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it's a beautiful day
- 1 名前:茜 投稿日:2002年07月22日(月)18時11分14秒
- はじめまして。ずっとロムっていたのですが、
書きたくなったので書いてみます。
小説はほとんど書いたことがないので
上手くないと思うのですがよろしくお願いします!
基本はなちまりです。エロは…ないと思います〜。スミマセン!
構想は大概出来ているので最後まで書けると思います。
最近モーヲタになったのでおかしなところもあるかもしれませんが
ちゅっと大目に見てやって下さい。
- 2 名前:茜 投稿日:2002年07月22日(月)18時29分25秒
- コンサートが全部終わる前にどうしても確かめておきたいことがあった。
と言っても、すでに次が最後のコンサートなのだけれど。
矢口はじーっと目の前にある背中を見つめていた。
彼女は鏡に向かってなにやら髪をいじっている。
見慣れたその背中が何を思っているのか知りたくて、確かめたくてじっと見つめていた。
「お〜い。」
「ん?」
鏡越しに答えればいいものをわざわざ振り返ったなっちに彼女の優しさを感じる。
矢口はまじめな顔をして問いかけた。
「なっちは矢口になにして欲しい?」
「突然どうしたんだべ。」
「いつも矢口はなっちにいろいろしてもらってばかりでなんにもしてあげてないからさ。」
なっちはよく分からない、と言った顔で矢口を見ていたが、立ち上がると
矢口の近くに歩いてきて隣に腰を下ろした。
「新しいバツゲーム?」
「矢口、真面目に聞いてんのにぃ。」
口を尖らせて言う矢口の手を取って今度はなっちが真面目に答えた。
「矢口は側にいてくれればそれでいいんだべ。」
「なにそれ〜。」
「なにもいらないってことだべ。」
- 3 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月22日(月)18時51分20秒
- そう言ってにこっと笑うなっちは本当になにもいらなそうだった。
その笑顔に顔が緩んでしまった。
でもこんなバランスの片寄った関係で本当にいいのかな?
なっちの方に額をコツンと当てて矢口は呟いた。
「なっちは幸せ?」
一拍あってから矢口はなっちにぎゅっと抱きしめられた。
「やぐちは?」
なっちは答えずに問い返してきた。
「矢口がなっちに聞いてんのにぃ。」
「矢口はなっちに質問攻撃してるべ〜。」
「分かんないんだもん。」
そう言うと矢口は子供みたいになっちの腕に顔を埋めた。
あったかくてなっちのいいにおいでいっぱいだった。
「何が分かんないのぉ?」
「なっちが。」
「そう?」
「全然分かんないよ。」
拗ねたように言う。
“いればいい”なんてそんな優等生な返事じゃなにも分からない。
「やぐちは分からないばっかだね。」
そう言うとなっちはまた元の場所に戻っていった。
- 4 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月22日(月)18時55分17秒
- 一緒にいるのが当たり前すぎて、
見えなくなっている自分となっちの位置を確かめたかったのにまた上手く言えなかった。
いつもそう。
関係ないことならどんどん口から出るのに、肝心なことは上手く言えない。
いつもなっちがそれを察してくれるからそれですませちゃって。
でもそれじゃダメなのだ。
してもらうばっかりじゃいつかこの関係が壊れちゃう気がして、
矢口はガラにもなく不安で包まれていた。
それはきっとこれから起こることへの不安だったのかもしれない。
- 5 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月22日(月)19時06分57秒
- 最後のステージが始まる。
楽屋を出ようとした矢口は後ろからなっちに腕を掴まれて踏み出した足を中に戻し、
みんなの背中を見送ってしまった。
「どうしたの?」
振り向いた矢口に何も言わず、なっちは突然唇を重ねてきた。
なっちからしてくれることなんて本当に少なかったから矢口は驚いた。
「なっちのこと、分かんないっていったよね。」
「うん…」
矢口は急のことでよく分からない、という顔をした。
「なっちはね、矢口が好きだよ。ず〜っとず〜っと。」
「ずっとっていつまで?」
照れくさくて仕方なく呟く矢口の手をなっちは両手でぎゅっと握った。
「ずっとだよ。死んでもまた生まれて、やぐちのこと好きになる。」
- 6 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月22日(月)19時07分45秒
- 「ばかぁ。そんなのムリだよ。」
嬉しくて、でも聞いてるこっちが恥ずかしくって、矢口は真っ赤になって俯いた。
けれどなっちはそれを笑うどころか真剣に続けた。
「ムリじゃない。」
俯いた顔を上げると、もう一度優しいキスが唇を包んだ。
静かに離れたぬくもりはゆっくりと呟いた。
「生まれ変わってもやぐちが好きだよ。」
自分もそうだ、とちゃんと伝えたいのにやっぱり上手く言葉にならない。
それを察してかなっちが静かに問い直した。
「やぐちは?」
だがそこで外から二人を急かす声が聞こえてきた。
「なっち!矢口!早くして!」
もう時間がない。
なっちは急かす代わりにもう一度矢口の手をぎゅっと握った。
「終わったらちゃんと返事してね。」
「分かった…。」
矢口は曖昧に答えるとなっちに背中を押されるようにしてステージに向かった。
- 7 名前:茜 投稿日:2002年07月22日(月)19時10分24秒
- 早速更新しました。
なんだか全然話が進んでません…。
細かく書きすぎてるのかなぁ?
- 8 名前:累 投稿日:2002年07月22日(月)23時32分53秒
- あ〜なちまりじゃないですか!?
なちまり大好きなんで期待してます。
- 9 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月23日(火)21時06分47秒
「ウソでしょ…?」
仕事の都合で一人だけ後から病院に来た矢口は最初、
カオリの言っている言葉の意味が分からなかった。
なっちが目を覚ましたと聞いたから、頑張って早く仕事を切り上げてきたというのに、
待合室でカオリに引き止められてちょっとムッときていた。
そこに突然そんな事を言われても、頭の回転がついて行かない。
「ホントだよ。なっち、私たちのこともなにも覚えてないんだよ…。」
矢口は混乱する頭を抱え、躊った。
なっちの記憶がない?
自分のことも覚えてないのかな?
「今、なっちの家族とマネージャーが先生に詳しい話を聞いてる最中なの。」
でれど、そんなことは矢口の脳まで届かない。
「戻るんでしょ?!そのうち思い出すよねっ?」
カオリの襟首を捕まえて怒鳴りつける。
「それは私にも分からないよ…」
カオリはそう言うと矢口の手を軽く振り払った。
- 10 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月23日(火)21時08分19秒
- コンサートは無事に終了したはずだった。
ステージからはけて楽屋に戻る途中で、突然なっちが倒れたりしなければ。
倒れた直後の原因はただの過労みたいなものだったが、倒れたとき打った箇所が悪く、
なっちはそれから一晩中眠り続け、目を覚ましたときにはなにも覚えていなかった。
しばらくイスに腰を下ろしたまま考え込んでいたが、矢口はこうしていても仕方がないと重い腰を上げた。
「大丈夫?」
心配そうに言うカオリに矢口は小さく頷く。
「会ってくるよ。なんか思い出すかも知れないしね。」
その言葉の裏にはこの事実が嘘なんじゃないかという甘い期待が含まれていた。
期待と不安を胸に抱えながら長い廊下を歩く。
病室の前まで来ると圭ちゃんが立っていた。
「カオリから話、聞いた?」
圭ちゃんが確認するように見つめてきた。
「聞いたけど…、どうなの?」
「今、後藤がついてる。」
矢口の質問には答えず圭ちゃんは話を続けていた。
- 11 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月23日(火)21時08分53秒
- 思い空気に飲み込まれそうになって、矢口はそれ以上聞かず、病室のドアに手をかけた。
半信半疑でドアを開けると、ベッドに半身を起こして座っている元気そうななっちと、
なっちに付き添っている後藤がこっちを向いた。
「なんだ…、元気そうじゃないかぁ。」
矢口はホッとして、思わず笑みがこぼれた。
が、それは一瞬の錯覚だった。
「えっと…、矢口さん、だべか?」
言いながら後藤の方を見るなっち。
「そうだよ。」
たったそれだけの会話だったが、矢口を動揺させるのには十分だった。
「ホントなの…」
立ちつくす矢口に、後藤が寂しげに笑いかける。
「そういうことだよ…。」
- 12 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月23日(火)21時10分24秒
もちろんなっちはしばらく仕事を休むことになった。
マスコミはあ〜だこ〜だ噂しているけど、今のところ体調不良ってコトになっている。
なっちのいない日々。
こんなに寂しいと思ったのも何年ぶりだろう。
当たり前!と思っていたなっちの存在の大きさに改めてびっくりする。
矢口は毎日病院へ通った。
なっちの育てていたミニひまわりの成長を報告する、との名目で。
矢口はひまわりの世話を毎日欠かさなかった。
なっちもひまわりを育てていたことはしっかりと覚えていた。
ひまわりをあげたのが矢口だってコトは覚えていなかったけど…。
- 13 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月23日(火)21時10分59秒
- 唯一なっちの持っている記憶。
だからなのかひまわりの話になるとなっちは嬉しそうに聞いていた。
過去と現在を繋ぐのがそこだけしかない、とでもいうように。
矢口はそんななっちのためにほんの些細なことまでいつまでも話していた。
それが仕事帰りでつらくても、なっちが眠りにつくまで。
自分の睡眠時間なんてなくなっても構わないから。
どんなに忙しくても、面会時間が終わっても看護婦さんにお願いをしてそっと病室に通う日々。
いつも自分に尽くしてくれていたなっちだから自分も何かしてあげたい。
けれど、何をしてあげたらいいのか思い浮かばない。
だからとにかく今は、少しでも多く傍にいようと思った。
なっちが寂しいと思わないように。
ちがう。矢口が寂しいから…。思い出して欲しいから。
- 14 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月23日(火)21時11分33秒
- ただ、一つ気になるのは、最近どうもごっちんのことを聞かれる回数が増えたこと。
「今日はごっちんは一緒だった?」
「ううん。今日は途中からミニモニ。だったから。」
「そっかぁ。」
矢口はなんとなくイヤな予感がしてなっちの顔を覗き込む。
「会いたかった?」
するとなっちは照れくさそうに俯き、呟いた。
「なんか、顔を見てるだけで嬉しくなっちゃうんだべさ…。」
「好きなの?」
「かなぁ…」
顔を赤らめるなっちに矢口は愕然とした。
ショックを隠しきれなくて、悟られまいとなっちから顔を逸らす。
「そ、そうだよね〜。ごっちん可愛いし、優しいしね。」
「うん。」
それでも楽しそうに相槌を打つなっちに今度は腹が立ってきた。
窓の外の青い空さえ気に障る。
だから、意地悪をしたくなった。
- 15 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月23日(火)21時12分16秒
- 「付き合ってる人いるよ。」
矢口はぼそっと、かなりの悪意を込めて呟いた。
「や、やだぁ。なんな意味じゃないべ。」
手をパタパタさせながら慌てて言い訳をするなっちの顔はあからさまに動揺していて、
更に奥まで矢口のショックを煽った。
かと思えば急に黙り込んで泣きそうな顔をする。
「そう…、だよね。いるべ、普通…」
矢口の中に罪悪感が広がっていく。
勝手に腹を立てているのは自分で、なっちはもう前のなっちじゃないってことを認めたくないのも自分で、
それは彼には関係のないところにある問題なのに。
大人げないことを言ってなっちを傷つける権利など、自分は持っていないのだから。
「ごめん…。余計なこと言っちゃって。」
「ううん、おかしいのはなっちだべさ。記憶がなくなっちゃって性別まで忘れちゃったのかなぁ。」
そう言って笑う寂しそうな笑顔は、昔よく見た表情だったけれど、どんなときに見たのか思い出せなかった。
「ねぇ、今の誰にも言わないでくれるかな?」
咄嗟に出た、なっちの精一杯の強がり。
「言わないよ。」
そしてもう2度と言わない。なっちを傷つけるようなことは。
- 16 名前:茜 投稿日:2002年07月23日(火)21時17分14秒
- 今日の分はとりあえず更新しました。
なんだか他の方の書くなちまりと矢口の性格が全然違くて平気かなぁ?
といっても自分自身は他の方の書くなちまり大好きです!!
ただ、なっちが矢口に「好き〜☆」って言わせたかったので…。
>8
初レスです〜。ありがとうございます!
なちまりいいですよね〜。も〜、私なちまりヲタです。
- 17 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)04時30分55秒
- おお!なちまりいいですね。
楽しみです。
- 18 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月26日(金)17時57分15秒
- 矢口は後藤が来るなり楽屋の隅に引きずっていき、
何の前フリもなくなっちの話を始めた。
「なっちがさ、ごっちんに来て欲しいみたいなんだ。」
矢口的には後藤の様子を伺いながら、ゆっくりと本題を切り出したつもりだったが、
後藤にしてみれば何が言いたいのかよく分からない。
「行ってるよぉ。やぐっちゃんほどじゃないけど。」
メールチェックをしながら、後藤は普通に答える。
「そおいうんじゃなくて〜。もっといっぱい、傍にいてあげてよ。」
「やぐっちゃんがいるじゃん。見た目にはすっかり元通り!って感じだし。」
後藤の言葉に矢口は少し戦意を失ってしまった。
そんなこと言われたら、隠していた切なさまで外に出てしまいそうになる。
周りからどんな風に見えても、自分たちの関係は変わってしまった。
それはもう誰にも戻せない現実なのだ。
- 19 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月26日(金)17時57分51秒
- 「ごっちんといるときのなっち、すっごいいい顔するんだよぉ。だからさ…。」
言いながらもやっぱり言葉に詰まってしまう。
なんで大切なことはちゃんと言えないんだろう。
「やぐっちゃん?」
後藤もその空気を察したのか心配そうに矢口の顔を見つめている。
矢口は自分の想いが溢れてしまわないように、言葉を探しながら、
なんとか後藤に伝えようともう一度重い口を開いた。
「矢口はさ…、ほら鈍感だし、なんていうの、気が利かないしさ、あは。」
無理矢理笑顔にして後藤の方を見ると、
矢口の気持ちが伝わったのか神妙な面持ちで頷いた。
「…分かった。」
- 20 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月26日(金)17時58分29秒
- 翌日、後藤は早速病院にやってきた。
矢口はごっちんを見かけて、病室に入ろうかどうしようか、ドアの手前でうろうろしていた。
ドアの陰から様子を覗き込む。
少し、悪いことをしている気分。
正直複雑な気持ちだったけれど、嬉しそうに迎えるなっちの笑顔を見て、
それでも、これで良かったのだと思う。
イスに腰掛けて、後藤はバッグから何か取り出した。
「ゆびわ?」
後藤が取り出した指輪を見てから、なっちは不思議そうに後藤の顔を見た。
「なっちにもらったんだよ。」
なっちの手を取り、指輪をはめてやる。
「なっちの記憶が戻ったらまたちょ〜だい?」
「おまじないか何か?」
「う〜ん、そんなとこかな?」
「効くのかなぁ。」
なっちはよほど嬉しいのか指輪をした手を広げ、頭上にかざしてみる。
「ん〜、サイズが合わないから効かないかもね。」
「意味ないじゃんっ。」
笑うなっち。
その笑顔は記憶がなくなってから初めて見る、満面の笑みだった。
こんなに毎日顔を出しているのに、自分はあんな風に笑わせることが出来なかった。
「こういうのは気の持ちようなんだって!」
「うん、そうだよね。あちがと。」
- 21 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月26日(金)17時59分06秒
- 彼の笑みに、同じく笑顔で答えるごっちん。
矢口は中にはいるのをやめ、静かに病室を離れた。
自分が入っていったら、あの空気を壊してしまいそうで。
記憶がない分、壁のなくなったなっちはただただ素直で可愛い子供のようで、
もしかしたら後藤もその気になってしまうのではないか、と少し不安になった。
だけれどそれでなっちが幸せなら、仕方がないのかも知れない。
廊下を歩き少し離れたところで長いすに座った。
壁にもたれ、最近増えたため息をかき消すように天井を見上げる。
思い出すのはツライ過去ばかり。
『生まれ変わってもやぐちが好きだよ。』
「やっぱりムリだったんじゃないかぁ。」
あのとき、どうして「矢口も」と、一言言えなかったんだろう、と悔やんでしまう。
あのとき返事をしていたらメンバーの1人なんかじゃなくて恋人だと、最初に胸を張って言えたのに。
不安そうななっちを抱きしめてあげられたのに。
「矢口、バチが当たったのかな?」
一人で苦笑いをして目を閉じる。
「なっちのこと、もっと大事にしなかったから。」
口に出すと余計に悲しくなる。
同じ顔で笑って、同じ声で話すのに、中身は全然違うのだから。
- 22 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月26日(金)18時00分00秒
- 「隣に座っていい?」
瞼を開くといつのまにか後藤が立っていた。
矢口の返事を待たずに横に座ると今度は二人でため息をつく。
「ごっちん。」
「なに?」
「ありがとうね。なっち、すごく喜んでたでしょ。」
「ううん、それはいいんだけどね…、やぐっちゃんなんでちゃんと言わないの?」
「何を?」
後藤は核心に迫ってくる。
こういうとき、本当に年下?と思ってしまうほど冷静な言い方で自分を惨めに感じる。
「やぐっちゃんとなっちのこと。」
「別に付き合ってたとかじゃないから…。」
口に出すと余計に胸に刺さる。
矢口はミエミエの強がりを言うと俯いた。
「覚えてないっていうことはその程度だったんじゃないのかな?」
「そうじゃないと思うよ。だって記憶がなくなっちゃったんだし…。」
- 23 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月26日(金)18時00分34秒
- フォローをしようとする後藤が妙に癪に触って、
無意識に矢口は自ら凹むようなことを口にした。
「だって、ひまわりのことはしっかりと覚えてたじゃない。」
「でも、あのひまわりはやぐっちゃんがあげたんでしょ?」
「覚えてないんだから意味がないよ。なっちがホントに必要だったら思い出すだろうし、
いらなかったらこのままだよ。」
矢口は顔を上げると不自然なくらい元気に後藤の肩を叩いた。
「なっちはごっちんに任せたからね〜。」
「任せないでよぉ。」
後藤は頬を膨らませて抗議する。
「だって、指輪持って来ちゃって張り切ってたじゃん。」
「バカぁ、あれ考えるのに昨日は徹夜だったんだから〜。」
その様子が安易に想像できて矢口は吹き出した。
やぐちが笑ったのを見てホッとしたのか後藤は後を続ける。
「だって後藤、やぐっちゃんと違くてなっちの喜ぶことの知識あんまないんだもん。」
「矢口だってそんなの知らないよ。」
知らないから、後藤に来てもらうなんて方法でしか喜ばせてやれないのに。
- 24 名前:茜 投稿日:2002年07月26日(金)18時04分52秒
- 今日の分の更新です〜。
あわわ、2日くらい更新してませんでした、スミマセン。
ししてひとつ訂正を
>>21
一行目の一番最初。
「彼」→「彼女」です。
なっちは女の子なんですから彼女ですよ…。
スミマセンでした。
>17 名無し読者サマ。
レスありがとうです〜。
私もなちまり大好きですよ!
明日はPCの修理をするかも、なので更新できるか微妙です…。
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月26日(金)21時59分09秒
- 初めて読みました
なちまり好きなんですよぉ。
この後はどうなるのかが楽しみです。
- 26 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月28日(日)17時00分26秒
いつも置ききれないくらいの花が飾られているなっちの病室はいつでも春の匂いがする。
後藤にはそれが少し眩しかった。
見舞いに来ているだけなのに、すごく悪いことをしているような気がするのは
きっとその所為だと自分に言い聞かせる。
いつの間にかなっちの喜ぶ顔を見ることが楽しみになってきてる自分に…。
「最近、いっぱい来てくれるね。」
本当なら、これは矢口に向けられる筈の笑顔。
「あ…うん…、たまたま時間があってね…。」
後藤は慌てて嘘をついた。本当は休み時間や寝る間を惜しんで来てる。
「そっか…」
ちょっとがっかりしたようななっちの表情に気づかないふりをして、後藤は病室をぐるりと見回しながら聞いた。
- 27 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月28日(日)17時00分58秒
- 「やぐっちゃんは?」
「最近、あんまり来ないかな。」
今度は黙り込んでしまったなっちに後藤は確かめるように聞く。
「寂しい?」
「う〜ん…、寂しいのが半分、ホッとしてるのが半分かな。」
なっちは首をかしげながら俯きがちに呟いた。
「矢口さんといると時々すごく苦しくなるから…。」
「なんで?」
なっちは後藤に貰った指輪をくるくる回しながら低いトーンで答える。
「楽しいのに、胸がぎゅって潰れるみたいになるの。その理由だって自分のことなのに分かんないし…。
「そんなの、気にするコトじゃないよ。悩んだって分かんないんだからさ。」
けれどなっちは真剣な表情で首を振る。
「時々ね、なっちのこと寂しそうに見るんだべさ、矢口さん。」
そしてもう一度、噛みしめるようにゆっくりと繰り返した。
「胸がぎゅっと痛くなるの…。」
- 28 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月28日(日)17時01分34秒
- 後藤が帰った後、入れ代わるようにやぐちが病室に姿を現した。
偶然ではなく、やぐちが意図的に時間をずらして来たのだ。
なっちの為ではなく、二人の姿を見るのがツライ自分のために。
部屋には優しい西日が差し、綺麗なオレンジ色に染まっていた。
はしゃぎすぎたのか、なっちはスヤスヤと暖かい陽射しに包まれて眠っている。
陽射しを遮らないようにベッドの横に立ち、なっちの寝顔を見下ろす。
指にはさっきの指輪をしたままで、大切そうにもう片方の手で握っている。
切なさと寂しさがじわじわと矢口を襲った。
こうして寝顔を見るたびに、今度目を開けたら「なにやってるんだべ?」と言ってくれるんじゃないかと
くだらない希望を持ってしまう自分がいる。
そんな奇跡、起きるはずもないのに…。
と、なっちが目蓋を擦り、指の隙間から矢口を見上げた。
「ん…?矢口…さん?」
「ごめん、起こしちゃったね。」
なっちは半身を起こすと優しく首を振った。
「ううん、珍しいね、こんな時間に。」
「まだこれから取材とかあるんだけどね。」
- 29 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月28日(日)17時02分08秒
- 「私も、行かなくちゃいけないんでしょ?」
急にそんなことを言い出したから、矢口は少し驚いた。
「なんで?」
「TVですごいいっぱい私のことやってたから…」
いつまでも伏せたままでいられるわけがない。
これからどうするか?
自分が誰なのかやっと分かってきた、
そんな不安定な状態のなっちに選択させなくてはいけない日が迫っている。
「いいのに、まだ考えなくて。休めるときに休まないと下に集まってるワイドショーに殺されちゃうぞ。」
矢口はにこっと笑って見せた。
もちろん、なっちにはこのまま芸能界をやめるという選択肢もあった。
けれど、矢口はそのことに触れなかった。
気持ちが離れている今、これ以上に距離が出来てしまったらもう希望はない。
今、こうして目の前で笑っているなっちすら失うことになってしまう。
「じゃぁ、覚悟しなきゃね。」
不安だらけの矢口とは逆に、なっちはとても嬉しそうに今日の検査結果を報告した。
「来月には退院出来るみたい。」
- 30 名前:茜 投稿日:2002年07月28日(日)17時04分40秒
- ちょこっとだけ更新しました。
なんだかなちごまっぽい感じもなきにしもあらず?
今日もう一度更新するか、明日更新するかです。
>25 名無しさん
読んで下さってありがとうございます。
読んでいて面白いよう頑張って書きたいと思いますので
よろしくお願いします。
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月29日(月)01時44分19秒
- いい感じだ♪
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月29日(月)01時53分33秒
- なちまりが一番好きだが、なちごまもイイ。
というか、この3人が好き。
- 33 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月29日(月)19時16分05秒
なっちはそれ以外考えていなかったのか、当たり前のように仕事に復帰した。
真面目なところは変わってないから適応も早い。
周りが心配したよりも普通に、なっちはみんなについて行った。
細かいところはともかく、大まかなところは体が覚えているらしく、
時折思い出したようなことすら口にするなっちを見て、矢口は勿論、他のメンバーも
こうしているうちに少しずつ思い出すんじゃないかと、ほのかな期待を持ち始めていた。
だが、何日過ぎても一向にその気配はなく、「思い出す」のではなく、
「新しいことを覚える」というカタチでなっちは周りに馴染んでいった。
そして、なっちの傍にいるのは後藤ではなく、やっぱり矢口だった。
「ねぇ、矢口さん、今日このあと時間ある?」
矢口が慌ただしく帰り支度をしていると、背中からなっちの声が呼び止めた。
振り返るとなにやら大きな荷物を抱えて立っている。
- 34 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月29日(月)19時16分47秒
- 「うちに来てくれないかな?」
「どうして?」
「ビデオとかね、いっぱい借りたんだけど、一人で見てもつまんないかなぁって。」
矢口は両手で抱えているそのバッグの口をつまんで中を覗き込んだ。
「何のビデオ?」
「なっちが出てた番組とか〜、マネージャーさんが撮ってたやつとか…。」
「家にないの?」
「あるのはね、全部見たの。でも、素の部分が分かんないっていうか…、作り物っぽいんだ。
そうそう、雑誌も借りたんだよ。」
言いながら大きなバッグの中をガサガサと探る。
その様子を見ながら矢口はぼそっと言った。
「見ることないよ。」
なっちは手を止めると顔を上げて矢口を見た。
「なんで?」
「だってなっちはこれ見たら絶対真似するでしょ。自分はこうしなくちゃ〜、とか思って。」
図星なのかなっちはずっと黙っている。
矢口は再び背を向けて帰り支度を続けた。
- 35 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月29日(月)19時17分21秒
- 「せっかくのチャンスなんだから。今までのこと全部忘れて、
最初っからやり直せるチャンスなんてそうそうないんだからさ、ムリして頑張ることないの。」
「チャンス…なのかな?」
「そうそう。だから見なくていいの。」
なっちは少し考えたような顔をして、今度は子犬がおねだりをするみたいに
矢口のシャツの裾をぎゅっと引っ張った。
「じゃぁ、真似しないから一緒に見よ。」
支度が終わったのか、今度は荷物を持って振り返る。
「真似しないって言っても…。」
「だってね、やっぱり知りたいもん。自分がどんなことしてたかってね。」
こんなところで意地を張っても仕方がない。
矢口は渋々頷いて、なっちの家に向かった。
- 36 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月29日(月)19時17分53秒
ビデオを見ているなっちはまるで他人を見ているみたいに楽しそうで、
矢口もいつの間にか一緒に笑っていた。
なっちに向かってそのときの話をしてあげるのは、なんとも不思議な感じだったが、
自分しか知らないことを、なっちが知らないなっちのコトを、少しでも教えてあげたくて、
自分でも恥ずかしくなるくらい、たくさんの思い出話を話していた。
メンバーのこと、なっちのコト。そして二人の思い出も。
やり直せるチャンスだなんて言っておいて、
結局なっちを戻したいと思っているのは自分なのかも知れない。
と、話の途中でふいになっちが眉間にシワを寄せ、目を伏せた。
「なっち、もしかして…」
独り言のように言いながら、矢口の顔をまじまじと見つめる。
「なに?」
「う、ううん、なんでもないの。」
「なにそれ〜。」
「なんか思い出した気がしたんだけどね…」
「だけど?」
「気のせいだべ、気のせい、うん!」
どうにも隠している様子だったが、矢口はそれ以上つっこまなかった。
- 37 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月29日(月)19時18分29秒
- 「泊まっていくよね?」
なっちはいつもの表情に戻って話を逸らすから、そこから先を話すことはなかった。
「あっ、うん。」
矢口は気になっていたが、なっちはもうすっかり忘れたみたいにはしゃぎ始めている。
「なんか楽しいね。」
「そう?」
「だって、誰かが泊まるの初めてだもん。」
「ごっちんは?泊まったことないの?」
その名前が出た途端、なっちは顔を真っ赤にして否定した。
「ごっちんとかそんなんじゃないって!」
「違うよ〜、泊まったの?って聞いただけじゃん、なっちはえっちだなぁ〜。」
「え、えっち…とかそういんじゃなくて、も〜う、なんでそんなこと言うんだべ!」
「なっちだってよく言うじゃん。」
言ってから矢口はハッと口を塞いだ。
そう、目の前にいるなっちがそんなこと言ってるのは、確かに聞いたことがない。
自分の知っているなっちはもういないのだ。
「あっ…、ごめん…。そんなの、知らないよね…。」
「ううん、別に平気だよ。」
少しずつ、こういう場面に慣れてきたのか、そう言ったなっちは本当に何でもなさそうだった。
それもなんだか寂しいな、と矢口はぼんやり思った。
- 38 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月29日(月)19時19分06秒
客布団は入院してた所為かもう長いこと干してなかったらしく、一つの枕に頭を寄せ合って目を閉じる。
吐息が混じる程近く。
ここまでくるのに、矢口はとても時間が掛かった気がしていた。
ちょっと前だったら、いつだってこのくらいの距離にいたというのに。
薄く目を開けると、あどけない寝顔が触れる程傍にある。
見慣れたこの腕は、きっともう自分を抱き締めたりはしない。
繋いだ手から伝わる温もり、そして頬にかかる寝息。
それが、今精一杯のすべて。
「お〜い。」
返事はなく、静かに寝息が続く。
眠っているらしい。
握ったなっちの手があまりにも温かくて、少しだけ泣きそうになる。
「ホントに思い出さないの?」
矢口は繋いだ手を自分に引き寄せた。
起こしてしまわないように、自分の冷たい肌に触れないように。
まるで祈るように。
そして届かない想いは涙になって、指と頬の間に流れ落ちた。
それは矢口が眠りにつくまで、音もなく、ずっと…。
- 39 名前:茜 投稿日:2002年07月29日(月)19時22分50秒
- とりあえず今日の分の更新です〜。
なんだか矢口がかわいそうで気持ちが傾いちゃいます(笑)
>31名無し読者サマ
ありがとうございます。
これから先も頑張って「いい感じ」にしていきたいと思います〜。
>32名無し読者さん
私も3人好きですよ〜。
なんか可愛くて見ていていいですよね!
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月31日(水)03時21分28秒
- もう今、一気に読みました。何というか…
矢口がかわいそすぎる〜!!!作者サマ!
気持ちそのまま傾いてって下さい!
- 41 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)12時57分03秒
後藤が部屋に来たのは、矢口が帰ってから数時間後だった。
電話に出たなっちが突然苦痛を訴えるから、慌てて駆けつけたのだ。
部屋に上がると、端に座っているなっちの方に歩いていく。
「何か思い出したの?」
「うん…」
「何っ?」
まだ内容も聞いていないのに、後藤は嬉しそうに隣に腰を下ろした。
「…なっち、好きな人いたのかな?」
いきなりそんな重いことを聞かれ、表情も笑顔のまま固まってしまった。
後藤は答えるべきかどうか迷ったが、ウソもつけず、曖昧に頷いた。
けれどなっちは更に答えを求めるように後藤を見つめる。
「それはさ、本人が自分でちゃんと思い出さないとね。」
「だって…、顔だけ分かんないんだべさ。」
拗ねたようにそう言ったかと思うと、再び鈍い声を発して、なっちはその場に蹲った。
「ちょっと!大丈夫っ?」
頷きながらも辛そうに頭を抱えている。
しゃがみ込んでいるなっちの前に座り直し、後藤が声をかける。
「ムリして思い出すコトじゃないんだからね。」
顔を上げたなっちの目は少し赤く潤んでいるように見えた。
- 42 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)12時58分13秒
- 後藤は無意識に、その目蓋に手を伸ばしていた。
それに答えるようになっちが目を閉じる。
沈黙の中、どちらともなく重なる唇。
優しく、強く、それから深く。
自然と体も近づいていく。
が、膝が触れた瞬間、後藤が突然唇を離し、慌てて後ずさった。
「ごめんっ!」
「え…?」
「ホントにごめん。どうかしてるよね、私。」
首を横に振るなっちには状況が掴めない。
「なんで謝るの?」
「だって、おかしいでしょ、こんなの。さっきまでやぐっちゃんといたんでしょ?やぐっちゃんとはしなかったんでしょ?」
「矢口さんとは関係ないじゃんっ。」
半ば起こったような口調で、なっちが捲し立てる。
- 43 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)12時58分45秒
- 後藤も上手く説明できなくて、同じ言葉ばかり繰り返す。
「…っていうかダメなんだよ。とにかくこんなのダメなの。」
「なんでダメなの?分かんないよ。なっち、すごい嬉しかったのに。」
責めるような瞳。
言葉に詰まった後藤は、どうして良いのか分からず、泣き出しそうななっちを抱き寄せた。
「ごめんね。」
「また謝った…。」
口では責めながら、後藤の腕に頭を凭れる。
とにかく拒まれているということだけを理解して、なっちは黙り込んだ。
何故なのか、それは後藤よりも矢口が知っている気がしたから。
- 44 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)13時00分08秒
翌日。顔を合わせるなり、なっちはすごい勢いで矢口に突っかかっていった。
「なっちと矢口さんってなんだったの?」
「なんだったって…。」
まだ脳もきちんと起床していない矢口はきょとんとした様子でそれを受け止める。
先に楽屋入りしていた他のメンバーも驚いてこっちを見ている。
助けを求めるように見つめる矢口に、保田は肩を竦め、首を傾げて見せた。
「だって、すごい仲良かったんだよね?恋人?それとも親友?」
その、あまりに短絡的な言い回しにカチンときたのか、途端に矢口の顔が険しくなった。
なっちはなっちで、そんなことには気付くような余裕もなく、矢口を睨んでいる。
「どっちでもないよ!」
もっと大切な存在。
でもそれはきっと言葉にはならないだろう。
「じゃあ何なの?どうしてごっちんは矢口さんに気を遣うの?」
「ごっちんと…なんかあったの?」
さっきまでキレかけてたことを忘れて、矢口は不安げに問いかけた。
なっちもまた、後藤とのことは自信がないだけに、口調が弱くなる。
「分かんない…。でもきっと矢口さんに気を遣ってた。」
- 45 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)13時00分43秒
- 矢口は少し考えてから、もう一度なっちを見る。
さっきの勢いは何処へ行ったのか、寂しそうな横顔だけがそこにあった。
と、廊下からガヤガヤと声が聞こえてきた。
二人は合わせたように同時に視線をドアの方に集める。
ドアが開いて、この重い空気の中に入ってきたのは、後藤と吉澤だった。
悟られまいとするなっちとは逆に、矢口は後藤を捕まえて唐突に言った。
「私、なっちのコトなんか全然気にしてないから。」
「えっ?」
まだ楽屋には行って2〜3歩のところで、いきなりそんなことを言われても訳が分からない。
怪訝な顔をしている後藤に、矢口はもう一度言った。
「何とも思ってないって言ってるの!」
振り返るメンバー。
横目でちらっと見ているなっち。
緊迫した雰囲気の中、後藤もようやく意味が分かったのか、今度は真剣な口調で問い返した。
「やぐっちゃんはいいの?それでもし…」
これ以上何も聞きたくないとでも言うように、後藤の言葉を遮るべく、矢口は声を張り上げた。
「何でもないって言ってんじゃん!」
- 46 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)13時01分27秒
その日、ご機嫌斜めな矢口と、自分の所為でこんなコトになってしまったと落ち込むなっちは
殆ど口をきかなかった。
とは言っても、帰りは一緒に送ってもらうしかない。
後藤はこの後ソロの仕事がある、ということだったので、
3人でいるよりは険悪な空気は流れなかったのかも知れないが。
当たり障りなく、1日を終えたいところだった。
ところが、帰りの車の中で、飯田が余計なことに気付いてしまった。
「なっち、指輪は?」
言われて初めて気付いたらしく、両手を広げてみる。
確かに、さっきまであった指輪がない。
なっちは周りに落ちてないかと、焦った様子できょろきょろしている。
「撮影の時はしてたもんね。」
「どうしよう…。」
表情がますます沈んでいくなっちの背中を叩いて、保田が慌ててフォローを入れる。
「まぁ、きっと片付けしてたら出てくるって。見つかったらとっといてくれるでしょ。」
それで不安そうになっちが呟く。
「見つからなかったら?」
「じゃぁ、戻って探してくればいいんじゃない?」
と後ろから矢口の声が聞こえた。
視線は座って窓の外に飛ばしたままである。
- 47 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)13時01分57秒
- 「矢口っ!」
保田が矢口を制するように言う。
だがなっちは背中を押されたように張り切って飯田に言った。
「探してくる。」
「やめときな。ここから歩いて戻るの?」
まさかみんなを乗せて車で戻ってくれとは言えない。
そのことに気付き、なっちは一気に大人しくなった。
「…ごめん…。」
二人のやりとりを矢口は横目で見ていたが、ふいにだらんと凭れていた体を起こした。
「あっ、矢口ここでいい。」
みんなが矢口を振り返る。
「なんで?」
つっこまれても至って普通に、矢口は止まった車のドアを開ける。
「ちょっと用があるの。お疲れサマ。」
振り向きもせず、矢口は降りたドアを勢いよく閉める。
車内に残されたなっちは、さっきよりも更に落ち込んでいるようだった。
「今日、なっち、矢口さんのこと怒らせてばっかりだね…。」
そう言って窓の外に見える矢口の姿を、小さくなって見えなくなるまで見つめていた。
- 48 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)13時03分15秒
家に着いてからも、指輪をなくしたことと、矢口を怒らせたことで、なっちは沈み続けていた。
何度も矢口のケータイにかけようと思い、でもどう謝ったらいいのか分からなくてやめて、
そしてまたケータイを手に取ったとき、突然インターホンが鳴った。
ドアを開けると、そこには電話をすることすら躊躇っていた、矢口その人が立っていた。
「やぐちさん…どうしたの、こんな時間に。」
「あったよ…、指輪。」
「えっ?」
何の説明もなく、ぐいっとなっちの手を掴んで手のひらに指輪を乗せる。
驚いているなっちの手を包むようにぎゅっと握らせると、
照れくさそうに俯いて、「じゃあね。」と自分でドアを閉めてしまった。
なっちは少しの間ぼーっとその手を見つめていたが、我に返ると慌ててドアを開けた。
しかしすでに矢口の姿はなかった。
- 49 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年07月31日(水)13時03分53秒
- 微かに響く、矢口の去っていく足音を聞きながらゆっくりとその手を開く。
多分、ずっと握ってきたのだろう。
指輪はさっき自分の手を取った、矢口の肌と同じくらい温かかった。
『ちょっと用があるから。』
そう言って降りた矢口の背中を思い出す。
絶対怒ってると思ってた。
後藤のことも、指輪のことも。
あれから歩いて戻ったのか、今までかかって探したのだろうか。
「なっち、ひどいこといっぱい言ったのに…。」
なっちはこみ上げてくる切なさに堪えきれなくて、もう一度その指輪を力一杯握った。
手のひらに跡が残るくらい、強く。
- 50 名前:茜 投稿日:2002年07月31日(水)13時08分52秒
- 今日の更新です〜。
なちごまでキスさせちゃいましたが、
私の力量的にキスまでが限界そうです…(苦笑)
明日からしばらく更新できないのですが、待っててやって下さい。
>40名無し読者サマ
レスありがとうございます。
もう、私の心は矢口をとらえて離しませんよ〜。
でも、今回はなっちとごっちんにキスをさせてスミマセンでした…。
- 51 名前:読んでる人 投稿日:2002年08月02日(金)10時36分10秒
- 今更だけと、なちまり発見!!
最近、なちまり小説が増えてきていて嬉しい〜
この作品も激しく期待しまてす。
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)01時07分34秒
- 矢口、やさし〜!最高!これからだんだん
なちまりになっていくと信じつつ今後に期待です。
- 53 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月03日(土)13時56分19秒
- 期待してますのでがんがってください
なちまりいいんだけど、このままなちごまになってもありかなぁ〜(ぉ
- 54 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時34分16秒
ちゃんと会って「ありがとう」が言いたいのに、
そんな時に限ってオフだったり、別々に仕事があったり、
なっちはひたすら矢口に会える日を待っていた。
その数日間、矢口のことを考える度に、軽いデジャヴが何度もあった。
こんなふうに矢口を待っていたことが、
以前にもあったかもしれないと思うと、そのことも伝えたくなる。
言いたいことがいっぱいあって、会いたい気持ちがいっぱいになって、
落ち着かない日々。
家に行こうとも思ったけれど、
押し掛けたらまた怒ってしまうかもしれないと、
やっぱり仕事が一緒になるまで待つことにした。
- 55 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時35分17秒
久しぶりに全員が揃うその日、
なっちは楽屋の入り口に一番近いイスに座って、
矢口が来るのをじっと待っていた。
「今日は大人しいね。」
通りがかりに飯田が声をかけると、みんなも気になっていたのか、
一斉に顔を上げた。
「えっ、そう?」
「昨日までは後藤に懐いてたのにね。」
保田が茶化すと飯田は続ける。
「なっちは生まれつきのさみしんぼだからね〜。」
「うんうん、一人でいるのはイヤ〜って感じ。」
そこでふと疑問が湧いてしまった。
「なっちって、誰にくっついてたの?」
保田は考えるフリをして即答した。
「ん〜、誰でも?」
「え〜、そんなぁ。」
違う、気になるのはそういうことじゃない。
なっちはもう一度言い直した。
「…矢口さんは?」
遠慮がちに聞くと、楽屋に入ってきてすぐの吉澤が当たり前のように答えた。
「ふたりはセットって感じじゃないですか?」
言いながら荷物を下ろす。
- 56 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時36分00秒
- 「そうだね〜、なっちは矢口の面倒をよく見てたよ。」
飯田が楽しそうに相槌を打つ。
「そう…、なんだ。」
少し俯いたなっちに気付き、保田がフォローを入れる。
「大丈夫だよ。記憶が戻んなくても、新しく作ってるんだから。」
「うん…。」
「とりあえず私は、優しくて面倒見が良くて、美しいサブリーダーだから!」
普通に言うからみんなが聞き流しそうになったところで吉澤だけが突っ込んだ。
「ウソ教えないでくださいよ!」
「ウソじゃないよ!」
吉澤と保田はそう言い合って冗談を言い合っていた。
そんな中、近くにいた飯田はなっちの方を見るとぽつりと言う。
「でもね。」
それはなっちにしか聞き取れないくらい小さな声で、静かに聞こえてくる。
「ひとつだけあるよ、思い出さなくちゃいけないこと。」
「何?」
「教えたら意味がないでしょ。」
もっと突っ込んで聞きたかったが、タイミング良くドアが開いて、
その話はそこで終わってしまった。
- 57 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時36分33秒
- 入ってきたのは、もちろんずっと待っていた矢口だ。
「矢口さんっ。」
手前で待っていたなっちの横を通り過ぎ、わざわざ一番奥の方まで歩いていく矢口。
さらに、背を向けて座ったというのに、なっちはにこにこしながら駆け寄っていく。
「この前は、ホントありがとう。」
照れくさいのか矢口は目を合わせない。
「もうなくさないでよ。今度は知らないからね。」
そう言われると、首から下げたチェーンを、得意げにブラウスの中から引っ張り出した。
そこにはあの指輪が光っていた。
「鍵っ子みたい!」
矢口はくすくすと笑って、そこでやっとなっちを見上げた。
それでけでも嬉しくて、なっちも微笑んだ。
「でもこれなら絶対なくさないでしょ。」
「そうだけど。」
「矢口さんが探してくれたんだもん。絶対なくさないって思って。」
なっちが言うと、また照れくさくなったのか、矢口は再び顔を逸らしてしまった。
「それを言うならがっちんにもらったからなくさない、でしょ。」
- 58 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時37分11秒
- 「なにそこで後藤の話してんの〜。気になるでしょぉ!」
いつの間にか来ていた後藤が口を挟む。
それに答えようと、なっちが向こうに踏み出した瞬間、
矢口が慌ててなっちの腕を掴んだ。
「なっち、言わないでよ!」
「何を?」
振り返ると、矢口がめちゃめちゃ真剣な顔をして、胸元を指さした。
「矢口がそれ持ってきたこと。誰にも言わないで。」
なっちはそんな矢口が可愛くて、くすっと笑って頷いた。
「分かった。」
「なに〜、こそこそして〜。」
再び口を挟む後藤の方に歩み寄りながら、なっちは一度だけ矢口を振り返った。
目が合って、矢口はバツ悪そうにまた目を逸らす。
なっちはなんだか嬉しくて、いつまでも一人で笑っていた。
- 59 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時37分49秒
ホントは思い出していることがあった。
ひとつだけ、なっちが誰にも言っていないこと。
それは具体的な出来事ではなく、過去に置いてきたおぼろげなイメージと、
日に日に強くなる胸を刺すような「想い」。
後藤と電話をしていた時に、頭痛と共に蘇った「誰か」との会話。
『なっちは幸せ?』
懐かしい響き。後藤を思うのとは全然別の、体内に広がっていく感じ。
改めて自分の部屋を眺めてみると、誰かがそこにいたような、
ぼんやりとした記憶が脳裏を横切る。
それが誰だったのか、必死に思い出そうとするが、実像として浮かんでこない。
会話は思い出しても、声を思い出せない。
と、電話が鳴った。
「彼女」だと思った。何の根拠もないけれど、記憶の向こうにいるその人何じゃないかと、
なっちはドキドキしながらディスプレイを見て慌ててとった。
- 60 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時38分26秒
- 「もしもしなっち?後藤だけど。」
心臓の音が早くなっているのが自分で分かった。
あれ以来、後藤と二人きりになることは、どちらともなく避けていたから、
電話なんて久しぶりで、後藤が「彼女」だったらと思うと、胸が高鳴った。
「ごめんね。」
「また謝ってる…。」
後藤はホントよく謝る人だなぁ、と思う。
「だってさ、あれからなんか意識しちゃってダメだったから。」
「なっちはいいよ?なっちはごっちんのこと…」
言いかけた時、頭の奥の方で、何故か自分の声が響いた。
『ずっと好きだよ』
どこかで誰かに言った言葉なんだろうか?
『生まれ変わっても…が好きだよ。』
誰に?その大事な部分が出てこない。
「ねぇ、ごっちん…。」
「なに?」
なっちは恐る恐る後藤に尋ねてみた。
「あのね、なっちこんなこと、前にも言った?」
「いや、言ってないと思うよ。」
よく分かっていないのか、不思議そうに答える。
「そっか。」
後藤に言ったんじゃないとしたら、誰に?
結局、後藤には好きだと言わないまま、
当たり障りのない話をしてなっちは電話を切ってしまった。
- 61 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時39分39秒
- 「今好きならいいじゃん。」と矢口に言われそうだけれど、
ここで後藤に好きだというのはきっと間違ってると想った。
誰か、すごく大事な人がいるはずだから。
側に置いてあるひまわりのつぼみにキスをする。
「その人、裏切れないもんね。」
何処にいるんだろう?
どうして抱き締めてくれないんだろう。
自分に記憶がないから?
じゃあ思い出して、とどうして言ってくれないんだろう。
思えば、誰か知っているはずなのに、
誰もそんな人がいたなんて言ってくれなかった。
後藤だってきっと知っていたからあんなに謝ったりしたんだろう。
ひとつひとつみんなの言った言葉を思い起こす。
だがどれも大抵似たようなことで、自分のキャラクターはすぐ分かったし、
矢口と仲良しってコトも分かった。
なのに大切な「人」のコトだけは思い当たらない。
と、ひとつだけ引っ掛かることがあるのに気付いた。
『やぐっちゃんはいいの?それで…』
矢口が後藤に突っかかっていった時に後藤が発した言葉。
あのときは聞き流してしまったが、
よく考えたら矢口がわざわざあんなコトを後藤に言うのも不自然だ。
…矢口?
- 62 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時42分03秒
- 矢口といるのが一番落ち着くのは確かだった。
でも、矢口はそんなこと言ってなかった。恋人でも、親友でもないと。
そう言えば、このひまわりの世話だって家族じゃなくて矢口がしていた。
矢口だと思ってもう一度、さっきのように部屋を見回してみる。
そうすると、そこに矢口がいたんじゃないかと思えてくる。
ただの自己暗示なのか、薄く残る記憶なのか、
今のなっちにそれを確かめるすべはない。
「なっち、矢口さんのこと、好きだったのかな?」
少しずつ自分の中にある情報を整理する。
実は前にもそんなことを思ったことがある。
矢口とふたりでビデオを見ていた時だ。
あのブラウン管の中にいる自分を見て、なんとなくそう感じた。
『なっち、もしかして…』
あの時、なっちは口に出しかけてやめたのだ。
『なに?』
そう言った矢口の表情があまりにも自然で、後藤のことを思う今の自分が、
ウソになるような気がしたから。
- 63 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時42分47秒
- でも、結局それが気になって、今度は後藤のことを考え直している。
自分でも呆れるくらい、言ってることとやってることがバラバラだ。
『ひとつだけあるよ、思い出さなくちゃいけないこと。』
飯田が言っていたのはきっとこのことだ。
自分矢口が好きだったのか?
だとしたら、胸の痛みも、切ない思いも納得がいく。
確かめたい。
聞いたら、矢口は答えてくれるだろうか。
ちゃんと、ホントのことを。
- 64 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時43分17秒
- スタジオに向かう廊下で、矢口の背中を見つけた。
あのことを確認したい。
ふたりの本当の関係を知りたい。
なっちはその背中に向かって走りながら、呼び止めようとした。
「矢口さ…」
言いかけて、何を思いついたのか、
なっちは小さく深呼吸すると、改めて大きく息を吸った。
「やぐちっ!」
その大きな声は廊下に響いて、矢口は足を止めた。
ただ呼び捨てただけなのに、矢口は驚いた表情で振り返ると、
そのままなっちに駆け寄ってくる。
「なっち、今なんて言った?」
あんまり慌ててくるから、なっちは思わず吹き出しそうになった。
「記憶が戻った訳じゃないよ。」
そう言うと、矢口は訳が分からず、眉間にシワを寄せた。
「こっちの方が自然な気がしたの。」
「気付くのが遅いんだよ〜。」
文句を言いながらもちょっと矢口の表情が和らぐ。
- 65 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月03日(土)18時43分55秒
- 矢口の表情が優しすぎて、なっちは少し躊躇ったが、
どうしても確かめたくてそっと耳打ちした。
「生まれ変わっても矢口が好きだよ。」
それを聞いた瞬間、呟いたなっちの方が慌てるくらい、
矢口の表情が驚きに固まった。
とても悪いことをしたような感覚に襲われ、なっちは瞬間後悔したが、
その代わりに知りたいことは、はっきりと分かった。
「やっぱり、やぐちに言ったんだね、なっち。」
なっちがそう呟くと矢口は状況を飲み込んだのか、
思い出した訳じゃないなっちにがっかりとした表情で視線を落とした。
でもそれを隠そうと慌てて背を向けて怒ったような声で言う。
「くだんないこと言わないの!」
「どうして最初に言ってくれなかったの?」
「昔のことなんて思い出してどうするの?」
「知りたいんだべ、自分のコトだべさ!」
「ごっちんが好きなんでしょ?だったらそんなの思い出しても意味ないよ。」
「あるべ!」
なっちは小走りで矢口の前に回り込んだ。
きっとまた矢口を好きになる。そんな気がする。
「やっぱり、変われないようにできてるんだよ。」
けれど、矢口は寂しげに笑って、なっちの頭を軽く叩いた。
「バカ。その時点でもう変わってるよ。」
- 66 名前:茜 投稿日:2002年08月03日(土)18時50分28秒
- 久々の更新です。
書いてる中思ったんだけど、実は話の半分はもう過ぎてるっぽいです。
長編は書けない質なのでしょうか?
新しい話の構想を考えようかと悩んでます。
>51読んでる人サマ
期待に応えられるように頑張ります!
今回の更新分は…どうだったでしょうか?(自信なさげ)
>52名無しさんサマ
いや、書いてる私が超なちまり好きなんでなちまりに進むはず!です。
>53名無し読者サマ
なちごま、もいいですよね。
でも、このお話はなちまりでいこうかと〜。
次に書くかもしれない話はなちごまで行こうかな?
なちまり好きのくせに、なちごまの方が書きやすいかも、とか思ってる
だめっぷり炸裂の茜でした。
来週は更新するのが少しずつになってしまうかもしれません。
- 67 名前:茜 投稿日:2002年08月03日(土)18時51分44秒
- 書き忘れです〜。
今回の更新分の間違い。
>>57
最後の行。
がっちん→ごっちん
です。ごっちんとごっちんファンの方、すみませんでした〜。
- 68 名前:累 投稿日:2002年08月03日(土)21時57分27秒
- なっちも記憶が戻りつつありますね。
なちまり修復までもう少しといったところでしょうか。
- 69 名前:読んでる人 投稿日:2002年08月04日(日)18時33分39秒
- もしかして矢口は身を引こうとしてる?
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月07日(水)05時29分28秒
- なちまりはどうなってしまうのか。
矢口がんばれ!
- 71 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月07日(水)15時59分22秒
- コンサートで、なっちは復帰してから初めて地方に行くためか、はしゃいでいた。
矢口はそんななっちを複雑な気持ちで眺めていた。
なっちが思い出している、少しずつ。
嬉しいと思いながら、逆に切なくなっている。
その日、部屋割りで矢口となっちは同室となった。
どう対応すればいいのか、矢口は頭を悩ませていた。
自分たちのことを少しだけど思い出して、でも後藤が好きで、
なのに同室になってしまって…、どうすればいいのか全然分からない。
なっちの考えてることがまるで分からない。
そう、そんなところは以前とまるで変わってない。
「何考えてるんだろう…。」
なっちは少しずつ、自分の知っているなっちに戻ってきていた。
今までは比較的大人しくしていた部分があったけれど、
何処にいてもなっちの声が聞こえるようになり、
同時に矢口も特別なっちを構ってやろうとする必要もなくなってしまった。
「ちょっと、矢口。さっきっからなっちの話、聞いてないべ。」
ホテルでも部屋に着くなりもう荷物を広げて喋り出している。
「後藤と話してるんじゃないの?」
「寝ちゃってるもん。」
振り返るとソファに凭れて口を開けて爆睡中の後藤がいた。
- 72 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月07日(水)16時00分27秒
- ソロで動き回ってる所為か、疲れているのだろう。
なっちもそう思ったのか、そっと布団を掛けてやっている。
「人がせっかく少ない過去を手繰り寄せて話してるのに。」
会話の途中で返してくる返事も、笑い声も、全部なっちだった。
まるで何もなかったんじゃないかと、錯覚を起こすくらいに。
「なっちさ…」
ホントは思い出してるんじゃないの?そう言いそうになった。
「何?」
そんなワケがない。
どんなにくだらないことでも、思い出す度に自分に報告してくれる。
きっと後藤にも報告しているんだろうけど、それでも良かった。
ただそれだけで嬉しいと思う自分が、ちょっと可愛く思えたから。
「や、なんでもない。」
また何か喋りたいのか、他の部屋に遊びに行くのか、
ドアへ向かっていくなっちの背中を見てぼんやり思う。
今もしもなっちの記憶が戻ったとして、後藤と自分だったら、
なっちはどっちを選ぶのだろう、どっちの想いが強いのだろう。
ベッドにうつ伏せに倒れ込み、この間のことをぼんやりと思い出す。
- 73 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月07日(水)16時01分01秒
- 『どうして最初に言ってくれなかったの?』
言ったら自分を選んだというのだろうか。
戻ったら、なんて考えている時点でもう戻ることを諦めている気がする。
現状は良くなっている。なっちも頑張っている。
それは分かっていても、記憶が戻らないことも、後藤を慕うなっちも、
全てが現実だと思うとやっぱりちょっと辛かった。
などと感傷に浸っていると、いつの間に戻ってきたのか、
なっちが同じように横になって、目の前で自分の顔を覗き込んでいた。
「矢口、この前ね、聞くの忘れたんだけど。」
「なに?」
「矢口はなっちのこと、好きだった?」
好きだと言ったら、なっちの気持ちは戻ってくるのだろうか?
そうじゃないとしたら、かなりカッコ悪い。
- 74 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月07日(水)16時01分34秒
- 「さあ。」
「さあって…。ちゃんと答えてくれないと分からないべ。」
「ちゃんと答えることに意味あるの?」
「いつも意味意味っていうよね。」
「も〜う、そんなの知ってどうするの?
矢口がなっちを好きだったら、なっちも合わせて好きになるの?
そんな都合良く出来るっていうわけ?」
「そ、そんな言い方することないべ。」
「するよ。なっちさ、記憶ないからって、調子乗って人の気持ち弄んでない?」
口籠もったなっちがあまりに哀しそうで、ちょっと言い過ぎたかな、と思ったけど、
素直に謝ることすら出来なくて、矢口はただ黙っていた。
「なっちはただ、矢口といるのって幸せだったのかなぁって…。」
『幸せ?』
「そんなの自分で考えたら?」
これ以上なっちといたら自分が弱くなってしまいそうで、
矢口は起き上がるとさっさと部屋を出て行った。
開け放ったドアの向こうから呼び止める声はなかった。
- 75 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月07日(水)16時01分57秒
- 「どうしたの?」
突然声をかけられ、なっちは驚いてベッドから飛び起きた。
いつから起きていたのか、後藤がソファで大きな伸びをしている。
「よくケンカしてるね、ふたりは。」
後藤なら何か知っているんじゃないかと、
なっちは矢口に聞けなかったことを話し始めた。
「なっちって矢口のことが好きだったのかな。」
「思い出したの?」
さして驚きもせず立ち上がり、後藤はなっちの横に座り直した。
『最初っからやり直せるチャンスなんだよ』
矢口は、どんな気持ちであんなことを言ったんだろう。
もしかしたら、自分は片思いだったんだろうか?
そうだとしても、もう気付いてしまった。
「なっちってさ、片思いだった?」
後藤は少し考えてから、なっちの肩を抱き寄せた。
「ううん。」
後藤の顔をじっと見つめるなっち。
後藤はちゃんとその瞳に真っ直ぐに答えた。
- 76 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月07日(水)16時02分34秒
- 「やぐっちゃんも好きだったと思う。」
「ホントに?」
「信じなって。」
それでもまだ不安そうに俯くなっち。
そんななっちを、後藤はむしろ嬉しそうに見つめていた。
「気になってしょうがないんでしょ、やぐっちゃんのコト。」
「うん…」
「そっか。」
後藤はそう返すと考え込むように遠くを見ていた。
「でもね、なっちはごっちんのコト大好きだよ。」
「きっと、その好きは違うよ。」
後藤は再度なっちの方を向くと笑って見せた。
その笑顔は満面の笑顔じゃなくて、影があった。
「ごめん…、なっち、ごっちんのコト傷つけてる?」
後藤は首を振った。
「ま、とにかく、頭の中整理して、好きとか嫌いとかは急ぐ事じゃないって。」
なっちは後藤の肩を掴むと、ぎゅ〜っと抱き寄せた。
「ありがと。」
- 77 名前:茜 投稿日:2002年08月07日(水)16時07分12秒
- ちょっとだけ更新です。
なんだか行き詰まり気味?で迷ってます。
あ〜、ラストの方は決めてるハズなんだけど。
>68累サマ。
なっちも戻りつつ〜、でも迷うのが難しいところですね。
>69読んでる人サマ
矢口もひこうと思うけど、好きだし。
みたいな。迷ってる感じが出てると嬉しいですね。
>70名無し読者サマ
ホント、矢口頑張れ!ですよ、この話(笑)
自分で書いていて「矢口ぃ〜!」って思います。
もしかしたら次の更新は来週になってしまうかもしれません(涙)
でも、一生懸命終わらせて見せますので〜!!
- 78 名前:斉藤電気 投稿日:2002年08月08日(木)02時38分16秒
- 一気に読みました!同じ板で小説書いてるんですけど
自分の小説とは全然違って文章も伝わりやすくておもしろいです。
矢口さん…素っ気ない所もいいです。好きです。
更新楽しみにしてます。
- 79 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月08日(木)15時07分37秒
- 矢口、もっと自分の気持ちに素直になれ〜!
- 80 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月09日(金)19時15分30秒
- 夜、なっちは矢口が戻ってくるのを待っていた。
気まずくなったらどうしようとか、第一声はどうしようとか、
先走っても仕方がないことばかり考えながら。
ところが部屋に戻ってきた矢口は、
何もなかったみたいに普通に話すからすっかり拍子抜けしてしまった。
とりあえず、矢口が触れないから、
なっちもあえてあの話に触れないように努める。
だから気になるのか、単に不調なのか、
何時になってもなっちはひとり眠れずにいた。
もうかなり長い時間、矢口のベッドの脇にしゃがんで、
ずっと矢口の寝顔を見つめている。
月明かりだけの部屋に、矢口の寝息が響いている。
この人が自分の大切な人。
最初にそう言ってくれたら、後藤を好きにならなかったかもしれない。
もっと近道出来たのに、と思う。
それとも、矢口にとって自分はその程度の存在だったのだろうか。
「ねぇ、教えてよ。」
だとしたら、こんなに面倒見てくれるのはどうして?
- 81 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月09日(金)19時16分01秒
- 半開きの口をつっつくと、矢口は顔をしかめた。
「なっちのこと、どう思ってたの?」
それから今は?
『矢口がなっちを好きだったら、なっちも合わせて好きになるの?』
そうじゃない。そうじゃないけど、気が付くと矢口のことばかり考えていた。
何も言ってくれないから、余計気になる。
それだけなのか、それともやっぱり好きなのか。
なっちは立ち上がり、明かりの差す窓辺に移動した。
イスに座り、窓枠に肘をついて空を見上げる。
眩しいくらいの月が、光を広げて降りてくる。
手を翳すと指輪が光を弾いて、キラキラと細かい粒子に変えていく。
それが綺麗で、綺麗すぎて息が苦しくて、それでもずっと見つめていた。
どうか記憶が戻りますように、と祈りながら。
- 82 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月09日(金)19時16分39秒
- 「何やってるの?」
いつの間にか起きた矢口が、眠そうに目を擦りながら横に立っていた。
「月。」
「月?」
「見て。すっごい明るいの。」
なっちの座っているイスの手摺に腰掛けて、矢口も空を見上げた。
「うわっ、すごい眩しい。」
「でもキレイだべ。」
「まぁね。」
それからふたりで何を話すでもなく、ただぼんやりと月を見上げていた。
何も話さなくても気まずい空気が流れないのが、なっちには不思議だった。
この月夜の所為なのだろうか。それとも矢口だから?
眠そうな顔をしながらも、矢口がベッドに戻る様子はない。
なっちはそんな矢口がたまらなく愛しかった。
懐かしい感情。抱き締めたくて、でもそんなことしたら、
また昼間と同じことになりそうで少し躊躇われる。
- 83 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月09日(金)19時17分20秒
- 「ねぇ、やぐち。」
「なに?」
でもやっぱり何かしたくて、矢口の腕を掴み、引き寄せた。
「わっ…」
バランスを崩して自分の方に倒れ込んでくる矢口。
ふたりの目が合うとなっちは矢口にキスをした。
矢口の唇は寝起きの所為か乾いていて、なっちの唇がそれを潤わせる。
そっと離れると、矢口は固まったままなっちを見ていた。
「お…、怒った?」
「怒りゃしないけど、き、急にどうしたの?」
「なんかね、矢口が可愛くって。」
と、矢口は突然なっちの手を振り払って立ち上がると、
怒ったような口調で捲し立てた。
「そんなに矢口のことおちょくって楽しいの?」
「おちょくってなんてない。」
「じゃあなに?昼間だってそうじゃん。好きになるのならないの。」
「矢口はなっちのコト嫌い?」
「嫌いじゃないよ!」
「じゃぁ、なんで怒ってるの?」
「いくらなっちのコト好きだからって、
気紛れに付き合ってられる程心広くないのっ!」
- 84 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月09日(金)19時17分54秒
- 瞬間、頭の奥の方で、何かが弾けるような音がした。
その後、じわじわと胸にこみ上げてくる。
「…今、好きって言った?」
ハッとする矢口にすかさず確認する。
「いっ、言ってないよ…。」
「言ったべ。今、言ったべ。」
驚くよりも、嬉しい方が先立った。
「い、いいからもう寝るよ。」
影になって分からないけど、照れてるんだろう矢口の背中を追ってベッドに戻る。
一人でさっさとシーツを被ってしまった矢口をつんつんと突っつく。
「一緒に寝ようよ。」
なっちはくくっと笑いながら言う。
それに対し、矢口はバタバタと足をバタつかせて抵抗しながら、
子供みたいに叫んだ。
「やめてっ!」
怒ってないのが分かるから、なっちは笑いながら自分のベッドに戻った。
そして今度は眠れそうだと思いながら、ゆっくりと目を閉じた。
- 85 名前:茜 投稿日:2002年08月09日(金)19時22分25秒
- なんとか今週中に更新です。
少しだけですが(苦笑)
>78斉藤電気サマ
褒めてくださってありがとうございます。
わかりやすい文章…だと良いですが。
私も斉藤電気サマの小説、欠かさず読んでますので、
お互い更新頑張りましょう。
>79読んでる人@ヤグヲタサマ
今回矢口素直になりましたよ〜、多分。
っていうより勢いって感じですが(苦笑)
冷静に考えるとあと2・3回の更新で最後まで行きそうです。
せっかくこのスレッドを作ったので
新しい小説でも書こうかな、とも考えてます。
パラレルとか…?
- 86 名前:斉藤電気。 投稿日:2002年08月10日(土)01時00分29秒
- かなりイイ!!!めっちゃおもしろいです!
続き期待します!
- 87 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月11日(日)00時13分12秒
- おお!なちまりになってきましたね。
続きが楽しみです。
- 88 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月11日(日)17時20分04秒
- 良い方向に動き出したみたいですね。
続き楽しみに待ってます。
- 89 名前:nanas 投稿日:2002年08月12日(月)00時28分55秒
- http://isweb43.infoseek.co.jp/diary/rraa/cgi-bin/cc1/image/rika2002_st0258.jpg
- 90 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月13日(火)10時22分42秒
- なちごまもいいけどなぁ。
- 91 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月17日(土)12時32分32秒
- なんかいい方向に進んでよかったです。
新しい小説もなちまりにしてくれるんでしょうか?
- 92 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月17日(土)19時48分33秒
「ちょっといい?やぐっちゃん。」
コンサートの後、ホテルへ戻ると気晴らしに屋上に上った矢口は
突然名前を呼ばれて振り返る。
「ごっちんか…。」
いずれ後藤と話さなければならないことがある、
と思っていた矢口は不意に緊張する。
後藤が何を話し始めるのか分かるから少し怖い。
自分はなんと言えばいいのか、まだ分からないから。
「後藤ね、なっちのこと好きだよ。」
矢口の隣に来ると手摺りに寄りかかって話を始めた。
その言葉に不快感があった。
なんなんだろう、この気持ち。
「でもね、やぐっちゃんがいるから仕方がないと思ってたの。」
後藤の話し方は回り道がなくて、直球勝負で来る。
なんて返事をして良いのか分からなくて、矢口は俯いてしまった。
「今なら平気かなって思った。
でもやっぱりなっちはやぐっちゃんが好きなんだよ。」
「そんなことない…。」
「そんなことあるんだ。」
後藤の声は震えていたけれど、強く言い切っていた。
- 93 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月17日(土)19時49分09秒
- 「やぐっちゃん、もっと素直になりなよ。」
「分かってるよ。」
矢口は口を尖らせた。
「分かってないから冷たいんじゃないの?」
「分かってるけど、…分からないの。」
まるで叱られた子供のように拗ねた口調で呟く。
「なっちにとって矢口は思い出なのか、現実なのか…。」
それから矢口は堰を切ったように喋り出した。
「最初の頃はね、ひまわりの話するとすっごい嬉しそうで。
それは唯一覚えてることだったからだと思うの。
今の矢口もそれと一緒なんじゃないかと思っちゃって…。」
「今度のオフも誘われてたね。」
「見てた?」
「うん、テキトーに断ってるなぁ、って思った。」
「だって、『デートしよ』ってさ、からかってるのかな?って思わない?
この前まで後藤が好きだって言ってたのにさ。」
「結局、やぐっちゃんはなっちのこと全然見てなかったんだね。」
後藤は冷たく言い放つ。
- 94 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月17日(土)19時49分48秒
- その言葉に矢口は思わず後藤の顔を見上げる。
後藤の顔は強張っていた。
「なっちは記憶を失う前と全然変わってないよ…。
なっちは好きな人には好きって言うし、
大切なコトはごまかさないでちゃんと言うでしょ。」
後藤はとうとう泣き出してしまった。
あんまりにも可哀相で矢口の慰めようと伸ばした手は払われてしまった。
「なっちのそういうところ、一番分かってるのはやぐっちゃんじゃないの?」
後藤はそう叫ぶと走って屋上から消えてしまった。
矢口は空の方に向き直るとそっとため息をつく。
手のひらを翳してみる。
繋いでいないとすぐに冷えてしまう、薄い温もりを思い出す。
「だって、期待したらダメだっていつも自分に言っておかないと、
後がツライじゃん…。」
- 95 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月17日(土)19時50分18秒
「生まれ変わってもやぐちが好きだよ。」
小さな声でゆっくりと呟いてみる。
今なら分かる。
そう言った時の自分の気持ち。
矢口と過ごしたエピソードなんて、ひとつも思い出せなかったけれど、
自分の中に広がっていく想いだけはきっと過去からあるものだと確信していた。
好きになった瞬間とは違う、もっと静かで包み込むような感情。
これはホンモノだと思った。たとえそれが片思いでも。
「じゃあ、もう後藤のことはいいんじゃない?」
育ってきているひまわりの葉を引っ張りながら、後藤が言う。
「…そんなこと、ないよ…。」
指輪を眺めながら、ふたりのことを考える。
「ちゃんと矢口と話そうと思うんだけど、なんか上手く言えなくて。」
「それが上手くいってる、って言うんじゃないの?」
「そうかなぁ。」
- 96 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月17日(土)19時51分08秒
- 首からかけている指輪をいじるのが癖になっていた。
これがあったから頑張れた気がするのは、後藤を好きだったからだと思う。
けれど肝心なところで自分を支えてくれたのは、いつも矢口だった。
「ここのところ、やぐっちゃんでめいいっぱいだったからね。」
記憶に振り回されていた部分もかなりある。
でもこの気持ちは決して感謝の気持ちなんかじゃない。
もっと優しくて、ずっと苦い。
「やぐっちゃん、呼んでこようか?」
「呼んでも来ないべ、きっと。」
何気なく言ったなっちの一言に、後藤は感心したように頷いた。
「だんだん分かってきたんじゃない?」
「へ?」
「やぐっちゃんのこと。」
「そう?」
ちょっと嬉しそうななっちを見て、後藤はもう一度話を戻してみた。
- 97 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月17日(土)19時51分45秒
- 「後藤のことは?」
途端に口籠もるなっちは、少し困った表情をしていた。
「…そう聞かれると、あんまり知らないのかもしれない?」
なっちはとまどいがちに後藤の顔を見上げる。
後藤はまるで諭すように言葉を選んでいた。
「たくさん知ってるからって言って好きって言う事じゃないと思うんだけど、
知りたいって思うことは好きってコトなんじゃないのかな?」
なっちは黙っていた。
考え込んでいるのかと後藤がなっちの顔を覗き込むと、
なっちの目からボロボロと涙が溢れていた。
「あっあっ、言いスギだったよね、ごめん、後藤気が利かなくて…。」
謝る後藤に、逆になっちが抱きついた。
「そうじゃない。そうじゃないの…。」
なっちは後藤の服を強く引っ張った。
「好きだったの。ホントに好きだったんだよ、ごっちん…。」
自分でもどうしようもない涙を流して、少し混乱しているなっちを宥めるように、
後藤はなっちの背中に手を回し、包み込むように抱き締めた。
「…分かってるよ。」
そしてなっちが泣き止むまで、後藤は長いことそうしていた。
- 98 名前:茜 投稿日:2002年08月17日(土)20時00分58秒
- ほんっっと久しぶりの更新でスミマセン〜!!
>86斉藤電気サマ。
レスありがとうございます!
続きを期待してもらえるとホントやる気が出ますね〜。
斉藤電気サマも頑張って更新して下さい!
>87名無し読者サマ
結局本人がなちまり好きなんで、なちまりになりますね〜。
なちまり好きな方がいると嬉しいですよ!
>88読んでる人@ヤグヲタサマ
今回で最後の一山?を超えた感じです。
もう、あとはなちまりに一直線!ですよ。
>90名無し読者サマ
なちごまじゃなくてスミマセン。
でも、今回の更新分で良い雰囲気で失恋にして見せたんですが…。
お互い失恋っぽい感じで…。
>91名無しさん
新作も多分なちまりかな?
なちごまと揺れますが、最近の矢口萌えはひどいですから(笑)
- 99 名前:茜 投稿日:2002年08月17日(土)20時03分17秒
- 少しの更新でスミマセン。
もうすぐ旅行に行ってしまうのでそれまでに完結せねば、と思ってます。
といいつつ、このお話は多分次回で最終回です。
やっぱり短編しか書けなかったので、残りは新しい小説を書きます。
次回は多分学園ものになると思います。
どっちにしろほのぼのしか書けませんが…(苦笑)
it's a beautiful day最後までよろしくお願いしますね。
- 100 名前:91 投稿日:2002年08月18日(日)18時37分27秒
- 私もなちまり好きなんです。
頑張ってください。
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)21時35分49秒
- 終わってしまうのは寂しいですがラストスパートがんばってください。
次回もぜひなちまりで!!
- 102 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月19日(月)18時57分31秒
- 次が最後ですか・・・最後、甘いなちまりを期待します。
そして次回作もなちまり希望!!
- 103 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月20日(火)23時50分19秒
- オフ前最後の仕事が終わって、楽屋で変える準備をしているなっちがふと、
思い出したかのように後藤の方に歩み寄っていった。
「ごっちん、これ、貰ってくれる?」
なっちが手を開いて見せたのは、後藤があげた、あの指輪。
後藤はそれを受け取りながら微笑む。
「思い出した?」
「ううん、でもね、一番大切なことは思い出したから。」
「決心ついたんだ?」
「ひまわりも咲いたし。」
ちょっぴり苦笑いをしながらなっちは言った。
「そっか。…頑張れよ。」
「うん、いろいろ、ありがとう。」
「そ〜いうことはやぐっちゃんに言うの!」
その言葉になっちはにっこりと微笑むと、
荷物を持ってメンバーにバイバイ、と手を振って出て行ってしまった。
後藤はなっちから貰った指輪を眺める。
そういえば、この指輪はぴったりのサイズに買ったんだった。
そっと左の薬指に指輪を嵌めた。
でも。
なっちを想う、この片思いは終わったんだ。
今でもなっちが好きだけど。
なっちのコトはもういいって、あの日そう決めていっぱい泣いたんだ。
もう、過去の話なんだよね、と後藤は呟くと指輪を外し、ゴミ箱へ捨てた。
- 104 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月20日(火)23時51分57秒
- 誘いを断ったものの、何処にも出かける気がしなくて、
矢口は部屋でごろごろとしていた。
窓からは暑いくらいの陽射しが差し込んでいる。
こんなに良い天気だというのに、気分は悶々として同じことばかりを考えていた。
後藤の言いたいことは分かっている。
自分が臆病なんだってコトも分かっている。
記憶がなくなる前、いつもしてもらうばかりだったと反省していたのに、
こうしてみると記憶がなくなったなっちにすら、何かしてもらえる気がしてる。
なっちのコトが分からないとぼやいていたあの頃と、なにも変わっていない。
進歩しない自分に改めてガックリしていると、
相槌でも打つみたいにケータイが鳴った。
ケータイに手を伸ばしながら真っ先になっちの顔が浮かんでくる。
こんなときまでなっちのコトを考えている自分にため息をつくとディスプレイを見た。
「なっち?」
僅かに震える手で通話ボタンを押す。
- 105 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月20日(火)23時52分29秒
- 「ハイ。」
「やぐち?」
本当に聞こえてきたなっちの声に動揺しながら、でも平静を装う自分がまた可愛くない。
それも分かっている。
「どうしたの?」
「今どこ?」
それはこっちが聞きたい。
自分で誘いを断ったくせに気になっている自分。
どうしようもなくやるせないのは自分自身だってコトも分かっていた。
「部屋だけど。」
「良かったぁ〜。家のそばまで来てると思うんだけど、道分かんなくて。」
「は?」
「矢口の家、どこ?」
- 106 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月20日(火)23時53分17秒
- 数分後、矢口は息を切らせて公園にやってきた。
「矢口がそんなに息切らしてるの、初めて見た。」
ブランコをこぎながら嬉しそうになっちは笑った。
「なっちねぇ、道も知らないのにうろうろしちゃダメでしょ〜。」
仮にも芸能人なんだから。
「行くべ?と思ったら思った以上に体が覚えてて平気だと思ったんだべ。」
「平気だと思ったって…そんなんじゃ不確かじゃん!」
矢口は隣のブランコに座るとこぐのをやめろ、と合図した。
なっちはこぐのをやめるとブランコの振れる幅は狭まっていった。
「だって、会いに来たかったんだもん。」
あまりにストレートすぎて、矢口は返答に困り、黙ってしまった。
けれど、なっちは構わずに続ける。
「ごっちんにね、指輪返したの。」
「なんで?なんか思い出したの?」
なっちは勢いよく首を振って、けれど嬉しそうに報告する。
「でも、もういいの。一番大切なこと思い出したから。」
「なに?」
「矢口のことを好きって気持ち。」
「なっち、また…」
今度はとても真剣な顔で。
「ホントだよ。本当に思い出したの。」
なっちは両手で包み込むように矢口の手を握って、もう一度言った。
- 107 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月20日(火)23時54分30秒
- 「矢口が好きだよ。」
「ごっちんは?」
「ちょっと寄り道しちゃったけど、
ホントに好きなのは矢口だって分かったから。」
寄り道したのは自分の方だ。
こんなにややこしくしてしまったのは、事故でもなく、なっちでもなく、
素直じゃない自分だと、ようやく気付いた。
「矢口は?」
「…うん。」
「それじゃ分からないべ。」
今、うやむやにしたら、この手を離したら、
もうこの手のひらがぬくもることはないだろう。
「何?」
『ちゃんと返事してね。』
矢口はなっちの目を真剣に、真っ直ぐ見た。
「好きだよ。」
- 108 名前:it's a beautiful day 投稿日:2002年08月20日(火)23時55分12秒
- なっちはその答えに満面の笑みで矢口に抱きついてきた。
「なっち、すっごい幸せ!」
「なっち…。」
服越しに感じる温もりが嬉しくて、矢口もなっちの背中に手を回した。
「今日、思い切って良かった…。」
なっちは抱きついたまま話す。
「ひまわりが咲いたからね、ちゃんと言おうって思ったの。」
ひまわりのおかげなんだよ、となっちは笑って矢口の顔を見る。
矢口にはその笑っているなっちの顔がひまわりみたいに可愛くて、幸せだった。
「ひまわりに、お礼言わなくちゃね。」
なっちの方を向くと、すぐ近くに顔があった。
どちらともなく目をつぶる。
そっと触れた唇がとてつもなく愛おしい。
やっと踏み出した一歩は、お昼の日向の匂いがした。
- 109 名前:茜 投稿日:2002年08月20日(火)23時58分03秒
- これでit's a beautiful dayはおしまいです。
今は次回作に取りかかっているのでもう少しお待ち下さい!
初めてのちゃんとした小説で
ちゃんとしていない部分がいっぱいあったと思うのですが、
なんとか最後までいって良かったです〜。
今までホントにありがとうございました〜。
- 110 名前:茜 投稿日:2002年08月21日(水)00時02分59秒
- >100 91サマ
ありがとうございます〜。
この小説書いてて以外といっぱいなちまりな方がいて嬉しいです〜!
>101 名無し読者サマ
なんとか終わりました〜。
次回も多分なちまりになると思います!
お楽しみに〜!
>102 読んでる人@ヤグヲタサマ
甘々になったでしょうか?ちょっと心配だったり。
次回作も甘々を目指しますね。
次回作は9月に入ってからかもしれません。
希望的には8月末から始めたいんですけどね(苦笑)
- 111 名前:斉藤電気。 投稿日:2002年08月21日(水)02時30分32秒
- 完結おめでとうございます〜!!!感動しました!
いや〜、やっぱりなちまりいいですねぇ…
次回作もかなり期待して待ってますんで頑張って下さい!
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月21日(水)06時34分12秒
- おつかれさまです。
ステキなお話をありがとうございました。
なちまり大好きなので、次回作も楽しみにしています。
- 113 名前:累 投稿日:2002年08月21日(水)11時12分57秒
- やはりなちまりはいいですね。
次回作にも期待してます。
- 114 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月21日(水)13時54分10秒
- 脱稿お疲れ様でした。
途中、「このままなちごまになってしまうんでは?」と、
なちまり好きの自分としては心配したんですが、
しっかりとなちまりで終って良かったです。
では、次回作も楽しみに待ってます。
- 115 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月20日(金)01時00分00秒
- この小説すっごいよかったです!
なちまり最高。
期待してます。待ってます。
- 116 名前:茜 投稿日:2002年09月30日(月)17時42分09秒
- こんにちは。ながらくお待たせしてしまってすみません!
予告よりも1ヶ月ほど遅くなりましたが(汗)
そろそろ新作を始めようと思います。
予告していた学園パラレルもの。
実はまだラストの方が決まってなかったりするのですが、
書き始めるのがのびのびなのもよくないと思いまして。
メインで出てくるのはなっち、矢口、中澤です。
それではよろしくお願いします。
- 117 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年09月30日(月)18時08分22秒
- 静かな老化を、足音がしないようにゆっくり歩く。
階段を下りて一階に着くと、
すぐ横の購買でお昼ご飯を買って、2つ隣の保健室に入る。
中には先生がいるけど、普通に挨拶をして通り抜ける。
ストーブの向こうにあるドアから、芝生の枯れていない、
とっておきの裏庭に出るのがいつものコース。
ドアを開けると、ひんやりとした空気が気持ちいい。
この時間になると、ここは真冬でも暖かくて、強い寒さを感じない。
裏庭は少し下り坂になっているから、
ちょっと下りれば保健室からも見えない絶好の場所。
4時限目の授業をサボって、これから少し早い昼休みなのだ。
「なっち。」
振り向くと、白い息を吐きながら出てきた矢口が、ニコッと笑って歩いてくる。
「やっぱここにいたんだ。」
- 118 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年09月30日(月)18時09分16秒
- 「そ。古文の授業ってなんか息詰まっちゃってね、ダメだべさ。」
「矢口は全部息詰まってるけど。」
そういって隣に腰を下ろした。
「そうだろうねぇ。」
「で、ご飯は?」
矢口はなっちの話より手元の袋が気になるらしく、催促してきた。
なっちはビニール袋を持ち上げてそれを見せる。
「矢口の分も買っといた。」
「さすが。頼れる先輩です。」
言いながら矢口は袋をガサガサとかき回して、勝手にパンを取り出している。
「できの悪い後輩を持つとね、心配で。」
矢口とはずっとサボリ仲間なのだ。
最初は身長の割に態度がでかいから先輩かと思っていたから、
歳が分かったときは一瞬敬語を使われたけれど、
お互い気持ち悪いからすぐやめた。
矢口はなっちなんかより、ずっと素直で無邪気で、可愛らしい後輩なのだ。
「ところでさ。」
モゴモゴしながらこっちを向く矢口はやっぱり子供みたいだ。
「ゆうちゃんって、ホントにずっとここにいんの?」
そうだ、そのことをぼんやり考えようと思ってここに来たのに、
すっかり忘れてた。
- 119 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年09月30日(月)18時09分58秒
- 「うん、一応先生だからね。」
「幼なじみが先生って、やりにくくない?」
矢口は何度かうちに遊びに来ているから、ゆうちゃんのことも知っている。
「わかんない。まだあんまり授業受けてないし。」
「そっか。」
「矢口はキライ?ゆうちゃんのこと。」
「別にキライじゃないんだけどさ。何かって言うと話しかけてくるんだよ。」
「うざいの?」
なっちが言うと、矢口は笑って頷いた。
「ちょっとね。」
「あ〜あ、そんなこと言ったらへこんじゃうべさ、ゆうちゃん。」
「言うなよ!」
「言わないべ。」
低い空に広がった雲が、ゆっくりと太陽を隠していく。
とたんに周りの気温が下がっていく気がして、
身を縮め、雲が通りすぎるのをじっと待つ。
その度になっちは、胸に流れるこの穏やかな気持ちが、
じっとは続かないってコトに気づくんだ。
矢口がどう思っているのかは知らない。
でもなっちは、ゆうちゃんがこの学校を選んだのは、矢口の為だと確信していた。
- 120 名前:茜 投稿日:2002年09月30日(月)18時13分15秒
- ちょっとだけの更新ですみません!
しかも初っぱなから間違いを。
>>117 1行目。
「静かな老化を」→「静かな廊下を」
漢字変換には気を付けます。
時間があれば明日も更新を行いたいと思います。
レスを下さった皆様、前作を読んで頂いてありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
- 121 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月01日(火)02時56分55秒
- 待ってました。
新作がんばってください。
- 122 名前:累 投稿日:2002年10月01日(火)03時20分08秒
- お待ちしてました…
今回もなちまりだと嬉しいなぁ
- 123 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月01日(火)19時40分08秒
- 新作、お待ちしていました!
今回の作品も激しく期待してます。
- 124 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)21時46分25秒
- 裕ちゃんとなっちが幼なじみなんですか?
- 125 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時48分55秒
- 「うちの学校?」
なっちは中澤の部屋に入るより早く、彼女の驚くべき転職先を聞かされた。
唖然として、ドアの前に立ち尽くす。
だがまるで気にしない様子で、
なっちを部屋に促しながら中澤は嬉しそうに続ける。
「そ、新学期からは昔みたいに、仲良う一緒に登校しよな。」
隣の家の幼なじみが、例え臨時講師とはいえ、
自分の先生になるなんて考えてもみなかった。
「やだ〜、先生なんかと通うの〜。」
「先生…、いいわぁ、その響き。これからはずーっと聞けるんやなぁ、それ。」
学校で裕ちゃんに会えるのは、ちょっと楽しそうだと思ったけれど、
先生と仲がいいっていうのは他から見てどうなんだろう?
「裕ちゃんにごちゃごちゃ言われる回数が増えるってことだべさ。」
この人、結構口うるさいもん。
- 126 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時49分30秒
- 「言われるようなことしてんの?」
「してないべっ!模範的生徒だべさ、なっちは。」
「ならいいけど。」
良くない。
何が良くないか上手く言えないけど。
それに、心配なことが一つだけあった。
「なぁ、なっちゃん。矢口って何組だっけ?」
ほら来た。
「知らないべさ。学校来てから名簿で調べたいいべ。」
「なんやねん。そのくらい教えてくれたっていいやろ。」
そうだけど、この程度の意地悪はいいよね、と自分に言ってみる。
分かってたんだ。最初に矢口に合わせた時からね。
- 127 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時51分05秒
先生になったって言っても、相変わらず勝手に部屋に入って来て、
勝手にくつろぐのは変わらない。
変わったのは、最初に予想していた通り、
口うるさく言われる回数が増えたことくらい。
「なっち、またサボってたやろ。」
「なんでさ?」
「授業中、なっちが廊下歩いてるのが見えた。」
「保健室に薬もらいに行ってたんだべさ。」
「矢口もいなかったけど?」
どうやら矢口は裕ちゃんの授業を抜けてきたらしい。
裕ちゃんったら可哀相に。
「はいはい。矢口の行動には敏感だもんね。だから内の学校にしたんでしょ、本当は。」
「な、何言ってんの、この子は〜!!」
言いながら顔は赤くなっている。
こういうのを『顔に書いてある』って言うんだ。
だって、書いてあるんだもん、『好きです』って。
まぁ、矢口は気付かないだろうけど。
- 128 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時52分04秒
- 「でもなぁ、矢口。最近リアクション冷たいねん。
やっぱり教師はキライなんやろか。」
「そうじゃなくて、また捕まえてしつこく話してたんじゃないの?」
「ひどい言い方やなぁ、もう。しつこくなんてしてないって。
矢口だってちゃんと話聞いてくれてるし。」
「それって裕ちゃんが可哀相だから聞いてくれてるんじゃないべか?」
「そうなんやろか…。」
なぐさめるつもりが、逆に叩いてしまって、
裕ちゃんをちょっと凹ませてしまったみたいだ。
やっぱりなっち、どこかで自分の思いが引っ掛かっている。
「矢口、うちのこと、何か言ってた?」
裕ちゃんがすがるような顔でこっちを見る。
こうなると、言い過ぎたかなぁ、と反省させられる。
「ううん、特には…。」
まさかうざいなんて言えないし、
代わりの言葉も見つからないから、曖昧に答えた。
「そう…。」
それがよけいに哀愁を誘ってしまったのか、
一層暗いオーラが裕ちゃんから沸き上がってくる。
「そ、そんなに落ち込むことないべさ。なっちも協力するべ!」
あんまり切ない表情をするから、
思わず心にもない言葉が口を突いて出てしまった。
「ホントに?」
裕ちゃんの顔に、少しだけ明るい色が浮かぶ。
- 129 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時52分43秒
- ホッとしてまたしても自分の首を絞める発言を繰り出した、バカななっち。
「うん、ホント、ホント。」
でも、そんな気持ちなんて全然分かってない裕ちゃんは、
めちゃめちゃ嬉しそうに、力一杯なっちを抱き締める。
「持つべきものは友はやね〜。」
この時、胸がぎゅっと掴まれたみたいに苦しくなった。
裕ちゃんの腕の所為だと思って、なっちはその腕を押し返す。
「苦しいべ!」
「あ、悪い悪い。」
でも、離れてもその痛みは消えない。
これがなんていう感情なのか、気付かないフリを続けて、
いったいどのくらい経っているのだろう。
日を増すごとに、この痛みは強くなり、
ここ最近は特にひどくてなっちを悩ませる。
「なっち?」
「あ、ごめん、ごめん、どこか行ってたっぽい。」
「おいおい、大丈夫なん?」
肩を叩かれても苦笑いを返すのが精一杯で。
「裕ちゃんよりはまともだべ。」
そう、なっちはこの人を…
「なんなん、それ!」
どうしようもなく好きになっていた。
- 130 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時53分16秒
退屈な物理の授業で眠らないために、向かいの校舎に目を移す。
2年の教室で、裕ちゃんが授業をしているのが見える。
ちゃんと聞いてもらえているのかな?
なっちみたいに授業中規定内生徒ばっかりだったら、
あの人、また凹んじゃうからなぁ。
と、窓際で欠伸をしている矢口と目が合った。
ほら、早速聞いていない生徒がいる。
矢口はニコッと笑って、裕ちゃんの方を指さす。
なっちもそれに笑って返す。
裕ちゃん、肝心の矢口が聞いていないけど、いいの?
と、矢口の横に立ち止まる影。
裕ちゃんだ。
矢口と頭を教科書でバシッと叩いて何か言っている。
きっと、得意のお説教なんだろうな。
と、予想外にこっちに視線が動いた。
裕ちゃんは一瞬怒ったような顔をしたけれど、
ニッと笑って教壇の方に戻っていった。
ホッとして笑ってしまう頬を必死で戻しながら、なっちは教科書に向き直る。
けれど、ちょっと遅かったらしい。
なっちの前にもなにやら影が立ち止まった。
「楽しそうねぇ、安倍さん。」
顔を上げると、担任が嫌味な笑顔で見下ろしている。
「いや…、それほどでも…。」
「後で職員室に来なさい。」
- 131 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時53分53秒
- 職員室に入ると、一番手前の机にいる裕ちゃんと目が合ってしまった。
なっちはバツが悪くて、ちょっと目を伏せて横を通り過ぎる。
担任の所に行くと、いきなりため息を吐かれた。
「最近、どうも落ち着きがないわね。」
どう答えたらいいのか分からなくて、とりあえず黙っておいた。
「あなたの場合、成績はいいから、書類上の問題はないんだけどね。」
視界の隅で裕ちゃんがこっちを見ているのが分かる。
見てるんだったら助けてよ。
と、ガラガラとドアが開く音がして、
ちらりと視界をずらすと、矢口の姿が目に入った。
まっすぐに裕ちゃんの所に歩いていく。
あ、そうか。職員室に呼び出せるのは教師の特権だもんね。
声は聞こえないけど、お説教にしては二人とも楽しそうに話している。
なっちはなんだかなんだか急に居心地が悪くなって
…いや、元々居心地が良かった訳じゃないけど。
なんでもいいからこの場から去りたくて、
自分でも気持ち悪いくらい素直に担任に頭を下げた。
- 132 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時54分28秒
- 「すみませんでした。」
担任もそう来るとは思ってなかったみたいで、
一瞬手に持ったペンを落としそうになっていた。
「あ…まぁ、分かればいいんだけどね。」
なっちはいとも簡単に釈放され、
担任の気が変わらないうちにさっさと職員室を出ようと、
ドアに向かってどんどん歩いていく。
二人の側を黙って通り過ぎようとした時、矢口が振り向いて声を掛けてきた。
「昼ご飯、買いに行く?」
「大丈夫だよ。ちゃんと矢口の分も買っておくから。」
仕方なく立ち止まって答えると、矢口はいつものようにニコッと笑って言う。
「ありがとう。」
その間、なっちは一度も裕ちゃんの方を見られないままで職員室を出た。
- 133 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時55分05秒
- 昼休みの裏庭は騒がしくて、落ち着かないからなっちは屋上に足を運んだ。
なっちと矢口は冷たいコンクリートにぺたっと座り、柵にもたれる。
寒くなってきたせいか、屋上は昼休みだというのに、人影も疎らだった。
「裕ちゃん、なんだって?」
「別に、ただの説教だよ。」
それにしては楽しそうに見えたけど。
「なっち、裕ちゃんのこと、好きなの?」
なっちは驚いて思わず矢口に向き直ってしまった。
「な…、んなわけないべ!」
「ふ〜ん、。ならいいけど。」
「矢口は?裕ちゃんのことどう思ってるの?」
「それなりに好きだよ。」
「え?」
「それなりにだよ。」
やる気のないコメントだ。らしいと言えばらしいけど。
「あ、でも明日遊びに行く約束した。」
急に思い出したのか、あんまりさりげなく言うから、
思わず聞き流しそうになった。
- 134 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時55分35秒
- 二人で?」
「うん、なっちも行く?」
そんなの、行けるわけないべ。
邪魔したら怒られちゃうし、
裕ちゃんのデートプランにはなっちの参加項目はないだろうからね。
それに、二人で姿を笑って見ていられる自信がない。
「まぁ、ワガママ言って、裕ちゃんを困らせてきなよ。」
「あ〜、それかなり面白そう!」
矢口は結構楽しそうだけど、
裕ちゃんはきっといっぱいいっぱいなんだろうな。
そう思うと、なっちまで面白くなってきて、自然と笑いが込み上げてくる。
「何笑ってんの、なっち。」
「なんでもないべさ〜。」
ひとしきり笑うと、やっぱりちょっと寂しい気分になる。
だって、二人で仲良くお出掛けだよ?どこに行くかは知らないけど…。
そんなことばかり考えていたら、
なんだか急に裕ちゃんに会いたくなってきた。
矢口も午後の授業の準備があるから、とか言ってるし、
なっちたちはいつもより早く屋上を後にした。
- 135 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時56分22秒
職員室を覗いたけれど、裕ちゃんの姿はなく、うろうろと校内を探し回る。
と、通りかかった社会科資料室の窓に見慣れた背中を見つけた。
窓枠に肘をついて、張り付くようにじーっと窓の下を見ている。
なっちがわざとガラガラ音をさせてドアを開けると、
その背中はちらりとこっちを振り向いた。
「あぁ、なっちか。どうしたの?」
「裕ちゃんこそ、何してるんだべ?」
「先生って呼べって言ったやろ。」
また窓の外に顔を戻す裕ちゃんにパタパタと駆け寄る。
何をそんなに熱心に見ているのだろう。
「じゃぁ、先生、こんなところでどうしたんですか?」
「ここね〜、絶景なのよ。」
裕ちゃんの肩越しになっちも外に視線を落とす。
そこにはさっきまで一緒にいた矢口の姿があった。
ジャージでうろうろしている所を見ると、午後は体育らしい。
「そんなにマメに矢口の居場所チェックをしてるの?」
「そ、裕ちゃん、けなげやろ〜。」
「…それね、使い方間違ってるべ。」
「そう?」
- 136 名前:winter full of kisses 投稿日:2002年10月19日(土)20時57分01秒
- 答える裕ちゃんはもう、心心地あらず、だ。
なっちは脱力して、そのまま裕ちゃんの背中に覆い被さった。
肩にあごを乗せると、裕ちゃんの耳がちょうど頬に触れる。
少しだけ冷たい耳朶がくすぐったい。
「裕ちゃん。」
「なに?」
「切ない?」
「…そうやね。」
下では矢口が友達とはしゃいで走り回っているのが見える。
「矢口、可愛いもんね。」
そう言うと裕ちゃんは満足げに頷いた。
「なっちもそう思う?だよなぁ、可愛いやろ。」
間近で見る横顔はとても楽しそうで、なっちはちょっとだけ泣きたくなった。
なっちの入り込む余地なんて何処にもないみたいだ。
「なっち、授業が始まるから行くね。」
「うん。」
腕をといて体を離すと、その横顔がますます遠くなる気がする。
なっちは一人で資料室を出た。
一度だけ振り向いてみたけれど、その背中はたった今、
なっちが抱きついたことすら覚えていないようだった。
- 137 名前:茜 投稿日:2002年10月19日(土)21時02分47秒
- 久々の更新ですみません。
いつもよりちょっとだけ多めに更新してみました。
すこし裕ちゃんがストーカーっぽくなってしまい、怖いです…。
そんなつもりじゃなかったんですけどね。
>121 名無し読者サマ
待ってて下さって本当に有り難うございます!
なのに更新で待たせてばかりですみません…。
>122 累サマ
私もなちまりになると嬉しいです。
って、まだラストが決められない自分が悲しいですが…。
>123 読んでる人@ヤグヲタサマ
ホントに期待して下さって有り難うございます。
なんとか期待に添えられるようなものが書ければ良いのですが…。
>124 名無し読者サマ
はい。裕ちゃんとなっちが幼なじみっていう設定です。
ご近所さん付き合い、みたいなかんじで。
次の更新は…来週は出来ません。
暇を見つけて近いうちに更新しますね。
- 138 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)16時04分24秒
- やぐなっちゅー?
- 139 名前:名無し読者。 投稿日:2002年10月20日(日)19時52分48秒
- ツナギメンバー全員好きなので嬉しいです。
- 140 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月20日(日)20時15分52秒
- 確かに裕ちゃんはストーカーっぽいですね(w
この3人好きなので、最終的には3人とも幸せになって欲しい・・・。
- 141 名前:名無し読者。 投稿日:2002年10月21日(月)02時49分29秒
- 今回はなっちが主人公ですか。
茜さんが書く小説の主人公って切な〜くて好きです。きゅーってなるっす。
今回のなっちもすごいいい感じ。
なっちゅーもいいけど、やっぱなちまりになってほしいかな。。。
やぐちゅうはちっと食傷ぎみ。。
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