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MUSUME。 STORY Ver1444

1 名前:Y 投稿日:2002年06月29日(土)23時41分25秒
前に黄板で書いていた者です。
まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします。
2 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年06月29日(土)23時42分43秒



保健の先生・・・それは生徒をやさしく包むエンジェル・・・。


3 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年06月29日(土)23時43分26秒
一階にある保健室。
少し空いた窓からは生徒の声が聞こえる。
どこかのクラスが体育らしい。
私は机の前の椅子に座り、ぼーっとしながら紅茶を飲んでいる。

この私立の女子高にやってきて二年。
それなりにいろいろなこともあって大変だったけれど、何とかやってこれて。
その中で生徒達は私にいろいろと悩みを話してくれるようになっていた。

「友達とけんかしちゃって・・・。」
「勉強がはかどらないんです。」
「親とうまくいかないんです。」
たいていこのような悩み。
4 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年06月29日(土)23時44分18秒
少しめずらしいものといえば・・・。
「私、裏口入学っていじめられるんです。」
「いつも暗い暗いって言われて・・・。どうすれば明るくなれますか?」
「みんなに気持ち悪いって言われるんですぅ。ケメ子はいつも一生懸命なのにぃ。」
というものもあったかな・・。

でもやっぱり多いのは恋の悩みで。
ここは女子校だから同性との恋愛の悩みも多い。
あと先生のことを好きになってしまったとか。(この学校の先生はみんな女性だけど。)
この学校は「恋愛禁止」ということで生徒もよけいに悩んでいるみたい。
ちなみに先生も生徒の見本ということで恋愛禁止だ・・。

もともと友達とかの悩みをよく聞いていたし、頼られることがうれしくて私も相談しに来てくれた子には精一杯アドバイスをしてあげた。
しかしときには生徒だけでなく・・・。
5 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月01日(月)03時52分37秒
石川先生ネタ大好きなんで期待してます
6 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月01日(月)17時52分43秒
「梨華ちゃん!」
いきおいよくドアが開いてそこに立っていたのは。
「後藤先生、どうしたんですか?」
「ちょっと梨華ちゃん、聞いてよっ!最近、市井ちゃんが冷たいんだよっ!」
その言葉を聞いて、私は慌てて後藤先生を中にいれて、ドアを閉めた。
こんなことを誰かに聞かれてしまったら・・。
私は彼女に椅子をすすめた。

後藤先生は現代文の教師で私より先にこの学校に赴任してきた。
最初はあまり話さなかったんだけど、年が近いこともあってだんだん話すようになって、今では空き時間とかに紅茶を飲みにやってくることも。
後藤先生の言う市井ちゃんというのはこの学校で化学を教えている教師だ。
後藤先生がこの学校に赴任してきたときにいろいろと教えてもらった人らしく、その後付き合うようになった。
教師の恋愛も禁止だからまわりにはバレてはいけなくて。
このことを知っているのはごく一部。
あまり学校では話さないようにしていたんだけど。

7 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月01日(月)17時53分27秒
「なんかね、一緒に帰ろうって言っても忙しいからって全然なんだ・・。」
「後藤先生・・。」
しょぼんとして言う後藤先生に私は紅茶のカップを差し出す。
「ありがと。」って受け取る彼女の顔には弱々しい笑顔。

「市井先生には言いました?最近冷たいとかって・・。」
「うん、いちおーは。でも、そんなことないだろって言うばっかなんだよ。」
「そう・・ですか。」
私は市井先生のことを考える。
市井先生もたまにここに来るけれど、そのときはうれしそうに後藤先生のことを話してる。
しゃべってはいけない学校の中でここはしゃべれる数少ない場所でもあるから。
市井先生が後藤先生のことを嫌いになってるわけじゃない。
それは絶対に言えること。
じゃあ、何か理由があるんだろうなぁ。
8 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月01日(月)17時54分59秒
「市井ちゃん、ごとーのこと、嫌いになったのかな・・。」
「それはありませんっ!」
ぽつりと言った後藤先生の言葉に私は力いっぱい否定した。
そんな私にちょっと驚いた顔をする後藤先生。
でもすぐににこっと笑って。
「あはは、ありがとね。」
私はふるふると首を横に振った。

「なんか梨華ちゃんに話し聞いてもらうとさ、すっきりするね。」
「そう・・かな。」
「うん、そうだよ。」
後藤先生はごくっと紅茶を飲み込むとすっと立った。
「じゃあ、もう戻るね。」
「あ、はい・・。」
「相談に乗ってくれてありがと。」
「えっ、私何もして・・。」
「話聞いてくれるだけでごとー、すごくうれしいんだ。こんなこと話せるのってあんまいないから。」

9 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月01日(月)17時55分33秒
後藤先生が出て行ってからすぐに勢いよくがらっとドアが開く。
「石川っ!」
保健室に走りこんできたのは矢口先生だった。
「どうしたんですか?」
「ごめん、ちょっとかくまって。」
「はい?」
矢口先生はそう一言言うと、奥のベッドの方に行ってしまった。
そしてしゅっとカーテンを引いた。
10 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月01日(月)17時56分14秒
「矢口せんせー!」
そんな声が廊下から聞こえる。
この声は・・。
私がその声の主を思い出そうとしていると、またもや勢いよくドアが開いた。
「石川先生。」
そこには満面の笑顔で立っている一人の生徒。
「松浦さん?」
「すみません、矢口先生見ませんでした?」
矢口先生がかくまってくれっていうのは松浦さんからということか。
そういえば松浦さんは確か矢口先生のことを・・。

「松浦さん、今授業中じゃないの?」
「今は自習中です。」
「自習中って言ってもね・・。」
私が言い終わらないうちに彼女はしゃべりだす。
「この時間に矢口先生の授業がないの、知ってるんです。だから亜弥と一緒にお茶でもと思って。」
松浦さんに追いかけられている矢口先生の図をよく見かけるけど・・。
それにしても積極的だなぁ・。

11 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月01日(月)17時57分27秒
「矢口せーんせ、亜弥と一緒にお茶しましょ。」
「松浦さん、ここには矢口先生はね、いない・・・。」
またも私が言う前にずんずんと中に入ってきて。
「もう、矢口先生は照れ屋さんなんだからぁ。」
そう言うと、閉まっているカーテンをさっと開ける。

「ま、松浦・・・。」
「やっぱりここにいた。」
苦笑いで後ずさっている矢口先生とハートマークを飛ばしている松浦さん。
ここまで対照的なのもすごい・・。
「どうして・・。」
「矢口先生のことなら、亜弥、何でも分かりますよ。」
にっこりと松浦さんは笑った。
「あ、ちょうどベッドがあるぅ。矢口せんせ、亜弥といいことしましょ。」
「おい、ちょっと・・。」
小柄な矢口先生をいともあっさりとベッドに押し倒す松浦さん。
先生を押し倒す生徒なんて初めても見たわ・・。
って、このまま始まっちゃうのを見逃してはいけないのよね・・。

12 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月01日(月)17時58分47秒
「あの、松浦さん、ここは保健室なんだけど。」
「石川先生、ベッド、貸してくださいよ。」
「そういう理由では貸すことはできないわね。」
私がそう言うと、しぶしぶ矢口先生から体を離す。
「石川先生はかたいんだから。」
そういう問題ではないと思うんだけど・・。
「まぁ、矢口先生も見つかったし、失礼します。」
矢口先生の腕をずるずるとひいて、松浦さんはさっさと歩いていく。
「い、石川・・。」
助けを求める目で矢口先生は見つめてくるけれど、さすがにこの松浦さんを止めるのは私には無理・・。
小さく「がんばってください。」とエールを送ると、矢口先生は半分泣きそうになって松浦さんに連れられていった。
ごめんなさい、矢口先生。
13 名前:オガマー 投稿日:2002年07月01日(月)21時46分44秒
マッツヤグww
うれすぃです(何
いしよしヲタですが積極的&狙い目なマツにノックアウト
14 名前: 投稿日:2002年07月08日(月)02時59分33秒
石川先生ですかぁ♪
良いですねぇ〜!
更新楽しみにしてます!
15 名前:Y 投稿日:2002年07月13日(土)21時14分16秒
>5 名無し読者さん
遅くなってすみません。
石川先生ネタ・・つい書いてしまいました。

>13 オガマーさん
まつやぐってあまり見ないような気が・・。
でも自分の中にはなんとなくイメージがあったんで。
自分で書いていてなんですが、こんな松浦さん、意外に好きだったりして。

>14 翔さん
なかなか更新できなくてすみません。
石川先生ってなんだかいい響き・・・。

最後まで一気にいきます。
16 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)18時50分06秒
嵐が去った後、またも保健室にお客様がやって来た。
「よっ。」
「市井先生!」
白衣を着た市井先生が片手を挙げて入り口に立っていた。
「ちょっといい?」
「あ、はい、どうぞ。」
市井先生はドアをゆっくりと閉めて中に入ってくると、さきほど後藤先生が座っていた席に座った。
「今、紅茶いれますね。」
「ああ、ありがとう。」

紅茶のカップ−無意識にだけど後藤先生と色違いのカップだった−を市井先生に渡してから、私のカップにも紅茶を注いだ。
「石川の紅茶はおいしいな。」
「そうですか?ありがとうございます。」
市井先生は紅茶を一口飲んだ。
17 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)18時59分17秒
「あのさ、最近後藤ここに来なかった?」
「え?」
さっきまでここにいたけど・・。
とりあえずそのことは言わない方がいいのかなぁ。
「たまに遊びに来てくれますよ。」
「そっか。・・なんか私のこと言ってた?」
市井先生がうかがうように私の顔を見る。
・・・言った方がいいのかな。
あまり第三者が入るのはどうかと思うけど、でも私は二人には仲良くいてほしいし。
「そうですね、最近冷たいとかどうとか、ごっちん言ってましたよ。」
私は学校では必ず先生と言っていた。言うようにしていた。
プライベートと仕事の区別をつけるために。
けれども今は後藤先生ではなく、ごっちんと言った。
あくまで友人として市井先生に言いたかったのだ。

18 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時01分53秒
「そっか・・。」
「私が言うのもなんですけど、どうかしたんですか?市井先生とごっちんには仲良くいて欲しいです。」
そんな私の言葉に市井先生は微笑んで。
「ありがとう。」
「いえ・・。」
そうして市井先生は一呼吸あけるとぽつりと言った。
「実はさ、後藤とおそろいで買った指輪、なくしちゃったんだ。」
そういえば市井先生とおそろいの指輪を買ったってごっちんうれしそうに言ってたな。
「どうしても後藤に言い出せなくてさ。ずっと思い当たるところを探し回ってたんだ。」
だから最近ごっちんとは一緒に帰らなかったんだ。指輪を探すために。
なくしてしまったということへの罪悪感も手伝って、ごっちんにうまく接することができなかったのかもしれない。

「まだ見つかってないんですか?」
「うん・・。やっぱ後藤に言った方がいいかな。」
「そうですね。ごっちんだったらすぐに許してくれると思いますよ。」
「そうかな。」
「ごっちんの性格、一番知ってるのは市井先生じゃないですか。」
私がそう言うと、市井先生は笑った。

19 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時02分40秒
「石川、ありがとう。」
去り際に市井先生は笑顔でそう言った。
「いえ、ちゃんとごっちんにサービスしてあげてください。」
「分かってるよ。」
白衣をたなびかせて市井先生は保健室から出て行った。

市井先生とごっちん、仲直りしてくれるよね。
っていうか、もともと喧嘩はしてないんだっけ。
まぁ、でもいつもの二人になってくれますように。
20 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時03分15秒
放課後になってからも部活中にケガをしてくる子とかもいるから、私はずっと保健室に。
ケガの子だけじゃなくて、相談に来る子も放課後が多いんだけど。
そして今日も迷える子羊がやって来た。

「あの、石川先生・・。」
ノックの後に入ってきたのはまだ制服が初々しい感じの生徒。
「何か用かしら?」
「えっと・・その相談にのってもらいたいんですけど・・。」
私はその言葉を聞いてからにっこり笑う。
「どうぞ。」
入り口に立ったままの彼女の肩に手を置いて、椅子に座らせてあげる。
「ちょっと待っててね。」
私はドアにcloseの札をかけてからすぐに戻ってくる。
いつも相談のときはこうしておくようにしている。
21 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時03分48秒
「あの、実はですね、その・・。」
向かいに座っている生徒―一年の高橋愛と名乗った−は恥ずかしそうに話し出した。
「好きな人ができちゃったんです。」
「そう。」
「でも校則では恋愛禁止じゃないですか・・。」
「そうね。でも恋する気持ちは誰にも止められないよ。」
「そうですよね・・。」
高橋さんはこくんとうなづいた。
「でも、その好きになった人が・・・・先生なんです・・。」
「先生・・。」
先生が好きっていう相談はたくさん受け付けているから、別段驚くことはない。
「吉澤先生、なんです。」
その言葉を聞いても驚く事はない。
だって先生が好きになったと相談に来る子は半分近くが吉澤先生と言うのだから。

22 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時04分51秒
「どうすればいいでしょうか?」
藁にもすがるような目で見つめてくる高橋さんに私は微笑む。
「こんなこと言うのは教師としてはいけないかもしれないけど、先生を好きになったって構わないと思う。恋をすることは悪いことじゃないと思うし。」
「はい・・。」
「高橋さんは吉澤先生のことを好きになって、それからどうしたいのかな?」
「付き合うとかそういうのはなくて・・なんか見ていたいというか・・その・・。」
高橋さんの気持ちは憧れに近いのかもしれない。
「吉澤先生とはお話したいの?」
「あ、はい・・。」
「そう。それじゃあ、まず自分から話しかけていかなくちゃダメかな。話しかけるくらいで校則を破ったことにはならないから。」
「そうですよねぇ。」
あまり笑顔がなかった高橋さんがくすりと笑った。

23 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時05分47秒
「その笑顔・・。」
「え?」
「その笑顔が大切だよ。」
「・・はい。」

高橋さんは「ありがとうございます。」と言ってお辞儀をすると保健室から出て行った。
こんなときいつも思う。
最初暗い顔をして来た子が最後は笑顔になって帰る。
これが私の役目なんだ。
悩みを解決するのは結局は自分だから、私はそのお手伝いをするだけしかできないから。
笑顔がなければ悩みは解決しない!
何事もポジティブが大切なんだよね。

24 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時06分34秒
「りぃーかちゃん。」
明るい声で制服のスカートをひらひらさせて入って来たのは二年の加護さんだった。
確かまだcloseの札にしたままだったはず・・。
それよりも。
「学校では石川先生って呼んでっていつも言ってるでしょ。」
「そんなカタイこと言わんといて。」
加護さん・・あいぼんは私の従兄弟で小さい頃から一緒に遊んでいた。

「また相談しに来た子、いたんや。」
その質問には私は答えない。
「そうだ、まだcloseの札かかったままだったでしょ?」
「生徒が出てったのが分かったから、入ってきたん。札は戻しといた。」
「あぁ、ありがとう。」

25 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時07分32秒
「う〜ん、吉澤先生はやっぱ人気あるんやな。」
あいぼんがそう言ったので私は飲んでいた紅茶を危うく噴き出すところだった。
「あ、あいぼん、まさか聞いて・・。」
「やっぱその相談やったんやな。」
にやりと笑ったあいぼんを見て私はしまったと思った。
相談事は秘密ってことが原則なのに・・。

「でも梨華ちゃん、うまく逃げてるんやな。」
「うまくって。」
「梨華ちゃんは吉澤先生が好きって相談しに来た子には応援してあげてるんやろ?」
「・・・まぁね。」
「自分の恋人が好きっていう、いわばライバルによくそんなこと言えるなぁ。」
「それは・・。」
私は何も言えなくなってしまった。
そう、あいぼんの言った通り、吉澤先生は私の恋人である。
これは当然隠していることなので、ごく一部しか知っている人はいない。
吉澤先生が好きっていう相談事ははっきり言ってほんと多くて・・。
それを聞くたびに私の心はドキリとさせられるのだ。

26 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時08分13秒
「しょうがないじゃない・・。私は・・先生だよ?」
溜息まじりに答える私。
「恋には生徒も先生もあらへん・・。でも、梨華ちゃんのそういう生徒思いなとこ、うちは結構好きやで。」
「あいぼん・・ありがと。」
「まぁ、吉澤先生は梨華ちゃん一筋だから浮気の心配はないか。」
27 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時08分45秒
あいぼんが保健室を出て行ってから一時間ほど経過した。
あれから誰もここに来ることはなくて、私は自分の仕事を淡々とこなした。
夕方近くになって生徒もそろそろ部活を終える頃。
ノックの音が聞こえ、私は返事をした。

28 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時09分15秒
「石川先生。」
中に入って来たのはジャージ姿の吉澤先生。
彼女は体育教師であるから学校ではジャージ姿でいることが多い。
普段は注意しても「梨華ちゃん。」と言ってくる吉澤先生が真面目な顔をしている。
何かあったのかなぁ・・。
「どうした・・んですか?吉澤先生。」
あらうくプライベートの時のような話し方になりかけて、慌てて丁寧語にする。
「実は少し相談が・・。」
そう言ってうつむいてしまった吉澤先生に私は椅子をすすめた。
素直に彼女は座る。
私達は向かい合った形になる。
私に相談しに来る人(ほとんど生徒だけど)とは決まってこの形をとる。
この方がその人の目を見てしっかりと聞いてあげられるし。
「私でよければ話してください。」
私が微笑んでそう言うと、吉澤先生は話し出した。

29 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時09分53秒
「最近・・冷たいんです。」
「冷たい・・?えーっと、それは何が?それとも誰が?」
「私の付き合ってる人。」
「え``っ。」
ちょっと待って。付き合ってる人って・・・。
「同僚なんですけど、職場とか関係なしに会うとなんだか抱き締めたくなっちゃうっていうか・・・。なのに向こうはいっつも「ここは学校だからね。」って言って、いろんなことさせてくれないんです。私はこんなに愛してるっていうのに・・・。」
「ちょ、ちょっと・・・。」
息継ぐ暇もないほどすらすらと話す吉澤先生に私は何も話すことができない。
「でも私が悪いわけじゃないんですよ。彼女が・・・かわいすぎるのがいけないんです。あんなかわいい顔して、かわいい声で、すべてピンクな感じで・・・。だから、だから・・。」
そう言うと、がばっと私の肩をつかんだ。
そしていつも以上に真剣な顔に少しどきっとした。
「・・・我慢できない。」
彼女はぽつりとつぶやくと私の唇に強引なキスをした。
「ん・・・。」
あまりに深く口付けるものだから声が出てしまう。
30 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時10分33秒
何度も何度もキスを与えられていくうちに体に力が入らなくなってしまった私はひとみちゃんに体を預けてしまう。
その隙に体を抱えられ、ベッドに連れていかれてしまった。
私をやさしくベッドに寝かすひとみちゃん。
ひとみちゃんがさっとカーテンを引くと、そこは二人だけの空間になった。
そしてすぐに私の白衣のボタンをはずしにかかる。
「だめっ・・だよ・・・、誰か来ちゃう・・。」
「大丈夫。closeの札かけて、鍵も閉めといたから。」
「なっ・・。」
その言葉を聞いて最初からこんなことをするつもりだったことに気づき、用意周到なひとみちゃんをじっとにらむ。
しかし。
「にらんだってダメだよ。そんな顔してもかわいいから・・。」
そう言って私の抵抗も無視して始めてしまう。

「や・・ちょ・・っと・・・ひとみちゃん・・。」
「好きだよ、梨華ちゃん。」

31 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時11分32秒




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32 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時12分21秒
「梨華ちゃん・・。」
私に抱きつきながら、ぽつりと私の名前をつぶやく。
肌と肌が触れ合うそこから彼女のあたたかさが私にまで伝わってくる。
あたたかいというよりも少し熱いくらいの体温。
「もう・・ひどいよ・・。ここは学校なのに・・。」
もうとっくに生徒は帰ってしまってるだろう。
教師も数人が残ってるくらいなはず。
私達が保健室に残ってこんなことしているなんて・・・。
誰も知らないだろうなぁ。いや、知られたくないんだけど。
33 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時12分59秒
「梨華ちゃん・・・さっきの相談の答えは?」
「相談?」
あぁ、私が冷たいとかいう・・。
もともとこんなことをするための作戦だったんじゃないの?
「そんなに私、冷たい?」
「うん。」
「でも学校ではやっぱりねぇ。校則だってあるし。」
「校則は破るためにあるんだよ。」
「それ、教師の言うセリフ?」
私はくすくす笑う。

「じゃあ、どんな答えが欲しいの?」
「そうだなぁ、またこうして保健室で・・・。」
「ダメ!ここは私の仕事場だから!」
ひとみちゃんに最後まで言わせず私がそう言うと、ひとみちゃんはぶすっとふくれる。
「じゃあ、体育準備室で。」
「あのねぇ、何で学校で・・・。」
「しちゃいけないとこでするってのがいいんだよ。」
真面目に語るひとみちゃんに私は呆れ顔で溜息をついた。
これじゃあ、生徒よりも問題児じゃない。
普段は明るくてクールな人気者の先生なのに・・。

34 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時13分39秒
「まぁ、どこでもいいよ。梨華ちゃんと一緒にいられれば。」
ぎゅっと私を抱き締める腕に力が入って。
「私もひとみちゃんといられればいいかな・・。」
35 名前:石川先生の悩み相談室 投稿日:2002年07月15日(月)19時14分15秒


保健の先生・・・それは生徒も先生もそして恋人をもやさしく包むエンジェル・・・。

36 名前:Y 投稿日:2002年07月15日(月)19時16分05秒
これで終わりです。
次はもうちょっと短いものを予定してます。
37 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月16日(火)00時29分44秒
もの凄く萌えてしまいますた・・・
設定はもちろんのこと描写がとっても(;´Д`)ハァハァ・・・

とりあえずの完結お疲れさまでした〜
38 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月21日(日)03時14分35秒
センセイ……!!(;´Д`)ハァハァ・・・

次も楽しみにしてます。
黄板のも読んでみたくて探してみたんですけど、わからんかった…
39 名前:Y 投稿日:2002年08月04日(日)16時58分27秒
>37 名無し読者さん
そう言っていただけてうれしいです。

>38 名無し読者さん
ありがとうございます。
黄板で書いていたのは『君がスキ・・・』というものです。

予定していたものとは違うのですが・・・。
後藤さんっ!保田さんっ!(涙)
40 名前:走る?! 投稿日:2002年08月04日(日)16時59分58秒
気がついたら私は走っていた。

「何で?!」

あたりを見回してみると、目に入ってくるのは緑色の掲示板と教室。
どこかの学校のようだった。
まったく人気はない。
窓の外を覗こうとしても、外からの眩しい光で見ることはできなかった。

どういうこと?!

水飲み場の前を通り過ぎるとき、私は自分の姿を鏡で見た。
・・制服を着ていた。
私の学校のものじゃない。

41 名前:走る?! 投稿日:2002年08月04日(日)17時02分07秒
それにしても何で私、走っているの?

今までなぜか走りっぱなしなのに気づいて、私は足を緩めた。
いい加減疲れてきた・・。

そのときだった。

「後藤―っ!!」

どこか怒ってるような声。
名前を呼ばれて振り返ると、後ろから圭ちゃんが走ってくる。
近づいてくるたびに分かるのはかなりの形相の圭ちゃんの顔。
ちょっとここでは言えないほどに・・・スゴイ。
42 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)17時54分47秒
「待ちなさいっ!!」
「は?」

私、圭ちゃんに追いかけられてるわけ?
じゃあ、あの怒りの矛先は・・・私?

頭の中でそう思った瞬間、反射的に私は走り出していた。
ここでつかまったらどうなるか分からない。
本能的にそう感じた。

何で圭ちゃんに追いかけられているか分からない。
でもその理由を尋ねようと圭ちゃんに近づけば・・確実にやられる。

私はいつの間にか圭ちゃんと鬼ごっこをやるはめになっていた。
43 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)17時55分30秒
ダダダダダッ

圭ちゃんと一定の距離を空けて私は走り続ける。
かなり疲れている。
でも圭ちゃんにはつかまりたくないっ!
そんな気持ちが私の足を動かしていた。

追いかける足音がなかなかやまない。
向こうも私のことを諦めないらしい。
ここまできたら、ごとー、絶対につかまんないんだから。

とても長かった(気がする)廊下に左曲がり角が見えてきた。
とりあえず私はその角を曲がる。

44 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)17時56分43秒
「どうしたんですか?」

突然目の前には私と同じ制服を着た小川、高橋、紺野、新垣の4人。
「えっと、なんか圭ちゃんに追いかけられてる。」
「はぁ・・。」
その時、私はひらめいた。

「あのさ、ちょっとだけ圭ちゃんと話してくれない?」
4人に足止めしてもらっている隙に遠くへ逃げようという魂胆だ。
「別にいいですよ。」
すぐにうなづいてくれた4人。
助かった!
「ありがと。じゃあよろしく。」
4人と別れた私はまた走り出した。

45 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)17時59分57秒
これでもう大丈夫だ、と安心したのも束の間。
「後藤!」
圭ちゃんの声。

何で?

そう思ったが、この事実はあの4人が圭ちゃんをうまく引き止められなかったということを示している。
あの4人では怒りの圭ちゃんを抑えることができなかったか。

「後藤、4人を使って私を止めようとしても無駄よっ。」

後藤の考え、見破られてるじゃん!
まだ追いかけっこは続くらしい。

右に曲がる角が見えてきた。
私は迷うことなく曲がった。

46 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)18時02分51秒
「ごっちんっ!」

やっぱり私と同じ制服を着ているにこにこ顔の辻と加護が立っていた。
「二人ともちょっとお願い!」
「なにぃ?」
「こっちに来る圭ちゃんを引き止めて。」
「おばちゃん?」
加護と辻はお互い顔を見合わせる。
「後でお菓子あげるから。」
「うん!」
私の言葉を聞いて笑顔になった二人は大きくうなづいてくれた。

そして私は走り出した。
あの二人なら圭ちゃんを「おばちゃん、おばちゃん」言って、私の時間稼ぎをしてくれるだろう。
47 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)18時04分13秒

しかし。

「後藤!」
またもや圭ちゃんの声。
あの二人でも無理だったか。
なんたる根性。

「後でお菓子、なんて無理よ。今あげなきゃ。」

圭ちゃんの方が一枚上手だった!
でも絶対つかまらないんだから。

左に曲がる角。
私はショートカット!で曲がる。

48 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)18時05分33秒
「後藤、何急いでんの?」

もちろん制服姿のやぐっつあんがそこにいた。

「助けて、やぐっつぁん!」
「ど、どうしたんだよ?」
抱きついてきた私にやぐっつぁんは困惑顔。
「圭ちゃんが追いかけてくるの、なんか分かんないけど。」
「気づかないうちになんかしたんじゃないの?」
「ごとー、知らないもんっ。」
本当に分かんないんだって。

「後藤―!」
圭ちゃんの声が聞こえた。

「と、とりあえず圭ちゃんを何とかして、お願いね。」
「ちょ、ちょっと。」
私は強引にやぐっつぁんにまかせて走り出す。
後ろでやぐっつぁんは何か言いかけたけど無視した。
ごめんね、やぐっつぁん。
49 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)18時06分35秒
やぐっつぁんと圭ちゃんは同期だもん。
なんとか怒りを静めてくれるだろう。
・・・・でも無理だった。

「待ちなさいよ!」

そう言われて立ち止まる奴なんていないっての。
ほんとに疲れたけど、つかまるのはイヤ!

「矢口に頼んだって無駄よ。同期の絆は深いんだから。」

後輩より同期なのね、やぐっつぁん・・・。
私は少し泣きそうになった。

見えた!左への曲がり角。
もうスピードを落とさずともうまく角が曲がれるようになってしまった。
50 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)18時08分11秒
「ごっちん、すごい顔・・。」

そこには制服姿のよっすぃ。

すごい顔・・そりゃそうだ、圭ちゃんにつかまりかけてんだもん。
かなりこっちは必死だよ。

「よっすぃ、親友だよね?」
「当たり前じゃん。」
すぐに答えてくれたよっすぃ。
「じゃあ圭ちゃんを食い止めて!」
「圭ちゃん?」
「なんか追いかけられてるんだ。お願い!助けて!」
私は必死に頼み込む。
「うん、分かった。」
「ありがとっ。」
持つべきものは親友だね。
私はやっぱり走り出した。
51 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)18時10分06秒
よっすぃは力もあるし、なんとか圭ちゃんを止めてくれるだろう。
しかしそんな期待はあっけなく崩れた。

「止まりなさいっ!」
「ど、どうして・・。」

よっすぃでもダメだったっていうの?
それにしてもしつこいよ、圭ちゃん!

「石川の隠し撮り写真あげるって言ったら、すぐに通してくれたわ。」

友情より恋ですかっ。
ごとー、ほんと泣きそうなんですけど。
52 名前:走る?! 投稿日:2002年08月07日(水)18時13分14秒
ダダダダダダダダ・・・
長い廊下をひたすら走り続ける私と圭ちゃん。

かなりスピードが落ちてきた。
でもそれは圭ちゃんも一緒。
あとは体力よりも精神力の問題。
ここまで来たらごとーは何としても逃げ抜いてやるっ!

右曲がり角。
今度は誰がいるのっ?!
53 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月09日(金)19時10分24秒
おー、新作。
しかし、後藤にちぎられない圭ちゃんすごい。
それだけ怒ってるって事か(w
54 名前:走る?! 投稿日:2002年08月17日(土)15時44分00秒
「後藤じゃん。」
「ごっちん。」

カオリとなっち。
二人も制服姿だけど、違和感ない。

「お願い、助けて・・。」
すでにふらふらな私。
「どうしたんだべ?」
「圭ちゃんが追いかけてくる・・。」
「後藤、圭ちゃんに何かしたんじゃないの?」
「こっちは何も・・してないの。」
「じゃあ何で圭ちゃんが追いかけてくるの?」
カオリとなっちは小首をかしげた。
55 名前:走る?! 投稿日:2002年08月17日(土)15時44分38秒
「ご、後藤・・・。」
「と、とにかく、二人、よろしく・・。」
圭ちゃんの声が聞えた私は何とか走り出す。

よろよろとあまりスピードは出ない。
疲れた、もう走りたくない。
でも絶対つかまりたくない・・。

「後藤・・・。」
疲労が見える圭ちゃんの声。
ちらりと後ろを振り向いたけど、まだ追いかけてくる。
なっちとカオリは無理だったんだね・・。

左に曲がる角。
そして少し行くと右に曲がる角。
そこは・・・
56 名前:走る?! 投稿日:2002年08月17日(土)15時45分32秒
行き止まりだった。

「うそ・・でしょ?」
私、つかまっちゃうわけ?
ごとー、絶体絶命。

「ごっちん?」

圭ちゃんとは違う高い声。
私はばっと振り返った。

「どうしたの、ごっちん?」

そこには制服を着て心配そうに見つめている梨華ちゃんがいた。
57 名前:走る?! 投稿日:2002年08月17日(土)15時46分16秒
「梨華ちゃん!」
私は彼女に抱きつく。
「どうしたの?」
やさしく問い掛けてくる梨華ちゃん。
「どうしたもこうしたも何だか分からないけど、圭ちゃんが追いかけてくるの。」
「保田さんが?」
「お願い、助けて。もう梨華ちゃんしか頼める人いないんだ。」
私がそう言うと、梨華ちゃんは笑ってうなづいてくれた。
「私が保田さんに聞いてみるから。」
その梨華ちゃんの笑顔が天使に見えた。

私から離れ、梨華ちゃんは走ってくる圭ちゃんの方へ歩いていった。
圭ちゃんは梨華ちゃんの教育係だったから、なんとかしてくれるかもしれない。
・・・少し頼りないけど・・。

58 名前:走る?! 投稿日:2002年08月17日(土)15時48分08秒
私はぺたんと廊下に座り込む。
もうダメ・・。
これ以上は走れない・・。
正直歩くのもツライ。
っていうかこの先ないし、もう逃げることはできない。
・・ああ、どうなっちゃうんだろう、私。

「ごっちん。」
梨華ちゃんが戻ってきた。
隣にはふらふら気味の圭ちゃん。
今、気づいたけど、圭ちゃんも制服着てる・・・。
感想は・・ノーコメントで。
「け、圭ちゃん・・。」

梨華ちゃんが一人私の方に歩いてきた。
「保田さんから話を聞いたよ。」
「うん・・。」
話?何を圭ちゃんは梨華ちゃんに話したんだろう?
そもそも追いかけられる理由も私にはないんだけど・・。
59 名前:走る?! 投稿日:2002年08月17日(土)15時50分29秒
「やっぱりごっちんがいけないと思うの。」
「は?」

眉毛を八の字にして私を見つめてくる梨華ちゃん。
ちょ、ちょっと待ってよ。
「私も一緒に謝ってあげるから。」
梨華ちゃんはへたり込んでいる私の腕を掴んで立ち上がらせようとする。

「り、梨華ちゃん・・。」

私が何したって言うんだよーっ!!

60 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)01時03分32秒
おぉ新作が(w
ごっちんいったい何をしたんだー?(w
61 名前:名無しちゃん 投稿日:2002年08月19日(月)21時47分38秒
おもしろい!!!このテンポかなり好きです。
いつも一枚上手の圭ちゃん、さすが!!
62 名前:Y 投稿日:2002年08月22日(木)19時08分48秒
>53 名無しさん様
自分の中だと保田さんってなんかいつも怒ってるんですよね・・。

>60 名無し読者様
それは今回の更新で明らかになる?・・かもしれません。

>61 名無しちゃん様
ありがとうございます。
保田さんは最強なんで。
63 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)00時58分29秒


*   *   *   *   *

64 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)00時59分16秒
「っていう夢を見たんだよねー。」
収録待ち時間、楽屋で私は昨日見た夢の話をしていた。
ちなみに私の話を聞いてるのは、やぐっつぁん、梨華ちゃん、よっすぃ、加護の4人だ。

「何か不思議な話だね。」
私の話を聞いて梨華ちゃんがぽつりとつぶやいた。
「なんかそれぞれ微妙に的を得てるけど、何だよ、石川の隠し撮り写真って。」
やぐっつぁんがきゃははと笑った。
梨華ちゃんは「こっちが知りたいです。」と顔を赤くして言った。

65 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)01時01分53秒
「夢ってその人の思ってることも入るとかって言うよねぇ。」
「じゃあ、ごっちんって私のこと、そう思ってんだ。」
加護の言葉によっすぃが私を拗ねた目で見た。
「じゃあ、あのときの選択でよっすぃは私と梨華ちゃん、どっちを取るのさ?」
「梨華ちゃん。」
見事に即答。
・・・やっぱりね、そう言うと思った。
「よっすぃ・・。」
梨華ちゃんがうれしそうによっすぃを見つめている。
それによっすぃも見つめ返して・・・二人の世界に。
毎度のことだから私もみんなも慣れちゃった。

66 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)01時03分22秒
「結局、何で圭ちゃんに追いかけられたか分かんないままなんだよね。欲求不満だよ。」
私はぽつりとつぶやいた。
あの夢は何だったんだろう・・・?

カチャッ

入ってきたのは私の夢のキーパーソン、圭ちゃん。
圭ちゃんに聞いたって分かんないよね。

「何?私の顔に何か付いてる?」
私がじっと見つめていたせいか、圭ちゃんは訝しげに聞いてくる。
「ううん、何でもないよ・・・。」
私は軽く手を振った。
67 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)01時04分10秒
「ところで、ここにあった雑誌知らない?」
圭ちゃんがテーブルをトントンと軽く叩いて、メンバーにたずねる。
「雑誌?」
よっすぃはきょろきょろとあたりを見回す。
「どんなのですか?」
梨華ちゃんがたずねた。
「うん、ファッション雑誌なんだけど、ちょっと前のやつでね。」
ファッション雑誌・・・・そういえば。
「オイラは見てないけど。」
「加護も分かりません。」
「あったような気はしますけど・・よっすぃは?」
梨華ちゃんに聞かれて、よっすぃは首を横に振った。
68 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)01時07分07秒
「あのさ、圭ちゃん、もしかして『二十代の肌のトラブル対策』とかって大きく書かれてたりする?」
「ト、トラブル・・。」
加護が笑いかけているのを圭ちゃんはにらんだ。
ぴたっと加護は黙る。
「それよ。後藤、知ってるの?」
「知ってるっていうかさ・・。」
その先を私は言いたくなかった。
なかなか言わない私をやぐっつぁんが不思議そうに見つめる。
「ごっつぁん、どうかした?」
「えっと・・あのね・・。」
やっぱり言わなきゃダメ、だよね・・・。

69 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)01時08分35秒
「さっきマネージャーさんが来てね、部屋片付けなさいって言われて、それで・・。」
「それで?」
「捨てちゃった。あは。」
70 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)01時11分10秒
みるみるうちに圭ちゃんの顔が怒ってきて・・・。

「後藤―!!」

私は反射的にがたんと椅子から立ち上がった。そして走り出す。
勢いよく楽屋を出ると、圭ちゃんが追いかけてきた。
71 名前:走る?! 投稿日:2002年08月25日(日)01時12分40秒
ダダダダダダッ・・・
廊下を走る足音。

「だってかなり古かったからいいと思って。」
「捨てるとかいうのはちゃんと人に聞きなさいよっ!」

私は圭ちゃんに追いかけられる羽目になった。
これって夢と同じじゃん。
・・・予知夢だったってこと?!

今度こそ、圭ちゃんにはつかまりたくないっ!
72 名前:Y 投稿日:2002年08月26日(月)11時39分02秒
これで終わりです。
こんな展開ですが・・。
73 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月26日(月)14時10分45秒
おもしろかったです。
てえか圭ちゃん・・・二十代の肌のトラブル対策って・・・
かなり笑わせてもらいました!
74 名前:Y 投稿日:2002年09月01日(日)21時18分42秒
>73 名無し読者様
読んでくださってありがとうございます。
そう言ってくださってうれしかったです。

75 名前:WORLD OF PINK〜君色に染まる場所〜 投稿日:2002年09月01日(日)21時21分57秒
「よっすぃ、今日うちに泊まっていって。」
明日は午後から仕事ということもあって、梨華ちゃんが誘ってくれた。
当然私は即答でうなづき、今、私達は梨華ちゃんへのマンションへと向かっている。

暗い誰もいない道。
私はそっと隣の梨華ちゃんの手を握る。
一瞬、梨華ちゃんがぴくっと反応して、でもすぐにやさしくぎゅっと握り返してくれた。
76 名前:WORLD OF PINK〜君色に染まる場所〜 投稿日:2002年09月01日(日)21時23分07秒
他愛のない会話をして笑い合っているうちに梨華ちゃんちに到着。
梨華ちゃんは鞄の中から鍵を取り出してドアを開けると「どうぞ。」と言って私に入るよううながした。
「おじゃまします。」

いつ来ても変わらないピンクな部屋。
最初に来たときはあまりのすごさに驚いたけど、今じゃもう慣れてしまった。
なんとなく落ち着かなかった部屋も自分の家のようにくつろげるようになった。
それだけ梨華ちゃんちには来てるってことなんだけど。

梨華ちゃんはピンクが大好きで。
それに、もし梨華ちゃんを色で例えるならばって聞かれたら、ピンクと言ってしまうほど、梨華ちゃん自身もピンクな感じ。
この部屋がここまでピンクなのは梨華ちゃんがピンクだから?
それとも部屋がピンクだから梨華ちゃんまでもピンク?
ピンク一色・・・。
77 名前:WORLD OF PINK〜君色に染まる場所〜 投稿日:2002年09月01日(日)21時24分59秒
そんなときふと思い出した。
去年の夏、私は梨華ちゃんと突然遠出しようってことになって、行き先も特に決めず、電車に乗ったことがあった。
今思えばなんて大胆なことをしたんだろうって思うけど、あのときは冒険に出るかのようにワクワクドキドキしたっけ。
なんとなく降りた駅からなんとなく歩いていった私達はとある公園にたどり着いた。
そしてそこにあったのはひまわり畑だった。

私の背くらいあるひまわり。
昼間なのに誰もいない少しさびしい畑に私達は手を繋いで中に入っていく。
どんどん歩いていくうちにひまわりの壁によって外の世界から遮断された二人だけの世界のように思えてきて。

ひまわり畑の真ん中で私は梨華ちゃんと口付けを交わした。
お互いを強く強く抱き締めて、長い深い甘いキスを・・・。
そこは一面黄色の世界だった。

78 名前:WORLD OF PINK〜君色に染まる場所〜 投稿日:2002年09月01日(日)21時26分33秒
「よっすぃ?」
ふいに梨華ちゃんの声が耳に届き、はっとして顔を上げた。
そこにはカップを両手に持ち立っている心配そうな梨華ちゃんの顔。
「やっぱり疲れてるよね。誘っちゃって悪かったかな。」
梨華ちゃんは苦笑いして私にレモンティーの入ったカップを渡した。

「梨華ちゃん。」
「なぁに?」
カップに口をつけてから梨華ちゃんは答えた。
「あのさ、去年二人で行ったひまわり畑覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ。」
梨華ちゃんはにっこり笑う。
「今、ちょっと思い出してたんだ。」
「ふぅん。」

「梨華ちゃん。」
「ん?」
梨華ちゃんが私の方を向いたとき、私は彼女の唇に自分のを重ねた。
そっと触れるだけのキス。
「あのときもしたよね、キス。」
私がそう言うと、梨華ちゃんは頬を少し赤くしてこくっとうなづいた。
79 名前:WORLD OF PINK〜君色に染まる場所〜 投稿日:2002年09月01日(日)21時27分48秒
それから。
私達はあのときのような長い深いキスした。
ただあのときと違うのは甘酸っぱいキスということと。
一面ピンク色の二人だけの世界ということ。
80 名前:Y 投稿日:2002年09月01日(日)21時30分17秒
終わりです。

なんとなくもう一つ・・。
81 名前:想い 投稿日:2002年09月01日(日)21時31分11秒



何回君に「愛してる」と言えば、君は私を好きになってくれるのだろう。


82 名前:想い 投稿日:2002年09月01日(日)21時32分42秒
「梨華ちゃん、好きだよ。」
「私もごっちんのこと、好き。」

私がそう言うと、必ず笑顔で彼女は返してくる。
でもそれは友達としての「好き」。
・・・私の気持ちは本物だけれど、いつも梨華ちゃんは本気にとってくれない。
だって彼女には恋人がいるから。

83 名前:想い 投稿日:2002年09月01日(日)21時34分20秒
「こんなとこにいたんだ。」
「あ、よっすぃ。」

彼女の目がきらきらと輝く。
梨華ちゃんの王子様の登場だ。

彼女の恋人、よっすぃ。
私とは同い年でいろいろと趣味も合うし、性格も合う。
プッチでも一緒だから、かなり仲がいい。
私はよっすぃのこと、嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
84 名前:想い 投稿日:2002年09月01日(日)21時35分20秒
けれども梨華ちゃんの隣にいるよっすぃは嫌い。
梨華ちゃんがすごく幸せそうな顔をするから。
私が隣のときには絶対に出さない顔・・・。

私はよっすぃに嫉妬してるんだ。

どうして私じゃダメなの?
私とよっすぃ、たくさん共通点があるよ?
同い年だし、血液型も同じだし、好きなブランドも一緒だし、それに・・・。
85 名前:想い 投稿日:2002年09月01日(日)21時36分44秒
やっぱり同期だから・・?
喜びも悲しみも分かち合った仲だから?
だから梨華ちゃんはごとーを選んでくれないの?

「好き」だと言葉で伝えても、目で送っても彼女からは私の欲しい答えは返ってこない。
それでも私は彼女に自分の想いを届けたくてしょうがない。
無理だと分かっても・・。

愛しい梨華ちゃん、私の想いに応えて・・・。
86 名前:Y 投稿日:2002年09月01日(日)21時40分56秒
終わりです。
結構前に書いたものなんで、なんかズレてる気もしますが(汗)
87 名前:Y 投稿日:2002年09月21日(土)20時53分18秒
ちょっとしたものを書きます。
読んでくれている人なんていないような気もしますが・・。

『晴れのち曇りのち雨』

88 名前:プロローグ 投稿日:2002年09月21日(土)20時54分39秒


「今日は一日中晴れでしょう。」


89 名前:プロローグ 投稿日:2002年09月21日(土)20時55分29秒
「おはよう、あいぼん。」
もうすぐ校門というところで、私はののに会った。
「おはよう、のの。」
そうして私達はいつものように並んで歩き出すはずだったんだけど。

「あいぼん・・。」
ののはなんだか訝しげに私を見てる。
「どうしたの?」
「あいぼん・・、天気予報見てこなかったの?」
「見てきたよ。」
「じゃあ・・。」
そう言って私の手元をじっと見る。
「なんで傘持ってきたの?」
私は手に持っている自分の傘に視線をやる。
赤い水玉模様の傘。私のお気に入り。
ののと一緒に買い物に行ったときに、とある店で一目見て気に入って、その場で買ったやつだ。
90 名前:プロローグ 投稿日:2002年09月21日(土)20時56分15秒
「天気予報は一日晴れだって言ってたよ。」
「そう・・なんだけど。」
朝、家を出る前に見てきたニュースできれいなお姉さんが言ってた。
けれども。
「今日は雨が降るよ。」
私の言葉にののは「どうして?」と問う。
「天気予報を信じてないわけじゃないけど、なんか雨が降る感じがする。」
私がそう言うと、ののはにかっと笑った。
「なんだか飯田さんみたい。」

飯田さんとはののの家の近所に住んでいる大学生で、ののが小さい頃から遊んでもらったりしてお世話になってる人だ。
私も何回か会った事があるけど、きれいな人。
でも、私が心の中で思ってることとかずばっと言い当てたりして、(のの曰く、電波で分かる?らしい)不思議な人。
91 名前:プロローグ 投稿日:2002年09月21日(土)20時56分47秒
(それって喜んでいいことなのか・・。)
私が返答に困っているのをよそに、ののは歩き出す。
「あいぼんが雨が振るっていうんだから、きっと雨が降るね。そしたら、駅まで傘入れてってね。」
「いいよ。」
きっとののにとっては褒め言葉だったと解釈して、私はののを追いかける。
92 名前:プロローグ 投稿日:2002年09月21日(土)20時58分14秒


『今日の天気は晴れのち曇りのち雨でしょう。』


93 名前:第1話 晴れ 投稿日:2002年09月23日(月)01時41分35秒
いつもなら半分寝ている状態で目覚ましを止めて二度寝して、学校に遅刻しているのに、今日はほんとにぱっちりと。
(雪でも振るんじゃないの?)
自分でこの事実を信じられず、一人つっこむ。
雪は降らずとも、今日はきっと何かあるに違いない。

私はパジャマのまま二階の自分の部屋から一階に降りていく。
「おはよう。」
居間に入ると、朝ご飯の準備をしていたお母さんがすごく驚いた顔で私を見た。
「今日は雪でも振るかしら。」
「私もそう思った。」
お互い顔を見合わせて、うんとうなづく。

いつもより朝ご飯もゆっくりと食べられたし、準備も余裕を持ってできた。
やっぱり朝バタバタするよりこっちの方がいいよね。
「いってきま〜す。」
私はいつもより早めに家を出た。
94 名前:第1話 晴れ 投稿日:2002年09月23日(月)01時42分22秒
ドアを開けた瞬間、私の目に飛び込んできたのは雲一つない青空。
まぶしいほどの太陽の光が降り注ぐ。

「なっち・・。」

ふと彼女を思い出す。
いつも太陽のようにきらきらと笑う彼女。
私の心を離さない、愛しい愛しい恋人。

彼女が笑っていると私もうれしくなる。
彼女が泣いていると私も悲しくなる。
彼女の表情は私の気持ちをコントロールする。
そのたびに思うんだ、私はなっちのことが大好きなんだって。

95 名前:第1話 晴れ 投稿日:2002年09月23日(月)01時43分04秒
駅に向かっていた私の足はぴたりと止まった。
そして駅とは正反対の方に走り出す。
気持ちだけは先走りして体がなかなか追いついていないような感じ。
彼女に会いたい・・!

住宅街の中にぽつんとある喫茶店。
なっちはそこで働いている。
あの店はモーニングもやってるから、この時間はもう開いてる。
私は全速力で彼女のいる場所へと向かった。
96 名前:第1話 晴れ 投稿日:2002年09月23日(月)01時44分01秒
カランカラン
アンティーク調の外見のかわいらしいドアを開ける。
「いらっしゃいませ。」
ひんやりとした空気と共に、明るい声が耳に飛び込んできた。
「・・なっち・・。」
なんとか呼吸を整えてから私は彼女の名を呼ぶ。
「ごっちん!」
彼女は目をまんまるにして驚いた表情で私を見つめた。

店の中にはお客さんはいなかった。
「どうしたの?学校は?」
「さぼった。」
「だめだよ、そんなことしちゃ。ちゃんと学校に行こう?」
ちっちゃい子をなだめるような声で私をたしなめるなっち。
「やだ。」
私が一言言うと、彼女は「何で?」と顔で問う。
「だってこんなにいい天気なんだもん。なっちと一緒にいたい。」
97 名前:第1話 晴れ 投稿日:2002年09月23日(月)01時44分33秒
私の言葉を聞いたなっちは一瞬驚いたけど、すぐにやさしく笑った。
「しょうがないなぁ。今日だけだよ?」
「うん!」
私は満面の笑みで彼女に返す。

私が早起きした日。天気のいい日。
こんなめでたい日は大好きな人と一緒にいたい。

98 名前:第1話 晴れ 投稿日:2002年09月23日(月)01時45分05秒
「おう、ごっちんやないか。」
店の奥からやって来たのはこの店のオーナーの裕ちゃん。
「おはよう、裕ちゃん。」
「学校は?」
「さぼった。」
「そうか。」
裕ちゃんは何も聞かなかった。
けれどもそのかわり。
「今日一日、ここで働いてくれへんか?今日、人手が足りないねん。時給弾むで。」
青いエプロンを私に見せて、ウィンクした。
「ちょっと裕ちゃん!」
99 名前:第1話 晴れ 投稿日:2002年09月23日(月)01時45分50秒
大好きな人の側にいられるなら、ごとー、がんばれるよ?
っていうか、こっちからお願いしたいくらい。

「よろしくお願いします。」
私はぺこりとお辞儀した。
100 名前:NG 投稿日:2002年09月24日(火)02時56分17秒
なちごま期待してよいの?
101 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時25分07秒
あんなに晴れていた空が今はどんよりと曇っていた。

放課後。
人が少なくなった廊下を私は駆け足で進む。
早く行かないと!
私は焦りながら、中庭へと走っていく。

中庭のベンチにやって来た私は腕時計をちらりと見やる。
三時半にはまだなっていない。
「よかった・・。」
私はふぅーっと溜息をついてから、そこにあるベンチに座った。

私は校舎を見上げる。
三階の窓は今日も開いていて、白いカーテンが揺れている。
そこは第二音楽室。
合唱部の活動場所だ。

102 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時25分55秒
ふいに歌声が聞こえてくる。
三階のあの第二音楽室から、風にのって私の元に届いてくる。
透き通った、少し大人びた声。
英語の歌詞みたいだから、どんな歌か全く分からないけれど、心を揺さぶるような歌声。

合唱部の練習日は月、水、木、金。
その曜日のきっかり三時半に必ずこの歌が歌われている。
そのことを知ったのはひょんなことからなんだけど、それ以来、私はこの歌声を聞くために、水泳部の練習のない金曜日には決まって、この中庭にやって来ていた。
中庭のベンチに座って、この歌を聴き、読書をするというのが私の最近のマイブームだ。

彼女の声を聞くと、すごく落ち着く。
嫌なことも忘れられる、癒される。
例えば、今日みたいな曇りでも彼女の歌を聞くと、なんだか晴れてるような気がしてくる。

103 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時27分11秒
誰が歌っているのか分からない。
でも、すごく知りたい、会ってみたい。
私の心に入り込んだ歌姫は誰なのか、とっても気になる。

けれども歌姫は私が聞いていることなんて絶対に知らないと思う。
だからせめてこうしてこっそりと歌を聞かせてもらって・・。

104 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時28分07秒
「麻琴ちゃん。」
歌の途中で急に声をかけられ、私はびくっとして振り返った。
そこには同じクラスのあさ美ちゃんが立っていた。
箒片手に少し驚いた表情。
「こんなとこでどうしたの?」
「あ、いや・・その・・」
毎週金曜日に歌姫の歌声を聞くためにここに来ていることは恥ずかしくて誰にも言っていなかった。
だからつい口ごもってしまう。
そんな私の様子に首をかしげながらも、ふいにあさ美ちゃんは校舎を見上げた。
その視線の先は第二音楽室。

バレた?!
ぼーっとしているようで意外に勘の鋭いあさ美ちゃん。
私は瞬間的に顔が真っ赤になったのを感じた。
「この声・・。」
「え?」
「これ歌ってるのって、もしかして・・。」
「あさ美ちゃん、誰か知ってるの?」
ものすごい勢いで聞いた私にあさ美ちゃんは目をぱっちりと開けて驚いた。
私ははっとして、口をつぐむ。

105 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時28分59秒
「たぶん隣のクラスの高橋愛ちゃんだと思うよ。」
「高橋・・愛・・ちゃん。」
大人っぽい声だったから、てっきり先輩かと思ってたけど、同じ学年なのか。
「委員会で一緒なんだけど、合唱部って聞いたことあるし、少しだけ歌ってくれたのを聞いたこともあるから。」
「そう・・なんだ・・。」
ちょうどここで歌が終わった。

今日はちゃんと聞けなかったな。
でもあさ美ちゃんのおかげで歌姫の正体が分かったからよしとしよう。
そう思っていたんだけど。

106 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時30分17秒
「麻琴ちゃん、確認してみるね。」
「え?」
あさ美ちゃんはそう言ったかと思うと、急に大声で呼び始めた。
「愛ちゃ〜ん!」
「あっ、あさ美ちゃん?!」
恥ずかしくなって止めようとしたけれど、やっぱりどんな子か知りたくて、三階の窓に視線を向けた。

あさ美ちゃんが呼んでから少し経って、窓からそっと顔を覗かせる女の子が見えた。
目がくりっとしているかわいい子だった。
またも私の顔は真っ赤になったのを感じた。
「あさ美ちゃん。」
「やっぱり愛ちゃんだ。」
あさ美ちゃんは高橋さんに笑顔で手を振っている。
高橋さんも小さく振り返してから、私をちらりと見た。
107 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時31分17秒
歌姫が私を見た・・。
会うことさえ無理だと思ってたのに。
それなのに今・・。

「あ、紹介するね。私と同じクラスの小川麻琴ちゃん。」
「あ、どうも・・。」
なんだか恥ずかしくて、そっけない返事になってしまう。
でも心の中は少しでも知り合いになれたことと、あさ美ちゃんへの感謝でいっぱい。
「高橋愛です・・。」
高橋さんは少し顔を赤くして、ぺこりと頭を下げた。

「高橋、練習、始めるよ。」
そんな声がかすかに聞こえてきた。
「あ、じゃあ、またね。」
「うん、部活がんばってね。」
高橋さんは手を振ると、窓から離れていった。
私はそのまま、三階の窓を見つめていた。
108 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時32分43秒
「麻琴ちゃん。」
「何?」
「さっきの愛ちゃんの歌ってた歌なんだけど。」
「あ、うん。」
「私もよくは覚えてないんだけど、確か、名前も知らない人のことを好きになった女性が私を知ってください、気づいてくださいっていう愛の歌だった気がする。」
「そう・・なんだ・・。」
あそこまで感情が入ってるんだから、高橋さんは今、恋をしているのかな。
そう思うと、なんだか胸がチクリと痛かった。

109 名前:第2話 曇り 投稿日:2002年09月27日(金)15時33分23秒
「じゃあ、私、行くね。」
「うん、ありがとう。」
あさ美ちゃんの姿が見えなくなってから、私はもう一度、三階の窓を見た。
すでに合唱部の練習は始まっていて、合唱曲が聞こえてくる。
(高橋愛ちゃん・・。)
心の中で彼女の名をつぶやき、私はその場を去って行った。
110 名前:Y 投稿日:2002年09月27日(金)15時35分50秒
>100 NG様
後でまたなちごまはありますが、この話はオムニバスな感じでいきます。

あと二回で終わります。
111 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月27日(金)17時30分34秒
オガワー…切ないね(そうなのか?)
オムニバスという事はまだ他にも
登場人物が出てきたり?

ちょい、オガタカの方に期待。
112 名前:ナナスィ読者 投稿日:2002年09月27日(金)22時27分59秒
こんつぃわ。この小川&高橋に惹かれました!といっても自分が高橋推しなのでw
自分も小説書いてるんで是非見てくださいね(^o^)丿銀板に『TRUE LOVE・・・YOU!』
を書いてます(>_<)よかったらレスください。更新すんげえ期待してます!高橋イイ!
113 名前:第3話 雨 投稿日:2002年10月02日(水)16時48分30秒
急に雨が降ってきたと思ったら、ひどい土砂降りになった。

私は体育館の入り口からざぁざぁと音を鳴らして降る雨を見て溜息をついた。
バレー部はもちろん体育館が練習場所だから、突然雨が降ってきても大丈夫だけど、外の部活は大変だ。
・・梨華ちゃん、大丈夫かな。
今日はテニス部も練習がある。
当然、テニスコートは外だから梨華ちゃんが雨に濡れていないか心配だ。

最近は日が落ちるのも遅くなって、いつもだったらまだほんのりと明るいはずの空が今は灰色だ。
朝はほんとにいい天気で、天気予報だって一日晴れだって言ってたのに。
雲一つない青空だったから、なんだか今日はいい日だと思って、だから、私は告白しようと思ってたのに。
それなのにこんなにひどい雨。
これってやめた方がいいってこと?
114 名前:第3話 雨 投稿日:2002年10月02日(水)16時49分38秒
いつから梨華ちゃんのこと、恋愛対象として見始めたのかなぁ。
小さい頃からずっと一緒、いわゆる幼馴染ってやつで。
しっかりしているかと思えば、頼りない、守ってあげたい感じもあって。
高校に入ってから、梨華ちゃん、急にきれいになっちゃって、すごくもてるようになった。
その頃かなぁ、今まで自分だけが隣にいられると思ったのに、そのポジションの危機感を感じたんだ。

梨華ちゃんは私のこと、きっとただの幼馴染としか思ってない。
私は側にいられればそれでよかったのに、自分の気持ちが抑えられなくなった。
自分の気持ちを抑えて幼馴染を続けるか、正直に自分の想いを告げるか。
迷ったあげく、後者を選んだ。
振られたら最初は落ち込むと思うけど、告白しないで後悔するのは嫌だ。

115 名前:第3話 雨 投稿日:2002年10月02日(水)16時50分20秒
いつから梨華ちゃんのこと、恋愛対象として見始めたのかなぁ。
小さい頃からずっと一緒、いわゆる幼馴染ってやつで。
しっかりしているかと思えば、頼りない、守ってあげたい感じもあって。
高校に入ってから、梨華ちゃん、急にきれいになっちゃって、すごくもてるようになった。
その頃かなぁ、今まで自分だけが隣にいられると思ったのに、そのポジションの危機感を感じたんだ。

梨華ちゃんは私のこと、きっとただの幼馴染としか思ってない。
私は側にいられればそれでよかったのに、自分の気持ちが抑えられなくなった。
自分の気持ちを抑えて幼馴染を続けるか、正直に自分の想いを告げるか。
迷ったあげく、後者を選んだ。
振られたら最初は落ち込むと思うけど、告白しないで後悔するのは嫌だ。

116 名前:第3話 雨 投稿日:2002年10月02日(水)16時51分46秒
テニスコートは体育館の裏側にある。
私はテニスコートに面している窓の方に行き、そっと外を覗いた。
「・・!!」
頭で理解するより体が先に動いた。
私は雨の中、傘をささずジャージ姿のまま、テニスコートに駆けて行った。

誰もいない暗いテニスコートに一人、ぽつんと立ちすくんでいる人影がいた。
「梨華ちゃん!」
影はゆらっと動いた。
「・・ひとみちゃん?」
どんなに遠くても暗くても、大好きな人を見間違えるはずはない。
梨華ちゃんはジャージ姿のままだった。
すでにびしょびしょに濡れている。
「風邪ひくよ?」
「・・うん。」
それでも彼女は動かない。
私はそっと彼女の肩に触れた。
「どうしたの?」
彼女はテニスコートをじっと見つめた。
「別に・・。ただなんとなく。・・雨に濡れたかったのかなぁ・・。」
曖昧な彼女の答え。
「そっか。」
私はただそれだけを言った。

117 名前:第3話 雨 投稿日:2002年10月02日(水)16時53分31秒
梨華ちゃんの横顔は雨に濡れているせいなのか、どこか色っぽかった。
もともときれいな顔立ちなんだけど、よりいっそう美しく感じる。
私は冷えてしまった彼女の体をぎゅっと抱き締める。
ひどく頼りなげで、今にも梨華ちゃんが消えてしまいそうなはかなさを感じたのだ。
梨華ちゃんは抵抗することもなく、私の腕の中にいる。
確かに梨華ちゃんの体は雨のせいで体温は奪われているのだけれど、かすかなぬくもりが私を安心させた。
118 名前:第3話 雨 投稿日:2002年10月02日(水)16時54分06秒
「梨華ちゃん・・・。」
私がつぶやくと、彼女は腕の中で私を見上げた。
「ひとみちゃん・・。」
お互いの視線が絡み合う。
そしてどちらからともなくお互いの顔が近づいて、唇が重なった。
唇もひんやりと冷たい。
しかし、何度も何度も口付けを交わしていくうちに熱が生まれてくる。
お互いの体が触れ合う部分も熱くなってくる。

私は梨華ちゃんの腰を抱き、彼女は私の首に腕を回し、お互いをしっかりと抱き締める。
唇はまるで磁石のように離れてはくっつき、くっついては離れるの繰り返し。
理性なんかは吹っ飛び、お互い本能で相手を求める。

119 名前:第3話 雨 投稿日:2002年10月02日(水)16時55分17秒
彼女の甘いキスは媚薬。
痺れるような感覚が私の体を支配して、すべてが彼女に染まっていく。
ときおり漏れる彼女の声が私の心の奥に熱を持たせる。

冷たいのに熱いという不思議な感覚。
それが変にここちよい。

「梨華ちゃん、愛してる。」
私は彼女の体をきつく抱き締めた。
「私も・・ひとみちゃんが好き・・。」
私の腕の中でぽつりとつぶやくかすれ気味の彼女の声に頭は真っ白になる。
120 名前:第3話 雨 投稿日:2002年10月02日(水)16時56分08秒
そうして私達は今までで一番長いキスを交わす。
うるさいほどの雨音が急に聞こえなくなる。
永遠とも錯覚しそうなほど、二人の世界がそこにあった。
121 名前:Y 投稿日:2002年10月02日(水)16時56分53秒
やっぱりいしよしを書いてしまった・・・。

>111 名無し読者様
おがたかは書いててなんか楽しかったです。
でも、しゃべり方とかよく分からないので・・・(汗)
機会があったらまた書いてみたいです。
あ、残り一回にもおがたか出てきます。

>112 ナナスィ読者様
高橋推しですか。
自分も好きですよ〜。
おがたかは今回の他の二組とは違って、中学生の恋愛(?)みたいな感じを出したいというか・・。
銀板の作品、読ませてもらいます!
最近忙しくてすぐには無理かもしれませんが、レス、気長に待っててやってください。
122 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)19時50分09秒
喫茶店の窓の外を見て、真希が声を上げた。
「すごい雨だったね。でも帰るときは止んでよかったよ。」
真希の隣に立って、なつみもほっとした声を出す。

午後から曇りになったと思ったら、急に雨が降り出してきて、店は雨宿りの客で混雑していた。
なつみも真希も厨房と店内を行ったり来たり忙しく働いていて、休む時間も全くなかったのだが、一時間ほど前から雨が小降りになってきたので、帰る客もいて、今は二三人しかいない。

「ありがとうございました。」
最後の客が帰って、喫茶店にいつもの静けさが戻ってきた。
「今日は忙しかったねぇ。ごとー、疲れたよ。」
真希はカウンター席にくたっと座ると、厨房からなつみが二人分のアイスティーを持ってきた。
「お疲れ様。」
「ありがとー。」
真希はなつみからアイスティーを受け取ると、ごくごくと飲み始めた。
「うぅー、生き返る。」
そんな真希の様子をなつみはやさしく見つめていた。
123 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)19時54分01秒
二人は並んでカウンター席に座っている。
「ごっちん。」
「何?」
「今日、結局アルバイトで終わっちゃったね。」
外はすでに暗い。
途中から雨が降ってきたとはいえ、朝は天気が良くともずっと喫茶店の中にいたのだ。
「うーん、でも、ごとーはなっちといられればどこでもいいよ。」
ふにゃっと笑う真希を見て、なつみは少し頬を赤く染める。
真希の笑顔はいつも自分の心を明るくしてくれる。
きっとなつみ自身が思っている以上に真希は自分の心の支えになっているのだとなつみは思った。
124 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)19時56分10秒
「すごい雨だったねぇ。」
奥の厨房からオレンジのエプロンを付けた真里がやって来た。
今日は真里が夜番であり、なつみはこれで上がりだ。
「やぐっつぁんは雨、平気だった?」
「お、ごっつぁん、来てたのかよ。」
「今日、ごっちんに働いてもらったんよ。」
奥から裕子もやって来た。
「え?学校は?」
「さぼっちゃった、あは。」
真希の言葉に真里は「まったく。」と呆れ顔だ。
「矢口は雨に濡れなかったみたいだね。」
「ちょうど学校出るときは止んでたから。傘持ってこなかったからさ、どうしようって思ってたんだけど。」
「そっか。」

「ごっちん、今日のバイト代やで。ほんまありがとな。」
「いえいえ、裕ちゃん、また働かせてね。」
「おう、期待してるで。」
真希は裕子から茶封筒を受け取って、にへらっと笑った。

125 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)19時56分41秒
「なんかじめっとしてるね。」
真希となつみは夜道を二人並んで歩く。
「なんだか体にまとわりつくみたいな感じで、ごとーは嫌だな。」
「なっちもそうかな。早くシャワー浴びたいよ。」
今日はいつも以上に忙しかったせいか、汗をかいてしまった。

「なっち。」
真希はなつみを呼ぶのと同時に彼女の手をきゅっと握る。
なつみは笑ってやさしく握り返した。
二人は手を繋いだまま、歩く。
「あのね、明日、学校ないのね。だからさ、今日、なっちんち、泊まっていい?」
少し遠慮がちに聞く真希をかわいらしいと思い、なつみは顔がほころぶ。
「うん、いいよ。」
「ほんと!やった!」
本当にうれしそうにする真希を見て、なつみはふふふと笑った。

126 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)19時58分32秒
「なっち。」
「ん?」
なつみは真希を見上げた瞬間、軽く唇が押し当てられた。
「ご、ごっちん、こんなところで。」
なつみはついついまわりを見回し、慌ててしまう。
「だって、なっちがかわいいんだもん。」
「も、もうっ・・。」
「早くなっちんちに行ってイチャイチャしたいよ〜。」
127 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)19時59分20秒
「やっと止んだ・・。」
図書館を出た麻琴は雨が止んでいることにほっとした。
あの後、図書館で本でも借りようと寄ったのだが、急に雨が降り出してしまい、傘を持ってこなかった麻琴は図書館で雨宿りしていたのだった。
いつもより暗く感じる外を見て、あのとき、図書館に寄らなければよかったなぁなんて後悔しつつ、靴箱へと向かう。

「あ・・。」
靴箱前にいる人物を見て、つい麻琴は声を上げてしまった。
相手もその声に麻琴の方を向く。
「あ・・。」
そこには愛が鞄片手に立っていた。
128 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時00分01秒
「高橋さんは今、帰り?」
とりあえずそんな当り障りの無い会話を麻琴は選ぶ。
「あ、うん。みんなはもう帰っちゃったんだけど。」
「そうなんだ。」
麻琴は自分の靴箱から革靴を取り出し、すばやく履き変えた。
「小川さんはこんな時間までどうして?」
愛が自分の名前を呼んでくれたことに少し感動する。
「図書館に寄ってたら、帰る直前に雨降ってきちゃったんで・・図書館で雨宿りしてた。」
「ふうん。」
お互い何も言わなかったのだが、自然に並んで歩き出す。

「何で通学してるの?」
「私は電車。小川さんは?」
「私も電車だよ。じゃあ、駅まで一緒だね。」
「うん・・。」
ふっと愛はうつむいてしまう。

129 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時00分36秒
「あ、そうそう、高橋さんが歌ってた歌って、名前を知らない好きな人に自分を知ってほしいっていう歌なんだって?」
なんとか沈黙を避けようと、麻琴はさきほどあさ美から聞いた話を切り出した。
言ってから、これで愛に好きな人がいるとかいう話になったらどうしようという不安が出てきて、自分で地雷を踏んでしまったかと麻琴は今更ながら気づいた。
「どっ、どうしてそれをっ!」
どこか動揺している愛を見て、麻琴はやっぱりと心を曇らせた。
「さっきあさ美ちゃんから聞いて。」
「あ、あさ美ちゃん・・。」
それっきり愛は黙り込んでしまった。
130 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時01分13秒
(やっぱり好きな人いるのかな・・。)
一度気になりだすと、気になって気になってしょうがない。
知りたいけれど、知りたくないような。
でもやっぱり知りたい!
「高橋さんは・・その、好きな人とかいるの?」
麻琴の言葉に愛の顔が真っ赤になった。
「あ、その・・。」
「あ、いるんだ。」
素直に顔に出る愛を見て、麻琴はかわいいなぁと思い、くすりと笑った。
「お、小川さんは・・。」
「私?うん、私もいるよ。」
「そう・・なんだ・・。」

131 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時02分17秒
「でも、高橋さんに好かれる奴なんて幸せ者だね。」
ここまで来たら、麻琴は少し開き直っている部分があった。
「え?」
「だって高橋さん、かわいいし、歌上手だし。」
「そ、そんな。」
「私、高橋さんの歌ってた歌好きだな。あ、高橋さんの歌声も好きだよ。」
(だってずっと聞いてたんだもん。)
「ほんと?」
愛がうれしそうな顔をしたので、麻琴は大きくうなづいた。

132 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時03分48秒
「私の気持ち、届いたのかな・・。」
「え?何?」
ぽつりとつぶやいた愛の言葉は横を通ったトラックで麻琴には聞こえなかった。
「あ、何でもない・・。」
「そう。」

「あ、呼び方、麻琴でいいよ。みんなもそう呼ぶし。」
「私も愛でいいよ。」
「そう?じゃあ、愛ちゃんて呼ぶ。」
「じゃあ麻琴ちゃんって呼ぶね。」

((少しは彼女に近づけたかな・・。))

133 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時04分23秒
「雨、止んだね。」
「そうだね。」
ひとみと梨華が冷えた体を更衣室のシャワーで温めてから制服に着替え終わると、すでに雨は止んでいた。
バレー部もテニス部も二人が最後だったらしい。

お互いの家は向かい合ってるので、帰る場所はほとんど同じである。
たいてい一緒に登校しているのでそれは気持ちが通じ合った今でも変わらない。
電車通学の二人は駅までとぼとぼと歩いている。
水を含んだジャージが少し重い。

134 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時04分59秒
「梨華ちゃんが雨の中、一人いるの見たときはほんと驚いたよ。」
「そう?でも気持ちよくなかった?」
「まぁ、そう言われてみればそうかもしれないけど。でも。」
ひとみはそこで区切ると、そっと梨華の耳元で囁いた。
「私は雨よりも梨華ちゃんとのキスの方が気持ちよかったよ。」
とたんに梨華の顔が真っ赤になる。
「ひ、ひとみちゃんっ!」
そんな梨華がかわいらしく思い、ひとみは背中からぎゅっと抱き締める。
「ちょ、ちょっと、ひとみちゃん、こんなとこで・・。」
「じゃあ、うちに帰ってしよっか。」
「ひとみちゃんのばか。」
にっこり笑うひとみを見て、梨華はひとみの腕をぱちんと叩いた。

「でもさ、ほんとは何かあったんじゃないの?」
「え・・?」
「いくら梨華ちゃんが変でも、何もなくてあんなことはしないなぁって。」
「変ってひどい!!」
梨華は頬をぷくぅーっと膨らませる。
そんな梨華を見て、ひとみは笑いながら彼女の頬を人差し指でぷすっと刺す。

135 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時06分46秒
「・・ひとみちゃんのせいだからね。」
「何で?」
「だって最近、ひとみちゃん、冷たかったんだもん・・。避けてるっていうか・。」
「あ・・。」
(それは告白しようって緊張してたっていうか・・。)
「急によそよそしくなっちゃって、私、何かしちゃったかなぁって悩んでたの・・。」
「ごめん・・。梨華ちゃんにさ、告白しようって決めたんだけど、なかなか勇気が出なくって・・。」
「ひとみちゃん・・。」
「なんか告白する前にキスしちゃったけど。」
ひとみが照れて笑うと、梨華は顔を赤くしてうつむいてしまった。

136 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時07分45秒
三十分ほどでお互いの家に到着。
梨華が自分の家の中に入っていくのを見届けてから、ひとみも家に入った。
鍵が閉まっていたので、誰もいないということは分かった。
居間の電気を点けると、テーブルには一枚の紙切れが。

『石川家吉澤家の親同士で温泉に行くことにしちゃいました。明日の夜には帰ってくるので、梨華ちゃんと仲良くね。母』

「何これ。」
ひとみがつぶやいたのと同時にピンポーンとドアホンの音がした。
ドアを開けると、私服に着替えた梨華の姿があった。
「ひとみちゃん見た?」
「うん。朝は何も言ってなかったよ。」
「うちも。でも前からたまに突然思い立っちゃうことってあったしね。」
苦笑い気味に答える梨華にひとみも同意する。

「でもさ。」
「うん?」
「これで梨華ちゃんと一緒にいられるじゃん。」
「そうだね。」
玄関で二人はそっとキスをした。

137 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時08分19秒
「あいぼん、当たったね。」
「うん。でも帰るときは止んじゃった。」
「そうだけどぉ。」
亜依と希美は部活を終えて、二人で夜の道を歩いていた。

ふいに希美は暗くなった空を見上げる。
「一番星みーつけたっ!」
夜空を指差しながら、希美が叫んだので、亜依も見上げた。
「あ、ほんとだ。」
都会ではぽつぽつとしか星は見えない。
昔旅行で行った北海道の夜空にはたくさんの星が輝いていたのを亜依は思い出した。
「こんぺいとうみたいでおいしそう。」
「ののはほんと、食べることばっかなんだから。」
「えへへ。」
138 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時10分07秒
「のの。」
名前を呼ばれて、希美は振り返った。
反射的に亜依も振り返る。
「あ、飯田さん!」
そこには圭織がスーパーの袋を手に、立っていた。
「二人とも今帰り?」
「はい。飯田さんは?」
「カオリはね、雨が止んだからスーパーに買い物。なんだかたらこスパゲッティが食べたくなったから作ろうと思って・・。」
「そうなんですかぁ。」

亜依は圭織と希美の会話をじっと聞いていたのだが、なんだか居心地が悪くてたまらなかった。
二人は自分が希美と知り合う前からの知り合いなわけで、親密感がひしひしと伝わってくるのだ。
(なんかもやもやする・・。)

「おいしそう!ののも食べたいなぁ。」
「なら、ののも食べる?作るの一人分でも二人分でも変わらないから。」
「ほんとですかっ!」
目をキラキラと輝かせて、希美は圭織を見つめる。
(じゃあ、ここでののとはお別れかな・・。)
その会話を聞いて、亜依はそう思った。
139 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時11分21秒
「じゃあ、私は・・。」
亜依がそう言いかけると、圭織が亜依に微笑んだ。
「あいぼんも来るでしょ?カオリの料理はおいしいよ?」
「あ、私は・・。」
予想していない言葉を聞いて、亜依は戸惑う。
「あいぼん、飯田さんのお料理はほんとにおいしいよ。」
希美も笑ってうなづいている。

「ほら、二人とも早く付いてくる。お腹空いてるでしょ?」
亜依の返事を聞かぬまま、圭織は歩き出す。
「ほら、行こう?」
希美が亜依に向かって手を差し出す。
「う、うん・・。」
亜依はその小さな手をゆっくりと握り・・・。

140 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時12分04秒


夜空の下に大きな影、その横に小さな影が二つ。


141 名前:エピローグ 投稿日:2002年10月13日(日)20時12分42秒



『明日は一日中晴れでしょう。』
・・・・きっと。
142 名前:Y 投稿日:2002年10月13日(日)20時13分23秒
終わりです。
何か感想などありましたら、よろしくお願いします。
143 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月14日(月)10時42分59秒
ヒャーいしよしも良かったですけど、
複数のカップリングを同時にやるとは…恐るべし(w
自分はいしよしヲタなのですがオガタカに惹かれてしまいました。
144 名前:真夜中のレストラン 投稿日:2002年10月19日(土)02時20分10秒
同じ時間に異なる話が進行していてとても面白かったです。いっきに読んでしまいました。
145 名前:名無し香辛料 投稿日:2002年11月05日(火)14時20分02秒
今更ですが、一気に読みました。
面白かったです。こういう同時期の話を色んな視点でっていうの大好きで。
ツボにハマっちゃったかも。
いしよしのシーンが特に好きです。初々しい中にも雰囲気があって。
次回作、楽しみにしています。
146 名前:Y 投稿日:2002年11月11日(月)12時53分34秒
今更ながら間違いを発見しました。
>122

喫茶店の窓の外を見て、真希が声を上げた。
「すごい雨だったね。でも帰るときは止んでよかったよ。」
真希の隣に立って、なつみもほっとした声を出す。

ではなく、

「あぁっ、雨が上がった。」
喫茶店の窓の外を見て、真希が声を上げた。
「すごい雨だったね。でも帰るときは止んでよかったよ。」
真希の隣に立って、なつみもほっとした声を出す。

です。一文抜けてました。すみません。

>143 名無しどくしゃ様
読んでくださってありがとうございます。
いしよし以外、滅多に書かないのですが。
おがたかは今回、一番力いれていたかもしれません。

>144 真夜中のレストラン様
ありがとうございます。
オムニバスっぽいのは自分でも好きなので。

>145名無し香辛料様
ありがとうございます。
いしよし好きの自分なので、そう言ってもらえるとうれしいです。
次回作もよろしくお願いします。
147 名前:今日はポッキー&プリッツの日! 投稿日:2002年11月11日(月)12時57分38秒
「梨華ちゃん、何食べてんの?」
朝、楽屋に入るとすでに梨華ちゃんが来ていた。
他に誰もいないってことは今日は彼女が一番乗りだったらしい。
「おはよう」とお互い言ってから、あたしは彼女の座ってるソファに近づいたとき、何か食べているのに気づいたのだった。

「ムースポッキー。今日はポッキー&プリッツの日でしょ?」
梨華ちゃんはポッキー片手にあたしを見た。
そっか、今日は11月11日だ。
CMだって「11月11日はポッキー&プリッツの日!」って宣伝してたしね。
148 名前:今日はポッキー&プリッツの日! 投稿日:2002年11月11日(月)12時58分26秒
「よっすぃも食べる?」
笑顔で袋をあたしに差し出す梨華ちゃん。
あたしもにっこり笑って、そして・・。

ちゅ。

「!!」
いきなりのことで顔を真っ赤にしてる梨華ちゃん。
あ、いきなりじゃなくてもこうゆうときはいつも赤いか・・。
「よっすぃー!」
「おはようのキス、まだだったじゃん。」
「そうじゃなくて、いきなりは・・。」
「梨華ちゃん、イチゴの味がする。」
彼女が言い終わる前にあたしは遮る。
梨華ちゃんはにこにこ顔のあたしを見て、ふっと溜息をつく。
「だって、いちごの食べてるんだもん・・・。」
149 名前:今日はポッキー&プリッツの日! 投稿日:2002年11月11日(月)12時59分15秒
あたしは梨華ちゃんを抱き締め、ゆっくりとソファに押し倒す。
「よっすぃ、何して・・。」
「ポッキーガールズのIship−oさんはどんな味なのかなぁ?」
あたしのその言葉を聞いた梨華ちゃんは顔をまたもや真っ赤にして、あたしの肩をぐっと両手で押した。
抵抗してはいるものの、まったくあたしには通用してない。
「ダメだよっ!誰か来ちゃう!」
「大丈夫、まだ時間はあるから。」
「ダメ、ダメ、絶対にダ・・・。」
「いただきます。」
あたしはそう言って彼女の唇に自分のを近づけた。
150 名前:今日はポッキー&プリッツの日! 投稿日:2002年11月11日(月)13時01分03秒
ガチャリ

タイミングよく予想外にドアが開いた。
「おはようございま〜す。・・・あ。」
その人物はあたし達の状況を見て固まってしまった。
・・・タイミング悪いよ。
梨華ちゃんはあたしの隙を見て、慌ててソファから立ち上がった。
そしていつものスマイル。
「おはよう、亜弥ちゃん。」
「おはようございます・・。」
「・・おはよ、亜弥ちゃん。」
「吉澤さん、お、おはようございます・・。」

「あの、もしかして邪魔しちゃいました?」
「ううん、全然そんなことないよ。ね、よっすぃ?」
「ま、まぁね。」
全然そんなことあるっちゅうの。
「今日、私も朝からお仕事があって、その、楽屋が近かったからもしかしたら誰かいるかなぁって・・・それで来たんですけど・・・。」
「そうなんだ。あ、ムースポッキー食べる?」
「いいんですか?じゃあ、いただきます!」
笑顔の梨華ちゃんと亜弥ちゃんを見てあたしは苦笑いした。


そう、今日はポッキー“&プリッツ”の日なんだよね・・。
151 名前:Y 投稿日:2002年11月11日(月)13時03分03秒
終わりです。
Ishipoのoの上に−を入れたつもりが・・(泣)
そこのとこは見逃してください。
152 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)14時28分19秒
待ってます・・
153 名前:お願い!神様 投稿日:2002年12月31日(火)23時39分26秒


思うにあたしは。

梨華ちゃん中毒、なんだと思う。


154 名前:お願い!神様 投稿日:2002年12月31日(火)23時40分08秒
梨華ちゃんと少しでも離れるとすぐに会いたくなるし。
梨華ちゃんが他の人と、それがメンバーであったとしても、話しているのを見るとムカムカするし。
梨華ちゃんの笑顔があたし以外に向けられると腹が立つし。
・・・梨華ちゃんとキスしてないと、みょ〜に不安になる。

そのかわり。

梨華ちゃんと会ったときはめっちゃうれしいし。
梨華ちゃんの声を聞くとほわんと心があったくなるし。
梨華ちゃんがあたしに微笑んでくれると一気に幸せになるし。
梨華ちゃんとキスしたら・・すごく安心するんだ。

155 名前:お願い!神様 投稿日:2002年12月31日(火)23時41分04秒
梨華ちゃんを感じるたびにもっともっと彼女が好きになる。
ひとつひとつの仕草に胸が高鳴る自分がいる。

あぁ、このまま君を連れ去ってしまいたい。
誰もいない、二人だけの場所に。

梨華ちゃんを独占したい。
彼女の瞳に映るものがあたしだけであってほしい。

でもこれはあたしのわがまま。
無理な願い。
だからさ、せめて毎日梨華ちゃんと会う事ができるように。
神様、お願い。

156 名前:お願い!神様 投稿日:2002年12月31日(火)23時42分33秒
「よっすぃ、、何お願いしたの?」
ぱんぱんっと手を叩いてから、梨華ちゃんはあたしに尋ねた。
あたしと梨華ちゃんは二人一緒に神社に初詣に来ている。
梨華ちゃんはさっきまでぎゅっと目を瞑って何やら真剣な顔で願い事をしていた。
そんな梨華ちゃんもかわいいなぁ、なんて思いつつ、あたしもしてたんだけど。

「う〜ん、かっけーあたしでいられるように?かな。」
梨華ちゃんのこと、だなんて恥ずかしいから、あたしは無難だろう答えを言う。
「梨華ちゃんは?」
「私?」
梨華ちゃんは一瞬、ぱっと頬を桜色に染めて、そして少し恥ずかしそうに言った。
157 名前:お願い!神様 投稿日:2002年12月31日(火)23時44分38秒

「よっすぃと・・・ずっと一緒にいられますように・・・。」

ずきゅ〜ん!!

今・・今、あたしの胸に矢が刺さったよ!
ダメ、もうダメ。

「梨華ちゃん。」

158 名前:お願い!神様 投稿日:2002年12月31日(火)23時46分57秒
あたしは人がいるのも構わず、ぎゅっと梨華ちゃんを抱き締める。
「ちょっと、よっすぃ・・。」
「・・ちょっとだけ・・。」
あたしの腕の中で人目を気にしてきょろきょろしてた梨華ちゃんもあたしがそう言うと素直に腕の中に収まってくれた。

「・・愛してるよ、梨華ちゃん。」

彼女だけにしか聞こえないほど小さな声。

「ほぇ?!」
びっくりしてる梨華ちゃん。
好きとか愛してるとかあたし、普段は全然言わないもんね。
いつもいつも梨華ちゃんばっかり。
でもね、ほんとはいつもいつも心の中で言ってんだよ?
何だか恥ずかしくて口には出せないけど。

159 名前:お願い!神様 投稿日:2002年12月31日(火)23時47分55秒
今日のあたしは素直だ。
・・きっと神様がそうさせてるんだ。
梨華ちゃんと毎日会いたきゃ、もうちっと素直になれってさ。

「私も大好きだよ。」

あたしだけにしか聞こえないほど小さな声。

・・・・ほんと、梨華ちゃんってすごいよ。
たった一言であたしをめちゃくちゃ幸せにしちゃうんだもん。

160 名前:お願い!神様 投稿日:2002年12月31日(火)23時48分38秒


ごめん、神様。
さっきの願い事はキャンセル。

梨華ちゃんとあたしがずっとずっといつまでも一緒にいられますように。
二人がずっと幸せでありますように。


お願い!神様・・・。

161 名前:Y 投稿日:2002年12月31日(火)23時50分24秒
終わりです。

みなさまが来年もハッピ〜!!に過ごせますように・・。

162 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年01月02日(木)12時34分17秒
おぉぉぉ!はじめから読ませてもらいました!
いいですねぇ〜!!!いいっ!よすぎですっ!
私的にはごまたかが・・・・あの続きが読みたいんです・・・
いやぁ、すいません^^;
これからもがんばってください!
影ながら読んでます!!!
163 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年01月02日(木)12時35分12秒
上の文で「ごまたか」と書いてしまいました^^;
「おがたか」でした。すいません><
164 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月21日(火)22時51分47秒
一気読みさせて頂きました。
いしよし好きなんですが、ここのいしよしすっげー雰囲気イイ!!!
自分のイメージにかなーり近い感じです(^^)期待シテマース!!
165 名前:秘密 投稿日:2003年01月28日(火)18時36分02秒


薄暗い部屋には二人分の荒い息遣いだけが響いている。
ときおり聞こえるシーツの擦れる音。ベッドのきしむ音。


166 名前:秘密 投稿日:2003年01月28日(火)18時36分40秒
「ん・・。」
少し高めの濡れた声。
「や・・。」
その声は彼女の体をまさぐる手が出させている。
けれども、彼女にしてみては声が出ないよう我慢しているのだ。
「あ・・ダメ・・。」
「梨華ちゃん、もっと声出して?聞きたいな。」
「んっ・・恥ず・・かしいよぉ・・。」
「じゃあ、私が出させてあげる・・。」
そうして梨華の感じる部分に手を伸ばした。
「やぁっ・・。」
今までより大きい声が出たことに気分がよくなる。
「もっと、もっと、声が聞きたいな、梨華ちゃん・・。」
「み・・・・きちゃ・・ん・・・。」
意識が飛びそうな梨華は最後に相手・・美貴の名をつぶやいた。

167 名前:秘密 投稿日:2003年01月28日(火)18時38分15秒

眠っている梨華の髪をゆっくりとすきながら、彼女の顔を見つめる。
いつ見てもきれいだと思う。
「ごめん。」
梨華の頬に手で触れ、梨華に届いてないことを承知で美貴は謝った。
まだ梨華は起きる気配がない。

こんな関係、いけないことだよね?
でもさ、我慢できないんだよ、梨華ちゃん見ると。
あのとき、私が強引にしてしまってから。

「美貴ちゃん?」
「起きたんだ。」
「うん、何か美貴ちゃんの声が聞こえて。」
「そっか。」

「ごめんね。」
「梨華ちゃん?」
「何か私、美貴ちゃんに甘えてるから。」
そう言った梨華のせつない顔を見て、美貴の心はぎゅっと締め付けられる。
「美貴ちゃんには亜弥ちゃんがいるのに。」
「梨華ちゃんにはよっすぃがいるのに。」
梨華の言葉に美貴が続けて言うと、梨華は力なく笑った。

168 名前:秘密 投稿日:2003年01月28日(火)18時39分19秒

二人にはちゃんとした恋人がいる。
二人は恋人のことを愛しているし、心も満たされている。
不満も何一つない幸せな関係。
だから二人は恋人と別れるつもりは全くない。

あのとき、お互いの恋人は仕事だった。
仕事でミスして落ち込んでいる梨華を偶然目にした美貴。
なんだかほっとけなくて慰めているうちに、美貴の心には梨華を抱き締めたい衝動が湧き出てきて・・・そのまま本能で・・・。
それ以来、こんな関係が続いている。
あのとき、恋人が側にいたらこんなことにはなってなかった。

「どうしてだろう、よっすぃがいるのに。」
「どうしてだろうね。」
冗談っぽく言う美貴に梨華は少し怒る。
「私は真面目に考えてるのに。」
「私だって真面目だよ?でも、梨華ちゃんのこと、放す気ないよ。」
そう言って、美貴は梨華をぎゅっと抱き締める。
169 名前:秘密 投稿日:2003年01月28日(火)18時40分11秒

なぜだなんてそんなの分からない。
恋人の代わり?・・なんか違う。
セックスフレンド?・・・それも少し違う気がする。
刺激が欲しい?・・・そうなのかな。
恋人に嫉妬して欲しい?・・・喧嘩になるだけじゃないの。

ただお互いを必要としてるだけ。
バレたら、なんてそんなのバレないようにすればいいじゃん。
この関係をやめる気はない。
きっとずっと続いていく、秘密の関係。
170 名前:Y 投稿日:2003年01月28日(火)18時40分58秒
衝動的に書きたくなってしまったふじいし。

>ヒトスジク様
読んでくださってありがとうございます!
おがたかの続き、ですか。
個人的には完結してしまったものには続きは書かない主義なんですが、
そう言っていただいたんで、近々・・。
でも結構前作から空いてしまったんで、雰囲気とか出せるか心配です・・。
そのときはよろしくお願いします。

>164 名無し読者様
お褒めの言葉、ありがとうございます。
雰囲気いいと言っていただき、かなり感激です!
これからもよろしくお願いします。
感想とかありましたらぜひ!
171 名前:Y 投稿日:2003年01月28日(火)18時45分17秒
>ヒトシズク様
お名前を間違えてしまい、失礼しました。
すみません・・。
172 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月15日(土)04時40分41秒
ふじいし(・∀・)イイ!!
一緒のグループになったら年が近いから仲良くなりそうですよね〜
また読みたい(w
173 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月11日(火)01時18分47秒
ふじいし続きが読みたい!
174 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年03月21日(金)11時34分56秒


彼女の歌を聴くとなんだか幸せで、それと同時にせつなくなる。
聴きたいけれど、聴きたくない。
とても矛盾した二つの気持ち。


175 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年03月21日(金)11時35分40秒
理由は一つ。
それは彼女が好きな人に向けて歌っているものだから。
私じゃない、あの人に向けて。

それなのに、私はどんどん彼女に近づいてしまっている。
もう・・無理なんだよ?
だって彼女の好きな人はあんなに素敵な人なんだから。
このまま近づいたらもっともっと彼女が好きになってしまう。
だから近づいてはいけない。

分かっているんだけど。

176 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年03月21日(金)11時36分21秒


彼女は今、私の目の前で歌っている。


177 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年03月21日(金)11時37分13秒
「どうかな?」
少し恥ずかしそうに私に聞いてくる彼女。
「うん、すっごく気持ちが入ってていいと思うよ。」
こっちが嫉妬してしまうくらい。
「ほんとに?ありがとっ!」
嬉しそうにする彼女に私の心は複雑。

「麻琴ちゃん、いつもごめんね。」
「愛ちゃん?」
「いつも放課後、自主練に付き合ってくれて。」

178 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年03月21日(金)11時37分48秒
愛ちゃんは合唱部。
部活のない日も愛ちゃんは一人、音楽室で練習してる。

ひょんなことから私は愛ちゃんと知り合い、だんだんと仲良くなって、今ではこうして自主練に付き合っている。
付き合っているといっても愛ちゃんの歌を聴いているだけだし、素人には音がどうとかよく分からないからアドバイスなんかもできない。
それでも愛ちゃんはいいと言ってくれる。
誰かに聴いてもらった方が適度に緊張が保てるからって。

179 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年03月21日(金)11時38分56秒
私は愛ちゃんと知り合う前にすでに愛ちゃんの歌声のファンだった。
名前も知らずに愛ちゃんの歌をずっと聴いていた。
そうしてこの歌姫はどんな人なんだろうと思いを馳せていた。
あの頃はこんな風に愛ちゃんと話せる日が来るとは思ってなかった。

初めてお互いを知り、偶然にも一緒に帰った日、流れで、「愛ちゃんの歌と声が好き」と言ってしまったけれど、それがいい方向に向かい、今ではこうして私の前で歌ってくれる。

180 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年03月21日(金)11時40分51秒

「いえいえ、いつも聴かせてもらってこっちこそありがとう。」

ほんとに感謝の気持ちはいっぱいだよ?
だって愛ちゃんの歌を独り占めしてるんだから。
でもね、それが・・・・後藤先輩に向けてるかと思うと・・どうしてかな、泣きたくなるんだ。

181 名前:Y 投稿日:2003年03月21日(金)11時47分31秒
一応、前に書いたおがたかの続きです。
かなり時間空いてしまいましたが・・。

>172 名無し読者様
読んでくださってありがとうございます。
ふじいしを受け入れてくれる方がいるなんて、感激です。
またいつか書いてはみたいです、ふじいし。
同じおとめ組ということで仲良くなりそうですよね。

>173 名無し読者様
ありがとうございます!
続き・・はどうなるか分かりませんが、いづれまた・・。
自分も映画、楽しみです。
182 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月02日(水)15時45分14秒
最初、愛ちゃんはてっきり吉澤先輩が好きなのかと思ってた。
バレー部のエース、吉澤先輩は全校の王子様的存在の人で、ほんとかっこいい!
私もあこがれているし、尊敬してる。
あんな風になれたらなぁ、なんて思う。

愛ちゃんは吉澤先輩とは中学校も一緒で、他の生徒達に比べてかなり親しかった。
だからクラスメートからはうらやましがられていた。
吉澤先輩の方から愛ちゃんに声かけてきたりして、愛ちゃんはそのたびになんとなく
顔が赤かったりして。
そんな仕草から私は愛ちゃんの好きな人は吉澤先輩だと思っていた。

183 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月02日(水)15時46分21秒
そしてある日の放課後、私と愛ちゃんは一緒に音楽室に向かっている途中、偶然にも見てしまったのだった。
吉澤先輩が誰かとキスしてるところを。
相手は石川先輩だった。

あの二人は確か幼馴染で、前から仲が良かったのは知っている。
私は石川先輩と同じ委員会でかなりお世話になっていた。
顔とか綺麗なんだけど、全然近寄りがたくなくて気さくな人。
はっきり言って、吉澤先輩と石川先輩、お似合いだった。

そのとき、私ははっとした。
私が見たということは隣の愛ちゃんも見てしまったわけで。
ちらりと愛ちゃんの顔を見る。
・・・ショック受けてるかなぁー。

184 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月02日(水)15時47分24秒
「わぁ・・うらやましい・・。」
その顔はまさにロマンティック浮かれモード。乙女、パスタに感動!ってな具合で・・。

「・・愛ちゃん?」
なんだかうっとりしてる愛ちゃんに私は呼びかける。
すると愛ちゃんははっとして、顔を真っ赤にさせ、うつむいてしまった。
「わ、私・・。」

185 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月02日(水)15時49分14秒

「あ、あのさー。その、ショックとか受けてない?」
私はおそるおそる聞いてみる。
「ショック?何で?」
きょとんとして反対に愛ちゃんに聞かれる。
「いや、だってさ、愛ちゃん、吉澤先輩のこと、さ・・。」
「吉澤先輩?」
「いや、その、ね、・・好き、だったんじゃないかなぁって。」
初めて一緒に帰った日、好きな人いるって言ってたから。
私がそんなことを言ったら、愛ちゃんは・・・噴き出した。
「私が、吉澤先輩?あはは、違うよぉ、違う。麻琴ちゃん、何言うの!」
「いや、だって・・って、そんなに笑わなくたっていいじゃん!」
「あはは、ごめんね。でも、そんなこと言われるとは思ってなかったから。」
未だに愛ちゃんは笑っていて、私は何だか恥ずかしくなってふいっと横を向いた。

186 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月02日(水)15時50分11秒
「私ね、吉澤先輩と石川先輩が付き合う前からきっとあの二人は両思いだって思ってたんだ。」
「え?」
愛ちゃんはもう笑ってなくて、でも笑顔だった。
「石川先輩とももちろん同じ中学なんだけど、中学の時からお互いなんか意識してるって分かったし。それにあの二人、すっごくお似合いだなぁって。王子様とお姫様みたいだって。」
王子様とお姫様。うん、納得。
遠くには何だか幸せそうにしている吉澤先輩と石川先輩を見て、私も何だか笑顔になった。

187 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月02日(水)15時52分41秒
でもきっとこの笑顔は先輩方を見たからだけじゃなくて。
愛ちゃんが笑顔だから。
愛ちゃんの好きな人が吉澤先輩じゃなかったから。


きっと愛ちゃんは知らないだろうね。
私が君の隣でそんなこと思ってたなんて。


188 名前:Y 投稿日:2003年04月02日(水)15時53分48秒
今回の更新、終了です。
189 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月09日(水)12時37分35秒
マコ切ないねぇ…。
・゚・(ノД`)・゚・
続きまってます。
190 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003年04月13日(日)11時13分49秒
ヤバイ。良いッスよ。
続き楽しみにしてます。
191 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月18日(金)17時43分51秒
「麻琴ちゃん。」
遠慮がちな愛ちゃんの声。
「何?」
「あと・・もう一曲歌っていい?」
私はすぐに笑顔になる。
聴きたくないなんて、ほんとは嘘。
誰に向けてだろうと、私は愛ちゃんの歌と声が大好きなんだ。
「うん、聴かせて。」
「ありがとう。」

そうしてゆっくりと歌い出したその歌は初めて愛ちゃんの歌を聞いたときの、あの歌だった。

192 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月18日(金)17時44分38秒


「うっ・・・くっ・・・。」

私は中庭で一人、声を押し殺して泣いていた。
自分に向けられた悔しさと腹だたしさと、いろんなぐちゃぐちゃした思い。
それを吐き出すかのように涙を流し、けれども人に知られたくなくて必死に口を手で覆った。

クロールのタイムが最近よくなかった。
中学の時はいろんな大会に出て、結構いい成績を残していて。
高校に入ったときも少しは期待されてた。
それなのに一向にタイムは上がらず、回りの人はどんどん私を追い越していく。
そんな状況に焦りを感じ、またそれが私のタイムを下げていき・・・。

そして、私は逃げ出した。

193 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月18日(金)17時45分13秒
部活をさぼり、ふらりとやって来た中庭のベンチに座り、空を見上げた。
今頃、みんなばしゃばしゃ泳いでるだろうなーとか。
もしさぼってんのがばれたら、きっと平家先生に怒られるだろうなーとか。
今思えば、水泳のことばっか考えてた。

さぼったらきっとつらい気持ちから解放されると思ってたのに、よけいに悲しくなった私は自然と涙が溢れてきた。
ごしごし目をこすっても全然止まってくれない。
そんなとき、三階の第二音楽室から聞こえてきたのが愛ちゃんの歌だった。

194 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月18日(金)17時46分35秒

英語だったから内容もよく分からなかったけれど、なんだか励まされているような気がして。
誰が歌ってるのかも分からないのに、どうしてか身近に感じて。
なんて自分勝手な解釈だろうと思うけれど、私はその歌を聴いて立ち直ることができた。

それ以来、私は中庭に行くようになった。
そしてあの歌を聴いてはがんばろうと思うようになった。

実をいうと、あれ以来、タイムが上がってきたのだ。

195 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月18日(金)17時47分32秒
目を瞑って、一生懸命に歌う愛ちゃんを見て、私は涙が出てきた。
こんなにもこんなにも愛ちゃんが好き。
愛ちゃんが後藤先輩のことを好きでも、それでもやっぱあきらめらんない。
麻琴ちゃんは結構落ち着いてるねとか、クールだね、とかたまに言われるけれど、
私はそんなんじゃない。
心の中じゃ、感情的でどうしようもないんだよ。

最初の頃は愛ちゃん、かわいいだの、歌が好きだのと言えてたけれど、今じゃ恥ずかしくって言えない。
好き、なんて言葉を口にしたら、今にも想いを打ち明けてしまいそうで怖かった。
196 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年04月18日(金)17時48分23秒
愛ちゃんの歌が終わりに近づく。
早く涙を止めないと。
私が泣いてたらきっと愛ちゃんは理由を聞いてくる。
そんで理由を聞いたら、愛ちゃんはきっと困る。

でも無理だった。
そして、私の心も・・もう止めておけなかった・・。
197 名前:Y 投稿日:2003年04月18日(金)17時50分13秒
更新終了です。

>189 名無し読者様
読んでくださる方がいたとは・・。
嬉しいです!ありがとうございます。
また感想などありましたらお願いします。

>190 名無しどくしゃ様
お褒めのお言葉、ありがとうございます!
これからもがんばりますので、最後までお付き合いお願いします。
198 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003年04月22日(火)20時41分48秒
マコ…胸キュンだよ心がぐるぢぃ(つД`)
ハハッ最後まで付いていきます!
199 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月28日(月)18時54分37秒
すみません。
高紺リクです。。。お願いします。
200 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時21分42秒
歌い終わってゆっくりと目を開ける愛ちゃん。
私はうつむいている。
「・・麻琴ちゃん?」
「ご、ごめん、愛ちゃん。」
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
「ごめん・・・もう限界なんだ・・。」
「麻琴ちゃん・・?」
「愛ちゃんが・・・後藤先輩のこと、好きなのは分かってるけど、でも、愛ちゃんのこと、好きなんだ!」
後藤先輩と一緒にいるときの愛ちゃんはとっても幸せそうで、すごく楽しそう。
後藤先輩はきれいだし、面倒見もいいし、みんなにも人気があるし、素敵な先輩。
愛ちゃんが好きになるのも無理ないよ。
私じゃ、勝てっこないのは分かってるけど、でも・・!



私が顔を上げたら、愛ちゃんは泣いていた。


201 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時22分22秒
「愛ちゃん!」
愛ちゃんはぽろぽろ涙を流していて、私は言うべきじゃなかったと後悔した。
「愛ちゃん、ごめん。困らせるようなこと・・。」
「麻琴ちゃん、私のこと・・好き・・・。ほんと?」
「あ・・うん・・。」
そしたら、いきなり抱きつかれた。

「あ、愛ちゃん・・?!」
「私も麻琴ちゃんのこと、好きなのー!!」

え?愛ちゃんが私のこと好き?
自分の耳を疑った。
202 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時23分22秒
「愛ちゃんは後藤先輩のこと好きなんだよね?」
「後藤先輩のことは好きだけど、恋愛じゃないよ・・。」
「でも、デートだってしてるじゃん。一緒に喫茶店行ったんでしょ?」
「それは後藤先輩の彼女さんに会わせてもらったんだよ。」
後藤先輩の彼女?
「後藤先輩には・・恋の・・麻琴ちゃんの相談してたんだ・・。」
もしかして・・・私の勘違い?

「何だよー・・。」
私はへたりとしゃがみこむ。
あんなに悩んでたのは何なんだよー。

203 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時24分24秒
愛ちゃんはしゃがみこんでる私にまだ抱きついている。
「愛ちゃん・・。」
「・・!!あ、ごめんっ。」
愛ちゃんはぱっと体を離してしまった。
う〜ん、残念。
愛ちゃんの顔は誰が見ても真っ赤だった。
きっと私の顔も愛ちゃんに負けず劣らず赤いと思うけど。

「私、ずっと愛ちゃんの歌を聞いてたんだよ。あさ美ちゃんに愛ちゃんを紹介されたあの日よりずっと前から中庭で・・。」
「・・うん、知ってた。」
「え?」
愛ちゃんからの予想外の言葉に私は驚きを隠せなかった。

204 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時26分44秒
「入学してすぐの頃、私、廊下で楽譜を風で飛ばしちゃって、そのとき、麻琴ちゃんが拾ってくれたんだ。覚えてる?」
そんなことしたっけ?全く覚えてない。
「ごめん、覚えてないや。」
「いいよ、別に。」
愛ちゃんは気にした素振りを見せず、微笑む。
「その後ね、偶然、中庭で麻琴ちゃんが泣いてるところ見ちゃって・・。声を掛けたくても名前は知らないし、泣いてるところ見られるのって恥ずかしいかなぁとか思ったりもして。そういろいろ考えてたら・・無意識に歌ってた。」
「愛ちゃん・・。」
「この歌、死んだおばあちゃんが教えてくれたんだ。名前も知らない好きな人に私を知ってもらいたいっていう愛の歌・・。この歌を歌った時点で、きっともう麻琴ちゃんのこと、好きだったんだと思う。でもあさ美ちゃんに紹介されるまでほんとに麻琴ちゃんの名前、知らなかったんだよ?」

205 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時28分04秒
私と愛ちゃんは中庭の見える窓際に行き、二人、ベンチを見つめた。
「もしかしたらまた中庭に来てくれるかもしれないと思って、あのときの時間・・三時半に私はこの歌を歌った。麻琴ちゃんに届きますようにって・・。そのうち毎週金曜日に来てくれるようになって、私すごくうれしかった。」
「・・・。」
「麻琴ちゃんは中庭のあのベンチで本読んでて。私、こっそりこの窓から見てたんだ。」
206 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時29分43秒



「愛ちゃん。」
「何?」
「中庭に行こうか?」
「うん!」



207 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時31分16秒

二人、中庭のベンチに座り、三階の第二音楽室を見上げる。
私はそっと愛ちゃんの手を握る。
愛ちゃんはぎゅっと握り返してくれた。

「私はずっとここから愛ちゃんの歌を聞いてたんだよ。そんでいつもいつも愛ちゃんの歌に励まされてきた。」
愛ちゃんはじっと音楽室を見つめている。
「愛ちゃん、これからも・・私の・・心の応援団でいてくれる?」
愛ちゃんは私の方を向くと、とびっきりの笑顔になった。
「うん、もちろんだよ。」

208 名前:雲の切れ間に覗く太陽 投稿日:2003年05月06日(火)10時32分39秒

空は薄い紫色に染まっている。
きっと明日は晴れに違いない。
たとえ雨だとしても、隣に君がいれば私の心は晴れになる。

愛ちゃんがあの歌を歌い出した。
それは今まで聞いていたのとは少しだけ違うように感じた。
胸がじーんとしてくる。
あたたかい響き。

君と君の歌があれば私はがんばっていける。
だから、ずっと私の側にいてね・・。
209 名前:Y 投稿日:2003年05月06日(火)10時34分51秒
終わりです。
感想などありましたら、よろしくお願いします。

>198 名無しどくしゃ様
そう言ってくださるとうれしいです。
ありがとうございます。

>199 名無し読者様
・・・えっと、他のところと間違えてるってことは・・?
自分なんかにリクしてくださる人はいないもので・・。
高紺ですか・・。書いたことないんで少し心配ですが、努力してみます。
210 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003年05月06日(火)19時57分55秒
(*´д`*)ポワワ
なんかこう、心が暖まる感じでした。
こんな青春してみたひ…
作者様サイコー!ヽ(`Д´)ノ
また良い作品書いて下さいね。
完結&更新お疲れさまでした。
211 名前:Y 投稿日:2003年06月05日(木)14時29分06秒
>210 名無しどくしゃ様
ありがとうございます!
心暖まる感じ・・・めちゃくちゃうれしいです。
自分の中のおがたかはこんなイメージなんです。
中学生日記?みたいな。
おがたかはまた書きたいなぁと思っています。
ぜひまたよろしくお願いします。


212 名前:あの頃は 投稿日:2003年06月05日(木)14時30分36秒
久しぶりに自分の昔の映像を見た。
理由なんて特になくて、ただ部屋の整理をしてたらビデオが出てきてそしてなんとなく。

うわ、子供っぽいなぁ、とか。
やっぱ痩せてんなぁ、とか。
辻と加護、顔違うじゃん、とか。
先輩達もみんな若いなぁ、とか。
中澤さん、ダンス大変だっただろうなぁ、とか。

たった三年。されど三年。
いろんなことをやってきて、いろんなことを乗り越えて。
あたしはここまで成長してきたんだなぁとしみじみと思ってしまった。

213 名前:あの頃は 投稿日:2003年06月05日(木)14時31分50秒
でも、なーんで目がいってしまうのかな。
やっぱ梨華ちゃん、かわいいわ。
昔はどこかお嬢さま感が漂ってたりする、内気な清純って言葉がぴったりな感じ。
三年もすれば変わるもんだって彼女を見ると、ほんと感じてしまう。
あ、別に今が清純じゃないってわけじゃない。
たださ、強くなったなぁって間近にいたあたしは思うわけだ。

214 名前:あの頃は 投稿日:2003年06月05日(木)14時32分28秒

それにしても。
ビデオを見たあたしの額には冷や汗がつーっと流れる。
若いってことはおそろしい。

『カップルに見えます?』

おいおい。

『よっすぃとはラブラブなんです。』

・・・・。

『よっすぃ、つくすわぁ〜。』

以下略。
見れば見るたびに自分の顔が引きつってくる。

見つめてる。抱きついてる。
あたしと梨華ちゃん、べったりじゃん!
しかもストレートすぎ!
いっつも二人一緒で側にいて、付き合ってんじゃないかって誤解されるじゃん!
っていうか、今は付き合ってるけどさ・・。
215 名前:あの頃は 投稿日:2003年06月05日(木)14時33分09秒

あたしは頭を抱えてしまった。
すごい、すごすぎる。
今じゃ考えられない、こんなこと。
付き合うようになってあまりテレビの前ではラブラブ感は出さないようにしてはいるけど、その前にこれじゃあね・・。

でも思うのは。
あたし、うれしそうな顔してんなぁってこと。
梨華ちゃんからのラブラブ発言が多いけど、あたしも満更じゃない顔してるし。
他の人にちょっかい出してるのもあるけど、梨華ちゃんの前だと笑顔が違うんだよね。


あたし、このときからもう梨華ちゃんのこと、好きだったのかなぁ。
梨華ちゃんはもう、あたしのこと好きでいてくれたのかなぁ。

216 名前:あの頃は 投稿日:2003年06月05日(木)14時33分49秒
付き合うことになったのはザ☆ピースのとき。
それまで梨華ちゃんちに泊まりにいったり、遊びにいったりするのはしょっちゅうなことで、同期としていつも側にいた梨華ちゃんに恋心を持ってると気づいたのも、ほんとそのあたりだった。
最初は動揺した。
だって好きになったのが女の子だもん、あたしにはそんな趣味はないって毎日言い聞かせてた。
でも、梨華ちゃんがメンバーに笑顔向けてるだけで嫉妬してる自分がいて、梨華ちゃんを独占したいって自分の気持ちが日に日に大きくなっていったとき、あたしは認めざるをえなかったのだ。

あの頃の梨華ちゃんは初めてのセンターで、そのプレッシャーから毎日泣いていた。
人一倍練習しているのになかなかうまくいかない。
いつもいつも辛そうだった。
あたしより先にセンターになったという梨華ちゃんに対する嫉妬心は無かったといえば嘘になるけど、でも泣いている梨華ちゃんを見たら手を差し出さずにはいられなくて・・。
ある日、一人で泣いている梨華ちゃんにあたしは言ったんだ。

「あたしが側で見守ってあげるから。絶対にできるから。」

そして梨華ちゃんを抱き締めた。

「好きだよ、梨華ちゃん。」
217 名前:あの頃は 投稿日:2003年06月05日(木)14時34分53秒

プルルルプルルル・・

「よっすぃ?どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあって。」

あたしは梨華ちゃんに電話した。

「今、仕事中?平気?」
「うん、大丈夫だよ。」
「あのさ。」
「うん。」
「いつからあたしのこと好きになった?」
「え?」

少しの沈黙。

「えっと・・あの、どうかしたの?よっすぃ。」
「いや、別に。」
「だって急にいつから好きになったかなんて。」
「ちょっと昔のビデオ見ててね、付き合う前なのに結構くっついてたりしたから。」
「あ・・。」
あたしがそう言うと、梨華ちゃんは黙ってしまった。
「梨華ちゃん?」
「あ、あのね。」
「うん。」
218 名前:あの頃は 投稿日:2003年06月05日(木)14時36分40秒



「初めて会ったときから好きだったと思う。」



「え?」
「・・・たぶん、きっと。」
梨華ちゃんは小さな声で最後に付け足した。
なんだかミスムンみたいだな、というのは置いといて。
「そっか。」
「よっすぃは?」
反対にそう聞かれてあたしは笑った。

「あたしも初めて会ったときだと思うよ。」
たぶん、きっと。
そう言ったら梨華ちゃんは電話ごしにくすくす笑った。

だってあんなラブラブオーラを無意識に出してんだもん。
お互い好きに決まってんじゃん。

219 名前:あの頃は 投稿日:2003年06月05日(木)14時37分21秒

「好きだよ、よっすぃ。」
「あたしも好き。」
お互い顔は見えないけれど、幸せな顔してるのが分かる。

「ねぇ、今度さ、カメラの前でカップルに見えます?って言ってみる?」
「じゃあ、思いっきり抱きついちゃってもいい?」

今となってはそれはしゃれになんないけど。
きっと飯田さんから後で説教くらうけど。

あの頃は無邪気だった。
何も知らなくて、子供で、だから許された。
今はきっと通用しないけれど。
でも、いつか。

「『二人の愛は永遠に』って誓おうか。」
満更でもなさそうな笑い声が耳に届いた。
220 名前:Y 投稿日:2003年06月05日(木)14時39分48秒
終わりです。
前の更新から一ヶ月くらい経ってしまってたとは・・。

感想などありましたらよろしくお願いします。
221 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月10日(火)02時58分02秒
おおう!久々に来たら更新されてるー。
思わず初レス。
イイですねーリアルタイムなリアルってカンジで。
何かね、いしよしリアルならこういうの読みたかったんですよ。
ちなみ初期の頃のごっちん走るのとか雨の日のとかもすごく好きですた。

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