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闘いの果てに

1 名前:BOSE 投稿日:2002年07月27日(土)23時20分25秒
短編で野球小説でも書きます。
元ネタはあまりにも有名です。
2 名前:BOSE 投稿日:2002年07月27日(土)23時27分57秒
その瞬間、ピッチャーの後藤真希はガッツポーズをする余裕もなく整列した。
朝8時半に始まった試合も気がつけば正午過ぎていた。
真希にしてみれば試合が始まったのもついさっきの事のように思える。

校歌を歌い終え、インタビューも終え宿舎に戻った真希は
シャワーも浴びることなく眠りについた。
3 名前:BOSE 投稿日:2002年07月27日(土)23時35分37秒
甲子園大会準々決勝。
春の選抜大会を制し夏も順当に勝ちあがってきた神奈川の朝比奈学園高校が、
大阪の名門中の名門BL学園と相対する時が来た。

BLは打倒朝比奈を目指し、朝比奈は春夏連覇をするには
BLは避けては通れない最大の敵だと認識していた。
互いが「相手を止めるのは自分達しかいない」と豪語する両チームの対戦は
事実上の決勝戦と目されていた。
4 名前:BOSE 投稿日:2002年07月27日(土)23時44分22秒
  スターティングメンバー
  朝比奈      BL
1(右)辻    (左)里田
2(中)加護   (遊)村田
3(一)石川   (右)藤本
4(投)後藤   (三)松浦
5(捕)吉澤   (一)柴田
6(左)高橋   (中)大谷
7(三)小川   (捕)飯田
8(遊)矢口   (投)戸田
9(二)新垣   (二)斎藤
5 名前:BOSE 投稿日:2002年07月28日(日)11時10分16秒
甲子園は第一試合というのに5万人もの観衆が集まっていた。

一回表BLの先発戸田は朝比奈打線を三者凡退に切りぬける。
対する一回裏、朝比奈の先発後藤も三番藤本に四球を与えるが
続く四番の松浦をサードゴロに打ち取った。

これは今から始まる壮絶なドラマへの幕開けだった。
6 名前:BOSE 投稿日:2002年07月28日(日)11時40分56秒
試合が動いたのは二回裏。

BL5番の柴田がセンター前のヒットで出塁する。
続く大谷のピッチャー前バントを後藤がフィルダースチョイス。
7番飯田は送りバントを決める。1アウト2,3塁。

バッターはピッチャーの戸田。
1ストライクからの2球目をセンターへと返した。
これが犠牲フライとなりBLはあっさりと先制した。

2アウトになったが依然としてランナーが2塁、BLのチャンスが続く。
ここで9番の斎藤がセンターオーバーのツーベースを放った。
BLに2点目が入った。
7 名前:BOSE 投稿日:2002年07月28日(日)11時51分18秒
後藤の動揺が止まらない。気持ちを切り替えられずにいたとき、
「ボーク」
ボークを宣告され自らがピンチを広げてしまう。

バッターは1番に戻り里田。
50mを5秒台で走る俊足だがBLのリードオフを務めることもあって打撃もいい。
この場面、朝比奈・後藤にとって一番厄介な相手だった。
1ストライクからの2球目、甘く入ったストレート見逃さなかった。

レフト前ヒット。BLに3点目が入った。
大方の者は3点勝負ぐらいになると踏んでいたが、
BLの2回の時点での3点には驚きを隠せなかった。
8 名前:BOSE 投稿日:2002年07月28日(日)21時10分30秒
後藤は続く村田にヒットは打たれたが、3番藤本をライトフライに打ち取り
これ以上の失点は重ねなかった。

後藤は思った。
「球は走っている。調子も悪くない。何故打たれるんだろう」

女房役の吉澤も同じようなことを考えていた。
「球は今までで一番か二番かくらいに来ているのに。
 球種でも分かっているのかな」

吉澤の考えは正解だった。グランドにはかなりの声が飛び交っている。
守備位置の指示、予測されるケースの対処法を確認する声。
その中でもひときわ大きい声があった。

「行け。行け。行け」
「狙え。狙え。狙え」

この声は3塁コーチの木村麻美だった。
木村には朝比奈バッテリーのサインが筒抜けだった。
9 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月29日(月)13時45分38秒

>>8水島真司の「ストッパー」を思い出した。
ガバレ
10 名前:BOSE 投稿日:2002年07月31日(水)17時50分27秒
キャッチャーの吉澤はストレートの時はどっしりと構えているのに、
変化球の時はどう曲がっても対応できるように腰を浮かせている。

木村はこのクセを見抜き
ストレートの時には「行け。行け」
変化球の時には「狙え。狙え」
とバッターボックスに入っている選手に球種を伝えていたのだ。

木村「一回の攻撃の時に何かクセがないかと後藤の方を見たんです。
   直球を投げる時に肘を開くクセは見事なまでに治ってました。
   後藤は諦めて、キャッチャーの方を見たんです。『しめた』と
   思いましたね。2回の攻撃関してはその結果です」
11 名前:BOSE 投稿日:2002年07月31日(水)18時16分04秒
いきなり3点を先制された朝比奈。
三回表の攻撃はランナーを出すものの後が続かない。
ベンチの空気は次第に重くなっていった。

三回裏、BLの攻撃。
先頭打者が四球で出塁。次のバッターが送りバントをし1アウト2塁。
球種が分かっているBLは積極的に打っていく。
後続の二人のバッターの当たりは不運にも正面を突いた。
後藤が辛うじて踏ん張っているが次の1点は時間の問題だ。

だがここで朝比奈の嫌な流れを断ち切った選手がいた。
この日はスタメンから外れていた保田圭。
3塁側にいた保田は、ストレートと変化球の時の掛け声が違うことに
気づき、サインが見破られていることがわかったのだ。

保田「聞いてるうちに球種によって掛け声が違うということに気づいたん
   ですけどね。後藤に何かクセがあるのかなと思ったんですけど、
   木村は後藤を見てないんですよ。それで吉澤の方を見たら愕然と
   しました。初めて気づいたんですよ、吉澤のクセに……。
   もしあの試合で私達が1塁ベンチだったとしたら。そのまま試合を
   持って行かれたでしょう。」
12 名前:BOSE 投稿日:2002年08月03日(土)16時56分02秒
四回表、加護がレフト線にツーベースヒットを放つ。
続く石川は力んだのか詰まらされレフトフライに終わる。
4番後藤。1−1からの直球を捕らえる。
だが、ショート真正面のライナーに終わる。

またランナーを返せないのか。嫌な流れになりかけていたとき、
打席に立つのは吉澤。自分のクセの事を保田から告げられ密かに
燃えていた。

1球目カーブ。見送った。1ストライクナッシング。
2球目。ストレートが甘く入ってきた。

「カーン」

レフトに舞い上がった打球は浜風に乗る。打球はスタンドへ消えた。
1点差へと迫る2ランホームラン。ダイヤモンドをまわる吉澤に
笑顔は一切無かった。

吉澤「自分のクセで球種がばれてると言われたときはショックでしたね。
   あの時は絶対打つと心に決めてました。打って嬉しいという
   気持ちよりごっちんに申し訳ないという気持ちが大きかったです」
13 名前:BOSE 投稿日:2002年08月12日(月)14時31分31秒
四回裏の守りから吉澤はどんな球種でもどっしりと構えた。
これでBL打線を抑えられる……はずだった。

1アウトの後、9番斎藤に甘く入ったカーブをレフト前に運ばれる。
そして打順は先ほどタイムリーヒットを放った1番里田へと返る。
里田は2−2からの直球をレフトへと流した。ランナー1,2塁。

ここで登場するのは2番の村田。決して甘いボールではなかった。
アウトコースのストライクからボールになるカーブ。村田はバットを
投げるようにしてチョコンと当てライト前に落とした。
一者生還。リードを再び2点へと広げた。

だが朝比奈は先程失点した時とは明らかに違っていた。
あのアウトコースへのカーブをヒットにされちゃしょうがないかと
気持ちを切り替える余裕が出てきたのだ。
その余裕が出てきたのも吉澤が一発打ってくれたからなのだ。
その余裕が次の回へと繋がって行く。
14 名前:BOSE 投稿日:2002年08月13日(火)15時40分01秒
五回表、先頭の小川がレフト線へツーベースヒットを放つ。
バッターは8番の矢口。初球バントをするがファール。
2球目、これまたファールになる。二度続けて失敗。
ここで朝比奈は強硬策に出る。矢口が振りぬいた打球は
センターに抜けランナー1,3塁とチャンスが広がった。

ここでラストバッター新垣。高めの直球を振りぬくと打球は
右中間へと抜けて行った。二者生還、朝比奈は同点に追いついた。
打順はトップに帰り辻。ファーストにゴロを転がし1アウト3塁。

バッターは加護。加護は思いきり引っ張り強烈なサードゴロを放った。

前にも同じシーンがあった。
選抜大会準決勝8回表。
2−0とリードしたBLが1アウト2,3塁のピンチを迎えた。
4番後藤の打球はサードゴロ。BLのサード松浦はホームに投げた。
だが送球はランナーに当たり、ボールが転々としてる間に2塁走者も生還。
同点に追いつかれる。これがきっかけでBLは2−3で敗れたのだった。
その後、松浦とキャッチャーの飯田はこの借りを返す為必死に練習した。
この時の松浦の送球は、ランナーの辻の走塁が呼んだのだった。
15 名前:BOSE 投稿日:2002年08月13日(火)15時59分12秒
ランナーの辻は打球を飛ぶと同時にスタート。
サードに飛んだ事を確認しフェアグランドに切り込み送球コースを消す。
そしてキャッチャーミット目掛けて滑り込んだ。
松浦の送球が辻に当たったのは偶然じゃなく必然だったのだ。

加護の打球はあの時と同じようにサードへ飛んだ。
新垣は辻と同じようにフェアグランドの方へ切り込む。
飯田はキャッチャーミットでランナーを引きつけていた。
捕球した松浦は飯田に送球する。飯田はミットを右に動かし捕球。
ランナーにタッチする。アウト。
松浦はわざと飯田の右の方へ投げたのだ。
飯田もミットを真ん中に構えて、そこへ滑らせた上で捕球したのだ。
普通の高校生では到底出来ぬプレーを二人はやっていたのだ。

松浦「春の大会の後、このプレーの練習は毎日やってました。
    朝比奈相手にリベンジ出来てホントに良かったです。
    アウトにしたもののランナーのスタートが恐ろしいほど
    良かったですよ。これが朝比奈かと改めて思いましたよ」
16 名前:BOSE 投稿日:2002年08月13日(火)16時19分32秒
このあと後藤は立ち直り、戸田も踏ん張り試合はこう着状態に入った。

七回表、BLはピッチャーにここまで温存していた安倍を投入。
安倍はエースらしい堂々としたピッチングで三者凡退にしとめる。
すると流れはBLに向いてきた。

七回裏、1アウトから藤本が四球を選び出塁する。
4番松浦が凡退するが5番柴田がセンター目ヒットを放ちランナー1,2塁。
向かえるバッターは6番大谷。初球を打った大谷の打球はフラフラと上がり
レフトの前にポトリと落ちた2アウトでスタートを切っていた藤本が
一気にホームまで返ってきた。5−4とBLが勝ち越した。

17 名前:BOSE 投稿日:2002年08月13日(火)17時08分29秒
1点を勝ち越された朝比奈。春の王者はこのままで終わるはずが無かった。
先頭の2番加護が左前安打で出塁する。次のバッター石川はバントを失敗し
ライトフライに終わる。今日の石川には精彩が無かった。
続く後藤もレフトフライに終わる。
バッターは今日ホームランを打っている吉澤。2−1からの4球目。
加護が走った。投球はボール、加護は盗塁成功。チャンスが広がった。
5球目、吉澤が放った打球はセンターに抜けた。加護は3塁を蹴った。
大谷がホームに返球する。「セーフ」加護が生還。朝比奈は同点に追いついた。

ここでアクシデントが発生する。キャッチャーの飯田が口の中を切った。
大谷の返球がホームベース手前で大きく弾み、顔面に直撃したのだ。
飯田はそのまま退場した。そして代わりに紺野がマスクをかぶった。
紺野と安倍は公式戦はおろか練習試合でもバッテリーを組んだ事は無かった。
BLにひとつ不安要素が増えた。
18 名前:BOSE 投稿日:2002年08月13日(火)17時24分04秒
回は進み九回裏、4番の松浦が四球で出塁する。
サヨナラのランナーだ。5番柴田ここは当然バントのケースだ。

吉澤からあるサインが送られた。
ピッチャー後藤はセットポジションを取る。
サードの小川とファーストの石川が猛然とダッシュを駈ける。
ピッチャーの後藤は大きくファースト方向に外した。
吉澤が投球を取るとすばやくファーストへ送球した。
ファーストにはセカンドの新垣が入っていた。
まったく逆を突かれたランナー松浦はタッチアウト。
ノーアウト1塁が一転して1アウトランナー無しになった。
続く柴田、大谷は内野ゴロに打ち取られた。

ゲームは延長戦に突入する。
19 名前:BOSE 投稿日:2002年08月13日(火)17時51分41秒
11回表。
後藤の放った打球は三塁手手前で大きく弾み強襲ヒットとなった。
五回のあと整備を1度したきりだったのでグランドが荒れていた。
この打球を見て急に不安になった選手が1人いた。
BLのショートの村田だった。これを機に村田の動きが鈍くなった。

朝比奈はランナーを進めて1アウトランナー2塁。
ここでバッターは高橋。高橋の当たりは村田の右へ。
誰もがショートゴロと思ったとき村田は取れずに後ろに逸らしました。
後藤は三塁を蹴りホームまで返ってきました。後藤はその時今日初めて
ガッツポーズをした。
バッターの小川に代打市井が出た。高橋はバックホームの間に2塁に達し
チャンスが続いていた。1−1からの直球だった。市井は引っ掛けてしまい
セカンドゴロに終わった。続く矢口も凡退し攻撃を終了した。

朝比奈はこの日初めてリードを奪った。
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23 名前:BOSE 投稿日:2002年08月17日(土)13時10分30秒
>>20-22
なかったことにしてください。
削除依頼出してます。
まだまだ試合を諦めないBLの11回裏の攻撃。
村田は後藤の速球に詰まらされセカンドゴロ。
ここでBLベンチは代打木村麻美を送った。

打席に立った木村は大きく深呼吸をした。木村は思いを巡らせた。
後藤の球数は150球を越えている。最初からストライクをとって来るだろう。
とすると、ストレート1本。ストレート1本に的を絞る。
後藤が振りかぶって1球目を投げた。読み通りのストレートだ。
木村は思いっきり振りぬいた。打球は3塁線を抜けた。
木村は2塁に達した。まだ終われない。終わらしたくない。
気迫のこもった1打だった。

続くバッターは4番松浦。
1球目、スラーダーを見送りボール。2球目、直球を空振り。
3球目、高めのボール気味の直球を空振り。2−1と追い込まれる。
4球目、ストライクからボールになるスライダーにハーフスイング。
回ったと判定され空振り三振。
ベンチの中でいつもは泣かない松浦が泣いていた。

5番藤本。柴田の顔に余裕は無かった。
打席に入ったとき柴田の頭は真っ白だった。
「タイム」
その声に柴田は我に返った。

24 名前:BOSE 投稿日:2002年08月17日(土)13時13分14秒
タイムをかけたのは2塁走者の木村だった。
スパイクの紐がほどけたらしく結び直していた。
その時木村はこっちを見て笑った(ような気がした)。
そっか木村は自分を落ち着かせる為にタイムを取ったんだ。
「アウトになるかもしれないけど思い切り振っていこう」
柴田の中で何かがふっ切れた。

打席に入った藤本はさっき入ったときとは違って落ちついていた。
朝比奈のバッテリーからしてみれば何とも不気味に見えただろう。
初球、肩口から入る甘いカーブだ。
この球を落ち着き払った柴田が見逃すわけが無かった。
打球はショートの頭を超えレフト前に落ちた。木村は3塁をけって
ホームに戻ってきた。同点に追いつく。試合はまだ終わらなかった。

こんな楽しい試合を終わらせるわけにはいかなかった。
25 名前:BOSE 投稿日:2002年08月17日(土)13時29分54秒
ここまで来たら両エースの意地と意地とのぶつかりあいだった。

「1番、安倍」
こう言ってBLの背番号1をもらったのは去年の秋だった。
その年は先輩達のチームが甲子園に行き府大会からの参加だった。
背番号10をつけて甲子園に行った安倍は来年は背番号1をつけて
また来ると誓った。そして府大会を勝ちあがり近畿大会を制した。
選抜はほぼ決定した。翌年1月、選抜大会出場が決まった。
BLのエースの自分は、日本一のピッチャーだと思っていた。
それはすぐに思いあがりだと知らされた。

後藤真希

神奈川の朝比奈学園高校のエース。MAX150km/hの直球。
縦に割れるスライダー。高校生でのレベルではなかった。

そして選抜大会の準決勝。その後藤と投げ合った。
しかし投げ負けた。安倍にとって初めての挫折だった。
26 名前:BOSE 投稿日:2002年08月17日(土)13時46分56秒
選抜大会の後、安倍は事ある事に後藤のビデオを見た。
普通の高校生だったら後藤はスゴイなで終わるところを
安倍は後藤のフォームを見てあの速い球の秘密を探った。
そして、わかった。後藤は背筋でできるだけ上半身を持ち上げ
腕を振りぬきやすくしていたのだ。
そうとわかれば、このフォームを習得する為に練習した。
だがすぐに止めた。このフォームは腰にかなり負担をかける。
後藤のぐらいの強靭な上半身を持たないとこのフォームは無理だと
いう事がわかった。
安倍は自分は自分と気持ちにふんぎりをつけることができた。

夏に向かって練習していた安倍に朗報が入る。
今年の夏の甲子園は第80回を記念して出場校が増やされたのだ。
対象となる都道府県は大阪、兵庫、神奈川など合計15都道府県。
大阪は南北に分けられた。BLは南大阪だった。
神奈川は東西に分けられ、朝比奈は東神奈川だった。
安倍は思った。
「西神奈川の有力校は朝比奈が別ブロックに入って燃えてるだろな。
  地方大会で朝比奈を倒して出てくるところは無いはずだから」
27 名前:BOSE 投稿日:2002年08月17日(土)14時10分44秒
その瞬間後藤はうなだれた。
朝比奈は横浜商高にサヨナラ負けを喫した。
甲子園出場をかけた神奈川大会決勝。
スクイズを警戒した後藤が投じた投球は吉澤の遥か横を通った。
サヨナラ暴投。後藤は立ち上がることが出来なかった。

それが時だった。練習嫌いの後藤が自ら進んで練習し出すようになったのは。
「負けたくない」
その気持ちだけで野球をしていた後藤にある契機が訪れた。

選抜大会のBL戦だった。この相手は今まで戦ってきた相手の中で
抜群の実力を持っていた。試合は辛うじて九回に逆転したが、
負けることよりも先に楽しいと思った。
「また戦いたい」
その気持ちが芽生えた。

夏もう1回BLと戦う。それが自分に対する合言葉だった。

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