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150cm以下戦隊ミニモレンジャー。2号

1 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年07月04日(木)00時13分43秒
花板で書いていた者です。
続編を書かせていただきます。
この小説はオバカな話です。
年齢設定は実際とは多少違います。
前スレは以下のURLです。

http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=flower&thp=1014042663

コテハンは共同のものを使いますが2人で書いてますので、
更新は遅くなるかもしれませんがご了承ください。
この小説の設定その他は以下のサイトにあります。

http://members.tripod.co.jp/honobonoA/
2 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時19分52秒
目覚めた小鳥がチュンチュンと鳴き声をあげる時刻。
この日も連日と同じように、大きな太陽がその存在を誇示するかのように
燦々と日光を放っている。
これでは夜の間にクールダウンした空気もすぐに温まってしまうというものだ。

閑静な住宅街
ちょうど辻の家から2つ隣りに建つ一戸建ての二階。
後藤真希の朝は非常に早い。
どれくらい早いかというと、

「……んぁ〜…5時かぁ…。」

ゲートボールに行く老人と同じくらい。
ベッドから手を伸ばして、床に置かれた4つのリモコンから
形状だけでテレビのリモコンを探し当てる。

プチッという電源が入る音が
まだ静かな世界では唯一の音。
しかしそんな時間に番組という番組はやっておらず、
ただひたすら前日のニュースと天気予報をブラウン管は繰り返し映し出す。
後藤は天気予報を見るのが朝の日課だった。

「んぁ〜……明日は雨かぁ……ほぁぁぁ〜〜…。」

アクビにつられて溢れる涙を腕で拭うと
ようやく身体を起こして生活のスタートに取り掛かる。
起きてからこの間、約30分。
冬になるともっと長い時間かかるのだが
外も明るい真夏となれば、体内時計がしっかりサマータイムに設定されるようだ。
3 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時20分45秒
「ほぁぁ〜…。」

本日2度目のアクビは鏡の前で
半分眠ったままの脳みそが起きるのを待っている時に出た。

基本はノーメイク。
だから、朝の準備は顔を洗って歯を磨いて寝癖を直して終了。
ただ、昔からサラサラのロングヘアーにはこだわりがある。
丹念に櫛を通し、光沢ある茶色の髪を維持するのだ。

途中でよろけて壁に手を付きながら
フローリングの上をペタペタと素足で歩くと
クローゼットの前まで辿り着く。
中にはオシャレな服が右側に、ラフな服が左側に掛っているが
もう長いこと右側に手を伸ばしていなかった。
ちょうど学校を辞めたころだろうか、
すっかり流行りに興味がなくなってしまったのだった。
スタイルは変わってないから、着ようと思えば着ることはできるが
もうそんな気分になることはない。

少し右側に目線を送って

「これでいっか…。」

いくつかある左側のTシャツから一枚を選りすぐり
下の方に置かれた色落ちたジーンズを手にとってクローゼットを閉めた。
4 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時21分30秒
着替えもゆっくりゆっくり。
子供の着替えより遅く
ジーンズを穿いてはベッドに腰掛け、つけっぱなしのテレビをしばらく眺める。
目覚ましのアニメが時報をし、額に黒子のある中年が挨拶する。
ようやく朝一番のニュースを放送し始めたようで、
後藤の耳には何の気なしに政治家の不祥事のニュースが耳に入ってきた。

「…政治家なら政治しなきゃねぇ…。辻元も真紀子もムネオも・・・。」

意外とニュースには詳しかった。
寝ぼけながらも頭に入っているようである。

またアクビをしてようやくTシャツに袖を通したころには
もう起きてから1時間も経過しているのがいつものことだ。

「んぁ……しゅっぱ〜つ…。」

携帯をポケットに仕舞って
テレビの電源を切り、濃い中年の顔を消し去ると
ベッドから腰をあげてようやく外に出る気分になったようだ。

ジリリリリ!!!!

「んぁっ!!?」

遅れて、6時にセットされた目覚ましが飛び跳ねた。

「…セットする時間直すの忘れてた…。」
5 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時23分21秒
朝はパン食。
でも誰も居ない食卓に座るには
食パン2枚はあまりに寂しすぎた。
数年前、父親は女を作って逃げていった。
二人の姉はそれぞれ一人暮らしをしている。
数ヶ月前に弟は家出して連絡がつかない。
果たして今どうしているのか、京都でホームレスをしているのか・・・
あるいはキャバクラ遊びでもしているのだろうか。
母は夜遅くまで仕事で、まだ起きていない。
よって、いつも朝食を共にする家族は公園の鳩達だった。

車がやっとすれ違える程の幅の道を
悠々とど真ん中を歩いてしばらく行ったところに
いつも立ち寄る公園がある。
それほど大きい公園でもないが
深い緑が茂るそこは、季節ごとに違った表情を見せてくれる。
冬は落ち葉と少々の恋人達が、
そして夏は沢山の蝉と元気の良い子供達が集まってくる。
6 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時25分08秒
散歩がてら公園を歩いて、噴水前のいつものベンチに趣くと
カバンの中から食パンを2枚手にとって、
一つは自分の口へ、もう一つはちぎって鳩に放る。
本当に明日は雨が降るのだろうか?
ふと空を見上げるが、そんな雰囲気は微塵も感じない。
真っ青に少し緑が入ったような雲ひとつない晴れ渡った空の下、
こんな時間に公園に居るのはジョギングや犬の散歩をしている人だけ。
その中ではかなり異質な若い女性が無表情でそんなことをしていれば、
自然と人の目にとまるというもの。
ともすればちょっと変わった人と見られてもおかしくない。

でも
後藤は、何のことはない、普通の10代だった。
そう、そこら辺にいる若者と何の変わりもない…。
7 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時26分12秒
二年前まで高校にも通っていたが
三年の新学期が始まってすぐに辞めた。
理由は、つまらないから。
身勝手に聞こえるかもしれないが、
後藤の中ではこれが一番大きな理由だったのだ。

「んぁ〜…今度釣り行こう…。」

噴水を見てそう思ったのか
最近じゃ趣味の釣りも御無沙汰だと気づいて
次の休みの予定に入れておいた。
ちなみに、海でも川でもOKである。

食パンがなくなると携帯を取り出して時間を確かめ、立ち上がる。
一斉に飛び立つ鳩達をよそに、案外あっさりと公園を後にした。

高校には一番の親友とも呼べる先輩が居た。
いつも自分を引っ張ってくれて、厳しいけど優しい。
そんな先輩に密かに想いを寄せていたのかもしれない、と
今になれば気づくことができる。
結局、先輩が卒業した後の空虚感に耐え切れず
退学したというのが理由の一つ。
8 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時27分24秒
「ごとー!!」

背の高いビルがいくつか並ぶ通りには
背広を着たビジネスマンが忙しく行き交っている。
しばらく歩いて駅前まで来ると
ずっと前の方から自分の名前を呼ぶ声がした。

「おはよー、いちーちゃーん!今日は早起きだねー。」

「まぁねー。」

その先輩というのが、この市井だ。
後藤がトイズEEで働くようになってから
初めて市井がライバル店で働いているということを知って、
後藤なりに驚いた。

『んぁっ!!』

こんな風に。

「ごとーさぁ、あんな奴らの所じゃなくて、あたしんとこで一緒に働こうよー。」

「ん〜?」

「後藤とだったらあたしも楽しいしー、張り切れるしさー。」

「もう遅いよ〜。」

「何でさー?あの金髪チビ、見てるだけで腹立たない!?」
9 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時31分14秒
返す返す言っておくと、市井と矢口は正に犬猿の仲なのである。

「あはは。やぐっつぁんいい人だよー。ちょっと無茶する時があるけど。」

矢口の無茶はある意味、下町のガキ大将と同じように生まれつきなのだが。
後藤の口からお世辞が飛び出すことはまず無い。
それだけに、市井は本気でそんなことを言う後藤に首を捻った。


市井との出会いは例の『美味い学食』がきっかけだった。
昼時ともなれば、半分以上の学生が押し寄せるその場で
偶然隣に座ったことで少しずつ話すようになったのだ。
学校が終わると『さやか』を訪れ、時間を忘れて
月が顔を見せるまでお喋りする。
そんな生活が一年続くと、後藤の心の中では
次第に市井が占めるスペースが広くなっていく。
市井が卒業した後も休みの日には必ず会いに行っていたのだが、
当たり前のように平日、会えない日のほうが比重を占めるようになっていき
そして学校に行くのも嫌になった。

10 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時33分38秒
しかし、フリーターとなった後藤が『さやか』に足を運ぶことはなかった。
いつまでも市井に依存した生活を送っていては
また同じことを繰り返すだけだと、薄っすらながら気づいたのだ。


「あー、そんじゃ、あたしそろそろ行かなきゃマズイから。」

「んぁ。じゃ、またねー。」

手を振り市井を見送る。

「……。」

「後藤もいこっかな。」


市井と会った日は何となく心が弾む。
一旦別れを決意しただけに、偶然出会える幸運さが
身体中を行き渡っていく。
トイズEEの非常階段を上がる足音も自然とリズム良くなるが、
決して『んぁっ、んぁっ♪』とは言わない。
11 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時34分29秒
呼吸一つ乱すことなく屋上に到着すると
既に控え室には保田の姿があった。

トイズEEは無駄にフレキシブルタイム制というものが社員の中であるわけで…。

「おはよー。圭ちゃんいつも早いねー。」

「あらオハヨウ。あんたも充分早いわよっ!」

時計は7時を示している。
矢口達はちょうど今ごろ起きてくるところだが、
後藤にとってこれが日常の出勤時間であり、

「あんた、早く起きすぎるから昼間に眠くな…
最後まで聞きなさいよっ!!!」

また、就寝時間でもあった…。

「zzz……。」
12 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時35分54秒
「あんた達っ!!また遅刻よっ!!」

「えー?5分だけじゃんかー。」

「あんた達ねー!!社会人なんだから時間くらい守りなさいよっ!!」

「は〜〜〜い。」

再び目を覚ますのはいつも保田の怒鳴り声が聞こえたとき。
要するに、一番最後にやってくる矢口と石川が到着したときに
ちょうど起きるようになっているのだ。

「…ん、んぁ…。」

「後藤も起きたわねっ!じゃ、打ち合わせ始めるわよっ!!」

目をシパシパさせながら何とか保田の話に耳を傾け、
今日の予定を頭に詰め込む。
とは言っても、仕事はミニモレンジャー。の登場と終わりのテーマソングと、
敵役の効果音くらいのものだ。
実際、打ち合わせなどしなくても本番で台本を見ながらでも余裕でできる。
だから、いつも打ち合わせの間は何をするでもなくボーっとしている。
時計の秒針を眺めたり、台本の表紙を眺めたり。
13 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時36分28秒
「ちょっと!!後藤聞いてるの!?」

「んぁ。聞いてるよ〜。」

「じゃあ今あたしが言ったこと繰り返してみなさいよっ!!」

急に当てられた後藤は少しの間宙を見つめると
保田に向かって微笑んだ。

「今日はぁ〜、スノーマンだから〜…吹雪の音を準備しろ、でしょ?」

他のメンバーが一斉にどよめきを上げ、
保田はそれ以上何も言うことはなかった。

「(んぁ〜、ヤマカンが当たった…。)」

「ごっちん、ちゃんと聞いてたんだ?」

「え?ヤマカンだよ、ははは。」

ヒソヒソ声で話し掛けてきた隣りの吉澤にも
そうやってホンワカした笑みを浮かべようとしたが、
本日4度目のアクビによって、その笑みは変顔となってしまった。
14 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時37分35秒
考える後藤

その姿は、一見ボーっとしているように見えるが
頭の中はしっかり稼動している。
ゆっくりではあるが…。

ふと、人生というものに向き合ってみる。
先が見えてこない今の生活に、少しばかりの不安感を覚えることもあるが、
悪いものではなかった。

学生時代、ロクに勉強もせずに松工大付属高校に入った。
エスカレーターで大学に入って、特にやりたいこともなく4年もの月日を過ごす自分の姿は
後藤にとっては見るに堪えないものだったの違いない。
それでもなんとか高校に足を運ばせたのは
市井の存在あってこそのものだった。
その人が卒業してしまった時、
後藤は線路を自ら踏み外してここで働くことに決めた。
乗せられて歩く道よりも、自分で選んだ道がいいから。
自分で選んだ道なら後悔しないから。

アルバイト誌をペラペラと捲る後藤が目にしたのは
家から程近いデパートの屋上でショーのスタッフをやるというものだった。
15 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時38分25秒
『子供達に夢と希望を与えたい人募集。』

勤務地:トイズEE
時間:9:00〜19:00
待遇:昼食付き
事業:屋上にてヒーローショー出演またはスタッフ
時給:650円
応募他:委細面談

チビッコ対象のお仕事なので子供好きの方歓迎。
学期間は週二日程度、春、夏、冬休みは週7日できる方歓迎!!

(株)トイズEE
TEL 03−△△△△−××××
担当 保田


ズルズルとコーヒーをすすって、テーブルに置かれた携帯電話を手にとると
すぐさま記事に書かれた番号に電話をかける。

「もしもし、バイト雑誌見たんですけど、担当のタモツダさんですか…?」

『ヤスダよっ!!』

「はぁ…。」
16 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時39分08秒
決して良い時給が貰えるわけでもないそのバイトに決めた理由は
特に無い。

人生なんて偶然で出来てる

直感が自分の行方を示していると後藤は考えていた。

母親は自分がすることに何も口出しをしない。
ただそれは、幼いころから『他人に迷惑をかけるな』
と厳しく仕付けられた自分を信じてのこと。
わが道を行く後藤は、それでも母親を悲しませるようなことはするつもりはなかった。

「あのさー、学校辞めてバイトするよ。」

母親が居酒屋のノレンを下ろして店内に戻ってくると
あっさりとそう告げた。

「ああそう。しっかりやりなさいよ。」

それだけだった。

でも、飾り気のない言葉の奥には愛情が溢れている。
『手を貸すことはしない。その代わり、いつも見守っているから。』

「学校辞めても、居酒屋の手伝いは辞めないでよ?」

「んぁ。」

二人は互いの微笑を、恥ずかしそうに避けた。
17 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時39分45秒
後藤に相談を持ちかけてくる人は多い。
冷静な口調はもちろん、後藤は他言しそうにないという理由からか、
休憩時間には誰かしらやって来ては話し掛けてくる。
もちろん後藤からすれば時間があれば眠りたいタイプなので、
誰も来ないほうがいいと言えばいいのだが、
それでも他人の考え方を聞いて幅を広げることは
眠るのと同じくらいに有意義だと感じていた。

後藤は休憩時間に控え室に戻ることはほとんどない。
舞台裏の仕事場で、そのまま時間を潰すのだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」

何をするでなく、今は
回っている扇風機のファンに何となく顔を近づけて
変化する声色を聞いていた。
すこし舌が乾く感がある。

「ふぅ〜、あー、ちょっとだけ涼しい。」

スノーマンの顔を外し、背中のチャックを下ろした状態で
そんなことを言いながら、茹ダコ寸前の吉澤がやってきた。
18 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時40分27秒
「ごっちん、何やってんの?」

「え゛?い゛や゛、な゛ん゛と゛な゛く゛…。」

扇風機の風で立ち上がってしまった前髪を押さえながら、
キャスター付きの椅子を元の場所まで転がして
横に吉澤を座らせた。

「矢口さんと梨華ちゃんにバレちゃってさー…」

「風俗嬢のバイト?」

「うん。」

「雑誌載ってたしねー。」

「そうなんだよ〜…。」

と吉澤は額の汗を拭おうとしながら言った。

「んっ、んっと。あーとどかねー。」

が、ゴワゴワした着ぐるみの手は額のすぐ手前で止まって
それ以上先には届かない。

「ふ〜ん…。」

「ああ、ありがと。」

ハンカチで吉澤の額を拭うと軽く相づちを打ってこう答えた。
19 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時41分01秒
「もう隠すこともないんじゃない?悪いことやってるわけじゃないんだし。」

『まぁそうだけど…』という表情の相手を見て
更に続ける。

「まぁ、よっすぃーの思うようにすればいいでしょ。」

これは、後藤がいつも最後に言う言葉だ。
自分の思うようにやらないで後悔するのは
やり場の無い怒りを残すだけ。
常日頃こう思っている後藤にとって
自分ができるアドバイスはそれだけだと自覚していた。

「う〜ん…。そうだけどさぁ…。圭ちゃんに何か言われないかなぁ。
『あんたっ!そんなことやってるからショーの最中に倒れるのよっ!!』とか。」

「んぁ〜、それは大丈夫でしょ。圭ちゃんだって大型特殊…ん、んぁ…何でもない。」

「???」

どうやら保田の秘密も知っているようだ。
20 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時41分41秒
「やぐーちゃんキーック!!」

ポチッ

「ビューー!!」

後藤の人差し指一つでスノーマンが痛がるなんて、
まるでケンシロウのようだが
現実はそんなカッコイイ仕事ではない。
台本をペラペラと捲り、台詞に合わせてスイッチング。
地味だけど欠かせない仕事に
後藤は何の不満もなかった。

「『もっともっと…』いくぞー!!」

弾丸と化した辻と加護が
いつものように矢口の背中を踏み台にしてスノーマンへと飛び出していく。
もちろんこの時の効果音は『ドカーン!』のはずだが…

「キン肉ビーム!!」

「んぁ?」

間違えた…。

ついでにスノーマンもその音響にキン肉ビームのポーズを慌てて構えた。
21 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時42分19秒
「キン肉ビームはないでしょー?」

後藤と矢口の接点はそれほど多くない。
対照的な性格がそうさせているのかとも思えるが、
それは偶然そうなっているだけで、仲が悪いということはない。

衣装のまま現れた『やぐーちゃん』は
開口一番、ミスに突っ込みを入れた。

「んぁ。ちょっとボーっとしてたよ、あはは。」

「ボーっとしてるのはいつもでしょ。」

ボーっとしているようで洞察力に長けている後藤には
矢口が来る理由が大方想像できた。

「あのさー、ごっちーん。」

「んぁ?」

もちろんそれは

『ヒモの状態であり続けるための作戦を練る』

である。

しかし

「わかんない。」

の一言で終わり。
22 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時42分53秒
「梨華ちゃんがさぁ、なかなか素直になってくれないんだよー。」

「んぁ。」

「ヤグチがさ、こんなに積極的にアタックしてるっていうのに…。
まぁ、飯には困ってないんだけど、遊んで暮らせるくらい欲しいわけよー。」

「zzz…。」

「おいっ、寝んのカヨッ!!」

矢口の惜しまぬ努力に感服するも、
申し訳ないが後藤の両瞼は加速度的に重さを増していった。
矢口以上、のび太以上の入眠速度で落ちていった。
興味のないことにはとことん興味がない。
それが人々にとって後藤真希という人間の強い印象として残っているのだろう。

悩みは尽きない。

後藤はいつも眠くて眠っているわけではない。
もちろんそういう時もあるが、ほとんどは逃避の手段でしかないのだ。
でも今日は違う。
いつもなら一眠りすればまたリセットして始められるはずなのに、
今日はなぜだかずっと頭から離れない。
23 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時43分30秒
「矢口さん、なんか、今日のごっちんはいつもと違う感じじゃないですかぁ?」

さっさとラーメンを食べ終わって机に突っ伏せていたら、
残念ながらヒソヒソ声でも物凄く特徴的な声が耳に入ってくる。

「そう?」

ジュルジュルと汁が絡んだ麺をすすり上げ、
腕で口を拭う矢口。

「ごっつぁんにも悩みくらいあるでしょ。ヤグチにも実は悩みが…」

「何ですかぁ?」

「梨華ちゃんが…梨華ちゃんがヤグチに心を開いてくれないの…ウワーン!」

「ハイハイ。」

それ以上石川は矢口を相手にすることなく、黙々とラーメンを食べていた。

「師匠、何かあったんですか?」

加護は後藤のことを師匠と呼んでいる。
理由は定かではないが、どことなく風格を感じたのだろう。

「…んぁ?いや、ねー。…まぁ…後で話すよ、聞きたかったら。」
24 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時44分19秒
「し、師匠ー!ウワーン!」

「あいぼん、泣いちゃダメなのれす!ウワーン!」

「着ぐるみが暑いYO!ウワーン!」

「ぐすん…みんなして石川の真似しないでよぉ〜。ウワーン!」

ネガティブじゃない石川はただの石川。
皆に遅れをとることは、彼女なりに許せないことだったようだ。

「…んぁ〜ん?」


本当はいつまでもはしゃいで居たいのに
自分でも嫌になるくらい、感情を表すのが下手糞で。
ときどき試してみてできるだけ笑顔を浮かべようとしたり、
声を出して笑うようにしても、
周りの反応は『どうしたの?』という感じのものばかり。

もう遅かった。

学校での自分の印象は些細な抵抗では揺るぐことはなく、
そしてコミュニケーションを取ることが次第に鬱陶しくなっていった。
25 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時44分54秒
辻とは幼馴染。
それこそ、しばしば一緒に砂遊びをするほど、
お互いが小さい頃からの友達だ。
唯一、今でも『ちゃん』付けで呼んでくるのも辻だ。
もっとも、二人だけのときしかそう呼ばないし、
辻がそう呼ぶと必ず『しゃん』に聞こえてしまうのだが。

いつだったか、居酒屋での仕事を終え、家へ向かう途中にその声が聞こえてきた。

「真希しゃーん!」

自転車のスピードを速め、
辻は自分の声に振り向いて止まった後藤のところまで急いだ。

「加護ちゃんのとこで遊んでた?」

「そうれす。」

「仲良さそうだねー。」

「そうれすよ、仲いいのれす。」

「そう、ふふっ。」
26 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時45分40秒
後藤は、いつまで経っても純粋なままの辻が羨ましかった。
いつも笑顔で友達と呼べる者が何人も居るようだ。
自分にないものを欲しがるのは後藤も例外ではない。
時々、幼い頃の自分を思い出すが
今目の前に居る辻はその頃の自分と一緒に駆け回っていた頃の彼女と何ら変わりがない。

「何か…話あるの?」

「話なんかないれすよ。ただ一緒に帰ろうと思っただけれすから。」

「んぁ…そっか…。」

「どうかしたんれすか?」

「んぁ?…別に何でもないよ。」

「今度気晴らしにカラオケでも一緒に行くれすか?
お姉しゃんのコネで割引券が大量にあるのれす。」

学生カバンに手を突っ込み、

「えっと、確かここにあったはずなのれすが…あれぇっ、あれっ??」

ガサガサゴゾゴソ、無い無いと慌てふためくそぶりに
思わず微笑む後藤。
27 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時46分18秒
(相変わらずだなぁ…。)

そうにこやかに辻を眺めていると
やっと見つかったのか「有った!!」と叫んで
中から1時間割り引き券の束を取り出して
ニコニコしながらピラピラ振って後藤に見せた。

「タダじゃないんだ?」

「一端のバイト店員にそんな力はないのれす…。」

「あはは。」

なんだか、懐かしい感覚に浸っていた。

「真希しゃんとマトモに会話するの久しぶりれすね。」

「そうだね…。ののはいつも加護ちゃんと一緒に帰るし、あたしは手伝いがあるし。」

自分の殻が、いつの間にか形成されていた。

「そういえば、何で真希しゃんはトイズEEで働こうと思ったんれすか?」

「え?…何となく…かな。」

そのときはそう答えた。
毎日の生活が全て『何となく』で片付けられそうに思っていた。
事実『何となく』という決定理由が彼女の中に多い。
28 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時47分23秒
カツカツと金属音を立てて階段を下りてゆくと
そのままの足取りで一路、第二のバイト先である居酒屋に向かう。
空の青色は朝よりも深く、もうすぐ月も起きてくる頃だ。
店は少し離れたところにあり、
それでも歩いて10分強の道のりは後藤にとっては容易いものだった。

赤提灯、暖簾、煮物や焼き鳥の匂い。
今日も赤い看板が電球に照らされて目立っている。
すでに営業中の店に堂々と入り口から入り、
見慣れた常連客の脇を歩いて奥へと向かうときも、
ずっと頭の中に残っていたシコリについて考えていた。

『自分はこれからどうやって生きていこうか?』

エプロンを腰に巻いて、揚げ出し豆腐を運ぶ姿も様になってきた。
常連さんにそう言ってもらえるのがこのバイトのやりがいの一つとなっている。

では、『ミニモレンジャー。の仕事はどうだろう?』

引き戸がガラガラと鳴きながら開くと
反射的に挨拶の声が出る。
29 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時48分01秒
「いらっしゃ……んぁ?」

「ごっつぁん!生6つー!」

矢口の元気のいい声が、騒々しい店内でもはっきりと聞こえた。

「んぁ〜。一応未成年なんだからね〜、圭ちゃん以外は。」

そう言って奥へ戻っていく間にも
やっぱり矢口達は『オバチャン』ネタでワイワイ楽しんでいる。
保田が『オバチャン』ネタで楽しんでいるかは置いておいて…。

ジョッキにビールを注ぐ間、
後藤の顔からは微笑が絶えなかった。
30 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時48分35秒

『分かった。』

31 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時49分31秒
エプロンを解いて出ていくその両手には大ジョッキが7つ。

「お待たせ〜。」

「うい…あら?6つだよ?」

「んぁ。あたしも飲むから7つだよ〜。あはは。」

後藤は酒を飲むと、若干饒舌になってくる。
それでも、他のメンバーと比べればまだ無口な方、というのが凄い。

「あれ?よっすぃー今日のお仕事は?」

「ああ、休みにしてもらったよ。」

「なに?ごっちん知ってたの?」

驚いた顔をする石川になんとも言えないような顔だけで返事をして
ジョッキを傾けた。
32 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時50分15秒

『実はあたしは寂しがりや。』

33 名前:第6話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月04日(木)00時50分50秒
自分を囲む人間は幼い頃から少なかった。
それだけに、今まで気づかなかっただけだ。
昔から何も変わってない自分は、やっぱり楽しい仲間と居ることが幸せ。
だから続けていく。
このオバカで退屈な仕事が今の宝物である限りは…。

「そういえば…師匠の悩みって何だったんですか?」

遠慮がちに尋ねる加護にも
笑顔で一言だけ答える。

「んぁ、もう解消した。」

ワイワイと、すでにテンションが上がってきた一団は
仕事についてグチグチと言葉を連ねている。

「そういえば、ごっちんは何でトイズEEで働こうと思ったの?」

一拍置いて、枝豆をプチッと口の中に押し出した。

「んぁ…何か…楽しそうだったから。」

そして、泡の付いた口の周りをペロリと舐め回すと
酒の肴を取りに、また奥へと入っていった。
34 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年07月04日(木)00時57分42秒
すこし予定より早く開始しましたが、
第6話一挙一夜更新終了です。
第7話は1週間お休みを頂いた後開始予定です。
第7話開始前に返レスをしたいと思います。
35 名前:名無しむ 投稿日:2002年07月04日(木)12時45分37秒
良いねぇ。ほのぼのエース万歳!
36 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月05日(金)02時10分04秒
週7日て労働基準法違反では?
37 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年07月13日(土)00時49分26秒
>>35
ありがとうございます。
まもなく第7話開始です。
>>36
オバカな小説ですので、ご了承ください。
38 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月13日(土)00時50分24秒
「…チさん♪矢口さんっ♪…」

(誰…?矢口の眠りを邪魔するのは…。)

心地よい眠りの世界から戻されるように
自分を呼ぶ声がする。

「…さですよっ♪…もうっ、しょうがないなぁ♪…」

(揺らさないでよ…。)

眠っている人物の名前は、もちろん、矢口真里。お金大好き。

「…んっ♪……」

矢口の身体をユッサユッサして起こしているのは、石川梨華。
ちょっと不器用な女の子。

(く、苦しい…何かニョロニョロしたものが入って……!!!)

「…ブハッ!!ゲホ!!ガホッ!!」
39 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月13日(土)00時52分28秒
「おはようございます♪矢口さんっ。」

むせ込んで飛び起きた矢口の傍には
ほんのり赤らんだ顔で正座している石川。

「お、おはよう、梨華ちゃん、な、何した?さっきなんかしたでしょ。」

「えっ。あの、そのっ。寝顔かわいいからキスしちゃいました♪」

その言葉は矢口にとっては物凄く理不尽なものだった。

「あ゛あ゛っ!?殺す気ぃっ!?」
40 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月13日(土)00時53分08秒
そりゃそうだ。
永遠の眠りについてしまったら、キスどころか何されるか分からない。
いや、そういう問題じゃないか。

「ごめんなさい。」

最近どうも矢口は石川に押されている。
最初こそ、自分がヒモであることをうまく利用していたが
石川の気迫というか、執念みたいなものに
次第に自分が押されているのを感じるようになった。

「で?どしたの?」

「え、あの、朝ですよっ♪起きる時間です♪」

「ああ、そう。」
41 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月13日(土)00時53分40秒
むくっと起き上がり矢口は台所へ向かうと、
歯ブラシ立てから二本あるうちの赤い方を手にとって、
歯磨き粉を乗せて口にぶっこむ。
同棲のようなものが始まってから約3週間。
先日グチャグチャになってしまった石川の部屋は
いつものように…いや、いつも以上に片付けられて、
なおかつ、部屋の主よりもハッキリとブリッコブリッコしている。
ガラスの入れ替えのついでにリフォームを依頼し
壁紙が全面ピンクだ。
総額で数十万かかったそうであるが
そんな金を平然と払える石川が、
その資金力が羨ましかった。
42 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月13日(土)00時54分26秒
(でも、ガラス割っただけで30万送ってくる親って一体どんなんだ…?)

「おえっ!!」

歯磨きで気持ち悪くなった。
オヤジだ…。

「ねぇ、梨華ちゃーん。お父さん何の仕事してるのー?」

「えーっと、公務員ですよっ♪」

「へぇ〜…公務員ねぇ…。」

公務員って言ったって国会議員から市役所勤務まで様々。
さらに謎が深まる。
43 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月13日(土)00時54分56秒
「ヤ・グ・チさんっ♪」

「うわっ。」

そんな謎に首をひねっていた矢口の後ろから
石川が抱きついてくる。

「危ないよー梨華ちゃーん、歯ブラシ喉刺さるところだったよー!!」

「あ、ごめんなさいっ。でも、甘えたいんだもん♪」

「ハァ…。」

正直ちょっと引き気味。
うがいを済ませて、矢口は床に落ちている服を着ようと拾い上げようとした。
44 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月14日(日)00時07分16秒
「矢口さんっ、下着取り替えてくださいっ。汚いじゃないですかー、二日も着たらぁ〜。」

そりゃ、毎日大量の汗を吸い取った下着を
また着ようとするのが普通じゃない。しかもこの真夏に。

「えー、めんどくさいしー。」

「はいっ、これつけてください。」

石川が取り出したものは、新品のブラとパンツ。
しかもピンク色でレースが付いたメルヘンチックな…。

「ええ〜、パンツはともかく…ブラなんか梨華ちゃんのサイズじゃずり落ちちゃうよ。」

「大丈夫です♪矢口さんのサイズ調べて買っておきましたから♪」

いつ調べた…?

「あ、そう、でもねぇ…センスが…。」

「嫌ですか…?石川、一生懸命探したんですよ…どれが矢口さんに似合うかなぁって…。」

悲しそうな顔をする石川。
情が湧いたのか何なのか、矢口はフォローを入れる。
45 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月14日(日)00時07分59秒
「いや、嫌じゃないけど…、じゃあさっ、今度ピンクでいいから豹柄か、
ミリタリー柄のやつお願いね。」

すると、ぱぁっと明るい顔をする。
なんともわかりやすい。
これが演技じゃないというから凄い。

「はぁいっ、石川がんばっちゃいますよっ♪」

「ハァ…。」

そして二人は服を着た後、喫茶『さやか』で朝食をとって
マールゾロへ向かった。
いつものようにトイレに入って直下型ボムを投下し終わると
矢口恒例の店内巡回。

「……ん?」

「どうしたんですか?矢口さん。」

マールゾロ内をいつものように巡回している矢口の
視線を釘付けにさせる物が惣菜コーナー置かれている。
46 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月14日(日)00時08分34秒
「なんだろ…?これ。」

「え?刺身じゃないんですか?」

見たまんまのその回答は80点。

「そりゃあわかるけど、名前だよ名前。」

「爆発SASHIMI?」

良くラベルを見れば、名前の所以が云々書いてある。
『レンジでチン!!あら不思議新食感爆発SASIMI』
こんな名前の食べものは『活火山ラーメン』以来だ。
47 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月14日(日)00時09分20秒
「なんか胡散臭いですよ…この商品…。」

急に黙り込んだ矢口の顔を覗き込むと
オモチャを欲しがる子供のように目をキラキラさせていた。

(うわ…矢口さん…なんか目がやたら輝いてる…またほしいなんて…)

「ほしい!!これ買って!!!買って買って、これ買ってぇ〜!!」

(やっぱり…。)

矢口の2000ルクスの目の輝きが石川を捉える。
どうもこの瞳に弱い…。

(でも…。)

「やめときましょうよぉ〜、そんな怪しいやつぅ〜…。」

「怪しくないよー、怪しかったらおいてないよー。」

「そりゃあ、そうですけど…。ほら、バイトこれからあるから生ものだし腐っちゃいますよっ♪」

「あ、そっか。」
48 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月14日(日)00時10分00秒
すぐ納得してくれた。
ホッっと胸をなでおろす石川。

「でも、食べたいなぁ〜…。」

そう言って、いつまでも『爆発SASHIMI』なる商品を手にしている矢口。

「じゃあ、バイト終わって、帰ってきたときにまだ有ったら買ってあげますよっ♪」

「ほんとにっ!?」

「はぁいっ♪」

(この笑顔、弱いなぁ私って…♪)

そんな子供っぽい矢口を見て微笑む石川。
その矢口は、なにやら爆発SASHIMIを手に惣菜を眺めている。
49 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)01時26分34秒
「うっし、わからないように弁当の下においておこう。」

良くやるね、この手法。
本屋で本キープするように隠す奴いるよね…。
どうやら大盛りヤキソバの下に隠す事にしたようだ。

「別に隠さなくてもいいじゃないですかぁ。まだ3つもあるんですよぉ。」

「わかんないよー、新商品でしょー、これ。新しい物好きの人いるかもしんないし。」

「矢口さんみたいな物好きはあんまり…。」

「ナニッ!?」

「いえ…なんでもないです…。」

ふと、マールゾロの時計を見てみれば
既にバイト先へ向かう時間になっていた。

「矢口さんっ、こんな事やってる暇ないですよっ、早く行かなきゃ。」

「うしっ、いくぞっ。」

こうして、いつものように原チャリニケツでバイト先へ赴く二人。
しかし、今日は信号で一時停止していると、珍しくある人物達と遭遇した。
50 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)01時27分06秒
「あちぃなぁ…。早く青にならねぇかなぁ…。」

「ここつかまると長いのは、しょうがないですよぉ〜。」

燦燦と注ぐ太陽光線に犬でなくても舌が出そうになる。

ブロロロロ…キッ。

原チャリが隣りに停まった。

「ん?」

「よっ、矢口っ!!」

「ああ、カオリンっ、なっち、珍しいね。どしたの。」

そう、隣りに停まった人物とは原チャリにまたがった飯田と安倍であった。
矢口石川と同じく、走る違法の塊りである二人。
愛用の原チャリはしげると同型のスクーピー『ぷさん』
しかしながら、飯田は原チャリ免許を取ったばかりのため
矢口ほどのテクニックは持っていない…それが仇になるとは…。
51 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)01時28分06秒
信号が青になると、並走するしげるとぷさん。
乗車している各々は風を切りながらトークを交わす。
後ろで少女達の蛇行に困る車が何台も並んでいるのは明らかである。

「安倍さぁ〜ん、どうして今日はこの道なんですかぁ〜♪」

「ん〜、吉牛食いに行ったっしょぉ〜、ネギだく大盛りギョクだべさぁ〜。」

「通の食べ方ですねぇ〜♪」

「そう言えば今日から吉牛サービスデーでしたね〜♪」

「そうだべさぁ〜、朝から人がイッパイ、垂れ幕下がってたべさぁ〜。
150円やるからその席空けろだべー。」

「どういう意味ですかぁ〜。」

「ゴルゴ吉野家だべぇ〜。」

「意味わかんないですぅ〜♪」
52 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)01時28分38秒
ふと石川が後ろを見れば、二人の蛇行運転のおかげで
混むはずの無い道が通勤ラッシュとなっていた。
そのはるか後方には見たことのある、しかも久しぶりのソイツが物凄い速さで
詰まっている車を追い抜き近づいてくる。

「!!!!!!」

「ん?どうしたべさぁ〜〜?梨華ちゃ〜ん。」

慌てて、石川は矢口に緊急事態を報告する。
それはやはり。

「タイーホする〜〜!!本官を侮辱するとタイーホするぞお〜〜!!」

ズキュソズキュソ!!!

いつもの警官だ…
威嚇射撃だ…
目が繋がってるっ!?

「やっべっ!!カオリン!!」

「なに?矢口ぃー。」

「逃げるぞっ!!逃げないとやばいっ!!」

「はぁっ?」

53 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)23時06分12秒
意味がわからない飯田をよそに、
迫りくる豪速自転車モリコギ警官から逃げるように
アクセルをフル回転させ逃げていく矢口。

「矢口さぁ〜ん!!飯田さんがついて来ませんよぉ〜!!」

「ああ、カオリンは知らないんだった…ごめんカオリン…餌食になっておくれ…。」

ちっともすまなそうな顔をしていないが…。
石川がもう一回後ろを確認してみると
やはり飯田と安倍はあの警察官に捕まっていた。

「矢口さーん!!飯田さん達つかまっちゃったみたいですぅ〜!!」

「まぁーあの二人だからなんとかなるよー。アハハハ。」

「笑い事ですかぁ〜?」

「賛成の反対なのだ〜。これでいいのだ。」

バカボソのパパ!?
54 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)23時06分56秒
午前ステージ終了後。

矢口達はいつものようにラーメン『落ち武者』で
食事をとっていた。

「安倍さん達…どうしたんですかね…?」

心配そうにクレープ屋を落ち武者の窓から覗く石川。

「事情聴取でも受けてるんじゃない?」

『( ´∀`)休業中ダモナー』という看板が
閉められたシャッターの前にぶら下がっている。

「ハァ…もうちょっと早く教えられたらなぁ…。」

「そんな事言ってもしょうがないよ、カオリンたちが違法しまくってるのが悪いんだし。」

「それは私達も一緒ですよぉ〜。」

「まぁ、そうだけどね。ズルズル…あ、みっちゃーん、麺変えたぁ〜?」

「おう、ようわかったなぁ、1ランク麺下げてん。」

「マズーイよ、さらに。」

続けて
55 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)23時07分38秒
「まずいれすよぉ〜。」
「不味いわぁ〜。」
「不味いわねっ。」
「美味しくないです…。」
「マズイっス。」
「んぁ〜マズーイ。」


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  |マズイ|     |マズイ|      |マズイ|     
 〃∩ 〜^◇^) 〃∩ ´D`)  〃∩ ‘д‘)
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  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  |              ラーメソ                           
  |                                        
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56 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)23時08分55秒
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 〃∩ `.∀´)  〃∩ ^▽^) 〃∩ O^〜^)  〃∩ ´Д`)
    ヾ.   )    ヾ.   )    ヾ.   )    ヾ.   )
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                     落ち武者                 |
                                            |
                                             |

「うっさい、経営厳しいねんっ!!しゃーないやんかっ。せやったらもっと客呼び込めっ!!」

「呼び込んでも…ここで食う人いてへんよ…。」

57 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月15日(月)23時09分46秒
「そうれすね。こんなの食べるののの達しか…。」
「タダだから食ってるだけだしね。」
「ちょっと失礼ですよ矢口さ〜ん、いくら本当のこととは言えど…。あっ。」
「まぁ、マズイっス。マズイとしか言い様ないッス。」
「んぁ〜、ウチの店で作ったほうがまだ美味しいよぉ〜。」
「アタシが作ったインスタントラーメンの方が美味しいわねっ。」

「くっ・・・何やねん自分らっ!!圭ちゃんも同意しよってにホンマっ!!ウワーン!!」

いきなりいい歳こいた大人がおお泣き。
さすがに悪いと思ったのかフォローに入るミニモレンジャー。ショースタッフ達。
しかし、お構い無しの145cmは落ち武者にあるテレビに釘付けになっていた。

「あ、見てよ、梨華ちゃん、ほらっ!!」

石川の肩を叩いて注意を促す。
58 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月16日(火)23時05分06秒
「なんですかっ、矢口さんも平家さんに謝ってくださいよぉ〜。」

しかし、それどころではないといった反応。

「いいから見てっ!!あれっ!!」

「なんですかもうっ!!」

石川が矢口に言われるままに、
その指先を追ってテレビを見てみると
丁度あるCMが…。

『新発売!!爆発SASIMI!!』

などとマールゾロのCMがやっていた。

「ね、あれだよ、あれ。」

コテコテの欧米人が、刺身を食べて鳥の巣頭になるという
なんとも、素人が作ったような胡散臭さ満点の出来だった。
59 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月16日(火)23時06分53秒
「それだけですかぁ〜、わかってますよぉー、何個でも梨華が買ってあげるからぁ〜
今は平家さんに謝りましょっ、ねっ?」

「ヤター!!たくさん買う〜。はて、ごめんねみっちゃぁ〜ん、矢口はみっちゃんの
ラーメンよりチャーハンが好きだよぉ〜♪」

なんとも簡単だ…。
しかし、マズイマズイいわれた平家はそう簡単に収まりそうでなかった。

「うわぁぁぁぁん。ウチかてぇ〜、好きでラーメン屋やっとるんちゃうもぉぉん!!
おとんが入院せーへんかったらぁ〜ウチOLやっとったもぉぉぉん!!
花のOL生活で玉の輿に乗ってバージンロード歩いとるもォぉぉぉん!!ウワ〜ン!!」
60 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月16日(火)23時07分31秒
困り果てる7人。
仕方ないなぁ…という顔をしながら保田は
財布の中を開いている。
なにやら紙を取り出して、泣きじゃくる平家に差し出した。

「これ、パー券。今夜だけど、いい男集まるみたいだから、行ってきていいわよ。」

「うわぁぁぁん……ヤターーーーーーー!!!!!圭ちゃんやっぱ、ウチの親友やわぁ♪」

「ホントはあたしが行こうと思ってたんだけど、いいわよイッテラッシャイ。」

「うんっ♪わくわく、わくわく、絶対男引っ掛けるでぇ〜!!」

コイツも簡単…。
61 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月16日(火)23時08分02秒
そして今日も、ショーは円満に終わっていった。

結局のところ、今日はクレープ屋が開く事がなかった。
連絡を受けた保田によれば、警官につかまったあと
なっちはものすごい勢いで逃げたらしいが、飯田は
尋問かけられた際に、宇宙と更新していたが為、
職務執行妨害で警察署に連れて行かれこっぴどく搾られたようだ。
むろん、愛車『ぷさん』は回収されたようである。

( ´∀`)タイーホ

いつもの如く、矢口と石川は原チャリに乗ってホモゲ牛乳へ向かった。
今日の矢口はウキウキ。
例の爆発SASHIMIが買えるのだ。
だから烏の行水&超高速サウナde腹筋を済ませて
コーヒー牛乳をフードファイター並の速さで飲み干した…

「矢口さんっ、そんなに急いだら……」

ブハッ!!!

目の前の石川に吹きかかったとさ。
62 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月16日(火)23時08分42秒
ホモゲ牛乳を出るとアクセル全開でいつものコースを急ぐ。
マールゾロへ着くとスキップをしながら
店内に入る矢口。
すぐに惣菜コーナーへ向かうと…

「魚魚魚〜、後藤を食べ〜るとォ〜♪」

>∈( ´Д`)ゴマー

「あったぁ〜!!三つもあるよぉ、梨華ちゃぁ〜ん。」

しかもよくよく見てみれば、50%offのシールまでついている。
どうやら朝から売れなかったようである…。
まぁ怪しいから誰も買おうとするものが居なかっ…
居た。

「梨華ちゃぁ〜ん♪みっつかってぇ。三つ買っても1.5倍の値段だよぉ〜。」

「でもー、こんなに残ってるって危なくないですかー?
これたぶん朝からありますよぉ〜。
それに多分明日の今ごろも置いてありますよぉ、絶対ぃ〜。」

「いいのっ、矢口はこれが食べたいのっ。」
63 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月17日(水)15時16分42秒
糞不味いとか?
64 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月17日(水)23時16分47秒
「でも三つってぇ…。多すぎですよぉ〜。」

「いいのっ。梨華ちゃん好きなだけ買ってくれるって言ったじゃぁ〜ん。」

しまった…。
ついつい言ってしまった。

「わかりました。」

少々、呆れるように爆発SASHIMIを三つ重ねて
そのままレジにもっていく。
店員は爆発SASHIMIなる怪しいものも
気にも留めずに、こう言った。

「温めますか?」

そう、この商品、刺身のくせに温めるのである。
すると、矢口は

「いいえっ、家帰ってあっためまーすっ!!」

満面の笑顔でそう言った。
石川はこの表情を見て悟る。
65 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月17日(水)23時17分26秒
(そうか…。矢口さんはこれが食べたいんじゃなくて…これを温めてみたいんだ…。)

矢口の目をひきつけたものはネーミング『爆発SASHIMI』のほかに
『レンジでチン!!あら不思議新食感爆発SASHIMI』のワードだったに違いない。

爆発SASHIMIの入った袋を手に下げると
足取りの軽い矢口。
まぁ、なんにせよそんな嬉しそうにする矢口を見るのが
石川は好きだった。
66 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月17日(水)23時17分57秒
「たっだいまぁ〜〜。」

急ぎ足で石川の部屋に入る矢口。
いつも先に入ってくるのは石川なので
出迎えたアフロ犬は面食らったようである。

「ちんちんちん〜♪ちんちんち〜ん♪」

矢口は一目散にレンジの前に。
すると、かぎを閉めた石川が呼び止める。

「矢口さん、チンする前に、ご飯炊きましょうよぉ〜
今日お刺身以外買って来てないですよー。」

そう、考えてみればこの二人、外食と買い食いが中心で
滅多に自炊することはない。
あったとしても、ほかに誰かが居るときだけだ(しかも毎回悲惨な後片付けが待っている)。

「そっかそっか、じゃあ矢口やるよ。」

「えっ!?矢口さんがお米とぐんですかー?」

「えっ?梨華ちゃんのトイレくさいご飯ができるのよりいいでしょ?」

「そんなぁっ石川の調理はみんなトイレくさいんですかぁ〜。」

「だって、この前に焼きそば臭かったし、この前のクッキーも臭かったし…。」

石川の調理が、というよりも、
この部屋に置かれた匂いの強すぎる芳香剤のせいなのだが。
67 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月17日(水)23時18分28秒
「ぐすんっ…。じゃあ、お願いします…。」

「うい、アフロ犬と戯れてなっ。」

そういって、腕をまくるそぶりをする矢口。
Tシャツであるが…。

キッチンを追い出された石川梨華19歳。
しょうがないので言われたとおりにアフロ犬と戯れる。

「ねぇっ、アフロ犬。私の作った食べ物ってトイレ臭いかな?」

「ニャーン。」

「そうよねー、臭くないもんねー。」

だから、何が「そうよね」なんだろうか。
一方、矢口はそつなく米とぎをしている。
意外に手際がいい。
実は、矢口は料理ができないわけではない。
できないのではなくてしないのだ。
それは面倒くさがりと言う特性に寄因しているが。

「あー、久しぶりだなぁ…いつぶりだろ。」

その手際のよさで、あっという間に
炊飯ジャーにスイッチを入れる段階まで終了した。

矢口が適当に手をぬぐい、部屋へ戻ると
石川がどんより沈んでいた。
68 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月18日(木)23時40分33秒
「あれ…。どした?」

石川は矢口を黙って見つめると
泣きそうな顔をして矢口に抱きついた。

「矢口さ〜ん!!アフロ犬がぁ〜うんって言ってくれないのぉ〜。」

「ハァッ?」

まったくそのとおりだ。

「あのねぇ、あのねぇ、アフロ犬がぁ〜石川の相談に乗ってくれないんですよぉ。」

「ふぅ…まぁ、いいや。ご飯スイッチ入れたから。」

「あたしの料理、臭くないよね?って聞いてるんですけど、全然答えてくれな…」

「……。」
69 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月18日(木)23時41分08秒
そして、ウキウキしながら待つこと30分。
電子音がピーと鳴ると炊飯完了である。

「おっ、でけたぞおっ。」

「まだ早いですよっ、矢口さんっ!!蒸らしの時間が有りますっ。」

「あ、そっかぁ、待ちくたびれちゃうよー。じゃあ、生で爆発SASHIMI1個食べようよ。」

本来その食べ方が正しい。

「そうですね、ちょっと食べてましょうか。」

「食べくらべできるしねー、あ、そうそう、昨日梨華パパから送ってもらったワイン飲もうよ。」

「はぁいっ♪今用意してきますね♪」

やっと仕事をもらえた、といわんばかりに
満面の笑みを浮かべてキッチンへ向かい
爆発SASHIMIとワインを手に戻ってくる。

「じゃあ、頂きましょっ♪」

「うんっ♪」

さっそく食べようとする矢口と石川。
一口…
70 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月18日(木)23時41分40秒
「ん?普通の刺身だね…。」

「そうですね…。」

「まぁ、当たり前って言えば当たり前だよね…温めてないんだし。」

「そうですよねー、温めてみたいとわからないですよね。」

そう言いながらワインをあけて、グラスに注ぐ石川。
注がれたそばで胃に流し込む矢口。

「う〜ん、刺身にワイン。外人になった気分だねー。」

「やぐひさ〜ん。」

石川は口をもごもごしながら
ふと爆発SASHIMIのラベルを目視した。

「なぁにひぃ?」

「これ、なんか逆輸入らしいですよぉ。」

「へぇ〜。じゃあアメリカで馬鹿ウケとか?」

「そうみたいですねぇ〜。なんかこれ…温めすぎ注意とか書いてありますけど…。」
71 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月18日(木)23時42分21秒
「おっ!?それはおもしろそうだっ!」

「ちょっ、矢口さん!?もしかして…、やめたほうがいいですよっ。」

また悪巧みな矢口の表情が…
やるなといわれればやってみるのが矢口の性であり
やはり、とめようとする石川の声も聞かず…
キッチンに向かってレンジに残りに2個を重ねて放り込み
規定の3倍以上の時間にセッティングして
温めON。

レンジの前でぐるぐる回っている刺身を覗き込んで
今か今かと楽しみにしている矢口。

が…。

石川がワインを煽っているとき、矢口に突如としてそれは訪れた。

BOOOOOOOOOOOOMMMMMMM!!!!!

「うわぁっ!!」

ガツッ。

「ギャッッッ!!」

ドサッ。
72 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月19日(金)23時06分18秒
何事かと、軽い千鳥足で居間から石川はキッチンへ向かうべく
ドアを開いたとき、思いもしない衝撃の映像が。

「や、やぐちさんっ!?きゃああああああああああああ!!!!!」

そこには壁に頭をもたれ掛けるように矢口が倒れていた。
バラバラになった爆発SASHIMIらしき物を頭にかぶって…。
慌てて石川は矢口のもとに駆け寄り、揺さぶった。

「やぐちさんっ!!やぐちさんっ!!死んじゃいやぁぁぁ!!」

もう石川の頭の中は錯乱状態に陥っていた。
激しく揺さぶってみても矢口はピクリとしない。
ポトポト頭から、体から、落ちてゆく爆発SASHIMI。

「どうして…どうして…死んじゃイヤァァァァァァ!!!」

73 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月19日(金)23時06分53秒
涙が流れ落ちる。
止まらない、止めようともしない。
矢口を抱えて身動きが取れずにいた…。

「まだ、間に合うかもしれない…。」

石川は矢口にかぶった爆発SASHIMIを振り払うと
矢口を抱えて、ベットに運ぶ。

「どうしよう、どうしよう、どうしようどうしようどうしよう…。」

ベッドの周りを矢口を見つめながらウロウロして
錯乱状態の頭で必死に考える。

「だめっ、どうしたらいいかわかんないっ!!」

冷静になろうと、ワインをグラスに注いで一気に飲み干す。

「んっ、よしっ、こういうときは人工呼吸しかないわっ!!」

一念発起。
いざ、と意気込んで石川は矢口の唇に自らの唇を近づける…。
74 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月19日(金)23時07分30秒
(矢口さん…色っぽい唇してるなぁ…。)

案外艶っぽいその唇を凝視してしまったおかげで
急にドキドキしてしまって
バッっと矢口の唇と距離を離す石川。

「ダメッ、ドキドキしちゃう…落ち着かなきゃ落ち着かなきゃ…。」

そして石川はテーブルまで戻ってワインをグラス一杯飲み干す。

「ふぅ、今度こそ…。助けなきゃ、矢口さん助けなきゃ…。」

再び、矢口の元に戻り、今度は寝ている矢口に跨って
マウントポジション…。

(しちゃうぞお。しちゃうぞお。)

もう彼女の身体には相当のアルコールが回っていた。
石川は矢口の鼻をつまんで唇を重ねた。

(あれ…?)

またすぐに矢口の顔から離れる。
75 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月19日(金)23時07分59秒
「あれ…?」

石川はとっさに耳を矢口の胸に当てる。

トクントクン…。

「あれっ…。」

今度は脈を計る。

トクッ、トクッ…。

「あれれ??」

矢口の鼻のあたりに手をかざす。
生暖かい風を感じた。

「えへっ♪梨華ったら早とちりしちゃったぁ〜♪」

一先ずほっと胸をなでおろす石川。
安堵の表情で、テーブルに戻ると
またグラスにワインを注いで飲み干した。
76 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月19日(金)23時08分39秒
「頭打って気絶しただけみたいね♪良かった♪」

「私もねよっかなぁ…。矢口さ〜ん♪」

石川はほろ酔い気分になって、矢口のそばに添い寝する。
矢口の顔を、姿をまじまじ見つめる。

(かわいいなぁ〜矢口さん♪)

よくよく見てみれば、矢口のTシャツがまくれ
かわいいヘソが露出している。

77 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月20日(土)02時44分15秒
この小説大好きですはあとはあと
頑張って下さい( ^▽^)
78 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月20日(土)23時03分18秒
「矢口さぁ〜ん、おなか冷やしちゃうよぉ〜♪」

裾を小指を立てながら掴んで…
止まった…。

「…無防備ですねぇ、矢口さん…。男の人だったら…放って起きませんよ…。」

すこしめくり上げてみる。
締まった身体、筋肉質でそれほど脂肪がついていない。
夏場太陽燦燦のなか働いている肌は石川ほどではないが
健康的な小麦色…。

「いつも裸で寝てますよね、矢口さん…。今日も裸で寝ないと…。」

そっと、捲くりあげ、うまい具合にTシャツを脱がせた。

「いや〜ん…矢口さんたら…Hな身体してるぅ♪」

「私も脱ぎますねっ♪」

そう言って、小指で矢口のヘソを弄くるのを止めると
自らもTシャツを捲り上げ脱ぎ捨てる。

「矢口さん…ちっちゃい体…。」

手のひらで矢口の身体に触れてみる…。
そのとき、石川の脳内では甘く吐きそうな妄想が
巡り巡っていた。
79 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月20日(土)23時03分53秒
―――――――妄想―――――――

菜の花の花畑…
矢口と石川は生まれたままの姿で
花畑を走っている。
矢口と石川は笑みを浮かべ
矢口は石川から逃げるように
石川は矢口を追いかけるように

「矢口さぁ〜ん♪まってぇ〜♪まってぇ〜〜〜♪」

「ここだよー梨華ちゃ〜ん、こっちおいでぇ〜。」

「フフフフ〜待ってくださいよぉ〜♪」

「アハハハハハ〜〜〜。」

「つかまえたぁ〜〜♪」

石川は矢口の身体を覆うように抱きしめる。
すると矢口が振り向いて…

「愛してる…梨華ちゃん…。」

「私も…愛してます…。」

互いの肌が触れ合い、そして二人は抱き合って…
徐々に近づく唇と唇。

――――――――――――――
80 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月20日(土)23時04分28秒
「あっ…矢口さん…キスうまい…。

そんなことないよ、梨華ちゃんのほうが上手だよ…矢口を嫉妬させる気かい?

そんなぁ、私は矢口さんだけよ…。

じゃあ、いいんだね…。」

「んん〜〜…。」

微妙なアニメ声の1人芝居で
妄想に浸っていた石川を現実に引き戻すかのように
矢口が目を覚まそうとしていた。

(矢口さんっ!?)

「ダメッ!!起きちゃダメェっ!!」

ガンッ!!

「ぐえっ。」
81 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月20日(土)23時05分16秒
とっさに石川は矢口の頭を掴むと
持ち上げて壁にぶつけた。

「フゥ…せっかくいいところだったのにぃ〜。」

ふと、矢口を見るとぐったりしている。

「あっ、いけないっ、私ったらなんてことを…、梨華のバカバカバカ。」

自らの頭をポコポコたたく。

「落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ。」

石川はゆらっと起き上がると再びテーブルまで行き
ワイン二本目を開け、一杯グラスに注いで飲み干した。

「フゥ…、どうしたのかな…、今日のあたし…すっごく破廉恥…。」

再びゆらゆらベッドに戻って矢口を見つめる。
矢口の顔、矢口の首、矢口の胸、矢口のヘソ…

「あ、矢口さんヒモ跡ついちゃってますよ…。」

よくよく見てみると、ジャージの紐の跡が出来ていた。
82 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月21日(日)23時26分47秒
「梨華が解いてあげるぅ〜。」

プルプル震える手先で、シュルッと蝶結びを解いた。

「裸で寝てるもんね♪矢口さんっ♪」

続けて矢口のジャージを掴みズルっと下げ降ろした。
見事下着のみの矢口真里の出来上がりである。

「ハァハァ…やぐたん萌えぇ〜…。」

こうしてみると、矢口は一般に子供体型に見られがちだが
なかなかどうして、それなりな女の身体になっている。
彼女自身はそれほど体つきに自信があるわけではないようだが。

そんな矢口の下着の姿で萌えまくる石川梨華19歳。
またまた変な妄想に入ってゆく…
83 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月21日(日)23時27分23秒
―――――――妄想―――――――

秘境の温泉で、湯に浸かる矢口と石川。

「いやあ、気持ちいいねぇ、梨華ちゃん。」

「そうですねぇ〜、来てよかったですねぇ〜…。」

「もう、この気持ちよさったら、サイコーだよ梨華ちゃん。」

「そうですねぇっ♪」

「でも…。」

矢口が湯船の中を滑るように石川の隣りにやってくる。

「でも…?どうしたんですか…、キャッ。」

「もっと気持ちいいことしようよ…梨華ちゃん。」

矢口は甘い吐息交じりの言葉を耳元でささやいた。

「矢口さん…。こんなとこどじゃダメ…、お風呂出ましょ…ここじゃ恥ずかしい…。」

「誰も見てはいないよ…こんなところにいるのはサルぐらいさ…さ、恥ずかしがらずに…。」

矢口は石川の肩を抱き寄せる。
湯気を纏った二人は温泉以上の快楽の世界へと…

――――――――――――――
84 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月21日(日)23時27分57秒
「いいだろっ、梨華ちゃん。

ダメッ、ここじゃ嫌っ、お布団の中でじゃないと梨華いやっ…
…ダメってばぁ…矢口さん……んもぅ…慌てん坊さんなんだから♪

しょうがないじゃないか梨華ちゃんが欲しいんだ…。」

完全に妄想の世界である(二回目)。
そんな時、また再び矢口が気絶の世界から…

「んっ…いつつつつ…あったま痛い…。」

「ダメッ!!おきちゃだめっ!!」

ガンッ!!

「グハッ!!」

まるで、糸が切れた操り人形のように、
また再び矢口は気絶の世界へ誘われた(3回目)。

「せっかくいいところだったのにぃ〜…。ってなんて事を私はしてるのっ!!」

急に我に帰る石川。
気付けば、矢口は石川の手により3度目の気絶をさせていた。
85 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月21日(日)23時28分37秒
「破廉恥な妄想なんかしちゃって…おかしいわ…私…。」

そう言って、またフラフラとベットから離れて
ワインをグラスに注いでぐいっと飲み干した。

「落ち着かないと落ち着かないと…。」

彼女は分かっていなかった。
この落ち着かせる為に飲むワインのせいで、妄想が加速をしていることを。

「う〜…顔があつぅ〜い…どうしちゃったのかなぁ…。」

ワインのせいですよ、ワインの。

そしてまた、矢口のそばに添い寝する石川。

「矢口さんがこんなエッチな格好するから悪いんですよぉ〜♪」

オイオイ。

「あとは、ブラとパンツを取っちゃえばいいのねっ♪うふふふ♪」

石川の脳内回路が明らかに短絡している。
あるいは増幅器が異常に従接続されて妄想が加速増幅されているのか…。
86 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月22日(月)23時06分31秒
フロントホックのプラジャーをパチっと外し、するすると取り去り、
紐パンの紐をヒュッっと解いて取り去る。
生まれたままの姿の矢口真里の完成である。

「私も、裸になっちゃお〜〜♪アハアハアハ♪ハァハァ。」

壊れてる。

あっという間に二人は生まれたままの姿に。
ついでにテンションの違う飼い主に怯えアフロ犬は部屋に片隅にいた。

「いやーん♪矢口さんエッチぃ〜〜♪もうっ、何処見たらいいのか分からないですよぉ〜♪」

「こんな矢口さん見てると…すっごいエッチな気分になってきちゃいました…。」

そおっと、石川は矢口の身体に手を伸ばす。

モミモミモミ…。

「いや〜ん♪ちっちゃいけどやわらかぁい〜♪もうたまんねーッス、たまんねーッス。」

そして自分のを…

モミモミモミ…。
87 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月22日(月)23時07分18秒
「イヤ〜ン♪私のおっきくて柔らかぁ〜い♪もうたまんねーッス、たまんねーッス。」

自己満足らしい。

「やぐたんハァハァ…。やぐたん…。」

またかと言うくらい再び石川は妄想の世界に入っていった。
88 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月22日(月)23時07分49秒
―――――――妄想―――――――

ラブホテルの一室で生まれたままの姿の二人。
ベッドの上で石川の上に覆い被さるようにちっちゃな身体が跨っている。
見詰め合う二人。
その表情は真剣そのもの。

「梨華……、好きだよ…梨華…。」

「私も…私も好きよ…真里っ…。」

「愛してる…。」

「私も愛してる…貴女じゃないとダメ…。」

「矢口も梨華じゃないとダメだ…。今すぐ抱きたい…。」

「後悔しない…?真里は今ここで私を抱いて後悔しない…?」

「後悔なんかしないよ…、これから最大の愛で梨華を抱くよ…。いい?」

「うん…。優しくしてね…。真里。」

石川の瞳を見つめ、コクッと頷く矢口。
そして石川は瞳を閉じた。

重なる唇と唇。

そして矢口はそのまま首筋にキスを落とし
石川の身体はいやらしくくねり出す。
さらにその下へとキスは伝わって…

――――――――――――――
89 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月22日(月)23時08分24秒
「いやっ、だめぇっ、そこは汚いよぉ〜…。

汚くなんてないよ、何処の部分も矢口の愛した梨華なんだよ…。

嬉しい…あっ、だめっ、おかしくなっちゃうっ。キャァ〜〜♪」

自分で妄想に浸って恥ずかしくなって顔を覆う。
しかも、気絶中に矢口をこれでもかというくらい
バシバシ叩いている。

「もうっ、矢口さんたらっ♪こんな積極的…きゃぁぁぁ♪」

そんな時、再び矢口が目覚めようとしていた…。

「ツ…イテテテテ…。」

「起きるなぁぁぁ!!」

ドスッ!!

「グォファッ!!」

溝に一撃必殺。
さすがに頭は、もうヤバイと壊れた脳回路で判断が出来たようである。
再び誘われる気絶の世界4回目…。

「あっ、いけないっ…大切な矢口さんに…私なんてことを…。」

また、ふと正気に返ると、テーブルに向かって
ワインをグラスに注いで、煽った。
どうやら、二本目のワインボトルも空けてしまったようである。

「あーーーうめぇっ♪うめぇよぉ〜〜♪きゃっ♪」
90 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月23日(火)23時09分26秒
そして再び矢口の元へ…。

結局この日…、石川はこの行為をこの後4度ほど繰り返した。

ガスッ!!「グハッ!!」 ゴクッ。「やぐたんハァハァ」
ガスッ!!「グハッ!!」 ゴクッ。「やぐたんハァハァ」
ガスッ!!「グハッ!!」 ゴクッ。「やぐたんハァハァ」
ガスッ!!「グハッ!!」 ゴクッ。「やぐたんハァハァ」

ワインボトルの空き瓶は3本、開封したボトルが半分ほど飲み干された。

「う〜、もうだめぇ〜…梨華ねむぅ〜い♪矢口さぁ〜ん好きぃ〜、大好きぃ〜…。
アヒャヒャヒャ。やぐたんハァハァ…。」

真っ赤なで眠そうな顔。
目をしょぼしょぼさせて、擦る。

「矢口さ〜ん…好きぃ〜…。」

そう言って、石川は矢口の胸に頭を乗せて眠りについた…。
91 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月23日(火)23時10分11秒
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。

電子音が12畳の部屋に木霊する。
その電子音は段々に音を大きくさせていった。

ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!!…。

「うるせぇ…。うぜぇ…。」

ちっちゃな身体は音源を探るかのように手を伸ばす。
その音を発する物体を掴むと、それを放り投げた。

ガシャッ。

鈍い音と共に、電子音が止む。

「ん…重い…なんだ…重ぇ…。暑ぃ…。」

やっとの思いで薄目をあける。
何か黒い物が胸の上に乗っていた。
それが何気に重く…矢口を苦しめていた。
息苦しさから、暑さから開放されるべく、

「よいしょっ。」

その物をどけて、起き上がる。
そして大きな欠伸をして、体中を掻いた。
92 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月23日(火)23時11分35秒
「いってぇっ!!」

頭を掻いていた時だった。
なにやら頭の形が変だ…。
触ると痛い…。
矢口の頭には3重のタンコブが出来上がっていた。

「イテテテテ…なんだ…?腹もいてぇ…。」

みぞおちも何故かジンジンする。

周りを見渡せばまず先方にワインボトルが三つ転がっている。

そして、起きた際退かした物を改めて確認した。

「ハァァァァ!?????」

わけがわからない。
なぜなら、いつの間にか自分は裸。
そして、退かしたのは石川の頭。
その石川当人もまた、裸なのである。

「ええぇぇぇぇぇぇ!???」

さらに混乱。
何があったのか思い出してみるものの、
あの爆発SASHIMIの爆撃にあってから、その先が思い出せないのだ。
93 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月23日(火)23時12分37秒
「ううぅぅ、イテテテテ…な、なにが一体…。」

すると、眠っていた石川も同様に目を覚ましたようである。

「ん〜…アタタタタ頭痛い…。」

そう言って、酒くさい息を吐いた。

「おはよう梨華ちゃん。」

「あ、矢口さん…いててて…おはようございます♪」

「ねぇ、梨華ちゃん…昨日なんかあったのかな…?」

「え…覚えてないんですか…?」

「うん…。なんか爆発SASHIMIが爆発したあたりまでしか…。」

「ひどーいですよぉ、矢口さーん。」

「え?」

「あ・ん・な・に・も・え・た・の・にっ♪」

そう言って石川は矢口の鼻をツンと突いた。

(エ”エ”エ”エ”〜〜〜!????)

「さて、おきましょっ。矢口さんっ。いたた…、っ今日もっバイトですし…。」

「ああ、うん。」

いつものように石川はベットを起き上がると、テレビのスイッチを入れた。
94 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月24日(水)23時22分22秒
なにやら、額にほくろがある中年が速報ニュースをしていた。

『今日入ったニュースです。昨日、コンビニエンスストア「サークルイレブン」にて発売された
爆発SASHIMIの言う商品を温めた際に過度の爆発が起きるという欠陥が見つかり、
サークルイレブンでは商品の販売中止と…。』

「ハァッ!?」

そう、爆発SASHIMIは生涯を1日で閉じてしまった。

「あれ…ですよね…。」

「あれだね…クソッ!!あいつのせいで知らぬ間に…梨華ちゃんを…。」

「はいっ?なんか言いましたかぁ〜♪」

「なんでもない…っ、頭いてぇぇぇ…。」

「矢口さんっ♪頭目立つから髪でも縛っていったらどうですか?」

「うん…そうする。」

終始石川は二日酔いであるが、ニヤニヤ怪しい微笑を浮かべていた。

「(〜T◇T)<キショッ。」
95 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月24日(水)23時22分56秒
この問題の爆発SASHIMI騒動。
社会に十分打撃を与え、マールゾロの株価を
大暴落させたのは言うまでもないことだが、
その他にもいろんな意味で波及したようである…。

矢口と石川はいつもの如くまーるぞろに向かえば
陳謝文のコピーみたいな物が張り出されているし、
店の窓にはスプレーで罵倒落書き
『イッテヨシ』『回線切って首釣って氏ね。』『おにぎりワッショイ。』
『吉野家』『精神病院』『ズサー3ゲトー』『( ^▽^)<しないよ。』
などとAA交じりで書き込まれていた。

そして、デパートに珍しく時間内に辿り着いた。
そしていつものようにスタッフ全員が顔をあわせる
打ち合わせにおいて…

「あれぇ〜、何でみんな今日は髪縛ってん〜?」

加護が気がついた。
いつも髪を縛っている石川と眠っている後藤は抜きにして
残り4人が違和感が残る感じで髪を束ねていたのだ。
それに加えて、何気なくどんよりした空気でもある。

「う、うっさい。」
「べ、べつにいいじゃん。」
「五月蝿いわよっ、いいじゃないのっ!!」
「そうれすよっっ!!」
96 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月24日(水)23時23分27秒
「しかも、ののお団子三つに束ねとるし…どないしたん?アハハハハ。」

「ウフフフッ♪」

「zzzzz…んぁ??爆発SASHIMI食べたかったなぁ…。zzzz…。」

「「「「ギクッッ!!!!」」」」

加護の無邪気な笑い声と石川の含み笑いと
後藤のイビキだけが、ミニモレンジャースタッフ楽屋に響いた。
97 名前:第7話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年07月24日(水)23時24分08秒
追伸。
保田が平家にあげたパー券、
それを手に平家は意気揚揚と会場に向かってみるものの
架空の住所の書かれたものだったそうな。
98 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年07月24日(水)23時26分30秒
第7話終了です。
第8話は1週間お休みを頂いた後開始予定です。
第8話開始前にまとめて返レスをしたいと思います。
99 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月30日(火)20時04分28秒
石川の妄想に脱帽
100 名前:名無し 投稿日:2002年07月31日(水)07時17分42秒
1週間って長いね・・・この小説の更新が途切れた時は、切実にそう感じるよ
101 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年08月01日(木)00時16分11秒
>>63
あまり美味くもなかったりします。
>>77
ありがとうございます。
>>99
彼女の妄想には限りがありません。
>>100
まもなく開始いたします。
102 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月01日(木)00時17分08秒
汗ばむ夏の夜は非常に寝苦しい。
耳元によってくる蚊はその感覚を増幅させる。
ただでさえそうなのに、隣りに36℃の熱源が引っ付いているとなると
クーラーをガンガンに効かせる以外に方法はなくなってしまう。

「矢口さん、お腹冷えますよ?」

まるで舌を出して暑さを凌ぐ犬のように
矢口は掛け布団を蹴り飛ばして、素っ裸でエアコンの冷風を浴びていた。

「大丈夫だってば、ヤグチの腹は強いんだから。ほら、フッ!!」

そう言って力を込めた腹は

「…び、微妙…。」

に引き締まっていた。
まぁ、引き締まっているから冷えないという問題ではないような気がするが、
それなりに山谷がうっすら出来上がっている。

「それよりさー、明日は焼肉食べにいこうよ。こういうときはスタミナスタミナ。」

「また石川の奢りですかぁ〜?」

「もちろんだよ。今更何言ってんの?」

「何言ってんの、って……。」
103 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月01日(木)00時17分53秒
矢口の頭の中は金が占拠していることは
すでに何度も言ってきたが、
そのために、彼女の考え方は他の人とはちょっと違う。

矢口は給料日に給料を貰うと、
その時点から、また次の給料日までのカウントダウンが始まるのだ。
それはカレンダーに給料日の翌日から日付の下に30・29・28と
逆算的に数字が書き込まれているほどだ。
なんとも気が早い。
早すぎるし、借金取りに追われて金がないわけでもない。
本当に金が好きだと改めて分かる。

「あー、やっと明日は給料日だねー。楽しみだなーワクワク。」

明日はいよいよ給料日。
ウキウキ気分は内部だけにはとどまっていない。
矢口の肌の化粧ノリも異常に良くなってくのだ。

「給料日って言っても、いつも石川のお金使い放題じゃないですかぁ。」

「えー?ちゃ〜んと、その分の見返りをあげてるでしょ?ウリウリ…。」
104 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月01日(木)00時18分27秒
「んもぅ……あっ…矢口さん、ダメ……。んんっ…。」

「ダメなんて言いながら…感じてるから耳が真っ赤なんだよね?」

「ううぅ……意地悪しないで……。」

「意地悪?何のこと?…わからないなぁ…ん?」

ぬぷっ

「矢口さん……そこは…違う……」

「え?違うって……うわっ!!汚ぇ!!!」

よく手を洗いましょう。
キレイキレイしましょ。


105 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月01日(木)00時18分57秒
ピカピカのクラウンがデパート入り口に停まる。
守衛もガードマンもいないため、パワーウインドウを空けて
やっと届くか否かのところまで手を伸ばし遮断機の暗証番号を打ち込み
遮断機を開けさせた。
まだほとんど車のない駐車場にポツンと車をど真ん中に置くのは彼女の日課。
フレキシブルタイム制をうまく使う。基本給が大卒の割には少なすぎる為、
毎日残業手当を貰う為には朝早くから来るしかないのだ。
無駄に最新式セキュリティに囲まれた賃貸マンションなんか
借りるからこんな残業ばっかりの生活になるのでもあるが…。

さて、そのクラウン中からは朝からキリキリと保田が出てきた。

「あーっ!今日も暑いわねっ!!!」

お天道様にさえもキツイ口調で対決姿勢か、
カツカツと非常階段を上がる足音はその速度を上げた。
燦燦と朝早くから降り注ぐ太陽光線。
せわしなくセックスアピール中の蝉。
じりじりとやきついたアスファルト。
熱くなった手すりとドアノブ。
106 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月01日(木)23時06分01秒
控え室の入り口の鍵を開けて勢いよく扉を開くと
モワッとした熱気が一気に押し寄せてきて
思わず顔を背ける。

「人の居るべき部屋じゃないわね…ここは…。」

息を止める必要もないのに、入り口で大きく息を吸って
息を止めて部屋に足早に入ると窓を全開させた。

「プハーっ…あっちぃ〜…。」

窓を開けても一向に変わらない部屋。
ともすれば、外のほうが涼しい。

「あっ!今日は給料取りに行かないといけないわっ!
忘れてたわよっ!」

そうだった。
昨日矢口が『明日は給料日だ』と連呼していたのを思い出して
またすぐに控え室を出る。
コンクリートの屋上は、熱気で景色がユラユラと揺れるほどの暑さだ。

「なんなのよっ、ホントに…。」

さっき来た道をまた戻る。
そしてクーラーの効いた事務所へ。
ただ、その部屋はクーラーは効いているが、暑苦しかった。
107 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月01日(木)23時07分26秒
「は〜い?」

コンコンとドアをノックするとその声が聞こえた。
フレキシブルタイム制を保田以上に利用している人物がそこに居る。
フレキシブルタイムなんて使わなくてもいいような人物なのに。

「保田です。」

「ああ、どうぞ〜。」

トイズEE代表取締役社長、和田薫。

あまりに管理職っぽくないために
保田はかなりの不信感を抱いていた。

「あー、今日は給料日だったか、アヒャヒャヒャ。」

この笑い方もその原因の一つ。
何か危ない物でも吸っているかのようにテンションがいつでも高い。
ついでにキショイ。

「どうもありがとうございま…」

二つの束―保田の給料袋とメンバー分6つの給料袋―を手にしたときに
和田は一言付け加えた。
108 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月01日(木)23時08分01秒
「保田の給料、今月から減給だから。アヒャ。」

「え?何でですかっ!?」

「経営が厳しくなってな、客はハチャマやハローズに取られてるし。
朝早く来て無駄に稼いでるのは知ってるぞ、アヒャヒャ。」

「…そうですか。」

(クッ、あんたもそのクチでしょうが…。)

「まぁ、そういうこと。アヒャヒャヒャ。」

ガチャッとドアが閉じると
また暑い廊下を歩くことになる。
しかし、保田にはそんな暑さを気にしている余裕はなかった。

「もう、賭けにでるしかないわねっ…。」

やはり、自分の給与の中身を確かめれば本来の額より何割か少ない。

ギラギラと輝く太陽の下、保田の両目もギラギラと輝いている。
控え室へ戻る前に駐車場へ。
そして愛車を飛ばして近くのコンビニへと向かい、
慣れた動きでとある物を購入してほくそえんだ。

「今日のはガチガチだわっ…。これで倍ねっ!」
109 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月01日(木)23時08分39秒
「んぁ、圭ちゃんおはよ〜。」

再び控え室に戻ると、後藤が居た。
フレキシブルタイムも無いバイトなのに朝早くから居る
彼女は何の為にいるのか…。
そんな後藤はクーラーの真下で机に寝そべって涼んでいる。
110 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月02日(金)23時12分18秒
「ごっつぁん…ひとつ、頼みごとがあるのよ…。」

ゴニョゴニョ。

誰もいないのに、保田はヒソヒソ話で用件を伝えた。
伝えられた後藤の顔は、ちょっと引き攣っていた。

「わ、わかったから、もうちょっと離れて…。キショいんだけど…。」

「な、なによっ!!これでも喰らいなさいよっ!!」

「た、たすけてぇっ、誰かぁ誰かぁ〜〜〜。」

助けを求める声もむなしく蝉の鳴き声にかき消された。
111 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月02日(金)23時12分55秒
「いくぞー!『もっともっと…』だー!!」

いつもなら物凄く鬱になるこの技だが
今日はちょっとだけやる気になる。
なんせ、給料日なのだから。
給料を手に入れた後の『ダッチ』で
銀玉を弾いて大笑いしている自分の姿が浮かぶ。
しかし、矢口に言わせれば給料貰うためにやっているこの技。
給料アップを交渉したいくらいである。

いつもの通り四つん這いになったが
今日はあることに気づいた。
それは、カメラ小僧がミセパンからハミパンしてるかどうか
激写していること、ではなくて
その向こうに保田が歩いているのを見つけたからだ。

「あれ?圭ちゃん何やってんだ?……グゲッ!!ハウッ!!」

一瞬の気の乱れが、モロに辻と加護のストンピングを受けることになっているこの技、
良いこのみんなは真似しちゃだめよっ♪である。
ついでに、ヘルニアになるよ♪である。

「ん?あれ、圭ちゃん何やって……ゴキッ!!!」

不運なことに、吉澤も気づいてしまった。
そのおかげで人間大砲が側頭部に直撃。
そして、それ以降の数十分の記憶はなくなるのである。
吉澤さん、保険入りましょう。
合掌。
112 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月02日(金)23時13分27秒
「あれ、圭ちゃん、どうしたべさ?ヤグチ達まだショーやってるべ?」

開店休業のモナーのクレープ屋。
いつでも休業中の状態である。
そして店の中では丸椅子に座って安倍と飯田がゲームして遊んでいる。

「あんた達ねっ!そんなことだから儲からないのよっ!」

「違うよ、逆だって。客が来ないから遊んでるの。」

「だからってねぇっ!!もうちょっと客呼ぶ努力しなさいよっ!!」

「んなこといっても、トイズ自体が客来ないんだからしょうがないべー。」

「そうだよねー。カオリたちが悪いんじゃないもんねー。っと、カオリはコレッ。」

自分達が正論だと言わんばかりに仏頂面で飯田は保田の方を向くと
またすぐに視線を落とした。

「あー!カオリ!ミュウツーはセコイべさー!」

どうやらポケモソをやっているようだ。
よく見れば、ゲームボーイも初代のやつで
色は黄ばんできている。
走査線自体が何本かアボーンしてるし
デコピンでもすればフリーズしてしまいそうな勢いである。
再起動した際はNINTENDOの文字が出るのかどうか…。
113 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月02日(金)23時14分09秒
「今時初代ポケモンなんてダサイのよっ!」

「いいのっ、これ600円で売ってたんだもんっ。安かったんだもんっ。」

「まったくっ、いちいち圭ちゃん、ウルサイっしょ!
圭ちゃんだってショーやってるのにこんなとこでサボってるべさ!」

どうやら安倍のカイリキーはサイコキネシスで瞬殺されてしまったようで
イライラ混じりに語調も荒くなってくる。

「なっちは弱いなー。本当に4年前から持ってたのー?カオリ買ったの三ヶ月前だよー。」

「ううっ…未だにミュウツーが手に入れられないっしょ…。」

「しょうがないなー。カオリ使わないでおいてあげるよー。」

「く、屈辱だベ…、カイリキーが負けたのも圭ちゃんのせいだべさー!!」

「ウルサイわねっ!!四の五の言わずに競馬場行ってきなさいよ!!!」

「…競馬場?」
114 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月03日(土)23時08分06秒
卑怯なポケモソを使って満足気な飯田はプチッとスイッチをOFFにして
ようやくカウンターのところまで出てきた。

「競馬場なんて、カオリ達競馬に興味ないし。よくわかんないし。」

そんなことを言いながらも
直後に取り出された分厚い袋を見て
自分の想像通りの物が入っていることをちょっぴり期待する。

「70万ちょっと入ってるわっ!これでも行かないって言うのっ!?」

「……。」

      サッ
|ー ` ○ )ノ□彡

「あっ!!」

「これはなっちのもんだベー。」

「ゴルァ!!なっち!待ちなさいよっ!!!食っちゃうわよっ!!」

「うわぁ、くわれるぅ〜!!た、たすけてぇ〜!!」
115 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月03日(土)23時08分49秒
金を握り締めて逃走を試みた安倍だったが
鬼の形相で追いかける保田にあっけなく捕まって
こっ酷く怒られたとさ。
しかし、とても素人とは思えない手の動き。
もしや、本業はそちらかと思ってしまうほどの瞬時の出来事だった。
補導歴30回以上の達人のなせる業といったところか。

そんな二人に競馬場で何を買うのか指示をする。
全く聞いていないと言った感じで、
心ここにあらずで、しきりに70人の諭吉を気にしているようだった。

「わかったべさー。ハズレても、何も責任ないべさ。」

「ハズレ券は持ってくるのよっ!!」

「あーわかったわかった。んじゃ、なっち行こ。」

そう言って、何故かルンルンに去っていく。
それを見送る保田は大金を彼女達に本当に任せて良いものかと
彼女達の後姿を見ると不安になる。
116 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月03日(土)23時09分33秒
「あの2人…ホントに大丈夫でしょうねっ……心配だわっ!」

そんな保田を舞台裏へ向かわせるもの、
もちろん、お目付け役である。
彼女は片手にマミーのパックを持って台本を読んでいた…

「ごっつぁん!!」

「zzz……ん……んぁっ!!!」

様に見えた。
よく零さなかったなぁ…と思えてしまう。
まともに起きてる時間など一日で半分あったらいい方か。

「ったく、寝てたわねっ!?」

「ご、ごめん…。」

「まぁいいわっ。」

「???」

いつもなら表舞台にまで響き渡る怒号が
今日は聞かれない。
保田の額に手を当てて熱でも測ってみようと後藤に思わせるほど
なにやら不気味な雰囲気でだんだん近づいてくる。
異常な笑顔で、
怪しい笑顔で、
今にも食われそうで…。
117 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月03日(土)23時10分11秒
「え、あ、の……何か悪いことした…っけ?」

「ごっつぁん!!」

「ひいっ!!」

「今すぐ、なっちとカオリに付いて行くのよっ!」

「今すぐ行きま……んぁ?…何で?」

「だから、さっき言ったでしょうがっ!!」

「ん〜…何だっけアハハ。忘れた。」

さっきヒソヒソ話したばっかりなのに
後藤の頭の中は睡眠のおかげでスッカラカンになっていた。
今度こそグーで殴ってやろうとか瞬時にそんな思いに駆られる。

「んあっ!!わかったわかった思い出したよー!!いってきまーす!!」

「チッ!!逃げたわね。…本当にごっつあんで大丈夫かしら…。」
118 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月04日(日)06時39分33秒
お札変わるらしいですね。
119 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)00時46分29秒
一方、大金を手にした2人組は
何やらしょーもないことで盛り上がっている。
なにせ、70数万である、諭吉が70人…新渡戸5人、漱石20人。

「カオリー、この金どうするべさ?」

「ホストクラブとか行ってパーッと使おうか、ははははっ!!ボトルキープボトルキープ
そんでそんで、男の子もちかえりー。ハァハァ。」

「カオリ彼氏いるっしょー。悪いと思わないんだべかー?」

「遠距離だから何したって自由っしょー。なっちはどうしたいの?」

「なっち、美味いものタラフク食いたいべ……ん?」

「どしたの?」

動きが止まった安倍がチョンチョンと飯田の肩を叩くと
それにつられて振り向いてみる。

「んぁ。」

「ご、ご、ご、ごっつぁん!!何やってんのっ!?」
120 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)00時47分13秒
血の気が引くという言葉がある。
正にそんな感じ。
全てが聞かれシマッタって表情が前面に現れている。

「いやー……『圭ちゃんがなっちとカオリに付いていけ』って。
ごとーはまだ眠いんだけどね……行かないと食われちゃいそうで…ファ〜ワワワ…。」

思わぬ刺客に急遽作戦会議を始める道産子達。
トーキョードリームは泡と化してしまったようだ。

「どうするべさ!金使ったのが圭ちゃんにバレたら
なっち達はもう終わりだべ。バイトもFIREだべさ。」

「えー?競馬場なんて行きたくないんだけど。
カオリ、オヤジ臭いの嫌いなの。」

「最近の圭ちゃん危ないべ。なんか獲物を捕らえる目で…クビ以上に
なんかされそうで怖いべさ…。」

「それは分かるけどー、こんな大金見たこと無いっしょー。」

「でも、素直に従っとくべさ、少しは貰えるかも知れないべ。」

「でもーなんとか自分達で使いたいなー。」
121 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)00時47分47秒
ヒソヒソ話が流行っているのか。
人間、金絡みの話は堂々とできないように作られているようだ。
尚も続く二人の会話。

「仕方ないべさ。ごっつぁんはああ見えて意外としっかり者だべ。
欺くのはなかなか難しいべさ。」

「あーもう、しょうがないか…。ハイエナ作戦だね。」

意見がようやくまとまって、
タイミングを合わせたように一斉に振り向いた。

「「お遣いは大勢のほうが楽しいね♪」」

「……。聞こえてたよ。」

「「う゛っ…。」」
122 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)00時48分51秒
電車に揺られて競馬場へ。
今日は大きなレースがあるためか、駅を過ぎるたびに
競馬新聞を握ったオジサンが車内に増えていく。
いわゆる赤ペンおじさん。
ハンチング帽、耳に赤ペン、耳にイヤホン、片手に新聞。
定説どおりのスタイルをしたオジサンがゾロゾロ…。
どこからこんなに発生してくるのか。
携帯電話鳴りまくりな車内も嫌だが、
この車内も異様な雰囲気のオジサン集団に無言の圧力を受けているようで
安眠娘。後藤真希もなかなか寝付けなかった。

「んぁ〜…くさいよー…。」
123 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)00時50分00秒
3人が想像していた競馬場は
汚いコンクリート造りのむさ苦しい場所だったが
目の前に建つそれは
そんな想像よりも遥かに綺麗で驚いた。
オジサンばかりかと思いきや
群集に紛れて女性も居ることを確認してホッとする。
まぁ、ブランドに身を固めている、
見てからに夜型のおねぇさん達だろうが。

「意外だべな…。競馬って…流行ってる?」

安倍の言葉にも首を傾げる2人。
もちろん初競馬なのだが一難去ってまた一難。
オジサンばかりじゃないことにホッとする間もなく、
今度は馬券の買い方が分からず不安になっていた。
124 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)23時12分22秒
「どうするの?どこに行けばいいのか分からないんだけど…。」

しかし3人がその場に止まって考えることは許されない。
人並みは3人を飲み込んで、勝手に先へと進めてしまった。

「ぐっ。」

「うわっ。」

「痛っ!もうっ、なんだべさ!」

「なっち!ごっつぁんが居ないよ!?」

「えーっ!?ごっつぁん迷子!?」

初めは目の上のタンコブ(保田)の刺客と思っていた後藤だが
いざ居なくなると結構寂しい。
なんせ初めての空間に来てしまったのだから、
1人でも多いほうが心強い。
あの家系は本当に居なくなるのが得意というか、何と言うか…。

そんなこんなで場内へと入り込んでしまったわけで、
どうしていいか分からない2人なわけで、
この話は『北の国から』じゃないわけで、
田中邦衛は出てこないわけで…。
125 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)23時12分57秒
後藤は独り、通路をウロウロと歩き回っていた。

「んぁ…ハグレちゃったよ…。」

ドンッ。

「何やねんこのコっ!!痛いわー腕折れたわー…。」

「あ、ごめんなさいっ。」

全く競馬場の客とは柄が悪い。
ヤンママ風の女性に頭を下げて足早に去っていく。
そのせいで、更なる迷宮に入り込むのだが。

キョロキョロと辺りを見回せば
窓口に並ぶ人たち。
そしてちょっと上を見上げれば、
何やら電光掲示板に数字が並んでいる。

「人気か何かなのかなこれ。」

「どうしよ…?買ってみようかな…記念に。」

何となしに、もちろんオッズも確認せずに
窓口の列の最後尾に付いて進んでいく。
126 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)23時13分28秒
「あのー…幾らから賭けられます?」

雰囲気は大人びているが、
素人丸出しの質問は明らかに『私は未成年です』
と言わんばかりのぁゃιさ。
100円から賭けれることを知ってちょっと安心。

「あのー、じゃあ100円…。」

後藤の後ろに付いたオジサンは
ぎこちないやり取りに苛立ち気味だが
そんなことは気にならない、というか気づかないと言ったほうが正確か。

『どの馬券を買うんですか?』

「えっ?……じゃあ…5番と10番で。」

ようやく買った新幹線のチケットっぽい紙に
ご満悦の後藤。まだ当たったわけじゃないのに…。
127 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月05日(月)23時14分16秒
「あの。」

『?』

まだ何か、と言う顔をする窓口の女性。

「あの数字なんですか?」

『ああ、馬券の人気ですよ。』

「どうもっ。」

律儀に答える女性も女性だが、
丁寧に後が詰まっているのに深く頭を下げてその場を去る後藤。

「ごとーだから5と10、なんつってね。」

128 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月06日(火)23時10分46秒
誰も聞いてなかったから、ちょっと言ってみた、らしい。
ふと、オヤジ達が群がって見入っている
電光掲示板で自分の賭け馬を確認してみる。
100.0という数字が5-10につけられていた。

(お、結構数字高いなー、人気あるんだぁ〜、当たるかもー。)

広い緑の芝の上を馬達が我先に、と駆け回っている。
馬券を買った後藤は人並みをかき分けて
ようやくスタンドまでたどり着いて一休み。
周りには罵倒や歓喜など様々な表情をしているオヤジ達と
宙を舞う紙吹雪。
相変わらず安倍と飯田の姿は見当たらないが
それよりも早く次のレースが始まらないか、と楽しみにしていた。
なんだかんだ言って、ちょっと楽しんでいる競馬場。
初体験の競馬場が何気に嬉しいようである。
しかし本当は、彼女は馬券を買えるようになるまで
まだ1年あるのだった。
129 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月06日(火)23時11分27秒
狭い通路を何人ものオヤジが横行する。
そのオヤジをかき分けて、チープな椅子に腰掛けた。
目の前では何馬もの馬がウロウロとしている。
その中には後藤の賭け馬も居た。

正直テレビや本以外で後藤は馬を見たことが無かった。
こうして改めて本物の馬を間近にする。
少々生々しい格好をしているなぁと感じた。
馬がコースの上を行ったりきたりして
しばらくするとゲートに入っていく。

「んぁ?始まるのかな?」

トランペットの音色が鳴り響くと
俄かに周りに居たオジサン達も興奮気味に
馬達を凝視して目を血走らせる。

ガシャッ

ゲートが開いた。
後藤の買った馬はマズマズのスタートで
5番は集団の真ん中へつける。

「んぁ〜、周り囲まれちゃったよ…。」

一方10番は一番後ろで脚を溜めている。
130 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月06日(火)23時12分01秒
「10番もベリだし…ゴトーは失敗だ…。人気あったのになー。」

しかしこれはあくまで作戦。
逃げ、差し、etc…と色んな特性をもった馬は居る。
そんなことも知らずに早くも諦めムードで
オールスタンディングのハッスルトランス状態オジサンに
囲まれて1人だけ腰を下ろした。

「んぁ……?。」

前を覆うオジサン達の隙間から見え隠れする芝のコースで
徐々に状況が変化していることを確認すると、
俄かに後藤の心境も変化してくる。

「あ…5番が集団から抜けた…。」

最終コーナーを曲がりきると
5番の馬体は外へと持ち出され、前が開けた。
満を持して鞭をしならせる騎手につられて
どんどん加速していくと、
遂に先頭の馬を交わした。
131 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月06日(火)23時12分51秒
「んぁ!5番が1着だ!」

後は10番、と
他の場所に目を遣って10番を探してみた。
しかし後ろの方に居たはずの10番が見当たらない。

「どこだ……ん?あれ?」

そう。
ずっと溜め続けてきた脚を遂に解き放った10番は
1匹だけ別次元のスピードでグングンと加速していく。
直線は残り僅か。
大外から突っ込んでくる10番はゴール寸前で2着に上がり
そのままレースを終えた。

空を舞い上がるハズレ券が後藤にとって
祝福の紙ふぶきのような感じがした。
目の前での出来事に唖然としていた。

「当たった…。」
132 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月07日(水)23時03分15秒
まじまじと両手を添えたあたり券に視線を下ろす。
確かめてみて改めて当たっている事を確認した。
まさにビギナーズ・ラックというやつだろうか。
見事に100倍の馬券を的中させた後藤だったが…

「強い馬なのに苦戦したなぁ…。」

やっぱりオッズの見方が分かっていなかった。

当ててはみたが、これからどうしよう
と、またウロウロ。
明らかに挙動不審だが、人ゴミに紛れてそれほど目に付くことはない。

「あのー…」

とりあえず1人でタバコを吸っていたオジサンに馬券の換金の仕方を尋ねてみる。

『おねーちゃん、さっきのレース当てたのかい!?』

「え、ええまぁ。」

『勝負師だねぇ。』

「んぁ?」

『あそこが換金所だよ。あんた初めてだろ。顔に書いてあるよ。』

オジサンはにこやかにそう答え、近所を指差した。
133 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月07日(水)23時03分56秒
「どうも…。」

『がんばれよ、新人勝負師さん。』

そういわれて、照れくさそうにすこし頭を下げた。
正直なところ、判子要りますか?とか言わなくてよかった、と
ホッとしながら、勝負師という言葉にちょっと浮かれてみる。

「んぁ〜…勝負師かぁ…。」

頭の中には渋い顔をしてハンチング帽、赤ペンに新聞。
そして、タバコを吹かす姿が描かれているようだ。

「えへへ……。」

不気味。

換金所に向かって、しばらく並ぶと
ようやく自分の番がやってきた。
もうこの競馬場のザワザワという喧騒に慣れてしまったか
平静な状態で振舞うことができるようになっていた。

「100円が…」

紙を一枚差し出すと、やはり紙が一枚返ってきた。
予想もしていなかったお顔を拝むことになるとは、
普段からオットリ系の後藤もビクーリである。

「10000円になった…。」
134 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月07日(水)23時04分51秒
諭吉をまじまじ見つめる。
見慣れたものではあるけれど、意味合いが違う。
当てた物なのだ。
ボーっと一万円を見て突っ立っている後藤を
何人もの中年が邪魔そうに避けて通行していった。


「あー!ごっつぁん!こんな所に居たべさー!!」

訛った声に反応して思わず10000円札をグシャッと握り
ポケットに突っ込んで安倍のほうを振り向く。

「ん、んぁ…。迷っちゃった、ははは…。」

「はははじゃないっしょ!もうっ、なっち達、レースの…なんだっけ?パ、パ…」

「パドック。」

「ああ、そうそう。パドック見てきたべさー。」
135 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月07日(水)23時05分25秒
飯田と安倍はどうやらパドックで何らかの情報を仕入れてきたようだが、
果たして素人がパドックを見て何が分かるのだろうか…。

「カオリがメモしたの。…見る?」

「んぁ…どれどれ…。」

広告紙の裏側に描かれていたのは…

「……これって…犬?」

ピカソもビクーリの印象派絵画だった。
136 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月08日(木)23時06分11秒
「はぁ!?ちょっ、カオリ!何してんだべ!!」

謎の生命体、というか、描いた本人は馬の絵だと言っている。

「はぁ〜…そんなんだから話が噛み合わないんだべさ。
彼氏と長電話だから月6万もかかるんだべ。」

「ちょっと!言っていいことと悪いことがあるでしょー!?
なっちだって深夜徘徊と万引で何回補導されたのよ!?」

「それとこれとは関係ないべさ!!!なっちは深夜徘徊が好きなだけだべー!!
万引きなんかしてないべさー!!ただ店員に言わないで貰ってくるだけだべ!!」

「それが万引きっしょー!高校のときなんか神の手ってよばれてたっしょー。」

醜い争いは延々と続くのである。
中学校から同級生なために、互いの秘密はいくらでも知っている。
延々と愚痴り合わせればもっと何か出てくる勢いである。

「っハァハァ……キリがないべさ…それよりも、早く馬券を買わないと。」

「ハァハァ…そうだよ…。カオリのメモ見て決めようよ。」

「だからそれがアテにならないって、さっきから言ってるっしょ!!」

「んぁ、まぁまぁ。時間ないよー。」
137 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月08日(木)23時06分44秒
もうそろそろこの争いを見ているのに飽きてきたか
後藤が仲裁に入って仕切りなおし。

「名前で決めよー。」

「「名前?」」

「んぁ。さっきこれ拾ったの。」

スタンドに落ちていた競馬新聞を2人に見せると
そこには馬の名前が書いてある。
どことなく聞いたことあるような名前ばかりなのは気のせいだろう、ええ、気のせい。

枠・馬・名前
1・1・ナッチアリガトウ
2・2・デンパロヴォ
3・3・ダーヤスマンセー
4・4・ニャンニャンニャン
5・5・アネフウゾクジョウ
6・6・チャーミーイログロ
6・7・カッケーヨスィー
7・8・ノノタンアーイ
7・9・オヤジヤクチュウ
8・10・ホッピーデホップ
8・11・タレコンノ
9・12・ナンダコノヤロ
9・13・コネイッテヨシ

これを見てアーダコーダ言う3人の会話は
人間のエゴ丸出し。
138 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月08日(木)23時39分49秒
「やっぱ『ナッチアリガトウ』っしょー!!絶対強いべさ!」

「カオリのラッキーナンバーは2番なの。だから『デンパロヴォ』がいいと思うの。」

「んぁ…。決まりそうもないね…。」

根拠なき意見がつばぜり合いを繰り返す中、
後藤はピンッとキタ━━━━━━( ´ Д `)━━━━━━ !!!ようだ。
そして、またも二人をほったらかしにして
1人で馬券を買いにいく。
もう2回目だから不安感はないようだ。

「『ナッチアリガトウ』がいいべさっ!!!」

「カオリ、ラッキーナンバーって凄い当たるの。」

「……なっち達オバカさんだべさ。
『ナッチアリガトウ』と『デンパロヴォ』で買えばいいんだべ…。」

「そっか…。あれ?ごっつぁんが居ないよ?」

「あれ、本当だべ。トイレだべか?」
139 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月09日(金)01時04分47秒
後藤はまた賭けるのか・・・。
140 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月09日(金)23時02分19秒
やはり最初のところで買う。
隣りの窓口でもいいのだが、一度顔をあわせた人物の
ところで買いたいのであろう。

『当たりましたね。さっきの』

「はい。」

どうやら、覚えていてくれたようである。
すこし嬉しくなった。
事務的な仕事のはずなのに何故か暖かい気がした。

『何賭けますか?』

「えっと、4−5ください。馬連で。」

結局何かを感じたのは4−5だったらしい。
『ニャンニャンニャン』と『アネフウゾクジョウ』…う〜む、よくわかりませぬが。

馬連なんてサラッと出てくるとこ辺り、
後藤はちょっと満足げ。
今度も100円だけ賭けようと、ポケットを弄るが
お札が1枚あるだけだということに気づいて少し悩んだ。
141 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月09日(金)23時02分53秒
×100円だけ賭けると小銭がイパーイ→(;´д`)
○1万円賭ければポケットがスキーリ→(゚д゚)

「1万円。」

惜しげもなく1万円札を差し出せるとは、非常に羨ましい。
それほど1万円に執着心がないようである。
そして、去り際に後藤は一言呟いた。

「『ダーヤスマンセー』って……やっぱ弱いんだ…。」

ダーヤスマンセーの単勝オッズ:2.3倍
ニャンニャンニャンの単勝オッズ:90倍
アネフウゾクジョウの単勝オッズ:318倍

そのころトイズEEでは…。

「ダーヤスマンセー単勝一点買いで倍だわっ!!クックック!!
…おっと!もうそろそろ効果音出す場面ねっ!」

「『もっともっと…』いくぞー!!」

ひゅーん…

ピコーン♪

「はっ!!間違えたわっ!!!」
142 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月09日(金)23時03分23秒
後藤が安倍と飯田を探し出したころには
もうファンファーレが鳴り終わろうとしている頃だった。

「ごっつぁん!どこ行ってたんだべ!?」

「もう始まっちゃうよ。」

「ん、んぁ、ゴメン。ちょっと…トイレ行ってた。」

そう言い終わると、一斉に芝を囲む数万のオジサンがどよめきたつ。
遂にメインレースが始まる。

「結局、なっちとカオリは何買ったの?」

「ん?そりゃもちろん…『ナッチアリガトウ』と」

「『デンパロヴォ』だよ。」

「あ、ああ、そう…。」

さっきまでの言い争いはどこへやら。
結局なんだかんだ言って仲良しな2人に
若干呆気にとられ気味の後藤。
143 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月09日(金)23時03分54秒
「でも確か…圭ちゃん別の馬だった気が…。」

「なんか言ってたべか?」
「カオリおぼえてなーい。」

そんなこと言っている間にレースはいよいよ始まった
…始まったし、すぐ終わった。

「あー!!ナッチアリガトウがコケたべさ!!!」

「デンパロヴォが故障したよ!!!」

コケたのはそれだけではなかった。
残ったのはタテガミを金色に染め上げたニャンニャンニャンと
長いタテガミのアネフウゾクジョウだけだった。
144 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月10日(土)23時17分17秒
「また当たった…。」

そんな後藤の呟きを二人が耳に留めるわけがなく。

「どうするべさー!!!!70万パーだべー!!」

「知らないっしょー!!なっちがあんな馬にかけるからっしょー!!」

「何言ってるべさー!?カオリがわけのわからない馬に賭けたからっしょ!!」

「何をー!?」

「これで帰ったら圭ちゃんに何されるかわかんないっしょー!!」

「カオリのせいじゃないもーん。」

「なっちのせいでもないべさー!!」

そんな絶叫と罵り合いをしている2人に
バレないようにこっそりと姿を眩ませようとする。

「「ごっつぁん!!」」

「んぁっ!!!」
145 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月10日(土)23時18分08秒
「3度も同じ手は通用しないべさ!どこ行くんだべ!?」

「い、いやぁ…トイレに…。」

「またトイレ?ごっつぁんトイレ近いね。」

「あやしーべさぁ〜。」

「んぁ…わかったよー、当たった当たった。」

遂に観念したか、後藤は諦めて2人を連れて換金所に向かった。
146 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月11日(日)23時03分54秒
「オッズは幾つだべ?」

「んぁ?えっとねー…700だったかな?まぁ、強いんだね。」

「なっ!」

「なっ!!」

「……700倍っスか…?」

「倍って何?」

「倍だべさ…。賭けたお金が700倍になって返ってくるんだべ…。」

安倍、飯田と後藤との間にあった温度差が
徐々に熱均衡を起こしていく…。

「……。」

「ごっつぁん!」

「んぁっ!!」

「そんなビクビクして…幾ら賭けたの?」

「……。」

「1000円だべか!?2000円だべか!?」

「……。」

「早く答えるっしょ!!!」
147 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月11日(日)23時04分48秒
テンションが上がりすぎて倒れそうなほどの安倍を
放置するわけにもいかず、後藤は重い口を開く。

「10000円…。」

「いっ!一万……フゥ…。」

「なっち!なっち!!ああ!なっちが倒れた!!
ちょっとごっつぁん!!なっちに刺激が強いこと言っちゃダメでしょ!!」

「いや、そんなこと言われても…。」

「ほら見てみなよっ!!なっちショックで泡吹いてるよっ!!」

「蟹みたい…。」
148 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月12日(月)23時04分18秒
窓口から係の人が後藤を呼ぶと
7つの札束が…。

「……フゥ…。」

「んぁ、カオリまで倒れた…。白目剥いてる…。」

人を呼んで彼女達を医務室に運んだ。
149 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月12日(月)23時04分51秒
数時間後。

保田が今か今かと時計を気にしながら控え室で待っていると
どんよりした空気の二人と、ウキウキした後藤が帰ってきた。
ギラッと光る保田の視線が安倍と飯田を捉え
二人はビクッとする。

「あなたたち……お金は…増えたんでしょうね…?」

クラクラするほどの暑さを振り切って
ようやくミニモの事務所までたどり着くことが出来た。
特に、失神済の2人にとっては地獄のような道だっただろう。
その地獄の終わりに大明神が仁王立ちになっているとは…。
クーラーで冷えた部屋なはずなのに、イヤーな汗が止めどなく噴き出してくる。

「いやぁ…その……」

「早く金を見せなさいよっ!!」

さっきの気持ち悪いほどの優しい口調から一変、
渋る安倍に猛然と襲い掛かる大明神、もとい保田。
150 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月12日(月)23時06分03秒
「その…ハズ……レタ……って言うか…」

「ハ!ズ!レ!タ!だぁ!?」

「これ…。」

ハズレ券を差し出す。

「ハァッ!?ダーヤスマンセー!!って言ったでしょー!!!」

「それも外れたべさー!!何買っても一緒だったべー!!」

「どうしてくれるのよっ!!」

すごい睨みを効かして、顔を真っ赤にする保田。
まさに大明神。
151 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月13日(火)23時07分32秒
「いや!ちょっと待って!!その代わりごっつぁんが…」

「んぁ!あーあーあーあーあーあーあーあーあー!!!!!!!!」

「何よっ!聞こえないわよっ!!!……んっ?」

目ざとい。
よく、『金の匂いがする』というが、まさに大明神はその嗅覚を兼ね備えていた。

「見つけたわよっ!!!そこっ!!!!」

まるでモビルスーツに乗った強化人間のように
後藤のポケットにロックオンした。

「アヒャヒャヒャ!!!頂いたわよっ!!!」

「んぁ!!それ、ごとーが自分のお金で当て…」

光よりも速く、保田の手は後藤のポケットを急襲し
ムンズッと鷲掴みにした札束を簡易金庫に押し込んだ。
152 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月13日(火)23時08分08秒
「これで何とかなりそうだわっ!!!」

「なんとかなりそうじゃなくて!それごとーが…」

全てを言い終わる前に
保田は後藤の肩を抱いて、何やら耳打ちし始めた。

「これは貸しよ、『貸し』。後で返すわっ。いい、分かったわねっ?」

「貸しって言ったってさー、圭ちゃん、ウチの飲み代もツケたままだし…」

「はいっ!!給料渡すわよっ!!!給料貰った人から解散っ!!!」

「んぁ!!待って!待っ…」

そしてニュータイプのような人物はもう1人いた。
金に貪欲な彼女。
給料を渡すと保田が叫んだ控え室の壁を隔て
会場で後片付けをしていた彼女にはその言葉が聞こえていた。
153 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月13日(火)23時09分23秒
「梨華ちゃんっ!!給料配ってるよっ!!」

「ええっ!?」

「聞こえたんだよっ!!心の耳がっ!!」

「ええぇぇ〜、矢口さーん!!モップ放置しないで下さ…行っちゃった…速い…。」

そしてドアを開けて飛び込んだ。

「きゅうりょおおおお!!!!」

すごい勢いで矢口と書かれた給料袋が保田の手から奪われたのは言うまでもない。

154 名前:第8話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月14日(水)23時02分55秒
夕暮れ時、日中よりは若干涼しい風が吹いている。
ビアガーデンは今ごろヨッパライで大盛り上がりである。
バイトの帰り道、いつもの二人は、石川がどこから仕入れたかわからないが
確かにその通りの情報を矢口に吹き込んでいた。

「矢口さんっ、なんかごっちんが競馬で大金儲けたらしいですよぉ…。」

「マジで!?幾らよっ!?」

「なんか…700万……あれっ?矢口さん!?」

キョロキョロと矢口を探すと
遥か前方、肉眼で確認できる限界の辺りで
『誰か』にベタベタと纏わり付いているのを見つけた。

「ごっつぁんハァハァ今度さーハァハァ矢口と一緒にハァハ…」

ゴツッ!!!

「んぁ?」

「あはっ♪ごっちん、何でもないのよっ♪」

矢口のいやらしい吐息が途絶えるのに気づいて後藤が振り向くと、
そこにはアスファルトに顔をうずめている矢口と
肩で息をして血まみれの石を握る石川が立っていたという…。
155 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年08月14日(水)23時05分05秒
第8話終了です。
第9話は来週金曜深夜開始予定です。
第9話開始前にまとめて返レスをしたいと思います。
156 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月15日(木)19時24分51秒
強運ゴチーン萌え
157 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月16日(金)18時02分38秒
石川は殺人未遂ですか?
158 名前:名無し 投稿日:2002年08月18日(日)21時33分49秒
「ノノタンアーイ」ってカワイイ名前…ちょい萌えはあとはあと
159 名前:AYAYA 投稿日:2002年08月20日(火)15時10分23秒
強い石川に萌え〜
160 名前:七誌 投稿日:2002年08月23日(金)21時15分48秒
10日ってとってもなが〜く感じる。
161 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年08月23日(金)23時17分41秒
>>118
そうですね(w
>>139
特にお金には関心がないようです。
>>156
ビギナーズラックです。
>>157
殴り加減は絶妙です。
>>158
ネーミングには手間がかかっています。
>>159
そうとうです。
>>160
まもなく開始いたします。
162 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月23日(金)23時18分40秒
夏の終わり。
それは暦の上では8月31日を示している。
そして、今日が一日前の8月30日。
これで夏が終わりなのかと疑問符を浮かべたくなるほど
未だに外はうだる様な暑さが朝から占拠していた。
そして、1ヶ月前より更に密接な生活を送る彼女たちにも
外の暑さがカーテンから漏れた日差しによって感じられた。

「あつぅ〜〜〜いっ!!」

まず起きたのは色黒の彼女。石川梨華。
決して日差しのせいで肌が焼けたのではなく、生まれ持った肌の色である。
彼女は汗ばんだ身体をゆっくり起こした。

「ん…エアコン切れてる…。」

ボケっとした頭でリモコンを探し当て、スイッチを押した。

『6時のニュースです…まず始めに…』

「あ…間違えた。」
163 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月23日(金)23時19分19秒
動き出したのはテレビ。
今日も赤い時刻スーパーと中年男性が映る。
そして、コンポ、ビデオと電源が入って
ようやくその次に本来の目的のエアコンの電源が入った。

すこし涼しい風にあたり、気力を取り戻すと
裸の姿のままバスルームに向かった。

最近石川はネグリジェを着用しない。
それは、居候との深夜の秘め事による結果である。
バスルームでシャワーを浴びる。
すこしぬるめに調節したお湯は彼女のフレッシュな
身体に弾き返されながら排水溝に流れていく。

首の辺りを流しているとすこし痛みが走った。

「痛っ…???」

曇っている鏡を手で拭い、自分の首筋をよく確かめる。

「あっ♪キスマークっ♪うふふふっ♪」
164 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月23日(金)23時19分52秒
一言で表すならば、彼女は想像豊かである。
それ故に、実際あった出来事を何倍にも良いように膨らまして
回想して楽しむのが癖なのだ。

「いやぁ〜〜んっ、最近の矢口さんっ積極的ぃ〜キャァ〜〜♪」

バスルームがドンドンと鳴り響いた。

一通り汗を流し終えると、身体を拭いて外に出る。
その頃にはひんやりとした空気が室内に溢れている。

「ん〜〜っ♪きもちぃぃ〜♪」

ふと目を降ろすと、腹を出してイビキを欠く最愛の人?矢口が大の字になっていた。

「やぐちさ〜ん♪風邪引いちゃいますよぉ〜。」

軽くタオルケットを腹にかけ直すものの、すぐに取り去ろうとする矢口。
寝ていても暑いのは分かるようである。
165 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月23日(金)23時20分29秒
「ふふっ、かわい〜♪」

ニコニコしながらツンっと鼻をつつく。
そんな時、朝からけたたましい音が鳴り響いた。

プルルルル…プルルルル…。

その音に、矢口は反応してその音源を捜すべく四方八方に手を伸ばしている。
しかし、その音源である電話機は矢口の周りには無かった。
そんな様子が可愛く見える石川は、矢口に見とれていた。

「可愛い〜。」

プルルルル…プルルルル…。

「あ、いけないっ、出なきゃ。」

ハッと気付き、電話の受話器に手を伸ばして出た。

「もしもし石川です…。」

(あ…。)

「おかあさま…。」

どうやら電話の相手は母親である。
166 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月24日(土)13時56分13秒
お母さんっ!?
167 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月25日(日)00時38分13秒
「うん、元気よ。みんな元気?うんうん…。」

まずはじめに聞くのが娘の様子。
ちゃんと食べているのか、ちゃんと家事はこなしているのか
そんな事を気にするのは1人暮らしに娘を出した親ならまずは聞く質問である。
そして、娘も家族の安否を尋ねるのもどこぞと変わらない風景でもある。

「え……。」

すこし石川の顔が曇った。

「……でも、待って…まだ早いよ…。」

「うん、ごめんね。私、もうバイトあるから切るね、バイバイ…。」

受話器を置いてため息を一つ。
そして、矢口の寝顔に視線を落とす。

「ふぅっ…ポジティブポジティブ♪」

頭を切り替え直して、早速愛する人を起こしにかかった。

「矢口さんっ♪お・き・て♪」

ゆさゆさ揺すってみるもこの程度では起きないのは分かりきっている。
168 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月25日(日)00時39分02秒
「ん〜…いひっ♪これでもーどうかなぁ〜♪」

石川の取り出した物。
それは100円ショップダイソーで買ってきたおもちゃ。
それを矢口の枕もとにおいて、石川は息をおもいっきりすって…

「キャァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」

超音波。
これなら飛んでいるコウモリも落ちるというほどおもいっきり叫んだ。

「…な、なに、どうしたの!?」

これには矢口は飛び起きた。

「そ、そこっ!!矢口さんっ!!ゴ、ゴッゴキブリっ!!」

「ご、ゴキブリ…?」

石川の細い手が示す先、矢口の頭あたりに黒い物があった…。

「……うわあああああああああ!!!!!」

飛び起きる。
まさにそんな感じ。
169 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月25日(日)00時39分45秒
「うわああ、うわああ、うわあああああ!!!梨、梨華ちゃぁ〜んた、たすけてぇ〜!!」

飛び起きたついでに石川に抱きつく矢口。

「は、はやく、早くどっかやってよぉぉぉぉ!!!」

「くくくくっ、おはようございます♪矢口さんっ♪」

「おはようじゃないよー!!笑ってないでやっつけ……あっ!!」

どうやら悟ったらしい。

「かわい〜矢口さん♪すっごいいい手ですねぇ〜♪これぇ〜♪」

矢口を離してゴキブリのおもちゃを手に取る。

「ほらっ、おもちゃですよ、これっ♪」

ピラピラ、触角あたりを掴んで小悪魔的な笑みを浮かべる石川。
やられたぁ〜という顔をする矢口。
正直本当に彼女にとって心臓によくない起こし方である。

「でも良く出来てるよねぇ〜…手とかモジャモジャ動いてるし…。」

「まさかぁ〜、おもちゃですよぉ〜♪動くはずがな…。」

凍った。
170 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月25日(日)00時40分16秒
本物掴んでた…。

「キャアアアアアアアア!!!…ふぅ…。」

ドサッ!!

「り、梨華ちゃんっ!?」

今度は梨華ちゃんがおねんねのようです。
171 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月25日(日)05時39分52秒
石川が見合い・・・キターーーーーーーー!!
172 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月25日(日)17時46分32秒
証券会社の○○さん?
173 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月25日(日)23時31分01秒
8:30 マールゾロ

「頭いたぁ〜い…。」

「大丈夫?梨華ちゃぁ〜ん。梨華ちゃんが悪いんだよー、手の込んだ起こし方するからぁ〜。」

「だってぇ〜…。」

マールゾロでいつものように立ち読みをしながら
朝の出来事について会話を交わす二人。

「頭打ったけど…大丈夫?矢口みたいにタンコブできてないと良いけど…。」

「出来たかもぉ〜…。ぐすんっ。」

「蒼天の拳おもろいなぁ〜、カッケーなぁ。」

「やぐちさ〜ん?もうちょっと石川のこと心配してくださいよー。」

「ええ?だって自業自得だしー。」

「そうですけどぉ〜…。あ、矢口さん、もう行かないと…。」

「あ、ホントだ。」
174 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月25日(日)23時31分37秒
そして、二人はしげるに2ケツでバイト先へ向かう。
今日の東三商店街通りはすこし変わっていた。
それは原チャリでトイズEEに向かう二人にも見て分かるほどだった。
商店街入り口から街路灯という街路灯に渡すように提灯がぶら下げてあった。
それだけでなく、道脇には露店の骨踏みなどがあちらこちらにおいてあった。

「なんだろ?」

「お祭りやるんですかねぇ〜?」

人々が忙しなく準備している様子から、期日は迫っている事は見て取れた。
トイズEEに着くと、デパートの前まで華やかになっている。
矢口がしげるを停めると、目の前の電柱には張り紙があるのが目に入った。
175 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月25日(日)23時32分08秒
『              第40回東三祭
    主催:東三商店街、ハローズゼティマ、ハチャマピッコロ、トイズEE、松浦工業大学       』

「明日だってよー、祭。」

「矢口さん知ってましたぁ〜?」

「いや、知らない。ここに来て1年以上経つけどこんな祭り知らなかったなぁ。」

「ですよねぇ〜…。」

「ショーもあるよっ、だって。芸能人くるのかな?」

「さぁ…?」

そして、彼女達は階段を駆け上って屋上へ向かった。

「おはよー、圭ちゃぁ〜ん。」

「ああ、おはよう。今日は間に合ったようね。」

「うん、まぁね。」

「保田さぁ〜ん。明日お祭りなんですかぁ〜?」

「そうみたいね。なにやるかとかまったく聞いてないけど。」

「芸能人くるの?」

「さっきも言ったでしょ、なんも聞いてないって。」

「ああ、そっか。」
176 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月25日(日)23時32分39秒
チラチラ保田は時計を見た。

「よし、じゃあ、打ち合わせ始めるわよ。」

「「はーい。」」

今日は金曜日。
台本は第6話、キン肉万太郎の日である。

「明日で夏季営業終了よ。みんなこの夏休みの間良くがんばってきたわね。」

保田はミニモレンジャーショースタッフにねぎらいの言葉をかける。
177 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月26日(月)22時55分31秒
「今日も、明日も気を抜かないでがんばるわよ。今日は…6話ね、吉澤、キン肉万太郎よ。」

「はーい。」

「矢口、辻、加護、石川は台本分かってるわね。」

「「「「はーい。」」」」

「後藤、今日の音響わかって…オイッ!!」

「zzzz…ん…あ?700ま…。」

「あーっ!!!!と、まぁいいわ、今日は大目に見てあげる。」

700万円以来、保田はどうも後藤に怒れないでいた。

「じゃあ、会場準備するわよっ!!」

「「「「「「はぁ〜〜い。」」」」」」
178 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月26日(月)22時56分28秒
そして、今日も定刻どおりミニモレンジャーショーが開始された。

「こいっ!!キン肉万太郎っ!!」

対峙するミニモレンジャーとキン肉万太郎。
ステージ上では、客が居ないにもかかわらず
炎天下の中、ショーが行われている。

「観客のみんなー!!やぐーちゃん達に元気をおくれー!!」

誰も居ない客席に向かって、そう投げかける矢口。
常連どもは何度も見たショーに飽きて欠伸をしているし、
カメラ小僧は相変わらずパンチラ狙い、カメラに収めようと
ステージ前を忙しなく動いている。
こんなので元気をもらえるわけはないが…。
そんな時、矢口はあの人物を観客の中に見つけた。
失笑しながらずっと見ている人物…。

そう、矢口の天敵、市井紗耶香がいた。
時を同じくして、観客を見ていた辻加護も気がついたようで
耳打ちをしてくる。
179 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月26日(月)22時57分28秒
「矢口さーん、市井が居ますよー。」
「なんかむかつくのれす。」

その言葉にコクッと頷く矢口。
なにやら怪しい笑みを浮かべて続きのセリフを喋る。

「おーっしゃー元気貰ったぞおお!!おーーっと!!
あんなところにも敵が居る!!ののたーん、あいぼーんあいつを捕まえてくるんだぁ!!」

「わかったでリーダー!!」
「わかったのれすぅ〜!!」

ステージ端の階段を下りると一目散に市井の元へ向かう二人。
そして二人は何事かという表情をした市井の腕を掴んでステージに引っ張っていく。

「ちょっ!!ちょっと!!なにさっ!!」

「いいからくるのれすっ!!」

「はぁ〜〜〜!?」
180 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月26日(月)22時58分43秒
とうとうステージ上に立たされる市井。
敵といわれたとおり吉澤キン肉万太郎の隣りに立たせられる。
ステージ癖というのは恐ろしい物で、訳が分からない事に
巻き込まれたのもかかわらず、ステージを降りようとしない。
いわばプロ意識といったところか。

「なに!?なんなわけ?こんなところ立たせてっ!!」

「うるさーい!!敵の分際でシラを切るなっ!!やぐーちゃんは全てお見通しだっ!!」

「なにがっ!?」

腰に手を当てて、いかにも不機嫌そうな市井。
そんな市井の目線の先では、なにやらミニモレンジャー。たちが
談合を行っていた。

「ちょっとぉー!!いいかげんにしなさいよー!?」

どうやらミニモレンジャー。の談合は終了したらしく、
市井とキン肉万太郎に対峙するように構える。
181 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月27日(火)23時14分54秒
「よし!!ののたーん!!あいぼーん!!『もっともっと…』いくぞっ!!!」

「わかったでリーダー!!」
「OKれすっ!!」

「???」

市井には訳が分からない。
辻加護はステージ端まで下がっているし、
目の前には矢口が跪いている。
ただ、今から何かが始まることはなんとなく分かったようだ。

そして、戦慄の瞬間はまもなくやってきた…。

「えっ!?ちょっと、なに?何しようとしてんのっ!?」

辻加護は「せーのっ」と口を動かして走ってくる。

「な、なにっ!?なんなのっ!?」
182 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月27日(火)23時15分27秒
市井が混乱している時には既に辻加護の二人は宙を舞っていた。
その一体、辻希美が市井に向かっている。
そのとき、市井の中で、時間はスローモーションのように流れた。
とてつもない弾丸が自分に飛びかかってくる…。

「あ…。」

辻希美という弾丸を食らったとき、
市井の頭には自分の人生が走馬灯のように流れた。
そして、何の抵抗も出来ず、辻希美に押し潰された。

ドーンドーン。

「よしっ!!地球の平和を守ったぞっ!!」

「やったのれすリーダー。」
「やったでぇ〜リーダー。」

「地球の平和を守る。それが私達ぃ〜〜。」

「「「150cm以下戦隊ミニモレンジャー。カッカッ。」」」

そして矢口達は失神している市井を引きずってステージから消えた。
さすが吉澤だ、1人のボディプレスでは失神などしない。
一番の大柄である吉澤が市井を背負って控え室へ向かった。
183 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月27日(火)23時16分08秒
「弱いッスねー。辻ちゃんだけで逝っちゃうんだもんなぁ〜。」

控え室に寝かせられている市井を見下ろしながらそんな言葉を吐く吉澤。

「しょうがないでしょっ。いきなり連れて来られて辻が降って来たら誰でもこうなるわよっ!!」

最もな意見を返す保田。

「でもさー、ウチらのショーみて馬鹿にして笑ってたんだよー、こいつー。喰らって当然だよ。」

「そうれすよっ。」
「ホンマや。」

そう言って、辻加護は失神している市井に悪戯をしている。

「あっ、辻ちゃん加護ちゃん何やってんのっ。」

石川が制止しようと言葉をかけると、ニヤニヤ振り向き、

「こんなもんで勘弁したるわ。」
「こんなもんで勘弁してやるのれす。」

そんな言葉を吐いて市井から離れた。

何をした?
何かされた。

爆笑。
184 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月27日(火)23時16分51秒
もう呼吸が出来ないほどにウケた。
そんな爆笑の中、爆笑対象である市井が目覚めた。

「っ…五月蝿い…。イテテテテ…んっ??何処だここ…。」

ムクッと起き上がり辺りを見渡す。
まだ頭が痛いようでしきりに頭を擦っていた。
視界に見えるものは自分を見て爆笑中のムカツク女ども。

「何笑ってんだYO!!」

いかにも不快そうな市井。

「なにって、なぁ。クククククッ。」

更に爆笑するミニモレンジャーたち。
小馬鹿にされている市井は相当不快だ。

「ってか、なにすんのよっ!!いきなりステージ上らされてあんなもん喰らわせてっ!!」

やっと自分がこの状態に追い込まれた事を思い出した。
更に不快感を露にする。

「そんなん、あれやん。うちらのステージ見て笑っとったやんか。」

「あたりまえだよ。あんなショー学芸会以下じゃない。」

「「「「「「あぁっ!??」」」」」」

すっごい形相で睨まれる。
1:6ではキツイか。
185 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月28日(水)10時05分08秒
市井さんも大変ですね。
186 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月28日(水)13時50分52秒
で後藤さんは寝てるのね…
187 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月28日(水)23時06分48秒
「まぁ、そんな顔して言われてもねぇ…。プククククっ。」

またその矢口の言葉にミニモレンジャー達大爆笑。

「クソッ…。まぁ、明日もあんなショーじゃボロボロに決まってるね!!」

「アハハハ…あ、明日ってなんですか…?アハハハハ。」

「アハッ…シ、シヌッ…。あ、明日???な、なんかあんの圭ちゃん。」

「え?な、何にも無いわよっ、アハハハハ…。」

すると、市井は呆れたポーズをとる。

「あきれたー、あんたらアタシをバカにしてる暇なんか無いんじゃなーい?」

「どういうことだよっ!!」

「しらないの?明日の東三祭。あんたたちショーやんだよ。」

「「「「「「ハァッ!????」」」」」」
188 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月28日(水)23時07分27秒
「本当に知らないみたいだね。まぁいいや、アタシそれだけ言いたかっただけだから。
帰るわ。少しは練習してるかと思ったけど、やっぱあんた達はあんなたちなんだねー。クククッ。」

あざけ笑うかのように立ち上がり去ろうとする市井。

「おーい、そのままいくのかー?キン肉マーン。キャハハハハハハ。」

そんなショックもなんのその。
市井があまりにもおもしろすぎてみんな爆笑中。

「なんだよっ!!くそっ!!ヴァカにしやがって!!後藤!!あんたもなんか…ご、ごとうっ!?」

後藤が痙攣起こしてた。
あまりに爆笑しすぎて引き笑いのためか呼吸が満足に出来ず
顔は真っ赤になって倒れている。
腹筋はアブトロニックの語解く600回/分振動を起こしてる。
みんなの視線が後藤に集中。

「あっ、ごっちんがひきつけ起こしてるっ!!」

「笑いすぎだよごっちーん。アハハハハハ。」

何もかもがおもしろい状態になっているミニモレンジャーたち。

「クソッ後藤までこいつらのアホ菌に感染してるとは…かえるっ!!」
189 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月28日(水)23時08分05秒
相当不機嫌になった市井はとっとと控え室を出た。
控え室の方向からはなおも笑いが聞こえてくる。
カツカツとなりそうな足音。
エレベーターのドアが開くと子供が降りてきて自分の顔を見るなり、

「キン肉マーン!!」

などと指をさして笑っている。

「ッ…。」

更に不快だ。

エレベーターに乗り込み1階へと降りる。
1階は食品売り場。

ミニモレンジャーが不快だと思えば、ついでにトイズEE内も不快に思う。
市井は一目散に出口に向かうが、その過程で
親子連れは子供が自分に指を指し、親が「見ちゃいけません。」なとといっている。
遠くの方では「キン肉マーン!!」などと自分を呼ぶ声が聞こえる。
190 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月28日(水)23時08分40秒
「何がキン肉マンなのよ…クソッ。」

トイズEEをでてもなおもキン肉マンと呼ばれる。
不快だ、不快だ、不快だ。
仕事をするべくハチャマピッコロへと移動する市井。

「あ…。」

ショーウインドーのガラスに自分の姿が映った。

『肉』

額にはそう書かれていた。

「クソッ!!!クソッ!!クソッ!!あいつらぁぁぁぁぁぁ!!!!」

キン肉マンが地団駄踏んだ。
191 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月28日(水)23時09分16秒
その頃、爆笑がやっと収まった控え室のミニモレンジャーたち。
後藤が失神寸前までで、やっと生還できたようである。

「ねぇねぇ、圭ちゃ〜ん。」

「なに?矢口。」

「あのさー、さっきのキン肉マンが言ってた事ー本当にきいてないの?」

「しらないわよ、聞いてないし。」

「じゃあなんだったんだろ。」

そんな時、恐怖のインターホンが鳴った。

Trrrrr…Trrrrr…Trrrrr…

「あ。……はい、あ、社長。………えっ…?」

『アヒャヒャヒャ。だからー明日の祭でショーやるからー新ネタよろしくなー。
場所はハローズゼティマ駐車場特設ステージに………』

「はい…はい…はい…。失礼します。」

保田はフックを元の位置に戻すとすこしため息を吐いて

「あほかぁぁぁぁ!!!バカしゃちょおおおおおおおおお!!!!」

これでもかという大声で叫んだ。
192 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月29日(木)23時09分23秒
「どうしたんですかぁ〜?保田さぁ〜ん。」

「…キン肉マンの言うとおりだったわ…。」

「まさか…?」

「そうよ、明日新ネタで祭りでショーやれって。」

「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??????」」」」」」」

「まったくあのDQNめ…前日になって…。」

「どうするんスか、保田さーん。」

「やるわよもちろん…。」

「でも、新ネタなんかあるんれすか…?」

「無いわよ…そんなの用意なんか…。」

「だめやん。やばいやんかー。」

「やめようよー。人がいっぱいいるところでショーなんてー矢口慣れてないよー。」

「…よし!!今日は午後と夜休んでネタ作りよ。
どんくらい出来るかわかんないけどみんなでやるのよっ!!じゃあ石川の家へ移動ねっ!!」
193 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月29日(木)23時10分09秒
「うんうんそうしよう。腹くくってやるべしだねー。」
「せやなぁ。」
「しょうがないのれす。お母さんに泊まるって電話するれす。」
「そうッスね。焼きにく食いましょ焼き肉。」
「んぁ〜。たべるーいくー。」

「なんで石川の家なんですかぁぁぁぁ!!」

「「「「「広いから。」」」」」

「えぇ〜〜〜…ぐすん…。」
194 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月29日(木)23時10分43秒
そして石川の部屋に7人。
保田はスーパースペックなPCを持って現れる。
吉澤、辻、加護は焼き肉の具材を買ってきた。
後藤は実家から酒を持ってきた。
矢口と石川は先に帰りエアコンをガンガンに効かせていた。

「やっぱ梨華ちゃん部屋だよねー涼しいわー。」

「れすよねー。」

「おばちゃーん、何やっとる〜ん?」

「オバチャンっていうのやめなさいよっ!!ネットよネット!!なんかネタ落ちてないか
調べてるんじゃないのよっ!!」

「へぇ〜2ちゃんねるってところで調べるの?」

正直ネットなどやっている人間は保田しかいない。
2ちゃんねるがどんなところが皆知らないのだ。

「そうよっ。ゴルァ!!…っと。」

創作文芸@2ch掲示板、演劇、役者@2ch掲示板 を巡る保田。
無論ネタなんてなかなか見つからないものだ。
195 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月29日(木)23時11分38秒
「圭ちゃんがネタ探し終わるまでうちら何してよっかー?」

「そうれすよねー、暇なのれす。」

「せやなぁ、なんかないん?」

「えっ…トランプでもする…?」

「トランプかよっ!!梨華ちゃん何か用意しときなよー。こうやって集まる事もあるんだしー。」

「だってー矢口さんといつも一緒だからー、最近まともに暇な時間ないしー…。」

「なにっ!?」

「いえなんでも…ぐすんっ、…あ、DVD見ます?DVD。
DVDだけは朝コンビニで買ってるんですよねー♪」
196 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月29日(木)23時12分17秒
得意そうに、コンビニの袋から取り出す。

『冷静と情熱のあいだ』

なるほど、ラブストーリーだ。
いかにも石川がチョイスしそうだが。
この手のDVD結構みんな好きである。

「あー、これみたかったのれすー。」
「みようみよう。」
「矢口もみるー。」

「よかったぁ〜♪かっといてぇ〜♪」

石川はビニールを取り去りディスクを取り出して
DVDプレイヤー辻加護君に突っ込んだ。
197 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月30日(金)01時11分41秒
いやなきがする
198 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月30日(金)23時09分08秒
「あれ、圭ちゃん、探してなよー。」

「なのよっ!!あたしも見ちゃダメなのっ!?」

気がついてみれば、一番楽しみそうに画面に
くぎ付けになっていたのは保田だった。

「ダメーオバチャンは見ちゃダメー。」

「そうやでー、オバチャンがネタ探ししてる間見るんやし、オバチャンが見てたら
誰がネタ探しすんねん。」

「ッ…わかったわよっ!!探せばいいんでしょ、探せば!!石川、後で貸しなさいよ!!」


…2時間後。

「あおいちゃぁ〜〜ん、よかったれす〜〜〜うわぁぁぁん。」
「けりーちゃぁ〜〜ん、よかったでぇ〜〜〜うわぁぁぁん。」
「ヨカッタですねぇ…ホント…。」

部屋中ティッシュだらけ。
1箱ティッシュが空になった。
199 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月30日(金)23時09分45秒
一番泣いていたのは、やはり矢口。

「グズッ、グズッ…うわぁぁぁん。いいよぉ、よかったよぉ〜〜〜。梨華ちゃぁ〜〜ん。」

「ヨシヨシ、可愛いなぁっ♪」

泣きついてくる矢口はほほえましく包んで頭を撫でる。
このときだけは石川と矢口の立場が逆になるときであった。

「クソッ!!なんなのよっ!!アタシだけ見れてないじゃないよっ!!」

完全に蚊帳の外、保田圭。

「んぁ〜…おなか減ってきたよぉ〜。」

「れすねー。ご飯にするのれすー焼き肉れす焼き肉れす。」

ふと見上げれば18:00を時計が示していた。

「焼き肉の準備しよかー。」

「うし、圭ちゃんはこのままネット。うちらは焼き肉にしようっ!!」

「ちょっとっ!!アタシメシ抜きなのっ!?」

「「「「「「うん。」」」」」

「なんなのよっ!!!」
200 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月30日(金)23時10分30秒
ミニモレンジャースタッフはいつものんびりとしている。
いや、ダラダラ何事にもそれほどやる気はない。
しかし、食事となれば別だ。
それがバーベキューとなれば更に別段になる。
プロか?と思えるような手際の良さは目を見張る。
そうしてあっという間にバーベキューの準備が出来上がった。

「「「「「やっきにく♪やっきにくっ♪やっきにくっ♪やっきにくっ♪」」」」」」

テンションが高い。
焼きあがるのを待ちわびる6人に、ふて腐っている保田。

「ほらほらー、圭ちゃんもうたおーよー、やっきにくっ♪やっきにくっ♪」

「うるさいわねーっ!!アタシは食べられないんでしょうがっ!!」

「ウソっすよねー、矢口さーん。」

「そうだよー、圭ちゃん。ウソに決まってるじゃーん。」

「…ホント?」

「うん。ほらっ、いっしょに歌おうっ、やっきにくっ♪やっきにくっ♪やっきにくっ♪」

「しょうがないわねぇ…きにくっ♪やっきにくっ♪やっきにくっ♪やっきにくっ♪」

そのとき肉を切り終わった石川が大皿に具材を乗っけてもってきた。
201 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月30日(金)23時11分46秒
「お待ちどうさまぁ〜♪」

「「「「「「やっきにくっ♪やっきにくっ♪やっきにくっ♪やっきにくっ♪」」」」」」

「梨華ちゃんも歌おうよー。」

「私もですかぁ〜♪わかりましたぁ〜♪やっきにっく♪やっきにっく♪やっきにっく♪」

「「「「「「音痴。」」」」」」

「………ぐすんっ。」

具材が熱せられた網の上に乗るたびに歓声をあげるミニモレンジャースタッフ達。
危機感迫っているとは到底思えない。

202 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月30日(金)23時12分22秒
「ロースキタ━(〜^◇^〜)━(◇^〜 )━(^〜  )━(  )━( )━(  )━(  〜^)━( 〜^◇)━(〜^◇^〜)━ !!!」
「ササミキタ━(´Д`)━(Д` )━(`  )━(  )━( )━(  )━(  ´)━( ´Д)━(´Д`)━ !!!」
「レバーキタ━(O^〜^O)━(〜^O )━(^O  )━(  )━( )━(  )━(  O^)━( O^〜)━(O^〜^O)━ !!!」
「カルビキタ━(´D`)━(D` )━(`  )━(  )━( )━(  )━(  ´)━( ´D)━(´D`)━ !!!」
「タンキタ━(‘д‘)━(д‘ )━(‘  )━(  )━( )━(  )━(  ‘)━( ‘д)━(‘д‘)━ !!!」
「バラキタ━(`.∀´)━(.∀´ )━(´  )━(  )━( )━(  )━(  `)━( `.∀)━(`.∀´)━ !!!」
「ピーマンキタ━(^▽^)━(▽^ )━(^  )━(  )━( )━(  )━(  ^)━( ^▽)━(^▽^)━ !!!」
203 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月31日(土)00時52分45秒
やぐよし顔デカ(w

204 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月31日(土)13時29分05秒
(・e・)ノ<ここまで読んだ…ラブラブ
205 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月31日(土)15時47分36秒
ピーマンっ!?
206 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月31日(土)22時43分31秒
ハゲシクワラタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━(  )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!
207 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月31日(土)23時03分19秒
もう発狂状態。
またバーベキューセットを倒すのではないかというほど暴れている。
今日は鳥が入って来る事を懸念して網戸を施している。
しかし、今日は別のものが入ってくるとは予想だにしていなかった。
大盛り上がりの7人。
そんな空気に水をさすかのように呼び鈴が木霊した。

ピンポーン…ピンポーン…。

「ん〜、だれだよーせっかくもうすぐ肉が焼けるのにー。」
「ちょっと見てきますよー♪」
「矢口もいくー、物言ってやる。もうすぐ焼けるってのにっ。」

ドアをあけると見慣れた人物が立っていた。

「どなたで…あっ!!」

「警察で…あっ!!」

「何の用だよ!!チャリンコ警官っ!!現行犯じゃねーからつかまんねーぞ!!」

そう、そこに現れたのはいつもチャリーチェイスをしている警官だった。

「近所迷惑だから静かにしろっ!!タイホするぞっ!!」

「ああっ!?分かったよ静かにするから帰れ。」

「貴様らこんなところに住んでいたんだなー。今度こそタイホしてやるからなー。」

「上等だよ!!一昨日来やがれ。ヴォケ!!包茎!!早漏っ!!短小っ!!インポッ!!」

矢口はファックアクションを取ると

バンッ!!

ドアを閉めて鍵をかけた。
208 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月31日(土)23時05分12秒
「あービビったー。あの警官がくるとはなー。」

「ですねー…ヤヴァくないですかぁ〜?明日から原付き二人乗りで行くのー。」

「ああ?平気だよ。矢口たちは絶対捕まんないから。さ、梨華ちゃん焼き肉食べよっ。」

「はいっ♪」

(頼もしいなぁ〜♪矢口さんっ♪)

そして焼き肉争奪戦が激しく、
2時間にもわたる食材の奪い合いが行われた。

「あー!!カルビはののがチョイスしたやつなのれすよ!!!!」

「誰が買ったとか関係ないのよっ!!!ここは戦場よっ!!!!」

「ゴルァ!!ウチの肉取ってった奴誰や!!!」

「んぁ〜。ササミは案外人気なくてよかった〜。」

「みんなレバーも食べましょうよ!!!あっ!あとごはん欲しくないっスか!!?」

「ヤグチさん!!!野菜も食べないと栄養偏りますよ!?」

「モグモグ…うるさいなぁ。ヤグチは肉が食えればそれでいいんだよ!!!」
209 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年08月31日(土)23時06分10秒
「あー食った食ったー。」

「おなかまた出ちゃったれすよ。」

「あかん、ベルト緩めよ。」

「んぁ〜キャベジンあるー?キャベジーン。」

などと皆満腹感をあらわにしていた。
その中で1人保田は早めに食事を切り上げ、PCに向かっていた。

「ん〜、これとこれをコピペしてー…っと。」

「どう?圭ちゃぁ〜ん。ゲップッ。」

肩から画面を覗き込んでゲップを吐く。

「ちょっとっ!矢口っ!!臭いわよっ!!」

「何言ってんのー、圭ちゃんのゲップよりマシだよー。」

「どういう意味よっ!!」

カルビ食いまくった後のゲップのような
凄い顔で怒ったので、一応なだめる。

「まぁまぁ、で?どうなの?台本は。」

「敵役が二人…どうしても着ぐるみがねぇ〜〜…。」

「まぁ、がんばって。」

「言われなくてもがんばってるわよっ。」
210 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月01日(日)14時57分04秒
圭ちゃんがんばれっ!!
211 名前:AYAYA 投稿日:2002年09月01日(日)19時19分29秒
おも白い
212 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月01日(日)20時35分53秒
早漏でインポな警官…(;´Д`)ハァハァ


213 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月01日(日)23時04分15秒
そして3時間が経過する。
保田がPCに向かっている間、矢口たちはゲームをやったり
花札をやったりして暇を潰していた。

「矢口さん!次は鉄拳やりましょ、鉄拳!!鉄拳にはちょいと自信あるんスよ!!」

「えー?もう疲れたよー。」

「っしゃーできたーーーー!!」

みんなダルダルしている中
一人歓喜を上げる保田。

「ん〜?圭ちゃん出来たのぉ〜。」

「できたわよっ!!今すぐプリントするから、そうね、吉澤、モリコギでコンビニ行って
人数分コピーしてきてっ。」

「はーい。」

「用紙持って来るの少なかったの。失敗したわっ。何とか一部分はあるみたいだけど…。」

保田はコンパクトなプリンタを取り出してUSBを接続。
印刷をかけた。
214 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月01日(日)23時04分49秒
「フゥ…。一段落ね。タバコが美味いわ。」

白煙が昇る。
仕事を終えた保田はリラックス状態でタバコをふかした。
印刷を終えると保田は小銭と台本の書かれた紙を手渡す。

「早く行ってくるのよっ。」

「はーい。」

そう返事をして紙を受け取ると吉澤は靴をはいて
外に出ようとした。

「あ、そうそうっ、吉澤っ。」

「なんですかー?保田さ〜ん。」

玄関を出ようとしている吉澤に声をかけて玄関までやってくる保田。

「あんた、ピンクのカーテンでセーラームーンの衣装持って来なさい。」

「ハァッ!???」

「クビにされたいのっ!?」

「クビは嫌ですけど…またっスか…?」

「そうよっ!!セーラームーンよ、セーラームーン!!」

「わかりました、すこし遅くなるっすけどイイッスか?」

「分かったわよ、早く帰ってくるのよっ。」

「はーい。」
215 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月01日(日)23時05分26秒
そして落ち着いた保田は悠々とタバコをふかしながら
2ちゃんねる巡りを始めた。

「これで吉澤が帰ってきたら練習始められるわね。」

「おばちゃーん、どんな台本なんれすかー?」

「それは帰ってきてからのお楽しみよ。」

「なんやかヨッスィーに頼んどったけど。」

「それも来てからのお楽しみよ。」

そんな注意が散漫になっている時だった。
保田は後藤の飲み屋ツケ事件から、タバコを『わかば』に変えていた。
知る人ぞ知るフィルターなしのタバコである。
既に燃焼は手元までやって来ていた…
もちろん…

「アツッ!!!」
216 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月01日(日)23時06分08秒
こういうことになるわけである。
火のついたままのタバコは放物線を描きカーペットの上へと落ちる。
落とした保田は火を消そうともせず一目散に台所に向かって
水道の蛇口をひねって患部を冷やした。
そしてそんな事はつゆしらず、テレビに夢中になっているミニモレンジャー。スタッフ達は
異変にまったく気付かなかった。

「ん?梨華ちゃん…なんか焦げ臭いね。」

「そうですかぁ〜?バーベキューの後ですからねー♪」

「いや、もっと何か嫌な臭いっていうか…あああああああああ!!!!!!」

「どうしたんですか?矢…キャアアアアア!!!!」

「火っ!!火っ!!火、火事だぁぁぁぁぁぁ!!!」

「んんんんぁ〜〜!!!!」

「なんやねぇぇぇん!!!どないなっとんのぉ〜〜!!!」

「うわ〜〜〜ん燃えちゃうのれすうううううう!!!!」

「ああっ!!アタシのPC!!!!」
217 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月02日(月)13時48分09秒
火事だぁぁぁあああ!!
218 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月02日(月)23時08分50秒
保田は彼女達の絶叫に気がつき戻って見ると
自分のPCのコンセントに引火しているのを見て
すぐさま飛び込み、必死に火を消した。

が…。

「アタシのPCーー!!!うわあああああん。」

コンセント焼き切れてますた。

(゚д゚)アボーン

それだけじゃ収拾つかなかった。
なにやら赤い光窓の外から接近してくると同時に
けたたましいサイレンが鳴り響いてきた。

「ま…まさか。」


その頃吉澤は人数分の台本コピーを済ませ
勤務日外なのにピンクのカーテンを訪れ、
セーラームーンよりセーラージュピターが好きという理由で
セーラージュピターの衣装を背負って石川の部屋へと
一目散に自転車モリコギしていた。
219 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月02日(月)23時09分24秒
「いやぁ、やっぱセーラームーンよりジュピターっしょ。
カッケーし。…あれぇ〜…なんか明るいなぁ…。」

遥か前方、石川の家の近くで赤い光が点灯していた。
段々近づいてくるとその光は消防車の物だと分かった。

「ん〜〜?火事かなぁ〜〜〜。ゲッ…まさかっ。」

モリコギをこれでもかっというほどに加速させると
案の定、石川の家の前に消防車が止まっていた。
自転車を止めて階段を上がるとそこには
必死に平謝りしている石川がいた。

「大丈夫!?梨華ちゃんっ!!!」

「あっ、ヨッスィー…。うん大丈夫。」

『前もバーベキューで騒ぎがあったじゃないですか。
気をつけてくださいよ。』

「はい…すいません…。」

呆れた様子で消防隊員は階段を降りていった。
220 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月02日(月)23時10分05秒
「なに?どうしたの?」

「うん。ボヤ騒ぎ…。」

「ええっ!?」

「まぁ…中で話すよ。」

「ああそう。」

中に入ってみればカーペットとコンセントか焼き切れたPCがそこにあった。

「これだけでボヤ騒ぎになるの…?」

「なんか、叫んでたら近所の人が通報しちゃったみたいで。」

「ああ、なるほど。」

「これだけって何よっ!!アタシのPCコンセントイカレちゃったわよっ!!どうすんのよぉ〜〜〜!!!」

珍しく凹んでいる保田に少々驚いたが

「保田さん、コピーしてきました。衣装もとってきましたんで。」

凹んでる保田をよそに全員に台本を配った。

「保田さーん、凹んでても何もいいことないっスよ。」

「そんな事言ったってアタシのPCが…。」

「コンセント焼ききれただけでしょ?ちょっと貸してくださいよ。」
221 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月02日(月)23時10分55秒
と吉澤はPCからコンセント部分を抜き取ると

「梨華ちゃん、いらないコンセントある?」

「えっ?あ、壊れた電気スタンドのなら…。丁度あるけど…。」

「じゃあそれ貸して。あとガムテープとカッターか何か。」

「ああ、うん。」

そしてあっという間に修理を済ませる吉澤。

「はい、直った。」

吉澤が電源ボタンをピッっと押すとPCに電源が入る。

「「「「「「おおおおおお〜〜〜〜。カッケーヨスィー!!!」」」」」」

「一応、工業高校出っすから。あ、でも、コンセント後で買いなおしてくださいね。」

「ありがとう吉澤。」

「じゃあ台本の練習始めましょうよ、もう始めないとマズいんじゃないっスか?」

「そうね。始めるわよっ!!んじゃあ1ページ目………。」

そうして徹夜の一夜漬け練習は続いた。
222 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月03日(火)23時04分27秒
日にちが変わって。
既に外は明るくなり始めてきた頃。

「よしっ!!やっとミスなしで通せたわね。この感じで行くわよっ!!」

「ふぁぁぁいい…。」

もう目の下クマだらけ…。
いかにも寝ちゃいそうですと言いたげな顔が
欠伸をしながら保田を見ている。

「アタシも眠いわね…さすがに辛いわ…そうね…あと3時間ちょっとあることだし…
3時間は寝ましょうか…。」

「さんせぇ〜〜〜…矢口…もうだめ…。」

「でも、狭いで…さすがに7人雑魚寝するには…。」

「そう…れすね…。」

「あ…石川…。」

「なんですかぁ?保田さん。」

「なんで…あんたそんなに冴え…まぁいいわ…あんた…矢口と一緒に矢口の部屋で泊まんなさい。」

「ええっ?」
223 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月03日(火)23時05分07秒
「だって…あんな部屋泊まれるの…あんたと矢口しかいないでしょう…。」

「ええっ、まぁ泊まれますけど…。」

「じゃあ決定…3時間後に起きなさいよ…。」

「はい…。じゃあ向こう行きましょ、矢口さん。」

「ええっ…。む、無理…。」

「あ、ゴキブリ♪」

「うわああああっ!!どこっ!!どこっ!!」

「ほら起きた♪」

「コ、コロヌ…。」

「じゃあ、皆さんまた3時間後〜♪チャ〜オ〜♪」

……。

みんな返事をしない。
もう果てているようだ。
朝方、既にモワッとした熱気の中、矢口を引っ張りながら
矢口の部屋へと向かう。
224 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月03日(火)23時05分51秒
矢口はドアの前に到着すると目を擦りながら
キーケースを取り出し鍵穴に差し込む。

「……開かない…。」

「ええっ!?」

「こんなの蹴れば開くんだよ。」

そう言ってドカドカ蹴りだす矢口。
朝早くから非常に近所迷惑だ。

「ちょっと矢口さんっ!!静かにしましょうよっ。」

「だってぇ〜…開かないし…。ってか目、覚めた…。」

また鍵を回してみるもビクともしない。
再びドカドカ蹴りだす。

「ちょっ、石川がやってみますよぉ〜。」

石川が鍵を差し込むと、カチャッと回った。

「なんかさー、梨華ちゃん贔屓だよねー矢口の物ってさぁ〜…
しげるにしたって、このドアにしたってさー。ホントムカつく。」

「しょうがないですよぉ〜、矢口さん乱暴だもん。」

「まぁそうだけど。」

ドアを開けて入るといつもの刺激臭がしない…。
225 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月04日(水)23時03分20秒
「あれ?臭くない…なんで?」

「ふふふっ♪」

「ん?何?。」

「実はぁ〜♪…矢口さんが眠った後いつも掃除しに来てたんですよぉ〜…。」

「え゛っ。」

何かすごい目が輝いてる…
そんな事すんなよ!!などと言えないほどのキショイ光線が…。

「あ、ありがとう…。アハハハハ…。うれしいなぁ〜っと…。」

「でしょぉっ♪でしょぉっ♪」

すっごいぶりっ子オーラが…。
この時点で、矢口は既に気づいていた。
物凄く眠いのに、この女の相手をしなければならないとは…。

「なるほど…こんな時間でも結構平気なのはそういうことか…。」

「ええっ♪まぁ♪」
226 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月04日(水)23時03分53秒
部屋の中に入ってウロウロする。
綺麗に整えられている。
自分の部屋なのにここ一週間戻ってこなかった。
どんな異臭が漂っているのかと思っていたが
こんな整頓された状態。
自分の部屋が自分の部屋でないような感じがする…。

トイレを開けてみると蓋がしてあった。
開けてみる気はサラサラ起きないが。
トイレから戻ると石川はベットに潜っていた。
しかもすっごいキラキラ目線が矢口を捉えている。

「う゛っ…。」

石川の隣りには既に綺麗に畳んである石川の服があった。
227 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月04日(水)23時04分30秒
「ヤ・グ・チさんっ♪きてっ♪」

(うわぁ〜…誘ってるよぉ…。どうしよっかなぁ〜……。)

矢口は少し溜め息を吐いた。

「矢口さぁ〜ん♪寝るのなんてもう3時間も2時間も大して変わりませんよぉ♪」

「でもなぁ。」

矢口は服を脱いで布団の中に入る。

「もうっ、大人の女だったら腹くくりなさいっ♪」

「うわっ、ちょっちょっ、……んっ…。くそっ。このやろうっ♪」

「きゃああ〜っ♪いやんっ♪」


あと3時間です…。
228 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年09月04日(水)23時06分23秒
第9話終了です。
第10話は1週間後開始予定です。
第10話開始前にまとめて返レスをしたいと思います。
229 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月06日(金)16時13分31秒
一話ずつ毎日進んでくのがいいです。
がんばってください
230 名前:AYAYA 投稿日:2002年09月07日(土)13時42分38秒
まだかなまだかな
231 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年09月12日(木)02時35分23秒
>>166
また母親登場の予定です。
>>171->>172
藁(w
>>185-186
ミニモスタッフにとって敵です(w
唯一の仲良しは後藤のみですね。
>>197
思惑はあたりましたか?
>>203
どうしてもその二人は顔がでかくなってしまいました。
>>204
ありがとうございます。
>>205
ピーマンです(w何気なくですけど(w
>>206
ありがとうございます。
>>210
一番の頑張り屋は彼女かもしれません。
縁の下の力持ちというところでしょうか。
232 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年09月12日(木)02時36分18秒
>>211
ありがとうございます。
>>212
言われ放題です(w
>>217
迷惑な住人です(w
>>229
ありがとうございます。
>>230
まもなく、第10話開始です。
233 名前:第9話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月12日(木)02時38分09秒
「……うぅ…っん…。」

外ではチュンチュンと鳥が鳴いている。
今日もいつものように一日が…始まらないはずなのに…。

「煙が……矢口さん…苦しいですよ……息が出来な…」

ただ起きた、ということではない。
ようやく起きた、というのがこの場合の正しい表現であるのだ。

「…時計時計……」

ムクッと上半身を起こして、まるでヤッサンが眼鏡を手探るように
ショボショボした眼で時計を探すと、壁際で電池が外れて止まっているそれを見つけた。

「また矢口さんが投げつけたんだぁ…もうっ……えっ?」

矢口が投げつけたということは、目覚ましが鳴ったということで、
目覚ましが鳴ったということは、もう時間が過ぎているということで。
すぐさま自分の携帯に手を伸ばして、パカッと開いたディスプレイを見た。
234 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月12日(木)02時38分43秒
「1時って……フゥ…じゃないわっ!早く矢口さんを起こして会場に行かないとっ!!」

いつものように気絶しそうになるところを寸前で堪えて、
横で寝くたばっている身体をユサユサと揺する。

「矢口さんっ!矢口さんっ!!!」

「…んむぅ……梨華ちゃんエッチだなぁ…ムニャムニャ…ヤグチもう疲れちゃったから…
もう寝よう……明日は朝早いんだから…。」

「何言ってるんですかぁ!!もうその『明日』ですよっ!!」

「……。」

「矢口さんっ!」

「…梨華ちゃん、今何時?」

「もう1時ですよ!お昼のっ!」

「昼…?王様のブランチ見ようか…。」

「じゃないですよっ!!もうすぐショー始まっちゃいますよっ!!」

「…やべぇ…行くぞっ!!!」

やっと目を覚ました。
235 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月12日(木)02時39分16秒
「ちょっ!矢口さん、どこ行くんですかっ!」

「ちょっとウンコが出そうだから!」

「そんな……向こうでトイレに行けばいいじゃ…」

「2週間ぶりなんだよっ!!!」

そう言ってしげるのキーを石川に投げ渡すと
自分はトイレに駆け込んで施錠した。
遅刻よりもお通じ。
矢口はいつでも矢口であった。

トイレに駆け込んだと思ったら、中から何やら矢口が叫んでいた。

「梨華ちゃぁ〜ん!!ちょ、ちょっとぉ〜〜!!」

「なんですか〜?」

「紙っ!!紙が無いっ!!」

すこし呆れた顔をしてすこし開いている隙間からティッシュを突っ込んだ。
236 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月12日(木)02時40分10秒
「アリガト。覗かないでよっ。」

「覗きませんよっ!!」

「アーもうちょっとで出そう…。」

「もうっ…こんなときにおトイレだなんて…」

口が裂けてもウンコと言わない。
石川もいつでも石川だった、が
そんなことより、とさっさと外に出てしげるにキーを差し込んだ。

ブロロロロ…

なぜか矢口がやってもエンジンがかからないのに、
石川がセルモーターを回すと一発でエンジンがかかるのだ。
どうやら保田達は先に行ってしまったようで、
石川のアパートの前に停めてあったクラウンは
見事にそこにはなかった。

しげるが唸り声を上げて数分、
未だ矢口が来る気配はなく、仕方ないから先に保田に電話を入れることにした。
今日はいつも以上にどやされるだろう、と想像するだけで
石川の背筋には不快な汗が流れる。
237 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月12日(木)23時10分49秒
『電源が入っていないか、通話中です…。』

「ああっ、どうしよぅ……うーんと…よっすぃ〜なら通じるかな…?」

保田の携帯に繋がらないことが分かると
今度はとりあえず吉澤に今から出発すると連絡することにした。


石川宅
もちろん、話し声ひとつ聞こえてこない。
聞こえるのは、アフロ犬の鳴き声と

「グ〜…グ〜……。」

イビキだった。

ピピピピピッ…ピピピピピッ…

数回鳴った後に眠い目を擦りながら電話を手にとった。

「…はい……。」

いつもの元気な姿から想像できないほどに
吉澤の寝起きはテンションが低かった。
238 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月12日(木)23時12分39秒
『あっ!よっすぃ〜!?ゴメン、寝過ごしちゃったんだ!今から出発するから…』

「……??」

寝過ごしたという響きにピンとこなかったと言うよりも
まだそこまで頭が冴えていなかった。

「寝過ごした?……ハッ!!」

背中の方にある掛け時計を見るために
思いっきり振り向いて唖然とした。

「げっ!!ヤッベー!!!」

『え、何?どうしたの!?』

「あたし達もまだ梨華ちゃんの部屋に居るYO!!」

『なんで!?保田さんの車、停まってな……あれ?』

石川はようやく気づいたようだ、
アスファルトに書かれたチョークの文字を。

『なんか…レッカー移動されたみたい…。』

「レッカーーー!!!?」
239 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月12日(木)23時13分30秒
『あっ、じゃあ、私達先に行ってるよ!?できるだけ間つなぐからっ!!』

「了解!!」

ゴロゴロと転がっている人体を眺めて頭を整理すると、
突然悪寒が襲ってきた。

「ヤッベーなぁ……ごっちん!!起きてよ!!
ああっ!!あいぼん!!辻ちゃん!!起きて!!圭ちゃん!!!」

……。

「ゴルァ!!!起きろ!!!!!」

遂に壊れたようだ。


「ゴメンゴメン。思ったよりも"長引いちゃって"さ。」

「汚いギャグなんて言ってる暇ないですよっ!!」

アパートから出てきた矢口は非常にスキーリした表情だったが、
石川はそれとは対照的にかなり強張っていた。
そういうときの石川の顔は、眉間に激しくシワを寄せ
泣きそうな顔になるのだ。

「圭ちゃんたちもう行っちゃったの!?」

「いや、そうじゃなくて、まだ寝てるみたいです。しかもクラウンレッカーされてるみたいで…。」

「レッカーーー!!!?」
240 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月12日(木)23時15分03秒
「それヨッスィーと同じ反応ですよ。」

「なんだよー!もういいや!ヤグチ達だけでも先に行こう!!」

「だから、さっきからずっと待ってたんですよっ!!」

そんなこんなで、まだ石川がシートに座ったかどうかも確認せずに
一気にアクセルを捻り上げた。

「きゃっ!!!!ちょっとぉ!!危ないですよ!!」

「そんなこと言ってる暇ないでしょ!?飛ばすよー!!!」
241 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月13日(金)23時31分05秒
流れる景色を眺めると
もう歩行者の顔すら確認できないほどにスピードが上がっていることに気づいた。

「もうっ!!ちゃんと運転してくださいよー!?石川の命預けてるんですから!!!」

そういうと、ワザと矢口は蛇行して
ビビル石川を楽しむ。

「どうよっ!?」

「キャアアアアア!!怖いぃ〜〜〜!!」

「大丈夫だよー!!ヤグチを信じてなって!!!」

もう今更どうすることもできない石川は
目の前の小さい背中に顔を埋めて
目を瞑ってひたすら祈ることにした。

そんな恐ろしい矢口の運転がしばらく続いた。

「ほら、梨華ちゃん!着いたよ!」

地域を代表するイベントらしく、
会場は沢山の人で溢れていた。
ざわめく駐車場には露天が並び、
たこ焼きの香ばしい匂いが寝不足の胃を刺激する。

242 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月13日(金)23時31分38秒
「あのさ、ヤグチ腹減ったから…たこ焼き食べて…」

「そんな暇ないですよっ!!!」

一路たこ焼き屋へ向かおうとする矢口の腕を
しっかりと掴んで、そのままステージの方へ駆け出す。
目的の方向からは、マイクを通った声が何やら進行している。

『えー、トイズEEさんのショーの時間ですが…
飛ばしまして、ハローズ・ゼディマさんの松浦亜弥ちゃんに…』

「げっ!!」

「早く行きましょう!!!」

途端に焦りだす矢口を連れて駆け出す。
もはや、たこ焼きの匂いなど何処へやら、
その代わりに、2本の角が生えた大明神の怒り狂った姿が脳裏に浮かんだ。

『ゴルァ!!どこ見て歩いてんねん!!たこ焼き落ちてもたやないか!!!
あー、痛っ。肩の骨折れて…』

「すいませんっ!」

途中で肩が当たって、ヤンママ風の女に因縁をつけられたが
そんなことに構っている時間はなく、薄茶色の和紙を一枚手渡して
更に人並みをかき分けてようやくステージ脇に辿り着くことができた。

243 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月13日(金)23時32分23秒
「あっ♪矢口さん達遅いですよぉ♪」

いつも通りの喋り方の松浦は
ステージ衣装を身につけて、今にも舞台へ上がろうとしているところだった。

「亜弥ちゃん!ちょ、ちょっとだけ待ってくれる!?」

「待ってって言われてもぉ〜、もう矢口さん達の番、終わっちゃいましたよ?」

「あー!そこを何とか!!!」

そう言うと、ただでさえ視界に入りづらい背丈だというのに
そこから更に姿をくらまし、見てみればアスファルトに額をスリスリしているではないか。
それを見た石川は(゚д゚)こんな顔になっていた。
244 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月13日(金)23時33分01秒
「お願いしますっ!」

しょうがなく石川もお願いするが
松浦は全くそれを気に留めず、矢口の方に了承の返事をした。

「分かりましたっ♪」

「ッ…。」

石川の舌打ち。

「ほ、ホント!?ありがとー!!!」

「ええ♪でも…町内会長さんに説明しないと…。」

「それは大丈夫だから!それよりも……ゴニョゴニョ…。」

薄っすら涙を浮かべて喜ぶ矢口だが、
もちろんこれは演技である。
土下座をしていたときに、しっかり目を擦って赤くする辺りも
したたかさ健在だ。
245 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月14日(土)16時22分53秒
「そうなったら…あ、梨華ちゃん!」

「はい?」

「財布。」

「財布が…何ですか?」

「鈍感だなぁ!!金だよ金!!」

そう言い終わるや否や、カバンから出した石川の財布を
ヒッタクリまがいに強奪してステージに駆け上がる。

「あの、町内会長さん。これで、じゃんけんゲームでもして間をつなげてください。
賞金に使っていいんで。その間にうちら準備しますから。」

他人の財布から惜しげもなく札束を抜き取って会長に手渡すとは…。
まぁ、矢口の生活費の大部分がそこから支払われているのだが。
246 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月14日(土)16時23分24秒
『ここでジャンケン大会を始めまーす!!賞金がでますよー!!皆さんたってくださーい!!
負けとあいこは座ってくださいねー!!チョンボは…』

さっさとハケてきた矢口に早速文句を言おうとするのだが、
目標ができた矢口を止めることは、ジャン・クロード・バンダムでも難しい。
ただ、そんな矢口も少々渋ることをしなければならないようだ。

「次はアイツか…。」

眩しい太陽光を嫌がるようにも見えるその表情は、
明らかにそうではなかった。
キン肉マンと話をつけなければならないのだ。

「梨華ちゃん…。」

「なんですか?」

「控え室に行くぞ…。」

「は…はい…。」

その雰囲気は戦場へ趣く兵士のように
覚悟に満ち溢れていた。
247 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月14日(土)16時24分10秒
「あーっ!!!運転手さん!何とかならないんですかっ!?」

ほとんど動かない車。
クーラーだけが、虚しく車内を冷やしているが
嫌な汗はドバドバと噴き出してくる。

『んー、渋滞ハマっちゃったから、どうしようもないねぇ。』

「んぁ〜…これなら歩いて行ったほうが速かったかもね。」

後藤以外の4人が全員タクシーを推したため
こうなってしまったのだが、普段から歩きがほとんどの後藤にとっては
何キロ歩こうが問題ではなかったのだった。

「こんな炎天下で歩いて行ったら氏んじゃうわよっ!!」

「氏なないよー。」

2台連なった前の方の車には裏方の2人が。
248 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月14日(土)16時24分44秒
「あんた…今日はやけに反抗的ね…。」

「700ま…。」

「クッ!!!」

もう1台の車内。
こちらは元気者の3人だが…。

「アチー!!!」

「あかんわ、これ。おかしくなってまうで…。」

「アイスが食べたいのれす…。運転手しゃんアイス無いれすか?」

苦笑いの運転手。

「あるわけないやろ〜〜。」

溶けそうなほどグッタリしているご様子。
座席から滑り落ちるくらいに浅く腰掛け、
クーラーの噴出口をこれでもかというほどに自分の方へ向けている。
249 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月14日(土)16時25分20秒
「ちょっと、どんなもん渋滞続いてんのか見てくるわ…。」

「あっ!あいぼん!!開けたらダメなのれすっ!!」

「開けちゃダメだYO!!」

モワッ

「ムハッ!!!」

猛烈な熱気に押し返されて、
一旦立ち上がった身体はまた元の場所へ戻され
さらになぜかシートベルトまで着用。

「なんやねん…これ、目玉焼き焼けんで、ホンマに…。」

ノロノロと進むタクシーは現在時速20mほどのスピードで
トイズEEへと向かっている。
ついでに料金メーターは鰻上りに数値を刻んでいる。
250 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月15日(日)21時59分55秒
ゴゴゴッとうごめく因縁。
ドアに貼ってある紙にすら嫌悪感いっぱいの目で睨みつける。

「おいっ!!!」

プレハブでできた控え室のドアを全力で蹴りつけると
セロテープが剥がれて『ハチャマ・ピッコロ様』と書かれた紙が落ちていった。
返事も無い。
もちろん、特徴的な矢口の声を聞いて、相手にする必要はないと判断したのだろうが。

ガチャッ

「おいっ!!」

「やっぱりオマエか…。」

ショーの前だというのに
矢口の顔を見ただけで市井の表情に疲れの色が噴出してきた。

「今日だけは…頼みがある…。」

「はぁ!?随分と都合がいいじゃない?昨日はあんな目に遭わせてっ。」

「そうなんですよぉ。矢口さんってばホントに都合がいいから…」

「梨華ちゃんは黙ってろよ!!」

思わず普段の愚痴が零れてしまう石川だった。

「ぐすん…。」

「で?何よ?聞くだけ聞いたげるわよ?」

ここぞとばかりに今日の市井は矢口に対して
日頃の恨みを晴らすチャンスを得たようだ。
251 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月15日(日)22時00分36秒
ゴニョゴニョ…。

「はぁーー!!?そんなの嫌に決まってるでしょ!?」

「なんでだよ!!ヤグチは毎日やってるんだぞ!?」

「アンタと一緒にしないでくれる!?」

竜虎まみえる。
互いに譲らず、膠着状態に入ったが
どうやら事態は動きそうな様相だ。

「頼む、この通り!!」

矢口は市井の前に手を合わせる。

「わかったわ。」

やけにアッサリとそう告げる市井だったが
しっかりと矢口に見えるように足を差し出した。
252 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月15日(日)22時01分20秒
「ほら?」

「クッ!!」

「どしたのさ?ほら?言わないと分からない?」

今度はご丁寧に靴下を脱いでもう一度差し出す。

ペロッ

「ん?何?」

「ほら、これでいいだろ!?」

屈辱的な格好のまま(毎日この格好をして必殺技の土台になっているわけだが)
その足の付け根よりももっと上の顔を睨むが
市井の表情は微動だにしない。

「どこ舐めてんの?ここよ、ここ。」

人差し指一本で示す場所は
夏にはとっても汗が溜まりそうな、親指と人差し指の付け根の間だ。
ニヤリとほくそ笑む顔から目線を逸らして立ち上がる。

「どーしたの?できないの?」
253 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月16日(月)10時27分14秒
更新されてる〜。
254 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月16日(月)23時18分08秒
「水虫できてるぞっ!!」

「出来てない!!」

「おいっ!!こんなの無理に決まってんだろ!!ぜってー臭ぇよ!!!」

「臭くない!!!」

「臭ぇよ!!!ほら梨華ちゃん!!嗅いでみなよ!!」

「そうやってあたしに舐めさせるんじゃないですかぁ!!」

「ちっ…バレたか…。」

敵も見方もあったもんじゃない。
矢口の腹の中を見たようで、石川も戦慄を覚えてしまった。

ペロッ

「あひゃひゃひゃひゃ!!!堕ちたわねーアンタも!!!」

「クソッ…下手に出れば調子に乗りやがって…」

「ん?何か言った?」

「ああっ!?言ってねーよ!!!」

「逆ギレするわけ!?」

「キレてねーよ!!!」

「クッ…まぁいいさ。次は…」

「次って何だよ!!これで終わりだろうが!!」
255 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月16日(月)23時18分50秒
プレハブでできたその部屋から
怒鳴りあい罵りあいが丸漏れ。
幸い窓がついていないために覗きにくる人はいないが、
これでは何のイメージガールなんだか分かったもんじゃない。

「3回回ってワン。」

「あっ!?」

「3回回ってワンって言いなさいよ。ポチ。」

クルクルクル…ワンッ

速っ!
さっきまでの渋り具合はどこへやら。
もはや矢口に迷っている時間はなかったのだ。

「ポチお手」

シュタッ!

「ポチ伏せ」

ハウッ!

「ポチちんちん」

……。

「チンチンなんてねーよ!!!」

「そうじゃないわよ!!!!」
256 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月16日(月)23時19分20秒
そんな不毛な争いを続ける2人を尻目に
石川は部屋の隅っこで携帯を耳に当てていた。

「もしもし、ごっちん?」

『んぁ。そっちは着いたのー?』

「着いたんだけどさぁ…ちょっとお願いがあるんだけど…。実は今ね…」

ヒソヒソ声で話す必要もないほどに
矢口と市井はやり合っているが、
その中で後藤に一つお願いをした。

「って事で市井さんを説得してくれない?」

『んぁー…いいよ。』

「ホントっ!?ありがと〜♪」

電話を繋ぎっぱなしで矢口を呼び寄せて考えを伝える。
ゴニョゴニョ…
257 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月16日(月)23時19分59秒
「何でもっと早く言わないんだよ!?
おかげでアイツの臭い足舐めるハメになっちゃったじゃんか!!」

「臭くない!!!」

神経を尖らせている市井にとっては
矢口の発言は全てが否定する対象になりえるのだ。
例え自分の足が臭くても臭くなくても。

「臭くない!!!!」

「わかったわかった!!それより、この電話出ろよ。」

その電話は、最終兵器にして伝家の宝刀。
258 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月17日(火)14時45分16秒

『いちーちゃーん。』

「ご、ごとう!?」

『お願いだよー。やぐっつぁんの頼み、聞いてあげてよー。お願いだよー。』

「ウグッ!」

困り果てる市井を遠くから眺めてしてやったりの矢口。
こうなれば、後はこっちのもんだ、とガッツポーズをした。

「アンタ何やってるのさっ!?」

『んぁ。えーっと…タクシー乗ったら、交通規制に引っかかってー
渋滞に巻き込まれちゃった。』

「はぁ〜!?」

『だからさぁ〜、いちーちゃんも手伝ってよ〜。お願いだから〜。』

「…わかった。」

ピッ

「わかったわよ…。じゃ、早くしないと時間がないんじゃないの?」

「そうだよ。だから早く来いよ!」

どうにかこうにか、市井を引き連れてプレハブを出ることに成功した。
かなり遠回りしたことは否めないが。
扇風機のある部屋を出るのは惜しいが
そんなことを考えている状況ではないことは明らかだ。

259 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月17日(火)14時45分47秒
再びタクシーの方へ。

「なんかねー、やぐっつぁん達でとりあえずショー始めるって。」

「えっ!?人数が全然足りないじゃないっ!!」

保田の考えた台本だと
ミニモレンジャー+セーラームーンと敵のスペシャルショーのはずだった。

「誰がどんな役やってるのよっ!?」

「んぁ〜…えーっと…ゴニョゴニョ…。」

「はぁ!?」

はやくもクラクラするような宣告だったようだ。

「じゃあ…セーラージュピターが居ないじゃない…。」

「んぁ…そだね。」

「じゃ、アタシがセーラージュピターで決定ねっ!!」

「えっ?700ま…」

「ツ…!!じゃあ誰がやんのよ!!あんたがやりたいのっ!?」

「ん〜、ヨッスィーがやりたがってたなぁ〜〜。」

こうして吉澤がセーラージュピターとして飛び入りすることが
あっさりと決まった。

260 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月17日(火)14時46分25秒
役者が揃えば残りは衣装。
矢口は小さな身体で群集をすり抜けていち早くトイズEEに向かった。
一向に収まらない暑さで、額にはたっぷりの汗が滲んでいる。

「はっ、はっ、はっ、はっ…」

非常階段は熱せられ、その熱気が上る人を襲うが
それ以上に厳しいのが閉めきった控え室に入ることである。

「うわ〜…こりゃ暑いだろうなぁ…。」

矢口はポストを開けて貼り付けてあるスペアーキーを取り出し、
控え室のドアを開けた。

モアッ。

「うっ!!」

見るからに暑そうなそれの中に
まるで水に潜るかのように息を止めて突入する。

(ミニモレンジャー。の衣装と……あとは……!!!)

「ぶはーっ!!息が限界だ…。」

無意識に手に取ったのはバルタソ星人の手とキソ肉マソの胴体、
コゲパソマソの顔にピポザルのランプだった。
よくもまぁこんなに一度に持ってこれるものだと思うが
いわゆる火事場の馬鹿力というやつか。
261 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月17日(火)14時47分03秒
「まぁ…これでいいか…。」

そして、もう一度控え室に突入するだけの気力は
矢口には残っていなかった。
どうせ他人事だし、そう思うと、この衣装をつけた人物を想像してかなりウケた。
262 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月18日(水)23時32分57秒
「プククククッ!!いつも楽な役だから、たまにはヨッスィーの辛さを味わってもらわないとね。」

行きはよいよい帰りは辛い。
なんせ衣装4つを背負ってくるのだから。

「おっしゃー!!どいたどいたー!!!」

神輿を担ぐ若い衆のように威勢良く
デカい荷物を盾にしてひたすら突進する。
ステージが見えてくると、脇には石川、松浦、市井の3人が
遅い、暑いといった顔で立ち尽くしていた。

「矢口さぁん♪早くしないと時間なくなっちゃいますよ?」

「矢口さぁん!敵の衣装がバラバラですよっ!」

目の前を塞がれた矢口にとって、喋り方だけでは判断しづらいが
先に喋った方が松浦で、後が石川のようだ。
263 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月18日(水)23時33分41秒
「いいのっ!今日はスペシャルな敵役ってことで。」

「敵役は…矢口さんがやるんですか?」

「そりゃいいわ、ハハハハッ!!」

「ヤグチじゃねーよ!何で自分から主役を降板しなきゃいけないんだよ!!」

「じゃ誰が……えっ、あたしはダメですよっ♪」

「アタシだって嫌さっ!!」

「まぁ、亜弥ちゃんでもイチイでもない……ニヤリ。」

「!!!」

流し目で矢口が見る方向には一人しかいなかった。
やっぱり。
さっき市井の控え室で垣間見た、腹の底から悪い矢口は
味方でも敵でもなかったのだ。
264 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月18日(水)23時34分19秒
「な、なんであたしなんですかぁ!!それに…進行のおねえさんの役があるし…。」

「( ´_ゝ`)話の進行を考えてみな。」

「進行?」

要するにこういうことだ(括弧内は舞台上に居る役)。
1.おねえさん登場(おねえさん)
2.ミニモレンジャー。登場(おねえさん、ミニモレンジャー。)
3.敵役登場(おねえさん、ミニモレンジャー。敵)

ここで人数が足りないわけだが、これからミニモレンジャー。と敵が戦うので
必然的におねえさん役=敵役
となるわけである。

しかし普通ならおねえさんが出てきて、敵役が出てきてから、
『みんなでミニモレンジャー。を呼びましょう♪(誰も呼ばない)』
という流れなのだが、
今日に限って台本の流れを変えてしまったのだった。
265 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月18日(水)23時35分46秒
「わかった?」

「…分かったには分かったけどさっ…敵役なんてやりたくないしさっ…」

ボンボン風のイジケが入った石川だが
渋々了承して、一先ずおねえさんの衣装に着替える。
そんな石川よりも嫌々なのが…

「ちょっとさー!この衣装小さいよ!?」

「仕方ねーだろ!"150cm以下戦隊"なんだから!!」

「じゃあ何でアタシがやらなきゃいけないのさっ!!」

「後藤とやるって約束したんだろーー!?」

「だからってこんなにちっちゃい衣装を…」

「ゴタゴタ抜かすんじゃねーよ!!亜弥ちゃんを見ろ!
全然違和感がないだろうが。」

スカートが緩いのは何とかしようがあるが、
服が小さいのは致し方が無い。
それで市井はゴネているのだが、松浦はお構いなしにその服を着こなした。
なぜなら…

「いつもヘソ出しの衣装ですからっ♪」

確かにこのクソ暑い時期に外で仕事をするなら
少しでも涼しいほうがいいだろうが、それは恥ずかしさがなければ、の話で。

「アタシはヘソ出しじゃないの!!」

「だーゴルァ!!つべこべ言わずに早く着ろよ!!!」

「やめっ……ヤメロー!!!イヤダー!!!」
266 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月19日(木)22時14分04秒
数分後。

「イヤだって言ったのに…なんでアタシがこんな衣装着ないといけないのさ…。」

市井はかなり凹んでいた。

「似合ってますよぉ♪市井さんっ♪」

「似合ってるってさっ!!ククククッ!!」

「……。」

「じゃ、あたし出ますよっ!?」

「ああ、梨華ちゃん頑張ってっ!」

即席ミニモレンジャー。ショーがこうして始まった。
お客はだいぶ待たされたおかげで
ピークよりは減ってしまったが、
それでも露天に群がる人たちは、マイクの音につられて
皆がこちらを向いた。
267 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月19日(木)22時14分45秒
「こんにちわ〜♪チャーミーのおねぇさんですよぉ〜♪チビッコのみんなげんきかな〜?」

耳に手を当てるアクション。
無論返事なんかはしない。

「う〜ん♪元気みたいですねー♪今日は第40回東三祭、ミニモレンジャーショーを
見にきてくれてありがとうっ♪」

誰も見に来てねーよ、という視線が刺さる。

「ちょっとお待たせしちゃったけど、みなさんっ♪ミニモレンジャー。の3人が来てくれました〜っ♪」

精一杯の笑顔でそう言ったが、よくよく考えれば
おねえさんの出番が終われば、すなわちそれは敵役が始まるということ。
敵役=マジで痛い技を喰らう
ということである。
ミニモレンジャー。ショーにヤラセは存在しない。
全てがガチンコ勝負なのである。
下手をすれば=死。

「せ〜のっ!ミニモレンジャー!!う〜ん…まだまだ声が小さいですよぉ♪」

いつもなら、誰も呼んでくれなくてもさっさと進めるのに、
今日はやけに引っ張る。
酒が入ったオジサン達がからかい半分に『ミニモレンジャー!』と叫んでいるのに
それでも尚、一緒に呼べと強要するおねえさんは如何なものか。
268 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月19日(木)22時15分30秒
「ミニモレンジャー!!!」

「ヨシヨシ♪チビッコのみんな元気だなぁ〜♪
もうすぐミニモレンジャーがきてくれるよっ♪それじゃ、おねぇさんは帰るねー♪バイバーイ。」

ようやく覚悟を決めたか、満足そうな顔を作ったが
その裏には憂いを秘めていた。
しもてにハケると、

「おつかれさん!ってか長いよっ!!」

「だってー…イヤなんだもんっ…。」

短い言葉を交わすと今度は3人がステージに飛び出していく。
そしてその間に石川は敵役の着ぐるみに着替える。

無造作に置かれたキソ肉マソの胴体。
明らかに汗臭いのだが、後戻りは許されない。

「うわぁっ…やだなぁ……もうっ。ヨッスィーの汗臭いよぉ〜…ぐすん。」

石川が泣きそうな顔で着替えている頃、
ステージ上ではミニモレンジャー。が時間稼ぎをしていた。
269 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月19日(木)22時16分08秒
「今日も暑いけど、地球の平和を守るぞ!あいぼーん!ののたーん!」

そう言って松浦と市井の方を向く。
どうやらいつもの癖で辻と加護が居ると勘違いしてしまったようで、
しかし松浦は乗り気で『リーダー♪』と返してきた。

「(誰がののたんなのよっ!!)」

「(しょうがねーだろ!!間違えたんだよ!!)」

「(間違えるなよっ!!)」

「(うっせー!!"〜〜れす。"って喋ればいいんだよ!!)」

そして一方的にヒソヒソ話を打ち切ると
早速市井に話を振る。

「ののたん。ダイエットは成功したのか?
5●kgも体重があったらしいが?プクククッ。」

「そんなにないわよっ!!」

「んっ?ちょっと、あいぼーん。」

「リーダー、何ですか?」

「ののたんの喋り方がオカシイぞ。
ちょっとゴニョゴニョしてみてくれ。」

「ラジャー♪」
270 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月21日(土)22時19分29秒
自然な関西弁であいぼーんをこなす松浦。
矢口に耳打ちされてピョコピョコと市井の後ろへ回る。

「用意はいいかーっ!?」

「OKやで、リーダー♪」

「GO!!」

掲げられた矢口の腕が降りたとき、
突如松浦は市井のわき腹をくすぐり始めた。

「アヒャヒャヒャ!!な、なにするのさ!!アヒャヒャ!!!」

「う〜む…。」

その様子を見て、渋い顔でアゴの辺りに手を添えて考える矢口。
相変わらず裏が読めないヤツである。
271 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月21日(土)22時20分00秒
「やっぱり…喋り方がオカシイ…。あいぼーん、続けてくれ!!」

「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

「5●kgの体重は今どれくらいになったんだ!?」

「アヒャヒャヒャ!!し、知らないわよっ!!!」

「知らない"わよ"?」

「し、し、アヒャ!!知らないのれす!!!」

「むぅ…。」

やはり渋い顔を崩そうとしない矢口だが
その心の奥底はかなり笑い転げていた。
なんせ市井が『知らないのれす』なのだから。

「ハァハァハァハァ……(アンタ…覚えときなさいよ…。)」

膝に両手を突いて息を切らすも
市井のその目つきは鋭く矢口の方を見据えていた。
272 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月21日(土)22時20分48秒
やる事もなくなって、松浦は石川の様子を横目で見たが、
そのあまりにアンバランスな格好は真面目にやる気を萎えさせてくれる。

「ガオーっ♪」

そう言って出てきた敵役だが
その声は明らかにさっきまでの司会のおねえさんと同一だ。
なぜなら、いつもは鳴き声から何まで全て効果音なのだが、
今日は裏方の人間がいない。
ということで、無理やり着ぐるみの中にインカムをつけているので
鳴き声も石川の声そのままなのだ。

「出たな!?シャクレ怪獣アゴンめ!!」

「アゴンって何ですかっ!?」

あーあ、日本語喋っちゃったよ。
即席ミニモレンジャーが揃って(゚д゚)な顔をしている。

「あっ、すいませんっ!」

そして、日本語で謝っちゃったよ。
しかし酔っ払いの観客には大ウケだった。

「やぐーちゃんキックだっ!!!」

「痛っ!!痛いですよぉ〜〜。ぐすんっ。」

(゚д゚)ハァ?

「あっ、ごめんなさいっ!!」

もうダメだこりゃ。
石川のアドリブのダメっぷりに腰砕けになりながら
もうこれ以上ボロを晒す前にとっとと決めてしまおう、と
次のセリフを放つ。
273 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月21日(土)22時21分18秒
「『もっともっと…』いくぞ……あっ、ちょい待ち。」

そうだ。これでは屈辱的な行為を自ら率先してやることになってしまう。
四つん這いになって市井に背中に乗られるなんて
今後の力関係に絶大な影響を及ぼすことは間違いなさそうだった。

「どうしたんですかぁ?リーダー♪」

「そうなのれす。リーダー、早く四つん這いになってくらしゃい!」

「アンタがリーダーじゃないのさっ!!」

都合のいいことはそうそう上手くいくものではなかった。
ニヤニヤと市井が自分を見ている。

「ちっ!……あっ!!」

どうにかしてこの事態を回避しようと躍起になっていたところに
ちょうどタイミングよく"奴ら"がやってきた。

「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!」

明らかに異様な格好をした3人と、
それと対照的にいたって普通な格好の2人が
物凄い勢いでこちらへ駆け寄ってくる。

初めはかなりの勢いで走っていたのだが、
ものの10mほどで徐々にスピードが落ち始め、
遂にはもうステージまですぐそこというところで
前かがみの姿勢で一休みしてしまった。
274 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月21日(土)22時22分50秒
「おいっ!!休むなよっ!!」

リーダーの鞭入れでようやく顔を上げた3人は
重い足取りで脇の階段を一歩一歩上ってくる。

「ハァハァ…ののたん参上なのれす…。」

「ハァハァ…あいぼーん参上やで…。」

「ハァハァ…セーラージュピター参上…
シビれるくらい後悔させてやるYO…。」

といった具合で、微風が吹けば倒れそうなヒーロー3人がようやく登場した。
その後に何やら制服を着た中年も続いてステージに上がってくるではないか。

「だ、だれだ貴様!!」

思わず構える矢口。

「ああ、リーダー、この人なぁ、タクシー運転手さんやで。どないしたん?運転手さん。」

「ハァ?(゚д゚)」

『お客さんお釣り。』

「ああ、おおきに。」

つりを渡すとタクシーの運転手はステージを降りていった。
思わず観客には大ウケ。

そんな飛び入りメンバーに呆気に取られる市井と松浦に
この後とんでもない展開が待っていようとは、この時点で知る由も無かった。
275 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月21日(土)22時23分39秒
「ちょっとっ!矢口!こっち来なさいよっ!!」

そう。
ここで説明すると、本来の台本なら
ミニモレンジャー。3人(矢口、辻、加護)
セーラージュピター(石川)
敵1、2(吉澤、保田)
のはずだったが、様々な理由によって
このプランはグチャグチャになったのだ。
そのため、保田の分の着ぐるみは用意してなく、舞台脇で困り果てているというのだ。

「なんだよー、圭ちゃんも早く出てよっ!タクシーの運転手に
美味しいところもってかれただろー!!」

「着ぐるみがないじゃないのよっ!何で用意しとかないのよっ!!」

「そんなこと言ってもさー、梨華ちゃんだってメチャクチャな着ぐるみなんだし。
圭ちゃんはそのまま出ても十分敵役だよ、キャハハハッ!!」

バコッ!!

「痛っ!!ゴメンナサイ…。」

「しょうがないわねー…。まぁ出るわよっ!!このままっ!!」

そのまま舞台に現れれば、はいっ
ミニモレンジャー。のリーダーVS怪獣オバチャンのできあがり。
276 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月21日(土)22時25分21秒
「くっそーっ!新しい敵は出てくるわ、ののたんとあいぼーんが偽者だわ、
これはピンチだっ!!」

ピンチを自称するなんて結構余裕があるもんだが、
もっとピンチな2人も同じ場所に居た。

「えっ♪偽者ってどういうことですかぁ!?」

「せっかく協力してやったのにその言い草は何さっ!?」

そんな言い分に耳も貸さない非情な女、矢口真里は
すかさず四つん這いになる。
そしてなぜか、敵役の保田にその身を捕らえられる市井の姿も。

「ちょっ!!なにすんのさっ!!」

「逃げられちゃぁこまるのよっ!!」

「えっ、えっ!!何ですかっ!?」

今までのグダグダ感溢れる芝居から一転、
急に手際よく"それ"の準備が行われたことで
松浦も異変を察知してキョロキョロし始める。
さっきまで、マイクに声が入らないように気をつけていた石川も
突如としてその脅威に震え出す。

「あっ、あっ…あたしには来ない…よねっ…?」

そう信じていた。
でも、何故だか向こうで目を光らせている吉澤が怖くて…。
277 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月21日(土)22時25分56秒
「『もっともっと…』いくぞー!!」

氏刑宣告。

「アベシッ!!ヒデブッ!!イモー!!」

リーダーが秘孔を突かれたような悲鳴をあげれば
もうそこからはスローモーションの世界へ。

「ちょっ、ちょっ!!離してー!!イヤだー!!!」
278 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月22日(日)02時04分02秒
ナチの拷問ですか?
279 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月22日(日)23時17分50秒
そういえば、市井は前日に続いての
2日連続被弾である。
吉澤だからこそ毎日喰らっても生きていられるが
さすがに生身の人間が2日連続では
……当社では保障はできかねます。

「偽者は……(ドカーン)」

「氏ねーなのれす!!(ドカーン)」

「日頃の恨みを思い知れYO!!(ドカーン)」

アドリブで敵をやっつける辻、加護と
アドリブで日頃の恨みを晴らす吉澤によって
このどうしようもない芝居に終止符が打たれた。

「グッ…ヨッスィーも結構重い…。」

がっくぅぅぅぅ…。
280 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月22日(日)23時18分25秒
「リーダー!いつもの決めポーズやりましょっ!
たこ焼き屋が閉まってまいますよっ!」

「リーダー!サボっちゃダメなのれす!
綿飴屋さんが閉まってしまうのれすっ!!」

「やぐーちゃん!早くしないと射的屋が閉まっちゃうYO!!」

ピキキッと背中に走る電流を必死に堪えて
ゆっくりと立ち上がる様は
『もっともっと…』を喰らった敵となんら変わりなかった。

「グッ…おまえら…。」

「「「「150cm以下戦隊、ミニモレンジャー。とセーラージュピター!!カッカ!!」」」」

ポーズを決めてから数秒後
パラパラとした拍手を皮切りに酔っ払いの冷やかしが
大きな歓声として浴びせられた。
もう何十回も同じような話をやってきたのに
初めてこんなに大歓声(冷やかし混じり)をもらったために
4人は照れくさそうに後頭部に手を当てながらハケていった。

そして、倒れたままの敵役は
辛うじて意識を繋いでいた保田が引きずって退散するまで、
観客達に演技で倒れていると思われていたのだった。
281 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月22日(日)23時19分30秒
ようやく終わったステージ。
結局のところジャンケンゲームで時間が延びたことと
市井と松浦の失神で彼女達のショーは無くなった。
まぁ、市井と松浦は一応ショーをしたということで
それほど会社間で問題は起こってないようであるが。

更衣室。

「あんたのせいで無茶苦茶な芝居やらされて最悪だよっ!!」

「お前がヤグチの言った通りにやらないからいけないんだろーが!!!」

こちらは演技などではない。
心底から罵りあう矢口と市井は
着替えながらもその口いつまでもやりあっていた。

「これのせいでアタシの評価もガタ落ちさっ!!」

「( ´,_ゝ`)プッ お前の評価なんかこれ以上下がることねーよっ!!!」

「アアァッ!?」

「痛っ…まだ痛むわね…。
2人ともっ!!もうすぐ花火始まるわよっ!?」

隣りでまだ痛む頭を擦る保田。
どうやら石川と松浦も目を覚ましたようで
矢口と市井とはまた違った『冷戦』を繰り広げているようだ。
282 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月22日(日)23時20分00秒
「矢口さん先行きますよー?」

閉店に間に合ったようで、
加護はアツアツのたこ焼きを頬張りながら
矢口の袖を引っ張っている。

「あいぼん、矢口しゃんは臨戦態勢に入ってるのれす。」

「臨戦態勢……って何?」

「あっちは冷戦をやっているのれす。」

「冷戦……って何?」
283 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月23日(月)21時46分13秒
会場からすこし離れた場所で花火は執り行われていた。

火花が降り注ぐかと思うほどの近さで
打ち上げられる花火に
メンバー達は皆が見上げて口を開けている。

「うわー!すげー!!たーまやー!!」

「んぁ、よっすぃーまだその衣装なの?」

「だってジュピターカッケーし。」

ドーン!ドーン!と鼓膜を揺るがす轟音の隙間から聞こえてくる
相変わらずの言い争い。

「お前のヘソ出し写真バラ撒いてやるからな!!クックックッ!!」

「いい歳コイて公衆の面前で踏み台にされてるやつが言えること?ハッハッハ!!!」

「お前の鼻血失神写真もバラ撒いてやるからなー、クククク!!!」

「何でそんなもんとってんのさっ!!汚いことやってんじゃないのよ!!」

花火に興味がないのか、それともただ気づいていないだけか。
その代わり互いの目からは物凄い火花が飛び散っているが…。
284 名前:第10話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月23日(月)21時47分35秒
そのとき、突然見物客が凄い悲鳴をあげながら散っていく。

「ヤベー!!ヤベー!!!」

「アカンて!!!」

「早く逃げるのれすっ!!!!」

「矢口さんっ!!!!早く逃げてっ!!!!」

「んぁ!!!いちーちゃん!!!危ないよー!!!」

何やら、手筒が倒れたらしく
見事にその放射口の延長線上に残されたのが…

「「えっ!?」」

(あ…ヤベーかも…。)

(やばいかもじゃないかもね…。)

(ウチらこんなオチ…?)

(お似合いじゃない?)

(ハハッ、そうかもね。)

このとき、何故か市井と矢口の目が合って、
ニュータイプ的な意思疎通をしたあとニッコリ微笑み合った。

ドカーン!!!!!!!

かーぎやー。

合掌。
285 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年09月23日(月)21時49分38秒
以上で第1章終わりです。
このスレ、微妙に容量残ってしまいましたが、
キリがいいので第2章からは新スレでやらせていただきます。
明日、返レスをこのスレで行ってから、新スレにて開始します。
286 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年09月24日(火)22時42分46秒
>253
次スレもよろしければお楽しみください。
>278
そんな拷問のような仕事でも、時給650円です。

月板に引っ越しました。
次スレもよろしければお楽しみください。
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/moon/1032874642/

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