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a color
- 1 名前:たすけ 投稿日:2002年08月04日(日)15時32分18秒
- こんな時期なのですが、あえて書かせていただくことにしました。
初めてだらけなのでたくさん失敗するかもしれません。
その際はどうか教えてください。
お願いします。
主人公は安倍、後藤ってことにしています。
- 2 名前:5月21日午前8時15分 後藤 投稿日:2002年08月04日(日)15時33分23秒
- その日の機嫌はいまいち。
近くのコンビニからの帰り道。
そらはくもってるしビルはいつもの灰色だし。
おもしろいことなんて、なんにもない気がした。
ちょっとだけ灰色のそらを見上げる。
後から考えると、どうしてあの時そらなんか見たのかわからないんだけど。
とにかく、瞬間。
うえから、ひとが、ふってきた。
小柄な影。
すこし茶色い、短めの髪。
白い肌。
黒目の大きな、きれいな目。
こっちを見た瞬間、すこしその目が細められた。
笑ってるようにも見える顔だけど、違う。
どんなものにも関心のないような、冷たい目。
すこし、怖い。
でも、すごくきれい。
彼女、と気づいたのはその後だったけれど。
その小さな彼女は全身を使って地面に着地し、駆けていった。
身のこなしが普通じゃない。
顔にあたる水のつぶで雨がふってきたのがわかったけれど。
手にもった傘もささず、ワタシは動けなかった。
どうしてかは、そのときはわからなかったけれど。
目にのこる、灰色をぶちこわす鮮やかな色。
世界に、色がついた。
- 3 名前:5月21日午前8時15分 安倍 投稿日:2002年08月04日(日)15時34分07秒
- 本当は、目が合ったときあの人を消さなければいけなかったのかもしれない。
今までもそうやってきたし、たぶん、これからも。
目撃者は消す。
それが組織の暗殺者である私の仕事。
死体は組織が消してくれる。
日本でも有数の、有力者といわれる顧客を何人も抱える組織ならば簡単なこと。
でもできなかった。
そのときは訳なんて考えもしなかった。
ただ覚えているのは、仕事を終えて去るとき目が合った彼女の色彩だけ。
薄い茶色の長い髪。
大きな、すこしだけたれているような茶色い目。
細い手足。
すこしおどろいたような、それでも無表情といっていい、つまらなさそうな綺麗な顔。
まるで、よくできた人形みたいに綺麗だった。
そのことに気づいたのはずいぶん後だったけれど。
ひざと手を使って地面に着地した瞬間、雨が落ちてきた。
横目で彼女を確認し駆け去る。
彼女の残した色彩を脳裏から消し去るように。
- 4 名前:5月21日午前11時00分 安倍 投稿日:2002年08月04日(日)15時36分59秒
- ―ここの絨毯、ヤグチ嫌いなんだよねえ。血みたいな色。ほんと、キライ
よみがえった声に、すこしだけ目を細める。
そうだねヤグチ。私も、なっちもこの絨毯大ッキライ。
この赤は、さっきまで血に染まっていた自分の手を思い出させる。
逃げられない、自分の罪を思い知らされる。
「ボスがよんでいる」
重厚な造りの洋館の長い廊下に、一人立っていた男の声。
他に人影は見えない。
黒いスーツに、黒いサングラス。ほんと、マフィアの見本みたい。
「聞こえないのか」
ここの男たちはどうしても好きになれない。この男は特に。
仕事もろくにできないくせに、仲間の足を引っ張って成り上がった男。
名前は、覚えていないけれど。
「おい」
肩に置かれた手に吐き気がしそう。
「聞こえてる」
手を払い落とす。
「うるさいよ。ちょっと黙ったらどう?自分で黙れないなら」
―手伝ってあげようか?ちょっと、がずっと、になっちゃうけど
口に含んだ針を少しだけのぞかせて少し笑う。
動かなくなった男の横をすり抜け、歩いていく。
ちょとやりすぎちゃったかな?
後にはその笑みに凍りついたように動けない男が一人。
- 5 名前:5月21日午後1時30分 要人警護室 投稿日:2002年08月04日(日)15時39分32秒
- 「はい、・・・はい、承りました。確かな情報ですね。では日を改めてそちらに社員をむかわせますので・・・」
近代的なオフィス。
電話を切った女性は、深く息をついて周囲を見渡す。
金髪にした髪をゆらし、整った顔を少ししかめる。
「ゆうちゃん?どうしたの?仕事の依頼でしょ?」
「そうや・・・。このごろ、えらい仕事が多い。あっちが、活発化してるって事や・・・」
カラーコンタクトの青い瞳が光を放つ。
「わが社としては、喜ぶべきなんやろうけど・・・」
中澤裕子は、あまり大きくないこの会社の要人警護室室長。
ここは、あまり一般ではない仕事を主とする会社のオフィスである。
いわゆる、シークレットサービス。
依頼を受け、要人やあらゆる秘密を守ることを仕事としている。
この要人警護室はここ数年、ある組織にターゲットとして狙われた人物を守る仕事を主としていた。その組織の仕事の達成率があまりに高いため、他の同業者から嫌われた仕事がここに回されてくるのだ。
ここは規模こそ小さいが社員は一流。
少数精鋭をモットーとし、依頼の達成率は8割を誇る。
他業者が組織に対しなすすべがない事に比べれば、驚異的な数字といえる。
また、この社の警護室は他業者と違った面をもうひとつ持つ。
構成員全員が女性であるのだ。
しかも室長をはじめみな驚くほど若い。
別にそれと意識して選ばれたわけではなく、本社警護室として選抜をした結果がこうなっただけだ。
このため、はじめは侮られることが多かったが、現在では実力を認められ着実に実績をあげている。
- 6 名前:5月21日午後1時30分 要人警護室 投稿日:2002年08月04日(日)15時40分16秒
- 「もうちょっと、人数が欲しいなあ・・・。みんな休みがろくに取れてへんやろ・・・」
「そうだねえ・・・」
先ほどから中澤と会話をしていたのは市井沙耶香。
警護室副室長を務めている。
中澤よりも少し幼い印象の、しかしやはり整った顔。
この部屋の者はみなそれぞれに美しく、設立当初は顔で選ばれたのではと陰口をたたく者もいたほどだ。
「圭ちゃんも、カオリもここんとこ休日ないってぼやいてたし・・・」
「あの後藤までフルで働いてるからなあ・・・」
自らが指導した後輩の、ぼおっとした無表情を思い出す。
―そういや、今朝は妙にいつもよりもぼおっとしてた気が・・・。
閑散としたオフィスを見渡す。
後藤の後に入ってきた新人の指導で、仕事がない日までここの社員は忙しい。
しかし、新人の指導を部屋の社員自らが行うことで、ここのレベルは高く保たれているのである。
「そういや、今日は後藤は?」
中澤が問うと、市井は先ほどの中澤同様、少し顔をしかめた。
「昼から圭ちゃんたちと仕事行ってる」
あの調子で仕事になるのか・・・。
「今日はなんかいつもに増して覇気がなかったような・・・」
窓の外には、降り続く雨。
- 7 名前:たすけ 投稿日:2002年08月04日(日)15時48分24秒
- こんな感じで、それぞれ視点変更しながら書いていこうと思います。
日付と時間にはそんな意味はありません。
時間の経過を一応目安としててけてみただけです。
いまの季節にちょっとそぐわないんですが・・・。
- 8 名前:5月21日午後4時10分 安倍 投稿日:2002年08月04日(日)19時59分14秒
- 「じい様。およびですか?」
「なつみ、か。仕事はどうだったかね」
洋館の、一番奥まったところにあるその部屋は、その館の主の部屋だった。
豪華な調度に、大きな机と揺り椅子。
一人の老人がその椅子の近くに立っていた。
彼が、この館の主であり、この組織の主。
「・・・なんにもなかった。いつもといっしょ」
路地で出合った彼女のことがよぎった。
でも、口からでたのはこの言葉。
「どうかしたか?なつみ」
両親をなくした自分をひろってくれたのはこの人。
親戚もいなくて、冷たくて厳しい施設が嫌で逃げてきた。
お腹がすいてたおれそうだった。寂しくて死んでしまおうと思った。
そんな時、北海道のラベンダーの咲く両親の眠る墓地の横で、頭に手を置いて。
初めてやさしい言葉をくれた人。
―うちの組織にくるか?
訓練は本当に厳しかったけれど、人殺しは嫌で慣れることなんて本当はないけれど。
この人の、じい様の役に立てるならなんでもなかった。
私をかわいがってくれた。
苦しくても、痛くてもそれでよかった。
この人が笑ってくれるなら。
なのに。
「なんでも、ないよ」
今度はするりと、口からでた。
なんでだろ。
「そうか・・・続けてで悪いが、仕事が来ておるのだ。行って、くれるか?」
「はい」
「いい子だ」
少しだけ笑ってくれた。
「ターゲットは・・・」
あの手が私にふれなくなって、何年になるだろう。
「いいよ。行けば、わかるっしょ?」
―失礼します。
言って、出て行く前にちらっと見たじい様は、窓の外の雨を眺めていた。
気のせいかすこし、悲しそうに見えた。
- 9 名前:5月21日午後6時10分 後藤 投稿日:2002年08月04日(日)20時01分13秒
- 窓の外、まだ雨降ってる。
「後藤、聞いてるの?やる気ないなら、帰りな」
依頼主の会議待ちで、車で段取り説明の最中だったっけ。
カオリは、依頼主と一緒に会議に出てるから、今は車に圭ちゃんとごとー、二人しかいない。
「ごめん、圭ちゃん」
圭ちゃんは、少し困ったみたいな顔をしてた。
「・・・今日、何度目よ・・・。おなか空いてるの?これでも食べて元気だしなって」
・・・お菓子。
圭ちゃん、どうしてこんなの持ってるの?
まさか、ごとーのため?
いつもなら、「またごとーを子供あつかいして」って怒りながら、でも受け取るところだけど。
「ありがと・・・」
今日はそんな気になんない。
なんでだろ。
朝、ビルの窓から降ってきた子のことが気になる。
だって、あれ3階ぐらいじゃなかった?
遅刻しそうだったから確認してないけど。
「ねえ、圭ちゃん・・・」
地図と配置図、見比べてた圭ちゃんが振り返る。
「なによ」
「ふつうの人ってさ、ビルの3階から飛び降りて平気?」
ごとーなら、できるかな。
- 10 名前:5月21日午後6時10分 後藤 投稿日:2002年08月04日(日)20時02分28秒
- 「んなわけないでしょ。私たちでも厳しくない?」
「やっぱ、そうだよね・・・」
じゃあ、あの人なんだったんだろ。
「何?なんか見たの?」
「んー・・・」
相談しても、よかったんだけど。
なんでか、できなかった。
「後藤?」
圭ちゃんが聞き返したそのとき。
「やー、長かった!圭ちゃん、交代してくんない?カオリ、もう疲れちゃったよ」
車内ホンからカオリの声が響いてきた。
依頼者を必ず一人にさせない。これが、だいじなんだよね。たしか。
いちいちゃんが言ってたし。
「了解。お疲れ。すぐそっち行くわ。じゃあ後藤、しゃっきっとしな。仕事いくよ」
「了解」
車の外にでる。
これ終わったら、一休み。
もうすぐ、ご飯。
- 11 名前:5月21日午後8時20分 安倍 投稿日:2002年08月04日(日)20時04分00秒
- 仕事のターゲットは、いつもえらい人ばかりとはかぎらない。
今日の仕事は、2つ。疲れた。
2つ目はいつもよりも楽な仕事だったけど。
明るい電灯。
迎えの車から降りる。
いつものように口は一切きかない。
返り血も浴びてないけれど、無性に手を洗いたかった。
閑静な住宅街。
こんな日に限って、夜になっても雨がやまない。
薄暗い廊下を自室へと急ぐ。
「なっち」
聞きなれた声。安心する声。
「ヤグチ・・・」
- 12 名前:5月21日午後8時20分 安倍 投稿日:2002年08月04日(日)20時06分30秒
- 声も上げずに倒れた体。書斎に積まれた本。
・・・家族の、声。団欒の声。
彼が目覚めることは、もうない。
すこし笑うと、ヤグチも笑ってくれた。
「今日は、いっしょに寝てくれない?オイラ、雨降りキライなんだよね」
小さい体。金髪の頭。優しい顔。
「・・・うん・・・」
小さな声で答えて、うなずくのが精一杯だった。
ほんとに、ありがと。
なっちの今日の仕事のこと、聞いたんだ。
ヤグチも、今日帰ってきたばっかなのに。
だいすき。
家には、小さな子供がいて、奥さんがいて。幸せそうだった。
もうすぐ彼の遺体がみつかるだろう。
死因は、多分心筋梗塞。
なっち今日はほんとに疲れたよ、ヤグチ。
- 13 名前:5月21日午後8時30分 矢口 投稿日:2002年08月04日(日)20時08分06秒
- 「ヤグチ?お風呂かして」
「おう」
いっしょにあたしの部屋に入って電気をつけると、なっちはそのまま浴室へ行った。
いつもといっしょ。
こんな日のなっちは顔が冷たい。
いや、いつも冷たい・・・っていうか無表情なんだけど。
でも、あたしを、ヤグチを見ると笑ってくれる。
他の組織の人間に見せるような唇だけつりあげる、偽物じゃなくて。
やさしい、太陽みたいな微笑。
ほんとの顔。
ボスとヤグチ、あと少しの人間にしか見せない顔。
昔は、もうすこしたくさん笑ってた気がする。
・・・仕事をはじめる前。
- 14 名前:5月21日午後8時30分 矢口 投稿日:2002年08月04日(日)20時08分56秒
- あたしはこの組織で育った。
幼いときの記憶はないが、どうやら両親を亡くして親戚をたらいまわし・・・っていうお決まりのパターンらしい。
ボスとは遠縁にあたっていたので、この組織に入って、すぐに訓練に回された。
そのころ、ボスは体を壊して北海道の支部の療養所にいたらしく、ここにはいなくて。
北海道を本部にして指揮をしていた。
たぶんそのころなっちを拾ったんだろう。
体が弱いらしい、ボスの孫娘がこの屋敷にいて、あたしは訓練の傍ら相手を務めることがそのころの仕事だった。
訓練とは言っても、なっちが北海道の支部で受けていたらしいものとは違って諜報に関するものだったんだけど。
彼女は幼いころ関西で暮らしていたから、関西弁をしゃべっていた。
この施設からあまり出たことがないあたしには新鮮だった。
綺麗な顔。
いろんなことを教えてくれた。
「ごめんなあ、ヤグチ・・・」
この言葉が最後の記憶。
彼女はこの言葉と唇のぬくもりを残して、消えてしまった。
彼女のことはこの組織の禁忌になって。
いまでも、彼女を思い出すと胸がいたい。
- 15 名前:5月21日午後8時30分 矢口 投稿日:2002年08月04日(日)20時10分43秒
- ちょっと、いつもより長いかな?
寝転がっていたベッドから立ち上がり、足を浴室へと向けた。
そっと、扉を開ける。
「なっち?」
返事はない。
一足入ると、温かい湯の気配がどっと流れてきた。
蒸気に埋もれ、なっちはただ静かにシャワーをかぶっている。
背中しか見えない。
その背中は薄くなったとはいえ昔の傷が見えていて。
「なっち・・・はやく、でてきて」
それしか言えなかった。
「そうだね。ヤグチもはいりたいもんね?」
ようやくこっちを見て笑ってくれたなっちは、いつものなっちだった。
なっちの後、急いでお風呂を済ませると、なっちはいつものようにのんびり髪を乾かしていた。
「うわ、はやかったね。ちゃんと、洗うとこ洗った?」
あなたが。
そんな顔をしなくてすむように。
「あたりまえじゃん」
目が、悲しそうだよなっち。
- 16 名前:5月21日午後8時30分 矢口 投稿日:2002年08月04日(日)20時12分20秒
- それでもあたしたちにはこの道しかないから。
この手は、血に染まっているから。
広めのベッドにしたのは、昔からこんな風に二人で泊まりあいっこしてたから。
「雨やまないー」
布団にもぐりこみ小さくうなると、なっちはわらった。
ようやく見る、本当の微笑み。
ちょっとくすぐったそうな。昼のとは数段違う、穏やかな。
「そのうちやむっしょ。やまない雨はないんだよ、ヤグチくん」
「うわ、相変わらずポエマーなんだから、なっちは」
「知らなかったの?なっちはほんとにポエマーだもん。しょうがないっしょ?」
一緒に笑って手で小突きあう。
そうだよね。
なっちのココロの雨も、はやくやむといいね。
「おやすみ・・・」
ほとんど同時に言って、目を閉じた。
明日の朝は、晴れますように。
- 17 名前:たすけ 投稿日:2002年08月04日(日)20時20分08秒
- この「矢口」の回はあまりに長いのでちょっと区切ってみました。
8時30は最初の時間で、就寝の時間ではありません。
ちゃんと気付けば・・・失敗。
- 18 名前:皐月 投稿日:2002年08月04日(日)21時34分25秒
- いい!よすぎです!
この系の話好きです。続き大期待です!がんばってくださいね!
- 19 名前:たすけ 投稿日:2002年08月06日(火)13時51分13秒
- >皐月さん
ありがとうございます!
レス、ほんとうに嬉しいです!
至らないところだらけですが、がんばります。
- 20 名前:5月22日午前8時30分 要人警護室 投稿日:2002年08月06日(火)14時05分36秒
- ようやく見えた青空。
新人研修も終わり、とりあえず落ち着きを取り戻した要人警護室。
メンバーも近頃珍しかった普通の要人警護を終えて、ひさびさに構成員全員がそろうことになっていた。
会議室に皆を集める。
中澤は今日はすこし悩んで、白のスーツにしていた。
雨あがりのこの天気と、おそらくは厳しいと思われるこの仕事始めの日のために。
「後藤は?」
市井に尋ねると、市井は眉をすこし上げた。
「遅刻だってさ」
「しゃあないなあ・・・。ま、先始めるか。後藤のフォローはたのんだで、さやか。・・・今回は久々に組織とのやりあいになりそうや。みんな、気合いれていくで」
中澤は壇上にあがる。
「今回は、某大手製薬会社社長。正式な依頼は今日の正午からとりあえず一週間。その後は様子を見て期間を決める」
オフィスにはいつもと変わらない面々。
副室長の市井、それから保田圭、飯田圭織。先日まで研修をしていた吉澤ひとみ、石川梨華、加護愛、辻希美。
みな神妙な顔をしている。
「昨日、組織が関わったとみられる殺人があった。これを見てくれ」
- 21 名前:5月22日午前8時30分 要人警護室 投稿日:2002年08月06日(火)14時07分30秒
- 部屋が言葉とともに暗くなる。
下りてきたスクリーンに男の顔と現場と思われる写真が映る。
あきらかに、暴力団員を思わせる顔。
血など何もない、荒らされた跡すら見えない部屋。
「一見自然死やが、死因がわからんかったから内部でひそかに解剖にかけられたらしい。その結果・・・」
「まさか・・・針?」
保田がつぶやく。
「そうや。心臓に針がささっとった。こんな殺しができるのはあいつしかおらん」
「え?針って・・・名前なんですか?」
吉澤が聞くと、市井がうなずいた。
「そう。針。組織の暗殺者の中でも指折りの腕利き。男とも女ともわからない、謎の暗殺者。多分一人なんだけど・・・」
「え?うちの会社の力でも正体がわからないんですか?」
保田が引き継ぐ。
「見た者はみんな消されちゃってるし、組織に張った情報網にも一切ひっかからないらしいんだわ」
- 22 名前:5月22日午前8時30分 要人警護室 投稿日:2002年08月06日(火)14時12分04秒
- 「私が、暴いてみせます!!」
急に立ち上がった石川に、みなのあっけにとられた視線が集まる。
「そ・・・そうやな、石川。がんばってくれ・・・」
石川は警護室に配属された初めての諜報員。
この会社―ハロプロ本体にも諜報部は設置されているが、それでも手が足りず、警護室独自の情報などが知りたいときは保田がその任にあたっていた。
しかし保田の負担の増大、組織の暗躍に、中澤がずっと警護室に諜報要員をつけるよう、社に要求してきた。
それが石川である。
石川は諜報要員ではないとはいえ、その役目を背負ってきた保田の後輩として働くことになっている。
保田が石川の手を引っ張り座らせると、中澤がまた話し出した。
「死亡時刻は、朝7時30から9時の間。目撃者は、なし」
部屋にあかりが戻り、写真が消える。
「このごろどうも組織が活発に動いているみたいや。今回の依頼者もターゲットになってると思って間違いない。依頼者とこの暴力団は、つながりがあるらしい」
「えー。中澤さん、暴力団とつながってるような人をうちらが守るんですか?」
手をすこし上げた加護が問う。
辻も吉澤も石川もそれぞれ顔をしかめている。
- 23 名前:5月22日午前8時30分 要人警護室 投稿日:2002年08月06日(火)14時15分00秒
- 「暴力団と仲良うしてる人間やって、依頼を受けたらお客様やで?
うちらは依頼者を守るんが仕事や。
それにな、加護。暴力団とつながってる人間は、生きてたらあかんのか?
うちらの仕事は危険にさらされてる人の、命を守るんが仕事や。
その命に、重いも軽いもないやろ」
真剣な顔、目に浮かぶのはどこか優しげな、つよい光。
「はい」
メンバーの動揺はなくなっていた。
「そうだよ。カオリたちのお仕事は、とっても大事なんだよ」
力強く言うと、飯田は長い美しい髪を揺らし、立ち上がった。
「裕ちゃん、会議は終わりでしょ?みんながんばろうね!」
そのとき会議室の扉が、小さく開いた。
そっと、後藤が顔をだす。
「ごめんなさい・・・」
「後藤・・・またお前は・・・。まあ、さやかに叱ってもらうから今はこっちや。定例の、仕事始めやるよ」
会議室の真ん中に皆が集まり、手を重ねる。
それぞれの、緊張の見える、引き締まった顔。
「がんばってーいきまっしょいっ」
「じゃ仕事にもどって、解散」
後藤は市井に連れられて出て行く。
中澤はその後ろ姿を見て、一週間前のことを思い出していた。
- 24 名前:5月22日午後9時02分 中澤 投稿日:2002年08月06日(火)14時17分59秒
- ―アメリカに、支社を作る計画がある
切り出された話には、まったく先が読めなかった。
「はあ・・・」
「そこに、要人警護室の分室をつくりたい。市井君を、分室長にしたいんだが」
「さやかを!?」
落ち着きを持ち、現場指揮に才能を見せる沙耶香。その上、指揮だけではなく身体能力も高く仕事に欠かすことのできない人材。
「しかし、要人警護室は少数精鋭をモットーにしております。戦力を削ることはできません」
「警護室には増員を考えている。・・・アメリカの分室は、決まったことなんだ。市井君の希望が聞きたい。話しておいてくれないか」
「・・・はい・・・」
話を聞いた後、さやかはきつく目を瞑ると、言った。
「一週間、時間をくれますか?」
今日がその一週間の期日。
朝にその決意を聞いていた。
なあ、さやか・・・それで、いいんか・・・?
- 25 名前:5月22日9時05分 要人警護室屋上 投稿日:2002年08月06日(火)14時22分11秒
- 後藤と市井は、屋上に来ていた。
「後藤、ここんとこ、なんか変だったけどどうしたの?昨日なんかすごい上の空だったでしょ。しばらく遅刻もしてなかったのに」
「ごめんなさい・・・」
「謝るだけじゃわかんないでしょ。これじゃ安心してアメリカいけないじゃん」
「え?アメリカ?」
後藤の髪が風に大きくなびく。
それを抑えてやりながら、市井はすこし笑った。
「そう、アメリカ。今度、要人警護室、分室ができるんだ。そこの、室長にえらばれた」
「なにそれいちいちゃん!!!ごとー、聞いてないよ!!!」
「私もついさっき裕ちゃんに返事したばっかだもん」
「決まったの?それ」
市井は日差しに目を細め頭上を見上げた。
「もう決めた」
今にも泣き出しそうな後藤の目を見る。
「そう・・・」
後藤は顔から表情を消した。
「ちょ・・・」
言いかけた市井の顔を見つめ、何か言いたげ口をすこし動かし、でも結局口を閉ざして後藤はきびすを返して走っていく。
「待ちなって・・・後藤!」
はやい。
とても追いつけない。
「困ったなあ・・・」
市井は一人つぶやく。
今日は正午から仕事。ミーティングの内容も伝えられなかったし。
後藤の不在、裕ちゃんに、なんて言おう・・・。
- 26 名前:5月22日午前9時50分 組織 館 投稿日:2002年08月06日(火)14時26分38秒
- 昨日の雨がうそのような青空。
安倍が起き上がると、隣にいたはずの矢口はもういなくなっていた。
―ごめん、仕事。先行く。
走り書きの文字に、彼女のあせりが見えるような気がして、安倍はくすり、とわらった。
今日は、夜まで仕事はないはず。
矢口が出て行くのに気づかないほど熟睡していたせいか、ひさびさに気分がよかった。
時刻はもう10時前。
「じい様にだけ知らせて・・・街に、でようかな」
こんな日は、黒服たちに会ってせっかくのいい気分をじゃまされたくない。
そっと自室に戻って、着替える。
真新しいスカート。
ちょっと自分の手を見やる。
目から一瞬光が消える。
静かな、暗い淵のような闇を映した瞳。
ため息を吐き出すと目に光が戻る。
靴を履く。
「じい様?ちょっと出かけてきます。・・・たまには・・・うん、大丈夫。いってきます」
内線電話を切る。
自室の窓から飛び降りた。
庭園に茂る木を伝い、着地。
服には葉一枚もついていない。
「よし」
音もなく駆け出す。
日差しに茶の髪が透ける。
いい天気。
- 27 名前:5月22日午前10時30分 公園 投稿日:2002年08月06日(火)15時17分47秒
- 仕事以外の外出は本当に久しぶり。
朝食を摂っていなかった安倍はパン屋で目に付いたパンを買う。
平日朝の10時半という時刻のせいか、誰もいなかった公園で一休みすることに決めた。
一応、人目につかないよう奥の、低木を分け入ったところにある木陰に座る。
新しいスカートに汚れがつかないか心配ではあったが、しかたない。
この童顔では、補導されてしまう心配もあったし。
逃げるのは簡単だが、今は落ち着きたい。
それよりなにより。
「きーもちいいー」
うららかな日差しと、ちょうどいい風が最高。
ペットボトルのミルクティを一口のみ、メロンパンを一口食べたそのとき。
安倍の表情が一変する。
近づいてくる。相当早い。
しかし、明らかに殺気はない。
安倍が困惑にどうするか判断を下しかねたそのとき。
え?
薄い茶の長い髪、細い手足。
綺麗に整った顔は涙にぬれている。
色彩がよみがえる。
「あの時の・・・」
- 28 名前:たすけ 投稿日:2002年08月07日(水)12時22分33秒
- 昨日用ができて変なところで切ってしまったので更新です。
- 29 名前:5月22日午前10時32分 後藤 投稿日:2002年08月07日(水)12時24分47秒
- 気持ちも顔もぐちゃぐちゃだったけど、なんかもうそれどころじゃなかった。
いちいちゃんの言葉がぐるぐる頭を回ってて、涙は止まらないし。
アメリカって。
うそでしょ?
ごとーを・・・みんなをすてるの?
気がついたら会社から外に出てた。
そのまま走って、近くの公園へ足が向いてた。
ごとーの、秘密の場所。
さぼるのにたまに使う公園の木の茂みの中。
このごろ忙しくて行ってなかったけど。
ひとがいた。
目が合った。
日差しの下で見るとおもったよりも茶色い髪。
白い肌。
ふわりとしたまるい、頬。
あの日とおんなじ黒目の大きな目。
すごくきれいなのもいっしょだけど。
あの日と違ったのは、その目が細められないで見張られていたこと。
ああ、この人きれいだけどどっちかっていうとかわいいっていうんだ。
変な納得をして見つめあって。
いや、正確にはすこし見とれてたんだけど。
だってほんとにかわいかったんだよ?
目を合わせたまま、ごとーのおなかはぐうと音をたてた。
- 30 名前:5月22日午前10時38分 安倍 投稿日:2002年08月07日(水)12時26分19秒
- そりゃ、びっくりするなってほうが無理っしょや?
あの時なっち、見られたべ?
上から降りてきたとは気づかなかったのかもしれないけどさ・・・。
でも、日差しの下でみた顔は、本当に綺麗だった。
大きな目は潤んで、まつげが濡れていて。
長い髪は走ってきたせいかすこしもつれていたけど、さらさらできらきら光ってた。
鼻はすこし赤かったけれど。
あの日とおんなじ。
あの日と違っていたのは、今目の前にいる彼女からはあの日感じた人形のような感じが無くなっていること。
泣いていたせいか、ずっと目には表情があふれていた。
本当に、綺麗だった。
なんにも、つまらなさそうじゃなかった。
そこになぜか安心している自分がいて。
時間にして数秒。
見つめあっていたら、音がした。
人形のようだった彼女から聞こえた、ある意味とても人間らしい音。
瞬時に赤くなった彼女を見たら、おかしくてたまらなくなった。
- 31 名前:5月22日午前10時40分 後藤 投稿日:2002年08月07日(水)12時27分35秒
- 「ふっ・・・あははははは」
響いた声にはびっくりした。
こんな風に笑うんだ?
笑われてるけど、ぜんぜんいやみじゃなくて。
やさしい、あったかい、ほんとうにおかしいんだって素直に伝わる笑顔。
気づいたら、ごとーも一緒に笑ってた。
「はははははは」
「あははははははは」
おかしいなあ・・・今までごとー、泣いていたのに・・・。
- 32 名前:5月22日午前10時41分 安倍 投稿日:2002年08月07日(水)12時29分18秒
- 気の済むまで笑って。
笑いを収めると自分の傍らにあったパン屋の包みをさしだした。
「おなか、すいてるんだよね?いっしょに食べる?」
気配を感じたときに収めたメロンパンを、とりあえず半分にしてみる。
「いいの?」
小首を傾げて聞き返した彼女に、半分を渡す。
「うん。買いすぎちゃったし、一人でご飯食べてもおいしくないっしょ?」
「じゃあ、ありがとう。いただきます」
ひとかじりして、笑う。
「おいしいー」
邪気のない、うれしそうな微笑。
整った顔をくしゃっと崩して笑うその笑顔は、ほんとうにかわいくて。
少しのあいだ、見とれていた。
ほんとうは、よくない。
組織に属する人間は、一般人に関わってはいけない。
彼女は私の目撃者かもしれなくて。
それに、私はこんな日差しの中を歩いて、こんな綺麗な女の子の横にいることのできる人間じゃない。
でも。
それでも。
このきれいな、やさしい時間を壊したくはなかった。
罪の意識は消えないけれど。
- 33 名前:5月22日午前10時45分 後藤 投稿日:2002年08月07日(水)12時31分23秒
- メロンパン、クリームパン、サンドイッチを半分づつたべて、ごとーのお腹はおさまった。
「ねえ、名前なんていうの?」
最初に、聞くべきだったのに。
パンに釣られて、忘れてた。
なんでだか、目の前の彼女は少し黙って。
「・・・なつみ。安倍、なつみ」
ちいさな声で言った。
「そっか。私、ごとーまき。後藤、真紀。ごっちんって呼んで?」
彼女はまた少し笑った。
ごとーが食べてるときも、この人笑ってたけど。
さいしょのより少し悲しそうだった。
「ごっちん?じゃあ、私も・・・なっちって呼んで?」
「オッケー、なっち」
よし、今のは悲しそうじゃなかった。
彼女は・・・なっちは、すこしの間言いにくそうにしてたけど、決心したようにごとーに聞いてきた。
「・・・ごっちん・・・なんで、泣いてたの?・・・言いたくないらいいんだけど・・・」
「んー、ごとー・・・ごとーの大事な人が、アメリカにいっちゃうって・・・」
なっちは黙って聞いていてくれた。
「その人、ごとーの先輩で・・・いろんなこと、教えてくれた。仕事のことだけじゃなくて。うまくいえないけど」
また涙があふれてきた。
「うええ・・・行ってほしくないよう・・・」
- 34 名前:5月22日午前10時55分 なつみ 投稿日:2002年08月07日(水)12時32分35秒
- 静かに泣く彼女を見て、私は後悔していた。
せっかく泣き止んでいたのに。
せっかく、笑っていたのに。
綺麗な涙。
泣いている彼女を慰めようとして手を伸ばしたが、
この手は。
血に染まったこの手は、彼女を汚してしまいそうで。
- 35 名前:たすけ 投稿日:2002年08月07日(水)12時37分44秒
- うわ今気付きました。
>33
後藤真紀→後藤真希です。
ファンの方、ごめんなさい。
- 36 名前:5月22日午前10時57分 後藤 投稿日:2002年08月07日(水)12時42分05秒
- ふと顔を上げると、なっちは手を少しだけごとーのほうに伸ばして、おろしていた。
その顔が、最初会ったときとおんなじ、冷たい印象の、無表情で。
でもわかった。
これ、冷たい顔じゃないんだ。
だって、目がこんなに泣いてる。
涙を流すより、つらそうな目。
ごとーにはどうしてなっちがそんな顔をするのかわからないけれど。
その顔を見ていたくなくて、慰めたくて、慰めてほしくて。
なっちの胸に飛び込んで泣いてみた。
ゴトーのほうが大きいからごとーがなっちを抱きしめるような感じになっちゃったんだけど。
少しの間、なっちは固まっていたんだけど。
なっちは、そっと手をごとーの背に回してくれた。
そのころには、気持ちもだいぶ静かになって、なにがあったかなっちに話せるようになっていた。
なっちは何も言わず、最後まで聞いてくれた。
「そっか・・・」
それだけ、つぶやいて。
上を見上げたなっちは、もう悲しい顔してなかった。
今日の最初に見せてくれた、太陽みたいな優しい笑顔
- 37 名前:5月22日午前10時57分 後藤 投稿日:2002年08月07日(水)12時43分45秒
- 「ごっちん、その先輩がどうしてアメリカへ行くって決めたか、聞いた?」
「・・・きいてない」
「大事な人が一生懸命考えてだした結論っしょ?聞いてあげなきゃ。それに・・・」
なっちは、その一言をなんでかとても辛そうに言った。
「その人、アメリカへ行っちゃうだけっしょ?死んじゃって、二度と会えないわけじゃないよ」
どうしてつらそうだったのか、理由は後でわかった。
「ちゃんと聞いてあげにいって?怒ったり、悲しんだりするのはその後でもできるって。人生、なにが起きるかわからないし」
「ん・・・」
「このまま、お別れになったらいやっしょ?どんなときも、後悔はしないようにさ」
二人で立ち上がる。
「わかった。そうだよね。ありがと、なっち」
なっちの手を両手でつかんで、聞いてみた。
「また、会える?」
「どうかな」
笑って、なっちは手を離した。
別れ際の笑顔はきれいだったけど、寂しそうで。
今度会ったら言おうと決めた。
なっち、そんな悲しそうに笑わないで?って。
- 38 名前:5月22日午前11時20分 市井 投稿日:2002年08月07日(水)12時46分23秒
- 昼前になって、後藤はずいぶんすっきりした顔で帰ってきた。
その顔は、どうやって説得しようか考えていた私が拍子抜けするほど穏やかで。
まっすぐ私に向かってきて、聞いてきた。
「にげちゃって、ごめん。でもどうして、いちいちゃんがアメリカに行くことにしたのか、教えて?」
後藤は私の手を引いて、屋上へ上がった。
そっか、続きをやるんだ。
ちょっとつよくなったね、後藤。
私には、夢があるんだよ。
夢に、気づいたんだよ。
「私、もっと自分試してみたいんだ。裕ちゃんの下で副室長をやってるうちに、わかったんだよね。人を支えることも大事だし、楽しかったけど、私にももっとできるんじゃないかって」
「いちいちゃん・・・後藤たちが、邪魔になったの?」
静かに聴く後藤を抱き寄せる。
「違うよ。ただ、毎日会えなくなるだけ。仲間は、お互いがそう思っているかぎり、いつまでも仲間なんだよ。後藤は、アメリカにいく私を嫌いになる?」
「きらいになんか、なれないよ・・・」
ちいさな声で言う後藤の背を、あやすようになで続ける。
「後藤、アメリカなんて飛行機ですぐだよ?電話もあるよ?私は夢を追いかけにいくんだ。今よりも、もとビッグになりにいくんだ。ねえ、応援してよ。笑って見送って?」
「むりだよお・・・」
涙を、やさしくぬぐってやる。
「ほら、かわいい顔がだいなしだよ?ね、笑って?私は、後藤の笑顔が好きなんだから」
一生懸命に笑おうとする大事な後輩がいじらしくて、一緒に泣いてしまいそうになる。
ごめんね、後藤。
- 39 名前:5月22日午前11時20分 市井 投稿日:2002年08月07日(水)12時48分28秒
- 「そう、その顔。なあんにも考えてなさそうな、心からうれしそうな顔!」
「それ、もしかしてごとーのことばかにしてる?」
「・・・ちょっとだけ」
「ひどいよ、いちいちゃん!!」
もお、と言いながら軽く殴ってきた後藤から逃げだす。
ほんと、手のかかる子だったよ。最初無表情で、やる気あるのかないのかわかんなかったし。
あの時のままの後藤なら、とてもアメリカへ行くとなどという決断はできなかった。
でも、もう大丈夫。後輩もできたし、すこししっかりしたみたいだし。
大進歩。
これで、思い残すことはないよ。
アメリカ行きまで、後1週間とちょっと。
- 40 名前:5月22日午後5時45分 安倍 投稿日:2002年08月07日(水)12時53分06秒
- 薄暗くなってきた藍色まじりの空。
相変わらずの街。
相変わらずの仕事。
―なっち・・・待機中?
右耳から流れるヤグチの声。
相変わらずって言ったけれど、こういう仕事は珍しい。
「そうだよ。場所、ここでいいっしょ?」
今日はサポート。
仲間の仕事の、出来を見届けが仕事。
私たちの仕事にはかならずこの見届け役が付けられている。
その仕事が失敗すれば見届け役が組織に報告し、遂行が決定すれば見届け役が後任を勤めることになる。
―今日、6番だっけ?
組織の暗殺者は基本的に交流はなく、名前もしらない。
ただ、仕事の際に便利なよう、付けられたナンバーで呼び合う。
ちなみに、私は2番。
「そう」
ちらり、と眼前のビルの窓を見る。
ここは隣のビルの屋上。
―これ、もしかしたら失敗じゃない?
持っていた黒い大きなふちの眼鏡をかけ、6番に付けられたカメラの映像を見る。
社長室の前にガードが一人。
社長の横に一人。窓に一人。
横の一人を除けばどれも見知った顔ばかり。
そのほかも万全と言っていい警護体制がしかれている。
- 41 名前:5月22日午後5時45分 安倍 投稿日:2002年08月07日(水)12時55分58秒
- 「うん・・・このままだったら今日はやめといたほうがいいね」
前に飯田、窓に保田。
「ヤグチ、社長横、誰かわかる?」
外はもう暗くなっていた。
今日ターゲットはこのまま社長室で一泊らしい。
ごくろうさま。
―吉澤、ひとみっていうみたい。新人。
見たところ隙はない。
―なっち。6番、今日はあきらめるってさ。撤収だよ。
「了解」
6番のカメラはもう移動を開始していた。
このカメラのおかげで、自ら下見をしなくてもターゲットの周辺のことがよくわかる。
そのこともあっての見届け制だが、この役はあまり好きではなかった。
カメラを通してでも、人が殺されるところを見るのは好きじゃない。
それに、6番ってすごい血まみれの殺人するんだよねえ・・・。
この仕事でいいことって言えば・・・
「なにもしないで帰れることがあるってことだけかなあ・・・」
―まだ聞こえてるよ、なっち。さっさと帰ってこいよ?じゃあ、切るねー。
笑いを含んだヤグチの声。
「はいよ」
耳から通信機をはずし、眼鏡もはずすとかるく頭を振った。
その瞬間、思い出した整った顔と涙。
ごっちん・・・あの時、あの時だけなっちは普通の19歳の女の子に戻れた気がしたんだ・・・。
あなたとおんなじ。
日差しを思い出し、電気が煌々とつくビル群を見ながら、目を細める。
よかった。今日、6番がやめといてくれて。気持ちよく、帰れるべさ。
ビルから出て、ゆっくり歩く。
呼ばなくてもそのうち迎えの車がくるけれど。
白々と輝く月を見ながらの散歩も、たまには悪くない。
- 42 名前:たすけ 投稿日:2002年08月07日(水)13時01分47秒
- 今日はここまでです。
基本的に2日に一回ぐらいのペースで更新できたらと思っていますが、
帰省でお盆にちょっと期間が空きます。
まだ何日間ぐらいかはちょっとわかりません。
たぶん1週間ちょっと・・・か、2週間ぐらい・・・。
そのかわりに盆後か前、どちらかにちょっと多めに更新していこうか考えています。
まだどちらにするか決めてないんですが。
- 43 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月09日(金)19時34分43秒
- 素直に面白いっす。
今後の展開に期待待ち。
- 44 名前:たすく 投稿日:2002年08月09日(金)21時40分39秒
- >名無し読者さん
レス、ありがとうございます!
ちょっと悩んでもいたんで、励みになります!!
がんばります!!
では、続きです。
- 45 名前:5月23日午前8時30分 保田 投稿日:2002年08月09日(金)21時50分23秒
- 「後藤、このごろ妙に機嫌よくないか?」
裕ちゃんが首をひねっている。
「うーん・・・さやかのアメリカ行きで、もう少しショックを受けると思ったんだけど・・・」
今日の裕ちゃんのスーツは黒。
なかなかよく似合ってる。
「あれも、成長したって事なんかなあ・・・」
「おはよ、圭ちゃん、裕ちゃん」
「「おはよーございます」」
いつもと同じ、長い茶色い髪を揺らしてカオリが入ってきた。
相変わらず、きれーな髪。
辻と加護をつれてきてくれたらしい。
ほんと、いいお姉ちゃんになっちゃって。
昔はいつ入るかわからない交信が恐ろしくて、とても一人じゃガードなんてさせられなかったのに。
来て早々お菓子を食べだした二人を叱っている。
「おはよーございます・・・」
徹夜で社長の警護をしていた吉澤は青い顔をしている。
「大丈夫か?吉澤」
声をかけた裕ちゃんのほうを力なく振り返ると、かろうじて笑みのようなものをその顔に浮かべてみせる。
「ちょっと、りかちゃんと・・・あ、いえなんでもないです」
徹夜の警護にはバックアップがつく。
バックアップの役割は各警報装置のコントロールとカメラの監視、それから徹夜警護の者の話し相手。
昨日の吉澤のバックアップはその石川。
また、喧嘩したのか・・・。
仲いいことはいいんだけど・・・。体制、考え直したほうがいいのかしら・・・。
- 46 名前:5月23日午前8時30分 保田 投稿日:2002年08月09日(金)21時51分05秒
- 「もしかしてだけど、仕事中に回線使って痴話げんかするのだけはやめてよね・・・」
見る間に、吉澤の顔が赤くなる。
「すみません・・・」
そのまま力なく仮眠室へ向かう吉澤を見送る。
しまった。私としたことが小言を言う相手を間違えた。
どうせ、だいたいは石川が悪いのよね・・・。
「市井と後藤は午前の当番やな」
金髪を日差しに透かし、裕ちゃんが眉をすこしひそめた。
「この依頼・・・危ない気がするわ・・・」
視線の先の依頼主のスケジュール。
訪問者がやたら多い上に、24日夜には船上パーティ。
これで、夜は総動員体制。
・・・早く、吉澤と石川に仲直りしてもらわないと。
「なあ、自分、カオリに辻連れてさやかたちの応援に行けって言ってくれん?」
「はいよ」
裕ちゃんは受話器を取り上げると、昨日から何度めになるかわからない電話をかけ始めた。
もちろん、パーティの出席をやめてもらうために。
このパーティ、どうして欠席しないんだろ。
- 47 名前:5月23日午後9時10分 後藤 投稿日:2002年08月09日(金)21時52分19秒
- 黒ずくめの男が、走ってきていた。
反応が遅れたのは、実はいちいちゃんを見てたから。
窓際に立ついちいちゃんの日に透ける髪をぼんやり見ていた。
アメリカ行くまで、この人をあと何回見てられるのかな、って。
部屋の中には、カオリと辻。
社長室が防音だったのも、ミスの原因。
見る間に険しくなるいちいちゃんの顔を見て、つい、え?て思った時には、隙は取り返せなかった。
扉が開いて、すかさず寄ったいちいゃんがはじかれて。
追いかけたけど、なすすべもなかった。
依頼主が無事だったから、まだましだったけど・・・。
ミーティング終了後、いちいちゃんと裕ちゃんにしっかり怒られた。
でも叱られたことなんかよりも。
せっかく捕まえられたかもしれないのに。組織の手がかりなのに。
いちいちゃんのために、捕まえてあげたかった。
自分が情けなくて、悲しくて。
仕事が終わって、さっさと家で休まなきゃいけないのわかってながら、まだごとーは夜の街をふらふらしてた。
―ここ、そういえば・・・
はじめて、あの子と、なっちとあった場所。
「降ってきたんだよねえ・・・」
あの時はびっくりしたよ。
でもどうして、こんなところにいたんだろ。
「だって、ここ・・・」
ほんと、普通のビル。
なんとか建設とか、株式会社とか・・・。
そのまま見上げた先、ビルの屋上。
ちいさな影が見えた。多分、男じゃない。
まさか。
「な・・・っち?」
- 48 名前:5月23日午後9時10分 後藤 投稿日:2002年08月09日(金)21時53分37秒
- ビルに入る。エレベーターを待ち、そのまま屋上へ。
目には自信がある。
ドアを大きく開く。
「あ・・・れ?」
あったはずの影はない。
見間違い?
でも声はすぐ横から聞こえた。
「ご・・・ごっちん?」
あの時とおんなじ、やさしい声。
振り向くと、呆然とした白い顔。かわいい顔。
「なっち!」
「どうして?」
黒のシャツを着たなっちは前よりも数段大人っぽく見えた。
「だって・・・たまたま上見たら、なんかなっちっぽい人がいたんだもん」
「みえ、ちゃったか」
横を向いてちょっと笑う。
「みえ、ちゃいました。ねえ、なっちこんなところで何してたの?」
「んー。・・・星を見てた」
言って、そのまま空を見上げるなっちは、笑ってるけれどすごくさみしそうなあの笑顔。
「そういうごっちんは?なんか今日元気なくない?」
「んー」
今日の失敗がよみがえった。
「・・・ごとーは、今日、仕事で失敗して・・・」
「ごっちん、そんな若いのに仕事してるんだ」
「うん。なんの仕事かは、実はいえないんだけど・・・あのさ、この前先輩の話、したでしょ?その先輩の前で失敗して、みんなの足ひっぱっちゃった。先輩、叱って、笑ってくれたけど・・・。せっかく、この前成長したっていってくれたのに・・・」
ごとーがぐずぐず話してる間、なっちはちゃんとこっちを見て真剣な顔をして聞いていてくれた。
「なっちも、失敗するよ」
- 49 名前:5月23日午後9時10分 後藤 投稿日:2002年08月09日(金)21時55分01秒
- ふわって、やさしく笑ってなっちは言った。
「失敗したり、落ち込んだとき、こうやって高いところに来て空を見るの。・・・なっちね、北海道から来たんだぁ。ここは、北海道みたいに空、広くきれいにみえないから・・・せめて、広く見えるところにいくの。で、気持ちをリセット」
「リセット?」
屋上の端まで歩いていくなっちの後をついていく。
「そう、リセット。とりあえず今は気持ちは忘れて、でも、失敗は忘れない。それが、大事」
それむずかしいよ、なっち。
「なかなか気持ちが変わんないときは?」
なんでだろ。なっちを見てると、泣きたくなった。めったにごとー、人前で泣かないんだけど。
思ったら、涙が出てきてとまらなくなって。
頬に、横にいたなっちの手が伸びる。
「・・・泣いちゃえ」
優しく笑って、涙を拭いてくれた。
そのまま引き寄せられる。
「ごめん、なんか会うと泣いてるね。ほんとは、ごとー、泣き虫じゃないんだよ?」
あったかいし、いいにおい。自分より小さい人だし、会ったばっかりなのに。お互いのことなんにも知らないのにすごく、安心する。
「んー、信じられないな」
「信じてよお」
「信じるって!ごっちん、痛いっしょ」
なっちの胸を軽くたたいた手を止められる。
- 50 名前:5月23日午後9時10分 後藤 投稿日:2002年08月09日(金)21時55分36秒
- 「そだ」
なっちはワタシから離れると、扉のほうにおいてあった自分のバッグを持ってきた。
「これ、のも?」
出てきたのは、一本のミルクティー。
「半分こ?」
「そう、半分こ」
飲みながら、二人で星を見上げる。
「実はなっちはこれで元気になるのだ」
「ふうん・・・でも、これ分け合って飲むって、うちらすごく貧乏くさくない?」
「うわ、ひどいべさごっちん!人の好意なのに!そんなこという子にはもうあげません!」
「うそだって、なっち、ごめん」
屋上に座り込んで、ぬるい缶のミルクティーを回し飲み。
気付くと嘘みたいに気持ちは晴れていた。
このなっちの笑顔みたいに。
ありがと、なっち。ほんと、おいしかった。
リセット、できたよ。
- 51 名前:たすけ 投稿日:2002年08月09日(金)22時04分58秒
- >44
名前が違ってました。
ごめんなさい。
次の更新は明日の予定です。
日曜からしばらく更新できなくなるのでちょっと多めにする予定です。
・・・あくまで予定になってしまうのですが。
少ないとは思いますが読んでいてくださる方、すみません。
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月10日(土)00時43分25秒
- いい!素直に
- 53 名前:皐月 投稿日:2002年08月10日(土)17時34分10秒
- もう!めっちゃいいです!ホント。
更新楽しみに待ってます!続きが気になって昼寝が出来ない・・(笑
- 54 名前:たすけ 投稿日:2002年08月10日(土)22時29分29秒
- >名無しさん
ageてくださったのですか!
初めてでどきどきしました・・・。
自信なくて沈めちゃっても・・・とか思ってたんですけど。
うれしいです。
ありがとうございます!
>皐月さん
どこかでお見かけした気が・・と思っていましたら。
あの皐月さん、ですよね?
お褒めの言葉がいただけてたすけはシアワセです!
ありがとうございました!!
読んでくださる方が居て、書けるものだと実感しました。
たくさんあらがあって恥ずかしいんですが、読んでくださる皆さんに感謝です。
では続きです。
- 55 名前:5月24日午後4時 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)22時40分11秒
- 正直言って、気が進まない。
失敗した6番のために、最後のチャンスを与えるというのが組織の方針だった。
以前から仕組んであった、組織の系列の企業の船上パーティ。
まさか、昨日襲撃された後なのにターゲットが出席するとは思わなかった。
ターゲットの警戒心を疑う。
警護する人間も大変だろう。
警護といえば、警護室。
昨日ヤグチから聞いたら新人のデータがまだそろわないらしい。
それを最近ヤグチが集める仕事をしている。
「やっぱ、アヤっぺが組織で一番諜報がうまかったからねえ・・・穴が、なかなか埋まらないみたい」
前任者・・・私たちと同じ「ボスの娘」であり、諜報を主に行っていたアヤっぺ・・・石黒彩が帰ってこなくなってからどうやら諜報力が落ちているらしいことは知っていた。
そもそもヤグチの諜報は訓練を受けたとはいえ副業。
アヤっぺのサポートのためにやっていたことだ。
本業は私と同じ暗殺。
ヤグチは5番。通り名は「ちいさな死」。
この名を聞いて、ヤグチは嫌な顔していた。
「・・・この名前付けたやつ、殺して訂正させてやる」
「・・・殺したら訂正できないっしょや・・・で、なんて?」
「でっかい死」
「・・・なっちだったら、それもヤダな?」
「・・・ヤグチもやだ!もーっ!!なんでこんな名前・・・」
2人とも黒のドレス。
同じ色でも印象がまるで違うデザイン。
- 56 名前:5月24日午後4時 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)22時42分18秒
- 「まあ気にしない。それより、それより、今日は直接ヤグチもいくんでしょ?」
「うん。なっちはいいよねえ、ちいさいとか言われないで」
「なっちには通り名、ないもん」
「へ?ダブルは?」
「2番、って意味っしょ?」
「ん・・・まあ、そんなところだけど・・・」
言った瞬間、ヤグチはなぜかすこし居心地が悪そうだったが、すぐ自分のついでに私の仕事道具を渡してくれた。
「今日は銃なの?」
「うん。なっちのは含み針と普通の、それから・・・あれ?
アイスピック持たないの?めずらしい」
ヤグチは腿にホルダーを取り付けながら笑う。
さすが、自分でいうだけあってその仕草はセクシー。
「アイスっ・・・失礼な。でも、名前付けてないし・・・しょうがないか。
持たないよ。さすがに見えるっしょ」
暗殺道具は針。
いつも口の中に数本の含み針を仕込み、他に何本もさまざまな太さ、大きさの針を用意して仕事をする。
条件によって、組織に伝わる相手のつぼを手に持った針を投げて刺し相手を殺す方法や、毒を仕込んだ含み針で毒殺する方法などを使う。
これ、あんまり好きじゃないんだけど。
たまには近接で戦う羽目になるので、ナイフの代わりに極太の針・・・ヤグチの言うアイスピック、を使うこともある。
- 57 名前:5月24日午後4時 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)22時43分59秒
- 「なっち、いい加減ナイフ練習しなよ・・・。それで十分強いからまあ、いいけど・・・それ、いまいち格好わるくない?」
「いいんだよ。そんなめったに使わないし・・・血嫌いだし。ナイフだと血飛び散るっしょ」
なっちの場合近接戦闘なんかに持ち込まれることがあれば、まず仕事は失敗ってことだし。
「んー名前、なっち2号とかどう?」
「・・・センスないべさ、ヤグチ」
「うわ!!なっちに言われた!!」
「なんだとー!しつれいな!!!!!」
言っているうちにもう時間。
今日の仕事は、私は継続して見届け役、ヤグチは警護に出てくるであろう警護室の人間のデータ収集。
新人は少し前に1人、最近4人。既存のメンバー合わせて9人のデータをとるのか。
がんばれ、ヤグチ。
- 58 名前:5月24日午後4時30分 市井 投稿日:2002年08月10日(土)22時45分55秒
- やっぱりパーティに参加する依頼主に、裕ちゃんも圭ちゃんも機嫌が悪い。
深い真紅のドレスのカオリは朝からぼんやり、青の吉澤はちょっと緊張気味。石川は部屋で待機、それぞれ白と薄いグリーンのドレスの加護と辻は花束贈呈役をさせるためレクチャーを受けている。
鮮やかな赤の後藤は、いつもといっしょ。
昨日、あんな失敗して叱られたわりにはすっきりした顔している。
やっぱり、後藤はなんか変だ。
よくないことではないけれど。
計画では、カオリが秘書がわりに依頼主の横につき、裕ちゃんがそのカバー。会場の扉近くに圭ちゃん、辻、加護、私がそれぞれつく。後藤は、外の前甲板のあたりで待機。海と空から上がってくる者の襲撃を警戒する。
風が動いた。
船が動きだしたらしい。
動く船。襲撃者に有利な条件ばかり。
「圭ちゃん」
圭ちゃんは黒。すその長い、スリットの入ったドレスがすごくよく似合っている。
綺麗でかっこいい。
なんて、考えてる場合じゃなくって!
「なんか情報、つかめた?」
圭ちゃんは、眉をひゅっとあげる。
- 59 名前:5月24日午後4時30分 市井 投稿日:2002年08月10日(土)22時50分45秒
- 「わかったのは、このパーティのスポンサーの会社が香港マフィアと関係があるかもしれないことと、どうも組織が暗殺をあきらめていないってことだけ。しかも、複数の暗殺者が襲撃してくるかもしれない」
「・・・ねえ、依頼主ってそんな大物なの?」
「確かに、業界一の会社のワンマン社長。政界とのつながりも深いけれど・・・。少年期を香港で過ごしている。そこでこのパーティのスポンサーと知り合ったらしいわね」
そろそろパーティ開始の時刻が近い。
会場へ向かわねばならない。
「襲撃の人数、内容がわかればいいんだけど・・・だから、石川を置いてきたのよ。
引き続き情報を探ってもらうために」
多分ここが正念場。
- 60 名前:5月24日午後5時36分 吉澤 投稿日:2002年08月10日(土)22時53分54秒
- この服、動きにくいんだよねえ・・・。
仕事とはいえ、こんなドレス、さっさと脱いでしまいたい。
・・・見せる約束をしていなければ。
―ひとみちゃん?聞こえてるの?
「っ聞いてるよ?りかちゃん」
あぶないあぶない。ここで返事をしなければ機嫌がしばらく最悪になる。
―ねえ、きいて?わかったよ、襲撃者!
「えっ・・・ちょっと待って!!」
こっちで回線を皆に聞こえるように切り替える。
―いくよ?昨日のは、組織の6番。本名は、不明。通称血まみれシックス。
ナイフを使った暗殺を主としてる。こいつが、今回の主犯みたい
名前もいまいち・・・。
耳元で響くアニメ声に会場入りしたメンバーたちが視線を交し合う。
「それから?」
―未確認なんだけれど、他にあと何人か来てるかも。そのなかに、もしかしたら針がいる
全員の顔が引き締まる。
―あと、大ニュース!針の組織での通称がわかったよ!!褒めて、ひとみちゃん!!褒めて!
は、はずかしい・・・みんな聞いてるんだよ、りかちゃん・・・
隣の中澤さんが渋い顔をして、無言で促す。
「す、すごいよ!りかちゃん!よくがんばったね!」
ちょっと嘘くさかったかなあ・・・?
―へへー。ありがと。・・・ダブル、っていうんだって。
ダブル?
「どういう意味かわかりますか?中澤さん」
「・・・わからん・・・」
- 61 名前:5月24日午後5時36分 吉澤 投稿日:2002年08月10日(土)22時55分08秒
- ―ひとみちゃん?
「なあ、吉澤、石川を褒めたってや?石川、ほとんど毎日寝てないんよ。ひとみちゃんと皆の役に立ちたいってな。自分には、これしかないからって」
「りかちゃん・・・」
胸が、あつくなる。
「りかちゃん、ありがと!!!みんな、喜んでるよ!!」
―役に、たった?
「うん!!」
まだ正直その情報の使い道はわからないけど。
依頼主の真後ろに、飯田さんが控えている。
会場では挨拶がもう始まっている。
「「乾杯」」
りかちゃん・・・がんばるから。
- 62 名前:5月24日午後7時05分 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)23時11分31秒
- ほんと、退屈。
目立たないよう、静かに甲板に出る。
パーティのほうの盛り上がりはまずまずのようだ。
もうすぐ、8時からの花火が始まる。
予定ではその時刻から6番が行動を開始することになっていた。
「関係、ないけど」
小さくつぶやく。具体的な計画は知らされていなかった。
警護室の人間はがんばっているようだ。
どの面々にも隙がほとんど見当たらない。
これは相当困難な仕事になるだろう。
持ってきたグラスを揺らす。
神経を鈍らせないため、ノンアルコール。
月の美しくかがやく夜だが、客はほとんど甲板には上がってきていない。
「人、いなくてよかった・・・」
手すりに頭を預けて、ため息をひとつ。
だるい・・・。
目を閉じると、思い出す面影。
笑顔も見た。泣き顔もたくさん。でも一番印象的だったのは最初会った時の無表情。
ほんとに、人形みたいだったのに。
今では会った瞬間、すごく無防備に笑ってくれる。
その顔が一番好き。
「ちょっ・・・なんだべさ、これ・・・」
顔が赤くなるのが自分でわかる。
- 63 名前:5月24日午後7時05分 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)23時15分22秒
- こんなときに思い出すのは、どうしてさ?
組織の、じい様、ヤグチ、アヤっぺ、アスカに抱くのとおんなじ、でもちょっとちがうようなこの感じ。
「でも・・・」
こんな優しい気持ちは、自分にはないはず。なっちは、暗殺者だから。ひとごろし、だから。
それになっちのこと知ったら、もう笑ってくれるわけない。
人の気配。
すこし赤い顔を元の組織の2番の顔にもどし、静かにその場を離れる。
8時になる。
花火の、祭りの時間。
上甲板には人の気配が満ちている。
最初の花火の白い光が舞い散る。
歓声があがる。
小さく音楽が聞こえる、雑多な気配。
かすかに漂う料理とタバコと香水のにおい。
- 64 名前:5月24日午後8時01分 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)23時21分50秒
- 次の花火が上がると同時に。
歓声が、大きな悲鳴に変わる。
始まった。
針と同じところに隠してあった、黒ぶちの大ぶりの眼鏡をかけ、カメラを確認。
花火の音にちょうど合わせた銃声。その後、無秩序に銃声が響く。
カメラは群集の中を確実に動いている。
多分、最初の銃声は、当たればラッキー、ぐらいのもの。
その後のは警護室への牽制とかく乱。
あの分では関係がなくても傷ついたものもいるだろう。
警護室の人間もいくらなんでも、ターゲットだけ守ればいいってもんではないだろうし。
目的は達している。
でも趣味、わるい。
しかし浮き足立つ群集のなか、確実にターゲットの周りを固める姿を確認。
無差別な銃撃は、この群集の中から警護室の人間を割り出すためでもあるはず。
ヤグチを呼び出す。
「ヤグチ!今の銃ヤグチ?」
―忙しい!違うよ!
それだけ聞けば十分。もう一人、6番が個人的に頼んだやつが来ている・・・。
その割には下手な仕事。
最初のが当たらない時点で、もうアウトっしょ。
- 65 名前:5月24日午後8時01分 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)23時23分18秒
- 6番のカメラで、彼がターゲットにたどり着いたことがわかった。
飛び散る血。誰かが傷ついた。
カメラがぶれている。
6番が跳んだらしい。
そこへ放たれる援護射撃。
「ちょっとまって?」
銃弾は、どこから飛んでくる?
明らかに船の外。
射撃の精度が低かったのもうなずける。
だったら、次は・・・
思い当たって、つい声がでた。
「こんなの、計画したって言わない・・・きぶん、わるい。へたくそ」
損ねた気分を紛らわすように、中身を飲み終えたグラスを海に投げる。
―ちゃぽん。
- 66 名前:5月24日午後8時 後藤 投稿日:2002年08月10日(土)23時31分01秒
- 上の甲板に上がったたくさんの人。
大きな花火が上がる。
気持ちは緩めないように、でもちょっと残念に思う。
見れないことも、見えても隣に「きれーだね!」って言い合える人がいないことも。
・・・あれ?
今、誰の顔が浮かんだ?
歓声にまぎれた異変の声。
上がる、おおきな悲鳴。
上甲板に上がろうとする後藤が見えるかのように、いいタイミングで通信が入る。
―ごっちん、あがってくるな。待機しとり。そっちから逃げるやつ、来るやつの警戒よろしく
「・・・了解」
気持ちを抑える。すごく気持ちは上に向かいたいけど。
皆を信じてミスのないように。
そのとき。
―ちゃぽん
音がした。しかも、この近く。
ごとーの持ち場は会場出口近くの外へ続く廊下に変更されていた。
確かめるため、走り出す。
小柄な影が見えた。
- 67 名前:5月24日午後8時 後藤 投稿日:2002年08月10日(土)23時33分49秒
- 多分、影はこっちを向いている。
それが見えた瞬間。
視界がぶれた。
柵に体が打ち付けられる。
体が大きくかしぐ段階で、ようやくわかった。
ああ、何か船が揺れて、ごとー、海に投げ出される最中なんだ。
落ちちゃうよっ・・・!
思ったら、大きく引き戻された。
何かがごとーの腰にしがみついていた。
勢いあまってそのまま転がる。
「いたた・・・って」
ごとーの腰にしがみついて、上で荒い息を吐いてるのは。
乱れた髪、月に照らされた白い顔。
あったかい小さい体。服は違っても優しい匂い。
「っえ!?なっち?」
- 68 名前:5月24日午後8時 24分 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)23時39分31秒
- もう仕事の結果はわかった。
・・・逃走経路の確保。
これもわかった。
用意した船に飛び乗って逃げるのだろう。
後は、どううまく混乱を作り、後を追われないようにするか、だけど・・・。
多分・・・。
考えたところで、こちらに近づく気配に気付く。
走ってくる。もうそんなに距離はない。
赤いドレスの端が、月光に照らされて見えた。
・・・女。
さっきの逃走についての問題の答えは程なくわかった。
予想は当たったらしい。
足元から響く衝撃。
影になっていた気配の主が、体勢を崩すのが見えた。
あれは・・・まさか。
月明かりを照り返す長い茶の髪。
「ごっちん!」
大きくかしぎ、海へ落ちそうになる体に向かって走り、飛びつく。
腰に両手でしがみつき、全力で引き戻す。
勢いあまって床に転がるはめになったけれど。
- 69 名前:5月24日午後8時24分 安倍 投稿日:2002年08月10日(土)23時41分52秒
- 痛い、かっこ悪い、あったかい、よかった。訓練してて、間に合ってほんとよかった。
「いたた・・・って」
声が聞こえて、ごっちんの上になってしまった体をなんとか起こす。
差し込む月明かりに、照る顔はやっぱりすこし無表情。
それが見る間に崩れる。綺麗な、ごっちんの顔。
「なっち?」
そうだよ、ごっちん。
「よかった・・・生きてる・・・危ないよ?ごっちん」
眼鏡はどこかにいってしまった。上の様子もわからない。
もう、いいや。
仕事は済んだし。
安心して、ごっちんの上にもう一回顔をもどす。
・・・ちょっと、いやかなりはやい心臓の音。
「ごっちん、怖かったんだね・・・」
- 70 名前:5月24日午後8時30分 後藤 投稿日:2002年08月10日(土)23時49分29秒
- 「よかった・・・生きてる・・・危ないよ?ごっちん」
ワタシの上になったなっちは、泣きそうな顔でこっちを見て言ったあと、もう一回顔を伏せてしまった。
どうしてここにいるの?とか、どうしてこのパ−ティに?とか、聞かなきゃいけないことはやまほどあったはずなんだけど。
なっちの顔を見たらなんか考えられなかった。
どうして、なっちはいつもごとーのピンチをわかって、救ってくれるんですか?
顔をあげないなっちのやわらかさと温もりに、心臓がはやくなる。
「ごっちん、怖かったんだね・・・」
ごめんそれちょっと違う、なっち。
「どうして・・・」
「ん?」
顔を上げたなっちは、綺麗だった。
大きくて、吸い込まれそうなほど綺麗な黒の瞳。
短いショート気味の柔らかい茶の髪。
筋のとおった、ちいさい鼻。
小さい、薄い唇。
黒い、すこしすそが広がったドレスがかわいい。
そっか、もしかしてこの動悸は、あそこで顔が浮かんだ意味は。
「どうして、なっちがここにいるの?」
もしかして、ワタシは、ごとーは、なっちがすきなんだ。
思った自分におどろく。
っえーー?
なっちは立ち上がる。
一瞬ちぇ、って思ったけど仕事中。ごとーもそれどころじゃない。
「ごっちんこそ」
- 71 名前:5月24日午後8時30分 後藤 投稿日:2002年08月10日(土)23時50分14秒
- んー、ごとーは・・・
「ごとーは、仕事だよ」
うそじゃないよ。
ないけど・・・。
「そ、う・・・なっちは、関係者なんだ」
言った顔は、最初会ったときと同じ顔。
表情のない冷たい目をそっと細めていた。
「ごっちん、船室に戻ったほうがいい。船に何かぶつかった。この船なら、沈まないとは思うけど・・・今から大変だよ、多分」
「うん、ごとーも行かないと。・・・なっち、助けてくれてありがと」
「うん」
振り向いて笑ったなっちは、さっきの怖い顔がうそみたいな、優しい笑顔だった。
- 72 名前:5月24日午後7時55分 矢口 投稿日:2002年08月10日(土)23時54分08秒
- い、忙しい・・・。
パーティから簡単に捌けて、人目につかない用意された船室へ。
アヤっぺが残した『万能通信機』を出す。
これは使える範囲がせまいがその場の電波をすべて受信でき、内容がわかる優れもの。
ネーミングがいまいちだけど。
警護室の通信を簡単に見つけ、新人メンバーの顔、名前、配置などを割り出していく。
「・・・う、そ」
警護室のメンバーの中に聞きなれない名前がある。
新メンバーは5人のはず。しかもその人物の態度は偉そうなので、めったに現場にでない責任者なのだろう。
予測は、ついたが。
この優しい、まるい感じの関西弁と、きびきびした話し方は。
なにより、この声は。
「まさか・・・裕子?」
少しの間だけ館にいた、じい様の孫。京都で育った、金髪の、美しい彼女。
確かめにいかずにはいられない。
情報集めはまあ十分だろう。
名前、携えている装備、一応の特徴だけおさえてあれば十分。
船室を飛び出し、会場へ向かう。
彼女は会場のターゲットの近辺にいるはず。
でもそのとき手元の時計では8時ちょうど。
6番が動き出す時間。
- 73 名前:5月24日午後7時55分 矢口 投稿日:2002年08月10日(土)23時55分29秒
- 「くっそー」
うなって、目的地を上の甲板に変更。
今から行って、間にあうか・・・。
上甲板に出ると、悲鳴が聞こえてきた。
やはり仕事は始まっていて、会場は混乱のきわみ。
銃声が何度も響く。
慌てて眼鏡を取り出しカメラをチェック。
ターゲットは金髪と長い髪の女に囲まれ会場を脱出していくのが見えた。
6番の仕事は失敗。それよりも。
なっちの通信が入る。
なんかいまのヤグチかって?
「忙しい!違うよ!!」
それだけ答えて、走り出す。
「金髪・・・」
船の構造は頭に入っている。
速攻で先回り。
多分、さっきの会場近くのから伸びる調理場への裏の廊下から脱出しようとするはず。
もしもあたしだったらそこを選ぶ。
薄暗い廊下には人気がない。
上の騒ぎで警備が薄くなっている。
近くの荷物の後ろに回り込み身を潜める。
付けていた輪のピアスをはずす。
裕子からもらった、プレゼント。
ヤグチのファーストピアス・・・。
- 74 名前:5月24日午後7時55分 矢口 投稿日:2002年08月10日(土)23時56分50秒
- 複数の足音が聞こえてきた。
多分3人分。
覚悟を決めて、細い、細い一般人は聞きとれないような口笛を吹く。
組織の人間だけがわかる、自分の存在を知らせるための合図。
足音のひとつに一瞬の動揺。
やっぱり。
そっと顔をのぞかせると、カメラで見たとおりの3人組みの後姿が見えた。
金髪の女の肩に、ピアスを投げる。
「どうしたの?裕ちゃん」
3人が立ち止まる。
『裕ちゃん』は、ピアスを拾った。
「・・・カオリ、依頼主をつれて先行ってくれん?すぐ追いつくから」
「・・・わかった」
後ろを気にしながら2人は足早に去っていく。
「・・・出てこい・・・」
裕子・・・裕ちゃん・・・誰やって、言わないんだね・・・。
あえて足音を消さず、出て行く。
弱い照明に照らされた、金髪。
意思の強そうな眉。
相変わらず細い体。
青い、カラコンの目。
「ヤグチ・・・」
あなたが最初「ヤグチ」って呼んだから、ヤグチは「まり」って呼ばれなくなったんだよ・・・。
記憶と変わりない姿。
- 75 名前:5月24日午後8時45分 矢口 投稿日:2002年08月11日(日)00時00分37秒
- 「死んだんじゃなかったのかよ・・・」
「聞かされてないんか?あたしは逃げたんや。あの館から。組織から。それで今の会社・・・ハロプロに、・・・つんくさんに拾われたんや」
表情は動かない。
「ヤグチは・・・なんで?」
もうなんて言っていかわからない。
裕ちゃん・・・いろんなことが、あったんだよ・・・?
人も、殺した。あなたがいなくなってから。
アヤっぺも、アスカももういない。帰ってこなかった。死んじゃった。
なっちはあんまり笑わなくなった。すごい、つらそうだよ。
じい様もあんなに優しかったのに、今じゃ何を考えているかぜんぜんわからない。
顔がゆがむのが自分でもわかる。
「あの人か・・・なら、通すわけにはいかん。あたしの役目は、あの人を守ることや」
「あの人が何してるかわかって言ってるの?あの社長、暴力団と香港マフィア使ってどっかから子供つれてきて人体実験や臓器売買してるんだよ?裕ちゃんはそんなやつ守るために組織を・・・ヤグチたちを裏切ったの!?」
裕ちゃんは目をきつく閉じる。
ほんと、昔のままの綺麗な顔。
- 76 名前:5月24日午後8時45分 矢口 投稿日:2002年08月11日(日)00時03分30秒
- 「それでも。仕事は仕事や。それにだからといって殺しを許すわけにはいかん」
「じゃあヤグチも許されないね」
裕ちゃんは少し目を見張り、つらそうに目をそらした。
「なっちもか」
「・・・そうだよ」
通信が入る。
―ヤグチ!仕事は失敗。見てたっしょ?逃げるよ
船は港に着いたようだ。
「そうか・・・。あんたらみたいな若い子がもう、殺しの仕事をしとるんか・・・。
ヤグチ、なあ、もう組織なんかやめ?あたしが助けたるから。
今のままで、あんたらが幸せやとは思えん。
殺しを、あんたらが・・・ヤグチが好きでやってるとは思えん」
笑いがすこしこみ上げる。
「できないよ・・・。もう、ヤグチは昔のヤグチじゃない。なっちもそう。
指令が入れば、裕ちゃん・・・裕子だって殺すよ」
もう、無理なんだよ。
あたしたちの手は、血で真っ赤に染まってる。
忘れることなんてできないよ。
組織からは逃げられないよ。
―ヤグチ!!聞いてるの!?行くべさ!
「行かなきゃ・・・じゃあね」
「ちょお待ち!」
手をつかまれる。
細い指、長いつめ。忘れてない。
懐かしい感触に、泣きそうになる。
「じゃあね」
強く言って、手を引く。
そのまま、なっちの待つ場所へ。
一緒に目立たぬよう脱出する。
裕ちゃんは追ってこなかった。
帰り道、なっちもあたしも一言も口をきかなかった。
- 77 名前:たすけ 投稿日:2002年08月11日(日)00時10分49秒
- 今日はここまでです。
昨日は安倍さんの誕生日。
おめでとうございました。
帰ってきたら更新します。
- 78 名前:皐月 投稿日:2002年08月11日(日)12時39分48秒
- ははは・・あのバカ皐月です。
この小説好きです!あー・・・めっちゃ続きが気になる!
祐ちゃんと矢口の中が気になります!
続き大期待です!更新楽しみに待ってます!
- 79 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月11日(日)18時36分19秒
- >褒めて、ひとみちゃん!!褒めて!は、はずかしい・・・みんな聞いてるんだよ、りかちゃん・・・
「す、すごいよ!りかちゃん!よくがんばったね!」
ワラタ。面白い。ガムバテーください。
- 80 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月12日(月)19時33分44秒
- >>78
sageろよ
- 81 名前:読者 投稿日:2002年08月12日(月)23時41分42秒
- すばらしいです。
この先どうなっていくか楽しみです。
帰ってこられるのを首をながーくして待ってます。
なっちの通り名の由来が気になりますね。
- 82 名前:52 投稿日:2002年08月13日(火)10時08分45秒
- うまいなあ。素直に
- 83 名前:たすけ 投稿日:2002年08月20日(火)19時01分01秒
- お待たせしました、帰ってきました。
>皐月さん
ありがとうございます。
裕ちゃんと矢口の仲は・・・しっかり書けるかどうか・・・v
いや、がんばります!
>79 名無し読者さん
ありがとうございます!
ちょっとあのシーン自信なかったのでうれしかったです。
わりと全部自信なかったりもするんですがv
書かせていただく以上、そんなことも言ってられませんよね。
よりいいものを書けるよう、がんばります。
>81 読者さん
ありがとうございます。
通り名の由来はわりとすぐに出てきます。
センスがない身が恥ずかしい・・・。
期待をはずしちゃったらごめんなさい。
>52さん
読んでいてくださってありがとうございます!
励みになります。
お言葉に恥じぬよう、精進します。
久々に見たらレス多くなってて感動です。
もう本当にうれしい限りです。
更新です。
- 84 名前:5月25日午前6時 安倍 投稿日:2002年08月20日(火)19時02分36秒
- 朝早いのにいきなり呼び出された。
じい様の部屋へ行く。
「なつみ。仕事だ。6番がターゲットのところへ向かった」
じい様の顔色が少し悪い。
「昨日仕事から外れるよう言ったのだが・・・。このところの失敗続きのせいで頭に血が上っているらしい。すぐ、向かって6番をとめてくれ。それと同時にターゲットの始末をこれからお前に任せる。やってくれるな、なつみ」
この場合の「とめる」とは、殺すってこと。
「はい、じい様」
「悪いな、なつみ」
拒否権はないの知ってるでしょ、じい様。
急な仕事でサポートはヤグチじゃない。
ヤグチは多分まだ夢の中。
昨日、ずうっと青い顔をしていた。調子を崩したのでなければいいけど。
昨日のことを思いだす。
ごっちん、なんであんなところにいたの・・・?
あの会社の家族とか・・・?
事前に確認していた組織の系列に該当する出席者の中にはいなかった。
でも家族ならばちょっとやっかい・・・っていうかかわいそうなことになる。
社長を私が殺せば、あの会社はどうなるかわからない。
・・・ごめん、ごっちん。これが、なっちの仕事なんだ・・・。
- 85 名前:5月25日午前6時 安倍 投稿日:2002年08月20日(火)19時06分19秒
- 目立たぬところに車を止めさせ、そのままビルにそっと入る。
裏口から警備員入り口を開け、詰め所に潜入。
・・・やっぱり。
詰め所は血の海だった。
2人いる警備員は首の動脈を切られ即死。
不必要なほど大きな傷が目立つ。
警備システムのスイッチが切れていることを確認し、非常階段からさっさと社長室へ。
この時間、ほんとうならばターゲットがここにいることはないのだが、警護室の警護のためここ1週間はメンバーとともに社長室で寝泊りをしているはずだ。
大きな物音が聞こえてくる。
手に投げに使う針を用意する。
最上階の廊下に、ショートカットの女とお団子頭の少女が倒れていた。
新人の確か・・・吉澤と加護。
腕や足から血が流れている。大きな血溜まりはできていないが、動かない。
開け放たれた扉からはまだ誰かが戦っているような音が聞こえてくる。
ま、6番がターゲットを始末できていればいいし。
影から中を伺う。
見れば長い髪の女―飯田―と6番がもみ合っており、うしろの観葉植物の影でターゲットはうずくまり、震えていた。
少し太ったその体は、こちらからは丸見え。
- 86 名前:5月25日午前6時26分 安倍 投稿日:2002年08月20日(火)19時09分08秒
- 呼吸器に関する筋肉を強張らせるつぼめがけ、吹き針を飛ばす。
ちょっと距離が心配だったので、投げ針でもう一本。
社長の体は反り返り、酸素を求めて胸を掻き毟り始めた。
「ぐは・・・」
もれた声ともがく音に、もみ合う飯田の意識がそちらへ向かう。
その瞬間、6番のナイフの柄が後頭部に命中し、飯田は動かなくなった。
それでできた隙を見逃さず、2本目の針を6番めがけて吹く。
6番の右腕に針は命中。
こっちをゆっくりと振り向いたその顔は、誰のものかはわからない血でべったりと濡れていた。
「ダブル・・・俺の始末令がでたのか。案外、早かったな」
動かない右手の原因となった針を抜こうとしているが、なっちの針は簡単にはぬけない。
じれたようにナイフを左手に6番は持ち替える。
こちらも、ヤグチの言うアイスピックを構える。
「天使と死神の顔をもつ女、ダブルか。暗殺達成率はほぼ100パーセント。お前は、俺が倒してみせる」
- 87 名前:5月25日午前6時26分 安倍 投稿日:2002年08月20日(火)19時10分00秒
- なんだべさ、それ。
言いたいが、吹き針をすぐ使えるよう用意しているので声をだせない。
6番が突っ込んでくる。狙いは、なっちののど。
馬鹿のひとつ覚えみたい。
利き腕の右が使えないのになっちに勝てるわけないっしょや。
目めがけて残った針を吹く。
防御されたところで、すばやく男の左にまわり、手にしたアイスピックでがら空きの左脇から心臓めがけて針を突き刺す。
長く太いこの針は、この位置から心臓に致命傷を与えることができる。ここからの攻撃が、返り血をあまり浴びなくてよいいい方法だ。
でも、この感触は・・・。
「正直、ほんと嫌だねえ・・・。朝からこんな仕事させて・・・おいたがすぎるっしょ」
針を抜き、さっと男から離れる。
男の絶命を確認してから、立ち去ろうと扉を開けた瞬間何かにぶつかった。
「なっ・・・」
「っつ・・・」
そういや、この部屋って防音・・・。
あわてて飛び退ると、少女がいた。
「・・・あれ、ごっちん・・・」
「・・・なっち・・・ご、ごめん」
お互いうわごとのようにつぶやく。
頭が白い。
なんで・・・
- 88 名前:5月25日午前6時32分 安倍 投稿日:2002年08月20日(火)19時11分47秒
「なんでなっちがここにいるの?」
「ごっちんこそ・・・」
「・・・ごとーは、仕事で緊急ってきたんだよ。ここの社長を守ることが仕事なんだよ・・・」
昨日のことは、そういうこと?
ヤグチ、警護室の新人ってごっちん?
ほんとは、うたがってた。
ほんとは、ちょっとわかってた。
だっていつも会えるとき・・・偶然にしてはタイミングよすぎ。
考えないようにしてただけ。
「なっち!!答えてよ!!」
肩をつかんで、ゆすられる。
泣きそうな、痛そうな顔。
そっか・・・ごっちんも、気付いたんだね。
なっちといっしょで、気付いていたんだね。
・・・ごめんね、ごっちん。どうしても、気になる人だったんだ。
いけないと思ったけど、友達だとおもったの。最初、あなたを見たときから、忘れられなかった。
全部、なっちが悪い。
やっぱり、誰とも係わり合いにならなかったらよかった。
そしたらあなたはそんな顔しなくてよかったのに。
あなたの涙をぬぐいたいと思ったのに、あなたを泣かせてしまった。
いっそ、あの時。
一番最初に出会ってしまったとき。
人形のように見えたあなたを、ころしてしまえばよかった。
- 89 名前:5月25日午前6時32分 安倍 投稿日:2002年08月20日(火)19時12分42秒
- 表情を消す。
「なっちの仕事は、人殺しだよ・・・。組織の、2番。あなたたちが針って呼んでる人殺しだよ・・・。なっちのこと見られたからには、ごっちんも殺さなきゃいけないの・・・」
「どうして?どうして、なっち!!あんなにごとーに優しくしてくれた!船では助けてくれた!もしかして、全部嘘だったの?」
「違う!違うけど・・・」
否定する気はなかったのに、とっさに言葉が出てしまっていた。
「けど何さ!!・・・・・・ごとーのこと、殺すの?」
搾り出すような、悲しい声。
私は、なっちは組織の2番。心はない。心がないから、悲しくなんかない。悲しくない。
「殺すよ」
投げ針を取り出し、構える。
「・・・じゃあごとーも、お仕事しなきゃね。・・・言っとくけど、ごとー、強いよ。もうすぐいちいちゃんたちも来るし」
言って、素手で構えをとる。
「素手でいいの?」
「だってごとー、いつもこれだもん」
- 90 名前:5月25日午前6時39分 安倍 投稿日:2002年08月20日(火)19時13分55秒
- 「・・・いくよ」
ごっちんがつっこんできた。
はやい。
右に飛んでかわし、そのまま針を投げる。
ごっちんは身を沈めかわす。
用意した投げ針は残り2本。口の中の針はもうない。後は、大針による近接戦のみ。
身を沈めた勢いを生かし、ごっちんは跳んだ。
蹴りがくる。
蹴りを回避し、ごっちんの後ろへ回り、針を首に・・・刺そうと、したんだけど。
できなかった。最初のごっちん、公園のごっちん、夜に会ったごっちん、船のごっちん。
いろんなごっちんの顔が浮かんだら、手が自然に止まった。
その隙に、ごっちんの蹴りがヒットした。
「っつ」
手の針は飛ばされた。何とか体勢を立てなおし、大針を構える。
瞬間、目を見張ったごっちんは、こちらに再度突っ込んできた。
拳を、大針と手で受け止める。
そのまま、見合うことになる。息すらかかる距離。
いままでで、一番近いね。
皮肉な思いがつい顔に表れたようで、ごっちんは少し怪訝そうな顔をした。
「どうしたのさ、なっち・・・。手加減してるの?・・・ね・・・組織からは抜けられないの?」
整った顔がすこしゆがんでいる。
ごっちんの力は強い。
「・・・ない、よ・・・それになっちは人殺しだもん・・・だから!」
渾身の力でごっちんを押し戻す。
「ごめんね」
床に倒れたごっちんの心臓めがけ大針を刺そうとして・・・やはり、手が止まる。
「・・・どうして?どうして・・・」
どうして、ころせないの・・・?
馬乗りになったまま、動けない。
「・・・どうして・・・」
- 91 名前:5月25日 午前6時44分 後藤 投稿日:2002年08月20日(火)19時15分22秒
- 「どうして・・・」
なっちは、ごとーの上に乗ったまま、動かなくなった。
無表情はそのままで、大きな目から涙が落ちてくる。
何回かなっちはごとーのこと傷つけるチャンスがあったのに、一回も攻撃してこなかった。
手のアイスピックみたいなのを構えたまま、落ちる涙を拭きもせずこちらを呆然と見つめるなっちは、ほんとうに小さく見えた。
そういえば、なっちの涙、初めてみるよ。
ねえ、なっち。ごとー、昨日帰ってからすごいいろいろ考えたんだよ?
だって、なんかごとー、なっちのこと好きかもって。
女のひと、それもぜんぜん知らなかったひとのこと好きかもって。
おかしいよねえ。
まさか、次の日こんなことになるなんて思わなかったよ。
びっくりした。
ねえ、どうしたらいいの?
何回ごとーのこと助けてくれたら気がすむの?
今日のことはちょっと違うけど。
- 92 名前:5月25日 午前6時44分 後藤 投稿日:2002年08月20日(火)19時16分06秒
- 「ねえ、なっち、泣かないで・・・。ごとーは、なっちの笑ってる顔が好きだよ。いつもの、悲しいみたいなやつじゃなくって、ほんとたまにしてくれる、優しい、あったかい笑顔が好きだよ」
気がついたら、なんか声が出ていた。
なっちはアイスピックをおろしてくれた。
「・・・ごっちん、それ、いまにも殺されようとしてるひとのセリフじゃないっしょや・・・」
笑ってくれた顔は涙に濡れて、苦笑いの失敗作みたいなやつだったけれど。
朝日が差し込んで、ほんとうに綺麗に見えた。
・・・む?朝日?
「ねえ、なっち!いちいちゃんたちがくるよ!!」
なっちはさっと立ち上がる。
「それ、逃がしてくれるってことかい?」
すこし迷った。
部屋のなかには倒れたカオリと依頼主。
それから、見知らぬ男。
よっすぃーたちは、死んでなかったけど・・・
「カオリと、依頼主とか殺したのなっち?」
「飯田圭織は多分死んでない。やったのは6番。6番とターゲットを殺したのはなっちだよ」
冷たい顔、冷たい声。
ああ、なっち、ほんとうに「針」なんだね・・・。
ふとなっちの顔が動いた。
右耳に手をやる。
「どうも、そっちの応援が来たみたい・・・どうする、ごっちん。なっちを止める?」
- 93 名前:5月25日 午前6時44分 後藤 投稿日:2002年08月20日(火)19時17分05秒
- こっちにむかって静かに歩いてくる。
あたしは動けない。
「止めないの?じゃあ、なっちいくよ・・・バイバイ」
なっちは今まで見たことのない笑いかたをして普通に歩いて帰っていった。
その笑顔は、なんかこう・・・大人の余裕みたいな、色っぽい感じの笑いかたで・・・。
「こんなときなのに・・・」
どきどきする。
キライになんて、なれないよ・・・。
どうして、なっちは針なのさ。
あんな、優しく笑うのに。
あんな、優しいのに。
殺し屋なら、ごとーのことなんで助けたのさ。
・・・いっそ、なっちにならごとー、殺されてもいいかもよ・・・?
だってあの時。
今でも、ずっと。
とまらないはやい鼓動。
どきどきするこのリズム。
なっちが好きって心臓が言ってる。
でもいちいちゃんや裕ちゃんになんて言おう・・・。
なっちの正体、言わなきゃなのかなあ・・・。
足音が聞こえるし、なっちが無事だったかも気になる。
なっちは組織。ごとーは警護室。
敵同士。
恋愛って、こんな大変なものだったっけ?
どうしよう・・・。
- 94 名前:5月25日午前9時01分 矢口 投稿日:2002年08月20日(火)19時19分14秒
- 朝おきたら、なっちが隣で寝ていた。
昔はよくあったことだけど・・・。
ぼんやりなっちの寝顔を見ていたら思い出した。
「ばか、ゆう、こ・・・」
なぜかすこし、涙がにじむ。
なっちと目があった。
「・・・寝てたんじゃなかったの?」
「いま起きた」
なっちは仕事に使う普段着を着ていた。
黒いシャツに黒いスカート。
組織の人間は仕事のときいつも黒を着る。
でもなんでそんな顔してるの?
何か言いたいような、でも言いたくないような、妙に静かな顔。
「ねえ・・昨日あつめた、新人のデータ見せて・・・?」
「そこのパソコンの中」
さっさと起き上がって、なっちはパソコンに向かう。
その背中に声をかける。
「ねえ、・・・聞こえた?」
「・・・うん」
やっぱり。目が泳いでた。
「あのねえ・・・ヤグチ、昨日裕ちゃんに会った」
「・・・裕ちゃんって、あの裕ちゃん?」
「そうだよ!あの裕子だよ!」
部屋にいた、よく青い顔してた。
「・・・嘘」
こっちを向いたなっちの顔はすこし青ざめていた。
- 95 名前:5月25日午前9時01分 矢口 投稿日:2002年08月20日(火)19時20分26秒
- 「裕ちゃん、死んでなかった。警護室にいた」
「じゃあ、あの金髪は・・・」
「なっち知ってたの?」
「うん。でも、あんまり出てこなかったし・・・。なっち、そんなに何回も裕ちゃんに会ってなかったから・・・。裕ちゃんだったのか・・・」
またパソコンに向かう。
「そう・・・。元気だった?」
「・・・多分、室長をしてるよ、裕ちゃん」
起き上がって服を着替える。
なっちの方へ目をやると、一画面で目を留めて、大きくため息をついていた。
「どうしたの?」
「・・・ヤグチ、裕ちゃんのこと好きなんじゃないの?」
息を一瞬止めた。
「・・・好き、だったよ・・・。けど、裏切り者だもん・・・」
「だった・・・?嘘。なっち、知ってるよ。ヤグチがつらいとき、悲しいとき、いつも裕ちゃんの名前そっと呼ぶこと。好きじゃなかったらあんな顔で呼ばないよ」
「だって・・・!優しくしてくれた、いろんなこと教えてくれた、でも!!ヤグチは昔のヤグチじゃないし、裕ちゃん・・・裕子は裏切り者なんだよ!じい様に知らせなきゃ!!」
「・・・ほんとうに、じい様知らないのかな?」
「え?」
- 96 名前:5月25日午前9時01分 矢口 投稿日:2002年08月20日(火)19時22分18秒
- 「だって組織の力で警護室室長のことがわからないわけないよ。・・・だからかな。裕ちゃんのことが禁忌になったの」
なっちはこっちを向いた。
「言えないっしょ。自分の孫が警護室の室長してる、なんて。特になっちたちには」
「そうか・・・」
ヤグチたちだけ、知らなかったのか・・・。
言えないよね・・・。ヤグチ、裕子に懐いていたから・・・。
けど、ちょっと裏切られた感じがする。
「どうしてなっちはそんなに平気なんだよ?」
驚きが少ないなっちにちょっといらいらする。
間違ってると自分でも思うんだけど。
画面を消しなっちはこちらに近づいてきた。
その目は無感動な光のない、闇そのものみたいな目で。
「・・・平気でないよ。けど・・・なっち、今日もう一回すごい驚いてきちゃったんだもん。もうネタ切れ」
「・・・なんだよ、それ・・・」
ネタって・・・わけわかんないし。
- 97 名前:5月25日午前9時01分 矢口 投稿日:2002年08月20日(火)19時22分57秒
- 「・・・詳しくは、いえないんだけど・・・。なっちも、ショックだってことさ」
「いえよー」
すこし、なっちは笑った。
「なっち、仕事してきたんだ。6番がなんか朝から暴走して、朝から始末してきた。ターゲットも殺してきた。・・・早起きしすぎて疲れちゃった」
その言葉には嘘はなかったみたいだけど。
「何があったんだよう・・・。なっちとヤグチの仲じゃんか・・・」
そのままヤグチのベッドにまたもぐりこむなっちの上に乗っかる。
「ヤグチ、重い・・・」
「なんだとう!!このセクシーヤグチに乗ってもらって言うことはそれだけか!」
しばらく2人でばたばたしていたけれど。
「ヤグチ、疲れちゃったぜ。もう一回寝てやる」
こんなときは仕事が来るまで、一緒に寝てやる。
「そうしよ、ヤグチ」
いつものように2人で丸くなる。
背中から、声がした。
「言えるようになったら、話す・・・」
返事はしなかったけど、伝わったのわかった。
もうちょっと泣こうと思う。
どうしてか一足先に泣いているなっちと一緒に。
- 98 名前:たすけ 投稿日:2002年08月20日(火)19時27分31秒
- 今日はここまでです。
ここから話も大詰めなんで、今までどおりに話の中の一日単位で更新していくことができなくなります。
ちょっと変なところで切っちゃうこともあるかもしれませんが、ご容赦ください。
- 99 名前:とみこ 投稿日:2002年08月22日(木)17時48分31秒
- 初めまして。某作者のとみこと申します。
今日全部読んで、なんかすごい感動しました。
殺しという残酷な運命の中での恋っていうのはすごく切なくて。
続き楽しみにしてます。
- 100 名前:たすけ 投稿日:2002年08月22日(木)18時54分34秒
- >とみこさん
レス、ありがとうございます。
なんかもう恐縮です。うれしいです。
ご期待にそえるよう、がんばります!
2日に一回、厳しくなってきましたが更新です。
- 101 名前:5月25日午後10時24分 中澤 投稿日:2002年08月22日(木)18時55分14秒
- 今日の仕事は失敗。
依頼主は殺され、吉澤、加護、カオリが負傷という結果になった。
昨日の実行犯と見られる組織の6番は死んだものの、これに手を下したのは針・・・ダブル、だという。右腕に細い針、左脇から心臓を一突き。これが致命傷。
見事な腕。
残務処理に追われ、それどころでは無かったけど・・・。
・・・ヤグチ・・・。
忘れた日はなかった。
おそろいにした金髪、小さい背。
整った顔、高い声。
ちょっとへの字にまげた口。
「ごめん、ヤグチ・・・」
部屋にはもう誰もいない。
目を伏せる。
あの時、自分にもっと力があれば、一緒に連れ出すことができた。
もう仕事をしているなんて・・・。
なっちもそう。
数度しか会わなかったが、印象に残っている。
あんな明るい子が、仕事をしているのか。
今でも自分を苦しめる、あの人殺しの感触に慣らされているのか。
「相変わらず、ヤグチが好きなの?」
あきれたような声が響く。
「うるさいわ・・・。ノックぐらいしたらどうや・・・。でもどうしたんや、来るなんてほんと珍しいな、アヤっぺ」
闇に、女の顔が浮かんでいるように見えた。
黒い長袖のシャツ、黒いパンツ、黒い皮の手袋。
長い髪をかきあげ、にやり、と笑う。
「せっかくなんで、いろいろ教えてあげようかと思って。長くなるからコーヒーぐらいだしなさいよ」
- 102 名前:5月25日午後10時24分 中澤 投稿日:2002年08月22日(木)18時56分13秒
- 鼻のピアスが目立つ。
「ここんとこぜんぜん姿見せんかったくせに、よお言うわ」
苦笑してコーヒーをいれに立つ。
「・・・あんたのところの諜報、いまいちね。ザル?この前偶然耳にしてびっくりしちゃった。ダブルの正体まだしらないの?それとも、隠してるのか・・・」
「・・・どういうことや」
アヤっぺの目が細くなる。
「組織のこと、言う気はなかったんだけど・・・。なっちもヤグチも仲間だしね・・・。
でも、このごろ妙にきなくさくていろいろ調べていたんだ」
コーヒーを差し出すと、受け取り、匂いをかぐ。
「結構いい豆つかってんのね」
「そんなんどうでもえから続きを早う」
自分の分に手を付ける気にはなれなかった。
「まず、なっち。あんたらの言う、針。組織の2番。ダブルはなっちのことだよ」
息が止まり、一気に血の気が引く。あの、優しい、ちょっとはにかんだ笑顔の子が。
「天使と死神の顔をもつ女だって。・・・納得?それから、組織の5番。あれ、ヤグチのこと。ちいさな死」
- 103 名前:5月25日午後10時24分 中澤 投稿日:2002年08月22日(木)18時58分02秒
- 5番はそう表には出てこないが、何度か名前を聞いたことがある。変幻自在の殺しの手口。闇から闇へ渡る鮮やかな影。
それでは、あの子らは。
ヤグチの顔を思い出す。
―できないよ・・・。もう、ヤグチは昔のヤグチじゃない。なっちもそう。指令が入れば、裕子だって殺すよ
あの、悲しい無表情。
「ほんとうは、見てるだけのはずだった。だって私は組織を抜け、一度死んだも同然の身だし。こうやって、あんたにも会わず闇に隠れて生きていくはずだった」
「じゃあなんで」
「いまの組織の動きはどこかおかしい。裕ちゃんだって気付いてるでしょ?ここのところ組織はおかしい。どうしてかは詳しくはまだ私にもわからない・・・。まるで、何かに追われるように仕事をしている・・・」
確かに。警護室にとってもここのところの忙しさは普通ではない。
「それと・・・これからが本題。これ、内緒にしてくれる?なっちと、あんたのところの後藤。知り合いみたいなんだけど」
「はあ?」
思わず声がでた。
「なんやそれ」
アヤっぺは困ったように眉を上げる。
- 104 名前:5月25日午後10時24分 中澤 投稿日:2002年08月22日(木)18時58分45秒
- 「知らないわよ。けど、あれは・・・訳ありっていうか・・・なんか、お互い敵同士って知らなかったみたい・・・。けど、なんかかわいそうで・・・」
アヤっぺはコーヒーをすする。
「私、船で全部見ていたのよ。あんたとヤグチのことも、後藤となっちのことも。もうどうしても我慢できなかった。なっちとヤグチ、あんたもみんな私にとっては大切な仲間だったから」
アヤっぺの目がまっすぐこちらを見る。
相変わらず、射るような強い、いさぎよい目。
「詳しいことはまだ言えない。けど近いうち、組織に何か起きる。もしかしたら組織が崩壊するかもしれないようなことが。これは確か。そのとき、なっちとヤグチを逃がしてやってほしい」
「・・・組織からか」
アヤっぺはうなずく。
「そう。あの子たちは、確かに人を殺している。でも、そうしないと生きられなかった。
確かに、反論はあるよ。でも・・・あの子たちは進んで人殺しをしたことはない。しかも言っちゃえば大部分は死んで当然の男たちばかり殺してる。ねえ、裕ちゃん・・・私は、組織から裕ちゃんが逃げるとき、助けたよね。まあ成り行きだったけど。お願い。なっちとヤグチを助けて。私も協力するから」
- 105 名前:5月25日午後10時24分 中澤 投稿日:2002年08月22日(木)18時59分16秒
- 必死な顔は初めてみた。
組織でも諜報関係では随一の腕を誇り、つらい仕事から帰ってもいつも涼しい顔をしていた。
「助けるっちゅうても、何をしたらええんや?ここに入れるていうんか?」
「・・・次の依頼は多分、会社から来る。非合法の仕事。組織とは知らされずに、ある暴力団組織をつぶせって形で依頼が来るはず。裕ちゃん抜きで。裕ちゃんには多分ダミーかどうでもいい仕事が回される。・・・そのとき、なっちとヤグチを連れ出してほしい」
「・・・なんで会社から?しかも非合法やと?組織とは知らされず?・・・アヤっぺ、あんた何を知っとるんや」
コーヒーを飲み干し、立ち上がる。
月明かりに照らされた顔は、美しかったが疲れて見えた。
「だから、いまは言えないって・・・。すぐ、わかるよ」
「それならなんでこんなことを?昔のあんたからは想像できん姿やな」
すこし笑ってやると、アヤっぺは苦笑いしてみせた。
- 106 名前:5月25日午後10時24分 中澤 投稿日:2002年08月22日(木)19時02分03秒
- 私もちょっと意外。こんなおせっかいじゃなかったのにね・・・。・・・ただ、私と裕ちゃん、それからアスカがいなくなってから、なっちたちの負担はすごく増えた。あんな顔をなっちとヤグチに教えたのは私たちなんだよ・・・アスカがいなくなってからあの子たちは、組織の中で自分たちの心を守るため必死で寄り添って生きてきた」
アヤっぺは目をつらそうに伏せた。
「もう、解放してやりたい・・・。殺されたやつらの家族からすれば許せないかもしれないけど・・・でも、あたしは奴ら絶対死んで当然の奴らばっかだったと思ってる・・・。こうやって動くわけは、もうひとつあるんだけど」
顔を上げ、微笑む。
その顔は、昔の余裕のない表情ではなくて。
優しい、慈愛に満ちた笑顔。
「裕ちゃん、ヤグチのこと好きでしょ」
言われて、顔が赤くなるのがわかる。
「ちょっ・・・なんや自分いきなり・・・」
「かーわいー。照れちゃって。・・・私もね、好きな人ができたんだ・・・。だから、気持ちがわかる。あんたたちのこと、応援することにした」
言い置いて、きびすを返す。
「助けて、くれるでしょ?」
「ああ」
もう一回、振り向く。
「そうそう。よけいなことだけど。多分後藤、なっちのこと好きだよ。なっちもきっと」
二回目の呆然。
「は?」
「じゃーね」
姿はもうない。
え?
後藤?
なっち?
あの、さやかべったりで、無表情な、お子様後藤が?
・・・アヤさん?
今日は、眠れそうになかった。
- 107 名前:たすけ 投稿日:2002年08月22日(木)19時04分46秒
- >105
ミスであげちゃいました。
- 108 名前:5月27日午前11時20分 安倍 投稿日:2002年08月22日(木)19時06分01秒
- ここ数日、仕事がない。
しかし、待機令が出ている。
こんなことは、今までなかった。
とりあえずヤグチと二人、お互いの部屋を行き来して過ごしている。
今日は、ヤグチの部屋。
「・・・なっち」
ベッドに寝転がったまま、ヤグチが天井を見つめていった。
私はヤグチのパソコンで警護室のデータチェックをするのが日課になっている。
気がつくと、ごっちんのページでとまってしまうのが、自分でも恥ずかしいんだけれど。
「なに?ヤグチ」
「ねえ、おかしいよ。ハロプロの動きも妙だし・・・。で!ヤグチあの資料調べたんですが!」
「・・・ああ、あの死にそうになったあれ?」
なんかどっかの会社だか暴力団事務所だかにこっそり2人で忍び込んだ。
どこだか詳しいことはヤグチも教えてくれなかったけど。
やったら警備厳しいし、いかにもその道、と知られる人だらけだし。
- 109 名前:5月27日午前11時20分 安倍 投稿日:2002年08月22日(木)19時06分49秒
- 「そう、それ。なっちが、いつものように拳銃の命中にやたら失敗してた、あれ」
「うるさいヤグチ。なっちが銃へたくそなのは前からだし。だいたい、針使うなって言ったのは矢口っしょ?」
「だって、針なんか使ったらばれちゃうじゃん!ただでさえヤグチとなっちは見つかっちゃったら目だつんだから・・・。にしても・・・へへっ・・・も、ぜんっぜん当たんないし・・・」
思い出しても顔が赤くなる。
「向いてないもんはしょうがないべさ!!笑いすぎ!話、戻して」
ヤグチはようやく真顔に戻る。
「そうそう、それ。ごめん、ちょっと逃避してた。・・・なっち、聞いて?」
言いながら、メモ帳を引き寄せる。
「もしかしたら、近々組織になんかが攻めてくるかも」
ヤグチの手が動いている。
「そのときのための、待機命令なのかも」
- 110 名前:5月27日午前11時20分 安倍 投稿日:2002年08月22日(木)19時07分33秒
- ―もしかしたら、盗聴されてるかもって可能性があるから書く。さっきまでくらいまでなら問題ないんだけど、ここからヤバイ。組織と、ハロプロ。つながりがある。ハロプロの、社長知ってる?つんく。この人、どうも、じい様の親族・・・の、代理人らしい。じい様は、もともと香港マフィアの出で
「ヤグチたちがじい様をまもらないとね」
―じい様はめかけ?の子らしいのね?じい様は本家から半分島流し状態で日本に拠点を作るために組織を作らされたみたい。で、つんくは、本家からその監視と、組織の力が大きくなりすぎないようにって依頼されて来た、と。これまで、ハロプロはハロプロ自体の収益とともに、組織と警護室、両方から得た利益を集めて本家に送ってたっぽいんだけど・・・
「そうだね・・・」
―このごろ、組織も力が落ちて、どうも本家からは切り捨てられそうな感じなんだ。じい様はそれを恐れてか、このごろすごい勢いで依頼をとって働いていたみたいなんだけど。
仕事が過ぎて、今度はちょっと目障りに見られてきたみたいなんだよね・・・。
無言で、ヤグチに近づいた。
無表情だけど顔が、すこし悲しそうで。
手が、震えてた。
―襲撃は、多分避けられない。本家から、つんくに命令が来てるみたい。だから警護室といっしょに、マフィアの工作員も入ってくるはず。
そこで、手を止めて、こっちを見る。
ヤグチの大きな目がいつも以上に澄んでいた。
- 111 名前:5月27日午前11時20分 安倍 投稿日:2002年08月22日(木)19時08分03秒
- ―ヤグチとなっち、多分標的にされてるはず。一番働いて、一番内情を知っていて、じい様に育てられたから。けど・・・じい様を、守らないと。
そっと、ヤグチを抱きしめる。
耳元でちいさな声が聞こえた。
「生きようね・・・」
わたしは続ける。
でも―
「しぬときは、いっしょだよ・・・」
体を離して、微笑みあう。
泣いてるひどい顔だけど、今までで一番綺麗な笑顔。
ヤグチとなっち。
多分、好きな人は違うはずだけれど。
いっしょに、いつもいっしょにいたのは、このひと。
じい様を守ろう。
いきよう。ヤグチ。
- 112 名前:たすけ 投稿日:2002年08月22日(木)19時12分42秒
- わりとage、sageにこだわらずに行きたいとは思ってたんですが・・・。
何かご迷惑をこうむった方がいたら、すみません。
土曜の更新が用があってできなくなります。
土曜分は日曜か月曜に必ず更新します。
待ってて・・・下さる方がいればv待っててください。
- 113 名前:皐月 投稿日:2002年08月23日(金)22時13分23秒
- 更新待ってました!
すごい・・すごいですよ。たすけさん!おもしろすぎですっ!
更新楽しみに待ってます!
がんばってくださいね!
- 114 名前:52 投稿日:2002年08月24日(土)08時06分32秒
- こういう話しは続けるのが大変でしょうが頑張ってください
- 115 名前:たすけ 投稿日:2002年08月25日(日)19時47分18秒
- >皐月さん
毎回レス、ありがとうございます。
おもしろいって言っていただけてほんと光栄です。
この話もラストにむかってます。
このままつきあっていただければ幸いです。
>52さん
ずっとつきあっていただけてうれしいです。
こうやってレス頂けるんで、私も書いていけています。
ありがとうございます。
がんばります。
このcolor、もうすぐ一応のラストをむかえます。
その後、番外編・・・ていうか第2話っていうか・・・続編に続きます。
この板で話を書かせていただいたのはそのせいなんですが・・・。
とりあえずは最後まで。
精一杯やっていくんでよろしくおつきあいください。
それでは更新です。
- 116 名前:5月29日午前9時22分 後藤 投稿日:2002年08月25日(日)19時48分50秒
- 6月に、いちいちゃんはアメリカへ渡る。
これが、いちいちゃんの最後の仕事。
朝、一番に仕事につくと、どうやら徹夜だったらしい裕ちゃんがいた。
いつもピシッと決まっているスーツもよれよれになっていたけど。
「よ、おはようさん、後藤」
すごく満足そうな笑顔。
・・・なんで?
「んふふふふ・・・裕ちゃんは、やったで・・・」
言いながら、着替えと仮眠のために仮眠室へ行く。
「ちょ・・・なに?裕ちゃん」
「今日のミーティングは、さやかに任せた。この年で徹夜はつらいわ・・・。起きるまで、起こさんとってな」
ひらひらと手を振り、扉を閉める。
・・・変な裕ちゃん。
変といえば、今日の仕事もそう。
内容は昨日のうちに知らされていた。
ある暴力団の、潜入、ぼくめつ。
よくわかんないけど、とりあえず行って、壊せばいいらしい。
ま、ごとー向きの仕事だよね。
ここ数日、わたしはずっとなっちのことを考えていた。
- 117 名前:5月29日午前9時22分 後藤 投稿日:2002年08月25日(日)19時49分34秒
- なっちが、組織の2番ってこと、まだ誰にも言えてない。
だって、まずうまく言葉にできないし・・・。
・・・うそ。ほんとは、わかってる。『組織の2番の名前は、安倍なつみ。北海道生まれ』
これでいい。
ごとーには、まだ間違いみたいな気がするよ、なっち。
言葉にしたらほんとになりそうで。
かなしい泣き顔とか思い出すと、ごとーも泣きたくなるし。
いちいちゃんたちの心配そうな顔も気付いてはいるんだけど。
ごめんね。
もうちょっとだけ待って。
もう一回、なっちと会えないかなあ・・・。
ぐるぐる考えていたら、いちいちゃんに肩をたたかれた。
「どうした、後藤」
「ふぇ?・・・裕ちゃんは・・・?」
「仮眠室で寝てるよ」
圭ちゃんが答える。
見回せばもうみんなスタンバイオッケーって感じ。
「ごっちん、いくよ」
よっすぃーに起こされ、立ち上がる。
とっとと仕事片付けてあのビルの上で待ってみよう。
何日か通ったら、絶対会えるよね、なっち。
- 118 名前:5月29日午後5時23分 安倍 投稿日:2002年08月25日(日)19時50分20秒
- 館は、その日朝から緊迫した空気に包まれていた。
「いよいよかな・・・」
「でもじい様は?なんで逃げてないの?」
ヤグチは愛用の拳銃とナイフを磨いている。
どちらもヤグチ用ミニサイズ。
視線の意味に気付いたのか、軽くこちらをにらむと、答えてくれる。
「どうもやばくなったら秘密の出口から逃げるみたい」
「でももうやばいっしょ!道だって・・・」
思わず立ち上がると、ヤグチは困ったような顔をしてみせた。
「しかたないって。だって、じい様ボスだもん」
「そっか・・・」
納得するしかない。
もう、最後なんだね・・・。
支部は、もうだいたいつぶされたらしい。
じい様に何度か助けに行こうかと言ったが、拒否された。
もう無駄らしい。
もう幾日もじい様に会っていない。
「さて。なっち、持ち場にいこっか」
軽い口調だけど、目が笑えてないよ、ヤグチ。
こっちも顔いっぱいで微笑んでやる。
「行くべさ!ヤグチ!」
ハイタッチして、部屋を出る。
ヤグチは2階諜報室前。
なっちは3階廊下。
別れ際に、ヤグチは通信機を付けてくれた。
「これで、お互いのことわかるから。・・・切るなよ?」
かわいい後姿を見送る。
今日ばかりは厚底じゃないヤグチは、ほんとうに小さく見えた。
・・・ヤグチ。
この指令・・・逃げろでもなくて、戦うにも隠れる場所がほとんどない持ち場・・・。
私たちに死ねってこと・・・?
・・・ごっちん。ほんとはなっち、怖いよ。
- 119 名前:5月29日午後6時 後藤 投稿日:2002年08月25日(日)19時52分22秒
- 実際に行った暴力団の本拠地は、何個かの建物からなる大きなお屋敷。
これ、ほんとに暴力団とかなの・・・?
今日のごとーたちは完全装備。
防弾チョッキ、それから・・・支給された、本物の銃。
いつもは銃に麻酔弾や殺傷能力を落とした弾をこめて使っている。
でも今日は実弾。しかも、けっこうこの銃、強力っぽい。
裕ちゃんはこの仕事に回されていないから、今日のいちいちゃんが総指揮と現場指揮を兼ねる。カオリは加護と辻に『たたかいの心得』を教えている。
カオリ、そんなのごとーも知らないんだけど・・・訓練とかで習ってない特別なやつなの?
圭ちゃんとよっすぃーはりかちゃんの隣。
りかちゃん、さっきからずっとまじめな顔してノートパソコンをたたいている。
「ねえ、いちいちゃん」
「なに?後藤」
振り向いた顔は想像以上に厳しい。
「・・・なんでこんなに中が騒がしいのに、ごとーたちここで待機なの?」
「・・・どうしても、知りたいことがあってね・・・圭ちゃん、石川、まだかかる?」
「まだ・・・すこしかかります」
「そっか・・・しかたないね。石川はここで待機。今の作業と平行してうちらのフォロー、お願い。加護、辻。石川を守ってやって。何がおきるかわからないし」
「えー待機ですかー!」
「そう。だって、まだ傷治ってないじゃない。・・・辻、2人を頼むな」
辻は真剣な顔でうなずいた。
- 120 名前:5月29日午後6時 後藤 投稿日:2002年08月25日(日)19時52分51秒
- 「はい」
「あ、のの!うらぎりもの!」
「だって、あいぼん・・・あんなの、もういやなんだもん・・・。あいぼんのあんな痛そうなの、もうみたくないよ・・・」
まだ不満そうな加護ちゃん。
「けど・・・」
「辻ががんばる!あいぼんとりかちゃんを守るから!」
必死な辻の顔を見て、加護ちゃんが苦笑いをする。
「しゃあないなあ・・・けど、守るっていうのはうちもやで。うちも、ののとりかちゃんを守ったる」
ようやく話がついたかな。
「じゃ、行くよ!中にはもう会社の応援が入ってる。うちらが行くのは、南館。目の前の建物。ここの3階にボスがいる。多分、抵抗は相当厳しい。気合入れていくよ!!」
暗くなる空。
がんばるからね、いちいちゃん。気持ちよく、アメリカへ行かせてあげる。
- 121 名前:5月29日午後6時22分 館 投稿日:2002年08月25日(日)19時56分17秒
- 警護室のメンバーが合図により南館に入る。
激しい銃撃戦。
「・・・なんで・・・?」
今までメンバーの誰もこんな光景見たことはなかった。
そこここに血が飛び散っている。
人が、荷物のように転がっている。
「こんな・・・」
「いちいちゃん!なんでこんな仕事が回ってきたの!?」
市井の顔も青い。
―市井さん!!
「石川?」
―これ、どういうことですか!!なんで、・・・こんな・・・
「ちょっと、落ち着いて」
館の周囲では先ほどよりもひどい爆音が続いている。
―これ、ここは組織の本部です!!
聞いていた皆の顔色が変わる。
「ちょ・・・」
「りかちゃん!!どういうこと!?」
―ごっちん・・・帳簿が、見つかったの・・・。それでわかったの。ハロプロと、組織・・・2つは、つながっていたの・・・
「どういうこと?」
―つんくさんと、組織のボス・・・2人は香港のどっかのマフィア出らしくて・・・。両方の収益がそこに流れていたの・・・
- 122 名前:5月29日午後6時46分 加護 投稿日:2002年08月25日(日)19時57分24秒
- 「今回の計画は・・・」
りかちゃん、はようしてえな・・・。
気持ちは焦るばかり。
この通信が始まるのを待っていたかのように黒服の男が襲いかかってきていた。
銃撃戦なんて経験は初めてで。
ののが冷静に撃ってなかったらうちも危なかったかもしれん・・・。
警護室の車をつけているのは南館前の塀の前。
後方の警戒をしなくてよかったのがありがたい。
・・・まさか市井さん、これを見越してここに車をつけたとか・・・?
「あいぼん!」
声で気づき身を潜める。
「のの・・・きりがないな・・・」
「うん・・・けどりかちゃんが・・・」
眼前にはまだ7人ほどの男たち。
隙を見ては撃ってくる。
人殺しはしたくない。
けれど・・・。
あかん!のの!飛び出しすぎや!
手を出して頭を引っ込めさせる。
「ありがと、あいぼん」
ののも顔が青い。
弾ももうそろそろ無い。
あかん・・・どうしよ・・・誰か、助けて・・・!
思った瞬間。
銃撃が止んだ。
- 123 名前:5月29日午後6時46分 加護 投稿日:2002年08月25日(日)19時58分07秒
- 「うそ・・・」
銃声が続けて5回。
何かがぶつかる音と共にうめき声。
「危なかったな・・・痛っ・・・」
そっと顔を出す。
「中澤さん!!」
そこには黒のパンツスーツ姿の室長の姿。
「どうして・・・」
「いや、仕事はちゃんと片付けてきたで?徹夜になってしもたけどな」
照れくさそうに笑う姿はいつもどおり。
その足元には7人のうめき声を上げる男たち。
「それより、皆は無事か?」
「たぶん、今のところ・・・」
「りかちゃん!」
「終わったよ。ありがとう、加護ちゃん、辻ちゃん」
疲れのたまった顔。
「中澤さん、今回の計画のこと、知ってたんですか?」
「調べてた・・・」
「ここが組織ってことも?この計画が、組織だけではなくこの警護室もつぶすためだって
ことも?」
なんやて?
「やっぱりか・・・この仕事、おかしいとは思ってた。うちらの仕事は守ること専門やったはずや。それなのに、今回・・・。そんな人手がたりんわけでもない。うちらに仕事がまわってくるんがおかしいとは思ってた」
目をふせる中澤さん。
- 124 名前:5月29日午後6時46分 加護 投稿日:2002年08月25日(日)19時58分46秒
- それは・・・どういうことや・・・?
「うちらは捨て駒にされたんや。多分、うちらは組織と闘うためだけに作られたんやろ。今回組織をつぶしたらもう必要ない。この仕事で組織とともにつぶされて終わりや。・・・そんなこと、絶対にさせへん」
決意を込めた目。
うちはショックで声もだせへん。
中澤さんはりかちゃんの端末を借りて話し出した。
「皆、今平気か?」
―裕ちゃん?どうしたの?
「さやかか。ちょっと話がしたい。皆を安全なところへ一時避難させてくれへん?」
―今一応大丈夫だよ。
「よく、聞いてほしい。あたしは・・・あたしは、組織の人間やった。組織の、ボスの孫娘や。・・・番号は、1番。精密機械、一番。今は裏切り一番」
―なっ・・・
- 125 名前:5月29日午後6時58分 中澤 投稿日:2002年08月25日(日)19時59分31秒
- 「昔は、体が弱かったんや。けど、あそこは働かん者は生きていけん。あたしの親も、おんなじ仕事して、仕組まれた事故で死んだ。そのショックでしばらく仕事ができんくなって。・・・死、っていうものがようやくわかったんやと思う。そこで、ヤグチとなっちに会った」
両親の記憶はひとつしかない。
祖父の名代として出かけた先で。
つぶれた車。流れる、オイルと両親の血。
その後、ちゃんと見たはずの光景はどうしても思い出せない。
それは確かに幸せなことのはずなのだけど。
それまで、一応家族として暮らしてきたはずなのに。
ショックのせいだろうと医者は言った。
父と母の顔も思い出せない。
こんな仕事のせいか、写真もない。
その後、仕事ができなくなった。
ターゲットの前へ行くと、体が一歩も動かない。
冷や汗がでて、かならず吐いた。
「ヤグチは遠縁の子で、直接の血のつながりは無いんやけど両親を小さいころに亡くして組織に引き取られた。ちょっとぶっきらぼうやったけど、ほんと優しい子で。小さいのに、めっちゃがんばってた。なっちは・・・じつは何度か会っただけなんやけど・・・。お日様みたいに笑う、ちょっとはにかみ癖のあるかわいい子やった」
「ヤグチは5番。なっちは、2番。・・・ちいさな死と、ダブル。針や」
- 126 名前:5月29日午後6時58分 中澤 投稿日:2002年08月25日(日)20時01分17秒
- ―じゃあ・・・裕ちゃんは、最初から全部知ってたの?針の正体も、組織の全容も
カオリの声が震えてるのがわかる。ごめんな。
「いや。あたしが出てから組織はだいぶ変わったらしいし、人間もだいぶ入れ替わったって聞いている。・・・ほんとなら、あんな年の子らが仕事してるんはおかしいんよ」
皆、ごめん。
「あたしは、最後のチャンスとして与えられた仕事もできんかった。ボスの孫とはいえ、これでは下に示しがつかんと、始末される可能性もあった。・・・やから、せめて自分で死のうとしたとき、つんくさんに会った」
仕事を失敗するのを見ていた目。
目が合ったのを覚えている。
反射で逃げようとした腕をつかんだ手。
優しくはなかったけど、言ってくれた。
生きろと。殺した分だけ、守ってみろと。
その言葉で、今の自分がある。
その人が今のこの状況を引き起こしたのだけれど。
その言葉があたしを救ってくれた。
- 127 名前:5月29日午後6時58分 中澤 投稿日:2002年08月25日(日)20時02分06秒
- 「つんくさんはそれからこの会社に警護室をつくって、あたしを室長にした。あたしはその期待に答えようとがんばった。その後は皆の知ってのとおりや」
「・・・なんで、この話を今したんですか!?」
加護も顔色が悪いを通り越して白い。
ごめんな、加護。
ごめんな、辻、石川。
ずっとみんなをだましてた。
「ずっと言おうと思ってた。でも言えんかった。それでも・・・言おうと思ったのは・・・」
「ここが組織ってことは聞いたはずや。・・・うちらの仕事は、組織の殲滅。でも、この仕事で、うちらも同時につぶされることになってる・・・」
昨日の石黒の姿を思い出す。
肋骨を押さえ、苦しそうに話していた。
「社長・・・つんくさんと組織はつながってた。組織が大きくなりすぎて邪魔になったからつんくさんは組織をつぶす。それと同時に、ハロプロの内部も大きく変えることにしとるようや。つんくさんは、香港の本家の要請で組織の監視をしていた。組織は、本家の日本の拠点づくりのため生まれたんや。でも、力をつけすぎた。組織は消される。今度はハロプロが本家の拠点になる。これに、うちらは邪魔なんや」
声が返ってこない。
心配になりながらも先を話す。
「さやかのアメリカの話もそう。ここで生き残ったやつはアメリカへ移されるやろう。そのための布石や。あたしが、だいぶねばってさやかのアメリカ行きを6月までのばしたせいであんまり意味なくなってしまったみたいやけど」
もうそろそろ時間がない。
- 128 名前:5月29日午後6時58分 中澤 投稿日:2002年08月25日(日)20時03分09秒
- 「石川、端末借りていっていいか?」
パソコンの前にまだしゃがみこんだままの石川に問う。
「どうするんですか?」
「もちろん、中へ入るんや。・・・皆を、助ける。それから・・・ヤグチとなっちを助けたい」
「なんでですか!?辻は反対です!!組織は・・・ダブルは、いっぱい殺しをしました!あいぼんやよっすぃ、飯田さんを傷つけました!辻は・・・嫌です!!」
―違うよ!!なっちはよっすぃたちを傷つけてない!!
―ごっちん!?
「後藤・・・やっぱり、知ってたんか・・・」
ダブルが・・・なっちやってこと。
―どういうこと?・・・ちょ、ごっちん?
「どうしたんや?」
―後藤が走っていっちゃった!
「現場はさやか、あんたに任せた!!あたしは後藤となっち、ヤグチを探す!皆そろって帰るんや!!」
―オッケ!うちら、脱出するから!!待ってるから無事でね!裕ちゃん
ありがとう、さやか。
急な告白やのに・・・。
「中澤さん・・・」
まだなにか言いたそうな辻を、石川が引っ張る。
「無事に、帰ってきてください」
「そうや。話はそれからやで、のの」
感謝して走り出す。
大事なこととは言え、大分時間をとってしまった。
急がんと・・・。
- 129 名前:5月29日7時12分 矢口 投稿日:2002年08月25日(日)20時04分36秒
- きりがない。
状況はサイアク。
ここを守る気があるやつは真っ先にこの廊下に転がっている。
守る気のないやつは・・・やっぱり、死体になって転がっている。
投降を許す気がないということは、この組織を文字通り、なかったことにするのだろう。
ちょおっと、まずいかな・・・。
弾はまだある。
この南館の、こことじい様の部屋が狙われることはわかりきっていた。
ヤグチ的にはこんな組織が集めた情報なんて守ってやる気、さらっさらないからいいんだけど・・・。
あたしたちボスの娘の記録だけは、消していく。
もしも逃げられるならば、これは絶対必要なこと。
この廊下は、中庭に面していて、大きな窓がいくつか開いている。
いつここから工作員が入ってくるかわからない上に、闘っているうちに
3階へ上がる階段がある側と反対の角へ隠れるはめになった。
窓は矢口の向かい側。階段まで5メートル。
向こうは間違いなくプロ。
・・・3階へ上がるでしょ?この上の階のうるさい感じからいくと間違いなく上にもマフィアさんがいる。・・・上がって目があってヤグチジエンド。
だめじゃん。
- 130 名前:5月29日午後7時12分 矢口 投稿日:2002年08月25日(日)20時05分24秒
- すこし飛び出し気味に出て、引き金を2回。
よし!1人減った!
けど、ミニサイズってほんとやだよねえ・・・。なんでこんな苦労して飛び出さなきゃいけないのさ。
飛んでくる銃弾に首をすくめ、また撃つ。
ヤグチもなっちも、こういう混戦向きじゃないんだよ・・・。
これまでの戦闘で、向こう側で倒れたのは6人。
最初は下から何人か応援が来ていたからなかなか減らなかったけど、なぜか今下からの応援がない。
やるなら、今。出て、諜報室で決着つけてやる。
上着を脱ぎ、投げると同時にすぐそばにある諜報室の扉を開け、飛び込む。
近くの机の下へ。
髪を掠めた銃弾に、恐怖が胸にあふれるように広がる。
目を閉じ、意識を切り替える。
あたしはヤグチ。
組織の5番。
足音が聞こえる。
扉の外に、3人。
残り全員で来たのかよ。チビだからって、なめるなよ?
目と心、耳を澄ませる。
この廊下にいたやつは全部来た。いくよ、ヤグチ。
- 131 名前:5月29日午後7時12分 矢口 投稿日:2002年08月25日(日)20時06分40秒
- 照明のスイッチは壊した。
潜むのは部屋の奥、一番闇の深いところ。
勝負は、相手が廊下から部屋に入った、まだ目が闇に慣れない、その時。
自分の心音しか聞こえない。
白い光が細く漏れる。
開いてくドアが見える。
―今。
相手は3方向へ転がり散開。
右へ跳び、一番に立ち上がった男の横へ。
風を感じた男が振り返るけれど、遅い。
頚動脈を一薙ぎ。
その勢いのまま振り向きまだ気付いてない中央の男の首めがけナイフを投げる。
「ぐうっ・・・」
声を漏らされ、やっと気付いた左の男には、距離をすこし詰めて針を吹く。
「神経性の、毒だよ」
「なっ・・・」
なっちから習っておいてよかった。精度は比べものにならないけど。
言い置いて、男の真後ろへ飛ぶ。
あからさまな動揺を見せた男の延髄に、予備のナイフを突き立てる。
「うっそ。塗ってる暇なんてある訳ないじゃん」
引き抜くと、自分に降りかかってくる生ぬるいさび臭い液体。
「きたねえ・・・」
濡れた髪をかきあげる。
なっち、嫌がるだろうな。
さっさと自分たちにまつわる記録を消してそっと外を伺うと。
窓が、外から蹴破られた。
- 132 名前:たすけ 投稿日:2002年08月25日(日)20時13分41秒
- 今日はここまでです。
続きは火曜に更新します。
- 133 名前:読者 投稿日:2002年08月25日(日)22時08分13秒
- いよいよクライマックスですね。
ラストまで頑張ってください。
続編も楽しみにしてます。
- 134 名前:皐月 投稿日:2002年08月26日(月)20時55分19秒
- おおっ!中澤さんにそんな過去があったなんて・・・・
更新楽しみにしてます!
この小説ホント面白いですね^^
- 135 名前:52 投稿日:2002年08月27日(火)07時59分53秒
- 戦闘シーンかなりすごいと思います。楽しみにしてまーす
- 136 名前:たすけ 投稿日:2002年08月27日(火)17時54分09秒
- >133 読者さん
レス、ありがとうございます。
そうです、ラストです。
力不足でこう、ぱっと驚くような仕掛けとかできないんですが。
がんばりますんでよろしくお願いします。
>134 皐月さん
ほんと毎度ありがとうございます。
もうめっちゃ励みになっております。
中澤さんお好きですか?
たすけも結構好きなんですが・・・ちゃんと中澤さんのよいところ書けてますでしょうか?
>135 52さん
毎回ありがとうございます。
戦闘シーン、なんとか本当っぽくって結構悩みながら書いたんで心配してたんです。
うれしいです。
それでは更新です。
- 137 名前:5月29日午後7時30分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)17時55分38秒
- 実はさっさとこの場所から離れる気でいた。
じい様を説得して、必要なら連れて逃げる。
後はヤグチと合流する。
そんな感じ。
じい様が、死んでいなければ。
いつ死んでしまったのだろう。
とうに冷たくなった体。
黒い、しみになった血。
胸に、銃で撃たれたあと。
片手に銃。
・・・じい様。
北海道の空の色と、ラベンダーの紫。
温かかったはずの手。
大きかったはずの手。
今はこんなに冷たく、骨ばかりになって小さい。
生きる意味をくれた。
ヤグチにあわせてくれた。
・・・ごっちんにも、会わせて、くれたのかな・・・・
「どうしよう・・・」
悲しくない。
すごく、ココロに何もないだけ。
「たくさん殺したばちかな・・・」
大切な人が死んでも悲しくないなんて。
呆然とつぶやいたそのとき。
顔の横を、銃弾が掠めた。
- 138 名前:5月29日午後7時30分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)17時56分18秒
- 「っつ」
「お前・・・誰や?」
声に振り向く。
金髪の男が立っていた。
「ここのメイドか?」
違うよ。
答える気はないけど。
しらずに、口元がゆがむのがわかった。
- 139 名前:5月 29日午後7時32分 館 投稿日:2002年08月27日(火)17時57分10秒
- 安倍の微笑みに男は凍りついた。
暗い室内。
庭に面した窓から差し込む月光。
この館の座る大きな椅子は庭のほうに向けられていて、主の表情はうかがい知れない。
その横にたたずむ、ちいさな少女。
口元だけで浮かべた微笑は、美しいが無機質で。
男は目をすこし細めた。
金髪の男の黒いスーツは月光すら吸収するかのように見える。
「・・・じい様を殺したの、あなた?」
やっと口を開いた少女は、もう一度うっすらと笑った。
「なっちも、殺すといい。なっちは・・・私は、2番。ダブルだよ」
「お前が、ダブルか・・・」
男は―つんくは、息を大きく吐き銃を構えなおす。
「そこの男は、やりすぎた。・・・しっとるか?その男。香港のマフィアの私生児でなあ。日本人の子やったから、適当な金与えられて日本に足場つくれ、言うてここに来たんや。いろいろあってここまで来たらしいけど・・・。ま、島流しやな。俺も、詳しいことは知らん。けどなあ・・・」
館の中は妙に静かになっていた。
「えらい顧客持って。子飼いの暗殺者使って。・・・ダブル、お前成功率99%ってゆうやないか。精密機械1番、ダブル、仮面の3番、千里眼4番、ちいさな死5番・・・。本家は怖くなったらしい。組織がこのまま力をつけていけば、お前らに暗殺されるかもしれん、とな・・・踏みつけた罪悪感、っちゅうやつやろな・・・」
「なんで、なっちに話すの?」
- 140 名前:5月 29日午後7時32分 館 投稿日:2002年08月27日(火)17時58分53秒
- 「死ぬのには、理由がいるやろ?あとは・・・お目の若さに免じてや。ダブルがこんな若い、しかも娘やとは知らんかった。よう今までばれへんだな」
安倍は動かない。
「組織に関わった者はみんな消す。これが本家の決定や。しかもおまえはダブル。危険人物やな。覚悟はええか?」
それを聞くのはなっちだよ。じいさまのかたき、うたせてもらうね。
口の中に針の準備をしているため声はださない。
向かい合ったまま、互いの息づかいだけが耳に入る。
暗い、広い部屋。
つんくの右腕がゆっくりあがる。
その指が引き金にかかった瞬間。
安倍は投げ針を放ちつつ真後ろに大きく跳び机の陰に隠れた。
銃弾は発射されない。
陰から右方向へ移動しつつ目の端でつんくの様子をうかがう。
つんくは針を避け、左へ回転しつつ受け身をとっていた。
その姿勢のままこちらへ向け撃ってくる。
狙いは頭、腹。
- 141 名前:5月 29日午後7時32分 館 投稿日:2002年08月27日(火)17時59分54秒
- 耳のあたりをかすめる銃弾に相手の腕が知れる。
かなり強敵。しかもあの身のこなしでは体術の訓練も受けている。
跳弾が怖いのかつんくは銃をしまうとこちらへ迫ってくる。
早い。その早さは後藤以上。
立て直した体勢でとっさに腹部のあたりを防御する。
そこへ蹴り。
体に重く響く。
軽量の安倍は部屋の端まで吹っ飛ばされる。
- 142 名前:5月29日午後7時46分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時00分56秒
- 背の衝撃に息が詰まる。
そこへまた一撃。
吐き出される息とともに右目を狙い放った吹き針はつんくの上げた右手に刺さっていた。
針を吹くと同時に横へ転がる。
つんくの蹴りはさっきまで安倍のいた壁に穴を穿っていた。
隠しにある大針をかまえる。
つんくの顔が眼前に迫っていた。
いつの間にか抜かれていたナイフを受け止める。
「なかなかやるやないいか・・・。さすがダブルやな・・・」
無言で吹き針を吹く。
「っと」
力で後ろへ押しやられた。
針は避けられる。
「あっぶないなあ、自分・・・何本針もってんねん・・・ま、そろそろ決着つけさしてもらうけどな」
ナイフを構え直しこちらへつっこんでこようとする。
その時。
「なっち!!?つ、つんくさん!?」
入り口付近に目をやると、やはりごっちんの姿。
「ご・・・ごっちん?」
「後藤、か・・・」
なんで、そういつもいつも・・・。
声がでない。
- 143 名前:5月29日午後7時46分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時02分19秒
- 「後藤・・・ここまで来るんが早すぎや・・・。なかなか優秀やな。うちの警護室は・・・」
金に染められた頭を振りごっちんに笑いかける。
「これは組織の2番や。後藤、おまえこいつと知り合いなんか?」
ごっちんは真っ青だった。
「そ・・・そうです。ごとーと、なっちは・・・」
それでも頷いてくれた。
「そっか・・・。ま、じゃあじゃますんなや。こいつのせいで泣いた人がいっぱいおる。うちも、こいつによう邪魔された。おまえもやろ?知り合いが死ぬとこ見たくないんやったらここから出てけ」
もしかして・・・こいつ、知ってる?
「聞いたよ。全部。ごとーたちのこと、いらなくなったんでしょ。これすんだらここでごとーたちも殺されるんでしょ」
つんくの顔が冷たくなる。
「よお知っとるな。そうや。お前たちはよおやってくれた。けどなあ・・・ハロプロは、生まれ変わる。組織のおかげで俺らに逆らうやつはもうおらん。あとは仕上げだけや。もうすぐ日本を本家が仕切れる。お前らはちょっと中澤の色が強すぎるんや。まあここでちょっとメンバー減らして、残りはアメリカで使ったろうと思ってたけど・・・。お前らは知りすぎた。特に後藤。俺、お前のこと気にいってたのになあ・・・。残念や・・・」
なっちに、会ったからっていうのもあるよね・・・。
- 144 名前:5月29日午後7時46分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時03分37秒
- 「ま、撃てるんなら撃てや。お前、まだ人撃ったことないんやろ?撃たな、お前の好きななっちが死んでまうで?」
ごっちんに背を向ける。
その顔は、笑っていた。
ごっちんと私のこと、絶対みんな知ってる顔だった。
吹き針を牽制用に吹いて突っ込む。
手にした大針を一薙ぎ。
かわされるのは計算のうち。
その動きを予測しそこへ投げ針を投じる。
狙いは首。
これは用意した最後の毒針。
そのとき信じられないことが起きた。
つんくは顔を後方へそらしつつ手にしたナイフを針の進行方向めがけ投げて見せた。
針の軌道を遮るコースで。
音を立ててナイフは壁へ突き刺さり、つんくは薄い笑みを浮かべて拳銃を引き抜きざまに撃ってきた。
右腕に衝撃。
一瞬動けなくなった私につんくは笑った。
「これで終わりや!」
そこへ銃声。
ごっちん!!
つんくの体が大きく揺れる。
- 145 名前:5月29日午後7時46分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時05分11秒
- 「っく・・・」
右脇あたりを押さえ、うめくつんく。
「なんや?後藤・・・。狙いが甘いで?」
ごっちんは真っ青な顔でふるえながら銃を握りしめていた。
「だって・・・なっちが・・・でも、どうして・・・?当たったはずなのに・・・」
そのごっちんにひらひら手をふる。
「今どき防弾チョッキを着とらんやつがおるかよ。・・・じゃあお前から死ね」
放たれる銃弾。
何も言わず吹き飛ぶごっちん。
ごっちん、ごっちん!!
至近距離の銃撃に吹っ飛ぶ細いからだ。
血が冷える感覚。
心臓がつぶれそうな気がする。
距離は遠くて。
息ができない。
いっそ、止まってしまえばいい。
ごっちん。ごっちん!
世界の色が消えた。
- 146 名前:5月29日午後7時46分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時06分24秒
- 呆然とする私に銃が向けられるのが見える。
もうなんだかすべてが遠い。
この距離ではつんくは狙いをはずすことはないだろう。
・・・ごっちん。
ごっちん。
ごめん、ヤグチ。
なっち、死んじゃうかも。
「おう、俺や・・・こっちはもう済むで。そいつらは後から始末するでええわ。すぐ行くからもう始めてくれ」
目を細める。
「これで、組織も、お前も終わり。じゃあな」
その時。
つんくの頭が破裂したように見えた。
血をまき散らしながら倒れる。
弾が飛んできた方向は、部屋の奥。
その方向はまさか。
じい、様?
見れば手が上がって、銃をもっていた手が上がっている。
「じい様!じい様」
「ふふ・・・ざまあ、みろ・・・わし、をばかにするからだ・・・」
目には光がない。
手が力無く落ちる。
「なつみ、まり、ゆう、こ・・・もう、解放してやろう・・・」
- 147 名前:5月29日午後7時46分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時07分12秒
- じい様に駆け寄る。
脈は無かった。
生きてるのがおかしいぐらいの傷。
開いていたじい様の目をそっと手で閉じる。
「じい、様・・・」
じい様の血だまりから立ち上がる。
ごっちんが心配だった。
「ごっちん!!」
あわてて部屋の入り口へ行く。
廊下の壁に力無くもたれているごっちん。
あの銃は。
至近距離で当たればたとえ防弾チョッキを着ていても危ない。
「ごっちん、ごっちん!!」
目、あけて?
「なっち・・・」
力なくごっちんは笑ってくれた。
「けがは?痛い?」
「すっごい痛いけど・・・よかった・・・なっち、無事で・・・つんくさんは?」
「じい様が・・・」
「そっか・・・」
館の中は不思議に静かになっていた。
「ごっちん、大丈夫?立てる?」
血は見えないけれど・・・。
「大丈夫。いちいちゃんに言われて、今日防弾チョッキ2枚重ねなんだよね」
よかった。よかった。ごっちん、ありがと。
「ごっちん、助けてくれようとしてくれて、ありがとう」
「いや・・・助けられなかったんだけど・・・」
- 148 名前:5月29日午後7時46分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時07分50秒
- そのとき。
轟音とともに、視界が一瞬赤く染まった。
「なに!?」
窓の外を見れば炎とともに崩れようとする館の姿。
北館や東館はもう炎に包まれている。
これが、さっきの合図・・・!
「ごっちん!!逃げよう?立てる?」
ヤグチは平気だろうか。
さっきから何も応答がない。
「立てるよ。逃げなきゃ。いこ、なっち」
手をつないで駆け出す。
館中に煙がうすく充満していた。
諜報室経由で行かないと。
- 149 名前:5月29日午後7時38分 矢口 投稿日:2002年08月27日(火)18時09分35秒
- 「・・・ゆう、こ?」
「ヤグチ!」
窓を割って入ってきたのは裕子だった。
「ちょ・・・なんでこんなところに?」
黒のパンツスーツ姿は昔の仕事着を思い出させる。
「話は後や。なっちはどこや?逃げるで!!はよ逃げな始末されるで!!」
「じい様の部屋だと思うけど・・・」
途中で通信がとぎれた。
だれかと闘っている最中だったところを見ると、なんらかの衝撃であっちの通信機が故障したらしい。
そう、信じてる。
「じゃあ行くで!」
一瞬複雑な顔をしたあと駆け出す。
そうだよね・・・裕ちゃん、嫌だろね・・・。
階段を駆け上がる。
「後藤知ってるか?」
「顔だけ」
「見んかった?」
「や、見てない」
会話する間も足は止まらない。
裕ちゃんは階段脇にいた工作員を出会い頭の踵蹴りで沈黙させる。
正確に急所にヒット。
相変わらず、強い。
なのに何で・・・。
目についた黒服にとりあえずナイフを投げる。
扉は開いていた。
室内は血だらけ。
倒れてるのは・・・じい様と・・・?
頭が血だらけでだれだかわからない。
- 150 名前:5月29日午後7時38分 矢口 投稿日:2002年08月27日(火)18時10分08秒
- 「つんくさん、やな。・・・多分、あと死体はない」
裕ちゃんは無表情。
「じい様・・・」
しゃがみこむあたしの横に来る。
「じい、様か。・・・昔は、好きやった・・・。けど・・・」
―この人が欲しかったもの、あたし未だにわからへん・・・
小さくつぶやいてきつく目を閉じる裕ちゃんは、やっぱり無表情だった。
組織の人間の癖だね。
悲しい時は無表情になる。
「なっちも後藤もおらん。他いくで」
ふと気付いてつんくの体を触る。
まだ温かい。
ならば。
ちょっと危ない気もするがじい様の部屋の回線から諜報室を呼び出す。
コール音。よし、まだ回線は生きてる。
5回、6回・・・。
「ヤグチ?何しとんのや?」
「じい様は冷たいのに、つんくはまだ温かい。これをやったのがもしなっちなら、ヤグチを探しに諜報室へ行くはず・・・で、諜報室へかけてる。けど頭部を銃で、っていうのがなっちがしたっていうのは考えにくいんだけど・・・」
11回・・・。
つながった!
声はしない。
多分、警戒している。でも誰かは出ている。
- 151 名前:5月29日午後7時38分 矢口 投稿日:2002年08月27日(火)18時10分57秒
- 「なっち・・・?」
―ヤグチ!
「よかったなっち!!生きてた!けがは?」
―・・・平気。ヤグチは?
「こっちも平気。よかった・・・」
裕ちゃんが横から割り込む。
「後藤は?後藤、そっちにおらへんか?」
―裕ちゃん?ごとー、いるよ
「よかった・・・心配したんやで・・・?小言は後や。脱出しよ。館の外で落ち合おう
安堵の息をついて、通信を切る。
生きてた・・・。よかった・・・。
「ヤグチ!行くで!」
館の中は煙でいっぱい。
早くしないと。
- 152 名前:5月29日午後7時56分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時16分20秒
- ごっちんと手をつないで走る。
2階の廊下を走るだけで汗が噴き出る。
煙はもう廊下に充満している。熱も押し寄せてくる。
どこかで窓の割れる音。
「裕ちゃん、大丈夫かな?」
撃たれたところを押さえ咳き込みながらごっちんがつぶやく。
「ごっちん、あんまり話さないほうがいいよ?」
至近距離での銃撃だったし骨が折れていても不思議じゃない。
そういう私も腕は負傷してるし煙で目ものども痛い。
しかしそれよりもさっきから細胞が悲鳴を上げるような気がするほど痛いところがある。
一階への階段はもう火の海だった。
思わずひるむと手をしっかりつかみ直された。
「なっち、他の出口ないよね?」
「・・・無い、よ」
「じゃ行くよ」
こっちを向いて大丈夫って笑ってくれる。
助走をつけて、火をくぐり、跳ぶ。
踊り場、階段、大広間。
痛い、痛い。
くぐった先に、人影が二つ。
その一方の小さい影を見た瞬間、目がかすむ。
- 153 名前:5月29日午後7時56分 安倍 投稿日:2002年08月27日(火)18時18分56秒
- だめ。まだ、だめ。
ばれないように、そっと横を向いて口から血を吐いておく。
「なっち!後藤!」
ちょっと懐かしい声。
ヤグチは裕ちゃんに半分抱えられるようにして立っていた。
「なっち・・・?」
「ちょっ・・・ヤグチ、どうしたのさ!?」
力の無い声。
「途中、残ってた組織の人間に狙われて・・・ヤグチがかばってくれたんや」
ヤグチは頭から血だらけになっていた。
どこが傷かもわからない。
青い顔。
ヤグチ・・・。
入り口の扉が開く。
数人の人影が見える。
視界が狭くなっていく。
もうすぐなんだけど、もうちょっともたないかな・・・。
それとも、やっぱりこれで最後・・・?
口になま暖かい液体があふれる。
鼻に感じる生臭い、濃い鉄のにおい。
止めようとする意志とは裏腹に口からあふれ出る。
やっぱり、もっとちゃんと体術訓練しとくんだった・・・。
壁をも穿つつんくの蹴り。
防御したとはいえまともに受けて、ここまで走ってこれただけ幸運だったと言えるだろう。
「なっち!?」
声が遠い。
ごっちん、ごめん・・・。
思いは声にならない。
「なっち、なっち!!」
ごめん・・・なっちのためにそんな顔、しないで・・・?
- 154 名前:5月29日8時09分 後藤 投稿日:2002年08月27日(火)18時22分41秒
- なっちが倒れた。
もうすぐ外だって言うのに。
いろんななっちが心によみがえる。
ビルから降りてきたなっち、公園のなっち、屋上のなっち、船の上のなっち。
笑ったなっち、優しいなっち、かわいいなっち、冷たい顔のなっち、泣いたなっち。
まだまだいっぱいなっちを見たいよ。
でも、でもごとーこんななっちは見たくないよ。
「ご・・・っちん?」
「なっち!!」
「ないてる・・・?」
「泣くよ!!どうして!?」
腕の中のなっちは小さく笑った。
「ごめん・・・つんくの蹴りを受けた時に・・・」
咳き込むと赤い血。
ちいさな体は血にまみれてる。
「ちょっと、休ませて?走りすぎて、つかれちゃった・・・」
「やだ!!絶対!やだ!!なっち!なっち、聞こえる?ごとーは、ごとーは!!」
なっちは目を閉じている。
なっちが、遠い。
「ねえ、ごとーは・・・なっちが、好きです・・・好きなんだよぉ・・・」
なっちは目をあけない。
「ねえ、ねえ、やっと言えた!なのになんで!なんで・・・」
口から流れる血を拭ってあげる。
「ねえ、目を開けて?こんなの、いやだよ!なっち!!なっち・・・」
- 155 名前:5月29日8時09分 後藤 投稿日:2002年08月27日(火)18時24分55秒
- 間違っていてもかまわない。
誰になじられようともかまわない。
あなたが好き。
あなたの、そばに。
「後藤、落ち着きや!!」
裕ちゃんも5番・・・ヤグチを抱いてた。
ヤグチの意識も無いようだ。
気がつけばゴトーの周りにいちいちゃんたちがいた。
「後藤!!裕ちゃん・・・それ・・・」
「なっちだよ!!ねえ、いちいちゃん!なっちを、なっちを助けて!」
「ちょ、なっちって・・・話は後だね。すぐ病院へ行こう!」
車の中。
なっちは全然動かない。
なっち、なっち。
ちいさな体。
なっちが生きていてくれれば。
ごとーは、何もいらないのに・・・。
- 156 名前:たすけ 投稿日:2002年08月27日(火)18時29分16秒
- 次でこの話、最後です。
で、更新なのですが・・・。
月末から9月最初まで予定で出かけます。
更新は4日か5日・・・ぐらいです。
ええと、待っててください。
お願いします。
- 157 名前:52 投稿日:2002年08月28日(水)04時30分09秒
- ごゆっくりどうぞ、でも気になる
- 158 名前:皐月 投稿日:2002年08月30日(金)21時32分32秒
- おっ!
なっち&矢口どうなるんでしょうか?
すごい期待してます!
ごゆっくりしてきてくださいね!
- 159 名前:たすけ 投稿日:2002年09月04日(水)16時23分59秒
- 帰ってきました。
a color、本編最後の更新です。
- 160 名前:8月某日 おわりとはじまり 投稿日:2002年09月04日(水)16時25分57秒
- 真夏の日差しの中、少女が一人歩いている。
のどかな農道に揺れるひまわり。
降りかかる蝉時雨。真っ青な空。
少女の手には花と、大きなバスケット。
帽子を深くかぶり、顔は見えない。
白いシャツが日に映える。
吹き渡る風に目を細め、ふと顔を上げる。
「ここかな?」
手にした地図を確認。
街からそう離れてはいないものの人家が近辺にない、名も知れない小さな寺。
門はしっかりしているものの、壁はところどころが壊れている。
誰が見ても廃寺。
それでも少女は臆することなく門をくぐり寺へと入っていく。
傾きかけた本堂。
思ったよりも広い荒れ放題の庭。
墓地へと続く、小さな道。
少女は本堂へ入ってゆく。
「誰か、いますか?」
- 161 名前:8月某日 おわりとはじまり 投稿日:2002年09月04日(水)16時28分10秒
- 「ごっちん!!」
「へ?なっち、お客?」
小さな体。満面の笑み。
「なっち!」
あの後、なっちとヤグチさんは病院へ運び込まれた。
病院はなんか黒ずくめの女の人が指定したところで。
一時は両方とも意識不明の重体だったけど、鍛えてあるせいか回復は早かった。
ほんとに、ほんとに心配した。
その中で裕ちゃんは事後処理に奔走してた。
つんくは帰ってこなかったし、会社もいつの間にか無くなっていた。
いつの間にか、とか言うとすごい大変そうだった裕ちゃんは怒るけれど。
ごとーたちは、職を失った。
退職金もなし。
ちょっとひどいよねえ。
館に行った工作員はほとんど組織の人間と共倒れ。
残りはいちちゃんたちが倒したらしい。
でも残りの人たちだけで考えてもその人たち殺したわけじゃないし、本家はまだあるし。もしかしたらごとーたちを追ってくるかもって裕ちゃんが言ってた。
- 162 名前:8月某日 おわりとはじまり 投稿日:2002年09月04日(水)16時28分52秒
- 警護室の皆は、裕ちゃんが新しく作った会社でまたシークレットサービスを始めることになった。
いちいちゃんのアメリカの話も当然流れた。
いちいチャン本人もあの最後の仕事で、まだ学ぶことがあるって思ったんだって。
なっちたちもその新しい会社に誘ったんだけど・・・。
―ごめんね、ごっちん。
気持ちはうれしいけど、無理だべさ・・・。
なっち、いっぱい殺したし・・・裕ちゃんたちと大きな顔して人を守るなんてできない。
申し訳ないよ。
なっちね、ヤグチと相談したんだけど・・・。
アヤっぺがお寺を探してくれたの。そこ、買い取る手続きして住む。
今まで殺しちゃった人にせめて気持ちだけでも償いをしながら、組織に・・・本家におびえる人を、助けるの。
なっちの顔はすごくおだやかだった。
―アヤっぺ、生きてるって知ったときうれしかったよ・・・。もう結婚するらしいけど当分は助けてくれるって!
うれしそうななっちにちょっと妬ける。
しかも、あの告白聞こえてないんだもん・・・。
すごく、大変な9日間だったけど。
なっちに会えた。
まだごとーとなっちはふつうより多分危険な生活をすることになるけど。
なっちがいる。
なっちと生きてる。
とりあえずは、満足。
終
- 163 名前:たすけ 投稿日:2002年09月04日(水)16時44分41秒
- 最後、またageてしまいましたが・・・これで終了です。
設定、文章共に不安定で先の読めてしまう話はこびだったと思います。
それでも読んでくださった方、レスをくださった方。
本当ににありがとうございました。
今後の反省と課題にできたらと思いますので、もしもよろしければ感想をいただけたらと思います。
>52さん
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
レス、本当に励みになりました。
読んでいてくださる人がいるって実感できました。
感謝してます。
>皐月さん
毎度、ありがとうございました。
レス、励みになりました。
ようやく時間ができたので今度、皐月さんの書かれている小説探しをしようと思っています。
ありがとうございました。
それから続編なのですが。
ちょっと忙しくて最後まで書ききっておりませんので、今までのように定期的更新ができなくなると思います。
できれば週に一回ぐらいの更新で進めたいと思っております。
よろしければ、お付き合いください。
- 164 名前:皐月 投稿日:2002年09月04日(水)22時26分59秒
- おおっ!更新お疲れ様です。最後、皆幸せになれたんですね。
よかったです^^
続編楽しみにしてますね!
私の小説ですか?
いろいろと書いてますんで・・・。がんばって探してくださいね(笑。
では、続き楽しみにしてます!
- 165 名前:52 投稿日:2002年09月06日(金)03時32分08秒
- とりあえず、おつかれさまでした。いい作品ですよ。
更新は週一回で十分早いと思います。続編も読まさせていただきます。
番外編もきたいしてます。完結や更新をあせらずがんばれー。
- 166 名前:たすけ 投稿日:2002年09月11日(水)00時38分16秒
- 今日から続編を更新します。
なんとかできるところまで書き上げたのですが・・・なんか自分の筆力に情けない気持ちまんまんなんで・・・。
できるところは直していきます。
ぬるい話です。
それでも、一人でも読んでいただけるうちは書くのが礼儀だと思うのでいきます。
がんばります。ちょっとでも進歩できるようにするんで・・・見守ってください(v
言い訳くさくなっちゃったんですが・・・a color 続編。
アタシとカノジョ。
- 167 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月11日(水)00時39分33秒
- 休みが取れたらなっちのところへ行く。
連休ならたまに泊まる。
なっちの部屋で布団を敷いて眠る。
ねえ、ごとー、知ってるよ?
なっちがよくうなされて飛び起きるの。
そのたびにごとーを確かめて、おきてないか確認するの。
そんな優しい顔でこっち見てほっとため息とかつかれたら起きてるよって言えなくなる。
ねえなっち。
無理、しないで?
- 168 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月11日(水)00時40分32秒
- 夏ももう終わり。
残暑まっさかり。
「なーっち!」
厨から中へはいる。
なつみと真里がここに住むようになってから、毎日のように真希はこの寺を訪問する。
その様は裕子が仕事もこれの半分くらいの熱心さでしてくれればと、頭を抱えるほど。
「あっついねえ、なっち」
「・・・そのあっつい時間にどうしてここにいるんだ?後藤!仕事は?」
「今日は休みなんだもーん」
やぐっちゃん、こわーい。
脇をすり抜けざまのセリフに、真里は眉をつり上げる。
「後藤!!」
「あ、ごっちん、いらっしゃーい」
「彩さん!」
相変わらずの黒ずくめに鼻ピアス。
「旦那さんは?」
「ん、元気よ。いや、この人たち言わなきゃ仕事しないんだもん」
そうですよねえ。
笑いあう二人に真里がうなる。
- 169 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月11日(水)00時45分15秒
- 「んもー、お前もだろ、後藤!!・・・なっちなら、本堂だよ」
真希は首をすくめて笑う。
「はあい」
「あ、これ持っていって」
真里から投げ渡されたのはアイス2本。
「サンキュー」
一つはその口へ。
真希は渡り廊下を渡って本堂へ行く。
庭には打ち水がされていて、思ったよりも涼しい。
ゆらゆらと陽炎立つ庭と濃い影を落とす廊下。
真夏の太陽の白い光。
打ち水、なっちがしたのかなかな。
開け放してあった扉を真希がくぐると、そう広くはない本堂に後ろ向きの小柄な人影が一つ。
しろいワンピースのなつみは足を投げ出し、後ろに手をついてぼんやりと座っていた。
「なっち?」
返事はない。
なつみの真後ろまで近づき、声をかける。
「なっち!!」
「ご、ごっちん?」
上げられた視線。
見張られた目。
そんな、驚かなくても。
ちょっと前までの『仕事』のせいで、人の気配には敏感な人のはずなのに。
このごろのなっちはおかしい。
なつみが体全体で振り向く。
「びっくりしたべ。・・・元気?」
「おとといも会ったじゃん。はい、これ」
真希はなつみに真里から貰ったアイスを手渡す。
「サンキュー」
上を見上げ、笑ったなつみに真希は平然とした顔を装いながら心でうなる。
上目遣いがもう本当にかわいい。
なっち・・・なんであの告白、聞いてなかったのさ・・・。
その顔、他の人の前でしないでね。
なつみと並び、同じ姿勢で真希も座る。
- 170 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月11日(水)00時46分40秒
- 「ここ、涼しいね・・・」
「ん・・・」
自分の分のアイスを食べ終え、満足そうにふと真希が横を見ると、なつみは手のアイスをとけるに任せ手を汚していた。
「ちょ、なっち?」
「ふぇ?」
真希はなつみの手からアイスを奪いとりあえず口に入れ、ポケットのハンカチで手を拭ってやる。
なつみはされるがままだ。
「ごめん、ありがとごっちん・・・」
「いやいいけど・・・」
ねえ、どうしたのさなっち。
ショックだったのはわかるけれど。
組織がつぶれて、じい様?が死んで。
「あ」
声で真希は我に返る。
「何?」
「なっちのアイス」
「あ。」
なつみはその白い頬をすこしふくらませてしばらく口をきかなくなった。
- 171 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月11日(水)00時48分37秒
- 「ねえ、ヤグっつぁん・・・なっち、おかしくない?」
夕飯が済んでなつみが片づけのため席をはずしたとき真希がきりだした。
古びた小さなちゃぶ台。
昭和初期の趣を色濃く残した茶の間になつみのたてる水音と鼻歌が流れる。
「おかしいって・・・何が?」
真希は少し首をかしげなつみの方を伺いながら続ける。
「なんかすっごいぼおっとしてるし・・・今日なんて真後ろに行くまでごとーに気付かないし・・・」
「んー・・・あたしも思う。病院から出てから・・・いや、入院中もかな・・・」
真里は足を組み替える。
「後藤が来てるときはうれしそうだったからわかんなかったと思うけど・・・って後藤。にやけすぎ」
「ふぇ?」
いかんいかん。
つぶやいて顔を軽くたたいて引き締める真希をあきれた目で見ながら真里は続けた。
「アヤっぺも気にしてるから・・・とりあえず様子見。しばらく気にかけてやって」
「うん。ところでヤぐっつぁん、裕ちゃんの様子見に行かなくていいの?寂しがってたよ?」
真里の顔が赤くなる。
「い、いいんだよ別に!先週会ったばっかだし・・・」
ふうん・・・
にやつく真希を軽くこづくと、なつみが戻ってきた。
「スイカ、食べる?」
「食べる食べるー!」
なっち、なっち。
満面の笑みを交わす真希となつみに、真里は今度こそ本当に呆れた視線を送る。
こいつら、ちょっとなんとかして・・・。
- 172 名前:たすけ 投稿日:2002年09月11日(水)00時56分50秒
- っあー・・・。
なんかへこんでるところにage・・・。
もうちょっと自信があったらageでもいいんですが・・・。
うう・・・。
ごめんなさい。
せっかくなんで呼び方なのですが・・・。
一応、安倍さんは「なっち」で統一してます。
今回、後藤さんと矢口さんがお互いを「やぐっつぁん」「後藤」と呼んでいるのですが。
これは慣れの問題、ということにしています。
そのうち矢口さんも後藤さんを「ごっつぁん」と呼んでもらうつもりなのですが・・・。
不自然ですか?
もし不自然だと思われる方がいらしたら変えます。
いらっしゃらなければそのままで。
失礼しました。
- 173 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月11日(水)00時58分56秒
- 裕子が新しく設立した会社は、顧客はまだ少ないが以前懇意にしていた同業者らから仕事を紹介して貰いながらなんとかやっている状態といえる。
今回の依頼は食品メーカー社長の浮気調査。
深夜まで粘っても証拠があがらず、真希は疲れて帰途につく。
社長宅の近くのコンビニで菓子を買って帰ることにする。
真希が雑誌を物色しているとふと見慣れた人影に気付く。
―あれ?あの太った後ろ姿・・・社長?
時刻は深夜1時30。
仕事を終え自宅へ帰ってきたばかりというのにどこへ行こうというのだろう。
あっぶなー・・・あのまま帰ってたら裕ちゃんといちいちゃんに叱られちゃうじゃん・・・。
社長は徒歩のまま公園のある方角へ歩いていく。
公園近くには保田が待機している。
「あ、圭ちゃん?ごとー。うん。社長動いたよ。そっちに歩いてる。近所に誰かいるのか、迎えの車が来るのか・・・うん、すぐ動けるようにしといて」
言っている間にも社長はどんどん歩いていき、公園脇のマンションへ。
おいおい社長、大胆すぎ。自宅から10分じゃん。
―後藤?そのマンション、カオリに待機してもらったから引き上げておいで
「了解」
確かに、ごとーばっかり後をつけたら怪しいしね。
真希は公園の脇につけてある保田の車へ向かう。
- 174 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月11日(水)01時00分57秒
- その公園脇のマンションの5階。外の廊下の突き当たりに人影。
こちらを向いている気がしたのだけれど。
車に乗り込む。
「後藤、お疲れ。カオリ帰ってくるまでここで待機だよ」
「んー・・・あれ?」
圭は運転席にもたれるようにして座っていた。
「どうしたの?」
コンビニの袋を探る真希に圭が聞く。
「目覚ましガム買ってきたはずなんだけど・・・落としたかな?ちょっと見てくる」
「早く帰ってきてね」
伸びをする保田に手を振り真希は車外へ出る。
月明かりと街灯に照らされた道路。
すぐそこにガムが落ちているのが見えた。
ちょうど、人影を見つけたところ。
腰をかがめて拾って真希が顔を上げた時。
前から歩いてきた人と目が合った。
なんとなく目を合わせたまますれ違う。
「あ、圭ちゃん待ってる」
つぶやいて車に戻る。
その日明け方に社長は帰宅。
真希たちは次の日は交代の非番になる。
- 175 名前:たすけ 投稿日:2002年09月11日(水)01時24分54秒
- 今日はここまでです。
>皐月さん
レスと感想ありがとうございました。
最後ちょっと悩んだんですが、このまま終わると、ちょっと安倍さんと矢口さんがかわいそうで・・・。
続編は・・・ご期待にそえるよう、がんばります・・・。
これからもよろしくお願いします。
>52さん
>いい作品ですよ
の言葉にものすごく安心しました。
ほんと、ありがとうございます。その言葉で書いていられます。
続編もご期待に添えるかわからないんですががんばります。
夏休みが終わるまでに続編の完結をめざしております。
これからも、よろしくお願いします。
- 176 名前:52 投稿日:2002年09月11日(水)17時49分56秒
- おっ、これからどうなるんだろ。
呼び方?そこまで考えてらっしゃるなら僕は作者さんの
好きなようになさればいいと思います。
- 177 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月11日(水)23時16分08秒
- 始まってる♪
- 178 名前: 皐月 投稿日:2002年09月12日(木)21時42分03秒
- お!始まってますね^^
面白いですね〜^^なっちどうしちゃったんでしょうか?気になります。
なっちとごっちんのラブラブ(?)ぶりに思わず笑っちゃいました^^
がんばってくださいね。応援してます。
ホント、いい作品ですね〜^^
- 179 名前:たすけ 投稿日:2002年09月15日(日)23時11分57秒
- 不定期ながら更新します。
今回は多めで。
>52さん
毎回ほんとありがとうございます。
名前問題にも(w答えてくださってありがとうございます。
なんかいろいろ調べれば調べるほどどうしようって悩んじゃって・・・。
違和感さえなければ、オッケーですよね・・・?
そういうことにしときます(v
>177 読者さん
読んで、レスくださってありがとうございます。
始めました。そうは長くならないはずです。
といいながらまだ番外編もあるんですが・・・(v
この3部で a color ってことで。
よろしければ、おつきあいください。
>皐月さん
毎回ありがとうございます。
ラブラブに見えましたか?良かった。
案外こういうの難しいんですね・・・。
しかし一応安倍さん救済?のための続編なんで。
がんばっていきます。
- 180 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時13分50秒
- その日の天気は曇り。
「で、なっちに後藤を守って貰おうと思って」
「んー・・・」
お茶の時間、ひさびさの彩の訪問。
真里のいれた紅茶を飲みながら3人でちゃぶ台を囲む。
「なんだよ、なっち。嫌なの?」
「んー、いや、なっちにごっちんが守れるのかな・・・って思って」
今日の彩はいつもの黒づくめではない。
「でもさ、ごっちん狙われてるかもしれないんだよ?可能性は低いけどさ、練習と思って守ってやってよ」
「会社行くときと会社から帰るときだけでいいからさ」
「・・・わかった。やってみる」
真里と彩が安堵に顔を見合わせたとき。
いつもの声が聞こえた。
「こんにちわー」
「後藤!」
「ごっちん!」
3人で出迎えに行く。
「どしたの?今日休みじゃなくない?」
「なっち迎えに来た。どうせなら今日からいっしょにいようよ」
聞けば3時間の休みを貰ってここまで走ってきたらしい。
満面の笑みを浮かべている真希になつみは笑顔を返す。
「不安だけど・・・よろしくね?ごっちん」
「こっちこそ」
出された手を握り返す。
「圭ちゃんに車出して貰ったんだ」
- 181 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時14分44秒
- 門の外にでればシルバーのクラウンが止まっている。
ハロプロから引き継ぎ、社用車として使用されている。
後部座席に二人で乗り込む。
「早かったね」
「うん。話はしといてくれたみたい。ほら」
寺から黒のアウディがでてくる。
運転席に彩、助手席に真里。
「・・・なっち、後ろじゃなくていい?」
「何いってんの、なっち。ごとーの近くにいてくれるんじゃないの?」
「そうだけど・・・迷惑じゃないですか?」
そっと圭に聞くと、圭はちょっとぎこちないが笑顔を返した。
「いえ。どうせ帰り道ですから」
とりあえず納得したように後部座席におさまるなつみに圭はミラー越しに視線を送る。
あの、針なんだよね・・・この子。
全体的に小作りな顔は緊張にか少しこわばっているが優しい印象を残す。
小さい体。
真希が話すことに笑顔を返すその様はとても暗殺者のものには見えない。
- 182 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時15分49秒
- ・・・実際、殺すところ見たことないしね・・・。
でも針なんだよね・・・。
複雑な心境を圭は見事に隠しきり、車が社に到着すると同時になつみと真希が車から降りる。
「じゃあね、なっち」
「うん、ごっちん。何かあったら呼んでね」
「うん。また帰る時に」
挨拶を交わしビルに入る。
「圭ちゃん。・・・なっち、どう思った?」
笑顔を心配そうなそれに変え、真希は圭に問いかける。
「・・・かわいいんじゃない?」
悩んだ末の一番無難と思われる答え。
瞬間、真希は満面の笑みになる。
言うんじゃなかった。
「でしょー・・・へへっ、見た時からそう思ってたんだよねえー・・・あ、でも圭ちゃんなっちに惚れたらだめだよ?」
「惚れないわよ」
笑み崩れる真希に釘を刺す。
「そんな顔して仕事すると失敗するよ。しっかりしていくよ」
まだ仕事残ってるんだから。
「はあい」
返事した真希は幸せそうに見えた。
- 183 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時16分58秒
- 「けど大きゅうなったなあ、なっち。ヤグチはぜんぜんやけどな」
「なんだとぉー!」
ビールを片手にした裕子を真里が追いかける。
真里から話を聞いた裕子が、それならばこの会社の仮眠室で酒盛りをとなつみ、真里、彩を招待したのだ。
もちろん真希も残っている。
「裕ちゃん、それくらいにしといたら?」
「そうだべ。飲みすぎはよくないよ?裕ちゃん」
しばしば真里を訪ねてくる裕子とはもうすっかり仲良くなったなつみ。
もともと面識があったため、すぐに打ち解けることができた。
共通の過去があるということも要因のひとつとなっているようだ。
続けてビールをあおる裕子とそれを止めようとする真里。
「あれ?アヤっぺは?」
「もう帰った。旦那が待ってるんだって」
裕子に飲まされて蒼白になって帰っていった彩。
足元がかなり危うかった。
「あれ?それっていんしゅうんて・・・」
真希のつぶやきはなつみの笑顔で封じられる。
室内がいつの間にか静かになっていた。
「裕ちゃん?」
振り向くと真里を枕に気持ちよく酔いつぶれた裕子の姿があった。
真里もさんざん飲まされて目付きが危うい。
「後藤はともかくなんでなっち酔ってないの・・・?」
情けない声で聞く真里になつみは笑みを返す。
「だって飲んでないもん」
背中の陰にこっそり隠した注がれたビール。
「ずる!ちょっとは飲めよぉなっち・・・」
言いながら真里のまぶたは下がっていく。
- 184 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時18分15秒
- まともに裕ちゃんと飲んだらああなるのわかりきってるっしょ・・・。
軽く笑ったなつみの手を真希が引いた。
「ねえ、なっち、屋上いこ?」
「いいよ」
請われて立ち上がる。
真里と裕子は折り重なるようにして眠っている。
部屋を出ていきざまに見た真里は幸せそうに口元を緩ませていた。
「うわー。今日は空気が澄んでるねー」
秋の空特有の甘い澄んだ空気。
白々と輝く星空。
「ほんと。きれー」
二人、どちらともなく笑いあう。
「ね、なっち。ここから初めて会ったビル、見えるんだよ」
「初めてって・・・」
真希はなつみの手をとり、端まで連れていく。
指さす方向に目を凝らす。
「なっちが降ってきた朝。なんとか建設とか入ってるビル」
「ああ・・・」
記憶がよみがえる。
思えばなっち、あの時からごっちんのこと気になってた・・・。
- 185 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時19分09秒
- 「あの日からごとー、ずっとなっちのこと忘れられなくなってた。なっちのこと、考えてた」
「えっ・・・」
なつみが動きを止め、顔を赤くする。
それにつられて、真希も照れたように上を見上げる。
その真希の顔から見る間に笑みがなくなり、真剣な顔になる。
「ねえ、なっち。なんでこのごろそんなにぼんやりしてるの?ごとーじゃ、話せない?頼りにならない?」
やぐっちゃんになら、話せるの・・・?
ちいさな、ちいさな声。
しかし暗殺者として訓練をつんだなつみの耳にはちゃんと届いた。
「そんなことない!そんなことないべさ・・・けど・・・」
なつみは顔を伏せる。
真希は急がせないよう、黙ってなつみを見ている。
「けど・・・ごっちん、なっちね、このごろなんか疲れちゃった・・・」
伏せた顔をゆっくり上げる。なつみの目は静かに輝いていた。
「じい様が死んで・・・組織がなくなって。前より自由になって、静かな暮らしができてさ。もうだれも殺さなくてよくなって。けど・・・たくさんの人殺したのに、ほんとにこんな幸せでいいのかな?なっち・・・ほんとは、あそこで死んだほうがよかったんじゃないかな・・・って」
違う!
真希が言いかけた瞬間、なつみは口を開く。
「分かってる。この命は、ごっちんやじい様、みんながくれた命。死んだほうがいいとか言っちゃいけないし、いまさら死ぬ気はないべさ。でも・・・」
なつみはゆるゆると顔を振った。
「考えちゃうのさ・・・。ごめんね、ごっちん。ごっちんやヤグチがなっちのこと心配してくれてたの、知ってたよ・・・。心配かけちゃってほんと、ごめん・・・」
笑みを浮かべる。
- 186 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時20分09秒
- 「なっち、心配かけないようにがんばるから・・・」
「違うよ!ねえ、なっち・・・そうじゃないよ・・・」
思いが言葉にならない。
なつみの肩に手をかけ、引き寄せる。
「ねえ、なっち・・・ごとーは、・・・ごとーの心配なんてどうでもいいよ・・・。あのね、思ったことは、言ってほしいよ・・・苦しいとき、ごとーに教えて?悲しいとき、ごとーを呼んで?」
「どうして・・・」
耳元で聞こえた泣きそうな声に真希はなつみの顔を覗き込んだ。
「どうして、ごっちんはこんなになっちに優しいんだべ?」
「それは・・・好きだから」
「ごっちんのこと、なっちも好きだよ?」
すこし首をかしげて告げられた言葉をさえぎるように真希は続ける。
「そうじゃなくて!恋愛の好き、ってこと!」
真希はもう一度、空を見上げる。
ごとーに、勇気と力をください。
なつみの体を離し、向き直る。
「ごとーが、なっちのこと好きだから。なっち・・・ごとーは、多分初めて見たときから、ずっとなっちのことが好きでした」
- 187 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時21分10秒
- 目を見てしっかり言うと、なつみの顔がすこしゆがんだ。
「だめだよ・・・ごっちん、なっちそんなこと言われたら一人で立てなくなっちゃうべさ・・・。それになっちね、人殺しなの・・・。そんなこと言ってもらう資格なんてないんだ」
「資格ってなに!なっちのこと、ごとーが好きなだけだよ!後はなっちがごとーをどう思うかだよ!一人でなんて誰も立てないよ!ごとーは、なっちと一緒に立ちたいよ!ごとーはなっちがどんな人だかちゃんと知ってる。短い間しか見てないけどちゃんとわかってる!ねえ、それじゃだめなの?ごとー、これ以上はわかんないよ・・・」
真希の涙は頬を伝って次々に地面に落ちる。
「それとも、なっち・・・ごとーのこと、やっぱり迷惑?」
なつみははじかれたようにかぶりを振る。
「ううん!嬉しい!嬉しいけど・・・嬉しいからだめ・・・」
「嬉しい?じゃ、なっち、ごとーのこと・・・」
「好きだよ!!ごっちんのこと、なっちも好き。でも・・・だからだめ」
真希は涙を拭かずなつみに詰め寄る。
「なんでさ!じゃあいいじゃん!」
「だって・・・なっちの手、血まみれなんだもん・・・夢に、見るの。なっちが殺した人、真っ赤ななっちの手、嬉しそうに人殺しするなっち・・・どこにいても、思い出すの。ごっちんの横にいるときだけ、なっちはそれを忘れられる。でも、後で思うんだ・・・忘れちゃいけないって・・・」
「うれしそうに人殺ししてるなっちなんて見たことないよ」
「ヤグチ!」
- 188 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時22分24秒
- 屋上の扉が開いて、真里がこちらを見ていた。
「ごめん、遅いから気になって見にきたんだ。ねえなっち、なっち仕事のときいつも苦しそうだったよ。忘れちゃいけないよ。でもさ・・・それとこれとは、違うよ・・・」
「そうやで」
「ちょ、裕子・・・」
真里の後から酔って寝ていたはずの裕子も顔を出す。
「じゃあ聞くけど、あたしもヤグチも人殺しや。そこにおる後藤も、組織の人間をあの時殺した。そしたらあたしらは幸せになったらあかんのか・・・?」
なつみは唇をかみ締める。
「なあ、あたしたちは罪の重さを忘れたらあかん。それに向き合って生きていくべきや。でもな、やからといって自分で自分を無理に苦しめたりするのは違うやろ?そんなん償いでもなんでもない。ただの自己満足と逃げや。それになあ・・・」
裕子は悲しそうになつみを見つめている真希に目をやる。
「これ以上、悲しませる人を増やすつもりなん?なあ、なっち。後は自分たちでよお考え」
言うと裕子はきびすをかえす。
途中でまだ立ち尽くしていた真里の頭を抱えると、そのまま一緒に連れて行く。
「裕ちゃん・・・裕子、痛いって」
- 189 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時23分19秒
- にぎやかな声が遠ざかり、屋上はまたなつみと真希の二人きり。
なんとなく毒気を抜かれ、目が合って二人で苦笑いする。
「行っちゃったね・・・」
「うん・・・」
後藤はもう一度なつみに向き直る。
「なんか、言いたいこと全部裕ちゃんが言ってくれたけど・・・ねえ、ごとーは、なっちじゃないとだめなんだよ、多分。なっちが悲しいとき、一緒に泣きたい。たのしいとき、一緒に笑いたいよ。今みたいに悲しいときはちゃんと泣いてよ。黙って一人で耐えないでよ」
「ん・・・」
何かをこらえるような表情をしたなつみを真希は真剣な顔で見つめる。
「なっち。ごとーと付き合ってくれる?・・・ごとーの、一番になってください」
なつみの目から涙があふれる。
「・・・ありがとう。そうだよね・・・なっちも、ごっちんが好き・・・多分、なっちも初めてあったときから・・・」
初めて会ったとき、どうしてか、目に焼きついて離れなかった色彩。
何があってもどうしても忘れられなかった顔がそこにある。
多分、一目ぼれ。
「じゃ、ごとーたち、あの時から両思いだったんだね」
笑う後藤になつみは抱きつく。
堰をきったようにあふれだすなつみの涙をそっとぬぐってやり、互いの涙でぐしゃぐしゃになり、真っ赤に染まった顔を笑いあう。
「ごっちん・・・ごっちん・・・ありがと・・・」
「なっち・・・」
まだ心は痛むし、何が解決したわけでもないけれど。
これからしばらくは。願わくばずうっと。
「ずっといっしょだよ・・・」
- 190 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時24分03秒
- 明け方、真里から計画のことを打ち明けられたなつみは、笑って言った。
「もういいよ。ヤグチはなっちのこと心配してくれたんでしょ?ごっちんが狙われてるわりにはみんなのんきだし、おかしいと思ってたべさ」
「うー・・・ごめん・・・」
裕子と真希はもう寝ている。
「もういいっていったっしょ?ヤグチの心配はわかったから。なっちは・・・すぐには無理かもしれないけど、変わるから」
上ってくる朝日に目を細める。
その表情は組織にいたころのものと同じ。
でも、目の色がまったく違う。
なつみの目は闇ではなく確実に光を見ている。
「もうそろそろ裕ちゃんたち起こして、帰るべさ。なっち、眠くなっちゃった」
時刻は7時20分過ぎ。
8時になったら彩が迎えに来てくれる。起きることができたら。
「なっち、みんなの朝ご飯買ってくる。矢口、何がいい?」
「んー、適当に」
「了解」
眠そうに首に手をやりこきこきと鳴らす真里に手を振り、なつみはコンビニへ向かう。
おにぎり、サンドイッチ、飲み物などを適当に選んで帰ってきたその視線の先。
- 191 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月15日(日)23時24分40秒
- 黒服の男が歩いていた。
スーツというわけではなく、黒のシャツに黒のジーパン。
それでもなつみの顔はすこし強張り、手はぎゅっとコンビニのビニール袋を握る。
黒服は苦手だった。
組織の仕事着。
ターゲットへの喪服。
男とすれ違う。なつみの顔は完璧な無表情になっている。
早くいかないと。ごっちんたち、起きちゃうべさ。
胸をざわつかせる思いを押し込めるように歩く。
こんなことじゃ・・・。
唇をかむ。
強くなる。
もう人を殺すためじゃなくて。
真希、真里、裕子、彩、それから自分。
皆を守るために。
皆の笑顔を守るために。
- 192 名前:たすけ 投稿日:2002年09月15日(日)23時28分40秒
- 今週の分、終了です。
いろいろと悩んでる時期なんでレスがほんとありがたかったです。
ありがとうございました。
- 193 名前:NG 投稿日:2002年09月17日(火)03時38分59秒
- 今回の話、良かったです…
なちごま好きなもんで…おもわず涙が…
- 194 名前:52 投稿日:2002年09月17日(火)20時39分09秒
- なんか、読めてよかったなぁ、と言う感じです。
なちごま最高。裕ちゃんかっけぇー。
なんか興奮しちゃいました。
- 195 名前:たすけ 投稿日:2002年09月24日(火)21時38分40秒
- ちょっと遅くなりましたが更新します。
>NGさん
えっと、はじめましてでよいのですよね?
レスありがとうございます。
たすけもなちごま好きでこの話を書いたのでそう言っていただけてうれしいです。
ついに23日も過ぎてしまいましたがcolorは、まだまだ・・・いやもうちょっと・・・・
続きますので、よろしかったらお付き合いください。
>52さん
毎回ほんっとうにありがとうございます。
もう感謝の気持ちでいっぱいです。
ここらへんが全体の中ほどといったところです。
本編でどうしても2人をいまいち幸せにしてあげられなかったので、ある意味埋め合わせの気持ちである意味このシーンのために書き始めた続編です。
ちゃんとシアワセーな感じになってるか不安ですが(v
- 196 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時40分45秒
- なつみ達は朝食をとると、寝ると言って住まいである寺へと戻っていった。
なんとなく気が抜けた顔の真希を紗耶香があきれた顔で叱る。
「後藤!しっかりしな。まだ仕事はあるんだよ?こないだの社長の浮気だって報告すんでないんだし・・・」
圭織が顔をしかめる。
「いやー、あの後報告のためにもうちょっと調べとこうと思ってあのマンション行ったらさー。カオリあせっちゃったよ。あのマンションで殺しがあったんだって。もー警察がたくさん。しかも凶器が拳銃らしくてさ。ありゃ、しばらくはあのあたり社長は寄り付けないんじゃない?」
「マジ?」
他の仕事をしていた紗耶香は経過を知り顔をしかめる。
「じゃ、この仕事片付くのもうちょい先ってこと?」
「いや、このままでも情報も調査も十分だし、そろそろ報告しようと思ってる」
だいたいカオリ、凝り性なんだよ。
あきれたように言う圭に圭織が食って掛かり、二人は言い争いを始めてしまう。
いつものこと、とあきれて紗耶香が見守る中、中澤を始め留守にしていたメンバーが戻ってくる。
「あ、よっすぃ、どうだった?」
眠そうな顔を上げた真希が問うとひとみはにやっと笑う。
「大収穫。りかちゃんががんばってくれたおかげで、あの社長が今日の夜マンションに来ることがわかったよ」
「いや、吉澤・・・がんばってくれたおかげって・・・盗聴は犯罪・・・」
- 197 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時41分53秒
- 圭の言葉は皆に聞こえていない。
梨華は仕事となると今までの癖が抜けていないのか、平気で法を犯してでも情報を拾い、ひとみは良心の呵責なしにそれを積極的にサポートする。
なぜかと問うと答えは簡単。
いわく、りかちゃんががんばってるから。りかちゃんにお願いされたから。
それを見て見ぬ振りをする裕子、結局は結果主義の紗耶香、交信中でそれどころでない圭織、お菓子といたずらのことしか考えていない加護と辻。それからこのごろなつみにはまって以前よりますますマイペースになった真希。
このメンバーでは梨華の暴走を止められるのは自分だけのはずなのだが、いささか自信がない。
絶対、貧乏くじ。
もう、気にしない。もう知らない。
誓う圭は、皆に声をかける。
「裕ちゃん、会議室でミーティングする時間だよ」
声が力なく響いてしまったのは、不可抗力と言えよう。
ミーティングも無事に終わり、圭と真希は調査へ向かう。
情報によれば今日社長が愛人宅へ向かうはず。
写真数点をとれば今日の仕事は終了。今までの資料を補強し調査報告を作成する。
- 198 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時43分30秒
- 秋の気配漂う夜の町は穏やかだった。
とても殺人事件が近くで起きたとは思えない。
マンションからすこし離れた場所に車を止める。
社長は仕事場からそのまま愛人宅へ直行。
まだ出てくる気配はない。
「どうせならりかちゃんとよっすぃー、愛人のところに盗聴器つけてくれたらよかったのに・・・」
「無理だって・・・しかも盗聴は犯罪・・・」
今日はこのまま泊りになるはず。
さりげなく尋ねたところ依頼主である婦人は夫である社長から今日は出張であると聞かされているらしい。
「後藤、これから写真撮ってきて。もしかしたら報道陣とか居るかもだし警察もちょっと気になるけど・・・手はずどおりうまくやってきて。出来る?」
「出来るよ。了解」
- 199 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時45分01秒
- 機嫌よく真希は圭の言葉にうなずく。
今までこなしてきた仕事に比べれば簡単。
これを済ませばすこしの間休みがもらえる。
周囲をうかがい車から降りる。
「なっち、すぐに会いに行くよ」
へらっと笑ってマンションへ。
その真希の顔が一瞬にして引き締まる。
「・・・?」
たしかに一瞬視線を感じたような。
周囲に気を配ってみても人の気配は感じられない。
・・・多分・・・気のせい?
それでも気を引き締めて任せられた仕事に戻る。
失敗は許されない。
この仕事をさっさと済ませて恋人に会いに行くのだから。
- 200 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時47分46秒
「なっちー」
「・・・ごっちん!」
社長の調査も終わり、ひさびさの連休。
真希はなつみに寺から迎えに来てくれるよう頼んでいた。
夕飯をどこかで二人で済ませた後、用があるという彩に二人で寺まで乗せてもらおうという計画だ。
「ごっちん!」
「なっち!」
社から出てきた真希になつみが駆け寄る。
時刻は7時過ぎ。
仕事帰りのサラリーマンたちがなつみと真希を追い抜いていく。
かわいらしい顔を赤く染めてくすぐったそうに微笑むなつみを、真希は整った顔をこれ以上ない、というほど緩んだ笑顔で迎える。
「3日ぶりだね」
「ねー」
二人で顔を見合わせ笑いあう。
向かう先はこのごろの真希のお気に入りのイタリア料理店。
今日は二人ともいつになく口数が少ない。
真希はとなりのなつみの顔をそっとうかがう。
夜の街の明かりに照らされたなつみは、すこし無表情で。
真希は以前、なつみと夜に屋上で偶然会い、話したことを思い出す。
- 201 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時48分31秒
- 「ね、なっち。ミルクティー、飲まない?」
「ご飯前だよ?ごっちん」
すこしあきれたように言うなつみに真希は笑う。
「いいじゃん。のもーよ」
少し先の自動販売機で、ミルクティーを1本買う。
「一緒にのも」
真希は一口のんで差し出す。
「あ」
なつみの顔が笑顔になる。
「ごとー、思い出したんだよね・・・ね、なっち。ごとーも実は緊張している」
「うー・・・やっぱばれちゃった?」
も、というところで少し目を見開いたなつみに真希は苦笑してみせる。
「ばれちゃいましたとも」
うー、ともう一回うなってみせてなつみは顔を伏せる。
真希はなつみが話しやすいよう道の端により足を止める。
自動販売機の明かりが二人の顔を明るく照らす。
- 202 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時49分54秒
- 「ごっちんはごっちんなんだけど・・・どうしても照れちゃうのさ・・・だってなっちの・・・その・・・こ、こ」
「恋人?」
顔をものすごく赤くしているなつみの言葉を引き取ってやる。
「そう。・・・恋、人。・・・なっち、こんなことできるとは思わなかったよ・・・初めてのデートだよ?隣に、・・・なっちの、その・・・」
好きなひとが、いるんだよ?
その一言が聞こえた瞬間、真希の顔もなつみに負けず赤くなる。
「なっちぃ・・・」
思わず抱きしめようとした真希の方をなつみが押し返す。
「は、恥ずかしいべさ!人がいっぱいいるんだし・・・ご、ごっちん!早くご飯食べに行こう!なっち、おなかすいちゃった」
「う、うん」
なつみは真希の手をとる。
一瞬驚いた真希は自分の手を見て、つながれたその手のぬくもりに顔をほころばせた。
二人で照れ隠しのように早足で店へ向かう。
今度訪れた沈黙は、先ほどのものと違って居心地のよいものだった。
- 203 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時50分51秒
- 「おいしかったねー」
「うん!もーごとーおなかいっぱいだよ。満足―」
自らのおなかをさすり猫のように目を細める真希の姿になつみもうれしそうに目を細める。
彩との待ち合わせまで後1時間足らず。
近所にあった公園で一休みすることにする。
「夜の公園ってあぶなくない?」
周りをきょろきょろ見回しながら聞くなつみの手を真希が引く。
「へーきだって。ごとーもなっちも強いんだし。それよりあそこ座ろうよ」
指差した先はベンチ。
「はいよ」
うれしそうに真希に応じたなつみの表情が強張る。
それと同じくして真希もまた数日前と同じ違和感に襲われる。
「ごっちん。なっちからはなれないで」
「何・・・?」
真希を自分の後ろに引き寄せる。
巧妙に隠された気配。
これは。
「組織の人っぽい気配がする。なっちに・・・」
- 204 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時52分04秒
- 針のない自分にどこまで真希を守れるかわからないけれど。
なつみは言おうとした言葉をかぶりを振って追い出す。
そうじゃない。
「なっちに、ごっちんを守らせて?なっちが守るよ」
大きな丸い瞳に浮かんだ、闇を跳ね返す強い光。
「ずるいよ」
小さく聞こえた声になつみは振り返る。
「ごとーもなっちを守るから」
なつみと同じ強く光る目。
「うん」
前に向き直ったなつみの口元には笑みが浮かぶ。
一人で背負わなくていいんだ。
一人で背負っちゃだめなんだ。
そのとき。
闇の中から人影が現れた。
「はじめまして、ダブル、後藤」
低く響く声。
黒いジャケットに黒の皮のパンツの若い男。
公園の常夜灯に照らされた顔は浅黒く、切れ長の目が静かに二人を見つめている。
- 205 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時53分19秒
- 「だれ?」
真希の問いに男は軽く首をすくめてみせる。
「会ったことあるぜ。あの公園のマンションのところですれ違っただろ?それに・・・俺、あの船にもいたぜ?」
男はジャケットのポケットに突っ込んであった手を上げた。
そこにはナイフ。
「俺さあ、組織にいたんだよね。2番のお前は知らないだろ?19番なんてさ。お前ら一桁はみんなそうだ。俺たちのこと使い捨ての虫けらくらいにしか思ってなかっただろ?4番になんかよく言われたぜ?使えねーってよ。でも6番は違ってた。あの人は俺を助けてくれた。俺の先生で・・・恩人なんだよ」
男の顔がゆがむ。
- 206 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時54分40秒
- 「あのひとが死んで俺は組織を抜けた。ずっと2番、お前を狙ってた。組織があんなことになって・・・お前は死んだと思ってた。悔しくて悔しくて気が変になりそうだったぜ?だからせめて手始めにそこの後藤、それからハロプロの生き残りを皆殺しにしてやろうと思ってな。・・・まずは先生が死んだとき2番、お前と一緒にいた後藤を殺そうと思ってたんだが・・・お前が生きてたとはな」
言ってにやりと微笑む。その顔はまさに凄絶と言っていい形相。
「先生の仇。討たせてもらうぜ」
「なにが仇さ」
なつみは無意識に自分の2の腕あたりを探る。
そこは10数年慣れ親しんだ自分の武器が在ったところ。
つい先日もう二度と使わないと封印をしたあの針たちはもうそこにはない。
「組織で生きる以上、死ぬことはいつも覚悟の上でしょや。・・・その上なっちが死んだと思ったらごっちんや裕ちゃんを殺して満足しようとしてたなんて・・・。ふざけんじゃないべ」
- 207 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時55分43秒
- 言い返してなつみは小声で真希に聞く。
「ごっちん、何かもってる?」
「うん・・・一応、ナイフぐらいなら」
真希も訓練を受けた身。
一度闘った感じでは実力にそう不安はないはず。
自分に言い聞かせてなつみは覚悟を決める。
「とにかくお前たちは死ぬんだよ」
怒りを込めた声とは裏腹に顔を無表情に染めて19番がナイフを構える。
それに応じてなつみは素手で構えを取る。
19番は一瞬いぶかしげな顔をしたがそのままこちらへ向かってきた。
襲いくるナイフの軌跡を読む。
最初の首狙いの斬撃はフェイント。
腹部狙いの刃を手をそえて軽くかわす。
その間に真希は19番の真横に回りこんでいる。
なつみは19番の顔を狙って裏拳を繰り出すがガードされてしまう。
- 208 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月24日(火)21時57分16秒
- やはり小柄でそう力のないなつみでは攻撃が軽すぎる。
軽く舌打ちしてポケットを探る。
そこには一本の小型のナイフ。
大切な思い出のナイフ。
鞘に納まったそれをそっと引き抜き、構える。
「ほう・・・お前がナイフを使うとは知らなかった」
19番の目が楽しげに細められる。
真希は隙のない二人の攻防に入れない自分を感じていた。
下手に攻撃すればなつみの邪魔になる。
真希はハロプロでも屈指の強さを誇っていた。
しかしここで繰り広げられているのは相手の命を確実に奪うためのもの。
真希が学んだ、相手を無力化する、対象を守るための闘いとはまったく異なるもの。
でも。
炎上する館のなかで血を吐いて崩れおちたなつみの姿が胸のよみがえる。
あの時の胸がつぶれるような痛みをまだ覚えている。
あんななっち、もう見たくない。
あんな目にはもう絶対あわせたくはない。
- 209 名前:たすけ 投稿日:2002年09月24日(火)22時01分49秒
- とりあえず今日はここまでで。
夏休み終了を目指していた続編ですが夏には終了しませんでした(v
すみません。
これから不定期更新でいきます。
目安は最低一週間に一回ってことにします。
これからも、よろしくお願いします。
- 210 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月24日(火)23時15分32秒
- ジラシがうますぎ(w
- 211 名前:52 投稿日:2002年09月26日(木)19時53分35秒
- おもしろいです、すごーくおもしろいです。
- 212 名前:たすけ 投稿日:2002年09月29日(日)20時36分55秒
- ageさせてもらいます。
結構悩んだんですけど、更新も若干やりにくいので。
これも結構悩んだんですけど目指すはレスのいただける小説。
がんばります。
>210 名無し読者さん
レス、ありがとうございます。
いつもは意識してきりのいいところできっているんですが・・・。
このきり方のほうがいいですか?
>うますぎ って言っていただけてちょっと欲がでちゃいました。
>52さん
レス、ありがとうございます。
おもしろいですか!よかったです!
続編はだいたいは仕上がりました。
あとは番外編をなんとか・・・。
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
では更新です。
- 213 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時39分54秒
- ナイフを構えたなつみに再度19番が襲い掛かる。
鋭い突きを紙一重でかわし、こちらもナイフを突くように繰り出す。
使い方は以前の大針と同じ。
かわした19番の死角には真希の姿。
なつみは攻撃をする前とっさに真希の姿を確認しておいたのだ。
気配を感じたのか一瞬からだを真横にずらそうとする19番の動きを真希は予想していた。
「はっ」
短い掛け声とともに真希の綺麗な弧を描いた回し蹴りが男の頭部にヒットする。
吹っ飛び、立ち上がろうとした19番に音もなくなつみが迫る。
いつものように、急所にナイフを突き立てる・・・はずが。
なつみの手は一瞬ぎこちなく止まってしまった。
それは寸隙を争う戦闘中では致命的なミス。
- 214 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時41分31秒
- ナイフがなつみめがけて繰り出される。
ごめん、ごっちん・・・!
ナイフを振るう瞬間、とっさに浮かんだ夢での自分。
もう二度と人の命を奪わないと決めたはずなのに。
なつみは冷静に急所めがけてナイフを振り下ろそうとしている自分を見つけていた。
男の手が肩あたりに置かれナイフが迫る。
閉じようとした目を意思の力だけで留め、相手の目をにらむようにして見つめる。
最後まで何があるかわからない。
あきらめるわけにはいかない。どうしてもごっちんだけは守りたい。
思った瞬間。
19番の目が一瞬見開かれ、肩にかかった手に力がかかりなつみは後ろに倒れこんだ。
そこに銃声。
- 215 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時43分04秒
- サイレンサーつきらしくぐもったような音がする。
右肩のあたりを押さえて倒れこむ男。
濃い血の匂いがあたりに漂う。
19番はなつみの後方を燃えるような目ににらむと闇にとけるように消えた。
銃声がした方角から公園の樹木を揺らして何かが去った音と気配がした。
目をこらしてももう影は見あたらない。
「・・・白い・・・お面?」
「え?」
真希のつぶやきになつみが驚愕の顔で振り向いた。
「お面?」
「・・・うん。とっさでわかんなかったけど・・・」
なにか知ってるの、なっち?
答えはない。
問いかけた真希の視線の先には白い顔を以前の無表情に染めたなつみがいた。
- 216 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時44分14秒
- 事件の後、なつみは妙に口数が少なくなってしまっていた。
真希や彩が話しかけても上の空で、窓の外と自分の手ばかり見ている。
「ちょっと、なっち」
寺に着き、真希が風呂へ向かったのを見計らって彩がきり出した。
なつみが入れたコーヒーを一口すすり彩は真剣な顔をなつみにむけた。
「どうしたのよ?後藤と会うのあんな楽しみにしてたじゃない。後藤もかわいそうだよ。
あの子すごい心配してたよ?」
「うん・・・」
寺へ帰ってからの話、すべてに煮え切らない返事を繰り返すなつみを真里が心配そうに見つめる。
「言いたくないならいいけど・・・。困ったな、きりだしにくくなっちゃった」
- 217 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時45分25秒
- 「何?」
真里がたずねると彩はすこし肩をすくめて言った。
「いいニュースか悪いニュースかまだわかんないんだけど・・・。仮面の暗殺者の目撃情報があるのよ」
なつみがすごい勢いで顔を上げる。
「アヤっぺ!本当?」
真里も腰を浮かしている。
「まあ座りなって、ヤグチ。この前なんか拳銃を使った殺人事件があったでしょ?
あれの犯人ももしかしたらそいつの仕業かもしれない」
「それが・・・まさか・・・アスカ?」
「アスカは・・・アスカは死んだんじゃないの!?」
- 218 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時46分10秒
- 仮面の3番。精密機械といわれた裕子ですら舌を巻いたほどの射撃の名手。ナイフも使え近接戦闘ではトップクラスの腕前をもつ。その変化しない表情と仕事のとき付ける仮面のせいでその名がついた。
仮面を付ける訳はいろいろと推測されたが、単に以前顔を目撃されかかったときに得た教訓だと、本人をよく知る3人は聞いていた。
派手な殺しを好まず、着実な仕事。
「まだわかんない。でもアスカの生死は不明だった・・・その仮面がもしかしたらアスカって可能性は十分にある」
どうもあの殺人事件の被害者、眉間を一発撃たれて死んでたらしいし。
「じゃあ・・・」
うつむいていた真里が蒼白となった顔を上げた。
「じゃあ、アスカもずっと・・・暗殺をしてたってこと?しかも組織以外で!ヤグチたちの知らないところで・・・助けに行けないところで、一人で生きてきたってこと・・・?」
最後の言葉はにじむ涙にまぎれる。
- 219 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時47分22秒
- 「だから待ちなって、ヤグチ。もしアスカが暗殺をしてたんならあたしが気付かない訳ないはずだよ。それがアスカってわかんないし・・・アスカが生きてるか死んでるかもまだわかんないんだよ?生きてるにしてもアスカがどんな風に生きてきたかなんてわかんないでしょ?すべてはその仮面のことをもっとちゃんと皆で調べてから」
軽く涙をぬぐい真里はうなずく。
そのとき。
「ねえ」
それまで真里と同じく蒼白な顔をして、黙りこくっていたなつみが声を出した。
「アヤっぺ。その仮面の色ってわかる・・・?」
静かになつみが聞く。
「白らしいよ?」
じゃあ、あれは。やはり。
うわごとのようにつぶやく。
「なっち、それ見た、かも・・・」
- 220 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時48分14秒
- 「ちょ・・・なっち、詳しく教えてよ」
彩と真里に19番のことと真希が見た影について大まかに説明する。
「っあー・・・19番ね」
顔をしかめる彩に真里が問う。
「知ってるの?」
「仕事いっしょにしたから。わりとすぐ熱くなるタイプでさ、妙にこう・・人情にっていうか・・・なんかこう熱いやつで、組織には珍しいタイプだったかな。仕事に向かないやつ。一人がやられたからって助けようとして一人でつっこんで結局皆を危険にさらして。ふざけんな、って感じだったから見捨てようとしたら・・・6番が助けたんだ・・・あの後。
余計なことを・・・」
真里が話の軌道修正をする。
「で、その19番がなっちと後藤・・・ごっつぁんを狙ってる訳か。どうしよっか。しばらくごっつぁんにはなっちとヤグチがつこうか。それならなっちも一人にならないしそれでいいでしょ」
- 221 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時48分59秒
- それまで放ってあった自分の分の紅茶に手を伸ばしながら言う真里に彩が言う。
「あたしも手伝うし」
「いや、アヤっぺには家庭があるっしょ。これ以上迷惑かけらんないよ。ほんとはヤグチも・・って言いたいけど・・・」
眉を吊り上げた真里に向き直りなつみは続ける。
「ええと、助けてください。お願いします」
「よろしい。わかってきたじゃん、なっち」
腕を組み胸を張る真里になつみは苦笑する。
「あたしも絶対最大限の手伝いはする。だんなも納得してくれるはずだし」
「ごめん」
「ごめんね、アヤっぺ」
頭を下げる小さな妹分たちに彩は笑う。
「いいって」
- 222 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年09月29日(日)20時49分32秒
- 「アヤっぺが別れたらなっちたちのせいだね」
「責任とってここに住んでいいから」
「いや、別れるってあんたたち・・・」
大体責任って・・・
上げられた顔は二人そろって目が半月状になっていた。
ったく、ちょっとは大人になったかと思ったらこのお子様たちは・・・。
「なっち、上がったよ?」
聞こえる真希の声になつみは笑顔で応える。
「はあい、今いくよ」
ようやくいつもの笑顔を浮かべたなつみに、二人は顔を見合わせ安堵の笑みを浮かべた。
- 223 名前:たすけ 投稿日:2002年09月29日(日)20時54分33秒
- 次の更新は一応今週中にする予定です。
- 224 名前:52 投稿日:2002年09月30日(月)23時04分13秒
- いつもごくろうさまです。
流れるような展開ですね。
物語が確実に進んでいるという感じが、
うれしいやら、悲しいやら。
- 225 名前:たすけ 投稿日:2002年10月04日(金)00時24分57秒
- 更新です。
フィクションだらけのcolorですがこの回はかなりフィクションはいっています。
前もってご了承ください。
>52さん
苦労だなんてとんでもないです。読んで、レスをくださるだけで報われる思いです。
毎回、なんかレスをお願いしてるみたいで・・・。ほんと、すみません。
確実に・・・進んでますよね。進めます。
- 226 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時31分43秒
- いつものようになつみの部屋に布団を敷き、なつみと真希、二人で並んで寝る。
この寺は外見はまったく廃寺なのだが中はかなり改築されている。
この部屋も、元は傷んだ和室だったのをフローリングに張り替えた。
落ち着いた広い部屋。
普段はベッドを使っているなつみも真希が泊まるときは布団を使う。
彩は今日は泊まりで近くの部屋を使っている。
静かな部屋に真希の寝息が響く。
なつみはそっと目を開け、真希を横目で確かめ、身を起こす。
音も立てずそっとクローゼットをあけ、中の服を取り出す。
そのまま立ち上がり、向かいの部屋へ。
その間まったく物音を立てない。
そっと扉を開く。
「ヤグチ・・・?」
- 227 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時33分43秒
- 同じ広さ、同じフローリングでもなつみとはまったく異なる印象の部屋。
「・・・なに?」
組織にいたころの癖で、二人とも眠りは浅い。
部屋の扉が開いたときには真里はもう覚醒していた。
扉から少し顔を出してなつみが言う。
「付き合って」
「はあ?」
間抜けな声を上げ真里はベッドからがばっと身を起こす。
「何寝ぼけてんのさなっち?」
「ちょ・・・ぜんぜん寝ぼけてないべさ」
少し涙目になりながらなつみは続ける。
「だって・・・いろいろ考えたんだけど・・・どうしてもアスカのことが気になって寝れないし・・・。仮面の人も今日見たんだからそう遠くは行ってないはずっしょ?19番も気になるし・・・いっしょに、ついてきて」
「ああ、そういう意味ね・・・寝起きにわけわかんないこと言われてあせっちゃったよ、ヤグチ」
- 228 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時34分54秒
- 扉を静かに閉めてなつみが入ってくる。
「一人で行こうかと思ったけど・・・。もう、ごっちんに心配かけたくないんだ」
「その後藤は?」
真里は伸びをして、クローゼットに向かう。
「寝てる。・・・アスカのことはなっちたちのことだし・・・付き合わすの、かわいそうっしょ?それに・・・」
ごっちん、できるだけなっちのために危ない目にあってほしくないんだ。
続きは言葉にしない。
これが自分のエゴとは知っている。
「・・・そっちのほうが、かわいそうじゃない?・・・・・・まあ、いいけど」
小さくため息をつき、釈然としない顔で着替える真里の横で、なつみももそもそと着替えをする。
着替え終わった真里は大きなクッションを持って出て行こうとする。
「ちょっと、ヤグチ」
「ん?」
- 229 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時36分00秒
- 不思議そうな顔をして振り返った真里のクッションを指差す。
「それ、おいてって。ヤグチの運転、なんか怖いんだもん」
技術ではなく主に、見た目が。
そのクッションは真里の運転時の必需品。
運転席に置き、真里の身長の上げ底に使われる。
しかしフロントガラスからちょっとだけ頭がのぞくその姿は小学生がパパの車でいたずらしているようで慣れていても周りの恐怖を誘う。
その上、わりとスピード狂。
「なんか怖いって、失礼な!なっちの運転よりはましでしょ!」
なつみの運転もそう下手ではない。
しかし妙なタイミングで行われる加速と同乗者に優しくないブレーキングが乗る者に微妙な恐怖をもたらす。
あくまで微妙。
「なっちの運転のどこが危ないのさ。安全運転でしょや」
なつみが頬を膨らませる。
- 230 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時36分44秒
- 組織の判断ではこの二人には車を運転させる必要はないと、仕事のときには送迎がついていた。ちなみに、二人とも組織が用意した偽造免許を持っている。
「何言ってんの?ブレーキは急だし・・・なっちの運転は怖いって」
「ヤグチよりはまし・・・って、うるさいべさ。ごっちんとアヤっぺが起きちゃう」
そっとあたりの気配をうかがう。
真希はともかく彩は部屋が離れていたのが幸いした。
こそこそ声での協議の結果クッション持込可、運転者はなつみ、ただし同乗者に恐怖感を与えた場合ただちに運転を代わるということでおちついた。
こっそり彩の鍵を借り、車に乗り込む。
「ぶつけたら怖いよ。絶対ぶつけないでよ」
「だれに言ってるのさ、ヤグチ。ぶつけるわけないしょや」
妙に自信まんまんで言い切り、なつみはエンジンをかける。
「行くよヤグチ」
車は走り出す。
- 231 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時39分45秒
- 「ちょ、なっちブレーキ」
「わかってるべさ」
あきれたような声とともに車は止まる。
けっこうな確率で行われる急ブレーキ。
車間距離は30センチ。
確かに、なつみは訓練を受けていただけあって反射神経は良く、車をどこかにぶつけたような経験もないはずだが・・・。
わかっていてもこれは怖い。
注意してもなおらない。
しかもあの天使のような微笑で『大丈夫。絶対、ぶつからないから』などと言われたら、何も言えなくなる。
祈るような思いで目を閉じる。
み、見なきゃいいんだって・・・。
見えなければ、耐えるべきは定期的に襲ってくるこの衝撃のみ。
耐えろ、ヤグチ・・・。
「あれ?ヤグチ眠いの?ついたら起こしてあげるから。でも、なっちの運転で安心して寝るなんて・・・そっかそっか、やっぱりなっち運転うまいってことだね、うん」
ちげーよ。
急な加速に突っ込みを飲み込み、耐える。
あと20分。
- 232 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時40分39秒
- なつみと真里その日の明け方まで探したけれどアスカらしき人には会えなかった。
帰りの運転は真里。
最初は怖いと騒いでいたなつみも今はおとなしく座っている。
「ねえ、ヤグチ・・・」
「何さ」
ため息をついて窓の外を見る。
妙な間が空く。
「会えるかな・・・アスカに」
「・・・わかんない」
とりあえず今は彩への言い訳を考えないと。
もうすぐ夜が明ける。
19番のことなどを考えいろいろとコースを変え帰っていたら遅くなってしまった。
今頃彩はなくなった自分の車と二人を心配して怒っていることだろう。
- 233 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時41分54秒
- 朝早く、二人を散々叱ったあと彩は朝食の準備を始める。
ヤグチの部屋で着替えをしてなつみは部屋へ戻る。
そっとのぞくと真希はまだ寝ていた。
なつみは安堵のため息を漏らし、自分の布団にもぐりこむ。
彩も勧めたように少し寝かせてもらおう。
なつみの寝息を確認すると。
真希はそっと目を開ける。
「なっち・・・」
仮面の人のこと、何か知ってるの?
あの時からだよね?なっちがおかしくなったの。
こんな時間にやぐっちゃんとどこ行ってたのさ。
買い物とかじゃないよね。
・・・ごとーには、言えないこと?
- 234 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時42分30秒
- 心が痛む。
悲しいとき、苦しいとき、教えてくれるって言ったのに。
なっちのこと好きだから力になりたいのに。
やぐっちゃんは良くてごとーじゃ駄目なの?
・・・長い間一緒にいたもんね。やぐっちゃんに・・・ごとーは・・・勝てないの?
そこまで考えて真希は自分の目から涙が流れていることに気付く。
声を出したらなつみが起きる。
真希は枕に顔を押し付け涙を無理やりこらえる。
疲れたなつみは眠っている。
彩が用意した遅めの朝食をとりお茶を飲んで一息つくと、なつみは昨日の夕食後の話を真希に話しだした。
白の仮面が明日香かもしれないということと朝帰りのことは伏せて。
- 235 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時43分59秒
- 「でさ、ごっちん。ごっちんの身が危険だからなっちたちでごっちんを守ろうと思う。・・・いいかな?さっき裕ちゃんに電話で話したら仕事中はなるべく一人にならないようにしてくれるって言ってたし。なるべく早くに・・・なんとか、するから。・・・ごっちんさえ良ければしばらくこっちで生活してもらえないかなあ・・・?お家の前ではってもいいんだけど、そうしてもご家族に何かあるといやだし・・・」
「いいよ、なっち」
あっさりした真希の言葉になつみはどこか拍子抜けしたような顔で礼をいう。
「ありがと、ごっちん」
その言葉に真希は一瞬苛立ったような表情を見せたがそれを飲み込む。
なつみはそれに気付いたがあえて触れず、真希を促す。
「もう時間っしょ?アヤっぺが皆を乗せてくれるから早く行こ」
車中、真希はずっと目を閉じ眠っているふりをしていた。
- 236 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月04日(金)00時46分13秒
彩の運転する車は静かに停車する。
「ごっちん、着いたよ」
どうやら途中から本当に眠ってしまっていたらしく、真希は何度か揺さぶられてようやく覚醒する。
「んむ・・・ねむ・・・」
うなる真希をなんとか立たせて会社に向かわせ、なつみと真里も彩と別れとりあえず手近なカフェへ向かった。
- 237 名前:たすけ 投稿日:2002年10月04日(金)00時53分45秒
- 更新予告いらないかも、ともこの頃思うのですが、次の更新は月曜か火曜を予定しています。
- 238 名前:名無し 投稿日:2002年10月04日(金)01時12分22秒
- 前から読んでいましたが、ほんとにイイ!
更新が楽しみです。
- 239 名前:たすけ 投稿日:2002年10月08日(火)01時25分25秒
- 以前から誤字脱字が多くなってしまい、終了時にまとめて訂正しようと思っていましたが今回。
>233 の
ヤグチの部屋で着替えをしてなつみは部屋へ戻る。
3人称なのにおかしいので、「ヤグチ」を「真里」に訂正します。
すみませんでした。
>238 名無しさん
レス、ありがとうございます。
つたないこの話を前から読んでくださっていたとの事、ほんとうにありがとうございます。
a colorはもう少し続く予定なので、お付き合いくださるとうれしいです。
では更新します。
- 240 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時28分11秒
- 「・・・なっち、気付いてたんでしょ」
「何がさー」
オーダーをしておもむろに真里が切り出すとなつみは窓の外に目をやりゆっくりとした口調で答えた。
外は晴れ。通勤の時間帯で街は人にあふれている。
「後藤が、最初寝た振りしてたこと」
白い、ちいさなテーブルになつみはことさらゆっくり肘を置くと、真里のほうを一瞥し、また外を見る。
図星。
「・・・わかってても、しょうがないしょや」
「しょうがないっていうか・・・なんでアスカのこととか昨日のこと、ごっちんに言わなかったのさ」
真里はテーブルに半ばその小さい身を乗り出すようにしてなつみにたずねる。
「・・・だって・・・」
なんか心配かけるし・・・
「絶対、昨日の夜出かけたことはばれてるね」
注文したアイスティーが来て真里はテーブルから身を引き、腕を組む。
「ね、なっち。後藤のこと信用してないの?」
アイスミルクティーをストローで無意味にくるくるとかき混ぜていたなつみはその言葉に顔を上げる。
- 241 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時32分06秒
- 「そんなわけないしょや!なっち、ごっちんのこと信用してるよ。なんでそんなこと言うの?」
「だあってさあ・・・じゃあ、なんで言わないの?言わないことで余計心配かけてるってわかんないの?」
アイスティーを一口飲んで言われたセリフになつみは言葉を失う。
言えば、自分がいまだ2番でしかないということを話さなければいけなくなる。
言葉にだせば、もう2番に戻ってしまうような気がする。
アスカのことも組織の思い出に直結する。
そして・・・何より。
自分が必要ならばもう一度殺しをする気だということを皆に・・・特にごっちんとヤグチに知られたくない。
もう、失うことはたくさん。
これが真希と同様車内で黙りこくっていたなつみの結論。
この手を再び血に染めても、それが原因で真希の隣にいられなくなろうとも・・・真希を守る。
そう、たとえ刺し違えてでも。
昨日、なつみが真里を誘って外出したのはアスカのこともあったが主に19番を意識したからだった。
そして手負いとなった19番は真里と一緒だったなつみには手を出してこなかった。
長引けばいずれ寺や今の生活、果ては真希の家族が危険にさらされる。
結論はひとつ。
- 242 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時35分32秒
- 「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
「うん・・・」
テーブルに飾られた花をいじる真里に言い残しなつみは席を立つ。
昨日、今日と真里を誘い、付き合わせたのは訳がある。
深夜、無断で外にでれば向かい合わせの部屋におり、感覚の鋭い真里ならば、絶対になつみに気付く。
ならば、最初から素直に協力を仰いでおけば、長年の付き合いの真里でもすこしは油断をするだろうという計算があったのだ。
短期決戦のためには一人で19番に対峙する必要がある。
なつみは手負いとなった暗殺者の恐ろしさは知っていた。
個室に入り、スカートに隠してあった腿の内側につけた大針、投げ針、含み針を確認し、装着していく。
ごめん、ヤグチ。
心のなかで謝り、トイレの窓から脱出する。
それが可能だったこともありこのカフェを選んだ。
脱出口を確認しておくのは基本中の基本。
- 243 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時41分46秒
- カフェに入ってから、窓の外かららくるごくごく微弱な視線を感じていた。
もしかしたら、と窓に近い席をとったら案の定、19番がこちらを見つけていたのだろう。
にしても、お互い運がいいべさ。なっちとサシでやりたかったんでしょ?
道行く人に不審に思われないよう、早足で歩きながら口の端で微笑む。
睡眠不足だったヤグチには気付かれないし、19番は怪我にかかわらず出てきてくれるし。
カフェを出てからから19番にサインは送っておいた。
真里が本調子だったら19番の気配と、その変化に気付いたはずだ。
本当に、運がいい。
小さく笑い、昨日の公園に出る。
オフィス街にある大きな公園。
奥は広く。木々が茂り見通しが悪く、また場所柄かこの時間は人気がない。
「さあ、始めよっか。お互いに時間もないっしょ」
いつもの優しい雰囲気を拭い去り、目をすっと細め、口元を吊り上げる笑みを浮かべる。
天使の笑顔は去り、対峙する者に死を告げるときの死神の顔。
近頃は見ることのなかったその表情は、まさに組織の2番、ダブルのそれ。
- 244 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時44分04秒
- 「そうだな。にしても昨日は伏兵を用意していたとは気付かなかった」
淡々とした声で言う19番になつみは無言で応える。
「相変わらずの無口、か。まあいい。行かせてもらう」
構えも取らず19番は隠しからいきなりナイフを投げる。
その攻撃を右に跳んでかわしつつなつみは投げ針を放つ。
ナイフはなつみが背にしていた木に突き刺さり、投げ針は19番の出した2本目のナイフによってはじかれる。
うわ、目いいし。
飛んでくる小さな針を目で捉え、はじくなどなかなかできることではない。
19番とはいえ、さすが。相当訓練をつんだのだろう。
気を引き締めなおし、改めて吹き針を放つ。
これは横に転がってかわされる。
- 245 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時45分36秒
- 狙いがわずかに甘い。やはり、このところのブランクがひびいている。
転がった状態から一気に跳ね起き、19番がなつみとの距離を詰める。
詰めながらもナイフをまた予備動作なしで放ってくる。
それを大針ではじく。
重い衝撃に顔をわずかにしかめながらなつみも身構える。
突くように出されたナイフを大針を使い滑らせてかわし、空いた胴を狙って蹴りを繰り出す。
それは昨日傷ついたはずの右腕で防御された。
けっこうな衝撃だったらしく19番は顔をしかめる。
しかし崩れた体勢をそのまま立て直さずに利用して低い体勢を利用しての伸び上がるような蹴りがなつみを襲う。
その蹴りは先ほど繰り出した蹴り足をそのまま引き戻してガードする。
これも重い。
痛みを顔に出さずなつみは19番めがけ吹き針を吹き、間合いをとる。
- 246 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時49分12秒
- これは右腕に刺さった。
男は飛び起き、不自然にたれ下がった右腕を軽く撫でた。
「俺、結構強くなったと思ったんだが・・・。すげえな。右腕がびくともしねえ。さすが2番。でもさぁ、そんなもんか?前のお前はもっと強かったはずだろ?本気、見せてくれよ。それとも、組織から抜けて平和ぼけしてんのかよ」
19番は薄く笑ってまたナイフを構える。
そうかも。
声には出さずに苦く思う。
今の針はうまく入ったものの放つ投げ針すべての狙いが甘くなっている。
数ミリの狙いの狂いで効果がなくなってしまう針を用いた攻撃では致命的なミスであるといえる。
そのため接戦に切り替えたわけだが・・・やはり分が若干悪い。
その上相手には多分まだ銃という手がある。
音を気にしてるのかまだ使ってこないが。
- 247 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時51分55秒
- 針を構えなおし、今度はこちらから突っ込む。
ナイフを構えた19番の左腕が上がった瞬間、右へ飛び吹き針を放つ。
それは後ろに飛ぶことでかわした19番に肉薄し両手で構えた大針を絶妙な角度で大動脈めがけ繰り出す。
身を沈めた19番の鎖骨あたりに突き刺さるそれ。
しかし次の瞬間、なつみはその大針から手を放し大きく飛びのいていた。
ぱしゅ、という音が響く。
「いってえ・・・」
呻いて男は鎖骨になお刺さっていた大針を抜き、捨てる。
とたんに噴出す血。
「今のは自信あったのになあ・・・」
拳銃を軽く振る。ワルサー・P38。
・・・あれはたしか昔6番が愛用していた銃のはず。
見届け制でよくカメラに映っていたためなつみはよく覚えていた。
反動があるというのによく右手が動かない状態でとっさに撃てたものだ。
- 248 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時54分45秒
- 投げ針を構える。
吹き針はもう無い。
19番は動かないはずの右腕を上げ、そえるようにして拳銃を構えた。
とてつもない精神力。
同じ組織にいたのなら、そんなことをすればもう一生右腕が元のように動かなくなることは知っているはずだった。
もう、次は考えていないということか。
「さあ、向かってこいよダブル。お前の命、おれがもらってやるよ」
額に痛みのためか筋を浮かべそれでも不敵に笑ってみせる19番に、なつみは軽く左足を引き、身を低くして突っ込んだ。
途中すばやく左へステップしそこから大きく跳ぶ。着地の瞬間が勝負。
銃弾が当たることを避けるため宙で一回転をし、着地したのは19番の右数メートルの地点。
「もらった!」
右手を離し左手だけで銃を発射する。
脱臼覚悟の捨て身の攻撃。
反動でそれる銃口すら予測された完璧な一撃のはずだった。
これだけ近ければ的としたどこにだって当たるはず。
- 249 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時57分52秒
- 19番が自らの勝利を確信したそのとき。
なつみの姿が目の前からかき消えていた。
「ごめんね」
声は下から聞こえた。
見れば真下、地面に横たわるようにしたなつみが銃を構えていた。
ぴたりと正確に付けられた照準に、19番の動きが止まる。
瞬間銃口が動き放たれる銃弾。
動きを止めた男の左腕から血が噴出す。
動かなくなった腕で、まだ必死に拳銃を支えようとする19番に、なつみは告げる。
「終わりだよ。右腕は多分もう動かない。殺し・・・復讐は、やっぱりあきらめられないの?」
場違いなほど穏やかで、真摯な声で告げられたそれに、19番は口元を吊り上げる。
「俺が復讐をやめるときは、俺が死んだときかお前たちが死んだときだ。お前は、甘い。ダブルがそんな甘いことを言うとはな。先生はいつも言っていた。お前に勝ちたいと。お前と闘いたいってさ。先生は多分本望だったはずだ。・・・ま、半ばだまし討ちみたいな闘いかたで、俺としては不本意だったけど」
- 250 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)01時59分27秒
- 確かに。なつみは苦く思い出す。
飯田圭織を6番が倒した隙に針を吹いた。
何度同じ場面に立たされても自分は同じことをするだろう。
6番の気持ちを知っていたとしても答えは決まっている。
それでも、「お前は俺が倒してみせる」といったときの6番の表情、利き腕が使えなくてもひたすらに突っ込んできた訳が少しわかった気がした。
あれは意地。もはや勝ち目がないことを分かっていて、だからこそ自らの仕事を支えてきた最高の技を繰り出してきたのか。
・・・馬鹿だべさ。
自分たちの仕事はそんなものではなかったはず。そんな・・きれいな・・・生ぬるいものではなかったはず。
そんなことで6番は暴走して・・・そんなことでこの男はごっちんを・・・自分を狙っていたなんて。
「殺せよ。お前の勝ちだ」
吐き気がする。
何酔ってるんだべさ。
「いや。死にたいなら勝手に死ねばいい。お前なんて殺す価値もない。もう殺しは出来ないよ。私の前に、もう二度と現れないで」
殺しは、もうしない。
そう決めた。
- 251 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)02時01分20秒
- 闘っている最中、迷っていた。
このまま生きていれば、19番は多分またわたしたちを狙うだろう。
でも、ここにいたるまでに決意したことは。
もう誰も泣くことがないようにということ。
祈るような気持ちで思った、この気持ちに嘘はないはずだから。
変わると言った。大事な人に嘘をつきたくはないから。
殺しをしないですんだことに安堵を覚えながら、なつみは身を起こす。
こんなことで・・・。
それでも行き場のない怒りとも悲しみともつかない思いが胸に広がる。
なっち、甘いかなあ・・・。
立ち尽くす19番の姿を視界の端に捉えながらつぶやく。
その、19番の動かないはずの左腕が、上がった。
なつみはすぐさま反応して銃を構える、が。
くぐもった銃声とともに、19番はくずれ落ちた。
「なん、で・・・?」
銃口を下げ、呆然とつぶやく。
答えはない。
- 252 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)02時02分21秒
- 19番の頭から静かに血のしみが広がり、公園の乾いた地面に染み込んでいくだけ。
「俺が復讐をやめるときは、俺が死んだときかお前たちが死んだときだ」
声がよみがえる。
「馬鹿っしょ・・・死んでどうするのさ・・・なんのために・・・」
一瞬、もう19番は現れないと思ったことも真実。
そんな自分に自己嫌悪を覚えながらも、悲しみと怒り、憐憫を覚えた自分もまた、真実。
思いは言葉にならず、涙が一粒こぼれた。
両方の銃にはサイレンサーがついていたとはいえ、もうすぐ昼食時。
いつ人に見つかるかもわからない。
19番の体から針を回収し、大針を拾い付着していた血をぬぐう。
のろのろと散らばった針を拾い集める。
気配を感じるが、それが見知ったものであるとわかると先に声をかけた。
「ヤグチ?」
- 253 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)02時03分06秒
- 「・・・済んだワケ?」
静かな声に背に冷汗が伝うのがわかる。
ぎいっ、と全身で振り向くと顔は無表情で全身から怒りのオーラを発した真里がそこに立っていた。
「言いたいことは山ほどあるけど・・・とにかく撤収。アヤっぺに連絡とってあるから」
真里の言葉どおり公園の入り口には彩の車があった。
2人で乗り込む。
返り血を飛ばしたなつみの姿に一瞬顔をしかめた彩は、その後から出てきた真里の姿に口をつぐむ。
後部座席に一人で乗った真里は一言も口を聞かない。
「寺で、いいでしょ?」
「う、うん・・・」
後ろをおどおどと伺いながら二人で会話する。
「わざわざごめんね、アヤっぺ・・・」
なつみの声に真里はぴくり、と眉を上げるが何も言わない。
より強い重圧を放つようになった真里の怒りオーラに、彩は肩をわずかにすくめてなつみに応えた。
- 254 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)02時06分02秒
- 寺に着き、なつみが血のついた服を着替えた後いつものように茶の間に集まる。
彩は早々にまずはお茶をいれるため、と台所に引っ込んだ。
腕を組んで座った真里に、なつみは頭を勢いよく下げる。
「ごめんなさい!」
それに大きくため息をつき、真里は組んでいた腕をときなつみに言った。
「一応、悪いことしたって自覚はあるんだ・・・。ね、なっち。ヤグチがどれだけ心配したかわかる?トイレ見に行って確認して、気配たどって一目散に公園めがけて走ったけど・・・。
なんか近づくにつれて誰かがやり合ってる気配するし、サイレンサーの銃声はするし・・・。血の臭いしたときはどうしようかと思ったよ。全部、わかって計算してやってたんでしょ」
「うん・・・ごめんなさい」
緑茶を三人分運んできた彩がため息をつきながら問う。
「一人じゃないと19番は出てこないって思ったのは予想つくけど・・・どうしてそんな急いでたの?対策も立てられたはずでしょ?第一、助かったからいいものの・・・捕まる可能性だってあるしさ」
- 255 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)02時07分13秒
- 「うん・・・このまま、放っておけばここが見つかる可能性があったし・・・ごっちんの家族も危ないと思ったから・・・。仲間も、襲撃のときと今日のカフェでの気配でいないのわかったし・・・今しかないと思ったんだ・・・」
うつむいて言うなつみに彩がお茶を差し出す。
「ねえ、なっち。なんでヤグチが怒ってるかわかる?一人で行ったからじゃないよ。まあ、それもちょっとあるけど・・・なっちの強さは一応信じてるし、こうしなきゃいけなかった理由も理解してるつもり。でもさ」
一気に言って真里はなつみに真剣な目を向けた。
「嘘、つかないで。何も言わないでどこか行ったり、誰かと闘ったりしないで。・・・ヤグチ、もう仲間を失くしたくないよ・・・もうこんな風に心配したくないよ」
悲しそうな瞳の真里になつみの目から涙があふれた。
「ごめん、ごめんねヤグチ・・・」
そのまま真里の肩に抱きつく。
「うん・・・心配したんだぞう・・・」
安心したせいか真里の目にも涙があふれる。
泣きじゃくる二人の頭に彩の手が置かれる。
「ま、まずは無事だったんだし。後は事後処理だけど・・・」
- 256 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)02時08分40秒
- 真里から離れ軽く目をぬぐったなつみが彩のほうを向く。
「針は回収してきた。問題は大針で開けちゃった穴だけかな。致命傷は拳銃だし」
「銃?なっちが!!よく当たったねー・・・奇跡じゃん!」
照れくさそうに同じく目をぬぐっていた真里が驚いて言うとなつみはかぶりを振る。
「違うよ・・・なっち、両腕を使えなくしたんだけど・・・自殺」
無表情で言葉を継ぐなつみの頭に真里は手を置く。
「そっか・・・それで」
「まあ、拳銃持使ったんだけど・・・」
「うわ奇跡・・・」
「それはちょっとひどいっしょ、アヤっぺ」
情けない顔をするなつみに彩は笑ってみせる。
「ま、これから注意が必要だけどまあ大丈夫でしょ。それよりなっち、後藤に連絡してやんなよ。あっちもそろそろ昼休み終わるよ」
「うん」
短く返事をして電話をかけにいく。
その背中を見つめ彩は真里に話かける。
「ねえ、ヤグチ・・・なっちさ、ちょっと・・・」
「心配?実はヤグチもなんだよね」
あれじゃあ、前と一緒じゃん・・・。
- 257 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月08日(火)02時09分42秒
- 残ったコーヒーを一息に飲んで彩が言う。
「昔から、こう・・・一人で背負っちゃう子だったじゃない。でもこの頃ちょっとなんか・・・。しばらくはまたなんとか平穏な日々が続くはずだし・・・」
歯切れの悪い彩に苦笑して真里も続ける。
「だよねえ。一応わかってるつもりなんだろうけどさあ。途中まではいい感じだったのにねえ・・・。いろいろあったからテンパっちゃってるのかなあ。後藤も可哀想でしょ、あれじゃ」
わかってないよねー。
二人で顔を見合わせて渋い顔をする。
「でも、さ。あたしはあんたも心配。なっちも一人で背負っちゃう子だけど、あんたは・・なんかなっちごと背負っちゃうじゃない」
優しい目。微笑んだ口元。
ふいにうれしさと懐かしさがこみ上げてきて真里は横を向いた。
「あたしもアヤっぺの結婚生活が心配―」
照れ隠しに言うと上からこぶしが降ってくる。
「いったー!」
電話が終わったのか足音が近づいてくる。
もうすぐ真希にところ皆で出かけることになるだろう。
- 258 名前:たすけ 投稿日:2002年10月08日(火)02時12分37秒
- 大量更新で、浮かれてました。
今週中に、もう一回くらい更新できたら・・・ぐらいの予定です。
- 259 名前:たすけ 投稿日:2002年10月08日(火)02時31分10秒
- 内容をある程度隠すために。
ようやく19番の影も去り、一安心の二人。
でも二人の間にはもう一波乱、二波乱。
「ねえ、ごっつぁん。ちょっといいかな?」
「ん?なに、よっすぃー?」
「自販機いかない?のどかわいたし・・・話したいことがあるんだ」
次回a color 「アタシとカノジョ。」は
「アタシと青いソラ。」
見てください。
「・・・とりあえず、屋上でも行こうか」
・・・の、予定です。
次回予告、大失敗。
- 260 名前:52 投稿日:2002年10月08日(火)19時08分23秒
- かっけぇー!!
- 261 名前:たすけ 投稿日:2002年10月10日(木)13時53分59秒
- 更新します。
>52さん
レスありがとうございます。
>かっけぇー!!
お褒め下さり、ありがとうございます。
完結まで、このペースでがんばります。
- 262 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)13時55分19秒
- 「ねえ、ごっつぁん。ちょっといいかな?」
「ん?なに、よっすぃー?」
ポテトチップスをかじりながら机に向かっていた真希が椅子に寄りかかるようにして顔を上げると、少し眉を寄せ、困ったような顔をしたひとみが立っていた。
「自販機いかない?のどかわいたし・・・話したいことがあるんだ」
「いーよ」
少し眠たげな目をした真希はそのまま立ち上がる。
室内には裕子、圭織、真希とひとみしかいない。
真希とひとみが連れ立って席を離れると、裕子がそれを視線を上げて見送る。
ひとみは何か言われるかとひやひやするが、予想に反して裕子は何も言わなかった。
部屋を出て、廊下を少し行ったところに自販機はある。
先に立って無言で歩いていたひとみは真希にそこでようやく声をかける。
「何か買う?」
「んー・・・いらない」
「そう」
短い会話をし、ひとみはコーヒーを選ぶと真希に向き直った。
「ごっつぁん、今日変だよ。・・・っていうか、このごろ変だよね」
自販機の前にあるソファーに腰かける真希の目をしっかり見つめる。
少し薄暗い廊下に、白い光。
それに照らされたひとみの顔はいつもよりもなお白く見えた。
- 263 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)13時56分51秒
- 「それはさ、針のせいなの?」
ゆっくりと真希が顔を上げ、少し目を細める。
「あのさ、なっちを針ってもう呼ばないでくれる?それに・・・あたし、変かな?普通だよ」
その硬い声に気圧されながらも懸命にひとみは言葉をつなぐ。
「変っていうか・・・。はっきり言うね。どうして針なんか好きなの?ごっつぁんが針のことどうしても好きなら、友達として認めなきゃと思ってた。あたしもりかちゃんが好きだもん。でもさ、このごろごっつぁん辛そうだよ。おかしいよ。あたし、どうしても認めらんない。安倍さんは針で、針は・・・暗殺者だったんだよ」
「そうだけど・・・!」
顔をゆがめ真希は立ち上がる。
「針はあたしたちの敵だったんだよ!針のせいで何回仕事失敗したと思ってんの?何人が死んだと思ってんの?そりゃさ、中澤さんだって組織の人間だったからって納得しようとした。けどやっぱり無理。そんな人認められない。ごっつぁんが苦しむこと、ない」
「なに勝手なこと言ってんの?針、針って・・・。なっちのことなんにも知らないくせに。
なっちだって好きで暗殺なんかしてたんじゃない!あんな苦しそうなのに・・・あんな苦しんでるのに、事情も知らないのにそんなこと言わないでよ!あたしのこと、心配してくれるのはわかるよ。でもそうならなっちのこと悪く言うのはやめてよ!」
そのままにらみあう。
- 264 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)13時59分10秒
- 先に視線をそらしたのは真希だった。
「あたし、仕事あるし先戻る」
それだけ言ってきびすを返す。
後にはほとんど減らないコーヒーを持ったひとみが残される。
大きくため息をついて、さっきまで真希の座っていたソファーに腰を下ろす。
「あーあ」
頭に手をやり、コーヒーを一口。
なにを言いたかったのか自分でもわからなくなっていた。
ほんと、うまくいかない。
- 265 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)13時59分59秒
「ねえ、裕ちゃん・・・後藤たち、帰ってこないね」
「ん?そうやね・・・」
真希とひとみが出て行った後の室内。
少しの間宙を見つめいわゆる、交信状態にあった圭織にいきなり声をかけられた裕子は読んでいた書類から目を上げ、瞬きを繰り返す。
「裕ちゃん、老眼?」
「違うわ!失礼な・・・元はといえばカオリがいきなり声かけるからやろ?」
長い髪をかきあげ圭織は笑う。
「針・・・安倍、なつみさん?のこと、調べさせてもらった」
話の飛び具合にもう一度目を瞬かせ、裕子は眉を寄せる。
「なんて?」
「や、カオリさ、気になってたんだよね。どっかで聞いたことある名前だし、どっかで見たことある顔だってさ。で、ずうぅっと考えてたんだけど」
穏やかな顔と声で続ける。
「あの子、なっちだったんだね」
- 266 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時01分52秒
- 「はい?」
いや、なっちだったんだね、って・・・後藤もあたしも何回もその名前を口にしましたけれども。
「カオリだって知ってるよ、それぐらい。や、だから・・・カオリとなっちは、幼馴染だったんだよね。んー・・・幼馴染ってゆうのも変か。小さいころ一緒に遊んだだけだしね」
「え?カオリ、それどういうことなん?」
思わず立ち上がる裕子に座るよう目で促す。
「カオリ、ちょっとだけ覚えてる。よく笑う、小柄だけど活発な子。自分のことなっちね、なっちね、って言って。カオリと同じ病院で生まれた子でさ。偶然って。カオリ、その後すぐ引っ越したんだけど・・・。一回、親の用で戻ったときに会って・・・遊んだ。数回だけど」
遠い目をして語る彼女はいつもの彼女よりも少し幼く見えた。
「その後、待ってたけどその子・・・待ち合わせの場所に来なくなって。そこのおうちの人が亡くなったって・・・その子が、一人になったってずいぶん後で聞いた。その後、その子もいなくなったって・・・多分、だから忘れなかったんだと思う」
裕子はため息をついて椅子にもたれかかった。
- 267 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時04分33秒
- その様子を横目で見ながら、圭織は続ける。
「ショックだったよ・・・。それまで、忘れてたんだけどさ。あの子が、あんな子が人殺しをしてたんだよ?させられてたんだよ・・・。この仕事続けてるのも、それがちょっと関係してるのかもしれないって、この頃思ってさ。で、カオリ考えたんだ。ごっつぁんは悪くないよ。なっちも、悪くない。いや、悪いかもしれないしれないけど・・・ごっつぁんとなっちは悪くないよ」
真剣な顔で指を折りながら離す圭織に、裕子は姿勢をただし机の上に両手を組み、問う。
「つまり・・・自信が無いんやけどなっちのこと、カオリは好きってことか・・・?で、なっちと後藤のことカオリは認めるっていうことか・・・?」
その言葉に圭織は難しい顔をして首をかしげる。
「いや、認めるとかって違う気がするんだけど・・・。カオリは、わかるようにするし、見守るしって事かな・・・。今、みんなが困ってるのもそこだよね」
向けられた優しい微笑みに、裕子は驚く。
「サヤカも、今一生懸命ごっつぁんを見守ってるよね。なるべく遠くから。ごっつぁんももう一人前なんだからってさ。圭ちゃんも。二人で手、出さないように必死でさ。裕ちゃんも、みんな。だからさ、カオリも」
成長したなあ・・・。昔のカオリなら、なっちのことがあっても絶対に「おかしい」と言って後藤に食って掛かっていたはず。
「そうやな」
なにより、吉澤をはじめ皆の困惑を見抜いていたこともうれしかった。
なにやら満足そうにうなずく圭織にもう一度つぶやく。
「そうやな・・・」
- 268 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時06分16秒
「ひとみちゃん」
そっと響く足音とさえぎられた光にひとみは伏せていた顔を上げる。
「りかちゃん・・・」
どこか苦笑いを浮かべた梨華に、ひとみは少しだけ笑って見せた。
「聞こえてたよ?」
指ですぐそこの情報処理室をさすと、ひとみの顔もばつのわるい苦笑いになる。
「んー・・・」
うなるひとみの隣に梨華は座る。
「・・・ひとみちゃん、ごっつぁんが心配だったんじゃないの?」
「そうだよ」
素直さはひとみの美徳のひとつ。
「じゃあ、あんなこと言っちゃ駄目だよ」
お姉さん顔になっている梨華見上げてため息をひとつ。
「けどさあ・・・だって、そうじゃない?りかちゃんだってそう思わないの?」
整った顔を見事にゆがめ、眉を八の字にしてみせる恋人に苦笑を返す。
「だからって・・・安倍さんにも会ってないのにあれはないんじゃない?ひとみちゃんはごっつぁんの友達でしょ?だったら、よけいだめだよ」
- 269 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時07分17秒
- 「んー・・」
またうなるひとみの頭に手を置くと梨華は真剣な顔で言う。
「多分さ、ひとみちゃん・・・友達を取られたような気がしてるんじゃないかな・・・。ごっつぁん、確かにこのところずっと上の空だったし」
「違うよ!」
反射で言ってからすぐに苦しそうな顔になり、言葉を続ける。
「・・・・・・嘘。そうだね・・・そう、かもね・・・」
また顔を伏せてしまったひとみの髪を、梨華は丁寧になでる。
「・・・しい」
「え?」
小さく聞こえた声を聞き返す。
「悔しい。あたし格好わるいよー!ううー・・・」
頭を抱えるひとみに梨華は笑う。
「・・・いつものことでしょ」
頭の上から聞こえた声に顔を上げる。
「・・・りかちゃん、ひどいよ・・・あたし、ごつぁんに謝ってくる」
思い立ったら即実行。
勢いよくひとみは立ち上がると、歩きだす。
「あ!ねえ、次はあたし格好よくりかちゃんの悩み、相談にのるよ!」
だから、待ってて!
振り向きざまに言われた言葉に、笑顔を返す。
たまに情けない顔もするけど、わたしのひとみちゃんはとても真っ直ぐで、かわいい人。
うれしくて、大きな声で返事をした。
「うん!」
- 270 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時11分17秒
いささか乱暴に開かれた扉に、裕子と圭織、真希は驚き、一斉に振り返る。
「ちょ・・・どうしたん?」
問う声に固い声で謝り、真希のそばに行く。
「ねえ、ごっつぁん」
机のそばに立つひとみを、真希はにらみつけるように見る。
「なに?」
低い声で返され、少しひるみながらもひとみは勢いよく頭を下げた。
「ごめん」
裕子は頬杖をついてそれを見守り、圭織はひとみをちらと見たきり、自らの仕事へ戻っいる。
「・・・とりあえず、屋上でも行こうか」
真希は立ち上がり、ひとみの先に立って部屋を出て行く。
扉は、今度は静かに閉められた。
- 271 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時12分27秒
- 「で、よっすぃー、いきなりどうしたの?」
表情はまだ固いものの、普段に近い声音で問う真希に、ひとみはすこしほっとした顔をする。
ほんと、嘘の付けない人なんだから。
「あのさ・・・言い過ぎたと思って。ごめん。安倍さんのこと、何も知らないのは確かなんだし。ほんと、ごめん。りかちゃんにも言われたんだけど・・・嫉妬、なのかもしれない」
りかちゃん、との声に少し眉を上げた真希だが、意外な言葉に思わず間の抜けた顔をする。
「は?」
「だから・・・このごろごっつぁん、安倍さんのところばっかり行ってて・・・ぜんぜん遊んでないじゃん。あたしもさ、りかちゃんがいるからすごい勝手なんだけど・・・。友達、取られたような気がしてたからあんなこと言っちゃったんだと思う。ごめん」
- 272 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時14分20秒
- 「ふっ・・・」
響いた声に顔を上げる。
「あはははは・・・よっすぃー、普通思ってもそんなとこまで言わないよ」
「そうかなあ・・・?」
難しい顔をするひとみに真希は笑顔で答える。
「そうだよぉ。あはははは・・・ごめん。あたしも、悪かった。心配してくれてるの、ほんとはわかってたんだ。ごめん。・・・そうだね、このおろあたしなっちのことばっかりだったかも。いちいちゃんも、圭ちゃんも、裕ちゃんもよっすぃーも圭織も、りかちゃんも辻も加護も。みんな、ごとーのこと考えてくれてたのに。周りが見えてなかった。ごめん」
途中から真顔になった真希と二人で頭を下げあった。
空はどこまでも高い青空。
二人の今の気持ちと同じだった。
「おおい、ごっつぁんー、電話鳴ってるよー」
「あ、カオリごめん!」
置きっぱなしだった携帯をわざわざ持ってきてくれた圭織に礼を言う。
「着信、なっちだってさ」
「ごっつぁん、今度安倍さんに会わせてねー!」
「あ、カオリもー」
にぎやかな二人の視線を気にしながら、真希は逃げるように室内へ通じる扉をくぐった。
- 273 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時17分16秒
電話を受けた後仕事をすぐに抜け、真希は詳しいことを聞くために廃寺を訪れていた。
秋の気配が強まった寺の外見は相変わらず。
今にも傾きそうな本堂に崩れ落ちそうな外壁。
なつみたちは寺の外見を直す気はないらしい。
外見は今までどおり目立たない廃寺にしておいたほうが、存在が世にはばかるなつみたちにとってはいろいろと都合がよいからだ。
なつみの庭いじりもそれに配慮したものになっている。
真里が庭へ出て行く姿を母屋の縁側に座り二人で眺める。
秋の風が二人の間をすり抜け、日差しが庭に濃い影を作っている。
まだなつみは何も真希に話していない。
少し重い沈黙と、少し空けられた距離が二人の心の距離のように感じて真希は切なくなる。
朝の悲しみがまた頭をもたげる。
「ごっちん?」
気付くと呼びかけられていた。
心配げな表情でなつみがこちらを見つめている。
- 274 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時18分04秒
- ・・・心配なのはこっちだよ・・・。
言葉を飲み込み、なつみの腰に手を回した。
「ちょ・・・ごっちん?」
どうしたのさ?
力の強さに驚いたのかなつみが動揺して問いかけてくるが真希は答えない。
しっかりなつみの体を抱きしめる。
伝わる体温に少し安心する。
これで体の距離は縮まった。
でも、心は。
なつみの手が真希の頭にのせられ、そっと髪をなでる。
その優しい動きに飲み込んでいた涙が出そうになる。
情けない顔を見られないようになつみの腹部に顔をうめ、真希は一滴だけ涙をこぼした。
- 275 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時21分59秒
―大事なことは、もうだれも失わないということ。
もちろん、自分も含めて。
寺の裏へ回る。
そこには組織に居たころとはくらべものにならないものの、訓練が出来る場所がある。
大きな木を使い作った的に、手を当てる。
ヤグチが使用し、何度も代えた的。
どの的もナイフの跡は中心を一回もはずしていなかった。
何個目かわからない的のナイフ跡を手でなぞる。
夕日が傾き、残照が当たりを染める。
オレンジに染まった自らの手。
一瞬、その手が真っ赤に見えた。
よみがえる臭気。
体を見下ろすと、真っ赤だった。
慣れてしまった手ごたえすら感じる。
「っ・・・」
冷や汗が出る。
叫びだしたい気持ちを押さえ込んで手をこする。
静かに目を瞑り、深呼吸。
両手を体に回し、自分を抱きしめる。
口の中を探り、二の腕の辺りを確かめる。
今そこにソレはない。
大丈夫。
なにが平気か自分でもわからないまま、自分に言い聞かせる。
すこし自分が落ち着いたことをたしかめつつ、そっと目を開ける。
変わらない、自分の手。
ゆるゆるとため息を吐き出したあと、泣きたくなったが耐える。
これも自分の背負うべきもの。
- 276 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時23分51秒
- 思い出すのは今朝のこと。昔のこと。
大針の手ごたえ。ナイフの感触。
そして初めて当たった銃撃と、目の前で散る火花、火薬の臭いと反動。
ゆがむ、顔、顔、顔。
赤、赤、赤。血の臭い。
この真っ赤な手を与えたのが組織ならば、それでも狂えない、それに耐えることが出来る精神を与えたのも組織。
皮肉な思いがよぎる。
「ふふふ」
小さく笑いがもれる。
時間がない。
少しでも強くならないと。
衰えた勘を取り戻さないとまた大事な人を危険にさらすことになる。
まだ、殺しをするかもしれない。
そのことが今朝のことでよくわかった。
ナイフはあのこと以来使うと気分が悪くなるけれど。
針は目立ちすぎて自分の生存を誰かに知らせることになるからもう使えないし。
確実でない拳銃も今よりも厳しい練習が必要だし。
これしか、もうないんだよ・・・。
自分に言い聞かせてナイフを握る。
とりあえず投擲用を選んできた。
的に向かう。
無心とは程遠い心境だけど、集中を心がけて。
・・・アスカ・・・。
今、どこで何をしてるの?
今度こそ、なっちはアスカを助けてあげられるのかな・・・―
- 277 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時26分19秒
夕飯は真里の担当になっていた。
ほとんど睡眠をとっていなかった真希は、縁側近くでそのまま昼寝をしてしまっていた。
お客とはいえほとんど居候の身の真希は起きてそのまま真里を手伝う。
「ごっつぁんって結構料理うまいよねー」
小さいなつみと真里に合わせてか、調理台は低く作ってある。
そっとタイルをさわる。
「まーね。・・・ねえ、これ作ったとき楽しかったね・・・」
調理台を軽く叩いて真希が言うと真里は笑った。
「ほんとだよ。なんか個性でてるよねえ」
彩のつてで材料を手に入れてなつみ、真里、彩、真希、裕子まで参加して皆で作った。
貼られたタイルに皆の努力がうかがえる。
真希が調理台を低くするよう言ったときのなつみのうれしそうな顔を今でも覚えている。
ぼんやりしている真希に真里が声をかける。
「ごっつぁん?大丈夫?なんか今日ぼおっとしてるね」
気持ちがわかるような気がするけど。
「なっち呼んできて。ご飯だよって」
「はあい」
言われて、真希はなつみのいるらしい本堂裏へ向かう。
- 278 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時28分47秒
- 連続して聞こえてくる風をきる音。
何かが刺さる音。
本堂の影から顔をのぞかせるとなつみがいた。
真剣な顔で投げに使われるナイフを握っている。
視線の先には中央に小さめの的がいくつかかけられた大きな木。
ナイフを的めがけて投げるのだが命中率はあまり良くなさそうだ。
「ごっちん?」
前を向いたままこちらを一瞥もせずにかけられた声に驚く。
「うん・・・ご飯だよ」
相変わらずのその気配への敏感さと真剣な横顔に、なつみが暗殺者として生きていたころの姿が伺えて真希は悲しみに少し顔をゆがめる。
影から出てなつみのそばに行く。
額の汗をぬぐい、なつみは真希を見て苦笑いをした。
「なっちやっぱだめだねー・・・ぜんぜん当たんないよ」
「針は・・・もう使わないの?」
ためらいがちに聞くとなつみは手元のナイフを眺めた。
「うん・・・もう使わないって決めたんだ・・・」
「どうして?」
あいまいな顔をしてそれでも笑うなつみに真希は少しいらだちを覚える。
- 279 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月10日(木)14時29分35秒
- 「あれ使うと2番が生きてるってばれちゃうかもしれないっしょ?」
なんでなっちはいつもそう・・・
声にならない思いをかみ殺す真希の表情に手元のナイフを見ているなつみは気付かない。
「ナイフもうまく使えないし・・・強くならなきゃいけないんだけど・・・」
「そう、だね・・・」
それだけを口にして真希はなつみの手をとる。
瞬間、なつみはびくっと反応して自らの手を見る。
「ちょっと、どうしたの?なっち」
「んー・・・」
首をかしげ、軽く手をふっているなつみに真希は心配そうな顔を向けた。
「いやーなんか慣れないことしたからなっち疲れてるみたいんなんだわ。ごめんごめん」
言って、なつみは笑顔で真希の手をとる。
「行こっか、ごっちん」
「うん。やぐっつぁんが待ちくたびれちゃう」
「ご飯冷めちゃうしね」
刺さったナイフを回収し二人で母屋へ向かう。
少し強めになつみの手をひき、前を行く真希の顔は暗かった。
- 280 名前:たすけ 投稿日:2002年10月10日(木)14時31分47秒
- 今週分、更新終了です。
- 281 名前:名無し 投稿日:2002年10月10日(木)16時54分36秒
- 大量更新、お疲れ様です。
次回予告がついてたのもいいですね。
ますます話に夢中ですよ!
- 282 名前:たすけ 投稿日:2002年10月15日(火)20時43分09秒
- >281 名無しさん
レス、ありがとうございます。
苦し紛れにつけた次回予告でしたが、そう言っていただけて何よりです。
・・・もうしない予定だったんですが・・・。
今回、付けてみます。
ではちょっと少ないながら更新です。
- 283 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月15日(火)20時44分50秒
- 夕食後、真里となつみは二人で真希に19番のことを説明した。
終始無言の真希に、真里となつみは声をかけられず、皆で黙り込む。
気まずい雰囲気のまま、夕食の片付けは真里が引き受けた。
「なっち、本堂いこ?」
暗いながらようやくかけられた声に、なつみは少し安堵の表情をみせる。
「うん」
暗いから気をつけるんだぞーという真里の言葉に返事をして、二人で月明かりを頼りに歩く。
今日は満月。
庭は青白い月光を浴びて明るく光る。
本堂前の渡り廊下で真希は立ち止まる。
なっち。
声に、なつみが振り向く。
- 284 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月15日(火)20時46分46秒
- 「ごっちん?」
「・・・く、したでしょ」
低いちいさな呟きになつみは少し眉をよせ聞き返す。
「え?」
「約束したよ、なっち。悲しいこととかあったらごとーに言ってくれるって。退院してからずっと何悩んでるのさ。それに・・・何、隠してるの?わかるよ、それぐらい。そんなにごとーのこと信用できない?・・・なっちや、やぐっつぁんよりも弱いかもしれないけど・・・ごとーだって自分のことぐらい守れるよ」
その目の語る悲しみになつみは何も言えなくなる。
風に庭の草がざわざわと鳴る。
「そんなこと、ない!信用してる!けど・・・だけど不安なの!大事だから・・・ごっちんを失いたくないから・・・」
- 285 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月15日(火)20時54分03秒
- どう伝えればいいのだろう。
最後に気付いて踏みとどまったものの、自然に急所を狙い人を殺しそうになった昨夜。
もう人を殺すことを止めたはずの自分。
そして今朝。
このまま、また2番に・・・ダブルに戻るのかもしれない。
殺さなければいけない状況。
やはり殺しでしかこの暮らしを守れないかも知れないという葛藤。
まだ引き金を引いた瞬間の感触や臭いが残ったこの手で。
針を吹いたこの口で。
血にまみれたこの体で。
ごっちんにさわってもいいのかな・・・?
ごっちんと一緒にいていいのかな・・・。
しあわせで、いいのかな・・・。
わかっている。わかっているけれど。
結局、何も変われていないことに気付いたなんて。
好きだから言わないと。
好きだから言えない。
- 286 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月15日(火)20時54分55秒
- 「ないから・・・?」
好きだから言ってほしい。
好きだから聞きたい。
ねえ、思ったこと、感じたこと。
ちゃんと教えてよ。聞きたいよ。
ささいなことでも聞きたいんだよ。
好きだからなのに・・・こんなに好きなのに・・・。
心に大きな不安がある。
なっちにとって一番大事なのはやぐっつぁんなんじゃないかって。
一番心を許して、一番となりにいたから。
ごとーはいつまでたってもやぐっつぁんに勝てないんじゃないかって。
好きだから言えない。
それでも、信じてる。信じたいよ、なっち。
そう言いたいのに・・・どうして・・・。
「・・・守らせて、くれないの?」
「だからっ・・・」
どうして・・
声を詰まらせて黙る真希に手を伸ばし、しかし果たせず自らの手を握りこむなつみ。
真希は黙って庭を見ている。
そのまま二人で黙り込む。
秋の風が、吹きぬけた。
- 287 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月15日(火)20時58分11秒
- 「ごっちん、なっち行ってくる。帰りは明け方。・・・ごめんね」
なつみはそっと部屋をでる。
返答はなかった。
「ちょっと・・・なっち。今日ぐらいいっしょにいてあげなよ」
「だめだよお・・・アスカがどこか行っちゃうかもしれないし・・・それに・・・」
なつみは助手席でため息をつく。
「・・・なんだよう」
「・・・なんでもない」
今度は運転席の真里がため息をつく。
そろそろなつみ達がアスカらしき人を見たという公園に着く。
「なんもないわけないじゃん。二人して沈んじゃってさあ。ごっつぁんせっかくの休みなんだよ?無理やり一週間とか取ってくれたのにかわいそうじゃん!」
「・・・した」
なつみは窓から半ば身を乗り出してそっぽを向いている。
「安倍さーん、聞っこえませーん」
「喧嘩したの!なっちがいっしょにいないほうが今はいいの!アタマ、冷やすの!!」
叫んで恥ずかしさに顔を赤くしたなつみは、そっぽを向いたままふくれっ面をして真里に問う。
「ヤグチこそどうなのさ」
「順調っすよ?」
にやっと笑う真里の腰あたりになつみは軽くパンチを一発あて、もう一度そっぽを向く。
「ったく相変わらず・・・」
ぜんぜん冷えてないじゃん。
- 288 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月15日(火)20時59分15秒
- 車が止まる。
「何さヤグチ」
なつみはきっ、とふくれ面のまま真里をにらむ。
「いや、到着。昨日は車で待ってたから今日は歩かないかと思って。・・・話も聞きたいし」
「笑いたいなら笑えばいいしょや」
なつみが言った瞬間。
にまあ、としか表現できない笑いを浮かべた真里をなつみが小突く。
「ちょ、痛いってなっち。わかったわかったって!聞くからちゃんと」
二人が同時に表情を変える。
違和感、その後明らかな気配。
風に乗って二人に届いた声は
「ヒサシブリ」
だった。
- 289 名前:たすけ 投稿日:2002年10月15日(火)21時11分02秒
- 忘れ得ぬ声、忘れえぬ気配。
白い、仮面。
「うそ・・・」
消えた、大切な妹分。
「なんで私たちがやりあわなきゃいけないの!?」
月明かり、反射する鋼の色。
「これはビジネスだよ?」
次回、a color 「アタシとカノジョ。」
『仮面の、シタ。』
見てください。
「なっち忘れた?こういう時、死にたくなきゃ闘うしかないんだよ」
- 290 名前:52 投稿日:2002年10月16日(水)13時05分08秒
- いよいよあの人が登場ですね。
相変わらず、痛くて、痛くて、痛いなぁ。
- 291 名前:たすけ 投稿日:2002年10月18日(金)03時02分04秒
- >52さん
レス、ありがとうございます。
痛いですか?いや、あんまり痛くないはずです(w
・・・多分。
では更新します。
- 292 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時03分44秒
- 忘れえぬ声。子供のころから慣れ親しんだ明らかな気配。
「アスカ?」
そっと聞く真里の前に風が起こる。
真里となつみは一歩退く。
そこに現れる人影。
白い仮面。
情報が真実だったことを知る。
二人の胸に湧き上がる喜びと不安。どうやって生きてきたのだろう。どうしてまだ仮面をかぶっているのだろう。複雑な胸中。
「やっぱり・・・アスカ・・・腕上げたね」
寂しそうに笑うなつみに少女はその仮面を取り無表情に言う。
「そうかな?普通だよ。元気だった?」
3年ぶりだというのにあっさりした声。
「変わんないね、アスカ。元気だったよ。アスカは?仕事の途中でいなくなって・・・助けられなくて・・・あれからなっちもヤグチもずいぶん探してたんだぞ!・・・ねえ、ずっとどうしてたんだよ?」
切れ長の目、無表情。
以前の面影そのままに、しかしずいぶんと綺麗になった気がするその姿。
真里の問いに口元だけで微笑んで明日香は答える。
「暗殺に失敗して・・・福田に引き取られてた」
- 293 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時05分38秒
- 「うそ・・・」
なつみと真里の顔がこわばる。
福田は明日香が暗殺に入った家。
裏社会での権力は日本屈指のものがある。
福田は香港系の組織と対立し、以前は福田家の係累が毎回ターゲット候補に挙がってくるほどの大物だった。
それもアスカが姿を消すまでのこと。
なつみと真里はてっきり組織がアスカの失敗をもって福田の家をつぶすことを諦めたのかと思っていたのだが。
「ほんとほんと。結構親切にしてくれたよ?福田があたしを引き取りたいって言って、極秘にじい様と取引したみたいだね」
「それって・・・」
なつみが声を詰まらせる。
ていのいい人質交渉。
何度組織に明日香の捜索を主張しても拒絶され、その後監視まで付けられた訳がわかった。
「で、今あたし福田の人間なんだ。ひさびさの任務は組織の残存勢力の排除。・・・ねえ、なっち、やぐっつぁん。あたしとやり合わない?」
- 294 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時07分20秒
- 「は?」
思わずなつみが聞き返したときには明日香はもう仮面を被り、間合いをとって跳んでいた。
真里は無言でナイフを取り出し、抜き放つ。
「アスカ!なんで私たちがやりあわなきゃいけないの!?アスカはそれでいいの?」
「相変わらず甘いねなっち」
声とともにナイフが飛んでくる。
なつみはそれを懐から取り出しまだ鞘から抜かれていないナイフで叩き落す。
そのナイフは明日香が昔練習に使っていたもの。
19番と対峙したときに使ったもの。
―ちょっとはこれで練習したほうがいいよ?
呆れたような声とともに渡されたもの。
「あれ?そのナイフまだ持ってたんだ・・・もしかしていろいろ練習した?ちょっとうまくなったね」
落ち着いた声。
「これはビジネスだよ?」
涼しい眼は変わらない。
- 295 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時09分05秒
- 真里がナイフを構える。
「ヤグチ!」
前を見つめる真里の顔は見えない。
「なっち忘れた?死にたくなきゃ、強くなるしかないんだよ。こういう時、死にたくなきゃ闘うしかないんだよ」
手にした小ぶりのナイフを一振りする。
金髪が月明かりに反射して静かに光っている。
その整った顔も月光を反射し、あくまで白い。
「やぐっつぁんが正しいよ」
声と共にまたナイフが飛んでくる。
真里は高い跳躍でそれをかわし、着地後明日香めがけて突っ込んでいく。
流麗なその動きには無駄というものがまったく無い。
腕はそのまま。動き、スピード、非の打ち所がない。
闇をわたる影、ちいさな死の名にふさわしい。
凍りついたように動かないなつみめがけて明日香の放つナイフが飛んでくる。
一瞬の間に明日香となつみの視線が交錯する。
すがめられた明日香の目の色に愕然とする。
何の感情も伺えない目。
- 296 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時14分48秒
- 横に飛んでかわす。
真里は明日香の蹴りを受けて大きく離されていた。
その隙に明日香はなつみめがけ跳ぶ。
すこし伸びた黒髪が大きくなびく。
組織の中でトップクラスだったその戦闘力はやはり衰えていない。
一回の跳躍でなつみの目前に迫るとその勢いを殺さずひねりをいれた回し蹴りが放たれる。
十分体重の乗った蹴りをなつみは右腕でガードする。
鈍い音が響く。
顔が近づく。
「そんなサボってた訳じゃないんだね」
明日香はにやっと笑う。
「安心した」
言い置いてナイフでの一撃。
横なぎに振るわれたそれをぎりぎりで身をかがめかわし、なつみは後ろへ大きく跳ぶ。
二人の体が離れる。
「・・・針、つかわないの?」
- 297 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時15分55秒
- なつみはゆるゆるとかぶりを振った。
「使わない」
「どうして?」
すでに立ち上がっていた真里もこちらを見ていた。
「目立つから?」
「・・・それもあるけど・・・」
明日香はあきれたように息を吐く。
「どうせ殺したくないとか思い出したくないとかって理由なんでしょ」
なつみは息をのむ。
「わかるよそれぐらい。長い付き合いだったし・・・それに実はあたしもそうだった」
明日香は付けていた仮面をはずす。
真里が二人のほうに歩いてきた。
- 298 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時16分33秒
- 「福田は暗殺者としてじゃなく娘としてあたしを扱ってくれた。最初は疑ってたし・・・隙を見て逃げようかと思ってたけどさ。連絡を取ろうとしたけど、出来なかったし。・・・でも、初めて一人の人間として扱われた。それから・・・夢を見るようになった。ナイフも、拳銃もてなくなった。それでもさ」
明日香は拳銃を取り出した。
「あたしたちが生きていくにはまだこれが必要なんだよね。それがわかる事件があってさ。したことは変わらないし、物は物、力は力だよ。使う人しだいって事」
そこまで話して明日香は笑う。
優しい、でも少しいたずらな印象を残す笑顔。
「ま、そんなのわかってるとは思うけどさ。組織が無くなって福田に頼んで情報集めてたら残存勢力がまだあることがわかってさ。見に行ったらなっちたちをつけてるやつがいるじゃない。びっくりしたね。なっちたちが生きてるのもうれしかったけど。不安になって見ていたら案の定あれだしさ」
拳銃とナイフをしまう。
- 299 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時18分04秒
- 「心配でここんとこまともに学校行けなかったよ。でも良かった。一応幸せそうじゃない」
真里もナイフをしまっている。
「この前テレビでやってた拳銃の殺人って、アスカ?」
真里の問いに明日香はかるく首をすくめる。
「まさか。もうやめたよ、そんなこと」
「・・・アスカ?」
ようやく口を開いたなつみに明日香が笑う。
「だから、やりあわない?って言ったじゃん。べつに殺すとか言ってないよ?」
「まさか・・・」
なつみは蹴りを受けた後すぐに攻撃を止めていた真里のほうを向く。
にやっと笑って真里はうなずく。
「そういうこと。なっち、それいい加減しまったら?」
なつみの構えたままのナイフを指差す。
「なんかさ、夜に19番と闘ってたじゃない?そん時不安だったんだよねえ・・・サボってるんじゃないかって」
だから、試させてもらいました。
「言ったでしょ?ビジネスだって。あたしに負けちゃうようじゃまずいってことだし。本気でさせてもらいました。・・・テスト代は、またもらおうかな」
- 300 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時19分53秒
- ぎこちなくナイフをしまうなつみに明日香が続ける。
「残存勢力の排除もほんとは仕事じゃないんだ。あたしが勝手に見張ってるだけのこと。なっち、ものは考えようだって。確かに針は目立つから使うのはよくないけど・・・そのせいで死ぬのは馬鹿だよ。ナイフももっと練習したほうがいいし、なんなら体術も練習つきあおっか?大切な人、守りたいでしょ?泣かせたくないでしょ?」
「大事って・・・どうしてわかったの?」
のろのろと顔を上げたなつみに明日香と真里は笑う。
「わかるよー」
「だってあんなめろめろの顔してりゃねえ・・・」
「めっ・・・」
真っ赤になったなつみに、二人はますます笑みを深くする。
- 301 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時21分07秒
- 「あれでどうしてごっつぁんはわかんないんだろうね?なっちがごっつぁんにめろめろってこと」
「ちょっとヤグチ!その表現やめてほしいべさ」
「いや、あたしもあんなしまりのない顔のなっち初めて見たよ」
「アスカ!」
「「だからさ」」
声が重なる。
「もう、安心させてやんなよ。なっち、言わなきゃいけないことまで言わなさすぎだって」
「かわいい彼女、大事にしてやったら?」
「アスカ、なっちたちのこと変だと思わないの?」
明日香は不安そうに尋ねるなつみの頭をぽんぽんとなでてやった。
「んー・・・あんな顔で笑われたらねえ・・・。組織にいたころとさ、なっち笑い方がぜんぜん違うもん。すぐわかったよ。それにそういうことはあたしが口をはさむことじゃないでしょ。本人たちが幸せならそれでいいじゃん。あとはなっちの問題でしょ」
- 302 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月18日(金)03時22分37秒
- 遠くのほうで車が止まる音がする。
「あ、迎えだ。そろそろ行かなきゃ。あれで福田も心配性なんだわ」
「大事にされてるんだよね?」
真里の言葉に明日香が笑ってうなずく。
「まあね。じゃ、もう行くね」
言い置いて手を振って去る明日香に手を振り返し、真里が言う。
「また近いうちに遊びにきてよ!残存勢力のことも気になるし。情報交換もかねてさ」
「絶対行くー!」
振り向いてもう一度手を振り、明日香は車に乗り込む。
車を見送り、なんとなく無言になり二人で明け方前の藍色の空を眺めた後、真里が振り返る。
「帰りますか」
「うん!」
なつみの大事な、彼女の元へ。
- 303 名前:たすけ 投稿日:2002年10月18日(金)03時29分37秒
- 深まる秋にゆれるススキ。
高い空に、穏やかな風。
生きる限り、生活は続く。
長くお付き合いいただいたこの話も、最終回を迎えることができました。
次回、a color「アタシとカノジョ。」
最終回『アタシと、カノジョ。』
見てください。
「おかえり、なっち」
- 304 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月19日(土)03時00分36秒
- すごい!!の一言です。
次回最終回なんですね。
ものすごく残念ですけど、最後期待してます。
がんばってください。
- 305 名前:いち読者 投稿日:2002年10月19日(土)23時19分49秒
- こんなに凄い小説に、どうして今まで気付かなかったのだろう…(w
最初の出会いのシーンから、引き込まれるようにして熱心に読んでしまいました。
次回で最終回というのが残念です。でも楽しみです。
- 306 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月21日(月)03時16分54秒
- レスは初めてですけど、最初から楽しみに読んでました。
とうとう最終回ですか。。ちっと淋しいっす。
なんか情況が頭に浮かんでくるきれいな文章ですよね。
迫力あって引き込まれるし。
あと、登場人物敵味方それぞれに正義?があるのもいいなぁ。説得力があって。
最後に甘々ななちごま期待してます。がんばってください。
- 307 名前:たすけ 投稿日:2002年10月23日(水)18時06分31秒
それでは「アタシとカノジョ。」の最終回です。
>304 名無し読者さん
レス、ありがとうございます。
残念と言っていただけて、うれしいです。
がんばります。
>305 いち読者さん
レス、ありがとうございます。
最初から読んでいただけたとの事、ほんとうにありがとうございます。
誤字、多くてすみませんでした。
番外編もお付き合いくださるとうれしいです。
>306 名無し読者さん
レス、ありがとうございます。
お褒め下さって、ほんとうにうれしいです。
読んでいてくださる方がいると思うと励みになります。
甘々・・・になるよう、がんばってみました。
ご期待に沿えるとよいのですが(v
以前書きましたように、この話には番外編があります。
来週からは番外編をはじめさせていただく予定です。
よろしければ、もうしばらくお付き合いください。
- 308 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月23日(水)18時11分00秒
- 白い息を吐きながら帰ると、境内には朝靄がかかっている。
中を伺いながらそっと扉を開いた自室の、敷かれた布団の中に真希の姿はない。
「ご・・・っちん?」
ごっちん、ごっちん?
つぶやいてへたり込む。
「帰っちゃった・・・の?」
帰ってくるときに通った茶の間にも本堂にも、真希の姿は無かった。
なっちに、愛想つかしちゃったかな・・・
ごめん、ごめんねごっちん・・・。
布団の上に子供のようにぺたんと座ってなつみは涙をこぼす。
「そんなこと、ないよ」
ちいさな声。
扉が静かに開く。
長い茶の髪、大きな瞳は優しく細められて。
「おかえり、なっち」
大好きな声。
大好きな笑顔。
なつみが振り向くと真希が扉にもたれて穏やかに笑っていた。
- 309 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月23日(水)18時12分28秒
- 「ごめん、ごめんねごっちん!!」
そのままの姿勢で大粒の涙をこぼしながらただ謝るなつみに、真希は扉を閉めて両手を開いた。
その合図になつみは真希にそっと、しがみつくように抱きつく。
「ふふっ、ごとー、がんばって待ってたんだ。なっちにお帰りって言おうと思って。仲直りもしたかったしね」
「ごめん・・ごめん、ごっちん。たくさん悲しい思いさせた。ちゃんと説明もしなかった。大事な休みなのに楽しくなかったっしょ」
しがみつくなつみの頭をあやすようになでながら真希は言う。
「そんなことないよ?ごとーは、なっちといるだけで楽しいんだから。それよりもさ。ちゃんと、説明してくれる?話、ちゃんとしようよ」
なっち、大事なことでもみんな黙っちゃうんだもん。
布団にふたりで座り込んで今までの時間を二人で埋める。
なつみの気持ち、真希の気持ち。
明日香のこと。
これからのこと。
- 310 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月23日(水)18時14分25秒
- 「そっか・・・大変だったんだね」
真希はそっとなつみを抱きよせる。
「そんなこと、ないんだ・・・なっちがちゃんと分かってなかっただけ。気持ちをちゃんと伝えることできてたらごっちんが悲しむこともなかった。なっちのが年上なのに・・・ごっちんのが、大人だったね。ごめんね・・・許してくれるかな・・・」
一人で背負っちゃいけないってわかったはずなのに・・・。
まだ謝ろうとするなつみの唇にそっと真希は指を当てる。
「もう、だまって。もう、いいから」
「でも・・・」
続きは真希の唇でふさがれる。
ゆっくり唇を離したあと、目を合わせ、なつみは少しくすぐったそうに笑った。
「今回はなっち、情けなかったね。次はもっとかっこよくなるから。ちゃんと話、するから。反省してます」
「もういいよ。泣いてるなっちもかわいかったし。キスもできたしね」
ふわっと微笑んだ真希になつみが気付く。
そういえば、ごっちんとはじめてのキス・・・。
- 311 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月23日(水)18時16分01秒
- その事実にようやく気付き真っ赤になって真希の胸から抜け出したなつみは、ぎくしゃくと自分の布団にもぐりこむ。
「もう、そろそろ寝ないと。ごっちんもねむいっしょ?」
「なっちまだ着替えてないよ?」
言われて自らの体を見下ろしたなつみは、真っ赤な顔のまま布団からまた出て、ぎくしゃくと寝る仕度を始める。
「ごっちん、見ないでね」
とても自分よりも年上とは思えない恋人の様子に苦笑して真希も自分の布団にもぐりこむ。
今日は・・・今日こそはゆっくり眠れそうです。
おやすみ、なっち。
ほんとはごとー、もう一回ぐらいキスしたかったんだけどね。
もう、ものすごい眠いし・・・。
起きたら絶対もう一回しようね、なっち。
- 312 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月23日(水)18時17分50秒
- 休みの残り、真希となつみは片時も離れずに過ごした。
その様子は久々の休みを利用して訪れた裕子を呆れさせるほどで。
「なあ、喧嘩したんと違ったん?」
「いや、仲直りしたみたいだけど・・・もう、ヤダ!二人で毎日あれだよ?」
風通しのいい本堂に真里と裕子は並んで座っている。
天気の良い午後。高い秋の空。
揺れるススキに庭はもうすっかり晩秋の装い。
二人の視線の先には洗濯物を干すなつみと、それを手伝いながらなつみにちょっかいをかけて邪魔する真希の姿。
「ごっちん、これじゃいつまでたっても洗濯終わらないよ?」
「え!ヤダそれ困る。早く終わっていちゃいちゃしよーよ」
視線を交わして微笑みあって、たまに手が触れて赤くなって。
みつめあって、あ、シーツの陰でキスした。
あーあ、なっち赤くなっちゃって。あんな顔で嫌がっても説得力ないってば。
おいおい、まだするのかよ。
実況までしている真里に、裕子は苦笑して真里の頭に手を伸ばす。
- 313 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月23日(水)18時18分25秒
- 「ええやんか。幸せなんやろ?うちらもラブラブしよ?」
そのまま引き寄せると真里はすっぽり裕子の胸におさまった。
「今日はえらい素直やん。どおしたん?」
「ま、たまにはいいだろ」
顔は見えなくてものぞく真里の耳は真っ赤で。
裕子はその真里をしっかり抱きしめる。
庭には真希となつみの笑い声が響いている。
いずれ厳しい日常に戻らなくてはいけないけれど。
この幸せが、ずっと続きますように。
- 314 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月23日(水)18時19分41秒
あなたと見る景色は、光にあふれていて。
あなたの周りは、まるで空気が違うみたいに綺麗に見えた。
あなたの隣にいるといつもよりもっと、楽に息できる気、するんだ。
退屈だと思ってた日常は、全然退屈なんかじゃなくて。
一日一日、積み重ねていくこと、あなたと出会って知った。
曇り空を見るとあの日を思い出すよ。
晴れた空はあなたの笑顔、思い出すよ。
今も胸は痛むし、私のなにが変わったわけでもないかもしれないこと知ってるけど。
このシアワセがいつ壊れるかと思うと怖くてたまらないけど。
怖がってばかりじゃ、何も進まないから。
昨日があるから、今日があるし。
出会ったこと、本当に大切に思っているから。
あなたが私にこの世界をくれた。
天然色の、この世界をくれた。
- 315 名前:アタシとカノジョ。 投稿日:2002年10月23日(水)18時21分02秒
- 「なっち」
「なにさごっちん」
用もないのに名前を呼ぶ。
ちゃんと返してくれる笑顔とあなたが呼んでくれる名前、大好きだから。
「ごっちん」
「なにさなっち」
背中に手を回して、そっと額を寄せて。
目を閉じる。
ありがとう。
大好き。
終
- 316 名前:たすけ 投稿日:2002年10月23日(水)18時27分52秒
「アタシとカノジョ。」、終了しました。
レスを下さった方、最後まで読んで下さった方。
本当にありがとうございました。
それから誤字訂正なのですが。
チェックしていたのですが誤字が結構な量になってしまいました。
本当に申し訳ありません。
ですので、どうしても我慢出来ないところだけ訂正させていただくことにしました。
- 317 名前:52 投稿日:2002年10月23日(水)18時49分14秒
- なちごま、やぐちゅーかわいい。
無事終了おめでとうございます、そしてありがとうございました。
約二カ月間良い話しを読ませていただき感謝感激しております。
番外編も死ぬ気で読ませていただきます。
- 318 名前:たすけ 投稿日:2002年10月23日(水)19時26分25秒
- >>34
>34 名前 : 5月22日午前10時55分 なつみ→「安倍」
>>36
>ゴトー →「ごとー」のほうが大きいからごとーがなっちを抱きしめるような感じになっちゃったんだけど。
>>40
>その仕事が失敗すれば見届け役が組織に報告し、遂行 →「続行」が決定すれば見届け役が後任を勤めることになる。
>>142
>つんくの蹴りはさっきまで安倍 →「なっち」のいた壁に穴を穿っていた。
>>171
>『ねえ、ヤグっつぁん →「やぐっちゃん」・・・なっち、おかしくない?』
>>190
>『なっち、みんなの朝ご飯買ってくる。矢口 →「ヤグチ」、何がいい?』
>>245
>しかし崩れた体勢をそのまま立て直さずに利用して低い体勢を利用しての伸び上がるような蹴りがなつみを襲う。
→しかし崩れた体勢をそのまま立て直さず、低い体勢を利用しての伸び上がるような蹴りがなつみを襲う。
>>257
>もうすぐ真希にところ皆で出かけることになるだろう。
→もうすぐ真希のところへ皆で出かけることになるだろう。
>>270
>裕子は頬杖をついてそれを見守り、圭織はひとみをちらと見たきり、自らの仕事へ戻 →「戻って」いる。
とりあえずこれだけ訂正させていただきます。
- 319 名前:たすけ 投稿日:2002年10月23日(水)19時46分45秒
- ・・・誤字訂正の訂正は情けないんでやめときます。
各自で戻ってください・・・。ごめんなさい。
予告。
「ねえ、次の仕事、うちらでやるらしいよ」
あの日。
「で、その上位ナンバーが皆で出て行かなきゃいけないような仕事ってなに?」
あの日々は、まだ過去というには早すぎるけれど。
「どうやって乗り込む?」
「んー・・・やっぱ、正攻法?」
今の生活の奇跡を思う。
壁の血痕、床の血溜まり。
「ちょ、大丈夫?怪我は!?」
次回よりa color 番外編「life」。
見てください。
「もう、そろそろお互い自立しなきゃ、ね」
- 320 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月23日(水)23時50分56秒
- 脱稿お疲れ様です。
すてきななちごまをありがとうございました。
番外編も期待してます
- 321 名前:名無し 投稿日:2002年10月24日(木)17時54分54秒
- 最終回と知って、
かなり寂しい気持ちでいっぱいでしたが
幸せそうななちごまを読めて、うれしく思います。
番外編、期待してます!
- 322 名前:たすけ 投稿日:2002年10月29日(火)23時37分29秒
- >52さん
レスありがとうございます。
ずっとお付き合いくださってこちらこそありがとうございました。
弱気になったときもあったんですけどほんとに励みになりました。
番外編もさくさく進めますんで、もう少しお付き合いください。
>320 名無し読者さん
レスありがとうございます。
こちらこそ読んでくださってありがとうございました。
わたしもなちごま好きで書いたので、光栄です。
>名無しさん
レスありがとうございます。
おかげさまでご存知の通り毎回次回予告をつけさせていただくことにしました。
番外編でもつけるかはまだ未定なんですけど(v
続編はちょっとでも皆を幸せにすることを目標に(?書いたのでなによりです。
では、更新します。
「ア カラー」番外編「life」
- 323 名前:life 1. 退紅 投稿日:2002年10月29日(火)23時43分32秒
「ねえ、次の仕事、うちらでやるらしいよ」
ごっつあんもいない、久しぶりのなっちと二人だけの夕食後。
食器を片付けて茶の間をのぞいたら、なっちはテレビを見ながらちゃぶ台でうたた寝していた。
あんまり気持ちよさそうに寝ているからなんか起こせなくて。
その顔をみながらリモコンに手を伸ばした時に、アヤっぺの声そのままでよみがえったセリフ。
昔の、話。
組織の話。
あの日の始まりのセリフ。
まだ、アスカもアヤっぺもいたころの組織の話。
- 324 名前:life 1. 退紅 投稿日:2002年10月29日(火)23時50分53秒
- 組織でのナンバーはそのまま仕事の達成率と力量により決まる。
説明するまでもなく、数が小さいほど強い。
ヤグチたちはその上位5番から2番を独占した。
1番はそのとき欠番になっていたから事実上最高位、かな。
5番から2番までは、そんな実力に開きはない・・・はずなんだけど。
なっちは潜入のうまさとターゲット本人にもその死を気付かせないほどの暗殺技術で、依頼を特に多くこなしていた。
それが喜ばしいことではないのはみんな承知していたけど。
直接戦うんだったら多分なっちより3番のアスカのほうが強かった。
- 325 名前:life 1. 退紅 投稿日:2002年10月30日(水)00時00分16秒
- アスカは近接戦闘ならそのころの組織最強と言われていた。
でもアスカは隠密のはずの仕事で、自分の判断でたまに派手な立ち回りをしてじい様から叱られることもあった。
アスカ自身は効率的に仕事をしてただけって言うけど。
ヤグチはこのころから、アヤっぺやなっち、アスカの仕事のサポートをすることが多かった。
そう腕は悪くなかったけど・・・近接戦ではアスカに勝てなかったし、暗殺って仕事ではなっちに敵わなかった。
諜報じゃアヤっぺに勝てなかったし。
そのすべてが大体平均以上に出来るヤグチは重宝がられたけど・・・。
それでもそれが歯がゆかったヤグチは、まだ若かったってことさ。
- 326 名前:life 1. 退紅 投稿日:2002年10月30日(水)00時02分17秒
- そう、このころが一番なっちもアスカも冷たい顔してた。
多分、ヤグチも。
人殺しに慣れたようで、慣れなくて。
よく部屋で吐いているなっちや、陰で泣いているアスカを見た。
そういうヤグチもよく泣いてたし、たくさん物壊したりしたけど。
理不尽ですごいつまんないことで喧嘩して、仲直りして。
いつもみんな一緒だった。
暇さえあればお互いの部屋を行き来して。
その日も、いつものように皆で一部屋に集まってた。
- 327 名前:life 1. 退紅 投稿日:2002年10月30日(水)00時06分14秒
- そう、このころが一番なっちもアスカも冷たい顔してた。
多分、ヤグチも。
人殺しに慣れたようで、慣れなくて。
よく部屋で吐いているなっちや、陰で泣いているアスカを見た。
そう言うヤグチもよく泣いてたし、たくさん物壊したりしたけど。
理不尽ですごいつまんないことで喧嘩して、仲直りして。
いつもみんな一緒だった。
暇さえあればお互いの部屋を行き来して。
その日もいつものように皆で一部屋に集まってた。
「なんであたしたち?」
アスカがあきれたように息を吐く。
「けっこう大変な仕事だかららしいよ」
のんびり言ったアヤっぺにアスカが聞く。
「さっきうちらって言ったよね?もしかして、アヤっぺもやるの?」
アヤっぺはちょっと首をすくめて笑った。
「そう。よっぽどあんたたちが手間取らないかぎり、一緒に乗り込むことにはならないと思うけど」
このころ一番『普通』だったのはアヤっぺで。
不安定だったヤグチたちをいつもフォローしてくれた。
ヤグチたちよりも年上で一番早くから仕事してたアヤっぺ。
一時期すごい怖い顔して眉間にしわよせてばかりいたけど、それもこのころには落ち着いていた。
- 328 名前:life 1. 退紅 投稿日:2002年10月30日(水)00時14分17秒
- 「で、その上位ナンバーが皆で出て行かなきゃいけないような仕事ってなに?」
ヤグチが聞くとアヤっぺの顔がすこし固くなった。
「組織の系列の、裏切りの処理」
アスカは大きくため息をついてそのクールな顔に皮肉な笑みを浮かべた。
一番幼いくせにこういう表情がよく似合ってた。
ずっと窓の外を見ながら黙って聞いていたなっちは、窓から手を離してこっちを向いた。
あの、仕事のときの無表情で。
「で、仕事は何時から?どうせ仕事するんならさっさと行くべさ」
「明日の朝から。今日は寝れるよなっち。緊張してる?顔、仕事用になってるよ」
アヤっぺの答えになっちは一瞬目を見張り、ゆっくりと苦笑いを浮かべる。
「うん。ごめん」
アスカとアヤっぺが仕事の準備に出て行った後、ヤグチはなっちと二人で訓練をしに行くことにした。
- 329 名前:たすけ 投稿日:2002年10月30日(水)00時27分20秒
- 読んだ方はお分かりの通り、番外編は過去編になりました。
過去なんで予告はなしです。
なんとかつけようかと思ったんですが内容がわからないほうがまだいい気がしたので。
- 330 名前:たすけ 投稿日:2002年10月31日(木)18時51分40秒
- 前回書いたと思ってたら書いてなかったんで一応。
いまさらなんですけど今回、後藤さん出てきません。
ある意味やぐなちになってます。
ごまなちを楽しみにしてくださっていた方(・・・がもしいれば)、ごめんなさい。
では更新します。
- 331 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)18時57分30秒
- 組織の訓練施設は館の地下にある―いや、あった。
1階から2階が仕事をまだしていない訓練生のための施設で、その他の者は3階を使う。
なっちとエレベーターに乗ると、なっちがぼんやりした顔でつぶやいた。
「訓練生だったこと、思い出すねえ・・・なっち、もう二度とあんな訓練したくないけど・・・」
けど、の後は聞くまでもなかった。
なっちの思いは多分ヤグチと一緒。
戻れるものなら戻ってみたい。
人を殺すってことがどういうことかわからなかった自分に。
今でもちょっとだけそう思う。
それでも組織を脱走するってことを考えなかったのは、やっぱりじい様の存在と・・・今思えば教育だと思う。
小さいから組織で育てられたあたしたちは、外の世界のことをなんにも知らなかった。
外に出て買い物とか行ったのは・・・仕事を初めてから。16ぐらいのときかな。
- 332 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時01分57秒
- アスカは最初から組織にいた。
赤ん坊のころに組織に拾われてきたらしい。
アヤっぺは5歳、なっちは4歳のときに拾われたらしい。ヤグチも4歳のときって話。
そのころのことなんて覚えていないからわからないけど。
それぞれ別のところで拾われて、基礎訓練とテストみたいなのを受けて、有望とされた者だけここに集められた。
ヤグチもアヤっぺも昔のこと覚えてないのに、なんでなっちだけは北海道のこと忘れないのかなぁ・・・。
小さいころに北海道を離れたのはアヤっぺと一緒なのに、いまだに北海道弁は抜けないし、空の色とか広さとか断片的に覚えてたりするらしいし。
ヤグチが昔のこと全然覚えてないのは、出身地がここと近いせいで混じっちゃってるっていうのもあるのかもしれないけど・・・なんかそういうのちょっとうらやましいかな、やっぱり。
- 333 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時06分42秒
- 初めて会ったときのことなんかもう誰も覚えていない。
皆で大きくなってきた。皆であざをつくって、笑いあって。
アヤっぺがおねえさん代わりになってくれた。
訓練生の時から何度も死ぬような目にあった。そのたびに4人で助け合った。
アヤっぺが初仕事の時は訓練を抜けて内緒で手伝って怒られた。
なっちとヤグチがが指導役にひどく殴られたときは、アヤっぺが助けにきてくれた。
ヤグチが川でおぼれそうになったときはなっちが泳いで助けに来てくれて、アヤっぺとアスカが2人で迎えに来てくれた。
アスカがはめられて山に置き去りにされたときも、結局3人で助けにいった。
隣で拳銃を握り、真剣な顔をして的に向かうなっちを見る。
なっちは他のことはたいてい器用にこなすけれど、どうしてか拳銃がうまく撃てない。
ナイフもこのころは普通って程度だったけど使えていた。
なっちは、拳銃と血がキライだった。
- 334 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時13分58秒
- 構えはとても基本に忠実で、きれいなのだが。
そう、発砲の瞬間、銃口がわずかにブレて引き金を引くのが一瞬遅れる。
これはなっちも直そうと懸命に練習を重ねたのだが、どうしても直らなかった。
後に・・・組織を抜ける寸前くらいの時に、あたしたちの指導をしてくれた裕ちゃんの話だと、本人も気付かないトラウマみたいなものがあるのだろうということだった。
このことが原因で、なっちは以前からあたしたちのことが気に入らない指導役に殴られることになった。
記憶がよみがえる。
「おい、安倍!どうしてそこで銃口を下げる!何度言ったらわかるんだ!おれのことを馬鹿にしてるのか!」
新しく付けられた指導役で、そいつはその日機嫌が悪かった。
それでも何度もなっちの訓練をみてきたのだからなっちのやる気の有無はわかるはず。
数回しか訓練付けてくれなかった裕ちゃんが気付くんだから、なっちがわざと銃口を下げているのではないと気付かないわけがない。
そう思うんだけど。
- 335 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時15分57秒
- 「こうやるんだよ!」
無理やりなっちの指を伸ばし、銃に押し付け、握らせる。
「構えろ」
構えをとるなっちの顔は青ざめていた。
「撃て」
懸命に腕を固定しようとするのだが、的が動くため今度は引き金を引くタイミングが問題になる。
「ふざけるな!」
指導役の蹴りでなっちの手から銃が跳ね飛ばされる。
その次はなっち。
今よりももっと小柄だったなっちはたまらずふっとぶ。
そこへまた蹴り。なっちは壁に激突していた。
仕事を失敗していたむしゃくしゃで、後々のことが頭から吹き飛んでいたらしかった。
「何してんだよぉ!!」
銃を捨ててあたしは指導役に殴りかかった。
1つ違いで境遇が同じあたしたちは一緒の訓練が多かったから、その日も一緒に訓練をしていた。
指導役の腰に体当たりをしかけ、よろめいたところにひざに蹴り。
「なっちが死んじゃうだろぉ!!」
- 336 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時21分26秒
- そのころ、他の訓練生とのいざこざを避けるためということで、ヤグチたちはよく他の人間のいないところで訓練を受けていた。
そうじゃなきゃ、あんなに殴られるまえに誰かが助けてくれるはずなんだけど。
あの暴力はいくら組織でも常軌を逸していた。
なっちはおなかを押さえて咳き込んでいた。
「ちょ・・・だめっ・・・」
立ち上がった指導役の次の標的はヤグチ。
腹にひざ蹴りを食らって胸元をつかみ上げられる。
その後響いたこの声は、多分これからも忘れないだろう。
「お前らなあ、邪魔なんだよ。なんでちょっと仕事に失敗したぐらいでお前らなんかのお守りを俺がしなくちゃいけない?しかもお前ら特別扱いじゃねぇか。拾ったのがボスってだけでつけあがるんじゃねえよ。所詮孤児のガキだろ?なんで俺がへこへこしなきゃいけねぇんだよ」
- 337 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時26分53秒
- 「そんな事で人に、しかも子供に八つ当たりしてんじゃねえよ」
言ったら殴られた。
それが痛かったから血の混じったつばを吐いてやったら、また顔を殴られそうになった。
一瞬、目の前が白くなった。
目が回復するとヤグチの体は床に投げ出されてて、なっちの背中が見えた。
「アヤっぺかじい様・・・だれでもいいから呼んできて」
その声にはいやだと答えた。
その後なっちは何度か殴られてもヤグチの前をどかなかった。
前に飛び出すたびにヤグチも殴られ、なっちにかばわれた。
途中からなっちの背は赤くなっていた。
それが悲しくて、悔しくて。
気付けば意識は朦朧としていた。
指導役の気配が遠くなったことに気付いて、いつの間にか瞑っていた目を開けるとアヤっぺの背中があって。
指導役は吹き飛んでいた。
意味のわからない言葉をわめきながらなおも向かってくる男をこぶし一発で黙らせる。
アヤっぺはその男を無言で殴り続け、男が気絶すると泣きながらヤグチたちを運ぶ手伝いをしてくれた。
確か、そのときのアヤっぺは15歳。
アヤっぺも怖かっただろうに、必死であたしたちを助けてくれた。
今もなっちの背にある傷跡はこのときに出来たもの。
あの時はアスカもすっごい泣いてたなあ・・・。
- 338 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時34分01秒
- 銃の訓練後、模擬戦用のナイフを持ってなっちと向き合った。
風を切る音と互いの吐く息の音だけが聞こえる。
ふと、アスカの顔を思い出した。
組織の中でずっと育てられたアスカは生来の性格もあってか、どこかクールだった。
それでもあたしたちの後をずっとついて回って。
皆で妹のようにかわいがって育てた。
そういや、山での訓練で置き去りにされたときも泣いてなかったし・・・。
たしか山での生き残りとかの訓練で、その後必要ないと廃止されたやつ。
ヤグチとなっちはたまたま・・・たしか実地訓練かなんかが入ってて、それを免除されてた。
帰ってきたらアスカが居なくて、いやな予感がして2人で車を出して山まで行ったっけ。
車の乗り方は知ってたけど、ほとんど運転したことなかったからさ。
着くまでに死ぬかと思ったよ。
で、何とか二人で山を捜索して、真夜中にアスカを見つけて。
よかったーとかって感動の再会をするかと思ったら逆に怒られたし。
「普通は朝を待って捜索するもんでしょ!夜の山は危ないっていうのに!3人で遭難したらどうするつもりだったんだよ!」
って。
- 339 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時37分49秒
- なっちなんて安堵の涙とか流してたのにさぁ。
なんかそれもひっこんじゃって、どんな顔していいかわからずに目をぱちぱちさせてた。
ま、それは多分あたしも一緒だけどさ。
でも、その後アスカの「来てくれるって信じてたよ」っていうの聞いて3人で泣いたっけ。
朝やけがすっごいキレイさだったのを覚えている。
仕事から帰ってきたアヤっぺが連絡してきて、なっちとあたしは怒られた。
それでも、仕事で一睡もしてないのに速攻できてくれて・・・。
「おかえり」って笑ってくれた。
朝焼けと、おんなじくらいキレイだった・・・って、言ってあげてもいい気になったよ。
絶対言わないけど。
- 340 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時41分03秒
- そんなことを一瞬・・・いや、そのときはこんな細かいところまで思い出してたわけじゃなくて、そういや山で・・・ぐらいだけだったんだけど、思い出してたら。
「おーい、ヤグチー?今死んだよ?これ実戦だったら誰にでも秒殺されてるから」
物騒な言葉が耳元で聞こえた。
瞬間、意識をもどせばなっちの顔がほんとすぐ近くにあった。
キスもできるぐらい。
ヤグチのと同じ練習用のナイフを握りこんだ手は軽く心臓の上に当てられていた。
一瞬背が冷える、久々の感覚。
まいったな・・・とられちゃった。
にしても、なっちはかわいい。ほんと、かわいくなった。
ふと思い立つ。
「ねえ、ちゅーしていい?」
「う、ぅええ?こ・・・このばかヤグチ!何言ってんの!恥ずかしいっしょ!」
反動をつけてすごい勢いで後ろに跳ばれた。
いや、そんな嫌がられたらさすがにヤグチ傷つくんですけどー・・・。
って、これ今思い出しても恥ずかしいかも。
- 341 名前:life 2. 赤朽葉 投稿日:2002年10月31日(木)19時42分52秒
- 「ちょっとは集中しろよお・・・・・・で、何なにぼけっとしてたのさ」
真っ赤になった顔をちょっと膨らませて照れ隠しのように横を向いて言うなっちは、やっぱりかわいかった。
妙なところで恥ずかしがりやなのは今も変わらない。
「いや、アスカが山で置き去りにされたときのこと」
話したらなっちも笑ってた。
「そんなこともあったねえ」とかってあのおばさんくさい言い方で。
その日はそれでおしまい。
そうそう、アスカの一件はやっぱり他の訓練生による嫌がらせってわかって。
アスカもちゃんと首謀者に報復していたみたいだけど、ちゃんときっちり、なっちとヤグチとアヤっぺで、今度こんなことをしたらどうなるか全員にわかってもらいました。
ちょっと大人気なかったかなあって今では反省もしてるけど・・・。
- 342 名前:たすけ 投稿日:2002年10月31日(木)19時49分49秒
- 更新終了です。
- 343 名前:名無し 投稿日:2002年10月31日(木)21時34分15秒
- アレがきっかけで予告を付けてくれたんですね。
ありがとうございます!
過去編にドキドキです(w
次の更新も楽しみ。
- 344 名前:たすけ 投稿日:2002年11月01日(金)22時39分11秒
- >名無しさん
レスありがとうございます。
そうです(w
苦し紛れの予告に温かいご意見がいただけてうれしかったので・・・つい、付けて行くことにしてしまいました。
もしも次回何か書く時はまた予告、付けさせていただくかもしれません。
ほんと、ありがとうございました。
それでは短いながら更新です。
- 345 名前:life 3. 鬱金 投稿日:2002年11月01日(金)22時47分38秒
- 見取り図を確認したら、仕事場になるのは小さなビルのようだった。
ひとつのビルの制圧なんて大きな仕事、普通なら4人の、しかも若い人間だけで任せられることはまずない話だった。
まあ、制圧っていってもその時間にそこにいる人間を皆殺しにせよ、って話だったんだけど。
そこへ至るまでの段取りはさすがに、事前に全てしておいてくれた。
この仕事が回ってきたのは、「娘」の力のテストとかを含むいろいろな思惑があったらしくて。
ヤグチたちの実力を疑問視する昔からの幹部とか、その他大勢のボス・・・じい様に拾われて大事にされてるあたしたちへの嫉妬とか、不満とか。
それらによって、この話があたしたちに任せられることになったらしかった。
この仕事、失敗してヤグチたちが全滅してくれたらよし、成功したとしても損はないって。
ふざけたやつら。
ナンバーなしのころはよくこういうやつらにいじめられたし、陰口を叩かれた。
ま、ナンバーがついてからも陰口は散々叩かれたけど。
仕事につく前とかには影で殴られたこともある。
- 346 名前:life 3. 鬱金 投稿日:2002年11月01日(金)22時55分23秒
- そのときにこっそりなっちが仕返しにいってくれたんだった。
うれしそうな顔して「やったやった」って部屋に飛び込んできたときは何事かと思ったよ。
あたしの処分を決めた幹部の私物を盗んで捨てたり重要書類をシュレッダーにかけたり、引き出しを接着剤で固めたりしてきたらしい。
その上悪質なやつには私物の拳銃のすり替えや、これも私物のパソコンのハードの破壊までしてきたという。
幹部の私室ともなれば警戒が相当厳しいだろうに、訓練生のころからなっちはこういうことが群を抜いてうまく、1晩かけて最後までばれずにやりとおしたらしい。
そのわりにやることがお子様なんだから・・・なっちらしくて笑った。
- 347 名前:life 3. 鬱金 投稿日:2002年11月01日(金)22時57分53秒
- 幹部たちの私室に忍び込まれるという不名誉のためにか、その事件は闇に葬られた。
その代わり、動機と手段の面から犯人と疑われたなっちはじい様からきついいやみと説教をいただくことになったらしいけれど。
アヤっぺは特製のウイルスを感染させてやろうと用意していたのにと悔しがり、アスカは内容を聞いて呆れた顔をしていたけれど楽しそうに、あたしも連れてってくれたらよかったのにと言った。
口調は軽かったけれど目が本気だった。
・・・あたしがぶちのめしたやつらが病院から出てきた後、なぜか見る間にことごとく失脚したのはどうしてかいまだに・・・・・・わからないことにしておこうと思う。アスカとアヤっぺのナゾの笑顔が・・・。いやいや。
- 348 名前:life 3. 鬱金 投稿日:2002年11月01日(金)22時59分10秒
- 組織時代、このころが一番楽しかったように思う。
仕事が悲しくても、辛くても皆でつるんで。
そのうちアヤっぺがいなくなって、アスカがいなくなって。
泣いて、怒って、荒れて。
祈ることの無力を知った。
幸せのはかなさを思った。
やがてあたしもなっちも、無表情と日常にも慣れることを覚えた。
こんな思いもしたけれど。
今の生活の奇跡を思う。
生きていてくれてよかったよ。
生きていてよかったよ。
アヤっぺも、アスカも。
もう一回会えるなんてさ。ほんとに・・・ほんとに、嬉しくてなんて言っていいかわからない。
でもあの気持ちを、絶望を知ったことを後悔なんてしない。
この気持ちを知らなかったら今の奇跡を感じなかったかもしれなかった。
無力を知らなかったら、今の生活が得られなかったかもしれなかった。
- 349 名前:たすけ 投稿日:2002年11月01日(金)23時11分00秒
- 更新終了です。
次回から少し話に動きがでる・・・はず、です。
- 350 名前:名無し 投稿日:2002年11月02日(土)23時57分21秒
- 連日更新お疲れ様です。
各話に付けられたタイトルも好きですよ。
いよいよ話が進んでいくんですね。
次も楽しみに待ってます!
- 351 名前:たすけ 投稿日:2002年11月05日(火)22時59分43秒
- >名無しさん
レスありがとうございます。
タイトルはどうしてこうなったか最後までいけばわかるはずです。
ちょっとアレンジしちゃったんでわかりにくくなってますけど。
ほんとたいしたことじゃないんですが(vそんな期待しないで待っててくださるとうれしいです。
更新します。
- 352 名前:life 4. 若緑 投稿日:2002年11月05日(火)23時02分35秒
- 次の朝。
アヤっぺがヤグチを起こしにきて、4人で仕事に向かった。
きっちり化粧もしたアヤっぺはこんな早いというのにさわやかだった。
やっぱ、気合がはいってたんだろう。
「どうやって乗り込む?」
「んー・・・やっぱ、正攻法?」
仕事の内容を思い出す。
組織系列の会社の殲滅。
会社っていってもほとんど暴力団の組事務所みたいなところ。
ヤグチたちがいる組織の館みたいに、こういう仕事する人たちがわりと昼夜問わずいて生活してるらしい。
小さいながらもひとつのビルを制圧するなんて事は初めての経験。
今までの経験上、相手がうちらみたな若い女だと、相手はたいてい向かってくる。
相当、疲れる仕事になるだろう。
この予感は見事に当たった。
いくらなんでも、こんな事が公にならなかったこの組織と国ってすごい。
そりゃ、なっちじゃなくても憂鬱になるよねえ。
- 353 名前:life 4. 若緑 投稿日:2002年11月05日(火)23時04分50秒
- 「正攻法だったら夜まで暇じゃないの?」
何でも無いことのように聞いたアスカにアヤっぺが苦笑する。
「まあね。どうも、ほんと皆殺しを狙ってるみたいだからさ。その場にいるやつはできるだけ逃がすなってさ。けっこう嫌な仕事になるね」
「ま、何にしてもやるしかないべさ。それよりアヤっぺ、空き時間近くでずっと待機しなきゃいけないのかい?どうせなら海とか行こ?」
ひさびさに能天気ななっち。
無理してたような気がするけどちょっと安心したことを覚えている。
「いいねえなっち!行こうよアヤっぺ」
「いいねえ。そうしよう!」
ちょっと笑ってアスカも賛成する。
「あんたらねえ・・・ま、いいけど。じゃあ行きますか」
アヤっぺがハンドルを切る。
いつもならあたしたちの仕事のときは見届け役をするやつが車の運転をするんだけど、その日は4人での大きい仕事なだけあってうちらにはけっこう自由が与えられていた。
いや、今考えればヤグチたちに運転手がついていたのはうちらの運転技術の問題でもあった気がするけど。
ま、どっちにしてもこの行き先には組織のやつらは嫌な顔してたと思う。アスカがとっとと通信切っちゃったからわかんなかったけど。
帰った後、じい様は渋い顔をしていたけどそれでも何も言わなかった。
- 354 名前:life 4. 若緑 投稿日:2002年11月05日(火)23時06分15秒
- この小さな自由と反抗がうれしくて皆ハイテンション。
歌を歌って、コンビニへ寄って、お菓子を買い込んで。
アヤっぺの声がする。
「ちょっとなっち、4人でそんな食べらんないよ」
「えー!だって・・・そだ、アスカが食べるって!育ち盛りだし!」
飲み物を選んでいたアスカがその量を見て顔を引きつらせる。
「育ちって・・・いや、食べるけどそれはふつうにムリっす・・・」
思わず雑誌を見ながら笑うとなっちがやってきて一言。
「ヤグチ、にやにや気持ち悪いぞー」
うるさいぞ、このお子様。
早速お菓子を開け、アイスをほお張るうちにもう海。
「海だべさー」
顔を出してなまり全開で笑うなっちに思わずつっこむ。
「なっちなまりすぎー」
「うるさいヤグチー!」
「イモなっちー」
「あーもーアスカもうるさーい!イモゆうなー!!」
こんな楽しいの久しぶりって言い合って、車を止めて皆で駆け出した。
普段ちょっとクールなアヤっぺもアスカも笑顔で走ってくる。
- 355 名前:life 4. 若緑 投稿日:2002年11月05日(火)23時07分59秒
- 靴を脱いで、海に入って。
妙にハイレベルな水の掛け合いをして、呆れるほど笑って。
「なんで水の掛け合いぐらいでバク転までしてんのなっち!」
「ヤグチこそバク宙してるっしょ!」
「いやアヤっぺその量は反則だから!」
「アスカ逃げすぎ!」
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
このことは今でも大切な思い出。
2人がいなくなった後、この思い出が胸を切りつけるものになった時期もあったけれど4人の思い出が、つらいときなっちとヤグチ、2人を助けてくれた。
夕方になって皆でびしょぬれんなった上着を乾かして。
時間がもうちょっとあったからついでに花火とかもしてみた。
すごいおもしろかった。
「さて、と。そろそろ、行きます?」
時計を見て言ったアスカの顔はもう組織の一員の顔だった。
「行きますか」
答えて車に乗り込んで。
あとは無言で目的地まで。
ついた時刻は確か11時過ぎだったと思う。
- 356 名前:たすけ 投稿日:2002年11月05日(火)23時10分36秒
- ようやく、ここまで着ました。
次回も早めの更新でいきたいと思います。
- 357 名前:たすけ 投稿日:2002年11月05日(火)23時11分33秒
- 「着」→「来」
- 358 名前:名無し 投稿日:2002年11月07日(木)19時23分43秒
- 後々の出来事を思うと、
海でのシーンはなんだか切なくなりました。
なっちたちが、現在に繋がる過去を
どうやって生きてきたのか。
これからもしっかりと読み続けます。
- 359 名前:たすけ 投稿日:2002年11月07日(木)22時30分39秒
- >名無しさん
ほんと毎回レスありがとうございます。
淡々とあまり変化のない話なんで・・・こう、いろいろと申し訳ないんですけど・・・。
もうすぐ完結なんで、もう少しお付き合いください。
更新です。
- 360 名前:life 5.紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時32分25秒
- 「制圧は、上から?」
ポツリとつぶやいたなっちにアヤっぺが答える。
「できたらね。けっこうな警戒だと思うし」
見上げればところどころに明かりのついたビル。
車からおりれば多分もう話をする時間はない。
「裏口は?」
「そこの奥。今回は見届け役がおさえてくれるんだって」
「ふうーん・・・」
今考えてもめずらしいこと。多分じい様がせめてもの助けと手配してくれたのだろう。
このころは、じい様を無条件で信じていたのに。
いつからだろう。
じい様を無邪気に信じられなくなったのは。
裕子がいなくなってからかなあ・・・漠然と不安を感じたのは。
- 361 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時34分51秒
- まだ訓練生だったころ。
なっちとヤグチが殴られたちょっと後ぐらいにじい様に呼ばれて。
遠い親戚ってこともあって、傷が完全に治るまで裕ちゃんの世話っていうか・・・話し相手をまかされたんだった。
なっちはヤグチよりも怪我がひどかったからまだ安静が必要だった。
そのときはアヤっぺとアスカは訓練中。
薄暗い室内に、青白い顔をした金髪の女の人がいた。それが裕ちゃん・・・裕子。
このころから金髪だった。ヤグチ金髪の人を実際間近で見たの初めてで、けっこうな衝撃だったのを覚えている。
そのせいかその後のことはあんまり覚えてないんだけど・・・。
自己紹介した後、なんか軽くため息とかつかれたのは覚えてる。
アスカにひどいよって散々こぼしたから。
そう、初対面の印象はサイアクだったんだよねぇ。
それがさあ、いつの間にこんなことに・・・。
ちょっとカーテンを開けると怒られるし、ご飯持っていってみても出てけって言われるし。
関西弁はこわいし。
- 362 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時35分58秒
- 仕事だからって自分になんども言い聞かせて部屋に通った。
いつだったかな・・・確か、通いだしてから一週間と、ちょっとぐらいかな?
部屋に行ったら、裕子は寝てて。
目から涙が流れていた。
悪いかな、とは思ったけれど思わず寝顔を見つめていた。
白い顔に影がかかって、長い睫毛がちょっと震えていて。
キレイな線を描くシャープな印象の頬からあごに、涙が筋になって流れ落ちていた。
持っていたお盆をサイドテーブルにそっと置くとその目が大きく開いた。
次の瞬間、裕子は、大きく跳ぶとナイフを構えていた。
右手を頬にやり、まだ流れていた涙をぬぐう。
その様子はなんか手負いのケモノって表現がぴったりで、胸が痛んだ。
で、次の言葉はやっぱり「出てけ」の3文字。
- 363 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時38分29秒
- 相変わらずその姿は綺麗だったけど、なんか悲しかった。
想いが顔に出たのかもしれない。
次の瞬間、ナイフがヤグチの顔の真横を通って、壁に突き刺さっていた。
「・・・ごめん」
それだけむりやり口にして、壁に突き刺さったナイフを抜いて机に置く。
それさあ、投擲用に作られたナイフじゃなくてさ。
それをこのコントロールで投げてみせた裕ちゃんには恐れ入ったけど・・・当たったらどうするつもりだったんだろ。
そのときはいくら仲が悪いとはいえ裕子にそんなことされたショックと、目の前でナイフを投げられたにも関わらずまったく反応できなかったという衝撃で、まぬけなことにその事実に気付かなかったんだけど。
部屋を出た後、まだ寝てたなっちに散々グチって、もういかないって決意した。
- 364 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時40分32秒
- その夜。
裕子が謝りに来てくれたんだよね。
「ごめん、ヤグチ」って。
その言葉で仲良くなって、治ったなっちも連れて遊びに行ってみたり、指導役がいなくなったヤグチたちにナイフや銃、体術を教えてくれるよう頼んだりして。
口が悪くても、大事なところではすごく優しかった。
いや、今も変わってないけど。
自分も体調悪いのに、今考えるとナイフも拳銃も握るの嫌だっただろうに、わかるまでちゃんとヤグチたちに教えてくれた。
それからすぐいなくなるんだもん。
しかもさ、最後の言葉も「ごめん」だしね。
あの時と同じで真夜中に部屋に来てさ。
仲良くなってからは一回も、裕子はヤグチの部屋に来なかった。
だから、組織のヤグチの部屋に来たのはそれが2回目で。
そのどっちも残した言葉はごめん。
なんか、ねえ・・・。
- 365 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時42分31秒
- 「ごめんなあ、ヤグチ・・・」
ドアのところで、入ってって言うヤグチを制してそれだけを口にした。
「何のこと?」
聞くヤグチにちょっと寂しそうに微笑んで。
そっと、頬に手を当てられた。
「ねえ、裕ちゃん・・・」
そのままそっと腰をかがめて顔を近づけて、触れるだけのキスをくれた。
ヤグチの初めてのキス。
何がおきたかよくわかんなくて、裕子の背後からもれる、廊下の窓から落ちる月光が妙に明るくて綺麗だったのを覚えている。
「え?」
呆然とつぶやいて、唇に手をやったときにはもう裕子はいなかった。
その後ボスの孫の死亡が発表された。
ヤグチ、なんか悔しくて一生懸命そのこと調べようとするんだけど、どうしても邪魔が入ってさ。
それから、かな。
組織とじい様にちょっと不信感を抱くようになったのは。
- 366 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時43分43秒
- ヤグチさ、聞きたかったんだよね。あのキスは何、って。
もしかしたら好きなのかもとか思って、でもキスのせいかもっていろいろぐるぐる悩んだのにさあ。
出会ってみたらただのキス魔かよ・・・。
いや、それだけじゃなかったんだけど、がっかりしたのは本当。
ま、好きになっちゃんたんだもん、しょうがないけどさ。
向こうも、ずっと好きだったって言ってくれてるんだからもういいし。
その後、アヤっぺとアスカのことがあって、組織への不信感は大きくなった。
諜報所属になってからいろいろとこっそり調べたりして。
そのことで組織崩壊を乗り切れたんだから、結果オーライ、かな。
- 367 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時44分44秒
- 「じゃあ・・・分かれるまでは何かあったら基本的にはアスカ、ヤグチの順で残るってことで」
個人の向き不向きを考えるとこの順になるのは明白で。
「アヤっぺもセキュリティ何とかして余裕あったら手伝ってね」
「オッケ」
返事を確認してドアを開き、車外へでる。
3人で並んでまず裏口へ。
「アヤっぺ?監視カメラ何とかならない?」
聞くと答えはすぐ返ってくる。
―どこなんとかしてほしいの?
「非常口」
なっちが短く答える。
見取り図から見て、進入口はここしかないというのが3人の見解。
だから、だれもが予想しやすい、警備の固いところ。
―しばらくなんともならない。ごめん
「じゃ、こっちでなんとかするね」
最初のはたしかもう近く。
「どうにか・・・って、アスカ、なんとかなりそうなの?」
「うん、多分平気」
「そっか」
- 368 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時45分57秒
- 3人で顔を見合わせ、隣のビルのもぐりこんだ。
事前に調べてあったとはいえ普通のビルだけに警備はうすく楽勝。
警備員室に人がいただけで、ほんとごく普通のセキュリティ。
エレベーターで最上階まで行き、階段で屋上へ。
なっちが鍵を壊して進入成功。
吹き抜ける風に髪を押さえる。
アスカが端まで走り、身を隠しつぶやく。
「6メートル弱って感じかな?」
「警戒は?」
「絶対あるっしょ」
同じところに身を隠してこそこそと話あう。
ほんと、こんなことが嬉しい。
なっちもアスカも案外明るい顔をしている。
どうせ、ビルに入ったら元に戻っちゃうんだろうけど。
これがこの日最後の明るい顔だった。
「んじゃ、手はずどおりにいきますか」
軽い感じでつぶやき、アスカはサイレンサーつきの拳銃を取り出す。
標的は最初確認した非常口の監視カメラ。
「角度とかかなり厳しいけど大丈夫?」
聞くなっちに口元だけ笑ってアスカは言う。
「このアスカさんに任せなさいって」
妙に軽い音と共に弾が発射され、アスカがその笑みを深くする。
「よっしゃ。じゃ2分後に突入」
- 369 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時47分41秒
- 時間を空けるのは非常口に十分人間をひきつけるため。
そこかしこから顔を出す男たち。
「探せ」とかかなり騒がしい声がする。
「いくよ」
声をかけビルに飛び移る。
前に向かい風、迫る柵。
髪がいっきになびき心臓が収縮するような感じ。
足につよい衝撃を感じると共にしっかり柵をつかむ。
よし、成功。
横目になっちと柵さえ跳び越したアスカを確認して走る。
扉に向け発砲。
鍵を壊してこれも潜入成功。
「ヤグチ派手だねー」
小さく言って笑ったなっちの顔は2番の顔だった。
整った顔を冷たい感じにゆがめて笑う。
そのなっちの右手がすばやく動き扉の影に居た男に針を投げる。
声も上げずに倒れる男。
珍しく毒でも塗っていたらしかった。
「早!」
あくまで軽く言って右手の男にナイフで一撃。
頚動脈にうまく決まった。教科書どおり、見本のような一撃。
アスカはひとっ飛びに踊り場まで行って敵2人を倒している。
- 370 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時49分55秒
- 飛び散る血に顔をしかめてなっちもアスカに並んで針を振るう。
背中合わせになってアスカはナイフを投げ、なっちは相手の右脇に大針を刺す。
アスカは血に汚れたナイフを回収してぬぐい、なっちは針を静かに男の体から引き抜き、ついた血を振った。
なっちの近接戦闘。
これも今では珍しいけど、それまではいやがっていてもまあそんなに珍しくはない光景だった。
そう、この日までは。
見る間に3人を倒して二人は下の階へ。
「遅いよ」
「サボりすぎっしょ」
声だけが下から聞こえる。
そろそろ銃声も聞こえてきている。
間断なく聞こえる戦闘の音。
これで襲撃が屋上からって気付かれただろう。
後は主戦力が帰ってくるまでに、何人向こうの戦力を減らせるか。
こちらが3人と気付かれる前に、向こうが混乱しているうちに頭をまずはつぶさなければならない。
- 371 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時51分45秒
- 下まで飛び降りるとアスカが一人で拳銃を手にして戦っていた。
「2番は?」
「先行った。社長を始末してもらう」
真顔で答えたアスカの横で銃を構える。
見ればなっちの背中が突き当たりのドアに消えるところだった。
アスカはそのなっちの援護のためかなり派手に銃を撃っている。
これではここに人が集まるのも時間の問題かもしれない。
飛び出して撃つ。
「ねえ5番、援護して」
言い置いてアスカは宙を舞う。
宙がえりをしてアスカは手近な男に飛び蹴りを食らわせていく。
飛び込んで右隣に上段の蹴り、左にひじ打ち。
動きは基本的に円を描くように。組織の体術は中国武術の流れを汲む独自のものだ。
流れるような動きは鍛錬の賜物。アスカの動きは本当に綺麗だった。
今も変わらず、きれいだけれど。
しかし普通この状況で突っ込む?
おいおい、そんなにアスカ気が短かったっけ?
後で聞いたら「あんま時間かけると人集まって厄介でしょ」て言った後、横を向いて、「なっち心配だったしやぐっつぁんなら信じてたし」ってちょっと赤くなった。すごいかわいかった。
- 372 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時53分56秒
- 手は休めずに銃を扱って。
ヤグチが休むとアスカが危ない。
敵の数はこの遮蔽物の少ない短い廊下に見えるだけでも7人。
下手したらアスカにあたるし油断したらアスカが撃たれる。
ま、ヤグチの腕のことそれだけ信頼してくれてるから突っ込んだんだろうけど。
視界に赤が舞い散っていく。
度重なる反動による衝撃に手も肩も重くなる。
まっすぐに続く廊下。
物陰に隠れた男たちをアスカが引きずり出し、それをヤグチが一人一人撃っていく。
汗が流れる。
アスカに当たらないよう、アスカが怪我しないように援護をしながらアスカが引きずり出した男たちを次々に撃っていく。
度重なる銃声に頭がおかしくなりそうで、耳も相当いかれてきていた。
硝煙の臭いに混じった血の臭い。
アスカと距離が離れないよう足を進める。
所々に出来始めた血溜まりに足を踏み入れているのが嫌でもわかる。
最後の、突き当たりのドアからも大きな物音が聞こえている。
立っている男はこの廊下ではこれで最後。
2発撃って腹と頭に命中させる。
ヤグチが撃った瞬間アスカが身をかがめると開いていた突き当たりのドアから銃声がひときわ大きく聞こえた。
それからうめき声。
- 373 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時54分43秒
- 突き当たりの部屋から血まみれの人影。
アスカが息を呑む。
人影はなっち。
息を呑んだ。
今まで見たことのないなっちの姿。
いや、今までどころかここまで血まみれななっちを見たのはこれ一回だけだったけれど。
足取りはしっかりしているけど、機嫌悪そうに首を振っていた。
「ちょ、大丈夫!怪我は!?」
なっちって名前を呼びそうになって、あわててそれを飲み込んで聞くとなっちがかぶりを振った。
「怪我は無いけど・・・接近戦で針が折れてナイフでやった。強かった」
- 374 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時56分09秒
- どうやら返り血を避け損ねたらしく、短く答えてすぐそこの階段を下る。
あとに続きながらなっちの顔が見えないことにこっそり感謝する。
普段そんなに怒らないからこんなときのなっちは、怖い。
アスカと目を合わせて苦笑する。
このビルは4階。
ここで分かれておかないと一階の入り口から人間を逃がしてしまうことになる。
「そっちどんな感じ?」
―監視カメラと内部回線を使えなくした。後、電源落としたから今は内部電源に切り替わってるの。それも5分後に切れるよ
「了解」
「電源切れるならもういいよね。じゃあさ、私が下に行くから」
アスカはさっさと1階へ降りていった。
- 375 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時57分32秒
- こっちの人数が少ない分、明かりやセキュリティが無くなるのは非常にありがたい。
向こうの同士討ちを誘えるし。
そのあとのなっちは散々だった。
投げ針は返り血に滑って扱いにくそうで舌打ちしながらだったし、吹き針は頭からかぶった返り血のせいでもう使う気も起きなかったらしい。
気まぐれに拳銃を撃っては的をはずし、焦れてナイフで闘ってまた返り血を浴びて。
なっちが不機嫌でいまいちな分はヤグチがサポートすることにした。
突き立てたナイフが血ですべる。
視線の先のなっちは、まさに血煙を巻き上げてという表現がぴったりの闘いぶりだった。
その自分の身の安全に無頓着な闘いぶりにため息をつく。
・・・それじゃアスカよりひどいよ。
- 376 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)22時58分43秒
- そのなっちの後ろに潜むやつに向けてナイフを投げた後急激に膨れ上がる気配と左腕に衝撃。
きっちり避けたから動くのには支障なかった。
「っ・・・」
それでも漏らしてしまった声が聞こえたのだろう。
なっちはこっちを確認すると自分が相手をしていた奴のみぞおちにナイフを逆手に突き立てると、力任せにその体を足で蹴り上げナイフを引き抜き、それを捨てると矢口の後ろにまだ控える奴らに向け針を投じた。
- 377 名前:life 5. 紅碧 投稿日:2002年11月07日(木)23時00分50秒
- 多分、残りの投げ針全部。
体も顔も返り血で真っ赤。
そこに確実な怒りのにじむ、それでも静かに光る闇色の瞳。
口元が一瞬不快そうに引き結ばれ、その後笑みの形を刻む。
うっわぁこっわー・・・やば・・・荒れてる・・・。
それがそのときのヤグチの正直な感想。
かすり傷とはいえ傷をつくったのをなっちにばれたのはかなりの失敗。
「5番、もういいから」
ぽつりとつぶやいて顔を背けたままなっちは階段を指差した。
「3番のところ行って。そっちのが大変だし人、逃がしたらいけないんでしょ」
顔はよく見えなかったけど唯一血がついていなかった左の中指の先でそっと肩を押された。
「行って」
- 378 名前:たすけ 投稿日:2002年11月07日(木)23時06分31秒
- 更新終了です。
残りはあと2章。
今回の題は「べにみどり」と読みます。
- 379 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月10日(日)00時41分59秒
- 返り血をあびるなっちが素敵です(w
- 380 名前:52 投稿日:2002年11月10日(日)08時21分24秒
- 怖い、なっち怖いって
- 381 名前:名無し 投稿日:2002年11月10日(日)19時46分07秒
- 戦闘シーンがすごい!
- 382 名前:たすけ 投稿日:2002年11月11日(月)19時22分18秒
- >379 名無し読者さん
レス、ありがとうございます。
安倍さん、好きですか?わたしは安倍さん好きです。
もうばればれですね(w
>52さん
レス、ありがとうございます。
もう一息です。
がんばっていきます。
>名無しさん
レスありがとうございます。
お褒めくださってうれしいです。
ご期待にそえるよう、がんばります。
レスがたくさん頂けて、少し安心しました(v
皆さん、ありがとうございました。
更新します。
- 383 名前:life 6. 青藍 投稿日:2002年11月11日(月)19時25分01秒
- そこで一旦別れた。
かなりなっちのこと心配だったけど、まあ調子悪くてもなっちも弱いわけじゃなかったし。
そう、仕事のときは番号で呼び合う。
なっちも極力身についた北海道弁を話さないようにする。
銃弾が切れるまであとわずか。ナイフも投げるためのものはもう無くなっていた。
もう機械のようにただ闘って。
右からくる気配に思わず銃を向けたらそれはアスカだった。
「・・・ごめん」
虚をつかれたような顔をしたアスカも銃を構えていた。
のろのろとお互い謝って銃をしまう。
いつもなら気配でわかるからこんなことはないのに。
- 384 名前:life 6. 青藍 投稿日:2002年11月11日(月)19時28分44秒
- 立っている者が自分たち以外になったと気がついたときにはもう夜更けになっていた。
手の感覚はもう無く、体は泥のように疲れきっていた。
それよりも。
ビルに濃く漂う血の匂いに嫌になる。
目をやれば、そこここに倒れている人。
これをやったのはヤグチたち。
壁に血痕、床に血溜まり。
慣れたと思ってもいつまでも慣れることがないだろう、その色。
組織の崩壊のときに見た光景よりも、もしかすると酷かったかもしれない光景。
これをやったのはあたしたち。
うっすらと聞こえていたテレビの音が遠くなる。
なっちの寝顔がゆれている。
やばい。
端から視界が狭くなっていっているのがわかる。
別にこのまま意識を失うとかじゃない。
昔のことを思い出したり・・・殺しをした後とか、たまにこうなる。
なっちはたまに手とかが真っ赤に見えるらしいけど・・・。
ヤグチは、目が見えなくなるんだよね。一時的ですぐに回復するんだけど。
あと、目の前が真っ赤に染まって見えたりとか。
- 385 名前:life 6. 青藍 投稿日:2002年11月11日(月)19時30分17秒
- 呼吸が乱れる。
リモコンを握り締め、奥歯をかんで耐える。
視界は暗くなる一方で、目の前がうっすらと赤くなってくる。
そのとき隣から手が頭に伸びてきて、引き寄せられた。
「な・・・っち?」
驚きに目を見張ると、眠そうに目を半開きにしたなっちがこっちを見ていた。
「やぁぐち・・・平気だから・・・だいじょぶだいじょぶ。早く寝ろよぉ・・・」
驚きのせいか、安心したせいか。
現金なことにあたしの視界はそれでもとに戻った。
よくわかったね、なっち・・・。
それともばれちゃったのはヤグチが未熟なせい?
肩口までヤグチの顔を近づけて、自分はその後何かうにゃうにゃ呟いてまた目を閉じる。
また聞こえてくる規則的な寝息。
- 386 名前:life 6. 青藍 投稿日:2002年11月11日(月)19時31分42秒
- 「おいおい、寝言かよ・・・」
思わず脱力して頭にかけられた手をどける。
思わず苦笑がもれる。
これ、多分もう条件反射でしょ・・・。
負けず嫌いで、意地っ張りで、子供で、イモで、それでいて人一倍優しい彼女。
何度助けられただろう。
けれど。
「もう、そろそろお互い自立しなきゃ、ね」
ごっつぁんも心配するし、さ。
ちゃんと、このままで強くなろうよ。
奪った命とか、もらった気持ちとか。
全部忘れないでそれでも負けないで、強く一人で立てる人になろうよ、ね。
でもほんとありがと、なっち。
- 387 名前:たすけ 投稿日:2002年11月11日(月)19時38分16秒
- 更新終了です。
次の更新は「life」最終章です。
「a color」も終わりになります。
- 388 名前:たすけ 投稿日:2002年11月14日(木)19時16分22秒
- 更新します。
- 389 名前:life 7. 薄花桜 投稿日:2002年11月14日(木)19時17分53秒
- 最後、裏口から出るとき、アヤっぺが来てくれていた。
「ヤグチ、お疲れ」
そっと言って、頭をぐいっとなでてくれた。
振り返ろうとする顔を前に戻される。
「だめ」
「けどなっちは?」
手渡されるウエットテッシュで返り血を拭く。
アスカが出てきて、同じようにテッシュを使っていた。
「ああ、もうそろそろ・・・」
その後から肩で息をしてぼんやりとした足取りで出てきたなっちにアヤっぺが固まる。
「ちょ・・・なっち・・・?」
思わず問いになってしまったのも仕方ない、なっちの姿。
いつも返り血なんて一滴も浴びないで冷たい、余裕があるような無表情で帰ってくるのにその日は頭からつま先まで、血を浴びていないところを探すのが難しいほど。
「怪我はないの?」
アヤっぺの問いに無言でうなずくなっち。
不機嫌なんて言葉じゃ生ぬるいほどのオーラを放っているくせに、顔は無表情。
これは、怖い。
アスカもアヤっぺも顔がひきつっていた。
- 390 名前:life 7. 薄花桜 投稿日:2002年11月14日(木)19時18分46秒
- 海遊びの後買っておいたバスタオルを何枚もかぶって助手席で無言のなっちにだれもかける言葉はなくて。
沈んだ気持ちがすこし恐怖でまぎれたのが、まあ不幸中の幸いというか。
このせいで、なっちはトラウマみたいになったらしくて今までナイフを使わなかったらしい。
実はこのことのせいだって知ったのはつい最近なのだけど。
この血臭を今だに思い出すそうだ。
そういうヤグチも、この血臭と光景を今でも昨日のことのように思い出すことができる。
そうそう、このごろになって拳銃のトラウマの心当たりのこと聞いたら、ちょっと考えるようにしてから言ってた。
「父親が、銃で死んだからかな?」
小首をかしげなんでもないことのように言うなっちに驚いた。
「ちょ・・・それなんで?」
「んー・・・このごろ思い出したんだけど・・・母親が死んでからそのすぐ後、猟銃の暴発・・・か、自殺で父親が死んでるんだよね」
なっち、多分現場見たっぽいけど忘れてた。
お、重・・・。
- 391 名前:life 7. 薄花桜 投稿日:2002年11月14日(木)19時20分31秒
- あくまであっけらかんとして言うなっちに詰め寄る。
「・・・なんでそんな他人事みたいに言うの?」
聞くとちょっと悲しそうに笑った。
「思い出したのこのごろだし・・・親のことほとんど覚えてないしさ。現実感もなんもないんだけど・・・案外、関係ないかもね。多分、嫌いなだけっしょ」
そのことはもう聞くことができなかったけど。
ごっちんが言っていた、寝てるときたまに飛び起きるって、それの夢のせいもあるのかな。
そりゃ、トラウマにもなるかなあ・・・。
思えば、なっちは昔銃を持った後よく具合を悪くしていた。
そのうち当たらないとはいえ拳銃を握れるようにはなったからあまり気にはしていなかったんだけど・・・。
そういえば、なんかいやとか言ってライフルとかには絶対近づかなかったっけ。
- 392 名前:life 7. 薄花桜 投稿日:2002年11月14日(木)19時21分43秒
- あたしも裕ちゃんもいろいろとあるけれど。
裕ちゃんのバナナも・・・もしかしたら、トラウマ?
どんなトラウマだよ。・・・でもほんとにそうだったりして。
なっちには、幸せになってほしいと思う。
なっちだけじゃないけどさ。
この仕事の後、ヤグチたちの中で何かが変わった。
うまくいえないけれど、何かが確実に。
慣れちゃいけないことに慣れた気がする。
あの赤がしみついてはなれない気がする。
最初、人を殺したときから・・・それよりもっと確実に。
なっちは後藤・・・ごっつあんに会うまでそれは変わらなかったって言ってたし、あたしも・・・裕子と会っていても、いまだに感覚が抜けない。
なんかこう・・・慣れっていうか。
胸の中が冷たいような、そうじゃないような。
白いような、でもそれに気付かない、気付けないような。
今じゃ、そのなにかに気付ける気がする。
- 393 名前:life 7. 薄花桜 投稿日:2002年11月14日(木)19時22分38秒
- だからなっちがぼんやりするのもわかるんだ。
ぼんやりしてるとき何を感じているのかわかるんだ、多分。
でもこれはあたしたちが付き合っていかなきゃいけないことで。
忘れちゃいけないこと。
ま、なっちもこのごろ持ち直してきたみたいだし。
そろそろ仕事もしなきゃね、なっち。
ちゃんと情報集めてさ。
そうそう、車の運転も練習しようよ。
あとさ、ほんとこのごろのごっつあんとのばかっプルぶりは、目にあまります。
いい加減なんとかしてくれよな、なっち。
ちゃぶ台で気持ちよさそうに居眠りしてる横顔につぶやいた。
あーあ。たまには裕子に電話しよっと。
終
- 394 名前:たすけ 投稿日:2002年11月14日(木)19時27分16秒
- ようやく終了することが出来ました。
レスを下さった方々、読んでくださった皆様に感謝してます。
ほんの一言でも良いので、感想をいただけたら幸いです。
最後になりましたが管理人さん、ありがとうございました。
残りのスペースをどうするか実は考えていないのですが・・・。
何かしら「読みたい」とか「書いてほしい」とかってありますか?
私がそれにお答えできるかわからないし、このまま終了した方がいいかもしれないんですが・・・。
それも含めてレスを下さるとうれしいです。
- 395 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月14日(木)22時41分18秒
- 初めまして、ずっと読んでました。できたらなっちと後藤のバカップルぶりが
是非読みたいです。
上手く感想が言えないんですけど、とにかくこの話の空気が好きです。
お疲れ様でした。
- 396 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月15日(金)00時25分19秒
- なっちとごっちんのばかっぷるぶりもよかったですが
番外の血まみれなっちが素敵でした(w
本編の続きでラブラブなちごまも読みたいですが(w
なっちに出会う前、世界に色がつく前のごっちんの話も読みたいです。
- 397 名前:52 投稿日:2002年11月16日(土)14時29分37秒
- なんかほのぼのしててよかったです。
完結ごくろうさまでした。
えーっとほのぼのなちごま希望です。
- 398 名前:名無し 投稿日:2002年11月16日(土)20時57分09秒
- 完結お疲れ様でした。
ラブラブななちごまも見たいですが、
ごっちんの過去の話も気になります。
- 399 名前:たすけ 投稿日:2002年11月20日(水)13時45分31秒
- >395 名無し読者さん
はじめまして。「はじめまして」がうれしいです。
レスと感想、ありがとうございます。
>とにかくこの話の空気が好きです。
そういって頂けて光栄です。ありがとうございます。
バカップル、了解でっす。
>396名無し読者さん
レスと感想、ありがとうございます。
「血まみれ」、昔の安倍さんのイメージで書いてみたんですが好意的に見ていただけてよかったです。
ちょっと、心配してたんで。
「ラブラブ」かつ「昔の後藤さん」ですね。
・・・昔の後藤さんのほうはなんとか絡めてやってみます。
えっと、できるだけでもよいですか・・・?
>52さん
レスと感想、ありがとうございます。
話の最初からずっとお付き合いくださり、ありがとうございました。
弱気になった時とか、レスに助けていただきました。
ありがとうございました。
「ほのぼの」了解です。
>名無しさん
レスと感想、ありがとうございます。
番外編、特に付き合ってくださってありがとうございました。
あの、やらなかったほうが良かったんじゃ・・・て不安になることしきり(wだったんで、ほんと、感謝してます。
「ラブラブ」かつ「過去」、了解です。
- 400 名前:たすけ 投稿日:2002年11月20日(水)13時46分06秒
- 「ラブラブ」「バカップル」で、「ほのぼの」した「後藤さんの過去」の話・・・あれ?
いや過去を絡めた話、の方向で書き始めようと思います。
方針の大きな変更は出来ませんが、この後もいただけたら感想とご希望、お待ちしてます。
どうもたすけは話が重くかつ妙に生痛くなる(v 傾向があるので・・・少し、時間をいただけたらと思います。
レス、いただけたらお返事はするつもりですし、できるだけ早めに書き上げますので「おまけ」、もう少し待ってくださると嬉しいです。
- 401 名前:たすけ 投稿日:2002年12月01日(日)21時01分24秒
- 待ってて下さった方、ありがとうございました。
ようやく出来上がりました。
「a color」 ありがとうございますおまけ編「ギフト」。
ご期待に添えてるかかなり不安ですがいきます。
- 402 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時03分04秒
- 白い粉雪が降る。
それは今年初めての雪で、今日の冷え込みは厳しいって天気予報のおじさんは言っていた。
山にある、このお寺は寒い。
きっちり隙間風対策をして冬を迎えたはずなのに、ってやぐっつぁんはストーブの前でよくこぼしてる。
なっちも寒い寒いって言って膨れている。
このごろ、なっちの表情は豊かになった。
冷たい顔とかあんまりしなくなってごとーは、とてもうれしい。
ちょっと豊かになりすぎって気もするけど。
「寒い!寒いよごっちん!おかしいべさ!」
昨日の声を思い出す。顔が緩むのが自分でも分かる。
「北海道育ちの癖にー」
言い返したら膨れて言い返された。
「育ちじゃないもん」
育ちは組織だもん。
内容が内容だけにちょっと固まったごとーをけらけら笑って軽く小突いた。
「何固まってんのさごっちん」
それから小さくつぶやく。
「もう、大丈夫なのにさ」
なんかそんなこと、このごろけっこうあって。
ごとーは、なっちの成長を見てちょっと複雑です。
- 403 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時04分02秒
- ごとーは、喜んでいる。
でも不安になる。
なっちは進歩している。でも、ごとーは・・・わたしはどうかな。
ごとーはちゃんとなっちといっしょに、歩けてますか?
なっちは・・・なっちは、急にいなくなったりしないよね?
ごとーは、心配です。
毎日、気温は上がったり下がったりを繰り返しながら、それでも確実に寒くなっている。
12月も後半を迎えた。
二人が出会って、気持ちを伝え合って初めてのクリスマスが来る。
プレゼント、なにあげたらいいかわかんないよ。
想う気持ちだけだって、ちゃんと伝わってるか不安になるのに。
- 404 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時05分24秒
- 「ごっちん」
優しい声に急いで振り向く。
この前、こうやって考え事をしていて何回か呼ぶ声、聞き逃したらしばらく後ろ向いてすねちゃって返事してくれなかった。
なぜか部屋の隅まで行って後ろを向いて座る、その後ろ姿がかわいくて、それ見れてよかったって思った気持ちもあったけど。
怒った顔もかわいかったけど。
「なに?」
振り返った先にはちょっと心配そうに眉を寄せたなっちの顔。
「どしたの?このごろずっとそんな顔して考え事ばっかしてない?」
「そんな顔?」
聞き返すと首をかしげて、教えてくれた。
「半笑いで口だけしっかり閉じた難しい変顔」
- 405 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時06分06秒
- ひど!誰のために悩んでると思ってるのさ!
あ、半分は自分のためか。
妙に悟った感じで納得しちゃってからベッドの上に座るなっちのそばまで行く。
「内緒。そのうちわかるよ」
手をひかれなっちの横に座らせられながら笑うと、なっちは抱きついて首を絞めてくる。
「はやく教えろー」
「ぐえ」
かかる力に笑い転げながら頭の半分で思う。
これはこれで幸せだけど・・・なっち、なにがほしいのかなぁ・・・ここは、秘密兵器に頼るしかないか。
考えてたら息が苦しくなってきた。
「なっち、苦しい苦しい」
「あ、ごめ」
騒いでたら扉の向こうからそのミニサイズの秘密兵器さんの声がした。
「電話してんだからもうちょっと静かにしてよ」
そっか!交換条件とかどうかな。よしよし。
待っててね、なっち。なっちが一番ほしいもの、ごとーがサンタさんになって届けてあげる。
- 406 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時11分13秒
日々は過ぎていく。でもさ、こんなに生きてるっていう実感のできる日々は初めてで。
幸せにたまに泣きそうになる。
もちろん、ごっちんが不安そうにするから泣かないけど。
仕事もそろそろ始めた。
裕ちゃんのところの調査を手伝ったり、裕ちゃんから紹介してもらったところのお客さんを守る仕事をしたり。
今のところ、仕事は順調で大きな失敗はない。
組織の影も、まだ見当たらない。
彩っぺは仕事の傍らお料理の勉強を始めたとかで、たまにおすそ分けを持ってきてくれたりここで料理を作ってくれたりしてなっちたちを助けてくれる。
今まで料理なんてしたことないけど目立つのは良くないからそんなに外食するわけにはいかないし。
- 407 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時11分58秒
- 矢口もなっちも最初はあんまり料理が上手じゃなかったけど、このごろ大分進歩したと思う。
矢口もけっこうおいしいって言ってくれるし。
最初はごっちんの意見もあてにしてたんだけど・・・。
ごっちんは、甘い。
なっちがつくったものならなんでも美味しいって言ってたらなっちの料理、いつまでたってもうまくなんないしょや。
まあ、そういうわけで。
日々は順調です。
このごろのごっちんのぼんやりと・・・クリスマスさえ、なかったら。
- 408 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時12分42秒
- 仕事、疲れてるのかなとかいろいろ考えたりしたんだけど・・・ごっちん、どうしたんだろ。
その心配ももちろんしてるけど、なっちにはもうひとつ心配なことがある。
・・・初めての、クリスマス。
雑誌とか見てたし世間ではどんなことしてるのかは知ってるんだけど・・・。
組織では祝ったことなかったから・・・不安。
真似事ならヤグチや彩っぺ、アスカとしたことあるんだけどさ。
二人がいなくなってからはプレゼント交換とかもしてなかったし。
何より、ごっちんがなにがほしいかわかんないのが、ねえ・・・。
「ごっちん」
声をかけて振り返ったら、ごっちんは変な顔をしてぼんやりしていた。
ちょっと・・・また?
「なに?」
それでも返事してくれたけど相変わらず目はうつろ。
ねえ・・・なっちといるの、つまんないかな。
ごっちんがくれる気持ち、疑ってるわけじゃないんだけどさ。こんなごっちん見てると不安になるよ。
- 409 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時14分07秒
- 「どしたの?このごろずっとそんな顔して考え事ばっかしてない?」
勇気を出して聞くとごっちんはちょっと笑って答えてくれる。
「そんな顔?」
「半笑いで口だけしっかり閉じた難しい変顔」
しっかり答えたら苦笑いみたいな顔になって、ごっちんは立ち上がる。
あ、行っちゃうのかな。やだな。
瞬間、思ったけどごっちんはそのままベッドの上に座るなっちのそばまで来てくれた。
その手をどっか行っちゃわないようにとって、あたしの方に引っ張る。
「内緒。そのうちわかるよ」
そのごっちんの顔は妙に大人に見えて悔しい。
だってさ、誰のせいでなっちがこんな顔してると思ってんのさ!
「はやく教えろー」
- 410 名前:ギフト 投稿日:2002年12月01日(日)21時15分06秒
- のしかかって首を絞めてやった。
伝わる体温に気持ちは優しくなるけど、手は緩めてやんない。
「ぐえ」
苦しげな声に満足感。
あったかいし、手、離したくないよ。
「なっち、苦しい苦しい」
「あ、ごめ」
想いの分力が入っちゃったのか、手を離したごっちんは肩で息をしていた。
ごめんね、ごっちん。
うるさくしてたせいかちょっと不機嫌なヤグチの声が響く。
「電話してんだからもうちょっと静かにしてよ」
電話、また裕ちゃんか。
うれしそうな顔をして憎まれ口をきくヤグチの顔を思い出す。
・・・ん?裕ちゃん?
そうだ!裕ちゃんにごっちんのこととクリスマス、相談したらいいんじゃん!
いやーなっち、今回賢いんでないかい?
- 411 名前:たすけ 投稿日:2002年12月01日(日)21時19分11秒
- 更新終了です。
季節ものなんで、間に合ってよかった・・・。
下旬までにはちゃんと終わりますので。
- 412 名前:名無しごまファン 投稿日:2002年12月02日(月)01時39分41秒
- うわーいお待ちしてました!
ここのなちごまが大好きで、また見られてとても嬉しいです。
二人が一緒に幸せなクリスマスを過ごせることを祈ってます。
頑張ってください!
- 413 名前:名無し 投稿日:2002年12月02日(月)16時22分39秒
- 待ってました!
なちごまにまた出会えて感激です。
続き、楽しみにしてます。
- 414 名前:たすけ 投稿日:2002年12月04日(水)19時56分48秒
- >412 名無しごまファンさん
レス、ありがとうございます。
待っていてくださってありがとうございました!
>ここのなちごまが大好きで、また見られてとても嬉しいです。
とても嬉しいです。
>413 名無しさん
レスありがとうございます。
待っていてくださってありがとうございます。
お待たせしていた分さくさくといく予定なんで、お付き合いくださると幸いです。
では更新します。
- 415 名前:ギフト 投稿日:2002年12月04日(水)19時58分44秒
「ちょっと、なっち!安倍さん!安倍なつみ!おい!朝ごはんもできてるんだけど!起きろよ!」
このごろ、なっちは朝が弱い。
昔からそんな感じだったけどこのごろますます起きるのが遅い。
組織から抜けて仕事をしなくていいっていう安心感からかとはと思うけど・・・この寝起きの悪さはどうかと思う。
片方の足を布団から出し、枕を抱え込んで幸せそうに眠り込んでいる横顔をにらむ。
かわいい。そう、たしかにかわいいのかもしれない。
けどさあ!
その寝相はなんだよ!
ごっちん・・・ほんとに、こんななっちでいいのかよ・・・?
おとといのことを思いだす。
- 416 名前:ギフト 投稿日:2002年12月04日(水)20時00分18秒
- なっちがお風呂に入っているとき、ごっつぁんが言ったんだ。
「やぐっつぁん、頼みがあるんだけど」
いきなり飲んでいたお茶を置いて言うからびっくりしたじゃん。
「いきなりなんだよ?」
聞くと顔が赤くなる。
おいおい、そんな恥ずかしい話ならこっちもやだよ。
「あのさ、なっちが今一番ほしいものって、分かる?」
「はい?」
いくら一緒に暮らしてるからって普通、そんなのわかんないよ・・・。
しかもごっつぁんはなっちの彼女だし、あんたもほとんどいっしょに暮らしてるも同然じゃん。
「だから、なっちがほしいもの。もうすぐクリスマスでしょ?なにあげたら喜ぶかわかんないんだよね・・・」
「なっちはごっつぁんがあげるものならなんでも喜ぶんじゃない?」
これは本音。
こんなことごっつぁんも知ってるんでしょ?
それでも喜ばせてあげたいんだよね。
気持ち、分かるよ。
だってヤグチもそうだもん。
- 417 名前:ギフト 投稿日:2002年12月04日(水)20時02分04秒
- 「だけどさあ・・・」
のろのろつぶやいて机につっぷしたごっつぁんに声をかける。
「いいよ。ヤグチ、さりげなく聞いてあげる。だからさ・・・裕子のほしいもの、探っといてよ」
勢いよく顔をあげるごっつぁん。
「マジ?ありがとやぐっつぁん!ちゃんとごとーも聞いておくね!」
ヤグチの手を握ってぶんぶんと振った、横顔を思い出しながら目の前の平和そうな寝顔に目をやる。
ったく。なっち、よかったな。あんた愛されてるよ。
「もういい加減おきろよぉ!」
言って布団をはぐと情けない声。
「やぁぐちー・・・戻して・・・」
丸まって少しでも寒さをしのごうとするその情けない姿にめまいを覚える。
それじゃ小学生だよ・・・。
「はいはいはい起きる!」
遠くに布団を放り服をなげてやるとようやくなっちはもぞもぞと動き出す。
その姿を横目にヤグチは朝ごはんをあっためなおすために台所へと戻る。
「・・・ほしい」
なに!なっち今なんて?
聞こえた声にあわててなっちの部屋のドアから顔を出す。
- 418 名前:ギフト 投稿日:2002年12月04日(水)20時04分12秒
- 「今なんて言った?」
すごい勢いで聞き返したあたしの顔をびっくりした顔で見つめ、なっちはおずおずとさっきの言葉を繰り返した。
「だから・・・すごい音とか無しで優しく、気持ちよくあったかく起こしてくれる目覚ましがほしいって・・・」
「・・・あ、そう」
思わす脱力してドアを静かに閉める。
なっちみたいなねぼすけをそんな風に起こしてくれる目覚ましなんてあるかよ。
ドラえもんに頼め。そんなんは。
ごっつぁん。とりあえず、リストに項目ひとつ追加で。
ヤグチ的にはこれをプレゼントにしてくれるのが一番うれしい。
- 419 名前:ギフト 投稿日:2002年12月04日(水)20時05分34秒
昼食を裕ちゃんととる約束をして、あたしは街に出た。
「ああ、なっち」
おだやかな声でこっちに手を振った裕ちゃんは落ち着いた赤のスーツを着ていた。
周りはスーツ姿のOLやおじさんばかりで、あたしは自分の童顔を意識する。
浮きたくないけどしょうがないじゃん!なっち童顔なんだもん。
裕ちゃんの前の席に座ってオーダーを済ませ、裕ちゃんに向き直る。
「どうしたん?急に相談やなんて」
窓際の席は日差しが入って、裕ちゃんの金髪がまぶしい。
「あのね・・・」
つい言いよどむ。
頼っていいのかな。迷惑かな。
思うけれど、もう仕方ない。呼んじゃったんだからと、覚悟を決める。
- 420 名前:ギフト 投稿日:2002年12月04日(水)20時06分41秒
- 「クリスマスのプレゼントなんだけど、ごっちんのほしいもの、なっちわかんなくて・・・。なっち、本当のクリスマスなんて初めてだし・・・いろいろ、教えてください!」
最後、一息に言って頭を下げた。
そっと頭を上げると、静かに肩を震わせている裕ちゃんの姿。
「・・・裕ちゃん?」
名前を呼ぶと、ようやく返事をしてくれる。
「いや、ごめんごめん・・・自分らかわいいなぁと思って。分かりました。この裕ちゃんに任せなさい。そのかわり・・・」
なにかな?ちょっと緊張する。
「ヤグチのほしいもん、聞いといてくれへん?あたしも知りたいんよ」
ヤグチ・・・なに、ほしいんだろ。
けど良かった。それならたぶんなっちにもできるよ。
「わかった。ありがと、裕ちゃん」
交渉、成立。
ごっちん、待ってて!なっち、全身全霊で絶対クリスマスを成功させて見せるよ!
- 421 名前:たすけ 投稿日:2002年12月04日(水)20時10分13秒
- 短いけれど更新終了です。
- 422 名前:チップ 投稿日:2002年12月05日(木)16時42分35秒
- うぉぅ!更新されとるがな〜
なちごまは読んでて幸せになれますなぁ・・・
クリスマスかぁ・・いいな〜どうせオイラは一人ぼっちさ・・・
続き楽しみにしてますね♪
- 423 名前:たすけ 投稿日:2002年12月05日(木)21時49分48秒
- >422 チップさん
レスありがとうございます。
更新しときました(w
ちょっとでも喜んでくださったら嬉しいです。
よろしければ、最後までおつきあいください。
更新です。
- 424 名前:ギフト 投稿日:2002年12月05日(木)22時01分52秒
「うう・・寒」
「ごっつぁんー行くよー」
カオリの声が部屋中に響く。相変わらず後藤は・・・いやいやごっつぁんはやる気が薄そうな顔をしている。
新人教育で散々サヤカに怒られて、あの顔で落ち着いたんやけどまだまだやなぁ。
普段の笑った顔を見慣れた身にはあの顔は少々物足りない。
なっちの話をしとる時とかなっちの前でするような顔、皆に見せろとは言わんからもう少しなんとかしようや。
「・・・ほしー」
なに!今何か言うたやろごっつぁん!
組織時代培ったスピードと技を駆使して一足飛びに扉の外のごっつぁんとカオリの元へ行く。
- 425 名前:ギフト 投稿日:2002年12月05日(木)22時02分58秒
- 瞬間で持っていたペンを放り投げ、椅子を蹴倒し圭坊の机に飛び移ったところでペンをキャッチ、固まってる圭坊に軽くウインクをして着地。
肩で息をしたいのを我慢して開けた扉にもたれかかり、平静を装って聞く。
「ごっつぁん、今なんて?」
目を丸くして固まったカオリは無視。
「裕ちゃん、瞬間移動・・・」
ごっつぁんは振り返り、頬をちょっと掻きながら繰り返した。
「いや、カイロほしーって・・・」
ちぃ!カイロかい!
紛らわしいわ!さっすがになっちにカイロをクリスマスプレゼントにって伝えるわけにはいかんしなぁ・・・。
なんかマジでカイロ、100個ぐらい買って贈ってそうやもん。
『はい、ごっちん。カイロ100個だよ。ほしかったんだよね?』
『うわぁ、なっちありがとう。あったかそう。ごとー、もうカイロには困んないよ』
『そうでしょ?たまにはなっちにも分けてよ』
『いいよ。二人であったまろ?』
ってオチはどこやねん!ってあたしがつっこんでどうすんねん。この二人ボケ同士やからなぁ・・・。
そもそも本気のクリスマスプレゼントでボケてどうすんねん。
あたしなっちに叱られるって。
- 426 名前:ギフト 投稿日:2002年12月05日(木)22時03分32秒
- 「って、ごっつぁん・・・?」
気が付いたときにはもう二人の姿はなかった。
ああ・・・失敗や。こんなところで通信してどうすんねん。カオリやあるまいし。
なっち・・・うまくやってるんかなぁ・・・裕ちゃんは、心配です。
- 427 名前:ギフト 投稿日:2002年12月05日(木)22時04分48秒
「なっち・・・それ、どうしたの?」
久々に街に一人で出かけたと思えばたくさんの雑誌や本を抱えて帰ってきたなっち。
紙袋から出てきたそれにはすべて「クリスマス」の文字が躍っていた。
ああ・・・なっち、形から入ることにしたんだ・・・。
呆然とそれを見やるヤグチのほうにも山の一つがぐいっと押し出される。
「読んでよ。ヤグチも一緒に勉強しよ?」
語尾は上がっていたが間違いなく笑顔は脅迫じみていて、なっちのやる気が伝わってくる。
「・・・はい」
なっち・・・怖いよそれ。
短く返事をして、互いに無言で読み始めてから30分。
「ヤグチ・・・なんかわかった?」
いや、分かったって言っても・・・。
「だってさ、あたしたちって店とかホテルとか行くかわかんないし・・・なっちが思うクリスマスでいいんじゃないの?」
それが一番ごっつぁんが喜ぶんだってば。たぶん。
- 428 名前:ギフト 投稿日:2002年12月05日(木)22時06分24秒
- 「んー・・・とりあえず、じゃあ料理はがんばるでしょ・・・?それから・・・」
なにやら頭を抱えて考え込むなっち。
ん?もしかしてこれチャンスかも。
「ね、なっち?」
あくまで自然に。
「なに?」
うなるように答えたなっちはクリスマス用の料理の本から顔も上げない。
「クリスマスプレゼント、悩んでるんだけどさぁ・・・なっちだったら、なにがいい?」
おお!ヤグチなかなかさりげないんじゃない?
緊張して答えを待つことしばし。
「・・・わかんない。くれるならなんでもいい。なっち、ごっちんで頭いっぱい・・・」
ものすごく時間をかけて、眉をたれ下げた情けない顔で告げられた答え。
つ、つっかえねー!!
「ね、ヤグチはなにがほしいのさ?」
逆に聞かれてしまった。
なっちは完全に本から頭を上げこっちを見ている。
「ああ・・・」
よく考えたら改めてほしいものって浮かばないんだよねぇ・・・。
服とかは自分で買うしさ。
定番はアクセだけど・・・これといったものはないしなぁ・・・。
しいて言うなら・・・
- 429 名前:ギフト 投稿日:2002年12月05日(木)22時07分25秒
- 「時間。裕ちゃんの休み」
けっこう考えて答えた瞬間、がくっと頭を落としなっちは料理の本にまた戻っていく。
おいおい、そのリアクションはひどくない?
ヤグチけっこう真剣なんですけど。
でも、答えて気付いた。
欲しいものって、案外そういうものだよね。
お金で買えるものなんてたかが知れてるってこと、か。
たぶん、みんながほしいものはお金で買えないもので、クリスマスのプレゼントはお金で買えない価値が付いてくるからみんな悩んで贈って、もらうとうれしいんだよね。
ってわかってもさぁ。
裕ちゃん・・・ヤグチはそれでも知りたい。ねぇいったいなにがほしいんだよ・・・。
- 430 名前:たすけ 投稿日:2002年12月05日(木)22時21分48秒
- クリスマスプレゼント。
それは幸せの形。
「ねぇ・・・裕ちゃん、ほしいものとかある?」
続く腹の探り合い。
絡み合う届かない想い。
伝えられない本当の疑問。
・・・ほしいものは、なんですか・・・?
知りたかった答えを彼女達は得られるのだろうか?
幸せなクリスマスは訪れるのか?
次回「a color」みなさんのおかげです「ギフト」。
「ついに、ごっつぁんの過去が明らかに!」
見てください。
忘れてたし書くことないんで予告にしたんですが訳わかんないですね(笑
- 431 名前:たすけ 投稿日:2002年12月07日(土)12時32分01秒
- 全然ageる気なかったのにageちゃってそれでもレスもったいなくて直後にそれ言えなくてちょっとへこんでたたすけです。
話の中身を少し増やしたため、今回から何もなければ最初の「いまから始めます」レス(?を止めます。
きつくなってきたら唐突に始まって唐突に終わってみたり。
多分大丈夫とは思うんですがそれもいいかな、と。
では更新です。
- 432 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時39分11秒
皆が帰った部屋で、裕ちゃんはまだ仕事をしている。
パソコンを見つめるその視線は真剣で、ときどき画面の反射で眼鏡が光る。
そっと扉を開けたらいきなり声がかかった。
「なんや?ごっつぁん、まだ帰らへんの?」
こっちも見ないでかけられた声に思わず肩を揺らして反応してしまう。
こういうところ、なっちもやぐっつぁんも裕ちゃんもよく似ている。
「んー・・・」
声だけだしてそっと裕ちゃんの方を伺う。
やぐっつぁんに頼まれたことで、今日一日裕ちゃんのこと観察してたけどよくわかんないんだよねぇ・・・ほしいもの。
聞けたのは缶ビールとか熱燗だし・・・。さすがにプレゼントでそれあげたらギャグだよ。
「ねぇ・・・裕ちゃん、ほしいものとかある?」
おお?考え事しながら言ったらものすごい直球になっちゃった。
・・・ごめん、やぐっつぁん。
「ほしいもん?」
顔を上げて問われたことをうまくごまかすために、続けて言う。
「なっちになにあげたらいいか、悩んでてさ・・・」
うまくごまかせたかな?
でも、これは本当だもん。なっち、何ほしいんだろ・・・。
「んー・・・」
うなって椅子をくるっと一回転させて裕ちゃんは言う。
「なっち、なぁ・・・」
いや、まずごとーが知りたいのは裕ちゃんが何ほしいかなんですけど。
「裕ちゃんならなにほしい?」
ひとしきり悩んだ後答えが返ってくる。
「時間。・・・ヤグチと一緒におる、時間」
- 433 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時40分18秒
- やぐっつぁん・・・これ、やぐっつぁんの一存でどうにかなるもんじゃないよね・・・。
「そのためにはあんたももうちょっとがんばってくれたらなぁー?」
案外明るい調子で言われた言葉が胸に突き刺さる。
や、やべ・・・。
「だいたい、裕ちゃんの欲しいもんなんて聞いてもなっちとかぶるわけないやん。なっちお子様やしなぁ・・・」
思わず納得する。
でもさ、ほしいものごとーとはかぶってるよ、裕ちゃん。ごとーも時間がもっとほしい。
なっちと一緒にいたいから。
ずっと触ってたいよ。ずっと見ていたいよ。
たぶん、なっちもおんなじ事思ってくれるって信じてるんだ。
これって、幸せってことだよね。
「おい。なに一人でにやけてるん?」
想いが顔に出てたらしい。
- 434 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時40分57秒
- 「へへ」
笑ってごまかしたら裕ちゃんの手が伸びてきた。
はたかれるかと思った手は優しくごとーの頭をなでてくれた。
「あんた、すごいやさしい顔になったな。最初会ったとき心配してたけど・・・もう、安心やな」
そういう裕ちゃんの顔こそ優しくなってるよ。
「あんたは居場所、見つけたんやな」
そうだよ。あたしは帰るところ、ちゃんと見つけたんだ。
生まれた場所だからとか、家族がいるからとか理由を探さなくてもいい、本当にごとーがいてもいい場所を見つけたんだよ。
「ありがと、裕ちゃん。感謝してます」
ここもそうだったってわかったんだ。それにすぐ気付けなくてごめん。
でもそれもこれも、裕ちゃんと会ったからわかったんだよ。裕ちゃんがあたしを拾ってくれたからだよ。
「おう」
優しく目を細めて笑ってくれた、その顔はたぶんいつもは見せてくれない特別製。
「はよ帰り。今日はなっちのところ行くん?」
「ううん。今日は家に帰るよ。ここんところあんまり帰ってなかったしさ」
プレゼントも見に行くんだ。
- 435 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時41分31秒
- 手を振って別れた裕ちゃんはまだ仕事をしていた。
年末は大変だよ・・・。やぐっつぁん、もし良かったら、プレゼントはアイマスクとかどうかな・・・?
- 436 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時45分29秒
- ごっつぁんはうれしそうに帰っていった。
そう、あの子があんなに優しい顔ができるようになるなんてほんと言うと思ってなかった。
疲れた目をちょっとでも休めようと、パソコンの前から離れ窓際に向かう。
コーヒー、淹れたらいいんやけど・・・それもだるいしな。
苦笑して外を眺めるといくつもの明かりが灯ったビル街と夜の、雪が降り出しそうな曇り空が見える。
そう、最初はなんであんなに退屈そうな顔してるんやろうと思ったんやったな・・・。
通勤のために毎日通る道であの子を見つけたのは偶然。
ふと見たバス停に立っていたあの子を見て、綺麗な子だと思ったのを覚えている。
信号待ちで止まった車内で見守る間、彼女の表情はまったく動かなかった。
目に光は無く、そこには生気というものがまったく感じられなかった。
綺麗な子なのにもったいない。
感想はそれだけ。
生気のない顔や、無感動な瞳はあたしには見慣れていたものやったから。
そう、むしろ嫌悪を覚えたんや。
まるで、昔の自分や組織の人間を見せられている様な気がして。
- 437 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時46分12秒
- その日から信号につかまるたび、彼女を眺めるようになっていた。
その習慣を破ることになったのは、彼女を見つけてから1ヶ月ほどがたってから。
違う制服を着た少女たちに、路地に引きずられていくごっつぁんを見つけて、あたしは思わずハンドルを切った。
ほっとこうって何回も思った。
どうしてほっとけへんかったんか、自分でもいまだによくわからん。
たぶんそれも縁ってことで今では一応納得してる。
すぐ近くの開いたスペースに車を止めて、路地へと急ぐ。
そのとき耳に入った何かを叩く高い音に肩をすくめる。
うわ、いたそう。
路地に足を踏み入れると数人の少女とごっつぁんがいた。
囲まれてるっていうのにごっつぁんの顔は全然動いていなかった。
叩かれた頬を押さえる気配もなく、淡々と少女たちの罵声を聞いている。
「あんたがタカシを誘ったんでしょ」
「あんたタカシがキョウコの彼だって知ってたんでしょ」
「それなのに簡単に捨てちゃって・・・謝れよ!」
ああ、痴情のもつれってやつね・・・。
脱力して車に戻ろうとする。
そのとき、彼女の・・・ごっつぁんの声がした。
「知らない。誰のことかわかんないけど・・・勝手に付いてくるんだし。隣にいてくれって言われたからいただけだし。我慢できなくなったらバイバイって言うだけ」
- 438 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時46分52秒
- 平坦な声の内容も内容やけど・・・誰って・・・。
最低な、かわいそうな子。叩かれて、まぁそのうちにでも反省してください。
そう判断して、その場を立ち去ろうとした。
しかし、その後その言葉に逆上した少女たちがごっつぁんに暴力を振るおうとしたからあたしは足をもう一度止めた。
いざとなれば、通りがかって声でも上げて、助けたほうがいいだろう。
手を貸す気はなかったが、面倒でもそれが行きがかり上適当だと思った。
しかし、現場を見たあたしは驚いた。
強い。ごっつぁんは蹴られる足をよけ、捉えられる腕を振り解き相手を一人ずつ路面にしずめていた。
「ちょっとちょっと・・・」
思わずつぶやき、その場から離れごっつぁんを止めに入る。
「それ以上やったらあかん」
無感動な目がこっちを見据える。こんな場面でも、彼女の目は何の感情も浮かべていなかった。
一瞬だけ組織の人間を想像して、感謝した。
ごっつぁんが組織の臭いをさせていないことに。組織の人間に、この少女のことを知られていないことに。組織の人間が彼女を見たら、絶対にこの子を組織に連れ帰るだろう。
そう思わせるものがごっつぁんにはあった。
そのとき通りの向こうから人の声が聞こえ、あたしはごっつぁんの鞄をすばやく拾い上げ、車まで手を引き走った。
組織のことを考えていたせいかもしれない。
常のあたしならば考えられない行動。
- 439 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時49分17秒
やっぱ、運命やろうなぁ・・・。
そっと立っていた窓際から離れ、コーヒーを淹れることにした。
コーヒーメーカーの前でコーヒーができるのを待ちながら、続きを思い出す。
そう、ごっつぁんは見知らぬ女に半ば拉致されたのに平然とした顔で聞いたのだ。
なんで?と。
「あんた、あのままあそこに立ってたらつかまってたで?」
答えたあたしの顔は絶対呆れたものになっていただろう。
「そっか。ありがとう」
答える声に内心驚いた。こんな素直な子なん?
「・・・タカシって人、幸せだね。愛されてるじゃん」
いまさらなことをつまらないような顔で言う彼女に聞く。
「あんた、なんてこと言うん?自分の彼氏やったんやろ?」
「てゆうか・・・」
のろのろと言をつむごうとする彼女の声をさえぎって、携帯が鳴る。
謝って携帯をとると、案の定サヤカの遅刻を責める声がした。
もうすぐ行くから、となだめ携帯を着ると、彼女の声が耳に入る。
「仕事あるのに助けてくれてありがとう。それじゃ」
- 440 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時50分22秒
- またあの表情を身につけて、そのときはごっつぁんは車から出て行った。
すばやくて止める間もなかった。
そのときのことをここにきて最初のころ、ごっつぁんと話したら例の無表情で言っていた。
見ず知らずの人が自分の仕事を放ってまで助けてくれたのがうれしくて、びっくりしちゃた、と。
あんた、それはびっくりした時の反応やないで。突っ込んで、そのときはそれで終わったけれど。
そう、あの子は、別に家族といさかいがあったわけではない。
ただ、優しかった家族が、仕事を始めて家からいなくなって寂しくなっただけだと彼女は笑った。
身につけ始めた笑顔はぎこちなかったけれど、その顔には乗り越えた強さがあった。
どうしても気になったから調べたところによると、父親が亡くなりその少し後、母親に男の影があったことも思春期のごっつぁんにショックを与えたらしい。言葉にすれば簡単でよくある話だが、あんな風になったごっつぁんのことを考えると胸が痛んだものだ。
両親のことを思い出せないあたしには、そのショックを一緒にわかってやることができないし。せめて、いっしょににわかってやる努力をしたい。そう思った。
- 441 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時55分11秒
- 確か、その数週間後。
街で偶然、ごっつぁんを見つけた。
そのとき徒歩やったあたしは、思わず後をつけてしまったんやけど。
ごっつぁんは数人の男に囲まれ、また路地に連れ込まれていく。
わりと場慣れして見えた。
先日見たごっつぁんの強さに納得する。
そりゃ、こんなところを何度も潜り抜けたら強くなるわな。
急ぎ足でその後をつけるあたしに気付かず、その集団は人気のないところにごっつぁんを連れて行く。垣間見える横顔は無表情やったけど、それがこわばってるようにあたしには見えた。そう、ごっつぁんの心は、閉じていたわけやなかった。
「写真でみるよかかわいいじゃん」
軽い感じで言われる言葉には無言で返すごっつぁん。
「キョウコたち、ほんとにこいつにやられたのかよ?」
「なんか用?」
ようやく口を開いたごっつぁんに、男たちは笑い声を上げた。
「おいおい、ここまできて何の用はないだろ?」
「お前もちゃんとわかってきたんだろ?今からなにが始まるかをよ」
「案外期待しちゃってんじゃないの?」
- 442 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時56分00秒
- 口々に下卑た笑みを浮かべながら告げる男にごっつぁんの目がはじめて光を放った。
肩にかけられた手を払いのけ、その男に膝蹴りを食らわせる。
「おい、押さえろ」
男たちのあいだに緊張が走り、その顔には嗜虐の色が浮かぶ。
あたしの一番嫌いな顔や。
それでもその場に出ていかんかったのは、それがごっつぁんのまいた種だということと・・・ごっつぁんの瞳に驚いたからやった。
その目には負けたくないと書いてあった。
自由を奪うものに挑む・・・世界に挑戦する、誇り高い目やった。
あたしはごっつぁんに対する評価を改めた。
あんな目ができる子やとは思わんかった。
2人までを地面に転がしたごっつぁんやったけど、やっぱり体力には差がある。
だんだん分が悪くなっていくごっつぁんに、参戦を決意しその場に乗り込む。
無音で近くの男の横まで行ってその男に蹴りを入れて黙らせる。
「な・・・」
最後まで言葉は聞かず、次の男には拳をボディに。
「なんだこいつ・・・」
男達には嫌気がさしていたからぎりぎりに加減しかしなかった。
男達全員しばらく立ち上がれんくなるまでそうはかからんかった。
- 443 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)12時56分57秒
- 壁にもたれて座り込んでいたごっつぁんに声をかける。
「大丈夫か」
肩で息をしていたごっつぁんはあたしを見上げて、元の無表情で言った。
「また・・・?」
顔に似合わない呆然とした声にあたしは笑った。
「そう、また。行くで」
前のように手を引いて歩き出す。
会社までは少し。受付の女の子には変な顔されたけど、警護室には通信中のカオリしかいなかったのが幸い。そのまま、救急箱を取り上げ個室の応接室へつれていく。
その間ずっと無言やったあたしと、ごっつぁん。
「強いんだね」
それには答えず、ずいっと救急箱を押しやったあたしに、ごっつぁんは言った。
「・・・なんで?」
と。
それにはいろいろな答えが浮かんだけど・・・あたしが言ったのは、確か。
「話、途中やったから」
その後、ぽつりぽつりと彼女は自分のことを話してくれた。
毎日、家に帰っても人がいないこと。
学校が、急に楽しくなくなったこと。日々が色あせて見えること。声をかけてくる人のこと。
- 444 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)13時00分21秒
- 「だって・・・好きじゃないって言ってもそれでいいって・・・。名前、教えてくれるけどみんないっしょに見えるんだもん。覚えらんないし。なんか勝手に笑ってるし、話とかみんな一緒に聞こえるし。いてくれって言うからいっしょにいるだけなのに、俺のこと好きじゃないのかとかって言うし・・・。好きじゃないって言ってんのに」
それこそ、めまいがするような話やった。
「どうして好きでもないのに一緒におんの?」
聞いた答えは。
「だって、暇だったし・・・家、帰りたくないし、あたしでも役にたつんなら、じゃ、別にいっかって・・・」
あんた、子供やないんやからそれで済むわけないの、わかってるんやろ?
つっこんだら、実はごっつぁん中学生やったって知ってもう愕然。
あごが落ちるってきっとこのことやわ、っていうぐらいのショック。
こんな、妙な色気のある優しい、天然で不器用な危険な子供、野放しにしたらあかんって。
犯罪よびますよ、まじで。
そっから、それじゃあかんって事で、男達とは手を切らせて。
声かけてきても、飴くれてもついてったらあかんっていったら子供やないとかってふくれてたけどな。
- 445 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)13時00分58秒
- その後いつでもここに来ていいからっていうことにして、親御さんにも会って。
最初はおり場に困っていたごっつぁんも、だんだんとここに慣れていった。
中学の卒業と共にここでバイトもしたいって言って、半ば無理やり母親を説得して仕事を始めた。出来るやろうとは思ってたけど、予想よりもずっと優秀なんやもん。同じような境遇やったから教育係につけたサヤカも驚いてたわ。
それでも、よくつまらん、何も持ってない子供みたいな顔してるときがあって。
あたしはごっつぁんがいつか自分の中身を自分でもう一度探して満たせたらいいって、そう思ってた。
いつの間にか入っていたコーヒーを普段使いのマグカップにいれて席へ持ち帰る。
それでも、顔はいっつもつまんなーいって顔やったし、どっか、なんか足りないような目をしていたごっつぁんがあんな顔をするような日がこんな早く来るなんて。
- 446 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)13時01分30秒
- あの子があんなふうに笑うんやで。あのころのごっつぁんを知ってる奴にも、知らん奴にも自慢して回りたい。
裕ちゃんもめっちゃ嬉しいです。
ふとマグカップに目を落とし、微笑む。
裏を反すと、そこにはマジックで書かれた、もうほとんど消えかかった文字。
―裕ちゃんいつも、どうもありがとう ごっちん
いつかの勤労感謝の日からずっと、油性ペンで何度もなぞられた跡を指ではじく。
なっち、本当にありがとうな。
ごっつぁんを、頼んだで。
二人のクリスマスの成功と、ずっと変わらぬ幸せを祈る。
「さ、仕事しよ」
思ったよりも休憩をとってしまった。
急がないと今日中には帰れない。
今日こそはちゃんと電話してやらんと、ヤグチにめっちゃ怒られるもん。
やばいやばい。
- 447 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)13時02分41秒
「裕ちゃん、分かった?」
「・・・カイロと、お菓子。ごとーさんは、カイロがほしいんやって」
「はぁ?」
「なっちこそ分かったん?」
「・・・時間。・・・もうちょっとさぁ、休み取れないの?なっちも裕ちゃんが心配」
「・・・はぁ・・・もうちょと、ごっつぁんがやる気だして働いてくれたらなぁ・・・」
「う・・・」
- 448 名前:ギフト 投稿日:2002年12月07日(土)13時03分59秒
「ごっつぁん、聞いた?」
「・・・時間、だってさ。それはさすがのやぐっつぁんでもむりだしねぇ・・・あ、あと缶ビールと、熱燗と・・・若さ?」
「っはぁ?なに言ってんだよどれもどうしようもないじゃん!使えねぇ!」
「な・・・やぐっつぁんこそどうなのさ?」
「・・・気持ちよく起きられる目覚まし時計と・・・化粧水と、乾燥機」
「・・・ムード、ないね・・・」
「・・・うーん・・・」
- 449 名前:たすけ 投稿日:2002年12月07日(土)13時09分02秒
- 最後のレスしないとか良いながら・・・また、ageちゃったんで(v
今回の大量更新(?で「ギフト」、なんとか終了を迎えられそうです。
よって大失敗だった次回予告は無しで。
- 450 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月07日(土)13時42分36秒
- 最初から一気に読ませていただきました。
後藤・中澤・なっち・矢口・・・すべて自分の好きなメンバーで
今まで...なぜこのスレの存在に気づかなかったかと自問したい(w
ゆうごま風味の過去編大好きです。
やぐちゅーも・・・もう少し読みたいです。(w
なちごまもモチロンのことです(w
- 451 名前:名無し 投稿日:2002年12月07日(土)14時13分43秒
- 番外編、らぶらぶな二人が見れて幸せいっぱいです(w
ごっちんの過去にはそんなことがあったのですね。
なっちに出会えてホント良かった!
- 452 名前:たすけ 投稿日:2002年12月10日(火)23時34分08秒
- >451 名無し読者さん
レス、ありがとうございます。
最初から読んでくださってお疲れさまでした(笑
後藤さんの過去編気に入ってくださってありがとうございます。
えっと・・・やぐちゅー、私も気になってはいるのですが・・・。
このスレに収まるようならなんとかしてみます。
>451 名無しさん
レスありがとうございます。
気に入ってくださってなによりです。
このおまけ編の題は4人のクリスマスの「ギフト」の話って意味はもちろん、私から読んでくださったみなさんへの「ギフト」って意味もこめて付けさせていただいたんで。
良かった。
脱字が増えて申し訳ありません。
なるべく減らすようにしますのでご容赦ください。
- 453 名前:ギフト 投稿日:2002年12月10日(火)23時35分44秒
- 結局、心の準備もできないままクリスマスイブ当日を迎えてしまった。
いや、ご飯の用意とかはがんばったし、部屋もそれっぽくしてみたんだけど・・・。
飾りつけはアスカがこっそり来て手伝ってくれた。
最初見せたらなっちさんそれ七夕・・・とかって言って思いっきり笑ったからどついて手伝わせたっていうのが正確かも。
やっぱ、輪の飾りはまずかったか。
でもアスカのおかげで部屋はかなりいい感じ。
ヤグチは裕ちゃんと食事に行くといって朝からばたばたと服を選んで、昼過ぎには出て行った。
だからこの家にはなっち一人。
今までにもヤグチのデートの時とか、結構こういうことがあったけどこんなに緊張する留守番は初めて。
あ、プレゼントは用意したけど!したけど・・・。
やっぱ、カイロ100個とかのほうが良かったって顔されたらどうしよ・・・。
- 454 名前:ギフト 投稿日:2002年12月10日(火)23時37分27秒
- 昨日からちらちら降っていた雪のせいで、ごっちんの到着は遅れている。
「だいじょぶかなぁ・・・」
ストーブの前に陣取ってごっちんを待つとまぶたが下がりそうになる。
ねぇ、ごっちん。
なっち、いい子でなかったからサンタさんなんて来なかったし、プレゼントももらえないって思ってたんだ。
でもさ、このごろ小さいときのこととか思い出して、そうでもなかったなぁって。
いい子だったかは覚えてないけどもらってたよ、プレゼント。
パ−ティーも、たぶん。
もらったものとか全部、なくしちゃったけど。
愛されてた気持ち、このごろようやく思い出せたんだ。取り戻せたんだ。
ごっちんに会って、ごっちんを好きになって、ごっちんに愛する気持ちもらったから。
あと、あとさ。なっち、サンタさんかどうかわかんないけど、プレゼントもらった。
こんななっちでも神様からちゃんとプレゼントもらってた。そう信じてる。
ごっちんに会えたこと。
ごっちんとクリスマスを過ごせること。
初めてのクリスマスで緊張もしたし、いっぱい悩んだし大変だったけど。
その時間もごっちんがくれた、楽しい贈り物だったんだよ。
- 455 名前:ギフト 投稿日:2002年12月10日(火)23時41分44秒
- ふと玄関に気配を感じて迎えに出る。
扉からは冷たい風と、クラッカーの音。
「メリークリスマス、なっち」
ちょっと乱暴な登場の仕方とは裏腹に、赤い鼻をこすりながらちょっと恥ずかしそうに頭を下げたごっちんに思わず飛びついた。
「驚いたべ!待ってたんだよごっちん!寒かったっしょ?さぁ、あがってあがって」
玄関のポインセチアの飾りをうれしそうに見たあと、ごっちんも笑う。
「うん!もうごとー、おなかすきまくりだよ」
ケーキの箱を受け取って飲み物を冷やす。
ごっちんはクリスマス一色に染まった室内を、歓声を交えながらものめずらしげに見ていた。
「けどさぁ、お寺でクリスマスもどうかと思ったけど意外といいね」
「でしょ」
料理を並べながら言うとごっちんは笑う。
「ごとーも飾りつけとか手伝いたかったなぁ・・・」
このところ忙しかったごっちんはここにくるのも実はご無沙汰。
「うわ、すごい!これ全部なっちがつくったの?」
食卓を見に来て驚いてくれるごっちんに、なっちもうれしくなる。
「ね、早く食べようよ」
料理を食べて、おなかいっぱいになって。
ケーキにキャンドルを立ててこれじゃ誕生日だって、と笑ったり。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
「おいしいよ!・・・ありがと、なっち。大変だったでしょ?」
声に、危うくなっち泣きそうになっちゃった。
「そんなことないって!ごっちんとのクリスマスだもん。用意してる間も楽しかったよ。・・・ごっちん。これ、ちゃんとクリスマスだよね?」
室内を見回して、やっぱり聞いてしまった。
- 456 名前:ギフト 投稿日:2002年12月10日(火)23時42分50秒
- 赤と緑のナプキン。銀色のリボンに、リースに電飾のツリー。暖かい室内、キャンドルとチキン、ケーキ。
昔絵本で見たような、楽しい明るい光が窓から漏れてくるようなクリスマス、なっち用意できたのかな?
もうなっちはその光を外から眺めなくてもいいんだよね、ごっちん。
「そうだよ!ごとー、こんな完璧なクリスマスは初めてだよ!だってさあ!ご飯はこんなにおいしいし、ケーキも超おいしいでしょ?ツリーきれいだしテーブルの上もすっごいし。それにさ」
くふふ、と小さく笑いを漏らしてくすぐったそうにごっちんは斜め横に座ったなっちの肩に頭をおいた。姿勢、辛そうだけど大丈夫かな?
「隣には好きな人でしょ?もー完璧!」
それだけ言って顔を真っ赤にしてはずかしー、って頭を肩にぐりぐりしてきた。
なっちもはずかしいべさ!でも、でもさ!
「・・・ごっちん!」
「・・・なっち!」
なっちすっごいうれしい。ごっちん、ありがとう!
二人とも恥ずかしさを隠すためにオーバーアクション。腕を大きく広げて抱き合った。
ついでに軽くキス。
さっきまで食べてたケーキのチョコのにおいと紅茶の味のするキスは、なっちの宝物にしておきます。
- 457 名前:ギフト 投稿日:2002年12月11日(水)22時28分18秒
―ヤグチ?なぁ、着てくる服、白にしてくれる?
ったく。裕ちゃん急に言うんだもん。訳教えてくれないしさ。
結構大騒ぎでなっちの服まで借りる羽目になったのはヤグチ的には結構屈辱。
だって、あの笑いを堪えたようななっちの悪い微笑み・・・。
「これで、くだらないことだったら承知しないからな」
怒った口調は長続きしない。
しょうがないよ。
だって今日はイブなんだもん。
あれ?なんかなっちの雑誌にでも影響されてきたかな?
それとも本人に?
あの入れ込みようはすごかったもん。
いくら本気のイベントだからってあんな必死な顔してクリスマスする人、なかなかいないって!
ま、いいけどさ。なっちも楽しいんだよね?
ヤグチさ、ほんとはクリスマスのことは最初、どうでも良かったんだよね。
このごろは裕子もちゃんと連絡くれるし、少しの時間でも一緒にいられるし、さ。
だってさぁ、今更キリストの誕生日を祝えって言われても・・・。
ヤグチ達が何をしてきたと思ってるのさ、ってかんじ。
神様の誕生日なんて祝えないよ・・・。
でも裕子の楽しそうな声と、なっちの奮闘を見てたら気が変わったんだ。
恋人が喜んでくれるんならそれでいいかって。
ごっつぁんの名前呼びながら用意されていく料理や、部屋を見てたら思えたんだ。
そうだよ。裕子が喜んでくれて、ヤグチも嬉しいはずなんだ。
だったらさ、楽しまなきゃ。
- 458 名前:ギフト 投稿日:2002年12月11日(水)22時29分35秒
- 手に提げたバスケットに目をやる。
この中にはなっちの買ってきた雑誌を見て作った料理が一杯。
同じ料理にしても良かったのにどうしても好きな人には自分だけの手でおいしいものを作ってあげたいって思っちゃって、真夜中までかかって二人で背中を向けあって料理を作った。
朝、最後の飾り付けを手伝ったアスカが台所の惨状を見てため息ついてたっけ。
味はつまみぐいをしたアスカの保証付き。
車が道を上がってきて目の前で止まる。
裕ちゃんのセリカだ。
大きく手を振る。
なっちの白のマフラーが翻る。優しい雪みたいな色のセーターはお気に入り。
短めの白いスカート。白のブーツは新しく買っちゃったんだ。
裕ちゃん、お望み通りだぞ。喜んでくれる?
「ヤグチーあんためっちゃかわいいなぁー」
ハイテンションで車から降りてきた裕子は全身赤。
赤のノースリーブのニットに赤の膝丈のスカート、赤のブーツ。
ま、まさか・・・。
「これで二人でサンタやろ?」
・・・いや、確かにそうだけどさぁ。
ってゆうかそんな得意げな顔で言われても・・・。
しかも今日は裕子のマンションで過ごすんだろ?
心の中でいろいろ思ってたけど。
そんな自信満々で得意げな顔してこっち見るなよ・・・かわいいと思っちゃったじゃんか。
- 459 名前:ギフト 投稿日:2002年12月11日(水)22時30分24秒
- 「裕ちゃん、かわいいねぇ・・・」
力の抜けた声で言ったら裕ちゃんに頭をぐりぐりされた。
「ちょ、髪型・・・」
あげるの、大変だったんだぞ?
文句言いかけたらひょいっと顔をのぞき込まれた。
「赤も似合うやろ?惚れ直しました?」
目を細めて優しく笑う。
そ、その顔反則・・・。
思わず顔を逸らして・・・うなずいた。
ふ、不覚・・・。顔、赤くなっちゃったのがわかる。
「裕ちゃん、早く行こ!」
車の方へ行くと裕子がドアをあけてくれた。
お礼を言う前に裕子は運転席に向かってしまう。
「じゃ、行きましょか」
横顔の裕子を伺って、一言。
「今日はありがとね、裕ちゃん。かっこいいよ」
あ。口もと、笑ってる。耳、赤いよ。
へへっ。やっぱかわいいね、裕ちゃん。
- 460 名前:ギフト 投稿日:2002年12月11日(水)22時30分54秒
- 話しながらのドライブはあっという間だった。
道はイルミネーションに彩られて、どこもかしこもきらきらと光っていた。
なんでかいつもよりもドキドキする心を押さえて、エレベーターに遅いって文句言いながら裕子の部屋まで。
ドアを開けると暖かい風。
「裕ちゃん?」
思わず振り向くと満面の笑みの裕子がいた。
「だってさ、クリスマスやもん。暖かい部屋に帰りたいやろ?」
・・・そうだ。そうだよ。
クリスマスは、暖かい部屋と優しい明るい光。
ツリーと、ケーキと、プレゼント。
そうだった。
泣きたい気持ちで笑う。
だって、小さい時に見たクリスマスがここにあるよ。
ヤグチさ、無くしたものは取り戻せないと思ってた。
でもまだ不安だよ。封じ込めたはずの声がよみがえる。
ヤグチはこんな風にクリスマスを祝ってもいいんですか?
この手で、みんなのクリスマスを奪ったヤグチがこんな幸せでいいんですか?
なっち、裕ちゃん。
二人はどうやってこの気持ちをのりこえたの?
- 461 名前:ギフト 投稿日:2002年12月11日(水)22時31分53秒
明かりを消した室内で小さなファイバーのツリーが白く光っている。
そっと背中に手を回してくれた裕子は、ヤグチの頭に顎を乗せた。
「な、ヤグチ。そんな悲しい顔せんといて?裕ちゃんも悲しくなるやん」
直接伝わる振動と体温に涙がこぼれた。
だって・・・だってさ。
「だって・・・幸せなんだもん。だめだよ」
訳がわかんないヤグチの言葉にも裕ちゃんは焦らず待っててくれる。
「クリスマス、待ち遠しかったけど・・・不安だったんだ。ヤグチ、一杯殺したから・・・。幸せは怖いんだ。人並みにクリスマスなんて祝っちゃいけないような気がするんだ・・・」
「ヤグチ」
言いかけた裕ちゃんの声を遮る。
「知ってる。意味無いよね、そんなの。でも怖いよ」
裕ちゃんの顔が近づいてきて、続きはしゃべれなかった。
「ヤグチ・・・わかっとるんやろ?逃げても、しょうがないって」
厳しい声で言うくせに、裕子の顔はものすごく優しかった。
手を引かれ、立っていた入り口から移動する。部屋のソファに二人で向かい合って座った。
付けてある電気は間接照明の白熱灯だけ。
「裕ちゃんも怖いよ。いつヤグチを失うかわからんし・・・あたしもいつ死ぬかもわからん。けどさ」
そっとヤグチの涙を指で拭ってくれた。その手をスカートのポケットにいれる。
「そのせいでいっしょにいられる時間まで楽しくないのは間違ってるやろ?怖いからあたし達は他の人よりも一緒にいられる時間を大事に出来る。大事にしないかん。そうやろ?」
- 462 名前:ギフト 投稿日:2002年12月11日(水)22時33分03秒
なんで裕ちゃんはヤグチの事、そんなによくわかるの?
だってヤグチまだちゃんと伝えてないのに・・・。
涙を止めたいのにどうしても止められなくて悔しい。
せめて気持ちを伝えたくて一生懸命頷いた。
そうだね、そうだね裕ちゃん。
ごめん。いつも甘えてばっかり。
「あたしもたくさんの人を殺した。それは、償えるかわからんけど・・・償えないかもしれんけど。重さに負けそうな時、それから逃げそうな時。苦しいとき、楽しいとき。あたしと一緒にいて欲しい。あたしもヤグチのこと、支えるから」
涙を拭っていた左手をそっととられた。
「これからのヤグチの大事な時間。裕ちゃんと一緒に、歩いてくれますか・・・?」
その手首にきれいな銀色の腕時計をしてくれた。
「・・・なんかまるでプロポーズみたいやな」
ちょっと照れた顔で言って真っ赤な顔して笑ってた。
「裕ちゃん・・・裕子。ありがと。ほんと、ありがと。嬉しい。一緒にいるよ。裕ちゃんと一緒にいたいよ。忘れない。これ見るたび、思い出すよ。大事にする」
そのまま抱きついた。
裕子の首に回した左手から秒針が刻む規則正しい音が聞こえる。
それから裕子の体から感じる裕子の体温と心臓の鼓動。
ヤグチはもう迷わない。忘れない。
一緒にいられる事、それ自体がもう奇跡なんだよね。
失う事を恐れて後ろ向きでいちゃいけないんだ。
終わりがあるかもしれないから時間を大切に出来るし、しなきゃいけないんだ。
後悔したくないし、もう逃げないよ。
甘えてばっかじゃいけない。次はヤグチが裕子を甘えさせてあげる。
- 463 名前:ギフト 投稿日:2002年12月11日(水)22時34分19秒
- 「裕子・・・大好き」
そっと口付けると、裕子の目がふっと柔らかくなった。
「真理・・・愛してるよ」
ふっ・・・
「裕ちゃん、気障だよそれ!だいたいなんで標準語でしゃべってんの」
思わず笑ったらむくれた顔をされた。
「うわ、ひっどぉ!あたしだってムード出したいときはありますぅ!ま、いいや。笑うぐらいの元気が出ればよろしい!さ、食べよ食べよ。あたしめっちゃおなかすいたわ」
さっさとソファから立ち上がって玄関の所に置きっぱなしだったヤグチのバスケットを取りに行く裕ちゃん。
「な、これヤグチの手作りなんやろ?めっちゃ楽しみやわ」
クリスマスソングの鼻歌とか歌いながら冷蔵庫まで。
あーあ、いい雰囲気だったのになぁ・・・。壊したの、ヤグチだけどさ。
「飲み物は?」
聞くと裕子は相変わらずの缶ビールを手にしていた。
ぐしゃぐしゃの自分の顔をタオルで拭きながら笑った。
またかよ・・・。
「えーっ!クリスマスぐらいシャンパンとか買ってないのぉ?」
照れ隠しに甘えた声で言う。
ひっどい顔。こりゃタオルで拭くよりさっさと顔洗った方がいいか。
洗面所に行く途中で裕子の声がした。
「もちろん買ってあるって。今日はヤグチも付き合ってもらうからな」
最初からそのつもりだよ、裕ちゃん。
最初の予定通り、今夜は楽しく過ごせそうです。
- 464 名前:たすけ 投稿日:2002年12月11日(水)22時41分47秒
- 矢口さんと中澤さんのクリスマスです。
文字がぎっちり詰まっちゃったんですが、なんとか入りそうだったんでやってみました。
話もあともう少しです。そんなぎりぎりって訳でもなく、きっちり収まりそうなんでほっとしてます。
もうちょっとなんで温かく見守ってやってください。
- 465 名前:ギフト 投稿日:2002年12月13日(金)13時43分44秒
- ちょっとくつろいだ後なっちが食器を片付けてると、ごっちんは窓のほうから外を眺めていた。
雪はもうすっかりやんでいて、星空が見える。
「なっち、なっち」
呼ぶ声に片付けの手を休める。
「ね、電気消してこっちに来て」
言われるままに電気を消すと、室内はクリスマスツリーの電飾が放つ光のみに照らされる。
暗闇で赤や緑の光に照らされるごっちんはすごく、綺麗だった。
「ね、なっち。星、すごくきれいだよ」
いつの間にか窓際で座り込んでいたごっちんの隣へ座ると、そうじゃないと首を振られた。
「え?なに?」
「こっちこっち」
うれしそうな顔でごっちんが叩くのは膝。
ええ?ちょっとそれは・・・
「は、恥ずかしいべさ・・・」
小さくつぶやくとごっちんは口を尖らせる。
「もー。早く座るの。はいはい」
手を引かれ、膝に導かれる。
「お、おじゃまします・・・」
固まる体と火照る頬。
「なっち、かわい−」
ごっちんの手が窓の方を向いて座るなっちの前に回されて、ますます顔が赤くなる。
そっとごっちんのあごが肩に乗せられる。
- 466 名前:ギフト 投稿日:2002年12月13日(金)13時44分36秒
- 背後で点滅している色の付いたかわいい光と、カーテンを引いた窓から照る月光を反射した雪明かりで、目が慣れると室内はけっこう明るい。
積もった雪には出ていくときについたのか小さなヤグチの足跡が一直線に青く沈んで残っている。
「ね、なっち。きれーだねぇ・・・」
振動が伝わる肩と、背中から伝わる体温。
見上げた藍を黒に透かしたような色の星空は、たくさんの光に彩られていた。
大気の揺れに従って星はちかちかと瞬いている。
澄んだ大気と低い気温のせいかいつもよりもずっと綺麗に見える。
ちがうかも。星空がこんなに綺麗なのは特別な夜のせいと、ごっちんと、見てるせいかも。
「きれー・・・」
ごっちんとおんなじ発音で言ってしまった自分に、思わず笑ってしまう。
「なに笑ってんのさ。もー、なっちムードないんだから・・・」
な、なんですと?
「失礼な!なっちはムードあるべさ!笑ってたのは・・・ごっちんがかわいいから、かな」
大筋では間違ってないよ。
だってさ、ごっちんの話し方、なっちすごく好きなんだ。
「そんなことないよ。なっちのがかわいいよ」
急にまじめな顔になってこっちを覗き込んでくるごっちんに、こっちもお返しにまじめな顔をつくって見つめ返してやる。
「ごっちんのが、かわいいよ」
まじめな顔のごっちんは一瞬で赤くなる。
- 467 名前:ギフト 投稿日:2002年12月13日(金)13時45分29秒
- 「ちょ、なっち・・・そんなごとーを見ないでよ・・・見るのは、こっち」
それをからかってやろうとしたのに頬を両手で押さえられて、くりんと前を向かせられる。
「もったいないっしょ。ごっちんの顔しっかり見るチャンスなのにぃ」
「ごとーの顔はいつでも見えるの。イブの空は、今日一日だけ」
早口でそう言って、照れ隠しのようになっちの首筋にごっちんは顔をうずめた。
「あ、なっちいーにおい」
息がかかって首筋がくすぐったい。
ってゆうかこれ、まじ恥ずかしいべさ。
「ちょ・・・ごっちん、お、重くない?足しびれちゃうでしょ。なっち、もう下りるよ」
照れ隠し半分、残り半分本気で言ったその言葉に、ごっちんは口をむっと尖らせた。
「重くないの。今日は・・・ってゆうか、離れたくない。ほんとはずっとこうしてたいよ・・・」
そういってまた顔を肩にうずめてくるごっちん。
ね、ごっちん。
ずっと、って言うけど、この世にはずっとはないんだよ。
なっちは人々の「ずっと」を奪ってきたんだもん。わかるよ。
普通の人でもそうなのに。
なっちには・・・なっちたちには、特に縁遠い言葉かもよ。
「ね、なっち。こわい顔になってるよ」
言われて我に返る。
そうだ、今日はクリスマスなのに。
でも、でもさ。
なっち、ほんとに怖いんだ。
それでも。
- 468 名前:ギフト 投稿日:2002年12月13日(金)13時46分07秒
- 「さっきさ、ごとーはずっとこうしていたいって言ったけど・・・」
震える声でつむがれる。
ごっちん?
「ほんとにずっと、こうしてられるのかな・・・?いつか終わりが来るのかなって思うと、怖いよ。だからごとーは、なっちと離れるときいつもすごい怖いよ・・・離したくないよ」
まるでなっちの思考を読んでいたようなごっちんの言葉に、体が震えるのが分かる。
「一緒にとけちゃえればいいのに・・・いつも、いつでもずっとこうしてられたらいいのに・・・」
ね、ごっちん。
もしかして、ごっちんもそう思ってたの・・・?
ごっちんも、なっちと一緒で怖かったの・・・?
「なっちもごっちんと離れるの、怖いよ。ずっとこうしていたい。でもなっちさ。ずっと、なんて信じないよ。信じられないよ」
その言葉にごっちんの体が固まるのが分かる。
だってさ、なっちのしてきたことはとても重いことだよ。罪深いことだよ。
ね、今ごっちんの心臓、すごいどきどきしてるの、わかるよ。
なっちのも伝わってるでしょ?
なっち、ちゃんと知ってるよ。
奪ってきたから余計に、かな。
心臓が動いてること。
二人が違うこと。
生きてるから変わらないこと。生きてるから変わってくこと。
それがすっごい大事なこと。
- 469 名前:ギフト 投稿日:2002年12月13日(金)13時46分43秒
- 「けど、さ。今、ごっちんを好きな気持ちには一個も嘘がないよ。なっち、自分よりずっと、ごっちんが大事だよ。ごっちんがなっちを好きって言ってくれるから、なっちはなっちを大事に出来る。なにをしても帰ってこようって思えるんだ。なっち、いつでもごっちんの幸せを祈るよ。それだけは絶対、どんな事があっても誓うよ。気持ちに、終わりはないっしょ。お互いがお互いの幸せをずっと祈れたら・・・それに終わりはないと思う。それは変わらないとなっちは思う」
なっちがやってきた事はとても・・・悪いことで。
いつ死んでも、いつ殺されても文句は言えないから。
だからなっちはごっちんと在ることが出来る今を大事にするよ。
殺しをやってきたなっちが虫がいいことを言うかもしれないけれど、祈れるならば・・・こんななっちでも祈ることを許してもらえるならば、神様にごっちんの幸せを祈るよ。
もしも、ごっちんにとっての幸せがあたしと一緒に在るならば。
ごっちんがそう言ってくれるなら・・・いるのならば、なっちの声でも聞いてくれるのならば、神様。
あたしの為に。ごっちんの為に。
あたし達が一日でも長く一緒に居ることを、許してください。
なっちの気持ち、ちゃんと伝わるかな。
どうしてもごっちんの顔を見たくなって、ごっちんの膝からそっと降りた。
- 470 名前:ギフト 投稿日:2002年12月13日(金)13時48分02秒
- 手を床について、覗き込んだごっちんの頬は、涙で濡れていた。
「・・・ごっちん?」
ごっちんは顔を覆って、両手で涙を拭いていた。
その仕草がかわいくて、かわいそうで。
気づいた。この子は、なっちよりも年下なんだ。普段はあんまり意識しないけど。
子供あつかいとかじゃなくて、大事にしたい。そう思った。
そっと、涙をぬぐうみたいに頬に口付けた。
「ね、ごっちん。なっちはさ、ごっちんが好きだよ。すっごい好き。・・・ごっちんは?」
ごっちんは何度か大きく深呼吸をして震える息を辛そうに吐いたあと、言った。
「好き。なっちが好き」
言って、くれた。
「ずっと、なんてことわかんない・・・この先なにがあるかわかんないし、誓えないけど。だから日々を大事にできるよ。それでさ」
そっと、ごっちんに口付けた。今度はちゃんと、唇に。
ごっちんの涙の味がした。
「なっちたちは一緒にそれを探すの。ずっと」
たとえ・・・道が別れてしまっても。
それは、口に出さないでなっちの胸にしまっておくね。
- 471 名前:ギフト 投稿日:2002年12月13日(金)13時48分55秒
- なっちがどっかいくとか、ごっちんのことキライになるとかってことじゃないよ。
でも、人は儚いから。変わらないものなんてないから。
ごっちんが大きくなって、なっちと一緒に、それを受け止めてくれるようになったら。
なっちたちが歩く道は険しいけど、いつか、いつかそれを笑える日が来たら。
それを、なっちといっしょに背負ってください。
本当は今のなっちもそれを口に出せる勇気がないだけかもしれないんだけど。
この約束を守れるのか不安なんだけど、それでも守ってみせるから。
ね、ごっちん。
そのときまで一緒にいようよ。
それからも、一緒にいてよ。
毎年、クリスマスをこんな風に・・・こんな風じゃなくてもさ。一緒に過ごせたらいいね。
「なっち」
かすれた、それでも強い声で名前を呼んでくれた。
「ごっちん・・・真希」
なっち今日はごっちんの名前、呼ぶね。クリスマスだし、特別。
「なつみ、好き。・・・愛してます」
ちゃんとそれに答えて名前呼んでくれて、最後ちいさな声でも言ってくれたその言葉に涙があふれた。
ありがとう・・・ありがと、ごっちん。
いいのかなこんな幸せで。ほんと、いいのかな。
恥ずかしいよ。それでも、なっちもちゃんと伝えないと。
「真希・・・愛してます」
お互い、敬語になってしまったことに笑いあう。
そっと目を合わせてから伏せて、唇が触れ合う瞬間声がそろった。
「「・・・愛してる・・・」」
- 472 名前:たすけ 投稿日:2002年12月13日(金)13時50分01秒
- 次回、最終回です。
- 473 名前:ギフト 投稿日:2002年12月15日(日)19時17分25秒
前よりももっと仲良くなって、次の日は一日のほとんどを手を握り合って過ごしたごとーたちを、やぐっつぁんは怪しい怪しいって冷やかしてくる。
その腕に光る腕時計を見て、なっちは笑ってた。
「裕ちゃん・・・いくら時間って言ったって・・・」
なっちにプレゼントあげるときにみんながみんな、ほしいものを探り合ってたって知ってさぁ。
夜中だって言うのに、ごとー大受けしちゃったよ。
もー、ほんと、プレゼントがカイロ100個じゃなくて良かったぁ。
ま、カイロ100個でもなっちがくれるなら宝物にするけどさ、大事にしすぎて使えないかもしれないしね。
なっちもおそろいの銀のピアスにちゃんとカイロとチョコレート付けてくれた。
ごとーは・・・実は指輪とか買っちゃったんですけど、それに目覚まし時計をつけておいた。
やぐっつぁんは香水と、やっぱりリラックス用品セットにしたんだって。ふふ、ごとーのアドバイス、きいてるじゃん。
- 474 名前:ギフト 投稿日:2002年12月15日(日)19時18分31秒
- 笑いながら、クリスマスの雰囲気をまだのこしたままの居間で目覚まし時計をうれしそうにいじるなっちにこっそり言う。
「ね、なっち。それ、ごとーがいないときだけ使ってよね」
それにちょっと眉を寄せてなっちは説明書を取り出す。
「あ、もしかしてこれすっごいうるさいの?」
違うよ。もう、鈍感なんだから。
「すごい優しい、気持ちいい快適目覚ましはごとーがやってあげるよ。ドラえもんの出番はないね」
ごとーがいるときは、ちゃんとごとーが起こしてあげるからさ。ってゆーか起こしたい。起こさせて?
その言葉にちょっと赤くなって、なっちは大きくうなずいてくれた。
「おお?赤くなってるよ?なっちはなにを想像したのかなー」
「ごっちんのおばか」
真っ赤な顔でそうきます?
でもそんななっちはかわいい。
ほんと、かわいい。
そっと、おそろいの指輪をした指を触れ合わせた。
「なっち、好きだよ」
唐突になっちゃったけど、なっちは真っ赤な顔のままで答えてくれる。
「なっちもごっちんのこと、好きだよ」
まあ、そんなわけで。
あ、そうだ。えっと、日々は、順調です。
・・・だよね?なっち。
終
- 475 名前:たすけ 投稿日:2002年12月15日(日)19時27分41秒
- 終了です。
リクエストをくださった方、読んでくださった方、レスをくださった方、管理人さん。
みなさまに、本当に心から感謝してます。
これで「a color」終了させて頂きます。
次回の予定はまだですが、読みたいと言ってくださる方がいらっしゃればまたいずれどこかで。
最後になりましたが、本当にありがとうございました。
- 476 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月15日(日)22時27分24秒
- 完結おめでとうございます。
実はいつも更新を楽しみにしていました。
最後はすごく暖かい気持ちになりました。
次回作も楽しみにしています。
- 477 名前:名無しごまファン 投稿日:2002年12月16日(月)00時34分09秒
- 完結おめでとうございます!
そして素晴らしい作品をありがとうございました。
ごまとなっちも、ヤグチと裕ちゃんもクリスマスを幸せに過ごせて良かったです。
読んでいてとても嬉しくなリました。
次回作、もしあるのであればそちらも楽しみにさせていただきます。
本当にお疲れ様でした。
- 478 名前:名無し 投稿日:2002年12月16日(月)18時50分12秒
- 完結おめでとうございます。
ギフト、最高にうれしい贈り物です。
本当にありがとうございました。
次回作も楽しみに待っています。
- 479 名前:shio 投稿日:2002年12月16日(月)23時43分31秒
- 完結おめでとうございます。
密かにとてもたのしみにしてました。
なちごまが、とっても大好きです。
最後にみんなが幸せになってよかったです。
次回作も楽しみにしています。
- 480 名前:52 投稿日:2002年12月18日(水)16時54分44秒
- 完結おめでとうございました。
なちごまやっぱイイですね。約4カ月間おつかれさまです。
次回作また読ませてください。
それまでマターリ待っております。
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