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曇り後晴れ、ところにより雷雨

1 名前:某作者 投稿日:2002年07月11日(木)13時35分05秒
いしよしで数作か書いている者です。
あくまでいしよしです。
よろしくお願いします。
2 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月11日(木)13時36分48秒
最後の荷物を荷台に積み終えると、じわりと、額に汗が滲んだ。
空は快晴。
もうすぐ夏。
これからが、本当にキツイ季節。

「行って来まーす!」
事務所に大きな声で挨拶をする。
「行ってらっしゃい」
「気をつけてね」
口々に発せられる言葉に、笑顔で応える。

明るいキャラクター。
元気が一番の取り柄。

ヨーシ。
今日も出発。

配達は、ほとんど決まったルート。
走り慣れた道。
もう、目を閉じていても、運転できるくらいだ。
3 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月11日(木)13時38分42秒
一件目。
前が見えなくなるくらい、荷物を抱えて玄関の階段を登る。
「おはようございます!」
「そのへんに置いといて」

無愛想な事務員は、こちらの方を見ようともしない。
毎度のことだから気にもしない。
荷物を届け、そして受け取る。
それが仕事。
それ以上でも、以下でもない。

「ハンコお願いします」
事務員は面倒くさそうにシャチハタを持って立ち上がる。
「ありがとうございます」

無事完了。
さあ、次、いってみよう。
4 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月11日(木)13時39分48秒
「おはようございます!」
「待ってたよ、吉澤ちゃん」

出た…。

ちょっと頭のうすいスケベ親父。
こういうのが一番苦手。
それでも、決して、笑顔は崩さない。

「今日は3つです。ハンコお願いします」
「今日も、可愛いね」
「どーも。ハンコお願いします」
「おじさんと、デートしない?」
「また今度。ハンコお願いします」
「つれないね、おじさんのこと嫌い?」
「ハンコお願いします」
「わかった。ハンコだね」
「ありがとうございます」
5 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月11日(木)13時41分40秒
携帯が鳴り出したのは、
スケベ親父の粘着質な視線から解放され、
ホッと息をついていた時。

『3丁目の鈴木さんが、早く来いって、キレてるの』
「わかりました。じゃあ、繰り上げて、先に回ります」
『悪いけど、お願いね』
「了解!」

配達には段取りというものがある。
後になる荷物は、当然奧に積んである。
しかし、怒ったところで仕方がない。
早く来いと言われれば、早く行く。
あくまで笑顔。
それが信条。
6 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月11日(木)13時42分28秒
短気な鈴木さんをなだめすかした後、
2割増しのスピードで、配達をこなす。
午前中の予定終了まで後1件。
時計の針は、12時5分前。
まもなく世間はランチタイム。

今から行ったら、いないかのしれない…。
午後からにしよう…。

車の中。
コンビニで買ったパンを、無理矢理牛乳で流し込む。
少しシートを倒し、FMから流れるヒット曲を聴く。

もうそろそろ、次、いきますか。

なんか…。
ドキドキする。

バカみたい…。
7 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月11日(木)13時46分55秒
社屋の前に車をとめ、荷物を両手で抱える。
受付からちらっと事務所を見る。
一番手前が、あのひとのデスク。
いつもの席に、あのひとーー石川さんがいた。

よかった…。
今日も会えた…。

「毎度!」
「あ、いつもご苦労様」
石川さんはすぐに立ち上がった。
何度聞いても、腰が砕けそうになる可愛い声。
そして、こちらを見てにこっと笑う。

かわいい…。
今なら、死んでもいい…。
8 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月11日(木)13時48分02秒
「ハ、ハンコ、お願いします」
思わず声が裏返る。
笑われたかと思って、石川さんを見ると、
困ったように机の辺りを探っていた。
「あ、サインでもいいですよ」
慌てて、胸のポケットのボールペンを差し出した。
石川さんが手を伸ばす。
ほんの一瞬、手が触れた。
自分でもおかしくなるくらい、顔が熱くなるのがわかる。
「ありがとう」
石川さんは、なにも気にしていないような、いつもの笑顔。
足が震える。
「はい。ご苦労様」
「あ、ありがとうございます」
9 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月11日(木)13時49分04秒
“石川”とサインの入った伝票。
そして、石川さんの握ったボールペン。
車に戻っても、しばらく体に力が入らない。

本気でバカだ…。
まるで、中学生男子じゃん…。
小学生男子かもしれない…。

自分でも呆れている。
毎日、数秒の会話を心の支えに生きている。
しかも、相手は女の子。
でも…、
でも、好きになっちゃったんだから、仕方ない。

石川さん…。
下の名前はなんていうんだろう?
きっと、可愛い名前なんだろうな…。
もちろん、石川さんの名前だったら、
イネだろうが、タマだろうが、可愛いと思える自信はある。
10 名前:某作者 投稿日:2002年07月11日(木)13時49分49秒
初回更新です。
11 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)16時22分24秒
いいですねぇ。すごい爽やか〜な感じ
12 名前:とみこ 投稿日:2002年07月11日(木)17時55分22秒

よっすぃーが佐○急便のボーダーの制服を着ていると妄想している自分、アホ?(w

13 名前:オガマー 投稿日:2002年07月11日(木)18時38分43秒
アハハ!最後の1行いいw
更新が楽しみな作品がまた一つ増えましたw
14 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)22時30分51秒
イイ!!
オンナノコがオンナノコを好きになる葛藤が透けて見えるようで、素晴らしいです。
続き、期待してます!
15 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月12日(金)14時17分37秒
大きなトラブルもなく、午後の配達を終えたのは6時過ぎ。
日増しに高くなる太陽は、まだ相棒の車体を照らしている。
空は快晴。
気分も最高。

「だだいま戻りました!」
「お疲れさん」
事務所では、総務の中澤さんが、ひとり残って仕事をしていた。

「えらい嬉しそうやな?」
さすが、人生経験豊富な中澤さん。
いつもと同じ顔をしているつもりなのに、
浮き立った気分は、すっかり見通されている。
「そんなふうにみえますか?」
「なにがあったん?」
「なにもありませんよ」

本当のことは、言えない。
好きなひとにボールペン貸したからだなんて…。
苗字しかし知らない。
しかも女の子に…。
絶対、馬鹿にされる。
16 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月12日(金)14時19分58秒
「まあ、ここに座って、ゆっくりお茶でも飲もうや」
中澤さんは、空いている隣の椅子を引いて、
珍しいことに、自らお茶を入れてくれた。
「あ、どうも」
恐縮しながら、一口すする。

「で、彼氏でも出来たんか?」

思わず、お茶を吹き出してしまった。
霧状になった液体は、見事に中澤さんの顔を、
まんべんなく潤わせた。

「あんた、なにすんの」
やっべー…。
「す、すみません!」

中澤さんは、ブツブツ言いながら、横にあったタオルで顔を拭く。
けれど、あまり怒った様子ではない。
どうやら今日は、奇跡的に機嫌がいいらしい。
17 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月12日(金)14時22分31秒
「で、どんな男やの?」
「はい?」
「彼氏」
「…彼氏なんかいませんよ」

彼氏なんか、“か”の字もない。
けれど、中澤さんは、納得したように大きく頷いた。

「ウチは生まれ変ったんや」
「はい?」
「ウチに気を遣わんでもええで」
「はあ…」
「他人の幸せは、素直に祝福してあげることにしたんや」

中澤さんは、気が強くて、口は悪くいが、決して悪い人ではない。
結構、美人だし、もてないわけでもない。
なのに、いざ結婚となると、どうしても上手くいかない。
去年から、“結婚”は社内使用禁止用語に指定されている。

「人生は、結婚やない」
「はい…」
「人生は、金や」
「…」

中澤さん…。
生まれ変わって、よかったんだろうか…。
18 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月12日(金)14時24分00秒
「とにかく、力になるから、遠慮せんと、言ってみいな」
「ほんとに、いないんですよ」
「わかった。まだ、片思いなんやな」
中澤さんは、ぐっと顔を近づけてくる。
「そうなんか」
「ま、まあ…」

迫力に押されて、思わず言ってしまった。
途端に、石川さんが頭に浮かんだ。
数時間前の可愛い笑顔。
知らず知らずに、頬が緩んでしまう。

「なに、ニヤニヤしてんの」
「い、いいえ、別に…」
「まあええわ」

中澤さんは、おもむろに机の抽斗を開けると、
小さな紙の束を取り出した。
19 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月12日(金)14時25分41秒
「芝居のチケットや」
「はい?」
「この芝居を見たカップルの、10組に9組までは、幸せに結婚してる」

どこから出てきたデータなんだろうか。
それにしても、残りの1組はどうしたんだろう。
疑問に思ったけれど、あえて聞かなかった。
なんだか、嫌な予感がしたから。

「この幸運のチケットを、可愛い後輩である吉澤のために、
通常販売価格4000円のところ、特別に3500円にしたろ」
「…」
なんだか深夜の通販番組のような言い回しだ。

「好きなんやろ?」
「まあ…」
「幸せになりたいやろ?」
「はあ…」
「2枚で7000円、安いもんやろ?」
「…」

90%の確率で、幸せになるらいいチケット。
中澤さんに乗せられて、結局、買ってしまった。
20 名前:某作者 投稿日:2002年07月12日(金)14時39分03秒
レスありがとうございます。

>11名無し読者様
切ない場面も多々出て来ると思いますが、
爽やかさがなくならないように、していきたいと思います。

>12とみこ様
私も、タイトル最初『セールスドライバーの純情』にしようかと、
思ったくらいです。

>13オガマー様
タマはいくらなんでもと、思うんですが…。
まだ、始まったばかりです。見切られないようがんばります。

>14名無し読者様
よっぽど、ギャク系の話を書くとき以外、
女の子を好きになる葛藤は、はずせないところだと思ってます。

更新しました。
基本的に、平日の昼間。(仕事中なんですが…)
時間が取れるときに、更新していきたいと思ってます。
21 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月12日(金)19時51分50秒
初レスれす
よっすぃーがかわいいですね
二人がどう絡んでくのか期待してます
22 名前:たろ 投稿日:2002年07月12日(金)20時02分00秒
商売上手な中澤さんに萌えました。
よっすぃーのニヤけた顔って、かわいいですよね〜。
この先が楽しみです。がんがって下さい。
23 名前:オガマー 投稿日:2002年07月12日(金)21時11分24秒
よしこは石川さんを誘えるのかな?w
その辺の動きにも期待!
ネエさんのキャラもステキです。
24 名前: 投稿日:2002年07月12日(金)21時39分26秒
なんか、よっすぃ〜かわいい。
頑張ってください!
25 名前:いしよしサイコ〜 投稿日:2002年07月13日(土)03時43分33秒
初レスです。先程、某小説紹介板でこの作品を知り
タイトルからピンときて来てみました!
私の勘に狂いがなければですが・・・
人違いなら、私はただのオバカさんですが(w
某作者さんは、もしや○っ○さんでは?

私の好きな、某いしよし小説家の方と作者さんの文と
なんだか似てて、すごく気に入ったので・・・
あえて、このHNで来ました。
もし私の勘違いならほんとごめんなさい!!! m(__)m

でも、それに関係なく続きは見たいです♪
作者さん、自分の気がノッタ時で結構ですので、
更新がんばってくださいね!



 

26 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月14日(日)13時03分09秒
初レスです。爽やかでいいです。
がんがってください。
从 #~∀~从ノ<ウチは生まれかわったんや!
姐さん、笑かせてくれますねぇ。
27 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月15日(月)09時18分01秒
「行って来まーす!」
今日も元気な声とともに、一日の仕事が始まる。
空は薄曇り。
気分は…。

10キロのダンボールは、軽く持てるのに、
ポケットに入れた2枚の紙切れは、何故か妙に重い。

なんて言おう…。
言えるかな…。

一緒に、お芝居、見に行きませんか?
来週の日曜、時間ありませんか?
チケット貰ったんだけど、一緒に行くひとがいないから…。

想像しただけで、顔が真っ赤になる。

変なヤツと思われるだろうな…。
でも、せっかくだし、
こんなきっかけでもないと、一生、名前もわからないままだろうし…。

元気が取り得じゃん。
ヨーシ、がんばるっ!
28 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月15日(月)09時19分32秒
配達は滞りなく進む。
あと1件。
もう間もなく…。
時計を見ると、ちょうど昼。

事務員さんが交代で昼の当番をしているらしく、
この時間に石川さんがいる可能性は低い。

1時間遅らすべきだよな…。

でも、別に今日じゃなくても、いいわけで…、
いなかったら、明日にしても、いいんだし…、
もし、いたら、神様の後押しってことで…。

ちょっと、言い訳かな…。

車を止め、荷物を取り出す。
伝票をゆっくり確認して、大きく深呼吸。

いないよな…。
いるわけないよな…。

あっ…。
29 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月15日(月)09時22分16秒
「毎度!」
「ご苦労様」
石川さんが、いつもの笑顔と、可愛い声で出迎えてくれた。
今日は立ち上がると同時に、ハンコを握り締めている。

かわいいけど…、
会えて嬉しいけど…、
見惚れてる、場合じゃない…。

がんばれ、自分!

「あ、あの…」
「ハンコだよね」
「あ、はい…」
「伝票は?」
「は、はい、ここに、お願いします…」
30 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月15日(月)09時24分13秒
やっぱい…。
ガチガチになってる。
自分でもわかるくらい、動きがぎこちない。
これじゃあ、まるで、ぜんまい仕掛けの運送屋さんだ。
石川さんは不思議そうに首をかしげてる。

誰か、ネジを巻いてくれ。

「どうかしたの?」
「いえ、あの…」

一緒に、お芝居に…、
一緒に、来週の日曜に…、
一緒に…。

「い、い…、いいお天気ですね」
あらら…。
「そう?曇ってるみたいだけど…」
やっちゃった…。
「いや、その、あんまり、暑くなくて…」
「大変なお仕事だもんね。でも、私、冷房で寒いくらいなの」
「そうなんですか…」

言わなきゃ、何も伝わんないよ。
ダメモトじゃん。
せっかく神様が見方してくれたんだから…。

「どうしたの?」
「あ、あの、風邪引かないように、がんばって下さい」
「ありがとう」

自分が、がんばれよ…。
31 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月15日(月)09時24分55秒
結局、言えなかった。
本当に情けない。

だけど、荷物がある限り、届けるのが仕事。
精一杯の笑顔で。
いつだって明るく。

「毎度!」
「ありがとうございます!」

ほとんどやけくそ。
32 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月15日(月)09時25分51秒
「ただいま戻りました!」
挨拶は、元気が基本。

今日も、事務所には、中澤さんがひとりいた。
「なんか嫌なことでもあったんか?」
やっぱり、今日も、読まれていた…。

「なにもないですよ」
「ほんまかいな?」
中澤さんはまったく信じていないようだ。
その勘は、大当たりなのだけれど。
33 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月15日(月)09時26分42秒
「ほんとですよ」
「ならええけど。あっ、そうや…」
中澤さんは、思い出したように抽斗を開ける。

「なんですか。今日は何も買いませんよ」
「失礼やな。ひとを押し売りみたいに…」
「すみません…」
「これ、シフト表。ちゃんと、来週の日曜はオフにしといたげたから」
「あ、どうも…」
中澤さんは意味ありげに笑う。
「がんばりや」
「はい…」

明日はがんばろう…。
34 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月15日(月)09時28分18秒
「さあ、ウチはそろそろ帰るわ」
中澤さんは立ち上がると、まだなにか言いたそうに、傍にやって来た。
「ほんまは、なんかあったんやろ」
「…」
「言いたくなかったら、言わんでええけど、いつでも相談に乗るで」
「…」

中澤さん…。
いい先輩を持って幸せです。

「相談料は半額にしたる」
「…」

中澤さん…。
前言撤回します。
35 名前:某作者 投稿日:2002年07月15日(月)09時47分42秒
レスありがとうございます。

>21名無し読者様
妙に純情なので、なかなか絡めません。
もうしばらくお待ち下さい。

>22たろ様
中澤さんに失礼かと思いつつ、
こんなキャラクターにしてしまいました。

>23オガマー様
今日は誘えませんでした。
なかなか誘えないような…。

>24翔様
かわい過ぎて、誘えなかったりします。

>25いしよしサイコ〜様
気に入って頂いてありがとうございます。
期待に添えるかどうかわかりませんが、
がんばります。

>26ごまべーぐる様
ほんとに、中澤さんには申し訳ない感じで…。
でも、根は海板のようにいい人です、多分。

更新しました。
徐々に、切ない感じになっていく予定です。
作者は、名乗るほどの者ではないです。
探さないで下さい。
我が儘言いまして、申し訳ありません。
36 名前:オガマー 投稿日:2002年07月15日(月)13時16分55秒
残念〜
だって、これってナンパみたいなもんですもんねぇ〜
女同士って意図が掴みにくいってところも含めて難しい気がする…
がんがれ!よしこ
37 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月16日(火)20時06分02秒
この小説を読むと自分の若かりし頃を思い出しますです。。。
暑い日に飲む炭酸飲料のような爽やかさが素敵。

作者さんが誰だっていいじゃないか。
こんないい小説が読めるんだからね♪

がんがってください!!
38 名前:いしよしサイコ〜 投稿日:2002年07月16日(火)21時39分44秒
>37の名無しさん

おっしゃる通りです!! 確かにその通りだ・・・
作者さん、この前はごめんなさい。
失礼な事言っちゃって・・・
今後、私は草葉の陰から応援してます(w
作者さん更新大変でしょうけど、自分も楽しんで書いて下さいね!
これからも楽しみに待ってます・・・
39 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月17日(水)12時33分34秒
目覚めた途端、決心した。
神様、ご先祖様、中澤さん、命をかけて誓います。
今日こそ、がんばります。

どうせ砕ける恋なら、思い切ってぶち当たろう。
元気が取り得。
この晴れやかな初夏の空のように。

シャッ

迷いと、怖気を振り切るように、勢いよく、カーテンを開ける。

ありゃ…。
大雨じゃん…。
40 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月17日(水)12時35分10秒
空には真っ黒な雨雲。
一向に衰えそうにない雨脚にもめげず、荷物を積み込む。
一際でかいダンボールは、3丁目の鈴木さん。
短気な鈴木さんは、どうやら通販マニアらしい。

ようやく完了。
今日も元気に出発。

「行って来まーす!」

まずは鈴木邸。
荷物を濡らさないように、細心の注意を払う。
体を呈して荷物を守る。
湿り気を帯びたダンボール。
少し嫌な顔はされたけれど、文句は言われなかった。

「ありがとうございます!」
41 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月17日(水)12時36分25秒
雨脚はますます激しくなる。
ワイパーをフル回転させても、前がよく見えない。
道も渋滞。
配達は思うように進まない。

雨の日が一番辛い。

遅れを取り戻すように走る。
服も髪も、もうボトボト。
それでも走る。
とにかく走る。
と、

「あー!」

こけちゃった…。

慌てて、荷物を持ち上げる。
幸い荷物は無事。
けれど、顔面水浸し。

カッコ悪い。
しかも、なんだか、縁起が悪い…。

それでもなんとか、配達をこなす。
そして、とうとう…。

濡れた上着を丁寧にタオルで拭いて、保管しておいたチケットをポケットに入れる。
大きく深呼吸。

行きます!
42 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月17日(水)12時37分28秒
「毎度!」
「ご苦労様」
石川さんは、今日も可愛い笑顔。
けれど、少し困ったような表情。

「あ、あの、30秒だけ、話を聞いてください」

ヨーシ、いい感じ。
やれば出来るじゃん。

「いいけど、ちょっと待ってね」
そう言うと、石川さんは一旦自分の机に戻って行く。
そして、いつもは受付のカウンター越しなのに、
回り込んで、前まで出てきてくれた。
43 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月17日(水)12時38分15秒
間近に石川さんの顔。
至上最接近。

や、やばい…。
せっかく、いい感じだったのに、
そんなに、じっと見られたら、ドキドキして、もう、死にそう…。

「こけたの?」
「へっ?」
「顔、泥だらけだよ」

石川さんは、いつの間にハンカチを手にしていた。
そして、そのかわいらしいその手で、顔を拭いてくれた。

「あ、すみません…」
「こどもみたいだね」

もう…、
もう、ほんとに、だめだ…。

体は硬直して、1ミリたりとも動かない。

でも、幸せ…。
44 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月17日(水)12時39分17秒
「話ってなに?」
「きょ、今日は、いい、です」
「?」

石川さんは不思議そうな顔をしている。
当然だろう。
さっき、話があると言ったばかりなんだから。
けれど、今日はこの幸せを噛みしめていたい。

砕けるのは、明日にしよう。

「ハ、ハンコ、お願いします」
俯いて、伝票を渡す。
みっともないけど、少し手が震えてる。
「はい、ご苦労様」
「ありがとうございます」

「よかったら、持って行って」
石川さんが、さっきのハンカチを差し出した。

大雨って…、
最高。
45 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月17日(水)12時40分19秒
「洗濯して返します」
「いいよそんなの、あげるから。使い古しで悪いけど」
「でも…」
「それじゃあ、かえって悪いじゃない」
「ほんとに、いいんですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」

ぎごちなく歩き出す。
右手と右足が一緒に出てる。

「運送屋さん」
呼び止められて振り返る。
「転ばないように、気をつけてね」
石川さんが、にっこり笑っていた。

かわいい…。

「は、はい」
思わず、つまずいて、こけそうになる。
「ほら、また」
少し呆れながらも、やっぱり笑顔の石川さん。
まるで、頼りない妹でも心配するみたいに、
車に辿り着くまで、見ていてくれた。
46 名前:某作者 投稿日:2002年07月17日(水)12時46分32秒
レスありがとうございます

>36オガマー様
今回も、誘えませんでした。
幸せそうではありますが。

>37名無しさん様
私も、若い頃の真っ直ぐさを思い出しつつ、
書いてます。
フォローありがとうございます。

>38いしよしサイコ〜様
ご理解頂けたようで、ありがとうございます。

更新しました。
47 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月18日(木)03時24分21秒
あーー今回もまだ足踏み?
よしこの馬鹿馬鹿!
でも好き・・・
48 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月18日(木)06時52分37秒
無事に誘えるんでしょうか?
続き楽しみにしてます
49 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月19日(金)17時13分05秒
いつもより早起きをした。
早起きは三文の徳。
昨日の雨は嘘のように、照りつける日差しが眩しい。
ピカビカに磨いた相棒に、荷物を積み込む。
今日はいつもより数が少ない。

ヨーシ完了。

まだ時間がある。
箒を持って、掃除のおばさんの手伝いに行く。

「いつもご苦労さまです!」
「ああ、ありがと。あんた、いつも元気で、気持ちがいいね」
「元気だけが取り柄ですから」
「あんた、見てると、孫を思い出すよ」
もう、70歳は過ぎたかという皺だらけ顔が、
さらに、くしゃくしゃになる。
とても嬉しそうだ。
運送屋さんは、笑顔も運ぶ。

「お孫さんがいるんですか?」
「今は愛想もないけど、昔はよく懐いて可愛かった」
おばさんは懐かしむように、目を細めた。
「手の掛かるやんちゃ坊主でね…」

男の子なのか…。
50 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月19日(金)17時14分41秒
「おはようございます!」
次々出勤してくる社員に、元気と笑顔を振りまく。
「おはよう」

「中澤さーん!おはようございます!」
歩いて来る中澤さんの顔が、少し青い。
具合でも悪いんだろうか?
それとも、これは…。
「あんまり、大きい声、出さんといて」
やっぱり…。
「また、二日酔いですか?」
「ちょっと、飲み過ぎたわ…」
「やけ酒?」
中澤さんの鋭い視線が痛い。
どうも、核心を突いてしまったようだ。

「しょうもないこと、言ってんと、そろそろ出かけや」
「は、はい!行ってきますっ!」
中澤さんはこめかみを押さえる。
「もう、あんたの声は、頭に響くんや…」
「すみません…」
51 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月19日(金)17時15分31秒
今日も出発!

快調に配達は進んでゆく。
空はどこまでも青く、弾んだ心も加速する。
なんたって、ポケットには石川さんのハンカチ。

信号待ちの度に、取り出しては握り締める。

よく見ると、“R・I”と刺繍があった。

“R”
なんだろう?
リョウコ、ルリ、レイコ、リサ…。
52 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月19日(金)17時16分23秒
「おはようございます!」
今日の鈴木さんの荷物は軽い。
箱の側面には青汁と書いてある。
「おっ、待ってたぞ。ねーちゃん、今日はいい天気だな」
いつになく、上機嫌だ。
よっぽど、青汁が飲みたかったらしい。
「気持ちがいいですね」
笑顔で答える。
「ハンコお願いします」
「ああ、ここだな」
「鈴木さん、“R”がつく人名って、何を思い浮かべます」
「“R”、そうだな、ら、ら、ラッキョ」
「…」
「それから…」
「あ、もう、いいです…」
鈴木さんに聞いたのが失敗だった。

「ありがとうございます!」
53 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月19日(金)17時17分07秒
石川ラッキョ…。
ちょっと、イヤだな。
そんな名前はないだろうけど…。
芸人さんじゃないんだから。

そんなことより、今日こそがんばる!
昨夜は、枕を相手に何度も練習した。

ハンカチありがとうございました。
芝居のチケットを2枚もらったんです。
良かったら、一緒に行きませんか。
ほんの、お礼です。

ヨッシャー!
台詞は完璧。
行っきまーす!
54 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月19日(金)17時18分20秒
「毎度!」
「ご苦労様」
石川さん…。
か、かわいい…。

石川さんが愛想のいい笑顔なのは、いつもの通り。
けれど、気のせいか、その心の距離が、少しだけ近くなったように思えた。
それは、ほんの僅か、ミクロの世界。

「ハンカチ、ありがとうございました」
「いいよ、そんなこと」
「芝居のチケットを2枚もらったんです」
台詞、ばっちり。
「良かったら…」
もうひといき。
「その…、誰かと一緒に行って下さい」
あっ…。
「ほんの、お礼です…」
あーあ…。
55 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月19日(金)17時19分06秒
石川さんは、少し困ったような顔をしてる。
こっちは、参ってるんだけど…。

「いいの?」
「はい、せっかく貰ったのに、仕事で行けないから、勿体ないんで」
なんで、こんなにスラスラしゃべれるんだろう。
「この芝居、カップルで見ると幸せになれるらしいですよ」
余計なことまで言っちゃってるよ。
「彼氏いるんですか?」
勢いで聞いてしまって、自分自身ドキッとする。

お願い。
いないって言って…。
とりあえず、嘘でもいいから…。

石川さんは何も言わない。
けれど、恥ずかしそうに笑って、俯いた。

その照れ方が、ほんとに石川さんらしくて、
胸がキュッとなるくらいかわいくて、
だけど…。

いるんだ…。
ああ…。
56 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月19日(金)17時19分40秒
「そ、そうですよね。彼氏ぐらいいますよね、ハハハ」
言葉が止まらない。
ほんとは泣きたいくらいなのに、笑いも止まらない。
「そうだよな、石川さん、かわいいもん」
途端に、石川さんが、アレって顔をする。
あっ、名前で呼んだの初めてだ。

「いつも、ハンコ、もらってるから、名前、覚えてしまいました」
「そうなんだ…」
石川さんは、少し感心したように頷いた。
「この芝居で、さらに幸せになって下さいね」
「ありがとう…」
「ハハハ…良かった、良かった」

ちっとも、良くない…。
57 名前:某作者 投稿日:2002年07月19日(金)17時24分23秒
レスありがとうございます。

>47名無し読者様
最悪の結果でした。
すみません。

>48名無し読者様
誘えませんでした。
すみません。

更新しました。
非難の嵐でしょうか…。

58 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月19日(金)18時24分09秒
勇気だせよ〜・・・って、言いたいけれど、
何とな〜く気持ちがわかるよ、吉子。
荷物と笑顔は運べるのになぁ・・自分の気持ちがなぁ・・。
59 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月19日(金)19時45分18秒
(;O^〜^)<…モジモジ
よすこが可愛いですが何か?
よすぃ好きにはたまりませぬ。。。
作者サマ、がんがってください。
60 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月19日(金)23時52分19秒
>なんで、こんなにスラスラしゃべれるんだろう
この気持ち痛い程よくわかるなぁ…

石川さん彼氏いたんですね、何かリアルにドキドキ…
61 名前:オガマー 投稿日:2002年07月20日(土)05時50分55秒
ドキドキ
この後どうなってしまうのだろうか…
62 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)08時56分11秒
石川さん・・・彼氏いたんですか・・。
でも、よっすぃ〜負けるなぁ!
63 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月22日(月)14時16分20秒
元気が取り柄。
運送屋さんは笑顔を運ぶ。
例えどんな時でも…。

大きくひとつ深呼吸。
「ただいま、戻りました!」
いつもより、2割増に腹筋を使って挨拶をする。
量が少なかったせいか、早く帰り着いた。

「お帰り」
「お疲れさま」
事務所からは口々に、慰労の声。
もちろん、その全てに、絶好調の笑顔をふりまく。
「元気だね。なにかいいことあった?」
「もう、いいことだらけで、困っちゃってます」
つられたように事務員さんも笑う。
みんなが笑顔。
それが幸せ。
多分…。
64 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月22日(月)14時17分40秒
中澤さんは、朝より少し顔色がよくなっていた。
けれど、だるそうに机に突っ伏している。
「ちょっと来い、吉澤」
地を這うような声に呼ばれて、中澤さんの傍らへ行く。
「なんですか?」
「嫌なことでもあったんか?」

なんで、いつもばれるんだろう…。

「なにもないですよ」
「辛そうにしてるヤツを見てると、こっちまで苦しなる」
「全然、辛そうになんてしてませんよ」
確かに、辛いけど、絶対、態度には出してない。
それだけは、自信がある。
「こんなに、元気なのに」
ガッツポーズをして見せた。
「辛そうなヤツより、見てられへんのはなんやと思う」
「…?」
「空元気」
「…」
65 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月22日(月)14時18分46秒
中澤さんの目は、なんだかとても優しかった。
その目をみてたら、無性に、泣きたくなった。
ちょっと、気を抜いたら、その場に泣き崩れそうだった。

でも、泣かない。
いつも、笑顔。
いつも、元気。
そうやって、ずっと生きていこうと決めたから。

気付かれないように、横を向いて大きく息を吐く。
ヨーシ。
もう、大丈夫。
66 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月22日(月)14時19分41秒
「ご飯食べに連れて行ったる。今日はあかんけど」
そう言って中澤さんは、辛そうにこめかみを押さえる。
「ひょっとして、奢ってくれるんですか?」
「当たり前やろ」
「ほんとに?」
「牛丼、ハンバーガー、屋台のおでん、何でもええで」
「選択肢、少ないですね…」
「文句ある?」
中澤さんが、ジロッと睨む。
でも、少し笑っている。
「おでんでいいです…」
67 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月22日(月)14時20分42秒
「今日は帰るわ」
「中澤さん…」
立ち上がる中澤さんを、思わず呼び止めてしまった。

「あの…、日曜、やっぱり、仕事入れて下さい…」
「そういうことか…」
元気出せ。
そう言うようにポンと背中を叩いてくれた。

「でも、チケットの払い戻しは、でけへんで」
「…お得意さんにあげたから、いいです」
おでん、10人前食べてやる…。
68 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月22日(月)14時21分34秒
久しぶりに、仕事が早く終わった。
なんだか、ひとりの部屋に帰るのも気が重い。

ちょっと、時間をつぶそう。
そう思って、目に付いた本屋に入った。

あてもなく、店内を歩いていると、
一角に、中、高校生ぐらいの女の子が群がっていた。
遠目に覗いてみると、占いコーナーだった。
なんだか、妙に気恥ずかしい。
69 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月22日(月)14時49分31秒
占いなんか、絶対信じない。
馬鹿馬鹿しい。
ふられたばかりだし…。

そんな、女の子みたいなこと、恥ずかしくて出来ない。

あっ、女の子だったっけ…。

今更だし…。
でも…。

相性はどうなんだろう…。

星占い。
誕生日、知らないじゃん…。
姓名判断。
苗字だけじゃ占えないのか…。
手相。
見たことないって…。

つかえない…。
70 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月22日(月)14時50分39秒
人相占い。
これならいける。
石川さんの顔は、いつでも、はっきりと思い浮かべることができる。
忘れたくたって…。

棚に手を伸ばした瞬間、誰か、別の人の手に触れた。
「すみません」
視線が自然に、その手の持ち主に向かう。
そして…、
一瞬、凍り付いた。

「よっすぃー…」
「矢口さん…」
71 名前:某作者 投稿日:2002年07月22日(月)14時58分24秒
レスありがとうございます。

>58名無し読者様
なかなか、勇気は出ないもので…。

>59名無し読者様
かわいいんですが、
なかなか、うまくいかず…。

>60名無し読者様
純情なんです。
でも、好きなんです。

>61オガマー様
どうなるのでしょうか…。

>62翔様
たぶん、がんばると思います。

途中、手の放せない仕事が入って、
どうなるかと思いましたが、何とか更新。
72 名前:オガマー 投稿日:2002年07月22日(月)15時56分28秒
ぉぉ
意外な人(?)の登場だ
73 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月22日(月)16時37分52秒
よっすぃー切ないですねぇ、辛いのに表情に出さないとこがまた…
矢口との関係が気になります!
続き期待。。
74 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月23日(火)13時10分17秒
(;´〜`0)<そんな女の子みたいなこと…

ちょっと萌えました。
最後に登場した人物も気になります。
75 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月24日(水)13時43分45秒
何年ぶりになるだろう。
年上の幼なじみ。
ちっちゃくて、人形みたいにかわいくて、でも優しいお姉さん。
あれが、きっと、初恋だった…。

こんな時に、矢口さんと再会すなんて、
神様は、悪戯が過ぎる。

あまり思い出したくない過去の記憶と一緒に、
突然目の前に現れた矢口さんは、感心したように見上げていた。
「大きくなったね」
まるで、親戚のおばさんみたいなことを言う。
なにか言わなきゃと、焦りながら口を開く。
「矢口さんも、あの…」
「小さいままで、悪かったわね」
口が悪いところも昔のままだ。
76 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月24日(水)13時44分49秒
「へー…」
矢口さんは、意味ありげな笑みを浮かべた。
「よっすぃーが、こんな本を読むようになったんだ」
「いや、あの、その…」
「彼氏でも出来たの?」
「まあ、一応、年頃ですから、彼氏のひとりぐらい…」
見栄を張ってしまった。
普通に恋愛して、幸せに暮らしている。
矢口さんにはそう思っていて欲しかった。
77 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月24日(水)13時45分57秒
「やるじゃん」
からかうように腕をつつかれた。
恥ずかしいような、
ちょっと、悲しいような…。

「矢口さんだって、こんな本見てるんじゃないですか」
「違うよ。私は今から後輩の恋愛相談。
まあ、それだけ経験豊富ってことなんだけど…」
「そう、なんですか…」
今更だけど、少し胸が痛くなった。
もちろん、もうとっくに吹っ切ったことだし、
あれは、本当に淡い初恋だったし、
今心の中にいるのは、ただひとりなわけだし。
78 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月24日(水)13時47分49秒
「あ、来た来た」
矢口さんが顔を向けた方向を見る。
今度は息が出来なくなった。

石川さん…。

神様、もう、悪ふざけはやめて下さい。

「後輩の石川梨華ちゃん、こっちは…」
紹介しようと、こちらへ手を伸ばした矢口さんが、キョトンとしている。
「よっすぃー?どうしたの、固まってるみたいだけど…」
「いえ、その…」
咄嗟になんと言っていいかわからなくなった。

好きなんです。
人生2回目の恋です。
真剣です。
こんなところで、告白してどうする。
初恋のひとの前で…。
79 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月24日(水)13時48分43秒
「うちの会社に、毎日来てくれる運送屋さんなんですよ」
かわりに石川さんが答えてくれた。
そうだよな…。
ただの運送屋さんだよな…。
「なんだ、知り合いだったの。偶然ってあるんだね」
偶然って、怖い…。

「運送屋さんか…なんか、すぐに想像できるわ」
「そうですか?」
「いつも笑顔で、顔見るたびに、私まで元気になるんですよ」
石川さんがそう言ってくれた。
「あ、ど、どうも…」
顔が熱くなった。
運送屋さんは、愛しいひとにも笑顔を運ぶ。
だけど、なにか足りない…。
80 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月24日(水)13時50分16秒
「よっすぃーも、一緒にどう?
ついでに、よっすぃーの恋愛相談にも乗ってあげるよ」
「あ、すみません、今日はちょっと…」
石川さんと同席できるチャンスなんて、
もう二度とないかもしれない。
けれど、石川さんの彼氏の話を聞きながら、
ずっと、笑顔でいられる自信がなかった。

「そっか、残念だね。ひょっとして彼氏とデート?」
見栄なんか張らなきゃよかった…。
これじゃ、誤解されてしまう。
それでなにが変わるってわけじゃ、ないんだけど。
81 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月24日(水)13時51分03秒
「そんなんじゃないですよ」
「照れなくてもいいのに」
「違いますって」
石川さんの顔を見ると、楽しそうに笑っていた。
一瞬目が合った。
だから、一緒に笑った。
100点満点で、30点ぐらいの笑顔だった。

「じゃあ、そろそろ行こうか」
「そうですね」
矢口さんと石川さんが顔を見合わせた。

「じゃあ行くね」
「はい、いってらっしゃい」
笑顔でふたりを見送った。
今度は80点ぐらいだと思う。
82 名前:某作者 投稿日:2002年07月24日(水)14時00分08秒
レスありがとうございます。

>72オガマー様
ちょっとした過去エピソードを入れるつもりですが、
あくまで、いしよしです。

>73名無し読者様
今日もけなげで可哀想な吉澤さんです。
いつまで、悲しい笑顔が続くのでしょうか。

>74ごまべーぐる様
どこか、間違ってる吉澤さんでした。
鈴木さん、また登場するかもしれません。

更新しました。
今日は周りにひとがいなくて、楽な更新でした。
書くのもアップも仕事中ですので、どうなるかわかりませんが、
このぐらいの、ペースで更新していきたいと思ってます。
83 名前:ナナシー 投稿日:2002年07月24日(水)16時50分38秒
いつも楽しみにしています。
いつか、石サイドのお話も読んでみたいなぁ

とか言いつつ決してせかしているわけではありませんすいません(;`∀´)
84 名前:オガマー 投稿日:2002年07月24日(水)20時42分17秒
あららららららららららららら
王子様と雪の夜〜♪って違っ(氏
笑顔だったのが痛い…
今後の展開に期待してま〜すw
85 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時13分38秒
ガラス越しにジリジリと照りつける太陽。
右腕が真っ赤になっている。
典型的なドライバー焼けだ。

「毎度!」
「ありがとうございます!」

荷物を届け、笑顔を振り撒く。
車に戻ると、ポカリ1リットルのペットボトルをラッパ飲み。
流れ出した汗が、顎のあたりからポタポタ落ちる。
86 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時15分02秒
「ヨーシ!次、行ってみよう!」
声に出して、自らに気合を入れる。
そうしないと、負けてしまいそうだから。
それは、やっぱり、少し弱気になっているからかもしれない。

石川さん、梨華っていうんだ。
可愛い…。
石川さん…。
ああ…。

ダメだ、ダメだ。
しっかりしろよ!
石川さんは、笑顔を見たら、私まで元気になる、なんて、言ってくれたんだ。
いつも元気な運送屋さんでいなきゃ。
87 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時16分26秒
「毎度!」
「ご苦労様」
親しげな笑顔で出迎えてくれる石川さん。

何度見ても…、
ほんとに、もう…、
かわいい…。

こうして、傍にいられるだけで、
ひとこと、ふたこと、言葉を交わすだけで、
こんなに幸せなんだから…。

知らなきゃ良かった…。
彼氏がいることなんか…。

「どうかした?」
「い、いえ…」
誤魔化すように、しゃがむと、荷物に視線を落とし、伝票を剥がす。
88 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時18分34秒
「あ、矢口さんが、言ってたよ」
思わず、ギョッとなって石川さんを見上げた。
「仲良しだったんだってね」
「は、はい。いつも遊んでもらってました。矢口さんが引っ越すまで…」
近所の女の子。
矢口さんにとっては、多分それだけ。
そのはずなんだけど…。

「あの、他になにか言ってませんでした?」
おそるおそる聞いてみた。
「他に?そうね。よく面倒見てあげたとか…」
「そうですね。本当の、お姉さんみたいでしたから」
「矢口さんも言ってたよ。本当の、弟みたいだって」

妹じゃないのかよ…。
石川さんはおかしそうに笑っている。
なら、まあ、いいか…。
89 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時19分23秒
立ち上がって、伝票をカウンターに置く。
「ここに、ハンコだよね」
「お願いします」
丁寧にハンコを押す石川さんの指先。
そんな、細かな動作、ひとつひとつまでもが、女の子って感じがする。
つい、また、見惚れてしまう。

「はい、がんばってね」
「あ、ありがとうございます!」
90 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時23分23秒
車に戻ると、深呼吸。
「ヨーシ!」
もう一度気合を入れる。

頭の中は石川さんの笑顔が満開。
嬉しくて、
切なくて、
悲しくて、
そして、少しホッとする。

矢口さんのこと、バレてなかったみたい。
別にたいそうな出来事があったわけじゃないけど…。

さあ、次、行きますか。
ファイト!

丁寧に、迅速に。
ひとつひとつ配達をこなす。

運送屋さんは、今日も1日がんばりました。
暑さなんかに負けません。
ふられたってめげません。
91 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時24分22秒
部屋に戻って、ひとりになると、いろいろなことが頭の中をめぐる。
はやく寝ちゃおう。
ベッドに潜り込んだ。
だけど、眠れない。

梨華ちゃん…。

心の中で呼んでみた。
とたんに、胸がキュッとなった。
なんだか、泣きそう。
あのときみたいに。
92 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時27分05秒
小さい頃から、矢口さんのことは大好きだった。
だけど、それが恋だなんて思ったことはなかった。
女の子なんだし…。

矢口さんの引越しを知ったとき、本当に、ショックだった。
なにか伝えたくて、でもなにをどう伝えていいのかわからなくて、
悩んだ末、手紙を書いた。
直接渡せばいいのに、恥ずかしくて、渡せなくて、ポストに入れた。

それからしばらくして、矢口さんに会った。
矢口さんは差出人のないラブレターをもらったという。
なんだか、妙に悔しかった。
しかし、聞いていると、その内容が、自分の書いた手紙と一致している。
冷静に判断すると、それはまさしくラブレターだ。
そのとき初めて、恋をしていたことに気づいた。
気づかずにラブレターを出し、しかも名前を書き忘れるという大失態。
もう笑うしかない。
実際、思い切り笑った。
よっすぃーは笑顔で元気が1番だね。
そのとき矢口さんがそう言った。
別れ際にも同じようなことを言ってくれた。
よっすぃーの笑顔は、ひとを元気にする。
いつまでも、変わらないでね。
93 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月29日(月)09時27分53秒
矢口さんが去った夜。
恥ずかしいけど、思い切り泣いてしまった。
ひとりで、布団を頭まで被って、朝まで、ずっと泣いてた。
悲しくて、切なくて、やるせなかった。
これを最後にしようと思った。
いつも元気でいよう。
いつも笑顔でいよう。
どんなことがあったって。
そして、もうに2度と、女の子なんか好きにならない。

その、はずだったんだけど…。
94 名前:某作者 投稿日:2002年07月29日(月)09時36分18秒
レスありがとうございます。

>83ナナシー様
同じ話で、視点を変えるというのは、
短い話で、1度やったことがありますが、
書く方としては、面白いです。
この話で、できるかどうかは、わかりませんが…。

>84オガマー様
しばらく、ずっと、痛いです。
基本的に、切ないのが好きなもので…。

更新しました。
ちょっと、説明調になりましたが、過去エピソードは、
さっと流してしまいたかったので…。
95 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月29日(月)14時28分04秒
切ないね曇りですねぇ
晴れは来るのかな…
96 名前:オガマー 投稿日:2002年07月29日(月)16時07分45秒
ああ、切ない…
でもok(何
続き期待w
97 名前:58 投稿日:2002年07月29日(月)17時55分17秒
じ〜ん・・と、きましたので、御礼にひとつ・・。
「梨華ちゃんに、荷物届けて、肩重い・・・か、片思い」
運送屋さん、涼しくなっていただけたでせうか^^;
98 名前:たろ 投稿日:2002年07月29日(月)21時22分39秒
はぁ、なんだか胸が痛いです…
よっすぃーの笑顔が報われたらいいな。
99 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月31日(水)11時39分05秒
日増しに暑さは厳しくなる。
それでも運送屋さんは、毎日元気に街中を駆け回る。

「ほんまにいいねんな?」
出勤してきた中澤さんが、念を押すように耳元で囁く。
「なにがですか?」
わかっていたけど、わざととぼけた。
「今日の仕事。今からでも、なんとかしたるで」
「いいですって」

今日は例の芝居の日。
無理に仕事を入れてもらった。
石川さんは彼とデート。
ひとりで家にいるくらいなら、
いっそ、忙しく働いていた方が気が紛れる。
100 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月31日(水)11時40分20秒
「チケットは、もうお得遺さんにあげちゃったし」
「まだ2枚残ってるで」
中澤さんはひらりとチケットを目の前にかざす。
「また、売る気ですか?」
「失礼やな。どうせ売れ残りやから」
「くれるんですか?」
「半額でええわ」
「…」

中澤さんは、2枚のチケットを無理矢理押し付けてきた。
それから、少しだけ優しい顔で笑う。
「配達、午前中に終わらせたら、間に合うやろ」
「けど…」

結局、お金は取られなかった。
それが中澤さんの優しさなのだろう。

中澤さんごめんなさい。
気持ちだけは受け取りました。
101 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月31日(水)11時41分13秒
企業が中心の配達ルート。
日曜は荷物が少ない。

走る。
とにかく、走る。
思考回路が麻痺するぐらい。

あっという間に配達終了。
ホッとする。
ホッとしたら…。

さあ、会社に戻りますか。

明るい運送屋さんは、余計なことなど考えない。
決して落ち込んだ顔を見せたりしない。

真っ直ぐ会社へGO。
そのはずだったんだけど…。
102 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年07月31日(水)11時41分49秒
気がついたら、ホールの駐車場へ車をとめていた。
汗で濡れた髪と、少し汚れた服が気恥ずかしい。

いったいなにがしたいんだろう。
自分でもよくわからない。

石川さんの顔が見たい。
遠くから、ほんの一瞬でいいから。

きっと横にいるのは素敵なひとで…、
自分なんか足下にも及ばない素敵なひとで…、
どこから見ても、幸せそうなカップルで…。

もしも目が合ったらどうしよう。
軽く会釈して、邪魔しないように、ひとことだけ。

お似合いですね。

ちゃんと言えるかな…。
103 名前:某作者 投稿日:2002年07月31日(水)11時52分46秒
レスありがとうございます。

>95名無し読者様
今日も晴れませんでした。
まだ、しばらく晴れません…。

>96オガマー様
OKですか。良かった。
ずっと、しばらくこんな調子かと…。

>97 58 様
ありがとうございます。
今頃、どこかで、涼んでいることかと…。

>98たろ様
報われる日まで一生懸命に笑顔かと…。
報われるのかな…。

少量ですが更新しました。
104 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月05日(月)17時04分03秒
ホールは思ったより広い。
そして、たくさんのひと。
きっと石川さんを見つけだすことなんてできない。
顔が見たくてわざわざ来たのに、正直、ホッとする。

2枚のチケットを取り出して、シートを探す。
中段あたりの右よりの席。
次々埋まっていくシート。
大盛況。
右隣だけが空いたまま。
当たり前だ。そのチケットも自分が持っているんだから。
わかっているけど、少し淋しい。

もしも隣に…。
もしも…。
105 名前:某作者 投稿日:2002年08月05日(月)17時06分09秒
だめだ。
こんなところにいるくらいなら、
相棒と一緒に、ドライブでもしていた方が、
まだましだったかもしれない。

運送屋さんは、空の下にいないと、今にも崩れてしまいそうだ。

芝居なんて興味ない。
きっと退屈に違いない。
出よう。
そう思った時だった。

石川さん…。

やっぱり、好きだ…。
どうしようもないくらい…。

こんなにたくさんのひとがいて、
こんなに離れていて、
なのに、見つけてしまうんだから…。
106 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月05日(月)17時07分41秒
しばらく、時が止まったみたいに、遠くの石川さんを見つめていた。
目が離せなかった。

すぐにでも駆け寄って行きたかった。
なんだか、悲しそうだから。
ちゃんと表情なんか、わかる距離じゃないのに、一瞬でそう思った。

しばらく経ってから気付いた。
石川さんの隣の席。
ぽつんとひとつだけあいていた…。

やがて幕が上がって、客席が暗くなった。
ストーリーはまるで頭に入らない。
ステージは、スポットライトの下じゃなくて、
左前方、斜め45度、薄暗い客席だったから。

きっと、芝居は大詰め。
どっと、笑いが起こる。
ライトが客席を波のように照らした。

石川さん…。
泣いてる…。

胸が締め付けられる。
傍で拭いてあげられないから、見ているのことが酷く辛い。
結局耐えきれずに、そっとひとり席を立った。
107 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月05日(月)17時09分07秒
とぼとぼと駐車場へ戻る。
ドアを開けて、車に乗り込んで、キーを差し込んで…。
慣れきったはずの、そんな動作ひとつひとつが、やけに重い。

ホールの前まで車をまわす。
立ち去ることができなくて、車の中から空を眺めていた。
真っ青だった空に、雲が立ちこめ始めていた。

石川さんの泣き顔が、頭にこびりついて離れない。
石川さん、振られたのかな…。

ひょっとしたら、心のどこかで、
そうなることを願っていたかもしれない。
だけど、あんな悲しそう顔は見たくない。

もしも悲しみが荷物だったら、
石川さんの分は、全部代わりに持ってあげたい。
そして、どこまででも運んであげる。
だって、運送屋さんなんだから…。
108 名前:某作者 投稿日:2002年08月05日(月)17時10分15秒
短いですが、更新しました。
109 名前:オガマー 投稿日:2002年08月05日(月)20時21分36秒
なんだか泣けてしまた…
最後のところ、好きです。
続き期待w
110 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月05日(月)21時14分42秒
いつか晴れる日が来ることを祈ってます。
111 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)15時59分06秒
どれくらい、ぼんやりしてたんだろう。
気が付いたら、あたりは暗くなっていた。
もう夜?
一瞬そう思ったけれど、いくらなんでもそんなわけはない。
暗いのは、雨雲のせいだ。
ホールからは、人が溢れ出している。

早く帰らなきゃ。
そう思って、サイドブレーキを引いたとき、
大きな雨粒が、一滴フロントガラスを濡らした。
そして、次の瞬間には、嵐のような雨が窓をたたきつけた。

咄嗟に探した。
塊みたいに見える人の群の中から、この世に、たったひとりだけ。
一番大切なひとを…。

折りたたみ傘を左手で掴んで、車から降りる。
人垣をかきわけて、駆け回る。

こんな悲しいときに、雨になんか濡れさせないから…。
どこにいるんだろう?

やっと、見つけた。
石川さん…。
112 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)16時00分40秒
石川さんは、ホールの前で、困ったように空を眺めていた。
もう泣いてはいなかった。
けれど、いつもの明るい笑顔からは、想像できないくらいに、沈んだ表情だった。

一度、大きく深呼吸。
笑顔を運ぶのも、運送屋さんの仕事です。
どんな時でも…、
今日は、大切なひとに…。

「石川さん」
声をかけると、石川さんはびっくりしたように、目を見開いた。
「来てたの?」
「いえ、仕事なんですけど、車から石川さんが見えたから」
石川さんは、まだわけがわからないというように、
首をかしげてる。
「急に雨が降り出したから、大丈夫かなって、思って…」
結構よく出来た言い訳だと思った。
なのに、石川さんはくすっと笑った。
「変ですか?」
「変だよ。だって、ひとの心配してる場合じゃないでしょ」
言われて始めて気がついた。
大雨の中石川さんを探して、いつのまにか、服も髪もびしょ濡れになっていた。
「忘れてました、傘さすの…」
そう言った途端、石川さんは、吹き出した。
113 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)16時01分50秒
「よかったら、送りますけど」
石川さんのまだ少し赤い目が、優しくこちらを見ていた。
ドキドキする。
急に照れくさくなって、
袋に入ったままの折りたたみ傘に視線を落とした。
手が震えて、なかなか上手く傘のボタンがはずれない。

「仕事中でしょ」
「もう、配達は終わったんで、時間、ありますから」
俯いたままそう言った。
「ほんとにいいの?」
顔をあげると、笑顔の石川さんがいた。
「はい。家はどこですか?」
石川さんが口にした地名は、ここから30分ほどのところだった。
114 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)16時03分14秒
なんとか開いた傘を、遠慮がちに石川さんにさしかけた。
相合い傘だ…。

「い、行きましょうか」
少し声が震えた。
「そんなさし方じゃ濡れちゃうよ」
石川さんの方へ傾けていた傘の柄が、こちらに押された。
「いいんです。もう、濡れちゃってますから」
笑いながらそう言って、もう一度傘を石川さんの方へ倒した。
すると、腕を組むみたいに手をまわして、ぴったり寄り添ってきた。

そんなことされたら…。
もう、息が出来ない。

殺す気ですか…。
115 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)16時04分09秒
「これ以上、濡れたらだめだよ」
「そ、そんな、くっついたら、だ、だめです…」
慌てて、体を離した。
「どうして?」
「石川さんの、服も、濡れて、しまいます」
「大丈夫だよ」
再び石川さんが腕を絡める。
「ひょっとして、照れてるの?」
顔が真っ赤になる。
これ以上ないくらい、照れてます。

「い、いえ、そんなんじゃ、ない、です、けど…」
石川さんは構わず歩き出す。
「恋人同士みたいだね」
「へっ?」
思わず声が裏返った。
石川さんはおかしそうに笑っている。
「冗談だよ」

冗談なのか…。
だよな…。
116 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)16時06分13秒
寄り添って車まで歩く。
100メーターを全力疾走したみたいに、脈拍が上がる。
ばれてしまわないかと心配になる。
ほんの短い距離が、永遠のように長い気がした。
でも、やっぱり短かった…。

「乗り心地悪いですけど…」
そう言って、助手席のドアを開けてあげる。
ようやくほどかれた腕。
ちょっと、残念だけど、ホッとする。

いつも、外をみわたせる左側。
今日は石川さんがいる。
ドキドキして、何を話していいのかわからない。
結局、どうでもいいような馬鹿なことを、ひとりでしゃべってた。
きっと、たいして面白い話じゃない。
だけど、石川さんは笑ってくれた。
石川さんの心を、ほんの一瞬でもいいから、癒してあげたい。
117 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)16時07分10秒
「いつも明るいね、運送…」
運送屋さんと言いかけたのだろう。
石川さんは、一旦言葉を切る。
「名前、聞いてなかったね」
「吉澤、吉澤ひとみです」
「よっすぃーでいい?」
「は、はい」
矢口さんがつけた呼び名を石川さんが口にした。
些細なことだけど、なんだか一歩近づけた気がした。

「あ、そこ」
石川さんは目の前のマンションを指さした。
「はい。お疲れ様でした」
「ありがとう」
「いえ、いえ」
「楽しかった」
「ほんとですか。よかった」
お世辞なのかもしれないけど、石川さんの笑顔が本物に見えた。
だから、嬉しかった。
笑顔を運ぶ運送屋さんは、無事任務完了です。
118 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)16時08分07秒
石川さんはロックをはずしてドアを開けた。
「よっすぃー、優しいね」
「え?」
「なにも聞かないんだもん」
彼のことを思っているのか、笑顔が消えて、少し辛そうな表情になった。
なんて言っていいのかわからなかった。

「石川さん…」
「なに?」

石川さんの、傘になりたい…。
傘になって、どんな雨からも守ってあげたい。
台風で、柄が折れたって、絶対濡れさせないから…。

本気でそう思った。

傘になりたい。
そう言えたら、少し格好良いかもしれない。
気持ちも、伝わるかもしれない。

「傘…持って行きますか?」
「いいよ、すぐそこなんだから」
「ですよね…」

これが精一杯…。
119 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月07日(水)16時09分14秒
「よっすぃー、あのね…」
「はい」
「名前で呼んでいいよ」
石川さんはそう言うと、少し照れたように、車から降りた。

石川さんはマンションの前から、こっちに向かって大きく手を振ってくれた。
そして、中へ入って行く。
姿が見えなくなっても、しばらく網膜から石川さんが消えなくて、
身動きできなかった。

きっと伝わらないけど、
伝えられないけど…。
想ってるくらいいいよね。

好きです。
梨華ちゃん…。
120 名前:作者 投稿日:2002年08月07日(水)16時20分20秒
レスありがとうございます。

>109オガマー様
しばらく、まだ、こんな感じです。
今回は切なさちょっと少な目にしたつもりですが…。

>110名無し読者様
晴れるのは、雷雨の後でしょうか…。
121 名前:皐月 投稿日:2002年08月07日(水)21時28分37秒
か・・・悲しい〜・・・ってゆーか切ないっす。
よっしぃ〜がんばって梨華ちゃんに気持ちつたえろよ・・。
作者さん今後の更新楽しみに待ってます!
122 名前:オガマー 投稿日:2002年08月07日(水)22時37分16秒
ぉぉ、大進歩じゃないですか♪
ここからまた波瀾があるのでせうか?
少し幸せになれましたw
123 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月08日(木)14時56分45秒
なんとも、泣ける…。がんがれよっすぃー!!!
124 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月09日(金)01時02分02秒
なぜ毎日石川家は荷物が有るのかが不思議
125 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月09日(金)01時34分13秒
石川家?
>>7
126 名前:とみこ 投稿日:2002年08月09日(金)18時03分16秒
ちょっと!!キーボードに涙落ちちゃったんですけど!!
どうしてくれるんです?!(w
すごいいいです!マジでいいです!!
私、こんないい作品がある板にスレ立てちゃったけどいいのでしょうか(汗
がんばってください!!!!
127 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時18分26秒
今日は快晴。
無理矢理にでも、思い込みでも、
気分は爽快、ってことにしておこう。

「毎度!」
「ありがとうございます!」

精一杯の笑顔と、明るい声。
ヨーシ、まだまだいける!

今日はいつもより荷物が多い。
道もやけに混んでいて、なかなか配達が進まない。
午前中の予定が、3時頃までずれ込んだ。
昼食は後回しにして、遅れを取り戻す。
夏の太陽は、まだまだ痛いくらいに照りつけてる。
だけど、もう5時前。
急がなきゃ。

荷物を抱えて走る。
今日は一日こんな感じ。
シャツが汗で背中にベッタリくっついている。
128 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時19分27秒
携帯がなった。
今日はもう何度目だか、数え切れない。
催促の電話が、事務所にかかってきたのだろう。
『ごめんね、何度も』
「いえ。遅れててすみません。どこから電話ですか?」
事務員さんが口にしたのは、石川さんの会社だった。
「今、向かってるところです。あと10分で、あ、8分で、必ず」
『電話入れとくから、お願いね』
「了解です!」

早く行かなきゃ。

石川さんが待っている。
石川さんが…、
梨華ちゃん…、
梨華ちゃんが、待ってるから。

本人じゃないかもしれないけど。
それに、待ってるのは、荷物なんだけど…。
129 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時21分04秒
「毎度!遅くなってすみません!」
「ごめんね、急がせて」
梨華ちゃんは、申し訳なさそうな顔をして出てきた。
伝票を渡すと、いつもどおり、丁寧にハンコを押してくれる。

ほんの少し目が腫れていて、肌も荒れた感じがした。
たぶん、ぱっと見ただけでは、わからないくらい。
だけど、わかってしまう…。
一番大切のひとだから。

寝てないんでんだよね…。
誰かのことを思って…。

こんな華奢な体に、苦しみをいっぱい抱えてる。
そう思ったら悲しくなって、
胸が痛くなって、
気付いたら、梨華ちゃんを、じっと見つめてしまっていた。

「どうかしたの?」
「い、いえ、なんでも、ないです…」
梨華ちゃんは、心配そうにしていた。
130 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時21分59秒
心配なのは、梨華ちゃん…。

手を伸ばせば届く距離にいる。
なのに、なにもしてあげられない。

「ありがとうございます」
「ご苦労様」
「あの…」
「なに?」
「傘…」

傘はいりませんか?
コンビニで500円のビニール傘だけど、
急な雨なら凌げるから。
いらなくなったら、どこかへ置いてくればいいから…。

「いえ、頑張って下さい」

それだけしか言えなかった。

梨華ちゃんは、小さく頷いて、微かに笑った。
悲しい笑顔だった。
131 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時22分40秒
嫌になるくらい高い夏の太陽も、次第に傾いていく。
漸く全ての荷物を届け終えた頃には、辺りは真っ暗になっていた。

会社に戻ると、事務所には中澤さんがいた。
「ただいま戻りました!」
「お疲れさん。待ってたで」
中澤さんは、そう言うと読んでいた雑誌を、バタンと机の上に置いた。
目つきが鋭い。
「なにか、怒られるようなことしましたっけ?」
「ちゃうわ、ご飯奢るって約束したやろ」
「あ、ああ…」
鋭い目つきは生まれつきだったみたい。

「なんにも、用事ないやろ?」
「それ、なんか、失礼ですよ」
「あるんか?」
「ないです…」

悔しい…。
132 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時23分59秒
中澤さんに連れられて行ったのは居酒屋。
4人がけの椅子席に向かい合って座った。
意外にも、ちょっと居心地が悪いくらい、おしゃれな店だった。

「こんな店にも来るんですね?」
「それ、どういう意味や?」
中澤さんが睨む。
「いや、その…」
「まあ、ええ。ビールでええやろ?」
「はい」
中澤さんはメニューを開くと、店員を呼んでテキパキと注文した。

店は大繁盛。
ほぼ満席。
「流行ってるんですね」
「今日は、ビール半額なんや」
なるほど…。
133 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時25分00秒
「とりあえず、飲み」
「はい、頂きます」
ついでもらったグラスのビールに口をつけた。
「もっと、一気にいかんかいな」
「はあ…」
運動部の先輩みたいに、しきりに中澤さんは飲まそうとする。
今日は朝にパンを食べたきり。
空きっ腹に、アルコールが染みる。
店に入って30分も経たないうちに、くらくらしてきた。

「そろそろええやろ」
「はい?」
「溜まってるもん吐き出し」
「溜まってなんか…」
中澤さんは、真っ直ぐこっちを見つめてる。
その目をみてると、嘘はつけない気がした。
「こういうタイプが、一番やっかいなんや」
「は…?」
「いつも無理して明るく振舞ってるヤツは、突然がくっとくる」
「…」
「なにを悩んでるんや?」
中澤さんの目つきは鋭い。
けれど、優しい。
134 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時26分17秒
大丈夫。
ずっと、笑顔でいれるはず。
笑顔でいなきゃ…。
でも…。

アルコールのせいか、メッキが剥がれたみたいに、弱い心が露出する。

ひとを好きになって、
ほんとに、好きになって、
でも、そのひとには、他に好きなひとがいて、
しかも、大好きなそのひとは、女の子で…。

梨華ちゃん…。

心の中で呟いただけで、泣きそうになる。
たぶん、それはアルコールのせい…。

泣かない。
絶対に泣かない。
そう決めた。
ずっとそうやって生きてきた。

「なにも、ないです…」
やっと、そう言えたときだった。
目の端に映った情景に、心臓が止まるかと思った。

どうして…。
梨華ちゃん…。

梨華ちゃんと、矢口さんが店に入ってきた。
135 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時27分00秒
「よっすぃー!」
真っ先に声をかけてきたのは、矢口さんだった。
「矢口さん」
「また、偶然だね」
矢口さんは心底驚いたような顔をしている。

「知り合いか?」
ポカンとしていた中澤さんがそう聞いた。
「はい…」
「良かったら一緒にどうですか?満席みたいやし」
中澤さんの提案で、一緒に飲むことになった。


隣に梨華ちゃん、斜め向かいには矢口さん。
話の上手い矢口さんが場を盛り上げる。
さっきまでの重い空気はどこかへ消えた。
136 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時27分42秒
横に梨華ちゃんがいる。
本当に、肩が触れる距離。
顔が赤いのはアルコールのせい。
だけど、飲んでいなくたって、真っ赤になっていたと思う。

「彼氏とはうまくいってるの?」
急に矢口さんがそう言う。
「は、はあ…」
なんて答えていいかわからない。

彼氏なんかいない。
欲しくもない。
好きなのは…。

「ごめん、ごめん、悪いこと聞いたみたい」
「いえ…」
「ずっと心配してたんだよ」
矢口さんは笑顔だったけど、目は真剣だった。
恥ずかしくなって、目をそらしてしまった。

まさか、バレてたりして、
好きだったこと…。
137 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時28分37秒
「そうだ。いっそ、石川と付き合ったら?」
硬くなりかけた空気を和ませようと思ったのか、
矢口さんが笑いながらそう言う。
そんな気の使い方は、昔から天下一品だ。
「そやな、よう見たら、美男美女やん」
中澤さんも加勢する。
「ほんとですか?」
梨華ちゃんまで、悪乗りして、こっちを見てにっこり笑うと、
腕を絡めてきた。
「や、やめて下さい…」

そう言う冗談、体に悪い。

「よっすぃー、ひょっとして…」
矢口さんはなにか言いかけて途中でやめた。

やっぱり、バレてたかな…。
そして、また、バレたかもしれない…。
138 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月14日(水)13時30分01秒
それから、みんな飲んで食べて、楽しい時を過ごした。
初対面なのに、中澤さんと矢口さんは気が合うようで、
しきりにじゃれついている。

梨華ちゃんの楽しそうだった。
それがなにより嬉しかった。

「矢口って、ほんと可愛いな」
ぬいぐるみでも扱うみたいに、中澤さんが矢口さんの頭を撫でて、
髪をくしゃくしゃにする。
「やめてよー!」
悲鳴をあげながらも楽しそうな矢口さん。
そんな様子を、梨華ちゃんとふたり、顔を見合わせて笑った。

「ちょっとうちへ来ない?」
急に梨華ちゃんがそう言いだした。
「え?」
「ふたり楽しそうだし」
「はあ…」
「あっ、疲れてるんだよね」
「い、いえ。行きます」

これって…、
誘われてる…。

一気に酔いが醒めた気がした。
139 名前:作者 投稿日:2002年08月14日(水)13時41分31秒
レスありがとうございます。

>121皐月様
まだまだ伝えられないかもしれません。
がんばります。

>122オガマー様
まだもっと大きい波瀾がある予定です。

>123名無し読者様
今日は泣けるようなところまで、行けませんでした。

>124名無しさん様
会社のOLという設定です。
わかりにくかったですか。
申し訳ありません。

>125名無し読者様
フォローありがとうございます。

>126とみこ様
頑張って、拭いて下さい。
あっ、そんなたいそうな…。
お互い頑張りましょう。

更新しました。
今週は今日しかアップする時間がなく、
どうということもないシーンなので、もう少し進めたかったのですが、
ここまでしか書けませんでした。
140 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年08月14日(水)16時18分27秒
やぐっつあん。いいひとだ〜。
続きが気になりますが、お忙しそうですね。
マターリまってます。ガンガッテください!
141 名前:オガマー 投稿日:2002年08月14日(水)22時45分26秒
なになになになになになになに(爆
気になり過ぎます。
更新待ちw
142 名前:皐月 投稿日:2002年08月14日(水)23時04分57秒
うわぁー!すごい続きが気になるー!!!
更新楽しみに待ってます!
作者さんがんばってくださいね!
143 名前:58 投稿日:2002年08月15日(木)00時32分36秒
切ない胸の内を隠しながらも、直向な吉澤さん。
頑張れ!君は「コンビにの傘」なんかじゃない!

そして作者さん、忙しい中の更新。
大変でしょうが、頑張って下さい。
144 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月19日(月)12時47分50秒
梨華ちゃんは、少し酔ったようで、足下が心許ない。
そのせいか、さっきの冗談の続きなのか、ぴったり寄り添ってくる。
梨華ちゃんの掴んでいる、シャツ。
一歩踏み出すたびに、揺れて、横腹に手の感触が伝わる。

もう、完全にアルコールは蒸発してしまいました。

照れくさくて、ドキドキで、
心臓が飛び出しそうなくらいの鼓動。
伝わらないかが心配。
ついつい、先を急いでしまう。

「よっすぃー、歩くの速いよぉ」
ちょっと、拗ねたように甘えた声。

もう、あ、う゛、うあ、あ゛―。

とにかく、
かわいい…。

「ご、ごめんなさい」
梨華ちゃんの顔は見れなくて、前を向いたままそう言った。
そして、意識して、歩幅を小さくする。
145 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月19日(月)12時48分50秒
「どうしてだろう。よっすぃーの傍にいると、安心する」
肩の辺りに、梨華ちゃんの頭が触れている。

だから、そういうことされると、
もう…、
だめだって…。

「私、よっすぃーの彼女にしてもらおうかな」
「…」

そういう冗談は、ほんとに、体に悪いんだから…。

夢だ…。
きっと、夢を見てるんだ…。

梨華ちゃんの部屋に着いた時には、抜け殻のようになっていた。
146 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月19日(月)12時50分30秒
初めて見るその部屋は、思った通りに女の子らしい。
淡いピンクのカーテン。
並んで置かれているぬいぐるみ。
部屋中が、かわいらしくて、その全てが梨華ちゃんだった。

「座っててよ」
落ちつかなくて、周りを見回していたら、
梨華ちゃんは、ちょっと、照れくさそうな顔をして、キッチンへ消えた。

ソファーに座ってしばらくすると、カップを載せたトレイを手に、
梨華ちゃんが戻って来た。
向かいに座った梨華ちゃんは、店にいた時より視線がしっかりしている。
もう、酔いが醒めたみたい。

きっと、夢もからも醒めた…。

「よっすぃーも、酔ってたんだね」
「えっ?」
「顔、赤いもん」
「は、はあ、ちょっと…」
全然酔ってないんだけど…。
147 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月19日(月)12時51分26秒
「よっすぃーになら、なんでも、素直に話せる気がする。迷惑?」
「いえ、嬉しいです」
嬉しいけど…。
聞きたくないこともある…。

「聞いてくれる?」
梨華ちゃんは、急に真顔になった。
「は、はい…」
「好きなの」
「え…」

好きなのって…、
そんなこと、じっとこっち見て言われたら…、

「彼のことが…」

だよね…。

そういうとき、倒置法は、使わないで欲しい…。
どうしようかと、思った。
そんなわけ、ないのに…。
148 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月19日(月)12時52分31秒
「みんなに、言われるんだよね、見る目がないって」
「酷いひと…なんですか?」
梨華ちゃんは、曖昧に笑った。
そして、
「だけど、好きなの…」

そんなに、好きなんだ…。

「彼、他に、女の人が、いるかもしれなくて…」
梨華ちゃんの声詰まる。
うっすら涙が浮かんでいる。

胸が痛い。
痛いのは自分の胸なのか、それとも梨華ちゃんの胸なのか。
なんだかわからなくなった。

「それで、喧嘩して、もう、別れましょうって、言っちゃった…」
「でも、好き…なんですね…」
梨華ちゃんは、黙って頷いた。
149 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月19日(月)12時53分50秒
「好きなら、ちゃんと、話さなきゃ…」
なに偉そうなこと、言ってるんだろう。

ほんとは、好きだって言いたくて、
でも、勇気がなくて言えないくせに…。

こんなに好きなのに…。

浮気なんかするヤツより、
きっと、ずっと、何倍も好きなのに…。
絶対、泣かせたりしないのに…。

「話してみたら、誤解かもしれないし…」
「…」
「今から行きましょう」
「だめだよ…」
「付いていってあげるから」

バカみたい…。

「無理なの」
「どうして?」
「遠いから」
「少しぐらい遠くったって…」
梨華ちゃんは、困ったような顔をしている。
「こないだ、転勤して、彼、今、大阪なの」
「大阪…」

やっぱりバカだ…。

だけど、もう、エンジンはかかってしまいました。
150 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月19日(月)12時54分40秒
「じゃあ、明日行きましょう」
「えっ?」

どうせなら、ほんとのバカになろう。
それで、梨華ちゃんの笑顔が本物に変わるなら。

「配達、終わったら、迎えに行きます」
梨華ちゃんは呆然としてる。
「助手席、乗り心地は悪いですけど。知ってますよね?」
そう言って、精一杯笑った。
そしたら、梨華ちゃんも少し笑ってくれた。
「ほんとにいいの?」
「はい。だって…運送屋さんだから」

明日最後の大切な荷物。
運送屋さんは、大好きなひとの、愛を運びます。
151 名前:作者 投稿日:2002年08月19日(月)13時01分32秒
レスありがとうございます。

>140よすこ大好き読者。様
みんな、いい人です。
忙しくはないのですが、お盆休みだったので。

>141オガマー様
酷い、続きでした…。

>142皐月様
ありがとうございます。
がんばります。

>143 58様
応援ありがとうございます。
まだ、こんな感じです…。

更新しました。
152 名前:オガマー 投稿日:2002年08月19日(月)14時01分40秒
はぁ…
運送屋さんは大変です…
153 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月19日(月)14時28分58秒
うわぁ、痛い・・
154 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月19日(月)15時31分31秒
一気に読ませていただきました。すごいいい話ですね。
よっすぃ〜がすごく痛くて切なくて感動してます。特に最後の一文にはぐっときました。
155 名前:皐月 投稿日:2002年08月19日(月)18時46分33秒
い・・・痛い・・・
うるっと涙が・・・。
更新楽しみにしてます!
がんばってくださいね!
156 名前:とみこ 投稿日:2002年08月20日(火)08時23分01秒
ゔ・・・痛いっす・・・
切ないよしこ・・・。でも好きなコのためなら優しいのですね。
さすが私のよしこ・・・(?
157 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月29日(木)23時07分49秒
今日も快晴。
運送屋さんは、いつも通りに元気です。

大きなダンボールを抱えて走る。

「毎度!」
「ありがとうございます!」

車を快調に飛ばす。
道もすいてる。

空も、ひとも、応援してる。
梨華ちゃんの想いが、ちゃんと届きますように…。
だよね…。

なにか違う気がするけど、
なにか足りない気もするけど、
梨華ちゃんの笑顔が好きだから…、
大好きだから…、
だから、余計なことは考えない。

あと、3つ。
あと、2つ。
ラスト。

配達完了!
158 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月29日(木)23時09分10秒
事務所に寄ってデスクワークを急ピッチで終える。
そして、向かう先は梨華ちゃんのマンション。

車を端に寄せ、携帯を取り出す。
昨日教えてもらった番号を呼び出す。
おおきくひとつ深呼吸。

いきます!

『もしもし』
特徴のある高い声。
聞き慣れたはずなのに、電話の声はまた少し違っていた。
妙にドキドキする。
「あ、あの…」
『よっすぃー?』
「は、はい、今着きました」
『じゃあ、行くね、待っててね』
「は、はい」

マンションの入り口に目を向けた。
ここから出てくるんだ。
待ってます。
ずっと、待っていたい…。
159 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月29日(木)23時10分37秒
しばらくして、やって来た梨華ちゃん。
昨日より、オシャレな格好。
それはきっと彼のためで、
そう思うと、胸がチクチク痛い。
でも、可愛くて、目が離せない。

「お待たせ」
そう言って笑顔を見せる梨華ちゃんは、
やっぱり、少し疲れてるみたい。
あまり、眠れなかったのかな。

「どうしたの?」
じっと見つめていたから、梨華ちゃんは不思議そうに首をかしげた。
「いえ…行きましょうか」
「うん、ごめんね…」
梨華ちゃんの辛そうな視線が、下に向いた。

大丈夫。
ちゃんと、送り届けてあげるから。

「お願いします」
「了解です!」
160 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月29日(木)23時12分13秒
高速に入る。
ちょっとした路面のがたつきが、直接シートに伝わる。
いつもは気にもしないけど、心配になって隣をチラッと見た。
運送屋さん仕様の車は、華奢な女の子を遠くへ運ぶには向いていない。

「乗り心地悪いでしょ。疲れたら言って下さいね」
「ありがとう」
前を見てるけど、梨華ちゃんの視線を感じた。
とても暖かな視線だった。
「どうかしましたか?」
「優しいね…」
「…」

優しくなんてない。
このまま、どこか別の場所へ連れ去ってしまいたい。
そんな気持ちが、まったくないと言えば嘘になる。

ただ、好きだから…。
大好きな人に何かをしてあげる。
それはきっと幸せなことだと思う。
161 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月29日(木)23時13分48秒
「眠っててもいいですよ」
「いいよ」
「遠慮しないで下さい。疲れてるみたいだし…」
「大丈夫」

長い距離。
仕事のこと、ありふれた日常。
取り留めのない話をしながら、ひたすら西へ向かう。
冗談を言うたび、梨華ちゃんは笑ってくれた。

ふと、会話が途切れた瞬間、梨華ちゃんに視線を向けた。
梨華ちゃんは遠い目をしていた。
ガラス越しに、真っ直ぐ続く夜の道の向こう、
遠くに見えるテールランプのまだずっと先、
きっと、そこに、梨華ちゃんは、ここにはいない彼を見ていた。

「どんなひとですか?」
気がついたらそう聞いていた。
ずっと、避けていた話題。
梨華ちゃんの肩が、ピクンと動くのがわかった。
「スポーツマン…かな…」
明日から体鍛えよう。
意味ないけど、そんなことを思う。
「優しいひと…、だった、最初は…」
梨華ちゃんはそう言って笑った。
一生懸命に笑っていた。
だから、なにも言えなくなった。
162 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月29日(木)23時15分29秒
長くて短い旅の終わりは、もうすぐそこまで来ていた。
高速を下りて地図を頼りに家を探す。
「ごめんね、場所ちゃんと覚えてなくて」
梨華ちゃんは申し訳なさそうに俯いた。
「大丈夫ですよ。家探すの、得意です。運送屋さんですから」
笑顔でそう言うと、梨華ちゃんも少し笑った。

「あっ、あそこ」
梨華ちゃんのその言葉で、旅は本当に終わった。

マンションの前に車を止める。
梨華ちゃんは思いつめた表情で、息を吐いた。
今にも泣き出しそうだった。

「頑張って下さい」
「う、うん…」
不安そうな顔。

そんな顔しないでよ。
梨華ちゃんは絶対幸せになる。
幸せになって欲しい。
だから…。
163 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年08月29日(木)23時16分33秒
「いらないと思うけど、少しだけ、ここで待ってます」
「うん…」
「祈ってますから…」
「ありがとう、ほんとに…」

ようやく意を決したように、梨華ちゃんは車から降りた。
そして、ゆっくり、歩き出す。
振りかえった梨華ちゃんに、ガッツポーズをして見せた。
梨華ちゃんは頷いた。

頑張れ。
きっと、大丈夫。
誰よりも幸せになって欲しいから、
だから、これでよかった。

運送屋さんは、本日全ての配達を、無事終了しました。
164 名前:作者 投稿日:2002年08月29日(木)23時23分47秒
レスありがとうございます

>152オガマー様
いろいろ、大変なようです。

>153名無し読者様
痛いです、はい。

>154名無しさん様
ありがとうございます。
お付き合い頂ければ嬉しいです。

>155皐月様
更新遅くなりました。
なんとか、頑張ります。

>156とみこ様
優しいイメージです。

いろいろ、たて込んでおりまして、遅くなりましたが、更新しました。
来週もちょっと時間が取れないかもしれません。
読んで下さっている方には申し訳ないです。
165 名前:オガマー 投稿日:2002年08月30日(金)00時17分30秒
作者サマは最後の一文でものすごく切なくさせてくれますなぁ〜
くはぁ…
今はまだ梨華ちゃんの幸せを願えない僕を許してください…
続き期待して待ってます(w
166 名前:あおのり 投稿日:2002年08月30日(金)01時59分34秒
今日はじめてよまさせていただきました。
大好きな人の為に恋の相談に乗ってしまうヨシコが悲しくて切ないです。
でも逆転の余地はあきらめなければあるぞ!ヨシコがんばれ!
167 名前:皐月 投稿日:2002年08月30日(金)20時29分51秒
せ・・・切ねぇ〜・・・・。。。
吉澤さん切なすぎです。。。ホント泣けます。。。
石川さんどうなるんでしょう?
すごい続き期待します。
更新楽しみに待ってまーす!
168 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月06日(金)19時04分44秒
ちょうど1時間。
マンションの前に車を止めて待った。

ひとの気配がするたびに、
ドキッとして、
だけど、出て来るのは、まるで違う人。
一緒に帰ろう。
そう言ってくれるのを、心のどこかで期待していた。

バカだ。

誤解が解けたのかな…。
次に会う時は、本当の笑顔だよね。
それが一番。
だから、
おめでとう…。

さあ、帰りますか。
169 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月06日(金)19時06分29秒
エンジン始動。
アクセルが妙に重たく感じるのは、きっと気のせい。
10分ほど走ると、銀色に光る大阪ドームの屋根が見えた。

なんとなく、車を止めて、外へ出てみた。

空気はどんよりして、微かに星が光っていていた。
ビルの谷間から見える、銀色のうねりが、
なんだか不釣合いな気がして、おかしかった。

行き交う車のヘッドライトや、コンクリートの隙間に並ぶ街路樹。
バカみたいに、意味もなく、ぼんやり眺めてた。

疲れてるのかな…。
きっと、少し疲れてる…。

そろそろ帰らなきゃ。
そう思ったとき、胸のポケットが、ブルブル震えた。

携帯だ。
誰だろう。
170 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月06日(金)19時08分36秒
ディスプレイに映った表示。
“石川梨華”
ただの文字なのに、それを見ただけで、胸が熱くなった。

わかってるけど、
今更だけど、
やっぱり、好きなんだ…。

「もしもし」
息を呑むような気配がした。
『…』
「梨華ちゃん?」
『ごめん…』
消え入りそうな声。
「どうしたんですか?」
『…もう、帰えりだよね』
「いえ、まだ近くにいます」
『ほんと?』
「…」
『…』
「一緒に、帰りますか…」
『…』
何も言わない梨華ちゃんが、電話の向こうで、頷いてる気がした。
「迎えに行きます」
171 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月06日(金)19時10分10秒
携帯を切ると、急いで車に乗り込んだ。
アクセルが軽い。
さっきと同じ場所に車をとめる。
マンションの出入り口のガラスに、うっすら人影が浮かんでいた。
見つけた途端、堪らなくなって駆け出した。

肩を落として立っている梨華ちゃん。
とても小さく見えた。
「ごめんね…」
無理に笑顔を作ろうとして、
でも、それは、全然笑顔になってなくて、
辛い気持ちが、痛いくらいに伝わってくる。
「せっかく、届けてくれたのに…」
「…」
「返品されちゃった…」

笑わなくていいよ…。
それ以上、何も言わなくていい…。
172 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月06日(金)19時11分10秒
言葉が見つからなくて、肩にそっと手を置いた。
梨華ちゃんは、糸が切れて倒れこむように、顔を胸に埋めた。

梨華ちゃん…。

欲望なんてなにもなかった。
慰めてあげたくて、
少しでも、心を軽くしてあげたくて、
ただ夢中で抱き締めた。

ようやく、体の震えが止まり。
梨華ちゃんは、顔をあげた。

「一緒に、帰りましょう」
そう言うと、体を支えてあげながら、車に乗り込んだ。
173 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月06日(金)19時12分58秒
送ってきたときと同じように、なんてこともない話をしながら、
今度は東へ向う。
思いつく限りの、冗談を言った。
けれど、梨華ちゃんは、笑わない。
多分、笑えない。

「ほんとに、寝てていいですよ」
「うん…」
疲れているのは、顔を見なくてもわかる。
「ねえ、よっすぃー…」
「なんですか?」
「なんで、そんなに、優しいの?」
「それは…」

心臓がビクンと跳ねた。
顔が熱くなる。

それは…、
好きだから…。

彼じゃなきゃだめですか?
彼の代わりにはなれませんか?

ほんとに、好きだから、
絶対変わらないから、
なんでもしてあげるから…。

こういうのって、勢いだと思う。
今なら言える気がした。
174 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月06日(金)19時13分59秒
もう…、
えーいっ!

「好き、だから…」
言っちゃった…。

不意に肩が重くなった。
梨華ちゃんの頭が、載っている。

「好き…」

えっ…。

はっとして横を見た。
少し安心したような、穏やかな寝顔が、肩の上にあった。

なんだ、寝ちゃってるよ…。
寝言か…。
彼の夢、みてるんだ…。

勢いだけじゃ、駄目みたい。
175 名前:作者 投稿日:2002年09月06日(金)19時22分32秒
レスありがとうございます。

>165オガマー様
幸せにはなりませんでしたが…。

>166あおのり様
読んで頂いてありがとうございます。
まだ、逆転は出来ませんでした。

>167皐月様
石川さんはこんなふうになりました。
吉澤さんはあいかわらずで…。

更新しました。
176 名前:皐月 投稿日:2002年09月06日(金)21時23分58秒
更新楽しみに待ってましたっ!
いやぁ〜、作者さんホントお上手ですね。感心します。
吉澤さん言っちゃいましたけど、石川さん聞いてるんでしょうかね(笑。
吉澤さんもうちょっとがんばってほしいですね。
それでは、次の更新楽しみに待ってます!
がんばってくださいね!
177 名前:あおのり 投稿日:2002年09月07日(土)00時09分31秒
あ〜ついに言っちゃいましたね。
これからのヨシコの頑張りに禿げしく期待。
ゆっくりゆっくりガンガレ!
178 名前:オガマー 投稿日:2002年09月07日(土)01時24分25秒
わぁーーーーーー
ドキドキしたぁ…
どうなるんだろう、期待w
179 名前:とみこ 投稿日:2002年09月07日(土)09時38分53秒
更新だー!!!ヤター!
よしごまに洗脳された私にもいしよしバンザイと思える作品がここにあるのです!
がんばってください!!
180 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月11日(水)21時24分00秒
眠い目を擦りながらも、笑顔を振り撒き、荷物を届ける。
運送屋さんは、今日も元気です。

梨華ちゃんを無事家までおくり届けて、即、出勤。
「ありがとう」
寝ぼけ眼で、そう言った梨華ちゃんの顔が、頭の中いっぱいに広がっている。
一世一代、勇気を振り絞った告白。
結局、届いたんだか、届いてないんだか、よくわからない。
運送屋さんとしては、ちょっと、失格かもしれない。

だけど、荷物があるかぎり、どこへでも届けます。
そして、ちゃんとハンコを貰います。

「毎度!」
「ありがとうございます!」

額の汗を拭って、大きな荷物を抱えて走る。
この街が自分の大切な舞台。

よーし、行きますか。
えーと、次は、
梨華ちゃんの会社…。

行きます!

181 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月11日(水)21時26分20秒
大きく、深呼吸。
「毎度!」
笑顔の梨華ちゃん。
疲れているはずなのに、すっきりした顔をしていた。
なんだか少し吹っ切れたみたい。
「昨日はありがとう」
声も明るかった。
「いえ、役に立てなかったみたいで…」
「そんなことないよ、お陰で、諦めがついた」
どこまで本気なのかわからない。
だけど、笑顔は、本物に一歩近づいているような気がした。

「よっしぃー、大丈夫?」
梨華ちゃんの顔が、なにか思い出したように、突然曇る。
「え?」
「寝てないでしょ?」
「そんなの平気ですよ」
梨華ちゃんのためなら、1日や2日寝なくたって、どうってことない。
「ごめんね、私、熟睡しちゃって」
「いいですよ」
「なんでだろ、よっすぃーの横にいたら、すっかり安心して…」

ぽっと顔が熱くなる。
そういう微妙な言い回しって、どう受け取ったらいいんだろう。
甚だしく、覚えてもらってない気はするけど、
一応、告白なんかも、してしまったわけだし…。
182 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月11日(水)21時27分41秒
「あ、あの…」
「なに?」
「車の中で…」
車の中で、言ったこと覚えてますか?
好きだ、って…。

「…あっ、やっぱり、いいです」

怖くて聞けない。
根性無しです。

不可解そうなにしている梨華ちゃんを、誤魔化すように荷物を準備する。
そして、伝票を差し出す。
「ハンコお願いします」
183 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月11日(水)21時29分13秒
「そうだ、今度の日曜、あいてる?」
「へっ?」
びっくりして、素っ頓狂な声を出してしまう。
「よかったら、一緒に遊びに行かないかなって、思ったんだけど」
「は、はあ…」
「仕事かな?忙しかったらいいよ」
「い、いえ、全然、もう、暇で暇で、どうしよかってくらい暇で、もう…」
日本語がおかしい。
わかっているけど、まともな言葉が出てこない。

「じゃあ、また電話するね」
「は、はい!ありがとうございます!」


よっしゃー!

これって、ひょっとして、デート?
あ、いや、…。
期待しちゃいけない。
でも、ああ…。

自然に顔がニヤケてしまう。
あとの配達は、嘘みたいに順調に進んだ。
とにかく、足が軽い。
100メーター、9秒切るんじゃないかって勢いだ。
184 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月11日(水)21時30分21秒
「ただいま戻りました!」
事務所の中澤さんが、意味ありげに見ている。
絶対バレてる。
今日は、自覚してる。

「どんないいことがあったんや?」
やっぱり。
「いえ、別に」
一応誤魔化してみる。
「わかりやすい性格やな」
そんなことはないと思うんだけど…。
「で、次の日曜休み下さいとか、言うんちゃうやろな」
そこまで、バレてたか…。

「ダメ、ですか?」
恐る恐る聞いてみると、中澤さんは眉間に皺を寄せて腕組みする。
「ダメやとは、言わん」
出た…。
185 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月11日(水)21時31分35秒
「なにを買えば、休みくれるんですか?」
「また、ひとを悪徳商人みたいに…」
「違いましたっけ?」
「心優しい先輩に、なんちゅうこと言うんや」
心優しい先輩の目が、浪速商人のようにキラリと光った。

「で、なにを買うんですか?」
「幸運を呼ぶ、ええ壷があるんや」
「…」
霊感商法ときたか…。

「冗談や。ちゃんと休みにしといたる」
「ほんとですか?」
「そのかわり、うまくいった暁には、ちゃんと紹介しにおいでや。手土産持って」
「は、はい…」

梨華ちゃんとふたり、並んで歩く。
手には紫の風呂敷包みを持って。
何故か、そんな情景が目に浮かんだ。
胸がドキドキする。

いつかそんな日が、本当に来るんだろうか…。
186 名前:作者 投稿日:2002年09月11日(水)21時43分45秒
レスありがとうございます。

>176皐月様
石川さん、わかっているのかいないのか、
わからないような状態です。

>177あおのり様
吉澤さんもがんばりますが、
まだもう少しという感じで…。

>178オガマー様
今回は幸せな感じになりました。

>179とみこ様
こんな下手な文章にそう言ってもらうのは、心苦しいですが、
いしよし作者さんが増えることになるなら嬉しいです。

更新しました。
当初の予定より更新ができない状態にあります。
申し訳ありません。
187 名前:オガマー 投稿日:2002年09月11日(水)22時56分52秒
ほんとだw
幸せそうですな(w
嬉しくなります。
どうかこれ以上波瀾がありませんよーに…。
とは言っても、作者さんの思うままに、更新期待してますね。
188 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月11日(水)23時23分20秒
なんかモニターの前でニヤニヤしていたみたいです。
よかった会社じゃなくて。(w
189 名前:とみこ 投稿日:2002年09月12日(木)18時50分38秒
おっ、一歩近づきましたね^^
石川さんもだんだん吉に惹かれてるんでしょうか。。。
いしよしを愛させてくれるこの小説に感謝感謝!
190 名前:皐月 投稿日:2002年09月14日(土)20時31分50秒
おおっ!デート!!!?
幸せそうなよしこが頭に浮かびます。
楽しみに次ぎ待ってます!
191 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時39分28秒
今日の運送屋さんは、休業中。
空は雲ひとつない快晴。
気分は、どこまでも高いそんな空よりも晴れている。

駅の改札。
待ち合わせ40分前。

ちょっと早く来すぎたかな…。

まだまだ時間はあるのに、妙に落ち着かない。
急に、来れなくなったりとかしないよな…。
わけもなく不安になって、何度も携帯の着信を確認した。

電車の時間が近づくたびに、階段を登る人の群れが現れる。
その中に梨華ちゃんの姿を探す。

まだか…。

いないことを確認すると、ちょっとがっかり。
そして、ホッとする。
192 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時40分48秒
何度目かの群衆を見送ったあと、
遠くに、梨華ちゃんを見つけた。
知らず知らずに顔がにやける。

やばい。

緩みきった頬を誤魔化すために、ぐっと下唇を噛んで下を向いた。

「ごめん、待った?」
「いえ、今来たところです」
ドキドキしながら、ずっと待ってたなんて、言えない。


ふたりで電車に乗った。
日曜日の車内は、行楽地へ出かけるひとで溢れていた。
それぞれに、ささやかな幸せを持って。
休日の電車は、たくさんの笑顔を運ぶ。

扉の脇にふたりで立った。
ちょっと高いつり革につかまる。
小柄な梨華ちゃんは、電車が揺れると、こっちへちょっと倒れかかる。
腕を両手で掴まれた。

なんか、もう、それだけで…、
幸せ…。
193 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時42分19秒
降り立った駅は、遊園地の前。
チケットを買ってふたりでゲートをくぐった。

こんなところ来るの、何年ぶりだろう…。

観覧車に乗りたい。
梨華ちゃんがそう言ったから、初デートは遊園地。
デートだと思ってるのは、多分、自分だけなんだけど。

梨華ちゃんは終始楽しそうな笑顔。
それが、なにより嬉しい。

「よっすぃー、次、あれ乗ろうよ」
「えっ、マジっすか。怖そうですよ」
「大丈夫だよ」

無邪気にはしゃぐ梨華ちゃん。
もう、かわいくて、かわいくて…。

絶叫マシーンは、ちょっとばかし辟易だけど、
キャーキャー言いながら、抱きつかれるなんて、特権もあったり…。
194 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時43分16秒
この一瞬一秒を、箱にでも詰めて、ずっと一生取っておきたい。
なんたって、すぐ隣に、梨華ちゃんの最高の笑顔がある。
ほんと、すぐ隣…。

あの、梨華ちゃん…、
さっきから、ひっつき過ぎなんだけど…。
なんで、そんなに自然に、腕、絡めてくるんですか?
どれだけドキドキしてるか、わかってるんですか?
誤解しちゃいますよ。
いいんですか?

「喉、渇かない?」
「そうですね、ジュース買って来ますよ」

絡んだ腕をそっとはずして、売店へ走った。
正直、少し、ホッとする。
195 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時44分53秒
ジュースを持って戻ると、梨華ちゃんはベンチに座って家族連れを眺めてた。
「オレンジジュース、リンゴジュース、どっちがいいですか?」
「よっすぃーの好きな方でいいよ」
「どっちでもいいですけど」
「じゃあ、はんぶんこしようか」
「はあ?」
隣に座ると、梨華ちゃんは、
無造作に左手に持っていたリンゴジュースの紙コップを手に取った。

「あの子可愛いね」
梨華ちゃんの視線の先には、両親に見守られながら、
まだ覚束ない足で歩く、小さな女の子がいた。
「ほんどだ」
視線に気づいたのか、女の子がこちらを向いた。
梨華ちゃんは、優しい笑顔で小さく手を振った。
すると女の子もにっこり笑う。

梨華ちゃんの笑顔は、ひとに安心感を与える。
知らない女の子にも、優しく手を振る。
たぶん、きっと、そんなところが好きなんだ…。
196 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時45分42秒
「ほんと、可愛いね」
「うん」
梨華ちゃんも…。

「交換しようか」
そう言って梨華ちゃんは、持っていた紙コップを差し出した。
ストローはさしたまま。
はんぶんこって、そういう意味…。

さっきまで飲んでいたオレンジジュースに、梨華ちゃんが口をつける。

あ、あ…。

やっばい。
ドキドキしてるよ。

「どうしたの?」
「いえ、なんでも…」

リンゴジュースの味はわからなかった。
でも、今まで飲んだどんなものより、甘い気がした。
197 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時46分55秒
小休止を終えて、また園内を巡る。
昼時には施設内のレストランで食事。
とにかく、ずっと梨華ちゃんは笑顔で、
だから、ほんとうに楽しくて、
幸せな時間は、あっという間に過ぎていった。

夕暮れ時、最後はリクエストの観覧車。

ゆっくり登っていく小さな鉄の箱の中に、ふたりだけ。

街の明かりが小さく見える。
オレンジ色の空がとてもきれいだ。
そして、なにより、目の前に大好きなひとがいる。

「楽しかった」
梨華ちゃんが呟くように言った。
「よっすぃー、ありがとう」
「そんな…こっちこそ…」
「いろんなこと忘れて、1日幸せな気分になれた」
「…」

ようやく思い出した。
目の前の大好きなひとは、失恋したばっかりだってこと。
198 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時48分39秒
「彼氏とデートしてるみたいだった」
「…」

みたい、か…。

「ごめんね、迷惑だったでしょ」
「そんなこと、全然、久しぶりに、楽しくて、ほんとに…」
「ほんと?」
「もちろん」

迷惑なわけがない。
だって、好きなんだから…。
たとえ、恋人ごっこだって。

だけど、やっぱり、聞いてなかったのか、告白…。

「ねえ、よっすぃーの夢はなに?」
梨華ちゃんは、照れくさくなったのか、急に話題を変えた。
「夢、ですか…」
「うん」
「今の仕事が好きだから、やっぱり立派な運送屋さんになりたい、かな…」

みんなを幸せにする運送屋さん。
笑顔を運ぶ運送屋さん。
もっと、強くなって、
もっと、優しくなって、
誰にも負けない人間になって、
そして、隣には、ずっと、梨華ちゃんにいて欲しい…。
199 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月17日(火)19時49分40秒
「偉いね」
「そんなことないですよ。じゃあ、梨華ちゃんは?」
「私?」
梨華ちゃんは困ったような顔をする。
「私は、普通に、お嫁さんかな…」

お嫁さんか…。
きっと、いいお嫁さんになると思う。
それが、梨華ちゃんの幸せなんだ…。

だけど…、
お嫁さんには、してあげられない…。

観覧車は頂点を過ぎて、だんだん下降し始める。
もうすぐ、幸せな1日も終わる。

「梨華ちゃん、まだ、デートして下さい」
「え?」
「未来の旦那さんが現れるまで」
梨華ちゃんが嬉しそうに笑った。
「よっすぃーは、いつも、優しいね…」

優しいわけじゃないけど…。
身代わりでもいい。
なんでもしてあげる。
傍にいれるのなら…。
200 名前:作者 投稿日:2002年09月17日(火)19時57分53秒
レスありがとうございます。

>187オガマー様
残念ながら、もうひと波瀾です。

>188名無し読者様
今日までは、笑える感じで…。

>189とみこ様
いしよしを愛して下さい。

>190皐月様
なんとか、楽しそうなデートだったかと…。

更新しました。
気分転換に始めたような、つまらない話を引っ張るのは、
あまりに心苦しいので、週末に書き上げました。
数日で完結させます。
201 名前:皐月 投稿日:2002年09月17日(火)20時22分34秒
おおおお!よしこ、優しすぎます。。。なぜかうるっときてしまったんですけど・・。
よしこ!がんばれ!
更新楽しみに待ってます!
がんばってくださいね!
202 名前:オガマー 投稿日:2002年09月18日(水)02時22分53秒
な、なんか怖い…
もしかして重大なヒントが今回の中にありませんでした?(滝汗
がんがれ!梨華たん!がんがれ!よっちぃ!
作者様もがんがってくらさい!
203 名前:あおのり 投稿日:2002年09月18日(水)11時33分30秒
はぁ・・・ヨスコ・・・・
けなげヨスコにKNOCK OUTです。いつか本当のデートになってほすぃ・・・
204 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時15分24秒
夏は過ぎて、日差しは漸く優しくなった。
それでも、大荷物を抱えて走る運送屋さんの額には、汗がじんわり染みてきます。

初デートを境に、ふたりの距離は、ぐっと縮まった。
仕事終わりには、毎日のように待ち合わせて、ご飯を食べに行く。
梨華ちゃんの家で、手料理をご馳走になることもあった。
ふたりで台所に立って、料理することもある。
休みが合えば、必ずふたりで出かけた。
映画を観たり、買い物をしたり。

もう、ただの運送屋さんと得意先の事務員さんじゃなくなった。
きっと、それは間違いない。

ひとがいない夕暮れの道では、ふざけて手を繋いだり、腕を組んで歩いたり。
ひょっとしたら、恋人じゃないかって、思ってしまうくらい。
だけど、それは錯覚。
205 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時16分40秒
将来、素敵な誰かと出会うまでの代用品。
そんなこと、わかってるけど…。

少しくらいは好きだと思ってくれてるんじゃないか、
そう思える瞬間も、たまにあった。
「よっすぃーが、男の子だったらよかったのに」
そう言ったときの、ちょっと悲しそうな梨華ちゃんの目。

男の子みたいだとは、よく言われるけど、
だからって、男になりたいとは思わないけど、
だけど、それで梨華ちゃんを幸せにできるのなら、
梨華ちゃんの、ほんとの恋人になれるのなら、
やっぱり、男に生まれてきたほうがよかった…。

なーんてね。
考えても仕方ない。
今夜も梨華ちゃんが待ってるから、運送屋さんは走ります。
街中に笑顔を届ける。
それが仕事です。
206 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時19分03秒
不意に携帯が鳴り出した。
梨華ちゃん専用の呼び出し音。
最初の頃みたいに、緊張はしない。
砕けた調子で話せるようにもなった。
だけど、やっぱり自然と頬が緩んでしまう。

「はい、吉澤です」
『ごめんね、仕事中に』
「いいけど、なに?」
『今日、ちょっと、遅くなりそうなんだ』
「仕事?」
『ちょっと、友達と約束しちゃって…』
「そうなんだ、じゃあ、また明日だね」
『ごめんね』
「いいよ、そんなの」

今日は会えないのか…。
昼の配達の時には、なにも言ってなかったから、きっと急に決まったんだ。
そんな日もあるか。
また、明日。
大切な梨華ちゃんを誰かに届けるのは、まだ先の話。
ずっと、先。
きっと…。

さあ、もうひと頑張り。
残りの荷物片付けますか。
207 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時20分20秒
「ただいま戻りました!」
「お疲れ様」
事務所には中澤さん。
そして、隣には、何故か矢口さんがいた。

「矢口さん、久しぶりです」
「久ぶりだね。よっすぃー、全然連絡よこさないし」
矢口さんが軽く睨む。
「すみません…」
「吉澤は、毎日デートで忙しいみたいやからな」
中澤さんは、からかうようにそう言う。
「そ、そんなんじゃないですよ、ただの友達と会ってるだけですよ」
「ほんまかいな、メチャメチャ嬉しそうな顔で帰って行くやないの」
「ほんとですって…女の子だし…」

ただの友達。
相手は女の子。
全部本当。
それでも、好きなんだけど…。

「それより、矢口さん、どうしたんですか?」
「よっすぃーに話があったんだけど、デートなら仕方ないね」
「だから、違いますって、それに今日は約束ないんで、いいですよ」
「ほんと?」
「はい」
208 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時22分48秒
矢口さんとふたり、梨華ちゃんとよく行く洋食屋さんへ入った。

「話ってなんですか?」
「ん…とりあえず、食べちゃおうよ」
「は、はあ…」

なんだか少し切り出しにくそうな矢口さん。
いったいなんの話なんだろう。
結局、並んだ皿が空になるまで、他愛のない話をした。

食後の紅茶に口をつけると、急に矢口さんの表情が変わった。
「話なんだけど…」
「はい…」
「いつか、手紙くれたよね」
「へっ?」
慌てて紅茶を噴出しそうになった。
手紙。
確かに渡したけど、あれは差出人不明のラブレター。
「名前なんか書いてなくてもわかるよ」
知ってたの?
ならどうして…。
209 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時23分53秒
「ずっと、よっすぃーとは、姉妹みたいでいたかったから、気付かない振りしてた」
なんだ、そうだったのか…。
「でもさ、傷つけちゃったんじゃないかって、ずっと心配だったの」
矢口さん…。
「あれがトラウマになって、告白する勇気がなくなっちゃたりしてない?」
矢口さんの優しい目にじっと見つめられた。
きっと、こういう気の回るところが、お姉さんみたいで、大好きだった。

確かにショックだった。
女の子を好きになったって、相手にもされないんだと思った。
二度と好きになんてならないと思った。
そして、絶対泣かない、強い人間になろうと思った。

「石川でしょ?」
「えっ?」
「よっすぃー、石川のことが好きなんでしょ?」
210 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時25分04秒
チャリンと音がした。
スプーンを落としてしまったんだと思った。
ウエートレスさんが近づいてくる。
謝ろうと見上げると、ウエートレスさんの足が手前で止まった。
スプーンを落としたのは、自分じゃなくて、ひとつ前、衝立の向こうのひと。
「すみません」
その声…。
「梨華ちゃん?」

頭が真っ白になった。

「ごめん、聞くつもりはなかったんだけど…」
青ざめた顔で立ち上がったのは、やっぱり梨華ちゃんだった。

なにも言えなかった。
矢口さんも梨華ちゃんも呆然としていた。

まさか、こんな形で伝わってしまうなんて…。
211 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時26分21秒
沈黙を破ったのは、遠くから聞こえる男の人の声。
「お待たせ、梨華」
3人の視線がいっせいに男の人に向いた。

「私、約束してるんで…」
梨華ちゃんはそれだけ言うと、男の人の方へ歩いて行った。

梨華ちゃんが出て行ったあと、予想外の展開に、しばらく口も聞けなかった。
「追いかけなよ」
我に返った矢口さんがそう言った。
「あのひと、前の彼氏だよ」
「…」
「話聞いたけど、ろくなヤツじゃないよ」
「…」
「あんなヤツに渡していいの?」

いいわけない。
梨華ちゃんを送り届ける先は、幸せが待ってる場所で、
本当に素敵な、一生大切にしてくれる、未来の旦那さんの所で、
だから…、
ハンコはもらえない。

思わず立ち上がって、矢口さんの挨拶もしないで、駆け出してしまった。
212 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時27分38秒
暗闇の中を走った。
人ごみを掻き分けて、一生懸命探した。
たったひとりの大切なひと。

辛い思いはさせたくない。
もう、あんな悲しい顔は見たくない。
だから、渡せない。

好きだから…、
誰より好きだから…。

歩道橋の上、ふたりの人影。
やっと、見つけた。

階段を駆け上がる。
「梨華ちゃん」
荒い息で、それだけ言うと、梨華ちゃんが振り返った。
梨華ちゃんは、彼に何か話し掛けると、ひとりこちらへ歩いてきた。

彼でいいの?
幸せになれるの?
彼には渡せない。

ほんとは、誰にも渡したくない。
好きなんだ。
幸せにしてあげたい。
ずっと、隣を歩いて欲しい。

言いたいことはたくさんあるのに、声にならない。
なにも言えず、じっと、梨華ちゃんを見つめた。
213 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月18日(水)20時28分23秒
「よっすぃー、ありがとう」
「…」
「大好きだよ」
「梨華ちゃん…」
「でも、よっすぃー…、女の子だもん…」

そう言うと、梨華ちゃんは彼のもとへ、また歩き出した。
引き止める言葉は浮かばなかった。

そうだよね…。
梨華ちゃんの願いは、なんでも聞いてあげたい。
なんだってするけど…、
ごめん…、
女の子なのは、直らないよ…。
214 名前:作者 投稿日:2002年09月18日(水)20時35分16秒
レスありがとうございます

>201皐月様
また、さらに、吉澤さんには苦労させてしまいました。

>202オガマー様
ヒントはあったのかもしれません。

>203あおのり様
もうしばらく、辛い感じです。

更新しました。
まだ、何回に分けてアップするか決めてませんが、もう少しで完結です。
215 名前:皐月 投稿日:2002年09月18日(水)21時17分05秒
よ・・・よしこー!!!!
悲しいです。。。梨華ちゃん元彼と戻ってしまうのでしょうか?
更新楽しみにしてます!
がんばってくださいね!
216 名前:ななし 投稿日:2002年09月18日(水)23時12分42秒
いやーーー。
217 名前:あおのり 投稿日:2002年09月19日(木)01時28分46秒
ヨスコーそんなところであきらめちゃダメー!
それで良いのかと、梨華ちゃんを小一時間(ry
218 名前:オガマー 投稿日:2002年09月19日(木)03時33分52秒
泣きそう…。
ストレートな分、なんかグッときます。
どうなるんだろう…。
219 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時07分32秒
真っ青な空。
秋晴れです。
時折吹く風が心地いい。
運送屋さんは、今日も元気です。

「毎度!」
「今日も元気だね」
「もちろんです!」

よーし、次。
ペース上げて行きましょう。

荷台の荷物は順調に減っていく。
心を込めた配達。
どんな時でも、笑顔は忘れません。

次。
梨華ちゃんの会社…。

さすがに少し気が重い。
事務員さんに、決定的に振られた運送屋さんは、
いったい、どんな顔をすればいいんだろう。
220 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時09分00秒
「毎度!」
いつも以上の気合を入れた。

梨華ちゃんと目が合う。
でも、それは一瞬。

ああ…。
目を逸らされた…。

梨華ちゃんの代わりに、別の事務員さんが応対に出てきた。
初めて見るひと。
初めてじゃないかもしれないけど、
ここじゃ、梨華ちゃんしか目に入らなかったから。

梨華ちゃんは、机に向かい俯いたまま。
それは、よっぽど忙しかったから、
そんな都合のいい解釈なんて、出来るわけない…。

避けられてる…。

「ハンコお願いします」
お腹に力が入らない。
「ありがとうございます」
221 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時10分33秒
そうだよな…。
ただの友達に、好きだなんて思われてたのを知ったら…、
避けたくもなるよ…。

車に戻ると、大きくひつつ深呼吸した。
ガラスの向こうに、流れる雲が見えた。
追いかけるように、しばらく見つめた。

これで、終わったのかな…。

結構頑張ったよな。
だから、仕方ないか…。
これで、おしまい。

不覚にも、ほんの少し目が熱くなった。
でも、笑顔を運ぶ運送屋さんは、けっして泣いたりなんかしない。
222 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時11分50秒
ちゃんと告白もしてないのに、失恋して1ヵ月。
そろそろ、肌寒い季節。

積み込み完了。
まだ少し時間がある。

事務所の椅子に座っていると、中澤さんがやってきた。
「おはようございます!」
「おはよう」
中澤さんは溜息をつきながら、隣に腰をおろした。
「また二日酔いですか?」
中澤さんが、キッと睨む。

「残念やな、手土産楽しみにしてたのに」
当然のように、振られたことはバレバレだった。
「全部やったんか?」
「は?」
「やれることは、全部やったんか?」
「まあ…」
「なら、しゃあないな。そやったら、後悔はせんやろ」
ガンバレとでも言うように、中澤さんはポンと肩を叩いて立ち上がった。
223 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時13分20秒
今日も運送屋さんは街中を走ります。
笑顔全開。

「毎度!」
「ありがとうございます!」

頭の中に、中澤さんの言葉が駆け巡った。
やれることは、全部やったんか?

頑張ったつもりだけど、
もう、仕方ないことだと思うけど、
本当に後悔しない?

正直、今でも苦しいのは、
どれだけ、目を背けようとしても、
やっぱり、まだ、好きだから。
どうしょうもないくらい、好きだから。

答えはわかっていても、自分の言葉で、ちゃんと、伝えなきゃ。
そうしないと、終われない。

幸運にも、明日は休み。
どんな気まずい思いをしたって、翌日は顔を合わせることもない。
今でも、十分、気まずいんだけど…。

よーし!
行きます!
224 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時14分27秒
毎日通う梨華ちゃんの職場。
今日は、決意を込めて、一歩足を踏み出す。

「毎度!」
「ご苦労様」
馴染みになった事務員さんがやってくる。
見渡してみると、梨華ちゃんの姿がない。
「あの、石川さんは?」
「ああ、辞めちゃいました」
「えっ?」
辞めた…。
そんな…。
「結婚が決まったらしくて、昨日で退社したんですよ」

結婚…。

目の前が真っ白になった。
事務員さんの言葉は、それ以上耳に入らなかった。
225 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時15分37秒
1ヵ月前には、そんな素振りもなかった。
急に結婚なんて…。

梨華ちゃんがいなくなる。
本当にいなくなる。
初めてそう実感した。

クラクラした。
仕事を途中で放り出すわけにはいかない。
だから、荷物は届けた。
けれど、もう、一緒に笑顔は届けられなかった。
226 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時16分50秒
配達を終えると、梨華ちゃんの家へ向かった。

会ってなにを言おうなんて、もう考えていなかった。
ただ、会いたかった。
今すぐ、会いたかった。

マンションの前に車を止めて、階段を駆け上がった。

1ヵ月前までは、何度も訪ねた部屋。
間違うはずがない。

プレートがはずされ、ひとの住む気配が消えている。

もう会えないの?
あの笑顔は、もう二度と見れないの?

どこにいるの?
彼のところ?
227 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月19日(木)19時20分37秒
マンションを出て、車に乗り込んだ。
いつかと同じ夜の高速を、ひたすら西へ向かった。
大阪へ行っても、会える保証はない。
だけど、じっとしていたら、どうにかなってしまいそうだった。

どうして、もっと早く、ちゃんと気持ちを伝えなかったんだろう。
もう一度会いたい。
会って、ちゃんと伝えたい。

思い切りアクセルを踏み込んだ。
スピード違反でつかまったら、しゃれにならない。
たけど、もう、止まらない。

運送屋さんの車は、ブレーキが故障中です。
きっと、このまま進むと、粉々に砕けてしまいます。
わかっているけど…、
それでも、走り続けます。
228 名前:作者 投稿日:2002年09月19日(木)19時29分19秒
レスありがとうございます。

>215皐月様
もう少しです。
吉澤さんは前向きに走ってます。

>216ななし様
悲鳴でしょうか。

>217あおのり様
次で、決着がつきます。

>218オガマー様
泣かないで下さい。
もう少しです。

更新しました。
次回でラストです。
多分明日完結できると思います。
229 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月19日(木)20時26分41秒
切ないです。
胸が痛いです。あと、その痛さが快感に変わりつつある自分自身も(w
梨華ちゃんはいったいどうして・・・
よしこ、がんがれ!
230 名前:皐月 投稿日:2002年09月19日(木)21時04分48秒
せ・・・切ないです・・・・。
結婚!?梨華ちゃんどうしちゃったんでしょうか?
よしこ、よしこぉ〜がんばれぇ〜!!!
更新楽しみに待ってます!
231 名前:とみこ 投稿日:2002年09月19日(木)22時20分23秒
涙でました・・・・切ない、痛い・・・
でもよしこ頑張って欲しいです。梨華ちゃん、女だろうがなんてこたぁねぇ!!(w
232 名前:オガマー 投稿日:2002年09月19日(木)22時40分20秒
切ねぇよぉ〜
作者さん、泣かないなんて無理ですーエグエグ…
ほんとに最後の数行で見事に泣かせて頂いてます。
233 名前:あおのり 投稿日:2002年09月20日(金)18時21分34秒
頑張れヨスコ!神様はきっと見ているよ!ウルウル
234 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時34分02秒
なにをばかなことしてるんだろう。
冷静になって、そう思ったのは、マンションの前に車をとめたときだった。

こんなとこまで押しかけて、
幸せなふたりの間に割って入って、
邪魔者でしかない。
それともピエロ。

困らせるだけかもしれない。
笑われるだけかもしれない。
それでも、ここまで来たら、会うしかない。

ゆっくり息を吐いて、ドアを開けた。
235 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時35分48秒
外から、微かに、言い争うような声が聞こえた。
車を降りると、その声は鮮明になった。

「どけよっ!」
「やめてっ」

怒鳴るような男の声、そして…。
梨華ちゃん?

慌てて声のする方へ走った。
梨華ちゃん、そして一度だけ見たことのある彼。
間違いない。
駆けつけたとき、ちょうど、男が梨華ちゃんの顔をめがけて、
手を振りかざしていた。

危ない!

「やめろっ!」
夢中だった。
全力疾走で、男に体当たりした。
突然のことに、男は避けきれず、その場に倒れた。
236 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時38分12秒
「てめぇー、なにすんだっ!」
起き上がった男が掴みかかってきた。
「なんのつもりだっ!」
「梨華ちゃんを泣かすやつは、許さないっ!」

絶対負けない。
こいつが梨華ちゃんを苦しめてたんだ。
ずっと、苦しめてたんだ。
大切な梨華ちゃんを…。

男の脇腹めがけて、力一杯拳をぷち込んだ。
「うっ」
男が苦しそうに顔を歪める。

どんなもんだい!

だけど、格好良いのはそこまでだった。
いくら運送屋さんでも、所詮、男の力にはかなわない。
足に蹴りを入れられたのを境に、後は防戦一方。
もうボコボコ。
237 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時39分14秒
「やめてー!」
悲鳴のような梨華ちゃんの声。
庇うように梨華ちゃんが割って入って、漸く男が手を離した。

「こいつが先に手を出してきたんだからな、俺は知らねぇぞ!」
それだけ言うと、男は去って行った。

「大丈夫?…ごめんね…」
梨華ちゃんは、申し訳なさそうに謝った。
彼の代わりに謝ってるの?
こんな顔見るために、来たわけじゃないのに…。

「たいしたことないから、大丈夫」
そう言って、やっとの思いで立ち上がった。
服は泥だらけ、
体は傷だらけ、
ほんとに、格好悪い。
238 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時41分29秒
格好悪いついでだから、全部言ってしまおう。

「梨華ちゃんが結婚するって、聞いて…、
会えなくなるって思ったら、夢中で、来ちゃった」
口に中が切れたせいか、声を出すのも、少し辛い。

「好きなんだ…、ずっと、好きだった…」

やっと言った。
そう思ったら、途端に、涙が出てきた。

絶対泣かないって決めたのに。
ずっと、そうしてきたのに。
どうして、こんな時に…。

「変だって、わかってるけど…どうしても、ちゃんと、言いたくて…」

笑おうと思った。
笑顔を見せないといけないと思った。
泣きながら告白なんて、まるで女の子みたいだ。
女の子なんだけど…。

泣いてちゃいけない。
なのに、どうしても涙が止まらない。
これ以上ないくらい、格好悪い。

「ほんとに、好き、なんだ…」

迷惑なんだろうな。
でも、梨華ちゃんは、そんな素振りは見せずに、真剣な顔で聞いてくれた。
だから、もう、これでいい。

ありがとう。
239 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時42分52秒
「彼、行っちゃった、ね、ごめん…」
「そんなの、どうでもいいよ。本当に大丈夫なの?」
「全然、平気…」
このくらい、ホントに平気なんだけど…、
なのに、やっぱり、涙は止まらない。
「ごめん…、なんで、だろ…」

やっばいよ…。
情けないよ…。
そう思った瞬間、抱き締められた。

梨華ちゃん?

「泣いたっていいじゃない」
梨華ちゃんの小さな体が、何故かとっても温かい。
「いつも、強くなくたっていいよ」
梨華ちゃんの、優しい声だけが聞こえて、
体の力がふっと抜けていった。
「いつも、無理してなくていいよ」
恥ずかしいけど、梨華ちゃんの腕の中で、声を上げて、泣いてしまった。
「私には、強がらなくていいから…」
240 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時44分04秒
「ごめん」
漸く涙が止まって、そう言った。
「私も、謝らなきゃ」
「え?」
「私のこと、好き、だったんだよね…」
「う、うん…」
「私、酷い事してたよね」
「なにが?」
「彼のところへ連れて行ってもらったり、彼の代わりみたいに…」
梨華ちゃんが目を伏せる。
「そんなの、いいよ。好きでやってたんだから」
「でも、辛かったでしょ。だから、よっすぃーの顔、まともに見れなくなった」
それで避けてたのか…。
「言わなきゃいけないのは、それだけじゃないの」
梨華ちゃんは、パッと顔を上げた。
なにか決意でもしたみたいに。
「なに?」
「ちゃんと、話したいから、よっすぃーの家へ連れて行ってくれる?」
「うちの家?」
「私、マンション、引き払っちゃったから」
241 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時46分20秒
運送屋さんの車は、梨華ちゃんを乗せて東は向かう。
振られた事実は変わらないけど、
全て吐き出して、弱いところも見せてしまって、
恥ずかしかったけど、心はなんだか穏やかだった。

「結婚するんだよね?」
「突然、彼が訪ねてきて、結婚しよう、って言われて、
それもいいかな、なんて思ったの…」
梨華ちゃんは静かに笑った。
「きっぱり別れたはずなんだけどね…」
「まだ、好きだったんだ?」
「どうなんだろ…、ただ、淋しかったのかな…」

淋しかったのか…。

毎日のように会っていた頃。
あの頃の梨華ちゃんの笑顔が、頭に浮かんだ。
本物の笑顔だと思ってた。

だけど、やっぱり、傘にはなれなかったんだ…。
242 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時47分11秒
「でも、やっぱり、彼は違う…」
「違う?」
「一緒に歩いて行けるひとじゃない…」

なんて言っていいのか、わからなかった。
梨華ちゃんも、それ以上、なにも言わなかった。
243 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時49分12秒
ゆっくり走って来たから、家に戻ったときには、随分おそくなっていた。
今日は休み。
急ぐ必要もないし、急ぎたくもなかった。

並んでマンションに足を踏み入れたとき、
ここに連れて来るのは、初めてだってことに気付いた。
特に理由があるわけじゃないけど、
遊びに行くのは、いつも梨華ちゃんの部屋だった。

「初めてだね」
同じことを思ったのか、梨華ちゃんがそう言った。
「そうだね」

エレベーターのボタンを押す手が少し震えた。
今更、なぜだろう…。

鍵を開けて、先に中へ入った。
「ちらかってるけど…」
ちょっと、照れくさくなって頭を掻く。
「どうぞ」
梨華ちゃんは玄関に立ったままで、中に入ってこようとしない。
244 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時50分26秒
「どうしたの?」
「あのね…」
「ん?」
「よっすぃーが傍にいないと、淋しいの…」
「え?」
「ちゃんと顔を見れなくなった、本当の理由はね…」
「…」
「私も、好きになりそうだったから…」
なにを言われているのかわからなかった。
「ほんとに好きになりそうで、怖かったから…」
好きって…。
まさか…。
「よっすぃーの気持ちを知ったとき、初めて気がついたの…」
「…」
「私も、好きだって…、いつのまにか好きになってたって…」
「…」
「ずっと、傍にいて欲しい」
「…いいの?…こんなに情けないし…女の子だし…」
「優しいところも、情けないところも、女の子なところも、全部好きだから…」
「梨華ちゃん…」
「今日、やっと、わかった…。よっすぃーの代わりは、どこにもいない」
「…」
245 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時51分24秒
「運送屋さん、受け取ってくれますか?」
「え?」
「私のこと」
「ハンコないけど…」
「サインでもいいよ」

ギュウッと抱き締めた。
想いを込めて、力いっぱい。
腕の中で梨華ちゃんが目を閉じた。

梨華ちゃん…。

やっと手に入れた。
大切な宝物。

もう離さない…。

「好きだよ…」
耳元で囁いて、そっと唇に触れる。

「痛ってぇっ」
切れた唇が染みて思わず声を上げてしまった。
「バカ…」
甘いムードはまる潰れ。
ふたり、顔を見合わせて笑った。

初めてのキスはちょっとしょっぱい味がした。
246 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時52分02秒
運送屋さんは、これからも、街中に笑顔を届けます。
雨の日も、風の日も。
台風にだって負けません。
きっと、いつも隣で、大切なひとが、笑顔で支えてくれるから。
247 名前:曇り後晴れ、ところにより雷雨 投稿日:2002年09月20日(金)18時52分54秒


FIN


248 名前:ゆっち 投稿日:2002年09月20日(金)19時01分26秒
毎回たくさんのレスありがとうございました。

>229名無し読者様
吉澤さんは頑張ったのではないかと…。

>230皐月様
石川さんの気持ちは、こういうことでした。

>231とみこ様
なんてことはないと、思ってくれたのでしょうか。

>232オガマー様
切ないのが好きなので、
そういう言いまわしを使ってしまいます。

>233あおのり様
神様は見ていてくれたのでしょうか。
249 名前:ゆっち 投稿日:2002年09月20日(金)19時06分28秒
完結しました。
あまりにスランプだったため、気分転換に、
気楽に、書き始めたのですが、
予想外に、多くの方に読んで頂いたようで、
ありがたいのですが、申し訳ない感じです。
雑なところも多々あると反省してます。

読んでいただいた方、
ありがとうございました。
250 名前:オガマー 投稿日:2002年09月20日(金)19時30分28秒
ゆっちさんだったとは…気付かなかった(汗
どおりで上手いと思ってたわけだ…。
うわー、なんかキツネにつままれた気分(何

よかった。
すごくよかった。幸せな気持ちでいっぱいです。
251 名前:Will 投稿日:2002年09月20日(金)19時58分22秒
脱稿、お疲れ様です。
毎度ながら、素敵な作品をありがとうございました。

中澤さんに、手土産を持っていくシーンが・・(w
いや、今はゆっくり(も出来ないか)休んで下さい。
252 名前:皐月 投稿日:2002年09月20日(金)20時42分25秒
お疲れ様でした。
読み終わって幸せな気分になりました。ホントすごくよかったです^^
幸せな気分をありがとうございます^^
253 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月21日(土)02時57分45秒
上質の作品ありがとう
ラストのやりとりとか良かったです
254 名前:CA 投稿日:2002年09月21日(土)03時49分09秒
完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。
一気に読ませていただきました。
街中で笑顔の運送屋さんを探してしまいそうです。
幸せな感動をありがとうございます。
255 名前:あおのり 投稿日:2002年09月21日(土)10時16分16秒
完結乙彼様です。
最後の最後にやっと思いが通じ合える二人に今感動でイッパイです。
すばらしい作品をありがとうございます。
256 名前:とみこ 投稿日:2002年09月21日(土)16時21分46秒
感動しました。この小説は初めてこんなにいしよしを愛した作品です。
ゆっちさんのこの作品からは色んなことを学ばせてもらいました。
本当にありがとうございます。
257 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2002年09月29日(日)18時43分15秒
はじめまして。
一気に読んでしまいしました。
良質の作品、ありがとうございました。

最近、娘。小説の保存をはじめました。
もしよろしければ、保存させていただいてよろしいでしょうか?
よろしくお願いします。
258 名前:ゆっち 投稿日:2002年09月30日(月)20時38分43秒
レスありがとうございます。

>250オガマー様
HPに来てくれる方には、絶対バレてると思ってました。
文体を変える努力もしたつもりなので、
ちょっと、嬉しいです。
最後までお付き合いありがとうございました。

>251Will様
そのシーンをエピローグにしたかったのですが、
余裕がありませんでした。
赤板の方が終わったら、考えてみます。

>252皐月様
毎回のレスありがとうございました。
とても、励まされました。

>253名無し読者様
ありがとうございます。
ラストの台詞を書きたいための、運送屋さんでした。

>254CA様
こんな運送屋さんがいるといいですね。
私も、探してみます。

>255あおのり様
どうしても、ハッピーエンドにしたくなる、
どうしようもない、いしよし好きなので…。

>256とみこ様
学ぶなんてとんでもないです。
いしよし作品待ってます。

>257ななしのよっすぃ〜様
こんなものでよければ、好きなように使ってやって下さい。
ありがとうございます。
259 名前:ゆっち 投稿日:2002年09月30日(月)20時39分14秒
たくさんのレス、そして読んでくださった方、
本当にありがとうございました。
しばらくは、他に抱えている連載を、完結に向けて、
がんばりたいと思います。
260 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2002年09月30日(月)22時30分09秒
こんばんは。ゆっちさま、作品保存のご了承、ありがとうございます。
さっそく、HTMLドキュメント化して見ました。
こちらに、保存しました。
http://
isweb45.infoseek.co.jp/novel/kuni0416/text/thunderstorm/index.html

いたららない点もあると思いますが、変更点などありましたら、お知らせください。
すばらしい作品、ありがとうございました。

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