
透明、しかし密度が段違いの氷を体のラインに合わせて
身に纏った。
「来な。」
322 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:16


刹那の出来事。
二つの相反する力による衝突の余波が
辺りに充満する。

それが消える時には、腹部に穴を開け生気を感じない市井を
抱きかかえる様にしゃがみ込む後藤がそこにいた。
323 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:17


「後藤……」
ゆっくり歩み寄る保田。
「市井ちゃんってね、元々普通の人間だったんだよ。」
ポツリポツリと後藤は市井を抱いたまま話し始めた。
「そんで辰族にあるチームの初代ヘッド。
 私は二代目なんだ。
 それまでやりたい様に遊び回ってたみんなを
 初めて仕切った人。
 私は十二支とか、そう言うのに捕われない市井ちゃんが大好きだった。
 だけど――」
「もういい。」
保田が後藤の話を中断させる。
「厳しい事言うかもしれないけど、此処は戦場だ。
 過ぎた時間は元には戻せない。」


「……。」

「……。」
「……。」
「……。」
324 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:17

325 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:18
「そうだよねぇ!」
振り返った後藤は満面の笑顔だった。
「へっ?」
「いやぁ、過ぎた事をどうこういったてしょうがないよ。うん。」
1人テンションの違う後藤に目が点になる3人。


「よーし。私の力もアップした事だし、
 この調子でつんくもやっつけちゃおう!!
 みんな行くよ〜!!」
そう叫びながら次へと進む扉へ走っていく後藤。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ後藤さん!」
「え?えぇ!?」
戸惑いながらも後を追う紺野に、
その背中を追いながら未だ状況が飲み込めない新垣。

「やれやれ…。」
そう言いながら笑みをこぼす保田が最後に扉を抜けた。

326 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:18




誰もいなくなった空間に、市井の体はゆっくりと消えていった。


327 名前:2F〜辰・戌・亥・猫〜 投稿日:2004/07/13(火) 21:20
今回の更新
>>310-326
328 名前:しんご 投稿日:2004/07/13(火) 21:30
みっくすさん、センリさん、そーまさん、レオさん、紺ちゃんファンさん、ミッチーさん。
名無しで保全や感想を書いてくれた方達に感謝してもしきれません。

あれこれ考えたけど、もう9ヶ月を過ぎる期間に渡って放置してしまった以上、
どう書いても陳腐で「何書いてんだよ」って感じがするのでこの辺でやめときます。

ありがとうございました。
329 名前:しんご 投稿日:2004/07/13(火) 21:31
後もう少しでこの物語は終わります。
330 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/13(火) 22:06
ええ〜!!!もうすこしで終わっちゃうんですかぁ・・・。
じゃ、そのもう少しの物語をしみじみと楽しみたいと思います。
がんばってください。
331 名前:みっくす 投稿日:2004/07/13(火) 22:37
更新おつかれさまです。
すごく待ってましたよ。
次回も楽しみにおまちしてます。
332 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/15(木) 15:57
コソーリ待ってました。w
更新お疲れ様デス。
もう少し、、、
寂しいですが次回も期待してます。
333 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/16(金) 00:36
更新されてた〜。すっげ〜嬉しいです。

陳腐だなんてとんでもない。自分は今まで出会った娘。小節の中で一番好きです。
こちらもまったりとお待ちしてますんで気楽に創作してください。
334 名前:ミッチー 投稿日:2004/07/21(水) 20:05
更新お疲れさまデス。。。
市井ちゃん…。
どうして変わっちゃったのかな…?

作者さん、この話最高だよッ!!
終わるのは寂しいけど、残り頑張って下さい。。。
335 名前:レオ 投稿日:2004/07/22(木) 17:01
更新お疲れ様!
待ってたよ〜。戻ってきてくれて嬉しいっス!
やっぱ、いいネ!この話。
あと少し、頑張って下サイ!
336 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 01:27
保全。
337 名前:ミッチー 投稿日:2004/10/13(水) 18:34
ho
338 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:10
保全。
339 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 02:30
保全
340 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/18(火) 01:32
保全。
341 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 18:51
あきらめないもん

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