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Lovely★Risa!!
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時45分10秒
- 需要があるのかわかりませんが…
需要を創出するのもまた、供給者の役目。
というわけで新垣のキュートな魅力満載……になればいいな(w
ほのぼのマターリ系で。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時46分32秒
- 四月になって学校の教科が途端に難しくなった。
特に英語がいけない。
一年生と二年生では文法といい単語といい加速度的に
覚えなければならない分量が増えている。
これはもうお手上げだった。
学校の友達は親切に授業を休んだところのノートは取ってくれる。
だが、もう書いてある単語の意味からしてわからない。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時47分24秒
- 思いあぐねて小川に聞いた。
「ね…ここ、わかる?」
「……教科書違うしなぁ……」
それって教科書のせい?
「マコちゃん、ひょっとして…」
「てへ、わかんねぇや。ゴメン。愛ちゃんに聞いてみよ。」
やっぱり…
でも、余計な見栄を張らない小川が里沙は好きだ。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時47分57秒
- 「んん、教科書が違うしの…」
期待通りのリアクションを返す高橋。
あんたもかよ!と心の中で突っ込みを入れつつ里沙は続ける。
「ええ、でも愛ちゃん高校生でしょ?中2の英語だよ?」
まことの反応に里沙は微笑む。
だめだめ、マコちゃん…この人にそんな言い方しちゃ。
この人にはね…
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時48分42秒
- 「ええっと…でも松浦さんは教えてくれましたよ。」
ピク。
思った通りの反応だ。
高橋の眉毛がわずかに上げられた。それを見逃す里沙ではない。
「あややの教科書は?」
不満気に問い質す高橋。
ほら、喰らいついてきた。わかりやすいなぁ愛ちゃんは…
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時49分17秒
- 高橋の性格をしっかり把握している里沙はこれ幸いと各自の教科書を答える。
「松浦さんの中学のときの教科書はニュー・ホライズン、私のはニュー・クラウン。」
顔をしかめて嫌そうな顔をする高橋が里沙にはおかしくて仕方がない。
なぜなら高橋の教科書も…
「ニュー・ホライズンやったな…うちも…」
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時50分21秒
- 「ねっ、だから、愛ちゃんならわかるよ、きっと。だって松浦さんよりも頭いいもんね。」
ピカっ。
高橋の笑顔が光る。その場の空気の色まで変わりそうな明るい笑顔。
どれどれ見してみぃ、としかたなく自分の教科書を覗き込む高橋を呆れたように見つめる
里沙は小川にそっとウィンク。
ね、うまくいったでしょ…?
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時51分15秒
- 策士よのぅ…新垣仮面…
心のうちでつぶやく小川も里沙の屈託のなさにはかなわない。
なにしろこういうことが自然に出来る子なのだから。
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)01時52分17秒
- 短いですが今日の更新終了です。
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月27日(木)21時12分14秒
- 実は待ってた人間です。
文章もいい感じで期待してます。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時03分31秒
- ◇◇◇◇◇
カラン、カランとゴールリングを一周してボールが落ちてくる。
下で待ち構えてボールをキャッチした少女は速攻を仕掛けるつもりだ。
ドリブルでセンターライン付近までゆっくりと歩くような速度で移動すると、
一気にゴール目指して弧を描き、切り込んでくる。
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時05分25秒
- 右だ!
少年が右手を伸ばすのと同時に少女が体を反転させ、
低い姿勢で左にくるりと傾いていく。
しまった…
それでも右足を踏んばってなんとか少女に追い縋(すが)る。
少年は先程から何か違和感を感じていた。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時06分34秒
- 何か変だ…
なんだろう…?
だが、そう考える間にも少女は斜め45度の角度から
ミドルシュートの体勢に入っていた。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時07分11秒
- 久しぶりとはいえ、小学校では毎日のようにこいつを
相手にしていたのだ。
タイミングは把握している。
膝を屈めて少女が飛びあがる瞬間を見極める。
1…2…3、そこだ!
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時08分04秒
- 少女の腕が伸びたその先をめがけて手を伸ばす。
あれ…
だが以前なら確実にボールを捉えていたはずの掌が捉えていたものは、
ひらりとボールが宙に浮いたあとの空気の澱みだけだった。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時08分30秒
- 着地と同時に後ろを降り向くと音も無くボールがリングに
吸い込まれていくのが見えた。
ダン……タン…タン…タン、タン。
ボールは小刻みに跳ねて壁際の方へと転がっていく。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時09分04秒
- 少年は先程からの違和感が何に起因するかようやくわかった。
少女へと近づくとまっすぐに視線を捉える。
「新垣…お前、背伸びただろ。」
そのくりりと黒く輝く瞳は今、ほぼまっすぐに少年の姿を映していた。
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時09分48秒
- 「イェーイ、ジャバーのスカイフック炸裂ぅ!」
「フックじゃねぇだろ、それ?」
Vサインで挑発する少女に、突っ込みつつも少年は苦笑を禁じ得ない。
つーか、ジャバーって誰だよ?
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時10分35秒
- 少年の疑問を他所に少女はすばやく次のゴールを狙って駆け出していた。
その伸びやかな肢体が少年の目にまぶしい。
体育館の窓から差し込む光に向かって飛び込んでいく少女の姿はそのまま、
光を突き抜け、どこか手の届かないところへと行ってしまいそうで少年を不安させる。
新垣…変わらないよな、お前は…
少年の心を知ってか知らずか少女はただ、ひたすらボールを追って翔けて行った。
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月27日(木)23時16分55秒
- >>10名無し読者さん
レスありがとうございます。
正直、読んでくれる人がいるのか不安だったので、とってもはっぴい(w
少しずつですが、こまめに更新していきたいと思いますので、
よろしくお願いします。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月28日(金)07時16分28秒
- 今年の私のテーマは「ニイニイで萌える話を書く」でした。
……先を越されてしまいそう(w 続きも楽しみにしてます。頑張ってください。
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時01分47秒
- ◇◇◇◇◇
「最近どう?あの子?」
「え、ああ、新垣?元気だよ。逆境をバネにできるタイプってのかな…」
飯田は心配そうに尋ねる中澤にあっさりと答える。
「むしろ心配なのは小川…ちょっと壁にぶち当たっちゃった感じ…」
実際、ほとんど最近の里沙に関して飯田はほとんど心配していない。
どちらかといえば、小川を気にかけていた。
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時02分59秒
- 「そうは言っても、中二やからなぁ。カオリ気ぃつけとかなあかんで…
あのしっかりしてる思うてた明日香かて…」
中澤は福田の脱退に関して、忸怩たる思いを抱えている。
年の割にしっかりしていると思っていた福田が年相応に悩み、疲弊していたこと。
それを見抜けなかった自分を未だに気に病み、責めている節がある。
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時04分11秒
- 中澤のいいところでもあり、また弱さでもあるのか。
飯田には細やかに過ぎる中澤の思考がときとぎ不思議に思えてならなかった。
最初はそんな人じゃなかったのになぁ…
やっぱ、辻加護以来かなぁ…
ひたすら厳しいばかりだった一期二期の時代に比べて、自分と一回り以上、
年の離れている辻加護に対しては当初から明らかに引いたところが見られた。
加えて卒業時に見せた彼女達の反応。
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時04分55秒
- 自分が卒業するときに果たしてあれだけ泣いてくれるのか不安になるほど、
辻加護の二人は泣いた。
情に絆(ほだ)されるというのか。
多分、卒業して後からだろう。中澤が妙に女々しくなったような気がするのは。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時05分40秒
- 「ええか、カオリ、リーダーっちゅうのはなぁ、つらいねんで。」
多少、酒が効いてきたようだ。
飯田は饒舌な中澤が嫌いではない。
うんうん、とニコニコしながら聞いていると突然、怒り出す。
「こらぁっ、聞いとんのかい!カオリ!」
ハイハイ、と変わらずニコニコ答える飯田に中澤の表情が忙しく変化する。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時12分41秒
- 「うちかてな…ほんまに辛かってんで…人様の子を叱るなんてな…」
涙声が混じる頃にはそろそろ眠気が勝ってくる。
「あんたたちが憎くて叱ったんちゃうで…な…圭坊…」
どういうわけか最後はいつも保田で締める。
既にすうすうと寝息を立てる中澤の寝顔を眺めながら、あれこれと想像するのが
最近は楽しい。
- 28 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時13分35秒
- 私もいつか卒業した後にこうやって後輩に相手してもらえるかなぁ…
ね、裕ちゃん。
わかってるよ。あなたの優しさは。
みんなわかってるよ。
だから心配しないで…カオリも圭ちゃんも矢口も…
みんなで辻加護や五期メンのこと見てるから。
あなたが、私たちを見てくれたようにね…
だから裕ちゃん…もう心配しなくてもいいんだよ…
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時14分30秒
- そうは思いつつも、自分が卒業した後に小さな新メンバーが入ってきた
ときのことを考えると…
やはり、自分も中澤のように心配するのだろう。
なぜだかそれは、自然なことの様な気がする。
ふふ…ホント、心配性になるよね…
リーダーって損な役回りだね…
飯田は、今夜、もうしばらく、こうして中澤の寝顔を眺めていたいと思った。
- 30 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月28日(金)23時20分05秒
- 今日の更新終了です。
>>21名無し読者さん
レスありがとうございます。
ニイニイで萌える話、書かれたらぜひ教えてください。
楽しみにしています。
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月29日(土)20時06分05秒
- リアルの話だったんですね(汗
勘違いしてました←アホ
楽しみにしてます。ガンガッテ
- 32 名前:こぶろく 投稿日:2002年06月29日(土)22時30分35秒
- いいですね〜私にはない新垣ちゃんの
可愛さが…こういう雰囲気も好きだから
期待大です!ガンガレ!
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時01分31秒
- ◇◇◇◇◇
「やっぱ港って落ち着きますよね、矢口さん!」
「横浜って感じ?落ちつくよな。」
傍から見ている限りでは珍しい組み合わせだろう。
だが、この二人はともに横浜の出身である。
たまの休みに連れ立って山下公演あたりをぶらついていても不思議ではない。
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時02分28秒
- 「氷川丸って好きなんですよねぇ、わたし。」
船の甲板の上に立って、コンチネンタルホテルの向こう、6月の日差しを反射して、
静かにきらめく東京湾の対岸を眺め、里沙は目を細める。
潮の匂いを運ぶ一陣の風にポニーテールがふわりとさらわれて頬を撫でた。
「んん?ロマンってやつかぁ、新垣?」
真上から照りつける太陽が足元に短い影を落とす。
同じように東京の方角を臨んで銀色に光る水面に独特のリズムを感じながら
矢口は里沙に視線を移した。
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時04分15秒
- 「ロマン、ですかぁ…」
首を傾げる可愛らしい仕草。矢口には真似できない。
「よくわかんないですけど、鹿児島から出てきて初めて友達に連れてきてもらったんですよ。
だから、思い出深いっていうか…」
遠くを見つめて昔話をするように語る里沙が矢口には子供が背伸びをしているようで、
妙におかしい。
「それをロマンっていうのさ。」
ふふ…14歳で歴史を語っちゃいかんぞ、新垣…
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時04分47秒
- 矢口は不思議とこの少女といると心が和む。
娘。で最年少ではあるけれど、辻加護よりもむしろ気兼ねしない感じが我ながら不思議だった。
やはり、そこは同じ横浜で育ったもの同士、どこか土地感にも似たような感覚でその人となりに
親近感を覚えるのかもしれない。
- 37 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時06分06秒
- ひょうひょうとした受け応え。
長い手足をぶらさげた細い体にちっちゃな頭をちょこんと載っけている。
当初、「お豆ちやん」と命名した頃からその印象はだいぶ変わった。
高橋のように負けず嫌いではないけれど、それでも自分を信じる意志の強さ。
紺野のように個性的ではないけれど、どこか憎めない風貌。
小川のようにダンスや歌に注ぎ込む情熱は見せないけれど、うちに秘めた強い意志を
感じさせるその眼差し。
- 38 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時06分47秒
- じりじりと照りつける初夏の日差しにうっすらと肌の表面に汗が浮かぶ。
海上の湿った風が吹き抜けて体温を奪うと、一瞬、冷んやりとした感覚が心地好い。
日差しのもとで肌の露出を嫌う飯田や保田を見ていると、どうも大人の女性と少女を分かつ境界は
その辺の感覚にありそうだとひとり合点する。
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時07分41秒
- 「矢口さん…」
問いかける声に降り向くと里沙が太陽と風に棚引く日章旗を背負ってこちらを窺っている。
逆光で顔の表情はつかめない。
「なんだよ…」
「私…娘。に入って3cm身長が伸びたんですよ。」
声のトーンは平板で、相変わらずその言葉にどのような感情を隠しているのか悟らせない。
「ミニモニの身長制限…超えちゃいました…」
「新垣…」
矢口は返す言葉が見つからず、彼女の顔色を窺おうとするが、後ろから強く照りつける
日差しがそれを妨げる。
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時08分49秒
- 「それを言ったら加護だって怪しいもんだ…あいつの場合、縦より横の伸びが心配だけどね。」
慰めとも皮肉ともつかない言葉を返し、それでよかったのかと、反応を確かめたくなる。だが、その表情は相変わらず影に隠れたままだ。
「ミニモニな…新垣、どう思う?」
「えっ…?」
ようやく人間らしい反応を返してくれた。
先程までの会話にあまりにも現実味が感じられなかった矢口は、その生身の声が発する
戸惑いの嘆息にようやくほっとする思いだった。
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時09分53秒
- 「ミニモニって子供達…っていうか幼児のアイドルだろ?」
黙ってうなずく里沙。
「新垣は、なんかどんどん成長して、ミニモニや辻加護よりはるかに
先に行ってそうな気がするんだけどな…」
「そんなこと…ないです…」
今度は里沙の方が戸惑っているように見える。
矢口の言葉を文字通りの意味で捉えてよいものかどうか。
その躊躇う仕種が既に矢口には少女らしい可憐さに溢れているように思えた。
- 42 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時10分42秒
- 本当に女の子らしい…
それはまたある種の凛々しさにも通ずるところがあるのだろう。
それは辻加護が意識的に隠してきたもの。
自ら意図して避けてきたものだ。
その姿に不自然さを感じてしまう自分には、里沙の自然体が新鮮に映った。
好もしい、と言ってよいかもしれない。
どんどん身長が伸びて綺麗になっていく里沙を見ていくのが矢口は好きだったのだ。
これからどんなに素敵に成長していくんだろう…
ドキドキしながら見つめる視線がさらにこの子を綺麗にする。
- 43 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時12分03秒
- 「だからな…新垣には今のままでいてほしいよ…」
「はい…」
わかったような、わからないような…
きっとそんな感覚だろう。それでいいと矢口は思っている。
「なんか喉乾いたな…降りてアイスでも食いにいこうぜ!」
「いいっすね、いきましょう!」
元気に船のタラップを降りていく里沙の後ろ姿を見て、矢口は思う。
それでいいのさ…それで…
娘。がみんな圭ちゃんみたいにギラギラしてたら、それこそ胸焼けしそうじゃないか…
ひとりくらい爽やかに少女してくれる奴がいなきや…そうだろ、なぁ、新垣…
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時17分32秒
- 今日の更新終了です。
>>31名無し読者さん
レスありがとうございます。
スンマセン…よくわからない展開ですよね。一応ですがリアルです(w
>>32こぶろくさん
レスありがとうございます。
こぶろくさんのこんのの、柔らかい表現が大好きです。
文体は違いますが、私もああいう素敵な表現ができるよう頑張ります。
- 45 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)11時19分19秒
- 訂正です…
新垣、まだ13歳でしたね…
中2=14歳と思い込んでて…
以後気をつけますです。ぺこ。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時32分23秒
- ◇◇◇◇◇
「辻さん…悔しくなかったですか…?」
「そりゃ悔しかったけどさ…」
辻と新垣。珍しい組みあわせだ。
夏のハロプロコンサートは今年も代々木体育館で開催される。
午前中、リハーサルの合間を縫って代々木公園に涼を求めるメンバーは少なくない。
中澤が緑の下で憩える場所を探していたところ、前方のベンチに座る二人の姿が目に入った。
木々の間から漏れる夏の強い日差しが二人の背中に斑模様を浮かびあがらせる。
中澤はこの二人が何を話しているのか気になって聞き耳を立てた。
- 47 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時33分27秒
- 「でも、しょーがないじゃん。あたしもともとほけつだし。」
「つらいですよね…同期で自分だけなにもユニット入れないと…」
うわちゃ…えらいクリティカルな話題持ち出しとるな、新垣…
自分が在籍していたときにはなかなか口に出せる雰囲気ではなかった、
と中澤は振り返る。
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時34分14秒
- 「んん、でもそこでくさったらお終いだから。それじゃモーニングじゃないじゃん、
てなんか思った。」
中澤はハッとした。
アイスを一口掬って口に入れる辻の背中が大きく見える。
じぃぃ、じぃぃ、という蝉の鳴き声は中澤の戸惑いをとがめるように
静寂を際立たせた。
「それにさ…なんかみんな気遣ってくれるのわかったから…矢口さんが
ミニモニつくろって言ってくれたりぃ、なっちがマロンメロンしよって
言ってくれたり。」
里沙はその太い眉を寄せて辻の話を真剣に聞いている。
- 49 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時35分11秒
- 「頑張んなきゃしょーがないじゃん。」
どこか居心地の悪そうな辻の表情が新鮮だった。
ふざけてばかりいると思っていた辻が、
座っていると幼児のようにドスンと膝に乗っかってくる辻が、
今は真剣な話しをしている。
後輩の相談に載っている。
中澤はふっ、と肩から力が抜けるのを感じた。
そやな…
辻ちゃんには、いつまでも子供のままでいてほしかってんけど…
でもそのままじゃあかんわな…みんな成長していくんや…
それでいいんや…
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時36分05秒
- 中澤は寂しいような、それでいてどこか嬉しいような、不思議な心持ちのまま
その場を静かに立ち去った。
夏の太陽は、中澤の思いを肌に嫉きつけようとでもしているかのように、
強烈な日差しを真上から降り注いでくる。
右腕を額の上に掲げて見上げる空の青は、もくもくと盛りあがる入道雲の白さを
余計に印象づけた。
中澤は天上の鮮やかな青にしばし目を奪われ、そして大きく伸びて深呼吸した。
- 51 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時37分13秒
- 雲は風に流されながら刻々とその姿を変えていく。
そして人もまたいつまでも同じ場所には立っていられない。
自然の摂理ではないか。
雲が形を変えていくように人の印象も会うたびに変容していく。
それがかつて自分の知っていたその人と違うからといって何を嘆くことがあろう。
あるがままに、自然のままに受入れ、そして喜ぼう。
辻も里沙も成長していく。
その成長の過程を目の当たりにできる幸せをかみしめよう。
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時38分00秒
- 夏の陽は強い日差しで生命を育む。
今、青く固い蕾は夏の太陽の下、力強く開花しようとしている。
自分はそれを見守ろう。
少女がさなぎから蝶へと生まれ変わろうとしているその刻一刻を。
そして、美しい羽根を広げて羽ばたいていくその瞬間を息を潜めて見つめるのだ。
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時38分49秒
- 中澤は滴り落ちる汗を拭いながらつぶやいた。
ちっ…あかん、肌露出し過ぎや…染みなったらどないしよ…
惜し気も無く真夏の光線に肌を晒していた辻と里沙を振り返り、
中澤は少しだけ羨ましくなった。
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)23時40分44秒
- 短いですが今日の更新終了です。
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時51分01秒
- ◇◇◇◇◇
「んわぁっ、もうだめだぁっ!!」
きょうせいとともにバタバタと駆けて行く足音。
顔を見合わせる里沙と紺野。
「また…?」
「…みたいだね…」
くしゃくしゃの頭で駆けていく小川の後ろ姿を見送る二人はやや呆れ顔だ。
やや遅れて馴染みのスタイリストさんが追いかけていく。
「だからトリートメント毎日した方がいいよって言ったのに…」
「んん、まぁそれにしてもものすごい癖毛なのは確かだけどねぇ…」
- 56 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時51分52秒
- 小川の癖毛については、娘。加入当初から話題になっていた。
とにかくものすごい癖毛だ、と。
元来、職人肌のメークさん達は燃えたにちがいない。
よーし、ここはあたしが、おれが、小川の癖毛は頂いた!と。
だが…
そこに山があるから登るのだ、というアルピニストでさえ、
イメージしていた山が夏の穂高ではなく、
いきなりアイガー北壁だったらどうなるだろう?
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時53分32秒
- 小川の髪、それはもう想像を絶する癖の強さだそうだ。
業界の錚々たるヘアメークの達人たちが幾人も挑んでは消えていった。
まるで急峻な絶壁のごとく、ヘアメークさんの前に立ちはだかる
小川の髪は、今、もっとも意欲をそそられる逸材、
ということになっている。
- 58 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時54分05秒
- それはもう、まったく、つやつやしてきれいで。
さらっとまっすぐ長く伸びた髪は、さしもの里沙も内心、
「うわっ、やられた」と舌を巻くほど良く似合っていて、まぶしかった。
本人にも周囲にも大評判だったストレート。
そのままずっと保てていれば問題はなかったのだけど…
- 59 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時55分25秒
- 「あの強烈なストレートが三日と保たずに、くるりっ、だからね。」
「なにしろ半年間保証のパーマが三日だから…」
いかに小川の髪がすさまじいかわかろうというもの。
「その点、あさ美ちゃんはいいよね、きれいなストレートだし。」
「えっ、でも里沙ちゃんみたいに額で分けるのわたし、できないし。」
それは、髪質の問題じゃないでしょ…
相変わらずどこか噛み合わない紺野との会話の中で、しかし里沙はふと思った。
「わたし…わたしも髪型変えようかな…」
驚いて、丸い目をさらに真ん丸にして驚く紺野。
「で、でも、マネージャさんに怒られちゃうよ。」
- 60 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時56分17秒
- もちろん、黙って変えるようなことはしないけど。
その言葉には反応せず、里沙は指で右側の髪の房をいじりながら、
「くくってるからわからないけど、わたしも結構、癖あるんだよ。」
それはよくわかってる、というように鷹揚にうなずく紺野。
いや、性格のことじゃないんだけどね…という突っ込みはさておき。
「夏場は髪が長いと洗うの大変だし、暑いんだよね。」
「うん…でも…」
やっぱり、髪型変えるのはまずいんじゃ…という言葉を呑み込んで、紺野は続ける。
「ツインテール、可愛いよ、あたしじゃできないし、愛ちゃんやマコちゃんだって。」
- 61 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時57分13秒
- 一瞬の間。
お互いの合わせた視線が緊張感を孕んだのも束の間、
里沙のにっ、と笑う表情がその場の空気をやわらげる。
「やっぱそうかな?ね、あさ美ちゃんもそう、思う?やっぱり?」
うんうん、とうなずく紺野は、里沙の現金な変わり様に呆れ顔。
「そうだよねぇ、やっぱモーニングでこの髪型といえばわたしだもんね。」
いい加減むかついてもよさそうなものだが、
このちゃっかりしたところがどうにも憎めない。
- 62 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時58分06秒
- ま、わたしたちの可愛い妹みたいなもんだしね…
目を細めて左右に分けた髪の房をゆらゆらと揺らす里沙の様子を眺め、
紺野はなんだか嬉しくなった。
そうこうしているうちに、しぶしぶという表情で小川が戻ってくる。
その頭を指差し、紺野は再び目を丸くした。
「里沙ちゃん、ライバル出現…」
降り向く里沙。
その太い眉毛は八の字に歪められ、深い困惑を隠そうともしない。
「マ、マコっちゃん!何、その頭!」
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)22時58分52秒
- 「新垣里沙でぇす!ラブ、ラブ♪」
額できれいに分けられた頭髪は左右に短く束ねられていた。
半ばやけくそで、ラブラブ繰り返す小川に里沙が突っかかる。
「マコっちゃん、だめぇっ!それはだめっ!」
「なんだよぉ、いいじゃんよぉ。」
楽しそうにじゃれ合う二人を見て紺野はなんだか羨ましくなった。
わたしもやってみようかな…
愛ちゃんにも勧めてみんなでやったら楽しそう…
- 64 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)23時00分51秒
- その情景を想像して紺野はぷっ、と吹き出した。
はしゃいでいた二人が紺野の方を降り向く。
「あ、あの…そういう意味じゃなくて…」
思わず視線を落とす紺野。
でも…
「なんか、姉妹みたい…」
顔を見合わせる二人。
そして…
ぷっ、と吹き出したのがどちらかわからないが、もう止まらない。
紺野も加わり大笑いする三人の微笑ましい姿を見つめる周りの大人達も
つられて笑い出す。その視線は優しい。
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)23時01分47秒
- 紺野は小川の髪型をばっちり決めて誇らしげにガッツホーズを決める
ヘアメークさんの姿を見つけた。
親指を立てて、その労をねぎらう。
ナイスです…メークさん…
それに応えて、ニッと白い歯を見せて笑う表情はとても素敵だと思った。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月02日(火)23時03分07秒
- 今日の更新終了です。
- 67 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時30分29秒
- ◇◇◇◇◇
「あれ?あさ美ちゃんとマコちゃんは?」
「学校で補習やて。ミュージカルで早退繰り返しとったしの。」
あっそうか…
もともと娘。に入る前から、モデルの仕事に支障がないよう
自由の利く学校を親が探してくれた自分と地方から出てきた二人とでは
環境が異なるのは当然だった。
一足先に中学を卒業してしまった高橋はともかく、
進学を望んでいる両親の希望もあり、この夏はそれなりに
受験勉強をこなさなければならない二人である。
- 68 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時31分09秒
- 「大変だねぇ…」
「ってか、あんたも来年は受験やろ?人ごとでぁにゃぁわの?」
首を傾げて答える里沙。
「ううん。もともと中学出たらモデルの仕事に専念する予定だったから、
高校は入れるとこでいいってママに言われてるんだ。」
目を閉じて首を横に振る高橋はどう反応していいかわからず、
視線を足許に落とす。
「人それぞれか…」
- 69 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時31分52秒
- 仕事にかける情熱と学業との両立を望む親への配慮の板挟みに
悩む姿も痛々しい小川に同情的な高橋は、何だか不公平だ
と思ったが、口には出さなかった。
「それより、里沙ちゃん、あんたモデルの役やてぇ。ひってもん格好ええが。」
「へへ、ママも喜んでた。」
嬉しそうな里沙の様子は屈託が無い。
- 70 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時32分36秒
- ミュージカル終了直後に発表された日テレ午後4時からの新番組、
ティンティンタウンで里沙はパリ帰りのモデル、
デルモちゃんという設定である。
高橋は魔女。子供を対象に童謡などを唄う、同時間帯の
「おかあさんといっしょ」を意識した番組だ。
もうじき収録が始まるという状況下、受験勉強を理由に
キャストから外れた二人の寂しそうな顔を見るのは辛かったので、
内心、里沙もほっとしていた。
- 71 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時33分19秒
- 「事務所もすっかり、子供向けに対象絞ってもたからの。」
それは里沙も承知している。
そして自分に向けられている期待のまなざしも。
「ミニモニが凄い人気だからね。わたしも大好きだし。」
「今に里沙ちゃんも小学生のアイドルになるにゃ。なんせスタイルがええしの。」
「ええっ、愛ちゃんのボインには負けるってぇ。ほらっ。」
そう言って自分の胸をムギュッと掴む里沙から身を離し、
両腕で抱えるようにして胸を隠す高橋の姿は妙に艶めかしい。
- 72 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時33分57秒
- 「ちぇっ…」
適わないな…
それは女の子の里沙から見ても、
思わず抱き締めたくなるほど可愛かったから。
「里沙のえっち!」
顔を真っ赤にして自分をにらむ表情もやっぱり可愛い。
「だって愛ちゃんがボインボインなんだもん。」
「そのうち自分だっておっきくなるのにぃ、これだから都会っこはもう!」
悪びれない里沙に愛想をつかしたものか、高橋はフン、と顔を背けたまま、
控え室を出てどこかへ行ってしまった。
- 73 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時34分40秒
- 「ちぇっ…」
それは悔しさから発せられたものか、それとも寂しさによるものか。
残された里沙は自分の胸を不安げに見つめた。
おっきくなるのかな…わたしも…
少しだけ手をあててさすってみる。
うわっ、くすぐった…
小さなふくらみは、すぐには里沙を悩ませることはなさそうだった。
でも…
- 74 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時35分23秒
- 「ちえっ、マコちゃんと新しいブラ見に行こうとおもってたのになぁ。」
宛てが外れた里沙はもう一度舌打ちすると高橋を追いかけて
廊下に飛び出していった。
遠くに高橋の姿を認めて里沙は叫ぶ。
「ねぇっ、こないだマコちゃんと行った下着の店、教えてよぉ!」
高橋は恥ずかしそうに、しかし大声で、
「だからぁっ!そゆこと大声で言うなっての!」
- 75 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時36分21秒
- どっと笑い声があちこちから上がる。
マネージャが怖い顔で飛び出してくるのを見て、里沙はすばやく身を翻した。
いけね…またしかられちゃう…
いたずらっ子そのままのその姿がまた、どっと笑いを誘う。
里沙は逃げ回りながら思った。
わたしだって、そのうち愛ちゃんくらいになるかもしれないんだからね…
フンっ!
大きく跳躍して階段を飛び降りたとき、
わずかに揺れを感じた胸がちょびっとだけ誇らしかった。
- 76 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)21時37分01秒
- 今日の更新終了です。
- 77 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月03日(水)22時04分43秒
- >>57-58
うわっ、抜かしちゃった。実は間にこんな文章が入ります↓
とにかく、跳ねるわ、まとまらないわ。
髪は本人の性格を反映するというが、いくら自由奔放な小川といえども、
やはり、そこまで強硬に自己主張する自分の髪の毛には辟易しているようだ。
一度だけ、豪を煮やしたメークさんが強烈なストレートパーマでとうとう、
その強烈な癖に打ち勝ったことがある。
丁度、春のコンサートツアーの最中だっただろうか。
失礼しました(恥
- 78 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時14分51秒
- 新曲のレッスンが小休止の間、窓の外を眺めて里沙は思う。
今年は雨が多い。
雨は嫌いじゃなかった。
雨、それ自体というよりは、むしろ雨あがりの空が好きだった。
最近は事務所の車が家と仕事場の間を送り迎えしてくれるので、
自分でどこかに歩いていくことは滅多にない。
だから、雨の日が多いとはいえ、随分長いこともう、
傘を差していないことに、こないだ、ふと気付いたのだ。
- 79 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時16分15秒
- 家の近く、小学校への通学路の途中に閑静な住宅街がある。
そのうちの一軒、大きな門をかまえ、一町分の区画を
占有しているのではないかと思えるくらい大きな家の側をよく通った。
普段は取り立てて気にもしないが、梅雨の時期、
その家の外郭に沿って巡らされた背の低い塀からは、
あじさいの葉々が顔を覗かせて、道行く人の目を楽しませた。
色とりどりに咲く花の美しさに、里沙は登校の途中で立ちどまり、
遅刻しそうになっては、慌てて駆けて行き、水たまりを踏んでは
スカートの裾を汚して母親に叱られることもしばしばだった。
- 80 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時17分05秒
- それでも毎日、その家の前を通るたびに異なる色の花が
新たに咲いているのを見つけると、やはり、立ち止まって
じっくりと眺めないわけにはいかなかった。
赤、青、ピンク、紫。
花弁の内側に向かうに連れ、白味がかっていく様が、また
里沙には美しく思われた。
梅雨の合間、ときおり見せる、晴れ間のもと、
やや乾いたような表情を見せるあじさいよりも、里沙はやはり、
雨に打たれて、しっとりとした情感を漂わせるあじさいが好きだった。
その葉の上に残る雨の滴。
それが万華鏡のように様々な色の花々を映し出す、
透き通った光のきらめきを眺めているのが好きだったのだ。
- 81 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時17分40秒
- 一番美しかったのは、雨が上がった直後、
丁度、雲の切れ目から覗いた青空と夏の日差しが
まだあじさいの葉々の上に残る水滴に反射してキラキラと輝く瞬間だった。
雨の後の深く濃い緑は鮮やかに花々の淡い色を浮き上がらせる。
それを見ると、里沙はなにか世界が汚れた体をシャワーで洗い流し、
リフレッシュしたような、生まれ変わったような新鮮な感じがして、
自分さえもがまた、新たな世界に降りたったかのような喜びを感じた。
- 82 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時18分36秒
- 六年生の頃、あれは下校の途中だったと思う。
いつものようにあじさいを見つめていると声をかけられた。
「あじさいの花が好きかい?」
「ハ、ハイ…」
自分が何か悪いことをしてるのを見とがめられたように感じて、
里沙は緊張感にびくっと体を震わせた。
声をかけたのは里沙のおじいさんくらいの人だった。
「このきれいな色をしてるのはね、実は花じゃないんだ。」
固くなっている里沙の様子にも頓着せず、おじいさんは続けた。
「萼(ガク)と言ってねぇ、花を包んで守る部分さ。」
淡々とあじさいのことを説明するおじいさんの言葉に里沙の緊張も解け、
「本当の花はどれなんですか?」と聞いてみる。
- 83 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時19分14秒
- 「この中心に突き出している小さなアンテナみたいなところ、
これが花の部分だよ」
よく観察してみると、たしかに今まで花だと思っていた
鮮やかな色の中心部から、小さな突起が顔を覗かせている。
「わぁっ、言われて見ると花っぽいですね。」
「ふふ、見かけの艶やかさに囚われてはいけないよ。本当に大事なものは
人知れずひっそりと隠れているものさ。」
そう言い残すとおじいさんは、なおもたたずむ里沙を置いて、
家の中に戻って行った。
- 84 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時19分52秒
- 里沙は、おじいさんが何を言いたかったのかよく解らなかったけれど、
なんだか、とても大事なことを言われたような気がして、
もう一度あじさいの、「本当の」花の部分を凝視せずにはいられなかった。
そして、ふと思った。
自分の「本当の」花はどこにあるだろう?
- 85 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時20分31秒
- ママはいつも、
里沙はこんなに可愛いんだから、絶対にモデルで成功するわ、
って言ってくれる。
でも、それが私の本当の花?
学校の友達も里沙はお洒落だし、よくもてるよね、
って言ってくれる。
私の花は、どれも「見かけ」の華々しさ。
それはきっと、「本当の」花じゃないんだ。
私の花はどこにある?
本当の花はどこにある…?
- 86 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時21分13秒
- トン、トン、と肩を叩かれて我に帰った。
レッスン再開を告げる声に立ちあがり、先生の言葉に集中する。
窓越しに聞こえる音の激しさは雨足が強くなってきたことを示していた。
里沙は、視線を前に向けつつも、雨音に気を取られていた。
あそこの家のおじいちゃん、どうしてるかな…
今度のオフに訪ねてみようか…
今年もきっと、色鮮やかなあじさいの「萼」が里沙を迎えてくれるだろう…
それだけ考えると再び意識を先生の言葉、動作に集中した。
- 87 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月06日(土)01時22分34秒
- 今日の更新終了です。
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月09日(火)14時54分28秒
- ここのニイニイすっごい可愛いんですが(w
続き待ってます。
- 89 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時43分35秒
- カレンダーを一枚めくるだけで季節が変わり目を迎えた。
7月に入って攻撃的なほど強い日差しを注ぐ太陽の近さに里沙はそう感じる。
そして、この時期になるといやでも考えなくてはならない問題、
それは…
「今年の水着どうする?」
「え?私、去年、買ったばっかだし、今年はいいよ。海とか行けそうにないし。」
「まこっちゃんは体型も変わっとらんからええの。私は買うよ。」
この時期に女の子が三人も集まれば、出てくる話題は決まっている。
もともとがファッションには疎い、というか興味のなさそうな小川はともかく、
目下のところ、人気急上昇であり、自分の最大のライバルと目している
高橋の動向は気になるところだ。
- 90 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時44分57秒
- 「愛ちゃんは、どんなの買うの?」
「タンキニでデニムのパンツあるやろ?あんな感じかな、可愛いやつ。」
「ええっ?愛ちゃんは胸、おっきぃから、もっとセクシーな感じのやつがいいよ!」
そこは触れてほしくないと、露骨に顔をしかめる高橋。
傍でニヤニヤと二人のやり取りを眺める小川の視線に気付きつつも、
里沙は牽制の手をなおも緩めない。
「ほら、石川さんみたいな黒いビキニ。あれ、愛ちゃん似合いそう。」
「あんな胸おっきかったらええけど…」
「十分、おっきぃって。」
たまらず小川がプッと吹き出して、里沙をたしなめる。
「愛ちゃんの胸のことはあんたが心配しなくてもいいからさ。」
切れ長の目を細めてニヤリと笑い今度は里沙に尋ねた。
「で、あんたはどうすんの?」
- 91 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時45分47秒
- 里沙は待ってましたとばかりに得意げに答える。
「わたし?わたしはねぇ、パレオが付いてぇ、金ラメの入った
情熱の赤とオレンジミックスのワンピース。」
小川の頬が膨らんだ。
高橋の眉毛が下がった。
カウントダウン、3,2,1、……
「ブァッハッハ!!聞いた?聞いた、新垣が、プッ、新垣が情熱の赤だって!」
「くっ…わろたら悪いよぉ、くくっ…まこっちゃん…ぷっ…ぷぷっ…」
ダッハッハッハ!!
もう二人の笑いは止まらない。
- 92 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時46分37秒
- いつまで笑ってんだよ!
とさすがに里沙の我慢が限界に達した頃、ようやく笑い過ぎで
痛い腹筋をさすりながら、小川が口を開いた。
「い、いや…わ、悪気はないよ、ないんだけどね…ハァハァ…」
まだ苦しそうだ。
そんなにおかしなこと言ったかな…わたし…
自覚がないだけになんとも言えないが、それにしても里沙には何がそれほど
おかしいのかわからない。
だって、情熱の色は赤って決まってるでしょう?変なマコちゃん…
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時48分27秒
- 「いやぁ、新垣の口から情熱なんて言葉が出るとはね。」
「ひってえ、おかしいんにゃざ。里沙ちゃんはもっと可愛いイメージち思っとったさけ。」
二人ともまだまだ笑い足りなさそうだが、里沙としてもこれ以上笑いを提供できるほど、
芸達者ではない。
そろそろ決着をつけて置こう。
「要するに、わたしが一番、セクシーな水着ってことだよね。」
顔を見合わせる二人。
一瞬の静寂。
「ヴゥワァッハッハッハハハハ!!」
「キャァッハハハハハ!!セクチィ!セクチィよ、ラブラブぅっ!!」
- 94 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時49分35秒
- もぉぉぉぉぉおおお!
何がそんなにおかしいのよ?!
憮然とした里沙の表情がまたおかしいのか、二人の笑い声がさらに高まる。
「もう…二人とも子供なんだから…」
そのつぶやきが聞こえていたら、さらにかしましいことになっていただろう。
幸いにもそれに気付くことなく、二人がなおも笑い続ける中、
里沙は開け放たれた窓の外に目をやった。
- 95 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時50分37秒
- 夏の強い日差しが向かいのビルに反射してまぶしい。
ジィー、ジィーという間延びした蝉の鳴き声とともに、
うだるようなむわんとした熱気が入り込んでくる。
夏はもう、来てるのに…
二人とも、真剣に考えないとすぐに夏は終わっちゃうんだよ…
里沙の思いを知ってか知らずか、笑い続ける二人に苦笑しつつ、
自分もまた、なんだかおかしくなって笑い出した。
- 96 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時52分12秒
- 「こらっ、いつまで笑ってんだ、本番収録いくぞ!」
マネージャに怒られて、ピンと背筋を伸ばす三人。
「ハイ、いますぐ!」
バタバタとスタジオまで駆けていく中、里沙は思った。
勝負だからね…この夏は…
負けないよ…
駆け抜ける足音は里沙の決意を示すかのように高らかに廊下に響き渡った。
- 97 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)23時57分11秒
- 今日の更新終了です。
>88名無し読者さん
ありがとうございます。
可愛いだなんて……
( #ё)ポッ
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)21時18分47秒
- 三人のやり取りほのぼのしていいですね〜
ついつい顔が綻びますな
- 99 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月14日(日)14時41分09秒
- 初レスです。
何かほんわかしてていい雰囲気ですね。
がんがってください。
- 100 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時32分59秒
- 小川が沈んでいた。
といっても、もちろん、水に溺れているわけではない。
椅子に体を投げ出してうなだれている姿が痛々しい。
見るからに元気がなかった。
理由はわからないでもない。
でも、里沙にはなんて言って慰めていいかわからない。
そっと側に付き沿っては見たものの、かける言葉のひとつさえ
里沙には見つけられなかった。
今は、それが歯がゆい。
きっと、高橋や紺野なら見つけられるであろう、その言葉。
それが里沙には見つからない。
- 101 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時33分31秒
- 自分まで泣きそうになって気付いた。
あの泣き虫の小川が今は泣いていない。
悔しいのかな…悲しいのかな…
どっちだろう?
きっと両方。
であれば、里沙にかけられる言葉は多分ない。
- 102 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時34分13秒
- 「小川ぁ、泣くなよぉ。」
パッと振り向くと保田がいた。
「こういうのは巡り合わせっつうか、順番だからな。」
慰めようとしている、里沙にはそう映った。
それでも小川はうつむいたまま顔を上げない。
「まぁ落ち込むのもいい経験だぞ。」
小川の横顔が少し動いた。
少しムっとしているようでもある。
保田は気にもとめない風で続けた。
「慰めてるわけじゃないんだ。」
これには里沙も驚いた。
ハッとして顔を上げた小川の視線を正面から受けとめて
保田はうなずく。
- 103 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時35分01秒
- 「与えられたパートを懸命に務める、それが建前ではある。けどね…」
里沙は普段、滅多に話すことのない保田が側にいるというだけで、
既に緊張して動けずにいるのだが、虚を突かれた形の小川は身の処し方を
判じかねて、やはり戸惑っている様子がうかがわれた。
「やっぱ、悔しいよな。」
そう短く言い捨てると、つかつかと小川に歩みよりパンと肩を叩く。
「あったりまえだ。私らみんな、自分がメイン張れると思ってる
自信家の集りなんだから。な、新垣?」
「えっ…いや、そ、そうかも…」
あっけにとられて、細い目を大きく見開き、保田を凝視する小川。
里沙もまた、その大言壮語に対し、二の句が告げない。
- 104 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時37分27秒
- かまわず保田は続ける。
「もちろん私だってそうだ。正直、悔しいよ。」
意外だ。
保田は集団の中で自分に与えられた役割を理解して、
黙々とその任務をこなすタイプの人だと思っていたから。
「いっつもパート割が発表されたときは悔しくて眠れないんだ。」
保田はニッと口の端をつり上げて微笑む。
「今回は何が足りなかったんだろう、ってベッドの中で反省会さ。」
さらに続けようとしたが、何かに気付いたように口篭る。
「あ、いや…反省会ったって、他に誰かいるわけじゃないからな…一人だよ。」
少し決まり悪そうに言い募るところが怪しいが…
里沙にはまだわからない大人の営みというやつだろうか。
であればあまり突っ込まない方がいい。
- 105 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時38分20秒
- 「お前だけじゃないってことさ…」
そういえば…
保田には今回、ソロのパートが一ヶ所も無い。
ラップとはいえ、曲がりなりにもソロパートのある小川よりも辛いはず。
「今回、メインを張ってるなっちだって、
後藤が出てきたときは悔しい思いをしたんだ。だからね…」
保田の口調が張り詰めたものから、なんだか優しいトーンに変わった。
「小川が悔しがるのはいいことなんだ。それが向上心に繋がるんだから…」
小川の肩に手を置いて掌で包み込むと耳の側に顔を近づけた。
「娘。がなんで愛されるかわかるか?」
ささやくような言葉に小川が振り返る。
里沙も思わず覗き込むように首を突き出した。
「それはね…」
小川の目をしっかりと見つめて保田は告げた。
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時39分31秒
- 「人の痛みがわかるからさ、私たちは。」
「痛み…」
繰り返す小川に保田はうなずく。
「そう、痛み…
殴られたら痛い、いじめられたら悲しい、メインをはずされたら悔しい…
そういう痛みがわかるからさ…」
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時40分11秒
- わかる…
里沙には保田が何を言いたいのか今、ようやくわかった。
私にはその悔しさがわかる…
だから…
「だから、優しくできるんだよ…な、新垣?」
「ハイ!保田さん!」
目を丸くして驚いている小川と視線が合って、
里沙は右目をつむって答えた。
マコっちゃん、ファイト!
- 108 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時41分36秒
- 「よ〜し、そんじゃ、焼肉でも食って次回のメイン争奪に備えっか、ん?」
「えっ?連れてってくれるんですか?」
勇んで尋ねる里沙に保田は腹を叩いて気前良く答える。
「うむ。人間の悩みは9割方、うまい物を食えば解消されるのだ。」
小川が立ちあがって頭を下げた。
「保田さん、御馳走になります!」
「よしっ!いくぞぉっ、今日は食うわよ!」
「ハイっ!食います!」
すっかり元気を取り戻した小川の姿に里沙は安心した。
つつつ、と駆け寄って保田に耳打ちする。
(サブ・リーダーって大変ですね…保田さん…)
呆れたように里沙の顔を覗いて、小声でささやく。
(大変なんだぞ!ちびども!)
顔を見合わせてくすくすと笑う二人に小川が振り向く。
- 109 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時43分16秒
- 「何?どしたの?」
「ん、新垣の眉毛がまた太くなったんじゃないかって話。」
「あっそれ、自分も思ってました。」
焼肉ですっかり機嫌を戻した現金な小川が小面憎い。
「え、何よぅ、それ。」
「新垣、眉の太いのはしっかりした意志を表すから悪いことじゃないんだぞ。」
「ええっ、でもなんかちょっとやです、それ。」
今度は保田と小川が顔を見合わせてプッと吹き出す
- 110 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時44分41秒
- ま、いっか…保田さんの優しさに免じて許してやろう…
その優しさに触れて里沙はまた、一歩、自分の本当の花に向かって
近づけたような気がした。
今、自分が感じてる痛みはきっと無駄にならないって思えるから。
心に抱える痛みの分だけ、人に優しくなれるから。
だからね。いつかきっと、笑って話せる日が来るよ。
私もね、昔はコネガキ氏ねとか散々言われたもんさ…って
とりあえず今日は、焼肉で保田さんの懐を痛めるよ!
なんって高額納税者なんだから、ねっ、先輩!
- 111 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)00時58分33秒
- 今日の更新終了です。
>98名無し読者さん
ありがとうございます。
そう言っていただけると嬉しいです>三人の掛け合い
辻加護のデフォルメされたキャラも嫌いではないんですが、
等身大の5期メンにどうも惹かれてしまいます。
>99ごまべーぐるさん
レスありがとうございます。
最近、ちょっと更新遅れ気味ですが、
ほのぼのマターリ続けていくつもりですので、
今後ともよろしくお願いします。
- 112 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時44分43秒
- ◇◇◇
こういってはなんだが、少々なめていた。
あの体ではそう敏捷に動けまい。
スピードに乗れば慣性の法則で推進力を得るだろうけど。
この狭いコートの方側だけでは加速するほどの助走距離を得られない。
ドリブルで左右に振れば、到底着いてこれないだろう。
そう踏んでいた。
なのに…
「ゴール!新垣くん、まだまだだなぁ、ハッハッハ。」
ちっくしょお…
悔しいけど得点はは30vs10のトリプルスコア。
高笑いを続けるあの人がこんなにやるとは…
- 113 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時45分28秒
- 夏のコンサートに向けたリハーサルの合間、
里沙は近くの公園に設けられたバスケットコートで仲間と
ワンオンワンに昂じていた。
コンクリートのコートでもあるし、夏の暑い日差しの元、
汗だくになっても困るから、と体力をセーブしていたのも最初だけ。
勝負を競うゲームとあれば、知らずと全力で戦わざるを得ない。
- 114 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時47分27秒
- そして、何よりもこの一方的な展開。
汗びっしょりになって、ハァハァと息を切らせているのは自分の方。
相手は憎らしいほどに落ち着いていて、汗なんか額にうっすらとにじむ程度だ。
男の子みたいなオーバーオールにベースボールキャップ。
マークはこの頃お気に入りのマーリンズ。
マリーンズじゃないんだぞ、マーリンズだマーリンズ!
と舌を丸めて発音するのが、また最近の口癖だ。
今、里沙の眼前にたちはだかる巨体の頭上で誇らしげに
自慢の鼻を突き出すマカジキの絵柄が憎らしい。
- 115 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時48分06秒
- 「新垣くん、君の弱点を教えてあげよう。」
「じ、弱点…っすか…?」
まだ息の荒い里沙に対し、余裕しゃくしゃくで自分の弱点とやらを語る
相手の目は涼しげな光をたたえている。
「単刀直入に言おう、君の弱点はシュートレンジの狭さだ。」
ガビーン…
言われた、やっぱり…
気にしてたのに…
- 116 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時48分47秒
- 「だいたい君はペナルティエリアの中でしか動かないだろ、コート半面
目一杯使ってスリーポイントなんかを決められたら、今頃は私の方が
汗だくになってたね。」
わかってるけどロングシュート、いやミドルシュートさえ里沙は苦手だ。
背の低い自分には、そのような戦術が不可欠であることはわかっていた。
だが、相手をドリブルやフェイントでかわしてしかけるショートレンジ
からのシュートが里沙は得意だった。
- 117 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時49分51秒
- だが、その攻撃は相手の意外な機敏さによりことごとく跳ね返される。
得意のスカイフック(里沙の認識によれば)も跳躍の早い段階から
チェックされては、精度が下がる。
要するに相手は円の中心から動かずにヒポットで半円上を動く里沙を牽制。
ほとんど動いていないのだから、
その涼しげな態度との彼我の差は歴然だった。
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時52分04秒
- 「よ、吉澤さん…でも、少しは動いた方が健康に…」
はぁはぁ言いながら尚も言い返す里沙は相当に悔しい。
それにしても、何でこの人はこんなに…
「機敏に動けるのかと思ってるね。」
げっ、何でわかんのよ…?
「ふっ、それくらいお見通しさベイベェ。」
相変わらず芝居がかった言い方だが、それが似合ってるだけにまた憎らしい。
「見かけに惑わされちゃいけないよ。」
えっ、それってなんか…
「真実は外見に惑わされていては見えないものさ…」
でも…
「吉澤さん…」
「なんだい?」
- 119 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時53分37秒
- 一瞬の静寂が夏のコートに深く黒い影を落とす。
吉澤の白い肌と影の黒さのコントラストが目に痛い。
「でもねやっぱり…」
言っていいかな…
躊躇いの視線は黒い影の輪郭をなぞる。
「わたし、やっぱり…」
いいよね…
「スマートな吉澤さんの方が好きです!」
「…」
- 120 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時54分18秒
- ジィー、ジィー…
蝉の鳴き声が静かさに染み入る。
静寂は冷たい汗のしずくと化し、額から頬を伝いこぼれ落ちた。
ポツン…
コートに記された点々とした痕跡、
それは忘れ得ぬこの夏の記憶…
「新垣、カッケー!」
へっ…吉澤さん…
「正直者は三文の得!」
そ、それは早起きでは…
「新垣!」
「ハ、ハイ…」
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時54分51秒
- 暑い…
日差しがじりじりと里沙の肌を焼く。
「夏だな…」
そう言い置いて立ち去った吉澤の後姿は颯爽として確信に充ち、
少し横に広がるシルエットの不確かさを微塵も感じさせなかった。
里沙は思う。
カッケー…
- 122 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時56分12秒
- 額から流れ落ちる汗のしずくがキラリと光った。
蝉は相変わらず刹那の声を張り上げる。
今、この時を生きる懸命さが物憂げに響く。
里沙、中二の夏。
懸命に生きる者達の鼓動が熱く鳴り響く夏。
- 123 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)02時56分56秒
- 今日の更新終了です。
- 124 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月18日(木)00時10分39秒
- よしこカッケー
そしてニイニイ可愛過ぎです(w
短編集もあったしそろそろニイニイの時代が来る予感(え、来ない?)
- 125 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月27日(土)15時52分37秒
- 最近、この小説の影響で新垣が好きになりかけてます。
更新頑張って下さい。
- 126 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時24分47秒
- ◇◇◇
最近、視線を感じる。
気付くと背後から…
振り向くとサッと影を潜めるその人は…
「新垣ちゃん、また見てたよ…後藤さん…」
高橋も気付いていたようだ。
「あんた、なんかしたの?」
「謝った方がいいよ、後藤さん、恐いから…」
小川と紺野はいつもの通り言いたい放題。
失礼な…
いくらわたしだって、そこまで恐いものしらずでは…
あ、これは、後藤さんに失礼…
でも…
「なにかしたのかな…わたし?」
本気で考え込む里沙の姿に顔を見合わせる三人。
そして、口の端をつり上げニヤッと微笑む小川。
「っていうか、あんたの場合、存在自体が失礼だし。」
「マコちゃん、あんまりホントのこと言ったら新垣ちゃんが可哀想。」
ったく、この連中は…
頼みの綱の愛ちゃんは…
「新垣ちゃん、本当に心当たりないの?」
あちゃ…愛ちゃんまで…
- 127 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時25分26秒
- 「んん、残念ながら…」
「そうだよねぇ、後藤さんの御機嫌損ねるようなことしたら、
今頃この業界で生きてられないもんねぇ。」
あさ美ちゃんも最近、マコっちゃんの影響からか結構、毒舌。
「そりゃ、まったく残念だ。」
もう、マコっちゃんたら!
里沙が言い返そうと口を開きかけると、小川が真顔で続けた。
「でもさ、なんでいつも新垣のこと見てるの気になるよね。」
気勢を削がれた里沙はちょっと弱気に。
「知らないうちに御機嫌損ねてたかもしれない…」
他のメンバーはいざ知らず。
ことが後藤だけに里沙も真剣に考えざるを得ない。
よし…
「やっぱり、本人に聞いてみよう。」
「そうだ、その意気だ!」
「当たって砕けましょう!」
いや…だから悪いことしたわけじゃないんだって…
- 128 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時26分31秒
- 結局、その場は里沙が後藤に直接聞いてみることで話しはまとまった。
それにしてもどう切り出したものか、難しい問題ではあった。
それほど、後藤はある種、雲の上の人、
というか近寄り難い雰囲気を未だに与えていた。
娘。の先輩メンバーの中でも、あらゆる面でで突出した存在であるがゆえの
アンタッチャブルな雰囲気。
これがいわゆるオーラというやつかな、と里沙は漠然と考える。
別に恐いってわけじゃないんだけど…
なにかきっかけがあるといいんだけどな…
- 129 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時27分20秒
- だがそのきっかけは意外と早く、それも向こうの方から訪れた。
いつもより早く楽屋に到着した里沙は、まだメンバーの集まらない静かなうちに
夏休みの宿題を片付けようと机の上に教材を広げていた。
就学児童あるいは生徒が芸能活動を円滑に進める上で学校の協力は
絶対に欠かせない。
そのための心象を良く保つためにも学校から課された課題は必ず期日までに
提出する必要があった。
そこのところをかなり甘く見ていた(ように里沙には思えた)小川は、
たまたま厳しく出席を課す学校に転籍してしまったこともあり、レギュラー番組への
出演機会を減らされる羽目に陥っている。
- 130 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時27分55秒
- それにしても…
「英語わかんないなぁ…」
ミニモニに入ってたらミカちゃんに教えてもらえたのに…
実は矢口辺りが学力的な実力が一番高いのではないかと
里沙はにらんでいるのだが、今や娘。で最も忙しいメンバーの一人だ。
おいそれと勉強を教わるわけにもいかない。
そして最近、英語に凝ってるあの人は…
「圭ちゃんの英語は怪しいしね。」
ビクッとして振り向くと後藤が笑顔で覗き込んでいた。
「ご、ごとーさん…」
正直、里沙は戸惑った。
ごとーさん相手に何をしゃべればいいだろう…
緊張で喉が乾く。
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時28分47秒
- 「なに?宿題?」
さすがに見ればわかるだろ、とも言えない。
マコっちゃんならともかく。
「ハ、ハイ、夏休みのですね、え、えーと、しゅ、宿題です…」
自分でもおかしくなるくらい絵に描いたような狼狽。
後藤は、ふっと寂びしそうに笑った。
「新垣ちゃん…」
キ、キターっ!!
ど、どど、どうしよぉ!!
その声は深く里沙の体全体に響いた。
里沙の記憶に拠れば、それは女声でも一番低いコントラルトの音域にかかる
渋い響きだった。
「ゴトーもね、入ったばっかのときは、夏でね、宿題、一人でやってたよ。」
いや、わたしも、もう一年近く経つんですが…
という言葉を決して、けっして吐けるはずもなく、代わりに出た言葉。
「後藤さんが入ったのって、今のわたしと同じ、中二だったんですよね。」
- 132 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時30分31秒
- 「そう、新垣ちゃんと同じ年だったけど、ゴトーは老けてたからねぇ…」
そうですね、とも言えず曖昧に微笑む里沙。
後藤は優しく告げる。
「なんか、しっかりしてるぅ、とか言われてぇ。」
うんうん、と心の中で里沙はうなずく。
「みんな、あんまり構ってくんなくってさ…」
パリン…
里沙の中で何かが音を立てて割れたような気がした。
あれ…ごとーさんって…
「寂しくてさ…かといって声かけるのも恥ずかしかったし寝た振りばっかしてごまかしてた…」
それって、ごとーさん…
「大物だとか言われちゃってねぇ…ふふっ、小心者で先輩と話すのが恐かったなんて、
今更言えないしね。」
そう言って目くばせするごとーさんは、とてもチャーミングだ。
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時31分20秒
- 里沙は後藤の意図がわかって、なんだかとても嬉しいような悲しいような
不思議な気持ちを覚えた。
「わ、わたし、ごとーさんが怖いだなんて思ってないですよ…」
思わず口をついて出た言葉に我ながら驚いたが、嘘から出た誠というか。
本当に怖くはなくなっていた。
どころか、随分と親しみが湧いてきてさえいる。
「うん、ゴトーもね、もっと話しかけるようにするよ…ね。」
里沙の肩に置かれた手の温もりが冷房で冷えた体に心地よかった。
なぁんだ…
ごとーさんも話すきっかけを探してたのかなぁ…
それじゃ、さっそく…
「ごとーさん、英語の宿題なんですけど…」
「ん?」
「一学期のおさらいなんですけど、最近、また急に難しくなったんですよね。」
「…」
後藤はしばらく目を細めて宙を見つめていたかと思うと、
やおら真顔になって告げた。
- 134 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時32分02秒
- 「新垣ちゃん…」
「ハ、ハイ…」
里沙は今度こそ身構えた。
く、くる…?
「人間には得手不得手というものがあってねぇ…」
「ハ、ハイ…?」
え、ごとーさん、ひょっとして?
「アヤカのチャイニーズカフェに行けばきっと良いことが起こるであろう…」
そう、聞こえた声は既に遠くから響いていた。
神の宣託を落して、後藤は消えた。
ごとーさん…
いい人かもしれない…
里沙は後藤と話せたこと自体もちろん、
自分に加入当時の悩みを吐露してくれたという
その事実が嬉しかった。
これはつかえる…
きっと、つかえる…
そう自分を鼓舞して、眼前に広がる夏休みの宿題に再び目を落すと、
里沙はさっそく問題に取り掛かった。
- 135 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時32分49秒
- しばらくして、気づくといつものメンバーが揃っている。
「おうっ新垣、夏休みの宿題かぁっ、真面目だなぁ!」
「マコっちゃんは宿題ないの?」
「あるけど、まだ夏休み入ったばっかだしなぁ。」
フフフ…
その余裕が命取りだよ…
「何、ニヤニヤしてんだよぅ。」
「いや…宿題は早めに片付けた方がいいと思うよ。」
自分でも知らず知らずのうちについ、にやけているらしい。
「って、ごとーさんも言ってたし。」
「えっ、後藤さんとしゃべったのか、お前?」
「なに、新垣ちゃん、後藤さんとしゃべったの?」
「…」
マコっちゃんも愛ちゃんもびっくり。
あさ美ちゃんは口をパクパクして驚いてるし…
- 136 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時34分37秒
- 「ごとーさんが怖いなんてひとっことも言ってないから安心してね…」
三人は恐る恐る周囲を窺って後藤がいないことを確認すると、
里沙に食って掛かった。
「お前、下手なこと言ったら承知しないからな…」
「そうですよ、後藤さんはつんくさんを凌ぐ影の実力者と言われてるんですから。」
「ひってぇ、怖いもんしらずやなぁ、自分は…」
里沙は三人の狼狽の仕方が可笑しくて、またもやにやけてしまった。
フフフ…
もう、三人とも子供なんだから…
後藤に対する誤解を解いてもよいのだが、里沙はこのまま、
しばらく置いていてもよいかな、と思った。
なにしろ、つんくを凌ぐ影の実力者説まで飛び出すほどの想像力だもの。
里沙が後藤としゃべっている姿を見せる楽しみは取っておこう。
そう考えた里沙の目は三日月形に湾曲して、またもや新垣仮面の悪名を
ごくごく内輪に轟かせるのであった。
- 137 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)05時43分10秒
- 今日の更新終了です。
遅くなって申し訳ありません(汗
このまま、マターリでいこうか話を動かそうか、ちょっと考えてたものですから。
>124名無し読者さん
短編集(だいぶ前の話ですね…すみません…)ニイニイ、大活躍で(w
昨日、ハロプロ夏コン行ってきましたが、ニイニイへの声援も多くて安心しました。
ニイニイの時代…来そうな予感がします(w
>125名無し読者さん
ニイニイ、しっかりしてそうでお子ちゃまなとこが魅力です。
その辺をうまく書ければいいんですが…
- 138 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月29日(月)23時53分38秒
- ◇◇◇
「ねぇ、里沙。」
「なぁに、ママ?」
久しぶりに親子揃っての夕食。
突然、真顔になって尋ねる母親に里沙は顔を向けた。
「辛かったら辞めてもいいのよ…」
「えっ?全然辛くなんかないよ。平気だよ。」
「そう…でも、最近、なんだか疲れてるみたいだから…」
それは当たっていた。
さすがに母親だ。よく観察している。
ここのところ、土日はコンサートツアー、
平日は学校が終わればそのまま番組収録。
合間に雑誌のインタビューやダンスや歌のレッスン
と息をつく暇もない忙しさ。
メンバー最年少という若さを武器に頑張ってはいるものの、
さすがにここのところ疲労が顔に浮かんでいるのは隠せない。
- 139 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月29日(月)23時54分54秒
- 「でもね、先輩メンバーなんか、凄いよ。」
牛乳の入ったグラスを傾け、ゴクっと喉を鳴らすと里沙は続けた。
「特に矢口さんなんかわたしよりちっちゃいのに夜も仕事して
元気いっぱいだし。」
母親が信頼してるのを見越して里沙は矢口に話しを向ける。
同じ横浜出身だということもあるが、その処世術が見事だという。
ことあるごとに、着いて行くなら矢口さんだよ…
と繰り返す母親だけに、今も真剣に聞いている。
- 140 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月29日(月)23時55分27秒
- 「なんか、こう体力の蓄え方とか、うまく体を休める方法とか、
長くやってると自然に身に付くんだって。」
「ふぅん…でも、同じくらい忙しいのに高橋さんとか紺野さんは
里沙よりたくさんTVに映ってるでしょ?」
あちゃ…そっちの話しか…
「紺野さんなんて、ミュージカルでは準主役くらいの扱いなのに…」
親であれば自分の子供が一番可愛いと思うのは人情。
それはしかたがないとしても…
- 141 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月29日(月)23時56分13秒
- 「で、でもさ、TIN TIN TOWNなんか、わたしモデルの役なんだよ!」
その話題には相好を崩す母親。
なにしろ娘をモデルにしたくて、
早くから事務所に入れて活動させていたくらいだ。
そして、TIN TIN TOWNの里沙は母親も大のお気に入り。
小さい子を相手にファッション指導する里沙が「おませさん」
に見えて楽しいのだそうだ。
自分としては十分に大人だと思っているだけに
複雑な気持ちではあるが。
- 142 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月29日(月)23時57分21秒
- いずれにしても、母親が気に入っているのなら、
あえて水をさすこともない。
「あれは、里沙らしくてママも好きよ。」
はぁ…そうでしょうねぇ…
「それにしても里沙の出番が少ないのは納得いかないわ。」
あちゃ…だめか…
「機会均等!門戸解放!事務所に訴えてやろうかしら…」
「た、頼むから、それだけは止めて…」
「なによ、今どきモンロー主義は流行んないのよ!」
まったく…帝国主義の時代じゃないんだから…
本当に抗議しかねないところが、この人の恐いところだ。
- 143 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月29日(月)23時58分13秒
- 「だって、それじゃ何のためにモデルになるための貴重な時間を削ってまで
モーニング娘。に入ってあげたのかわかんないじゃない。」
入ってあげた…
ああ、他のメンバーのファンに聞かれたら殺されそう…
「いや、それは保田さんとか、先輩たちも一度は通った道だからさ…」
とにかく頼むから…と里沙はもう一度繰り返す。
- 144 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月29日(月)23時59分13秒
- 「頼むから事務所に言うのは止めてね、ほら、そういうこと言うと
逆効果で余計に出番減らされるかもしれないし…」
「そう…?それじゃあ、しかたないけど…」
あぁ、びっくりしたぁ…
里沙はホッとした。
咄嗟の出来事としては我ながら、うまい具合に丸め込むことができた。
まったく、親バカなんだから…
だが迷惑な一面、自分の娘に絶対の自信をもって日本一可愛い、
と豪語してくれる母親が里沙は大好きだった。
- 145 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月30日(火)00時00分17秒
- コネだなんだと周囲の雑音は確かに気になるけれど、
それでも自信を失わずにいられるのは母のおかげだと思う。
多分、この物事に動じない性格が自分の武器であり、
同時に短所であるのかもしれない。
いつかくるチャンスを待って、そのときに花咲けるよう、
今は与えられた仕事をせいいっぱいこなすしかない。
だからね…ママ…
- 146 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月30日(火)00時02分14秒
- 「それにしても13人は多いわよねぇ…」
「そういうこと、ぜぇったい!言わないでよ!」
新垣家の夕方は賑やかに暮れゆく。
よくある親子の小夜曲(セレナーデ)
いつか懐かしく思い出すこともあるだろう…
あの頃は人気なかったもんねぇ…
そうだね、ママ…アハハ…
よくある親子が見る夢は、ささやかながらも愛の咲く夢…
- 147 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月30日(火)00時03分06秒
- 短いですが、今日の更新終了です。
- 148 名前:名無し娘。 投稿日:2002年07月30日(火)23時43分00秒
- (0^〜^)新垣・・・苦労するな・・・
- 149 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月31日(水)00時03分57秒
- ◇◇◇
小川がまた沈んでいた。
控え室の冷たいスチール製の机につっぷして顔を覆うその姿は
悲嘆に暮れ、周りの空気をも暗鬱な色に染め変えていた。
一切の慰めや気遣いを躊躇させるほどの隔絶した気配を放つ
その後ろ姿に、里沙はいたたまれないものを感じた。
自分にできることはせいぜい、側にいてあげることくらいだ。
それが、どれほどの効果もあげることもできないとしても。
- 150 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月31日(水)00時04分51秒
- ここのところ、保田に焼肉に連れていってもらった手前、
メンバーの前では努めて明るく振る舞おうとしていた。
それだけに一層、自分には見せるその落差が痛ましい。
今日のゲームは久しぶりに張りきっていたのに…
里沙は小道具さんに恨みごとのひとつも言いたかった。
小川は人一倍責任感の強い子だ。
自分のせいで負けてしまったことで、つい、心の緊張が解けたのだろう。
先輩メンバーの前で泣き顔を見せたことがまた、つらいようだ。
それはプレッシャーに負けたことを露呈したと同じだから…
- 151 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月31日(水)00時05分36秒
- 「マコっちゃん…」
「…」
うつろな目が捉えているのは里沙の顔?
それとも…
「マコっちゃん!」
大きな呼び声に振り向いた。
加護だった。
「気にすることないよ。ゲームだもん、しょうがないじゃん!」
妙なイントネーションの東京弁(加護は決して標準語と言わなかった)で
慰めているらしい、その黒目がちな瞳はしっとりと湿り気を帯びる。
- 152 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月31日(水)00時06分35秒
- 「加護さん…残念でしたね。」
「しょうがないよ、マコっちゃんのせいじゃないからね。」
そう言って小川の側につつっと寄ると、加護は後ろから覆い被さって、
ギュっと肩を抱き締めた。
加護さん…
里沙はその様子を驚いて眺めていた。
ず、随分、積極的ですね…
「おばちゃんのやつ、ホントに大人げないんだから…」
「…」
小声でささやく加護の声にも小川は反応しない。
端からそんなことは期待していないかのように、加護は続ける。
「里田さんは…まぁ、しゃぁないけど…」
- 153 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月31日(水)00時07分18秒
- 突然、ガタン、と大きな音をたてて小川が腰を上げた。
加護は振り降ろされて、その後ろ姿を呆けたように見つめている。
「みんな…」
焦点の合わぬまま虚空を見つめるその瞳は涙をたたえていた。
「みんな、バカにしやがって…ダイッキライだ!」
そう言い放ち、控え室の扉を勢い良く開けて、その空間にさっと体を
滑り込ませると、バン!と大きな音を残し、廊下を駆けていった。
- 154 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月31日(水)00時08分04秒
- タタ、タタ、タタ、という規則的な駆け足の音が響くのを確認して、
加護が里沙に告げた。
「新垣ちゃん…おかしいと思わない?」
「何がですか?」
あっけにとられて固まっていた里沙は、加護の言葉で
ようやく現実に立ち戻った。
「いくらマコっちゃんがどんくさい、っていっても
あれだけ鍵を開ける数で差がつくのは…」
加護の黒目がちな瞳の奥がキラっと光った。
「何者かが操作したとしか思えない…」
「えっ?」
里沙は言葉を失った。
- 155 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月31日(水)00時12分04秒
- 短いですが、今日の更新終了です。
>148名無し娘。さん
レスありがとうございます。
新垣ママって大変、魅力的な方ではないかと想像してます。
実はニィニィよりも新垣ママが書きたかったりして(w
- 156 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)01時48分53秒
- ◇◇◇
「ほらぁっ、キティちゃんのミニモニバージョン!かっわいいぃ!」
「きゃぁっ、すりすりしたぁいっ!」
歓声をあげて飛び込んできたガキんちょ二人…
…もとい、加護と里沙。
「ほらっ、ここがいいよ、ここ。」
「うわぁつ、加護さん、ナイスですねぇ、ここならバッチリですよぉ。」
せわしなく、ここがいい、そこはどうだと会議中の事務所スタッフを横目に
件のぬいぐるみをモニター用のTVの上に置くと、二人は嵐のように去っていった。
机を囲んでいた大人たちは一瞬、呆然と見送ったものの、
何事もなかったように会議を続ける。
ただ一人、険しい表情で二人の後をにらみつけていた男一人を除いては。
- 157 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)01時50分09秒
- 「わかった…?」
「ハイ、あの目つきの悪い人ですよね。チーフマネージャって。」
二人は楽屋に戻ると早速、先程、会議室を敵前視察して集めた情報を確認する。
「前からね…あいつが怪しいって、にらんでたの…」
「でも、どうして怪しいとおもったんですか?」
里沙には不思議でならなかった。
小川と一緒にいる時間はむしろ自分の方が長かったのに…
「カメラ割とか、全部あいつが決めてんだよ。」
「じゃ、マコっちゃんの映る回数が少ないのって、あの人の指示なんですか?」
「うん。」
だが、なんのために?
加護は、そこまで掴んでいるのだろうか。
「ゲームの件もそうなんですか?」
「多分ね…」
- 158 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)01時51分13秒
- その件については加護の歯切れも悪い。
こちらは確証がないのだろう。
それにしても…
「なぜ、あの人が?」
「それは後でわかるよ。」
そうだ…
まずは、あれがうまくいくことを期待しよう…
ともかく、里沙は加護のバイタリティというか
その実行力に圧倒されていた。
自分だけではとてもこのように動くことはできなかっただろう。
不思議なものだ…
自分が加護と行動をともにするようになるとは…
里沙は昨日からのめまぐるしい出来事を振り返った。
- 159 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)01時54分06秒
- ◇◇◇
世の中が善意だけで成立っているわけでないことは、
自分の境遇に照らしてみて
十分に理解しているつもりではあった。
だが、自分でさえ、未だそのようなむき出しの悪意を
実感したことはないだけに、
そのようなことを平然と行える輩が存在することを
すぐには信じ難い。
「考え過ぎじゃないですか?」
「鍵のことだけじゃないよ…」
「えっ…」
里沙は段々、不安が募ってくるのを感じた。
そういえば、あれっと思ったことがないでもない。
たとえば…
「こないだのHEY HEY HEYのときの並び、覚えてる?」
うなずく里沙。
加護は目で了解したことを示し続ける。
- 160 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)01時54分44秒
- 「自分らの中でマコっちゃんだけが後列、しかもオンエアでは
切られることの多い左端…」
里沙は緊張がじわじわと湧きあがってくるのを感じた。
「新曲のカメラワークでもな、TV東京はマコっちゃんをほとんど映してない。
普通に撮ればなっちとごっちんの間から見えるように、夏先生がちゃんと
位置決めしてくれたのに…」
カメラワークは今に始まったことではなかった。
そもそもハローモーニングのコーナーでも小川の出番がカットされていた
ことは暗黙の了解事項となっている。
メンバー間で決して口にすることはないが…
- 161 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)01時55分29秒
- 今や考えるだに不快な妄想が里沙の小さな頭を支配するのを
抑える術はなさそうだった。
「誰かが…」
加護が苦しそうに声を絞る。
「マコっちゃんを辞めさせようとしてる…」
「……」
里沙は沈黙するしかなかった。
加護はここ数日、そのことばかり考えていたものか、
顔色が冴えない。
「でも、なんで…」
沈黙に耐えかねた里沙が思わずこぼした言葉に加護がす
かさず返答する。
「話題つくりや…」
「話題だなんて…そんな…」
すでに話は里沙の理解の範疇を超えているようだった。
- 162 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)01時57分22秒
- 加護が不快げに顔をしかめ、吐き捨てるように言った。
「最近、落ち目って言われてるんだよ、うちら…」
「なんとなく聞いてはいますけど…」
だが、本当に落ち目だとは思っていなかった。
相変わらずTVのレギュラーは多いし、コンサートには大勢の人が集まる。
どこをとっても落ち目のグループの兆項は見当たらなかったのだから。
「CDの売上、落ちてるんだ…あと…」
里沙は不安げに加護の表情をうかがう。
だが、能面のように固くこわばったその顔面からは
加護の内面までは知る由もない。
- 163 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)02時00分24秒
- 「TVの瞬間視聴率も落ちて来てる…
…ま、両方とも今に始まったことじゃないけど。」
「それで…」
里沙の言葉を継ぐようにうなずく加護。
「そう、事務所は話題を欲しがってる…中澤さんが辞めたとき以来、
メンバー減ってないからね。」
「私たちの加入がありますよ?」
少し不満気に言い募る里沙に向かい、加護が優しく諭すように告げる。
「加入はね、イベントを盛り上げにくいんだよ…」
「?」
首を傾げる里沙に微笑みながら、加護は続ける。
- 164 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)02時01分04秒
- 「欲しかった服がありります。後何日かするとお店は返品しちゃいます。
でも、もう後何日かすると今度は新しい服を入荷します。
新垣ちゃんだったら、どっちに飛びつく?」
「えっ…?」
難しい質問だった。
自分なら新しいのも見てみたい気もするが、
でも返品される服がすごく欲しいものだったら…
- 165 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)02時01分37秒
- 「新しい服は当分、返品されないことはわかっています、さぁ、どうする?」
意地の悪い質問だと思った。
暗に自分たちの事を指していることはわかる。
だが…
「やっぱり返品されちゃう服が欲しくなるかもしれませんね。」
多分、そういうことなのだろう。
加護の説明は絶妙だった。
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月01日(木)02時03分14秒
- 今日の分、更新終了です。
こんなときですが…
わたしにできるのは書くことくらいなので…
- 167 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時06分24秒
- うなずく加護に里沙は問う。
「でも、それなら、なぜ私じゃなくてマコっちゃんが…」
標的になるの…
その言葉を呑み込んで里沙は思った。
あの噂か…
自分の加入にまつわる黒い噂…
自分の出演していた玩具会社のCMがよりによって
LOVEオーディションの合間にオンエアされたこと。
そのために一気に広がった黒い噂。
新垣はコネで加入した…
- 168 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時07分25秒
- 「そんなコネクションなんてないのに…」
スポンサー絡みだと辞めさせるわけにはいかないとの判断か。
それはそれで、また悲しくもある。
犯人は事務所の幹部ではないのかもしれない。
社長、会長ともに自分にコネなどないことは良く知っているはずだから。
里沙の心の痛みを察してか、加護が里沙の肩に腕を回した。
「わかってるよ…そんなのないってこと…」
そしてギュっと肩にかけた掌に力を込める。
「どっちにしても許せないよ…そんな陰湿なやり方…」
- 169 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時09分38秒
- イタ、イタタタ…
加護さん、イタいです…
肩を握る力に熱がこもっていた。
怒ってるんだ、本当に…
「見つけ出してとっちめてやるんだから。」
それにしても里沙には不思議でならなかった。
なぜ加護がここまで小川のことでむきになるのかが。
「でも、社長の意図だったりしたらどうするんですか?」
先輩メンバーであれば口に出すのも憚られるような言葉が
里沙の口からはスルスルと出てくる。
もちろん、本気で言っているわけではないのだが。
「社長だったら?」
加護は眉をひそめて考える。
冗談、ではなくその筋も疑っているようだ。
「マコっちゃんが辞めるなら、わたしも辞めるよ…」
その言葉に里沙は驚いた。
なぜ、そこまで…
- 170 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時11分56秒
- 確かに加護は他の先輩メンバーよりは自分たち
新加入メンバーと親しくしてくれている。
ただ、それでもやはり、自分と加護の間には大きな溝が
横たわっていることを折りに触れて感じざるを得ない。
ただ、シャッフルを期に加護と小川が急速に接近していた
のは確かである。
それにしても、加護の憤りが里沙にはわからない。
「だって、うちら仲間じゃん…せっかく、中学生チームできたのに…
せっかく、仲良くなれたのに…」
加護の責めるような視線が里沙には痛い。
「新垣ちゃんは悔しくないの?」
もちろん里沙だって、そんなことが本当に行われているのなら
ば悔しいし、許せないと思っている。
だが…
「なんだか信じられなくて…」
- 171 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時13分53秒
- そう、里沙には信じられなかったのだ。
メンバーを脱退に負い込むめに大人がそんな陰湿な
仕掛けを仕組むとは…
だって、それでは子供のいじめと変わらない。
「辞めさせたいなら、本人に直接伝えるんじゃないですか?」
加護の目が光る。
「契約があるから…事務所から切り出すと、契約違反で
違約金を払わないといけない。」
里沙はハッとした。
「本気で辞めさせたいメンバーがいるなら、なんとか自分から
辞めるように仕向けるはずだよ。」
それじゃ…ホントに…
- 172 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時14分45秒
- 「マコっちゃん、それに気付いて…」
「多分…」
加護の力なくうなだれた姿を前に、里沙は暗湛たる思いにとらわれた。
「わたし、頑張ります…マコっちゃん、辞めなくて済むように…」
「うん…私もそうする…」
里沙は少しだけほっとした。
「けどね…」
だが、加護の表情が険しさを留めているのを確認し、再び気を張り詰める。
「私は探し出すよ。探し出してマコっちゃんに謝らせるんだ。」
里沙は不謹慎なようだが、ちょっぴり羨しかった。
自分がこのような仕打ちを受けたとき、果たして誰が
本気で憤ってくれるか…
- 173 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時17分19秒
- 考えてみれば自分には娘。の中で真に友人と呼べる仲間がいない。
5期メンバーは、加入後しばらく一緒にいることが多かったせいか、
打ち解けるのも早かった。
だからといってすぐに親友になれたか、というと、
そういうわけでもない。
里沙が最年少で同じ学年の仲間がいないこともある。
「新垣ちゃん、手伝ってくれるよね…」
打ちひしがれ、うなだれていた里沙の肩に再び、加護が腕をかける。
「いいんですか…わたしで?」
「もちろんだよ!」
加護は小さい目を一杯に広げて里沙を励ます。
「いい?これは二人だけの秘密だからね!」
「ハイ…」
「そうと決まったら早速、行動だよ。」
- 174 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時19分03秒
- 加護には何か思惑があるようだ。
とりあえず着いていこう…
一人で悩むよりも体を動かしていた方がまだしも気が紛れる。
「じゃぁね、今日の収録終わったら…」
加護が新垣の耳に口を寄せて何事かささやく。
うんうん、とうなずく里沙。
「えっ、でも高いんじゃないですか?」
「うちは高額納税者やでぇ、ちみぃ、銭やったら、まかしてんか。」
お金の話になるとコテコテの関西弁に戻るところが加護らしかった。
「じゃぁ、収録終わったら、早速…」
二人は互いの目を見つめ、小さくうなずき合った。
- 175 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)00時20分00秒
- 今日の分、更新終了です。
- 176 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)01時39分07秒
- ◇◇◇
『で…あいつの様子はどうなんだ…』
『…かなり参ってます…そろそろ引導を渡してあげるわけには
いかないんですか?』
ざわざわとしたノイズに混じって、ときおりカタン、という音が
大きく響き、会話を聞き取りにくくする。
小川の担当マネージャの弱々しい口調は、加護の推測が
事実であることを如実に示していた。
「やっぱりな…」
キティちゃんに仕込んだマイクロIC新垣ちゃん1号(加護命名)は、
事務所の娘。スタッフ会議の記録を生々しく再生していた。
『我々から持ちかけたという形跡を残してはならない。これは大原則だ。』
『それにしても、あの仕打ちは…』
ひどい…とは口に出せないのだろうがニュアンスは伝わってきた。
『いいか、これは彼女のためでもあるんだ。そこを勘違いするな。』
『…』
『才能のないものが芸能界で辿る末路を知らないわけではあるまい…』
そこでチーフも言葉を切った。
- 177 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)01時39分54秒
「マコっちゃんは才能あるよ!なに言ってんの、こいつ?!」
激昂する里沙をなだめるように、しぃ、と唇に人差し指を当てて
会議の進行に耳を澄ます加護。
『今のアイドルに求められているのは歌唱力でもダンスの技術でもない。』
『…』
乾いたノイズだけがサーッという耳障りな音をたてる。
出席したマネージャたちの沈黙している様が目に浮かぶようだ。
『いいか、求められているのはキャラクタだ。
いじって遊べるキャラクタなんだ。』
心なしかチーフの話す声のトーンも幾分か沈んだものに聞こえる。
里沙も加護もその声に聞き入る。
『小川には一年与えた…だが、結果は出なかった、そういうことだ…』
『でも、保田だって前に出てくるまで2年はかかりましたよ。』
保田のマネージャだ。
彼女は小川とも仲が良い。
- 178 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)01時41分06秒
- 『いいか…モーニング娘。はもう、あの頃に戻れないんだ…
期待されているのは結果だ…
努力の過程を見せることで受けた時代はもう終わったんだ。』
加護の横顔を覗くと唇を噛み締めたまま、チーフの声に集中している。
『TVの視聴率は番組のスポンサ獲得に直結する。
おもしろくなければ即刻打ちきりだ。』
モー大変でした…
確かに視聴率は恐い。
チーフの言葉は現実の重みをずっしりと感じさせた。
加護はひたすら再生音に集中している。
『歌に関しても、今、安倍と後藤以外につんくは期待していない。
保田や矢口でさえ、そうだ。5期メンバーに何を期待すると思う?』
『…』
何も期待されていない…
そんなバカな…
里沙の気持ちなどに頓着せずチーフの声がさらに心を切り裂いていく。
- 179 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)01時42分12秒
- 『それに…これはメンバーからの提案でもある。』
「な!」
『なんですって!』
録音の声と二人の声が重なった。
これにはマネージャたちも驚いたらしい。
当事者である里沙と加護にとっては驚きどころの話ではない。
加護の顔面が蒼白になっているのに気付いたのは、
長い沈黙に耐えかねて横を向いたときだった。
加護さんも…ショックなんだ…
里沙はこれ以上、聞くのが辛かったが、
かといって逃げ出すわけにもいかず、ひたすら耐え続けた。
誰がそんなひどいことを…
いや、それ以前に仲間を売るようなまねをする人がいるなんて…
里沙には信じられなかった。
『いったい誰なんですか?!そんなひどいことを提案するなんて?』
『まったくだわ、切磋琢磨するのはいいことだけど、
人を蹴落とすような真似を教えた覚えないわよ!』
マネージャ陣は騒然としている。
- 180 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)01時42分50秒
- 『そういうな、彼女も辛いんだ。小川のことは可愛がっていたんだからな…』
チーフの声は沈んでいた。
その重々しさに再び沈黙が場を支配する。
かばっている…
誰なの…
『チーフ、いったい誰なんですか?自分の担当してる子だったら、
私、切れそうです!』
『それは…』
幸いに…というべきか…
残念なことに…というべきか…
再生はそこで途切れた。
名指しされたメンバーは誰なのだろうか?
- 181 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)01時43分45秒
- 「加護さん…」
半分泣き声で加護に問いかけようと振り向くと、加護はICレコーダを
手に握り締めて、すっくと立ちあがった。
「探しにいこう…」
加護の肩は怒りで震えていた。
「見つけて…問い糾す…返答によっては…」
加護さん…
「ほんまに辞めたる…」
「わたしも一緒ですよ!」
加護はわかっている、というように鷹揚にうなずいた。
「さぁ、いくで!」
「ハイ!」
二人は勢い良く控え室を飛び出した。
- 182 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)01時46分40秒
- 今日の分、更新終了です。
- 183 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月06日(火)21時56分51秒
- 例の件で2ちゃんでは五鬼氏ねコネ餓鬼氏ねの嵐…
彼女立ちは何にも悪くないのにね…
こっち(小説)でもくそ事務所が活動しているようで(ニガワラ
ガンガッテ下さい。応援しています。
- 184 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)10時52分14秒
- ◇◇◇
Lovely Risa, meter maid〜♪
Nothing can come between us♪
ラブリー里沙、メーターメイド♪
可愛い里沙、メーターメイド♪
私たちを裂くものなんて何もないわ♪
加護と里沙の二人は先輩メンバーの控え室から
聞こえてくる声に気付き足を止めた。
鼻歌をくちずさんでいる声は…
「おばちゃん、だね…」
加護が断じた。
メロディがふいにとだえ、保田が誰かに話しかける。
「あたしさ、『メーターメイド』って『1mくらいの』っていう
意味だと思ってたんだけど…」
「うん。」
「アメリカで駐車場の料金係の女の子のことを言うんだってね。」
「へぇ〜、圭ちゃん物知りじゃん。」
矢口だった。
- 185 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)10時53分29秒
- 「いや、1mくらいのちっちゃい、可愛い里沙、とかいう歌詞なら、
新垣にぴったりだと思ってたんだけどな。」
「駐車場の料金係ってのも可愛いじゃん。」
「ま、そうなんだけどね…」
矢口は『メーターメイド』よりもむしろ、
別の歌詞が気になるようだった。
「それにしても、『私たちを裂くものなんて何もない…』ってのは、
時節柄まずいんじゃないの?」
「あれ…の話し?」
保田は辺りを見回して確認しているようだ。
身を乗り出そうとしていた加護と里沙は慌ててドアの影に隠れる。
「小川の件でしょ…?」
「うん、圭ちゃんもマネージャさんから聞いたの?」
「なんか最近、態度が不自然だったからね…」
やはり、その話はすでに広まっているのか…
それにしても、これが小川の耳に入ったら…
里沙は保田の軽率さが恨めしかった。
- 186 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)10時54分07秒
- 「あれ、ホントだと思う?」
「うそだよ。あたしんときもそんな噂、あったけどさ。ハハッ。」
「圭ちゃん…あれ、ホントだったんだよ…」
「えっ、マジ?」
マジ?マジで?マジで、でじま……アホ。
こんなときについ、いちびってしまうわたしって…
傍らの加護もなんだかやりたくてムズムズしてそうではあるけど。
「うっわぁ、それショックぅ。ちょっとイタいわ。」
「いや、圭ちゃんだから耐えられたようなもんでさ、
おいらだったらとっくに辞めてたね。」
「マジかよぉ…ひでぇことしやがるなぁ…じゃ、小川も?」
「チーフはかなりマジモード入ってるって言ってたけど…」
やっぱり本当なんだ…
それにしても、そんなことを提案したメンバーって…
少なくともこの二人ではなさそうだが。
「ええっ、でもそれちょっとひどいよ、止めさせなきゃ。」
「ただ、どっちにしても小川の脱退はもう既定事項らしいから、
自主的に止めない場合は契約更改なし、つまりクビってことに…」
「それもショックか…まだ自分の意志で辞めたんだ、
と思える方がいいのかな…」
「そうだね。」
- 187 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)10時54分53秒
- 「そもそも、小川の脱退って覆らないの?
あんなに頑張ってんじゃん?」
「圭ちゃん…うちらの頑張ってる姿だけで受けてた時代は
もう終わったんだよ…」
えっ…チーフと同じこと言ってる…
さすが矢口さん…鋭い分析だ…
イヤ、イカン、イカン…何、感心してんだろ、わたし…
「そっかぁ…じゃ、私もそろそろ潮時なのかなぁ…」
「いや、圭ちゃんにはまだまだ頑張ってもらわないと。」
「小川だってまだ頑張れると思ってるだろうに…」
「しょうがないよ…巡り合わせというか…運がなかったのかもしれないし…」
運で片付けられてはたまらないけど。
ただ、モーニング娘。というビッグネームはあまりにも
大きくなりすぎたために、もはや自分の進退でさえ、
自分だけでは決められなくなっているのかもしれなかった。
それにしても矢口のやけにあっさりとした口調が気にはかかった。
矢口さん…わたしたちのこと…?
つつっと袖を引っ張る加護の腕に我に帰った。
- 188 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)10時55分39秒
- 「いこ…おばちゃんも矢口さんも真相は知らんみたいや…」
「えっ、でも矢口さんはチーフと同じようなこと言ってたから、
何か知ってるかも…」
「張本人だったら自分からは言わないよ…」
それもそっか…
加護さんも鋭い…
というか自分が鈍いだけなのかな…
里沙は少し落ち込みながらも加護の後に着いて
その場を離れようとした。
「ところで、圭ちゃん、その歌、何?自作?」
「ちっがうよ。あんた知らないの?ビートルズだよ…」
ビートルズか…
「Lovely Rita…ほんっとに、新垣にぴったりなんだけどねぇ…」
保田の声を後ろに聞きながら里沙は今度聞いてみよう、と思った。
こんなときにちょっと不謹慎ではあるけれど。
ずんずんと歩いていく加護の背中を眺め、
なんとなく怒ってるように感じた。
ごめんね、マコっちゃん…
小川にも何か似合いそうな曲を見つけてくれればいいのに…
里沙は保田にその戸惑いの所在を転嫁した。
- 189 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)23時32分18秒
- ◇◇◇
今、話題の映画「猫の恩返し」を一緒に見た後、
里沙は近くのファミリーレストランで紺野と向かい合っていた。
宮崎アニメは見逃さない里沙だったが、特に好きな「耳をすませば」、
通称「みみすま」の続編とあっては、見ないわけにはいかなかった。
「なんかハルちゃんって、あさ美ちゃんのイメージだよねぇ。」
「え、なんで?」
紺野のほわんとした笑顔はささくれだった里沙の内面を
すぅっと滑らかに均(なら)してくれるようだった。
優しく微笑んで尋ねる紺野に里沙は少し気恥ずかしいものを感じる。
「だって、あさ美ちゃんだったら、ホントに猫と話できそうだもん。」
ウフフ、と口に手を当てて笑う紺野なら実際のところ、猫に恩返しされても
おかしくない、と思わせる雰囲気がある。
「後藤さんみたいにイグアナとお話したりはできないけどね。」
「ごとーさんは特別だよ…」
里沙はこないだのことを思い出して苦笑した。
ふっくらとした頬をへこませてメロンソーダを吸い込む紺野の表情が
なんだか動物っぽくて里沙にはおかしかった。
- 190 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)23時33分05秒
- 「あさ美ちゃん、最近、マコっちゃん、何か変だと思わない?」
「?」
突然の質問にさすがの紺野もやや戸惑い気味。
ただ、小川の元気がないのは紺野も承知していた。
本来であれば、小川も含めて三人で来るはずだったが、
誘っても来なかったのだ。
「元気ないよね…」
心配そうにつぶやく紺野に里沙は畳みかける。
「なんかいやがらせとか受けてるんじゃないか、って気がするんだけけど。」
気がする…と婉曲な言い回しにとどめたのは、最悪の場合、
紺野が関わっている可能性に配慮してのことだ。
もちろん、そんなことがないことを信じてはいるのだが…
「なんで、そう思うの?」
紺野の目つきが真剣さを帯びる。
その様子からは何事も判断できない。
「マコっちゃんだけ、扱いがひどいような気がするんだ。」
「気がするだけ?」
さすがに論理的な思考を常とする紺野である。
曖昧な推量は許してもらえそうにない。
「例えば、ハロモニのコーナー、マコっちゃんの部分だけ
カットされてたことがあったでしょ…」
「うん…」
「あと、こないだのシャッフルでのゲーム、あの鍵に
どうやら細工が施してあったらしいこと…」
- 191 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)23時34分14秒
- 「それは確かなの?」
紺野が語調鋭く…いや、柔らかく尋ねた。
「うん…加護さんは確かだって…」
「そう…加護さんが…」
紺野は遠い目をしてしばらく何事か考えていた。
里沙が固唾を呑んで、長い間(といってもせいぜい数秒のことだったのだが)
待ち詫びた後、ようやく口を開いた。
「新垣ちゃん…これは誰のことを言ってるのかわからないんだけど…」
「うん…」
里沙は小さな瞳を見開いて紺野の言葉を待った。
「つんくさんが社長と電話してるの聞いちゃったことがあるの…」
「うん、うん…」
「9月に誰か辞めるかもしれないみたい…」
「えっ…」
9月だなんて…後少ししかないじゃない…
里沙は驚きで声も出なかった。
「わたし、ミュージカルで全然歌がだめで、つんくさん、
遅くまで残ってレッスンしてくれたの…
わたしが帰ったと思って社長と何か相談してたのね…」
小川が9月で脱退…
里沙は目の前から光が失われていくような、耐え難い寂しさに襲われた。
意識の中で明るさが失われるのと同期するように視界がぼやけてくる。
急激に瞳にあふれた涙の膜が紺野の輪郭を滲ませていた。
- 192 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)23時36分02秒
- 「ち、違うの、新垣ちゃん、マコっちゃんじゃないの!」
慌てて否定する紺野の声が里沙には聞こえない。
両手で顔を覆って必死でおえつをこらえる里沙の姿に紺野はあせる。
「ねぇ!聞いて、新垣ちゃん、だってマコっちゃんは…」
既に紺野の言うことは里沙の耳に届いていなかった。
悲しみは鋭い刃と化して里沙の小さな胸を貫く。
マコっちゃん…
里沙は突然立ちあがり、紺野が目を丸くしている間に
パッと店の外へ駆け出した。
「あっ…」
紺野は里沙の名前を呼ぼうとしたが、人前であることを憚り躊躇した。
大きく上下に波打つ二本のおさげ髪を眺めながらため息をつく。
新垣ちゃん…お金…
しばらく残りのソーダをすすった後、紺野は財布を取り出して
とぼとぼとレジへ向かった。
しかたない…今日はおごってあげる…
それにしても…
紺野は財布の中身を覗いては二重の意味で寂しさを感じる。
ふたたびため息をつきながら帰途に着く後ろ姿に
夏の日差しは容赦なく振り注いだ。
- 193 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)23時38分20秒
- 里沙は商店街の路上で立ち尽くしていた。
いても立ってもいられなくて駆け出しては見たものの、
どこへ行くというあてがあるわけでもない。
ハンカチを取り出して頬に滴る涙とも汗ともつかない雫を拭い去った。
さっと吹き抜ける風が一瞬、体温とともに暑さをも奪い去ったような気がして
恨めしかった。
どうせなら、この悲しみも一緒に吹き去ってくれればいいのに…
だが、それっきり風が吹く気配はなかった。
視線を落とすと白い横断歩道の描線が強い日差しを反射してまぶしい。
蛍光塗料のせいだろうか、白く輝くそれはまるでギリシャかどこかの
街に迷い込んだかのような錯覚を与えた。
あまりのまぶしさに上を見上げるとジェット機が音も立てずにゆっくりと
青い空を滑っていく。
- 194 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)23時40分20秒
- 突然、キュッと絞るような痛みを腹部に感じて里沙はかがみ込んだ。
イタタ…あれ、なんだろう?
空が余りにも青すぎたから…?
そんな詩的な感情で胸が痛むほど自分は繊細だっただろうか。
いぶかしむ間に痛みは収まった。
なんか変なもの食べたかな…?
あっ!
里沙は勘定を済ませずにファミレスを飛び出してきたことに気がついた。
いっけねぇ…
あさ美ちゃん、しっかりしてるからなぁ…
今度あったとき返そ…
そう思って里沙は急にまた悲しくなった。
小川との今度は必ずしも保証されていない。
だが、まだ確定したわけではないのだ。
容赦なく振り注ぐ日差しの熱さに里沙は脈絡もなく生きていることを実感した。
生きているならば、自分にはまだやらなければならないことがある…
加護と連絡を取らなければ。
再び生気を取り戻した里沙は携帯を取り出した。
- 195 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月08日(木)23時50分55秒
- >183名無し読者さん
応援ありがとうございます。
コネ餓鬼氏ねには困ったものです(w
新生タンポポでは意外なことに、ニイニイの歌唱力が一番期待されてるようで。
おそろだとかラジオの出演が増えれば、徐々に個性が出てくるものと楽しみにしています。
731事件(と世間では言われているようですw)の後だけに、リアル作品として、
やはり、ちょっとは触れなければならないかなぁ、と思ってます。
- 196 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月12日(月)02時59分19秒
- ◇◇◇
「加護さん…なんか、こう、人の会話を盗み聞くのって、何だか…」
泥棒みたいでいやだ…と里沙は思う。
大体がメンバーを疑ってかかること自体、精神的にかなりのダメージなのに。
リーダー飯田以下、各メンバーの動静を探るつもりで、ちろちろと眺めてはいるが、
一向に動く気配がない。
さすがにこれは非効率だと加護も気付いたらしい。
「直球勝負でいくか…」
「というと?」
加護さん、まさか…
「社長んとこに直談判や。」
そう言ってずんずんと社長室へ向かう加護を慌てて追いかけていく。
社長室なんて、加入してから一回だけ挨拶に行ったとき以来だ。
顔を見たのだって、片手で数えるほどしかない。
緊張で掌に汗をにじませる里沙に対して、
加護はいかほども動揺している様子が無い。
さすがにミニモニの重鎮だけのことはある…
里沙が加護の度胸に感心している間に二人は社長室の扉を前にしていた。
「はぁ…さすがに社長に会うんは緊張すんな…」
「へっ?加護さん、緊張してんですか?」
「あったりまえや、うちは繊細やねんで。」
- 197 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月12日(月)03時00分13秒
- バタン!
突然、扉が内側に引かれて、気がつくと社長が二人の前に立っていた。
「なんだ?」
「あ、あの…」
取り乱す里沙を制して、加護が果敢にも先陣を切った。
「社長!今日は言わしてもらいたいことがあります!」
「ほう…だが、後にしてくれ、今は彼女と大事な話しの最中だ。」
見ると奥の机の前に小川がちょこんと座り、こちらを不安げに振り返っている。
「あっ、マコっちゃん!」
「ちょうどええ、社長、小川マコっちゃんの話ですわ。」
加護は小川と一瞬目を合わせて軽く肯いた後、すぐに社長に視線を合わせた。
「何だと言うんだ…まぁ、いい。小川、少し中断していいか?」
こくり、と肯くしぐさはいかにも儚げで弱々しかった。
こんなときに不謹慎だけれど、その様子には思わず守ってあげたくなるくらい
母性本能をくすぐられた。抱き締めてスリスリしてあげたくなるくらい。
里沙よりも年上であることは置いといて。
- 198 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月12日(月)03時01分07秒
- 里沙の雑念をよそに、加護は後ろ手で扉を締めると単刀直入に切り出した。
「社長、マコっちゃんを辞めさすなんてひどすぎます。」
「…」
無言のまま加護を睨む社長の様子からは何も窺い知ることはできない。
「知ってるんですよ、うちら…わざと嫌がらせしてたこと…」
「…」
相変わらず社長は無言だ。
否定も肯定もしない。
だが、覚えが無ければ即座に否定するはずだ。
と、いうことは…
「社長、否定しはれへんっちゅうことは、認めるんですね。」
「小川…そんな風に感じてたのか…?」
社長の顔に浮かんだ表情は意外なことに寂しげなものだった。
小川は首を横に振り、キョトンとした顔で加護と社長の顔を交互に見つめている。
里沙にはどうにも理解できない。
だって、事務所が仕組んでいたんじゃないの?
「マコっちゃん!社長の前やからって遠慮せんでええ!」
「そうだよ!あんなに悔しがってたじゃん!」
二人のテンションが高まるのと反比例するように、小川は逆にどうしてよいかわからず
オロオロして社長の方を訴えるような顔つきで見つめている。
- 199 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月12日(月)03時02分54秒
- 「マコっちゃんが言いにくいようやから、代わりに言うたるけどな、
大体やり方がセコいっちゅうか汚いで、おっさん!」
「か、加護さん〜、おっさんは言い過ぎですぅ…」
里沙は慌てて加護の袖を引っ張るが、興奮した加護は収まりそうにない。
「しかし、本人にプロとしての自覚がないなら仕方がないだろう。」
遂に社長が呆れたように言い放った。
げっ、やっぱり本当だったんだ…
ちっくしょぉ…
加護の表情はさらに険しくなる。
里沙も、もう遠慮してる場合じゃないと感じた。
「でも、そんなのひどいです!自分から辞めるように仕向けるなんて…」
「そうや!大体が児童福祉法なんぞ余裕で違反さしとるくせに!
うちらの精神的な負担なんか、なぁんも考えてへんやろ!」
ちょっと論点がずれてるような気もするが…
でも、いい感じです、加護さん…
- 200 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月12日(月)03時03分45秒
- 「その挙句にこんな仕打ちすんのやったら、うちらにも考えがあるぞぅ!」
「そうですよ、わたしたちだって怒りますよ!」
きたきた、乗ってきた。
そろそろ加護さん、行きますよ…
「そや、そんなんやったら、うちらもなぁ…な、新垣ちゃん!」
「そうですよ、わたしたちにも覚悟がありますよ!」
さぁ、早く!加護さん!
「そや、マコっちゃん辞めさすんやったらなぁ、うちかて覚悟はあるぞ!
さぁ、新垣ちゃん、言うたれ!」
あれ…ま、いっか、じゃいくわよ!
「そうです、マコっちゃんが辞めるなら、わたしも辞めます!」
「…」
- 201 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月12日(月)03時04分46秒
- シーン…
静まりかえる擬音ってそんな感じだっけ。
絵に描いたような静寂が時の流れを止めている。
鎖に繋がれたように空気が重たく感じる。
呪縛から解き放つように口火を開いたのは社長だった。
「よくやった、加護!」
えっ?!
傍らを振り返ると加護が口の端を上げてニヤリと笑っている。
諮られた?!
「そうか…新垣が辞めるか…そうか、そうか…」
社長も嬉しさを隠し切れないのか満面の笑みを湛えている。
ま、まさか…
わたしを辞めさせるための罠…?
- 202 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月12日(月)03時07分08秒
- 短いですが今日の分、更新終了です。
- 203 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月13日(火)15時17分16秒
- おおー、急展開。
ここからの逆転はあるのか、スレ限界までに終わるのか。ニイニイかわいい。
- 204 名前:名無し 投稿日:2002年08月15日(木)13時03分41秒
- ◇◇◇
罠…
罠だったんだ…
そういえば、マコっちゃんの件だって、加護さんが言い出しただけで…
チーフは言っていた、『これはメンバーからの提案でもある』って…
加護さん…
まさか、加護さんがわたし達二人を陥れるために、こんな…
里沙は軽軽しく加護の、いや事務所の策略に乗ってしまった自分の軽率さを呪った。
とめどなく流れる涙は視界から光を閉ざし、意識もまた次第に暗闇へと埋没していく。
辞める…そう言ってしまった…
もう後戻りはできない…
自分はきっと辞めないといけないんだ…
いや、それよりも悲しいのは…
悲しいのは…
里沙は加護の顔を正視できなかった。
脱退とか何よりも、今は仲間に裏切られたというその事実が痛かった。
せっかく、ハッピー7で仲良くなれたと思ったのに…
「中学生チーム」だって言ってくれたのに…
次第に遠のいていく意識の中で小川の心配げな表情だけが瞼の裏に残った。
- 205 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)13時04分10秒
- だが、次に社長が発した言葉は再び、現実に里沙を引き戻した。
「どうだ、それでも辞めるのか、小川?」
えっ、どういうこと?
「お前が辞めるなら新垣も辞めると言ってるぞ。いいのか、それでも?」
えっ、なになに?
マコっちゃんとわたしはクビ…じゃないの?
里沙は話の展開を理解しないまでも、風向きが変わったことを敏感に察知していた。
「ここまで思ってくれている仲間がいるというのに、お前はそれでもまだ、
辞めるというのか?」
え…
あれっ?
ひょっとして、引き止めてんの…社長?
引き止めてるんでしょーか?
「新垣…」
「は、はい!」
里沙は反射的に答えていた。
わだかまりがない、とは言えないないが、そこは芸能人の端くれだ。
わかってはいなくても、話の流れに乗ることは必定。
「俺は感動したぞ、新垣。」
ほぇっ?!
感動…何が?
何に感動したの?!
「仲間を引きとめるために自らの進退まで犠牲にしようというメンバーは
未だかつてなかった。」
ほよっ?
あれ?なんだか話が…
「小川、これでもお前はまだ辞めたいと言えるのか?」
再び小川に向き直った社長の表情は真剣だった。
- 206 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)13時04分36秒
- 小川は迷っている…らしい。
社長の口ぶりからして、どうやら小川は自ら脱退を志願しているようでもある。
そして社長がそれをなだめているという構図。
加護は相変わらずニヤニヤしている。
(ねぇっ、加護さん…どういうことなんですか?)
小声で尋ねる里沙に加護は答えない。
顔の表情を緩めたまま、口許に小さく手を当てて
黙って成り行きを見守るよう促した。
「これはまだお前たちには黙っていようと思っていたんだが…」
社長はもったいぶった口調で小川の興味を引き出そうとする。
それにいちはやく釣られたのは、またしても里沙だったのだが。
「9月にプッチモニとタンポポ、ミニモニのメンバーを入れかえる。」
えっ?!
それって、わたしにも朗報?
チャーンス到来…かも…
「小川、お前は保田が抜けた後を自分で補う気持ちはないのか?」
うっ…殺し文句だ…
っていうか保田さん、抜けるの?
「それだけ周りは評価してるってことなんだぞ…」
里沙は小川の反応が気になってそちらに目を向けた。
- 207 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)13時05分03秒
- 小川は…泣いていた。
嬉し泣き、周囲の優しさへの感動?
それとも自らの不甲斐なさへの悔しさからか。
理由なんかどれでもいい、とにかく里沙は安心した。
「続けられるな…」
社長が肩に手を乗せると、小川はこくりと肯いた。
やったね!
里沙は小さく拳を動かして喜びを表現した。
思わず加護の手を取ろうとして、里沙は驚いた。
泣いている…
「よくやったな…加護…小川、お前は本当に幸せなんだぞ…」
社長のねぎらいも耳に入らないのか、加護は黒い瞳に
キラキラとした涙をたたえたままじっと小川を見つめていた。
- 208 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)13時07分29秒
- ◇◇◇
「加護さん!どういうことですか?」
騙された形の里沙は収まらない。
一時はクビまで覚悟したのだ。
加護をとことん追求するつもりだった。
「許してよ…新垣ちゃんでないとこんなこと頼めなかったんだから。」
わたしが一番、騙されやすいってこと?
モーッ!腹立つ!
「だって、あんな会議の録音まで聞かされたらそりゃ、怒りますよ!
あの会話まで芝居だったんですか?」
「ごめん。あれなぁ…ミュージカルの配役決めるときの会議の録音、つこぅてん…」
加護が申し訳なさそうに説明する。
「なんでそんなもん、持ってんですか?!」
「いや…会議の議事録取るのに、事務さんがICメモで録音してんの知っててん…」
あが…
開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。
なんだか怒る気力さえ失われそうだ。
剣呑な雰囲気に小川が助け舟を入れる。
「新垣、怒んないで…あたしが悪いんだから…」
そ、そうだ…マコっちゃんにだって言いたいことは山ほどあるんだ!
「モーッ!二人とも、わけわかんないよ!」
加護と小川が目を合わせてうふふ、と微笑む様が、また里沙には気に入らない。
ちゃんと、説明してもらいますからね!
- 209 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)13時08分00秒
- 「自信無かったんだ…やること為すこと裏目に出るし…」
小川がぽつぽつと語り出したのを見て、
里沙はとりあえず聞くことにした。
「あたしなんかじゃ、もう務まらないと思って…
加護ちゃんに辞めたいって相談したの…」
冷たい…冷たいぞ、マコっちゃん…
うちら同期じゃないか…
「あんたたちに余計な心配かけたくなかったんだよ、
マコっちゃんは…自分のことだけで精一杯だったでしょ?
他の同期まで神経使って調子落としたら悪いって…わかるでしょ?」
ううっ…
加護さんにそこまで言われたら、何にも言えないじゃん…
せめてマコっちゃんには一太刀浴びせて…
「でも嬉しかったよ…
まさか新垣が辞めるとまで言ってくれるとは思わなかったから…
ありがとな…新垣…」
そういって乾いたばかりの目許を再び湿らせる小川に里沙は何も言い返せない。
ずるいよマコっちゃん…
そんなの見せられたら何にも言えないよ…
わたしまでなんだか、しんみりしてきちゃうじゃん…
里沙はすばやく目尻をこすって、照れ隠しに早口で話題を変える。
- 210 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)13時09分55秒
- 「ところで、あの録音、えらくリアルな会話でしたけど。
特に『メンバーからの発案』云々のくだりは」
「ああ、あれな…ぷぷっ…」
気になる反応を示す加護。
里沙は次の言葉に注目する。
「あれな…マネージャさんたちがあんまし太るからな…
ダイエットも兼ねて弁当を小さくしてやな、その分、うちらのを
大きい弁当に変えようという別の議案や。うちが編集したってん。」
「なんですかぁ、それは?!」
まったく、ばかばかしいこと、この上ない。
そんなことを考えるのはどうせ…
「ののしかおらんやろ。うちとちゃうで。」
どうだか怪しいものだ。
里沙の睨んだところでは共同発案の線が濃厚だが。
しかし、切磋琢磨とか何とか…
「でさらにマネージャ怒らしたのがな、5期メンはみんな細くて
ちっこいからな、弁当の量は少なくていいんちゃうかって…」
「でその代わりに…」
「ご明察や!ののの弁当を特大ふたつにせえ、とまぁこういうことやな。」
それであんなに怒ってたのかぁ…
うぅっ…また、ふつふつと怒りが湧いてきた…
「ま、ええやん。うちは嬉しいで。また、中学生チームでつるめるし。
な、マコちゃん?」
「うん。」
- 211 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)13時13分51秒
- にこやかに微笑んでうなずく小川の幸せそうな表情を見ては
里沙も今度こそ、怒る気なんてなくなった。
ま、いっか…
とりあえずマコっちゃんとはまだ一緒に居られるし…
その代わり…
「この借りはいずれ返してもらいますよ!」
「さっすが新垣、ちゃっかりしてんなぁ。」
「んじゃ、今日はうちの驕りでぱぁっといこか?」
まったくもう…加護さんは調子いいんだから…
それじゃお言葉に甘えて…
「ん、新垣、どこに電話してんの?」
そそくさと携帯を取り出して通話に入った里沙に小川が尋ねる。
「あ、辻さんですか?これから加護さんのおごりでですね…
ええ、パフェなんかいいっすね、とにかくもう、
ばぁっとおごるっていってますんで、ええ…」
「こ、こらぁ!誰に電話してんねん、お前は!」
加護が気がついたときには、時すでに遅し。
「いっやぁ…加護さんのおごりで辻さんがどれだけ豪快に食べるか、
見ものですよねぇ、けっけっけ…」
「に、新垣仮面…策士よのう…」
新垣恐るべし…
改めてその懐の深さを実感した小川のほかに、また一人、
その深淵を覗いてしまった加護。辻が来るまでの長い長い時間を
彼女はひたすら虚脱して待つのであった。
- 212 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)16時53分29秒
- >203 名無し読者さん
いつもコメントありがとうございます。
案の定、スレ容量に収まり切らなかったので残りは狩の捨てスレに上げました。
一応、完結させたつもりです。
http://www.metroports.com/test/read.cgi/morning/1009384983/81-93
最初はこんなに長くなる予定ではなかったので…と言い訳しきり(汗
名無し読者さんはじめ、みなさんの温かいコメントに励まされ、なんとか
完結まで漕ぎ着けました。ありがとうございます。
少し落ち着いたら、あとがきみたいなものを書きたいと思います。
- 213 名前:203 投稿日:2002年08月16日(金)13時52分24秒
- >212 いや、203は初レスです。
狩の分も読みました。
ジーンときちゃいました。
狩のはじめの青年のエピソードはフィクション?
- 214 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月16日(金)22時39分39秒
- >213/203さん
失礼しました(汗
レスの感じから一人の方がずっと読んでてくださったものと思い込んでました(恥
狩のエピソードですが、おっしゃるとおりフィクションです。
実はこんなものを書いてまして、興味のある方はこちらもどうぞという抱き合わせ商法で(w
http://mseek.obi.ne.jp/kako/blue/1025544872.html
ここの145-164レスがそうです。
- 215 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月16日(金)23時23分26秒
- や〜、よかったです。
感動しますた。途中くらいからもしかしてと思ってましたが
やっぱりあの作者さんでしたか。
最高です。次回作期待しております。
- 216 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月18日(日)02時08分50秒
- >215名無し読者さん
ありがとうございます(涙
これ、短編集向けに書いてボツったものがベースになってます。
なので、ホントはこんなに長くなる予定ではなかったのですが(w
ニイニイ、書いてるうちにどんどん可愛くなってきて。
なんだか、最近では自分の推しメンよりも先に目が行ってしまったりします(w
2ch界隈でも人気出てきたみたいなんで、そろそろ飼育でもニイニイものが
盛り上がってくれると嬉しいです。
次回作は…いつになるかわかりませんが、そのときはまた、よろしくお願いします。
- 217 名前:名無し娘。 投稿日:2002年09月28日(土)14時51分22秒
- 意味はないんだけど…
新曲ジャケ写のニイニイ可愛い…
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