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ハウンドブラッド Millennium Edition

1 名前:イヌきち 投稿日:2002年07月25日(木)16時26分17秒

 ある日、闇の中、鬼に出会った。


前スレ
ハウンドブラッド 緑板倉庫
ハウンドブラッドSecondEdition 緑板
2 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)16時40分52秒
<  開始まで しばしお待ちください  >
3 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)17時30分36秒
うお!?
はじまるのか!
4 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)18時12分14秒
ガンガッテクダサイ
5 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)19時29分33秒
再開おめでとうございマッスル!
6 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)19時38分42秒
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
7 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)20時16分41秒
キタ━━━(^▽^)━(▽^ )━(^  )━(  )━(  ^)━( ^▽)━(^▽^)━━━!!!!
ああ、再開だ…嬉しすぎる!!
8 名前:名無し読者。 投稿日:2002年07月25日(木)21時12分48秒
イヌきちさん、待ってたよ〜!!!
9 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)21時36分06秒
待ってました!再開楽しみにしてます!!
10 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)23時02分27秒
ハウンドブラッド一番スキ!!!
待ってたよ〜〜待ってたよ〜〜
11 名前:名無し盛り 投稿日:2002年07月25日(木)23時05分28秒
待ってました。楽しみです。
12 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)23時29分04秒
(0;^〜^)<・・・・!(嬉しさに言葉がみつかりません)
13 名前:娘。 投稿日:2002年07月26日(金)00時02分04秒
(・∀・)イイ!!
14 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)00時42分31秒
ついにこの時がきたか♪
15 名前:今までのあらすじ 投稿日:2002年07月26日(金)09時19分30秒
「私はいらないよ。食べたくないの」
「ダメだよ。いいかげんなんか食べなきゃ」

「ダメ。私の目を見て命令して。許可して」
「梨華ちゃんは、あたしの血を飲んでもいいです」

「けど、何かの拍子でどーいう扱いされるのかは、わっかんないわけだ」

「ばけモンなんか好きな人いるわけないよね?」

「ヒトのいい吸血鬼はね、真っ先にニンゲンに殺されるって意味だったのさぁ」 
「吸血鬼の血。嗅ぐとキレるんだ」
「強力な力を持つ諸君等には、力を振るうという事柄についての本当の意味を……」


「目?」
「本当のキュウケツキは噛み付いて血で縛るだけでなく、目でヒトを支配するって」

16 名前:今までのあらすじ 投稿日:2002年07月26日(金)09時21分08秒

「で、わかんないのが実験棟の件」
「『その時間のどこで、移動ルートから外れてる実験棟から因子サンプルを盗んだか』」
「だからぁ。誰か他にいたんだろ、協力者」

「ごとーには言うなよ。いちーのこと。吸血鬼関係のコトに触らせたくないんだよ」
「いちーちゃんのバカヤロォォォォ!」

「変なこと言われなかった?されなかった?」
「市井さんはぁ……すっごく、優しかったよ」
「このままじゃ、石川に喰われるよ」
「――私は、吉澤さんを襲ったりはしません」

『主人とかそーいう契約って、いまからナシにできない?』
「――吉澤も、いつまでもどこまでもニンゲンだしなぁ」

『――そもそも、キュウケツキとはなんなのか?』
『キュウケツキにご執心でも、キュウキュウケツケッキにはご興味ないの?』

「思い出して」 


――未来を、選べ。


「今日で最後や。ビシッと行くで」
17 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時00分30秒
 ようやく、だだっ広いコンクリ広場に到着した。

 高い運転席から、まず市井がおりる。
 市井がうやうやしく差し出した手を取って、安倍がお嬢様のようにふんわり着地。

「いえいえいえ」
「おほほほほ」
 イミなく小芝居をしながら裏に回って護送車の後部扉を開く。

 ごろり。
 マグロのように吉澤が落ちてきた。

 ぷはっと吹き出すお嬢安倍とあんぐりした従者市井の前で、
 マグロは口を押さえて立ち上がる。
 粘土のような顔色をしていた。

「……吉澤、なした?顔が悪いぞ。生まれつき?ぬはははははははははは」
 場を和ますコイキなジョークに、吉澤はおサカナ色の顔を二割増し膨張させた。

 スレチガイざまに鮮度のよい金的蹴り
 ――オンナノコ相手でもリッパな急所攻撃であると市井が教えた――
 を放ってズカズカ歩き去る。
18 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時02分48秒
 とっさの攻撃を半転膝蹴りで受け流した市井は、
 後からのそのそトレーラーを降りてきたノロマなキュウケツキに
「――何さあれ?どしたのさ」

 石川は目を伏せ頭を垂らし両手をだらり下げ、
 ゾンビのようにずるずると歩いていった。

 なんだかなぁと頭に手をやっていると、トレーラーの屋根から後藤が降りてくる。
 髪型が寝崩れて、顔がにぃーっと横に引き延びている。
 爆睡起き立てが見え見えだ。

 先を予想しつつも片手を上げて、
「な、ごとー」
 眠そうな目をつぶったまま三日月型の歩路を踏んでくっきり市井を避けていく。
  
「あららぁ。紗耶香ったらみんなに嫌われてるじゃん。なにしたのさぁ?」
「……一緒に座ってたじゃん。なにもしてないじゃん」
19 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時04分22秒
 訓練地は白いカベと四角い建物の、線と面で構成されたシンプルなステージだ。

 昨日、辻加護組が暴れまくった試験場と同じ場所である。
 壊れたカベ、散らばる瓦礫。乾いた血痕。

 元々の殺風景さにカンカン照りの太陽と生々しい戦火の跡が加わって、
 まるで処刑地のような――作られた戦場の人寂しい雰囲気が漂っていた。
 
 じゃあねとそっと手を振って、安倍は護送車を運転して情報局のある方に去った。
 上方をぐるっと見渡すと、建物の屋上から矢口が銃身をわざと光らせて合図してくる。

 石川がトボトボあっちの方に歩けば、後藤はヌボーっとそっちに散歩。
 吉澤は半壊したビルの影に入って日射しをしのいでいる。
20 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時08分37秒
 各種メンツがスタート待ちの中、市井は作戦を決行した。

 一番与しやすい相手の背中につつつーとスケーターステップで近づくと、
「よっしざわくん」
 きさくな上司のごとく、コウハイの肩をぽんと叩く。
「悩んでいるね。悩んでいるだろう。石川さんと車内で何かあったのかな」

 吉澤が顔を上げた。
 口は閉じているが、どろりとした目で『こいつ信用できねぇ』と訴えている。
 カワイクねぇ。

「や、その、キュウケツキシーカーとしてだよ」
 コホンと咳払い、かつ背筋をシャン。
「石川のことは、いちーがクワシク理解してるだろ?」

 とたん、吉澤はドングリマナコのへの字口になる。
 タンジュン脳ミソの扱いもあんがい難しいのだ。
 感情が先立ちやがって察しが悪い。

「……キャッカン的に。カエルの解剖のように。
 石川のココロをバラバラにして、聖域無き分析ができるのは、
 ここでは部外者で他人でプロのいちーだけなのね。
 優しいマスターのよっちぃにはできないよね?」
21 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時10分53秒
 根性が甘ったるいマスターの額に額をぶつけてごっつんこ。
 目と目を合わせてシッカリ意志疎通を確認する。

「他意はない。誤解のないように、ヨロシク」
「……あぁ、そっかもですね」
 とニブい返事。

「なんだよ。さっきからボケがバケラった顔して。催眠術でもかけられた?」
「……あぁ、サイミンジュツ」
 アホのコみたくオウムかえし。

 暑さにヘバった自分の顔をツルツルなで回して、
「サイミンジュツ……なんか頭んなかぐしゃぐしゃでぇ」

 いきなり、あおあおあー!!と叫んで頭をバリバリかきむしり始めた。
「お、おいおいおい!」
「あぉっあー!わかんねー!わかんねー!
 なんかあしっどがピンクいどにデ!黄のさぐらんすよぉ!」
「んだそれはっ!どこのクニの言葉だ!」 
 バケモノ名:アホノコが進化してヤバイヒトにクラスチェンジ。
22 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時15分08秒
「いーからお前はもう考えるな!」
 ポカリと頭を叩いてどやしつける。
 吉澤はんきゃんと鳴いて、涙目で市井を見上げた。

「ったく……いいよ。石川に聞くから。お前はごとーの相手頼むね」
「へえ?」
 でかい図体して小犬みたいな表情をする。
 こーいう考えナシの甘ったれ目つきは昔のごとーと似てるんだよなぁと
 懐かしく思い、コーハイの頭をくしゃくしゃ撫でた。

「ごとーがあの調子だと」
 遠くの日陰でウツブセて寝てる後藤をチラリ。
「いちーのサポートにゃ一切こないだろうし。
 ヘタしたら、いちーは吉澤と石川のニ対一だろ」
 それはムリムリ、と両手を広げて首を横に振った。
 キュウケツキ一人相手でも勝敗がアヤシくなってきてるトコなのだ。
23 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時23分34秒
「八百長でも一対一の形取ってもらわないと、仕事になんないよ。
 ここはイッパツ、いちーねーさんが石川と拳で語り合って――」
「あたしが市井さんとやるってんじゃダメなんすか?」
「……だから、いちーは石川に話し聞きたいんだってば。ワカラナイヤツだな」
「……別に、今やんなくったって。後でコジンメンダンでもなんでも……」
「話すだけじゃスマナイお仕事もあるの!」
 語気を強めて打ち切ろうとするのに、
「……話と訓練は別々にすれば……」 
 アホのクセに細かいところで粘着だ。

 市井はイヤらしい目つきを作り、
「あー、そうですか。じゃ、アンタ、まともにやってさ、
 ごとーと石川戦わせる気なんだ」
 斜め上のお空に語りかけた。

「また間近で見たいんだ。人狼、バーサス、吸血鬼戦」

 このセリフが戦争被害者吉澤の、ココロのキズアトにクリーンヒットする。
 蒼白になり頭を抱え、ガクガクブルブル震えだした。
24 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時25分15秒
「な?キュウケツキのお姫様はプロに任せて。
 吉澤はうちのごとーと仲良し散歩でもしてなさい」
 怯えたすきに、ナシを付けようと一気に畳みかけると、
「……てか、なんてか……」
 チヂこまった吉澤がもにょる。

「まだ言うのかよ」
「……市井さんって……どーも……なんか……信用できないんだよなぁ……」

 市井は吉澤のフクラほっぺを両手でひっつかんで左右にみよーんと引き延ばした。

「お前トウトウ口にしたな。心で思ってても言っちゃイケないことがあるんだよ。
 わかるかわかれよイイカゲンわかれよ。セケンの仕組みをなぁ?」
「――きょ、ひょへんなひゃい」
「よろし」
 手を離してやり、ぐるっと後ろを向く。
「頼んだよ」

 吉澤に背を向けて石川の方へと歩いた。
 歩きながら、自分の頬を裏手でピシャリと叩いて気合いを入れる。

 さぁ、ツメのお仕事だ。キュウケツキの解剖を始めなくては。
25 名前: 3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時29分24秒
※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
今回更新
>>15-24
26 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年07月26日(金)15時46分16秒
最初はあらすじ挿話を入れてからと思ったのですが、
お待ちして頂いた物とあまりに違うような話でしたので、先に本編を開始させました。

挿話はこの話の終了後にアップしようと思います。

>>3 始まりました。止まらないように気を付けます。
>>4 ガガガガンガリマス。
>>5 ありがとうございマッスル!
>>6 |●)大遅刻ですが、ようやく着き。
>>7 リサ━━━(・e・)━(e・ )━(・ )━(  )━( ^)━( ^e)━(^e^)━━━!!!!
>>8 大変お待たせしまして……。
>>9 ありがとうございます。開始しました。
>>10 ああ、面目ない。
>>11 お待たせしまして……。
>>12 こちらもなんと言ったらよいのやら……ホントに。すみません。
>>13 (・A・)イクナクテ ゴメン!!
>>14 やっと……
27 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)16時12分33秒
フッカツダー!!(゚∀゚ )三 三( ゚∀゚)フッカツダー!!
28 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)19時10分30秒
おかえりなさい。

くやしい…くやしいです。

やっぱ。  やっぱ おもいしろいです。
29 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月26日(金)20時01分29秒
(○; ^〜^ ○)<・・・・!(先々の展開にドキドキ期待nobi*)
30 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月26日(金)20時26分21秒
じゃあね、そっと手を振って♪
ガンガンいってくれ!!
31 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月27日(土)05時43分30秒
フクラほっぺ→(O^〜^)かあいい。

川o・-・)¶<完璧です!
32 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月08日(木)19時13分18秒
このまま落ちたら面白いがそうはさせねぇぜ。
33 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時28分30秒
 外はカラっとした良いお天気で、乾ききったコンクリートは砂を白い粉にして表面に吹いていて、
 後藤は日陰で平たくなっていた。

 どーしてこのキ麗なお姉さんはキ麗なお顔を地べたにひっつけたがるのだろう。
 吉澤はトモダチんちで飼っていた暑さに弱いゴールデンレトリバーを連想した。
 夏になると土を掘り返して穴に潜り、ふさふさの毛皮を泥まみれにしてしまうのだ。
 ドーブツってそういうもんすかね?
 モッタイないと諦めて近づき、
「後藤さん」
 耳の辺りを両手で挟んで頭を持ち上げる。
 さらさらの長い髪が手の指の隙間を流れ、
「ふぁー」
 後藤は吉澤の手から逃げるように横にごろりとした。
34 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時30分51秒
「あつー。ねむー」
 欲求丸出しのドーブツになって、ぺたぺた裏手で地面を叩き、斜め上の吉澤を見上げる。
「ねー、よっすぃ。喉乾かない?おなか空いてない?ひとっ走りして何かもらってこようか?」
「いや……別に……ゼンゼン……」
 なんだか知らないけれど頭は重いし気持ちは悪い。
 口には喉には十円玉の味がネチャついてるし、どうにもこうにも生臭い。

「ああ」
 と、市井にもらったポップキャンディを思い出した。
 ポッケから取り出し、皮をむいて口に突っ込んだところで後藤の視線に気が付いてしまう。
 食べるまで気がつかないのは無神経で、イマゴロ気がつくのは間が悪い。
 バカ正直に目を合わせてしまって、気づかなかったふりも出来ない。
35 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時33分31秒
 飴をくわえてストップした吉澤に、後藤は尻尾を振りだしそうなゴキゲンさで
「ああ、よっすぃ〜、それはいちごミルクなんだねぇー。甘くてせつないあの夏の日の味なんだねー」

 どの夏の日の味かは甚だ不明だが、好物らしい事はよくわかる。
「……食べます?」
 棒付きあめ玉を口からべろっと引っこ抜き、堂々差し出す育ちの良いオネエチャン。
「んー、包み紙の方ちょうだい」
「へぇ?」
「甘みが残ってるから、噛む」
 一方、それを上回るドウブツ育ちに吉澤は諸手をあげて全面降伏。
「いいから。あげる。食べて」
 しゃがんでの口先に出すと、
「じゃー、半分こしよっか」
 がりっと前歯でかじられて、飴はミルクと苺の二層に綺麗に分たれる。
36 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時35分53秒
 後藤の口からボキボキと派手な音が立った。
「……噛むんですか。舐めないんすか」
「よーく噛まないと大きくなれないよ」
「いや、あたしはもう大きくなんなくてもいいし」
 ピントはずれの受け答えをし、ミルク分を失ったイチゴキャンデーを口に入れる。 
 むちゃむちゃ。
 ボキボキ。
 真夏の太陽の目下、無口なおやつタイムがシンシンと過ぎゆく。

 噛む派の後藤が早めに飴をケリをつけ終えて、
「で、よっすぃー。なんでごとーんとこに来るのさ?」
 吉澤。
 むちゃむちゃむちゃむちゃむちゃ……ボキごくん。
「あー。……そのね。市井さんに言われて。後藤さんと対戦しろって」
 告げると、後藤は腹筋を使って静かに上半身を引き起こした。
「よっすぃはバカだなぁ」
37 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時38分49秒
「……バカ?」
 言われて、バカを裏付けるような顔になる。
 目口をぽっかりさせたオバカさんに、後藤は暑さでダラけたムード全開で、
「試験でイイ結果だしたいならさぁー。
 後藤たちと一対一でやってもさー、勝てっこないでしょー。
 石川さんと協力して、アイツをこてんぱんにする方向に持ってくように考えなきゃダメだよ」
 ダラダラと教育を施した。

「……やっぱ、後藤さんは市井さんのサポートする気がないと」
「あたりまえじゃん。なんでごとーが。勝手に来たんだから勝手にやってよ」
 ムッとして断言。
 でも、と続ける。
「サボってると裕ちゃんに怒られるし査定にも響くからねぇ。
 スタートしたら石川さんトコにダッシュして切り込んで、
 マンツーマンはキープしようとは思ってた。
 したら仕事してるように見えると思うし」
 ああ、キキイッパツでした市井さん。
 首から背中から、どっと冷や汗が吹く。
38 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時39分56秒
「あららぁ。よっすぃー大汗だぁ。今日も暑いねぇ」 
 後藤はケラケラと笑うが、汗どころではなかった。
 先ほどからずーっとメマイがしている。
 暑さからなのか、吸血鬼と人狼の戦いを見ずにすんだ安堵からか、戦いを前に控えたキンチョウからなのか。
「それにしても、汚いよ」
「え?……汗?ゴメンね」
「ちがうちがう。そんなん圭ちゃんよか平気。じゃなくて、アレ。アイツ」
 どれ?と戸惑い、思い当たって、ああ、と相づちを打った。
「市井さん?」 

 フキゲンに頷かれた。
「ヒキョーだよ。よっすぃ使って、遠回しにごとーに作戦伝えさせてさ。
 向こうの作戦知らされちゃったからにはさ、こっちは最善つくしてよっすぃの相手しないとさ」
「でもさ、ペアが変わっただけで、マンツーマンなのはかわんないじゃん」
「大違いだよ。アイツよりごとーの方が強いもん。ちゃんとした作戦考えるなら、
 強いキュウケツキの相手は強いごとーがするべきなんだ」
39 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時40分34秒
 それはどうだろう。
 後藤がキュウケツキを目にしてキレることを考慮しているのかもしれない。
 スポーツだと、弱いトコに強いのブツけて早めに潰すって作戦もあるよなぁと考え、
 途中で後藤の言に含まれた前提に気がつく。

「ん?……てことは、あたしは強い方でない弱い方――」
「……あれ?……あいやぁ、そーじゃなくて……違うよぉ、そーじゃなくて……だから」
 言われた方は大して気にもしないのに、後藤一人が泡を食った。
 真剣に取り繕おうと手をばたばた顔をキョロキョロ。
 やがて手持ちのリアクションを使い切った後藤は口をきゅっと横に引き。

「――だってさ、キュウケツキは特別なんだよ」
 吉澤の頭越しに時の向こう側を見る。 
40 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時44分22秒

 もちろんキュウケツキは特別だった。
 人の血肉を喰らうケダモノであり、ヒトの魂を吸い取るバケモノだ。
 おまけにヒトに乗って繁殖するときた。
 焼き畑農業の要領で、ヒトを潰して肥料とし、キュウケツキは増殖する。
 
 ヒトの個の敵、ヒトの種の敵。
 言うなればナチュラルボーン・ヒトの敵。
41 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時45分37秒
 そんな奴らを調べてみたら、狼との関連記事がやたらめったら多かった。
 予期せぬ苦い収穫物にためらいを覚え、保田は作戦司令室で一人嘆息する。

 オオカミの毛皮を着たモノが吸血鬼。
 狼男は死ぬと吸血鬼になる。
 キュウケツキを『狼』と呼ぶ地方の伝承。
 神が自分を模して作ったのがニンゲンだが、
 悪魔は神の真似をして狼を生み出してしまった。
 
 悪魔はキュウケツキ。
 狼は悪魔。
 悪魔。獣。悪魔。
 吸血鬼に関しての記述書は悪魔と獣と狼のオンパレードだった。
42 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時48分11秒
 読み終わった書類の耳をそろえて脇に置いた。
 冷めかけのコーヒーを口に含んで、いったん考えを纏めにはいる。
 
 ――狼についてはうちのクニのジョーシキとずいぶん違うんだ。

 手元のキーを叩いてデータベースに接続し、日本周辺のバケモノ資料を検索する。
 保田にとってオオカミといえば、後藤で市井で一匹で壬生でサーキットだ。
 荒野に生きる狼の姿に自然への崇拝をも重ねてしまう。
 なによりとにかくワイルドでカッチョイイ。

 データベースを流し見していると、史料のら犬神という表記を見つけた。
 ――あら片方は神様で、もう片方は鬼ですか。
 と目を止めた。
 読むうちに、犬神が悪霊であることを知って接続を切断する。

 ――所詮は伝記・奇伝の類だ。
 そのように片づけられたら幸せだった。
 保田の仲間には、神やら鬼やら崇められたモノがいた。
 ソレらにまつわる伝説記述には、それなりに的を射ている部分があると知っていた。
43 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時52分28秒
 目頭を押さえると、ごく当たり前に市井と後藤が連想された。
 日を弾いてきらきら黄金に輝く赤茶の毛並みを持つ大きなわんころ。
 スマートな鼻先をどこにでも突っ込む悪癖持ちのグレイハウンド。

 保田は犬とも猫とも付かないバケモノに変身するが、元々はニンゲンだ。
 昔から犬は――狼はニンゲンたちのトモダチだった。犬族には親しみを持っていた。
 だから保田は、オオカミなんて怖くない。
 理屈抜きの本能が怯えるのはヒト食いの鬼。

 ドンカンな手つきで皿を割り、サンドイッチに鮮血を振りかけた吸血鬼。
 慌てた保田が取ったか細い手はひんやり柔らく、ツクリモノめいた不吉さがあった。
 傷から流れる冷たい血。それをしっとり見つめる目つきに、怖気が走った。
 浅黒い肌の中でヤケに血色の良く見える唇の色は、ぱっくり二つ口を開けたザクロと同色だ。
 血色の粒の奥に、白い歯がぎっしりと潜んでいる。
 やがて実が腐り落ち、大地には白牙が刺しこまれ――
44 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時53分12秒
 引き込まれたのと同様に、滑らかに腐肉の幻想から引き出された。
 現実世界が揺れている。
 揺れているのは自分の五感の方なのだと気がつく前に、保田の網膜上に血の糸が爆発的に網を張った。
 辺り一面が沸騰した溶岩地帯に変わり、視界が溶解する。
 怒りとも悲しみともわからない思いが突き上げた。
 とっさに両手で顔を覆い、慟哭が外部に漏れ出さないように押さえ込んだ。
 机の上に頭を落として丸くなる。
 震えながら腕に爪を立て、五感を揺さぶる外圧に耐え忍ぶ。
45 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時53分44秒
 そして一瞬で元に戻った。
 猫の瞳孔が光に収縮するほど早く、きゅっと世界が引き締まる。
46 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時54分56秒
「圭坊?どないしたん?」
 中澤が気づいた時には、保田はすでに顔を上げ、椅子の背に身を預けて天井を見ていた。
 声に引かれて福田が、飯田が辻が加護が、一斉に保田を見た。
「圭坊?ちょっと?何?」
「圭ちゃん?ちょっと救急に連絡――」

 気の緩みからか、みんなの声が間延びして聞こえた。
 ウルサイ、ウルサイな、なんでもないんだって。
 痛くもかゆくもなく気分も普通。
 睡眠も栄養も十分に取っているし、あたしはそんじょそこいらの手段で死ねない立派なダイハード。
 なのにナゼかナニかがやってきて。
 あっけなく五感の制御を奪われて、意識が歪んだ事実が恐ろしい。
 頭に残た残映は一つ。
47 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)04時59分27秒
「ごめん、ちょっと思い出した。キュウケツキ」
 動揺している自分が自分でショックだった。
 鈴木の反乱の時、もっともダメージが少ないのは自分のはずだった。
 なんていっても廊下の曲がり角、出会い頭にボカリとやられてハイ終わり、だったのだから。
 なのに。
「キュウケツキの本読んでたらキブン悪くなっちゃって。
 やだねー、村皆殺し事件とかエグすぎるわぁ」
「えー、保田さんにも怖がるものあるの?」
 加護に混ぜっ返されて安心する。
「おいおいこらー」
 拳を振り上げて気を騙す。

 本当は。
 あのとき首にこっそりと。
 ザクロの種に似た鬼の牙を、埋め込まれていたのではないだろうか。
 それが今、芽吹いて私の体内に食いつこうとしているのではないだろうか。

 妄想だ。ありえない。
 警備カメラは見ていた。
 保田はビデオで後から事件の惨状を知った。
 保田は部外者にもっとも近い被害者だった。
48 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)05時00分29秒
 「新しいコーヒーでも持ってくるわ」
 と、保田が首筋を撫でながら席を立つ。
 ほどなく辻加護がたわいない話ではしゃぎ始め、それぞれはそれぞれの時間に帰っていく。
 
 中澤だけが保田の席を見つめていた。
 吸血鬼資料の山を見、イヤそうに眉間にしわを寄せてこめかみを叩く。
「昔も今も、その先も――永遠の――なぁ」
 呟いた。
 モニターを操作して、コンクリロードを一人陽気に歩く小柄な狼娘を映し出した。 
 自動追尾するようにカメラをターゲットに固定する。
49 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)05時03分10秒
※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
今回更新
>>33-48

50 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年08月11日(日)05時18分56秒
迷走でも止まらなければ多分勝ち……。
娘の今後も見ながらフラフラしたお話で遊ばせて頂きます。

>>27 (´・ω・`)シボーン確認されないように気を付けます。
>>28 そういって頂けると嬉しいやら怖いやらです。
>>29 次の展開を出すまでに(0^〜^)このぐらいに戻りました(苦笑
>>30 更新の間に「じゃあね」が発表されましたが、こちらはまだまだ。
>>31 吉澤より紺野のほうが(痩せても)ふくらっぽいような。
>>32 それで笑いを取るのは最後の手段にさせてください(……しないよ)
51 名前:名無し狸。 投稿日:2002年08月13日(火)08時45分29秒
初レスです。大好きな作品です。平べったいごっちんに幸あれ。
52 名前:29 投稿日:2002年08月14日(水)16時39分40秒
イシヨシ病のはずの私が、こちらの「わふわふ」なごとーと(^〜^0)の
会話シーンだけはクラクラするほど好きで…。今回の更新は悶絶モノですぅ。
53 名前:福田栄一 投稿日:2002年09月04日(水)01時28分59秒
前スレから読ませていただきましたが、タダモノではないですね。文章の随所に見られる的確かつユニークな表現・人物描写や精密な会話から推測するに、相当の頭脳の方かと…
もしや某国立大学助教授?
54 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月04日(水)18時50分10秒
遅ればせながらHP開設おめです。

>>53
できればレスはsageてね。パパ更新されたかと勘違いしちゃったぞー。
55 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月12日(木)19時35分19秒
つぎはいつですか?

>>54
HPって?
56 名前:イヌきち 投稿日:2002年09月13日(金)14時58分08秒
>>55
すみません、次回更新時にご報告させて頂こうと思っていました。

ホームページを作りました。
娘。小説の目新しいコンテンツはありませんが、私の生存はこちらで確認できます。

http://isweb45.infoseek.co.jp/computer/palmus/

次回更新は、今週末か来週頭に持っていきたいと思っています。
57 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月17日(火)18時16分00秒
そろそろですかね?
58 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時37分56秒
 市井はタリラリランと両手を大回しにして陽気にヨタついていた。
 建物の陰に隠れたモノ、一つ発見。
 白い戦闘服に黒い地肌は、セイギの超獣レンジャーネガポジ吸血ぱんだ。

 ――もとい。 

 森や竹林のノンキな熊さんは、彼女の相方の方である。
 彼女自身は、ほっそりしなやかな肢体を持った、セクシー・クレイジー・クール。
 ドウブツに例えるなら、白いオヨウフクで縛られた黒豹といったところ。

 建物のカベに背を預け座り、しん、と空を見上げる横顔は、
 飯田のマジ顔――鷹の顔と同じパターンがある。
 どこかのなにかをピンポイントで捉えている照準機器の一心な孤立。
59 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時40分45秒
 プライベートでセーフティな限り、市井のモットーはC調にうかつな好奇心。
 そんなメイワク者が今日も今日とて企みを思いついた。
 石川を確認してから数歩進む間に、気配を霧散させてゆく。

 気配を消す。
 すなわち、ターゲットの視覚と聴覚と嗅覚の範囲から隠れる。
 五感の死角の合計点を歩く。

 足音を消し、死角から風下に回る。
 風切り音をさせないよう、風の早さを気にかけて、素早く間を詰める。

 安倍や矢口みたいな第六感、第七感を備えた、デタラメなバケモノならともかく、
 油断しきったドーブツ相手なら、これだけ気遣えば十二分。
60 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時42分09秒
 ほとんど早足になりながら腰に手を回して、尻の上に止めたホルスターから箱形銃を抜く。
 有効射程距離に突入。
 ――まだ、まだ、まだイケる。
 距離は敵回避率に比例する。
 発射後の弾を、ぐいんとのけぞって避けかねないCG演出付きバケモノだ。
 音より早いライフル弾ならココでもいい。
 箱型銃標準装備の低速炸裂弾が籠められていると仮定すれば、
 もっとギリギリまで近づいて、スキをついて、やらかそうな場所にぶちこんでやりたい。

 憂鬱な黒豹さんはまだ気が付かない。

 もう少し。後二歩だけ。一歩。

 捕った。 
61 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時43分06秒

「ほるだっぷ」

 耳にヒャッコイ金属塊を押し当てられた石川は、
 うっひょーうっひょーと叫んでごろごろと膝を抱えたまま横転した。
 高スコア獲得でゴキゲンの市井は、
 丸まったキュウケツキを足のつま先で蹴飛ばし回して皎々と笑う。
 銃にセットされていた空砲カートリッジを青空向かって
 パンパンパンパン撃ち鳴らす。
62 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時44分08秒
「……ショックで死ぬかと思いました」
「そんなんでキュウケツキに死なれたら、いちーの商売あがったりです」
「心臓の弱いキュウケツキだっているかもしれませんよ」
「犬が怖いお化けもいるしね。石川は何が怖い?」
「……」
「ちなみにいちーは饅頭が怖い。豚肉のショウガ焼き定食も怖い」
「…………」
 下がり眉の石川を前に、ニヤケ笑いをニガ笑いにシフトする。
 撃ちきった空砲のカートリッジを手早く交換しながら、
「遊んだだけなんだから、てきとーにオアイソ笑いでもしてもらわないとかなわんなー」
「そういわれましても…」
 石川は肺の空気を大きく吐き出してぺしょんとなった。
63 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時45分55秒
「すみません、私いつもこうで。矢口さんによく言われるんです。
 お前は冗談がわからないって」
「まあ、矢口は冗談でバケモノライフやってるらしいから。
 純正高級バケモノのあんたは言うコト聞かないでいいでしょ」
「……でも、飯田さんにも、周りに振り回されすぎだって言われます」
「カオリは周りを振り回しすぎ」
 目をあわせる。

 手拍子三拍の無言。

 あのぉ、と弱々しく石川が口を開く。

「それでは、……どなたをお手本にすれば」
「バランスのとれたヤツいるでしょ。
 いちーとか」

 たっぷり十拍の沈黙。

「――ここは笑って流すところですか?」
「あー。もう。わらっとけわらっとけ」
 ノルマを果たすかのようなバカ正直さで、
 石川は首を締められたニワトリに似た声でクククと苦しげに笑う。
64 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時47分03秒
「ところで、吉澤がユカイなんだけど。石川、なんかしたでしょ」
 無様な笑いが止まった。
 市井はキュウケツキに凛々しい表情が立ち上がるのを満足気に見やり、
「何を仕掛けたのかな」
「思い出してもらったんです」
「ああ」 

 市井はプロのキュウケツキ系情報屋だ。
 血啜り野郎に関しての、たいていの噂を知っている。
 キュウケツキの血を受け継いで死の淵から蘇ったスプラッタムービー・ヒロインのエンディングとかも知っている。
 ラストフレーズはこんな感じ。

 "そうして彼女は失い、手を加えられ、再生した"
65 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時53分21秒
「コラコラ。お上の指示ないのに。そんなコトしちゃダメでしょう」
「知りたかっただけなんです。
 よっすぃが本当の私のことを受け入れてくれるのかなって。
 だって――」
 だってオンナノコなんだもん。

 せつなさ炸裂ブロークンハートマークをまき散らすラブ涙色満開のキュウケツキに、
 市井は甘い物を喉に詰らせたような顔をしてみせた。

「――で、吉澤はどうなった?」
「……パニック起こして、落ち着くまでトレーラーから三回落ちて、後藤さんに拾ってもらいました」
「……ど、どうやって落ち着かせたの?」
「三回目に後頭部強打して……それっきり……」
「……アホがますますアホになるてばさ」
 ホンキで嘆息。

「いじったとこは直した?」
「一応……。病院で教わったみたいにやりました。
 上書き範囲のしきいを緩めたから、最近の記憶がボヤケてるかも」
「お前なぁ。人のイメージをホイホイ切ったり張ったり。
 ビデオ編集じゃないんだから――
 『結局お前は、吉澤が手に入ればいいんだよなぁ』」
66 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時55分34秒
 ひゅうと息をのんで固まり、たちまち目を潤ませる石川に、
 市井は「いあいあ」と横に手を振る。

「別に責めてるんじゃない。思っただけさ。
 たださ、そのクセ、本当のよっすぃが、本当の私を、本当は、どうこう
 ――ってさ。
 ホントでもウソでもいいじゃん、ってことですよ」
「だって――だって……」
「吉澤の記憶を昔の記憶に差し替えたからって、
 あんたの欲しいモンはもどってこないんだよ?」

 石川はイジメられた幼児のようにスンスン鼻を啜り出す。
 あっけなく崩れ落ちる弱っちいキュウケツキに、攻めるか引くか悩んで
 ――攻めることにした。 

「つーか、石川は何が欲しいの?
 本当の吉澤って、つまり石川とゼンゼン関わりを持たなかったifの吉澤でしょ?
 バケモノ嫌いでサベツシュギのニンゲンだよ?」
 石川は本格的に泣き始めた。
 水道栓がゆるんだように、だだ漏れに涙をこぼす。
67 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時57分10秒
「あんたと会わなかったら吉澤はバケモンのことなんか鼻にもひっかけないようなヤツだったろうし、
 第一、地下街の事件で死んで――」
「んなのわかぁない!」
 石川が声をひっくり返して叫んだ。
 甲高い声で叫びまくった。

 わかんないそんなのわかんない。ヤなの一人はもうヤなの。よっすぃがいなきゃヤなのでもわたしきっとできないうまくガマンできないから――

「あのなぁ、石川ぁ」
 高周波に耳を押さえた市井は、いい加減にしてくれと思った。

 気持ちはわかる。
 いや、わからない。
 他人の、血液中毒のバケモンの気持ちなんかわからないけど、知識としては知っている。

 過去の何十何百というキュウケツキ事件のデータベースのなかには、
 今の石川の状態を的確に表す情報が含まれている。

 ブラッドサックのバージンブルーと呼ばれるものだ。
68 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)09時59分27秒

 そっちの知識を十分に学ばなかった真面目で清らかな子供が、
 突然あれやこれに臨して衝撃や混乱を受けること。
 
 バージンブルーなら微笑ましいが、
 混乱の度が過ぎるとブルーはレッドに変わる。

 二十世紀初めの『吸血シスター』事件。名門校学生寮の『英国聖天使』事件。

 そして、市井の目の前でうずくまって泣いている青が赤に変わったら、
 オカルトマニアに多いオリエンタル野郎に『ゲイシャ・シンジュウ』事件とか
 B級タイトルを命名されてしまうのだろうか。

 バカバカしい。そんなんでいいのか。お前たちはそんなもんか。

「石川。私は言ったよね。あんたたちの力になるって」
 石川はそれはもうべしょべしょのぐしゃぐしゃで、
 体のあちこちに余計な力をかけているようで、首や腕などの肉が薄い箇所に青筋が浮いていた。

「私はね、キュウケツキの被害者には幸せになって欲しいと思うんだ。
 あんた達は楽しそうだったから。
 ホントかウソか知らないけど、幸せそうだったから」
 喉に刺さった鳥の骨のように、気分を苛立たせられた。
69 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)10時04分36秒
 こいつら、その気になれば二人の世界に籠もって幸せになれるのだ。
 目の前に掴める幸せが転がっているのに、自分で作ったヘリクツに捕らわれて逃げられず、
 みっともなくイジイジ泣いている。
 私とおんなじ。
 過去の恐怖を駆逐しようとやっきになって、
 でも正面きって悪夢のカタマリと殴りあって死ぬ覚悟はない。

 ユウキ。後藤の弟。狼の村の生き残り唯一のオス。
 あいつも過去に襲われたけど、殴り合って死んだ。
 とつぜん後藤と市井の前から姿を消したと思ったら、
 大陸のやつらにいいように丸め込まれて木の杭を抱いて死んだという報告書と
 遺体の一部だけがこの国に戻ってきた。

 後藤の一族は昔っから村の王様で、ワガママな意地を通して通して死ぬ。
 私は臆病で粘着だから、コソコソ逃げ回りながらこの商売を続けている。
 そこにあるのは自嘲だけ。誇りはない。

 だから後藤、お前はここに来ちゃダメだ。
 お前は誇り高くワガママだから、来たら死ぬ。
 すっきり死んだりしちゃダメだ。
70 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)10時05分28秒
「石川。助けたげる。どうしたらいいのかわかんないなら選択肢並べたげる。
 それも決めらんないなら選びやすいようにしたげる。
 それでも選べないんなら私が選んだげる。
 どーだ、すごいだろ。出血大サービスだ。いちーさんは優しいなぁ」

 誇りのない吸血鬼。あんたは私とよく似ている。
71 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)10時07分14秒
 訓練開始のサイレンが鳴ってもうずくまったままの石川に、市井はゆっくり歩み寄る。
 声には出さず、口と舌だけで浄化の詩を詠唱した。

 ――弱きもの。汝は罪の親なり。汝は罪なり。
   汝は罪の子なり。汝は子を穴に埋め寡婦を町に生み父を火にくべ泣く嘆きの悪魔なり。
   我ら火と鋼を持って汝、罪を浄化する。

 市井の同僚には、獲物を前にして、こんな風な詩を恍惚と読みあげるヤツがいた。
 聖職者気分なのかもしれない。
 だけど、私は十字架の宗教が忌み嫌う悪魔の獣だ。
 悪魔の同僚を持つようじゃ奴らだって大差ない。

 悪魔が聖職者を気取る不謹慎なジョーク。不埒な思い上がり。バカばっか。
 ああ面白い。いちーは神の子と同じ詩を唱える。奴らより上手く唱える。
 石川お前も唱え。唱え唱えそして死ね悪魔。
72 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)10時07分46秒
 纏まりない思考をもてあそんでニヤニヤ笑い、
 箱形銃で自分の太股をぴたぴた叩きながら大股で歩く。
 市井の冷たい部分も、静かに笑っていた。
 
 ――ほら、キュウケツキにハマった奴らはみんなアタマがヤラレてる。

「さー、選ぼう。エーイメン」
 無防備に鼻をすする石川の柔らかそうな脇腹に、
 雑な手つきで銃口を押しつけて引き金を絞った。
73 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年09月18日(水)10時10分32秒
※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
今回更新
>>58-72

レスありがとうございます。また今晩に。
74 名前:イヌきち 投稿日:2002年09月19日(木)01時19分05秒
>>51 ありがとうございます。旅立つ後藤に幸あれ。
>>52 んあー。とかっけー。のプッチダイバーコンビです。σ(`.∀´ )?
>>53 早稲田の隣への申請書を探しています。
>>54 ありがとうございます。向こうはテキトウにやっていきます。
>>55 毎度遅くてすみません。
>>57 はい。お待たせしました。
75 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月19日(木)11時40分30秒
なぜか涙止まらないありがとう
76 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月01日(火)19時03分07秒
待ってます
77 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年10月03日(木)04時57分48秒
 いちーちゃんは勝手なヤツだと後藤はずっと思いつづけていた。
 
 里をキュウケツキに潰されてから、いちーちゃんがハンターになるまで、
 いちーちゃんとごとー兄弟はクニの宿舎でイソーロー生活をしていた。
 隠れた人獣の里とは違う、人里の生活。
 テレビもラジオもある生活。
 噎せ返るほどの自然でみっちりくるまれていたナチュラルでハードボイルドな山の奥から、
 極彩色と万能文化で切り開かれた青空の街に引っ越して、
 いちーちゃんは変わった。

 世の中はネンコージョレツでジャクニクキョーショクだったのだよゴトー。うははははは。

 みんなで分けるんだよともらった三つの棒アイスを味見と称して全部一舐めずつしたり、
 読みかけのマンガを横からひったくられたり。 
 昔はそんな風じゃなかったのに、と後藤姉と弟は牙を向いて幾度も噛みついた
 (実際に市井の手の甲の骨が見えるまでに噛みついた事もあった)
 ホントウに、いちーちゃんは、昔はゼンゼンそんな風じゃなかったのだ。
 どんな風だったかと言えば――たしか、隣の家のおねーちゃんは、とても物静かだった気がする。
78 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年10月03日(木)04時58分29秒
 後藤はそのぐらいの印象しか覚えていなかった。
 そのころの後藤はとても仔どもだったから。
 弟のユウキと夢中になってじゃれ合っている傍らで、
 木の枝を噛みながら二人の様子をじっと眺める、くすんだ灰色の毛皮の仔狼に気がつく機会はほとんどなかった。
 黄金の宝仔を見守る、里狼たちの眼差しに気がついていなかった。

 そして時は過ぎ、狼達が吸血鬼に二度目の敗北を喫して、監視者は再び変貌した。
 ――ごめん。もう見ていてやれないよ。
79 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年10月03日(木)04時59分46秒
 後藤としては、"見ていてくれ"と頼んだ覚えはマッタクないわけなのである。
 勝手にエラそうになって、勝手にカッコつけて出て行ったいちーちゃんの態度には、
 ムカっぱらを立てるだけなのである。
 悲しんだり泣いたりしたら、負けなのである。

 泣くのも腹を立てるのも、根っこにある理由は一緒ということには気がつきたくなかったので、
 後藤は丸ごと忘れる方向に進んだ。

 暇があると寝た。
 寝た。寝た。よく寝た。

 中澤から「そない寝てばかりいると脳みそとろけるで」と、ぽかりと小突かれながら、
 にへらにへらとバケモノとかを叩き斬って左うちわで暮らせるようになった今になって。
 アイツは何しに帰ってきやがった。
 
 吸血鬼の事だろうと察していた。
 市井は見つめる対象を吸血鬼に乗り換えたのだと、後藤の無意識はずっと思い続けていた。
80 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年10月03日(木)05時00分46秒
 しゅるるるると煙の尾を引きながらノロクサ追っかけてくる催涙弾を振り切って、後藤はビルの陰に逃げ込んだ。
 自分のいる区域をくるむように放たれた催涙弾の匂いを感じ、いらだちを覚えて顔をゆがめる。
 嗅覚に壁を作られた。
 ハナを自慢とす犬族の、王者の格のオオカミだ。
 聖域に攻め込まれたようなたまらない不快感で、無表情ながらも牙をキシキシ擦りつけていたいたら、
 ビルの曲がり角から吉澤が転がり込んできた。
 四肢を畳んでサッカーボールのように転がってきた吉澤は、後藤の足に当たって、ぴらっと広がった。
「……よっすぃ?」
「……はーい?」
 髪の毛の端からスパイシーな香りをさせながら、仰向けに寝そべった吉澤が後藤に手を振った。

「なんでついてくるのさー?」
「へんなバクダンから逃げてきただけですってー」
 くちゃん、とクシャミをする。
 催涙ガスから逃れきれなかったせいで、大きな目を涙で潤ませている。
 粘膜がそう強くない。
 吉澤を現場に立たせる場合はそれなりの装備を背負わせる必要があるだろうと、教官の目で考える。
「つつー」
 吉澤は体を起こし、目をこすっている。
81 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年10月03日(木)05時01分39秒
「痛い?」
「けっこう痛いッすー」
「んどぉ?リタイアする?」
「は?イキナリですか?ないないなーい」
 手を振って否定する吉澤に、後藤は、じゃあ始めていいのかなぁ、とイマサラなことを言った。
 そうですねお願いします、と吉澤は礼儀正しくお辞儀をした。
 後藤の方から数歩下がって、相手の動きが見やすい間合いをとってやり、
 じゃあ始めるよ、ともう一度確認してから。
 吉澤の左肩を切り飛ばすつもりの踏み込みと共に腰の得物を抜刀した。
82 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年10月03日(木)05時03分44秒
 スピーカーから大きな水袋が割れたような重い破裂音がして、
 飯田はとっさに自分の膝の上に座っていた辻と正面の机に腰掛けていた加護を自分の胸に抱き寄せた。
 こんな光景で傷つくタマでないちびっ子二人の視界を遮っておいて、
 ちびっこらより遙かにデリケートな神経を持っている飯田が市井固定モニターをぎっと見つめて硬直する。

 一面のハラワタ。

「裕ちゃん?あれ?あれ……紗耶香は実弾?――アレ?あれ?」
「ああ」
 中澤はモニターから目を離さず
「石川吉澤組は回復力めっちゃ高いから、特別にって上の方からなぁ」 
「……あ、そうなんだ」
 アッサリ納得しかけた飯田に、保田が吠えた。
「『そうなんだ』じゃないわよっ!何ちょっとアレ!カウンタもポイントもへったくれもないじゃない」
「ポイントは取れてるで。腹・背中・腰前後の、四つ破壊で石川のマイナス4点」
「そうじゃなくて!」
 どかんと一発。手のひらで机を叩く。  
 コーヒー入り紙コップがひょいとジャンプして焦げ茶の水滴を宙に散らす。
 紙コップは奇跡の軌跡で落下しながらそれらを回収してことんと机に着地する。
83 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年10月03日(木)05時06分06秒
「うちらがやってるのはあんな試験じゃないでしょう?
 ――何考えてるの紗耶香……ってか裕ちゃんもあんな武装許可――」 
 このテストは候補者をこづいてこづいてこづき回して反応をみるテストで、
 初っぱなから戦闘不能級のダメージを与えるようなものではない。
 少なくとも、今まではずっとそうだった。
「あたし、聞いてない!」
「――カオリも聞いてない。
 何?ひょっとしてカオリが試験官やってたら刃引ナシの真剣持たされた?うわー、こわいなぁー」
 ぽけっとモニターを眺めたまま、ワイドショーを見る主婦のごとき喉かな声色。
「加護も聞いてないよー」
「つじもー聞いてないよぉ?」
 飯田の腕から解放されたちびっ子が、ぽやぽやと手を挙げると、
「あんた達はいいの!」
 保田の一声で、辻加護は飯田の巣にいそいそと隠れ戻った。
84 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年10月03日(木)05時08分38秒
「うちら試験官を無視するって、裕ちゃーん。……ちょっとヒドくない?」
 中澤の背中がため息をついた。
「NaroStart,One,Three,Zero,Zero――」
 マイクに指令を囁き始めた中澤に諦めをつけ、福田に視線を突きつける。
 受けた福田の視線は、保田の顔脇を通りすぎた背後を見ていた。 
 保田が振り返る。
 騒ぎに隠れるように、いつの間にか開いていた扉のむこうに、
 かつての同僚の、かつて中澤班を壊滅状態に陥れた同僚の鈴木が、エンジェルスマイルを浮かべて立っていた。
85 名前:イヌきち 投稿日:2002年10月03日(木)05時14分24秒
>>75-84
今回更新
86 名前:イヌきち 投稿日:2002年10月03日(木)05時18分39秒
>>75
確かにそうねなぜでしょね(こちらは後藤卒業SPライブを見た直後です)
>>76
前向きにがんばります。
87 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月03日(木)21時28分20秒
ついに出て来ましたね
88 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月06日(日)02時59分12秒
うわ〜、どうなるんだろう?
続き楽しみに待ってます。
89 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月27日(日)15時13分33秒
保全
90 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)01時53分25秒
 エライところに来てしまった。
 そりゃ後藤はセンパイだし、この班のエースとか言われてるんだし、
 とても強かろうとは思っていたけど。 
  
 吉澤はまたこけた。
 今度は右つま先を白革の――支給された時は確かに白革だったはずの
 ――サバイバルブーツごと切り落とされた。
 ちょうどつま先で力一杯地面を蹴り、後藤の攻撃を避けようとしていた所で、
 だけど後藤の剣先の方が遙かに早かった。
 アクションの支点かつ力点を失った吉澤の体は、想像外の動きをした。
 真横にこけた。 
 スパイラルに側転した。

 ぶっ倒れたコンクリ地面にはとうの昔に血溜まりだらけ。
 粘膜の表面のような感触のする自分の血液にびちゃっと頬を浸していると、
 頭ん中がじりじり焼ける。
 ――これは梨華ちゃんのニオイだ。
91 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)01時55分35秒
「立って」
 言葉は穏やかだか、低く凍った後藤の声が振ってきた。
 寝そべった視線の先は、後藤の真っ白な革靴。下げた剣先。

 強いのだろう、とは思っていた。 
 攻撃が当たらないとか。
 当たっても痛くもかゆくもない顔されるとか。
 ヒーローとちんぴらのような差はあるのだろうとは思っていた。

 実際になってみれば『コレ』だった。
 手を出す暇もなかった。
 相手の手から逃げようにも、ひょいっと振られた剣先に絡められて転がされる。
92 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)01時59分42秒
「よく斬れる剣じゃないとね、ごとーはうまくテカゲンできないんだよねー」
 戦闘の前に、後藤はそんなことを言っていた。
「刃の鈍い剣ってさ、つまり、鉄棒だよ。そんなのでテカゲンってもさー。
 素早いよっすいたち相手にするならおもいっきし振らないとあたんないし、
 おもいきし鉄棒で殴ったら斬られるよりもっとタイヘンなことに
 なっちゃうしさー」

 鉄棒、といえば保田の主武器である。
 "辻加護の試験官をやった保田さんはどうやってテカゲンしてたのさ"
 なんて考えまでにはいたらなかった。

 保田は、鉄棒を持たずに軽い警棒を使ったこと。
 加護・辻組の試験官をつとめた飯田と保田は、
 自分たちの方から攻撃を仕掛けることは滅多になく、
 あっても挑発程度の攻撃だったこと。

 それらを吉澤は知らない。
 致命的危機の襲来に慣れきってしまった吉澤には、
 この出血多量試験がマトモでないと気が付けない。
93 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時00分22秒
「テカゲンはするけど、ホンキでいくから。よっすぃも全力だしてね」
 言われた時は"どっちだよ"と思ったけど、今はわかった。
 切られる場所は筋。関節。
 後藤の手加減は"首はつながっているでしょ?"といった類の手加減だ。
 振る剣のスピード。 緩みのない後藤の目。
 戦闘動作の一挙一動は全てマジだった。
94 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時04分30秒

 眩暈がする。頭がボンヤリする。なんだか今にも死にそうな気がする。
 ぶっちゃけ、『石川にネダられた』後とよく似ている気分だった。
 
 後藤の剣先が退屈そうにコンクリートを突っついているのを見て、
 重い体を無理矢理起こした。
 転がっていたい靴先を拾い、無言でつま先を継ぐ。
 豆のサヤをわったみたいな靴先から、指先をつまみ出す。
 しっかりと継ぎ目にあて、くっつくまで待って、次のパーツに手を伸ばす。
 シリコンマネキンと似た感触のぷよぷよのパーツが
 ゼラチン状の血糊を滲ませて切断面に癒着する。
 ノリ付けてぺたん。ぺたん。ぺたん。
 痛みはなく、手応えもあやふや。
 夢心地で、他人事。
95 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時07分46秒

 "痛覚が――ね、――の範囲を超えると――"

 痛みに関して梨華ちゃんが説明してくれたっけ。
 なんで大けがしても、そんなに痛くないのか。
 どこから聞いてきたのか知らないムズカシイ話の内容は
 ゼンゼンわからなかったけど、
 『そうなると、もう虫とおんなじなの』という石川のセリフだけが、
 薄白い意識の中に鮮烈に思い浮かぶ。
 
 だからそんなに痛くないでしょう、よっすぃ。

 力を抜いて血の流れを感じていると、ほら気持ち良くなってくるでしょう? 

 そう言って石川は吉澤の汗ばんだ前髪をさらりと横に流す。
 腕枕をされて吉澤は口から細い息を吐き、鼻から空気を吸いこむ。
 梨華ちゃんの匂いで頭がいっぱいになり網膜にはパステルカラーの花柄が乱れ咲く。

 濁った景色に引き込まれて吉澤は後藤を見失い、石川の囁きにじっと耳を傾ける。
96 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時10分44秒
 そのころ、市井は歌っていた。

 酔っぱらいが風呂場で歌うよう、らんちきな歌を気持ちよさそうに歌う。
 歌詞は聴き取れないが、メロディには聞き覚えがあった。
 夕方の寝起きにテレビを付けるとやっている昔のアニメの歌を、
 凶悪な大きさの銃を上下にふりふりと、軍歌のように威勢良く歌う。

 あまりのデタラメな状況に対面すると、常識が体を束縛する。
 散弾に腰を砕かれた石川は、地面に転がり腹を抱えたまま震えつづけていた。
「いしかー、いしかー」
 顎を捕まれ、くるんと体ぜんぶをひっくり返された。
 顔をのぞき込まれる。
 市井の小さな丸顔の中で、赤く充血した白目がピカピカ信号色を発し、
 狂気の笑みをこぼす口元から尖った犬歯が覗いている。

 ――キュウケツキ。 

 口をパクパクさせてそう動かすと、だっはっはーと笑われた。 
「そりゃお前だってばぁ」
97 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時14分03秒
 上を向いて馬鹿笑い。
 どこまでも続く。
 止まらない笑いに精神の異常の臭いを嗅いで背筋が寒くなる。

「いちーさん……」
 ふさがりつつある腹の穴から抜けないよう、小さな声を伸ばす。
 なんで、なんで、なんでこんな――
 ぐりん、と市井の首だけがホラー映画チックに回った。
「にたく」
「は」
「たたかえ?しね?」
 言うやいなや、箱形銃を石川に向けて引き金を絞った。

 頭は『まさか』と感じたが、体は素直に反応した。
 素早い寝返りといった程度の動作。
 パンと背後ででコンクリートが弾け、無数の礫が背を打ちつけた。
 火薬の匂いが狂い人がかけた呪いを解く。
 防衛本能が理性の膠着をたたき割る。

 石川は腹を抱えたままの海老腰で後ずさって逃げた。
 なんとか距離をとろうとするが、
 市井は石川の動きに銃口の向きをじっとり合わせてくる。 
98 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時21分33秒

 初めての夜は襲撃。
 二度目は暴動。
 三度目にして、初めて静かな夜の邂逅だった。

「あなたは私と同じなんです」
 月夜の下、施設を取り囲むフェンスの上に腰掛けた娘が市井を見下ろして笑う。
「あなたと私とあなたと私とたくさんのあなたと私が一緒に潜んでいるなんて、
 素敵な夜」

 こいつはヤクでも打ったのかと思った。
 そうしてもおかしくないぐらいに、女を囲む状況がヤバかった。 
 この娘はたぶん、今のこの国が一番命を狙っているバケモノだ。
 この女はもう終わっていると市井は思う。
 保護組織の庇護下で身を縮め、政治策略に使われながら
 果ての知れない余命を費やすのだろうと市井は思う。
 自分だったら、白木の杭の悪夢から逃れようとして、
 代わりに白い液体の入った注射針の五本や六本を心臓に打つかもしれない。
 そんな状況下にいながらこの娘は、海辺で撮影されているアイドルのように笑えている。
99 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時30分53秒
「あなたの一族と私の一族はベースが一緒なんですよ。
 あなたの里でいうところ、眷属ってやつ?知ってました?」
 知らない。 
 冗談じゃない。
 眷属というのは、自分の手足のように動いてくれる従者や
 信頼に値する仲間のことである。
 遠い集落の血の離れた親族とか、狩り仲間の山イヌや鷹などである。
 市井の里を滅ぼした奴らが眷属のはずがない。

 眷属というならば、奴らよりも里の山の麓に住む、
 肌に土の匂いが染みついた穏和なニンゲン達の方がよほど眷属だった。 
 だから里は襲われたと聞いている。
 奴らが麓のニンゲンを思う存分に襲うため、
 ニンゲンの庭先で唸りを上げる犬を先に排除したのだと。

 その直後にハンター達による粛正が行われ、奴らは駆逐された。
 市井達はニンゲンに拾われた。
 だから市井と後藤の眷属は、イヌやタカや街カラスや野良猫やニンゲン達であり、
 娘の一族の奴ら全ては憎んでも憎み足りない怨敵だった。
100 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時36分06秒
 むくれっツラのダンマリを決め込む市井の心を読んだのか、
 娘がふっと鼻で笑って、
「本当の意味で私たちを殺せるのは私たちの仲間だ、って伝説でもあるでしょ。
 鬼は鬼の子が、神は神の子が殺す。
 お話にしてもイイとこつくなぁって思ってたんですよ」

 知らないんですよね。

 娘は非の打ち所のない愛想笑いの中に器用に嘲りを織り込また。

 「あなた達がどんな仕事をしていたかも、知らないんですよね?」
 聞かれて市井はまたもやダンマリを決め込んだ。

 だいたいの大人達は猟師だった。
 一部の大人達が、出稼ぎに出た。
 出稼ぎに出る大人達は大量の金を里に納めるので、里人から尊敬されていた。

 市井のしっているのはそこまでだ。
 里が滅びた頃、市井はまだ鼻先がピンク色の仔オオカミで、
 里のシステムを理解していなかった。

 さほど年差もなく、よそ者である娘が常に市井の右斜め上にいることが
 シャクに触った。
 ――やはり情報だ。と思い知らされる。
 何が無くても情報を手に入れなければならない。
 情報がなければ、社会的に死に体のバケモノにすらバカにされる。
101 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時42分46秒
 そう考えた矢先に突き落とされた。
 世の中には知らなくてイイコトがあるのだと思わされた。
 だって、それが本当なら。
 
 立ちつくす市井に、娘は顔に真夏のピンナップを貼り付けて笑う。

「あんたらの里の奴らは、『この手の組織』でもたちの悪い所に籍入れて、
 私の一族の無差別狩りして賞金を稼いでいたのよ」
 その生き残りが大きく育って、と猫なで声をだされて知った。

 この憎しみは輪になった両思いだったのだ。 
 リングが巡る。ぐるぐる回る。
 逃げて追って、走って走って、出口がどこだかわからない。

「ようこそ吸血鬼ハンターの領域へ。眷属同士、一緒に同族を屠りましょ」
102 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時53分35秒
 だからどうしたと、
 今の市井はヤクを何本も打ったようにユルんだ顔で笑い飛ばせた。
 タンジュンメイカイ、シシャゴニュウに考えろ。
 奴らは血族を殺した。奴らはいちーを殺そうとした。
 復讐スルハ我ニアリ。

 流れた過去の狭量な真実に後生大事にすがりついて
 『寝たふりをしたがる子』を叩き起こす。
 同時に起きあがる罪悪感が、感情量を制御する。
 理性が感情がおしくらまんじゅうをし、形を歪める。
 ケモノの力をニンゲン型のフレーム内に押し込めようとして、
 筋肉までもがヒクヒク歪んで笑う。

 石川の顔つきに殺意が帯びてきたのを見て、発作的な喜びを感じた。

「世の中はジャクニクキョーショクなのだうはははは」
 胸部を狙って引き金を幾度も引く。
103 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2002年11月04日(月)02時57分09秒
>>90-102
今回更新
104 名前:イヌきち 投稿日:2002年11月04日(月)03時01分38秒
>>87
かなり出てきました。
>>88
ありがとうございます。今回も遅くてすみません。
>>89
助かります。
105 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2002年11月04日(月)06時58分17秒
はじめまして。
楽しく拝見させていただいております。
冷静に見える市井さんの狂気、手加減になっていない手加減しかできない後藤さん、不自然な試験に気づかない鈍いよっすぃ〜、吸血鬼なのに優しい梨華ちゃん。
続きも期待です。
これからもよろしくお願いいたします。
106 名前:南風 投稿日:2002年11月13日(水)08時59分24秒
初期の頃から読ませていただいていました。
我慢できずについレスってしまいました。
おもしろいッス!
やっぱこれおもしろいッス!!
無理せずに頑張って下さい。
107 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月30日(土)09時01分22秒
がんばってください。応援してますよ。
108 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月07日(土)14時18分04秒
保全 
109 名前:イヌきち 投稿日:2002年12月08日(日)15時48分51秒
更新間隔が長いのがいつものことになってしまい、申し訳ありません。
年末あわせの仕事が入っているため、掲載するまでまたしばらくかかりそうです。

待って頂いているかた、ありがとうございます。そしてすみません。

110 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月09日(月)12時41分59秒
いつまででも待ってます。
お仕事頑張ってください!
111 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月25日(水)09時44分31秒
保全
112 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月04日(土)19時35分47秒
期待age
113 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月31日(金)14時54分14秒
応援してますよ
114 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月16日(日)15時58分40秒
保全
115 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月17日(月)23時16分27秒
保全
116 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月19日(水)17時16分31秒
放置?
117 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月20日(木)21時53分05秒
( ^▽^)アセラナイアセラナイ。オチツイテ、オチツイテ。
118 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月27日(木)10時40分19秒
保全
119 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時02分38秒
 チョコレートは血の味と似ていると言い出したのは石川だった。
 吉澤たちがぺーぺーの見習いだったころ、
 深夜の保田サンドイッチ屋でオバケたちがダベってた時のことだ。

 保田はそんなブッキーな事言うんじゃないわよと石川を指で小突き、
 加護は梨華ちゃん味音痴だからと妙にナットク。
 保田屋自慢のチョコレートサンドをパクついていた辻は吉澤の方に首を傾けて、
 幼げな仕草で唇に指を当てた。
「よっすぃーってチョコ味?」
「違う。どーしてそういう考えになるかこのクイドウラクは」 
120 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時03分32秒
 そして今、凄惨無類のキュウケツキ鈴木はパイプ椅子に座り、膝の上に加護を載せ、
 手みやげに持ってきた舶来モノらしい細長いチョコレートスティックを
 自分の口と加護の口に代わる代わる運んでいる。

「加護……ノきなさい」
 歯痛を堪える表情で保田がうめく。
 加護は「なんでですかぁ?」と言ったきり。
 鈴木に顔を向け、口を開け、エサをもらって上機嫌。
 その正面には辻・飯田の親子鳥が同じくエサのやり取りをしている。
 市井・石川戦をモニターで眺めるその集団は、さながら仲良し家族のスポーツ観戦。
 
 どーしてこーなるの?
121 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時05分04秒
 それもこれもすべて、鈴木の胸元に留められたIDカードが物語っている。
 銀色の地は外部組織より派遣。
 赤の二本線は班長格。

 中澤福田は見ないふりを決め込んで、猛回転で部下や機材に命令を飛ばし、
 鈴木と初対面の辻加護はあっさり餌づけられビバアミーゴ。
「カオリ、なにあんたまで和んでるのよ」
 飯田は潤んだギョロ目を虚空に留めると
「アタシ……思うのね」
「なにを」
「ヒトっつーのは、いつまでも昔のことを恨んでちゃダメ。愛がなきゃ」
「そういう問題じゃないっしょ!」
 と、悲鳴たものの、ではどういう問題なのかと訪ねられても、
 保田はオトモダチ印のシルバーカードをブチ破るマッツラな答えは返せない。
 ただただ、鈴木の前に立つだけでうなじのうぶけがオゾゲ立つ。
 ヤバイヤバイとビリビリ染みる。
「圭ちゃん、好きとか嫌いとかで仕事はできないんだよぉ」
 飯田が感度良好の鉄面皮でモットモな事を言えば、鈴木がそうそうとうなずいて、
「私も同族殺しなんかが仕事でー。ゴカイが多くてー。
 タイジンカンケーがちょービミョーでー」
「あんたは黙れ!」
122 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時09分56秒
 鈴木横の机をビシャリと叩き、がっがっがっと除雪機の勢いで
 保田顔が鈴木との距離を詰める。
「そうよ!あんたは――あんたは、あんたはぁ!」
「圭ちゃん、おちついてさぁ」
 困り眉の飯田の取りなしも何のそのと、保田は両拳を握り、
「正真正銘の仲間殺しでしょ!ここのみんなに何したか!
 それを何?いけしゃあしゃあと現れて――
 カゴ!なにいつまでも抱かれてるの!こっち!来なさい!」
 不退転の形相の保田にもひるまぬ加護はきょろん、と
 子犬に似た上目でシナを作り、
「保田さん?ナニ怒ってんの?
 ――ははーん、やきもちーん?いやーん」
「っがぁう!」
 壊れた。
「違う違う違うっつーにもーもーも!こいつらぁーばかばかばかぁー!」
 バカ加護に緊迫を壊され、理性も壊され、
 ブチ切れもーもー全壊の保田が暴れ、鈴木はクスクスコロコロ小さく笑う。
123 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時12分49秒
「お前、お前、お前っ!!ざっけんじゃないっ!」
 保田は加護の後ろ襟を片手でひっつかみ、ぽいっと放る。
 もう片方の手で鈴木の胸ぐらを締め上げた。
 つり上げられた鈴木はにこっと笑う。
「去年のことまだ怒ってるんでしたら」
 宿舎で同僚相手に大暴れして、
 機密のサンプル盗んで、
 ケツまくったことでしたら。
「私はただ仕事しただけですよ。
 それに私は誰もコロしてないですから仲間殺しなんて、心外ですー」

 何の仕事か。
 どこからの仕事か。
 コロさなかったからいいと思ってるのか。

 幾つもの詰問が同時に脳天に吹き上がり、発声が喉でツマり、
 保田はんがぐがががと削岩機のごとく四肢を振るわせる。
「ぶっぅううううコロすぅ!」
「コロスなんてそんなぁブッソウなぁー」
 鈴木は明るく爽やかな笑顔に嘲りを掠めさせ、
「――オバケは死なない、って言うじゃない。ほら、この子もそんなーですよ」
 と、首を吊られたまま市井の視界を基準に取ったモニターを指し示した。
124 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時15分20秒
 反転、回転、ムーンサルト。
 天地無用なんのその。
 上下左右座標が切り替わる。
 モニターに抜かれた領域の端々に赤黒い影が掠め。
 発砲。火花。
 景色が縦回転し、瞬間静止した世界には空が留まり、すぐさま跳ね出した。

「あー、ナニゲに押されてる。初動速度が落ちてきた」
 鈴木は目を細め、
「ひ弱でコンジョーナシだからなぁ、いちーっちゃん」
125 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時16分56秒
 その親しみの籠もった声で、保田の胸に指先ほどの穴が空いた。
 鈴木をククった手をゆるめると、鈴木の体はうなぎのようにクネって
 するりと保田の正面から抜けた。
「ほら、加護ちゃん」
 席に着いた鈴木が、目に柔らかな弧を描かせたままで膝を叩き、手招きをする。
 加護は天井にでもぶつけたのか、頭をさすりさすり戻ってくると
 鈴木の膝の上に横座りした。

 その懐っこさを見て、保田の胸の穴が広がった。
 胸に空いた穴からしゅるしゅると、キバッた思いが抜けてゆく。
 保田はきびすを返し、一直線に自席に戻った。
 深々と椅子に座り、熱っぽくしめった目頭を押さえ、
 紙コップに入ったコーヒーを喉に流して一息つこうと
「だぁぁぁー!カンベンしぃー!こん忙しいのに!」
 する間もなく頭上を音が通り抜け、保田はコーヒーでむせかえる。
 振り返ると、中澤がヘッドセットを外して髪を掻きむっていた。
「ごっつあん、キレた!」
126 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時20分10秒
 後藤は金色のオオカミだ。
 金はオウサマの色。
 オウサマというのは平和とヒルネが好きなナマケモノのことである。
 荒ぶる狩猟者の息と、消耗したケモノの息を聞きつづけて、
 後藤のオウサマはとてもフキゲンだった。

「もー」

”動クナ。向カウナ。構ウナ。まんつーまんヲ崩サズ現状保持ヲ”

 イラだつ指令を繰り返すヘッドセットをオーバースロー。
 青空きらり輝く星にさせ、壁や柱にあちこち仕掛けてあるだろうカメラに見当つけて、
 ぐるりと見回しタメイキ一つ。
 壁に寄りかかっている赤黒いカタマリと、
 わずかに右手首袖口を湿らした液体を意識してタメイキも一つ。

 抱き枕を狭いスペースに押し込んだような、
 縦くの字形に湾曲しているカタマリ。
 ソレが体の筋を違えそうなカッコでヘタりこんでる吉澤だ。
 幾度も血たまりにのたうって、全身に砂クズ木クズのコロモをつけている。
 赤黒い粘着液を塗ったくったガンメンは、目鼻立ちもわからないムンクの叫び。
127 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時23分18秒
 明るく乾いた模擬市街地に、ヒトのフォルムを失ったモノがのたりと蠢く。
 ソノ前で困ったような顔をしている美少女ヅラした後藤。
 合わせ見れば、ソノ不気味さより状況の非現実感が際だった。
 ツクリモノめいた景色の中では、
 ソレもブラウン管向こうで歌い踊るプリカルト・ガセキュートなマスコットアイドル。
 ――と、力業ぶっこけば言えなくもない。

「よっすぃー、大丈夫?」
 う゛。
 赤いドロ人形は鼻や口からドロしぶきをボタボタ吹き出しながら答えた。
 近づくと悪い病気が伝染しそうなホラー具合である。
「なんかーごめんねー。すんごいことになっちゃって」
 う゛ー。
 ドロ人形は緩慢な動きで棒のような右手を横に振る。
 
 こんなモノができあがるとは、後藤も思ってもなかった。
 どうやら吉澤は戦闘センスがあまりない。
 が、とんでもなくタフではあった。
 へなへな起きあがってくるモノを目の端で捕らえ、反射的に剣を振る。
 単調な作業の傍ら、もう一組の訓練の様子へと感覚の大半を向けていて、
 ふと気がついたら足下にブードゥ人形がう゛ーう゛ー震えていた。
128 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時41分28秒
「もう、どこにポイントついてるのかもわかんないねー」
 片手で肩に担いだ剣でぽんぽん、、と自らの肩を叩きながら、
 吉澤服に仕掛けてあるポイントパックを目で探す。

 パックを強く叩き、パック内部に存在する液体を包んだ皮膜を破る。
 この戦闘訓練の唯一のターゲットであるポイントパックを、
 後藤は一つも潰していない。
「パックみんな潰して、訓練終わりにしちゃおうっか」
 後藤が一歩近づくと、
 ずりり、
 と、壁に背をこすりつけながら吉澤が立ち上がった。

「――まだやるの?もーいいよ。
 そんなにタフなヒトうちにいないし。じゅーぶん合格だと思うし」
「ごとーさんはあたしのたんとーですから」
 と、吉澤は指先で顔面のドロをこそげ落とす。
 ドロの塊がどろっと落ちて、吉澤の大きな瞳が覗き出た。

「梨華ちゃんトコいかせません」
129 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時43分59秒
 後藤の鼻先にぴっと指を伸ばす。
 拍子、跳ねた泥を後藤は半身になって避けた。
「いちーさん手助けに行く気っすね」
「いかないよ、なんでごとーがアイツを助けるのさ」
 いいえごとーさんはいきます、と吉澤は決めつけてきた。
「いちーさんから言われたんです。ごとーさんを頼むって」
「カッテに頼むなよ」
「それにごとーさん」
 目が怖い、と、吉澤が言った。
 最初に会ったときからずっと怖い目をしてる、と。

「ちょ、ちょっとぉ?」
 伏せ目がちになった吉澤に不穏な気を感じ、
 後藤はブラリさげた剣を地擦りに構える。
130 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時45分00秒
「ごとうさんは私たちを殺そうとしてた」
「なにいってんのさ」
「後藤さんはキュウケツキがキライだから」

 泥に埋もれた吉澤の瞳に赤い灯火を見いだした瞬間、
 後藤の刀は空間を裂いていた。

 無意識。故に最速。
 腰から対角の鎖骨へと二つにするその太刀筋に、吉澤はふにゃりと動いた。
 刃先が肉を噛んだ。剣速が生んだ風圧が骨を断つ。
 吉澤の右腕が飛んだ。
 後藤は一呼吸の間もなく剣を引き戻し、
「ホラ、キライだ」
 背後の声に、振り返りながら大きく刃を回す。

 二太刀目は足首。
 だが、視界の端に影を揺らめかせて吉澤の姿は消え失せる。
 後藤のスロットルがフルに開く。
 嗅覚がダイレクトに剣を動かす。

 三太刀目。
 刃の腹で頭上を超す物体をたたき落した。
131 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時47分03秒
 『敵』は目前に鞠のように転がり、
 互い違いに失った手足を補うよう二本の手足で体を支えて立つ。
「――よっすぃ?」
 いったいはコレはなんなんだ?
 吉澤一流のスピード任せで直線的な動きとは違う、軟体動物のような身さばきをした。 
 今はただ、蜘蛛のように地に這い蹲って、静かに後藤を見上げている。
 後藤も、じっと見返した。
 探る。確かめる。
 頭から順々に見つめ下ろしてゆき、やがてようやく気がついた。

 手足を落としたのに、血が一滴も出ていない。
 切断面は穴のようだった。
 夜空の向こうへ通じている様に深く、黒い。

 身を固くした後藤に、
「ごとうさんには」
 闇がささやく。
「ころさせない」
132 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時50分04秒
 闇は常に後藤の命の背後に立っていた。
 正面から見つめ、見つめ返されたのは初めてだった。
 イヤな汗が全身から滲んで頭ん中がキーンと鳴った。
 後藤は震えた。
 戦慄のあまりに寒気がした。
 後藤の体が戦闘機関に変質する。
 心と体の境目あたりを、カンカンに凍ったナイフで切り分けられているようだった。

 ――後藤はコレを殺してしまうかもしれない。
 ――ごとうは、よっすぃをころしてしまうかもしれない。

 イヤだよ、と唇を震わせた。
 動くな、と心から願った。
 もしコレが動いたら、勝手に剣が動くだろう。
 斬る。敵を斬る。闇を斬る。

 コレはちょっと前まで、やらかくあったかいお日さまの匂いだった。
 風を切る自転車の車輪音、枯れ草の丘に立つたき火のけむり、
 水しぶきの向こう側。だから動くな。
 動くな。動くな。動くな。動くな。動くな。動くな。

 祈るように繰り返した願いもむなしく、戦闘機関は後藤を浸食してゆく。
 視野が狭まり鼻がしびれて耳が聞こえなくなる。どこもかしこも白んでゆく。

 ――どこまでもが真っ白になった。
133 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時51分34秒
 それから幾時かが過ぎ、後藤は前のめりに倒れかけた。
 剣を杖にして、どうにか立つ。
「……なに?」
 そんな声を出してみて、声が出ることに安堵する。
 体が空っぽで力が入らない。
 後藤はわずかな力を振り絞って顔を上げ、
 俯せに倒れている吉澤の背中が、ゆっくり上下しているのを見届けた。

 なんだか、まるでわからない。
 けれど後藤はなぜか、助かった、と思った。

 思ってその場に崩れた。
 顔をつけた地面がたちまち濡れてゆく。
 それで自分が泣いている事に気がついた。
134 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時52分18秒
「……いちーちゃん」
 そんな名前が自然に口にからこぼれ落ちた。
「いちーちゃん」
 止まらなくなった。
「いちーちゃん、いちーちゃん、い、いちー、いち、いちーっちゃ」
 しゃくり上げながら後藤はその名を幾度も呼んだ。
 あんまり必死になって呼んでいたので、後藤の上に差した影に気がつかなかった。
「いちー」
「なんだよ」
 止まった。

「あーあ、ひでー様子。こっちにも車回してもらわないとなぁ」
 空の近くに、ズタボロで血まみれで、ひでー様子の市井がいた。
 ひっかき傷だらけで血の気の失せた青い顔で、
 荒い息をする度に両肩を上がり下がりさせている。
 それでも市井は両方のポケットに親指だけを突っ込んで、
 カッコつけて立っていた。
「命令無視ぶっこいたって?しゃーないなぁ」
 市井は口元をかたっぽだけ上げる、イヤミな笑い方をした。
135 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時53分45秒
 まず最初に、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を戦闘服の袖でぬぐった。

 それから血の流れが戻ってきた手足を使って、しっかり立ち上がり、

 最後に堅く握ったゲンコツを振りかぶって、市井を力いっぱい殴り倒した。
136 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月07日(金)20時54分55秒
※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
今回更新
>>119-135

137 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)00時21分40秒
更新乙です
まじで面白いですね
スキーから早く帰ってきてね(つД`)
138 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)15時47分07秒
うわー更新されてる!^^ずっと待ってたかいがありました☆
この話大好きなんでがんばってください!
139 名前:南風 投稿日:2003年03月08日(土)20時37分02秒
更新お疲れ様です。

・・・・やったぁぁぁ☆
待っててよかったです!
これからも応援させていただきます。
がんがって下さい。
140 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)20時43分30秒
帰ってきたんですね!更新おつかれです自分もこの小説のファンなので
がんばってください!!
141 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年03月11日(火)19時15分44秒
久しぶりにきたら更新されとる!!おもしろいね!
作者さんがんがってください!
142 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年03月15日(土)17時11分36秒
早く続きがみたいな〜〜〜
143 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月16日(日)23時27分06秒
早く書いて









144 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月17日(月)09時43分02秒
早く早く言うな。厨ウザイ
好きならマターリ待て。
145 名前:名無し 投稿日:2003年03月17日(月)21時35分11秒
>>143
そのとおり。早く書いてとか作者に失礼。
146 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月21日(金)22時34分25秒
そろそろ待つのも秋田
147 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年03月22日(土)13時45分29秒
自分は待つよまだ
>>146テメーはどっか逝け
148 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月22日(土)22時16分56秒
マターリマターリね。
149 名前:イヌきち 投稿日:2003年03月22日(土)23時25分40秒
「待ってください」などとは、
もう言えないぐらいにお待たせし続けてます。
すみません。
近々更新します。
そのときにはageますので、
それまでは他の皆様の迷惑にならないように
sageでのお書き込みをよろしくお願いいたします。
150 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年03月23日(日)07時29分46秒
キターーーーー(゜∀゜)−−−−!!
作者さんがんがってください!!!!
151 名前:名無し犬。 投稿日:2003年03月23日(日)17時07分12秒
人の話は聞きましょう。
更新されたと思ったじゃんか。
152 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時25分35秒
 市井は考えた。
 挨拶無しでやってきたのだから、挨拶無しで消えるのがスジだろう。
153 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時26分39秒
 鈴木が持ってきた『お知らせ』によって、今後のおおむねは、ぱぁになった。
 因子研究の情報規制と因子保有者への拘束規約が厳しいことで批判を受けていたこの国が、他の因子研究先進国のシステムを採り入れることが決定したという。

 改革が、始まる。

 それまで一切合切聞かされず、蚊帳の外だったハンター協会は混乱した。
 ペリー来航時、幕府はかくやという有様。
 管理職以上のハンターたちは会議にデスクに駆り出され、
 ミドルクラスハンターの多い関東宿舎・中澤班棟はがらんとなった。
154 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時28分51秒
 保田の部屋。
 市井はサンタ袋一つを肩にかけ、庶務奮闘中の部屋主がいない部屋を後にした。
 廊下を抜ける途中、センベイをくわえてホップステップの加護とナニ食わぬ顔でスレ違う。
 ――思い付いて、呼び止めて、頼んだ。
 敬礼を残して空間を飛んだ加護は、三分で戻ってきた。
 ハートマークの書かれたピンクの便箋を受け取って、
 市井は一昔前のラブソングを鼻歌にしながら宿舎のロビーに出る。
「サヤカ」
「ぽ?」
 振り返れば矢口。
 長椅子にすっぽり隠れて座っていた矢口は立ち上がり、両手を腰に当ててふんぞり返った。
155 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時35分05秒
 昨日の訓練。市井は本当に危うかった。
 狼に変身せず、二足歩行体の回避性を重視したのはわかった。
 二足フレームにケモノのパワーを無理矢理乗せた。
 ヒト型外見を保ちつつ、筋骨神経の一部を変質させた市井式オーバードライブ。
 ボディ爆死と隣り合わせの暴走運転。
 そんなオーバードライブの効果とリスクを、矢口はよく知っていた。

 ヒトならざる器官から、ゾル化寸前まで濃縮された化学物質が生産される。
 熱くたぎった血液が、薄い血管壁を張り裂く勢いで膨らませて全身を循環する。
 脳みそはケミカルな『濃いの』をブチ込まれ、
 情報をコマ落ちなく処理しようとヤッキになる。
 無理無茶をゴマカす薬をヒッシに作り、めくらめっぽう当たりにバラまき、
 排気口から赤い泡を吹かせてエンジンとハンドルをブン回す。

 市井は死にものぐるいで石川のギリギリ状態を手に入れたかったのだろう。
 キュウケツキの情報を得るのが市井の仕事だから。
 そして情報を得たからには、この地に用はないはずだ。 
156 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時42分29秒
 市井が病院送りになってからすぐ、矢口は市井の気配をチェックし続けた。
 鈴木がキュウケツキハンター代表とばかりにペラペラ喋りだし、
 後藤が反省房に入れられている間がねらい目とばかりに
 ヤツはとっとこ逃げ出しかねない。

 夕方から寝て深夜には目覚めて準備していた。
 長い午前を過ごした後に本部棟に移動し、
 タイムカードをがしゃんと押した当たりで市井の気配が保田の部屋で消えた。
「裕子」
 満面の笑みを浮かべてハイヒールでスキップしながら両手を広げてやってくる三十路前に、
 STOPのポーズで片手をつきだし
「サヤカの見送り行ってくる」
 元々市井のスケジュールを知ってる節があった中ボス級の中澤は、
 『あぁー』と矢口の制止の手を退け、ぎゅっと抱きしめて自席に戻っていった。
 後ろ手には矢口に渡しかけた仕事の書類。

 そして矢口は市井を捕まえる。
157 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時47分14秒
 まんまと捕らえられて、前屈みにしゅん、となった市井を、
 先導した場所は保田の経営するサンドイッチ屋の裏手。
 大通りを細い道で一抜けした地区には、
 子供なら誰しもが蹴り飛ばしたくなる絶妙な高さと大きさの障害物
 ――水色のゴミ箱と安ネオン看板がぼつぼつと立ち並ぶ。
 超・地域密着型の雰囲気を醸し出したそこにある、薄暗い喫茶店。

 狭い店内。客はない。
 唯一のテーブル席は、なにか油染みたモノでネバついている。
 市井を座らせ、矢口は向かいを取った。
 なじみの店員には、飲めるドリンクと盗聴器類の欺瞞妨害をオーダーする。
 市井は右頬に大きなガーゼを張っていた。
 オーバードライブで内側からはぜた皮膚は、
 凝血粉とコラーゲンゼリーと液状ファンデーションを厚く塗って繕ったのだろう。
 傷跡を隠し切れてはないけれど、数日前に猫にシッチャカメッチャカ
 引っかかれた程度のマヌケ面にはなっている。
 きっとキックバックで筋という筋がヘタっているだろう。
 きっとヤバイ薬で何種類かの神経路を殺しているのだろう。
 そう察しながらも、矢口は冷たい顔で言った。
「治り遅いね」
158 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時53分06秒
「ああ、コレね。
 どっかの単細胞みたいに、切ったり貼ったりつながったりしないから」
 と、市井は左ほっぺに貼った大きめのガーゼに、そっと手を当てる。
「ゴトーに殴られたんが、いっちゃん大けがっつーのはなんでしょね」
 ガーゼを撫でながら、市井はどこか嬉しそうだ。
「サヤカバカじゃん。サヤカバカだから」
「二回もばかばかゆ−な」

 市井の戯け癖は相変わらずだし、抜作ぶりは消えてない。
 それでもサヤカはナリフリ構わないホットなプロになっていた。
 対して今日の矢口は、クールを突き通すと決めていた。
 言葉を詰らせないよう、一番聞きたかったことを率直に問う。
「――サヤカ、どこかカラダ壊してるでしょ。昨日見ててわかった」
「うん、ゴトーに奥歯壊された。代わりに硬化銀歯入れたけど。
 これでキュウケツキも奥歯でボリボリ――」
「じゃなくて。――古傷?ウチんとこ辞めてから。センサー系で」
 市井の戦い方はおかしかった。
 近距離に飛び込んで、敵を目で追うスタイルは昔の市井のモノでない。
159 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時56分06秒
「……耳?鼻?」
「鼻ぁ」
 市井は小鼻を左手親指で押して、手のひらをピロピロさせた。
「ちょっと前、キュウケツキを村ごと焼いた時に煙吸い過ぎちゃって」
「――ばか」
「またバカいうたな」
「ばかばかばーかばーか」
 矢口は索敵系能力を売りにしている。
 そして、過去の中澤班内で、二番目の索敵兵は市井だと思っていて、
 つまり矢口は、市井のことを『近距離戦ができる自分』だと思っていた。
 だからセンサーがイカれた索敵兵の談話を聞いて、
 矢口がクールは数秒ばかり壊れてしまった。
160 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)12時57分07秒
「ばーか。――本当に治り遅いんだ」 
「デリケートな作りだからね」
「ってか、治るの?鼻。マジやばいっしょ」
「さぁ、どうだろうね。矢口と違ってキィキィ鳴くよな戦闘員じゃないし」
「鳴かねーよ」
「うん、じょーほーやだし。そんなにヤバクも。
 いちーは逃げるの上手いし」
「そればっか」
 嘆息。
 コイツは逃げるのに慣れている。
 きっと死にそうになるのにも、オーバードライブかけるのにも慣れている。
 このままサヤカが突っ走ったら、おそらく遠くない内に、
「転職することになるかも。職場移動かな。まぁ、その辺」
 矢口の不安を断ち切るように市井が言う。
「ほら、コノ国のごちゃごちゃ始まったでしょ。
 ドサマギでウチの組織もコッチに食い込もうとしててさ。
 ソレが決まれば、いちーもアレがナニでソウなるし」
 なんだか不透明な話をして、
「だから、大丈夫、きっと」
 サッパリ笑われてしまえば、市井に騙されてるような気にもなる。
 そう、騙されてると言えばだ。
161 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)13時07分21秒
「サヤカはさ、鈴木の進入経路調査で呼ばれた、って聞いたけど。
 結局あれウソだったんだよね。
 鈴木はキュウケツキハンターの中のヒトだったんだからさ」
「や、ちゃうよ。いちーはスズキのチョーサしたよ」
 トツゼンエセ外人風の高い声になった市井に疑惑のジト目を向ける。
 鈴木と同じ仕事をしているのにわからないことがあるだろうか
「同じ仕事してたって、わかんないことはある。でしょ?」
 ある。
 その通りだと認めながらも矢口はネチネチと攻めの姿勢を保ち続けた。
「うそつきぃー。ホントは、ウチラの情報目当てでしょ。
 そんなの去年の鈴木と全然カワンナイし、サイアクー」
 市井はため息。
 口を皮肉げにひん曲げ――負けた。
「あのね。言っちゃうけど」
 言っちゃえよ、言っちゃえよ。
「鈴木の進入経路も協力者のこともほんとーに、知らなかった」
 た。
 過去形を目で責めると、市井は続ける。
「この仕事受けるまでは、ね」
「ほら、今は知ってんじゃん」
162 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)13時11分25秒
「だから聞けってば。
 鈴木の仕事と、いちーの仕事は、上がゼンゼン違うの。
 鈴木の潜入に協力した人は、
 この国にとっては海外に情報を流した裏切り者でしょ。
 それから一年経って、
 今年いちーはこの国から招かれてここに来て、その上でみんなの情報を集めたんです。 セキュリティチェックもキチンとしたんです。
 それで鈴木の手口や裏切り者がわかったんです。
 いちーの集めた情報は、この国のためにも使われるんです。
 今年のキュウケツキハンターは、この国の敵じゃないんです。
 わかる?去年の敵は今年の友って」

 矢口は鈴木の胸についていたプレートを思い出す。
 去年の強盗が今日の上司と来たものだ。
 わかるけれどわかりたくない。
「世の中が悪い」
「世の中はたいへん悪い」
 二人で口を合わせた。
 ――もう少し分かりやすくてキレイな世界に身を浸していたいんだけどなぁ、
 と、矢口はジャケットに隠した短銃を気にしつつも夢想する。
 これを撃つしか飯のタネがないのだから仕方ない。
 だが、市井の口から裏切り者の名を聞いたときは、矢口は銃を捨てたくなった。
「マジっすか」
163 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)13時19分07秒
 バケモノ業界内で昨日から続く大混乱の中、
 コウセイショウの一職員の左遷が発表された。
 陰で日向でハンター協会並びに中澤班をめいっぱい支えてくれた、
 数少ない『こちら側』のオヤクニン様だった。

「和田さんが?」
 内通者。
「ウソだぁ、ウソでしょ、何でよ」
 ヤグチにしては珍しい、理屈もへったくれもない脊髄反論だった。
 わかる。わかるのだ。あのヒトならやりかねない。
 世界のバケモノを助けるために、
 この国のハンターをうっぱらってもおかしくない。
164 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)13時23分55秒
 和田はバケモノのことを親身に考えてくれるニンゲンだ、
 というのが中澤班の定説である。
 バケモノに厳しいこの国のやり方に憤りを覚えていて、
 しょっちゅう規制のドン詰まりに追い込まれては、
 起死回生のギリギリの手筈で中澤班を助けてくれた、
 あれもないこれもないと厳しい仕事条件を提示しながら、
 こっそり援護物資を用意してあるような。
 ヤクニン気質の残った善意のヒトだった。

 ややこしいヒトだと切り捨てて理解しようとはしなかった。
 けれど、矢口は和田のことを信頼していた。
 和田の手配で手に届く物資を当てにしていた。
 矢口は徒手空拳で戦うカラテ野郎じゃない。
 精密機器である銃器を取り扱うスナイパーだ。
 バックスタッフを信用せずに、どうして前線に立てるだろうか。
165 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)13時26分36秒
「ウソばっかだ。サヤカはごっつあんだけじゃなくて、
 オイラも生涯の敵にする気なのかよ」
「いちー、ここに来てからずーっと言いがかりばっか受けてるんだけど。
 だいたいごとーを生涯の敵に回した覚えはアリマセン」
 市井が口を尖らせるが矢口は取り合わない。
 それどころのキモチじゃない。
「サヤカは、肝心なことへの自覚が足りないんだよ。
 いつだってそうだ……いつもサヤカはそうなんだ」
 矢口は合成革の背もたれに沈み込んで両手で両目を覆う。
「へこむ、それ、マジへこむー」
 泣けてきた。
 サヤカが困っている様子を感じる。ドリンクをすする気配を感じる。
 クールなんてクソくらえだ。
「……ちっくしょ、ニンゲンなんて信じねぇ」
166 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月24日(月)13時28分45秒
今回更新
>>152-165
遅れてすみません。続きはまた今夜に。
167 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)01時47分28秒
( ´ Д `)<いちーちゃん、ごとーはまた置いてかれるんだー

168 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年03月25日(火)18時36分28秒
やっぱりうまいですね〜
待ってたかいがありました!
がんがってください!!
169 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月25日(火)22時28分02秒
わー。再開されてる。まじうれっすぃー!
この小説って、シリアスなときでも読むのがつらくなったりしない明るさがあって好きです。
「えんたーていんめんと」ってやつ?

どことなく「犬神明」な後藤くん&なんとなく「神明」な市井くんのウルフガイ・コンビが絶妙っす。
「じゃりテン」加護もよし。
170 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月26日(水)23時32分19秒
( ´ Д `)<いぬきっさん、ごとーはまた置いてかれるんだー
171 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時29分03秒
吉澤は生きているだろうか。

数ヶ月前にも、この白い建物で吉澤を見舞ったことを否が応にも思い出す。
あの時は地下だったし周りは銃をこれ見よがしにぶら下げた黒制服に章刺繍だらけだったし扉という扉が分厚い鉄板で出来てて私は拘束服を着せられていたけれども。
今回は、フツーの病院のように見える場所から入ることが出来た。

ベーグルとゆで卵の詰まった籐の編み籠を両手で抱きかかえて病院棟を歩いた。
正直言えば、石川はフツーの病院というものに行ったことはない。
だから何がフツーなのかは自信がない。
ないが、テレビでみる病院というのはだいたいこんな感じだったような気がする。
172 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時29分37秒
とにかく、あたりは白くて四角くて。
白衣やパジャマ姿がウロウロしてて。
後藤さんにちょっと似た大きな茶タヌキが頭に包帯を巻いて
お行儀よく長いすにお座りしてて。
水槽に入った八本足が荷車がたごと赤ランプの部屋に運ばれてたけど
アレはたぶん例外。

案内図を頼りにバケモノ病棟の離れにある個室にたどり着き、
石川は引き戸の取っ手に手をかけて深呼吸をした。

大丈夫、この中には数ヶ月一緒に暮らした『私のよっすぃ』がいるだけ。
よし、と気張って思いっ切り扉を引いた。
173 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時30分15秒
全身タイツのアフロヘアがうねうねと踊っていた。
174 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時31分24秒
黄緑のぬらっとした布地の上に赤青黄色の幾何学模様が、
肉の動きに鼓動して形を変える。
まるで草原を舞う毒チョウチョ、特殊効果を施された映画広告の禍文字。
石川はもう息も出来ないほどアフロタイツに釘づけだ。
蜘蛛の巣かかった迷いビトのこともつゆ知らず、呪いのアフロは止まらない。
猫のような手つきで空を掻いたり歌舞伎の大見得のように踏み込んだり。
あぽぉ!あぽぉ!と奇声を出しながらベッドに向けて、腰だめの姿勢をとり、
原理は一切不明の『ナンチャラ波』のたぐいを放つカッコをする。
ベッドのシーツは山形に膨らんでいた。
175 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時33分54秒
「だめーーーーーー!」
石川は高周波と共に籠を発射する。
振り返ったアフロの顔面に籠が命中。
敵機撃墜、もんどり打ってひっくり返る。
「ヘン!変なヒト!誰か!変質者ぁ!」
この病棟内でも有数の戦闘兵が後方に助けを叫んだ。
中腰になって地に転がった鶏卵やユダヤのパンを拾い、
情け容赦ない地上爆撃を開始する。
粉が散り、白身が砕ける凄惨な殲滅戦は弾切れを起こし、コンマ数秒で終了した。

全身食材トッピング状態になったアフロが腹筋で上半身を起こして、一言、
「なんじゃこりゃぁ!」
叫んでアフロを投げ捨てた。
ズラだ。
ソロバンをはじく関西詐欺師のようなサングラスも投げ捨てると、
そこには石川の見覚えのある顔が現れた。

なんだなんだと白衣や制服やパジャマや包帯タヌキが集まる部屋の中、
暗黒舞踏家と卵爆撃機は互いを指で差し合う。
数ヶ月前も、この病棟で会わせた顔だった。
176 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時38分08秒
稲葉はバケモノで、かつ、この国では非常に貴重な
キュウケツキ学専攻のバケモノ学者だった。
稲葉がバケモノであることは、
つまり研究所では冷や飯や煮え湯を飲み食いさせられる事なのだが、
この事態では幸いした。

超高速卵攻撃を受けた稲葉は蒸しタオルで顔を拭くだけで事後処理をすませ、
「そこ。殻落ちとる」
「……はい」
いすに腰掛け、ネガネガとホウキとチリトリ部屋を掃除する石川に指示を飛ばす。
「……っとに……ナニしてたんですかぁ、いったい……」
 ベッドですやすや眠っている吉澤をちらちら見ながら石川は嘆息した。
177 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時39分10秒
「へー。文句言えるだけ強くなったんやなぁ。ほらそこ。パン屑」
「……はい……ってか、ほんとーにナニしてたんだろ……」
「下界に染まっておひーさんもずいぶん砕けて。
 吉澤さんと二人で『うっそーまじでぇーはっぴー?』とか言ってるんやろ。
 やってるんやろ。やってるんやろ。
 っかー!若いってかわええなぁー」
「やってません。って本当にいったい」
「踊ってただけやんか。
 吉澤さんの回復を願って『善良な踊り』を踊ってたん。
 見ればわかるやろ?」
意味不明。
以前、稲葉と会った時は、必要以上の会話を交わさなかった。
だからこんなにアレとは思わなかった。
コレが有名な『まっどさいえんてぃすと』というヒトなのだろうか。
どちらかというと、バライティで出てくる
『汚れ』というヤクワリのヒトのようだと思う。
178 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時42分45秒
「バカにしとんな。だからトーシローさんは。
 まじないの踊りっちゅーのはな、
 現代科学でまだ判明されないバケモノ学の死角を紐解くための、
 数少ない手段なんやで」
「魔法とかまじないとか、よくわからないんですよね」
「何言うてんの。あんたが吉澤さんの記憶いじるのとオンナジ手はずや」
 ほうきが止まる。
 石川の問いたげな瞳に、稲葉は説明した。
「つまり。キモチをな、ぴったんこかんかんに合わせるんや」
 それだけ。
 あんまりな説明に石川は口をとがらせる。
「私はカツラつけて変な踊りしません」
「あんたらは血で繋がっとるやんか。
 ウチは全然見えないキモチに合わせるやから、そうとうに気張らんと入らへんの。
 気張るとな、神様がアンテナとウチをつなげてくれるんやで。
 そーして、活力源に原始のリズムをナミナミ送って回復を促すんや」 
179 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時44分18秒
「飯田さんみたいなこと言ってもわかりません。
 ってかわからないように喋ってるでしょう?」
「賢いこやなー。ナデナデしてあげよか」
「いりません。
 『科学じゃわからない』って言いますけど、
 それって結局理屈はナニもわかってないってことじゃないですか?」
「そーともいう」
 悪びれもされずにうなずかれた。
「けどな、理屈がわかることより、わかんなくても出来ることの方が大切やんか」
 ああ、この人は本当に学者さんなんだろうか。
 細い目で不信感百パーセントの通告を送ると、稲葉はやれやれと首を振った。
「とりあえず出来ていることから、後付けの理屈を組み立てるのも科学やで。
 ほら、ウチは昨日一晩で吉澤さんのチャンネルつかんだで。見てみい」
 と、座ったままでカマキリのようなポーズをとり『あぽぉあぽぉ』と声を出し、
 手をゆらゆらとさせれば吉澤、天井に助けを求める手を高くつきだして
 『ぐごぎぎぎ』と錆びた歯車のような音でうめき始める。
「く、苦しんでませんか?」
「――あれ?」
「アレ、じゃないです!白目!よっすぃ白目!泡泡あわあわ!」
「――あれ?」
180 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時47分29秒
てんやわんやの大騒ぎになった。
石川はベッドから落ちかけの吉澤を支えて寝直しの体勢を整えてやり、
稲葉は手持ちのバックから細い瓶を取り出した。
瓶を逆さにして底を叩くと針が出た。
それを吉澤の胸に向け、パジャマの上から振り下ろす。

「!」

口に手を当ててぱくぱくしている石川を尻目に、
稲葉はシオシオと大人しくなった吉澤のパジャマをはだけさせ、
アルコール綿で胸を拭く。
「どちらかといえば打つ前に消毒するべきやな」
なんて空恐ろしい独り言をつぶやき、
うっすら血で染まった綿で吉澤の口から出ている泡も拭く。
綿をゴミ箱に投げ捨てると、稲葉はほうきを中段に構えて臨戦態勢の石川に言った。
「ほら、な?」
「なにが?!なにがぁー?!」
「とにかく、外部から精神に進入することは可能だということは実証されたやろ」
181 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時48分50秒
 石川はあきらめた。
 ネガネガ虫を放り捨て、ほうきを脇にうっちゃって、
 壁のフックにかけられた折りたたみ椅子を取り出して、
 稲葉をいすごと引っ張り動かして、吉澤の一番近くを強引に陣取る。

「なんで担当医のウチをオウチの方は警戒するの?
 昨日の夜からずーっと善良な踊りで面倒見てたんやで。
 吉澤さんの顔色見てみい、すっかりツヤツヤで
 ――まぁ、今はちょっと青ざめとるけど」
 呪いのダンサーの嘆きは無視して、質問した。
「誰でも、できるんですか?」
「は?」
「そういうの。吉澤さんの、キモチ、いじるの」
182 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時55分31秒
「キモチをいじるだけなら、酒場のねーちゃんでも出来るやろ」
「そういうのじゃなくて」
「『詐欺師』や『催眠術師』や『癒し系』がワンサカおるやろ。
 キモチをいじるのはたいしたことないで。
 巧みなトークに軽いヤクを混ぜればパーペキや」
「だからそういうのじゃなくて」
「今のキモチだけじゃなくて、昔の記憶も一緒にイジるとなると
 大がかりになるけどな。
 それでもキモチさえカチッとイジってまえば、
 記憶なんてのは、ある程度は本人自身でねつ造してしまうもんや。
 そこまでキモチをカチっといじるのは、簡単にできひん。
 せやから魔法の踊りでアンテナ通したり、血の糸やらでつなげる必要がある」
183 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)05時58分20秒
「それで稲葉さんは、吉澤さんにつなげるんですか」
 さっきはめっちゃ失敗してたみたいだけど。
「まずまずやねぇ。見ての通りウチの本業はお医者さんやもん」
 アフロタイツ - アフロ=Xの不審者がヌケヌケと言う。
「カクテルぶち込んで特別な催眠に落としてやらんと接続すら満足にできひん。
 ましてやID関連部位の編集までになると、もう」
 稲葉は両手を上げた。

 石川は吉澤を見た。
 白い肌はやや血色が悪いが、それでもすいすいと安らかな息を立てて眠っている。
 屈託のない安らかな表情を見ていると、この病棟に足を踏み込むときに抱いた、
 あの不安が浮かんでくる。

 この吉澤は、あの吉澤なのだろうか。
 数ヶ月前の吉澤が、あの吉澤と違うように、
 この吉澤も、改ざんされた吉澤ではないのだろうか。
184 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時03分35秒
石川は『地下街の事件』で吉澤と知り合い、この病棟で再会した。
『ニンゲンを襲ったキュウケツキ』の扱いとして拘束服をつけられた石川を前に、
吉澤はうれしそうに笑うだけだった。

その時の稲葉は、白衣を来た女史だった。
しっかりした口調でニンゲンとしての吉澤の死亡を語り、
全身の細胞が再生している最中であることを説明した。

「今なんて、この子の生きてる脳みそ米粒大やから」
よみがえりかけの吉澤を捕まえてそんな風に言うなんて、
少し変わった人だとは思った。
その稲葉の横には赤シャツ色グラスの派手な男が居た。
「彼女に自分の血ぃ、飲ませたんやって?」
つんく、という変わった名前の男に聞かれ、くつわを噛まされた石川は頷いた。
キュウケツキの血を飲んだニンゲンはキュウケツキになるという話は、
石川はかつての家で教えられていた。

『それはお前の奴隷ではなく私たちの血族になるのだから
 大事なものにしか行ってはいけないよ』
185 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時09分36秒
手を引いてくれた吉澤を奴隷にしたくはなかった。
今から思えば、キュウケツキにもしたくはなかった。
屈託なく笑う吉澤を見て、
やっぱりこの子はお日さまが似合う子なんだと改めて思った。 
――でも、こうなっちゃったものは仕方ないよね。

キュウケツキにはしたくなかったけど、
本当はまた手を引いて一緒に暗い道を歩いて欲しかったから、
囚われの自分の立場を忘れてこっそりと喜んだ。

この時にズルいことを考えたから、今になってばちが当たったのかもしれない。
この時にもっと深く考えておけば、今になって不安がったりしなくてすんだのかもしれない。
とにかくこの時の石川は、惚れた相手との再会を単純に喜んでいた。
186 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時12分08秒
「面白いで、ほんま面白いことになっとる」
つんくは、吉澤の回復に比例して体からキュウケツキ因子が減少していると言う。
吉澤の体には因子を駆逐する何かがあるのだろうとも言った。
目を輝かせるつんくには、嫌な感じがした。

「どんなことができるやろか。何が出来る?
 クスリ?毒?それとも増やしましょか?こいつはエエで。
 いやま取りあえず、マトモに動かせるようにするのが先決やな」
「体はいいんですけどね、オツムの方がいまいち」
稲葉がカルテをめくって言った。
「記憶も思考もあやふやですし、スプーンは折るわ、皿割るわで。
 生卵も握れへんし、頭と体の調整がおっついてないんやと思います」
「治せる?」
「そういうのは、中からの方が効果的ですよ」

拘束服に選択の余地はなかった。

薬品と暗示操作に導かれての深い同調。
優勢順位を含ませたマスタースレイブリンク。
マスター側からの五感と筋操作の連動修正。
事故恐怖による精神的衝撃の緩和。
思考混乱の修正。
187 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時14分14秒
ほんの薄皮一枚の修正だと稲葉は言った。
こんなのは正当な治療行為だと。
それでも石川は吉澤が惚れたあの子ではないことを知ってしまった。
私の手を引いたあの子は死んだ。
目覚めて、
『助けてくれてありがとう、一緒に頑張ろう』
と、手を差し伸べてくれた吉澤は、自分が書き換えた修正版だった。

言われたことしかしていないつもりだった。だから責任はないと思った
新しい吉澤はやっぱり吉澤そのもので、突拍子のないオクビョウ者のままだった。
暗闇を歩く自分の脇に、お日さまのような大好きなヒトがいてくれるのが嬉しかった。
けれども、ただ一人の血族への思いが募るうち、
石川は不安でたまらなくなってしまったのだ。

私があの子を、あの時殺してしまったのではないか。
私はこの子を、今も書き換えているのではないか。
188 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時18分09秒
「稲葉さん、吉澤さんの体の方は」
暗い顔で話しかけると、稲葉は手を横に振った。
「ゼンゼン心配ないって。オツムも無事や。
 今、ちょうどキュウケツキ因子が減ってきてるところやから、
 完全になくなったら睡眠薬を抜いて、おしまい」
「因子?」
「自分の体液が減ったら、キュウケツキの血が出てきたんや。
 面白いなぁ。や、アンタにゃ悪いけど。この子ホンマ面白いで。
 コロコロ変わる。新しい潜伏性のキュウケツキやな」
「――キュウケツキですか」
 吉澤はとうとう、こちら側に来てしまったのだ。
189 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時18分42秒
「因子が消滅したわけではない、ってことが見えてしもうたからなぁ。
 クロ判定やね。
 そもそも因子のありなしだけでバケモン判定するってのが、
 テキトーで古くさいんやから。
 因子うんぬん言うたって、どう見てもこの子バケモンやん」
 稲葉は不機嫌な石川に気がついて、咳払いを一つする。
「――まぁ、今度の改革に伴って、判定法も改訂されるはずやから。
 どのみちこの子にバケモン判定は降りることになってたん」
「そうなんですか」

特別課税、遮られる手、痛い視線。
それとも今度起きるという改革とやらは、そんな世界も変えてくれるのだろうか。
吉澤にとって、新しい世界が優しい世界になってくれるといいなと石川は願う。
190 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時20分10秒
「吉澤さんには、特別な暗示テクニックがあるわけではないんですよね?」
「『マジックワード』のこと?」
暴走しがちな石川を制圧する、視線と言葉の呪いのことだ。
「簡単な手順を教えただけやからね。
 繋がってるのがアンタが相手だから効くレベルかな」
「稲葉さんは私に暗示をかけられますか?」
「ん?」
「たとえば、『絶対にヒトを噛むな』とか。
 吉澤さんが私にかけてるような暗示を、
 政府が納得するレベルで私にかけることは出来ますか?」
 顔をキバらせ拳を作って棒読みする石川に、
 稲葉は『何を言いたい』とばかりに自分の顎をさすって不審がった。
191 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時22分31秒
「私、吉澤さんと離れようと思うんです」

 天気の良い昼間の病棟で、吉澤は眠り続けていた。
192 名前:3-8 血啜りの世界へようこそ 投稿日:2003年03月27日(木)06時25分15秒
次章に続く。

今回更新
>>171-191
193 名前:イヌきち 投稿日:2003年03月27日(木)06時48分38秒
感謝のレス返しなのに、非常に見にくくなってしまって申し訳です。

>>105 「初めまして」のご挨拶がお久しぶりになってしまいました。
>>106 多少は無理をしないとなぁ、と思いました。
>>107 応援本当にありがとうございます。
>>108 >>111-115 >>118 保全ありがとうございます。
>>110 今は仕事の方を頑張ってません(w 
>>116 ある意味放置よりたちが悪いかもしれません。ごめんなさい。
>>117 チャーミー(^▽^)ありがとう。
194 名前:イヌきち 投稿日:2003年03月27日(木)06時50分36秒
>>137 戻ってきても間を空けてしまって・・・ 
>>139 二度目まして。レスも更新もむちゃくちゃな間隔でごめんなさい。
>>140 帰ってきました。ありがとうございます。
>>141 本当に「久しぶり」ぐらいの間隔ですね(苦笑
>>142 また書きます。
>>143 頑張ります。
>>144-147 すさまじい放置っぷりをしてすみませんでした。
>>150-151 Σ(o^〜^)ageってる!(w
 あんまり頻繁にageると、更新される方の迷惑になるようなので、
 とりあえず私は更新終了時にageるようにしています。
>>167 ヽ;^∀^ノ
>>168 今後は待たせないように・・・・したいとは思います。なるべく。
>>169 そう言っていただけると嬉しいです。
>>170 Σ(;・e・) 

>>全ての方 すみません。

今回更新
>>171-191
195 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年03月27日(木)11時08分25秒
は〜〜〜ん最高です!作者さん!!梨華ちゃんが切なげですねェ・・・
更新乙です!
196 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年03月27日(木)11時09分43秒
あがっちゃった・・・
すいません!
197 名前:169 投稿日:2003年03月27日(木)22時42分09秒
稲葉さん…言うにこと欠いて「パーペキ」って。そのうち「おはヨーグルト」とか言いだすんじゃなかろうな。
そんなことより石川ー、「離れる」だよな? 「別れる」じゃないよな? 市井を見習っちゃだめよん。
198 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月13日(日)23時57分20秒
独房入り三泊四日、三食昼寝付きだった。

後藤の受けたのはいわゆる反省プログラムだ。
反省プログラムと修正プログラムはたった二文字違いなのに、
内容は大きく異なる。

反省プログラムの独房には椅子と机とベッドと付くし、
毎日六時間の授業と反省文提出さえこなせば
中で何をしてようとも文句を言われることはない。
ここだけの話。有給休暇を減らさずに、給料だって貰えてしまう。

無くて不便なもの。
テレビ、ラジオ、マンガに裏モノ、菓子に酒。

反省プログラムの実績を裏付ける参加者からは、
確かな実績を裏付けるスラングが生まれた。

『ちょっくらジムに行ってきた』『いまアイツはダイエット中』
『明日から悟りを開いてくる』

一方修正プログラムのスラングは『コインランドリー』だったりする。
両者の違いは推して知るべし。
199 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)00時13分49秒
その日、保田はサンドイッチ屋を全日閉めた。
店のケータリングに使われる広告付きのバンに乗り、管理棟に行く。
後藤を迎えに。

時間を計っていったので、待たされることはなかった。
すぐに後藤は現れた。
ボサついた髪に、プログラム受講者用のグレイのトレーナー。
『健康道場』出所後のクセ、いつも通りのスイミン不足ヅラ。
そんな後藤と、横並びに歩いた。
ライフル制服が闊歩する廊下を歩きながら、市井が行ってしまったことを話す。
後藤の逆上を恐れて、ことさらに淡々と話す。
けれど後藤は耳の後ろをひっかきながら、
「そんな気してた」

拍子抜けした。
「アンタ怒らないの?」
 後藤は拳を保田の口元のほくろの上に”ぐー”を押しつけて見せた。
「いちーちゃんことおもいっきし殴ったら、
 チョビっとすっきりしたから」
「ベタベタねぇ」
 怠惰な後藤の佇まいにまるで似合わない、熱血回答に苦笑する。
 後藤はぷぅと膨らんて、
「チョットだよ、チョットだけだよ」
「はいはい」
 そんなのも、言い訳に決まっていた。
200 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)00時22分54秒
 言い訳で強がれるだけ、平静になった後藤に、
 安心もして、寂しくも思う。
 一年前、市井去りし後。
 ずっと後藤を見てきた保田にとって、
 甘えんぼのオオカミっ子を愛おしく感じる瞬間は数え切れないほどだった。

「けーちゃんこそ怒んないの?けっこう長いつきあいでしょ?」
「今更ってカンジ」
「いまさらって?なにがいまさら?」
「去年、紗耶香を止めなかった時点で、
 アタシは紗耶香のいい友達であることを選んだの。
 紗耶香がナニしたってそれは個人の自由」
 そこで留まることを選んだ。
 距離を置いた信頼関係。
 どうあがいても自分はオオカミにはなれない。
「でも、アンタにとっての紗耶香は家族でしょ。
 アンタには紗耶香を怒る権利があると思うよ」
「ケンリねぇ。んなもん、ないっすよぉ、たぶん」
201 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)00時25分43秒
「だってそれが家族でしょ?
 いいことも悪いことも、相手と自分をコミで考えるのが家族よ」
「そーなの?」
 そうだと思う。
 保田はそういうニンゲンの家庭で、安らかにすくすくと育った。
「でもさ、ごとーだって去年、いちーちゃんを止めなかったよ。
 いちーちゃんのおーえんしようと思ってたから」 

 そうだった。
 去年の後藤は、今の夏の後藤とは違っていた。
 別れの涙をこらえる聞き分けのよい子だった。
 在りし日のことを思い出す。
 面倒見のいいイバリんぼと、聞き分けのいいアマえっ子。
 その親友かつ戦友として過ごした日々。

 イバリンボが変化したのは、鈴木の襲撃後からだった。
 日に日に痩せる顔。鋭角な目。
 ――全てはキュウケツキに捕らわれた前兆だった。

 気が付いたときにはもう、市井は戻せないほどに変わっていた。
 恐怖の記憶と復讐の鎖に繋がれて、もがき苦しみ弱り果てたオオカミだった。
 放たれるのを、止められなかった。
202 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)00時35分27秒
 今回、ノウテンキっぷりを晒しに着た市井に会って安心した。
 別れて色々、重荷や壁が生まれたのかもしれないけれど、
 それでも市井は生きている。
 笑って来て、笑って帰った。
 別れの挨拶もしないで帰ったヤツだけど、
 いつも笑い続けてたことに免じて許してやろうと思った。
 
 ごとーも落ち着いたし、これでしばらく平和な感じになるかしら。
 と、安心しかけた保田に、
「ごとーさ、今まで、いちーちゃんのおーえん、できてなかった」
 後藤が言った。
 ひしゃげた顔をごまかすように、髪をくしゃくしゃに引っ掻く。
「そう?」
 こと市井に関しては、後藤は待ち忍ぶイイ子だったと保田は評価する。
「早く帰ってこないかなって待ってただけだったもん。
 そーいうのって、イッショウケンメイ仕事してるヒトにはウザイよねぇ。
 いちーちゃんのジャマだったかもしんない」
203 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)00時56分57秒
 保田は止まった。
 ばっと後藤の額に手の甲を押し当てる。
 冬眠仕掛けのやや低温。異常ナシ。
「なにさぁ?」
「ごとー?どしたの?
 ――洗濯、された?
 ねぇ大丈夫?アタシのことわかる?」
 後藤の肩をガタガタ揺さぶると、後藤の頭もくたくた揺れた。
 揺られながら後藤はへにゃっと笑う。
「けーちゃん、おかしいって」
「いや、おかしいのアンタだって。
 なんでそんなケンキョなのさ。
 ケンキョなアンタも嫌いじゃないけど、ソコまではあり得ないでしょ?」
「けーちゃんはごとーのこと、どう思ってるのぉ?」
 後藤は虫を払うような緩慢な手つきで、額の保田の手を追いやった。

「わかったのさ」
「なにがさ」
「ごとーさ、訓練でよっすぃがおかしくなった時、
 チョットだけだけどさぁ、こわがってたって思うのさぁ」
「え?」
「なんかね、フツーに動けなかったの。
 時代劇でさ、斬るか斬られるか――って。あんなカンジ」
204 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時02分40秒
「……アンタ時代劇なんか見たっけ?」
 話の核とは無関係のことにも突っ込んでしまうぐらい、
 目の前の後藤は保田の後藤と別人だった。
 ――後藤は弱さを人に見せない子なのに。
「夕方寝ながら見るよ。コーモンさまとか」
 そんな後藤を受け入れられず、
 『あの斬鉄剣士』が恐れおののく天下の副将軍なんかがあったかどうか、
 思い出そうと現実逃避している保田の傍ら、
「でも逃げられないじゃん?よっすぃじゃん?斬れないじゃん?
 だからさ、もー、もー、アタマんなかぐっちゃぐっちゃで、
 ――ちょっとすっごくね――ちょっとこわかったのさぁ」

 後藤はだらしなく笑いながら怖さを訴えた。

 緊張感をまるで持たないただれた本音。
 後藤はクールそうに見えて、甘えんぼで意地っ張りで強がりな子だ。
 そこいらのジャッカル野郎には尻だって見せてやらない。
 そんなオオカミから、肉と内臓と心臓の詰まったやらかい腹を見せられた。
205 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時13分32秒
 見てしまった。
 保田は後藤の頭に手を伸ばし、優しくつかんで歩みを促した。
「だから、今までなんとなくしかわかんなかったけどさ、きっとさ、
 いちーちゃんとおんなじでね。
 ずっとね、キュウケツキのことがね、すごくね――」
「――うん。そうね」
 声を落とす後藤に、保田は相づちを打つ。
 後藤も市井も同じだった。
 なすすべもなく故郷を滅ぼされ、ニンゲンの檻に囲われたオオカミだった。
 眠たがりの茶髪の少女も、怨念で痩せこけた灰色オオカミとおんなじだった。
 血啜りから受けた外傷に泣く獣だった。

「ここん中でさ、考えたてたの。
 待ってるだけはウザがられるかもだけど、
 ちゃんと手伝えば『おーえん』してることになるよね。
 いちーちゃんがキュウケツキの情報屋さんならさ、
 ごとーがハンターやれば、ちょうどいいんじゃないかなぁっとか」
 
 外傷を封じるように眠り続けていた頭を使って幼児返りを起こしたのか、
 後藤はやけに幼い口調になっていた。
 袖にしがみつく後藤を引きずるように保田は歩いた。
「ねぇーねぇー、でしょでしょ?」
「そうね」
206 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時15分44秒
 後藤がキュウケツキハンターになる。
 それは市井がもっとも嫌がる事だろう。
 市井は後藤のことを室内犬のように育てたいのだ。
 ひも付きで散歩させ、
 棒を投げて『とってこい』で遊ぶようなものに育てたいのだ。
 餓えはしない。怪我もしない。
 寿命を病院で迎えて墓に入れて貰えるような、幸せな愛玩動物になって欲しがっているのだ。
 
 ムリだ。

 市井自身で一匹オオカミを貫いておきながら、
 妹分にチワワに育つことを期待するなんて、
 すさまじい親バカだと感心さえできてしまう。
 後藤は筋金入りの頑固者だ。やると決めたらやってみせる。
 市井は守るべき愛しの妹分を失って、頼りがいあるパートナーを手に入れるのだろう。

 一人で苦しみ一人で笑う、自由奔放なヒーロー気質な親友に対し、保田は思った。
 ――おめでとう。ご愁傷様。ざまぁみろ。
 そしてそれは、そのまま自分への感傷だった。

 銀狼はすでに立った。
 眠れる金狼は目を覚ました。
 友人と妹分を見送って、
 ニンゲン社会の則を超えられないアタシはここに安穏と留まり続ける。
207 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時18分50秒
 保田は複雑なため息を吐き、不運をはたき返す類の不敵なニヤリ笑いを飛ばし、
「だったら、冷静にならないとダメよ。
 キュウケツキ見てキレてるようじゃ話にならないでしょ。
 石川はどう?まだ生理的にダメそう?」
「じゃ、けーちゃんもレーセーになんないとね」
 後藤が鏡写しのオンナジ顔で笑い返す。
「けーちゃんもキュウケツキに弱いもんね。
 イシカワさんみたいなグラマーさんとか」
「な、」
「あーいう女の子っぽいのとか色っぽいのに弱いんだよねー、
 けーちゃんってばさー。
 やん、なんだかやらしーわぁん」
「……バーカ」
 石川の薄い唇からと、鈴木の真っ白な牙を想像した。
 ぞわりとした首筋を撫でてごまかし、長い廊下を抜ける。
208 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時25分24秒
「うーす」
 保田の宣伝カーが開いて加護が出た。
 後藤の前で直立浮動で敬礼する。
「ごとぅさぁん。おつとめ、碁黒三でぇぃす」
 妙なイントネーションを一発かまし、
 加護は後藤の腕にコアラのように引っ付くと、
 ずるずる後藤の体を後部座席に引っ張り込んだ。
「ほら、いくよ」
「あいさー」
 保田が運転席に着いて、出発した。
 目指すはハウス。我らが故郷のハンター宿舎。
 都市辺境と辺境を繋ぐ、一時間弱の小旅行。
 加護の準備はぬかりない。
 すぐに持参の紙袋から駄菓子を取り出し、後藤とボリボリ始めだす。

「加護も迎えに来てるとは思わなかった」
「加護、サイキン保田さんと、なかよしさんなんですよ」
「へー、圭ちゃんの弱い範囲広がったんだ」
「はんい?」
「後藤。そこらにしとかないと殴るわよ」
「はんいってなぁに?」
 にぎにぎしい車内。
 やがて話題が最新状況にたどり着いた。
「市井さん、行っちゃいましたね」
 加護の言葉に反応し、保田はバックミラーで後部座席を窺った。
 ――後藤は、黙ってうなづいていた。
209 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時35分26秒
「梨華ちゃんも、どっか行っちゃうみたいだし」
「え?マジで?」
「なんか、別地区担当になりたがってるみたいです。とーいトコ」
「よっすぃは?ねぇ、よっすぃは?」
「よっすぃは聞いてないー。ね、保田さん、よっすぃは?」
 口への字に下がり眉の『負け加護顔』を見て、保田は事実で答えた。
「わからないわ。人事はまだ決まってないのよ」
 けれどクニを揺るがす大改革。
 今まで通りの中澤班という訳にはいかないだろう。

「みんないなくなると、さびしい」
 ぼそぼそ呟く加護に、保田が素早くフォローを入れる。
「でもさ、別地区や部署が別れても、音信不通になるってわけじゃないからね。
 今だって出張で班がバラつくの多かったもの。
 そんな変わらないわよ」
 車内に漂うマイナス情報の臭みを和らげつつ、
 プラス情報の旨みの素をぶち込んだ。
「紗耶香とは前より連絡取れるわよ。
 紗耶香の属してる斡旋所と協力体制に入ったから。
 悪いことばっかじゃないって」

 これからだって悪いことばかりじゃない。
 加護や後藤にそう信じてもらうのが、
 二人よりも長くここにいる、自分の義務だと感じていた。
210 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時38分06秒
「手紙でも送る?たぶん検閲入るけど」
「いいよ、そんな。こっぱずかしい」
 即効。
 後藤がアヒル口をする。
「こっぱずかしいような手紙、書いちゃうんだ」
 保田はほくそ笑み、
「なによ、加護の側だからって急に強がっちゃって」
 と、後藤が後部座席から顔を突き出してものすごい勢いで噛みついてきた。
「キュウにツヨがってなんかないもんねぇ!
 けーちゃんだってニヤニヤ加護つれ回してさ!ヤダヤダ!範囲範囲はーんいっ!」
「だから違うっての!なんでニヤニヤなのニヤニヤっ!」
「ちょっとヤらかそうでおっきければ、ナンでもいいんだよねー!
 うひゃー、ケガワラシー!」
「バカ何いってんのゴトー!」

 前と後ろで言い争う二人に、
 ヤらかい加護は粉砂糖まみれの口をパッカリ開けてうひゃひゃと笑う。
「なんだかワカんなぁいけどぉ、オモロイからイイ。おっけーでぇす」
 加護はポシェットの中からピンクの封筒を取り出した。
 前部座席のシートに前足を乗せて前のめりの後藤の背中を引っ張り気を引き、
 上目遣いで後藤の様子を伺って、
「後藤さんにも、ふぉーゆぅ?」
 差し出す。
211 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時43分44秒
 後藤は受け取った。
「それ、みんなにも配ってるん、この夏の写真でぇす」
 すでに保田も受け取っていた。
 アルバムだった。
 ヤらかくておっきい加護さんお得意の『血湧き肉躍るグロ画像』や
 『うら若き乙女のNG大賞』ではない、
 ありふれたスナップで纏められた普通のアルバムだった。

「えっとぉ、後藤さん、それイリますか?」
 と、モジモジ。
 わざわざ聞くのは、加護なりにこの夏を気遣ってのことだろう。
 
 この夏は、後藤と市井の夏だったから。

「ありがと」
 後藤は加護の頭をぽんと叩き、席に座ってアルバムを開いた。
 静かになった。
 保田はバックミラーで後部座席を観察するのを止めて、運転に集中した。
 見るまでもない。
 後藤はとりつかれたようにアルバムを見ているのだ。
 アルバムを開いて数ページ目にある、あの写真を見つめ続けているのだ。
212 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時48分19秒
 ありふれたスナップ。
 食堂のテーブルで突っ伏して寝ている後藤。
 その背後で、妹分の頭に指で角を作って、
 バカにしたようにニヤける市井。
 市井の脇、カメラに向けて屈託なく歯を見せて笑う保田。

 かつてココにあり、時に流された日常の図を、
 強がりで頑固な後藤は静かに見ているのだ。
 泣きもせず微笑みもせず何も言わず、
 他人から誤解を受ける無表情の仏頂面で、
 黙りこくって、ただ見ているだけなのだ。
 
 保田はフロントガラスの向こうを見ながら友を思った。
 アンタは向こうにいながらココにもいる。
 羨ましく狡くも思い、誇らしくも愛おしくもあった。

「紗耶香に時々、写真送ろうか?」
 その問いかけに、後部座席の後藤はこくりと頷いたはずだった。
213 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)01時58分56秒
 試験と同時に激動の夏が過ぎさり、静かな秋の入り口に来ていた。

 引っ越し初日を無事に終え、吉澤は新しい自室を見回していた。
 天井照明は電球ではなく蛍光灯。
 洋室造りなので床は望んでいた青畳ではないけれど、新品の絨毯だった。
 色はピンク。
 石川が偏愛するケバいピンクではなく、薄いベージュがかったもの。
 ここいらが妥協点だろうと、シンプルな色が好きな吉澤が譲歩して選んだのだ。

 正規のハンターになり、宿舎の部屋を格安で提供してもらえるようになった。
 給料も上がった。
 もはや金銭面の逼迫はない。
 一人暮らしも余裕。外食もおっけー。
 だから石川から同居を提案されたとしても、
 まずは『なんで?』と断る気であった。
 ――血はアゲるよ。でも部屋は隣の部屋でいいんじゃないの?
 それでも押されて押されてイジイジめそめそ続けられたなら、まぁ――
 そこまで想像しての、ベージュのピンクだった。

 なのにピンク狂いはここにいない。
214 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時12分41秒
 新しい部屋をうろうろしていると、
 パンツスーツ姿のノーマル稲葉が『お宅拝見』にやってきた。

 吉澤にとっての稲葉は、
『しょっちゅうクネクネ踊ってるヤバげなお医者さん』。

 扉を開けたらソレに遭遇してしま胃、とまどう吉澤に挨拶もそこそこ、
 稲葉はドカドカと中にあがり、家具一つない部屋の中央に体育座り。
「よっすぃ、体の調子は?」
 体育座りのクセに、偉そうに言う。
 なんでこのヤバげな人までウチのことをよっすぃと呼ぶのだろう。
 そんな疑問の解答が出る前に稲葉かまた聞く。
「よっすぃ?調子は?」
「はい、元気ですよ」
「いいねぇ。なら、明日の採血忘れずにな。たっぷし絞り取るでぇ」
 両手をニギニギさせる稲葉から、あさっての方に目をそらした。
 この類のヒトはあまり直視しない方がいい。

 吉澤から抜いた血は一部は研究に回される。
 残りはパッキングされて石川食用となるらしい。
 自分の血を啜るクセに、自分から離れていった石川のことが
 まるでわからなかった。
215 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時26分40秒
 わからないけど、離れたいというならば、止めはしない。

 思えば、ここいらのあたしは、いつもそんなカンジだったような気がする。
 『ハンターにならない?』と誘われてハンターになって、
 『義務を果たせ』と命じられて義務に尽くして、
 『そばにいて』と言われて、そばにいた。

 流されっぱなしの生活を思い返してみたら、釈然としないモノが胸に残った。
 なんであたしはこうだったのだろう。

 今回に限ってそんな事を考えてしまって、頭を何度もひねって、
「梨華ちゃんって、どうしてます?」
 危険人物に尋ねてしまう。
「さいはて支部転属やってなぁ」
「いや、それは知ってますけど」
 それすらもほんの数日前に、告げられた事だった。
 改正法の手続きなどで、石川も吉澤もバラバラに動いていた。
 そんな中でも吉澤が着々と引っ越しの準備を進めていた時だった。

 よりによって、宿舎の食堂。
 怒濤の手続きラッシュを乗り切って、一段落した中澤班の戦闘メンバーが集まっていた場所。
 飯田安部、後藤に保田に矢口、辻や加護を交えての談笑中に、石川は告ったのだ。 
216 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時38分49秒
 転属を申請して、北方の地で受理された。

 石川は主に保田や矢口や飯田に向けて言っていた。
 みなさんに迷惑をかけたくないんです。とか。
 自分でちゃんとやっていけるようになりたいんです。とか。
 でも、これからもお世話になりますねあはは。とか。
 皆が皆、気弱な笑顔でお為ごかしを言う石川ではなく、
 吉澤へと不審な視線を向けてきた。
 『どういうことよ?』
 『説明してよ』
 そんな目をされても、説明なんてできっこない。
 できっこないことも、説明できっこない。

 だって梨華ちゃんとは一緒に住んでいて、
 うちがいないと梨華ちゃんは飢え死にしちゃうし、
 梨華ちゃんは一日何度もよっすぃよっすぃよっすぃよっすぃ――
217 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時39分49秒
 見ないふりをしながら石川の様子を見てみたら、ちっともこっちを見ていなかった。

 何をどうしたらいいのかわからなかった。
 こんなの卑怯だ、と心で罵った。
 空気が読めないのにもほどがある、と石川を呪った。
 
 離れないセンパイ達の視線、言葉を止めて薄笑いの石川、
 その他もろもろ。
 責められ押し込まれプレッシャーが臨界点に達してようやく一言だけ。

「よかったね、希望通って」
「うん」

 それで最後だった。
 そのまま石川は出て行ってしまった。 
218 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時43分32秒
 その気になればスグ連絡つくだろうし、
 支部ってのも国内なんだからイけない場所じゃないし、
 会おうと思えば会えるし、
 でも向こうが出てったんだからウチから会いにイくわけイかない。
 それでも別に。
 別に。別に。別に。
 あんなんいなくたって、別に。

 稲葉に命じられるまま日本茶を入れ、
 辻が勝手に巣作りしていった秘密場所からせんべいを数枚抜いて茶菓子に差し出した。
「なんつーか。すっかり秋やな」
「……そーですかね」
 時は夕刻。蝉がじーじー鳴いている。
 弾まない時候のアイサツにも一歩も引かず、
 呑気な手つきで茶とせんべいを交互に口に運ぶ稲葉を前に、
 部屋主の吉澤の方が所在なくなる。
「何にもない部屋ってくつろぐわなー」
 早く帰ってくんねーかな。
219 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時48分16秒
 救いのチャイムが鳴った。
 解放された吉澤が、かろがろとしたステップで玄関に向かい、
 相手を確認せず、がばっと扉を開けた。
 途端、頭突きを受けかけ、のけぞった。
 外のヒト、つなぎにキャップ姿のオンナに、深々90度でオジキをされたのだ。
「どうも。ゼチマ引っ越しセンターっす」
 ヘッドバットを意に介せず、オンナがオジギから起きあがる。
「あ、あー!あんたぁー!」
 指さし吠える吉澤をよそに、引っ越し屋は平然と室内に上がり込んできた。
「荷物運ぶんで、ちょっと脇退いてくださいね。
 しっかし、荷物少ないなぁ。現代人の生活が箱一個なんてありえへんで」
「アンタ!隣の!隣のねーさん!」
 前に住んでいた安アパートの隣人だった。
 見た目はやや派手目の美人。
 イシカワとヨシザワの生活に聞き耳を立てているようなヤらしいねーさん。
220 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時50分01秒
「だからよっすぃ、入り口いると運べんって。ちょっと退いて」
「よっすぃ?よっすぃよっすぃってアンタもよっすぃ?!
 なんでアンタまでよっすぃ呼び?!」
「なんでもええから。よっすぃ、ちょっとドいててな」
 引っ越し屋は強引に吉澤を押しのけると、段ボールを室内に運び入れた。
「おや、あっちゃん。後ヨロシク頼んだで」
「やぁ、みっちゃん。任せとき」
 アタリマエに挨拶を交わす稲葉と引っ越し屋のカンケーに、
 すっかり混乱した吉澤は眉間にしわを寄せて腕組みし、
 部屋の隅をうろうろうろうろぐるぐるぐる。
221 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時51分23秒
「ところでなぁ、よっすぃ」
「あんだよ!」
 怒鳴りつけられた引っ越しねーさんはワザとらしく帽子のツバ位置を正した。
「前の部屋のことなんやけど。
 昨夜寝る前になぁ、お隣からしくしく泣く女の声が聞こえてくるんよ。
 そういう因縁も一緒に引っ越してもらえんかなぁ」
 ぐるぐるしていた吉澤は立ち止まった。
 そして突如、もごもご言葉にならないことを言い出すと、
 大声で叫んで外に出て行った。

 引っ越し屋ねーさんが吉澤の背中を見送って、
「あの子、なんかキてたんか?」
 稲葉が茶をすすって、
「いつもキてるでー」
222 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時54分28秒
 金ならあった。
 拾ったタクシーを飛ばしてボロアパートにたどり着く。
 赤サビの浮いた階段を十段とばしのツーステップで飛び上がり、
 二階の部屋の前に立った。
 見下ろすと、自分がナニを乗せていたかに気が付いたタクシ−の運ちゃんが、
 猛スピードで車を走らせて逃げていく所だった。
  ――バケモンで悪かったな。
 心で毒づき、ポッケに手を入れ気が付いた。
 鍵を忘れた。
 ドアノブを力任せに引っこ抜く。押し入る。
 それでも靴は玄関で脱いだ。
 
 古い1Kアパートの部屋構造。
 玄関に繋がる縦一畳のキッチン兼用廊下、抜ければすぐ、黄ばんだ畳部屋。
 明りはついていなかった。
 カーテンを取っ払った窓から夕焼け模様と電信柱のシルエット。
 差し込む夕日で部屋は茜色に染まっている。
 窓を覗けば、道路向こうのボロアパートの庭が見える。
 洗濯物が見える。
 ゴミ捨て場が見えて、ゴミをあさってかぁと鳴くカラスが見える。

 だが吉澤はノスタルジックな光景には目もくれず、
 押入れを空けて上段の奥に手を突っ込んだ。
223 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時55分19秒
 当たりを引いた。
 つかんで引くと、当たりがふすまを破ってべちゃっと落ちてきた。
 追って血液パックが雪崩れてくる。
 足下に散ったパックをけっ飛ばし、吉澤は声をかけた。
「梨華ちゃん」
224 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)02時58分26秒
 パックの下でひしゃげてた石川は飛び上がると、
 両手が十本ぐらいに見えるぐらいにぶんぶんさせた。
 千手観音になりながら、あたふた後ずさりして隅っこにうずくまる。
「なにしてんの?」
 石川は顔を伏せ続けた。
 見えないものは、ないんだもんの姿勢を頑なに保持する。
「北ん方に行ったんじゃなかったの?」
 完全防御に籠もる石川。
 なのに怖いモノ見たさなのか。
 チラチラと吉澤を見上げてはプルプル震えている。

 行ったはずのヤツがいる。
 そんな状況にとても憤っていた。
 でも、チェーンソーを振り回す鉄仮面を見るように怖がる石川を目の当たりにし、
 吉澤のテンションは一気に落ち込んだ。
 ――噛まれたキュウケツキに怖がられるアタシってば。

「あのねぇー」
 猫なで声。
 すり足で近寄って同じ目線の高さにしゃがみ込む。
「どーしたのかな。なんで怖がってんのかなー?」
「ご、ごめんね、ごめんね」
「なにが?」
「か、勝手に決めちゃって。相談もしないで」
225 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)03時04分43秒
 ああ、このばか、わかってはいたんだ。

 その上で切り捨てられたという新事実発覚で、吉澤に怒りが再燃しかける。
 思い出せ。
 世界を股にかけるキュウケツキハンターもどきの市井に学んだ栄光と不条理な日々を。
 忍耐、無心、深呼吸。
 ――よし。
「そーじゃなくてねー。
 あたしは『なんで梨華ちゃんがここにいるのかなー』
 って聞いているんだけどなー」

 練乳をべっとべとにかけた最上級の甘やかし声に、
 隠しきれないフキゲンが乗った口調。

 それが石川を激しく怯えさせた。
 引きつるだけの石川に、
 阿修羅を無理矢理微笑ませたような吉澤の口が
 『いい加減にしやがれよ』の”い”の字形になったとき、
「こ、」
 ようやく石川が動き出した。

「こ?」
「こ、こここ」
「こここここぉおお?」
 片目片眉を引き上げた吉澤に、石川はぐびりと生唾を飲んで言った。
「工事中なんだって。支部の建物」
226 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)03時12分10秒
 吉澤は意識がぶっ飛ぶほどに放心し、ぽかんと石川を見つめた。

「は?」



 石川は緊張の糸が切れたのだろう。
 倍速モードしか移らないビデオになる。
 甲高い声がサラに高く聞こえる、超超超、超早口で一気にしゃべくりだす。
「急に出来た支部だから、書類上の開設だけでもいっぱいいっぱいだったのね。現場工事もおっつくかどうかのスケジュールだったのに、地域の反対とか夏ヒグマの事件とかで滞っちゃったんだって。 それに向こうの支部はちっちゃくて、管理課の手がたりなくてキュウケツキなんか管理しきれないって話なの。私は派遣って形になりそうなの。 そうなると籍は首都に置いたままの形になるかもしれないのね。 話がゼンゼン不透明だから指令も後回しで、とりあえずその辺で待機してろって言われたけど待機場所の手配も後回しで。それで自力でって事で、こうなったの」
227 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)03時13分20秒



 一息。



 捲し立てられた吉澤の頭の中には、組み立て中の丸太ん棒ログハウスと
 避暑地のワンピース石川と麦わら帽子をかぶったヒグマの絵しか残らなかった。
 ペラペラ石川が顔に飛ばしたツバをぬぐって、
「だからつまり、ナニ?」
「だからつまり」
 石川は俯いて消え入りそうな声で呟いた。
「ここにいるの」
228 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)03時23分11秒

 全身の力が抜けた。
 吉澤は畳にぺたっと尻を付いて、やや後ろに反り返って天井を向く。
「……なんでココよ。待機って、向こうのホテルとかなんとかさぁ」
 石川は秋の虫の儚さで、ぎんこー、と鳴いた。

「まだ口座できてないの。身分証も昔のしかないし。手持ちのお金は少ないし。
 ご飯だけは向こうに運ばれてるのを貰ってきたから、
 泊まれる場所さえあれば指令待ち時間ぐらいは過ごせるかなって」
「だったら、」
 本部に行って宿舎に行って部屋を求めて。
 いや、それよりも前に。
 ピンクのカーペット。
「なんで?なんでよ?」
 試験後から初めての二人きりになって、
 恥や外聞に押し込められていた言葉が出てきた。
「あたしさ、アンタのヤがることなんかした?」
 卑怯で臆病な自分を自覚して、苛立ちながら天井に尋ねた。
 返事はない。
 途方に暮れて黄昏れる吉澤の耳に、しくしくと泣く声が聞こえてきた。
「なんでかなー。私なんでいつもこうなっちゃうのかなー」
229 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)03時26分12秒
 涙混じりの石川の嘆きが、吉澤のつま先から脳天まで沸騰させる。
 背筋にかっと熱いモノが走って、キれた。
「んなの、アタシんセリフだ!」
 立ち上がると石川の手首をつかんで引っ張り上げようとする。
「帰る!来い!」
「や!」
 隣室のねーさんに聞かれてたら喜ばれること請け合いのやりとりを数分。
「こっち来いっ!立てって!」
「や!やだって!」

 立って引く方、座り込む方。
 古びた畳が摩擦負けして、立ってる方がすべってコケた。
 長い年月に乾いて板と板の間がスカスカになった汚い天井がヤケに高く見える。
 足下の方で手を握ったままの石川が、だって、だってと啜り泣いている。
 死にたくなった。
230 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)03時59分43秒
「だって、だって私がいるとよっすぃがおかしくなっちゃうんだもん」
「おかしくて悪かったね」
「ちがう、ちがうの!」
 石川の泣き声が耳障りなノイズまでになって胸に詰まる。
 頭を冷やそうと、空いてる手のひらの裏を目の上に当てる。
 怒りと興奮で全身に血が回りきってるから、
 手のひらの裏までも生ぬるくなっている。 気持ちが悪い。

「私は、私のことなんも知らなくても手を握ってくれた、
 よっすぃがいいんだもん。
 ばけもの嫌いなのに一緒にいてくれたよっすぃがいいんだもん。
 変わっちゃって、変えちゃうなんて、そんなのもうヤダ」
「生きてんだから変わらないわけないっしょ。
 アンタがあたしを生かしたんでしょ」
 ホンキでコイツが何を言ってるのかわからない。
 間違いない。
 おかしいのは自分ではなくこのオンナの方だ。
231 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)04時00分31秒
「なんなのアンタ、本当に。ヒトの人生変えて、血とかすって、
 ヤラシーことして。
 ナニ?アンタあたしにナニさせたいの?
 アンタを知らないアタシ?んなもんいるかよバカ」
 あまりに理不尽な要求に、泣きそうになりながら訴えた。
「あたしはあたししかいないの。アンタにはおかしいあたししかないの。他に誰もいないの。アンタもわかってんでしょ。
 あん時、あたし達はアタシ達しかいなかったの。カンベンしてよもう」
 とうとう泣いてしまった。
 日は落ちて暗い闇の中、ぜぇぜぇしている自分の呼吸音が恐ろしい。
「一人にしないで」
232 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)04時09分57秒
 足の方へ引っ張られていた手の張力がゆるんだ。
 目を覆う手のひらをズラしてみると、
 涙目の石川が吉澤の上に覆い被さろうとしている所だった。
 軽い体が掛け布団のように乗ってきた。
 胸の苦しさのタイプがおよそ400度ほど回り、微妙な位置で納まった。

 どうしよう。

 とりあえず、ちょっと斜めにズレている石川の体が落ちないよう腰に手を回した。
 回しておいて、何をしているんだと自分にツッコむ。
 押入の樟脳の臭いの奥から、シャンプーや石けんや血の臭いが嗅ぎ取れてくらくらしてきた。
 パニくった。
 頭蓋骨の中に風呂桶いっぱいの血が詰まってるんじゃないかと感じる。
 さっきまでベソついていた喉が乾いて引きつり痛い。すごく苦しい。
 もう少しでぶっ壊れそうだ。
 とにかくこの状況から何とか逃れたかった。
233 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)04時12分11秒
 どうしよう。

 どうかしようか。

 脳に熱が回りきってたからなのか、キスでもしようかなどと思い浮かんだ。
 辻加護みたいなちう。アメリカでは親愛表現。
 それを終止符すれば引きはがせる。
 そう思って決意して、首を傾けて、

 向こうからされた。

 ちうどころじゃなかった。
 舌に痛みが走って、口の中いっぱいに血の味が広がる。
 頭も胸も腹も足も、中が全部ドロドロの真っ赤に溶ける。
234 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)04時14分31秒
 時間が飛んで、気が付くと石川がこちらをじっと見詰めていた。
 自分の息が跳ね返る距離に石川の赤い目がある。赤い唇がある。
 いつの間にか手が両方とも石川の手の中にしっかりと握られて込まれていて、吉澤は安倍の言葉を思い出した。
 『いい吸血鬼は死んだ吸血鬼だけ』
 『ヒトのいい吸血鬼は真っ先にニンゲンに殺される』
 その通りだった。キュウケツキは最悪にタチが悪い。
 関わるヒトの何もかもを捨てさせる。
 性格が良いも悪いもあったものじゃない。
 捕まったら最後だ。
 捕まる前に倒さなければニンゲンそのものを奪われる。引きずまれる。
 飢えたニンゲンに禍めくパンを差し出すのが善意だったとしても、
 そんな充足を受けとめてしまえば、魂は日を避け空に背き、地下深くに向かいだすのだ。
 光ない夜の促進剤。
 それが吉澤に囁いた。
「すごく、好き」
 もう、同じになっていた。
235 名前:3-9 そしてまた、夏はサラバと立ち去った。 投稿日:2003年04月14日(月)04時16分53秒
今回更新
>>198-234
今回はちょっとsageておきます。すみません。
236 名前:169 投稿日:2003年04月14日(月)05時13分25秒
待ってました。
ほんとこの作品世界は、情報屋・市井のキャラそのものですな。危うげな二枚目半。
イヌきちさんの小説って、作品に対するどこか乾いた/醒めた視点がいいっすね。
作品と距離を保ってきっちりコントロールしてる感じで。安心して楽しめます。
237 名前:南風 投稿日:2003年04月14日(月)16時45分07秒
大量更新お疲れ様でした。
更新ごとに毎度毎度楽しみに読まさせてもらってます。
イヌきちさんのこの世界感にはまってからもう随分発ちますが、これからも
後ろをおっかけさせていただきます(w
238 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時16分46秒
知ってしまえばキュウケツキなんて怖くない。

キュウケツキはニンゲンの言葉を理解する。
ニンゲン社会の仕組みを理解する。
ニンゲンとキュウケツキは交渉することができる。
だからキュウケツキなんか怖くない。
いつの世だって、貴族を倒すのは怒れる民衆で、
オニを殺すのは祝福を受けたヒトだった。

怖いのはキュウケツキじゃない。
239 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時17分54秒
なんて、ウガった視線を持つほど後藤は細くなかった。
キュウケツキへの恐怖をほぼ克服できた今、
キュウケツキにもキュウケツキハンターという生き方にも
興味を無くしていた。
後藤とカタナを結びつけるのは、キュウケツキに寄り添うトモダチと、
未だキュウケツキへの念に捕らわれたアイカタの存在だった。

新しい夏が来て、出国一年が過ぎた。
さっぱりと晴れた日に、後藤はひょっこり帰ってきた。
240 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時24分14秒
クニの改革は終わっていた。
バケモノと呼ばれていたモノ達への扱いが表向きの改善がなされて、
『コウセーショー下のハンター協会』は消滅した。
バケモノは病気じゃないから、
コウセイショーで一括管理するのはおかしいのだ。
かくしてヒトの皮をかぶせられた異常能力体質たちは、
ケイサツチョーやグンムシツなどに移されて正式な公僕になったり、
今までに近い形の傭兵で過ごすモノも、ヒトの社会に混ざり込むするモノもいた。

キュウケツキ退治を学び帰った後藤は、
元通りのコウセーショーの、傭兵として迎えられた。
なんせ、キュウケツキは感染する病気だから。
241 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時27分07秒
かつての縦割りは消え失せた。
それでも、過去の資産を補うように横のつながりがある。
各種対策委員会があり、緊急時の特殊部隊がある。

そして帰国後第一弾は足早と後藤に命中した。
帰路の最中、クニの領地内に入ったばかりの深夜の機内で
後藤は特殊部隊からの招集を受けた。
242 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時29分29秒
場所は都心部の商業ビル。
繋がる道路は一般封鎖。
根本には武装集団の黒い人だかり。
深夜、人気のない時刻とはいえ、
大都市部のこの地区へ、これほどの囲い込みはは尋常ではない。

司令室は数台の装甲車が連結されたものだった。
給水車、発電車、輸送車。
各種軍用車が大都会の広い道路を断ち切るよう、
縦列横列なしている。

後藤はその中の一台、ラウンジに改造された輸送車に足を入れた。
外は無骨な姿だが、内は、高級バスともキャンピングカーともつかない。
電車のように横並びの長いすには、
片側だけでニ、三十人ぐらいが座れそう。
IDカード対応の、ラーメンやジュースの自販機がついていた。
そんなゴウセイな車内には、ブキミにがらんと誰もいない。
243 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時30分48秒
自販機から甘めのコーヒーを出して飲んで飲んで捨てて、遠慮なしに長いすに寝そべる。
さすがに熟睡はできない。
今日のご飯はなんだろう。明日のご飯はなんだろう。
そんなこんなを考えながら、うつらうつらしていたら、
「あー、また寝てるー」
薄目を開けると、吉澤だった。
244 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時35分10秒
吉澤は、月に二、三度の頻度で各種検査やテストで出国する。
その度に、後藤は吉澤と会って、近況などを話し合っていた。
髪が伸びて金髪に染めた姿も知っていた。
顔の輪郭や体型が、丸みを帯びたオンナの子っぽいものに
なっていることも知っていた。

それなのに。
今日ご登場した吉澤は金髪を低い位置で束ねての、スモークグラサンだ。
真っ白な革ジャン・革パンを着たその姿はどう見てもキメキメのホスト。
その白皮服が吉澤の戦闘服なことは知っていた。
それにしても、この着方。この態度。立ちポーズ。

吉澤は両手を上げてくるくる回りながら
「かっけー?ねぇ、ウチかっけーかぃ?」
とやたらめったら聞いてくる。
その度に 
「あぁー、かっけーねぇ、かっけーよぉ」
と答えておいた。
一番かっけーポイントは、オーダーメイドの戦闘服なのに
与えられたまんまの初期からデザイン変更を願いでない吉澤自身であると思う。
気に入っているのか、気にしてないのか。
どっちにしてもカッケー根性。
245 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時37分11秒
はしゃぎまくってカッケー回転を続けた吉澤がぴたっと停止した。
キメポーズを取りつつ肩ではぁはぁ息を吐いている。
そこまでするか。
怪しむ後藤の横に、荒い息のままで吉澤はどっかと座り
「ごめんね」
と、サングラスを外した。

目が赤かった。
白目の充血ではない。
瞳が赤い月のように光っている。

「最近さ。勝手にこうなっちゃうこと多いんだ」
吉澤は笑って、まぶたが作る三日月枠で赤い瞳を隠した。
「キュウケツキの深度が進んでるみたい。
 ごめんね、ごっちん、こーいうのイヤでしょ?」
 笑っているけど笑っていない。
 おちつかなげに口をもごもごさせて、鼻で呼吸を整えている。
「ん、平気だよ」
 本音だ。
 びっくりさせられたけど、わかってしまえばなんてもない。
「かっけーよ。うん。カッケー」
「ホント?」
「ホントホント。それによっすぃはキュウケツキじゃないじゃん。
 血ぃ吸わないし。
 あのねぇ、キュウケツキってのは、血を吸うからキュウケツキなんだよ」
 研修で覚えた講釈を垂れると、吉澤が上目遣いで瞳をそらした。
「じゃあ、あたしは何なのかな」
246 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時38分49秒
 患者だ。
 キュウケツキの犠牲者で、キュウケツキの特性を移された者だ。

 吉澤の症状に近い名を端から思い浮かべていった。
 スレイブ。パペット。ゾンビ。ストック。ミラー。コフィン。クロウ。ハウンド。
 ハウンド。

「うーん、『ジゴクの魔犬』とか」
「まけん?」
「だからー、キュウケツキと一緒にいる、でかくて強いイヌ」
 と、吉澤は頭を抱えて膝に顔を埋めた。
「ちょっとカンベンしてよー。梨華ちゃんの犬なんてヤだよー」
 悲嘆にくれる吉澤に、後藤は腹筋をふるわせるイヌ笑いをした。

「イヌはキュウケツキにとって特別なパートナーなんだよ。
 どうとーのあいぼーなんだよ。
 いーじゃん。ごとーもイヌ好きだしー」
「昔から言われてたから、犬はいいけどさー。
 梨華ちゃんのってのがやだよー。
 矢口さんとかカオリの犬のがいいよー」
 吉澤はとてもホストらしいよな、そうでないよな、微妙なセリフを吐く。
247 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時41分25秒
その石川は、北で勤務中だという。
招集はかかっているので、そろそろ戻ってくるそうだ。
バンの中に、徐々にヒトが増えてきた。
知らないヒトも知ってるヒトもいた。

「ごっちんだーごっちんー」
加護はアタリマエのように後藤の膝の上に飛び乗ると、
粘土をこねるように後藤の顔をぐねぐねコネた。
国を出るとき、引っかかれて泣かれたことや、
自分が市井にしたことを考えるとまったく抵抗できない。

これが『いんがおーほー』ってやつなのだろーかとイジられていると、
「おとこまえー、きんぱつー」
横には因果も何もない吉澤。
辻に同じ所行を受けては、ゴミを払うように床に叩き落とすことを繰り返していた。

飯田は恐ろしいことに特殊部隊の班長級に出世して、
サブの保田と共にバックに下がったと言う。
「カオリが?」
吉澤の膝にしがみついた辻がうなずく。
「いいださんの命令はわかりにくいから、いっしょだと好き放題できて楽しいよー」
248 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時45分28秒
穴埋めとばかりに前線にきたのが、去年までのスナイパーだ。
矢口は市井の武器とよく似た箱形銃を手にしていた。

「やぐっつぁんは前なんだよね」
矢口はちっちゃくてコセコセしてて、的確だ。
タフではないし、パワフルでも頑丈でもない。
「ジャマはしないからさ。
 オイラの動路はごっちんやなっちと別動になるはずだから」
こちらを斜め上目遣いするヤグチに、ふと、吉澤の話を思い出した。

「ヤグチさんは変わったよ。前よりメッチャしっかりしてさ。
 ――ちょっと、神経質にみえるぐらい」

吉澤を見やり――辻に頭部に乗られて視界をふさがれた吉澤を諦め、
矢口の隣に座る安倍を見た。
249 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時46分55秒
安倍は、伏せ目がちになって銃をいじくる矢口の背中で、
後藤に見えるように、自分の顔の前で手を左右に振った。
ゆっくりと口をぱくぱくさせて、にっこり笑う。
大声で、
「考えてみたらサ、ヤグチなんか前線向きだよねェ。
 撃ったり殴ったりしても当てる方が大変だよー。ヤグチ見えないもん」
おでこの上に手のひらを当てて、矢口の頭越しにぐるりと当たりを見回す。

「んなにちっちゃくねーよ!矢口はアリさんかよ!銃弾よりずっと大きいよ!」
おきまりの矢口の反論。
自分で言ったことが楽しくてたまらないといった感じで吹き出す安倍。
そして矢口がふんぞり返る。
「オイラは世界標準のガンナーなんだかんな!」
250 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時53分23秒
最後のびっくり大賞は石川だ。

ピンクのコートにイヤーマフにマフラー、手袋、長タイツ。
たとえ最北の果ての土地だって、
この国のこの季節にそんなカッコウをするヤツはいない。
北の仕事とは、地上目標物にされることだったのだろうか。
その派手さと場違いさは、夏祭りのクリスマスツリー。
熱射直下のキャンプファイアー。

コーディネートもすさまじい。
上から下まで全身ピンク。
微妙に色の濃さが異っているのがポイントで、
ダンダラのグラデーションが発生して、見るモノの目をチカチカさせる。
お子様は2メートル以上離れて見ないとアタマを悪くする類の映像。
あの辻と加護が恐れおののき、ツッコミ罵倒の言葉を失う有様。
吉澤なんか、大爆笑だった。
長いすにひっくりかえって石川を指してゲラゲラ笑い、
睨まれてぴしりと石化する。
251 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時55分30秒
何もかもが楽しすぎた。それが良くなかった。

眠気を覚ましてくると断って、後藤はバスから降りた。
行き来する兵士の流れを避け、人気のない方向へ向かう。
兵士を吐きだして空になったトレーラーの後ろに回り込んで立つ。
十数メートルほど離れて、道路封鎖の班がある。
後ろの本部集団とは、輸送車が壁になっている。

静かな空間に収まって、後藤は両手を組んで額に当てた。
こつんと人差し指の曲がり角をおでこにぶつけて祈るように目を閉じる。
252 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)10時57分46秒
あいかわらず、よっすぃはあったかくていいにおいがするし、
石川さんはどこかオカしい。
そして、ごとーも相変わらず、なのかもしれない。
そう思って嘆息する。
ここは、体の力が抜ける気がする。
一年間頑張って鍛えた自分は、本当にあるのだろうか。
吉澤と石川がおかしくなったとき、本当に斬ることが出来るだろうか。
『そのための』コウセイショウの傭兵で、
『そのための』キュウケツキ斬りなのに。

斬らなければいけないとしたら。
斬れる。斬ろう。
右手を握ったり開いたりしながら念じ続け、最後にはその手を額に当てた。
イメージが見えた。
剣を引き、振って弾く。
空いたところを刺す。
抜いて返して、回して、刺す。
それでおしまいだ。ごとーもおしまいだ。
トモダチを斬るやつなんて、『誰であっても』許せない。
――自分は間違いなく二人を斬れる。
自分の力をを確認して、薄く自嘲する。
斬れる。
ごとーは一年前とは違うのだ。
それは、何も出来ないと、何もかもおしまいの違いだった。
キュウケツキなんて怖くない。
けれどキュウケツキは、あっちこっちを悲しくさせる。
253 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時01分07秒
鬱屈としている後藤の、胸ポケットで通信機が鳴った。
味も素っ気もない電子音。
パーソナルオープンチャンネルを通しての会話要求音だ。

通信機はケイタイを一回り大きくしたぐらいの本体に
モノクロドットの古くさいスクリーンが着いている。
要求者がいちーちゃんねるであることを確認し、後藤は拒否った。
再度の会話要求音。
切った。
再々度。
作戦本部からであることを確認して、渋々チャンネルを合わせ、
コメカミにスピーカーシールを貼りカプセルマイクを口内に固定する。
接続。
「なぜ繋がない!」
とうぜん市井だった。

初めのうちは、市井は追いかけて来た後藤のことを、
ナダめスカして追い返そうとしていた。
『心配性のいちーちゃん』は、やがて後藤がうんざりするほどの
過保護な教育ママになった。
後藤の赴任先に先回りして、
ちゃっかりコーセーショーのキュウケツキ相談役に収まってしまう。

この事件にも、しっかと席を確保したのだろう。
本部の保田あたりを通して通信しているのだと察しが付く。
254 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時05分35秒
「なんのようだよう」
「なんのよう、って、いちーは心配して!
 止血パックは?スプレーは?歯磨いた徹夜かもよ?昨日言った課題はやったの?いちーってば心配で心配で心配で!」
「切るよ」
「切るな!まてまてまて切るな用がある!!」
「……、……。……」
「よ、よーしイイ子だごとー、チャンネルはそのまま、そのままだぞぉ」
 マイクの前で両手を前に突き出し『どうどう』なだめるポーズを取った
 市井の姿がアタマに浮かぶ。
 どうにもこうにもしまりがない。
「メンツが一通り集まったって報告を聞いたのね」
「それで?」
「つまり、そろそろ考え込んじゃう時じゃないかなと思って」
255 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時06分31秒
市井はそうだった。
普段は今はいている靴下の色も思い出せないようなトンチキなのに、
時々とても血巡りが良くなった。
「なんでさ」
そんなことまでわかるのか。
「そりゃ、愛だろ、愛」
すん、と鼻で吹いてやると、向口から苦笑が漏れる。
「こっちはシーカーだよ。いつも見てるからわかるの」
「すとーかーじゃん」
「なにおう!」
気を悪くした『ふり』の声を出される。
それぐらいはあまり見ていない後藤にもわかる。
もっと正確に言えば、みなくてもわかる。
この一年間のお陰で、パートナーとの意思疎通は完璧になっていた。
だけど、意志が通うのと、息が合うのはまた別問題。

「とにかく、今は変なこと考えないで仕事してればいいの。
 いざってときは、ちゃんと判断できるから大丈夫。
 大丈夫だいじょーぶ、ごとーは出来る子元気な子」
市井は歌うように言う。
いつでも冗談まじり、真剣味にかける調子。
これが市井の欠点の一つ。
何を言っても信憑性に欠ける。
そんな市井に慣れっこだけど、合わせてやる気には全くならない。
ただ呆れる。めちゃくちゃバカにしてやる。思いっきり逆らう。
256 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時10分10秒
 ――いちーちゃんって……なんでだろー。
 事件前なので、後藤も多少は自重している。
 心でぼやいて黙っていると、
「心配だってなら、気が楽になるおまじないを教えてあげる」
 と、ガキくさいことを話し続ける。
「一族に伝わる由緒あるおまじないだぞ。上を見て。何が見える?」
 顎を上げてみた。
 上には、高層ビルの太い杭で八方から串刺しにされた夜空がある。
「上が見える」
「んじゃなくて、見えるモノの名前を言えって」
「まるちょう、はまなや、さんかせん、たけこし、
 きたせんいちばん、うしさんじゅうじゅう」
「もっと上!」
「んー、空と、星と、月」

 今日はとてもいい夜だ。
 風は適度にしめって涼しく、雲一つない。
 絶好の遠吠え日和だった。
「それ」
「?」
「悩んだり、困ったり、落ち着かないときはそれを見る」
「うん」
「よし」
「……それで」
「それでおしまい」

 知ってはいるのだ。
 市井はそういうヤツだった。
「……いちーちゃんて、なんでそんなにおバカになれるの?」
「なにおう!」
257 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時13分50秒
通信を終えた後藤は、トレーラーにもたれて夜空を眺めた。
おまじないだが知らないけれど、星月で明るい夜空を見ていると気は静まった。
首の当たりからアタマの中までを通った筋が、上に上にと引っ張られる感じがする。

――月はケモノの守護星なんだ。
ロマンチストのいちーちゃんは言っていた。
――だからケモノを隠してしまったヒトは、
 月に焦がれたり愛おしんだりしない。こっそり静かに懐かしむだけ。

月を見れば、切ないような寂しいような気持ちになる。 
ごとーは、ヒトなんだろうか。ケモノなのだろうか。
わからないけど、どうでもいいような気になってきた。
こんな風にどうでもいいなんて考えてしまうのは、良くないことなのだろうか。
そんな考えも、どうでもよいの彼方に消えてしまう。
打ち寄せては引く『どうでもよい』の波の形に思いを寄せれば、
物事の境界線があやふやになってくる。

ヒトもケモノもキュウケツキもオオカミも引っくるめて、月ははるかかなた。
遠く遠くに感じられる。
とてもきれいに光っている。
258 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時14分43秒
頭を上げてぼうとなっていると、突然、月に影が生まれた。
目の前に落ちてくるモノをとっさに抱き留める。

「いたぁー」
胸の中で加護が笑った。
259 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時16分38秒
加護に引かれて前線部。
手を繋いで、ヘッドライトの道を戻った。

「ごっちん、帰ってきたばっかなのにいなくなるんだもん」
だもん、だもん、と加護の言葉尻に合わせて繋いだ手が揺れる。
揺れるリズムが心地よい。
「仕事前に、みなさんに心配かけるんだもん」
「あー、ごめんねぇ」
「プロの自覚がたりませんー。遅刻はバッキンひゃくまんえんー」
「ごめんごめん」
いきがる加護に謝りながら、後藤はぽてぽてと歩く。

歩き続けると遠目に二つ並んだ人影が見えた。
それらに加護が手で示して、うししとゲンコツを口に当てる。
「アレさ、オシリに敷かれてるんだよ」
石川と吉澤だ。
「梨華ちゃん、ごっちんのこと心配してたもん。
 んでさ、きっと、こうよっすぃ引っ張られてさー、一緒に探してんだよー」
「あー」
寄り添う二つの影を見て、後藤は思った。
ああやって石川と吉澤がいつも一緒にいればいい。
こういう風景をいつまでも見ていられればいいのに。
260 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時17分41秒
――あ。
二人の事を考えて、後藤は自分の根本的な勘違いに気がついた。
――見てなきゃいけないんだった。ごとーが。
同じクニを行くキュウケツキを監視する目。抑制する力。
市井と後藤は『そのための』のキュウケツキハンターだった。
 

だから、
「とにかく、今は変なこと考えないで」
いきなり話し出した後藤に、加護が不思議そうな目をする。
「――仕事をしよう」
「――しよう」
加護は訳がわからなそうにしながらも、同意した。
「とにかく、仲いいことが、一番いーことだ」
後藤が呟くと、加護は後藤の手を引いて、
「ごっちん、さびしーん?」
奇襲だった。
即答できないその一瞬の隙に、加護は飛んだ。
「加護が、オシリにしいたげるっ」
頭にやらかい重さが乗った。
それがすぐ消え、逆に頭が浮くような錯覚を受ける。
加護は月に向かって飛んでいた。
夜空のあちこちを転々として渡ってゆく。
261 名前:3-ep ハロワド 投稿日:2003年04月29日(火)11時21分52秒
後藤は加護の感触の残った頭をぽりぽりかいた。
ずいぶん重くなったもんだ。
たった一年。
それで子供は重くなり、お日さまの匂いのしたヒトは赤い目になった。
されど一年。
変わらないようなソトヅラをしてる世界の、中身がぐるっと変わってしまった一年間。

後藤は空飛ぶ娘の背を見上げながら、のんびりと追いかけた。
ピンクのキュウケツキと白いホストのいるキテレツな場所。
そこから新しい夜が始まる。
262 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)11時23分37秒

              ハウンドブラッド Millennium Edition(終)
263 名前:end 投稿日:2003年04月29日(火)11時30分11秒
>>195-196
 ∬´▽`∬ありがとうございます。
 ageはそんなに気にされなくても平気ですよー。

>>197
 川o・-・)ノ いつもパーペキです。
>>236
 (゜皿゜)書いてる方は暴走に悩みガチなので、
 そう言っていただけて安心しました(w
>>237
 (つ〜To) もうずいぶん時間をかけてしまいまして・・・・
264 名前:end 投稿日:2003年04月29日(火)11時37分28秒
二年間もかかってしまいすみませんでした。
これでこのスレは終了です。
保全などはされず、自然の流れるまま倉庫に送ってやってください。

そして、とりあえず、この話も終了です。

この場所で書くことによって、放棄せずになんとか終えられました。
お話作りを最後まで楽しませて頂きました。
皆様ありがとうございました。

それでは、またいつかの機会に。
(o^〜^)シ
( ^▽^)シ
265 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)11時38分52秒
流し
266 名前:イヌきち 投稿日:2003年04月29日(火)11時39分37秒
流し
267 名前:イヌきち 投稿日:2003年04月29日(火)11時40分16秒
更新終了
>>238-262
268 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)11時45分01秒
2年間の更新お疲れ様でした!!
まさしく名作とよべる作品でございましたです。
一人一人のキャラも凄いよくてこの2年ずっと頭にこびりついて離れませんでしたよ。

最後まで書ききってくれた事に感謝!
本当にお疲れ様でした〜
269 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年04月29日(火)11時49分55秒
すばらしいです。最高です。作者さんがうますぎて言葉が出ないほどです。
そして更新お疲れ様です。
こんなに読後感がすっきりしているのはこの作品しかありません。
がんがってください。
270 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年04月29日(火)11時50分48秒
あああああああああああああああああ
もしかして上げてしまいました?!
すいません!!。・゚・(ノД`)・゚・。
271 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)14時56分59秒
2年かー。凄いなー。思うと長い年月だ。モー娘も色々変わったもんなあ。
お疲れ様でした。
本当に楽しみに毎回読ませてもらっていました。
完結させてくれたことを本当に感謝します。
素敵で楽しかったお話をありがとうございました。
272 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)17時32分16秒
すげー、よかった。
心臓がバクバクいってます。
二年間、お疲れ様でした。ありがとう。
273 名前:169 投稿日:2003年04月29日(火)19時52分01秒
おつかれさまでした!
完結おめでとうございます!
そしてなにより、ありがとうございました。

最後の最後まで、きっちり「エンターテインメント」でしたね。お見事。
「お楽しみはこれからだ!」といった締めで。幕引きの悲しさではなく、
笑顔で明るく「んじゃ、またな!」てところでしょうか。

この、あと味の爽やかさ、なんなんだろう。
いい意味で、「名作」という以上に「快作」という感じです。
キャラが立ってて、世界観がしっかりしてて、テンポよくて、文の芸が細かくて。
こういう小説こそ、「Cool!」というのだと思います。

「暴走に悩みがち」だったとのことですが、いやいやどうして、ぴしっと手綱を
引き締めてる感じでした。その緊張感が良かったということかもしれません。

「いつかの機会」を心からお待ちいたします。
そして重ねて、ありがとうございました。
274 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)19時55分54秒
お疲れ様でした。
更新されるの、毎回楽しみでした。
読むマンガ、最後まで書いてくれて本当にありがとう。
なんだか凄く感慨深いです。





                          イシヨシサイクォー!
275 名前:カネダ 投稿日:2003年04月29日(火)23時06分42秒
完結お疲れ様でした。
素晴らしい作品をありがとうございます。
276 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月30日(水)00時30分53秒
ああ〜、とうとう終わってしまった〜。
ほぼ毎日更新されているかチェックしていました。
すっごく楽しませていただきました。ありがとう!!
また頭から読み返そうっと。
277 名前:南風 投稿日:2003年04月30日(水)01時03分14秒
お疲れ様でした。
この名作に出会えたこと、かなりの幸せに思います。
自分の中で永久保存版です。
最高です。
素敵な作品ありがとうございました。
    
278 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月30日(水)19時45分33秒
イヌキチさん、おつかれさまでした。
私たちが知ることのできる「ハウンドブラッド」はここで終わっても、
彼女たちの物語は続いていく。
そう思わせてくれたラストでした。

またどこかでお会いできる時を楽しみに待っています。
279 名前:LVR 投稿日:2003年05月01日(木)02時32分00秒
面白かった。最高の話でした。
またこんな素晴らしい話に巡りあえますように。
280 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月01日(木)18時02分50秒
祝完結、そしてお疲れ様でした。

シリーズを通して、各シーンの切り取り方、並べ方がまるで映画を観ている様で、
とても巧いなぁ(特にシーンの切り方が)…といつも感嘆させられていました。

ザクザクと流れる文体とテンポのよい筆運びに、
我知らず猟犬の疾走感を肌で感じていました。

もう一度最後に。祝完結、そしてお疲れ様。さらにありがとう。

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