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五分後の世界
- 1 名前:SHY 投稿日:2002年07月06日(土)21時30分46秒
- もしも今の日本が終戦を迎えず、戦争状態のままであったなら・・・。
そんな世界に紛れ込んでしまう1人少女を追った小説を書いていきたいと思います。
もしかしたら思いテーマになってしまうかもしれませんが、気軽にレスしてくれると幸いです。
- 2 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)21時32分17秒
- (あれ?ここはどこだろ?)
さっきまでと同じ森の中、なのにどこか違った空気を肌で感じた。
何が違うのか、具体的な根拠がある訳でも無いけど感じた。
空気?―――そう空気が違うんだ。
子供の頃のおじいちゃんのお葬式の時のどんよりした空気。
そんな感じの空気がした。
それが肌から伝わってきた。
不意に遠方から機械音が聞こえてきた。
空を見上げるとヘリコプターがこっちに向かって来るのが見える。
テレビや写真で見た事がある、ヘリコプターとはちょっと違う、どっちかと言うと自衛隊や米軍が使っている様なヘリコプターに見えた。
- 3 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)21時33分30秒
―――また空気が変わる。
先ほどとはうって変わって、刺激的な空気。
(危ない、逃げなきゃ)
そう思うと同時にヘリコプターから何かが撃たれた。
一目散にその場を離れると、後ろで聞いた事も無い様な爆発音が起こり、すぐ後に来た熱風にはじき飛ばされた。
ちょっとした窪みに転がり込む様に投げ出される。
背中を打ちつけ、思わず悲鳴を上げる。
肘や膝にすり傷もできたみたいだ。
訳が分からない。
どうしてヘリコプターがミサイルを撃ってくる?
もしかして知らない内に戦争でも始まっていたんだろうか?
けどそんなニュースは聞いた事もない・・・。
さっきのヘリコプターはアメリカのかな?
そんな事を考えていると、兵隊らしき人間が目の前に現れた。
- 4 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)21時34分51秒
白人。
相手も一瞬驚いた顔をしたが、すぐさま持っていた小銃をこちらに向けた。
(え?どうして銃を向けるの?わたしは何もしてない・・・)
そう思いながらも、その兵隊が引き金に手をかけるのが見えた。
(殺される!)
その恐怖に目を閉じた。
「プシュッ」
プルタブの栓を抜いた様な音が聞こえたかと思うと、銃を構えた男が倒れる音が聞こえた。
不思議に思い恐る恐る目を開けると、その男はこめかみに開いた小さな穴から血を垂れ流しながら倒れていた。
(死んでる・・・)
今まで撃たれた死体なんて見た事も無かったけど、直感的にそれが分かった。
不意に胃が痙攣を起こす。
吐き気をもよおし、胃の中の消化物を吐き出した。
少しでも早くこの場を去りたかった。
けれど、震えで立つ事すら出来ない。
その死体から少しでも遠ざかる。
四つんばいの格好で少しでも死体から離れようとしていると、さっと目の前に人影が現れた。
- 5 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)21時35分56秒
(誰?)
見上げると、また兵隊らしき人間だった。
ヘルメットで顔はよく見えなかったけど、今度は日本人らしき女性だった。
(日本人?味方?女なのに兵隊?)
そうぼんやり思っていると、兵隊が話し出した。
「この一帯は現在、国連軍との戦争状態にある。貴様がなぜこんな所にいるのかは知らないが、死にたくないなら私について来い。ただし、私の歩いた道筋をしっかり辿って来るんだ。少しでもずれると地雷に接触する可能性がある。」
そう言い置いて、女はさっと振り返ると中腰の状態で走り出した。
混乱状態ではあったが、少なくとも敵ではなさそうだし、死にたくない感情も手伝い、慌てて後を追う。
息が上がってきた。
足腰も悲鳴を上げている。
バレー部に所属して鍛えている事もあったし、体力にはある程度自信はあった。
それでも少し前を走る女は、走りづらい中腰の状態にも関わらず、辛い素振りも見せずに走っている。
女とは思えない体力だった。
- 6 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)21時36分59秒
ここはどこなんだろう?
わたしは合宿で箱根に来てたはず。
日本がどこかの国と戦争を始めたなんて聞いた事も無かったし、いくらほとんどニュースや新聞を見ないわたしでも、そんな大事件が起こったら知ってるはずだ。
それでもヘリコプターはミサイルを撃ってきたし、兵隊が一人殺されたのも見てる。
(これは夢?)
そんな思いも頭によぎる。
もしかしたら気付かない内に死んじゃってて、ここは死の世界なのかもしれない。
となると天国には行けなかったのかな?
少なくともこんな世界が天国な訳は無い。
死んだ人間も痛みや、苦しさは感じるのだろうか。
肺が段々と痛みを増し、いつ転んでもおかしくない位、足腰も辛くなってきた。
それでも、前の女に付いて行くしかなかった。
- 7 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)21時39分28秒
- その女が周りを確認する様に立ち止まり、木の茂みの近くに中腰状態で構えた。
慌てて同じような格好で、隣に付く。
女は小さなケースを取り出し、それを開ける。
中からディスプレイが飛び出し、何か文字が浮かび上がった。
(パソコン?それにしては小さすぎる気が・・・)
「それは何ですか?」
小声でその女に尋ねる。
「DMDGだ」
「DMDG?」
そう聞き返すと、女は少し驚いた様な表情した。
「DMDGも知らんのか?貴様は本当に何者だ?髪の色は変でも純潔な日本人の様なのだが。DMDGはアンダーグランドが誇るデジタル通信機器だ。1200文字を0,7秒で送信可能で、ワンタッチで暗号化も可能だ。まあそんな必要もないのだがな。国連軍はこれほどの速さの通信を傍受出来る技術は無い。」
- 8 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)21時40分57秒
- 訳の分からない単語が飛び出てきた。
(純潔な日本人?)
(アンダーグラウンド?)
(国連軍?)
純潔じゃない日本人ってハーフって事なんだろうか?
アンダーグラウンドって地下だっけ?
国連軍くらいはわたしも知ってる、けどそこと戦争しているんだろうか?
それでも何となく分かった事は、今持ってるのは凄い速さで通信できる機械って事で、携帯メールの凄いバージョンって感じだと思う。
「よし、今の我々の位置は把握した。ここから少し離れた所にトンネルがある。そこまで行けば安全地帯だ。ただし交戦地帯に出くわす可能性もある。安全のために日が暮れるのを待って行動する。出発時刻は一八〇〇時だ。それまでしっかりと体を休めろ。」
そう言うと女は、少し離れた場所に座って辺りを警戒し始めた。
見張りみたい事をしてくれてるんだろう。
色々聞きたい事もあったけど、それ以上に疲労が襲ってきて、眠りの世界に引き込まれていった。
- 9 名前:SHY 投稿日:2002年07月06日(土)21時42分45秒
- うぅ、最初のあいさつからミスってしまいました。
先行き不安のスタート・・・。
「思いテーマ」→「重いテーマ」です。
- 10 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)23時35分27秒
「・・・起きろ」
軽く肩を揺すられている事に気付いて目覚める。
辺りはぼんやりと暗くなっていた。
ふと時計に目をやると17時55分だった。
「出発の時間だ」
女は時計を見せながら静かにそう言った。
その時計は18時丁度だった。
「あれ?その時計5分ずれてますよ?」
わたしの時計はおじいちゃんの形見の古い時計だ。
確かに古いけど、いつでも時計が狂う事はなかった。
「そんな事はない。我々の時計は作戦前に全員で時間を合わせる。今回も4日前に調整したばかりだ。時計を見せてみろ。」
そう言うとわたしの腕を取って、自分の時計と見比べた。
「5分ずれている。やはりか・・・。」
女はポツリとそう呟いた。
- 11 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)23時36分39秒
- ほんの少しだけど、辛そうな表情を浮かべた様な気がした。
(やはり?)
ずれてる事が最初から分かってたみたいな言い方だ。
それを尋ねようとするより早く、女は言葉を続けた。
「それはともかくとして、トンネルへと向かう。先ほどと同じ様に私について来い。」
そう言って女は歩き始めた。
さっきみたいに走る事もなく、辺りを警戒する様に歩いている。
(トンネルってそんなに安全なものなんだろうか?)
(トンネルに行って何があるというんだろう?)
疑問も浮かびかがったが、それを聞ける様な雰囲気でもないので、黙って後ろについて行った。
何度か辺りをうかがったり、DMDGとかいうやつを使うために立ち止まる事もあったけど、ほとんど黙々と歩いていた。
そうして女は少し大きめの木の前で立ち止った。
「ここだ。」
そう言って、木の幹を調べ始めた。
- 12 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)23時37分58秒
- (ここ?)
自分のイメージしていたトンネルとの違いに驚きを覚える。
というか、ただの木だ。
もしかしてからかわれているんだろうか、そんな思いも持ち始めた時、枯葉に埋もれていた扉のようなものが現れ、女はそれを静かに開けた。
「先に入れ」
そう促されて、その中へと入っていく。
ハシゴが掛けられていて、それを伝って下へと降りる。
15段あるかないかのハシゴを降りると、土の地面へと降り立った。
中は地下道のようになっていて、奥に進める道があった。
箱根、神奈川県の地下にこんな場所があるなんて聞いた事もない。
「ついて来い」
気付くと女が隣に立っていて、その道を進み始めた。
いつの間にハシゴを下りて来たんだろう。
出会った時から、彼女の動きは驚きの連続だった。
その強靭な体力、音を立てないスムーズな動き・・・。
まさに訓練され尽くした兵士の動きだとぼんやり思った。
- 13 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)23時39分08秒
しばらく後をついていくと、広めの場所に出た。
先ほどまでの通路は天井が低く、若干中腰状態で歩いていたけど、ここは少なくとも背丈よりは広い天井だった。
ようやくの事で背筋を伸ばし、幾分落ち着けた。
辺りを見回すと、そこはまさに地下鉄のホームみたいで、線路の様なものまであった。
というよりもそれしか無かった。
しばらく2人で待っていると、電車がやって来た。
わたしの知っている電車とは全然違い、流線型の様な先頭でどちらかと言うと新幹線みたいな電車だ。
女は扉を自分であけて乗り込んだ、わたしも後に続く。
(自動扉じゃ無いんだ)
車内はこぢんまりとした作りで、2人ずつ座れる座席が2組ずつ縦に配置されていた。
窓もついていない。
その1つに彼女が座ったので、わたしも隣に座る。
兵士らしき人間が何人か乗っていたけど、誰も話さずに目を瞑っていた。
- 14 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)23時41分06秒
- わたしは彼女に聞いてみた。
「どこに行くんですか?」
女は興味無い様な口調で答える。
「地下司令部へと向かえとの指示だ。しばらくした所で乗り換えるが、そこで迎えの者が待っている。私はそこから別の任務地へと向かうので、後は迎えの者の指示を受けてくれ。」
「あの、ここはどこなんですか?」
思い切って尋ねてみる。
「うん?ここはアンダーグラウンドだ」
「いやそういう事じゃなくて、さっきまでいた場所はどこなんですか?」
「あの一帯は箱根DMGで我々の管理化にある。」
(箱根DMG・・・)
DMGというのはよく分からないけど、わたしはどこか遠くの場所にとばされた訳でもなくて、合宿地の近くにいた事にはなる。
けれど、ここは自分の知っている世界では無いような気はする。
- 15 名前:壱話 『5分遅れた時計』 投稿日:2002年07月06日(土)23時41分56秒
(タイムスリップ?)
兵隊もいるみたいだし、昔にタイムスリップしたんだろうか?
いや、昔の日本にこんな電車なんてある筈もない・・・。
そんな事を思いながら電車の揺れに身を任せていると、また眠気が襲ってきた。
こういう状況に身を置かれながら、割と平然としている自分に少し驚きながら、眠りに落ちていった。
多分その安心感は隣に座っている女性がくれたもの。
この人について行けば大丈夫、この人ならわたしを守ってくれる、出会って1日も経たない女性に何とも言えない信頼感を持った・・・。
- 16 名前:SHY 投稿日:2002年07月06日(土)23時45分23秒
- とりあえず第壱話はここまでです。
壱話というより、プロローグって感じですね・・・。
まだ娘。の名前が1人も出てきてないですし(w
主人公は誰なのか?とか想像して頂けると幸いです。
- 17 名前:あうん 投稿日:2002年07月07日(日)01時56分20秒
- 引き込まれました。
五分後のというと村上さんのですね。
期待してます。
- 18 名前:弐話 『アンダーグラウンド』 投稿日:2002年07月08日(月)16時38分24秒
「着いたぞ。起きろ」
そう言われて目を覚ます。
電車を降りると、先ほど乗った所よりは広く、明るい場所へと降りたった。
もちろん地下なので、その明るさは電気がもたらしてくれている。
ホームでは軍服らしき服を着た女性が待っていた。
軍服といっても戦闘服というよりは、戦闘してない時に軍人が着るような服だ。
その女性は微笑みながら、私達に話しかけてきた。
「お疲れ様です、ナカザワ中将。ここからは私が彼女を引き受けます。この後の指令なのですが・・・」
そう言いながら、2人は少し離れた所で会話を続けた。
多分機密事項みたいな会話でもしてるんだろう。
(中澤さん)
彼女の名前がようやく分かった。
中将というのは、軍隊の階級の事だと思う。
弟のやっていた軍事ゲームだと、かなり上の階級だったのを思い出した。
(そんなお偉いさんがわたしを助けてくれて、ここまで連れて来てくれたんだ)
- 19 名前:弐話 『アンダーグラウンド』 投稿日:2002年07月08日(月)16時45分37秒
- ・・・。
しばらくして2人が近寄ってきた。
中澤さんが話しかけてくる。
「先ほども言った通り、私は別任務へと向かう。後はこのヤスダ中尉の指示に従ってもらう。彼女に迷惑をかけない様にな」
そう言って、手を差し伸べてきた。
わたしも手を差し出し固く握手をした。
彼女の手はとても温かく、柔らかく、この手が銃を扱うのが信じられなかった。
「あんたとはまた会いそうやな」
小声でそう言ってから中澤さんは去っていった。
今まで硬い口調で話してきた彼女が、全然違う口調で話すのにびっくりした。
「彼女は女性である上に、若い内に上の地位に立ったから、いつも男の様な話し方をするの。それにオサカの言葉は受け入れられにくいしね。けれど、とてもいい人よ」
保田さんと言われていた女性が説明してくれた。
オサカというのは大阪の事なんだろうか?
確かに関西弁みたいな口調だった。
- 20 名前:弐話 『アンダーグラウンド』 投稿日:2002年07月08日(月)16時47分00秒
- 「さぁ、これからは私があなた、えっと、名前は?」
「あ、吉澤です。吉澤ひとみ」
「そう、私がヨシザワさんを案内するわ。けれどその前に検査官の身分検査を受けてもらう。けれど安心してね。必要上の問題で、軽い質問をされるだけだから。ただ、持ち物は一旦提出してもらうわ。」
そう保田さんに言われて、自分の持ち物をすべて手渡した。
「あ、時計もお願いできるかしら?」
「時計もですか?これはおじいちゃんの形見で、凄く大事な物なんですけど・・・」
「大丈夫よ。何も問題が無ければすぐにお返しするから」
渋々時計も差し出した。
保田さんの言ってた通り検査自体はごく簡単なもので、すぐにわたしは解放された。
時計だけはすぐに手元に戻ってきた。
- 21 名前:弐話 『アンダーグラウンド』 投稿日:2002年07月08日(月)16時47分48秒
- 「これから地下司令部へと向かうわ。」
そう言って、保田さんは私を先導した。
(地下司令部・・・)
どうしてここはすべて地下なんだろうか?
まるでヒーロー番組の悪役みたいだと思った。
電車を待っている間、保田さんに色んな疑問を聞いてみる事にした。
彼女はパッと見は怖い感じだけど、話し方やこちらも見てくる目から優しさを感じさせてくれたし、中澤さんとは違った意味で頼もしさも感じられた。
「あの、どうしてここは地下にあるんですか?」
「う〜ん、それをヨシザワさんに説明するのは簡単な事ではないわ。その質問の答えは後で分かってくると思う」
「そうですか・・・。それじゃあ、今ここでは戦争が起きてるんですか?」
一瞬その質問に考え込んだ後、保田さんは口を開いた。
「端的に言えば、そういう事になるわね。これ以上詳しい事を私の口から話す事は出来ないの。後は地下司令部から聞くことが出来ると思うわ」
「分かりました・・・」
質問を諦めたわたしは、黙って電車が来るのを待っていた。
- 22 名前:弐話 『アンダーグラウンド』 投稿日:2002年07月08日(月)16時48分31秒
- しばらくしてホームにやって来た電車は先ほど乗ったものよりも近代的な感じがして、乗り込むと軍人以外の人間も乗っていた。
ドアは先ほどと同じ様に手動だった。
車内に座席は無く、わたし達は胸の高さにあった鉄パイプに掴まり並び立った。
ふとドアの方を見ると、中学生らしき集団が楽しそうに笑っていた。
彼らの服はとても清潔そうで、男の子たちはボタンもきちんと上まで留めていて、シャツをズボンの裾から出したり、ポケットに手を突っ込んでいる様な人間は1人もいなかった。
「優等生」
そんな言葉がぴったりの中学生達だった。
改めて車内を見回すと、彼ら以外にも車内の人達は清潔感溢れる服装をしていた。
途端に、自分の着ている薄汚れたジャージ姿が恥ずかしくなる。
外を駆け回った結果だから仕方の無い事だけど・・・。
(学校指定のジャージじゃなくて、せめて私服だったらよかったのに)
そう思った。
- 23 名前:弐話 『アンダーグラウンド』 投稿日:2002年07月08日(月)16時50分31秒
少し憂鬱な気分で窓の外に目をやると、地下世界が見渡せた。
見えるのは住宅街の様な景色。
ここは本当に地下にあるんだろうかと、疑問を抱きたくなるほどの広さだった。
しばらく窓の外を眺めていると、電車が止まった。
この電車に乗り込んで何回目かの駅。
全ての駅には何の表示も無く、全て同じ駅に見えた。
この電車を利用する人たちは、どこで降りるのかをきちんと把握出来てるんだろうか?
先ほどの中学生集団はこの駅で降りたみたいだった。
- 24 名前:弐話 『アンダーグラウンド』 投稿日:2002年07月08日(月)16時51分18秒
- その後も何駅かを経由した後、保田さんが次の駅だと教えてくれた。
その駅でホームへと降り立つ。
今までの中でも人の数が圧倒的に多い駅だった。
子供から大人まで、軍人らしき人間もいた。
肩から小銃をぶら下げ、談笑しながら歩いていた。
周りの人もその軍人に興味を示すこともなく歩いている。
多分これが普通の光景だからだろう。
(軍人がいても普通の光景・・・)
わたしの世界ではありえない事だ。
何となく分かって来てはいたが、改めて実感する。
この世界はわたしのいた世界ではない・・・。
- 25 名前:SHY 投稿日:2002年07月08日(月)16時55分28秒
- 今回の更新はここまでです。
ようやく主役の名前を出すことが出来ました(w
ほとんど見返す事なく書いているので、誤字・誤脱あったらすいません。
>あうんさん
レスありがとうございます。
言われた通り村上さんの作品です。
原作の良さを生かした小説を書ければいいなと、思っています。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月10日(水)00時37分57秒
- ジパングか戦国自衛隊みたい。
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)02時51分26秒
- 続き期待!
- 28 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)01時14分57秒
- 今日はもう遅く、地下司令部には明日行くという事で、わたしは保田さんの家に泊めてもらう事になった。
あまり広くはない、入り組んだ道を歩いて行く。
言われたように駅を出ると辺りは夜みたいに暗く、時計を見やると10時を過ぎていた。
ここは地下なんだから、電気を暗くする事で夜の雰囲気を出しているんだろう。
何かで聞いた事がある、人はいつも明るい所にいると時間感覚がおかしくなり、狂ってしまうと。
「さあ、ここよ」
保田さんはそう言って家の中に入っていった。
周りの家も似たような作りの家だったが、表札はきちんとあった。
中に入ると狭い作りで、間取りで言うと1K位だと思う。
靴は脱がずにそのまま生活するみたいだ。
まず目に付いたのは台所で――と言っても、炊事場があるだけだけど――きちんと食器は洗われていた。
- 29 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)01時16分16秒
- 部屋に入ると、きちんと整頓されていて余計な物は一切置いてない。
テレビ、コンポ、ぬいぐるみ等、わたしの部屋の必需品は見あたらなかった。
ベッドも壁に取りつけられた簡易的なもので、上に起こすとその分スペースが出来る仕組みになっていた。
(シンプル・イズ・ベスト)
そんな感じの家だった。
その日は保田さん手作りの夕食を食べ(おかずは質素なものだったけど、とてもおいしかった)、床に布団を敷いてもらって眠りについた。
何度か仮眠はとっていたけど、目まぐるしかった1日の疲れでわたしは泥の様に眠り込んだ
- 30 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)01時17分53秒
「・・・起きて。そろそろ地下司令部に行かないと」
身体を揺さぶられているのに気付いて目を覚ます。
起き上がると、何となくだるかった。
昨日はバレー部の練習でも考えられないくらい体を動かしたので、その影響があるんだろう。
それでも強引に体を覚醒させて立ち上がる。
昨日から変わっていない服や下着が、更に心もだるくさせた。
そのまま2人で地下司令部という所に向かった。
さすがに心臓の鼓動が早くなる。
(緊張)
学校での先生との面談や入部したバレー部の先輩に初めてあいさつした時のような感覚だ。
昨日の食事の時に、少し保田さんが説明してくれた。
「地下司令部と言うのはね、ニホンの全権を掌握する最高決定機関の事なの。二十八人委員会がしきっていて・・・」
話が理解出来なくて後の内容はほとんど覚えてない・・・。
それでも、とりあえず凄い所に向かってるんだという事は分かる
- 31 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)01時19分34秒
- 地下司令部というのは、わたし的には国会議事堂とか、都庁みたいな建物を想像していたんだけど、驚いた事に実際は区役所みたいな所だった。
もちろんそれよりは数倍豪華で、威厳ある感じなんだけど。
わたしはそこで一旦保田さんとお別れし、「司令官室」というのに通された。
ドアをノックすると返事があったので、中に入る。
中には1人の男が立っていた。
背はそんなに高くもなく、こちらも見る眼差しも優しいが、威厳ある風格をただよわせ、何か絶対的なオーラを発している、そんな男だ。
「ようこそ、地下司令部へ。私が総司令官のテラダだ。」
(総司令官・・・)
昨日聞いた話だと、この地下世界のトップの地位の人間だ。
わざわざそんな男がわたしに直接・・・。
- 32 名前:SHY 投稿日:2002年07月12日(金)01時23分28秒
- 短いですけど、今回はここまでです。
今週末から所用が増えていくので、なかなか更新出来ないとも思い、少し強引に更新しました。
話の都合上、話を区切って3話からという事で。
>>26さん
「ジパング」も「戦国自衛隊」も読んだ事がないので、話程度しか知りませんが、言われてみればそうかもしれません。
また機会があれば読んでみたいと思います。
>>27さん
ありがとうございます!
これからもなるべく早く更新していけたら、と思っています。
- 33 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)23時44分53秒
「君の名前はヨシザワヒトミだね?」
そう聞かれたので、黙って頷く。
机の上を見てみると、昨日提出したわたしの所持品がビニール袋に入れて置かれていた。
男、寺田司令官は話を続ける。
「回りくどい言い方は好きではないので、単刀直入に聞く。君はこことは違う世界からやって来た。もちろん違う世界というのは、国外からとか違う地域からという意味ではなく、本当に違う世界から紛れ込んでしまった。そうだろ?」
驚きで言葉を返す事が出来ない。
(どうしてそんな事が分かるんだろう?)
「実は君の前にも何度か同じ様な人間が現れているんだ。それがどういった理由なのかは分からない。仮定としては、国連軍――中でもソビエト軍であるが――の執拗な核攻撃による時空の歪みから生じる物というのもある。確かに何らかの形で異様なまでに磁場が乱れるといった事が起こり、その時に君の様な人間が現れているからね。そう言った人間は1人の例外もなく、時計が5分遅れている。我々はそう言った人間を『五分前』と称した時期もあったほどだ」
- 34 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)23時45分37秒
(5分ずれている。やはりか・・・)
脳裏に中澤さんの言葉が蘇る。
中澤さんは知っていたんだ。
おそらく保田さんも知っていた。
だから私を見ても、そう驚くことも無く受け入れたんだと思う。
「あの、それじゃあ、わたしより前に来た人はどうなったんですか?きちんと元の世界に戻れたんですか?」
意を決して尋ねてみた。
寺田司令官は少し悲しそうな表情になって口を開いた。
「ほとんどの者が我々の手によって殺されている。彼らが出現する場所は交戦地区がほとんどだ。そこにあって彼らは、パニックを起こし叫び回したり、どうにかして自分を分かってもらおうとする。その様な行為は我々にとっては死に直結する。そこは戦場なのだからな。そしてやむなく射殺の措置を取っている」
- 35 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)23時47分34秒
・・・一瞬訳が分からなくなった。
自分の世界の住人が、こちらの世界の人間によって殺された。
目の前の男に得も知れない殺意を抱きそうにもなった。
それでも頭の片隅に残った恥ずべきエゴ
――自分は助かって良かった――
自分がそう思った事に自責の念すら覚える。
それでも聞いてみた、聞いてみざるを得なかった。
「・・・それなら、どうしてわたしは、こ、殺されなかったんです、か?」
どうにか言い切った。
男はわたしの目を見据えて質問に答えた。
「我々は君に興味を持ったからだ。君は今までの人間のようにパニックになる訳でもなく、ただ純粋に生き残ろうとしてここまで行動した。今までの自分の行動を振り返ってみると分かると思う」
- 36 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)23時49分43秒
- そう言われて昨日の行動を頭に描いてみる。
(ヘリコプターからのミサイル)
(白人の兵士との遭遇)
(中澤さんの背中に付いて行った事)
まあ言われてみれば生き残ろうとしたんだろうけど・・・。
どちらかと言うと、あまりの現実離れの光景にパニックすら起こせなかったという方が近い気がする。
- 37 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)23時50分22秒
「君の名前はヨシザワヒトミだね?」
そう聞かれたので、黙って頷く。
机の上を見てみると、昨日提出したわたしの所持品がビニール袋に入れて置かれていた。
男、寺田司令官は話を続ける。
「回りくどい言い方は好きではないので、単刀直入に聞く。君はこことは違う世界からやって来た。もちろん違う世界というのは、国外からとか違う地域からという意味ではなく、本当に違う世界から紛れ込んでしまった。そうだろ?」
驚きで言葉を返す事が出来ない。
(どうしてそんな事が分かるんだろう?)
「実は君の前にも何度か同じ様な人間が現れているんだ。それがどういった理由なのかは分からない。仮定としては、国連軍――中でもソビエト軍であるが――の執拗な核攻撃による時空の歪みから生じる物というのもある。確かに何らかの形で異様なまでに磁場が乱れるといった事が起こり、その時に君の様な人間が現れているからね。そう言った人間は1人の例外もなく、時計が5分遅れている。我々はそう言った人間を『五分前』と称した時期もあったほどだ」
- 38 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)23時51分20秒
「理由や状況なんてどうでもいい。それでも君は生き残るための行動を取った。あえて言えば、ナカザワ中将の後を追う必要性だって無かった訳だ。それでも君は付いていった。その原動力はただ1つ、『生き残る』という強い意志から生まれてくる。我々はそんな君に興味を持った訳だ。だから君に救いの手を差し伸べ、ここまで連れてきた。」
寺田司令官はそう言った。
自分ではよく分からない。
ただ「死にたくない」とは思ったと思う。
「死にたくない」=「生き残る」なんだったら、わたしは少なくともそう思ったんだろうか?
「とにかく我々は君が元の世界に帰れるために最大限努力する。少なくともその間はここでの生活をしなくてはならない。それらの事は、君を担当する者に聞いてくれ。わたしの話は以上だ」
そういい置いて寺田司令官は奥の部屋へと入っていった。
- 39 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月12日(金)23時52分22秒
この男は絶対的な存在なんだと思った。
彼の口から発せられた言葉に間違いは無いような気にさせられる。
それは地位や階級から来るものではなく、科学的な根拠にでも裏付けられた様な彼の話し方からのものだった。
そして彼の発言には科学的な根拠もあるんだろう。
だからこそ彼に威圧感などはなく、どちらかと言うと親しみすら覚える感じだった。
あんな固い口調にも関わらず。
(カリスマ)
そんな言葉がピタリと符号する男、そう思った。
- 40 名前:SHY 投稿日:2002年07月12日(金)23時55分31秒
- とりあえずキリのいい所まで、アップしておきました。
細かい更新の連続で本当にすいません。
それと、
>>37
は訳の分からない二重投稿になってしまいました。
読み飛ばしてくださいね(汗)
- 41 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月16日(火)05時44分38秒
部屋を出ると、保田さんが待っていてくれた。
後ろには女性も控えていた。
「こちらはイシカワ少尉。これからあなたを生活面などでサポートしてくれる人よ。
これからは彼女の言う事に従って行動してね。
私はこれから別の仕事があるから、一旦ここでお別れよ。
また会えるのを楽しみにしてるわ」
そう言って保田さんはその場を離れていった。
その後、石川さんという女性が話しかけてきた。
「はじめまして。私はイシカワリカ。これからよろしくね」
笑顔でそう挨拶され、わたしも慌てて答える。
「あ、吉澤ひとみと言います。よろしくお願いします」
- 42 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月16日(火)05時46分07秒
「とりあえずシャワー浴びるよね?
ヤスダさんの話しだと昨日も入ってなかったみたいだから。
さ、こっちよ」
笑顔でそう言いながら私を先導してくれた。
(石川梨華・・・)
とても綺麗な女性。
この世界の人はみんなそうなんだろうけど、化粧も控え目で余計な装飾品は一切付いていない。
けれど、それが逆に彼女の女らしさを強調している様な気がした。
何よりその笑顔がわたしの心を温かいものにしてくれた。
彼女に連れられて来たシャワールームでシャワーを浴びさせてもらった。
昨日までの汚れと共に、疲れも洗い流されていく気がした。
一通り体を洗い流し、シャワールームを出ると、新しい着替えが用意されていた。
おそらく彼女、石川さんが用意してくれたものだろう。
彼女の心遣いに感謝する。
下着を付けてみたけど、ブラの方は大きすぎた・・・。
- 43 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月16日(火)05時47分35秒
そんな事に若干へこんでると、一冊の本が置いてあった。
誰が置いていったんだろう?
石川さんだろうか?
それとも他の人の命令で?
あまり紙質はよくない。
裏返してみると、表紙には国民学校小学部教科書と書かれていた。
大きく「社会」とも大きく書かれている。
(――教科書)
こっちの世界を知るには丁度いい本なのかも知れない。
しかも小学生のだ。
わかりやすくていいのかも。
パラパラと流して読んでいると、「室町幕府」とか「徳川家康」と言った見知った単語が目に付いた。
こっちの世界も過去は同じみたいだ。
しおりが挟まれてあった「現代」と書かれた章を読んでみる事にした。
- 44 名前:SHY 投稿日:2002年07月16日(火)05時49分35秒
- ここからは、教科書の記述がけっこー続きます。
原作に比べると、かなりはしょったんですが、それでも長いかも…。
飛ばしてもらっても全然構わないのですが、この世界を吉澤さんと同じ様に知るには丁度いいものだと思います。
- 45 名前:<その1:大日本帝国の消滅> 投稿日:2002年07月16日(火)05時51分26秒
- ……第九章現代
<その1:大日本帝国の消滅>
……一九四五年五月に首都ベルリンを占領されてドイツが降伏し、戦いを続けているのは大日本帝国だけとなりました。
大きな都市は全て焼け野原となり、軍事施設や工場だけでなく、住宅地も空襲を受けたことで多くの日本人が殺されていきました。
そして八月、ソ連(現ロシア)が条約を破って、満州、カラフト、千島列島に攻めこんできました。
八月六日には広島(本州西部の都市、現在はない)、九日には長崎(九州の、現在の中国区の一都市)、十九日に小倉(九州の都市、現在はない)、二十六日に新潟(現在は第三ロシア区の一都市)に原子爆弾が投下され、それぞれ十万から二十万の人々が殺されました。
旧日本軍の指導者たちは本土決戦の準備を進め、『義勇兵役法』などの勅令を出しました。
それは、少年少女から老人までほとんど全ての国民を兵士にするというものです。
また、さまざまな特別攻撃隊がつくられ、二十歳前後の若者が体当たり攻撃で数多く死んでいきました。
- 46 名前:<その1:大日本帝国の消滅> 投稿日:2002年07月16日(火)05時51分58秒
- 十一月三日、アメリカ軍は南九州に上陸してきました。
子供や老人を含めて旧日本軍はよく戦いましたが、武器、弾薬、食糧、衣料、医薬品、あらゆるものがなく、翌年、四十六年の二月には九州が占領されてしまいました。
三月には、ソ連軍が北海道に上陸、関東の湾岸にはアメリカ軍が上陸してきました。
戦闘と空襲によって、交通や運搬、通信などの、国としての動きは全て止まりました。
六月、アメリカ軍は東京を占領し、軍の指導者は逮捕され、大日本帝国は消滅したのです。
この戦争において日本の人口はそれまでの八千万人から五千万人に減り、さらに戦後の占領軍による虐殺、ゲリラ戦、飢え、疫病、衣料や食糧や医薬品の決定的な欠乏などによって、五十一年三月には日本人の数は一千万人を割ったと言われています。
そして、難民として日本を脱出する人も後を絶たず、さらに、減少していくことになります……
- 47 名前:<その2:地下司令部の誕生> 投稿日:2002年07月16日(火)05時53分28秒
<その2:地下司令部の誕生>
……今、わたしたちが住んでいる日本国・地下司令部はどのようにしてできたのでしょうか。
これは旧長野に、旧日本軍が造ろうとしていた地下大本営が、基礎になっています。
一九四四年十一月、外地から生還した旧日本陸軍将校団は、旧長野の地下工事の仕事に就きました。
この時、将校団の指導者的立場であった福田悟大佐は、旧日本海軍管制本部の石黒龍一少将と共に、これまでの戦闘経験を活かした日本防衛のための独自の考えをまとめ、その極秘計画を実行に移しました。
まず、海軍技術研究所の技術官を集め、陸軍将校団とのネットワークをつくりました。そして、地下大本営とは別の設計図に基づいてトンネルが造られはじめたのです。
工事が本格化していく過程においては柴田信行大尉をはじめとする旧日本海軍将校団も加わって、より大規模なものになっていきました。
もちろん、作業は簡単ではありませんでした。
建設資材の不足、労働力の不足、それに、監視する憲兵団もいました。
しかし、大学や民間企業からも協力する人たちが出てきて、トンネルは広く、深く、長く伸びていったのです。
- 48 名前:<その2:地下司令部の誕生> 投稿日:2002年07月16日(火)05時54分32秒
四七年に起こった東北戦争(「冷戦のはざまで」を参照)、さらに五〇年に起こった朝鮮戦争のため、各ブロックは軍需物質はや食料の貯蔵庫となり、軍需品の生産・調達もおこなわれて、特に旧四国を中心とする新工業地帯は一時的な好況をむかえました。
地下司令部はこの時期に充分な食糧、物質、さらには外貨・ドルを得ることに成功し、トンネル内には病院、学校、住宅をはじめ、各種の工場や研究所も造られ、注目すべき効果をあげました。
その代表が「乙型」と呼ばれる軽量化プラスチック、「は号」強化セラミックス、地下栽培が可能な稲の品種「ホタル二号」、極小トランジスタなどで、五〇年代後半には小規模ながらも輸出もはじまりました。
以降も日本国・地下司令部の研究室では、化学製品、新しい素材、エレクトロニクスなどの分野で画期的な発明や開発が相次ぎ、今も世界の市場に大きな影響を与え続けています……
- 49 名前:<その3:冷戦のまざまで> 投稿日:2002年07月16日(火)05時56分04秒
- <その3:冷戦のはざまで>
……一九四六年八月、連合軍は第二次世界大戦が完全に終わったことを宣言しました。
しかし、それは新しい戦争のはじまりでした。
ドイツは東西に、朝鮮は南北に、国土と民族が分断され、アメリカとソ連(現ロシア)の対立は次第に深刻なものとなっていきました。
国土(現在の、旧北海道、本州、旧四国、九州の四つの島のこと)のほとんどが焼け野原となった旧大日本帝国は、北海道と東北をソ連、本州の残りと九州の大半をアメリカ、四国をイギリス、そして西九州を中国によって分割統治されることとなりました。
ソ連はポツダムでの協約を無視して、北海道と東北に自治区をつくる準備をすすめました。
アメリカはそれに対して警告を繰り返し、両者の緊張は高まっていきましたが、ついに四七年九月、宮城北部(現在の第二ソビエト区の一部)で、東北戦争がはじまりました。
地下司令部はアメリカの要せいを受け国民兵士を派遣、この戦争は、世界中の戦史家の著書に「最高度のゲリラ戦」として記録され、その後のゲリラ戦争、戦略、戦術の手本となりました。
- 50 名前:<その3:冷戦のはざまで> 投稿日:2002年07月16日(火)05時58分51秒
東北戦争以来、国民兵士に対する各国の認知度は非常に高まりました。
八〇年、ソ連が旧福島県のアダタラ山に秘密裏に建造していた山腹基地を斉藤恭介(さいとうきょうすけ)大尉率いる部隊が攻撃、甚大な被害を出しながらも歩兵のみでそれを壊滅しました。
その戦果は国民兵士の強さを全世界に知らしめました。
八〇年代初頭、アメリカは自国主導型の国連組織づくりを実現化していったとともに、国内経済も活性化していきました。
一方、高度な技術産業への転換が出来なかったソ連は八六年から政治や経済の改革を進め、言論の自由化も進め、国名をロシアへと変わります。
ここで、国力の弱まったロシアに対して圧力をかけたのがアメリカでした(ソ連=現ロシアは現在も国連に加盟していません)。
- 51 名前:<その3:冷戦のはざまで> 投稿日:2002年07月16日(火)05時59分24秒
そして、シベリア紛争が勃発、地下司令部はロシアからの要せいを受け国民兵士を派遣し、大戦果を収めました。
地下司令部はソ連やアメリカと戦いましたが、それはまた、アメリカやソ連から食糧や武器を得るためやむを得ない作戦でもありました。
大日本帝国消滅後もトンネルは広く造られていましたが、食糧や物資が不足し、危機的な状況が続いていたのです。
しかしアメリカをはじめとする諸外国に屈したわけではありません。
地下司令部は、ことにアメリカを最大の敵であるとみなし……
- 52 名前:<その4:世界とのかかわり> 投稿日:2002年07月16日(火)06時00分22秒
<その4:世界とのかかわり>
……第二次世界大戦が終息すると間もなくアメリカ、ソ連、イギリス、中国は、日本民族の絶滅をはかる「技術移民」を開始、二千年の歴史を誇る国土に、五百万人をゆうに超える外国人が入植してきて、各ブロックで混血化が急速に進んでいきました。
一九六〇年代に入り、世界経済が安定してくると、各国の技術移民政策はいきづまり、生産性の悪さのために資本を引き上げる企業もでてきました。
アメリカは、中南米からの不法侵入者や東欧からの亡命者を、イギリスは本国の失業者やアフリカからの出かせぎ者をそれぞれ半強制的に旧日本に送り込んでいたのです。
六二年、イギリスは突然、旧四国から手を引くことを決定し、三百万人の移民は放置されました。計画性のない移民のため、各ブロックの都市部には失業者があふれ、巨大なスラムがいくつも誕生しました。
混血化はいっそう進み、暴動も頻発し、第一次石油危機にあった七三年には暴動による各ブロックの死者の数は十万人を超えたと言われています
- 53 名前:<その4:世界とのかかわり> 投稿日:2002年07月16日(火)06時01分13秒
外交面では、中南米、東南アジア諸国との関係を深め、アメリカやソ連、中国といった大国の干渉に苦しむ国に対しては軍事的に援助をしました。
ラオス、カンボジア、ベトナムなどにおいては対帝国主義戦争をともに戦いました。
安倍剣三(あべけんぞう)大尉は世界で最も注目を集めた国民兵士でしょう。
五七年、安倍剣三以下六名の国民兵士はホンコンを経由してキューバに向かい、キューバ東部の山岳地帯でレファ・カストロ率いる反乱軍に合流し、革命を助けました。
国民兵士達のこうした活動に対し、アメリカは国際世論を無視して、旧長野の地下で計八回にわたり小型の核爆弾を爆発させました。
しかしそれも、地下司令部は戦術核を建造し発表することで、アメリカの対日核戦略を凍結に追い込みました……
- 54 名前:<その5:日本国の今後> 投稿日:2002年07月16日(火)06時02分25秒
<その5:日本国の今後>
……全世界はいまや混乱と、迷いの時代に入っています。
武力紛争、内乱、飢餓、環境破壊、差別、数え切れない問題がいたるところで起こっているのです。
国連はもちろんのこと、どの国も次の時代に向けての新しい価値観をつくり出していません。
- 55 名前:<その5:日本国の今後> 投稿日:2002年07月16日(火)06時03分41秒
しかし、大切なのは価値観や目的意識ではありません。
ここが、我々日本国とアメリカの最大の違いです。
もっとも重要なのは、生き延びていくこと、存在そのものです。
我々日本国が戦争を通じて学んだことは、まさに、そのことでした。
生き延びていくために必要なものは、食糧と空気と水と武器、そういうものだけではありません、勇気とプライドが必要です。
我々は世界中のどの国も経験しなかった危機の中から出発し、いまも危機の中にあります。
アメリカを中心とする国連軍との戦いは続いています。
その戦いが止むことは絶対にないでしょう。
しかし、ラテンアメリカ、アジア、アフリカから、また内乱や紛争にあえいでいる国々から、我々は信頼されています。我々の、軍事的能力とプライドが信頼されているのです。
- 56 名前:<その5:日本国の今後> 投稿日:2002年07月16日(火)06時04分25秒
我々はどの国の助けもかりずに今まで生き延びてきて、どの国にも降伏せず、どの国にも媚びず、どの国の文化もまねせずに、全ての決定を、我々自身が下してきて、全世界に影響を与え続けています。
『いかなる意味の差別もない国はアンダーグラウンドの日本だけである』一九七二年に地下司令部を訪れたアインシュタイン博士を団長とする国際視察団が発表したコメントです。
全ての差別は、勇気とプライドのないところに、世界に向かって勇気とプライドを示そうという意志のない共同体の中に、その結束と秩序を不自然に守るために生まれるものです。
戦争によって、そして戦後になってからも各ブロックで殺され死んでいった、何千万という日本人のことを忘れてはなりません。
これからもこの地下の中から世界に向けて、我々の勇気とプライドを示していかなくてはいけません。
敵にもわかるやり方で、世界中から理解できる方法と言語と表現で、我々の勇気とプライドを示し続けること、それが次の時代を生きるみなさんの役目です……
- 57 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月16日(火)06時06分01秒
……。
読み終わって本を閉じると、新鮮な空気が、外の空気が吸いたくなった。
吐き気がしてきた。
戦争をやめなかったくらいでここまで世界が変わるんだろうか?
戦争を続けたせいで日本を占領され、国民が地下に住まなきゃいけない状態になって、それでも何で戦い続けるんだろう?
(――ぜんぜん納得出来ない)
分からない。
理屈は分かるけど納得いかない。
ただ、それでも認めるしかないんだと思う……。
そう考えると、少しは気分が落ち着いてきた。
- 58 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月16日(火)06時06分49秒
ドアの開く音がして、声が聞こえてきた。
「入っても大丈夫かしら?」
「あ、いいですよ」
そう答えると石川さんが入ってきた。
彼女の顔を見ただけで落ち着いた気分になれた。
それにも関わらず胸の鼓動は早くなる。
どうしてか分からずに、胸の辺りを手で押さえる。
- 59 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月16日(火)06時07分40秒
その行動を別の意味でとらえたのか、石川さんが心配そうに尋ねてきた。
「気分でも悪いの?大丈夫?」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
慌てて胸から手を離して答える。
それでも、彼女は心配そうな顔をして話しかけてきた。
「教科書は見たよね?」
「はい…」
「あれはテラダ司令官の考えだったの。この世界を少しでも知っておいた方はいいっていう。」
「そうなんですか…」
- 60 名前:参話 『地下司令部』 投稿日:2002年07月16日(火)06時08分10秒
- 「私も詳しくあなたの世界を知っている訳ではないけど、全く違う世界に迷い込んでしまったあなたの気持ちは分かるわ。不安だとも思うし、早く帰りたいだろうしね。だから私たちは少しでも早くあなたの帰れる方法を探すからね。それまでいくらでも私に頼ってね」
そう言って彼女は微笑んだ。
その言葉と笑顔になぜだか一段と胸の鼓動は激しくなった。
石川さんは幾つなんだろう?
年上のような気はするけど、そんなに変わらない気もする。
この世界でも無闇に年齢を聞くのは失礼なのかな?
――うん、多分失礼なんだろう。
そんな気がした。
- 61 名前:SHY 投稿日:2002年07月16日(火)06時14分17秒
- 以上で、参話『地下司令部』終了です。
長いし、読みにくいかも……。
(訂正)
>>33
テラダ司令官の発言
「……国連軍――中でもソビエト軍であるが――の……」
ソビエト→アメリカです。
- 62 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時26分39秒
- うを!何か凄く自分の好みにあってます!
見つけたときは嬉しかった(w
頑張ってください
- 63 名前:あうん 投稿日:2002年08月07日(水)19時45分18秒
- ハゲハゲ激しく続きを希望!
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月14日(土)23時47分36秒
- あぁ、戻ってきて欲しい・・・
- 65 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月23日(水)01時43分32秒
- もう終わり?
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