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鋼鉄鋭くなって。

1 名前:YJM 投稿日:2002年08月07日(水)01時54分53秒
はじめまして。
生まれて初めて書く小説ですが、よろしくおねがいします。
娘。のバンドもので保田石川メインです。
ネタは結構濃いものがありますが、自分の気力と根性が続く限り頑張ります。
2 名前:YJM 投稿日:2002年08月07日(水)01時57分33秒
高校2年の秋。
この季節はどこの学校も進路が決まってくる季節。
就職にしろ進学にしろ準備を始めなければ間に合わない季節。
某高等学校の2年生石川梨華も例外ではなかった。たった今昼休みの時間を割いて
までした面談が終わったところだ。特にいい成績ではない石川にとってはこの先の
未来の可能性の低さを思い知らされた。憂鬱以外に何でもない。

「はぁ…大体この時点で決まってるんだよね…」

落ちこんでいる石川と対照的に背後から勢いよく走っている音が聞える。そして石
川にショルダータックルしてきた。

「なに落ちこんでるの!」

タックルしてきたのは保田圭。石川の中学の先輩で高校がたまたま一緒になった。
大人しい性格の石川にとって保田は全く正反対の性格で何かと石川に絡んでくる。
迷惑な訳ではないがペースを狂わせる苦手なタイプだ。

「せ、先輩。いきなりやめてくださいよぉ…」

当然の反応だが、この程度で保田はペースを崩さない。何事もなかったのように話
し続ける。

「あんたが思ってることぐらい背中見ただけでわかるわよ!なにか…」
3 名前:YJM 投稿日:2002年08月07日(水)01時59分09秒
話の途中5時限目の予鈴がなった。この程度で保田はペースを崩さない。何事もな
かったのように話し続ける。

「悩みがあるなら私に言いなさい!放課後音楽室の前で待ってなさい!!」

そう告げて保田は走り去っていった。

「あ、あの…」

混乱した石川の声だけが寂しく残された。


そして放課後、5,6時限目の授業中行くべきか行かないべきか迷ったが先輩に言わ
れたことなので仕方なく行くことにした。音楽室は2年生の教室がある階の突き当
たりにある。すぐに辿りついたが肝心の保田はいなかった。

「なにやってんだろ…自分が言ったことなのに忘れてるんじゃないかな…」

半分怒りながらも少し寂しげなものがあるが、5分も待たずに階段を駆け上がる音
が聞えた。保田である。しかも楽器を持っている。保田は息を切らしていたが構わ
ず話し始めた。

「ハァハァ…。ちゃんと待ってたね。今音楽室開けるから…」

「へ?」

息を切らしながら音楽室のカギを開ける保田を見ながら今起こってることを必死に
まとめてみた。
4 名前:YJM 投稿日:2002年08月07日(水)02時01分17秒
(先輩に放課後に音楽室で待ってろと言われた、待ってたら先輩が楽器を持って
走ってきた。そして何故か今音楽室のカギを持って開けようとしている。私が理解
できないのは何故先輩が楽器を持っているのか?部活とかやっていたっけ?で、そ
してなんで私に音楽室に迎合するようなことを?)

そうこう考えているうちにいつの間にか石川は音楽室に片足を入れていた。音楽室
の前に小さな廊下があって廊下の端に下駄箱がある。音楽室内に下足で入ったらい
けないからだ。几帳面な音楽教師の配慮だろう。石川は保田の前ではパワー負けし
てしまうので、仕方なく行く末を待っていた。

「ちょっとイスを左右の端に追いやるから手伝って。」

保田の指示通りにキレイに並んであるイスを保田が左に、石川が右に分けた。そし
て、そこには以外と大きなスペースが出来た。後ろ半分から段差があり、ステージ
のようにも見える。
そして保田は倉庫から大きなアンプを台車に乗せてきた。

(これでなにするんだろう?スピーカー?先輩が持ってきたのってもしかしてエレ
キギター?)
5 名前:YJM 投稿日:2002年08月07日(水)02時04分05秒
少し現状がわかってきた石川をよそに保田は着々と準備を始める。同じ倉庫におい
てある私物をごそごそと取り出してきた。まず、ラック式のクロマティックチュー
ナー、コンパクトのエフェクター二つ。それらを繋いでおもむろにチューニングし
始めた。
その時、ゆっくり音楽室の扉が開いて二人の女子生徒が入ってきた。

「おー、遅いじゃん!早く準備しなよ!」

保田は待ってたかのように話しかける。
女子生徒の一人は、すらっとスタイルがよくキレイな人、もう一人はボーイッシュ
で色白でカッコイイなぁと石川は思った。
二人は石川がいることに気がついたが愛想笑いしている石川と対象に無反応のまま
おもむろに各々の準備を始めた。キレイな方は保田と同じようにアンプを出し、エ
フェクターを繋いでチューニングをしている。ボーイッシュな方はドラムセットを
出してスネアや各シンバル位置の調整や皮の張りを調整している。
そして10分後、音楽室はまるでライブハウスに入れ替わったように生まれ変わっ
た。

(先輩って高校に入ってからこんなことやってたんだぁ。)
6 名前:YJM 投稿日:2002年08月07日(水)02時05分29秒
ちょっと高校に入って保田に絡まれはしたが以外と保田の知らない面があったこと
に気がついた。先輩がやる音楽というのに少し興味を示したのか、先ほど退けたイ
スを一つ取り出して教卓の前に置いて座った。

「みんなセッティング終わった?そろそろ始めよっか。」

二人とも縦に首を振る。ドラムの4カウントで曲が始まった。ミドルテンポの軽い
音。
しかし、ボーイッシュなドラムは正確なリズムを刻み、保田はそれにグルーヴに巧
く絡んでくる。そして、キレイなギター/ボーカルは芯のあるギターサウンドに
ピッチも正確な歌声を放つ。
石川はいつの間にかこのバンドに魅了されていた。そして曲が終わり、保田は石川
に感想を求めた。

「かっこいいですよね。先輩ってこんなことやってたんですね。」

半分お世辞だが半分本音の感想を述べた。保田は間に受けたのか満足げな表情だ。
しかし、他二人は無反応である。石川は何気に時計を見た。

(このままここにいるのは居づらいなぁ。そろそろ帰るのがベターかな?)
7 名前:YJM 投稿日:2002年08月07日(水)02時07分19秒
とりあえず、これだけ更新します。
よろしければ感想などをもらえたら嬉しいです。
自分がどれだけ更新して完結できるかわかりませんが、末永く見守ってやってくだ
さい。
8 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月10日(土)00時55分28秒
タイトルみてそうかなと思って読んでみたらやっぱりバンドもののようで
非常に期待してます。がんばって下さい。
9 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時22分56秒
>>8さんありがとうございます。
小説自体書くことが初めてなのでよろしかったら色々ご指導下さいますと嬉しい限りです。
それでは更新します。
10 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時24分18秒
「先輩、悪いんですけどそろそろ門限がありますので…」

適当かつ、わかりやすい言い訳を作り音楽室を退散した。そして、家に帰り部屋の
ベットに大の字になって寝転がった。

(バンドかぁ。ちょっとかっこよかったなぁ…私にも出来たら少しは変わるか
なぁ)

(でも、今日の面談は最悪だったなぁ…)

と今日の出来事を考えているうちにいつの間にか寝てしまった。
11 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時25分01秒
翌日
下校中、例の如く背後から勢いよく走っている音が聞える。そして石川にショル
ダータックルしてきた。保田だ。

「なにやってんのよ!!」

「いたたた…。先輩、後ろからタックルするのやめてくださいよぉ…それに今日は
練習いいんですか?」

石川は少しよろけながら保田に問う。

「いいのよ!今日、音楽室はマンドリン部が使うから今日は休みなのよ!それより
今から私の家に来ない?」
12 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時26分30秒
どうせイヤと言っても強制的に連行されるのは目に見えてるので、無抵抗に承諾し
た。保田の家は石川の家の通り道にある。別に行く分には構わない。だが、相手は
保田だ。彼女を相手にしていると家に帰ってからどっと疲れる。
保田の部屋は以外と片付いており、部屋にあるのはベットと漫画本が並んだ棚と机
の上にパソコン。Mそして、ギターとベースが1本づつ。ベースの方は先日音楽室で
見かけたものだ。おもむろに保田はパソコンを立ち上げ、連動しているMDプレイ
ヤーで音楽を流しはじめた。洋楽で石川にとっては誰の曲か全くわからなかった
が、イヤというわけではなかった。何曲か聴いていると聞き覚えのある曲が聞え
た。

「先輩、この曲って?」

「うん。これはこの前あんたの前で演奏した曲よ。THE CLASHのWHITE RIOTって
曲よ。」

「へー、原曲ってこんな曲だったんですね。カッコイイなぁ…」

石川は始めて聴く曲に共鳴したようだ。聴き入っているうちに保田は話しかけた。

「あんた、プレイする方に興味ないの?」
13 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時27分23秒
一瞬「え?」と思ったがすぐに切り返した。

「私は無理ですよ。楽器なんて難しそうだし…」

「そんなの簡単だって。誰でも出来るように作られてるんだからさ。そこにギター
あるから取ってみなよ。」

保田が指を差した方向にギターとベースが並んである。全く知識がない石川にとっ
てどっちがギターかわからない。とりあえず、一回り大きい方を取ってみた。

「そっちはベースだって…」

保田の冷ややかなツッコミが入る。慌てて小さい方を持った。

「構えてみなよ。ホントにすぐ出来るもんだよ。」

石川はギターを構えて保田の超絶鬼ティーチングが始まった。そして2時間後、本
当に1曲弾けてしまった。

「すごーい!本当に出来たんですね!」

石川は無邪気な声を発した。それと同時に保田の鬼教育によくついてこれたと思っ
た。
14 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時28分08秒
「ところでなんて曲なんですか?」

「sex pistlsのGOD SAVE THE QUEENっていう曲よ。ね?簡単に出来るでしょ?」

(って、いくら簡単だからといって1曲弾き切るとはね…鍛えたら面白いかも…ニヤ
リ)

その日は含み笑いしながら石川を玄関まで送って返した。家路の途中真っ赤になっ
た指先を見ながら歩いていた。

(指痛かったな〜。でも、結構簡単に出来るもんなのかな?ちょっと練習してみ
よっかな〜♪)

ポジティブ石川は指の痛みも気にせずに保田宅を後にした。
15 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時29分21秒
次の日の朝、いつも通りホームルーム。担任の寺田光男♂が連絡事項などを話して
いる。石川は机に伏せながら聞き流していた。

「〜ってことやからみんな気ぃつけてな。そして、石川。」

「はいぃ!?」

突然先生に呼ばれて跳ね上がる勢いで返事した。

「今日の放課後、先生のところまで来るように。ほんじゃ、終わるで〜。」

(え〜!?また面談とかあるのかな?この前の面談は進路とか全然決まってなかっ
たし…って、今も全く決まってないけど…どうしよう…)

不安になる中、刻々と時間が過ぎ、気がついたら放課後になっていた。寺田は音楽
教師で職員室より音楽室に居る方が多い。そして、また石川は音楽室の前に立っ
た。音楽室と書いてある表札を見ながら息を飲んだ。

「おいっ。」

「ひゃっ!」

いきなり肩を叩かれパッと振りかえった。肩を叩いたのは寺田だった。寺田の顔を
見た瞬間びくついて声も出なかった。
16 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時30分49秒
「なんや?驚き過ぎやぞ。まあいいから中入れや。」

寺田は音楽室と音楽室の奥にある音楽準備室のカギを開け、石川が座る分のイスを
用意していた。それを石川は目が点にして寺田を目で追いかけていた。
軽く深呼吸させて音楽準備室に入ると、寺田は石川に話しかけた。

「石川。」

(あ〜また進路の話しかぁ…全然決まってないよぉ…)

「お前、ギター弾きはじめて2時間でGOD SAVE THE QUEEN弾けたらしいな。」

(え?)

「確かに簡単な曲やけど、2時間で弾けるって結構すごいことやと思うで。」

「は、はぁ?」(な、何の話し?進路のことじゃないの??)

「お前、うちの部入らんか?実は部員足りなくて困ってんのや」

「そ、そーなんですか…」

進路の話しではなくでよかったが、これはこれで面倒なことに巻き込まれそうだと
石川の本能は感じ取った。

「まあ、いきなり入れとは言わんから仮入部でちょっとやってみるとええわ。きっ
と楽しいで。いい奴ばっかやし」

強引な寺田から抜け出したいが全く予想できない展開に困惑していたが、やっとの
思いで反撃する
17 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時33分58秒
で、でも私はギターとか持ってませんし…できませんよ。」

「んなことぐらい大丈夫!ギターは俺の私物があるから勝手に使ってええし、家に
持って帰って練習したってかまへんよ。そうだ!丁度ええもんがあんねん!」

そう言って準備室の中にある倉庫を開きはじめた。石川はどこまで強引な人なんだ
と頭を抱えた。保田と同じタイプの人間であるということを痛感した。

「お、あった!これこれ。Gibson SG Jr'69!」

ソフトケースに入ったギターを取りだし石川にどうだ!と言わんばかりに見せつけ
た。

「これはな、Gibsonっていうエレキギターを始めて作ったメーカーの奴で1969年
のSGモデルなんや。ってもリーシューやけどな。これのピックアップがP-90を載
せてるんやけど、クリーンが凄いんやぞ。そもそもP-90っていうのはな…」

寺田がギターについて語っていても全くわからないが、木目がはっきりと映し出さ
れている赤色に非常に惹かれていた。寺田の話しをよそにキレイだなぁ…っと思っ
ていた。

「…っていうギターなんや。わかったか?」
18 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時35分08秒
「え?は、はい…。」

話しは全然聞いていなかったが、このギターは石川の中で非常に気に入った。音の
問題じゃなくて見てくれの問題であるが、結局寺田の強引さに負けてしまった。

「じゃあ、このギターを無期限貸与するからな。大事にせいよ。」

「あ、はい…。」

「そろそろ軽音楽部が来ると思うからそいつらに混ざったらええ。色々教われると
思うで。」

その時、音楽準備室に保田が顔を出した。

「あれ、先生と石川?」
19 名前:YJM 投稿日:2002年08月11日(日)01時38分28秒
中途半端な状態ですがここまで更新します。
20 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月13日(火)00時07分59秒
やすいしがメイン…
非常に楽しみです!がんばって!!
21 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月17日(土)03時48分11秒
私も楽しみにしております。
22 名前:21 投稿日:2002年08月17日(土)03時49分20秒
すいません...ageちゃいました...
23 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時47分14秒
>>19-22さん
ありがとうございます。
まだまだ修行が足りませんが末永く見守ってやってください
では、更新します。
24 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時48分07秒
「おう、保田。今日も一番乗りやな。そうそう、今日からこいつは仮入部で重金属
音部に入ることになったからよろしくな。部長。」

「え〜!部長!!しかも重金属音部って…」

石川が驚くのも無理はない。保田が部長でしかも、部活の名前が軽音楽部ならとも
かく重金属音部という妙な名前である。更にいつのまにか仮入部も決定されてる。
保田といい寺田といい、まわりの強引さに半ばやけになり始めていた。そんな石川
と裏腹に保田が意気揚々と話す。

「お!やっぱり入ってくれた?さっすが石川!私が見こんだことはあるよ!」

「み、見こんだ!?」

まさかとは思っていたが、保田と寺田が関係あると考えてはいたがここまで情報が
早いとは思ってもみなかった。
25 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時48分47秒
「そうや。保田がどーしても石川を重金属部に入れたいってゆーから石川の担任で
更に重金属音部顧問の俺が一肌脱いだってわけや。」

(はぁ…この強引コンビ…。もう勝てません…)

ついに石川は完全に諦めた。もう仮入部でも正式入部でもどっちでもいいと思っ
た。

「まあ、石川が仮にも入部したってことだから機材の場所とかを案内するよ。こっ
ち来な。」

保田は軽い足取りで、石川は重い足取りで歩いていった。


音楽準備室の両脇にある二つの扉。向かって右はアンプやマイク、PA、他の部の備
品。左の扉はパーカッション専用。パーカッションは他の部員と兼用で使ってい
る。だから一倍気をつけて使わなければいけないということ。そしてアンプやPA等
の基本的なセッティングなどを保田からレクチャーされた。
26 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時49分38秒
「んで、アンプの電源切るときはボリュームから0にして、そのあと他のツマミを0
にして電源切ってスタンバイも切るの。わかった?」

「は、はい。」

「よし。これで一通りは…」

その時、音楽室の扉が開いた。前に会ったキレイな女子生徒とボーイッシュな女子
生徒だ。

「おー!二人とも遅かったね。二人とも同じ時間に面談あったんだっけ?あ、そう
そう。この子。今日から重金属部に仮入部した。石川って子ね。仲良くしてあげて
ね。」
27 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時50分10秒
「に、2年の石川梨華です。よろしくお願いします。」

石川は軽く会釈した。しかし、二人はほとんど無反応の状態に近い。慌てて保田が
間に入りこんだ。

「あー、この二人ね、人見知りが激しいのよ。髪が短い方が2年の吉澤ひとみって
子で、もう一人が1年の後藤真希っていうのね。二人とも挨拶ぐらいしなさい
よ!」

「後藤です…」

「吉澤です…」

二人ともぼそっとしか言わなかったが石川は初めて声を聞いたような感じがした。
こうして重金属部仮入部1日目は過ぎていった。
28 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時51分02秒
仮入部して1週間が経過した。
部活では保田の鬼コーチが待っており、その上、部活の終わり際に課題を与えるか
ら家に寺田から借りたギターを持って帰って練習しなければならない。まさしくギ
ター漬けな1週間であった。今日もいつものように部活に行く。
石川は保田から与えられた課題の一つ、ペンタトニックスケールをオルタネイト
ピッキングで弾く練習をしていた。その時、保田が石川の元に歩いてきた。

「石川ぁ。」

保田が猫なで声で呼ぶ。

「な、なんでしょう?」(いきなり何?アメとムチのつもり?)

「隣町に楽器屋があるんだけどぉ、今度行ってみたらぁ?そこに教本とかぁ、コー
ドブックとかぁ、あるから見てみたらぁ?勉強になると思うよぉ。っても、一人
じゃぁ不安だよねぇ…。そーだ!ごっちん!明日石川と一緒に隣町の楽器屋に行き
なさい!」

「え!?」
29 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時51分54秒
石川は仮入部から数えれるぐらいしか後藤と話していない。しかも、会話らしい会
話なんてしたこともない。それをいきなり一緒に楽器屋行けと無理を言う保田を恨
めしくも思った。

「いいわね!石川!ごっちん!」

「…。」

二人とも沈黙した。

「じゃあ…放課後に校門にいるから…」

以外にも沈黙を破ったのは後藤の方だった。それには石川も保田も驚いたが、もし
かして親しくなれるかもと石川は思った。
30 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時52分30秒
次の日、石川は後藤と何を話すか必死で考えた。重金属音部らしい(?)質問をい
くつか考えてみた。

1.何歳からギター始めたのか?
2.どうしてギターを始めたのか?
3.なんで重金属部に入ろうとしたのか?
4.楽器屋に用事どんなあるのか?

もっと色んな質問をするべきかと悩んだが、あまり話すのが好きなタイプと踏んだ
のでこれ以上深く考えるのをやめた。むしろ、うまくコミニケーション取れなかっ
たことを想像すると考えたくなかった。
そして放課後…
恐る恐る校門に近づく。近づくにつれて心臓の鼓動が大きくなるのが伝わってく
る。来なかったらどうしよう?すっぽかされったらどうしよう?このことばかりが
脳裏によぎる。しかし、予想外にも後藤は石川より早く来ていた。石川は内心ほっ
とした。
31 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時53分05秒
「…。」

「…。」(まず、なんて話しかけよう…)

「…。」

「…。」(笑いでも取ったら笑ってくれるかな?)

「…。」

「…。」(よし!やってみよう!)

「…。」

「チャ、チャーミー石川で〜す☆」


「…。」

「…。」(だ、ダメだわ…これ、とっておきの最終奥義なのに…)

「じゃあ、行こうか。」

「え!?」
32 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時53分42秒
後藤と一緒にバスに乗る。同じ席に座っているのだが、緊張して話したいことも話
せない。話題を考えてきてはいるが中々切り出せないというジレンマに石川は襲わ
れている。だが、勇気を振り絞って話しかけることにした。

「ね、ねぇごっちん?」

「んぁ?」

「何歳からギターはじめた…の?」

「…13歳…。」

「へ、へぇ。じゃあ結構続いてるんだ…」(だめだわ…話しづらい…次の話題を
…)

「楽器屋さんに何か用事とかあるの?」

「んぁ。買い物が…あるんだ…」

「な、何買うの?」(って聞いてもあんまりわかんないけど…)

「(ボソボソ)…ローズ…。」

「え?」
33 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時55分18秒
この瞬間バスの到着のアナウンスが鳴った。隣町の中央部のバス停だ。中央なだけ
あり沢山の人が降りる。バスの中の人ごみにまぎれて石川と後藤もバスから降り
た。
隣町は石川の学校がある町よりショッピングモールなど様々なものがあり、ライブ
ハウスもこの町が一番多く、地元のミュージシャンも大概がこの町で活躍してい
る。以前、保田が「この町で活躍できるようなバンドにしたい!」と力説していた
のを覚えてる。そんな保田の気持ちを少し理解できる気がした。

「こっち…」

きょろきょろしている石川をよそに後藤はマイペースにナビする。中央のバス停を
抜け繁華街の裏路地の雑居ビルが立ち並ぶ薄暗い道に出た。そこの一角にあるビル
の階段の2階の前で後藤は止まった。
石川はビルの前あたりからいやな予感がした。元々薄暗い所は好きではないが、楽
器屋自体にいやな予感がした。

(もしかして変な所じゃないよね…よくごっちんはこんな所普通に行けるなぁ…)
34 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時55分53秒
そして後藤は楽器屋のドアを開く。様々なギターやアンプ、各種パーツが陳列して
あり、ドアのすぐ左のカウンターに20代後半ぐらいの女性が気だるそうにタバコを
吸っていた。石川はこの女性と店の雰囲気に物怖じしたが、後藤は怯むことなく女
性に挨拶した。

「こんにちわ。中澤さん。」

中澤は石川の印象とは違う親しげな声で応えた。

「なんや、ごっつあんか。もしかして、アレを引き取りに来たん?」

「はい。アレってもう出来あがってます?」

「アレな。あっちの方はまだやけど、アレの方は終わってるで。ちょっと待っとき
や。」
35 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時56分53秒
(アレとかあっちとか一体何の会話してるの?もしかして、楽器ってモノはそんな
コミニケーションで伝わるのかな?)

確かに第3者から聞いたら全くわからない会話に戸惑っていた。戸惑っている意識
の中、中澤はカウンターの奥の「STAFF ROOM」と書いてある所に入っていった。

(STAFF ROOMってもこの人一人しかいないような…)

石川は心の中で痛い毒を吐くが、それを感知したかのように中澤はハードケースを
持ってすぐに出てきたので石川はビクっと小刻みに反応した。

「ほい、これや。Gibson Les Paul standardを注文通りにしといたで。」

そう言ってケースを開けるとエボニーのボディにゴールドパーツで仕上がってる丁
寧に仕上がってるレスポールが入っていた。これには二人とも驚いた。驚いた意味
は全く違うが…
石川はこのギターに見覚えがある。始めて重金属部の演奏を聞いた時に後藤が持っ
ていたギターだからだ。仮入部してから見たのはエクスプローラーだが、石川は正
直後藤にはボディが大きいギターは似合わないと思っていた。
36 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時57分32秒
「どうしたの?このギター修理でもしたの?」

初心者の視点から見れば楽器屋に楽器を預けるなんて修理する時ぐらいしか思い浮
かばなかったが、それは当たり前の反応でもある。

「パーツの交換を頼んだだけだよ。壊れてなんかないよ。」

そういって後藤はギターを取り出した。

「弾いてみるん?」

中澤はそう言ってカウンターの後ろに立てかけてあるシールドを手に取った。店の
一番奥にあるMarshallのVALVESTATE100がある。後藤はアンプの前にある3脚イス
に座り石川と中澤は数1メートル離れて後藤を見ていた。

「中澤さん…でしたよね?このギターって凄いんですか?」

中澤は視点を変えずに後藤を眺めたまま説明する。
37 名前:YJM 投稿日:2002年08月20日(火)23時58分27秒
ここまで更新します。
38 名前:アミバス 投稿日:2002年09月13日(金)07時25分32秒
タイトルに惹かれて読みに来ました。鉄風かと思った(笑
続きぜひ読みたいです。期待してます。
39 名前:YJM 投稿日:2002年09月18日(水)23時44分58秒
>>38さん
ありがとうございます。
HDDの整理をしていたら元のテキストを見失ったので更新できませんでした(泣
今日偶然見つかったので、久々の更新したいと思ってます。
40 名前:YJM 投稿日:2002年09月18日(水)23時45分44秒
「まぁな。ギブソンのレスポールスタンダードは標準的なグレードなんやけど、
ごっつあんはそれをよく手入れしてあるんや。それにそれを改造したのはなんせウ
チやからな!」

中澤の高笑いがこだまする。石川は苦笑いをするだけだが、後藤は聞こえてなかっ
たのかのように無視して髪を後ろに一つに束ねた。そして、アンプの電源を入れ、
各種のツマミをいじり、じわじわとマスターボリュームを上げる。そしておもむろ
に凄い速さでスケールを辿りはじめた。そして、重厚なリフを刻み始める。
41 名前:YJM 投稿日:2002年09月18日(水)23時47分00秒
「お、ラウドネスやな。」

中澤は後藤のリフに反応したかのように口走った。石川は後藤のギタープレイに唖
然とするだけで、指さばきに驚いた。

(やっぱ、ごっつあんは上手いなぁ。私となんかじゃ比べ物にならないよ…)

後藤は色んなポジションで試奏するのもそこそこに6弦のペグの裏側にあるレバー
を下に下げた。中澤はニヤリと含み笑いをした。

(早速試すんやな。)

その瞬間、同じギターとは思えないほど重いサウンドを出しはじめた。石川にとっ
てはこれは魔法のように見えた。

(な、なんなの!?いきなりギターの音が重くなったように思うけど…これが改
造ってやつ??)

後藤がギターを弾き終え、着々とギターをしまいこむ。石川は後藤が出した轟音と
テクニックにまだ唖然としたままだ。
42 名前:YJM 投稿日:2002年09月18日(水)23時47分48秒
「あ、そうだ。会計…アレも一緒に払うね。」

そう言って後藤はバックの中から妙に厚い封筒を中澤に渡した。中澤は封筒の中身
を1枚1枚丁寧に数えた。それを見て石川は更に唖然とする。

(えぇ?高校生なのになんでこんな大金持ってるの!?)

「よっしゃ。丁度やな。毎度おおきに〜」

後藤はハードケースとバックをを持って立ち上がった。この姿は今の石川にとって
はミスマッチに思えた。

「じゃ、帰ろうか。梨華ちゃん。」

「う、うん。」

この時の後藤の表情は心なしか満足げな顔をしていると石川は感じ、それの表情を
見た石川も少し嬉しい気持ちになった。
43 名前:YJM 投稿日:2002年09月18日(水)23時52分53秒
そして、次の日の昼休み。
今日も重金属音部の練習がある。今日も保田に指導されるのかと思うと憂鬱にな
る。
そもそも、いくら成り行きとはいえ頑張っている自分を可愛いを通り越して情けな
くも思えた。休み時間に机にうつ伏せになって保田から無理矢理貸されたCDを耳に
通している。その中の1枚が非常に気に入った。U2の「焔」だ。クリーンなフレー
ズを聴いていると心が落ち着いてくる。

(こんなギターってどうやって弾くんだろう…)

眠気による薄れいく意識の中で石川はそんなことを思った。

放課後…
今日の重金属部の始まりはいつもと違いミーティングから始まった。

「ライブの予定が決まったよ。場所は隣町のライブハウス、ダンスサイトよ。今、
オリジナルは4曲あるから残りはカヴァーで行こうと思うんだけど、みんななにや
りたい?私はダムドあたりをやりたいんだけど…ごっちんは?」

保田はいつもと少し違う真面目な顔立ちで仕切りはじめた。後藤は少し悩んだ。そ
して口を開いた。
44 名前:YJM 投稿日:2002年09月18日(水)23時53分30秒
「Arch enemyのBurnning angelかな…よっすぃーは?」

吉澤は待ってましたと言わんばかりに答えた。

「カシオペアやろう!結構盛り上がると思うよ?梨華ちゃんは?」

石川は自分に回ってくるとは思っても見なかった。慌てて他3人の顔を見るが、3人
とも「なんか変なこと言った?」という表情をしている。石川の心境を察知した保
田が確認の意味で石川に質問した。

「もしかして、あんたは出ないと思ってるんじゃないでしょうね?」

まさしく図星だった。確かに経験者のバンドの中に一人だけ初心者が入るのは抵抗
がある。更に混乱した石川が必死で答える。

「え?か…仮部員だから私はまだ出なくていいのかなぁ…なぁんて…」

「あんたも仮でも部員なんだから出るに決まってるじゃない!で、何がやりたい
の!?」

「え、えっとぉ…」
45 名前:YJM 投稿日:2002年09月18日(水)23時54分31秒
保田が石川にCDを貸した理由がやっと理解した。しかし今更どうしたらいいかわか
らず苦し紛れに意見を述べてみた。

「ユ、U2がカッコよかったらやってみたいなぁ…はい…。」

「よし、じゃあU2ね。詳しい曲は次のミーティングで決めましょ。じゃ、時間ない
から練習練習!」

さすが部長というべきか保田が完全にペースを掌握している。ミーティングから始
まったので各々のセッティングをするが、後藤がケースからギターを取り出して
チューニングしている時に保田はレスポールが帰ってきているのに一番に食いつい
た。

「ごっちん、レスポール帰ってきたの!?」

それに続き吉澤も食いついてきた。

「かっけ〜!!これって前に言ってた通りのパーツに変えた!?」

そこまで食いつくのが予想できてなかったのか少し後ずさりしながら答えた。

「う、うん。ちゃんとピックアップをフロント、リアともburst bucker type3に
変えたよ。ペグもDチューナーもつけたし。」
46 名前:YJM 投稿日:2002年09月18日(水)23時55分06秒
後藤はペグの後ろの例の所のレバーを下げた。生音のまま6弦だけ軽く弾いた。

「ねえごっちん?レバーってなんなの?音が変わってるみたいだけど…」

「これはね、Dチューナーって言ってレバーを下げると1音低くなるんだよ。」

そういって後ろのレバーをガチャガチャいじった。

(じゃあ、昨日の魔法のように音が変わったのはこのせいなんだ…)

一人で感心していた。後藤の帰ってきたギターの話題も薄れセッティングの続きを
始めた。全員終わったのを見計らって保田が指揮をとる。

「みんな終わった?とりあえずセッションしてみよっか。コードはDね。テンポは
よっすぃーに任せるよ。」
47 名前:YJM 投稿日:2002年09月19日(木)00時02分55秒
保田の指示を聞き頭の中でテンポを取りはじめる吉澤。それが頭伝わり体に伝わり最後は手足にまで伝わる。そしてスティックで4カウントを取りはじめ、ゆっくりめな速さでリズムを刻みはじめた。それに様子見のように白玉でルート音を辿る。その上から石川がクリーンのフルコードの白玉で保田に乗っかる。さらに後藤が轟音のディストーションサウンドで色をつける。
やがて後藤の魂のこもったグリッサンドで保田がファンキーなスラッピングでリードする。それに触発されたかのように石川も独特のリズムでカッティングを刻む。これから後藤がソロがいつものパターンだ。
48 名前:YJM 投稿日:2002年09月19日(木)00時03分36秒
今日のソロはザック・ワイルドを彷彿させるチキンピッキングから入る。ワンコー
ドではあるが多彩なプレイを見せつけ、最後はグリッサンドでしめた。ソロが終わ
るのを見計らったように吉澤はドラムソロを始める。ワンバスのツインペダルで細
かく低音を刻みつつ音の強弱で微妙な音程を作り3タムとは思えないほど複雑にリ
ズムを絡める。満足したのかリズムパターンを元に戻した。間髪入れずに保田が口
にくわえていたピックを取りハイトーンのスケールを回りだす。徐々に音程を下っ
ていき、またピックをくわえて足元のコンプレッサーを踏み決して力押ししないリ
ズムが安定したスラッピングを見せる。
49 名前:YJM 投稿日:2002年09月19日(木)00時04分30秒
そろそろ石川がソロを弾く番だが、他3人と比べて音数が少ない。当たり前と言っ
てしまえば当たり前なのだが、石川の武器とも言える所はこれからである。足元に
後藤から借りたワーミーがセンドアンドリターンで接続されている。
ワーミーのスイッチを力強く踏む。上2octに設定してあり、左足で巧みに音程を操
作する。石川は足技で勝負するタイプのようだ。しかし、指の動き自体は単純なも
ので本当にセンスのみで弾く、プレイを見た感想では誰もがきっとそう言うだろ
う。
やがてセッションが終わり、オリジナル曲の練習、そして各々好きな曲を遊び半分
で合わせあったりして練習は終わった。
50 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月21日(土)03時45分50秒
おもしろそうw
ベースはいないんですか?
51 名前:YJM 投稿日:2002年09月22日(日)02時55分10秒
>>50さん
ベースは保田です。
表現が甘かったせいかベーシストとして影が薄かったのかもしれません。申し訳な
いです。(汗
52 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月25日(水)23時20分55秒
ナンバガ解散するみたいですね。
53 名前:YJM 投稿日:2002年09月27日(金)00時29分08秒
>52さん
そうみたいですね。
自分は田淵ひさ子がものすごい好きだったので彼女のギターを聴けないと思うと悲
しいです。日本であれほどアグレッシブなバンドってなかなかいませんよね。
54 名前:52 投稿日:2002年09月27日(金)02時30分51秒
>>53
そうですね。
アヒトが好きなんだけどナンバガの音が聞けなくなるのがツライッす。
モー娘。で脱退や卒業には免疫付いてきたんだけど解散となるとキビシイッす。
55 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時21分41秒
>>52さん
脱退や卒業をバンドの解散とリンクさせたことは流石にないですね…。
すいません、低脳で…(汗
自分が好きなバンドはいくつか解散したりはしましたが、結構他のバンドで活躍し
てたりしますもんね。
少なかれ向井は解散後何処かのバンドにオファーが来ると思いますよ。

やっとこさ更新しましたのでうpします。
56 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時22分17秒
練習、練習、更にまた練習を重ねライブ前日になってしまった。季節はもう2月。
保田も卒業までカウントダウンできるほどになり、このメンバーで重金属音部とし
てライブするのは最初で最後になる、4人とも心に刻んできたことだ。そんな大切
なライブなのに重要なことが一つ片付いていない。オリジナル曲が終わった後のカ
ヴァー曲を何をするかメンバー間で意見がまとまらないでいた。今日はそのことで
最後のミーティングがある。あと1曲、あと1曲が決まらない。石川はもちろんのこ
と他3人も苛立ちを募らせていた。
57 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時22分47秒
保田は頑固に「LONDON CALLING」は譲れないと言い張る。吉澤はフュージョンの
インストものをやるべきだと意見を述べる。後藤は勢いに任せてPANTERAをやろう
と1歩も引かない。石川は強くは強調しないもののOASISなどのさっぱりしたUK
ロックが1番だと思っている。
58 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時23分23秒
「歌モノしかやってないんだからインストやろうよー!」

最初に言い出したのは吉澤だった。その意見に対し一番反対しているのは後藤であ
る。フュージョンはやったことはあるものの、性に合わなくて好きではないらし
い。

「フュージョンなんかやるより、お客さん盛り上げるために勢いあるのをやるべき
じゃない?1発目とかにさ。ハードロックとかのライブハウスでそんなのやるのは
間違ってると思うよ。」

(だめだわ…このままじゃ埒があかない…)

石川のつぶやきは的中し最後の最後まで曲が決まらず気まずいままミーティングが
終わった。行き当たりばったりなこの状況に一同は不安を隠しきれず、部長である
保田はまとめきれない自分が情けなくとも思った。
59 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時24分03秒
そしてライブ当日、スタートは7時からで、リハーサルの時間を考えると大体5時集
合としていた。しかし、保田は集合時間より早くライブハウスに入っていた。
保田はカウンターに座って憂鬱そうにコーラをラッパ飲みしていた。カウンターの
後ろが出入り口になっていてドアを開ける音に保田は反応した。

「おっす、圭ちゃん。遅くなってごめんね。」

「香織遅いよー。」

保田が待っていた人の名前は飯田香織。今日のライブでブッキングするバンドのギ
ター/ボーカルだ。彼女のバンドは主にこの「ダンスサイト」で活動していてハコ
は狭いものの動員数は中々のものだ。保田がライブの話しを持ってきたのも彼女か
らのオファーである。

「で、何?相談があったんだっけ?」

飯田はいきなり話の核を突く。もともとマイペースな性格ではあるが、ここまで核
心を突かれると保田も少し戸惑った。
60 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時24分46秒
「うん。実は…」

保田はことの成り行きを飯田に全て話した。メンバー全員音楽の趣味が一致しなく
て曲順が決まってないこと。自分の卒業で最後のライブになるということで皆の気
合が空回りしていること。そんな状況でも自分が皆の潤滑油の役割を果たせないこ
と。
すると飯田は笑いとばして言った。

「バッカじゃない?そんな曲順とかメンバー同士の空回りなんてふとした時に上手
く一致するんだって。バンドなんて何が起こるのかわかんないんだから。それに、
今回のライブはモチベーションがあるだけイイ演奏が出来るはずだって。」

「そうなるといいんだけどね…。」

保田はコーラを飲み干す。飲んで一息して外に出た。
61 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時25分48秒
「とにかく話聞いてくれてありがと。まぁ、やれることはやるから見ててよ。」

ドアを開けて光りが差し込んだ保田の背中は寂しげでどこか吹っ切れたように飯田
は見えた。
リハーサルもそこそこに終わり、お客さんも入ってきた。今夜演奏するバンドは3
つ。重金属部の出番は2番目。飯田のバンドはトリになっている。ハコも50人満た
ない所だが、飯田達のバンドのお客さんだろう、前から後ろまで人がいっぱいだ。
狭い控え室の中で出番が来るのを待っている。吉澤は椅子に座って足でリズムを
取っている。後藤は吉澤の隣に座り最後のチューニングをしている。保田は中々落
ち着かず狭い控え室をウロウロしている。石川は立ったまま顔を手で覆い動かな
い。
62 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時26分40秒
(どうしよう、極度の緊張…プレッシャーに押しつぶされそう…)

沈黙を破るかのように保田は言い出した。

「私、ちょっと外の様子見てくる。」

ステージ脇の上座側にドアがあってそこはスピーカーが置いてあり、人は出られな
いが客席を覗くぐらいのことはできる。

「…!」

予想外の動員数に息を飲んだ。そして訳もわからず狭い廊下を走りだし、息を切ら
して控え室に戻った。

「どうだった?」

吉澤は冷静を装おうかのように聞く。

「…結構人がいたよ。ここの人達全員呑み込もうか。」
63 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時27分23秒
強気な発言でも声が震えては強気に感じない。自分は冷静だとメンバーにアピール
して落ち着かせようとでも思ったのだろう。その時、スタッフの一人が入ってき
た。出番のようだ。各々楽器を持ちステージへと向かう。
ステージの段差はあまり高くないが、今まで見たことのない人の波。これだけの人
が自分たちの演奏を見に来たのだ。下手な演奏は出来ない。石川はステージに上
がって改めて気合が入る。
しかし、肝心の曲順。1発目の曲をどうするかも決まっていない。吉澤を見るとカ
ウントを取る準備をしていた。その時、後藤は吉澤より早くギターを弾き始めた。
この曲は前に演奏したことがある。BB KINGのJONNY BE GOODだ。3人は慌てて後
藤のリフに合わせる。演奏している中保田は思った。
64 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時28分08秒
(そっか、土壇場に強くメンバーを引っ張れる人間がいた。それがごっちんなんだ!)

後藤のリードが効いたのか今夜の演奏はイイ演奏が出来た。誰もがそう思った。吉
澤が刻む心地よいリズム、ドラムの音色。そこに石川が上手く乗ってきて、その間
を縫うように保田が絶妙の低音を奏でる。アドリブで臨機応変に対応する後藤のソ
ロ。
あっという間に残すところ1曲になった。沸いている観客を見下ろし最後の曲をど
うシメるか、観客ももちろん、メンバーも考えていた。最高潮に沸いている観客を
見て何を思ったのか足元にあるエレクトロハーモニクスのメモリーマンを踏んだ。
そして、ディレイタイムを利用した独特のフレーズを弾く。
U2のWhere The Street Have No Nameだ。ノリ重視できた展開でいきなりこの曲
がきて観客もメンバーも戸惑ったが、石川の演奏に納得したかのように吉澤はバス
ドラでリズムを刻む。次第に保田も乗っかり、後藤が歌い出す。そこにはここにい
る人達と確かなエネルギーを共有したという充実感。それを誰もが感じていた。
65 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時28分51秒
ライブが終わり、控え室で汗だくになっている。全員バテてしまってる。しかし、
よほどイイ演奏ができたせいか涙で目が潤んでいる。ペットボトルの水を飲みこみ
保田は石川に言った。

「そ、そーいえばあんた仮入部だけど、どうする?このまま残る?あんたの好きに
していいよ。」

石川は潤んだ瞳から大粒の涙をこぼす。弱った声で答えた。

「ずるいですよ…こんな時にそんなことを言うなんて…」


あれから数週間後、保田は卒業した。卒業式の後、最後のジャムセッション。これ
で重金属部に大きな穴が開く。リズム隊として、または弦楽器隊として大きな役割
を果たした保田。この穴を埋めることが出来る人間はそういないだろう。残された
3人はこれだけは痛感した。
66 名前:YJM 投稿日:2002年10月17日(木)23時34分07秒
以上です。
この小説は非常に読んでくれる人は少ないと思いますが、もしご希望があれば続編
を書きたいと思います。
元々長編を書くつもりでしたが、スレを立てた場所のこと、ネタなどの都合により短編にしました。
今度はもっと小説の書き方を勉強してきます。
そして、この小説を最後まで読んでくださった方々ありがとうございます。
67 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月18日(金)13時38分31秒
初めて通して読ませていただきました。すごく引き込まれました。
行間から音が聴こえて来そうな感じです。自分の好きなメンツなので、
出来れば続編を希望します。作者さん、頑張って下さい!
68 名前:YJM 投稿日:2002年10月27日(日)00時39分11秒
>>67さん。
読んでくださってありがとうございます。
自分は小説を書く経験が少なく、尚且つ娘。小説もあまり読んだことがないので、
いたらない点が多々おありでしょうが、ただ音楽と娘。が好きだということだけで
書いてしまいました。
続編の構想も大まかには決まりましたが、キャラクターの活かし方をもう少し勉強したいと思います。あと、使用機材などをもう少し詳しく書けたらいいなって思いました。

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