インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板
空も飛べるはず
- 1 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時36分02秒
- 高橋が主人公の小説です。
もう出来上がっているので
全部まとめて更新します。
小説書くの二回目なんで、下手だと思いますが
よろしくです。
- 2 名前:プロローグ 投稿日:2002年07月19日(金)19時37分47秒
- 県立K中学。生徒約1000人を抱える学校だ。
そこでも、ほかの学校と同じように、ある問題を抱えていた。<イジメ>だ。
三年生の紺野あさ美。
彼女は中学の頃からのいじめられっこで、
ただ一人、クラスの違う友達以外は近づこうともしない。
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2002年07月19日(金)19時38分25秒
- の日もあさ美が教室へ行くと、机に「私はブタです。」とチョークで書いてあった。
それを見てため息をついた私を見て何人かの女子が笑い出す。
まるでアリの触覚や手足をもぎとって無邪気に笑う子供のように。
そういえば、昼休みにいつも通り弁当箱を空けたら中身が空になっていたことも何回もあった。
帰ろうとしたら靴がなかったこともあった。
そんな時、同じクラスの人はいっつも笑っていた。一人も助けてくれなかった。
いつもあさ美はブタ呼ばわりされている。男子の、いつも周りを笑わせる男が、
今日もブタのモノマネをしてクラスに笑いの渦を起こす。
あさ美は自分に向けられたその冷たい笑いの中、金を取られたりするよりはましだ。
と自分に言い聞かせた。しかしそんな虚しいことを考えている自分が嫌になる。
悔しさはいつも消えなかった。
- 4 名前:プロローグ 投稿日:2002年07月19日(金)19時39分02秒
- 勉強もたいしてできないあさ美にとっては、学校はこの世で一番嫌いな場所だった。
けれどあさ美が毎日学校に行っているのはたった一人の親友のためだった。
彼女の親友の名は高橋愛。彼女はあさ美と反対で、友達も多い。いつも明るい少女だった。
勉強もできて、スポーツもうまい。
あさ美は、なんでこの人が自分と一緒にいるのか良くわからなくなるときがある。
あさ美にとっては憧れの人だ。
あさ美と愛はほとんど毎日、学校から帰った後、どちらかの家で七時くらいまで遊ぶ。
愛は、あさ美がいじめられているのは知っていたが、
二人で遊んでいるときには決してその話には触れなかった。
放課後のあさ美は、学校とは別人のようによく喋り、よく笑った。
また学校でさんざん馬鹿にされながらも学校が終わった。
少しでもぼーっとすると、
今日学校であった嫌な思い出が心の隙間から滝のように入り込んでくるので、
あさ美はいつも、放課後は楽しいことばかりを想像することにしている。
最初はうまくできなかったが、最近では結構なれてきた。
そんなあさ美は今日もうきうきした足取りで愛との待ち合わせ場所に急ぐ。
- 5 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時39分36秒
- 私にとって、あさ美ちゃんはなにがあっても守らなくてはならない存在だ。
私はあさ美ちゃんがいじめを受けていることを知っていた。
だから私から近づいていった。それがせめてもの償いのつもりだった。
こっちに転校してくる前、小学校3年生のときだったと思う。
クラスに少し知能障害のある男の子がいた。
障害の程度が軽いので、普通学級に在籍していた
あれは、何月だったかはよく覚えていないけど、冬の日だった。
それまでクラスの雰囲気として、その子を排除しようとしてはいなかったと思う。
- 6 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時40分19秒
- 事件が起きたのは社会の授業中だった。
彼は突然口元を手でおさえてうつむき、胃の中にあったものを吐いてしまった。
それ自体は、小学生だったので、たまにあることだったが、
彼の出したものは、私の筆箱にもべっとりついてしまっていた。
その夜は私お気に入りの筆箱が汚されてしまったことの悔しさで泣いた。
それから私は、事あるごとに彼をいじめた。靴を隠したりして、
彼がオロオロしているのを影で見て笑っていた。
最初は憎しみからの行動だったが、しだいに習慣に変わっていった。
子供だったからと安易な逃げ道に走ることはしたくなかった。
子供だからといって許されることではないと自覚している。
だから、あさ美ちゃんの笑顔を見る度、私は救われているような気がする。
- 7 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時41分07秒
- 7月2日。今日、私は珍しくあさ美ちゃんに対して怒りを感じながら学校へ来た。
原因は、昨日の夜かかって来た一本の電話だった。
「もしもし、高橋さんよね。」
「はい。そうですけど、誰ですか?」
公衆電話からだったので警戒しながら応じた。
「私、加護亜依っていうの。知ってるよね?」
全身の毛が逆立つような気がした。
知らないわけもない。あさ美ちゃんをいじめている中でも主犯格の女だった。
「知ってるけど、あたしになんか用?」
「あなたさぁ、4組の佐藤君のこと好きなんだって?」
「な、・・・なんでよ。誰がそんなこと言ってたの?」
「やっぱそうなんだ!」
私は動揺を隠そうとしたが、遅かった。
声が震えていたことが、相手からすればイエスの返事同然だったはずだ。
受話器の向こうで、しばらく無邪気で甲高い笑いが続いた。
重なる笑い声からして、向こうには3人以上はいるらしかった。
- 8 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時42分15秒
- 「ち、ちょっと、そんなの嘘に決まってるじゃん。なんでそうなるのよ!」
さっきは誰が言ってたの、と聞いたが、少し考えれば誰かから聞いたはずはいことはわかった。
あさ美ちゃん以外に打ち明けていなかったからだ。
あさ美ちゃんはそんなこと誰かに言うわけないと信じていた。
だからその言葉の意味が理解できるまで時間がかかってしまった。
「あんたの大好きなあさ美ちゃんがいってたのよ。
ふふっ、あんなブタ信じるからいけないんだよ。じゃーねー。」
天使のような笑い声とともに電話は切れた。
- 9 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時43分01秒
- 私は電話を切った後、勢いよくベッドに倒れこんだ。
混乱していたので、落ち着くまで深呼吸を繰り返した。
あさ美ちゃんは本当に、加護さんたちに私があの人を好きなことを言ったんだろうか。
そんなことするはずない。
あさ美ちゃんなら、どんなにひどいいじめを受けてもそんなことを言うはずがない。
そう信じていた。
けれどそれ以外ありえなかった。ほかに可能性はない。
そう思うと悔しさがこみ上げてきた。このままでは興奮して眠れなくなりそうなので、
そのことを考えないように私はそのまま布団をかぶった。
- 10 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時43分35秒
- しばらくは、今日見たテレビの話題などを思い出していたが、ふっと、ある疑問が湧いてきた。
―なぜ彼女達は私にあんなことを教えたんだろうか。
私にあんなこと言った所で、彼女達が得をするとは思えなかった。
とすると、私とあさ美ちゃんの仲を悪くさせるのが目的だろうか。
それはあるかもしれない。
私があさ美ちゃんを避けるようになれば、はあさ美ちゃん落ちこんでしまうだろう。
それを見て笑う加護亜依達が頭に浮かぶ。
そう思うとあさ美ちゃんがかわいそうに思えたが、それぐらいで許すことはできなさそうだった。
- 11 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時44分09秒
- しかし、なぜ彼女達はあさ美ちゃんをいじめるんだろう。
昔の私と同じなんだろうか。
それになぜあさ美ちゃんは抵抗しないんだろう。
その2つの問いの答えは私にはわからなかった。
- 12 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時44分40秒
- 昨日の事を思い出しながら、ひとり学校に向かっていると友達がよってきた。
「愛ちゃんおはよ。」
「おはよう。」
その友達の向こうにあさ美ちゃんの姿が見える。
目が合った瞬間、怖くて目をそらした。
何が怖いのかわからないけど深くは考えないことにした。
もちろん怒りはおさまってないが。
- 13 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時45分12秒
- 授業中も昨日の事を思い出して集中できない。
やっと放課後になって私は何人かの友達と学校を出た。
結局加護さんたちは私には何も言ってこなかった。
しばらくしてその友達とも別れ、ひとりになる。
行くつもりはなかったのに、いつもの待ち合わせの場所に足が向かっていた。
大きな道路をわきに一本入ったところにある、小さな林を抜けて、草原に出た。
見わたす限りの草原で草の丈はくるぶしほど。
そこでいつも私達はしばらく話をしてからどちらかの家に向かった。
今日もあさ美ちゃんが来ているのか、木の陰からそっとのぞいてみた。
確かにあさ美ちゃんはいた。しかも、思いっきりこっちを見ている。
見つかった。
私は、ドキッとして逃げ出した。
面と向かって話したら、あさ美ちゃんにひどいことをいってしまいそうだったから。
まだ心の準備ができてなかった。
- 14 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時45分43秒
- 「まって、なんで逃げるの!?愛ちゃん!待ってよ!」
悲痛な叫びが背中に刺さる。
しかし私はその言葉を聞かないようにしてさらにスピードをあげた。
「まって、理由だけでも教えてよ!」私は耐え切れなくて、振り向きもせずいった。
「あさ美ちゃんが、私の秘密ばらしたからだよ!」
私は叫んでから、後ろの足音が止まったのに気付いて、走りながら後ろを振り返った。
あさ美ちゃんは、呆然と、凍りついたよう動かなかった。
ただ、あごから雫が絶え間なく落ちていた。
私は大事なものが崩れていくのを感じていた。
二度と戻れないような気がしていた。
ついこないだ交わした、夏休みに一緒にプールに行こう、と言う約束が十年前の約束のように頭をよぎった。
- 15 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時47分26秒
- 翌日。私は何事もなかったように学校へ向かった。
あさ美ちゃんに会わないですむようにと祈りながら。
教室に入り、朝の学活がはじまった。
いつも通り先生は明るく、何事もなく学活は終わった。
先生は最後に、目立たないように私を呼んだ。
私は先生に言われるまま廊下へ出た。
「実は、昨日の夜、2組の紺野が、自殺未遂を起こしたらしいんだ。
・・・今も意識不明の重体だ。何があったのか・・・」
そこまでしか聞こえなかった。周りの景色がぐるぐる回って、真っ白になって、私は倒れた。
- 16 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時49分02秒
- 気が付くと保健室にいた。
起き上がって周りを見るが、保健の先生は見当たらない。
ベッドの隣に私のカバンが置いてある。
朦朧とする意識の奥に、
さっきの先生の言葉がシャツについた醤油の染みみたいにくっきり残っている。
あさ美ちゃんが、意識不明。
私は弾みをつけてベッドから降りると、怖くなって走り出した。
上履きのまま学校を飛び出した。足の向くまま、全速力で走った。
それくらいで忘れることなんかできないのに・・・。
- 17 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時50分47秒
- どれくらい走っただろうか。私が足を止めると、来たことも無い場所にいた。
とりあえず、コンビニの横の植え込みのふちに座って呼吸を整えた。
足が震えている。後悔と言うより、怖かった。
なぜかはわからないけど、圧倒的な恐怖が私を押さえつけている。
心臓がものすごい勢いで踊っている。
ああ、あさ美ちゃん、私だよね、私のせいだよね。ごめん・・・。
あ、頭が痛い。痛いよ。
あさ美ちゃんとの楽しかった思い出ばっかり浮かんでくるよ・・・。
どうすればいい?ねえ・・・。ああ・・・。
ふと、私は飛び交う思い出のネガの中に加護亜依達の姿を見つけた。
そうだ。私じゃない。悪いのはこいつらだ。
あさ美ちゃんを追い込んだのも。
全部アイツラノセイナンダ・・・。
- 18 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時51分57秒
- コンビニに入って時計を見た。3時45分。
夕学活が終わって15分経っている。私は買い物をして、公園へ向かった。
あの加護亜依達がいるはずの公園へ。
彼女達はだいたい放課後はその小さな公園に溜まっていた。
何度か私も見かけたことがあったが、そのたびにあさ美ちゃんの事を思い出して歯がゆくなる。
だからそこを通るのはなるべく避けていた。しかし今日は真っ先にそこへ足が向かった。
滑り台と鉄棒と砂場とベンチしかない公園。
その中に今日も彼女達がいた。3人でベンチに座っている。
私はためらいもせず公園に入った。
- 19 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)19時54分35秒
- 「あ、高橋さんだ。昨日はどーも。」
加護亜依がおどけて言った。ほかの2人も大声で笑っている。
けれどそんなことで立ち止まったりはしなかった。
怖いほど冷静なのが自分でもわかった。
「なーに、なんか用・・・」
ズブッと言う音と共に果物ナイフが根元まで彼女の肌に突き刺さった。
血が私の腕を汚した。
瞬間的に彼女が半身になったため、ナイフは二の腕に刺さっていた。
「な・・・あ・・・。」
私は静かにナイフを抜いた。彼女は気絶してベンチに横たわった。
加護ともう1人の女は突然のことでおびえて声も出せない。
私は加護亜依を後回しにして、
もう1人の怯えて座り込んだ女の頭めがけてナイフの柄を振り下ろした。
ドコッと言う鈍い音がして彼女はあっけなく倒れた。
加護亜依は公園の隅でしりもちをついて震えている。
泣きながらゴメンナサイと連呼しているのが聞こえる。
そんなことで許すかっ!私は彼女の頬をナイフで切り裂いた。
また腕が血で汚れた。構わない。あさ美ちゃんのためだ。
- 20 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時05分28秒
- 「キャーー!!」
どこかで悲鳴が聞こえる。
ふと我に返ると、
公園の入り口で犬を連れたおばさんがこっちを見て大声でわめいてる。
そして私の手にはナイフが・・・。
急に全身に力が戻って、私は走り出した。
- 21 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時06分41秒
- 私はいつもあさ美ちゃんと待ち合わせしているあの草原にきていた。
たどり着くなり倒れこんで、草に顔をうずめた。
懐かしい草のにおいがした。
しばらくして顔を上げると、もう辺りは薄暗い。
空には星がいくつか輝いているものの、まだ西の空は紅くて、
綺麗なグラデーションを作っていた。
私は仰向けになって、
その空を眺めながらここであさ美ちゃんと話したいろんな事を思い出した。
意外といろんな星の名前知ってたな、あさ美ちゃん。
こうしてみると、あさ美ちゃんとの思いでは私の人生の多くの部分を占めていることがわかった
- 22 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時09分38秒
- ふと、おなかが食事を求めて声を上げた。
私は恥ずかしくて誰も見ていないと知りつつ辺りを見渡した。
とっさだったのでそれがなんであるか理解するのに10秒はかかった。
警官だ。
明らかに私を探しに来ている。
加護亜依達がここに私がいるかもしれないと言ったのだろう。
林の入り口あたり、100メートルほど離れたあたりで懐中電灯2つ動かしている。
このままここにいたら確実に見つかる。
けれどいくら走った所で隠れる場所なんかどこにもない。
いや、一箇所だけ、5メートルほど先に大きな木がポツリと生えている。
悩んでる時間はない。警官が今も近づいてきている。
とっさに私はその木に走った。
- 23 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時11分54秒
- もうすっかり日も落ちて、真っ暗になった草原に懐中電灯の光が走る。
それを私は胸を押さえ息を殺して見ていた。
しばらく光があちこちを照らした後、この木の幹に光が集まった。
二人は二言三言、言葉を交わしてからこちらへやって来た。
少しずつ足音が大きくなって行く。
ついに警官二人は木の前に来た。
心臓が耳の横に来たようにすごい音で脈打っている。
「おい、そこにいるのはわかってるんだ!出て来い。」
一人がどうしようもないくらい大きな声で言った。
私は唇を噛んで恐ろしさを耐えた。
「出てこないならこっちから行くぞ。」
そう言って警官は木の裏側にまわった。
「あれ・・・。」
当然のことながらそこに私の姿はない。警官二人は顔を見合わせた。
「あの女たち、絶対ここにいるっつってたのによ・・・。」
怒鳴っていたほうの警官がバツ悪そうな顔で言った。
「まあいいさ。そのうちここに来るかも知れない。
明日夕方にでもまた来よう。」
もう一人のほうは少し年上のようだ。
怒鳴っていたほうをなだめて二人は帰っていった。
- 24 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時12分33秒
- 私は完全に二人の姿が見えなくなってから30数えて、
ようやく木から降りた。
何度かあさ美ちゃんと登ったことがあったから、すぐ登れたんだろう。
私はあさ美ちゃんに心の中でありがとうと呟いた。
- 25 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時14分07秒
- 加護亜依たちは、警察に行ったらしい。
ということは、私は傷害事件の犯人になってしまった。
このまま逃げるほうがいいのか、それとも自首したほうがいいのか。
当然このまま行方をくらまして生きていけるはずがない。
お金だって財布に二千円とちょっとしか入っていなかった。
けれど、加護亜依たちを傷つけたことへの反省の念は、私は少しも持っていない。
彼女達のせいで捕まるのはいやだった。彼女達が憎かった。
向こうも同じだろうが。
とりあえず、さっきの警官の話からして、
今日ここで寝ても問題はなさそうだ。
私は手を頭の後ろで組んで枕にし、星を見ながら眠った。
- 26 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時15分50秒
- 目が覚めたのはまだ日の出前だった。
青い闇の中で、おなかが休む間もなく鳴っている。
昨日は警官を見た興奮で空腹を忘れていたようだ。
私は立ち上がり大きく伸びをして、近くのコンビニへ向かった。
コンビニの前で立ち止まった。ドアに掛けた右手が赤く染まっていたからだ。
長袖のシャツのひじのあたりまで血がついていた。
私は仕方なく腕まくりをして、左手を沿えてさりげなく隠した。
右手はポケットに入れた。
落ち着くように自分に言い聞かせ、パンとおにぎりとお茶を買う。
レジの時店員がジロジロとこっちを見ていたが無視して店を出た。
その時時計を見たら、まだ四時過ぎだった。
- 27 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時16分21秒
- 店を出て、近くの公園へ向かった。そこの水飲み場で手を洗った。
しかし彼女達の血はいくらこすっても取れない。
私はあきらめてさっきまでいた草原に戻った。
そこで食事を取ると、急に睡魔が襲ってきて、私はまた眠りについた。
- 28 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時17分21秒
- 次に目が覚めたときには、もう日が高く昇っていた。
跳ねるように飛び起き、深呼吸をした。
しばらく晴れ渡った空を見て、ゆっくり確めるように歩き出した。
行き先は決まっていた。あさ美ちゃんのいるはずの病院だ。
夏の訪れを感じさせる陽射しの中、二十分ほど歩いた所に病院はあった。
かなり大きく、きれいな病院だった。
その病院で、どうやってあさ美ちゃんの病室までたどり着いたのかは覚えていない。
とにかく早くあさ美ちゃんの顔が見たくて浮ついていた。
気が付くと私はあさ美ちゃんの病室の前にいた。
- 29 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時19分00秒
- ドアを開け中に入ると、
あさ美ちゃんは口に人工呼吸器のようなものがあてられ、
腕には点滴のチューブが生えていた。
そしてベッドの隣にはあさ美ちゃんのおばさんが座っていた。
「あの・・・。」
「あ、愛ちゃん。よく来てくれたわね。」
いつもは元気だったおばさんは、痛々しい笑顔を私に向けた。
「はい。あの、あさ美ちゃん、どうなんですか?」
「・・・命に別状はないらしいわ。今は意識がないけど、そのうち戻るみたい。
・・・服毒自殺をしようとしたらしいわ。救急箱の中の薬をかたっぱしから・・・。」
「そうですか・・・。」
あさ美ちゃんのおばさんが妙にとげとげしくて、少しだけ話をして病室を出た。
とりあえず命に別状はないということで、少し安心した。
階段を降りた所で、私はふと聞き覚えのある声を耳にした。
- 30 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時20分03秒
- 「紺野あさ美さんの病室を教えていただけないでしょうか。」
昨日の警官が受付にいた。五メートルと離れていない。
突然の出来事に体がついていけなかった。
今度こそ隠れる場所もない広々としたロビー。
第一こんな所で、警官を見て隠れたらまわりの人に怪しまれる。
もはやどうすることもできず、私は呆然と立ち尽くした。
- 31 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時21分20秒
- その日、私は生まれて初めて取調べを受けた。
未成年ということで、想像していたほど厳しいものではなかったが、
私はすっかり怯えてしまって、その分時間がかかった。
そしてそのまま警察で、動物園のライオンのような気持ちで一夜を明かした。
次の日の朝、私に会いたい人がいるということで、私は面会用の部屋に向かった。
正直、誰とも会いたくない気分だったけど、
心配してきてくれた人を追い返すわけにも行かなかった。
けれど、ドアを開けると、そこにいたのは意外な人物達だった。
- 32 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時22分52秒
- 加護亜依たち、私がナイフで傷つけた三人がそこにいた。
それを見たとき、私は思い出した。
三日前にかかって来た電話で私をあざ笑っていた声。
今度は、警察に捕まった惨めな私をあざ笑いに来たのか、
それとも傷つけられた憎しみをぶつけに来たのか。
見ると、一人は腕に包帯を巻いている。
もう一人は頭にネットのようなものをつけている。
そして加護亜依は頬に大きなガーゼをあてていた。
- 33 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時26分12秒
- 私は悔しさに興奮する胸を静めるように深呼吸して、席についた。
すると三人は椅子から立ち上がった。
思いもよらない行動に驚く私を見ながら、
彼女達はゆっくりひざを地面につき、頭を下げた。
驚きに目を見張る私をよそに、彼女達は私に土下座をしていた。
「ごめんなさい・・・。ほんとにごめんなさい。」
混乱して何がなんだかわからなかった。
「え、いや、と、とにかく顔あげてよ。」
その言葉に三人は顔を上げた。三人とも泣いていた。
「・・・私達やっと気付いたの。今までどんなにあさ美ちゃんを傷つけてたか。
今さらわかったって遅すぎるんだけどね。」
そう言って彼女たちはしばらく声を上げて泣いた。
「私達はほんとにバカだった。ゲームで遊ぶ感覚で、あさ美ちゃんをいじめてた。
理由もないのに傷つけた。」
「・・・実は、あなたの好きな人の話、あさ美ちゃんを脅して聞き出したの。
『言わないと高橋も殴る。』って・・・」
- 34 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時27分45秒
- 「あさ美ちゃんからの手紙がなかったら、私達今でもあなたを憎んでたかも・・・。」
「手紙?」
「あなたの所にも届いてるはずだよ。読んであげて。」
「うん・・・。」
また狭い部屋にすすり泣く音だけが充満する。
私は胸が熱くなっていくのを感じた。
そうするうちに面会時間はすぎた。最後に
「ありがとう。」
と言って別れた。
再び一人になった私が自分の場所に帰ると、中に一通の封筒が置いてあった。
あさ美ちゃんからだった。
消印の日付はおととい、あさ美ちゃんが自殺未遂を起こした日だ。
私は暗い部屋の中で、その手紙を読んだ。
- 35 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時29分09秒
- 愛ちゃんへ
今まで私と仲良くしてくれてありがとう。本当に楽しかったよ。
ひとつ言っておきたいんだけど、私は愛ちゃんも、
加護さんたちも憎んでません。
ただ私が弱い人間だっただけです。
だから愛ちゃんも、加護さんたちと仲良くしてね。
私は愛ちゃんと出会えて本当に幸せでした。
目を閉じると愛ちゃんとのたくさんの思い出が蘇って来ます。
実は今も思い出して少し泣きながら書いてます。
私が死んでも、強い愛ちゃんのことだからすぐに立ち直ると思うけど、
時々は私のことも思い出してください。
あなたの幸せを心から願っています。
最後に、今年の夏にプールに行く約束、守れなくてごめんなさい。
紺野あさ美
私は一言ずつ噛み締めるように読んだ。
そして、あさ美ちゃんと出会えた奇跡を、一生大切にして行きたいと誓った。
同じ頃、紺野は病院のベッドで、ゆっくりと瞼を開いた。
【空も飛べるはず】 おわり
- 36 名前:ルー 投稿日:2002年07月19日(金)20時30分57秒
- これで終わりです。
感想があれば是非書いてください。お願いします。
- 37 名前:サファイア 投稿日:2002年07月20日(土)00時11分19秒
- すごくいい。もっと書いてほしい。その後の話とか。今度は、紺野視点とか。まじで希望です。
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月20日(土)02時05分12秒
- 手紙部分泣きました‥紺野視点でも読みたいお話ですね。
- 39 名前:ルー 投稿日:2002年07月20日(土)21時16分14秒
- >>サファイアさん >>名無し読者さん
感想どうもありがとうございます。
で、紺野視点の話なんですが、すいませんが
事情があってできません。
なのでまた新しい話を、
今度は少しずつ載せようと思います。
- 40 名前:ルー 投稿日:2002年07月20日(土)21時20分02秒
- この作品はいしよしものです。
なにげに受験生なので更新が滞ることもあるかもしれませんが
よろしくお願いします。
- 41 名前:ルー 投稿日:2002年07月20日(土)21時22分09秒
- 【切手のない贈り物】
石川梨華は、入院生活がこんなに退屈だなんて思っていなかった。
娘。のみんなも時々きてくれるけど、それ以外の時間はひどく退屈だ。
忙しければ考える時間もなくなるのに。
しかし、あと少しで退院だ。
退院したら、どんな生活が待っているんだろう・・・。
少なくとも、今までと同じ生活は送れない。
- 42 名前:ルー 投稿日:2002年07月20日(土)21時23分33秒
- 思えば一週間以上前のことだ。私がこうなったのは。
あいぼんの提案で、飯田さんのマンションの近くの土手で花火をやった。
五期メンはすっごく楽しそうに騒いでた。
私も大はしゃぎして四十連発なんて言うでっかい花火に火をつけた。
今でもはっきりと覚えてる。と言うか、忘れたいのに忘れられない。
火をつけたのになかなかあがらなくて、注意書きを読もうとして持ち上げた。
そしたら矢口さんが私に何か言ったので、私は振り返ろうとした。
そのとき、突然花火は暴発した。
その後の事を私は覚えてないが、すぐ救急車が呼ばれたらしい。
目が覚めたのは次の日の昼過ぎ。手と顔に包帯が巻かれていた。
そして、医者に言われたのは恐ろしく残酷な言葉。
「石川さん。命に別状はないが、顔の、あなたから見て右側のやけどがひどくて跡が残る。
正直に言って、このまま芸能活動を続けるのは難しいだろう。」
- 43 名前:ルー 投稿日:2002年07月20日(土)21時25分19秒
あれからもう半月だ。最初はほんとにショックだった。
メンバーや友達が見舞いに来てくれたが、
誰もが最初はよそよそしく接してきた。
娘。のメンバーは何回も来てくれているけど、
五期メンはいまだにまともに話せないようだ。
恋人同士のはずのひとみちゃんも、少しぎこちなく感じる。
それも仕方ないだろう。
顔が包帯でぐるぐる巻き、いわばミイラのような格好だ。
包帯は朝晩二回取り替えるがまだその時に鏡を見たことがない。
できるならこの先も見たくはない。
まだ受け入れることができてないし、受け入れたくなかったから。
- 44 名前:ルー 投稿日:2002年07月20日(土)21時27分20秒
- 今日も、病院の中で間延びした時間を送っていた。
そしたら昼過ぎ、マネージャーが真剣な顔をして私の病室を訪れた。
「石川、具合はどうだ?」
「はい、おかげさまで順調みたいです。」
「そうか・・・。」
マネージャーはため息をついて外を見た。
「どうしたんですか?」
「・・・石川、今までよく頑張ってくれた。今回のことは本当に残念だ。
それで、娘。のことなんだけど、・・・やっぱり、もう戻れない。
来週にもマスコミに脱退のFAXを流すけど、それで良いよな・・・。」
「・・・はい。」
良いわけはなかったけど、私はうつむいて返事をした。
みんなが私から離れていく気がした。
これからどうなってしまうんだろう・・・。
- 45 名前:ルー 投稿日:2002年07月20日(土)21時32分19秒
- 今回はここまでです。
感想、批判、指摘お待ちしてます。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月22日(月)17時27分21秒
- 「空も飛べるはず」感動しますた(´Д⊂
「切手のない贈り物」も続きを楽しみにしてます。
- 47 名前:ルー 投稿日:2002年07月22日(月)18時29分40秒
- >>46さん
どうもありがとうございます。
期待にそえるように頑張ります。
- 48 名前:ルー 投稿日:2002年07月22日(月)18時30分46秒
- その日の夕方、マネージャーが帰って、私がしばらく暗い妄想に浸っていたら、
ひとみちゃんが本を何冊か持ってやってきた。
「じゃーん。二人だけで会おうと思って。暇つぶし用に小説も持ってきたよ。」
「あ、ありがとう。」
「・・・どうかしたの?」
表情は見えなくても声の様子でわかってしまったらしい。
私はさっきマネージャーに言われたことをひとみちゃんにも伝えた。
「わかってはいたんだけど・・・。やっぱりはっきり言われちゃうと・・・。」
「そっか・・・。」
「ねえ、ひとみちゃんは私から離れて行ったりしないよね。」
「・・・もちろん、当たり前じゃん!」
「そうだよね、よかった・・・。」
私は笑顔を包帯の下に作って言ったが、
ひとみちゃんが少し戸惑った表情を作ったのを見逃さなかった。
ひとみちゃんまで離れていったら、私はどうすればいいかわからない。
- 49 名前:ルー 投稿日:2002年07月22日(月)18時31分36秒
吉澤は帰り道で考えていた。
あんな姿の梨華ちゃんを見るのをいつまで耐えられるか。
あの包帯を見るのがすごく悲しかった。
あの包帯の中から梨華ちゃんの声が聞こえることがすごく悲しかった。
もうあの梨華ちゃんは帰ってこない・・・。
- 50 名前:ルー 投稿日:2002年07月22日(月)18時35分35秒
梨華ちゃんのところへ行った次の日の仕事中、
あたしは高橋から呼び出された。
場所は、テレビ局の倉庫みたいなとこ。
あたしは戸惑いながらも、その場所へ向かった。
ドアを開けると、薄暗い中に高橋がいる。
「あ、来てくれたんですね。」
「うん、まあ。で、話ってなに?」
「あの、その、実は・・・。」
なんかもじもじしながら頬を赤らめている。いつになく可愛かった。
「私、吉澤先輩のことが、好きです。」
・・・一瞬の沈黙。
予想してたとはいえ、胸が苦しかった。
「ごめん高橋。私には梨華ちゃんが・・・。」
「なんで?あの人はもう、あの人の顔は一生あのまんまですよ。
それでもいいんですか?
先輩は耐えられるんですか!?」
「高橋・・・、あんた梨華ちゃんがあんなになって喜んでんの?」
「いやっ、そんなわけありませんよ。ただ・・・。」
「もういいっ!」
「先輩っ!」
あたしは逃げた。高橋が怖かった。
自分の考えていることが言い当てられたからだった。
それと同時に、高橋の私に対する思いの強さが感じられたから。
このままではほんとに梨華ちゃんから気が移ってしまうかも・・・。
- 51 名前:ルー 投稿日:2002年07月22日(月)18時36分57秒
- そんな絶望的ことを考えて走っていたら、曲がり角の所で人とぶつかった。
「きゃっ!す、すみません!」
「吉澤さん。どうしたんですか?そんなにあわてて。」
「あ、松浦か。ごめんね。まあ、いろいろあってさ・・・。」
「そうなんですか・・・。」
そう言って松浦はあたしの顔をまじまじと見た。
「あの、吉澤さん、ちょっと話したいことがあるんですけどいいですか?」
「あ、うん・・・。」
あたしは松浦に促されて近くの空き部屋に入った。
- 52 名前:ルー 投稿日:2002年07月22日(月)18時40分00秒
ドアを閉めるなり松浦は言った。
「わたし、吉澤さんのことが好きです。付き合ってくれませんか?」
軽い眩暈がわたしを襲う。松浦はたたみ掛けるように言った。
「今までは、石川さんと付き合ってるの知ってたから、どんなに胸が苦しくても言えなかった。
でも、今は違う。
一時期は、石川さんの事故を利用して
吉澤さんと付き合いたいなんて思ってる自分が、
情けなくて仕方なかった。でも最近ははっきりと自覚した。
それくらい吉澤さんのことが好きなんだって。」
あたしは混乱してしまった。
二人がこんなにも自分の事を思っているなんて気付かなかった。
まともに松浦の顔が見れず、思わずしゃがみこんだ。
急にしゃがみこんだあたしに、松浦は駆けよってくる。
「ど、どうしたんですか!?」
「大丈夫、なんでもない。…悪いけど独りにさせてくれる?」
「・・・はい。わかりました。」
松浦は戸惑いながらも部屋を出て行った。
- 53 名前:ルー 投稿日:2002年07月22日(月)18時41分45秒
- 今回はここまでです。
感想、批判等あったら是非書いて行って下さい。
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月23日(火)08時00分06秒
- 新しい話もいきなりシリアスな展開ですね。
面白いと思います。(語弊があるかも。笑うような話じゃないし。)
ただこう言う話を読むと、自分はハッピーエンドが好きな人間だなと実感します。
(すぐに出てくるキャラが皆幸せなら良いと思ってしまう。)
少し気になる事も書かせてもらいます。
1人称の対象が途中で石川から吉澤に変わりますよね。
導入部もあるし、”私”と”あたし”で使い分けていて、
よく工夫されていると思いますが、読んでいて少し感覚的に
スムーズでない様に感じました。
微妙な事で申し訳無いし、具体的にどう、と言う事でもないので
難しいとは思いますが、こういった感覚的なところに大事な部分があるとも思います。
偉そうに言って申し訳無いけど、もし良かったら参考にしてみて下さい。
あとは、話とはあまり関係無いけど、石川が吉澤の事を”ひとみちゃん”と呼ぶのが
耳慣れ(見慣れ)くて、何か不思議な感じです。(笑
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月23日(火)18時45分23秒
- この手の小説大好きっす(´Д`;)
続きを激しく待ってます
- 56 名前:ルー 投稿日:2002年07月24日(水)21時23分49秒
- >>54
ありがとうございます。すごく参考になります。
一人称が変わる所、読み返してみたら自分でも違和感を感じました。
これから気をつけてみます。
吉澤の呼び方は、恋人のシチュエーションなので、ひとみちゃんを
使ってみました。
>>55
ありがとうございます。受験が迫っていますが、
2日に一回ぐらい更新していくつもりです。
- 57 名前:ルー 投稿日:2002年07月24日(水)21時25分36秒
- 同じ頃、石川梨華の病室にまたマネージャーがやって来た。
前に来た時と同じような顔つきだった。
「なあ、石川はファンの人達を騙し続けるのとモー娘。を抜けるのどっちがいい?」
突然の問いかけに私は言葉をなくしてマネージャーを見た。
「実は、医者からこんな話を聞いたんだ。
確かにその顔は手術でも治らない位ひどい状態だけど、
マスクをつければ元の顔に戻ることはできるって。」
「マスク・・・?」
「そう。その医者の知り合いが作ってるらしいんだけど、
薄くてそっくりで、
それなら絶対ほかの人にはばれないって。
もちろんずっとつけたまんまってわけにも行かないらしいけど。」
- 58 名前:ルー 投稿日:2002年07月24日(水)21時27分01秒
「・・・ぜひ、お願いします!」
「そんな即答しなくたっていいのに。時間はたくさんあるよ。」
「いえ、いいんです。」
「そう・・・、わかった。頼んでおくよ」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、お大事にね。」
マネージャーはそう言って病室を出た。
いつもの私なら、そんなものが欲しいとは思わなかったはずだ。
けど今は違う。確実にひとみちゃんの心が私から離れて行ってる。
それは私にとって何よりも大きな問題だった。
そのマスクをつけることでひとみちゃんが戻ってくるなら何も怖くない。
たとえそれが多くの人を欺くことになっても。
- 59 名前:ルー 投稿日:2002年07月24日(水)21時28分12秒
次の日、私は事故後初めて病室の鏡で自分の顔を鏡で見た。
受け入れなくてはいけないと思ったから。
・・・ゆっくりとほどけていく包帯の中から徐々に私の顔が現れる。
醜かった。
昔の私はもうどこにもいなかった。
まるで邪悪な生物がうごめいているような不気味さだ。
私は湧き上がるさまざまな感情に震え上がった。
吐き気のようなものを感じ、近くに置いてあった本を鏡に向かって振りかぶる。
しかし投げつけることはできなかった。
受け入れなければならないのだ。
私が受け入れなければひとみちゃんに受け入れてもらえるはずがない。
私は深呼吸を繰り返し、また鏡の中の私と向き合った。
- 60 名前:ルー 投稿日:2002年07月24日(水)21時29分29秒
石川が鏡を覗いた日の正午頃、吉澤は真剣に悩んでいた。
あたしが梨華ちゃんを好きになった理由ってなんだろう・・・。
とりあえず、かわいいからと言う理由だけではなかったはずだ。
一目ぼれではなかったから。
しばらく一緒に仕事をしていて、好きになったはずだ。
それに比べてあたしは高橋や松浦の事をあまり知らない。
今までなら梨華ちゃんを捨ててほかの人となんて考えられなかった。
けれど今の梨華ちゃんを見るのは正直耐えられそうもない。
そんなことをぼんやりと考えていると、急に携帯が震えた。
- 61 名前:ルー 投稿日:2002年07月24日(水)21時30分17秒
- 圭ちゃんからの着信だった。
「もしもしよっすぃー? すぐ来てくれる?
なんかさ、高橋が松浦と大ゲンカしちゃって大変なんだよ。
それで理由を聞いたんだけど、吉澤さんが、吉澤さんが、って
つぶやいて二人とも倒れちゃったの。」
「え・・・で、二人は今どこにいるの?」
「近くの病院で休んでる。」
あたしはそこまで聞くと何も言わずに電話を切った。
そして大急ぎで仕度をして部屋を出た。
- 62 名前:ルー 投稿日:2002年07月24日(水)21時31分27秒
- 今回はこんな感じです。
感想など書いてもらえるとうれしいです。
- 63 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年07月25日(木)17時22分39秒
- いつもおつかれさまです★
ルーさんの小説、いつも楽しみに待ってる中学生です。
最初の、よっすぃーが記憶を失った話もおもしろかったです。
続き楽しみにしてます。これからもぎゃんばってください!
- 64 名前:ルー 投稿日:2002年07月26日(金)23時32分31秒
- >>63
どうもありがとうございます。
これからも頑張っていきます。
といっても、残り2.3回の更新で終わりですが。
- 65 名前:ルー 投稿日:2002年07月26日(金)23時34分39秒
- 私が鏡で自分の顔を見たすぐあとに、マネージャーが私の病室に来た。
小さな袋を持っている。
「あ、おはようございます。」
「おはよう。さっそくできたよ。」
と言ってマネージャーは袋から何かを取り出す。
――私の顔だった。
事故前の私の顔を再現したマスクだ。
「つけてみな。」
そういってマネージャーはマスクを私に手渡した。
私はしばらくそれを見つめてから、顔に当てた。
そのまま鏡を見ると、以前の私がいた。
他に考えることがあったかもしれないが、このとき私は
これでひとみちゃんが戻ってきてくれるだろう、と言うことしか考えられなかった。
私はいつまでも鏡に見入っていた。
- 66 名前:ルー 投稿日:2002年07月26日(金)23時35分48秒
- あたしが梨華ちゃんの病室の前についた時には、もう三時をまわっていた。
部屋の前で、落ち着こうと自分に言い聞かせ、深呼吸を繰り返す。
ゆっくりと扉を開けるといつも通り梨華ちゃんは包帯をつけてベッドに横になっていた。
「ひとみちゃん、いらっしゃーい!」
梨華ちゃんの明るい声が少し耳に痛かった。
タイミングを失ったあたしは、なかなか別れ話を切り出すことができずに
しばらく梨華ちゃんの世間話に流された。
「どうしたの?ひとみちゃん。なんか元気ないみたい。」
突然、梨華ちゃんはあたしの顔をまじまじと見て言った。
あたしは口ごもったが、梨華ちゃんはたいして気にしていないようだ。
- 67 名前:ルー 投稿日:2002年07月26日(金)23時36分49秒
- 「実は、今日はひとみちゃんに重大発表があるの。」
そう言って包帯を解きだす梨華ちゃん。わたしは驚いて目を見張った。
そして包帯の下から出てきたものを見てあたしはさらに驚いた。
――それは紛れもなく、事故前の梨華ちゃんの顔だった。
驚くあたしに、梨華ちゃんは興奮して何かを話し掛けている。
しかしあたしはうわのそらで、聞こえていなかった。
- 68 名前:ルー 投稿日:2002年07月26日(金)23時37分45秒
あたしは自分が情けなくて仕方なかった。
ついさっきまで別れ話をする機会を伺っていたのに、
梨華ちゃんの元の顔が目の前に現れた瞬間、
梨華ちゃんと別れるのがもったいないと言う考えが頭に浮かんで来たから。
最低だと思った。
所詮自分は恋人を顔で選んでいるだけだった。
- 69 名前:ルー 投稿日:2002年07月26日(金)23時38分46秒
「あたし、やっぱり梨華ちゃんと付き合えないよ・・・。」
あたしはそう言い残して小走りに部屋を出た。
一瞬、梨華ちゃんがものすごく悲しそうな顔をしているのが見えたが無視した。
そのまま病院を出ると、さっきまで晴れていたはずなのに、いつの間にか
雨が降っていた。
濡れるのも構わず、あたしは駆け出した。
- 70 名前:ルー 投稿日:2002年07月26日(金)23時40分38秒
- ということで今回はここまで。
感想、批判などお待ちしてます。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)23時58分53秒
- 更新、乙カレーです(・∀・)
毎回楽しみに待ってますので
最後までがんがってください。
- 72 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月27日(土)08時54分10秒
- 何か急に展開が忙しくなってしまった様な感じがします。
今までの展開が丁寧だったので余計そう感じてしまいます。
66の頭で少し説明が欲しいかな。
あと、61の続きは無いのでしょうか?
- 73 名前:ルー 投稿日:2002年07月27日(土)11時10分56秒
- >>71
ありがとうございます。がんばります。
>>72
すいません、俺のミスです。
>>61と>>65の間に下の文章がはいります。
- 74 名前:ルー 投稿日:2002年07月27日(土)11時12分34秒
- 高橋と松浦は隣同士のベッドで、二人とも漫画を読んでいた。
あたしが息を切らして病室に入ると、二人は気まずそうにあたしを見た。
それを無視して、あたしは電車の中で何度も練習した言葉を口にした。
「あたし、梨華ちゃんと別れようと思う。
そして高橋と松浦、二人と付き合いたい。」
さんざん考えた末の結末だった。
あたしにはこれ以上梨華ちゃんと付き合うことができそうもなかった。
けれど、高橋と松浦、片方と付き合えばまたケンカになるかもしれない。
それにあたしには二人に順位をつけることはできなかった。
これで、うまくいくはずだと思っていた。
「・・・二人と付き合うってどういうことですか。」
「そのとおりの意味だよ。あたしには二人のどちらかを選ぶなんてできない。」
二人は、どうしていいかわからない子供のような顔であたしを見上げる。
「そのかわり、絶対に二人でケンカしないって誓って。」
二人はしばらく顔を見合わせた後、うなずいた。
あたしはそれに満足して、病室を出た。
もう一箇所行かなければいけない場所があった。
- 75 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年07月27日(土)22時21分05秒
- 梨華ちゃんかわいそう・・・
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)02時08分34秒
- うおぅ!
始めて読んだのですが…悲しい、悲しすぎる。
そして続きがとても気になります。
マタ−リ更新待ってます!
- 77 名前:ルー 投稿日:2002年07月28日(日)02時48分54秒
- わけがわからなかった。きっとひとみちゃんも喜んでくれると思ってたのに、
まさか逃げ出されるとは。
まるでたった今夢から覚めたような感じで、
だんだんまわりの景色が現実味を帯びてくる。
さっきのひとみちゃんの言葉が思い出された。
『あたし、やっぱり梨華ちゃんと付き合えないよ・・・。』
同時に涙が溢れてくる。
私は止まらない涙を指で拭って、ひとみちゃんを追って走り出した。
幸い廊下には誰もいなくて、全速力で駆け抜けることができる。
階段も二段飛ばしで降りた。
- 78 名前:ルー 投稿日:2002年07月28日(日)02時49分52秒
- やっと入り口まで来たが、夕立で大粒の雨が降っている。
少しためらったが、雨は涙を隠してくれる。構わず前の通りに出た。
右の方に、ひとみちゃんの後ろ姿がみえる。
ひとみちゃんは私が追いかけているのも気付かずに、
近くの公園へ入っていった。
私はまた出せる限りのスピードでひとみちゃんを追う。
いつのまにかマスクが取れていた。
- 79 名前:ルー 投稿日:2002年07月28日(日)02時50分42秒
あたしはびしょ濡れになりながら公園のベンチに座っていた。
ザーッと言う音と共に雨は容赦なくあたしに降り注ぐ。
それが余計にあたしの心を煽った。
- 80 名前:ルー 投稿日:2002年07月28日(日)02時51分42秒
- さっき見えた、梨華ちゃんの火傷の跡なんかよりよっぽど醜い自分の心に、
あたしは戸惑っていた。
なので、落ち着くまで待とうと深呼吸をしていた時だった。
「ひとみちゃん!!」
「り、梨華ちゃん!?」
公園の入り口に、びしょ濡れの梨華ちゃんが立っていた。
その顔には火傷の跡が生々しく残っている。
「ひとみちゃん!!」
梨華ちゃんは叫びながら駆け寄ってきた。
- 81 名前:ルー 投稿日:2002年07月28日(日)02時52分41秒
- その時あたしは気付いた。
あたしは、高橋よりも松浦よりも、梨華ちゃんのことが好きなんだって。
顔なんて関係なく、梨華ちゃんの心が好きなんだって。
いつも誰にでも優しくて、時々寒いこと言うけどいっつも笑ってて、
あたしと二人きりの時は子供みたく甘えてきて、マイペースで・・・。
そんな梨華ちゃんが好きだったんだ。
でも、気付くのが遅すぎた・・・。
- 82 名前:ルー 投稿日:2002年07月28日(日)02時53分53秒
- 「梨華ちゃん・・・、ごめん。」
「え・・・?」
「あたし、今やっと気付いた。
高橋や、松浦なんかと比べられないほど、梨華ちゃんのこと好きなんだって。
でもあたしは梨華ちゃんのこと裏切った・・・。」
「そんなこといいよ! 私は気にしない。それより、ひとみちゃんがまだ私のこと
好きでいてくれてすごくうれしい。」
「梨華ちゃん・・・。」
大粒の激しい雨が打ちつける中、私たちは約束のくちづけを交わした。
宇宙のどこにも見当たらないような約束のくちづけを。
- 83 名前:エピローグ 投稿日:2002年07月28日(日)02時55分34秒
- 数日後、石川梨華引退のファックスが各マスコミにおくられた。
本人の希望で、ありのままに原因が書かれていた。
マスクは本人が持っていったが、あまり使っていないと言うことだ。
高橋と松浦は、いつのまにかすっかり仲良くなって吉澤を驚かせた。
あとになって発覚したことだが、矢口も吉澤を狙っていたらしい。
しかし、今回の事件のあと、吉澤の気持ちが動くことは決してなかった。
切手のない贈り物 おわり
- 84 名前:ルー 投稿日:2002年07月28日(日)03時12分33秒
- そんなわけで終了です。最後なので多く更新してみました。
読んでくださった皆さん、どうもありがとございます。
最後が中途半端に終わってますが、
続きをいろいろ想像してもらえるとうれしいです。
>>75さん >>76さん
ありがとうございます。
これから先は、石川も幸せに過ごしていくことでしょう(w
感想、指摘、意見等おまちしています。
- 85 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月28日(日)12時23分55秒
- よかった…よかったですよ。
そして
( O^〜^)<おまえもかよ!
(;〜^◇^)<きゃはははは
そんわけで(どんなわけ?)完結おめ!
- 86 名前:ルー 投稿日:2002年07月29日(月)00時42分54秒
- >>85さん
どうもありがとうございます。うれしいっす。
やっぱりこの終わり方はまずかったかなと反省中……。
- 87 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年07月29日(月)16時28分24秒
- >>3
の日もあさ美が教室へ行くと、机に「私はブタです。」とチョークで書いてあった。
>>8
さっきは誰が言ってたの、と聞いたが、少し考えれば誰かから聞いたはずはいことはわかった。
>>10
私があさ美ちゃんを避けるようになれば、はあさ美ちゃん落ちこんでしまうだろう。
紺野さんの自殺未遂や、高橋さんのナイフで人を刺しちゃう事や・・・
本当にあったらいやですね。
一番気になったのは、吉澤さん達は同性愛者なのかということですね。
・・・深呼吸w
- 88 名前:ルー 投稿日:2002年07月29日(月)22時08分52秒
- >>87
ありがとうございます。間違えまくってますね。
そうですね、現実にはそんなにゴロゴロ同性愛者がいるわけないんですが、
娘。が主役と言うことで。
次は、前の二作と変わって、たかこんまこで冒険をしてもらいます。
なるべく長く続けられたらなあと思ってます。
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月31日(水)00時44分22秒
- たかこんまこ(w
なんか好きな組み合わせ♪どうなるのか楽しみです。
- 90 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時04分14秒
- >>89
ありがとうございます。頑張ります。
では、『妖精の国』です。
- 91 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時06分37秒
その日は、高橋のふるさと、福井でのライブだった。
ライブは大成功に終わり、今彼女達はホテルにいる。
この部屋には五期メンバーの三人、高橋、小川、紺野が泊まる。
先輩メンバーと話す時、多少なりとも緊張していた三人にとっては、
一番ありがたい部屋割りだった。
いつも、部屋についてから寝るまで、
何時間かくだらない話に花を咲かせていた娘。達だったが、
今日は、三人とも今までで一番気楽に談笑できる気がしていた。
- 92 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時08分00秒
- もちろん、先輩達が嫌いなわけでは決してない。
けれど気を使っているのは確かだ。
三人ともまだ中学生なので、先輩達とどう関わっていいのかよくわかっていなかった。
そんな三人なので会話も弾んだ。
次から次へと話題は変わり、そのたび心の底から笑った。
時間をすっかり忘れて喋っていた三人は、
もし高橋の携帯に保田からメールが来なければいつまで喋っていたかわからない。
――いつまで喋ってんの。こっちまで聞こえてるよ。明日も仕事なんだから早く寝なよ。
- 93 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時09分06秒
高橋が時計を見るともうすでに十一時をまわっている。
三人は慌てて部屋を片付け、ベッドに入った。
しかし、それでもなかなか寝付けず、小さな明かりだけ灯して話は続いた。
それはちょうど小川が先輩メンバーである石川について喋っていた時だ。
部屋の隅のほうから、ガタッと言う物音とともに子供のような声がした。
- 94 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時10分01秒
- 「いたたた……。」
三人は、突然の声に息を呑んだ。こんな夜に、しかも子供の声。物音はまだ続いていて、なにやら服をはたいているらしい。
「だ、だれ!?」
高橋は小さな声で言ったが、相手は反応しない。
紺野はベットから降り、部屋の明かりをつけた。
そこにいたのは、小さな人間だった。
- 95 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時11分48秒
背は350mlのジュース位で、背中には透明な羽が伸びている。
それ以外はいたって普通な人間だった。
急に明るくなったせいで、眩しそうにしている。
「妖精だ――。」
その小さな人間から目を離すことなく、高橋が小声で言った。
「昔からこのあたりで何度か見かけられてるんだけど、私も初めて見た……。」
驚きからいつもより早口になっている。
三人の視線を浴びている妖精は、何度かまばたきを繰り返し、
大きく息をついてから部屋を見渡す。
そこで初めて三人に気付いて「わっ。」と声を上げた。
三人もつられてビクっとなる。
「人間だ。初めまして。ぼくの名前はイータ・カリーナ。よろしくね。」
「……よろしく。」
イータと名乗った妖精は、ニカッと太陽のような笑みを浮かべると、
三人のほうへ近づいて来た。
「ぼく、まだ免許取ったばっかりなんだ。だからちょっと試させてね。」
そう言ってイータはおもむろに手を前にかざした。
すると部屋がまばゆい光に包まれる。
何もかもを溶かしてしまいそうな光に三人は思わず目をつぶった。
- 96 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時13分09秒
それは、瞬時に移動したと言うより、
周りの景色が一瞬で変わってしまったと言ったほうがいいのかもしれない。
少なくとも麻琴はそう感じた。
目を閉じても感じるほどの強い光が急に切れて、麻琴が目を開けると、
そこはなんとも言えない不思議な空気が漂う丘だった。
驚いてあたりを見渡すと、
他の二人も同じように目を丸くしてあたりを見渡している。
ふと愛の足元を見ると、靴を履いていた。
あさ美も、麻琴もいつの間にか靴を履いていた。
イータからのプレゼントかもしれない。
- 97 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時18分20秒
「まずいなあ……。」
急に下から声がして、見るとイータが腕を組んであぐらをかいている。
「な……、何なの!? これは! 元の場所に戻してよ!」
三人の中で一番年上で責任感の強い愛が、泣きそうな声で言った。
しかしイータはそれを聞いていないかのように首をひねったままだ。
「実はさ、ここ僕らの国なんだけど、ここだと魔法が使えないんだよね。
しかも、この空気に少しずつ力を取られてしまって、
最後には目覚めることのない眠りについちゃうらしい。
すっごく危険な場所なんだ……。」
その言葉に三人は再び辺りを見回した。
少し霧のかかった、どこまでも続く平原。短い草が地面を覆っている。
遠くに川が流れていたが、それ以外は何もない。
明るいのに少し寂しげな雰囲気を漂わせていた。
「変な所に連れて来てごめんね。」
イータは急に羽を震わせ飛び上がった。
が、とっさに手を伸ばした愛につかまる。
「どこ行く気よ! あんたに逃げられたら私達どうしようもないんだから!」
つかまってしまったイータは、シュンとなって愛の手の中でうなだれた。
- 98 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時21分11秒
「とりあえず、ホテルに戻るにはどうすればいいの?」
「うーん……、とりあえずあそこに見える山の方に歩いて。
あの山の麓に街があるはずだから、そこで聞けばわかると思うよ。」
「あんな所まで歩くの!? めっちゃ遠いよ!」
「仕方ないよ。それしか方法がないもん……。」
そんなわけで、四人は山へ向かって歩き出した。
しかし、十分も歩かないうちに、三人とも睡魔が襲ってきて、
歩けなくなった。
さっきのイータの話が気になったが、
仕方なくそれぞれ草の上にねっころがると、瞬く間に眠りに落ちた。
- 99 名前:ルー 投稿日:2002年08月01日(木)01時31分43秒
- 以上です。
ちなみにイータ・カリーナというのは
南半球で見える星の名前です。
- 100 名前:ルー 投稿日:2002年08月03日(土)18時29分46秒
- 「んーっ、んーっ。」
どこかから聞こえてくる唸り声にあさ美は目を覚ました。
自分が草の上に寝ていることに一瞬驚いたが、すぐに記憶がよみがえってくる。
唸り声の主を探そうと耳を澄ませると、
それはどうやら麻琴のズボンのポケットから聞こえてくるらしかった。
そう言えば、昨日寝るときにイータが逃げ出さないように
ボタンの付いたポケットに入れていた。
麻琴が寝返りをうったために潰されているのだろう。
イータが潰れないように気をつけながら麻琴の肩をゆすった。
麻琴が「んっ……。」と呟きながら目を覚ました。
それを確認してあさ美は今度は愛の方へ向き直る。
愛は大の字になって眠っていた。
そんなアイドルらしからぬ様子にあさ美は少しだけ笑みをこぼす。
愛の肩をゆすって起こした時には、
麻琴はもう立ち上がって伸びをしていた。
- 101 名前:ルー 投稿日:2002年08月03日(土)18時31分40秒
しばらくそこで休憩した後、四人は歩き出した。
イータは麻琴のズボンに縛り付けられている。
ただ、歩き出したとはいえ三人にはこの世界のことはわからないことだらけだったので、
歩き出してしばらくはイータへの質問が続いた。
妖精の世界の最大の特徴は、夜がないこと。
曇っていない限り、太陽はいつも天にある。
妖精はそれぞれが魔法を使えるが、
その妖精が何の精なのかによって使える魔法の系統は変わってくる。
例えば水の精なら水、風の精なら風を操ることができる。
ただ上級の妖精になると、何の精か関係なく魔法が使えるようになる。
イータは火の精だったが、まだ火を操れるほど魔法は上達しておらず、
使えるのは一番低いレベルの魔法だけだった。
それは、瞬間移動やちょっとした傷を治すなど、
どの妖精も初めに教わる魔法だ。
- 102 名前:ルー 投稿日:2002年08月03日(土)18時33分16秒
- 今四人が歩いている場所は、テントス平原と呼ばれる場所で、
特殊な霧にいつも包まれている。
空気に毒素が含まれていて、だるさや倦怠感、疲労感などの症状を引き起こす。
そのだるさがピークに達すれば、死に至る。
妖精の世界は二つの国からなり、
イータの故郷である『北の国』と、今四人がいる『南の国』に分かれている。
その二つの国の間に流れる大きな川には、妖精用の橋が架けられていた。
妖精はどちらの国にもいるが、自分の生まれた国から出ると、
魔法が使えなくなる。だからイータも魔法が使えなくなったのだ。
- 103 名前:ルー 投稿日:2002年08月03日(土)18時59分48秒
イータがここまで話したとき、小さな川の前に到着した。
歩き始める前はすごく遠いと思っていたのに、
いつの間にかここまできていることに三人は少し驚いた。
携帯や腕時計はホテルに置いてきていたので時間はわからなかったが、
二時間ぐらいしか経っていないように思われる。
ほんの幅二メートルほどの小さな川だった。
深さもせいぜいひざくらい。
ジャンプして飛び越えることも可能だろう。
- 104 名前:ルー 投稿日:2002年08月03日(土)19時01分38秒
まずは愛が跳んだ。
大きく助走をつけ、川の淵の地面を蹴った。
二秒もしないうちに愛の足が対岸の地面を捉える。成功だ。
それに続いてあさ美も大きくジャンプした。
ふわりときれいな弧を描き、これもまたきれいに着地した。
最後に、麻琴。同じように淵を思いっきり蹴飛ばした
――ように思ったが、踏み切りが甘かった。
足は対岸の淵に届いたが、体は届かず、思わず川に足を入れる。
思っていたより流れが早くバランスを崩して川底に手をついた。
「まこっちゃん!!」
二人の声が頭上から降ってきた。
麻琴はそれに答えるように川底を手で押して、その反動で起き上がる。
そして右足を川から抜き出して地面に乗せた。
そしてもう片方も、と思い重心を右足に置いて左足を抜こうとした時だった。
- 105 名前:ルー 投稿日:2002年08月03日(土)19時04分18秒
麻琴の靴が、足から抜けた。
あっという間に麻琴の靴は川面を滑るように流れていく。
三人はどうすることもできず呆然とするだけだった。
「まあ靴ぐらいなくたって何とかなるでしょ。行こっ。」
うつむいて泣きそうになっている麻琴の肩を高橋が叩いた。
「そうだね。行こう。」
麻琴は靴を片足だけ履いたまま歩き出した。
- 106 名前:ルー 投稿日:2002年08月09日(金)23時45分36秒
それは、いつしか会話のなくなった三人が、
ただただ足を動かすだけの仕事に飽き始めた頃だった。
「おい。」
後ろからの突然の声に、あさ美は驚いて振り返った。
と同時にブオン、と激しい風が三人を囲むように吹く。
とっさの出来事に状況を確認する間もなく、
頬に殴られたような衝撃を感じて、
あさ美はそのまま地面に倒れこんだ。
すぐに起き上がろうとしたが、大きな力に押さえられて、動けない。
目だけで辺りを見ると、他の二人も同じように倒れていた。
イータは麻琴のズボンのベルトのところで声も出せずもがいている。
愛の上の方を見ると、にイータそっくりの妖精が一人、
ゆがんだ笑顔で浮かんでいた。
さっき強い風が吹いていたので、この妖精が風を使うことは間違いないように思える。
となると、殴られたように感じたのも、
今こうして倒れたまま動けなくなっているのも風を使っているのだろう。
- 107 名前:ルー 投稿日:2002年08月09日(金)23時48分15秒
「なんで人間がここにいるんだ?」
イータの高い子供のような声に対し、この妖精の声は低い迫力のある声だった。
もはやそれは、人間の想像する妖精とは別の生き物のように思える。
「答えろ。」
妖精はすっと音もなくあさ美の顔の横に舞い降りた。
憐れむような目で見下ろしている。
どうしていいのか見当もつかず、あさ美はその妖精を見つめた。
このままどこかに連れて行かれるかもしれない。
ふと、一つの作戦が頭に浮かんだ。
あさ美はその妖精に気付かれぬように大きく息を吸い、
「わあああああ!!!」
自慢の肺活量で、地面を揺らすほどの大声を上げた。
妖精は目を丸くし、耳を塞いでうずくまる。
同時に体に感じていた圧力がなくなった。
それを感じて、ここぞとばかりに妖精を思いっきりはたいた。
麻琴の方へ転がっていく。
あさ美はすぐさま起き上がって妖精に駆け寄った。
が、その妖精は目を回して倒れている。
それを見てようやく溜め込んでいた息を吐いた。
「ふう……。イータ、この妖精なんなの?」
「妖精の中には、人間の事を悪く思ってるのがいるんだよ。
でも数は少ないから。ぼくも今初めて見たし。」
「そうなんだ……。」
- 108 名前:ルー 投稿日:2002年08月09日(金)23時49分42秒
「さあ、そいつが目を覚ます前に行こう。」
イータの声に、三人はまた立ち上がり、歩き出した。
いつから見え始めたのかはわからなかったが、ずっと先に森が見えた。
人間の世界と何も変わらない、大きな森だ。
棒のようになっている脚を動かしながら麻琴は思った。
森があると言うことは街も近くにあるかもしれない。
森にはたくさんの木の実がなり、小動物もいるはずだ。
それならそれを食べる者が近くに住んでいても不思議ではない。
あくまで可能性だが。
麻琴はふと後ろを振り返った。薄い霧の中でただ短い草が続いている。
さっきの出来事があってから時々後ろを注意して見ていたが、
何も変わりはない。
ぼんやりと空気が揺れるのをただ眺めた。
三人はまるで言葉を忘れたロボットのように歩きつづけた。
もう考えることもなくなって、ボーっとすることも何度かあったが、
それでも足は止めなかった。
- 109 名前:ルー 投稿日:2002年08月09日(金)23時52分01秒
何度目かのため息をつきながら愛は思った。
ちっとも変わらない景色に森が見えてきたことはうれしかったが、
後どれだけ歩けばいいのか見当もつかない。
もうとっくに愛の足は限界を超えていて、いつひざが折れて倒れこむかわからなかった。
それでも休みたいと言えなかったのは、一番年上としてのプライドがあったからだ。
愛としてはあさ美か麻琴に休もうと言って欲しかった。
同じ距離を歩いているのだから、
もうどちらかがそれを言ってくれるのも時間の問題。
そう信じて愛は気力だけで歩いていた。
あさ美はまた、横目で愛を盗み見た。
今まで以上に苦しそうな表情を顔に浮かべている。
やはり愛はかなり疲れているようだ。
体力には自信のある自分でも、歩き通しで疲れがピークに達している。
まだあさ美も麻琴も歩くだけならできるだろう。
けれど、愛は今にも倒れそうだった。
おそらく、二人に迷惑をかけないように、必死で歩いているのだろう。
あさ美にはそれを見過ごすことはできなかった。
- 110 名前:ルー 投稿日:2002年08月09日(金)23時54分39秒
- 「……ねえ、少し休まない?」
愛の期待に答えたのはあさ美だった。
「そうだね。もう私も疲れてへとへとだったんだ。愛ちゃんもいいよね。」
「……うん、そだね。」
愛は作り笑いとしか思えないような表情を浮かべたが、
それができることにあさ美は少し安心していた。
三人は、そこに倒れこむようにして寝転んだ。
時々思い出したように生暖かい風が何もない草原を駆け抜けていく。
- 111 名前:ルー 投稿日:2002年08月09日(金)23時55分24秒
- 「……ねえ、私達、戻れるのかな……。」
風に消え入りそうな声で呟いた。しかし、返事はない。
麻琴は少しふてくされながら寝返りを打った。
「……寝ちゃったか。」
「起きてるよ。考えてただけ。」
相変わらずなまりの抜けない声が、はっきりと聞こえた。
「もしかしたら、帰れないかもね。」
「……。」
「しかしさ、ほんとにドラマか映画みたいだよね。」
「……愛ちゃん?」
「漂流教室とかみたいな。あれも最後は元の時代に戻るんだよね。」
「うん……。」
「大丈夫だって。こういう時は、絶対ハッピーエンドで終わるって決まってんだから。」
麻琴は、ようやく愛が自分を励まそうとしていることに気が付いた。
よくわからない理論と、それを早口でまくし立てる愛に思わず笑みがこぼれる。
笑うと、なぜか元気も湧いてきた。
「ありがとう、愛ちゃん。」
「どういたしまして。」
また、生暖かい風が草原を駆け抜けていった。
三人が眠ったのを見計らって、
イータは体に縛り付けられた紐を取り外しにかかった。
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月14日(水)02時09分07秒
- 続き気になる(w
- 113 名前:ルー 投稿日:2002年08月16日(金)00時22分43秒
浮いていた。私の体はごく当たり前のように、宇宙を漂っている。
星の間をすり抜けてどこかへ向かっている。
どこに向かっているのかはわからない。だんだんとスピードを上げていく。
急に、目の前に大きな星が現れて、思いっきりぶつかった。
と思ったら、星がぐらぐら揺れ出した。地震だろうか。
――目が覚めた。目の前で麻琴の顔が揺れていた。
まだ夢の余韻が抜けきらないまま、愛は体を起こす。
「愛ちゃん、大変だよ。イータがいなくなっちゃった!」
「え……。」
その言葉は愛の頭の内側にこびり付いた眠気を削ぎ落とすのに
十分な響きを持っていた。
「そんな……。」
これで三人は何も知らない世界に放り出されてしまったことになる。
まだ焦点の定まらない目で遥か彼方の目指す山を見た。
後どれだけ距離があるのか。何もかもが絶望的に見えた。
- 114 名前:ルー 投稿日:2002年08月16日(金)00時24分43秒
「なんでちゃんと注意してなかったの!?」
「そんな……。でも、ここに結んだのはあさ美ちゃんだよ!」
ふいにあさ美と麻琴が言い争いを始めた。
初めて見たその光景に、愛は少し戸惑ってしまう。
「なんで私のせいになるの!?」
「あさ美ちゃんが悪いんだよ!!」
ついに二人は取っ組み合いのけんかを始めた。
が、麻琴が空手経験者のあさ美に勝てるわけもなく、あっという間にあさ美に
馬乗りになられた。
「やめて!!!」
愛は叫んだ。
あさ美が驚いて愛を見つめる。
麻琴はあさ美の影で表情が見えなかったが、
おそらく同じような反応を示しているだろう。
「やめてよ……。」
こらえきれず涙が出ていた。
そのまま崩れ落ちるようにしゃがみこんで、声を上げて泣いた。
あさ美は戸惑いながらも立ち上がった。
自由になった麻琴もあさ美から少し離れて立ち上がる。
二人は少し気まずそうに視線を交わしてから、愛に近づいた。
「愛ちゃん……。そんなに泣かないでよ。」
「そうだよ。ケンカしたことは謝るからさ。」
愛は、うつむきながら頷いた。
- 115 名前:ルー 投稿日:2002年08月16日(金)00時27分10秒
しばらく遠くの景色を眺めてから、落ち着きを取り戻した愛が呟いた。
「……どうしよっか……。」
「とりあえず歩いていくしかないだろうね。」
「うん……。」
確かに、それしか道はない。わかっていてもなかなか踏み出せなかった。
しかし、ここにいてもなにもない。三人は重い腰を上げて歩き出した。
ぐっすり眠ったので疲れは取れていると思ったがそれは間違いだった。
それを、三人は歩き出してすぐ感じた。昨日よりペースは落ちている。
それでも、眠気が襲ってくる前に、森の入り口に到着した。
時計も携帯も太陽もないこの世界では、
眠くなることだけでしか時間を感じることはできない。
思ったより早く着いたが、三人とも疲れていたので、
しばらく休憩を取り、そのまま眠った。
- 116 名前:ルー 投稿日:2002年08月16日(金)00時28分41秒
麻琴は腕に痛みを感じて目を覚ました。
見ると愛が麻琴の腕に乗っかってきている。
麻琴はそっと腕を抜き出した。
そして立ち上がろうとしたのだが、体が石のように重かった。
丸二日歩きつづけた疲労が体に重くのしかかっている。
もう何もかも投げ出して、ここにいたかった。
どれくらいそうしていたのだろう。
気が付くと、愛が小さく「うーん。」と唸りながら目を開けた。
麻琴が横になりながら黙って見ていると、愛は大きなあくびをして、
ゆっくりと立ち上がった。
愛は体に溜まった疲労を払いのけるように伸びをして、周りを見わたす。
それにつられて麻琴も視線を右に向けた。
とりあえずの目標にしていた大きな森があった。
- 117 名前:ルー 投稿日:2002年08月16日(金)00時30分17秒
- >>112
ありがとうございます。
ペースは遅いですが放置にならないように頑張ります。
- 118 名前:ルー 投稿日:2002年08月30日(金)21時51分14秒
- 一度視線を交わし、それから森の中へ入った。
疲れがまだ体に重く残っているので、ペースが上がらなかった。
最初に異常に気付いたのはあさ美だった。なぜか、足がうまく動かないのだ。
特に左足が、怪我したわけでもないのに動いてくれない。
疲れのせいにしては少し変だった。
それに、たまに意識が朦朧とする。
すぐおさまるのだが、その間隔が少しずつ狭まっているように思えた。
ふと、イータの言葉が思い出される。
――この空気に少しずつ力を取られてしまって、
最後には目覚めることのない眠りについちゃうらしい。
すっごく危険な場所なんだ――
背中に寒気が走った。
『目覚めることのない眠り』と言う言葉が、妙に現実味を帯びてくる。
「ねえ……、なんかおかしくない?」
「どうしたの? あさ美ちゃん」
あさ美の言葉に愛と麻琴はふり返った。心配そうな顔であさ美を見つめている。
「なんか、足が変だし、さっきから眩暈がする……。」
「え……、あさ美ちゃん、大丈夫?」
「……大丈夫じゃないかも……。」
- 119 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月24日(火)23時39分59秒
-
- 120 名前:ルー 投稿日:2002年10月05日(土)23時43分10秒
- 視界に白い霧のような物が広がっていくのをあさ美は感じた。
同時に頭にも霧がかかっているような気がする。
「あさ美ちゃん、しっかりして!」
……この声は、愛ちゃんだな。
……。
いけない。寝ちゃ駄目だ。あさ美は顔を上げて、深呼吸をした。
こんな所で倒れるわけにはいかない。
そう思って二人を見た。
すると、二人も様子がおかしい。まるで元気がないし、少し目が眠そうだ。
まだ歩き始めてそんなに経ってないので、眠くなるような時間では決してなかった。
二人とも、自分が感じている疲労感や倦怠感を感じているようだ。
ふと前を見ると、ツタのように地面を覆い尽くしている植物が目に入った。
しかし、近づくにつれ、それがとんでもない物であることがわかった。
バラのような刺が、ついているのだ。
あさ美は呆然として麻琴を見た。麻琴の、何も履いていない右足を。
今だってたくさん傷が付いているのに、こんな所を歩いていけるはずがない。
遠回りしようにも、この広い森の中をそんなに歩きまわれるはずがなかった。
- 121 名前:ルー 投稿日:2002年10月05日(土)23時46分13秒
- 全然更新できない……。もし読んでる人がいたらごめんなさい。
受験が終わったらまたちゃんと更新します。
- 122 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月26日(土)21時24分27秒
-
Converted by dat2html.pl 1.0