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ゲーム◆夢◆
- 1 名前:りょう 投稿日:2002年07月22日(月)02時01分34秒
- ちょっとおかしな設定で書かせて頂きます。
アンリアルです。
物語はもうすでに完結しており、大幅な変更はきかないのですが、
何かございましたらなんでも言ってください。
叱咤激励大歓迎です!
宜しくお願い致します。
- 2 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時03分05秒
- カーテンも開けずに電気も点けずに暗闇の中、テレビ画面だけが点いている。
カーテンの隙間から漏れる少し眩しい陽の光。
ちゅんちゅんとさえずる小鳥の声。
遠くの方ではコケコッコーとニワトリが鳴くのが聞こえる。
時間は午前5時を少し過ぎた頃。
少女は昨日からずっと起きっぱなしでそこに居た。
先程から暗闇の中カチャカチャという音だけが響いている。
時折指を止めて画面に見入ったかと思うと急に激しく動きだしたり、
少女は何やら熱中してテレビ画面を見ていた。
少女の手に見えるのはゲームのコントローラー。
画面には人間らしきものが魔女のような相手と戦っているのが映し出されていた。
少女がカチっとコマンドを選択すると魔女がダメージを喰らう。
そう、彼女は昨日のバイトから帰って来てから朝までぶっ通しでゲームをしているのだった。
- 3 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時04分27秒
- 「やっとクリア・・・」
ため息を吐き出し、脱力する。
スタッフロールが流れ、物語の要所要所がバックで映し出されている。
少女はTHE END画面が出るまでじっとそこに座って見ていた。
「やばっ!寝なきゃバイト死ぬっ!」
少女はごくごく普通の女の子。
高校を卒業してすぐに業界ではかなり大手と言われるホテルに就職をした。
実家を離れて地方で働く事の新鮮さ。
親許を離れて自分の好きな様に暮らす。
新しい土地で新しい友達、恋人、たくさんの希望を胸に就職を決めた。
だが、現実はそう甘いものでは無かった。
夜中まで働いても残業はほとんど無いに等しく、食事も忙しさのあまり一日一食。
睡眠時間は削られ、休みも規定どおりにもらうことは出来ず、コンビニも無かった。
そして先輩との馬も合わなかった。
そんな色々な出来事が重なり合って、少女は2ヶ月で辞めて地元へと戻って来ていた。
- 4 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時05分47秒
- 戻ってから親に言われたこと。
『あんたはもっと根性のある子だと思ってたよ。』
実際、同じような環境でも続く人間は何年も続く。
合わないと言えばそれまでだけど結局は親の言った通り
根性が無かったのかもしれない。
そんなことがあって、少女は真面目に職探しをしたり、時には何か技術を身につけるために
専門学校などに通った方が良いのでは?と思うこともあったが、思うだけで実行することはしなかった。
面接に行くわけでもないのに発売されるたびに本屋へと行き、そして求人雑誌を買い込む日々を送っていた。
その結果、定職に付くわけでも学校に行くわけでもなく、少女はアルバイトをして生活することを決めた。
バイト先は高校3年間やり続けた気心の知れた色々と融通の利く慣れた店に出戻った。
店長と仲の良かった少女は希望通りに可能な限りシフトを入れてもらい、そこ1本だけでかなりの額に
なるほど働かせてもらっていた。
- 5 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時07分38秒
- 『フリーターなんて聞こえは良いけどプータローと一緒だよ。そんなことであんたは良いのかい。』
アルバイトと言えども日数的にも金額的にもちゃんと働いていた少女。
しかし親はそれを認めなかった。
休みの日の行動を監視するように色々と口を出し、落ち着けるはずの家がそうではなくなっていた。
そんな事情もあり、少女は一人暮らしを決めた。
バイトもひとつ増やし、ひとりで気ままに暮らしていた。
「今度映画行こー。」
「矢口、今度遊び行こうよ。」
「まりっぺ元気にしてるのお?」
それなりに親しい友人も何人か居る。
遊びにだって暇があれば付き合いで行っている。
「なっちが日にち決めて良いよ。」
それなりに気になる相手も居た。
ウチに篭ってばかりの生活のせいか、ゲームの主人公が男ばかりであったせいか、
少女の気になる対象はいつも同性だった。
だからといって告白するわけでも付きあいたいと思うわけでもなかったが。
- 6 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時08分10秒
- 昼頃起きて夕方まで本屋でバイト。
夕方から夜中までカラオケ屋でバイト。
帰ってお風呂と食事を済ませ、そして朝方までゲームをする。
オフの日はなるべくゲームをする。
遊びの誘いが無い限り家から出るなんてことは無かった。
それが、少女の日常。
ゲーム好きというだけのごく普通の少女。
- 7 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時09分26秒
- 或る日のこと
「そろそろ新しいのしたいなぁ。新作はもうやったし・・・ちょと久しぶりに漁って見ようかな。」
ついこないだ、朝方までかけてクリアをしたゲームは二度するほどのエンディングでは無く、
大概のゲームは発売と同時に購入するのでほとんどやっており、最近のものは制覇していた。
そんな少女がバイト前の少しの空き時間を使ってやってきたのはゲームマート。
個人が作った怪しげなゲームの数々。
中には秀作が紛れ込んでいたり、アマチュアならではの趣向が凝らしてあったりと、
掘り出し物があったりする場所だった。
新作をやり尽くしてしまった少女は新しいもの、変わったものを求めてやってきた。
うろうろと小さな体を動かしながら鋭い視線で品定めをしていく。
「う〜ん・・・今回は無いかなぁ?」
少女はこういう場ではいつも勘が頼りだった。
気になったもの、面白い!と、直感が働いたもののみを購入していた。
- 8 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時12分17秒
- 諦めかけてバイトへ向かおうとしたその時、ふと、目の端っこに何やらゲームソフトが見えた。
ジャンルは≪ノージャンル≫
格闘ゲームは親指が攣るまでやり、シューティングゲームでは動きに合わせてコントローラーと
体を一緒に動かせ、シミュレーションでは攻略するためには裏技を使いまくったり・・・
パズルもテーブルゲームもダンスも、どんなものでもゲームと名のつくものは全て手を出し、
どれも好きだったが一番好きなのはロールプレイングゲームだった。
≪ノージャンル≫と書かれたソフトの内容を見てみる。
見てみたがどこにも説明書きはされておらず、そして金額も表示されて居なかった。
辺りを見回すとすぐ後ろに店員が居た。
「あっ、これ、いくらなんですか?」
「すいません、ちょっと見せて――あれ?書いてませんね?レジ、通してみましょうか?」
そう言って店員はソフトを持って行った。
「ん〜・・・これ、良いです。お客様は常連様ですし、差し上げます。」
「え?でも、中身なんなんです?」
「すいません、確認を行うプレイヤーが調整中でして・・・。」
「そうですか。」
- 9 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時12分49秒
- 少女はバイトの時間が迫っていること、タダでもらえたゲームソフト。
失敗してもまぁ損はないかな。
そんな軽い気持ちでそれを受け取った。
「それじゃあ、どうも・・・」
少女はかばんに直す前にタイトルを初めて見た。
◆夢◆
たった一言、マジックで無造作に書かれていた。
少女は帰ってからの楽しみを手に入れ、そして希望を胸に軽い足取りでバイトへと向かった。
- 10 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時14分48秒
- カチャ
「ただいま。」
当たり前だが一人暮らしの少女に返って来る言葉は無い。
「どれどれ・・・」
少女はいつものように適当に食事を済ませ、そしてお風呂も済ませてゲームをする準備に取り掛かっていた。
テレビを点けるより先にゲーム機の電源を入れる。
立ち上がるまでに飲み物を用意する。
薄暗い暗闇の中、ゲームは始まった。
◆夢◆
new gameを選択して少し待つ
すると『名前の入力をして下さい』という画面が出てきた。
「RPGっぽいのかな?これ。主人公男かぁ・・・なんて名前にしようか・・・」
などと一応悩んでは見るが名前はもうすでに決まっていた。
毎回使う名前。
「"マ・リ"と。」
男だろうが女だろうがあたしゃーマリだ!
違う名前なんて使ってなるものか!
妙な所で頑固な少女だった。
- 11 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時15分46秒
- 名前を入力すると次の画面が現れた。
"◆夢◆は、お一人様一回限りのご利用となります。クリア後は次の方へ回して下さい。"
「なに、それ?訳わかんないや。」
画面には"承諾"と"拒否"の選択肢が出ている。
承諾をしないと出来ないわけで。
マリは悩む事無く見ただけで"承諾"した。
そしてやっと始まった物語。◆夢◆
マリ:『僕はこんな所で一生を終えたくないっ!』
ゲームは、こじんまりとした藁葺き屋根の家の一部屋から始まった。
主人公が母親らしき人間に向かって言っている。
母:『マリはどうしたいんだい?』
マリ:『世界中を旅したい。』
母:『この村から出たことのないあんたにそんなことは出来ないよ。』
マリ:『僕は大丈夫。だから行かせて。』
- 12 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時16分48秒
- 物語は、小さな小さな名物もこれといって無さそうなさびれた村に住む少年が
自分の人生を変えるべく世界中を旅し、そして最終的に立派になって戻って来るというものだった。
親の反対を押し切って出て行く主人公。
夢見がちな主人公。
世間知らずな主人公。
主人公のどれをとっても自分と重なるような気がして、少女はゲームの主人公に
成りきるのにそんなに時間は掛からなかった。
もともと感情移入しやすい情感豊かな人間だったこともあり、なんてことはない物語だったがすぐにはまった。
- 13 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時18分12秒
- 1日目
大して話は進むことをせずに村を出てワールドマップ上で終わった。
2日目
歩き続けて辿りついた大きな街
自分が着ているようなぼろっちい布の服など着ている人はひとりもおらず、皆ドレスなどを着ていた。
そこで出会ったひとりの人間。
ゆうこ:『あんた、旅人か?』
マリ:『はい。』
ゆうこ『ひとりで行きよるんか?』
マリ:『今はひとりですね。』
ゆうこ:『お願いがあんねんけどな。』
マリ:『はい。』
ゆうこ:『少し行った所の町にウチの妹がおんねん。事情があって一緒におられへんように
なってもうてんけど。助けたって欲しいねん。』
マリ:『助ける?』
ゆうこ:『家、貧乏でなぁ・・・毎日働き続けとるんよ。まだ16で若いのに・・・あの子もそこから出たことなくてな。
外の世界に連れ出したって欲しいねん。』
マリ:『あなたは出来ないんですか?』
ゆうこ:『おとんがな、駆け落ちして出て行ったウチを許しよらへんのや。ウチが居なくなった分あの子に
集中してもうて。だからなんとか連れ出したって欲しい。無茶言うんは分かってる。ただでとは言わん。』
- 14 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時19分34秒
- マリ:『連れ出したら家困りません?』
ゆうこ:『大丈夫や。おとんが働きゃええ話や。』
マリ:『分かりました。』
マリは承諾をし、そして言われた場所へと向かった。
旅の支度金として10万モニ。をゆうこからもらった。
ゆうこの言った町と思われる所の入り口でセーブをして終わった。
3日目
町へと入ってみた。
マリ:『ダウンタウン・・・』
昨日居た煌びやかな建物が並んでいた街とは打って変わってごちゃごちゃとした小さな家ばかりが並ぶ街。
そこら中にゴミが落ちていたり地べたに人が寝ていたりケンカをしているものが居たり、かなり環境の悪そうな街だった。
マリは情報を集めるべく店に行ったりバーに行ったりしていた。
マリ:『16歳くらいの女の子を捜しているんです。』
店主:『どんな子だい?』
マリ:『えっと・・・マキって子です。』
店主:『ああ、マキちゃんならもひとつ向こうのバーの路地裏に住んでるよ。』
マリ:『ありがとう。』
マリは教えられた通りに向かった。
少女が居ると思われる場所の手前にセーブポイントがあったので抜け目無く。
- 15 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時20分51秒
- :『もっとしっかり働きな!』
:『ごめんなさい。』
何やら男の叱る声が聞こえ、それに謝る声が聞こえてきた。
覗き込んで見るとそこに少女は居た。
マリ:『あの・・・』
マリが声をかけると、
汗を拭うようにして肩よりも長い茶色がかった髪の毛を掻きあげてゆっくりと振り向いた。
サラサラとしたきれいな輝きを持った髪。
少し汗ばんだ体。
物憂げに上目遣いに見るその目。
ぴちっとした服を押し上げるようにしている大きな胸。
すらっと伸びた白くてきれいな、長い脚。
見た瞬間目を奪われるそのキャラクターにマリのみならず真里も見惚れていた。
見惚れていると・・・
:『・・・誰?』
マリ:『あっ、僕マリって言うんだ。その・・君は・・』
ゆうこから連れ出して欲しいと頼まれたことは黙っておいてという約束だったので理由が思いつかなかった。
- 16 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時22分00秒
- :『マキ。そんなところで何してるの?』
マリ:『えと・・・あっ、そうそう、僕、世界中を旅してるんだけど、ひとりなんだ。
誰か一緒に行ってくれる人を探してる。』
マキ:『世界中を?!良いな、羨ましい。』
マリ:『君も行かないか?僕と一緒に。』
マキ:『家出れないから。』
マリ:『出たくは・・・無いの?』
マキ:『出たいけど・・・』
マリ:『じゃあ大丈夫!僕が面倒見るから。』
家を出たいが、勝手に居なくなる事はどうしても出来ないというマキをなんとか説き伏せて、
マリはマキを連れ出すことに成功した。
街を出て、ワールドマップで終わった。
その日から後のゲームは実に楽しかった。
主人公に成りきっているマリがゲームのヒロイン、マキに恋をすることなど当然のことだった。
マキはゲームのキャラとは思えないほどに人間らしく、そして女の子らしく、そして無邪気で可愛かった。
今までしてきた苦労の分幸せにしてやりたい、そう思えるキャラだった。
- 17 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時22分50秒
- ゲームは、最新のゲームよりも精巧に出来ており、映像もゲームというよりは映画といっても良いくらい現実世界と変わらない素晴らしいものだった。
ゲームを進めるに連れて真里はゲームの中のマキに抱いてた恋心が大きくなってきた。
バイト中も考えるのはマキのこと。
帰り道でも食事中でもどんな時でも考えるのはゲームと、マキのことになっていた。
「さて・・今日もマキに会うか。」
真里はやばいくらいはまっていた。
「こんな子実際居たら最高だよな〜。」
マキを語る姿はちょっと怖かった。
「こんなゲーム、反則だよね。」
「中に入ってやりたいや。」
ありえないことを口走るようになった。
マキ自体に魅力を感じていたが何よりもゲーム自体も面白くなってきていたので
自分も体験したいと思うようになっていた。多くのゲーマーがそう思うように。
そしてゲームを今日も始める。
- 18 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時23分51秒
- いつものようにロードゲームを選択した。
するとそこにいつもと違う言葉が出てきたのだった。
"物語に参加することを後悔しませんか?"
「は?何コレ。こんなの今まであったっけ?」
いつもなら"ロードしています"と出るはずの画面にそんな事が書かれていた。
これからやるんだ、当たり前じゃんっ!
迷わず真里はyesを選択した。
そしてその後に出てきた言葉。
これも初めてのことだった。
"あなたの本名とあなたの性格など、表示されている質問にお答え下さい。"
「なんかキショイ・・・。でもちょとアリかも・・。」
本名:矢口真里
あだ名:やぐっつぁん
歳:19
身長:145cm
性格:明朗、お調子者
恋人:居ない
そこまで入力するといつものようにゲームが始まった。
「なんだったんだろ?変なの。」
腑に落ちない矢口だったが画面にマキが現れたことでどうでも良くなっていた。
- 19 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)02時24分48秒
- そして朝方になり、区切りの良いところでゲームを終えた。
するとまた画面に質問が出てきた。
"ゲームの終わりは夢の終わりです。本当に終わりますか?"
「・・・は?」
画面には"yes"と"no"が表示されている
これから寝る矢口はこれまた迷うことなく"yes"を選んでゲームを終えた。
かなり腑に落ちない一日だったが、もともと怪しいゲームだし、アリかな。
そう思ってすぐに眠りの世界へと落ちていった。
- 20 名前:りょう 投稿日:2002年07月22日(月)02時26分54秒
- (〜*^◇^)<お調子者です!
初めてしまいました、どうなんでしょうか。
ちょと設定が変わっててしばらく萌え〜なシーンが無いので・・・(汗
改行とかいろいろ難しいですね。
頑張りますので宜しくお願いします。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月22日(月)04時37分43秒
- 面白そうな出だしですね。
がんばってください。
- 22 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月22日(月)07時53分47秒
- 続き期待!
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月22日(月)12時09分48秒
- わおっ新作!
今回も期待してます、頑張ってくださいね。
- 24 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時13分11秒
- 「やぐち最近恋人出来た?」
「なんで?」
「だってすっ飛んで帰るじゃない、バイトの後。」
「そんなんじゃないよ。」
「まっすぐ帰ってる?」
「うん。あれだよ〜新しいゲームが結構面白くて。」
「またゲーム?!そんなことばかりしてないでさぁたまにはご飯でも食べて帰ろうよ。」
「う〜ん・・・そうする?」
「うん!」
そう言うのは矢口と同じ所でバイトをする安倍なつみ。
一個年上なのだが幼い顔つきでとても年上には見えない。
矢口のことがお気に入りのようでシフトが重なる度に矢口を誘っていた。
家に遊びに来るほどの友達ではなかったが、矢口は密かに好意を抱いていた。
ゲームの方が好きだがその次に気になる、といった存在だった。
その安倍に誘われると毎度のことながら断れなかった。
- 25 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時14分29秒
- 「やぐちはなっちのことどう思ってる?」
「どうってどういう意味?」
「なっちはーやぐちのこと好き。」
「え・・・?」
「だってさぁいっつも笑顔でいっつも明るくていっつも優しいもの。ちっちゃくて可愛いし。」
「あはは・・・ありがと、なっち。」
「やぐちは・・・どう?」
安倍がそういうのには理由があった。
(最近そっけないよね、やぐち。前はたくさん話しかけてくれてたのに。)
矢口が自分に対して少なからず好意を抱いてくれていることに自惚れでは無く気付いていた。
遊びに誘えば嫌な顔ひとつせずにOKをくれて、一緒に帰ろうと言えばそうしてくれた。
矢口からもバイト中に話しかけられたり変なお客さんから助けてもらったり、矢口はいつも安倍の傍に居た。
それが少し前からバイトが終わると猛スピードで着替えて猛スピードで帰って行く。
バイト中に話しかけても返事は遅い。何かをずっと考えているような抜け殻のような感じだった。
そんな矢口に淋しく感じた安倍の言葉だった。
「矢口も好きだよ。」(マキの次に。)
矢口は現実では無いゲームの世界にはまりすぎていた。
口では安倍にそう言ったが心の中では違った。
- 26 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時15分40秒
- 「どういう好き?」
安倍は質問好きだった。
「どういうって・・・じゃあなっちは矢口のことどういう好きなわけ?」
矢口の言葉に少し表情を堅くして俯いた安倍はぼそっと言った。
「気持ち悪いとか思わない?」
「何が?そんなの思わないから言ってよ。」
「・・・恋愛対象として、やぐちのこと見てる。好き。」
「・・・!!」
安倍のまさかの言葉に矢口は驚愕した。
自分以外にも同性に恋愛感情を持つ人間が居たこと、それもこんな傍で。
そのことに驚きを隠せなかった。
「やぐちの言葉、聞きたいな。」
安倍は止まっている矢口の手をそっと握りながら言った。
「矢口は・・・」
(なっちが好き?マキ?マキはゲームのキャラ・・・なっちは現実・・・だったら・・)
「やぐちは?」
「矢口もそういう好き。」
その言葉を聞いた安倍は今まで以上の笑顔で矢口に微笑みかけ、そして少し恥ずかしそうに
テーブルに並べられた食事に手を出した。
- 27 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時18分27秒
- (良いのかな?これって・・・両想いってこと?恋人ってことになるのかな・・・?)
「付き合うの?」
「えっ?」
「矢口となっち、付き合うことになるの?」
安倍と付き合うことが嫌だった訳ではない。
曖昧な言葉だけで済ますことをせずにきちんとした言葉で置いておきたかったから。
気持ちを知りたかっただけかもしれない。
同性同士だし付き合うつもりはないかもしれない。
安倍がこれからどうしたいのか分からなかった矢口は自分の"どうしたいのか"という
気持ちを横に、安倍に聞いたのだった。
「やぐちは・・・嫌?」
「あっ・・、ううん。分かった、そういうことで。」
はっきりしない言葉を返した矢口だったがそれでも安倍は嬉しそうだった。
帰り際、横を歩く安倍は鼻唄なんかを口ずさんだりしてかなり上機嫌な様子だった。
幸せそうな顔でいる安倍に声をかけることが躊躇われ、また、矢口自身も幸せそうにする安倍を
もっとずっと見ていたいと思っていた。
- 28 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時19分08秒
- しっかりと繋がれている左手の先に見える安倍の白い手。
柔らかくてちっちゃくて、自分も小さいのだがそれがすごく愛おしく感じられた。
「それじゃあ、ゲームも良いけどあまりやって体壊したら駄目だからね。」
「分かってるよお!適度にします、はい。」
「ちゃんとなっちとも遊んでよ?」
「分かってるって!」
別れ際、なかなか手を離そうとしない安倍に矢口は少し困っていた。
「ほら、なっち、もう遅いから・・・ね?」
「・・うん。」
名残惜しそうに手を離した安倍は矢口に潤んだ視線を送った。
(な、なっち?!)
「また明日、会うの楽しみにしてるからね。」
最後は笑顔で去っていった。
(可愛いよね、やっぱり・・・今日から矢口の恋人・・・。)
- 29 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時19分47秒
- 矢口は前から好意を抱いていた安倍と付き合えたことを嬉しく思う反面、
どこか心が晴れなかった。
理由はひとつ。
ゲームのキャラのマキに本気で恋心を抱いてしまっていたからだ。
ゲームの次に好きだった安倍。
ゲームよりも好きなマキ。
現実に会えて言葉を交わせるのは安倍。
会うことも言葉を交わすことも出来ないのはマキ。
ふたりの女の子の間で矢口は悶々としていた。
いつも浮かぶのはマキ。
考えても答えは出なさそうだったので矢口は自宅へと戻った。
- 30 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時20分43秒
- カチャ
扉を開けて靴を脱ぎ、いつものように風呂を済ませる。
そしてゲーム機のあるいわゆる"ゲーム部屋"を開けた。
――と、その時だった。
ゴォゥッ!!
という音と共に体をもっていかれそうな突風が矢口目掛けて吹いたのだった。
いや、体ごと後ろに吹っ飛ばされてしまった。
部屋から押し出されるように飛ばされて倒れた自宅の床。
そこはフローリングで固くて痛いはずなのにほんの少し違った。
柔らかくは無いがどことなく畳のような少し固いような感触。
そして見上げた天井はいつもの白い壁ではなく、藁で出来たような天井だった。
「痛っ!」
起き上がって矢口は突風が吹いた自分の部屋を見た。
「・・・え?ドアが・・・無い?」
視線を向けた先にあるはずの自分が開けたドア。
そこにそれを確認することは出来ず、ただ、空っぽな空間がそこにあった。
- 31 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時21分37秒
- 矢口は訳が分からずにキョロキョロとした。
そして気付いた。
さっきまで来ていたぱじゃまではなく、茶色がかった布の服を着ていることに。
そしてどこかからか声が聞こえた。
「真里!ご飯だって呼んでいるのが聞こえないのかい?」
(真里って矢口のことだよね・・・なんなの?これ・・・夢かな?)
腑に落ちないことだらけの矢口だったが取り合えず声のした方へと向かうことにした。
そこには―
「遅いんだよあんた。父ちゃんもういっちまったよ。」
同じような布の服を着た女性が料理を片付けている姿があった。
「お母さん?」
「?何言ってんだい、さっさと食べちまいな。」
(なんか・・・この光景どっかで見なかった?・・・あるよね・・・このだっさい布の服に・・・あのおばさん。)
「私はこの村から出たことないよね?」
「当たり前だろ。あんたは臆病なんだから。」
- 32 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時22分45秒
- (やっぱり・・・これ、ゲームと似てる。・・・っていうかゲームの夢かぁ・・・なんだ、びっくりするじゃん。
矢口があまりにもはまっちゃったからこんな夢・・・へへっ面白いじゃん。
あれっ?・・・てことはマキに会えるってこと?)
マキに会いたい矢口は家を出て行くことをさっさと決めた。
「出て行ってどうするのさ。世界にはあんたの知らないモンスターも危ない人間もたくさんいるんだ、
あんたなんかがやっていけるはずないよ!あんたはここで一生暮らしていくのさ。」
「嫌だ!こんな所で一生を終えたくない!世界中を旅したい!」
「母さんは認めないよ。」
そう言う母親の言葉を無視し、その日の夜に矢口は取り合えず必要な荷物を手に
家から出て行った。
(やってやる、成りきってやる、このゲームの主人公に!)
決意した矢口はいくらかの疑問はあったが全てを"夢"とし、楽しむことにした。
前回プレイした所まで進むのは簡単だった。
モンスターも出ないし危ない人間も居ないし、マキに出会うところまであっというまに終わった。
- 33 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時24分02秒
- 「マキって子を探しているんだけど。」
「マキちゃんなら――」
矢口は期待を胸にマキが居るはずの路地裏へと向かった。
そこには、ゲーム画面で見ていたよりも鮮明なマキが、ゲーム画面で見ていたマキよりも
ずっと大人っぽい雰囲気の、色気いっぱいのマキが居た。
ずっと会いたかったマキ。
想像を遥かに超える可愛さに言葉を失った。
頬を赤く染めてじぃっと舐めるように脚の先から頭のてっぺんまで見て行った。
「なに?ジロジロ見て。なんか用事?」
「あっ、えっと、マキさん?」
「そうだけど・・・どうして知ってるの?」
「や、そこのバーで聞いたから。」
「ふぅん。なんか用事なわけ?」
「一緒に旅して欲しい。」
「は?何?急に。それどころじゃないの、こっちは。掃除に洗濯洗い物。忙しいの。」
矢口とマキが会話をしているとマキを呼ぶ声が聞こえた。
「何ぐずぐずしてんだ!さっさと片付けろ!」
父親らしき男が窓から顔を出してマキに言う。
「そういう訳だから。」
マキは矢口に向けていた視線を洗濯物に戻し、作業を再開した。
- 34 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時24分56秒
- 「この家出たくない?」
「・・・出たいけど無理。」
「どうして?」
「・・・・お父さんに殴られるよ、そんなこと言ったら。」
「・・・こっそり行ったら分からないよ。」
「・・・無理だよ。」
矢口がしつこく話しかけていると家から出てきた先程の男がマキの頬を引っ張叩いた。
パァンッ
「いつまでくっちゃべってるんだ、このろくでなし!」
それを見てカーッっと来た矢口は思わず口を出しそうになったがマキがそれに気付いて制した。
「ごめんなさい、すぐします。」
「バカがっ!!」
男は唾を吐いて戻って行った。
「あれ、お父さんじゃないの?」
「・・・そうだよ。」
「見てらんないよ、一緒に行こう?」
「無理だよ。」
マキはそう言うと洗い終わった洗濯物を持って家へと入って行った。
その後ずっとそこで待っていた矢口だったが、いくら待っても出てこなかったので
食料を買い込み、家の傍でマキが出てくるのを待った。
- 35 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時25分49秒
- 「いい加減にしろ!メシのひとつもまともに作れねぇえで!」
中でまた誰かが叩かれるような音が乱暴な言葉と共に聞こえて来た。
何度も何度も聞こえて来た。
矢口は我慢が出来なくなった。
一生懸命働くマキにつらく当たる父親。
マキが出て行くことは無理だと言ったがもう連れ出すしかないと思った。
矢口は夜になり、静まり返ったマキの家に忍び込んだ。
そしてマキを探した。
マキは入り口からすぐの部屋に寝ていた。
頬に伝う涙の跡。月明かりに照らされた頬は叩かれて腫れあがっている。
矢口はそっと拭ってやった。
「・・・んん・・・?」
「マキ、起きて。」
「・・・?!だっだれ??」
「夕方話した・・・」
「あっ・・・なに?ここで何してるの?」
「見てられないの。マキが酷い仕打ちを受けているの耐えられない。」
「・・・つらくなんか無いよ。」
「ウソだ。分かる。だって泣いてた・・・。」
頬に残る涙の跡を指差して言うと、マキはまた泣き出した。
- 36 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時26分42秒
- 「だって・・・私が出て行ったらお父さん・・・ひとりぼっちになっちゃう。」
「お母さんは?」
「居ない・・・出て行ったから。お姉ちゃんもだし・・・これで私も居なくなったら・・」
つらく当たる父親から逃げ出したいと思う反面、自分しか居ないと思っているマキ。
父親をひとりぼっちにすることが可哀想で出来なかった。どんな親でも親だということか。
「バカ!お父さんは甘えてるだけだよ。マキが居なくても大丈夫、ちゃんと生きていける。
それよりも矢口はマキのこれからの方が大事。だから・・・行こう?」
「・・・でもっ・・」
いくら言っても頷かないマキに矢口は条件を出した。
「じゃあ、5万モニ。ここに置いていく。それでどう?」
「・・・」
「マキが気になるならたまに様子を見に戻っても良い。」
「・・・ほんと?」
「うん。だから・・・。」
矢口はマキを説き伏せて、連れ出すことに成功した。
一つ前の街でマキの姉のゆうこからもらった10万モニ。のうち半分を差し出した。
- 37 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月22日(月)21時27分40秒
- 静まり返る真っ暗な自宅を出る時、ドアの前で後ろを振り返るマキ。
父親が眠る部屋なのだろうか、一番奥の部屋を名残惜しそうに見た。
「マキ、ほら。」
矢口はマキに優しく手を差し出した。
そしてマキも頷いてその手をとり、そして出て行った。
矢口とマキの物語は始まったばかり。
- 38 名前:りょう 投稿日:2002年07月22日(月)21時31分35秒
- >>21 名無し読者さま
面白そうですか?それは良かったです(w
ただ、結構うだうだと続くので・・・(汗
頑張ります!有難うございます。
>>22 名無し読者さま
期待に応えられるかかなーり不安ですが頑張ります。
ありがとうです(^-^)
>>23 名無し読者さま
わおっ他を知ってらっしゃる?(汗
えっと、頑張りますよ〜!!
タイトルはゲームなのですが実はそこまでゲームっぽくない罠(w
ではまた明日。
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月23日(火)12時10分04秒
- おおっこれからやぐごまになっていくんですね?
数少ないやぐごま、頑張ってくださいね。
- 40 名前:39 投稿日:2002年07月23日(火)12時10分47秒
- すいません、ageてしまった(汗
逝ってきます…
- 41 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)20時56分19秒
- 「おなかすいたね。」
「食べてばっかじゃん。マキってば。」
「育ち盛りなの!やぐっつぁんはちっちゃいから少しで良いかもだけど〜。」
「ちっちゃくて悪かったね。」
「やだなぁ可愛いってことだよ。」
「どうも。」
マキは矢口が懸念していた父親のことを吹っ切って、すぐに笑顔になった。
矢口が、楽しくなるように一生懸命話し掛けたことも理由のひとつかもしれない。
「それよりさぁマキってやめない?」
「へ?なんで?」
「ん〜なんかヤだ。」
「じゃあマキちゃん?」
「ん〜それはもっとヤかも。うん、ごっつぁんで良い。」
「ごっつぁん?なんで?」
「後藤マキだから。」
「後藤って言うんだ・・・知らなかった・・・なに?ごっつぁんが良いの?」
「うん。やぐっつぁんだし。似てるっしょ?」
「よくわかんないけどマキがそういうならごっつぁんでも良いよ。」
「うん。そうして。」
矢口とマキは当ても無くただ旅をしていた。
時にはモンスターに出くわしたり怪しげな人間に騙されそうになったり・・・
時には宇宙船のようなものに乗って敵を打ち落とす、なんてこともあった。
色々なものが混ざったゲームのように感じた。
- 42 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)20時57分25秒
- 「ところで、やぐっつぁんはなんのために旅してるわけ?」
「なんのために?」
(そう、それはイマイチ分からないんだよね。矢口はマキに会いたかったから旅して見つけたわけだけど・・・)
「なんのためだと思う?」
「ん〜・・・ごとーと恋をするため?なんてねっ♪」
(おぃおぃ、冗談でも言わないでよそんなこと。でも・・・少なくとも矢口はそうかも。
マキに会いたかったわけだし・・・夢でも会えて良かったって思ってる。
主人公が旅をしようとした理由ってなんだったんだろ?わからないや・・・
う〜ん・・・恐らくはマキを振り向かす事、そして世界を旅して成長すること。
それが目的な気がするけど・・・)
「ちょっと!止まらないでよ。」
矢口が真剣に考え込んでいるとマキが困ったように突っ込んだ。
「あっ、ごめんごめん。いや、なんでかと思って。でもごっつぁんの言う通りかな。矢口はごっつぁんのこと好きだし。」
「え?」
(ゲームだもん、言っちゃっても良いよね。)
- 43 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)20時58分06秒
- 「ごっつぁんと恋をするっての、ごっつぁんはどうかしんないけど矢口は目的かな・・・」
「・・・」
「なんてね♪」
少し困ったような顔をするマキを見て矢口は慌ててすぐに冗談だというフリをした。
「なに?冗談??」
「うん。知り合って間もないし。あれだよ、矢口は世界中で困っている人たちの手助けをするために旅してるの。」
(もっともらしくて良いかな。)
「ごとーはそのうちのひとり?」
「そうだね。」
「ふぅん。」
少し曇った表情を見せたマキだったが矢口は気が付かなかった。
「まぁ良いや。ごとーはやぐっつぁんについて行くだけだから。」
「うん、一緒に行こう。」
「・・・次はどこ行くの?」
「次の街は"ベーグルタウン"だね。」
「美味しそうな名前・・・」
「そればっか!(笑)」
- 44 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)20時59分30秒
-
"ベーグルタウン"
そこへ辿りついたのは暗くなってから。
街の入り口にもそれぞれの家にもベーグルが飾られてあり、街中から良い匂いがしていた。
「やぐっつぁん、早くご飯食べよ!もう我慢出来ないよ、ごとー!」
「待ってよ。そうせかさないでよ。」
「だってぇ〜。」
マキはゲームをしているときは気付かなかったがかなり子供だった。
見た目は矢口より大人。
体も矢口よりかなり大人。
色気いっぱい艶いっぱい。
マキを見たもの全てが一瞬のうちに魅了されるような雰囲気の持ち主と見た目だったが
中身は年齢通りの子供だった。
中身が、というよりは口調だろうか。
少しゆっくりな甘えた調で少し低い声ではあるが・・・可愛い声だった。
環境の悪い家で育った割りに良い子だった。いや、そんな環境だったからこそかもしれない。
甘えるような口調も態度も今まで出来なかったマキの気持ちの現れのように感じた矢口は
精一杯出来る限りマキの好きなようにさせてやった。
- 45 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時00分35秒
- 「宿屋見つけないとね。」
「だね!」
街に入ってから気付いたこと。
街にはひとりも人間が居なかった。
家には灯りが灯してあり、楽しそうな声はするものの外には誰も居ない。
不思議に思った矢口だったが、取り合えず宿屋へと向かった。
カランコロン
「いらっしゃいませ。」
「ふたりだけど、空いてる?」
「はい。すぐご案内致します。」
店主は矢口とマキを部屋へと案内した。
そこで矢口は気になったことを聞いた。
「この街はどうして外に人が居ないんです?」
「ああ・・・旅人さんだったら知るはずもないことですね。」
「人居なかったね、そういえば。それよりご飯〜!」
「ごっつぁん・・・すいません、ここって料理頼めますか?」
ご飯ご飯とうるさいマキに矢口はやれやれとため息を吐き出した。
「はい。すぐに召し上がりますか?」
「すぐ!食べたい!!」
「だ、そうです。じゃあ先に部屋行こうか。後で理由聞かせてもらえます?」
「はい。」
案内されたのは温かい色のカーテンに柔らかいベッドがふたつ並んでいるどことなく
優しい感じのする部屋だった。
- 46 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時02分26秒
- 「ふっかふかだね。」
マキは嬉しそうにベッドに飛び乗ると転がってはしゃいだ。
(出会った時はもっと大人だと思ったのに・・・いや、充分可愛いんだけどね?)
初対面の印象と違ったマキに戸惑いながらも矢口はマキが相変わらず好きだった。
ただ、あまりにも無邪気というか無知というか、・・・マイペース過ぎて恋なんて頭の隅にも
無い単語になってるんだろな。と、そう思わせられた。
「ちょっと聞いてくるから。」
「どこ行くの?」
「ん?どうして人が外に居ないか。ごっつぁん食事来たら先に食べてて良いから。」
「ん〜・・・・・・・ごとーもいくよ。」
「なんで?おなかすいてるんでしょ?」
「そうだけどー・・・」
「なんなの?」
「ごとーもやぐっつぁんの旅の仲間でしょ?」
「え・・?そうだけど・・それがどうしたの?」
「やぐっつぁんが気になることはごとーも知りたいから。だからごとーも行く。」
きっぱりとそう言うマキを嬉しく思った矢口は無意識だったがマキの頭を撫で撫でとした。
- 47 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時02分56秒
- 「子供扱いしてるな?!やぐっつぁんってば。」
「え?あっ、してないしてない。ありがと。でも、それじゃああれだな。後でごっつぁんに
おなかすいたって言われるの怖いから先に食べようか。それから聞きに行くよ。」
「良いの?」
「うん。」
「だからやぐっつぁん好き。」
マキはふにゃあっと子供らしい笑顔を矢口に向けた。
(・・・ずるいよね、マキは。)
運ばれてきた食事をきれいに平らげて矢口達は聞きに行った。
- 48 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時04分13秒
- 「ここの長のお子さんのせいなんです。いや、お子さんというよりは長なのかな?」
「と、いうと?」
「ここの長にはひとりのお子さんが居ます。男勝りで明るくて誰にでも優しくて街のみんなの人気者なんです。
そんなお子さんも、もう16歳になって、いつまでもふらふらしているのを見かねた長が婚約者をつけたんです。」
「16で??」
「?変ですか?」
「い、いや・・」
「ごとーと一緒だね、年。」
「それでその婚約者の方は隣町の長の娘さんということで、この街がより一層大きくなれると、
街のものは大喜びしました。ですが・・・」
「問題があったんですか?」
「彼女は婚約者が出来た後、屋敷を頻繁に抜け出して、婚約者をほったらかしにしていたんです。」
「どうして?」
「理由は分からないのですが・・・それで見かねた長がお子さんに外出禁止令を出したんです。」
「うわぁ・・・きっつ。」
- 49 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時05分21秒
- 「でも街の人間に紛れてその行為は続きました。お子さんは運動神経が良くて身も軽かったので
紛れられては見つけることも掴まえる事も出来ませんでした。」
「何しに出るんだろう?」
「そして全ての者に“夜間外出禁止令”が出されたのです。」
「なるほど・・・だから家に灯りはあるし声も聞こえるのに誰も外に居ないんだね?夜に出るとどうなるの?」
「それがね、かなり厳しいんです。」
「ご飯抜きとか?」
(おい、ごっつぁん・・・)
「あはは、まさか。“追放”ですよ。」
「「追放?!」」
「はい。子供だろうが年寄りだろうがえらいさんだろうが、見つかった時点で追放です。
二度と街の土を踏めません。」
「・・・そうなんだ・・」
- 50 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時05分49秒
- 矢口達は話を聞き終えて部屋へと戻って来た。
「・・やぐっつぁんさぁ今何考えてる?」
「ん?」
「なんとかしたいって思ってる?」
「・・・うん。」
「ごとーも。この街での目的はそれに決まりだね!」
「そうだね。明日っから早速探ろっか。」
そして新たな目標を掲げ、矢口達は眠りについた。
『また明日、会うの楽しみにしてるからね。』
(・・・ん?)
- 51 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時06分56秒
- 次の日、早速長の娘について情報を集め出した矢口とマキ
「あっ見て見て!このアクセサリーすっごく可愛いよやぐっつぁん!」
「ん〜?どれどれ・・・って、違うだろ!今は情報集めてんの!」
「良いじゃんちょっとくらいさ。」
「駄目だよ、そんなことばっか言ってさっきからずっとじゃん。」
「はいはい、やぐっつぁんはけちですね〜。」
「こらっ。」
「あはっ でもさ、おなかすかない?もうお昼過ぎてるよ?」
ぎゅるるるる・・・
「確かに。そこの店入ろっか。」
矢口達はすぐ傍にあった店に入った。
少し薄暗い電球に物静かな雰囲気の店。
壁にたくさんのお酒が並べられていること、カウンターがある、ということから夜は
バーでもやっていそうな店だった。
それが禁止令のせいで仕方なく昼に開いているという感じだった。
「いらっしゃいませ。」
接客をしに来たのは背の高いロングヘアーの綺麗な女性だった。
(うわわっ・・・すっごく綺麗な人・・・)
「やぐっつぁん、ほっぺた赤いよ?」
「へ?き、気のせいだよ!」
「そかな・・。まぁいーや。これとこれ、下さい。」
「かしこまりました。」
- 52 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時07分54秒
- 女性はどこか物憂げな表情で悲しげな瞳をしていた。
「やぐっつぁんってああいう人がタイプなんだ?」
「ん?あーまさか。綺麗だとは思うけど。」
「そうなの?じぃっと見てたから。ごとーもタイプではないね。」
「ごっつぁんタイプなんてあるの?そんなの興味無さそうなのに。」
「むぅ・・しつれーな!ごとーにだって好きな人のタイプくらいあります。」
そう言って少しむくれたマキに矢口はほんの少し困った。
矢口から顔を背けてほっぺたを膨らまして怒っている。
(怒ってたって可愛いんだね・・・やっばいなーこの旅って・・・)
「じゃあ、教えてよ。」
「やぐっつぁんになんか絶対言わないよ。」
(なんだよそれっ!)
「矢口とか?」
「ばっばか!違う!誰がやぐっつぁんなんか!」
「そんなはっきり言わなくても・・・」
「もう良いでしょ、それより話聞こうよ。」
「・・・だね。」
(はぁ・・・心開いてくれて笑ってくれて・・・矢口、大分頑張ってると思うんだけどね・・・
まだまだマキには意識してもらえてないのね・・・。)
- 53 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時08分38秒
- 「お待たせいたしました。」
料理を運んできた女性を捕まえて話を聞こうとした。
「あの、ちょっと聞きたいことあるんですけど。」
「はい・・・?」
「ここの長の娘さんってどんな人なんです?どこにいけば会えますか?」
その言葉を聞いて女性は表情を堅くすると
「私に聞かないで。」
そう言って奥へと入って行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
矢口とマキは顔を見合わせて首を傾げた。
「なんか、知ってそうな気がしない?」
「するよねすごく。裏口で待とうか、終わるの。」
「うん。でもごとーまだ食べる。」
「へいへい。」
- 54 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時09分19秒
- 裏へ回って壁にもたれてふたりは女性が出てくるのをじっと待った。
店を出たのは3時。時間ギリギリまで働いているとしたら禁止令の時間まであと4時間もある。
かなり退屈な時間を過ごすことになるのだが、矢口は苦痛ではなかった。
「・・・すー・・・すー・・・ふが・・・」
「すぐ寝ちゃったな・・・マキは可愛いね。」
矢口の肩に寄りかかって眠るマキを見ているだけで矢口は幸せだった。
マキの肌の温もり、マキの心地良い規則正しく聞こえる心音、マキの甘い香り。
そのどれをとっても矢口を退屈にさせることはなかった。
矢口を信頼しきって体を預けているマキ。安心しきって眠るマキ。
しかし、そんな気持ち良さそうなマキを見ているうちに矢口も少しずつ眠りに世界へと導かれて行った。
- 55 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時10分22秒
- 話を聞いてよ!
話すことなんてないよ!
どうして?かおはどうして分かってくれないの?
ひとみにはあの子が似合ってる
あの子は父さんが勝手に決めた子じゃんか!
それでも、結婚するでしょう?
私はかおが好きなんだ!!
かおりはひとみには合わない、身分が違いすぎる
何言ってるの?
時間、無いからもう行くね、もう来ないで
あ、ちょっとかおっ!!
(・・・んん??・・・なに・・・?)
矢口が目を覚ますと店の横手の方でガァンッという音が聞こえた。
- 56 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時11分18秒
- (・・んか、ケンカっぽかった?)
「ごっつぁん、起きて。風邪引いちゃうぞ!ごっつぁんったら!」
「ううう・・あと5分・・むにゃ・・」
「ここっ外だぞ!良いから起きろっての。」
矢口は無理やりマキを起こして立たせた。
「なにぃ〜?もう朝〜?」
「夜!話聞くんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・あっ!」
思い出したようにマキはぽんっと打つと矢口の後に着いていった。
音がした方へ向かい、覗き込んだ矢口達。
そこには――
先程聞こえた音のもとだろうドラム缶がゴロンと転がっているのが見えた。
薄暗い路地裏で壁をガツンっと殴っている人間が居た。
「どうして分かってくれない!どうして受け入れてくれない!」
声からその人間が女性であることが分かった。
- 57 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時12分14秒
- その女性は何度も何度も壁を殴りつけ、壁に向かって辛そうに何かを叫んでいた。
しばらく見守っていた矢口達のもとへその女性が急に走って来た。
ドンッ
角に隠れてこっそり見ていた矢口は急なことで避ける事が出来ずにその女性に思い切りぶつかった。
「痛っ!」
小さな矢口は後ろに倒れてしまった。
「やぐっつぁん、はい。」
倒れた矢口に優しく手を差し伸べるマキ。
(あ、嬉しい。)
なんてことを思ったりして、どんな時でも矢口はマキにやられてしまうらしい。
ぶつかった女性は矢口に視線をやると
「あ、ごめん。」
それだけ言って去ろうとした。
しかしそれを矢口は止めた。
「待って!」
それを聞いてピタっと止まった女性。
振り向く事はせずに矢口の次の言葉を待っているようだった。
- 58 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時13分05秒
- 「あなた、長の娘さん?」
「・・・」
「そうなの?やぐっつぁん。」
「そうだよ。あなたたち誰?」
「私達は世界を旅してるの。昨日からこの街に居る・・・あなたのことを街の人に聞いた。」
「・・それで?」
「何か悩みがあったら・・・相談に乗るよ。余計なおせっかいかもしれないけど。」
「・・・」
女性は返事をせずに歩き出すと少し行ったところで立ち止まり、矢口達に言った。
「うち・・・来る?」
その顔はとても悲しげで切なげで今にも泣き出しそうな顔だった。
色は白くてそれなりに身長もある。
綺麗な顔立ちに低いのによく通る声。
強そうなのに今にも消えそうなその女性に何故か惹かれて、矢口は黙って付いていった。
- 59 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時15分31秒
- カチャ
「ただいま。」
「お帰りなさいませひとみお嬢様。」
「うん。」
「梨華様が探しておられましたよ。」
「あぁ・・・。」
「その方達は・・・?」
「友達。後でお茶持ってきて。」
「かしこまりました。」
(ほんまもんのお嬢??)
自室へ通された矢口とマキ。
部屋には大きな窓と空が見える天井、大きなふかふかのベッド、
大きな家具にきらきらしたバスルームがあった。
埋まってしまうほどの柔らかいソファーに座って向かい合う3人。
「すっごく気持ちいー。」
マキは矢口の横で飛び跳ねて喜んでいる。
- 60 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時17分22秒
- 「あの・・梨華って人に会わなくて・・良いの?」
「うん・・どうせ来るよ。」
と、言ったそのすぐ後に、扉をノックする音が聞こえた。
コンコン
「はい。」
「梨華です。入っても良いですか?」
「うん。」
入って来た“梨華”という少女はとても女の子らしい雰囲気で、声も可愛らしかった。
「あ、お客様いらしてたのね。」
「うん。今日ここに泊まってもらうから、・・・相手出来ないけど。ごめん。」
「ううん。お客様は大事にして下さい。それじゃあまた後で御食事の時に。」
梨華は矢口達に軽く会釈をするとすぐに出て行った。
「はぁ・・」
出て行ってすぐにため息をつく少女
「さっきの子が婚約者?」
「そう。良く知ってるね。」
「あなたは毎日夜になると抜け出すって聞いたけど。」
「ひとみで良いよ。私は吉澤ひとみ。」
「あ、うん。ひとみはいつも何をしてるの?彼女が・・・あまり好きじゃない?」
- 61 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時18分54秒
- 「嫌いじゃないよ、でも他に好きな人が居るから。」
「かおって子?」
「うん。小さい時からずっと好きだった。優しくて私よりずっと年上なのになんか子供っぽくて抜けてて
・・可愛くて本当に大好きだった。それで付き合ってもらえたんだけど父さんに婚約者決められて
・・・かおは自分とは合わないって私に別れを告げてきたの。」
「要するに、寄りを戻したいんだよね?」
「ごっつぁん?」
先程まで矢口とひとみの会話を黙ってじぃっと聞いていたマキが急に口を開いた。
「・・・うん。」
「でも、それにはあの梨華って子が邪魔なんでしょ?」
「そうだけど、彼女のことも傷つけたくはない。私の事好きって想ってくれてる。」
「なんだ、煮え切らないなぁひとみ。」
(ごっつぁん〜!!)
「それにかおはもう会いたくないって言ってる。私の事好きじゃないのかもしれない。」
「かおりさんの気持ちが聞けたらどうする?」
「そんなのっ嬉しすぎる!たとえ悲しい答えでも・・・。」
「そか・・・よっし、ごとー達にまかせなよ。なんとかしてあげるよ。」
「え?ごっつぁん??」
「良いから良いから。ひとみもそれで良いよね?」
「・・・助かるけど。」
- 62 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時20分01秒
- 「梨華って子を傷つけることなくかおりさんの気持ちを知る。そういう事だよね?」
「うん。」
「オケー!!」
マキはひとりで勝手にひとみと話を決めると「おなかすいた」と言って騒ぎ出した。
「食事は梨華ちゃんも一緒だから。」
そう言って矢口たちは吉澤の後に続いて食堂へと進んだ。
「なんでそんなくっ付いて食べるの?いっぱい空いてるのに。」
ひとみが、すぐ横にくっ付いて食べる矢口とマキに問いかけた。
「や、いっつもこうだし。ここは広すぎるんだよ。」
「ふぅん。」
隣同士に座る矢口とマキとは違って離れた席に向かい合って座るひとみと梨華。
特にこれといった会話もなくどちらも黙々と食べている。
「これ美味しいねぇやぐっつぁん。」
「うん。初めて食べるね。」
「ごとーシアワセ!」
マキは出されたものを全て平らげ、おかわりも何度もし、充分に満足していた。
しかし矢口は梨華のことが気になってあまり箸が進まなかった。
- 63 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時20分37秒
- ひとみはずっと俯いて食べているが梨華はじっとひとみを見て食べていた。
ひとみを見る目がとても切なく感じた。
自分のことを好きではないと気づいているのだろうか、叶わない恋をする少女の顔をして
それでも幸せそうにひとみのことをじっと見ていた。
(梨華ちゃんだって充分可愛いのにな・・・かおって子がどんな子か知らないけど・・・なんか可哀想だな。)
矢口は食事を終えるといつまでも食べ続けるマキを連れて部屋へと戻って行った。
- 64 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時21分34秒
- 用意してもらった部屋、といってもひとみと同じ部屋なのだが。
その部屋で矢口とマキは眠っていた。
「んん・・・ふが・・ん・・」
ガツンッ
「痛っ!!」
眠っている顔に急に起きた衝撃
顔を抑えて横を見ると、マキが寝返りを打った際に矢口に肘鉄を食らわしたことが分かった。
「・・・痛い。」
矢口は眠るマキの頬を軽く抓って反応を窺ってみた。
「・・・やめてよ〜・・・それ・・ごとーのべーぐる・・」
(ガクッ・・・そればっか・・くっそう可愛いなぁもう!)
むにゃ・・・とか言いながら矢口に摺り寄ってくるマキがとても愛らしく、とても誘っているように見えた。
「・・・ちゅうするぞー。」
「あ、うそうそ、しませんしません。今のナシ!」
「でもしたいぞー。」
ぼそっと言ってみてひとりで突っ込んで、なんとも間抜けな矢口だった。
- 65 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時23分06秒
- ガサ
「・・ん?」
独り芝居をする矢口の耳に聞こえて来た音。
そこを見ると、ひとみが窓の外を見ながらたたずんでいるのが目に入った。
「あ・・・ひとみ、起きてたんだ。」
「・・・うん。寝付けなくて。それよりさ、聞いて良い?」
「うん。何かな?」
「ふたりって恋人?」
「へっ?矢口とマキ??なんで?」
「やー仲良さそうだし今だってキスしようとしてたし。」
「げっ!今の見てたの?」
「ばっちり。」
「あちゃぁ・・・違うよ、付き合ってない。矢口の片想い。」
「そうなの?」
「うん。マキは矢口のことお姉ちゃんみたいに思ってるんじゃないかな。」
「そうなのか・・・なんか矢口さんも辛そうな恋・・してるね。」
「う〜ん・・・まぁでも一緒に居るだけで今のところ幸せだから。
それよりさ、ひとみ、眠れないのはかおりさんのせい?」
- 66 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時24分32秒
- 「・・・かおはさ、気持ちを言ってくれたことないんだ。ちっちゃいときから好きだって言ってるのも私、
告白したのも私、プレゼントだって愛の言葉を囁くのも私。全てが私からなんだ。
それでも付き合ってくれたし、私が話しかけると嬉しそうに笑ってくれたんだ・・・それなのにさ・・・」
「・・・どうしてお父さんは梨華ちゃんをひとみの婚約者にしたの?ひとみとかおりさんが付き合っていること知らなかったの?」
「うん。言うこともないかなって思ってたし。それで働きもしない勉強もしない私が毎日遊びに行くのを見かねたのかな、
お父さんは梨華ちゃんを連れて来た。」
「そうだったんだ・・・あのさ、梨華ちゃんの居た街は大きいの?」
「うん。ここと同じくらい。だからみんな喜んだんだ。でも私はかおが好きだったから
梨華ちゃんやみんなの気持ちを無視してかおに会いに行った。
最初のうちは変わらず居てくれたんだけど少しずつ変わって行った。」
「・・・」
- 67 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時25分14秒
- 「どうして分かってくれないんだろう?身分なんてどうでも良いのに・・かおのためだったら
こんな街捨てたって良い。でも・・・そうすると梨華ちゃんが・・・」
「梨華ちゃんも気になるんだね。」
「だって・・・婚約者に逃げられたなんて周りに知れたら可哀想だから。この街にも自分の街にも
居れなくなると思う。」
そう言って悲しそうに下を向いてしまったひとみに掛ける言葉が見つからず、
矢口は「ごめん、ちょっと暑いから外の風浴びてくる」と行って出て行った。
風を浴びるべきはひとみだった気もするが。
- 68 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時26分05秒
- 部屋を出て少し歩いて庭に出てみた。
するとそこには白いレースのついたネグリジェを纏った梨華が物憂げな表情で
ひとみの居る部屋を見上げている姿があった。
何をするわけでもなく、ただ、じぃーっと部屋を見つめている。
その姿がなんだかいじらしくて悲しくて切なくなった。
ガサ(あっやばいっ)
「誰?」
音を発してしまった矢口に気付いた梨華が問いかけてきた。
「あの・・・ごめん、ちょっと外に出たらあなたが居たから。」
「ひとみちゃんのお友達?」
「うん。あなたは―」
「梨華で良いよ。」
「・・梨華ちゃんはそこで何してるの?」
「ん〜・・・ひとみちゃんの部屋見てた。」
「・・・ひとみのこと、好きなんだよね?」
「うん。でもひとみちゃんは他に好きな人が居るみたいだね。」
「えっ・・!」
- 69 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月23日(火)21時26分49秒
- 「見てたら分かる。私なんかよりずっと綺麗で可愛くて良い人なんだと思う。」
そう言って悲しそうに俯く梨華に耐え切れなくなった矢口は思わず言うつもりのなかった事を口走ってしまう。
「梨華ちゃんは充分可愛いよ!梨華ちゃん、すっごく女の子らしいし、すっごく魅力的だと思う。」
「・・・えっと・・名前・・」
「あ、矢口。」
「ありがと、矢口さん。ウソでも嬉しかった。」
「ウソじゃないって!」
矢口の言葉に曖昧な笑みを見せた梨華は、「そろそろ戻るね。」と言い残して去ろうとした。
「また会いに来ても良いかな?」
なんとなく不憫に感じた梨華に思わず言った言葉だったが梨華は小さく頷いた。
「・・・仕方無いよね、可哀想だもん。」
- 70 名前:りょう 投稿日:2002年07月23日(火)21時29分53秒
- >>39 名無しさんさま
どうもです。
やぐごまになっていくんです!(笑)
なかなか話が進まないですが〜宜しくお願いします。
age・sageは全然気にしてませんので大丈夫です!
ageのときの色が好きじゃないだけで(w
では、また。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月24日(水)11時25分36秒
- かおよし?楽しみネ。
- 72 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)04時26分00秒
- りょうさんのやぐごま好きです。
矢口さんは現実ではなっちと付き合ってるんですよね。
そしてアゴンの活躍にも期待(w
- 73 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時11分12秒
- 次の日――
早速かおりの居る店へと向かった矢口達。
「あなた、かおりさん?」
料理を運んできた女性に向かってマキが率直に聞く。
「・・?そうですけど何か?」
「ひとみ、知ってるよね?」
「・・・ひとみの話なら何もすることない。」
女性はきつい口調でそう言うと後ろへと下がって行った。
それに負けじと矢口は再注文をして彼女を呼びつけた。
「婚約者が居なかったらどうする?」
「な・・に、言ってるの?急に。」
「もし、ひとみに梨華って婚約者が居なかったらあなたはひとみの気持ちに応えてあげられる?」
「そんなの・・あり得ない。」
「もしだよ。」
「そうならないと分からない。」
「・・・私、矢口って言うんだけど・・・ひとみから梨華って子を離してあげる。だからその時は
ちゃんと気持ち伝えてよね。」
「あなたが?どうやって?」
「そうだよ、やぐっつぁん。」
「矢口の方に振り向かせて見せる。」
「!」
そう言う矢口の言葉になんの返事も返さなかったかおりだったが、
「あの子が居なかったら・・・?」
と、ぼそぼそっと口にしていたので変化が見られそうな気がした。
- 74 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時12分49秒
- 宿屋に戻った矢口とマキ
ドサッ
乱暴に荷物を投げ捨て、乱暴にベッドへと飛び乗るマキ
店を出てからここに戻って来るまでもずっと無口で機嫌の悪さがひしひしと伝わって来て、
矢口もほんの少しそんなマキに恐怖を感じていた。
(なんで怒ってるんだよ〜!!やっぱ、ああいう作戦にすることを言わなかったから??)
「あのさ〜ごっつぁん・・・おな、おなかすいた?」
(な、わけないじゃん矢口のおばか〜食べたばっかだっつうの!)
「今食べたとこじゃん。」
「あは、そうだよね。あのさ・・」
「なに?」
どことなくきつい口調に矢口は負けていた。
「いや、やっぱし良い。」
しばらくの間、部屋に重苦しい沈黙が訪れた。
「あの・・・ごめんね?作戦――」
「やぐっつぁんはさぁ・・・」
「あっ、うん、なにかな??」
矢口は話し出したマキの傍に擦り寄って行き、寝転がるマキの顔色をうかがうようにして聞いた。
- 75 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時14分09秒
- 「梨華ちゃんみたいな子がタイプなんだね。」
「はあ?」
「だって、振り向かせてみせるって、そういうことでしょ?」
「ばっか、違うよ。かおりさんの気持ちをひとみに聞かすには梨華ちゃんを離すしかないでしょ?
梨華ちゃんの不幸も嫌だってひとみが言うから・・・だから矢口が仲良くして気を紛らわせられたら良いなって・・」
「でも好きじゃなかったら出来ないでしょ、そんなこと。」
「そりゃあ梨華ちゃんは女の子らしくて・・・声も可愛いし、良い子だとは思うよ?
でも、それだけだよ。好きって訳じゃあ。」
「そうだよね、ごとーは全然女の子らしくないし声も低いし可愛くないもんね。」
「何言ってんの?さっきから。」
「だって、やぐっつぁんが梨華ちゃんのこと好きだからじゃん!」
「だからちっがーうっての!矢口のタイプは梨華ちゃんとは全然違います!」
- 76 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時16分05秒
- 「・・・じゃあ梨華ちゃんみたいな子好きじゃない?」
悲しそうにやたら"矢口の好きな人"に拘るマキに、矢口はハッとした。
(あれ?作戦のこと言わなかったことを怒ってるんじゃないの?)
「もしかして・・・妬いてる・・の?」
「だっ誰がやぐっつぁんなんかに!!」
(なんだよ〜じゃあなんでなのさ〜わけ分かんないよマキってば。)
「さっきの、作戦なんだ。本心じゃないよ。」
(今更だけど、抱かれてしまった不信感を取り払うためにも説明しなきゃ。)
「・・・どゆこと?」
- 77 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時16分36秒
- 落ち着いて来たのかマキの口調が柔らかくなってきた。
「あれはさぁ――」
矢口は昨日の夜ひとみと話したこと、梨華と話したことを全てマキに話し、
その結果こうなった、ということを一から説明していった。
「なんだ・・・そゆことか・・てっきり・・・」
「てっきり・・・なに?」
「えっ?べつにっ。」
「あのさぁ、さっきごっつぁん言ってたけどさ、矢口は正直彼女みたいな子はタイプじゃないよ?
もちろん嫌いじゃないけど、矢口はもっと子供っぽい子が好きだから。」
「子供っぽい子?」
「そう。無邪気でワガママでマイペースな子。タイプってことじゃないかもだけど。」
「そんな子ヤじゃない?無邪気は良いけどワガママでマイペースだなんて・・・ごとーはヤだな。」
(いや、あんたのことだから。)
そう思って思わず苦笑いをしてしまった。
- 78 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時17分17秒
- その日から、矢口は毎日梨華に会いに行った。
「いつも何してるの?」
「お庭から街を見てる。」
「ひとみは・・・どこに?」
「昼間はほとんど眠ってるから。あまり話してくれないから。」
「そか・・・でもさ、その分矢口とお話しようよ。」
「うん。まりっぺの話面白いから楽しい。」
梨華はすぐに矢口と打ち解けた。
もともと話し上手なせいであったこともあり、これまで旅をしてきたことや
さもあったことのように作り上げた話など、梨華を楽しませるだけの生きかたをしてきたからだ。
梨華がひとみと一緒に居る所は見たことがなかった。
同じ部屋に居るのは食事の時だけ。
梨華は矢口と居ることが多くなった。
- 79 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時17分48秒
- 「そう言えばいつも一緒に居る子は良いの?」
「へ?」
「ほら、やぐっつぁん〜ってまりっぺのこと呼んでいる子。」
「あぁマキのことね。うん、あの子もほとんど食べるか寝るかの生活だから。」
「ひとみちゃんと同じだね。」
「だね。」
「マキちゃんとはどういう関係なの?」
「あははっやっぱり気になるか〜。矢口たちは旅の仲間。姉妹みたいな感じかな。」
「恋人とかじゃないの?」
「うん。違うよ。」
「すっごくお似合いなのにな。」
(まじっすか!嬉しいじゃんか〜、分かってるねぇ梨華ちゃん!)
- 80 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時18分40秒
- そんな日が何日か経った或る日のこと・・・
コンコン
「・・・はい。」
「梨華です。入っても良いですか?」
「あぁ・・うん。」
梨華は夜遅くにひとみを訪ねてやってきていた。
カチャ
「どうしたの?」
「うん・・・ひとみちゃんに聞きたいことあるの。教えてくれる?」
「・・・なに?」
「ひとみちゃんの好きな人教えて。」
「えっ?!な、何言って――」
「私じゃないよね?他に居るよね?」
「梨華ちゃん・・・」
「ちゃんと言ってくれないと辛いよ。諦められないじゃない。ちゃんと言ってくれたら自分の街に帰る。」
「・・・ごめん、梨華ちゃんじゃない人、ずっと好きな人居る・・・。」
少しの重苦しい沈黙のあと、ひとみは静かに言った。
- 81 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時19分20秒
- 「だよね、うん。分かってた。無理やり決められた婚約者だったもんね?ひとみちゃんほとんど口聞いてくれなかったし。」
「あのっ、ごめんね?ほんとにごめんね?嫌いなんかじゃないよ?梨華ちゃんも好きだけどそれ以上にかおのことが――」
「もう、良いよ。気を使ってくれなくてもさ。明日、この家出て行くね。おじ様には私からお断りしておくから。」
そう言って梨華はひとみに笑顔を向けて出て行った。
「ほんとに・・ごめんっ!!」
- 82 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時20分07秒
- その頃の矢口とマキ
「やぐっつぁん、毎日楽しそうだね〜。」
「そう?ごっつぁんと会えなくて淋しいけどな、矢口は。」
「・・そんなこと言ったって騙されないよ。梨華ちゃん、どんな感じ?」
「う・・ん、そうだね――」
正直良く分からなかった。
矢口が言ったことに対して笑ってくれて喜んでくれて友達にはなっていた。
毎日毎日会っていたけど梨華はあまりつかみ所の無い人間だった。
と、そんな会話をしていると急にドアが開いた。
バァンッ!
「「へっ?」」
入って来た人物を見ると・・・
「はぁっ・・はぁ・・はぁ・・」
肩で苦しそうに息をしている梨華がそこに居た
「梨華ちゃん?!」
ベッドの上でゴロゴロとしながら会話を楽しんでいた矢口は思わず起き上がった。
すると梨華は矢口目掛けて走って、抱きついてきたのだった。
「ちょ、ちょっと梨華ちゃん??」
マキはその光景を不思議そうにじぃっと、少し不愉快そうな顔をして見ていた。
「まりっぺ!まりっぺ!私っ・・私っ・・!!」
矢口に体を預けて泣きじゃくる梨華に矢口もマキも言葉が出なかった。
- 83 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時22分03秒
- 「ね、落ち着いてよ。矢口はどこにも行かないから、ここに、梨華ちゃんの傍に居るから。」
矢口は一生懸命泣き止まそうと必死になっていた。
「ごっつぁん、何か飲むもの持ってきてくれない?」
「・・・は〜い。」
マキの持ってきたお茶を口にし、矢口に抱かれながらしばらく居ると、落ち着いてきたのか矢口から体を離した。
「・・・落ち着いた?」
「・・・」
声に出さずただ頷く梨華。
「どうやってここまで来たの?見つかったらヤバイでしょ?いくら梨華ちゃんでも・・・」
「・・・立ち止まらずに来たから・・。」
「・・・何があったの?」
「ひとみちゃんに・・・ひとみちゃんの本当に好きな人を聞いたの・・・」
「えっ?」
「私の他に好きな人が居るってこと、ひとみちゃんの口からちゃんと聞きたかった。
分かってた言葉なのに聞いたら苦しくて・・・悲しくて・・・思い切り泣きたくて・・・
気がついたらまりっぺの顔浮かんで・・ここに向かってたの。」
「矢口で良かったら・・・いくらでも聞くよ。気のすむまで泣いたら良い。ずっと付き合うから。」
「・・まりっぺ・・・ありっ・・ありがとお・・」
矢口にまた体を預けて泣く梨華を見てマキは立ち上がった。
- 84 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時23分27秒
- 「やぐっつぁん、ごとーちょっと外で涼んでるね。」
「え?ここに居たら良いじゃん。」
「ん〜ごとーが居たら梨華ちゃん話しにくいと思うし。」
「えっ?」
矢口の言葉を無視してマキはベランダへと出て行った。
「まりっぺ、ごめんね?マキちゃん・・」
「へ?あ、ああ良いよ、気にしないで。」
「私・・・いつか振り向かせてみせるって頑張ってた。ひとみちゃんの想いはいつか風化するって・・・」
「・・・」
「でも、ひとみちゃんは変わらなかった。口もほとんど聞いてもらえないのに頑張れないよ。
少しでも話してくれたら頑張れたけど・・・ひとみちゃんは・・・ひとみちゃんは報われない恋をしているの?
叶わない恋なの?」
「それは・・・矢口の口からは・・・」
「会わせて。ひとみちゃんの好きな人に。」
「会って・・・どうするの?」
「ひとみちゃんの好きな人がどんな人か見たい。ひとみちゃんのことまかせられる人か・・・だから、お願いまりっぺ。」
「・・・分かった。」
「ありがとう、まりっぺ。」
その後しばらく話し続けた梨華だったが、泣きつかれた事もあったのだろう、そのまま矢口達の部屋で眠ってしまった。
- 85 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時25分22秒
- (そうだ、ごっつぁん・・・)
矢口はベランダへ出たマキのもとへとすぐに向かった。
「あの…ごっつぁん…?」
矢口がそっとベランダのドアを開けて外を見ると、
顔にかかった髪の毛を払いのけるようにしてさらさらの髪を風になびかせているマキが居た。
普段の子供っぽいマキではなく、甘えたなマキではなく、充分に大人の魅力を持って
出会った頃のマキがそこに居た。
(…きれいだな…)
その艶やかさに見惚れて声を掛けられないで居ると、マキが話し出した。
「やぐっつぁんさぁ…もうこの街出ようよ。」
「え?あ、気付いてたの?」
「うん。ね、お願い。もう行こう?」
「どうしたの?急に。なんかヤなことでもあった?」
「ん〜…」
「もうちっと待ってよ。梨華ちゃんのことが解決してからでも遅くはないでしょ?」
「やだ。」
「何急にワガママ言ってんの?目的果たさないでどうするの?」
「だって見たくないんだもん。ヤなんだもん。」
「は?何がぁ?」
- 86 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時26分57秒
- マキはくるっと振り返って矢口を哀しそうな目で。それでも少し怒った様子で言った。
「梨華ちゃんと仲良くしてるの見るのがヤ!梨華ちゃんに優しくしてるやぐっつぁん見たくない!」
「え、それってどういう…?」
(やっぱり矢口のこと気になってるんじゃ…)
「わかんないよ、そんなの。」
「明日・・・梨華ちゃんとかおりさん会わすの。それで…その結果次第だよ。」
「ほんと?」
「うん、ほんとだよ。」
「約束だからね!」
マキはそういうと矢口の手を引っ張って部屋へと入っていった。
- 87 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時27分29秒
- 「もう、寝よう?」
「あ、そうだね。」
矢口は何も考えずにマキの手を離して自分のベッドへと向かった。
そこには先客が居て…
(あっ・・・梨華ちゃん寝てたんだった。・・・えっと・・)
横にもぐり込もうとした。
「どうしてそっち行くの?」
「え?だって矢口のベッド…」
「梨華ちゃん寝てるじゃん。」
「うん、だから横にさぁ。」
「起きたらどうすんの?こっちで寝たら良いじゃん。」
「えっと・・・良いの?」
「うん。おいでよ。」
(なんか・・“おいでよ”って手招きされるとなぁ・・・矢口のが年下みたい・・いや可愛いし嬉しいけどね?)
矢口はマキに言われるがままにマキの元へと向かった。
「ほんじゃあお邪魔します。」
「うん。寝よう、おやすみ。」
「おやすみ。あ、肘鉄は勘弁ね。」
- 88 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月27日(土)04時28分13秒
- 矢口とマキはどちらも寝つきが良かったのであっという間に眠りの世界へといつもなら落ちていた。
(ううん…うん・・・)
しかし矢口は今日は中々寝つけなかった。
(抱きつかないでよ〜!暑いじゃん!苦しいじゃん!嬉しいじゃん!)
マキは矢口をすっぽりと包むようにして向かい合わせに抱きつくような形で眠っていた。
身長差があるからだろうか、矢口の顔のすぐ前にはマキの胸があった。
(やっばいよーこれって・・・嬉しいけどきっついよー)
「うぷっ!」
(ひぃーっ!ら、らめっ!やばいよ!)
マキが急に矢口を抱く腕に力を込めたのだった。
マキの胸に顔を埋める形となり、矢口の心臓はバクバクだった。
(ううう・・良い匂い…柔らかい・・マキの…胸・・気持ち・・良いな・・)
矢口はマキの温もりを感じながらぐっすりと(?)眠った。
- 89 名前:りょう 投稿日:2002年07月27日(土)04時32分54秒
- >>71 名無し読者さま
えっと、スイマセン。全然かおよしになりません(汗
ちょっとやぐごまの旅って感じなので・・・(汗
お、おまけみたいな感じ?(汗 スイマセンm(__)m
>>72 名無し読者さま
おおっ!どうもありがとうございます。
アゴンの活躍・・・入れようかと思ったのに出来なかったです(汗
アゴンは続編ということで( ̄ー ̄)
なっちとはどうなるんでしょうねぇ〜(^_^;
更新予定の半分ほどしか更新出来てないのですが眠さに勝てませんでした。
すいませんです。
- 90 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月27日(土)19時22分18秒
- さくさく行っちゃって下さい!!
- 91 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時30分51秒
- 朝―
マキより先に目を覚ました矢口は抱かれている腕から抜け出して隣で眠るマキをじぃーっと見てみる。
「…無邪気な寝顔だね。」
矢口はあまりの可愛いさに気がつくとほっぺたをぷにぷにとしていた。
「・・やぁんっ・・」
「わっ。」
声を上げたマキをもう一度見たが、スースーと気持ち良さそうな寝息を立てて眠っている。
「なんだ…変な声出さないでよ…ドキっとしたじゃん。」
いくら触っても起きないマキが面白く、矢口は触りまくっていた。
「まりっぺ…」
「わぁっ!!な、何??」
(そうだった!梨華ちゃん居たんだった!)
「おおはよう。よ良く眠れた?」
「うん…今日、宜しくね。」
「う…ん、ご飯食べたら行こっか。」
「やぐっつぁん…」
「あっごっつぁん起きた?おはよう。」
「どうして…」
「ん?」
「先に起きてるのさ〜せっかく捕まえてたのに…」
「うえ?なっあれって、わざとだったの?」
「うんそー。やぐっつぁんちっちゃくて可愛いんだもん。」
(なんだよ〜一体どういうつもり?色気あんだからやめてほすぃ。)
- 92 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時31分33秒
- そんなふたりのやりとりを見ていた梨華ははぁ・・・とため息をつくとぼそっと言う
「まりっぺたちほんとに付き合ってないの?」
真顔で遠目から言う梨華に矢口は即答した。
「うん。ただの旅仲間。ね?ごっつぁん。」
「・・・ごとーおなかすいた。ご飯。」
マキのその一言で会話は中断され、3人は食堂へと向かう。
そしていつものように満足するまで口にして部屋へと戻る。
「それじゃーそろそろ行く?」
「やぐっつぁん、約束覚えてる?」
「おっ覚えてるよ!」
「・・・なんの約束?」
「なんでもないよ。」
マキは問いかけた梨華にそっけなく答え、荷物を持つとかおりの働く店へと向かった。
- 93 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時34分22秒
- 「居る?」
「うん、あそこ。」
かおりは前に来た時のようにエプロンをして次から次にと出来上がる料理をお客のもとへと運んでいた。
「・・・どの人?」
「はいろっか。」
マキの言葉に続いて3人は店へと入って行った。
「いらっしゃ――」
かおりは矢口達を見て言葉をやめた。
矢口達というよりは梨華を見てと言った方が正しいかもしれない。
一番後ろに居た梨華をとても驚いた表情で見ていた。
「・・どこ座ったら良いかな。」
- 94 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時35分11秒
- そう言って数秒の沈黙のあと、言葉を発しないかおりに変わって矢口は
「奥、空いてるみたいだからそこ使うね。」
と言って一番落ち着ける、声が店に響きにくい角っこのテーブルを選んだ。
「今日はかおりさんに会いたいって子、連れて来た。・・・知ってるよね?」
「・・・ひとみの・・」
「うん。時間もらえる?」
「・・・仕事中だから後にして。」
「じゃあ夜、終わる頃にここに来たら時間くれる?」
「・・うん。」
「きっとだよ?」
「ごとーこれとこれ。あ、あとこれも。」
相変わらずマキは自分が食べたいものをさっさと頼んで寛いでいる。
「矢口も一緒の、少なめで。梨華ちゃんどうする?」
「・・・同じの。」
「・・かしこまりました。」
注文を聞き終えてほっとするようにかおりは調理場へと戻って行った。
- 95 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時36分11秒
- 「あの人がひとみちゃんの好きな人・・・」
「梨華ちゃんさ、今日彼女と何話すの?」
「え?・・・分からない。」
「ふぅん。・・・」
「お待たせいたしました。」
なるべく梨華と目を合わさないようにしながら料理を並べるかおり。
かおりはそれっきり出てこなかった。
その後、宿屋へと戻り、なんとなく落ち着きが無い様子でうろうろする矢口。
今日この後のことを考えているのかどこから見ても落ち着きのない梨華。
マキは誰が見てもベッドに埋まって眠っているように見える。いや、ぐっすり眠っていた。
夕方、約束の時間の少し前に矢口たちは店の裏口へとやってきた。
「梨華ちゃん、矢口達どうしよっか?居ない方が良い?」
「・・・ううん。そこに居て欲しい。」
矢口とマキは少し離れた所に腰を下ろしてかおりが出てくるのを待った。
- 96 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時37分14秒
- カチャ
数分後、かおりが着替えを終えて梨華の前に現れた。
「なにかな?」
「・・・あなた、ひとみちゃんの何?」
「・・・心配しないでよ、ただの幼馴染だから。あなたから盗ったりしない。」
「好きじゃないの?」
「なにが。」
「あなたは、ひとみちゃんのことが好きじゃないの?」
「そんなことあなたに言う必要ない。」
「私はひとみちゃんが大好き。」
「結婚するんでしょ?良かったじゃない。」
全くの他人事のように言うかおりに梨華は少しずつ熱くなって来た。
「ひとみちゃんはあなたのことが好きなんだよ?あなたは本当に良かったって思うの?!」
「ひとみはかおりのことなんか好きじゃない!珍しかっただけだよ。」
「珍しい・・・?」
「そう、身分の違う、貧乏な家で育った私のことが自分と違いすぎて気になっただけ。
おもちゃと同じだよ。」
- 97 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時38分07秒
- 「違うわよ!ひとみちゃんはそんな気持ちであなたのこと好きって言ってるんじゃないと思う!
ひとみちゃんは・・ひとみちゃんはあなたが好きなのに・・あなたはひとみちゃんに愛されてるのに
・・・どうして分からないの?!」
梨華はかおりの服の袖の裾を掴んで訴えるように言い聞かすように一生懸命だった。
「ひとみはっ・・・!・・・ひとみは優しいからかおりに合わせてくれてただけ・・・!
年だって離れてるし、どうにもなんないよ!」
そんなふたりのやり取りをじっと見ていた矢口達。
「ね、ひとみ呼んだ方が良かったんじゃない?」
「ん・・でも・・もうちょっと様子見よう。」
「かおりさんは好きじゃないのかな・・?」
- 98 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時39分13秒
- 「私はっ、私はひとみちゃんのことあなたにまかせたくて!!ひとみちゃんが好きな人なら
ひとみちゃんを幸せに出来ると思ってここに来たの!それなのにあなたがそんなこと言ったら
私の気持ちはどこに行けば良いの?!」
「なに言って――」
「昨日、婚約解消したの。ひとみちゃんに別れ告げたの。あなたのことずっと想ってるから
・・ひとみちゃんは私の事見てくれないから・・・、だからあなたにっあなたの気持ちを・・・!
聞きたかった。」
その言葉を聞いてかおりは初めて梨華の目を見て話した。
梨華の目に真実を見つけ出そうとするように。
ウソがないかを確認するかのように。
梨華の目は偽りの無い目で、といいうよりはむしろ怒りと悲しみで溢れた目をしていた。
「婚約解消って・・・本気で言ってる・・・の?」
それでも出る疑いの言葉。かおりの言葉に頷く梨華。
目にはいっぱいの涙をためて恨めしそうに悔しそうにかおりを見ていた。
- 99 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時40分08秒
- 「でも・・・っ・・・ひとみには私は合わないから・・・」
パァンッ!!
かおりの言葉の次に聞こえた音。
路地裏に響き渡る乾いた音。
音の後に見た光景。
かおりの頬を平手で叩いて睨みつける梨華に叩かれた頬を押さえて梨華を見下ろすかおり。
自分の気持ちをはっきりと言わないかおりにキレた梨華は思わずかおりに手を出していたのだった。
「あなたがそんなんじゃ私帰れないじゃない!帰る意味ないじゃない!!」
梨華はかおりにそう浴びせると走ってその場から去って行った。
「梨華ちゃん!!!」
走って行く梨華を思わず呼んで追いかける矢口。
「やぐっつぁん!」
マキの声を聞いてピタっと立ち止まると振り向いて
「ごめんごっつぁん、かおりさんのこと頼んだよ!矢口は梨華ちゃん追いかけるから。」
と残して去っていった。
- 100 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時42分15秒
- 「・・・大丈夫?」
取り合えず声をかけるマキ。
「ほっておいて。」
そっけなく返すかおり。
「ほら、梨華ちゃんひとみのこと好きだったから悔しかったんだよ。だからあなたのこと。」
「分かった風なこと言わないで。あんたに私の気持ちが分かるの?」
「・・・」
「小さい時から周りの人に可愛がられて欲しいもの与えられて、いつも周りに人が
たくさん居たひとみと付き合うことの重さが。」
「・・・」
「年下のひとみと比べられて年下のひとみに引っ張られて・・・ひとみに迷惑ばかりかけた。
ひとみに婚約者が出来たって聞いて心のどこかでほっとする自分が居た。
やっとひとみから解放される、やっと比べられなくなる、そう思った。」
「あのさぁ、あなたが苦しみたくないだけじゃん。ひとみが悪い訳でも周りの大人が悪い訳でもないじゃん!
あなたが楽になりたかっただけじゃんか!違う?」
マキは未だ頬に手をやるかおりにきつく言い放った。
「あんたに関係ないでしょ?!」
「ひとみが嫌いなの?」
マキの間を空けずに言ったその言葉にかおりは言葉を詰まらせた。
「ねぇ、嫌いなの?嫌いだからひとみの言葉を聞いてあげないの?」
「・・・」
- 101 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時43分34秒
- 「はっきりしなよ。」
「・・・嫌いなわけない。」
「だったら好き?」
「・・・」
「言えないんだったら最初から好きになんかならない方が良いよ。みんな辛いから。」
「・・・・・・・好き。」
「本心?」
「好き。ずっと好き。でも・・・」
「・・・ねぇ、さっきから聞いてたらさ、あなた『でも』とか『ひとみには合わない』とか、なんなわけ?」
「私は、・・・ひとみの足かせになんかなりたくない。ひとみの邪魔したくない。」
「いい加減にしなよ!あなたはひとみの気持ちなんか気にしてられないくらいに伝えたい気持ち無いの?!
誰になんて言われても良い、どうしようもなく伝えたい気持ち無いの?!
だったら・・・梨華ちゃんが可哀想だよ・・・ひとみだって・・・みんな、自分の気持ちに
嘘をつかないで生きてるの、みんな偽りなんかないんだよ?それなのに・・・」
「伝えたい気持ち・・・?」
「無いの?」
マキのきつい言葉を聞いてかおりはふらふらっと立ち上がると梨華が走って行った方向へと歩き出した。
頭を抱えながら何かをぼそぼそと口走りながらゆっくりと歩いていた。
その後に続くようにしてマキも付いていった。
- 102 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時45分34秒
- 「待ってよ梨華ちゃん!」
その頃、梨華を追いかけて行った矢口は広場で梨華に追いつき、脇にあるベンチに座って梨華を落ち着かせていた。
「落ち着いた・・・?」
涙を拭いてやっても拭いてやっても止まらない涙。
悲しさから、悔しさから、梨華の涙は止まる事は無かった。
「彼女はひとみちゃんが好きじゃないの?彼女は・・・ひとみちゃんの片想いなの?」
「・・・」
「私・・・婚約者を続ける事は無理だから・・・ひとみちゃんをあのまま残して帰るの事は出来ない・・・
可哀想だよ、ひとみちゃん。彼女のこと好きなのにっ・・どうしてっ・・!」
「ひとみはさ、そうやってさあ、梨華ちゃんに想われてるの幸せだと思うよ?
そりゃひとみが好きなのは・・ごめん、彼女かもしれないけど・・誰かに好かれるって言うことは、
誰かを好きになれるっていうのは幸せなことだと思うんだ。だから梨華ちゃんがそうやって
想ってあげることはひとみには分からなくても幸せな事だと思う。」
- 103 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時46分35秒
- 「・・・でも、彼女と幸せになって欲しいよ。」
「梨華ちゃんこれから・・・どうするの?」
「うん・・・ひとみちゃんのおじ様にお断りして・・家に帰るかなぁ。」
そう言ってまた涙を流す梨華を見て矢口は切なくなった。
かおりも本当はひとみが好きだと思っている矢口は、好き合っている者同士に
幸せになって欲しいと思ってひとみとかおりが上手い事行くように陰ながら協力してきた。
協力といっても梨華からひとみを離すべく仲良くなっただけだが。
でもそうしたことによって梨華を悲しませてしまった。
梨華を傷つけることなく。ということも目的だったはずなのにこうやって泣かしてしまっている。
そのことがとても心苦しく、そして申し訳なかったからだ。
だから、こんなことを言ってしまった。
「梨華ちゃんさ、帰りにくかったらさあ、矢口達と一緒においでよ。」
- 104 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時47分30秒
- 「えっ?」
「矢口達色んな所旅してるって言ったよね?旅しているうちにヤなこと忘れるかもだし、
何より楽しいから!だから梨華ちゃんが良かったら歓迎するから・・・ね?」
「ありがとう・・・まりっぺ。」
梨華は優しく言う矢口にほんの少し涙を流してくっ付いた。
くっ付いたというよりは胸を借りて泣いたという感じだった。
小さい矢口の胸を借りて泣く。
そしてそんな梨華を抱きしめるように腕を回して背中を摩ってあげたりして落ち着かせる矢口。
ほんの少し微笑ましかった。
梨華の気持ちが少しずつ楽になりつつあるような、そんな空気がそこにはあった。
「私・・・好き。」
そんなふたりの耳へと急に入り込んで来たか細い声。
でもその声はどことなくしっかりしているようにも聞こえる。
- 105 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時48分12秒
- 「え・・?」
振り向くと、そこには梨華の目をしっかりと見て、「ひとみが好き」と言うかおりが立っていた。
「あなた・・・」
「ごめん、ずっと自分に正直じゃなかった。私、ほんとはひとみのことが好きで好きで・・・どうしようもないの。」
「だったらひとみちゃんにちゃんと気持ち、言う?」
梨華は矢口から離れてかおりの前に立ってそう言った。
「・・うん。」
そう言うかおりの目にほんの少しの曇りも見ることはなく、強い目をしているのが梨華に伝わった。
「ひとみちゃんを幸せにしてくれる?ひとみちゃんと幸せになってくれる?」
「なるよ。頑張る。」
梨華はその言葉を聞いた後、かおりの手を引っ張って屋敷へと向かった。
- 106 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時49分07秒
- 後ろから付いて歩く矢口にマキ
「ごっつぁんどうやって説得したの?」
「ごとーはやぐっつぁんと違って敏感だから。」
(うそっぽい。)
「ふ、ふぅん。でもほんと良くやったね、お疲れ様。」
「それよりさぁ、なんとかなったんだし、明日出ようよ?」
「あ・・・それなんだけどさ・・。」
「なに?今更やめるとかナシだよ。」
「うん。それは言わないけどさ・・・もしかしたら梨華ちゃんも一緒に行くかも。」
「はぁ?!何言ってんの?」
マキは足を止めて矢口を睨みつけるように言った。
「や、分からないけどさ、ほら、梨華ちゃんここ出るでしょ?帰りにくいかもしれないでしょ?」
「だからってどうしてそうなるのさ!ごとーは反対。」
矢口の胸倉を掴んでガクガクブルブルと揺さぶりながら言うマキに矢口は恐怖を感じていた。
「だっだからまだ分からないって。・・・とにかくさ、ふたりを追わないと。」
「ばか。」
ガクッと矢口から手を離しそっぽを向いてしまった。
(ごっつぁんは梨華ちゃんが嫌いなのかな・・・まいっちんぐ。)
- 107 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時50分05秒
- ひとみの家まで来て勝手に中へと入る。
「お帰りなさいませ、梨華さま。」
昨日まで、いや、まだ住んでいる自分の家。
知り尽くした家の廊下を一直線に奥まで歩いてドアをノックする。
コンコン
「はい。」
「梨華だけど・・・」
「梨華ちゃん?!」
バタンッ
勢いよく扉は開けられ、勢いよく中からひとみが顔を出した。
「どこっ・・行ってたの?心配したよ。昨日・・・」
「ごめんね、心配かけて。少しでもそう思ってくれて良かった。」
「当たり前だよ。」
「今日はね、ひとみちゃんに私から最後のプレゼントがあるの。」
「プレゼント?」
首を傾げて不思議そうに梨華を見るひとみ。
梨華は、扉で隠れているところを指差して笑顔で言った。
「幸せにならないと許さないからね。」
「え?」
そして
「じゃあ、今までありがとう。これでさよなら。」
「梨華ちゃん?」
梨華はそう言い残すと、矢口達の横をひとり通り過ぎて行った。
- 108 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時50分56秒
- 去り際、矢口は言った。
「梨華ちゃんのことも忘れたら許さないからね。」
そしてかおりにも一言。
「梨華ちゃんの分まで幸せになってよね。」
矢口が誰に言ったのか分からなかったひとみは覗き込んで見た。
「かおっ?!」
「・・・うん。入っても、良いかな?」
「・・・・どしたの?久しぶりじゃない。」
「入れて。」
「あ、うん。」
かおりがひとみの部屋へと入り、扉が閉まったのを確認して矢口達は屋敷を後にした。
コンコン
「おじ様、お話があるんです。」
「本当にごめんなさい。」
梨華は荷物をまとめてその日中に屋敷を後にした。
そしてその日を限りに夜間外出禁止令は解かれた。
- 109 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時52分27秒
- コンコン
「ほい。」
「梨華だけど。まりっぺちょっと良い?」
宿屋で荷造りをする矢口達のもとへたくさんの荷物を抱えた梨華がやってきた。
「うん、入って。」
「ごとーベランダ。」
「ちょ、ちょっと?!」
「ごめん、すぐ済むから。」
「いやこっちこそごめんね、ごっつぁんちょっとさっきから機嫌悪くて。」
「ううん。あのね、一緒に旅をするって話なんだけど・・・」
「あ、うん。どうする?」
「嬉しい言葉だけど遠慮しとく。」
「えっ?どうして?」
思ってもいなかった梨華の言葉に驚きを隠せない矢口は率直に聞いた。
「マキちゃん・・・嫌がってるでしょ。」
「えっ・・!」
「マキちゃん、私がまりっぺを盗っちゃうと思ってるみたいだね。だからマキちゃんに悪いし、
それに私は大丈夫だから。何かあったらまりっぺたちやひとみちゃんのこと・・思いだしてがんばるから。
おじ様も困ったことがあれば相談においでって言ってくれてるし。」
「そっか・・残念だな」
なんて言いながらも内心かなりほっとしていた矢口。
- 110 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時53分09秒
- ふと聞き流しそうになった言葉を思い出し、問いかけた。
「盗られるとかって、そんなの無いよ。ごっつぁんは矢口のことタイプじゃないって言ってるし。」
「・・・そんなこと言ってるの?あれ?まりっぺはマキちゃんが好きだよね?」
「うん・・・ずっと片想いだけど。」
「そっか・・・どっちも鈍感なんだね。」
「え?どゆこと?」
「秘密。でも、ひとつだけ。まりっぺの恋は報われるよ。恐らくは近いうちに。」
「???」
「それとね、ひとつだけお願いがあるの。」
「うん?」
「明日、私の街までで良いから一緒に行ってくれないかな。」
「あーそんくらい良いよ。一緒に行こう。泊まるとこも無いんでしょ?前みたいにここ使ったら良いよ。」
「マキちゃん怖いけど最後だもん、甘えさせてもらうね。」
- 111 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時53分54秒
- カチャ
「ごっつぁん〜寝るよ〜。」
「・・・ふんだ。」
「んん?なに、ふんだって。」
「別に。」
「梨華ちゃん明日自分の街帰るってさ。そこまで一緒に行くけど・・・良いよね?」
「街まで??ずっとじゃなくて?」
「そう。」
「ぜーんぜんオッケー!じゃあ寝よう!すぐ寝よう!」
「・・?あ、ベッド貸してるからまた入れてよね。」
「オーッケ!」
その後のマキは今日一日で一番上機嫌だったように矢口は感じた。
そして前と同じようにマキに抱かれて矢口は眠りについた。
- 112 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時54分47秒
- 「それじゃあ・・・色々とありがとう。二人に出会った事、忘れないから。」
梨華を街まで送って別れ際。
「うん、何かあったらいつでも呼んで。どからでも駆けつけるから。」
「元気で。」
一言だけぼそっと言うマキに苦笑いをした矢口は梨華にごめんねとアイコンタクトをした。
街の門をくぐる直前で、梨華はマキに何かを耳打ちした。
するとマキは「そんなことないよ!」と梨華に言った。
何を言ったのか分からなかったがマキが焦っているように見えた。
そして笑顔で手を振って自分の街へと入っていった。
- 113 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時55分39秒
- 「行っちゃったね。」
矢口とマキは久しぶりにふたりになり、次の目的地を決めるべく相談をした。
「次、どこ行く?ごっつぁん行きたい街ある?」
たまにはマキの希望も聞こうとしてそう言った。
「人、少ない所。」
「へっ?」
「女の子の少ない所が良い。 」
「どして?」
「やぐっつぁんが盗られちゃうから。」
(ごっつぁん・・・それって・・やっぱりそういうことだよ。)
「ごっつぁんってさぁ、やっぱり矢口のこと――」
「好き。」
「!」
「好きです好きです、はい、もう大好きです。だから他の人に優しくするのみたくない。
ごとーにだけで居て欲しい。」
急にそんなことを言い出したマキに戸惑いを見せる矢口だったが、素直に嬉しかったので答えた。
- 114 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時56分29秒
- 「あのさ、矢口は出会った時からずっとごっつぁんが好きなんだよ。」
「・・・え。」
「ごっつぁんに惚れたからごっつぁんと居たくて連れ出した。」
「うそ・・・」
「ほんと。ごっつぁんは矢口がこの世界で一番好きな、ずっと一緒に居たい大事な人。」
マキから目を逸らす事なく落ち着いた口調で話す矢口にマキは思わず抱きついた。
「うぷっ。」
「・・・」
「ごっつぁん??」
「嬉しいっ!」
マキはぎゅーっと、ぎゅーっと、小さな矢口にしっかりと抱きついていた。
「でもどうしたの?急に。矢口のことタイプじゃないって言ってたのに。」
「あんなの嘘だよ。ずっと気になってた。さっき、梨華ちゃんに、好きなら好きって言わないと
他の子に盗られちゃうよって言われて・・だから・・言ったの。」
「そか・・・(梨華ちゃん感謝。)でも、ほんと嬉しい、ありがとう。」
「ううん。宜しくね。」
笑顔でにかっと笑うマキはとても可愛かった。
- 115 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時57分08秒
- 「次なんだけど・・・ごとー、お姉ちゃんに会いたい。」
「お姉ちゃん?」
「うん。会いたいの。」
「どこに居るか…知ってるの?」
マキは首を横に振って「知らない」と淋しく言った。
矢口はもちろん知っていたが取り敢えず知らない振りをした。
「でも、会いたいの。会って言いたいこともある。」
「言いたいこと?」
「うん。」
「なに?」
「秘密。」
「…旅してるうちにさ、見つかるよ。ごっつぁんの最終目的はお姉ちゃんなんだね。」
「ごとーの目的はやぐっつぁんとずっと居ることだよ。」
「あっ…ありがと。なんか照れるね。」
矢口はマキの手を取ると何もない野原を歩き出した。
- 116 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年07月29日(月)22時57分38秒
- 「ごっつぁんのお姉ちゃんって…ゆうこさん?」
「えっ!そうだよ!どうして知ってんの?やぐっつぁん。」
「ごっつぁんに会う前にさ、会ってる。」
「どうして?」
「ん、偶然だけど出会ったの。ごっつぁんのこと心配してた。」
「…元気なの?」
「矢口にはそう見えたけど…」
「行く。その街に行きたい。行こう?」
「…うん。ちょっと遠いけどね。」
次の目的が決まり、ふたりの旅はまた始まった。
まだまだ、これから。
- 117 名前:りょう 投稿日:2002年07月29日(月)22時59分47秒
- >>90 名無し読者さま
遅くてすいませんm(__)m
読んで下さっていることに感謝です。
展開が急なのは(ほんとは勉強不足ですが)ゲームってことで・・・(汗
- 118 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月30日(火)03時17分27秒
- 展開はゲームだし良いんじゃないですか?(w やぐごま好きです。頑張って下さいね。
- 119 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月30日(火)20時06分47秒
- やっと想いが通じてよかったです。現実ではいったい・・・
- 120 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時32分40秒
- ゴロゴロゴロゴロ……
ゴロロロロロ…
梨華と別れて1時間も経たない頃、
遠くの方で雷の音が聞こえてきた。
薄暗い灰色の空。
所々に稲光を見せて矢口達に恐怖を与える。
何故ならここは何もない野原。
屋根の或るところでずっと暮らしてきた矢口達にとっては初めての経験だった。
- 121 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時34分36秒
- ドガンッ
くっついて歩く矢口達のすぐ傍に雷が落ちた。
「やだぁっ恐いよやぐっつぁん!なんなのよアレ!」
身を震えさせて矢口にくっつくマキを見て、矢口も恐かったが頑張って強がった。
「大丈夫、矢口がついてるから。絶対に離さないから。」
なんの気休めにもならないような、どこにそんな確信があったのか分からない
矢口の言葉だったがマキは黙って頷くと、少し安心したような笑みをこぼした。
(まぁマキの方が大きいからほんとはヤバイんだよね…)
しかし実際危険なのには変わりは無く、矢口はかばんから地図を取り出すとマキの手を
引っ張って早歩きをしだした。
「もう少し行ったら洞窟があるみたい。そこまで行って、休もう。」
矢口とマキはひたすら歩きつづけた。
手はぎゅっと握られたまま。
- 122 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時36分11秒
- 30分ほど進むと。小さな洞窟が見えてきた。
真っ暗で、何か出そうな雰囲気があったが構っていられないふたりはそこで身を隠すことを決めた。
「濡れちゃったね。」
「ほんと・・。」
歩きつづけるうちに雨も降って来て、カサのないふたりは激しく濡れた。
「服、乾かさないとね。」
「だね。でも先にテント張ろうか。しばらく止まなさそうだし、今日はここで泊まることになりそうだね。」
「ん。そうしよ。」
テントを立ててランプに火を灯して、薄暗い洞窟が明るくなる。
- 123 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時37分27秒
- (・・・)
「んあ?どしたの?早く着替えないと風邪引くよ?」
「・・・あっ、うん。」
(いけない、見とれてた。)
いつも見慣れているマキの着替える姿。
マキはいつも潔く、ぽぽんぽんっと服を着替える少女だった。
なので見とれるなんてことは今まで無かった。
そこまで見ようとも思わなかったし、好きではあったが意識などしなかった。
それなのに今日はそんなマキから目が離せなかった。
(どうしてこんなにどきどきするんだろう。)
マキを照らすいつもとは違う暗い灯り、ぼわんとしてて揺らめいていて消えそうな感じ。
そんな灯りだったからかもしれない。
マキの体は妖しく照らされて、今まで以上の色気を醸し出していた。
「早く着替えなってば。」
マキはいつまでたっても動こうとしない矢口の傍に寄って言った。
「あ、ほんとだね。着替える。」
矢口はマキのそんな声で我に返ると急いで着替えをし出した。
矢口も着替える事になんの恥じらいも無かった少女で、ぽぽんぽんと脱いであっという間に着替え終えた。
- 124 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時40分57秒
- 「あれだね、ひとみとかおりさん上手い事行って良かったよね。」
「うん。ごとー達のおかげだよね。」
「梨華ちゃんはちょっと可哀想だったかもね。」
「でも最後笑ってたじゃん。梨華ちゃんにはやぐっつぁんがついてるんでしょ!」
「口調キツイけど?」
「とにかく上手い事行って良かった。」
「それはそうだね。」
「・・・」
「・・・」
並んで座って、荒れる外を遠くに見ながらふたりは他愛の無いことを話していた。
それもしばらくすると途切れ、途端沈黙が訪れる。
(うあ・・・静か・・)
外は雷などの音でウルサイのに矢口とマキの間はとても静かだった。
- 125 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時42分28秒
- 「「ねぇ」」
「あっ、ごっつぁん先言いなよ。」
「やぐっつぁんから。」
矢口が空気に耐えかねて何かを言おうとした時、同じようにマキも口を開いた。
「や、そろそろ寝る準備しようかなって。」
矢口はそんな気のきかないセリフしか言えなかった。
そんな矢口の言葉を聞かなかったことにしたのかマキはにこっと笑って矢口に話しかけた。
「あのさ・・・」
「・・なに?」
「さっき、ごとーが着替えてる時だけどさぁ〜・・・やぐっつぁん、ごとーに見とれてたでしょ?」
「ええっ?!」(ばれてる?)
「えへへっ素直になってよ。」
そう言って少しずつ体を近づけてくるマキ。
擦り寄ってくるマキが動くたびに服の中で揺れる大きな胸。
中は素肌。何も身につけていない。
そんな胸にどうしても目がいってしまう。
そしてとうとう矢口にぴったりとくっ付いてしまった。
ごくん
思わず唾を飲み込んで矢口は顔を上げた。
「・・・近すぎ。」
精一杯強がってそんなことを言ってしまう。
「やぐっつぁん、キスしよう。」
マキは矢口の目を見てそんなことを言った。
- 126 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時44分23秒
- 「ええ??キ、キスぅ?」
「うん。やぐっつぁんとしたいな。」
「ちょ、ちょっと待って!」
そんな矢口の言葉を無視してマキの顔はどんどんと矢口に近付いてくる。
「あ、ちょと待ってって。」
「やだ、待たない。」
身を堅くして後ろに仰け反っている矢口などお構いなしにマキの唇は矢口の唇と重なった。
「・・っ!!」
(うあ・・・ごっつぁん・・・ごっつぁんの唇が・・・あああ・・・柔らかい・・・温かい・・・)
矢口はただ触れているだけのマキの唇の柔らかさ、温かさ、気持ちよさに心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。
(ちょと・・長くない・・・?)
矢口がマキの唇の感触に浸っているとするりと何かが首の後ろに回ってくる感じがした。
(えっ・・・ごっつぁん???)
矢口の首に自分の腕を巻きつけるようにしてマキはさらに密着してきたのだった。
矢口がそのことに気付いたとき、矢口はマキに首ねっこを掴まれてマキの上に乗るような形でいた。
「やぐっつぁん、好き。」
マキが唇を離してそう言うのを見て矢口は堪らず今度は自分からキスをした。
「・・・んっ・・」
慣れない矢口のキスに、マキは切ない吐息をもらした。
- 127 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時44分56秒
- 出会ったのはゆうこに頼まれたことが始まり。
偶然の出会いだったふたり。
そんなふたりは今日初めて心を通わせた。
雷、雨、激しい風が吹き荒れる外。
そんな外とは反対に、温かいテントの中でふたりは、初めて唇を合わせた。
大きな大きな世界でのほんのひとこま。
- 128 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時46分09秒
- 「んっ・・もっとぉ・・っ・・」
マキは何度も何度もキスをせがんだ。
キスより先のことはせずにキスだけを繰り返しした。
「「幸せ。」」
唇を離して思わず口にした言葉。
同じ言葉を発してふたりは微笑をもらした。
「そろそろ寝よっか。」
「ん。くっついて寝る。」
「あぁのさぁ〜矢口を抱いて寝るのやめてくれないかな〜」
矢口自身すごく嬉しいことで迷惑などではなかったのだがなにぶん鼻血が出そうな誘惑が辛かった。
マキの大きな柔らかい胸に顔を埋めてマキの香り、マキの鼓動を感じて眠ることは実際辛かった。
相思相愛だと分かった今襲ってしまいそうでさらにキツかった。
「なんで?温かくて気持ち良くない?」
「や、気持ちーけど…」
「けど?」
「…ヤバイ。」
「恥ずかしいの?」
「恥ずかしくないの?」
問い掛けるマキにすかさず問い返した矢口。
マキは別に。というような顔をして矢口を引き寄せる。
「ごとーの胸気持ち良いでしょ?」
言ったそばから矢口の顔を自分の胸に埋める。
- 129 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時47分36秒
- 「ね、触ってみる?」
とどめをさすようにそんなことを言ってくる。
(あわわわわっ)
「えと、その…あのですね。」
「ほら。」
マキはしどろもどろする矢口の手をそっととって自分の胸に近づける。
「…どう?」
「柔らかい…」
矢口はぎこちない手でマキの胸の感触を感じていた。
「ごっつぁんはさ、こういうの…恥ずかしくないの?」
「んー?だって服の上からだもん。直は〜やっぱ恥ずかしいかな。」
(だよねぇ、良かった。)
「気持ち良いのは分かったけど抱いて寝られるとほら、そのさぁ、分かるでしょ?」
「なにー?」
「それだけじゃ足りなくなるから!」
「…」
それだけじゃ足りない=そういうことしたい
と考えたマキにそういうつもりで言った矢口、また少しの沈黙が訪れる。
見詰め合ってまた顔が近づく。
『あんたら人んちで何してるの?』
そんな甘い空気のふたりの耳に聞いたことのないような声が聞こえて来た。
- 130 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時48分33秒
- 「きゃぁっ!誰?!」
マキは矢口に飛びついて警戒をしている。
矢口も、もちろん驚いてびびったが、マキの胸が押し付けられたことで
またどうでも良くなっていた。
ほんの少し開いていたテントの入り口が大きく開かれ、声の人物が姿を現した。
「な、なんですかあなた!」
「そうだよ!急になに??」
「なに?はこっちのセリフよ!あんたたち、ここは私のウチよ。」
「「へ??」」
その人物はテントからふたりを連れ出し、洞窟の奥へと連れて行った。
「・・・!」
そこには・・・まぁこれといって家らしいものは何も無かった。
- 131 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時49分56秒
- 「何もないじゃん。」
マキは思ったことをすぐに述べた。
連れて来られたそこにはマキが言ったように何も無かった。
一戸建てのような家があるとは思ってもいなかったが家というからには机があったり
たんすがあったりベッドなどがあるものだと思った。
しかしそこにあったのは何もない空間。
布切れひとつも落ちていないきれいな空間があった。
「ここが家なんですか?」
矢口は前に立っているその人物に声を掛けた。
その人物は急に振り返ると拳をふるふるとさせながら赤い顔をして矢口に飛びついた。
「わぁっ」
突然の事で矢口は支えきれずに後ろに倒れてしまう。
「ちょ、ちょっと!」
「やだぁ!やぐっつぁんから離れてよ!!」
ドガッ ボカッ バシッ
「ぅぐぅ・・!」
矢口の上に乗っかって何をするでもなく抱きついている人物に腹を立てたマキは力まかせに攻撃をした。
そして矢口から引っぺがした。
- 132 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時51分25秒
- 「やぐっつぁん大丈夫??」
「あっ・・ありがとごっつぁん。助かったよ。でも・・」
「でも?」
「・・ぅぅぅぅ・・」
腹を押さえて蹲る人物を気の毒そうに見て矢口は思った。
“マキを怒らすと命は無いかも”
「やりすぎ。」
「なんで?全然だよ。やぐっつぁんが襲われてるのに、・・普通だって。」
「まぁ嬉しいけどね。」
「・・・」
矢口達はじっとその人物を見ていた。
しばらくすると痛みも収まったのか矢口達の方を向いた。
「なに、すんのよ、あんた・・・。」
「あんたが急にやぐっつぁんを襲うからだよ。」
「違うわよ!私は悲しくて泣きたかったのよ!」
その人物はほんの少し涙を流しながらマキに向かって言った。
「どゆこと?悲しくてって。」
矢口はすかさず聞き返した。
「・・・ここ、昨日までちゃんと家があったのよ。それがあの子達に・・・」
その人物は今は何もないその空間を悲しそうに見つめてため息まじりに言っていた。
- 133 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時53分10秒
- 「あの子達って?盗られたの?」
「・・・そうね。それで・・・あんたたち旅人でしょ?」
「まぁ。」
「お願いがあるのよ。」
「やぐっつぁんは貸さないよ。」
(マキってば・・・)
「いらないわよ!そうじゃなくて、ここから2時間ほど行ったところに子供の国があるのよ。
そこのボスがもうそりゃーすごく悪ガキで・・・人のものを食べる人のものを奪う
すぐ暴れるって感じで周りの国の大人は困っているのよ。それで私は逃げて来たんだけど
見つかって・・・昨日全部奪われたのよ。」
「それで?ごとー達にどうして欲しいわけ?」
「その子たちから私の荷物を取り返してもらいたいのと・・・可能なら懲らしめて欲しいの。」
「そんなのごとー達に関係ないのに。」
「分かってる。してくれたらちゃんと御礼するから。」
「ほんと?やぐっつぁんどうする?」
「うん、困ってる人はほっておきたくないし・・・助けてあげようよ。」
「やぐっつぁんがそういうなら分かった。」
「これ、私のところへ戻れるカード。“保田圭”ってところのほくろ押したらすぐ戻れるから。」
「おっけ。」
矢口達はさらに詳しく場所やその子供たちの特徴などを聞いた。
- 134 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時55分12秒
- 「まだ嵐止んでないし、今日はあそこにテント張らせてもらったままで良いよね?
朝になって収まってたら出て行くから。」
矢口が言った言葉に黙って頷く保田。
矢口とマキが戻ろうとして保田は呼び止めた。
「なに?」
「あんたたち、恋人?」
「うん。」
即答をするマキ。
「だったら・・・気をつけて。あの子達は人のものほど欲しがるから。」
「なに、それ。やぐっつぁんが盗られちゃうかもってこと?」
「それもそうだけど矢口も気をつけた方が良いってことよ。
それと、ここ、声響くから・・・そういうことは今日はやめて。」
「ばか!変なこと言うと助けてあげないよ?!」
矢口は焦って保田に言った。
そしてテントを張ってあるところまで戻り、布団代わりの布にふたりは並んで寝転がった。
し〜んと静まり返る洞窟。テント内。
確かにそういうことをしてしまうと声が筒抜けになってしまう。
矢口はそんなことする気などこれっっっっぽっちも無かったがマキにはあった。
- 135 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時56分03秒
- 「やぐっつぁんさぁ・・・もう、寝るよね?」
「うん?そだね。こっから2時間だと結構疲れるだろうから。眠くない?」
「ちぇーっ・・・まぁ良いやぁ。寝る前にさぁキスだけもっかいして。」
(急に積極的なんだよね・・・)
矢口は少し照れながら困りながらもマキが目を瞑ったのでそっと口付けた。
唇を離してマキは矢口に微笑むと、「おやすみ」と言って幸せそうな顔で寝始めた。
矢口も眠るマキの顔をしばらく眺めたあと、眠りについた。
- 136 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月03日(土)12時57分23秒
- 朝、目が覚めると外の嵐もおさまっていて、矢口は先に起き上がり、
眠るマキの傍で片付けを始めた。
もうしばらく寝かせてあげようと、起こさないように行動していた矢口だったが
マキはすぐに矢口の温もりを失ったからだろうかすぐに目を覚ました。
「もう起きてる・・・」
「あーごめん起こしちゃったか。もちょっと良いから寝てなよ。」
「ううん、片付けしないと。起きる。」
「そう?」
「うん。」
起きると言いながらもなかなか起き上がらないマキに矢口は「?」だった。
矢口をじぃーっと見つめている。
「起きないの?」
「やだなーおやすみのキスしたんならおはようのキスもしてよ〜。」
(朝からっ?!ひえぇぇぇ・・・)
かなり躊躇いのあった矢口はものすごぉく軽めのキスをマキに落とした。
「じゃあ手伝うよ〜!!」
マキはむくりと起き上がり、矢口の横で片付けを始めた。
テントを畳んで保田に声を掛けて矢口達は出発をした。
- 137 名前:りょう 投稿日:2002年08月03日(土)13時01分49秒
- >>118 名無し読者さま
ゲームだから良いですかね(笑
やぐごま。私も好きなのにぃ・・・。
まぁ・・・・アンリアルでヨカタです(汗
>>119 名無し読者さま
現実では何が起きてるんでしょうか・・・(汗
そんなに遠くない話ですのでお待ち下さいm(__)m
ではー行ってきます。
- 138 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)19時58分26秒
- 「あの子たち」の登場を楽しみにしてます(W
- 139 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月07日(水)05時31分36秒
- やぐごま最高ですね。
- 140 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)18時54分10秒
- 「あっついよ〜溶ける〜」
「ちょっと休もうか。」
歩き始めて1時間、日陰も洞窟も何もなく、ただ荒野だけが続く。
嵐のあとで快晴になった今日は旅をするには少しきつかったようだ。
マキが住んでいた街はここに比べると遥かに涼しい北よりの街だったこともあり、
暑さに慣れていないマキはすぐに我慢出来なくなった。
矢口はマキを引っ張っていかねば!という使命感からか、弱音を一切吐かずにマキを励ましながら歩き続けた。
無理やり日陰を作って座るところを作って休憩をした後、再び歩き出す。
「荷物持ってあげるよ、貸して。」
「良い。重いのは一緒だから。ごとーばっか我侭言ってらんないよ、ありがとう。」
マキは断って矢口に微笑んだ。
- 141 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)18時55分48秒
- そしてそれから40分ほど進むと、小さな町が見えて来た。
保田が言っていた子供の国の周りにある町。
矢口達はいきなり子供の国に準備もせずに行くわけにも行かず、ひとまずその町へと入った。
「寂れてんね、なんか。」
率直な意見。
町は屋根の無い家が多く、食べるもの少ないのだろう人々は痩せこけていて薄汚れていた。
そして見る限りだがその町には子供がひとりも居なかった。
どこを見ても探しても子供は見つけることが出来なかった。
居るのは大人ばかり。
「ちょっと話聞いてみよっか。」
矢口はすぐ傍で地べたに座る老人に声を掛けた。
老人は「おなかが・・すいた・・」
と繰り返すばかりで矢口の質問に答えることはしなかった。
「どうして子供が居ないんですか?」
「・・・おなか・・すいた・・」
話にならないと感じた矢口は自分達の食料からパンを一切れ老人に差し出した。
- 142 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)18時57分50秒
- 「!!」
それを見た老人は急に目を見開いてかぶりついた。
「うわわっ」
手までかじられるのではないかという位の勢いに矢口はすぐに手を引っ込めた。
日陰になった町の端っこだったことが幸いだったのか、他の人間がそれに群がるようなことは無かった。
むしゃむしゃむしゃ
あっという間に平らげた老人は、「水、欲しい。」
とさらに要望を言った。
「水飲んだら教えてくれますか?」
老人はコクンコクンと深く頷き、物欲しそうな顔をした。
そして水を飲みきったあと、やっとまともな会話が出来た。
「じゃあ・・・ここに居る人たちの子供で“子供の国”は出来て居るんですか?」
「そうじゃよ。もともとは教育に厳しい国で・・・それに反抗した子供たちが暴れ出したんじゃ。
そして・・子供たちの方が強くなって、・・・この有様じゃ。もうどうすることも出来ん。」
「なるほど・・・でも、子供なんですよね?」
「じゃよ。でも、あのわがままっぷり、やりたい放題なのは誰にも止められんのじゃ。」
「誰かおさめに行ったんですか?」
「ああ、保田さんとこのお子さんがな。でも、駄目じゃった。失敗して、それでここから出て行ったんじゃよ。」
- 143 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時00分37秒
- どうやら相手は本当に子供らしいのだが子供過ぎて手をやいているといったところだった。
「まぁ行ってみるっきゃないか。」
「そだね。」
矢口達は警戒をすることもなく、子供の国へと向かった。
☆子供の国☆
「うわわっ・・・ちゃんと町っぽいじゃん・・・」
矢口とマキが入り口から中を眺めていると横手から声が聞こえて来た。
「なんやねんあんたら。」
「へ?」
誰も居ないと思っていたところから声が聞こえて矢口達はすぐにそちらへ振り向いた。
するとそこにはおだんごあたまをした黒髪の少女がひとり、酒の入ったような樽の上で
あぐらをかいている姿が目に入った。
- 144 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時01分37秒
- 「何しに来てん。」
続けて少女は問いかける。
「何しに・・・って・・・旅人なんだけど。」
「あぁなんやそうか。またあっちの町の人かと思ったわ。」
少女はぽんっと相槌を打つと樽から飛び降りて矢口に問いかけた。
「あんた、小さいなぁ年いくつやねん?」
「むっ・・・19。」
「うそやん。見えへんで。あんたは?」
続いてマキにも言う。
「ごとーは16。」
「そうか。ふたりともセーフやな。」
「何がセーフ?」
「あぁ、この町は成人お断りなんや。あんたらはオッケーや、案内したる。来ぃ。」
少女はそう言うと矢口達の前を歩き出した。
(なんか生意気そうな子供だね。)
(うん、こんなのばっかかな?)
矢口とマキはひそひそと話しながら後に着いていった。
- 145 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時02分51秒
- 町は見事に子供しかおらず、みんな仲良さそうに遊んでいた。
「ね、ちょっと教えてくれないかな?」
「なんや。」
「ここの・・・ううん、ここを仕切ってる子ってどこに居るの?」
さすがにあからさまにボスとは言えずに矢口はそんな言い方をした。
「それやったらウチとののやな。」
「あんたがそうなの?」
マキはすぐに突っ込んだ。
「そうや。なんや、うちらに用があったんか?」
「いや・・そういう訳じゃないけど子供しか見なかったからどうなってんのかなと思って。」
すかさず矢口がフォローに入る。
「ウチらの家案内したるわ。」
案内をされて着いた場所。
町の一番奥にあり、一番高い場所にあり、一番えらそうな家だった。
家というよりは屋敷。
部屋に案内されて寛ぐ・・・暇もなく、少女はもう一人の少女を連れてやってきた。
- 146 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時04分01秒
- 「ウチは加護亜依。こっちは辻希美や。うちらは勉強勉強言う大人達に嫌気がして反乱を起こしたんや。」
「いくつ?」
「ウチらは14や。」
(うへぇ見えない・・・)
「まぁ、あんたらは仲間や。空いてる部屋貸したるからゆっくりしてき。」
そう言って加護は部屋を案内して、消えた。
貸してもらった部屋で早速作戦会議を矢口たちは始めた。
- 147 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時05分14秒
- 「思ったより普通の子供じゃなかった?」
「だね。ちょっと口調はえらそうだったけど。そんな悪そうには見えなかったよね。」
「・・・どうしよっか。」
「その前にひとつ聞くけど・・・」
「なに?」
マキは矢口に向き直って言う。
「どっちもそれなりに可愛かったと思うんだよね。」
「うん、そうだね。可愛かった。」
「でもね?好きになっちゃ駄目だからね!」
「なんだ・・・そんなことか。ありえないってそんなの。」
「どおしてさーごとーなんかを好きって言うやぐっつぁんだよ?誰でも良いんじゃないの?って思っちゃうもん。」
「ばぁか!矢口はごっつぁんしか好きじゃないですぅー。変なこと言わないで下さいぃ〜!」
矢口はふざけたようにマキに言った。
「だってさー。やぐっつぁんは良い人なんだ。もったいないくらい。」
それでもしつこく言うマキのおでこにデコピンを食らわして
「痛っ」
「作戦作戦。」
矢口は何事も無かったかのように作戦を再び考え出した。
- 148 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時06分20秒
- 「取り合えずさーあの子達ともっと仲良くなってみようか。どんな子たちかちゃんと知った方が良いよね。」
思い浮かんだ案をマキに言い、そして答えを待っている。
「だぁねぇ。早速いこっか。」
マキもすぐに賛成をし、そして先程の家へと向かった。
その頃の加護と辻――
「どや、のの。あのふたり。」
「あいぼんどうしたい?」
「ウチは後藤さんが気に入ったわ。」
「ふぅん。ののは別にどっちも・・・それより何か盗れそうだった?」
「アカン、ものは盗ったら。一応セーフ年齢やし、それに盗ってもうてばれたら出て行くやろ。
そしたら後藤さんも居なくなってまう。」
「でも後藤さんは盗るの?」
「盗るっちゅうか・・・付き合ってるようには見えんやろ。」
などと訳の分からない話をしていた。
- 149 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時08分20秒
- そんなふたりの耳にインターホンの鳴る音が聞こえて来た
「誰やろ。」
開けるとそこには矢口とマキが居た。
「あっ・・・!どないしたん?」
「あいぼんだれー?」
「後藤さんたちや。」
「えっ。」
奥の方から叫んでいた辻も顔を出した。
「特にすることもないからさぁ遊びに来た。良いかな?」
「なんや暇人か自分ら。ええで、入って。」
矢口達は加護に勧められるまま中へと入って行った。
「じゃあ後藤さんは矢口さんと旅してるんや。」
「そだねやぐっつぁんが連れ出してくれたんだ。」
「そうなんや。ええなぁ、旅とか楽しそうや。」
「旅も楽しいけどやぐっつぁんと一緒だからもっと楽しくなるんだよね。」
マキはずっと加護に話しかけられていた。
「なんや、どういう関係なん?」
「ん?ごとーとやぐっつぁん?」
「そや。」
「恋人同士。ラブラブだから邪魔しないでね。」
マキは先手を打つかのように加護にそう言った。
「へ、へぇ〜」
加護は白々しい笑顔をしていた。
- 150 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時09分55秒
- そして矢口はというと・・・
「矢口さん、後藤さんと付き合ってるんですよね?」
「えーっ・・・分かる?」
「すぐ分かった。」
「そっか。辻ちゃんは?」
「え?」
「加護ちゃんと付き合ってるの?」
「ののがあいぼんと?!やめてくださいよ〜あいぼんはののの友達。そんなじゃ無いです。」
「そか。」
「でも、あいぼん、後藤さんのこと気に入ってるみたいですよ。」
「へ?そうなの?」
「あいぼんは人間専門だから。」
「なに、それ。」
「ののは“食料専門”あいぼんは“人間専門”得意とするもの。」
「ふ、ふぅん・・・」
(でもごっつぁんは矢口のもの!あげない。・・・ていうかー悪いんだ、やっぱりこの子達って。)
それから適当に食事を済まして矢口達は家へと帰った。
- 151 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時13分01秒
- その日から毎日毎日加護や辻に会いに行き、そしていろんなことをして遊んだ。
見ている限り・・・というか話はしても、実際に盗みを働いたところを目撃しなかったので
普通の子だね。ということで矢口達は少し拍子ぬけをしていた。
そして数週間が経った。
「やぐっつぁんさぁ〜あの子達何もしてなさそうだよね〜 」
「矢口も思ってた。どうなんだろ?あの子達じゃないのかな、困らせてる原因は。」
なんの解決策も見つからずに日数だけが過ぎて行った。
「あいぼん、後藤さん諦めたの?」
「う〜・・・だってアカンやん。後藤さんつけいる隙ないんやもん。ののこそどうなん?」
「なにが?」
「矢口さんとえらい仲良くなってるやん、好きなんちゃうん?」
「・・・嫌いじゃない。」
「隠さへんでもええって。実はウチも少し気になってるねんから。」
「矢口さんを?」
「そや。後藤さんがあれだけ入れ込む矢口さんてどんな人やねん思て見てるうちになぁ
・・・気になってもうてた。」
「でも、今回ばかりは盗れなさそうだね、あいぼんも。」
「う〜ん、せやなぁ。まぁ、だから出て行かないように、もっとここに
留まってもらえるようにせなアカンなぁ思てる。」
- 152 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時15分18秒
- そんな或る日のこと・・・
「そういやぁさあ、加護ちゃんたち保田さん知ってる?」
「保田?誰やそれ・・・?のの知ってる?」
「ううん。」
「加護ちゃんたちさぁその人のウチから家具とか・・・持っていかなかった?間違いなら謝るけど。」
毎日毎日いくら話しても進展が無かったので矢口達は昨夜、作戦を変更したのだった。
聞かなくてはならないこと、探りをいれなくてはならないことを包み隠さずに、
遠まわしなことをせずに思い切って聞こう!という作戦に。
(あれー?ほんとにこの子達じゃないのかな・・?それとも保田さんウソついてる?)
(忘れてるだけかもよ?子供だし。)
「こっから2時間くらい歩いた所にある洞窟に住んでるさぁ・・・知らない?」
矢口がもう一度問うと、辻が思い出したように加護に言い出した。
- 153 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時18分21秒
- 「分かった!あれだよあいぼん、おばちゃんや!」
「おばちゃん?・・・あぁ、おばちゃんのことか!なんやそのことかいな。」
「思い出した?」
「あれやな、おばちゃん弱かったよな〜!弱いクセに必死になって抵抗してな〜あほみたいやったな。」
「そうそう。ののたちに勝てるはずないのにね!なんだおばちゃんのことかー」
「おばちゃんがどうかしたん?」
「あんたら・・・」
「「・・・?」」
「悪いと思ってないの?!」
「何がや。」
「人のもの盗って、人を傷つけて、馬鹿にして・・・!」
「そんなん、盗られる方が悪いやん。」
「そうそう。」
- 154 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時19分32秒
- 「いい加減にしろー!!」
矢口は急に立ち上がり、加護と辻を睨みつけて叫んだ。
「なんやねん急に!矢口さんに迷惑かけてないやん!な、のの?」
「・・・うん。」
「なんやねんのの、ちゃうんか?」
辻は急に大人しくなって下を向いてしまっている。
加護ひとりが矢口に反論をしている。
マキは怒る矢口を初めてみて少し驚いていた。
「やぐっつぁん、落ち着きなよ。」
「ちょっとごっつぁん黙ってて!!」
「・・・はぁい。」
「保田かなんかしらんけど、ウチらが悪いんちゃう!」
「それだけじゃないよ、あんたら、自分達の親からも盗んだりしてるでしょ!!
いけないことなんだよ?人から・・人のもの盗ったりなんかしたら!!」
「・・・だって・・なぁ・・?のの・・」
「・・う、・・うん。」
怒る矢口に少しずつ押されてきた加護達だったが、それでもまだ反論をしようとしていた。
- 155 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時20分33秒
- 「辻ぃっ!!加護ぉっ!!いい加減にしろーーーーーーーーーーーっ!!」
正義感の強い矢口の怒りは、簡単に頂点に達してしまったようだった。
小さな体を震わせて赤い顔をして湯気を出して怒っていた。
「だって・・・」
「もう良い!どこにあんの?」
「・・え?」
「保田さんの荷物だよ!それと町の人から盗ったもの全部!」
「そんなものどうする――」
「矢口が返しに行く!あんたらが悪い事やめないってんなら無理やりでもやめさす!」
「・・・怒らないで、矢口さん。」
ずっと下を向いていた辻が急にぽつりと言った。
「なにぃ?!」
切れている矢口は荒々しく返事をしてしまう。
「ちゃんと返すから。元に戻すから。だから怒らないで。」
「のの!なんでやねん?!」
「だって・・・やだもん矢口さんに嫌われたら。」
- 156 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時22分48秒
- 「辻ちゃん・・・矢口の言いたい事分かってくれるの?」
「・・・うん。ごめんなさい。」
「加護ちゃんは・・・」
「あいぼん、あいぼんだって嫌でしょ?嫌われたら!」
「うう・・せやかて・・・。」
「良いよ、辻ちゃんだけでも分かってくれるなら。場所、教えてくれるかな?」
「うん」
辻は立ち上がると矢口とマキを盗んだものを置いておいた倉庫のような所へと案内した。
「うわ・・・すっごいたくさん・・・」
そこは加護達の屋敷ほどの広さがあったにも関わらず、入り口付近までせまって来る程の量の盗品があった。
「全部、返すから、手伝ってくれる?」
矢口の言葉に辻はコクンと頷いた。
取り合えず保田の荷物を全て出して、運ぼうとした。
その時――
「ウチが返す!」
はぁはぁと息を切らせて矢口達のもとへと加護がやってきた。
- 157 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時24分34秒
- 「加護ちゃん・・・」
「それ、全部ウチが返しに行く。責任もって返す。」
加護は急に改心したかのように言っていた。
「・・・わかってくれたんだ?」
矢口も聞き返す。
しかし頷く事はしなかった。
「あいぼん、どうしたの?」
「・・・ウチ、悪いことなんかよう分かれへん。でも・・・このままやったら矢口さんたち
出て行ってまうやろ?それは嫌なんや。」
「・・・どうして?」
「ウチ、矢口さんたちが好きなんや。お姉ちゃんみたいで・・・だから嫌われたくない、
ずっとここにおって欲しいんや。だから・・」
「加護ちゃん、矢口達はね、帰るところがあるの。ずっと、ずっと遠くなんだけど
行かなきゃならないところがあるの。だからここにはずっとはおれないんだよ。」
「そんな・・・!いやや!」
「今は悪い事って分かって無くてもそのうち分かるよ。加護ちゃんはそうやって自分の気持ちを
言える子だから。それに辻ちゃんも居るしね。いつか、そりゃすぐだったらもっと良いけど、
いつか町の大人たちと仲直りをしてもう一度一緒に暮らすこと、考えてみて。
きっと楽しいし、もっと嬉しいことがたくさんあるよ?」
「だって・・」
- 158 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時25分40秒
- 「あいぼん、しつこい!!矢口さんたち困らせて良いの?!」
辻が急に加護を叱るように言い出した。
「なんやねん、のの。」
「ののは矢口さんたちが居なくなるの淋しいけど我慢するもん。仕方ないもん。
別れるのに怒られたままなんてやだもん!」
「・・・せやな。」
「あいぼんっ!」
「うん、うちもいつまでもアカンな、こんなこと言うてたら。ののの言う通りや。」
加護は辻に情けないような表情で笑いかけた。
「加護ちゃん・・・荷物、まかせて良い?」
そういう矢口に迷いの無い顔で加護は言った。
「もちろん!まかせてや!な、のの!」
そしてふたりはせっせ、せっせと今まで盗んだものをそれぞれのもとへと返しに行った。
- 159 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時27分56秒
- 「良かったね、やぐっつぁん。」
「ん。改心したのか不安もまだあるけど・・・」
「大丈夫でしょ、多分。それよりさ・・・」
「なに?」
「やぐっつぁんって・・・怒ると・・・」
「な、なに?」(怖いとかって思われたかな(汗)
矢口はほんの少し冷や汗をかいてマキの言葉の続きを待った。
「セクシーだね。」
(がくっ!)
「な、なんだよそれ!」
「ん〜?だってほんとだもん。」
そう言ってマキは機嫌良さそうにしていた。
- 160 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時32分26秒
- 全ての作業を終えて別れの時がやってきた。
加護達は矢口達と最後の別れを惜しんで話していた。
「これからどこに行くんや?」
「人探しをね。」
「誰や?」
「ごっつぁんのお姉ちゃん。」
「なんて名前や?」
そんなことを聞いてどうするんだ?と矢口達は思ったが取り合えず答えた。
「ゆうこ。」
マキがぼそっと言うと加護は辻に目くばせをした。
「?なに?あいぼん。」
「あれやん。カード、のの集めるの好きやったやろ。もしかしたらおるんちゃう?」
「ああ!そっかぁ。見てみる。」
そう言って肩から提げていたかばんの中からカード入れなるものを出してきた。
「なんなの?」
矢口達は訳が分からずに「?」な顔をしていた。
「どや、ありそうか?」
「待って・・・・・・・・あ、あった!!これかな!“中澤裕子”」
「えっ!!それっどうして??」
マキは姉の名前まで当てた辻に驚きを隠せないで居た。
「はい、これあげる。」
辻はそっとマキに手渡した。
- 161 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時33分33秒
- それは・・・保田がくれたものと同じようなカードで、“リターン”と書かれていた。
保田が言ったのは、“ほくろを押したらすぐ戻ってこれる”だった。
これにはほくろはないが・・・?
「それは・・・あぁ、角やな。角生えてるやろ?」
ゆうこは確かに人間だが角が書かれていた。
「おねえちゃんに角は無かったけど・・・?」
「ちょうど押すもんが無かったんやろ。」
「ふ、ふぅん。え?これ、くれるの?」
「うん。」
マキは矢口を見て嬉しそうに笑った。
「それやったら一発やろ。お姉さんに会えて、目的果たしたらまたここにも遊びに来てくれるか?」
加護はお願いをするように伺うように矢口達に言った。
「うん、加護ちゃん辻ちゃんに会いに来る。」
「絶対やで。」
「待ってます。」
- 162 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時34分39秒
- 矢口とマキは“子供の国”を後にし、大人たちの町で事情を説明し、そして保田へと報告をした。
「ありがとう!助かったわ、あんたたち。これ、お礼よ!」
「・・・?」
何やら四角いものを受け取った矢口とマキ。
開けてみてもそれがなんなのか分からない。
「これ、なに?」
率直に矢口は聞いた。
「すぐ分かるでしょ!それはあんたたちよ!」
「「はぁ??」」
それは誰がみても子供の落書きにしか見えないような・・・
矢口達の似顔絵だった・・・
「コレ・・・お礼?」
「そうよ!不満かしら?」
矢口達は顔を見合わせて苦笑いをすると、「ううん、ありがと。」と、返した。
それを聞いて満足そうにする保田が少し、・・・いや、かなり恨めしかった。
- 163 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月10日(土)19時35分46秒
- 「じゃあ明日出て行くし。今日も借りるね。」
矢口達は前と同じようにその洞窟にテントを張り、そして眠る用意をした。
「お姉ちゃんなんて思うかなぁ?」
「ゆうこさん?」
「うん。ごとーも・・・ちょっといきなりすぎて緊張するし・・・ドキドキしちゃう。」
「でもほら、言いたい事もあるってごっつぁん言ってたじゃん。早く会いたいでしょ?ほんとは。」
「・・・まぁね。報告はやぐっつぁんも傍に居てくれなきゃなんだけどね。」
「そうなの?」
「うん。なんか・・・緊張するけど疲れちゃった。寝て良い?」
「ん。良いよ。起きたらカード使って行こうね?」
「うん。おやすみの・・・」
「分かってるよ。」
ちゅ・・
マキはふわぁと笑ってそのまま眠りについた。
後を追うように矢口も眠った。
- 164 名前:りょう 投稿日:2002年08月10日(土)19時42分15秒
- >>138 名無し読者さま
あの子たち、あっという間に終わってしまいました(汗
ま、まぁあれです!
『え?そんなに簡単に解決しちゃうの?』みたいなゲームと思って頂けたら(汗
>>139 名無し読者さま
やぐごま好きさんですか。
私も大好っき!しかしいつも固執するかのようにやぐごまなので
たまには違うのも書こうと思い始めています(w
更新遅れて申し訳ございませんでした。
- 165 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月11日(日)01時21分37秒
- おおっ!
更新お疲れ様です。 ヤッスー強しですね(笑
- 166 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月11日(日)09時02分40秒
- 違うお話ですか〜。それも楽しみですね。
でもやぐごまも楽しみにしてます。
- 167 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時35分48秒
- そして朝、矢口達はゆうこに会う心構えをしてカードを使った。
降り立ったそこは綺麗な屋敷。
ゴミひとつ落ちてはおらず、白い壁に白い床。
全てが白で統一されており、上品な感じの家だった。
「どこだろ・・・?」
矢口はあたりをキョロキョロと見渡した。
ここはどうやらどこかの待合室のような部屋。
ベッドやたんすなどの家具はなく、ただ、ソファーとテーブルがあった。
「こっち!」
マキは矢口の手を引っ張って進んで行った。
「え?分かるの?どこにいるか。」
「なんとなくだけど・・・隣の部屋にいる気がする!」
- 168 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時37分21秒
- コンコン
コンコン
ノックをしても返事は無い。
仕方なく勝手だがノブを回した。
カチャ
そろりと開けるとそこは真っ暗で、窓から漏れる灯りだけが少し見えていた。
(ごっつぁん〜・・・勝手に入ったらヤバクない・・・?)
(でも、居なきゃここに来ないじゃん。居るからカードがここに来させたんでしょ?)
(そうだけど〜)
などと矢口達が話をしていると急に明かりがついた。
「わっ!」
慌てて矢口たちは床にへばりついた。
「誰?誰か居るんか?」
(お姉ちゃんの声だよ!)
(うん、そうだね。)
その声がゆうこのものだと分かり、マキと矢口は立ち上がって姿を現した。
- 169 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時38分51秒
- 「・・・!あんた・・真希!!どないしたんや?!こんな・・・どうやって・・
それにあんたあのときの・・・」
「お姉ちゃん!!会いたかったよ!家を出て行ってからずっと会いたかった!!」
ゆうこに飛びついて泣いて話すマキにゆうこは何も言わずに黙って抱いていた。
そして離れたところでその光景を見守る矢口とゆうこは目があった。
目が合うと、ぺこっとお辞儀をした。
ゆうこもそれに合わせてお辞儀を返す。
「急に居なくなるんだもん、お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」
マキはいつまでもゆうこにくっついて涙を流していた。
「いや・・・ほんとに悪かったな。真希をあの家にひとりで残して居なくなってもうて・・・ごめんな。」
「・・・」
首を横に振って「ううん、ううん。」とマキは返していた。
「辛かったよな、あんな家で・・恨まれても文句、いえんよな。」
「あの、ちょっと隣行ってますね。」
矢口はその場に居ることが申し訳なく感じられ、そう言って部屋を出て行った。
(良かった・・・マキを連れ出すっていう約束も果たせてたし・・・うん、ほんっと良かった。)
- 170 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時40分04秒
- 矢口が隣の部屋に居る間、隣では――
「あのね?あのね?やぐっつぁんはね、ごとーを救ってくれたの。」
「あの子な。うん。」
「お姉ちゃんが頼んだの?」
「・・・まぁ。」
「ありがとう。」
「なにがや。 」
「お姉ちゃんのおかげで・・やぐっつぁんに会えたから。」
「・・・?」
「今、付き合ってるの。やぐっつぁんが好きなの。」
「ほんまにか?!」
「うん。お姉ちゃん居なくなって淋しかった。お父さんもきつかったし・・・でも、
そんな時にやぐっつぁんが来て・・・それで色々あって今こうやって
お姉ちゃんとも会えてる。本当に嬉しいんだ。」
マキは笑顔でゆうこにくっ付いたまま言っていた。
- 171 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時41分23秒
- 「あの子、矢口やっけ・・・?良い子か?」
「うん!」
「ウチがこんなこと言えた義理ちゃうけど・・・真希を幸せに出来る子?」
「うん!大丈夫だよ。」
「ちょっと・・・話してきてもええか。」
「うん・・・?良いけど・・・あれ?そういえば何?そのしゃべり方。」
「あっ・・・これな。旦那がこうやってしゃべるから移ってしもてん。」
「そっか・・・なんか笑っちゃう。」
「せやな、自分でもたまに笑うで。ほな、ちょっとごめんな。」
そう言ってゆうこは矢口の待つ隣の部屋へと移った。
「あっども。」
「あんた、うちの頼みちゃんと聞いてくれてたんやな。」
「あっ・・・はい。(頼まれなくても好きだったからなぁ。)」
「ありがとな。それで・・・もういっこ頼みやねんけど・・」
「なんですか?」
「真希とずっと一緒に居たって欲しい。あの子あんたのこと本気で好きや。だからお願いや。」
- 172 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時42分50秒
- 「・・・それはお願いされなくても・・・大丈夫ですよ。」
「大事にしたってくれるか?」
「まかせて下さい。」
曇りの無い目をして言う矢口にゆうこはほっとした顔をすると、
矢口を連れてマキの待つ部屋へと戻った。
「あれ?もう良いの?」
「ああ。話は済んだ。」
「そか。じゃあ最後にさぁ・・・お姉ちゃんに聞いて欲しいことあるんだ。」
マキは立ち上がってゆうこの方を見て言う。
「矢口居ない方が良い?」
気を使って言った矢口だったが・・・
「ううん。やぐっつぁんにも聞いてて欲しい。」
マキはそう答えた。
「そう?じゃあ・・・」
矢口はすぐ傍にあるソファーに腰掛けて言葉を待った。
- 173 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時44分48秒
- 少しの沈黙のあと、マキは言った。
「お姉ちゃん、私、結婚したい。」
(へ??誰と??)
「・・・結婚?」
「うん。やぐっつぁんとしても良い?」
「ええっ??ややややや矢口???」
まさかいきなりそんな話を口に出されるとは思って居なかった矢口は驚きの色を隠せないで居る。
「やぐっつぁんはいや・・・?」
「え?だって結婚って・・・ちょっと聞いてなかったからびっくりして・・・」
「お姉ちゃんは許してくれる?」
「・・・本気で言うてるんか?結婚は誰でも出来るけど・・・お金だってかかるんやで。」
「家なんてどこでも良いもん。やぐっつぁんと一緒だったら野原でだって洞窟でだって、
どこでだって生きていけるから。」
(・・・そこまで矢口のことを・・・嬉しすぎる・・・)
「矢口は?」
ゆうこは急に矢口に話題を振った。
「ええっ?・・あの・・・大事にします。」
「嬉しい!やぐっつぁん!!」
マキは即座に矢口に飛びついてキスをした。
- 174 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時47分21秒
- 「分かった・・・お金は・・協力したる。矢口、ちゃんと頼むで?」
「あ、はい。でもお金はお断りします。」
「やぐっつぁん??」
「なんでや。」
「一からごっつぁんと作って行きたいからです。困ったときにふたりで乗り越えたいからです。生意気・・・ですか?」
「いや、・・・ええ答え聞けてよかった。真希、幸せになるんやで。」
「うん!ありがとうお姉ちゃん」
マキは終始笑顔で矢口を見ていた。
そしてゆうこの屋敷で食事をご馳走になり、泊まらせてもらう事になった。
ふたりで布団に入って語る。
「どこでする?結婚式。」
「ごっつぁんのしたいところで。」
「う〜ん・・・楽しみ。住むところはさ、ほんとにどこでも良いんだ。やぐっつぁんと一緒ならどこでも。」
「ん。矢口も。」
「明日・・・・どうする?」
「ごっつぁん、お父さんに報告に行かない?」
「えっ?!」
「心配してると思う。それに隠れて暮らすのは嫌だから。」
「・・・・・・・でも・・・二度と出れなくなったら・・」
「大丈夫、そのときは矢口がまた連れ出すから。」
「・・・ほんと?」
「うん。だから、行こう?」
「分かった。」
次の行き先を決めてふたりは眠りについた。
- 175 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時49分47秒
- そしてマキの元々住んでいた家へと帰って来た。
「殴られたら・・・怖いよ。」
「矢口が守る。」
恐る恐るノックをして返事を待つ。
「誰だ。」
ぼそっと小さな声が聞こえた。
「あのっ・・・真希だよ。」
バタンッ
マキの声を聞いて扉はすぐに開けられた。
「お前!!!今までどこに!!勝手に居なくなって!!」
マキの父親は右手を振りかざしてマキに言う。
(殴られる?!)目を瞑ってしまうマキ。
咄嗟にマキとの間に入ろうとした矢口を押しのけて父親はマキを強く抱きしめた。
「・・・?!」
「ずっと不安だった・・・俺がお前につらくあたったせいで出て行って・・悪かった・・・!」
「お父さん?!」
「俺は父親失格だな・・・可愛い娘に手をあげて・・・本当に今まで済まなかった。戻ってきてくれて・・嬉しい。」
「・・・怒って・・ないの?」
「当たり前だ!悪かったのは俺だ。」
マキは不思議な顔をして矢口を見た。
- 176 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時50分55秒
- 「すいません、ちょっと良いですか?」
「・・・なんだ、あんた。」
マキを放して矢口に問いかける。
「私はマキさんの婚約者です。今日はその報告に来たんです。」
「こんやくぅ??何言ってるんだ。」
「ほんとなの、お父さん。」
「うそだろ?・・・ここには戻ってくれないのか?」
マキは困った表情で矢口を見ていた。
「お父さんが必要なら・・・傍に住みます。必要ならいつでも会いに来ます。認めてもらえませんか?」
父親はしばらく黙り込んで考えていた。
そして家へと入って行った。
「やぐっつぁん・・・許してもらえないのかな・・?」
「大丈夫、お父さんは分かってくれるよ。」
“宿屋に居ます。”
そんなメモを一枚残して矢口達は父親が来るのを待った。
「でも、怒ってなくて・・・取り合えず元気・・だったのかな?・・良かった。」
「うん。それはそうだね。」
- 177 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時54分52秒
- そしてなんの連絡もないまま数日が経った。
その間何度も何度も足を運んだ矢口達。
2週間ほどして父親はやっと宿屋へとやってきた。
「お父さん・・。」
「・・・」
父親は何も言わずにマキに箱を渡した。
そして去り際、矢口にだけ聞こえるようにぼそっと言葉を残して帰って行った。
「・・なんだって?お父さん。」
「・・・あ、うん。その前にさ、それ、開けてみない?」
箱はティッシュ箱くらいの大きさのもの。
開けるとそこには指輪がふたつ。
そして100万モニ。が入っていた。
「これ・・・」
「うん・・・あ、待ってそこに何か紙が入ってる。」
一番底に真白な紙が一枚挟まっていた。
『お前達を祝福する。幸せになれ。』
それだけの、ほんの少しの言葉だったが矢口とマキにとってとても嬉しい祝福の言葉だった。
『あんたに真希を託す。』
矢口にだけ聞こえるように言った言葉。
- 178 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時56分08秒
- ふたりはすぐに父親の家へと向かった。
カギがかかっており、言葉を交わすことは出来なかったが、
矢口は深く頭をさげ、マキは涙を流してじっと家を見ていた。
宿屋へと戻り・・・
先程の感激に浸っているマキをよそに矢口は言い出した。
「ごっつぁん、矢口一回家に帰るね。」
「・・・・え?」
「ほら、結婚の報告しなきゃだし・・・」
「一緒に行くじゃん。挨拶だってしたいし・・・」
「うん、でもこっから4日ほど掛かるし・・・それに結婚してからでも充分間に合うよ、挨拶なんて。
ごっつぁんはさ、この町でゆっくりしてて。お父さんとももしかしたらまた会えるかもしれないでしょ?」
「だけど・・・」
「すぐ戻るから!」
笑顔で言う矢口にマキはただ頷くしか無かった。
- 179 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時57分11秒
- 「明日、起きたら行くね。」
「・・・やぐっつぁん、ずっと一緒に居ようね?どんなことがあっても、たとえ・・明日みたいに
離れちゃってもさ、忘れないでずっと・・・一生・・・ううん、生まれ変わっても一緒に居ようね?」
「うん。矢口はごっつぁんが大好きなんだ。どこに居たって見つけてみせる。
それに離さないから、ずっと。だから安心して眠って。」
「・・・うん。ごとー・・・すっごく幸せ。」
「矢口もだよ。」
ちゅ・・
いつものように口付けを交わして眠りに付いた。
そして次の日の朝、マキに見送られて矢口は自分の家へと帰った。
- 180 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時57分50秒
- 「ただいま!!」
元気よく横開きの古臭いドアを開けて中へと入る。
「あれま!帰って来たのかい?」
久しぶりに見る母親の顔。
何故か矢口は嬉しくなった。
「うん、報告あるんだ。」
「まぁ取り合えず中に入りなさい。お茶くらい入れるから。」
「ありがと。」
- 181 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)22時59分16秒
- 「結婚するのかい?!」
「そう。すっごく可愛い子。もったいないくらい。」
「あんたが結婚するようになるなんて・・・旅をして良かったかもしれないね。」
「でしょ?今度は一緒に来るから。」
「楽しみだね。」
「お父ちゃんは?」
「出かけてるよ。明日帰って来るかな。」
「そっか・・・あのさ、今日すっごく疲れちゃったんだ。もう眠って良い?」
矢口はマキの居た街を出てからほとんど休まずに家へと戻ってきていた。
早くマキの元に戻ってやりたかったから。
そのためにほとんど眠りもせずに帰ってきたのだ。
「ああ、部屋はそのままだから。」
「ありがと。」
矢口は自分の部屋へと入り、そして今まで使ったような柔らかいベッドではない堅い自分のベッドに乗る。
(明日・・・お父ちゃんに報告したら・・・すぐ帰ろう・・早くマキに会いたい・・・)
矢口は本当に疲れていた。
すぅーっと眠りの世界へと引き込まれていった。
- 182 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)23時00分32秒
- (暑い・・・じめじめする・・・)
(痛い・・・頭・・)
急に体にまとわりつくような鬱陶しい暑さと、何故か痛む頭に気がいき、目を覚ました。
「・・・」
「・・!!!」
「なに?????」
矢口は目を覚まして、視界に入った部屋を見て目を疑った。
「なに・・これ・・・。」
そこは、ずっと矢口が暮らしてきた、矢口の部屋だった。
堅いコンクリートの床に寝転がって目の前には見慣れた“game's room”の札。
矢口は自分の体を見た。
「・・・ぱじゃま・・・」
矢口はさっきまで来ていた冒険用の服ではなく、いつものぱじゃまを着ていることに気が着いた。
- 183 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)23時02分46秒
- 考えても考えても訳が分からない。
でも思いつくのは、考えつくのはひとつしかなかった。
「・・・全て夢?」
そう、今まで見ていた、体験していたことは全て夢だったということ。
そう考えるより他に無かった。矢口自身、初めてゲームの世界に行ったとき、
夢だと思うことにしたことは忘れていた。
「そんなっ・・・マキは?!あれは・・・何度もしたキスは・・・!!
マキの温もりは・・・全部・・・夢だったの?!」
矢口は信じられないといった表情をして部屋の扉を開けた。
するとそこには――
付けてもいなかったテレビが付いており、そしてゲーム画面が映し出されていた。
画面は丁度クリアをしてスタッフロールが流れている所だった。
「なんだよ・・・どうしてなの・・?訳わかんないよ!!」
矢口は呆然としながらも画面を見ていた。
「・・・!!これっ・・・!矢口・・?」
テレビ画面には、ずっと登場して自分が動かしていたキャラではなく、自分が、
矢口自身が映し出されていた。
- 184 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)23時05分26秒
- 「なんで・・・?どうなってんの??」
画面はマキと出会う前、出会ってから、ひとみ、かおり、保田、辻、加護、ゆうこ、
マキの父親など、自分がしてきた旅のシーンが全て映し出されていた。
それはマキと一緒に居るシーンが多く、キスをするシーンも事細かに映し出されていた。
「夢じゃないの・・・?でもっ・・なんなの?!」
全ての画面が流れ終わり、最後、The end 画面の後、映し出された言葉。
“ゲームの終わりは夢の終わりです。”
“◆夢◆いかがでしたか?”
「・・・そんな・・・」
矢口は何も考えられずに何も手に付かずにただぼーっと朝までそこで悲しみにくれた。
- 185 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)23時06分36秒
- そして――
バイトの時間になったが矢口は連絡もせずに休んでしまった。
「バイトなんて・・・やってらんないよ・・・マキ・・・」
夜遅く、矢口の家のインターホンを鳴らす音が聞こえた。
矢口は返事をせずに開けに行った。
そこには――
「今日はどうしたの?風邪?バイト急に休んでたからなっち心配しちゃった。入って良い?」
「あ・・・・・・うん。どうぞ。」(そうだ・・・なっち・・)
安倍は矢口の家の台所で何やら作っていた。
「何も食べてないよね?なっちが今ご飯作ってあげるから。」
「・・・ありがと。」
「ううん。このくらい当然だよ。」
安倍は嬉しそうに少し恥ずかしそうに矢口から視線を外して言っていた。
「美味しい?」
「うん。すごく。」(でも、感触が・・・・)
ゲームの世界に居た時のような感触を感じられずに矢口は嘘をついた。
- 186 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月19日(月)23時07分54秒
- 「でも初めて入ったけど・・・暗いね。電気つけないの?」
「ゲームとかするとき集中できるから。」
「そっか。じゃあ元気そうで良かった。なっち、帰るし。明日は会えるよね?」
「・・・うん。明日は行く。店長怒ってた?」
「ううん心配してた。」
「そか。」
安倍を玄関まで見送って矢口は言う。
「なっち来てくれてありがとう。それと・・ごめん。」
「どうして謝るの?気にしないでよ、それじゃあおやすみ。」
パタン
「・・・ほんとに、ごめん。」
戸が閉まったあとも矢口は謝っていた。
- 187 名前:りょう 投稿日:2002年08月19日(月)23時12分52秒
- もう訳が分からない(汗
ファンタジーは書けないことがよぅく分かりやした。
なんとか現実に戻れてほっとしてます。
>>165 名無し読者さま
ヤスは最強です。色んな意味で(w
>>166 名無し読者さま
やぐごまに限らず色々書いてみたいです。
がんばります。
どうもありがとうございます。
- 188 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月20日(火)10時15分22秒
- ついになっち登場!
やぐがなっちを愛せるのかごまはどうなるのか気になります。
がんがってください!
- 189 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月22日(木)05時45分16秒
- やぐごまは、なちまりはどうなるのか。
楽しみですー。
- 190 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月25日(日)17時50分50秒
- 更新待ってます。
- 191 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時09分14秒
- 「・・・・ハァ・・・。」
安倍が帰った後、ふらふらと呼び寄せられるようにgame's roomに向かい、入り口に座り込んだ。
相変わらずの暗闇の中、とても大きな文字で、そして鮮やかな色使いで映し出されている
‘The end’という文字。
思い出そうとしなくても、考えようとしなくてもすぐそこに感じるマキの匂い、そして感触。
それらがなんだったのか。
それは確かに自分の身に実際に起こっていた事実なのに画面には‘The end’
矢口は訳が分からなかった。
「The endってなんだよ・・・」
(こっちは・・・これはこっちが夢なんだよ。どうしてこんな夢。矢口歩きつかれてたもんな、
それでこんなヤな夢見てるんだ)
そう考えた――というより自然と浮かんだその考えは、矢口にほんの少しの希望を与えた。
- 192 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時10分31秒
- ほんの数時間前に“夢だったんだ”と、なんとか浮かんだ思考はもうすでに矢口の頭には無かった。
(早く戻らなきゃ・・・マキが拗ねちゃう・・・「遅いよやぐっつぁん!」って怒られちゃう。
早く会いに行かなきゃ。)
今もしっかりと浮かぶマキの笑顔、寝顔、泣き顔。
そしてしっかりと香るマキの甘い香り。そして感じる温もり。
(今度、目が覚めたらきっと戻ってる、本当の矢口の世界に!
藁葺き屋根の、矢口のうちに戻ってる!きっと、そうだよ。)
そう思った矢口は、すぐにベッドへと飛び乗り、そしてすぐに深い眠りへと落ちて行った。
- 193 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時12分19秒
- チュン...チュンチュチュン...
薄暗い部屋にほんの少し漏れて入って来た朝の光。
その光を瞼に感じながら、そしてすずめの囀る声を耳に感じながらも矢口は目を開けることが出来なかった。
(なんで・・・)
何故なら今までの世界ではほとんど使うことのなかった枕が今の自分の頭の下にはしっかりとあった。
そして背中に感じる柔らかいベッドがそこにあった。
それだけで、今自分が居るところは、寝る前となんら変わりのない世界だということが容易に分かったのだった。
「マキ・・・ッ!こんなのってないよ!どうして・・・っ?!」
矢口は被っていた布団を蹴っ飛ばし、改めて部屋を眺めて愕然とした。
変わっていないと分かっていながらも少しは期待をした矢口。
目を開けて確認して、それは全くの夢だったことが分かったから。
「・・・やだよ。」
今もなお点きっ放しのテレビ画面にふと目をやって、自然と涙が流れて来た。
- 194 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時13分59秒
- 矢口自身、泣いていることに気がついていないのか、頬を伝って顎に溜まった涙が
大粒の塊となっては下へと落ちて、ぱじゃまをしっとりと濡らしていた。
ポロポロと止め処なく流れてくるそれを拭う事もせずに矢口はじっと画面を見続けていた。
「・・そうだ!」
何かをひらめいたようにベッドから飛び降りた矢口はそのままゲーム機に近付いた。
「こうしたら良いんだよ。」
矢口はリセットボタンを押して、もう一度スタート画面が出てくるのを待った。
"◆夢◆は、お一人様一回限りのご利用となります。クリア後は次の方へ回して下さい。"
「・・・なに?」
そんな画面が出てきたが矢口は諦めなかった。
- 195 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時14分29秒
- 「だったら、これでどうだ!」
矢口はゲーム機からソフトを取り出して本体の電源を落とし、
そして丁寧にコンセントのもとまで抜いてもう一度繋いで再生をしたのだった。
"◆夢◆は、お一人様一回限りのご利用となります。クリア後は次の方へ回して下さい。"
しかし出てくる言葉は先程と何も変わらなかった。
「なんだよ!クリアってなんだよ!矢口のマキを、矢口の世界を返してよ!」
持っていたコントローラーを画面に叩きつけて、矢口はその場に蹲った。
- 196 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時15分26秒
- ブブブ ブブブ ブブブ ブブブ
(・・・・なに?)
(あぁ、携帯。)
どのくらいそうしていたのだろう?
矢口がどこかからか聞こえて来た呼び出しをする携帯電話の振動の音に気がついた時、
外はもうすでに薄暗くなっていた。
‘安倍なつみ’
ディスプレイにそう表示されている携帯を見つめながらも矢口は出ることをしなかった。
無視をした訳では無い。
(・・・誰だよ。)
相手が誰なのかが全然分からなかったからだ。
それでもしつこく呼び出しを続けるそれをほっとく訳に行かなくなった矢口は、
躊躇いながらも通話ボタンを押した。
「・・・」
「あっ!やぐち?やぐち?」
「・・・安倍さん?」
「何言ってるの?それよりどうしたの?まだ寝てた??調子悪い??」
「・・・なにが。」
「だってもうバイトの時間だよ?」
「・・・バイト・・・あっ!そうだったごめんなっち!すぐ行く!!」
(こっちでは矢口はバイトしててなっちと付き合ってるんだった!)
- 197 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時16分50秒
- 「すいませんっ!遅れました!」
電話を切ってから落ちていた服を拾って大急ぎでバイト先へと向かった。
「まだ調子悪いのか?」
日頃しっかりと働いていた矢口を気遣って店長が優しく声を掛けてきた。
「あ、いえっ、すいませんでした。昨日も無断で休んじゃって。」
「良いよ良いよ。昨日は安倍さんがいつもよりはりきってくれてたからさ。」
「えっ・・なっちがですか?」
「あぁ。友達思いな子だね。今日は無理しない程度に働けば良いから。」
「あ、ほんっとすいません、有難うございます。」
普通ならお金をもらって働いているのだからそんな優しい言葉をもらえるはずはないのだが、
普段一生懸命に働く、よく気のつく矢口を見ているので店長はそう言った。
そして裏で安倍の活躍もあったことが余計にそういう言葉を言わせていた。
(良かったよ〜店長怒ってなくて〜クビだって言われたら困るもんね。そうだ、なっち・・)
矢口が安倍を思い出して姿を探したその時、お客さんの部屋から出てきた安倍と目があった。
(ごめんなっち、ありがと!)
矢口は口パクでそう伝えた。
安倍もニコと笑って頷いていた。
- 198 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時18分15秒
- 「・・・ふぅ。」
「お疲れさまー矢口ー。」
「あ、おつかれー。」
仕事を終えて従業員室でほっと一息をつく。
(あー・・・なんか久しぶりに働いた気がする・・・疲れた。)
「疲れた・・・」
カチャ
椅子に座って小さくなっていた矢口のもとへと安倍が戻って来た。
「やぐちぃおつかれさまー。」
「あーなっちー!お疲れ。ありがとね、昨日。変わりに頑張ってくれたって聞いた。」
「やーそんなことないよぉ。」
下を向いて少し照れくさそうにしながら言う安倍を素直に可愛いと矢口は思っていた。
「今日も、ありがと、助かったよ。」
「ううん、良いんだ。帰ろっか。」
「そうだね。」
手を繋いで帰り道、不意に安倍が思い出したかのように矢口に問いかけた。
「・・・え?」
「だからぁ、今日電話したとき‘安倍さん?’なんて言うからビックリしたよー。
なっちの他に安倍さんが居るの?」
「あー・・・いや居ないよ。なっちの言った通りさー寝起きだったんだ、あの時。
それで寝ぼけてて〜表示されたまま読んじゃったの。」
「そっか。安倍さんなんてもう随分と昔に聞いた覚えしかないからさぁ。」
「あはは、ごめんね。」
- 199 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時19分04秒
- 「ううん、・・・それでさ、あのさぁ、なっちさぁ・・」
安倍は急に歩く速度を落としたかと思うと、立ち止まってしまう。
「?どうしたの?」
「あ、そうそう、今度どこか遊びに行こうよー。」
「遊び?」
「そう。なっちデートとかって今までしたことないんだー矢口が初めて付き合った人だから。」
一気に言ってまた俯いて。顔を赤くしているのが見なくても分かってしまう安倍だった。
「矢口だってなっちは初めて付き合った人だよ。」
(でも・・・マキとのが長い・・・)
「遊び、良い?」
「う、ん。また休み合わせないとね。」
「そうだね。」
パァっと明るい顔を見せて安倍は嬉しそうに軽い足取りで歩き出した。
(良いのかな、このまま付き合ってて。でもマキはどうしようもないし
・・・なっちのこと嫌いじゃないし・・)
- 200 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時19分47秒
- 「どこにいこっか。」
(何よりいつも笑顔のなっちに悲しい顔はさせたくないし見たくないよ。)
「なにしよっか。」
(でも、どうしよう。)
「もーやぐち聞いてる?」
「へっ?あ、ゴ、ゴメ。なんだっけ?どこ行くかって?なに?どっか行きたいとこある?」
「・・・・・考えとく!」
「そっか。あ、それじゃあまたバイトで。」
「うん。おやすみ。」
安倍はやはり名残惜しそうに手を離して微笑んで帰って行った。
「・・・ますますどうして良いか、わかんない。」
矢口は一向に減らない悩みを抱えて帰った。
- 201 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時20分46秒
- 2週間後。
ふたりは映画館に来ていた。
「なんか感動しちゃったよーなっち。」
「ん。でもちょっと短かったよね。もちっと長かった方が良かったなー。」
「でも感動したっしょ。」
「それはね。」
ふたりは今話題の映画、『アイス○イジ』を観に来ていた。
安倍が観たい映画があると言ってやってきた。
昼前に会って映画を見て今は喫茶店で休憩。
商店街の路地裏に隠れるようにしてあった喫茶店へとふたりは入った。
「このあとどうする?」
そもそも今日の遊びの計画を立てたのは安部。
矢口はこのあとのことなど考えても居なかったのでそう聞いた。
「どうする?やぐちはどこか行きたい所ない?」
「ん〜・・・そうだな〜思いつかないよ。」
「そっかーじゃあさぁなっちアクセサリーとか見たいから買い物して良い?」
「うん、そうしよ。あ、そうだ今日は何時までいけるの?」
「今日?別に何時でもオッケーだよ〜。遅くなるって言ってきたし。」
「そっか。それじゃあ楽で良いね。」
そしてふたりは1時間ほどそこで時間を潰し、商店街から外れて大きなデパートへと向かった。
- 202 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時31分37秒
- 「なっちアクセサリーって何欲しいの?」
「えっとねーピアス。新しいの欲しいんだー。」
アクセサリー屋に入って一生懸命選ぶ安倍の横で矢口も何気なくくっついて見ている。
「なっちいっつも悩んじゃうんだよね〜やぐちなんか良いのあったら教えてね。」
「あっうん。あーそうだ、矢口が買ってあげるよ!」
「え?どうして?」
「んやだってこないだ迷惑かけたしご飯も作ってもらったし。」
「そんなの気にしなくて良いよ。」
「じゃあさ、誕生日プレゼントってことで!」
「今9月だよ?なっち8月10日だし・・・それにその日はおごってくれたじゃない。」
「良いから良いから!好きなの選びなって。」
「んーじゃあ・・・ありがとね。」
矢口がしつこくしたのには訳があった。
安倍と付き合いながらマキに恋をしてマキと結婚までしようとしていた。
今でもマキを想っているしマキのことが好きでいる。
けれどそんな自分を安倍は好きで居てくれる。
申し訳が無かった。
安倍が嫌いになったわけではない、少なくとも好きでいる。
しかしマキに対しての気持ちの方がはるかに大きかった。
そんな申し訳なさから出た言葉だった。
- 203 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時32分53秒
- (あ・・・これ・・・似合いそうだな〜・・・)
矢口は少し離れた所を歩く安倍を見ながらひとつのピアスを手に取った。
(ちょっとなっちには大人すぎるかなぁ〜)
ピアスを置いてふと別のものに目を奪われた。
それを取って矢口は何かを考えている。
(これ・・・マキに合いそう。あんまお金無かったし、こういうの買ってあげらんなかったもんな・・・
絶対好きだったはずなのにな、こういうの。似合うと思うし、買ってあげたかったな・・・)
「やーぐちっ、大体決めたよ〜」
そんな矢口のもとへといくつかのピアスを持って安倍が戻って来た。
(・・・買おうかな・・)
「やぐち?」
「・・・あっ!ごめんぼーっとしてた。」
「考え事?・・・これとこれ悩んでるんだけどどっちが好き?」
「え、えっと・・・こっちカナ?」
「じゃあこれにする。」
安倍は矢口が選んだもの以外をもとの場所へと戻しに行くと嬉しそうにまた戻って来た。
「じゃあ買ってくるし、なんか見てて。」
- 204 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時33分53秒
- 矢口は安倍から受け取ったピアスとはまた別のピアスもひとつ、
こっそりと手にしてレジへと向かった。
「プレゼント用ですか?」
「あっ・・えっと・・一個だけプレゼント用で。こっちのやつ。」
「かしこまりました。」
ひとつだけはキレイに包装をしてもらい、矢口は戻って来た。
「はい、なっち。」
「ありがと、やぐち。」
簡単な包装をされたものを安倍に渡し、ふたりは店を後にした。
(なっちはすぐ使うから良いよね。)
選ぶのに結構時間が掛かっていたようで、時刻はもう夕方の18時過ぎ。
外は少しずつ薄暗くなり始めている。
街にはカップルが溢れ、家族連れも目立ち、幸せそうな風景が目についた。
「このあとーどうしよっか。なんか食べる?」
「んーどうする?」
「矢口さーオムライスとか食べたいかも。」
「オムライス?どこか良いとこ知ってる?」
「ううん、全然知らない。」
「ならなっちが作ってあげよっか。ピアスのお礼もしたいし。」
「作れるの?」
「オムライスくらい作れるよー。」
「やった!そんじゃお願いしようかなぁ。」
「うん、そんじゃ材料買って帰ろっか。」
そんなこんなでスーパーで買い物を終えた矢口達は家へと帰って来た。
- 205 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時34分51秒
- 「ゴメンね、散らかしっぱなしでさー。ちょっと片付けるし。」
「なっちの部屋も似たようなものだから気にしないでー。でも、ちょっと暗いね。」
「あ、電気変える変える。」
そう言って一段階明るくした矢口は取り合えず見えている居間を片付けていた。
(はーこんなもんかなー。)
「お待たせ。」
「おっ早い!美味しそ〜!!」
「多分美味しいと思うけど・・・。」
「いっただっきまーす!」
両手を合わせてスプーンを持って、ひょいぱくひょいぱくと口に入れていく。
「・・・どう、かな?」
「ん、おいっしー!なっち上手だよ。」
「良かった。」
矢口の言葉を聞いて安倍もオムライスに手をつけていった。
しばらく会話を楽しんで、一緒に片付けをしている時、安倍が何気なく言った。
「やぐちってさーゲームっていつもどんなのやってるの?」
「・・・えっ?」
「なっちはマリオしかやったことないの。やぐちゲームいっぱいしてるでしょ?
なんか面白いのあるのかなって」
- 206 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時35分45秒
- 「う、うん。最近はやってないけど。」
(あれっ?そういや・・・あれって・・・うん、試してみる価値はアリだよね!)
「一個ハマッてるのがあるんだけど後でやってみる?」
「どんなの?」
「えっと、RPGだけど。」
「あーるぴーじー?」
「あっ・・やれば分かるよ。一応それは冒険モノだけどね。」
「そっか、じゃあ後でちょっとやらせてもらおうかな。」
「うん。あっちの部屋はもっとやばいから片付けてくる。」
そういって矢口は‘game's room’へと入って行った。
(うわっ・・・まじで汚すぎ!なんか臭いし・・・あ、ピザポテトの匂いかぁ。ファブリーズファブリーズ・・・)
落ちている汚いものをクローゼットに押し込んで芳香剤を撒きまくって取り合えずマシにする。
(あちゃ、余計臭いかも)
そしてゲーム機に目をやり、用意を始めた。
(これ、一人一回って書いてたよね。なっちは初めてだもんね?大丈夫だよね?)
矢口は安倍を利用して(?)また◆夢◆の世界を覗こうとしていたのだった。
- 207 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時36分39秒
- カチャ
「ごめんなっち、入っていーよ。」
中へ招き入れて画面の前に座らせた。
「・・・」
「ん?どしたの?」
「やぐちっぽい部屋だね。」
「なんだそれ。ちょっと臭いけど気に・・・しないで。」
「あははっ大丈夫大丈夫。ファブリーズ、うちにもあるよ!」
「それじゃー早速する?」
「うん。」
ゲーム機の電源を入れ、ソフトを挿入。
しばらくすると画面が表示された。
◆夢◆
new gameを選択して少し待つ
すると『名前の入力をして下さい』という画面が出てきた。
「ここに自分の好きな名前を入れるんだよ。」
(やっぱ出来た!一体どこで認識してんだろ、このソフト。てゆーか嬉しい、すごく緊張する!)
- 208 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時37分28秒
- ‘なつみ’と名前を入力すると次の画面が現れた。
"◆夢◆は、お一人様一回限りのご利用となります。クリア後は次の方へ回して下さい。"
「どういうこと?」
訳が分からずに安倍は聞いてくる。
「RPGって全部こういうのが最初に出るから気にしなくて良いよ。」
嘘っぱちを言いながら矢口は早く進めようとしていた。
画面には"承諾"と"拒否"の選択肢が出ている。
「それは承諾してね。」
そしてやっと始まった物語。◆夢◆
(家から始まるんだよね、確か。今日・・マキまで行くかな?)
「やぐちーこれはどうすんの?」
「え?・・・えっ?!」
矢口が画面を見ると、そこには自分が初めてやった時とは違う画面が映し出されていた。
大きな大きなドアの前でひとり立ちすくむ主人公が居た。
- 209 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時38分29秒
- 「えっと・・・」
(どゆこと?毎回話変わるわけ??)
「取り合えず、入ってみよっか。」
操作方法を教えて安倍は言われたようにドアを開けた。
すると――
ゆうこ:『だからなつみがおらんのや!』
保田 :『どこに行ったのよ!』
加護 :『めっちゃ仲良さそうやったけどなぁ』
辻 :『ケンカなんてしなさそうだったよ。』
飯田 :『なつみは良い子だったよ?』
吉澤 :『なつみさんにはお世話になったよね、うちら。』
石川 :『ふたりが離れるなんて信じられないよ。』
(なになに??何言ってるの??それに何全員集合してるの??)
「やぐち、どうする?」
「あ、・・とりあえず近寄って。」
- 210 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時39分41秒
- なつみ:『こんばんは。』
加護 :『あっ、なつみさんや!!』
辻 :『ほんとだ!』
ゆうこ:『あんた、今までどこにおってん!何しとってん!!』
なつみ:『一体なんの話ですか?』
(ちゃんと会話出来てる・・・選択肢なしで・・・)
ゆうこ:『あんたが急に居なくなったってマキが探してたんや!どこにおってん!』
なつみ:『家に帰ってて・・』
ゆうこ:『半年もか?!』
(半年?!数日じゃないの?!)
飯田 :『マキすごく淋しそうだったよ。』
吉澤 :『今にも泣きそうだった。』
石川 :『結婚するって約束してたんでしょ?それなのに・・』
辻 :『・・・ケンカですか?』
加護 :『なんにしても早く会ってあげんと後藤さん可哀想やで。』
なつみ:『マキは今どこに・・・?』
「やぐちーこれなんなのー?なっち訳が分からないよ。」
「うん、矢口も・・・」(でも続き見たい)
「えー?」
「ままま、もちっと進んでみようよ。」
- 211 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時41分40秒
- ゆうこ:『あんたを探してなぁ!旅に出たっきりもう2ヶ月以上戻って来ーへんのや!』
飯田 :『―― 』
辻 :『――』
石川 :『――』
その後も何やら会話が続いたが、安倍は訳が分からなくなり、手を止めてしまった。
「もうやめる。難しいよ、こんなの。よく分からないし。」
安倍がコントローラーを矢口に渡して画面を再度見たとき、画面は‘エラー’と表示されていた。
(んだよっ!クソっ!!)
仕方なくゲームをやめ、矢口と安倍は居間へと戻った。
他のゲームも進めたがどうやら難しいものしかないと思ったのか安倍は「やる」と言わなかった。
- 212 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時42分10秒
- 「やぐちはいつもあんなのしてるの?」
「んー色々するからなぁ矢口は。」
「そっか・・・。」
会話が途切れてふと時計に目をやると時刻はもう22時を越した所。
「もうこんな時間なんだね。」
(さっきの気になる気になる。ちゃんと考えたい考えたい)
「やぐち?」
「うん?」
「・・もう遅いから今日は帰るね。」
「あっ、そう?じゃあ送って行こうか。」
「ううん、大丈夫、タクシー拾うから。」
「今日はご飯作ってくれてありがとう。」
「ううん。それじゃあまたね。やぐちも、ピアスありがと。」
安倍は玄関で見送られながら帰って行った。
- 213 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年08月25日(日)19時43分12秒
- ドアが閉まってすぐに矢口は‘game's room’へ走って入った。
点いてもいないテレビ画面を睨みながら矢口は考えた。
(さっきのって・・・なに?なんなわけ???前と違うオープニングどころじゃないよ、続きじゃん!
なつみ=まりってことだよね??矢口がゲームから出たあと、あっちの世界はまだ終わってなくて
今も続いているってこと?でも矢口が初めてやったときはちゃんと初めからっぽかったし・・・・
ちゃんと終わってないってこと??それとも現実だから??どこかにあれは、あの世界はあるの??
なんにしても半年も矢口居ないの??それから2ヶ月もマキは矢口を探しているの??ほんとなの??
それなら、矢口も探すしかない!マキが探し続けてくれてるんだ、矢口だって会いたいんだ、探してみせる。)
ひとり固く決心をした矢口はお風呂だけを済ませるとすぐに眠りについた。
- 214 名前:りょう 投稿日:2002年08月25日(日)19時48分40秒
- >>188 名無し読者さま
結構ヒドイ(〜^◇^〜)に心が苦しかったり(汗
なちまりがどうなって行くのかこっそり見守っていてください。
>>189 名無し読者さま
ありがとうございます。
せっかく楽しみだと言ってもらっているのですが
更新が週一で申し訳ないです。
頑張りますので宜しくです。
>>190 名無しさんさま
遅くなってすいません(汗
がんばりまっする!(爆
更新しました〜。大幅修正を加えたために先が見えなくて焦ってます(汗
さーがんばるぞー!!よろしくです。
- 215 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月26日(月)08時03分42秒
- やぐごま派ですが〜ちとなっちが可哀相かも(W
この先どうなるか楽しみです〜
- 216 名前:りょう 投稿日:2002年08月31日(土)20時13分26秒
- あの〜・・・。
今日、PCの整理をしていまして・・・ついさっきですが・・・
それでこれも含めて今までのデータを間違って全て消してしまって・・・
自分もかなり落ち込んでますが、読んでくださっている方に申し訳ないです。
思い出せる範囲で急いで書きますので待っていただけませんか?
ほんとうに馬鹿です、自分(泣
- 217 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月02日(月)21時16分20秒
- データが全部消えた!?
大変そうですね。何とか思い出しながら、がんばってください。
待ってます
- 218 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月07日(土)22時18分41秒
- ガンガッテ!ガンガッテ!
- 219 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年09月08日(日)20時52分31秒
- 朝、いつもならバイトの時間ギリギリまで眠っている矢口は、
3時間前だというのに、すでに朝食も着替えも終えて、出かけるところだった。
「頑張ろ!」
気合を入れて向かった先は自分がバイトをしているところとはまた別の、
同じく近所にある書店。
入ってすぐのところにあるコーナーで立ち止まり、片っ端から
雑誌を取っては目を通していく。
「え〜っと・・あ、あった日雇い!」
矢口が読んでいるのは“求人雑誌”
目ぼしいものが掲載されている雑誌を小脇に抱えてすぐにレジへと向かう。
「もっと、バイトしなきゃね。」
「探しに行かなきゃ。」
「出会いの場所増やさなきゃ。」
矢口は昨晩決めたことがひとつあった。
朝早くに起きてこれからどうするのか、どうするべきなのかを考えるということ。
- 220 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年09月08日(日)20時53分28秒
- そして予定通り早起きをした矢口は、マキをこれから見つかるまで探し続けること。
人と出会う機会を増やして少しでもマキと出会う確率を増やすということ。
そう考えた。
そしてその結果思いついたのがバイトを増やすということ。
定期バイトをしつつ日雇いで雇ってくれるところがあればそこにも顔を出す。
そうしているうちに探しに行くお金も貯まるし、出会いも増えるということだった。
- 221 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年09月08日(日)20時55分45秒
「えっ?」
「ごめんね。」
「え、どうして?」
夜のバイトに来てから矢口は安倍に掴まりながら頭を下げて謝っていた。
「大した理由は無いけどちょっとお金貯めたくて。
ほら、うち仕送りとか当たり前だけど無いし。」
「でも、だってそれじゃあ全然遊べないってこと?ううん、それだけじゃないよ、
そんなに働いたら身体壊すよ?」
少し淋しそうに言ってすぐに心配そうな顔に変えて安倍は矢口に問いかけている。
「んー大丈夫だよ!休む時は休むから!とにかく、そういう訳だから今度の休みは
いつになるかわかんないの。ごめんね!」
さっさと言って矢口は持っていたビールをお客さんの部屋へと届けるために去っていった。
「あっ・・・」
その後ろ姿を淋しそうに見つめる。
「大丈夫じゃないよ・・・。」
ぼそっと少し愚痴っぽく言いながら安倍もまた仕事へと戻った。
- 222 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年09月08日(日)20時56分39秒
- バイトに来た矢口は、すぐに安倍に掴まり、そして今度の休みは
遊園地に行かないかと誘われていた。
遊園地自体は大好きな矢口だったが何しろ今はそれどころでは無かった。
安倍にはっきりとしないまま、マキを探す行動を“お金を貯める”という理由で
ゴマカし、逃げるように去っていったのだった。
「お願いしまーす。」
暇を見つけてやっていたのはティッシュ配り。
街頭で誰かれ構わずに手当たり次第に配る。
受け取ってもらうことを目的とはせずに、より多くの人を見るために。
街頭でのアンケート。
デパートでの新規会員申し込みの案内員。
人と出会えるのならばなんでも矢口は面接に行ってやりまくった。
- 223 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年09月08日(日)20時57分41秒
- 「やぐちー、いい加減遊ぼうよ。」
前に遊んでから1ヶ月が経ち、10月も半ばを過ぎた頃。
安倍がバイトの帰り道、矢口に向かって淋しそうに言った。
「あー・・・そうだね。ごめんね、バイトばっかしてて。どこ行きたい?」
素直に悪いと思ったのか矢口は安倍の機嫌を取るような形で聞いている。
「んっとねーどこって言うか・・・やぐちと一緒に居たいんだよね、なっち。」
「あっ・・・や、なんか照れるね、はっきり言われると。」
「やぐちはそうでもないかもだけど・・・ほら、バイト前には会えないし
終わってからもなかなかこうやって一緒に帰れてなかったでしょ?」
「そうだね。・・・ほんじゃ今度の休みはウチ、来る?
でも、こないだも来て知ってると思うけどなんもないよ。」
「ビデオとか借りて見ようよ。」
「そうしよっか。」
「うん、約束だからね!」
安倍は指きりげんまんすると笑顔を残して帰って行った。
「なにやってんだろ、矢口って。」
(なっちに対して失礼なことばっか・・・)
矢口は相変わらず安倍との関係をはっきりとさせないままにだらだらと付き合い続けていた。
- 224 名前:りょう 投稿日:2002年09月08日(日)21時03分35秒
- >>215 名無し読者さま
私はなちごまり派だったり(w
でも確かに(●´ー`●)可哀想(汗
>>217 名無し読者さま
大体思い出して書きました。少々変更をしましたが(汗
データは今度からバックアップとらなきゃですね(汗
>>218 名無し読者さま
ありがとうございます。少しがんがりました(汗
レスして申し訳ないのですが、メール欄のふたつ同時って??
なんのことだかチョト分からなくて(汗
殴られそうなくらい更新遅れて、そんでもって少量ですがごめんなさい。
で、でわ〜っ
- 225 名前:218 投稿日:2002年09月10日(火)20時55分27秒
- やぐが動き出したですねワクワク
- 226 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月18日(水)17時10分52秒
- 今日見つけて一気に読みました
やぐのキャラがすこぶるよいです
- 227 名前:ななし 投稿日:2002年09月30日(月)21時16分54秒
- @ @
( ‘ д‘) <待ってるで〜ってことで保全や。
- 228 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月01日(火)23時00分30秒
- 「おじゃましまーす。」
安倍が矢口のうちに来たのはこれで3度目。
1度目は◆夢◆から目覚めたとき。
2度目では◆夢◆の続きを知った。
矢口は今回も何かある気がしてならなかった。
「相変わらず汚いけど許してね。」
今日安倍は朝から遊びたいと言っていたが、場が持つか不安だった矢口は朝は外せない
用事があると言って夕方からにしてもらっていた。
事実、用事はあったのだが。
「ごはんどうした?」
「まだだけど。」
「なにか作るよ。」
「いつもありがとね。」
夕方から遊ぶのならせめて泊まりたいと言った安倍を断れるはずもなく、
今日安倍はお泊まり用の荷物を持ってやってきていた。
予備の布団があるはずもなく、他に寝る場所があるはずもなく、
さすがに申し訳なく思って矢口は片付けをしていた。
- 229 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月01日(火)23時01分36秒
- 「うっかり寝ちゃっても良いようにさー全部することやってからビデオ観ようね。」
「だねぇ。いくつ借りたっけ。」
「4本。」
食事を終えて片付けも終えて順番にお風呂に入る。
先に入った矢口は温かい紅茶を淹れて安倍を迎えた。
「まだこれからもバイト続けるの?」
「そうだねぇ。あまり貯まってないし。」
「朝もしてるんだっけ。今日もそれで?」
「あー・・と、朝もかな、うん。」
「大変だねぇ・・・。」
「・・・」
「・・・」
「あ、ほらっ、そんじゃそろそろ観よっか。」
沈黙になって気まずくなって矢口はすぐに紅茶を持って部屋を移動した。
「あ、うん。」
安倍もそれに続くようにして残されたお菓子を持って移動した。
- 230 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月01日(火)23時03分00秒
- 「・・・zz」
始まってすぐに眠そうにしだした矢口。
そのことに瞬時に気が付いた安倍。
「やぐち眠い?朝も出かけてたみたいだし、ベッド行っても良いよ。」
「んー・・大丈夫。ごめん、顔洗ってくる。」
カラッポになったマグカップを手に、矢口は部屋を出て行った。
「はー・・・やっぱ歩き回ると疲れるなぁ。」
バシャバシャと顔を洗ってパンパンと頬を叩いてみても眠さはあまり変わらなかった。
「でも、なっちより先に寝るのは失礼だし・・・がんばろ!」
台所で紅茶を注ぎ足して矢口は安倍のもとへと戻った。
「ごめん、はい。」
「あ、ありがと。無理しないでね?」
「うん、ありがと。」
・・・と、気合を入れ直して映画に挑んだ矢口だったが、
それから30分もしないうちにまた眠くなったのだった。
「・・・ごめん、ちょっと眠くなっちった。寝ちゃうかも。」
「うんいーよ。なっちはこれ観終わってまだいけそうだったら次も観るしー気にしないで。」
「でもさ・・」
(矢口と一緒に居たいって言ってたけど寝ちゃっても良いの?許してくれるの?)
- 231 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月01日(火)23時04分20秒
- 「なに?」
「んや、良い。ごめんね。」
「ううん。あ、そうだ、なっちどこで寝たら良い?」
部屋を見渡して自分の寝床を問いかける安倍。
同じように見渡してみる矢口。だが、あるのは矢口のベッドがひとつだけ。
答えはひとつ。一緒に寝る。
「矢口のベッドしか布団無いんだよ〜だから一緒になっちゃうけど・・・良い?」
「えっと・・・。同じ布団?」
「うん。あ、嫌なら矢口は下で寝るけどね。狭いだろうしさ。」
「ううん。じゃああとで行くから。」
「ん、先に寝てる。・・・っちゅうか同じ部屋だけどね。」
安倍に“おやすみ”と声をかけてすぐ傍にあるベッドへと向かう矢口。
安倍も“おやすみ”と返し、すぐに顔は画面へと向かう。
(ふぅ・・・明日・・・明日はなっち居るし探せないか・・・あー眠い・・)
矢口は1分もしないうちに眠りの世界へと入っていった。
- 232 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月01日(火)23時06分10秒
- 「やぐち、疲れてるんだね。」
矢口が寝たのを確認して映画を止めると、安倍は矢口の眠るベッドのすぐ脇に移動をしていた。
「なっち・・・魅力無い?」
「なっちのこと・・・好きじゃなくなった?」
「付き合う前のが遊んでたよね・・・?」
安倍はここ最近の矢口の変化にずっと悩んでいた。
付き合う前は誘えば食事にも映画にも付き合ってくれていたのに、
付き合いだした途端あまり遊ばなくなった。
忙しい忙しいとオフの日が無いほどにバイトを入れて働くようになった。
ふたりで居るときは相変わらず優しいし楽しいけど、
何かが違う、何かが前とは違う、そう感じていた。
「悲しいな、なっち。」
「・・・ん・・。」
「あっ。」
安倍がぼそぼそと口にしていると、矢口が寝返りをうってうっすらと目を開けた。
「・・・」
安倍は黙って矢口の反応を待っている。
矢口の顔を覗き込むようにしながらほんの少し微笑んで、
先程までの浮かない顔を隠しながら矢口を見ていた。
- 233 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月01日(火)23時07分36秒
- 「・・・どしたの?」
覗き込んだ安倍に気が付いたのか矢口は問いかける。
「・・・」
安倍はその問いに答えることはせずに、じっと見つめている。
「あ、・・・そっか、そういえば・・・さっきしてなかった・・・っけ?」
矢口は訳のわからないことを口にしたかと思うと、安倍に手招きをして自分の顔へと近づけさせた。
「・・・?」
安倍はされるがままに顔を寄せた。
「?!」
「おやすみのちゅー・・・してなかったね、おやす・・・み。」
矢口は安倍の唇にそっとキスをすると、目を瞑り、また眠りの世界へと落ちていった。
「なっなに??やぐち??」
唇が触れた自分の口に手をやって感触を思い出すようにして困惑をした顔で矢口を見つめる。
その顔は真っ赤で、ほんのり汗を掻いていた。
- 234 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月01日(火)23時09分44秒
- 「なんで?おやすみのって・・・え?初めて・・・だよね?」
初めてのキスを済ましたことよりも、日常のことのようにされたキスに
疑問を持った安倍は、これまでの矢口の行動を思い出してみた。
「あの日・・・やぐちのゲームをした日の次の日?あの日から・・・だよね?バイト始めたの。」
「で・・・朝も家に居なくなった・・・。なっち、あの日何かしたのかな・・
やぐちがバイトを始めたくなるような、なっちとあまり遊ばなくなるような・・・」
「・・どした・・・ご・・っつぁん・・寝ない・・・の?」
「あっ」
口に出してぼそぼそ言ってたからだろう、矢口がまた目を覚ましてぼそぼそと安倍に問いかけた。
「ううん、寝る。」
一時停止にしたままの画面を停止させて電源を切って安倍も矢口が先に入っているベッドへと身を沈める。
「おやすみ・・・マキ・・・。」
「・・・マキ?・・・・おやすみ」
(マキって何?なっちはなっち、そんな名前じゃないよ!!やぐち、他に居るの・・・?)
- 235 名前:りょう 投稿日:2002年10月01日(火)23時15分16秒
- >>225 218(名無し読者)様
やぐ動き出したは良いけど(●´ー`●)カワイソウ。
自分で書いててアレですが(爆
>>226 名無し読者さま
どうも有り難うございます。
やぐしか話してない気もしますが、宜しくですw
>>227 ななしさま
(●´ー`) <保全感謝です!そして待って頂いてさらに感謝です!!
少量ですが更新です。すいません。
最近萌えて、じゃない、燃えているので頑張ります。
今週の日曜日には遅くてももっかい更新します。
宜しくお願い致します。
- 236 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)10時43分56秒
- 更新乙です。
最後はなちまりなのかやぐごまなのか。
気になります。
頑張ってください。
- 237 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月03日(木)21時06分09秒
- なっち切ないですね…
しかしごまも…
- 238 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月06日(日)20時18分47秒
「ん・・・。」
窓から漏れる朝の太陽の光とはまた別の、人工的な明かりに気付いて矢口は目を覚ました。
ベッドの中には自分ひとり、隣に安倍は居なかった。
「・・・なっち?」
眠い体を起こして明かりの方へ顔を向ける。
「え?・・・なにやってんの?」
矢口が顔を向けたそこでは、安倍がテレビに向かって何やらゲームをやっているところだった。
「やぐち・・起きたの?」
「う、ん。起きたけど・・・それ、え?こないだのやつでしょ?」
安倍がやっていたのは、この間分からないからやめると言った、矢口が虜になった“夢”だった。
前にやめたところから進んでいるようで、矢口が見ても話がわからなかった。
ただ、相変わらず画面にマキは居なかった。
「映画飽きちゃって、眠くないなぁって思ったから・・・勝手にやって・・・まずかった?」
PAUSEボタンを押して振り返って言う安倍だったが、矢口が断るはずがなかった。
「ううん、お茶入れてくる。」
(なっち急にどうしたんだろ?)
- 239 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月06日(日)20時20分40秒
- 「お待たせ。」
「ありがと。」
矢口と会話を続けるでもなく真剣な表情でゲームを続ける安倍。
矢口も余計な口出しをせずにじっと見ていた。
見ていたのだが・・・。
「あーっもう!いい加減出て来てよ!!」
と、安倍が怒りを表したので驚いた矢口はなんのことを言っているのか聞くことにした。
「出て来てって何が?今一体どんな話になってるわけ?」
そんな矢口の問いに手を休めると、安倍は振り向く事はせずに答えた。
「マキって子が行方不明なのを探す旅に出てるの。探しても探してもなんの手がかりもなくて・・・。」
「マキを探す話になってるのか・・・。」
何やら考え込んだ表情を見せている矢口に、安倍は向き直ると問いだした。
「ねぇ、やぐちはマキって子知ってるんでしょ?やぐちはクリアしたんだよね?」
「あ、まぁ、うん、知ってるけど。」
「・・・どんな子なの?あ、女の子だよね?もちろん。」
「どんな子って・・・すごく良い子だよ。可愛いし・・・なっちも見たら好きになっちゃうかもよ。」
それを聞いて安倍はまたすかさず問うた。
- 240 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月06日(日)20時21分43秒
- 「やぐちはマキって子好きになったんだ?」
「えっ?」
思ってもいなかったのだろうか、そんなことを安倍に突っ込まれて間抜けな顔をする。
「なっちも好きになっちゃうって今・・・。」
「あっ、言ったっけ、そういえば。うん〜まぁでもゲームのキャラじゃん。」
「ゲームのキャラ・・・だね、うん。」
「・・・」
「・・・」
急に沈黙が訪れて重苦しい空気が漂う矢口の薄暗い部屋。
その沈黙を破ったのは、マキだった。
「あ。」
「?どしたの、やぐち?」
安倍の問いに答えることをせずにただただ画面を見つめる矢口。
安倍もその視線を追って画面を見た。
すると――
「えっ・・・これ・・・。」
- 241 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月06日(日)20時23分22秒
- 画面では、マキが、矢口の愛するマキが、何も無いだだっ広い荒野に立って、
今にも泣きそうな顔でこちらを向いて何かを言っていたのだった。
“どこに居るの?!” “どうして居ないの?!” “嫌いになったの?!”
“会いたい、会いたいよ!”
そのような言葉を繰り返し繰り返しマキは叫んでいた。
PAUSEボタンを押してなかった間に進んでいた物語。
ほんの少しだったが目を離した隙に動いていた。
「これが・・マキ?ねぇ、やぐち、これがマキなの?」
「・・」
「やぐち?」
安倍の問いに返事を返さなかった矢口を、振り向いて見た。
「・・・どうして・・・泣いて・・・。」
安倍が見た矢口は、うっすらと目に涙を溜めて、切なげな目で画面を見ていたのだった。
- 242 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月06日(日)20時24分22秒
- 「・・・5時・・・もう寝よっか。」
プツッ
安倍はセーブも何もせずにそのままゲーム機の電源を落とし、矢口に言った。
「あっ・・・。」
画面が消えてやっと矢口は我に返ったように、消した安倍の方を見た。
「もう、寝よう?」
「う・・ん、寝よっか。」
まだ目に涙を溜めていた矢口だったが、それ以上問いただす事はせずに
何事も無かったようにベッドへと身を沈めた。
- 243 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月06日(日)20時25分25秒
- 12:00
目を覚ました矢口と安倍はふたり向かい合って朝食と昼食兼用のご飯を食べているところだった。
「矢口、今日バイトだったよね。」
「うん。夕方から。」
「なっちは明日も休みだから次に会えるのは明後日だね。」
「・・」
「また遊びに来るね。」
「・・・」
「頑張ってね、バイト。」
「・・・」
「やぐち?聞いてる?」
先程から何度となく問いかける安倍に全く答えようともせず、
というよりは聞こえていないのか矢口は返事をしなかった。
「なっち、帰るね。」
さっと立って食器を片して荷物を持つ。
「あ、えっ?なっちどうしたの?」
「・・・そろそろ帰ろうかなって。」
「あっ、そう?なら下まで送るよ。」
慌てて立ち上がって安倍の荷物を持ってやる。
引き止めることもせずにすぐに玄関へと矢口は向かう。
- 244 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月06日(日)20時26分30秒
- 「・・・ばか。」
「ほら、それも持つから。」
安倍がぼそっと言った言葉には気付かずに矢口は荷物をそっと奪い取る。
「それじゃあまた明後日ね。」
「うん、またおいでよ。」
「・・・うん。」
家の下で別れて安倍は帰って行った。
見えなくなるまでは見送って、矢口も部屋へと戻った。
「・・・マキ。」
(やっぱ探してるんだ、マキもずっと矢口のこと探してるんだ。
会いたいって言ってた、矢口に会いたいって・・・。
どうやったら会えるんだろう・・・どうやったらまた一緒に居れるんだろう・・・。)
バイトが始まるギリギリまで何も映っていない画面を見つめながら考えていた。
- 245 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月06日(日)20時28分05秒
- 一方こちらは安倍の家。
「ただいま・・・。」
「おかえり。楽しくなかったの?」
浮かない顔をして帰って来た我が子を心配そうにしながら母親は聞いた。
「ううん、楽しかったよ。夜更かしして疲れちゃった。」
「なら部屋で休んだら?」
「ん、そうするーバイト無いし。」
安倍はそれだけ言うとすぐに自分の部屋へと入って行った。
(やぐち、マキが好きなの?マキ・・・ゲームのキャラでしょ?
確かに可愛かったけど・・・そうなの?毎日毎日朝から居ないのは、
帰りも遅いのはマキが関係してる・・・?何してるの?
やぐち、なっちの知らないところで何してるの?)
矢口が口にした“マキ”という寝言。
矢口が当たり前のようにした“おやすみのキス”
マキを見て涙を見せた矢口。
話しかけてもずっと上の空な矢口。
最近感じていた矢口への不信感、不安感、それらを決定付ける日になった。
(決めた!確かめる!)
ある決意をした安倍はお風呂を済まし、目覚まし時計をあわすと、
食事もせずに眠りについた。
- 246 名前:りょう 投稿日:2002年10月06日(日)20時31分18秒
- >>236 名無し読者さま
最後はなちまりなのかやぐごまなのか。
はたまたなちごまなのか(爆
・・・なんてね(汗
>>237 名無し読者さま
一番悪いのはやはし(〜^◇^〜)なのデショウカ?(w
ひどいやつだ、やぐち!(爆
少量の更新なので、また近いうちに更新したいと思ってます。
- 247 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月09日(水)12時30分39秒
- この話好きです。
続き待ってます。がんがって下さい。
- 248 名前:りょう 投稿日:2002年10月17日(木)22時55分06秒
- >>247 名無し読者様
レスありがとうございます。
更新遅れてすいません。
土曜日に必ず更新します。
読んで下さっている方、申し訳ございません。
- 249 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)21時53分52秒
- 朝、目覚まし時計が鳴るよりも早くに目を覚ました安倍は、
ベッドの脇に置いてあったかばんに押入れから出してきた何かをつめると、
すぐに顔を洗い、歯を磨き、着替えて家を出て行った。
時刻は7時を少し回った頃。
いつもならまだ眠っている時間である。
どこかへ向かう途中にコンビニで何かを購入してまた歩き出す。
「まだ居るよね・・・。」
向かった先は矢口のアパート。
矢口の部屋が見える場所に腰を下ろし、じっと見つめる。
(何をしてるか掴んであげるんだから!)
安倍が昨日決意したこと。
それは矢口が普段何をするために朝から出掛けるのか、帰りを一緒に帰れない理由はなんなのか。
本当にバイトをしているのか、など、矢口の一日を監視する・・・家を出る所から
戻る所までを追って、把握するということだった。
- 250 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)21時56分43秒
- かばんに入れたのは双眼鏡。
コンビニで買ったのはたくさんの菓子パンと飲み物。
変装用のださいサングラスと怪しい帽子だった。
安倍がそこに着いてから30分もしないうちに、矢口が部屋から出てきた。
(来たっ。)
矢口は自転車もバイクも持ってはおらず、移動手段は自分の足のみだったので、
安倍が尾けることは簡単だった。
部屋から出てきた矢口は安倍に気付くことなくどこかへ向かって歩き出した。
「なに、この店。」
電車に乗って1駅で降りた矢口が向かった先は、矢口がよくゲームを購入している店だった。
マキをもらった店や、その他の数多くの怪しげな店、もちろんまともな店もあるが、
とにかく矢口は片っ端から入っては出てくるのであった。
ひとつの店に入ってから出てくるまでが長く、安倍は5件ほど行ったところで自分も入ることにした。
- 251 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)21時57分58秒
「だからっ嫁じゃなくて夢ですって!」
「あ、夢ですか。やーそのようなタイトルのものは入荷してませんねー。」
安倍はすぐに矢口を見つけた。
レジでなにやら店員と揉めているようだ。
帽子を深くかぶりなおしてゲームの棚を見るようにしながら近付いて耳だけをそちらに傾ける。
「ないんですか?」
「毎日来てもらってるようで申し訳ございませんが。」
「・・・もし、そんなタイトルのやつが入ったら教えてもらえませんか?」
「あ、分かりました。それじゃ連絡先いただけます?」
「えっと――」
(夢・・・矢口んちにあるあのゲームのタイトルもそんなだったよね・・・?)
「宜しくお願いします。」
(あっ追わなきゃ。)
それからあと、何件も何件も矢口は同じようなことをしに店をまわっていた。
矢口はもう一度『◆夢◆』を見つけ出そうとしていたのだった。
- 252 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)21時59分04秒
- そんなことをしているうちに時間もお昼をまわり、矢口は本屋のバイトへと向かった。
食事も休憩もせずに矢口はひたすら『◆夢◆』探し。
安倍は信じられない気持ちでいっぱいだった。
(どうして持ってるゲームを探すの?家で出来るじゃない・・・それなのにこんな何時間もかけて・・・)
矢口が本屋のバイトへ行ったのと同じ頃、安倍は本屋が見える場所にあるファミレスにひとり入っていた。
(やぐち居ないなぁ・・・)
そこからじっと見つめてみても、そこから見えるレジに矢口は居ない。
たまに現れてまた居なくなる。
気にはなった安倍だったが、とりあえずしばらく時間をそこで潰して、
矢口のバイトが終わる頃、また帽子にサングラスをつけて本屋へと入った。
「どこだろ・・・・」
キョロキョロと探してみても矢口は見えない。
まさか矢口さん居ますか?などと聞けるはずもなく、安倍はうろうろと本屋を彷徨った。
- 253 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時00分33秒
「お客さんご存知じゃないですか?」
「あ、ぼくは知らないなぁ。」
そんな安倍が聞いた矢口の声。
その声がした場所はゲーム関係の本が置かれているコーナーだった。
(やぐちだ・・・何聞いて・・・)
「じゃあマキって子が出てくるゲームは?」
「や、それも・・・」
(ここでも聞いてるの?!)
どうやら矢口は、本を並べたり掃除をしたりする振りをしながらお客に
『◆夢◆』のことを聞いているようだった。
聞かれたお客は『なんだこの店員。』と、迷惑そうな顔をしてはいたが、
親切にも返事をしていた。
矢口はそのコーナーに来る人間に片っ端から聞いているのだった。
(やぐち・・・おかしいよ、おかしい。)
そしてそうしているうちに時間も経ち、矢口は本屋を出て軽く食べ物を口にすると
次はカラオケ屋へと向かった。
- 254 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時02分21秒
- 安倍はバイトの終わる頃まで時間がかなりあることから、一度自宅へと帰り、
今日見たことの整理をしていた。
(朝から働いている間もずっとゲームのことばかり・・・ゲームとマキのことばかり
・・・なんで?ゲームじゃないの?ただのゲームじゃないの?あそこまでして
今持ってるゲームをもう一度探す理由ってなに?ゲームで、マキは会いたいって
言ってた・・・あれはやぐちのことなの?分からないよ、やぐち。おかしいよ、やぐち。)
整理をしようとしても結論が出るはずもなく、安倍は余計に混乱をしたまま
矢口のバイトが終わるのを待った。
「ちょっと出かけてくるね。」
母親に声をかけて家を出る。
放任なのかなんなのか分からないが0時を超しているのに母親は何も言わずに了解をする。
- 255 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時03分43秒
- 安倍はバイト先まで向かい、遠くから矢口が出てくるのを待った。
バイトが終わるのは0時。
今は0時になったところ。
0時5分
裏口から急ぐようにして出てきたのは矢口。
「お疲れ様でしたー」
大きな声で振り向く事はせずに飛び出してきた矢口は、
階段を急いで駆け下りるとまたどこかへと向かう。
(早いよやぐち!)
もう出てくるとは思っていなかった安倍は慌てて後を追う。
(どこ行くの?)
矢口は駅に向かうことはせずに別の場所へと向かう。
(ここ・・・今朝来たところ・・・)
矢口が向かった先は今朝『◆夢◆』のことを聞いて回っていた店がある場所だった。
今度はそこに入ることはせずにその回りで何かをしている。
(なに・・してるの?)
「――ませんか?」
矢口は店を出入りする人間に、片っ端から何かを聞いているようだった。
何かを尋ねては「そうですか」と残念そうに言っている。
何を尋ねているのかは安倍が居るところまでは聞こえない。
- 256 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時04分37秒
- ばれないようにと少し離れたところに居た安倍だったが、質問を聞きたくなり、
少しずつ近寄っていった。
近寄ったその時――
「あ、ちょっとすいません、人を探しているんですけど、ゴトウマキって子知らないですか?」
近寄った安倍に、矢口が質問をしてきたのだった。
(やばいっばれる?!)
そう思った安倍だったが矢口が気付くことはなく、また質問をしてきたのだった。
「それと、夢っていうゲームしらないですか?」
(・・・気付いてない?)
気付かれていないことを知った安倍は、手と頭を横に振って知らないことを答えた。
そしてそそくさとその場所から去って行ったのだった。
「そうですか、急にすいませんでした。」
矢口がそんなことを言っていたのを聞いている余裕もなく、安倍は大急ぎで自宅へと戻った。
- 257 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時05分40秒
- 「おかえり。」
母親の言葉に答えることをせずに真っ直ぐに部屋へと入る。
ガバッ
「おかしいよやぐち!!!」
布団をかぶって安倍は叫んだ。
「ゲームでしょ?!」
「ゴトウマキって何?!」
「なっちはやぐちのなんなの?!」
叫んでも叫んでも答えは見つからなかった。
疑問だけがずらりと並んで何も分からなかった。
- 258 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時06分52秒
- 次の日、カラオケ屋で会った安倍は、更衣室で矢口にお願いをしていた。
「だからね、今日行きたいんだよー。」
「今日じゃないと駄目なの?」
「んーだってやりたいし・・・」
「・・・じゃあ泊まるってこと?」
「・・・迷惑?」
「あっ、いやそんなことはないよ!うん、おいでよ。」
「やったーそれじゃあまたバイトが終わったらね。」
安倍は『◆夢◆』をやりたいと矢口にお願いをしていたのだった。
渋っていた矢口も迷惑かと聞かれればOKを出すしかなかった。
そしてそんなこんなで今安倍は矢口の家にいる。
「こないだのところセーブしてないでしょ。」
「セーブ?」
「んー記録してないよね。」
「そうだっけ。」
安倍がやり始める後ろで矢口はそわそわそわそわしながら画面を見入っていた。
「なら今日もマキが出てくるシーンまで行くのかな。」
「あ、こないだのね。行くんじゃない?」
なんでもないように矢口は言うが心の中ではかなりそれを期待していた。
(マキに会える、また会える。)
- 259 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時08分35秒
- 「マキはさ、可愛いね。」
「ん?うん。」
「ゲームのキャラとは思えないよねー。」
「そうだね。」
ゲームを進めながら安倍はボソボソと口にする。
そしてこの間消したシーンの手前まで辿りついた。
何も無い荒野が映ったこと、時間的に前もこのくらいにマキが現れたことから
次のシーンで出てくることがなんとなく矢口には分かった。
そして安倍にも。
「あれっ?どったの?」
「・・・ちょっと休憩。」
そのシーンの手間でPAUSEボタンを押して手を休める。
「そか・・・ね、なっちはそのゲーム面白いの?」
「面白くないよ。」
まさか面白くないという返事が帰って来るとは思いもしなかった矢口は、
ぽかんと口をあけて間抜けな表情で安倍を見る。
- 260 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時10分09秒
「・・え、だったらなんで・・・やりたいから今日来たんだよね・・・?」
「やぐちの好きなゲームをなっちもやりたかった。それじゃいけない?」
矢口の顔を覗き込むようにして安倍は言う。
「いけないことないけど・・・。」
腑に落ちないという顔をしながらも矢口は答える。
「やぐちの好きなマキを見たかった、それじゃ駄目?」
「矢口の好きなって・・・。」
「なっちよりも好きなマキが見たかった。」
「え。」
安倍は急に何かがきれたように話し出した。
「やぐちはなっちよりもマキが好きなんだよね?」
「なに言って―」
「寝言でも呼んでるくらいだもんね?」
「なに―」
「好きなんでしょ?」
安倍は矢口が何か言おうとするのを遮るようにして静かに、でも通った声で言った。
「・・・」
その言葉を聞いた矢口は眉間に皺を寄せてとても困惑した様子で安倍を見た。
- 261 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時11分39秒
「だって・・・ゲームじゃん。比べる方がおかしいよ。」
「毎日探しに行くのに?」
「えっ。」
しばらくの沈黙のあとぼそっと口にした矢口をこれまた否定するように安倍がすかさず突っ込む。
「・・・まぁそれはどうでも良いんだけどね。」
「なに、気になるって。」
言うのをやめた安倍にしつこく聞こうとする矢口。
そんな矢口を安倍はまた遮って話し出す。
「マキがゲームのキャラってほんとに思ってるんなら・・・なっちと比べる方がおかしいって言うんなら・・・」
そこま言って安倍は口ごもる。
しかし矢口は問いかける。
「言うんなら?」
「もうこのゲームしないで。」
- 262 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時13分34秒
- 「え?(すでに出来ないんだけどね。)」
「このゲーム、捨てて。」
「・・・捨てる?」
「マキを捨てて。」
「何言って――」
矢口には安倍がが何を思って言っているのかがさっぱり分からなかった。
さっきまで楽しそうにやっていたゲームを面白くないという。
ゲームを捨てろという。マキを捨てろという。
さっぱりだった。
「こないだ泊まったとき、やぐちは寝ぼけてなっちのこと“マキ”って呼んだ。」
「え・・」
「それだけじゃないよ。」
段々と泣きそうになる安倍に、段々と青ざめてほんのり汗をかき出す矢口。
「・・・」
「なっちに、間違えて・・・・キスした。」
「・・・まさか。」
覚えていない矢口は信じられないといった顔で否定をする。
「ウソじゃないよ、おやすみのキスって言ってた・・・・だから、夢でもマキが
出てくるんなら、なっち悔しい。悲しい。」
「なっち・・・。」
泣きそうになるのをこらえて深呼吸をして安倍がもう一度言う。
「だから、マキを捨てて。」
- 263 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時14分58秒
- 「・・・」
(マキは・・・現実なんだ・・・矢口が見つけられてないだけで・・・絶対居るんだ・・・
矢口はマキを捨てることなんて出来ない・・・なっちには悪いけど矢口は
どうしてもマキが好きなんだ・・)
「ごめん、それは出来ない。」
「・・・」
矢口の言い放った言葉に安倍は堪えていた涙を流した。
「・・・ふっ・・・ぅ・・っく・・・なんで・・・・・おかしいよ!」
「なっち?!」
安倍は急にゲーム画面の方に向き直ると電源を消してソフトを取り出した。
「なに・・なにする気?」
「やぐちはおかしいんだ!ゲームなのに、ゲームのキャラなのに好きになっちゃって、
おかしいよ!狂ってるよ!」
そう叫びながら安倍はソフトを両手で握り締める。泣きながら手元に力を込めている。
- 264 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時16分56秒
バキッ
部屋に小さく聞こえた音、ソフトが半分に割れる音がしたのと同時だった。
「何すんの?!」
ドンッ
矢口はソフトを割った安倍を突き飛ばして手から割れてしまったソフトを奪い返した。
「これは、この中にはマキが居るんだよ?!会えなくなるんだよ?!」
突き飛ばした安倍を見ようともしないでソフトを見ながら恨めしそうに怒りながら矢口は言う。
「・・」
安倍は突き飛ばされた腕をさすりながら涙を流して恨めしそうに悲しそうに矢口を見ていた。
それを見た矢口は正気に戻ったのか、
「あっ・・・ごごめんっあのっ・・ごめん。」
傍に寄って手を差し伸べようとする。
「・・・ぃぃ。」
「なに?」
「もうっ良い!!!」
安倍は大きな声でそう叫ぶと、荷物も持たずに部屋から飛び出して行った。
- 265 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時19分11秒
- 「なっち?!」
今自分がとった言動を忘れたかのように矢口はすぐに後を追った。
「待って!待ってよなっち!」
安倍は必死になって矢口から逃げるようにして走っていたが矢口の方が早く、
そして体力もあったのですぐに掴まった。
「はぁ・・はぁ・・待ってよ・・・はぁ・・」
「はぁ・・・だって・・はぁ・・話すことなんか・・はぁ・・ないっ」
ふたりとも肩で息をしながら立ったまま話す。
「突き飛ばしたのは謝る、ごめん!」
頭を下げて安倍の反応を待つ
しかし・・・
「なっちは謝らない。あんなゲーム、二度と出来なくて良いと思ってる。」
安倍は謝らなかった。
「・・・なっちは知らないんだ、マキが本当に居るってこと。」
「・・・やぐちも知らないんだ、自分がおかしいってこと。」
「・・・」
「とにかく、もう良いの。もうやぐちとは終わる。こんなおかしい人だとは思ってなかった、
ゲームが好きって知ってたけどここまで分別のない人だとは思ってなかった。
生きてないものを探すやぐちにはついていけない。気持ち悪いよ。」
「・・・ごめん。」
謝る矢口に何も返さずに安倍は帰っていった
- 266 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年10月19日(土)22時20分44秒
- 残された矢口はしばらくその場に立ち尽くして呆然とした様子で地面を見詰めていた。
「ごめん、なっち。」
「自分でも・・・・わけがわかんないよ。」
あり得ないと思ってたはずのゲームの世界に入ること。
あり得ないと思っていた恋焦がれていたマキと愛し合うこと。
あり得ない世界を体験した矢口はそれが夢だとは思えなかった。
あり得ない世界にはまった矢口は自分でもおかしいと思いながらもやめることが出来なかった。
おかしいと言われても、恋人を傷つけても、どんな犠牲を払ってでももう一度マキに会いたかった。
マキに会いたかった。
「何もしてあげられなかった・・・」
あり得ない世界に入る前に付き合いだした安倍を少しも大事にしてやれなかった。
ほんの少しも愛してあげることが出来なかった。
愛せてないと知りながらも気持ちを隠して付き合い続けてきた。
それでもそんな自分を好きだと言ってくれていた安倍。
安倍のことを思うとやりきれなかった。
申し訳なかった。
それでも矢口はマキに会いたかったのだ。
- 267 名前:りょう 投稿日:2002年10月19日(土)22時23分24秒
- 遅くなりましたm(__)m
恐らくは次回更新でラストになります(サイズ的にも)
足りなかったらどうしよう・・・。
では〜。
- 268 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)01時44分50秒
- 更新乙です
「うむ、なっちが正しい」なんて首振りながら読んでます。
ところで、りょうさんは他にも小説書いてるんですか?
この小説大好きなんで、他の作品あれば教えてください。
- 269 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月21日(月)06時39分20秒
- どうなるんでしょーラストは。
やぐごま好きでなちまり好きなので、どっちとくっついてもオッケーだったのですが、やっぱりこうなった以上はやぐごまかなぁ。
- 270 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月26日(土)21時36分43秒
- 270GET!期待mage
- 271 名前:りょう 投稿日:2002年10月29日(火)02時30分25秒
- >>268 名無し読者さま
やはし(●´ー`●)が正しいですよね(爆
他の作品とのことですがやぐごま多い感じで、
せっかくなのでメール欄にコソーリとサイトを(爆
気が向いたら覗いてやって下さいw
>>269 名無し読者さま
最後・・・ぐふふ(爆
私もどっちも好きなので悩みます(汗
もう少しで分かるので・・・
>>270 名無し読者さま
どうもですw mageで応えたかったのですが(w
頑張ります・・・(w
で、更新もせずにのこのこと現れてすいません(汗
ラストで悩んでしまって遅れてます。
読んで下さっている方もうしばらくお待ち下さいすいません。
- 272 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月29日(火)13時49分43秒
- どんだけでも待ってますよ!
- 273 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月05日(火)20時23分16秒
- まっちょりますけぇ
- 274 名前:77 投稿日:2002年11月06日(水)15時48分18秒
ずぅっと待ちます。辛抱強く。
- 275 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時35分54秒
- 次の日、矢口がカラオケ屋のバイトに来ると、安倍の姿はなかった。
「安倍さんは休みですか?」
休みだからといって会いにいけるわけでもなく、どうすることも出来ないのに
やはり気になるのか、矢口はすぐに店長に聞いた。
恐らくは自分と会うのが嫌で、会いたくないから休んでいるのだろう。
安倍の行動の意味は安易に想像出来た。
しかし矢口が聞いた返事は想像したものではなかった。
「安倍さんなら辞めたよ。」
「ええっ?!」
まさか辞めるとは、いや、心のどこかでは思ってはいたが
考えないようにしていた矢口は大きな声を出して驚いた。
- 276 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時37分32秒
- 「昼にここまで来てね。どうしても出来なくなったんです。って。」
「それで承諾したんですか・・・?」
それなりに忙しいカラオケ屋。
見た目はどんくさそうだがやることはしっかりとやる安倍はアルバイトの中でも頼りになる存在だった。
そんな安倍が辞めることを、簡単に承諾したなんて矢口には信じられなかった。
「ああ切羽詰った顔で言われちゃあ断れなくてね。頼りにしてたから惜しいけど仕方ないさ。
その分矢口さんにはしっかり働いてもらうから。」
「・・・辞めた・・。」
「そういえば―」
その後も店長は何かを話し続けていたが、矢口の耳に入ることは無かった。
辞めた理由が100パーセント自分にあるということを分かっている矢口は、自責の念にかられていた。
青ざめた顔で眉間に皺を寄せながら地面を見つめて泣きそうな顔をしていた。
(辞めるべきなのは矢口の方なのに・・・なっちが辞めることなんて無かったのに・・・・)
その後、矢口はまともに働くことが出来ずに、オーダーを間違えたり、部屋を間違えたり、
グラスを割ったりと、他のバイトや店長に迷惑をかけまくってしまっていた。
(駄目だ、やっぱり行かなきゃ!)
- 277 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時38分42秒
- バイトを終えた矢口は、そのまま安倍の自宅へと向かった。
「・・・何を言うつもりなんだよ・・・。」
いざ、家の前まで来てもインターホンを押す勇気が出ず、というよりは何を話せば言いのか、
関係を壊した自分が今更何を言えばいいのか、今更何を言ってあげられるというのか。
今もマキを好きなクセに何を言うことが出来るのか。
そんなことを考えて矢口は家の前を行ったり来たりとすることしか出来なかった。
そうこうしているうちに安倍の家の灯りが全て消え、益々どうしようもなくなった。
「・・・朝、来よ・・。」
よくよく考えると時間はもう0時半を過ぎている。
こんな時間に訪問すること自体常識はずれの行動になる。
会ってくれる確率も減る。
そう考えた矢口は、明日の朝来ることを決め、今日のところは帰ることにした。
- 278 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時40分32秒
- 翌朝、マキを探しに行くことはせずに真っ直ぐに安倍の家を訪ねていた。
ピンポーン
昨日はひどく躊躇われたインターホンを押すこと。
何も考えずに勢いまかせに押していた。
(・・・居るよね?)
ピンポーン
押してもなかなか返事が帰って来ない安倍家に心細さを感じながら2度目のチャイムを鳴らす。
「――はい。」
(あっ出た!)
しばらくの沈黙のあとに返って来た声は安倍のものではなかった。
「朝早くからすいません、矢口です。なっち、居ますか?」
「―矢口さん?ちょっと待ってね。」
(良かった、居るんだ。・・・会ってくれる・・・かな?)
(・・・寝てるのかな・・・)
ちょっと待ってと言われてから数分、安倍家のドアが開くことはなかった。
- 279 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時41分42秒
- カチャ...
「―あっ。」
インターホンを押してから10分程経った頃、ドアは開けられて、誰かが顔を出した。
「ごめんね、なつみはちょっと・・・。」
そう言って顔を出したのは安倍の母親だった。
「あっおはようございます。留守ですか?」
「それが・・・」
と言って申し訳無さそうな表情を見せて家の中を振り返るようにして
「なつみとケンカ・・・したかしら?」
と母親は言う。
嘘をついても仕方ないと思った矢口は素直に返事をした。
「あ・・・はい実は怒らせちゃって。」
「なつみね・・・会いたくないって・・・ごめんね。すぐに機嫌は直ると思うんだけど・・・。」
(会いたくない・・・そりゃそうだよね・・・)
「あ・・・っと、それじゃあまた機嫌が直った頃にでも・・・。」
そう言って去ろうとした矢口を引き止めて母親は封筒を渡した。
「失礼します」
- 280 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時43分24秒
- (なんだろこれ・・・)
受け取った封筒は膨らみを帯びて少しコツっとした感触があった。
自宅への帰り道、テープを剥がしてみると・・・
「これ・・・。」
中に入っていたのは数少ないデートで安倍に買ってあげたピアスだった。
それとメモが一枚。
“マキにあげたら”
と、あった。
(きついな・・)
ピアスとメモを封筒に直してすぐに家路へと着いた。
相変わらずの暗闇の中、ベッドにもたれてぼーっと見つめるのは安倍から返されたふたつのピアス。
薄っすらとカーテンの隙間から漏れ入る光でかろうじて見ることの出来るピアス。
顔を少しあげてハンガーにかけてあった上着を見つめる。
見つめる目は物憂げで、何かを考えているような表情をしている。
スっと立って上着を手に取り、左のポケットに手を突っ込んで何かを取り出す。
(開けてもなかったな・・・)
- 281 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時44分34秒
- 手に持つのはきれいに包装された可愛いリボンの付いた袋。
ガサゴソとリボンを解いて開けて手に持つ。
それは、安倍にピアスを買ってあげた時にこっそりと購入していたマキへのピアスだった。
それをしばらくじぃっと見つめた後、久しぶりに電気を点けてその両方を見比べるようにしてベッドに座る。
(人を愛する資格・・・ないね。いつも笑顔のなっちにあんな顔させて泣かせて・・・
でも・・・マキも忘れられないよ・・・夢だなんて思えない思いたくない・・・どうしたら・・・)
安倍を傷つけ続けた事で、自分には人を愛する資格がないと思う。
すくっと立って冷蔵庫の中から氷を取り出して洗面所へと向かう。
鏡を見ながら耳に当てて冷やして、感覚が薄れたのを確認して針でブスっと穴をあける。
両方の耳に、ふたつずつ。
昔に開けていた穴は大分前にふさがっていて、矢口の耳はどこにも穴がなかった。
耳にはそれぞれ2つずつ穴が開いたことになる。
- 282 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時45分38秒
- 「痛っ」
感覚が残っていたのか戻ってきたのか、針を刺すと4回とも痛みが矢口を襲った。
「こんなのっ・・なっちの痛みに比べたらっ」
痛みをこらえて最後まで穴を開けた矢口は、ひとつめの穴に安倍のピアスを、
安倍がずっと嬉しそうにつけていたピアスをはめる。
(もう誰も傷つけたくない・・・これは戒めなんだ・・・)
そして残りの穴にマキのピアスをはめる。
(マキを忘れていくのは嫌・・・忘れたくない・・・)
自分の心無い言動でひとりの人を傷つけたこと。
しかも自分を好いてくれていた、自分と付き合っていた人を傷つけたこと。
その不甲斐無さを忘れないために、二度と人を傷つけないようにと、
自分に対する枷として安倍のピアスをはめる。
しかし自分にも人を愛せたこと。愛されたこと。そのことを忘れたくない矢口は、
マキのピアスもはめる。
ふたつの意味を込めたピアスをつけてまた生活を始める。
- 283 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時46分31秒
- 場所は変わって安倍の自宅
「―ったの?」
安倍は、矢口を追い返したことについて母親に問われていた。
「お母さんに関係ないじゃない。」
安倍はベッドに潜ったまま顔を出すこともせずにくぐもった声で返事をしている。
「あんなに仲良かったのに・・・早く仲直りしなさいよ。」
「ほっといてよ!」
聞く耳持たずといった様子で部屋から無理やり追いだすようにして言う。
パタン
ドアが閉められて確認して、起き上がる。
「・・・好かれてないんだもん」
そう言う目は悲しげで、
「好きでも仕方ないんもん。」
そういう目は少し怒った風で、
(まだ好き。ほんとは好き。でも・・・)
再び布団に潜って枕に顔を埋めながら考える。
考えても考えても答えは出ない。
ただ、まだ矢口が好き。
それだけしか安倍には分からなかった。
- 284 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時48分10秒
- それから数週間が経ち、11月も半ばを過ぎようとしていた。
相変わらずの暗闇の中、矢口はテレビ画面に向かう。
日雇いのバイトも、定期のバイトもまじめに通い、
フリーターではあるが、一生懸命働いて暮らしていた。
そんな矢口がテレビ画面に向かって何をしているのか。
ゲーム。
相変わらず手に持つのはコントローラー。
画面に映るは悪魔のようなキャラと戦う主人公。
pipipipi………
「―っと、もうそんな時間か。」
携帯電話の音が鳴り、コントローラーを放す。
もちろんデータのセーブは忘れずに。
ゲームの電源を切ってテレビも切る。
- 285 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時48分44秒
- 「っしゃ、寝るか。」
相変わらずの暗闇の中することはゲームだったが、前とは違うことがあった。
以前は朝になり、力尽きるまで続けていたがピアスをはめて決意をしたあの日から、
1日にするのは2時間までと決めていた。
物語が佳境にさしかかろうとも、区切りが良くなくても、時間が来たら終える。
物語に、ゲームの世界にはまりすぎないように。
はまらないようにしているため、あまり楽しみを感じることは無かったが、
今の矢口にはちょうど良かった。
相変わらずの生活ではあったが、少しずつ変化はしていたのだった。
- 286 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時49分47秒
- 「お願いしまーす。」
今日のバイトはチラシの配布。
妙な着ぐるみを着て新規オープンのPCショップの宣伝をしている。
店の周りを歩きながらチラシを配布する。
「あっついよー」
季節はもう冬になりつつあるが、顔が隠れるような着ぐるみを着ているために汗を掻く。
小柄な体には着ぐるみは重く、歩きながら配っているとすぐに疲れる。
休憩時間はまだ遠かったが構っていられる余裕もなく、
傍のベンチによいしょと腰を掛けた。
感じる訳がないのに持っていたチラシで顔を仰いで少しでも涼しくなろうとしていたとき。
ふと、どこかからか聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「そろそろお茶しようよー」
(―!)
矢口はその聞き覚えのある声に慌ててベンチから飛び降りて身を隠すと、
覗き込むようにして様子を伺った。
するとそこには自分の知らない誰かと歩く安倍の姿があった。
(よく考えたら分かるわけないじゃん着ぐるみじゃん)
自分の格好を思い出して開き直ったのか矢口は、チラシを持ってまたもとの位置に戻る。
- 287 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時51分00秒
- 「お願いしまーす。」
差し出したチラシをスっと取って素通りをしていく安倍。
矢口に気付くはずもなく、一緒に居た女性と楽しそうに会話を続けながら去って行った。
(誰だろ、あれ…)
一緒に居た女性は明るい色の髪に、派手なピアス、明るめの化粧に目立つ爪をつけていた。
どう見ても安倍よりは年上で、見ようによれば姉妹にも見えなくは無い。
手を繋いで歩くわけでもなく、付き合っているようには見えなかった。
(幸せそう…だったよね…。)
小さくなっていく安倍の姿を見ながら、なんとも言えない気持ちになっていた。
それから一週間後、今度は私服のままティッシュ配りをしていた。
次から次にと目の前を通り過ぎる人に配りながら、ふと横を見た時、
(―!)
少し離れた場所からこちらに向かって歩いてくる安倍と、この間見た女性を発見した。
- 288 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時52分15秒
- やはり手などは繋いではおらず、ただ寄り添って仲良さそうに歩くだけなのだが。
そんなふたりから目を離せないでじぃっと見つめる。
見つめていることに気が付いたのかそれともただ偶然だったのか、
安倍が急に矢口の方へ視線を向けた。
矢口はバチッと合った目に体を硬くして背筋をピンっと伸ばす。
それでも傍に来るとティッシュを配ろうと自然と手が出た。
「ん?なんや取ったれへんのか?」
視線が合ったあとすぐに外して矢口の差し出したティッシュも無視をする。
隣を歩いていた女性が声をかけたことにも返事を返さないで素通りをする。
(…)
「…当然だよね。」
無視されたことにショックを受ける一方で当然の報いだと思う矢口は何も言えなかった。
- 289 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時53分24秒
- それから12月に入り、何度も色々なところで矢口は安倍を見つけた。
安倍が気付くこともあったがいつも素通り。
言葉を交わすことは無かった。
自宅に帰って洗面所の前に立つ。
耳を鏡に映してそっと触れてみる。
ふぅ とため息をついてgame's roomに戻る。
テレビもゲーム機も点けずに何かを拾ってベッドに飛び乗る。
真っ暗闇の中見えるはずも無いのに両手に持つのはゲームソフト。
安倍の手によって割れてしまった、マキが存在していたソフトだった。
くっ付けるような仕草をしてみせてくっつくはずもなくてため息をつく。
(どうしたらいいんだろ。)
当然の報いとはいえ、安倍に無視をされマキにも会えない。
毎日毎日バイトをして帰ってゲームをして眠るだけ。
毎日をただなんとなく生きている。
なんの答えを見つけることもなくただ毎日を暮らしている。
- 290 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時54分43秒
- 「クリスマスケーキいかがですかー」
それから日にちが経ってもうすぐクリスマス。
カラオケ屋のバイトは夜からで、それまではサンタクロースの格好をして
街頭でケーキの予約を受けている。
12/23(月)
今日は予約受付のものを渡したり、当日販売のものを売ったりと、
相変わらずサンタクロースの格好をしてケーキ屋の前に立っている。
「当日販売もありますよーいかがですかー」
大きな声で販売をする矢口のもとへやってきたひとりの人物が居た。
「今日何時までなの?」
(え―)
「―!」
声のした方を振り向いて矢口は驚きのあまり後ろに仰け反った。
「何時まで?」
そんな矢口に構うことなくまた聞いてくる。
「――と、え・・と。ここ終わったらカラオケ屋がそのあとあるけど・・・」
困惑した表情を見せながらも矢口は返事をする。
- 291 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時55分37秒
- 「じゃあさ、全部終わってからで良いから会えないかな?」
「あ・・・うん、全然良いけど。」
「終わる頃行くから。」
「あっ・・・分かった。」
安倍だった。
いつも一緒だった女性はおらず、一人で矢口の前に居た。
笑顔ではなかったがいつも無視をされるときのような冷たい表情ではないように見えた。
(何があるんだろ・・・)
ずっと無視され続けていた安倍が何を自分に言おうとしているのか。
それを考えると、というよりはそのことばかりが頭に浮かんでそのあとは
なかなかバイトに身が入らなかった。
- 292 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時56分47秒
- ケーキ屋のバイトもカラオケ屋のバイトも終えて0時を超した頃。
更衣室のドアをあけて階段を降りて少し歩くと、安倍が寒そうにしながら矢口の方を見て立っていた。
「ごめんね待たせちゃって。」
小走りをして駆け寄ってお詫びの言葉をかける。
「ううん。なっちが急に頼んだんだし、気にしないで。」
クシュッ とくしゃみをする安倍を見て、「どこか入ろうか」と矢口は言う。
「んー・・・やぐちの家で話したいな。」
思ってもいなかった返事が返って来て矢口は驚く。
(どういうつもりだろ?)
「っと、なっちがヤじゃないなら。」
「ヤじゃないよ。」
数えるほどしか歩かなかった自宅への道程。
人一人分はありそうな距離に特に会話もなく無言のまま歩き続ける。
矢口の住むアパートが見えてきて、矢口は何故かほっとした。
「どうぞ。」
- 293 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時57分40秒
- すすめられるまま部屋に入る安倍。
部屋をくるっと見渡して懐かしそうに言った。
「何も変わってないんだね。」
言われて自分も見渡して「そう?」と返す。
「変わってないよ、相変わらず暗いしね。」
「あ〜確かに・・・。」
あははっと二人で声を出して笑ってほんの少し場が和む。
しかしそれも少しのことで、またすぐに沈黙が訪れた。
「あ、ごめんなんかいれるね、座ってて。」
「うん。」
紅茶を淹れて向かい合って座る。
(何を言われるんだろう。)
そのことばかりが気になって仕方がない矢口は何処か落ち着きがなくなる。
安倍は紅茶を含みながら穏やかな目をして部屋を見ている。
「あのさっ!」
その空気になんとなく耐え切れなくなったのか矢口は切り出した。
- 294 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)00時59分21秒
- 「なに?」
「その・・・今日はどうしたのかなって。」
ああ という顔をして紅茶をテーブルに置いて矢口を見る。
「ずっと、無視しててごめんね。街で会っても無視して・・・チラシとかティッシュとかもさ、
受け取らなくてごめんね。」
申し訳なさそうに言う安倍を見て矢口はすぐに答えた。
「何っ言ってんの。そんなの気にしてないし、それに無視されて当然のことしたんだから。謝らないで。」
気にしなかったというのは嘘だったがそう答えた。
「・・・でも、ごめんね。」
「良いって良いって。矢口もね、ずっと謝りたかった。」
安倍は、なにを?という顔をして見る。
「大事に出来なくて、傷つけて・・・だから、ごめん。ずっと謝りたかった。」
「・・・・・・・そんなの改めて言わなくたって分かってたよ。」
と、安倍は優しい目をして言う。
何を分かっていたというのか。
関係が壊れたあの日から一言も口をきいていなかったのに何が分かっていたというのか。
- 295 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時00分43秒
- 「分かってたって・・・?」
「・・・なっちに謝りたいっていうか・・・気にしてくれてたのは分かってた。」
「なんで・・・?」
そう問いかける矢口に無言で何かを指差して答える。
指差された場所を振り向いても何があるのか矢口には分からない。
「違うよ、そこじゃなくてそれ。」
指差した先は自分の顔のすぐ横。
「・・・え?」
「なっちのピアスでしょ、それ。」
「あっ・・・。」
安倍は矢口が自分の返したピアスをしていることに気が付いていたのだった。
言われてはっとなってピアスに触れて安倍を見る。
「見てたのずっと。してくれてるの知ってた。」
「してるの知ってたんだ・・・。」
目を合わそうともしていなかったように見えた安倍が実は見ていたこと。
戒めとしてつけていたピアスに気が付いていたこと。
それを知って矢口は少し恥かしくなった。
- 296 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時01分39秒
- 「でもね・・・それはもう外して。」
「えっ?」
「いつまでも着けてないでもう外して。」
(どうして・・・)
「駄目だよ。これは外さない。」
自分自身まだこれっぽっちも安倍を傷つけたことの償いをしていないと感じているからである。
「・・・もう一個のピアスは・・・マキのでしょ・・・?」
矢口の耳に目をやりながら問いかける。
「・・・うん。」
「あの時一緒に買ってた?」
「・・・・ごめん。」
「謝らなくて良いよ。」
「・・ははっ・・馬鹿みたいだよね矢口って。存在するはずのないマキに買ったりしてさ。
渡せるはずないのにさ。」
安倍から視線を外してははっと苦笑いをしながら言う。
安倍は黙ったままじっと矢口を見ている。
- 297 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時02分48秒
- 「ゲームもね、もうあまりしないようにって、時間決めたりしてるんだ。」
「もうはまる訳にはいかないから。」
「夢みたいなことばっか言ってちゃいけないって分かってるから。」
「やめた方が良いってことも分かってるから。」
安倍が黙っているからか矢口はぼそぼそと口にする。
いくらか言ったあとで言うことが無くなったのか黙ってしまう。
「やめなくて良いじゃない。」
ずっと黙っていた安倍がやっと口を開く。
出てきた言葉は意外な言葉だった。
ゲームに恋人を盗られたことで嫌悪感を抱いていた安倍。
ゲームにはまった矢口をおかしいと言い放っていた安倍。
その安倍の口から出てきたことは矢口には意外だった。
- 298 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時04分25秒
- 「なっち・・・?」
ふぅと息を吐いて安倍が話しだす。
「なっちはさ、ゲームが好きなやぐちが好きだったんだよね。」
「・・・」
「あっもちろんそれだけじゃなくてそれはおまけ・・・っていうか・・・好きになったやぐちは
いつもゲームと一緒だったなって思ってね?」
「うん・・。」
「いつもゲームばっかしててさぁ、なっちよりゲームが好きなことくらい
最初から分かってて好きになったのにそれ忘れちゃってて。」
「ちがっ、なっちより好きだったなんて思ってなかった・・からっ!」
そういう矢口を交わすようににこっと微笑んでまた話し出す。
「とにかくね、ゲームが好きなやぐちを分かってあげられなかったなっちも悪いの。
好きなことをやめないで。」
「なっち・・・ごめ―。」
「謝らないで。」
と、言われて言葉を詰まらせる。
「今度やぐちが好きになった人はそれを忘れない人だったら良いね。」
笑顔で言う安倍に胸が苦しくなって矢口は今にも泣きそうだった。
- 299 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時05分51秒
- 「ピアスは外してくれるよね?なっちはもう怒ってなんかないし、
いつまでもやぐちをそんなことで縛っておきたくないの。」
「・・・でも。」
「もう一個のピアスのために頑張らないとね。」
「・・ピアスは外さない。誰かを幸せに出来るようになったらその時に・・・その時はなっちに会いに行く。」
「・・・良いのに。」
安倍はそのあとも「もう外して」と何度も矢口に言っていたが、矢口はそれをする気は少しも無かった。
「外して」「外さない」
そんな遣り取りがいくらか続いたあと、諦めたのか安倍が話題を変えて話し出した。
「今ね、好きな人居るの。」
(―!)
「―いつも一緒に居た・・・人?」
コクンと頷いて柔らかく微笑む。
「年上だよね?今のバイト先で知り合った・・・の?」
どこまで聞いていいものか躊躇われたが、聞きたいことが口をついていた。
「今バイトしてる先の先輩なの。あ、喫茶店なんだけどね。」
「・・・付き合ってるの?あっ答えにくかったら―」
言い終える前に首を横に振って違うという振りをする。
- 300 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時07分56秒
- (付き合ってはないのか・・・)
「もてるんだよー関西から来た人でね?なんか優しくてね、温かい気持ちになれるの。」
(なっちが嬉しそうで良かった・・・)
「なっちなら大丈夫だよ!可愛いし、その人もコロっと行くかもよ?」
「・・・」
言った後で「矢口が言える言葉じゃなかった」と慌てた様子で
オロオロする矢口を見て安倍はぷっと吹き出した。
「な、なんで笑うんだよ〜。」
額にほんのり汗をかきながら手団扇をして目を泳がせる。
「だって・・・本心で言ってるのぉ?可愛いとかさー。」
「本心だよ!」
即答をした矢口に顔を赤くして言葉を詰まらせる。
「あっ・・・と、その・・ほら・・ネッ?」
何がネ?なんだかさっぱりだが、言いたいことはなんとなく分かったのか安倍は嬉しそうに微笑んだ。
「おっお茶飲む?もっかい淹れよっか。」
慌てて立ち上がってカップを持った矢口だったが―
「あっいいよやぐち。もうそろそろ帰るから。」
「え・・・そう?」
立ち止まって残念そうに言う。
「うん、今日は急にごめんね?話せて良かった。」
「こっちのセリフだよ!会ってくれてありがとうね。」
「それじゃあ。」
送っていくよと言う矢口を断って、安倍は帰って行った。
- 301 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時08分39秒
- パタン
部屋に戻って安倍の座っていた場所をじっと見つめる。
安倍のピアスに触れる。
ほんの少し笑みをこぼして鼻唄を歌いながら片付けをした。
・・・やぐっつぁん、ずっと一緒に居ようね?
どんなことがあっても、たとえ・・明日みたいに離れちゃってもさ、
忘れないでずっと・・・一生・・・ううん、生まれ変わっても一緒に居ようね?
うん。矢口はごっつぁんが大好きなんだ。どこに居たって見つけてみせる。
それに離さないから、ずっと。だから安心して眠って。
- 302 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時09分46秒
- 12/24(火)
今日も昨日に引き続きケーキ屋でバイト。
(どうして今更あんな夢見たんだろ・・・)
安倍が帰ったあと、上機嫌で吹っ切れた様子で眠りに就いた矢口だったが、
ゲームでの会話が夢に出てきたのだった。
(見つけたいけど・・・)
(離れたまんまだね・・・)
ケーキを売りながらも頭の中はマキのことばかり。
今更になって夢に出てきたのは何故か。
見たい会いたいと思っていたときはほんの少しも出てこなかったのに
吹っ切ろうとした頃になって出てきた。
忘れるつもりもないし忘れる事はないと思いながらも吹っ切ろうとはしていた。
「ねー」
そんな矢口に誰かが声を掛けた。
声はすぐ横から聞こえてきて、振り向くとそこには4歳くらいの小さな男の子が
矢口の方をじぃっと見つめて立っていた。
- 303 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時10分43秒
- 「?」
「ねー。」
黙っているとまた聞いてくる。
「何かな?」
「サンタさんはきょうきてくれるの?」
(へっ?)
「おねえちゃんはサンタさんのおてつだいしてるんでしょ?」
(あーほんとに居ると思ってんだね。そっか・・)
「そうだよ。サンタさんは夜大忙しだからこうやってお姉ちゃんたちがお手伝いしてるんだよ。」
「ならきてくれるのー?」
(うちに来るのかってこと?親が用意してる・・・よね?)
「サンタさんはね、今年一年良い子にしてた子のところには絶対来るよ。ボクは大丈夫かな?」
「ぼくはいいこにしてたもん!ね、まま。」
そう言って店の中から出てきた母親に問いかける。
「そうねぇ今日も良い子でいたらサンタさん来てくれるかもね。」
「いいこにしてるぅー!」
母親に手を取られて嬉しそうに飛び跳ねながら男の子は去って行った。
(無邪気だね・・・)
- 304 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時11分31秒
- さて、バイト再開―
と思った矢先に今度は何かに引っ張られる感触があった。
サンタの衣装のスカートの裾を誰かが引っ張っている。
引っ張られている先を見ると、またもや4歳くらいの小さな男の子が居た。
周りを見渡して親が傍に居ないことを知る。
(迷子かな・・)
「どうしたの?」
声を掛けても男の子は黙ったまま口を開かない。
「迷子かな?」
「―の?」
「え?」
迷子の案内をしてもらおうと男の子の手を取った時、何かを言った。
「おれ、いいこじゃない。おれのところにはサンタさんこないの?」
先ほどの子供との遣り取りを聞いていたのだろう、男の子は悲しそうに寂しそうに矢口に言う。
(そういやさっき良い子にしてたらって言ったっけ・・・)
「えと・・・ボクは悪い子なの?」
(聞き方悪いかな・・・)
- 305 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時12分27秒
- 「おれ・・・ようちえんでともだちなかせてばっかり。まきもなかせてる。」
「まき?」
その名前に反応をして聞き返す。
「いもうと。いっつもおれにくっついてくるけどなかせてばっかり。」
(妹か・・びびった・・)
なんて言ってあげたら良いんだろう、サンタ(親)が来るとは言い切れないし
来ないなんて言えるわけがないし・・・と、頭を抱えて矢口は困っていた。
「こない?」
すがるような目で見る男の子を見て矢口は何かが閃いたのか、話し出した。
「ボクはひとつでも何か良いことをした?」
「いいこと?」
「そう、一個で良いから何かした?」
(一個もしてないことないっしょ・・・)
「まきをなかせたやつやっつけた。」
「良いことしてるじゃない。」
ほっとした表情で言う。
「でも、そんくらいだし・・・。」
ふふっと笑って矢口は男の子の両肩に手を乗せて言い聞かせるように話し出す。
- 306 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時13分41秒
- 「サンタさんはね、良い子にしてる子を見てるんだよ?回数じゃないの。
1回でも良いことをしたら、サンタさんはちゃんとそれを見てくれてるの。
今日はね、そんな良いことをした子にご褒美をくれる日なんだよ?」
「じゃあくる?」
「でもね、サンタさんはひとりしか居ないから、大忙しなの。だから間に合わないかもなの。
毎年毎年順番に回ってるからボクのところにも今日来るかもしれないし、
来年かもしれないけど、きっと来るよ。」
「ほんと?」
「うん」
「なら、まきとずっとまってる!ありがとうおねえちゃん」
少し無理やりっぽくもあったが子供を納得させるには十分だったようで、
男の子は初めに見た時の淋しそうな表情とは違って、笑顔で帰って行った。
「いっこでも良いことか・・・」
小さくなって行く男の子の後姿を見ながら今自分が言ったことを口にする。
(矢口んとこには当たり前だけど来ないね・・・良いことなんてこれっぽっちもしてない・・・)
はぁ・・・とため息をついてバイトを再開する。
- 307 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時14分54秒
- 「クリスマスケーキいかがですかー。」
「ありがとうございましたー」
「・・・っと。」
次のお客に向けてケーキを入れる袋を用意しようとしたらストックが無くなっていて
しゃがんで足元に置いてある箱を漁る。
「あれーないや・・・」
箱を漁ってもリボンとテープしかなくて袋は見当たらなかった。
仕方なく店の中へ戻って取りに行く。
「あー温かいなー。」
ずっと外で販売をしているため、矢口の体は凍えていて冷たかった。
袋を取って店を出ると・・・凍りつくような寒さを感じる。
空は何時の間にか真っ暗で、木に掛けられた色とりどりのイルミネーションが鮮やかに光っている。
今にも雪が降り出しそうな寒さになっていて、街を行く人々は皆くっついて
幸せそうに楽しそうに歩いている。
手に持っていた袋をしゃがみこんで足元の箱に直す。
と、ふと自分の瞼に何かを感じた。
(冷た・・)
ふっと顔をあげるとちらほらほらほらと白いものが舞っているのが目に入って来た。
- 308 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時18分36秒
- 「あー・・・。」
寒いはずだ。
雪が舞っていたのだった。
24日に降るなんて恋人達には最高のプレゼントだな、とほんのり思って立ち上がる。
「みんな嬉しそー。」
楽しそうに飛び跳ねてはしゃぐ子供に優しい顔をする親。
手を繋いでくっついていちゃいちゃしながら歩く恋人達。
そんな日にバイトをしていることを悔しくなんかは思わなかったがやはり淋しく感じていた。
(会いたいな・・・)
「ひとつ下さい。」
「あっありがとうございます。」
そんなことを考えていてもバイトは続く。
(あっ袋・・出してなかったや。)
しゃがみこんで立ち上がったその時、視界が開けた。
目の前には客が居るが、そこに居ないかのように目の前がきれいに開けていた。
先ほどまでたくさんの人が行ったり来たりとしていた道が割れたように、
時間が止まったかのように静まり返っていた。
いや、そう感じただけかもしれない。
- 309 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時19分41秒
- 「?いくらです?」
「あっすいません2500円ちょうどになります」
(・・・?)
お金を受け取りながらもどこか落ち着かない矢口。
(・・・だれかに見られてる?)
どこかからか何やら視線を感じるのだ。
キョロキョロとしてもそれがどこからのものなのかは分からない。
「おつり下さる?」
「あっ・・!すいません!」
お釣りの500円を返して客が消える。
客が消えるその後ろに視線を送っていた人物を発見した。
(―!ま・・・・さか。)
矢口は大きな口を開けて少し背中を仰け反らせて眉間に皺を寄せてその人物を見つめる。
持っていた3千円を握り締めて身を硬くする。
その人物は、季節外れな白い雪のような短パンに、白色の薄手の長いコートを纏って
じっと矢口の方を見ていた。
- 310 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時20分52秒
- 「マ―」
名前を呼ぼうとして身を乗り出すと、急に時間が動き出したかのように
人々がふたりの間に現れて姿を見えなくさせた。
持っていたお金をほっぽり出してなりふり構わずに走って行く。
「マキ!」
人ごみを掻き分けて名前を呼んでもそこマキの姿を見つけることは出来なかった。
「マキ?!居るんでしょ?隠れてないで出てきて!マキ!」
いくら呼んでも叫んでもマキが姿を見せることは無かった。
「どうして・・・。」
肩を落として地面を見つめながらほろりと涙を零す。
マキが居たかもしれない場所を見つめながら涙を流す。
と、その時だった。
ふわっと矢口は、何かに包まれるような感触を体に受けた。
ハッとなって気付くと誰かの腕が自分に巻かれていることが分かった。
「なっ・・え?」
後ろから感じたその感触を確かめるように振り向こうとする。
しかしその腕がそうさせない。
強く抱きしめられていて身動きが取れなかった。
- 311 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時22分13秒
- 「やっと見つけた。」
(その声―!)
「やっと会えた。」
聞き覚えのある声に、ずっと聞きたかったその声に身震いをして余計に涙が流れた。
「マキなの?」
「・・・うん。」
(やっぱり!!)
返事を聞いて振り向こうと再度試みた矢口だったが、またそれは叶わなかった。
「どうして顔を見せてくんないの?」
「・・・だって・・・」
「ずっと会いたかった。ずっと想ってた。顔・・見せてよ・・・。」
そう言った矢口の言葉を聞いて、きゅっと回していた腕の力をマキは緩めた。
振り向くと、俯いて顔を見えないようにしているマキが居た。
しかし矢口の方が遥かに小さいわけで。
あっさりと表情を見ることが出来た。
- 312 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時23分14秒
- 「マキだ・・・ほんとにマキだ・・・」
髪の毛や顔に触れて実際に存在していることを確かめるようにさわりまくる。
「・・・どうして顔見せてくれなかったの?」
「だって・・・泣いた顔なんて見られたくないも・・。」
そう言ってまたきゅっと抱きつく。
顔を見せないようにして。
確かにマキは、今までにないってくらいの大粒の涙を流して顔を真っ赤にして鼻をすすっていた。
「矢口だって泣いてるんだよ。そんなの・・気にしないで見せてよ。」
矢口がいくらそう言ってもマキは言うことを聞かずにただぎゅっとくっ付いて
うえっうえっとすすり泣きを繰り返していた。
「矢口さーん?」
そんなふたりを邪魔したのは店員。
売り子の矢口が居ないので客が店の中に文句を言いに来ていたのだった。
- 313 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時24分41秒
- 「あっ・・・マキごめん、ちょっと行かなきゃ。」
離れようと腕を解いて行こうとすると、マキは息をふっと吐いて矢口に言う。
「やだ。また居なくならないで。」
「ちょっとだけだよ。」
「もう離れるのはやだよ・・・あんな淋しいのはもういや。」
そう言ってまた泣き出したマキをみて、矢口もまた涙を零した。
(すぐ戻るって言って戻らなかったもんね・・・)
「・・じゃあ、一緒に行こ?」
泣き止まないマキの手をとってもとの場所に戻る。
「困るよ矢口さん勝手に離れちゃ。」
「すいません。」
謝る矢口の横に居る泣いているマキを見て店員は声をかける。
「・・・何かあったの?」
マキに聞こえないような声で。
「(・・・と、えと・・)妹なんです。ちょっと訳あって離れてて久しぶりに会ったんで・・・」
「そう・・・」
矢口の手を繋いだまま泣くマキに視線をやって
「あと1時間もないから宜しく頼むよ。」
と、言って店の中に戻って行った。
- 314 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時25分31秒
- 「あの・・・マキ、寒いでしょ?店の中に入ってなよ。」
「ヤ。」
「ここに居るからさ。」
「ヤ。」
言うことを聞かないマキに困りながらも嬉しく思う。
それから客はほとんど来ることもなく、あっという間にバイトは終わった。
「そういえば今日までだっけ。」
片付けをしながら店長が矢口に声を掛ける。
「あ、はい。お世話になりました。」
期間限定でバイトをしていた矢口は明日の25日はケーキを売る人員は
外には要らないということで24日までの契約で働いていたのだった。
「ならこれ、妹さんと食べなさい。」
そう言って余り物のクリスマスケーキをひとつ貰って、店をあとにした。
- 315 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時26分49秒
- 「熱がひかなくて・・・はい、はい、すいません明日は・・・休ませていただけるなら・・
はい、あっそうですか、はい、ありがとうございます。」
プツッ
熱など無いクセに熱があると言ってカラオケ屋のバイトを休んだ矢口は、真っ直ぐに自宅へと向かう。
「ここは寒いんだね。」
やっと泣き止んだマキは、自分の薄着に目をやって身を縮めて言う。
「冬だからね。」
「冬?」
自宅に帰ってすぐに暖房を入れる。
「・・・なんか暗いよ?」
「うっ・・・そう?」
「ごとー暗いの嫌い。」
「あっ、そ、そう?なら点けるか・・・。」
「お風呂沸かすからもちっと待ってね。」
「うん、ありがと。やぐっつぁんのベッドどこ?あ、こっち?」
そう言ってgame's roomを開ける。
- 316 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時28分08秒
- 「うわっ・・・!真っ暗!」
パチっと電気をつけてまた声をあげる。
「汚いよーやぐっつぁん!」
「そ、そうかな・・・」
「汚すぎ!ごとー片付けるからあっち行ってて!」
そう言って本当に片付けだしたマキ。
汚い、臭い、やぐっつぁんらしくない、と、ぶつくさ文句を言いながらもどんどんと片付けていく。
「・・・ん?何見てるのよ。」
そんなマキをずっと部屋の入口から見ていた矢口に気がついて問いかける。
「・・・ほんとに居るんだね。」
「?」
「マキはほんとに居たんだね・・・」
「何言ってるの。探したんだからね!勝手に居なくなってさ!・・・いっぱい泣いたんだから。」
会えなかった、離れていた日々を思い出したのかまた泣きそうになるマキに慌てて駆け寄って抱きしめる。
「ごめん、ごめんね。もう絶対に離さないから。」
それからほんの少しの沈黙のあと、
「・・・あとで、居なくなったこととか・・いっぱい、いっぱい聞くからね!
聞きたいこといっぱいあるんだからね!」
と、マキは頬を膨らませて言った。
- 317 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時29分28秒
- 「うっ・・うん。お手柔らかに・・・。」
「それと!」
「な、なに?」
「マキって呼ばないでよ、ごっつぁんが良いって言ったのに。」
などとどうでも良いようなことを言う。
(あっ・・そういやそうだっけ・・)
「マキのが可愛いのに。」
却下されると分かっていながらも一応要望は言ってみる矢口。
「絶対ヤ!」
(・・・ちぇ。)
「はいはい。分かりましたよ。」
それから二人で一緒に片付けをして順番にお風呂に入ってケーキも食べてベッドに入る。
「狭いよやぐっつぁん。」
一人用のベッド。
ぽろっとマキの口から不満の声があがる。
「・・・くっつけていいじゃん。」
「うん!」
(なんだそりゃ)
「今日は疲れたね、明日、またゆっくり話、しようね。」
「うん。」
- 318 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時30分34秒
- 「・・・。」
「・・・。」
顔を寄せ合って沈黙になる。
「・・・早く。」
「久しぶりすぎて・・・」
「早く・・。」
おやすみのキス。
何ヶ月かぶりのキス。
マキにはさらに長い年月が経った後のキス。
久しぶりで照れ臭くて矢口はなかなか出来なかった。
「もうっ」
怒った風に言うマキに慌てて矢口はした。
ちぅ・・。
と、ほんのちょこっとだけ。
それでもにこっと嬉しそうに微笑んでマキは目を閉じて眠りについた。
「起きて居なかったら泣くぞ・・・」
そう言い残して矢口も目を閉じ、眠りについた。
- 319 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)01時38分58秒
- 本当にすいません。
後数スレなのですがあとがきなどを考えると微妙に足りなさそうでして。
次スレ
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/yellow/1036859844/
無駄遣いにならないようにします。
- 320 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)05時58分28秒
- えっと・・
数スレではなくて、数レスです(恥
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