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中澤姐さんの秘密 他
- 1 名前:海野コバルト 投稿日:2002年07月15日(月)10時56分26秒
- 『中澤姐さんの秘密』は第8回オムニバス短編小説用に構想した物ですが、
少し、長くなりそうなのと、オチが余り一般的でないのでここに書かせて頂きます。
なにぶん、初心者なので変な所が多いと思いますが、感想などいただけると嬉しいです。
他、と題名に付けたのは『中澤姐さんの秘密』の後も、修行のつもりで、ここに短編を
書かせていただくつもりですので、どうかよろしく。
- 2 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月15日(月)10時58分37秒
- (ああ、今日もメチャ働いたわ。はよ風呂はいろ。)
中澤裕子は、モー娘。卒業後も仕事が順調な自分をうれしく思いながらも、忙しくて、かなわないなぁ。とぼやきつつ自宅の扉の鍵を開けた。
手探りで暗い居間の電気のスイッチを入れたその瞬間、彼女は妙な違和感を感じた。一見変わっていないように見える室内が、朝に出かけた時と何かが違っている。そう感じたのだ。
急に心臓がドキドキしはじめたのを抑えつつ、まず預金通帳などの貴重品をしまっている手提げ金庫の存在を確かめた。中身も一応確認する。無事だ。
次に多少は価値のある宝石類も入れてあるアクセサリー箱を確かめる。無事だ。
(疲れとんのかな)急に肩の力が抜けた。
- 3 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月15日(月)11時00分43秒
- コーヒーでも飲もうかとキッチンに行き、愛用の青いマグカップを食器棚から取り出そうとした。
(ない・・・?)唖然とした。何か足下から崩れ去るような気がした。違和感は本当だったのだ、そういう思いが頭の中を渦巻く。朝はあった。棚に戻した所まではっきりと記憶している。
(家ん中をとにかく隈無くチェックせなあかん!!)
熱にうなされたようになって、かたっぱしから見てみる。
食器棚。青いマグカップの他に、群青色の皿が消えていた。
洗面所。青いタオルがなくなっていた。
小物を入れていた引き出し。去年使っていた、青い表紙の手帳がやはり無い。
下駄箱。エナメルブルーのパンプスがない。
クローゼットはもっと悲惨だった。紺色のスーツ。コバルトブルーのドレス。とにかく、青系統の入った衣装がごっそり消えていた。
- 4 名前:読んでる人 投稿日:2002年07月15日(月)15時59分09秒
- 期待カキコ
- 5 名前:海野コバルト 投稿日:2002年07月15日(月)18時06分58秒
- さっそくの反応、ありがとうございます。
これから、もっと面白くなります(当社比)。
↑
嘘、おおげさ、まぎらわしい。(JAROには通報しないでね。)
では。
- 6 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月15日(月)18時15分30秒
- (電話。電話をかけなきゃあかん。警察?マネージャーが先や。)
考えが混乱する。
(携帯どこや?)
そんなことすら分からなくなっていた。
(バックの中や。当たり前やん。落ち着け。落ち着け裕子。)
床に放り出したままのバックをひったくるように拾い、中をのぞき込んで携帯を探す。
(無いで、どうしてないんや。)
もちろん、落ち着いて探せば直ぐに見つかるものだが、今の中澤にそのような余裕はなかった。
バックの中身を床に全てぶちまけて、がくがくした手で、かろうじて携帯を探し出して、握りしめマネージャーに電話をかける。
「ああ、うちです。中澤です。あの、泥棒に入られたんと思うんです。うちの近くのファミレスありますよね、そこで待ってますんでちょっと来てくれませんか。ちょっと、もう部屋はいたくないんで。警察に届けるにしても、なんていうか妙なんです。もう、怖くて・・・」
中澤の取り乱した様子を察知してマネジャーがすぐ行くと返事した。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月16日(火)03時39分42秒
- 楽しみにしています〜♪
- 8 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月16日(火)15時16分51秒
- ファミレスはお客で満席に近い状態だった。中澤に起きた事件など、まるでなかったように平和で落ち着いた雰囲気に満ちていた。考えてみれば、今日は金曜日で家族連れの客で賑わっていた。いつもの中澤ならば何らかの“感想”を抱くところであったろう。
かろうじて、空いていた席に案内され座ると、中澤は自分がとても肩がこっているのに気がついた。知らず知らずに肩に異常に力を入れていたらしい。
(あー、肩こってるわ。)
手をグーにして両方の肩を叩く。
初めてリラックスできた気分だった。
- 9 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 10 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 11 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月16日(火)19時31分40秒
- 今はファミレスの過剰な照明も、ざわざわとしていることも心地よく思える。いつもなら、芸能人という“自分”を注目する人達の目が煩わしいと感じるときもあり、個室が使える馴染みの店を利用することが多く、考えてみれば、このファミレスに来たのも中澤自身、初めてかも知れなかった。とりあえず、人が周囲にいてくれる。それだけでも安心できる気がした。
あわてて出てきて変装など全くしていなかったせいで、注文を取りに来たウェートレスはすぐに中澤だと気がついたようで、びっくりした様子だったが、たぶん平静をよそおって
「ご注文はお決まりですか?」と聞いてきた。
(知らんぷりしてくれとんのかなぁ。)
少し好感を感じつつ、中澤は営業用スマイルを浮かべて、
「グラスビールとシーフードサラダ。ドレッシングはノンオイルしそ味のもので」と言い、あわててバッグの中からサングラスを出して、とりあえず掛けた。
- 12 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月16日(火)19時33分35秒
- 中澤の話を聞いて、マネージャーも一筋縄ではいかない事件だと感じた。
まず、現金や宝石類もあったのに金目の物にはいっさい手を付けていないこと。有名人の自宅が泥棒に狙われる事件のほぼ100%は金目当てだというのにである。
狂信的なファンの仕業とも考えられるが、中澤裕子は押しも押されぬ有名芸能人である。事務所としてもオートロックはもちろんのこと、管理人がきちんと人の出入りを管理しているマンションを用意して与えていた。変なヲタが簡単に進入できるような場所ではないし、中澤は部屋の鍵は閉まっていたと証言している。それに、青い物だけを盗るというのも妙な話である。万が一、誰にも気付かれずに進入に成功したとしたら、ヲタの心をくすぐる物は部屋の中に、もっといっぱいある。
- 13 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月16日(火)19時35分13秒
- 部屋を物色した形跡が残しておかないというのも不気味さを誘う。普通、盗難目的で戸棚やクローゼットを探した後はそのままにしておくものだと思う。わざわざ片づけて一見何事もなかったように装うというのは、犯人の粘着質的性格を感じさせた。
とりあえず、この部屋は出来るだけ早くに引っ越そう。それまでは中澤の身の安全もあり、当分はホテル暮らしをするということになった。
一応、警察にも届けて必要があるだろうということも決まった。やはり、狂信的なファンの可能性が強いと思われたし、アイドルには時として明らかに一線を越えてしまったストーカー的なファンがつくことがある。中澤も2,3のそのようなファンがいないわけではなかったからだ。
- 14 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月16日(火)19時40分30秒
- 警察の捜査ではほとんど何も収穫がなかったといっても良かった。管理人は怪しい人物が出入りしていない。ときっぱりと断言するばかりであるし、監視カメラの接続されたビデオ映像にも住人以外は映ってなかった。2,3の狂信的なファンも当然調べられたが、いずれもシロだった。
「相当のプロの仕業ですね。」と警察も半ば匙を投げかけていた。警察の捜査で分かった事だが、犯人はよほど手慣れているのか一切の手掛かりを残していかなかったのだ。全く手掛かりが無い上に、金銭的な実害が少なかったこともあり、このまま事件は迷宮入りしそうな雰囲気が漂っていた。
この事件の事はスポーツ新聞などにそれなりに出たが、青い物ばかりを狙う変な泥棒といった程度の茶化した記事でしか過ぎなかった。
- 15 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月16日(火)20時02分01秒
- ちょうど同じ頃、警視庁の公安部外事課では一つのキーワードが話題となっていた。
“青の秘密”である。
基本的に地方警察主体の日本の警察組織の中で、国家警察と呼んでも良いほど全国の公安部は一本化されていて、しかも、公安部は警察機構の中でも特に厚いベールに包まれており、構成員も公表されていないほどである。日本の治安維持のためには非合法活動も辞さないほどの秘密警察的セクションとも言える。
- 16 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月16日(火)20時09分52秒
- 外事課は主として日本国内での外国によるスパイ活動を監視する部署であり“青の秘密”はロシア大使館の通信傍受によって得られたロシア本国からの外交秘密文書に、ここ1月ほど頻繁に出てくるキーワードであった。
ロシア本国は“青の秘密”に重大な関心を抱いており、その秘密を解明するようにとの暗号指令を、外交官達(を装ったスパイ)にかなりの頻度で送っていた。しかし具体的にその言葉が何を意味するのかは分からないままで、この言葉の解明が最重要な懸案事項となっていた。
というのも、ロシアとは古くは日露戦争時の明石大尉によるロシア革命への裏工作に始まり、昭和初期のゾルゲ・スパイ事件、冷戦時の自衛隊や在日米軍をも巻き込んでの数々のスパイ事件など、日本にとってはロシアという国は、諜報戦においても、国防上においても未だに主敵である。と言いきっても良い相手であるからだ。
- 17 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月16日(火)20時11分19秒
- 現在も両国間には北方領土問題などの懸案事項があり、ロシアの関心事項をいち早く把握して、適切な対策を取ることは、日本の国益を護るための諜報機関としては当然のことであった。
とは言ったものの、青い物だけを巧妙な手口で盗み出すという、中澤の事件は、まさに何か意味ありげではあったが、警察内部の縄張り意識の強さや、また、よほどの事がなければ、いちいち刑事事件が公安には報告されないという事や、単なるローカル事件が公安の注目を引くことはまずありえないという諸事情で、ロシアが必死で探ろうとしている“青の秘密”と中澤を繋ぐ糸は、まだ誰も(中澤自身ですら)気付かなかった。
- 18 名前:読んでる人 投稿日:2002年07月17日(水)23時26分04秒
- なんか凄く壮大な展開ですね・・・。
- 19 名前:海野コバルト 投稿日:2002年07月18日(木)12時31分57秒
- 広げた大風呂敷をどこでたたむか、と苦心しています。
一応、最後の一行までできているので、途中をちょこちょこ直しつつ
一日一回更新を目指していきますんでよろしく。
- 20 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月18日(木)12時37分47秒
- 「夏・・・。それは冒険の季節。私も、大胆な水着を買って、カ・レ・と海へ。何か、新しい関係の始まりの予感。きゃあ、チャーミー、恥ずかしい・・・。ハロプロニュース キャスターのチャーミー石川です。」
「恥ずかしいのはこっちですよ。石川さん。」
「また、中澤さん、そういう意地悪な事を言ってぇ。中澤さんは最近、冒険していますか?」
「冒険ですかぁ。してませんねぇ。ドキドキすることも無いですね。あっ、ちょっとした“事件”はありましたけどね。」
「あっ。すいません!!痛いこと聞いちゃいましたか?」
大げさな仕草で、石川は中澤に謝る。
「いいえ。別に。」
中澤は冷たく言い放つ。もちろん、演技だが。
「じゃあニュース行きますか、石川さん。私も冒険してみたいわぁ。」
この時点で、既に中澤は国際的な謀略に巻き込まれていることは知らない。
- 21 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月18日(木)12時39分44秒
- 収録が終わり、石川が中澤に声をかけてきた。
「中澤さん、新しいマンションどうですか。」
「ええよ。心機一転といったところやな。厄落としちゅう感じや。」
「事件のこと・・・、NGでしたか?」
本当はこのことが言いたかったらしい。すまなそうな顔をしている。
「いや、みんな知っとることやし。もう済んだことや。」
石川のそんな心遣いを、ありがたく思いつつ中澤は答える。
「ただなぁ。もう青い物は一生買わん。青とは、縁切りや。中澤の青春時代もついに終わりやな。」
事件から一月ほど過ぎ、マンションも移ったおかげで中澤の気持ちもだいぶ落ち着いてきて、誰かが周りにいる時は事件をネタにして少々寒い冗談も飛ばせるくらいにまでなったのだが、自分一人でいると誰かに監視されているという感覚だけは拭い去ることが出来なかった。
- 22 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月18日(木)12時42分28秒
- 電話が鳴り、出たとたんに切れる。移動のワゴンの後ろをずっと同じ車がついてくる。電話に雑音が入る。手紙の封印がちょっと歪んでいる。
そんな出来事が何故か気に障ってしょうがなかった。
(犯人が見とる訳はないやんか。あくまで事件の後遺症や。PTSDって奴やな。得体の知れない犯人のせいや。交通事故にあったと思うて、はよ忘れることや。)
と無理矢理に心を納得させてみるが、不安感は残った。かといって誰かにつけられているとか、盗聴機、盗視カメラの類がしかけられている痕跡があるわけでもなかった。石川の盗聴騒動以来、事務所から簡単な盗聴や盗撮のレクチャーを受けて多少の知識はあったし、盗聴波を発見する簡単な機材なども貸与されていたため、自分で心当たりはチェックしてみたりもした。とは言っても素人で分かる範囲に過ぎなかったのだが。
- 23 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月19日(金)12時11分50秒
- (ぐちぐち、考えてもしょうがないや。ぱーっと行くかぁ)
ということで、
「なあ、飲みに行くで」と平家みちよや保田圭をさそって中澤は飲みに出た。
こぢんまりとした居酒屋の個室の座敷に席を取る。
「冷酒いくか。浦霞の純米冷酒や。」
中澤が開口一番注文する。
「みっちゃんも、圭坊も好きなもん頼んでや。今日はおごりや。愚痴をいっぱい聞いてもらうで。」
二人とも苦笑いしている。
- 24 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月19日(金)12時13分05秒
- 「裕ちゃんには、かなわへんわ。まあ、愚痴を聞いたるよ。」
「私は生ビールにするよ。それから白子とキュウリの酢あえ頼んでいい?最近、白子にはまっているんだよね。」
「アイドルが白子はまずいやろう。あ、来た来た。冷酒来たで。」
中澤はグラスになみなみ入った冷酒を口から迎えにいく。
「かあー、美味い。幸せや。浦霞って知っとるか。仙台の近くの塩竃っていう港町で作っているんや。しょっぱい味がして、刺身なんぞが進むでぇ。」
「塩水で酒は造れないよ。」
保田がつっこむ。
- 25 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月19日(金)12時15分31秒
- 「なにをぉ。圭坊。最近、英語を勉強しとるらしいけど、それじゃあSalty Dogってカクテルあるやろ。その意味分かるか?」
「えー。しょっぱい犬?」
中澤が笑いこける。
「言うと思ったわ。ええか、Salty Dogってのは“潮風に吹かれた野郎”という意味なんやで。水夫さんとかがビタミン補給も兼ねて、ジンにグレープフルーツジュースを入れて、海の上を忘れんようにグラスの周りに塩を付けて飲む、そう言うカクテルなんやな。」
「ホンマかいな。裕ちゃん、たまにデタラメ言うしな。」
平家が、冷酒片手に言う。
- 26 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月19日(金)12時17分35秒
- そのうち、話はやはり“事件”のことに段々なっていった。
中澤は事件以来、どうも誰かに監視されているみたいや。とか犯人が不気味でしゃあない。など自分の中にある不安を洗いざらい愚痴ってみる。、
「訳もなく、いらいらするのは更年期障害の始まりやで」とか
「裕ちゃん、牛乳でも飲んだほうがいいよ。カルシウムが足らないと不安感がつのって、怒りっぽくなるんだって。」
とか慰めとも茶化しともいえるような事を言われるばかりではあったが、その中にある暖かさみたいなものが、現在、必要なものだということは中澤自身もよく分かっていた。
(仲間ってええな)
話すことで気持ちもほぐれて、自分の不安感も思い過ごしかと思えるようになってきた。
「やっぱ、みっちゃんや圭坊に話して良かったわ。ちょっと、今回のことでノイローゼぽくなっていたかも知れんなぁ・・・。そやなぁ。マネージャーさんに言ってオフを2,3日もらって温泉でも女一人旅するか」と笑いで誤魔化せるくらいにはなった。
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月20日(土)10時28分13秒
- ワクワク〜。ドキドキ〜。
- 28 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月20日(土)11時22分17秒
- その頃、公安部外事課では動きが慌ただしくきていた。
“Yuko Nakazawaを監視せよ”という、ロシア本国の諜報部筋からの指令でロシア大使館のメンバーが動いていることが確かめられたのだ。大使館は外交の砦というだけではなく、各国のスパイ活動の本拠地でもある。ロシア大使館は特にその傾向が強く、相当数のスパイ要員が侵入しているため、公安ではどんな微細な動きも見逃さず監視下に置いていた。
日本全国のYuko Nakazawaがリストアップされた。当然、中澤裕子と1ヶ月ほど前に起きた奇妙な盗難事件も浮かび上がった。
ここにきて、ロシアの“青の秘密”というキーワードと元モー娘。中澤裕子が初めてつながった。
- 29 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月20日(土)11時32分19秒
- 中澤裕子がドラマの撮影の合間に控え室で台本のチェックをしていると、マネージャーがノックをして、遠慮がちに扉から顔を出した。
「中澤。ちょっと警察の人が来ているんだけれどもいいかな。僕も同席してもいいという話なんで。」
「ええですよー。撮影待ちでいま空いてますんで。」
台本から目を離し顔だけ扉の方に向けて言った。
あわてて、テーブルの上の紙コップや菓子類を脇に避けてスペースを作る。
すると、いかにも印象の薄そうな初老の男とまだ大学生といっても通用しそうな若い男の2人が入ってきた。それぞれ形式的にほんの一瞬だけ警察手帳をみせた。初老の男は田中と若い男は鈴木と名乗った。
「本庁の刑事課の者ですが、一月前の盗難事件ですが少し不審な点がありましたんで、もう一度話をお伺いしたくて。」
挨拶もそこそこに彼らは用件を切り出したその態度は、警官特有の慇懃無礼さというか、威圧感を十分に感じさせる物だった。
- 30 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月20日(土)11時36分16秒
- 「ええ・・なんでしょう?」
たかが盗難事件で本庁の刑事まで出てくることに、やや戸惑いつつ聞き返した。
若い方の刑事は単刀直入にきいてきた。
「先日の事件で、青い物ばかりが盗まれたとのことですが、正直におっしゃって頂きたいのですが、その中になにか貴重な物もしくは人には言えない物が含まれていたということはありませんか?」
年寄りの刑事は何故か一言も話さずに、中澤をじっと見ている。全ての反応を見透かすような目だ。
「・・・特には。洋服とかは正直惜しいものもありましたけれど、また買える物ですし。」
中澤には質問の意味がよく分からなかった。実証検分ではなにも手掛かりが無いうえに、話せることは全て話したし、被害金額なども既に品名を添えて警察に提出してあった。これ以上何を聞こうというのか。
- 31 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月20日(土)11時38分23秒
- いぶかしげに、あれこれ思っていると、ピンとくるものがあった。
(もしかして、麻薬とか疑われているんか?こう見えても気が小さくて、そんなもんは、よう手を出さんで。)
しかし、そう考えれば納得のいく部分もある。青い物だけ狙ったのは何かの目印だったのかもしれないし、芸能界はそういう事件も多い。
(自分。ひょっとして誰かにはめられたんか?他人から恨みを買う覚えはないけどなぁ。知らず知らずに、利用されていたということもあるしな。)
中澤は必死になって盗まれた物が誰かから、貰ったものではないかを思い出してみた。
(思い当たる節はないわ。ほとんど自分で買った物やし、第一、自分の周りの人に、そう言うことをやっているという噂すらないもんな。)
己を安心させるかの様に言い聞かす。
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月21日(日)18時09分22秒
- 姐さんすごいことに巻き込まれてますね(w
最後まで書いてください。楽しみにしています。
- 33 名前:海野コバルト 投稿日:2002年07月22日(月)13時46分32秒
- 全体の1/3位まで話が進みました。しかし、大風呂敷広げておいて
オチがしょぼすぎって言われそうな予感・・・。
まあ、読者さんの応援もあるし、
ということで。続き。
- 34 名前:海野コバルト 投稿日:2002年07月22日(月)13時47分54秒
- 全体の1/3位まで話が進みました。しかし、大風呂敷広げておいて
オチがしょぼすぎって言われそうな予感・・・。
まあ、読者さんの応援もあるし、
ということで。続き。
- 35 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月22日(月)13時53分38秒
- 若い刑事が中澤の反応を伺うようにして、次の質問をする。
「それでは、青もしくは青の秘密という言葉から連想されるものはありませんか。何でも構いません。必ずしも今回の事件に関係ある必要もありません。」
中澤は沈黙した。
その沈黙を拒絶の反応と見たのか、若い警官は更に付け加えた。
「警察は秘密を厳守します。不利なことでも正直に話して頂かないと、あとで面倒なことになるかもしれませんよ。」
半ば脅しに近かったかもしれないが、中澤はそんなセリフは耳に入ってなかった。というのも、
(青の秘密。)
その単語を聞いたとたんに中澤にはある種の感情が唐突に沸き上がってきていたからだ。
- 36 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月22日(月)16時22分36秒
- 決して言ってはならない自分だけの秘密。
今まで、記憶の底に封印していた秘密。
もしかしたら、父さんが死んだ原因になったかも知れない秘密。
その感情は、恐れとも悲しみともつかない物で、やはりこうなったかという諦めの気持ちも混じっていたかもしれない。
(麻薬とかやない。)
確信に近い物を感じた。さっきまでの自分の思いこみは間違っていたのだ。
(あのことや。)
あの、秘密は余りにも恐ろしくて、ずっと忘れた振りをしていた。否。完全に忘れていた。意識から排除していた。よく考えてみれば、青い物ばかりを盗むという最初の事件から、自分の“秘密”と全てはつながっていた。
- 37 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月22日(月)16時30分24秒
- でも、女優としての演技力で感情を押し止めて決して表には出さないようにして、しかも動揺したように言葉を発した。
「“青の秘密”とやらは全く知らないです。あの・・・、こんなこと言うと馬鹿かと思われるかも知れませんが、ひょっとして非合法な薬とかを隠していてトラブルに巻き込まれたとか、疑われているんですか?盗まれた物に隠してあったとか。盗まれた物はみんな自分で買ったものですし、必要とあればおしっこ・・尿検査でもご協力します。」
勢いよく、一言で言い切った。
(ちょっと、芝居くさかったかもな。)
中澤はそう思ったのだが、中澤の演技力に圧倒されたのか、刑事達はいえいえという感じに手を振り、
「いえ、そういう性質の話では無いのです。麻薬などの取り締まりは厚生労働省の管轄ですし。」
と中澤の内面の動揺には、幸い気付かなかったようだった。
- 38 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月22日(月)16時49分43秒
- 刑事達は、おそらく“青の秘密”について最も聞きたかったらしく、中澤が(ほとんどは演技であったにしろ)あっさり否定すると、中澤に対しての興味が大分失せたように見えた。
「あのもう一つお伺いしますが、誰かにつけられているとか監視されているというような事はありませんか。変な質問ですいませんが念のため。やはりストーカーがらみの犯罪である可能性が強いので。」
「いいえ。」
中澤は強く否定した。あの秘密を知られてはまずいからだ。
中澤の態度にこれ以上は収穫なしと判断したのか、刑事はしばらく盗難時の状況の確認のような質問をして帰っていった。
- 39 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月23日(火)12時36分01秒
- 2人の刑事は、もちろん公安警察官であった。名乗った名前も偽名である。
公安当局としては中澤裕子をしばらく監視下におくこととした。中澤が薄々は気付いていた通りに、やはりロシアのエージェントによって生活全てを巧妙に監視されていたのだ。なぜロシアが一介のアイドル(というには年を食っているが)の中澤裕子をマークしているのか不思議であったが、ロシアがかなりの情熱を持っていることに間違いはなかった。
もちろん中澤に起きた盗難事件も、実行犯までは特定できなかったが、ロシアの特殊工作担当者によるものである事は明白だった。しかし、目的とする物は、どうやら入手できなかったらしく、中澤の行動を監視しているという訳だ。
中澤は、結局はロシア当局と公安警察によって二重に監視を受けることとなった。中澤の不安は現実の物となり、段々と自分を取り巻く黒い雲に気づき始めたが、嵐はまだ来てなかった。
- 40 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月23日(火)12時37分42秒
- 公安当局が、中澤裕子の過去にさかのぼって調査してもモー娘。であったことを除けば平々凡々とした女性であることが分かっただけだったし、親類縁者にロシア関係者がいる訳でもなかった。もちろん、中澤自身がロシアスパイだという可能性は0%であった。
(まずいなぁ。父さんが死んで、もう“あのこと”は誰も知らんと思ったんやけどな。ひょっとしてロシアマフィア絡みかいな。今日、来た連中もほんまの警察かあやしいところやな。)
中澤は心密かに思っていたが、口に出すことはない。
- 41 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月23日(火)12時39分47秒
- 公安警察が訪ねてきた1週間後ほどして中澤はマネージャーから
「ロシア観光協会から直接の御指名で、中澤を日露親善大使にしたいというオファーが来ているんだけど。」という話が来た。
(きたぁー。いよいよ、やばい状況や。確実にロシア絡みや。)
日露親善大使なんぞになったら、どんなことに巻き込まれるか分からない。
中澤はとりあえずは、この話は断らなければならないということで、知恵をふりしぼる。
「いやぁ。ロシアはちょっと怖いですから、勘弁してくださいよ。この前のW-cupでもロシアの選手が負けて、いきなり暴動ですやんか。人種差別?みたいのがあるんやないですか?いま、わたしみたいな、もろ黄色人種みたいな人間が行ったら何されるか分からへんでしょう。」
マネージャーは中澤のその様な態度を、考えすぎだと言ったが、
中澤はなおも食い下がった。
- 42 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月23日(火)12時43分49秒
- 「だって、夏はハロプロコンサートがあるやないですか。それから、映画。」
この春に出演したドラマが、思いの外に好評で放送の延長が決まっただけではなく。放送終了後も映画を作ろうという話が出ていた。出演者のスケジュールの調整がなかなか付かないために、本格的な撮影には入れないのだが、取りあえず、個人シーンから撮り始めようかという方向で進みつつあった。
本格化すれば、確かに時間も取られる。
中澤はなおも、大して重要でもない仕事の数々を並べ立てて“絶対いやだ”という抵抗を続けた。
マネージャーもついに折れて、
「うーん、そうだなぁ。ぶっちゃけ、ロシアの親善大使になっても下手に時間を拘束されるばかりで、あまり事務所としてはメリットないしな。某藤原さんみたいに世界的イベントがらみで、日韓親善大使みたいなことなら話は別だけどな。」
とあごをなぜながら呟いた。最初から、あまり中澤に無理してでも、やるようにプッシュしたいオファーというわけでもないようだった。とりあえず、向こうの指定もあり、形式的であれ言ってみたという所であろう。
- 43 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月23日(火)12時46分06秒
- 結局、日露親善大使の役は平家みちよに回ってきた。
(みっちゃんなら、何も関係ないし大丈夫やろ。)
中澤は、とりあえずは災難を避けられたと安心したのだが、それは間違っていた。やがて、最初の嵐がやってくる。
- 44 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月24日(水)13時33分31秒
- 日露親善大使の仕事の一環として、平家はモスクワを中心に今のロシアの現状と観光資源を紹介する旅行番組を制作することとなった。そのために、一週間ほどの予定で取材旅行に出かけることが決まった。
「まあ正直、裕ちゃんから回ってきた仕事で気持ちは複雑やけど、頑張るわ。」
明日からモスクワという前日に平家は事務所でたまたま会った中澤にそう言った。
「頑張ってや。うちも応援しとるで。ロシアの宣伝を一杯すれば、きっといいことあるで。」
「何があるちゅうねん。」
「うーん。ピロシキ食べ放題とか。」
「そないなもん、いらんわ。」
- 45 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月24日(水)13時35分11秒
- そうは言うものの、モー娘。と少し差がついてしまった平家は、この仕事が何らかのブレークのきっかけになればと、と心密かに思っているらしくやる気は十分のようだった。ロシアの事に詳しいタレントと見なされるようになれば、何かにつけて、ロシア関係の番組に引っ張り出されることも多くなるだろう。
そんな平家を見て、中澤は心に偽り無く応援したい気分になっていた。
翌日、平家はロシアに旅立っていった。
だが、2日後、事務所に一本の国際電話が入る。
電話を受けた社員は、だんだんと青ざめていった。そして、すぐに主だった事務所の幹部が集められて対策会議が開かれた。
“平家みちよがロシアで消息を絶った。”それが電話の内容だった。
- 46 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月24日(水)13時38分41秒
- 話は2日前にさかのぼる。
平家は飛行機の窓から、眼下に広がるシベリアの原生林を見ながら、これからの旅行に思いを馳せていた。大気が安定していて、すさまじく良く下の景色が見える。緑のじゅうたんが果てしなく広がり、所々に人工的な建物らしきものが砂粒のように確認できた。
(ロシアってめちゃ広いな。)
一応、いくつかの観光案内書や旅行記などで予習してきたのだが、旧ソ連時代の旅行記が多く、あまり役に立たなかった。現在の現地事情は今ひとつ分からない部分が多かった。
(この仕事で得た、いまのロシアを紹介する本書いたら売れるかもな。)
夢は膨らむばかりである。
- 47 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月24日(水)13時39分57秒
- モスクワの国際空港に着地し、通関を済ませる。噂に聞いていたほど厳重ではなく、やはりロシアになってからは民主化が若干は進んでいるみたいである。そして、到着ロビーで迎えの現地スタッフと対面という段取りとなる。
「迎えに来ているはずだけど。」
マネージャが言う。
到着ロビーは結構な人だかりだった。ツアーや個人を迎えるために、ロシア語、英語、日本語など様々な国の言葉で書かれた紙を高くあげている。
その中に“日露観光親善大使 様”と書かれた紙を頭の上に掲示した、東洋系の男がいた。
「あれやないですか?」
マネージャーに確認する。
- 48 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月24日(水)13時41分17秒
- マネージャーが、その男に近寄り二言三言話して、互いに名刺交換した。平家も男の側に歩いていき、よくその男を観察してみた。V-シネマによく出演している白竜とかいう男優に似ていた。顔は笑っているが目は笑っていない、そういう顔つきだ。東洋系とはいえ日本人とは少しタイプの違う感じだった。
(中央アジアとか沿海州あたりの出かな。)
と平家は思った。
男は自分を“ユーリー”と呼んでくれと流暢な日本語で話した。ロシア観光協会のアジア担当職員らしい。
- 49 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月24日(水)13時43分02秒
- ユーリーは車を表に待たせてあるからと言い、平家たちを先導した。車の所に行くと観光協会関係者と称する何人かの人物がいた。しばらく、また挨拶合戦があり、そして、言葉巧みに全員は1つの車に乗れないから分乗しよう、ユーリーと平家は先頭の車に、平家のマネージャーは後続の車に乗るということになった。
それが、マネージャーが平家を見た最後となった。
後続の車は、すぐに先頭車を見失い、平家のマネージャーがホテルに着いてもまだ先頭車はホテルに到着していなかったし、その後も到着することは無かった。
- 50 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月25日(木)13時07分40秒
- 先頭の車に乗った平家は何も異変に気づいていなかった。窓の外に見える、ロシアの高速道路が意外と立派だな、などとのんきなことを考えていた。
「ホテルに行く前に、観光協会の偉い人と顔合わせを済ませておきたいのですが。」ユーリーが言った。
「私は構いませんけど。」
と了承する。
- 51 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月25日(木)13時08分59秒
- 小一時間も走ったろうか、車はモスクワ市街地に入り黒いビルの前に止まった。
「観光協会は、ここですか?」
平家が聞く。ユーリーはそれには答えず平家に建物に入るように態度で指示した。もし、平家がロシア語を読めれば、その建物が泣く子も黙るどころか逃げ出してしてしまうKGB本部であることが、すぐ分かったろう。
暗い廊下を平家とユーリーが二人きりで歩く。何故か、すれ違う人もいない。
(マネージャーさんは、どないしたんや。)
平家は段々不安になってきた。
(それにしても、かなり歩かされとるな。ここは、ほんまに観光協会かいな。)
- 52 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月25日(木)13時10分11秒
- 「この部屋に入ってください。」
ユーリーが突然言った。
「はあ。ここですか。」
部屋に入ると、そこには机とイスしか無かった。話に聞く、警察の取調室のようである。
「ここは何ですか?」
ぞっとするような冷たい声でユーリーは平家に告げた。
「そこに座りなさい。聞きたいことがあります。」
平家はユーリーが言っている意味が理解できなかった。
動かない平家を見て、しびれを切らしたか、ユーリーは無理矢理に平家をイスに座らせた。
「あなた、青の秘密について知っているでしょう。」
ユーリーの顔は作り物ののように、硬く残忍な色を帯びていた。
- 53 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月25日(木)13時12分11秒
- 「青の秘密って何ですか?全く分かんないです。」
平家は自分が今置かれている状況について全然把握できていなかった。ひょっとしたら夢か、と思うぐらい現実感がなかった。
「中澤さん。調べはついているんですよ、あなたが隠している青の秘密について訊いているんですよ。おとなしく訊いているうちに、話したほうがあなたの身のためですよ。後で後悔しますよ。」
(拷問しても訊こうって訳か。どうも中澤さんと人違いされたみたいやな。かなわんな。青の秘密って何や?)
がくがく膝が笑う。
(おしっこ、ちびりそうやわ。)
笑い事ではないと思いながらも、まだ現実が受け入れ切れていない。
「私は中澤じゃありません。平家みちよという者です。」
平家は、精一杯の勇気を振り絞った。
- 54 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月25日(木)13時13分50秒
- それを聞き、ユーリーはうんざりした顔をして、
「とりあえず、自白剤からいきますか。」
と事務的にいい、合図した。
ユーリーが合図すると、どこからともなく屈強な男が二人ほど現れて、平家の両手をがっちりと固定し、白衣を着た女が平家の服のそでを素早くめくると、アルコール脱脂綿でさっと拭き、注射針を入れようとする。
「何すんねん。やめろや。やめろって言っとんねん。」
体全体を使って拒絶しようとするのだが、男二人に固定されて、されるがままである。ついに自白剤を注射されてしまった。
(うち、このまま殺されてしまうのかな・・・)
平家の意識が遠くなっていく。
- 55 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月26日(金)13時47分23秒
- 平家のマネージャーは、とりあえず予定の一週間はロシアに滞在して、平家の行方を捜すことにしていた。
奇妙なことに、ロシア観光協会には彼のもらった名刺の“ユーリー アルバチャコフ”なる東洋系の人物は存在していなかった。空港には、“ちゃんとした”係員が迎えに行ったとも言われた。
平家は全く、煙のように消えてしまった。万が一、誘拐されたにしても、身代金の要求もなければ、犯人の意図も今一つ不明で、平家のマネージャーも東京の事務所も戸惑うばかりであった。
十中八九、もう死んでいる可能性の方が高いが、ひょっとしたら、平家が姿を現すかも知れないという一割の可能性にかけて、平家のマネージャーは滞在期限ぎりぎりまで粘った。東京の事務所との連絡は欠かさずとったが、事務所としてもロシアの警察当局に捜索を一任する以上の策はなく。また、一週間の必死の働きにも関わらず、マネージャーにも何ら平家の行方についての有力な情報はなく最後の日の夜が来た。
- 56 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月26日(金)13時50分28秒
- 「もう、帰ってこい。その後を考えよう。」とついに事務所の山崎会長が決断した。
平家のマネージャーは敗北感に一杯だった。事務所から、そして平家の親御さんから預かった、大切な“平家みちよ”を喪ってしまった。自分の責任だ。辞表を出そう、そう決心していた。色々な思いが頭の中を去来し、深夜まで彼はベットの中で悶々とした思いをしていた。
ガンガンガン。
平家のマネージャーの部屋の扉が激しく叩かれる。彼はベットから飛び起きて、扉ののぞき穴から外を見る。誰もいない。
- 57 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月29日(月)13時14分32秒
- おそるおそる扉を開くと、部屋の前にルームキーと“平家はこの部屋にいる”と活字の様な文字で書かれた紙が置いてあった。飛びつくようにして、鍵を拾うと、彼はルームキーに書かれた番号の部屋に走っていった。
鍵を開けるのももどかしく、扉を開ける。
部屋の中のベットには平家が寝かされていた。
息をしているか、顔に手をかざして確かめる。
生きていた。
「平家。平家大丈夫か?」
平家はうめくようにして声を出す。まぶたも腫れあがっている。
「ううん。マネージャさん?うち、どないしてんでしょう。なんか体の節々がいたいんです。」
「しゃべるな。しゃべらなくてもいい。」
マネージャーは赤ん坊をあやすようにして、語りかけた。
- 58 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月29日(月)13時18分06秒
- フロントに電話して、医者を手配してもらう。平家は顔や全身にかなりの打撲を負っていた。驚くことに、ここ一週間ほどの記憶を全く消失していた。ロシアに来ることになった辺りの記憶はあるのだが、その後は白紙だ。
“ユーリー”とかロシアに着いてからの出来事には、知らない分からないと繰り返すばかりだった。
旧ソ連では、諜報活動の一環として国家的規模で人間の精神状態を思うがままに操る技術の開発が行われていたという。たぶん、その技術を応用されたのであろう。
平家が、発見された。相当の重傷を負っているが命に別状はない。という報告は直ぐに東京にもたらされた。
(よかったわ。みっちゃんが死んだら、どないして償ったらええか分からんとこやった。)
中澤は安堵する。一ヶ月ほどロシアで体力回復を待って、平家が日本に帰国できるという話も明るい材料だった。
- 59 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月29日(月)13時21分56秒
- (日本に帰ってきたら、一度平家にわびを入れんといかんな。それにしても、ロシアのマフィア?も思い切ったことするなぁ。そのうち、もっともっとヤバイことが起きるんとちゃうか。身辺を気をつけんと、いかんな。)
中澤の心配は的中し、決定的な事件が起きた。最後の大嵐がやってきた。
ハロープロジェクト夏コンサート2002を終えて、中澤がマネージャと二人で地下駐車場の移動ワゴン車に近づいた時だった。突然、車の陰から2,3人の黒服の男が飛び出してきて中澤を別の車に押し込もうとしたのだ。
- 60 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月29日(月)13時24分03秒
- 「何や。あんたら!!マネージャーさん!」
中澤がマネージャーの方をみると急所を突かれたらしく既に気絶していた。
(ったく使えんなぁ)
「何すんのや。離せちゅうの。」持っていたバックでばしばし黒服の男を叩く。
中澤の声は地下駐車場のコンクリートの天井に反射して響き渡った。その声を聞きつけて、ちょうど地下駐車場に降りてきていたモー娘。の集団の中から紺野が飛び出した。1500m5分台の俊足で黒服男に接近すると空手茶帯の実力を遺憾なく発揮し、腹部に正拳突きをかました。返す足で、もう一人の黒服男の首筋の急所に回し蹴りを食らわす。その間わずか1.5秒程であった。
- 61 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月29日(月)13時26分25秒
- 「助かったわ」と中澤が言い終わるか終わらないかという瞬間に中澤は横飛びに紺野をかばいつつ地面に伏せた。
「中澤さん!?」急にコンクリートの地面に押しつけられた紺野が叫ぶ。
次の瞬間二人の上をパンという音と共に弾丸が走り、パスッと目の前の車の側面を貫通した。最初に倒された男が拳銃を二人に向けていた。
「ひっ。」
紺野が声にならない叫びを上げる。
いくら非力な紺野の正拳突きとはいえ、茶帯の実力だ。急所を完全に捉えられたら、普通の人間は失神もしくは相当のダメージを受ける。直ぐに復活するところをみると、相当訓練を受けた人間と思われる。
他のモー娘。メンバーのものと思われる悲鳴が地下駐車場に響き渡る。
- 62 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月30日(火)01時21分30秒
- 公安てNシステムの管理者じゃあありませんでした?
もしや、作者さんRLとかお読みになります?
- 63 名前:海野コバルト 投稿日:2002年07月30日(火)11時53分17秒
- 久しぶりの読者さんからのレスで嬉しいです。
公安がNシステムを管理してるかどうかは、スミマセン分からないです。
ただ、主要幹線道を通るだけで勝手にナンバーと顔を記録されるシステムには
すごい怒りが。これからも、ポリの横暴と戦っていきます。(嘘です)
RL=ラジオ ライフかな。残念ながら読んでないです。
では。
- 64 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月30日(火)16時08分53秒
- 「紺野。こっちや」
中澤は紺野の手を素早く引いて死角の位置まで移動させる。
「紺野。伏せるんや。自動車を陰にして身を小さくしてるんや。」
紺野に覆い被さるようにして、耳元で言う。
それからは修羅場だった。中澤ら二人を狙うようにして、二人の潜んでいる辺りの自動車にピストルの弾が集中する。バスバスという音で周辺の車に穴が空き、フロントガラスの割れる硬質のパシッという音が混じる。
もう一人の黒服男も、目撃者を消すつもりなのかモー娘。の移動バス目がけて銃を撃つ。
- 65 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月30日(火)16時10分29秒
- 誰の声だろう。「助けて。」とか「こっちに逃げて」とかという声がする。
今はそれに反応する余裕すら中澤にはない。
火災報知器のベルが狭い地下駐車場に鳴り響く。
硝煙のにおいと、ガソリンのにおいが入り交じる。
ひどいにおいだ。
(ガソリンに引火したらおしまいやろな。)
そんなことを冷静に考えている自分が中澤はおかしかった。
紺野は中澤の下で声を殺して泣いている。
(空手が強いっていっても、まだ子供やもんな。自分のせいで平家に続いて、こんな子までも巻きこんでしまったわ。)
「紺野。大丈夫やでぇ。じっとしとったら当たらへんで。」
中澤はふるえる紺野の肩を抱きしめて慰めた。
- 66 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年07月30日(火)16時11分50秒
- 中澤を押し込もうとした車が逃走しようとしたためか、急発進したタイヤの焼け焦げるにおいが地下駐車場に充満してきた。
硝煙とガソリンとタイヤの焦げる臭い。どんどん、ひどくなっていく。
(幸い、誰も撃たれていないらしいな。血のにおいがしないだけでも、まだましか。)
中澤はじりじりと、紺野を抱き抱えつつ安全地帯を探って移動を繰り返す。
ピストルを撃っている男達を早く車に回収しようと、ロシア語と思われる怒号が車の運転席から聞こえてくる。たぶん、「早く乗れ」とでも言っているのであろう。
- 67 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月01日(木)20時02分18秒
- いつの間にか反撃する銃声が聞こえ始めた。
黒服男達は、まさかの銃による反撃を受けて、混乱状態に陥ったのかメチャメチャな方向に弾を撃ち始めた。もう、中澤のいる方向も、モー娘。のいる方向も関係なしだ。
(なんや、うちらにも味方がおるんか。)
内心うれしく思った、中澤だったが
(しかし、一難去って、また一難にならんとええなぁ。)
とりあえず、黒服男達は中澤という目標を失ってしまったらしく、中澤と紺野が素早く地下駐車場の出口に移動したのも気づかぬようだった。それ以上追撃してこない。
そして、やけに早い多数のパトカーのサイレン音が遠くから近づいてくる。
その中には機動隊のバスも含まれているようだ。いち早く、到着した濃紺の機動隊バスからはヘルメットとジュラルミンの盾を持った機動隊員が臨戦態勢で出てこようとする。
そうして、あっけなく銃撃戦は終幕となった。黒服男達は最後は自分で頭を打ち抜いて自決した。
すべてが終わって中澤が辺りを見回してみると、あの若い刑事がピストルを構えて立っていた。黒服男に応戦していたのは彼らしい。パトカーからも制服警官がわらわら出てきて早速現場検証を始めていた。
- 68 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月01日(木)20時03分35秒
- 「そやっ。みんな無事かぁ。」中澤はモー娘。のバスの方に駆けだして叫ぶ。
「やあ、ひどい目にあったよ。みんな無事みたいだよ。」とかおりんが答える。
他のメンバーも車の陰から大した怪我もなく出てきた。
「なんだべ。これ。やくざさんの抗争かね。」
「なっち、それは違うだろ。みんな、素早く逃げたからよかったよ。オイラも小さい体を生かして隠れたからな。」
年上メンバーは芸能界で散々にもまれたせいか、割と平然としていたが、5期メンバーや辻加護辺りは泣き出して半ばパニック状態だ。
「よしよし辻ちゃん。みんなも、もう泣くな。大丈夫やで。」
中澤には、辻の頭を抱きしめて、そう言うだけしかなかった。
- 69 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月01日(木)20時04分36秒
- 翌日は事情聴取で一日がつぶれた。
その場にいたモー娘。メンバー全員が何らかの形で事情聴取を受けた上に、元モー娘。メンバーの拉致未遂、銃撃戦となればマスコミは蜂の巣をつついた様な騒ぎである。朝からワイドショーや通常のニュースまでもが、ひっきりなしに現場中継やUFAの事務所前からの中継を繰り返している。取材申し込みも殺到している。事務所の電話・FAXは鳴りっぱなし動きっぱなしである。
昼過ぎに、一回だけ記者会見を行った。
中澤が代表して出た。
「中澤さんを誘拐しようとして、今回の銃撃戦が起きたという、一部報道がありますが。」
「えー。今回の事件は偶発的に起きたと聞いています。モーニング娘とは全く関係ございません。」
「しかし、自殺した身元不明の外国人が、中澤さんを車に押し込めようとしたという目撃証言がありますが。」
「一切、分かりません。仮に、そういう目撃があったとしても、自分としては身の覚えが無いことで、なんとも答えようがございません。」
- 70 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月01日(木)20時05分26秒
- 芸能リポーターの興味本位の質問が続くが、中澤としては答えようがない。自分の“青の秘密”とロシアの関係のどう説明すればいいのか?
まったく、荒唐無稽の話と捉えられかねない。そのくらい、とっぴな話なのだ。
夕方になりマスコミを避けるようにメンバーは事務所が所有している東京近郊の合宿用の別荘に集合していた。ほとぼりが冷めるまで自宅に帰ることも危険と判断されたからだ。
別荘は都内とは思えないくらいに、まわりは緑に包まれており、念のため地元の警察にも警護を要請していた。警察車両が一台、別荘の入り口に停まっている。
二人一部屋の部屋が与えられた。一人でいると危険であるという判断もあった。
しかし、誰からともなく一階の大型テレビが置いてある、居間のソファーの周りにみんなが揃った。二人きりで部屋にいるのが怖いという心理もあったのだろう。それぞれ、不安そうに顔を見合わせて、ちょっとした物音にビクッとしたりしている。
- 71 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月01日(木)20時08分09秒
- 「あのさ、私から言うけど」と保田が口を切る。
「みんな知りたがっていると思うんだ。警察でロシアとか青の秘密とかって聞かれたんだけれど、裕ちゃん何か知っているんでしょう?出来れば教えて欲しんだけど。」
保田の目は、中澤をいたわり半分、自分が体験した恐怖の真相を知りたいという真剣な思いが半分というように複雑な色を帯びていた。
飯田も言う。
「裕ちゃん・・・。あのさぁ、警察があんなに早く駆けつけのも、反撃した警官がいたのも、全部が裕ちゃんが警察の監視下にあったからだってさ。警察でそう言ってたよ。わたしからもお願い。話せることは話してよ。」
中澤はしばらく沈黙した。メンバーがじっと見つめる。
「そやな。あんたらには知っておいてもらってもええやろ。家族同然やしな。」
- 72 名前:夏休み期間中 投稿日:2002年08月01日(木)20時16分50秒
- ぐわー、やる気が失せた。
どうして、保田が卒業するんだ。
ごまの代わりなら、6期オーディションで2万人も集めれば見つかるだろう。
しかし、歌えて踊れて、ギャグもシリアスも両方の演技が出来て、自分から汚れ役を進んでやって、下からも好かれる人間なんて滅多に見つからんぞ。
1週間ほど夏休み取りますわ。
取材旅行へ行ってきます。
- 73 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)19時28分43秒
- その役は中澤→保田→矢口になるんではないでしょうか?
カラーはそれぞれ多少違うけど・・・
でもある意味お守り役から解放され今よりは自分の好きなことができるんではないでしょうか?
中澤姐さんだってこの夏ソロコン始まったし(w
矢口は今以上に一番大変でしょうね・・・
小説かなり楽しく読ませていただいています。夏休みで充電&癒されてきてください。
- 74 名前:海野コバルト 投稿日:2002年08月12日(月)12時48分49秒
- 再開します。
物語もいよいよ“結”の部分に入ります。
- 75 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月12日(月)12時50分16秒
- 決心したように中澤は言い。膝の上の化粧ポーチからコンタクトケースを取り出した。
「青の秘密とはこれや」
中澤はうつむいて両目からコンタクトレンズを外して顔を上げた。
みんなが息をのむ。
「裕子の目・・」矢口が言う「片目が青で、片目が黒だ。」
「そや、ある時は両目が黒。ある時は両目が青。という風にカラーコンタクトで隠してきたんやけれども本当はそうなんや。左右の目の色が違う。これが“青の秘密”や。長い話になるけどええか。」
みんなは無言でうなずく。
- 76 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月12日(月)12時52分39秒
- 「ま、その前に酒でも飲もか。」中澤が言う。
緊張していたメンバーが一斉にがくっとなる。中澤自身も、その効果を狙ってのであろう。あまり、緊張ばかりしているのも決して良いことではない。昨日今日と、色んな事があってメンバー全員がぴりぴりしすぎていた。
「んじゃ、なにか、食べるもの作るよ。」
後藤が率先して働いた。彼女は実家が居酒屋をやっているせいか、見かけによらず料理が上手いのだ。モー娘。のメンバーが外出しなくてもいいように、台所の冷蔵庫や食品倉庫には一通りの物が揃っていたので、結構みんな乗り気で料理に集中していた。メンバーの顔に笑顔がもどってきた。
お子さまチームはソフトドリンク、大人チームはビールなんぞを飲んで、一時のリラックスタイムが流れた。後藤が中心になって作ったつまみも好評だった。
「まあ、デザートでも食べながら聞いてくれ。」
中澤がビールの缶片手に話を切り出す。
場の雰囲気はだいぶ和やかになっていた。
- 77 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月12日(月)12時57分57秒
- 「まずな歴史の問題や。大津事件って知っとるか。」
みんな首を振る。
そして、なんとなく視線が紺野に集中する。それを受けて
「明治時代に滋賀県の大津市で来日中のロシア皇太子ニコライが日本人の警官に斬りつけられて大けがをした事件ですよね。日露関係がすごく危なくなった出来事です。」と紺野が答える。
「そや、かしこいなぁ、紺野。あたしの生まれた京都と滋賀は一つ山を越した所にある。あたしのひいばあちゃんは京都でも有名な舞子はんだったらしいわ。それで、日本にいる間はニコライさんのお世話をすることとなったわけや。」
保田、飯田あたりの姉モニの連中は、この辺で中澤の目の秘密について少し分かりかけてきたらしく、うなずいている。
「まあ、そうこうしているうちに男と女の関係になったということや。で、わたしの爺ちゃんが生まれた。このこと自体は王様の火遊びということで大した問題ではないんやけど。もらう物もたんまりと、もらったらしいしな。」
「それで、どうなったの」辻が無邪気に聞く。
- 78 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月12日(月)13時03分37秒
- 「問題はニコライさんが、ロシア帝国のロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ2世であったということや。革命が起きてな、ロシアからソ連に国の体制が移るときにな、女子供みんな皇族は殺されてしまったということになっておる。でも、今でもたまに実はロシア皇帝の娘さんが生きていたとかいうニュースが流れるやろ」
「うん、見たことあるよ。」よっすぃーが言う。
「まあ、嘘か本当かわからんけどな。」
中澤は苦笑したような笑みを浮かべて言葉を継いだ。
「ところが私は正真正銘のニコライさんのひ孫なんやな。この青い目が生きた証拠や。ヨーロッパの皇室ちゅうのは、実はみんな親戚関係にあるのや。しかし、親戚同士で結婚を繰り返しているうちに、血が濃くなるというか、あたしの目みたいな本来ならば出てこないような劣性の遺伝子が表に出てしまうのや。血友病ってあるやろ。血が固まりにくくなる病気や。あれも、たった一人の人間からヨーロッパ中の王室に広まって、男子の跡継ぎばかりがバタバタ死におった。それが一つの原因となって、ヨーロッパ全土の国から王制が崩壊したちゅう話もある。」
- 79 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月13日(火)13時06分17秒
- 「おひめさまっ!!」辻加護が声をそろえて叫ぶ。
「中澤さん、色が白くて、青のカラコンつけている時は日本人離れしてるもんなぁ。ロシア人の血が入ってたんだぁ。」これは石川。夢見るような目つきになって手を前に組んでいる。
中澤はそんな様子を微笑とも苦笑ともつかぬ表情で見ていた。
「話はそう簡単じゃないんや、お姫様なんて浮かれとるだけやったら、どんなにか気楽だったろうな。このことはロシア帝国の莫大な遺産の継承権がうちだけにあるということを意味しているや。他はみんな殺されてしもうた。ソ連政府に大分没収されたけども数兆の桁を行くくらいの財産がスイス銀行にあると言われているわ。」
- 80 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月13日(火)13時10分25秒
- 「ちょっと待ってください。」
紺野がさえぎる。
「もし、ロシア帝国の遺産があったとしても、当時とは貨幣価値が違うし、第一、貨幣とかは無効になっているんじゃないですか?」
「紺野。あんた、ホントに頭ええんやな。モー娘。に置いとくのはもったいないなぁ。実はなぁ、遺産は金銀プラチナなどの貴金属やダイヤなどの宝石類がほとんどや。そして博物館級や国宝級の工芸品や絵画も含まれとる。時代がいくら変わろうと、そういった物は決して目減りはせんものや。しかも、それだけの量の貴金属やダイヤがいっぺんに世界市場に出てみい、大混乱や。うまく使えば世界経済の主導権すら握れる代物や。まさに実弾や。」
中澤はビールに一口、口をつけ唇を湿らす。
「今回の事件を起こしたのは、ロシアの政府筋なのか、それともロシアマフィアなのか、それはうちには分からん。でも、このロシア帝国の遺産を人の命なんてどうとも思わんほど欲しがっている連中が現実にいるってことが問題なんや。」
- 81 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月13日(火)13時12分42秒
- メンバーは黙ってしまった。帝政ロシア帝国の遺産をめぐって人殺しまがいのことや拉致まで起きてしまった現実はみんなが経験した通りである。これからも何があるか分からない。たぶん、中澤もこの秘密のことで悩んだ日も多かったのだろう。
「別にそんなもん欲しくは無い。こうして、みんなと面白おかしく暮らしていたほうが、どんなに気楽かわからん。しかし世の中ってものは金の亡者が多いんやなぁ。もう、昔むかしの話や。日露戦争や2回の世界大戦もあって誰もが忘れかけてた事で、父さんがこの秘密を抱えて死んで、この話はお仕舞いになったと思ったんやけどなぁ・・」
中澤は回想モードに入った。
- 82 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時15分42秒
- 中澤が成人したときに、母親から一通の手紙を渡された。
その中には、中澤が今まで想像もしたことのないことが書かれていた。確かに、小さい頃から、なぜ自分が片目だけ青いのかと悩んだことがあった。しかし、親は、その頃は高額だった黒目のカラーコンタクトを中澤に買って与えてくれたために、小中高と中澤が目のことで深刻なトラブルに遭遇したことはなかった。
そういうものなのだ。ひとは背が低いとか、色が黒いとか、それぞれの悩みを抱えている。自分の目もそういう“小さな”悩みの一つに過ぎないのだと思って生きてきた。
- 83 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時17分16秒
- 手紙は中澤が6歳の時に死んだ父親からだった。
“裕子へ。
パパは、今治らない病気にかかっています。何百万人に一人という珍しい血液の病気です。裕子の成人して、花嫁さんになる姿を見たかった。でも、それは叶いそうもありません。
ここで、パパの秘密を話しておかなければなりません。このことは、パパしか知らないことです。ママにさえ言っていないこともあります。もし、これ以上知りたくなければ、読まずに捨ててください。興味本位で読むと、ひょっとしたら裕子の身に良くない事がおきるかもしれません。“
中澤は読むことにした。そこに書かれていることが何であれ、知らずに生きるよりは知って生きた方が後悔しない。そう思ったからだ。後の話になるが、23の時にASAYANのオーディションを受けたのも、同じ理由だった。歌手になるという願いを願いのまま終わらせるより、実際に行動を起こして、それで駄目なほうがあきらめがつく。そう思って挑戦したからこそ、今の中澤があった。
- 84 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時20分10秒
- 不思議と落ち着いた気持ちで中澤は父親の手紙の続きを読めた。
“裕子のおじいちゃん、パパにとってはお父さんに当たる人にとって、パパは50歳過ぎてからできた子供です。おじいちゃんという人は、船乗りをしていて長いこと日本に帰らなかったりして、結婚も何回かしたみたいです。でも、子供はパパ以外作らなかった。なぜかというと、おじいちゃんは外国人と日本人のハーフで外見上は外国の人の様だったからです。日本では暮らしにくかったということもあるかも知れません。でも、そればかりではなく・・・」
手紙の続きには中澤の祖父が今は無きロシア帝国の皇帝ニコライ2世の子供であり、王位継承権と財産の相続権を持つことが事細かに書かれていた。中澤の目のことも、そういう事情で左右違うのだということも言い添えられていた。
- 85 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時21分18秒
- だが、中澤の祖父が成人し生きてきた時代は日露戦争、ロシア革命、シベリア出兵、共産主義弾圧が日本でも盛んに行われるなど、日本人とロシア人のハーフにとっては生きにくい時代である。しかも彼は、とんでもない秘密を抱えている。万が一当時はまだ不安定だったソ連が倒れてロシア王室が再興されたら、皇帝に祭り上げられるかも知れない身分だ。そんなわけで中澤の祖父は、若いときから外国を放浪したりして半分世捨て人のような生涯を送ったらしい。太平洋戦争が終わって、もう過去の事情を知る者がいないと確信できるようになってから、初めて故郷に戻り、ささやかな家庭を持ち、中澤の父親が生まれた。
“パパも自分の血筋にまつわる秘密を知ったときにはびっくりしました。今のパパにとってはママと裕子のいる生活のほうが何倍も大切です。パパにはロシアの財産など全く必要がないものです。”
手紙はまだ続いていた。
“でも、裕子がどうしても必要だと感じた時には、パパはそれを止める権利はありません。よく考えてみて、ママにも相談して、決心したときは以下の方法でロシア帝国の遺産を引き出せます。”
- 86 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時22分09秒
- 二十歳の中澤にはとうてい信じられない内容だった。
だが、手紙にはスイス銀行からロシア帝国のの遺産を現実に引き出す方法が書かれており、その気になれば明日には億万(いや兆の桁の)長者だ。
“くれぐれも慎重にね。パパは裕子が聡明で賢い大人に育ってくれることを祈ってます。
ぱぱより裕子へ“
手紙はそう結ばれていた。
たぶん、中澤の父親の病気も、呪われた王家の血筋がもたらした結果なのであろう。
父親の病気。自分の目。想像を絶する遺産。そして遺産を巡る悲惨な争い。まさに、呪いと呼ぶにふさわしい。
- 87 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時26分44秒
- (もう、この呪いから解放されてもええ頃や)
中澤は一時の回想から現実にもどり、モー娘。メンバーの顔をぐるりと見渡して
「中澤は決心したで。」
とだけ言った。
その決心は1ヶ月後に明かされる事となる。
その一ヶ月の間、中澤は芸能界の仕事はひとまず休業とし、めまぐるしく動いていた。もっとも、あれだけの騒ぎを起こしたのだから、モー娘。も含めてしばらくの冷却期間が必要だったのも事実だが。
- 88 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時28分04秒
- 手始めに、周囲が止めるのもきかずに京都の実家に里帰りをし、父親の眠る菩提寺に墓参りした。中澤は墓の下に眠る父親に今後のことを報告しなければならないと思ったからだ。もちろん、そこには中澤の曾祖母や祖父も同時に葬られている。
御影石の墓石に水を掛け、周囲の草むしりなどもしてきれいにした後で
(パパ。裕子は決心しました。ロシアの遺産を使わせてもらいます。決して、私利私欲のために使ったりしないので安心してください。それから、ひいおばあちゃん、おじいちゃん、私を護ってください。)
そう言って、しばらく墓の前にしゃがみこみ、中澤は手を合わせていた。
夏の日差しの中で蝉がうるさく鳴き、線香の煙のにおいと真新しい花の香りが入り交じった、静寂な時間がしばらく流れた。そうしてから、ふいに立ち上がり、寺の本堂のほうへと足を進めた。その足取りは決心したかのように、強く確かなものであった。
- 89 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時35分48秒
- その足で本堂に向かう。
菩提寺の住職は中澤が幼い頃からの顔見知りであるし、成人してからもたびたび顔を出している間柄である。
本堂をのぞいてみると、さして広くもない本堂の隅で住職は書き物をしているようだった。中澤は少し戸惑ったが、思い切って
「こんにちは」
と声をかけてみた。
住職は顔をあげ、すぐに中澤の顔が分かったらしく
「やあ、裕ちゃんよくきたね。活躍はよく目にしているよ。」
昔と変わらぬ笑顔で(年はだいぶとったが)迎えてくれた。
「長い間、ご無沙汰しております。」
型どおりの挨拶が済むと、中澤は話を切りだした。
中澤の父の話によると、中澤の持つロシア帝国の遺産にとって重要な証拠の品を、この住職に預けているのだという。住職は中澤の父のみならず、祖父のこともある程度は知る人間だった。詳しい事情は知らずとも、何かこの一族にはあるというとは察しているらしい。
- 90 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時40分49秒
- 「あの、父が住職さんに預けた物があるとか。できれば、それを引き取りたいのですが。」
中澤は余計なことを言わずに、用件だけを述べた。
住職とて、中澤が現在どのような状況に巻き込まれているかは、テレビニュースなどで見聞きしているだろう。しかし何も詮索はしなかった。
「ああ、そうかね。お父さんから預かった物の事だね。ちょっと待っててくれないか。いま、庫裏の金庫から取ってくるからね。」
住職はしばらく姿を消し、それから紫の風呂敷に包まれたものを抱えてきて、中澤の前に何もいわずにそっと置いた。
- 91 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時43分13秒
- 中澤は風呂敷の結び目をほどき、中を改める。
古びた数通の手紙と書類の束が出てきた。
(これは、ひいばあちゃんに宛てたニコライさんの手紙やな。書類は、ああ、非公式だけ、どもらうもんをもらった時の書類や。こんなものが残ってたんやなぁ。)
あいさつをして、中澤は菩提寺を辞した。
それからも中澤は芸能界で作ったいくつかのコネをフルに使い、今後のための証拠固めを精力的に行った。
そして、いよいよ一ヶ月後。中澤は都内の一流ホテルの一番広い部屋を貸し切って記者会見を行った。国内外のテレビ、新聞、雑誌などのマスコミメディアが一堂に招待された。一ヶ月前の、中澤とモー娘。を襲った大事件の余波もあり、記者会見場は、かなり広い部屋にも関わらず、入りきれないほどの人で一杯である。
- 92 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時50分51秒
- 「よろしいでしょうか。」
中澤は開口一番言う。
カメラのフラッシュが激しく明滅する。
この記者会見を生中継するテレビ局のカメラが中澤の姿をアップで映し出す。
「わたくしこと、中澤裕子は、ここにロシア帝国の最後の皇帝であるニコライ2世の曾孫であることを告白させていただきます。同時に、ロシア帝国の所持していた全ての財産の正当な、かつ唯一の継承者であることを、全世界に宣言いたします。」
会場は中澤の、あまりの奇想天外な宣言に、静まりかえっている。
だが、次に中澤が精力的に集めた証拠の開示が始まると、次第に興奮に変わっていった。
- 93 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時51分44秒
- 証拠の一つは大津事件の時にニコライ皇太子の傷を止血した手ぬぐいの血痕から抽出されたニコライ皇帝のDNAと中澤のDNAは95%の可能性で血縁関係を示すというデータであった。幾度と無く出てくるロシア皇帝の生き残りという人間を鑑定するために、ニコライ皇太子の遺伝子鑑定なることが実際に行われているのだ。中澤は、その遺伝子鑑定でもほぼ100%の確率で血縁関係が証明されたということだ。
言うまでもなく。ニコライ皇太子が中澤の曾祖母にあてた手紙や、例の“青の秘密”なども証拠として開示された。
部屋の外に次々と新聞記者が飛び出していく。たぶん、この大スクープをいち早く自分の会社に伝えようとしているのだろう。最前列に陣取った芸能レポーター達が、待ちきれないようにハイエナのごとくに下世話な質問をする。
その財産でまず何を買うのかといった類の質問だ。
- 94 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時52分57秒
- しかし中澤は、それらの質問をすべて微笑でかわして
すべての財産を世界平和の為に使うハロープロジェクト財団の設立を行うと発表した。数兆の桁の財産を持つ財団は全世界の地雷撤去、難病の治療、発展途上国の教育や女性の地位の向上、人種・宗教差別撤廃のための啓蒙活動などありとあらゆる難題を解決し、国連をも、しのぐ世界的な組織となった。中澤裕子はノーベル平和賞を2回、その生涯でもらうこととなったし、全世界の教科書に載る存在となった。
しかし、彼女の一番の望みは“幸せな結婚”だったそうである。
その望みが実現したかどうかは、また別の機会に語られることとなるだろう。
- 95 名前:中澤姐さんの秘密 投稿日:2002年08月16日(金)19時53分40秒
- おわり
- 96 名前:海野コバルト 投稿日:2002年08月16日(金)20時06分03秒
- あとがきです。
中澤姐さんが青いカラコンつけて金髪にすると、あんたどこの人や!と突っ込みたくなるほど人種不明になることから思いついた話です。まあ、出来の方はそれなりにということで、あまり触れないでください。
なんか、でも終わりは24時間テレビのフィナーレみたいに妙に偽善ぽかったかな。
次回作は矢口がお隣の国の韓国に焼き肉を目的にプライベート旅行をしたら、なぜか保田、辻、紺野のおとぼけコンビがついてきて・・・。というお気楽小説を予定してます。
題名は“矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!!”
どこかで見た題名だと思った人は気のせいです。
嘘です。パクリました。
現在は月板で連載中の“市井ちゃん、お隣の国からデビューだってさ!!”からもらいました。元ネタのほうはシリアスな社会派小説です。長いですけど未読の人はおすすめします。
新作の内容のほうは“ハコイリムスメ”のややパクリかも。
- 97 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月19日(月)13時44分05秒
- 矢口真里19歳。一つの夢があります。
それは、本場韓国で焼き肉をおなか一杯食べること。
せこい望みなんて言わないでください。
腐っても高額納税者アイドル矢口は、日本ではほとんどの有名焼肉店は制覇しました。おいしい店。まずい店。いろいろありました。松阪牛。仙台牛。但馬牛。カルビ。ロース。タン。トントロ。・・・。
狂牛病など恐れず食べ続けてきました。
一年100日は焼き肉を食べました。
矢口真里二等兵ハ死ンデモ焼キ肉ヲ口カラ離シマセンデシタ。
そして、ついに日本の焼き肉界は、もう極めました。
矢口真里=焼き肉界の女王様と呼んでください。
- 98 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月19日(月)13時46分47秒
- しかしながら、そんな私の耳に
「やっぱり、韓国の本場の焼き肉を食べなければ、焼き肉を極めたことにはならないよ。」という声が聞こえてきます。
いいでしょう。受けて立ちましょう。その挑戦を。
焼き肉王者、矢口の名に賭けても王者のベルトは死守します。
新大久保のコリアンタウンなんて、せこいことは申しません。今週末に奇跡的に二日のオフがあります。一泊二日で韓国の首都ソウルまで行き、韓国焼き肉界にぎゃふんと言わせて見せましょう。口に手をつっこんで、奥歯をガタガタ言わせて見せましょう。
- 99 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月19日(月)14時00分27秒
- ということで、オイラは上野から京成ライナーの乗客となった。
なぜ、上野から京成ライナー?と思ったあなたは鋭い。オイラの住んでいる所からなら成田エキスプレスが絶対に便利だ。じゃあ、なぜ?
今から説明いたしましょう。
京成ライナーは上野を順調に早朝六時にオイラを乗せて出発した。
楽しい焼き肉食い放題の旅の始まりだーい。
でも、何か違和感があるぞ。
って、オイラの隣の座席には圭ちゃんが座っているじゃん。
そして、後ろの座席には辻ちゃん。
最後になぜか辻と並んで紺野が座っている。
おいおい大丈夫かよ、このメンツ。オイラと圭ちゃん。つーじー。紺野って。
オイラの計画を嗅ぎつけた圭ちゃんに、事務所に言うぞとか、アイドルが一人で外国に行くのはヤバイぞ、など脅され、すかされて、なぜか一緒に行くことを承諾させられたのだ。圭ちゃんは上野近辺の下町某所に住んでいる。上野駅集合は圭ちゃんが言い出したことだ。辻の家も上野が比較的近いらしい。
- 100 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月20日(火)12時13分25秒
- ユニークなタイトルですね(w
この四人が行動するっていうのも興味深いです。
続き楽しみにしてます。
- 101 名前:海野コバルト 投稿日:2002年08月21日(水)18時58分26秒
- >100
この4人って、自分にとって動かしやすいんですよね。
勝手にキャラが動いてくれるというか。
ところで昨日のNHK BSの特番で矢口が
“好きな日本の食べ物は?”という問いに
“矢口、石焼きビビンバが好きなんですよね。”
と答えてましたね。改めて、矢口の韓国料理好きを確認しました。
では、続きを。
- 102 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月21日(水)19時00分22秒
- 早くも缶ビールを空けてへらへらしている圭ちゃんがわたしに話しかけてくる。
「矢口。焼き肉を韓国に食べに行くなんてオイシイ話に私を除け者にするなんて水臭いよ。」
ぐわー。
「圭ちゃん・・・。これ、オイラのプライベート旅行だから。ついてくんなよ!!
辻と紺野を連れてくるなんて聞いてないぞ!!」
最後は切れてしまった。
「しかも、圭ちゃん手ぶらじゃない。海外旅行をなめてる?」
実際に圭ちゃんは普段着のままである。
「パスポートと現金は持っているから。必要なものは現地調達。」
しらっと答える。
(そういう問題じゃないだろう・・・)
- 103 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月21日(水)19時01分51秒
- 辻の方を見ると朝っぱらから、ひざの上に食べかすをまき散らしてバリバリ菓子を食べている。
「辻・・・。のんきに菓子なんか食ってんなよ。」
後ろの座席にいる、辻に今度は矛先を向ける。
「えへ、やすださんがぁ、かんこくにぃ、おいしいものをたべにいくから、つじも、いかないかってぇ、いわれたんです。」
どうでもいいけど、言葉が全部ひらがなだぞ。
しかし、辻。
おまえもコンビニの袋に菓子と洗面道具だけ詰めてやってくるなよ。
「辻さぁ。下着とか持って来てんの?」
「えへ、ぱんつはうらがえしてはきます。」
もう呆れて言葉も出ない。
- 104 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月21日(水)19時04分53秒
- 「紺野。おまえは?どうして来たの?」
なにか答えを聞くのが怖かったが、行きがかり上、訊いてみる。
「あのあの。保田さんと辻さんが明日面白いところにつれてってやるから、洗面道具と着替えとパスポートを持って上野駅集合って言われて、なぜパスポートが必要なんですかって、保田さんにきいたら、バカ、ディズニーランドだってパスポートが必要だろうって言われて、でもわたしは、それは年間パスポートじゃないかって思ったんですけど、とにかく、保田さんのいうことには逆らえなくて、韓国っていうか、わたし、海外旅行も初めてで・・・」
「いい。もういいよ紺野。頭痛がしてきたよ。」
オイラは紺野のまとまらない話をさえぎる。
紺野はそれでも手提げの旅行鞄持参だ。
そうこうしているうちに、成田空港第一ターミナル駅に列車は到着した。
- 105 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月21日(水)19時06分54秒
- 「みんなさぁ、チケットとかちゃんと持ってんの?」
持っていないといいなぁという、まずはあり得ない可能性への期待を込めて言ってみた。
「当たり前じゃん。ほら。」
圭ちゃんが保田、辻、紺野名義のチケットクーポン券を見せびらかす。
「はあ〜、オイラと行きも帰りも同じ便なわけね。」
(妙な所で、圭ちゃんって手際がいいんだよな)
そんなオイラの内面の葛藤に気づくはずもない紺野が
「あのあの、矢口さん。改札口を出た所に警察官がたくさんいて、こちらを見ているんですが何でしょうか?」
と無邪気に訊いてきた。
オイラは、やや立ち直り
「ああ、紺野。あれは単にパスポートチェックしているだけ。身元確認のためだな。」
「そうですか。安心しました。」
紺野はウエストポーチから大事そうに表紙カバーをつけたパスポートを取り出して警察に見せた。
(紺野、海外旅行が初めてって本当なんだな。)
ちょっとほのぼの。
- 106 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月21日(水)19時09分51秒
- 「朝飯くうか?まだ、時間あるだろ。」
出発ロビーに上がったとたんに圭ちゃんが言う。
ロビーは結構な混雑だ。夏休みの海外旅行ラッシュがぼちぼち始まったというところであろう。
「ちょっと待ってよ。その前にオイラもクーポンを飛行機会社の窓口で搭乗券と交換しないといけないんだ。圭ちゃんたちもそうでしょう。」
「えっ。なに?この券じゃ飛行機乗れないの?」
圭ちゃんは手に持ったクーポン券をひらひらさせる。
(絶句。)
「当たり前じゃん。圭ちゃん、何度、飛行機のってんの?このクーポンを搭乗券と交換して、初めてチェックインしたことになるの。」
(大丈夫かよ。マジに。)
すったもんだして、搭乗券をゲット。
オイラの疲労度はすでに50%以上だ。
- 107 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月22日(木)09時19分47秒
- それぞれのキャラがイイ味出してますね。
しかし、矢口は飛行機に乗る前に疲労度100%になってしまいそうですね(w
- 108 名前:今さら短編からきました 投稿日:2002年08月23日(金)00時19分25秒
- 面白いです。
この四人がカンコクでどんな活躍をするのか楽しみです。
- 109 名前:海野コバルト 投稿日:2002年08月29日(木)15時21分58秒
- >107
>108
応援ありがとうございます。
では、続きをどうぞ。
- 110 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月29日(木)15時25分15秒
- 「わーい、ひこうじょうはひろいのです。おみせもたくさんあるのです。」
「辻。お願いだから、おとなしくしていてくれ。みんなの側を離れるな。」
オイラはほとんど添乗員です。このメンツでは、そうなる予想がしていました。
「あのあの、時間がまだあるみたいなんで、ちょっと買い物してもいいですか。」
珍しく、紺野が自分から意見を言う。
「ああ、いいよ。辻は誰かと二人で行動してくれ。迷子になられたら面倒だから。じゃあ30分後ここに集合。」
「えー。まだ、しゅっぱつまで2じかんもあるのです。のんは、かいものをして、ぱふぇもたべたいのです。」
辻は不満そうに手足をバタバタさせる。
- 111 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月29日(木)15時30分35秒
- 「辻ぃ。これから、まだ出国審査も残っているし。アメリカのテロ以来結構いろいろとチェックが厳しいんだぞ。それから飛行機には最低でも30分前には乗ってないと駄目なの。みんな時間厳守してよ。たのむよ。」
しかし、結局全員が揃ったのはそれから1時間後だった。
遅れてきたメンツは約2名だ。
「んもう。あれほど言ったのにぃ。みんな、急ぐよ。」
オイラは、もう気が気じゃないです。出国手続きカウンターに、みんなをなだめすかして走って行く。
ところが、いざ出国審査官のところにみんなで並ぼうとすると紺野がもじもじして、いまにも泣き出しそうになっていた。
- 112 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月29日(木)15時31分37秒
- 「どうした。紺野?」
「あのあの。パスポートが無いんです。ウエストポーチに入れておいたのに。」
もう半泣き状態まで来てる。
「よく探したか。さっき警官に見せてたろう。あれからどうした。」
ほよよんとした顔でしばらく思案した後に
「えっと。鞄に入れました・・・。」
ガックリ。
(これは吉本新喜劇か?)
まあ出国審査は無事に過ぎた。
- 113 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月29日(木)15時32分40秒
- が、アメリカのテロ以来厳しくなった、持ち込み荷物のチェックの際に、再び一波乱あった。そのことについては、もう言いたくない。圭ちゃんがやらかしたとだけ言っておく。結局、全員が搭乗したのは出発5分前だった。ほとんど最後の乗客だ。
「んがぁー。圭ちゃん一升瓶なんか機内に持ち込もうとするなよ。しかも、わざわざ空港で買ってまで。酒なんかいくらでも、ただで飲めるんだから。」
「いいじゃん。酒は女の命っていうし。」
全然反省の色がない。一升瓶は乗務員預かりになった。
ふー。座席に虚脱して身を沈める。
しかし、神様はそんな矢口をお許しにはならない。
- 114 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月29日(木)15時35分23秒
- 飛行機は無事離陸して、シートベルト着用のサインが消えるやいなや、紺野が不安そうな表情でオイラの座席にやってくる。
「あのあの。矢口さん。国際線ではキャビンアテンダントの人達に、いくらチップをあげたらいいでしょうか?相場が分からなくて。」
「紺野・・・。何を言い出すんだ。そんなものはあげる必要はないぞ。」
「でもでも、辻さんがあげないと駄目だって。」
上目づかいに訴える。
「辻。これ以上頭痛の種を増やさんでくれ。」
一応、辻に釘を刺しておく。
「てへてへ。こんのちゃんはしんじたのですね。」
辻は早くも棒付きキャンディーをゲットして口にほうばっている。
いい年して、そんな物もらうなよ。
「あのあの。もう一つ疑問が。機内食の食券はどこで買うんでしょうか?」
(絶句。)
「全部。無料。」
(ここは、どっかの従業員食堂か?)
辛うじてそれだけ答えた。
- 115 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月30日(金)19時34分18秒
- 圭ちゃんはただ酒をがぶ飲みするし、辻は機内食のお代わりを要求するし、紺野はなんか目をつぶってぶるぶる震えているし、2時間足らずだが、矢口には無限に続くかと思われた前途多難な時間が過ぎて、飛行機はソウル郊外の仁川国際空港へと着陸態勢に入った。
「わーい。うみがみえるのです。しまもいっぱいなのです。」
飛行機の窓の外に見える仁川国際空港の景色に辻ちゃんは、はしゃいでいる。
「紺野。どうした?気分が悪くなったか。」
オイラは紺野をいたわる。
「大丈夫です。しかし、飛行機みたいな鉄の塊が空に浮くなんて非科学的です。そう思いませんか、矢口さん。」
(いきなり、そんなこと言われたって、オイラどうしたらいいの。)
「まあ、あんまり考えすぎるなよ。(とほほ)」
とりあえずフォローしておく。
- 116 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月30日(金)19時35分39秒
- 入国審査がまた一苦労だ。
みんな一人一人、入国審査官の前に行かなければならないのでオイラが助けてやる訳にはいかない。
圭ちゃんは、やはりあの一升瓶が引っかかっているようだ。当たり前だ。荷物を一切持たずに一升瓶だけ抱えた女は、どう誰が見ても怪しさ100%だ。一升瓶は、どうも放棄したみたいだった。賢明な策といえよう。
辻ちゃんも、止められている。コンビニ袋だけ持った“子供”がやってくるのは、これも怪しい。パスポートを見せて、自分は子供じゃないと必死でアピールしている。審査官も辻スマイルにやられたみたいで、どうにか通してもらったようだ。
紺野はいきなり深々と審査官に挨拶して、大きな声で
「紺野あさ美と申します。よろしくお願いします。」
と告げている。勘弁してください。もう。
- 117 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年08月30日(金)19時36分32秒
- もう、すでにぐったりしているオイラを囲んで、のんきな3人が言う。
「矢口。空港連絡バスがソウル市内まで出ているみたいだぞ。乗ろうぜ。」
オイラは、ヤンキー座りしたまま答える。
「へいへい。オイラは今日の泊まりはロッテホテルだから、バスも途中で立ち寄ってくれるでしょう。ところで、みんなの今夜の宿はどこなの?」
「まだ、決めてない。」
きっぱり圭ちゃんが言い放つ。
オイラは耳を疑った。
「みんな、決めてないのか?」
「てへてへ。ののはきめてないです。」
「あのあの。私も・・・。保田さんが任せておけって。」
「おまえら、よくそんな風に、いい加減に韓国来る気になったな。ある意味すげーよ。」
なんちゅうか、すごいの一言だ。
- 118 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年09月03日(火)12時34分45秒
- 矢口の苦労はまだまだ続きそうですね(w
- 119 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月05日(木)19時22分03秒
- とにかく、バスに乗って、ソウルに着いた後に考えようということになった。ロッテホテルに空きがあるかも知れないし。うだうだ考えてもしょうがない。とは言うものの、オイラには立派な高速道路を快調に走るバスの窓から見える生まれて初めてみる景色も満足に目には入らない。オイラは結構へたれな性格で、一つ心配事があるとくよくよ考えてしまうことがたまにある。今がその時だ。落ち込むと感情の振動幅が大きいのだ。
バスは漢江だろうか、大きな川の側を沿うように走っている。
「なあ、矢口。どこで降りるんだっけ。」
圭ちゃんの声で我に返る。
景色はすでにソウル市内に入ったらしく、大小のビルが入り交じったものに変わっていた。
「オイラは明洞(みょんどん)。とりあえず運転手さんに言って明洞で降ろしてもらおうぜ。」
「誰が言う?矢口言ってくれよ。」
「エー、やだよ。怖いよぉ。圭ちゃん英語を勉強しているんだから、こういう時こそ実力を見せてよぉ。」
オイラも、なんかへタレ丸出しだな。しかし。
- 120 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月05日(木)19時23分14秒
- そうこうするうちに、バスは路肩に停車して運転手さんが声をかけてきた。
「ナントカ カントカ スムニダ」
「はいぃぃ?」
バスを道路のわきに止めて、乗客ひとりひとりにどこに行きたいのか訊きにきたらしい。でも矢口真里。まったく韓国語は分からんちんです。圭ちゃんを見ると、くそぅ、寝た振りなんてすんなよ。
「あーうー。Yes。明洞。明洞。みんなの明洞ですぅ。」
雰囲気で言いたいことは理解できていたので、とりあえず目的地を連呼する。
「OK」
なにやら手元のメモに記入してます。
(良かった。伝わったんだね。)
- 121 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月05日(木)19時26分18秒
- でも、伝わってませんでした。運転手さんがここだよと仕草で教えてくれて、降ろされた場所は全く訳分からない場所だったのです。
「おいー、ここはどこだよう。全くいいかげんだな。」
オイラはソウルの街角で吠えます。
「やぐちしゃん。おなかすいたのです。」
「つーじー。非常事態なんだからおとなしくしてろや。」
オイラはソウルの地図から目を離せません。
「だって、おなかすいたんだもん。」
辻は泣きそうになってます。
「分かったよう泣くな。あそこにローソンがあるから、って何でこんな所にローソンがあるんだよ?」
- 122 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月05日(木)19時31分39秒
- つい日本にいる感覚が抜けなかったけど、ハングル文字が氾濫する街のなかになぜか日本にあるのと寸分違わないローソンがビルの一階にあります。まあ、よく考えてみれば、別に日本からローソンが出店してもおかしくはないのだが。
「入ろうぜ。あたしも、そろそろ燃料補給しないと。」
圭ちゃんが率先して中へ入っていきます。
「わーい。“こあらのまーち”だ。ぽっきーはあるですか。」
現金なもんです。辻ちゃんは。
しかし、店内の細かいデザインまで日本のコンビニそっくりだな。ちょっとびっくり。目新しさはあまり無いけど、菓子とかを幾つか夜食用に見つくろうことにした。しかし、ロッテは日本のヒット商品を韓国で(以下自粛)。
「ナントカ カントカ スムニダ」
「どうして、だめなの?いちまんえんだよ。」
おいおい辻がレジの前で何かもめてるぞ。
「辻どうした。」
リーダー役も大変す。
- 123 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月05日(木)19時32分40秒
- 「このてんいんしゃんが、このおかねはつかえないっていうのです。」
「ああん。どれどれ。」
辻は手に日本の一万円札を握りしめてます。
「当たり前じゃん。韓国に来たらウォンに替えなきゃ。」
「うぉんって、なにですか。」
きょとんとしてます。
辻。おまえ本当に15歳か?外国じゃあ基本的に日本円は使えないぞ。小学生でも知ってる常識だぞ。
「空港で金を両替しろっていったろ。意味が分からなかったのか?しゃあないな。いくらだよ?貸してやるよ。」
まだ日本を離れてから4時間もたってません。でも、お母さん。真里はもう日本に帰りたいです。
- 124 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年09月06日(金)12時07分30秒
- 何も考えずについて来た圭ちゃんたちも凄いけど、
まったく韓国語を理解出来ないのに、一人で韓国に来ようとした矢口も凄い。
- 125 名前:名無し読者α 投稿日:2002年09月06日(金)15時14分35秒
- 日本語は分からんのか・・・
- 126 名前:海野コバルト 投稿日:2002年09月12日(木)21時21分59秒
- >124
>125
痛タタッ。
作者もアイドル矢口がガイドも付けずに、一人旅をするって設定は不自然だと思ってたんですよね。実は、4人の後ろには音声さんとカメラマンがいたというオチだったりして。
まあ、韓国語が分からなくても、日本語が通じなくても何とかなるもんですけど。
- 127 名前: リーダー役も大変す。123 名前 : 投稿日:2002年09月12日(木)21時25分37秒
- 圭ちゃんは圭ちゃんで、焼酎の緑色の小さなボトルを買ってラッパ飲みしてます。燃料補給って、このことなのか?
コンビニを出て、また路上で場所探し。
「ここはChonggakっていうのか。銀行があって、展望台付きのビルがあって、と。」
オイラは道路の標識に書かれたローマ字を手掛かりに現在位置の特定をしようとするが、さっぱりわからないです。ハングル文字は読めないし、漢字で地名が書かれたガイドブックの地図は全く役に立たない。
「あのあの、タクシーを拾った方がいいのでは。」
紺野が心配そうに言う。
「そうだな。明洞って言えば大丈夫かな。でも、心配だよな。なあ、圭ちゃんさぁ、焼酎なんて飲んでないで協力してくれよなぁ。」
- 128 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月12日(木)21時29分17秒
- 当の圭ちゃんはといえば
「この焼酎、甘くてうめえな。矢口、なに、さっきからウダウダ言ってんの?」
とお気楽状態です。
「はあー。ロッテホテルがどこか分からないって、何度も言ってるだろ。協力しろよ。」
オイラは半分マジ切れして、圭ちゃんをにらんだ。
「ロッテホテルなら、この道を300mくらい歩いたところだぞ。ちょっと建物が見えてるけど。」
圭ちゃんは片手に持った焼酎のボトルで道の先を指し示した。その先には周囲よりも、やや高いビルが街路樹の影から見えた。
「えっ・・・。」
オイラばかり空回り状態?
圭ちゃんは、オイラの持っている本の地図を指し示して説明してくれます。
いまいる場所のChonggukは漢字で書くと鐘閣で、ここから南大門路を2ブロックほど歩いた所がロッテホテルでした。バスの運転手は、そう変な場所に降ろした訳ではなく、何かの事情で明洞方面に行かないバスだっただけかもしれない。
- 129 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月12日(木)21時33分44秒
- 「待ってよ。紺野行くぞ。」
おろおろしている紺野をせかして、オイラも圭ちゃんの後をついていきます。
本当に、数百メートルも行かないうちにロッテホテルとロッテデパートが見えてた。
「ここだぁ。」
フロントで自分のチェックインを済ませる。
ロッテホテルは一流ランクに分類されるホテルなんで、日本語が通じる。ということで、圭ちゃんが自分から率先して今夜は泊まれるか交渉を始めてくれた。
「できれば、二部屋欲しいんだけど。」
フロントのお姉さんは難しそうな顔をしている。手元の、コンピュータ端末を操作しながら
「夏休みで、どの部屋も予約で一杯です。」
とだけ言った。
実際、成田も結構ひとがいたし、見回してみるとロッテホテルのロビーも日本語をしゃべる観光客であふれていると言ってもいいだろう。
- 130 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月12日(木)21時35分21秒
- 「そこを何とか。一部屋でもいいです。」
圭ちゃんも必死に食い下がる。
「ダブルが一部屋ならあります。40万ウォンですけどいいですか。」
「いいよ。OK。」
圭ちゃんはクレジットカードを、すっと出して会計を済まします。そこは、さすがサブリーダー即断即決です。
「部屋取れたぞ。ダブルに2人。矢口のシングルの部屋のソファーに1人だな。」
結局はオイラは一人じゃ寝れないという訳ね。まあ、いいっしょ。
じゃんけんの結果。辻紺野が一緒のダブルの部屋。オイラは圭ちゃん一緒と決まった。
- 131 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月12日(木)21時36分46秒
- 「矢口。同期同士仲良くしようぜ。」
「なにを今さら言うんだよぉ。圭ちゃん。一応釘を刺しておくけど、ぜっったいにベットでオイラは寝るからな。圭ちゃんはソファーに寝てくれよな。」
「分かってるって。じゃあ、みんな荷物を部屋に置いたら直ぐに、ここのロビー集合な。10分後でいいだろ。」
それぞれ分かれて部屋に入った。
オイラの部屋から、ソウル市内がよく見える。
「ああ、くたびれた。」
ベットに倒れ込むようにして寝そべる。
「ここ、いい部屋だね。」
圭ちゃんは窓に立って外を見ている。
「矢口、お疲れ。まあさ、あんまりカリカリすんなよ。辻とか紺野がおびえてるぞ。」
「圭ちゃんは気楽でいいよな。」
「矢口は肩に力が入りすぎだよ。周りに気を遣いすぎるというか、なんでも自分が責任を持たないといけないと思いすぎだな。もっと気楽に行こうぜ。」
「はいはい。」
ここで圭ちゃんと言い争ってもしょうがない。矢口も少し空回り気味な所があるのは自覚している。
- 132 名前:名無し読者α 投稿日:2002年09月13日(金)15時25分28秒
- >126
あら?そうだったんですか?
辻が「日本語(の指示)は理解できない」けど「韓国語(の会話)は理解できる」のかと思いました(^^;
ていうか、実際の韓国だと都市部なら日本円も使えてしまう罠かも?とも(w
4人のクドい動きが目に浮かんで面白いです。がんがってください。
- 133 名前:海野コバルト 投稿日:2002年09月19日(木)20時26分09秒
- 忙しくてなかなか更新できないですけど。ちょっとだけアップ。
しかし、オイラの作風はクドイですかねぇ。いや、別の所でもクドイって
言われたもんで。(苦笑)
では
- 134 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月19日(木)20時32分18秒
- 「話は変わるけど、明日さ、板門店へ行かない?」
「板門店?どこよ、それ。」
マジ、オイラは知らないです。
「JSAって映画があったじゃん。共同警備区域だっけ。北と南が国境を接して、共同警備しているところ。ばんばん撃ち合いしてりして。」
「ああ。オイラもそのビデオ見たよ。でも、飛行機の時間に間に合う?」
「午前中に行って来れれば、大丈夫しょ。このホテルに旅行代理店があるみたいだから聞いてみようよ。」
旅行代理店の話では、順調にいけば大丈夫とのことだった。しかし、南北間は複雑な問題があるから、観光客が足を踏み入れることがごくたまに突然に制限されたり、足止めを食らうことがあるのだという。ここは運を天にまかせることとする。
辻紺野も行きたいというので、四人分の板門店ツアーを予約した。
- 135 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月19日(木)20時34分16秒
- いよいよ、食い倒れツアーの始まりだ。機内食を食べたとはいえ、時間はまだお昼ご飯の時間だ。
「どこへ行く?いきなり焼き肉いっちゃう?」
オイラは100%臨戦態勢です。
「つじは、いしやきびびんばがぁ、たべたいです。」
「紺野は何か望みあるか?」
「あのあの、わたしは麺類とか好きで、北海道にいたときは毎日学校の帰りにラーメンとか食べていて、だから韓国冷麺が食べたいです。韓国冷麺はジャガイモが入っていて美味しいという話を聞いて、わたしはジャガイモも好きなので食べたいと思っていて・・・」
「分かった。もうそれ以上言うな。オイラに任しとけ。」
準備はバッチリ(死語)です。ソウル市内のめぼしい店は調査済みっす。
ホテルを出て、明洞の中心へと向かうことにする。
- 136 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月19日(木)20時37分19秒
- ソウルの街は地下道が多く、どこに行くにも階段の上り下りをしなくてはいけないので、ちょっと大変す。ロッテデパートの前から地下街に入り、大きな自動車道をはさんで向かいの明洞地区へとわれわれ一行は近づいてます。
「へー、道路の下にこんな立派な地下街があるんだ。」
実際、東京駅の八重洲地下街に匹敵するような、相当に大きな地下街です。
「あのあの、戦争が起きた時のために防空壕としても使われるそうです。」
確かにそんな感じだ。コンクリートの天井が厚くて、空襲とかにも耐えられそうという印象。防空壕も兼ねているんだろう。人通りも多い。
「えへえへ、みちでねているひとがいるのです。みんなおかねをあげているのです。のんもあげたいのです。」
「辻!!あんまり大きな声でそういうこと言うなよ。お願いだから指さしたりしないでくれ。道で寝ている人なら日本にもいるだろ。」
辻。おまえ、あまりにも無邪気過ぎ・・・。
- 137 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月19日(木)20時39分22秒
- 「おかしいな、この辺なんだけどな。」
さっきから、オイラは観光ガイド片手に明洞の中心地区を何度か往復してます。
「明洞衣料の直ぐ横だろ。全州屋はよぅ。」
明洞衣料とは、カジュアルな服を安売りしている衣料専門の量販店で、明洞のランドマーク的な店である。オイラ達の目指している石焼きビビンバ専門の全州屋はこの近くにあるはずなのだが見あたらない。明洞はとにかく人通りが多い。軽い満員電車状態で人と人がぶつかりあって進むような感じだ。
「やぐちしゃん。おなかがすいてきたのです。もう、このとりのまるやきがぐるぐるまわっている、おみせにするのです。」
辻が涙目で訴える。
圭ちゃんも、口には出さないが辻の意見に賛成という風な顔つきだ。
(もう、ここにするか。)
辻の言う、鳥の丸焼きがぐるぐる回っている店も、ガイドブックに載っている有名店だ。オイラはほとんど決心しかけた。
- 138 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年09月19日(木)20時46分06秒
- その時、
「あのあの、矢口さん。あそこに山伏みたいな変な格好をしたおじさんが立っているんですけど、胸の所に全州屋って書いてますが・・・。」
と紺野の遠慮がちな声がした。
「でかした。紺野。」
山伏のおっさんの立っているところに行くと、狭い路地があって10m位行った奥まった所に全州屋の入り口があった。
「分かりにくいよぉ」
山伏おじさんは入り口を案内するサンドウィッチマンというわけだ。
「とにかく、入ろうぜ。」
オイラが先導して店の中に入る。入り口は狭いが店内は案外広かった。客の入りもほぼ8割方埋まっているという感じだった。ともかく席に案内してもらって座る。日本人観光客が多いためか日本語メニューが用意されている。4人で額をつきあわせて、メニューを検討した。
「よし。オイラは石焼きビビンバのスペシャル?に決めた。」
スペシャルは普通の石焼きビビンバに海産物が入っているものらしい。
- 139 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年09月20日(金)11時14分29秒
- >作者さん
>オイラの作風はクドイですかねぇ。
作者さんの他の作品は見てないんで判りませんが、
この作品は別にクドク無いと思いますよ。
- 140 名前:132 投稿日:2002年09月20日(金)16時54分00秒
- すいません。
作者さんの文章がクドいということではなく、逆に文章は簡潔だけど、
やぐ・やす・つじ・こん、それぞれの特徴がしっかり伝わってくるという意味です。
分かりづらい表現しちまってゴメソ。
- 141 名前:ヤグヤグ 投稿日:2002年09月26日(木)23時54分01秒
- ほんと面白い!辻のアホっぷり&紺野の天然優等生っぷりがいいです。
この話、ハロモニのコントでやってくんないかなぁ。
- 142 名前:海野コバルト 投稿日:2002年10月08日(火)17時56分09秒
- しばらく、短編バトルの方に参加して更新できませんでした。
『サンクチュアリ』っていうプッチ卒業物を書いたんですけど、
容量制限に引っかかって削ったエピソードと自分でも舌足らずかなと思った
部分を加筆した補完板を臨時でアップします。
飛ばしたい方は
『矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!』は
>>180
から再開してます。
- 143 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時27分17秒
- 保田さんと後藤さんがモーニング娘。を辞めるという話を聞いたときに思わず、涙が出てきちゃった。後で、記者会見のビデオを見返してみたら、わたしはすごいブスな顔で映っていた。
ずっと前からプッチモニに入りたいと言ってきたから、自分がプッチモニの新メンバーに選ばれてことは嬉しいけれども、あくまで保田さんや後藤さんのいるプッチが良かった。保田さんや後藤さんがいてのプッチだ。
でも、7月8月はものすごい早さで過ぎていく。中学生義務教育メンバーも夏休みということで、毎日、朝から晩までこき使われる。夏の野外コンサート。24時間テレビ。NHK BSのまるごとモーニング娘。特集。合間を見てのダンスレッスンや新曲の音入れもある。いつしか、保田さん後藤さんの卒業の悲しみも心の片隅に追いやられて、とりあえずは目の前の課題を片づけることで精一杯になっていった。
- 144 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月08日(火)18時29分34秒
- そんな、8月も終わりのある日だった。その日は、メンバー13人が揃っての、9月の後藤さん卒業コンサートの舞台での動きをチェックするための合同練習の日だった。
「うあ〜。上手く動けないよ〜」
控え室に戻り、わたしはあさ美ちゃんに愚痴をこぼした。
「難しいよねぇ。舞台の大きさに合わせて、ダンスを微妙に変えていかないといけないからね〜。」
あさ美ちゃんがのんびりとした口調で答える。
「んでもさ、あさ美と里沙は、このコンサートで“タンポポ3”をお披露目すんだろぅに〜。楽しみにしてるんでないの?」
今は、5期メンバーしか控え室にいないので、愛ちゃんがちょっときわどい話をする。そうなのだ。新規編成されたユニットの先頭を切って“たんぽぽ3”が新曲をみんなの前で初めて歌う。飯田さん矢口さんのいた“タンポポ2”は、9月23日のコンサートで“卒業”し、石川さんをニューリーダーとする“タンポポ3”がデビューする。
コンサートでは、まずタンポポ2のヒット曲メドレーに続いて、タンポポ2のメンバーがみんな一言づつあいさつをして卒業していく、最後に飯田さんがタンポポ3のメンバー紹介をしてタンポポ3が新曲披露という段取りだ。
- 145 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時31分16秒
- そのために、あさ美ちゃんと里沙ちゃんは、新曲のレコーディングや振り付けのレッスンのために、最近はちょくちょく別行動を取ることが多い。
でも、この話題は飯田さん矢口さんがいる前では絶対のタブーだ。私達は直接は知らないけども、石黒彩さんがいた初代タンポポの音楽性の高さは、CDやDVDでよく分かっていた。そして二代目のタンポポは路線変更したものの正統派のブリティシュポップの王道を行き、オリコン初登場一位も獲得してモー娘。本体よりタンポポを支持するという人もいるくらいのユニットだ。初代、二代を支えた2人が辞めていくことで、タンポポに関しての話題は、何となく避けられていた。
「まだ、詳しくは言えないんだけども、タンポポ3はラップなんかも取り入れて、よりCuty&Popさを前に押し出したコンセプトだよ。ハッピー7路線に近いかな。私のセクシーな所を見せられたらいいな。」
里沙ちゃんが言う。
表面上は飯田さん矢口さんは落ち着いて見える、でも内面は分からない。
- 146 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時34分28秒
- 「そうなんだ。ハッピー7みたいな歌なんだぁ。」
わたしは口ではそう言ったものの、どうしてもプッチの事を考えてしまう。プッチの場合は、保田さん後藤さんが卒業するということで、新しいメンバー2人を有無も言わせずに補充せざる得ないというのは事実だが、実際はどう思われているんだろうか。プッチは保田ム後藤ム吉澤(市井)の正三角形を構成していただけに、私が入ったことでバランスが崩れたとか、ダメになったとか言われないだろうか。
卒業記者会見から、頭の隅に沸き上がり、忙しいときには封印してきた想いがまた、心の中を占めてきた。別に、プッチについては避けられている話題という感じではないのだが、改まって保田さん後藤さんから話は、今まで無かった。
コンコン。
控え室の扉を叩く音がした。
「はいぃ。どうぞぉ。」
愛ちゃんが、ノックの音に応える。
すると、保田さんが扉から半身を出し、
「おお。小川、ここにいたか。ちょっと顔かしてもらっていいかな。」
と告げた。
- 147 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時38分46秒
- 5期メンの4人は思わず顔を見合わせて、無言でさぐり合いをする。
(今の話聞かれちゃった?)
里沙ちゃんが目で語りかける。
(大丈夫でないの。)
(扉はちゃんと閉まってたし。)
(うん。きっと別の用事だよ。)
他の3人の心配そうな目に見送られて、わたしは保田さんの後についていく。
保田さんはわたしを廊下の突き当たりにある喫煙コーナーのソファーまで連れて行くと
「なあ、いままでこき使われた分には足らないけど、今週末にオフが2日あるだろ。なんか先約が入ってる?もし、なかったら、そのオフに予約入れさせてくれない?」
と訊いた。
「いえ、ないです。」
本当は5期メンで渋谷辺りに遊びに行く約束をしていたのだが、保田さんがそんなことを言うのは、とても珍しいことなので嘘をついた。
- 148 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時40分14秒
- 「O.K.。泊まりがけで海に連れってやるよ。よっすぃーも来るから。あのさ、このことは誰にも言わないでくれ。特に5期メンとかにはな。」
保田さんは片目をつむって、なにか秘密めかしてウインクをした。
(海?なんで海に保田さんが連れて行ってくれるの?)
わたしは混乱したまま5期メンのみんながいる控え室に戻った。
心配そうな視線がわたしを見ていた。
「麻琴。なんだったの。」
愛ちゃんが口を切った。
「いやぁ、心配しないで。ちょっとした仕事の打ち合わせだったから。別に説教とかじゃないし。さっき、みんなと話していたことは全然関係なかったよ。」
「そう。それは良かったわ。」
まあ、仕事の打ち合わせとかでスタッフや先輩メンバーに呼び出される事は、ちょくちょくあることだから、それ以上は何も訊かれなかった。
- 149 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時41分58秒
- 約束の日になった。
7時10分前頃に保田さんから携帯が入る。
「あっ。小川?あのさ、小川んちの側に銀行あるだろ。分かる?」
「あああ、分かりますぅ。」
「そこの、今、そこの駐車場にいるから来てくんない。」
「はい。」
急いで、うちを出て駐車場に行くと、保田さんと吉澤さんが一台の車の脇に立っていた。
「おはようございます。」
「おう、来たか。荷物を後ろのトランクに入れろや。」
トランクを開けてもらって、わたしのバックを置いた。なぜか、トランクは段ボール箱やら雑多な荷物で一杯で、バックを置くためのスペースを作らなければいけないほどだった。
- 150 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時42分47秒
- 車に乗り込む。
運転席に保田さん。助手席に吉澤さん。後ろがわたしだ。後ろの座席半分を21インチテレビデオと書かれた箱が占有している。
「これ、なんですか?」
保田さんはシートベルトをはめながら、こちらをちらっと見て、
「後のお楽しみ。狭いけど我慢してくれよな。」
とだけ言った。
その言葉を聞いて、吉澤さんがギャハハと笑う。
「小川。たのしーみにしてなよ。ベェベー」
「はあ。」
なんか、不安になって来ちゃったな。ひょっとしたら、わたし何かだまされているのかな。
「保田さんが運転するんですか?」
不安を振り払うように言ってみる。
「そう。免許をとってからあまり長距離を運転したことがないけど、今回は初挑戦かな。」
「ええええ。」
別の不安が湧いてきた。
- 151 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時44分24秒
- 「嘘だよ。小川心配すんな。圭ちゃんは、実は免許取る前から実家の車を運転していたんだよねぇ。」
吉澤さんがフォローになっていないフォローをする。
車は順調に首都高、東関東自動車道、館山自動車道を経由して、一応は海に近付いていった。
「この辺は保田さんがうまれた所なんですよね。」
「そう。ちょくちょく帰っているから、懐かしいという感情はあんまりないけどね。去年は地元の夏祭りで太鼓を叩かしてもらったなぁ。今年は色々あって、駄目っぽいけど。」
前を向いたまま言う。
(卒業のことかな・・・。)
でも、わたしは口には出さない。
「海が見えてきましたね。」
いつの間にか車は高速道路を降りて、一般道を走っている。
東京湾か太平洋かは分からないけれども、青い海が窓の外にキラキラ光っている。すれ違う車もまれで、海岸線に沿って緩やかに道は続いていく。
- 152 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時45分57秒
- 「後ろのバイク、さっきからあおっているな。抜かさすか。」
ちらちらとバックミラーを見ていた保田さんは、方向指示器を左に出して路肩に車を止めた。
250ccのバイクがゆっくりとした弧を描きながら対向車線にわずかにはみだして、私たちの車を追い越していく。抜く瞬間に赤い皮のつなぎを着たライダーが、フルフェイスのメットのバイザーを上げて後ろ手を挙げてあいさつした。メットから髪がはみだしている。女の人だ。
(あれ、どこかで見たことある雰囲気の人だな。)
でも、思い出せない。
車はまた動きだし、海沿いの道路をゆっくりと走っていく。
青い道路標識が目に入ってくる。
「見てくださいよ。道路標識に保田って書いてますよ。保田さんと関係あるんですかぁ。」
「“ほた”って読むんだよ。」
「圭ちゃんは、お嬢様だもんね。保田家の。」
「言うなよ。そんなこと。」
運転席の保田さんがちょっと動揺してる。
「なんですか。なんですか。教えてくださいよう。」
わたしは前の座席の乗り出して言う。
- 153 名前:サンクチュアリ(補完板) 投稿日:2002年10月08日(火)18時48分11秒
- 「圭ちゃんのうちは、この辺の土地を結構もっているらしいだよね。」
「うちは、別に普通の家だよ。」
とはいったものの、保田さんのおうちは、やっぱり資産家みたいだ。
着いたよ。っていわれた所は、保田さんの実家が所有している別荘だったのだ。
「わぁー。いいところですね。」
保田さんの家の別荘は木造に淡いクリーム色のペンキに塗られた2階建てで、コロニアル形式というんだろうか、入り口の前にバルコニーがあって、アメリカの南部を思わせる家だ。
コンクリートに囲われた駐車スペースに既に軽の可愛いタイプの車が一台停まっていた。それから、さっき私たちを抜いた見覚えのあるバイクがある。
なんか混乱してきちゃった。朝から妙なことが連続してるなぁ。
「おう、もう来てるな。」
保田さんが言い。クラクションを大きく鳴らした。
その音で、家の中から
「圭ちゃーん。結構、早く着いたね。」
と聞き慣れた声がして、後藤さんが出てきた。
続いて、もう二人。
- 154 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月08日(火)18時50分30秒
- 私たちは車の外の出て、彼女たちを迎える。
「小川。この人は知っているよね。」
保田さんが、後藤さんの後ろにいる髪をちょっと短くした女の人を紹介する。
わたしはその人と真っ正面で向き合った。
「あのぅ。市井・・・紗耶香さんですよね。」
それから、見覚えのあるつなぎの皮のレーシングスーツを着たアヤカさんが家から二人に続いて出てくる。いつも、シックな装いをしているから、なかなか結び付かなかったが、よく考えてみれば、さっきのバイクのライダ後ろ姿はアヤカさんのものだ。
いくら鈍いわたしでも、これだけの顔ぶれの揃ったシチュエーションにはピンとくるものがある。
「プッチの穴へようこそぉ〜。」
吉澤さんがオーバーリアクションで言う。
(ぐはぁ。プッチOGのしごき合宿かぁ。だまされたよう。)
後悔先に立たずだ。
「ひょっとして、この計画知らなかったのはわたしだけですか〜」
「そういうことになるかな。小川を集中的に鍛えるぞっていう極秘プロジェクトXだからなぁ。」
吉澤さんがニヤニヤしてる。
- 155 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月08日(火)18時51分52秒
- 「よっすぃー!!小川だけじゃなくて、あんたもしごき直しだよ。最近、ぶくぶく太りやがって、シロクマみたいじゃん。」
保田さんが釘を刺して、吉澤さんが首をすくめた。
別荘には、20畳ほどの板張りのスタジオが併設されていた。保田さんの御先祖さまの人が絵を描くためのアトリエとして使っていたらしい。それにしては、保田さんの絵の才能は・・・。
やっと、車の後ろに積まれていたテレビデオの意味がわかった。
「じゃあ、小川とよっすぃー、ごっつぁんも協力して、スタジオにテレビを設置してくれ。」
と言われたからだ。ダンスレッスンに活用するのだろう。車に山と積まれた、その他の雑多な荷物も一緒に運んだ。改めて見てみると、食料やらビデオテープと思われるカシャカシャという音のする箱やら、合宿を思わせる荷物が多い。
部屋割りはわたしと吉澤さんアヤカさんの新プッチが一階の一室を与えられた。旧プッチの人達は、二階だ。
- 156 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月08日(火)18時53分41秒
- 二手に分かれて部屋に移動。
「麻琴ちゃん、よろしく〜。なんかモーニングのメンバーばっかりの中で、ちょっと心細いから。」
アヤカさんが、笑顔で声を掛けてきてくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
それにしても、アヤカさんは何着ても似合うんだな。
あさ美ちゃんがいたら、「完璧ですっ!!」って思わず言ちゃいそうだ。
突撃英会話ではアンナミラーズ風の衣装やチャイナドレス。ココナッツ。やセクシー8ではシックなドレス。そして、きょうは赤いレーシングスーツだ。大人の女の人のにおいがする。
ほんと憧れちゃうな。
ダンスのできる格好になれということで、とりあえずは与えられた部屋に荷物を置いて、Tシャツとスェットパンツに着替えてダンススタジオに集合した。
- 157 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月08日(火)18時54分41秒
- 保田さんを中心として、市井、保田、後藤の初代プッチモニの人達が並ぶ。それに向き合うようにわたしたち新プッチの3人が立つ。
「えっと、これから一泊二日のミニ合宿だけれども、プッチの魂を吉澤、小川、アヤカに注入していきたいと思うんで、みんな頑張って欲しいと思う。」
保田さんがあいさつする。後ろで、後藤さんと市井さんがにやにや笑って、
「圭ちゃん、意味不明」などと言っていたが、和やかな雰囲気もここまでだった。
「じゃあ、“ちょこっとLoveモからいこうか。紗耶香とごっつあん、いける?」
「もち」「うん」
CDラジカセのスイッチが入れられ、カラオケが流れる。
それにあわせて3人が手本を見せてくれた。PVやコンサートのビデオでは見たことがあるが、本物は初めてだ。
「はあぁー。すごいですねぇ。」
口を開けて感心してしまった。
「他人事みたいに、言うなよ。このレベルまでいってもらうぞ。じゃあ、最初は振りをあまり気にしないで、一回やってみるか。小川はわたしのパートをやれ。よっすぃーはそのままで。アヤカはごっつあんのポジションで。」
保田さんがてきぱきとパート割りをする。
- 158 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)15時59分51秒
- 「音楽開始するよ。」
その瞬間、保田さんが鬼になった。
腕を組んですごい目で見ている。
プッチの後藤さんや吉澤さん、そして4期メンを震え上がらせた保田睨みだ。
そういえば、24時間テレビで愛ちゃんと車椅子の人達がダンスレッスンしていた時も睨んでたな。
プッチ加入が決まって、プッチの持ち歌に関してのダンスレッスンは受けていた。でも、実際に3人でやってみると大違いだ。どうしても遅れてしまう。ダンスに気持ちが行くと、こんどは歌の方がおろそかになる。プッチのダンスレッスンを受け始めたのは同時のはずだけど、アヤカさんは吉澤さんのダンスや歌に完全についていっている。
(やっぱり、アヤカさんはすごいや。)
一年前に、娘。加入直後の本隊とは別に5期メンだけで歌とダンス特訓をやっていた頃を思い出してしまった。あの時は、あまりのレベルの違いにわたしは自信をなくして泣くしかなかった。
(あの頃とは、歌もダンスのスキルも格段に違うはずだよ。自分を信じてやろう。)
少しは自分の中に芽生えてきたプロ意識だけが支えだ。
- 159 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時08分02秒
- やっと、曲が終わった。
が、「小川。駄目。」
あっさり、いわれてしまった。
「アヤカは、最初にしてはまあまあだね。」
しばらく腕を組んで思案していたが、保田さんは紗耶香さんを呼び寄せた。
「紗耶香。ちょっと小川にダンスの個人レッスンしてくれない。アヤカはごっつあんについて、ダンスレッスンしてもらって。アヤカも細かい部分で半拍遅れる時あるから、そこをブラッシュアップしよう。よっすぃー。あんたはあたしと一緒におさらいだよ。全くどいつもこいつも太りやがって、体の切れがないじゃん。プロなら自己管理しろよ。」
保田さん、性格が変わっている・・・。
「小川。こっちおいで。」
紗耶香さんに呼ばれて部屋の隅に行く。
「まあさ、圭ちゃんは歌のことになると人が変わるから気にすんな。まずは、ダンスビデオを見て勉強だな。」
いつ撮ったのだろう。今より若い初代プッチの3人が“ちょこLoveモのダンスをどこかのスタジオで踊っているビデオだ。
「なつかしいねぇ。うちらも昔、プッチができた頃に合宿したんだよね。そのとき教材に使ったビデオだ。これを見て反省会したりしてね。」
ニコニコ笑いながら言う。
- 160 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時12分00秒
- (いい人だな。)
いや、娘。に基本的に仕事に関しては甘い人は存在しないのだ。
現実を思い知らされた。紗耶香さんの指導はきつかった。
この人はひょっとしたらSが入っているんじゃないだろうか。
マジで三田コーチの指導が天国に思える位だ。
「だめじゃん。」「さっき言ったろ。」「くそぼけぇ。」
などと罵倒されて、時には肉体的なスキンシップ(こづかれたり etc)も混じえつつ、小一時間指導が続いた。
(とほほ。足の爪がまた痛みだしたよぉ)
「じゃあ、もう一度3人で合わせてみようか。」
と保田さんに言われて集合する。
クーラーが一応入っているが、そんなものじゃ追いつかないほど暑い。
5人ともTシャツが汗でぐっしょりとなり、髪の毛が額に張り付いている。
- 161 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時38分11秒
- 音楽が始まった。
一時間前の自分とは別人の様に体が動く。我ながらビックリ。ぴたっぴたっと全ての動作が決まる。他の二人の動きを見ながら、自分のダンスをできる余裕すら生まれた。
(すごい。すごいよ。動けるよ。)
ダンスのすき間を盗んで、紗耶香さんの方を見ると満足そうに笑ってくれていた。
(いいよ。)って目で合図をくれる。
紗耶香さん。だてに厳しい訳じゃない。
「小川。やるじゃん。完璧だね。」
保田さんに、おほめの言葉をいただいて午前の練習は上がりとなった。
「お昼にしようぜ。ごっつあんと紗耶香が当番だっけ?」
交代でシャワーを浴びて、髪の毛から滴る水をバスタオルで乱暴に拭きながら保田さんが言った。
- 162 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時40分41秒
- 「本日のメインディッシュはインスタントカレーとキャベツ千切りサラダでございま〜す。」
紗耶香さんがお盆に皿を乗せてキッチンの方から登場した。
“ミーティングルーム”と勝手に名付けた8畳の海に面した畳の間のテーブルの上にカレーの皿が並ぶ。大盛りの千切りキャベツや切っただけのキュウリやトマトのこれ以上は手抜きできないだろうというサラダのボールも中央に置かれている。
開け放した窓から、海風が吹いてくる。セミがうるさいほど鳴いていた。
近くに海が光っている。快晴の夏空だ。
「暑ちぃ〜。暑いっすね。早く食いましょうよ。吉澤。腹がさっきからグーグーいってますよ。」
吉澤さんが Tシャツの首をバタバタさせながらテーブルの前にあぐらをかいて座り込んで、もうスプーンを握っている。
- 163 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時41分46秒
- 「いただきまーす。」
みんなで声を合わせていただきますをしてから食べ始めた。
体を動かした後には、インスタントのカレーとはいえお腹にしみるほど美味しい。誰もが額や鼻の頭に大粒の汗をかきなながら、ひとしきり無言でご飯をかき込むようにして食べていた。それほど、お腹が空くくらいの激しい練習だったのだ。
「ぐあー、腹一杯っす。もう動きたくないですよ。」
吉澤さんは夏の暑さでバテた上野動物園の白熊のように腹這いで伸びている。いや、黒いTシャツを着てるからツキノワグマか?
「だ〜め。よっすぃー。あんたがしっかりしないといけないだろ。あと20分休んだらやるよ。」
「圭ちゃん。鬼だ〜。」
「はいはい、なんとでも言ってくれ。」
保田さんは相手にせず、皿を台所に運んで洗い始めた。
- 164 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時43分06秒
- 午後のレッスンが始まる。
「うっしゃ。午後練は“ちょこLoveモを担当パートを変えてやるぞ。小川はわたしと“青春時代”のダンスの振りの予習。よっしぃーはごっつあんに付いてもらって、ごっつあんのパートを教えてもらえ。アヤカは悪いけどビデオでよっすぃーパートを覚えてくれない。わたしや紗耶香も、分かる範囲で教えるから。」
保田さんの指示が飛ぶ。
「うえぇ。パートをチェンジするんですか?」
吉澤さんが、慌てたように抗議した。
「よっすぃー。プッチ3はあんたがリーダーでセンターなんだよ。今までごっつあんがやってたパートがあんたに行くに決まってるじゃん。まだつんく♂さんからは、はっきりと指示はないけども、たぶん小川がわたしのパート。アヤカがよっすぃーパートを受け継ぐんじゃないかな。文句を言わずやるんだよ。」
「こわいこわい。おばちゃんはこわいな。」
「んなにを〜。おばちゃんじゃないっていってるだろう。この白熊女!」
- 165 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時45分17秒
- 「ははは 。よっすぃー言われてるね。うちらは部屋の隅行ってやろうよ。」
保田小川、吉澤後藤、アヤカ市井ペアに分かれて、練習開始。
紗耶香さんのスパルタ教育のおかげで、プッチモニのダンスの基本的な約束みたいなものが分かってきた。コツさえつかめれば、案外覚えやすい。保田さんにお手本を見せてもらって、自分で数回その動作をやってみると体に何となく入ってくる気がする。
パートチェンジした“ちょこLoveモの全体合わせ。“Baby 恋にKnock out”“青春時代1,2,3”の基礎練習。果てしなく練習は続く。板張りの床が汗で滑るようになり何度と無く練習を中断して雑巾掛けをする必要があったくらいだ。
Tシャツもぐしゃぐしゃになり、保田さんが事務所から大量にかっぱらってきた娘。のノベルティーTシャツにメンバーみんなが次々と着替えたために、部屋の隅にみんなが脱ぎ捨てたTシャツが山積みになった。しまいにはブラジャーも脱いでメンバー全員がノーブラ状態だ。こんな状態はファンにはとてもみせられないねって、誰も笑っていた。
- 166 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時46分06秒
- 「上がるか。もう5時だよ、いつの間にか。」
果てしなく続くかと思われた練習も保田さんの神の声で終わりとなった。
でも、自分の中では、今まで経験したことの無いほどの充実感で一杯だった。もう限界だと思っても、まだ疲労のピークまで行くと、その先に新しい体力が隠れているという感じだ。とことんまで、自分を追いつめないと見えてこない新らしい世界があることが分かった。
「小川とよっしぃーは悪いけど、スタジオを掃除して、洗濯物を洗濯機にいれてくれ。ごっつあんは紗耶香と協力して買い出しだな。晩飯は庭でバーベキューだぞ。楽しみに待て。一堂の者ども。」
「ふあーい。」
吉澤さんとわたしは壁に背中をもたれかけて、へたり込んだまま返事をした。
「後かたづけ手伝うよ。」
アヤカさんが声を掛けてきてくれたのをきっかけにして、わたしたちは立ち上がって動き始める。
- 167 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時48分32秒
- 「いや〜。大変でしたよぉ。ユニットの人達って、こんなハードなんすか?吉澤さん。」
部屋の隅にうずたかく積まれたTシャツを洗濯かごに放り込みながら訊いてみた。
「プッチが特殊なんだよ。圭ちゃんは手加減てものを知らないからな。いつも全力投球なんだよな。まあ、それが圭ちゃんのいいところでもあり、悪いところでもありって感じだけど。」
保田さんのいる台所方面を気にしながら呟く。
「ココナッツ。なんて、持ち歌も少ないし、仕事もあんまりないから楽なもんだよ〜。」
「アヤカさんはダンスも歌も完璧ですよね。うらやましいな。」
アヤカさんはいやいやという感じで、顔の前で手を左右に振って
「そんなことないよ。なんてか、いっぱい、いっぱいでみんなに迷惑掛けないように必死でやってるだけ。まこっちゃんの方こそ、覚えるのが速くてうらやましいよ。何回かやったら、すぐ覚えちゃうんだもの。」
- 168 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時50分37秒
- 洗濯機を動かして、飲み散らかしたミネラルウォーターのボトルをゴミ袋にまとめて、スタジオに掃除機をかけて後片づけは終わった。3人でやると、あっという間だ。“3人寄れば文殊の知恵”ちょっと違うかな。
「保田さん片づけ終わりました〜。」
台所に向かって叫ぶ。
「おう、じゃあ交代で汗流してくれ。手が空いたら、晩飯の用意のヘルプしてくれるとありがたいな。」
「はーい。」
3人で声を合わせて答えた。
- 169 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時51分30秒
- セミが遠くで鳴いて、夏の夕暮れ特有の体を包み込むような気怠い空気が辺りに広がっている。
「いい風吹いてきますね。」
遠くを見ながら吉澤さんがポツリと漏らした。
「ああ。」
ビールの缶を握った保田さんが応える。シャワーを浴びたばかりの髪が、まだ乾き切ってなくて濡れたままだ。やさしい目をして遠くを見ている。洗い髪ですっぴんの保田さんのそんな横顔を見て、わたしは妙な色気を感じてしまった。
みんなの前にはバーベキューセットが設置されて、肉がいい匂いを立ててもう焼けている。
「あのう、もう食べていいでしょうか〜。もう、おなかと背中がくっつきそうで、よだれが垂れているっす。」
わたしはわざと甘えるように言ってみた。この顔ぶれじゃ、どうみてもわたしは末っ子だし、こんなことも言えるくらい精神的に近くなった気がする。
「小川も食いしん坊キャラだな。この辺がもう焼けてるよ〜。」
紗耶香さんが気安く一串渡してくれた。
- 170 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時52分39秒
- 「んじゃあ。そのままで、聞いてくれ。今日一日ご苦労様でした。みんな頑張ったね。」
保田さんがみんなを満足げに見回して、ビールの缶を高くあげる。
「かんぱーい。」
「おつかれー。かんぱーい。」
「おつかれっす。」
「まじで、つかれたよ〜。」
それぞれ勝手なことを口にして乾杯の儀式は終了し食べ始める。それから海岸に降りて大花火大会だ。
「うしゃ〜。小川点火してこいや。」
保田さんの命令が下る。
「えええ。わたしですかぁ〜」
「下っ端は文句を言わずやる。」
- 171 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時53分46秒
- これと言われて、着火マンを渡された。わたしは、へっぴり腰になって海岸の砂浜に突き刺した打ち上げ花火の導火線に火を付けようとした。湿気たのか、なかなか火がつかない。何度もカチカチやってみる。いつしか、我を忘れていた。
「小川。あぶないよ。もう火がついてるんじゃないのぉ?」
後藤さんの声だろうか、気付くと導火線が半分くらい燃えている。
「うあわ。」
後ずさりして逃げる。砂浜に足を取られそうになる。
ひゅうーという鋭い音がして夕闇の空に花火が広がった。みんなの笑い声がする。わたしは砂浜に膝をついたまま振り返るようにして、その花火を見ていた。
「小川。だいぶびびってたな。」
保田さんの声。
「はあ。びっくりしました〜。」
- 172 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時54分30秒
- 打ち上げ花火。ロケット花火。手持ちの花火。線香花火。
みんな楽しそうに笑っていた。
後藤さんと市井さんが海に足首まで浸して鬼ごっこをしている。
吉澤さんはいっぺんに10本くらいの花火に火を付けて振り回しながら奇声をを発している。
アヤカさんはちょっと離れた所でしゃがみこんでひとりでしんみりと線香花火を見つめている。
保田さんはそんな風景を砂浜に腰をおろして缶ビールを飲みながらニコニコしていた。
辺りに火薬の硝煙のにおいが濃くなってきた。わたしはこのにおいを嗅ぐといつも悲しい気持ちになってしまう。それが花火の儚い一瞬の美しさへの名残の気持ちなのか、夏が終わっていく事への哀惜の気持ちなのかは分からないけど。
わたしはこの景色を、この瞬間を一生覚えていようと思った。
保田さん。市井さん。後藤さん。吉澤さん。アヤカさんそしてわたしが同じ空間にいるこの時間をできることなら網膜に焼き付けておきたいと願った。
- 173 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時56分13秒
- 合宿所に戻り“ミーティングルーム”で今日の“反省会”になった。最初は今日の練習のビデオを見返したりして出来てないところなんかを指摘したりと、穏やかに進んでいたのだが、そのうちに妙な風向きになってきた。
保田さんの苦労話が始まる。ここだけの話と念を押した上でオリメンのバックコーラス扱いでなかなか前に出られなかった加入からの1年ほどを語り、二期メンから一人だけ加入ということで臨んだタンポポ加入オーディションも矢口さんに、そのポジションを奪われた悔しさを語り始めた。
「圭ちゃん。ちょっと飲み過ぎと違うの?」
紗耶香さんが保田さんを少し牽制する。
「もう、いいじゃん。うちらは十分やったよ。入ったばかりのまだ頼りない13歳の後藤と、いまいち、娘。の中でもくすぶっていたうちらの3人で船出してここまで来たんじゃん。わたしが出た後も吉澤は良くやってくれたよ。ぶちゃけプッチはミリオンも出して、持ち歌全部がオリコン初登場一位なんだし。あのキャンディーズも出来なかったことだよ。大きな声じゃ言えないけどさ、すくなくともタンポポには“勝った”と思うよ。」
- 174 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時58分03秒
- 「いやさ。そういうことじゃなくて心構えをね、言ってるわけよ。よっすぃーとか小川は、ラブマで大ヒットを飛ばした後の、ある意味一期から三期が作り上げた“完成された”娘。に入ってきた訳じゃん。二人とも努力はしているよ、すごく頑張ってる。でも“悔しい思い”をしたことがないと思うわけよ。」
「今時、そんな根性論?は流行らないよ。新プッチの3人が、圭ちゃん抜きで3代目プッチを支えていかなきゃならないことを不安に思う気持ちは分かるけど、任せてみようよ。卒業したわたしが言うことじゃないかも知れないけど。後藤も最初は気を抜いて手抜きしている部分があるとわたしは思っていて、そう口に出して言ったこともあったけど、ずっとプッチを支えてきてくれたじゃん。」
わたし達は、2人の会話を息を潜めて聞いているだけだった。
保田さんは少し虚を突かれたようにしばらく黙り込んでから
「そうだよな。ごめん。何かちょっと感情的になっちゃったな。頭の中では割り切っているつもりなんだけど。ついな。」
と言い、残ったビールを飲み干してちょっとさびしそうに笑った。
- 175 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)17時59分08秒
- 反省会が打ち上げとなって、もう寝ようかという雰囲気になったときに保田さんがわたしを廊下の片隅に呼んで
「さっきは悪かった。小川が悔しい思いをしてないってわけじゃないよな。夏の24時間テレビで富士山登山をしたときも高山病でへろへろになりながらも、みんなと一緒に努力したいです。って泣いていたし、ハロモニでも自分のせいでシャッフルのみんなに迷惑をかけたって悔し泣きしてたもんな。小川の自分に対して厳しい姿勢はすごくいいよ。」
と言ってくれた。
そういえば富士登山の時に、わたしが高山病で苦しんでいる映像を見て保田さんが鼻を赤くして泣いてくれていたな。それから、東京のスタジオに無事に戻ったわたしの背中を“えらい。頑張った”って叩いてくれたことも思い出した。
布団の中に入ってもなかなか寝付かれなかった。わたし自身まだまだ頼りなくて、ダンスも歌も未完成で保田さんが中心になって育て上げたプッチを任せられないと不安に思う気持ちが十分すぎるほど分かっていたからだ。
- 176 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時00分38秒
- 保田さんのフォローは嬉しかったけど、本当に自分がプッチに入って良かったのだろうか。なんか色々な事を考えてしまって、ますます目が冴えてくる。同室の吉澤さんやアヤカさんを起こさないようにそっと抜け出してレッスンルームに向かった。
音を消してダンスビデオを再生してみる。それに合わせてダンスの練習。少しでも体を動かしていることで不安が紛れていくような気になれる。
ふと人の気配を感じて後ろを振り向くと吉澤さんとアヤカさんが部屋の入り口に立っていた。
「小川も眠れなかったのか?」
「はい・・・」
「自主練してるのか。一緒にやろうよ。やっぱ、不安だよな。これからプッチを支えて行かなきゃならないのは。渡された荷物が重ければ重いほど、その重さに押しつぶされていくって感じだな。」
ふだんの吉澤さんの様子に似合わず文学的な表現をした。
- 177 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時01分40秒
- 「わたしもね、本当は不安なんだ。プッチに入れるってことは今までにない大きなチャンスだけど、上手くやれるかとか、イメージが違うと言われないかとか、モーニング娘。さんの中に一人で入って浮かないかとか。」
歌もダンスもルックスもスタイルも完璧に近いアヤカさんも、そんな不安を抱えているんだ。わたしだけが、不安な訳じゃない。
みんな、変わっていく事への戸惑いを感じているんだ。
吉澤さんの指導で、わたしとアヤカさんは何度もフォーメーションの確認やダンスの確認をした。吉澤さんは時には自分がお手本を見せてくれたりして、いつもと違う厳しく真剣な顔をしている。保田さんの魂が乗り移ったみたいだ。
これからは、この3人でやらなければならない。
その事実が、わたしの胸に現実感をもって迫ってきた。
甘えられる先輩はもういない。
吉澤さんやアヤカさんが頼りにならないという意味ではなく、今まで13人のモーニング娘。の隅っこの方で踊っていたわたしも、プッチの1/3として責任を持つ時期が来たということだ。
歌。ダンス。トーク。
なんか、気が遠くなってきちゃうな。
- 178 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時04分54秒
- 「ちょっと、紗耶香、後藤起きてくれよ。」
「んあー。何ぃ?」
ごとーは完全に寝てたところを起こされたよ。
「一階のレッスンルームから音がするんだ。」
「下に寝てる連中が出してんじゃないの。」
いちーちゃんが布団から起きあがって、めんどくさそうに言う。
「いや。連中の部屋は、レッスンルームから最も離れている。万が一ってことがあるから、みんなで行ってみようよ。」
「まじ、泥棒とかだったらいやだな・・・」
いちーちゃんは本当に嫌そうだ。
「でも、しゃあないな。バットとかある?」
しぶしぶ、同意したみたいだ。
いちーちゃんと圭ちゃんは、2階の倉庫のあったゴルフクラブとバットの握って、わたしは何か有ったときに、すぐに110番できるように携帯を握って、一階のレッスンルームへ恐る恐る降りていった。ほんの短いはずの廊下の暗闇が今日はやけに長く感じる。
- 179 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時06分26秒
- レッスンルームには確かに明かりがついて、誰かの気配がする。入り口のガラス戸を通して人影がちらちらするのが見えた。
「圭ちゃん。まじやばくない?」
「ごとー、ちょっと見に行ってみろや。」
「やだよー。怖いよ。」
3人で抱き合うようにしてレッスンルームの中をのぞいてみた。
「歴史は繰り返すものだねぇ。」
感心したように圭ちゃんが囁く。
「ごっつあんと紗耶香も、ふたりでこっそりと練習してたもんな。あの時も。」
(そうだったね。)
あたしといちーちゃんは目を見合わせて笑った。
プッチの一回目の合宿の時の思い出話だ。
レッスンルームの人影の正体は、分かってみれば、新プッチの3人がうちらの気配すらも気付かない位に熱心に自主練をしていたものだった。
“青春時代”の時に練習にあまり身が入らなくて圭ちゃんをぶち切れさせた、あのよっすぃーが先輩面しているよぉ。
「心配して全くの取り越し苦労だったなぁ。」
練習している3人に気付かれないように足音をひそませて、2階の寝室に戻ってから圭ちゃんがしみじみと言う。
「もう、プッチは大丈夫だよ。さあ、寝よう。明かり消すよ。」
電気が消えた。
- 180 名前:作者。 投稿日:2002年10月09日(水)18時13分42秒
- >>195
から『矢口ちゃん・・・』再開します。
しかし、短編集に投稿した分量の約7割増しの分量はあるな。
長すぎる。
- 181 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時14分53秒
- 「小川おきろ!!朝だぞ。」
保田さんの声だ。
「もう少し寝かしてくださいよ〜。」
枕を抱えたままムニャムニャ言う。
「ダーメ。朝練の時間。それから小川は朝食当番だからな。」
布団の上から蹴飛ばされた。
しぶしぶ起き上がり、ジャージに着替える。昨日の練習のせいか、筋肉痛が残っていたけど顔を洗って、ついでに誰も見ていないと思って、洗面台の鏡に向かって「元気があれば何でもできる。1,2,3。ダー!!!」って気合いを入れたら、だいぶすっきりしてきた。でも、紗耶香さんにそれは目撃されていたらしく
「おう、小川。猪木師匠の真似か?小川は猪木に肉体改造されたんだってな。」
と後ろから笑われてしまった。
- 182 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時26分01秒
- 朝練は海岸をランニングした後に浜辺で柔軟体操と海に向かって発声練習。こんなことをしたのは五期メンオーディションの泊まり込みオーディション以来のことだ。
ここでも保田さんは老骨(wにむち打って張り切って先頭を走っていた
後藤さんや吉澤さんは、だらだら半分眠そうにやって、保田さんの鉄拳制裁を食らってはブツブツ聞こえないように文句を漏らしている。すると保田さんは
「がんばれ、あと少しで朝飯だぞ。」
と飴を用意するのも忘れない。
リーダーって大変なんだなとつくづく思った。下の方でふらふらしてたら見えない部分だろうな。
朝食当番は吉澤さんと組んで、とりあえず鮭の切り身を焼いた。二人とも炊事洗濯は、ずっと親任せ、おばあちゃん任せでろくすっぽ包丁すら握ったことがない。ということで、メニューはご飯、インスタント味噌汁、納豆、生卵、鮭、漬け物だ。調理所要時間10分くらい。それでも鮭が焦げたの、水の分量を間違えて、ご飯が半分お粥状態に近かっただの小さいトラブルはあったのだが。
「はーい。出来ましたよ。文句を言わず食べてくださいね〜。」
「まあ、小川に料理は最初から期待してないけどさぁ〜」
後藤さんひどい・・・。
- 183 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時38分33秒
- 2日目の午前の練習が始まった。これが最後の練習だ。
「ぴたクリいくよ。昨日と同じようにわたしと小川。よっしぃーと後藤。紗耶香とアヤカで組んで基本的なダンスの確認。それから全体合わせするよ。」
時間の都合上、ここからは昼過ぎには出発しなくてはならない。今日も雲一つないいい天気だ。暑くなりそうな予感がする。
やっぱり体が動く。一日でこんなに人間って変われるもんだろうか。
自分でも内心びっくりしながら保田さんの指示を聞いていた。
保田さんはなぜか、上機嫌で目を細めてうんうんと首を縦に振っている。
「小川。上手くなったじゃん。もう私から教えることはほとんどないよ。」
とまで言ってくれた。
「じゃあ、合わせよう。ごっつあん。吉澤の出来はどう?」
「あっ。いいよぅ。よっすぃーもいい感じだぁ。」
「アヤカもいけそう?」
「はい。いけます。」
- 184 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時40分22秒
- “ぴったりしたいXユmas!モのイントロが流れてくる。もう体がオートマティックに動く。ダンスロボットになった気分だ。面白いようにダンスのひとつひとつの動きが周りとシンクロして決まっていく。いつまでもいつまでも踊り続けていたかったが、やはり終わりは来た。
ラジカセから音が聞こえなくなり、CDがしゅうと音を立てて停止する。
「よっすぃーも小川もアヤカも一日でだいぶ成長したなぁ。合格だよ。じゃあ、掃除して荷物まとめて帰ろうか。」
保田さんは無理に明るく振る舞っているように感じた。わたしも、ちょっと感傷的な気分になってしまった。
たった2日しかいなかったダンスレッスン室だけど、なにか祭りの後の明るい空虚さが満ちているような気がした。
華やかだけど寂しいみたいな。
最後に、もう一度だけ全部を見渡してみる。
- 185 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時42分08秒
- 「忘れ物は無いね。鍵を閉めちゃうよ。」
みんな無言でうなずく。
「圭ちゃん。一言何か言ってよ。締めの言葉って奴をさぁ。」
後藤さんの言葉にせかされるように保田さんが前に出る。他の4人は何となく保田さんと向き合う。
保田さんはしばらく下を向いて言うことをまとめていた。そして正面を向くと決心したかのように
「二日間、ごくろうさまでした。季節が変わっても、また同じ季節が巡るように、花が咲き実がなり花が枯れても落ちた種がまた芽生えるようにプッチも変わっていきます。わたしと後藤はプッチも娘。も卒業しちゃうけど、新しくプッチには小川とアヤカが入って新プッチとなります。」
感情がこみ上げてきたのか、保田さんは上を少しだけ向いた。目が赤い。
「今までは保田後藤吉澤がいなくてはならないプッチだったけども、これからは吉澤小川アヤカがいなくては駄目なプッチにして下さい。」
段々泣き声になってくる。隣で後藤さんの鼻をすするような音がしている。わたしも泣きそうだ。
- 186 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時43分26秒
- 「でも、心配はしてないよ。この合宿で十分わかったから。新プッチの3人は、ちょっと前に出てきてくれないかな。」
いつの間にか保田さんの横には後藤さんと紗耶香さんが並んでいる。プッチOGと新プッチが対面している構図になっていた。
改めて、プッチのオリジナルメンバーの3人さんの顔を見てみると、みんな吹っ切れたような、清々しさを湛えていた。
保田さんが口を切る。
「よっすぃー。小川。アヤカ。プッチモニをお願いします。」
「たのむよ。」紗耶香さんの声。
「まかしたよ。」後藤さんの声。
3人とも深々と腰を折ってあいさつしていた。はっきり言ってこの展開は予想外だった。感情が一気にこみ上げてきた。頭の中が短かったけど充実していた二日間の色々な思い出でいっぱいになってきた。
- 187 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時44分14秒
- 受け入れてもらえたんだ、という思いが胸に満ちてくる。
まだまだな自分だけど、仮免はもらえたんだ。
わたしは涙でもう何も言えなかった。ただ、頭を下げて
「頑張ります。絶対に・・・。」
としか言えなかった。アヤカさんの嗚咽が聞こえる。ちらっと見えた吉澤さんも、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
(プッチモニのオリメンの人達は卒業しても、プッチ魂はこうして受け継がれていくんだ。いつか自分もプッチを卒業する日が来るだろうけど、3人からもらった、このバトンを私も次の子達に受け渡たそう。それまではプッチを支えていこう。)
こうして、わたしの第二回プッチモニ ミニ合宿は終わった。
- 188 名前:サンクチュアリ(補完版) 投稿日:2002年10月09日(水)18時47分50秒
- To be continued....
- 189 名前:穴埋めエッセイ 投稿日:2002年10月09日(水)18時51分58秒
- 先日、某所での中澤姐さんのソロコンサートに行ってきましたので、姐さん押しの作者がこの場を借りまして、感想をば述べたいかと。
小屋は600−700人ほどの定員の小振りな所でしたが満員状態。立ち見の人も数名いた位で、まずは喜ばしい。
作者は2階席でしたが姐さんまでは距離はかなり近く表情もちゃんと見える位置でした。実物の姐さんはやはり華奢で美人でしたな。東京の客はモーヲタが多くてTPOもわきまえずに騒ぐだけ騒いで、姐さんをぶち切れさせたみたいですけど、ここの客は盛り上がる歌は盛り上がり、トークではみんな着席して聞くという態度で、姐さんも
「ここの客はマナーええなぁ」
とおほめの言葉を頂いてました。
- 190 名前:穴埋めエッセイ 投稿日:2002年10月09日(水)18時53分58秒
演歌時代の歌はどうも封印したらしく、歌ったのは“カラスの女房”だけでした。そうするとかなり持ち歌が少なくなるわけで“東京美人”と“上海の風”を2回づつ歌ってました。モー娘。時代の歌では“グッドモーニング”と“赤い日記帳”を披露してましたな。意外だったのはミュージカル フットルースの歌“HERO”とロックボーカリストオーディションで歌った“SHA LA LAモがいい感じだったことです。姐さんは案外こういうアップテンポな歌が良いのかも知れません。正直言って、姐さんの歌の実力は飛び抜けてるって訳じゃないけど、人をリラックスさせるようなトゲのない声だなと思ったよ。
会場と会話のやり取りも交えたトークはすごく良かった。姐さんの幾つか会場を回ってきて場慣れしたのか、お客イジリも堂々としたもんでした。
- 191 名前:穴埋めエッセイ 投稿日:2002年10月09日(水)18時55分15秒
- 覚えているところでは
姐さんは今までグループでツアーを回っていたけど今回初めてソロになったって話から観客よりガンバレーの声援を受けて
「頑張ってるやん。これ以上頑張れ言うんかい・・・・でも頑張るけどなぁ。」
とか
途中で今まで着てきた衣装を紹介するコーナーがあって、ネタとして何故かセーラー服が混ぜてあったんだけど、観客はセーラー服着ろコールを“お約束”としてするのを受けて
「まあ、待てや。物には順番ってあるやろ。後でな。」
となだめてから、3回目の衣装替えの時にちゃんとセーラー服を持って裏手へ(W。この後のことは会場で見た人だけのお楽しみということで。眼福でしたけど。
やはり、狭い小屋でやることのメリットはアーチストと観客がいい感じに一体化できることにあると思いましたね。ごっちんはこういう形では(事務所の方針もあって)出来ないだろうけど、圭ちゃんは可能なら姐さんと組んででも小さめの小屋でトークと歌をミックスしたコンサートをやって欲しいな。
- 192 名前:穴埋めエッセイ 投稿日:2002年10月09日(水)18時57分25秒
- むしろ、そういうコンセプトが似合うと思う。今はちょっと男のヲタの率が高いけど、ある程度年を重ねた女の人も呼べるようなアーティストに姐さんも圭ちゃんもなれるような気がする。姐さんのアンコールで歌った、たぶん“東京美人”のカップリング曲はしっとりして大人の女性にも受け入れられる曲だったし。
姐さんの未来は、まあ明るいと感じましたね。時には姉御肌に、時には少女アイドルっぽく(しかし三十路で裕子コールを受けるアイドルって今までいなかったような・・・)色んな側面を見せてくれていたし。姐さんの後に続く圭ちゃんや、たぶん2,3年以内には卒業するであろう、なっち、かおりん、矢口辺りも道は見えてたんじゃないかな。
矢口も東京の姐さんのコンサートを見ての感想の中で、自分のソロの時にはDJを披露したいなんて具体的なビジョンを述べてたし、かおりんはダンスのないしっとり聞かすコンサートにするらしいし、中圭かおやぐのジョイントコンサートなんてあったら遠征しちゃうな。
- 193 名前:穴埋めエッセイ 投稿日:2002年10月09日(水)18時59分03秒
- 姐さんコンサートの唯一の難点と言えば、持ち歌の少なさに尽きますな。つんく♂も手を広げすぎていて個々のアーティストに曲が十分回ってないよな。そろそろ外部にも委託するべき時期に来てるだろ。UFA内部でやりたいなら森高千里とかより子。辺りを使えばいいじゃん。とにかく姐さんは持ち歌を増やして欲しい。これは他のソロ組にも言えることで、ごっちんも今のままじゃ到底ソロコンサートは開けないよな。しばらくはハロプロコンサートで1,2曲歌うって形にするのかな。圭ちゃんはもっと深刻で持ち歌といえば“Love計算違い”(Wくらいだろ。自分で作詞作曲しているのかな。つんく♂さんに曲をみてもらったことがあるとは言っていたけど。
えっと。他には衣装が良かったな。4回着替えて最初が赤いロングドレス。2回目が青いミニドレス。3回目がセーラー服。4回目がピンクレディーの衣装っぽい(って分からないかも知れないけど)羽根飾りの付いた銀ラメの衣装。5回目が清楚な感じの白いドレス。あれ、一回多いぞ。まあいいか。
- 194 名前:やぐごま丸。 投稿日:2002年10月10日(木)02時41分27秒
- 自分は行く予定などまるでなかった(やぐごま押しなので)
裕ちゃんお台場夜ライブ友達にラチされて行ったんですが・・・
一言でいうと圧倒されました(w
いい意味で驚きでした・・・裕ちゃんあんなに歌も歌えるなんて・・・ハイ、オイラはかなり失礼なヤツです。
なんといってもやっぱり裕ちゃんってムード創りが最高にウマイっす。
裕ちゃんは無意識(潜在能力?)なんでろうけど・・・最後の奇跡のコールは皆、まわり泣いてたし・・・
オイラも推しでもないのにゴウ泣き(w
そんなに涙腺ゆるいわけでもないんだけどな。
娘。は人数多いし裕ちゃんほどのトークはぜんぜん期待してないけど・・・せめてあの十分の一・・・
最初はラチられたんですが、チケ代4000はぜんぜん元のとれたライブでした。
実は今回AXも裕ちゃんライブには参戦です。(w
そして、なんと大スキなごまとフォークソング発売記念で裕ちゃんが全国5箇所回るっていうじゃないっすか。
かなりテンション高いレスになってしまいました。(w
マジ5箇所とも行きてー。(雄叫び!!
作者さん、矢口の作品かなり楽しみに待ってます。
プッチも最高でした。
- 195 名前:やぐごま丸。 投稿日:2002年10月10日(木)02時54分18秒
- それから、裕ちゃんの曲目は今までの裕子ヒストリーでああなったらしいっす。
裕ちゃんのオーディション曲「ららら」
娘。の「グット−モーニング」・「ウソつき、あんた」・「赤い日記帳」
後、裕ちゃんの持ち歌7曲・・・東京美人は二回(1回はスローバージョン)・・・上海の風はちなみに1回でした(作者さん
ファークソングのなかから2曲
ミュージカル「フットルース」から2曲・・・HEROにはマジでビックリモードでした・・・あんなスゲ−声がでるとはな。
なんでオイラが曲リスト知ってるかって?友達から叩き込まれたのと娘。掲示板で見て行ったからです(w
最後に東京美人のカップリングは「クラクション」です。
裕ちゃんの色気にノックアウトされたもののレスでした。
正直 後藤>矢口>吉澤>加護>高橋>飯田>中澤・・・おいらが・・・
行きたいイベント
ゆうごまライブ(フォークソング)>裕ちゃんライブ>ごまミュージカル>>娘。ライブ・・・
そういいつつ・・・ごまミュージカルいったら ごまミュージカル>裕ちゃんライブになってる?(w
作者さん裕ちゃん推しらしいので、、、今度から裕ちゃん小説もがんがん読むので・・・がんがん書いて下さい。(w
- 196 名前:作者。 投稿日:2002年10月10日(木)18時02分32秒
- >>194-195
姐さんコンサートに参戦した、読者さんから熱いお手紙をもらいました。
某所で「上海の風」の2回歌ったのは、たぶんトラブルだと思います。
本当は「うそつきあんた」が正しいセットリストなんだろうけど、
音響係が間違って「上海の風」を流してしまったために、進行を止めないために
歌ったかと思われます。
明らかに姐さんは、あれっという感じで戸惑っていたが2階からもわかりました。
でも、そこは姐さん、すばやく緊急事態に対応してました。
では「矢口ちゃん・・・」を次から再開します。
- 197 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月10日(木)18時06分10秒
- 「てへてへ、つじはぁ、いしやきびびんばとぉ、ちぢみにするのです。」
チヂミは最近日本でもぼちぼち見かけるようになった韓国版お好み焼きのことである。
「辻。まだ焼き肉が残っているんだから、あまり大食いすると後が続かないぞ。」
一応言っておく。
「だいじょうぶでしゅよ。やぐちしゃん。つじのいぶくろはおおきいのです。」
さっきの半泣きの顔はどこへ行ったのか、八重歯をむき出しにして笑顔満開状態だ。
「あのあの。わたしも冷麺と石焼きビビンバを両方頼みます。」
「いやあ紺野べつにいいけど。どっかの悪い先輩みたいに食べ過ぎて太るのだけは娘。的に勘弁な。」
「やぐちしゃん、ひどいのです。つじぃは、しゃいきん、これでもやせたのです。ふとったのはよっすぃーのほうです。」
- 198 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月10日(木)18時07分46秒
- わたしと圭ちゃんは石焼きビビンバだけにする。それにしても中学生メンバーの食欲はすげえなぁと感心する。
「なんでしゅか!!!これは。」
辻が大声で叫ぶ。
韓国名物(?)の前菜攻撃だ。韓国では料理を1品しか頼まなくても、普通に3品〜4品くらいのキムチ、サラダ、汁物などが前菜としてタダで最初に出てくる。信じられないくらいのお得感満載だ。
「しゅごいのです。りょうりがきていないのに、もう、てーぶるがいっぱいなのです。まずは、きむちをたべるのです。あれれ、おはしが、きんぞくしぇいなのです。めずらしいのです。」
辻はいちいち、反応してくれるなぁ。何か連れてきた甲斐があった感じだ。
圭ちゃんは、お約束どおりビールを頼んで、もう飲み始めている。オイラも、流石に韓国では誰も見てないだろうということで、一口もらう。
- 199 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月10日(木)18時14分57秒
- 「かんぱーい。お疲れさんです。」
圭ちゃんの音頭で、中学生コンビはウーロン茶、うちらはビールで乾杯する。
ここまで長かった。ほんとに疲れたよ。旅はまだ始まったばかりだというのに。
「ぷはぁー。ビールうめぇ。この本場のキムチも辛くて適当にすっぱくて後をひくなぁ。」
ばくばくキムチを連続して口に放り込みながら圭ちゃんが感心してる。
「やだぁ。圭ちゃん、おやじ臭いよ」
オイラはケラケラ笑う。紺野も辻も楽しそうだ。
「来たよ。石焼きビビンバ。」
じゅうじゅうと音をさせながら、石の釜に入った石焼きビビンバが4人の前に置かれた。いい匂いがする。
「石焼きビビンバ博士の矢口がこれから石焼きビビンバを食べる作法について説明します。皆さん聞いて下さい。」
これでもオイラは、事あるたびに石焼きビビンバ好きをテレビやラジオなどのマスコミで公言してきた自称石焼きビビンバ博士だ。
食べ方にも一家言ある。
- 200 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月10日(木)18時18分35秒
- 「やぐちしゃん。のんははやくたべたいのです。」
辻はそんなオイラのもったいぶったセリフにじれて、足をばたばたさせる。それを目で制して、
「まあ、慌てるなよ。生卵が乗っているだろ。これをスプーンで崩して、ゼンマイとかモヤシとかの、全体の色々な具と良くかき混ぜるんだ。混ぜれば混ぜるほどうまみが増すぞ。ちょっと粘りが足らないなと思ったら、さっきスープが来たろ。こいつを入れてやる。コチュジャン(韓国風辛みそ)を足すとまた違う味が楽しめるぞ。」
「はーい。わかったのです。」
がしがしと音がしそうなほど混ぜて、辻はスプーンに山盛りのビビンバを乗せて頬張る。
「はぐはぐ。おいちいのです。はふはふ。あつくて、からくておいちいのです。」
おいおいこぼしてるぞ。
そんなに慌てなくても石焼きビビンバはにげないぞ。
辻。良かったな。おいしいか。
- 201 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月10日(木)18時21分32秒
- 紺野の注文した冷麺も来た。店のお姉さんがはさみで、麺を食べやすいサイズにちょきちょき切ってくれる。
「あのあの。冷麺も美味しいです。そば粉?が入っているのかな。素朴な感じだけど冷たくて辛くて。この、上にのった白菜キムチもいいですね。これは梨?梨が乗ってますよぉ。珍しいですよね。」
紺野も満足げだ。
「のんにも、れいめんをひとくちくだしゃい。ちぢみを、あさみちゃんにはあげるのです。」
辻が紺野の食べている冷麺の箸を伸ばしてもらっている。
うんうん。仲良きことは美しきかな。だよ。
オイラの海鮮石焼きビビンバもおいしいよ。イカやらタコやら入っていて、隠し味のごま油が香ばしい。韓国料理はなんか食べるだけで健康になりそうだ。
「底にこびりついた、おこげも忘れずに食えよ。ここが一番美味いんだ。」
最後の最後まで楽しんで、店を後にした。
- 202 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月10日(木)18時23分08秒
- 「いやぁ。うまかったですなぁ。焼き肉の前に、ちょっと腹ごなしをしないと、お腹が減らないな。」
圭ちゃんがお腹をさすりながら言う。
「ソウルタワーというとこが、明洞の近くにあるらしいぞ。ソウル市内が一望だって。」
「いいよ。行こう。」
だいぶ度胸もついてきたので、タクシーを拾うことにした。“ソウルタワー”と言ったらなんとか通じたらしく、タクシーを発進させた。10分も走っただろうか、明洞の裏山と言ってもいいくらいの山の中腹まで来ると、ここで降りろという仕草をタクシーの運転手はした。いくつか観光客向けの店が並ぶ一角だ。
「ここ?タワーがあるって感じじゃないけど。」
上を見ると、ロープウェーが道路をまたいで山の上に登っていく。
「これに乗れってことかな。みんな行こうぜ。」
ロープウェーは急角度で山を登っていき、結構スリルがあった。
「うああい。そうるのまちがまるみえなのです。」
辻は後ろの窓にかぶりついたまま動かない。
- 203 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月16日(水)17時22分41秒
- ロープウェーで登り切った山のてっぺんにそびえているソウルタワーは、言ちゃあ何だが普通のタワーだった。それでも最上階の展望室まで登る。煙と何とかは高いところへ登りたがるというが、オイラ達もその例に漏れない。展望室は360度ガラス張りで明るい光が射し込んでいる。売店や軽食コーナーもあって思ったより広い。
しかし、ここでまたオイラのへタレ根性が出てきた。
「ねえ、圭ちゃん。ここの床は何か傾いてないか?それにグラグラ揺れているような気がするんだけど。」
「えー。そんな訳ないじゃん。気のせいだよ。矢口。ひょっとして高所恐怖症?」
圭ちゃんはちょっとあきれちゃったみたいだ。半笑いを浮かべてる。
辻が面白がって、その場で跳ね始めた。
「やぐちしゃん。つじがはねると、たわーがゆれるのです。」
オイラには本当に揺れてるみたいに感じるよ。
「やめろ辻。万が一タワーが折れたら、国際問題だ。」
マジで叫ぶ。
オイラはなるべく、窓の方には寄らずにタワー中心の柱の側にいるようにした。やっぱり、オイラは高所恐怖症の気があるのか?
- 204 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月16日(水)17時25分41秒
- 辻や紺野は小銭をいれて数分間だけ覗ける望遠鏡や備え付けの地図を使って、あそこが大統領の住んでる場所だとか、なんとか大橋はあっちだとか楽しそうに走り回っていたがオイラは何かそういう気になれずに、あまり窓には近寄らずに一カ所にぼんやりと立ち止まっていた。このタワーを含む一帯は米軍の基地があるせいか都市開発の波が及ばず、緑が色濃く残っているみたいだ。
なんか、ちょっとホッとする。
一通り見て、じゃあ降りようかという話になった。
やっと、このタワーから出られる。
エレベーターで下に向かいながら安堵した矢先に辻が
「つぎはおばけやしきにいくのです。」
と爆弾発言した。
「おばけ屋敷?そんな物どこにあるんだよ。オイラは行かないぞ。」
「タワーの入場券にセットで付いてきてただろ。タワーの地下にあるらしいよ。まあ、せっかくセットになってるから見てみようぜ。」
圭ちゃんがフォローする。手元の入場券を見ると確かに、“Fairy Landモと書いてある。妖精の国とは名前はいいが、入り口の所に立ってみると、もろに安っぽい感じのするお化け屋敷だ。一昔前の遊園地とかにありそうな感じ。
- 205 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月16日(水)18時19分11秒
- 「紺野も入るのか?」
振り向いて紺野にきいてみた。
「あのあの。わたし結構、お化け屋敷とかスリルのある物が好きで、札幌にいいた時も、夏のなるとよく、近所のスーパーとかに臨時で出来るお化け屋敷に行ってたんです。だから入ります。」
もじもじしながらも、紺野はキッパリと言い切った。
「そうか・・・。」
五期メンの子まで入るなら、ここはもう覚悟を決めねばならないだろう。
予想通りの実にチープな作りのお化け屋敷だったのだが、オイラは絶叫しまくりだった。暗闇に響く変な効果音。グロテスクな粗い作りの人形。闇の中に光る毒々しい蛍光塗料。わざと歪んだ作りにしてあって平衡感覚を狂わせる通路。ときおり頬をなでる空調の風すらも怖い。
マジ、弱いんだよな。こういうの。
- 206 名前:矢口ちゃん、お隣の国から焼き肉デビューだってさ!! 投稿日:2002年10月16日(水)18時21分54秒
- 「おいおい。みんな先にさっさと行かないでくれよ。うわぁ、何これマッドサイエンテストの歪んだ欲望って。きもいな。フランケンシュタインか、これ?」
オイラはへっぴり腰で進んでいきます。
これじゃあ先輩としての権威は丸つぶれだな。
「辻ぃ。圭ちゃん。紺野ぉ。待ってくれよ。置いてくなよ。」
前の三人は、時々笑い声も交えて「しょぼ!!」とか「なにこれ。」と楽しんでいる様子だったが、オイラは怖い、怖いと思うと余計に目が引きつけられて、それがまた悪循環という最悪パターンに陥っていた。
(やっと出口の明かりが見えたよ。)
出口で、他の3人と合流する。
「たいしたことなかったのです。」
辻は不満そうに言うが、オイラにはかなり大したことあったぞ。
大声を出して(?)、適度な運動をしたということで本日のメインイベント焼き肉へと突入する事となった。
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