コイヌの気持ちも分かってよ。

1 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時44分55秒





――ある日、しっぽが生えてきた。




2 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時45分42秒



青板でよしごま書いてました。シューヤと申します。
後藤さん卒業。ですが、めげずに頑張ります。
吉澤さん視点の半リアルよしごまです。
趣味に走ってますが、どうぞお付き合い下さい。




3 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時46分21秒



「っえーと…」


何かモゾモゾすると思って触ったパジャマ代わりのジャージの腰。

ほんわりふくらんでるソコの柔らかい手触りと、
それに伴って背中をゾクゾク駆け上がる変なカンジ。

不思議に思って横向きに姿見に映した自分のおしりには、何と犬のしっぽが生えていた。





「………」

しっぽを引っ張ってみた。

痛い。



「………」

ほっぺたをつねってみた。

痛い。





「つ、疲れすぎて目ぇおかしくなってんのかも。寝よ寝よ」


ゴロリとベッドに寝転がって、身体の下にあるやけにリアルな
それの感触を極力避けるように横向きになって目を閉じた。

レッスンの疲れもあって、すぐに睡魔があたしの意識をさらう。
数分も経たない内に、あたしは眠りの海におちていた。




4 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時47分02秒



今日は午前中からプッチの雑誌用の取材と撮影。
モーニング娘。本体での仕事は入ってない。

午前中っつっても自宅通いのあたしは結構早めに家を出なきゃならないワケで、
出社ラッシュを避けると、6時7時は当たり前。
ヘタすると始発で、なんてコトもしばしばだ。
…まぁサラリーマンにもみくちゃにされたり、一般の人にバレて騒ぎになるよかマシだけど。




「ねみーよぉ…」

変装用のキャップを深くかぶって大あくび。
昨日はドタバタして寝るのが遅かったから。2、3時間しか寝られなかった。



(にしても何だったんだアレ…)

思わず昨日しっぽが生えてた部分を撫でてしまう。勿論何ともない。


(夢かなぁ…それとも幻覚?
どっちにしろ疲れてるんだろーなぁ。次のオフはゆっくりしよっと)



電車独特の心地良い振動と春の陽気に少しウトウトしながらも、
あたしはスタジオに向かった。




5 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時47分41秒



「後藤さん、30分遅刻だそうです!」



スタッフさんの声に保田さんの眉がピク、と跳ねる。


「ごーとーおーッ」

あんだけ遅刻すんなって言ったのにーと吠える圭ちゃんの後ろで、
またあたしはうつらうつら。



「吉澤ぁー。もうメイクのってんだから寝ちゃマズイわよ」

「んぅー」


苦笑する保田さんにも生返事。
今日は何かやたら眠い。




スタッフさんの言葉通り、仕事場にごっちんが現れたのはそれから30分後だった。
待っててくれたカメラマンやライターの人たちに
一通り頭を下げた後、あたし達の方へやって来る。



「後藤、遅い!!」

「ごめーん、圭ちゃん」

「待ちくたびれちゃったよぉ」

「よっすぃーも、ごめんね。寝過ごしちゃったー、あは」

「あは、じゃないの。ちゃっちゃと準備してきな」




6 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時48分20秒



ごっちんをメイクルームに見送ったあたしと保田さんの元にスタッフさんが駆けて来る。
午後からごっちんはソロの仕事がある為に、午前中の予定を変更して先に写真撮影。
そしてあたしと保田さんの2人だけで取材を受けるらしい。

分単位でスケジュールをこなすあたしたちには、30分の遅刻でも大事だということだ。


「後藤も肝心な日に寝坊するなんて全く」

「まぁ、ごっちんは忙しいですから…」

「吉澤は後藤に甘すぎんのよ」




ごっちんが来るまで単体でポートレートを何枚か撮られる。
じゃんけんで勝った保田さんが、ポラロイド写真にサインをして、
読者プレゼントが作られた。



「…欲しい人いるのかなぁ」

「失礼ね」

結構ホンキで突っ込みを入れられた。
保田さんの裏手は痛い。




7 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時49分04秒



「おまたせー」



ごっちんの挨拶もそこそこに、3人揃っての写真撮影。

最初の頃は戸惑った、普段の使い捨てカメラなんかとは
比べ物にならないフラッシュにも今では慣れて、目をつぶってしまう事も少ない。


カメラマンさんの指示の元、ポーズと構図を変えて何枚か撮る。
満足がいったのかファインダーを覗くのを止めたカメラマンさんから解放されて
保田さんと2人、セットのソファでくつろぐ。
ごっちんは休む暇もなく、ひとりポートレートの撮影にはいった。




--------
------
---



「つっかれたよぉー」


ぐたっと伸びたごっちんが、膝にもたれかかってきた。
さすが場数を踏んでるだけあって、次々にポーズを決められるごっちんは仕事が早い。




8 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時49分39秒



「お疲れさまー」


よしよしと頭を撫でると、きゅーっと目を細める。

「ごっちんネコみたいー」

喉元に手をやったら、あはって笑いながら顔をすり寄せてきた。



「そこー、もういつまでもじゃれてないで。
スタッフさんが呼んでるよ? 後藤。移動だって」

「えー、もう!?」

ぎゅってあたしの腰に抱き付きながらごっちんがぼやく。



「ごとー、今来たとこじゃん」

「アンタが遅れて来るからでしょ」

「もっとよしこと遊びたいー」

「ダメ。仕事優先でしょ?」


腕組みして保田さんが言う。
渋るごっちんの手を取って、立ち上がらせた。



「メールするからさ」

「ん。ごとーもする」

「…今生の別れじゃないんだから。ホラ行くよ」




9 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時50分16秒




保田さんに引っ張られるようにして部屋を出て行くごっちんの背中を見て思い出した。
自分のカバンをさぐって包みを取り出す。


「ごっちん、昨日焼いたんだコレ。
美味しいかどうか分かんないんだけど、もらって?」

「うわ、クッキー? ありがとよしこー!!」


喋りながらも保田さんからマネージャーさんに引き渡されたごっちんが、
また明日ねーと言葉を残してフェードアウトした。



「ったく仲良いんだから、アンタたち。
アタシが悪者みたいじゃない」

「あはは。ごっちんは一番の親友ですから」

「まぁアタシだって紗耶香とはあんなカンジだったけどね。
にしたって吉澤もとことん世話焼きね」

「えーだってソロで仕事って何となく淋しそうじゃないですかー。
あ、保田さんも食べます?」


もう一つの包みを差し出すと、

「…まぁいいけどね」
ため息をついて保田さんが受け取った。

「ありがと」




10 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時50分56秒



ごっちん抜きでの取材も無事終了して、控え室で私服に着替えた。


「吉澤もうこれで仕事終わりでしょ?
予定ないならお昼食べに行かない?」

「あ、行きたいでーす」


実はさっきからお腹がペコペコ。
朝ご飯もちゃんと食べたのにどうしてだろう。


「さっきからお腹鳴りそうでドキドキしてたんですよー」

「いつもより朝が早かったからじゃない?」


パタンとロッカーの扉を閉めた保田さんが振り返る。
一瞬怪訝な表情を浮かべた後、ため息をついた。


「…なんっつーかソレは…ファッションなの?
アタシには理解できないんだけど」

言われて自分を見下ろしてみる。
…別に変な格好はしていない。
赤いヒスの新作トレーナーにシルエットが綺麗な無名のセンターシームのジーパン。

「変ですかー? 昨日の休みにごっちんと買い物に行って選んでもらったんですけど」


ごっちんとは服の趣味も似てるから、良く一緒に買い物に行ったりする。
変どころか自分の中ではお気にの服だ。


「後藤が選んだの…?」

ますます不可解といった表情を浮かべる保田さん。

何がそんなにおかしいんだろうと、部屋の隅にある姿見を覗き込んでギョッとした。




11 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時51分34秒








――――耳!?






「みっ、み、み」

「セミ?」



保田さんのボソッと呟いた突っ込みも気にならない。





耳が、生えていた。

いや、耳があるのは当然なんだけど、コレは……


「犬――?」



自分の耳の、ちょうど真上辺り。
犬の耳の形をしたそれが、新たにあたしの頭に生えていた。


「何だコレ――――!?」

思わず絶叫してぺたぺたと触ってみる。
間違いなく犬耳な手触り。

引っ張ってみても抜けない。そして痛い。



――ちょっと待てよ。
確か似たようなコトが…


恐る恐る自分を振り返ってみたあたしは、
対面したくない光景を目の当たりにして言葉を失った。




…夢じゃ、なかったのか。








昨夜見た犬のしっぽが、堂々と復活していた。




12 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月06日(火)11時52分24秒
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更新終了です。

こんな感じで前作とは違ってアップテンポでいきたいと思います。
行間等、試行錯誤中なんで良いアドバイスあったらお願いします。

更新速度は遅く、更新容量は多く、で考えてます。
次回更新は未定ですが。気長にお待ち下さい。
13 名前:名無し娘。 投稿日:2002年08月06日(火)16時02分23秒
なるほど、半リアルとはそういう意味でしたか(w
前作から張り切ってついてきてしまいました。追っかけです。
何だかアットホームなプッチの雰囲気が読んでるだけで伝わってきていいですね。
また楽しみが増えて嬉しいです。
14 名前:すなふきん 投稿日:2002年08月06日(火)18時13分58秒
新作待ってましたっ!
いやー、かなり萌えの設定で(w
しかもよっすぃーが、変わってしまうのがツボです♪
多目の更新、期待してます。
15 名前:カム 投稿日:2002年08月07日(水)04時16分04秒

新作おめでとうございます!
ちょっとチェックを怠った間に前作完結してたし
そうかと思いきや、早々と新作!サスガです、素晴らしいです!(喜
凹みからも大分復帰されたようで良かったです(w。
ひそかに応援してますので頑張ってください!
16 名前: 投稿日:2002年08月09日(金)00時25分41秒
新作〜!とてもワクワクしてます。
これからどうなるんでしょう?
楽しみにお待ちしております。
17 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時02分55秒



「…ちょっとは落ち着いた?」


お昼ご飯を食べに行く計画はモチロンお流れになって。
身体の異変にパニクるあたしを、保田さんは家まで連れて帰ってくれた。

初めて入る保田さんち。すっきりと片付いていて、
機能的って言うのか、邪魔なものが見当たらない。


作って貰ったあったかいココアを飲んで、
ちょっと人心地ついたあたしは保田さんを見上げて頷く。



「にしても…ホントに耳だなんて…」

呟いた保田さんがしげしげとあたしを覗き込んで。


おもむろに耳を引っ張る。




18 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時03分28秒



「い゙っ!! いたたたっ痛いですってばっ」

「あー、ゴメン。でもマジで生えてるんだ…」

「うー」


じんじんと痛む耳をさすりながら、半分涙目になって保田さんを見上げる。



「あー、そうしてるとホント犬みたいだね。
…まぁ前から犬っぽいトコあったけど」

「え、そーですかぁ?」


うん?と首を傾げると、急に保田さんにわしゃっと頭を撫でられた。




19 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時04分24秒



「うわゎ」

「ホラ」


イタズラっぽく笑う保田さん。

仕事中のリラックスしてる時でも
どこか張り詰めてる保田さんとは違った、柔らかい感じの笑顔。


「頭なでると、すっごく嬉しそうな顔すんの」

「え…」

「あと人の言うことに従順でしょー?
人見知りの割に懐いた人にはじゃれつくしー、
怒られたら泣きそうな顔するけど泣かないしー、
呼んだら何しててもすぐに飛んでくる」




20 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時05分03秒



「う…」

否定できなかったり、する。
でも、犬って…。


「まぁ、さしずめ子供の大型犬ってカンジね」

「はぁ…」


頷くしか出来ない。

そんなあたしにちょっと笑いかけると、
不意に真面目な顔つきになる保田さん。


「――にしても、何でそんな耳とか生えるようになっちゃったんだろ…」




21 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時05分37秒



ほんとだ。

思いつきもしなかった(情けない…)根本的なナゾ。


「心当たり、ないの?」

「え、心当たりと言われても…」

「焦んなくて良いから。気付いたのはいつ?」

「え、と。昨日の夜…」

「昨日は1日オフよね。何してたの?」

「午前中にごっちんと買い物に行ってー、
帰りにそのままごっちんちお邪魔して振り付けの練習してました」




22 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時06分06秒



「振り付け――ってプッチの?」

「はい。分かんないトコあったんで。
ごっちんに教えて貰って」


びっくりした顔してた保田さんが目を細めてフッと笑う。


「アタシが言わなくても、ちゃんと頑張ってんだね」

「はいっ。あたしもプッチの一員ですから」

よしよしとまた頭を撫でてくれる保田さんが続きを促した。


「で? そのまま練習して帰ったの?」

「んと、ごっちんにご飯ごちそうして貰ってー。
それからちょっとタカと――」




23 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時06分36秒



そこまで言って、ハッとした。


もしかしたら。

…いや、まさか。
でも、もしかして――――。



「タカって後藤んトコの犬だよね?
…どした、吉澤?」

あたしの様子に気付いたのか顔を覗き込んでくる。


「心当たり、あったの?」










「――タカのえさ食べました」




24 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時07分06秒










「は?」




口をアの形に開けたまま、ぽかんとした表情の保田さん。



「タ、タカの――えさ?」

「はい」

こっくり頷くと、右手であごをかきながら深刻そうにため息をついた。


「何でまたそんなもん…」

「ごっちんがご飯作ってくれてる間、待ってたんですけどー、
タカが食べてるの見たらおいしいのかなーって」

「だからって犬のえさ…」

「だって練習ですッッッごくお腹へってたんですよぉ」




25 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時07分50秒




「…で? その後は?」

「家に帰りました。
泊まってってもいーよって言われたんですけど、
今日の仕事の荷物、家でしたし」

「…泊まってくれてたら後藤は今日遅刻しなくてすんだかもね…」


はぁ、と再びため息をついて保田さんが顔を上げる。


「じゃあ、やっぱり理由はそれしかないわね…」

「ほんのちょこっとしか食べてないんですけどねー」

「…量は関係ナイんじゃない?」


おもむろに携帯を取り出して、保田さんがメールを打ち始めた。
首をかしげて見ていたら「よしっ」って声と共に立ち上がる。




26 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時08分30秒



「行こっか、吉澤」

「え、行くってどこに…」

「そのまま仕事するわけにはいかないでしょ?
我らがリーダーに相談しに行くのよ」

「あ…はい!」



続いて立ち上がった途端、へにゃりと腰が砕けた。


「ちょ、吉澤!?」

「や、保田さぁん」


慌てて助け起こしてくれた保田さんを見上げて一言。






「――ご飯食べさせて下さい」





27 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時09分12秒
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更新終了です。

大量とかいっておいて何気に少ないです。ごめんなさい。
28 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時10分24秒
>13名無し娘。さん
はい、半リアルです。他に呼び方が見当たらなかったもので…(w
ここまで追っかけて頂いて、ありがとうございます。
頑張って捕まらないように逃げます(違

>14すなふきんさん
美少女教育見ながら、よっすぃーはひつじ(似合ってますけど)っていうより
やっぱ犬だよな…とか思いながら書いてます(w
余り多くなくてごめんなさい。
29 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時11分53秒
>15カムさん
はいー。だいぶ復帰というか吹っ切れました(w
仔犬よすぃ、かぶってました?(汗
やっぱご主人様はごとーさんですよねー♪
個人的にすっごく読みたいです…(ニヤ またメールしますね。

>16凪さん
話はいまいち進んでませんが、よしざーさんが犬になった理由が発覚しました。
なんておバカな子…(笑
(;0^〜^)<だって美味しそうだったんだもん…。
30 名前:シューヤ 投稿日:2002年08月16日(金)14時13分42秒
えー、10日ぶりになってしまいました(反省
次はもう少し早めに更新したいと思います。
以前みたく週1回出来れば良いなぁ…なんて。
31 名前:名無し娘。 投稿日:2002年08月16日(金)17時25分45秒
このホノボノ具合がめっさツボですわ。
情けない吉澤書かせたら、天下一品ですね!…嬉しくないか(w
この先どうなるのか、楽しみです。
32 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月17日(土)16時20分09秒
名前を隠してカキコ…。
犬吉と聞いて読まずにいられようか?
というイキオイで 読みに参りました。
大変楽しいです。圭ちゃんにエサをねだって
しっぽハタハタしてそうですな^^。

イヌのエサですが。あんまり 味がしないだけで
食べれないことはないです。 ハイ。
カリカリ系は 色んな味が混合してあるのが おススメ。
ペディグリーチャムの チーズ味が 好みです。
犬も飽きずに食べてくれます。
33 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月25日(日)18時44分44秒
素敵ー。
ほんと、この独特の世界に引き込まれますねー。
シューヤさんの書かれる圭ちゃんが滅茶苦茶好きです。
期待してます。
34 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月31日(土)21時41分51秒
犬吉( O^〜^)かわぁいい〜!
ペットに欲しいですなぁ。
続き待ってます。
35 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時41分17秒



ゴォーッと低い響きで走る地下鉄に乗って、保田さんと共に移動。

保田さんが作ってくれた、ナゾの茶色っぽい料理(味はおいしかった)を
あっという間にたいらげたあたしに、「よく食べるわね」って保田さんは半分呆れ顔。


…不思議なことにご飯を食べたら、いつの間にか耳としっぽは消えていた。




36 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時42分00秒



それでも取り敢えず飯田さん家には行っておこうと言うことになって、
飯田さんち未経験のあたしは、おとなしく保田さんについて行く。


平日のお昼過ぎは余り人も乗ってなくて、それでも一応変装用の格好はする。

あたしみたいに普段から男っぽい格好してれば、
髪あげて帽子かぶっておけば背もそこそこあるし
誰もモーニング娘。の吉澤ひとみだ、なんて思わないだろう。

保田さんは髪をおろしてサングラスで鋭い眼光を隠せば(それはそれで怪しいんだけど)
あの保田圭だなんてバレないだろう。多分。きっと。




37 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時43分02秒



結局何事もないまま、無事、飯田さんの家までたどり着けた。




38 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時43分40秒



「いらっしゃーい」



保田さんがインターホンを鳴らした途端、
ドア越しにも分かる軽快なステップでやってきた飯田さんは、
玄関を開けるなり開口一番、


「どした、吉澤?」


首を傾げた。

しかも何故かあたしではなく、あたしのやや後ろを見つめつつ。




39 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時44分18秒



「…あー、圭ちゃんの相談事って、これなの?」


事前説明その他諸々を一気にぶっ飛ばした飯田さんの言葉に、
あたし共々ぽかんとしてた保田さんが慌てて口を開く。


「これって圭織、まだ何にも言ってないのに分かるの!?」

「分かるの? ってこんな堂々としてりゃ分かるよー、そりゃ」


また耳やらしっぽやらが生えてきたのかと、
ばたばた全身を探ってみるが、そんな気配はない。

隣を見ると、不思議そうな顔をした保田さんと目があった。




40 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時44分54秒



「圭織、何か見えるの?」


恐る恐る尋ねた保田さんに向かって、

「うん」

事も無げに飯田さんは軽く頷いた。




「吉澤の後ろに、犬が」









41 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時45分28秒



「ぅえ゙ええっ!?」


慌てて後ろを振り返ってみたけど、何も見えない。

前に向き直って飯田さんを見つめたら、


「あー」

今思い出したかのようにぽつりと。

「別に犬が見えるのは今に始まったことじゃないけどね」


「どっ、どっ、どういうことですか――!?」

「や、別に悪いもんじゃないし。っつーか霊とかそんなんでもないし」


(じゃあ一体なんなんだ――!?)


思わず叫びそうになったあたしの肩をぽんと叩いて、不意に保田さんが口を開いた。


「取り敢えず圭織、家ん中いれてくれる? 見付かると厄介だし」



気が付けば、玄関のままだった。





42 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時46分03秒



家の中に通して貰っても、あたしは未だにひとりそわそわ。


「圭ちゃん、コーヒー飲むでしょー?」

「ん。さんきゅ」

「吉澤――は飲めないんだっけ」

「牛乳でいいんじゃない? 犬だし」


あははと笑う保田さんを恨めしく見上げながら、ソファに腰をおろして
キッチンに向かった飯田さんに声をかけた。


「飯田さん、犬が見えるってどういうことですか?」

「んー?」

「あの、あたしの後ろに、犬が見えるって」

「ああ、そのことー」




43 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時46分39秒



ふたり分のコーヒーカップ(ご丁寧にあたし用の牛乳の入ったグラスもあった)を
載せたトレーを持って戻ってきた飯田さんが長い髪を片手ですいて笑う。


「別に吉澤だけじゃないんだよ? 他のメンバーだって、知らない人のだって見える」

「え、じゃあアタシも?」

「うん。圭ちゃんはヒョウだね」

「ヒョウ〜? それって仕事のやつじゃないのー?」

「違うよー。それじゃ吉澤ヒツジじゃん」


少しカップを傾けた飯田さんがちっちと人差し指を振った。

「ぼんやりとだけどね。その人の本性ってゆーか、そーゆーのが見えるの」


どーゆーのだか分かんないけど、取り敢えずあたしは犬らしい。
それがあたしが犬っぽいってコトなんだろう。




44 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時47分14秒



「圭ちゃんはねー、何か猛禽類っぽいの」

「…何気に失礼ね、ソレ」

「吉澤はぁー」

圭ちゃんのつっこみも何でもないようにスルーして飯田さんがあたしの方を向く。


「うん。いつもは柴犬ってゆーかマメシバっぽいんだけどぉー、今日は違うの」

「え?」

「どう違うの?」

「何かね、白くてー、デカイ」

「へ?」


飯田さんの言葉は、時として物凄く抽象的でさっぱり分からない時がある。

そう、まさに今とか。




45 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時47分44秒



「ホラ、なんかいるじゃん。えっと…そうだ、ラスカル」

「は?」

「圭織、ラスカルはアライグマだよ」


ぼけた声を出すあたしの隣で冷静につっこむ保田さん。


「あ、間違えた。ラッシーだ」

「ラッシーはコリーだから茶色でしょ?」

「うーん…あ、ライオンキング!」

「白いのはジャングル大帝だし、だいたい犬じゃないでしょっ」

「えー? 何だっけ、とにかく白くてデカいやつだよぉー」


呆れ顔の保田さんに飯田さんが一生懸命説明している。

白くてデカいのって、多分、ピレネー犬のことなんだろうけど。

(どこに「ラ」がつくんだ?)




46 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時48分16秒



「とにかくいつもと違うのー。だから吉澤どうかしたの?って」

「それを相談しに来たんだよ」


ようやく話が本題に入りそうな雰囲気に、嘆息して保田さんが顔を上げる。


「ああ、そーなんだ」

「えっとー、あの、今日…じゃないや昨日の晩にですねー」

「あ、吉澤はいいや」


話し始めた途端に保田さんに遮られる。

「え、でも…」

「アタシが説明するよ。…吉澤の喋りは的を得ない上にやたら長いから」


思い当たる節がないわけでもなかったので(自覚はあるのだ、自覚は)、
おとなしく、引っ込んだ。




47 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時48分50秒



自ら話し役を買って出ただけあって、
保田さんの説明はちゃんと筋道が通ってて分かりやすかった。

あたしがタカのえさを食べたこと、
耳やしっぽが生えてきたこと、
ご飯を食べたら引っ込んだこと。



「――って、圭織、聞いてる?」


保田さんの言葉に顔を上げると、
ぼーっと窓の向こうを見るともなしに見つめている飯田さん。

ゆっくりと視線を下ろしてきて、あたしと保田さんを順に見つめる。


そしておもむろに。





「カオリ、思うの」



お決まりのフレーズに、つい保田さんと顔を見合わせてしまった。




48 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時49分26秒



交信モードに入った飯田さんは誰にも止められない。
保田さんの顔にやや諦めの表情が見えたのも、気のせいではない筈だ。


「眠る前にあったしっぽが、寝たら消えたでしょ?
ご飯の前にあった耳が、食べたら消えたでしょ?
だから吉澤が好きな人と結ばれれば、いつもの吉澤に戻ると思うの」


飯田さん、ちゃんと保田さんの話聞いてたんだー、とか
余計なことを考えてたあたしは、飯田さんの言葉を頭の中で反芻して、

「――は?」

思わず真顔で聞き返してしまった。




49 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時50分13秒



「もーっ、カオリの話、聞いてなかったの?」

「き、聞いてましたよ!」


でも、さっぱり分からない。

恐らく情けない顔をしてるあたしを見て、仕方ないなーと飯田さんが腕を組む。


「眠いから寝る。お腹すいたから食べる。したら、残りは一つしかないでしょ?」

「…???」


余計に分からなくなって頭を抱えたあたしの隣で、

「そうか」

ぽんと保田さんが手を打った。




50 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時50分48秒



「三大欲求ね?」

「そ。圭ちゃんは分かってくれんのに、何で吉澤はわっかんないかなぁー」

「分かりませんよ、普通…」

「まぁ、犬になること自体おかしいけど、一番ソレが正論かもね」

「ど…どーゆーコトなんですか?」

保田さんは分かったみたいだけど、あたしにはさっぱり内容が見えてこない。


「人間から犬になったってことは、より本能が強くなったってことでしょ?
生物の行動の最原則は三大欲求だからね」

説明(と言うよりは、もはや通訳に近い)してくれる保田さんに感謝して、頷く。


生物の三大欲求といえば、食欲・睡眠欲・性欲――って性欲!?




51 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時51分25秒



「すっ好きな人と結ばれるって、そーゆーコトなんですかっ!?」

「そだよ」


何でもないコトのように頷く飯田さん。


「っていうか、あたし、好きな人なんて居ませんよ!」

「そうなの?」

訊いてくる保田さんにコクコクと首を縦に振って応える。


「石川は? 後藤は? 辻加護は?
あ、案外意外性を狙って松浦ちゃんとか」

「みんな友達ですっ。てか何で女のコばっかなんですかっ?」

「何でって…吉澤タラシだし」


タラシって…。


落ち込むあたしの肩に、ぽんと飯田さんが手をかけた。




52 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時52分00秒



「いるよ」

「へっ?」

「吉澤の好きな人。…誰かまでは分かんないけど、カオリ、感じるの」


勝手にあたしの好きな人を作って感じないで下さい…。



「大丈夫! うまくいくよう、カオリ協力するよ!」

「アタシも手伝うよ。ここまで知ったら放っておけないしね」

顔を見合わせてニヤリと笑った二人は、あたしをバシリと強く叩いて拳をあげた。


「――ってワケで。がんばっていきまっしょい!!」




53 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時52分36秒
----------
更新終了です。

やってはならない放置プレイ(違)をしてしまいました。
永らくお待たせしてしまってすみませんでした。
…誰も待ってないかも。
54 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時53分18秒
>31名無し娘。さん
プッチはほのぼの書いていきたいです。
お褒め頂いて光栄です(w
どんどん吉澤さんは情けなくなりますよー。

>32名無し読者さん
名前を隠して…って事はどこかの作者様でしょうか。
しっぽハタハタな吉澤さんを想像して読んで頂けると嬉しいです。
犬のえさは僕も食べたことありますよー。取り敢えず固かったです(w
55 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時54分01秒
>33名無し読者さん
いつも(一方的に)お世話になっておりますー。
僕も圭ちゃん好きなので、ちょっとおいしい役割になってきますねー。
期待…されてるのに、こんなに間があいてしまって申し訳ないです(平伏

>34名無し読者さん
一家に一犬、吉澤さん(w
是非とも飼ってみたいものですねー。
更新、お待たせ致しました。
56 名前:シューヤ 投稿日:2002年09月10日(火)21時54分37秒
更新を怠るつもりも放置するつもりもなかったんですが、
扶養家族の身としては常時接続を望めるわけもなく。
月末は辛い断接続生活を送っておりました。

月が明けてからはサークルの合宿で不在にしており、
実に一ヶ月ぶりの更新となってしまいました。
本当に、申し訳ないです。ごめんなさい。

これからはコンスタントに更新する予定ですので、
またレス頂ければ嬉しいです。
57 名前: 投稿日:2002年09月11日(水)12時49分05秒
待ってましたぁ!
犬よしこかわえ〜激萌です。リーダーとの会話笑えました(^O^)スゲーよリーダーは
よしこと結ばれるのは誰でしょう?もちろんあの人ですよねー。
更新楽しみに待ってます!
58 名前:イチイ 投稿日:2002年09月12日(木)17時30分43秒
オモシロイっす、続きメッチャ期待!!
これからもガンバってくださいヽ^∀^ノ
59 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月10日(木)22時46分21秒
マッタリお待ちしております。
忙しいのでしょうが頑張ってください
60 名前:シューヤ 投稿日:2002年10月17日(木)00時20分29秒
コンスタントなどと言って置きながら、この放置っぷり、本当に申し訳ないです。
今後の流れやプロットは出来ているんですが、
11月末まで学校での仕事が終わらない為、更新をお休みさせて頂きます。

毎日本当に時間が無くて。後藤さんの卒業特番も未だに見れていない状況です。
修羅場を脱出次第、更新を再開しますので、
待って下さっている心優しいお方は、それまでお待ち下さい。
61 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月20日(水)19時43分17秒
じっくり待たしてもらってます。
可愛らしいお話、是非続きが読みたいです。
62 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月05日(木)00時56分52秒
私待ーつーわ。いつまでも待ーつーわ。
63 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)02時26分32秒
保全
64 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時10分48秒



『とりあえず、皆にはナイショにしとくから』

形のいい唇に人差し指を当てて、飯田さんは言った。

『こんなコト、バレたら大騒ぎだからね』


保田さんのアドバイスに従って、帽子を持ち歩くことにした。
服も極力裾の長いものを着るようにして。
一番良いのは、まず生えないようにすることだから、ご飯と睡眠はバッチリ。
勿論、これでもアイドルなんだから食よりは睡眠優先だけど。

…犬耳(+しっぽ)の生えたアイドルなんて聞いたコトないけどね。




65 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時11分22秒





「よっすぃー最近寝てばっかだね。調子悪いの?」

上から降ってきた特徴的な声に、突っ伏してた楽屋の机から顔を上げると、
心配そうな表情の梨華ちゃんが覗き込んでいた。


「ん? あー、違うよ。元気元気」

「…本当?」

握りこぶしで得意のガッツポーズを作って見せても、八の字眉のまま首を傾げる。

「ほぉーんとだってー! 最近何か寝ても寝ても眠いんだよ」

「よしこ、ごとーに似てきたんじゃない?」


あはって笑いながら、あたしの隣で同じように寝そべってたごっちんが、
もそもそと起き上がって背伸びする。

「あはは、そーかもー」

「よしこ知ってる? 寝る子は育つんだよー?」

「これ以上大きくなってどぉすんだよー」




66 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時11分56秒



笑いながら、ねぇ?と話を振ると、ようやく梨華ちゃんも笑顔を見せた。

「そうだね。これ以上成長したら飯田さんみたくなっちゃうもんね」

「…石川?」

明るく言い放った梨華ちゃんの後ろに黒い影。


「いっ、い、飯田さんっ」

「カオリみたくなるってどういうこと? 黒髪に戻してロングヘアー?
吉澤とふたりでデカモニ。? 婦警と帰国子女のコンビで刑事モニ。?」

「そ、そんなコト言ってないですっ」



「相変わらず一言多いね、梨華ちゃん」

ふたりのやり取りを見ながらのんびりと、ごっちん。

「…そだね。自覚はないんだろうけど」

話がどんどん逸れてる飯田さんも、やっぱり自覚はないんだろうけど。




67 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時12分37秒



「「よぉーっすぃー!!」」


類を見ないハモリっぷりに、騒がしい足音。

振り返ろうとした時には遅くて、マトモに背中にボディアタックを食らった。


「ぐはっ」

「よっすぃー遊ぼーっ」

「ごっちんもー」

「いっつー…まったく。あたしは眠いんだから二人で遊んでなさい」

痛む背中をさすりながら軽く追い払うそぶりを見せると、やっぱり揃って膨れ面。


「ふたりでしてもつまらんやん」

「せっかくボール借りてきたのに」




68 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時13分13秒



「ボール?」

ぴく、とその言葉にカラダが反応した。
ののが手にしている何の変哲もないただのボールに、すっごい興味をひかれる。


「よっしゃ!」

勢いをつけてガタンと立ち上がると、隣でまた寝ようとしてたごっちんが、
びっくりたようにこっちを見上げた。

「よっすぃー?」


「やるぞ、あいぼん、のの」

「やったー!」

「それでこそ、よっすぃーや」

「まずはドッジからな」




69 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時13分45秒



若いねぇ、なんて呟いて組んだ両腕の上にあごを戻したごっちんを残して、
お子様たちをつれて外に出る。



空は高くて天気も良くて、文句無しのスポーツ日和。


拾った小石でアスファルトにざりざりと線を引いて陣地を分けた。

「じゃあ、あたし対あいぼん、ののペアね」

「オッケー」

「ラジャー」


了承の言葉と共にあたし目掛けて飛んで来たボールを、ギリギリ間一髪で避けた。


「のっ、のの、ヒキョーだぞ!」

「甘いのれす。勝負とは戦いなのれす」

残念、と指を鳴らしながら、ののがカッコよく言い捨てる。

な…何かキャラちがくないか??(汗)




70 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時14分26秒



勝負を仕掛けてきただけあって、あいぼんもののも上手い。
おまけに息もぴったりのコンビネーションのお陰で苦戦した。

が、あたしだって負けてられない。長身を活かして上からの攻撃……。


「えいっ」

「あっ」


まただ。あたしの攻撃は全部ファール。

「頭狙うのは反則やで!」

「そーだそーだ!」

別にあたしが狙ってるワケじゃない。
…全部頭に当たるようにコイツらが動いてるだけで。


「よっすぃーは背ぇ高い分ウチらより損やな」

そう、あいぼんが言う通り。
普通に投げたら頭上を通り越すし、上から投げたら頭突きで返されノーカウント。


普通に戦ってたら、もしかして勝てない…?


「なんや、今ごろ気付いたんかー」

「案外おマヌケさんなのれす」


…無邪気に笑うお子様たちがにくい。




71 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時15分00秒



「辻ー、加護ー、吉澤ー。
そろそろ戻ってきなさいよ、もう準備が…」

ふいに大声であたしたちを呼びながらひょっこり顔を覗かせた保田さんが、
あたしを見つけて固まった。


「あっ…!」

「…あ?」



「アホ――っ」

恐ろしい形相と共にクワッと鋭い眼光。

ビビって凍りつくあいぼんとのの(勿論、あたしも例外じゃなかったけど)を
先に楽屋に返し、保田さんはガンガンとこっちに迫ってきた。



「なっ、なっ、何ですかっ!?」

「気をつけろって、言ったでしょっ」




72 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時15分30秒



耳を塞ぎたくなるような大声と共に、ぎゅっとしっぽを引っ張られた。


「痛っ、いたたた……って、え?」


振り返って見たら、保田さんが握った拳の端っこから垂れてるしっぽ。

そう、間違いなくあたしの。



――――!?



「生えてる――!?」


「静かに!」



ぎゅーってあたしの口を慌ててふさいで、保田さんが密かに嘆息。




73 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時16分33秒





「気付いてなかったワケね」

「…ハイ、サッパリ」

はぁ、ともう一度ため息をついて辺りを見回す。


「ずっと向かい合ってたし服で隠れてるから、あの子たちは気付かなかったと
思うけど」

まぁ多分、気付いても何だろう程度に流すかも知れないけど。
まさかあの二人も、あたしの後ろで嬉しそうにはためいてるのが
しっぽ(しかも犬の)だとは思わないだろうから。


何かやたらボール遊びってば楽しいなぁと思ったら、
それはあたしの中の犬の部分だったらしい。

「無条件でボールを追っ掛ける犬ねぇ…」

しみじみ呟いて保田さんがあたしをチラリと見る。


ちょっと怯んだら、

「…まんまね」

「………」

身も蓋もない言葉で返された。




74 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時17分09秒



「とにかく。いつ誰にバレるか分かんないんだからね。
これからはもっと注意しなさい」

「…はい。ごめんなさい」


しゅんとうな垂れたあたしの頭を軽く撫でて、

「とりあえず元に納まるまでどっかに隠れてなさい。
皆にはあたしがうまく言っとくから」

任せておきなさい、と保田さんは軽く笑った。




75 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時17分45秒



ちなみにほとぼりが冷めるまでトイレで待機してたあたしを迎えてくれた
皆は心配してるような、でもどこか笑いを堪えた顔で。


「よっすぃー、大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫だよ」

「そう言う時は食物繊維取るといいんだべー」

「そうそう、さつまいもとかね」

「…?」


話の内容が見えてこずに首をかしげると矢口さんに強く背中を叩かれた。


「心配すんなって。誰もヨシザワがトイレこもりっぱだなんて言いふらさないから」

「なっ!? いや、あの、それはっ」

「けーちゃんから聞いたよ。生活不規則だからなー。気をつけろよ?」


バシバシ肩を叩いてくる小さな先輩から目をそらして楽屋の隅を見れば、
噂を流した張本人は本に顔をうずめて読書中。
…肩揺れてるんですけど。


保田さんの任せとけ!(立てた親指付き)を信じたあたしが馬鹿だった。



ああ、早く人間に戻りたい……。




76 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時18分17秒

----------
更新終了です。

お久し振りです。シューヤです。
忘れられているかも知れませんが…。
77 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時19分01秒
>57◎さん
よしこと結ばれるのは…。ふふふ。
今回もリーダーは意味不明です。

>58イチイさん
お待たせ致しました。
面白いって言って頂いて嬉しいですv

>59名無し読者さん
ありがとうございます。
忙しさもマシになってきたので更新です。
78 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時19分46秒
>61名無し読者さん
じっくりお待たせしすぎですね(汗
ほんとに間が空いてしまって申し訳ないです。

>62名無し読者さん
ありがとうございますっ。
本当にお待たせ致しました(平伏

>63名無し読者さん
保全頂いてありがとうございます。
なるべく早めに更新できるよう心掛けます。
79 名前:シューヤ 投稿日:2002年12月23日(月)17時20分27秒
もう言い訳も出来ないくらい間が空いてますね…。
次はもう何時といわず、更新できる時にしたいと思います。
こんな放置気味のを上げてしまって、他の作者さんに申し訳ないです。
すみません。
80 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月23日(月)18時09分32秒
わぁーい!
更新されてる(0^〜^0)この話凄くすきなんで(吉犬にはまってます)嬉しいです。
またまた意味不明なリーダーが好きです。
作者さんにまったりついて行くんで、更新頑張ってくださいね
81 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)13時44分58秒
やー、もうホント待ってて良かった。
犬吉サイコー。
82 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)23時05分41秒
(0^〜^)カオリサンチノイ(ry
83 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月21日(火)22時36分26秒
待ってますよ〜!ワンワン
84 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時39分02秒



あたしの身体に異変が起こって、はや5日。

最初は思わず出てしまう事も少なくなかったしっぽたちのコントロールにも、
今ではずいぶん慣れてきた。




「吉澤、ご飯できたよ」


大き目の深皿を手にしてキッチンから出てくる保田さん。

さっきから漂うシチューの良い匂いにそわそわしてたあたしは、
見るともなしにつけてたテレビを消して、大急ぎでテーブルについた。



「遠慮しないで食べなよ」

「はいっ」


いただきますっと手を合わせて、食器に顔を突っ込みかねない勢いで食べ始めた
あたしを、保田さんが苦笑しながら見てる。




85 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時39分35秒



ごっちんちで食べた犬のエサが(多分)原因で、しっぽと犬耳が生えるように
なったあたしは、プッチの自主合宿と称して保田さんちにお邪魔している。


万が一、こんな格好になったところを親に見付かりでもしたら、
病院に連れて行かれて精密検査だの何だのと、
仕事が出来ないくらいにつれまわされるに違いない。

せっかく軌道に乗り始めている自分らしさを、ここで失う訳にはいかないのだ。





「吉澤」


自分を呼ぶ声におかわりしたシチュー皿(すでに3杯目)から顔をあげると、
先に食べ終わって、本棚と並んでいるラックをあさっていた保田さんが
意味ありげに微笑みながら手にしたビデオを振っていた。



「食べ終わったら、一緒に特訓だよ」




86 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時40分06秒



スプーンを持った手が一瞬止まる。


「え…」

「『合宿』なんでしょ。気合いれてやんなきゃ」

「あの…」

「アタシもつきあったげるから」

「…じゃあ、あの、あたし、お皿の片付けを――」

「あとでやるから置いときなさい」



何を言っても笑顔の保田さんに軽やかに切り返され、
あたしは諦めのため息をついて、残りのシチューに手をつけた。

別に練習がいやな訳じゃなくて、上手くなりたいってキモチは勿論あるんだけど
保田さんってばスパルタっぽいんだもん…!(泣)




87 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時40分39秒



「食べてすぐは身体に悪いから、ちょっと落ち着いてからね」


その間に着替えてなさいと言われ、ビデオの頭だしを始めた保田さんの後ろで
はいてたジーパンから動きやすいジャージに着替える。



「…保田さぁん」

「なにー?」


情けないあたしの声に上半身だけ振り返った保田さんは、
ぷっと吹き出し、口を手でおおった。


「笑わないで下さいよぉ…」


荷物は必要最低限のものしか持ってきてないし、
いつものやつは今日レッスンで使ったから、ただいま洗濯中。

これでもはいときなさい、と保田さんから借りたジャージは、


「あはははは、ソレ、いいわ吉澤」




徹底的に短かった。




88 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時41分19秒



「なんでこんな短いんスかー」

「いーじゃない別に誰も見ないんだし」



くるぶしソックスの縁よりも、だいたい10cmくらい上にきてる裾。

1年生の頃に買った体操服を、ずいぶん背が伸びた3年生になっても
まだ着れるしもったいないからって着てるような妙なカンジ。


「まぁアタシでも若干小さいかなーって感じのやつだから」

「そんなの着せないで下さい」


ぷーっとむくれたあたしを、まぁまぁと保田さんがなだめた時、
唐突に玄関のチャイムが鳴った。




「こんな時間に誰かしら」


チラリと保田さんが壁の時計を見上げる。

時間は午後9時をちょっとまわったくらい。




89 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時41分53秒



「吉澤でましょうか?」


相手が変質者だったりストーカーかなんかだった場合、
保田さんよりもあたしみたくデカくて男っぽいのが対応に出た方が
向こうもビビるだろう。



「いや、取り合えず見てみるよ」


手にしたリモコンをソファーの上に置いて保田さんが立ち上がる。

ゆっくりと玄関に向かって歩く保田さんの背中を見ながら、
ぴくりと不意に鼻が動いて、あたしは首を傾げた。


あったかいシチューの匂いに混ざってただよう、良く知った香り。

やや甘めの、華があるカンジで、ちょっと押しが強い。
けっこう後まで残る、この自己主張の激しい匂いは――――




90 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時42分27秒



「梨華ちゃんだ」

「石川!?」


香水の主を思い出すのと、ドアスコープを覗いた保田さんが驚いたように
声をあげたのは、ほぼ同時だった。


カチャカチャとキーチェーンと鍵を外す音がして、まもなく

「お邪魔しまーす」

と梨華ちゃんの高い声。



「あれ? よっすぃー??」

ピンク色のスリッパを履いてパタパタ歩いてきた梨華ちゃんは、
リビングにいるあたしを見て不思議そうに首を傾げた。



「何でココにいるの?」




91 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時43分04秒



「それはアタシのセリフだよ」


不意に梨華ちゃんの後ろから現れた保田さんが、片手を腰に、
空いた右手で梨華ちゃんの頭をぐりぐりする。


「あいたたた、痛いです」

「痛くしてんのよ。何で急にウチに来るわけ?」

「えーっ、あたしはー、保田さんに会いたいなーって」

「はっ?」

「最初はメールしようと思ったんですけどぉ、やっぱり直接会いたくなっちゃって」


てへっ、と笑う梨華ちゃんに脱力する保田さん。


「連絡もなしにいきなり来て、もしアタシが居なかったらどうするの」

「あー…考えてなかった。でも良いじゃないですか。保田さん居るんですし」




92 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時43分48秒



深深とため息をついた保田さんが、あたしを見て慌てて顔を上げた。


「そうだ、練習。練習しなきゃだった」

「え、プッチモニのですか?」

「うん、そう。だから悪いけどあんた構ってるヒマないわよ」

「良いです。じゃあお皿洗いますね」


食卓の上を見てとった梨華ちゃんが、お皿をキッチンに運び始める。

止めようとしたのか、何かを言いかけた保田さんは
伸ばした手でほっぺたを少しかいて。



「お皿割らないでよ」

梨華ちゃんの背中に声をかけてテレビに向き直った。


「え、良いんですか梨華ちゃん」

「良いのよ。別に用があったわけじゃないんだから」




93 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時44分22秒



ビデオのコントローラーを手にした保田さんの耳が、心なしか少し赤い。


「…あー」

「なっ、何よっ」


シンプルですっきりした保田さんちのそこここに点在する、
少し好みの違った小物たち。

来客用とは別にしまわれていたスリッパ。

お皿を洗って片付ける梨華ちゃんの手つき。



「何でもないですー」

「にやにやしてないで始めるわよっ」


曲とともに指の先まで使って踊り始めた保田さんに倣いながら、
二人の関係を羨ましく思った。


いつかあたしにもそんな人ができるのかなぁ。




94 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時45分00秒



「はっ!? あんた泊まってく気!?」

「はいー♪」



お泊りセットの入ったカバンを掲げて見せる梨華ちゃんに、
眉を寄せてため息をつく圭ちゃん。

寝場所をソファーに指定された梨華ちゃんが我儘を通した為に、
結局は3人してフローリングに雑魚寝。



「おやすみなさいー」

「…おやすみ」

「おやすみなさい」



みんなで寝転んで電気を消して、それぞれに呟いて眼を閉じて。

布団は半分以上梨華ちゃんに取られて寒かったけど、
何だか心の中がホッとして暖かくなって、すんなりと夢の世界へ入っていった。




95 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時45分59秒

----------
更新終了です。

今回は保田さんと愉快な仲間たち編です(違)
個人的な好みにより保石風味で…。
96 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時48分30秒
>80名無し読者さん
今回はリーダー出来てませんでしたが、次回は…。
予定は未定ですが。お楽しみにして頂ければ幸いです。

>81名無し読者さん
ありがとうございますっ。
犬吉、個人的にもツボですv
97 名前:シューヤ 投稿日:2003年02月05日(水)21時50分42秒
>82名無し読者さん
僕も犬吉飼って見たいです。
わんわんわん。

>63名無し読者さん
お待たせしましたっ。
今回はあまり犬らしくありませんでしたが(汗
98 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月06日(木)17時06分34秒
更新、待ってました!
押しの強い石川さんと照れてるヤスがいいです。
問題はまだやまずみですが(笑)
今回は保石のほのぼの(?)って事でOK.
99 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月16日(日)22時52分04秒
保石のお二人の仲もいい感じですね。
早くよしごまが読みたいです。

100 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月07日(金)14時57分30秒
まったりした感じの保石いいっすね〜!
復活を楽しみに待ってますよ〜
101 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月17日(月)00時15分07秒
シューヤさんの書く話、大好きです。
犬よっすぃ〜メチャかわいいっス!
そろそろごっちん登場か?と期待して更新マターリお待ちしてます♪
102 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月03日(木)19時39分37秒
保全。待ってるよ。
103 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月24日(木)02時35分14秒
ほぜん
104 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月03日(火)13時27分59秒
保全
105 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月03日(木)16時29分49秒
106 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)18時50分12秒
ze
107 名前:芽衣 投稿日:2003年07月29日(火)16時31分04秒
吉犬カワイイですね。ホれました!笑。
よしごまじゃないんですか?ごまがあんま出ないんで…。
私はごま推しなので ごっちんをもっと出して!!
あつかましいお願いでごめんなさい。
108 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月29日(火)18時40分55秒
>>107
あげないで。
ってことで、ochiさせます。
すみません。
109 名前:芽衣 投稿日:2003年07月30日(水)20時12分51秒
マジすかー!吉犬ラブリーだったのになぁw
110 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月30日(水)21時29分08秒
>>109
あげるなよ

ochi
111 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月12日(火)02時44分24秒
保全
112 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/24(水) 11:47
今日初めて読みました〜
おもしろいですね
続き待ってます^^
113 名前:ゆでたまご 投稿日:2003/10/17(金) 21:21
初めて読みましたぁ〜
犬吉可愛いっすねぇ!
続き待ってます!!
114 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/18(火) 07:45
保全
115 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/03(水) 03:04
保全
116 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 11:48
保全

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