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ブラック・タンバリン
- 1 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時20分03秒
- いしよしを書きたいと思います。
吉澤さん主人公です。
ヘタレな文章でありますが、どうぞよろしくお願い致します。
更新はのんびりと行います。
- 2 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時21分05秒
- 「ひとみ!!早く起きなさい!」
お母さんの怒声が聞こえる。
まったく、冬休みくらいゆっくり寝かせてくれてもいいじゃないか。
「今日は友達と約束あったんじゃないの?」
そういえば、そうだった。
昨日、お母さんに起こしてくれるよう頼んだんだっけ。
あたしは急いで飛び起き、パジャマを脱ぐ。
壁に掛かっている時計を見ると、待ち合わせの時間まではあまり余裕がない。
どうせなら、もっと余裕もって起こしてくれないかなぁ。
急いで仕度を済ませ、ダッシュで玄関に向かう。
「ひとみ、ゴハンは?」
「いらない。時間ないし。いってきます!」
「車に気を付けるのよ」
お母さんの何気ない一言を背中に聞きながら、ドアを開け外に出た。
空は快晴。朝の空気はとても澄んでいて、寒さを忘れるくらいすがすがしい。
急ぎ足で待ち合わせの場所である、駅に向に向かう。
- 3 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時21分50秒
- あたしは吉澤ひとみ。多分、どこにでもいる中学二年生の女の子。
そう、どこにでもいる。
今まで、自分が特別な存在であると思った事はなかった。
このまま平凡に暮らして、平凡に結婚でもして、平凡な人生を送るんだろう。
そう思っていた。今日までは・・・。
駅に向かう道の途中、歩道でボール遊びをしている小さな女の子とすれ違った。
すぐ隣には、車の激しく行き交う車道がある。
危ないなぁ。ドラマとかでよくあるよね、こういうの。
ボールを追いかけて、車道に飛び出しちゃうってヤツ。
まさか・・・ね。
あたしは何となく気になって、後ろを振り返る。
- 4 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時22分22秒
- そこには、自分の目を疑うような光景があった。
転がるボールを追いかけて、車道に飛び出す女の子。
考えてる暇はない。
「危ない!!」
あたしは無我夢中で、女の子に向かって車道に飛び出した。
すぐ側に車が迫っている。
ああ、こういう時って、ホントにスローモーションなんだ。
差し迫った状況にも関わらず、そんな事をぼんやりとを考え、女の子を突き飛ばす。
自分が逃げる余裕はない。
ここであたしの人生終わりなのかな。
お母さんの言った通り、車には気を付けないとダメだよね。
ああ、嫌だな。こんな平凡な人生。
そこで・・・あたしの意識は途切れた。
- 5 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時24分10秒
- 『おい!キミ大丈夫か!』
『救急車はまだなの?』
『頭打ってるみたいですよ』
『警察も呼んだほうがいいんじゃないか』
あたし、死んだのかな。
なんだか、頭の上から人の話し声が聞こえる。
耳障りな、サイレンの音まで聞こえてきた。
うるさいな。『あの世』ってのは、そんなに騒がしいとこなのか?
ここは天国なんだろうか。じゃあ、この声は天使?
いや、天使にしては、話の内容がいやに現実的だ。
あたしは、ゆっくりと目を開ける。
見えてきた光景に、思わずギョっとしてしまった。
上から何人もの人の顔が覗いている。
『おい、生きてるぞ!』
『ホントだ』
『早く救急車に乗せて』
え?ああ、あたしもしかして生きてるの?
そういえば、あの女の子はどうなったんだろ。
「あの、女の子は・・・」
あたしは、覗きこんでいた顔の一つに尋ねてみた。
- 6 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時25分28秒
- 「ああ、キミが助けた女の子ね。かすり傷一つないよ」
「そうですか。よかった」
「そんな事より、キミは大丈夫なのか?」
「あたし?あたしは・・・」
そこまで会話したところで、
白い服とヘルメットに身を包んだ、何人もの救急隊員に取り囲まれた。
やけにいそいそと体のあちこちを調べられて、担架に乗せられる。
運ばれる時のはずみで、頭がズキズキ痛んだ。
ほかに痛いところはない。
状況から察するに、車に撥ねられて頭を打ったんだろう。
このショックで、頭良くなったりしないかな。
終業式の日に渡された、自分の情けない成績表を思い浮かべながらのんびり考える。
- 7 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時26分08秒
- 救急車の中に乗せられる直前、まわりを取り巻く野次馬達の、妙な会話が耳に入った。
『今の、吉澤ひとみだろ』
『ああ、大丈夫なのかな』
『明日ワイドショーに出るだろうな』
『あ!俺、インタビューとかされるかな』
『バカ。つーか、仕事どうするんだろうな。忙しいんだろ、アイドルって』
『あー、いっつもテレビ出てるもんな、モーニング娘。って』
???
ワイドショー?アイドル?モーニング娘。?
何の話だろ。っていうか、どうしてこの人達はあたしの名前を知ってるんだろ。
この人達と知り合いの覚えはない。あたしの名前を知ってるはずがない。
救急車のドアが閉められる。
雑踏はかき消され、車の音と、救急隊員達の事務的な会話だけが残された。
なんだか、すごく頭が痛い。
目を閉じると、意識はあっという間に遠のいて行く。
少し、眠りたい。
めんどうな事は、後で考えよう・・・。
- 8 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時26分53秒
- 次に目を開けた時に見えた光景は、無機質な白い天井だった。
あれ?やっぱり、ここは天国?
そう思った瞬間、鼻を劈く消毒液の匂いと、お母さんの大声が飛び込んで来た。
「ひとみ!!」
うるさいなぁ。そんな大声で呼ばなくても聞こえるよ。
ベッドから体を起こして、周りを見渡す。
よかった。ここも天国ではないらしい。
病院・・・だね。ここは、病室か。
「ひとみ!!大丈夫?」
お母さんはベッドの横に立ち、あたしを覗きこむようにして質問する。
「あー、全然平気みた・・・」
言葉の途中で、我が母親に違和感を感じた。
え?いつの間に髪型変えたの?
ってか、なんか朝見た時より少し老けたような・・・。
- 9 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時27分47秒
- 唖然としていたところに、中年の医者と、若い看護婦が入って来た。
医者はあたしのベッドの傍らに来て、不思議な事を言う。
「吉澤ひとみさんだね。キミは、自分が何歳かわかるかい?」
バカにされているのかと思った。あたしは、少し怒ったような口調で答える。
「もうすぐ14歳です!四月で15歳」
そう答えた瞬間、隣のお母さんの顔がサッと青ざめた。
あれ?なんか間違った事言ったかな。
それは、あたしがびっくりしてしまうほどの鮮やかな変わり様で、不信感を煽る。
医者は、さらに質問を続けた。
「今が、何年の何月か、わかるかい?」
・・・これは、何の質問なんだ?
心理テストかなんか?それとも、やっぱりあたしをバカにしてんの?
「2000年の一月でしょ。何のためにそんな事聞くんですか?」
あたしの質問には答えず、医者は軽く溜息をついた。
そして、真剣な目であたしを見つめ、口を開く。
- 10 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時28分24秒
- 「違うよ。2002年の1月なんだよ」
「は?」
意味が、よく分からない。2002年?何の冗談なんだろ。
あたしの答えとは二年もズレがある。
よく分からない。
あたしは、今朝目覚めてからの出来事を反芻してみる。
お母さんに起こされ、急いで家を出た。友達と待ち合わせをしていて、駅に向かった。
その途中で、ボール遊びをしている女の子とすれ違った。
車道に飛び出した女の子を助けようとして・・・
そうだ、車に撥ねられたんだ。
だからあたしは病院にいるんだろう。
まさか、そのままずっと眠っていて、二年も時間が経ってしまったとか?
それとも、その記憶自体が何か違うんだろうか。
- 11 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時29分10秒
- 「意味がわかりません。あたしは、事故にあったんでしょ」
「そう。確かに事故にあった。ただし、これが二回目だ」
「へ?二回目?」
ますます意味がわからない。二回目とは、どういう事だろうか。
「よくわからないんですけど」
「キミは、二年前に事故にあった。車道に飛び出した女の子を助けようとして」
それはわかってる。二年前ってのは引っかかるけど。
「強く頭を打ち、キミはそれまでの記憶を、一切なくしてしまったんだ。
だが、キミは強かった。周りの協力も得て、問題なく生活を送っていた」
「はあ」
「そして、二年が過ぎた。そこで、また同じように事故が起こった。わかるかい?」
「は?わかりません」
事態がよく飲み込めない。
- 12 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時30分06秒
- 医者は、さらに言葉を続ける。
「今回の事故で、キミは記憶を取り戻したんだ。その代わりに、二年間の記憶をなくしてしまった」
・・・ちょっと待て。少し頭を整理してみよう。
あたしは2000年の一月に事故にあった。それはどうやら間違いないようだ。
記憶をなくした。で、二年が過ぎた。
そして、2002年の一月に、また事故にあった。
その事故で、14年間の記憶を取り戻し、2000年から2002年までの記憶をなくした。
そういうことなんだろう。
なんか現実味ないけど、信じるよりなさそうだ。
ここで、一つの疑問にぶち当たる。
じゃああたしは、二年間の間どういう生活を送っていたんだろう・・・。
- 13 名前:バードメン 投稿日:2002年06月28日(金)20時47分12秒
- とりあえず、今日はプロローグ的な部分です。
元ネタありですが、ストーリーは違います。
こんな調子ですが、よろしくお願い致します。
- 14 名前:オガマー 投稿日:2002年06月28日(金)20時49分04秒
- リアルタイムで読みました!!
とても面白そうですね!
斬新だと思ったのは元ネタを知らないからかなぁ?
とにかく期待してます!頑張ってくださいね!!
- 15 名前:REDRUM 投稿日:2002年06月28日(金)22時05分38秒
- ただごとではない!!
続きに興味深々です。がんがって下さい。
- 16 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月29日(土)11時33分45秒
- 非常に引き込まれる世界観がいいですね〜
期待です!
- 17 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)14時07分49秒
- 読んで頂いてありがとうございます!
>14 オガマー殿
斬新ですかぁ。
元ネタは、かなり昔に読んだ小説で自分も忘れかけているため、
あまりアテにはなりません(汗)。
>15 REDRUM殿
ただごとではないですかぁ。嬉しいです。頑張ります。
>16 名無し読者殿
期待外れにならないよう必死です(汗)。
- 18 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)14時08分53秒
- 「親御さんに、ちょっとお話が・・・」
医者のその言葉で、あたしは一人病室に取り残された。
まだ、夢を見てるようだ。
とりあえず、顔でも洗って目を覚ましたい気分。
冷たい水ですっきりしたら、この状況に納得できるかもしれない。
あたしはトイレに行こうと病室を出た。
看護婦さんに場所を聞き、顔を洗おうと洗面所の前に立つ。
目の前にある大き目の鏡。それを覗いた瞬間、あたしは愕然とした。
その理由は、頭に巻かれている大げさな包帯に気付いたからじゃない。
これは・・・、誰だ?
鏡に映った人物が自分だと気付くのに、たっぷり十秒はかかった。
見慣れた顔。でも、あたしが知ってる顔とは、どこか違う。
- 19 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)14時09分42秒
- ・・・そうか。二年も経てば顔つきも変わるだろうし、髪形だって違う。
黒かった髪は、綺麗な茶色に染められていた。
その色がやけに鮮やかに見えて、なぜだか泣けてくる。
あたしは改めて、さっき医者に言われた事が嘘でも狂言でもなく、現実なんだと思い知ったんだ。
「お前は誰だ」
鏡に向かって、意味なく問い掛けてみる。
鏡の中の『吉澤ひとみ』は、答えをくれない。
ここに映るのは、あたしの知らない二年間を過ごした、『吉澤ひとみ』。
間違いなくあたし自身なのに、他人みたいだ。
二年間の記憶。空白というより、黒い幕で覆われた不気味な物体のように感じる。
記憶って、なんていい加減なモノなんだろ。
ちょっと頭を打っただけで、なくなったり戻って来たり。
あたしの頭の中は一体どうなってんだ。
『あたし』を返せよ!
- 20 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)14時10分24秒
- ・・・ほんの一瞬に過ぎなかった。
寝て起きたら二年間も時間が過ぎていたなんて、こんなバカな話があるだろうか。
今日がエイプリルフールならよかったのに。
『実は嘘でした』
その一言を言ってもらえれば、笑い話で済む。
『吉澤ひとみ』は、何をして何を考え、どういう風に生きていたのか。
まあ女の子を助けて事故に遭ったのなら、そう悪いヤツではないのだろう。
もともとはあたしなんだし。
それにしても、二回も同じ状況で事故に遭って、二回も死なずに済むなんて・・・。
人がイイんだか、運がイイんだかわからない。
「ふう・・・。とりあえず、よろしく。吉澤ひとみ」
一人呟き、顔を洗って病室に戻った。
- 21 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)14時12分24秒
- 病室のドアを開けると、お母さんが戻って来ている。
すぐに怒声が飛んできた。
「何してるの!!安静にしてなきゃダメじゃない」
「あ、ごめん。ちょっとトイレに・・・」
「いいから、寝てなさい」
お母さんはあたしをベッドに寝かせると、少し悲しそうに微笑んだ。
「ほんとにもう、心配かけて・・・」
「・・・ごめん」
「ねえひとみ。今からお母さんが言う事を、落ち着いてよく聞くのよ」
「・・・う、うん」
あたしがゴクリと唾を飲み込んだのは、『吉澤ひとみ』についての話だろうと予測がついたから。
「モーニング娘。って、知ってるわね」
「え?うん。一緒に紅白見たじゃん。♪日本の未来は・・・って歌ってて」
「あなたね、モーニング娘。なの」
「い?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。何の話だか、さっぱりわからない。
というより、理解するには言葉が足りない。
「どういう意味?意味わかんないよ」
「だからね、モーニング娘。なの」
リピートされても困る。
- 22 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)14時13分14秒
- あたしが不思議そうな顔をしていると、お母さんは慌てたように言葉を付け加えた。
「二年前の事故の後、入ったのよ、モーニング娘。に」
入った? モーニング娘。に? なんで? どうして?
理解に苦しみいろいろ考えてるうちに、一つの出来事に思い当たった。
『モーニング娘。のオーディション、受けてみようよ』
友達と、冗談半分で話していた事がある。
もし受かったら、儲けモンじゃん。そんな軽い気持ちで、書類を送ってみた。
結局、真に受けて書類を送ったのはあたし一人だったんだけど、
まさか合格するワケないと思ってたし、応募した事自体忘れてた。
「ちょっと待って。いつ入ったの?」
「2000年の、四月よ」
つまり、あたしが事故に遭った後。記憶を失ってから。
待てよ。そういえば・・・
そうだ!あの時の、救急車で運ばれる時の、野次馬達の会話。
『アイドル』、『モーニング娘。』、『ワイドショー』!
こういう事だったのか。
- 23 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)14時13分59秒
- 「お母さん!!テレビつけて!!」
「何?急にどうしたの?」
「いいから、早く!!」
不審な表情をするお母さんを急かして、ベッド脇の棚に置いてある、テレビをつけてもらう。
あたしの予想は、ズバリ的中した。
『・・・で、人気アイドルグループ、モーニング娘。の吉澤ひとみさんが・・・』
テレビに映ったのは、あたしの事故のニュースを告げるアナウンサー。
なるほど。少しずつ分かってきたぞ、『吉澤ひとみ』。
- 24 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)14時16分31秒
- 今回の更新はここまでにしときます。
中途半端ですいません(汗)。
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月29日(土)15時27分17秒
- うぉ!まじおもしろい!!期待しとるよ
- 26 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時34分07秒
- どうしても石川さんが登場するまでは書いて置きたかったので、
急遽、更新しまっす。
その前にレスを。
>25 名無し読者殿
ありがとうございます!なんか照れますね。エンジンかけていきます!
- 27 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時34分46秒
- テレビに見入るあたし。
すると、お母さんが遠慮がちに話し掛けた。
「あの・・・ひとみ?」
「何?」
「でね、かなり急な話なんだけど・・・」
「何?」
「さっき事務所の人から、病院に電話があったらしくて・・・」
「だから、何?」
「だからね、事務所の人とメンバーの人達が来るって」
「メンバー?」
「モーニング娘。の皆さんが何人か」
・・・ガーン!!!
他に当てはまる擬音が見つからない。
驚きというか衝撃というか、なんとも言えない感覚があたしを襲った。
急な話すぎるよ。あたしが病院で目を覚ましてから、恐らく一時間も経っていない。
あたしの頭の中は、突き付けられた状況を受け止めるのに必死で、今にもこぼれてしまいそう。
頭イタイ・・・。物理的な痛さじゃない。
考えなきゃいけない部分が多すぎるせいだ。
- 28 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時35分42秒
- ここでわかったのは、『吉澤ひとみ』はモーニング娘。の一員だったという事。
にわかには信じられない話だが、テレビが嘘をつくはずがない。そうだ。
そう思い、あたしはもう一度テレビに目をやる。
・・・ガーン!!!
『・・・先ほど入りました情報によりますと、幸い、大事には至らなかったようです・・・』
そんなナレーション付きでテレビに映っていたのは・・・、
『吉澤ひとみ』が、何やら怪しげな扮装をして歌い踊る姿。
誰?何?なんつーカッコをしてるんだ!
その派手なスーツは一体・・・。
他人に見えてもあたしはあたし。
なんだか、すごく恥ずかしい気がする。
『♪BABY、心が痛むというのかい?』
あたしは頭が痛い・・・。
- 29 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時36分37秒
- モーニング娘。様御一行(?)の到着までには少し時間の余裕があるという事で、
その間、お母さんから二年間の出来事をいろいろと話してもらった。
記憶を失ってからの事、オーディションの事、モーニング娘。の活動の事。
あたしの立ち振る舞いや、
今はコンサートが終わって、まとまった休みをもらっている事。
一応、頭の中を整理して必死に聞いていたが、その全てが、遠い世界の絵空事のように思えた。
日常的に起こる出来事ではない。
そのうえ、今のあたしには二年という時間がスッポリ抜けているのだ。
記憶が戻る気配はないし、ピンと来ない。
「ねえ、お母さん・・・。あたしは・・・、誰?」
大まかな事を一通り聞き終えて、あたしがポツリと漏らした言葉。
お母さんの顔には、明らかな悲しみの色が浮かんだ。
- 30 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時37分22秒
- ああ、ダメだ。お母さんを悲しませちゃいけない。
きっと、二回も事故に遭ったあたしを、死ぬほど心配したんだ。
二度も記憶をなくしたあたしを、死ぬほど心配しているんだ。
こんなんじゃダメだ。
よし!
あたしは頑張るよ。『吉澤ひとみ』と向き合うよ。
なくした記憶、正体不明のブラックホール。
そんなモンに、あたしは負けない。絶対に。
- 31 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時38分08秒
- 『コンコン・・・』
ドアをノックする音が聞こえる。
どうやら、やって来たみたいだ。
緊張感が高まる。背中と顔に、冷や汗が流れた。
来るなら、来い!
あたしは、まるで森の中で猛獣と対峙かのように身構える。
「どうぞ」
そう声を掛けると、ゆっくりとドアが開いた。
と、思った瞬間・・・、
「よっすぃー!!!」
妙に甲高い大声を上げてイキナリ飛びついてきたのは、猛獣じゃなくて少女だった。
「よっすぃー・・・もぉ、心配したんだから・・・」
そう言ってあたしに抱きつき、オイオイと声を上げて泣き始める。
・・・?
だ・・・れ・・・?
あっけに取られて、ボーゼンとしてしまう。もはや、声も出ない。
- 32 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時38分59秒
- 誰なんだ?この娘は。
いや、その前に、『よっすぃー』ってのは、あたしの事・・・だよね。
どうでもいいけど、ヘンな呼び名だな。
もっと他にかっけー呼び名はなかったんだろうか・・・。
って、そんな事はホントにどうでもいい。
誰だろ。
事務所の人?にしては若過ぎる。ってことは、モーニング娘。のメンバーという事か。
でも・・・こんな人、いたっけ?
あたしの知ってるモーニング娘。のメンバー。
確か、中澤さん、飯田さん、安倍さん、保田さん、矢口さん、
市井さん、後藤さん、で、石黒さんが卒業したとかなんとか。そういえば、福田さんもいた。
テレビで見ていた顔と名前を思い出しながら、あたしの胸で泣いてる少女と照らし合わせてみる。
でも、どれにも当てはまらない。
・・・そうか。確かお母さんの話によると、
二年の間に何人かの卒業者と、あたしを含めての何人かの新しいメンバーが加わったという。
じゃあ、この娘は・・・。
- 33 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時40分09秒
- 「あの・・・キミ、名前は?」
さすがに、誰?と聞くのは失礼な気がした。言葉を選び、なんとか声を絞り出す。
少女は突然顔を上げた。その顔は、隠そうともしない驚きの表情。
唖然として、泣くのも忘れてしまったようだ。
マズかったかな・・・。
この娘はあたしの事を知っている。
『よっすぃー』なんてヘンテコな呼び名まで付いてるくらいだから、
よほど『吉澤ひとみ』と親しかったんだろう。
その『吉澤ひとみ』に、今さら名前など聞かれたら驚くに決まっている。
でも、他に聞きようはなかった。
だって、今のあたしには誰なんだかサッパリ分からないんだから。
「・・・石・・・川・・・梨華」
少女は、驚きの表情のまま答えた。
口が、自分の意志とは無関係に動いてしまったように見える。
数秒の沈黙。
「石川!ちょっと来い!」
沈黙が破ったのは、後からゾロゾロと入って来た人達が、少女を病室の外に連れ出す声だった。
- 34 名前:バードメン 投稿日:2002年06月29日(土)16時42分42秒
- ここまでです。多少時期的にズレがあると思いますが、
勘弁してやってください(ペコリ)。
- 35 名前:姫子 投稿日:2002年06月29日(土)16時59分17秒
- おもしろいです。
暗くなりすぎず、明るすぎず。
このままのテンポで進めていってほしいです。
そりゃあ、男装している自分がテレビに映ってたら固まるわな(w
- 36 名前:オガマー 投稿日:2002年06月29日(土)18時35分45秒
- 面白いですw
更新が楽しみです!!
- 37 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年06月29日(土)20時00分20秒
- 面白いです!!
記憶のない間に自分がアイドルになってたらびっくりしますな。(w
続きが楽しみです。がんがってください。
- 38 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時28分02秒
- 読んで下さって、本当にありがとうございます!!
期待に添えられるよう、頑張りたいですねぇ。
>35 姫子 殿
そうですね。このままのテンポで行きたいです。
個人的に、あまりダーク過ぎるのは苦手だったりするので。
男装はそりゃもう、当然固まりますよ(w
>36 オガマー 殿
嬉しいです!更新がんばります。
調子にのり過ぎないようにエンジンかけるつもりです。
>37 よすこ大好き読者。 殿
記憶のない間にアイドルってのは、
嬉しいような悲しいような、複雑ですな。
がむばります!
では、今から更新いっきます。
- 39 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時29分31秒
- 『・・・だから・・・石川は聞いてなかっ・・・』
『・・・ない・・・でも』
『・・・っすぃ・・・記憶喪失で・・ぉ・・・わから・・・』
ドアの隙間から、ボソボソと話声が聞こえる。
自分の事をヒソヒソと喋られるのは、どんな状況であれあまり気分の良いものではない。
あたしは少々うんざりしながらドアを見つめていた。
多分、あたしの記憶の事を石川さんとやらに説明しているんだろう。
聞かされてなかったんだろうな。
だから、あんなに驚いたんだ。
石川梨華さんか・・・。
カワイイ娘だね。さすが、アイドル。
まあ、あたしもアイドルって事らしいんだけどね。
- 40 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時30分19秒
- 石川さん、石川さん・・・・・・。
何か引っかかるものがある。
何だか、大事な事を忘れている気がする。
なんだろ。大事な事。
うーん・・・、
あっ!そういえば、今日・・・じゃなくて、
二年前事故に遭った日に待ち合わせてたのは、確か同じクラスの石川さんだった。
ただし、あの『石川さん』とは苗字が同じなだけの別人なんだけど。
多分、そのせいだな。石川さんに引っかかったのは。
うーん・・・、でも・・・。
何か少し違うような気がする・・・。
まあいいや。曖昧な事柄は気にしない事にしよう。
何て言ったって、あたしには他に問題が山積みだからね。
だいたい、記憶はいい加減なものだと知ったばかりだ。
自分の頭に頼る事はやめた方がいいらしい。
少しばかり、悲惨な『学習』だね。
- 41 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時30分56秒
- 再びドアが開いて、ぞろぞろと数人の人間が入ってくる。
どうやら、作戦会議は終わったみたいだ。
石川さんの顔色は真っ青になっている。
大丈夫かなぁ。あたしより、石川さんの方が病室のベッドに似合いそうだよ。
あたしは、とりあえず入って来た人達を順に見回してみる。
うお!後藤さん!矢口さん!安倍さん!
間違いないよ、モーニング娘。だ・・・。
皆さんずいぶん風貌が変わった感じがするけど、
あたしが知ってるモーニング娘。は二年前のテレビの中だから、印象が変わっていて当然だろう。
あともう一人の男の人は、きっと事務所の人ってヤツだね。
それに石川さんを入れて、計五人。
『芸能界』な人が五人もいると(正確には六人なわけだが)、殺風景な病室が華やかになった気がする。
すっげーな。
こんな間近で見たの初めて。
- 42 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時31分42秒
- 「よっすぃー、大丈夫なのか?」
おお!矢口さんに話し掛けられっちゃったよ。
それにしても、やっぱり『よっすぃー』なんだ・・・。
『すぃ』ってところがすごいセンスだよね。まあいいけど。
「あ、全然大丈夫みたいデス。体は」
『体は』という言葉を聞き、安倍さんが、心配そうに覗きこんできた。
「記憶・・・ないって聞いたけど・・・」
「えー、まあそういう事らしいです。あたしもよくわかんないんですよね」
「事情聞いたんだけど、二年分の記憶がないって・・・うちらの事は・・・?」
「え?あの、えーと・・・サイン下さい!って感じですかね。あははは・・・」
わざと明るく答えてみたけど・・・。失敗したか?
病室の中はなんだか暗い雰囲気に包まれてしまう。
「ま、まあ、とりあえず今後の事について話したいんだけど」
沈黙を埋めるように、事務所の人が明るく話題を変えた。
- 43 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時33分34秒
- 事務所の人との話し合いの結果、
あたしの記憶喪失は事務所とメンバー以外には秘密にする事。
退院したら、モーニング娘。としての活動を再開する事。
もちろん、体の具合はなによりも最優先する事。
以上の事が決まった。
モーニング娘。の活動については不安が残るけど、やめる理由も見つからない。
それに、あたしは『吉澤ひとみ』と向き合わなければならないんだ。
そのためにはモーニング娘。でいる事が必要不可欠だ。
今後の事を全て話終え、矢口さんによる『吉澤ひとみ武勇伝(?)』を聞いているうち、
すっかり日も暮れて夜になっていた。
「また来るね」
皆口々にそう言って、事務所の人に連れられ帰って行く。
矢口さんや、安倍さん、後藤さんとは少し打ち解けられたけど、
石川さんは、結局あれからずっと黙ったままだった。
何かを考え込むように、じっと目をふせて・・・。
なぜだろう。少し・・・いや、かなり気になる。
- 44 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時34分40秒
- うーん・・・、
とりあえず、今夜は疲れた。もう眠ろう。
寝て起きたら、また二年経ってたり・・・なんかしてたらヤだな。
ボンヤリ考えながら、あたしは眠りについた・・・。
入院は、一週間で済むという事だった。
その一週間を、あたしは大量のビデオテープとともに過ごしている。
活動再開に向けての準備。『吉澤ひとみ』を知る事。
最初はこっ恥ずかしくてとても見てられなかったけど、人間の慣れは恐ろしい。
「ソビエトは国の名前だっつーの」
退院を明日に向かえる頃には、自らの不審な言動にツッコミを入れる余裕も出てきた。
- 45 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時35分36秒
- 毎日代わる代わるモーニング娘。のメンバー達が見舞いに訪れ、いろんな話をしてくれる。
テレビで見ていた時は、『仲悪そー』なんて穿った見方をしていたけど、
なんだか、仲間というか戦友というか、メンバー同士強い絆があるように感じた。
その中に自分が入れる事を嬉しく思ったりもしてる。
さすがに中澤さんが来てくれた時には少しビビっちゃったけど、
皆とすぐに仲良くなれて、退屈を感じる事もなく、不安も薄れてきた。
これからに向けての、やる気さえ感じる。
ただ、一つ気になっていた事があった。
あれから、石川さんと一度も顔を合わせていない。
あたしに会うのを拒んでいるのだろうか。
ビデオで見る限り、彼女と『吉澤ひとみ』はとても仲良さげに見える。
『吉澤ひとみ』が消えてしまった事が、石川さんにとってはショックだったのかもしれない。
- 46 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時36分33秒
- ふう・・・。今のあたしは嫌われちゃってるのかもね。
自分が否定されてるみたいで、すごく悲しい。
仕方のない事かもしれないけど・・・。
明日は退院の日。これから、あたしに何が待ち受けているのだろう。
『吉澤ひとみ』の影に怯える事なく、頑張る事ができるんだろうか・・・。
- 47 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時37分42秒
- 「退院おめでとうございます」
「それじゃ、お世話になりました」
主治医の先生や看護婦さんに挨拶をし、お父さんの運転する車に乗り込んだ。
「念のため、通院はして下さいね。お大事に」
先生の言葉を合図に、車はゆっくり走り出す。
と、病院の門の前に立つ、一人の少女に気付いた。
あれは・・・。
「お父さん!!ちょっと止めて」
「なんだ?どうした」
「少し、待っててくれる?」
あたしは、すぐさまドアを開け、少女に駆け寄った。
「石川さん、来てくれたんだ」
「・・・うん。今日退院だって聞いてたから。あ、石川さんじゃなくて、梨華でいいよ」
「そっか。じゃあ、『梨華ちゃん』って呼ぼうかな」
ふっと、梨華ちゃんの目に、懐かしんでいるような、それでいて悲しそうな、微妙な表情が浮かんだ。
「どうかした?」
あたしが不思議に思い尋ねると、梨華ちゃんは少しだけ、ほんの少しだけ微笑んで答えた。
「そのセリフ、二回目だなって思って」
ああ、そういえば、ビデオで見た吉澤ひとみは『梨華ちゃん』って呼んでたね。
- 48 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時38分52秒
- 「そんな事より、お見舞い・・・来れなくてごめんね」
「いいよ。そんなの」
「・・・ごめん」
もう一度そう言って、梨華ちゃんは申し訳なさそうにうつむく。
「いいってば。来てくれて嬉し・・・」
言葉の途中で、あたしは思わぬモノを見てしまい、ボーゼンと固まってしまった。
え?・・・どうして・・・泣く・・・の?
梨華ちゃんの頬に、ボロボロと大粒の涙が伝っていく。
泣いてる理由がわからず、あたしは掛ける言葉が見つからない。
梨華ちゃんは、涙を拭おうともせずしゃくり上げながら口を開く。
「あた・・・ヒック・・・あたし・・・ヒッ・・・のせいで・・・」
あたしのせい?
そう言ってるんだろうか。
何の事だろう。
「あの・・・さ」
「ごめ・・・ヒック・・・ごめん・・・ごめんね」
梨華ちゃんはただ、泣きながら繰り返し謝る。
泣いてる理由はサッパリわからない。
気になるけど、この状態で何かを尋ねるのは酷な気がした。
- 49 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時39分32秒
- 「・・・泣かないで」
あたしは、黙って梨華ちゃんの頭を撫でる。
そうする事が、一番自然な気がした。
手のひらに、さらりとした髪の感触。
そこから、梨華ちゃんの悲しみが流れ込んで来たような気がした。
すごく深い悲しみ。何かを耐えていた苦しみ。
それを、この華奢な体に抱えこんでいたのだろうか。
なぜだろう・・・胸が、苦しい。
すごくすごく、苦しい・・・。
- 50 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時40分47秒
- 「ふう・・・」
自分の家に帰り着くと、すぐさま自室に向かった。
荷物をベッドの上に放り投げ、深くため息をつく。
あの後、梨華ちゃんは何も言わずに走り去った。
あたしの胸に、理由のわからない息苦しさを残したまま。
『あたしのせい』
どういう事だろう。
まさか、あたしを撥ねた車、梨華ちゃんが運転してたとか?
んなワケないよね。
もしかして、なくした二年間の記憶の中に、何か関わりがあったりするのだろうか。
記憶を覆っている黒い幕。それが、一段と分厚くなった気がする。
「ふう・・・。・・・ん?」
もう一度ため息をついた時、部屋の様子があたしの知ってる頃とは随分変わってる事に気がついた。
ここにも、『吉澤ひとみ』の影・・・か。
- 51 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時41分53秒
- 机に目をやると、モーニング娘。のメンバー達と写っている写真がたくさん飾られている。
あー・・・なんだか、ヘンな顔の写真が多いね。
あたしは、写真を一枚一枚、じっくりと眺めてみた。
梨華ちゃん・・・、それに、ごっちんの写真が多い。
ごっちんとは、年が同じですごく仲良かったって聞いてるし、まあ当然か。
入院中喋ってみた時も、一番馬の合う感じだったしね。
写真から目を外して、ふと、机の引出しを開けてみる。
おおー。以外と片付いてるね。さすがあたし。・・・ん?
隅の方に、小さく折り畳んで大切そうにしまわれている、ピンク色の便箋を見つけた。
ピンク色・・・ね。あたしの趣味じゃないだろうな。誰かの手紙?
便箋は三枚。
色の褪せ方や、柄の違う便箋である事から、書かれた時期はそれぞれ違う事がわかる。
あまり達筆とは言えない、丸っこい字の手紙。
あたしは、古い順に一枚ずつ読み始めた・・・。
- 52 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時44分47秒
- 『TO:ひとみちゃん
なんか、こうやって手紙を書いて渡すのって、少し恥ずかしいね。
でも、顔見て言うのはもっと恥ずかしいから、手紙を書こうかなって思ったの。
昨日、中澤さんに怒られちゃって私がヘコんでた時、元気づけてくれてありがとう。
本当に嬉しくて、正直泣きそうだったんだ。
「大丈夫」って笑い飛ばしてくれて、ヘンな冗談言って笑わせてくれて、
本当にありがとう。
私ね、オーディションの時からずっと、ひとみちゃんの事うらやましいって思ってた。
なんか、自分を持ってて、すごくカッコいい人だなって。
私は、すぐ真に受けて落ちこんじゃうし、
黙ってるとキツそうな人に見える、って言われるし、
レコーディングの時も「やる気あるのか!」っていっつも怒られちゃうし、
ホントはね、もう辞めたい、とかってずっと思ってた。
まだ、入ったばっかりなのにね。
- 53 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時45分35秒
- ひとみちゃんは、先輩ともすぐ仲良くなってて、なんか、すごく順調に見えて・・・。
でも、あたしはなかなか溶け込めなくて、
すごくすごく、悔しいし、自分が情けないし。
向いてないのかな、って落ち込んで、ひとみちゃんにヤキモチやいたりとか・・・。
だから、昨日話してくれた、記憶喪失の話、すごくすごくびっくりした。
全然、そんな素振り見せなかったから。
ひとみちゃんも、いろんな事を抱えてて、いろんな事に悩んでて、
それでも頑張ってるんだなってわかった。
あたしも、こんな事くらいで落ち込んでちゃいけないって思えたよ。
話してくれて、ありがとう。
こんな私じゃ頼りないけど、たまには頼ってね。
「眉毛の形でも変えてみればぁ」なんて、
当たってるんだか外れてるんだか、よくわからないアドバイスもね、嬉しかったよ。
私、頑張るね。ポジティブになる。
だから、これからも一緒に頑張っていこうね。』
- 54 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時49分07秒
- 『Dear→ よっすぃー
あたし、気の利いた事ってなかなか言えないから、手紙に書く事にした。
よっすぃーに手紙書くのは、すごくひさしぶりだよね。
お仕事でいっつも顔合わすし、一緒に遊んだりもしてるから、
改めて手紙書く事ってなかったよね。
なんか、照れるよ。
今日相談してくれた事、
よっすぃーは、「あたし、おかしいのかもしれない」って言ってたけど、
あたしは、そんな事絶対にないと思うよ。
人を好きになるのに、男だとか女だとか、そういうのって全然関係ないと思うし。
男だから好きになるとか、女だから好きになっちゃいけないとか、
誰にも決められるものじゃないよ。
性別なんて関係ないよ。人として、その人を好きになったんだから、
それでいいと思う。
- 55 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時49分57秒
- これは、あたしが勝手に思っちゃてるだけかもしれないけど、
あたしはよっすぃーの事、一番近くでずっと見て来たんだよ。
だから、知ってるよ。
よっすぃーが、どんなにあの娘の事好きかとか、大事に思ってるか、とか。
その気持ち、大事にした方がいいよ。
あの娘に、気持ち伝えてみたらどうかな。
気持ち悪がったりする人じゃないと思う。
ちゃんと受け止めて、答えを出してくれるよ。
あとね、こんな事言うと不謹慎なのかもしれないけど、
「誰にも言えない」って言ってた事を、あたしに話してくれた事。
嬉しかった。
なんか、よっすぃーがあたしに頼ってくれたのって、初めてだったから。
あたしは、ずっとよっすぃーの味方だから、安心してね。
また、泣きたくなったり、つらくなったり、
話聞いて欲しくなった時は、いつでも相談してね。
あたしは、よっすぃーの事を一番信頼してるよ。』
- 56 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時51分02秒
- 『 よっすぃーへ
さっきは、困らせちゃってごねんね。
ごめん。あたし、今まで嘘をついてた。
さっきよっすぃーに言った通り、あたしはずっと、
よっすぃーの事が好きだった。
初めて会った時から、ずっと。
それなのに、あたしはずっといい人のフリをしてて、
「よっすぃーの事は分かるよ」とか、「よっすぃーの味方だから」とか・・・。
「あの娘とうまくいくといいね」なんて・・・全部ウソ。
軽蔑する?うまくいって欲しくなんか、なかった。
ホントは、よっすぃーの事を独り占めしたくて、嫉妬してて・・・。
あの娘とよっすぃーが、うまくいかなきゃいいって、ずっと願ってた。
そしたら、あたしのトコに戻って来てくれるんだって。
自分から動こうともしないで、ただ待ってるだけの、ズルイ女。
最低だよね。自分でも思うよ。
- 57 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時51分51秒
- でもね、「友達でいよう。あたしは、一番大事な、大切な友達って思ってる」って、
よっすぃーが言ってくれた時、本当に本当に嬉しかった。
イヤミじゃないよ。本心だからね。
ありがとう。あたし、いっつもよっすぃーに助けてもらってばっかりだね。
最後にするから、もう一回言わせてね。
よっすぃー、大好きだよ。
これからも、ずっと友達でいようね。
今度から、本気で応援するよ。
ごっちんに、気持ちが届くといいね。
P.S 明日のオフ、どこに行く?
ちょっと寒いけど、あたし、遊園地行きたいな。
待ち合わせ、遅れちゃダメだよ。
2002.1.10 by リカ 』
- 58 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時52分52秒
- 最後の手紙の日付。
あたしが、事故に遭った日の前日だった。
突然水滴がパタパタと落ちて、水性ペンで書かれた手紙の字がにじんだ。
あたしは、泣いていた。
なぜ涙が溢れるか、理由はなんだかよくわからない。
とにかく、胸が痛い・・・。
息が詰まって、どうにかなってしまいそうなくらい、苦しい。
痛い、痛い、痛い。心が、痛い。
切ない?寂しい?愛しい?・・・よくわからない。
ただ、涙はひたすら流れ続けた・・・。
- 59 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)17時56分41秒
- 更新終了っす。
駄文&中途半端で申し訳ないです(汗)。
- 60 名前:オガマー 投稿日:2002年07月01日(月)18時10分18秒
- え!?
これは…意外…
吉は…!?
でも、事故に遭った事実を考えると!?
うーむ。ますます更新が楽しみでなりません!!
- 61 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)20時29分00秒
- そして、モーニング娘。としての活動は再開された。
再開・・・というより、あたしにとっては初めての芸能界のお仕事。
スケジュールは、みっちりぎっしり詰まっている。
テレビ番組の収録、ラジオ、取材、撮影、レコーディング、ライブやミュージカルのリハ。
幸いなことに、どの仕事に対しても、あたしはまったく緊張しない。
なぜなら、まったく実感がなかったから。
忙しすぎるせいか、まだ夢を見てる感覚なのか、自分がアイドルという事がどうも信じられないようだ。
『よっすぃー、大丈夫か?』
『緊張してない?』
『具合悪くなったら、すぐ言うんだぞ』
『よっすぃー、これ上げる』
いつも気を使って声を掛けてくれるメンバー達。
なぜか皆、揃いも揃ってベーグルを差し出してくるのには驚いたけど、
心遣いがすごく嬉しい。
- 62 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)20時30分21秒
- 一日の仕事が終わると、スタジオでひたすらダンスと歌のレッスンだった。
かなりしんどいし、先生も厳しい。
二年間やって来た事が全て抜けてしまったのだから、遅れを取り戻すのはかなりの大変な作業だ。
でも、体を動かしたり歌ったりするのはもともと大好きだから、なんとかやれない事はない。
そんなことより、何よりもやりきれないのは、梨華ちゃんと、喋れないでいる事。
退院の日の出来事の気まずさもあったけど、あの手紙を読んでから、妙に意識してしまう。
『大好き』・・・か。
あの手紙によって、なんとなく分かってしまった、『吉澤ひとみ』と『石川梨華』の関係。
そして、偶然か運命か、はたまた思い違いなのか、二回目の事故の直前・・・、
つまり、『吉澤ひとみ』の二年間を締めくくる最後の記憶は、『石川梨華との待ち合わせ』。
もう一つ気になるのは、『吉澤ひとみ』は、ごっちんの事が好きだったという事実。
- 63 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)20時31分04秒
- ごっちんとは、うまくやっている。
矢口さんいわく、『お前らは相変わらずだな』。
つまり、『吉澤ひとみ』でも、今のあたしでも、
接し方や関係のスタンスは、さほど変わっていないという事らしい。
確かに考え方とか似てるし、気が合う。
好きかと聞かれれば、好きと答えるだろう。
ただし・・・、Like。
どうもピンとこない。
あの手紙によると、『吉澤ひとみ』は随分思いつめていたようだ。
それなのに・・・。どうして?
記憶がなくなると、心まで変わってしまうモンなんだろうか。
あたしはあたしなのに・・・。
まだ、気付いてないだけ? 実感がわかないだけ? 余裕がないせい?
それとも・・・。
なんだか、別の人格が二年間頭の中に潜んでいたような感覚さえしてくる。
黒い幕は、日増しにあたしの二年間を色濃く覆っていく。
消えてなくなりそうなくらいに。
それが・・・ひどく怖い。
- 64 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)20時31分51秒
- やっべーな。らしくない。向き合うって決めたんだろ?
今、必要な事は、何だ?
今、やらなきゃいけない事は、何だ?
わかってるよ。梨華ちゃんの事でしょ。
OK牧じょ・・・。やだな、うつってるよ、『吉澤ひとみ』の口癖。
そうそう、もう一つピンとこない事があるんだ。
なぜ彼女は、あれほどまでにガッツさんにラブコールを送っていたのか・・・。
- 65 名前:バードメン 投稿日:2002年07月01日(月)20時45分08秒
- 貼り忘れがありました(←バカ)。
こういうのってどうしても気になってしまって・・・。
>>60 オガマー 殿
読んで頂きありがとうございます。
ほんっとに嬉しいです(涙)。
これからもどうかお付き合い下さいませ。
吉は!?事故は!?予定では、だんだん明らかになってくる事になってます。
多分(汗)。
- 66 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月02日(火)01時49分04秒
- これ面白いですね〜!!
思わず、夢中で読んでしまった・・・
あ、作者さんどーも。初めまして!
ご挨拶の方が遅れました。
次回も更新、楽しみに待つ所存にござります
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月02日(火)19時45分14秒
- いいですねー。
おもろい。更新がんがって。
楽しみにしております。
- 68 名前:バードメン 投稿日:2002年07月03日(水)19時54分45秒
- >66 なっつぁん 殿
はじめまして!!読んで頂いてありがとうございます(ペコリ)。
期待にこたえられるよう頑張りますんで、気長に更新をお待ち下さいませ。
>67 名無し読者 殿
がむばります。楽しみに待って頂けるというのは嬉しいもんですね。
涙が・・・。
では、少しですが更新を。
- 69 名前:バードメン 投稿日:2002年07月03日(水)19時55分59秒
- 「おはよーございまーす」
今日は朝からテレビ番組の収録。
挨拶をしながら楽屋に向かう。
とにかく、梨華ちゃんと気まずいままじゃ、困るよね。
今日こそは話掛けたいな。すでに退院してから一ヶ月近くも経ってるし。
記憶が戻る気配はないけど、ウジウジしてんのも性に合わない。
周りの人達が気を使ってる感じがするのもイヤだよな。
よし!!今日こそは・・・。
あたしは気合を入れつつ、楽屋のドアを開ける。
ここであたしは、ひとつの間違いを犯した。
考え事をしていたせいだろう。
この楽屋は空き部屋で、『モーニング娘。様』の楽屋は、隣だった。
それに気付いたのは一分後。
気付いた理由は、ドアを開けた途端思わぬものを見てしまったから・・・。
- 70 名前:バードメン 投稿日:2002年07月03日(水)19時57分39秒
- ・・・ガーン!!!
この擬音、よく出てくるね。
でも今回の場合、『ガーン』でも『ドーン』でも『ズバババーン』でも、何でもいいような気がする。
それぐらい、あたしにとっては衝撃的な光景だった。
どうしていいのかわからない。
我が目を疑う。
楽屋の中にいたのは、安倍さんとごっちん。
それだけなら何とも思わない。
でもさ、
キスしてるんだよ。二人が。
目の前でぶっちゅーっと。
まあ、ほら、諸事情によりあたしの精神年齢は中学生のままだからさ、
そおーとおー刺激的っていうか・・・。
幸い二人は行為に夢中なようで、あたしがドアを開けた事に気付いてないようだ。
えーっと・・・、どうしようかなぁ。
声をかける訳にもいかないし、ここはそおーっと閉めるべきだよね。
あたしは、音をたてないようにドアを閉めた。
そして、本当の楽屋に入る。
- 71 名前:バードメン 投稿日:2002年07月03日(水)19時58分21秒
- ・・・なんか・・・すごいモン見ちゃったな。
なんか動物みたいな・・・。
いやいや、それは言うまい。
だいたい、知ってる人間同士のキスシーンなんて、見てる方が恥ずいっつーの。
もしや、あの二人は付き合ってんのか?
付き合って・・・るんだよね。
そうだよね。うん、そういう事にしとこう。
じゃないと、誰もいない楽屋でキスする理由がないしね。
でも、女同士ってなんかエロちっく?
『ひとみ、ドキドキ』なぁんて、ね。・・・寒っ。
でも、だんだん謎が解けてきたような気がする。
ごっちんと安倍さんは両想いで、『吉澤ひとみ』はごっちんの事が好きで・・・。
色々と思い悩んでいたのかもしれない。そういう事だろう。
なんか不思議だね。
一通り考えて、楽屋の隅の椅子に座る。
集合時間には早いせいか、まだ誰もいない。
あたしは、だらしなく手足を伸ばし、少し眠る事にした。
- 72 名前:バードメン 投稿日:2002年07月03日(水)19時59分45秒
- どれくらい眠っただろう。
ふっと、目を覚ます。
時計を見ると、五分ほど過ぎている。
たいして眠れなかったな、そう思い楽屋を見回すと、一人メンバーがやって来ていた。
一瞬、ドキっとしてしまう。
それは、まぎれもなく梨華ちゃん。
梨華ちゃんは、あたしと同じように楽屋の椅子に腰掛け、ケータイをいじっている。
さっき入れた気合は、脆くも崩れてしまった。
き、気まずい・・・。
梨華ちゃんは、あたしが起きた事に気付いた様子だったけれど、こっちを見ようとはしない。
すごく気まずい。ものすごーく気まずい。
何を話掛ければいいか、わかんないじゃん。
だいたい、座っている位置がまずいよ。
正方形に近い形の楽屋の中、あたしと梨華ちゃんは対角線上の端と端にいる。
つまり、お互い可能な限りの一番遠い位置。
- 73 名前:バードメン 投稿日:2002年07月03日(水)20時00分42秒
- なにも、そんなに遠く離れて座らなくても・・・。
まあ、こんな隅っこに座っちゃったあたしもあたしだけどさ。
どおーしよー。何か話掛けないと、今の状態って恐ろしく不自然じゃん。
でも、何話そうか。
『今日はいい天気だね』・・・、ダメだ、曇ってるよ。
『カモーンナッ!』・・・、ダメだ、頭を打ってる過去があるだけに、病院行きにされるかもしれない。
う−ん・・・・・・。
「ゴメン!!!」
何の前触れもなく、突然梨華ちゃんが大声で叫んだ。
その声があまりに大声過ぎて、あたしは思わず椅子から転がり落ちそうなる。
お、おいおい、いくら遠くにいるからって、そんなに大声出さなくても聞こえるっつーの。
今のは、山登って『ヤッホー!』の時の音量だよ。
戸惑うあたしに構わず、梨華ちゃんはガバッと立ち上がった。
そして、ズンズンあたしに歩み寄って来る。
ズンズンズンズン・・・さらにズンズンズンズン。
- 74 名前:バードメン 投稿日:2002年07月03日(水)20時01分27秒
- 「ゴメンね、よっすぃー」
梨華ちゃんは眉をハの字にして、必死の形相であたしの両肩を掴む。
そしてもう一度、噛み付くようにまくしたてた。
「ゴメン!!何回も言うようだけど、ゴメンね!!」
あー、確かに何回も聞いてるよ。
あのね、でもそんな事より、今度は近いよ、近い。
梨華ちゃんの顔がさ、10cm手前にあるんだよ。
近いよ、近すぎるよ。
なんて極端な娘なんだろ。キミの距離感覚はどうなってんのさ。
まあ、それだけ必死なんだろうけど。
でも・・・、なんかさ、さっきの安倍さんとごっちんのキスシーンが頭の中をちらついて・・・。
妙に意識しちゃったり・・・なんか、したりして・・・。
だー!!
おかしい、おかしいんじゃないのか、あたし。
気をしっかり持とう。
- 75 名前:バードメン 投稿日:2002年07月03日(水)20時03分38秒
更新終了です。
中途半端ですんません。
次回の更新はしっかりせねば。
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月03日(水)20時57分40秒
- うわー。今日はじめて読んだよぉ。
かーなーりー巧妙な設定で文章も絶妙なカンジで先がすっごく楽しみです。
作者さんガンガって〜(吉子モナー…)
- 77 名前:オガマー 投稿日:2002年07月03日(水)22時38分04秒
- 梨華ちゃん…w
- 78 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月03日(水)23時42分56秒
- ああっ!! 一番おいしいシーンでストップとは・・・
なんか、TVとかでよくCMに入る瞬間みたい(w
これでもう、次回の更新まで目が放せない人が続出だな!
作者さん、おいしい切り方ありがと〜(w
こりゃ毎日、更新チェックせんと続きが気になるよー!!
- 79 名前:酔っ払(略 投稿日:2002年07月05日(金)16時05分41秒
- 見〜っけ♪
実は板立った時から読んでたけど気付きませんでした(爆)
さすが!まじで面白いです。更新楽しみにしてます。
って、合ってますかね?誤爆だったらごめんなさい。
- 80 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時32分14秒
- 読んで頂き感謝感謝です!
>76 名無し読者 殿
いやいや、とんでもないです。
駄文で申し訳ないっす。
でも頑張りますよ。もちろん吉澤さんにも頑張って頂きます(w
これからもよろしくお願いします。
>77 オガマー 殿
梨華ちゃん(w
コミカルな感じも出していけたらいいなと、思っております。
>78 なっつぁん 殿
あはは(照)。中途半端に切ってしましました(汗)。
次回もよろしく!って感じです。
切り方難しいなと思いつつ、誉めて(?)頂けて嬉しいです!
調子に乗ってしまいそうです(←やめとけ)
>79 酔っ払(略 殿
フフフ、合ってますよ!(ニヤリ)
なんかここで会うの不思議な感じです。
見つけて頂いて感謝っす♪
更新頑張ります!
では、少しですが続きを。
- 81 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時33分37秒
- 「で、何が『ゴメン』なの?」
あたしは、冷静を装って梨華ちゃんに尋ねる。
梨華ちゃんは少し目を伏せて、暗い表情になった。
そして、ゆっくりと話し出す。
「あのね、あの・・・よっすぃーが事故に遭ったのはあたしのせいなの」
最初の事故じゃなくて、二回目の事故の事だろう。
「・・・どういう意味?」
「あたし、すっごくズルイ女なの」
♪バイバイありがとうさーよぉなら・・・って、意味ワカンナイんだけど。
「だからぁ、何が?」
「よっすぃーが事故に遭った日、あたしよっすぃーと待ち合わせしてて・・・」
「ん?ああ。もしかして、遊園地に行くとかなんとか・・・?」
あたしは何気なく言った。そう、何気なく言った・・・よね?
あれ?なんかさぁ、梨華ちゃんの顔色がみるみる青ざめていくような・・・。
間違ったか?
いや、そんな事ないよね。
手紙の日付と内容、それに、『あたしのせい』ってのを総合して考えると・・・。
- 82 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時34分22秒
- あたしは、二回目の事故の日に梨華ちゃんと待ち合わせをしたんだよね。
そこへ向かう途中、事故に遭ってしまった。
だから、梨華ちゃんは自分のせいであたしが事故に遭ったと思ってるんでしょ?
間違ってないよね。別にヘンな事は言ってない気がするけど。
梨華ちゃんは、びっくりしたというより、しどろもどろになっている。
「・・・な、な、なんで知ってるの?よっすぃー、記憶・・・戻った?」
「いや、ぜーんぜん」
「じゃあ、なんで知ってるの?遊園地・・・とか」
「あー、それはねぇ、手紙を・・・」
「て、が、み・・・?」
そう呟いて、梨華ちゃんの顔が硬直する。
あ・・・。
しまった、と思った。調子に乗って、喋り過ぎたかもしれない。
今、思い出した。あの手紙に書かれていたのは、遊園地の事だけじゃなかった。
た、確か・・・『大好き』とか、書かれてた・・・よ・・・ね。
「あ、いや、あの・・・」
今度はあたしがしどろもどろだ。
梨華ちゃんは、キッと鋭い表情になった。
「ま、さ、か、読んだの?」
「は、はい、読み・・・マシタ」
そう答えると、梨華ちゃんの顔は火が点いたみたいに突然真っ赤になってしまった。
- 83 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時35分17秒
- あららら、青くなったり赤くなったり、忙しい人だねぇ。
マンガみたいだよ。
・・・って、そんなのんきな事言ってる場合じゃない。
どうしよう。また気まずいよ。
しかもね、梨華ちゃんの顔は、まだ10cm手前にあるんだよ。
余計に気まずい。
息が顔にかかるんだよ。
視線のやり場に困るんだよ。
意識しないようにはしてるんだけど・・・。
そもそも、この至近距離がマズイ。
気まずさの原因が原因だけに・・・マズイ。
さっきのキスシーンが、ずっと頭に残ってるし・・・。
あーあ。あれさえなければ、ヘンに意識しないで済んだんのに。
まあそれでも、広い室内で女二人顔つきあわせてるこの状況は、かなりヘンかもしれないけど。
- 84 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時36分04秒
- 梨華ちゃんは、じーっとあたしの目を見つめる。
その目は、なんだか潤んでいるようにも見える。
あー、まつげ長いね。よく見るとかわいー・・・。いや、よく見なくてもそりゃかわいいけどさ。
「あのね、よっすぃー。別に・・・いいよ」
「い!?・・・な、何が!?」
ま、まさか・・・。
「手紙の事」
あ、ああ、なんだ、『手紙』の事か。
『いいよ』って・・・、一体何の事か思ったじゃん。
キ、キスとかね・・・。
思わず焦っちゃったよ。
意味深な発言はやめてくれないかなぁ。
あたしが勝手に勘違いしたんだけどさ。
- 85 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時36分37秒
- ああ、それにしても、あたしは何でこんなにも動揺しているんだろうか。
なんか、おかしくないか?
そりゃあ例え誰からであっても、『好き』って言われたら、動揺もするし、意識もするさ。
そうだ、この前安倍さんも言ってたじゃないか。
好きって言われたら意識しちゃうって。
でも・・・。
まさか・・・。
いや、まさか、だよね。
梨華ちゃんの事が好き?とか?
いやいや、んなわけない。
落ち着けあたし。
でも、もしそうだとしたら・・・
気になるのは女同士という事よりも、『吉澤ひとみ』はごっちんの事が好きだったという事。
今の『吉澤ひとみ』と二年間を生きた『吉澤ひとみ』。
・・・本当のあたしは、一体どっちなんだろう。
- 86 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時37分21秒
- いやいや、深く考えるのはやめよう。
「ま、まあ手紙はともかく、事故の事、気にしてるんでしょ?
待ち合わせしたりしなければ・・・とか。
別に、気にしなくていいよ。梨華ちゃんのせいじゃないよ。
あたしが勝手に女の子助けて撥ねられたんだろうしね。多分」
「違うの、よっすぃー。そういうのも、もちろんあるけど、あたし・・・」
「ん?」
「あたしのせいなの。よっすぃーはあの日、本当は、ごっちんと会うはずだったの」
これは予想外の事実だ。
「へ?どういう事?」
あたしは聞き返す。
梨華ちゃんはゆっくり息を吸って、自分に言い聞かすように喋り始めた。
「あたし、よっすぃーの事が、す、好き・・・で、って、ま、まあ、それはいいんだけど、
あたし、事故の日の前日、よっすぃーにひどい事言っちゃったの」
- 87 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時37分57秒
- 事故の前日っていうと、最後に読んだ手紙の書かれた日って事か。
「ごっちんは、安倍さんと付き合ってるって、よっすぃーはその事知らなかったんだよね。
で、ずっと苦しんでて、あたし、そういうの見てられなくて・・・。だから、言ったの。
あたしにすればいいのにって。
それで、『大切な友達って思ってる』って言ってくれたよっすぃーを・・・試したの。
ごっちんとあたし、どっちを選ぶか。
二人が付き合ってるって事を知って、すごくショックを受けてるよっすぃーに、
無邪気なフリをしてワガママ言った・・・。傷口を広げるように。、
『本当に大切だと思ってるんだったら、ごっちんとの約束、断って』って」
話しながら、梨華ちゃんは崩れるように泣き出す。
「あたし、ごっちんは断られても安倍さんと会うから大丈夫だからって言って、それで・・・
それでね・・・、あたしがそんな事しなければ・・・、あたしがそんな事考えなければ・・・
あたし、いっぱい嘘をついた・・・それで・・・それ・・・」
涙で言葉になっていない。
目の前で、ボロボロと水滴が落ちていく。
梨華ちゃんは、苦しんでいるだ。痛いくらいに自分を責めているんだ。
- 88 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時38分35秒
- 胸が苦しい。
正体不明の感情が込み上げる。
予想外の事実がわかって、驚きはした。
でも、あたしが事故に遭ったのはやっぱり梨華ちゃんのせいではないと思う。
偶然が重なっただけ、そう思う。
梨華ちゃんのした事は、人間として仕方のない感情だと思う。
あたしは、恨みもしないし責める気もさらさらない。
自分を責める必要はないんだよ、そう言ってあげたい。
でも・・・言葉が見つからない。
伝える手段がわからない。
慰めるのも違う気がした。
今彼女の涙を止められる方法、苦しみを取り去ってあげられる方法・・・。
なんだ?考えろよ吉澤ひとみ。
こういう場合、どうしたらいい?
あたしは、どうしたらいい?
- 89 名前:バードメン 投稿日:2002年07月05日(金)19時41分21秒
更新終了です。
では、また次回の更新にお会いしましょう。
いつも中途半端ですんませんです。
- 90 名前:オガマー 投稿日:2002年07月05日(金)23時00分53秒
- なんか、トテーモいいところで止められているのでは??
ドキドキしまーす…
期待待ちw
- 91 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月05日(金)23時48分36秒
- ああっ!! また美味しいとこでCMに・・・(w
バードメンさん、ずるいよ〜!
切り方が旨すぎですって(w
謎が謎を呼ぶような、こんな展開、大好きです!
続きがすごーく気になりますよー
- 92 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月06日(土)19時46分14秒
- 初めて見ました・・・イイ!!
切ない物語なんだけど時々でてくるよっすぃー節がおもろい!!
これからも期待、頑張ってください。
- 93 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時11分39秒
- >90 オガマー 殿
イイとこで止めちゃってますかねぇ(^ー^)。
これからやっと(w、石川さんがたくさん出てくるので、
なにとぞよろしくお願いします(ペコリ)
>91 なっつぁん 殿
ありがとうございます。
やっぱズルイですかねー、おいしいトコでCMに(w
期待させて肩透かし、みたいにならないように気をつけまっす(w
>92 名無し読者 殿
読んで下さってありがとうございまっす!
もちろん頑張ります!
『よっすぃー節』って言って頂けるとすごく嬉しいっす。
それでは更新を。
- 94 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時12分17秒
- 一体どういう気持ちに後押しされたのか・・・。
あたしは、梨華ちゃんとの距離10cmを、『ゼロ』にした。
ごく自然に、梨華ちゃんの唇に自分の唇を重ねる。
当たり前の事のように感じた。
梨華ちゃんの涙で濡れた頬が、少し鼻先に触れる。
瞬間、左胸の鼓動が倍の早さに跳ね上がった。
ただそこに梨華ちゃんがいたから・・・。
ただそこで梨華ちゃんが泣いていたから・・・。
理由は他に思いつかなかった。
触れ合った部分から、伝わるだろうか。
『自分を責めないでいいんだよ』って・・・。
すごくすごく、穏やかな気持ち。
それと相反する高揚感。
柔らかな唇の感触に、ドキドキする。
ねぇ、梨華ちゃん・・・。
- 95 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時13分11秒
- と、突然、バーンッと派手にドアの開く音がした。
「ぅおっはよー!!」
「うわ!」
「キャッ!」
『パッシーーーン!!』
左側の耳元で、弾けたような音がした。
何が起こったのかわからない。
頬がピリピリと痛む。
「あ・・・、つい・・・」
梨華ちゃんが呟いた・・・・・・。
- 96 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時13分51秒
- 「おい・・・オマエ、そんなに食べて大丈夫なのか?」
矢口さんが隣であきれている。
「ほっといてくだふぁい(モゴモゴ)」
あたしはひたすらベーグルを頬張る。
ここは、あれから三十分後の楽屋の中。
梨華ちゃんは打ち合わせに行ってしまっている。
あたしはさっきの出来事を反芻してみて、溜息が漏れた。
痛くはないけど、左の頬がまだ熱を持っている。
何も、引っ叩かなくてもいいじゃんか・・・。
しかも、『つい』って何だよ・・・。
矢口さんが楽屋に入って来たはずみで、
焦ったのか驚いたのか、イキナリ梨華ちゃんの平手打ちが飛んできた。
で、あたしも思わず、「ごめん・・・つい・・・」なんてキスした事を謝ったもんだから、
二人して『つい、つい』言い合ってペコペコ頭を下げる羽目になってしまった。
「・・・お前ら、何してんの?」
矢口さんのけげんな表情が忘れられない・・・。
まあ、キスしてた事は気付かれてなかったみたいだから、それはよかったけどさ。
- 97 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時14分48秒
- ああ、なぜだか悲しい。
すっかりふてくされてヤケ酒・・・というわけにもいかないので、
こうしてあたしはヤケベーグル(?)を胃に押し込んでいる。
はぁ・・・、あたし、何やってんだろ。
でも、少し、軽率過ぎたかな・・・。
「吉澤さん、そろそろお願いしまーす!」
スタッフさんの声が聞こえる。
「はーい!」
あたしは満腹の胃を持て余しながら、とりあえず収録に向かった。
- 98 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時15分57秒
- 「だー!!すっげー疲れたー!!」
本日最後の収録を終えたあたしは、メイクを落として即、楽屋の床に倒れ込んでしまう。
ゴロリと仰向けになって、天井を見上げた。
ああ、『モーニング娘。』って、なんて忙しいんだろ。
朝から晩までお仕事・・・。
結局朝の出来事以来、梨華ちゃんと話す機会はなかったし。
朝の出来事・・・。
さて、どうしましょうかね。
今更ながら思う。
あんな事しちゃって・・・なんか恥ずかしくねー?
そういえば、梨華ちゃんはどう思ったんだろう。
だって、『吉澤ひとみ』はごっちんの事が好きって事になってんでしょ?
あのキス、梨華ちゃんはどういう意味にとったのかなぁ。
いや、待てよ。
その前に、あたしの気持ちはどうなんだ?
どういうつもりで、梨華ちゃんにキスしたんだろ。
『平手打ち』のせいでどういうつもりだったのかがすっ飛んじゃったよ。
あたし、梨華ちゃんの事好き・・・なのカナ。
でも・・・ね。
まだ、よくわからない。
- 99 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時16分41秒
- 「おい、答えろ『吉澤ひとみ』」
自分の頭に問い掛ける。
オマエはあたしより、遥かに長い時間梨華ちゃんと一緒に過ごしたんだろ?
梨華ちゃんの事をどう思ってた?
どうしてごっちんを好きになった?
オマエは何を思っていたんだ?
かなり虚しい行動だ。
もちろん、答えが返ってくるはずはない。
『吉澤ひとみ』はどこかに消えてしまっている。
彼女もう、あたしの中にはいない。
でもだからこそ、問い掛ける事ができる。
知りたいけど、絶対に戻って来て欲しくないヤツ。
だって、『吉澤ひとみ』が戻れば、多分・・・
梨華ちゃんは、また涙を流す事になる。辛い想いを抱え込む事になる。
もちろん、『吉澤ひとみ』も同じように。
もう、そういうのはイヤなんだよ。
誰が悲しむのも見たくないし。
- 100 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時17分23秒
- 特に梨華ちゃん。キミは笑顔の方が似合うと思うよ。
まだまともに見た事ないけど、そんな気がする。
一度きりでもいいから、あたしに笑顔を見せて欲しいなぁ。
ヘンな冗談言ったら、笑ってくれるかな。
悲しみを、少しでも消す事ができるかな。
・・・ダメかも。よく考えたら、悲しんでる原因は『あたし』じゃん。
ああ、もう、ややこしいなぁ。まったく。
それにしても・・・今日はほんとに疲れた。
ねむーい・・・。やべー、帰んなきゃいけないのに・・・。
色んな事をぐるぐる考えてるうちに、強烈な眠気が襲って来る。
体が言う事をきかない。
意識が、すぅーと遠のいた・・・。
- 101 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時18分09秒
- ・・・誰?
半分寝た状態だったけど、人の気配を感じた。
誰かいる・・・。
ああ、ヤバイ、起きなきゃ。
でも、目が開かないよ。
そうだ、あたし寝起き悪かったんだっけ。
・・・ん?
何だろ。
誰かの手が、左頬をそっと撫でた。
それから、さらりとした髪があたしの顔にかかる。
覚えのある、甘い香り。
これは誰かの・・・。誰だっけ、頭が回らない。
不思議に思っていると・・・、
唇に、柔らかな感触が落ちた。
・・・?
ああ、わかった。これは夢だな。
今朝、キスなんて馴れない事したもんだから、夢を見ちゃってるんだな。
あーあ、夢にまで出て来るなんて・・・、まさかあたし、欲求不満ではあるまいな。
うーん。でもなんか感触がリアルだったり・・・。
ま、いっか・・・。
『眠り姫は王子様のキスで目覚める』というけど、逆にあたしはそのまま深い眠りに落ちた・・・。
- 102 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時19分45秒
- 「・・・さん・・・しざわさん・・・吉澤さん!」
あ、誰か呼んでる。
えーっと・・・、ここドコだっけ?
・・・・・・うお!楽屋だった!
あたしはハッとして飛び起きた。
「吉澤さん、寝てたらダメじゃないですか」
「あ、ああ、高橋。起こしてくれたんだ」
「送りの車来たから、呼んで来いって言われました」
「ああ、そうなんだ。ありがと」
お礼を言って、高橋の顔を見る。
あれ?
あたしは不審に思った。
高橋の顔は、いつもにもましてびっくり顔。しかも、異常に顔が赤い。
もしや、あたし寝相がすごく悪かったのか?
「ね、ねえ、高橋、なんでそんなに顔が赤いの?」
「えっ!!!」
突然、高橋はあたしが飛び上がるほどの大声を上げた。
「あたし、何にも見てもてないです!なんも見てません!(訛)」
そして、一人で勝手に焦っている。
ありゃ?
高橋がそこまで焦る、あたしの寝相って一体・・・。
正直ヘコむんだけど。
まあ確かに、ヨダレの一つや二つは垂らしてたかもしれない。
- 103 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時20分31秒
- そう思い、少し焦って手の甲で口元を拭う。
すると、拭った手にはほんのわずかだけど、口紅が付いていた。
おかしいな、そう思い小首をかしげる。
「そ、それより吉澤さん、早くしてください」
「あ、ゴメン、そうだね、帰ろっか」
高橋に急かされたので、気にしない事にしてあたしは楽屋を後にした。
なんだろ。おかしいなぁ。
メイクしっかり落としたつもりだったのに。
落とし忘れがあると肌荒れするからって、飯田さんがよく言ってるしね。
気を付けないと。
しかし・・・、
今朝の梨華ちゃんといい高橋といい、『モーニング娘。』は大声大会でもするつもりなんだろうか。
少しトボけた事を考えながら、廊下を歩いた・・・。
- 104 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時22分39秒
- 『目が回る』
まさにそんな感じだ。
とにかく忙しい。時間はあっという間に流れて行く。
特に、二年分の遅れを取り戻さねばならないあたしには、やらねばならぬ事が山ほどあった。
仕事やレッスンに追われて、感傷や哀愁にひたっている暇など、そうそうない。
相変わらず、『吉澤ひとみ』は、一向に戻って来る気配を見せないが、
正体不明のソイツに対する恐怖心は治まらなかった。
だが、時間の流れ(そう言ってもたかが二ヶ月程度)は、ある程度問題を解決してくれた。
梨華ちゃんと、何とか普通に喋れる間柄になれた。
そうでなければ仕事にならないし。
でも、なんだかぎこちない。
あの日のキスの事は、お互い触れぬままになっている。
どうしたらいいんだろう・・・。
あたしは、毎日自問自答を繰り返している。
- 105 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時23分51秒
- そんなある日の事、昼過ぎに少し時間が出来て、一人楽屋でボンヤリしていた。
他のメンバーは、打ち合わせや収録で出払っている。
自分の出番までは、二時間の空き。
二時間空いたら何をする?
梨華ちゃんの事を考てみる。
エルセーヌに行ってる場合ではない。
手足をだらしなく伸ばして椅子に浅く腰掛けた。
梨華ちゃん・・・。
梨華ちゃんの好きな色はピンク。
梨華ちゃんの好きな食べ物はケーキ。
梨華ちゃんの好きな人は・・・
「よっすぃー?」
急に名前を呼ばれて、椅子から転がり落ちそうになった。
この奇妙な甲高い声の主は?
他にいるはずがない、間違いなく梨華ちゃんだ。
「何してんの?」
「いや、別に・・・」
何にもしてないよ、そう言いかけて、固まってしまった。
- 106 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時25分06秒
- あたしを固まらせたものは、梨華ちゃんの怪しげな白い衣装。
カントリー娘。に石川梨華の、「セクシーベイベー」な服。
「り、梨華ちゃん?その服、何?」
「衣装だよ」
そりゃそうだ。
「普段着」なんて言われたら、さすがのあたしも引っくり返ってしまう。
「へー。新曲、そーゆー衣装なんだあ」
「あー、そっか。よっすぃーは初めて見るんだよね」
確かに初めて見る。
つーか、一体誰の趣味なんだよ。なんかエロっちい・・・
いやいや、それは言うまい。
梨華ちゃんは、キョトンとした顔であたしを見つめる。
それから、少しはにかんだ。
「何?やっぱりこの衣装少し変かな。お腹のトコがシースルーで、ちょっと恥ずかしいんだよね」
シースルーがどうこうの問題でもない気がするが、それは個人の判断に任せる事にしよう。
- 107 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時26分17秒
- それにしても、なんだかとっても刺激的だ。
目の前においしい餌をぶら下げられた気分。
なんかこう、触りたい・・・え?。
ヤバイ・・・。おかしい。絶対おかしい。なんか、クラクラしてきた。
「よっすぃー?どうしたの?顔、真っ赤だよ?」
「あ、いや、何でもない」
梨華ちゃんのセクシーさにやられたカモ、とは、口が裂けても言えない・・・。
「具合悪いの?熱があるとか?お腹痛い?」
梨華ちゃんは、あたしの様子を本気で心配してくれているようだ。
嬉しいけどさ、
熱はともかく、『顔が赤い』と『お腹が痛い』は、あまり関係ない気がする。
もしや、梨華ちゃんってものすごく鈍感だったりするのかなぁ?
なんか、自分の色気に無自覚な気もするし・・・。
- 108 名前:バードメン 投稿日:2002年07月06日(土)21時31分08秒
今日はこの辺で更新終了です。
ではでは、次回に続きます。
- 109 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月07日(日)02時42分18秒
- 大量の更新、感激でした!!
バードメンさん、お疲れさまです。
何だか読んでてドキドキしちゃいますよ〜
寝てた時のキスの相手は、やはり○華ちゃん!?
だったら、私的にはハッピーです!!
2人きりの楽屋・・・次回が楽しみです。
- 110 名前:オガマー 投稿日:2002年07月07日(日)04時38分37秒
- うおーーーーーー
なっつぁんさんと同じ期待を持ちつつ
続きキボンヌww
セクシーベイベーにはトキメキますわなw
- 111 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月07日(日)13時31分44秒
- 今期待している作品の中のひとつです。
今回もドッキドキでした。
続きが待ち遠しいです。
- 112 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月08日(月)15時40分54秒
- 今日初めて読みました。
いや、タイトルからかっけーですね。
ここのいしかーが健気でかわいいです。
がんがってください。
- 113 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時10分34秒
- 皆様、ありがとうございます!
>109 なっつぁん 殿
ありがとうございます!
寝てた時のキスは、『高橋は見た!』って感じですかね(w。
ハッピーな方向で合ってると思われます(w
>110 オガマー 殿
期待にこたえられるか不安ですが、ある程度の動きはありますかねぇ。
続きは続々と。
セクシーベイベーは、そりゃもうトキメくでしょう(w
>111 名無し読者 殿
嬉しい限りでございます!
つたない文章ではありますが、これからも読んでやって下さい。
ご期待にそえるかどうかはわかりませんが(汗)。
>112 ごまべーぐる 殿
はじめまして!
タイトルはですね、自分の好きなバンドの曲からとってたりしてます(汗)。
がむばります!
では、更新いきます。
- 114 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時11分39秒
- 「ねえ、大丈夫? 医務室とか行ったほうが・・・」
梨華ちゃんは、あたしの心配をよそにズイッと近づいて来た。
あ、あのね・・・あんまり近づかないで。そして、上目使いで見ないで・・・。
いや、まあ、男の子じゃあるまいし、ヘンな事は考えてないよ、多分。
ただね、動悸と息切れが発生シテマス。
吉澤、ピンチです、なんて。
まあまあ。落ち着けって、あたし。
本気で心配してるんだよ、梨華ちゃんの場合。
誘惑しようとしてやってるワケじゃないんだよ、梨華ちゃんの場合。
よし、取りあえずごまかせ。
「だ、大丈夫だよ、全然大丈夫!」
「ホント?無理してない?」
「OK牧場ー!!へーきへーき」
「熱は?」
梨華ちゃんはそう言って、自分のオデコをピタッとあたしのオデコにくっつけた。
♪ピッタリっしたいクリスマス。♪べいべー恋にノックアウッ。
二つのフレーズが、頭の中に最大音量で鳴り響く・・・。
梨華ちゃんの顔が近いぃ!!
またかよっ!!
- 115 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時13分38秒
- こういう事態、ある程度予想はしてたけどさ・・・。まさか、ホントにするとはね・・・。
まあ、ありがちだよねー、こういうの。
これがドラマとかマンガならさ、見つめ合ってドキッとかしちゃったりすんだろね。
そんなの現実でそうそうあるわけないじゃん、とか思いつつ・・・
してます。ドキッとかしちゃってます、思いっきり。
無防備さに、ますます目が回る。
もうピンチなんだかパンチなんだか。
吉澤、梨華ちゃんにノックアウト・・・なのか?
あたしの動揺には気付かず、梨華ちゃんは少し考えるような仕草をした。
オデコはくっつけたまま。
「熱は・・・ないみたいだね。ふーん。じゃあ、やっぱりお腹痛いの?」
どうして『お腹』にこだわる・・・。
「だからぁ、お腹も痛くもないし、どこも悪くないってば」
「じゃあ、どうしたの?」
どうしたの?と聞かれても困るんだけど。
- 116 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時14分37秒
- 「どうもしないよ。ちっちゃな子供じゃないんだから、気にしなくていいよ」
「だって、よっすぃーの事、・・・心配・・・だし」
そう言って、梨華ちゃんの顔が急に曇った。
「あれ?ね、ねえ、梨華ちゃん?泣かないでね」
「泣いてないもん」
とか言いつつ、泣いてるじゃんか。
「泣かないでよ」
「泣いてないっ」
「ああ、そうデスカ・・・」
追求すると余計に泣いてしまいそうなので、とりあえず同意しておく事にした。
あーあ、なんかあたし、梨華ちゃんの事泣かせてばっかりだ。
いくら『ジゴロなひとむ君(?)』とは言え、泣かれると困ってしまう。
男は女の涙に弱いってよく言うけど、男じゃなくても女の涙には弱い。
お願いだから、笑ってよ。
梨華ちゃんの泣き顔は、もう見たくないから。
「別に心配しなくてもいいからさ。ほら、梨華ちゃん、笑って笑って」
そして、できればオデコ離して欲しい・・・。もたないから、心臓が。
「だって・・・」
梨華ちゃんはうつむいた。
- 117 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時15分24秒
- あー、どうしたらいいんだろ。
よっしゃ、ここはヘン顔だ!
「梨華ちゃん、ほらほら、コレ見て」
あたしは、とびっきりのヘン顔をした。
自分で言うのもなんだが、『自信作』だ。
コレで笑わない人はいないだろう。
どう?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
『ピシッ』と、効果音が鳴ったような気がした。
笑うどころか、梨華ちゃんの顔は凍りついた・・・。
ひとみ、ショック・・・。
あたしの『自信作』の立場はどうなるんだよ。
- 118 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時16分44秒
- しばしの沈黙が訪れる。
「あ、あの・・・」
「・・・・・・・・・ぶっ、あはははは」
ガックリしていたあたしを見て、梨華ちゃんは突然吹きだした。
「り、梨華ちゃん・・・?」
「あっははははは」
そして、腹を抱えて思いっきり笑っている。
「梨華ちゃん、笑うポイントが少し違うんじゃ・・・」
ヘン顔で笑って欲しかったんだが。
「だって、あはは、なんかよっすぃー、かわいかった」
梨華ちゃんは、極上の笑顔をあたしに向けた。
あ・・・、
やっばいよ、ソレ。すっっげーかわいい・・・。
心臓が、バクバク音を立てる。
顔がバカみたいに赤くなって、息がうまくできない。
あたしの目は、梨華ちゃんにクギヅケになった。
「梨華ちゃん、あたし・・・」
「もぉ、よっすぃーっていっつも無理ばっかりするんだから、気を付けてね」
言葉を遮って、梨華ちゃんはあたしの前髪をスッと撫でる。
- 119 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時17分27秒
- 無理・・・ね。
ドキッとするのと同時に、一つの考えが浮かんだ。
無理、してると言えば、してるかもしれない。
でもそれは、・・・あたしじゃない。
『吉澤ひとみ』の話でしょ?
梨華ちゃんはずっと『吉澤ひとみ』を見てきて、
『吉澤ひとみ』はずっと梨華ちゃんに見守られてきて・・・。
そんな中で、梨華ちゃんは彼女を好きになった。
あたしだけど、あたしじゃない人を。
・・・・・・そっか。今気付いた。いや、前々から気付いてはいるけど、
梨華ちゃんが好きなのは、あたしじゃない。
『吉澤ひとみ』だったんだ。
そうだよねぇ。
何を一人で舞い上がってんのさ。やっぱおかしいよ、あたし。
何考えてんだよ。
・・・・・・。
胸が、すごく痛い・・・。
- 120 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時18分21秒
- ・・・ん?待て。
胸が痛いというより、なんか、頭が痛い・・・ような気がしてきた。
そう気付いた瞬間、
突然、あたしの視界に何かが横切った。
いや、横切るというより、頭の中に無理矢理イメージが入り込んできた感じ。
ほんの一瞬だけ見えた、赤い光の点滅。
・・・・・・なんだ?
「・・・すぃー?よっすぃー?」
「え?」
「どうしたの?」
「いや、なんでも・・・ない」
今の、何?
どっかで見たような気がする。
疲れてるのか?
なんか、すごく嫌な感覚。奥から湧き上がってくるような、なにか。
- 121 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時19分33秒
- 「ねえ、ホントに大丈夫?今、ボーっとしてたけど」
「う、うん。大丈夫だよ」
そう答えたけど、今度は大丈夫じゃないかもしれない。
理由のわからない恐怖が、全身に広がってきた。
なんだコレ。
怖い。
怖い。
怖くてどうしようもない。
「よっすぃー!!」
梨華ちゃんの叫ぶ声が耳元で聞こえて、あたしはハッとした。
- 122 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時20分17秒
- 「あ、ごめん、何?」
「何って・・・、顔色、真っ青だよ?」
「そう?ちょっと考え事してて」
「やっぱり、病院か医務室に行っ・・・」
梨華ちゃんの言葉が、途中で途切れた。
あたしが、梨華ちゃんの身体を抱き寄せたカラ。
「な、なに?」
「梨華ちゃん・・・、しばらくこのままで」
梨華ちゃんの身体は、思っていたよりもずっとずっと華奢だった。
抱き締めた途端にふわっと漂った甘い香りは、嗅覚より先に、左胸に届く。
ごめん、あたし、梨華ちゃんの事・・・好き。
- 123 名前:バードメン 投稿日:2002年07月09日(火)20時23分48秒
とりあえず、ここで一区切り。更新終了です。
では、また次回に続きます!
- 124 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月09日(火)22時56分46秒
- あぁー!!!
何でそこで終わるかな!
ホントにバードメンさんはオイシイところで切りますね〜
ドキドキしながら読みました。
続きが今から楽しみです。
- 125 名前:オガマー 投稿日:2002年07月09日(火)23時05分32秒
- このドキドキはぁ〜♪
ちょっと興奮気味です、ごめんなさい(笑)
続き禿しく待ちw
- 126 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月11日(木)19時56分42秒
- >>124さん
私とおんなじこと言ってるー!(w
作者さん更新お疲れ様でした。
いやぁ、ここまで来るともう芸術ですね!
毎回、目を釘付けにしたまま「続く」になるんだもん(w
2人きりの楽屋、全く私の期待を裏切らない展開で、
もうドキドキ・ワクワクしながら読みましたよー!
「バードメンさん、お見事!!」
作者さん、「ここでちょっと旅に出ます。」なんて言わないでね(w
早く続きが見たくてワクワクのなっつぁんでした!
- 127 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時07分22秒
- 感謝、感激です!暖かいレスに幸せを感じる今日この頃。
>124 名無し読者 殿
あはは(照)。恐縮です。
楽しみにして頂けるなんて、ほんと嬉しいです。
ありがとうございます!
>125 オガマー 殿
おお!興奮気味ですか!
嬉しいです!わたくし泣いて喜びます(w
なかなか進まなくて申し訳ないです。
>126 なっつぁん 殿
いえいえそんな、とんでもないです。
更新する度、自分のヘタレな文章にヘコんだりしております(汗)。
でもめっちゃくちゃ嬉しいっす!
旅って・・・(w
それは大丈夫です(w
しっかり更新頑張っていきたいと思います!
では、少しですが更新を。
- 128 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時08分54秒
- 多分、これが真実。
心臓の鼓動が教えてくれている。
他に考えようはない。
あたしより少し体温の高い首筋。
顔を埋め、甘い香りを吸い込む。
梨華ちゃんの表情は見えない。
でも、押し戻すでもなく受け入れるでもなく、ただ黙ってあたしの腕の中にいた。
どれくらいそうしていたかはわからない。
あたしには、時間が止まっているように感じる。
「石川さーん!!」
突然ドアの外からスタッフさんの声が聞こえて、ビクッとした。
時間は動き出した。
名残惜しさを残しつつも、梨華ちゃんを解放する。
- 129 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時10分04秒
- 目が合うと、梨華ちゃんは穏やかに笑った。
形のいい唇が動き、言葉が発せられる。
その意味は、拒否。
「ごめんね。ごっちんの代わりに・・・なってあげられなくて」
多分、梨華ちゃんにとっては精一杯の優しさ。
あたしにとっては、絶望。
梨華ちゃんは、静かに楽屋を出て行った。
違う。違うんだよ、梨華ちゃん。
どうして否定しなかったんだろう。
どうして否定する事ができなかったんだろう。
あたしは、梨華ちゃんを傷付けた。
抱擁もキスも、まるで意味を持たない・・・。
わかっていたけど、言葉が出て来なかった。
- 130 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時10分52秒
- 一人ボーゼンとする。
さっきの梨華ちゃんの言葉が、耳に焼き付いて離れなかった。
あたしは、梨華ちゃんに『代わり』を求めたわけではない。
ただ、あたしがそうしたいと思う前に、勝手に手が動いて、
好きだと気付くより前に、梨華ちゃんを抱き締めていた。
でも、なんとなくわかってしまった事がある。
あの時見えた『赤い光の点滅』。
多分、あれは救急車のパトライト。
事故の時の記憶。
それは、あたしではなく、『吉澤ひとみ』になった瞬間の記憶。
なにかのはずみで、記憶の一部分だけが戻りかけた。
『記憶喪失』とはいっても、記憶がなくなったわけじゃなくて、
記憶のしまってある頭の中の引き出しが開かなくなってしまっただけだから、
急に飛び出してくる事はありえない話ではない。
まったく。
古いタンスじゃあるまいし・・・。勝手なもんだ。
あたしはガックリ肩を落とす。
- 131 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時11分34秒
- 記憶が戻る事が、怖い。怖かった。
『吉澤ひとみ』が戻ってきたら、梨華ちゃんを失う事になる。
本能的にそれに気付いた。
でも結局、失ってしまったかもしれない。
あの時、否定すればよかったのだろうか。
でも、記憶が戻ったら?
余計に傷付ける。
梨華ちゃんの涙は見たくない。
もちろん記憶が一生戻らない可能性も、ないわけではない。
でも、そんなバクチな事をする勇気を、あたしは持てない。
逃げたのかもしれない。
先が見えない事への恐怖。
梨華ちゃんに気持ちを受け止めてもらえないかもしれない恐怖。
『吉澤ひとみ』に対する恐怖。
とんだ根性なしだ。
やっぱりあたしは、梨華ちゃんに好きになってもらえるような人間では、ないかもしれない。
- 132 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時12分35秒
- 次の日は、雨が降っていた。
家を出るのが憂鬱になる。
雨のせいではない。
梨華ちゃんに、どんな顔して会えばいいのだろう。
自分のあまりの情けなさに、ウンザリする。
いつものようにテレビ局に行き、楽屋に向かう。
濡れてしまったスニーカーとジーンズの裾に鬱陶しさを感じながら、楽屋のドアを開けた。
思わずたじろぐ。
楽屋の中に居たのは梨華ちゃん一人。
まったく、あたしってやつはタイミング良いんだか悪いんだか。
「あ、よっすぃー、おはよっ!」
あたしに気付いた梨華ちゃんは、すぐに明るい笑顔と声であたしを向かえ入れた。
気まずくなるだろうと思っていたあたしは、意表をつかれて、あっけにとられてしまう。
「あ、おはよ・・・」
「ね、見て見て」
「な、何?」
「ほら、かわいいでしょ?」
そう言って、誇らしげに見せられたものは、指に塗られたピンク色のマニキュア。
「へー、キレイな色だね」
素直な感想を述べる。
濃い色だが派手ではなく、鮮やかに発色して輝くピンク色は、
梨華ちゃんの小さな手に良く似合うと思った。
- 133 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時13分18秒
- 「よっすぃーも塗る?」
「いや、あたしピンクはちょっと・・・」
「塗ってあげるよ」
「へ?」
唖然としたあたしに構わず、梨華ちゃんは強引にあたしを椅子に座らせる。
そして、机に置いてあったマニキュアの瓶の蓋を開け、あたしの手をとった。
梨華ちゃんが、ゆっくりと丁寧にあたしの爪にピンク色を塗る。
あたしはされるがままになりながらも、逃げ出したい気分になった。
どうして来たそうそうマニキュアを塗られているのかわからないが、
とにかく居心地が悪い。
どうしよう・・・。指先が、めちゃくちゃ緊張する。
手と手が触れているだけでここまで緊張するのは、生まれて初めての経験。
心臓の音が聞こえてしまわなければいいが・・・。
「あっ!!」
突然梨華ちゃんが大声を上げたので、あたしは飛び上って驚いた。
「な、な、なに!?」
「はみ出した」
「あ、そう・・・」
マニキュアがはみ出したくらいで大声上げないで欲しい・・・。
心臓に悪いから。
- 134 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時14分24秒
- 無事(?)マニキュアは塗り終わり、梨華ちゃんは満足気にあたしの手を眺め、
そして、うーん、と一声唸って顔を上げた。
「なんか、あんまり似合わないかも」
余計なお世話だ・・・。
自分で塗っておいて、それはない。
「手大きいしね」
あたしが少々自嘲気味に呟くと、梨華ちゃんはおどけたように明るく笑った。
「あー、大きいもんね。よっすぃーには、もっとかっけー色が似合うかも。
でもさ、なんか、ウキウキするでしょ、指先が明るい色だと。
気持ちも明るくなる感じ。いい事ありそう、みたいな」
「・・・・・・」
- 135 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時15分30秒
- あたしは、泣きそうになった。
梨華ちゃんの真意がわかってしまった。
ああ、この娘には敵わない、そう思った。
あたしの為に、何事もなかったかのように振る舞う梨華ちゃん。
あたしの為に、あたしを元気付けようとする梨華ちゃん。
あたしは梨華ちゃんを傷付けたのに・・・。
どうしてそんなに優しくできるんだろうか。
優しくて優しくて・・・。
優しすぎて、心が痛む。
もう、どうしていいのかわからない。
あたしはただ黙って、指先のピンク色を見つめていた・・・。
- 136 名前:バードメン 投稿日:2002年07月11日(木)21時21分43秒
更新終了です。
少なくてすいません(汗)。
キリがよかったので・・・。
ではでは、また次回の更新時にお会いしましょう。
- 137 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)22時10分40秒
- >作者さま
ものすご〜く、いい感じになってきましたねぇ〜
更新が楽しみな作品です。頑張ってくださいね。
- 138 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月12日(金)00時53分04秒
- やった! 更新されてるー!!!
バードメンさん、ありがと♪
今日の昼から、なっつぁんは続きが気になって仕方なかったのだ(w
今回の更新は、甘さよりしみじみと感じる回でしたね・・・
健気な梨華ちゃん、素直な言葉が出せず悔やむ吉澤さん。
ごっちんの代わりになれずごめん・・・て言う梨華ちゃんに
胸を突かれました。
きっと、現場の吉澤さんは もっと衝撃だったでしょうね・・・
すっかり作者さんのストーリーにハマってしまった、なっつぁんです(w
また、ワクワクしながら待ってまーす!
- 139 名前:オガマー 投稿日:2002年07月12日(金)04時03分33秒
- うわ〜
どうしたら2人の切なさが消えるんだろう
どうすればぁ!!(お前が悩むことちゃうw
2人の幸せを更新と共に待つのみだすw
- 140 名前:酔っ払い 投稿日:2002年07月12日(金)09時33分29秒
- ヒサブリまとめて読みました。
楽しみはあとに取っとく性格でして。
切ないっす。胸が痛いっす。
梨華ちゃん、健気すぎるっ。
はぁ〜、あなたのおかげ(笑)でますます
いしよしにどっぷりです。
責任取って〜(w
- 141 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時14分29秒
- 読んで頂いてありがとうございます!
>137 名無し読者 殿
いい感じになってきましたかねぇ(←自信なし)。
期待を裏切らないか、恐々書いてます(汗)。
これからも頑張っていきます。
>138 なっつぁん 殿
いえいえ、こちらこそありがとうございますです。
ハマって頂けるとは、感激です!
結構手探り状態といいますか、
いしかーさんを魅力的に書けるよう試行錯誤、四苦八苦です(汗)。
> 139 オガマー 殿
切ない場面は今回の更新分もまだ続いてたりしております・・・(汗)。
自分も二人の幸せを願ってるのですが、手が勝手に・・・(w
>140 酔っ払い 殿
あはは(照)、自分のおかげっすか(w
嬉しいかぎりです!
いしよしを推してきた甲斐があったなぁと、しみじみ。
せ、責任って・・・(w
では、今日の更新を。
- 142 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時15分57秒
- それから、一日中ボーっとしてばかりだった。
梨華ちゃんの横顔を眺めては溜息をつき、ピンク色を見ては溜息をつき・・・。
番組収録中も、段取りは間違えるわ話聞いてなくてヘンテコなコメントを述べてしまうわ・・・。
とにかく、ひどい有様だ。
家に帰っても、『おかえり』に『おめでとう』と返すベタなボケを本気でかまし、
落ち着くために水でも飲もうと冷蔵庫を開ければ、
手に持っていたのはどういうわけかマヨネーズだったりした・・・。
人間、思いつめると何をやりだすかわからない。
お母さんがあたしの様子にけげんな顔をするので、
あたしは早々に自分の部屋に引き揚げる。
- 143 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時16分45秒
- ああ、すごくつらい・・・。
大丈夫かな・・・あたし。
頭の中に浮かんでくるのは、梨華ちゃんの笑顔。
じっと、自分の指先を見つめてみる。
ピンク色は確かにあまり似合ってないけど、
梨華ちゃんが塗ってくれた事を思うと、落とす気にはなれなれない。
梨華ちゃんって、思ったより手先不器用なんだなぁ。
そんな事を考えながら、
少し爪からはみ出している右手中指のピンク色に、そっと口付けた。
「ごめん、梨華ちゃん・・・」
一人呟いたみたところで、何も変わらない。
勝手に涙が滲んでくる。
ダメだ・・・。
あたしは、ベッドに潜り込んで、さっさと眠る事にした・・・。
- 144 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時17分24秒
- 「いい天気ですねぇ」
手持ち無沙汰だったので、なんとなくそう言ってみる。特に意味はない。
「そうかぁ?微妙に曇ってんじゃん」
矢口さんはいたって冷静だ。
冷たいなー。
まあ確かに、あたしもそう思うけどさ。
最近では珍しい屋外でのロケは、薄い雲が太陽を隠す、曖昧な天気の中で行われていた。
外に居る場合、休憩時間に入っても特にする事はないわけで、
辻加護達と、はしゃぐ気分にもなれなかったあたしは、
ただひたすら用意された椅子に座ってボーっとしていた。
暇だと、つい考えてしまう。
梨華ちゃんの事。そして、『吉澤ひとみ』の事。
あの時以来、記憶が戻って来る気配はない。
病院に行ったところで、『前例がない』の一言で片付けられてしまう。
なんだか、『吉澤ひとみ』に弄ばれてる感じがして、気持ちはモヤモヤしたままだった。
- 145 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時18分11秒
- 「ふう・・・」
あたしは溜息をつく。
そして、ふと、メンバー達の様子に目をやると・・・
「なっちー!」
「ごっつぁん、くっつかないでってばぁ」
安倍さんとごっちんがイチャイチャ(?)してる場面にぶち当たって、
思わずあっちこっちへ目をそらす羽目になった。
はあ・・・、どうなってんのかね。
キスシーンを見てしまっているだけに、妙に恥ずかしくて直視する気にはなれないけど、
へー、ラブラブなんだぁ、ぐらいの感想しか持てない。
こういう時、『吉澤ひとみ』ならどう思うんだろ。
ヤキモチやいたりするのかな。
・・・そういえば、梨華ちゃんはどこ?
- 146 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時18分44秒
- 急に気になって、辺りをキョロキョロと見回す。
そして、飯田さんと談笑する梨華ちゃんを見つけた。
見つけた瞬間、急に雲が切れて、明るい日差しが降り注ぐ。
あ・・・。
眩しさに顔をしかめつつも、ついついあたしの目は釘付けになった。
か、かわいい・・・。
茶色、というより、オレンジ色に光る髪の梨華ちゃんは、太陽にとてもよく映える。
左胸の鼓動が早まる。
やっぱり、しっかりと否定しなければならない。
梨華ちゃんは、『代わり』じゃないんだよって。
きちんと、伝えなければならない。
そして、傷付けた事、あやまりたい。
あやまってどうにかなる問題ではないかもしれないけど、それでも・・・。
- 147 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時20分00秒
- 「よっすぃー」
「うあ!」
見とれていたところに矢口さんから声をかけられ、あたしは妙な声を出してしまった。
「な、なんですか?びっくりするじゃないですか!」
「今、石川に見とれてただろ」
う・・・。さすが矢口さん、鋭い。
「み、み、みとれてないっすよ」
「何焦ってんの?」
「焦ってな、ないっすよ」
まずい、声が裏返った。
矢口さんは、ニヤッと笑ってあたしをからかう。
「梨華ちゃんかわいー、とか思ってたんじゃないのかよ」
「い、いや、なんとなく梨華ちゃんって、太陽が似合うなぁ、と思って・・・」
少々、いや、かなりヘンな言い訳だけど、『はい、そのとおりデス』と答えるわけにもいかない。
- 148 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時20分49秒
- すると矢口さんは、特に気にする様子もなく、
「ふーん。まあ色黒だからねぇ」と、サラッと言い放った。
「色黒って・・・」
そ、その一言で片付けちゃうんだ・・・。
梨華ちゃんが聞いたら、怒りだすかもしれない。
でもまあ・・・、それが普通の反応だよなぁ。
いちいちドキドキしてる、あたしの方がヘンなのかもしれない。
仲間であり友達であり、なんと言っても女同士だしさ。
・・・・・・。
・・・・・・あれ?
やばい。
そうだよ。
今更だけど、あたし、好きだ。
やばい・・・やばいやばいやばい。
すっげー好きだ。
矢口さんとあたしの反応の違いを目の当りにして、改めて自覚したような・・・。
あたし、梨華ちゃんの事、ホントに大好きなんだ・・・。
- 149 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時21分49秒
- なぜか、『うわー!!!』と、大声で叫びたくなる。
でもその衝動を、グッと抑えた。
あたしは二回も頭を打ってるから、
ここでそんな不審な行動をやらかしたら救急車を呼ばれかねない・・・。
落ち着け、落ち着けー吉澤!
自分に言い聞かせる。
しかし、落ち着こうとすればするほど、焦ってしまうのが人間の悲しい性。
何をどうしたのか自分ではまったくわからないのだが、
あたしは座っていた椅子ごと、思いっきりすっ転んだ。
「あだっ!!!」
あたしの悲痛な・・・というより間抜けな叫び声は辺り一面に響き渡り
その場にいる一同が一斉にあたしに注目する。もちろん梨華ちゃんも・・・。
- 150 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時22分51秒
- 「よっすぃー!!大丈夫?」
真っ先に駆け寄って来たのは、ほかでもない、梨華ちゃんだった。
大丈夫、と言おうとしたけど、言葉が詰まって出て来ない。
「よ・・・すぃ・・・?」
あたしの顔を覗き込んで、梨華ちゃんが呆然とする。
梨華ちゃんのその顔を見るまで、気付かなかった。
言葉の代わりに出て来たのは、涙。
あたしは泣いていた。
次から次にボロボロと溢れてきて、止まらない。
「そんなに痛かったの?大丈夫?」
梨華ちゃんはオロオロしながらあたしを慰める。
違う、違うよ、梨華ちゃん。
そうじゃないんだよ。
- 151 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時23分29秒
- 声を絞り出そうとしても、喉が引き攣って、ただ嗚咽だけが漏れてしまう。
一体あたしは、どうしてしまったんだろうか。
とうとうおかしくなったのか?
自分の体が、コントロールの効かない機械にさえ思えてくる。
何が起こってるんだろ・・・。
「よっすぃ・・・、泣かないで・・・ね? 大丈夫だから」
梨華ちゃんが、優しくあたしの頭を撫でる。
胸が苦しくなって、やっとその時、涙が溢れる理由がわかった。
多分、目の前にいる梨華ちゃんに、手が届かないから。
目の前にいるはずなのに、梨華ちゃんに気持ちが届かないから。
梨華ちゃんの優しさは・・・、
『吉澤ひとみ』に向けられているものじゃないかと、思ったから。
それが、つらくなったから・・・。
- 152 名前:バードメン 投稿日:2002年07月13日(土)21時27分23秒
更新終了です。
ここで一区切りしまっす。
では、次回の更新へ続きます。
- 153 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月13日(土)22時00分57秒
- バードメンさん更新お疲れです。
心配なさらずとも梨華ちゃんだけじゃなく、登場人物みんな
魅力的に書けてると思いますよ!
矢口さんのツッコミ鋭かったですね(w
実際の仕事場でも、あんなやり取りがされてるんでしょうかねぇ・・・
梨華ちゃんに見とれる吉澤さん、想像したら嬉しくなっちった!(w
さぁ、次回の吉澤さんと梨華ちゃんのリアクション
今からワクワクしながら待ってまーす!
- 154 名前:オガマー 投稿日:2002年07月14日(日)01時49分43秒
- ああ…
マジ切ねぇー…
うう…救われることを期待しつつ
更新待ちw
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月14日(日)10時38分48秒
- ううっ、切ない…
初めて読んで、見事にハマりました。
更新楽しみにしてます。
- 156 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月14日(日)13時18分19秒
- よすこが切ない…。
がんがってください。
最近、ここ見るのが楽しみです。
- 157 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月15日(月)00時10分53秒
- すごいおもしろいです。
生き甲斐が一つ増えました。
楽しみに待ってます。
- 158 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月15日(月)14時07分16秒
- 遠いようで近く、近いようで遠い関係。
んー切ない。
- 159 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時33分37秒
- ありがとうございます(ペコリ)。
>153 なっつぁん 殿
魅力的に書けてますか?
そう言って頂けると、非常にうれすぃです。
まだまだ精進せねば。
さて、二人のリアクション、うまく表現できるでしょうか(心配)。
>154 オガマー 殿
果たして二人は救われるんでしょうかねぇ。
それは・・・謎(←自分で書いてるくせに)
>155 名無し読者 殿
はじめまして!
読んで頂きありがとうございます。
更新がんばりますです。
>156 ごまべーぐる 殿
がんばります!
楽しみにして頂けるなんて、泣いて喜びます。
>157 名無し読者 殿
生き甲斐なんて、そんな(汗)。
とんでもないです。
でもすごく嬉しいっす。
>158 名無し読者 殿
あわわわ。それは内密に(w
遠くて近くて・・・。
そうですねぇ。
それでは、少し更新を。
- 160 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時34分51秒
- 不思議だった。どうして梨華ちゃんがあんなに優しいのか。
でも、今ならわかる。
『吉澤ひとみ』が、梨華ちゃんに『何か』を与えたからなんだ。
それが、悔しい。苦しい。痛い。
だって、
あたしにとって、『吉澤ひとみ』は得体の知れない別の人間でしかないんだから。
涙はなかなか止まってくれない。
多分、メンバーやスタッフさん達は唖然としている事だろう。
突然椅子ごと転がり落ち、挙句の果てに号泣しているなど、間抜けもいいとこだ。
カッコ悪い。
でも、どうにもならない。
くっそ!止まれよ。止まってくれよ。
誰か、どうにかしてくれ。
- 161 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時35分41秒
- あたしは涙を止めようと必死だった。
でも、拭っても拭っても、まるで意味がない。
すると突然、梨華ちゃんが何かを察したように立ち上がる。
そして、
「あの、よっすぃー、お腹痛いそうなんで、休ませてあげて下さい」
スタッフさんにそう告げた。
お腹・・・。
椅子から転がり落ち号泣。しかもその理由が『お腹痛い』。
そぉーとぉーカッコ悪ぅ・・・。
「なんだ、腹痛かったのかよ」
「突然泣き出すからびっくりしたじゃん」
「早く言わないとダメだよ」
皆口々に言って、とりあえず現場の緊張はほぐれる。
- 162 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時36分31秒
- マネージャーさんから見学を命じられたあたしは、それからずっと、空だけを見ていた。
収録の様子には目もくれず、ずっと上を向いていた。
気を緩めると、すぐに涙腺が緩んでしまう。
坂本九さんの歌を真に受けたわけじゃないけど・・・、
上を向いていないと、涙が零れてしまう。
上を向いていないと、梨華ちゃんが視界に入ってしまう。
ただただ・・・、空と雲を見上げていた。
梨華ちゃんが好き。
何かをして欲しいと思ってるわけじゃない。
でも・・・、一方通行の『好き』には耐えられない。
それを受け入れるには、心のキャパが足りなくなっている。
どうしてあたしの想いは、勝手に独り歩きするのだろう。
ホントに伝えたい事を、置き去りにしたまま・・・。
- 163 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時37分50秒
- 「ねぇ、よっすぃー。ちょっと来て」
次の日の仕事の合間、梨華ちゃんに呼び出された。
用件は、聞かなくてもだいたいわかる。
いくら鈍感(と、思われる)な梨華ちゃんでも、
まさか、ほんとにお腹が痛くてあたしが泣いていたとは、思っていないだろう。
梨華ちゃんの後に続き、テレビ局の廊下を歩く。
歩くほどに、憂鬱な気分が強くなってきた。
きっとまた、梨華ちゃんに心配をかけてしまったに違いない。
これから起こるべき状況を想像して、自然に溜息が漏れた。
人通りのほとんどない場所まで来ると、梨華ちゃんはクルっと振り返る。
「ねえ、大丈夫?」
そしてそう言って、あたしを覗きこんだ。
ほら、やっぱりね。
予想通りだ。
『吉澤ひとみ』が心配なんだよね。あたしじゃなくて・・・。
- 164 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時38分48秒
- 「大丈夫だよ。ぜーんぜん」
あたしはわざとおどけて答えた。そうしないと、おかしくなりそうだったから。
「よっすぃー。無理しないで。つらいならつらいって言わないと、わかんないよ」
梨華ちゃんの表情は、怒ったように少し険しくなった。
あたしは、思わず目を逸らす。
梨華ちゃんを見る事ができない。
目が合った途端に、心の奥を覗かれてしまいそうだ。
梨華ちゃん。
今キミの目の前にいる人物は、『吉澤ひとみ』じゃないんだよ?
つらい。
「ねえ、よっすぃーってば」
「梨華ちゃん・・・。あたしの事はほっといてくれないかな」
「えっ・・・?」
「心配いらないよ。無理ばっかする『吉澤ひとみ』は、あたしじゃないんだから」
「なに・・・言ってるの?」
「あたしは、梨華ちゃんの知ってる『吉澤ひとみ』じゃないよ。別の人間なんだよ」
「・・・よ・・・すぃ・・・」
見なくても、梨華ちゃんの表情が凍りついたのがわかった。
- 165 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時39分44秒
- ほら、そういう事だから、もうほっといて。
また泣かせちゃうかもね。
ごめん、梨華ちゃん。
万事予想通り。
これでいい。
これでいいんだよ。
じゃないと、壊れてしまう。
あたしは、その場を立ち去ろうとした。
梨華ちゃんを見ないように、俯いたまま。
が、次の瞬間、予想外の事態が起こる。
「よっすぃー!!」
- 166 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時40分43秒
- 何の前置きもなかった。
突然、梨華ちゃんが、あたしの襟元を思いきり掴んだ。両手で、力強く。
グイッと引っ張られ、首が絞まる。
「ぐぇ」
そんな情けない声を出してしまったのと同時に・・・、
梨華ちゃんの唇が、あたしのそれに唐突に重なった。
噛み付くような、乱暴なキス。
突然過ぎて、目を閉じる事を忘れた。
いや、忘れたというより、仰天して何も考えられなかった。
押し寄せた甘い衝動に、目が回る。
一体、何が起こってるんだ?
混乱、驚き、迷い、そして多分、快感に近い感情。
色んなものが入り乱れ混じり合って、頭の中が爆発しそうになる。
膝がグラついて、腰から落ちる。
梨華ちゃんが唇を離すと、あたしはペタンと尻餅をついてしまった。
- 167 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時42分06秒
- 「・・・へ?」
あたしの第一声はコレ。
我ながら情けない。
「ばか!」
梨華ちゃんの第一声はコレ。
意味がよく飲み込めない。
へたりこんでいるあたし。
目の前に仁王立ちする梨華ちゃん。
よく考えれば、凄い状況になっている。
「ばか!ばかばかばかばか!」
まだ言うか。
自分が天才であるなどとは思わないが、人に言われると腹が立つもんだ。
「意味わかんねーよ!!なんだよ!それ!」
あたしは強く反論した。しかし、立つ事ができない。
腰が抜けたみたいだ。
- 168 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時42分59秒
- 梨華ちゃんを見上げると、どう見てもテレビ向けではないと思われる、怒りの表情をしていた。
「どうして、これは自分でこれは自分じゃないって、境界線を作るの?
そんなのよっすぃーの勝手な思い込みでしょ!」
「梨華ちゃんにはわかんないよ!」
「そりゃわかんないよっ!!」
大声でそう言うと、
梨華ちゃんは、座り込んであたしと視線を合わせる。
見つめ合うと、
三、四秒の沈黙が流れた。
短くて長い、間。
ほんの一瞬の動揺が、梨華ちゃんの目に浮かぶ。
それを見た時、あたしはほとんど捨て身だった。
「待っ・・・」
沈黙を破った梨華ちゃんの言葉は、すぐに途切れる。
あたしがキスで塞いだ。
昔、何かの本で読んだ事がある。
『人間には、自分を壊してもう一度生まれ直さなければならない瞬間が、必ずある』
あたしにとって、それは・・・あの事故じゃなくて、多分、今。
こんなに好きな人には、もう、二度と逢えない。
- 169 名前:バードメン 投稿日:2002年07月15日(月)20時48分35秒
更新終了です。
ではでは、また次回へ。
- 170 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月15日(月)22時56分03秒
- うおおお?
なんだなんだどうなるんだ〜?
愉しみにしておりまし!
- 171 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月15日(月)23時22分23秒
- いいっ!! この一言に尽きます!
バードメンさんには、毎回いしよしのツボ突かれっ放しです(w
そう思ってる方は絶対、私だけじゃないハズ・・・
とうとう、よっすぃ〜爆発しちゃった感じですね。
読んでて嬉しくて仕方ない、なっつぁんでした!(w
今回は、2人の素直な熱い想いのが目一杯に感じられて
感動してしまった・・・
バードメンさん、更新がんばってー!!!
- 172 名前:オガマー 投稿日:2002年07月16日(火)02時00分35秒
- おお!!
なんだかカッケー!!
カッケーいしよし!w
- 173 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時06分12秒
- 読んで頂き、ありがとうございます!!
>170 名無し読者 殿
愉しみにお待ち頂けると、非常にうれしいです!
>171 なっつぁん 殿
ツボ突けてますか?
物凄い勢いで嬉しいです!
感動なんて、いやいやそんな、恐縮気味です。
読んで頂けて嬉しくて仕方ないバードメンですた(←便乗)
>オガマー殿
カッケー!(w
カッケく書けてますかね(照)
では、更新いきます。
- 174 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時07分22秒
- 「・・・やめてっ」
梨華ちゃんはあたしを突き飛ばした。
そして、すぐに逃げようとする。
「待って、待ってよ、梨華ちゃん!」
あたしは必死に梨華ちゃんの肩を掴んで引き止めた。
もういいんだ。
ただ、好きでいさせて欲しい。
今言わないと、ダメになる、あたし自身が。
大切なのは後悔しない事。
「梨華ちゃん、聞いて」
「聞きたくない!!」
「違うんだよ、梨華ちゃん」
「何が違うの!!」
梨華ちゃんはあたしの言葉を遮る。
そして一つ息をついて、あたしの目をキッと睨んだ。
「何が違うの?どこが違うの?
よっすぃーはよっすぃーだよ!何も変わらないよ!
なんで自分はここまで、って線を引くの?
そんなの、そんなの・・・、
よっすぃーの事ずっと好きなあたしは、馬鹿みたいじゃない!
あたしにはわかんない!
あたしが好きになったよっすぃーはここまで、って線なんか引けないもん!バカ!!」
最後の『バカ!!』と同時に、梨華ちゃんの目から涙が一筋落ちた。
もう腹は立たなかった。
確かに、あたしは馬鹿かもしれない。
先回りをして、勝手に思い込んで、漠然とした不安に一人で溜息をついていただけ。
- 175 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時08分01秒
- 「梨華ちゃん、聞いて。あたしは・・・・・・えーっと・・・」
あたしってば、どこまでも情けないヤツ。
伝えたい事は一つなのに、それを表す言葉に迷っている。
『好き』?『愛してる』?『おいで、踊ろう』?・・・踊っている場合じゃない。
テーマ的には合ってるかもしれないけど(愛のビッグバンドだし?)、
こんな場面でダンスに誘ったら、不審きわまりない。
それにありえないとは思うけど、誘いに乗られても困るし。
「えーっと・・・」
「なによ!!」
梨華ちゃんは興奮しているのか、ちょっと(いや、かなり)キレ気味。
ここは、・・・実力行使しか、ないか。
あたしは梨華ちゃんをキツク抱き締めた。
ぎゅーっと腕に力を込めると、梨華ちゃんの身体の力がスッと抜ける。
- 176 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時08分48秒
- 「ありがとう」
しばらく経ってあたしが言った言葉。
愛の告白にしては、少し見当違いかもしれない。
でも、それが精一杯のキモチ。
「何が?何で?」
あたしの肩の辺りから、くぐもった声を出す梨華ちゃん。
どうやら、意味がわからないらしい。
まあ、その気持ちはわからないでもないが・・・。
この状況で、他に何があるというのだろうか。
やはり少し(いや、かなり)鈍いようだ。
「梨華ちゃんが、梨華ちゃんだから」
あたしは、静かにそう答えた。
クサイしわかりづらいかな、とも思ったけど、他に言いようがない。
「チャーミー」じゃ、およそ真剣味があるとは思えないし。
腕の力を少し緩めて、梨華ちゃんの顔を見る。
混乱と甘えが、同時に現れたような表情。
胸を締め付ける。
「好き・・・」
梨華ちゃんは、もう何も聞かない。
時間の許す限り、二人して複雑な表情で見つめ合っていた。
何かが変わった。
気のせいでは、ないと思う。
自信はないし、梨華ちゃんがどういう意味にとったのかわからない。でも・・・、
今は答えや結果は、どうでもいいと思った。
- 177 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時10分19秒
- ミュージカルの練習が大詰めを迎える頃になると、
梨華ちゃんと顔を合わせる機会は極端に少なくなった。
『遠恋』?
うーん、なんか違うな。
あの時、付き合う、とか、そぉーいうのは別になかったしねぇ。
少し、寂しい・・・。
ボンヤリ考えながら、梨華ちゃんの居ないスタジオの隅で体育座りをしている。
センチメンタルな気分。
南って、どっちだっけ?
まあ、どうでもいいや。
「よっすぃー、どうしたべさぁ。最近元気ないね」
「ん?なんでですか?安倍さん。そんな事ないっすよ」
「そうかなぁ。疲れてるんじゃないの?」
安倍さんは、あたしにジュースの入ったコップを渡してくれた。
それを一口飲んで、正直に答える。
「まあ、少しは」
「うーん。まあ、そりゃそうだよねー。忙しいもんね」
微笑む安倍さんは、人をホッとさせるような魅力を持っている。
- 178 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時12分32秒
- 安倍さんは、いつでも笑顔だ。
もちろんただ笑っているのではなくて、芯の強さと自信を秘めた、でもそれでいて優しい笑顔をする。
安倍さんの印象の違いには少し驚いている。
テレビで見ていた時は、こんなに柔らかく笑う人だとは全然知らなかったから。
でも、今日の安倍さんには少し翳りがあるような。
「あの、安倍さん?なんかあったんですか?」
「え?なんで?」
「いや、なんとなく」
「うーん。まあ、ハタチともなれば色々あるべ」
「へー、じゃあ、圭ちゃんはもっと色々あるんですかね」
「あはは。・・・ねえ、ところでさ、梨華ちゃんと、どうなの?」
「は?」
思わず、キョトンとしてしまう。
なんか、『ところでさ』の後がいきなり急展開してたんだけど・・・、えーっと・・・、
なぜそれを知ってるんだ!!
「この前見ちゃった、廊下で抱き合ってるの。もうなっち焦っちゃったよ」
お言葉ですが、焦るのはこっちデス。見られてたのかよっ!!
- 179 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時13分20秒
- 「あらら、何も固まらなくてもいいべさ」
「・・・・・・」
「レンジでチンしてあげようか?」
あのね、冷凍食品か何かと間違えてる?
「結構です」
「遠慮しなくてもいいのに」
してません。だいたい、そんな特大のレンジがあるのか?
「まあ、最近は自然解凍できるやつもあるしね」
やっぱり冷凍食品の話なのかよ・・・。
さすが安倍さん(いろんな意味で)。
「そ、そんな事より、安倍さんこそ、ごっちんとどうなんですか?」
「え?な、なんでいきなりそんな事を?」
「前に、楽屋で絡んでたの見たから」
「か!!からんで・・・」
安倍さんの顔は、突然真っ赤になった。
ん?そこまで赤くならなくても。
あ、そっか。『絡んでた』はちょっとまずかったかもしれない。
ヘンな事してた、みたいなニュアンスだもんね。
でも、赤くなったって事は・・・、してるの?
まあ、いいや。深く考えない事にしよう。うん、そうしよう。
- 180 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時14分10秒
- 「いや、キス・・・してたの偶然見ちゃって。すいません」
「あ、ああ、あはは・・・。見ちゃったのね。なんか、お互い様って感じだね」
安倍さんは照れ笑いを浮かべながら、サイドの髪を耳に掛ける。
そして、投げやりに言った。
「んー、もう、ダメかも」
え?意外。
予想外の返答に、驚いた。
てっきり『ラブラブだよ』とか言うと思ったのに。
心配だな。
どうしたんだろ。
ケンカでもしたんだろうか・・・。
「なんでですか?どうかしたんですか?ラブラブじゃないんですか?」
「ラブラブだよ」
あたしは危うく引っくり返るところだった。
「安倍さん!!まぎらわしい事言わないで下さい!!」
まさか、のろけるつもりじゃないだろうな。
- 181 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時14分47秒
- 「うん、でもね・・・って、まあいいじゃん、そんな話は」
安倍さんは軽くごまかす。
でも、あたしはその表情が少し気になった。
なぜか苦しそうで、どう見ても『まあいいじゃん』な顔には見えない。
なんとなく触れてはいけない事のような気がして、
あたしはそれ以上何も聞けなくなった。
何か、あったのだろうか。
「あっ、そろそろ行かないと。じゃあね」
チラっと時計を見た安倍さんは、慌てたように立ち去って行く。
あたしはその後ろ姿を、何とも言えない気分でじっと見つめていた・・・。
- 182 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時16分05秒
- 今日は何かが起こりそう。
『予感』がする日、というものがある。
それは、いい予感だったり、悪い予感だったり。
まあ、大抵の場合、あまりアテにはならないんだけど。
でも今回のあたしの予感は、見事に当たってしまう羽目になる。
楽屋はいつも通り騒がしい。
十三人もいてワイワイガヤガヤやってると、
一人くらい暗く沈んでいる人がいても、さほど気にはならないものだ。
何気なく開いた雑誌のページを眺めながら物思いに耽っていたあたしは、
その、『一人』が近付いてくる気配に、まったく気付いていなかった。
「よっすぃー」
そう呼ばれて、ふと雑誌から顔を上げる。
と、同時にイキナリ視界が塞がった。
目の前にあったのは、人の顔。
そして、何の前置きもなしに、唇に柔らかい感触が落ちる。
あら・・・?キス・・・。
で、その相手は・・・え!
唖然。その言葉が相応しかった。
あたしは拒否する事も忘れて、目を見開いたまま固まる。
- 183 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時17分41秒
- なんで・・・なんでなんでなんでなんで?
なんで、ごっちんがあたしにキスしてんの?
ボンヤリと思い浮かんだのは、
ごっちんは、いわゆる『上手い人』ってやつなのかなぁ。とか、そんな事。
まあ、あたしは梨華ちゃんとしかキスした事ないし、よくわかんないんだけどね。
・・・・・・って、ちょっと待て!!
あんまり考えたくないけど・・・、確か、ここは、楽屋だったんだよね。
メンバー全員、楽屋にいるよね。
って事は当然・・・梨華ちゃんも。さらーに、安倍さんも・・・い、る。
なんてことだ!!
焦って心臓が口から飛び出し・・・たりはしなかったけど、
とにかくこの状況は凄くヤバイと思った。
「だー!!」
慌ててごっちんから離れる。
「ご、ごっちん!!なにしてんの?」
「ん?なんとなく」
あっさりそう答えたごっちんは、キラキラ光る目で悪戯っぽく笑った。
無邪気で奔放で、魅力的な笑顔で・・・。
なんとなく?
意味わかんねー!!
っていうか、梨華ちゃんと安倍さんは、一体どんな顔をしているんだろうか・・・。
とてもじゃないが、見る勇気はない。
想像するだけで恐ろしい。
- 184 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時18分27秒
- 「オマエ!!何してんだよ!!」
立ち上がって叫んだのは、安倍さんでも梨華ちゃんでもなく、矢口さんだった。
噛み付きそうな勢いで、ごっちんに詰め寄る。
どうやら矢口さんは、ごっちんと安倍さんの関係を知っているらしい。
「なっちの前で・・・。ふざけてんなよ!!」
「別にいいもん。もう別れるんだから」
「は?何?」
「それに、やぐっつぁんには関係ないんじゃない?」
「お前なぁー、その言い方はなんだよ!ムカツクんだけどぉ!その首引っこ抜いてやるぞ!!」
や、矢口さん、加護家のひな人形じゃあるまいし・・・。
まさか本気じゃないだろうけど、何とも物騒な台詞に楽屋の中は静かになってしまう。
青春ドラマのワンシーンでも見てる気分になってきたあたしは、
ただただボーゼンと、二人の様子に見入ってしまった。
もめている原因に自分が関わっている事も忘れて。
- 185 名前:バードメン 投稿日:2002年07月18日(木)21時19分56秒
更新終了です!
そしてまた次回へ。
- 186 名前:スカウトマン!? 投稿日:2002年07月18日(木)22時27分51秒
- 矢口かっちょいいです!
惚れましたw最高です!
- 187 名前:スカウトマン!? 投稿日:2002年07月18日(木)23時16分20秒
- あ!紹介遅れましたw
スカウトマン!?ですw
すっごい楽しい小説だと思います^^
更新楽しみにしてますよ!
- 188 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月19日(金)01時38分10秒
- ごごごっちん!! 何してるべさー!?
と叫びたくなった、なっつぁんですた・・・ (● `へ´ ●)
あぁ、せっかく素直になった吉澤さんの前に障害が!!
やはり、このままラブラブとは行かせてもらえない2人ですね(w
吉澤に告白されて動揺する梨華っちを
更に動揺させる、一大事が発生してしまいましたね!
キレてゴマキに詰め寄る矢口さん・・・
さぁ、どうなってしまうんでしょうか!(ワクワクw
名前が『夏美』でも梨華ちゃんファンのなっつぁんからですた。
(マジで私の本名だったりするんですw)
次回の更新が待ち遠しいべ・・・ 梨華っちファイト!
- 189 名前:オガマー 投稿日:2002年07月19日(金)02時24分34秒
- 梨華たんは?
梨華たんはぁー!?
ドキドキしながら反応待ち?(w
- 190 名前:皐月 投稿日:2002年07月19日(金)21時05分42秒
- うおおおおおおおー!!!!
石川複雑ですね・・・・。
ごっちんとなっち別れちゃうんですかね?本気で・・・。
かなり気になります。更新待ってます!
- 191 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月20日(土)16時04分22秒
- まさか微妙に矢口は後藤に嫉妬してる?
大変だスゲ−ことになってきた!
頑張って下さい!!
- 192 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時46分06秒
- ごっちんはヤレヤレ、といった具合に溜息をついた。
「別に、いーじゃん、女同士なんだから」
うん、それもそうだ。いやいや、そういう問題なのかな。
そーゆーところが難しいよね。女同士で付き合うって。
思わず納得しかける一同であったが、そんな事にひるむ矢口さんではない。
「いいわけないだろうが!!自分の恋人の目の前でそんな事するバカがいるか!!」
まあ、それもそうだよねぇ。皆の前で・・・。大胆過ぎじゃない?
「ってか、関係ないじゃん!!なんでそんな事言われなきゃいけないの!!」
言い争いはどんどんエスカレートする。
竜虎相搏つ。天下分け目の戦い!的な様相を呈してきたこの二人。
「ってか、お前ヤグチのシュークリーム食べただろ!!」
「自分だってあたしのピスタチオ食べたじゃん!!」
・・・に、しては話がズレてきた。
散々関係ない罵言雑言の押収を繰り返し、
あっけにとられていた皆もケンカの原因を忘れかけてきた頃、
「ぃいい加減にしなさい!!」
リーダー&サブリーダーがユニゾンで怒鳴った。
やっと、ごっちんと矢口さんの言葉は止まる。
- 193 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時47分26秒
- しかし、
こ、怖い・・・。
鋭い目付き。無言で睨み合う矢口さんとごっちん。
互いの目からビームが出てバチバチと火花を散らす・・・はオーバーだが、
ヘタな心霊スポットなんかより、遥かに恐怖を誘う。
メンバー達も同じ思いかもしれない。
お化け屋敷でお化けに出くわした瞬間のショット、みたいな顔をしている。
誰も口を開く者はいない・・・。
あたしは困り果てて二人を見ていた。
よく考えたら、あたしももめごとの原因に関わっているわけだから、どうにかするのが筋だ。
まあ、シュークリームとピスタチオに関しちゃ知ったこっちゃないけど。
でも、どうしたら・・・。ん?
あれ?
この場面、どっかで見たような・・・気がする。
知ってる、この場面。
でも、二人のケンカを見るのは初めてのはず、だよね。
週刊誌に何を書かれてるかは知らないけど、矢口さんとごっちんは案外仲が良いし。
- 194 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時48分51秒
- おかしいな。なんだ?えーっと・・・、確かそう・・・、クリス・・・マス・・・。
クリスマス?
なんだそれ。そんなおめでたい事と、何の関係が・・・。
雑誌?番組?入院中見たビデオに、そんなのあったけ?
とても一週間で全部見るのは無理な量だったし、かなり早送りでトバシてたし・・・。
うーん。どこで見たんだろ。
グルグル考えているうちに、今度は頭がボンヤリしてくるのに気付いた。
あら?
頭、イタイかも・・・。
気付いた時にはもう遅い。
急速に意識が遠のき始めて、どっちが上でどっちが下かもわからなくなってくる。
一瞬体がフワッと浮いたような感じがして、もう何が何だか・・・。
「よ、吉澤さんが倒れましたぁ!!!」
普段の倍以上の音量で皆をビビらせたという紺野の大声。
でも、この時のあたしには、なぜか子守唄のように聞こえた。
『じゅーうさんにんがぁかーりぃのくーりすーまーすー♪』
ヘンな、うた・・・。
ちなみに後から聞いた話によると、
『ごっちんの誘惑に興奮しすぎて倒れた』
などと言う噂が、まことしなやかに流れたらしい・・・。
- 195 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時50分12秒
- どれくらい意識を失っていたのか。
目を開けると、梨華ちゃんの顔が目の前にあった。
「うわぁ!!」
思わず叫んでしまう。
「ひどい!そんな幽霊見た時みたいな声出さないでよ!」
梨華ちゃんは頬を膨らませた。
そんな事言われても、仕方がない。
今一番顔を合わせたくない相手の顔が、いきなり目の前にあるのだ。
ある意味幽霊よりも恐ろしい。
あたしは体を起こして周りを見渡してみる。
どうやら、医務室のベッドらしい。
他の皆は仕事中なのか、ここにはあたしと梨華ちゃんの二人きり。
自分の運命が、憎い・・・。
「あ、あの・・・、梨華ちゃん?」
「♪なに?」
「・・・へ?」
思わず梨華ちゃんの声のトーンにヒいてしまった。
今のは・・・、何?
ただでさえ高い声の梨華ちゃん。
でも今の返事は、さらに(!)1オクターブは高かった。
『な』と『に』の間に、ハートマークを入れてもいいぐらいだ。
なに?なに?なぜ?
- 196 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時51分02秒
- 「え?あのさ・・・」
「だからなに?大丈夫?♪ハッピー?」
「はっぴぃ・・・」
じゃないよ。
泣きそうになった。
妙なテンションだ。
今の梨華ちゃんなら、欽ちゃん走りで三キロくらいは走れそうだ。
もしかしたら、『サウナでフラダンス』もできるかもしれない。
マズイ。かなり怖い。
『やだ、冗談だったのにぃ』では、ごまかせないかもしれない。
間違いなく、あれが原因に違いない。
泣いて責められでもした方が、まだマシな気がする。
「り、梨華ちゃん!」
「なによ」
「いや、あの・・・」
ひるんでしまう自分が情けない。
ごっちんより矢口さんより、はたまた中澤さんより、
『チャーミー』が最恐だと思った今。
ここは、話題を慎重に選ぶべきところだろう。
当然、しばし沈黙。
- 197 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時51分43秒
- 「あ、あのさ、でも、ビックリしたよね」
気まずさに耐えかねたのか、それともちょっと(?)失敗したかな、とでも思ったのか、
梨華ちゃんが何気ない感じで話題を振った。
「え?な、何が?」
「矢口さんとごっちんのケンカ」
さすがに、ストレートにキスの事は聞いて来ない、か。
まあ、聞かれない方が怖いんだけど。
「あ、ああ、その事?」
「うん、すごかったね。なんか、あの時みたいだったよね」
どの時だよ。何の話だろ。
「あの時?」
「ほら、クリスマスの特番で、矢口さんとごっちん睨み合ってたじゃん」
クリスマス?特番?
「あ、そっか。よっすぃーは知らないんだよね。事故に遭う前に撮ったやつだもんね」
事故に遭う、前?
って、ことは、
あたしがあの時『見た事ある』と感じた原因って・・・。
いや、まさか、そんなはずはない。
多分、ビデオで見たんだ。
きっとそうだ。そうだと言ってくれ。
でも・・・。
- 198 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時52分32秒
- 首を傾げて、少し考えてみる。
すると、何かのイメージが浮かんだ。
見えたのは、小さな光の点と線。
何これ。
そう思った瞬間、何かが一気に押し寄せて来て、意識に入り込もうとしてるのを感じた。
同時に、それとはまた別の事が本能に訴えかける。
『それを受け入れてはならない』
やばい、やばい。ダメだ!!
梨華ちゃん!!
咄嗟に、あたしはベッドの傍らに立っていた梨華ちゃんを身体ごと引き寄せた。
突然の事に、梨華ちゃんはバランスを崩す。
「キャッ」
小さく悲鳴を上げて、あたしの上に倒れ込んだ。
「何す・・・」
梨華ちゃんは何か文句を言おうとしたが、構うことはない。
言葉を遮り、キスを。
そして、抱き締める。
- 199 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時53分47秒
- 「梨華ちゃん。あたしは、梨華ちゃんが好き。ごっちんじゃない。
梨華ちゃんが好き。お願い、わかって。じゃないと・・・」
それ以上は言えない。言ったら現実になってしまう。
恐い、愛しい、わからない。
自分の中にある『何か』を、問い直してはならない。
「お願いだから・・・」
それを四、五回呟いた時、突然、梨華ちゃんの掌が空を切り飛んで来た。
いや、実際には突き飛ばされただけなのだが、飛んで来たようにしか見えなかった。
それは、たまたまあたしの鼻の付け根辺りに大激突。
「だっ!!」
反射的に叫んだ。
鼻から脳に向かって、ツーンというかキーンというか、とにかく鋭い痛みが走る。
あたしは涙目になりながらも、何とか痛みをこらえた。
「いってぇ・・・。何すんのさ、梨華ちゃん」
鼻を押さえながら不満を訴える。
と、そこで、梨華ちゃんを見てギョっとした。
さっきとはうって変わって、梨華ちゃんの顔は完全に怒っている。
しかも、あたしとは別の原因があると思われる涙目。
- 200 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時54分37秒
- 「何でよ!!」
「なにが・・・」
「何で!!」
梨華ちゃんは、子供のような仕草で両手を振り回し、あたしをポカポカと叩く。
さほど力は強くないから痛くないけど、そうされる理由がよくわからない。
「何?何の話?意味わかんねーって」
攻撃を防ぎながら尋ねると、梨華ちゃんはキッと目を光らせてあたしを見た。
「あたしの事・・・」
「え?」
「あたしの事好きって言ったくせに!!何でごっちんとキスすんのよ!!」
強い口調。
どうやら梨華ちゃんは、本気で怒っている。
少し、不謹慎かもしれない。
理不尽な文句とヤキモチを、かわいいと思ってしまった。
いや、かわいいというか・・・、嬉しい。
梨華ちゃんの手は、まだ肩や頭に降っていた。
でも、もう気にはならない。
- 201 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時58分10秒
- 少し落ち着くのを待って、梨華ちゃんの瞳を見る。
唇を噛んで、涙を堪えているようだ。
あたしは、諭すようにゆっくり話し出した。
「梨華ちゃん、昔はどうであれ、あたしは梨華ちゃんが好きだよ。
そう思ったんだ。嘘じゃないし、別に、ごっちんと何かあるわけでもない。
それに、あれは事故っていうか、あたしのせいじゃないような気も・・・」
「そのくらい、わかってる!」
「いや、だから・・・」
「だって、なんか、ヤだったんだもん。
でも、ごっちんとよっすぃが上手くいった方がいいのかなって思って・・・。
でもこないだ、好きとか言われて、期待・・・とかしちゃうし、でも・・・」
拗ねたようにポロポロと喋る梨華ちゃん。
悪戯が見つかって怒られている、子供のようだと思った。
苦しいような、嬉しいような、切ないような、心地良いような。
梨華ちゃんのそばに居ると、複雑な感情とドキドキする左胸に支配される。
- 202 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)20時59分15秒
- あたしは、梨華ちゃんの右耳にそっと唇を寄せて、そっと囁いた。
「好き。何があっても変わらない。約束する」
約束は守る事じゃなくて、誓う事に意義がある。
この約束が、あたしを支えてくれればいい。
いつかやって来るであろう『何か』が、二人の関係を壊さぬよう・・・。
「よっすぃー?泣いてるの?」
「泣いてないっ」
慌てて目を擦った。
梨華ちゃんは、やっとそこでふわりと微笑む。
そして、どちらからともなくキスを交わした。
壊れたビデオデッキで何度でも再生と巻き戻しを繰り返したいような、
すごく幸せで、夢のような気分だった。
しばしの時間が流れ、あたし達は我に返る。
ふと、梨華ちゃんが、ハッしたようにあたし鼻の辺りを凝視した。
「よっすぃー・・・、あの・・・言いにくいんだけど・・・」
「え?」
「鼻血、出てる・・・」
「ええ!?」
あわわわ、鼻血!!
早く言え!!
絶対さっき鼻打ったのが原因だよ!!
間違ってもヘンな事考えてたんじゃないよ!!
梨華ちゃんのばかー!!
早口で捲し立て、慌てふためくあたし。
噂に『鼻血』の尾ヒレが付く事になるとは、知る由もない・・・。
- 203 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)21時01分25秒
- 「あっ、そろそろ行かなきゃ。撮影あったんだ!」
鼻血がなんとか止まった頃、梨華ちゃんが時計を見て声を上げた。
医務室を出てスタジオに向かう途中には、あまり人目に付かない休憩所兼喫煙所がある。
そこで、あたしと梨華ちゃんは顔を見合わせた。
それはごっちんと安倍さんがボソボソ話をしているのが見えたから。
まさか・・・、別れ話!
とりあえず、二人して聞き耳を立てる事となった。
息を潜めて、様子を伺うと・・・、
- 204 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)21時02分07秒
- どうやら、ごっちんは泣いているようだ。
安倍さんは、そのごっちんの頭をヨシヨシと撫でている。
「もう、泣かなくてもいいから、ね?ごっちん」
「・・・だって、あたしが何やっても、なっちいっつもニコニコしてるし」
「それは・・・」
「どうして怒らないの?」
「ごめんね」
「ごとーは怒って欲しかったのに」
「でも、なっちはごっちんの事、信じてるし、年上だし、ヤキモチとか妬いて嫌われたくないし」
「嫌うわけないじゃん!なっちのそーいうトコも見せて欲しいのに」
「でも・・・、だからって随分大胆な計画だよね」
は?計画?
「でも、失敗したもん。なっちが怒ってくれないから、やぐっつぁんが怒っちゃったじゃん」
は?なんですと?
「ごめんね。なっちが悪かったべ。ごっちん、好きだよ」
「なっち、大好きだからね。他の人とキスしちゃってゴメンね。ごとーはなっちのもんだからね」
それっきり、二人の言葉は途切れた。
もう見なくてもわかる。ブチュッとブチュッとしてるに違いない。
やられた・・・。
- 205 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)21時02分46秒
- あたしはヘナヘナとその場に座り込んだ。
話が見えた。
なんのこっちゃない。要するに、ただの痴話喧嘩だ。
ごっちんは、安倍さんにヤキモチを妬いて欲しかっただけなんだ。
でも安倍さんは、年上だとか何とかで、いつもニコニコしてて。
それで、愛情を確かめるために、
目の前で他の人にキスする、なんて、やたら迷惑な計画を思いついた。
これなら、さすがの安倍さんも怒るだろうと。
ところが、肝心の安倍さんが怒り出すより前に、矢口さんが怒り出してしまった。
ごっちんにしてみれば、『なんでやぐつぁんが出てくるのよ!いいとこなのに!』ってなもんだろう。
多分、キスする相手も別にあたしじゃなくても誰でもよくて、
たまたまボケッとしてるヤツがいたから『こいつでいいや』と・・・。
はぁ。なるほど・・・。
・・・勘弁してよぉ、ごっちん。
うーん、まあでも、ごっちんもなかなかカワイイやつじゃないか。
おかげであたしは踏んだり蹴ったりだけど。(ついでに矢口さんも)
かなり、脱力。
- 206 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)21時03分39秒
- 「よっすぃー・・・いいの?」
梨華ちゃんが遠慮がちに顔を覗き込んできた。
「いいのって、何が?」
「え、だって、ごっちん・・・」
「よかったよね。一安心だよ」
「気になったり・・・、しないの?」
「しないよ。だからぁ、あたしが好きなのは梨華ちゃんなんだってば」
自分なりの最高の笑顔を向ける。
梨華ちゃんの頬は、赤く染まった。
ああ、何か、いいなぁ、こーゆーの。
「ねえ、梨華ちゃん、明日オフだよね」
「うん」
「デートしよっか」
「は?で、でーと?」
誘った理由は、もっともっと梨華ちゃんと一緒にいたいから。
もっともっともっと、梨華ちゃんの事を好きなキモチを、強めておきたいから。
あたしには、時間がないかもしれない。
記憶は多分・・・、戻る。
もちろん、それがいつかになるかはわからない。
明日かもしれないし、三年後かもしれないし、もしかしたら、死ぬ間際かもしれない。
記憶が戻ったら、あたしは一体どうなるんだろう。
梨華ちゃんへのキモチは・・・どうなってしまうんだろう。
- 207 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)21時20分02秒
更新終了です!
>186、187 スカウトマン!? 殿
楽しい小説ですかぁ。ありがとうございます。
更新頑張らせて頂きます。
>188 なっつぁん 殿
あはは、なるほどー!
まさに『なっち』ですねー♪
あ、自分も石川さんのファンなんです、実は(w
で、こんな結果になりましたが、いかがでございしょうか。
なかなか、辻褄合わせが大変だったり・・・。
>189 オガマー 殿
石川さんの反応は・・・、
どうなんでしょうねぇ、これ。
心配になってきました(汗)。
>190 皐月 殿
ありがとうございます。
更新お待たせ致しました。
そうですねぇ、石川さん複雑でしょうね。
>191 名無し読者 殿
あー、矢口さんが出てくるとややこしくなってしまうので・・・。
こういう事になりました。
期待を裏切ってたら申し訳ないです。
では、また次回の更新時にお会いしましょう。
- 208 名前:バードメン 投稿日:2002年07月20日(土)21時41分55秒
- あ、訂正あります。
206 いつかになるかはわからない→いつになるかはわからない
でした。すいません。
- 209 名前:スカウトマン!? 投稿日:2002年07月20日(土)22時35分27秒
- 見させてもらいました!
ごっつぁんもすごい計画立てますね〜w
ある意味よっすぃ〜&梨華ちゃんかわいそう^^;
ま、更新楽しみにしてます^^
- 210 名前:ナナシー 投稿日:2002年07月20日(土)22時36分07秒
- またよしこが苦しむのでしょうか…
どうかみんながしやわせになりますように。
いしよし1番、なちごま2番、三時のおやつはシュークリーム。
- 211 名前:なっなし〜 投稿日:2002年07月20日(土)23時11分42秒
- なにげに松雪さんのCMネタがツボでした。
異様なテンションの梨華ちゃん乙!
これからどうなっていくのか楽しみです。
- 212 名前:オガマー 投稿日:2002年07月21日(日)08時32分38秒
- よいですw
ますます続き期待w
- 213 名前:皐月 投稿日:2002年07月21日(日)10時09分30秒
- ごっちん計画が大胆すぎるよ・・・・
けど、吉澤と石川が上手くいっていいですな。
がんばってくださいな。
- 214 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月21日(日)15時04分59秒
- バードメンさん今日もワクワクの更新ありがとうございます!
ヤキモチやいて、子供の様にポカポカ吉澤を叩く梨華っち萌え〜(w
作者さんの書くこの2人の甘い雰囲気に
私は毎回やられっぱなしでございます・・・(w
しかしゴマキやってくれますね〜!
ヨシヨシ。モウナカナクテイイベ>( ●´ー`);´ Д `;)<ナッチニヤイテホシカッタンダヨー!
今回いちばんバカを見た方は矢口さんでしょうね(w
しかし、吉澤さんの記憶が戻ってしまったら
やっと通じ合った2人の気持ち、どうなちゃうんでしょう・・・
心配しつつ、楽しみに作者さんの帰りを待っております
- 215 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月23日(火)12時50分24秒
- 雨降って地固まるって感じのケンカですたね。
このヒト的には→(;〜^◇^)/<なんなんだよッ! かもしれませんが。
バカバカァ〜!(ポカポカ!)>(#T▽T)´〜`0)<(カワイイ…)
- 216 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年07月24日(水)11時46分22秒
- ここの梨華たんかわいすぎます・・・・。(w
本気で熱いやぐっつあん!熱くていい!!
続き楽しみにしています。
- 217 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時39分25秒
- 診察室の窓には、初夏の爽やかな日差しが降り注いでいた。
「じゃあ、やっぱり・・・」
「記憶が戻り始めてるね」
医者の言葉が残酷に響く。
あたしにとっては、最悪な診断結果かもしれない。
「頭が痛くなったり意識が途切れたりするのは、副作用みたいなものだから。
一気に情報が飛び出して来ようとする事で、脳が混乱してしまうんだよ。
でも、非常にいい傾向だ。戻ってくると思うよ」
「戻るって、いつ・・・ですか?」
「それは、何とも言えない。まあなにかのはずみで一気に全てを思い出すケースもあるし、
何か一つきっかけがあれば、どんどん甦ってくる可能性は高い」
つまり・・・、時間の問題って事だな。
「お大事に」
看護婦さんの声を背中に受けながら、急いで病院を出る。
思ったよりも時間が掛かってしまった。
急がなきゃ。梨華ちゃんが待ってる。
あたしは少しだけ時計に目をやって、それから、全力で走り出した。
- 218 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時41分08秒
- 待ち合わせする事を、すごく嫌がっていた梨華ちゃん。
「縁起悪いから」、だってさ。
確かにそうかもね。
まあでも、午前中は病院に行かなきゃならなかったし。
『あたしも一緒に行こうか?』って・・・、
心配そうな目で縋る仕草がかわいくて、頭をぐしゃぐしゃ撫でたら怒られた。
ねぇ、『吉澤ひとみ』。多分もうすぐ逢えるね。お前一体誰が好きなのさ。
- 219 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時42分29秒
- 待ち合わせ場所の駅前。
梨華ちゃんの姿が見える。
「ごめん!ちょっと遅れちゃったね」
あたしは急いでかけ寄った。
梨華ちゃんは、優しい笑顔で迎えてくれる。
「あ、大丈夫、今来たトコだから・・・、ってのは、ちょっとベタ?」
「つーか、古い」
「じゃあねぇ、二分十五秒の遅刻!!」
「それもどうかと思う」
なんとなく二人、顔を見合わせて笑い合った。
「でも、よかったぁ。よっすぃが事故に遭わずにちゃんと来れて」
梨華ちゃんは心底安心したような表情。
「さすがに三回目はキツいよ」
何気なく返したけど、あたしの顔、少し赤くなってるかも。
「どこ行く?買い物?適当に歩こうか?」
「そだね」
何気ない会話をしながら、並んで街を歩く。
のんびりとした、穏やかな気持ち。
『あの二人モーニング娘。の・・・』なんて気付かれるから、
歩き方はのんびり、ってなわけにはいかないけどね。
- 220 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時43分28秒
- 「コレは?」
「えー?コレ?」
二人で、色々と見て回った。
服、コスメ、アクセサリー、などなど。
「ねぇ、この色よくない?」
梨華ちゃんが興味を持ったのは、新色のリップ。
なんだか、梨華ちゃんの唇を意識して、ドキドキ。
「ねぇ、コレかわいーよね」
梨華ちゃんが試着したのは、ピンクのキャミ。
なんだか、梨華ちゃんの色気を意識して、ドキドキ。
「ねぇ、こんな感じどう?」
梨華ちゃんが何気に手にとったのは、セクスィーなブラ・・・。
ど、どう?って聞かれても。
深い意味はないんだろうけど、少々リアクションに困る。
街にはある意味、刺激がいっぱい・・・。
一つ一つの言葉や仕草に一喜一憂できる事を幸せに思い、
淡いブラウンのサングラス越しに、梨華ちゃんの表情を追いかけた。
楽しくて嬉しくて、
そしてどことなく・・・、懐かしい。
梨華ちゃんとこうして外に出るのは初めてだけど、
きっと前にも、梨華ちゃんとこういう風に出掛けた事があったんだ。
- 221 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時44分04秒
- 不思議なやるせなさの出所はどこだろう。
心臓の鼓動の数だけ、確信に迫っているのは、気のせいだろうか
人通りは多い。
梨華ちゃんは擦れ違う人々の肩を器用によけながら、楽しげに空を仰ぐ。
「なんか買い物来るのって、ひさしぶり。しかも天気いいしね」
「あー・・・?うん。前に遊んだときは、雨降ってたもんね」
「え・・・?なんで、それを?」
なんとなくそう思っただけ、とごまかした後、自分でも驚いた。
記号のように口から滑り出てきたのは、あたしの知っているはずのない事。
梨華ちゃんの行動や仕草には、あたしのなくした部分が詰まっている。
一緒にいると、少しずつ一つずつ、何かを思い出す。
一つ思い出したら二つ。二つ思い出したら三つ、四つ、五つ・・・。
数珠つなぎにボロボロとこぼれる、漠然とした不安。
- 222 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時46分12秒
- 日は傾き、辺りは少し薄暗くなってきた。
「あー、なんか今日すごいお金使っちゃった」
「ってか、梨華ちゃん買い過ぎー」
歩き疲れて、公園のベンチに二人で腰掛ける。
あたしらの前を一組のカップルがベタベタしながら通り、チュ、などとやっているもんだから、
二人、あっちこっちへ目を逸らして咳払いなどした。
「え、えーっと、けっこう時間経っちゃったね。どうする?」
「ん?そだね。・・・ねぇ、梨華ちゃん、よかったら、今日ずっと一緒にいてくれないかな」
「・・・は?え?」
いかにも、どういう意味?と言いたげに目を丸くする梨華ちゃん。顔は真っ赤っか。
あ、いかんいかん。
これじゃ、モーニングコーヒー飲もうよ状態だ。
- 223 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時47分23秒
- 「あ、いや、一緒にいてくれるだけでいいんだ。それ以上は、何もいらないから。
自分が誰なのか、わからない。自分が誰を大事に思ってるか、見失ってしまいそうだから」
「よっすぃー?なに、言ってるの?」
「時間がない」
「え?まだ夕方だよ」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」
「どうかしたの?よっすぃー」
「何でもないんだけど・・・」
梨華ちゃんは、少し肩をすくめてみせた。
「ふーん、まあいいけど。じゃ、うちに泊まる?」
泊まる?と聞かれて思い浮かんだのは、先ほどのセクスィーブラ。
待て待て、吉澤。何を考えている・・・。
- 224 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時48分24秒
- 「あたし着替えるし、ちょっと散らかってるけど、適当に座ってて」
ちょっとじゃないじゃん、とツッコミたいトコだったけど、とりあえず『適当に』座った。
梨華ちゃんの部屋はとても女の子らしい雰囲気が溢れてて、なんだか落ち着かない。
部屋の中を見回してみると、壁に貼られている一枚の写真に目がとまった。
近付いてよく見てみると、メンバー達と撮られた写真。
梨華ちゃんの隣には、『吉澤ひとみ』。
あたしは、その少しはにかんでいる自分の顔を、中指で軽く弾いた。
どうしてこいつは、梨華ちゃんを好きにならなかったんだろう。
梨華ちゃんは、暖かな眼差しであたしを見守り、
心の重荷を少しでも引き受けようとしてくれている。
そして、優しさの中に時折見せる、嫉妬や、愛情ゆえの軽い独占欲は、
あたしの心を引き付けて離さない。
どうして、違う人を好きになったんだろう。
やっぱりこいつは、他人にしか思えない。
記憶が完全に戻ったら、あたしは梨華ちゃんを拒絶するだろうか。
- 225 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時49分22秒
- 「よっすぃー?お腹空いた?」
軽装に着替えた梨華ちゃんが顔を出した。
「うーん、少し」
「じゃ、なんか作ったげるよ」
え?梨華ちゃんの料理?
え、えーっと・・・、怪しい味な焼そばのお噂はかねがね伺っておりますが・・・。
「梨華ちゃん、料理、できるの?大丈夫?」
「何それっ!失礼!」
梨華ちゃんは、心外、といった感じに頬を膨らませる。
それから、「すごいおいしいの作ってあげるよ」と、はしゃいでみせた。
だ、大丈夫かな・・・。張り切るところが余計に不安だ。
「梨華ちゃん、簡単なものでいいから・・・」
「なんで?」
「いや、なんか、気合入れすぎて失敗することって、よくあるじゃん?」
「別に、気合入れすぎてはないんだけど」
そう言いつつも、足元はダンスのステップすら踏んでいる・・・。
あの・・・、ほんとに大丈夫なんデスカ?
- 226 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時50分22秒
- 約二時間の格闘の末、テーブルには色とりどりの料理が並んだ。
なにやら怪しげな色のソースがかかっていたり、野菜の切り方がやけに大ざっぱ・・・、
いやいや、見た目に関しては省く事にしよう。
向かい合わせに座り、食事をする。
料理は意外に(?)おいしかった。
「どう?おいしいでしょ?」
と、誇らしげに微笑む梨華ちゃん。
とても愛おしい。
ふいに、もっと近付きたい、抱き合いたいと、強く求める感情が大きくなった。
食事する手を止め、立ち上がって梨華ちゃんに近付く。
「ん?」
キョトンとあたしを見上げた梨華ちゃんを、覆い被さるように抱きすくめた。
「え?ちょっ、なになに!?」
慌てる梨華ちゃんに構わず、唇を奪った・・・ところで、ふと気が付いた。
あれ?ちょっと待って。
こーゆー場合ってさぁ、どっちが男役でどっちが女役とかってあるのかな・・・。
男役は・・・あたし? あたし? ねぇ、あたし? あたし・・・だよねぇ・・・。
- 227 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時51分48秒
- ・・・・・・うわ!なんか恥ずかしいっ!
何を考えてんだ!!
落ち着け、吉澤!
「あ!ご、ごめん・・・」
我に返って、梨華ちゃんから離れた。
梨華ちゃんは、真っ赤な頬を見られたくないのか、顔を背ける。
マズイ。何だか妙な事をやらかしてしまった。
だって、すげーかわいくて、つい・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい雰囲気が部屋の中を支配する。
何か言わなきゃ、そう思って口を開きかけた時、突然何かの違和感を感じた。
急に額と背中に冷や汗が流れてきて、気分が悪い。
視界に小さな光の点がたくさんちらつき始めた。
最初は虫でも飛んでいるのかと思ったが、どうやら違うらしい。
ついに、来たのか。こんな時に・・・。
- 228 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時52分36秒
- 息苦しさと、まわりの音と景色を消し去ってしまうくらいの、激しい無力感に襲われる。
自分の意識を閉じてはならない。
小さな光の点はくっついては離れ、離れてはくっつき、あたしの視界は真っ白になった。
その映像が嫌になり、目を閉じたかったが、瞼を動かす事もままならない。
体を自力で支えていられなくなって、あたしはうずくまった。
「よっすぃ!?どうしたの?」
「な・・・んでも・・・ない」
「なんでもないわけないよ!病院・・・」
梨華ちゃんは携帯を取り出そうとする。
「いい。いいから。大丈夫だから、ちょっと傍にいてくれないかな」
あたしは、梨華ちゃんの行動を制して、梨華ちゃんの肩に頭をもたせかけた。
こうしておかないと、自分の体がバラバラに崩れ落ちていきそうだったから。
梨華ちゃんは、驚いたように目を見開いていたけど、無言であたしの肩を両手で包みこんだ。
- 229 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)18時54分08秒
- 記憶は次から次へとわきあがり、思い出の断片がいくつもいくつも甦る。
まるで洪水のように、頭の中に流れる映像と情報。
それに紛れて、『自分』の手ごたえが消えていきそうになる。
怖い。
あたしはどこ?
梨華ちゃんはどこ?
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん・・・。
泣き喚きたくなるくらいの圧倒的な恐怖から逃れようと、必死に梨華ちゃんの名前を呼んだ。
でも、実際に声になって出ているのかどうかはわからない。
梨華ちゃんは困惑しているかもしれない。
あたしは、梨華ちゃんを失いたくないんだ。
逃げ出したい。
あたしの知らない二年間が追いついて来ない場所に。
やっと、逢えたのに。
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん・・・。
「よっすぃー!!」
耳元で叫ばれて、ハッした。
あたしの背中をさする手が、華奢な梨華ちゃんに不釣合いなほど大きく感じる。
あたしは、梨華ちゃんの胸元に顔を埋めた。
「梨華ちゃん・・・、あたし、思い出した・・・」
「な・・・にを?」
「・・・全部」
そう言った時、梨華ちゃんの身体が少し強張るのを感じた。
- 230 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)19時18分57秒
更新終了です。
>209 スカウトマン!? 殿
そうですかねぇ。
ごっちんの計画に吉澤さんは振り回されましたねぇ(汗)。
>210 ナナシー 殿
自分もそれを願っております。
いしよし1番、なちごま2番、三時のおやつはシュークリーム。
って、いいですね(喜)。
>211 なっなし〜 殿
松雪さんのCMネタは、個人的にどうしても使いたくて(汗)。
喜んで頂けたら嬉しいです。
>212 オガマー 殿
ありがとうございまっす!
何気に物語は佳境へ・・・。
>213 皐月 殿
ごっちん計画の計画大胆ですかねぇ(汗)。
頑張ります!
- 231 名前:バードメン 投稿日:2002年07月26日(金)19時19分49秒
- >214 なっつぁん 殿
いえいえ、やられっぱなしなんて、そんな(w
いつも励まして頂きありがとうございます!
AAいいですねー!めちゃくちゃ喜んでしまいました(汗)。
そうですねぇ、矢口さんはかなり損な役回りになってしまいました。
>215 ごまべーぐる 殿
まさにそうですね!雨降って地固まる。
AAイイっす!これまた喜んでしまいました(汗)。
ありがとうございます!
>216 よすこ大好き読者。 殿
石川さんかわいく書けてますでしょうか。
かなり自信ないんで、そう言って頂けるのひじょうに嬉しいです!
えっと、そろそろ佳境に入って来ました。
では、また次回の更新時にお会いしましょう。
- 232 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年07月26日(金)19時28分51秒
- リアルでした(w
記憶が全て戻った吉!一体どうなるんでしょうか?
気になって寝れません。。。。。(多分寝ちゃいますが 笑)
続き期待しています。ガンガッテくださいね。
- 233 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)19時39分58秒
- 吉の気持ちは一体・・・
それにしても、やっぱイイトコできりますねw
- 234 名前:オガマー 投稿日:2002年07月26日(金)22時09分57秒
- キターーーーーーーー
ドキドキしすぎです…
どうなってしまうのだろう…
更新待ってますw
- 235 名前:ZERO 投稿日:2002年07月27日(土)01時57分32秒
- 初めまして!ZEROと言います
面白すぎて一気に読んじゃいました!
いやーもうホントに梨華ちゃん最高に可愛いです
個人的にハッピー!?(振り付き)な展開を期待しております
頑張ってください!
更新超超楽しみに待っております!
- 236 名前:なっなし〜 投稿日:2002年07月27日(土)05時26分24秒
- つ、ついにこの時が…
どうなるんだ!(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
まったり次回の更新待ってます
- 237 名前:ぼうふら。 投稿日:2002年07月27日(土)12時12分08秒
- おじゃまします。
先週に初めて読んで、今日もまた読みにきました。
切なくて、でも重くないこのドキドキ感はすごいです。
きっと、吉澤さんより男前な梨華ちゃん料理のパワーで記憶が!(違)
いっぱい感想あるのに、うまくいえませんです。
ぜひぜひ、頑張ってください!!
- 238 名前:酔っ払りゃー 投稿日:2002年07月27日(土)13時39分14秒
- とうとう、ここまで来ましたねー。
デートいいっすなー、微笑ますぃー。
リアクションに困る吉がグー(w
かなりリアルに脳内で再生されました。満足(w
- 239 名前:スカウトマン!? 投稿日:2002年07月28日(日)19時43分04秒
- とうとうよっすぃ〜の記憶が・・・。
なんか寂しいですねTT
よっすぃ〜〜〜〜〜〜〜!!!www
- 240 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)19時51分35秒
- get up よっすぃー!!
- 241 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月28日(日)23時00分19秒
- そんな・・・吉澤さんの記憶が戻ってしまったんですか!?
何だか緊迫した空気が私の中で流れてしまった。
毎度バードメンさんの描く世界にやられっぱなしのなっつぁんです(w
2人のラブラブなデートシーン良かったですよー!!
バードメンさんはどうしてこう、いしよしヲタのツボを
よくご存知なんでしょう!(w
もし街ゆく2人の幸せな姿を見かけたら私、感動して泣くかも。
吉澤さん、どうか記憶が戻っても梨華ちゃんを手放さないで・・・
と、切に願うなっつぁんでした!
ゴッツァンハナッチニマカセルベサ!>(●´ー`●)´ Д `#) <ナッチー♪
- 242 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時30分00秒
- 予告をしてなかったので、何だか唐突な気もしますが(汗)、
最終話です。
二回に分けようと思っていたんですが、
しめはきっちりと、
ちょっとした番外編(?)まで一気にいくことにしました。
- 243 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時30分39秒
- 暑くもないのに、汗が止まらない。
空気は時間が止まったかのように張り詰めていた。
梨華ちゃんの表情は穏やかに見えるが、感情は読み取れない。
あたしの次の言葉を待っているのだろう。
長い長い、沈黙。
視線が絡んで、思わず目を逸らした。
言いたい事、言わなければならない事が、あまりにもたくさんありすぎる。
言葉が喉元で大渋滞して、ぶつかって、そして消えて行く。
「ごめん」
「え?」
「帰る」
「よっすぃー!!」
いたたまれなくなって、部屋を飛び出した。
「待って!」
梨華ちゃんの声と足音が追いかけてくる。
走った。とにかく走った。
あたしの方が梨華ちゃんより足は速い。
全力で走れば、梨華ちゃんは絶対に追いついて来られない。
止めて欲しい。
そう思っているのに、体は思いっきり地面を蹴っていた。
一体、あたしは何をしているんだろう。
- 244 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時31分20秒
- めちゃくちゃに走る。
ここがどこなのかさえもわからない。
街灯のあかりさえ、やけに鬱陶しく感じる。
どれくらいの距離を来たのだろう。
あたしは限界を感じて足を止め、崩れるようにアスファルトに腰を下ろした。
心臓が破れそうなくらい音を立て、汗がきりもなくふき出す。
悲しい。苦しい。
でも、涙は出ない。
泣きたい気分なのに、心が渇ききっている。
あたしは、アスファルトに拳を打ちつけてみた。
それでも、泣くことも、笑うこともできないやり場のない感情は、消えない。
ただ座り込んで、どこにも焦点を合わさずボンヤリした。
記憶は取り戻した。けど、その代わりに、大事なものを失ってしまう。
あたし、何してんだろ。
梨華ちゃんはあたしのこと、好きって言ってくれたのに。
『吉澤ひとみ』は、記憶がない事を誰にも喋ろうとはしなかった。
梨華ちゃんにだけ、打ち明けた。
『吉澤ひとみ』は、自分が抱え込んだ想いを、本人にさえ伝えなかった。
でも、梨華ちゃんにだけは打ち明けた。
誰にも言えない心の奥を見せる事のできる、一番大事な、・・・友達。
だけど、今の『あたし』にとっては、なに?
- 245 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時31分54秒
- 「・・・すぃ・・・。よっすぃ!!」
・・・え?
ふいに自分を呼ぶ声が聞こえて、驚いて顔を上る。そこには・・・。
「な、なんで?」
「知らないよ!!」
一瞬、幻かとさえ思った。
追いかけて来れるはずないと、思っていたから。
でも確かに目の前には、つらそうに身体を折り曲げて、肩で息をする梨華ちゃんの姿があった。
額に汗が光り、表情は怒ったように険しい。
「なんで走るのよ!!」
「どうして・・・ここが?」
「一本道でしょ!!」
「へ?」
詰めが甘い、そう言うほかない。
カッコ悪いにもほどがある。
「もぉ!!疲れた!!暑い!!」
梨華ちゃんは、ブツブツ文句を言いながらあたしの腕を掴み、そして、引っ張り起こした。
「あの・・・、待って。あたし、記憶が・・・」
「いいから、とりあえず戻ろうよ」
「でも・・・」
躊躇うあたしを見て、梨華ちゃんは黙ってあたしの手を握り、それから歩き出した。
- 246 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時32分25秒
- 何も言えないまま、梨華ちゃんに手を引かれ、俯いて歩いた。
部屋までの道のりを、一言も喋らずにただただ二人で。
お母さんと手を繋いで歩く拗ねた子供。それに近い絵図になっている。
あたしの方が身長は高いし、なんとも間抜けだ。
擦れ違う人が、けげんな顔をしている。
でも、握り合った手が暖かくて、振り解く事などできなかった。
こんな風に優しく手を差し伸べてくれる人は、他にいないだろう。
全部、思い出した。
ついさっきまで他人だったのに、あっという間に自分の一部になってしまった。
- 247 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時33分09秒
- 『吉澤ひとみ』は、全てを見ていた。
彼女もまた、あたしと同じように空白の時間に苦しみ怯えていたんだ。
過去を埋めるために、必死だった。モーニング娘。に入ったのもそのため。
オーディションを受けようとしていた『あたし』から、少しでも『自分』という手掛かりを掴むため。
そして、確かに、ごっちんの事が好きだった。
目を閉じると浮かんでくる、二年間の出来事。
彼女は何もない真っ白な状態から、少しずつ少しずつ、『自分』を塗り潰していった。
戸惑い、迷い、混乱。
それは、あたしが感じていたものとは比べものにならないほどの、想像を絶する苦しみと悲しみ。
そのどの場面にも、ごっちんを想う気持ちが溢れている。
あたしの記憶と合わさった今、きっと泣き叫んでいる。
気まぐれにもらったキス。
気持ちの純粋さゆえの、安倍さんに対する嫉妬。
思い出が、鋭い針になって胸を刺す。
- 248 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時34分08秒
- 彼女は、けして逃げなかった。
でも、あたしは逃げた。
彼女よりもっと楽な状況であったにも関わらず。
そんなあたしに、どうして彼女の気持ちが否定できる?
あの時、二つの想いが入り混じって、どちらも選べなかった。
ごっちんの事が好き。でも、梨華ちゃんの事も大事に思ってる。
彼女のその想いがあまりに純粋すぎて、どうする事もできなくて・・・。
だから、走った。梨華ちゃんから逃げた。
自分が情けなさすぎて、結果、『吉澤ひとみ』の想いを選んでしまった。
あたしは、約束を破った。
気持ちが揺らいだ。自信がなかった。
梨華ちゃんを抱き締めたかったのに。
微笑んで欲しかったのに。
なのに・・・。
- 249 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時34分56秒
- 梨華ちゃん。
モーニング娘。に入って、誰よりも先に梨華ちゃんと仲良くなれたきっかけは、
『吉澤ひとみ』が、なんとなく『石川』という苗字に覚えがある気がしたから、だったよね。
もう一度出会った時に、あたしが梨華ちゃんの事を気にし始めたのも、同じ理由だった。
二人のきっかけは、待ち合わせと約束。
だけど、今はもう、なんの約束もない。
もう、何も。
この手を、この手を振りほどかなくちゃ。
もしそれができないなら・・・。
お願い、この手を離して。
そうすれば・・・。
- 250 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時35分32秒
- 「よっすぃー。入ってよ」
梨華ちゃんに促されても、あたしは玄関で突っ立ったままになっていた。
足が、凍りついたように動かない。
あたしはきっと今、岐路に立っている。
「梨華ちゃん、あたし、記憶が・・・」
「戻ったんでしょ?」
「だから・・・。だから・・・」
「だから?なに?」
「ごめん・・・」
「誰に謝ってるの?」
梨華ちゃんは、言葉に詰まるあたしの頭を撫でた。
そうだ、あたし、誰に謝ってるんだろ。
わからない。何もかもがわからない。
あたし、誰が好きなんだろ。
誰を裏切りたくないんだろう。
「梨華ちゃん、あた・・・」
「よっすぃーは、どうしたいの?」
梨華ちゃんはあたしの頬を両の掌で包んで、顔を上げさせた。
真っ直ぐな瞳は、心を抉るように突き刺す。
目が離せない。
- 251 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時36分04秒
- 「あたし、よっすぃーの事が好き。もう、それだけでいいの。
記憶がどうだろうと、よっすぃーはよっすぃーだよ
自分を分ける境界線なんて、ないよ」
梨華ちゃんがゆっくりと顔を近付けて唇を掠め、そして離れた。
その微かで一瞬の感触は、梨華ちゃんの優しさだろう。
あたしは、今の気持ちを無理矢理声にして搾り出した。
「もう、自分がよくわからないんだよ。あたし今、自分を見失ってる」
「だから、・・・あたしに一緒にいて欲しいって、言ったんでしょ?」
ああ、そうだ・・・。
突然、感情がせきをきって流れ出した。
何かの歯車が、音を立てて動き出す。
言葉が一気に押し寄せて、飛び出して来た。
順序もバラバラ、文法もめちゃくちゃ。
きりもなく次から次へと。
- 252 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時36分57秒
- 玄関口なんて狭苦しい場所で、心の奥から何かを吐き出し続けた。
二人の出会いも、今日のこの日も。
思い出も、今も、すべて。
あたしのこと。吉澤ひとみのこと。
ごっちんのこと。そして、梨華ちゃんのこと。
ひたすら、喋り続けた。
何時間経ったのか。あたしには、永遠のように長かった。
部屋に柔らかい朝日が差し始める。
そこでようやく、あたしの言葉は途切れた。
二人とも、理由のよくわからない涙で顔はぐしゃぐしゃ。
梨華ちゃんが、あたしの涙を手の甲で拭ってくれる。
「よっすぃーはよっすぃーだよ。他の誰でもないよ」
その言葉が痛いほど身に染みた。
どうして、新しい場所に立っている自分から、目を背けようとしていたんだろう。
- 253 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時37分31秒
- あたしは、ごっちんが好きだった。
どうして好きになったのか、言葉ではうまく説明できないけど、それは本当の気持ち。
気持ちが伝わらない事、伝えられない事に、ずっと苦しんでた。
その時のあたしには過去がなかったから。
だから、未来も見えなかった。
梨華ちゃんのこと、本当に大事に思っていた。
あたしが心を開ける唯一の相手。
二回目の事故の前日、梨華ちゃんに『好き』と言われた。
あたしは、大事に思っているからこそ、友達でいようと告げた。
もちろん、ごっちんの事が好きだから、という理由もあったけど。
そして、本当に大切な事を何一つ伝えられないまま、二年間の記憶は途切れた。
- 254 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時38分07秒
- その後、もう一度梨華ちゃんに出会い、あたしは恋をした。
これも、本当の気持ち。
というより、今の気持ち。
どうして怖がっていたんだろう。
過去など、関係なかった。
心が何かを求めてやまない。
どちらが真実?どちらを選ぶ?
そんなことは、最初からわかっていた。
この左胸の鼓動と、苦しいぐらいに梨華ちゃんを求める気持ちが、愛情でなければ何だというのか。
ねぇ、梨華ちゃん、あたしね、
事故の瞬間、これで死んじゃうかもしれない、あたしがいなくなるかもしれないって感じた瞬間、
あたし、梨華ちゃんに謝りたいって、そう思ってた。
約束、守れなくてゴメンねって。
何度でも謝りたかった。
- 255 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時38分42秒
- あたし、何が大事なのかわかったよ。
やっと、受け入れる事が出来たんだ。
二つの想いがぶつかった。
そしてあたしは今・・・。
あたしの知らなかった二年間に、初めて追いついた気がする。
囁いた言葉は・・・
「梨華ちゃん、好き・・・」
それが、答え。あたしの新しい場所。
涙で途切れないように、しっかり伝わるように。
「梨華ちゃん、大好き。もう、絶対見失ったりしない」
だからお願い。
もう一度、あたしと約束をして。
『ずっと、一緒にいて欲しい』
もっともっとわかり合いたい。
だから、キスをしよう。
もう二度と手に入らない、でももう二度と失うことのない、とても大事な人と。
- 256 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時39分15秒
- あるがままのあたし。
あるがままの梨華ちゃん。
それをお互い確かめるように、何度も何度も唇を重ねた。
「よ・・・すぃ・・・、よっすぃ」
きれぎれにあたしの名前を呼ぶ梨華ちゃん。
愛しくて愛しくて、とても暖かい。
ごめんね、あたし梨華ちゃんを泣かせてばっかり。
あたしも、泣いてばっかり。
何回も言わせてごめん。
今度は必ず受け止めて答える。
だから、その言葉を下さい。
「よっすぃ・・・、大好き・・・」
あたしは、梨華ちゃんの身体を力の限り抱き締めた。
- 257 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時40分00秒
- あたしにとって、あの二年間は何だったんだろう。
『あたし』と『吉澤ひとみ』。
二つがぶつかって、何かが弾けて、ステキな音が鳴った。
手と手を、叩き合わせた時のように。
シンバルを、思いっ切り打ち合わせた時のように。
『自分』と『自分』。
二枚の金属板が柔らかにぶつかって、シャララと音を奏でた。
まるでそう、タンバリンのように。
小学生の時、放課後の音楽室で奏でたような、
暖かくて懐かしくて、そしてすごくすごく愛しい音。
痛みも苦しみも、嬉しさも楽しさも、その音の中にあった。
きっかけも始まりも、突然で突飛な出来事。
だけど、今確かに、梨華ちゃんの事が好き。
そうだ。
ごっちんに、さよならとありがとうを言おう。
きっと「は?」などとキョトンとされるに違いない。
大好き。愛してる。
ありふれた言葉だけど、梨華ちゃんにあげたい。
これからもずっと一緒に。
ありふれた言葉だけど・・・、もう一人のあたしへ。
- 258 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時40分57秒
- 「ひどい顔・・・」
腫れた瞼を濡れたタオルと氷で冷やしながら、お互い微笑み合う。
梨華ちゃんの身体は、あたしより少し体温が高い。
その暖かさが、どうしようもなく幸せで、そして嬉しくてたまらなかった。
平凡な毎日を送っていたあたし。
もがき苦しみながら、空白を埋めようと必死だったあたし。
過去に怯え、逃げ出そうとしていたあたし。
どれも、すべて『自分』。
それを教えてくれたのは、梨華ちゃん。
人の気持ちは、変わっていく。
あたし自身も変わった。
それでも、生まれて初めて、守り続けられる約束をしたい。
ねぇ、あたしの瞳には過去も、そして何より、未来が映ってる。
もっと、近くにおいでよ。
愛してる。これから、どこに行こうか。
どこでも行けるね、二人でなら。
- 259 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時41分41秒
- ねぇ・・、明日は何をする? ・・・クロイ、タンバリン。
fin
- 260 名前:ランドリー 投稿日:2002年07月29日(月)18時42分44秒
軽い番外編といいますか、補足みたいなものです。
吉澤さんと石川さんが初めて出会った時のお話。
石川さん視点です。
- 261 名前:ランドリー 投稿日:2002年07月29日(月)18時43分15秒
- バシャバシャと水が音を立て、グルグルと回る。
赤、青、ピンク。
白い泡に混じって、浮き沈みする色。
ふいに、手を入れてみたい衝動に駆られるのは、どうしてだろう。
漂白剤でも入れておいたら、美白できるかしら。
何気なく洗濯機を覗きこみながら思った。
「梨華!もう行かないと、間に合わないわよ」
お母さんがあたしを呼んでいる。
そろそろ、家を出ないと間に合わない。
「頑張るのよ!」
やけに気合の入っている家族達。
あたしは、少しウンザリした。
「ヘンな人に気を付けてね。あの金髪のヘンな男に引っ掛からないように」
お母さんは心配そうな顔で見送ってくれる。
もしかしてそれ、つんくさんの事を言ってるの?
何か根本的に間違っているような気がしたけど、とりあえず手を振って家を出た。
我が母ながら、妙な心配をするもんだ。
- 262 名前:ランドリー 投稿日:2002年07月29日(月)18時44分19秒
- どうして、オーディションを受けようと思ったんだろ。
何か不満があるわけでもない。
成績もいい方だ。
部活も引退して、日焼けした肌もマシになった。
友達と遊ぶのも楽しい。
けど、平凡で安定した生活の繰り返し。
それなりに楽しくて、それなりに退屈な毎日だからかもしれない。
あたしの大好きな色はピンク。
心を弾ませる、キュートで素敵な色。
それなのに・・・、心が白い色を求めるのは、一体どうしてだろう。
- 263 名前:ランドリー 投稿日:2002年07月29日(月)18時44分51秒
- 「石川梨華・・・です」
オーディションの会場は、熱気が立ち込めていた。
なんだか、少し場違いなところに来てしまった気がする。
あたしは、用意されていた椅子に腰掛け、キョロキョロと周りを見回してみた。
ふと、一人の女の子と目が合う。
思わず、ビクッとした。
その娘の顔は、物凄い、しかめっ面。
じっと、何かを考えるように、あたしを睨んでいる。
なに?こわいよぉ。
これが俗に言う、『メンチ切られている』状態なのかしら。
背が高くて、細いけど強そう。
ケンカしたら、敵わないだろうな。
どうしよう。ヤキ入れられちゃうのかな・・・。
まさか・・・ね。
あたし、なんもしてないもん。
- 264 名前:ランドリー 投稿日:2002年07月29日(月)18時45分32秒
- ビクビクするあたしに気付いたのか、
その娘は何かを察したようにあたしに近付き、話し掛けてきた。
「あのさ、石川さん・・・って、言うんだよね。一つ、訊きたい事があるんだけど」
「あ、あの、トイレはそっちです・・・」
「ありがとう・・・って、いや、そうじゃなくて。あたし達、どこかで会った事ない?」
は?なに?
あたし、あなたと会った事なんてないよ。
ありがちな、ナンパの台詞みたいじゃない。
もしかして、これって、ナンパ・・・なわけないよねぇ。
なんなのよ。ってか、誰よ。
「あの・・・、会ったこと、ないですけど」
あたしがそう言うと、その娘は少しがっかりしたような表情をした。
「ああ、そっか。ごめんね。変な事訊いて」
「はあ」
「あたし、吉澤ひとみっていうんだ」
「はあ」
「キミ、石川・・・なんて言うんだっけ?」
「・・・梨華です」
「そっか。じゃあ、梨華ちゃんって呼ぼうかな。いい?」
あたしに向けた顔は、とても無邪気だった。
あたしはなんとなくそれに、釘付けになってしまう。
「はあ。じゃあ、あたしはひとみちゃんって、呼ぼうかな」
つられて、思ってもみない事が口から出た。
- 265 名前:ランドリー 投稿日:2002年07月29日(月)18時46分17秒
- 何だか、少しなれなれしいかしら。
そう思ってわき上がってきた後悔は、すぐに打ち消された。
その娘が、極上の笑顔になったから。
「よろしくね、梨華ちゃん。一緒に、受かるといいね!」
どうして、そんな顔で笑うの?
あたしは、一瞬にして心を奪われた。
その娘の瞳はとても澄んでいて、いい意味で、何も映していなかった。
空虚ゆえに、何でも吸い込んでしまう魅力。
目が離せない。
心臓が一気に高鳴る。
あたし、一体どうしちゃったんだろ。
「綺麗・・・」
思わず、言葉にしてしまった。
その娘は、不思議そうな顔をする。
「何が?」
「目が」
「はあ?そうかなぁ。あたし、空っぽなんだよ。真っ白なんだ。何もない」
ひとみちゃんは、こめかみを指差しかけて躊躇い、
それから、左胸の辺りを指差して、「ここが」と呟いた。
あたしは意味がわからなくて、「Aカップくらい?」と訊いたら、
ひとみちゃんは引っくり返ってしまった。
- 266 名前:ランドリー 投稿日:2002年07月29日(月)18時46分55秒
- 洗濯機の中に手を入れてみたい衝動に駆られるのは、どうしてだろう。
ひとみちゃんに目を奪われたのは、どうしてだろう。
浮き沈みする、様々な色。
あたしの大好きな色はピンクだけど・・・、
『白』への憧れ。
『白』で追い払え。
色が落ちても、それでかまわない。
どういうわけか、そう思った。
それは間違いなく、恋の始まりだった。
でもその事に気付いたのは、あなたの呼び名が、『よっすぃー』に変わった頃。
あなたが心の奥に押し込めていた、切なくて苦しい想いに気が付いてから・・・。
- 267 名前:ランドリー 投稿日:2002年07月29日(月)18時47分44秒
- ねぇ、あなたのその大きな瞳に、未来は映ってる?
あたしはね・・・。
fin
- 268 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時49分49秒
- 無事完結を迎えて、ホッとしています。
わたくしのヘタレな文章に最後までお付き合いくださいまして、
本当に本当にありがとうございます!
恥ずかしくなるほどの反省点や誤字脱字もあり、
読みにくい部分もたくさんあったと思います。
暖かいレスや、コメント、すごく感謝しています。
またどこかでお会いする事もあるでしょうが、
その時は、暖かく見守って頂けると嬉しいです。
次回作の構想を練りつつ、
余裕があれば、もしかしたら短編を書くかもしれません。
まだ何も決めてないので何もわからないですが。
- 269 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時50分51秒
更新終了です。>232 よすこ大好き読者。 殿
こういう結果になりました。
心おきなく眠って下さい!
応援して頂き、ありがとうございます。
>233 名無し読者 殿
イイトコできれてますか?
その辺の調節も難しくて、色々勉強になりました。
>234 オガマー 殿
いつもレスありがとうございました!
すごく励みになりました。
オガマーさんも頑張って下さいね。
>235 ZERO 殿
初めまして!
ありがとうございます!
ハッピー!?(振り付き)ですか?
こういったラストを迎えましたが、いかがでしょうか。
>236 なっなし〜 殿
つ、ついにこの時が…
まったり完結してしまいました(汗)。
嬉しいです。
>237 ぼうふら。 殿
ありがとうございますた。
お世話になっております(w
またあちらの方で、よろしくおねがいしますね(w
わざわざ読んで下さって、本当に嬉しい&感謝です。
>238 酔っ払りゃー 殿
とうとう、完結しました。
リアルに脳内再生って(w
満足頂けて何よりです!
これからもどうぞよろしく(w
- 270 名前:バードメン 投稿日:2002年07月29日(月)18時51分42秒
- >239 スカウトマン!? 殿
自分もなんか寂しい気分になっております。
ありがとうございました!
>240 名無し読者 殿
get up よっすぃー!!って、おお。
もしやミッシェル好きだったりします?
>241 なっつぁん 殿
いしよしヲタのツボ、押せてますか?(照)
それは、わたくし自身がいしよしヲタだから・・・って、
いや、あんまり表現力に自信ないんで、すごく嬉しいです!
もし街ゆく2人の幸せな姿を見かけたら、
わたくしは泣くどころの騒ぎではありません(汗)。
いつも、楽しい&嬉しいお言葉、感謝感謝です。
ほんとに励まされました。ありがとうございます!
本当に、ありがとうございました!
- 271 名前:オガマー 投稿日:2002年07月29日(月)19時59分03秒
- 完結おつかれさまですた!!
おねいさんな梨華たんにドキドキしましたw
それから番外編も素敵です。
というかめちゃめちゃ好きです。
- 272 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月29日(月)20時52分56秒
- ずっと読ませてもらってました〜。
完結おつかれさまです!
この暑い中、さわやかな感動を頂きました!
ありがとうございました!
- 273 名前:w 投稿日:2002年07月29日(月)21時34分54秒
- 脱稿、お疲れ様です。
読み続け、そして読み終えた、今の気持ちは
「本当に素敵な作品、ありがとう」かな。
終わり方も、ぐっ!ときました。
バードメンさんの書く、いしよし・・また読みたいです。
- 274 名前:なっつぁん 投稿日:2002年07月30日(火)00時19分07秒
- がーーーん!!! なんと完結しているなんて・・・
バードメンさんお疲れさまでした!
すっごく好きな作品だったので、素直におめでとうとも言えない
ちょっと複雑な気持ちのなっつぁんです。
でもそれだけバードメンさんの作品が素晴らしかったって事ですよね!
いしよしのツボをたくさん突いて頂いてありがとう。
すっかりバードメンさんの描く話の虜になった、なっつあんでした(w
他にもバードメンさんの作品あるなら
ぜひ読んでみたいな!と思いました!
教えていただけると嬉しいです。 (●´ー`●) <コンゴモオウエンスルベ!
- 275 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月30日(火)00時42分39秒
- 完結おつかれさま!
いろんな事を言いたいのですが、うまく言葉にできないので
一言「素晴らしい作品をありがとう」みたいな感じです。
自分もバードメンさんの他の作品読みたいな。
- 276 名前:酔っ払りゃー 投稿日:2002年07月31日(水)19時06分35秒
- おぉ!人が風邪で寝込んでる間に完結されてる!!(関係無い)
脱稿乙です。
ラストとても良かったです。鼻の奥がツーンときました。
そして番外編も…。
短編も楽しみにしてます。
と言っておけば書いてくれる?(w
- 277 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年07月31日(水)20時25分56秒
- 完結お疲れ様でした。&番外編までありがとうございました。
これでゆっくり眠れます。(w
次回作も、楽しみにしています。
- 278 名前:スカウトマン!? 投稿日:2002年08月01日(木)12時58分18秒
- おつかれさまです^^
本編&番外編完結おめでとうございます!
こんな楽しい小説を書いてくれて
あ(^○^)り(^。^)が(^∇^)と(^O^)う(^ー^)ノございました^^
- 279 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月01日(木)20時53分30秒
- お疲れさまでした。
ずっと読んでるうちに作者さんがミッシェルファンだとわかったので
正直あまりさわやかな結末にはならねーんじゃねえか?
など勝手に思っていたんですが二人が幸せになってくれて良かったです(w
最後に言える事はミッシェル最高ー!!
- 280 名前:バードメン 投稿日:2002年08月02日(金)20時09分32秒
- 暖かいレスありがとうございます。
自分は短編にとりかかろうと思っていたんですが、
色々と思うところがありまして、休んでました(汗
>271 オガマー 殿
番外編、気に入って頂けて幸せです!
こういう形はどうなのかな?と、心配するところもあったんで。
最後までレス頂いて本当に感謝です。
>272 名無し読者 殿
さわやかな感動になったでしょうか。
すごく嬉しいです。
ありがとうございました!
>273 w 殿
「本当に素敵な作品、ありがとう」って、
その言葉に自分も、ぐっときました。
落ち着いたら、また書きたいです!
>274 なっつぁん 殿
そうです、完結しちゃってました。
虜ですか?(w
好きな作品に入れて頂き、嬉しいし、励みになります!
こちらこそ、本当にありがとうございました。
えっとですね、
自分はあるところにて、主にショートショートを書いております。
でも、堂々と見せられるほどの作品でもないですし、
コテハンも違うので、ひ、み、つ、にしておきます(w
今後も頑張りたいです。
- 281 名前:バードメン 投稿日:2002年08月02日(金)20時10分36秒
- >275 名無し読者 殿
「素晴らしい作品」なんて、おそれおおいです。
でも、泣くほど嬉しいです
また、懲りずに書きだすと思います。
わーい、ミッシェル仲間だ!
>276 酔っ払りゃー 殿
寝込んでたんすか!
「短編も楽しみにしてます。」・・・ですかぁ。
と、言ってもらえれば書きます書きます(w
ただし、まず落ち着いて気持ちも整理をつけないと・・・(泣
>277 よすこ大好き読者。 殿
はい、ゆっくり寝て下さい。
次回作はまだ未定ですが、その時はまた読んでやって頂けると嬉しいです。
>278 スカウトマン!? 殿
こちらこそ、感謝です。
楽しい作品であったなら、なによりです!
>279 名無し読者 殿
あはは、ミッシェルファンなのに爽やかな結末に(w
二人が幸せになってくれてなによりっす。
ミッシェル最高!もち、ROSSOも大好きです!
- 282 名前:バートメン 投稿日:2002年08月21日(水)21時43分45秒
- いしよしで短編を。
たいして盛り上がるわけでもなく、淡々と進みますが、
もしよろしければ読んで下さると嬉しいです。
石川さん主人公です。
- 283 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時45分39秒
- 花火が打ち上がる。
音だけはやけにしっかり。
でも、ビルとビルの間から見えるのは、大きな花火の右端だけ。
光の線と粒の、切れ端。
あたしはそれをずっと見ていた。
理由なんて特にない。
誰もいない公園のベンチで、半開きの口のまま斜め上を見上げる。
少し間抜けで、少しセンチメンタル。
飛び散った火花は、どこに落ちるのかな。
こんなトコで、なにやってんだろ。
でも、家には帰りたくない。
両親があたしに望んでいる事は、わかってる。
あたしはもう、期待なんてウンザリ。
「何してんの?」
「わっ!」
突然後ろから声を掛けられて、飛び上がって驚いた。
ナンパや誘拐犯なら逃げよう、そう思って振り向く。
声の主は、背が高くて、とても綺麗な顔をした女の子だった。
夜の闇にも負けないくらい、光を放っている真っ白な肌。
甘そうで柔らかそうで、一瞬見とれてしまった。
- 284 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時46分34秒
- 「何してんの?」
その娘はもう一度あたしに聞く。
「え?別に何も・・・」
「花火、見えないでしょ、こっからじゃ」
「あ、少しは見えるから」
「そう?物好きだね。ココ、座っていい?」
女の子はにっこり笑って、馴れ馴れしくあたしの隣に腰かけた。
見知らぬ人に気やすく話し掛けられるのは、少し苦手だ。
どうしたらいいのか、どういう返答をしたらいいのか、わからなくなる。
「あの、もう帰るから」
あたしは、逃げるように立ち上がった。
「ふーん。ドコに帰れるの?」
「どこにって・・・」
不思議な質問。
まるで、あたしが帰りたい場所などない事を知っているかのように。
- 285 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時47分07秒
- 家に帰ったって、何もない。
両親はあたしを急かすだけ。
勉強とか、世間体とか、そんな事だけの形にはめられて、息が詰まる。
学校なんて、行きたくない。
靴がなかったり、教科書がなかったり、友達なんていなかったり。
死んでるような冷たい目のクラスメイトなんて、いらない。
追い詰められる理由なんてわからない。
もう何も、いらない。
「花火、しようよ」
その娘はジーンズのポケットをごそごそと探っている。
やっと取り出したのは、一束の線香花火。
「・・・そんなトコに入れてたら、危ないよ」
なんとなく呆れて注意すると、その娘はふんわり笑った。
「あたし、吉澤ひとみって言うんだ。キミは?」
「石川、梨華」
「ふーん、梨華ちゃんね。あのさ、友達になろうよ」
「は?」
突然の誘いに目を丸くするあたしの手に、線香花火は渡された。
- 286 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時47分48秒
- 「なんかさぁ、夏と言えば花火って感じしない?」
吉澤さんは、花火に百円ライターで火を点ける。
微かな火薬の匂いを放ち、柔らかな火花は散る。
あたしはそれを見つめながら、曖昧に相槌を打った。
「そんなもんなのかなぁ・・・」
「そうだよ。だって、冬に花火は合わねーじゃん」
なら、あたしにも合わない。
着てるものは半袖でも、心は冬そのもの。
「確かに、冬に花火はあんまりしないかもね」
あたしが言ったのと同時に、
人差し指と親指で摘んだ花火の枝から、二つの光の粒があっけなく落ちた。
吉澤さんは、地面の光の粒ではなく、なぜかあたしの目をじっと見つめる。
「なに?」
「うん、だから、今日は特別だよ、梨華ちゃん」
「え?」
「何でもない」
その顔に、ほんの少しの影が宿っているように見えたのは、気のせいだろうか。
- 287 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時48分33秒
- 吉澤さんは少し肩をすくめて、「終わっちゃったね」と呟き、
それから、子供のように無邪気な笑顔を作った。
「ねえ、もうちょっと、梨華ちゃんと一緒にいたいな」
瞳には、無邪気さとは相反する何か正体不明な力がある。
ドキっとした。
多分、それは性的な何か。
多分この人は、「寝よう」と誘っているんだ。
かなり時間がかかったけど、その妖艶な目の光でその事に気付く。
「何言って・・・」
「行こっか」
吉澤さんは、半ば強引にあたしの手を引いてさっさと歩き出してしまった。
- 288 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時49分23秒
- どうしてこんな事になってしまったのか、
どうして吉澤さんが誘うままについて行ってしまったのか、よくわからない。
手近にあったラブホテルの天井は安っぽくて、
見上げていると、夢の中の世界に迷い込んだような感覚がした。
あたしの上を這う吉澤さんの身体は、ふわふわと柔らかくて甘い香り。
最初の印象と変わらず、闇の中で光を放っているかのような真っ白な肌。
ドキドキと胸が高鳴って、互いの汗で身体を繋ぐ事に夢中になった。
あたし、どうかしてるんだ。
頭の隅で、それだけを考えていた。
- 289 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時50分44秒
- 少しの間、折り重なるようにして眠る。
次に目を開けた時には、吉澤さんがあたしの髪を優しく撫でていた。
「ずっと一緒にいようか」
「・・・。なんで、あたしと?」
「好きになったから。梨華ちゃんも、アタシの事好きでしょ」
「会ったばかりなのに?・・・わかんない」
あたしの言葉に、吉澤さんはクスッと笑う。
「そーゆーの、関係ないんじゃない?
アタシ好きになっちゃったんだよ。空見上げてた、横顔。
そうじゃないと、こんな事しないよ。
それとも梨華ちゃんは、誰とでも寝るのがシュミ?」
「そうじゃないけど・・・」
あたし、どうしてこんなトコでこんなコトをしたんだろ。
好き?そんなのよくワカラナイ。
ただ、その白い肌が、甘くておいしそうだったと、なんとなく思った。
「じゃあ、決まりね」
吉澤さんは、ぐっとあたしの頭を引き寄せて胸の中に抱き締める。
「!?」
思わず、驚いて目を見開いてしまった。
理由は抱き締められた事ではなく、
吉澤さんのその胸が、なぜか氷のように冷たかったから。
生きている人間の体温だとは、とても思えない。
手を引かれ歩いた時も、行為の最中も、まったく気付かなかった。
だけど、確かに冷たい。
- 290 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時51分57秒
- 「なに!?」
あたしは慌てて身体を離す。
吉澤さんは一瞬微笑んで、あたしをまた抱き締めた。
今度は少し強引に。
「ずっと、一緒にいたい。好きになったんだ、梨華ちゃんのコト」
「な、なんで!?」
「梨華ちゃんの心の闇を、アタシが取り去ってあげるよ。
夏の白い海へ、一緒に行こう。きっと花火が似合うよ」
吉澤さんは、あたしに優しいキスをした。
ふいに、心が暖かなお湯で満たされたような気がしたのは、錯覚なんだろうか。
あたしがどうかしてるせい?
それとも、この人がどうかしてるせい?
誰かを好きになる感覚なんて、もう何年も忘れてしまっているような気がする。
どこにも、あたしの存在を求めてくれる人なんていなかったし、
あたしも誰かの存在を求めようとはしなかった。
両親があたし自身ではなく、『あたし』という形しか見なくなったのはいつからだっただろう。
クラスメイトが何の理由もなくあたしを忌み嫌うようになったのは、いつからだっただろう。
- 291 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時53分10秒
- この人は、何者?
吉澤さんの顔をじっと見つめてみる。
すると、左胸とお腹の底辺りが、切ないように痺れた。
「好き」
吉澤さんの身体が、もう一度あたしに覆い被さる。
その瞳は澄んでいて、あたしは確かに、夏の白い、そして、美しい海を見た。
『ずっと一緒にいよう』の先に一体何があるのか、
それは知らない。
ただ、彼女の純粋な想いだけは、真実だと思った。
- 292 名前:マシュマロ・モンスター 投稿日:2002年08月21日(水)21時54分19秒
- 「切れ端の花火ではなく、大きくて美しい花火を見よう」
そう耳元で、吉澤さんが囁いた。
その先には、一体何があるのだろうか・・・。
fin
- 293 名前:バードメン 投稿日:2002年08月21日(水)21時58分02秒
『マシュマロ・モンスター』終了です。
たいしたモンじゃなくて申し訳ないような感じもしますが、
ageてもいいですかねぇ(汗)
- 294 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月21日(水)23時33分20秒
- んおお、なんか謎がいっぱい残ってるけどおもろい
- 295 名前:酔っ払りゃーjam 投稿日:2002年08月22日(木)07時07分25秒
- おぉっ!!
油断してたわ(w
やっっぱり、こういう謎っぽいのも好きです。
なんと言いますか、自分はあの逞しさ(?)ピーク時の
よちぃが堪らなく好きでして…(爆)
その願望が叶ったような気持ちにさせてもらいました(意味不明/氏
あっちの方、更新してみたんですけどかなりスランプで壊れ気味です(w
長レススマソ
- 296 名前:バードメン 投稿日:2002年08月22日(木)21時12分52秒
- 読んで頂き、ありがとうございます!
>294 名無し読者 殿
確かに謎が残ったままでありますね(汗
ほんとヘタレな作品で申し訳ないです(ペコリ
でも、嬉しいです。ありがとうございました!
>295 酔っ払りゃーjam 殿
そうだったんですかぁ!願望って(w
自分は少ぉーし鬱だったんですが、
なんだか柔らかそうでかわいいなぁ、と気付き、考えを改めてみました(汗
ほうほう、では、後ほど逝ってきます!
それで、もう一本更新いきます。今回は何回かに分けようかと。
- 297 名前:バードメン 投稿日:2002年08月22日(木)21時13分51秒
- 『アウト・ブルーズ』
またしつこく(汗)いしよしの話なんですが、
よろしければどうぞ。
更新はのんびりな感じと思われます。
- 298 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月22日(木)21時15分13秒
- 吉澤ひとみは、空気を入れ替えようと自室の窓を開けた。
空は清々しいぐらいに晴れている。
両親が借りてくれたこのマンションに暮らし始めて、まだ一ヶ月弱。
突然決まった両親の海外出張。
高校生である吉澤は、それに伴いここで独り暮らしを始めた。
両親は心配したが、『転校したくない』という頑なな吉澤を説得することは出来なかった。
気楽な生活は嬉しくて新鮮である。
幸い(?)カレシもいない。
「あー・・・、いい天気だなぁ・・・」
誰に言うわけでもなく鼻声で呟いて、空を大きく仰ぐ。
そこで吉澤は、景色が普段とは異なっている事に初めて気が付いた。
部屋の窓には、とってつけたような狭いベランダがある。
都会のマンションの二階から見える景色など、もともとそういいものでもないが、
明らかにいつもより異様な雰囲気。
原因は、
今まさに、「よじ登って来ました」と言わんばかりのポーズで固まっている一人の少女。
その姿が、ベランダにあった事である。
- 299 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月22日(木)21時16分20秒
- 「あ、・・・こんにちわ」
反射的にその少女に声を掛ける。
人と顔を突き合わせてする事と言えば、『挨拶』しか思いつかなかった。
返事はない。
普段なら、「無視すんなよ」などと腹を立てたかもしれない。
だが、今回はいささか事情が違うようである。
奇妙だ。
少女は黙ったままである。
表情がわからないのは、顔をサングラスと逆三角形に折った白い布で覆われているから。
一昔前の暴走族のような、なんとも珍妙な格好。
奇妙だ。
どうしてこんなトコロで、こんな妙な格好のコに出くわすんだろう。
ここは我が家のベランダで、少女がよじ登って片足を掛けているのは、ベランダの手すり。
よく考えれば、ここは二階だし・・・。
しばし、無言で見つめ合う。
頭がボンヤリしていた。
- 300 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月22日(木)21時17分53秒
- 時間は午前十時ちょうど。
本来なら、学校で授業を受けているはずの時間帯である。
まあ、吉澤の場合は、授業を受けるというより、『寝ている』の方が正しいかもしれない。
この日も、やはり寝ていた。
ただし場所は教室ではなく、自分の部屋で。
季節外れの風邪を引き、学校を休んでいるのである。
外は蒸し暑いのに、体は震えが止まらない。
風邪を引いた時は換気が大事、そうどこかで聞いた事があった。
律儀にそれを実行し窓を開けた途端、どういうわけか遭遇したのはプチ暴走族・・・。
吉澤は、首を傾げた。
この人、こんなトコで何してんだろ。
こんな早い時間から集会ですか?
ん?・・・いや、まてよ。
ちょっと、いや、かなりおかしい。
そもそも、暴走族がまたがるのは『バイク』であって、我が家のベランダの手すりではない。
『ほうき』だったなら、ハリーポッターみたいでかわいいかもしれない。
が、しかし、この場合だと、考えられるのは一つ・・・。
- 301 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月22日(木)21時18分35秒
- 「どろぼうぉぉぉ!!」
吉澤はありったけの大声で叫んだ。
「キャャ!!」
少女は悲鳴を上げ、手すりから足を滑らせ落っこちそうになる。
「うわっ、危ないっ!!」
ほっときゃいいようなものだが、人のいい吉澤である。
思わず少女の体を抱え上げ、助けてしまった。
思ったより軽い。
「あ、あの、ありがとうございます・・・」
少女は吉澤に抱えられたまま、情けない声色で言った。
「どういたしまして」と言うべきか、少しだけ迷った。
- 302 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月22日(木)21時19分22秒
- 「で、何してたの?」
「あの、その・・・」
部屋のソファには、さっきの少女が所在なさげに座っている。
助けた手前放り出す訳にもいかず、部屋に迎え入れ、お茶など出してみた。
成り行きである。
「ねぇ、とりあえずさぁ、そのサングラスとか取ったら?」
吉澤は完全に呆れていた。
「え?でも・・・」
「別にまだ何も盗られてないし、警察呼んだりはしないよ」
「でも・・・」
少女は困り果て迷っていたが、圧倒的不利な状況に観念したらしい。
一つ息を吐いて、サングラスと白い布をゆっくりと外す。
吉澤は唖然とした。
その顔は、まるで雑誌のグラビアからそのまま抜け出してきたかのような美少女。
「・・・意外」
思わず呟く。
サングラスのセンスからして、こんなにかわいい顔が出てくるとは思いもよらなかった。
- 303 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月22日(木)21時20分18秒
- 突然、少女は床にガバッと膝を付き、頭を下げる。
「あの・・・ごめんなさい!!」
「は?何が?・・・あ、そっか」
美しさに見とれて、少女が泥棒だと言う事をうっかり忘れるとこだった。
「あたし、梨華っていうんです」
「はぁ。あたしは吉澤ひとみです」
「で、あの、あたし、盗みに来たんです」
「なるほど」
そりゃそうだ。泥棒さんがお茶を飲みに来るわけがない。
「別にうち、盗むようなモンなんてないけど」
何気なく言ってみる。
「何でもいいんです。何か一つ盗まなきゃならなくて。
で、たまたま無用心そうなトコが手近にあったんで、ここでいいかと」
あのね・・・。
吉澤はとりあえず笑っておいた。
頬は少し引き攣っていたかもしれない。
- 304 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月22日(木)21時21分20秒
- このコが泥棒ねぇ。
吉澤は首を捻った。
捻っても引っくり返しても、どう見ても泥棒向きな娘には見えない。
「ってか、何を盗むの?なんか事情でもあんの?」
出来心なのか、何か理由があるのか。話くらいは聞いてやろうか的な気持ちだ。
梨華は少し俯き、躊躇いがちに口を開く。
「うちは、代々、泥棒の家業を営んでいるんです」
「へー」
「で、うちにはある慣習があって、十七歳の夏、一人前になるために修行に出されるんです」
「ほう」
「今日一日の間に、ある一つのモノを盗んで来なきゃいけなくて」
なんだかどこかで聞いたような話だ。
昔見た映画が思い浮かんだ。
でもあれは確か、泥棒じゃなくて魔女が宅急便をどうとか、だったかな。
「なるほどねぇ、大変だね」
「それで・・・、盗もうと思うんです」
「ああ、そうなるよね」
「あたし、決めました。吉澤さんを盗みます」
「ふーん。・・・は?」
「あたし、吉澤ひとみさんの心を盗もうと決意しました!」
梨華は天に向かって腕を突き上げる。
吉澤は、ただポカンと梨華の決意の拳を見つめる事となった・・・。
- 305 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月22日(木)21時21分53秒
- 「え?あの、もっと他に盗むモンがあるんじゃ・・・」
代々受け継がれているという、立派な(というのも変だが)家業なら、
宝石、とか、ピカソの絵、とか、そういうたいそうな物を盗むべきではないのだろうか。
梨華は、笑顔で向き直った。
「あたし、吉澤さんの事好きになっちゃいました。
だからね、吉澤さんを盗むのが一石二鳥かなって」
「は?いや、あのね、あたし女だし・・・」
「で、今日泊めてくれませんか?」
「は?」
「料理上手いですよ」
誰もそんなこたぁ聞いちゃいない。
「え?ちょ、ちょっと待ってよ。なんでそうなるのさ」
「さっき話した通り、家に帰れないんです」
「そっか。・・・って、ダメだよっ」
いくら『無用心そう』と言われてしまった我が家でも、泥棒さんを泊めるほどの心の余裕はない。
「お願いします!何でもしますから」
梨華は眉をハの字にして吉澤に迫った。
その瞳には涙さえ溜まっている。
吉澤は、深く溜息をついた。
思い出したように出た、咳の後に・・・。
- 306 名前:バードメン 投稿日:2002年08月22日(木)21時24分08秒
とりあえず、ここまでで更新終了です。
では、また次回の更新時に。
- 307 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月23日(金)00時56分45秒
- 心を盗むって昔あった某マンガみたいですね(w
続き楽しみに待ってます。
- 308 名前:ぼうふら。 投稿日:2002年08月23日(金)02時32分21秒
- おばんです。
浮気の素行調査に参りました(笑
ぬあ! 鼻血と涎が!
みとれた吉澤さんの時間をいともあっさり盗んでる梨華ちゃん。
自覚無さそなところに、ニヤリ。
テレビジョン見直して、またきます。
- 309 名前:オガマー 投稿日:2002年08月23日(金)08時12分20秒
- 楽しみな作品がまた一つ増えましたなw
がんがってください
- 310 名前:とみこ 投稿日:2002年08月23日(金)09時43分58秒
- 初めて読ませていただきました。
>>1からずーっと読んだのですが、一作目を読んだ時にすごく感動しました。
短編などもとても書き方が上手で、楽しませていただきました。
これからも読者として読ませていただきます^^
同じ板同士頑張りましょう。
- 311 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年08月23日(金)20時31分43秒
- 初めまして。影ながら応援してたものです。
続きすごい気になるんですよぉ〜。更新楽しみに待ってます!
- 312 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月24日(土)14時55分54秒
- このお話好きです。
ついでにミッシェルお好きなんですね。
私も好きです。更新愉しみにしています。
- 313 名前:バードメン 投稿日:2002年08月26日(月)21時55分30秒
- 読んで頂き、感謝しております!
>307 名無し読者 殿
そう言えばそうですね、自分も思いました(w
それは、 猫の目?・・・だったりしますか?
違ってたら恥ずかしいですね(汗
>308 ぼうふら。 殿
素行調査ご苦労様です(w
お、お、落ち着いて下さい。
自覚は・・・、ありそななさそな(w
>309 オガマー 殿
楽しみにして頂ける作品になるよう、とにかくがんがります!
>310 とみこ 殿
いやいや、もうほんとヘタレで申し訳ないくらいで(汗
読んで頂きありがとうございます。
もちろん、同じ板同士頑張りましょう!
>311 ヒトシズク 殿
はじめまして!影でも表でも、応援して頂けるのは物凄く嬉しいです。
がんばって更新します。
>312 名無し読者 殿
ミッシェルは自分の生活の糧となっているもので(汗
ミッシェルお好きなんですかぁ。
やたら嬉しいです!
では、更新を。
- 314 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)21時56分33秒
- 「ゲホッ、・・・ゴホッ」
「大丈夫ですか?」
「ゴホゴホッ・・・、ん、大丈夫」
ではない、という部分は飲み込んでおいた。
そう、風邪をひいていたのだ。
熱もあったはずだ。
思わぬ訪問者のせいで忘れるところであった。
「あたし、ちょっと具合悪いし、寝てていいかなぁ」
めんどくさい事は後回し。
吉澤は、とりあえずベッドに横になる。
その様子をキョトンとした顔で覗き込む梨華。
「あの・・・、あたしは何をすれば?」
「何もしなくていいからっ!」
泥棒さんに何か行動を起こさてもロクな事にはならない。
少なくとも風邪が治ってからにして欲しい。
具体的に何をされるのかはわからないが。
- 315 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)21時57分10秒
- 「ゴホゴホッ」
「風邪、ひいてたんですか?」
「・・・一応ね」
「そうですかぁ」
梨華は少し考えるような仕草をして、それからポンを手を打った。
「じゃ、ゴハン食べますか?お粥作りますよ」
「いらない」
「どうして?愛情たっぷり、おいしいですよ」
「・・・いらない」
吉澤はまた溜息をつく。
一体今日一日で何回溜息をつく事になるのか、想像するだけでドッと疲れた。
「でも、食べないと体力つきませんよ。風邪は食事からって言うじゃないですか」
そんな格言あったっけ?
「冷蔵庫、なんにも入ってないですねぇ。普段何食べてるんですか?」
余計なお世話だ。
「じゃ、あたし何か買って来ます」
ペラペラ喋った梨華の声に続き、バタンとドアの閉まる音がする。
どうやら、さっさと買い物に出掛けて行ったらしい。
このまま閉め出してやろうか。
しかし、再びベランダからお邪魔します的な状況になっても困る。
吉澤は、諦めて梨華が戻って来るまで眠る事にした。
果たして、風邪は治るであろうか。
- 316 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)21時58分14秒
- ウトウトと、夢と現実の間を彷徨う。
鼻をくすぐる何かの香り。
夢に見たのは、一人の少女。
ベタンダからこんにちわ・・・。
「・・・さん・・・しざわさん・・・起きて下さい」
「んー?」
誰かに揺さぶられて目を覚ますと、満面の笑みを浮かべた梨華がいた。
「はい、お粥作ったんで、食べて下さい」
差し出し出されたものは、以外においしそう。
料理が上手いというのは本当かもしれない。
「何かヘンなもんでも入ってんじゃないの?」
吉澤は、わざと不審そうな顔をしてからかった。
「ヘンなもんって?」
「毒とか」
「ひどーい、どうして毒を入れなきゃいけないんですか」
「だって、盗むんでしょ?あたしを」
「そうです!」
梨華はキッパリ言い放つ。
その顔は、泥棒さんのくせに人懐っこい笑顔。
お願いだから帰ってくれとは、言いにくい。
「ああ・・・そう。ねぇ、気になってたんだけどさぁ、どうやって盗むの?誘拐?」
お粥と梨華の顔を交互に見ながら聞いてみる。
- 317 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)21時59分05秒
- 「あー、そうですねぇ。どうしようかな。・・・こういうのはどうでしょう」
そう言った梨華の提案は、予想だにしていないモノ。
目を見開いてしまった。
梨華の顔が滑らかに近付いて、あっけに取られている間に・・・唇と唇が重なる。
「んむ?」
思わず出た声。
時間が止まったように感じる、長くて短い沈黙。
その約三秒後、微かに含み笑う梨華の顔が、ゆっくり離れた。
「どうですか?」
「・・・?」
「ねぇ、どうですか?」
「・・・うわっ!!」
吉澤は慌てて後ずさった。
「な、な、何してんのさっ!!」
「え?だから、こうやって盗もうかと」
梨華は平然と答える。
吉澤は掌で口元を拭った。頬がかぁっと熱くなる。
このコ、今、何した?
えっと、確か・・・、
キス・・・。
「うわぁー!!」
恥ずかしさが一気に押し寄せて、叫び声を上げた。
- 318 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)21時59分38秒
- その様子を見てニッコリと笑った梨華は、
「あたしの事、好きになりましたか?」
と、嬉しそうだ。
「なるかぁぁ!!」
吉澤は、力一杯ツッコミを入れておいた。
やはり泥棒さんは危険だ。見た目に似合わず大胆らしい。
そりゃ突飛な姿でベランダをよじ登って来るような輩だから、ある程度は大胆だろうけど。
盗むって、まさか、つまり、そぉーいう事・・・なの?
吉澤は、今さらながら青ざめた。
頭がキリキリと痛んだのは、熱が上がったせいだろうか、それとも・・・。
「吉澤さん、ゴハン食べてたっぷり眠って下さいね」
とてもじゃないが眠れない。梨華の笑顔は、かなり怪しかった・・・。
- 319 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)22時00分14秒
- 「吉澤さん、薬は?」
「あ、の、飲みました」
「吉澤さん、着替えますか?」
「結構です」
「吉澤さん・・・」
「はい!な、何でしょうか」
「もっかいキスがしたい」
「ダメッ!!」
ドギマギビクビク、梨華の行動にいちいち反応してしまい、まったく落ち着かない。
赤い夕暮れの光が差し込むようになる頃には、すっかり疲れて果ててしまった。
風邪など治りそうもない。
危険だ。だが、今さら追い出せない。
そんな体力もない。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
やはり、警察を呼んでおくべきだったか?
- 320 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)22時01分09秒
- 「熱、下がらないですねぇ。なんでだろ」
梨華は体温計を恨めしそうに睨む。
「誰のせいだよ」
「え?なんですか?」
「何でもないっ」
不機嫌さを隠さない吉澤。不思議そうな顔の梨華。
噛み合う予定は、今の所なさそうである。
「何か、怒ってますか?」
そりゃ、怒る。
イキナリ見知らぬ人がベランダからやって来て看病など始めたら、不機嫌にもなる。
ましてや、貞操の危機かもしれないのだ。
ニコニコなどしていられない。
「何でもないっ!」
それでも出て行ってくれとは言えない自分に、吉澤は少し嫌気がさした。
「吉澤さん、笑って下さいよぉ。
病は気からって言うじゃないですか。ウチのおじいちゃんも言ってましたよ」
梨華はヨシヨシと吉澤の前髪の辺りを撫でた。
「おじいちゃん?」
「そう、うちのおじいちゃんルパンみたいでカッコいいんですよ」
「あ、そ。どうでもいいよ」
熱は確実に上がって来ている。
正直今は、ルパンだろうがフライパンだろうがどうでもいい。
- 321 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)22時01分40秒
- そんな吉澤の気持ちを知ってか知らずか、梨華は一方的にその『ルパン』の話を始めだした。
「うちのおじいちゃんは何でもあっという間に盗んでしまうんです。
あたし、小さい頃からおじいちゃんみたいなカッコいい怪盗になりたいなって尊敬してて、
おじいちゃんに盗めないものなんてないって、思ってました
でも、おじいちゃん、言ったんです。
自分には、盗めないものが二つあるって。
人の命は絶対に盗まない。そして、人の心は絶対に盗めないって。
あたしには才能があるって、おじいちゃんが言ってました。
自分にできなかった事をやれって、言われたです。できなかった事をやりたいんです。
もちろん、命は盗まないけど、
だから・・・、あれ?聞いてます?」
「え?あ、うんうん」
- 322 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月26日(月)22時02分13秒
- 適当に返事したものの、半分も聞いちゃいなかった。
フライパンのおじいちゃんの話など、どうでもいいのだ。
とにかく苦しい。
熱は、さらに高く上がり続けてるようである。
「吉澤さん?あ、あの、ちょ、ちょっと、大丈夫ですか?」
「ダメかもしれない」
「成仏して下さいね」
「っざけんなぁ!!・・・ゴホゴホッゲホッ」
「あーあ、具合悪いのに騒いじゃダメですよ」
オマエのせいだ!!
心から言いたかったが、咳に邪魔される。
「ゴホゴゴホッ」
「しょーがないですね。あたしが・・・」
梨華はやれやれと溜息をついて、苦しさにうめく吉澤の唇に、本日二度目のキスを落とした。
一度目と違うのは、温度の低い舌が差し込まれた事。
不思議と、咳は出なかった・・・。
- 323 名前:バードメン 投稿日:2002年08月26日(月)22時04分12秒
更新終了です。
では、また次回の更新時に。
- 324 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月27日(火)00時21分13秒
- お、おもしれ〜〜〜〜!!!
作者様、すごすぎです!!
続きも首を長く伸ばしてお待ちしております。
- 325 名前:オガマー 投稿日:2002年08月27日(火)02時06分38秒
- ドックンドックン心臓がゆってるんですけど
病気ですかね(氏
大胆な梨華ちゃん萌えw
- 326 名前:307 投稿日:2002年08月27日(火)14時07分22秒
- 猫の目・・・ですね、はい。
貞操の危機、あまり期待しちゃダメなんですか。
それにしても大胆な石川さんは素晴らしいです。
- 327 名前:酔っ払りゃー 投稿日:2002年08月27日(火)19時46分38秒
- きたー!看病梨華たん!
が、何故か健気なのに笑ってしまったのは気のせいでせうか…(w
更新がんがってくらさい。
- 328 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)21時58分12秒
- 「・・・ぐっ・・・待っ」
「暴れないで下さい」
梨華の瞳は真っ直ぐで、押し返せなかった。
そもそも、そんな余力は残っていない。
口内を彷徨う梨華の舌の動き。
大胆なわりに、少しぎこちない。
背筋を這い上がる妙な感覚に、吉澤の頬と身体は真っ赤に染まった。
熱に浮かされている原因は、一体どっちなんだろう。
「・・・苦しぃってば」
吉澤は、なんとか梨華から逃れようと顔をそむける。
隙間が出来た瞬間、ふっと漏れた二人の息が唇の辺りでくすぐったかった。
梨華の表情は、心配そうにほんの少し歪む。
「イヤ・・・ですか?」
「や、イヤとか、そういう問題じゃ・・・」
「じゃ、いいんですね」
再び迫る梨華。
「やっぱダメっ!!」
吉澤は慌てて遮った。
「なんで?イヤじゃないんでしょ?」
「いや、その・・・あっ、ほ、ほら風邪うつしちゃうし」
「それでいいんですよ、うつして下さい」
「へ?」
うつして下さいと言われても、さあどうぞ、ってなわけにもいくまい。
- 329 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)21時59分06秒
- 「何言ってんの?」
思わず訊き返す。
梨華は、吉澤を安心させようとするかのようにニッコリ微笑んだ。
「風邪って、人にうつしたら治るらしいし。・・・ね?」
そしてもう一度、唇は塞がれた。さらに、深く。
もういいや。
人間、あきらめが肝心である。
吉澤は、ゆっくり目を閉じた。
今さら瞼の開閉などどうでもいいような気もしたが、見開いたままだと焦点が合わず疲れる。
梨華の顔が至近距離すぎるからだ。
そう、近すぎるから。
風邪でヤラれているはずの鼻に、甘い香りが届くのは、
熱に侵されている頭が、さらにグルグル回るのは、
距離が近いせいだ。
頬にかかるサラリとした茶色い髪のせいでも、あまりに柔らかい唇の感触のせいでもない。
きっとそうだ。
多分そうだ。
それだけだ。ああ、それだけだ。
- 330 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)21時59分51秒
- 「大丈夫ですか?」
「・・・」
「おーい、吉澤さん?」
「・・・」
梨華が目の前でパタパタと手を振る。
吉澤は、虫歯の跡までバレそうなくらい口内を弄られ、ほとんど放心状態。
梨華が離れても、身動き一つできない。
「かぁわいいっ」
極めつけの甲高い台詞が、乙女ちっくな動作とともに飛んで来た。
グッタリ疲れたのは、なぜだろう・・・。
「吉澤さん?ドキドキしたでしょ?ねぇ、ねぇ、ねぇってば」
そして、疲れるほどに梨華のテンションが上がっていくのは、どうしてだろう・・・。
「あたしの事好きになって来たでしょ」
「・・・さあ」
「またまたー、顔赤いですよぉ。よっし、順調に計画が進んで来たぞぉ」
梨華は、嬉しさを噛み締めるように控えめなガッツポーズを決めた。
確かに、梨華の計画は進んでいる。
吉澤を置き去りにして、勝手に進んでいる。
ちなみに顔が赤いのは熱のせいも多少あるのだが、関係なく突き進んでいる。
- 331 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)22時00分44秒
- 吉澤は、溜息とあきらめを探した。
だが、どういうわけか見つからなかった。
具合が悪いせいもあるのか、急に苛立ちが襲って来る。
「ねぇ、何でそこまですんの?そんなに家に帰りたいの?」
「え?」
「今日会ったばかりの見知らぬ人とさ、よくキスとかできるよね」
「吉澤さん・・・?」
「泥棒なんてさ、卑怯じゃん。汚い商売じゃん。
人のモン盗んで、よく平気な顔してられるよね。
まともじゃないよ。おかしいんじゃないの?」
梨華の顔が凍りつく。
はっとした。
次々と滑り出てしまった言葉は、思った以上に棘があった。
言い過ぎたかもしれない。
「あ、ごめ・・・」
「いいんです。そう思われても、仕方ないですよね」
「いや、あの、違くて」
「うん、やっぱり、盗むっていうのは悪い事ですし、最低の仕事かもしれませんね」
泣き出すんじゃないかとさえ思われた梨華の表情は、妙に毅然としている。
余計に罪悪感が高まって、吉澤は慌てて上体をベッドから起こした。
- 332 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)22時01分15秒
- 「ごめん、そんなつもりじゃ・・・」
「でも、あたしのおじいちゃんは違いますよ。誤解しないで下さいね、吉澤さん」
「おじいちゃんって、フライパンの?」
「・・・は?」
「あれ?おじいちゃんでしょ?フライパンがどうとか」
「へ?」
「あれ?違う?フランスパンだったっけ」
「食べたいんですか?」
「や、どっちかって言うとベーグルのほうが」
「じゃ、買って来ましょうか」
「いやいや、別にいいよ」
「遠慮しな、・・・・・・何の話でしたっけ?」
「さあ」
首を傾げてキョトンとして、二人の目が合う。
しばし、無言。
ベーグル? フランスパン? フライパン? 何が?
一体、いくつの問答が二人の脳内で繰り返されたのだろう。
やはり、どうもうまく噛み合わない。
話が元に戻るまで、たっぷり一分の沈黙があった・・・。
- 333 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)22時02分07秒
- 「ま、まあとにかく、ゴメン。なんか、言い過ぎたっていうか」
ややこしいので、『パン』はあとに回した。
「いいんです。でも、おじいちゃんの事だけは誤解しないで欲しいっていうか・・・」
「おじいちゃんって、フライパンの?」
「・・・は?」
振り出しに戻・・・っている場合ではない。
「あ、いやいや、それはもういいから。えっと、誤解って何を?」
「え、でもフライパン・・・」
やはりそこが気になるのか、梨華は口篭もる。
「いいからいいから、その話は後でしようよ」
「でもフライパン・・・」
「あー、もうっ!それはいいってばっ!!」
「でも、でも・・・」
どうしても、フライパンは譲れないらしい。
なかなか意固地である。
吉澤は、段々腹が立ってきた。
堂々巡りを繰り返すほどの体力の余裕はないのだ。
いたちごっこも御免だ。
人生ゲームだって、もう少しスムーズに進む。
- 334 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)22時02分52秒
- 何なんだよっ!!やっぱり泥棒さんは手におえないよ!!
やっぱ警察呼べばよかったよ!!
・・・警察?
そうかそうかわかったよ。
そんなに盗みたいなら、捕まえてやるよ。・・・オイラが。
多分、ほとんどやけっぱち。
体温は、一体今何度?
さっきは三十九度手前。
そろそろ、・・・限界。なので、チャンスは今。
吉澤は、梨華の手首を掴んだ。
「え?」
梨華の目線が手首に行った隙に、ぐっと引っ張る。
「キャッ!!」
甲高い悲鳴が響いた。
バランスを崩した梨華は、吉澤の上に倒れ込む。
御用だ!観念しろ!
身体ごと、両手で梨華を捕まえた。
一般的には、『抱き締めた』と言う方が正しいらしい。
- 335 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)22時03分23秒
- 「な、何ですか?」
「黙って」
突然の事に戸惑う梨華の口を、人差し指で塞ぐ。
おお、あたしってかっけー!
吉澤は思った。
やっぱ泥棒さんは捕まえてなんぼでしょ。
吉澤は勝ち誇った。
いささか、自分に酔った。
そこに、油断があった。
「は、は、はぁぁくしょーーん!!」
エセ刑事ドラマは、吉澤のクシャミとともに去りぬ・・・。
- 336 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年08月28日(水)22時04分13秒
- 「・・・ごめん」
「子供みたいですねぇ。はい、チーンして」
まさにその通り、というほかない。
クシャミと鼻水という、風邪の諸症状には勝てなかった。
どうやら、カッケくキめるには不向きな病気のようである。
吉澤は、もう完全にあきらめた。
「大人しく、寝マス」
グッタリしつつ布団をかぶると、傍らで梨華が優しく微笑む。
「おやすみのチューは、してくれないんですか?」
「い!?」
「今さら、恥ずかしがらなくてもいいじゃないですかぁ。やだ、もぉ、吉澤さんったら」
照れた梨華の手が、バシバシと吉澤を叩いた。
何やら、誤解をしている。
「え?いや、そういうことじゃ・・・」
「添い寝しましょうか?夜はまだ長いですよ」
「・・・」
やっぱり、泥棒さんは危険だ・・・。
- 337 名前:バードメン 投稿日:2002年08月28日(水)22時14分08秒
更新終了です!
>324 名無し読者殿
いやいや、とんでもないです、ほんとに(汗
どこをどう押しても「すごい」なんてものは出て来ないです。
でも、そのお言葉物凄く嬉しいです。
>324 オガマー 殿
だとしたら、自分は大病を患ってる事になります(w
結構大胆に動き始めた石川さんでした。
>326 307 殿
あ、合ってましたか、安心しました。
期待されるとコケそうで恐ろしかったりも・・・。
ええ、もう本当にヘタレなもんで(汗
>327 酔っ払りゃー 殿
気のせい・・・にしておきましょう(w
ああ、あなた様のそのお言葉に弱いです。
がんがりますがんがります、気合で。
では、また次回の更新時にお会いしましょう!
- 338 名前:オガマー 投稿日:2002年08月28日(水)23時23分00秒
- いい!
噛み合ってないようで実は物凄く噛み合ってる(?)二人がいい!w
そうだねー、よっすぃー、泥棒さんは捕(ry w
- 339 名前:w 投稿日:2002年08月28日(水)23時48分08秒
- 相変わらず、面白いです。
バードメンさんの書く、石川さん、いいですねぇ。
更新頑張って下さいね。
また、某掲示板でお会いしましょう。
- 340 名前:バードメン 投稿日:2002年09月02日(月)20時27分33秒
- 『アウト・ブルーズ』最終話です。
では、更新いきます。
- 341 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時28分17秒
- 梨華はベッドの脇で頬杖をつき、吉澤の顔を愛しげに見下ろす。
「吉澤さん・・・」
さっきまで、頭痛を酷くさせていたその声。
なぜだか今は、艶っぽく聞こえた。
きっと、夜の闇のせいだろう。
「な、何?」
「キス、・・・してい?」
眠れない。
「あのね、話しかけないでくれる?眠れないから」
「寝ちゃうんですか?」
「はぁ?ほかに何すんのさ」
「一緒に・・・寝たいなぁ、なんて」
梨華は頬を染めて俯いた。
怪しい。
一体、どっちの意味だろう。
「一緒に?何で?」
「だって、あたしドコで寝ればいいんですか?」
なるほど、言われてみれば。
もっともな正論に、吉澤は少し安心した。
一人暮らしのこの部屋には、予備の布団などない。
招かざる客とはいえ、華奢な女の子をソファで寝かせるのも躊躇われた。
やはり人のいい吉澤である。
「うーん。まあいいけど。狭いよ」
「じゃ、あたしシャワー浴びて来ま・・・」
「浴びなくていいからっ!!」
吉澤は、慌てて制した。
- 342 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時29分10秒
- まさか泥棒さんと並んで寝る羽目になるとは、一体誰が予想したであろう。
「あのさ、もっと離れてくれるかな」
「だって、仕方ないじゃないですかぁ、狭いんだから」
シングルベッドの上は、押し合い圧し合い騒がしい。
「でもほら、こうしてると寒くないでしょ?」
梨華がそう言って、吉澤の身体にピタッとくっつく。
「あのね、くっつかないでよ」
「裸の方がいいですか?」
「は!?何で!?」
「裸で暖めあうと寒くないって聞いた事が・・・」
「いいからっ!!」
吉澤は、慌てて身体を離した。
「なんか、いいですね、こーゆーの」
布団を目の下まで被った梨華は、嬉しそうに照れたように笑う。
「そうかなぁ」
「そうですよ。うちの一家は少し特殊だから、あたし小さい頃から一人で居る事が多かったし」
まあ泥棒一家の団欒は、いささか想像し辛い。
「ふーん。・・・ねぇ、ところでさ、修行なんだよね、あたしを盗むって」
「そうですよ」
「例えばさ、盗めなかったらどうなるの?」
いまいちピンと来ない梨華の修行の目的。
ずっとそれが気にかかっていた。
今の所、盗まれる予定はないつもりである。
- 343 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時30分12秒
- 梨華はふーっと息を吐いて、吉澤に顔を向けた。
「うーん。泥棒になるのを諦めて、普通の生活を送る事になるのかな。
修行というより、テストみたいなモンなんです。
二十四時間以内に何か一つのモノを盗んでくる、
それが出来なければ、泥棒失格、才能なし、というか」
「じゃ、盗めたら?」
「一応認められて、立派な怪盗になるべく次のモノを盗みに行きます。
ずっと、うちの一族はそうしてきたんです。
お父さんも、おじいちゃんも、そのまたおじいちゃんも」
世の中には、不思議な一族もいるもんだ。
吉澤には、よくわからなかった。
「へー、そうなんだ。大変だね」
「そうですねぇ。でもあたし、絶対におじいちゃんみたいなカッコいい怪盗になりたいんです。
ずっと、小さい頃から憧れてたんです、夢なんです」
だったらもっと簡単でどうでもいいモノを盗めばいいものを。
吉澤は思ったが、口には出さなかった。
- 344 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時31分07秒
- 「だから、吉澤さん、愛を下さい」
「・・・おやすみ」
「えぇー、もっとお話しましょうよぉ」
「言っとくけど、あたしは絶対に盗めないから」
「えぇー」
不満そうに口を尖らせる梨華。
吉澤は身の危険を感じつつ、梨華に背を向け、目を閉じた・・・。
眠れぬ夜。
人は何を考えるのだろう。
あの人に想いを馳せる?
将来の夢を思い描いてみる?
星空を見上げて、哲学してみるのもいい。
眠れぬ夜。
吉澤は何を考えるのだろう。
危機管理、セキュリティ、護身術、スタンガン・・・。
いささか、物騒な事であった。
- 345 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時32分48秒
- 「ダーリン♪起きて。朝ですよぉ」
と、ハイテンションな高い声。
うるさいなぁ。
吉澤は顔をしかめた。目が開かない。
「ねぇ、ねぇってば、朝ゴハン作ったから、食べて下さい」
ちょっとやそっとでは起きない寝起きの悪い吉澤であるが、
それでも梨華の声はかなり耳障りである。
「うるさぁいなぁ。もぉちょっと寝かせてよ」
吉澤は不満を訴える。
なにせ、昨晩は梨華の寝返りや寝言にいちいち緊張してしまい、よく眠れなかったのだ。
まったくもう、今何時?
吉澤は目を擦りつつ枕元に置いてある時計を見た。
「ご、ご、ご、五時!?」
もちろん夕方の五時ではない。
- 346 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時33分21秒
- 「あ、起きましたか。おはようございます」
エプロン姿の梨華が、吉澤の頬にチュッとキスをする。
「ぎゃあ!?」
吉澤は思わず悲鳴を上げた。
梨華はしばしキョトンとし、
「ああ、こっちの方がいいですか?」
と、今度は唇にチュッとやった。
「おいし?」
「あ、ああ、うん」
じっと、お手製のお粥を食べる吉澤の様子を見つめる梨華。
「よかったぁ。早起きして作ったんですよぉ」
と、胸を張る。
「あのさ、あんま見ないでくれるかな」
「だって、なんか嬉しくて」
そう言ってニコニコ笑われ、なんとなく照れた。
これではまるで、いや、まさに、新婚生活のようである。
なんで、こんな事に。
朝の五時からこんなおままごとを繰り広げるのは、あまり気が進まない・・・。
- 347 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時34分23秒
- 「吉澤さん、あたしの事、好きになりましたか?」
「なるかっ!!」
「ねぇ、好きになりました?」
「ならないっつーの!!」
梨華は、かいがいしく吉澤の看病を続ける。
そのおかげか、熱はかなり下がった。
咳も鼻水も、なんとなくマシになったようである。
他愛もない会話をすると、意外に気も合う事がわかった。
不思議な成り行き。
穏やかな時間が過ぎて行く。
いつの間にか溜息の数が減少していることに、吉澤は、気付かなかった。
- 348 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時35分19秒
- 時計の針が十時をさす。
梨華が、寂しそうな表情をした。
午前十時ちょうど。
梨華がベランダからやって来て、二十四時間目。
あっさりやって来た、別れの時。
「んー。やっぱり、ダメかぁ。何も盗めなかったですね。
やっぱり泥棒には向いてなかったのかも。おじいちゃんにも盗めなかったものだし、
あたしには無理だったのかな。ま、もともとダメもとでしたし」
「・・・これから、どうすんの?」
「とりあえず、帰ります」
「そう・・・」
何となく沈黙になる。
なぜか複雑なこの心境。
かける言葉が見つからない。
どうやって表現すればいいのかわからなかった。
おめでとう、かな、残念でした、なのかな。
- 349 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時35分57秒
- 行け、何か言え、吉澤!
なんとか声を出す。
「あのさ・・・」
「はぁ・・・」
何やら難しい顔で、気の抜けたような妙な声を出す梨華。
「は?」
突然の不審な行動に、吉澤は目を丸くした。
「は、は、は、はっくしょん!はくしょん」
梨華から飛び出したのは、大きな大きなくしゃみ。
見事に、というか、案の定というか、
風邪がうつったらしい。
「あ・・・。あは、あははは」
「な、何で笑うんですか・・・はくしょん」
「はは、はははは、なんか、おめでとう」
「何がですか?は、はっくしょん」
- 350 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時36分47秒
- 吉澤は思う。
梨華は、確かに盗んだ。
予定は大幅に変更されて、吉澤の心ではなく、吉澤の風邪になったわけだが・・・。
間抜けな泥棒さんのかわいさに、思わず声を上げて笑った。
風邪を盗むとは、なんて人と環境(?)に優しい泥棒さんであろうか。
梨華はきっと、少し間抜けで、だけどある意味立派な怪盗になるに違いない。
吉澤は確信した。
- 351 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時37分30秒
- 「じゃ、そろそろ時間だから、帰ります」
「あ、うん、気をつけて」
「ホントに、お世話になりました」
梨華は頭を下げ、頬を拭う。泣いているらしい。
「何泣いてんのさ、バカじゃねーの?」
そう言って冷やかした吉澤の目も、少し潤んでたりする。
「それじゃ、さよなら。あたし、カッコいい泥棒になりますね」
「送ろうか?」
「いや、いいです」
「送らせてよ」
多少はた迷惑な訪問者であったが、別れるとなると、やはり寂しい。
遠慮する梨華に無理を言って、外まで見送りに出る事にした。
「吉澤さん、あたし、ホントに吉澤さんの事、好きでした」
「・・・うん」
しんみりと話しながら、マンションの階段を降りる。
不意に、抱きしめて捕まえたい衝動にかられた。
だが、じっとそれに耐えた。
今さら、何を考えているんだろう。
- 352 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時38分00秒
- 一階まで降りると、ちょうど吉澤家の真下にあたる部屋の前で、梨華は立ち止まる。
そして鍵を取り出し、ドアを開けた。
ん?
吉澤は、不思議に思い首を傾げた。
「何やってんの?」
「うち、ここなんです」
「・・・は?」
「少し前に吉澤さんを見かけて、それで、ずっと好きだったんです。
それじゃ、ごきげんよう。ちゃお♪」
ひらひらと手を振りドアの中に消えて行く梨華を、
吉澤は、アングリと口を開けたまま見送った。
なんと、階下の住人だったとは・・・。
っざけんな!!
すっかりふてくさた吉澤の、地面を蹴る音が鈍く響く・・・。
ご近所付き合いをロクにしていなかった事を、かなり悔やんだ。
- 353 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時38分38秒
- ・・・まあ、いっか。
なんか、楽しかったような気もするし。
空を見上げる。
雲一つない青空は、今日のこの日に相応しいように思えた。
一人の間抜けな泥棒さんの誕生。
それは吉澤にとって、別れになるのか出会いになるのか・・・。
梨華の笑顔を思い浮かべて、ほんの少し口元が緩んだ。
そして吉澤は、ゆっくり歩き出す。
なんだか穏やかな気持ち。だけど・・・。
- 354 名前:アウト・ブルーズ 投稿日:2002年09月02日(月)20時39分49秒
- 口笛で奏でた曲はなぜか、・・・哀愁に満ちたBlues。
それはきっと、泥棒さんを捕まえる、手がかり。
fin.
- 355 名前:バードメン 投稿日:2002年09月02日(月)20時40分35秒
- 『アウト・ブルーズ』完結です。
自分のヘタレな文章なぞにお付き合い下さった皆様、
本当に本当にありがとうございました。
無事に書き終える事が出来て、ほっとしています。
いかがでしたでしょうか。
えーっと、本当にヘタレな作者と作品で申し訳ないのですが、
感想、酷評等、何か書いて頂けると嬉しいです。
また、どこかで必ず書き始めます。
もしよろしければ、お付き合い下さい。
- 356 名前:バードメン 投稿日:2002年09月02日(月)20時41分20秒
- 読んで頂き感謝しております!
>338 オガマー 殿
そうですね、噛み合ってないようで実は物凄く噛み合ってる(?)二人。
といのが、個人的にすごく好きなので、こういった感じに書いてしまいました。
やはり、泥棒さんは捕まる運命ではないかと、思っているところです。
>339 w 殿
あなた様は!!
ああ、ありがとうございますありがとうございます。
相も変わらず、ヘタレなんです、ええ、もう、ホント。
また、混ぜて下さい(ペコリ)。
- 357 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月02日(月)23時21分40秒
- 完結お疲れ様でした。
バードメンさんの書かれるよしいしは爽やかでいつも読んでいて楽しかったです。
梨華ちゃんの暴走っぷりに辟易してるようでツボ突かれまくりのヨシコがかわいかったです。
これでもう二度と会うことない二人・・・・・
と思わせといて滅茶苦茶ご近所・・・・・・って
ヨシコともども「エッ〜〜〜〜〜〜〜〜!」と叫ばしてもらいましたよ。
そして最後にはきっちり盗むもの盗んでいった梨華ちゃん。
さすがフライパンの子孫(違
またどこかでバードメンさんの書かれるよしいしに会いたいです。
- 358 名前:オガマー 投稿日:2002年09月03日(火)03時41分06秒
- かわいかったですw
積極的過ぎな梨華ちゃんにツボつかれすぎでしたw
そして盗んだものは…だったなんて(笑
どこまでもマヌケな(w)二人のやりとりにほのぼのとドキドキを
いっぱい貰いますたww
- 359 名前:307 投稿日:2002年09月03日(火)18時39分10秒
- すげぇよかったです。
石川さんはホントにもう素晴らし過ぎでした。
幸せになりました。
次回作も頑張って下さい。
- 360 名前:バードメン 投稿日:2002年09月14日(土)12時41分09秒
- レス、ありがとうございます!
>357 名無し読者 殿
楽しかったですかぁ。非常に嬉しいです。
もともとオチは2パターンあって、どちらを書くか迷ったんですが、
バカバカしい方のオチを選んでしまいました。
なんせフライパンですし。
>358 オガマー 殿
こちらこそ、書く気力をいっぱいもらいました。
いつもいつも励ましありがとうございます。
本当に感謝です。
>359 307 殿
すげぇ嬉しいです。
そのお言葉、次回作書く事を頑張れる気力が漲ります。
必死に頑張ります。
- 361 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月02日(水)18時31分54秒
- 亀レスですみません。
つい最近までは、現実のよっすぃ〜に夢中で「娘。小説」を知りませんでした。
知ってからは、もう夢中で、夢中で、あちこちお邪魔しています。
こちらのスレも、今日初めてたどり着き、一気に読ませていただきました。
今、ぼ〜っとしています、「よしりか」の世界に浸りっぱなしです。
(済みません、私的には「いしよし」では無く「よしりか」です。)
「よしりか」ばかり読んでいる自分を見つめ直して、気が付いたことがあります。
今まで気づかなかったけど「本当は、私は梨華ちゃんも好きなんだ!」
(「も」が重要! 一番はひとみちゃんです♪)
これからも、「よしりか」、色々書いてください。
お待ちしてま〜す。
- 362 名前:バードメン 投稿日:2002年10月11日(金)15時49分41秒
- >361 ひとみんこ 殿
嬉しいです。
読んで頂き、ありがとうございます。
書いた本人も遅レスです。
お恥ずかしい限りです。
このスレによって、自分を見つめなおして気付いたことは、
今度から「・・・」を「…」にしよう、とか、そんな感じでした。
- 363 名前:バードメン 投稿日:2002年10月11日(金)15時52分18秒
『flash silver bus』
何となく書いてしまった短編もどきです。
どこにうpしようか悩んだあげく、結局ココに…。
たいして盛り上がるわけでも、たいした内容でもないですが…。
吉澤さん視点です。
- 364 名前:flash silver bus 投稿日:2002年10月11日(金)15時53分33秒
- バスに乗り、隣街まで走ります。
小銭集めて宇宙へのお手軽な旅。
ミステリーは続く。
出来心でついた嘘を、信じたヤツが連れて来た、
黒いマントの殺し屋が、追いかけて来る。さらいに来る。
だから、飛ばしましょう。
ちっちゃなバス停なんか、トバしましょう。
キミが嘘でなければ、連れて行くよ。
一緒に、ずっと一緒に。
遠くへ逃げる勇気は、どこにも持ってないけれど…。
- 365 名前:flash silver bus 投稿日:2002年10月11日(金)15時55分11秒
- 「○○君とは、いいお付き合いをさせて頂いてマス」
「吉澤さん、二人の出会いは、どこで?」
「えーっと、歌番組で共演させてもらってですね…」
自分の言葉が、まるで他人の言葉のように、頭に反響する。
目がくらむ。
たくさんのカメラのフラッシュが、あたしを照らす。
鬱陶しいけど、
しかめっ面は、心の中にしまい込まなければならない。
こんな事で、どうしてバカでかい会場を貸しきって、
どうして、たくさんの記者とカメラが押し寄せてくるんだろう。
いいお付き合い?
いつ?どこで?誰が?誰と?
事務所の用意した台詞は、お座なり過ぎて吐きたくなる。
○○君、○○の部分は、何でもいいんだ。
大人達の取引に、興味はない。
事務所間のダンゴウののちに、台本が作られて、
数回顔を合わせただけの男性アイドルタレントと、
付き合ってることにされてしまう。
なんとびっくり芸能界の裏側。
ゴシップの種は、嘘まみれの記者会見で花開く。
そんな花は、枯れてしまばいいのに。
水の代わりに、石でも投げつけてやりたい。
あたしが付き合ってるのは、
あたしが、大好きな人は、
梨華ちゃん。
ただ一人なのに…。
- 366 名前:flash silver bus 投稿日:2002年10月11日(金)15時56分37秒
- 始まりは、三日前のたった二ページ。
たった二ページの三流雑誌の記事だった。
「吉澤、これは一体、どういうことだ!!」
マネージャーさんの怒鳴る声が、楽屋に響き渡る。
がなりたてて、額に血管が浮いてるその姿に、
思わず、笑ってしまった。
「笑ってる場合か!!これはどういうことかと聞いてるんだ!!」
そう言って放り投げられた雑誌。
勢いでページがぱらりとめくれて、
『禁断の愛!国民的アイドルモー娘。の裏側!』
そんなタイトルと共に、見覚えのある人物の写真が現れた。
ああ、なんてバカバカしい記事だろう。
反吐が出る。
あたしは、一瞥して溜息を漏らす。
写っているのは、あたしと梨華ちゃん。
おもしろおかしくからかって、
皮肉な口調であしらって、
あたしと彼女の『禁断の愛』とやらを報じている。
禁断?どこが?何が?
ああ、バカバカしすぎて、反吐が出る。
- 367 名前:flash silver bus 投稿日:2002年10月11日(金)15時58分13秒
- 「どういうことも何も、うちら、付き合ってるんです」
当たり前の事のように言うと、マネージャーさんは一瞬ぐっと詰まった。
「と、とにかく、これはまずい」
「どうしてですか?世間体?イメージ?別に、あたしは、引退してもいいっすよ」
悪いけど、
『アイドル』の着ぐるみより、彼女の方が大事なんだ。
彼女のためなら、いつでも脱ぎ捨てる事ができる。
「とにかく、三日後、記者会見するから。台本はこっちで用意する」
「記者会見?」
「そうだ。その娘とは、もう会うな」
「な…」
「わかったな!見張りをつける。仕事以外、外に出るな!」
バンと一つ音がして、楽屋のドアが閉まる。
「な…なんだよ、それ!っざけんな!」
閉まったドアに叫んで、あたしは、手近にあった椅子を、思いっきり蹴り飛ばす。
足がジーンと痛んだ。
でも、その痛みより、嫌な予感と不安の方が痛い気がした。
- 368 名前:flash silver bus 投稿日:2002年10月11日(金)15時59分55秒
- それから、三日間、イライラしっぱしだった。
あたしが溜息を一つついた間に、
何もかもが決まってた。
あたしが、気持ちのやり場を探して楽屋の壁を殴っただけで、
記者会見はもう始まってた。
何かが、ヘンだ。どっかが、違ってる。
一体、何が起こってるんだろう。
そこのおっさん、んなジョークじゃ笑えねーよ。
- 369 名前:flash silver bus 投稿日:2002年10月11日(金)16時01分39秒
- 景色がぐるぐる回って、床がグニャリと歪む。
カメラのフラッシュが、一段と激しくなる。
「えっと、結婚ですか?そんなの、まだ考えてないですよ」
あたし、何を言ってるんだろう。
何を言わされているんだろう。
梨華ちゃん。
教えて、何がどうなってるの?
『アイドル』の着ぐるみが、脱げないんだよ。
背中のファスナーが、壊れてるみたいなんだ。
「あはは。モーニング娘。の活動は、もちろん続けていきますよ」
あたし、何を笑っているんだろう。
誰に笑っているんだろう。
助けて。逃げたいよ。梨華ちゃん、キミと二人で。
- 370 名前:flash silver bus 投稿日:2002年10月11日(金)16時03分10秒
- バスに乗りたい。
銀色ボディが光る、あのバスへ乗り込みたい。
逃げたくなったから、
でも、遠くへ逃げる勇気がないから、
バスに乗りたい。
荷物はいらない。一人じゃないから。
ポケットの小銭分で出来る、旅に出たい。
キミと二人で。
「今日は、お忙しいとこお集まり頂き…」
勝手に、台詞が口から飛び出す。
フラッシュが瞬く。
あたしの頭に、停留所が浮かぶ。
あたしの心に、銀色の光が見える。
『もう ここにはいたくない
もう ここにはいられない』
記者会見が終わったら、次の仕事まで時間がある。
梨華ちゃんに、逢いに行こう。
梨華ちゃんの手を引いて、少しの逃避行へ出掛けよう。
一緒に、来てくれる?
一緒に、ずっと一緒に。
- 371 名前:flash silver bus 投稿日:2002年10月11日(金)16時04分39秒
- 予定と路線の決まった旅だけど、それでも、キミと一緒に。
ほんの少しだけ、世間と意気地なしの自分を恨みながら…。
fin.
- 372 名前:バードメン 投稿日:2002年10月11日(金)16時26分23秒
終わりです。
えっと…、なんなんでしょうね、コレは。
本当に本当につまらない話で申し訳ないです。
とりあえず、石川さんは娘。ではない設定、ということで。
- 373 名前:オガマー 投稿日:2002年10月11日(金)17時53分35秒
- なんかいいですYO!
ほんとにバードメンさんって独特の世界感があって素敵です。
歌詞みたいなストーリーですな。
世間にバレたら、なんでマズイんだろう?と本気で考えてます。
『・・・』が『…』に変わってる(w
- 374 名前:ぼうふら 投稿日:2002年10月11日(金)20時21分51秒
- 背中のファスナーが笑っちゃうおかしなモノなのに、
せつないです。
バードメンさんの短いお話は
胸のまんなかに言葉がはいってきます。
あ、もちろん長いのも大好きですよ!
- 375 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月12日(土)12時50分26秒
- 現実にこんなことにならないよう、よしいしはこっそり楽しもうと思う…
- 376 名前:酔っ払(略 投稿日:2002年10月12日(土)16時28分29秒
- >>364
凄く━━━━(゚∀゚)━━━━イイ!!!
あなたの書く吉にはいつも惚れさせられる。
現実のゴシップもこんなだろうな、と妙に納得。
- 377 名前:宮 投稿日:2002年10月12日(土)18時11分17秒
- 最初の一行見てあれっと思ったら都市バスいいね〜
ほろにがい日はバスに乗り となり町まで走ります。
小銭集めて宇宙への おてがるな旅ミステリーはつづく
- 378 名前:バードメン 投稿日:2002年10月14日(月)22時09分59秒
レス、ありがとうございます。
>373 オガマー 殿
や、独特の世界感っていうか、ミッシェルファン丸出しなんです。
あと、やっぱり同性同士でしかも芸能人とかだと、
週刊誌等には妙な事書かれるのかな、と、なんとなく思いまして…。
>374 ぼうふら 殿
ありがとうございます。
少し説明不足で詩的になりすぎなのではと、不安でした。
>375 名無し読者 殿
こっそりですか。
もし現実だと、事情はもっと複雑になりそうですね。
>376 酔っ払(略 殿
あちらの方も読んで頂いたようで…。
めちゃくちゃ励まされております。
自分はヘタレなヤツです。
>377 宮 殿
都市バス、いいですよね。
結構うろ覚えだったので、大丈夫なんだろうかと、思ってました。
なにぶん、最初に聴いたのが、約十年くらい前なもので…。
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