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想い
- 1 名前:華山 投稿日:2002年07月09日(火)17時20分12秒
- 初めまして。華山と申します。
ROM専でしたが、書いてみたいと思います。
PCはど素人で、見苦しい点も多々あると思いますが、
お付き合いいただければ、幸いです。
この話はとある所で書いていたのですが、
事情があってこちらで書かせていただきたいと思いました。
明るい話とはいえませんので、お気をつけください。
更新は早い方ではないと思いますが、
最後まで書くつもりですので、よろしくお願いいたします。
- 2 名前:華山 投稿日:2002年07月09日(火)17時22分33秒
- その日のハロモニの収録は珍しく矢口が休みだった。
だからだと単純に思っていた。あの人が元気がないのは。
でも、収録が終わって楽屋に戻ろうとしたとき、
一瞬だけあの人の視線が自分の方を向いたように感じた。
だけど、私が視線を向けたとき
彼女はもう私の方を見ていなかった。
気のせいかな。
そう思って仕度を終え、楽屋を出るとあの人が立っていた。
「何してるの?裕ちゃん」
私の声に少しぼんやりとしていた裕ちゃんは
少し気まずそうな表情で私の方を向いた。
「いや、別に」
「どうしたの?ヤグチはいないよ」
少しおどけた口調でそう言うと、
裕ちゃんは寂しそうな表情になる。
そして、それはまっすぐに私の心を打った。
一瞬、思考が止まった。
- 3 名前:華山 投稿日:2002年07月09日(火)17時24分14秒
- 「いや、別に。お疲れ」
裕ちゃんがそう言って帰ろうとした。
慌ててそれを呼び止めようとしたとき、
後ろから私に声をかけてきた子がいた。
「保田さ〜ん。一緒に帰りましょ?」
少々この場の雰囲気にそぐわない高い声。
私は一瞬だけ苦笑して振り返ろうとした。
だけど、その瞬間私の方を見ている裕ちゃんの視線に気付いた。
ああ、やっぱりさっき感じた視線は気のせいじゃなかった。
そんなことを奇妙に確信しながら、
私は自分の方に笑顔で走ってきてくれた石川に言った。
「ごめん、石川。今日、裕ちゃんと帰る約束しててさ。
また、今度ね」
一瞬だけ見せる寂しそうな顔。
だけど、石川はすぐに笑顔に戻ってお疲れ様と言ってくれた。
「いいんか?」
裕ちゃんの気弱そうな声。
そんな声を聞いたら余計に放っておけない。
「いいよ。帰ろう」
私はそう言うと裕ちゃんの手を取って歩きだした。
- 4 名前:華山 投稿日:2002年07月09日(火)17時26分19秒
- 結局私たちは裕ちゃんの家に来ていた。
彼女は何も言わずにビールを飲んでいるだけ。
私もそれに付き合ってビールを飲んでいる。
別に何も言いたくないならそれでいい。
そう思っていたら、不意に私の携帯がメールの着信を知らせた。
一瞬裕ちゃんの顔を見てから携帯を開く。
石川からのメールだった。
他愛のないメッセージ。
だけど、思わず口元がほころぶ。
「石川からか」
不意に声をかけられてなんとなく携帯を閉じた。
裕ちゃんは酔った目で私の携帯を見つめていた。
「うん、まあ
「うまくいってるんやな、石川と」
「うん。まあね」
「ええな」
裕ちゃんは短くそう言うとまたビールを飲む。
「裕ちゃんだって……
そう言いかけて口をつぐむ。
裕ちゃんの表情が変わったから。
- 5 名前:華山 投稿日:2002年07月09日(火)17時27分53秒
- 中途半端ですが、今日はここまでにします。
なんか、緊張しますね、書き込みって(苦笑)
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月09日(火)19時09分15秒
- 新スレ、おめでとーございます。
続き楽しみに待ってます。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月10日(水)02時46分46秒
- ふみ。これからに期待。(なんて、偉そうw
- 8 名前:やっすぅ推し 投稿日:2002年07月10日(水)15時04分02秒
- おぉ!
どんな組み合わせなのかな?期待です!
とりあえず、けーちゃんが出てきたからOK!(爆
がんばってくださいね^^
- 9 名前:華山 投稿日:2002年07月10日(水)17時21分18秒
- しばらく重苦しい沈黙が続いた後、
ぽつりと彼女が言った。
「別れた」
「え?」
「ヤグチとは別れた」
「どうして……」
だけど裕ちゃんはそれきり何も言わず、
ただビールを飲むだけ。
私はただ彼女の顔を見つめるだけしかできない。
手の中のビール缶の冷たさすら
いつか感じなくなっていた。
ただ私は彼女の顔を見つめる。
綺麗な人だ。
こんなときなのに、そんなことを考えてる自分に
奇妙な納得を覚える。
いつからなんだろう。
自分がこの人に惹かれていったのは。
だけど、それは封印した想いのはずだった。
この人の側にはあの小さな子の姿がいつもあったから。
そして、いつか自分の側にも。
この二人の存在が自分の想いを
押しとどめる堰となっていた。
その一つが崩れたとき、自分はどうなるのだろう。
そんなこと考えたことはなかった。
考える必要はないと思っていた。
- 10 名前:華山 投稿日:2002年07月10日(水)17時23分22秒
- 不意におかしくなり、苦笑が浮かぶ。
何を考えているんだ、自分は。バカなことを。
そんなことを思いながら改めて彼女を見ると、
手の中でおそらく空になっている缶をもてあそんでいた。
「まだ飲む?」
自分の馬鹿げた思考を止めたくて言った言葉。
裕ちゃんは酔った目を私の方に向けただけで何も応えない。
だけど、その潤んだ目があまりに魅力的に見えて、
私はそれから逃げるように立ち上がった。
だけど、彼女の横を通ろうとしたとき、
彼女の声で私は固まった。
「なあ、ウチって魅力ないんかな」
「え?」
「……ヤグチな、浮気しててん。
それで、そのまま振られてん」
力ない笑いを浮かべる彼女。
そんな顔ですら綺麗だと思ってしまう自分はおかしいのだろう。
そうわかっているのに、私は動けなかった。
彼女はまっすぐに私の顔を見ていた。
- 11 名前:華山 投稿日:2002年07月10日(水)17時25分12秒
- 「やっぱり、ウチ、魅力ないんかな」
そんなことない。
そう言いたいのに、何故か私の舌は動かなかった。
ただ、彼女の視線を受け止めるだけ。
彼女がゆっくりと立ち上がる。
私はそれを映像でも見ている感じで見つめていた。
彼女の腕が自分の背中に回るまで。
「圭坊もそう思う?」
「……そんなこと」
自分の掠れた声に戸惑いながら私は固まったままだった。
体の奥が熱くなる、そんな錯覚を感じた。
そして、そのままその熱に流されそうになったとき、
テーブルに置いたままにしていた私の携帯が、
さっきと同じメロディーを鳴らす。
その音にはっとしたように裕ちゃんは私から離れた。
私はそんな彼女をしばらく見つめていたが、
ゆっくりと携帯を手に取る。
だけど、メールを開かずそのまま電源を切った。
- 12 名前:華山 投稿日:2002年07月10日(水)17時27分59秒
- また、中途半端ですが、今日はここまでです。
いまいち、どれくらいの長さで書けば
見やすいのかがつかめない……
レス、ありがとうございました!!
なんか、すごく嬉しいですね、
レスをいただくのって(^^)
>6 さま
HN、ばればれですね(^^;;
続き、がんばります!!よろしくお願いいたします!
>7 さま
期待……お応えできるよう、が、がんばりますね(^^;;
>やっすぅ推し さま
保田さん、はい、主役です。
で、でも、 どうなるかは、イマイチ未定だったりします(^^;
期待…………がんばりまっす(^^;;
- 13 名前:HP常連 投稿日:2002年07月11日(木)00時23分31秒
- 自分やぐちゅー派なんでちょっと『うぅ』って思いながら
一生懸命読んでますので頑張って下さい!
- 14 名前:華山 投稿日:2002年07月11日(木)14時44分35秒
- 「圭坊?」
「そんなことないよ。少なくとも私にとっては」
そう言って裕ちゃんの顔を見つめる。
おかしい。
普通だったら恋人からのメールが暴走を止めるだろうに。
何故か、メールが私の堰を破った気がした。
いや、ただ、きっかけが欲しかっただけかもしれない。
彼女に惹かれ始めたときから、ずっと言いたかった言葉を
吐き出してしまう、そのきっかけを。
きっとそれはなんでも良かった。
たまたまそれが石川のメールだっただけ。
皮肉な偶然だっただけ。
「私にとってはずっと魅力的な人だった。今もずっと」
「圭……」
「好きなんだ。裕ちゃんが、ずっと」
私はそう言うと迷いもなく彼女の体を抱きしめた。
きっと、楽屋の前で見せた彼女の寂しそうな表情、
あれを見たときからこうなるような気がしていた。
ずっと封印していた気持ちが抑え切れなくなると。
- 15 名前:華山 投稿日:2002年07月11日(木)14時45分57秒
- 「ウチは……」
彼女が何か言おうとした。
だけど、私はそれを聞きたくなかった。
好き。
嫌い。
どちらの言葉も聞きたくなかった。
聞いてしまったら、彼女を抱きしめることができなくなる。
そんな恐怖にも似た想いがあったから。
だから、彼女の唇を塞いだ。
その瞬間、視界の隅に私の携帯が見えた。
私はそれに背を向けるように体を反転させ、
彼女の体を壁に押し付ける。
- 16 名前:華山 投稿日:2002年07月11日(木)14時47分38秒
- 彼女は今弱気になっているだけ。寂しいだけ。
おそらく明日になれば忘れる。
そんな夢や幻でもいい。
ただこのときだけ彼女を感じていたい。
何のイミもない行為かもしれない。
だけど、少なくとも私にはイミのある、
いや、望みつづけてきた行為。
だから、今だけは……
私は内心で自分にそう言い聞かせるようにしながら
彼女の首筋に唇を落とした。
一瞬だけ、返事を待っているだろう、恋人の顔が浮かんだ。
だが、それは本当に一瞬だけだった。
- 17 名前:華山 投稿日:2002年07月11日(木)14時51分10秒
- ここまでが第一話でした……
ここからは、どんなスピードで更新できるかは、ちょっと未定です。
このペースを保てればいいのですが……
>HP常連 さま
自分もやぐちゅー推しのはずなのですが……
なんで、こんな話、思いついたのでしょう(^^;;
でも、がんばります!
- 18 名前:華山 投稿日:2002年07月12日(金)20時01分07秒
- 次の日、朝早く、私は何か違和感を感じ、目を覚ました。
そして、目の前、自分の腕の中にいる彼女の顔に一瞬戸惑う。
だが、すぐに昨日の晩のことを思い出し、小さく溜息をついた。
そっと彼女を起こさないようにベッドを抜け出す。
多少のアルコールが入っていたとはいえ、
昨日のことははっきりと覚えている。
封印していたはずの想いが一気に溢れ出してしまった。
どうして?
彼女の寂しげな表情を見たせい?
矢口のことを聞いたせい?
いや、結局は自分の弱さなのだろう。
- 19 名前:華山 投稿日:2002年07月12日(金)20時02分14秒
- そんなことをぼんやりと考えていたら、
ふっと携帯のことを思い出した。
慌ててキッチンに置きっぱなしにしていた携帯を手に取る。
電源を入れメール確認をすると、二件のメールが入っていた。
もちろん石川から。
何度も躊躇ってから結局私はそれを開かず鞄にしまった。
読む勇気がなかった。
私はそのまま倒れるように椅子に座った。
無意識に頭を抱える。
どうするつもりなんだ、自分は。
昨日のことは言い訳ができることではない。
石川に対する裏切りだ。
これからどうするべきなのか。
- 20 名前:華山 投稿日:2002年07月12日(金)20時04分08秒
- 別に互いに大人だ。
たった一度の行為が、全てを束縛するものではない。
だが、その行為によって自分は自分の心が
向いている方向を知ってしまった。
今まで通り石川と接していけるのか。
自分はそんなに器用な人間だろうか。
そんな全く不毛とも言える思考を巡らせていると、
不意に声をかけられた。
「圭坊……」
その声にはっとして振り返ると、
当然そこには彼女の姿があった。
少し哀しげな、切なげな表情を浮かべて。
「裕ちゃん……」
「おはよ……」
「うん。……よく眠れた?」
言ってしまってから、何をバカなことを
訊いているんだと自己嫌悪を感じる。
- 21 名前:華山 投稿日:2002年07月12日(金)20時05分40秒
- 裕ちゃんは曖昧に頷いてから私のすぐ横の椅子に座った。
そして、私の手を取る。
「昨日は……ごめん。ウチ、どうかしててん。
圭坊が悪いんやないよ」
「……裕ちゃん」
「別に、圭坊が……」
「どうして?」
「だって、圭坊、石川に悪いことしたって思ってたんやろ?
だから、今悩んでたんやろ?」
弱々しい声。彼女らしくない。
だけど、いや、だから放っておけない。
実際、私の手に触れている彼女の手は
小さく震えているではないか。
私は思わず彼女の手を強く握った。
- 22 名前:華山 投稿日:2002年07月12日(金)20時08分07秒
- 「そんなことないよ。昨日のことは私に責任がある。
裕ちゃんは何もしてない」
「圭坊」
裕ちゃんの目が潤んでいるように見える。
また、その瞳に捕われそうに感じ、
私はさり気なく視線を逸らせた。
そして自分自身を誤魔化すように言う。
「今日、私早いから、一旦家に帰るね」
また彼女の目が寂しげな光を宿す。
胸が締め付けられるような痛みを感じるが、
私はそれ以上何も言えなかった。
口を開けばまた彼女を求めるような言葉が出てしまう。
そんな自分の弱さを情けなく感じながら、立ち上がった。
「なあ、また来てくれる?」
彼女も私と目を合わさないようにしながらそう言った。
すぐには何も言えなかった。
だけど、私は確信に近い想いを抱いて頷いた。
「裕ちゃんが寂しいときは、いつも側にいるよ」
その言葉が正しいのかどうか、私はわからなかった。
- 23 名前:華山 投稿日:2002年07月12日(金)20時09分26秒
- 今日は、ここまでです。
ここまでが第二話かな。
- 24 名前:名無し読者。 投稿日:2002年07月13日(土)03時37分31秒
- やぐちゅー&やすいし絡みのKUって感じですか?
KUめちゃくちゃスキなんだけど・・・この頃めっきり見ない・・・
一時は結構ここでもみかけたのに(涙
とにかくマイナーなCP?だけど頑張ってください。(w
めいいっぱい応援してます。
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月13日(土)12時34分47秒
- 出だしからあなんだか痛そう。(苦笑
でも痛いと甘さが引き立つ・・・ラストが甘いと幸せです。(w
- 26 名前:華山 投稿日:2002年07月14日(日)09時37分47秒
- 私は一旦家に戻り、何事もなかったように仕事に向かった。
結局メールは見れないままだった。
どんな顔であの子に会えばいいのだろう。
そんなことを悩みながら楽屋に入ったとき、
石川はもう来ていた。
石川は私を見るなり、
嬉しそうな顔で挨拶をしてくれる。
その目が少し赤くなっているのは、
気のせいではないだろう。
だが、私は気付かないふりをして、
普通通りに挨拶を返した。
「保田さん。昨日は、早く寝ちゃったんですか?」
私の側に来て石川はそんなことを訊いてきた。
思わず彼女の顔をじっと見つめるが、
別に何かを探ろうとしているようには見えない。
私は極力冷静さを保ちながら言った。
「え?どうして?」
「だって、メール何度も送ったんですよ」
少し拗ねたような表情。
いつもならかわいいと思う表情なのに、
このときの私は、石川が昨日のことに気付いて
こんなことを言ってくるのではと不安になってしまう。
もちろん、それは自分のせい。
私は口調が変わらないように気をつけながらそれに応えた。
- 27 名前:華山 投稿日:2002年07月14日(日)09時40分06秒
- 「あ、そうなんだ。ごめん。
昨日、ちょっと呑みすぎて早く寝ちゃった」
「中澤さんと、呑んだんですか?」
少しだけ石川の表情が変わったように感じた。
だが、それは怒りではなく、寂しいという表情。
そうだろう。別に浮気とかを疑うのではなくても、
自分の誘いを断って別の女性と呑んでいたと聞いて、
面白いわけがない。
私は、あえて軽い口調で言った。
「そうなんだよ〜裕ちゃんに、付き合わされてさ。
参ったよ。ちょっと二日酔い」
「もう、ダメですよ。
ちゃんとお仕事、してくださいよ」
私の軽い口調に石川も笑ってくれた。
よかった。なんとか誤魔化せた。
そう思った瞬間、心の奥に
嫌悪感が湧き上がってくるのを感じる。
何をしているんだ、私は。
恋人を裏切っておきながら、ちゃかして誤魔化している。
こんな最低な人間だったとはね。
思わず自嘲の笑いがこみ上げてくるのを感じた。
- 28 名前:華山 投稿日:2002年07月14日(日)09時42分40秒
- だが、その一方で、昨日のことを
全く後悔していない自分にも気付いていた。
あの人を、長い間憧れていたあの人を、
自分の腕の中に感じることができたのだ。
かわいい恋人を裏切ったことを思っても、
否定することのできない強い喜びを感じる。
もちろん、その喜びが暗い影を
持つものであることくらいは私にもわかる。
それでも、私は否定したくなかった。
否定するつもりもなかった。
- 29 名前:華山 投稿日:2002年07月14日(日)09時44分19秒
- 「……さん。保田さん!」
不意に石川の声が大きく聞こえた。
え?と思って石川の方を見ると、
どうやら何度も私の名を呼んでいたらしい。
少し心配そうな表情が浮かんでいる。
「え?あ、何?」
「もう。ホントに二日酔いなんですね。
何度も呼んだのに」
「あ、ごめん、ごめん。で、何?」
「今日の約束、覚えてますか?」
「え、ああ、もちろん」
そう言いながら私は、約束を思い出した。
- 30 名前:華山 投稿日:2002年07月14日(日)09時47分15秒
- 明日の仕事は二人とも昼からだから、
石川の部屋に泊まりに行く約束をしていたのだ。
一瞬忘れていた。
だが、もちろん、そんなことを表情に出すほど
私は子どもではない。
「石川の部屋に行くの久しぶりだね。
ちゃんと仕事が終わったら行くから寝ないでよ」
私は笑いながらそう言うと、
石川の頭をポンポンと軽く叩いた。
恋人を裏切っておきながら、
こんなことが平気にできる自分を不思議に思いながら。
石川はまた少し拗ねた表情で、寝ませんよ〜
と言いながらも優しい目を私に向けてくれている。
今の私にはその優しさが眩しかった。
- 31 名前:華山 投稿日:2002年07月14日(日)09時49分27秒
- なんか、長さがまちまちですね。
ここから少しやすいしになるのかな……
>名無し読者。 さま
KU、そういえばあんまり見なくなりましたね、最近。
やっぱり、マイナーなんですかね……(^^;
やぐちゅーは、あんまり絡まないかな……
なんか、やすいしの方がメインになりそうでちょっと不安です。
がんばります!
>25 さま
すいません。痛いです。暗いですm(__)m
最後は……明るくなるといいなあ………(遠い目)
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月15日(月)03時33分27秒
- 不安なんて言わないで保田さんと石川さんを...
なんて言ってみたりしたりみたりしたりして。(w
続き楽しみにしとります。
- 33 名前:華山 投稿日:2002年07月15日(月)17時16分26秒
- 石川より数時間遅れて仕事を終えた私は、
11時過ぎに石川の部屋についた。
もう寝てしまっているだろうか。
預かっている合鍵でエントランスを開けた私は
一応部屋のインターフォンを鳴らした。
だが、やはり寝ているのか応答がない。
何故か一瞬だけ躊躇ってから、私は鍵を使ってドアを開けた。
灯りはつけっぱなしだった。
疑問に思って中に入ると石川は
転寝をしてしまったのか、机で寝ていた。
すぐに起こそうと思ったが、気持ち良さそうな
その寝顔を見ていると可哀想に思えて、
ベッドから毛布を取ってかけてあげる。
そして、石川の顔が見えるところに座る。
やっぱり、かわいい子だ。
どんなことに対してもやり過ぎと思えるほど一生懸命になって……
まあ、大概空回りに終わるのだけど。
そう考えて思わず笑ってしまう。
- 34 名前:華山 投稿日:2002年07月15日(月)17時25分52秒
- 「私なんかにはもったいない子だよ、石川は」
無意識にそう言ってから、
また昨日のことを思い出してしまった。
石川に対する裏切りを。
そうだ、確かに私は石川にふさわしい人間では
なくなってしまった。
いや、最初から私には石川と付き合う資格なんか
なかったのだろう。
ずっとあの人に惹かれていたのに。
ずっとあの人を想っていたのに。
付き合うべきではなかったのではないか。
今まで一度ならず考えたことだが、
今ほど強く思ったことはない。
これからどう接していくべきか。
まったく結論がでない悩み。
別れるべきなのだろうか。
それとも、一度のことと割り切って普段通り石川と、
そして中澤とも接していくべきか。
- 35 名前:華山 投稿日:2002年07月15日(月)17時27分42秒
- 自分のものにならない人を想い続けて一人でいられるほど、
自分には子どもの純粋さはない。
あの人も割り切ってくれるだろう。
だが、あのとき自分が言った最後の言葉。
あの人が寂しいときにはいつも側にいる。
あの言葉は嘘ではない。
どういうつもりなんだ、私は。
自嘲的な笑いが浮かぶ。
矛盾だらけだ。
一体私はあの人と関係を続けたいのか。
それとも一度きりで終わらせて
石川と続けていきたいのか。
わからない。
いや、多分、やるべきことはわかっているはずだ。
それをしたくないだけ。
自分がここまで自分勝手、いや、
欲求を抑えられない人間だったとはね。
再び自嘲の笑いが浮かんできた。
もうそれを抑える気にはなれなかった。
- 36 名前:華山 投稿日:2002年07月15日(月)17時29分11秒
- なんか、保田さんの暗い独白が続きそうで怖い。。。
>32 さま
やすいし推しの方ですか??
いや〜ご満足いただけるラストになるか、微妙ですが、
これからしばらくは、やすいしが続きます。
がんばります!!
- 37 名前:華山 投稿日:2002年07月16日(火)21時02分30秒
- 「……保田さん?」
細い声にはっとする。
どうやら、笑いがもれたらしい。
石川がぼんやりとした視線を私の方に向けていた。
慌てて表情を隠す。
意外なところで鋭いところがある子だが、
さすがに寝起きでは気付かなかったらしい。
ちょっと首を傾げてこちらを
焦点が合っていない目で見ている。
やっぱりかわいい子だ。
半ばヤケになってそんなことを思った。
「やあ、起きた?」
「すいません。寝ちゃった……」
まだ完全に起きていない声。
思わず笑ってしまう。
そんな私を見て少し拗ねたような表情になるのもかわいい。
- 38 名前:華山 投稿日:2002年07月16日(火)21時04分43秒
- 「いいよ。遅かったしね」
「でも、起きてるって言ったのに」
「いいって。それよりこんなところで寝てたら風邪ひくよ。
気をつけないと」
私の言葉に石川は初めて自分にかけられた
毛布に気付いたらしく、嬉しそうに笑った。
「毛布かけてくれたんですね。
ありがとうございます」
「風邪ひいたら大変だからね。
もうお風呂は入ったの?」
「あ、はい」
「じゃあ、もう寝てていいよ。シャワー借りるね」
何事もないように、二人きりで
普段通りの会話できる自分が怖くなる。
もしかしたら、私は自分が思っているより
ずっと冷酷な人間なのかもしれない
- 39 名前:華山 投稿日:2002年07月16日(火)21時06分35秒
- 「いえ、待ってます」
石川の笑顔が眩しい。
いや、眩しいんじゃない、後ろめたいだけだ。
そんなことを考えながらも、普通に言葉を返せる自分。
「どうかな?まあ、期待しないでおくよ」
「もう、保田さん!」
拗ねたような表情。
だけど、目は笑っている。
本当に私だけを見て笑ってくれている。
そうだ。石川はいつもまっすぐに私だけを見て、
私だけを好きでいてくれている。
そして、信じてくれている。
これ以上こんないい子を裏切るわけにはいかないな。
このときの私は確かにそう考えた。
- 40 名前:華山 投稿日:2002年07月16日(火)21時07分31秒
- 短いですが、今日はここまでにします。
順調にやすいしになってきてるような……
- 41 名前:華山 投稿日:2002年07月17日(水)20時41分52秒
- シャワーを終えて出てきたとき、石川は起きていた。
寝ないようにだろうか、紅茶を飲みながら。
私が出てきたのを見てにっこりと笑って言ってくれた。
「あ、保田さんも飲みますか?」
「いや、いいよ」
「ビールの方がいい、なんて言わないでくださいね」
「う〜ん。言いたいかもしれない」
「もう。ダメです。最近、ちょっと飲みすぎですよ」
「そんなことないよ」
そんな他愛のないことを言いながら私は石川の隣に座った。
石川はにこにこと笑いながら私の方に体を寄せてくる。
かわいい子。
自分だけを好きでいてくれるまっすぐな子。
そう、私にはこの子がいるじゃないか。
私はそう自分に言い聞かせつづけた。
- 42 名前:華山 投稿日:2002年07月17日(水)20時43分39秒
- 「まだ、濡れてますよ。
ちゃんと拭かないと風邪ひいちゃいますよ」
石川はそう言うと、私の肩にかかっていたタオルを取って、
膝立ちになり私の髪を拭いてくれる。
ちょっとまだ遠慮があるのか、
少しぎこちない手つきだったけど、
それが気持ち良くてしばらく
石川のしたいようにさせていた。
あまりに気持ちよかったせいか、
私は少しぼ〜となっていたらしい。
ふと気付いたとき、石川の手が止まっていた。
いや、石川の手は私の両肩に置かれていた。
「……石川?」
私が不思議に思って顔を上げると、石川と目が合った。
まっすぐに私の目を見ている彼女。
私は、何も言えなかった。
しばらく私たちは黙って見つめ合っていたが、
不意に石川が動いた。
ゆっくりと石川の唇が近付いてくる。
私は何も言わず、目を閉じた。
すぐに石川の唇を感じた。
- 43 名前:華山 投稿日:2002年07月17日(水)20時46分15秒
- 別にキスなんか何度もしている。
もちろん、それ以上の行為も。
そう何度も体を重ねてきたわけではないが、
なんとなく二人の間に暗黙の了解のようなものがあった。
石川からキスをしてくるときは、
そのきっかけになっている。
別に石川もいつもいつもそんなことをしたくて、
キスをしてくるわけではないだろうが、
なんとなくそういう雰囲気になるのだ。
いつしか石川の腕は私の首に回っていた。
どちらからともいえず、深くなっていくキス。
このまま流れるのだろうか。
そう思ったとき、石川の吐息が私の耳に聞こえてきた。
その瞬間、私は反射的に石川の体を押し返していた。
- 44 名前:華山 投稿日:2002年07月17日(水)20時49分02秒
- 短いですが、更新です。
毎日短く更新するのと、3,4日まとめて長くするのと
どちらがいいのでしょう??
- 45 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月18日(木)15時11分38秒
- 自分的には毎日更新のが毎日の楽しみが増えて(笑)嬉しいですけど・・・
作者さんのペースで良いと思いますよ。
毎日更新だと妙に義務付けられたりして大変かもしれないですしね。
いずれにしても楽しみに読ませて頂いています。感謝感激です(笑
- 46 名前:華山 投稿日:2002年07月18日(木)21時46分33秒
- 二人の間に気まずい空気が流れる。
私は、慌てて誤魔化した。
「ご、ごめん。今日さ、ちょっと体調悪くて……」
私の言葉に石川は疑う様子も見せず
心配そうな目を向けてくれる。
それが私の心を射ることに気付かずに。
「大丈夫なんですか?風邪?」
「いや、ちょっと頭が重いだけ。
風邪まではいってないと思う」
「じゃあ、今日はもう寝た方がいいですよ」
「そうだね」
私はそう言うと、立ち上がる。
だが、石川は少し俯いて座ったままだった。
- 47 名前:華山 投稿日:2002年07月18日(木)21時48分41秒
- 「どうしたの?」
「すいません」
「え?」
「だって、体調が悪いのに来てもらって……」
ああ、この子はどうしてこうなんだろう。
昔に比べたら強くなってきたけど、
ネガティヴな性格がこういうときに出てくる。
もっと自信をもってくれればいいのに。
いつもそう思っていた。
「何言ってるの。
体調が悪いときに一人で寝てる方がなんか哀しいよ」
私はそう言って石川の方に手を伸ばし、彼女を立たせる。
石川はちょっと困ったように眉を寄せながら、
でも笑ってくれた。
- 48 名前:華山 投稿日:2002年07月18日(木)21時51分46秒
- 今の言葉にウソはない。
もし、今夜一人だったら、私は延々と答えの出ない
暗く重い思考に捕われていただろう。
石川がいてくれてよかった。
本末転倒かもしれないが、心からそう思う。
『それなら、どうして、石川を拒んだ』
心の奥で、もう一人の私が囁く。
私はその声を無視し、石川の頬にキスを落とすと、
さっさとベッドにもぐりこんだ。
後から自分のベッドなのに、遠慮がちに入ってくる石川を
背中に感じながら私は目を閉じた。
寄り添ってくる石川の体はとても温かかった。
- 49 名前:華山 投稿日:2002年07月18日(木)21時54分54秒
- また短いですが、更新です。
細く長く書いていこうと思います。
>45 さま
レスありがとうございます!
そうですね、自分ができるペースでやっていきますね。
一応、目指せ毎日更新、ということで
これからも楽しんでいただけるようにがんばります!!
- 50 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時34分18秒
- 当然のように私は寝ることができなかった。
石川の規則正しい寝息が聞こえるようになった頃、
再び心の奥から、もう一人の私が同じことを囁いた。
どうして、石川を拒んだのか。
簡単だった。
この腕に残るあの人の感触を忘れたくないから。
石川を抱いてしまったら、
あの人との思い出が消えてしまう。
そんな恐怖を感じて、反射的に私は
石川を押し返してしまった。
その行動が石川をどんなに傷つけるか、
わからないわけではない。
でも、できなかった。
自分を止めることが。
- 51 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時35分30秒
- 私には石川がいる。
私だけを見てくれるかわいい子がいる。
そう納得したばかりではなかったのか、私は。
なのに、あの人との行為を否定することができなかった。
割り切ることができなかった。
もし、また同じようにあの人と会うことがあれば……
おそらく、私はまた彼女を求めてしまうだろう。
情けないが、それは確信に近い。
では、私は石川と別れる気があるのか?
これはわからなかった。
この子を手放したいと思ったことはない。
あの人とは違うが、私はこの子を必要としている。
そして、この子を裏切りたくはない。
いや、裏切ることはできない。
- 52 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時36分47秒
- 裏切ることはできない?
何を言ってるのだ、
私はもう石川を裏切ったじゃないか。
自嘲的な笑いが浮かんでくるのを感じる。
どうしたいんだ、私は。
自分が望んでいることは何だ?
私にはわからなかった。
結局、私は明け方近くまで眠ることができなかった。
- 53 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時38分22秒
- 次の日、昼近くになって私たちは目を覚ました。
私の仕事の方が早いので、石川が作ってくれた
簡単な食事を食べると、先に家を出た。
起きてからは普通通りに話せていたと思うのだが、
いまいち自信がない。
だが、石川の様子もいつもと変わりがなかったから、
うまくできたのだろう。
そう私は自分に言い聞かせた。
今日は石川と同じ仕事がない。
それが少し気分を楽にしていた。
- 54 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時40分11秒
- 石川の部屋に泊まりにいった三日後、
娘。全員の仕事が入っていた。
全員が揃うのは久しぶりだ。
少し早く着いたつもりだったが、
楽屋にはもう数人のメンバーがいた。
いつも早い吉澤と、石川、そして矢口と高橋、紺野。
一通り挨拶をしてから私は奥の方の椅子に座った。
石川とは少し距離があったが、矢口と話していたし、
それにもともと楽屋ではほとんど一緒にいることはない。
別に隠しているとか照れくさいとかいうのではないが、
なんとなくずっとべったりする必要は感じていない。
ただ、たまに目が合ったときには互いに笑みをかわす。
それだけで充分だったから。
もっともこのときの私が石川と距離を取ったのは、
いつもとは違う要素も含まれていたが。
そんな自分に内心で舌打ちをしながら、気分を変えようと
机に置かれた雑誌を取ろうとしたとき、
不意に誰かに後ろから抱きつかれた。
- 55 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時41分31秒
- 「お圭さ〜ん」
「……その呼び方はやめて」
吉澤だった。
最近は圭ちゃんと呼んでくれるようになって喜んでいたのに、
その呼び方はなんだ?
そんな抗議を含めて振り払おうとしながら
わざと少し冷たい口調で言ったのに、
吉澤は気にすることなく抱きついてくる。
「もう、お圭さん。こわ〜い」
「……」
もう何を言ってもムダのように感じ、
私は吉澤のしたいようにさせる。
抵抗を諦めた私を容赦なく抱きしめながら、
吉澤は何が楽しいのかニコニコと笑っていた。
- 56 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時43分27秒
- どうも、最近吉澤が明るすぎるような気がする。
もともと、暗いとは程遠いキャラだったが、
今はそれが度を越しているような。
そう、うかれてると言ってもいいくらいだ。
そんなことを思っていると、
私の顔のすぐ横にある吉澤の端正な顔が、
ふと別の方向を向いたのに気付いた。
別に深く考えず、鏡越しに吉澤の視線を追うと、
矢口の姿があった。
矢口は吉澤と視線を合わせると
嬉しそうに笑顔を浮かべる。
それを見た瞬間、私はようやく思い至った。
裕ちゃんが言っていたセリフに。
そう矢口が浮気をしたと裕ちゃんは言った。
だが、私はあのとき自分のことだけを考えてしまった。
だから、深く考えなかった。
矢口が誰と浮気をしたかなんて。
- 57 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時45分39秒
- 吉澤なのか?
二人は今付き合ってるのだろうか?
何故?どうして、よりによって吉澤なんだ。
いや、冷静に考えてみたら、すぐにわかったはずだ。
石川からあの話を聞いていたのだから。
だけど、考えもしなかった。
あの人を前にしたとき、冷静になんかなれなかった。
私は矢口のすぐ横にいる石川を見た。
だが、石川は矢口の視線や表情に気付いた様子もなく、
普通に話している。
私は吉澤の腕を振り解いて立ち上がった。
そして、迷うことなく矢口のもとに歩いていく。
そんな私を、吉澤は不思議そうに見ていた。
- 58 名前:華山 投稿日:2002年07月20日(土)22時48分06秒
- 今日はここまでです。
多分明日、更新できないと思うので、いつもより長めに更新してみました。
- 59 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月21日(日)19時23分18秒
- KUはまだですか?(w
主役は圭ちゃ本編では裕ちゃんだったような?
過去編でやぐちゅーもあったりするのかな?
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月22日(月)11時39分26秒
- はー ハラハラしちゃいますね!(w
圭坊もさすが石川のお師匠さん。結構ネガティブですよね(w
今後の展開にドキドキしつつ楽しみにしております♪
頑張ってください!
- 61 名前:華山 投稿日:2002年07月22日(月)19時30分36秒
- 「ねえ、矢口、ちょっといいかな」
私はそう言うと、反論する余地を与えず、
矢口を廊下に連れ出した。
なるべく人の来なさそうなところを選んで立ち止まる。
矢口は特に不満を漏らすことなく黙ってついてきてくれた。
だが、私が立ち止まったとき、私よりも先に口を開いた。
「何?」
少し、その声が固く感じる。
私は正直、何を話せばいいのかわからなかった。
何も考えずに、矢口を連れ出してしまった。
もちろん、訊きたいことはたくさんある。
それをどう言えばいいのかわからないだけ。
だが、なんとか態勢を整え言った。
- 62 名前:華山 投稿日:2002年07月22日(月)19時33分24秒
- 「あのさ。矢口って、吉澤と付き合ってるの?」
単刀直入すぎる私の質問に、矢口は一瞬
あっけにとられたって感じだったが、すぐに頷いた。
「そうだよ。よくわかったね、圭ちゃん。
だけど、それがどうしたの?」
「矢口って、その、前は、
裕ちゃんと付き合ってなかった?」
私の言葉に、矢口の表情が曇る。
あまり触れられたくない。
そんなオーラが出ていた。
だが、私はそれに気付かないフリをしながら更に言った。
「いつ別れたの?あんなにベタベタしてたのに」
なるべく軽い口調、そうただの好奇心で訊いてると
感じさせる口調にしようと努力した。
だが、それは完全に失敗したみたいだ。
まあ、突然真剣な顔で連れ出されたのだから、
ただごとではないとバレバレなのだろうが。
- 63 名前:華山 投稿日:2002年07月22日(月)19時35分35秒
- 「どうして、圭ちゃん、そんなこと訊くの?」
当然の質問だろう。
だが、私にはとっさに応えられなかった。
すると、矢口が反撃の態勢を整えたらしく、言葉を続ける。
「別に、圭ちゃんには関係ないじゃん。
圭ちゃんは石川と仲良くやってるんでしょ?」
「そ、そうだけど」
「じゃあ、別にいいじゃん。
矢口といつ裕ちゃんと別れても。
ヨッスィーと付き合っても」
「……」
「それとも、もしかして、圭ちゃん、
実はヨッスィー狙いだったの?」
「そんなわけない」
反射的に応えてしまった。
そんな私の様子に、矢口は訝しげな視線を向けてくる。
それはすぐに意地の悪そうな表情に変わった。
だが、それは明らかに作った表情だった。
- 64 名前:華山 投稿日:2002年07月22日(月)19時37分54秒
- 「もしかしたら、圭ちゃん、実は裕ちゃんが好きなの?
ダメだな〜あんなかわいい子がいるのに、浮気なんかしたら」
わざとらしい口調と気付いていた。
だが、このとき私は冷静さを欠いてしまった。
あまりに的をついたセリフを言われたから。
「矢口に言われたくない!」
言ってしまってから慌てて口をつぐむ。
矢口の視線がまっすぐに私を突き刺す。
私は目を合わせることができなかった。
「知ってたんじゃん。
矢口が裕ちゃんと別れたこと」
「……」
「裕ちゃんから聞いたの?
やっぱり圭ちゃん、浮気したんじゃないの?」
おどけたような口調だった。
だが、私が更に冷静さを失う前に、それは崩れた。
- 65 名前:華山 投稿日:2002年07月22日(月)19時43分04秒
- 今日はここまでです。
次も保田さんと矢口さんの会話です。
えっと、なんか微妙に話がずれてきたような……
>59 さま
レスありがとうございました!
KU……もうしばらくお待ちくださいm(__)m
中澤さんの再登場はもう少し先になります。
過去編……というか、本編が終わったら保田さんではない視点で
番外編っぽいのを書こうと思っています。
>60 さま
レスありがとうございました!
私の書く保田さんはかなりネガ入ってます。
というか、私、主役を悩ませるのが好きみたいです(^^;
今後の展開……作者もちょっと先を見失いつつありますが、
がんばります!!
- 66 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)17時44分23秒
- 「ねえ、圭ちゃん……
愛してるけどすれ違ってばかりで、
あんまり会えない人と、
自分の側にいつもいて、自分をすごく愛してくれる人。
圭ちゃんだったら、どっちを選ぶ?」
矢口の声は震えていた。
表情も哀しげなものになっている。
「矢口……」
「裕ちゃんがね、ヤグチのことすごく好きでいてくれる、
それはわかってるつもりだったの。
ちゃんと、わかってるつもりだった。
でも、でも、裕ちゃんとはずっとすれ違いばっかりで、
ほとんど会えなくて。
それに、裕ちゃんって、あんまり言ってくれないの。
愛してるとか、側にいてとか、会いたいとか。
そんなのが続いたら、どんなに好きでも
信じられなくなるよ」
矢口は泣きそうな目を私に向けてくる。
だけど、私には何も言えなかった。
- 67 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)17時46分57秒
- 「そんなときに、そんな不安なときに、
ヨッスィーはヤグチの側にいてくれたの。
ヤグチのこと、愛してるって言ってくれたの。
ヤグチね、そんなに強くないから。
寂しかったから……」
「もう、わかったよ。
ごめん、嫌なこと言わせて」
そんなことしか言えない自分が情けなかった。
矢口の気持ちは痛いほどわかる。
寂しいとき、弱くなってるときにそんなことを言われて
揺れ動かない人間の方が少ないだろう。
私だって、結局は同じことをしたようなものだ。
あの人への想いを抱いておきながら、
かなわないと諦めて他の人を選んだのだから。
そんな私に、矢口に対して何が言えるのだ。
私は黙って小さな矢口の肩をそっと抱いた。
- 68 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)17時48分40秒
- 「ほんと、ごめん。変なこと訊いて」
「ううん。別にいいよ。
ヤグチもさ……誰かに聞いて欲しかったんだ。
ずっと、ヤグチがしたことが
許されることなのかどうか。
誰かに聞いて欲しかったんだ」
矢口の声はもう震えていなかったが、力はなかった。
私はただ彼女の肩を抱く腕に力を少しだけ強くする。
「間違ってないと思う。
誰も矢口のやったこと間違ってるなんて言えないと思う。
少なくても私は」
「……ありがと。圭ちゃん」
矢口の声が少しだけ明るくなったような気がする。
良かった。
だけど、一つだけ。
一つだけ、矢口に確かめておきたいことがあった。
- 69 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)17時50分21秒
- 「あのさ、矢口。きっかけは
寂しかったってかもしれないけど、今は。
今はちゃんと吉澤のこと……」
そう、寂しさを埋めるだけで今も吉澤といるなら、
それは間違っていると思うから。
私なんかに人のことを間違ってるという資格はないが、
吉澤も私の大切な後輩だし、プッチモニ。の仲間だ。
それに、石川のあの話もある。
もし、矢口の心がはっきりしていないのなら、
石川の心情にもやり切れない想いが生まれるだろう。
だから、訊いた。
だけど、矢口ははっきりと強い意志の込められた視線を
私に向けて言ってくれた。
「ヨッスィーのこと、ちゃんと愛してる。
もう、裕ちゃんのことはなんとも思ってないよ」
- 70 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)17時53分38秒
- 「そっか……」
私はそれだけ言うと矢口の肩に回していた腕を解いた。
望んでいた答えを聞いたのに、
私の心は半分しか晴れなかった。
吉澤のことは良かった。
だが、矢口ははっきりと言った。
なんとも思ってないと。
あの人は、まだ矢口のことをまったく吹っ切れていない。
彼女をこの腕に抱いたとき、
まだ矢口のことを好きだと痛いほどわかった。
そんな彼女のことを思うと、切なさを感じる。
私には何もしてあげられない。
そんな自分が情けなかった。
- 71 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)17時56分10秒
- 矢口の話を聞いてから二週間が経った。
私の生活には別に変化はなかった。
毎日仕事をこなし、メールや電話を石川とかわす。
お互い微妙に違うスケジュールで動いているから、
プライベートではほとんど会えないのはいつものことだ。
だから、あれから互いの家に行ったりすることはなかったが、
別に後ろめたさがあったからではない。
裕ちゃんとは別にメールも電話もしなかった。
これもまた今まで通りのこと。
そんな普通の生活をしていたから、
いつしか私の中であの裕ちゃんとの出来事は
終わったことのように思い始めていた。
確かな記憶であるし、未練がないと言えば嘘だろう。
だが、互いに大人として対応するのだ。
そう自分に言い聞かせていたし、納得もしていた。
……いや、納得していたつもりだった。
- 72 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)17時59分17秒
- その日は、娘。と裕ちゃんが一緒にする
唯一の仕事ハロモニの収録だった。
朝からなんとなく落ち着かないような気がしたが、
私はそれを気のせいだと思おうとしていた。
楽屋に入ると石川はもう来ていた。
いつも早い吉澤の姿はなかったが、
鞄がいくつか置かれており、
その中に見たことのある矢口のものもあったので、
二人でどこかで話でもしているのだろう。
「おはようございます。保田さん」
鞄をおろそうとしたとき、
石川がそう言いながら私の近くに来る。
「ああ、おはよう。いつも早いね、石川」
「いえ、ついさっき来たんです。
来たら誰もいなくて寂しかったんですよ」
「そうなんだ。みんなどこ行ったんだろうね」
そんなことを言いながら、私たちは隣り合って座った。
- 73 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)18時01分39秒
- 仕事ではもちろん毎日のように顔を合わせるが、この二週間、
こんな風に二人きりになれるときがなかったので、
石川は嬉しそうにいろいろ話をしてくる。
ほとんど私は聞き手だった。
だが、これは今に始まったことではない。
嬉しそうに話をしてくれる石川は一生懸命でかわいい。
それを見ているだけでいい。
私はそう思いながら付き合ってきた。
そして今このときもその気持ちで石川と接している。
やはりあのことはもう終わったことなんだ。
私は少し寂しさを感じながらも、そんなことを考えていた。
- 74 名前:華山 投稿日:2002年07月23日(火)18時04分03秒
- 今日はここまでです。
なんか、中澤さんも石川さんも出てこないところは
自分的につまらなくて、予定以上に書いてしまいました……
明日は多分更新できないと思います。すいませんm(__)m
- 75 名前:読人。 投稿日:2002年07月24日(水)03時53分50秒
- ここ数日、読んでいました。
かなり楽しみになっているので頑張って下さい。
しかし、やぐたん可愛いッスなぁ〜。やすいしにつられて読み始めたんですが、よしやぐあって嬉しかったりしました。かなり好きなんで…。
- 76 名前:華山 投稿日:2002年07月25日(木)20時42分54秒
- ぽつりぽつりとメンバーが入ってきて、
時間前には全員が揃っていた。
そのため予定通りに撮影が始まる。
スタジオに入ると裕ちゃんが、
スタッフさんと話をしていた。
その姿を見た途端、心のすみで
何かうずくようなものを感じる。
そうだ、裕ちゃんは娘。の楽屋に来なかった。
いつも顔を見せてくれるのに。
矢口がいるから?
そんなことを思っていると
矢口もスタジオに入ってきた。
一瞬だけだったけど、
裕ちゃんは複雑な表情になる。
だけど、すぐにいつもの表情に戻った。
- 77 名前:華山 投稿日:2002年07月25日(木)20時44分15秒
- 「や〜ん、矢口やん。今日もかわいいなあ〜」
普段通りに聞こえる声。
それに対して矢口も、
なんだよ〜などと普通に返している。
矢口や裕ちゃんから何も聞いてなければ、二人の関係は
以前と何ら変わっていないように思っただろう。
だが、よく見ると二人の間には
どこか緊張感があるように見える。
もしかしたら考えすぎかもしれない。
だけど、少なくとも裕ちゃんは無理をしている。
何の根拠もないが、私はそう確信していた。
- 78 名前:華山 投稿日:2002年07月25日(木)20時47分35秒
- かなりの撮りダメをするため、
撮影が終わったときはすでに夜だった。
この後に仕事が入っているときもあるが、
今日の私はこれが最後の仕事だった。
裕ちゃんは先に収録を終えている。
もう帰ってしまっただろうか。
それとも別の仕事に行ったかもしれない。
そんなことを考えていたくせに、
私の足は裕ちゃんの楽屋に向かっていた。
収録でも収録の合間でも、
私たちはほとんど言葉をかわさなかった。
だけど、私は心のどこかで
彼女は私を待っていると思っていた。
- 79 名前:華山 投稿日:2002年07月25日(木)20時48分46秒
- 寂しいときは側にいる。
そう言ったが、あの人は寂しいときも
それを素直に言ってくれる人ではない。
本当は弱いのに、大人ぶって、強がって
それを見せようとしない、そういう人だ。
今の裕ちゃんは寂しい想いを抱いているはずだ。
本人は隠したつもりだろうが、
彼女の目は、矢口を見る目はとても切なげだった。
矢口と話しているときはなんとか普通にしていた。
だが、矢口を遠くから見ているときの目は
こちらの方が辛くなるくらい哀しい光を宿していた。
だから、彼女の側にいてあげたい。
- 80 名前:華山 投稿日:2002年07月25日(木)20時50分41秒
- だが、それだけではないと自分でも気付いていた。
あの切なげな目を見たとき、
私は自分の心が騒ぐのを痛いほど感じた。
私がここにいる。
私が側にいる。
だから、そんな哀しい表情をしないで欲しい。
私はずっとそう考えていた。
そんな視線を彼女に送っていた。
すぐ側に石川がいたのに。
裏切れない、かわいい、大切な恋人がいたのに、
私はそんなことを考えていたのだ。
何一つ納得なんかしていなかった。
大人な対応なんかできない。
自分はそんな器用に気持ちを
切り替えられる人間なんかじゃなかった。
痛いほどそれを思い知らされた。
今すぐ彼女に会いたい。
彼女を自分の腕に抱きしめたい。
私は強くそう望んでいた。
- 81 名前:華山 投稿日:2002年07月25日(木)20時53分28秒
- 彼女の楽屋の前についた瞬間、ドアが内側から開いた。
そして、彼女が出てくる。
彼女の目は少し赤かった。
しばらく無言で私たちは見つめ合う。
私がいたのに驚いたのかとっさに言葉がでない、
彼女はそんな感じだった。
私も何を言えばいいのかわからなかった。
ただ、口を開いたとき無意識に言葉が出ていた。
「今日、裕ちゃんの部屋に行っていい?」
私の言葉に彼女はまっすぐに私を見つめる。
そして泣きそう表情で小さく頷いてくれたのだった。
- 82 名前:華山 投稿日:2002年07月25日(木)20時56分34秒
- 今日はここまでです。
ちょこっと熱っぽい保田さんを書いてみたかったのですが、
うまく書けたでしょうか……
>読人。 さま
レス、ありがとうございました!
矢口さん、かわいいと言っていただけてほっとしました(^^)
うまく矢口さんを書けたか心配だったので。。。
これからもがんばります!!
- 83 名前:名無し子 投稿日:2002年07月26日(金)02時08分11秒
- ずっと読んでました、お疲れさまです。
もっと早くレスしようと思っていたのですが、今頃に(^^;;
いつもながらドキドキしてます、どうなるのだろう。
続きがとても気になりますが、どうか無理されませんように。
またレスしに来ます、ずっと応援してますからね(^^)
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)16時26分26秒
- これから・・・どうなっていくのかな?
HPのほうもそろそろ・・・更新を・・・(w
- 85 名前:華山 投稿日:2002年07月27日(土)02時09分43秒
- 裕ちゃんの部屋に行くタクシーの中で
私たちはほとんど言葉を交わさなかった。
ただ、鞄に隠すようにしながら手だけは繋いでいた。
触れているだけに近かったけど、
彼女の温もりを感じているだけで私は心が騒いだ。
前に行ったときより遠く感じるな。
そんなことを思っていると不意に私の携帯が鳴った。
私は一瞬裕ちゃんと繋いだ右手を見てから、
その手を離して携帯を取る。
裕ちゃんの少し寂しげな視線を感じながら
ディスプレイを見ると石川からだった。
「もしもし?」
『あ、保田さん。もうお帰りですか?』
石川の方が先に収録を終えていた。
スタジオに入る前、石川は待っていると言ってくれたのだが、
彼女の明日の仕事が早いことを知っていた私は断ったのだ。
- 86 名前:華山 投稿日:2002年07月27日(土)02時12分18秒
- 「ああ、もう終わったよ」
『……タクシーですか?』
「う、うん。あ、今からさ、
ちょっと呑みに行ってくるよ」
言わないでおこうかとも考えたのだが、
変に嘘をつくとばれてしまうかもしれない。
そう考えて正直に言うことにした。
『中澤さんとですか?』
少しトーンが落ちる。
私は努めて明るい声で返す。
「うん。まあね。また二日酔いかな」
『もう、ダメですよ。あんまり飲んじゃ……
じゃあ、今日はメールしない方がいいですか?』
「……酔っ払わなかったら、ちゃんと返すよ」
それだけしか言えなかった。
ホントに飲みすぎちゃダメですよ、
そんなことを言ながら石川は電話を切った。
隣に裕ちゃんがいると気を遣ったのだろう。
それがわかっていても、
私は普通にじゃあとしか言えなかった。
電話を切ると同時に裕ちゃんの腕が
私の腕に回るのを感じた。
裕ちゃんの方を見ようとしたとき、
彼女は私にしがみつくように寄り添ってきた。
私は何も言わず彼女のしたいようにさせていた。
- 87 名前:華山 投稿日:2002年07月27日(土)02時14分15秒
- タクシーを降り、裕ちゃんの部屋に上がるまで
私たちは無言だった。
だけど、部屋に入り、ドアが閉まる音を聞いた瞬間
私は彼女を強く抱きしめた。
彼女も私の背中に両腕を回してくれる。
私たちは何度も唇を重ねた。
彼女の腕に力が入るのを感じる。
私も彼女を強く強く抱きしめた。
彼女の吐息が漏れる。
それが私を更に狂わせる。
私は強く彼女を求めた。
彼女もそれに応えてくれた。
私たちは固く抱き合い離れることはなかった。
- 88 名前:華山 投稿日:2002年07月27日(土)02時16分35秒
- 今日はここまでです。
短いな〜
でも、やっとKUに戻ってきたみたいです。
いつまで、続くかな〜〜(^^;
>名無し子 さま
レスありがとうございます!
なんか順調に進んでいるようないないような、
そんな感じで更新しております。
これからもがんばりますので、よろしくお願いします(^^)
よろしければ、またレスくださいね〜
>84 さま
レス、ありがとうございます。
まだちょっと先が見えないのですが。。。どうなるんでしょう。
HP……は、はい、ちょっとさぼってました(^^;;
こちらの更新もぼちぼちとがんばりますね〜
- 89 名前:うっぱ 投稿日:2002年07月27日(土)10時21分10秒
- 今後の展開が気になる今日この頃。
期待しております。
では。
- 90 名前:華山 投稿日:2002年07月28日(日)20時15分23秒
- 申し訳ありません。
個人的な理由で2、3日更新をさぼらせていただきますm(__)m
明日か明後日には復活する見込みです。。。
>うっぱ さま
レスありがとうございます。
今後の展開……ご期待に少しでもお応えできるようがんばります!
- 91 名前:華山 投稿日:2002年07月30日(火)07時48分07秒
- 気だるさを感じながらゆっくりと私は起き上がった。
体に熱が残っているような感じがして軽く頭を振る。
そんな私に気付いたのか、
裕ちゃんがゆっくりと目を開けた。
「……圭?」
少しかすれて聞こえる彼女の声にまで
簡単に動揺してしまう自分に
内心で苦笑しながら、彼女の方を見た。
「起きてたの?」
「うん」
短くそう応えながら裕ちゃんは体を起こした。
シーツを胸まで引き上げているが、
その肩の白さが眩しい。
私は思わず彼女から視線を逸らした。
- 92 名前:華山 投稿日:2002年07月30日(火)07時50分27秒
- 不意に彼女がシーツから出るのを感じた。
振り向いたとき彼女は
バスローブをまとっているところだった。
「どこ行くの?」
「シャワーも浴びさせてくれないんやもん、圭坊」
困ったような笑みを浮かべながらそう言うと、
彼女はバスルームに向かった。
彼女の背中を見送りながら私は
苦笑が浮かんでくるのを感じる。
確かにそんな冷静さはなかったから。
自分がこんなに余裕のない人間だったとは。
石川と付き合っているときには
こんなことを感じたことはなかった。
私は石川のことをどう思ってるんだろう。
好きだ。それは確かだ。確信できる。
それなら、裕ちゃんのことはどう思ってるのか。
好き?憧れ?
私たちの関係はどういうものなのだろう。
- 93 名前:華山 投稿日:2002年07月30日(火)07時53分32秒
- そんなことを考えていると、携帯がメールの着信を知らせた。
私はベッドからおり、ベッドの下に散らばっている
上着やら荷物の中から携帯を探す。
石川からだった。
『飲みすぎてませんか?
二日酔いになっちゃだめですよ』
たったそれだけだった。
私はベッドの端に座ってぼんやりと
何度もその短い文章を読んだ後、
ほとんど無意識に石川の番号をメモリーから呼び出した。
そして、何瞬かためらってから通話ボタンを押す。
コール音がやけに大きく感じ、
私は何故か緊張を感じていた。
- 94 名前:華山 投稿日:2002年07月30日(火)07時57分27秒
- 今日はここまでです。
何事もなく復活……
もっと早く書けたらいいのにな〜なかなか進まない(−−;
- 95 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月31日(水)04時48分42秒
- 健気な石川さん...寂しい中澤さん...
ん〜...辛いね。そこがいいんだけど...w
圭ちゃんど〜していくんだろ...
- 96 名前:華山 投稿日:2002年07月31日(水)19時33分56秒
- 『もしもし。保田さん?』
当然なのに、私は石川の声に一瞬言葉が出なかった。
だが、なんとかいつもと同じように話しかける。
「やあ、まだ起きてたんだ。メールありがと」
『飲んでたんですか?』
「ううん、ほとんど飲んでないよ。
酔ってないでしょ?」
『そうですね。中澤さんは?』
石川の問いに私は一瞬迷う。
シャワーを浴びてるなんて言ったら、
誤解をするかもしれない。
いや、誤解ではないのだが。
「ああ、ちょっとコンビニに買い物行ってる」
『そうなんですか』
疑われていないだろうか?
そんなことを考えてしまう自分がいる。
- 97 名前:華山 投稿日:2002年07月31日(水)19時35分46秒
- 「明日早いのに、こんなに遅くまで
起きてて大丈夫なの?」
それでもいつもと同じように話せる自分に、
自己嫌悪を感じるよりも
悪い意味で感心すらしてしまう自分がいる。
『……なんか眠れなくて』
石川のトーンが少し落ちたように感じた。
それが自分のせいであることくらいわかる。
だけど、私は気付かないふりをした。
「どうした?なんか、…考え事?」
『……いえ、そういうわけではないんですけど』
「そっか。……早く、寝た方がいいよ」
『……はい』
「どうしたの?まだ眠れなさそう?」
『……いえ、大丈夫です』
明らかにムリしてそう言っている石川の声に心が痛む。
- 98 名前:華山 投稿日:2002年07月31日(水)19時37分14秒
- なんて言えばいいだろう。
そんなことを考えているとドアの開く音がした。
シャワーを浴びた裕ちゃんが戻ってきたのだ。
「あ、裕ちゃん」
反射的にそう言ってしまってから私は後悔する。
電話の向こうの石川が何か言いかけて
口篭もる気配を感じたから。
『あ、もうお帰りなんですね?
じゃあ、電話ありがとうございました』
「ちょっと、石川?」
『お休みなさい』
石川はそう言うと電話を切った。
私は思わず携帯を見つめた。
- 99 名前:華山 投稿日:2002年07月31日(水)19時38分47秒
- すぐ近くに裕ちゃんの気配を感じた。
驚いて顔を上げた瞬間、唇を塞がれた。
とっさに反応できないでいると
裕ちゃんが私に抱きついてきた。
「裕ちゃん?」
なんとかそれだけ言ったが、
彼女は何も言わず、強く私を抱きしめてくる。
どうしたんだろう?
どこか冷静にそんなことを考えていると、
裕ちゃんが体重をかけてくるのを感じた。
え?と思う間もなく私は彼女に押し倒された。
- 100 名前:華山 投稿日:2002年07月31日(水)19時41分42秒
- 「ちょ、ちょっと。裕ちゃん?」
私の抗議の声も聞いてくれず、
裕ちゃんはまた私の唇を塞いでくる。
何度も交わされる強く情熱的なキス。
いつしか私も裕ちゃんの細い体を強く抱きしめていた。
体を反転させ、彼女の顔を見下ろす。
彼女の唇が濡れて光っていた。
それに誘われるように、今度は私からキスをする。
彼女の両腕が私の背中に回された。
「圭坊……圭……」
彼女の瞳が潤んでいる。
私の理性を簡単に打ち崩す視線。
「まったく、私、まだシャワー浴びてないんだよ」
わざとそんなことを呟きながら
私は彼女の首筋に唇を落とした。
- 101 名前:華山 投稿日:2002年07月31日(水)19時43分49秒
- 今日はここまでです。
KUはやっぱり楽しいです(^^)
>95 さま
レスありがとうございます!
保田さん……どうしていくのでしょう(^^;
優しいのか、優柔不断なのか……私の書く保田さんって
けっこう弱い人かもしれません。。。。
- 102 名前:やっすぅ推し 投稿日:2002年08月01日(木)15時22分50秒
- なんか・・・
圭ちゃん弱いって感じですね。
裕ちゃんも気になりますね。
がんばってください♪
- 103 名前:華山 投稿日:2002年08月02日(金)17時19分36秒
- 次の日の朝、裕ちゃんは朝から仕事だったため、
私は彼女と一緒に部屋を出て、
9時ころに自分のマンションについた。
今日の仕事は遅いので昼過ぎまで家にいれる。
もう一回寝ようか。
そんなことを考えながら自分の部屋まで歩いたとき、
私はそこに蹲るように座っている人を見つけた。
その顔を見て思わず固まってしまう。
それは仕事に行っているはずの石川だったから。
- 104 名前:華山 投稿日:2002年08月02日(金)17時21分50秒
- 「ちょっと、石川。
こんなところで何してるの?」
私がそう声をかけると、石川はゆっくりと顔を上げた。
そして私の方を見てにっこりと笑う。
だけど、その笑顔は全く力のない、痛々しいものだった。
「あ、保田さんだ」
「あ、保田さんだじゃないでしょ。
あんた、仕事は?
今日、早かったんじゃないの?」
「共演の方が急に都合が悪くなったみたいで、
延期になったんです」
「いつからここにいたの?」
「えっと、30分くらいです」
「中に入ってれば良かったでしょ。
合鍵渡してるんだから」
私はそう言うと石川の手を取って彼女を立たせた。
- 105 名前:華山 投稿日:2002年08月02日(金)17時23分52秒
- 「だって、保田さん帰ってくるかわからなかったし」
「……帰ってくるよ」
「……中澤さんの部屋に泊まったんですか?」
石川の肩を抱くようにして部屋に入ろうとした私は、
彼女の言葉に固まってしまう。
「う、うん。あれから呑んで、そのまま寝ちゃった……」
少し掠れたような自分の声に戸惑う。
石川はそんな私をまっすぐに見つめてきた。
私はその視線を受け止めることができず顔を逸らす。
すると不意に石川が私に抱きついてきた。
「保田さん。私は、保田さんが好きです」
「石川……」
「でも、保田さんは、中澤さんが好きなんですね」
「……」
私は応えられなかった。
彼女の体を抱きしめてあげることもできなかった。
しばらくただ呆然と突っ立てることしかできなかった。
- 106 名前:華山 投稿日:2002年08月02日(金)17時27分40秒
- すいません。短いですが、更新です。
やっぱり、あんまり筆が進む気分には……
でも、終わるまで、責任もって書き上げます。
>やっすぅ推し さま
レスありがとうございます。
保田さん、弱いです……はい。
どうするつもりなんでしょう...
がんばります!
- 107 名前:華山 投稿日:2002年08月04日(日)22時02分22秒
- どうしてなんだろう。
どうして石川はこんな人間ばかりを
好きになるんだろう。
心にずっと忘れられない、諦められない人を
住まわせている人間ばかりを。
私は石川と付き合い始めたころのことを
思い出していた。
そう、石川と付き合うことになったのは、
石川が失恋した後だった。
吉澤と別れて、傷ついていた彼女を
私は放っておくことができなかった。
石川から告白して石川から別れを告げた恋だった。
石川はずっと吉澤に惹かれていた。
私は何度も石川本人から相談を受けていたから
そのことは知っていた。
だから、石川が吉澤と付き合い始めたと
聞いたとき心から石川を祝福した。
だけど、まさか吉澤が別の人を、
矢口をずっと好きでいたなんて知らなかった。
そして、石川がそのことを知っていたとも。
- 108 名前:華山 投稿日:2002年08月04日(日)22時04分40秒
- 吉澤は石川から告白されたとき一度断ったらしい。
自分には好きな人がいるからと。
でも、その人は別の人と付き合っていて、
自分にはチャンスはないとも言ったらしい。
それを聞いた石川はそれでもいいから、
自分は二番でもいいからと言って、吉澤を押し切った。
だけど、そんな付き合いが長く続くはずがない。
最初は何番でも自分を好きでいてくれるだけでいい。
そう思っていたのは事実だろう。
だけど、好きになった人を独占したいと
思うようになるのは当然だ。
自分だけを見ていてほしい。
自分だけを好きでいてほしい。
いつしかそう悩むようになって、
石川は遂に自分から別れを切り出した。
吉澤の想いが変わらないとわかったから。
求めすぎて疎ましく思われる前に、
自分から別れを言ってしまう方がいい。
好きになってもらえなくても、嫌われたくはない。
石川はそう考えたのだ。
- 109 名前:華山 投稿日:2002年08月04日(日)22時07分14秒
- だけど、当然そのダメージは大きくて、
石川は別れた直後ボロボロだった。
私はずっと吉澤とのことで相談にのっていたから、
そんな石川を一生懸命励ました。
そんなことを続けているうちに
私はいつしか石川を好きになってた。
放っておけない、守ってあげたいと
思うようになっていた。
自分の心にあの人がいることは知っていた。
だけど、それはただの憧れで好きとは違う。
私が好きなのは石川だと思うようになっていた。
そしていつしか、石川も
私のことを見てくれるようになって、
私たちは自然と付き合い始めていた。
- 110 名前:華山 投稿日:2002年08月04日(日)22時10分04秒
- なのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どうして、石川はこんな人間ばかり
好きになってしまうのだろう。
いや、吉澤は私とは違う。
吉澤は最初に好きな人がいるとはっきり言っていた。
だけど、私はそんな自分の心を隠していた。
いや、自分で気付かないふりをして、
石川と付き合ってしまった。
吉澤と別れたときの彼女の苦しみを知っている。
悲しみを知っている。
私はこの子を裏切れない。
そう裏切ってはいけないんだ。
- 111 名前:華山 投稿日:2002年08月04日(日)22時12分53秒
- 私の首に両腕を回しながら
ぎゅっと抱きついてくる石川を感じながら、
私はそんなことを考えていた。
そして、ゆっくりと自分の両腕を石川に回す。
彼女の細い体を抱きしめた。
石川の体が一瞬びくっとなるが、
私はかまわず強く抱きしめた。
「そんなことない。私は石川が好きだよ」
「保田さん……」
「石川が好きだ
「……ムリしなくていいんですよ」
「ムリなんかしてない」
私は少しむきになってそう言った。
- 112 名前:華山 投稿日:2002年08月04日(日)22時14分08秒
- 「じゃあ、中澤さんのことはどう思ってるんですか?」
「……」
応えられない
嫌いじゃない。
でも好きなのだろうか?
たとえ好きでも石川を想うスキとは違う。
だけど、それをどう言えばいいんだろう。
いや、そんなことは許されることではないはずだ。
固まってしまって何も応えない私に石川はまた訊いた。
- 113 名前:華山 投稿日:2002年08月04日(日)22時16分51秒
- 「中澤さんは保田さんのこと
どう想ってるんですか?」
「……裕ちゃんが?」
考えたこともなかった。
そうだ、裕ちゃんは私をどう思っているんだろう。
好き?
ただ寂しさを紛らわせるだけ?
聞いたことはなかった。
考えたこともなかった。
ただ自分の想いで突っ走っただけ。
矢口がまだ好きなのはわかる。
じゃあ、私のことは?
わからない。
好きと言われたことはなかった。
やはり、私は裕ちゃんにとって
寂しさを紛らわせるだけの存在なのだろうか。
いや、それでも良かったはずだ。
それでもいいから彼女を求めたはずなのに、
今の私の心にはそれを寂しいと想うところがある。
それは小さいが否定できない確かな感情だった。
そんなことを考え、再び固まってしまった私を、
石川は黙って寂しげに見つめ続けていた。
- 114 名前:華山 投稿日:2002年08月04日(日)22時18分55秒
- 今日はここまでです。
やっぱり、保田さん、ネガ……
- 115 名前:華山 投稿日:2002年08月05日(月)21時05分49秒
- 結局、私たちは昼まで私の部屋で過ごし、
一緒に昼過ぎからの仕事に行った。
その間、ほとんど言葉をかわさなかった。
何を言ったらいいかわからなかったし、
石川が何を考えているかもわからなかったから。
それでも、お互い普通に仕事をこなした。
ただ、その後は別々の仕事だったから、そのまま別れる。
次の約束はしなかった。
いや、できなかった。
まあ、いい。明日も仕事で会えるのだから。
私はそう自分に言い聞かせながら、移動の車に乗っていた。
- 116 名前:華山 投稿日:2002年08月05日(月)21時08分03秒
- ぼんやりと窓の外の流れていく景色を眺める。
石川に突きつけられた言葉が頭から離れない。
裕ちゃんは私のことをどう想っているんだろう。
そして私は彼女にどう想われていたいんだろう。
わからない。
裕ちゃんにとって私は寂しさを紛らわせる相手。
私にとって裕ちゃんは……浮気相手になるのか。
恋人がいるんだから。
思わず苦笑が浮かぶ。
だが、すぐに私はそれを消した。
もうやめなくてはいけない。
守ってあげたい。
そう思って付き合い始めたのに、何をしているんだ、私は。
これ以上石川を裏切ることはできない。
石川の寂しげな顔が頭に浮かぶ。
もうあんな表情をさせたくない。
- 117 名前:華山 投稿日:2002年08月05日(月)21時09分54秒
- そう決意しながら、私は心のどこかで迷っていた。
裕ちゃんの気持ちを知りたいと思う自分がいる。
裕ちゃんが私のことをどう想っているのか。
だが、それを聞いてしまったら、
また自分の心が揺らぐかもしれないという
恐怖に似た思いもあった。
だが、聞かないと心の整理がつかない。
好きでも嫌いでも、そして
ただ寂しさを紛らすだけだったという言葉でも、
とにかく何か答えを貰わないと、私の中でずるずると
彼女への想いが残ってしまう気がする。
自分の意思の弱さが情けない。
だけど、私は自分だけで
この想いを断ち切る自信がなかった。
- 118 名前:華山 投稿日:2002年08月05日(月)21時11分28秒
- 今日はここまでです。
ようやく自分の中で終わりが見えてきました。
- 119 名前:読人。 投稿日:2002年08月05日(月)21時54分19秒
- 更新お疲れさまです。続きも期待してますので頑張って下さい。
- 120 名前:華山 投稿日:2002年08月06日(火)08時46分43秒
- それからまた2週間が経った。
普段通りの生活が続いて、またあの人とのことが
過去のことになったような錯覚を覚え始める。
だけど、もう、自分でも
それを信じることはできなかった。
自分の弱さが馬鹿馬鹿しいくらいわかったから。
どんなに吹っ切ったつもりでも、
どんなに心の整理ができたつもりでも、
どんなに過去のことになったと思い込んでも、
結局裕ちゃんに会ったら、
そんなことはあっさりと崩れる。
それが痛いほどわかったから。
だけど、今度こそ、今度こそやめなくてはいけない。
もう絶対に迷わないようにしなくてはいけない。
そのためにも、あの人の考えていることを
知らなくてはいけない。
あの人が私をどう思っているかを。
弱いだけだが、そんなけじめ、いや、
はっきりとした事実でも突きつけられない限り、
私は想いを断ち切ることができないから。
- 121 名前:華山 投稿日:2002年08月06日(火)08時47分56秒
- だけど、心のどこかで私にはまだ迷いがあったのだろう。
何故なら、私はそれを聞くため、
彼女にメールなり電話なりをしていないから。
同じ仕事がないから会えない。
そう逃げていたから。
でも、もうそれはできない。
今日は裕ちゃんと同じ仕事の日。
いい加減に覚悟を決めよう。
私はそう自分に言い聞かせて仕事をこなしたのだった。
- 122 名前:華山 投稿日:2002年08月06日(火)08時49分31秒
- 収録が終わった後、私は重くなりがちな足をひきずって、
裕ちゃんの楽屋の前までやってきた。
何度もためらってから、意を決してノックをする。
すぐに中から彼女の声が聞こえてきた。
私は大きく溜息をついてからドアを押し開けた。
中には裕ちゃんしかいなかった。
彼女は私が入ってきたのを見て、
一瞬のうちに表情を交錯させた。
だけど、すぐに笑顔を浮かべる。
私の心を乱してやまない笑顔を。
その笑顔をまともに見ないように気をつけながら、
私は裕ちゃんの側に行った。
- 123 名前:華山 投稿日:2002年08月06日(火)08時52分07秒
- 狭い部屋なのに、何故か裕ちゃんとの距離を
遠く感じながら彼女の隣に座る。
私の表情が固いことに気付いたのだろう。
裕ちゃんは不審そうな表情と
不安そうな表情を時折浮かべる。
どう切り出していいかわからない私よりも、
彼女が先に口を開いた。
「どうしたん、圭坊?なんか、怖い顔しとるよ」
わざと明るい声で言おうとしているのだろうが、
その声には不安がありありと感じられた。
私はまだ何を言えばいいかわからなかったが、
なんとか口を開く。
「別に……あ、あのさ。
裕ちゃん、この後、仕事って言ってたよね。
すぐ、移動するの?」
「うん。あと、30分くらいはあるけど……」
「そうなんだ」
そこで会話が途切れる。部屋に沈黙がおりた。
それを破ったのは彼女の方だった。
「圭坊……ウチに話があるんやろ?言ってええよ」
覚悟を決めた、そんな表情。
寂しげなその表情に心が痛む。
だけど、言わなくてはいけない。
これ以上、自分の弱さであの子を傷つけることはできない。
私もようやく覚悟を決めた。
- 124 名前:華山 投稿日:2002年08月06日(火)08時54分24秒
- 「裕ちゃんさ……
その、私のこと、どう思ってるの?」
「え?」
思っていたのとは少し違っていたのだろう、
裕ちゃんは私の言葉に戸惑いの表情を見せる。
私はかまわず言葉を続けた。
「その、寂しいだけ?
それとも、少しは私のこと……」
「圭坊……」
「私に石川がいることは知ってるよね?
それでも、裕ちゃんは私のこと……
それとも、寂しいのを紛らわせるだけ?」
彼女の顔に哀しさが浮かぶ。
残酷なことを言っている。
その自覚はあった。
だけど、聞かないといけない。
ずるずると中途半端な関係を続けることは
誰のためにもならないのだから。
- 125 名前:華山 投稿日:2002年08月06日(火)08時56分12秒
- そう、裕ちゃんのためにもならない。
寂しさを紛らわせるためだけの関係を続けていたら、
裕ちゃんはいつまでも矢口をふっきることができない。
寂しさをちゃんと受け止めないと、
前向きになれないのだから。
だから、私は彼女の答えを待った。
どんな答えが返ってきても取り乱さないように、
心を強くしながら。
彼女はじっと私の顔を見つめるだけだった。
哀しい瞳で。
迷っているのがわかる。
私は表情でも態度でも急かす素振りを
見せないように気をつけながらただ待った。
だけど、彼女の答えを聞くことはできなかった。
裕ちゃんのマネージャーが彼女を呼びに来たから。
裕ちゃんは小さくごめんとだけ言って
部屋を出ていってしまった。
- 126 名前:華山 投稿日:2002年08月06日(火)08時58分20秒
- 一人残された私は大きく息を吐き出した。
覚悟を決めていた。
決心を固めていた。
そのはずだったのに、答えを聞くことなく
解放されてしまった。
いや、追い出されたのかな。
なのに、ほっとしている自分がいる。
「どうするんだ、私」
自嘲的にそう呟くと私はのろのろと立ち上がった。
楽屋に帰れば石川がいる。
全てを解決して、ようやく堂々と
彼女を見ることができるはずだったのに……
楽屋に戻る私の足取りは、裕ちゃんの楽屋に
向かったときと同じくらい重いものだった。
- 127 名前:華山 投稿日:2002年08月06日(火)09時02分14秒
- 今日はここまでです。
ようやく話が進み出したような。
>読人。 さま
レスありがとうございます。
期待……お、お応えできるよう、がんばります!(^^;
- 128 名前:名無し読者。 投稿日:2002年08月06日(火)12時10分58秒
- 裕ちゃん〜(泣
圭ちゃん〜(泣
石川〜・・・・・
どうなんるんだ〜?(w
- 129 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月08日(木)02時51分14秒
- はい〜ん...どうすんだ〜。
圭ちゃん。梨華ちゃんど〜すんの?
と、言ってみたりしながら続きを待ってます。
- 130 名前:華山 投稿日:2002年08月14日(水)16時54分46秒
- あれから私は裕ちゃんに電話をすることもできず、
彼女からもかかってくることもなかった。
宙ぶらりんの心を抱えて、私は普通に仕事をこなしていた。
もしかしたら、自分だけが
そう思っているだけなのかもしれないが。
- 131 名前:華山 投稿日:2002年08月14日(水)16時57分17秒
- その日、私は数人のメンバーと一緒に収録の仕事があった。
石川は別の仕事が入っていて、いない。
全員で撮るシーンが終わった後、
一人一人の収録があり、少し空き時間ができた。
だが、なんとなく楽屋でみんなで過ごす気になれず、
廊下の自販機の横のソファーに座り、
コーヒーを飲みながら携帯をいじって過ごす。
暇つぶしにたまっていたメールの整理をしていたら、
メールの着信があった。
石川からだった。
『お疲れ様です。今夜、ヒマですか?』
二度その短い文章を読んでから、
私は石川のメモリーを呼び出した。
- 132 名前:華山 投稿日:2002年08月14日(水)16時59分35秒
- 2回のコールの後、石川が出る。
私が仕事中だと知っている彼女は、
私から電話がかかってきたことが意外だったのだろう、
少し驚いた声だった。
「もしもし?保田さん。
お仕事中じゃなかったんですか?」
「今は待ち時間。けっこうかかりそうなんだ。
石川の方はもう終わったの?」
「はい。予定より早く終わったんですよ」
「そうなんだ。
私の方はいつ終わるかちょっとわからないな。
でも、これが最後だから、終わったら電話するよ」
「いいんですか?」
「いいよ。早く終わったら石川の部屋に行くから」
「え?」
私の言葉に石川は驚いたような声を返してきた。
私はわざと軽い口調で言う。
- 133 名前:華山 投稿日:2002年08月14日(水)17時01分49秒
- 「来てほしかったんじゃないの?
あのメールは、てっきりそうだと思ってたんだけど」
「あ、その……」
「そうじゃなかったんだ。
じゃあ、行かないどこうかな」
「あ、いえ、来てください」
慌てたような声に私は思わず笑ってしまう。
石川に会いたかった。
中途半端な心が重かった。
自分勝手かもしれないが、
石川と会えばこの心が少しでも軽くなるのでは。
そんなすがるような想いがあった。
「じゃあ行くよ。遅くなってもいいかな」
「はい。待ってます」
「わかった。じゃあ」
私はそう言うと電話を切った。
- 134 名前:華山 投稿日:2002年08月14日(水)17時03分32秒
- 切った瞬間に自己嫌悪に近い感情が湧いてくるのを感じる。
まだ裕ちゃんとのことをちゃんと終わらせたわけではない。
次に石川に会うときは、二人きりで会うときは、
全てを解決したときにしたかったのに。
だけど、できなかった。
一人でいられる強さがない自分が情けない。
私は大きく息を吐くと携帯を閉じた。
少しだけ残っていたコーヒーを飲み干してから
楽屋に戻ろうとしたとき、私は声をかけられた。
思いもかけない人物から。
- 135 名前:華山 投稿日:2002年08月14日(水)17時05分35秒
- 「圭坊」
その声に驚いて顔を上げると、
そこには裕ちゃんが立っていた。
「裕ちゃん。どうしたの?どうして、ここに?」
「ウチも今日ここで収録やったんや」
裕ちゃんはそう言うと私のすぐ横に座った。
私はなんとなく緊張しながら、
手の中で空になった紙コップをもてあそぶ。
彼女の顔を私は見ることができなかった。
私たちはしばらく黙って座っていたが裕ちゃんが口を開いた。
「なあ、圭坊」
「……何?」
「今日、会えん?」
裕ちゃんの言葉に私はようやく彼女の方に顔を向けた。
彼女の顔は少し苦しげだった。
- 136 名前:華山 投稿日:2002年08月14日(水)17時07分38秒
- 私はとっさに答えることができない。
すると、裕ちゃんはまた言った。
「この前のこと」
「え?」
「この前訊かれたこと、ちゃんと答えるから……」
「裕ちゃん……」
「だから。何時になってもいいから、
ウチの部屋、来て」
裕ちゃんはそれだけ言うと
私の答えを待たずに立ち上がった。
私は止めることができない。
「待っとる。何時でも……」
私に背を向けたままそう言うと、
裕ちゃんは行ってしまった。
私はただ彼女の背中を見送ることしかできなかった。
いつの間にか、私の手の中にあった紙コップは潰れていた。
結局私はスタッフの人が呼びに来るまで
立ち上がることができなかった。
- 137 名前:華山 投稿日:2002年08月14日(水)17時09分08秒
- 今日はここまでです。
よし、やまにたどりついたぞ。
>128 さま
レスありがとうございます。
さて……3人はどうなるのでしょう(^^;;
もう少しで終わるはずなのですが……
>129 さま
レスありがとうございます。
う〜ん、保田さん、どうするのでしょう……
続き……がんばります(^^;;
- 138 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時39分31秒
- 仕事の間中、私はずっと悩んでいた。
もちろん、仕事はきちんとこなしたつもりだが、
さすがに自信がない。
仕事が終わり、解散となっても私は迷っていた。
どちらに行くべきか。
迷うことではないはずだ。
そう石川のところに行かなくてはいけない。
私が行くと言ったのだから。
先に約束したのだから。
そして、私の大事な恋人なのだから。
私はそう自分に言い聞かせた。
だが、やはり迷いがあった。
- 139 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時41分30秒
- 裕ちゃんの返事を知りたい。
返事を聞いて、自分の中でけじめをつけてから
石川に会うべきでは。
そう思う自分がいる。
だが、本当にそれだけだろうか。
言い訳をしているだけで私は単に彼女に会いたいだけでは。
あのとき、彼女の楽屋で訊いたときは、
本当に答えが欲しかっただけだった。
だが、彼女の家で二人きりになったとき、
自分は理性だけで行動できるだろうか。
特に彼女の答えが否定的なものだったときに……
自分でも情けない話だ。
そんな心配を自分に抱かなくてはいけないとは。
やはり、石川のところに行こう。そうするべきだ。
ようやくそう心を決めた。
だが、私の心のどこかに、彼女に会うのはその後でもいいのでは?
そう囁く声があった。
- 140 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時43分30秒
- 石川の部屋に行くタクシーの中で
私は石川にメールをした。
今から行くとだけを送る。
すぐに彼女から返事が返ってくる。
待っているという感じの返事が。
だが、私はぼんやりと見つめただけで
ほとんど読まず携帯をしまった。
窓の外を流れていく景色が
やけに鈍い光を放っているように感じた。
裕ちゃんの少し苦しげな表情が
頭に浮かんで消えなかった。
- 141 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時44分19秒
- 石川のマンションの前でタクシーを降りたとき、
やけに空気が重く感じた。
ふと空を見ると暗く重い雲が空を覆い尽くしていた。
なんだかな〜そう呟いて苦笑してしまう。
今の自分の心のようだとは考えないようにした。
- 142 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時45分49秒
- 部屋に入ると石川はテレビを見ていたところだったらしく、
バラエティー番組の画面が映っていた。
意味はなかったのだが、それをじっと見ていると、
石川は慌てて切った。
「別に良かったのに」
そんなことを言いながら彼女が出してくれたクッションに座ると、
石川は少し照れたような笑顔を浮かべる。
「いえ……寝ちゃわないようにつけてただけですから」
「そう。まあ、また転寝しても困るしね」
私がそう言うと、彼女はますます照れたように笑う。
そんな彼女を見ていると自分の心が軽くなるのを感じた。
やっぱりここに来てよかった。
私は自分勝手にそんなことを考えていた。
- 143 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時47分49秒
- それから私たちはとりとめのない会話を続けた。
最初に石川が入れてくれた紅茶が無くなり、
二杯目を入れてくれているとき不意に私の携帯が鳴った。
メールの着信音だった。
一瞬で頭にあの人の顔が浮かぶ。
あの少し苦しげな表情が。
私は携帯を入れたままの鞄を見つめたまま
しばらく固まってしまった。
見るべきか、見るべきではないのか。
いや、あの人からとは限らない。でも……
いや、今は石川といるのだ。
石川のことだけを考えよう。
そう思って鞄から視線を外したとき、
私は再び固まってしまった。
石川がまっすぐに私の方を見ていたから。
- 144 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時52分19秒
- 「石川?」
「見ないんですか?メール」
石川は穏やかな表情だった。
だけど、目が哀しげに見えた。
私は一瞬言葉を失う。
「いや、別に……」
「見ていいですよ」
石川はそう言うと、私の横を通り過ぎ窓際に立つ。
そして私に背を向けたまま言った。
「……中澤さんからでしょ」
「石川……」
「マネージャーさんが教えてくれました。
中澤さんも保田さんと同じところで仕事だったって。
今日、会ったんじゃないんですか?」
「……会ったよ。でも、偶然で私は知らなかった」
言い訳がましい。そう思うが、
他に言葉が浮かんでこなかった。
- 145 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時54分03秒
- 「中澤さんに会ったのに、
私のところに来てくれたんですね」
「……」
「でも、この後、会いに行くんですか?」
「は?そんなこと、考えてない」
私は危うく叫びそうになった。
まったくそんなこと、考えてなかったから。
だけど、石川は私に背を向けたまま言った。
「気付いてないんですか?
保田さん、ずっと時計を見てましたよ。
もしかしたら、ホントに
気付いてないのかもしれませんけど」
「そんなこと……」
ないと言いたかった。
だけど、わからない。
無意識にそうしていたのかもしれない。
そして、そうする理由が私にはある。
迷いという理由が。
- 146 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時55分57秒
- 「いいんです。……ほんとにいいんです。
今日、来てくれただけで。だから……」
石川の声が揺れたと感じた。
私は反射的に彼女のもとへ走った。
彼女の顔を見るために
体を自分の方に向けようとした。
石川は強く抵抗する。
だけど、そのときにはっきりと見えた。
彼女の目が赤くなっているのが。
私は、急に力が抜けたように
彼女の肩を掴んだ腕を下ろした。
石川はまだ私に背を向けている。
「いいんです。行ってもいいです。
私は……私は待ってますから」
私の頭からあの人の顔が急速に消えていく。
あの苦しげな顔が。
私には今、自分の目の前で背を向けたまま
泣いている恋人を見捨てることなんかできなかった。
- 147 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)13時59分22秒
- ふと窓の外に視線を移すと大粒の雨が落ちていた。
そうだ。あの暗く重い雲は
私のいい加減な心なんかじゃない。
石川の悲しみだったんだ。
私はゆっくりと彼女の肩に両腕を置く。
「雨が降ってきたね」
「……保田さん」
「行けないよ……雨が降ってる」
私はそう言うと彼女の肩を抱いた。
少し震えているその細い肩を。
「ここにいるよ。石川の側にいる」
「保田さん」
石川の手が私の手の上に重ねられた。
それから私たちは言葉を交わさなかった。
私は、ただ、静かに石川を抱きしめながら、
窓の外の雨の音を聞いていた。
- 148 名前:華山 投稿日:2002年08月16日(金)14時01分25秒
- 今日はここまでです。
KUファン(作者も含む)の方、すいませんm(__)m
- 149 名前:読人。 投稿日:2002年08月16日(金)23時18分11秒
- 保石ファンなオイラは嬉しかったです。
頑張って下さい。
- 150 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月16日(金)23時37分08秒
- やぐちゅーファンとしては、非常に悲しい。
矢口は簡単には裕ちゃんから離れたりはしない・・・
やぐちゅーファンの独り言です。
- 151 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月17日(土)01時54分23秒
- はい。悲しみのKUファンここにあり。っす(w
そうですかー 圭坊は石川を取った・・・のでしょうか?決定ですか?(w
まぁ 本命の彼女ですしな!(w
あと2、3回で終わりとは寂しいですが最後までハラハラしながら読ませて頂きます。
- 152 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)13時19分51秒
- 結局私は石川の部屋にそのまま泊まった。
あれからほとんど言葉は交わさなかった。
ただ、側にいるだけでいい、そんな穏やかな時間を過ごした。
朝、目が覚めたとき、石川はまだ寝ていた。
起こさないように静かにベッドから抜け出す。
外を見ると雨はやんでいて、きれいな青空だった。
- 153 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)13時21分02秒
- 不意に携帯のことを思い出した。
そう、昨日メールの着信を知らせた携帯。
私は鞄から携帯を取り出し、一瞬それを眺めた。
だけど、迷わず開けた。
もう自分の心は決まったのだ。
もう迷わないし、もう逃げない。
少しだけ緊張したのは否定できない。
だけど、私はためらわず私はメールボックスを開けた。
だが、メールはあの人からのものではなく、
友人からのだった。
「なんだよ」
思わず苦笑してしまう。
緊張して損した。
そう内心で笑いながら、携帯をたたむ。
その音が大きかったのか、
それとも私の声が大きかったのか、
石川が起きてしまったらしい。
眠そうな声が聞こえてきた。
- 154 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)13時22分03秒
- 「保田さん?」
目をこすりながら起きようとする石川に、私は笑顔になる。
「まだ寝てていいよ。今日の仕事は昼からでしょ」
「今、何時ですか?」
「う〜ん……ははっ、まだ6時前だよ。
早く起きすぎたよ。もう少し寝たら」
「保田さんは?」
石川の言葉に私はすぐに答えなかった。
- 155 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)13時23分38秒
- 手の中の携帯をしばらく見てから、再び石川の方を見る。
「私はもう帰るよ。
行かなくちゃいけないところがあるから」
そう、あの人のところに行かないといけない。
けじめをつけるために。
もう迷うことはないだろう。
もう石川を泣かせることはしない。
だから、はっきりと言おう。
私はそう決心した。
「保田さん……」
不安そうな石川の顔。
私は笑って言った。
「大丈夫。
もう石川を泣かせるようなことはしないよ。
ちゃんと石川のところに帰るから。
じゃあ、ちゃんと鍵閉めて行くから、
もう一回寝ときなね」
まだ少し不安そうな表情だったけど、
石川はまだ眠かったのだろう、すぐに目を閉じた。
私はしばらくその寝顔を見つめた。
- 156 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)13時24分32秒
- 石川の部屋を出たとき、6時半になっていた。
裕ちゃんの部屋に行こうと思ったのはいいが、
もしかしたらもう仕事に行っているかもしれない。
それに、何よりまだ寝ているかも。
確かに何時でも待ってるとは言っていたが……
何も考えていなかったな。
今更ながら私は苦笑してしまった。
とりあえず電話をしよう。
そう思って携帯でメモリーを呼び出してから迷う。
携帯にかけるべきか、それとも家にかけるべきか。
- 157 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)13時25分47秒
- しばらく考えてから家の電話の方にかける。
だが、誰も出なかった。
仕事に行っているのだろうか。
それともまだ寝ているのか。
私はとりあえず今から行くとだけ
留守電に入れると携帯をしまった。
とにかく行こう。
またずるずると延ばしていたら
自分の中で迷いが出るかもしれない。
自分の中でけじめをつけるため。
もしいなかったら手紙を残して帰ればいい。
私はそう考えてタクシーを捕まえ、彼女の家に向かった。
- 158 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)13時28分40秒
- なかなかタクシーが捕まらなかったことと、
軽い渋滞に巻き込まれたことが重なり、
裕ちゃんの部屋についたとき時計は7時半を指していた。
エントランスで彼女の部屋のナンバーを押そうとしたとき、
たまたま中からサラリーマン風の男性が出てきて玄関が開いた。
私は一瞬だけ躊躇ったが、そのまま中に入る。
もし部屋にいても出てくれないかもしれない。
そう思ったから。
裕ちゃんの部屋の前で私は軽く深呼吸をしてから
インターフォンを押した。
何の反応もない。
もう一回押そうか、そう思ったとき内側からドアが開いた。
だけど、それは私が考えていた人ではなかった。
- 159 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)13時30分51秒
- 今回の更新はここまでです。
中途半端ですが、すいません。
>読人。 さま
レスありがとうございます。
やすいしファン……楽しんでいただけましたか??
あと少し、がんばります!
>150 さま
レスありがとうございます。
やぐちゅーファン……悲しい…私が書いていることなのですが、、、
私も悲しいです。。。やぐちゅー、書きたいな……
>名無しさん さま
レスありがとうございます。
ああ、すいませんm(__)m
何度もKUにしようかと悩んだのですが……
また、いつか明るいKUを書きたいな……
- 160 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)21時58分30秒
- 「……みっちゃん?」
私は少し困ったような、だけど少しだけ険しい表情の
みっちゃんを前に混乱していた。
どうしてここにみっちゃんがいるのか?
「圭ちゃん……裕ちゃんはまだ寝とるよ」
少し冷たいと感じる声。
穏やかで優しい彼女にはふさわしくない声だった。
「……なんでここに?
昨日から、みっちゃんここにいたの?」
私の言葉に彼女は一瞬だけ口篭もる。
だけど、すぐに私の方を半ば睨むように見て言った。
「そうや。圭ちゃんが、こうへんかったから
あたしが来たんや」
- 161 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)22時00分03秒
- 「……そう…なんだ」
掠れたような声が自分のものだとすぐには気付かなかった。
何か足元から崩れるような、そんな錯覚を感じる。
何にショックを受けているんだろう、私は。
私が石川を選んだんだ。
だから、別に後悔することもショックを受けることもない。
そのはずなのに。
血の気が引くような、そんな不快な感触が全身を包む。
私は無意識に左手で自分の右腕を強く抑えていた。
震えるような、そんな感覚があったから。
- 162 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)22時03分19秒
- 「……どうしたん、みっちゃん」
部屋の中からそんな声が聞こえてきた。
あの人の声だ。
私はどんな表情で彼女を見たのかわからない。
ただ、声の方を見た。
赤い目で少し疲れたような顔の裕ちゃんを。
「裕ちゃん……」
「……圭坊」
「昨日はみっちゃんといたんだ」
「……そうや。圭坊、こんかったから」
裕ちゃんはそう言うと、ばつが悪そうな表情を
浮かべているみっちゃんの首に
両腕を回して私に背を向ける。
私はすぐにでもこの場から逃げ出したかった。
自分はいてはいけないところにいる。
そう思い知らされた。
だけど、未練がましいかもしれないが、一つだけ。
全てが終わる前に一つだけ聞きたかった。
- 163 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)22時06分46秒
- 「裕ちゃん、この前の答えは?」
泣きそうな声になっていた。
だけど、ここで泣きたくなかった。
そんな惨めなことはしたくなかった。
裕ちゃんは私に背を向けたまま言った。
「……寂しかったからや」
短い言葉。
裕ちゃんはそれだけしか言ってくれなかった。
私に背を向けたままで。
だけど、私は待った。否定する言葉を。
未練なだけだが、否定してほしかった。
なのに、裕ちゃんは一言も言葉をくれなかった。
- 164 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)22時08分43秒
- 「そういうことや。圭ちゃん。もう帰りぃ」
なだめるような優しいみっちゃんの声。
私は反射的にみっちゃんを睨みつけてしまった。
だけど、すぐに力を失ったようにうなだれる。
ここまではっきりと答えを突きつけられたのだ。
今はせいぜい強がって潔くこの場を去ろう。
そして、全てを終わらせるのだ。
それは自分の選んだことでもあるのだから。
「……わかった……もう帰るね。
朝早くにごめん」
私はそう言うと裕ちゃんの部屋を出た。
ドアを閉める間際に見えたみっちゃんの
困ったような泣きそうな顔が少しだけ頭に残った。
だけど、ドアの閉まる音が聞こえた瞬間、
私の頭は真っ白になった。
私はどうやって自分の家に帰ったか覚えていない。
ただ不思議と涙が出なかったのだけを覚えている。
- 165 名前:華山 投稿日:2002年08月17日(土)22時09分56秒
- 今日はここまでです。
中澤さんファン(作者も含む)の方、すいませんm(__)m
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月17日(土)23時57分21秒
- なにか姐さんに理由があると・・・思いたい(苦笑
作者さんのおもむくままに最後まで書いて下さい(w
楽しみにしてます!!
- 167 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)00時19分39秒
- この板の作者さんは、大キライだー!
某所でのやぐちゅーにいい展開が出てきたのに・・・
裕ちゃんに辛い想いをさせないで。
ヤグチを返して。
作者さんの本業である、甘いやぐちゅーをお願い。
やぐちゅーファンで、作者さんファンの独り言。
- 168 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月18日(日)02時42分01秒
- >>167
そのように自己主張を押し付けるレスはどうかと・・・
甘いやぐちゅーが本業でもこのお話はこのお話ですし。華山さんの考えもおありでしょうし・・
作者さんでもないのにでしゃばってごめんなさい。ちょっと気になってしまったもので・・・
ついにあと一回ですか。残念ですが最後まで楽しみにさせて頂きます。頑張ってください。
- 169 名前:読者 投稿日:2002年08月18日(日)13時27分12秒
- というか、みっちゃん登場で、喜んでるのは少数派なんでしょうか?
保田さんが石川さんを選ぶなら、姐さんには平家さん。
続き楽しみに待ってます。<どんな展開でも・・・・・・
- 170 名前:華山 投稿日:2002年08月18日(日)19時12分18秒
- その日は夕方からモーニング娘。全員の仕事があった。
誰が見ても私の調子は本来のものではなかっただろう。
自分でも自覚があった。
それでもなんとか与えられたことをこなす。
何人かのメンバーが気を遣ってフォローをしてくれた。
だが、石川は遠くから心配そうに見ているだけで
近くには来てくれなかった。
そんな彼女を見て私は自嘲気味に笑った。
そうだ、もう泣かさない、石川のところに帰ると
大口を叩いたくせに、今の自分はどうだ。
あの人に振られて腑抜けになっているではないか。
もう石川に見捨てられるかな。
私は半ばやけになったようにそんなことを考えていた。
- 171 名前:華山 投稿日:2002年08月18日(日)19時14分51秒
- その後、18歳以上のメンバーだけの仕事があり、
石川は先に帰った。
結局私は石川と言葉を交わせなかった。
だが、なんとか仕事を終わらせて帰ったとき、
石川は私の部屋の前で待っていてくれた。
私の部屋で笑って立っている彼女を見たとき
私は何か現実ではないような錯覚を感じた。
「……石川」
「お帰りなさい、保田さん」
「どうして、ここに?」
「さあ……来たかったんです」
「そうなんだ」
別れでも言いに来たのだろうか。
どこか他人事のようにそんなことを考えながら
鍵を開けようとしたとき、石川が私の手を止めた。
「保田さん、少し歩きましょう」
「……」
私は何も言えなかった。
だが、石川はかまわず私の手を引き
マンションの外まで連れ出す。
私は引かれるままだった。
- 172 名前:華山 投稿日:2002年08月18日(日)19時16分24秒
- 石川は私の手を引きながら近くにある公園に行った。
誰もいない。
広場の真中に立っている街灯以外、灯りはない。
昼間なら子どもの声で満ちているのだろうな。
私がぼんやりとそんなことを思っていると、
不意に石川の手が離れた。
私から数歩離れてからくるりと振り向く。
その表情は穏やかだった。
そしてにっこりと笑っている。
私はその笑顔に見惚れた。
- 173 名前:華山 投稿日:2002年08月18日(日)19時17分40秒
- 「保田さん、知ってましたか?」
「え?」
「私、本当は、保田さんと付き合い始めたとき、
まだヨッスィーが好きだったんです」
「……」
なんとなくそれは感じていた。
だけど、そうだとしてもそれは当然だ、ゆっくり待とう。
そう思っていたのを覚えている。
「だけど、保田さんは待っててくれました。
私が保田さんだけを好きになるまで」
「……石川……」
何が言いたいかわからない。
石川はそんな私を見て、またにっこりと笑った。
- 174 名前:華山 投稿日:2002年08月18日(日)19時19分51秒
- 「だから、私も待ちます。
保田さんが私だけを見てくれるまで」
石川が何を言ったのかとっさにわからなかった。
私はバカみたいに呆けたような顔で
石川の顔を見ていた。
石川はそんな私のところへゆっくりと戻ってくる。
「ずっと待ってます。それに、絶対私だけを
好きになってもらう自信ありますから」
そう言うと石川は両手で私の頬を包むようにして、
キスをくれた。
少しだけ背伸びをして、一瞬だけの。
私の顔はこれ以上なくぼぅとしたものだっただろう。
ただ、重くて苦しかったはずの心が
少しだけ晴れたように感じた。
石川は笑って私の手を取った。
「帰りましょう」
「……そうだね」
私はなんとかそれだけ言うと、
今度はちゃんと石川の手を握り返した。
- 175 名前:華山 投稿日:2002年08月18日(日)19時21分58秒
- 正直、私はまだ自分の心がわからない。
今日の朝、ショックを受けた自分の心が。
自分がどれくらいあの人に未練があるのか。
だけど、一つだけわかる。
私はいつかそう遠くない日に
石川だけを好きになるだろうと。
私の手を握る石川の手をとても温かく感じるから。
石川の笑顔に心が癒されるのがわかったから。
今更なのかもしれないが。
今、それがはっきりとわかった。
遅すぎたかもしれないが、石川は待っててくれた。
だから、今度こそ誓おう。
もう絶対に迷わない。石川を悲しませないと。
私は心の中でそう決心するとようやく笑うことができた。
石川もそれに答えてくれるようにまた笑ってくれた。
私の心を癒してくれる笑顔で。
私は心の中でありがとうと言うと
少しだけ強く彼女の手を握った。
私の心が伝われば、そう願いながら。
終
- 176 名前:華山 投稿日:2002年08月18日(日)19時27分15秒
- これで、終わりです。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
レスをくださった方、本当にありがとうございました!
とても励みになりました!
あと、短く一話を書いて終わる予定です。
下書きはできてるので、なるべく早くアップします。
ありがとうございましたm(__)m
- 177 名前:華山 投稿日:2002年08月18日(日)19時27分54秒
- >名無しさん さま
レスありがとうございます。
さて、中澤さんの意図は……番外、なるべく早くアップします。
最後までお付き合いありがとうございました!
>167 さま
本当に、すいませんm(__)m
すいません、正直に言います。
この話、あまりに中澤さんが可哀想で、
某所に書けなかったんです……
でも、もう書けないと思います。。。
やっぱり、心が痛かったので(^^;;
また、某所ではやぐちゅー、がんばりまっす!
>168 さま
166の方と同じ方ですよね??
レス、ありがとうございます!
楽しんでいただけましたか?
>読者 さま
レスありがとうございます。
みっちゃん……番外でも登場します。
でも…………先に謝ってしまった方がいいかもしれない(−−;
最後までお付き合いありがとうございました!
- 178 名前:166の名無しさん 投稿日:2002年08月19日(月)01時09分36秒
- 残念ながら168のかたとは違います(w
こちらにレスさせていただくのは166と今回の二回だけです。(ただしこの前メールであるブツを送ったものだったりします(謎爆)
自分は中澤ファンですが楽しく読ませていただきました(w
こんな感じの(なかなかラブラブになれない)やすいし+寂しがり屋の中澤さん(みっちゃんもこそっと出たり)・・・
かなりスキな話でした。(w
番外編?も楽しみにお待ちしております。
脆い中澤さん大好きだったり(w
どんどんいじめてください(w
- 179 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)02時26分39秒
- 正直、この結末で嬉しかったです。w
KUもいいんですが、好き好きビームには勝てませんでした。(謎これからもちょっとでいいんで、いしやすを...ととと、作者さんはKU好きでしたね。w(無論、やぐちゅ〜でしょうが。
ハラハラしながらも楽しませていただきました。
これからもがんばってくらさい。
- 180 名前:うっぱ 投稿日:2002年08月24日(土)09時09分21秒
- なんか切ない気分にさせられてしまいまひた。
番外編はどんな気分になるのやら、楽しみにしておりまふ。
- 181 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)16時53分34秒
- 「そういうことや。圭ちゃん、もう帰りぃ」
みっちゃんの声が聞こえる。
残酷なことを言ってもらってる、それはわかってた。
でも、ウチは何も言えんかった。
何か言ったら泣いてるのがばれる。
それが怖かったから。
なんとか、寂しかったからや。とだけ言えた。
それ以上は言えん。
それ以上嘘は吐けん。
一生懸命泣くのを我慢していると
震えるウチの体を包むように
みっちゃんが抱きしめてくれた。
そして、圭坊に言ってくれた。
圭坊が何か言ってるのが聞こえる。
それからドアの閉まる音も。
圭坊の足音が遠くなってからウチはようやく泣いた。
声をあげて。
みっちゃんはそんなウチをただ抱きしめてくれてた。
- 182 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)16時57分05秒
- ようやくウチが落ち着いたのを見計らったように
みっちゃんが声をかけてきた。
「なんで嘘を吐きますの?
姐さん、圭ちゃんのこと好きなんやろ?」
ウチはすぐに答えれんかった。
確かに圭坊のことは好きや。好きやった。
だけど、だから、これ以上、
圭坊を悩ましたくなかった。
圭坊がずっと悩んでるのくらいわかってた。
だけど、ウチの側にいてほしかった。
寂しかったのもある。
でもそれ以上に圭坊に側にいてほしかった。
圭坊の優しさがウチは好きやったから。
でも、その優しさが圭坊を悩ましてた。
だから、圭坊のためにも
はっきりさせようと思ったんや。
昨日ウチは、圭坊が石川に電話してるのを聞いてた。
聞いたうえであんなことを言った。
もしかしたらウチを選んでくれるかもしれん、
そんな期待もあったけど、
やっぱり圭坊は石川を選んだ。
でも、圭坊のことやから、
ウチがまた寂しそうにしてたら、また悩んでまう。
- 183 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時01分06秒
- だから……ごめんな、みっちゃん。嫌な役させて。
ウチは昨日ずっと圭坊を待ってて一睡もできんかった。
朝聞いた圭坊の留守電。
ウチはそれを聞いてすぐにみっちゃんを呼んだ。
卑怯なことをしたと思う。
でも、ウチは圭坊にはっきりと言う勇気はなかった。
だから、みっちゃんに嫌なことをしてもらった。
みっちゃんはすぐに来てくれた。
それで、昨日からここにいたことにしてと言ったら、
何も言わんと頷いてくれて……
圭坊にもあんなことを言ってくれた。
- 184 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時03分16秒
- 「好きや。圭坊が好きやった」
ウチはそう呟くように言った。
みっちゃんが少し悲しそうにウチを見る。
何か言おうとしてどう言えばいいか悩んでる。
そんな感じやった。
ウチはみっちゃんが口を開く前に言った。
「でも、圭坊には石川がおるから……」
「姐さん……」
「圭坊は石川を選んだんや。
だから、ウチは身を引かんとあかん。
これ以上、圭坊を悩ましたくない」
「それでいいん?姐さんはそれで満足なん」
「何あおってるん?浮気はあかんやろ」
ウチはなるべく明るい口調にしようとがんばった。
でもみっちゃんはじっとウチの顔を見つめてるだけ。
- 185 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時04分48秒
- 「姐さんらしくないですやん。好きやったら……」
「……それに、ウチな自分がわかるんや」
「何が?」
「ウチ……まだ、ヤグチが好きやから。
ヤグチの方が好きやから。
多分、圭坊の優しさに甘えてたいだけなんや。
だから……そんなんで、圭坊をこれ以上……」
そうや。ウチはまだヤグチのこと吹っ切ってない。
ヤグチの振られたショックを圭坊に癒してもらってただけ。
そんな中途半端な気持ちで圭坊を追いかけることなんかできん。
圭坊を傷つけるだけやから。
- 186 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時08分43秒
- 「そうなん……
姐さんがそう言うんやったら、もうこれ以上は言わん。
でも、心配はするよ」
ウチはみっちゃんの言葉に首を傾げた。
何を言いたいのかわからんかったから。
そんなウチをみっちゃんは優しく抱きしめてくれた。
「寂しかったっていうのもホンマなんやろ」
「……」
何も言えん。ホンマのことを言われたから。
「あたしはかまわんよ」
「みっちゃん?」
「寂しいだけでも。
別に好きになってもらえんでも」
「何言うてるんや」
ウチはみっちゃんの顔を見た。
彼女の顔は真面目だった。
「……知らんかったん?
あたしも姐さんのこと好きやったんやで。
圭ちゃんと同じで」
少し苦笑いを浮かべてそんなことを言う彼女。
ウチはすぐに何も言えんかった。
そんなこと今まで全然知らんかったから。
- 187 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時10分24秒
- 「あたしじゃ、あかん?」
またウチを抱きしめながらみっちゃんは言う。
ウチは何もできずただ抱きしめられるままだった。
彼女の細い腕。
だけど、温かくて安心できる場所。
そう、圭坊に抱きしめられてるときと同じ……
そう考えてウチは静かに首を横に振った。
「あかん」
「姐さん?」
「あかんよ。ウチにまたおんなじことさせる気か?
それに、かわいい恋人、大切にしぃ」
わざと笑ってそう言うと、
みっちゃんはまた苦笑いになった。
だけど、すぐ、ウチから離れてくれた。
「そやね……でも、寂しいときはいつでも言ってや。
一緒に飲みに行くことくらいはできるから」
「わかった。ありがと……それにごめんな」
「ええって。でも、もうあんなんやめてや。
あたしのガラやないしな」
みっちゃんは困ったように笑いながらそう言うと
じゃあとだけ言って帰ってった。
ウチは心の中でもう一度ありがと、
と言って彼女の背中を見送った。
- 188 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時11分51秒
- なあ、ヤグチ。
ウチ、ほんまにあんたのこと好きやったで。
でも、怖かったんや。
好きになりすぎるのが。
好きになりすぎると、失うことが怖くなる。
だから、ウチはどっかで好きっていう想いを
セーブしようとしたんや。
それが、ヤグチを不安にさせたんやろうな。
でも、ウチ、そんなに自信家やないんや。
ずっとヤグチに好きでいてもらえるって
思えるほどの自信を持てんかった。
だからセーブしたつもりやったのに、
結局ウチはどんどん好きになってたみたいや。
ヤグチに振られたとき、ショックで
何も手につかんかったくらいやったから。
- 189 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時14分23秒
- 寂しくて、哀しくて……
結局ウチは逃避してしまったんや。
寂しさを紛らわせてしまおうと。
哀しさを乗り越えようとせんとな。
圭坊に悪いことをしてもうた。いや、石川にか。
でも、もう終わりにするわ。
ちゃんと哀しさに向き合って、
ヤグチともちゃんと前みたいに話せるようになるわ。
まあ、吉澤とのことはまだ祝福はできんで。
それはウチにもいい人ができてからや。
でも、それは当分先やろうな。
ホンマにヤグチが好きやったから。
あれくらいの恋愛をするには、
裕ちゃん、パワーの充電が必要やし。
まあ、今度はもっと大人な人を好きになろうかな。
裕ちゃんももう歳やしな。
- 190 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時17分03秒
- こんなことがまた笑って話せる日がまた来るよな。
な、ヤグチ。
ウチは心の中でそんなことを
言ってから、思わず苦笑する。
なんかセンチになっとる。
それこそウチのガラやないのに。
ウチはそんなことを考えながら
なんとなく窓の外を見た。
昨日、一人で圭坊を待っとるときには
あんなに降っていた雨はやんでた。
綺麗な青空や。
ウチの門出を祝ってくれとるんかな。
ウチはそんなことを考えてから
大きくあくびをした。
今日は仕事もないし、寝よ。
今日からはよく眠れるようになるやろ。
ウチはそう呟いて寝室に言った。
もう一度大きなあくびをして。
きっと目に涙が浮かんできたのはそのせいやろ。
そんなことをぼんやりと考えながら。
- 191 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時17分46秒
一月が過ぎた――
- 192 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時19分08秒
- 「中澤さん、今日こそ、
私の想いを受け取ってもらいます!」
「いやや。何度も言うとるやろ!
ウチはもっと大人が好きなんや〜」
「いえ、恋に年齢なんか関係ありません!」
「いやや〜ウチはロリコンやない〜〜」
「大丈夫、松浦、
精神年齢高いってよく言われますから!」
「そういう問題やないやろ〜〜〜」
追いかける松浦。
逃げる中澤。
このハロプロツアーの最中、
毎日のように見られる光景だった。
中澤はけっこう本気で逃げているのだが、
他のメンバーは微笑ましく、
または笑って見守るだけだった。
- 193 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時21分11秒
- 「あ〜あ、またやってるよ、松浦。
がんばるよね〜ねえ、なっち」
「そだね。いい加減、裕ちゃんも
諦めた方がいいよね〜
どう見ても松浦にかないそうにないし。
ねえ、ヤグチ」
そんなことを言いながら中澤を見守る安倍と矢口。
中澤は二人を見つけると助けを求めて逃げてきた。
「ヤグチィ〜、助けてや〜」
そう言いながら矢口に抱きつく中澤。
矢口は笑って言った。
「もういいじゃん。
お似合いだよ、裕ちゃんと松浦」
からかうような矢口の言葉に中澤は困ったように笑う。
「いや、似合っとらん。
ウチに似合うのはもっと大人な人や」
「な〜に、言ってるんだか。
裕ちゃん、子どもっぽいところあるし、いいって」
「いやや!」
- 194 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時23分37秒
- 交わされる特に意味を持たない日常の会話。
中澤はそんな会話を自然と
できるようになったことが嬉しかった。
そして、それは矢口も同じ想いだった。
二人は一瞬顔を見合わせて笑った。
その笑顔の意味は二人にしかわからないだろう。
だけど、それで充分だった。
更に中澤が何か言おうとしたとき、
松浦が追いついてきた。
慌てて逃げる中澤。
それを笑って見守る矢口。
ある日常の一コマだった。。。。。
- 195 名前:華山 投稿日:2002年08月24日(土)17時29分08秒
- ようやく終わりました。
番外編、遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
最後まで読んでくださってありがとうございました!!
>168 さま
間違ってしまってすいませんでしたm(__)m
レス、ありがとうございました!
>166の名無しさん さま
レスありがとうございます。
それに、間違って申し訳ありませんm(__)m
メール&ブツ、ありがとうございました(^^)
やすいしは微妙な感じがいいですよね〜
って私の趣味を語ってどうするという感じですが……
脆いというか弱いというか、とにかくヘタレっぽい感じの
中澤さんが好きです。
読んでくださってありがとうございました!!
>179 さま
レスありがとうございます。
結末、楽しんでいただけましたか??
KU、やすいしもちろんやぐちゅー……また書きたいと思います。
読んでくださってありがとうございました!!
これからもがんばります!
>うっぱ さま
レスありがとうございます。
切ない……そうですね……書いてて自分も胸が痛いと思うことが
何度もありました。。。
読んでくださってありがとうございました!
- 196 名前:名無し子 投稿日:2002年08月25日(日)00時00分01秒
- 華山さま、お疲れさまでした。
ハラハラしながらも楽しませていただきました。
レスはできませんでしたが、毎日チェックしてました(^^;
また新しい作品ができたら読ませて下さい。
ありがとうございましたm(_ _)m
- 197 名前:読人。 投稿日:2002年08月25日(日)03時51分02秒
- お疲れさまでした。イイ感じでまとまってて良かったです!!
次回作も頑張って下さい。
- 198 名前:華山 投稿日:2002年08月29日(木)22時20分15秒
- >名無し子 さま
レスありがとうございます!
ハラハラしていただけましたか?(^^)
なんか、ダラダラと長くなってしまったのですが、
自分の中ではちゃんと終わらせることができてほっとしています。
新しい話もまた考えたいです!
>読人。 さま
レスありがとうございます!
なんとかがんばってまとめてみたという感じですが
いかがでしたでしょうか??
次回作、考えているのでが、
ある程度まとめ書きができるまで時間がかかると思います。
最低でも7話分くらいまでまとめ書きができて、
なおかつこのスレが生き残っていて、
その上で、読んでみてもいいよとおっしゃる方がいらっしゃいましたら(^^;、
書かせていただきたいと思います。
……なるべく早く書けるよう努力します。
- 199 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時02分03秒
- 香水は嫌いだった。
いや、正確に言えば母のつけている香水が嫌いだった。
だけど、あの人の香りは好き。
冷たくみえるけど、実は温かく生命を包んでくれる
海のような深いあの香りは。
- 200 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時03分19秒
- 矢口真里はぼんやりと机の前に座っていた。
一応参考書は開いているのだが、頭には入っていない。
ただ人を待っていた。
時計を見ると2時を指している。
そろそろ帰ってくる頃。
あの人はこういうとき絶対に泊まってこない人だから。
そんなことを考えていると、チャイムの音がした。
続いて鍵を開ける音。
矢口は椅子から体を浮かしかけてやめた。
今更だけど少しは抗議の想いを伝えたいから。
もちろん、そんなのはあの人にはお見通しなのだろうけど。
- 201 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時04分34秒
- そんなことをうじうじと思っていると
矢口の部屋のドアが開かれた。
そして、陽気な声がする。
矢口は意地でもそちらを向かなかった。
だけど、入ってきた女性、
金髪に青のカラーコンタクトという女性、中澤裕子は
そんなことかまわず、矢口に抱きついた。
「なんや〜ヤグチ、勉強してたんか?
迎えに来てくれんと、裕ちゃん、寂しいやん」
お酒の匂いと一緒にあの香りがする。
自分を優しく包んでくれるあの香水の香りが。
だけど、それだけじゃない。別の香水の匂いもする。
これが嫌いだった。
今日はどこで誰といたのか。
そう問いただしたいと矢口はいつも思う。
だけどできない。
- 202 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時05分41秒
- そんなことを聞いて嫌われたくないという考えもある。
だけど、それ以上に聞いても仕方ないという諦めがあった。
それに必ず帰ってきてくれるのだから。
そう自分に言い聞かせる気持ちもある。
実際、最初は別の香水の匂いを覚えて、
彼女を問い詰めようと思っていたのだが、
香水の香りは毎回違って、とてもじゃないが全部を覚えきれない。
だから諦めた。
そして、おとなしく帰りを待つことにしたのだ。
自分には能動的な行動はとれないのだから。
受動的でいるしかないのだから。
この人に買われた、あのときから。
- 203 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時06分44秒
- 母は過労で死んだ。
だけど、それは自業自得。
男に貢ぐために作った借金を返すために
朝から晩まで働いて、結局一人で死んでいった。
私に残してくれたのは借金と一本の香水、
そしてあの言葉だけ。
「あんたを好きなやつはあんたの笑顔が一番好きなのさ。
だから、いつも笑っときな。
そうしたら、そいつはあんただけを見ててくれる」
男ばかりでどうしようもない女だったけど、
この言葉だけは好きだった。
だから矢口はいつも笑っていようと思っていた。
- 204 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時07分43秒
- だけど、借金を返すためにヤクザまがいの男に
水商売の店に連れて行かれたときだけは笑えなかった。
なんであんな女の作った借金のために
自分がこんなことをしないといけないのかという怒りがあった。
そして当然恐怖も。
そんなときだった。
中澤裕子に会ったのは。
連れて来られた店の前で渋っていたときに。
- 205 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時09分30秒
- 「なんや、その子は」
突然の関西訛りに、矢口と彼女の手を引っ張ってた男は
そちらの方を見た。
そこには金髪と青のカラーコンタクト、
そして真っ黒のパンツスーツという姿の中澤裕子が立っていた。
男は少し慌てた様子で中澤に礼をする。
「これは姐さん。珍しいですね、
店の方に顔を出してくれるなんて」
「別に。オヤジに頼まれたからな。
で、その子はなんなんや?」
「いえ、ウチの借金が返せないんて言うんで、
今日からここから働くことになってるんですけど、
びびってるんですよ」
男の言葉に中澤は矢口の顔をちらりと見る。
矢口は少し細められたその目に一瞬恐怖に近い感情を抱いたが、
中澤はすぐに彼女から視線を逸らした。
「まだ子どもやん。
警察のお世話になるのはごめんやで、ウチは」
その言葉はある意味当然だったかもしれない。
矢口の身長は150に満たない。
化粧をせずにいると中学生に間違われることもある。
いつもなら反発するところなのだが、
さすがにこの状況では何も言えず、
黙って矢口は中澤の顔を見ていた。
こんなときなのに、綺麗な人だな、などと思いながら。
- 206 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時10分52秒
- 「いえ、こう見えても18です。
その点は抜かりはありません」
男がそう言うと中澤はまた矢口を見た。
「18か。見えんな」
そう言って中澤は矢口の顎に軽く手を添えて、
顔を上げさせた。
そして一瞬だけ鋭さを瞳に浮かべる。
だけど、矢口は不思議と恐怖は感じず、
彼女の細い体から香ってくる香水に心を奪われる。
深い海のような優しい香りに。
だけど、中澤はすぐに手を離すと男の方に向き直った。
「いくらや?」
「は?」
「こいつの借金や」
「あ、えっと、400万です」
「ふ〜ん。わかった、ウチが買うわ」
- 207 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時12分47秒
- こともなげにそう言う中澤に矢口は驚く。
だけど、男の方は人の悪い笑いを浮かべた。
「姐さん。まだ18ですよ。
それにオヤジさんが、いい顔しませんよ」
ニヤニヤ笑いながらそう言う男を、中澤は無視する。
「ええ。かまわん。明日には振り込んでおくわ」
中澤はそう言うと矢口の手を取った。
状況がわからず戸惑いを見せる矢口に中澤は言った。
「聞いてたやろ。
あんたはウチが買った。行くで」
「え?あ、行くってどこに?」
「ウチの家や」
「え、でも……」
「あんたはこんなところで働かんでええ。
あ、名前、なんて言うんや?」
「……矢口」
「下の名前は?」
「…………真里」
「真里か……かわいい名前やな。
ウチは中澤裕子や。よろしくな」
それが矢口と中澤の出会いだった。
決していい出会いではなかったが、
矢口は時々そのときのことを思い出す。
あの深い香りとともに。
- 208 名前:華山 投稿日:2002年09月04日(水)13時15分47秒
- ひっそりこっそり新作です。
アンリアルでやぐちゅー。
更新は不定期になるかもしれません。学校が始まったので。
でも、なるべく早い更新を目指します。
でも、これ気付いてくれる方、いらっしゃるのでしょうか……(w
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月04日(水)22時41分04秒
- わーい、新作開始っ。
がんばってくらさい。
- 210 名前:華山 投稿日:2002年09月06日(金)01時27分07秒
- 中澤のマンションに初めて来たとき、
矢口はその大きさにまず驚いた。
そして、その広い部屋に
一人で住んでいると聞き、更に驚く。
広いリビングで座ることにも思い至らず
ぼ〜と立っていると、中澤に声をかけられた。
「そんなとこで突っ立っとらんと、そこに座りや」
そう言って高そうなソファーを指される。
革張りで矢口には正直座り心地がいいとは
感じられなかったのだが、一応座る。
それを見て中澤はちょっと着替えてくるわと言って
別の部屋に消えた。
それを見送ると矢口は小さく溜息をついた。
なんとなく成り行きでここに来たけど、
状況は変わっていない。
それどころか悪くなっているのではないだろうか。
嫌だったが、店で働いていた方が
普通の人間の暮らしができたのではないか。
買われてしまえば自分にはまったく自由がなくなるのでは。
それどころかもっと悪い状況も考えられる。
しかし、自分に選択権が無かったのもまた事実である。
なるようにしかならない。
半ば諦めて矢口はそれ以上考えるのをやめた。
考えても仕方ないのだから。
- 211 名前:華山 投稿日:2002年09月06日(金)01時28分10秒
- 改めて部屋を見渡す。
広いけど殺風景な部屋だ。
別に家具などがないわけではない。
それどころかぱっと見ただけでも
高級とわかる家具が並べられてる。
でも、生活感というものがない。
こんなところで一人で住んでて寂しくないのだろうか。
自分の状況を忘れ矢口はそんなことを考えてしまった。
- 212 名前:華山 投稿日:2002年09月06日(金)01時29分30秒
- 中澤といった。
なんか不思議な人だ。
見た目は怖いのに、不思議と怖いと感じない。
綺麗だけどどこか投げやりな雰囲気も感じる。
そして何よりあの香り。
今まで香水なんか嫌いだった。
母のつけていた香水が嫌いだったのが、
そのきっかけだったのだが、
あの人の香りは嫌だとは感じなかった。
それどころか安心した。
どうしてなんだろう。
- 213 名前:華山 投稿日:2002年09月06日(金)01時31分34秒
- 矢口がそんなことをぼんやりと思っていると
中澤が戻ってきた。
ラフな感じの服に着替えて。
大きなソファーにちょこんという感じで
座っている矢口を見て、わずかに口元で笑ったが
すぐに奥のキッチンに入っていってしまった。
どうしたんだろう?
矢口がそう疑問に感じる間もなく、戻ってくる。
その手にはビールの缶が握られていた。
中澤はプルトップを開け飲もうとして
不意に動作を止める。
そして、矢口の方を見て言った。
「あんたも飲むか?」
不意に声をかけられて矢口はとっさに反応できず、
首を大きく横に振るだけだった。
そんな彼女を見て、中澤はまた口元だけで笑う。
バカにされている。
普段だったらそう思うのに、
何故かこのとき矢口は嫌な気分にはならなかった。
- 214 名前:華山 投稿日:2002年09月06日(金)01時33分51秒
- 中澤はダイニングのテーブルでビールを飲み、
矢口は続きの間になっているリビングのソファーで
ぼーと座っている。
そんな状況で30分ほどが過ぎた。
どちらも何も話さない。
だが、不意に中澤が言った。
「なあ」
「あ、はい」
急に声をかけられびくっとなった矢口。
中澤はそれを見て困ったように肩をすくめた。
空になったビールをテーブルに置いて、
ソファーのところまで行く。
そして、何をするのだろう、
そんな感じで見上げてる矢口の横に座った。
矢口は更に緊張して体を固くしてしまう。
中澤はそんな矢口に気付かれないくらい
小さな溜息をついてから言った。
- 215 名前:華山 投稿日:2002年09月06日(金)01時36分49秒
- 「あんな、あんた家事できるか?」
突然、まったく想像してなかったことを言われて
矢口は思わず中澤の顔を見つめた。
だが、すぐに頷く。
「そうか。じゃあな、
今日からこの部屋の家事、あんたに任すわ」
「え?」
「だから、掃除とか洗濯とか、
あとウチが帰ってくるときは夕食と朝食。
昼はいない日の方が多いからええ」
「えっと……」
矢口はどう応えていいかわからなかった。
確かに自分はこの人に買われてきた。
だけど、それはただの家政婦として?
そのためにこの人は400万も払ったのだろうか?
そんな疑問が頭の中に次々と浮かぶ。
そんなことを思ってきょとんとした表情で
首を傾げている矢口を見て、中澤はまた笑った。
今度は口元だけではなく。
矢口が全ての疑問を飛ばして、
思わず見つめてしまいそうになるくらい綺麗な笑顔で。
- 216 名前:華山 投稿日:2002年09月06日(金)01時38分45秒
- 「あ、はい。わかりました」
「そうか。助かるわ。
ウチ、家事とかまったくできんのや」
「え?じゃあ、今までは?」
矢口の問いに中澤は苦笑を浮かべる。
「まあ、やってくれる人おったんやけどな……
喧嘩して出ていってもうて」
「そうなんですか……」
家政婦が喧嘩して、出ていってしまう。
どういう状況だったんだろう。
やっぱいり怖い人なのかな。
仕事に厳しい人とか。
このとき、矢口はそんなことを思った。
後から考えるとまったく違っていたのだが。
- 217 名前:華山 投稿日:2002年09月06日(金)01時40分35秒
- 今日の更新はここまでです。
なんか、寝れない……いつもなら、夢の中の時間なのに……
>209 さま
レス&見つけてくださって、ありがとございます。
がんばります!!
- 218 名前:うっぱ 投稿日:2002年09月06日(金)03時20分54秒
- 久しぶりに訪れたらいつの間にやら新作が…。
HPの方も定期的に訪れとります今日この頃。
秋の夜長ともいいますから十分睡眠をとって
頑張ってください。
ではっ。
- 219 名前:華山 投稿日:2002年09月07日(土)11時21分47秒
- 「で、さっそくで悪いんやけど。
なんか軽いモン作ってくれん?
昼前に食べてから何も食べてないんや」
軽い口調でそう言う中澤に矢口は頷く。
中澤は矢口をキッチンに案内した。
綺麗なシステムキッチン。
だけど、ここもやはり生活感がない。
矢口がそんなことを思っていると
中澤は簡単に道具の場所を教えて、
冷蔵庫にあるもの何でも使っていいからと言って
ダイニングに戻っていった。
手にはまた新しいビールを持って。
「お腹空いてるときに
あんなに飲んで大丈夫なのかな」
そんなことを呟きながら矢口は大きな冷蔵庫を開けた。
中には想像していたのと違って、
けっこう食材が揃っていた。
だけど、それ以上に目立ったのは
大量のビールだったのだが。
「へ〜いろいろあるんだな。
これなら、何でも作れそう」
家にほとんどいなかった母に代わって、
小さい頃から家事をしていた矢口にとって、
料理は得意分野だった。
軽いものと言ってたから、
それにビールも飲んでるし。
そう考えておつまみになりそうなものと、
腹持ちがしそうなものを手際よく2、3品つくった。
- 220 名前:華山 投稿日:2002年09月07日(土)11時23分37秒
- テーブルに運ばれてきた料理を見て、
中澤は少し意外そうに矢口の顔を見た。
「あ……嫌いなものありましたか?」
中澤の視線に矢口は慌ててそう聞く。
だが、中澤は軽く手を振った。
「ちゃうよ。いや、なんていうか、
けっこう器用なんやなって思ってな」
中澤はそう言うと少し残っていたビールを
飲み干し、箸に手をつけた。
それを見てほっとした矢口は
食べ終わるまでソファーにでも座っていようと
リビングに行こうとした。
だが、中澤はそれを止める。
「あんたもここにおり。
一緒に食べようや」
「え、でも……」
「ええから。まあ、座り。
あ、箸と皿は取ってきてな」
しばらく躊躇っていたが矢口は再度促され、
結局中澤と一緒にご飯を食べることになった。
- 221 名前:華山 投稿日:2002年09月07日(土)11時25分47秒
- 特に会話はない。
矢口は中澤のことが聞きたかったが、
そんな雰囲気にはならないし、
そもそもそんな立場に自分はいない。
そう思って黙っていると中澤から話しかけてきた。
「静かなんやな、あんた」
「いえ、そういうわけじゃ……」
「まあ、しゃあないか。
でも、あんま固くならんといてや。
なんか、こっちまで緊張するやん」
そう言って笑う中澤。
それを見て、ようやく矢口は笑った。
まだ緊張したものだったが。
「かわいい顔で笑うんやな」
「そんなこと……」
「なあ、あんたのことなんて呼べばいい?」
「え?」
「友達とか、なんて呼ぶん?あんたのこと」
何を言うんだろう、この人は。
そちらが雇い主なのだから、
いや、もっと言えば所有者なのだから、
好きに呼べばいいのに。
矢口はそんなことを考えながらも、なんとか答えた。
「ヤグチ」
「ヤグチ……ふ〜ん。
じゃあ、ウチもそう言うわ」
中澤はそう言うとまた箸を動かす。
- 222 名前:華山 投稿日:2002年09月07日(土)11時27分31秒
- またしばらく沈黙が続いた。
だが、今度は矢口がそれを破った。
「あの……」
「なんや?」
「あの、中澤さんって
嫌いなものとか苦手なものあります?」
「は?」
「料理……食べれないものとか、
嫌いなものがあったら困ると思って……」
「ああ、そういうことか。
嫌いなモンは、トマトとバナナかな。
でも、けっこう食べんもの多いかも」
そう言って真剣に考えて込んでしまった中澤に、
矢口は少し慌てる。
そんな悩む質問をしたつもりはなかったのに。
「あ、じゃあ。好きなものはなんですか?」
「好きなモン?もやしとピーマン」
- 223 名前:華山 投稿日:2002年09月07日(土)11時29分16秒
- 「……わかりました」
これから少しずつ覚えよう。
その方が早そうだ。
矢口は半ば諦めてそう言った。
すると中澤はまっすぐに矢口の顔を見つめてきた。
何か気に障ることを言ってしまったのかと矢口は焦る。
だが、中澤が言ったことはまったく別のことだった。
「なあ、敬語使わんといて」
「え?」
「なんや、ウチ、敬語嫌いなんや。
特にかわいい子から使われるのはな。
あと、ウチのことは裕ちゃんでええから。
中澤さんなんてこそばいわ」
そう言うと中澤は軽く笑った。
少し不器用なウインクをしながら。
矢口はどう反応していいかわからず、
困ったように笑うしかなかった。
この人ってよくわからない。
結局矢口が抱いた中澤のそんな印象は
長い間変わることはなかった。
- 224 名前:華山 投稿日:2002年09月07日(土)11時30分46秒
- 今日はここまでです。
淡々と続いていって、淡々と終わりそう……
>うっぱ さま
レスありがとうございます!
HP……ありがとうございます。
ひっさしぶりに更新しました(^^;;
ゆっくりと寝て、また更新、がんばります!!
- 225 名前:華山 投稿日:2002年09月10日(火)08時04分46秒
- こうして始まった奇妙な同棲は意外と順調だった。
矢口は純粋に家政婦として暮らしていた。
中澤は特に厳しくもなく、
矢口の働きぶりに文句をつけたことはない。
ただ、1、2ヶ月が過ぎたころから矢口は
自分の仕事について中澤が満足しているか、
少し不便を感じているか、
もしくはやらなくていいと思っているか、
そういうことがなんとなく表情でわかるようになってきた。
それがわかるようになると、
更に二人の生活は順調になっていき、
矢口も自分のペースを掴めてきた。
それが心のゆとりになったのか、
ようやく矢口は母の言葉を思い出した。
いつも笑っておきなというあの言葉を。
矢口がよく笑うようになったことに中澤は気付いていた。
だが、特に何も言わなかった。
ただそれ以来、彼女も矢口に笑いかける回数も増えていった。
- 226 名前:華山 投稿日:2002年09月10日(火)08時06分32秒
- 最初の一ヶ月が過ぎたとき、
中澤は矢口に給料だと言ってかなりの金をくれた。
矢口は驚いて返そうとした。
だが、中澤は受け取らない。
「ウチはヤグチをあの店から買っただけや。
家政婦として働いてもらってるのはまた別や」
「でも……」
「ええから。仕事に対しては正当な報酬を払う。
民主主義の鉄則やろ?
ヤグチも欲しいモンあるやろうし、
好きに買えばええから。
ウチがおらんときは、部屋空けててもええからな。
鍵は渡したやろ」
「はい……わかりました。
ありがとうございます」
何を言っても聞いてくれない、
矢口はそう思ってとりあえず引き下がった。
いずれ、あのお金を返すのに貯めよう。
そう思いながら。
- 227 名前:華山 投稿日:2002年09月10日(火)08時07分49秒
- 中澤は奇妙なところで
人とずれてるところがある人だった。
細かいところでこだわりがあると思えば、
別の面では大雑把なところがある。
服や装飾品などは彼女の趣味に完全に合った
高価なものしか身につけないのだが、
特に頓着がなく、矢口が中澤のピアスを誉めたときなど、
じゃああげるわと言って矢口にあっさりとくれたりする。
それ以来矢口は中澤のものを誉めることはやめたのだが。
何度か外に食事に連れていってくれたりもしたのだが、
必ず矢口が入ったことがないのはもちろん、
見たことも聞いたこともないような高級な店ばかりに入る。
そうかと思えば、予定が早まって
突然帰ってきて食事の用意がないときは、
お茶漬けに漬物という食事でも文句は言わない。
矢口にしてみたら掴みどころのない不思議な人だった。
- 228 名前:華山 投稿日:2002年09月10日(火)08時10分02秒
- だけど、これまた奇妙なところで優しかったりもする。
一度仕事から帰ってきたとき、
雑誌やテレビなどでもよく名を聞く
行列ができる有名な店のケーキを
買ってきてくれたことがある。
それを受け取りながら矢口は思わず訊いた。
「裕ちゃん、これどうしたの?」
「どうしたのって、買ってきたんや」
「でも、ここっていっつも行列できてて、
買うの大変だったでしょ」
「そうや。仕事で行った先でやけに
若い女の子が並んでる店があったから、
木村に聞いたら、若い女性に人気の店やって教えてくれてな。
でも、そんな女ばかりの店に木村を並ばせるのもできんし」
木村というのは中澤の部下で仕事のときいつも
中澤についている30代の男である。
学生時代柔道をしていた縦も横も幅も立派な体格と、
立派なあごひげを生やしたいかつい顔の持ち主で、
確かにそんな店にはまったく似合わない。
- 229 名前:華山 投稿日:2002年09月10日(火)08時11分21秒
- 「じゃあ、裕ちゃんが並んでくれたの?」
「そうやで。あんな並んだの初めてや。
よっぽど美味しいんやろうな」
「美味しいよ。
ヤグチの友達もよく買いに行ってるし」
「そうなんや。じゃあ、ゆっくり食べ」
「え?裕ちゃんは食べないの?」
矢口がそう言うと、中澤は困ったように笑う。
「ウチ、甘いモン苦手なんや。
ヤグチ、食べるかと思って買ってきただけや」
「……ありがとう、裕ちゃん」
「ええって」
中澤はそう言うと何事もなかったように
自分の部屋に入っていった。
その後、矢口が美味しかったとまた礼を言うと、
その店の近くに行くたびに買ってきてくれる。
- 230 名前:華山 投稿日:2002年09月10日(火)08時12分49秒
- そんな不思議な優しさを持った人だった。
そして一番矢口が驚いたのは、
大学に行くために学費を出すと言ったことだった。
一度、中澤は矢口に将来の夢を聞いたことがあった。
それに矢口が答えると、
そんなら大学に行った方がええんやないか?
資格もいるんやろ?とあっさりと言った。
そして当然のように学費を出すとも。
さすがにそれは断固断ったのだが、
中澤はそれなら学費は貸しにしとくわと言って、
大学に行くことは半分命令のように言ったのだった。
そういう経過で、矢口は家政婦としての仕事が終わった後は、
独学で勉強するという生活を続けていた。
- 231 名前:華山 投稿日:2002年09月10日(火)08時14分15秒
- 今日はここまでです。
学校行く前に何してるんだろう……
- 232 名前:名無し子 投稿日:2002年09月11日(水)21時36分09秒
- 痛くなるのか甘くなるのか…
楽しみにしてます。
どうか無理のないペースで更新を(^^)
- 233 名前:華山 投稿日:2002年09月12日(木)21時32分46秒
- そんな二人の関係が変わったのは、
半年が過ぎたころだった。
その日、中澤は珍しく泥酔状態で帰ってきた。
確かによく飲んで陽気に帰ってくることがあったが、
その日は立つのがやっというほどの酔い方だった。
仕事を終えて、勉強をしていた矢口は
驚いて中澤に水を渡す。
それもこぼしそうになったので、
慌てて体とグラスを支えて飲ませた後、
中澤をソファーに寝かせた。
グラスを片付け、少し床に零れた水を拭いている矢口を
中澤は酔った目であったが、じっと見つめた。
その視線に気付いた矢口は笑顔を返した。
いつも笑っとき。
母の言葉通りの笑顔を。
- 234 名前:華山 投稿日:2002年09月12日(木)21時34分28秒
- 中澤はしばらく黙って矢口の笑顔を見つめていた。
だが、不意に口を開いた。
「なんで笑っとるん?」
「え?」
少し冷たい、
今までほとんど聞いたことのない冷たい声に、
矢口の笑顔が固まる。
「なんで笑っとれるん?ヤグチは」
「……裕ちゃん?」
「ヤグチ、買われたんやで。
ウチ、ヤグチを買ったんやで。
なんでそんなヤツに笑えるん」
「……」
母から言われた言葉だから。
自分を好いてくれる人は自分の笑顔が好きだから。
笑っていたら、その人は自分だけを見てくれるから。
そう言おうとして矢口は口篭もる。
- 235 名前:華山 投稿日:2002年09月12日(木)21時36分36秒
- 矢口は気付いていた。
自分が中澤に惹かれていることに。
最初に彼女の香りに触れたときから。
だけど、それは言ってはいけないことだ。
それに自分には言う資格などない。
そう、買われた人間なのだから。
そう思って心に閉まって今まで過ごしてきた。
ただ、笑顔だけは絶やさず。
だけど、それが中澤には気に入らなかったのだろうか。
落ち込みそうになったが、
それでも矢口は笑顔は消さず言った。
「笑っていたいから。
自分のためにも、自分の側にいる人のためにも」
「……じゃあ、ヤグチは自分の側にいる人、
みんなに笑うんか」
中澤の言いたいことが矢口にはわからなかった。
だけど、頷いた。その通りだったから。
すると中澤は不意に体を起こした。
そして、矢口を自分の腕の中に抱きしめる。
突然のことに矢口は反応ができない。
ただ、自分を包む香りだけを感じる。
中澤の優しさを表しているような深い海のような香り。
それを感じていると、
中澤の声が自分の体に直接響いてきた。
- 236 名前:華山 投稿日:2002年09月12日(木)21時38分10秒
- 「あかん」
「……え?」
「あかん。みんなに笑ったらあかん」
「どうして」
矢口の言葉に中澤は腕の力を緩める。
そして、矢口の目をまっすぐに見た。
青のコンタクト、そう海の色の瞳で。
矢口は吸い込まれそうになった。
何も言えない。
「ウチにだけ。
ウチにだけその笑顔を見せてくれんか」
「……」
「イヤか?」
「……」
矢口は何も言えなかった。
ただ、首を横に振る。
- 237 名前:華山 投稿日:2002年09月12日(木)21時41分52秒
- 中澤はまた強く矢口を抱きしめた。
矢口はまるで夢の中にいるような、
一瞬そんな錯覚を覚えた。
だが、すぐに現実だと感じた。
中澤の唇が自分の唇に落ちてきた瞬間に。
好きやと囁きながら落ちてきたその優しい温もりが
矢口を現実に引き戻す。
ああ自分はこの人のことが好きだ。
今更だが、心の中で、はっきりとした言葉が紡がれる。
だけど、それを伝えるための唇はふさがれている。
だから、矢口は想いを伝えるように
小さな手を中澤の背中に回した。
中澤のくれる優しさと温もり、そして深い香りに溺れたい。
矢口は本気でそう感じていた。
- 238 名前:華山 投稿日:2002年09月12日(木)21時44分06秒
- 今日はここまでです。
テストが近い…………
>名無し子 さま
レスありがとうございます!
痛くはしないつもりですが、甘くなるかは…………(^^;
でも、甘くなるようがんばります!!
- 239 名前:うっぱ 投稿日:2002年09月13日(金)03時29分12秒
- はぁ〜、表現しにくいですが、痛甘い?って感じです。
でもそんなシチュエーションが妙にハマッてるお二人に乾杯。
ではっ!
- 240 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)10時58分18秒
- こうして二人の生活は変わったのだが、
家政婦として働くのは変わらなかった。
その点に関して矢口も中澤も馴れ合うことはしなかった。
だが、恋人として過ごしてみると
見えなかったことも見えてくる。
気にならなかったことが気になってくる。
そう、中澤の体についた彼女以外の匂いなどが。
中澤ははっきり言って、女癖の悪い女だった。
夜遅く帰ってくるときは
ほとんどいつも違う女の香りを漂わせていた。
そして、そのまま矢口に抱きついてくる。
もちろん、酔っているせいでもあるのだが、
矢口にとっては辛い。
だけど、普通の恋人同士という立場ではないことは
自覚しているので、矢口には何も言えない。
- 241 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)10時59分34秒
- それでも哀しげな表情を浮かべる矢口には
さすがに気付くらしく、そのたびに中澤は
「ただの遊びや。矢口が一番やから」
と言ってくれる。
最初は哀しさしかなかった矢口も、
いつしかそれに慣れてきた。
慣れてきたという言い方はおかしいかもしれないが、
そういう人だと思えてきた。
自分のことを大切にしてくれていることはわかるから。
遊びという言葉は矢口には正直理解できないが、
自分と他の匂いの人は違う。
それがわかったから。
そして必ず中澤は自分のところに帰ってきてくれるから。
- 242 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時01分49秒
- もちろん仕事で泊まりのときもあるのだが、
そんなとき、中澤から他の人を感じたことはなかった。
どんなに遅くなっても、女のところに泊まらない。
それが彼女のこだわりだという。
そう考えれば、自分は特別なポジションにいる。
そう自分に言い聞かせた。
それにいろいろ言いたいことはあるにせよ、
自分自身が彼女の香りに包まれることを望んでいる。
だから何も言わない。
ただ、彼女を信じていこう。
矢口はそう心に決めていた。
- 243 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時06分36秒
――――――
中澤は自分のオフィスの執務室で報告を受けていた。
土地と株式の売買の経過と、それにともなう収支報告だ。
中澤は矢口に自分の仕事のことを話していなかった。
もちろん、あんな出会いをしたのだから、
まともな職でないことはばれているのだろうが、
たまに彼女が聞き出そうとするのをうまくかわしていた。
別に知らなくてもいいことだから、
中澤は自分の心理をそう分析していた。
だが、彼女自身も気付いていないところで
矢口に知られたくないという想いも
あったせいかもしれない。
- 244 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時10分08秒
- 中澤の仕事は世間的に言えば、ヤクザ、暴力団の類だった。
もちろん最近は警察の目が厳しくなっているので、
表立っては会社形式を装っているが、組長が社長、会長に、
若頭が取締役に名前を変えただけで、株主も元をたどれば全て
組長の親族で固められている。
そして、その組長河内正造というのが中澤の父親だった。
姓が違うのは中澤が河内のたくさんいる
妾の一人の娘だったからだ。
河内がまだ中堅幹部だったころ、
大阪で仕事をしていたときに知り合ったのが、中澤の母だった。
子どもができたと聞いたとき、
河内は特に嬉しそうな顔はしなかったが、
東京に戻ってからもきちんと養育費は送っていた。
その金で中澤は大学まで出ることができたのだが、
大学を卒業した22歳のとき、突然東京に呼び出され、
東京に戻ってから一度も会ったことのない父親に
組に入ることを強要された。
60歳を越えたばかりだった河内は
妻に子ができず、後継者に悩んでいた。
そこで、多くの妾に産ませた子どもを呼び集め、
自分の下で働かせることで、後継者を選ぼうと考えたのだ。
- 245 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時11分58秒
- もちろん中澤は反発したのだが、
半ば脅しのように説得された。
説得のネタが母親にまで及びそうな
雰囲気になっていたから。
いやいやながら始めた仕事だったが、
中澤はすぐに頭角を表した。
やくざといえども、今、彼らの主な財源は裏取引より、
一見表に見える取引だ。
会社の買収、株の売買、土地ころがし、
ゼネコンの斡旋、仲介による手数料など。
そういう分野で中澤は見事な辣腕を見せた。
中澤が表財源を担当して6年、河内組の収入は、
不況の中でも確実にのびていた。
そして、その実績によって中澤は
父である組長とその部下たちの
信望を確実に集めていた。
当人にとっては迷惑なことだったが。
- 246 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時14分55秒
- 「今回はこれだけです。
社長への報告はどうしますか?姐さん」
急にそう訊かれ、少しぼんやりと
別のことを考えながら聞いていた中澤はようやく我に返る。
もちろん報告は聞いていたのだが、形式的な中間報告であり、
半分聞き流していたのだ。
そんな中澤を見て、報告者平家みちよはくすりと笑う。
「どうしたんですか?珍しいですやん」
平家は中澤が大阪にいたときからの親友だった。
5歳年下なのだが、近所に住んでおり、
子どもの頃からつるんでいた。
とてもおっとりした優しい子なのだが、
自分や中澤に敵対する人には
苛烈、冷徹なまでの策をめぐらせることの
できる一面をもっている。
中澤はそんな彼女をかって、東京に呼び出されたとき、
当時まだ高校生だった平家を連れてきて秘書にしている。
木村も秘書的な役割をしているが、
どちらかというと外回りでの
ボディーガードとしての働きが主で、
事務に関しては平家が中澤の片腕だった。
- 247 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時16分40秒
- 「いや、ちょっとぼーとしてたわ。
そういや、A駅前のあの土地の買収はどうなってるん?」
中澤は今力を入れている大きなヤマである
買収について訊いた。
平家は笑いをすぐに収めて報告書をめくる。
「順調に進んでます。
不動産にはほぼ根回しが終わりました」
「そうか、わかったわ」
「はい。それで、社長への報告は?」
社長というのは河内のことだ。
中澤はそれを聞いて嫌な顔になる。
ビジネスにではいつもポーカーフェイスを
崩さない中澤だが、平家の前ではそれが崩れるのだ。
- 248 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時19分55秒
- 「……明日行くわ。
今から行っても、もう遅いやろ」
わざとらしく壁にかけられた時計を見ながら
中澤はそう言った。
平家はまた小さく笑う。
今、河内は入院中だった。
大した病気ではないのだが、
少々他の組とうまくいっていないヤマがあり、
一時身を隠すために病院に入っているのだ。
もちろん病院だから面会時間というものは決まっており、
今6時半から行っても7時までの面会時間には間に合わない。
だが、その病院は組の傘下のものであり、
やかましく言うことはない。
それがわかっていて中澤が時間をたてに逃げたので、
平家は笑ったのだ。
いつもいつも中澤は何かにつけて
河内に会うのを逃げようとする。
普段の仕事場でのふてぶてしいまでの自信に満ちている姿と
あまりに違うから。
そんな平家を見て中澤は少し不貞腐れたような表情になったが、
照れ隠しのように椅子から急に立ち上がった。
- 249 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時23分24秒
- 「ちゅうわけで、ウチはもう帰るわ」
そう言いながら上着をとった中澤を見て、平家が言う。
「お帰りですか。じゃあ、車を回しますわ」
「いや、いいわ。今日はタクシー拾う」
中澤の言葉に、平家は今度は
少しげんなりという表情になる。
「またですか。今日はどちらに?」
中澤が組の車を使わず、タクシーを使うときは、
大概女のところに行くときだ。
長い付き合いで平家は中澤の
女癖の悪さはわかっているというかあきらめている。
だから、個人の自由だと放っておきたいのだが、
立場上常に中澤の居場所を把握しておく必要がある平家は、
訊いておかなくてはいけないのだ。
「石川のところや」
中澤は短くそう言い捨てると
執務室を出て、オフィスにいた全員、
―半分が中澤の趣味なのでは?と思われる若い女性なのだが―
にお疲れさんと言うとオフィスを後にした。
- 250 名前:華山 投稿日:2002年09月16日(月)11時27分13秒
- 今日はここまでです。
学生って悲しいね…………
>うっぱ さま
レスありがとうございます!
痛甘、はまってますか??よかった〜(^^)
アンリアルってほとんど書かないので、ドキドキしながら書いております。
これからもよろしくお願いします!
- 251 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月17日(火)02時29分30秒
- 石川ですか(w
今回のハロモニでやられました(w
- 252 名前:やぐちゅ〜みっちゅ〜狂患者 投稿日:2002年09月18日(水)21時46分19秒
- 風板の作者です。
ここでは、初レスです。
りかゆうですか〜?
裕ちゃんのチャーミーいびりになるのかな〜?
やっぱり、金髪碧眼の裕ちゃんはいいですね〜。
私のところも、早く染め直させよ〜♪
- 253 名前:華山 投稿日:2002年09月19日(木)15時44分26秒
- 石川梨華は中澤の愛人の一人だった。
1、2度で終わってしまう関係も多い中澤の愛人の中では珍しく、
長い付き合いをしている一人だった。
石川の顔が中澤の好みというのはもちろん前提だったが、
しつこさや嫉妬と無縁のドライな関係というのが、
続いている一番の要因だった。
馴れ合いは中澤がもっとも嫌うところだった。
「噂聞いたわ」
ベッドの中、少し気だるいゆったりとした時間を
過ごしているとき、石川が中澤に言った。
半分眠りかけだった中澤は、重い瞼をなんとか開け、
だるそうに言った。
「なんや?」
不機嫌そうに聞こえる声。
だが、それに慣れているのか、
石川は少しいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「マンションに、かわいい女の子を囲ってる噂」
中澤は少し目を細めて石川を見た。
少し険しい目つき。
だが、すぐにめんどくさそうに石川の細い肩を抱き寄せた。
そして、努めて軽い口調で言う。
- 254 名前:華山 投稿日:2002年09月19日(木)15時45分57秒
- 「なんや、気になるんか?
珍しく妬いてくれとるんか?」
だが、石川はするりと中澤の腕から抜け出す。
「そんなわけないでしょ」
「冷たいなぁ。裕ちゃん、哀しいわ」
「あなたって何でもできるけど、芝居だけは下手ね」
石川の冷静な言葉に、中澤は苦笑を返す。
「まあ、否定できんな。でもなぁ、
少しくらい妬いてくれてもいいんちゃうか?」
「まさか。そういうの嫌いなくせに……
それに、私、付き合ってる人いるの」
さり気ない言葉に、中澤は少しだけ驚いたが、
すぐに笑って言った。
- 255 名前:華山 投稿日:2002年09月19日(木)15時48分43秒
- 「そうなんや。それはよかったな」
中澤の言葉には嫌味も負け惜しみもない。
心から言った言葉だった。
中澤は人に固執することはなかった。
それは固執されることを望まない心理から
きているのかもしれない。
だが、妙に素直なところもあって、
人の幸せを心から祝うことのできる人間だった。
「で、どういうヤツなん?
どれくらいになるんや?
結婚は考えとるのか」
まるでゴシップ好きのおばさんのように
次々と質問をしてくる中澤に、石川は苦笑する。
「結婚なんて考えてないわ。
私たちと同じ世界の人だし」
「そんなん関係ないやん。
知っとるか?あの木村なんて、この前、
女にプロポーズするかせんか悩んでたんやで。
あの格好に似合わずうじうじとな」
中澤はおかしそうに笑うが、石川は表情を変えない。
- 256 名前:華山 投稿日:2002年09月19日(木)15時50分22秒
- 「だからウチ、言ってやったんや。
男ならオレについてこい、くらい言ってやれってな」
「そう……でも、考えてないわ」
石川の静かな言葉に中澤は笑いを収めた。
そして、妙に神妙な表情で言った。
「そうか。まあ、結婚だけが、
恋人のかたちやないもんな。
で、うまくいっとるんか」
「もちろん。この世界の人には珍しい真面目な人よ。
すごく私を大事にしてくれる」
「そうか……よかったな」
「すごく私を愛してくれてる。
私だけを……だから……」
石川の表情が少し変わる。
中澤はそれを見て、わざと明るく言った。
- 257 名前:華山 投稿日:2002年09月19日(木)15時54分18秒
- 「わかった。もう、終わりにするか」
「あっさりしてるのね」
石川の言葉にすぐに応えず、
中澤はゆっくりとベッドを出て、服を着始めた。
石川はそんな中澤の背中をじっと見つめていた。
やがて、完全に服を着終えると
中澤はようやく石川の方を向いた。
「だって、ウチ、アンタだけを大事にするとか、
愛してるかよう言わんからな。
幸せになりや」
中澤はそう言って一瞬だけ石川の頬に触れたが
すぐに背を向けて石川の部屋を出て行った。
石川に未練がまったくないと言えば嘘になるだろう。
好きだから関係が続いたのだから。
だけど、中澤は自分のことより
相手の幸せを考えたいといつも思っていた。
特に好きになった相手のことは。
だから、あっさりと身が引けた。
今までは。
- 258 名前:華山 投稿日:2002年09月19日(木)15時55分29秒
- だが、今回は少し心が寂しかった。
少しは本気やったんやろうか、珍しく。
そんなことを呟きながら中澤はタクシーを探す。
いつも以上に早く矢口に会いたかった。
あの笑顔に触れたかった。
悲しませているかもしれない。
だけど、こういうとき側にいてほしい。
そう思うただ一人の女の子の笑顔が
中澤の心を少し軽くしていた。
- 259 名前:華山 投稿日:2002年09月19日(木)16時00分08秒
- 今日はここまでです。
更新ペースが落ちてきてるなぁ……
>251 さま
レスありがとうございます!
そう、石川さんです……私もハロモニにやられました。
でも……あっさり終わってしまいました(^^;
>やぐちゅ〜みっちゅ〜狂患者 さま
レスありがとうございます!
いや〜りかゆう、けっこう好きなのですが、
あっさり終わってしまいました……
でも、多分……また出てくるような、こないような……
金髪中澤さんは、個人的に大好きです(^^)
- 260 名前:名無し子 投稿日:2002年09月20日(金)00時46分17秒
- 更新お疲れさまです。
この人が1番に出てくるあたりさすがです(^^)
やっぱりツボが同じなんですね〜♪
更新ペースは気にしないで下さい。
崋山さんのペースで…ファイッ!(笑)
- 261 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月28日(土)15時45分45秒
- 姐(あね)さんな姐さんかっけー
- 262 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月05日(土)00時22分50秒
- そろそろ・・・お願いします。
- 263 名前:華山 投稿日:2002年10月06日(日)17時37分01秒
- 次の日、中澤は嫌々だったが、
河内の入院している病院に行った。
仕事が終わって、面会時間ぎりぎりまで渋って。
もちろん河内の部屋は最上級の個室で、
部屋の前にはいかつい顔の組の男が
二人立ってガードをしている。
男たちは中澤を見ると慌てて腰を低くした。
中澤はそれに無言で返すと、一人が中に入っていく。
そして、すぐに戻ってきて、
入ってもよろしいそうですと中澤を中に案内した。
病室は3DKマンション並の広さで、
入ってすぐの部屋にはまたガードの男が座っていた。
それを過ぎ、奥に入ってようやく中澤は父と対面できた。
河内は中澤の顔を見てにやりと笑う。
「珍しいな、お前が来るなんて。
だが、見舞いに来るときは花くらい持ってくるものだ」
河内の言葉に中澤は心の中だけで悪態をついたが、
表情は変えなかった。
- 264 名前:華山 投稿日:2002年10月06日(日)17時38分56秒
- 「いえ、今日は報告に来ただけですから」
そう言って、河内のベッドの脇に座っている
50歳くらいの女性に目をやる。
その視線を受けたその女性は無言で河内と中澤に礼をすると
別の部屋に引き下がった。
女は河内の正妻だった。
別に中澤は彼女が嫌いではない。
だが、この人が子どもを産んでいれば、
自分は今ここにいることはなかった。
そんな理不尽な想いを抱いてしまうのだ。
そんなことを思いながら中澤は、淡々と報告書を読み上げた。
河内は2、3細かい質問をしただけで、大筋では何も言わない。
「相変わらずよくやってるな。
お前に任しておけば心配はない。その調子でやれ」
「ありがとうございます」
中澤は形式的にそう言うと、河内の前を去ろうとした。
だが、河内は独り言のように言った。
「お前を大阪から呼んで正解だったな。
こんなにやってくれるとは思わなかった」
- 265 名前:華山 投稿日:2002年10月06日(日)17時40分40秒
- 「……」
中澤は何も言わない。
呼んだ?あれが呼んだと言えるのか?脅しだ。
そして、養育費という名目で自分を金で縛っていただけだ。
そう、自分はこの男に買われたのだ。
今まで中澤はこの類の言葉を聞くたび、
内心でそう反発していた。
だが、今は、そんな反発だけではなかった。
胸の奥でうずくものを感じる。
それは自分の境遇に対してではない。
自分が同じことをしてしまった、
あの女の子に対しての感情だった。
そう、自分も矢口を買ったではないか。
同じことをしたではないか。
そう、自分を責める自分がいるのだ。
軽い眩暈に似たようなものを感じ、
中澤は微かに頭を振る。
河内の前で弱いところを見せたくない。
そんな想いから。
- 266 名前:華山 投稿日:2002年10月06日(日)17時42分07秒
- だが、河内はそんな中澤に気付かなかったようだ。
ふと視線を中澤に向けて言う。
「もう帰るのか?」
「はい。仕事がありますので」
嘘をついた。すぐにでも帰りたかった。
ここをすぐにでも去りたかったから。
「そうか。もう少したら彩が来る。
会っていかんのか」
「仕事がありますから」
同じことを言って中澤は帰ろうとした。
- 267 名前:華山 投稿日:2002年10月06日(日)17時44分15秒
- 今日はここまでです。
すいません。間が空いてしまいました。
長い闘い(テスト)はなんとか終わったのですが、
運動会に学校祭、作品展と行事が目白押しで
全くヒマがない状態になってしまいました。
なるべく間を空けないように更新をしていきたいと思いますが、
お待たせしてしまうことが多くなるかもしれません。
本当に申し訳ありませんm(__)m
>名無し子 さま
レスありがとうございます。
ゆうりかコンビはやっぱりいいですよね?!
ハロプロニュースも健在みたいで、これからも
この二人のコンビを見れると思うと幸せだったりします(^^)
>261 さま
レスありがとうございます。
カッケーと言っていただいてほっとしております。
かっこいい中澤さんを書きたいので……
>262 さま
レスありがとうございます。
すいませんm(__)mお待たせいたしました!
- 268 名前:名無し読者。 投稿日:2002年10月06日(日)18時59分56秒
- 更新ですね。ムリしないように頑張って下さい(w
彩っぺ登場ですね。
本命やぐちゅー・愛人?姐りか・仕事仲間みっちゅー・過去のCPで彩裕って感じですか?(w
かなり多彩ですね・・・なっちゅーなんかもあったら嬉しい・・・ゆうごまもって・・
うそです。でも彩裕のにはちょっぴり期待です。
- 269 名前:名無し子 投稿日:2002年10月07日(月)02時22分51秒
- 更新お疲れさまです。
大人の中澤さん、とっても素敵…(^^)
数々の行事、見ただけで眩暈がいたします(笑)
何とか乗り切ってくださいね。
セリーヌ、チャーミー、ミニマム…。
私達にとってはパラダイスかと(笑)
- 270 名前:華山 投稿日:2002年10月10日(木)17時05分43秒
- 彩とは石黒彩といい、河内の子どもの一人だった。
中澤と同じ時期に組に入ったのだが、
中澤と違い石黒は進んでこの世界に入ってきた。
そして後継者への野心を隠そうとしない。
もともと東京で生まれ育った彼女は、
河内に一番近くにいた子どもとして、
早くから自分こそが後継者だと思っていたふしがある。
それが、急に中澤や他にも数人の子どもが現れ、
後継者レースに加わったのが面白くない。
特に中澤に対してはその中でも一番年上であり、
業績も上げているということで強烈なライバル意識があった。
中澤にとっては迷惑なことだが。
中澤は、別に後継者になりたいと思ったことはない。
ただ、中途半端なことをするのが性格的に合わず、
与えられたことをこなしているだけだ。
だが、露骨な反感を向けてくる石黒と仲良くするような
自虐的な性格でもないので、無視していた。
それが更に石黒の敵対心を煽っていた。
- 271 名前:華山 投稿日:2002年10月10日(木)17時07分36秒
- だから、顔を合わさないように帰ろうとしたのだが、
病室を出ようとしたとき、ちょうど石黒が入ってきた。
二人はお互いの顔を見て一瞬沈黙する。
だが、表面上は穏やかな表情を浮かべ
石黒が先に口を開いた。
「これはこれはお姉さん。
久しぶりですね」
「そうやな。じゃあ」
中澤はそう言うとすれ違おうとした。
だが、石黒は更に言った。
「そうそう。聞きましたよ、お姉さん。
新しくかわいい子を囲っているそうですね。
父さんが聞いたら、また気を悪くするのでは」
石黒の言葉に中澤は一瞬だけ睨みつけたが、
すぐにいつもと変わらないポーカーフェイスに戻る。
- 272 名前:華山 投稿日:2002年10月10日(木)17時09分54秒
- 「あんたには関係ないやろ。
別に言いたければ言えばええ。
どうせ、また苦笑されるだけや」
「そうですね。
お姉さんの趣味は父さんも知ってますものね。
でも、それが買った女の子っていうのは初めてなのでは」
中澤は今度は睨みつけることはしなかった。
表情も崩さない。ただ、内心で計算を働かせた。
何が言いたいのか。何をたくらんでいるのか。
だが、石黒はただ中澤に嫌味を言える機会を
最大限に楽しんだだけらしく、
ふっと笑って病室の奥へ消えた。
中澤は閉じられたドアを一瞬だけ見たが、
すぐに背を向けて病院を後にした。
重くなった心を抱えて。
- 273 名前:華山 投稿日:2002年10月10日(木)17時12分30秒
- 今日はここまでです。
酔ったときにこけて、うった後頭部が痛い……(−−;
>268 さま
レスありがとうございます。
石黒さん……大人といえばこの人ということで、
こういう役になってしまいました。いかがでしょう。。。
なっちゅー、ごまゆう…………う〜ん、本編では難しいので、
いつか番外で書けたら書いてみます。
>名無し子 さま
レスありがとうございます。
はい、眩暈しまくりです(^^;;
というのはおいといて、石黒さん……
う〜ん、ご満足いただけるかどうかははなはだ疑問ですが、
がんばって書いていきたいと思います。
ハロプロニュース、最高!
- 274 名前:華山 投稿日:2002年10月11日(金)22時09分11秒
- 初めて矢口を見たとき、中澤は心が騒ぐのを感じた。
一目惚れなんか信じていなかった。
だけど、もしかしたらこれがそうなのかもしれない。
そんなことを感じたのを覚えている。
そして、借金のかたに
店で働かされると聞いて言ってしまった。
借金を肩代わりすると。
この女の子が誰かの目に触れるのが許せなかった。
そう反射的に思ったから。
誰の目にも触れさせたくない。
自分の側に置きたい。
だけど、そのためにどうすればいいかと考えたとき、
あんなことしか思いつかなかった。
金で買うことしか。
結局自分も父親と同じなのだ。
そう思うと情けなかった。
家政婦として働いてもらったのは、
自己嫌悪を少しでも軽くしたかったから。
働いてもらうという名目をつければ、
彼女を買ったことに対する免罪になるような気がしたから。
だけど、結局それも自分のためでしかない。
金で買い、家政婦として働かせて
自分のもとから逃げ出せないようにしただけ。
二重に縛っただけ。
- 275 名前:華山 投稿日:2002年10月11日(金)22時11分10秒
- そんな自分に対する嫌悪があって、
矢口に素直に自分の気持ちを伝えられなかった。
最初に会ったときから好きだったという気持ちを。
だけど、矢口はそんな自分に、
軽蔑されても仕方ない自分に対して、
笑顔を向けてくれた。
太陽のような暖かいかわいい笑顔を。
それは、まるで自分を許してくれている、
そう錯覚させるような笑顔だった。
だけど、買ったという事実は消えなくて、
中澤はいつしかその笑顔すら
辛く感じるようになっていった。
だから、それを紛らわせるためにいつも以上に
女に手を出したし、酒もあおった。
だけど、それはまったく自分の心を軽くしてくれなかった。
今までだったら、気晴らしになった
それらの行為ですら空しく感じる。
そんなことを思いながらも、中澤は飲んだ。
だが飲めば飲むほど心は暗くなる。
そして、暗く落ち込みきったとき、
心に浮かぶのはいつも矢口の笑顔だった。
- 276 名前:華山 投稿日:2002年10月11日(金)22時12分46秒
- あの日もそうだった。
浴びるほどの酒を飲んで、暗くなって、
そして矢口の笑顔が浮かんで。
そんな無茶苦茶な精神状態で帰ったあの日。
それでも矢口は笑ってくれた。
自分の気持ちを初めて吐き出した後も笑ってくれた。
そして、理不尽な自分の要求、
自分にだけその笑顔を見せてほしいという願いにも
笑ってくれた。
初めて中澤は救われた気がした。
自分勝手なのかもしれないが、そう感じた。
あの日以来、矢口は中澤の心の中の
一番大切なところにいる。
それでも、今日みたいな日は切なくなる。
矢口を買ったという事実を思い起こされるような日は。
中澤は帰りの車の中、そんなことを考えていた。
早く矢口に会いたい。そう切望しながら。
- 277 名前:華山 投稿日:2002年10月11日(金)22時14分26秒
- 今日はここまでです。
なんかだらだらと文章が連なっている……
- 278 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月15日(火)04時44分17秒
- いいです。かなり好きです(w
たまにはHPも更新して欲しいな(w・・・忙しいのは重々分かっているうですけどね(w
わがままですいません。なかよしなかなか書いてくれる人いないので・・・
手が空いたらどうかお願いします。
- 279 名前:華山 投稿日:2002年10月16日(水)09時19分03秒
- マンションについた中澤は、心持ち早足で部屋に戻る。
ドアを開けて中に入ったとき、
そこに矢口の姿があるのに嬉しさまじりで驚く。
「おかえり、裕ちゃん」
いつもの笑顔。中澤の心を癒してくれる笑顔で
そう言う矢口に、ほんの一瞬中澤は見惚れる。
「なんで帰ってくるのわかったん?」
「ん?なんか、そろそろ帰ってくるかな〜
って思って、ベランダ見に行ったら、
ちょうど車が見えたから」
「そうなんや」
「早かったんだね。ご飯、もう少しかかるよ」
そう言ってキッチンに戻ろうとした矢口を
中澤は無言で引き止め、逆に抱き寄せた。
突然のことに矢口は驚く。
だが、もちろん抵抗する素振りは見せず、
中澤の腕の中におさまった。
- 280 名前:華山 投稿日:2002年10月16日(水)09時22分26秒
- 矢口はしばらく中澤の腕の温かさを感じていた。
だが、黙ってただ自分を抱きしめる中澤の様子に首を傾げる。
「……どうしたの?裕ちゃん」
矢口の言葉に中澤はすぐには応えなかったが、
彼女を抱きしめる腕に力を入れ、囁くように言った。
「好きやで、ヤグチ」
ほとんど言われない言葉を突然言われ、
矢口はまた驚く。
「ホント、どうしたの?」
「こんなこと言ったら、おかしいか?」
「……だって……
ほとんど言ってくれないくせに……」
少し拗ねたようにそう言う矢口に、
中澤は口元に微笑を浮かべた。
かわいい、そう素直に思ったから。
- 281 名前:華山 投稿日:2002年10月16日(水)09時25分03秒
- 不意に矢口が顔を上げた。
一瞬中澤の視線と矢口の視線が絡む。
視線をそらせなくなる。
中澤は矢口の瞳に引き込まれそうになるのを感じた。
どうしてだろう。
どうして、この子は自分の心を捕らえて離さないのだろう。
普通の女の子なのに、女には慣れているはずなのに。
中澤はそんなことをぼんやりと思いながら
矢口の目を見つめた。
ゆっくりと矢口の目が閉じられる。
中澤は柄にもなく緊張を覚える自分に気付いた。
だが、そんな自分に苦笑を浮かべる余裕がなかった。
酒に酔っているときなら、普通に接することができるのに。
中澤は小さく溜息をつくと、矢口の頬に軽くキスをした。
そして、矢口に回していた腕を解く。
矢口は少し上目つかいでそんな中澤を見つめていたが、
拗ねたような表情で中澤に背を向けて
キッチンに戻ってしまった。
- 282 名前:華山 投稿日:2002年10月16日(水)09時27分31秒
- 今日はここまでです。
貧血で休んでしまった……寝ないとな……
>278 さま
レスありがとうございます!
HP……す、すいませんm(__)m
なかよし書きを宣言しておきながら、全然書いてませんもんね(^^;
がんばります!
- 283 名前:華山 投稿日:2002年10月17日(木)17時13分09秒
- 中澤はその小さな後姿を見つめながら
ようやく苦笑を浮かべた。
矢口と対するときの自分と、
他の女と対するときの自分のギャップにとまどう。
今更プラトニックな付き合いなどという
歳でも性格でもないはずなのに、
矢口に対するとき緊張して
いつものように動けない自分がいる。
簡単に体の付き合いをしてきた自分が、
それに踏み込めない。
らしくない。
そう中澤は自分自身に苦笑したのだ。
とりあえず今は拗ねている小さな彼女を
なだめてあげないと。
そんなことを思いながら、中澤は矢口の後を追う。
- 284 名前:華山 投稿日:2002年10月17日(木)17時15分10秒
- キッチンを覗くと小さな鍋で
何かを作っている矢口の姿があった。
入り口から顔だけを覗かせて、中澤は声をかける。
「何作っとるん?」
矢口は中澤の方も見ずにさらっと答えた。
「野菜スープ。
トマトをベースにして、玉ねぎとにんじんと……」
矢口の言葉に中澤は情けない顔になる。
「ちょお、まじ?」
これまた少々情けない声で言いながら、
中澤は矢口の後ろから鍋を覗き込む。
だが、そこには普通の出汁に、
大根とうすあげ、海草が入っているだけだった。
「うそだよ〜ただのお味噌汁。
今日は純和風だよ」
いたずらっぽく笑いながらそう言う矢口に、
中澤はほっとした表情になるが、
すぐに後ろから矢口を締め上げる。
もちろん手加減をして。
- 285 名前:華山 投稿日:2002年10月17日(木)17時17分22秒
- 「こら!大人をからかうな!」
「ベ〜だ。好き嫌い多すぎるのが悪いんだよ〜」
「まったく悪い子や」
中澤はそう言いながら
しばらく後ろから矢口を抱きしめていたが、
料理の邪魔になると反省し、そっと離れた。
中澤に背を向けていた矢口の顔に
少し残念そうな表情が浮かんだことに気付かずに。
だが、矢口もすぐいつもの口調で言った。
「あとはね。煮物と、あとそれと、鮎焼いてるから」
「ほんま、和風やな」
「たまにはいいでしょ?
もうすぐできるから待ってて。
あ、ビール、持っていこうか?」
「ええよ。自分で出すわ」
「あんまり飲んじゃダメだよ」
矢口の言葉を聞き流しながら中澤は、冷蔵庫から
ビールを二本取って、ダイニングに向かった。
- 286 名前:華山 投稿日:2002年10月17日(木)17時18分29秒
- 今日はここまでです。
うまく話が進まない……
- 287 名前:華山 投稿日:2002年10月18日(金)16時57分53秒
- 中澤が何杯目かグラスを空けたころ、
矢口が料理を運んできた。
すでに一本が空になっているのを見て少し睨むが、
中澤は気付かないフリをして箸を取った。
矢口はブツブツと文句を口の中で呟いたが、
言ってもムダだろうなと諦め、食事を始める。
軽く話をしながら食事を終えた後、
お茶を淹れながら矢口が言った。
「あのさ、裕ちゃん。来週の日曜なんだけど」
「ん?なんや」
「家、あけてもいい?」
「どうしたんや?なんかあるんか」
「模試を受けたいの」
矢口の言葉に中澤は以前、何か書類らしきものに矢口が
真剣に書き込みをしていたのを思い出した。
あれは、模試の申し込みだったのだろう。
そんなことを思い出し一人納得しながら中澤は頷いた。
- 288 名前:華山 投稿日:2002年10月18日(金)16時59分11秒
- 「そうか、そんな時期なんやな」
「うん。でも、ダメだったら……」
少し不安そうに中澤を見る矢口。
そんな矢口の様子がかわいくて、中澤は少し笑った。
「もちろん、ええよ。
そうか、がんばっとるな」
「がんばってるかどうかは、まだわからないけどね」
「いや、がんばっとるよ、ヤグチは。
結果、出るといいな」
淹れてくれたお茶を飲みながら中澤がそう言うと、
矢口は少しだけ照れくさそうに笑って頷いた。
- 289 名前:華山 投稿日:2002年10月18日(金)17時01分00秒
- お茶を飲みながらとりとめのない話をしていると、
不意に中澤が思いついたように言った。
「そうや。模試が終わったら、
その日、久しぶりに食事に行かん?」
「え?」
「これから模試とか多いやろうし、
それにそろそろ追い込みやろ?
今のうちに裕ちゃんに付き合ってや」
笑いながらそう言う中澤に、
矢口は嬉しそうに頷いた。
「うん、行く。どこに行くの?」
「そうやな。
たまには、ヤグチの行きたいところでええよ。
何食べたい?」
「焼肉!」
中澤の問いに矢口は間髪を置かずそう答えた。
その勢いの良さに中澤は一瞬驚き、そして苦笑する。
- 290 名前:華山 投稿日:2002年10月18日(金)17時03分06秒
- それを見て矢口は少し顔を赤らめた。
よく考えてみると中澤に焼肉というのは
あまり合わないような気がする。
雰囲気とかそういうものではなく、
自分で食べるために肉を焼くということをやりそうにない。
めんどくさがりというか、
特に食べることに執着がないというか、
とにかくほっておくと何も食べずに
過ごしてしまいかねない人だから。
そんな矢口の考えを知ってか知らずか、中澤は言った。
「そうやな。ヤグチ、焼肉好きって言うてたな」
「あ、でも、裕ちゃんが嫌いだったらいいよ」
矢口の言葉に中澤はわずかに困ったような表情になったが、
すぐに笑って言った。
「ええよ。ええよ。
焼肉やったら、ビールあるし……」
「やっぱりいい!別のにしよ」
- 291 名前:華山 投稿日:2002年10月18日(金)17時04分59秒
- 中澤の言葉が終わるか終わらないうちに矢口は言った。
外でビールを飲ませるとロクなことにならない。
そう思い知らされているから。
一度ベルギー料理というのを食べに行ったことがあるのだが、
そこには数十種類のビールがあり、中澤は嬉しそうに
全部飲んだるとか言いながら、大量に飲んだのだ。
結果、立てないくらい酔っ払ってしまい、
平家に連絡して送ってもらう羽目になった。
それ以来、なるべく外では
ビールを飲ませないようにしていた。
ワインや日本酒ではそこまで酔ったことはないから。
でも、焼肉に行ってビールを
飲ませないようにするのは至難のわざだろう。
矢口はそう考え、慌てて否定したのだ。
- 292 名前:華山 投稿日:2002年10月18日(金)17時06分48秒
- 「ん?別にええよ」
「ううん、いい。
……そうだ、ずっと前に連れてってくれた
地中海料理のお店、あそこがいいな」
「そうか……まあ、あそこはウチも好きやし。
じゃあ、予約しとくな」
中澤はそう言うと、湯呑みを置き立ち上がった。
矢口は食器を片付けながら訊いた。
「あ、もうお風呂入る?」
「ん〜ええわ。今日はシャワーだけで。
ちょっと疲れたから」
中澤がそう答えると矢口は心配そうな表情になる。
それを見て中澤は慌てて言った。
「いや、仕事の後、オヤジのところに見舞いに行っただけや。
病院ってウチ、好かんから」
- 293 名前:華山 投稿日:2002年10月18日(金)17時08分43秒
- 父親が入院していることは話していた。
もちろん、自分が愛人の子であるとか、
父親を敬遠しているとかは話したことはない。
だから、矢口は心配そうな表情のまま言った。
「そうなんだ。
お父さん、そんなに悪いの?」
「いや。大したことはないみたいや。
すぐ退院できるやろ」
「そうなんだ。良かったね」
気遣うように笑いかけてくれた矢口に、
中澤は心が少しだけ痛んだ。
自分という人間を全て知っても、
矢口はまだ自分に笑ってくれるだろうか。
ヤクザの愛人の子で、妹から恨まれ、そして何の目的もなく
ただ金で縛られたという無形の負債を返すために
働いているだけの自分を知っても。
中澤はまた片付けを始めた矢口の小さな背中を
黙ってしばらく見つめていた。
- 294 名前:華山 投稿日:2002年10月18日(金)17時10分45秒
- 今日はここまでです。
調理師科のはずなのに、どうしてケーキ実習があるんだろう……
ケーキはしんどい。。。
- 295 名前:名無し読者。 投稿日:2002年10月19日(土)03時36分58秒
- 中澤の脆さがなんか好きです。
矢口の健気さも好きです。
- 296 名前:華山 投稿日:2002年10月21日(月)18時34分22秒
- 矢口の模試の日。
中澤は昼に事務所に軽く顔を出した後、
タクシーを拾って矢口を迎えに行った。
中澤の姿を見つけた矢口は、
嬉しそうに笑って走ってきた。
それを見て中澤は思わず笑みをこぼすが、
すぐにそれを収め少し神妙な、
まるで保護者のような顔を作って訊いた。
「どうやった?」
矢口はそんな中澤の表情に内心だけで少し笑ったが、
満面の笑みで頷いた。
「けっこうできたよ」
「そうか、よかったな。じゃあ。行くか」
少し不器用そうに笑うと中澤は矢口の手を取って
待たせていたタクシーに乗り込んだ。
- 297 名前:華山 投稿日:2002年10月21日(月)18時37分16秒
- 二人が向かった店は人気のある店で、
まだ早い時間にも関わらずほとんどの席が埋まっていた。
顔なじみのウェイターが中澤を見つけ、
すぐに一番奥の個室に連れていく。
何度中澤と食事に行っても矢口は
このときだけは慣れなかった。
自分はいてはいけないところにいるような、
そんな居心地の悪さを感じるのだ。
だが、中澤はさり気なく矢口をリードしてくれる。
そんなとき大人だなと感じると同時に、
女に慣れてるんだなと思ってしまう。
考えても仕方のないことなのだが。
席につくと中澤はすぐにワインリストを受け取る。
一応矢口は飲みすぎないように言ったが、
聞いてくれそうにない。
「スペイン物にするか。
今日のメインコースはスペイン料理らしいしな。
じゃあ……」
中澤はそう言うと矢口が聞いたこともない銘柄を告げて
リストを返した。
- 298 名前:華山 投稿日:2002年10月21日(月)18時39分53秒
- 食事が進み、メインディッシュのラムのローストを前に
矢口が戸惑っているのを見て中澤が声をかける。
「どうしたんや?ラム嫌いか?」
「う〜ん。羊ってニオイあるから、あんまり……」
「そうか?ジンギスカンとかと
一緒に思ってないか?ヤグチ」
「違うの?」
「まあ、他の肉よりは臭いあるかもしれんけど、
ラムやからそんなに強くないはずやで。
食べてみぃ」
中澤の言葉におそるおそるナイフとフォークを
手に取る矢口を中澤は笑って見守る。
「どうや?」
「う〜ん……美味しいかも」
「そうか。良かったな」
そう言いながら中澤がワイングラスを傾けようとしたとき、
個室のドアがノックされた。
続いて入ってきたのは平家だった。
- 299 名前:華山 投稿日:2002年10月21日(月)18時41分48秒
- 「どうしたんや?みっちゃん」
中澤はアルコールを感じさせない
しっかりとした口調だった。
一応自分の居場所は常に知らせてあるが、
プライベートの時に平家が現れるのは仕事のときだけ。
それも緊急を要するときだ。
平家は一瞬矢口の方を見たが、再度中澤に促され言った。
「やられました。
あのA駅の土地の競売です」
さすがに一瞬中澤の表情がこわばる。
ほぼ決まっていた物件だ。
根回しも買収もうまくいっていたはずだ。
「いくらや」
「それが、ウチと100しか」
「……洩れたんか」
「おそらく」
- 300 名前:華山 投稿日:2002年10月21日(月)18時43分50秒
- 中澤と平家の話は簡潔すぎて
矢口には理解できない。
ただ、黙って普段ほとんど見ることのない
真剣な表情の中澤の顔を心配そうに見つめていた。
それに気付き中澤は安心させようと笑顔を向ける。
だが、それはやはり少しこわばっていた。
すぐに事務所に帰らないと、そう思ったが一瞬躊躇う。
そんな中澤の様子に平家は
意外そうな視線を中澤に向けた。
今までもこういう場面はあった。
女とのデートの最中でも、中澤は
まったく躊躇うことなく事務所に戻っていた。
それが相手を気遣う様子を見せたのだ。
この子は本当に中澤にとって
特別な存在なのだと平家は知った。
そんな平家の視線に気付いた中澤は
すぐに表情を引き締め言った。
- 301 名前:華山 投稿日:2002年10月21日(月)18時45分32秒
- 「みっちゃん、車か?」
「はい。木村さんに」
「そうか……じゃあ、木村にヤグチを送らせて。
ウチはタクシーで行くから捕まえといて」
「わかりました」
平家はそう言うと部屋を後にした。
「すまんな、ヤグチ。
仕事に戻らなあかん」
本当に申し訳なさそうにそう言う中澤に
矢口は慌てて首を振る。
「いいよ。気にしないで」
「車で送らせるから」
「いいよ。一人で帰れる」
「あかん。
夜に女の子が一人で歩いとったら危ない」
真面目な顔でそう言う中澤に矢口は戸惑う。
- 302 名前:華山 投稿日:2002年10月21日(月)18時47分15秒
- 夜といってもまだ8時だ。
いつもなら笑って断る場面だが、
真剣な中澤の表情に何も言えない。
「大丈夫なのに……」
「ええから。ホンマすまん。
この埋め合わせはちゃんとするからな」
「ほんとにいいよ。
早く行かないと、平家さん待ってるよ」
「そやな……今日は帰れんかもしれんから、先寝とき。
ちゃんと戸締りするんやで」
中澤はそう言うと慌ただしく出ていった。
「何歳だと思ってるんだよ……バカ……」
矢口は寂しげにそう呟くとほとんど手をつけなかった
メインディッシュを残して立ち上がった。
久しぶりのデートだったのに。
なるべく思わないようにしたいのに、
そんなことを思ってしまう自分に
少しだけ嫌悪感を感じながら。
- 303 名前:華山 投稿日:2002年10月21日(月)18時48分25秒
- 今日はここまでです。
友人の結婚式のスピーチ考えないと……
>295 さま
レスありがとうございます!
中澤さんは強そうに見えて実は少し弱いって感じが好きです。
これからもよろしくお願いします。
- 304 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月22日(火)03時35分28秒
- 更新お疲れ様です。
いつも更新を心待ちにしています。
華山さんのストーリー甘さと切なさのバランスが好きです。
告白じゃないですけどね(w
- 305 名前:華山 投稿日:2002年10月22日(火)21時13分00秒
- タクシーを捕まえ、事務所に戻る途中、
中澤は平家に詳しい話を聞いていた。
A駅前の土地はほぼ買収が決まっていたはずだ。
一体誰が河内組に喧嘩を売るようなことをするのか。
今、他の組と大きな抗争はない。
少なくとも中澤の担当する部門では、
うまく住み分けができているはずだ。
他の組とは、争うより牽制はするが
うまく付き合っていった方が実入りは大きい。
それが中澤の考えだった。
そして、それはあながち間違ってはおらず、
中澤は成績を上げている。
それが今どうして?
しかも、自分たちが提示した額より100万しか違わないという。
この差を偶然と考えることはできない。
自分たちの情報が洩れたと考える方が現実的だろう。
スパイが入り込んだ。
そんな隙は見せなかったつもりなのに。
中澤はそれが口惜しかった。
- 306 名前:華山 投稿日:2002年10月22日(火)21時14分49秒
- 「で、どこが落としたんや」
「それが、Y商事なんです」
「は?」
中澤は思わず聞き返していた。
Y商事、もちろん中澤も知っているが、
どこの組とも関わりのない普通の商社のはずだ。
そんなところがどうして?
そこまで考えたとき不意に思いいたることがあった。
「確か、Y商事は危ないって言われてたのが、
前期に急に持ち直したよな」
「はい」
「誰が助けたんや。
どこが出資したんやった?」
中澤の言葉に平家もようやく思い出したらしく、
わずかに顔色を変える。
「確か、……N社です」
「彩か!」
中澤は吐き捨てるように言った。
平家も少し緊張した顔で頷く。
- 307 名前:華山 投稿日:2002年10月22日(火)21時16分35秒
- N社は石黒の支配下のペーパー会社の
更に下にある会社だ。
石黒が担当する裏取引を
書類上で行っているのがペーパー会社。
そしてその傘下にある会社がY商事を助けた。
石黒の自分の顔を隠してシェアを広げるための駒。
それが中澤の取引に横槍を入れてきた。
今まで石黒は確かに中澤と張り合ってきた。
だが、直接中澤の仕事を邪魔をしてきたのは初めてだ。
「彩……焦っとるのか」
石黒の成績はここ最近伸び悩んでいる。
中澤に対する焦りがあるのだろう。
こんな露骨な手段を使ってまで、
中澤の成績を下げようとするとは。
しかし、それにまんまとしてやられたのもまた事実だ。
- 308 名前:華山 投稿日:2002年10月22日(火)21時18分02秒
- 「どうやって入り込んだかはわかるか?」
石黒だったら同じ組ということもあり、
スパイを送りこむのも比較的簡単だろう。
だが、それでもルートがあるはずだ。
だが、中澤の言葉に平家は静かに首を横に振った。
「わかりません。すいません」
「いや、ええ。
彩もそんな簡単に足がつくようなことせんやろ」
中澤はそう言ったきり黙りこんだ。
石黒にしてやられたのが口惜しい。
油断していた自分が許せない。
もう終わったと思っていたと最後の最後で油断した。
そんな自分に腹がたつ。
それから中澤は事務所に着くまで一言も話さなかった。
平家はそんな中澤を真剣な表情で見つめていた。
- 309 名前:華山 投稿日:2002年10月22日(火)21時19分54秒
- 今日はここまでです。
しばらく矢口さんが出てこないかも……
書いてて自分がつまらない。。。
>304 さま
レスありがとうございます!
甘い話を書きたいはずなのに、何故か切ない話になってしまうんです(^^;
でも、好きって言ってくださると、調子に乗ってしまうかも(w
これからもよろしくお願いします。
- 310 名前:うっぱ 投稿日:2002年10月23日(水)03時42分03秒
- なんだかリアリティー過ぎて怖いような気が…。
でも、そんな中にもほんわかした二人の空気があっていいです。
もうどっぷりハマッとります!
- 311 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月24日(木)22時38分03秒
- 先が気になる(w
彩っぺと裕ちゃん・・・どうなっちゃうの?
- 312 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月26日(土)20時01分13秒
- みっちゃんは姐さんに仕事以上の感情はないのかな?
- 313 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)00時34分45秒
- 平家と中澤の綿密な調査にも関わらず、石黒のスパイの
侵入経路を見つけることができないまま3週間が過ぎた。
中澤は執務室でだるそうに報告書に目を通していた。
ここしばらくろくに矢口の顔を見ていない。
寂しい想いをさせてないやろうか。
自分の心には気付かないふりをしながらそんなことを思う。
そんなことを思うこと自体中澤にとって珍しいことなのだが。
そんなことを思いながら少し疲れもあって
ぼんやりとしていると固い表情の平家が入ってきた。
その表情を見て中澤も表情を引き締める。
- 314 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)00時37分31秒
- 「どうした?」
「またです」
平家の短い言葉に中澤の表情が固まる。
「Fビルの買収をさらわれました。
また、Y商事です」
「いくらや?」
「50です」
「またか!」
中澤は鋭い舌打ちとともに短く言葉を吐き捨てた。
手にした報告書を机に投げ捨てると腕を組み考え込む。
「なんか痕跡ないんか?」
「あれから主な買収の金額面の資料は事務所には残さず、
あたしが持ち歩いてました。
コンピューターのデータも残してません。
もちろん、事務所以外の人間は入ってきた様子も」
平家の言葉に中澤は組んでいた腕を解き、
うっとおしそうに前髪をかきあげた。
そしていまいましげにまた小さく舌打ちをする。
- 315 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)00時39分25秒
- 考えないようにしてきたことは再び脳裏に浮かぶ。
そう、情報を盗むのはハッキングじゃない限り、もっとも単純な
太古の昔から変わらない方法でするのが一番簡単なのだ。
内部の人間から聞き出すという方法が。
だが、中澤はそれを否定してきた。
自分の部下が裏切るとは考えていなかった。
別に甘い考えではない。
実績を上げ部下の信頼を得た上で、裏切ることが
メリットにならないくらいの充分な待遇をすれば、
裏切られることはない。
裏切ることが損だと思わせることができれば
裏切られることはないのだ。
しかも、中澤は決して甘い人間ではない。
裏切ったことがばれればどんな報復があるかは皆知っている。
飴と鞭それを上手に使い分ける。
それが中澤のやり方だ。
だが、ことがここまで来れば
裏切りも視野に入れなくてはならない。
よほど優秀なスパイでもいない限り、
内部から洩れたということなのだ。
石黒にそんな部下がいるという話は聞いていない。
- 316 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)00時40分33秒
- 「Fビルの担当は誰や」
しばらくの沈黙の後不機嫌そうにそう言う中澤の言葉に
平家はあえて表情を消す。
中澤の葛藤がわかったから。
「飯田と石井、保田と村田。
あと数人関わってますが、
こちらは金額面まではタッチさせてません」
「そうか……」
中澤は平家が挙げた4人の顔を思い出す。
全員中澤の最初からついていた部下だ。
裏切りをしそうな人間ではない。
- 317 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)00時42分26秒
- 石井と村田は少々とぼけたところがあるが、
忠実に仕事をこなす。
保田は真面目すぎるほど真面目な性格で、
派手好きな中澤の部下の中では地味なところがあるが、
有能で中澤は平家の次に信頼している。
飯田はちょっと不思議な性格ではあるが、
ビジネスに関して独特の嗅覚を持っており
時に見せる鋭さは平家に勝る。
4人とも裏切ることは考えられない。
だが、内部から洩れたとすればこの4人の
誰かからというのが一番考えられる線なのだ。
中澤はしばらく黙っていたが、彼女らしくない、
あまり自信を感じさせない口調で言った。
「4人は当分、大きなヤマからは外す」
「完全に外さないんですか?」
平家の当然の疑問に、中澤はにやりと笑って言った。
それはある意味彼女らしい不敵な笑みだった。
- 318 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)00時44分13秒
- 「大きく動いたら彩に警戒させる。
さり気なく外すんや。
こっちから反撃考えるまでは泳がせる。
やられっぱなしじゃ、口惜しいからな」
「わかりました」
平家はようやくわずかに表情を崩した。
そう、中澤が反撃を考えないわけがない。
それこそ、そんな甘い人間ではないのだから。
面白くなりそうだ。
不謹慎にも平家はそんなことすら考えたのだった。
- 319 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)00時46分54秒
- 今日はここまでです。
作品展……ようやくレシピーができたぞ…………
>うっぱ さま
レスありがとうございます!
リアリティー……なんとか、出せるようにがんばっているのですが、
どうなりますか……(−−;
でも、ほんわか甘くはなくならないようにがんばります!
>311 さま
レスありがとうございます!
石黒さんと中澤さん……カッコ良く書きたいのですが、
成功するかはまだ微妙です(^^;
>312 さま
レスありがとうございます!
平家さんの感情は、、、多分かなり先で明らかになると思われます(^^;
少しずつ出していきたいのですが……
- 320 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月27日(日)16時09分27秒
- 裕子VS彩のバトル楽しみです。最後は仲間になるのかな?(w
- 321 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)21時01分14秒
- 体よりも精神に疲れを感じながら夜遅く家に戻った中澤を
迎えたのはいつもの矢口の笑顔だった。
思わず口元に笑みを浮かべながらも
中澤は真面目な口調で言う。
「こんな遅くまで起きとって大丈夫なんか?
明日も模試なんやろ」
「うん……そろそろ寝ようって思ってたとこだよ」
「そうか。じゃあ、もう寝ぇ」
「でも、裕ちゃん、ご飯は?」
「ん?なんか、適当に食べとくから」
「じゃあ、簡単に作るよ」
矢口の言葉に中澤は困ったような笑みになる。
「大丈夫やから」
「いいって。すぐできるから」
矢口はそう言うと更に何か言おうとする中澤を無視して、
キッチンに入る。
中澤はますます困ったような表情になったが、
軽く肩をすくめるとリビングに向かった。
- 322 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)21時02分33秒
- ソファーに座ると急に疲れが出てくるのを感じる。
ダメだと思いながらも自然と体が横になり、瞼が重くなる。
少しだけ、そんなことを考えながら中澤は
軽い眠りについてしまった。
どれくらい時間が経ったのか。
不意に中澤は体を揺さぶられる感触と
自分の名を呼ぶ声に、ゆっくりと目を開ける。
焦点が合わない感じだったが、
目の前に矢口がいるのが見えた。
「裕ちゃん、こんなところで寝たら風邪ひくよ」
- 323 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)21時06分11秒
- 矢口の言葉が聞こえるが
どこか遠くから聞こえるような気がした。
まだ半ば眠っている状態。
そんな状態で、中澤はほとんど無意識に
矢口の首に左手を回し自分の方に引き寄せた。
ほとんど力は入っていなかったが、不意のことで矢口は
バランスを崩したように中澤に引き寄せられる。
中澤は右腕で支えるようにして少し上体を起こし、
そのまま矢口にキスをした。
完全な不意打ちに矢口はとっさに反応できない。
されるがままになっていると
中澤はそのままキスを深いものへと変える。
戸惑っている矢口を中澤は更に引き寄せ体を反転させ
彼女を自分の下に組み敷く態勢になる。
そして、両手で彼女の顔を押さえ込むようにして
更に激しいキスを交わす。
こんなキスをされたのは初めてだった。
矢口はどう応じていいかわからない。
なんとか、中澤の背中に腕を回す。
何度も角度を変え落とされる彼女の唇。
矢口は何も考えることもできなくなり、
ただその唇だけを感じていた。
- 324 名前:華山 投稿日:2002年10月27日(日)21時07分27秒
- 今日はここまでです。
ハロプロニュース……ちょっと残念……
>320 さま
レスありがとうございます!
石黒さんと中澤さんのバトルは次の編で佳境になるはずです。
この編は前哨戦って感じです。
でも、仲間になるかは……さてさてどうなるでしょう!?
- 325 名前:名無し子 投稿日:2002年10月28日(月)00時48分05秒
- ドキドキ…(笑)
何に、って全てにドキドキです。
気になる人が多すぎて…いやぁ楽しみ♪
忙しい中での更新お疲れさまです。頑張って下さいね(^^)
- 326 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)11時09分40秒
- 人間疲れてる時ほど・・・激しく(w
中澤さんってイメージ的にほっといたらご飯とか食べなさそう。
- 327 名前:名無し読者。 投稿日:2002年10月28日(月)20時47分46秒
- やぐちゅーはむろんのこと・・・
彩っぺ・みっちゃん・圭ちゃん・メロン好きな人がいっぱい出てきて最高です。
- 328 名前:華山 投稿日:2002年10月28日(月)20時53分58秒
- 「裕ちゃん……」
キスの合間に洩れた矢口の吐息まじりの声。
それを聞いた瞬間、中澤ははっとしたように体を起こした。
一瞬自分がどこにいるのかわからない、
そんな感覚に捕われる。
ゆっくりと視線を落とす。
潤んだ瞳で自分を見上げている矢口の視線と絡まった。
中澤はとっさに言葉がでなかった。
自分がしたことが信じられない。
そんなことを思いながら、矢口を見つめる。
矢口も不安そうに中澤を見つめていた。
- 329 名前:華山 投稿日:2002年10月28日(月)20時57分28秒
- 「……裕ちゃん?」
矢口の小さな声に中澤は小さく息を吐くと
ゆっくりと体を起こした。
そして、矢口の手を取り、抱き起こす。
だが、何と言えばいいかわからない。
「……」
黙っている中澤を矢口はしばらく不安そうに見つめていたが、
なんとか明るい口調を作って言った。
「もうすぐご飯できるから」
「ヤグチ……」
「もう、寝ちゃだめだよ」
矢口はそう言うとソファーから立ち上がり
キッチンに早足で戻っていった。
矢口が行ってしまってからもしばらく中澤は動けなかった。
寝惚けていた。
だからあんなことをしてしまった。
そう、他の女にするようなことを……
- 330 名前:華山 投稿日:2002年10月28日(月)20時59分40秒
- 仕事に疲れているとき、悩みがあるとき、
中澤はそれを紛らわせるために女に手を出した。
そうだ、いつもならこんな状態のときは、
他の女のところに行っていたはずだ。
だけど、矢口が寂しがっていないか心配で戻ってきた。
だから、矢口の顔を見ればそれでよかった。
矢口の側にいるだけで自分は満足できるはずだった。
なのに、同じことをしようとした。
中澤は自分が信じられなかった。
大切に思っているはずなのに。
自分にとって一番大事な存在のはずなのに。
自分の勝手な感情だけで手を出さない、
そう決めていたのに。
「なんでや。なんで、ヤグチに……」
中澤は吐き捨てるようにそう言うと立ち上がった。
矢口に何か言わなくては。
とにかく今は謝らなくては。
中澤はそう自分に言い聞かせながら矢口を追った。
- 331 名前:華山 投稿日:2002年10月28日(月)21時01分26秒
- 中澤が少しためらいながらキッチンに入ると、
矢口は背を向けたまま何かを切っているところだった。
中澤が入ってきたことに気付いているのだろうが、
振り向こうとしない。
中澤は何度もためらってから声をかけた。
「ヤグチ」
中澤の声に矢口は一瞬動きを止めるが振り向かない。
中澤は矢口に聞こえないくらい小さな溜息をつくと、
ゆっくりと彼女に近付く。
そっと肩を抱くと矢口は一瞬びくっとなった。
「すまん」
平家などが聞いたら思わず失笑するだろう、
情けない声だった。
- 332 名前:華山 投稿日:2002年10月28日(月)21時03分49秒
- 矢口はしばらく何も言わなかった。
だが、不意に中澤の方に振り向く。
その顔には、少しだけこわばっていたが笑顔が浮かんでおり、
それを見た中澤は少しほっとする。
「謝らないで。謝ることじゃないでしょ」
「だけど……」
「ちょっとびっくりしただけ」
矢口はそう言うと少し顔を赤らめる。
そして俯いて言葉を続けた。
「あんな裕ちゃん……初めて見たから」
「すまん」
「だから、謝らないで。
……寝惚けてたんでしょ、どうせ」
わざと冗談めかしてそう言うと、
矢口は中澤の両腕を掴んで彼女の顔を見上げた。
中澤は少し戸惑いながらもその視線を受け止める。
「……キスして、裕ちゃん」
矢口の言葉に中澤は首を傾げる。
だけど、矢口は何も言わず中澤の方を見ながら
そっと目を閉じた。
- 333 名前:華山 投稿日:2002年10月28日(月)21時06分12秒
- 中澤は柄にもなく緊張しながらゆっくりと
矢口の唇にキスを落とした。
触れ合った瞬間矢口の小さな体が少しだけ震えた。
中澤は優しく彼女を抱きしめる。
時間にしたら短かっただろう。
どちらからともなく二人は離れる。
しばらく何も言わず見つめ合っていたが、
矢口は恥ずかしそうに顔を赤らめると中澤から離れた。
「こっちの方が裕ちゃんらしいよ……
……ヤグチにとっては」
小さな声だったが中澤にははっきりと聞こえた。
矢口の言葉に含まれた気持ちも。
だが、中澤が何か言おうとする前に、
矢口は明るい声で言った。
「はい、もうすぐできるから、裕ちゃんは座ってて。
ビールは飲んじゃダメだよ」
そう言うと矢口は笑顔で中澤をキッチンから追い出した。
中澤は矢口の小さな手を背中に感じながら何も言えず、
素直にキッチンを後にしたのだった。
- 334 名前:華山 投稿日:2002年10月28日(月)21時07分46秒
- 今日はここまでです。
今週は何回更新できるだろう……
>名無し子 さま
レスありがとうございます!
ドキドキしていただけましたか??
石黒さんも、もっと出せたらいいのですが、
なかなか思うように筆が進みません……
行事地獄に陥って全然ヒマがありません(T_T)
この話を考えるのが唯一の気晴らしになってます……
でも、がんばります!
>326 さま
レスありがとうございます!
そう、疲れているときほどねぇ〜〜
でも、中澤さんのイメージってそうですよね!?
>327 さま
レスありがとうございます!
ちょっと予定以上に登場人物が出てきて、
実は内心ドキドキしております(^^;
ちゃんとまとめられるか心配ですが、がんばります!
- 335 名前:名無し読者。 投稿日:2002年10月29日(火)00時18分58秒
- ちょっぴり多めの更新感謝〜♪
- 336 名前:名無しkunn 投稿日:2002年10月29日(火)10時39分30秒
- 矢口視点もよんでみたいな〜。
- 337 名前:華山 投稿日:2002年10月30日(水)11時03分09秒
- 次の日、中澤はいつも通りに仕事をこなしながら、
頭の隅で石黒に対する策を練って一日を事務所で過ごした。
だが、なかなかいい手段が思いつかず、
疲れを感じ始めた頃、平家がやってきた。
「姐さん、まだ帰らないんですか?
もう10時になりますよ」
少しぼぅっとしていたところに声をかけられたので、
中澤は一瞬ぼんやりとした視線を平家に向けた。
そしてゆっくりと壁にかけられた時計を見る。
9時40分を指していることに気付き
意外そうな表情になった。
今日は土曜でもともと事務所に人は少なかった。
だが、今日いた全員がもう帰っている。
確かに次々と自分にお疲れ様ですと
声をかけていったのは覚えていたのだが……
- 338 名前:華山 投稿日:2002年10月30日(水)11時05分18秒
- 「もうこんな時間やったんや。
気付かんかったわ」
「ええんですか?
矢口さんが夕食作って待ってはるのでは?」
平家の言葉に中澤は軽く肩をすくめた。
「いや、今日は模試で疲れてるやろうから、
ご飯は作らんでええって言ってきたから」
「そうなんですか。
じゃあ、久しぶりに飲みに行きませんか?
最近の姐さん、付き合い悪いから、
全然飲みに行ってないじゃないですか。
それに、少し気分転換してください。
一日事務所に篭って考え事してるなんて
姐さんらしくありませんからね」
「……そうか?まあ、そうかもな。
わかった、久しぶりに飲みに行くか」
中澤はそう言うと手に持ったままだった書類を
机の上に投げると立ち上がった。
疲れているときにいくら考えるフリをしていても
いい策は思いつかない。少し頭を冷やそう。
中澤はそう自分を納得させると
上着と鞄を取って事務所を出ていく。
平家は机に放り投げられた書類を
引き出しにしまってから中澤の後を追った。
- 339 名前:華山 投稿日:2002年10月30日(水)11時07分16秒
- 二人が向かったのは、
中澤がよく一人で飲みに行くバーだった。
繁華街から少し離れたところにあり、
あまり人は多くないのだが、
静かな雰囲気が中澤の気に入りだった。
スコッチにこだわりのあるマスターが一人で回しており、
カウンターには様々なスコッチが並んでいる。
普段あまりウィスキーは飲まない中澤だが、
ここに来たときはマスターが勧めてくれるものを
素直に飲んでいた。
仕事の話はまったくせず、
いろいろなことを二人で話しながら時が過ぎる。
いつしか二人はかなりの量を飲み干していた。
中澤は少し陽気になり、平家は特に変わった様子もなく
更にグラスを重ねる。
話しかけられない限り、客と関わろうとしないマスターが
さすがに心配そうな視線をちらちらと見せる。
だが、そんな視線に気付くことなく
中澤は楽しそうに飲んでいた。
- 340 名前:華山 投稿日:2002年10月30日(水)11時09分06秒
- 平家がちょっと失礼と言って化粧室に消えたとき、
ちょうど店に入ってきた客があった。
特に興味もなかったが何気なく中澤がそちらを向くと、
入ってきた客、若い女性だった、が嬉しそうな表情になる。
中澤もその女性を見て笑みを浮かべた。
「あ、裕子さん、久しぶり」
「久しぶりやな。えっと、たしか……」
「もう、忘れないで、なつみだよ」
「あ、そうやそうや。
……安倍 なつみちゃんやったね。
元気やった?」
「うん、元気だったよ。裕子さんは?」
安倍とは以前二度ほどこの店で会ったことがあった。
今年20歳になったのだが、一見するとまだ
高校生でも通じそうなかわいらしい雰囲気を持っている。
だが、そんなかわいい雰囲気の中に時折女性らしい
色気のようなものを醸し出すことがあり、
中澤の好みの中に入っていた。
- 341 名前:華山 投稿日:2002年10月30日(水)11時10分59秒
- 「元気やったよ。ほんま久しぶりやね」
「そうだよ〜
裕子さんに会えるかなって思って何度も来てるのに」
少し拗ねたような表情でそんなことを言う安倍に
中澤は思わず笑顔になる。
「すまんすまん。
なつみちゃんが来てるんやったら、
もっと来ればよかったわ。
なんか損した気分や」
「そんなこと言って。いろんな女の人に
おんなじコト言ってるんでしょ?裕子さん」
「そんなことないよ。なつみちゃんだけやって」
「ほんとに〜?」
「ほんまほんま」
「う〜ん、そこまで言うんだったら信じてあげる」
「ありがと。なつみちゃん、何飲む?」
中澤はそう言いながら平家とは逆の
自分の隣の席に安倍を座らせ、お酒に弱いらしい彼女のために
マスターに軽めのカクテルを頼んだ。
- 342 名前:華山 投稿日:2002年10月30日(水)11時15分04秒
- 平家が化粧室から帰ってきたとき、
中澤は丁度二人で乾杯をしているところだった。
嬉しそうにかわいい女の子に話しかけている中澤を見て、
平家は苦笑し、マスターに目で合図してさり気なく
自分のグラスを移動してもらい、二人と少し離れた席に座る。
平家が更に二杯ほど飲んだとき、
中澤は安倍を連れて店を出ていってしまった。
店を出る間際、平家に少し不器用なウィンクをして。
それを見て平家は再び苦笑する。
- 343 名前:華山 投稿日:2002年10月30日(水)11時16分09秒
- 「心配する必要なかったかもしれん」
少し面白くなさそうにそう呟いてから
グラスに残ったウィスキーを一気に飲み干し
自分も帰ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。
「さっきの人ってあなたのツレじゃなかったの?」
その声に平家は振り向くと、自分より少し若いくらいの
かわいい女性が立っていた。
どうやら、後ろのテーブルで一人で飲んでいたらしい。
平家が曖昧に答えるとその女性は彼女の横に座った。
平家はそれを見て何事もなかったように、
またウィスキーを頼む。
「あたしにもたまにはいいことがあるかもしれん」
平家は内心でそう呟いたが、そんなことはおくびにも出さず
中澤以上のポーカフェイスでその女性に話しかけたのだった。
- 344 名前:華山 投稿日:2002年10月30日(水)11時18分29秒
- 今日はここまでです、
なんでこんな時間に家にいるんだろう……
>335 さま
レスありがとうございます!
多めに更新した次の日にさぼってたら一緒かもしれません(^^;;
でも、懲りずにちょこっとだけ多めに更新です。
>名無しkunn さま
レスありがとうございます!
矢口視点ですか……う〜ん、ちょっと考えてみます。
- 345 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月30日(水)11時41分42秒
- なっちはスパイじゃないっすよね?
もう展開にワクワクドキドキっす。(w
- 346 名前:名無し読者。 投稿日:2002年10月30日(水)21時05分23秒
- 帰ってきたら更新してあって感激です。
ムリない程度に頑張ってください。(w
- 347 名前:華山 投稿日:2002年10月31日(木)18時54分15秒
- 一週間が過ぎた。
ここしばらく中澤は石黒について
何も言わなくなっていた。
平家は内心で首を傾げながらも
中澤の様子を黙って見守っていた。
この人が簡単に諦めるはずがない。
何か考えるところがあるのだろう。
そう思いながら、日々の業務をこなす。
そんなある日、また平家が固い表情で
中澤に報告しなくてはならない事態が起きた。
固い表情で自分の実務室に入ってきた平家を見て、
中澤は不敵な笑みを浮かべた。
- 348 名前:華山 投稿日:2002年10月31日(木)18時56分24秒
- 「またか?」
中澤の表情に平家は内心で首を傾げながら頷く。
だが、中澤はかえって嬉しそうな表情すら浮かべて
何度も小さく頷いた。
平家はますます不審に思うが、一応報告をする。
「T地区の土地です。またY商事。金額は150」
「そうか。担当は?
いや、あの4人のうち誰か入ってたか?」
「いえ、誰も」
「そうやろうな」
中澤は可笑しそうに笑う。
今度ははっきりと平家は表情を変えた。
不審そうなものに。
それを見て中澤はようやく笑いを収めた。
だが、口元にはにやりという感じの笑みが残っている。
「彩は調子に乗ってきとる。それに焦ってもな。
T地区の土地より大きなヤマを今、何個も抱えとるのに、
それには手を出さんとこれや。
とりあえずあいつが知りえた情報の中で邪魔をしよう。
それしかもう頭にないんやろ」
- 349 名前:華山 投稿日:2002年10月31日(木)18時59分42秒
- 4人をばらばらにすることで、
石黒がどう出てくるか。
中澤はそれを待っていた。
最初のA駅の土地はかなり力を入れていたから、
主な部下の全員が入札の情報を得ることができたはずだ。
その次のFビルも中澤は目をつけており、
4人も重要な部下をつけた。
その二つがさらわれたとなれば、中澤が
この4人に警戒することくらい石黒も考えていたはずだ。
しばらく様子を見てほとぼりが冷めたころ、
この4人のうち少なくとも2人くらいが重ならないと
手を出してこないかもしれない。
そうなると中澤も反撃のしようがなかった。
そこまで石黒が長期的に冷静に攻撃してくれば、
下手に小細工をしても見破られるだけだから。
中澤にとってそれが不安だった。
- 350 名前:華山 投稿日:2002年10月31日(木)19時03分21秒
- だが、石黒は更に手を出してきた。
しかも、わざわざ4人を外したヤマで。
これは石黒にとって余裕の現れだったのかもしれない。
だが、それが中澤にとって反撃の糸口を与えた。
石黒は読み切れなかった。
中澤の部下の構成までは。
中澤の部下の中でもそう大げさなものではないが、
派閥のようなものがある。
まあ、気が合う、合わない程度のものなのだが。
それは平家をトップとするものと、
もう一つは飯田をトップとするもの。
- 351 名前:華山 投稿日:2002年10月31日(木)19時04分14秒
- 中澤は4人をばらばらにした後、狙っている物件の中で、
主なものを平家のグループの方に振り分けた。
そして、飯田の方には一見すると派手な物件だが、
収益的にはそれほどでもない、そんなヤマを主にふった。
T地区の土地もかなり競争が激しかったが、
生み出す利益を考えると、それほど重要なものではなかった。
それを飯田の方のグループに担当させていた。
それに石黒は手を出してきたのだ。
飯田はもちろん、保田や石井、村田の4人ほどの立場なら
自分が担当していなくてもそれとなく自分の派閥の人間から
金額を聞くことは可能だろう。
石黒は4人の担当のヤマを外すことによって
かえって4人のうち一人がスパイだと
確信させたようなものだ。
- 352 名前:華山 投稿日:2002年10月31日(木)19時05分37秒
- 「これ以上はさせん。
ウチに喧嘩をうったらどうなるか。
彩に見せとかんとな、そろそろ」
中澤の自信に溢れた言葉と表情に
平家はようやく顔をほころばせる。
そう、この人はこうでなくてはいけない。
そんなことを思いながら、平家は言った。
「どうやるんですか?
この一週間、やけに落ち着いてはったのは、
いい策が思いついたからでしょう?」
「そうや。やっぱ、かわいい子とおったら
いい考えが浮かぶもんや」
いたずらっぽく笑いながらそんなことを言う中澤に
平家は一瞬首を傾げたが、ようやく思い至った。
一週間前、飲みに行ったときのことを。
- 353 名前:華山 投稿日:2002年10月31日(木)19時07分43秒
- そうだ、確かに中澤はかわいい子とどこかに消えた。
だけど、この人は、そのかわいい子と
甘い時間を過ごしているときに、
こんな無粋なことを考えているのか。
そう思うと平家の顔に苦笑が浮かぶ。
この人にとって女遊びは気晴らしの一つなのだということは
わかっていたはずなのに、ここまではっきり言われると
あのかわいい子に同情に似た気持ちが湧いてくる。
だが、そんなことはおくびにも出さず
平家はわざと冗談ぽく言った。
「はいはい、どうせあたしはかわいくありませんからね。
あたしとおってもいい案も浮かばないのでしょう。
それでどうやるんですか?」
「それはな……」
平家の言葉に一瞬苦笑しながらも、
中澤は嬉しそうと言ってもいい表情で語った。
このときの姐さんの顔が一番いい、
平家は心の隅でそんなことを思いながら
中澤の策に耳を傾けたのだった。
- 354 名前:華山 投稿日:2002年10月31日(木)19時09分01秒
- 今日はここまでです。
ようやく、結婚式に着て行く服が決まった……
>345 さま
レスありがとうございます!
ちょっと番外編っぽく書いてみたので、
あんまり本編には関係ない話でした……
ずっと前頂いたレスで、なっちゅーなんかもいいな〜
って感じで書いていただいたので、ちょっと考えてみました。
なので、安倍さんの出番、もうないかも…………
>346 さま
レスありがとうございます!
はい、ムリはせず、のんびりとがんばらせていただきます!!
- 355 名前:隠れ読者 投稿日:2002年11月01日(金)02時23分25秒
- 中澤カッコイイ!!
矢口に甘えるとこもみてみたいです。
- 356 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)13時52分28秒
- 中澤の立てた策は、至極単純なものだった。
平家はそのシンプルさに最初は苦笑したが、
今の石黒ならば、焦っている状態の彼女なら
引っかかるかもしれない。
そう考え、密かに実行にうつした。
- 357 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)13時54分16秒
- まず新たに土地を探した。
新興の住宅街の土地で一見すると大きなヤマだが、
実入りのあまり期待できない土地を。
その動きを中澤はあえて隠さなかった。
何度も河内組に、中澤に出し抜かれたことのある
他の組の目に止まるように。
当然、他の組は報復とばかりその土地に食指を伸ばし始め、
水面下での動きが活発になった。
そうなるとこのヤマがかなり重要なものであると中澤の部下も、
そして石黒も認識するようになる。
そこまで準備をしておいて中澤はあえて
飯田、保田、石井、村田を含めて飯田のグループの
主だったメンバーと平家を集めてその土地の担当に当てた。
そして、それからが中澤の立てたシンプルな作戦だった。
平家は競売が二日後に迫った頃、
他の3人にまったく気付かれないように
さり気なく4人がそれぞれ一人になったところを捕まえた。
「どうも、最近情報が洩れてる。
姐さんの指示であんたにだけ
本当の入札額を言っておくわ」
と前置きして4人それぞれ違う金額を告げたのだ。
もちろん、石黒に洩れるのを期待して。
- 358 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)13時56分01秒
- 入札の最終日。
競売に参加した中には他の組とともに
当然のようにY商事の名もあった。
だが、競売が終わったとき、
落札に成功したのは河内組でもY商事でも、
また他の組でもなく、S商社という小さな商社だった。
その結果は中澤の部下たちにも、
もちろん石黒にも動揺を与えた。
だが、中澤は平家からその結果を聞き
満足そうに頷いたのだった。
- 359 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)13時59分12秒
- だが、心の奥で苦い想いもある。
石黒はこの土地が派手だが収益に乏しい、
言ってしまえば役に立たない土地であると
見抜くことができなかった。
石黒は決して無能な人間ではない。
実績もあげている。
だが、一つのことに、今回は中澤を追い落とすということに
集中してしまうと、他が見えなくなるところがある。
冷静に考えれば罠だと見抜くことができたはずなのに。
そう思うと中澤は心の中に複雑な思いが
湧きあがってくるのを感じるのだ。
中澤は河内組を継ぐつもりなどない。
自分が後継者にならなかったら、
その座には年齢や実績からいって石黒が座るだろう。
なのに、石黒にはこんな弱点がある。
- 360 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)13時59分43秒
- 彼女が継いだとき、河内組はどうなるのか。
どうでもいいことのはずなのにそんなことを思ってしまう。
そして父正造はどんな気持ちなのだろうか。
後継者のことで悩み続けている父を思うと
中澤の心は晴れない。
決して許したくない、
好意のカケラももてない父のはずなのに。
中澤は自分で自分の心が、感情の動きがわからなかった。
つまらない感傷だ。
そう切り捨ててしまうには強すぎる思い。
だが、なんとかそんなもやもやした感情を
心の奥深くにしまいこみ、中澤は普段の口調で訊いた。
- 361 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)14時00分54秒
- 「で、誰かわかったか?」
4人に違う金額を告げたのは
Y商事が提示した入札額と比べることによって、
誰から情報が洩れたかを知るためだ。
落札した社の金額は比較的簡単に入手できるが、
他の競売相手の入札額は公表されない。
だが、平家はやすやすとその情報を手に入れていた。
ハッキングに関して彼女ができないことはない。
その日のうちに平家はY商事の入札額を掴んでいた。
そして、その金額から平家は
情報を漏らしただろう人間を割り出した。
だが、それは彼女にとって意外な結果だった。
- 362 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)14時02分51秒
- 「保田圭です」
平家の言った名前に中澤もまた
意外そうな表情になった。
「圭がか?」
否定を期待する声だった。
だが、平家は無言で頷く。
中澤は眉間を寄せ腕を組んだまま
しばらく身じろぎもしなかった。
中澤はスパイを割り出した後、
それを石黒に突き出すのではなく
Wスパイとして使おうと考えていたのだ。
スパイの動かない証拠をつきつけ、
飴と鞭の両面から再び懐柔し、
逆にあちらの情報を密告させる。
そのためにはった罠だった。
- 363 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)14時04分25秒
- だが、保田だとはほとんど考えていなかった。
一応可能性はあると思っていたが、
まさかという思いが強い。
保田は真面目すぎる人間だ。
正義感が強いと言ってもいい。
裏切るという行為を許せない、
そんな風に考える人間だ。
その彼女がどうして。
中澤はしばらく考え込んでいたが、
やがて顔を上げた。
そして小さく溜息をついた後、
感情を感じさせない声で言った。
「圭を呼んでくれ」
「わかりました」
平家もまた感情を乗せない声で応えた。
- 364 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)14時06分27秒
- 平家が出ていくと中澤は眉間を指で押さえながら
大きく息を吐き出した。
保田がスパイだとしたら、
Wスパイとして使うのは無理だろう。
性格的に絶対にできない。
せっかくはった罠だったが、ムダだったか。
処分をどうすればいい。
いや、どうして保田は裏切った。
何か理由があるはずだ。
金や地位ではないだろう。
そんなもので動く人間を何年も見極められないほど
自分の目や平家の観察眼はまだ腐ってはいないはずだ。
別にそういう人間を全て排除するという
潔癖さなどもちろんない。
そういう人間は人間で役に立つことがあるから。
裏切られないように気をつけながら、うまく利用する。
だが、保田はそんなことを考えたこともなかった。
何があったのか。
保田と石黒の間に何があるのか。
中澤は保田が来るまでの短い間、
身じろぎもせずじっと考え込んでいた。
- 365 名前:華山 投稿日:2002年11月01日(金)14時09分55秒
- 今日はここまでです。
明日は、学祭、そして結婚式、スピーチ、二次会…三次……
そして、明後日はまた学祭……
週末は更新できないと思います。すいませんm(__)m
というか、絶対死ぬ…………
>隠れ読者 さま
レスありがとうございます!
やぐちゅ〜シーン、もう少しお待ちください!
作者も早くやぐちゅ〜シーンを書きたくてうずうずしてます(^^;
- 366 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)01時36分56秒
- 圭ちゃん〜!!何があったのだ?
来週の更新をこころまちにしています。(w
- 367 名前:華山 投稿日:2002年11月05日(火)22時07分40秒
- 「お呼びでしょうか、所長」
中澤の執務室に入った保田は
普段通りの口調でそう言った。
だが、中澤は椅子に座ったまま彼女の方も向かず、
一枚の書類を机の上に投げた。
保田は固い表情でその書類を手に取る。
それはY商事の入札額の書かれた報告書だった。
保田の表情がこわばる。
これを見せた中澤の意図がわかったから。
だが、なんとか平静を保ちながら書類を机に戻す。
その音を聞いて中澤はようやく保田の方を向いた。
「なんでや」
中澤の言葉は短い。
保田はすぐに答えられなかった。
部屋を沈黙が支配した。
- 368 名前:華山 投稿日:2002年11月05日(火)22時09分33秒
- 中澤は再び訊いた。
「なんでや。
ウチの言いたいことはわかっとるな」
「……はい」
保田はようやく口を開いた。
なんとか平静を保とうとしているが、その顔は青い。
「何があったんや?
彩とあんたになんの繋がりがあったんや?」
「……石黒さんとは何の繋がりもありません」
「じゃあ、なんでや?
あんたが金で動くとは思わん。
何か弱みでも掴まれたんか?
あんたにそんなものがあったんか?」
中澤の表情は厳しくはあったが、
糾弾するような険しさはない。
保田はきつく目を閉じしばらく黙っていたが、
やがて諦めたように目を開け、
まっすぐに中澤の顔を見た。
- 369 名前:華山 投稿日:2002年11月05日(火)22時11分08秒
- 「脅迫をされました」
「ネタは?」
「……恋人です」
「は?」
ためらいながら答える保田に、
中澤は一瞬呆気にとられたような表情になる。
だが、保田は真剣な表情のままだった。
「なんで、あんたの恋人が彩と関わりがあるんや」
「石黒さんの管轄の店で働いています」
保田の言葉に中澤は一瞬首を傾げる。
石黒は合法の風俗関係の店の一部を統括している。
おそらく石黒の傘下の店というなら、
そこで働いている人間だろう。
そこまではわかる。
だが、保田のように物堅い性格の人間と
風俗関係の店というのがどうしても結びつかない。
だが、そこを追求するのは今の目的ではない。
- 370 名前:華山 投稿日:2002年11月05日(火)22時13分06秒
- 「人質か?」
「いえ……私の恋人が河内組と、石黒さんと関わりがあり、
店の常連でもあった会社の会長の目に止まったんです」
中澤は思わずまじまじと保田の顔を見つめた。
店で働いている人間と聞いて、中澤は
ホストの誰かだろうと単純に考えていた。
男が自分の女の脅迫のネタになるなんて情けない、
そこまで内心で思っていた。
だが、どうやら違うようだ。
「女か」
「……はい」
「なるほどな。
女を会長の愛人にさせたくなかったら自分に協力しろ。
そう脅されたんやな」
中澤の言葉に保田は無言で頷いた。
- 371 名前:華山 投稿日:2002年11月05日(火)22時14分37秒
- 椅子を回転させ、中澤は保田に背を向けた。
目の前で手を組みしばらく考え込む。
色恋沙汰をビジネスの世界に持ち込むということを
中澤は嫌っていた。
恋愛と仕事を完全に切り離せる、
そういう人間だったから。
今までだったら怒鳴りつけ、
軽蔑すらしたかもしれない。
だが、今、中澤は保田を
怒鳴りつけることができなかった。
もし、矢口が同じ立場になったら。
いや、実際矢口はそういう立場になりかけた。
あのとき、自分には金と力があったから、
保田と同じ立場にならずにすんだ。
だが、何の力もなかったら、自分は矢口を手に入れるため
手段を選ばなかったかもしれない。
中澤は大きな溜息をついた。
そして、保田に背を向けたまま言った。
- 372 名前:華山 投稿日:2002年11月05日(火)22時15分58秒
- 「愛しとるんか?」
「はい」
「守ってやりたいんか?」
「はい」
保田の声に迷いはなかった。
中澤はその声を聞いて再び保田の方を向いた。
その顔には厳しさはなかった。
だが、真剣なまっすぐな目を保田に向ける。
保田はその視線に一瞬すくむようなそんな迫力を感じた。
「なら、さっさと彩から取り返せ。
そこまで言ったんや、守ってやり」
「……所長?」
「一回だけや。その恋人に免じて目をつむっとく。
だけど、次はない。ええな」
中澤はそれだけを言うと、
更に何か言いかけた保田を強制的に退室させた。
- 373 名前:華山 投稿日:2002年11月05日(火)22時18分03秒
- 今日はここまでです。
いや〜展開早いなぁ〜(苦笑)
>366 さま
レスありがとうございます!
お待たせしました!
保田さん、さてこれからどうなるのでしょうか?
これからもよろしくお願いします。
- 374 名前:読者 投稿日:2002年11月06日(水)13時31分00秒
- 保田にはそういう理由が・・・
裕ちゃんかっけー!!!
- 375 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月07日(木)22時20分06秒
- つづきが読みたくて死にそうです(w
助けてください。
保田の相手は誰だろう(w
なんとなく・・・(w
- 376 名前:華山 投稿日:2002年11月08日(金)21時17分56秒
- 「ウチも甘くなったもんや……」
中澤は自嘲気味に呟く。
だが、自分には保田を切り捨てることができなかった。
それは自分を否定することになる。そう感じたから。
間違った処置だったかもしれない。
だが、もし、ヤグチがこの場にいたら、
自分の判断を支持してくれただろう。
何の根拠もないが中澤はそう思った。
「ようやく、ゆっくりとヤグチと会えるな。
今日は早く帰るか……」
中澤がそう呟いたとき、保田に代わって平家が入ってきた。
「保田を切らないんですか?」
平家の言葉に中澤は頷く。
平家は不審そうな視線を彼女に向けた。
だが、中澤は小さく笑って言った。
- 377 名前:華山 投稿日:2002年11月08日(金)21時19分15秒
- 「圭は役に立つ。
それに、彩に対する牽制にもなるしな」
平家は不審そうな視線を消さなかった。
中澤が嘘をついているとは思わないが、
全てを話しているわけではないと思ったから。
だが、中澤はそれ以上話そうとはしなかった。
それを見て平家はあっさりと諦めた。
自分に話すべきことならいずれ話してくれるだろう。
そうでないなら自分は聞く必要のないことなのだ。
そう自分を納得させたのだ。
そんな平家の内心を知ってか知らずか、
中澤は不意に思い出したように言った。
「そうや。なるべく早いうちに
S商社から組の方へあの土地を移しといて。
あんまり長く、組の外に置いておくわけにいかんし」
- 378 名前:華山 投稿日:2002年11月08日(金)21時22分01秒
- S商社は、石黒にとってのY商事と同じようなもの、
中澤の傘下の会社なのだ。
不動産取引ではほとんど使ったことのない駒で、
普段は平家が管理している。
おそらくS商社と中澤の関係を知る者は
平家とS商社の数人の幹部くらいだろう。
もちろん、石黒も知らないはずだ。
中澤が自分で落札せず、S商社を使ったのは
スパイを探り当てたことを石黒に知らせないための手段だった。
嘘の情報を流した上で、中澤自身が土地を落札したなら、
石黒は嘘の情報をつかまされたとわかり、
スパイがばれたと気付かせることになる。
Wスパイとして使おうと考えていたのだから、
気付かせてはならない。
だから、あえて関係の無さそうなところを
使って落札させたのだ。
そこまで考えて罠をはったのだが、
結局保田をWスパイには使えそうにない。
石黒と深い関わりがある人間ならともかく、
保田はただ脅迫されて動いていただけなのだから。
- 379 名前:華山 投稿日:2002年11月08日(金)21時23分28秒
- 「ま、今回はここまでやろ。
圭はもう二度と裏切らんし、
もう彩も手を出してこれんやろう。
これで満足しとくわ。今回は」
中澤の言葉に平家は薄く笑って頷いた。
中澤にしては少々詰めが甘い気もするが、
最後の最後で石黒を阻止できたのだからいいだろう。
中澤の声に後悔や口惜しさがない。
中澤が満足しているなら自分が口出しすることはない。
平家はそう判断した。
「わかりました。
では、早めに処理しておきます」
平家はそう言うと一礼して退室しようとした。
だが、それを中澤が止める。
- 380 名前:華山 投稿日:2002年11月08日(金)21時25分01秒
- 「ウチ、もう帰るわ。車回しといて」
「もう帰るんですか?」
「ああ、ようやく一段落ついたしな。
久しぶりにゆっくりヤグチの顔が見たいから」
「わかりました」
中澤の言葉は平家にとって意外なものだった。
中澤が恋人に会いたいなんて言うのを
聞くのは初めてだった。
今まで中澤は事務所で
女の話をしたことすらなかったのだ。
矢口という存在は中澤を変えたのだ。
それが中澤にとって、事務所にとって、いや組にとって
いいことなのかどうか、平家には判断できなかった。
- 381 名前:華山 投稿日:2002年11月08日(金)21時26分39秒
- 今日はここまでです。
次回、ようやくやぐちゅー……
>読者 さま
レスありがとうございます!
中澤さん、かっけーですか??良かった〜(^^)
かっこいい中澤さんを書こうと、いつも足掻いております(^^;
これからもよろしくお願いします。
>375 さま
レスありがとうございます!
すいません、お待たせしましたm(__)m
保田さんのお相手は……次の編で明らかになります。
さてさて……
これからもよろしくお願いします。
- 382 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月10日(日)23時00分05秒
- やぐちゅー待ってます
- 383 名前:華山 投稿日:2002年11月11日(月)00時05分50秒
- 中澤が家に帰ってきたとき、
矢口は勉強に集中していて気付かなかった。
中澤は自分の部屋に入ろうとはせず、
矢口の部屋の前に立つ。
勉強中だろうか。
もしかしたら休んでいるかもしれない。
そんなことを思い一瞬躊躇うが、
ゆっくりとノックをする。
やや遅れてドアが内側から開いた。
矢口は中澤の姿を見て少し驚く。
「おかえり、裕ちゃん。早かったんだね」
「ああ、たまにはな。
ヤグチ、何してたん?」
「ん〜勉強してたよ」
矢口はそう言うと中澤を部屋の中に招き入れた。
- 384 名前:華山 投稿日:2002年11月11日(月)00時07分31秒
- 中澤が矢口の部屋に入ることはほとんどなかった。
若い女性らしい明るい部屋。
ところどころ矢口が好きな
プーさんのぬいぐるみが並んでいる。
ふと机を見ると参考書とノートが開いていた。
「すまん。邪魔やったな」
「ううん。そろそろご飯作ろうと思ってたところだから」
「そうか」
中澤はそう言いながら所在なさげに立っていたが、
矢口はベッドにでも座ってと言って
自分は椅子に座り参考書を片付け始める。
中澤は言われたままベッドに座り
そんな矢口をぼんやりと見ていた。
「あ、ごめん。すぐご飯作るね」
不意に思いついたように矢口はそう言って
椅子から立ち上がった。
だが、中澤はそれを止める。
- 385 名前:華山 投稿日:2002年11月11日(月)00時08分58秒
- 「ええよ、まだ。
それより、久しぶりやな」
中澤はそう言いながら
自分の横に来るよう手招きをする。
矢口は嬉しそうに中澤の横に座った。
「最近、あんまり会えなかったな。
寂しくなかったか?」
矢口の肩あたりまで伸びた髪を
撫でながら中澤は言った。
矢口は中澤の手の優しさを感じながら
小さく首を横に振る。
「そうか……」
「……あ、そう、それより、どうしたの、今日?
こんなに早いなんて」
いつもと違う中澤の様子に少し戸惑いながらも、
矢口はいつもと変わらない笑顔と、明るい口調で言った。
中澤はそんな矢口の笑顔に口元をほころばせる。
- 386 名前:華山 投稿日:2002年11月11日(月)00時10分06秒
- 「仕事がな、ちょっと最近忙しかったんやけど、
ようやく解決したから。
だから、明日からはなるべく早く帰ってこれると思う。
あんまり、ヤグチに寂しい想いさせたくないしな……」
「裕ちゃん……」
「いや、もしかしたら、ウチの方かもしれんけどな。
ヤグチに会えんで寂しい想いしとるのは」
中澤の少し弱気な言葉に
矢口は慌てて首を横に振った。
そして、中澤の手を取りながら言った。
- 387 名前:華山 投稿日:2002年11月11日(月)00時11分30秒
- 「そんなことない。
そんなことないよ、裕ちゃん」
「ヤグチ?」
「ヤグチも寂しかった。
寂しかったよ、裕ちゃんに会えなくて」
「すまん」
中澤はそう言うと、矢口の小さな体を抱きしめた。
「裕ちゃん、裕ちゃん……」
矢口の小さな声に、
中澤は彼女を更に強く抱きしめる。
「好きや。好きやで、ヤグチ」
不意に矢口が顔を上げる。
少し赤くなったその瞳を見たとき、
中澤は視線を逸らせなかった。
ゆっくりと2人は唇を重ねた。
- 388 名前:華山 投稿日:2002年11月11日(月)00時12分35秒
- 今日はここまでです。
昨日は一日ドライブしたので、疲れた……
>382 さま
レスありがとうございます!
すいません、お待たせしましたm(__)m
やぐちゅーシーン、いかがでしたでしょう??
これからもよろしくお願いします。
次回、少し間が空くかもしれません。
なるべく早く書きますので、お待ちくださいm(__)m
- 389 名前:名無し子 投稿日:2002年11月12日(火)00時25分56秒
- やぐちゅ〜♪待ってました!(笑)
あっちこっちが気になりつつ、やぐちゅーになると
やっぱり安心します(笑)
続きも楽しみにしてます、頑張ってくださいね〜ボチボチと(笑)
- 390 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月16日(土)20時12分34秒
- 続き楽しみに待ってます
- 391 名前:うっぱ 投稿日:2002年11月18日(月)05時52分53秒
- なんだかいい感じになりそうな予感が…。
それでいてなんかホッとするこのお二人の掛け合い。
続き、期待してますよ〜。
- 392 名前:華山 投稿日:2002年11月18日(月)07時49分54秒
- 最初は触れるだけのキスだった。
だが、少しずつ深いものへと変わっていく。
キスの合間に洩れる矢口の吐息に
中澤は体の奥が熱くなる、そんな錯覚を覚えた。
封印したはずの熱い想いが溢れそうになる。
どちらからともなく唇が離れた。
焦点の合っていないぼんやりとした感じで
矢口は中澤を見上げた。
中澤はその視線を受けとめたとき
自分の中で何かが崩れるのを感じた。
また矢口を強く抱きしめる。
- 393 名前:華山 投稿日:2002年11月18日(月)07時52分30秒
- 「好きや」
自分の声が掠れていることに中澤は戸惑う。
もっとスマートに言いたい。
そう思うのにうまく頭が働かない。
だが、矢口は中澤の腕の中で小さく、
だがはっきりと頷いた。
そんなかわいい反応に中澤は
自分が追い詰められるような、そんな緊張を覚える。
「……ヤグチ」
中澤の声に矢口は顔を上げて
中澤の顔をまっすぐに見つめる。
中澤は軽く触れるだけのキスを落とした。
そして、まっすぐに矢口の目を見つめながら口を開いた。
「ヤグチ……ええか?」
中澤の声は完全に掠れていた。
矢口は真剣な中澤の視線をまっすぐ受け止めていたが、
すぐに俯いてしまった。
そのまま中澤の胸に自分の顔を押し付ける。
中澤の言葉が何を意味しているのかわかる。
そして、それを自分が望んでいることも。
- 394 名前:華山 投稿日:2002年11月18日(月)07時54分08秒
- 耳まで赤くして俯いたままの矢口に、
中澤は自分の言葉を後悔する。
だが、自分の本心だった。
もちろん矢口が嫌がるなら
この想いはまた封印するつもりだ。
ただ少し、いやかなり辛いだろうが。
「ヤグチ?」
中澤の声に矢口はまだ顔を上げなかった。
だが、不意に顔を上げる。
中澤がその表情を確かめる間もなく、
矢口は中澤の首に両腕を回し自分から彼女にキスをした。
中澤は不意のことでとっさに反応できなかった。
- 395 名前:華山 投稿日:2002年11月18日(月)07時55分37秒
- 一瞬だけ触れ合った唇が離れ、
矢口は中澤を強く抱きしめ返しながら言った。
「好き。裕ちゃんが好き」
「ヤグチ」
「……うん」
小さな声。だが、中澤の理性を崩すには充分だった。
中澤は矢口を優しく抱きしめると何度もキスを交わす。
そしてそのままゆっくりと彼女の体をベッドに押し倒した。
少し固くなっている矢口の緊張をほぐすように
中澤はあくまで優しく抱きしめ、触れるだけのキスを落とす。
だが、自分でも余裕がなくなっているのを感じる。
中澤は暴走しそうになる感情を抑えながら矢口の耳元で囁いた。
- 396 名前:華山 投稿日:2002年11月18日(月)07時57分22秒
- 「好きや、ヤグチ。
ヤグチ……好きや……」
中澤の言葉に矢口はぎゅっと彼女に抱きつく。
「裕ちゃん、裕ちゃん……」
自分の名を呼ぶ矢口の声を、
中澤は体に直接感じた気がした。
もう限界や。
心の中でそう呟くと中澤は強く彼女の体を抱きしめ
深く激しいキスを交わす。
そして、もう一度好きやと囁きながら、
矢口の首筋に唇を落としていった。
- 397 名前:華山 投稿日:2002年11月18日(月)07時59分32秒
- 今日はここまでです。
朝っぱらから、何を書いてるんだろう……
次でこの編は終わりです。
すいません、風邪をひいてしまいました。
また、次も時間が空いてしまうかもしれません。
>名無し子 さま
レスありがとうございます!
やっぱりやぐちゅーですよね(^^)
ぼちぼちと……はい!がんばります!!
>390 さま
レスありがとうございます!
すいません!お待たせいたしましたm(__)m
>うっぱ さま
レスありがとうございます!
ようやく、なんかちゃんといい感じになってきた二人です。
このままいってくれると思うのですが……(^^;
- 398 名前:華山 投稿日:2002年11月21日(木)08時07分23秒
- 夜中、中澤はふと目を覚ました。
ぼ〜とした頭で回りを見回し、
自分の部屋でないことに気付く。
近くに置かれた時計が、二時を指しているのを見て、
そろそろ帰るか、ぼんやりとそんなことを思い、
起き上がろうとした。
だが、自分の腕を掴んでいる存在に気付き、
ようやく横に寝ている女の子に視線をやった。
こんなかたちでは初めて見る女の子。
中澤はやっと昨日の晩のことを思い出し、苦笑する。
- 399 名前:華山 投稿日:2002年11月21日(木)08時08分50秒
- 「そうやった、ヤグチの部屋やな、ここ」
確か、昨日は早く帰ってきたから、
かなり寝ていたことになる。
こんなに長く女の横で寝たのは初めてかもしれない。
中澤はそんなことを思いながら矢口の髪を撫でた。
少しだけ眉を寄せたが起きる様子はない。
しばらく髪を撫でながら矢口を見つめていた中澤は、
自分の部屋に戻るか少し悩んだ。
決して女の部屋に泊まらない。それが中澤の信条だった。
だが、同じ家に住んでいる、というか、
自分の家に住んでいる少女だ。
どうしたものかと思いながら
矢口が掴んでいる自分の右腕を少し引いた。
だが、矢口はしっかりと掴んで離してくれそうにない。
- 400 名前:華山 投稿日:2002年11月21日(木)08時10分30秒
- 「まあ、ええか」
苦笑しながらそう呟くと、中澤はもう一度横になる。
もう少し寝るか。そう思うが、目が覚めてしまい
眠気が戻ってきてくれない。
しゃあないな、そう内心で呟いてから
中澤は体の向きを変え矢口の方を向いた。
手を出さないなどとカッコつけてきたのに、
結局自分を抑えることができなかった。
だけど、自分でも呆れることに全く後悔の想いがない。
自分が好き者ということは否定できないだろうが、
それ以上に、平家などが聞いたら失笑するだろうが、
純粋に矢口が好きだから。
本当に大切に思っているから。
それを伝えるのにこんな方法しかない自分に呆れるが、
それでもそれが自分の愛し方なのだ。
- 401 名前:華山 投稿日:2002年11月21日(木)08時11分56秒
- 「好きやで、ヤグチ」
中澤がそう囁いた瞬間、矢口がゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとという感じで矢口は
少し驚いている中澤を見ていたが、
寝惚けているのか不意に彼女に抱きついた。
中澤は内心で首を傾げながらも優しく矢口を抱きしめた。
「どうした?」
「裕ちゃんだ……」
寝惚けた声に中澤は思わず笑顔になる。
「そうやで」
中澤の言葉に矢口は摺り寄せるように
頬を中澤の胸に押し付ける。
そんな矢口に中澤は優しくまた訊いた。
- 402 名前:華山 投稿日:2002年11月21日(木)08時13分43秒
- 「どうしたんや?」
「裕ちゃん……」
「ん?」
「裕ちゃん、ずっとヤグチの側にいてね」
「ああ。ずっとヤグチの側におるよ」
「……ずっとだよ」
「うん」
中澤の頷きに安心したのか矢口はまた目を閉じた。
すぐに規則正しい寝息が聞こえる。
中澤はそれを確かめてからそっと矢口の髪にキスを落とした。
側にいて欲しい。ずっと自分の側にいて欲しい。
そう思っているのは自分の方なのに。
「ウチの側にいてな、な、ヤグチ」
そう囁いた後、ぼんやりと矢口の温かさを感じていたら
不意に眠気が戻ってきた。
好きな子と一緒に過ごす朝ってどんなもんなんやろう。
意味もなくそんなことを思いながら中澤はゆっくりと目を閉じた。
- 403 名前:華山 投稿日:2002年11月21日(木)08時15分56秒
- 石黒は誰もいない事務所で一枚の報告書を読んでいた。
くしゃりという音とともに、
報告書が彼女の手の中で潰される。
「やってくれましたね、お姉さん」
それはS商社と中澤の繋がりを証明する報告書だった。
石黒の目は冷静だった。
だが、その光には鋭さが宿っている。
中澤を貶めようと計った罠。
あと少しでうまくいくはずだった罠。
急ぎ過ぎたか、そんな後悔がよぎるが
石黒は一瞬でその想いを打ち消した。
「正攻法でダメなら、別の方法を使うだけ」
石黒はそう呟くと紙くずとなった報告書を投げ捨て、
デスクの引き出しから一枚の写真を取り出す。
「これがある限り、あの人は
私の想い通りに動いてくれるのですよ、お姉さん」
石黒は薄く笑いながらそう呟くと、
愛しそうに写真に口付けをしたのだった。
- 404 名前:華山 投稿日:2002年11月21日(木)08時22分50秒
- これで第二編は終わりです。
三編はまだまったく書いておりません……
えっと、只今悩んでおります。
このスレ、そろそろ限界ですよね。
でも、新スレを立てるのも、なんか悪いような気もするし……
新スレ立てても、三篇はそんなに長くならないので、かなり余るし。
もう少し考えてみます。。。どうしよう……
- 405 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月21日(木)08時34分40秒
- またまた・・・嵐の前の静けさってかんじですね。(w
新スレ立てましょう〜(w
短編板だったらいいんじゃないですか?
三編で終了予定なんですか?
- 406 名前:読者 投稿日:2002年11月27日(水)11時17分39秒
- 三篇楽しみです。
新スレ立てましょう(W
- 407 名前:華山 投稿日:2002年11月29日(金)19時39分20秒
――――――
ある日曜の昼、中澤は部屋で一人本を読んでいた。
今日は矢口は模試のない日なのだが、
勉強をすると言って、昼食の後部屋に戻っていった。
中澤も別にそれを邪魔する気もなく、
のんびりと時間を過ごしていた。
3時頃、喉の渇きを覚えた彼女は
コーヒーでも淹れようと部屋を出た。
中澤の部屋からキッチンの途中に矢口の部屋はある。
ふと見ると矢口の部屋のドアが開いていた。
なんとなく中澤が中を覗くと、矢口は机に座っていたが、
参考書ではなく一本の香水を眺めていた。
- 408 名前:華山 投稿日:2002年11月29日(金)19時40分29秒
- 「何してるんや?矢口」
不意に声をかけられ、矢口は少し驚いたように
中澤の方を振り返った。手には香水を持ったまま。
「あ、裕ちゃん。どうしたの?」
質問に質問に応えられ、中澤は苦笑を浮かべる。
「コーヒーでも飲もうと思ってな」
「それだったら、淹れるよ」
「いや、ええよ。それより、それ何?」
中澤はそう言ながら部屋の中に入っていき、
椅子の後ろに立つと、矢口の持つ香水を指した。
一瞬矢口は香水に固い視線を落としたが、
すぐに中澤の方に向き直る。
- 409 名前:華山 投稿日:2002年11月29日(金)19時41分55秒
- 「……お母さんの」
「ん?」
「お母さんが使ってた香水」
矢口の声にいつものような明るさが欠けているように感じたが、
中澤はあえて普段通りの口調を保つ。
「そうなんや」
そう言うと中澤は矢口の手から香水を取ると、
矢口の細い手首に軽く吹きかけた。
そしてすっと自分の顔に近づける。
自分の顔のすぐ横に中澤の表情を感じ、
矢口は一瞬ドキッとしたが、
中澤はそれに気付かないふりをして香りを感じた。
甘い中に少し酸味に近い感じがあり柑橘系に近かったが、
それだけではない深さがあった。
「いい香りやな」
中澤はそう言うと矢口の手を離した。
- 410 名前:華山 投稿日:2002年11月29日(金)19時44分38秒
- 短いですが、今日はここまでです。
すいません、時間が空いてしまいましたm(__)m
とりあえずこのスレを限界まで使ってから、
新スレの方は考えさせていただきます。
>405 さま
レスありがとうございます!
嵐……さて、どんな嵐になるのでしょうか。
ここは限界まで使って、新スレ考えさせていただきます
もし、そのスレが余ったら、また新しい話を考えるつもりです。
これからもよろしくお願いします。
>読者 さま
レスありがとうございます。
三編、かなり遅い更新になってしまうかもしれませんが、
がんばって書きます。
よろしくお願いします。
- 411 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月30日(土)15時11分28秒
- 更新だー!!
ご自分のペースで頑張って下さい。
楽しみに待てます。
- 412 名前:読者 投稿日:2002年12月03日(火)00時52分40秒
- のんびり待ってます(w
- 413 名前:華山 投稿日:2002年12月03日(火)16時45分01秒
- 中澤が手を離したとき矢口は
一瞬寂しげな表情になったが、
ゆっくりと香水のついた手首を自分の顔に近づける。
嫌いだった香り。
だが、今は嫌だとは思えなかった。
それどころかいい香りだと感じた。
どうしてだろう。
そう首を傾げていると中澤が
後ろから自分を抱きしめてくれた。
「お母さん、いい恋してたんやな」
「え?」
「この香りが似合うのは、
ホンマに人を好きになった人だけや。
お母さん、ホンマに好きな人がおったんやろ」
- 414 名前:華山 投稿日:2002年12月03日(火)16時46分18秒
- 「……」
矢口は何もいえなかった。
否定したかった。
嫌いだったから。この香水も生き方も。
だけど、あの人は確かに幸せそうだった。
端から見れば都合のいい女にしか見えないのに、
あの人自身は幸せそうに男のことを語っていた。
そのときの彼女はとても綺麗だった。
今ならそう思える。
「ヤグチに合っとるで。いい香りや」
中澤はそう言うとまた矢口の手首を取り、
顔を近づけた。
矢口はまた心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
- 415 名前:華山 投稿日:2002年12月03日(火)16時49分01秒
- 「……ヤグチに、合ってる?」
微かに声が掠れた。
中澤はそれを感じ、少し笑った。
「ヤグチも恋をしとるんやろ?」
少しおどけたように言おうとしたけど、失敗したな、
中澤はそう感じた。
あの時、初めて矢口に会ったときなら
この香りは似合わなかっただろう。
だが、今の矢口には合っている。
それどころか、急に大人びたように感じる。
そして、それは簡単に自分の心に
波を立たせてくるようなもので。
やばいかもしれん、そう感じたとき矢口が言った。
「うん。裕ちゃんが好きだから……」
自分の顔を見ながらそんなことを言ってくれる彼女に
中澤は心の中で小さな溜息をついた。
邪魔はしないつもりやったのに、
そんなことを心の中だけで呟くと矢口にキスを落とした。
最初は軽いものだった。
だが、甘い香りに誘われるように
それは深いものに変わっていった。
- 416 名前:華山 投稿日:2002年12月03日(火)16時50分47秒
- 今日はここまでです。
禁煙始めてから、集中力が続かない……
>411 さま
レスありがとうございます!
無茶苦茶遅い更新ですが、
どうかどうかのんびりお待ちくださいm(__)m
>読者 さま
レスありがとうございます!
すいません、ほんとうにお待たせしておりますm(__)m
でも、がんばります!
- 417 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年12月08日(日)18時14分38秒
- 今更だけどやぐちゅー発見!!
なんか凄くいい感じの作品ですね。
今後の展開も期待してます。
- 418 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月13日(金)16時32分27秒
- マッタリ待ってます。
- 419 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月14日(土)12時37分17秒
- そろそろ更新して欲しいな〜(w
- 420 名前:華山 投稿日:2002年12月17日(火)20時03分27秒
- 11月も終わりに近付き、急激に寒さが増してきた頃、
中澤は土地売却の契約相手とともに、
その土地の視察のため木村だけを連れて外出していた。
相手は土地が気に入ったらしく、順調に話が進み、
その場で仮契約の日時まで決めて中澤はその人と別れた。
時間を見るとすでに6時すぎだった。
時間によってはそのまま事務所に戻らずに帰るとは、
平家に言ってあったが、どうにも中途半端な時間だ。
一旦事務所に帰るか、それともこのまま家に帰るか。
そんなことを考えていたら、木村が話しかけてきた。
- 421 名前:華山 投稿日:2002年12月17日(火)20時04分20秒
- 「姐さん、今日はあの店には寄らないんですか?」
「あの店?」
中澤は一瞬何のことかわからず訝しげな表情を返す。
その表情を見て木村は説明を足した。
「あの、菓子屋。ケーキ屋ですよ。
この近くに来たらいつも買って帰るじゃないですか」
そこまで聞いてようやくいつも矢口にケーキを買って帰る
有名なケーキ屋のことを思い出した。
そうだ、石黒とのゴタゴタで最近買っていなかった。
久しぶりに買って帰るか。
それで、そのまま帰ろう。
中澤はそう決め、木村に車を回すように言った。
- 422 名前:華山 投稿日:2002年12月17日(火)20時05分22秒
- 比較的遅い時間のせいか、いつもよりは空いていたケーキ屋で
並びながら中澤はぼんやりと何を買おうか考えていた。
そのために普通の住宅街には似つかわしくない、
ナンバーを隠し、スモークシートを貼った車が
近付いてくるのに気付かなかった。
その車はケーキ屋の少し手前でスピードを落とした。
窓が少しだけ下がる。
そこから黒光りする細い銃口が覗いた。
そしてゆっくりとケーキ屋を通り過ぎようとした。
- 423 名前:華山 投稿日:2002年12月17日(火)20時06分16秒
- 今日はここまでです。
すいません、家の事情で全く書けない日々が続いております。
年内に、もう一度くらいは更新したいのですが……
本当にすいませんm(__)m
>読んでる人@ヤグヲタ さま
レスありがとうございます!
かなり遅い更新ですが、最後までがんばりますので、
まったりとお待ちくださいm(__)m
>418 さま
レスありがとうございます!
すいません!遅すぎますね(^^;
次の更新は……すいません、未定です……
>419 さま
レスありがとうございます!
短いですが、ようやく更新です。
でも、次も……すいませんm(__)m
- 424 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月18日(水)11時31分48秒
- 更新だー(w
マータリお待ちしてます。
スゴイ展開ですね。ハラハラしちゃいます。
- 425 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月29日(日)06時53分41秒
- すごい展開だぁ!楽しみ×2!!
待ってますよ〜。
- 426 名前:翼紗 投稿日:2002年12月30日(月)18時20分37秒
- えっ、まさか裕ちゃん撃たれたりしませんよね!?
これからの展開が気になります〜っっっっ!!
- 427 名前:華山 投稿日:2002年12月31日(火)19時45分19秒
- 本当にお待たせしました!m(__)m
新スレを風板に立てさせていただきました。
題はそのまま『想い U』です。
来年もよろしくお願いいたします。
>424 さま
レスありがとうございます!
すいません、本当にお待たせしてしまいましたm(__)m
>名無しさん さま
レスありがとうございます!
本当にお待たせしてしまいました!!
これからはなるべく早い更新を目指します……
>翼紗 さま
レスありがとうございます!
銃口を向けられたまま年を越してしまうのではと、
私自身焦っておりましたが、なんとか更新できました。
これからもよろしくお願いします!
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