インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

サヤカフリークス

1 名前:H21 投稿日:2002年07月15日(月)19時35分02秒

これは、市井ちゃんと私の、愛の記録。
誰にも文句なんて言わせない。


(自殺した後藤真希の部屋から発見された日記より)
2 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時36分02秒



あの、始まりの日ことは良く覚えてる。血を滴らせたみたいな赤い夕暮れの空。
霧みたいな冷たい雨が振ってた。

「真希ちゃんですか?」

夕方にかかってきた電話の相手は、外科医なったばかりの男からだった。

(そういえば、前に、この男に電話番号教えたっけ)

−−−−−−−−
3 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時36分55秒
ミュージックスの収録の日。市井ちゃんがゲストに来る、って分かった時から
ずっと、私はこの日を心待ちにしていたような気がする。だから、当日は、会
う人会う人みんなから大丈夫? って聞かれてしまうくらいハイテンションだ
った。

だから、余計、ショックは大きかった。

リハーサルで、市井ちゃんは私を見ようともしなかった。私は何度も市井ちゃ
んの方を身を乗り出して覗き込んだんだけど、明白に無視された。

本番、私の心は凍り付いていた。
人形のように表情一つ変えず、番組を進行させた。
4 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時37分46秒

見学に来てた、別の番組で待機してた若い医者と名乗る男が話しかけてきたの
は、その収録が終わって休憩に入った時だった。男は、ずっとファンでしたと
かなんとかしゃべってた。背が高くて、そこそこ格好良かった。市井ちゃんが
こっちを見てた。私と目が合うと、視線をそらした。

だから、私は男に携帯の番号を教えた。
市井ちゃんも、きっと気づいたはずだ。

でも、市井ちゃんは私に何も言わなかった。スタッフの人に頭をさげて、スタ
ジオを出ていった。その後も、私だけじゃなくて、モーニング娘。のメンバー
にも何一つ連絡もなかった。
5 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時38分21秒

昔、半年の間だけだけど、確かに、私の人生と市井ちゃんの人生はひとつに重
なってた。

(なーんだ)

ずっとずっと前に、本当は終わってしまってたんだ。私が気がつかなかっただ
けで。

だから、私はあんなことをしたんだろう。
どんないびつな形でも構わなかったから、もう一度、人生を重ねたかったんだ。

−−−−−−−−−
6 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時39分10秒

「今、○○病院の当直やってるんだけど」
「あんた、大学病院だ、って言ってなかった?」
「ああ、当直はバイト。救急病院でさ、当直医のヘルプに来てるんだけど、今
さ、すごい患者が運び込まれて来たよ」

男の声は興奮していた。どこか、自慢めいた響きがあった。
でも、私はそういうものには興味がなかった。きっと、芸能人とか政治家とか
なんだろう。彼にとっては極秘スクープを教えてくれてるつもりなんだろうけ
ど、

「ほら、元モーニング娘。の市井。この前会った収録の時にもいた子だよ」

ふっ、と体重が無くなったような感覚に襲われた。市井ちゃんが、救急病院に
運ばれた?
7 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時40分04秒

「今からそこ行く」
「あ、別に重体とかじゃないんだ。接触事故で、頭を軽く打ったようだけど、
出血とかはないみたい。精密検査は明日以降になるけど、多分、大丈夫だから」
「いいからッ! 今からそこ行くから案内してよ」
「はい」

私はマネージャーに体調不良を訴えて、今日の仕事をキャンセルしてもらった。
タクシーを呼んで、携帯を運転手に渡した。その医者にもう一度電話をして、
住所を告げてもらった。

−−−−−−−−−
8 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時40分43秒

市井ちゃんは眠っていた。
ううん。薬で、眠らされてた。

私についてきた医者の男が、後ろで事故の状況とか市井ちゃんの容態をいろい
ろとしゃべっていたけど聞こえなかった。市井ちゃんの、白い寝顔に視線が吸
い付いて離せなかった。

ベッドのそばに歩み寄って、頬に触れる。
ぴりっ、と電気が走った。
決心したのは、その瞬間だろう。

私は振り返り、その医者の男を見た。
彼は、私の大ファンで、ずっとずっと応援してくれてたみたい。

「ねえ」

私の声には、どこか媚びめいた響きがあった。自分にこんな声が出せるなんて、
自分で驚いた。
9 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時41分16秒

「市井ちゃんは、すごい重傷なんだよね?」
「え?」

男は虚をつかれたように、いぶかしげな顔をした。私は下唇を舐めた。

「このままだと命のキケンもあるんだよね。だから、あなたは、市井ちゃんの
命を救うために、必要な手術をしたの」

どうすれば、彼は、私の言うことを聞いてくれるだろう。抱かせてあげれば、
罪に溺れてくれるだろうか?

「市井ちゃんの――」

私は、市井ちゃんにかかっていたシーツをはいだ。白いパジャマを着せられて
いた。肩に手を置き「ここ」と言って彼に示した。そして、太ももの上、足の
付け根を指さして「ここ」と言った。
10 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時42分06秒

「両腕と両足を切って」

市井ちゃんを、私だけのものにする。
市井ちゃんを、私だけのものにする。

私は、はおっていたカーディガンを脱いだ。彼が望めば、すべてを差し出して
も良かった。
でも、その必要はないみたいだった。

彼は無言で部屋を出ていった。出来ない、って言われたら、笑って冗談にする
つもりだった。
そして戻ってきた時、彼は点滴のセットを用意していた。

「もうすぐ、彼女は目を覚ます。だけど、この麻酔薬を投与すれば、朝までこ
のままだ」

お医者さんらしい、てきぱきとした手際で市井ちゃんに点滴を打ち、準備して
くる、と告げてもう一度部屋を出た。

部屋には、私と市井ちゃん二人っきりになった。

11 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時42分36秒
「……後藤?」

点滴の液体が半分くらい無くなったところで、市井ちゃんの声が聞こえた。顔
をこちらに向けて、ぼーっ、とした表情で私を見ていた。

私は、にっこりと市井ちゃんに笑いかけた。
市井ちゃんも、微笑んだ。そして、目を閉じて、すう、と寝息を立て始めた。

−−−−−−−−
12 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時43分09秒

どう言い含めたのか分からないけど、何人かの看護婦さんと一緒に、手術は始
まった。
私も消毒されたお医者さんみたいな服を着て、手術室のすみっこに居させても
らった。

外科医の彼と、何度か確認なのか説得なのか懇願なのか、とにかくなんか話を
したような気もするけど、もう覚えてない。直前の記憶は、うすもやがかかっ
たみたいに、おぼろげにしか思い出せない。

唯一、覚えているのは――
13 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時44分41秒

バラバラに解体されていく、

市井ちゃんの手と足の断面が、

はっ、とするくらい綺麗だったこと。
14 名前: 投稿日:2002年07月15日(月)19時45分30秒


(つづく)
15 名前:H21 投稿日:2002年07月15日(月)19時46分15秒

ここでは初めて書かせて頂きます。H21です。余所ではヘルモニ21と名乗
っています。こういう話がここで許されるのかどうかは分かりません。もしダ
メなら、撤退します。
16 名前:H21 投稿日:2002年07月15日(月)19時47分27秒

私の中のテーマは「最上級の恋愛」です。>>1の、後藤のモノローグが全てです。
ですが、何分にも悪趣味ですので読まれる大多数の人は嫌悪を感じられるかも
知れません。

許される限りは、続けていきたいと思っておりますので、今後とも宜しくお願
い致します。
17 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月15日(月)23時10分00秒
あかん。




こーゆー話がツボだ!!!!!
物凄い勢いで続行希望。
18 名前:皐月 投稿日:2002年07月16日(火)16時26分16秒
いいんじゃない?
19 名前:クロ 投稿日:2002年07月16日(火)17時47分05秒
ヘルモニ21さんでしたか。
痛いッつーか、きついですね。
でも、興味津々でス!
20 名前: 投稿日:2002年07月16日(火)18時50分43秒
朝になった。
私は市井ちゃんが目覚めるまで、そばにいてあげよう、って思った。

病院の一番の階に、一般の人は入ることの出来ない特別室がある。市井ちゃん
は、そこに運ばれることになった。

「これから、大変だ。なにしろ、僕の一存でやっちゃったからね。まずは、ど
うやって親父を納得させるかだ」

目の下にクマを作って、どこか恩着せがましく彼は言った。後から知ったんだ
けど、彼は、ここの一人息子らしい。だから――とも言えないけど――ここま
で好き勝手が出来るんだろう。

だけど私が上目遣いに、分かってるありがと、と言うと、途端に目尻をさげた。

「ついでにさ、市井ちゃんがここにいること自体、外には秘密にしてて欲しい
んだけど。昨日の晩、市井ちゃんはこの病院には来なかったの。いい?」

手を握って、そう言ってあげると、男はぶんぶんと首を上下に振った。そこへ、
キャスターに乗せられた市井ちゃんが運び込まれてきた。
21 名前: 投稿日:2002年07月16日(火)18時55分31秒

看護婦さんたちが慌ただしくいろんな機械をセットしていく。その真ん中に、
ちょこんと、市井ちゃんが寝かせられていた。身体を包帯でグルグル巻きに
された市井ちゃんは、まるで赤ちゃんみたいにちっちゃくて可愛かった。抱
きしめてあげたくなったけど、今は我慢。

彼の話だと、傷口がふさがるまでは、定期的に痛み止めの麻酔薬とか抗生物質
とかを入れ続けないといけないみたいだった。

「意識が戻らない訳じゃないけど、ちゃんと会話が成立するのはまだ先だな」

携帯の電源は切ってるんだけど、そろそろマネージャーさんが騒ぎ出す頃だ。
行き先とか告げないで飛び出してきちゃったから。

一度連絡を取りに、部屋から出ようとして、

(……ここ、どこですか?)

市井ちゃんの声に足を止めた。
薄目を開けて、市井ちゃんは口を動かしていた。
22 名前: 投稿日:2002年07月16日(火)18時56分37秒

「市井ちゃん、起きたの?」

私の言葉に、看護婦さんと彼は、え? と私を見、そして市井ちゃんを見た。
みんな、市井ちゃんの声が聞こえなかったみたい。

「ぼんやりとだけど、意識が戻ったみたいだね。何か話してあげる?」

朗らかに話す彼の口振りは、どこかこの状況を楽しんでるみたいに感じた。

私は、市井ちゃんのそばに立った。
そして、髪を撫でてあげた。

(後藤?)

弱々しい、市井ちゃんの声。

(……ここ、どこ? 私、どうなっちゃったの?)

「私がお願いしたの」

はっ、と隣りにいた看護婦さんが息を吸い込む音が聞こえた。
23 名前: 投稿日:2002年07月16日(火)18時57分19秒

(……?)

「もう、市井ちゃんは、自分でご飯を食べることもうんちをすることも出来な
くなっちゃったんだ。でも大丈夫。私が、ずっと面倒みてあげるから。私が、
一生、そばにいてあげるから」

(……なに? 良く分かんないよ)

市井ちゃんは、いぶかしげな表情を作ろうとしているのか、眉を少しだけ歪め
た。

「今は、眠った方がいいよ。大丈夫。全部、後藤が良くしてあげるからね」

(お休み、市井ちゃん)と告げると、素直に目を閉じた。後藤の言うことを
ちゃんと聞いてくれる! まだ薬で頭がぼーっとしてるからかも知れないけ
ど、嬉しかった。

24 名前: 投稿日:2002年07月16日(火)18時58分13秒

市井ちゃんが眠ったのを確認して、私は病院を出た。タクシーを呼んで、今日
の仕事先に向かう。途中、携帯の電源を入れると、途端に着信が鳴り出した。

「真希ちゃん、あんたドコ言ってたの!」

マネージャさんの、どちらかというと怒鳴り声が携帯から響いた。

「別に遅刻してる訳でもないのに、どうしてそんなに怒ってるんですか? 今、
そっちに向かってます」

ムッ、として無愛想に返事をすると、

「違うの。あなた、ニュース見てないの? 市井紗耶香さんが行方不明になっ
た、って大騒ぎになってるのよ」

マネージャさんの話だと、こうだ。昨日の夕方、コンビニに行ってくる、と言
ってスタジオを出た市井ちゃんが、そのまま帰らなくなったと。
25 名前: 投稿日:2002年07月16日(火)18時58分58秒
捜索願を出して、警察で付近の捜索を行ったところ、市井ちゃんの壊れた携帯
が見つかったのだそうだ。あと、目撃者もいた。「女の人が車にはねられた。
運転手は、病院に連れていく、と周りには説明して車に乗せて走り去った」っ
て証言が得られたそうだ。

(ふーん)

今、市井ちゃんの居場所を知ってるのは、一部の病院の人と、私だけなんだ。
それはどこか、優越感がくすぐられる感じだった。

「ね、大丈夫? ちゃんとここまで来れる?」

黙ったままの私を、ショックを受けたのだと勘違いしたらしいマネージャさん
は、心配そうな声で言った。
26 名前: 投稿日:2002年07月16日(火)18時59分35秒

「このまま、今日の仕事キャンセルする、って言ったらどうします?」

「……心配なのは分かるけど、今は、真希ちゃんがどうこう出来る問題じゃな
いから。とにかく、私たちと合流しましょう」

「分かりました」

ほっ、とした雰囲気が、携帯越しに伝わってきた。私、ってそんなに無茶する
ように思われてるのかな? 仕事なんだから、ちゃんとするよ?

お昼前に、記者会見が行われたみたいだったけど、私たちは番組の収録で見れ
なかった。楽屋でも、みんな、市井ちゃんのことに関しては一言もしゃべらな
かった。
27 名前:H21 投稿日:2002年07月16日(火)19時01分11秒


(つづく)

28 名前:H21 投稿日:2002年07月16日(火)19時17分56秒

今日の内容はイマイチ。次回くらいから盛り上がる予定。
29 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時22分50秒
仕事の帰りに、ステキなボストンバッグを見つけた。どこがステキなのかと言
うと、邪悪ピースマークが入ってるのと、市井ちゃんがすっぽり入りそうなと
ころ。

今はまだ、市井ちゃんは入院してるけど、容態が安定して、お世話の仕方を習
ったら、これに市井ちゃんを入れて帰ろう。あ、そうだ。晴れた日には、お弁
当を作って、市井ちゃんとハイキングに行こう。きっと楽しいぞ!

私はウキウキ気分で、病院にお見舞いに向かった。

−−−−−−−−−
30 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時23分37秒

私の顔を見ると、警備の人がドアの鍵を開けてくれた。
後藤真希が病院にひんぱんに通っている、って噂が立つとまずいらしくて、言
われたとおり、裏口にタクシーを回してもらって、そこからこっそり出入りし
ていた。政治家の人とかも、ここを使うみたい。

「その手、どうかされたんですか?」

最上階へ昇っていく特別なエレベータの中で、私を案内してくれてる看護婦さ
んが言った。
「え、なんでもないです」
私の指には、絆創膏がたくさん貼ってあったから。

「よろしければ、消毒しましょうか?」
「いえ、ホントに大丈夫ですから。ありがとうございます」

そんなやりとりをしつつ、市井ちゃんの病室へと向かった。

31 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時24分15秒

「市井ちゃーん、今日もお見舞いに来たよー。元気だった?」
「……」

術後、特に発熱することもなく、市井ちゃんは順調に回復していた。痛みも少
なくなってきてて、だから麻酔薬の量も減らしつつあったので、意識は比較的
しっかりしていた。

ただ、当時はひどかった。痛み止めというよりも、両手両足を無くしたショッ
クからか、鎮静のために薬を使うことの方が多かった。最初の二日間は、ずっ
と錯乱状態だった。

「ねえ、後藤?」
「リンゴ買ってきたよ」

私は、スーパーで厳選したおっきなリンゴを取り出した。市井ちゃんと一緒に
食べるんだ。

「……いらない」
「お腹いっぱいなの?」
「あんまりお腹すかないんだ」
「折角買ってきたのに」
32 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時24分51秒

私はふくれっ面をした。
市井ちゃんは、なんだかもじもじしていた。

「ん? 市井ちゃん、どうしたの?」
「看護婦さん、呼んで欲しいんだけど」

ここの病室は、看護婦さんが常に側にいてくれるようになっている。だけど、
私がいる間だけは、席を外して二人っきりにしてもらってるんだ。

「どうしたの? 具合悪いの?」
「トイレだよ」

ああ、なるほど。

「おしっこの方? うんちの方?」
「おしっこ。ってなんで後藤に報告しないといけないのよ!」

ちょっと怒ったように市井ちゃんは言った。せっぱ詰まってるのかな?
33 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時25分23秒

私は看護婦さんを呼んだ。いちーちゃん、おしっこしたいって。

「……」
「なに? 市井ちゃん」
「あのさー、外に出てて欲しいんだけど」

「だってさ、市井ちゃんの面倒みる、って後藤は決めたんだから、これからは
そういうお世話の仕方も勉強しないと」
「なんでだよ!」

私は、市井ちゃんの抗議は無視して、看護婦さんに今回は私がしますから教え
てください、とお願いした。
私はベッドのシーツをめくって、市井ちゃんを抱き起こした。びっくりするく
らい軽かった。市井ちゃんの浴衣のような服のヒモに手をかけた。

「やだ、やだよ。後藤、見ないで」
34 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時25分58秒

ちょうちょ結びをほどく。あわせを開いて、市井ちゃんを取り出した。傷口の
部分には、包帯が巻かれてあった。下着はつけてなかった。下の部分は手術の
時に剃ったのか、柔らかそうな短い毛が産毛のようになっていた。胴体だけの
市井ちゃんは、うっとりするくらい綺麗だった。

「……」

市井ちゃんは、私から顔をそらしてた。身体を見られるのが恥ずかしいのかな?
 あ、そうだ。おしっこだよね。
どこか怯えたような仕草で、看護婦さんが私にし瓶の使い方を教えてくれた。
私は市井ちゃんの背なかに手を回して、赤ちゃんみたいに抱っこした。ちょっ
と持ち上げて、し瓶の口をあてた。
35 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時26分34秒

「いいよ。市井ちゃん。出して」
「……出る訳ないじゃん。ねえ、お願いだから、看護婦さんに代わって」
「ダメ。市井ちゃんの面倒は私が見るの」
「やだ」
「ダメ」
「やだったら」
「ダメだったら」

私は、市井ちゃんの下腹部の茂みを指でそろりと撫でた。市井ちゃんは小さく
悲鳴をあげた。そして、勢い良くおしっこを始めた。

ずっと我慢していたのか、市井ちゃんのおしっこはなかなか止まらなかった。

市井ちゃんは顔を真っ赤にして、俯いていた。
36 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時27分11秒

「いっぱい出たねえ。すっきりした?」

濡れティッシュで市井ちゃんのオンナノコをキレイにしてあげた。服を着せる。
市井ちゃんは顔をあげないで、されるがままになっていた。

看護婦さんが、し瓶を処理するために部屋を出たのを待ってたのか、二人っき
りになった途端、市井ちゃんは爆発した。

「ねえ、どうして後藤しかお見舞いに来ないの? 私のお母さんは? 事務所
の人は何してるの? たいせーさんは? ナオキくんは? 後藤が来てるのに
、ほかの子は来てくれないの? 圭ちゃんは? 真里っぺは? 圭織は? も
う家に帰りたい。家に帰して!」

37 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時27分41秒
私を睨み付けて、ヒステリックに叫んだ。

私はムッとした。
実際のところ、寝る時間を削って市井ちゃんに会いに来ていた。どれだけ眠く
ても疲れてても、市井ちゃんのお見舞いの時は笑顔でいた。なのに、市井ちゃ
んはちっとも分かってくれない。

いつもそうだ。
いつも、市井ちゃんは私のことを分かってくれない。

「どうして後藤がいるときに、他の人の話をするの? 後藤じゃダメなの? 
後藤だけが側にいるのは不満なの?」
「そういう話をしてるんじゃないの」
「そういう話だよ!」
38 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時28分19秒

私は、ボストンバッグの中身を床にぶちまけた。今日はここにお泊まりしよう
と思って、パジャマとか歯ブラシとかを入れてた。市井ちゃん用に、私と同じ
柄の特製パジャマも作ってたんだ。指にいっぱい針さしながら寝ないで縫った
ヤツ。

市井ちゃんの横に、カラになったボストンバッグを置く。

「な、なによ」

怯んだように、市井ちゃんがつぶやく。

「帰りたいんでしょ? いいよ。今から、家まで運んであげる!」
39 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時28分50秒

私は、市井ちゃんをタオルにくるんで、ボストンバッグの中に詰め込んだ。市
井ちゃんは抵抗することが出来ない。なにかわめいていたけど、ジッパーを閉
めてしまうと、声はほとんど聞こえなくなった。

私はボストンバッグを肩にかけて、病室を出た。
40 名前: 投稿日:2002年07月17日(水)21時29分28秒

(つづく)
41 名前:H21 投稿日:2002年07月17日(水)21時30分05秒

ええと、私は頭がオカシイので気にしないでください。
42 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月17日(水)23時45分13秒
ぞ、続行キボン・・・
43 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月18日(木)00時47分34秒
ううう、目が離せません。。。
簡単にはいっちゃった。。。
どうなんだろ?期待!期待!
44 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時41分05秒

「もう帰られるんですか?」
「はい。今日は帰ります!」

さっきの看護婦さんが、私の剣幕に押されたのか、大きな荷物を持ってるのに
なにもとがめたりしないでエレベーターまで通してくれた。

深夜、私は夜の道路を駅に向かってずんずん歩いた。本当は、電車で帰るより
も、タクシーを使うべきだったんだ。興奮しすぎてて、そこまで頭が回らなか
った。車をつかっていれば、あんなことにはならずにすんだのに。
45 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時41分49秒

重い身体を引きずるようにして、いつもの何倍も時間をかけて駅についた。も
う終電は終わってしまってた。

なんとなく、興奮が冷めてきた。同時に、すごく身体が疲れてきた。駅のベン
チにがっくりと腰を下ろした。

ボストンバッグのジッパーを開ける。
バッグの中の市井ちゃんは、街灯に眩しそうに目をパチパチさせた。

「……ね、後藤」
「なによ」
「お母さん、私のこと、知ってるの?」
「知らないんじゃないの?」

つっけんどんに言う。
46 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時42分31秒

「やだッ」

怒ったように、市井ちゃんは叫んだ。

「こんな姿、お母さんに見せたくない。どうして後藤はこんなひどいことする
の? 悪口だ、って思ってたから言わなかったけどさ、看護婦さんたち噂して
んだよ。私をこんな姿にしたの、後藤だって。さすがに信じたりはしないけど
さ。感謝はしてるよ。後藤なりに一生懸命にしてくれてるって」

「うん。私がお医者さんにお願いした」

「分かんないことだらけだよ。そりゃあ情緒不安定にもなるよ。でもさ、全然
説明してくれないじゃん――って、後藤? 今、なんて言った?」

「だから、私がお願いした。お医者さんに、市井ちゃんの手と足を切って下さ
いって。そうしたら、市井ちゃんは私だけのものになるから」
47 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時43分32秒

市井ちゃんの顔が歪んだ。浅い呼吸を繰り返していた。口を、叫ぶような形に
した。
5分……10分……

「……そんな、冗談言ったら、怒るよ?」

「冗談じゃないもん」

「……なんで、そんなことを言うの?」

「市井ちゃんのことが大好きだから」

ホントだよ、証明するね、と言って、市井ちゃんの唇にキスをした。途端に、
するどい痛みが走った。市井ちゃんに噛みつかれたんだ、って分かったのは、
口の中に血の味が広がってからだった。
48 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時44分20秒
「市井ちゃん、どうしてこんなことするのさ」
「あんたのことが大嫌いだからだ!」

ものすごいショックだった。
私はこんなに市井ちゃんのことが大好きなのに、市井ちゃんは私のことが嫌い
だという。

もしかして、私のこと、ずっと嫌いだった?
教育係の時も、プッチモニの時も、ピンチランナーの時も、嫌いだって思いな
がら、仕方なくいろいろ教えてくれてたの?
49 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時45分51秒

だから、モーニング娘。を卒業したら、もう会ってくれなくなったの?

そうか。
そうだったんだ。
私、市井ちゃんに嫌われてたんだ。

「後藤、どっかに行っちゃえ! あんたの顔なんて二度と見たくないよ!!」

決定的な一言。
私は、その場にいられなくなった。

ボストンバッグを置き去りにして、私は走ってその場から逃げ出した。
50 名前:H21 投稿日:2002年07月18日(木)20時47分00秒

今日は少し多めの更新。

51 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時47分31秒

メチャクチャに走り回ったせいで、道に迷ってしまった。私はとぼとぼと夜の
街を歩いた。

地面がぐるぐる回りだす感覚。
胃の中がどろりとしたもので満たされている感覚。

初めてビールを飲んで悪酔いした時と似てた。あの時はもう二度とこんなもの
飲むものかと思った。
52 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時48分06秒

キモチワルイ

53 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時48分36秒

吐いた。

顔が濡れているのは、涙のせいなのか鼻水のせいなのか涎のせいなのかさえ分
からなかった。

(市井ちゃんは後藤のことを嫌っていた)

もう、私は前に進むことも後ろに下がることも出来なかった。ただ打ちひしが
れてその場に立ち尽くすしかなかった。
どこかの商店街みたいなところに私はいた。歌舞伎町のように、夜中まで店が
開いてたりはしてなくて、みんなシャッターが下りてた。私は、壁にもたれて
、うずくまった。膝を抱えて泣いた。泣きながら眠った。
54 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時49分26秒

−−−−−−−−−−

55 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時50分01秒
何かが動く気配で目を覚ました。
顔をあげた途端、ばさばさっ、と羽音がして、私は反射的に立ち上がった。ぞ
っとした。

カラスの集団だった。

私がしゃがんでいた近くに黒いビニル袋がたくさん捨ててあって、カラスがそ
れをつついていたのだ。破れた袋から生ゴミがこぼれていた。別に私が襲われ
た訳じゃないんだけど、気持ち悪かった。

一度は逃げたカラスたちは、私の弱気を察知したのか、また戻ってきて平然と
袋を突っつき始めた。
56 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時50分43秒

空は、明るくなってきていた。時計を見る。午前5時半。私はここで夜を明か
したらしい。そもそも、どうして私はこんなところで、こんなことを――

「市井ちゃん!」

叫んだ。カラスが一斉に飛び立った。

私、駅前に市井ちゃん置きっぱなしにしてきた。誰かに見られたら――いや、
それよりも、カラスたちに見つかったら!!
57 名前: 投稿日:2002年07月18日(木)20時51分21秒

(駅はどっちだろう?)

ここに来たときは真っ暗だったから分からなかったけど、小走りしてるうちに
案内板を見つけた。一気に記憶して、駅に向かってダッシュした。

駅前に、人影はなかった。
ただ、ベンチのあった場所が、真っ黒なもので覆われていた。その黒は、わさ
わさ動いていた。その周りを野良犬が数匹うろついていた。

58 名前:H21 投稿日:2002年07月18日(木)20時52分00秒


(つづく)
59 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月18日(木)23時40分57秒
マジで?出島?まじで(ry




ネタでかたずけられなくなってまいりました

が、続行キボン
60 名前: 投稿日:2002年07月19日(金)19時45分27秒

我を忘れた。

落ちてた針金みたいなものを拾い上げて、振り回しながら走った。わあわあ叫
んだ。犬は、すぐに逃げていった。ベンチにたかっている黒の正体は、十数羽
のカラスだった。ばさばさばさばさ。があがあがあがあ。その黒を、針金で何
度も叩いた。すぐに針金は駄目になった。両手でかき分けるようにしてカラス
たちを追い払った。引っ掻かれたり突つかれたり髪の毛を引っ張られたりした。

61 名前: 投稿日:2002年07月19日(金)19時46分19秒

ボストンバッグが見えた。

「市井ちゃん!」

私はボストンバッグに覆い被さった。
カラスは、ようやくあきらめたのか、みんな飛び去っていった。ドブネズミみ
たいな嫌な匂いと、舞い散った黒い羽毛で周囲はいっぱいだった。

さっきまでの喧噪が嘘みたいに、駅前広場は静まり返った。私はボストンバッ
グから身体を起こした。

ジッパーは締まっていた。逃げ出す時、無意識に締めたみたい。

おそるおそる、ジッパーを開ける。

62 名前: 投稿日:2002年07月19日(金)19時46分53秒

中には、大泣きしている市井ちゃんがいた。
全身の力が抜けた。良かった。市井ちゃんは無事だった。もし、ジッパーを締
めていかなかったら、どんなことになっていただろう。

「後藤……置いていかないでよう。私を1人にしないでよう」

市井ちゃんはそう言って泣いた。
私も泣いた。

「ゴメン。一生そばにいる、って約束したのに。ゴメン。もう市井ちゃん1人
にしないから。ゴメン。ずっとずっと後藤は市井ちゃんのものだから」

63 名前: 投稿日:2002年07月19日(金)19時47分24秒

市井ちゃんをぎゅっ、て抱きしめて言った。市井ちゃんは、私の耳に噛みつい
た。歯の間から、絞り出すように、

「嘘つき。後藤の嘘つき。私をこんな身体にしたクセに、私を置いてっただろ。
またすぐに後藤は約束忘れるに決まってる。後藤のこと、信じられない」

「もう絶対、約束は破らない」
「信じられない。証拠見せてよ」
「後藤の耳、噛み千切って」
64 名前: 投稿日:2002年07月19日(金)19時47分55秒
ぶつん、と、熱が跳ねた。
耳たぶに、焼けた鉄板に押しつけられたみたい。
顔をあげて、市井ちゃんと目を合わせる。市井ちゃんの口の周りは血だらけだ
った。ぽた、ぽたと新しい血が市井ちゃんの顔を濡らした。耳に、なにかがぶ
ら下がってるみたいな感じがあった。

「噛み千切ったよ」
「うん」
「こんなことした私のこと憎い?」
「ううん。市井ちゃん大好き」
「本当に?」
「世界で一番好き」
「じゃあキスして」

市井ちゃんとのキスは、鉄の味がした。
65 名前:H21 投稿日:2002年07月19日(金)19時48分34秒

(つづく)
66 名前:ウルフ 投稿日:2002年07月20日(土)03時23分40秒
「最上級の恋愛」
あと、陳腐ですが究極、至高の恋愛ですね。
楽しみにしてます。
67 名前:皐月 投稿日:2002年07月20日(土)08時09分59秒
最高にスリルがありますね。
久しぶりです、こんなにドキドキしたのは・・・・
続き大期待です!がんばってくださいね。
68 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時40分10秒
「後藤、ノド乾いた」
「ほーい」

「テレビつけて」
「ほいほーい」

赤ちゃんみたいに抱っこして、水差しを市井ちゃんの口元に運ぶ。そして、テ
レビが見えるように、パイプ椅子に座った私の太ももの上に市井ちゃんを置く。
69 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時40分45秒

「後藤のペンギンって、バカみたいだね」
「バカじゃないもん! 優しいお姉ちゃんペンギンだもん!」

ハロモニを見ながら、市井ちゃんとケラケラ笑う。幸せな時間。ずっとずっと
永遠に続け、と思う。

−−−−−−−−−
70 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時41分17秒

あの日の朝、病院に電話したら、救急車がすっ飛んできた。私の耳は、すぐさ
ま応急処置を受けてちゃんとくっつくことになった。

「お早うございまーす」
「ごっちんどうしたの!」

元気にスタジオ入りした私を、みんなは目を丸くして迎えた。反射的に叫んだ
のは、やぐっちゃんだった。
71 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時41分48秒

「あー、これね、転んでさあ。耳、もうちょっとで取れちゃうトコロだった。
ヤバかったね」

ちょっと無理あるかな?
顔にグルグル包帯巻いてるからなあ。
市井ちゃんに噛まれた、って知られたら、きっとみんなから嫉妬されちゃうよ。

「転んだって……じゃあ、なんでそんなにすり傷だらけなの」
「カラスとケンカしちゃって。えへへ」

これはホント。

72 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時42分19秒

やぐっちゃんは、怪しむような目つきで私をジロジロ見た。腰に手を当てて、
言った。

「ごっちんさあ、紗耶香のことでなんかしてる?」
「なにもしてないよ! 市井ちゃんのことなんて知らないよ!」

(ヤバい。疑われてる?)

市井ちゃんの消息については、絶望視されていた。失踪ではなくて、明確に事
件として取り上げられていた。でも、一切、手がかりはつかめていなかった。

73 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時42分51秒

「ごっちん、あんたさあ、ちゃんと寝てる?」

今度は、圭ちゃんが私に話しかけてきた。ピンチだ。市井ちゃんファンに囲ま
れた!

「寝てるよ。ぐっすり寝てる」

毎日2時間くらいは寝てる。
目の下のクマが、最近、ハッキリ出るようになったから、傍目から見ても分か
っちゃうのかな?
74 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時43分32秒

「あんた、その耳、自分で……ううん。なんでもない。きっと紗耶香は元気に
してるよ。だから」
「うん。市井ちゃんは元気にしてるよ!」

市井ちゃんの話をすると、どうしても顔がニヤけてしまう。そんな私を、みん
な、なぜか痛々しそうに見てた。

圭ちゃんは、いきなり私をぎゅっ、と抱きしめた。

「紗耶香のことが心配なのは分かるよ。でもさ、だからこそ、私たちがしっか
りしないと」

75 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時44分11秒

何故だか分からないけど、圭ちゃんは泣いていた。ああ、そうか。市井ちゃん
が行方不明だから、心配で泣いてるんだ。ごめんね、私が独占しちゃってるか
らだね。

私は、圭ちゃんの背中に手を回した。そして、頭を撫でてあげた。

「大丈夫。市井ちゃんは、大丈夫だよ。だから圭ちゃん泣かないで」
76 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時44分52秒

圭ちゃんは私の肩に顔をうずめて泣いた。そして、ごっちん、しっかり、しっ
かりして、と何度も呪文のように繰り返した。

結局、マネージャさんから、しばらくの間、休養するように言われた。まあ、
顔に包帯巻いてるんだから仕方ないね。休みの間、ずっと市井ちゃんと一緒
にいられるからいいか。

−−−−−−−−−−−
77 名前: 投稿日:2002年07月20日(土)14時45分41秒

つづく
78 名前:H21 投稿日:2002年07月20日(土)14時47分21秒

次回は私の面目躍如。
倒錯気味にR18です。
79 名前:皐月 投稿日:2002年07月20日(土)17時09分51秒
作者さんがんばってくださいね。
マジで楽しいです。この小説!
80 名前:名無し 投稿日:2002年07月20日(土)22時42分28秒
おお、この作品はかなりきていますが、
続きが気になります。
待っています!
81 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時30分48秒

「ごとうー、お腹痛いよう」
「朝からアイスはダメ、って言ってたのに、市井ちゃん食べちゃうからだよ」
「お腹痛いよう」
「はいはい、ちょっと待ってね」

相変わらずの病室生活だけど、もう市井ちゃんの世話は私の仕事になってた。
ご飯食べさせてあげたり、身体を拭いてあげたり、下の世話をしたり。

82 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時31分21秒

そして、今日は待ちに待った日。

「どうですか?」

定期検診の時間。傷口を消毒して、ガーゼを張り替えている看護婦さんに、訊
ねてみる。

「そうですね。もういいでしょう」

「やったー」
「やったー」

声をハモらせて、私たちは歓声をあげた。待ちに待っていたもの、それは、
83 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時31分54秒

おフロ入浴許可だ!

「よーし、後藤出動!」
「いえっさー!」

市井ちゃんを脇に抱えて、病院の廊下をダッシュする。市井ちゃんと一緒に入
る、って決めてたから、私もここの病院の特別大浴場は使ったことが無かった
んだ。

「うっわー、ひさしぶりだよ。身体拭くだけじゃさあ、さっぱりしないんだよね」

湯気の立ち上る湯船を見て、市井ちゃんは目をキラキラさせた。
84 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時32分26秒
この病院の最上階のフロアは、偉い人とかお金持ちの人が使うところなので、
お風呂も特別だった。すごく豪華だ。そして、今は、二人だけで貸し切り!

「早く! 早く!」
「ちょっと待ってよね」

市井ちゃんを専用のゆりかごに寝かせて、先に私は服を脱いだ。

「後藤、胸でっけえなあ」
「うふふふ」
「チクショウ。勝利の笑いかよ」

市井ちゃんを抱きおこして、服を脱がせる。ひきつれたような切断面は、柔ら
かい皮膚でおおわれていた。
85 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時33分14秒

「お湯につかる前に身体をキレイにしましょうねえ」

石鹸をいっぱいに泡立てて、市井ちゃんの身体を洗う。市井ちゃんはくすぐっ
たがって、ケラケラ笑った。私はイジワルして、わざと胸とかわき腹とかを集
中的に攻撃した。

「今度はアタマ洗うよー」

市井ちゃん、だいぶ髪伸びた。お湯をたくさんつかって、三回シャンプーした。

湯船のお湯は、少しぬるい感じで、今の市井ちゃんにはちょうどいいみたい。
86 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時33分44秒
「いちーちゃん、入りまーす」
「おう!」

市井ちゃんを抱っこして、二人でお湯につかった。

「ふうーー生き返るね」
「市井ちゃん、おばちゃんみたい」
「うふふふ」
「えへへへ」

手を離したら市井ちゃんが溺れちゃうから、ずっとぎゅっ、ってしてるんだけ
ど、なんか肌同士がぴったり接触してると、むずむずする。

市井ちゃんも、居心地悪いのか、もじもじした。
87 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時34分15秒

「うん、市井ちゃん、のぼせちゃった? もう出る?」
「ううん。そうじゃない」
「じゃあ、何?」

市井ちゃんは、首を回して私を見上げて、

「背中じゃなくて、向かい合わせに抱っこして」

そう言った。

「うん。分かった」

市井ちゃんをくるりと回した。なんだか抱き合ってるみたい。その、胸と胸が
密着して、レズっぽくて、
88 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時34分58秒

「ねえ。後藤、覚えてる?」

私の肩にアゴをを乗せて、なんだか市井ちゃん、まだモジモジしてる。

「なにを?」
「ほら、前にさ、私が絶対におしっこしない、って駄々こねたことあったじゃ
ん?」
「うん。あったね」
「あの時さ、後藤さ……」

うん? 市井ちゃん、何が言いたいんだろ。
?????

あ、分かった!

私は、にんまりと笑った。
89 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時35分32秒

「市井ちゃん、触って欲しいの?」

のぼせたからか、それとも別の理由からか、市井ちゃんは顔を赤くしてうなづ
いた。

「もしかしてさ、市井ちゃん、ひとりえっちとかしてたんだ」

うう、と市井ちゃんはうめいた。上目遣いに、恨めしげに私を見た。

ふーん。こればっかりは看護婦さんにも頼めないもんね。そういうことなら、
この後藤真希さんに任せなさい!

「よーし、触っちゃうぞー」
90 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時36分04秒

市井ちゃんの下半身に指を伸ばす。ん、と市井ちゃんは小さく悲鳴を漏らす。
市井ちゃん、感じやすいんだ。
右手は、市井ちゃんの胸に。
「あっ」
「おっぱいはサービスでーす」
先を、くりくりしてあげる。のけぞりそうになる市井ちゃんの身体を、膝を立
てて支える。涙目の市井ちゃんの顔を覗き込みながら、下半身と胸を刺激して
あげてると、なんだか妙な気持ちになってきた。

「んっ」
「や……」

市井ちゃんの唇をおおう。市井ちゃんの口の中で、舌と舌とをからませる。
91 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時36分38秒

「市井ちゃん、処女じゃないよね? 指入れてもいいよね?」

中指と人差し指を、市井ちゃんの中に。
市井ちゃんの中から出てくるえっちな液のお陰で、するりと入った。市井ちゃ
んの中で、二本の指をチョキしたり閉じたりした。

あっ、あっ、と市井ちゃんが声をあげる。私もたまらなくなって、自分のオン
ナノコに触った。市井ちゃんの声を耳元で聞きながら、自分自身をぐりぐりす
る。
92 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時37分18秒

「イキそう? ねえ、市井ちゃんイキそう?」
「う……ん。ああっ、もう――」
「私もイッちゃうよう」

あっ!

するり。
ぶくぶくぶく……。
93 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時37分51秒
−−−−−−−−−−

「ゴメン、ゴメンってば」
「……」
「市井ちゃん、怒ってるの?」
「思いっきり鼻からお湯飲んじゃったよ!」

私は、イッた瞬間、両膝を開いちゃったんだ。市井ちゃんは、背中からお湯の
中に沈んじゃった。

身体を拭いてあげながら、ずっと不機嫌な市井ちゃんに、

(今度はベッドでしようね)

そう囁いた。市井ちゃんは、ぶすっ、としたまま、うん、ってうなづいた。
94 名前: 投稿日:2002年07月21日(日)16時38分30秒


つづく
95 名前:H21 投稿日:2002年07月21日(日)16時39分03秒

顔に包帯を巻いた後藤が、四肢の無い市井をひざにのせている。スプーンで、
スープを口元に運んでいる。

例えば、授乳の神々しさ。
欠けた者同士が、補いあう姿。
96 名前:H21 投稿日:2002年07月21日(日)16時39分50秒

そんなシーンをリアルに思い浮かべては、うっとりしている私は変態です。自
覚しています。はい。

あと、応援書き込み、いつもありがとうございます。とても感謝しております。
今後とも、宜しくお願い致します。
97 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月21日(日)20時54分50秒
読んでるうちにゾクゾクしてきました。
でもつづき気になります。
更新待ってますよ。
98 名前:ウルフ 投稿日:2002年07月22日(月)00時56分17秒
市井ちゃんがお風呂に沈んでしまったところで
ほのぼの感を感じた私も変態でしょうか?(w
逝って良し?
99 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月22日(月)01時25分06秒
いつ後藤さんは自決されるのですか?
100 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月22日(月)12時50分22秒
>>99
野暮なこと聞くなよ(w
101 名前:H21 投稿日:2002年07月22日(月)19時06分53秒
了解致しました。今後、sage進行とさせて頂きます。
102 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時07分56秒

月も出ない深夜。
私たちは愛を交わす。

今なら神様にも気づかれない。

ベッドに仰向けに寝かされた市井ちゃんの身長は60センチくらいしかなくて、
たまらないほど可愛くてセクシーで……とろりとした魅力に満ちている。

市井ちゃんを抱き上げる。私を見上げる市井ちゃんの瞳は潤んでいる。お互い
をむさぼりあうようなディープキス。
103 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時08分34秒
私の口の中に、市井ちゃんがか細い甘い声を漏らす。私の手は、市井ちゃんの
胸とオンナノコに伸びている。唇を離すと、市井ちゃんはああ、と吐息交じり
に声を出す。私は、乳首に口をあてる。指と唇と舌で、市井ちゃんを高めてい
く。

私が男だったら、と思う。もう自分では何も出来なくなった市井ちゃんを欲望
のままにメチャクチャに犯したい。その光景をリアルに想像する。市井ちゃん
を組み敷いて、モノのように乱暴に扱うのだ。じきに、私と市井ちゃんの頭の
中はお互いのことしでいっぱいになる。そう。もっと、もっと。もっと激しく、
暴力的に、いっそ市井ちゃんを壊してしまいたい。このまま壊れてしまいたい。
104 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時09分05秒
人は、いびつだと眉をしかめるだろうか? 歪んでいる、と嫌悪を覚えるだろ
うか?

私の衝動も、市井ちゃんの歓喜も、すべてはあるがままだ。二人の行為はとて
つもなく神聖で、世界中のなによりも清らかだ。


市井ちゃんの声が高く、細く。

天上に伸びていく金色の糸のように。
105 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時09分46秒

−−−−−−−−−−
106 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時10分20秒

終わりの始まりは、唐突に訪れた。

「はい、市井ちゃん、あーんして」
「あーん」

暖かな昼下がり。
半分開けた窓から吹いてくる柔らかな風が、レースのカーテンを揺らしている。
市井ちゃんを抱っこして、すり下ろした梨をスプーンで口元に運ぶ。
107 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時10分56秒

もぐもぐもぐ。

「市井ちゃん、おいしい?」
「うん」
「後藤も食べていい?」
「いいよ」

もぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐ。

「市井ちゃん、おいしいね」
「後藤、今、ふたくち食べなかった?」
「そんなことないよう……ん? なんか、外が騒がしいよ」
「話そらそうとしてる!」
108 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時11分33秒

(ちょっと、困ります)
(エエから、そこ通し!)
なにか、言い争うような声。
そして、乱暴に、私たちの神聖な部屋の扉が開け放たれた。

抗議の声をあげようとした私よりも先に、

「紗耶香ッ!」

聞き慣れた声が、耳に飛び込んできた。

「な――」

その人物は、失礼なことに、市井ちゃんを見て絶句した。そして、
109 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時12分05秒
「ああああああああああッ!」

その場で悲鳴をあげた。
私の腕の中の市井ちゃんが、ぐっ、と身を固くした。

「追い出してッ!」

びん、と張りつめたような、市井ちゃんの声。
私は市井ちゃんをベッドのシーツに隠した。市井ちゃんは身体をよじって、向
こう側をむいてしまった。私は裕ちゃんを部屋の外に押し出した。

背中でドアを閉める。私は、無礼な裕ちゃんを睨み付けた。
110 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時12分49秒

「今、今の、紗耶香やんな? 冗談とかやないな? アレ、紗耶香なんか?」

裕ちゃんの視線は、忙しく宙を泳いでいた。どこにも焦点が合ってなかった。
そしてふらふらと、もう一度、扉を開けようとした。

「ダメっ!」

私は、両手を広げて、裕ちゃんから部屋をガードした。
111 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時13分22秒

「……あれ? ごっちん? なんでここにおるんや?」

ようやく気づいたのか、裕ちゃんの目が私に向けられた。私は、後ろでおろお
ろしている看護婦さんたちに「裕ちゃんを面会室に!」と告げた。

「ほら、裕ちゃん。行くよ」
「え、でも紗耶香が」
「行くよ!」

裕ちゃんは看護婦さんに支えられて、同フロアにある面会室へ移動した。

112 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時13分56秒
裕ちゃんは、ずっと何も喋らなかった。ソファに深く腰を下ろして、凄惨な表
情で、ずっと真っ正面を凝視していた。

そして、やわら立ち上がり、私や看護婦さん、そして駆けつけた外科医の彼を
一瞥し、

「紗耶香を、連れて帰る」

そう告げた。

「ええか、これは犯罪やで。でも、もうこうなってしまったら仕方ないわ。警
察沙汰にもせえへん。もしそうしたら、あんたらもいろいろと工作してくるや
ろからな。とにかく、紗耶香は連れて帰って、しかるべき治療をさせる。……
今日やない。受け入れの準備してもらうように山崎さんにアタマ下げてくる。
それまでは、ここで面倒みてもらう。それはええな?」
113 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時14分34秒

裕ちゃんの、ドスのきいた剣幕に、外科医の彼もただうなずくしかなかった。

「市井ちゃんを連れていかないで」

私は、帰ろうとした裕ちゃんの前に立ちはだかった。市井ちゃんと引き離され
る。市井ちゃんはおっきな病院に隔離されて、私は面会さえ許されなくなるだ
ろう。今度こそ、もう二度と市井ちゃんには会えなくなる。そうなったら、私
は死んでしまう。空気のように、水のように、私には市井ちゃんが必要なんだ。

114 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時16分35秒
私を見る裕ちゃんの目は、真っ赤に充血していた。ぶん、と大きく弧を描いて、
裕ちゃんの手が私の頬を叩いた。途端に、しまった、って表情になった。

裕ちゃんは、私の包帯を巻いた方の頬を叩いたのだ。熱い液体が、一度耳の中
に溜まって、そして包帯の隙間から溢れ出した。それは、初めての生理の日の
ことを想起させた。
市井ちゃんに噛まれた耳の傷が、じんじんと痛んだ。でも、裕ちゃんは謝った
りはしなかった。そのまま面会室を出ていった。

−−−−−−−−−−−−
115 名前: 投稿日:2002年07月22日(月)19時17分31秒


つづく

116 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月22日(月)20時21分52秒
あらら きたよ、ついに。。。ドキドキ
117 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月23日(火)00時20分04秒
あんたほんまもんの基地外や。(w
あくまでも誉め言葉として受け止めてな。
118 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月23日(火)02時45分45秒
名誉の戦死を遂げる日も近い。
119 名前: 投稿日:2002年07月23日(火)20時22分39秒

難しい顔をした院長と、その息子――外科医の彼。二人は、市井ちゃんの部屋
に行き、これ以上、ここには置いておけなくなった経緯を話した。

市井ちゃんは、ずっと背中を向けたままだった。
市井ちゃんに噛まれた傷が開いて、私の包帯は赤くにじんでいた。

ずきん。
ずきん。

「裕ちゃんが、今度、市井ちゃん連れて帰る、って。それが市井ちゃんの為に
は一番いいことなんだって」

私は、市井ちゃんの背にそう話しかけた。
120 名前: 投稿日:2002年07月23日(火)20時23分17秒

「言うこと聞かないと、警察に連絡するって言われちゃった」

これ以上この病院にも甘える訳にはいかなかった。入院費から治療費から、す
べて彼が出していたのだ。代償はなにも求めずに。

市井ちゃんは寝返りを打って、私を見た。冷たい表情だった。

ずきん。
ずきん。

「私をこんな身体にしたのは後藤だよね」

うん。
私はうなづいた。
121 名前: 投稿日:2002年07月23日(火)20時23分50秒

「後藤には責任があるんだよ。一生私の面倒見るって。なのに、また私を見放
そうっていうの?」

「だって……」

ずきん。
ずきん。
ずきん。

「後藤はどう思ってるの? もう私に飽きちゃった? そこのお医者さんの方
がいい? 後藤のワガママずっと聞いてくれてるもんね。なにより、男だし」

市井ちゃんは泣いていた。市井ちゃんの気持ちが、突風のように吹き付けてき
た。嫉妬と不安と独占欲。それは、至上の恍惚を私に運んできた。
122 名前: 投稿日:2002年07月23日(火)20時24分22秒

さっきから思っていた。
どうして、市井ちゃんから与えられた痛みは、こんなにも心地いいんだろうっ
て。こんなにも甘いんだろうって。



 誰も許してくれないなら

 一緒に逃げようって泣いたよね



いつかどこかで聞いた歌謡曲の歌詞のように、
123 名前: 投稿日:2002年07月23日(火)20時24分53秒

「市井ちゃん、二人で逃げようか」

泣きながら、私は言った。

「ダメだ!」
言下に否定したのは彼。
「彼女は今の状態だと、病院でしか生きられない」

私たちは、彼の言葉は聞いていなかった。私たちは、今、世界で二人だけだった。

「後藤、そうこなくっちゃ」

市井ちゃんは、泣きながら、笑いながら、答えた。
124 名前: 投稿日:2002年07月23日(火)20時25分26秒

−−−−−−−−−−−


「あんなー、昨日なー、ヘンな夢みてん」
「んー、あいぼん、どんな夢?」

「後藤さんの夢やねん。なんかなあ、後藤さん、夜の電車に乗ってるねん」
「ふーん」

「ひざの上にな、おっきいボストンバッグ置いてんねん。そんでなあ、1人や
のに、ずっと楽しそうにしゃべってるねん」
「おかしいよ。それは目立つよ」
「でも、電車には他のお客さんはおらへんから、大丈夫」
「大丈夫か。それは良かった」
125 名前: 投稿日:2002年07月23日(火)20時26分27秒

「よう分からんけど、後藤さんのすぐ近くに市井さんがいてん」
「市井さんと二人旅なの?」
「うん。でも、市井さんはおらへんねん」
「お化け? 市井さんのお化け?」

「そやからよう分からん…………」

「あいぼん、泣いてるよ? おなか痛いの?」

「そうやないん。なんかな、もう二度と後藤さんには会えへんような気がするねん」

「後藤さんは休憩してるだけだって。元気になったら帰ってくるって」

「もう会われへんねん。もう会われへんねん」

「……あいぼん泣ぐなあ!」
「辻ちゃんこそ泣いてるやんか!」
126 名前: 投稿日:2002年07月23日(火)20時27分14秒

つづく
127 名前:H21 投稿日:2002年07月23日(火)20時27分55秒

次回より、最終章です。現在、まとめ中です。しばらく間があきますが、あと
もう少し、お付き合い宜しくお願い致します。
128 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月23日(火)23時33分56秒
頑張って。次の更新を楽しみにしてるよ。
129 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月24日(水)00時21分05秒
美しき師弟愛。
この作品に作者さんの満足の行く着地点が訪れますように。
130 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月24日(水)21時39分16秒
犬死だけはさせないで下さい。
131 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月25日(木)04時04分52秒
今日すごい小説を発見してしまった…
作者さん頑張って下さい。
132 名前:H21 投稿日:2002年07月28日(日)13時58分58秒
(宣伝)
「青薔薇RE-MIX企画」に参加しています。
「異聞・青薔薇」ってのかそうです。
http://m-seek.net/event/index.html
133 名前:クロ 投稿日:2002年07月30日(火)09時43分01秒
期待age…といきたいですが、sageで。
最終章が楽しみです。
痛い思いしながら読んでます。期待大で。
134 名前:H21 投稿日:2002年07月31日(水)22時35分03秒
さて、巷は大騒ぎですが、それとは関係なく、出来上がりました。
三回に分けて、更新したいと思います。
135 名前:最終章 投稿日:2002年07月31日(水)22時36分38秒

夜行電車が目的地についた時には、もう朝になっていた。
「市井ちゃん、着いたよ。起きてよ」
「うーん、あと5分」
「寝ててもいいけどさ、揺れるよ」
私は、ボストンバッグのジッパーを閉めた。そして、背中にしょった。

車掌さんに挨拶して、電車を下りた。

ここは、新潟のとある小さな温泉街。
新幹線が止まる駅から遠くて、寂れちゃったって話だ。昔、家族で――お父さ
んもいた頃――ここに来たことがあって、覚えてたんだ。
136 名前:最終章 投稿日:2002年07月31日(水)22時37分17秒
駅前でタクシーに乗り、旅館の名前を告げる。お金は、実はまだ結構あった。
その旅館はちょっぴり贅沢なんだけど、それぞれの部屋に内湯があって、そこ
なら市井ちゃんも他人には見られずにゆっくり温泉気分が味わえるかなあ、っ
て。

お客さんが少ないからか、2週間分の宿泊費(もちろん、私の1人旅、ってこ
とになってる)を先に払うと、すごくいい部屋を割り当ててもらった。八畳二
間で、ふすまを開けると廊下がプライベート用の庭の回廊へと伸びている。庭
園の真ん中に内湯用の露天風呂がある。違う部屋とは、庭まで別々になってる
みたい。

反対側のふすまを開けると、紅葉で真っ赤になった山が見えた。
私は市井ちゃんを抱っこして、窓まで連れていった。
137 名前:最終章 投稿日:2002年07月31日(水)22時37分52秒

「ほら、市井ちゃん、綺麗だよ」
「うん。綺麗だね」

見下ろすと、古びた温泉街が見えた。あちこちから、湯気が立ち上っていた。
夕陽が落ちていく。

紅葉はいよいよ燃えるように赤くなる。建物の影が伸びていく。懐かしい匂いが
する。子どもの頃にみた、琥珀色の風景。時間の流れがどんどん遅くなって、
そして止まる。

たくさんの人と出会って、たくさんの人と別れてきた。楽しいこともあったし、
悲しいこともあった。

それらはみんな溶け合って、今は、一つになった。
138 名前:最終章 投稿日:2002年07月31日(水)22時38分34秒
私たちに、もう未来は来ないだろう。
でも、そばに市井ちゃんがいる。

私の、16年の人生は、ここで最後を迎えるために用意されていたのかも知れ
ない。

しばらくの間、私たちはたそがれていく街の風景を眺めていた。

−−−−−−−−−−−−
139 名前:H21 投稿日:2002年07月31日(水)22時39分20秒

つづく。
140 名前:H21 投稿日:2002年07月31日(水)22時39分57秒

あと二回、更新にお付き合い願います。
それでは、また明日。
141 名前:クロ 投稿日:2002年07月31日(水)23時15分10秒
うわわ!
とうとうその時が…!?
142 名前:ウルフ 投稿日:2002年08月01日(木)01時46分55秒
う〜ん、何か予感がして覗いてみたら。。。
蜜月は長く続かないかもしれないけど
ここから何の邪魔も入らないこと願いつつ…
143 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時38分09秒

市井ちゃんは、眠っている時間が多くなってきた。一日の半分以上は眠ってい
て、残りはうつらうつらしている感じ。

「……外に、出てみたい」

ここに逗留して、10日も過ぎたころ、ぽつり、と市井ちゃんは言った。夢の
途中で目が覚めて、その続きを告げるみたいに。

私も、この10日間、外に出ることはなかった。初秋の山の紅葉は相変わらず
綺麗で、ちょっと行ってみたかったんだよね。観光客も少ないみたいだし。

「それっていいよね。明日行こう!」

市井ちゃんは、にっこりと幸せそうに笑った。そして、お茶を一杯だけ飲んで、
また眠った。
144 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時39分51秒

私は、旅館の厨房に行った。みんなヒマなのか、私をちやほやしてくれる。す
っかり顔なじみになった板長さんに、

「明日、紅葉を見に行きたいんですけど、お弁当、手作りしたいんです」

とお願いした。
みんな、俺たちが特別弁当を作ってやる! って言ってくれたんだけど、私が
作るのが大事なんだ。結局、材料だけ用意してもらえることになった。
145 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時42分29秒

そして翌日。
私は市井ちゃんが寝ているウチに早起きして、厨房に入って、お弁当を作った。
おにぎり作ったり、玉子焼いたり。タコさんを作りたかったんだけど、あの真
っ赤っかのソーセージはここには無かった。残念。

お礼に、海苔巻いただけのおにぎりをたくさん作った。板前さんたちにしてみ
たら、物足りないよなあ、って思ったんだけど、みんな喜んでくれた。

私が部屋に戻ると、市井ちゃんはもう起きてた。お出かけーお出かけーってゴ
ロゴロ騒いで転がった。ハイテンション市井ちゃんだ!
146 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時47分41秒

リュックサックにお弁当、ボストンバッグに市井ちゃんを詰めて、日除け用の
おっきな帽子をかぶって、旅館を出発した。

目的地は、一番紅葉が綺麗に見える、っていう山の中腹にある湖のそばの公園。
観光ガイドにも紹介されていない穴場なのだそうだ。遊歩道が整備されている
から女の子でも大丈夫、と旅館の女将さんに教えて貰ったんだ。

「後藤、ノド乾いたよう」
「もうちょっとで着くから。我慢して」

ホントなら、1時間くらいで湖公園に到着するはずなんだけど、結局2時間近
くかかってしまった。でも、景色は素晴らしかった。しかも、前情報どおり、
誰も人はいなかった。
147 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時48分16秒

「ぷは」

ずっと揺られて大変だったのだろう、カバンから出た市井ちゃんは、汗をかい
て舌を出してぜーぜー言ってた。

赤と黄の紅葉。真っ青な高い空。土の匂いと木の匂いと水の匂い。湖の水面は
鏡みたいになってて、紅葉と空を映している。私たちはしばらくの間、言葉を
失っていた。

どこか遠くで鳥が鳴いている。湖から吹いてくる風は少しひんやりしてて、汗
ばんだ身体に心地いい。
148 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時49分24秒

きゅるる、と私のお腹が鳴った。二人とも、まるで今まで夢のなかにいたかの
ようにうっとりしてたのに、ムードぶち壊しだ。まあいいか。

「じゃあ、お弁当にしましょう」

ペットボトルのお茶を市井ちゃんに飲ませる。そして、

「じゃーん」

後藤特製のおにぎりと卵焼き。

「えー、それだけなの? 旅館の板さんが作ってくれたのがいい!」
「ひどいよ。早起きして作ったのに」
「ウソウソ。後藤の作ってくれたおにぎり食べたいよ」

「はーい、市井ちゃん、卵焼きどうぞ」

ぱくぱくぱく。

「私は板さん特製のこぶ巻き」

ぱくぱくぱく。
149 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時51分04秒

「……」
「冗談だよ。はい、市井ちゃんもどうぞ」

ちょっと作りすぎたかな、と思ったけど、二人で全部食べちゃった。もうお腹
いっぱいだ。市井ちゃんも満足そうだ。

「ねえ、市井ちゃん。踊ろうか」
「踊る?」
「うん!」

私は市井ちゃんを掲げて、社交ダンスのようにステップを踏んだ。ワンツーワ
ンツー。そして、くるくる回った。市井ちゃんは、首を左右に振りながら、ワ
ルツらしき鼻歌を歌った。
150 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時52分10秒

「市井ちゃん、ジャーンプ!」
「ちょっと待て後藤ッ!」

わーっしょい! と私は市井ちゃんを空に飛ばした。市井ちゃんは、おおお、
とちょっとビビった顔になった。大丈夫です。後藤はナイスキャッチします。

市井ちゃんを抱きしめて、そのまま草の上に転がった。市井ちゃんは息を弾ま
せながら、ケラケラ笑った。私も笑った。

風が、枯れ葉を擦る音。湖のさざ波の音。

気持ちよくなって、私は目を閉じた。市井ちゃんが、なんか私の顔を覗き込ん
だりしてたけど、そのうち私の肩に頭を乗せて、すうすうと寝息を立て始めた。
151 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時53分03秒

私は市井ちゃんを腕枕して、日が傾くまで眠った。薄暗くなってから、慌てて
帰り支度を始めた私に、市井ちゃんは景色を眺めながら帰りたい、って言った。

市井ちゃんをボストンバッグに入れるのはやめて、リュックサックに首だけ出
るように背負った。

「夢めざし 今日もアルバイト」
「甘えたのママに子守唄」

二人で歌いながら、緩やかな斜面をスキップで帰った。

−−−−−−−−−−−−
152 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時53分39秒

翌朝。

市井ちゃんは死んだ。
幸せそうな寝顔だった。
153 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時54分12秒





154 名前:最終章 投稿日:2002年08月01日(木)23時54分48秒

つづく
155 名前:H21 投稿日:2002年08月01日(木)23時55分25秒

次回、ラストです。
それでは。

156 名前:クロ 投稿日:2002年08月02日(金)18時22分46秒
うう、紗耶香…
ラストに期待…
157 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)20時58分57秒

あの、ひとけのない湖に私たちはいた。

竹のカゴの箱に、おがくずを敷いて、市井ちゃんを寝かせた。市井ちゃんの顔
は白くなってて血色が良くない感じだった。だから、私の口紅を塗ってあげた。

冬が迫りつつあるのか、紅葉は色あせて見える。あの時は涼しくて気持ちよか
った風が、今は少し冷たく感じる。

おがくずを灯油で湿らせる。厨房で借りてきたマッチで、竹のカゴに火をつけ
る。どんどん煙が出てきて、市井ちゃんの姿を覆い尽くす。ぱんぱん、と竹が
はぜる音がする。
158 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)20時59分34秒

3日間、ひざを抱えて、市井ちゃんの死に顔を眺めながら過ごした。一睡もし
なかった。食欲も無かった。怪しまれるといけないんで、ごはんは部屋のトイ
レに流した。

(市井ちゃん、先に行っちゃった)
(今度は、私が追いかける番だ)

白い煙が、空へと昇っていく。市井ちゃんの魂も、きっと。

−−−−−−−−−−−−
159 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時00分21秒

私は1人で旅館に帰ってきた。

首から下げた小瓶が、カラカラと乾いた音を立てた。ボストンバッグにすっぽ
り入っていた市井ちゃんは、こんなに小さくなっちゃった。

部屋に戻り、荷物をまとめる。そして
病院でこっそり貰ってきた、市井ちゃん用の睡眠薬を20錠、何回かに分けて
あとは待つだけ。

ふと思いついて、部屋から外に電話をかけた。
160 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時01分10秒

「もしもし、圭ちゃん?」
『え……?』
「後藤だよ。元気してた?」
『ごっちん!? マジごっちん? どこにいるのよもう! 今どこ? ねえ、
今までどこに行ってたのよ!』
「市井ちゃん死んじゃったんだ。さっき燃やしてきたところ」

十秒ほどの沈黙。

『……分かった。分かったから、あんた、そこにじっとしてな。今から迎えに
行くから』

「えっとねえ、後藤も、睡眠薬飲んだんだ。お腹いっぱい。ちょっと飲み過ぎ
てさ、気持ち悪くて吐きそうっていうか……えへへ」
『あ、あのさ、ごっちん、いい子だから、アタシの言うこと良く聞いて。まず、
救急車を――』

「昔は楽しかったね。芸能界に入ったばっかりの時、市井ちゃんと圭ちゃんと
私とでユニット組んで」
161 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時02分27秒

『ごっちん……』
「みんなからちやほやされてさ。あの頃が一番楽しかったな。一番楽しい遊び
だったよ。一生懸命だったし、つらいこともあったけど、でも、後藤的には、
市井ちゃんと圭ちゃんと、毎日遊び回ってる感じだったんだ。毎日がカーニバ
ルみたいにキラキラしてたよ」

『分かった。分かったからもういいよ。ごっちん。また遊ぼうよ。一緒にさ。
メンバーのみんなも心配してるよ』

「ありがと圭ちゃん。なんか眠くなってきたから切るね。おやすみなさい」
162 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時03分39秒

うつらうつらしていた私は、目で市井ちゃんの入ったボストンバッグを探した。
と、ボストンバッグががさっ、と音を立てた。あれ? 市井ちゃんなの? も
しかして、私を迎えに来てくれた?

ボストンバッグの後ろから、黒い猫が出てきた。にゃあ、と鳴いて、私の側に
すり寄ってきた。

わあ、市井ちゃん、猫になっちゃったんだ。

私は市井ちゃんのあごを撫でてあげる。市井ちゃんは気持ちよさそうにノドを
ゴロゴロいわせて、膝の上に乗ってきた。うん。ここはずっと市井ちゃんの場
所だったからね。
163 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時04分41秒

だんだん、目の焦点が合わなくなってきた。腕にも力が入らなくなってきて、
がたん、ってテーブルに手をぶつけちゃった。市井ちゃんはビックリしたの
か、私の膝から飛び降りた。ごめんごめん。

よし。じゃあ、私も猫に生まれ変わる。
それまで市井ちゃん、待っててね。

またいっぱい遊ぼうにゃん。
またいっぱい遊ぼうにゃん。
164 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時05分15秒


そして私は、瞳を閉じた。

165 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時05分59秒



166 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時06分48秒


167 名前:エピローグ 投稿日:2002年08月02日(金)21時07分27秒

サヤカフリークス
終わり

168 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月02日(金)22時17分11秒
娘。小説でここまでいっちゃってるのははじめて読みました。
妙に気になる作品でした。好きです。他の作品も読みたいです。
お疲れ様でした。どうもありがとうございました。
169 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)03時16分21秒
『南クンの恋人』を思い出しました。
哀しいけど 幸せで。。。
170 名前:クロ 投稿日:2002年08月03日(土)09時22分38秒
お疲れ様でした…
胸が締め付けられるを通り越えて、握りつぶされるような切ない作品でした。
ありがとうございます。すばらしい作品でした。
171 名前:名無し娘。 投稿日:2002年08月03日(土)09時37分13秒
至上でなく究極でもなく
そして神聖ですらないのだろう

それがどうした
172 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月04日(日)19時48分01秒
残された家族が不憫で不憫で・・・
俺の妹も自殺したからさ・・・
173 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月06日(火)03時39分40秒
異色の作品で、印象に残りました。
お疲れ様でした。
174 名前:H21 投稿日:2002年08月09日(金)19時51分12秒

こんな痛い割にはなんだか類型的なお涙頂戴話に感想を頂きまして、本当にあ
りがとうございました。

私としましては、下世話書きの分際でなんだか少し設定に酔って浪漫に走って
しまった感がありました。こけおどしの三文小説こそが私の理想です。
175 名前:H21 投稿日:2002年08月09日(金)19時54分49秒

〜〜〜〜〜ここから下、18禁〜〜〜〜〜〜

さて、少しばかり宣伝させて頂いて宜しいですか?
最近はすっかり企画ものづいていますが、某18禁サイトにてとある企画が持
ち上がりました。アイドルが二人一組でペアを作り、競馬に見立ててイカせあ
いをする物語を競作する、といったものです。これだけだとなんのことか分か
りませんが。

企画概要。
ttp://muvc.net/lilith10/200_kikaku.htm
私も、エロのみに特化したいちごまを書かせて頂きました。

題は、「strawberry-sex」
ttp://muvc.net/lilith10/text/200kikaku_01.htm
お暇があれば、斜め読みでもして頂ければ望外の喜びです。
176 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月12日(月)19時31分06秒
18禁の方は読んでたけど今さらここのに気がついた。
作者さんは素直な人だ。

Converted by dat2html.pl 1.0