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キスの味は、マンゴープリン
- 1 名前:マーチ 投稿日:2002年08月14日(水)17時28分39秒
いちごまパラレルです。
ごま脱退ショックの勢いで、いっちゃいます。
- 2 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時30分09秒
- 「あぶないっ!」
「えっ…」
学校帰り、一人で校庭のすぐ横の道を歩いていた後藤がその声に反応して
振り向こうとした時には、すでに後頭部に激痛が走っていた。
ソフトボール部の練習中の球が直撃したのだ。
あまりの痛さにうずくまる後藤。
誰かが駆け寄って来る気配に気づいてはいたが、そのままただ苦痛に顔を
ゆがませていた。
「だっ、大丈夫? ごめんっ」
「…うっ…痛かったぁ…」
痛みが少しずつ治まりゆっくり立ち上がると、ユニフォーム姿の人が心配
そうに見つめていた。
―かっこいい…。
すらりとした体型にショートカットがよく似合っているその人は、後藤に
とっては初めて見る顔だったのだが、どうやら相手は違うようだった。
- 3 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時32分07秒
- 「あっ、後藤か。大丈夫?」
「う、うん」
とつぜん名前を呼ばれて後藤は目を丸くした。
もしかして同じクラスの人かと、まじまじと顔を見つめ考えるが、思い浮
かばない。
高校に入学してもうすぐ3ヶ月たつというのに、学校にまったく無関心の
彼女は、クラスメイトさえ全員覚えていないという有様だった。
「な、なに? おこってる?」
言葉を発せずじっと見つめるだけの後藤に聞くと、後藤は首を横に振った。
「だれだっけ」
「へっ?」
「名前」
「あっ、市井だけど」
それは初めて聞く名前だった。
- 4 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時33分41秒
- 「市井…ちゃんか」
「へっ!? 年上に向かって、ちゃん≠チてあり!?」
「えっ!? 年上なの?」
自分の名前を知っていたということから、まさか年上とは思ってもいなか
った後藤は、あわてて謝った。
「別にいいよ、そんなに謝らなくて。謝らなきゃならないのはこっちなん
だしさ。あっ、家に帰るとこなんでしょ。送って行くよ」
落ちていた後藤のかばんを拾い上げ、ポンポンと汚れを払い落としてから
歩き出す。
なんでもないその動作も、一つ一つがスマートで思わず見惚れてしまった。
「ほら、早く行こっ」
振り返った市井の髪が、太陽の光に透けてなびく。
「い、いいよ、練習中でしょ。もう大丈夫だから」
後藤は胸がドキドキしてきたのをさとられたくなくて、かばんを引ったく
るように取った。
「そっかぁ、んじゃ、気をつけてな!」
後藤に笑顔を向けると、軽く手を上げながら、市井は練習に戻っていった。
- 5 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時34分46秒
- ノックを開始する市井の顔は真剣で、その打球にとびつく部員たちも汗を
ぬぐおうともせず必死な様子が伝わってくる。
時折出るファインプレーに満面の笑顔を向ける市井に、胸の鼓動がまた大
きく高鳴った。
「市井ちゃんか…」
後藤はしばらくその場から動けなくなっていた。
- 6 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時35分57秒
- 次の日の放課後、後藤はボールがぶつかった場所に来ていた。
真夏の太陽がグランドを照りつける。
ソフトボール部と陸上部の生徒たちの白いTシャツがまぶしかった。
「あっ、市井ちゃんだ!」
練習に打ち込む市井の姿を見つけ出し、表情を緩ませた。
絶対に追いつかないであろう打球にも、全速力で追いかけスライディング
キャッチする姿に思わず見とれてしまう。
「かっこいいな…」
体育会気質が苦手な後藤だったが、部員たちと真剣に練習に打ち込む市井
の姿は素直にかっこいいと思えた。
どのくらいそこにいただろうか。
後藤の額にもうっすらと汗がにじんできた頃、その姿に気づいた市井が駆
け寄ってきた。
- 7 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時36分52秒
- 「うっす、きのうのとこ、大丈夫?」
「うん、平気だよ。ちょっと、腫れただけだから」
「どれどれ…」
市井の手が後藤の頬をかすめ後頭部を撫でた。
汗のにおいと熱い体温と軽い息遣いが後藤を包む。
その瞬間、後藤は自分の心拍数が急激に上がり、血が逆流するかのような
衝動を感じた。
「だ、だいじょうぶだから…」
思わず市井を突き放してしまう。
早くなる一方の鼓動にとまどい、後藤は目をそらしたままうつむいてしま
った。
- 8 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時38分15秒
- 「そっか…、じゃ」
後藤の態度に違和感を感じた市井が練習へ戻ろうと背を向けた。
それを見た後藤は、自分の不自然な態度が市井を不愉快にさせたのではと
思い、あわてて声をかけた。
「あ、あのっ…」
「ん?」
振り向いた市井のこめかみが、きらきらと汗で光っていた。
「市井ちゃん、汗…」
真新しいストライプブルーのハンカチを差し出す。
ちゃん≠テけで呼ばれたことに苦笑いしながら市井はそれを受け取った。
「タオルは借りたことあるけど、ハンカチっていうのは初めてだよ」
「あっ…そっか…へへへ」
汗を拭く市井をじっと見つめる。
自分のハンカチが使われたことが、なんだかとても嬉しかった。
- 9 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時39分02秒
- 家についてもまだドキドキしていた。
ベッドに横になりながら、ストライプブルーのハンカチを手にする。
洗って返すという市井の言葉を無視して、強引に奪い取ったそれを顔の上
に広げて乗せると、市井に後頭部を撫でられたことが思い出され、また鼓
動が高鳴った。
「なんで…? 好き…になったとか…? でも、市井ちゃんは…女の子だよ」
- 10 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時40分35秒
- 後藤が今通っている学校は、文武両道で通っている県内でも有名な私立の
女子高だ。
中学までは公立の共学で、ふつうに同級生の男の子とつき合ったりしていた。
告白された回数は数え切れない。
中2のときにファーストキスも経験した。
顔良しスタイル良しの後藤は、とにかくもてた。
そんな後藤が隣町の私立の女子高にわざわざ入学したのは、親友の吉澤が
そこに行くからという理由だった。
強豪の運動部が揃うこの高校に、入ったはいいがなんとなく馴染めないま
ま空虚な日々を過ごしていた。
高校に入ってからもやっぱり後藤はもてた。
他校の男子からのアプローチもあったが、なんといっても女の子からの告
白が多く、とまどいを隠せないでいた。
女の子同士のカップルが校内で珍しくない状況に、やっと最近慣れてはき
たのだが。
- 11 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時41分33秒
- 「女の子同士って、ありなのかな…」
答えの出ない疑問が頭の中を駆け巡る。
自問自答に疲れた後藤は、気分を変えるために近くのコンビニへ出かけた。
そこにはお気に入りのマンゴープリンが売っていて、ほぼ毎日学校帰りに
立ち寄っていたのだが、今日は市井のことで頭がいっぱいで忘れていたのだ。
よく冷えたマンゴープリンと毎月買っている雑誌を手にしてレジへ進む。
ふと外を見ると、ガラス越しに市井の歩く姿が見えた。
「えっ!? 市井ちゃん!」
おつりを無造作にポケットに突っ込んで、急いで後を追った。
- 12 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時42分36秒
- 「市井ちゃん!」
「えっ、後藤!? なんで?」
「市井ちゃんこそ、なんでここにいるの?」
「なんでって、家に帰る途中だよ」
帰宅時間が違うため今まで一度も会ったことがなかったが、実はわりと近
所に住んでいることがわかった。
「市井ちゃん、これ」
歩き出そうとする市井に買ったばかりのマンゴープリンを差し出す。
「部活帰りで、のど渇いたでしょ」
後藤の手からそれを受け取った市井は笑いながら言った。
「スポーツドリンクはもらったことあるけど、マンゴープリンは初めてだよ」
- 13 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時43分38秒
- 近くの公園のベンチに座り、二人でマンゴープリンを食べる。
どちらかというと人見知りする方で、会ったばかりの人とは喋るのが苦手
な後藤が、今は楽しそうに夢中で話をしている。
市井の方も時々つっこみを入れながら、その会話を楽しんでいた。
ふと、会話が途切れたとき、後藤は最初に不思議に思ったことを聞いてみ
ることにした。
「ねぇ、市井ちゃん、どうして後藤のこと知ってたの?」
「へっ?」
「だって、ボールがぶつかったとき、後藤かって…」
「ああ、うん…。かわいい1年生はみんなチェックしてるから」
「えっ…?」
思いがけない言葉に何も言い返せなくなり、真っ赤になる。
「なーんてね」
「えっ、な、なに。からかったの!?」
笑いながらごめんごめんと謝る市井に、後藤はますます真っ赤になって何
度も肩をたたいた。
- 14 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時44分26秒
- 「ほんとはさ、市井の友達が後藤のこと好きだったんだ。ほら、保田圭」
「あ…」
「だから知ってた。あれが圭ちゃんの好きな子なんだなあってさ」
「…」
1ヶ月くらい前に、そんなことがあったことを思い出す。
すごく大人っぽい人に告白されたこと。
つき合う気はないと断ったこと。
「あっ、気にしなくていいよ。圭ちゃんもう、彼女できたからさ」
気まずそうにしている後藤を見て、必至にフォローする。
後藤もあわてて何か言わなきゃと言葉を探した。
- 15 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時45分11秒
- 「女の子同士なのにさ…」
「へっ」
「女の子同士がつき合うのって、変かなって思ったんだ」
「…あ、うん」
「だから、その人のことよく知らなかったし、つき合えませんって言ったの」
「そっか…」
沈黙が続く。
それに耐え切れなくなったかのように、後藤が何度も自分に問いかけてい
た疑問を市井にぶつけた。
「市井ちゃんはさ、女の子同士って、どう思う…?」
- 16 名前:出会い 投稿日:2002年08月14日(水)17時46分17秒
- ベッドに入って2時間たつが、なかなか眠れない。
いつでもどこでも眠れるというのが後藤の特技だったはずなのに。
いつまでたっても市井の言葉が頭の中をリフレインして離れなかった。
『ありだと思うよ。好きになったら止められないっしょ、たとえ同性でも』
「好きになったら止められないか…そうだね、市井ちゃん」
市井への気持ちを自覚させてくれたのは、まさにその本人の市井の言葉
だった。
- 17 名前:マーチ 投稿日:2002年08月14日(水)17時47分54秒
- まずは、ここまでです。
いちごま、需要あるでしょか…
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月14日(水)19時41分33秒
- 需要、大アリです。
頑張って下さい!
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月14日(水)22時39分01秒
- すごい好きな話です!!
早くもお気に入り登録しちゃいましたがな(w
作者さん期待してます。がんばってくださいね。
- 20 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月15日(木)00時48分30秒
- ごっつぁん頑張れ!
いちごまサイコーです。頑張って下さい。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月15日(木)02時23分33秒
- 最近いしごまに浮気してましたがやぱいちごま最高!!
- 22 名前:マーチ 投稿日:2002年08月15日(木)12時49分09秒
- レスありがとうございます。感謝!
>18 名無し読者さん
需要があって、よかったです。
がんばります。
>19 名無し読者さん
好きな話と言っていただいて、嬉しいです。
お気に入りから削除されないように、がんばります。
>20 名無し読者さん
ごっつぁん、これからがんばります。
いちごま、やっぱいいですよね。
>21 名無し読者さん
いしごまも、けっこう好きだったりします。
でも、やっぱりいちごま!
では、更新します。
- 23 名前:出会い 投稿日:2002年08月15日(木)12時51分00秒
- それからというもの、後藤は毎日コンビニで市井の帰りを待った。
もちろん、待ち合わせをしているわけではないので、会えない日もあったが。
学校でも時々廊下ですれ違うことがあるので話しはできた。
でも、コンビニの近くの公園でおしゃべりする二人だけの時間が、後藤に
とってはなにより幸せな瞬間だった。
市井のことを知れば知るほど、ますます惹かれていく。
日に日に後藤は、気持ちを隠せなくなってきていた。
- 24 名前:出会い 投稿日:2002年08月15日(木)12時52分12秒
- 「市井ちゃん、お疲れ!」
その日も後藤は、部活帰りの市井を待ち、会うことができた。
公園のベンチに座って、一日の出来事を話す後藤と、つっこみを入れる市井。
楽しそうに話す二人は、知らない人が見たらカップルに思うだろう。
それほどいい雰囲気だった。
「市井ちゃん、今日かっこよかったよ」
「ん? なに?」
「体育のとき、100メートル走、一位だったじゃん!」
「見てたの?」
「ちょうどテスト中だったからさ、窓からずっとグランド見てたんだ」
「へ、テスト中に?」
「うん、ずっと…ずっとね、市井ちゃんを見てたんだよ」
「後藤〜、おまえな〜」
テストに集中しろよと言いかけたところで、息を呑んだ。
後藤の視線がいつもと違ったからだ。
真剣で、まっすぐで、優しくて、熱い。
そこだけ時間が止まったかのように、見つめ合う。
後藤がそのままそっと目を閉じると、市井の手がやさしく頬に触れた。
- 25 名前:出会い 投稿日:2002年08月15日(木)12時53分04秒
- ♪PiPi♪PiPi♪
突然の携帯の音が二人の距離を大きくする。
市井の手が後藤の頬から携帯へと移った。
ぬくもりが消えてがっかりする後藤に気づかず、市井は通話ボタンを
押した。
『今から? …うん、…わかった』
「ごめん、友達に会うことになった」
「うん…」
「…じゃあ、行くね」
「うん…」
駅へ向かう市井の後ろ姿を見送る後藤の頬は、まだ熱いままだった。
- 26 名前:出会い 投稿日:2002年08月15日(木)12時53分48秒
- 電車の中で、市井は公園でのことを思い出していた。
―あのまま携帯が鳴らなかったら、自分はどうしていたんだろう。
ドキドキしている胸を抑えながら、市井は自分で自分がわからなくなっていた。
「これからやぐっちゃんに会うっていうのに…」
電車の揺れに身を任せながら、流れる景色をぼんやり見ていた。
- 27 名前:出会い 投稿日:2002年08月15日(木)12時54分42秒
- 家に帰った後藤も公園でのことを思い出していた。
―あのまま携帯が鳴らなかったら、市井ちゃんはキスしてくれたのかな。
ドキドキしている胸を抑えながら、後藤は日に日に大きくなっていく市井への
気持ちにとまどっていた。
「市井ちゃん、後藤のこと、どう思ってる…?」
ストライプブルーのハンカチを見つめながら、市井に触れられた頬の感触を思
い出していた。
- 28 名前:マーチ 投稿日:2002年08月15日(木)12時57分10秒
- 更新しました。
次は、親友よっすぃーが登場します。
- 29 名前:名無し娘。 投稿日:2002年08月16日(金)11時43分36秒
- 名前のとおり、本当は吉後推しなのに……この話読んだら、いちごまにかなり
ときめいてしまいました(w
誰とのカップリングが良いなどと無粋なことは申しません。ただこの話の中の
後藤の初々しさに惹かれます。作者さんがんばってください!
(何気に親友よっすぃーの登場も楽しみ)
- 30 名前:出会い 投稿日:2002年08月16日(金)21時18分41秒
- 「ごっちん、最近なんかあった?」
「ん? なんで?」
「なんかさ、情緒不安定って感じなんだけど」
「そう…かな」
休み時間、窓の外をじっと見つめていた後藤に、親友の吉澤が突然まじめな顔
で声をかけてきた。
なんでも話す間柄であったが、市井のことはいっさい話していなかった。
同性が好きだということを何となく親友には言いづらいものを感じていたのだ。
しかし、もうこれ以上自分の胸に隠しておくことが辛くなっていた後藤は、す
べてを正直に打ち明けることにした。
- 31 名前:出会い 投稿日:2002年08月16日(金)21時19分36秒
- 「やっぱ、引いちゃうよね…女の子を好きになったなんてさ…」
一通り打ち明けた後、不安げに吉澤に問う。
それまで黙って耳を傾けていた吉澤が、急に笑顔になって後藤に抱きついた。
「引くわけないじゃん。だって、あたし、梨華ちゃんとつき合ってるんだもん」
「へ? つきあってるって? …ええーっ!」
「ごめん、黙ってて。あたしも女の子を好きになったこと、なんかごっちんに
言えなかった」
「そっかぁ、そうだったんだぁ。早く言ってよ、もう!」
お互いに隠していた本心をぶちまけると、もう話は止まらない。
次の授業をさぼることにして二人は屋上へ行った。
- 32 名前:出会い 投稿日:2002年08月16日(金)21時20分27秒
- 「梨華ちゃんって、どんな娘?」
「知らないかなぁ、あんなにかわいいのに」
「なにそれー、市井ちゃんだって、かっこいいんだから!」
「知ってるよ、市井さんは有名じゃん」
学校に無関心の後藤はぜんぜん知らなかったのだが、市井はスポーツ万能、
成績優秀、優しくてかっこいいという、もてる要素を数多く備えているため、
ファンの数はかなりのものだった。
「ごっちんももてるけどさ、市井さんはそれ以上だね」
少なからずショックを受ける後藤。
しかし、次の吉澤の言葉は、その何倍も後藤にショックを与えた。
- 33 名前:出会い 投稿日:2002年08月16日(金)21時21分30秒
- 「でも、矢口さんっていう彼女がいるから、表立って告白はされないみたいだ
けどね」
「…矢口、さん?」
「うん、…って、えっ! もしかして知らなかったとか!?」
人間って、ショックが大きすぎると、悲しみが大きすぎると、かえって冷静に
なれるものだなと、後藤はそのとき初めて知った。
「つき合ってる人、いたんだ…市井ちゃん」
「ほんとに知らなかったの?」
「うん…、そういう話したことないし。むしろ自分の気持ちがばれないように
避けてたから…」
「そっか…。あの二人、学年も違うし、最近あまり二人でいるところ見ないし
ね。あたしてっきり、矢口さんから奪う覚悟なのかと思ったよ」
「奪う…か」
- 34 名前:出会い 投稿日:2002年08月16日(金)21時22分24秒
- 奪うという言葉に、市井が他の人のものだということを思い知らされる。
優しい眼差し、とびっきりの笑顔、頬に触れた手のぬくもり。
すべては自分だけに向けられたものではなかった。
「ごっちん、がんばってよ。応援するからさ」
「うん…でも…」
その後も吉澤は、落ち込む後藤を一生懸命励ましたが、後藤はあいまいに頷く
ことしかできなかった。
- 35 名前:マーチ 投稿日:2002年08月16日(金)21時23分39秒
- 更新しました。
ごっちん、へこんでます。
レスありがとうございます。感謝!
>29 名無し娘さん
ときめいていただけましたか!
初小説なので、それは嬉しいお言葉です。
がんばります。
- 36 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月16日(金)22時41分08秒
- おお〜、複雑になってきましたね〜。
楽しみにしてます。頑張って下さい。
- 37 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月17日(土)01時59分24秒
- ぬぁお〜〜う!!久々にキタ!!!
すごーく(・∀・)イイ感じです。
ブクマークさせて頂きます。
- 38 名前:ナナシX 投稿日:2002年08月17日(土)02時08分46秒
- キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
市後といしよし〜!!!オイラの大好きなCP
超期待!!楽しみにしてマッスル!!!!!!!!!!!!!
- 39 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月17日(土)18時49分10秒
- いちごまりキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
かなり(・∀・)イイ!!っすYO!ガムバッテください!!
- 40 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時12分36秒
- 部活での疲れを引きずりながら、いつものように、コンビニの前で立ち止まる。
が、満面の笑顔で駆け寄ってくるはずの後藤の姿はなかった。
ふーっと大きくため息をつく市井。
いつもは二人で座っている公園のベンチで、市井はひとり、冷たいマンゴープ
リンを口にした。
- 41 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時13分26秒
- 市井と矢口は、つき合い出してからもうすぐ1年になる。
市井が出場したソフトボール部の試合に、たまたま矢口が応援に来たのがきっ
かけで知り合い、つき合うようになった。
学校内では目立った存在で、かなり人気があった二人。
その二人がつき合うことになって、当時はちょっとした騒ぎになった。
が、当の本人たちはそんなことは意に介せず、いつも堂々としていた。
人目を気にせず手をつないだり、授業をさぼって屋上でデートしたり、部室で
キスしたり、今では考えられないくらいのいちゃつきぶりだった。
最近は、めったにキスをすることもなくなっていた。
求め合う激しい関係からから認め合う穏やかな関係へ変わってしまったのは、
いつ頃からだったろうか。
- 42 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時14分12秒
- 「後藤…」
矢口とのキスを思い出していたはずが、いつのまにかきのうの後藤の顔がふと
浮かんだ。
熱い視線に釘付けになり、目を閉じられたとき、確かに自分は行動した。
携帯が鳴らなければ、たぶん…。
「好きなのは、やぐっちゃんなのに…なにやってんだろ…」
空になったマンゴープリンのカップを握り締め、市井は日が暮れるまでベンチ
に座っていた。
- 43 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時14分57秒
- そんな市井の姿をそっと遠くから後藤は見ていた。
「待っててくれてるの? なんで?」
会いたい、話したい、触れたい。
でも、矢口のことを知ってしまった今、市井の前でどんな風にふるまえばいい
のかわからない。
『好きになったら止められないっしょ、たとえ同性でも』
あのときの市井の言葉を思い出す。
「あれは、矢口さんへの想いだったんだね…」
後藤は、静かにその場を後にした。
- 44 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時15分40秒
- 後藤が急に、市井の前に姿を見せなくなってから2週間がたった。
学校へ行き、授業を受け、部活に打ち込み、時々矢口とデートをする。
それはこれまでと変わらない日常。
それでいいのに、いいはずなのに、後藤のことが気になって仕方がない。
―帰りにおしゃべりしてただけなのに…ただそれだけなのに、なんで?
答えの出ないもやもやした気持ちのまま、時間だけが過ぎていった。
- 45 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時16分39秒
- その日後藤は、午後の授業をさぼり吉澤と映画を見ていた。
梨華ちゃんと行けばいいのにという後藤の言葉は無視され、強引に連れ出され
た。
市井のことで落ち込んでいる後藤を励まそうとして、このところ吉澤はいろん
な場所へ後藤を連れ出していた。
その吉澤らしい優しさは後藤にも十分伝わっていた。
「よっすぃー、ありがとね」
「んー、なにが?」
「いろいろ気を使わせちゃってさ、感謝してるんだよ」
「んなの、気にすんな」
バシッと、後藤の背中を叩く。
「いったーい、よっすぃーのバカ力!」
顔を見合わせて笑う。
吉澤がいてくれてよかったと、後藤は心から思った。
- 46 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時17分25秒
- 「今日も来ないか…」
部活を早めに切り上げて公園で後藤を待ってみたのだが、いつまでたっても来
ることはなかった。
あきらめて家に帰ったのは星が輝きはじめた頃。
会う約束をしているわけでもないのに、会えないという事実に苛立ってしまう。
でも、会ったからといって、自分は何を言うつもりなのか。
何を言いたいのか。
後藤の存在が矢口を越えてしまっていることに、市井はまだ気づいていなかっ
た。
- 47 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時18分07秒
- 後藤は吉澤の家にいた。
映画からの帰り道、泊まりにおいでよと誘われたのだ。
一人でいると市井のことを考えてしまいそうだから、ありがたくその誘いを受
けた。
久しぶりに二人でベッドに入る。
中学の頃はしょっちゅう、泊まりに来ていたのだが、高校生になってからは、
めっきり回数が減った。
「ごっちんさ、なんか、市井さんのことあきらめようとしてない?」
「えっ、うん…だってさ…」
部屋の電気を消して、さあ寝ようかと思ったとき、吉澤が市井の話をしだした。
- 48 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時18分59秒
- 「気持ち伝えてないんでしょ! それなのにあきらめるなんて、試合放棄じゃ
ん! なんか、ごっちんらしくないよ」
突然の吉澤の強い口調に驚き、眠気も覚める。
「そんなこと言ったって、市井ちゃんには矢口さんがいるんだよ」
後藤もつられて声が大きくなった。
「知ってるよ」
「好きな人がいるのに、告白なんてできないよ!」
二人の声がますます大きくなる。
「好きじゃないかもしれないじゃん!」
「えっ?」
「矢口さんとつき合ってるけど、ごっちんの方が好きかもしれ…」
「なに言ってるの」
吉澤の言葉をさえぎる。
「梨華ちゃんが言ってた、市井さんは矢口さんといるよりごっちんといる方が
楽しそうだって」
「そんなこと…」
思ってもいない言葉に、後藤のトーンが急に下がる。
- 49 名前:出会い 投稿日:2002年08月18日(日)00時19分57秒
- 吉澤はゆっくりと言葉を続けた。
「実はさ、ごっちんから市井さんの話を聞く前からね、ごっちんの好きな
人は市井さんだなって思ってた。前に梨華ちゃんと図書室に行ったときに、
二人が一緒のとこ見たんだ。物理の課題教わってたでしょ。二人、すっご
く仲良さそうでさ、びっくりしたんだ。ごっちんのあんな顔初めて見たよ。
なんか妬けちゃうくらい、いい顔してた」
「よっすぃー…」
「そのときね、梨華ちゃんが言ったんだ、市井さんは矢口さんといるより
ごっちんといる方が楽しそうだって。だからっていうわけじゃないけどさ」
にっこり笑いながら、バシッと後藤のおでこをたたく。
「がんばってよ、あきらめるのはまだ先でもいいじゃん。好きになった気持ちは、
もっと大切にしなきゃだめだよ。せっかく出会えたんだからさ」
「ん…そだね」
吉澤の言葉がじわじわと胸にしみわたる
―市井ちゃんに会いたい!
あきらめようとしていた市井への想いが、再び熱くなった。
- 50 名前:マーチ 投稿日:2002年08月18日(日)00時21分40秒
- 更新しました。
よっすぃーのおかげで、ごっちん復活!
市井ちゃん、悩んでます…
レスありがとうございます。感謝!
>36 名無し読者さん
楽しみと言っていただくと、はりきっちゃいます。
がんばります。
>37 名無しさん
イイ感じですか?うれしいです。
ブックマークはずされないよう、がんばります。
>38 ナナシXさん
超期待とまで言っていただけるとは…。
うれしいです。でも、いしよしシーンは…無
>39 名無し読者さん
かなりイイですか?うれしいです。
はりきっちゃいます。
- 51 名前:素人○吉 投稿日:2002年08月18日(日)11時59分38秒
- おぉ!ついに二人の気持ちが…!!
- 52 名前:出会い 投稿日:2002年08月20日(火)00時23分52秒
- 『よっすぃー、きのうはありがと。学校行く前にいったん家に戻るね。
自転車借りるよ〜』
吉澤が目を覚ましたときには、もう後藤の姿がなく、置手紙が残されていた。
- 53 名前:出会い 投稿日:2002年08月20日(火)00時25分24秒
- 早朝の静けさの中、後藤が自転車のペダルを軽快にこぐ。
吉澤のおかげで市井への想いをまた強くすることができた。
つき合っている人がいたって、好きなものは好き。
この気持ちを大事にしていこう。たとえ、一方通行でも…。
―市井ちゃんの笑顔が見られれば、市井ちゃんの声が聞ければ、それでいい。
素直なまっすぐな気持ちは、ペダルを踏む足をリズミカルにさせる。
風を切って颯爽と走っていると、前方に市井の登校姿が見えた。
「あっ、市井ちゃんだ」
久しぶりに見た市井の姿。
後藤の心があたたかいものでじわじわと満たされていく。
思いがけない偶然に感謝しながら、前を歩くその背中に大きく声をかけた。
- 54 名前:出会い 投稿日:2002年08月20日(火)00時26分25秒
- 「市井ちゃ〜ん、おっはよおー!」
「ごっ、後藤!?」
ずっと会いたかった顔が急に目の前に現れ、声が裏返るほど驚く。
「朝練って、こんなに早いんだ。大変だね、市井ちゃん」
「…う、うん」
突然の状況と、以前と変わらない無邪気な後藤の態度にとまどう。
- 55 名前:出会い 投稿日:2002年08月20日(火)00時28分00秒
- 「後藤だったら絶対無理だなあ。やっぱり市井ちゃんはすごいよ」
「あっ、あのさ、後藤…」
「なあに?」
「なんでこんな時間に、ここにいるの?」
言いたいことはいろいろあったのに、突然すぎてまぬけな質問をしてしまう。
「なんでって、家に帰るとこだよ。あっ、市井ちゃん、遅れちゃうよ。じゃ、
またあとでね!」
とびっきりの笑顔で手を振る後藤を乗せた自転車が、市井の前を通り過ぎて、
だんだんと小さくなっていく。
その後ろ姿をずっと見つめながら、市井は説明のできない苛立ちを感じていた。
「朝帰り!? なんなんだよっ…」
- 56 名前:マーチ 投稿日:2002年08月20日(火)00時29分18秒
- 更新しました。
…短いですが
レスありがとうございます。感謝!
>51 素人○吉さん
二人の気持ち、もう少し見守っててください。
じれったい二人なもので…。
次は、矢口さん登場します…
- 57 名前:素人○吉は20の名無し。 投稿日:2002年08月20日(火)00時34分59秒
- いちーの心は完全にごまに行ってて…。
でもやぐはまだそれを知らない…。
うーん、続きがますます楽しみです!
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月20日(火)19時00分13秒
- つ…ついに矢口登場っ!?(ドキドキ)
た…楽しみにしてますっ!!
- 59 名前:出会い 投稿日:2002年08月21日(水)16時59分00秒
- その苛立ちは、時間がたってもおさまらなかった。
めずらしく不機嫌な感情を表に出す市井に、周囲は困惑する。
仲のいいクラスメートさえも話しかけられないでいた。
- 60 名前:出会い 投稿日:2002年08月21日(水)17時00分03秒
- 放課後の図書室は、受験を控えた3年生であふれている。
その中にひときわ小さい矢口の姿もあった。
「やぐっちゃん、デートしよっ」
耳元で突然声をかけられ、ペンを動かしていた手が止まる。
もちろん声の主はわかっていた。
瞬時に注目をあびる二人。
矢口はあわてて手を引っ張って、図書室から出た。
- 61 名前:出会い 投稿日:2002年08月21日(水)17時01分19秒
- とりあえず人がいないところと思って入ったのがここ、美術室。
戸をしっかり閉めて市井と向き合う。
「とつぜん、なに?」
「だから、しよ…」
市井がぎゅっと矢口を抱きしめた。
目をつぶり、黙ったまま、その柔らかな感触を味わう。
矢口の存在を確かめるかのように、わけがわからない自分の気持ちをリセット
するかのように…。
- 62 名前:出会い 投稿日:2002年08月21日(水)17時02分13秒
- 「なんかあった?」
「なんで?」
しばらく黙って抱きしめられていた矢口が、市井の背中を撫でながらやさしく
たずねる。
いつもと様子が違うことに、少なからず不安がよぎった。
「紗耶香が甘えるなんて、めずらしいから…」
「そっかな…」
抱きしめていた腕を緩めて、矢口の顔を見つめる。
そのままゆっくり顔を近づけキスしようとすると、矢口が顔をそらした。
- 63 名前:出会い 投稿日:2002年08月21日(水)17時02分56秒
- 「…どうして?」
「そんな顔してる人とはキスしたくない」
「えっ?」
「100パーセント矢口に向かってない顔だよ、今の紗耶香は」
「…!」
市井に自分の気持ちを気づかせてくれたのは、矢口の言葉だった。
- 64 名前:出会い 投稿日:2002年08月21日(水)17時03分45秒
- 図書室に戻った矢口は、何事もなかったかのように、参考書を開く。
その文字がぼやけて読めないことで、自分が涙ぐんでいることに気づいた。
―紗耶香は、もう……
開かれたページに、ぽたりと落ちた涙のしずくが広がった。
- 65 名前:マーチ 投稿日:2002年08月21日(水)17時05分30秒
- 更新しました。
レスありがとうございます。感謝!
>57 素人○吉は20の名無し。さん
ってことは、2度もレスを!うれしいです。ありがとうございます!
矢口さん、市井の変化に気づいちゃいました。
(せつない役が似合う人!?)
>58 名無し読者さん
矢口さん、登場しました。ちょっと大人なキャラ…どうでしたか。
また楽しみと言っていただけるように、がんばります!
次は、とうとう二人が…
- 66 名前:名無し@さやまりヲタ 投稿日:2002年08月21日(水)22時43分30秒
- やぐぅぅぅううう!!(号泣)
ヤグ、大人だ…(感涙)
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月22日(木)02時23分46秒
- いちごまにいしよし!!(w
あぁどうなるのだ・・・
いしよしのシーンも見たい(w
- 68 名前:素人○吉 投稿日:2002年08月23日(金)15時11分55秒
- や、やぐっつぁんの気持ちが痛く切ない…(泣)
この後の市と後の絡みが凄い気になりますね。
期待して待ってます。
- 69 名前:出会い 投稿日:2002年08月24日(土)21時34分31秒
- 「おかえり〜、市井ちゃん!」
コンビニの前で後藤に声をかけられ、我に返る。
あれから矢口の言葉をずっと考えていたのだが、目の前の後藤を見て、
100パーセントじゃなくなった原因をさとった。
「後藤…」
- 70 名前:出会い 投稿日:2002年08月24日(土)21時35分24秒
- 何週間ぶりの公園でのおしゃべり。
手にはいつものマンゴープリン。
「なんか久しぶりだね! こうやって二人でおしゃべりするの」
「ん…後藤が来なかったからでしょ」
嬉しさを隠しきれずに話しかけた後藤に対して、市井の言葉は自分で整理でき
ない感情が表に出てしまい、とげがあった。
気まずい空気が流れる。
「…ちよっと、いろいろあって」
「…いろいろ、か」
会話が途切れ、重たい沈黙。
後藤は思いきって、矢口のことに触れた。
- 71 名前:出会い 投稿日:2002年08月24日(土)21時36分19秒
- 「市井ちゃん、つき合っている人いたんだね…矢口さん」
「えっ! ああ…う、うん」
後藤の口から、矢口という名前が出たことに焦る市井。
後ろめたいような、いたたまれないような気持ちになり、しどろもどろになる。
「矢口さんって、どんな人?」
「どんなって…なんで、そんなこと聞くの?」
「なんでって…市井ちゃんが好きになる人って、どんな人かなあって…」
しだいに機嫌が悪くなる市井に、後藤の言葉が続かなくなってしまった。
- 72 名前:出会い 投稿日:2002年08月24日(土)21時37分32秒
- 今度は市井が一番気になっていたことを聞いた。
「後藤は?」
「へっ!?」
「後藤のつき合ってる人は、どんな人?」
「ええっ、…そんな人いないよぉ」
あわてて否定するが、市井はさらに言葉を続けた。
「いるじゃん、朝帰りした相手」
「えっ? 朝帰り…?」
「それで最近、市井の前に姿見せなかったんでしょ?」
「それって、もしかして…」
ぷっと後藤が吹き出し、笑いながら言った。
「やだなぁ、市井ちゃん。きのうはよっすぃーの家に泊まったんだよ」
「へっ、よっすぃー?」
「うん。ちょっと後藤が落ち込んでてさ、よっすぃーが励ましてくれてたんだ」
- 73 名前:出会い 投稿日:2002年08月24日(土)21時38分48秒
- 市井は自分の浅はかでくだらない誤解に、恥ずかしくて頭を抱えてしまった。
と同時に、後藤につき合っている人がいないとわかって、ほっとしている自分
にも気づいた。
今朝からずっとイライラしていた感情が和らいでいく。
―これって、後藤のことを…!? でも、やぐっちゃん…
そんな市井の心の中の葛藤を知る由もない後藤は、おもむろに耳をぐいっと引
っ張って、口を尖らせながら言った。
「市井ちゃんが考えてるような朝帰りなんて、後藤、したことないからね!」
「そ、そっか」
「市井ちゃんはあるだろうけどさ」
「なっ!…」
市井の顔がみるみる真っ赤になった。
その表情を見て、胸が苦しくなる後藤。
- 74 名前:出会い 投稿日:2002年08月24日(土)21時39分40秒
- 「矢口さんとは、長いんだってね」
「ああ、うん。 もうすぐ1年、かな…」
後藤の胸がズキンと痛む。
市井の口から彼女の事を聞くのはかなり辛い。
でもその反面、知りたいという思いも強くなる。
「どこが好き?」
「どこって…」
「やっぱり、かわいいとこ?」
「ん…まあ…そうかな。後藤は?」
「へっ?」
「後藤はどんな人がタイプ?」
「ええっ、どんなって…」
突然の質問にうろたえる。
今までそんなこと、一度も聞かれたことはなかった。
―市井ちゃんみたいな人って言ったら、どんな顔するかな…
- 75 名前:出会い 投稿日:2002年08月24日(土)21時41分17秒
- 「んと、年上で、スポーツマンで、やさしくて、かっこよくて、頼りになって、
一緒にいるとすごく楽しくて、すごく安心できて、後藤の心をいつもあった
かくしてくれる人…かな」
すらすらと自然に口から出た言葉は、まさに市井を指していた。
「そんな完璧なやつ、いるかー!?」
「いるもん…うん、いる! ぜったいいる!」
むきになる後藤を市井が目を細めて見つめる。
「かわいいな…」
「えっ」
突然のストレートな言葉に、真っ赤になる後藤。
無意識に出た自分の言葉に、市井も驚いて顔が熱くなった。
- 76 名前:出会い 投稿日:2002年08月24日(土)21時42分09秒
- 「あっ、いや、つい…」
「……」
二人とも下を向いたまま黙ってしまった。
しばらくして後藤がそっと顔を上げると、そこには大好きな市井の優しい顔。
―やっぱり、市井ちゃんが、好き…
しまい込もうとしていた市井への想いが溢れ出す。
もう、それを止めることはできなかった。
- 77 名前:マーチ 投稿日:2002年08月24日(土)21時44分15秒
- 更新しました。
レスありがとうございます。感謝!
>66 名無し@さやまりヲタさん
矢口さん、あまり登場させられなかった上に、
あのような悲しい役で…
(でも、大人なやぐ、けっこう気に入ってたりします)
>67 名無し読者さん
いしよしのシーンですか。
見たいと言っていただけるのは嬉しいです。
前向きに検討!?
>68 素人○吉さん
またまたレスいただけて、かなり嬉しいです。
期待をされると燃えるんです♪ってことで、
次回ラストですが、がんばります。
次は、ラストになります。
- 78 名前:素人○吉 投稿日:2002年08月25日(日)01時07分31秒
- ん…次回最終回…なんか寂しい気もしますが。
次回作はあるのでしょうか?
一人ふてる市が可愛いw
&市の「そんな完璧なやつ、いるかー!?」発言に爆笑w
- 79 名前:マーチ 投稿日:2002年08月26日(月)19時45分20秒
- レスありがとうございます。感謝!
>78 素人○吉さん
またまたまたレスをいただけた上に、
寂しい気がするだなんて…(涙)
これからも読んでいただけると、うれしいです。
市井ちゃん、可愛いかったですかー。
では、更新します。
- 80 名前:出会い 投稿日:2002年08月26日(月)19時47分19秒
- 「市井ちゃん…」
あのときと同じ視線。
真剣で、まっすぐで、優しくて、熱い。
「後藤…」
市井の想いも溢れ出す。
心の奥で、深く、大きく育っていた後藤への想い。
頬に手を添えたのが合図。
ふたりの唇が重なった。
ほんの数秒だったが、それは二人の気持ちがひとつになった瞬間だった。
- 81 名前:出会い 投稿日:2002年08月26日(月)19時48分12秒
- どちらからともなく、そっと離れる。
黙ったままの二人だったが、先に口を開いたのは後藤だった。
「マンゴープリン…」
「へっ?」
「マンゴープリンの味がしたよ、市井ちゃんのキス」
ほんのりと頬を赤く染めた後藤がつぶやくと、二人の間にあった緊張感が解け、
顔を見合わせて笑った。
市井はその笑顔を見て、はっきりと自覚した。
自分の気持ちがいつのまにか、後藤に向いていたことを。
どうしようもなく好きになっていたことを。
- 82 名前:出会い 投稿日:2002年08月26日(月)19時49分08秒
- そして、しばらく何か考え込んでいたような市井が、後藤の方にゆっくりと
身体を向けた。
その真剣な表情に、後藤も固くなる。
「あした、やぐっちゃんに会うよ」
「えっ?」
「会って言うから…、その…、ほかに好きな人ができたって」
「それって…」
市井が笑みを浮かべて頷いた。
後藤の表情が一気に緩み、市井を見つめている目から、じわじわと涙があふれ
てくる。
「泣くなよぉ。まだ告白してないのにさ」
「だって…うれ…しいんだもん…」
こぼれる涙をやさしく親指で拭いながら、市井は心の内を話した。
- 83 名前:出会い 投稿日:2002年08月26日(月)19時50分37秒
- 「なんか、うまく言えないけど、自分の中でけじめをつけたいっていうかさ…。
まず、やぐっちゃんと別れるよ。それから後藤に、ちゃんと告白するからさ。
待っててくれるでしょ?」
「…待ちきれないよぉ…」
「あのなぁ…」
「だって、ずっと好きだったんだもん…市井ちゃんのこと、大好きなんだもん…
一回あきらめようとしたけど、やっぱりだめで、やっぱり大好きで…」
今までがまんしていた想いが、涙と一緒にとめどなくわき上がる。
- 84 名前:出会い 投稿日:2002年08月26日(月)19時51分51秒
- 「わかった…わかったから。ありがと、後藤」
後藤の頬を撫でるその仕草は、どこまでも優しい。
それでもまだ市井のシャツをギュッと握り、肩を震わせて泣いている後藤。
愛しさでたまらなくなった市井は、後藤への想いを告げていた。
「好きだよ、後藤…大好きだから」
二人はもう一度マンゴープリンを味わった。
〜お・わ・り〜
- 85 名前:マーチ 投稿日:2002年08月26日(月)19時54分37秒
- 『出会い』編、終了しました。
祝!ハッピーエンド
(やぐっちゃん、ごめんなさい)
とちゅう、感想や励ましをいただけて、最後までがんばれました。
読んでくださった方、レスをくださった方、ありがとうございました!
えっと、この後ですが…
続編という形で、この二人(いちごま)を書いていこうと思います。
(短編でいくつか考えています)
また読んでくださる方がいたら嬉しいです…
それではまた
- 86 名前:素人○吉 投稿日:2002年08月27日(火)00時35分55秒
- いちごまサイコー!!
やっぱりこの二人のハッピーエンドは何より嬉しいですね。
それにマーチさんの文が奇麗で凄い好きです♪
(自分じゃ書けない…)
やぐっつぁんはかわいそうだったけど(笑)
マーチさんの作品、どんどん読みたいですね。
短編も楽しみにしてます^^
- 87 名前:名無し娘。 投稿日:2002年09月01日(日)18時44分03秒
- 良かった〜、ハッピーエンドで。
子供な市井と子供な後藤って何気に新鮮な感じですね。
(すいません、自分の中ではココの市井さんは子供っぽくて可愛かったんですw)
甘いいちごま、良かったです!
- 88 名前:マーチ。(気合いの「。」) 投稿日:2002年09月03日(火)18時30分39秒
- レスありがとうございます。感謝!
>86 素人○吉さん
いつもレスありがとうございます。
感想とか励ましとか、ありがたいです。
初小説だったので、読んでいる方に伝わるかどうか不安でした…。
だから、文が好きと言ってもらえて、かなり嬉しいです。
続編もおつき合いいただけるよう、がんばります!
>87 名無し娘さん
レスありがとうございます。
吉後推しの方にも楽しんでもらえてよかったです。
市井ちゃん、やっぱり子どもっぽかったですか!?
自分も薄々感じてはいたのですが…
このままのふたりでいっちゃいます。
では、いちごまの続編いきます。
- 89 名前:初デート 投稿日:2002年09月03日(火)18時31分43秒
- 「市井ちゃん、はやくー!!」
「わかったから、引っ張るなって」
上映開始時間まであと10分。
初めてのデートは、定番の映画ラブストーリーだった。
「だいたいなぁ、後藤が遅刻するから…」
「だって、すっごく楽しみでなかなか眠れなかったんだもん」
ぎりぎり滑り込んで、並んで座る。
公開して結構たつので、観客はまばらだった。
- 90 名前:初デート 投稿日:2002年09月03日(火)18時33分12秒
- 「そんなに、この映画見たかったの?」
「市井ちゃん!それ素で言ってるの?」
ちよっと膨れながら上目づかいでにらむ。
が、市井にとってそれは、ただかわいいだけ。
「市井ちゃんと、えっと…初めてのデートだから、嬉しくて眠れなかったの!」
「へっ?…そうなの?」
まったく、もう…とぶつぶつ言いながら口を尖らせる。
そんな後藤がかわいくてしかたがない市井は、チュッとその頬にキスをした。
「えっ!…市井ちゃん!?」
観客が少ないとはいえ、公衆の面前でキスをするなんて。
後藤は頬に手をやりながら、周囲をキョロキョロと見渡した。
どうやら誰も気づいていないようで、ほっとする。
一方の市井は、そんな後藤のあわてぶりを楽しむかのように、平然と前を見て
いた。
「だいじょうぶ、暗いからさ」
「…市井ちゃんの、ばかぁ…」
頬に置いた手が、どんどん熱くなっていく。
スクリーンの中では、主役の二人が熱いラブシーンを演じていた。
- 91 名前:初デート 投稿日:2002年09月03日(火)18時34分09秒
- 甘ったるいストーリーが進んでいく。
観客の中でひとり後藤だけが、映画に集中できないでいた。
映画よりも気になる存在。
すぐ隣に市井がいる。
ひじとひじとが触れ合っている。
それが嬉しくて。
いまだに信じられなくて。
市井の横顔を見つめながら、後藤はあの日のことを思い出した。
- 92 名前:初デート 投稿日:2002年09月03日(火)18時35分33秒
- 市井と気持ちが通じ合った次の日、いつものように公園で会った。
ベンチに座るなり、市井がウーロン茶を一気に飲み干した。
そして、その空き缶を見つめながら、矢口のことを話し始めたのだった。
「今日、やぐっちゃんと別れた」
「え…」
「ちゃんと話したから、…後藤のことも」
「…うん」
それはとても嬉しいことだけど、矢口のことを考えると、なんて言っていいのか
わからない。
後藤はずっと下を向いていた。
「そんな暗くならないでよ、後藤…」
「だって…」
「こっち見て…」
後藤の頬に手を添えて、自分の方に向かせた。
- 93 名前:初デート 投稿日:2002年09月03日(火)18時37分12秒
- 「んーと、なんかあらたまって言うとなると…」
「なあに?」
「だからさ…きのう言ったでしょ、ちゃんと別れてから後藤に告白するって」
「え?…だって、きのう市井ちゃん、好きだって言ってくれたじゃん」
「いや、あれはさ…勢いで、つい…」
「つ、ついー!? 勢いって……後藤、喜んだのに……」
真っ赤になって怒ったかと思うと、だんだん泣きそうになっていく。
その顔を見て、おろおろする市井。
後藤の涙には、めっぽう弱かった。
- 94 名前:初デート 投稿日:2002年09月03日(火)18時38分17秒
- 「いや、ちがうって、ちゃんと言いたかっただけだよ。泣くなよぉ…」
「…じゃあ、言って」
涙目で市井を見る。
「もう、いいよ」
「だめ! 言って!」
上目づかいに強い口調。
こうなると市井はいいなりだ。
「ん…、じゃあ、言うよ」
「うん」
市井が後藤の正面に立ち、まっすぐ目を見つめた。
後藤もじっと見つめて、言葉を待つ。
- 95 名前:初デート 投稿日:2002年09月03日(火)18時39分12秒
- 「後藤が、好きだよ。だから…、つき合ってほしい」
「……」
照れて真っ赤になりながらも、しっかりと気持ちを告げてくれたことに、
後藤は胸がいっぱいになって、なにも言えなくなってしまった。
「なんか言ってよ、恥ずかしいじゃん…」
頭を掻きながら横を向く。
その瞬間、後藤が勢いよく抱きついてきた。
「後藤も好き!大好き!市井ちゃん、大好きだからね!」
「後藤…うん、ずっとなかよくやっていこ」
「うん!」
- 96 名前:初デート 投稿日:2002年09月03日(火)18時40分23秒
- 観客の大きな笑い声で、はっと我に返った。
どうやら、恋人の二人のやり取りがおもしろくて、どっとうけたようだ。
隣の市井を見ると、やっぱり笑みを浮かべながら、スクリーンを見ていた。
―市井ちゃん、ずっとなかよくだからね
後藤が自分の左手を市井の右手に重ねた。
市井が指を絡めながらその手をぎゅっと握り返した。
―好きな人と気持ちが通じ合うって、こんなに幸せなことだったんだ…
結局、後藤は、最後まで映画に集中することなく、市井に夢中になっていた。
- 97 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月03日(火)18時41分29秒
- 続編スタートしました。
こんな感じです。
どうでしょう?
甘すぎますか…?
次は、…次も甘くなりそう
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月03日(火)18時52分21秒
- 更新待ってたYO!!
甘いの大好きです
- 99 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月03日(火)19時44分42秒
- イイですね、甘々ないちごま。
次だけといわずこのまま甘々で突き進んで欲しいです。
- 100 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月04日(水)20時23分28秒
- 続編、待ってました!
砂を吐くほど甘いのをお願いします(w
- 101 名前:初デート 投稿日:2002年09月06日(金)19時49分40秒
- 「んじゃ、どっかでお茶しよっか」
「うん!」
映画館を出て、並んで歩く。
二人ともTシャツにジーンズというラフな格好だったが、キャップをかぶって
いる市井は、傍目から見れば男の子にも見える。
仲良く歩く姿は、まさしく街中に溢れるカップルそのものであった。
- 102 名前:初デート 投稿日:2002年09月06日(金)19時50分47秒
- 指が触れるか触れないかの距離。
市井が手をつなぐタイミングを計る。
一言ことわるべきか、いきなりか。
そんなことで迷っていると、それを見抜いたかのように、後藤が言った。
「市井ちゃん、んと…腕、組んでもいい?」
「へっ? 腕? あ、ああ、うん」
「やったぁ!」
嬉しそうに腕をからませ、身体をぴたっとくっつける。
手をつなぐことしか頭になかった市井は、その密着ぶりにドキドキした。
「ちょ、ちょっと、くっつきすぎじゃないかぁ?」
「いや?」
後藤が笑みを浮かべながら、市井の顔を覗き込む。
確信的とも言えるその表情と仕草。
市井に勝ち目はなかった。
- 103 名前:初デート 投稿日:2002年09月06日(金)19時51分42秒
- 「…いやってことは、ない」
「じゃあ、いいじゃん!」
にこにこしながら、さらに身体を寄せる。
ますます胸がドキドキしてきた。
「い、いいけどさ、恥ずかしくない?」
「さっき、映画館でキスした人が言うことかなー」
「あれはさ、後藤がしてほしそうな顔したからだよ」
「そ、そんな顔してません! 勝手に決めないでよね、市井ちゃん!」
「あっ、その怒った顔もいいかも…」
「もぉ!」
怒ったり、甘えたり、からかったり、ふざけたり。
一緒にいることが嬉しくて仕方がないふたり。
- 104 名前:初デート 投稿日:2002年09月06日(金)19時52分48秒
- 喫茶店に入り、後藤はマンゴープリン、市井はアイスティーをたのんだ。
「ほんとに好きなんだね、それ」
「うん、だって、市井ちゃんの味だもん!」
「へっ?」
最初は意味がわからなかったが、後藤のにやけた顔を見て、その意味を理解した。
初めてキスしたときのシーンが思い出され、ぽっと顔が赤くなる。
「あのなぁ…」
「へへへ…」
いつまでもにやけている後藤の頬っぺたを指で突っつく。
「その顔やめなさい、恥ずかしいから」
「はーい! へへへ…」
やれやれという感じの市井だったが、後藤を見つめる目は相変わらず優しかった。
- 105 名前:初デート 投稿日:2002年09月06日(金)19時53分42秒
- 「映画、けっこうおもしろかったね」
「え…、う、うん。そう、だね」
「なんだよ、後藤が見たいって言ったやつなのに、随分あっさりしてるなあ」
「そんなことないよ、よかったよ」
いまいち反応が薄い後藤に、ちょっと不満な顔をする。
しかし、ストーリーがわかっていない後藤に、それ以上の感想を述べることは
できなかった。
「ふ〜ん、まぁいいけどさ。じゃ、今度は何見ようか?」
「えっ、今度?」
「うん、市井さ、アクションものとか、サスペンスものも好きなんだよね」
「…うん、後藤も好き!」
市井とは、これから何度でも映画を見ることができる。
つき合っているのだからあたりまえのことなのだが、後藤はそのあたりまえの
こと、ひとつひとつに感動していた。
- 106 名前:初デート 投稿日:2002年09月06日(金)19時54分52秒
- それから約2時間。
二人のおしゃべりは、尽きることがない。
アイスティーの氷もすっかり形を無くしていた。
「…へっ? 石川って、うちのクラスの?」
「そうだよ、よっすぃーとつき合ってるんだ」
いつのまにか話題は、吉澤と石川のことに。
2年になって、市井と石川は同じクラスになったのだが、それほど仲がいいと
いうわけではなかった。
密かにちょっとかわいいと思ってはいたけど。
「へー、石川と…。知らなかったなー!吉澤のやつ、いつのまにそんな…」
バレー部に所属している吉澤のことは、同じ運動部である市井もよく知っていた。
1年生ながら、即戦力として活躍していて、先輩にもかわいがられている。
まるで市井が1年生のときのように。
- 107 名前:初デート 投稿日:2002年09月06日(金)19時55分48秒
- 「あっ! 市井ちゃん、今よっすぃーのこと、うらやましと思ったでしょ!?」
「へっ? お、思ってない、思ってない」
「だって、いつのまにそんなって、悔しそうに言ったじゃん」
「悔しそうになんて言ってないって。そりゃ、石川はかわいいけど…」
「あーっ、やっぱりそうなんだ〜! もぉ、市井ちゃんの浮気者!」
「あのなぁ…」
そんなことないと言おうとしたとき、後藤の顔がはっとして固まったことに
気づいた。
何事かとその視線の先をたどる。
「あっ……」
そこには、矢口の姿があった。
- 108 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月06日(金)19時57分03秒
- 更新しました。
これって甘いのかな…?
(自分じゃわかんなくなってきた)
レスありがとうございます。感謝!
>98 名無し読者さん
レスありがとうございます。
待っていてくれたんですか? ほんとですか?
うれしいです。甘いいちごまで、がんばります。
>99 名無し読者さん
レスありがとうございます。
はい、今後も甘く突き進んじゃいます。
>100 名無し読者さん
レスありがとうございます。
待っていてくれる方がいたんですね。
うれしいです。甘いいちごまで、がんばります。
次は、矢口さん登場…です。
- 109 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月06日(金)21時16分22秒
- っわー!!!!!!!!!
ここで矢口さん登場ですか……。
更新待ってましたっ♪
凄い楽しみにしていたのでめちゃくちゃ嬉しいです。
- 110 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)19時58分14秒
- 「やぐっちゃん…」
「あっ、紗耶香…と後藤さん、こんにちは」
うまく言葉を返せない市井と、小さく頭を下げる後藤。
別れてから顔を合わせたのは、これがはじめてだった。
よりによって、こんなときに会ってしまうなんて。
「偶然だね。矢口、ここで待ち合わせなんだ」
「そう…なんだ」
上擦った声に、市井の動揺ぶりが表れる。
かける言葉が見つからない。
しだいに空気が張りつめる。
- 111 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)19時59分06秒
- 「じゃあね」
「あっ、うん…」
切り出したのは矢口だった。
後藤の前を軽く頭を下げながら通り過ぎて行く。
その姿を市井がじっと見ていることに気づき、後藤の心がズキンと痛む。
―市井ちゃんの好きだった人……
矢口の存在は、ふたりにとって、まだ完全に過去形にはなっていなかった。
- 112 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)19時59分55秒
- 「帰ろっか…」
「ん…」
市井が立ち上がり、ふたりは店を後にした。
そのまま黙って歩く。
微妙な距離を保ちながら。
市井からの言葉を待っていたが何も言ってくれず、後藤の心は沈む。
さっきまでの甘い雰囲気は一瞬にして消えてしまった。
- 113 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)20時01分06秒
- 家へ向かう道を歩きながら、市井はあの日のことを思い出していた。
今でも胸が痛む、別れたあの日のことを。
後藤と気持ちが通じ合った次の日、矢口と会った。
そして正直に自分の気持ちを伝えた。
いつのまにか、矢口への気持ちが100パーセントじゃなくなっていたこと。
その原因が、後藤真希であること。
市井の目を見ながら黙って話を聞いていた矢口。
最後まで市井を責めることはなかった。
- 114 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)20時01分57秒
- 『嫌いになった? 矢口のこと』
『そうじゃないよ、嫌いになんて……ただ』
『ただ、なに?』
『後藤の、そばに、いたいんだ…』
『矢口のそばには、もういてくれないの?』
『……ごめん』
『そう…』
『ごめん、勝手で…』
『…わかった、別れてあげる…よ』
そう言って矢口は背中を向けた。
小さい肩が小刻みに震えていた。
初めて別れを経験した市井は、なぜだか涙が止まらず、その日は一晩中ベッド
の中で泣いた。
- 115 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)20時02分48秒
- 「…ちゃん、市井ちゃん」
「んっ? あっ、ごめん、なに?」
後藤の声でふっと我に返る。
「…なに考えてるの?」
「えっ? ……べつに、なにも。…ってことはないか」
「…矢口さんのこと?」
「……ん」
「正直だね、市井ちゃん…。ふつうはさ、違うよって答えるもんだよ」
「そっか…ごめん」
会話はそこで途切れ、再び長い沈黙が続いた。
- 116 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)20時03分42秒
- 窓際の奥の席に座った矢口。
苦いコーヒーを口にしながら、外の景色をぼんやりと眺める。
さっき見たふたりの光景が、頭から離れないでいた。
『あっ、市井ちゃん、今よっすぃーのこと、うらやましと思ったでしょ!?』
『へっ? お、思ってない、思ってない』
『だって、いつのまにそんなって、悔しそうに言ったじゃん』
『悔しそうになんて言ってないって。そりゃ、石川はかわいいけど…』
『あっ、やっぱりそうなんだ〜! もぉ、市井ちゃんの浮気者!』
『あのなぁ…』
- 117 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)20時04分25秒
- 甘えている後藤と、満更でもない市井。
はじめて二人でいるところを見た矢口にも、その仲のよさは十分に伝わった。
それよりショックだったのは、市井が矢口といたときとはぜんぜん違っていた
こと。
―あれが本当の紗耶香だったんだ…
つき合っていた1年という月日が空虚に感じられ、むなしさで涙が込み上げる。
と同時に、いまだに市井への想いが少しも薄れていないことを思い知った。
- 118 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)20時05分24秒
- 「ごめーん!遅れて」
矢口の目の前にハアハア言いながらやってきたのは、待ち合わせ時間に大幅に
遅れて来た親友、安倍なつみだった。
「寝坊しちゃってさ、本当にごめん…って、えっ、矢口?」
涙の跡が乾ききっていないその顔を見て、びっくりする。
「どした?」
「ん…紗耶香に会っちゃった…偶然」
「それで泣いてたのかい?」
「紗耶香と後藤さんのデート現場見ちゃって、あんまり仲良さそうで…」
安倍にだけは本音を打ち明けられる。
昔からずっと、矢口にとって、とても大事な存在だ。
- 119 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)20時06分30秒
- 「まだ、好きなんだね」
「うん……忘れたつもりだったのに、ぜんぜん…」
じわじわとまた涙が込み上げる。
それを見た安倍が、そっとハンカチで拭った。
「無理に忘れようとしなくてもいいんじゃない?」
「え、でも…」
「1年もつき合ったんだから、1年かけて忘れればいいっしょ。ねっ?」
「うん…そうだね」
安倍のやさしくて柔らかい笑顔を見てたら、自然と涙も止まって、矢口も笑う
ことができた。
- 120 名前:初デート 投稿日:2002年09月07日(土)20時07分27秒
- 喫茶店を出て、人ごみの中を歩く。
今日は、矢口のお気に入りのショップをまわることになっていた。
「ねぇ、なっちぃ、1年たっても忘れられなかったら?どうしたらいい?」
矢口が安倍をからかうように冗談ぽく聞いた。
「そんときは、んー、なっちが忘れさせてあげるから」
にっこり笑う安倍。
からかおうとしてた矢口のほうが、ドキッとしてしまう。
「はっ?なっちが?どうやって?」
「それはそんときまでおしえなーい!」
安倍が交差点へ駆け出した。
矢口が追いかけ、手をつなぐ。
悲しみや辛さをやわらげてくれる親友に、心から感謝する矢口だった。
- 121 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月07日(土)20時09分46秒
- 更新しました。
矢口さんがあまりにもかわいそうで、
なっちを登場させてしまった…。
(実はなちまりも好き)
レスありがとうございます。感謝!
>109 素人○吉さん
いつもレスありがとうございます。
楽しみに待っていてくれる方がいる限り
がんばっちゃいます!
(早めに更新できるように、がんばりますね)
次は、ごっちん、がんばる…!
- 122 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月07日(土)22時57分45秒
- 辛い想いと幸せな想いを各々が持っていて、
見ていて切なくなります。
ゆっくりのペースでいいです、頑張って下さい〜。
ごっちん、何するんだろう?
- 123 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月08日(日)14時47分52秒
- なっち、いい子だなぁ。さすが天使(w
ごっちん、頑張れ!
作者さんも頑張れ!
- 124 名前:出会い 投稿日:2002年09月09日(月)18時08分39秒
- 結局ふたりはあれから一言も話さないまま、後藤の家に着いた。
「じゃ、また明日」
「…うん、……あっ、市井ちゃん」
帰ろうと歩き出した市井を呼び止める。
振り返った市井に、いつもの笑顔はなかった。
「…うち、あがっていって? だめ?」
「えっ…、でも、突然おじゃましちゃ…」
市井は言葉を濁した。
一人になりたいという気持ちがどこかにあったからだ。
「だれも、いないんだ…だから…」
いつになく真剣で必死な後藤の誘い。
「うん……じゃ、ちょっとだけ」
その眼差しの強さに押され、市井が頷いた。
- 125 名前:出会い 投稿日:2002年09月09日(月)18時09分28秒
- 誘う予定はぜんぜんなかった。
でも、このまま市井が帰ってしまうと、初めてのデートが後味の悪いものにな
ってしまいそうで、後藤は夢中で声をかけていた。
黙ったままの市井。
笑顔のない市井。
喫茶店を出てから、後藤の不安は募る一方だった。
なんとか最初のいい雰囲気に戻したい。
その思いが後藤を強くした。
- 126 名前:初デート 投稿日:2002年09月09日(月)18時10分52秒
- 先に部屋へ行っててと言われ、静かに戸を開けた。
初めて入った後藤の部屋は、お世辞にもきれいとは言えなかったが、全体が
落ち着いたシックな色調で統一されており、センスの良さが感じられた。
コルクボードに目をやると、吉澤と写っている写真や家族と一緒の写真がたく
さんはってあった。
市井と二人のはまだない。
が、いつ撮っていたのか、市井のユニフォーム姿の写真が1枚、机の上の写真
立てに飾ってあった。
- 127 名前:初デート 投稿日:2002年09月09日(月)18時11分51秒
- 「あっ!」
飲み物を抱え部屋に入ってきた後藤は、市井が写真立てを見ていたことに気づ
き、あわてて奪い取った。
「いつ、撮ったの?」
「…ずっと前に、よっすぃーに撮ってもらったの、欲しかったから…」
そう言うと、よほど恥ずかしかったのか、写真を抱きしめたまま背を向けた。
その後ろ姿からは、後藤の想いが痛いほど伝わってくる。
―こんなに想ってくれてるのに、自分は……
背を向けたままの後藤を後ろからそっと抱きしめた。
- 128 名前:初デート 投稿日:2002年09月09日(月)18時12分40秒
- 「あ……」
突然、腕の中に包まれ、はっとして顔をあげた。
こんな風に抱きしめられたのは初めてだった。
市井はまわした腕にさらに力を込め、首筋に顔をうずめる。
「いいにおいがする…」
「え…」
市井の息遣いがダイレクトに伝わって、胸がドキドキした。
「嬉しかった…写真…。ちょっと、照れくさいけど…」
「市井ちゃん…」
耳元でささやかれ、ますます胸が高鳴った。
- 129 名前:初デート 投稿日:2002年09月09日(月)18時13分25秒
- 「んーと…、これからさ、二人の写真ふやしていこ」
市井が照れながらコルクボードを指差して言った。
「うん」
振り返った後藤の顔がとても嬉しそうで、市井もにっこりと微笑む。
それは後藤がいちばん見たかったものだった。
- 130 名前:初デート 投稿日:2002年09月09日(月)18時15分10秒
- ベッドに並んですわり、次のデートの計画をたてる。
「ねぇねぇ、市井ちゃん。今度はさ、ふたりで遊園地に行きたいな!」
「うん、いいね」
「あとね、動物園でゴリラが見たい! あっ、水族館もいいな! 後藤ね、
イルカに触ってみたいんだ! 市井ちゃん、触ったことある?」
「いや、ないよ」
「あっ、公園でピクニックっていうのも、市井ちゃんとしてみたい!お弁当
はね、後藤がつくるよ。これでも料理が趣味なんだから! あとね…」
- 131 名前:初デート 投稿日:2002年09月09日(月)18時15分57秒
- 市井の中から矢口を消してしまいたくて、後藤は一生懸命、喋り続けた。
一生懸命、明るく振舞った。
それはきっと不自然なくらいに。
その健気な後藤の姿に、市井は胸が打たれた。
そして、自分が不甲斐ないばかりに、辛い思いをさせてしまったことを悔やんだ。
こんなに好きなのに。
こんなに大切なのに。
- 132 名前:初デート 投稿日:2002年09月09日(月)18時16分49秒
- 「…ちゃん、市井ちゃん、ねぇ、聞いてる?」
「ああ、うん。…後藤、ありがと」
「え?」
「もう、大丈夫だから。もう、やぐっちゃんのことは考えてないから」
後藤の目をまっすぐ見つめながら、市井がはっきりと言った。
その言葉は、後藤の張りつめていた気持ちをやわらげてくれた。
- 133 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月09日(月)18時19分41秒
- 更新しました。 (最初の題名のミスは気にしないでください…)
ごっちん、がんばった!
レスありがとうございます。感謝!
>122 素人○吉さん
いつもレスありがとうございます。
感想をいただけて、ありがたいです。
せつなさは、伝えたかった一つなので、
そう言ってもらえると、うれしいです。
>123 名無し読者さん
レスありがとうございます。
なっちのキャラは…やっぱ天使!
ごっちん、がんばりました〜
次は、熱い…!
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月09日(月)18時54分21秒
- 更新お疲れ様でした。
続きも気になる所ですが
作者さんのペースで頑張って下さい。
- 135 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月09日(月)21時23分37秒
- ごっちんー(泣)
なんて健気…。
マーチさんの作品はいつもツボで凄い好きです。
- 136 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月11日(水)00時58分37秒
- よかったねぇ、ごっちん。
頑張った甲斐がありましたね。
で、何が熱いんだろう?
- 137 名前:初デート 投稿日:2002年09月11日(水)18時49分55秒
- 「ほんと? ほんとにもう、矢口さんのこと…」
「うん、もう後藤のことしか考えてないよ」
「…よかった」
小さく息を吐いた後藤。
表情が緩んで、全身の力もぐったりと抜けていく。
そんな後藤を見て、市井の胸がきりりと痛む。
- 138 名前:初デート 投稿日:2002年09月11日(水)18時51分04秒
- 「後藤と一緒にいるときに、やぐっちゃんのこと考えてたなんてさ…ほんと
最低だった……ごめん」
市井が頭をさげる。
許してほしいとかじゃなく、最低の自分が許せなくて。
下を向いたまま痛いほど唇を噛みしめた。
何度謝っても自分のしたことは消せないけど、それでも謝らずにはいられな
かった。
「ごめん…」
「………」
「嫌な思いさせて、わるかった…」
「ん……市井ちゃん、帰り道ぜんぜん話してくれなくて、悲しかった…」
吐き出された後藤の本音が、市井の心をぐさりと刺した。
- 139 名前:初デート 投稿日:2002年09月11日(水)18時52分19秒
- 「後藤…ごめん…本当にごめん…」
「心が…、市井ちゃんの心が、矢口さんの方に行っちゃってるんだなあって
わかって…すごく悲し…くて……」
そこまで言って言葉につまり、うつむいてしまった。
小刻みに肩が震えている。
声を押し殺しているが、泣いているのは明らかだった。
こんなに後藤に悲しい思いをさせてしまったことに、市井は後悔と自責の念に
押しつぶされそうになった。
- 140 名前:初デート 投稿日:2002年09月11日(水)18時53分33秒
「ごめん…泣かないで…」
どうしようもなく触れたくなって、そっと手を伸ばした。
まるで壊れやすいガラス細工に触れるかのように、髪を撫で、そして頬を撫でる。
言葉にできない想いが伝わるように。
その手に自分の手を重ねて、後藤がゆっくりと顔を上げた。
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙。
胸がぎゅっと締めつけられる。
「もう二度と、悲しかったなんて言わせない」
市井の強い想いが後藤の心に響いた。
- 141 名前:初デート 投稿日:2002年09月11日(水)18時54分30秒
- 「市井ちゃん…好き」
後藤からそっと唇を重ねる。
「ん…好きだよ」
一度離れて視線を合わせ、今度は市井から。
はじめての長い長いキス。
「…んっ…」
漏れた声に反応して、市井がキスを深くする。
手をぎゅっと握って、後藤がそれに応える。
絡み合うキスは、熱くて、激しくて、止まらない。
そのままふたりの身体がゆっくりと傾いていった。
- 142 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月11日(水)18時55分55秒
- 更新しました。
やっといい感じのふたり…
レスありがとうございます。感謝!
>134 名無し読者さん
レスありがとうございます。
ペースが落ちないようにがんばりたいです。
お気遣い感謝します。
>135 素人○吉さん
いつもレスありがとうございます。
今回もツボだといいのですが…
どうでしょう?
>136 名無し読者さん
レスありがとうございます。
ごっちんのがんばりで、二人の気持ちが熱くなりました!
次で、『初デート』編は終わります。
- 143 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月12日(木)02時10分30秒
- 更新お疲れ様です。
毎回楽しみにしています。
ありふれたことしか言えないのですが
頑張って下さい。
- 144 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月12日(木)23時05分29秒
- 本当に真剣にマーチ。さんの作品、凄く好きです。
マーチ。さんの影響で余計いちごまにハマってしまいました。
二人がひとつになる瞬間は、何度見てもやっぱ好きです。
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月13日(金)23時25分14秒
- 良かった良かった。
デート編、終わっちゃうんですか。
また次の話も期待していいですか?(w
- 146 名前:初デート 投稿日:2002年09月13日(金)23時52分16秒
重なり合ったまま、キスは深く熱く続く。
我を忘れたかのように、市井が攻め立てる。
市井の重さを感じながら、後藤はその激しい情動を一身に受けとめる。
- 147 名前:初デート 投稿日:2002年09月13日(金)23時53分17秒
- 「…ん…んっ」
後藤の苦しそうな声に気づいたとき、市井がやっと顔を離した。
そのまましばらく見つめ合う。
ふたりにしかわからない、視線で交わす言葉。
後藤の上気した頬にそっと触れる。
目をつぶり、その手のひらのやさしさを感じる。
そして、この先の展開に迷っているかの市井を促すように、後藤が右手をのば
し、市井の髪に触れた。
「いいよ、市井ちゃん…」
見上げた目は必死で、今にも涙がこぼれそうになっていた。
- 148 名前:初デート 投稿日:2002年09月13日(金)23時54分29秒
- その目に吸い込まれるかのようにしばらく見つめていた市井が、にこっと笑っ
たかと思うと、チュッとおでこにキスを落とした。
「今日は、やめよ…」
「えっ」
「んーと、なんていうか…やぐっちゃんのことでお互い普通じゃないかもしれ
ないしさ。そんな気持ちで後藤と…って、嫌だし」
「市井ちゃん…」
「こうして後藤の体温を感じられるだけで十分だよ」
そう言うと市井は、もう一度おでこにキスをした。
- 149 名前:初デート 投稿日:2002年09月13日(金)23時55分43秒
- 自分のことを大切に思ってくれている。
それがわかって後藤の胸がいっぱいになる。
市井の首に腕をまわして、そのままぐっと引き寄せた。
「ほんとはね、いいよ≠ネんて言ったけどね、死ぬほどドキドキだった…」
「ん、顔が必死だったもんなぁ」
笑いながら後藤の頬をつっつく。
「えっ、そんな顔してた?」
「うん、してた…でも、ちょっと色っぽかったかも…」
「へっ?」
色っぽいなんて言われたのは生まれて初めてで、耳まで真っ赤になった。
「あっ、なんかこのままの体勢でいると襲っちゃいそ…」
「ええっ!さっきと言ってることが違うよ、市井ちゃん!」
あわてて市井の肩を押すが、すぐに抱きしめられてしまう。
- 150 名前:初デート 投稿日:2002年09月13日(金)23時56分48秒
- 「ははっ、冗談だって」
「もぉ、びっくりするじゃんかぁ」
「いいよ≠チて言ったのは誰だっけなぁ…」
「もぉ! 市井ちゃんのいじわる!!」
ベッドの上で、いつまでもじゃれ合うふたり。
いろいろありすぎた初デートは、ふたりの仲を深めてくれた。
〜お・わ・り〜
- 151 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月13日(金)23時58分48秒
- 『初デート』編、終了しました。
読んでくださった方、レスをくださった方、ありがとうございました。
>143 名無し読者さん
レスありがとうございます。
ありふれただなんて、とんでもありません。
とてもとても励まされます。
>144 素人○吉さん
いつもレスありがとうございます。
そんなに気に入ってもらえたなんて…嬉しすぎます!
次も楽しんでもらえるよう、がんばります!
>145 名無し読者さん
レスありがとうございます。
初デート編は終わりましたが、次もあったりします。
また、読んでやってください。
それではまた
- 152 名前:orangepeko 投稿日:2002年09月14日(土)01時18分20秒
- いいですね〜!!
後藤がめちゃかわいいです(^^)
マーチさんの小説とっても読みやすいですね。見習います!
これからも頑張ってください。
- 153 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月14日(土)22時36分30秒
- いちーの優しさに触れるごまの気持ちに激しく共感です!
自分も初めていちーの優しさに触れた瞬間、
ごまの気持ちが激しくわかりました。
あーやっぱりいちごまサイコウ!!!!!!
マーチ。さん、次回作も楽しみにしています。
- 154 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月15日(日)03時15分25秒
- 久々に初々しいいちごまですね。二人の進展に期待しちゃって良いのかな・・?
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月16日(月)11時53分53秒
- やっぱりいちごまはいいなぁ。
次も期待してます。
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月18日(水)15時17分01秒
- 続編期待sage
- 157 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月19日(木)22時43分39秒
- レスありがとうございます。感謝!
>152 orangepekoさん
レスありがとうございます。
市井ちゃんといるごっちんはとにかくかわいい!
と記憶しているので…その路線でいってます。
…読みやすいですか? そう言ってもらえると嬉しいです。
>153 素人○吉さん
毎回のレスありがとうございます。嬉しいです。
自分にも言わせてください。
『あーやっぱりいちごまサイコウ!!!!!! 』 …ふ〜っ、すっきりした〜!?
また楽しんでもらえるように、がんばります。
- 158 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月19日(木)22時44分50秒
- >154 名無しさん
レスありがとうございます。
初々しさはいつまでも無くさないようにしながらも、
進展はそれなりにすると思われ…かなり遅そうなふたりですが…。
気長におつき合いください。
>155 名無し読者さん
レスありがとうございます。
期待をされると燃えるんです♪ってことで、がんばります!
またおつき合いください。
>156 名無し読者さん
レスありがとうございます。
また楽しんでもらえるといいのですが。
では、更新します。
- 159 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月19日(木)22時45分46秒
- 「ふ〜ん、そんなことがあったんだ」
「うん、なんかね、もっと市井ちゃんのこと好きになったって感じ!」
照れもせずのろける後藤に、やれやれという表情の吉澤。
屋上でお昼のお弁当を食べながら、二人は初デートの報告会を開いていた。
- 160 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月19日(木)22時46分40秒
- 「それにしても、矢口さんに会うとはね…すごい偶然」
「うん…、ほんとにびっくりしたよ。市井ちゃんは黙っちゃうし…」
「やっぱり別れて間もないから、さすがの市井さんも動揺しまくりか」
「ん…、でも、それってさ…」
後藤がふいに視線を落とし、言葉をためらった。
箸を持っている手も止まる。
「なに?」
「…矢口さんに、まだ気持ちがあるってことだよね」
それは後藤が心の奥でずっと感じていたことだった。
ずっと心のどこかで引っかかっていたけど、こわくて口に出せなかったこと。
- 161 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月19日(木)22時47分42秒
「えっ、それは違うよ、ごっちん」
「だって、あんなに動揺するなんてさ…」
思い出したくはないのに、あのときの姿がはっきりと浮かぶ。
矢口と会ったときの硬直した市井の姿。
何一つ返答できなかったほどの心の揺れ。
暗く沈み込む後藤に、たまらず吉澤が声をかけた。
- 162 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月19日(木)22時49分02秒
- 「ごっちん、なに言ってんのさ!気持ちがあるとか、そういうんじゃないって!
まだ別れて間もないからさ、矢口さんにどう接していいのかわかんなかった
だけだって。ごっちん以外に気持ちがあるわけないじゃん!」
「そうかな…」
顔をふせたまま考え込む。
「ごっちん…。きっとさ、時間が解決してくれるよ。だからごっちんは、変な
こと考えないで、市井さんを信じなさい!」
バシッと背中を叩かれる。
それがいつもの吉澤流の励まし方だ。
「そっか、うん…そうだよね。よっすぃー、ありがと」
後藤がようやく顔を上げた。
- 163 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月19日(木)22時49分57秒
「それで、ごっちん、次のデートはどうなったの? 決まった?」
「うん、日曜日にね、水族館に行くんだ!」
卵焼きを頬張りながら、市井と二人で計画したデートコースを説明する。
「んと、水族館でイルカのショーを見てから、ゲーセンでちょっと遊んで…」
「よし!のった!」
吉澤が急に大きな声を出した。
- 164 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月19日(木)22時50分53秒
- 「へっ?」
「そのデートに着いて行く!」
「はぁっ!? なんでさー、邪魔じゃん!」
邪魔扱いされたことに、ちょっとむっとする吉澤。
「一人でついて行く訳じゃなくて、梨華ちゃんと一緒にだよ。
つまり、ダブルデートってこと!」
「ダブルデートぉ!?」
吉澤がにんまりとした顔で頷いた。
- 165 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月19日(木)22時51分59秒
- 「ごっちんと市井さんのアツアツぶり、見てみたいしさ。それに、梨華ちゃん
も紹介したいし。いいじゃん、4人で行こうよ!」
「……」
梨華ちゃん≠ニいう名前を聞いて、この前のデートの時に市井が言ってた
言葉を思い出した。
『悔しそうになんて言ってないって。そりゃ、石川はかわいいけど…』
「どうしたのさ、ごっちん、黙りこくっちゃって。そんなにうちらと行くの嫌
なの?」
「嫌っていうか…心配…」
「へっ?なにが?」
「市井ちゃんね、梨華ちゃんのことかわいいって言ってたんだよね…」
「えええっ!! まじで!?」
「うん…」
- 166 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月19日(木)22時53分01秒
―矢口さんを射止め、ごっちんをも射止めた市井さん…危ないかも!!
そう思い直して、ダブルデートの提案を取り下げようとしたとき、後藤が先に
口を開いた。
「でも、まさかね…うん、余計な心配だった。いいよ、4人で行こう!」
「え…あの…」
「たのしみだなぁ〜!」
「あのさ…ごっちん…」
そしてグッドタイミングでチャイムが鳴り、お弁当終了と同時にダブルデート
が決定した。
- 167 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月19日(木)22時54分09秒
『ダブルデート』編スタートしました。
あっ、よっすぃーとの会話で終わってしまった…。
次は、市井ちゃんも登場しますので、許してくださいっ!
- 168 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月20日(金)15時34分10秒
- 本当に、いちごまはサイコウですね。
ダブルデート編も凄く期待しています。
- 169 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月21日(土)14時40分50秒
- よく晴れた日曜日。
二組のカップルが水族館に来ていた。
チケット売り場に並んでいるのが市井と後藤。
後ろの方を振り返れば、吉澤と石川の二人が、にこやかに手を振っている。
「ごめんね、市井ちゃん。よっすぃーがどうしても一緒に行きたいって」
「ああ、べつにいいよ。あの二人となら楽しそうだしさ」
チケットを受け取り、お釣りをポケットに突っ込みながら、市井が言った
その言葉に後藤がちょっと不満げな顔を向ける。
- 170 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月21日(土)14時41分47秒
- 「ん? なに?」
「…後藤と二人だけだと、楽しくない?」
ちょっと拗ねたような言い方が、市井にとってはかえってツボだ。
「…んなわけないでしょうが!」
ぺちっとチケットで後藤のおでこをたたくと、くるっと向きを変え、待ってい
る吉澤たちの方へ駆け出した。
「もぉー、待ってよ、市井ちゃん!」
「ははっ、市井の俊足に追いつくかー!」
走って、追いついて、くっついて。
引っぱって、抱きついて、つっついて。
人目も気にせず、じゃれ合うふたり。
- 171 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月21日(土)14時42分35秒
- そんなふたりを石川たちがあきれ顔で見ていた。
「ふふっ、なんかじゃれ合ってる猫みたい、あのふたり」
「あちゃー、市井さんのイメージが…」
「後藤さんって、あんなに明るい顔で笑うんだね」
「うん、なかなか見れないよ、あんな顔。きっと、市井さんの前だけだと思う」
見てるほうが恥ずかしくなるほどのいちゃつきぶり。
出だしから思いっきり見せつけられてしまった吉澤と石川だった。
- 172 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月21日(土)14時43分34秒
館内に入るとそこは別世界で、薄暗い照明が魚たちを幻想的に映し出していた。
静かなBGMが耳に心地よく流れ、ムードは満点。
訪れる客が家族連れよりもカップルが多いというのも頷ける場所だった。
そんな中を二組のカップルが、思い思いに歩いていた。
- 173 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月21日(土)14時44分25秒
- 「見て、よっすぃー。すごくきれい」
「ほんとだね」
石川が熱帯魚の水槽の前で足を止めた。
吉澤の腕に自分の腕をからめ、その水槽をまじまじと見つめる。
「小さい頃ね、熱帯魚飼ってたんだよ」
「ほんと!? うちも飼ってたよ」
「よっすぃーも!?種類はなに?」
「んーとね…」
水槽の魚よりも、自分たちが飼っていた熱帯魚の話に花が咲く。
かなり甘いムードが漂っていた。
- 174 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月21日(土)14時45分30秒
- 「見て見て、市井ちゃん! すごいよお、この魚、変な顔してるー!」
後藤が深海魚の水槽の前で足を止めた。
市井の手をしっかり握りながら、その水槽をまじまじと見つめる。
「おおっ、なんか後藤に似てないかー?」
「…もお!市井ちゃん!」
頬を膨らませながら、つないだ手を引っ張り、隣の水槽へ向かう。
「なんだよ、まだこっちの見てない…」
「いいから、早くー!」
引っぱられ、連れまわされる市井。
後藤に振り回されながらも、その楽しそうな笑顔に市井の心も弾んだ。
- 175 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月21日(土)14時47分40秒
- 更新しました。
いちごまといしよし…
レスありがとうございます。感謝!
>186 素人○吉さん
毎回のレス嬉しいです。ありがとうございます。
最近、苦慮しているので、ご期待にこたえられるか不安…です。
次は、…甘くしたいなあ
- 176 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月21日(土)17時29分23秒
- あ、新しいのが始まってる!
楽しそうな話ですね。頑張って下さい。
ところで作者さん、以前何か書かれてませんでした?
- 177 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月22日(日)08時08分08秒
- 市推しと二推しのカップル登場凄く嬉しいです。
マーチ。さんの作品、読んでるだけで凄く幸せになりますよ!
無理せず、ゆっくりでいいんで頑張って下さい。
あ〜ごっちんに連れ回される市井がサイコウww
- 178 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月23日(月)12時48分18秒
- 広い館内を隅々まで見て回り、さすがに疲れてきた市井と後藤は、いったん休
憩することにし、広場のベンチに座った。
「なんか冷たいもの買って来るよ」
「いいよ、後藤が買ってくる。市井ちゃん、休んでて」
「足、痛いんでしょ?」
「え…?なんで…?」
「やっぱり。座っておとなしく待ってなさい」
そう言ってにこっと笑った市井が、売店の方へ行ってしまった。
たしかに履きなれていない靴だったため、歩けないほどではないが足が痛くな
っていた。
でも、そんなこと一言も言ってないのに。
ふとした時に見せる市井のさりげないやさしさ。
それに触れるたび、後藤はますます引かれていく。
- 179 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月23日(月)12時49分13秒
- 「となり、いいですか?」
後藤にとつぜん声をかけてきたのは、流行の服を着飾った大学生風の男だった。
「今、来るんです。ごめんなさい」
「彼氏待ちか、じゃ、それまで」
後藤の言葉を無視して、その男は市井が座っていた場所に、すっと入り込んだ。
後藤はすぐにでも立ち上がりたかったが、もうすぐ市井も戻ってくると思いそ
のまま黙っていた。
「かわいいね、君。高校生?」
「……」
「彼氏って、同級生?もっとさ、大人と遊んだほうが楽しいよ。ドライブでも
しない?」
たまらず後藤が立ち上がる。
その腕を男がつかんだ。
- 180 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月23日(月)12時50分20秒
- 「ちょっと…」
「彼氏くるまで、いいじゃん」
「放して…」
「そんなこわい顔しないでさー」
後藤が大きな声を出しそうになったその時だった。
「真希!!」
「え!? あ、市井ちゃん!」
声がした方を向くと、市井がこわい顔をして立っていた。
その声の強さと殺気に押されたのだろうか。
男の手がばっと離れ、そそくさとその場から立ち去っていった。
- 181 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月23日(月)12時51分41秒
「だいじょうぶ?」
「ん…つかまれたときは怖かったけど」
市井から受け取ったオレンジジュースをごくごく飲む。
喉がカラカラになっていたことに、その時気づいた。
「ごめん。後藤を一人したのが間違いだったよ、声かけられるに決まってる
のにさ」
「え、決まってるって、なんで?」
「なんでって、後藤みたいなかわいい娘が一人でいたらさ…」
「えっ…」
「あっ…」
かわいいと言われて照れる後藤と、言ってしまって照れる市井。
ふたり同時にジュースを口にした。
- 182 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月23日(月)12時52分51秒
- 「市井ちゃん…、かっこよかった…」
「へ?」
後藤がはにかみながらつぶやいた。
「心の中で市井ちゃんを呼んだらね、ほんとに来てくれたんだもん」
「ははっ、ちょっと遅かったけどね」
「それに…初めてだったし」
「ん?なにが?」
後藤の方を見ると、真っ赤な顔をしてうつむいていた。
「呼んでくれたの、名前……真希って…」
「あ…ああ、うん」
市井も負けずに赤くなる。
たしかに真希≠ニ呼んだのは、これが初めてだった。
- 183 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月23日(月)12時53分54秒
- 「ねぇ、市井ちゃん、もういっかい呼んでよ」
「ええ!?やだよ」
甘えた声で擦り寄ってくる後藤は、完全におねだりモード。
いつもならあっけなく受け入れてしまう市井だが、この時は違った。
「なんでー!? 呼ぶくらいいいじゃんかぁ」
「いや、恥ずかしいって…」
「一回でいいからさ、おねがい!」
「…やだよ、おねがいされたってダメ」
あくまでも拒否する市井。
あらためて真希≠ニ呼ぶのは、かなり恥ずかしいらしい。
「さっき、呼んでくれたのに…」
「あれは、咄嗟に出たからさ…あっ、ほら、イルカのショーの時間だ。行こっ」
もうお仕舞というように、市井がジュースを飲み干し立ち上がった。
しかたなく後藤もあきらめる。
「ちょっと、市井ちゃん、待って…」
バッグにハンカチをしまうのに手間取っていると、上から市井の声がした。
- 184 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月23日(月)12時55分00秒
「おそいぞ、…真希!」
「…え!」
びっくりして見上げると、市井が頭を掻きながら横を向いていた。
- 185 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月23日(月)12時56分49秒
- 「一回…呼んだからね…」
「……ず、ずるいよぉ、不意打ちばっかりじゃん!」
照れてる市井の腕を勢いよくつかんで、後藤が口を尖らせた。
「一回でいいって、言ったじゃん」
「ちゃんと、目を見て言ってよぉ!」
「…んなことできるか!」
「ねぇねぇ、はやくー、もう一回!」
その後も何度か『真希』と呼ばせようとがんばった後藤だったが、市井は
照れてはぐらかすばかりだった。
そして、二組のカップルは予定通りイルカのショーやペンギンのショーを
見てまわり、ダブルデートは、いい雰囲気のまま順調に進んでいった。
- 186 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月23日(月)12時59分16秒
- こんな日だから、更新。(Happy Birthday!そして…)
甘いいちごまになったかな…
レスありがとうございます。感謝!
>176 名無し読者さん
レスありがとうございます。
二つのカップルそれぞれの楽しさが伝わるようにがんばります。
…えっと、これが初めてです。
(もしかしてやっぱりHNかぶってましたか!?)
>177 素人○吉さん
毎回のレス嬉しいです。とっても励まされます。
いしよしが二推しですか?趣味が似てますね!?
ちなみに自分はなちまりも好きで、激しく二推しに近いです。
次は、市井ちゃんとよっすぃー、語る…
- 187 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月23日(月)23時31分09秒
- 吉石は元市推しだったりするのでw
いちーちゃんの“真希”は特別な呼び方なんですね。
昨日のごっちん卒業スペシャルは、
ごっちんラストなんで、ごっちんだけを見ようと思っていたのに。
反則ですよね、あれはw
ごっちん、HappyBirthday!!
17歳のこの一年も、
ごっちんにとって素晴らしい年でありますように。
ずっと応援してるよ!
- 188 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)19時56分49秒
- 「おもしろかったねー、梨華ちゃん」
「うん。ごっちんたち、ずいぶんはしゃいでたね」
館内から出た後、後藤と石川が並んで前を歩いていた。
すっかり仲良くなっており、おしゃべりに夢中だ。
「そお?後藤たちは普通だったけどな」
「ええ!?あれが?」
「うん、いっつもあんな感じだよ」
「そうなんだ」
きょとんとしている後藤と目を丸くしている石川。
石川にしてみれば、人前であんなに無邪気にはしゃぐふたりがとても
信じられなかった。
自分たちとは、あまりにも違いすぎていたから。
- 189 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)19時57分40秒
- 「そうそう、それでね、市井ちゃんがさ、すっごくかっこよくて…」
そして後藤が目を輝かせて市井のことを話し続ける。
市井への愛情が石川にもひしひしと伝わった。
―私はこんな風に、よっすぃーのこと話せるのかな…
後藤の話に相づちを打っていたが、心は上の空だった。
- 190 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)19時58分41秒
- 市井と吉澤はその後ろを歩いていた。
体育会の先輩・後輩の関係を残しつつも、こちらもすっかり仲良くなっていた。
「市井さん、ずいぶんごっちんに振り回されてましたね」
「ああ、いつものことだよ」
言葉は投げやりだが、なんとなく嬉しそうな市井。
「あんな市井さん、はじめて見ました。矢口さんといるときは、もっと大人っ
ぽくて… あっ!…すっ、すいません!」
つい矢口の名前を出してしまい、あわてて謝る吉澤だったが、市井は気にする
ことなく言葉を続けた。
- 191 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)19時59分30秒
- 「うん…やぐっちゃんといたときはさ、自分が年下なこともあって、どっかで
無理してたのかもしれない。つり合いたいみたいなさ…」
「…その気持ち、よくわかります」
前を歩いている一つ年上の石川を見ながら、吉澤がつぶやいた。
時々、感じているギャップ。
ふだんの自分と、石川といるときとの自分。
「後藤といるとさ、心地いいっていうか、自分らしくいられるっていうか…、
んーと、一緒にいることが自然なんだよね」
「見ててそう感じました。なんか、市井さんもごっちんも、すごくいい感じで」
本当にそう思っていた。
どっちがつき合いが長いのか、わからないくらいだったから。
- 192 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)20時00分15秒
- 「そぉか?あれって、いい感じなのか?」
「ごっちんのあんな嬉しそうな顔、市井さんといるときしか見れませんよ」
「…なんか照れるけど」
「うらやましいです…すごく…」
吉澤の声が小さくなり、表情が曇る。
何か悩んでいるような様子に、市井も心配になった。
「うらやましいって…、吉澤たちだって、仲良さそうで…」
「仲はいいですよ。でも、なんか違う…」
「おいおい、なに深刻になってんの?なんか違うって、どういう意味?」
「市井さんたちのように、親密じゃないっていうか…本物じゃないっていうか
……うちらは遠慮しあっているような気がするんです」
表情は暗いままで、吉澤が考え込む。
- 193 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)20時01分10秒
- 「なんだよそれ、そんな考え込むことじゃないって!素直に気持ちを表せば
それでいいんだよ。ちゃんと向き合ってさ」
「素直に…、向き合う…ですか?」
「そう、思いやる気持ちは大切だけど、遠慮してたらわかりあえないじゃん」
「そっか…。ごっちんは、素直ですよね、いつも」
「うん、後藤はいつでも100パーセントでぶつかってくるから、こっちも100
パーセントで向き合わなきゃならないんだよね。素直で真っ直ぐなところが
あいつのいいとこかな」
後藤のことを思い出しているのか、市井の頬が自然と緩んだ。
「それが、ごっちんに惚れた理由ですか?」
「え…まあ、理由のひとつではあるかな…って、おい!なに言わせるんだよ!」
いつのまにか後藤のことをとうとうと述べている自分に気づき、照れまくる市井。
話を振った吉澤に八つ当たりしだした。
- 194 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)20時02分27秒
- 「市井さんが勝手に語りだしたんですよー。ごっちんのこと、ほんとに
好きなんですね、よ〜くわかりました」
「よしざわ〜!」
からかうような口調に、市井が真っ赤になりながら反撃。
自分より背の大きい吉澤をぐいっと羽交い絞めにした。
「痛っ、ちょっと市井さん!やめてくださいよ…」
「うっさい!先輩をからかった罰だー!」
力を緩めない市井に、音を上げる吉澤。
「す、すいませんっ…あっ、ほら、二人見えなくなっちゃいますよ。早く
行きましょ!」
「え、あっ!ほんとだ。やばい、走ろ!」
後ろのことを気にせずどんどん歩いていく後藤と石川が、いつのまにか遠く
になっていた。
その二人に追いつこうとして走っていた市井が何気なくつぶやいた一言。
それがちょっとした波乱を招いてしまう。
- 195 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)20時03分21秒
- 「それにしても石川って、かわいいなぁ。私服だとずいぶん印象変わるね」
「えっ!そっ、そうですか!?」
石川のことをほめられて嬉しいはずなのだが、市井に言われると逆に不安になる。
―やばい!やっぱり市井さん、梨華ちゃんのこと気に入ってる…
「スタイルもいいよなぁ、すっげー脚細いしさ」
「いっ、市井さん!」
思わず出た声はかなり大きくて、前を歩いていた二人もびっくりして振り返った。
「どうしたの、よっすぃー?」
二人の声が重なった。
- 196 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)20時04分09秒
- 「いやっ、市井さんがさ…」
にわかに市井に視線が集まる。
「梨華ちゃんがかわいいとか、いい身体してるとか、脚がいいとか、突然言う
から…」
「市井ちゃん!!」
真っ赤になって怒る後藤。
「え…」
真っ赤になってうつむく石川。
そして、やばいと思った吉澤は、石川の手を引っぱり歩き出した。
「じゃ、うちらは帰ります」
二人の姿はあっというまに見えなくなった。
- 197 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)20時04分55秒
- …その場に取り残された市井と後藤。
重たくて冷たい空気がふたりを包む。
「あ、あのさ、誤解だから…。あんなこと言ってないよ…」
「…じゃあ、よっすぃーがうそついたの?」
抑揚のない低いトーンの声に、びびる市井。
「い、いや、うそはついてないけど…」
「じゃあ、やっぱり、言ったんじゃん!」
「ちがうって!吉澤のやつ、微妙に脚色して…。まったく、なんて野郎だ。
今度会ったらただじゃおかな…」
「どうせ、後藤は梨華ちゃんみたいにいい身体≠オてないしね!」
市井の言葉を無視するようにさえぎり、すたすたと前を歩く。
- 198 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)20時05分32秒
- 「待ってよ、そんな怒るなってー。ごめん!」
「……」
「ねぇ、後藤…、悪かったって…」
「……」
後を追って、ひたすら低姿勢で謝るが、後藤は無言で歩き続けた。
「失言でした!ごめんなさい!」
「……」
「許してよー、なんでも言うこときくからさ…」
「ほんと?」
くるりと振り向いた顔は、満面の笑顔。
- 199 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月24日(火)20時06分43秒
- 「ああっ!! だましたな!!」
「やった〜、何してもらおうかなぁ…ん〜と」
「ったく、いつのまにそんな技を」
「へへっ、必死だった市井ちゃん、かわいかったよ! 行こっ!」
市井の手をとって人ごみの中へ走り出した。
しっかり繋がれた二人の手。
「どこ行くんだよー」
「この前ふたりで計画したじゃんかぁ、忘れたの?市井ちゃん」
「えっ、ほんとに全部行くの?」
「あたりまえでしょ!」
ゲーセン、ハンバーガーショップ、カラオケボックス、アクセサリーショップ。
今日はとことん後藤に連れまわされている市井だった。
そして楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
- 200 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月24日(火)20時08分05秒
- 更新しました。
ごっちん強し!
レスありがとうございます。感謝!
>187 素人○吉さん
毎回のレス嬉しいです。ありがとうございます。
卒業SPは、「いちーちゃん」が聞けただけで…
いちごまツーショットは、今後あるのでしょうか!?
次は、いしよし…
- 201 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時23分06秒
「よっすぃー、痛いよ。手…」
「あっ、ごめん…」
あれからずっと、手を引っぱったまま、ずんずんと歩いていた。
石川が痛がっていることにも気づかずに。
それは、普段石川に対して十分すぎるほど気配りができている吉澤にしては、
とても珍しいことだった。
「どうしたの? なんか、おこってる?」
「おこってないよ…」
言葉とは裏腹に、その言い方には憮然とした感情が表に出ていた。
- 202 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時24分09秒
- 「私、なんかしたかな?」
「…梨華ちゃんさ、うれしそうだったじゃん」
「えっ?」
「市井さんにいろいろ言われたとき、なんか真っ赤になって、うつむいて、
うれしそうだった」
「なに言ってるの? うれしくなんか……あっ…」
突然、吉澤の腕の中に包まれて、石川はおどろいた。
こんな強引な吉澤は、はじめてだった。
いつもは必ず行動に起こす前に『抱きしめてもいい?』と確認していたのに。
- 203 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時25分15秒
- 「よっすぃー?」
「…あんな顔、市井さんの前でしちゃいやだ。やだよ、梨華ちゃん」
「…よっすぃー。 わかったから、もうちよっと力、緩めて…」
「あっ、ああ。ごめん!」
無意識だった力は、かなり強かったらしい。
それだけ想いが込められていた。
あわてて、腕の力を緩めると、今度は石川が抱きついてきた。
背伸びをして、少し遠慮がちに、首に腕をまわす。
「えっ、梨華ちゃん?」
石川からこんな風にされたのは初めてだったので、吉澤の身体が硬直した。
- 204 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時26分49秒
- 「それって、妬いてくれてるのかな…」
「えっ…」
「だったら嬉しいな…よっすぃー、私の前ではあんまり感情を出してくれないから」
「あっ…」
市井の言葉が頭をよぎる。
『素直に気持ちを表せばそれでいいんだよ。ちゃんと向き合ってさ』
今までは、どんなにイライラしても、時にはカチンときても、石川の前では
それを隠していた。
それは意識的でもあり無意識でもあった。
そうすることが大人だと思っていたから。
年上の石川とつき合っていく上で、必要なことだと思っていたから。
―でも、それはちがうんですよね、市井さん。
今日一日の市井と後藤の二人の仲を見ているうちに、それがまちがいである
ことに気づいた。
そして、いつのまにか石川の前で感情を表に出していた自分がいたのだった。
- 205 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時27分33秒
- 「よっすぃー?」
「あっ、うん。梨華ちゃん、ごめん。梨華ちゃんの言うとおりだよ。
妬いてたんだ。だから、なんかすごくイライラして…」
「あやまらないで、私、うれしいって言ったんだよ」
「梨華ちゃん…」
「これからも今みたいに、ちゃんと気持ち話してくれる?」
「わかった!」
顔を見合わせてにっこりと微笑む。
一歩前に進んだ二人だった。
- 206 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時28分41秒
- 帰り道、市井と後藤はいつものコンビニで買い物をし、いつもの公園に寄った。
一日中遊びまわって、さすがに疲れたふたりは、ベンチにぐったりとして座り
込んだ。
「ふ〜、疲れた〜。でも、楽しかったね、市井ちゃん」
「うん、水族館なんて久しぶりだったけど、なかなかよかったな〜」
「市井ちゃん、子どもみたいにはしゃいでたもんねー!」
「へぇっ!?それは後藤の方でしょが!市井のどこが子どもみたいだって?」
「だって、市井ちゃん、イルカと握手したとき、そのまま引っ張り込もうとし
たじゃん!イルカびびってたよ!」
「それは後藤がイルカを抱っこしたいって言うからさぁ、…あっ、それを
言うなら後藤だって、ペンギンを…」
後藤と話していると、なぜかむきになってしまう市井だった。
- 207 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時29分33秒
- ひとしきり水族館での話をした後、後藤がマンゴープリンを食べながら、
ぽつりとつぶやいた。
「…市井ちゃんはさ、梨華ちゃんみたいな人が好みなの?」
「へっ?」
またその話かと少々うんざりしながら後藤のほうを見ると、その顔は思いの
ほか真剣で、市井もドキッとしてしまった。
「梨華ちゃんのことかわいいって、よく言うから…」
「そ、そんなことないよ。なに言ってんの…」
「もしそうならね、後藤も梨華ちゃんみたいなかわいい服着るし…、スタイル
もよくなるようにがんばるし…梨華ちゃんみたいに…!…」
とつぜんのキスが、後藤の言葉を飲み込んだ。
- 208 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時30分22秒
- 腕の中に包まれて、愛情いっぱいのキスを受ける。
後藤が大好きな甘くてやさしい市井のキス。
ゆっくりと唇がはなれると、市井が微笑みながら長くてさらさらな髪を撫でた。
「このままの後藤がいいよ」
「えっ…」
「今の後藤が好きだから」
何より嬉しい言葉をもらい、後藤の心が熱く満たされていく。
心の中にあった不安も、その言葉できれいに消されていった。
- 209 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時31分23秒
- そして今度は後藤からぎゅっと抱きつき、耳元でささやいた。
「何でも言うこと聞いてくれるんだよね?」
「へっ? あ、ああ、なに…?」
いったい何を言われるのかびくびくしながら後藤を見ると、その顔はからかう
雰囲気など一切無く真剣だった。
- 210 名前:ダブルデート 投稿日:2002年09月25日(水)15時32分18秒
「市井ちゃんもね、ずっとこのままでいて」
「え……」
「今の市井ちゃんが大好きだから!」
「後藤……」
マンゴープリンの味がするキス。
何度も味わって、その日のダブルデートが終わった。
〜お・わ・り〜
- 211 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月25日(水)15時33分34秒
- 更新しました。っていうか終わりましたー!
いしよしまでのつもりだったけど、できあがっちゃったので一気に。
読んでくださった方、レスをくださった方、ありがとうございました。
- 212 名前:元彼女 投稿日:2002年09月28日(土)22時16分29秒
「ふ〜ん、そのままでいてほしい≠ゥ。そんなこと言われたんだ」
「ん、へへへっ」
昼休み、一つの机で向かい合って座り、お弁当を食べている後藤と吉澤。
先日のダブルデートの反省会を開いていた。
「あたしもね、梨華ちゃんに妬いてくれたほうがうれしい≠チて言われ
ちゃったんだよね〜。しかも、梨華ちゃんから抱きついてくるしさぁ…」
「へぇー、そうなんだー。じゃあ、ダブルデート、大成功だね!」
「うんうん。また計画しようぜ〜」
- 213 名前:元彼女 投稿日:2002年09月28日(土)22時17分38秒
- そんな調子で語りあった後、吉澤の声のトーンが急に暗くなった。
「…そういえばさ、矢口さん、彼氏できたらしいよ…」
「えっ!?」
ジュースを飲もうとして伸ばした手が止まった。
明らかに動揺している後藤を吉澤が見つめる。
そしてゆっくりと視線を外すと、ゆでたまごの殻をむきながら、吉澤がぽつり
ぽつりと言葉を続けた。
後藤に伝えるべきか少し迷ったが、他の人の口から知るよりは自分がと、思い
直したのだった。
「今朝、先輩たちが話してたんだけど、その彼氏っていうのがさ、なんか派手
な男で有名な遊び人らしい…矢口さんにはぜんぜん似合ってないって、だま
されてるって…」
「……」
- 214 名前:元彼女 投稿日:2002年09月28日(土)22時18分22秒
- 黙り込む後藤。
心の中でぐるぐると複雑な感情が渦巻く。
校内では、『矢口から市井を奪った後藤』ということでかなり噂になった。
悪意のこもった言葉を投げつけられたこともある。
その声もようやく静まって、落ち着いた頃だったのに。
「市井ちゃん、それ、知ってるのかな…」
「んー、どうだろ。市井さんって、噂話に興味なさそうだし…。
でも、知ったらショックだよね。元彼女がそんな男に…あっ、ごめん」
「…いいよ。後藤もそう思うもん」
「ごっちん…」
楽しいはずの昼休みが、どんよりと暗いものになったままチャイムが鳴った。
- 215 名前:元彼女 投稿日:2002年09月28日(土)22時19分27秒
- 放課後、後藤はソフトボール部の練習を見に来ていた。
市井は普段と変わらず、どこまでもボールを追って跳びつき、Tシャツが
真っ黒になっている。
時折後輩に向ける笑顔は妬いてしまうほど輝いていて、その姿は後藤が知
ってるいつもの市井だった。
何かが変わってしまうのだろうか。
『もう二度と、悲しかったなんて言わせない』
あのときの言葉は、まだしっかりと後藤の心の中で輝いていた。
- 216 名前:元彼女 投稿日:2002年09月28日(土)22時20分16秒
「おつかれ! 市井ちゃん」
校門の前で市井を待っていた後藤が、とびっきりの笑顔で出迎える。
「おっ、あれ? 待ち合わせしてたっけ?」
「ううん、今日はちょっと一緒に帰りたいなって思って…行こ」
にっこり笑った後藤が、市井の腕を取ってゆっくり歩き出した。
- 217 名前:元彼女 投稿日:2002年09月28日(土)22時21分20秒
- 「なんか、あったの…?」
いつもなら横ではしゃぎまくっている後藤が、妙におとなしいことに気づき、
市井は心配になった。
「ん…市井ちゃん、聞いた? 矢口さんのこと…」
「へっ!? なに?」
突然出た矢口≠ニいう名前に、過剰に反応してしまう。
「矢口さんに、…彼氏ができたって…」
「えっ!? そうなの?」
後藤は無言で頷いた。
「……そ、そっかぁ…よかったな。やぐっちゃんもこれで…」
「よくない人みたいなんだ、その彼」
ようやく絞りだした市井の言葉を、後藤の低い声がさえぎった。
そして、吉澤から聞いたことを伝えると、市井の表情がみるみるこわばっていった。
- 218 名前:元彼女 投稿日:2002年09月28日(土)22時22分14秒
- 「心配?」
「えっ、うん。ちょっとは…」
「…ちょっとって顔じゃないよ、市井ちゃん」
「そんなことないよ!……もう、関係ない」
以前、矢口のことで、後藤に悲しい思いをさせてしまったことを忘れていない
市井は、きっぱりと言い切った。
「やぐっちゃんが決めたことなんだから、それでいいよ」
「……」
「そうでしょ?」
「うん…」
後藤には、それ以上何も言えなかった。
たとえ市井が無理しているとわかっていても。
- 219 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月28日(土)22時23分34秒
- 続き、始めました。
まず、ここまで。
- 220 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月28日(土)22時36分32秒
- うわ〜。新しい話が始まってる!
終わっちゃって残念に思ってたので嬉しいです。
今度はシリアスっぽいですね。
続き楽しみにしてます。頑張って下さいね!
- 221 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月29日(日)14時23分54秒
- う〜ん、なんか波乱の予感。作者さん頑張って下さい!
- 222 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月29日(日)15時51分06秒
- この話が続いてくれて嬉しいです。
後藤卒業SPでは、いちごまも見られたし。
続き楽しみにしてます。
- 223 名前:素人○吉 投稿日:2002年09月29日(日)22時43分31秒
- 暫くネットから離れている間に新しいお話しが!
元彼女と今の彼女の元カノのピンチ?…何だか痛い状況下ですね。
- 224 名前:元彼女 投稿日:2002年09月30日(月)20時50分31秒
翌日の昼休み。
市井のもとへ安倍なつみがやって来た。
矢口の親友である安倍とは、何度も三人で一緒に遊んだことがあり、気心も
知れていた。
いつも笑顔で周りをあたたかくしてくれる、かわいらしい人。
市井を含め誰もが安倍のことをそんなふうに言う。
矢口と別れてからは、市井は安倍と一度も話をしていなかった。
それどころか校内で偶然会ったときに、目を逸らされたこともあった。
- 225 名前:元彼女 投稿日:2002年09月30日(月)20時51分37秒
- 「何を言いに来たか、わかる?」
「だいたい…」
わざわざ安倍がくる理由といえば、矢口のことしかない。
「会ってやってくれないかな、矢口に」
「え…」
「あたしじゃ、だめなんだ…。悔しいけど…」
安倍が自分の足元をじっと見つめ、唇を噛みしめた。
- 226 名前:元彼女 投稿日:2002年09月30日(月)20時52分50秒
- 「でも、市井が会ったって、どうにも…」
「あたしにも声かけてきた奴なんだよ!」
「えっ…!」
「いろんな娘と遊んでる、軽くて最低な奴…」
安倍が顔を歪ませ、吐き捨てるように言った。
穏やかで笑顔の安倍しか知らない市井は、ただそれに驚く。
「傷つくの、見たくないんだ…だから…紗耶香に救ってほしい」
「そんな……」
「無理言ってることはわかってるの。でも、おねがい!…紗耶香の言うことな
ら、矢口きっと…」
「安倍さん…」
市井の制服を強くつかんで、懇願する。
いつもとはまるで別人の安倍がそこにいた。
- 227 名前:元彼女 投稿日:2002年09月30日(月)20時54分06秒
学校からの帰り道、市井と後藤は一緒に歩いていた。
他愛のない会話、無邪気な後藤の顔。
それはいつもの変わらない日常だった。
市井がその一言を言ってしまうまでは…。
「あのさ、後藤…。やぐっちゃんと、会ってもいいかな…」
「えっ!?」
「話したいんだ、きのうのこと」
結局、安倍の頼みを聞き入れてしまった。
後藤を悲しませるかもしれないとわかっていて、頷いてしまった。
「やっぱり、心配なんだね…」
「ん…」
なんとなくそんな予感はしていた。
きのうの市井は明らかに無理をしているとわかっていたから。
後藤がぎゅっと目をつぶった。
- 228 名前:元彼女 投稿日:2002年09月30日(月)20時55分12秒
- 「後藤がダメって言っても、会うんでしょ?」
「……うん」
安倍に頼まれたということは、一言も口にしない。
市井の潔さが表れていた。
「正直だね、市井ちゃん……そういうとこが好きなんだけど……」
「後藤…」
「いいよ、矢口さんと会って話してきて。よっすぃーの話が本当だったら、
後藤だって悲しいもん…。市井ちゃんはもっと悲しいと思うから…」
そう言って、市井の腕を両手でぎゅっと握る。
精一杯の後藤の思いやりは市井の胸にしみた。
「ありがとう、後藤」
「ん……いつ?矢口さんと会うのって」
「明日、学校帰りにでも」
「話が終わったら、電話して、すぐに」
「うん、わかった」
そのまま家に着くまで、後藤は市井の腕を離さなかった。
- 229 名前:元彼女 投稿日:2002年09月30日(月)20時56分06秒
大きく手を振りながら家に入っていく後藤を見送った後、胸のポケットから
携帯を取り出す市井。
メールを打つ指が少しだけ震えた。
『やぐっちゃん、明日ちょっと話したいんだけど、会えるかな?』
『いいけど。部活終わったら、家に来る?』
返事のメールはすぐに返ってきた。
- 230 名前:マーチ。 投稿日:2002年09月30日(月)20時58分03秒
- 更新しました。
レスありがとうございます。感謝!
>220 名無し読者さん
楽しみにしているという言葉に、とても励まされます。嬉しいです。
甘い話ばかりだったので、今回はシリアス系でいこうと思っています。
>221 名無し読者さん
波乱は次あたりでしょうか!?
励ましの言葉、ありがとうございます。がんばります。
>222 名無し読者さん
続いてくれて嬉しい≠セなんて…続きを書いてよかった!
こんな拙い文ですが、今後も楽しんでもらえるようにがんばります。
>223 素人○吉さん
いつもレスありがとうございます。
今回はちょっとシリアス系で、進めていこうと思っています。
元カノを救うのはやはり…!?
- 231 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月01日(火)18時52分35秒
- 市井ちゃん、矢口を救ってくれ〜。
そして早く後藤の元へ帰ってやってくれ〜。
作者さん、お願いします!
- 232 名前:素人○吉 投稿日:2002年10月02日(水)13時48分48秒
- 甘々もシリアスも大好き人間な奴にとって最高のいちごまです。
ヽ^∀^ノ頑張れ!!
ごっちん、寂しいと思うけど負けんな〜!!
- 233 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時06分43秒
そして次の日―。
部活を終えた市井が矢口の家に着いたときには、もう辺りは真っ暗になっていた。
矢口は今、一人暮らしをしている。
去年、両親が仕事の関係で地方に出ることになり、転校を嫌った矢口が親を説得
したのだった。
もちろん理由は、市井と離れたくないためだった。
- 234 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時07分28秒
- 玄関の前に立ち、大きく深呼吸を一回。
ここに来たのはいつ以来だろうか。
安倍に背中を押されるようにして来てしまったが、何をどう言えばいいのか
迷ったままであった。
携帯をワンコールしてから、インターホンを押す。
二人だけの約束がまだそこにあった。
- 235 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時08分31秒
- カチャッとドアが開いた。
「いらっしゃい、紗耶香」
「うん、おじゃまします」
それは市井がここに来たときのいつもの言葉。
自然と交わされてしまうことに、ふたりは心の中で驚いていた。
矢口が水色のスリッパを出した。
これもあの時と同じ。
つき合ってたときのことがあたり前の様にくり返され、錯覚を起こしてしまい
そうになる。
- 236 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時09分36秒
- 慣れ親しんだ空間は、久しぶりなのにやけに居心地がよくて、二人で過ごした
日のことが、次々と鮮明に思い出された。
一緒に勉強したテーブル。
一緒に料理したキッチン。
一緒にビデオを見たソファ。
そして、一緒に寝たベッド。
―後藤と出会わなければ、ずっと続いていたのかな…
ふとそんなことを思ってしまった自分に驚き、あわてて打ち消した。
- 237 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時10分43秒
二人は、テーブルをはさんで座った。
目の前に出された紅茶はやっぱりいつも一緒に飲んでいたもので、その香りが
いっそう懐かしさをかもし出す。
最初に口を開いたのは、矢口だった。
「なんか、久しぶり…こうして二人で…」
「うん…そうだね」
「部活は?どう?」
「うん、調子、いいよ」
「後藤さんとは?うまくいってる?」
「えっ、…うん」
矢口が問いかけ、市井がこたえる。
広がりのない途切れ途切れの会話は二人の距離なのだろうか。
目に映るものすべては慣れ親しんだものだけど、肝心の二人の間はすっかり
変わっていた。
- 238 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時11分54秒
「そっか、…で、話って?」
何も言ってこない市井に痺れを切らしたのか、矢口から話を振ってきた。
「ん…あのさ」
市井が気持ちを落ち着かせようと、紅茶を口にする。
矢口はそれをじっと見つめていた。
「やぐっちゃん、つき合ってる人、いるんだって?」
「あっ、…うん。もう、知ってるんだ」
「偶然、聞いちゃってさ」
「そう、…それで?そのことでなんか言いに来たの?」
触れられたくなかったことに入り込んできた市井に対して、言葉も表情も急に
きつくなる。
そのまま視線を落とすと、ティーカップをギュッと握った。
- 239 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時12分38秒
「その人のこと、好きなの?」
「同じ年でね、すっごくおもしろい人」
「好きなの?」
「かっこいいんだ、背も高いし…」
「好きなの?」
「紗耶香みたいにスポーツ万能で…」
いっこうに答えない矢口の態度に、さすがの市井も苛立ち、両手のこぶしを
テーブルにどんとついて、立ち上がった。
- 240 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時13分36秒
「だから、好きなのかって聞いてんの!!」
「好きなわけないじゃない!!」
市井以上に大きな音をたてて立ち上がった矢口。
ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
- 241 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時14分39秒
泣き顔を見られたくないのか、そのまま窓のほうへ歩き出した。
その後ろ姿に、市井がさらに問いかける。
「好きじゃない人と、なんで?」
「…それを、それを紗耶香に答えなきゃならないの!?」
「え…いや…」
感情が高ぶった矢口に、市井は言葉を詰まらせる。
ただ黙って背中を見つめることしかできなかった。
- 242 名前:元彼女 投稿日:2002年10月03日(木)18時15分40秒
やがて矢口の弱々しい声が聞こえてきた。
「紗耶香のこと忘れるためだよ…寂しくてしかたなくて、誰でもよかったの
かもしれない…」
「やぐっちゃん…」
肩も声も震えていて、背中越しでもその泣き顔が容易に想像できる。
「たまたまあいつが告ってきたから、だから…ぜんぜん好きじゃないけど
つきあって…」
「もう、いい…」
こんなつもりじゃなかった。
傷つけるために来たわけじゃないのに。
「一人でいると、どうしても紗耶香を思い出して…苦しくて…」
「もういいから!!」
気がついたら抱きしめていた。
あの頃よりも小さく見えるその背中を。
市井の腕に、矢口の涙の雫がぽたぽたと落ちた。
- 243 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月03日(木)18時17分11秒
- 更新しました。
レスありがとうございます。感謝!
>231 名無し読者さん
市井ちゃん、かなり矢口さんの方へ向いてしまいました。
基本的にやさしい人なので…
>232 素人○吉さん
毎回のレス、ありがとうございます。嬉しいです。
市井ちゃんがやさしすぎて、ごっちんがせつない…
さびしい思いをさせてしまいそうです。
- 244 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月03日(木)21時16分58秒
- ヤバイ、ヤバイよ市井ちゃん。
でも矢口も可哀想だし・・・。
みんな幸せになってくれ〜。
- 245 名前:素人○吉 投稿日:2002年10月04日(金)22時05分10秒
- うわぁ。痛い。
やくっつぁんの一途さが更に痛いです…。
- 246 名前:元彼女 投稿日:2002年10月05日(土)22時19分56秒
「えっ!?…じゃあ、今ごろ市井さん、矢口さんと会ってるの?」
「うん…」
後藤の家に遊びにきているのは吉澤と石川。
やっぱり平静ではいられないと思った後藤が、気を紛らわすために二人を呼ん
だのだった。
「ごっちん、不安じゃないの? 私なら…絶対会わないでって言っちゃう…」
石川が心配そうな声を出し、吉澤の方を見た。
「そうだよ、ごっちん。どうすんのさ、もし、よりもどしちゃったりしたら…」
吉澤も後藤の行動が信じられないというような顔をした。
「大丈夫だよ!やだなぁ、二人とも。市井ちゃんはそんな人じゃないよ。
矢口さんが心配なだけだもん」
心配そうな顔をする二人に対して、後藤は明るかった。
明るく振舞おうとがんばっていた。
もちろん不安はあるけれど、市井を信じる気持ちが強かったから。
信じられる言葉があったから。
- 247 名前:元彼女 投稿日:2002年10月05日(土)22時20分39秒
- 二人が帰ったあと、後藤が携帯を手にした。
待ち続けている市井からの着信はなく、がっくりと肩を落とす。
『話が終わったら、電話して、すぐに』
『うん、わかった』
市井のことを想い、祈るように携帯を握り締める。
今の後藤が唯一すがれるものだった。
- 248 名前:元彼女 投稿日:2002年10月05日(土)22時21分35秒
涙の跡が乾き始めた頃、矢口がゆっくりと市井の腕を解いた。
そしてそのまま市井の手を取り、ベッドのほうへ向かった。
「…えっ…やぐっちゃん!?」
「お願い、紗耶香…、今日だけあの頃に戻って…」
思いつめたような目が、まっすぐ市井に向けられる。
「それは、できないよ」
市井は視線をそらさず、はっきりと答えた。
「どうしても?」
「うん、後藤が待ってるから」
その言葉は矢口の心に刺さった。
- 249 名前:元彼女 投稿日:2002年10月05日(土)22時22分40秒
- ぎゅっと目をつぶり、市井の両腕をつかむ。
くすぶっていた激しい想いがわき上がり、それをそのまま市井にぶつけた。
「今日だけ、ううん、今だけでいいの…つき合ってた時のように抱いてほしい!
もう、だめなんだ矢口…、さびしくて…」
絞り出すような声。
すがるような目。
「やぐっちゃん…」
「かっこ悪いってことも、未練がましいってこともわかってる……わかってて
紗耶香に……」
つき合ってた時は、こんなに感情をさらけ出した姿を見たことはなかった。
こんな弱さを市井に見せてくれたことはなかった。
別れてから、本当の姿を見せてくれるなんて―。
- 250 名前:元彼女 投稿日:2002年10月05日(土)22時23分36秒
- ぐいっと市井の腕が引っ張られ、重なるようにベッドに倒れこむ。
目の前に矢口の顔。
潤んだ瞳には市井の顔が映っている。
こんなにさびしそうな目をしている矢口を見るのは初めてだった。
自分のせいでこんなに苦しんでいたなんて。
突きつけられた現実に愕然とする市井。
―やぐっちゃん、そんな顔しないで…!
胸がズキンと痛み、市井の中で何かがはじけた。
- 251 名前:元彼女 投稿日:2002年10月05日(土)22時24分52秒
- 「さびしいからってさ、好きじゃない人とつきあっちゃだめだよ」
「紗耶香…」
矢口の頬に手を当てて、溢れ出る涙を拭いた。
そのあたたかいぬくもりとやさしい眼差しは、矢口の寂しさを溶かしていく。
「そいつと別れられる?」
「うん…」
「もう好きじゃない人とつきあったりしない?」
「うん…」
「約束だよ」
「うん…」
「そばにいるから…」
「紗耶香……んっ…」
市井の唇が重なった。
矢口もそれにこたえて、キスはどんどん深くなる。
そのまま二人は恋人に戻って、思い出のかけらをたどっていった。
- 252 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月05日(土)22時26分12秒
更新しました。
レスありがとうございます。感謝!
>244 名無し読者さん
たしかに、ヤバイ状況になってしまいました。
だれが一番かわいそうなのか、わからなくなってきました。
>245 素人○吉さん
えっと、こうなってしまいました。
ますます痛いですね…。
いつもレスありがとうございます。励みになっています!
- 253 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月06日(日)19時03分12秒
- 市井ちゃん、後藤が待ってるぞー。
早く連絡してやらないと。
もう遅いのかな・・・。
- 254 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月07日(月)09時41分14秒
- ドロドロのいちごまり突入ですな。
どっちもキャワイイとは言え罪作りなちゃむ。
- 255 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月07日(月)15時35分58秒
- いちごまだよね?だよね?ちょっと心配(w
- 256 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時24分36秒
窓から差し込むまばゆい朝の光で、市井が目を覚ました。
目に入ってくるものがいつもと違い一瞬ドキッとしたが、すぐに昨夜のことを
思い出した。
― ゆうべ…やぐっちゃんと…
はっとして横を向くが矢口の姿はない。
けれど、うっすら残る香りがその存在を誇示していた。
- 257 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時25分34秒
- 「おはよう…」
「あ、おはよう、やぐっちゃん…」
ベッドの下に落ちていた服を着たところで、矢口が部屋に入ってきた。
シャワーを浴びてきたのだろう。
髪の毛がまだ乾ききっていなかった。
「シャワー、浴びる?」
「いや、いいよ。帰るね」
「そう…」
一夜明けても、やっぱり会話のぎこちなさは変わらなくて、気まずい思いを
してしまう二人。
身体の関係は戻れても、心は戻れない。
- 258 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時26分56秒
- 「じゃあ…」
また≠ニいう言葉を飲み込んで、市井が玄関のドアを開けかけた時だった。
「そばにいてくれるの?」
背中に突き刺さった矢口の言葉。
振り返ると、昨夜と同じ寂しそうな目。
支えてあげないと崩れてしまいそうだった。
「…今日、また来るから」
「ほんと?」
市井の一言で矢口の表情が生き返る。
完全に依存している矢口を突き放すことはできなかった。
「一緒にご飯食べよ」
「うん!」
にっこり微笑んだ矢口の顔は、市井の大好きだった笑顔だった。
- 259 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時28分18秒
矢口の家を出たのはまだ7時前。
朝一番の新鮮な空気を思い切り吸い込むと、胸にしみて少しだけ痛かった。
まだ人はほとんどいなくて、小鳥と犬の鳴き声だけが、やけに耳に響いた。
店もまだ、どこもシャッターが閉まっていて、無機質な町並みがよけいに
心を冷やす。
目に付いた自販機にコインを入れ、缶コーヒーのボタンを押した。
冷たいそれを額にあてて、ぐったりと寄りかかった。
このけだるさは何なのだろうか。
自己嫌悪……後悔……。
- 260 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時29分05秒
「後藤…」
額に感じていた冷たい感触が薄れてきた頃、自分がしてしまったことの大きさ
に気づき愕然とする。
自分を信頼してくれた後藤への裏切り…。
会っていいと言ってくれた後藤を背く行為…。
「後藤、ごめん…」
どうしてもほっとけなかった。
すがってくる矢口に背を向けることはできなかった。
そんな自分の弱さに腹立たしさが増していく。
ぬるくなった缶コーヒーを一気に飲み干し、片手でそれを握りつぶした。
- 261 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時30分02秒
シャワーを浴びて玄関を出たのは遅刻ぎりぎりの時間だった。
ポケットから携帯を出して見ると、後藤からの着信はなかった。
きっと約束を信じてずっと待っていたのだろう、自分からかけたい気持ちを抑えて。
そんな後藤の気持ちを思うと、自分を罰したくなるほど後悔の念に苛まれる。
携帯をパタンと閉めたとき、後ろから大きな声がした。
「市井ちゃん!」
振り返ると、後藤の笑顔が目に飛び込んできた。
市井が大好きな後藤の笑顔。
それを見るのが辛いときが来るなんて、思ってもみなかった。
- 262 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時30分58秒
- 「おはよう!市井ちゃん。一緒に学校行こうと思って待ってたんだよ。
電話来ないしさ、心配しちゃった」
「ああ、…ごめん」
「こんなに遅いなんて珍しいね。寝坊?あっ、もしかしてきのう遅かったの?
…矢口さんどうだった?」
後藤が次から次へと言葉をかける。
心の中にある不安をかき消すように。
市井から安心できる言葉が欲しかったから。
- 263 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時31分47秒
- しかし、市井から言葉は無く、ただ力いっぱい後藤を抱きしめるだけだった。
「ちょっ…えっ、市井ちゃん!?」
「……」
「…どうしたの? ねぇ、市井ちゃん」
「……」
何も言わない市井にとまどいながら、しばらくそのままでいた。
- 264 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時32分55秒
授業はとっくに始まっている時間だったが、ふたりは学校には行かずいつもの
公園に来ていた。
いつもと違うのは時間が午前中だということ。
それと、ふたりが無言だということ。
市井の気持ちは揺れていた。
昨夜のことを正直に打ち明けるべきなのか、黙っておくべきなのか。
もちろん、後藤のことが好きだし、一番大切なことは変わっていない。
もし打ち明けて後藤を失うことになるのなら、一生黙っていたい。
でも、それだと後藤をずっと騙したままのような気がして…。
- 265 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時33分34秒
後藤の気持ちも揺れていた。
いつもと明らかに違う市井の様子。
昨日何かあったとしか思えなかった。
それを問いただしていいのかどうか。
もし聞いてしまって市井を失うことになるのなら、一生聞かないでいたい。
でも、それだと市井をずっと疑ったままのような気がして…。
- 266 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時34分28秒
園内の遊具には、子ども連れの親子が増え出していた。
滑り台で無邪気に遊ぶ子どもたち。
その微笑ましい光景をを見つめながら、後藤がためらいがちに口を開いた。
「市井ちゃん、どうして、電話してくれなかったの?」
「………」
「矢口さんと…、なんかあった?」
「…ん、朝まで、一緒にいた…だから、電話できなかった…」
聞いてしまった後藤。
答えてしまった市井。
- 267 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時35分39秒
「えっ…なに言って…」
「ごめん!でも、よりもどしたとか、そういうんじゃないから!」
必死に謝る市井。
しかし、信じていた市井からの裏切りの言葉に、後藤はわけがわからなくなり
取り乱す。
「じゃあなに?」
「少しの間だけ、そばにいたいんだ…やぐっちゃん、元気なくて…」
「やっぱり矢口さんが好きなんだ!?後藤よりも好きなんでしょ!!」
「だからちがうって!」
「だって、朝まで一緒にいたとか、そばにいたいとか、それって好きってことじゃん!!」
「好きなのは後藤だけだよ!やぐっちゃんにそういう気持ちはもうないから!!」
激しく感情をぶつけ合う。
喧嘩という言葉ではすまされない、初めての衝突。
- 268 名前:元彼女 投稿日:2002年10月08日(火)20時37分09秒
「じゃあ、気持ちがないのにそういうことしたの!?後藤がずっと…ずっと
市井ちゃんからの電話を待っている間…」
「え、いや…それは…ごめん」
「そんなのわかんないよ…、ぜんぜんわかんない!市井ちゃんのこと…わか
んなくなった!!」
「後藤……違うんだ…」
「悲しませないって言ったのに!!二度と後藤のこと悲しませないって……
市井ちゃんのうそつき!!」
「後藤!!」
泣きながら駆け出して行く後藤。
残された市井の声がむなしく響く。
市井は追いかけることができなかった。
- 269 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月08日(火)20時40分12秒
- 更新しました。
レスありがとうございます。感謝!
>253 名無し読者さん
市井ちゃん遅かったです。手遅れです!?
待ってたごっちんがかわいそう…
>254 名無しさん
甘甘好きな自分としては、このドロドロはつらいです。
悪いのはやっぱり、市井ちゃん!?
>255 名無し読者さん
ご心配かけておりますが、ちゃんといちごまです!
今は試練のとき…かな!?
次も辛いなあ…
- 270 名前:素人○吉 投稿日:2002年10月10日(木)08時07分54秒
- うわーん。
ごっちんもいちーちゃんも…痛いー。・゚・(ノД`)・゚・。
マーチ。さん、二人を幸せにしてやって下さい。
- 271 名前:元彼女 投稿日:2002年10月11日(金)20時07分33秒
どこをどう走って家に帰ってきたのかわからない。
後藤は初めて学校をさぼった。
部屋に入るなりカバンを放り投げ、ベッドにもぐりこんで、声を出して泣いた。
「市井ちゃんのバカ…」
涙が止まらない。
「市井ちゃんのうそつき…」
枕を壁に投げつける。
「市井ちゃん…どうしてなの…?」
飾っていた市井の写真も投げようとしたが、それはできなかった。
会っていい≠ニ言った自分が悪いのだろうか。
結局、吉澤たちが心配していた通りになってしまった。
少しだけ不安に思っていたことが現実となってしまった。
『好きなのは後藤だけだよ!やぐっちゃんにそういう気持ちはもうないから!!』
たしかに自分を好きだと言ってくれた、でも―。
市井の心が見えない後藤は、一日中思い悩み、苦しみ、涙を流した。
- 272 名前:元彼女 投稿日:2002年10月11日(金)20時08分47秒
「いらっしゃい、紗耶香」
「うん、おじゃまします」
市井も学校に行けるような精神状態ではなく、あの後ただ街中をぶらついていた。
後藤の泣き顔が離れなくて、後藤の言葉が痛くて。
自分の愚かさにイライラしながら、ただ歩き続けていた。
それでも矢口の家にはちゃんと来た。
どうしたらいいのかいくら考えてもわからなくて、気がついたら約束どおり、
ここに来ていた。
すがってくる矢口をほっとくことはできなかった。
- 273 名前:元彼女 投稿日:2002年10月11日(金)20時09分39秒
- 「ごはん食べよ!久しぶりにがんばったんだ」
「あ…」
テーブルの上には、市井の好きな物がたくさん並べられていた。
一生懸命料理している姿が目に浮かび、胸がきゅんと痛む。
「どうしたの?ぼーっとして…あっ、まだお腹すいてない?」
「いや、…なんかすごいなって思って」
「なに言ってんの、さっ、食べよ!」
「あ、うん。いただきます」
市井がオムライスを口に運んだ。
矢口も同じようにそれを口にし、市井をじっと見つめる。
「どお…?」
「うん、おいしいよ…変わってない」
「ほんと?よかった!」
心底嬉しそうな顔をする矢口に、市井は目を合わすことができずにいた。
- 274 名前:元彼女 投稿日:2002年10月11日(金)20時10分39秒
- 何を話したのか、うまく笑えていたのかもよくわからない。
ただ曖昧に頷き、言葉を返しているうちに夕食が終わった。
そしてリビングのソファへ場所を移し、あたり前のように紅茶を飲む。
矢口は洗い物をしているため、市井はそこにひとりだった。
ひとりになると後藤の顔が浮かんで離れなくなる。
『二度と後藤のこと悲しませないって……市井ちゃんのうそつき!!』
あんなに泣かせてしまった。
傷つけてしまった。
嫌われてしまった。
―なんで今ここにいるんだろう…なんで……。もうダメなのかな…後藤…
後藤の泣き顔が離れなくて、胸が張り裂けそうなほど痛んだ。
- 275 名前:元彼女 投稿日:2002年10月11日(金)20時11分38秒
- 「またぼーっとしてる…」
「あ…いや」
後藤のことで頭がいっぱいで、洗い物を終えた矢口が隣に座ったいたことも気が
ついていなかった。
「なに考えてたの?」
「べつに…なにも…」
そう言って視線を窓のほうへ移した市井に、矢口が言った。
「そういうとこ、変わってないね。ごまかすのが下手なとこ」
「……」
「後藤さんのこと考えてたんでしょ?」
「……」
「紗耶香って、わかりやすいから…」
ガチャン―。
大きく鳴り響いたその音は、市井がティーカップを置いた音。
その周りには紅茶の雫が飛び散っていた。
- 276 名前:元彼女 投稿日:2002年10月11日(金)20時12分42秒
「そうだよ!考えてたよ!ずっと…ずっと…一日中!!」
突然取り乱した市井。
大きな声と共に、矢口をソファに押し倒した。
そして両方の手首を抑えて、強引に唇を重ねる。
「んっ!……や、めっ……っ…!」
嫌がって顔をそむける矢口を捕まえては、わざと傷つけるかのように貪っていく。
「…んんっ……やっ…紗耶香!」
やっとの力でその唇から逃れて市井を見上げると、そこにはいつものやさしい
顔はなくて、思いつめたような苦しそうな表情をした市井がいた。
「紗耶香、放して…」
矢口の声が震えていた。
豹変してしまった市井に驚愕し、怯えていた。
- 277 名前:元彼女 投稿日:2002年10月11日(金)20時13分34秒
- 「…市井のこと、好きなんでしょ?」
「ちょっ…やだっ……やめてっ…」
Tシャツをたくし上げられて、胸に顔をうずめられる。
矢口の抵抗などおかまい無しに下着も取られ、攻められていく。
「してほしいって、きのう言ったじゃん…だから、だからきのう…」
「…んっ…やぁっ……っ」
敵わないとわかっていても必死に抵抗を続ける矢口。
が、市井にそれ以上の力で押さえつけられ、すべてを支配されていく。
少しも愛情が感じられない性急で乱暴な行為に、矢口はなす術がなかった。
- 278 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月11日(金)20時15分07秒
- 更新しました。
レスありがとうございます。感謝!
>270 素人○吉さん
今回も痛い状況です…
でも、幸せはきっとやってきますので…
いつもレスありがとうございます。とっても嬉しいです!
- 279 名前:素人○吉 投稿日:2002年10月11日(金)20時31分31秒
- マーチ。さんの「嬉しいです」がとっても嬉しいですw
ところでマーチ。さんって以前何が書いたりはしていないのですか?
HP等があれば知りたいなー、と。
てか、怖い…。いちーちゃん!!
- 280 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月12日(土)03時43分10秒
- 黒いち登場の巻(w
- 281 名前:元彼女 投稿日:2002年10月12日(土)13時48分58秒
電気をつけていなかった部屋はいつのまにか真っ暗になっていて、今はそれが
なにより幸いなことだった。
矢口が乱れた服を着直している間、市井は床に座り込んでただ頭を下げていた。
言葉もかけられない。
なんてひどいことをしてしまったのだろうか。
『後藤さんのこと考えてたんでしょ?』
『紗耶香、わかりやすいから…』
あの瞬間、血が上って、後はよくわからない。
抵抗している身体を無理矢理押さえつけている自分がいた。
どうしてこうなったのだろう。
どこでまちがえたのかな。
ただ心配で、ただ元のやぐっちゃんにもどってほしくて。
そけだけだったのに―。
- 282 名前:元彼女 投稿日:2002年10月12日(土)13時49分35秒
- 「ごめんね、紗耶香…」
がっくり肩を落としていたところへ耳を疑うような言葉が聞こえてきて、市井
は驚いて頭を上げた。
「なんで!?なんでやぐっちゃんが謝るの!?ひどいことしたのはこっちだよ
…ひどい…こと…」
― 後藤だけじゃなくて、やぐっちゃんまで傷つけた…
きのうからの自己嫌悪と後悔の連続に、ほとほと自分に嫌気がさす。
気がついたら涙が溢れていて、床の上にポタポタと落ちていた。
- 283 名前:元彼女 投稿日:2002年10月12日(土)13時50分16秒
- 「だって…、そうさせたのは矢口でしょ?」
「え…?」
矢口にとって市井との別れは、思った以上にダメージが大きかった。
孤独感に苛まされ、自暴自棄になりかけて、そして、市井にすがった。
その結果、大好きな人をこんなに苦しめてしまった。
無理矢理抱かれたショックは大きいけれど、市井をそこまで追い込んだのは
自分だということを思い知った。
― 紗耶香のやさしさに甘えてちゃだめなんだよね…ごめんね……
- 284 名前:元彼女 投稿日:2002年10月12日(土)13時50分56秒
- 「やっぱり、だめだね。こんなにそばにいても、もう違うんだね…」
「……」
矢口がそっと市井を抱きしめた。
そして、泣いている小さな子どもをあやすように、何度も頭を撫でる。
「泣かないで…、もういいから」
「やぐっちゃん…うっ…ごめ…ん…っ」
「こんなに追いつめてたんだね…ごめんね」
「…やぐっちゃんは…悪くないよ…うっ……あやまんないでよぉ…っ」
小さい矢口に包まれて、市井は思いっきり泣いた。
「ごめんね、紗耶香…矢口、勝手で…」
「…うっ、うぅっ…ごめ、ん…っ…やぐっ…ちゃん…ごめん…っ…」
髪を撫でてくれた手がやさしかったから、涙が止まらなかった。
- 285 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月12日(土)13時51分53秒
- 更新しました。(短いですが)
レスありがとうございます。感謝!
>279 素人○吉さん
嬉しいが嬉しいだなんて嬉しいです。(訳わかんないっ!?)
自分のHPがあったらお知らせしたいのですが残念ながら…
載せるに値する文もないし…。
>280 名無し読者さん
黒いちまで言うとかわいそうですが…
今後を見守ってください。
- 286 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月12日(土)22時42分39秒
- やぐちぃ〜(泣
きっとみんな幸せになると信じてます。
頑張って下さいね!
- 287 名前:素人○吉 投稿日:2002年10月15日(火)11時57分49秒
- やぐっつぁんもいちーちゃんも優し過ぎだぁ…。
- 288 名前:元彼女 投稿日:2002年10月16日(水)18時35分07秒
朝起きて学校へ行き、授業を受け、部活をして、家に帰って寝る。
何をしても、しなくても、毎日は普通に過ぎて、今日が過去になっていく。
後藤が市井の前を走り去った日から3週間が過ぎていた。
学年が違うと会おうとしなければまったく会わないでいられることを、知りた
くもないのに知ってしまった。
校内では仲が良かったふたりの姿が急に見られなくなったことで、別れたとい
う噂も、ちらほらとたち始めていた。
- 289 名前:元彼女 投稿日:2002年10月16日(水)18時35分52秒
- 「ごっちん、どうするつもり?」
「ん?…なに?」
昼休みの間中、机に突っ伏している後藤に、ふたりのことを一番心配している
吉澤が聞いた。
「噂になってるよ。このまま別れちゃうの?」
「そんなの…やだ…」
市井と会わないこの3週間、本当に寂しくて、自分はどうしようもなく市井を
好きになっていることを思い知った。
ただ、それと同じくらい市井のしたことが理解できなかったし、許せなかった。
「だったらもう一度、きちんと話した方がいいよ。手遅れになっちゃうよ」
「だって、市井ちゃんも後藤と会おうとしないし…、それに会って話したら、
また責めちゃうもん…」
「責めてもいいし、怒ってもいいよ。悪いのは市井さんなんだから。
だからとにかく話し合いなよ。このままじゃ自然消滅だよ」
「しぜん…しょうめつ…」
- 290 名前:元彼女 投稿日:2002年10月16日(水)18時36分43秒
- 市井との関係が消滅してしまうなんて、そんなの絶対いやだ。
今までの楽しかった思い出、市井の笑顔、やさしいキスが浮かぶ。
…そして矢口の顔も。
「でも、もう矢口さんとつき合ってるのかもしれないし…」
「それでいいの?」
「よくないよ!よくないけど、市井ちゃんが矢口さんを選んだんならどうしよ
うもないよ」
「ごっちん…」
「入り込めないよ、もともとつき合ってた二人だし…」
そう言って後藤がまた机に突っ伏した。
今回ばかりは吉澤が何を言ってもだめだった。
- 291 名前:元彼女 投稿日:2002年10月16日(水)18時37分50秒
- そのころ屋上では、矢口と市井が話をしていた。
別れたという噂を聞いた矢口が、心配して呼び出したのだった。
二人が会ったのもあれ以来だった。
「…えっ! 後藤さんに話しちゃったの!? なんで?」
「なんでって…何かあったのって聞かれて、なんか隠しておけなくて、つい」
「ついって…。ふつう、言わないでしょう」
「…ん」
「そう…、言っちゃったのか…それで…。矢口も謝らなきゃ…後藤さんに」
矢口はあの日をきっかけに心の整理がついていて、これからは市井と友達とし
てつき合っていけると気持ちを切り替えることができた。
でも、せっかくそう思えたところに市井と後藤が別れたという噂を聞いてしま
った。
原因は明らかに自分のせい。
今度は市井のために自分ががんばろうと思っていた。
- 292 名前:元彼女 投稿日:2002年10月16日(水)18時38分32秒
- 「それで、ふたりで話し合ったの? あやまった?」
「…ん、でも…、もう、嫌われたし、傷つけたし…会ってくれないよ…」
途切れ途切れの言葉は、市井の心の揺れ。
謝らなきゃならないとわかっていても勇気がなくて、結局あれ以来会っていない。
「もう一度、後藤さんと話さなきゃだめだよ」
「………」
「紗耶香…」
「わかってる…けど」
泣きながら走り去っていった姿が頭から離れない。
後藤を傷つけた自分がどうしても許せなかった。
- 293 名前:元彼女 投稿日:2002年10月16日(水)18時39分25秒
- 「そうだ、やぐっちゃんは?別れたの?」
市井がふと思い出して聞いた。
自分のことで精一杯で、矢口のことを気にかける余裕がまったくなかった。
「うん…あの後別れたよ。笑っちゃうほどあっさりしてた…あそこまで軽いと
思わなかったよ」
「そっか…」
「いろいろありがとね、紗耶香」
心から、感謝していた。
元彼女の市井紗耶香。
ひとつ年下のくせに、かっこよくてやさしくて。
- 294 名前:元彼女 投稿日:2002年10月16日(水)18時40分04秒
- 「もう、変な奴に引っかからないでよね、やぐっちゃん」
「わかってるよー。もう、大丈夫!」
「ほんとかなぁ」
「なんだとぉ!」
市井は、そのとき気づいた。
矢口と普通に話をしていることに。
あんなに動揺していたのが、あんなにぎこちなかったのが嘘みたいに自然だった。
市井にとって矢口の存在が、やっと過去形になった。
- 295 名前:元彼女 投稿日:2002年10月16日(水)18時40分57秒
- 「そうだ、お礼はさ、安倍さんに言ってよ」
「え?なっちに?」
「うん。だれよりもやぐっちゃんを大切に思ってる」
市井は、安倍がどれほど矢口を心配していたかを話した。
「なっちが……そう…だめだね、矢口。…いろんな人に心配かけて、迷惑かけて…」
矢口の目から涙がこぼれ落ちた。
空を見上げても、ぽろぽろとこぼれ落ちた。
- 296 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月16日(水)18時42分51秒
- 更新しました。
レスありがとうございます。感謝!
>286 名無し読者さん
励ましの言葉、ありがとうございます。
みんな幸せに…もうすぐでしょうか。
>287 素人○吉さん
はい、ふたりともやさしすぎですね…
だからきっと、幸せになります!
毎回レス、ありがたいです。
…えっと、青板でもいちごま始めました。
よかったら、のぞいてやってください。
- 297 名前:吉澤ひと休み 投稿日:2002年10月17日(木)16時35分53秒
- 更新お疲れ様です。
読ませて頂いてますm(__)m
ごっちん、いちーちゃんを許してあげて〜・・・
いちーちゃんも早く謝りなさい(笑)
また〜り頑張ってください!
- 298 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月19日(土)20時29分29秒
- 2人とも素直になれ〜。
青板の方も読んでますよ。
両立大変でしょうが、頑張って下さいね。
- 299 名前:素人○吉 投稿日:2002年10月20日(日)01時23分51秒
- 二人とも好き合ってるのに…痛い。
本当に、みんな優し過ぎです…。
あぁ〜続きが気になる!!
- 300 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)10時57分50秒
放課後、後藤は校門の前で市井の帰りを待っていた。
会って何を言いたいのか、まだ自分でもわかっていないままだったけど、とり
あえず逃げないで向き合おうと思っていた。
『だからとにかく話し合いなよ。このままじゃ自然消滅だよ』
やはりさっきの吉澤の言葉が耳について離れなかったのだ。
- 301 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)10時58分36秒
- 門に寄りかかり、大きくため息をつく。
自分の前を通り過ぎて行く生徒たちの楽しそうな様子を見ていると、市井と仲
良くしていた頃のことを思い、胸が苦しくなる。
もう、戻れないのだろうか、遅すぎるのだろうか。
しばらく市井の顔さえ見ていないことに気づき、悪いほう悪いほうへ思考が進
んでいく。
市井と矢口のツーショットさえ目に浮かびはじめ、あわててそれを振り払って
いたとき、後ろから名前を呼ばれ、はっとして振り返った。
「後藤さん、ちょっといいかな」
「はい…」
それは、まさに今、自分の頭の中から振り払っていた人だった。
- 302 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)10時59分46秒
- 後藤は、矢口の後ろ姿を見ながら歩いていた。
いったい何を言われるのだろう。
― やっぱり、市井ちゃんと矢口さんは…
最悪のパターンのシナリオだけが頭に浮かんで離れない。
矢口は人目のつかない体育館の裏口の所で立ち止まった。
二人が立った場所からは、グランドで練習中の市井の姿が小さく見える。
「部活やってるときの紗耶香って、かっこいいよね」
「え……」
じわりと汗をかくほど緊張しているところへ、突然そんなことを言われて言葉
が詰まる。
しかし、矢口は特に気にする様子も無く、話しを続けた。
- 303 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)11時00分59秒
- 「えっと、まずはごめんなさい。矢口のこと、怒ってるよね」
「えっ、怒るだなんて…そんなことないです」
まさか謝られるなんて。
後藤が思っていたシナリオとは違うようだった。
「悪いのはね、全部矢口なんだ。紗耶香は、なっちに頼まれて矢口に会いに
来て、矢口に頼まれてそばにいてくれた…」
「えっ…?」
突然、安倍の名前まで出てきて、後藤にはわけがわからなくなった。
― 頼まれたって…え?そんなこと一言も市井ちゃん…
- 304 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)11時02分03秒
- 「で、あの時のことは、…矢口が誘ったの。…それで…そうなって」
「……」
わかっていたことだけど、はっきり口に出されると辛かった。
市井と矢口の二人の姿が浮かんでしまい、胸がちくりと痛む。
「でも、紗耶香はね、後藤がいるからって、なかなか誘いに乗ってこなかった
んだよ。だから矢口が無理やりお願いしたって感じ…」
「どうして…」
「寂しくてどうしようもなくて…ぬくもりがほしかったのかな…」
矢口がはじめて視線を落とし、低い声でつぶやいた。
- 305 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)11時03分00秒
- 「…でも、そうなるってことは、やっぱりまだ二人は…」
「んー、はっきり言っちゃうとね、矢口は愛情だったけど、紗耶香は同情だっ
た。同情で抱いてもらうなんて、情けないよね」
「同情…?」
「ん、紗耶香の優しさを利用したんだ。矢口が泣いてすがったら、拒絶できな
いってわかってたし」
「そんな…」
「だから許してあげて。紗耶香のやつ、後藤を傷つけたって落ち込んじゃって。
きっと、自分からは声かけられないと思うから」
思い浮かべていたシナリオとは、まったく反対の展開。
後藤は矢口の真意がつかめなかった。
― だって…矢口さんは…
- 306 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)11時04分14秒
- 「あのっ、矢口さんは、市井ちゃんのこと、……好きですか?」
それは、一番知りたかったこと。
そして、一番答えを聞くのがこわかったこと。
「好きだったよ、とっても」
矢口が遠くのグランドの方を見つめながら言った。
汗を流している部員たちの威勢のいい声が聞こえてくる。
「でも、もう、過去形」
そう言って制服のポケットから携帯を取り出した。
そしてボタンを操作し、画面を後藤の方に向けた。
- 307 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)11時05分11秒
- 『ヤグチ〜、なっちがそばにいるからね!わすれるな!!』
「過去形にしてくれたんだ、なっちが」
携帯を握り締めて、矢口がにこっと笑った。
そして微笑んだまま、安倍と会話をしているかのように、メールの文字をじっ
と見ていた。
その晴れやかな笑顔を見ているうちに、後藤の中にあったわだかまりが、すぅ
っと消えていった。
- 308 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)11時06分00秒
- 「後藤さんとも友達になりたいなぁなんて思ってるんだけど…できれば」
携帯をしまいながら、矢口が言った。
「友達になれたら、後藤もうれしいです」
「ありがとう、よかった」
そのとき、後藤がはじめて笑顔を見せた。
その顔を見て、ようやく肩の荷がおりたかのように安心する矢口。
「じゃ、紗耶香と今まで通りなかよくしてね」
「はい!」
にっこり笑った後藤が大きく頷いた。
- 309 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)11時07分10秒
- 「あっ、そうそう、これ紗耶香にわたして。いろいろ迷惑かけたお詫びだから
って。それじゃあね!」
そう言うと矢口は、ピンクの封筒を後藤のポケットの中に押し込み、手を振り
ながら帰って行った。
「矢口さん、ありがとうございます!」
言わずにはいられなくて、遠くなる背中に後藤は大きな声で呼びかけた。
「がんばれ、ごっちん!」
振り返った矢口が、また大きく手を振った。
- 310 名前:元彼女 投稿日:2002年10月21日(月)11時08分03秒
― 市井ちゃんに会いたい!
確かな想いが胸いっぱいに広がっていく。
後藤にとっても、矢口の存在がやっと過去形になった。
- 311 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月21日(月)11時09分48秒
- 更新しました。
矢口さん、大活躍!
レスありがとうございます。感謝!
>297 吉澤ひと休みさん
よっすぃ推しの方ですよね(HNから)、レスいただけてかなり嬉しいです。
メール欄のごっちん、かわいい!
矢口さんのフォローのおかげで、ごっちんは許せたようです。あとは…
>298 名無し読者さん
あたたかいレス、ありがとうございます。
読んでくれる方がいるようなで、両方ともがんばっていきたいです。
きっと、もうすぐふたりとも素直に…
>299 素人○吉さん
痛い話もやっと終わりそうです。
矢口さんのおかげでふたりはまた…。
ほんとにいつもレスくださって、励みになってます!
- 312 名前:素人○吉 投稿日:2002年10月21日(月)21時17分57秒
- “後藤さん”が“ごっちん”になった!感動。
いちごま小説なのになっちの言葉にグッと来ました。
なっちゅー派だけどなちまりもいいなw
- 313 名前:元彼女 投稿日:2002年10月22日(火)19時55分57秒
「後藤…?」
校門を出たところで、市井が後藤の姿を見つけた。
まさかこんなとこで会うとは思っていなかったので、心臓が跳ね上がるほど
ドキッとしてしまう。
久しぶりのせいか、名前を呼ぶ声も少し震えていた。
「あっ、市井ちゃん、お疲れさま!」
一方の後藤のほうは元気のいい明るい声。
市井は久しぶりに自分の名前を呼ぶその声を聞いて、それだけで胸が熱くな
った。
「待ってて、くれたの?」
「うん!一緒に帰ろ!」
以前と変わらない笑顔を向けてくれる後藤。
ほんとに久しぶりに見るその笑顔に市井は釘付けになり、その場に立ち尽くし
てしまった。
- 314 名前:元彼女 投稿日:2002年10月22日(火)19時56分57秒
- 「どうしたの?市井ちゃん…行こうよ」
「あ、あのさ…信じてくれたのに、裏切るようなことしてごめん。約束したの
に…悲しませて、ほんとにごめん……」
それは市井がずっと後藤に伝えたかったこと。
もっと早く言いたかったのに、勇気がないばかりに自分から会うことをためら
ってきた。
「市井ちゃん、反省してるぅ?」
市井の顔を下から覗き込むその顔は、口こそ尖らせているが、目は笑っていた。
「え? あっ、うん。もちろん」
「じゃあ、今度だけは許してあげる!」
言い終わるなり、市井の頬にチュッとキスをして微笑む。
展開が早くて何がなんだかわからない状態の市井だが、とりあえず許してもら
えたことが何より嬉しかった。
- 315 名前:元彼女 投稿日:2002年10月22日(火)19時57分55秒
- 「…ほんとに?ほんとに許してくれるの?」
「うん!今度だけだよぉ、もう浮気はだめだからね!」
「後藤…!!」
力いっぱい抱きしめた。
背中に腕を回して、二度と離れないように、きつく、強く。
そばを歩く生徒が見ているのも気にせず、後藤のぬくもりを体全体で実感
するように。
「ちょっ、市井ちゃん? 見られてるよ」
あまりに長い抱擁に、後藤が恥ずかしくなって耳元でささやいた。
「いいよ、べつに」
人一倍照れ屋のはずだが、今は後藤を取り戻せた喜びのほうが断然大きい。
後藤を抱きしめる力がますます強くなっていった。
- 316 名前:元彼女 投稿日:2002年10月22日(火)19時58分32秒
- 「よかった、元に戻れて…」
「うん…」
「もうだめかなって思って、ずっと辛かった…」
「うん…」
「好きなんだ、後藤のこと…」
「市井ちゃん…後藤も大好きだよ!」
ふたりが視線を合わせ見つめ合う。
市井の右手がそっと後藤の頬に触れた。
- 317 名前:元彼女 投稿日:2002年10月22日(火)19時59分33秒
- …と、その瞬間、聞き慣れた大きな声が二人を現実に戻す。
「ちょっとおふたりさん! 場所わきまえてくださいよ!」
吉澤がにやにやしながらこっちを見ていた。
周りにいる運動部の生徒たちからも、ヒューヒューという歓声が起こる。
「やばっ!行こう」
「うん!」
後藤の手をしっかり握り、市井が走り出した。
制服のスカートが跳ねているのも気にせず、どこまでもどこまでもふたりで走
り続けた。
〜お・わ・り〜
- 318 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月22日(火)20時00分57秒
- 更新しました。 で、『元彼女』終了です。
レスありがとうございます。感謝!
>312 素人○吉さん
いつもレス感謝してます!
いろいろもめた二人ですが、やっぱりハッピーエンド!
なちまりは、いつか書いてみたい!と密かに思っています。
次は甘めの短編で。
それではまた。
- 319 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月22日(火)23時05分21秒
- よかった。やっぱいちごまはいいねぇ。
もう1個の方もあって大変だと思うけど、がんばってください!
期待してます。。。
- 320 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月23日(水)07時50分51秒
- お疲れさまでした!
仲直りできてよかったよ〜。
ここでつらい思いをした分、短編では甘くお願いします(w
青板の方も楽しみにしてますので、頑張って下さい。
- 321 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月23日(水)18時34分21秒
- 雨降って、地固まる。
良かったよかった…。
短編も期待してます。
- 322 名前:吉澤ひと休み 投稿日:2002年10月24日(木)18時28分08秒
- 良かった…
矢口ぁん、いい仕事してくれました。
なにげになっち、かっけー…
作者様、お疲れ様でした。次回作も期待してます!
(0^〜^)<ヒューヒュー♪
( ^▽^)<ヒューヒュー♪
(0^〜^)<梨華ちゃん…もしかして喉に笛詰まってる?
(;^▽^)<・・・・・・・・・。
- 323 名前:素人○吉 投稿日:2002年10月25日(金)12時44分32秒
- マーチ。サン御疲れ様でしたっ。
いちごまは永久不滅っす♪
やっぱりこの2人はハッピーエンドが一番似合いますっ。
- 324 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月26日(土)02時58分24秒
- 続編期待sage(二回目)
- 325 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時50分48秒
「で、あの後はどうしたのかなぁ?」
「へっ?どうって…、市井ちゃんの家でおしゃべりして帰ったよ」
昼休み、後藤と吉澤は恒例の報告会を開いていた。
なんたって公衆の面前でしっかりと抱き合い、キスまでしようとする勢いだっ
たふたり。
吉澤は興味津々な顔で、さらにその後の行動を追及した。
「ほんとかなぁ、泊まっちゃったりしたんじゃないのー!?熱い夜を過ごして
たりして!?」
「ま、まさか!何言ってんのさ、よっすぃーのエロ親父!!」
ニヤニヤしているその顔を近くにあった教科書でバシッと叩く。
「いてっ!痛いよー、ごっちん。…でも、ほんと、よかった。元に戻れてさ」
「うん。いろいろありがとね、よっすぃー」
まだおでこをおさえている吉澤に、後藤は感謝の言葉をあらためて告げた。
いつもいつも吉澤には励まされてぱかり。
友達が多いとはいえない後藤にとって、その存在は大きかった。
- 326 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時51分52秒
- 「で、次のデートプランなんだけどさ」
「なに? またダブルデート?」
「うんうん、せっかく仲直りしたことだし、いい案があるんだよねぇ。のる?」
「う、うん」
これまでの経験上、吉澤のいい案というものをいまいち信用できない後藤だっ
たが、吉澤は目を輝かせながら計画を話し出した。
「学校祭の最終日に花火大会やるじゃん。それで思いっきり盛り上がった後に
先週オープンした観覧車に乗って、締めは、てっぺんでキス!…どお?」
「うん、いいかも…」
「でしょう!?」
吉澤が満足げな顔でうんうんと頷く。
「てっぺんでキスか…。市井ちゃん、どんな顔するかなぁ…へへっ」
「梨華ちゃん、照れて真っ赤になるだろうなぁ…ひひっ」
二人の心は、学校祭の最終日へと飛んでいった。
- 327 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時52分35秒
そして学校祭最終日の夜―。
グランドでは花火大会が行われ、全校の生徒たちがあちこちで盛り上がってい
た。
市井と後藤はみんなからすこし離れたところに座り、大騒ぎの様子を見ながら
お喋り中。
「やっぱり高校の学校祭は違うね、すっごく楽しかったよ!」
「うん、準備はめちゃくちゃ大変だったけどなぁ」
「市井ちゃん、しきってたもんね」
「ん…根が祭り好きなもんでさ。それよりいいの?見てるだけで?」
「うん」
「一番はしゃぐと思ってたけど…花火振り回しながら」
「こうしてふたりでいた方がいいもん」
そう言って市井の腕をしっかり握り、身体をぴったりと寄せる。
- 328 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時53分25秒
- 「そ、そっか…」
「あっ、市井ちゃん照れてるぅ?」
「んなことない!」
と言って後藤の方を向いた瞬間、ポーンと心地よい音が響き、夜空に小さい打
ち上げ花火が咲いた。
「おおっ、きれいじゃん!」
花火を見上げる無邪気な顔。
後藤は、花火よりも隣のその顔に見惚れてしまった。
きらきら輝いている目。
その瞳の中にずっと映っていたいと願う。
- 329 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時54分27秒
- 「なに見てんの?」
「えっ、な、なんでもない…」
急に振り向かれて動揺する後藤。
暗くて気づかれはしないが、顔が真っ赤になっていた。
「もしかして、見惚れてたとか?」
「…そ、そんなわけないじゃん」
恥ずかしそうにする後藤の手を市井がぎゅっと握る。
その瞬間、ポーンとまたひとつ花火が上がった。
- 330 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時55分18秒
- そして花火がフィナーレを迎える頃、後藤が遠くの方で回っている派手なイル
ミネーションを指差して言った。
「市井ちゃん、あの観覧車に乗ろうよ。先週オープンしたんだって」
「ええ?夜に?景色見えないじゃん。今度明るいときにしよ」
それはもっともな言い分だったけど、今日のメインは『てっぺんでキス』。
うん、そうだねと引くわけにはいかない。
「え〜!?行こうよぉ。暗くたってさ…、ほら、夜景が見れるじゃん!」
「夜景か…なるほど、いいね!」
とっさに出た言葉は市井にヒットしたようで、後藤はほくそえんだ。
- 331 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時55分56秒
- 「なにニヤニヤしてんの?」
「へ?してないよぉ、ニヤニヤなんて。やだなー」
言ったそばから、にやけ顔の後藤。
いぶかしむ市井の腕を引っ張って、観覧車へ向かった。
「市井ちゃん、はやくー!」
「わかったから引っ張るなって」
はやる気持ちが抑えられない後藤は、市井をぐいぐいと引っ張って行った。
- 332 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時56分47秒
そして、乗り場に到着。
先に着いていた吉澤たちが、ちょうど乗り込むところだ。
少し後ろに並んでいる後藤にピースしながら、上へ上がっていった。
数分後、後藤たちにも順番が来て乗り込む。
夜の観覧車は初めてだったので、ふたりとも最初はそわそわしていた。
しばらくすると、窓一面にキラキラした夜景が広がった。
その美しさに思わず身を乗り出したふたり。
「おおーっ!すごいじゃん!こんなにきれいだと思わなかったな」
「うん!すごぉい!感動!」
あまりの美しさに、ふたりはそれきり声も出ず、ただ見入っていた。
でもすぐに、後藤の頭の中は『てっぺんでキス』でいっぱいに。
― そうだ、夜景に感動している場合じゃないんだった…えっと…
数日前の吉澤との会話を思い出した。
- 333 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時58分00秒
- 『でもさ、観覧車って、普通、向かい合って座るよね』
『うん』
『じゃあ、キスなんかできないんじゃない?』
後藤がふと思いついた疑問を口にした。
『だから、途中でごっちんが隣に移動するんだよ。移動攻撃!』
『ええっ、隣に行くの!?なんか恥ずかしいよ…』
『そっちいっていい?とか言ったら、市井さんも喜ぶって!』
『そうかなぁ…』
『いや、市井さんのことだから、ごっちんが言う前に、こっちこいよ≠ニか
言いそう!』
『そう言ってくれたら、嬉しいけど…』
その場面を想像し、一人赤くなる後藤。
『まっ、とにかくさ、てっぺんに着く前に移動!わかった?』
『う、うん…』
- 334 名前:観覧車 投稿日:2002年10月29日(火)21時58分52秒
「おーい、後藤、なにボーっとしてんの?高いとこ怖いのか〜?」
市井の呼びかけで、はっと我に返った。
気がつくと、ゴンドラはかなり上にあがっていた。
― よし! がんばろっ!
意を決した後藤が作戦決行に出る。
- 335 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月29日(火)22時00分14秒
- 更新しました。前編です。
レスありがとうございます。感謝!
…たくさんの言葉を頂いて、恐縮&感激&激嬉です…
>319 名無し読者さん
あたたかいレスありがとうございます。
両方がんばっていきますので、おつきあいください。
>320 名無し読者さん
励ましの言葉、ありがとございます。
甘くなっているでしょうか?だんだんわかんなくなってきました…。
>321 名無し読者さん
災い転じて福となす。
ピンチの後にチャンスあり。(これは違うか!?)
期待に添うよう、がんばりますっ。
- 336 名前:マーチ。 投稿日:2002年10月29日(火)22時02分16秒
- >322 吉澤ひと休みさん
楽しいレス&かわいいごっちんありがとうございます。
いい仕事をしてくれた矢口さんには助演女優賞をあげましょうか。
>323 素人○吉さん
やっぱりハッピーエンドです!
なかよくなってもらいたいという、作者の願いが込められているので。
毎回のレス、励まされました。ありがとうございます!
>324 名無し読者さん
二回目とは嬉しいです。
期待に添うよう、がんばりますっ。
次、後編です。
- 337 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月30日(水)22時06分30秒
- お待ちしてました!
せっかく仲直りしたんだから、
そろそろもう1歩進んで欲しいですね〜。
がんばれ、後藤!(w
- 338 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月01日(金)21時17分50秒
- お、始まってますね!
ごっちん頑張れ〜。
- 339 名前:和尚 投稿日:2002年11月03日(日)01時31分40秒
- いいですね。
後藤さんの移動攻撃は成功するのでしょうか?
頑張って欲しいです。
- 340 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時15分43秒
「ねぇ、市井ちゃん、…そっちにいってもいい?」
思い切って言った一言は、緊張感と恥ずかしさで、少し声が掠れた。
「へっ?…あっ、なに後藤、こっちに座りたかったの?別に景色はそんなに変
わんないと思うけど…」
そう言いながら立ち上がろうとする市井。
予想外の行動に、後藤はあわててそれを止めた。
「市井ちゃん!それ素で言ってるの!?」
「えっ?だって、こっちに座りたいって…」
「そうじゃなくてぇ、市井ちゃんの隣に行きたいの!」
「へっ!?あっ、ああ…そういうことか」
やっと意味を理解した市井は苦笑いをしながら窓際へ移動し、後藤が座るスペ
ースを作った。
- 341 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時16分38秒
- ― まったくもう、市井ちゃんたら!ぜんぜんムードも無くなったじゃんか…
出ばなをくじかれた後藤は、口を尖らせながら市井の隣に座った。
並んで座ると必然的にかなり密着することになって、後藤は今さらながら自分
のしたことが恥ずかしくてたまらなくなった。
市井の方をちらっと見ると、ただ黙って外の景色を眺めているだけ。
どんな表情をしているのか見えないことが、後藤を不安にさせた。
― 変に思われたかなぁ…
会話もなくなり、心臓の音が気になってくるほど静まり返ったボックスの中。
― なんか言ってよ、市井ちゃん…
長い沈黙が重くのしかかる。
後藤が席を移動したことを後悔しはじめた、そのとき―。
- 342 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時17分18秒
「もしかしてさ、頂上になったらキスしようとか、思ってる?」
「えっ!!」
ずばり当てられ、反射的に市井の顔を見る。
その瞬間、唇をふさがれた。
- 343 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時17分59秒
- 「ちょっ、ちょっと、市井ちゃん!」
予想もしなかった市井の行動。
後藤は驚くと同時に、思いっきり肩を突き飛ばしてしまい、その勢いでゴンッ
と市井の頭が窓にぶつかった。
「いってー! なにすんだよぉ…」
「だって、急に…それにまだ、てっぺんじゃないもん!」
「てっぺんでも、してればいいんでしょ?」
「えっ…ちょっと…んっ!」
- 344 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時18分34秒
- 市井が後藤の肩に手を回し、もう一度唇を重ねた。
それはいつもの市井のやさしいキスではなくて、かなり強引で荒々しい。
右手で髪を触りながら何度も何度も繰り返し、徐々にキスの深さが増していく。
狭い空間にその音だけが響き、ドキドキしている胸の鼓動の激しさを助長した。
観覧車はとっくにてっぺんを過ぎていたが、キスは止まらない―。
- 345 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時19分23秒
- 髪を触っていた市井の手が背中へ移動し、わき腹をやさしく撫でるように
して、だんだん胸のほうへ上がっていく。
―えっ、これって…!
こんな展開になるとは思っていなくて、後藤は頭の中がパニックになった。
声を出したくても口がふさがれていて出せない。
ブラウス越しとはいえ、微妙な触れ方で撫で回されていくうちに、身体の力が
抜けていくような変な気分になっていった。
「んっ…ちょっと…市井ちゃん」
唇が離れた瞬間、思わず後藤が声を出した。
「もうちょっとだけ…」
そう言ってもういちど深いキスをし、後藤を求め出す。
一面に輝く夜景のムードに流されるかのように。
- 346 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時20分04秒
- そして市井の手が胸に触れるか触れないかの瞬間だった。
後藤が市井の肩を両手で思いきり押し返した。
ゴンッと、また低く鈍い音が響く。
「いってぇー、後藤、力強すぎ…」
「だって……」
初めてのことに気が動転して言葉が出ない。
心拍数は最大値を指しているに違いなかった。
- 347 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時20分43秒
- 真っ赤になってうつむいてしまった後藤を横目に、市井つぶやいた。
「もうちょっとだったのに…」
「なにが?」
「胸まで」
「市井ちゃん!!」
ゴンッ。
3回目の鈍い音が響いて、観覧車は地上に着いた。
- 348 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時21分42秒
帰り道、手をつなぎながら歩いているふたり。
普通に会話しているつもりだが、なんとなくぎこちない。
その原因は、ふたりとも十分わかっていた。
「あのさ、…観覧車のこと、おこってる?」
「え、べつに。おこってない…」
下を向いたまま、ぼそっとつぶやく低い声。
やっぱりいつもと様子が違う後藤に、しだいに焦りだした。
「そんなに、いやだったか…」
「えっ?」
市井が苦笑いしながら頭を掻いた。
あのとき、狭い密室のような中で後藤に密着されて、つい理性を失いかけた。
「ごめん!もうあんなことしないからさ。機嫌直してよ」
立ち止まって後藤の方を向き、そして照れくさそうに謝った。
- 349 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時22分57秒
「そ、そんなのだめ!」
「へっ?」
頭を下げているところに、後藤の大きな声が聞こえてきて、びっくりして
顔を上げると、後藤と目が合った。
「あっ…」
「だめって…?」
「あっ、あのね、やだったわけじゃないの。市井ちゃんだもん、いやなわけな
いよ。ただ、今日はね、てっぺんでキスってことしか考えてなかったから…
んーと、ちょっとびっくりして…」
「…そっ、か」
言ってる後藤も聞いてる市井も、顔が真っ赤になった。
- 350 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時23分38秒
「うん…ぜんぜんいやじゃないから、だから、もうしないなんて言わないで…」
甘い言葉と潤んだ瞳。
市井はたまらず後藤を抱き寄せた。
「後藤、かわいすぎ……」
「え…」
「帰したくないな…今日は」
「市井ちゃん…えっと…あの…」
- 351 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時24分20秒
- 耳元でささやかれ、後藤の身体がにわかに緊張でガチガチになった。
観覧車で市井に触れられた感触を思い出し、胸の鼓動がまた激しくなっていく
のがわかる。
― どうしよう…帰したくないって…それって…
戸惑いの表情を浮かべ、動揺が隠しきれない。
そんな後藤の様子に気がついた市井は、いったん身体をはなして、頭をポンポ
ンと二回たたいた。
- 352 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時25分08秒
- 「うそだよ、ちゃんと送っていくから」
「え…もぉ…びっくりしたよぉ」
一気に緊張が緩み、ほっとする後藤。
やっぱり今はまだ、ためらう気持ちが強かった。
「そんな安心した顔されると複雑だけどさ」
露骨にほっとした顔をする後藤を市井がからかった。
「そ、そんな顔してないよ…」
「ははっ、いいよ、無理しなくて」
「市井ちゃん…」
自分が市井のことを拒絶しているような気がしてきて、後藤の表情がくもる。
- 353 名前:観覧車 投稿日:2002年11月03日(日)19時26分03秒
- 「マンゴープリン買ってやるから、そんな顔するなって!」
「へっ!?プリン!?」
「おっ、やっと笑ったな」
「なにそれぇー、後藤、こどもじゃないよぉ」
「十分こどもじゃんかー」
「そんなことないもん!」
自分を気遣ってくれる気持ちが嬉しくて、後藤が思いっきり市井に抱きついた。
「大好き!」
「おいおい…」
観覧車の『てっぺんでキス』作戦は、後藤の予想をはるかに越えて大成功。
ちょっとだけ前に進んだふたりだった。
〜お・わ・り〜
- 354 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月03日(日)19時28分03秒
- 更新しました。で、『観覧車』終了です。
レスありがとうございます。感謝!
>337 名無し読者さん
待っていてくださってありがとうございます!嬉しいです!
一歩進ませたつもりなんですが…半歩でしょうか?
これから徐々に進んでいく予定です。
>338 素人○吉さん
いつもどーもです!
ごっちんもいちーちゃんもがんばりました!
これから仲を深めていく予定です。
>339 和尚さん
後藤さんの移動攻撃、見事に決まりました。
和尚さんのいちごま、読ませてもらってます。(ROMのみですいません)
それではまた、続編で。
- 355 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月04日(月)11時02分49秒
- いちごま最高。
マーチ。さん最高。
続編期待してます。
- 356 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月05日(火)00時38分11秒
- 只今、大阪から帰宅。
運動会、ごっちん可愛かったっす♪
更に仲を深めてく。
ドキドキしながら待ってます。
- 357 名前:きいろ 投稿日:2002年11月05日(火)21時53分07秒
一気に読ませて頂きました。
やっぱりいちごまっていいですねー。
読んでいたら自然と顔がにやけていました・・・
きいろも空版で小説を書かせて頂いています。
良かったら、暇なときにでも読んでみてください・・・
更新楽しみに待ってます!
- 358 名前:和尚 投稿日:2002年11月06日(水)11時30分22秒
- 後藤さんの移動攻撃成功!
でも、後藤さんの移動攻撃の上をいく市井さん・・・凄すぎっす!
次も楽しみにしています!!
和尚のいちごま読んでくれるだけでも嬉しいっす。
頑張って更新しますのでよろしくお願いしまっす!
- 359 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時18分12秒
「で、ごっちん。てっぺんでキスは成功したの?」
「え…う、うん」
恒例の報告会は、学食を食べながら。
観覧車に乗った後はまったくの別行動だったため、それぞれ思惑がうまくいっ
たのかどうか、興味津々だった。
「あっ、その言い方は、さては成功しなかったんだなぁ!?」
「そ、そんなことないよ!」
成功しなかったどころか、観覧車がてっぺんに着く前からキスされて、通り過
ぎてもずっと離してくれなくて、ついでに胸を触られそうだったなんて、いく
ら相手が吉澤でもちょっと恥ずかしくて言えない。
- 360 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時19分04秒
- 「よっすぃはどうなのさ? したの?」
「えっ、も、もっちろん!ちょうどてっぺんのときに、バシッと決めましたよ
ぉ!もぉ、梨華ちゃんが真っ赤になっちゃってさ、かわいかったんだよねぇ」
にやけた笑みを浮かべて自慢げに語る吉澤。
本当は石川にリードされたことは後藤にも内緒。
「ふーん、よかったね」
「まあまあ、ごっちん。そう気を落とさないで。またいいデートプラン考えて
あげるからさ」
勝手に成功しなかったものと決めつけられ、報告会は終わった。
- 361 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時19分53秒
食堂から1年の教室へ戻る途中、廊下を歩く市井の姿を見つけた。
なにやら両手で重そうにダンボールを持っている。
後藤が駆け寄って声をかけた。
「市井ちゃん、なあに、それ?」
「おっ、後藤、いいとこで会った。これ運ぶの手伝ってよ。中澤先生に教材室
にしまってこいって命令されてさ」
そう言いながら、ダンボールの半分を後藤に持たせる。
けっこう重たいそれを3階まで運んだ。
- 362 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時20分40秒
- 「ふぅーっ、サンキュー助かった」
「うん、それより後藤、ここに入ったの初めてだよ。こんな部屋あったんだ」
使われなくなった古い資料などが置いてあるその教室は、ほぼ物置として使用
されていて、人が入ることは滅多にない。
1年の後藤がここの存在を知らないのは当然だった。
「ここね、授業さぼる時とかにけっこう使えるんだなぁ。鍵もかかるしね」
「へぇー、市井ちゃん、そんなことしてたんだ」
「うん、たまぁにね」
そう言うと、市井は窓際の床に座りこみ、壁にもたれかかって目をつぶった。
窓から入る日差しにすっぽりと包みこまれる。
- 363 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時21分28秒
- 「市井ちゃん、なにしてるの?」
「昼寝」
「へ?寝るの?ここで?」
「うん。後藤は授業でしょ。またあとでね」
目をつぶったまま、ひらひらと手を振る。
しかし、後藤は教室へ戻らず、市井の隣に座り込んだ。
「なっ!後藤、戻りなよ。授業に遅れちゃうって」
「やだ、後藤も一緒にお昼寝する〜!」
甘えるように腕をからめて、市井の肩にもたれかかった。
「まじっすか?」
「まじっす…おやすみぃ」
「……たまには、いっか」
ポカポカした陽だまりの中で、二人はぴたっとくっついたまま目を閉じた。
- 364 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時22分20秒
しばらくして後藤が目をあけた。
ふだんなら即眠りについてしまう後藤だが、さすがにこの状況では眠れない。
ふと顔を横に向けると、市井の寝顔が間近にあって、ドキンと胸が鳴る。
寝顔を見たのはこれが初めてだったことに、そのとき気づいた。
閉じられた目の長いまつげに見入っているうちに、触れたいという思いが湧き
あがる。
後藤はその長いまつげにそっと口づけた。
そのまま、頬へ、そして口へ。
やさしく撫でるようにキスを落としていった。
そして、寝顔を見つめながら、あらためて市井への愛しさを感じていた。
- 365 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時23分25秒
- 「もう、終わり?」
「えっ!…起きてたの!?」
後藤があわてて身体を離す。
すっかり寝ているものだと思い込んでいたので、恥ずかしさでみるみる顔が
真っ赤になっていった。
「んじゃ、今度は、市井から…」
「えっ?あっ…」
後藤の方に身体を向け、市井がやさしくキスを落としていった。
さっき後藤がしたのを真似るように、ひたい、頬、そして唇へ。
- 366 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時24分22秒
- 「後藤、好きだよ」
「ん…後藤も…市井ちゃんが好き…」
見つめ合ってそうささやいた後、市井の唇が首筋へ下りていった。
「んっ!市井ちゃん…ちょっと」
強めに吸いつくキスは後藤にとってかなり刺激的で、初めての感触に戸惑いを
隠せない。
- 367 名前:教材室 投稿日:2002年11月10日(日)12時25分09秒
- 「やっ…ん…」
同時に腰にあった手がいつのまにかベストの中へ滑り込んでいて、ブラウス越
しにやさしく身体を撫で回している。
観覧車のときより大胆な市井の動きに、しだいに後藤の身体が熱くなっていく。
「…んっ…市井ちゃん…っ」
そして、今度は突き飛ばされずに、胸までたどり着いた。
- 368 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月10日(日)12時26分10秒
- 更新しました。前編です。
ん〜、こういうシーンは難しい…
レスありがとうございます。感謝!
>355 名無し読者さん
応援レスありがとうございます。
楽しんでもらえるようがんばります!
またのぞいてください。
>356 素人○吉さん
運動会行ったんですか、いいですねー!
思う存分、生の彼女たちを見ていられるなんて…うらやましいです。
熱いシーンはありましたかー?
…ドキドキさせるような表現力がなくて申し訳ないのですが、
ここのふたりはちょっとずつ進んでいきます。あくまでちょっとずつ…
- 369 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月10日(日)12時27分13秒
- つづき
>357 きいろさん
一気に…!?こんな文を…、嬉しいです。
いちごま、いいですよね。同士ですね。
きいろさんの作品、読ませていただきました。
三角関係、板ばさみの梨華ちゃんがどうなるのか楽しみです。
>358 和尚さん
市井ちゃん、今回もがんばってます。
和尚さんのいちごま、独特の世界観でおもしろいですね。
平凡な自分には絶対思いつかないストーリー展開です。
更新がんばりましょう、おたがいに。
- 370 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月10日(日)12時27分52秒
- 次、後編です。
熱くなるふたりは…
- 371 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月10日(日)13時25分49秒
- お〜、いい所で切れてる〜。
焦らし上手ですねぇ(w
続き楽しみです。がんばって下さい!
- 372 名前:和尚 投稿日:2002年11月10日(日)22時11分54秒
- おお、市井さん、おっとなぁ〜♪
いきなりこーゆー展開になるとはビックリっす!!
更新が非常に楽しみです(笑)
平凡な自分・・・何言ってんですか!
和尚はこの作品(青板含む)の様な純粋な文章書けません。
勉強させてもらってます!!
- 373 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月11日(月)22時02分22秒
- ぅおー。ふたり雰囲気がぁ〜w
続き早く読みたいwww
運動会逝って来ましたよー!素晴らしかったっ♪
と言ってもほとんどごっちん&圭ちゃんしか見てなかったのですがw
あと常に絡みを探してしまう自分たち(やぐちゅーヲタの友人と逝った)にビックリ^^;
絡みは、なっちゅー、やぐちゅー、なちまり、おがたか、みっちゅーなど。
たくさんありましたっ♪ドキドキでしたよ。
ここのいちごまのペースも丁度心地良くて、大好きです!
表現力も素晴らしいです。下がった頭が上がりません…。
是非とも、これからも頑張って下さい^^
…………たまにはまともなレスをwww
- 374 名前:きいろ 投稿日:2002年11月12日(火)10時52分55秒
や〜いいですね!
やっぱりいちごまは不滅です!
それでは、更新楽しみに待ってます。
- 375 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月13日(水)16時55分49秒
- こういういちごまヒサブリで凄く嬉しい。
いちごまの根を絶やさないようどうか頑張って下さい。
更新が楽しみな小説本当に久しぶりだ。。
- 376 名前:教材室 投稿日:2002年11月15日(金)18時13分51秒
「やっ……だ、めっ…」
後藤が胸に置かれたその手をよけようとしてつかんだ時、市井が耳元でささや
いた。
「いやじゃないって、言ったでしょ?」
「…で、でも……んっ…」
言葉をさえぎるように強引に唇を重ねられ、熱く激しいキスが抵抗していた力
を弱めていく。
拒んでいた後藤の手が市井から離れるのに、時間はかからなかった。
- 377 名前:教材室 投稿日:2002年11月15日(金)18時14分42秒
- そして胸を包んでいた手がやさしく動き出して、後藤の口から艶めかしい吐息
が漏れだす。
「あっ…ん…っ…はぁっ…」
それは市井の意識を刺激し、さらなる欲望を駆り立てていった。
「後藤…いい…?」
胸にあった手がブラウスのぼたんにかかって、ベストの下だというのに、すべ
てを難なくはずしていく。
「ん…好き…市井ちゃん…」
後藤はぎゅっと目をつぶり、すべてを市井にゆだねるかのように、抱きついた。
- 378 名前:教材室 投稿日:2002年11月15日(金)18時15分59秒
市井の手が直接肌に触れる。
すこし冷たい感触が腰から背中にまわり、ホックに手がかかった。
それさえも片手で難なく外し、後藤を驚かせる。
「あっ…」
「後藤…」
市井がキスをくり返しながら、ゆっくりと胸に触れていく。
「…はぁっ…んっ…っ」
手に直接伝わるそのなめらかで柔らかな感触に、市井の気持ちがますます高ぶ
っていった。
そのとき―
- 379 名前:教材室 投稿日:2002年11月15日(金)18時16分52秒
- ガチャガチャとドアを開けようとする音が、部屋中に響いた。
息が止まるほどの驚きと同時に、二人の動きがピタッと止まる。
ドンドン
「市井! 市井おるんかー?」
「…」
「…ったく、どこでさぼってるんや、あいつは…」
廊下で響く足音が遠ざかるまで、ふたりはずっとそのままで固まっていた。
- 380 名前:教材室 投稿日:2002年11月15日(金)18時17分59秒
完全にその音が消えたとき、二人は同時に安堵のため息を漏らした。
「あー、びっくりした。中澤先生、こんなとこまで来なくても…」
「うん…って、市井ちゃん! いつまで触ってんの!もう!」
思いっきり市井を突き飛ばし、あわててはずされたホックとボタンをはめていく。
さっきまでの熱い雰囲気はすっかりなくなってしまった。
「これからいいとこだったのに…」
「なっ!…まったくもう!…学校で、なんてことするのさぁ!」
「んじゃ、続きは家で」
「市井ちゃん!!」
威勢よく文句を言っている後藤だが、実際は恥ずかしくて市井の顔も見ること
ができないでいた。
- 381 名前:教材室 投稿日:2002年11月15日(金)18時18分54秒
「市井ちゃんって、エッチだよね」
「へっ!? んなことないよー、心外だなぁ」
ようやく制服を直した後藤が、市井の横に座りながらつぶやく。
市井は頭を掻きながらそれに反論した。
「だって…最近、すぐさわってくるじゃんかぁ」
「んー、それはさ、好きな娘にはいつでも触れていたいっていうか…」
「えっ…!?」
好きな娘という言葉に反応し、ぽっと頬を赤くする後藤。
- 382 名前:教材室 投稿日:2002年11月15日(金)18時19分45秒
- 「ほら、かわいい犬が目の前にいたら、さわりたくなっちゃうのと同じで…」
「いぬぅーー!? 後藤と犬が一緒なのぉ!?」
「いや、犬じゃなくても何でもいいんだけどさ」
「何でもいいって、どういうこと!? ひどくない?」
「いや、だからそれはそのー、あくまで例え話であって…」
うまく反論するつもりが、どんどん深みにはまっていく。
「と、とにかくさ、後藤のことが好きだってことだよ!」
「…なんかうまく丸め込まれたような気がするけど、後藤も大好きだよ!」
市井に好きと言われると、それだけですべてが完結してしまう後藤だった。
- 383 名前:教材室 投稿日:2002年11月15日(金)18時20分49秒
- 「んじゃ、昼寝再開」
市井がごろんと後藤の膝に頭を乗せた。
背中を丸くして、本当に眠るつもりのようだ。
無防備なその顔を自分だけに見せてくれるのだと思うと、この上なく幸せを
感じてしまう。
「市井ちゃんって、エッチなだけじゃなくて甘えんぼだったんだね?」
気持ちよさそうに目を閉じている市井の髪を撫でる。
「そんなことない…って言いたいところだけど、後藤には甘えたい…だめ?」
「だめじゃないよ、うれしい…」
ぽかぽかの日差しがふたりを包んで、ゆったりと時間が流れていく。
陽だまりの中には、幸せそうな二人の寝顔があった。
〜お・わ・り〜
- 384 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月15日(金)18時22分55秒
- 更新しました。『教材室』終わりです。
レスありがとうございます。感謝!
>371 名無し読者さん
焦らしたわりには、こんな感じで…。
楽しみにしてくれているのに、うまく書けなくて申し訳ないです。
精進します!次ものぞいてやってください。
>372 和尚さん
大人なようでこどもな市井ちゃんでした。
なぜか、こっちの市井ちゃんはこどもになってしまう…。
んーと、文体をほめてもらえて素直に嬉しいです。
読んでる方にわかりやすく伝わるように心がけているのですが…大丈夫でしょうか?
おたがいにがんばっていきましょうね!
- 385 名前:マーチ 投稿日:2002年11月15日(金)18時25分24秒
- >373 素人○吉さん
ふたりの雰囲気、盛り上がったのですが…こんなオチでした。裕ちゃんのせいです!?
…運動会、そんなに絡みシーンが…すばらしい!?
生じゃなくてもいいから、見たいです。とても!
あの、下がった頭、上げてください。っていうか、下げないで!
こちらこそ素人○吉さんのあたたかいレスのおかげで、ここまでやってこられました。
感謝してます!!
>374 きいろさん
ハイ、いちごま不足だからこそ、いちごま不滅の精神で!
更新を待っていてくれる方がいるかぎり、がんばります。
きいろさんも、そろそろ更新?楽しみにしています。
>375 名無し読者さん
こういういちごま、需要があるのか心配だったのですが、そう言っていただけると
とても嬉しいです。
いちごまの根を絶やさぬように…はい、微力ながらそう願ってがんばりたいです。
次も、のぞいてやってください。
- 386 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月15日(金)18時26分53秒
それではまた。
続編で。
- 387 名前:きいろ 投稿日:2002年11月16日(土)13時16分39秒
いいですね。
中澤さん邪魔しないでください!(怒)
次の更新楽しみに待っています。
自分の方の更新は・・・話がまだあんまりまとまってないんで・・(W
すいません。今月末には更新したいと思っております。
- 388 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月16日(土)23時49分43秒
- わ、姐さん邪魔w
いつか最後までいっちゃうマーチ。さんのいちごま希望!
てかもうマーチ。さんのいちごまないと生きてけないwww
- 389 名前:和尚 投稿日:2002年11月17日(日)21時03分08秒
- えーい、あとちょいだったのに!!
市井さんか後藤さんにだけ甘えるのは読んでて顔がニヤけてしまいます。
わかりやすく伝わる・・・ええ十分に伝わってきます!!
青板でもそうでしたが、赤板でも妄想しまくりです!!
- 390 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時38分54秒
「ひざまくらー!?」
昼休み。
後藤と吉澤はお弁当を食べ終わり、机の上にお菓子を広げていた。
おしゃべりの話題はやっぱりお互いの相手のことに。
「うん、最近わかったんだけどね、市井ちゃんって甘えんぼなんだよね」
あの教材室での一件以来、市井は事あるごとに抱きついたり、膝枕をねだった
りするようになっていた。
きのうも後藤の部屋で、借りてきたビデオを見ていたのだが、ストーリーが中
盤に差し掛かったあたりから抱きしめられて、そのまま離してくれなかった。
それは後藤としては嬉しいのだが、ストーリーがまったく頭に入らないほどド
キドキして、困ってしまう。
ビデオが終わってからは、眠いと言って後藤の膝に頭を乗せてきた。
そしてまた…。
- 391 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時39分36秒
「まじで? あの市井さんが?」
「うん…そうなんだ…」
かっこいい市井しか見たことがない吉澤は、甘えている姿などとても想像でき
ず、ただただ驚いている。
一方の後藤は小さい声で頷き、下を向いたまま。
「なに? 甘えられて嬉しいんでしょ?」
「ん…それだけならいいんだけどさ…」
「へっ? なっ、なに? それだけじゃないの?」
吉澤が興味津々で身を乗り出した。
- 392 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時40分21秒
「さわってくるんだよね…」
「!!…ど、どこを!?」
「よっすぃー、目が怖いんだけど」
「ど、どこ? やっぱり胸とか?」
「やっぱりって……うん…」
「まじっすか?」
ふーっと大きく息を吐き出す吉澤。
聞いているだけで、顔が真っ赤になった。
「それでね、よっすぃーたちはどうなのかなって…」
「えっ!うちらー!?そんなまさか!そりゃあ、願望は思いっきりあるけど、
とても実行に移す勇気ないよ」
「そう、なんだ」
運動しているとき以外は案外ヘタレな吉澤と、今どき珍しいほどの純情な石川。
デートのたびにキスはしていたけど、それ以上は一切無かった。
- 393 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時41分21秒
しばらくして思い出したように、吉澤が言った。
「それじゃあ、市井さんは自業自得だな」
「え? なにが?」
「いや、梨華ちゃんから聞いたんだけど、この前のテストの成績さ、市井さん、
かなり落ちたんだって。常に学年10番以内をキープしてた人だから、落ちる
と目立つんだよね。でも、勉強しないでごっちんとそんなことしてるんだも
ん、落ちて当然…って、えっ?ごっちん?」
黙って聞いていた後藤は今にも泣きそうな顔をしていた。
「…知らなかった…どうしよう、後藤のせいだよ」
「どうしてごっちんのせいなのさ」
「だって、部活が試験休みだからって…遊びに行こうって誘って…ぐすっ…」
「ちょっと、ごっちん。何も泣かなくても」
- 394 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時42分05秒
後藤は自分の浮かれていた態度を思い出していた。
『今日は市井ちゃんの家でゲームしよう!それで明日は…』
『えっ、おいおい、来週からテストってこと忘れてないか?』
『だって、こんなに早く一緒に帰れることって、めったにないもん。いっぱい
市井ちゃんといたいよ…だめ?』
『…だめじゃない』
結局1週間ずっと、市井につき合わせてしまった。
勉強の時間がなかったのも当然だった。
― 市井ちゃん、きっと怒ってるよね…
後藤の心は後悔と不安で暗く沈んだ。
- 395 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時42分55秒
放課後、後藤は市井の担任である中澤先生のところへ行った。
口は悪いが義理人情に厚いということで、生徒の間では絶大な信頼を得ている
この先生が、後藤も大好きだった。
「おっ、後藤やないか。なんか用か?」
「…あの」
「市井にいじわるでもされたんか?」
「えっ!?」
「いや、後藤がうちのところに来る用事ったら、市井のことやろ?ちがうか?」
「は、はい。市井ちゃ、市井さんのことでちょっと」
中澤はにこにこしながら隣にあった椅子を差し出した。
- 396 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時43分49秒
「で、どうしたん?浮気でもされたんか?あいつ、もてるから…」
「ち、ちがいますっ。あの…成績が落ちたって、本当ですか?」
「へっ!?成績?ああ、初めてやな、30番まで下がったのは。こってりしぼ
ってやったけど、後藤からもきつく言っといてや」
「…」
後藤が黙っていると、近くにいた後藤の担任の石黒先生がニヤニヤしながら
口をはさんできた。
「後藤が勉強の邪魔してるんじゃないのかぁ?」
「えっ…」
「いやぁ、お二人さん、アツアツだって聞いたし。若いもんは無茶するから」
「何いうてんねん、彩っぺ、ってえっ! 後藤!」
職員室の戸が勢いよく閉められた。
- 397 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時44分38秒
「おっ、後藤。待っててくれたの?」
「うん…」
練習を終え着替えを済ませた市井が、校門の前で待っていた後藤に気づき、笑
顔で駆け寄っていく。
それを見た部員たちは、ふたりをひやかしながら帰っていった。
「明日さ、練習休みになったんだよね、どっか行こっか?」
「……」
大喜びする反応を予想していたのに、後藤からの返事がない。
よく見ると表情もいつもより暗いことに気づいた。
- 398 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時45分17秒
「おーい、元気ないな。なんかあった?」
「市井ちゃん…、どうしてそんなに優しいの?」
「な、なに? えっ…なんで泣いてんの?」
市井に背を向けて涙をふいている後藤。
市井には何がなんだかわからず、おろおろするしかなかった。
「しばらく市井ちゃんに会わないから…」
「えっ!!」
「じゃあね…」
訳がわからず呆然としている市井を残して、後藤は走り去っていった。
- 399 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時45分55秒
次の日、後藤は本当に市井の前に姿を見せなかった。
携帯にも出ようとしない。
一方的な後藤の態度に、さすがの市井も焦りと不安が湧いてきた。
- 400 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時46分41秒
そして、その次の日の朝。
市井は朝練が終わった後に、体育館に行った。
そこにはバレー部の1年生たちが集まっていて、練習を終えた彼女たちがネッ
トやボールを片付けているところだった。
吉澤もその中でてきぱきと動いている。
入学してすぐにレギュラーを取りエース的存在の吉澤だが、1年生としての義
務である雑用もきちんとこなしていた。
「吉澤〜、ちょっと!」
「えっ! は、はい」
突然の市井の声に何事かと部員たちの注目を浴びる中、市井が吉澤を体育館の
裏へ連れ出した。
- 401 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時47分26秒
「あのさ、後藤のようすが変なんだけど、なんか知ってる?」
「え、変って…」
突然避けられた理由がどうしてもわからない市井は、後藤の親友である吉澤に
聞くことにしたのだった。
「しばらく会わないとか言って、ほんとに会ってくれないんだよね…。夕べず
っと考えたんだけど、まったく訳わかんなくてさ。もしかして吉澤なら何か
知ってるかなって思って」
「あっ、それって…。すいません!吉澤が余計なことごっちんに言いました」
「え?」
吉澤が事の経緯を伝えた。
- 402 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時48分48秒
「へ…そんなことで?」
「ごっちんにとっては、すごく重大なことだったみたいです。泣くほど…。
自分が市井さんの足を引っ張ったって…。いくら違うって言ってもだめで…」
「…そうだったんだ。…わかった、ありがとう」
理由がわかってほっとし、それと同時に思わず頬が緩む。
― まったく、後藤らしいな、なんでも真っ直ぐなんだから…
無性に後藤に会いたくなった市井は、そのまま1年の教室へ向かって歩き出した。
- 403 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時49分55秒
1−Aの教室の戸がガラッと開いた。
朝のHR中だったので、全員の視線が一斉にその音のほうへ集まった。
「おはようございます!石黒先生、後藤借ります!」
市井が教室の中に入り、後藤の席の前に立った。
何が起きたのかわからない生徒たちは、ただ呆然として成り行きを見ている。
「市井ちゃん? ど、どうしたの?」
「いいから、ちょっと」
後藤の手を取ると、そのまま引っ張るようにして教室を出て行った。
「いいねぇ、若いもんは!」
「市井さん、かっこいい!」
教室から湧き上がった歓声はしばらくおさまらなかった。
- 404 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時51分02秒
市井は屋上に後藤を連れてきた。
「後藤、ありがとう」
「え?」
「市井の成績を心配してくれて、あんなこと言ったんでしょ?しばらく会わな
いなんてさ」
「あっ…」
「たしかに順位は落ちたけど、それは自分のせいだよ。市井が人のせいにするようなやつだと思ったの?」
「だって、後藤が…一緒にいたいって…無理言って…」
「同じだよ、一緒にいたいっていう気持ちは市井も同じ。だからさ、今度から
一緒に勉強しよ」
「え、勉強? 一緒に?」
「うん、後藤の成績も上がってもらわなきゃ、同じ大学に行けないしさ…」
「市井ちゃん!」
後藤が勢いよく抱きついた。
- 405 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時51分54秒
「ほんとに怒ってないの? 後藤のこと嫌になってない?」
「なるわけないじゃん…」
「よかった…」
市井も腰に手を回してぎゅっと抱きしめる。
「会わないなんてさ、もうぜったい言わないでよ…」
「うん…ごめんなさい」
「かなりショックだったんだから」
「ほんとに?」
見上げた瞬間、唇が重なった。
お互いの感触を確かめ合うかのように、何度もキスをくり返した。
- 406 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時52分31秒
「そろそろ、もどろっか」
「ん…でも、なんて言ってもどればいいの?」
あれだけ堂々と教室を抜け出した手前、さすがの後藤も戻るのはかなり恥ずか
しかった。
「んー、なんとかなるでしょ、行こっ」
「うん」
手をつないで、二人なかよく教室に向かって歩き出す。
時計の針はもうすぐ1校時の授業が終わるところを指していた。
- 407 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時53分19秒
「今日、うちで勉強しよっか」
廊下を歩きながら、何気なく市井が誘う。
「いいけど…市井ちゃん、勉強しながらへんなことしないでよぉ」
「へ、へんなことって何だよ!しないよそんなこと!」
「だってこの前さ、市井ちゃん、ビデオ見ながら…」
「なんかしたかぁ?」
「したじゃん!」
「ちょっと、抱きしめただけでしょ」
「ちょっとじゃないよ、ずっとじゃん!後藤、ドキドキして映画に集中できな
かったんだからね…。それに、そのあとTシャツの中に手入れてきて…」
「それはさ…」
- 408 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時54分01秒
ガラッ
市井の言葉をさえぎったのは、教室の戸が開く音だった。
「石黒先生!」
二人の声が重なった。
「授業中に刺激的な話するの、やめてもらえませんかねぇ。生徒たちが集中で
きないもんで」
「も、もしかして聞こえてたとか?」
石黒がにやにやしながら大きく頷いた。
言い合いをしているうちに、思ったより声が大きくなっていたらしい。
- 409 名前:成績 投稿日:2002年11月19日(火)19時54分47秒
「うっ…どうしよう、恥ずかしくて教室に入れないよ…」
「あっ、先生。もうちょっと、後藤借ります!」
「なにー! 市井、あとで職員室来いよ!」
教室の中の歓声を背に受けて、市井が後藤の手をとって走り出す。
どこまでもかっこいい市井に、ますます惚れてしまう後藤だった。
その後、二人の成績は…。
〜お・わ・り〜
- 410 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月19日(火)19時56分18秒
更新しました。
オチもなにもない話でボツにしようかぎりぎりまで悩んで…、結局UPしてしまいました…。
レスありがとうございます。感謝!
>387 きいろさん
ふたりの邪魔をした中澤先生、けっこう気に入ってしまって、また登場させました。
えー、きいろさんの更新、決してプレッシャーかけたわけではありませんので…。
ただ、楽しみなだけです。
>388 素人○吉さん
最後までいっちゃういちごま希望…わかりました!
やっぱ、ここまで引っぱって最後までいかないわけには…素人さんが許しませんよね。
たぶん、大丈夫です。市井ちゃん、やるときゃやります!?
>389 和尚さん
顔がにやけましたか!?
それは書き手として、とてもうれしいですね。
また、妄想しちゃってください!
和尚さんの方も佳境に入りましたね。がんばってください!
- 411 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月19日(火)19時56分51秒
次が最終話です。
それではまた。
- 412 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月19日(火)20時27分55秒
- すっかりバカップルになっちゃいましたね(w
いいな〜、甘くて幸せで。
次で終わっちゃうなんて残念です。
早く次が読みたいような読みたくないような・・・。
- 413 名前:きいろ 投稿日:2002年11月20日(水)12時34分20秒
えっ!終わっちゃうのですか!?
続きは読みたいのですが・・・・複雑です。
作者様のいちごまは、今まで見た中でも、かなり後藤が可愛いです。
市井の行動と、二人のやりとりなど読んでいてかなりツボなのですよ!
別の話などご考えでしたら、教えてください。また、必ず読みに行きますので・・・
- 414 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月20日(水)16時18分24秒
- 互いを想う優しさがすれ違って。
痛いけど、ハッピーエンドでよかったっ♪
おぉっ!最後までいっちゃうの、書いてくれるんですかっ!?www
うーん、そうですね、許しませんよ?(にやり
いや、マーチ。さんの作品ならもうそれだけで!
最終回なのは寂しいけれど、また新作書いてくれますよねぇ?
- 415 名前:和尚 投稿日:2002年11月21日(木)00時27分04秒
- 2人がお互いを想っていて顔が綻んでしまいました。
後藤さんに甘える市井さんを妄想・・・鼻血が出そうです。
次回で最終話ということですが、頑張って下さい!
こちらも頑張ります!?
- 416 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月24日(日)20時11分20秒
このスレ、まだ容量が残っているのですが、キリがいいところで新スレに
移転させていただきます。(次の話が入りきるか、微妙なところなので…)
レスありがとうございます。感謝!
>412 名無し読者さん
残念と言ってもらえて、ありがたいです。
甘くて幸せなふたりで終わらせたいなと思っています。
最後までおつき合いいただければ嬉しいです。
>413 きいろさん
きいろさんのツボにはまりましたか!?
ちょっと子どもっぽすぎる後藤さんですが、かわいいと言ってもらえてよかったです。
次のことはぜんぜん白紙ですが、そのときはまた読んでもらえると嬉しいです。
- 417 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月24日(日)20時12分55秒
>414 素人○吉さん
最終回は素人さんの希望通りに向かうはずです!?
楽しみにしててください。
次回作などはぜんぜん頭にないのですが…ん〜。
>415 和尚さん
甘える市井ちゃん、いいですよね。
ふだんはかっこいいのに、二人っきりだと途端に甘える…ってな感じが。
励ましの言葉、ありがとうございます。がんばります。
ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとございます。
そして、レスを下さった方、本当に励まされました。感謝しています。
もしよろしければ、次もおつき合いください!
新スレもこの板で。
Converted by dat2html.pl 1.0