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ごまたまご
- 1 名前:海野コバルト 投稿日:2002年08月16日(金)20時12分24秒
- 上から読んでも“ごまたまご”。下から読んでも“ごまたまご”。
一応“やすごま”になるのかな。エロと言うよりは切ない系の話にできればいいと思ってます。
話の始まり部分はハロプロ大変革のニュース前に書いたのですが、ニュースを聞いてから話の流れを大きく変えて、2002年の春に始まり2003年の保田卒業と共に終わる話にする事に決めました。
BGMは“Do it ! Now”by Morning Musume.
- 2 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月16日(金)20時16分43秒
- 始まりは2002年の春。
夜になると冷え込むこともまだある季節にも関わらず、スタジオは熱気で暑い位だった。前の鏡も隅の方は汗で曇っていた。
「後藤!たん、たんで右手上だろ。それから、よっすぃー。振りが遅れがちだぞ。時間ないんだからさ、集中してやろうよ。」
圭ちゃんが、私とよっすぃーのダンスを細かくチェックしながら、叫ぶ。
圭ちゃんのTシャツが背中も汗で張り付いて、まるでシャワーを浴びた後みたいだ。圭ちゃんは自分のダンスにも絶対に妥協を許さない。真剣な目をして前の鏡に映った3人の動きを追っている。
そんな時、圭ちゃんは、ほんとに男らしいなと思う。プッチはもともと少年ぽっさを売りにしたユニットだし、よっすぃーが新加入を認められたのも、宝塚の男役みたいな凛々しさをつんく♂さんに見いだされたからだ。
- 3 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月16日(金)20時18分30秒
- でも、圭ちゃんとよっすぃーの男らしさは少し違う。よっすぃーは女の子が男の子を演じている男らしさだとすると、圭ちゃんは性別を越えたところにある男らしさのような気がする。
アンドロギュノス・・・。昔、人類は男と女が一つの体だったという。神によって2つの体に引き裂かれた為に、男と女はお互いを求めるようになったと。
圭ちゃんは、そんな太古の男女同体のアンドロギュノスだ。彼女(彼)は女でありまた男である。そんなことを、ぐじゃぐじゃ考えていると圭ちゃんが突然ダンスをやめて、私の方を振り向いていった。
「後藤〜。どうした?なんかダンスに切れがないぞ。疲れたか?んじゃ、一休みするか。」
よっすぃーもほっとしたようにダンスを止めた。圭ちゃんはスタジオの隅に置いてあったミネラルウオーターのボトルを、立ったままラッパ飲みしながら、タオルでごしごし顔やら髪やらを拭いている。
今だと思った。
- 4 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月16日(金)20時20分23秒
- 「あのう、保田さん。」
ん、という感じで圭ちゃんは私を見た。圭ちゃんのことを保田さんなんて改まって呼ぶのは久しぶりだ。
「この後、何も予定ないですよね、ちょっと相談したいことがあるんですよ。」
「ああ、いいよ。ダンスレッスンは8時上がりで、今日はおしまいだ。よしっ!あと10分休憩したら、もうひと頑張りするか。その後はビールが美味い。」圭ちゃんは腕をぐるぐる回す。
「えー、私は未成年ですよ。」
「分かってるって。後藤はウーロンな。しかし、お子ちゃまはつらいよな〜。こんな美味い物を知らないなんて。」
頭をよしよしというように撫でられる。
「えー、ビールぐらい飲んだことありますぅ。」
永遠に続けばいい楽しい会話。
- 5 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月17日(土)03時55分20秒
- やすごまだ...
うれしいよ〜。
作者さんのペースでがんばってください。
- 6 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月19日(月)13時35分04秒
- スタジオの外に二人で出た。今年の春はいつもより暖かい。初夏のような風が上気した体に心地よい。一応、シャワーで汗は流したのだが、体の芯がまだ熱いという感じだ。青葉だけになった桜並木道。ネオンの夜空。
「桜、もう散っちゃったね。」
しみじみと圭ちゃんが言う。
「相談って、シリアスなこと?」こちらを、ちらっと見て聞く。
「ちょっと・・・」
「そうか。」
圭ちゃんの横顔がちょっと引き締まったように感じた。
「タクシー!!」
ちょうどやってきた空車ランプの点いたタクシーを、圭ちゃんは大声で手を挙げて止めた。
- 7 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月19日(月)13時38分13秒
- 「先、乗れよ。運転手さん新宿2丁目まで。」
ひそひそ声で「もしかしたら、ゲイバーすか?」ときいてみる。
「任せておけって。」車は夜の街を滑り出した。
車の中では会話が続かない。いつもなら、何気なく話せるのに。互いに妙に緊張してしまっているのかな。
変なの。
(私も“シリアスな相談事”とかって言わなければよかったな。)
窓の外を流れる景色をぼんやりと見ていた。
「降りるよ。」
圭ちゃんが突然言った。
「運転手さん、そこのコンビニの前で止めて下さい。」
圭ちゃんは前を向いたまま
「後ろから、変なバイクがつけてくるんだ。たぶん、写真週刊誌のカメラマンだよ。後ろを見るんじゃない。気づかないふりして、自然にしてな。」
そう告げた。
写真週刊誌。ちょっと、ズキッとくる。
- 8 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月19日(月)13時39分55秒
- とあるコンビニの前で降りると、そのまま圭ちゃんは、そのコンビニに入っていった。私も後に続いて入る。
コンビニに入ると圭ちゃんは窓際の雑誌のスタンドから一冊手に取ると、広げてさりげなく店の外をうかがう。
「さすがに、コンビニの中までは入ってこないな。出てくるのを待ち伏せするつもりだろうけど、そうはイカの金○だよ。」おやぢギャグ・・・。
「実はここの店長は知り合いなんだ。フリーター時代の腐れ縁だけどさ。あっ。店長、裏口を使わしてもらいます。」
商品チェックしていた、まだ30代くらいの店長に圭ちゃんは愛想よくあいさつした。
私も一応会釈する。
前にもこういうことがあったのか、店長はちょっと微笑むと目で裏口の扉の方を合図した。
- 9 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月21日(水)19時15分16秒
- 「後藤、こっちだよ。」
商品が山積みになっているバックヤードを抜けて裏口から出る。
表通りから一本外れた裏通りだ。
圭ちゃんは辺りを見回して「うん、大丈夫だね。ちょっと歩くよ」と言った。
「ドキドキしたね。」
圭ちゃんから半歩遅れて私は歩く。
「まあ、アイドルやってるといろいろあるからな。後藤は今までファンから逃げた事とかないの?」
圭ちゃんはこっちをちらっと見る。
「うーん。あんま、声かけてこないんすよね。なぜだろ。」
「ハハハ、後藤、ヤンキーぽいからファンが実は怖がってんじゃないの。」
「そうかなぁ。」
真面目に答える。
- 10 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月21日(水)19時16分30秒
- 一本裏通りに入っただけなのに人通りがめっきり無くなった。圭ちゃんと私の影が街灯に照らされて前に伸び縮みをくりかえす。
「冗談だよ。後藤みたいな すげーアイドルは街で会ってもかえって気づかれないんじゃないの。こんな所に、まさか後藤が。って。私みたいなタイプは、すぐ分かちゃうけどね。」
「そんなことないよ。圭ちゃんだって気づかれないよ。」
あわてて否定する。
「それはまるでフォローになってないぞ。まるで私がパンピーみたいだから気づかれないみたいに聞こえるぞ。」
「えっ・・・」
圭ちゃんは私が困った顔を見て笑っていた。
- 11 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月21日(水)19時18分50秒
- 「やっと着いた。ここだ。」
結局、圭ちゃんに連れてきてもらったのは雰囲気のいい中華料理屋だった。個室に通してもらって二人きりになる。
案内の女の子が置いていったメニューをじっくりと端から端まで見ながら結局は
「まず、酒だな。冷えたビールと。」
仕事帰りのサラリーマンみたいなことを言う。
それからやっと顔を上げて、私のほうを向き
「好きなもの頼め。たまにはおごってやるでぇ。でも酒はNGな。」
と付け加えた。
気をつかってくれているんだ一応は。
- 12 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月21日(水)19時20分06秒
- ビールと料理が一通り来て、ひとしきりお互いほとんど無言で食べた。
これは、別にお互いに気まずい訳ではなく、本当においしい物を食べている時は人は無口になるという例の現象だ。
満腹。
「ここ本当においしいね。圭ちゃんの隠れ家?」
口の周りについたエビチリのソースをナプキンで拭いながら圭ちゃんに話しかけた。
「ああ、他の連中に言うなよ。辻加護辺りには、まだここは早すぎる。お・と・なの味だからな。」
いつの間にか紹興酒に切り替えたらしく、深いカラメル色の液体の入ったガラスのグラスをちびちびやっている。
「マンゴープリンでございます。」
私の頼んだデザートが来た。
「じゃあ、そろそろ、相談ってやつを聞くかね。」
圭ちゃんの顔がちょっと引き締まる。プッチのリーダーとしての顔だ。
- 13 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月21日(水)19時45分43秒
- 私はちょっと息を吸い込み、覚悟を決める。
「ユウキの事なんですよ。」
圭ちゃんはやっぱりという表情でうなずく。
「ユウキのことは、もう知ってますよね。今度で2回目なんで芸能界引退という結果はしょうがないと思うんです。うちの家族ってユウキ以外は女なので、どうしても厳しくできないですよ。こんな時、お父さんが生きてくれていたらって思います。前回、失踪した時に殴ってでもみんなに迷惑をかけたことを反省させていればって・・・。」
圭ちゃんはしばらく黙って考えをまとめていた。
「そうだなぁ、でも、あの年頃は自分が何でも出来るような気になっているからね。わたしもユウキと同じ年頃は変につっぱってたし。高校も中退しちゃったけど、だらだらフリーターやってたし。モー娘。のオーディションに受かっていなかったらどうなっていたか。ちゃんとしなきゃって思いながら、思いどおりにならない自分に苛ついたりしてさ。」
- 14 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月21日(水)19時46分42秒
- 「ユウキ個人の問題ならいいんですけど、和田さんやソニンちゃんまで迷惑かけて。EE JUMPのファーストアルバムも結局は発売中止みたいですし。」
「でも後藤は後藤なんだからさ、ユウキのことで自分まで見失っては駄目だよ。なるようにしかならないんだし。15歳という歳は、もう自分でした事に責任を持ってもいい歳だよ。冷たい言い方に聞こえるかもしれないけど、後藤はモー娘。の後藤なんだし、プッチの後藤なんだから、その部分ではしっかり自分の責任を果たさんといかんよ。ユウキのことを必要以上に抱え込むな。」
「そうですよね。」
本当は圭ちゃんにそう言って欲しかったのだ。
“必要以上に抱え込むな”と。
世間は、どうしても私とユウキを結びつけて考えたがる。でも、ユウキと私は別の人間だ。
自分の中では何かが吹っ切れた気がした。
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月25日(日)16時25分40秒
- やすごまだぁ♪
この組み合わせ大好きです!
- 16 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月25日(日)16時26分40秒
- ageてもーた…。
ごめんなさい!
- 17 名前:海野コバルト 投稿日:2002年08月29日(木)15時05分17秒
- >15
別に気にしなくていいですよ。
これからも応援してください。
ちょっと、書き悩んでいて更新は遅いかも知れませんが。
- 18 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月29日(木)15時07分05秒
- 「全部さ、吐き出せよ。聞いてやるよ。後藤はさ、いつも平気ですよって顔をしすぎだよ。周りから色々言われたり、無言のプレッシャーがあってそう言う風になっちゃうのかもしれないけどさ。辻並みにとは言わないけどさ、もっとうちらに甘えてもいいんだぞ。」
そうかもしれない。わたし後藤自身は、のほほんとした下町の女の子だけれども、実像以上に“カリスマ”とか“一人だけ飛び抜けた存在”とかと言われて虚像の部分が大きくなっていたのかもしれない。
後藤はそんな周囲の雑音には負けないと思っていても、流されていたんだなと思う。知らない間に心に無数の細かい傷がついていた。
スプーンでひとすくい口に入れたマンゴープリンの甘さが心にしみた。
今までも圭ちゃんの前では自分を100%出せていたと思っていたのだが、この夜は200%素直になれた気がする。
- 19 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月29日(木)15時09分20秒
- ユウキのこと。仕事のこと。恋愛のこと。色々なことを取り留めもなく話した。聞いてもらえるだけで良かった。なんか自分ばかりが話していた気がする。
圭ちゃんは紹興酒をやりながら、一つ一つに変に同情することもなく冷静にコメントしてくれた。
「やっぱり、圭ちゃんに聞いてもらって良かったなぁ。」
店を出て、表通り向かってぶらぶら歩きながら言った。
知らず知らず興奮していたのか、熱くほてった頬に夜風が気持ちいい。
(このまま、圭ちゃんと別れるのはいやだな。)
強く強く思った。
- 20 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月29日(木)15時11分00秒
- 「圭ちゃん。あのさ、今日、圭ちゃんちに泊まっちゃあ駄目?」
「アイドルが外泊かあ。フライデーされるちゃうぞ。歌手Yがゴマキと2人きりの熱い夜ってな。」
含み笑いで答える。脈あり。
「駄目?」
上目使いをつかって、もう一押ししてみる。後藤、必殺のおねがいポーズだ。
圭ちゃんは少し呆れたように
「まいったな。そんな目をしなくてもいいよ。うちで良ければ別にOKだよ。掃除してないから部屋が汚いけどさ。」
と言ってくれた。
(やったあ〜)
- 21 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月29日(木)15時14分38秒
- 圭ちゃんの家のすぐそばの商店街でタクシーを降ろしてもらう。
圭ちゃんの住んでいるところも後藤の家と同じく、いわゆる下町と呼ばれるところで、昔ながらの商店が多いためにそんなに遅い時間ではないにも関わらず、ほとんどの店が明かりを落として、もう眠りについていた。
何軒かの飲み屋の赤提灯と、コンビニの強い光だけが目に痛い。
「圭ちゃんらしいね。」
「えっ。何が?」
「住んでいる所がさ、雰囲気いいじゃん。後藤は下町育ちだから、こういう街好きだよ。」
ほんとは、こういう街に住んでいる圭ちゃんが好き。という言葉は飲み込んだ。
ここでの、好きという言葉は変な意味ではなく、Likeの好きであるのだが。
- 22 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月30日(金)19時21分17秒
- 「ああ、いい気持ちだな。お酒を飲んでいい気分と。」
暖かい春の空気が二人を包んでいる。
わたしは圭ちゃんの横顔を、のぞき見た。
ほんのり頬を桜色に染めて、すごくリラックスしてる感じだ。
軽く微笑んでくつろいだ顔をしてる。
「ねえ、圭ちゃん。手ぇつないでいい?」
私は手を差し出す。
「なんだ、後藤。今日は妙になつくなぁ。」
でも圭ちゃんはわたしの手を握って、手をつないでくれた。
つないだ手を大きくブラブラと振りながら歩いていった。
- 23 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月30日(金)19時25分10秒
- 「さあ、どうぞ。」
圭ちゃんのうちに着いた。
意外と片づいているリビングに通された。
ソファーがあって、なぜかテーブルの代わりにこたつが一つ。
何回か来たことがあるが、つい色々観察してしまう。
「こたつ、まだ、しまってないんですか?」
こたつの上には中学生向けの漢字ドリル。
「ああ。あんまり、じろじろ見ないでくれよ。」
と漢字ドリルをどこかに片づけてしまった。
圭ちゃんは、途中で仕入れたコンビニの袋をこたつの上に置くと、
「あのさ、シャワー浴びてくるから待っててよ。汗かいたわ。毎日けっこう暑いなあ。先にやっててよ。冷蔵庫の中の物も勝手にしてていいよ。」
と言い残して圭ちゃんはバスルームへ。
- 24 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月30日(金)19時29分08秒
- とりあえず、スイッチの入っていないこたつに足だけ突っ込んで、辺りを見回してみる。壁の棚にビデオが整然と並んでいる。目で題名を追ってみる。モー娘。の出演ビデオ。名画。吉本新喜劇。歌番組。100本じゃきかないくらいのビデオの数だ。
(勉強熱心だな〜。圭ちゃんは影で努力するタイプだもんな。)
テレビを付けてみる。
ニュースばっかだ。
退屈。
10分ほどたっただろうか。圭ちゃん、シャワーだけって言ったのに一寸長いかな。そうだ、一緒にシャワーを浴びちゃおう!!!女同士だから嫌とは言わないだろうし。
- 25 名前:ごまたまご 投稿日:2002年08月30日(金)19時31分55秒
- こっそり、バスルームへ。圭ちゃんのシャワーを浴びる音がする。
圭ちゃんに気付かれないように服を脱いで、ちょっとバスタオルを拝借して体に巻く。
それから大きな声で
「け・い・ちゃ・ん。一緒にシャワー浴びてもいい?」
と驚かせる。
「ちょっとお、駄目だよ」
圭ちゃんあわてている。磨りガラスを通して圭ちゃんの後ろ姿が見える。
「もう、服を脱いじゃったもーん。圭ちゃーん」
扉を開けて、圭ちゃんの後ろから胸の辺りを抱きかかえる様にして飛びつく。
- 26 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月02日(月)00時43分32秒
- う〜ん、こーゆうやすごま大好きです!
続きも頑張ってくださいね!
- 27 名前:海野コバルト 投稿日:2002年09月05日(木)19時39分54秒
- >26
この後、たぶん全ての読者さんが予想していない展開になります。
作者が書きたかったとしか言いようがありませんが。
よろしければ、見捨てずにおつきあい下さい。
- 28 名前:ごまたまご 投稿日:2002年09月05日(木)19時46分30秒
- じょりっ。
手にじょりっという感覚が伝わってきた。
(じょりっ?)
人間は予想外のことが起きると思考停止してしまうものだ。
それから、私の目の前の景色はスローモーションのようにゆっくりと過ぎていった。わたしはただ、その経過だけを見ていた。
圭ちゃんが正面に振り返る。髪の毛から水滴が飛び散る。背中にも水が流れ落ちている。だが、驚いて振りむいて、わたしに見せた圭ちゃんの胸は全く膨らんでいなかった。
それから、胸毛?
薄いが確かに胸毛が生えていた。
- 29 名前:ごまたまご 投稿日:2002年09月05日(木)19時48分16秒
- 圭ちゃんが、またわたしに背中を見せる。
シャワーの音だけが長く長く続く。
圭ちゃんは彫像の様に固まって静止している。数秒か、数分か分からなかったけど、圭ちゃんが首だけをこちらに向けて半身になり
「出ていってくれないか。」
と不思議な目をして静かに、しかし力強く言った。
その目はわたしをまっすぐ見て、更にわたしを突き抜けて遙か彼方を見ているような目だった。
私は混乱したまま服をつかむとリビングに駆け戻った。
(前に見た圭ちゃんの胸はそんなに大きくないけど、確かに膨らんでいた。もちろん、胸毛なんて無かった。)
そんなことを繰り返し考えた。
そして、あの不思議な目。怒り?あきらめ?哀しみ?
- 30 名前:ごまたまご 投稿日:2002年09月05日(木)19時49分44秒
- バスルームから圭ちゃんが、出てくる音がする。そのまま、圭ちゃんはキッチンへ向かい、冷蔵庫を一回だけ開閉した音がした。
わたしにはこれから、何が起こるか予測もつかなかった。
さっきから胸の動悸が静まらない。どきどきして、息が苦しい。呼吸の仕方を忘れちゃいそうだ。このまま時間が止まればいい。
でも何かの天変地異によって時間の流れが変わるわけもなく、Tシャツとスエットパンツをはいた圭ちゃんがビール缶を片手に後藤がいるリビングに入ってきた。そして、ソファーに腰を下ろす。こたつに入った後藤と正面を向き合う形となった。
プシュ。
プルトップを起こして圭ちゃんはビールを一口飲んだ。
圭ちゃんは落ち着いているように見えた。
例えるなら、凪いだ瀬戸内海の海のように穏やかな包容力に満ちているように思った。
- 31 名前:ごまたまご 投稿日:2002年09月05日(木)19時51分23秒
- 「後藤には知ってもらってもいいかな。」
圭ちゃんは穏やかな表情だ。
わたしは・・・、混乱?
でも、頭の隅は冴えざえとした気持ちもある。2人の関係が今日変わるという予感なのかもしれない。
「どこから話せばいいかな。性同一性障害という言葉は知っているかな。」
(性同一性障害?聞いたことあるよ。どこでだろう。)
必死になって記憶の糸をたどる。
この次に、発する一言に二人の運命がかかっている。
言葉を選ばなくちゃいけない。
「・・・自分の性別に違和感を感じている人たちのことですよね。」
ためらいがちに答える。
「うん。そう。わたしもそうなんだ。」
圭ちゃんは、特に気負うこともなく水のように、さらっと言う。
- 32 名前:ごまたまご 投稿日:2002年09月05日(木)19時54分46秒
- 「えっ?!圭ちゃんが?」
口ではそう言ったものの、そんなに驚いていない自分を発見する。
アンドロギュノス。
圭ちゃんはアンドロギュノス。
太古の男と女が一つの体に共存している神に近い存在。
「小さい頃から、自分が女であることが嫌だった。胸が膨らみ、生理が来る。そういう女になっていく自分を憎悪した。刈り上げに近い髪型をしてみたこともある・・・。今は男性ホルモンを打っているんだよ。胸の脂肪も除去した。普段はパッドで胸があるように装っている。下もそのうちに手術するつもりだ。」
圭ちゃんは私をまっすぐに見つめて言った。
そして、またあの不思議な目。
- 33 名前:ごまたまご 投稿日:2002年09月05日(木)19時56分50秒
- 静かに語り続ける。
「お願いだ。誰にもこのことは言わないでくれ。時期が来たら自分で告白する。今はまだモー娘。の一員でいたいんだ。勝手なお願いかも知れないけど、歌を歌っていきたいんだ。ファンをだましているつもりはないよ。保田圭として、力一杯歌っているつもりだ。保田圭としての歌には男も女も関係ないだろう?」
そうだ、モーニング娘。で一番の歌唱力を誇る圭ちゃんが男であろうが女であろうが、その歌の価値は少しも下がることはない。圭ちゃんの歌に掛ける努力とプライドは後藤もよく知っているよ。
その瞬間、わたしは全てを理解した。自分の性に疑問を抱き、苦しんで苦しんで自己否定と自己肯定を繰り返した末に、やっと結論を出したんだって。
だから、今は穏やかな顔をして後藤に自分の苦しみについて話してくれるんだって。
- 34 名前:ごまたまご 投稿日:2002年09月05日(木)19時59分07秒
- 私は壊れた人形のようにがくがくと首を縦に振った。
「圭ちゃんは圭ちゃんだよ。性同一性障害でも、男になっても圭ちゃんだよ。誰にも言わない。これは2人だけの秘密。約束するよ。」
まだ心臓の鼓動が早く胸を打つ。
一拍一拍の鼓動が圭ちゃんへの想いを高めていく。
圭ちゃんの苦しみへの同情心?
違う。これは恋だ。
ダンスをしているときの圭ちゃん。
歌っているときの圭ちゃん。
演技をしているときの圭ちゃん。
みんなを集めて、真剣に説教しているときの圭ちゃん。
お酒を飲んで、笑っているときの圭ちゃん。
いろんな圭ちゃんの姿が浮かんでくる。
- 35 名前:ごまたまご 投稿日:2002年09月05日(木)20時00分10秒
- (圭ちゃんを好きになってしまったのかもしれない。というか、ずっと自分の気持ちに気付かなかっただけなんだ。男として、わたしは圭ちゃんを好きだったんだ。)
わたしの頭の中に雷のように鋭く鮮明に、圭ちゃんへの想いがはっきりと刻まれた。
(この想いは本物だ。)
一瞬の内に気持ちが固まる。これも運命なのかも知れない。
後藤は決めたよ。
どんな未来が訪れようとも、自分の今の想いを信じていこう。
一歩一歩でしか進めない人生だから、後悔はしたくない。
わたしは軽く深呼吸をして
「圭ちゃんが好きです。男としての圭ちゃんが好きです。」
一気に言い切った。
「本当にいいのか?」
圭ちゃんの目は真剣だ。
「後悔はしないよ。」
こうして、二人の関係は始まった。
- 36 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月06日(金)12時48分21秒
- ほぇぇぇ…こりゃ予想外の展開っすねぇ。
続きはどうなるのか…。
禿げしく期待!
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