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夏の風物詩

1 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月10日(土)15時28分35秒
空板のみなさんこんにちは。
つなぎ服です。

掲示板全体では4回目です。たぶん。

話はできあがってますので更新は早いと思います。
朝と夜の1日2回更新を目標にしてます。
かなり無謀な目標ですけど。

よろしくお願いします。
2 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月10日(土)15時31分26秒
早速忘れました。

ジャンルはアンリアル物。
夏らしく『怪談話』にしました。
3 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月11日(日)01時49分35秒
もう1つ。
アンリアルなんでメンバーの年齢設定はバラバラ。

例えば85年トリオといちーちゃんが同学年。
例えば5期メンと辻・加護が一緒に騒いでる。
でもあんまり話には関係ないです。


では初更新いきます。
4 名前:怪談〜プロローグ〜 投稿日:2002年08月11日(日)01時52分19秒
 夏の暑い日が始まろうとしていた頃。
 学生たちにとってはもう一つの苦渋の時期。

 期末考査 実力テスト

 これを乗り切らねば、夏休みはやってこない。


 そして、毎度の如く苦しんでしまうのが学生というもの。

 前回の教訓を踏まえてテスト勉強を早めにと思うのだが
 どうしても同じことの繰り返しになってしまうのだ。


 ほらここにも、学生の代表がいますよ。


「もぉーむりっ!!」
「右に同じっす!!」


 静まり返った図書室で叫んだ
 不届き者ども2匹。

 当然のように四方八方からの視線が刺さる。
 ある意味、この時期の図書室ほど怖い場所はないだろう。



「……あ…あはは…」
「…失礼いたしました〜」


 2匹は自分たちの立場が危ういことを察知し
 早々と逃げ出した。


 その後の図書室は何もなかったかのように静けさを取り戻し
 シャープペンシルやボールペンの走る音が
 おかしいくらいに響いた。

 受験を視野に入れてテストに備える3年生と
 学年で上位に名を連ねる人々ばかりのそこは図書室。


 別名『監獄』とでも言えるだろうか?


5 名前:怪談〜プロローグ〜 投稿日:2002年08月11日(日)01時53分17秒

「あー……めっちゃ怖かった…」
「だよな〜。睨まなくいてもいいじゃんかよ」


 先ほどの2匹はさっさと帰る支度を整えて
 今はもう、学校の正門をくぐろうとしていた。

 口から出てくるのは3年生たちの悪口だけ。

 はっきり言って
 かなりの毒舌となっている。
6 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時54分03秒

 この2人を紹介いたしましょう。


 ショートカットで美少年系といえば
 たった1人でしょう。

 学園のアイドル市井紗耶香さまさま。

 ただいま軽音部に所属しおり
 なんと柄にもなく部長です。

 その理由は後輩からの支持
 つまり推薦投票による結果です。

 バンドのボーカル兼ギターとして腕は確か。


 ちっちゃくてノリがいいといえば
 この人でしょう。

 まりっぺ・やぐっちゃんこと矢口真里さん。

 こちらも市井さんと同じで
 文化部所属ですが演劇部です。
 しかも部長さん。

 台本などを担当しています。


7 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時54分38秒

 この2人が珍しくっ、珍しくっ!ですよ。

 図書室で勉強してるわけなんですが
 もちろん仕方のない理由があるわけなんです。

8 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時55分15秒

 矢口さんの方の理由は正当なもので

 彼女、受験生なんです。
 そらモー大変なんですよ。

 だからいつもにはありえない光景が
 ありえてしまうんです。

 図書室に篭らなきゃいけなくなるまで
 遊ぶなって話なんですけどね。

 あ、でも、矢口さんは
 劇の台本とか練習とかあったからな〜。


 それに較べて市井さんの方はと言うと…。


 あまりにもクラブに熱中するあまり
 補習の常連となってしまいまして。

 今回のテストで欠点を取ると留年決定か?!
 ってことらしいです。

 そんな理由のくせに
 図書室に来ても矢口さんよりも先にギブアップ。

 しかも7割方寝てるんですよ?
 信じられないですね〜。



 と、ここで
 うちの紹介をさせていただきたいです。
9 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時55分47秒

 うちはこの学校でも数少ない秀才のうちの1人。

 矢口さんのように
 受験直前で必死になる必要もなく。

 市井さんのように
 先生たちに脅される心配もなく。


 まっとうに学生生活を送っております――――


10 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時56分51秒

「さっきから何1人で喋ってんのさ」
「やーっぱ、加護ってヘンなやつだね」


 加護亜依って言うんです!!


 もう加護はですねぇ
 ヘンだヘンだって学校中で有名でですね

 何がかと言いますとですね
 関西風味のギャグがとりあえず―――



「って何でやねん!!」
「おお!ピシッて入ったよ、ピシッて!」


 いつものように市井さんの言うことにボケてみた。

 しっかしいつになったらこの人らは
 突っ込んでくれんるんやろ?

 いっつもうちが
 1人漫才やってるっていうのもイヤやわ。


 毎回ちょっとずつパターン変えてはいるけど
 もうそろそろネタも尽きてきたから困るんやけどな…。


 って2人はそんなうちの苦労も知らんと
 また勝手に喋ってる。

 この2人はさっきも言うたように
 ここで遊んでる場合と違うのに…。

 矢口さんは受験失敗。
 市井さんは留年。

 これで決定やな。


 うちは、あぁはならんようにしよ。

11 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時57分37秒

「で、加護。なんか用だったんじゃないの?」
「……あ、そうです!そうです!忘れてました!」


 あまりの落胆に
 すっかり用事の方を忘れてしもた。


 えっとですね
 うちも実は演劇部の部員なんです。

 それで、この前部室の大掃除をやったんですけどね。
 そしたらちょっと面白いモンが出て来たんですよ。



「じゃんじゃじゃーん!」
「……台本?」


 そうです!ボロボロですけど台本です!

12 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時58分18秒

 それは部室の一番奥の所に当たる
 小道具の所にあった。

 いつもは使っていない小道具のダンボールの中に
 埃を存分にかぶって、それは発見された。

 そのダンボールの中の物全てがそんなカンジやってんけど
 その台本だけは特別と言っていいほどに埃まみれやった。

 きっともう何10年も前の演劇部の物やったんやろ。


 見つけたときになんとなく興味をひかれた。

 他にも掘り出し物はいっぱいあったけど
 何故かわからんけどそれだけが周りから浮いて見えたんや。


 まるで『見つけてくれ』って言ってるみたいに。


 掃除をしていた演劇部員たちで
 その台本をまわし読みしてみたら。

 なんか知らんけど
 みんながやってみたいって思った。

 やから今日代表でうちが
 部長の矢口さんに見せに来たんや。



「………」
「…どうですか?」

13 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時59分09秒

 台本を見た瞬間
 矢口さんはそれをうちの手から奪い去った。

 さっきも言ったように
 矢口さんは演劇部で台本を書いてる。

 矢口さんの書く台本は色々なジャンルのものがあって
 やってる演劇部員たちも見ている観客たちも楽しいことで有名。


 でも、矢口さん自身は
 決して舞台に立って主役を演じることはない。

 何でも矢口さんポリシーで
 自分の書いた台本で自分が主演って言うのは嫌いらしい。


 あ、そう言えば昔
 たった一度だけ矢口さんが主役をやった。

 でもその時の話は楽しい話じゃなかったし
 正直、悲しくて切ない悲恋の物語だったと思う。

 確か設定は、矢口さんが女子校の生徒で…
 先生と恋に落ちるんだけど、裏切られてって…。


 あの時の矢口さんの演技と
 アドリブの涙はすごかった。

 なんか、ちょっとだけ
 矢口さんの過去にあったのかなぁって思った。

 その時のことを思い出しながら
 演じてるようにしか見えなかったから。


14 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)01時59分44秒

「うん、面白いんじゃない。これ」
「…え?あ、そうですよねぇ!」


 思いで話に浸りすぎてたせいで
 矢口さんの言葉に反応できなかった。



「これ、学園祭でやるの?」
「愛ちゃんたちはやりたいねって…」


 もちろんうちもやりたいですけど!って言った。


 ちゃんと自分の意思表示をしとかないと
 いざやろうってことになった時に役が貰えない。

 演劇部になって、ちょっとだけ競争ってものを知った。

 それを教えてくれたのは今
 目の前で唸ってる人。


 矢口さん、うちは矢口さんを尊敬してます。

 これからも一緒に頑張っていきましょう!!


 ウキウキしながら矢口さんを眺めてたら
 ちょっと曇った表情で矢口さんが顔を上げた。


「でもさぁ、これ、幽霊の話じゃん?」
「そうですけど?いいじゃないですか」


 そう。これは一般的に言う怖い話。


 この台本の内容は簡単に説明するとこう。
15 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時00分36秒

 ある女子学園の七不思議のお話なんだけど
 これがちょっと変わってるんやなぁ。


 その学校に伝わってる七不思議は確かにあるはずやのに
 実際に調査してみると半数くらいしかみんなは知らんのや。

 七不思議なんて7つ揃ってこそ怖い話になるモンや。

 それがそろわへんっちゅーことは怖さなんて半減。
 話題性なんて4分の1以下になってまう。


 そこである部の仲良しグループが夏休みを利用して
 七不思議を全て発見してみようっていう計画をたてたんや。

 その学校は生徒の自主性と意見を尊重する学校やったから
 教師が付き添いの元でミニ合宿みたいなモンが行われたんや。

 そして七不思議の謎はどんどん解かれていった。


 やけど、こっからが夏にはつきもんの怪談話になんねん。


 不思議なことに
 七不思議は呆気なく見つかったんや。

 在校生にはその半数くらいしか伝わってへんのにやで?


 出元は卒業生の卒業文集。
 よくありのパターンやけどな。


 但し、その卒業文集はかれこれ50年は前のもの。

 そらもうヒドイもんで
 埃はかぶってるわ端々は破れてるわってな。

 とにかく読むだけでも
 一苦労の代物やったんやって書いてある。



 そうやなぁ、ちょうどこの台本みたいに……


16 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時01分25秒

「矢口、嫌いだもんね」
「………」


 市井さんが黙り込んだ矢口さんの代わりに言った。


 矢口さん、他の人の台本は嫌いなんですか?

 確かに矢口さんがいつも書くものとは
 ちょっと違ってて、合わへんかもしれませんけど。

 これはこれで結構おもしろいかなぁって…。

 矢口さんも面白いって言うてくれたし
 今年の学園祭はこれでみんなをビビらしたろとか思ってたのに。



「でも、矢口さんが自分の台本がいいって言うんやったら…」
「あぁ、加護。違う違う」


 残念やけど、諦めますって言おうと思ったのに
 隣から市井さんに邪魔されてしもた。


 なんです。何が違うんですか。



「矢口は人の台本が嫌いなんじゃなくて…」


 幽霊とか、怖い話はダメなんだよね。



「………」
「…悪いかよ」

17 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時02分06秒

 うっそだぁ…。

 だって、加護たち矢口さんと一緒に
 ホラー映が見に行きましたよぉ。

 それにプラスして
 それを選んだのは矢口さんなんですよぉ。

 部室なんかでやってた怖い話も進んで参加してきたし…。


 愛ちゃんたちがって言うなら信じるけど…
 矢口さんがってのは……。



「矢口ね、後輩の前では強がるんだよ」
「だってさぁ、先輩が怖がってちゃ話にならないじゃん」


 ………。

 なんかもぉ、矢口さん…。
 そんな所で強がらなくてもいいじゃないですか…。

 それに、もし今の話が本当なんだったら
 今回も後輩と一緒なんですから大丈夫じゃないですか。



「いや〜、この話ってさ本当っぽいじゃん?」
「…本当っぽいとダメなんですか?」


 ダメって言うかさ…って言って
 矢口さんは話し始めた。

18 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時02分54秒

 矢口さんの言い分その1。
 台本の設定がうちらの学校と同じ女子校であること。

 矢口さんの言い分その2。
 台本内の『ある部』が実はうちらと同じ演劇部であること。

 矢口さんの言い分その3。
 演劇部の練習時期と同じ夏休みが舞台であること。

 矢口さんの言い分その4。
 現実味があって本当に起こってしまいそうであること。


 以上の理由から、矢口さんは怖いのでしたくないらしい。



 でも、そうも言ってられないのが現状なんですよ。
19 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時04分08秒

 矢口さんは今年受験生だから
 できるだけ負担をなくしてあげたい。

 となると、台本なんか書いてるヒマがあったら
 勉強していただきたい。


 演劇部員の願いはなんとかして
 矢口さんを卒業させてあげたいってこと。

 けど、矢口さんの後を継いだ愛ちゃんの書く台本は
 どれもこれもどこかで見たことがあるような
 ありきたりな恋愛小説。

 とてもじゃないが、舞台には使えない。


 ちょっと困りは果ててた節もあるんですよねぇ。


 そんなときにこの台本が出て来たのって
 かな〜り運命的と違いますか?



「…どうしてもこれじゃなきゃダメ?」
「……どうしてもこれじゃダメなんですか?」


 ちょっと下から見上げる視線。
 加護ちゃんの上目遣い。これは効くんやでぇ。


 但し、矢口さん意外に限定。
 やなくて、矢口さん限定できかへんの。



「……もぉ、しょーがないなぁ」


 おっ!?効いたでっ!!
 効いてしもたでっ!!

 やったーー!!
 とにかくこれでちょっとは勉強してもらえる!!

 うちらの大切な矢口さんに
 留年なんてことさせたぁないもんなぁ。

20 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時04分49秒


 …隣のこの人みたいに。



「…なんだよ、加護」
「……いえ、別に何でもないです」


 そんなんワザワザ口に出して言って
 自爆するほどうちはアホと違う。

 一応、仮にも、この人は矢口さんの友達やし
 一応、仮にも、この人はうちの先輩なんやから。


 それにプラスしてこの人を怒らすと
 もっと怖い目にあうし…。


 …怖いっての。



「…また睨んでるねぇ」
「……」


 校門から、校舎から、中庭から
 イタイ視線の嵐。


 その正体は実は
 プリティーな加護ちゃんのファンはあとはあと


 …ならいいんやけど、残念ながらそうやないねんなぁ。

21 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時05分57秒

 市井紗耶香さま親衛隊のおねえさま方の視線。
 別名『死刑宣告の眼差し』なんて呼ばれとるヤバモン。

 さっきも言うたように
 市井さんはこの学園のアイドル。

 当然のことながら親衛隊やファンクラブも付きまとってる。
 その親衛隊がえらい柄が悪いことで有名なんや。


 情報通のうちのもとに舞い込んでくる話。

 曰く、親衛隊の前でプレゼントを渡すと次の日から学園にこれない。
 曰く、ラブレターがバレると1週間以内に学園を去る。
 曰く、特別親しく話をすると命が危ない(なんでやねん) etc.


 まぁ、とにかく関わり合いにならんことが一番の集団や。

 やのに、うちは最近どうも目を付けられてるらしい。

 確かに最近、急に市井さんと話をすることが多くなったし
 下校なんかも一緒になることが増えたとは思う。


 けど、それは別に
 うちが望んでやってるんと違うしなぁ…。


 うちが市井さんと話すんは、この人がおるからやのに。



「気にすんな加護。お前は無実だ」
「…矢口さん、それじゃ犯罪者みたいですよ」


 うわぁ…もー…、そんなに睨まないで下さいよぉ。

 うちが市井さんと喋るんは
 矢口さんがおるからなんですって。
22 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時06分55秒

 矢口さんはうちの尊敬する先輩やし
 めっちゃオモロイ人やもん。

 そやのに……。



「…なんであんなチビが……」
「……そうよ、なんでよ……」

「…やっぱりそろそろ絞めた方が…?」


 不意に耳に入った声にかなり引き攣った。

 なんやって?
 今、なんて言いはったんや、そこのあんた?

 絞めるって??
 絞めるって『シメル』か?



「加護ぉ、どうどう。落ち着けって」
「そうそう、口先だけだってば」


 矢口さんたちが必死になだめてくれてる。

 うちがキレたら何するかわからんの知ってるから。
 キレたら退学処分くらいでスマンかもしれんの知ってるから。



「…ビビちゃってるよぉ?」
「…やっぱりチビはチビね」
23 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時07分29秒

「……もうアカンわ……!!」


 何でうちがビビって暮さなアカンねん!!

 もーっキレたでっ!!
 いい加減にしぃやぁ?!

 そっちの勝手な勘違いで
 なんでうちがこないに怖がらなアカンねん!

 シメルやってぇ?!上等やんけ!!
 ケンカ上等!かかってこんかーい!!



「はい、そこまで」


 本気でキレてくすくす笑ってるおばはんどもん所に行こうとしたら
 誰かに急に後ろから首根っこ掴れて上に引き上げられてた。

 つまり、猫掴みの体制にされたんや。


 だれや?!うちは怒ってるんやで!!
 誰であろうとうちを止めることはできへんで!!



「何やってんのよ?」
「………」


 思いっきり腕を振り払って振りかえったら
 そこにいたのはさっきのおばはんよりもっと……な人。

 『…』は何って?
 あえて省略や。

24 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月11日(日)02時08分03秒

「加護さん?説明は?」
「…何でもないです……保田先生」


 うちの返事に苦笑しながら
 ちょっとおいでって言ってくる人。

 保田圭(多分こんな名前)先生。

 うちのおる1年2組の担任で現代国語の先生。
 生徒からしたらちょっときつめな所が教師の間では人気。

 でも、何気に生徒のことちゃんと考えてるから
 生徒からの信頼も厚いのが特徴かな。


 ちょっと年いってるけどな。



「加護、今あんた失礼なこと考えたでしょ」
「!?気、気のせいですって!!」


 ……なんでわかったんや。
25 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月11日(日)02時08分56秒
今晩の更新はこれにて終了です。
26 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月11日(日)02時09分55秒
一応、加護ちゃん視点での話で区切りよいところまでです。
27 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月11日(日)02時10分54秒
次は小川視点でいきます。
28 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月11日(日)17時25分57秒
  更新
29 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月11日(日)17時26分59秒

「なんやねんっ、何でうちが悪いねん?!」
「しゃーないじゃん。行動おこしたのはあんたなんだし」


 加護ちゃんが矢口さんと騒いでる。

 私はこの二人はどうしてここにいるんだろう
 とか思ったりする。


 加護ちゃんはさっき下校してる矢口さんを見つけて
 飛び出して行った。

 自分のカバンを抱えてたから
 きっと帰るんだろうとか思ってた。

 帰るはずの二人が揃ってここにいるとなると
 ちょっと疑問に思うのは当然のことだと思うんだ。


 それにほら、ここ
 演劇部の部室じゃないしさ。



「…矢口さん、何でバレー部の部室にいるんですか」
「あ、よっすぃ〜じゃん。部活おつかれさーん」


 私の後から入ってきた先輩も不思議に思ったらしくて
 素直に疑問を言葉にして訊いた。

 でも返ってきたのは質問の答えじゃなかったけど。
30 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月11日(日)17時27分29秒

 それでも先輩は手慣れたもので。

 矢口さんたちが騒いでる隣で
 いつものように着替えてる。

 それから私に気がついて
 おいでって手招きしてくれた。


 優しいところ、好きです。



「ごめんね。うるさいでしょ?」
「いえ、いいですよ!全然!」


 ちょっといつもより賑やかなだけだし。
 なにより、矢口さんと加護ちゃんは友達だし。

 最近は大会とかで遊びにいくヒマがなくて
 なかなか前みたいにみんなで遊ぶことが出来なくなっちゃった。

 でも、別に今がいやなわけじゃないし。
 部活は好きだしね。


 ただ、あの娘に会えないのはちょっとツライ…。


31 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月11日(日)17時28分23秒


「小川〜、そんなに紺野が愛しいか?」
「!!!」


 なっ、なに言ってるんですか吉澤先輩!!

 私は別に紺ちゃんのことなんか…っ!

 いや、紺ちゃんが嫌いとかじゃなくって…。
 ただちょっと恥ずかしいだけで…。


 ………。

 はい、白状いたします。

 私は同学年の紺ちゃん、紺野あさ美ちゃんが好きです。



「のほほんとしてて可愛いもんね〜」
「……」
32 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月11日(日)17時29分07秒


 …えへへ。

 そうですよね、可愛いですよね?


 紺ちゃんはどこかのほほんとしてて
 なんだか傍にいると落ち着くんだよね。

 いつでもマイペースで
 なのに何故か学年トップの成績だし。

 ちょっと掴みどころに困る人だけど
 そんなところも可愛いなぁ、なんてさ〜?


 もー、紺ちゃん大好き!



「そんなに好きなら告れば?」
「…できたら苦労してないですよ〜」


 紺ちゃんとはいい友達を続けてる。
 今、すっごくいい関係だと思ってるんだ。

 だからこそ
 告白なんてしない方がいいとか思っちゃう。

 紺ちゃんてそっちの方面て鈍感そうだし。
 告白して上手くいかなかったら友達に戻れなさそうだし。

33 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月11日(日)17時29分40秒


 でもー……いい加減

 小川は限界に近づいております。

34 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月11日(日)17時30分19秒

 紺ちゃんて意外にモテル。

 成績はよくて、それでもそれを鼻にかけない。
 のほほんとしてて、それに輪をかけて可愛いから。

 周りで紺ちゃんのこと好きなやつが
 最近は増えてきてるの知ってる。

 その中にはけっこう人気のある人もいるから
 小川的にはちょっと焦ったりとかしてるんだよね。


 やっぱりそろそろ
 告白とかした方がいいのかな…?



「その前にちょっとアピールとかしたら?」


 ……人の話を盗み聞きしないで下さい。


 でも、矢口さんも同じ意見ってことは
 やっぱり、ちゃんと態度に表した方がいいみたい?


 うーーん……


35 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月11日(日)17時31分10秒

「小川!先手必勝だぞ!!」
「いや、よっすぃ〜。そんなことないから」


 そうですか?吉澤先輩?
 矢口さんは否定してますけど。

 やっぱり頑張って紺ちゃんに振り向いてもらうしか…。


 ようっし!頑張ってみよう!!



「そうと決まれば行くぞ小川!!」
「はい!吉澤先輩!!」


 紺ちゃんはまだ部活で残ってるはず!
 ならばこの時間!送ってあげるのが礼儀!?

 紺ちゃん待ってて!
 今、小川が行きます!



「……青春だねぇ、小川」
「…矢口さん、おばちゃんっぽいです」
36 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月11日(日)17時31分48秒
  終了
37 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月11日(日)17時32分49秒
以外に短かったなぁ。
38 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月11日(日)17時33分19秒
次はまた加護ちゃん視点。夜。
39 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月12日(月)01時39分46秒
   更新
40 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時40分43秒

「小川って紺野のこと好きだったんだ?」
「わかりやすいですよ、まこっちゃん」


 紺野ちゃんの前だと
 急にソワソワしちゃってるし。

 紺野ちゃんだけにへんに優しい。


 気づかへんかった矢口さんが鈍感なんです。



「それよりぃ、本当に台本はこれでいいんですか?」
「……面白いのは確かだし、みんなの意見なんじゃん?」


 そうですけど…。

 矢口さんは部長さんなんですよ?
 一言でみんなの意見なんて粉砕できるんですよ?


 そうしないところが好きですけど。
41 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時41分33秒

「こーら、なに勝手に衣装着てんのさぁ」
「あ!すいません矢口さん!!」


 演劇部の部室がバレー部の部室からそう遠くないから
 あっという間に着いてしまった。


 先に入って行った矢口さんのセリフから察するに
 どうやら愛ちゃんたちが見つけた古い衣装を着てるらしい。

 お姫さまのドレスや十二単を簡単にしたものなど
 その量と種類はけっこうなものになってたはず。

 着てるってことは片付けがすんだってこと?


 なんや〜助かったぁ。
 これからまた重労働やって思って凹んでたのに♪

 ありがとうな〜、愛ちゃんにお豆ちゃん。


42 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時42分18秒


「……終わってないやん」


 部室に入って一番に目に入ったもの。
 それは山積みにされて隅に押しやられた道具たち。

 この台本と一緒に発見された掘り出し物たちや。


 終わってない…終わってやいんやんか……。

 そんなんありか?
 ヒドイんと違うんか?

 こんなん、矢口さんが見逃すはずないんや…。



「はー、片付けからだねぇ。こりゃ」
「…一日じゃむりですよ?」


 わかってないでお豆ちゃん。
 そんなん矢口さんからしたら問題と違うねん。

 どうせさっき職員室に寄って来た時に
 延長届とかだしてんねん。

 せっかく部に出るんやったら
 しごいたるって思ってんねん、この人は。



「今日は9時まで頑張れ!」
「……」


 やっぱりな…。
43 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時43分12秒
――――――――――――――
44 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時43分49秒

 あれからうちらは一生懸命
 それこそ何でやねん!?ってくらい動いた。

 全ての作業が終わるころには
 運動部並みに汗をかいてた。


 信じられん運動量や…。



「7時40分。けっこう早かったねぇ」
「……うわー、外、真っ暗…」


 真っ暗の中、帰るんかぁ?

 確かにうちらは寮やし、その寮も近いけど…。


 もー、いやや…。
 早よ帰りたいよぉ…。



「…お?キレイになってるやんか!」
「……中澤先生…」


 なんでこんな時に限って来るねん。

45 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時44分37秒


 演劇部の部室に入ってきた
 上下黒のスーツに身を包んだ女性。

 髪は金色。
 瞳は青。
 爪はカラフル。


 とんでもなく色彩豊かな人やとは思う。

 やけどまぁ…
 ド派手とも言うと思うけどな…。


 この人は中澤裕子先生。
 一応、部の顧問らしい。

 この人が部に来てるところなんて
 ほとんど見たことない。

 昔、一度だけ部室で話したことはあるけど
 正直な話、怖かった。


 うちはこの人が嫌いや。

 だって…。

46 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時45分15秒


 矢口さんがこの人を嫌ってるからや。


47 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時46分21秒


「…中澤先生、どうしたんですか?」
「ん?まだ明かりがついてたからな?」


 誰にでも優しいあの矢口さんが
 この先生にだけは違う態度をとる。

 矢口さんがなんで嫌いなんかは知らんけど
 それでも1つだけ言えることはあるんや。


 矢口さんの好きな人=うちの好きな人
 矢口さんの嫌いな人=うちの嫌いな人



「…あ、そうだ。中澤先生」
「……あ、いいですよ、矢口さん。うちが…」


 うちはそう言って
 矢口さんから例の台本を受け取った。

 さっきも言うたけど
 一応この部の顧問の先生や。

 学園祭でやる演劇の台本くらいは
 見せとかんといかん。


 やけど、矢口さんの任せるのって
 どうも可哀想でアカン。


 加護ちゃんは優しいねんで。


48 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時47分11秒


「これ、学園祭でやりたいんですけど…」
「どれ?……掃除したら出て来たんや?」


 中澤先生はその台本を見て
 あまりいい顔をしなかった。

 何でも昔
 その台本についていやな噂が立ったらしいんやけど…。


 それは怪談話やって言うねん。



「この台本はな、実は30年ほど前の演劇部のものやねんけど…」


 なんだか神妙に始まった怪談話は
 そらもう、めっちゃ怖かった。

49 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時47分50秒


 台本の内容は大まかやけど前に紹介した通りや。
 んで、問題はその台本を実演した演劇部の話なんや。

 あの台本は演劇部の間でも評判がよくて
 やっぱり学園祭での実演が決定したんやって。


 それからやねんて。
 ヘンなことが起こり始めたんは。

 学園祭の出し物ともなれば
 演劇部にとっては対した大事。

 当然、毎日のように居残り練習があるんやけど…。

 その居残り練習の時に妙の物音がするからって
 演劇部の娘らが先生に言うて学校内を点検してもろてんて。



「そしたらな、出たんや」
「……なにが?」


 そんなん決まってるやん。



「幽霊」


 中澤先生はこともなさげに言うてくれた。
 けど、そんなん簡単になんて信じられへん。

 現代はコンピューターやIDやって言うてる時代なんやで?

 その情報社会に今更幽霊?
 そんなん誰が信じんねんな?

 この学園でもそんな話は聞いたことないし
 言うたら悪いけど、七不思議すら存在せぇへん。


 やのに、この学園で30年前
 幽霊事件があったって?


 そんなんあるわけないわ。


50 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時48分47秒

「なんでうちの学園に七不思議がないと思うねん?」
「…そりゃあ、そんなんアホらしいからと違いますん?」


 それ以外にどんな理由があるって言うんです。

 七不思議なんてアホらしいモンに構ってる時間があるんやったら
 勉強してちょっとでも成績を上げろってことでしょ?


 違うんですか?



「七不思議のせいで、生徒が死んどんねん」
「「「?!!」」」


 なっ?!なんですっ!!?

 七不思議のせいで生徒が死んだ?!
 アホなっ!そんなことあるはずないやんか!!

 七不思議って言うのはただの遊びですよ!

 確かに本当っぽく伝わってるところもありますけど
 生徒が死んだやなんて…そんなアホな…。


 本当にあるから、危ないから…?

 だからこの学園には七不思議はおろか
 その類いの話はないってことなんですか?

 説明のつかんことがあるから……。


51 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時49分38秒


「…うそ……」
「…それじゃ、この台本って…」


 もしかしてめっちゃヤバイんかな…。

 うち、ものすごヤバイ橋渡ろうとしてるんかな…。


 や、矢口さんっ…。
 うち、うちどないしたら…。


52 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時50分29秒

「…本当なんですか、中澤先生?」
「……ん?ホンマやって言うたら、どないすんの?」


 中澤先生の言葉に矢口さんが一瞬ひく。

 あぁ、やっぱり矢口さんはこの先生嫌いなんやな…。
 んでこの先生も、あんまり矢口さんのこと好きそうやない。


 中澤先生って言うたら
 けっこう生徒の間で人気ある。

 勉強はわかりやすいし
 成績で人のこと見ないから。

 どんなに成績の悪い生徒でも
 見下して話したりせぇへん。

 いつでも生徒の味方になってくれる先生。


53 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時51分09秒

 この先生が来てから
 校則は明らかに緩くなった。

 少々の茶髪やピアスは許されるようになったし
 化粧も前ほど注意されることが少なくなったと思う。

 表では校長の教育方針の変更やって言われてるけど
 裏ではこの先生のおかげやってのも聞いたことある。


 来てすぐの新米教師が
 そないに発言力あるとは思えんから
 その時は信じてなかったけど…。

 なにかある度にこの先生が出ていって
 問題になった生徒は処分が軽かったりしてる。


 そんなんが何回も続いたら
 さすがに信じてまうやん?


 そんなわけやから
 実はちょっとこの先生は好きやねんけどなぁ…。


54 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時52分30秒



「質問の答えになってないです」
「…そうやなぁ…」


 矢口さんが挑戦的な目で先生を睨んでる。


 矢口さん、なんでそないに嫌いなんやろ。

 誰にでも優しい矢口さんは
 誰にでも好かれてる中澤先生が嫌いらしくて。

 誰にでも好かれてる中澤先生は
 誰にでも優しい矢口さんが苦手らしい。


 なんでかわからんけど…。

 なんや、この二人見てると、ツライ…。

 本当に嫌いなんやろうか…?
 本当にいがみ合ってるんやろうか…?


 そんなことを思わせてしまう二人の雰囲気。
55 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時53分32秒

 考えこんでる中澤先生を見てる矢口さんは
 なんでか知らんけどちょっと切なそうやし。

 その視線に気づいてる中澤先生は
 なんでかわからんけど困ってるみたいやし。


 大人になるって難しそうやなぁ…。



「これを学園祭でやるって言う意見は…」


 そこで言葉を区切って
 先生がうちら全員を見渡した。

 それからゆっくりと言葉を選んで
 うちらに言い聞かせるみたいにしっかりと言った。



「正直、賛成はできへんな」
「………どうしてですか」


 さっきの話がもし本当なら
 それは充分な禁止要素になるんだろうけど。

 でも、正直に言うてうちらはそんな話は信じない。

 そら、そんな話は好きやし、けっこうするとは思うけど
 話が好きなんと信じるんとは別問題や。

 ホンマにあったって言う証拠もないしな。


 久しぶりに面白い話に巡り合ったんやし
 矢口さんの勉強の邪魔にもならんし。

 よっぽどのことがない限りはうちらは譲る気はない。


56 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時54分18秒

「話の信憑性はどうかは知らんけど…」


 もしも、もしもこの話がホンマなんやったら…。

 これをやろうとしてるアンタらのうちの誰かが
 30年前にあったかもしれへん事件の被害者になるかも、なんやで。

 危険性があるのを知っててやってもええなんて
 そない無責任なこと言えんやろ?


 一応これでも、アンタらの安全を確保すんのが仕事やねんから。

 っちゅーか、仕事抜きでも嫌やからな。

 アンタらのうちの誰か1人でも
 アタシの責任で葬式挙げることになったらなぁ。

 アタシ、悔やんでも悔やみきれへんやん?



「やから、あんまりお勧めはできへんなぁ」


 ちょっと感動してしまった。


 やっぱりこの先生は好きだ。
 ごめんなさい、矢口さん。

57 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時55分32秒

 こんなセリフ冗談でも言ってくれる先生なんて
 もうこの学園にはいないだろうし、全国でも、ねぇ?

 くさいセリフやし
 なに言うてんのって思う人もいるやろうけど。

 少なくともうちは感激できたし
 多分ここにいる人みんなそうやろ。


 なんやねん、顧問らしいやんか。


 って感動してたのに…。

 矢口さん、やっぱり嫌いなんですねぇ。



「そんな話、信じるんですか?」


 ちょっと先生をバカにしたような表情で
 矢口さんはもっともな事を言った。

 でも、いつでも正論が正しいってわけやなくて
 こんな時に正論振りかざすんは大概悪役のすることや。

 んでこんな時ドラマなんかやったら主役は
 『信じるよ。君たちが大切だから』とかアホなこと言うねん。

58 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時56分04秒

 もし中澤先生がそんなこと言いよったら
 ちょっと冷めてたんやけどなぁ…。



「スマンなぁ。アタシ、古いから」
「………」


 あくまでも三枚目路線やのに
 なんでこの人はこないにカッコイイんやろ。

 なんや、同じ関西出身やっていうのが嬉しいわ。


 あー、なんでなんやろ。

 先生なんてみんな一緒に見えてたのになぁ。

 なんでこの人だけは………。


59 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時56分53秒



「ねぇ、なんかさ、中澤先生って…」


 ―――― 同じ学生みたいだよね ――――


 …うん。そうやね、愛ちゃん。

 多分そうやからなんやと思うよ。
 先生嫌いのうちが、一緒に喋りたいとおもうんは。


 愛ちゃんとお豆ちゃんと中澤先生について話しこんでたら
 いつの間にか中澤先生はいなくなってて…。

 不意に矢口さんと眼があったから目で聞いてみた。



「先生ならもう帰ったよ。会議なんだってさ」
「あ、そうなんですか……。で、台本は」


 結構な時間もめてたんだと思うけど
 矢口さんはにっこり笑って嬉しそうに言った。



「前向きに考えていいってさ」
「ってことは、学園祭はそれですね!」


 ってことで、うちらは夏休みを潰して
 練習に明け暮れることになった。


 矢口さんは最後の学園祭の思い出作りに。
60 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月12日(月)01時58分03秒
 うちらは少しでもそれを手伝えるように。




 このときの中澤先生の話を真に受けてれば
 うちがあんな思いをすることもなかったんや。
61 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月12日(月)01時58分50秒
   終了
62 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月12日(月)01時59分37秒
なんでも矢口さんはヒモがお好きとか
63 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月12日(月)02時00分45秒
なんでも姐さんはほどいて遊ぶのがお好きとか
64 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月12日(月)02時28分48秒
加護ちゃんのやぐを語る心の声がいいですね。
期待してます。がんばってください。
65 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月12日(月)14時45分46秒
   更新
66 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月12日(月)14時49分00秒

「みっちゃん、ちょっとええか?」


 期末考査の採点も終わって
 成績をつけ始めて焦ってる職員室。

 その中で比較的のんびりとしてるのがアタシとみっちゃん。


 アタシは成績とか悩まんとつける教科やから簡単やし
 みっちゃんは保健の先生やから関係ないんや。

 他の先生はそんなことになんて構ってるひまがない。
 そやから、気がねなしにこんな話もできる。



「なんですの、姐さん」
「…ん、ちょっと気になることがあってな」


 そう言うたらみっちゃんが間髪いれずに
 『男?』ってきいてきた。

 しばくぞ、こら。
 こっちは真剣に話しようとしてんのに。

 第一アタシが男の話なんかするわけないやんか。



「冗談ですやん」
67 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月12日(月)14時49分47秒
「ホンマに真剣なんやって」


 みっちゃんに釘をさしてから
 アタシは話を始めた。

 それは先日の演劇部での出来事。


 30年前の幽霊騒動の話の後でも
 矢口はひかへんかった。

 どうしてもあの台本の話が気に入ったらしくて
 学園祭でやることを譲る気はないらしかった。

 そら、あの話がホンマやって言う証拠はどこにもない。
 アタシかって古株の先生にちょっと聞いたくらいや。


 やけど、アタシの感がよぉないって叫んでる気がする。

 あの話は、台本は危険やって言ってる気がするんや。



「で、どうしはるんですか?」
「……どないしたらええと思う?」


 演劇部のことに関しては
 アタシは名ばかりの顧問やから
 学園祭でやる劇のことなんて重大過ぎて手におえん。

 演劇部のことは演劇部の娘らに任しとく。
 これが一番いいんやって思って放任にしてたんやけど。

68 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月12日(月)14時50分27秒

 今回ばっかりはそうも言ってられん。

 自慢やないけど
 アタシの感は結構な確率で当たるんや。

 しかも、あんまり当たってほしくない予感ほど
 当たりやすいときてる。


 その感がアカンってさけんどるのに
 この演劇をやったら正直な話
 ホンマに死亡者が出るような気がしてならんのや。


 そんなん、放っとくわけにはいかんやろ。



「……ちょっと調べてみます?」
「…やな。アタシも手伝うからよろしく」


 あの台本の話と伝わってる話がホンマなんやったら
 どっかにそれを書いた卒業文集っちゅーもんがあるはずや。

 先生に話聞いて回るよりは
 そっちの方がええやろ。


 なんせ噂の出元は
 いつでも生徒たちの口やから。


69 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月12日(月)14時50分58秒

 今回ばっかりはそうも言ってられん。

 自慢やないけど
 アタシの感は結構な確率で当たるんや。

 しかも、あんまり当たってほしくない予感ほど
 当たりやすいときてる。


 その感がアカンってさけんどるのに
 この演劇をやったら正直な話
 ホンマに死亡者が出るような気がしてならんのや。


 そんなん、放っとくわけにはいかんやろ。



「……ちょっと調べてみます?」
「…やな。アタシも手伝うからよろしく」


 あの台本の話と伝わってる話がホンマなんやったら
 どっかにそれを書いた卒業文集っちゅーもんがあるはずや。

 先生に話聞いて回るよりは
 そっちの方がええやろ。


 なんせ噂の出元は
 いつでも生徒たちの口やから。


70 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月12日(月)14時51分33秒


「とりあえず、演劇部にはあの台本でやらすんですか?」
「…うーん」


 ま、調べていくうちに
 ホンマにヤバかったらどうにかすればええか。

 部長さんは怖い話きらいみたいやし。
 部員さんもあんまり好きと違うみたやからな。

 ホンマにあったんやって言うたら
 ビビッとったもんなぁ♪



「……相変わらずですね」


 お、それはバカにしとんのか?
 みっちゃん?

 ええやんけ別に。
 なぁ?


 ほら、よう言うやん。
 可愛い娘ほどイジメたなるって。



「……」
71 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月12日(月)14時55分24秒
   終了
72 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月12日(月)14時56分00秒
>64 名無し読者 さま
 初レスありが東西ます。

 >加護ちゃんのやぐを語る心の声がいいですね。
 そう言って頂けるととても嬉しいです。
 加護ちゃん主役ではないのですが、語りは書きやすいので
 これからもよく出てきてくれると思います。
73 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月12日(月)14時57分44秒
>72
 ありが東西ます→ありがとうございます。です。
 なんでこんなことになっちゃうんだか…。

  今度は夜。
74 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月12日(月)17時20分36秒
中澤先生と矢口の険悪な関係はもしかして・・・。
75 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)02時54分45秒
   更新
76 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月13日(火)02時55分41秒

 中澤先生と台本のことでもめてから1週間。

 矢口さんはこの台本がいたく気に入ったらしく
 今年の学園祭はどうしてもこれでやるんだってきかない。

 そら、うちも賛成した身分やし。
 矢口さんの意見やったらって思ってる。


 ……まぁ、実はちょっと心配なことがあんねんけど…。


 実はこの台本のことを聞いた日から
 あんまり気分がよくない。

 季節の変わり目やからって
 言われればそれまでやし。

 これまで体調崩したことがないわけとちゃう。


  やけど……。



 矢口さんはなんでこの台本がいいんやろ…。
77 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月13日(火)02時56分24秒

「やっぐちーー!」
「…紗耶香、うるさいよ」


 ホンマやで、市井さん。

 市井さんのクラブは軽音部やから
 それくらいで話さんと聞こえんかもしれんけど

 うちの部は演劇部なんやから
 あんまり大きな声出さんといて下さい。



「なんか用なわけ?」
「んにゃ。電気ついてたから」


 …電気ついてたから来たって。
 ……市井さんは虫ですか。


 って、あれ?
 後ろに誰かいませんか?

 光に寄ってきた虫に
 金魚の糞までついてきたんですか?


 ホンマに、めーわくな人やなぁ。


78 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月13日(火)02時57分00秒

「こんばんは〜」


 市井さんの後ろから顔を出したのは
 市井さんと同じ軽音部の後藤真希さん。

 こちらも学園内では
 知らない人はいないほどの有名人。

 市井さんのバンドのコーラス担当で
 2人のハモリには鳥肌が立ったこともある。

 ステージの上で2人が立ってると
 それだけで舞台が栄えるってもんだ。


 後藤さん、めっちゃ美人さんやしな。
 市井さんも、とりあえず、美人系やしな。

 そら、人気バンドにもなるわな。


 てか、この人、
 なんでいっつも『withお菓子』なんやろ。

 もう1人のバンドメンバ−は
 『with教科書』やしなぁ。


 …待てよ。
 2人がおるってことは…。



「…こんばんは」


 やっぱりおんのね。
 『with教科書』の紺野ちゃん。

79 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月13日(火)02時57分36秒

 遠慮がちに入って来たのは
 同学年の紺野あさ美ちゃん。

 紺野ちゃんはいつでも小脇に教科書を抱えてる。

 休み時間でも勉強してて
 放課後は図書室いってそうな人。


 実は軽音部なんていう
 ちょっと優等生からは外れた部に入ってるうえに
 人気バンドのキーボードなんてやってたりするけど。


 でもまぁ、周囲の期待を裏切らない
 成績の持ち主やったりするし。

 うちの記憶が正しければ
 紺野ちゃんは新入生総代やった気がするし。


 何はともあれ
 テスト前にはお世話になってます。


80 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月13日(火)02時58分26秒

「軽音、もう終わったんだ」
「いちおーね。時間だし」


 時間?まだ7時30分やで?

 夏休みが始まってどのクラブ
 クラスも延長してるこの時期に
 なんで軽音部が延長せんで帰ってんねんな。


 市井さんてたまに……
 よく、ヘンなことしはるよな。



「私が、塾なんです。それで…」


 うちらがちょっと納得いかんって顔で
 市井さんを眺めてたら後ろから消えそうな声で
 紺野ちゃんが言った。


 あぁ、なるほど。
 紺野ちゃんが塾なんや。

 なんやぁ、市井さんもちゃんと
 常識的な所あるやんか。

 紺野ちゃんの為に
 部活を終わらしてくれるあたりは
 優しいねんなぁ。


 同学年やのに
 なんでうちには優しないんやろ。


81 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月13日(火)02時59分26秒


「紺野はえらいよね。それに比べて、こいつらは…」
「……」


 矢口さんが皮肉たっぷりで
 市井さんと後藤さんを見てる。

 この2人はいっつも夏休みに強制補習を受けてる。
 そんなんもう、今更な周知の事実。

 今年はどうやったんか知らんけど
 うーん…校内では見てなかった気がするなぁ。

 放送もなかったから
 もしかしたら図書室の缶詰がきいたんかな?


 うちもやってみよっかなぁ…。



「でも、紗耶香はわかるけど、後藤たちまでって珍しいね」


 矢口さんはどうやったんですかって訊こうかと思ってたら
 矢口さんがそう言えば、ってカンジで訊いた。


 上手く逃げられたカンジやけど
 確かにそうやな。

 いつものことやねんけど
 市井さんはよくここに来る。勝手に。

 でも、後藤さんや紺野ちゃんが来ることって
 なかなか少なかったと思う。

 たぶん、2人ともそれぞれに理由があるんやと思うけど
 紺野ちゃんの方はなんとなくわかる気がする。


 から、うちの興味は後藤さんが残ってる理由にひかれた。

 けど、その答えって聞いてよかったもんか悩むわ。


82 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月13日(火)02時59分57秒

「あのね〜、今日、学校に来るって言うからさ〜」


 後藤さんはそれはそれは嬉しそうに言った。

 その顔といったらもう…。
 うちのテンションも一気に上がるってもんやわ。



 だ、誰なんですか?!

 後藤さん、その緩み切った顔はなんなんですか!
 矢口さん、そのニヤケ顔はなんなんですか!!


 誰が来るんですか!

 うちの情報網には後藤さんには特別な相手なしって!
 その情報は間違ってたんですか!?

 なんでそんな嬉しそうな顔してるんですかーー!!



「え〜?だって、嬉しいもん♪」
83 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)03時00分32秒
   終了
84 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)03時01分47秒
>74 名無し読者 さま

 >中澤先生と矢口の険悪な関係はもしかして・・・。
 え、もしかして…なんですか?(w
85 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)03時02分30秒
流星群、ちょっと雲が邪魔してるなぁ。
86 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)15時08分13秒
   更新
87 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)15時09分50秒

「ふぅ…」


 あれからアタシは台本について調べまくった。

 図書室の本なんか端から端まで開いたし。
 卒業生の資料なんて校長に頭下げてまで発掘した。

 やけど、30年前の事件についてはおろか
 七不思議についての資料も手掛かりも見つからんかった。

 一緒に調べてくれたみっちゃんも同じ結果やったらしく
 2人してどうしたものかって頭を抱えてしまう状態になってる。


 なんでや…なんで見つからんのや…。

 事件は学園の権力者によって闇に消えたかもしれんけど
 七不思議は残ってるはずやねん。

 まさか、事件との関係性を疑われてそれまで消されたんか…?


 いや、そんなわけあらへんのや。

 もしそうなんやとしたら
 今の生徒たちが知ってるはずないんや。


 アタシがこの数週間で掴んだ情報では
 七不思議は間違いなく残ってる。

 どこで手に入れたんか知らんけど
 アタシが七不思議について調べてるって知って
 1つだけでもいいんならって教えてくれた娘が何人かいたんやから。

88 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)15時10分26秒

 アタシがきいたんは
 端々は変わってても同じ話やと思われるんが3つ。

 1:美術室の怨霊
 2:家庭科室の合わせ鏡
 3:異次元教室


 どれもこれもなかなか信憑性は低いけど
 それでも一応はあることは確認できたんや。


 やのに、なんでやねん。

 なんで七不思議が全部みつからへんのや。


89 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)15時11分17秒



「あれ〜、裕ちゃんじゃん」
「あ、ホントだ」


 ……その声は…。



「…なっちにカオリやんか。どないしたん」


 渡り廊下でうんうん唸ってたアタシに
 2人の女の子達が声をかけてきた。

 あぁ、今ではもういい大人。女性やけどね。

90 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)15時13分33秒


 その子達はアタシが何年か前に担任をしてた元生徒。


 ちっちゃくて可愛いほうが安倍なつみ。

 在籍中はテニス部に入ってた。
 元部長さんやったかな。

 元気いっぱいで、流行りの癒し系。
 学園のアイドルさんやったなぁ。


 おっきくてキレイな方が飯田圭織。

 クラブは…バレー部やっけ?
 部長はしてなかったよな。

 記憶が正しければ生徒会の会長さんやった。
 世話好きで頼りになったなぁ。


 でもなぁ、もっとビックリすることに
 この2人は実は同期やねんなぁ。

 どう見てもカオリの方が年上やのになぁ。



「どーせなっちはお子様です!」
「……あれ、裕ちゃん、声に出てた?」


 拗ねてそっぽを向いてしまったなっちを見て
 カオリとアタシが楽しそうに笑う。
91 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時14分28秒

 おっかしいなぁ、出したつもりなんかなかったのになぁ。

 でも、なっちもカオリも変わってないみたいでよかったわ。
 社会に出ても二人はこのままでいてほしかったからなぁ。


 子供っぽいなっちと
 神秘的なカオリ。

 2人は学園では知らん人がおらんくらいに有名やった。

 新入生の総代を務めたのがなっちで
 歓迎会で代表をしたのがカオリやったっけ。

 つまり、入試の1位と2位やね。


 それだけでも充分顔が広まるのに
 この2人はこの容姿やったから、注目の的。

 出身地が同じ北海道ってこともあって
 よく2人でいるところを見掛けた。


 アタシは可愛いもんとかキレイなもんは好きやから
 2人が並んでるところをこそっと見たりして楽しんでた。

 やのに、そのささやかな楽しみもすぐに奪われた。

92 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時16分16秒

 なっちがいきなりアタシに話し掛けてきたんや。

 中澤先生ですよね?って。

 そら2つ返事ではいって答えたけどもやなぁ。
 内心メチャメチャビックリして緊張してたっちゅーねん。

 全身ガチガチになってなぁ。


 なんで生徒相手に緊張してんねんって
 思わず自分で突っ込んだわ。


93 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時17分05秒


「…で?なんでおんのよ?」
「うわ―、なんか来てほしくないみたいだべさ」


 んー、なっち、かわってへんなぁ。

 この『だべさ』がええねん。
 可愛いやんか。可愛いやんかなぁ。

 質問には答えてもらってへんねんけど
 それでもええわ。なっち可愛いから。


 久しぶりになっちの感覚を味わおうとしてるときやった。

 カオリが邪魔した。
 アタシの楽しみを邪魔しよった。


94 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時19分03秒

「…あんまりやると、言うよ?」
「……」


 ……反則やろ、カオリ。

 そんなん言われたらアタシ、動けんやん。


 なんやねん、くそ。

 やっぱりコイツにバレたんはいたかったなぁ。
 あー、失敗したわぁ、裕ちゃん。



「なになに?誰に言うの?」
「……内緒♪」


 あーでも、約束は守ってくれてるみたいやね。

 誰にも言わんといてって言うたんやけど
 ホンマに守ってくれるなんて思ってへんかったのになぁ。


 そら、あの年頃の女の子やで?

 人の噂話ほど楽しいもんはないやろうし
 アタシの話なんて目の前の肉やと思ってたもん。

 次の日には学園中に噂が広まってて
 アタシは強制退職やって嘆いたもんやわ。


 ホンマ、カオリがええ娘でよかったわ。
95 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時20分06秒

「あ、でねでね、なっちがさぁ…」
「あっ、カオリ!言っちゃダメっしょ!!」


 ん?なんやぁ?

 まぁた、なっちが何かしたんかぁ?
 っちゅーか、何かされたんかぁ?


 ん〜?なになに?
 今日は実は会いに来たんだよ〜って?


 かぁーー!ええなぁ!?

 なんでそないに幸せそうやねんなぁ。
 ちょっとは分けてくれっちゅーねんなぁ。



「えへへはあとはあと
「なっち可愛いっしょ〜?」


 そやねぇ、可愛いねぇ。

 こんな娘が彼女やなんてええねぇ。
 あの娘は幸せなんやねぇ。


 よっしゃ!裕ちゃんが一肌脱いだろ!!
 うちについといで〜。

 今日は演劇部が延長してるから
 多分、あそこに集まってると思うし。

 アタシもそろそろ顔出さんといかんかったしな。



「ねぇねぇ裕ちゃん」
「なんやぁ?」
96 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時20分51秒


 圭ちゃんとこって、どうなったの?


 ……あんなぁ、なっち、それは校内では禁句やで。

 圭坊んとこも一応は年齢差とか考えんといかんし
 それなりに、立場の問題とかも出てくるんやからなぁ。


 気軽に質問していいもんと違います。


 ってちょっとなっちを怒ったら
 後ろからカオリが久しぶりの説教〜とか言ってきた。


 そやな、ホンマに久しぶりやわ。

 ただでさえ素行優良やったなっちを怒る機会なんて
 在籍中でも少なかったもんなぁ。

 たまーにアホなことやらかして怒ったけど。


 そんな風に思ったら、自然と顔が緩んできた。

 それはなっちも同じやったらしくて
 怒られてるのに嬉しそうに笑ってくれてる。


 ええなぁ、こんな関係。

 メッチャ好きやわ。



「…って、あらら」
「……楽しい時間は短いね〜」
97 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時22分31秒


 そやなぁ。もう着いてしもたなぁ。


 すぐそこに見えるちょっと汚い扉の向こうが
 我が演劇部の部室。

 今の時間はもうすでに7時30分やけど
 延長届が出てるので最高9時までは活動できる。

 こんなん学園祭の準備をはじめてるクラブには当然やけど。
 まぁ、今の時期ならうちの部意外は少ないと思う。


 準備にしっかりと手間かけるあたり
 歴代の部長さんの教えの成果なんやろうなぁ。


 今の部長さんは……

 どっちかって言うと、思い立ったら!って方やから。


 もうちょっと計画性とかほしいところなんやけど
 ま、それも個性っちゅーことで。可愛いもんやないか。


98 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時23分10秒


「…頑張ってるかぁ」
「……なんだ〜、ゆーちゃんか〜」


 扉を開けて、一応、顧問らしい言葉をかけたのに
 返ってきたのはアタシの可愛い可愛い部員のものやなくて…。


 勝手に他人の部の部室に乱入しといて
 しかも、教師でアンタの担任のアタシにその言葉。

 後藤、アンタ、裕ちゃんをなめてんで。

 アンタが心待ちにしてる人連れて来ったのになぁ。

 裕ちゃん今ので傷ついたから
 このまま返してもうてもええんちゃう?


 なーんて、ちょっとイジワルしようかと思ってたのに。

 等の本人は早くこのアホに会いたいらしく
 仁王立ちしてるアタシの脇をすり抜けていこうとした。


 そんなん、許せるわけあらへんやろ。


99 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時44分43秒

「わっ!?」
「ん〜、なっちは可愛いなぁ」


 ちょうど腕のところを抜けていこうとした時に
 ちょっと触れた腕を捕まえて
 そのまま引き寄せて抱きしめた。

 突然のことで戸惑ってたなっちやけど
 アタシのことよく知ってるから
 いつものように返してきた。

 もぅ、って言いながら、楽しそうに笑ってくれる。


 アタシはそれで満足できるし
 なっちは久しぶりのじゃれあいで楽しかったと思う。

 けどな、まぁ、何人かは気にいらん目をしとるやつがおる。


 誰かっちゅーんはあえて確認せんけどな。


100 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月13日(火)15時45分36秒

「ゆーちゃーーん!!」


 なっちに抱きついてからほんの数秒後
 その中の一人が思いっきり叫んだ。

 それと同時に
 アタシの腕の中からなっちを奪い去る。


 ちっ。ええやんけ。
 ごっちんのケチ。


 何て言う
 アタシの思いは完全にムシで。

 ごっちんに抱きしめられたなっちは
 アタシの時とは違う笑顔で、嬉しそうに微笑む。


 そんななっちとごっちんを見て
 アタシもついつい嬉しくなってまう。


 よかったな。なっち、ごっちん。
101 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)15時46分13秒
  終了
102 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)15時49分13秒
次は初の回想です。
103 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月13日(火)15時49分59秒
簡略なっちとごっちんの過去。
104 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月13日(火)16時11分15秒
イッキに読みましたが、オモシロイです。
続き期待〜
105 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月14日(水)01時34分45秒
おもしろい!!!(w
おがこんの行方も気になります♪
106 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月14日(水)02時09分40秒
   更新
107 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)02時10分59秒

 この娘らが付き合ってるって知ったんは
 実はこの娘らが在籍中の、今日みたいに暑い夏の日やった。


 いつものように延長届を受けとって
 いつものように渡り廊下を抜けていこうとした時。

 普段は気にもとめへんことなんやけど
 鳥が飛んでるのが、不意に気になったんや。

 それで、その鳥をちょっと見たいなって思ったから
 渡り廊下の真ん中から端っこの方に近づいて行ったんや。


 したら、なんや。

 鳥が止まった樹の下で、生徒同士が抱き合ってるやん。

 そらもう、ビックリしたっちゅーかなぁ。
 見たらアカンもん見てしもたなぁって思ったわ。

 せやけど、それだけじゃ済まんかってんなぁ。


 なんで両方とも知ってる顔やねん。

108 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)02時11分57秒


 抱き合ってたんは、樹の幹を背にしてる方がなっちで
 なっちを隠すように抱きしめてるんがごっちんやってんなぁ。

 ごっちんの肩に半分くらい顔を埋めて気
 持ちよさそうにしてるなっち。

 その顔は、恋人に抱かれて安心しとる印やった。


 んで、そん時に気がついたんやけど。

 アタシ、このまま覗いてたら
 見つかってまうんちゃう?って。


 だって、なっちの顔はこっちを向いてるわけやから
 目を開けられたら、うちと目が合ってまうんや。

 ヤバイって思ってその場を離れようとしたのに…。


 その日はきっと
 なんかの運命の日やったんやと思う。


109 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)02時12分48秒



『あ…』


 なっちの口がそう動くのを見てしまった。

 アタシと目が合ったまま。


 驚いてるなっちにつられて
 ごっちんもこっちを向く。

 初めはなっちと同じように驚いた顔をしてたけど
 アタシが逃げようとすると、とんでもないこと言ってくれた。



『動かないで』


 静かで、決して大きな声ってわけやなかったのに
 アタシの身体はまるで金縛りにでもあったかのようになった。

 ごっちんが怖いって思ったんは、そん時が初めて。


 ピタって動きを止めたアタシを見て
 ごっちんとなっちは、その場を離れた。


 それから暫くして
 2人はアタシのいる渡り廊下まで来た。

 なにを言われるんやろうってビビった。
 正直な話、アタシ、殺されるんと違う?とか思った。


 だって、ごっちんが真剣やなんて…。

 メッチャ怖いっちゅーねん。

110 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)02時13分34秒


 ビビリまくってるアタシのことはお構いなしに
 ごっちんたちはどんどん近づいてくる。

 それに合わせてアタシは2人の方を向いた。


 第一声は、予想通りのもんやった。



『…黙っててもらえませんか……』


 さっきの怖さとはうってかわって
 ごっちんが弱々しく呟いたのが聞こえた。

 俯いたままで。
 叱られてる娘みたいに。


 なんでそんな悪いことしたみたいに…。


 確かにこの学園では恋愛は禁止や。

 やけど、人が人を好きになるのを禁止するのっておかしい。

 普段からそう思ってるアタシとしては
 教師の立場より1人の人としての意見の方が先行した。


 気づいたら2人の肩を抱き寄せて
 内緒話でもするみたいにこそっと耳打ちしてた。



『口止め料は弾んでもらうで』

111 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)02時14分36秒


 それをどう受け取ったのかは知らないけれど。

 その後、アタシが2人を家に呼んだ時
 2人は有り金全部を持ってきた。

 アタシはそーゆー意味で言ったんと違うから
 お腹を抱えて笑って、随分と2人を不快にした。


 その意味を説明するでもなく
 アタシは2人に笑いながら言った。



『2人の話、聞かせて?』
『へ?』


 アタシが口止め料としてお金なんか貰うわけない。

 お金に困るほど安い給料貰ってるわけと違うし
 高校生から脅し取るほどアホなことしたいわけと違う。

 アタシが口止め料としてもらうんやったら
 もっと楽しくて、もっと笑えるもんの方がええ。


 例えば、人の恋愛話とか、な。

112 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)02時15分10秒


 それからアタシとなっちとごっちんは
 時間の許す限り2人の馴れ初め話を聞いた。

 どっちが先に好きになったのか、とか。
 告白したのはどっちだった、とか。


 些細なことでもしっかりと覚えてるごっちん。
 それを大切そうに話してくれるなっち。

 2人がどんなにいい関係を築いているのかよくわかった。


 ホンマに楽しそうに嬉しそうに話し二人を見てたら
 アタシもそんな恋愛したいなって思えてきた。

113 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)02時15分44秒


 そん時、実際
 アタシには好きな娘がおって。

 やけど、立場とか、歳の差とか、色々考えこんで
 自分からは動くことができんかったんやけど。

 二人に勇気を貰えたんかは知らんで。


 でも、アタシは次の日
 その娘に告白した。

 緊張して上手く舌が回らんかったし
 わけわからんことも言うたけど。

 ちゃんと
 自分の気持ちを相手に伝えたんや。


 ……好きやで…って。



114 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月14日(水)02時16分23秒
   終了
115 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月14日(水)02時17分24秒
>104 名無し読者 さま

 >続き期待〜
 あ、はい。頑張ります。
116 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月14日(水)02時18分52秒
>105 名無し読者 さま

 >おがこんの行方も気になります♪
 あっと、それはもうちょっと後で展開あり…(?)
117 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月14日(水)17時26分05秒
   更新
118 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)17時27分06秒

「…裕ちゃん、どっか逝ってるよ」
「……カオリに言われると複雑やなぁ」


 いつの間にか自分の世界に入りこんでたアタシに
 カオリが声をかけてくれたんやけど…。

 なんや、ねぇ。


 気持ちをそのまま言葉にしたら
 カオリが怒った。


 しゃーないやんか。

 『宇宙と交信してる』とか言われてたアンタにやで。
 『どっか逝ってるよ』なんて言われてもなぁ?

 メッチャ複雑やろ?


 って、同じことをもう一度言ったら
 怒りを通り越して今度は拗ねてしまった。



「あー、ゴメンて、カオリ」

119 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月14日(水)17時27分44秒


 昔よくやったみたいにカオリの頭を撫でる。

 この娘、こないにキレイやのにこれが好きなんが可愛くて
 よー、わざとイジメてはしとったんや。

 その後の反応を面白くてなぁ。


 アタシよりも大きいのに
 ムリヤリ抱きついてきてなぁ。

 アタシは潰れそうになりながらも
 なんとか抱き返してたんやったっけっか。


 …って、おう、カオリ。
 変わってへんなぁ…。



「裕ちゃん大好き♪」
「…そらどーも」


 ま、カオリもなっちも可愛いまんまでよかったわ。
120 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月14日(水)17時28分17秒
   終了
121 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月14日(水)17時28分48秒
最低の短さになりました。
122 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月14日(水)17時29分31秒
次は夜。
123 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月14日(水)22時31分01秒
短い交信!(w
それでも甘くてなんかいぃ♪
夜お待ちしてます(w
124 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月15日(木)00時28分47秒
   更新
125 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時30分11秒

「でねでね、最近カオリさ〜…」
「はいはい…」


 つい先程、中澤先生が連れてきた飯田さん。

 楽しそうに中澤先生に近況を報告してる模様です。
 中澤先生はちょっと困り気味に聞いてます。


 それはそうでしょう。もう20分です。

 中澤先生ってやっぱり優しいです。
 私ならそんなに人のお話きいてられません。

 たとえ先輩と言えど。


126 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時30分46秒


「なっち〜〜はあとはあと
「も〜、なんだべさ」


 同じく中澤先生に連れられてきた安倍さん。

 こちらはもう見てるのも恥ずかしいくらいに甘いです…。
 それと、後藤さんが甘えてるのが珍しいです。


 これ、後藤さんのファンの娘が見たら…。

 ほとんどの部員さんがが帰った後でよかったです。
 じゃないと、安倍さんが殺されそうです。



「今度はいつ遊べるぅ?」
「えっとね…今週の日曜日かなぁ」


 …いいですね。

 私は見る耐えかねて
 市井さんと話しこんでる矢口さんのところへ移動です。


127 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時31分53秒

「…ど、どうかしたんですか」


 この部室、呪われてるんじゃないですか?

 私が駆け寄った矢口さんはすごいお怒りモード。
 その隣の市井さんが黙り込むくらいに怖いです。


 私が声を掛けれたのはきっと奇跡です。



「…別に…」


 そうですか。って言って、その場を去りました。

 後ろで市井さんが待ってって言ってたけど
 それを聞いてたら私まで殺されるかも…。


 市井さん、ご冥福をお祈りいたします。


 それで、こうなったらもう
 行くところなんて決まってます。

 自然と隅の方にかたまってしまっている
 同学年の愛ちゃんところへ行きます。

128 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時33分18秒


 愛ちゃんは雑誌を広げて楽しそう読んでます。

 近づいて来た私に気がついて
 見る?って雑誌を差し出してくれた。


 でも、私、気づいてるんです。


 雑誌に熱中してるフリをしてるけど
 愛ちゃんの視線はどう考えてもある人を見てます。



「…愛ちゃん、好きなの?」
「……え…っ?!」


 私の問いかけにもまともに答えられないくらいに
 愛ちゃんの頭の中はその人のことでいっぱいってことですか?


 いいですね、可愛いです。

 愛ちゃん一途みたいだから相手の人はいいですよね。
 可愛いし、訛ってるとことか面白いし。

129 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時33分56秒


 でも、愛ちゃん。

 あの人は今、それどころではないらしいです。


 だって、あの人も好きな人いるみたいなんです。


130 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時34分49秒


「知ってる。いいの、片想いでも」
「…そっか」


 そんなに夢中になれるなんて。

 私は女の子はやっぱり色白がいいと思うし。
 あのちょっと外れたボケとかギャグもどうかと…。

 確かに可愛いとは思います。
 ナイスバディですし、優しいです。


 でも、あの声。あの高さは…。


 それに較べて、その“愛ちゃんの想い人”が好きな相手。

 あの人は本当にキレイだと思いますし
 声の代わりに背が高いのもいいと思います。

 サラサラの長い髪の毛もグッドです!


 なので、ちょっと頑張らないと届かないよ。とか
 部外者ながらに心配してるんだよ?

 最近よく一緒に遊びに出かけたりしてるみたいだから
 その辺は努力の成果なんだと思うけど。


 三角関係って難しいです。
131 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時35分50秒

「紺ちゃん!送ってくよ!!」


 飯田さんとか安倍さんとかが来て
 一段と騒がしくなった演劇部の部室だったけれど。

 更に輪をかけて騒がしい声が入ってきました。


 その声を主は入って来るなり私にそう言ったので
 礼儀正しく、ありがとうって言いました。


 そしたら、麻琴ちゃんは、嬉しそうに笑いました。


 最近、よくはわからないんですけど
 麻琴ちゃんが送ってくれることが多くなりました。

 今日もそうだったんで、待ってたんです。

 大会とかが近くて延長をしてる時とかは
 必ずその日の下校時間までにゴメンって謝りに来てくれます。

 別に、謝る必要はないと思うんですけれども。


132 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時36分25秒


「小川〜、挨拶が先だろ〜」
「あぁっ、すいません!こんにちは!」


 麻琴ちゃんは後ろから入ってきた吉澤先輩に言われて
 焦りながらですけれども、挨拶しました。

 でも、今はもう夜なので“こんにちは”ではなく
 “こんばんは”が正しい挨拶です。


 麻琴ちゃん本人はそれはどうでもいいみたいで
 私に早く帰ろう!って楽しそうに言います。

 それに私は後藤さんと市井さんにお先に失礼しますって言ってから
 奥の方に置いてある自分のカバンを取りに行こうとしました。


 でも、麻琴ちゃんの方が早く動いてました。



「はい!これで合ってるよね?」
「…うん、ありがとう」


 麻琴ちゃんはまた、嬉しそうに笑ってくれました。
133 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時36分58秒

 まだ残ると言う先輩や中澤先生にさようならって言って
 私は麻琴っちゃんと一緒に演劇部の部室を出ました。

 中澤先生が気ぃつけて帰りやぁって言ってくれました。


 私はまだこの学園に入って来て間もなく
 先生たちをどうこうと言っていい立場ではないのですが。

 中澤先生と初めとするこの学園の先生たちは
 私が出会った先生の中でも
 とてもいい方に入ると思います。


 特に中澤先生とか保田先生なんかは
 優しくて、頼り甲斐があって
 みんなの評価もいいんです。


 それと、私だけかもしれないんですけど…。


 中澤先生、ちょっとだけ
 麻琴ちゃんに似てるんですよね。

 なんて、思ってます。


134 名前:紺野あさ美 投稿日:2002年08月15日(木)00時37分32秒


「紺ちゃん?どうかした?」


 麻琴ちゃんの顔を見ながら
 ボーっとしてたからでしょうか。

 麻琴ちゃんが少し心配そうに
 私の顔を覗きこみながら尋ねてきました。

 それにううん、大丈夫だよって答えました。


 麻琴ちゃんに心配をかけるのは
 よくないんです。

 なんだか知らないんですけど
 笑っていたいんです。

 麻琴ちゃんの前では
 笑っていたいんです。


 ねぇ、麻琴ちゃん。

 私は、ちゃんと笑えてますか?
135 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月15日(木)00時38分12秒
   終了
136 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月15日(木)00時39分37秒
>123 名無し読者 さま

 >それでも甘くてなんかいぃ♪
 いやいや、これで甘いなんて言われてては…(謎)
137 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月15日(木)00時41分02秒
今度は頑張って昼くらいには更新したいなぁ…。
138 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月15日(木)00時42分31秒
朝とか言ってたのになぁ…。
139 名前:123 投稿日:2002年08月15日(木)01時39分53秒
交信お待ちしてました♪
最近作者さんの作品を読むのを楽しみにしている自分がいます(w

>いやいや、これで甘いなんて言われてては…(謎)
いやぁ、何か圭織が可愛く見えてそう言ってしまいました(w

高橋の思い人はあの人ですか?(w
実は好きなCPランクに入ってたりしちゃいます(w
それでは続きお待ちしております。

140 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月15日(木)12時22分53秒
   更新
141 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時24分00秒

 さっき紺ちゃんが私の顔を見てるような気がして
 ちょっと横に視線を送ってみたんだけど…。

 バッチリ目が合っちゃって
 ビックリした。


 私はけっこう焦ってしまって
 動揺を隠そうと紺ちゃんに話し掛けた。

 でも、紺ちゃんは私の顔を見たまま大丈夫だよって…。


 その目がなんだか私のことを好きって言ってるみたいで
 実は私たち両想いなのかもって勘違いしそうだった。

 その後も紺ちゃんは何回か私のことを凝視してることがあって
 そのたびに私は勘違いだって言い聞かせてた。


 けど。


 そんな期待させられちゃうような行動をとられたら
 動きたくて仕方なくなるのが
 体育会系の性なんだと思う。

142 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時24分32秒


 学園の敷地内にある寮に向かってる途中で
 自分の気持ちが抑え切れなくなってしまった。

 寮に入ろうとしてる紺ちゃんを引きとめて
 ちょっとだけでいいからって、学校側に引き返した。


 吉澤先輩!小川、頑張ります!



「あ、あのね、紺ちゃん…」
「…うん、なに、麻琴ちゃん」


 しっかりしろ!しっかりしろ!って
 何度も何度も自分に言い聞かせてから…

 私は強く自分の拳を握り締めた。


 そして勢いよく
 紺ちゃんに自分の気持ちを言おうとしたんだ。


143 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時26分00秒



「わっ、わた、私はっ…こっこここ…っ」


 なのに、緊張のあまりどもってしまって
 伝えたいことが全く言えない。

 そんな私を紺ちゃんは不思議そうに眺めてる。


 ダメだ!頑張れ!小川麻琴!!

 ここで言わないと、ただのへんな人になってしまう!
 紺ちゃんにそんな風に思われるなんて絶対にイヤだ!!

 言うぞ!言うんだ!!



「こっ、紺ちゃんが……すっ――!」
144 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時27分13秒
「おーい!麻琴ちゃん!紺野ちゃん!」


 …私の一大決心は
 同じ部のチームメイトに粉砕された。


 私の声を遮ったのは
 向こうから走ってきた辻ちゃん。


 辻ちゃーん…。
 なんでこんな時に限って…。


145 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時28分21秒


「辻さん、こんばんは」
「こんばんは。あいぼん知らない?」


 あいぼん?
 あいぼんならまだ、演劇部の部室に…って。

 私が答えるよりも早く
 紺ちゃんが辻ちゃんに同じことを言ってた。

 一言、今は家庭科室に行ってますけど、とも。


 落胆してる私よりは
 紺ちゃんの方が早くて当然か。



「なーんだ、先に帰ったと思ってたのに」


 そんな捨て台詞を残して
 迷惑なチームメイトは去っていった。

 ついでにどうしようもない場の空気も残して。

146 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時29分02秒


 この後、粉砕された私はどうしたらいいの?

 覚悟は…勇気は…
 どうすればいいんですか…?


 紺ちゃんにへん人だって思われたままで
 これからの学園生活を送れって言うんですか?

 そんな、無茶な…。



「…麻琴ちゃん?」


 うう…ゴメンね、紺ちゃん。

 私が情けない気持ちいっぱいでそう言ったら
 紺ちゃんはいつものように笑っていた。


 え?


147 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時29分55秒


「なんで謝るの?」


 え、だって…。

 引き止めたのは私の方なのに
 わけわかんないこと言って
 その上もうダメで。

 紺ちゃんからしたらなにしてんのコイツ?
 ってカンジで。


 もう、嫌われちゃったと思ったんだけど…。



「お話はまた今度にしよ?その方がいいんでしょ?」


 ………。

148 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時30分50秒


 うん!うん…!

 紺ちゃんてやっぱり優しいなぁ。
 小川、更に紺ちゃんに惚れこみました!

 これからも毎日、送らせていただきます!!


 そしたら紺ちゃんはいつものように
 あの可愛い笑顔でこう言った。



「ありがとう、麻琴ちゃん」


149 名前:小川麻琴 投稿日:2002年08月15日(木)12時32分50秒
>123さま

 >最近作者さんの作品を読むのを楽しみにしている自分がいます(w
 それは、あの…恐縮です。はい。<照
150 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月15日(木)12時34分51秒
>123さま

 >高橋の思い人はあの人ですか?(w
 あ、はい。たぶん間違いないかと(w 色黒で声の高い彼女です。。。
151 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月15日(木)12時35分32秒
   終了
152 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月16日(金)01時28分30秒
   更新
153 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月16日(金)01時29分30秒

「そう言えば、加護は?」
「さっきみっちゃんと一緒に家庭科室行ったよ」


 アタシはその答えを聞いてかなり焦った。

 なんでも足りなかった衣装の生地と
 それを作るための機材を借りに行ったんだとか。

 けど、アタシはそんなこと悠長に聞いてられへんかった。

154 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月16日(金)01時30分28秒


 加護とみっちゃんが家庭科室へ行った?!

 冗談やあらへんで。
 そんなん。

 家庭科室やろ?
 あの、家庭科室なんやろ?



 アタシが今日までに集めた数少ない七不思議の1つに
 今、二人が行ったという家庭科室の話がある。
155 名前:七不思議 〜1〜 投稿日:2002年08月16日(金)01時31分41秒


   家庭科室の合わせ鏡


156 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時32分22秒

 由緒正しいこの学園の家庭科室には
 大きな姿見がある。

 それは時に思春期の少女たちの御用達となり
 それは時に邪魔だと足蹴にされ隅に追いやられた。


 そして、それは時に……魔法の鏡となった。
157 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時32分59秒
 夏の暑い時期に、冷房も効かない蒸し風呂の家庭科室で
 数人の生徒たちが雑談混じりに作業に没頭していた。

 生徒たちは家庭科部の部員たちだ。

 文化祭では家庭科部も舞台発表があり
 自分たちでデザインし
 作り上げた衣装をお披露目するのだ。



『これ、どうかな?』
『いいんじゃない?』


 1人1人、手順を確認しながら仕上げていく。
 1つ1つを大切にしながら、丁寧に。


 そんな中でやはり気になるのは出来映えであろう。

 他の生徒に見せてもいいのだが
 自分で確認した方が作品もいいものになる。


 そこで活躍したのが家庭科室の隅にある
 大きな姿見の鏡。

158 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時33分35秒


 普段は授業では使われないことが多く
 邪魔になるので隅の方に置かれているのだが
 家庭科部が活動する放課後と、夏休みは別だった。

 その姿見は大切に扱われ
 何代にも渡って受け継がれてきた。

 1年生が入ってきたとき
 一番はじめに言われるのは決まってこれ。



『その鏡は大切にしないさい』


 授業ではどれほど邪魔であろうとも
 家庭科部にとっては宝なのだ。

 しかし、もう1つ、決まりごとがあるのだ。



『その鏡、実は2枚あるんだけど…』

 ―――決して同じ部屋の中に置かないこと。


 どうしてなのかは全く伝えられてはいなかったのだが
 なぜかその言葉には重みがあって、誰も逆らわない。

159 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時34分32秒


 しかし、どんな世にも必ずいる、バカもの。

 それに当たる好奇心旺盛な1年生が
 試しにもう1枚を探したところ…。


 確かに鏡は2枚あった。

 もう1枚は家庭科準備室の中に。
 ひっそりと置いてあった。

 何代前かはわからないけれども
 きっと先輩が掛けたのであろう
 黒っぽい大きな布に覆われていた。


 まるで、そこにあることを隠すかのように。


160 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時35分21秒



『…ねぇ、やってみようか』


 1人の生徒がそんなことを口にした。

 さすがにそれには即座に賛成しかねた他の生徒だったが
 本当のところ、どうなるのか知りたかった。


 高校生にはよくある、興味本位の怖いもの見たさ。

 生徒たちは先輩の教えを裏切って
 2枚目の鏡を家庭科室に移動させた。


161 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時36分00秒


『…なにも起こらないね』


 なにが起こるのかとワクワクしていた生徒たちは
 1時間ほど、家庭科室の中で息を潜めていたのだが…。


 なにが起こるでもなく
 1時間30分が過ぎた。



 もう少しいればという期待の気持ちは
 もうすでに、何十分か前になくなってしまった。

 諦めて生徒たちが帰ろうと立ち上がり
 スカートの裾についた埃やゴミを払い、部屋を見まわすと…。



『え…』


 家庭科室のほぼ真ん中に置いてあったはずの2枚の鏡が
 部屋の両端あたりまで移動しているではないか。

 それに驚いて後ろを見ると
 同じような顔をした同級生たちがいた。


 そんなはずはないのだ。
162 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時36分30秒

 ここには自分たちしかいないんだから。

 部屋のカギはイタズラがバレないように
 中からかかっているんだから。


 誰も動いていないこの部屋の中で
 どうしてものが動くことがあるんだ。


 生徒たちが困惑の表情で
 お互いに見つめ合っているときだ。


  カラカラカラ


 乾いた音を立てて、2枚の姿見が動いたのだ。


 両端にあった姿見は、器用にその場で方向転換をし
 部屋を両端から挟むように立った。

 その間には生徒たち。


 そう、ちょうど……



  合わせ鏡のように


163 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時37分07秒


『……!?』


 放心していた生徒たちは、動かされた。

 見えないなにかに。
 いるはずのないなにかに。


 自分達の腕を掴んでいるのはなんなのか。

 知りたくて、知りたくない。


 考える間もなく生徒たちは両方向の鏡に近づいていく。

 段々と近くなってくる大きな姿見の中に
 よく見慣れた自分達の姿が映りこんでくる。


 見たことのない、人々と共に。



 肉眼で確認出来るようになったその鏡の中には
 自分達の腕を捉えて離さない人影。


 その顔は蒼白に染まり。
 その腕は左右どちらともわからないほどに朽ち果て。

 その眼球は片方がなくなっていた。


 彼らが一体なんなのか。

 そんなこと誰にだってわかる。

164 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時37分40秒


 それを理解した瞬間
 生徒たちは口々に叫んだ。


 『助けて』と。


 その声は鏡の中に消えてしまったけれど…。



 そんなことがあってから
 家庭科室の鏡はなくなった。

165 名前:家庭科室の合わせ鏡 投稿日:2002年08月16日(金)01時38分13秒


 が、しかし。

 その鏡は現れた。

 姿見のその鏡は、今でも置かれている。
 片方は家庭科室に。もう片方は準備室に。

 誰がなんの目的でまた購入したのかはわからないが。
 そして、購入したのは誰なのかもわからないが。


 ただ1つ、噂として聞いたのは
 その鏡から時折、声が聞こえてくるということだけ。


 『おいでよ…』と。



166 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月16日(金)01時39分15秒
 こら、こんなところで笑ってる場合と違うで。

 みっちゃんと加護が危ない!



「アタシちょっと行ってくるわ」
「は?どこに?」


 急にそんなことを言ったアタシに
 誰よりも早く紗耶香が反応した。

 それをキッカケに次々と視線がこっちを向く。


 ちょ…やめてぇや。

 アタシが上がり症なん、知ってるやろ?
 そんなに見られたらなんも言えんやんか…。



「……家庭科室…」
「なんで?」


 やっとのことで一言だけ言ったアタシに
 尚も質問して来る紗耶香を引き剥がして
 アタシはなんとか演劇部の部室を出た。

 向かうは本館4階の家庭科室や。
167 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月16日(金)01時39分47秒
   終了
168 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月16日(金)01時40分20秒
怖い話になりました。
169 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月16日(金)01時40分54秒
怖いのかわからないけど…。
170 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月16日(金)14時55分01秒
   更新
171 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月16日(金)14時55分47秒
  カタ…



 …またや。また、聞こえた。

172 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月16日(金)14時56分33秒


 うちは今、さっき演劇部の部室に来た平家先生と一緒に
 足りなくなった衣装の材料と器具を取りに家庭科室に来てる。

 うちの学校は家庭科室と被服室は一緒なんや。

 やから、ここに来ればミシンもあるし
 家庭科準備室には余った布なんかもある。

 1人でもいいねんけど
 カギとかの問題から誰か先生がいた方がいいってことで
 偶然、中澤先生になにかを届にきた平家先生を連れてきた。


 んで、今は家庭科準備室で
 布とかをちょっと漁ってるんやけど…。

173 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月16日(金)14時57分28秒


  カタ…


 …また。またや。


 さっきから変な音が聞こえるんや。

 どこからかはわからへんねんけど、部屋中に響く音。
 当然、平家先生も気づいてるはずやけど…。

 なんも言うてこんことを思うと
 うちの空耳かもしれへんし。


 そう思って何回かは言い聞してきたんやけど。

 それでもその音はやむことなく
 今も教室中に響いてる。


 この家庭科室で
 あないな音がするモンていうたら…。

 そうや、あれくらいしかないんやないか。
 さっき、ここに入るのに邪魔で準備室からのけた…。


 あの、姿見の大鏡。


 あれについてたローラーが動く音にしか思えんし
 それ意外に思いつかんねんて。
174 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月16日(金)14時58分51秒

 ここには何回も来てて
 中のことはきっと先生よりも詳しい。

 そんな自信があるから
 尚更、怖いんや。


 だって、今
 この家庭科室にはうちと平家先生しかおらん。

 で、そのもう1人の平家先生は
 うちの隣で一緒に探しモンをしてる。

 となれば、当然やけど
 誰が動かすねんな。


 あの鏡を。

 家庭科室の方に除けた
 あの、姿見の鏡を。


175 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月16日(金)14時59分35秒


「加護?どないした」
「…いえ、なんでもないです」


 うちの焦りをよそに
 平家先生は普通に話し掛けてくる。


 やっぱりうちの聞き間違いやねん。

 そうやなかったら
 平家先生がこないに普通なはずないねん。

 だってこの先生
 ヘタレで有名なんやから。



「なんや、急に見つめてきて」


 自分に言い聞かすために
 じっと平家先生を見てたら
 うちの視線に気づいて恥ずかしそうに言った。


 やっぱりこの先生が
 そないに度胸あるわけないねん。

176 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月16日(金)15時00分44秒


 きっとうちの聞き間違いや。

 テスト勉強とかしすぎて疲れてるんや。
 やから、もうちょっとしたらきっと…大丈夫。


  カタ…カタ…



 きっと、この音も聞こえへんようになるはずやから。

177 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月16日(金)15時01分14秒
   終了
178 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月16日(金)15時01分51秒
昨日のDXはなかなか。
179 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月16日(金)15時02分28秒
やっぱり美人やねぇ。
180 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月17日(土)00時54分01秒
   更新
181 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月17日(土)00時55分00秒

 部室を出てすぐ階段を駆け上がろうとしてるとき
 ちょうど向こうから見知った顔が歩いてきた。


 こらええわ。かなり助けになる。



「ごっちん!ちょっとおいで!」
「ふえ?!うわっ、ちょっとゆーちゃん!?」


 遊ぶためにバレーボールを取りに行ってたごっちんを掴まえて
 そのまま一緒に階段を駆け上がる。

 隣の吉澤にはアンタは帰り!って言うて。


 戸惑いながらもごっちんはちゃんとついて来てくれてる。

 んで、運動能力の差なんやと思うけど
 4階に着く頃には、ごっちんの方が前やった。



 運動能力の差やで。年とは関係ないからな。


182 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月17日(土)00時56分02秒


「なに?なんかあったの?」
「…行ったらわかるやろ……」


 不思議そうに首を傾げてるごっちんを抜かして
 4階の真ん中くらいにある教室に向かう。

 それから程なくして
 アタシらは目的の家庭科室についた。



「家庭科室?」
「……」


 ……こら…ヤバイで…。


 アタシは家庭科室の前に立った途端に
 ものすごい悪寒が背筋を走るのを感じた。

 そして、その悪寒の正体にも、すぐに巡り合えた。


 家庭科室の端と端で向き合った
 姿見の鏡。

 その間には不幸なことにも
 アタシの友人と生徒の姿。

 それと…


 見えるはずのない人々。


183 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月17日(土)00時56分54秒
   終了
184 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月17日(土)00時57分25秒
短けー…。
185 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月17日(土)00時58分01秒
次は長めに…。
186 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月17日(土)15時07分49秒
   更新
187 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時09分47秒

  カタ…カタ…カタ…



 アカン。

 なんぼ言い聞かせても聞こえてくる。


 なんなんや、この音は。
 なんかが動いてる、この気配は。

 音の方向からして
 間違いなく家庭科室の方からや。

 けど、そこには誰もおらんのやし…
 動くモンなんかあらへん。


 ……やっぱり、あの鏡なんか…?



「………」


 ホンマは、こないなことするんは間違ってると思うし
 できるだけ避けて歩くんがいいミチなはずなんや。
188 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時10分35秒

 けど…知らんかったらそれはそれで怖い。


 ここで確かめて
 もしかしたらただの風かもしらんし。

 それやったら平家先生と笑い話にできるし。


 …大丈夫や。
 怪奇現象なんて、あるわけないんやから。


 自分の中にある勇気を最後の一滴まで搾り出して
 うちは家庭科準備室を出た。

 急に動いたうちに気づいて
 平家先生がおいかけてきた。


 そしてうちらは
 とんでもないモンを目にした。



「…あれ…なんです…?!」


 その一言しか出てこんかった。


 うちらが目にした光景、それは…。
189 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時11分15秒



 部屋の両端に立ってる姿見の鏡が動いてるところ。
 コロコロコロコロ自分で移動してるところ。


190 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時12分09秒


 冗談やあらへんで。

 英語で物は自分でなんもせんから受動態やねんて習ったで。
 古典で物の自発があるんは不思議やねって笑ったで。

 うち、まだちょっとしか生きてへんけど
 それでも、物が動くところなんて見ると思わんかったわ。

 自分で、勝手に。


191 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時13分16秒



「……しもた…」


 うちが混乱してるのに
 平家先生は冷静にそう言った。

 平家先生の顔を見たら
 普段は見たことないような
 真剣で、めっちゃカッコイイ顔してた。


 その顔がいきなりこっちを向いたかと思うたら
 手を掴れて、引っ張られてた。



「逃げるで!」
「…あ、はい…」


 うちを引っ張ったまま
 平家先生は家庭科室の出口に向かう。

 よくはわからんかったけど
 こんなときは大人に任せるもんやって思って
 平家先生に素直について行ってたけど…。

192 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時14分22秒


 ちょうど、うちら2人が
 家庭科室の真ん中辺りを通った時や。

 両端で裏向きになってた鏡が
 例の如く勝手に動き出して
 うちらに向かってその向きをかえたんや。

 昔よく遊んだ
 合わせ鏡のようにして。


 大きな姿見の鏡の中には
 動けんようになったうちが映ってた。

 それと、平家先生。


 と……知らん人ら。



「う…うあ…!」
「遅かったか…!」


 鏡の中に映った人らは
 ゆっくりとこっちに向かってくる。

 普通なら考えへんやろうけど
 その人らは出てくる。

 そんな予感がうちの中にはあった。

193 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時15分13秒


 こんなん…どこのホラー映画やねんっ。

 なんやねん!あのわけのわからんくらいに白い人らは!
 いくら色白がええて言うても限度があるやろ!!

 だいたい、そないにげっそりしとったら怖いだけや!
 人間、もうちょっとふっくらの方がええねん!

 この加護ちゃんみたいに!!

194 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時15分57秒


 うちは恐怖から逃れるために
 場違いなことばかりを考えた。


 そしたら、もうどないしていいか
 わからんようになってるうちの隣で
 小さな声ではあるけど、平家先生がなんか言うてる。

 その言葉が切れたかと思うと
 うちは突き飛ばされた。


 起きあがったうちの身体は
 いつものように動く。

 それを確認して少し安心してたけど
 置かれてる状況を思い出して
 平家先生を見た。



「加護!逃げぇ!」
「え…で、でも…」


 うちを突き飛ばしてくれた平家先生は
 あの鏡の間で浮いてた。
195 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時16分44秒

 人間が浮く。

 これも一般には考えられへんことや。
 ものが勝手に動くんと同じくらい。

 でも、うちの思考は
 いらん理解をしてしもた。



 さっきの人らが
 平家先生を持ち上げてるんや…。


 そんなことを冷静に判断できてる自分が怖かった。
 でも、それ以上になにもできへん自分が悔しかった。


 どないしたらええ?
 どないしたら平家先生を助けられる?

 平家先生の手を取って引っ張ってみるか?
 いっそ、あの鏡を壊してしまうか?


 思うことは簡単やった。

 けど、することは難しかった。

196 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時17分49秒


 さっきはいつも通りに動いた身体やったのに
 今は指の1本かって自由にはならん。

 怖くて、動けへん。



「加護!逃げぇって!!」


 そうや、うちはなんて情けないんやろう。


 平家先生を助けることもできへんし
 ましてや自分が逃げ出すこともできへんやなんて。

 平家先生が助けてくれたのに…。
 うちは、それにすら応えられへん。


 どうしても動いてくれへんねん
 この身体が。


 そんなうちのことなんかムシして
 平家先生の身体がどんどん鏡に近づいて行く。

197 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時18分24秒


 手を伸ばせばきっと届く。

 でも、その手がなんでか出てくれへん。

 立ち上がればきっと動ける。

 なんでや、なんで力がはいらへん。


198 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時19分15秒



「…あー…くそ…」


 ムダやとわかってても抵抗を続けてた平家先生が
 なんやわからんけど呟いてた言葉も消して、その力を抜いた。

 それはつまり、諦めのサイン。



「せんせ…っ!」
「…ゴメンな、ムリやわ。みんなによろしゅう」


 そう言って笑った平家先生は
 今までで一番いい笑顔で笑ってた。


 ごめんなさい…ごめんなさい
 平家先生。

 うちはなんもできへんかった。
 平家先生が助けてくれたみたいにできへんかった。

199 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時19分58秒


 ごめんなさい……ホンマ…
 ごめんなさい…。


 うちの呟きに平家先生が
 ええよってって言ってくれた。

 その後、目の前に鏡が迫ってきてる先生を見てられへんかって
 うちは力を振り絞って後ろを向いた。


 なんやねん…。
 動けるやんか、アホ。


 うちは自分の不甲斐なさに
 更に落胆した。

 そしてもう、平家先生には会えへんねやって思って
 もう一言でいいから声をかけようとした。


 そしたら…。


200 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月17日(土)15時21分09秒



   ガシャーン!!



 廊下の窓が急に割れた。

 その割れ方は明らかに人為的なもので
 廊下の向こうの人の存在を主張していた。


 目に見える、人の存在を。


201 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月17日(土)15時22分01秒
   終了
202 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月17日(土)15時22分50秒
なにげに平家さんカッコイイんちゃう…。
203 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月17日(土)15時24分45秒
次は夜。
204 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月17日(土)23時09分31秒
(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
205 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月18日(日)03時04分45秒
予定変更。

明日中に3つとも載せます。
だから今日は勘弁して下さい。
206 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)05時54分51秒
やったね。楽しみにしてるよ!
207 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月18日(日)17時07分19秒
   更新
208 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月18日(日)17時08分34秒

「みっちゃん!加護!」


 家庭科室の前に来たアタシと後藤やったけど
 その扉はカギもかかってないはずやのに固く閉ざされてた。


 みっちゃんと加護が危ないのに!

 くそ!なんで開かへんねん!?
 開けや!こんのアホ!!


 見当違いなこと叫びながら一生懸命
 扉と格闘してたアタシに
 離れてなんかしてた後藤が後ろから叫んだ。



「弁償はゆーちゃんで!」

209 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月18日(日)17時09分29秒


 後藤はどこから持ってきたんかわからんけど
 手に持った椅子で家庭科室の窓を破った。


 信じられんことしてくれる娘やね…。

 しかも、何気に弁償はアタシ持ちとか言うてるし。


 そんな後藤のおかしな冷静さに感服しながらも
 アタシは割れた窓から中に飛んで入った。



「もうちょっと頑張り!」


 入ってすぐ、一言。

 たぶんあの力を使ったであろうみっちゃんと
 恐怖で動けんようになってる加護に叫んだ。


 それからうちは
 最近は持ち歩くようにしてるモノを出した。

 それは数十種類もの色があり
 それぞれに使い方も効果も変わるモノ。

 うちの手の中にあるそれは
 その中の一種類。
210 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月18日(日)17時10分16秒


 それらは一般的に『護符』と呼ばれている。

 対魔術師などが使う
 自分達の力を増幅させるための商売道具。


 アタシはそれに慣れた口調で呪詛を刻んで
 後藤の持っていたバレーボールに張りつける。

 そしてそれを
 後藤に投げさせた。


211 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月18日(日)17時10分46秒


「後藤!投げぇ!狙いは―――!」
「わかってるよ!鏡!!」


 後藤のコントロールは大したもんで
 見事に狙いに命中した。


 ボールの当たった鏡は割れた。

 それにこもった色々な人の歴史や
 たくさんの人の思い出と一緒に、砕けた。


 悪ぅ思わんとって下さい。
212 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月18日(日)17時11分30秒
続きまして加護ちゃんで。
213 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月18日(日)17時12分20秒

 ガシャーン!!って音がして
 そっちを向いたら中澤先生と後藤さんがいた。

 窓を割ったのは後藤さん?らしいけど
 弁償するのは中澤先生?らしい。

214 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月18日(日)17時13分18秒


 アホか。
 そんなんどうでもええねん。


 うちは自分がビックリしてるんか
 怖がってるんかわからん。

 窓から飛んで入ってきた中澤先生は
 さっき平家先生が言ってたんと似たようなことを言った。

 そしたらその手に握られてた紙が光った。

 かと思ったら、今度はそれをボールに張りつけた。
 後藤さんが持ってた普通のバレーボールに。

 んで、後藤はさんはそれを投げつけたんや。


 あの、怖かった鏡に。

215 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月18日(日)17時14分09秒


 でもな、考えてみてや?

 普通のバレーボールやで。あれは。
 それが、あの普通やない鏡を一瞬で割ってんで。


 それっておかしいやろ。

 なんでそないに簡単に割れんねん。

 鏡は所詮、ただの鏡やったってことなんか?
 せやけど、大概の小説やったらあないにうまいこと…。



「加護」
「…あ、はい?」


 うちが色んなこと考えてたら
 いつの間にか平家先生が目の前に立ってた。

 うちはそれを見て、めっちゃ安心した。

216 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月18日(日)17時14分40秒


 先生、よかったです…。

 助けてくれてありがとうございました。
 なんもできんでスンマセンでした。


 言いたいことはいっぱいあったのに。

 なんでかうちはまた
 何にも言えんようになった。

 ついでに、身体も動かんようになった。



「ゴメンな、加護。ゴメンな…」


 平家先生のその言葉を最後に
 うちの意識は途絶えた。
217 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月18日(日)17時15分36秒
次は平家さん。初か?
218 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月18日(日)17時16分25秒

 ゴメンな、加護。
 めっちゃ怖い思いさして。


219 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月18日(日)17時17分04秒


「みっちゃん…」
「…姐さん、ごっちん」


 ありがとう。
 ホンマに、助かったわ。


 あの時、持てる力を全部使って
 なんとか加護だけは助けた。

 けど、自分まであの状況から抜けることはできん。

 目の前で知り合いが消えるなんて…
 そないに怖い思いは、加護にはさしたなかった。


 ホンマ、ありがとうやで。
 姐さん、ごっちん。



「今の…」
「そうです」

220 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月18日(日)17時17分46秒


 今、加護にかけたんは『消去』の呪詛。

 あんな怖い思い出をこの小さな娘の記憶に残すなんて
 そないに残酷なことはしたらアカンやろ。

 この呪詛はあんまり使っていいもんとは違うんやけど
 それでも、今回のことは多めに見れる。


 半分あたしの責任なんやし。



「みっちゃん、気にしたらアカンで」


 わかってますよ、姐さん。

 大丈夫です。
 こんなん、昔はようあったことです。

 あたしの周りにおったら
 ヘンなことが起こるなんて…。

 大昔の子供の記憶に
 いつまでも振りまわされてるなんて
 そんなんアホらしゅうてかなわんって。


 わかってますから。
 大丈夫です。

221 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月18日(日)17時18分20秒


 けど…。

 今は、ちょっと…1人にしといてください。


222 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月18日(日)17時19分44秒


「…掃除、頼むわ」
「……人任せですか…」


 あたしは笑った。


 姐さんはあたしのこと
 誰よりもわかってくれてる。

 あたしが1人になりたいって思ってたら
 こうして冗談混じりに好きなようにさしてくれる。


 ありがとう。


 そう言ったら、何がや?って。

 素直に言うてくれへんところも姐さんらしいです。
 ホンマ、ありがとうございます。



「…ちゃんと帰っといでや?」
223 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月18日(日)17時20分14秒
「……もちろんです」


 姐さんに言われたら
 帰るしかないやないですか。

 あたしは姐さんの傍が
 今のところ、一番好きなんやから。


 大丈夫です。

 これ、片付けたらちゃんと帰ります。
224 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月18日(日)17時22分09秒
   終了
225 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月18日(日)17時24分16秒
>204 名無し読者 さま

 >(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
 作者も同じようにして更新してます(w
226 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月18日(日)17時25分24秒
>206 名無し読者 さま

 >やったね。楽しみにしてるよ!
 ご期待に添えたかはわかりませんが更新しました。
227 名前:123 投稿日:2002年08月18日(日)21時25分25秒
うぉ。忙しくて久しぶりに来たら(w
この後に起こる展開もますます気になってきました。
228 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月19日(月)01時00分52秒
   更新
229 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時01分35秒

 加護とへーけ先生を助けたのはいいけど
 ゆーちゃんもへーけ先生も真剣過ぎ。

 ゴトーはそーゆー話は苦手なんでって言って
 加護を連れて先に演劇部の部室まで帰った。

 きっと加護は
 今日のことをなにも覚えてない。


 へーけ先生が唱えてたあれは『消去』の呪詛。

 あれを掛けられたら
 間違いなく記憶を消去される。

 例えそれが
 どんなに大切な思い出だったとしても。

230 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時02分05秒


 あれは容をかえて
 力を弱めてよく心理治療に使われる。

 まぁ、簡単にいえば
 強い催眠みたいなモノ。

 ただし、催眠とは違って
 特別な力が働くけど。



「…う…ん…」


 お、お目覚めみたいだねぇ。


 小脇に抱えてた加護が
 目を覚ましたらしい。

 反対側には
 ちょっと汚れたバレーボール抱えてるけど。


231 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時02分44秒



「テスト勉強のしすぎじゃん?」
「…寝てたんですか、加護」


 そうだよぉ、家庭科室で衣装用の生地に包まってさぁ。

232 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時04分18秒


 ゴトーはゆーちゃんに頼まれた通り
 辻褄を合わせるだけの作り話を加護に話した。

 それに、加護は納得したらしく
 素直に、平家先生に謝らんとなぁとか言ってた。


 うん、ちゃんと謝んなよぉ。

 へーけ先生、あれでけっこう傷つきやすいから。
 きっと、今頃ボロボロになってると思うから。


 どんな過去があったのか知らないけど
 へーけ先生は苦しそうな顔をしてた。


 だからきっと
 ゴトーがいると話しにくいと思ったんだ。

 なので、ちょっと気を利かせて
 子供のお守とか引き受けてあげたんだ。


 うーん、ゴトーってば優しい!


233 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時05分19秒

「……」


 加護ぉ、何でそんな顔するんだよぉ?


 って笑ったら
 加護がいや、別になんでもないですって。

 それから取り留めのない話をして歩いた。
 気がついたら目の前には見慣れた明かりがあった。

234 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時05分56秒

 お、たっだいまー!
 なっちーー!!



「あ、ごっちん、どこ行ってたの?」
「ん〜、ちょっとゆーちゃんに捕まったのぉ」


 ゴトーがいなくて寂しかったぁ?


 なっちをぎゅって抱きしめようとしたら
 いっぱいいるからダメだよ、って言われた。


 そっかぁ…
 なっちは恥ずかしがり屋だもんねぇ。

 いいよ、いいよぉ。
 全然、気にしないから。


 かわりに
 今度の日曜はデートしてからお泊りね♪
235 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時06分41秒

「あ、ゆーちゃん」
「…ごっちん、ありがとうな」


 さっきの場所とは全然違くて
 騒がしい部室でよっすぃ〜とじゃれてると、
 ゆーちゃんが帰ってきた。

 ちょっと沈んでるっぽいけど
 大丈夫そう。


 問題はゆーちゃんじゃなくて
 きっとへーけ先生。

 ゆーちゃんの心配の元も
 きっとそこだと思う。

 ついでに、加護の様子と
 ゴトーのこと。


236 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時07分42秒


「加護は?」
「大丈夫だよ」


 案の定きいてきた加護のこと。

 紺野や高橋と楽しそうに話してる加護を目でさした。
 それを見てゆーちゃんはよかった、って言った。


 んで、次はゴトーを見て
 ちょっと困ってた。



「あー…ゴメンな、急に」


 ゆーちゃんはかなり申し訳なさそうに言った。


 確かに最初はビックリしたけど
 いつものことじゃん?

 最近はゆーちゃんがへーけ先生と組んでる時の方が
 ゴトーとしては謝ってほしいくらいだし。


 ゴトー、こーゆーの好きだし。


237 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月19日(月)01時08分15秒


「ありがとう」
「お互いさまだよぉ」


 ゆーちゃんに助けてもらったこといっぱいあるし。

 持ちつ持たれつ。
 支え合っていこうよ。

 って、真剣に言ったのに
 ゆーちゃんにごっちんキザって言われた。


 いいじゃん。
 素直なゴトーの気持ちです〜。



「ごっちん〜」
「…ほら、呼ばれてるで」


 うん、行ってきまっす。
238 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月19日(月)01時09分12秒
   終了
239 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月19日(月)01時11分12秒
>123 さま

 >この後に起こる展開もますます気になってきました。
 ありがとうございます。
 なんか頻繁にレスくださるのが123さまだけなので…(苦笑)
240 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月19日(月)01時12分41秒
>123 さま

 キリのよい数字なのでキリバンなんての提案します。
 CPにもよりますがリクエストあったらどうぞ。
241 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月19日(月)12時48分53秒
初めて読みましたが、かなり面白い作品ですね。
続き楽しみにしてます。
242 名前:123 投稿日:2002年08月19日(月)23時01分50秒
加護記憶消されちゃったのかぁー。
え?リクOKなんですか?(w
えっとーえっと・・・
おがこんも気になりますが。高橋の行方も気になります(w
その辺お願いできますか?(w だめならおがこんではあとはあと
243 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)01時01分16秒
   更新
244 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月20日(火)01時02分25秒

 うちは今、家路についている。

 ホンマはもうちょっと部室にいて
 三角関係とか甘いムードとか見てたかったのに…。


 のの、もうちょっと空気を…。



「えへへ♪」


 …はぁ……。

245 名前:回想@加護亜依 投稿日:2002年08月20日(火)01時04分13秒

 さかのぼること数分前。

『あいぼーん!』
『…のの?!』


 バレー部が終わってよっすぃ〜とかまこっちゃんが来たのに
 なぜかやって来ないののを不思議に思ってたんやけど。

 来ないなら来ないで1人で帰ろうと思ってたのに。


 まさか1回帰ってからうちが帰ってへんからって
 迎えに来るとは思ってへんかったわ。


 部室に飛びこんできたののは
 一目散にうちの所に飛びこんできた。

 …んやなくて。

 なんでか知らんけど
 ののは中澤先生が大好きなんや。

 中澤先生見つけると
 とにかく抱きつかんと気が済まんらしい。

246 名前:回想@加護亜依 投稿日:2002年08月20日(火)01時04分48秒


 毎度の如くタックル気味に抱きついて
 先生に怒られとる。


『…!?』


 異様な負のオーラを感じて
 うちが振りかえったその先には…。

 さっきよりも怖い顔した矢口さんがいた。

 どうやらののに抱きつかれて
 楽しそうな中澤先生がムカツクらしく
 2人のことを睨みつけてるように見える。


 あ、アカン。

 このままやったら矢口さんの雷が落ちる。
 まき込まれたらとんでもないことになる。


 そう思ったうちはののを中澤先生から引き剥がして
 ムリヤリうちのカバンを持たして部室を飛び出た。


 あと残ってる人には悪いけど
 矢口さんの怒りは怖いんや。

 ご愁傷様です。


247 名前:加護亜依 投稿日:2002年08月20日(火)01時06分01秒

 雷様からなんとか逃げ切ったうちは
 今、ののと一緒に夕食を食べてる。

 今日はこのままののの部屋に泊まる。

 今度は2人で騒いだりして
 寮母さんに怒られるのはゴメンやで。


 静かに寝よな、のの。
248 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)01時06分52秒
もう1つ。
249 名前:飯田圭織 投稿日:2002年08月20日(火)01時07分45秒

「なんだったんだろうね、加護と辻」


 急に辻が飛びこんできたと思ったら
 今度は急に加護と一緒に飛び出して行った。


 カオは、加護が賢明だと思う。


 だって、あの矢口の顔を見たら
 誰だって逃げたくなる。



「……」


 矢口は矢口なりに頑張って
 耐えてるんだと思うけど
 もうそろそろ限界になりつつあるみたい。


 さっきの辻のあれ。
 あれは効いたねぇ。

 毎度のことだってわかってはいても
 タイミングが悪かったよね、今回はさ。


250 名前:飯田圭織 投稿日:2002年08月20日(火)01時08分17秒


「カオリ…」


 ん?なんだい?

 えー、カオに助けてくれって?


 やだ。絶対に、やだ。

 あーゆー時の矢口ほど怖いものはないの。
 そんなの在籍中にイヤってほど知ったもん。


 ぜーったい、やだ。


 こんな時は、加護を見習って逃げるが勝ち。

 ってことで、ここにいちゃ可愛そうな娘たちは
 この優しいカオが連れて行ってあげよう。



「石川、高橋、吉澤。帰ろう」
「「え?」」

251 名前:飯田圭織 投稿日:2002年08月20日(火)01時08分59秒


 なんだよー。
 はいって返事したのは吉澤だけかぁ?

 やっぱりあれだね、バレー部は挨拶が命だから。
 文化部はその辺ちゃんとできてないよね。


 裕ちゃんの指導不足だよ、きっと。



「失礼な」


 あ、なにその態度。

 ちょっと気を遣ってあげようかなって思ったのに
 そんな態度取るんだったらもう助けてなんてあげなーい。


 存分に困っちゃえーー。

 なんてね。

252 名前:飯田圭織 投稿日:2002年08月20日(火)01時09分46秒


 でもさ、最近カオリは思うんだよね。

 そろそろカミングアウトでもいいと思うんだけどな。
 そろそろお互いに我慢の限界っぽいしさ。


 え、なに。

 大人には色々あんねん。って?
 …裕ちゃんがヘタレなだけじゃん。


 イタッ!?イタイよ!裕ちゃん!!

 体罰反対!暴力教師睦滅!!
 裕ちゃん頑張れ!!


 え?最後のは違うやろって?

 いいの、本音だから。
 裕ちゃん頑張れ。


253 名前:飯田圭織 投稿日:2002年08月20日(火)01時10分31秒


「飯田さん…」
「あ、待って待って。行くから」


 石川が部室の前で呼んでる。
 その隣にはなにか言いたそうな高橋もいる。

 本当に頑張ってあげた方がいいよって
 最後に裕ちゃんに託けて、カオは外に出た。


 部室の外はもうすでに日が沈んでて
 夏だってゆーのに寒いくらいで。

 くっついて来る二人が可愛かった。



「明日も元気に頑張ろう!」
「「はい!」」


 はい、いい返事でした。

 やれば出来るんじゃないのさ。

254 名前:飯田圭織 投稿日:2002年08月20日(火)01時11分12秒


 ご褒美のつもりで2人の手を取って
 並んで一緒に歩き出した。


 気づいてないフリをするってのも
 それなりに面倒だよ。

 仲良くいこうね、仲良く。
 そのうちちゃんと解決してあげるからさ。



「飯田さーん!待ってくださいよーー!」
「…あぁ、ゴメン、吉澤」
255 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)01時11分52秒
   終了
256 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)01時13分45秒
>214 読んでる人@ヤグヲタ さま

 >続き楽しみにしてます。
 初レス、感想ありがとうございます。
 これからも頑張りますんでよろしくおねがいします。
257 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)01時16分16秒
>123 さま

 >だめならおがこんではあとはあと
 そっちの方に応えさせていただきます。
 一応この2人は先の話で展開が…なんで。たぶん。
258 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)01時17分50秒
次回から更新スピード上げます。
259 名前:123 投稿日:2002年08月20日(火)01時47分06秒
交信乙です。
はい、おがこんお待ちしますはあとはあと
高橋石川吉澤もどうなるのでしょうか(ドキドキ

飯田さん何気にすげーっす!
260 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月20日(火)03時01分06秒
亀レスで申し訳ないのですが、
矢口が紗耶香と話していても、『市井紗耶香さま親衛隊』の方々が
矢口に対して、危害を加えないのは何故なんですか?
261 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月20日(火)12時53分36秒
加護はともかく、飯田までも恐れる「キレた(?)矢口」
いったいどーゆーふうになるんだろう・・・見てみたい。
262 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)15時24分23秒
   更新
263 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時25分43秒

 おっかしいなー。

 なんで来ないんだろ。
 会議が長引いてるのかな。



「……こんばんは」
「あ!おっそーい!」


 やーっときたよー。

 市井はこれでも気が短いほうなだぞー?
 もう1分でも遅れてたら、帰ってたぞー。

 たくもー。

 市井ってばやさしー♪



「帰ればいいじゃない」
「……」


 とどめに
 なんで一緒に帰らないといけないのよって。

264 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時26分34秒


 相変わらずクールだねー。

 でもさ、それって照れ隠しなんだよね〜?
 可愛いよね〜、そんなところも♪



「ままま、圭坊、もうちょっと素直に…」
「……わかったから。帰るわよ」


 ちょっとちょっと。
 裕ちゃんが可哀想じゃん。

 なんでもっと素直に
 好きだよーって表現できないかなぁ。

 ほらほら、裕ちゃん
 凹んでるじゃんか。


 よしよし、市井が慰めてあげるからね〜。

 圭ちゃんがやったことは市井の責任でもありますから
 ちゃーんと市井がフォローいたしますよー。

 よしよしよしよし。


265 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時27分44秒


「紗耶香ぁ」


 頭を撫でてあげたら
 裕ちゃんが市井に抱きついてきた。


 くー!ちょっと可愛いんじゃないっすか?!

 前々から裕ちゃんは可愛いと思ってたけど
 ここまで市井のストライクゾーンに入ってくるとはっ!

 可愛いじゃん!可愛いじゃんか!

 市井は圭ちゃんがいてもOKだよ!
 市井の2号さんにならない〜?



「えっ…わ、や、あの……」
「いいからいいから♪」

266 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時28分21秒


 抱きついてきてた裕ちゃんを少しだけ離して
 戸惑ってる裕ちゃんの顎に手をかけた。

 ちょっとだけ上を向かせて
 顔を近づける。


 いつもは強気なくせに
 ヘタレな裕ちゃん。

 市井はその裕ちゃんを知ってるから
 可愛くて仕方ない。

 本気で2号さんにしちゃおっかなー?なんて思いながら
 とりあえずキスしようとしたときだった。


 後ろから
 誰かに引き剥がされた。



「…ったー!圭ちゃん!イタイじゃん!!」


 あまりにもその力がきつ過ぎて
 本気で痛かったから、抗議したんだけど。


 なんで…?


267 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時30分19秒



「やぐっちゃん…??」


 予想外もいいところ。

 裕ちゃんにキスをしようとした市井を引き剥がしたのは
 どうしてなのかは知らないけど、やぐっちゃんだった。


 なんで?なんでさ?

 圭ちゃんに引き剥がされて
 説教されるならまだ納得いくよ。


 なんでやぐっちゃん?



「…矢口?」
「…どうかしたの?」


 圭ちゃんもなっちも後藤もわかってない。

 ただ、すっごく怒って涙目になってるやぐっちゃんと
 それを見てあたふたしてる裕ちゃんだけが
 本当のことを知ってるみたい。

268 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時31分06秒


 なんだ、なんなんだ。


 とにかく、床に座ってる裕ちゃんが可愛そうで
 紳士な市井が起こそうと、優しく手を伸ばしたら…。


 パシン!



「裕ちゃんにさわんないで!!」


 伸ばした手を勢いよく
 やぐっちゃんに撥ね退けられてしまった。

269 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時32分06秒


 裕…ちゃん…?

 ちょっと、待ってよ。

 やぐっちゃんが、中澤先生のことを裕ちゃん?
 嫌ってるはずの先生のことをなんで?


 待って、待ってよ。

 市井、本気で混乱してます。


270 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時32分47秒


「…矢口、ちょっと落ち着き?」
「だって!だって紗耶香が…っ!」


 よっこいしょって立ちあがった裕ちゃんが
 埃をはたきながらやぐっちゃんのすぐ隣に立つ。

 その裕ちゃんを泣きそうになりながらだけど
 やぐっちゃんは見上げてる。

 だだっ子みたいな顔で。


 そのやぐっちゃんをちょっと情けない顔で
 裕ちゃんは見下ろしてた。

 けど、すぐに市井の方を向いた。


 それから
 ゆっくりと話し始めた。



「あー、えーっと…なんちゅーか、やな…」

271 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時33分42秒


 裕ちゃんの一言一言に
 市井だけじゃなくてその場のみんがな注目する。

 そんだけの注目を集めちゃうと
 緊張しちゃった裕ちゃんは言葉に詰まる。


 その裕ちゃんに痺れを切らして
 隣で黙ってたやぐっちゃんが動いた。



「裕ちゃんは矢口の!」
「……は…?」


 えっ、裕ちゃんは矢口の、って…。

 へっ?え、あ、あの、それって?
 裕ちゃんは矢口の。矢口のって、つまり…。


272 名前:市井紗耶香 投稿日:2002年08月20日(火)15時34分43秒


「付き合ってるんだべ…?」


 市井が言うよりも早く
 なっちが言った。



「そう!」
「…一応、な」


 言い切ったやぐっちゃんと
 濁した裕ちゃん。

 やぐっちゃんの方は
 それでは納得いかなかったらしくて
 裕ちゃんを睨みつけて、怖い顔してた。


 …へぇ?

 そんな話きいたことないっての。
 こりゃあ、今日はちょっと返せませんな〜?
273 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)15時37分47秒
>123 さま

 >高橋石川吉澤もどうなるのでしょうか(ドキドキ
 う、うーん。やっぱり番外編とかで出すべきでしょうか…。
 あんまり考えてなかったんですけどねぇ…(^^;
274 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)15時42分48秒
>260 名無し読者 さま

 >圭ちゃんのお相手→市井ちゃんでした(期待外れすか?)
 >矢口のこと
 これについては簡単に年齢の関係ですね。
 設定年齢が矢口3年。市井2年。加護1年なんで。
 加護から見たらおねえさまでも矢口からしたら同学か下になるんで
 その辺は女子校の年功序列といいますか。そんな所です。
 納得いただけましたか?
275 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)15時46分52秒
>読んでる人@ヤグヲタ さま

 >いったいどーゆーふうになるんだろう・・・
 今回の矢口さんがほぼ8割ギレですね。
 100%は…後ろのほうにあったかもしれない(?)
 ないかもしれないんであんまり期待しないで待ってて下さい。
276 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)15時48分12秒
   更新パート2
277 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月20日(火)15時49分04秒

「裕ちゃーん?話、聞かせてほしいなあ」
「いや、別に、話すことなんか…」


 状況をやっと把握できた紗耶香が
 今度はニヤニヤしながら矢口たちのことを聞こうとしてる。

 しかも、裕ちゃんを標的にして。


 ふっざけんなよぉ!

 裕ちゃんに触るなって言っただろ!
 紗耶香は手が早いので有名なんだから!!

 ダメ!裕ちゃんは矢口の!!


278 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月20日(火)15時49分41秒


「紗耶香、矢口が怒ってるよ」
「え?うわっ、ゴメンやぐっちゃん!」


 さっきまで一言も発してなかった圭ちゃんが
 紗耶香の無礼に気がついて注意してくれた。


 てか圭ちゃん!

 圭ちゃんにも責任あるじゃん!
 こんなやつを野放しにしてる圭ちゃんにもさ!

 浮気とかされてイヤじゃないわけ?!

 それってへんだよ!
 間違いなくおかしいよ!!



「本気でするわけじゃないんだから…」
「嘘だ!さっき本気でキスしようとしたじゃん!」


 圭ちゃんがなんて言おうと
 さっきの紗耶香は目が本気だったもん!

 矢口の目は節穴じゃないんだよ!

279 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月20日(火)15時50分26秒

 いまだにヘラヘラ笑ってる紗耶香が
 不意に矢口の目に止まった。

 それを見た途端
 矢口の中でなにかがキレた。

 なんにも言わないで紗耶香の方に突進して行って
 もうちょっとで胸倉掴んで殴るところだったけど…。


 間に立った裕ちゃんのせいで
 それは未遂に終わった。



「アカン、殴ったらアカンよ」

280 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月20日(火)15時51分24秒

 そのとき矢口をなだめてるその声が
 いつもの裕ちゃんの声じゃなかった気がした。


 教室で聞く
 矢口の嫌いな裕ちゃんの声。

 生徒と教師っていう壁を挟んだ
 絶対的な距離を感じさせる声だった。


 だから矢口は…
 裕ちゃんが許せなかった。



「だいたい裕ちゃんがっ…!!」
「うわっ!はい!ごめんなさい!」


 思いっきりむかついて
 文句を言ってやろうとした。

 そしたら矢口の大きな声に
 裕ちゃんは身をすくめた。

281 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月20日(火)15時52分05秒


 ……なんだよ、もう。

 そんな裕ちゃん見ちゃったら
 怒れないじゃん。

 矢口、裕ちゃんのこと大好きなんだからさ。



「…あ、あの…?」
「……アホ…」


 一言だけ呟いて、俯いた。

 なんだか無性に悔しくなっちゃって。
 裕ちゃんの顔が見れなくなっちゃって。

 どうせ裕ちゃんは
 オドオドしてるんだろうけど。

282 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月20日(火)15時52分56秒


 こんなときは
 抱きしめてくれればいいのに。

 それだけで、矢口は安心できるし
 ずっと楽になれるのにさ。


 どうせ心で思ってるだけじゃ
 裕ちゃんには届かないよ。

 だから矢口はいつでも言葉にするんだ。
 鈍感な裕ちゃんでもちゃんとわかるように。


 アホ。


 ぎゅってしてよ…。


283 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月20日(火)15時53分48秒


「矢口…」


 矢口が言葉にして初めて
 裕ちゃんは矢口のしてほしいことをしてくれる。

 でも、抱きしめてくれる腕さえも
 裕ちゃんの性格を表してるみたいに弱い。


 やだ。

 もっとしっかり抱きしめてほしいよ。

 矢口のことちゃんと守ってほしい。
 誰にも渡さないって言ってよ。


 矢口は、矢口は裕ちゃんのものだって。

 いつでもそう思っててよ。


 段々緩くなっていく裕ちゃんの腕が寂しくて
 もっと強く抱いてほしくて…。

 裕ちゃんの首に抱きついた。

284 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月20日(火)15時54分25秒


 それに、ちょっとしたイタズラを思いついたから。


 裕ちゃん、ちょっとやりすぎだもん。
 矢口の気持ちを弄んだ罰です。
285 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)15時56分16秒
   終了
286 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)15時57分30秒
今回はレスが3つもついてて嬉しかった。
287 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)15時58分36秒
気になるところですが半日の辛抱です。
288 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月20日(火)16時00分38秒
待ってる人少なそうだけど…。
289 名前:影び 投稿日:2002年08月21日(水)00時59分02秒
 >体罰反対!暴力教師睦滅!!
 >裕ちゃん頑張れ!!
飯田さん、かっこよすぎです……(ワラ。
キレる矢口さんも頭ぐしゃぐしゃにして撫でたいくらい可愛いですね。
次の姐さん、楽しみにしてます。
290 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月21日(水)01時13分32秒
いやいや、なちごま好きなので、
期待して待っていますよ。
291 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)01時17分59秒
   更新
292 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時20分30秒

 うわっ?!ちょ、ちょっと待って!!



「やっ、矢口…!?」


 アカンて矢口。

 なぁ、ホンマにちょっと待って。
 ここ、2人きりと違うんやから…。


 さっきから感じる視線たち。

 好奇心にあふれた楽しそうな視線と
 自分のことでもないのに恥ずかしそうな視線。


 なっちと圭坊はともかく
 後藤と紗耶香はアカン。

 後でどんな噂にされるかわからんし
 第一、いらん弱みにぎらしてしもたわ…。
293 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時22分03秒

 さっきの昔話に出てきたんはこの矢口や。


 そんとき矢口は2年生でな
 初めて担任したクラスの娘やってん。

 ただでさえ初めてのクラス担任で
 生徒たちは可愛く見えたのに
 その中でもメッチャ可愛い娘がいたら…。


 構いたくなるやろ?


 高校生やのに145cmなんちゅー可愛らしい身長で
 学級委員なんかにも率先して立候補してくれた。

 見掛けによらずしっかりもので
 意外に頼りになるねんなぁなんて。

 そのときはまだ
 その程度の認識やってんけど。

294 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時22分57秒

 夏休みも間近に迫ったある日。

 ちょっと用事があって職員室に矢口を呼んだんやけど
 いつまでたっても来ぉへんから
 ちょっと見に行ったんや。

 そしたら校舎の隅のほうで
 うずくまってたんや。


295 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時23分29秒


『矢口?!どないしたんや!』
『!!来るな!来なくていい!』


 駆け寄ろうとしたアタシに
 矢口は来るなと言った。

 けど、その声が涙声やったなら尚のこと
 放っとけるわけなんかなかった。

 嫌がってるのはわかってたけど
 矢口の近くに腰を下ろした。

 それからハンカチを渡そうか、とか
 何て言うたらええんやろ、とか、考えたけど。


 なんでかなんも出来へんかった。

296 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時24分03秒

 暫く矢口が泣いてるのを聞きながら
 その隣で座ってた。

 自分で何してるんやろって思ったけど
 それしかできへん自分がいた。


 昔からアタシはヘタレやったからなぁ。

297 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時24分57秒


『…来るなって、言ったのに……』


 いつの間に泣き止んだんか知らんけど
 矢口がアタシの真正面に体育座りしてた。

 でも、その顔は伏せててわからん。


 何て言うのがいいん?

 なんで泣いてんのって言うの?
 泣いてもいいよって言うんがいいの?


 アタシ、どないしたらええん?


 なんも言わへんアタシに呆れたんか
 矢口は一言だけ、ボソッと呟いた。



『…胸…貸して』


 そのまま矢口はアタシの胸に顔を埋めて
 泣きはせんかったけど、なにかを堪えてた。

 そんな矢口が可愛く思えてきて
 支えてやりたいって思ったんが
 始まりやったんやと思う。

298 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時25分39秒


 気がついたら
 自分から矢口を抱きしめてた。

 矢口がもういいよって言うても
 離したくないって言いそうになってる。


 けど、アタシは大人やし
 なにより、矢口はアタシの生徒や。

 これ以上、踏み込んだらアカン。



『…ありがと』


 そう言い残して
 矢口は校舎のほうに走っていった。

 その背中を見てた自分の心が
 なんか知らんけど切なくなってた。

 アカンって自分で言うたくせに
 アタシの心はもう矢口を追い掛けてた。

299 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時26分14秒


 その日からアタシは
 矢口を避けるようになった。


 自分の気持ちを消すために。
 自分に嘘をつくために。

 矢口はいつものように接してきてたけど
 段々アタシの態度に気づいて離れていった。


 そのくらいやったかなぁ。

 紗耶香と圭坊の話をきいたんは。

300 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時27分12秒


 正直、圭坊の度胸にも
 紗耶香の勇気にも脱帽した。

 自分はこんなに弱くて逃げ回ってるのに
 年下のこの娘たちは偽らずに真っ直ぐに生きてる。


 羨ましい、けど。

 けど、それだけやな。
 アタシには、越えられへん。


 そう思ってたのに。


301 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時27分53秒



『裕ちゃん。矢口ね、裕ちゃん好きだよ』


 なんの拍子か忘れたけど
 突然、矢口はアタシにそう告げた。

 それから、それだけだからって
 苦しそうに。


 裕ちゃんが矢口のこと嫌いでも
 それでも矢口は裕ちゃんが好きだからって。

 迷惑かけないようにするから。

 だから…。


 好きでいさせて。って。

302 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時28分35秒


 そんなん、このアタシが、大人のアタシが
 自分の生徒で、まだまだ子供の矢口から言われたら。


 嬉しかって、それで、怖かった。

 アタシも矢口が好きやでって言いたかった。
 教師と生徒やでって言わなアカンかった。

 そのどちらかの答えを
 ちゃんと伝えなアカンかった。


 そやのに、アタシの口からは
 どっちも出んかった。

 立場上の理性がうるさかった。
 本音が出たいってうるさかった。


 やから、アタシはなんも言えんと
 笑って去って行く矢口を眺めてるだけやった。


303 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時29分08秒



『…好きやで……』


 矢口が去った校舎の隅で
 アタシはそんなことを呟いてみた。

 そこは、アタシが矢口を好きになった場所。

304 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時29分41秒
   ◇  ◇  ◇
305 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時30分23秒

 それから数週間が過ぎて
 夏休み。


 矢口に言いたかった言葉は
 そのままずっとアタシの中で眠ってた。

 もう眠りこけて
 冬眠でもしそうになってたのに。


 そこであの事件は起こったんや。



『あ…』


 その日はやっぱり
 なんかの運命の日やったんや。

 や、なんかの、やないね。
 アタシの、矢口の運命が動いた日。

306 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時31分06秒


 次の日は実は土曜日やってんけど
 矢口の家に電話して、出てきてほしいって言うた。

 矢口は渋々って感じで応じてくれて。


 2人でちょっと街をふらってして。
 それから公園で何とか話をしようとした。

 まぁ、アタシはそこでも動けんかってんけど。



『話って?』


 早々とそう切り出した矢口に
 アタシは口篭もってまうだけやった。

307 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時31分47秒


 ホンマは言いたい。

 アタシは矢口が好きなんやでって。
 矢口の気持ちに応えられるんやでって。

 そのあといろんな葛藤があってんけど
 結局、なんでも始めてまうんは矢口やった。


 アタシ、ホンマに情けないなぁ。

308 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時33分03秒


 夕日の傾きかけた公園に
 矢口とアタシの影が伸びてきてる中で…。

 矢口はアタシの正面に立った。



『矢口は裕ちゃんが好き』


 前と変わらない口調で
 矢口はアタシに言った。

 その言葉にはなんの迷いもなくて
 アタシの葛藤なんて意味ない。


 矢口の見せる切ない表情が辛くて
 アタシは自分の気持ちをちゃんと矢口に伝えた。



『…矢口が好きやで…』

309 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時33分45秒

 そう言ったら
 矢口が笑ってくれると思った。

 矢口の笑顔が見たかったのに
 なんでか矢口は泣いてた。

 どないしたん、って駆け寄ったら
 嬉しいからだよぉって抱きつかれた。


 うれし泣き、やって。


 泣いてる矢口を抱きしめる。

 いつかのことがフラッシュバックして頭に浮かんだけど
 それも束の間。すぐに振り払われた。
310 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時34分35秒

 目の前の矢口が静かに目を閉じた。

 それはつまり…ってこと。


 アタシにその注文をするか?!ってメッチャ焦った。

 告白するだけでもこんなに苦労したかって人に
 いきなりそんなことできるわけないと思うわん?

 もちろん、固まって動けんかったよ。

311 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時35分18秒

 したらな、矢口が目を開けて。



『もぅ、裕ちゃんのヘタレ』


 その後すぐ、首に腕が回ってきて…。


 人間の習慣って恐ろしいよなぁ。

 目を閉じて顔を近づけられたら
 なんでか知らんけど目、閉じてまうねん。


 数秒後、柔らかい矢口の唇が触れた。

 随分と長い時間触れてた矢口やけど
 アタシが苦しそうに唸ると、名残惜しそうに離れた。



『…付き合って?』
『……はい…』


 それがアタシと矢口の告白の想い出。

312 名前:回想@中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時35分57秒

 それから、学園では今まで通りの
 生徒と教師を演じた。

 2人で話し合って決めたこと。
 アタシの立場とか、矢口の立場とか色々な。


 でも、へんに距離が近いと矢口が我慢できへんて言うから
 学園では犬猿の仲みたいにしてた。

 アタシはもっと
 矢口と話したかったけどな。

 我慢が切れた矢口が怖いんは
 よう知ってるから、矢口の言う通りにしたけど。
313 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時36分48秒

「んで、今にいたると」


 正面に座った紗耶香がうんうん頷いてる。


 やっとさっきのヤバイ状況から抜け出せて
 なんとか矢口も落ち着きを取り戻したところで
 アタシらの馴れ初め話を披露するハメになってしもた。

 矢口はアタシの膝の上に座ってるから
 実は紗耶香の姿が見えにくかったりするけど。


 だって、矢口がこうせんとキゲン悪ぅなるから。

 怒られるのイヤやし。
 睨まれるんも怖いもん。



「とことんヘタレだね」
「うっさい、ボケッ」

314 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時37分28秒


 どこまでもムカツクことしか言わん紗耶香に
 ちょっとキレてみた。

 したら、矢口がうるさいよって。


 はい、ごめんなさい。



「裕ちゃん可愛いじゃん♪」
「…紗耶香?」


 あぁ、アホか、紗耶香。

 矢口がキゲン悪くなってきてるやんか。
 今日は元から悪いねんから、これ以上怒らせんな。


 って、あの、矢口さん?

 なにしてはるんですか?
 ってか、あの、ちょっと待ってもらえます?


315 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時38分04秒


「ダーメ。今日はまだ1回もしてないもん」
「や、あの、とりあえず人前なんですけど…」


 …ええよ、別に。

 どーせきいてもらえへんの知ってるし。


 早々と諦めをつけて
 矢口のしたいようにキスさした。

316 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時38分45秒


 いつもだけれど、矢口のキスは一番初めが長い。

 ずーっと触れるだけのキスなんやけど
 とにかくハンパやない時間してることが多い。


 その後、ちょっと離れてからもう一度。


 それからはついばむみたいに何度も何度も
 角度とか、時間とか、触れかたとかをかえて。

 んで、何度もしてるうちに勝手に口が開いて
 気がついたら矢口の舌が入って来てる。

 そんな調子でしてくる。


 今日もそんなカンジでしてきてるから
 いつもみたいに好きなように、っていうかなすがままに。
317 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時39分24秒

 でも、不意に矢口の顔が消えたような気がした。


 不安になって
 目を開けようかと思ったとき…。



「あっ…」


 首筋に感じた、柔らかくて冷たい感触。
 ほとんど条件反射のように出てしまった、艶っぽい声。

 何度も感じたことがあるそれは
 間違いなく矢口の舌であることはわかった。


 けど、ちょっと待ちぃや。


318 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時41分04秒

「矢口…?」
「ん?大丈夫大丈夫」


 は?なにが大丈夫なんですか?

 近くで紗耶香が『今いちーゾクッてした?!』とかって
 ちょっと興奮気味な声が聞こえてるで?


 ちょっと、ちょっと待ちって。

 矢口、アンタなに考えてんねん。
 2人ちゃうし。ここ、アタシの部屋ちゃうし。


 そーゆーことするには環境がおかしいやろ。



「味見だけだから」
「いや、味見って…ちょっ…!」


 ちょっと落ち着きって言おうとした口は
 またしても矢口の唇に奪われる。

319 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時41分45秒


 口内に侵入してきた矢口の舌と
 アタシの背中で遊んでる矢口の手。

 アタシが弱いその2つの感覚。

 矢口はアタシの弱いところも、嫌なところも
 全部、全部知り尽くしてるんや。


 アタシに、どうやって抵抗せえっちゅーの?



「あ…んぅ…っ」
「…裕ちゃん、いい声」


 いやっ、あの…っ。

 そんな甘い囁きしてる場合ですか?
 それでいいんですか?

320 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時42分30秒

 ちゃうって、矢口がよくてもアタシがアカン。

 ホンマに矢口、なに考えてんのよ。
 これ以上はマズイでしょうが。


 常識的に考えて
 これ以上はないでしょ?



 …矢口、ちょっとキレてる?



「…っぽい。けど、大丈夫」


 ぽいって、いや、ぽいですまへんから。

 キレててもアカンから。
 大丈夫ちゃうから。

321 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時43分14秒


 キレてる矢口は何するかわからんよ。

 けど、これはホンマにアカンでしょ。
 ちょっとこれは、アカンてホンマ、ダメやって。


 背中に傷つけるとか、ピアスの穴増やすとか
 その程度の話と全く違うやんか。



「あ…アカンっ…て…!」


 かろうじて動いてくれた右手で
 なんとか矢口の肩に触れることが出来た。

 その手はほとんど力はいってへんから
 いつもみたいに柔らかく除けられたらそれまで。


 けど、矢口はそうはせんかった。

322 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時43分49秒

 ゆっくり、優しく、アタシの手を取って
 大好きな矢口の頬に当ててくれた。


 そのまま間近で見つめ合って
 一息ついた。


 んで、次に矢口が言うた言葉がまた…。

 よくもまぁ…
 こんなことやってくれたもんやって感心するわ。


323 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時44分22秒



「反省した?」
「…は?」


 今日の裕ちゃん、いつも以上に悪乗りしてたから
 ちょっとは反省してもらおうと思ってさ。

 …って。


 イジワルそうなあの顔で、悪びれもせず。

324 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時45分08秒


 今のはつまり
 アタシに対するお仕置きやと?

 紗耶香やなっちの前であんな声出させるんが
 圭坊や後藤の前で感じた顔見せるんが。

 お仕置きでしたんやと。


 …はぁ……。

 メッチャ怖かったのに。
 そんなに怒らせたんやろうかって怖かったのに。


 なんやねんなぁ、もぉ…。


325 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時45分49秒


「…アホ…」
「………」


 いろんな感情を込めて言うたら
 矢口が動きを止めて何かを考えこんでしもた。


 …ヤバイ…かも。



「あ、あの、矢口…」
「裕ちゃん!」


 うえっ!?はい!


326 名前:中澤裕子 投稿日:2002年08月21日(水)01時46分29秒


「矢口、ちょっと気分悪いんだけど」


 え…?

 気分、悪いんやけど?


 ……本気で?



「うん♪」
「……」


 保健室ね…。トホホ。
327 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)01時48分32秒
続けて。
328 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)01時49分43秒

 ゆーちゃんとやぐっつぁんは
 多分保健室に行った。

 てゆーか、絶対に行った。


 やぐっつぁんの物足りなさそうな顔と
 ゆーちゃんの色っぽい声。

 それから連想できることなんて1つ。


 やぐっつぁん、ここ、学校だよ?


329 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)01時51分12秒


「ごっちん、裕ちゃんたちどこ行ったんだろ?」
「……なっち、可愛いねぇ」


 バカだとか言ったらゴトーが殺すよ?

 なっちはそんなこと
 考えも及ばない純粋な思考なんですぅ。

 だから、年齢に合わずにこんなに可愛いんですぅ。


 んでゴトーは
 こんななっちが大好きなんです!

330 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)01時52分37秒

 なっちって呼んだら
 可愛くなに?って答えてくれる。

 こんな可愛い反応してくれる人なんて
 そうそういない。

 だからなっちとゴトーはね
 運命的に出会ったって言うんだよ。

 はじめっから決まってたの。


 なっちの恋人はゴトーで
 ゴトーの恋人はなっち。
331 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)01時53分50秒

 初めてなっちと出会ったのは新入生歓迎会。
 通称新歓って言われてるやつ。


 その頃の生徒会長はカオだったんだけど
 副会長がなっちだったんだ。

 入学式で答辞をするのが生徒会長で
 新歓で答辞をするのが副会長。


 んで、ゴトーはその年の新歓の代表者。

 よくは知らないけど、なんでも入試で2番だったらしい。
 1番は確か…梨華ちゃんだっけ?

 ま、いいや。

332 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)01時55分42秒


 1つのマイクを挟んでゴトーとなっちは向かいっ側に立った。
 それから順々にマイクに近づいて言葉を言う。

 でも、そのときから
 ゴトーはなっちに惚れてました。


 マイクの前にたつときに
 どんな人なのかとか考えてなかったのに
 たった人を見た途端に、ゴトーの眠気は吹っ飛びました。

 代表だったこととか忘れて
 危うくなっちの名前とかきくところだった。

333 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)01時58分30秒


 実はゴトー
 代表の言葉を述べたときの記憶がない。

 目の前のなっちを見ながら
 とにかく何か言った。

 それを見てもなっちはなにも言わなかったから
 きっと大丈夫だったんだと思うけど。



『…副会長、安倍なつみさんからの…』


 ゴトーの耳はなっちの名前と
 その後のなっちの声しか聞いてなかった。

 やっぱり可愛い声だなぁとか思ったのは覚えてる。


 アベ ナツミさん。

 その頃は名前をどんな字で書くのかも知らなくて
 とにかく発音しかわからなかったんだ。


334 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時00分50秒


 ゴトーはその名前を頼りに全学年を回った。

 その甲斐あって、なっちはすぐに見つかった。
 ついでに知り合いも異様に増えたし。



『あれ、あなた、新入生の…確か、後藤真希さん?』


 あれ、嬉しかったんだぁ。

 なっちがゴトーの名前ちゃんと覚えててくれたこと。
 フルでしかも、漢字で知っててくれたこと。

 スゴイことだと思う。


 ゴトー絶対に覚えてない自信あるもん。

335 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時02分28秒

 だって、たかが新入生代表だよ?

 そんなのいちいち覚えてなんていられないし
 ましてや顔なんてムリだよぉ。


 特別、気に入ったりでもしない限りは。



 って言ったら
 なっちは顔を真っ赤にして俯いた。


 お?もしかして脈ありなんじゃん?

 真っ赤になっちゃってるし
 ちゃんと覚えててくれたんだもん。

 期待しちゃってもいいんじゃない?
336 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時04分34秒
  ◇ ◇ ◇
337 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時08分18秒

『ちょっとだけ、いいですか?』


 放課後。
 なっちの教室に行って捕まえた。

 今日は生徒会とかないのは調査済みだし
 もし予定があっても大丈夫なように
 ちょっとだけって言った。

 なっちはもちろん嫌がる風でもなく
 2つ返事でゴトーについてきてくれた。

338 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時09分54秒


 ちょっと校舎とかグランドとかから見えにくい場所で
 ゴトーはなっちに告白しました。

 そしたらなっちは
 真っ赤になって爆発しちゃった。


 フラフラになりながらくれた答えは
 ゴトーが満足するものじゃなかったけど。

 ま、それでもいいかって思ったから
 それいいですって言った。


 なっちはゴトーのことまだ知らないから
 友達からでもいい?ってきいた。

 ゴトーとしては付き合った方がいっぱいわかるのに
 とか思ったけどなっちがそうしたいって言うんならって。

339 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時12分39秒


 それから友達として、約3ヶ月。



『…ちゃんとお付き合い、する?』
『……する!するよ!』


 告白した場所で
 なっちから言ってきた。

 やっぱりなっちは可愛くて
 ついつい抱きしめちゃったので反省した。


 なっちは本当に純粋な娘だったから
 ゴトーが手を繋ぎりたいって思ってもなかなか。

 何かの拍子に繋いだ手を放さない。
 それくらいしかできない。

340 名前:回想@後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時16分13秒


 そんな調子だったから
 ゴトーは大変でした。

 キスするのにも2ヶ月かかったし
 Hなんて1年くらい待ったよ。



 あはっ、なっちってば可愛いかったんだよぉ♪
341 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時18分51秒

 今も可愛いけどねぇ♪


「なに?ごっちん」
「んー、なっち可愛い」


 思った通りを言って抱きついた。

 そしたらなっちは真っ赤になって焦ってた。


 なっち可愛い〜。

 ゴトー、なっちの為にお金ためてるんだよ?
 なっちの誕生日、8月10日の為に!


 今年はペアリングなんてどうですか?



「…ごっちんのくれるものはなら…」


 なんだって嬉しいよ。って。

 なっちは真っ赤になったままで
 ゴトーの腕の中で恥ずかしそうに言った。

 ゴトーはそんななっちが更に可愛く見えちゃって
 もっともっとしっかりと抱きしめた。

342 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月21日(水)02時19分56秒


 やぐっつぁん、ゆーちゃんも可愛いのは知ってるけど
 なっちの方が何十倍も可愛いよ♪

 でもやぐっつぁんはゆーちゃんで我慢してね。


 なっちはゴトーのなんで。
343 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)02時24分15秒
   終了
344 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)02時27分45秒
>289 影び さま

 >次の姐さん、楽しみにしてます。
 更新しましたけど読んでいただけましたか?
 ところで、もしかしてよくお世話になっている方では…?
345 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)02時30分38秒
>290 名無し読者 さま

 >なちごま好きなので
 今回はちょっと多めになってました。
 これからも出てくるので見てやって下さい。
346 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)02時31分49秒
大量更新でした。
347 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月21日(水)04時31分38秒
大量更新お疲れさまです。
初めてカキコしますが、
毎回、楽しみにして読んでますよ!
やぐちゅー好きなもんで、ヤターってカンジです。
がんばって下さいね。
348 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)13時18分19秒
   更新
349 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)13時19分17秒

「姐さーん、頼まれてた資料…」


 ……おらんやんか。


 あたしが姐さんに帰ってこいって言われたので
 部室に帰ったら。

 その命令をした張本人が姿形もなかった。

 姐さんが言うからって思って
 帰って来たのに。


 あたしの努力は水の泡ですか。

350 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時21分20秒


「裕ちゃんなら矢口に連れていかれたけど」


 やぐっちゃん?
 なんや、やぐっちゃん来てたんや。


 あたしはちょっと渡すもんがあったから
 姐さんのケイタイに電話しようと思った。

 そこで、ある過去のことがよみがえった。

 ので、あたしは同じ過ちを繰り返さんためにも
 そこにいた娘らにちょっと訊いてみた。



「姐さんら、どこ行ったん?」
「保健室。あ、でも…」


 行かない方がいいかも。

 居場所を伝えたらあたしが行くと思ったらしく
 後藤は親切にそんなことを言った。

351 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時24分44秒


 心配いらんで、ごっちん。

 その状況でのやぐっちゃんがどれほど怖いか
 過去に失敗やらかしたあたしならわかってるから。


 って、あれ?

 なんでごっちん、そんなこと知ってんの?
 姐さん、極一部を除いて言うてないはずやで?



「やぐっつぁん、怒ると怖いみたいだね」


 …あぁ、なんとなくわかったで。

 やぐっちゃん、久しぶりにキレたんや?
 んで、勢いそのままにバラしてしもたと。


 姐さんだらしなぁ。
 ヘタレなところはかわってへんのな。


 きっと、一生、治らんやろうけど。


352 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時27分14秒


 渡すもんあるけど姐さんはおらんし。
 渡しに行きたくても行ったら怖いし。

 そうなると
 あたしはどないしたらええん?ってことや。


 暫く困って考えこんでんけど。

 明日は土曜日で学園自体はないし
 姐さんらのこと後藤らは知ってるし。


 当然なんやかんや話したなるやん?

 思った通りやけど、年頃の娘らがおるんやし
 あたしが知ってるってわかったら
 楽しそうに近づいて来た。

 んであたしも
 たまにはそんな話してみたい。

353 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時29分11秒


 ってことで、姐さんとやぐっちゃん肴に
 久しぶりに恋愛話をしてみた。



「姐さんに相談されたときはビックリしてんでぇ」
「そらそーだろーなー」


 あたしは姐さんとやぐっちゃんのことは
 ほとんど知ってる。

 なにせ姐さんがあんなんやから
 相談されまくってたんやもん。

 知りたくもないことまで全部
 知り尽くしてますとも。

354 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時31分31秒


 やぐっちゃんの話するときの姐さんがなぁ
 メチャメチャ嬉しそうで
 可愛いーてしゃーないねんで。

 その後あたしのことバシバシ叩くねんで。
 自分の照れ隠しのために。

 痛いけど
 なんやこっちまで嬉しいなるやん?


 んで、やぐっちゃんが初めて家に来るときなんか
 その日の朝から、メールにずっと付き合ってたし…。

 緊張するんはわかるねんけど
 朝の7時からはさすがにやめてほしいやん。

 あたしかって予定とかあってもおかしないねんから。


 それからもデートのたびに
 いらんノロケ聞かされてなぁ。

 あたしに対しての当てつけなんか無意識なんか知らんけど
 …無意識なんやろうけど、それでもムカツクやん。

355 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時35分22秒

 んで、1回なんで毎度毎度あたしに言うんです?
 ってきいたんや。

 そしたら姐さん、ちょっと俯き加減で
 誰かに聞いてほしいねんもんって言いはんねんで。


 そんなん、可愛すぎて反論できんっちゅーねん。



「わかる!いちーその気持ちわかる!」
「やろ!?姐さんは無意識にそんなんやりすぎやねん!」


 やからやぐっちゃんは
 我慢するのに苦労してはるし
 なんの気もない相手から誤解されたりするんや。

 それで何回やぐっちゃんが怒ったことか…。


 姐さんと違うけど
 キレたやぐっちゃんは怖いと思う。
356 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時38分36秒

 姐さんが怒られてるところ見たことあるけど
 あれはもう、マジに怖かったもん。


 やぐっちゃん怒らすんだけは
 止めようって誓ったもん。


 そう言ったらさっきよりも激しく賛同した紗耶香。

 それを見てごっちんらがちょっとため息ついてる。
 んで、その中でも一番関係ある人が人こと毒づいた。



「紗耶香は手が早過ぎるのよ」


 …いやいや圭ちゃん
 そんな他人事みたいに。

357 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時41分22秒


 その困りモンはあんたの恋人さんやんか。
 何気に姐さんらよりも長いし。

 だいたい圭ちゃんの話かって同じやん。


 あたしに相談してきたかと思ったら
 アドバイスとか全然聞いてへんかったし。

 ちゅーか
 紗耶香がストレート過ぎてんけど。


 なんや、自分らのところはほとんど事後報告やったなぁ。
 ○○しちゃったんだけど!とかって。

 そんなん知るか!って思ったの覚えてるわ。



「そーだったんだ?」
「…うるさいわよ」


 楽しそうに圭ちゃんの方を見る3人。

 ここにいる人は圭ちゃんと紗耶香のことを知ってるし
 それについてからかうのが好きな連中や。
358 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時42分48秒

 ま、圭ちゃん
 今日は運が悪かったと思って。

 ごっちんと紗耶香のおもちゃになってまい。


 無責任なことを思いながらなっちと遠巻きに見てたら
 ただでは転ばない圭ちゃんだけあって、逃げた。



「それよりみっちゃん、これってなんなの?」


 圭ちゃんはあたしがだいぶ持ってきた
 大き目の封筒を手にした。

 そんなん今言う必要なんてなかったんやし
 なにより、さっきまでなんの興味もなさそうやった。


 圭ちゃん、逃げるんはアカンで。
 諦めて我慢しなさいな。


 すぐに紗耶香かごっちんがそう言うだろうと思ってたのに
 その2人は別のことに興味がいってしまったらしい。

 その、封筒の中身に。


359 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時45分37秒


「これってさ、今、学園内で話題のやつ?」
「裕ちゃんが調べてるってゆー、あれ?」


 アカンやん、姐さん。
 めっちゃバレてるし。


 今、生徒たちの間でちょっとした話題になってるのは
 姐さんがこの学園の七不思議を探してるっちゅーやつや。

 確かにその通りや。
 んで、この中身についても当たりや。


 けどなぁ、これ
 姐さんに口止めされてるねん。

 そんなん生徒たちにバレて30年前の二の舞はアカンって
 真剣に言われたらこっちも真剣になるやんか。


 けど、今の2人の口調やと
 ほとんどの生徒は知ってるなぁ。


360 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時47分25秒

「ねね、見てもいい?」
「…アカンて言うてきくんか?」


 ききませーん。
 って嬉そうに紗耶香が言った。

 紗耶香を知ってるあたしと圭ちゃんは
 はぁ、って2人してため息ついてしまう。


 これであたし
 姐さんに説教くらうんやろなぁ。

 けど、もとはといえば圭ちゃんが悪いんやん。
 あたしだけ怒られるんは納得いかんわ。



「…仕方ないか」


 姐さん怖いねんでって言うたら
 圭ちゃんはため息混じりにそう答えた。


 自分、ものわかりよ過ぎやで。

 もうちょっと頑張ろうや。
 あたしも一緒に頑張るから。


 姐さんに怒られんの、ホンマにいややねんて。
361 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時49分09秒


 そんなことをあたしが力説したって
 圭ちゃんの意見が変わることなんてなくて。

 あたしも諦めたわ。もう。



「……ねぇ、これって…」
「…ゆーちゃんたち、ヤバイんじゃない?」


 圭ちゃんと2人で今朝の職員会議のこと話してたら
 封筒を開けてギャアギャア騒いでたごっちんと紗耶香が
 急に真面目な顔でアタシらの前に1枚の紙を差し出してきた。

 それは、あたしが調べてきた
 七不思議の3つの内の1つ。

362 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月21日(水)13時50分30秒


 あたしたちはその題名と内容を見た途端
 血の気が引くのを感じた。

 それとともに
 昔の嫌な思い出がよみがえってくるのも。


363 名前:七不思議〜2〜 投稿日:2002年08月21日(水)13時54分55秒
   真夜中の校舎
364 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)13時57分58秒

 日が沈み騒がしかった学園にも
 夕刻と言う静寂やってくる。

 昼や朝の学園の主役が生徒と教師なら
 夜の学園を仕切っているのはきっとこの人であろう。

 彼は絶対下校を告げる鐘の音と共に
 その活動を開始する。
365 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)13時58分47秒

『あ…』


 仲良しグループがいつものように一緒に帰っているとき
 その中の1人が忘れ物に気づいた。

 その生徒は他の生徒に一言、先に帰っててと言って
 今、歩いてきたばかりの道を引き返そうとした。

 すると、その生徒と仲のよい1人が声をかけた。


 私も一緒に行ってあげるよ、と。


 生徒はありがとうと告げると
 2人で引き返して行った。



『ねぇ、用務員さんにカギとか借りないと…』


 学園に着いてすぐ
 片方の生徒がそんなことを言った。

 それに他方の生徒もそうだね、と頷き
 生徒たちは普段は行くことのない用務員室に足を向けた。

366 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)13時59分32秒

 暫く歩いては来たのだが
 目的の用務員室はなかなか見つからない。

 ほとんど行ったことのない場所と言うことで
 2人は自分たちが間違ってしまったんだと思った。

 時刻はすでに夜の8時。

 誰もいなくなった学園の廊下には
 自分たちが歩く靴音しか聞こえてこない。

 そのため2人は少しばかり怖くなって
 急いで正面玄関にある案内図まで行こうとした。


 そのとき…。



『……ね…今、変な音しなかった…?』


 その生徒は更に
 たぶん、人の話し声だと思うけどと続けた。

367 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時00分29秒


 二人は懸命に耳を澄まし
 その音を聞こうと試みた。

 しかし、その音は聞こえてくることはなかった。

 生徒たちは怖さと安堵の両方がこみ上げてきて
 とてもじゃないがその場にいられないと歩き始めた。


 忘れ物をした生徒が明日でもかまわないからと言うので
 2人は家路に着いた。


 が、2人が案内図を通り過ぎようとしたそのとき。

 1人が少しばかり気になっていた用務員室の場所を
 どうせだから確認しようと言い出した。

 あまり賛同はできなかったが
 それくらいならと2人は案内図の前で立ち止まった。

368 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時01分06秒

 2人が確認した用務員室の場所。

 それは正面玄関を入ってすぐ
 事務局の隣に位置していることがわかった。


 つまり、今の2人から見てすぐ右の方向に。



『…え?』

369 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時01分42秒


 生徒たちがその方向に目を向けると
 さっきまではなかったと思われる光が
 闇の中で廊下に注がれているのが目に入った。

 生徒たちはそれを不思議に思いながらも
 もしもいるなら忘れ物を取りに行こうと思い近づいた。


 もう少しで用務員室の中が見えるところまで来たが…。


 中を覗こうとする前に
 生徒たちは後ろから声を掛けられた。



『どうかしたのかい?』


 驚いて振りかえった生徒たちの前には
 何度か学園でみたことのあるおじさん…用務員さんがいた。


 途端、2人は緊張していたものが一気に緩み
 その場にしゃがみ込みそうになった。

 それを見て、彼は更に困惑するだけだった。

370 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時02分12秒


 暫くして余裕を取り戻した2人は
 忘れ物を…と彼に告げた。

 彼はそれを聞いて快くカギを渡してくれた。


 誰かがいる事でここまで安心できることを実感しながら
 生徒たちは教室に向かい、無事に忘れ物を取り帰ってきた。

 カギを用務員さんに返し
 生徒たちは今度こそ家路に着いた。



 しかし。


 そこで不思議なことが起こった。


371 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時03分06秒


『…あれ?』


 用務員室を出てすぐの角を曲がれば
 そこには正面玄関があるはずだったのだ。

 だが、角を曲がった2人の前に現れたのは
 いつも見る教室前の廊下だった。


 そんなはずない。

 生徒たちはそう思い引き返した。
 すると……。


 先程まであったはずの案内図も
 明りを灯していたはずの用務員室も。

 全てはそこには存在しなかった。

 あるのは先程からよく見ている
 いつもと同じ教室前の廊下だけだ。

372 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時04分12秒


 安心感が吹き飛び、恐怖感が襲ってくる。

 生徒たちはなんとか自分たちを落ちつけようと
 とにかく動こうと決めた。


 ここは学園なのだから
 歩いていけばいつかは外に出られる。

 生徒たちはなんとかそう考えて
 正面玄関があるはずの廊下を進んだ。

 進んで進んで…。


 やっとたどり着いた先にあるのは
 ……用務員室の明かり。


373 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時05分06秒


『おや、どうしたんだい?』


 先程と同じように
 用務員さんが話し掛けてくる。


 生徒たちは自分たちの身に起きたことを
 包み隠さずに話した。

 すると、用務員さんは
 暗いから間違えたんだろうと笑った。

 その笑顔に再度安心感が訪れた2人だったが
 彼に教えられた通りに進んでも出られないことで怖さが募る。


 何度行っても、いくら歩いても。

 現れるのは先が見えないくらいに続く廊下と
 その両脇にある数え切れないくらいの教室だけ。


 それと……あの、用務員室。

374 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時05分36秒


 もう何度目かわからなくなった問いかけで
 用務員さんは1つ、ため息をついた。

 そして、いつもと同じ笑顔で言った。


375 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時06分12秒



『君たちはこの学園が好きなんだね』


376 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時06分58秒


 なら、ずっとここにいればいいよ。

 そう彼の口が動いたかと思うと
 その奥から誰か出て来た。


 彼らは全員、この制服を着ていた。

 この学園のものを着ている生徒もいるが
 中には他校のものを着ている生徒もいる。

 しかし、共通していることがある。

377 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時07分35秒


 みな、生きてなどいないのだ。



『…夜の学園へようこそ』


 彼らが楽しそうにそう言った。
378 名前:真夜中の校舎 投稿日:2002年08月21日(水)14時08分08秒

 夜の学園には昼とはことなる世界がある。

 そこには学校に行きたくても行けなかった生徒たちが
 同窓会のよう集まるという。


 そしてその生徒たちの数は増えている。


 いつもと同じ用務員さん。
 いつもと同じ生徒たち。

 でも…。


 彼らは本当に
 同じ世界の人間なのでしょうか。

 私たちの世界に
 入り込んでしまっただけなのではないでしょうか。


 その真実はわかりませんが
 注意して下さい。


 無限に続く廊下の先に在る、別の世界に…。


379 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)14時10分36秒
>347 名無し読者 さま

 >やぐちゅー好きなもんで、ヤターってカンジです。
 すいません、長い間CPを隠してきてしまって(w
 やっと矢口さんがキレてくれたんでよかったです←日本語おかしいです。
380 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月21日(水)14時13分05秒

 裕ちゃんは全然わかってない。

 自分がどんだけフェロモン撒き散らしてるのかを。
 それに一体何人が反応してるのかも。


 さっきの紗耶香の目とか見たのかよ?

 あれはマジに裕ちゃんを襲おうとしてる獣だったぞぉ。
 本気で押し倒されるかもって焦ったんだからなぁ。



「あの…矢口…」


 もうそろそろ演劇部の部室を抜け出してきて15分くらい。
 矢口に引きずられてる裕ちゃんがなんか言ってる。

 多分、10分くらい前からずっと。

381 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月21日(水)14時15分17秒


 でも、矢口はそれをムシしながら進んでる。

 矢口たちの“愛の巣はあとはあと”までの道のりを。



「ど、どこまで行くん…?」


 ん?どこまでって保健室までじゃん。


 学園でそーゆーことに使えるのって保健室だけだし
 部室から一番近いところにあるから楽じゃん。


 それにほら、前に1回、使ったし。

382 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月21日(水)14時18分13秒


 あの時のことはあんまり覚えてないんだけど
 妙に興奮してたことは頭に残ってるんだよねぇ。

 なんか、へんなカンジなんだけど楽しかったし。

 いつもと違う場所でしたってのがよかったのか
 いつも以上に裕ちゃんが可愛かったのがよかったのか…。

 とにかく頭が真っ白になるくらいに
 すごく熱中しちゃった♪


 だから、たま〜に裕ちゃんを誘うんだけど
 なかなか応えてくれなかったんだよねぇ。

 恥ずかしいし
 やっぱり気が引けるってことなんだけど。

 矢口はそれじゃあ納得いかないんで。

 矢口の要求にしたがってくれなかった罰ってことで
 その週末はちょっとお仕置きっぽく…はあとはあと


 ってことで、保健室に誘うってことは
 =今週末は覚悟してねってことなんだよね。

 てか、ほとんど毎週だけど♪


383 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月21日(水)14時20分26秒



「……」
「矢口?」

 おっかしい。
 なんでだよ。


 さっきからおかしいとは思ってるんだけど
 なんで……保健室がないんだよ。

 保健室は部室を出てすぐの渡り廊下を過ぎて
 それからすぐの階段を降りたらあるんだけど…。


 渡り廊下は渡った。
 階段は1階までちゃんと降りた。

 でも、なんでか保健室はない。

 あるのはずっと先まで続いてる廊下だけ。
 それと、その脇にある見慣れた教室。


 ただ、廊下はやたらと長いし
 教室は異様に多いけど。



「…矢口、帰ろう?」
「……その方がいい気がする」

384 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月21日(水)14時22分01秒


 矢口が裕ちゃんの意見に従うのって珍しいんだけど
 それでも今はそうする方がいいみたい。


 だって、なんだよ、この廊下。

 廊下だけじゃなくて
 教室も蛍光灯も。

 その他
 学園内の何もかもがきっとおかしい。


 こんな状態の夜の学校とかだと
 普通ならもっと焦ったり怖がったりするんだろうけど…。



「や、やぐちぃ…」
「…大丈夫だから」


 この人、泣いちゃいそうだし。

385 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月21日(水)14時24分28秒


 しゃーない、今日は諦めますか。
 でも、今週末は思う存分に…。

 そのくらいは許してね〜裕ちゃん♪



「…なに?」


 ビクビクしてる裕ちゃんの手をちょっと強めに握ったら
 怖がりながらもちゃんと矢口を見てくれる。

 そんな裕ちゃんが可愛くってキスした。

 そしたら矢口の突然の行動に
 裕ちゃんは思いっきり焦ってた。


 それがまた可愛くて…。

 なんでこんな時に保健室が見つからないかなぁ。
 矢口ってばついてないなぁ。

 日頃の行いはいいはずなのに。


386 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月21日(水)14時25分39秒

「…あれでか…?」
「…なんか言った?」


 裕ちゃんが呟いた一言を
 矢口は聞き逃しませんでしたよ?

 そんなこと言っていいんだ?
 それって自爆してるって知ってる?


 それなりに
 お仕置きさせていただきますよぉ?



「………」
「覚悟しといてねはあとはあと
387 名前:矢口真里 投稿日:2002年08月21日(水)14時27分00秒

「…あれでか…?」
「…なんか言った?」


 裕ちゃんが呟いた一言を
 矢口は聞き逃しませんでしたよ?

 そんなこと言っていいんだ?
 それって自爆してるって知ってる?


 それなりに
 お仕置きさせていただきますよぉ?



「………」
「覚悟しといてねはあとはあと
388 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)14時28分27秒
   終了
389 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)14時29分44秒
最近はレスが多くていいですねぇ。
390 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月21日(水)14時30分49秒
ではまた夜に。
391 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月21日(水)17時35分54秒
素晴らしい更新ペースに感服いたします。

しかし、ヘタレ裕子をリードする矢口がたまへんなぁ〜。
392 名前:ゆうちゃーぁぁん 投稿日:2002年08月21日(水)23時15分08秒
裕ちゃん最高。へたれでも最高。
更新早くて、掲示板のぞくのが楽しみです。
386,387は2重投稿ですか?
385から、話しがとんでいるようなのですが?
393 名前:ゆうちゃーぁぁん 投稿日:2002年08月21日(水)23時21分02秒
作者さま、掲示板4回目とのことで、
よろしければ前スレを教えていただきたいのですが?
裕ちゃんが活躍していれば、読みたいので
394 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)01時04分45秒
   更新
395 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時06分52秒

「たっだいま〜♪」
「姐さん!やぐっちゃん!」


 よ、よかったぁ……。


 あたしを含めて
 そこにいた5人は口々にそう言った。

 あれから七不思議を呼んだ5人が絶句したのは当然やけど
 助けにも行かれへんってことで動けへんかったんや。

 紗耶香なんか行きたくて仕方なかったみたいやけど
 圭ちゃんがなんとか抑えといてくれてた。

 あたしも行こうとしたら止められたし。

396 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時08分00秒


 そんな状態やから
 誰もどうしようもなかった。

 んで、半ばもうムリかって泣きが入ってた時に
 幸運にも部室の扉はもう一度、開かれた。


 その後すぐに姐さんとやぐっちゃんが入ってきた。
 その時のみんなの力の抜けようて言うたら…。


 ホンマ、心配したんやで…。


397 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時09分10秒

「矢口〜!」
「なんだよぉ?」


 トコトコ入って来たやぐっちゃんに
 紗耶香が飛びついてる。

 それに触発されるように
 なっちとごっちんも。

 圭ちゃんはさすがに姐さんに駆け寄ってた。


 ちょっとの間、2人は久しぶりに返ってきた人みたいに
 かなり手荒い歓迎にも理解不明ながら笑顔で応えてた。

398 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時11分28秒


 ごっちんらがやっと一息ついてくれて
 開放された姐さんとやぐっちゃんは
 それぞれいつもの場所で休憩し始めた。

 やぐっちゃんは紗耶香たちと。
 姐さんはあたしと。



「おかえりなさい」
「…ホンマやわ」


 はは…さすがに姐さんは気づいてはるんや。


 夜のこの学園がおかしいことも
 それが多分、七不思議関連やってことも。

 そして、いやなことに。


 あたしらはもう
 ちょっと危ないところまで来てるってことにも。


399 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時12分52秒


「あっと、姐さん。これ」
「ん?…あぁ、ありがとう」


 あたしは姐さんに
 持ってきた資料を渡す。


 元々はこれを渡すためだけにきたんやけど
 どうも今の校舎には入らん方がよさそうやし。

 ここで姐さんたちと一緒おろ。

 危ないってわかってて行くほど
 あたしは好奇心旺盛の子供と違うし。


 なにより
 渡り廊下の向こうの空気はアカンわ。

 あんなん吸ったら
 死んでまうっちゅーの。


 って、おぉ。

 そしたら姐さん
 メッチャ頑張りはったんやなぁ。

400 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時15分05秒


 あたしなんかよりも
 ずっとそーゆーことには敏感な姐さん。

 いつものことながら
 その忍耐力には尊敬の念さえ抱く。

 この人やったら
 ついて行っても安心やって思わしてくれるからな。



「“真夜中の校舎”…」
「たぶん、姐さんらが捕まったんはそれですね」
401 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時17分26秒

 それを姐さんが読んでるのを隣で見ながら
 あたしはちょっと不思議に思ったことを訊いてみた。



「姐さん、どないして逃げてきたんですか?」


 伝わってる話の通りやと
 なかなか逃げきれるもんと違うと思う。

 したら当然
 どないしてそうなったんか気になる。


 あたしの質問に姐さんはアホかって。


 …アホって…。

 普通、不思議やなぁって思うことを訊いただけやのに
 なんでアホ扱いされんといかんのですか。


402 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時19分08秒


「アホやから」


 姐さん、いくらあたしでも凹むから。


 あたしがなんと言ってようが姐さんには関係ないけど
 ちゃんと質問には答えてくれるらしく。

 他の七不思議を読みながら
 ぼそっと呟いた。



「護符や。階段に護符をはったんや」


 護符?あれを階段に?

403 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時20分56秒

 姐さんの話によると。

 渡り廊下を渡って
 向こうの校舎に入ったときから
 明らかにヤバイ空気を感じたんやって。

 やから、危ない事になってもなんとかなるようにって
 早めに保険をかけといたんや。


 つまり、逃げ道を作っておいたってこと。


 やぐっちゃんにバレんようにして
 階段に念を込めた護符を貼っといた。

 そしたらそこは
 どんだけ離れててもある程度はわかるから。

 変な空間とかわけわからん状況とかになっても
 なんとかなる。


 逃げ道さえあったら安心できるやろ?って。

 弱いんか強いんかようわからん言葉やったけど
 冷静に判断してそんだけできる姐さんが
 あたしはスゴイと思った。


404 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)01時23分09秒


「ホンマ、よかったわ」


 姐さんとやぐっちゃんが
 無事に帰って来てくれて。


 帰ってこんかったら
 あたしが調べた資料がムダやん。


 あたしがそう言ったら
 姐さんはそっちかい!って突っ込んだ。

 ご丁寧に手に持ってる資料の束で
 パシッて叩いてくれたし。

 でも、そんな姐さんがいるのがこないに安心できるやなんて
 あたしも大概アホかもしれんへんわ。
405 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)01時26分58秒
>読んでる人@ヤグヲタ さま

 >しかし、ヘタレ裕子をリードする矢口がたまへんなぁ〜。
 うちの基本がいつの間にか下克上CPになってしまったので…。
 もとは裕ちゃん攻が基本だったんですけどねぇ。
406 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)01時31分52秒
>392 ゆうちゃーぁぁん さま

 >386、387は2重投稿ですか?
 2重投稿は認めます。すみませんでした(ペコペコ)

>385から、話しがとんでいるようなのですが?
 しかし、話がとんでいることはありません。
 矢口さんの呟きに姐さんがツッコミを入れたってことです。
 わかりにくい表現や書き方で申し訳ありません。
407 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)01時37分17秒
>ゆうちゃーぁぁん さま

 >よろしければ前スレを教えていただきたいのですが?
 えぇっと…それはメルアドで。
 できがアレで恥ずかしいので公表できません!
408 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)01時38分12秒
ちょちょいと。
409 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)01時39分47秒

 さっきから気分が悪い。

 家庭科室から帰って来たときは普通だったのに
 なんでかわかんないけど、気持ち悪い。


 てゆーか多分
 ゆーちゃんのせいだと思うけど。



「…睨むなごっちん」


 アタシかってツライんやから。


 どうにかしてよって思ってゆーちゃんを見てたら
 目が合ったゆーちゃんはそう言った。

 顔色はかなり青ざめてて
 ツライって言葉を強調してた。

410 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)01時42分02秒


 知ってるよぉ。
 知ってるけどさぁ。

 ゴトーが思うに
 この状況ってかなり危なくない?

 さっきから感じてる気持ち悪さが上がるのと比例して
 どんどん増えてきてる気がする。



「わかってる」


 真剣な顔でゆーちゃんがそう言った後
 へーけ先生が持ってきた資料を持ってこっちに来た。

 んでそれを
 ゴトーに差し出した。


 読めってこと?

 その話なら読んだよ。
 ゴトーもなっちも、いちーちゃんもけーちゃんも。

 それの前にあるあの話を読んだ後
 ゆーちゃんたちが危ないって思って
 それなりにどうしようか悩んだっての。


 なんにもできなかったけど…。


411 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)01時44分01秒


「読んだんか?ほな、ちょっとみんな集まって…」


 ゆーちゃんがみんなを呼んだ。

 それから楽な体制でいいから聞いてって言って
 へーけ先生が持ってきたのとは違う七不思議を話すって。


 それってどーゆーここと?

 ゴトーたち
 それ聞かなきゃいけないの?

 なんで?

 気になるけど
 この状況だとあんまりさぁ…。



「ごっちんとみっちゃんは気づいてると思うけど…」


 ちょっとアタシら
 ヤバイところにいる。
412 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)01時45分59秒


 ゆーちゃんが言ったその一言で
 ゴトーとへーけ先生意外は固まる。


 うん、気づいてはいるんだけどね。

 それを認めたくないって言うかさぁ…
 信じたくないって言うかさぁ…。

 だってほら
 ゆーちゃんが危ないって感じてるのって
 さっきから近づいてきてる、嫌なモノでしょ。


 ゴトーたちが感じてるそれはきっと
 ゴトーたちの存在を知って動き始めた。

 気づかなくてもよかったのにさ。


 んで、その正体がわかる話をゆーちゃんは知ってる。
 多分ゆーちゃんが調べた七不思議の中にあるんだ。

413 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)01時47分43秒


 おほんって咳払いしてから話し始めた。

 予想通りゴトーたちの知らない話を。
 その口調は少しだけ焦りを感じていた。

 本当はへーけ先生の話の他に2つあるんだって言ったけど
 今は話してる時間がないから後でなって。

 1つだけ話してくれた。


 だって、仕方ない。

 どんどん近づいてくるこの気配に
 焦りを感じない方がどうかしてるもん。
414 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)01時50分07秒
七不思議もそろそろ半分。
415 名前:七不思議〜3〜 投稿日:2002年08月22日(木)01時51分30秒
    美術室の怨霊
416 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時52分39秒

 昔、絵画の才能にとても恵まれた
 1人の生徒がいた。

 その生徒は当然のように
 画家になることを将来の夢とし。

 毎日、遅くまで美術室で居残りをしながら絵を描いていた。
417 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時53分18秒
 夏休みに入って間もなく
 コンクールを控えていたその生徒は
 いつものように美術室で出展する絵を描いていた。


 そんなある日、事件は起こった。



 普段なら教師がついて居残りをしているのだが
 その日は担当の顧問、及びその他の教師も仕事があり
 どうしてもその生徒についていることが出来なかったのだ。

 だが、その生徒はそんなこと気にするでもなく



『大丈夫です』


 と、一言だけ言って美術室に入っていった。
418 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時53分48秒

 それから暫くはいつものように
 筆を走らせていた生徒だったのだが
 期末考査のすぐ後だったこともあり睡魔に負けたのだ。


 次にその生徒が目を覚ましたときはすでに夜。
 残っているのはどうやら自分だけらしい。



『帰らないと』


 そう呟いて
 生徒が道具などを片付け始めたときだった。

 ガタッ、と。

 美術室の片隅で
 不自然な音がした。

 その音は静まり返った美術室の中を簡単にすり抜け
 生徒の耳に鮮明に届いた。

419 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時54分23秒


『誰?』


 生徒は問いかけた。
 しかし、返事はない。


 真っ暗な美術室。
 照らしているのは月明かりのみ。


 そこで初めて
 生徒は美術室に対して恐怖を思った。

 ここにいるのは自分だけのはず。
 自分意外がいることは、今日はないはずなのだ。


 しかし、月明かりは無常にも生徒ではない
 別の誰かを照らした。



『誰なの…?』

420 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時55分05秒


 生徒は動かない。いや、動けない。

 その影はなにも言わぬまま生徒に近づいていく。
 やがてそれは、見たくもない人の姿を形成していった。


 生徒の額に汗が流れる。

 夏の暑さでのものではなく、恐怖からのもの。


421 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時55分51秒


『…なに?一体、なんなの…?』


 影は相変わらずなにも言わない。
 生徒ももう、なにも言えなくなってしまった。

 その生徒の“言葉”をきいたのは
 それが最後になってしまった。


 影はその手に携えた鋭いモノで
 生徒を真上から真っ二つにしようとしたのだ。

 生徒は悲鳴を上げながら学園中を逃げ回った。


 けれども、影は追いついた。
422 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時56分26秒

 美術が得意なその生徒は
 お約束のように運動は苦手。

 掴るのに、さほど時間は掛からなかった。

 それでも生徒はなんとか腕を振り払って逃げた。

 逃げて、逃げて、逃げて…。


 学園の外まで逃げて
 これで助かったと思った。

423 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時57分01秒


  『捕まえたよぉ…』


424 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時57分45秒


 その不気味な声に後ろを振り返った生徒。

 目の前にはさっきの影。


 生徒が何か言うよりも早く
 影は腕を振り下ろした。



『…っい…っいやぁぁああぁああ!!!』


 飛び散る液体と共に
 ボトッと音を立てて何かが落ちた。

 暗くて黒く見える血液の中に浮かぶ、それ。


 紛れもなく、その生徒の腕だ。


 その生徒にとっては何よりも大切だったその腕。
 将来を誓い合ったその腕は、無残にも、路に転がった。

425 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時59分19秒

 影はそんな生徒の反応を見て
 楽しそうに笑った。



『う…わぁ……』


 将来の夢を消され、尚、今だに恐怖の中にいる生徒。
 生徒の目には、すでに光はなくなっている。


 生徒は肘から先のない腕を動かして
 影を捕まえようとした。

 影がそれに素直に従うはずもなく、かわす。

 掴りどころをなくした生徒の身体は
 そのまま道路に向かってよろよろと歩いていく。



 そして…


 その生徒は運悪く
 通りがかった車に跳ねられて亡くなった。


 その後、その事件は通り魔事件として警察が捜査し
 その生徒の腕を落とした影、つまり犯人は、呆気なく捕まった。

426 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)01時59分52秒


 しかし、そこで1つ
 不思議なことが起こったのだ。

 どれだけ探しても
 切り落とされた生徒の腕が見つからないのだ。

 路はもちろんのこと
 跳ねた車の下。

 犯人が持って行ったのかもと
 問い詰めたが違う。

 全力をあげて探したのだが
 どうしても見つからず時は流れた。


 警察とてそれほどヒマなわけでもないし
 犯人はもう捕まっているのだから長居はしない。

 結局、生徒の腕は見つからずじまいで
 その事件は幕を閉じた。



 経緯を知っているものからすれば、2つの謎を残して。
427 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)02時01分08秒

 なぜか見つからなかった
 その生徒の大切な腕。

 なぜか美術室から続いていた
 その生徒の血。


 どうしてでしょうか?
 生徒は無傷で学園を抜け出したのに…?


428 名前:美術室の怨霊 投稿日:2002年08月22日(木)02時01分41秒


 それ以来、その生徒がなくなった日、13日の金曜日になると
 美術室からその生徒が抜け出してきて
 学園内の人の腕を刈るんだとか。


 『違う…違う…』と呟きながら…。
429 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)02時04分37秒
「……どーゆー…こと…?」


 やぐっつぁんが戸惑いながら訊いた。


 それに、ゆーちゃんは答えた。

 やぐっつぁんが訊いた謎のこと。
 ただ、ちゃんとわかってるのは1つもないけど。



「つまり…」

430 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)02時06分06秒


 生徒の気持ちがあまりにも強過ぎて
 腕だけでも描きたいって…。


 だからその生徒の血は

 『美術室から続いてた』やなくて
 『美術室まで続いてた』なんやろうってこと。



「うっそ…」


 それを聞いて
 いちーちゃんが真っ青になって呟く。

431 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)02時07分49秒


 普通はおかしいって思うんだろうけど
 ゴトーはゆーちゃんの意見に賛成。

 多分その考えで
 全部があってると思う。


 事態を理解してるゴトーとへーけ先生の目が合った。
 2人して苦笑いしてしまった。



「んで、残念やねんけどもひとつお知らせや」


 あ、それ言っちゃうんだ。

 いいのかなぁ、それ言っちゃっても。
 絶対に混乱するよ、みんな。


 …でもあれか。
 言わないなら言わないで怖いか。

432 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)02時09分18秒


 どうやらへーけ先生もそう思ったらしく
 ゴトーと同じようにゆーちゃんに任せてた。



「…ケイタイの日付、見てみぃ」


 単刀直入に話すんだと思ってたのに
 ゆーちゃんは全然関係なさそうなことを言った。


 けど、関係ありだったね。

433 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)02時10分57秒


 今日の日付。8月2日、金曜日。

 今日は正しくはそれ。正しくはね。


 でも、ゴトーのケイタイの日付がおかしい。

 ううん、日付だけじゃなくて、全部がおかしいよ。



「……13日(金)…」


 それなら1年の間に何回かはあるよ。

 でもさ、今日は本当なら2日(金)なわけ。
 それにさ、もっと変なことも起こってるし…。



「…なんで…これだけしかないの…」


 そうだよね、やぐっつぁん。
434 名前:後藤真希 投稿日:2002年08月22日(木)02時13分25秒


 ゴトーのケイタイには
 それだけしか表示されてなかった。

 13日(金)って、たったそれだけ。


 普通に考えてみてよ。
 そんなことあるわけないじゃん。

 待ち受け画面もなくなって
 時間も月もなんにもなしになってる。

 ただ真っ黒の画面に白字で
 13日(金)って。


 さーてと。
 これからどーすんのさ、ゆーちゃん。

435 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)02時15分15秒
   終了
436 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)02時15分51秒
夜に更新は怖い。
437 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)02時16分55秒
でも約束は守る。
438 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月22日(木)10時14分48秒
次はヘタレじゃない裕ちゃんが見れそうですね。
その時の矢口の反応が気になる・・・やっぱり惚れ直すのかな?
439 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)13時48分49秒
   更新
440 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)13時51分31秒

「見てわかるように、普通の状態やない」


 知ってますとも。


 あたしは姐さんが話をしてるのを聞きながら
 半分、意識は別のことに向けられていた。

 さっきから感じてる気配。

 それは後藤も気づいてるらしく
 チラチラと部室の扉を気にしてる。

 まぁ正しくは
 その先から来る嫌な感覚のモノを。


 皆に正しく状態を理解してもらおうとしてる姐さんには
 非常に申し訳ないとは思うんやけど…。

 あたしは危機感を感じてた。


 そろそろ、動きはじめんといかんで、これ。

441 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)13時53分07秒

 そう思って立ちあがったあたしに
 後藤が声をかけてきた。

 後藤もあたしと同じ考えらしい。



「…へーけ先生…」
「…後藤、ちょっと手伝って」


 あたしと後藤は周りが混乱することを承知で
 近づいて来るモノに対する対策を始めた。

 それを横目で見ながら
 姐さんは他を落ちつかせてる。

442 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)13時54分33秒


 堪忍やで姐さん。

 あたしらは姐さんと違ってそないに強ないし
 正面からぶつかるほど勇気もあらへん。


 ちょっとくらいは
 逃げるためになんかしてもええでしょう?

 いくらあたしがそこいらのインチキ野郎どもより力があっても
 ちゃんとした修業とかしたわけと違うんやから。


 こないに強い霊気は怖いんや。


 あたしでもこんだけ怖いんやから
 後藤なんかもうそろそろ危ないはずやねん。

 そら、ちょっと黙ってられへんやろ。

443 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)13時56分52秒


「ゆ、裕ちゃん…」
「大丈夫や、アタシがおるから」


 あたしらの動きにイヤな予感がしたんか
 やぐっちゃんが震えはじめた。

 それを合図にしたようにみんなが怖がり始めた。


 やぐっちゃん…
 ちょっとはわかるんやな。


 多分、やぐっちゃんは
 あたしらの動きで怖なったんやない。

 もっと別のもんや。

 そしてそれは
 あたしらが思ってるもんであってる。



「…手伝うわ」


 みんなの状態に異常が出だしたから
 姐さんもあたしらと一緒に対策に加わる。
444 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)13時59分17秒


 助かりますわ。


 姐さんに任せとけば作業も早く片付く。
 そしたらそれだけ余裕ができる。

 それに、姐さんが創るんやったら簡単には壊れへん。


 あたしらが創ろうとしてた、それ。

 世間一般では確か…
 『結界』って呼ばれてる。

445 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時00分48秒


 創り方はけっこう簡単なんや。

 創りたい範囲の四つ角に当たる部分4つに
 自分の念を込めた護符を張りつける。

 立方体で創るときは
 四つ角×上の部分で8つになる。


 後はその念を込めた人間の力の程度で
 結界の強度が決まる。


 あたしらの力の上下は
 後藤、あたし、姐さんの順で強くなる。

 つまり、後藤には創れんレベルの結界があたしは創れて
 あたしじゃムリな強さのモンが姐さんには創れるってことや。

 んで、姐さんが作った結界が破られた事はない。


446 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時02分27秒


「…真ん中に集まり」


 上下左右、どこもかしこもしっかりと護符を張りつけ
 姐さんの念がこもった結界ができあがったのに…。

 どうやら姐さんは
 更にそれに輪をかけたいらしい。


 そこまでやるほどの相手とは思えませんけど?


 やっぱりやぐっちゃんが居るからやろか。
 姐さんがいつもよりも慎重になってる。



「みっちゃんはそっち、ごっちんは反対側や」
「任しとき」
「は〜い」

447 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時07分13秒


 ホンマやったら姐さんが創った結界やから
 それだけでもかなり安心できるんやけど…。

 今日はちょっと色んなことが重なり過ぎてるから
 姐さんはもう1つ保険をかけた。


 結界の力が最もよく機能する場所。

 それは結界の中心や。


 その場所である部室の真ん中に
 姐さんは全員を集めた。

 それから
 もう1つ結界を張った。

 その結界はさっきとは違って
 ちょっと難しいモンや。

448 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時09分21秒


 まず、なんでも構へんからとにかく書けるもんで
 結界を創りたい範囲を囲う。大概は円や。

 それからその縁の上に
 術者がそれぞれ念を込めた護符を置く。

 人数分×2枚が基本や。

 術者は縁の上に立って呪詛を唱えるんやけど
 その際、その護符を自分の両隣に置くんや。

 これは自分の力を援護するため。


449 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時11分08秒


「………」


 姐さんが自分の護符に念を込める。

 あたしとごっちんもそれに従ってやる。



「―――……」
「―――――…」


 護符に念を込めるとき
 もしくはそれに類似することを行うとき。

 このときほど力の差が出ることはない。

450 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時12分54秒


 姐さんは無言で念を込めることができるのに対し
 あたしやごっちんは何らかの呪詛を口にする。


 力が弱いものにとって
 念を込めるのは一苦労の大仕事。

 姐さんくらいになれば念を込めるだけでええねんけど
 あたしらくらいじゃそうはいかへん。

 念を込めるのに呪詛の力を借りるのが普通や。


 そら時間は食うし面倒くさいし
 その上いらん力まで使うことになる。

 やからそれだけで力の弱いもんは不利になるんや。


 仕事の依頼にしても
 宗派同士の争いにしても。


451 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時14分36秒


「こん中に居ったら大丈夫やから」


 そう言って姐さんは
 やぐっちゃんたちを円の中心に入れる。


 姐さんの創った結界の中に更に張ったモンの中心や。
 まわりは姐さんとあたしとごっちんで固めた。

 今のあたしらにこれ以上の安全策はない。

 これはもっとも自信のある安全策やし
 これを破れるやつなんかきっとおらんはずや。


 だいたい、あたしらが相手にするんって
 所詮は一介の低級霊やんか。

 ここまでやったら手も足も出んて。


 なぁ、って後藤と2人で笑ってたら
 姐さんがやぐっちゃんらにこう言った。



「真ん中向いて、目、閉じとき」

452 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時16分20秒

 あ、そらそうやでみんな。


 この結界の弱点やろうと思われるところは
 声を出すことがアカンってとこ。

 耳盗られた誰かさんと同じや。

 いくらこの結界が強うても
 そうなってもうたら“The End”や。

 その人の姿が見えてもうて
 あとはあっちの思うツボってこと。


 やから、怖いんやったら
 初めっから見んといて。


453 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時17分58秒


「なんも言うたらアカンで」


 大丈夫やから
 怖いことなんかあらへんからな。


 姐さんはやぐっちゃんに笑いかけた。

 それを見て圭ちゃんらがからかってたけど
 自分らもやでって言われて大人しくなってた。


 なんや姐さん
 こないなときだけ強いんやから。


 ため息混じりに別方向に顔を向ける。
 すると、こっちはもっとスゴイことになってた。


454 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時19分31秒


「ゴトーが護るからね」
「…ごっちん…」


 ちょ…それはなしと違いますか?


 セリフだけでもかなり甘いけど
 それにつけて、キスなんかされたらなぁ…。


 後藤、あんた生活指導室の常連になるか?


455 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時21分24秒

「ええなぁ…」


 あたしかってほしいわ、そんな人。


 …いや、アテがないわけと違うんやけどな…。

 その人は……ちゅーかその娘は、なぁ…。
 なんちゅーの?ちょっと手が出しにくいってゆーの?

 向こうが好きやって言うてくれてるから
 多分あたしが素直になったらええんやろうけど。


 難しいねんなぁ、これが。

456 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時23分09秒


 あたしがその娘のことを思い出しながら
 可愛いよなぁなんてある意味ノロケてるとき。


 ついに、それは来た。



「…いくで。みっちゃん、後藤」

457 名前:平家みちよ 投稿日:2002年08月22日(木)14時24分36秒

 この仕事が終わったら一番に
 あの娘の笑顔が見たいな。

 やから、なんとしてでも…
 ちゃんと明日の朝日を拝むで…!

 そんでそのまんまの勇気であの娘に会いに行こう。

 そしたらきっと
 ちゃんと伝えられるはずやからな。
458 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)14時26分17秒
   終了
459 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)14時30分59秒
残りが微妙ですね。
なのでこのスレッドはこれにて終了とします。

でも勿体無いので短編を1つ。
ごまゆうです。ネタはDXから。

ちょっとはいるか心配。
460 名前:話題@ごっちん 投稿日:2002年08月22日(木)14時33分01秒
「おはよーさん」


 んあ?!



「あ、裕ちゃんじゃん♪」
「なんだべ〜♪」


 ちょっとぉ、なぁーんでいるのぉ。



「裕ちゃんがなんでいるの?」


 あ、先に訊かれちゃったよ。



「失礼な。収録意外になにがあんねん」


 やぐっつぁんに質問された裕ちゃんが
 言葉とは正反対の笑顔で答える。


 収録?

 ゆーちゃんなにに出んの?
 ここ、なんの局だっけ?



「あ!わかったDXだ!?」
「せいかーい♪」

461 名前:話題@ごっちん 投稿日:2002年08月22日(木)14時34分27秒

 DXですとぉ?!

 DXとはDXですかぁ!
 芸能人が怖い番組No.1の!

 あれに出るの。
 この裕ちゃんが。


 ……楽しそうじゃん。



「まぁ、見たってなぁ」
「アホさかげんを発揮してこいよぉ」


 やぐっつぁんのからかいに
 裕ちゃんはいつもみたいにじゃれついて
 結局同じことやってた。

 それからみんなに一言ずつ言って
 楽屋を出て行った。

 あ、ゴトーには特別の笑顔つきだよぉ♪


462 名前:話題@ごっちん 投稿日:2002年08月22日(木)14時35分47秒

「…後藤、顔ヤバイから…」


 あはっ。そう?

 だってさぁ、裕ちゃん可愛いじゃん。
 あれ見たらどーしても笑っちゃうじゃん。


 あーもー。

 DXっていつやってるんだっけ。
463 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時37分57秒

「ゆーちゃんのバカ!」
「……いきなりなに?」


 ハローのコンサートのリハ中。
 ごっちんにいきなり楽屋に押し込まれた。

 アタシはわけわからんから
 それしか言えんかった。


 なんでこないに怒ってんの?
 裕ちゃんなんかしました?


464 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時40分17秒


「なんでゴトーじゃないの?!」


 は?なにがやねん?


 ごっちんの話はいつでもこうや。

 話の脈絡がなくて
 更に主語が抜けてることもよくある。


 アタシ、これでもわかる方やで。

 一応、誰よりもごっちんのこと知ってるつもりやし。


 やけど、今回はムリやな。

 怒られてる理由わからんし。
 ゴトーじゃないのってなにがやねんな。



「なんで福田さんなの!!」
「……福田さん?」


 福田さんて…明日香か?

 ちょっと待ちぃな。
 こっちがなんでやねんやろぉ。
465 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時42分11秒

 ごっちんと話してて
 なんでいきなり明日香やねん。

 自分ら面識ないやん。
 共通点もないやん。

 なんでごっちんの口から明日香なんて…。



「ゴトーも貰ったじゃん!!」


 貰った?なにを?


 目の前で暴れてるごっちんをなだめながら
 アタシは頭をフル回転させた。


 最近、明日香のことを話したんは…
 あれや、DXやったよなぁ。


 あのとき話たんは確か
 明日香の好きなクロワッサンのこと。

 アタシが気遣ってあげるって言うたら
 明日香が要らんって言うたから
 アタシがキレたんや。

 あれは大人気なかったけどなぁ…。
 すまんかった、明日香。


466 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時43分42秒

「ゆーちゃんのバカ!!」


 で、何でアタシがバカ呼ばわりなん。

 なに、なんなんもぉ。
 なんでごっちんは怒ってんの。

 アタシが明日香にクロワッサンあげたんがアカンの?
 それを投げ捨てたんがアカンかったんか?



「ゴトーの話してくれればいいじゃん!!」
「…あぁ?」


 ごっちんの話?



「ゴトーだってゆーちゃんに貰ったもん!」


 ………。

 あー……なんやっけ。

467 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時45分43秒


「イカ!くれたじゃん!」


 …あげたなぁ…。



「ゴトーはちゃんと貰ったもん!!」


 …でも、あれやん。

 自分、他の番組でそれ言うてたやん。
 しかも部屋においといたら臭かったですって。



「でも貰ったじゃん!!」


 いや、確かに貰ってくれたけど…。

 なんでアタシが怒られんといかんの?
 それでなんでアタシが悪いん?


 ごっちんにもあげたけど
 そんなん他にもあげてるし。

 その代表として一番おもろい話をしたんやん?

 あれやとイメージとか考えても楽しいし
 司会の2人も突っ込みやすかったやろうし。

 オチつく話としてはよかったから…。
468 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時47分29秒

「ゴトーより福田さんの方が…」
「あー、わかった。ヤキモチや?」


 なんや、ただのヤキモチやんけ。

 ごっちんは同じ食べ物貰った話やのに
 ごっちんやなくって明日香の話をしたから
 それにヤキモチ妬いたんや?



「……」


 そんなん言われたかてなぁ。

 番組やってんねんから
 トークは考えてやらんといかんやろ?

 ごっちんの話も一応オチはあるんやけどな
 明日香の方が面白いやろ?

 それにな、さっきも言うた通り
 他でもう言うてしもうてるやんか?

 そーなるとまたかって思う視聴者もいるわけやん。


 それにほら……

 ごっちんの話したら
 アタシ、めっちゃニヤケてまうし。


469 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時48分50秒


「そーなると、色々と困るんです」


 そこに突っ込まれたら
 上手いこと切り返されへんし。

 それ見たメンバーに後でなんて言われるか…。


 そーゆーわけなんですけど。



「納得してもらえます?」
「……うん…」

470 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時50分26秒

 うん、ありがとうなぁ。

 これからはちょっと気にするわ。
 ごっちんがどー思うかとか。


 とりあえず、今回はこれで許してや。



「…チュ♪」


 許してもらえます?


471 名前:話題@ゆーちゃん 投稿日:2002年08月22日(木)14時52分08秒

「…まだダメ」
「へっ?」


 ちょ…えっ…?

 あの、後藤さん。
 どこ行きはるんですか?

 今は、ほら、ハロ―のリハ中やで。
 いつ声がかかってもおかしぃないんやで。


 ちょっと…アカンって。

 そっち声届きにくいからって
 注意受けたやんか。


 それに…



「人通らないって言ってたよぉ♪」

472 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)14時54分14秒
   終了
473 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)14時54分45秒
入った入った!
474 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)14時55分35秒
すぐに次を立てます。
475 名前:つなぎ服 投稿日:2002年08月22日(木)15時30分33秒
>読んでる人@ヤグヲタ さま

 >その時の矢口の反応が気になる・・・やっぱり惚れ直すのかな?
 あ、それはもちろんじゃないすか?たぶんそうだったと…。


2枚目立てましたので
これからもよろしくお願いします。
476 名前:つなぎ服 投稿日:2002年09月16日(月)01時43分33秒
懐かしい方へ帰還。
477 名前:ハロモニ。 投稿日:2002年09月16日(月)01時44分47秒
「…裕ちゃん?」
「………」


 最近のハロモニ。では
 滅多に見れない落ち込みよう。


 矢口となんかあった?


478 名前:ハロモニ。 投稿日:2002年09月16日(月)01時45分20秒


「…大丈夫?」
「……」


 話し掛けても上の空。


 裕ちゃんはよくカオに
 交信してるでって言ってくる。

 けど。

 裕ちゃんもしてるよ。

 カオってこんな風になってるんだね。



「…あ、矢口」
「…っ」

479 名前:ハロモニ。 投稿日:2002年09月16日(月)01時46分04秒


 およ?


 何にも反応してくれなかった裕ちゃんが
 やっと帰って来てくれたらしい。

 カオが指差した方向を見て
 矢口の姿を追ってる。


 やっぱり矢口なんだね。

 今更かな。



「手伝う?」
「…頼む」


 なにがあったかは知らないけど
 カオも裕ちゃんに束縛されてると困る。

 だってカオには
 素敵なマイ・ダーリンがいるから♪


480 名前:ハロモニ。 投稿日:2002年09月16日(月)01時46分53秒


「あ、よっすぃ〜♪」
「はい?」


 どうせ手伝うなら
 人手は多い方がいいでしょ。

 だから、手伝ってね。



「わかりました!」


 勢いよく意気込んで
 スタジオに行ってしまった。

 けど、きっとなにも考えてない。


 ど真ん中直球勝負。

 それが吉澤のいいところ?

481 名前:ハロモニ。 投稿日:2002年09月16日(月)01時47分39秒

 ……よくない。



「…ゴメンナサイ…」


 今日のゲームでの吉澤は
 なかなか健闘してた。

 まぁ、活躍しても
 あんまりかっこよくないけど。

 でもさ。


 あれはヒドイっしょ。
482 名前:ハロモニ。 投稿日:2002年09月16日(月)01時48分26秒

 答える内容がことごとく矢口と一緒で。
 最後なんて2人だけ全部一緒で。

 裕ちゃんも怒るだろうけど
 カオも怒るよ?


 確かに今日は珍しい。

 裕ちゃんが矢口を溺愛してない。
 後藤とか紺野に話し掛けてる。

 小川は放置だったけど。



「…あ、あの…」


 だからカオの吉澤に…。

 裕ちゃんがしっかりしてないから
 矢口がフラフラしちゃってるんじゃんか。

 ケンカしたんだろうけど
 周りに迷惑はやめてよ。

483 名前:ハロモニ。 投稿日:2002年09月16日(月)01時49分06秒


 吉澤はカオの。
 矢口は裕ちゃんの。

 わかってる?



「…い、飯田さん…」


 吉澤も吉澤よね。

 矢口と答えが同じだからって
 あそこまではしゃぐこともないでしょ。

484 名前:ハロモニ。 投稿日:2002年09月16日(月)01時49分36秒


 もーーーっ。

 素直になれないんだから。
 2人とも子供っ。



「……」
「カオは素直だからね」


 ……そうすね…はあとはあと


485 名前:つなぎ服 投稿日:2002年09月16日(月)02時08分35秒
あれでやぐちゅーとはなかなか…。
苦しいぜ…。
486 名前:つなぎ服 投稿日:2002年09月17日(火)01時02分37秒
コメントが日付をまたいでる…。
487 名前:つなぎ服 投稿日:2002年09月17日(火)01時03分21秒
睡魔よ去れ。
てか本編…。すいません。

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