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いつでもあなたはそばにいて。

1 名前:いち作者 投稿日:2002年08月17日(土)10時15分04秒
 娘。内の恋愛模様です。
 少しでも興味を持っていただければ幸いです。
2 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時16分33秒

 「ねーねー、梨華ちゃん。一緒にご飯食べよぉ」

 昼食のロケ弁を手に、満面の笑みを浮かべたごっちんが軽く手を振って、あ
 たしに声を掛けてくる。
 あたしは、隣りに座っているよっすぃの顔をちらりと見た。
 『もう、恒例行事だね』
 苦笑混じりの顔のよっすぃの口元がそう動いた。あたしも、同じく苦笑い。
 
 「あたし、なんか最近、妙に気に入られちゃってるみたい」
 「……だね」

 そのごっちんには絶対聞こえないように、小声でよっすぃと交わす会話にで
 さえ、あたしは嬉しさを感じてしまう。
 だって、よっすぃと、2人っきりの世界を作っている気になるから。


3 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時17分25秒

 「あれ〜、よっすぃもいたんだぁ?」
 小走りに駆け寄ってきたごっちんが、あたしの隣りに座っているよっすぃを
 見て、意外そうに素っ頓狂な声を上げた。…最初からいるのに。

 「さっきからずっといるっての。ごっつぁん、それはギャグ?」
 「あはぁ〜、軽〜いジョークだわよ、よしこ♪」
 「苦しいねえ、素でボケてたじゃん、ごっつぁんてば」
 「よしこ、つっこむねえ」

 あたしに話し掛けてきたはずのごっちんは、何故かそのあたしを通り越して
 隣りのよっすぃと楽しそうに会話を弾ませている。
 ちょっと何よぉ、あたしは無視なの〜?

 「あー、梨華ちゃんが妬いてる。後藤とよっすぃが仲いいからぁ」
 相当ぶうたれた顔をしていたのか。
 黙りこんで2人の会話を聞いていたあたしの顔を、ごっちんが半笑いで覗き
 込んで楽しそうに言った。


4 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時18分18秒

 「だって、ごっちんとよっすぃが2人の世界作ってるんだもんっ」
 「梨華ちゃん、妬いてんだ?」
 「や、妬いてないよぉ。誰に妬くの!?」

 相変わらず、あたしをからかうごっちんの言葉。
 最近、妙にごっちんはあたしを構うのが好きらしく、特によっすぃと2人でい
 る時は、ここぞとばかりに乱入してくることも多い。

 よっすぃが囁いた、『恒例行事』とはそういうこと。
 ……もちろん、あたしにとっては、あまりありがたくないことなのだけど。


5 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時18分56秒

 なぜって、あたしはよっすぃと付き合ってる。
 といっても、芸能人(というよりアイドル)として生活を送るモーニング娘。の
 一員であるあたし達としては、大っぴらに街を歩くこともできない。
 つまり、デートらしいデートも出来ないってこと。

 だから、こうしてよっすぃと2人っきり、まったりお話してるだけでも、本当に
 大切な時間になるの。

 なのに……。


6 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時19分32秒

 「まぁ別に、んなことどうでもいいけど。それよりほら、早くご飯食べよぉよ。
  休憩時間終わっちゃうよ?」

 急き込んで言うごっちんに、あたしは困惑を隠せない。
 毎度のこととは言え、あからさまに断るわけにもいかないんだ。
 だってごっちんのことは嫌いじゃない。ううん、むしろ好き。…友達だもん。
 
 「さ、3人で食べよう、ね?」
 苦し紛れにあたしの言葉に、ごっちんはニヤリ、と口の端を持ち上げて、意
 地悪そうな笑みを浮かべた。
 …ううぅ。ちょっと、ヤな予感。
 
 「もちろん、最初っからそのつもりだけど。なぁにー梨華ちゃん。後藤と2人
  っきりがよかったって?」
 「そんなこと言ってなぁーいっ!!」


7 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時20分11秒

 本当は、よっすぃと2人っきりで食べたかった……なんて、いくらあたしが能
 天気でも、口に出して言えるわけがなくて。


 どうにも、ごっちんはそんな甘い時間があたし達に訪れるのを許してくれな
 いところがある。
 よっすぃと2人でいると、必ずと言っていいほどごっちんが現われては散々
 粘って、あたしはよっすぃに甘えることすらさせてもらえなかった。

 だって、ちょっとでもよっすぃに寄り添おうものなら
 『ちょっとー梨華ちゃん、後藤の前でイチャつかないでよー』
 …なんて、言うんだもん。

 もちろん、ごっちんのことは大好きだよ。メンバーの中では年も近いし。
 そして、そんなごっちんはあたしとよっすぃの仲を知ってる。
 でも、気を使うとかそんなのは一切ない。
 何でかなぁ、ごっちん、あたしとよっすぃに仲間外れにでもされると思ってる
 のかな? …もちろん、あたし達にはそんな気、全然ないのに。


8 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時20分48秒

 だけど、ちょっとは2人の時間も欲しいと思う今日この頃。

 よっすぃもよっすぃで、あたしと2人でいるときよりも、ごっちんが来たときの
 方が、心なしか生き生きしてるように見える。
 どっちかって言うと、男友達っぽいよっすぃとごっちんのことだから、あたしと
 一緒にいるより楽しいのかもしれない。……ううん、明らかに楽しんでる。
 ……あたしって、よっすぃには必要ないのかな……。


 「んじゃま、食べようかね」
 「そーしましょうかね」
 
 あたしの内心の葛藤をよそに、ごっちんとよっすぃは年寄りみたいな言葉を
 交わして早くもお弁当の包みを開いてる。
 「え、ちょっと待ってよー!」


9 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時21分29秒

 呑気な会話とは反対に、よっすぃ達は食べるのがとても早い。
 このペースでいけば、あたしだけが取り残されるのは目に見えていた。
 慌てて自分のお弁当を取りに走るあたしを置いて、「いただきまーす」と声
 を揃える年下コンビの2人。――― ちょっとヒドいっ。

 「梨華ちゃーん、早くねー」

 余りにマイペースなよっすぃの声に、ちょっとだけ苛々しちゃった。
 何で、よっすぃは平気なんだろ?何ともないの?
 いつもいつも、2人の時間を………言い方悪いけど、“邪魔”されてるのに。


10 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時21分59秒
 
 本当に、取り残されてるのかも知れない、あたしは。
 すぐに悪い方悪い方へ考えてしまうネガティブな性格は嫌いだけど、考えず
 にはいられない。
 同い年で趣味も合う、本当に仲の良いよっすぃとごっちん。2人は親友。
 でも、あたしは?
 あたしは、2人にとって何なんだろう?


11 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時22分37秒

 ――― よっすぃとは、恋人同士。
 なのに、彼女はあたしと2人の時よりも、ごっちんが来たときの方が楽しそう。

 ――― ごっちんとは、メンバー同士。
 だけど、それよりはもっと深い仲だと思う。少なくとも、あたしはそう思ってる。


 年が近くて、仲良しなあたし、よっすぃ、ごっちん。
 けれど。
 ………けれど、あたしは………?


 「あー、梨華ちゃんがどっかトリップしてる〜!」
 「帰ってこい、梨華ちゃ〜ん!!」
 「……えっ」

 背後からはやし立てる声2つ。あたしは、お弁当を持ったままぼうっとして
 いたことに気付き、ちょっとばかり恥ずかしくなった。
 全く、あたしってば、何考えてるんだろう。


12 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時23分16秒

 何も問題なんてないよ。
 あたしはよっすぃが好きで、ごっちんとは仲の良い友達。
 2人も、大好きな「モーニング娘。」に入れたおかげで知り合えた、大事な
 仲間なんだ。それで充分じゃない。

 恋人としての甘い時間がなくなるのは辛いけど、3人で楽しくしてるのだっ
 て悪くない。うん、それでいいんだ。


13 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時23分50秒

 「あ、よしこー、ゆで卵あげる〜」
 「え?わお。ごっちんサンキュー愛してるぅ」
 
 ――― でも、あたしを置いて2人の世界作るのはやめてよぉ!

 「ちょっと待って〜、あたしも一緒に食べるって言ってるのに〜」
 「あはははは。見てよっすぃ〜、梨華ちゃん超必死な顔だぁ」
 「はははははっ。梨華ちゃん、落ち着いて〜、転ばないでこっち来るんだよ〜」
 「もー、2人して人からかって遊ばないでぇ!」


 ―――
 ――


14 名前:1  with friends 投稿日:2002年08月17日(土)10時24分50秒


 この頃からきっと、既に兆候はあったんだ。

 すぐには気付かなかった、あたしがきっと鈍かったんだろう。「現実」に気付
 く要素は、いくらでも目の前にあったのに。あたしが鈍すぎたんだ。

 時々、よっすぃがフッと遠い目をするのも。
 どうしてごっちんが、『よっすぃに対して』じゃなく、そんな頻繁にあたしに話
 し掛けてくるのかも。
 ごっちんが、あたしに対してたまに見せる優しい目も。
 分からない、気付かないフリをしていた。

 ――― あたしはきっと、全てを受け入れることが出来なかったから。



15 名前:いち作者 投稿日:2002年08月17日(土)10時26分54秒
更新終了です。
ありふれた話かもしれませんが、目を通してくださる方がいたら
どうぞよろしくお願いします。
16 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月17日(土)13時46分27秒
面白くなりそうな予感・・・。
続きも楽しみです。
がんばってくださ〜い!
17 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月17日(土)14時10分02秒
すんげぇすんげぇ好みな展開!ぽい(w
続き、期待してます。
18 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時34分22秒

 ちょうど、ミュージカル開演を迎えたくらいの時期だった。
 モーニング娘。は2組に分かれて舞台に臨んだのだけれど、あたしとごっち
 んは同じ後半である2部組だった。
 よっすぃは違う組の1部だったんだけど、全く会えなくなるわけじゃないし、
 そんなにあたしは気にしてなかった。

 ― 会えない時間が、2人の愛を深めるっていうし。
 そんな、能天気なことを考えてる余裕もあったんだ。


19 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時35分19秒

 そんな舞台の立ち稽古の待ち時間。
 楽屋で、適当に置いてあった雑誌を幾つか見繕って、パラパラ流し読みして
 いたあたしの横に、誰かがどさっと勢いよく腰掛けた。
 「……ごっちん」
 長い茶髪を1つに束ね、男の子みたいな格好をしたごっちん、その人だった。

 「もー参ったよー。セリフ長すぎんだもん」
 舌を出してへらっと笑うごっちんに、不覚にもあたしはドキドキしてしまう。
 今回「男役」に命じられたごっちんは、本当に役になりきることを目指してい
 るようで、ミュージカルの練習中から妙にかっこよさが上昇していた。

 普段はダラ〜ッとしてることも多いけど(特に夏は)、基本的にごっちんは
 仕事に対しては誰よりも真剣だ。ダンスや歌を覚えるのも早い。
 本人は、『市井ちゃんに叩き込まれたんだよ〜』って、やっぱりふにゃって
 気が抜けた笑顔で言っていたけど。やっぱり本人の資質もあるんだろうな。
 

20 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時35分56秒

 で、ごっちんの男装がどんなものかと言えば。

 そう、あたしとごっちんのコントである「石川さん&文麿さま」の、社会人風
 文麿さまと思ってもらえればいいかもしれない。とにかく、惹きつけられる魅
 力を、彼女は如何なしに発揮していた。

 
 モーニング娘。内で1番の「男前」といったら、もちろんあたしの愛すべき恋
 人であるよっすぃじゃないかと思うんだけど、実は最も男装回数が多いのっ
 てごっちんなんだよね。

 その回数に比例して、何だか麗しさ……みたいなのもアップしてるみたい
 に見える。
 だって、最近の5期メンバーらが、ごっちんに向ける眼差しって何だか熱っぽ
 い気がするもの。憧れを通り越してるみたいな……。


21 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時36分31秒

 「お疲れサマ。大変だね、長丁場は」
 「まね。紺野はすごいよ。セリフ完璧に入ってるもん」

 どきっとした。

 一気にペットボトルの烏龍茶を飲み干す端整な横顔に、じゃない。
 無意識のうちにごっちんの口から放たれた、『紺野』の名前に………。 
 そう。
 ごっちんに、熱い眼差しを向けているうちの1人。可愛い後輩なんだけど。


22 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時37分08秒

 自惚れているわけじゃないけど、最初にごっちんと同じ組に入ったとき、そ
 して配役が発表されたとき。
 『主役は後藤で、男役だ』
 そう、聞いたとき。

 あたしは、自分がその相手役だと思った。よっすぃには言えないけど、ごっ
 ちんの相手役ならあたししかいないって思った。
 バランスも、あたしとごっちんなら取れてると思った。コントでも最近は息が
 合ってきたと感じていたし。

 『で、後藤の相手役は紺野な』

 ――― でも。選ばれたのはあたしじゃなかった。


23 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時37分44秒

 『あー、紺野、大抜擢だねえ』
 『あ、あのっ、わたしなんかでいいのでしょうか……』
 『後藤相手にそんな緊張することないよ。ま、頑張ろうね』  
 『はいっ。よろしくお願いします!』

 頬を赤らめて、恥ずかしそうにごっちんを見上げていた紺野の顔は、単なる
 「憧れの先輩」に対するそれとは違って見えた。
 もちろん、あたしの勘違いかもしれないけど。
 けれど、2人の会話に参加できない、自分の立場が何だか寂しかった。

 そして、そんなことを考えてしまった自分にも腹が立った。
 

24 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時38分28秒

 あたし、なに考えてるの?
 いいじゃない、紺野がごっちんの相手役でも。
 あたしが口を出せる立場じゃない。あたしには、よっすぃがいる。

 調子に乗っちゃダメ。
 コントはコント。あくまであれは演技なんだ。それが、ミュージカルにもつなが
 るなんて安易に考えてたあたしがおかしいんだ。
 後輩の大抜擢を、応援してあげなきゃいけないんだ。
 
 ――――


25 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時39分04秒

 「息、合ってるみたいじゃない。紺野と」
 紺野の名前に動揺してしまった内心を悟られないよう、咄嗟に口にした言葉
 に、ごっちんは楽しそうに、嬉しそうに口元を綻ばせた。
 「うん。なんつーかね。守ってあげたくなるよ。紺野って」


 ガツン。
 決定的………。
 あたし、ごっちんの相手役やってるとき、そんなこと言われたことないよ。
 期待してたわけじゃない。あたしには、よっすぃがいるし。
 よっすぃが好きだし。
 ごっちんは、あくまで「友達」じゃない。

 でも、胸がもやもやした。すっきりしない。
 ごっちんの顔を、まともに見れない。
 あたし、変だ……。


26 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時39分48秒

 「まあ、でも」
 長い髪をくるくると手で弄んで、ごっちんがふっと思いついたみたに、何でも
 ないような口調で付け足した。
 「梨華ちゃんだったらもっと感情移入できたかもね」
 
 ふふっと軽く笑って、ごっちんはもう一口、烏龍茶に口をつけた。
 「……………」


27 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月18日(日)17時40分31秒
 
もし、この時あたしのことを誰かがじっと観察していたら、きっと盛大にから
 かわれていたに違いないと思う。
 本当にそう思う。
 
 『梨華ちゃんだったら』 

 ――― その、ごっちんにとってはおそらく何気ない言葉に、敏感に反応して
 顔が真っ赤になっていくのが、自分でもよく分かったから。 



28 名前:いち作者 投稿日:2002年08月18日(日)17時42分32秒
本日の更新を終わります。
ありがち過ぎるこんな話にレスをくださった方、ほんとうにありがとうございます。

 >>16 名無し読者さん
 ありがとうございます。ちゃんと継続して読んでいただけるよう
 頑張りますので、よろしくお願いします。初レス、嬉しいです!

 >>17 名無し読者さん
 好みな展開ですか……ご期待に沿えられるよう、頑張ります。
 今後も読んでいただけますように。

29 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月18日(日)18時12分31秒
いいねぇ、この展開!
30 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)19時46分38秒
アンリアルいしごま?
こんな話待ってました〜
31 名前: 投稿日:2002年08月18日(日)22時38分09秒
すっげぇ好みの小説発見!!
うちのいしごまとぜんぜん違うよぉ
同じリアル路線のはずなのに(w
期待してます。
32 名前:名無しです 投稿日:2002年08月18日(日)22時39分09秒
どんな展開が待ち受けてるのか期待です^^
次回の更新に(明日です?)期待sage↓
33 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時50分02秒

 ばか。
 ばかッ。

 あたしの、バカっ!
 何で、顔が熱いの?何照れてるの?ごっちんにとっては、深い意味も何も
 ないんだよ!?
 あたしには、よっすぃがいるじゃない!

 ――― そうだ。よっすぃも、頑張ってるかな……練習。


34 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時50分41秒

 そこでようやく、あたしは第1部に出演している恋人の姿を思い浮かべ、何
 だか申し訳ない気持ちになった。
 頑張ってるに決まってる。よっすぃは、何でも手を抜いたりしない。いつだっ
 て全力でぶつかる人。そういうところに、あたしも惹かれているのだし。

 離れていても大丈夫。

 そう口では言っても、ミュージカルばかりが仕事じゃないとは言っても、やっ
 ぱり公演中は会う時間が少ないのも事実で。
 必然的に、あたしはごっちんと過ごす時間のが増えていた。


35 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時51分12秒

 ごっちんの態度は前とは変わらず、積極的にあたしに声を掛けてくるところ
 も、からかってばかりなところも変わらない。
 今だって、練習が終わって真っ先に向かったのはあたしの隣りだった。


 それが愛情であれ友情であれ、人に大事に思ってもらうのって嬉しい。
 この2部の面子の中で、最も仲が良いごっちんが紺野といると、自分が構っ
 てもらえない。それが悲しいんだ。
 この胸のモヤモヤは、それが原因なんだ。

 そうやって、あたしは自分に言い聞かせてた。
 大丈夫、大丈夫。
 ごっちんという話し相手がいなくても、妹みたいな辻ちゃんや、頼りになる副
 リーダーの保田さんだっている。


36 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時51分51秒

 「ところでさあ、梨華ちゃん」
 「なぁに?」
 「あのさあ……」
 ごっちんが横に座ったまま、あたしが読んでいる雑誌を一緒に覗き込んだ
 体勢で顔を上げずにぽつりと呟くように口を開いた。
 
 顔が近いことに少し緊張してしまって、そんな自分が嫌になる。
 これって、よっすぃに対する「浮気」ってことになるのかな。
 …もちろん、よっすぃは自分の親友であるごっちんに対して、そんな危機感
 は持ってない。小さく芽生える罪悪感。


 そして、ごっちんもごっちんで。
 「………ねえ。どうしたの、ごっちん?」


37 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時52分26秒

 彼女らしくなく、どことなく神妙な口ぶりのような気はしたけど、あたしはそれ
 については大して気に留めず、むしろ顔を上げて彼女と目を合わせることが
 出来なくて、雑誌に視線を落としたまま返事をした。


 「ねえ、梨華ちゃんはさ……よっすぃと付き合ってるじゃん?」
 「?……うん」

 唐突に話し始めたごっちんを不思議に思いながら、あたしは取り合えず頷い
 た。そんなこと、今さら確認するような話でもないのに。
 けど、妙にごっちんが真剣な声をしてるから、笑い飛ばすことも出来ずに、あ
 たしは彼女の声につられるようにようやく顔を上げた。

 「…変だよ、ごっちん? いきなりそんな話して」
 「もし、もしも、だけど。付き合ってる相手がさ、他に好きな人がいるって聞い
  たら、どうする?」
 「――― えっ!? よっすぃ、他に好きな人がいるの!?」
 「だからっ、もしも、の話だってば!」


38 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時53分01秒

 焦って上ずった声を上げたあたしに、ごっちんが慌ててフォローする。
 っていうか、いきなりそんな話されたら驚くに決まってるじゃない、ごっちん
 てば、もぉ!
 
 文句の1つも言いたいところだったけど、やっぱり真面目な顔してるごっちん
 に、下手なことは言えなくて。
 あたしは軽くごっちんを睨むと、その質問について考えた。

 「……そうだなぁ〜…、本当にその相手が好きなんだったら、あたしは身を
  引くかな」
 「マジで?」
 「だって……」


39 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時53分32秒

 もし、よっすぃに他に好きな人がいたら。
 綺麗事かもしれないけど、あたしは、好きな人には幸せでいて欲しい。あた
 しといることが幸せならあたしはずっと側にいるし、別の人を選ぶのなら、そ
 の恋を応援したいと思う。

 「だって、同情なんかで付き合ってもらいたくなんてないもん」

 実際にその立場になったらまた違うことを考えるかもしれないけど、今のあ
 たしにとってはそれが答えだった。
 年下であるごっちんの前だったから、ちょっとカッコつけたい気持ちもあった
 のかもしれないけど。少なくとも、それは偽りなんかじゃない、本心だった。
 

40 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時54分12秒

 「そっか………」
 何度もうんうんと頷くごっちんに、あたしは何故か妙な一抹の不安を覚えた。

 「ねえ、ごっちん。なんか、そういうことがあったの?」
 「え、いや、別に……」
 「なんか、今日変だよ?そんなこと聞いたり」
 「……や、何でもない……ないから、気にしないで……」

 ――― 気にしないでって言われて、しないわけがないじゃない。

 明らかに歯切れの悪いごっちんに、嫌な予感がむくむくと頭を擡げてくる。
 問い質そうかと、口を開きかけたあたしよりも早く、頭から降って来る大きな
 よく響く声に、あたしは思わず口を噤んだ。 


41 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時55分01秒

 「ちょっとー、何2人して湿っぽい顔してんのよ。なに後藤、石川泣きそうな
  顔してるじゃない! こらぁ!!」
 「げっ……圭ちゃん……」
 「保田さん……」
 「『げっ』とは何よ!あんたも天然失礼直らないわね、後藤っ!」

 同じ2部組の保田さんの乱入で、今度はあたしとごっちんの会話が邪魔さ
 れてしまうこともあったけれど、密かにあたしはホッとしてた。

 ごっちんと交わすであろう会話がいい話でないことは、予測できていたから。

 「別に、後藤は泣かせてないよー」
 「そ、そうですぅ……何もしてないですよぉ…」
 「なに言ってるのよ、2人の世界なんて作って、私も入れなさいよ!!」
 「やだー、圭ちゃん邪魔しないでよ〜」
 「後藤っ!!あんたまさか石川のことを……!?」 
 「話が飛躍しすぎですぅ、保田さんっ!」


42 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時55分33秒

 …………
 どうしていきなり、ごっちんはそんなこと話したの?
 何かあったの? そんなに真剣な顔して考えるような、出来事があったの?
 ……きっと、ごっちんは悩みがあってもあたしには打ち明けてくれない。
 
 よっすぃには、打ち明けたとしても。


 ―――
 ――


43 名前:2  love affair 投稿日:2002年08月19日(月)23時56分10秒

 考えてみれば、このとき既にサインは出されていたんだ。
 なのに、気付こうとしなかったのはあたし。見逃してたのはあたし。
 ごっちんは、あたしが考えている以上に気を遣ってくれていたのにね。

 大丈夫、大丈夫。
 何も心配することなんてないよ。
 よっすぃとは上手くいってる。ごっちんとも上手く付き合ってる。
 紺野は演技を頑張ってる。あたしも、与えられた役を保田さんと一生懸命こ
 なしていくだけ。
 大丈夫、大丈夫。

 しっかり現実を見据えないで、そうやって自分を納得させてた。
 『全部、上手くいってるよ、あたしは』
 ―――― そう、思っていた。ううん、思い込もうとしてたんだ………。



44 名前:いち作者 投稿日:2002年08月20日(火)00時01分18秒
>>29 名無しさん
ありがとうございます! 登場人物がまたあの3人かよ〜などと思われ
るかもしれませんが、とにかく頑張ります。

>>30 名無し読者さん
リアル……ですね、一応。仕事しているシーンは出て来ないかもしれませんが(w
そのご期待を裏切らないよう、気を引き締めて書かせていただきます。

>>31 @さん
銀板のいしごま、読ませていただいてますよ〜!
同じリアル路線、と親近感を持っていただけるとは感激っす。立ち寄ってくだ
さりありがとうございます。     
 
>>32 名無し読者さん
本当は更新しないつもりでした、今日は(w
しかし貴殿のレスに力を得ました。で、こんな展開に……どうでしょうか(小声) 

次回からは更新のペースは落ちるかもしれませんが、また暇つぶしにでも
読んでいただけると嬉しいです。


45 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年08月20日(火)02時05分17秒
気になる!!すごく気になる。マターリ待ってますよほ。
46 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月21日(水)21時02分49秒
今一番好きな小説です!
47 名前: 投稿日:2002年08月23日(金)15時26分52秒
銀じゃない・・・(w
まぁいいっすよ。とにかくここの小説好きです。
48 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時30分30秒

 おかしいなぁって、思うようになったのはミュージカルが開演されて1週間も
 経ったころだった。
 よっすぃが、頻繁に第二部の楽屋に遊びに来るようになって。
 「やっほ〜い、来たよ〜ん」
 「来てやったで〜」

 たまに、加護ちゃんがくっついてくることもあったけど、やっぱりあたしに会い
 に来てくれてるんだろうなって、何の疑いもなく思ってた。
 「梨華ちゃん、ちょっとは上達した?まだ棒読みチックだよ」
 「ひどーい、そんなことないよぉ!」

 ……出し抜けに、結構ヒドイことを言われてた気もするけど、それでも真っ先
 にあたしに声を掛けてくれるのは、何より嬉しかった。ホッとした。
 やっぱりあたしは、よっすぃが好きなんだなって実感していた。
 愛されてるんだって、思えることができた。


49 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時31分23秒

 「ああー、そうやってまたイチャこく〜」
 「イチャこくって……ごっちん、意味分からないよぉ」
 「梨華ちゃんには分からなくても、よっすぃには伝わってるからいいの」
 「ねー、ごっつぁん♪」
 「ねー、よっすぃ♪」
 「2人の世界作らないでって言ってるのに、もぉ〜あたしも入れてーっ」

 そして、よっすぃは当然のことのようにあたしの隣りに座って。
 ごっちんは、あたしとよっすぃの背中にもたれかかるようにして、いつもの如
 くちょっかいを出してくる。
 久々に、3人でじゃれ合ってる幸せな時間。


50 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時32分11秒

 少し前は、2人の時間を邪魔するごっちんの存在が少しうらめしく思えたこと
 もあったけど、今は3人でいることがとても自然なことのようになってた。
 …けど。

 「あっ……」
 
 『彼女』の姿が視界に入ると、よっすぃは突然腰を浮かした。心なしか頬が
 上気しているように見える。
 待ち構えていたように立ち上がり、よっすぃは満面の笑みで手を振った。
 
 「矢口さ〜ん、そのウィッグ、超かっけーっす!」
 「ありがと〜!よっすぃの男言葉も、矢口ときめいちゃうよぉ!」

 あたしの隣りにいるっていうのに、最近よっすぃの視線はあたしじゃなくって、
 小さな大先輩の矢口さん、その人に注がれてることが多くなってた。
 ソワソワして、キョロキョロして、矢口さんを目で追ってる感じ。
 何かっていうと、話掛けるきっかけを探してる。………なんて。


51 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時33分27秒

 ……バカみたい。
 あたしってば、何考えてるんだろう。よっすぃの恋人は、あたしでしょ?

 なのに。

 「矢口さん、矢口さんも一緒にお昼食べません?」
 「矢口さ〜ん、フリ付け変わっちゃったんですよぉ、もう大変っす〜」
 「矢口さん、矢口さん」
 「矢口さ ――― ん」 
 …………


52 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時34分01秒

 最初は、あたしが気にし過ぎてるんだと思ってた。
 そんなことで余裕無くして、よっすぃを問い詰めて、関係がギクシャクしちゃう
 なんて絶対嫌だったから、気にしないようにしていた。

 でも。
 分かってきちゃったんだ。
 よっすぃの『視線』が矢口さんに向いてるんじゃない。よっすぃの『興味』その
 ものが、矢口さんに向いてるんだってこと。

 第二部の楽屋にしょっちゅう遊びに来ているのも、あたしに会いに来てるん
 じゃなくって、本当は矢口さんが目当てなんじゃないかって。
 実際に、それは間違っているとは思えないほど、よっすぃの視線の先には
 いつも、矢口さんがいた。


53 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時35分05秒

 そして、同じユニットで活動してることも多いからこそ、あたし自身も矢口さん
 の魅力をよく知っている。だから、余計に不安が募るんだ。
 最近、大人っぽい魅力もついてきた矢口さん。
 流行にも敏感で、話題も豊富で、一緒にいると楽しい矢口さん。 
 常に回りに気を配っていて、いつでも明るいムードメーカな矢口さん。
 

 『矢口さん』の名前を出すときの、よっすぃの眩しいくらいの笑顔。
 そんな嬉しそうな顔で、あたしを見ないで。
 ――― あたしはどうしたって、矢口さんに敵うはずなんてないのに。
 

54 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時35分50秒

 「矢口さんって、ちっちゃくて可愛いよねえ」
 「……よっすぃー…」
 「ああー、もちろん、梨華ちゃんが1番ってことを前提にしてだよ?」

 けれど、変わらぬ笑顔を浮かべてあたしをフォローするよっすぃの表情に、何
 ら後ろめたいものが感じなかったから。
 「もぉ、よっすぃってばお世辞ばっかり〜」
 「ノォ。ヨシザワは〜、嘘つきませ〜ん」
 
 あたしは、まんまと彼女の言葉を信じてしまっていた。信じたかったから。
 好きな人を疑うなんて、いけないことだと思ったから。
 ……恋は盲目、だなんて、よく言ったものだと思うけれど……。


55 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時36分28秒

 ―――
 ―― 
 

 「ねえ梨華ちゃん、待ち時間、そこの喫茶店行かない?けっこう奥まった
  ところにあるから、人目につきにくいんだよ」

 ある日の午後、ごっちんが持ち掛けた提案に、あたしはすぐ乗った。
 第一部の練習が終わる時間を待って、あたしは当然のようによっすぃの名前
 を出したんだ。
 「あ、それじゃよっすぃも誘おう、ねっ」


56 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時37分01秒

 ごっちんだって、よっすぃと仲いいはずだし、何よりあたしが、よっすぃと離れ
 るのが純粋に嫌だっただけ。
 何処に行くにも、一緒にいられるのがその方がいい。それに、練習中は彼女
 からあたしのところに顔を出してくれることが多かったし。

 「よっすぃ、も……そうだね」

 ごっちんの声のトーンが、微妙に低くなっていることなど、その時のあたしに
 気付くはずもなく。
 
 「じゃ、ちょっとよっすぃ探してくるねっ」
 「………」
 でも、1番の理由は。
 少しでも矢口さんと引き離したかったんだ。楽屋にいれば、同じメンバーの
 彼女とは嫌でも顔を合わせることは目に見えていたから。


57 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時37分42秒

 「あっ、よっすぃ〜! あのね………」
 
 よっすぃのことなら、何処にいたってあたし探し出せるよ。
 すぐに彼女を見つけたあたしは、早速喫茶店の件をよっすぃに切り出した。
 当然、確認を取るまでもなく、一緒に行ってくれるものだと思っていた。
 後ろには、ごっちんもついてきてくれていた。

 「あ、ごっめんね〜、ウチ、矢口さんに呼ばれててえ、ちょっと打ち合わせー
  ……みたいな。2人で行ってきなよ。遠慮せずにさ」
 「えっ……?」

 ――― 矢口さんと? 


58 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時38分46秒

 「あっ、あそう、そうなんだぁ…」
 「ごっめんねえ、マジで」

 あまりにあっさりとした断りの返答。
 あの時、あたしは平気な顔してたみたいに見えるかもしれないけど、本当は
 ショックで、咄嗟に反応できなかっただけ。

 「ふ〜ん……じゃあいいよっ。ごっちん、行こっ」
 「え、何梨華ちゃん、いいの?」
 「いいのっ!」

 ちょっと、当て付けみたいな気分もあった。あたしよりも、矢口さんを優先した
 よっすぃ。明らかに、あたしよりも矢口さんを選んだよっすぃに対する小さな
 反抗心。


59 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時40分02秒

 疑問だらけって顔のごっちんの腕を掴んで、半ば彼女を引き摺るようにして、
 あたしはよっすぃの前から離れた。
 なんだか、逃げ出したような気分で、無償に悔しくなった。
 ( ……バカ、よっすぃのバカぁ…… )

 強く唇を噛んでいたけど、少し気を緩めたら泣いてしまいそうだった。
 よっすぃとの距離が開きつつあることを、実感せずにはいられなかったから。 
 ( どうして…… )

 些細なことでも、嫉妬して欲しかった。気にして欲しかった。
 なのに、彼女は全く気付ぬ素振りで。
 挙句の果てに、恋人が友達とはいえ別の人と2人っきりで出掛けるのを、勧
 めたりするなんて………あんまり、ひどいじゃない…。


60 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時40分43秒

 見放されたような、落ち込んだ気持ちになって、あたしは浮かない心を抱え
 てごっちんとともにその喫茶店に向かった。
 風船みたいに膨らんでいた気分は、一気にしぼんで、それを隠すべくもなく
 あたしはきっと、最大限に暗い顔をしていたに違いない。

 その相手がごっちんじゃなかったら。
 先輩メンバーだったら、さすがに堂々と落ち込んだ姿なんて見せられないけ
 れど、相手がごっちんだったから、あたしは遠慮することもなく、無理すること
 もなく、沈んだ気持ちをそのまま態度に表していた。


 それが、ごっちんに対してどれだけ失礼なことか。
 自分がされたら嫌なことなのに、あたしはそれをしてしまった。その根底に
 あったのは、やっぱり彼女に対する「甘え」だったんだろう。


61 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時41分37秒

 「……梨華ちゃん、あのさ……」
 
 
 喫茶店の奥の席に2人向かい合わせで座り、深い溜息をついたあたしを心
 配そうに見つめて、ごっちんが言い辛そうに呼びかけた。
 きっと、恋人を誘って断られたあたしに同情してるんだって、情けない思いが
 落ち込んだ気持ちに一層拍車をかける。

 喋る気にもなれなくて、口を閉ざしたままのあたし。
 ごっちんは、所在なさそうにソワソワしているように見えたけど、あたしの分
 のアイスティーと、彼女の分のアイスコーヒーを1つずつ頼んだ後は、ソファ
 に深く腰掛け、何も話し掛けてこようとはしなかった。
 
 「…………」
 「いや、やっぱいいや……」
 「…………」


62 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時42分40秒

 やがて、飲み物が運ばれてくるまで、2人の間に会話は一切なかった。
 コトリ、と音を立てて目の前にグラスが置かれても、不思議なくらい何の感情
 も沸いてこなくて。
 

 外の雑踏のざわめきは、ほとんど耳に入ってこない。 
 口をつけるでもなく、涼しげなグラスが汗をかいて水滴を1粒2粒零すのを、
 あたしはただ、眺めていた。

 ( よっすぃ、今ごろ矢口さんと…… )
 ( やっぱり、よっすぃは矢口さんが好きなのかなぁ )
 ( あたし達、これからどうなっちゃうんだろ… ) 

 
63 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時43分30秒

 カラン、と音を立てて溶けて崩れる氷に目を向けたまま、あたしはよっすぃが
 矢口さんと何を話しているのか、そればかりをぼんやりと考えていた。

 「……今日も暑いね…」
 「……」
 
 向かい合わせに座るごっちんが呟いたその言葉が、彼女の独り言だったの
 か、それともあたしに話し掛けたものだったのか。
 どちらにも取れる言葉だったけど、あたしは結局、何も返事をしなかった。

 会話がないまま、あたしはそれでも喫茶店を出る気にもならなくて、溶けてい
 く氷を物憂げな気持ちでずっと見つめていた。
 目の前でごっちんは、そんなあたしをどう思っていたんだろ。


64 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月23日(金)18時44分03秒

 ごっちんは何を思って、あたしをあの喫茶店に誘ってくれたのか。
 言い淀んだその言葉の後に、何を続けたかったのか。
 
 あの時のごっちんの表情を、あたしは今でも思い出すことが出来ない…。



65 名前:いち作者 投稿日:2002年08月23日(金)18時45分25秒
 とりあえず更新しました。レスをいただくのは本当に嬉しいです。
 感謝しきりでございます…。

 >>45 いしごま防衛軍さん
 気になりますか!よかったです、展開が読めてるんじゃないかと…(w
 マターリ待ってくだされば嬉しいです。飽きられないようぽつぽつ更新しますので。

 >>46 名無し読者さん
 恐れ多いお言葉、ありがとうございます。
 まだ始まったばかりですが、この先も読んでいただけたらと思います。

 >>47 @さん
 何て阿呆なミスをしてしまったのかと……(汗)森ですよね、何で銀と書いた
 のか……銀にいしごまって…(ry
 とんでもなく失礼なことを申し上げてしまい、真に申し訳ないです。
 こんな駄目作者ですが、これからもよろしくお願いします。

 @さんのレスを見て、慌てて返事を返さなければと更新した次第ですが、
 重ね重ね@さんにはご無礼のほどお詫び申し上げます……ああ……;

66 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月23日(金)22時03分05秒
なんかゴマが切ないっす。梨華タン、早く気付け〜!
67 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年08月24日(土)02時14分28秒
スゲ、おもろいです!
梨華たんを救えるのは、ごまたんしかいない。ガンガレ!
68 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年08月24日(土)03時08分53秒
ごっちん頑張れ!!梨華たんはやくきずいてくれーごっちんの気持ちに・・・。
まあ梨華たんの気持ちもわからんでもない。
69 名前: 投稿日:2002年08月24日(土)16時40分07秒
ホントに全然気にしてなかったからよかったのに・・・
こちらこそレスのせいで作者さんのペースを
急かしちゃったりしちゃったみたいで
ごめんなさい。ごま短編も書き始めましたんで
暇があったらのぞいてみてくださいな。
期待してます。
70 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時02分34秒

 喫茶店での一件以降、あたしとよっすぃの間には一層の溝ができたよう
 に思えた。よっすぃの態度は以前とは変わらないように見えたけれど、
 あたしの内心は穏やかじゃなかった。

 だって、あの時明らかによっすぃは「恋人」のあたしではなく、「先輩」の
 矢口さんを優先させたんだ。
 いくら鈍感なあたしだって、何されても傷付かないわけじゃないんだよ。


 きっと、それを意識していたのはあたしだけ。
 よっすぃも、ごっちんも、何も変わらなかった。ただいつものようにふざけ
 合って、笑い合って、何事もなかったかのように。


71 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時03分40秒

 もちろん、ごっちんには直接関係のない話だった。けれど、あまりに何の
 変化も見られない2人に、内心八つ当たり気味に苛ついたりもしてた。
 「あ〜梨華ちゃん、また眉間に皺よってるよぉ、裕ちゃんになってるよ〜」
 「……ごっちん!」

 彼女が ――― ごっちんが、目ざとくそんなあたしの態度をからかってく
 ることも、何も変わらない。
 喫茶店で口篭った彼女が見せた、珍しく物憂げな様子は、それ以降あた
 しが目にすることはなかった。

 ううん、きっと、ごっちんはそれを上手く隠す術を心得ていただけだ。
 楽しいことや嬉しいことは顔に出すくせに、嫌なことや悲しいことは、決し
 て表に出さずに内心に1人で抱え込む少女。
 ごっちんは、そんなタイプだったから。

 「もぉ、いちいち人の顔観察しないでよぉ!」
 「はいはい、ほらリハ始まるよ、行こ」


72 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時04分17秒

 軽やかに笑ってあたしの言動を受け流すごっちんは、年上のあたしから
 見ても、大人びていた。余裕のある大人の女、そんな風に映っていた。
 ごっちんが、悩みを顔に出すはずないって分かっていたのに。
 彼女がそんなに強い人間でないことも、おそらく分かっていたのに。 

 
 あたしは、変わっていく周りに不満を持ちながら、変わらない自分に誰
 より焦っていたんだ。変化を恐れていたんだ。
 昔から不器用であることを人一倍意識していたあたしは、自分が簡単に
 変われないことを、誰より理解していたから。


73 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時04分56秒

 ………
 恋人との時間を。
 恋人の手の温もりを。
 信じて、ずっと待っていればいいと思っていた。あたしはただ、よっすぃの
 側にいて、2人で笑い合えていればいいと思っていた。

 そこにごっちんがいて。
 やっぱりあたしをからかって遊んで、それを見てよっすぃは笑うんだよ。
 ね、楽しいじゃない。何も不安なんて、不安なんて、不安なんて……。
 ――― そうやって、殻に閉じ篭ろうとしていたのかもしれない。


74 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時05分30秒

 「ねえ、梨華ちゃん。梨華ちゃんはさ……」
 「? またぁ、ごっちん深刻な顔してどうしたの」

 それでも、時々ごっちんが、それもよっすぃがいないときに限って。
 いつになく真剣な顔で尋ねてくることが多くなった。


 ――― 『梨華ちゃんは、よっすぃが好き?』

 うん、大好きだよ。 

 ――― 『梨華ちゃんは、よっすぃ以外を好きになるって考えられる?』

 う〜ん、今は全然考えられないよ。あたし、よっすぃ一筋だもん!


75 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時06分06秒

 変なこと聞くなあ、って思っていたんだ。ごっちんの考えてることや、深い意
 味なんて何も気付かずに、あたしは心のままに答えてた。

 ごっちんが、あたしをからかう回数が減っていることに気付かなくて。
 ごっちんが、あたしに優しくなる回数が増えていることに気が付かなくて。
 ごっちんが、疲れた表情をたまに見せていることにも気が付かなくて。


 ―――


76 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時06分44秒

 「あー!矢口さん、その制服姿は罪ですよぉ!」
 「へっへ〜、矢口もまだまだ現役でいけるだろぉ」
 「…ねえよっすぃ……」
 「いやいや、梨華ちゃんも可愛いって、マジマジ」
 「……そういう意味じゃ……」

 違うんだ。
 怖くて、あたしは切り出せない。『矢口さんを、どう思ってるの?』なんて。

 「あっ、ねえよっすぃ、そのバッグどこで買ったの?可愛いね」
 「へへへ。こないだ、矢口さんと渋谷に行ったんだけど、そん時選んでもらっ
  たんだあ〜」

 明るい笑顔で心底嬉しそうに言う恋人に、どうしてそんなことを聞けるだろう。
 『どう思ってるの?』なんて聞いて、その答えが、本当に自分の望む言葉が
 返ってくると言い切れる? ――― それは無理だった。


77 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時07分23秒

 よっすぃが、あたしからちょっとずつ離れていくことばっかり意識して、必死
 になって、彼女ばかりを目で追って。
 楽屋によっすぃが入ってくるたび、その視線が矢口さんを探していることに
 焦って、何とか気を引こうと頑張った。

 
 いつから?
 いつから?
 あたし、よっすぃに愛想尽かされた?
 よっすぃの気に障るようなことした?

 「矢口さーん!」

 よっすぃの心が遠くに行ってしまうのを感じながら、どうすることもできない。
 そもそも、あたしは今までどうやってよっすぃの心を繋いでいたのか分から
 なかった。何も分からなくなった。


78 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時08分01秒

 そう言えば、あたしとよっすぃってどうして付き合い始めたんだっけ。
 ふと思い出すのは、1年前のテレビの収録後の何気ない会話。

 ―――
 ―― 

 『ねえねえ梨華ちゃん。ウチらって、男女のカップルみたいに見えるんだ
  ってえ。お似合いって言われちゃったよー』
 『……あたしは、よっすぃのこと、…好きだよ?』
 『ウチも梨華ちゃんのこと好きさー。付き合っちゃう?』
 『…うんっ』
 『イエ〜イ、梨華ちゃんウチの恋人〜♪』

 ――
 ―――


79 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時08分42秒
  
 思い返すと浮かんでくるのは、あまりにノリの良過ぎるやり取り。
 ロマンチックな雰囲気の欠片もないような、友達同士の冗談みたいな会話。
 言葉だけ聞いたら、ふざけ合いの延長にしか聞こえないそんなやり取りが、
 2人の馴れ初めだったんだ……。

 でも。
 あたしはそれでも、本当に嬉しかったんだ。よっすぃのことは、ずっと好きだ
 ったから。女同士だとか関係なく、彼女が好きだったから。

 だから、よっすぃから「付き合おうか」って言われたとき、一も二もなく、即座
 に返事をしたんだっけ。
 嬉しかった。よっすぃが、あたしを好いてくれているのが。


80 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時09分18秒

 人当たりが良くって、誰にでも好かれているよっすぃ。嫌なことがあっても、
 笑って済ませることが出来る、大らかな性格。
 加えて、同期の絆もあり、年が近いこともあってあたしとよっすぃは一緒に
 いることが多かった。

 それでいて、甘く響く優しい声。整った顔。
 長いこと一緒にいて、彼女を好きにならない方がおかしいもん。 


 “タンポポ”と“プッチモニ”という、別々のユニットに別れた後も、やっぱり
 よっすぃとの仲の良さは変わらなかった。
 逆に、ごっちんていう新たな仲の良い友達が増えて、いいことばっかりだっ
 たよね。3人でいると、とても気持ちが温かった……。

 でも、今になって思う。
 よっすぃは、あたしのどこが好きだったんだろうって。


81 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時09分54秒

 確かに、よっすぃを好きな気持ちは誰にも負けなかった。嫌われないように
 頑張ってた。もっともっと好かれるように、頑張ってた。

 よっすぃがプッチの練習で遅くなれば、いつまでだって待ってた。
 ケーキが食べたいって言えば、何度も何度も練習して作った。
 買い物に行こうって誘われれば、どんな約束よりも優先していた。

 
 軽いノリで始まった付き合いだけど、あたしはいつも真剣だったよ。
 本気で、よっすぃを愛してた……ううん、愛してるから。


82 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時10分32秒

 よっすぃに告白されたときよりずっと、あたしは努力し続けていたのに。
 どうして、あの頃よりもあたしはよっすぃに愛されないの?
 どうして、よっすぃはあたしを見てくれないの?
 どうして、矢口さんばかり見ているの?


 何がいけないの。あたしじゃ、あたしじゃダメなのかな。
 ねえ、よっすぃ。ほら、ごっちんとあたしと、よっすぃで、3人で。楽しいでしょ?
 …楽しいよね? あたし、――― 笑えてるよね?

 怖くなった。よっすぃを、ちょっとずつちょっとずつ、疑い始めて。
 いつしか、彼女を信じられなくなってきていた。バカなあたしは。
 だって、もし、本当によっすぃがあたしを誘ってくれた言葉が「冗談」だった
 としたら? 最初から、あたしのことなんて好きじゃなかったとしたら?

 いつ、別れを告げられてもおかしくなんてない。


83 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時11分24秒

 「梨華ちゃん、最近顔色悪いけど、大丈夫?」
 「………何でもないよ」
 「あっそーだ、後藤アメ持ってるんだ。甘いから元気出るよ」
 「………自分で持ってるからいい」


84 名前:3  a pain 投稿日:2002年08月27日(火)20時12分02秒


 そして、ごっちんが。前よりもずっと優しい言葉を掛けてくれるのに。
 あたしの視界に、彼女の姿は入っていなくて。
 ――― ううん、きっと。
 
 そこにごっちんがいてくれることが、当たり前のように感じていたんだね。



85 名前:いち作者 投稿日:2002年08月27日(火)20時13分34秒

 マイペースに更新します。今日は暑かったですね…。

 >>66 名無し読者さん
 石川視点なんですけど、後藤の描写は難しいです。切ないというのは嬉し
 い言葉ですね。これからもっと切なくなる………かもしれません(w

 >>67 名無しごまたんさん
 ありがとうございます!楽しみにしてもらっていると思うと、俄然やる気が 
 沸きます。その割に、少量更新ですが…

 >>68 いしごま防衛軍さん
 後藤はどうしますかね。それ以前に、石川自身の問題も…
 今1番大変な想いをしているのは誰なんでしょうか(w

 >>69 @さん
 よかったです、フォローしていただけて。
 私も@さんの作品にレスをつけたいのですが、このコテハンだとレスしにくい
 んですよ^^;   名無しでレスさせていただくと思います(w

 読んでくださってる方々へ。本当にありがとうございます!
 よろしければ、また次回の更新時も読んでいただけますように。



86 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月27日(火)20時31分54秒
やきもきする〜
でもこの展開、(・∀・)イイ!
87 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年08月28日(水)00時05分36秒
いしごま、よしやぐ、梨華たんの一方通行ラブ。
そしてごまたんの、切ない優しさ。
作者さん、最高ですわ…。
88 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年08月28日(水)00時59分48秒
一番つらいのはごっちんだろうな。ごっちん優しいけどほんとにつらいと思いますよ。
でも、梨華たんが心配で仕方がないんでしょうな。しかしながら梨華たんは気づく気配
ありませんなー。どうやったらうまくいくんでしょう。気になります。
切ないっす。最高っす。応援してますよ。
89 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月28日(水)23時48分16秒
いしよしは別れさせないで欲すぃ・・・
石川さんがかわいそう過ぎるので・・・作者さんお願いします
90 名前: 投稿日:2002年08月29日(木)13時58分09秒
ありがとうございます。
ごっちん切ないですねぇ。
梨華たん早く気づけぇ〜〜。
91 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月29日(木)20時44分27秒
凄くツボはまってます。
リアルでセツナイんですが、ごっちんと梨華ちゃんに幸せが来ることを・・・
92 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時17分37秒

 何も考えなくても、無条件によっすぃを「好き」だと言える気持ちは変わら
 ないけれど。いつしかあたしの心の中に浮かび上がってきた疑念は、日
 に日に増大していく。

 自分でも制御できないその感情の波に時として押し潰されそうになりな
 がら、それでもあたしは、よっすぃから離れられないんだ………。

 うじうじ悩むばかりで、自分からは何も行動を起こせない弱腰な自分。
 こんなあたし、大嫌い。
 自分で自分を好きになれないのに、誰かに好いてもらおうだなんて、虫
 が良すぎる話なのかな。


93 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時18分18秒

 ――― 『もし、付き合ってる相手が誰か他の人を好きになったら……』


 いつか、ごっちんに問い掛けられた言葉を、今さらながらに思い出して。
 ああ、あたしは何て答えたんだっけな。

 『本当にその相手が好きなんだったら、あたしは身を引くかな』なんて。
 結局、あたしって口先だけだ。今のあたしに、そんな思いやりを口にでき
 る余裕なんてない。

 
 だって、幸せでいたいもの。
 恥も外聞も捨てて、見栄張らないで素直な気持ちを告白するなら。
 ( あたしは、嫌だよ。応援なんて、できない、やっぱり )
 ――― あたしは、よっすぃの心変わりに寛大な気持ちで接することは
 無理だと思った。


94 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時18分56秒

 何故あのとき、あたしはごっちんにいい顔なんてしてしまったんだろう。
 あの時は、本当に好きな相手が幸せになる道を、心から望んでいるつ
 もりだった。

 でも、違う。
 本当は。誰だって自分が幸せになりたじゃない。誰だって、好きな相手
 に愛されていたいじゃない。振られるのって、悲しいよ。
 それって、そんなに間違った考えじゃないでしょう?


 ( ……ごっちん。あたし、間違ってないよね? )


95 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時19分39秒

 自問自答するとき、いつも脳裏を過るのはごっちんの笑顔。
 いつも、振り向けばそこにある、優しい穏やかな笑顔。
 
 身勝手だったあたしは、傲慢だったあたしは。
 よっすぃに愛されることを何より望みながら、ごっちんがあたしのすぐ
 側にいてくれることを願ってやまなかった。

 それが、ごっちんを縛り付けることになるとは思いもせずに。
 ただ、あたし自身が楽でいられるように。
 自分が最も心地良い場所を、あたしの都合だけで願っていたんだ。 


 でも、当たり前のことだけれど、そんな状態が長く続くはずもなく。
 小さな綻びから徐々に、崩壊が始まったんだ………。
 

96 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時20分18秒

 ―――
 ――

 「ねえ、ちょっと石川、顔色悪いわよ、大丈夫?」

 舞台袖で1部組のリハを見学していたあたしの横に、いつの間にか保田
 さんが立っていた。心配そうな声色と違いなく、気遣うような表情で大き
 な目をさらに見開いて、あたしの顔を覗き込んでいる。
 
 「あ、少し寝不足気味で……大丈夫です。すみません、ちゃんと舞台は
  できますから」
 「そんなこと言ってないで、ちょっと休んだ方がいいわよ。それにほら、眉
  間に皺、できてる」

 保田さんはあたしの眉間に人差し指を突きつけながら、溜息と共にそう言
 って、「ホントに、無理したら駄目よ」と、静かな声で付け加えた。


97 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時20分55秒

 ああ、あたしってば、そんなに顔色悪かったのかな。それに、眉間に皺が
 できてるなんて。変なの、だって、舞台上では大好きなよっすぃが、懸命
 に演技をこなしているっていうのに?

 大事な恋人を追う表情が険しくなってしまうなんて、やっぱり不自然なこと
 だよね。保田さんも、それに気付いたのかも知れなかった。


98 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時21分34秒

 ……それにしても。
 あたしだって一応、プロとして芸能活動しているはずなのに。
 小さく生まれる自己嫌悪。本当に、あたしって周りに迷惑かけてばかり。
 「いえっ、あたし、元気だけが取りえですからっ」

 本当は、そんなに元気でもなかった。体はダルいし何だか熱っぽいし。
 でも、その原因が精神的なものから来ているのは間違いないから、堂々
 と具合が悪いと公言するのも気が引けて。

 精一杯元気そうな笑顔を浮かべて答えたつもりだったけれど、保田さん
 は納得していないようで、なおも食い下がってくる。

 「あんたが倒れたって、代わりなんていないんだからね?」
 「本当に、大丈夫ですよぉ」
 「…石川の『大丈夫』なんて、アテにならないわよ」
 「うっ……」


99 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時22分38秒

 言い方はきついけれど、あたしを本当に思いやってくれているからこその
 保田さんの言葉には感謝していた。…でも。
 それよりあたしは、その彼女のずっと奥 ――― 紺野や、辻ちゃんたちと
 談笑しているごっちんの方に、意識が飛んでいた。


 「ねえねえごっちん! あのねえ、紺野ちゃんねえ」
 「辻さん、それ内緒ですよ〜」
 「何なに?………ふっ、あははっははははぁっ」 
 「ごっ、後藤さん、笑わないでくださいよぉ」

 ( …………ごっちん… )

 ―――
 楽しそうな笑い声に、不意に孤独感が込み上げる。  


100 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時23分26秒

 こういう時、真っ先に心配してくれるのはごっちんじゃないの?
 ねえ、保田さんも気付くくらいあたし具合悪く見えるのに、ごっちんは気に
 留めてもくれないの?

 よっすぃも、ごっちんも、あたしの相手するのにもう、疲れちゃったのかな…。


 別に、ごっちんがあたしを常に気に掛けてなきゃいけない義務なんてない
 って、そんなことは分かってる。
 でも、いつも感じていた視線がないと、不安になってしまう。ごっちんが、
 側にいるって実感できないと、怖くなってしまう。

 あたしを見守ってくれる存在は、ごっちん以外にいないから。

 些細なことがきっかけで、どうしようもなく心細くなってしまうあたしは、とて
 も臆病な人間なんだ。


101 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時23分59秒

 ―――
 本当はその時に、認識しているべきだったんだろう。
 あたしにとって、誰が1番必要なのかって。大切なのかって。
 
 
 舞台で凛々しい演技を見せる恋人のよっすぃよりも。
 すぐ隣りで、心からあたしを心配してくれている先輩の保田さんよりも。
 年下のメンバーに囲まれて、柔らかな笑顔を浮かべている、『友達』の
 ごっちんを、あたしは誰より気にしていたのに。


102 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時24分46秒

 ……何となく、楽しそうな様子の彼女達がうらめしくなって、保田さんを通
 り越してずっとその3人を眺めていたら、不意にごっちんがあたしの方へと
 振り向いた。
 「――― !」
 「…………」

 がっちりと、視線がぶつかり合う。
 思わずギョッとして、動けなくなるあたし。
 見られた? 気付かれた? ずっと、ごっちんを見てたこと。舞台上で演技
 するよっすぃじゃなくって、ごっちんを見てたこと。 
 「あー……」

 舞台上のリハの進行を気にして、大きく開きかけた口を咄嗟に塞いで、
 ごっちんは慌てたように周囲に視線を巡らせる。
 「ごっちん、何してんの?」 あたしとごっちんの目線のやりとりに気付か
 ない辻ちゃんが、きょとんとした顔で彼女を見上げていた。


103 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時25分27秒

 紺野は、ごっちんの視線に気付いたようで、彼女につられるようにあたし
 の方へとゆっくりした動作で振り向いた。
 「…………」
 大きな、透き通るような紺野の瞳で真っ直ぐ見つめられるのは、何だか
 少し、居心地の悪さを感じさせる。


 そんなあたしの心境を知ってか知らずか、ごっちんは保田さんとあたしを
 交互に見据えた後、声を出さずに口元をぱくぱく動かした。
 「え?」

 よく聞き取れなくて、あたしは思わずしかめっ面になる。眉を寄せてしまう
 のは、あたしの癖。(それは、よっすぃとごっちんに面白おかしく脚色され
 た上で指摘されて始めて知ったんだけど)


104 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時26分02秒

 ごっちんは、あたしの「何?」という疑問のジェスチャーに気付いたらしく、
 根気よく口元を動かした。

 《で・ば・ん・が・き・た・ら》

 「……出番が、きたら?」

 小さな声で復唱すると、ごっちんは満足そうに頷いた。そして、続ける。

 《お・こ・す・か・ら》

 「……起こすから?」

 もう1度、ごっちんは大きく頷く。《出番がきたら、起こすから》、そう言って、
 ごっちんはあたしと保田さんをさらに通り越した舞台袖の奥を指で示した。
 そこの奥には、あたし達の控え室がある。


105 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時26分45秒

 《そ・れ・ま・で・ゆ・っ・く・り・や・す・ん・で》

 「………それまでゆっくり休んで…」

 《な・さ・い》
 
 「……なさい」

 最後まで言い切ると、ごっちんはにいっと笑ってみせた。何だか、ごっちん
 の笑顔には力があって。大丈夫だって、思えることができるんだ。

 《ゆっくり休んでなさい》
 ごっちんはそう言った。
 見てないようで、あたしが調子悪いのに、気付いててくれたんだ。

 おっとりタイプのごっちんが、「〜なさい」なんて、有無を言わさぬような
 命令形を使うのは珍しい。当然、それは彼女なりに気を遣って、冗談っ
 ぽい口調にはなっているのだけれど。


106 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時27分25秒

 何より嬉しかったのは、ごっちんが、あたしの思っていることにちゃんと
 気が付いているかのようなタイミングで、あたしを見てくれたこと。

 辻ちゃんや紺野たちと話しながらも、ちゃんとあたしを気に掛けてくれて
 いたこと。
 
 もしかしたら、保田さんがいたから、あたしの存在にも気付いたのかも
 知れないけれど、そんな可能性を考えるよりも、素直にあたしは嬉しく
 思えたんだ。ごっちんの優しさが。


107 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時28分20秒


 「石川、ほら奥で休んでなさいよ、私が連れてってあげるから」
 「あ……」

 ごっちんに、ありがとう、という前に。
 あたしは右手を保田さんに引かれて、ごっちんが示した当の控え室へ
 と連れて行かれたのだった。
 ( ………ごっちん )


 ――――
 振り向きざまに見たごっちんの顔は、不思議なくらい無表情で。なのに
 はっとするくらい、儚く見えた。 
 そして、ごっちんの隣りに佇む紺野が、静かな意志を湛えたような毅然
 とした視線で、あたしを見返していたんだ。


108 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年08月31日(土)22時28分55秒


 あたしは、とても鈍感だったから。
 紺野があたしに向ける強い視線の正体も、ごっちんの不自然なまでの
 無感情な表情の理由も、気付けなかった。 

 ただ、一瞬だけ見たごっちんのあたしを見つめる眼差しが、“何か”に似
 ているなって、印象を持ったのを覚えてる。

 ―――
 ――


 今なら、その答えが何なのか、あたしはよく分かるのに。
 ――― ごっちんの瞳は、親に捨てられた子犬みたいな色をしてたって。



109 名前:いち作者 投稿日:2002年08月31日(土)22時29分51秒

 更新しました。
 毎回レスをくださる方、初めて目を通しくださる方、ありがとうございます。

 >>86 名無し読者さん
 やきもきされてますか(w    主役がとりあえず後ろ向きな性格なので、
 最初は苛々されるかも……でもイイといってくださって嬉しいです!

 >>87 名無しごまたんさん
 毎回励ましありがとうございます。
 恐れ多いお言葉に恐縮しつつ、また読んでいただけるよう精進の日々です。

 >>88 いしごま防衛軍さん
 毎回のレスに感謝してます。嬉しいです。
 後藤への同情(というか激励?)のお言葉が多く、感激してます。
 ( ´ Д `)<……がんばりまーす 
110 名前:いち作者 投稿日:2002年08月31日(土)22時30分23秒

 >>89 名無し読者さん
 いしよし、ですか……まあ何とも言えませんが、この話の世界の中では
 もうなるようにしかならないかもしれませんね…(w
 望むべき展開にはならないかもしれませんが、どうぞ読んでやってください。

 >>90 @さん
 2つの作品を手がける忙しい中、律儀にレスをいただけて嬉しいです。
 @さんの描く石川はひたすら可愛くてしょうがないです(w

 >>91 名無し読者さん
 凄くツボですか、それは非常に感動です。
 2人に幸せはくるんでしょうかね……幸せにしてあげたいですが。

 それでは、また次回更新時にお付き合いいただけますように。

111 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月01日(日)00時10分21秒
ごっちんやっぱすごいや。梨華たんが心配ですなあ。
ドキドキしながら待ってます。
この前の8月24日の能登空港でのライブに行ってきたんですが、感動しましたよ。
集中豪雨の中、娘。も観客も皆びしょ濡れになりながらも最後まで燃えました。
実はいしごま万歳!!紺野陛下万歳!!と叫んでました(^〜^;
紺野陛下を悪者にしないでください。
112 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月01日(日)08時07分42秒
なんかごっちんの優しさが泣ける・・・
この話大好きです、頑張ってください!
113 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年09月02日(月)16時32分57秒
こんこんキタ!紺野の絡みも、楽しみです。
それにしても、過去形…。気になる…。
114 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時39分26秒

 保田さんがあたしを気にしてくれることが分かっていても。
 ごっちんがあたしを見守ってくれていることが分かっていても。
 あたしの心は、いつでも不安定に揺れていた。よっすぃへの恋心は冷め
 やらぬまま、漠然とした憂鬱に苛まされて日々を送る。

 そして、ごっちんは。

 「あっ、梨華ちゃん、さっき喫茶室でよっすぃ見かけたよ?」
 ――― いつも、さり気なくあたしとよっすぃに気を配ってくれていて。
 
 「そうだ、梨華ちゃん。後藤さ、よっすぃにCD借りてたんだけど、代わりに
  返しに行ってくれないかな」
 ――― 話し掛けるきっかけを与えてくれて。

 「ね、今日はプッチでご飯食べに行くんだけど、梨華ちゃんも行く?」
 ――― あたしを、一人ぼっちにさせないようにしてくれたね。


115 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時40分02秒


 ……感謝の気持ちを、伝えたことなんてない。
 ……願えばそこに、「彼女」はいつも佇んでいた。



116 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時40分34秒

 そんなバカなあたしに、「その日」が来るのは、きっと当然の流れで。
 そう遠い未来じゃないことを、漠然と予感していたのかもしれない。
 
 大丈夫だって自分に言い聞かせながら、あたしはいつ、よっすぃからの
 『宣告』がくるのかドキドキしながら、日々を過ごすようになってた。

 「ね〜、梨華ちゃん?」
 「なっ、何ぃ!?」
 「…ぷっ。梨華ちゃん、声裏返ってるよ。次、出番」
 「あ………ありがと、よっすぃ」

 ………………

 「ね〜、梨華ちゃん!」
 「…よっすぃ、ど、どうしたの?」
 「このボタン取れちゃってさあ、ソーイングセットみたいのって持ってる?」
 「え、あ、うん、持ってるよ。ほら、あたしつけるから貸して?」 
 
 ………………


117 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時41分11秒

 毎日毎日、あたしはよっすぃから話し掛けられるたびにビクビクしていた。
 緊張のあまり、手が震えてしまうことも珍しくなかった。
 よっすぃと2人っきりで話せることに喜びを感じていたのは、本当につい
 最近のことだったのに。


 「あー、矢口さんだぁ〜!おーい、やっぐちさ〜んっ!」
 「ちょ、よっすぃ〜!?」
 矢口さんの姿を見つけたよっすぃが、さり気なくあたしの側から離れて。 

 「そうだ、梨華ちゃん、新曲の振り付け練習しない?」
 その度、ごっちんがあたしの側にいてくれることが増えていた。
 
 慰めるんじゃない、ごっちんは、確かにあたしの側にいてくれたけれど。
 それはいつも、別のことに気を紛らわせるような話題を提供してくれたり、
 余計なことを考えないようにさせてくれていて。


118 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時41分50秒

 「うん、あのね、ごっちん……」
 「何? 梨華ちゃん、ほら、笑ってよぉ〜。頑張って練習しよ?」
 「ごめんね、今は、1人になりたい……」
 「 ―――― そっか」

 ……それなのに。

 ごっちんの顔を、あたしはまともに見たことなんてあったのかな。
 避けてばかりいたあたしを、ごっちんが責めたことがあったかな。
 話し掛けられることを、時として鬱陶しく思いながら、きっとどこかであたし
 は、ごっちんに気に掛けてもらうことを望んでいた。

 あたしを呼ぶ声が、辛うじて、「石川梨華」という人間が誰かに必要とされ
 ていることを実感させてくれたから。


 「梨華ちゃん。あんまり根詰めちゃだめだよ」
 「………放っといて…」

 なのに、あたしはちゃんと答えることすらしなかった。
 きっと、ごっちんは、寂しそうな顔をしていたんだろうね。



119 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時42分35秒

 ―――
 ――


 見なければ良かった、知らなければ良かった、なんて。
 よく聞くフレーズだけど、身をもってそれを実感することがくるなんて、正
 直思ってもいなかった。
 経験しなければ、その意味の深さなんて理解できないんだ。

 そう思い知らされたのは、あたしがそんな場面に遭遇してしまったから。


120 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時43分13秒

 偶然だったんだ、『それ』を見てしまったのは。
 慌てん坊でそそっかしいあたしは、テレビ番組の撮影終了後、解散し
 てそれぞれがタクシーに乗り込む時点になって初めて、楽屋に携帯電
 話を忘れてしまったことに気が付いた。

 「あ、あたしケータイ忘れてきちゃった。楽屋に取りに行ってくるッ」
 「大丈夫?一緒に行こうか?」
 「平気だよ、すぐそこだもん」

 こんな時でも気を遣ってくれるごっちんを残し (それでも待ってると言って
 くれるのが、彼女の優しさだ)、あたしは小走りに楽屋へと向かった。


121 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時43分43秒

 本当は、気付いてた。
 解散の後、よっすぃと矢口さんが、2人していなくなっていることに。
 けれど、弱虫なくせに意地っ張りなあたしは、それを素直に認めること
 ができなくて。

 ……偶然だよ、たまたま、2人してトイレにでも行ってるんだ。

 多少強引にでもこじつけなきゃ、心が潰れてしまいそうだったから。
 
 
 でも、そこで変な意地を張らなければそんな思いをすることはなかった。
 一緒に、ごっちんに付いてきてもらっていれば、そんな現場を見ることも
 なかったかもしれない。
 全ては、不器用なあたしが招いた不幸な結果。
 変えられない現実を、突きつけられた瞬間。


122 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時44分13秒

 「………から…」
 「…も……っぱり……」

 ぼそぼそと、くぐもったような声が最初に聞こえてきて。すぐにそれが、
 声を潜めた誰かと誰かの会話であることは分かった。
 同時に、その声の「主」が誰であるのかも、瞬間的に察した。

 いないのは、2人だけ。
 よっすぃと矢口さんの、2人だけ。

 
 ( ……あ…… )
 
 胸騒ぎを覚えたあたしは、よせばいいのに自然とその声につられる様に
 歩みを進めていた。

 階段の踊り場からその声を潜めた会話が発せられているのに気付いた
 のは、ちょうど見慣れた茶髪の少女 ――― まさしくあたしの恋人である
 端整な顔の彼女と、その傍らに佇む小柄な体型の少女の、金髪のショ
 ートカットが目に入ったからだった。 


123 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時44分56秒

 何度も確認する必要もなかった。親しいメンバーであるよっすぃと矢口さ
 ん、そんな2人をあたしが見間違えるはずもない。


 2人の姿を認めた途端、咄嗟にあたしは廊下の壁に身を隠していた。
 隠れなければならない理由なんて、その時にはなかったけれど、本能
 的に察したのかもしれない。「見たら駄目だ」って。


 頭の中で鳴り響く警告音を無視して、あたしは無意識のうちに呼吸すら
 止めるようにして、2人の会話に耳をすませていた。
 自分が、ひどくみっともないことをしていることは分かっていた。けれど、
 止められなかった。

 「……だからっ……矢口さん、ウチは、っ……吉澤はぁ、矢口さんが…」

 「 ――― 言わないで、よっすぃ、お願いだからっ……」


124 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時47分53秒

 ( !! )

 いきなり、核心めいた会話。さっきまでの声を潜めるようにしてボソボソ
 と言葉を交わしていたのとは打って変わって、声のトーンが数段上がっ
 たように感じた。
 知らぬうちに、体がビクリと震える。


 よっすぃの声は、誰が聞いても分かるくらい必死で、真剣で。
 矢口さんの声は、今にも泣き出すんじゃないかと思うくらい頼りなく震え
 ていた。いや、実際はもう涙を流しているのかも知れない。

 全身から血の気が引いていく気がした。
 背中を、冷たい汗が伝って行く。
 ざわざわとした胸騒ぎ。あたしは思わず、胸を押さえていた。


 「矢口は、よっすぃの先輩だよ、それだけだよ、それでいいじゃない…」
 「でも、だけど……」


125 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時48分35秒

 ……矢口さんは、よっすぃを拒否している?
 だけど、よっすぃは、必死に食い下がってる?
 つまりそれって、よっすぃは……………だって、それって…………。

 ドクン。
 ドクン。


 「自分でもどうしようもないんです、矢口さんばっかり気になっちゃって、
  止められなくって、気持ちが、勝手に…」
 「……よっすぃ……」

 やっぱり、あたしの気のせいなんかじゃなかった。
 最後の希望が、完全に打ち砕かれちゃった。
 ………

 「石川は、どうなるのさ。……よっすぃには、石川が……梨華ちゃんが、
  いるでしょ?」

 ( ……矢口さん )

 ドクン、ドクン。


126 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時49分06秒

 唐突に出てきた自分の名前に動揺しながらも、あたしはひたすら物音を
 立てないように必死に息を殺していた。
 半分、頭は正常に働いていないような状態で。
 ドクドクと波打っている、自分の心臓の音が聞こえた。

 
 「…梨華ちゃんは、大事ですよ……正直、大切な存在です。……でも…
  違うんですよ、なんて言うか、もう、わかんないんですけど…吉澤が、
  梨華ちゃんを大事に思う気持ちと、矢口さんを目で追っちゃう気持ちは」

 「 ――― 矢口は、耐えらんないよ」

 重苦しい雰囲気の中、数秒の間を置いて矢口さんが涙声で呟いた。


127 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時49分40秒

 「石川が、泣き出しそうな顔で、矢口を見るんだよ。よっすぃが、矢口に
  声掛けるたび、すごい辛そうな顔するんだよ。石川は、本当によっすぃ
  が好きなんだよ……? 矢口が、それを邪魔するなんて、嫌だ…」

 
 逃げ出せばいいのに。
 これ以上聞いていたって、何も得ることなんてないよ、失うばかりだよ。
 分かっているのに、体が硬直したみたいに動かない。全身が金縛りに
 遭ったみたいだった。


128 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時50分14秒

 「ウチだって、本当に矢口さんが好きなんですよっ!」
 「 ―――― !」

 ( …………… )


 ナニ?


 何、なに言ってるのよっすぃ……?
 ( 好き、って言った、誰が?よっすぃが、誰を?矢口さんを、何それ、 ) 
 ( ちょっと待ってよ、本当に、はっきり言った、よっすぃが、え? )


129 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時50分47秒


 ――― 『矢口さんが好きなんですよっ!』 ―――


 空気を切り裂くような、よっすぃの悲痛な叫び。
 痛い。嫌だ、嘘だ、嫌だ、嫌だ、痛いよ、嘘だ、嘘っ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!

 苦しい。
 息が、止まる。
 痛い。痛いよ、ねえよっすぃ、心が ――― 痛いよ。

 逃げよう、逃げようよ、どうして動かないの、あたしの足は。
 どうして動いてくれないの、嫌だよ、もう、嫌だ、嫌だ……っ。
 
 矢口さんが好き? 本当に、って、どんな風に?
 メンバーとして? 先輩として? 仲間として? 女として?
 ………ねえ、よっすぃ………あたしよりも、……好きですか?


130 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時51分23秒

 頭が真っ白になって、思わず壁に寄り掛かった。
 そんな状態でも、時間は流れ続けて。

 「……バカ……矢口だって……」
 「矢口さん…」

 口元を押さえた矢口さんの真っ赤に充血した黒目がちな瞳から、大粒
 の涙がぼろぼろと零れ落ちた。
 それは本当に、映画のワンシーンでも観ているかのように綺麗で、儚く
 て、矢口さんはとても ―――― 

 美しく、見えた。

 ( 敵わない、あたしは、矢口さんには敵わない… )


131 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時52分00秒

 「……やぐちだって、本当は………頑張って……先輩やって………」
 「矢口さん」
 「……泣かせたく、ないんだよ、可愛い後輩なんだ、石川は、矢口の、
  かわいい、こうはいなんだよぉ……」 

 呆けたあたしの耳に入ってくるのは、押し殺したような矢口さんの嗚咽。
 「ウチだって、…矢口さんの後輩なんですよ……」
 「よっすぃ………」
 そして、その後繰り広げられるであろう展開を思って、あたしは固く目を
 瞑る。それでも、棒のように固まったあたしの足は、動いてくれなかった。

 
 敵わない、敵わない。矢口さんには。
 人間的な魅力の面も、素直に涙を零せる純真な気持ちも。
 強さも弱さも併せ持っていて、後輩に対する思いやりだって人一倍強い。
 ――― よっすぃから注がれる愛情の比重も、きっと……敵わない。


132 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時52分40秒

 ( 嘘だよ、こんなの、嘘だ……… )


 ――― 目が、醒めたら。
 全部夢だった、なんてことにならないかな。なかったことにならないかな。
 もしこれが現実なら、あたしは醒めない夢の中で生きていたいよ。

 切実に、そう願った。

 ショックが大きすぎたからか、それとも今目の前で見た現実を受け入れ
 られなかった為か、あたしは泣くことすらできなくて。
 ひんやりと冷たい廊下に座り込んだまま、しばらく立ち上がれなかった。


133 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時53分23秒

 ………
 
 あの後、あんまり遅いあたしを心配して探しにごっちんが来てくれなかっ
 たら、あたしはきっと日が変わっても動かなかったと思う。
 何故。ごっちんはあたしが辛いときはいつも、駆けつけてくれるんだろう、
 側にいてくれるんだろう。

 
 ごっちんは、何も言わないあたしに、何も聞かなかった。
 「帰ろう」って、そう一言告げて、あたしの手を引いて歩いたんだ。

 分かっていたのかな、ごっちんは。
 意外と察しのいい彼女のことだから、あたしの落ち込み様を見て、何か
 を推測していても不思議じゃない。

 でも、詮索するようなことはしなかった。
 変わらぬ態度で接してくれた。


134 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時54分11秒


 真っ直ぐに前を見て歩くごっちんが、どんな表情をしていたのか、もう知
 る由もないけれど。その時の手の温もりはきっと一生、忘れられないよ。
 
 あの時、しっかりと繋がれた手の温もりに安心したあたしはそこで初めて、
 泣き出しそうになったんだ。
 あたしは、必死に泣かないように堪えてた。下を向かないように。


135 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月04日(水)19時55分15秒


 ねえ、ごっちん?
 今、あたしは思うんだ。

 ――― ごっちんも、そうやっていつも耐えていたのかな、って。

 あたしよりもずっと我慢強かった彼女は、泣きたいことや辛いことがあって
 も、その素振りすら見せなくて。

 
 ………後藤真希は、あたしを守ってくれるナイトなんかじゃないし、必ず
 ピンチを救ってくれるヒーローなんかでもないってこと。
 考えなくたって、分かるはずなのに。
 あたしはちゃんと、分かってあげなきゃいけなかったのに……。


 傷付いて、ぼろぼろになってたあの頃、悲劇のヒロインぶってたあたしが
 それを理解してあげられなかったこと。
 ……今でも、悔やんでいるんだよ。




136 名前:いち作者 投稿日:2002年09月04日(水)19時56分40秒

 更新しました。感謝を込めてレス返しです。

 >>111 いしごま防衛軍さん
 ライブに行かれたのですか、うらやましい限りです。
 自分はライブ等、生娘。は未体験の世界ですよ。ああ、いいなあ。
 ちなみにこの小説で悪者は出て来ないようにしたいと思ってます……多分(w

 >>112 名無しさん
 ありがとうございます!単細胞な作者なので、褒められると素直に感動して
 嬉しがります。良ければまた読んでやってくださいね。

 >>113 名無しごまたんさん
 紺野出しました。単純に5期メンの中で1番なじみやすいかな、と。(安易です;)
 毎回レスありがとうございます。過去形なんですよね。石川口調はなんか
 非常に書きやすいです(w

 それでは、また次回の更新時まで。

137 名前:112 投稿日:2002年09月04日(水)20時34分36秒
うわー、何か痛そうな展開の予感・・・。しかし、後藤さんはかっこいいですね。
常に梨華たんに寄り添う後藤さん萌えです!
138 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月05日(木)10時28分30秒
作者さん・・・リアルと勘違いしてしまいそうです。
ただそばにいる後藤、過去を振り返る石川がせつなくて・・・幸せですかの世界
139 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月05日(木)11時41分10秒
梨華たんついに宣告されたようなもんですね。痛いっす。
ごっちんほんとに優しいよ。最後は梨華たんとごっちんが結ばれることを願って
います。ドキドキしながら待ってますよ。
140 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月05日(木)16時45分09秒
かなり切ないですね。でもすごい好き!
141 名前: 投稿日:2002年09月05日(木)19時27分00秒
すごいですね。増して切なくなってきた。。。
自分とこのは最近あんま更新してないかも(爆
でも本命のいしごまを書き始めました。
142 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年09月07日(土)10時07分33秒
梨華ちゃんもごまもヤグもヨシも
みんな切ないぜ…。
梨華ちゃんの独白が、心に染み入りますよ

143 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月08日(日)05時16分52秒
なんだか梨華ちゃんのモノローグから、
ごっちんがいなくなってしまいそうな予感がして、すげー不安です。
作者さま。どーか、二人を幸せにしてやって下さい。
144 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月08日(日)11時55分29秒
いしよし
145 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時40分57秒


 「……ねえ、梨華ちゃん。やっぱ梨華ちゃんとはもう付き合えない」
 
 「よっすぃ……」

 そして、ついに恐れていた日はやって来た。
 思っていたほどそれはドラマチックな展開に及ぶわけでもなくて、思ってい
 たほどよっすぃは悩んだ風でもなくて、思ったほどの盛り上がりもなく。


146 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時42分00秒

 妙に緊張した面持ちのよっすぃが、真剣な声で「大事な話がある」なんて
 言い出した時に、何となく予想はついたんだ。
 非常な現実は動き出した。
 もう、それは止められない。止めることなんて出来ない。
 
 そう思った。あたしは ――― よっすぃが今から口にする「告白」を、拒絶
 することも、否定することも、無視することも、決してできない。
 愛した側と、愛された側。その力関係の差は歴然だった。

 そして、敗者はあたし。
 そんな風に考えてしまう自分にも、いい加減に嫌気が差していた。
 本音は、別れたくなんてない。よっすぃと、いつまでも恋人でいたい。
 はっきりと言い出せないのは、明らかに自分の弱さのせいだ。

 「ごめんね、梨華ちゃん。ウチ、矢口さんが好きなんだ。やっぱり」


147 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時42分34秒

 想像通りの言葉は。
 思ったよりも淡々と、よっすぃの口から放たれた。
 
 「そっかぁ……矢口さん、可愛いし、面白いし、……そうだよね……」
 ( 嘘つき )
 「ホント、ごめん」
 「……いいよぉ…あたしは、平気だもん」
 ( 嘘つき )
 「許してくれるの?」
 「………許すもなにも、よっすぃの気持ちが矢口さんにあるなら……」
 
 ( 大嘘つきだね、あたし )

 そしてあたしは思ったよりも冷静に、よっすぃと接していた。
 別れの言葉を告げられているのは分かってた。でも、実感がなかった。
 よっすぃが去っていくのを現実として受け止められないまま、あたしは……


148 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時43分17秒

 吉澤ひとみとの恋の終わりを迎えた。
 彼女を愛する気持ちは変わらないまま、彼女との関係だけが変わった。 


 ( なんだ、呆気ないなぁ…… )
 ( これで終わりなの? これで終わっちゃうの? )
 ( ……もう、終わりなの。よっすぃとは、もう……ただのメンバーに… )

 「ごめんね。これからは、いい仲間として……」
 「もちろんだよ。一緒に、娘。を盛り上げていこうね!」


 ( …バカだ、あたしって。本当に言いたいことは、違うでしょ? )
 わざとらしいガッツポーズは、きっと恐ろしく不自然だったに違いない。
 勢いだけで、その場を乗り切ろうとする自分を、どこか醒めた気持ちで
 見物している自分もいて。
 
 ( ここで止めなきゃ、あたしとよっすぃの関係は終わっちゃうんだよ ) 


149 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時43分59秒

 「矢口さんと、幸せになってね。でなきゃ、あたし怒るから」
 「……ごめんね、ありがとう梨華ちゃん」


 よっすぃの、最後の言葉は“ありがとう”だった。
 残酷過ぎる台詞に、返す言葉も浮かばなくて、あたしはただ、精一杯の
 笑顔を、彼女に見せるしかなかった。

 「ねえっ、よっすぃ!」
 ( ――― 行かないで っ…!)

 そして、最後の最後に呼び止めたあたしを、誰かは往生際が悪いって、
 笑うだろうか? 引き際を心得てないと思うだろうか?
 関係ない。あたしは………
 「矢口さんに言っておいて! あたしのことは、気にしないでくださいって。
  あたしも、矢口さんが大好きだからって!!」


150 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時44分36秒

 「梨華ちゃん………。ん、分かった」
 一瞬驚いたように目を見開いていたよっすぃは、いつも矢口さんに見せて
 いたような満面の笑みを浮かべて、あたしに頷いた。
 
 考えてみたら、ここ最近のあたしは、よっすぃにこんな最高の笑顔を向け
 てもらったことなんてなかった。
 矢口さんだけが知ってるよっすぃの表情。仕種。
 これからきっと、それはもっともっと増えていくんだろう。

 ( 行かないで……… ) 


151 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時45分13秒

 喉まで出かかった言葉を必死に飲み込んで、あたしは両手を握り締めて
 立っていた。最後まで、よっすぃは笑顔で見送ろうとしてたんだ。
 我ながら、なんてあっさりした別れだったんだろうと思う。

 でも、泣いてすがって引き止めるほどのパワーは、あたしにはなかった。
 そんな勇気だって持てなかった。何に対しても、待つだけだったあたしは。

 踵を返して楽屋のドアに向かうよっすぃの背中が、とても遠い存在に見
 えた。いや、それは確実にもう、あたしの手の届かないところへ行こうと
 しているのだろう。

 ( 戻っちゃった…… )
 
 そして2人は、ただの「同期」に、ただの「メンバー同士」へ戻る。


152 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時45分57秒

 もっと、泣いて、叫んで、よっすぃを罵ってもよかったはずなのに。
 「別れないで」って、喚いたっていいんだよ。
 だって、あたしには、その権利があるはずでしょう?
 でも、出来なかった。その勇気も、元気もなく、そんな立場になってなお、
 あたしはよっすぃに嫌われたくなかったんだ。


 「……よっすぃ……」
 “お幸せに”。辛うじて、心の中で呟いてみた。一気に、目に涙が浮かんだ。


153 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時46分37秒

 よっすぃは、振り返らない。
 所詮、よっすぃにとってあたしとの付き合いってその程度だったんだ。
 楽しい時間をいっぱいくれてありがとう。
 ちょっとでも、あたしを好きでいてくれてありがとう。

 ――― そんな風に割り切って考えられるほど、あたしは大人じゃない。

 ありがとう、なんて言えないよ。納得なんて出来ないよ。
 だけど、やっぱりよっすぃには幻滅されたくないんだ。あたしは、弱虫だ。

 「……ばいばい、よっすぃ……」

 そこまで。
 「…………っ」 


154 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時47分18秒

 意地っ張りで、負けず嫌いなあたしの精一杯の強がりは、そこまでで。
 矛盾だらけで屈折したあたしの心は、もうぐにゃぐにゃで、とても不恰好
 に歪んでしまっている気がした。

 冷静でいたつもりの自分。そんな鍍金の仮面が剥がれるのは一瞬で、 
 昂ぶった感情が一気に溢れ出して。 
 ( ……ばか……あたしの、バカ……!! )
 
 よっすぃの姿が見えなくなった途端、足の力が抜けて、あたしは床にへ
 たり込んでいた。


155 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時48分00秒

 「何で、こんな時にそんなこと言うの?」
 「だって、今はミュージカルだってあるんだよ?終わったら、シャッフルだっ
  て始まるんだよ?」
 「その次は新曲も出るんだよ?ツアーだって始まるんだよ?ねえ、よっすぃ、
  今、とっても大事な時期なんだよ?」
 「何で、こんなときに、そんなこと、言うのよぉ………」

 「あたしが弱いこと、知ってるでしょぉ、よっすぃ〜っ……」

 本人には言えなかった言葉。それらはただの愚痴に過ぎなくて、あたし
 の思いが、それらの言葉が、よっすぃを引き止める材料になんてならない
 ことぐらい理解できる。
 だからこそ、あたしは何も言えなかったんだ。 


 胸が痛い。目頭が熱い。頭が ――― グラグラした。


156 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時48分30秒

 「りかちゃん……」
 「……ふぇっ………」
 「梨華ちゃん、よっすぃ、もういないよ」
 「………ううぅ〜っ……」
 「泣いていいんだよ」
 「 ―――― ごっちん………ぅわああああああああんっ……!!」

 
 振り向けばそこには、思った通りやっぱりごっちんがいて。
 そして、思ったよりもあたしは激しく、泣いた。


157 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時49分15秒

 「何でよ、何でよォ、よっすぃ何でえっ、何でなのぉ〜!?」
 「梨華ちゃん、落ち着いて……」
 「やだぁ、あたし、何も、悪いこと、してっ…ううっ…ないっ…えぐっ…」

 涙が止まらないあたしを、ごっちんは決して抱き締めようとはしなかった。
 
 「そうだね、梨華ちゃんは、何も悪いことしてないよ」
 ただあたしの頭を撫でながら、真摯な態度で、あたしの言葉を受け止め
 てくれていたんだ。
 
 「…よっすぃも、悪いことしてるんじゃないんだよ。………悪くないよ。誰も、
  悪くないんだ…」
 あたしとごっちんを残して、誰もいなくなった控え室で、あたしの嗚咽だけ
 が、小さく延々と響いていた。


158 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月08日(日)21時49分52秒


 「誰かをさ、好きになるのって、悪いことのはずがないんだよ……」

 ……………

 後から後から沸いてくる涙がぽたぽたと手に落ちて。
 優しいごっちんの声に。
 優しい手の温もりに、何だか余計に泣けたんだ ―― 。 



159 名前:いち作者 投稿日:2002年09月08日(日)21時51分59秒

 本日の更新終了です。
 たくさんのレスに驚きつつ、嬉しさ全開でございます。ありがき幸せ…

 >>137 112さん
 続けてのレス、ありがとうございます。また読んでもらえて感謝です。
 そうです、常に後藤は石川の側にいるんです。(イマノトコロ…)

 >>138 名無し読者さん
 リアルネタを元に書き始めたので、そういう意見は素直に嬉しいです。
 幸せですかの世界ですか……ああ、そんなイメージを持ってもらえるとは…(喜

 >>139 いしごま防衛軍さん
 毎回更新ごとに読んでくださっているようで、本当にありがとうございます。
 自分でも書いてて、石川のあまりなネガティブさには………なんですが、
 1番楽しくもあったりするのです。嫌なヤツですね、自分(w

 >>140 名無しさん
 すごく嬉しいです!また読みに寄っていただけるとありがたいです!!

160 名前:いち作者 投稿日:2002年09月08日(日)21時52分58秒

 >>141 @さん
 どんどん増していけるといいのですが>切なさ。作者の文章力にも限界
 があるので、これ以上は多分無理っぽいです(w
 @さんの作品は、ほのぼのして大好きです。また和ませに行かせていただきます。

 >>142 名無しごまたんさん
 自分的には、こんなケースに陥った場合、多分気配り屋の矢口が1番苦労
 するような気がしますね。でもセクシー8最高!(意味不明っすか…)

 >>143 名無しさん
 どうなるのでしょうかね。とにかく、言えることはこの世界は一応リアルの
 世界観を元にしているということで……(ネタバレ確実) 最善を尽くします(多分)。

 >>144 名無しさん
 えっと………すみません、いしよしじゃないですこの話。

 
 暗い話ですがたくさんのレスをいただけて本当に読んでくださってる方には
 頭が下がります。どうか、次回更新時にまたお付き合いいただけますように。

161 名前:1450 投稿日:2002年09月08日(日)22時28分30秒
くう〜っ、梨華タンがんばれ・・・そしてごっつぁんカッケーぜ・・・
読んでいて、切なすぎる内容にはまりました。早くも次の更新が楽しみです。
162 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月08日(日)23時02分52秒
ああ梨華たん・・・・。また来るときがきたということですか。切ないっす。
ほんとに誰かを好きになるのは悪いことのはずがないんですかね?
とにかく梨華たんにはごっちんの気持ちを理解してほしいです。
楽しみに更新待っています!応援してますよ!がんがってください!!
163 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月09日(月)12時34分08秒
あー、ついに来てしまいましたか、その時が。
にしても、相変わらず控えめなゴチーンがいじらしいですね・・・
164 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月09日(月)21時09分52秒
シャッフル→新曲→ツアー その先には・・・
はぁ・・・・
梨華ちゃんのホントの悲しみはこれからですか(T▽T)
165 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月10日(火)23時57分45秒

 「…っなによぉ、どうせ、…ごっちんは、知って、たんでしょっ…!?」

 散々泣いて泣いて、やがて泣き疲れたあたしに浮かんできた1つの仮説。
 頭が正常に働くような状態ではなかったのに。
 ごっちんに詰め寄るなんて、八つ当たりもいいところだったのに。

 とにかく傷だらけになってたあたしは。
 目の前が真っ暗で、何も見えなくなっていたあたしは。
 この失恋を、誰かのせいにしなくちゃ、とても立ってなんていられなくって。
 
 「梨華ちゃん……」
 「変だもん、急に優しくなって、ふぅっ…前は、あたしのことからかって、ばっ
  かり、だったのに、最近は、ヒッ…いつも優しいもん!」
 「それは……」
 「知ってたんでしょ、前に、変なこと聞いてたもん……変だと思ってたもん!」


166 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月10日(火)23時58分15秒

 『よっすぃのことが好き?』

 「好きなのに、あたし、よっすぃのこと大好きなのに……っ!」
 「梨華ちゃ……」
 「ごっちんに聞かれたときから、あたしの気持ちは変わってないよ、全然、
  何も変わってないんだよぅ、よっすぃが、よっすぃが好き……」

 『よっすぃのことが好き?』
 
 「好きなのに〜っ……」
 「……梨華ちゃん」


167 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月10日(火)23時58分47秒

 本当は、それを告げるべき相手がごっちんではないことは分かってた。
 ごっちんが困ることも分かってた。
 そして、今以上にきっと、彼女があたしに対して優しくなることも。
 ――― 多分、分かっていた。

 いつでも、後藤真希はあたしの味方でいてくれて。あたしは、知らず知らず
 の間にそれに依存していたんだろう。

 「知ってたんでしょ?よっすぃが、あたしを、フるつもりなんだってこと」
 語尾が震えて、また、涙が出そうになった。
 それを辛うじてこらえさせたのは、ささやかなあたしのプライドだった。

 「 よっすぃに、頼まれてたの?それとも、ごっちんの同情?
  『今はこんなに幸せそうだけど、もうすぐ振られちゃうんだ』って、面白が
  ってからかって、本当にフられた後は、 『可哀想だから慰めてやるか』
  なんて、そんな風に思ってたんでしょ!?」


168 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月10日(火)23時59分35秒

 …………
 優しかった。ごっちんは、とても優しかった。
 あたしは一体、それ以上の何を望んでいたのだろう?


169 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時00分05秒

 「何言ってんの梨華ちゃん。そんな、違うよ……」
 「違わないよぉっ!!」
 自分でも何が言いたいのか分からなくなっていた。子供が駄々こねてい
 るようなもので、言ってることは支離滅裂。
 
 半泣きになっているあたしを、ごっちんが困った顔して、それでも何故か
 悲しそうな目で見つめていた。

 これだけは言える。その時のごっちんの目が悲しそうだったのは、同情の
 表れなんかじゃ、決してないってこと。
 
 悲しそうというよりも、寂しそうな、そして何か痛みを堪えているかの様な、
 心底辛そうな表情で。
 普段は誰より堂々としているはずの 「後藤真希」 という女の子が、とても
 小さく、頼りなさ気な目をしていたことをよく覚えている。 


170 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時00分45秒

 「そうだよね……まあ、そんな風に思われるのは覚悟してたけど」
 
 大きな目を伏せて、ぽつりぽつりと話し出すごっちんは、どこか切ない表情
 で、どこか物憂げで、とても ――― 苦しそうで。 

 「後藤は、よっすぃも、梨華ちゃんも大事だから、同情心がなかったかって
  言われたら、もちろんあるに決まってる。けどね」
 「……………」

 ずきっ
 胸が痛んだのを、あたしは自覚した。「同情心」だって、きっぱり口に出され
 ると、やっぱり傷付いてしまうんだ。自分が言い出したことなのに、それを
 肯定されるのが嫌だなんて。我儘なのは、分かってる。


171 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時01分30秒

 「梨華ちゃんじゃなきゃ、こんなに気にしないんだよ。後藤は、梨華ちゃん
  だから、いっつも気にしてんだよ。心配でしょうがないんだもん。
  いつも構ってたのだって、梨華ちゃんが ――― 」

 「もういいっ、聞きたくないよっ!!」
 「…………梨華ちゃん…」
 「慰められたら、余計惨めな気分になるよぉっ…!」
 「 ――― ごめん」


172 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時02分02秒

 ……
 それ以上、聞いていられなかった。
 被害妄想強いかもしれないけど、もう心が穴だらけで、どんな言葉も素直
 に信じることが出来なくて、悲しくて、情けなくて、怖くて、もうどん底。 
 真っ暗な深い穴に落ちてしまった気分だった。

 でも。心のどこかで、「ごっちんになら、どんな我儘言ったって大丈夫」っ
 て、甘えがあったのも事実だったけれど。
 
 「もぉ嫌だぁ、全部いやぁ、みんな、嫌い、大っ嫌い、うわあああああん…」
 耳を塞いで座り込んでしまったあたし。
 子供みたいに、みっともなく大声で泣きじゃくるあたし。

 「ごめんね、梨華ちゃん」
 「うぁああ〜ん……よっすぃのバカぁ〜ッ……っく、ふぅうう……」
 「………ごめんね」


173 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時02分34秒

 そんなあたしでさえ、ごっちんはちゃんと受け止めてくれた。
 黙って、一緒に座り込んで、手を握って、背中をさすっていてくれた。
 呆れ返ってるのに違いないのに。あたしなんて、愛想尽かされてるに決
 まっているのに。ごっちんは、あくまで優しかったんだ。


 『ごめんね、梨華ちゃん。ウチ、矢口さんが好きなんだ。やっぱり』


 何度も頭にリフレインする、大好きだったよっすぃの言葉。
 申し訳なさそうに伏せられた、大好きだったよっすぃの瞳。
 もう2度と、あたしに触れることのないであろう、大好きだったよっすぃの
 ……よっすぃの、大きな大きなあったかい手。


174 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時03分14秒

 その手がこれから抱き締めるのは、あたしじゃなくて。
 これから向かう先も、あたしじゃなくて。
 ねえ、矢口さんを抱き締めるんでしょう? キスするんでしょう?


 ――― もう、2度とあたしには気持ちを向けてくれないの?


 「……やっ、やぁだぁ……よっすぃ、ひっ…うっ…、やだぁ…」
 泣いて、泣いて、泣いて泣き続けても。
 涙って、枯れないのかな。
 あたし、このまま体中の水分出し尽くしちゃうんじゃないかな。

 そんなバカなことを考えるくらい、思いっきり泣いた、失恋した夜。
 何度も何度も、あたしは届くはずのない、恋人だった少女の名前を呼び
 続けていた。


175 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時03分52秒

 「帰ろう」
 「っ、ううっ、ふぇ、うう〜っ……」
 「……梨華ちゃん、帰ろ」
 「…っえっ、うっ、……っく…」

 帰りのタクシーの中でも、ごっちんはずっと一緒にいてくれた。
 1人暮らしのあたしを気遣って、何も言わないのに帰らずにいてくれた。

 お気に入りのヌイグルミを抱き締めて。
 窓もカーテンも締め切って。
 隣りに、ごっちんが黙って寄り添ってくれていて。
 泣いて泣いて泣きじゃくる、あたしの側にずっと。


176 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時04分25秒

 安心して泣ける場所がある。安心して涙を流せる相手がいる。
 何も言わずにそこにいてくれる人がいる。
 あたしを、大事に思ってくれてる人がいる。
 それがどんなに幸せなことか、あたしは分かっていなかった………。

 暑い夜だったね。
 ごっちんは、覚えているのかな。あの夜、あたしはティッシュ2箱分も消費
 しちゃうくらい、泣いたんだよ。目も鼻も真っ赤になっちゃったんだっけ。
 笑ってしまうくらい、プロ意識がないよね。
 

 「……う〜、ぅわぁああああ〜、ふぁあ、わあああああん………」


177 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時04分55秒

 あの日。
 よっすぃに、大失恋したあの日。
 もし、ごっちんが一緒にいてくれなかったら、あたしは死ぬまで泣き続けて
 いたかもしれない。目の前が真っ暗で、何も見えなかったかもしれない。

 「泣いちゃえ。気が済むまで。後藤は、ここにいるから」

 ――― ごっちんは、どん底のあたしにとって一筋の光に見えた。


178 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時05分35秒

 …………

 今考えれば。
 全て知っていたごっちんだって悩んでいたんだ。
 よっすぃが矢口さんに心惹かれていることも、あたしが失恋することも。
 全部知っていたけど、逃げずに、ちゃんと見届けてくれたんだ。

 ごっちんは、1番嫌な役目を請け負ってくれたんだ。


 ……ごっちんには、得することなんて何もなかった。
 あたしと、よっすぃとの仲を邪魔してると思っていた、その行為の本当の
 目的は、少しでもあたしの視野を広げるため。

 間にごっちんが入ってくれなければ、あたしはきっとよっすぃしか見えてい
 なかったはずだから。それがあたしにとって、良いことである筈がない。
 周りのメンバーにだって、良い印象を持たれる筈もないし。


179 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時06分08秒

 『なに梨華ちゃん、まぁたよっすぃにベッタリしてー』
 『しっ、してないよ、ごっちんのバカぁ!』
 『ひどーい、梨華ちゃんバカって言ったー。よしこぉ、梨華ちゃんが苛めるー』
 『苛めてくるのはごっちんじゃない、もぉっ』
 『あはははっ。仲良いねえ、2人』
 『他人事みたいに笑わないでよ、よっすぃ〜!』
 …………

 盲目だったあたしの世界を、少しでも自然に広げるため。
 彼女の思いやりに気付かぬあたしは、そんなごっちんを「邪魔者」扱いして
 いたこともあった。
 邪険な態度を取ったことだってあった。

 決してごっちんにとっては、楽しいことなんかじゃなかったはずなのに。


180 名前:4  uneasiness 投稿日:2002年09月11日(水)00時06分49秒


 「梨華ちゃん。思いっきり泣いちゃいな。明日からはまた、元気で頑張れる
  ように。……泣いて、いいから。今は泣いちゃえばいいから」

 ――――

 あたしが泣き声でよっすぃの名前を呼ぶ度、ごっちんは何を思っていたんだ
 ろう。何を感じていたんだろう。
 どんな気持ちを抱えて、あたしの手を握り返してくれていたんだろう。


 優しさに触れても、その優しさをちゃんと感じることが出来なくて。
 あたしは、彼女の優しさに甘えきっていて。
 当たり前のことなんて、この世にはきっとないのに ――― 。



181 名前:いち作者 投稿日:2002年09月11日(水)00時07分46秒
 短めですが更新です。

 >>161 1450さん
 今回は割と早めの更新でしたが、いかがだったでしょうか?
 こんな話ですがはまっていただけるとは、ありがたくて涙が出ます(w

 >>162 いしごま防衛軍さん
 誰かを好きになるってことがどういうことなのか、結論は出ませんね、きっと。
 何せこの話では石川も後藤も16,7歳の小娘ですし……
 もがいてる様子が出ればいいかな、と。いい加減な作者です。

 >>163 名無し読者さん
 後藤はあまり自分の内面は話したがらないのでは、と勝手に思った挙句
 の小説なんですよね。作者の自己満足にならなければよいのですが…

 >>164 名無し読者さん
 現実世界でも、カウントダウンが始まりましたね。
 個人的には、ビーナスムースではいしごま見られないのが残念でなりません;

 毎回ちまちま更新していますが、その都度レスをくださる方、一応目を通して
 くださっている方、本当に感謝しています。またよろしくお願いします!

182 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月11日(水)01時02分40秒
そうですな。梨華たんもごっちんもまだ大人と少女の間ですからね。
そういう私もまだ19ですが・・・・・。もうすぐ二十歳なんですがこういう
別れるとかいう体験はしたことないのでってか彼女いない歴19年なんでこんな
んで大人になれんのかと思いますね。しかしながら切なすぎます。ごっちんが
壊れてしまうんでないかいと思うくらいです。最後は梨華たんとごっちん必ず
結ばれることを願っています。更新待っております!!がんがってください!!
183 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年09月11日(水)02時32分39秒
梨華ちゃん切ないよ。
オイラもらい泣きしちゃったよ。・゚・(ノД`)・゚・
ごまたん、梨華ちゃん救ってやってくれぇ〜。
184 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月11日(水)18時11分15秒
ごっちんほど出来た人間はいない!
優しすぎる!ごっちんはこの頃からすでに…。
そう思うと、胸が痛い…。りかっち切ねぇ…。
185 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月12日(木)00時40分06秒
自分がメディアから推測しうる「いしごま」に
とても近くてもう目が離せません(^^)
186 名前:1450 投稿日:2002年09月12日(木)01時48分40秒
この先の展開が怖いです。でも目が離せない〜!
本当に、切なさ全開ですね作者さん。。。
187 名前: 投稿日:2002年09月13日(金)17時24分10秒
ごっちんの優しさをすごい感じます。
ここの読んであらためて実感しました。
やっぱ切ない系が好きです(w
188 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時34分35秒


 友達同士から、何気なく始まったよっすぃとの『恋人同士』という甘い関係
 は、彼女の心変わりによって呆気ない終末を迎えた。
 石川梨華17歳の初夏。 
 
 その後、よっすぃは矢口さんと改めて付き合い始めて、最初のころは顔を
 合わせる度に「ごめんね」って謝られたりもした。
 よっすぃに謝られるのは辛くって、矢口さんに謝られると情けなかった。

 それでも、時間は淡々と流れるんだ。


189 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時35分13秒

 ミュージカルが終わりに近付く頃には、大分失恋の傷も癒えていた。
 もちろん、そこまで立ち直るまで泣いた回数は知れないし、まだよっすぃと
 矢口さんが仲良くしているのを見るのは辛かった。

 「……ね。面白いでしょ、これ」
 「あはははは。本当だぁ〜」

 特に、矢口さんの隣りで、よっすぃが幸せそうに笑ってるのを見るのは……。

 一応あたしに気を遣ってくれているであろう2人が、あたしの目の前で公然
 と仲良くしているのは未だ見たことはないけれど。
 ステージ裏で、食堂の片隅で、自動販売機の陰で。
 2人が密やかに顔を寄せ合って親しげに話しているのを、あたしは何度も
 目撃していた。


190 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時35分56秒

 「…矢口さん、あの、今度のオフの日なんですけど……」
 「あ、その日なら夕方まで空いてるよ。どっか行こっか?」

 ( ………デート、するのかな…… )

 立ち聞きする気なんて元からないけれど、2人の声が聞こえてくると、自然
 にあたしの足は立ち止まってしまう。無意識のうちに聞き耳を立ててしまう。

 よっすぃのことは、まだ好きだった。そして、矢口さんのこともまた、違う意
 味で好きだったんだ、あたしは。
 最後の最後によっすぃに投げ掛けた言葉 ――― 『あたしも、矢口さんが
 大好きだからっ』 ――― それは精一杯の強がりだったけれど、偽りない
 本音だったのも事実だったんだ。


191 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時36分33秒

 けれど、だからこそ思わずにはいられない。

 あの場所にいたのはあたしだったのに。
 よっすぃの隣りは、あたしだけの特等席だったのに、って。

 矢口さんと話しているよっすぃの表情が、心から彼女を愛しく思っているの
 がはっきり伝わってくるほど嬉しそうで、充実しきっていて。
 本当に、あたしが入り込む余地なんてないってことを、実感させられる。

 ( 幸せ……なんだろうな )


192 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時37分15秒

 矢口さんもよっすぃも、心からの笑顔を浮かべているのだから、よっすぃの
 選択はおそらく間違いじゃなかったんだろう。
 そもそも「恋愛」において何が正しくて何が間違っているかなんて、一概に
 言うことはできないと思う………でも。


 でも、もう気にしないんだって決めた。泣いて泣いて泣いて、少しはすっきり
 したのかも知れないな。

 涙を流すことは、きっと人には必要な行為なんだ。
 過去を清算することなんて簡単には出来ないけれど、少なくともあたしには、
 思い切り泣いたことで、ある程度のけじめはつけられた気がするもの。


193 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時37分46秒

 もちろん、よっすぃのことは完全に吹っ切れた訳じゃなかった。
 でも、あたしが彼女に向ける好意は、諦めの感情が大部分を占めていた。

 ともかく、あたしの毎日は確実に過ぎていってるんだ。
 前を向こうって決めていた。


194 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時38分38秒

 「ね、梨華ちゃん、屋上いこっか。風が気持ちいいよ」
 「なにそれ〜、梨華ちゃん、見せて。アハハッ趣味悪〜い」
 「クッキー焼いてきたんだ。梨華ちゃん食べる? あ、こら辻ぃ!勝手に食
  べるなってー!!」

 そして、あたしの隣りにはいつもごっちんが。
 違うのは、そこにいたはずのよっすぃがいないというだけで ―――

 切なくなって、泣き出しそうになるあたしを、ごっちんは笑わせてくれた。
 くるくると表情を変えて辻ちゃんを追いかけるごっちんは、普段大人っぽい
 と評される実体とは全く異なり、年相応の幼さを見せていて。


 「ふふっ……あははは……」
 ――― 何だか、心が洗われるみたいに穏やかになるんだ。

195 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時39分10秒

 「なんだぁ」
 「え?」

 逃げ回る辻ちゃんを追い掛けていたごっちんが、急に立ち止まって思わず
 吹き出したあたしの方へ振り向いた。
 柔らかい笑顔を浮かべているごっちんは、悔しいけどとてもカッコよくて。

 「梨華ちゃん、ちゃんと笑えるじゃん」
 「………ごっちん」


 でも、やっぱりごっちんが側にいてくれたから。いつでも、どんな時も。
 たまに意地悪だけど、優しかったから。
 あたしには、まだ頼る相手がいたから。


196 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時39分43秒

 夜になっても何とか泣かずにいられるようになった時、やっぱり時間の流れ
 は残酷なほどに、全てを忘れさせる力を持ってるんだなぁ、なんて。
 いつか、何かの歌詞で聞いたような言葉を、実感するようになったんだ。
 
 この時、ちゃんと気付いているべきだったのに。
 
 ――― 時間が解決してくれたんじゃない、もっと大切な存在が、あたしを
 癒してくれたんだって。


197 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時40分19秒

 あたしは、鈍感だった。

 ……… 
 「よっし石川、焼肉でも食べに行くわよ!」 
 「やったぁー!保田さんの奢りですかぁ?」
 「バカ言ってんじゃないわよ、ほらさっさと仕度しなさい」
 「はぁい。2人で行くんですか?」
 「何よ、私と2人っきりじゃ不満だって言うの!?」
 「ま、まさかぁ〜嬉しいですぅ〜」


198 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時40分55秒

 あたしは、鈍感だった。

 …………
 「梨華ちゃん、ダンス上手くなったね。なっち、もう身体全然動かないもん」
 「いえいえ、あたしなんて〜。安倍さんの表現力、誰もかないませんよ」
 「またまた、梨華ちゃん口も上手くなったね〜」
 「安倍さんのご指導のおかげですー」
 「あはは、何それ、褒めてんのかい、けなしてんのかい?」
 「尊敬する安倍さんを褒めてるのに決まってるじゃないですかー」
 「っふふっ、面白いねえ、梨華ちゃんて」 


199 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時41分33秒

 あたしは、鈍感だった。

 ……………
 「石川ぁ、暇だったらちょっとそこまで買い物行かない?」
 「あっ飯田さん、待ってくださーい」
 「今日はどこ行こっかな。石川に合わせたらとんでもないとこ行きそうだし」
 「ひ、ひど〜いこと言わないでくださいよぉ!」
 「じゃ、まず喫茶店でお茶でもしようかね」
 「飯田さん、おばさん臭いです……」


200 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月13日(金)23時42分13秒


  あたしは………


 「梨華ちゃん、あのさぁ」
 「ごめんねごっちん、今からタンポポのラジオ撮りなのー!後でねっ」
 「……………そか」


 ――― 鈍感でした。



201 名前:いち作者 投稿日:2002年09月13日(金)23時43分39秒
 更新終了です。毎度のことですが、レスに励まされ続けてます。
 本当にありがとうございます!(そしてこれからもよろしくです^^)

 >>182 いしごま防衛軍さん
 毎回早い段階でのレス、嬉しいです。そうすか、19歳なんですか……
 レスからだと年齢って一切分からないものですね(年齢も)
 ようやくレス200にきて、本格的に石川さんと後藤さんの絡みが始まります。(遅っ)

 >>183 名無しごまたんさん
 ( ^▽^)<……もらい泣きしてくれたんですね!ありがとう!

 本編とは関係なく全然元気な石川さん。
 ……実験してみましたが、浮きますねえ、やっぱり(w
 
 >>184 名無し読者さん
 褒められています、後藤さん。石川視点なので、実際に後藤の出番は
 非常に少ない(と思われる)のですが、支持してくださって何よりです。
 この2人にしか出せない切なさを書けたらと思って頑張ってます。
202 名前:いち作者 投稿日:2002年09月13日(金)23時44分23秒
 >>185 名無し読者さん
 リアルに近いでしょうか?うわー、すごく嬉しい感想です!
 自分もメディアから推測するいしごまの雰囲気から想像を膨らませて書い
 ていますので…。また読みに寄ってくださると嬉しいです。

 >>186 1450さん
 この先の展開ですか……怖いですかね、やっぱり過去形は(w
 なるべく早めに更新したいのですが、書いてるとテンションが下がってきて
 しまうんですよね(ニガワラ

 >>187 @さん
 同時進行、お疲れサマです。いち読者としては、嬉しい限りなんですけど(w
 後藤さんはきっと優しいです。石川さんも優しいです。
 作者の脳内はそうなっているんです。すみません、単細胞っす(w


 感想をいただけて、毎回ウキウキしながらレス返しさせていただいてます。
 また次回の更新時に、どうかお付き合いいただけたら幸いです。

203 名前:1450 投稿日:2002年09月14日(土)02時29分51秒
あうぐぐぐ・・・梨華たーん!(涙
マジでごっちんの動向が気になります。大丈夫なのか、ハラハラ・・・
204 名前:ROM読者 投稿日:2002年09月14日(土)08時19分03秒
お初です。ずっとROMっていたのですが、いたたまれず出てきました。
ごっちん切ないですね。ごっちんは一見ク−ルにみえるけど実は人一倍
思いやりのある子だって裕ちゃんが言ってたのを思い出しました。
205 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月14日(土)09時03分58秒
これからごっちんの卒業がからんでくるんですね。さらに切なくなりそうですが、
更新ドキドキしながら待っていますよほ。梨華たんとごっちんどうなるのか気に
なります。がんがってください!!
206 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時10分25秒

 よっすぃとの「恋人」というつながりがなくなっても、あたしは普段と変わらぬ
 生活を送ることが出来ていて、それを、自分の強さと勘違いしていた。
 あたしの世界は、よっすぃだけじゃなかった。
 メンバーや仕事は、それを気付かせてくれた。

 なのに。
 1番あたしのことを心配してくれていたあの人のことを、ないがしろにして
 いたことに、どうしてもっと早く気付かなかったんだろう。

 ――――


207 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時11分12秒

 「梨華ちゃん、久しぶりに今日撮影早く終わりそうなんだぁ。渋谷でも遊び
  に行かない?」

 ごっちんに誘われるのは、大して珍しいことじゃなかった。
 別れた直後は、特に気を遣ってくれているものだと思っていたし、あたしも
 彼女を責めるようなことを言ってしまっていたから。

 意外と責任感があって、意外と人に気を遣うタイプのごっちんだから、あた
 しのことも義務感を感じてるんだろう、なんて軽く考えてた。
 
 だから、間によっすぃを挟むことがなくなるようになってから、あたしとごっち
 んの距離は前より縮まったように思えた。というより、確実にごっちんが、
 あたしに対して歩み寄ってくれていたんだ。
 
 でも、あたしはそれにちゃんと答えていなかった。


208 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時11分50秒

  「ごめんね、今日は先約あって。ラジオ終わったら、矢口さんとか保田さん
  たちと一緒に、ご飯食べにいく約束してるの。そうそう、中澤さんとも久し
  ぶりに会うんだぁ」
 「ふぅん……そぉか。じゃ、また今度だね」
 

 あたしがごっちんを誘うことはなくても、ごっちんはよくあたしを遊びに連れ
 出そうと誘ってくれてた。
 単純なあたしはそれを、彼女なりに傷心の自分を励まそうとしてくれている
 んだと、何の疑いもなく思い込んでいて。


209 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時12分26秒

 だから、別に相手がごっちんに限らずとも、誰かと遊びに行って、食事に
 行って、気を紛らわすことが出来ればいいや、くらいに思っていた。
 この機会に、お姉さんグループの保田さん達と、もっと仲良くなりたいなー、
 なんて考えていて。
 実際、保田さんから個人的に誘われることも多かったし。

 何度もごっちんの誘いを断ってた。なのに、ごっちんはいつも「じゃあしょう
 がないね」って穏やかに笑っていたんだ。
 気分を害した様子もないし、何も変わらないように見えた。

 少なくとも、その時のあたしの目には、そう映っていたんだ。

 …………


210 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時12分58秒


 「……後藤さん、一緒にプリクラ撮りにいきませんか?」
 「んぁー、紺野、珍しいね。じゃあいこっか、後藤も今日暇だし」
 「えへへ。ありがとうございます」 
 「あはははは。かわいいなー、紺野。ほっぺ触っていい? 」
 「は、はいっ。どうぞっ」
 「おぉ、思った通りやらかいねー」
 「ふふふふ。顔の丸さだけは、どんなに体重落ちても直らないんですよ」 

 ―――


211 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時13分32秒

 ミュージカルが終わってすぐ、新曲のレコーディングやTV・ラジオのレギュ
 ラー番組撮り、雑誌の撮影、とにかく娘。の仕事は絶えなかった。
 もちろん、それらが人気のバロメーターだってことは理解してる。
 だから、どんなにハードスケジュールでも、みんな弱音1つ吐かないんだ。

 それが、まだ芸能生活経歴1年の立場であっても。
 まだ、義務教育の終わらない中学生という年齢であっても。


212 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時14分12秒

 特に、ここ最近目覚ましい成長を遂げている少女がいた。
 五期メンバーとして加入した14歳の女の子、紺野あさ美。 
 元来、彼女は努力家で何にでも手を抜かない生真面目な性格なんだろう。
 
 つんくさん曰く“落ち零れ”として娘。入りを果たし、ダンスも歌も、最も遅れ
 たスタートラインに立っていたはずの彼女は、いつの頃からか新メンバー
 の中はおろか、娘。のメンバーの中でも独特のポジションを確立するまで
 に至っていた。

 他の新メンバーからしたら多少の嫉妬心などはあったとしても、彼女独自
 のオーラというか雰囲気には特異なものがあって。
 それは誰もが認めることだったと思う。

 特に、ミュージカルでの主役という大抜擢は、少なからずメンバー全員に
 衝撃を与えていたし。けれど、その役柄を見ても、紺野以上のハマリ役が
 いるかと言ったらそれは愚問だ。


213 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時14分43秒

 “真面目”で“努力家” ――― そんなフレーズが素直に当てはまるのは、
 きっと紺野あさ美以上の適役はいない。だからこそ、紺野の大抜擢に対し、
 批判的なメンバーはいなかった。(あたしの見る限りでは)
 
 「あの、後藤さん。ここ歌のハモリなんですけど……」
 「どした、紺野? 分からない?」
 「はい、ちょっと……」
 「そ。じゃあ一緒に練習しようか。今日時間ある?」
 「はいっ! ありがとうございます!」

 ――――

214 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時15分13秒

 モーニング娘。というアイドルには珍しい大所帯のグループの中で、図らず
 も彼女は他の新メンバーよりも数歩、抜きん出た存在になっていて。
 そのモーニング娘。の中で元より「抜きん出た存在」であった彼女 ―――
 「ごっちん」こと後藤真希その人と、紺野がよく喋っているのを、最近では
 よく見かけるようになっていた。
 ( 最も、1番特別な存在であるのが安倍さんであるのは、言うまでもない
   けれど )

 「……でさ、これがこうなるワケよ。分かる?」
 「はいっ。さすが後藤さんですね」
 「っていうかさあ、紺野って飲み込み早いねえ。後藤感心しちゃうよー」


215 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時15分53秒

 ごっちんは元々、来る者は拒まない性格だった。その上、2度目となるメン
 バー追加にもあたし達よりずっと、余裕を持って接していたから。
 「新メンバーが可愛い可愛い」って言っているのは、何度も耳にしていたし。 


 失恋のショックから大分時間が経ち、あたしはもう、立ち直れたと思ってた。
 けれど、今度は別のことが気になり出したんだ。
 ごっちんが、時折見せる神妙な表情。
 紺野がごっちんに向ける、明るい笑顔。妙に女っぽくなった眼差し。

 ――――
 ―――


216 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時16分30秒

 あたしがよっすぃと別れるまでは、そこまで気にしていたわけじゃなかった。
 そう、強いて言うならば、ミュージカルの時、ごっちんの相手役に選ばれた
 紺野の視線が、何だか熱っぽいなあ。
 ……そんな風に、考えていた程度だったけれど。


 それでも、彼女が新メンバー、特に紺野を相手にする機会が増えると、必然
 的にあたしとごっちんが一緒にいる時間は減っているはずだった。
 でも。そうじゃなかったんだ。
 
 どんなに仕事が忙しくても。どれだけ丁寧に、年下のメンバー達の相手を
 していても。ごっちんはいつでも、あたしに話し掛けてきてくれていて。
 気が付いたら、すぐそこにある穏やかな瞳。
 陽だまりのような温かさを持った、柔らかな空気。


217 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時17分07秒

 少しでも距離を感じると、急に怖くなる。
 その心地よい空間を手放すのが惜しくなる。

 …………
 あたしは、汚い。ずるい。醜い。……最低。

 ごっちんは、何があってもあたしに対する気遣いを忘れていないのに、少し
 彼女が紺野と話していたりするだけで、どうしようもなく気になってしまう。
 紺野に笑いかけているのを見ると、落ち着かなくなるんだ。
 

 「ねえ、昨日ごっちん、紺野と遊びに行ったの?」
 「んん、そぉだよ。なんで梨華ちゃん知ってるの」
 「……別に……ちょっと、聞いただけ……」
 「あらぁ、梨華ちゃん、ヤキモチ?」
 「どうして、あたしがごっちんにヤキモチ妬かなきゃいけないのよぉ!!」
 「大丈夫だよ、加護と高橋も一緒だったし」
 「だから、聞いてないじゃないそんなことっ!」
 「冗談だってばー」


218 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時17分47秒

 ………
 ごっちんは、簡単にそれを「冗談だ」って切り捨てていたけれど。

 本当は、冗談なんかじゃなかったかも知れない。
 でも、あたしは密かに芽生え始めた自分の感情に否定的だった、認めたく
 なかった。気付いたらいけないと、本能的に感じていた。

 自分は、ごっちん以外のメンバーと平気で遊びに行くのに、ごっちんがあた
 し以外の子と遊ぶのが嫌だなんて、思っても口には出せるわけがない。
 だけど、ごっちんはあくまで、あたしにだけ優しくして欲しかったんだ。
 
 大事にされたかった。
 誰かの「特別」でいたかった。
 その相手がごっちんなら、きっと誰より優越感を覚えることが出来るから。


219 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時18分27秒

 独占欲が強いんだ。
 ごっちんに対して抱く感情はあくまで「友情」だと言い張りながら、あたしは
 彼女が離れていってしまうことを、酷く恐れていた。
 友達なら、ごっちんだけじゃなかった。けれど。
 

 ――― “独り”は嫌い。とても怖い。


220 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時19分01秒

 もう、辛い思いはしたくなかった。
 「恋」という感情に縛られなければ、ごっちんはとても友達思いの大事な友
 人兼仲間として、付き合っていけるんだ。

 ごっちんは、相変わらずあたしに対して友好的だった。むしろ、どこか違和
 感を覚えてもおかしくないくらい、優し過ぎるくらい優しくなっていて。
 

 「心配しなくても、後藤は梨華ちゃん最優先の人生だよー」
 「やぁだ、何それごっちん、愛の告白じゃない。大体あたし、心配なんかし
  てないもんっ」
 「……僕には分かーる。石川さん、僕はキミのことが……」
 「ぷっ、あははははっ」


 どうしてその時、分からなかったのか。
 あたしは、自分の能天気さに、ほとほと嫌気が差してしまう。どこまで、あた
 しはごっちんに甘え切っていたのだろう。


221 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時19分41秒

 「ねえ、ごっちん。もし、本気で紺野に告白されたらどうする?」
 「えー?」
 「小川とかぁ、そうだ、高橋もごっちんに憧れてたっぽいこと言ってたよね」
 「……梨華ちゃん、顔が超楽しんでるよ…」

 あの時、冗談っぽくそう聞いたのは、それが現実に起こり得ないことじゃな
 いと、考えていたから。どう考えても、紺野の顔が、最近は「恋する乙女」
 に変化していることに気付いたから。

 あくまで、本気じゃない口調で。いつでも、それを笑い飛ばせるように。

 だから、口ではごっちんを「友人」だと定義付けしても、密かに彼女に近付く
 他人を見張っていたのだとも言える。
 ……卑怯だね、あたし。
 それを、考えなしにやっていたのだから。どれだけ、そういった類の質問が、
 ごっちんを悩ませていたんだろう。困らせていたんだろう。


222 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時20分42秒

 ――― でも、ごっちんは笑ってたから。
 
 「そんなの、有り得ないよー」
 
 ごっちんは、笑っていたから。
 
 「でも、もし本当に言われたら……んー、『僕には石川さんが』、なーんて
  断っちゃおうかな、んはははは」
 「もぉー、それじゃコントになっちゃうじゃない。あたしが言ってるのは、本気
  で告白されたらって話だよ」 

 だって、ごっちんは笑ってくれていたんだもの。


 「……絶対……ないって、そんなこと」

 …………


223 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月15日(日)19時21分28秒

  
 ――― あたしは、救いようがないくらい、鈍感でした。
 その笑顔の裏で、ごっちんがどれだけ傷付いているのかなんて、感じ取る
 ことすらしなかった。
 
 ポーカーフェイスが上手だったことさえ、彼女なりの心遣いだったのに。



224 名前:いち作者 投稿日:2002年09月15日(日)19時22分23秒
 本日の更新終了です。
 どんどん暗くなっているとの突っ込みはどうか勘弁してください…(汗

 >>203 1450さん
 どうなってしまうのでしょうか、石川&後藤。この話はリアルのくせに登場
 人物が少ないので、少し世界観が狭い気がするんですよね。
 そろそろ増やしましょか…(by つんく)

 >>204 ROM読者さん
 お初です!感想いただけて嬉しいです。中澤姐さんは、やっぱり大人な分
 だけ他のメンバーよりも広い視野で物事を見ている感じがしますね。
 そしてその指摘は大正解……だと思ってます。(後藤は思いやりあるでしょう)
  
 >>205 いしごま防衛軍さん
 頑張って早めに更新してみました。今後の展開は石川の頑張り次第になる
 かも知れませんね。まだ何とも言えませんが。
 後藤と石川の2人だと、どうにも暗くなって仕方ないです(w

 それでは、また次回の更新時に。
225 名前: 投稿日:2002年09月15日(日)21時04分27秒
続きが気になりますね。すっごく。
いしかーさんが気づいたときごっちんに
どう接するのか。楽しみです。
226 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月15日(日)22時31分57秒
ごっちんの卒業というのがありますからね。どんどん切なくなっていきますね。
更新楽しみに待っています!!
227 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月15日(日)23時45分38秒
後藤と石川だけでも全然暗くないっすよ〜
ただただ、ひたすらセツナイ・・・
続き楽しみにしてます。
228 名前:ROM読者 投稿日:2002年09月16日(月)00時03分25秒
内面の描写がすごくリアルっぽいですね。読んでるうちにごっちんに
感情移入して、涙目になってました。来週の今ごろはもっと泣いてい
るかも・・。
229 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月16日(月)08時13分59秒
…切ない〜。
NANAみたいですね。
すごい好きです、このお話。
続きたのしみです。
230 名前:名無しごまファン 投稿日:2002年09月16日(月)13時12分03秒
みんなみんな切ない…
中でもごっちんが一番切ない…
涙こらえながら読んでます。頑張ってください!
231 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
232 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年09月17日(火)00時15分19秒
あぁ〜。オイラ、何気にごまこんも好きだから複雑です(笑
でも、ごっちんには幸せになってもらいたい。
そして、ごっちんを幸せに出来る人は一人しかいないんでしょうね。
ただ続きを待つのみです。ガンバッて下さい。
233 名前:231 投稿日:2002年09月18日(水)00時05分28秒
すみませんっ!
誤爆してしまいましたっ!
削除依頼しておきましたので!
スレを汚してしまって真に申し訳ありませんでした!

234 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時12分01秒

 “魂が震える瞬間”っていうのは、本当にあるんだね。 
 あたしはそれを、17年間生きてきて初めて、知ることになった。

 何気なく過ぎていく日常。何も変わらないと思っていた風景が、ある日突然、
 全く違うものに見えて。世界観が変わった。
 きっと、それは一般的に言えば「恋」なんて言葉で片付けられてしまうんだ
 ろう。けれど。


 「………僕には分かる」
 「…文麿さま……」


235 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時12分40秒

 あたしにとって、それは今まで経験してきた「恋愛」という感情とは違う、価
 値観をもっているように思えた。
 自分が培ってきたもの。築き上げてきたもの全てが、意味のないものの様
 に思えたんだ。何故なら、それらは全てその「出来事」とはまるで異なる経
 験だったから。

 ――――
 
 「カット、カーットぉ!! 石川さん、照れないでちゃんと顔上げてやって!!
  それじゃ表情が全然見えないでしょ!」
 「すっ、すみませーん…」

 それは、何度目のNGだったんだろう。番組ディレクターさんの強い叱咤の
 声が飛んで、あたしは米搗きバッタみたいに何度も頭を下げていた。
 困惑気味なスタッフさん達の空気が重い。


236 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時13分16秒

 「何で今さら……」
 皆の、そんな心の声が今にも聞こえてきそうな雰囲気だった。
 あたし達モーニング娘。のレギュラー番組の中では最も古い「ハロモニ」の
 企画の1つである学校コントが始まったのは、もう半年以上も前の話になる。

 最初のうちは、当然慣れない撮影に戸惑い気味で、カットがかかることも
 ざらだった。連続のNGだって、大して珍しいことじゃなかったんだ。

 でも、今更新人みたいなNGを連発するのは、さすがに笑って済ませられる
 ことじゃない。そして……。
 原因なら分かってる。全部、あたしが元凶。

 この日のあたしの演技は散々だった。
 台詞が出て来ない。
 アドリブが全く浮かばない。
 体が動かない。笑顔が作れない。

 「ねえ、梨華ちゃん大丈夫? マジで、体の調子悪いんじゃないの?」
 「へ、平気っ!平気だから、ごっちんは気にしないでッ!」


237 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時13分47秒

 ごっちんは、いつもの通りの態度で、相変わらずあたしのことをしきりに気
 にしていてくれたのだけど。
 何故か、あたしはそれが無償に嫌で、嫌で。

 違う、ごっちんは悪くないんだ。ただあたしが、こんなみっともない自分を、
 彼女に見られたくなかっただけ。あたしの内心の混乱を招く根元は、その
 他でもない後藤真希、その人だったのだから。

 ごっちんに、肩に腕を回されるのなんて恒例のこと。
 見つめ合うのだって、少し照れが入る程度だったのに。

 
 ( おかしいよ、こんなの…… )
 ( どうしちゃったの、あたし……? )


238 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時14分21秒

 自問自答しても、明確な答えは導き出せない。
 ごっちんの顔を、まともに直視できない。
 ごっちんの声を聞くと、動悸が早くなる。
 触れられると、硬直したみたいに動けなくなる。

 そんなこと、初めてだった。ごっちんは、友達だった、だったんだ、絶対に
 それ以外でもそれ以上でもなかったはずなのに ――― 。


 「恋愛」が始まるときは大抵、最初に何らかのインスピレーションを感じる
 ものだと思っていた。それは小学生のとき、クラスの男子に初恋したとき
 もそうだったし、中学生のときサッカー部の先輩を好きになったときもそう
 だったし、初めて ――― そう、初めて“女の子”であるよっすぃこと、吉澤
 ひとみ、その人を好きになったときも、初めから気になる存在だった。


239 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時15分01秒

 でも、ごっちんは違う。
 ごっちんは、最初から絶対なる「友人」というポジションだったはずなんだ。
 辛いときは側にいてくれて。
 愚痴1つ零さず、悩みを聞いてくれる。
 そんな彼女を相手に、まさか恋愛感情に似た気持ちを持ってしまうなんて。


 どうしたらいいのか分からなくなった。
 嫌な部分を、たくさん見られているごっちんに、今更いい格好なんてしたって
 意味がないって思う。
 けれど、駄目なんだ。思うように体が動かないんだ。

 「ねえ、梨華ちゃん。……ちょっと休憩もらったら? なんか今日、変だよ」


240 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時15分36秒

 ――――
 ごっちんの横顔が、こんなに綺麗だなんて気付かなかった。
 ごっちんの声が、こんなに心地良く響くなんて知らなかった。
 ごっちんの存在が、こんなにあったかいなんて、思わなかったんだよ。


 その真っ直ぐな目で見つめられる度に、あたしの中から何かが抜け落ちて
 ゆくような錯覚に捕らわれる。
 酷い焦燥感に駆られる。
 おかしいよ、こんなの、絶対おかしい。

 「友達」に対してこんな思いを抱くなんて有り得なかったはずで。
 あたしの、人間として未熟な部分、汚い部分を多く目にして来たであろう
 ごっちんが、あたしに対して軽蔑に近い感情を持っているんじゃないか、
 なんて不安まで込み上げて来る。


241 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時16分07秒

 好かれているはずがない。こんなあたしが。
 だったら、この気持ちはどうすればいい?

 ( 恋じゃないよ、こんなの、恋じゃない……絶対 )


242 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時16分43秒


 ――― ごめんね、梨華ちゃん。ウチ、矢口さんが好きなんだ。やっぱり


 思い出す、よっすぃの別れの言葉を。
 そうだよ、「恋」ならいつかは終わりが来てしまうでしょう?
 でも、「友情」なら、きっと切れることはないよ。だって、ごっちんはこんな
 あたしの側に、いつでもいてくれたじゃない。

 具合が悪いときだって気にしてくれていたし、新曲のレッスンだって付き
 合ってくれたし、失恋した夜だってずっと一緒にいてくれたし。
 それらは全て、あたしを「大事なメンバー」として見ていてくれたからなの
 は、おそらく間違いないんだ。

 “誰に対しても優しい”ごっちんだから、その延長であたしにも優しくしてく
 れているんだろう。
 考えていたのは、そんな事ばかり。


243 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時17分24秒

 だってそうでなきゃ、あたしはとっくに愛想を尽かされていておかしくない。
 自分がどれだけ嫌な女だったか、少なくとも今なら考えることが出来たし。

 
 だから、絶対にこの感情をあたしは認めてはいけなかった。
 失恋した直後に、気になる人が出来てしまったことが、何故か不誠実な
 人間であるような思いがしていたっていうものある。

 一途な自分でありたかったんだろうか、あたしは。
 まったく、どれほど愚かだったのだろう。卑屈になっていたんだろう。


244 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時18分00秒

 「じゃあ、初めからお願いしまーす」
 「お願いしまーす」

 「……梨華ちゃん、気にしないで、頑張ろうね」
 「うん……」

 どれだけ自分が、周りに迷惑をかけているのか。
 それこそ、時間に追われる自分をサポートしてくれているスタッフを始めと
 した回りの人達を、あたし自ら足を引っ張っていることが悔しくて。
 私事で仕事に影響を及ぼす自分が情けなくて ―――

 ごっちんの顔が、益々見れなくなった。
 どんな表情であたしを見ているのか、知るのが怖かった。

 呆れられてたらどうしよう。怒っていたらどうしよう。
 そんなこんなで、悪循環。

 「カットカットカーットぉ!! 石川さーん」
 「すみません、すみませんっ……!」
 「ほんと、頼むよ石川さん。終わんないよー今日中に」
 「すみません、ごめんなさい……本当にごめんなさい……」


245 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時19分11秒

 結局、ごっちんとの絡みのシーンは何一つまともなカットが撮れないまま、
 あたし1人のせいで撮影が一旦中断されることになった。
 溜息を付きながら三々五々散っていくスタッフの人の後ろ姿がとても疲れ
 きっているのが伝わって、居たたまれなくなる。

 「ねー、梨華ちゃん」
 ( ……ごっちん…! )

 そんなあたしを見かねたんだろう、案の定ごっちんが、あたしに話し掛けて
 来たんだ。いつもなら、笑ってごまかせた筈なのに。
 この日のあたしは、変だったから。
 必要以上に、ごっちんを意識してしまっていて。ちゃんと、正面から向き合
 うことが出来なくて……。


246 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時19分56秒

 何故、急にごっちんが気になり始めたのかも分からない。
 もしかしたら、もうずっと前からあたしの中に芽生えていた気持ちを、初めて
 実感したのかも知れない。
 或いは、本当にその日突然、彼女を「恋愛対象」として意識し始めたのか
 も知れない。

 ともかく、どんな理由であれ、あたしが後藤真希というメンバーを相手に、
 どうしようもなく動揺してしまっていたのは事実。
 意図的に、彼女と距離を置こうとしていたのも事実。


 「梨華ちゃん?あのさー…」
 「…………」
 ( お願いごっちん、放っておいて! )
 
 懇願に近い思いが、胸を締めていた。


247 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時20分37秒

 これ以上ごっちんと一緒にいたら、あたしは間違いなく大失敗をやらかして
 しまうんじゃないかって杞憂を抱えて。
 当然、それはごっちんの責任なんかじゃ少しもないとしても、不器用なあた
 しに、他に方法なんて思いつかなかった。

 「ちょっと、聞いてんの、梨華ちゃ ――― 」
 聞こえない振りをしようとしたあたしにお構いなく、ごっちんは少し声を荒く
 して、あたしの手首を掴んだ。( ……やっ…! )
 心の準備もなしにいきなり触れられて、心臓が、跳ね上がる感じがした。 
 
 「……っ!」
 

 瞬間、あたしは思い切り、それを振り払っていた。
 ごっちんの顔を見ないようにして、無言のまま、全力で手を払い退けていた。
 

248 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時21分48秒
   
 パンッという、乾いた音が響いて。
 あたしはそれを、とても遠くに聞いた気がした。
 彼女に掴まれた部分が、火を持ったように熱くて、顔が真っ赤になっている
 のがバレるのが怖くて。触れ合った肌が温かいのが、妙に照れ臭くて。

 頭の中が真っ白になりながら、その温もりだけは感じていたんだ。

 「……梨華…ちゃん」


 ……でも。
 思うんだ、ごっちんも、それを同じように「温かい」って感じたのかなって。
 きっと、そんな風に感じるはずがないよね。反対に、氷のように冷たく感じた
 のに決まってる……。
 だって、あたしは最低なことをしたから。

 「……梨華ちゃん……?」


249 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時22分28秒

 おそるおそる、あたしの名前を呼んだ声。
 呆然と、呟くように吐き出されたごっちんの声。 
 ――― 泣き出しそうな笑顔で放った彼女の声が、今でも耳に焼き付いて
 離れないんだ。
 お母さんに怒られた子供のように怯えた声で、あたしを呼んだその声が。
 
 ( 見ないで、あたしのこと、見ないで…っ )
 彼女に呼び掛けられたのをまるっきり無視する格好で、あたしが取った行
 動は、人として、絶対にやっていはいけないことだっただろう。

 「梨華ちゃ…」
 「あっ、保田さんっ、あのっ、ちょっと話が」
 「何よ、石川?」
 「……………」

 たまたまその場に居合わせた保田さんを見つけて。怪訝な顔で振り向く
 保田さんに、あたしは勢い任せにその腕にしがみ付いていた。
 ごっちんの前から離れたかった、ただそれだけ。それ以上、自分の醜態
 を晒したくなかった、ただそれだけ。


250 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時23分10秒


 “ただそれだけ”の行為が、どれだけごっちんの心に傷をつけたのか。
 ――― 考えたこともなかった。

 『梨華ちゃん…?』


 咄嗟とはいえ、振り払ってしまったごっちんの手。
 いつでもあたしに差し出されていたごっちんの手を、あたしは無視したんだ。
 結果的に、その行為が意味するものは ――― “拒絶”。 


 本当は望んでいたのに。
 誰よりも、あたしは彼女が側にいてくれることを望んでいたのに、ただ自分
 への嫌悪感から、あたしはおそらく一生後悔するであろう行為を、した。


251 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時23分42秒

 あたしにとって、ごっちんはあんまり眩し過ぎて。対等に向き合うことに、引
 け目を感じてしまったんだよ、なんて、言い訳に過ぎないね。
 そしてごっちんが、そんなことを気にしない人だってことくらい知ってたけど。

 そんな風に優しいごっちんを、あたしは拒んでしまった。
 素直に頼るべきだったのに、振り切ってしまった。
 いつでもあたしは、自分のことばかり考えて、相手の気持ちを思いやった
 ことなんてないんだ。 

 「…………」
 
 あの時、一瞬だけ振り向いて見たごっちんは俯いて。
 ギュッと、唇を噛み締めているように見えた。
 あたしが振り払った手を、じっと見据えるようにして、彼女は俯いていた。
 ( ……何で、あたし……あたし……? ) 


252 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時24分24秒

 ………ごっちん。
 あの時あなたは泣いていたの? 唇を噛み締めて、堪えていたの?
 ――― 胸を、ぎゅっと鷲掴みにされたようなショックを、初めて受けた。
 ( ごめ……… )

 「石川、どうしたのよ。後藤とケンカでもした?」
 「………んでも……ないです…」
 「ちょっと、石川」
 「何でもないです……ッ!」

 激しい後悔の念が、怒涛のように胸を過った。本当は、それを大きく声に
 出して言っていれば良かったのに。もう、全て後の祭りだった。
 それ以上、ごっちんの姿を見ていることが出来なかった。

 何で無視するのって、怒ってくれた方がよほど気が楽だったと思う。
 笑いながら、仲間に入れてよーって話し掛けてくれてきたら、何のわだか
 まりもなくはしゃぎ合えたと思う。


253 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時25分02秒

 ………そうやって。
 何故、どうしてあたしはいつもいつも、ごっちんにばかり多くを望んでしまう
 のかな。ごっちんなら、何でもしてくれるなんて勘違いしてたのかな…。


 息がつまりそうになって、保田さんにすがりつく腕に、強く力を込めた。
 ( ごっちん、ごめんなさい…… )

 あの日から、あの瞬間から、あたしはずっと深い後悔に襲われたんだ。
 ごっちん、あたし、後悔し続けているんだ。本当だよ?

 ――― もし、神様がいて。
 1つだけ、あたしのわがままを聞いてくれるなら。あたしはそれを望むのに。
 もし、神様が気まぐれにでも。
 自分の傲慢さを改める機会を与えてくれるなら。あたしは迷わず、あの日
 に戻ることを選ぶのに。


254 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時25分43秒

 俯いていたごっちんに言いたいんだ。
 「ごめんなさい」。

 「ごっちん、ごめんね」「ごっちん、ごめんね」、「ごっちん、ごめんね」………

 あの時ごっちんが泣いていたのなら、あたしはその涙を拭ってあげたい。
 震えていたのなら、抱き締めてあげたい。 

 彼女の弱さを、ちゃんと理解してあげたいんです。

 ………… 


255 名前:5  stupid girl 投稿日:2002年09月18日(水)20時26分16秒


 絶対に叶わぬ望みだからこそ、後悔は募るばかりで。
 ねえ、ごっちん?
 こんな愚かなあたしだけど、あなたは絶対に責めたりしなかったね。
 こんな愚かで、どうしようもなく鈍感なあたしだけど。

 それでもまだ、ごっちんは。こんなあたしが、あなたの側に居続けることを。
 笑って許してくれるのかな ―――




256 名前:いち作者 投稿日:2002年09月18日(水)20時28分33秒
 更新しました。昨夜のMU○IX!を見て、何だか妙なイライラを覚えたのは
 自分だけでせうか…。まるで視聴者のツボを心得てねえ……!!(心の叫び)

 >>225 @さん
 ひたすらネガティブ思考で突き進んでいる石川さんですが、そのうち何らか
 の行動はするでしょう…(でないと話が進まないのでw)
 @さんもお話を書くのに忙しいでしょうに、毎回レスくださってありがとうございます。

 >>226 いしごま防衛軍さん
 気付けば後藤卒業特番が目白押しになっているじゃあ〜りませんか(w
 いつも思うのですが、後藤の涙は非常に胸にぐっときますね。
 このままどんな展開になるのやら…

 >>227 名無し読者さん
 暗いのではなく、切ないのですね…良かった、フォローありがとうございます。
 続きを楽しみに待ってくださるとのことで、本当に嬉しいです。
 またこんな内容で更新してみましたが、いかがでしょうか。 
257 名前:いち作者 投稿日:2002年09月18日(水)20時29分23秒
 >>228 ROM読者さん
 石川視点ですが、後藤に感情移入されたということで、書き手としては石川
 の1人よがりになっているのが不安だったのですが、とりあえず少し安心
 しました。来週は……おそらく私も泣いてます (ノД`)・゚・。

 >>229 名無しさん
 NANAのような完成度の高さは自分にはとても無理ですが、作品の雰囲気
 としてあんな風な切なさを出していけたらと思っていたので嬉しいです。
 (しかし、後藤の卒業がリアルで間近に迫っているため、微妙に鬱です;)

 >>230 名無しごまファンさん
 ああ、後藤の応援者がここにもまた1人……。なんだか後藤さん、本当に
 ひたすら我慢の人になっていますね(w  
 もうしばらくの間、またお付き合いいただければ幸いです。  

 >>232 名無しごまたんさん
 ごまこんですか…あまり見かけないですが、自分も好きです、実は(w
 あのマターリマターリとした空気は(ry   昨日のMU○IX!でも一瞬
 ごまこん花火シーンが映りましたねえ。(いしごま書いてるのに…)
258 名前:いち作者 投稿日:2002年09月18日(水)20時30分49秒
 >>231・233さん
 お気になさらずに……。一緒の板で書いてる物書き同士、頑張りましょう! 

 たくさんのレスをいただけて、本当に感謝の一言に尽きます。
 書き始めて1ヶ月が過ぎましたが、もうしばらくの間、書かせていただきたい
 と思いますのでよろしくお願いします。

259 名前:kattyun 投稿日:2002年09月18日(水)21時00分15秒

なんかとても切なくて、お話を食い入るように見させて頂きました。
素晴らしいですね。二人には幸せになって欲しいです。
260 名前:1450 投稿日:2002年09月19日(木)09時19分31秒
やばいです、読みながら泣きそうになっちゃいましたよ。
ごっちんの心情を考えるとめちゃめちゃ切ないです。
梨華たんもまた、自分の新たな気持ちに気付き始めてるんですね。
早く素直になって、二人に幸せが訪れることを祈らずにはいられません。
261 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月19日(木)10時37分40秒
なんとも言えないこの切なさ。うーーーーーーーはやく幸せになってほしい!!
固唾を飲んで見守るしかないです!!がんがってください!!
262 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
263 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月19日(木)19時04分34秒
ごっちん頑張れ!!
文句一つ言わないごっちんがいつか壊れてしまいそうで怖いです。
毎回更新を楽しみに待ってます!
264 名前:コウ 投稿日:2002年09月21日(土)22時08分24秒
梨華ちゃん、自分の気持ちに素直になって・・・。
ごっちん、ずっと梨華ちゃんを好きでいて下さい。
切な過ぎです。はまり過ぎです。
涙が止まりません。
265 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年09月22日(日)01時49分56秒
梨華ちゃん、素直になってくれよぉ…。切ないよぉ。
過去を振り返る独白が、いつも切なくてツボです。
ちなみに・・・MUS○X
オイラも同じシーンで、一瞬萌えてますた(笑
266 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)22時57分49秒


 「梨華ちゃん、ちょっといい?」
 「ごっちん……」

 
 ちょっと時間がある?なんて、軽い調子で声を掛けてきたごっちんと、あた 
 しは屋上へ来ていた。
 もうすぐ7月半ばにも差しかかろうかという時期、強い日差しの照りつける
 屋上は、立っているだけで汗を掻いてしまうくらい、暑かった。

 それでもまだ、その日はいくらか風があって。
 長い艶やかなごっちんの髪が、風に吹かれてサラサラと靡いているのが、
 今でも強く印象に残っているんだ。

 極力、あたしはごっちんを目を合わさないようにしていた。
 客観的に見たら、それは不自然極まりない構図ではないかと思うけれど、
 ごっちんは何も言わずに。


267 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)22時58分32秒

 ――――

 「随分さあ、明るくなったよね、梨華ちゃん」
 「え、そぉかな?」
 「そうだよー」
 どこか、ごっちんの態度がぎこちないことには気付いていた。けれど。

 この頃のあたしは、自分に余裕が無くなってきたことを自覚していて、自分
 の感情を制御することにいっぱいいっぱいになっていて。
 正直、ごっちんと2人きりでいることに、息苦しささえ感じるような状態で。
 ――― 失恋直後の、ボロボロに傷付いてた時よりも、酷い状態だったかも
 しれない。

 だから、ごっちんが指しているのは失恋直後の状態よりも、“立ち直った”
 ってことなんだろう。
 実際に、あたしがよっすぃを見つめる機会は減っていたし、矢口さんと2人
 でいるところを見ても、心が荒れ立つことはなくなっていた。


268 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)22時59分10秒

 でもね、―――― 違うんだよ。
 今度は、違う人が、気になってしまっているんだよ。

 それを口に出すのは憚られて、あたしは押し黙っていた。 


 背中を手摺りに寄り掛からせて、ごっちんはあたしの方を向いていたけれ
 ど、強い逆光のせいで、その時の彼女の表情は見えなかった。
 明るい日差しを目一杯に浴びて、風を受けてあたしの目前に佇むごっちん
 が、何故かとても遠い存在に映って。

 ――― 何で?


269 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時00分23秒

 酷く、緊張している自分がいた。暑さに対するそれとは違う汗が、背中を
 伝って落ちて、鳥肌が立った。( 何で? ) 
 「……ねえ、ごっちん……」 


 「もう、大丈夫だよね。後藤なんて、いなくても」


 沈黙に耐え切れずに口を開いたあたしの言葉を遮って。
 それは、小さな溜息とともに、唐突にごっちんの口から零れ落ちた。

 「えっ……?」
 「梨華ちゃん、もともと社交的だもんね。もう、1人で平気だよね」
 「……ごっちん……?」

 何を言われてるのか、瞬時にあたしは理解することは出来なかった。
 ただ、頭の中を疑問符ばかりがぐるぐる回っていて。
 彼女の言葉の意味を。淡々とした口調の意味を。考えようとしても、思考
 回路がストップしてしまったかのように、何も考えられなかった。


270 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時01分04秒

 「どういう……こと?だって、ごっちん、あたし達、仲間じゃない。友達……
  でしょ?ずっと、メンバー同士として…」

 ―――
 当たり前のはずなんだ。
 変わることなんてないんだ。だって、あたし達は仲間じゃない。
 モーニング娘。ってグループのメンバー同士じゃない。

 瞬間、市井さんや中澤さんの姿が脳裏を過った。そんなに親しい間柄じゃ
 なかったはずなのに、この時は何故か、瞬時に2人の姿が蘇ったんだ。
 不思議な話だけど、本当に。


271 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時01分34秒

 サラサラ。
 サラサラ。
 ごっちんの髪が、明るい太陽の日差しを受けてちらちらと光って見えた。
 穏やかな風が、彼女の髪を絶え間なく揺らしている。
 眩しさのあまり目を細めていたあたしの顔は、ごっちんを睨んでいるように
 も見えたかもしれない。

 「ごっちん、嘘でしょ? まさか……」
 それは決して、よい兆候じゃなかった。
 よっすぃに別れ話を切り出されるときより、緊張していたかもしれない。
 日差しがきつい。
 喉が渇く。

 逃げたい。この場から、逃げ出してしまいたい。…真剣にそう思った。


272 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時02分10秒

 市井さんと、中澤さんに共通すること。
 そして、どこか思いつめた表情のごっちんが、今から口にしようとしている
 こと。認めたくはなかったけど、あたしは気付いてしまった。


 あたし達、モーニング娘。にいつもついて回る“噂”。そしてそれは、時に
 単なる噂などではなく、現実の出来事として何度も起こってきた。実際に
 あたし自身が体験したそれは、まだ2度だったけれど。
 『ねえ、卒業の噂、出てるよ?』 
 ――― 不安そうな、加護ちゃんの問い掛け。

 『そんなん、しないよー』
 ――― いつもの微笑を浮かべて、おっとりと答えた彼女。
 頭を撫でられて、嬉しそうに加護ちゃんは笑っていたっけ………。


273 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時02分44秒

 でも、まさか。
 『ソロでやってきたいって希望はないの?』
 『そりゃありますよー。でも、娘。のメンバーなら多分、みんな少しは思って
  るんじゃないですかね』
 『今のところ、その予定は?』
 『…今は…まだ……』
 ―――― 

 まさか、まさか、まさか。
 嘘でしょう? ―――― そんなの、嘘でしょう?


 「娘。をね、卒業するんだ」


 ――――
 ―――――


274 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時03分19秒


 頭に浮かび掛けた仮定を必死に打ち消そうとするのを、頭から否定する
 その言葉。冷酷なまでに、あっさりと告げられた現実。
 無表情に近い淡々とした顔で、ごっちんは「それ」を口にした。


 …………。

 頭の中が、真っ白になった。


275 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時04分00秒


 「9月の23日……後藤の、17歳の誕生日なんだけど」


 ………… えぇ?
  

 「卒……業……?」
 「ごめんね、黙ってて」


 ―――― なん……。

 「何で……」

 そのショックをどうやって表現したらいいんだろう。
 息が止まる?心臓が止まる?
 ……そんなんじゃない、分からない、分からないけど………。


276 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時05分04秒

 「…はは……やだごっちん、そんな冗談……」
 我ながら、何て力の入っていない声なんだろうと、自分を苦々しく思った。 
 笑い飛ばすことでしか、あたしは答えることが出来なかったんだ。
 “うん、冗談だよ”

 すぐにでも、否定して欲しかった。
 信じたくなかった、信じられるはずがなかった。

 
  「もうすぐ、メンバー皆にも発表するんだ。でも、最初に梨華ちゃんに言って
  おきたかった。何か最近、情緒不安定っぽかったし。でも、心配すること
  なかったね。梨華ちゃんなら、大丈夫だ」


277 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時05分37秒

 動揺して掠れた声しか出せないあたしとは裏腹に、ごっちんの声は至極
 落ち着いた態度で、驚くほど冷静だった。
 目を伏せたまま淡々と語るごっちんは、決してあたしの方を直視しようと
 はしなかった。
 「嘘だよ……冗談でしょ、冗談だって………」

 ( 冗談だって言ってよ。……お願い、また、いつもみたいにあたしのこと、
   からかってるだけなんでしょぉ…? ) 

 凍りついたような空気とは裏腹に、照りつける日差しは強くて。
 うっすらと額に汗が滲む。ごっちんは、それでも汗1つ掻いていないように
 見えた。 相変わらず、彼女の表情は逆光で目にすることは叶わなかった
 のだけれど。

 「冗談なら。もっと面白いこと言いたいけど」
 苦笑混じりに呟いたごっちんが、不意に手摺りから離れると、足音も立て
 ずにあたしのすぐ側まで近付いて来たんだ。


278 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時06分09秒

 「ごめんね。後藤さ、面白いことってあんまし言えないんだ」
 
 いつもあたしをからかっていた時のような軽い調子じゃなかった。
 淡々としているように聞こえたのは、彼女が精一杯に、感情を押し殺して
 いたからなんだろう。

 そう思ったのは、不意にあたしを覗き込んだ彼女の目が、微かに潤んでい
 たように見えたからだった。

 無言でごっちんと見つめ合う。
 体が緊張して、強張って、全く動けなくなった。


 “最初に打ち明けてくれた” 相手が、あたしであること。
 そんなことに喜ぶ余裕がある筈もなく、ただただ、あたしは自分に襲い掛か
 る激しい脱力感と絶望感に打ちのめされていて。
 

279 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時06分44秒

 「………嘘…だよそんなの…」
 「……だから、ごめん」
 「どうして謝るのっ!?」
 「梨華ちゃん…」
 「だって、そんなの冗談なんでしょ!?いつもみたいに、あたしのことからか
  って遊んでるだけなんでしょ!?謝らないでよ、そんなの、だって…」
 「 ――― ごめんね」

 低いけれど、はっきりとした響きを持つ凛としたごっちんの声。
 
 「もう、決まったことなんだ」
 「……やだ、嘘でしょ、やだよ、冗談だって言ってよぉ……ッ」
 
 嘘でも、冗談でもなかった。
 ごっちんが放つ張り詰めた空気と、相反して穏やかささえ感じるどこか達観
 したような表情は、彼女が真実を述べていることを肯定していた。


280 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時07分35秒

 「……あのさ、梨華ちゃん。ちょっと聞いてくれるかな」
 
 微笑を浮かべながら、ごっちんはあたしからスッと離れて距離を置くと。
 どこか遠い目で、青い空を見上げた。
 その横顔は、大昔の彫刻のように整っていて、完璧な存在に思えた。
 口答えすることなんて出来ない、圧倒的な威圧感。
 
 それこそが、彼女がモーニング娘。不変のエースであることを、否応なし
 に感じさせるというのに。

 「梨華ちゃんだけに最初に話したのは、やっぱりそれなりの理由があるか
  らであって……」

 『完成された彫像のような』。 ――― イメージは、“後藤真希”そのもの。
 あたしはきっと、何でも出来る「ごっちん」という女の子を、自分の中での
 完璧という概念に、知らず知らずの間に当てはめていたんだろう。


281 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時08分25秒

 彼女の寂しさも、不器用さも、悩みも知らずに。人間なら誰しも当たり前に
 抱えているコンプレックスですら、ごっちんなら持ってるとは思いもせず。
 あんなに近くにいたのに。


 「後藤はずっと、梨華ちゃんが好きだったから」
 ―――

 彼女の気持ちを、少しも理解していなかった。


282 名前:6 confession 投稿日:2002年09月22日(日)23時09分08秒

 
 「え ―――― ?」
 「好きだったんだ、梨華ちゃんが」


 ………
 あんなに、近くにいたのに。いつも、一緒にいたのに……………。
  



283 名前:いち作者 投稿日:2002年09月22日(日)23時10分14秒
 更新しました。
 あれですね、特番よかったですね…あの時、金ごまに出会ってなかったら
 今こうしてヲタになっていることもなかったでしょう(w
 2時間じゃ足りないと、切に訴えたいです。最後落としたテレ東に。
 そして、レスをくださった皆さん、毎回ヒネリもない返事で申し訳ないですが、
 本当に感謝しております。

 >>259 kattyunさん
 初レスありがとうございます!食い入るように、ですか。身に余る賛辞です。
 石川と後藤、今後も行方を見守っていただけると嬉しいです。本当は明日
 の後藤卒業で終わる予定でしたけど。全然無理でした(w

 >>260 1450さん
 今日も番組見てて思ったんですけど、後藤は基本的に「悔しい」とか「悲しい」
 ではあまり泣かないですよね。(そう思うのは自分だけ?) 夏先生のコメント
 を聞いて、やっぱりな〜と思いました。

 >>261 いしごま防衛軍さん
 毎回レスありがとうございます!!そして、毎度毎度焦らしているようで、
 微妙に申し訳なく思っています(w  見捨てないでやってくださいね。
 最後まで責任持って仕上げますので。(しかし明日から少し辛いな…)
284 名前:いち作者 投稿日:2002年09月22日(日)23時10分44秒
 >>263 名無し読者さん
 そうですねえ、もう250レスも超えるだけ書いてるのに、後藤はあまり
 感情出してません。今のところ、石川の心情だけで。(でもそれが趣旨なの
 で申し訳) 最後どうなるか、よろしければお付き合いください。

 >>264 コウさん
 初レスありがとうございマス!実はコウさんの小説、リアルタイムで読んで 
 ました。アンリアルでもやっぱりいしごまいいよなあ……と再確認した次第
 です(w  是非また目を通していただけたら幸いです。

 >>265 名無しごまたんさん
 ああ、やっぱりあのシーンは良いですよね。テレ東、本当にいい画像持って
 ますよ。よくポカするけど(w  そろそろ石川の心情にも変化が出てきたの
 ですが、この先は……また読みにきてやってください。よろしくです!

 現実世界とリンクする形で進めたかったのですが、やはり間に合わなかった
 ため、後藤卒業後も続けたいと思いますのでよろしくお願いします。
285 名前:ROM読者 投稿日:2002年09月22日(日)23時42分30秒
この打ち明け方ってごっちんっぽい。てか、作者さんは本当に良くメンバーの事を観察してますね。でも切ない。明日は横アリで泣いてきます。
286 名前:1450 投稿日:2002年09月23日(月)00時37分18秒
デジカメ日記のごっちんは劇的にかわいかったですね。
しかし、メンバーが泣いてると自分も悲しいです。この話のじっと耐えてる
ごっちんと現実が被ってしまって・・・。
明日ライブ行ける人がうらやましいです。
287 名前:1450 投稿日:2002年09月23日(月)00時37分26秒
デジカメ日記のごっちんは劇的にかわいかったですね。
しかし、メンバーが泣いてると自分も悲しいです。この話のじっと耐えてる
ごっちんと現実が被ってしまって・・・。
明日ライブ行ける人がうらやましいです。
288 名前:1450 投稿日:2002年09月23日(月)00時39分16秒
↑二重カキコ真に申し訳ないです!!
289 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月23日(月)03時46分04秒
いしごま今日17歳同士になったんですよね
卒業の日に告白編が読めて良かったです
続きほんとに楽しみにしてます
290 名前: 投稿日:2002年09月23日(月)11時49分10秒
ごっちんから告白ですかぁ。
うちんとことは逆ですね。でも
いち作者さんのはやっぱ独特の世界が広がってて
なんかいろんなことを感じさせられます。
がんがってください。
291 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月23日(月)12時04分14秒
ついにこの時がきてしまいましたか?いったいどうなるんか気になります!!
見捨てるはずがありませんよ!!これからも読ませていただきます。
ごっちん最後の娘。のライブを見にいけなくて残念です。
今日はごっちんの誕生記念日でもありますからいしごま防衛条約機構の
新たなる一歩を踏み出す日にごっちんの告白がよめてよかったっす!!
292 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時26分22秒


 ――― 『ねえ、梨華ちゃん』


 真っ白になった頭の中、ごっちんの笑顔だけが再生される。
 でも、今目の前にいる彼女の表情は、とても硬い。
 ――― ねえ。今、なんて言ったの?
 あたしを、好きだったって、言ったの?

 なら、どうしてごっちんは、そんなに悲しそうな表情なの?

 「嘘だよ……そんなの……」
 「何が嘘なの?」
 「信じられないよ、そんなのっ……」
 「何が信じられない?」
 
 「……ごっちんが……あたしなんかを……好きでいてくれるはずない…」

 信じられない事実ばかり立て続けに告白されて、正直あまり回転のよく
 ないあたしの頭の中は、パニック寸前に陥っていた。
 声が、唇が震えて、上手く喋ることすら出来ない。呼吸が荒くなっている
 のも、自覚していた。


293 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時27分00秒

 動揺しているのが丸分かりなあたしの態度に、ごっちんは依然として変わ
 らぬ寂しげな色を湛えた瞳で、小さく微笑を浮かべたまま。
 もしかしたら、その事実を告げてあたしが取るであろう態度などは、とっく
 に予想済みだったのかもしれない。


 「やっぱり、伝わってなかったかぁ」
 「………」
 苦笑混じりに言ったごっちんは、とても寂しそうな表情をしていて。
 何か言わなきゃって、あたしは口を開き掛けたけど。場繋ぎにも言うべき
 言葉は思いつかなかった。

 「思ったとおり、梨華ちゃんて鈍いからさー。届いてなかっね。……まあ、
  最初は告白するつもりじゃなかったから、いいんだけどさ」

 僅かに視線をあたしから外して、ごっちんは淡々と話している。
 告白するつもりじゃなかった、って…? なら何で、好きだなんて言うの?
 卒業が決まってから、それを伝えたのはどうして?


294 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時28分14秒

 「じゃあ、どうして今、好きだった、なんて……言ったの…」

 情けないくらいに声が震えて、目頭が熱くなっていた。今にも涙が出そう
 な状態だったけれど、どうして泣きそうになっているのか。 自分でも正直
 よく分からなかった。
 分からないけど ―――― 胸が、痛くて。

 「だって、最近の梨華ちゃんすごい不安定じゃん? 今だって言ったよね。
  『こんなあたしを好きになってくれるはずない』って」
 「………」

 あたしの悲痛とも言える問いかけに、ごっちんはうっすらと口元に湛えた
 笑みを絶やすことなく、穏やかな口調で言った。

 「何でだろう、すごく自信喪失しているみたいに見えるよ。よっすぃと別れて
  から、自分の価値なんてないって、考えてるみたいなんだもん」
 「それは………」


295 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時28分51秒

 彼女の指摘は、当たらずといえども遠からず。
 確かに、よっすぃと別れて、自分の何が悪かったのかも分からなくて、散々
 泣いて自信なんかも粉微塵状態で、どん底まで落ち込んだけど。

 それはあくまで、よっすぃと別れた直後のこと。

 今、あたしが情緒不安定に見えるのは、ごっちんのせいだよ。
 ごっちんが、気になって気になって仕方なくて ―― だけど、今まであたし
 が彼女に取ってきた態度を考えると、怖くてそれを言い出せなかったんだ。
 嫌われてるんじゃないかって、軽蔑されてるんじゃないかって、どうしても
 悪い方向へしか考えられなかったから。

 ごっちんは、それでも言ってくれた。
 『好きだったよ』って、言ってくれた。
 ………あたしも、勇気を出してそれに答えたら………?


296 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時51分40秒

 「…だからね。後藤は、ちゃんと教えてあげたかったんだ。梨華ちゃんは、
  いまいち自分に自信持てていないみたいだけど、ちゃんと、そんな君を
  好きでいる人間だっているんだよって」
 「……ごっちん……」
 「安心していいんだよって。梨華ちゃんは、とても魅力的な女の子だよって」


 ( やっぱり嘘だよ。ごっちん……嘘に決まってるよ )


297 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時52分18秒

 素直に、彼女の言葉を信じていたら、何かが変わっていたのかな。
 でも、どうしてもあたしには理解できなかった。自分の魅力なんて、どこに
 あるのか全く分からないんだもの。

 今まで自分がしてきたこと。ごっちんに頼ってばかりで、甘えてばかりで、
 あたしが彼女の為に何かしてあげたことなんてない。
 嫌なことや悲しいことがあったら泣きついていただけ。
 誘われても、彼女を優先したりなんかしなかった。

 どうして、そんなあたしが好きでいられるの?……信じられないよ。

 それに、ごっちんは底なしに優しかったから。きっと、あたしを勇気付ける為
 の「優しい嘘」なんだって、思い込んでいた。
 色々考え過ぎる余り、口を閉ざしてしまったあたし。その沈黙が、あたしの
 返事だと思ったのか、ごっちんは小さく溜息をついて。


298 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時53分03秒

 「ごめん。梨華ちゃんを困らせようと思って言ったんじゃないから。答えなん
  ていらない。後藤には、分かってるから」
 「え……?」

 「後藤は、よっすぃの代わりにはなれないもんね」
 「……………!」
 
 とても、それは柔らかな口調だったけれど。いつものごっちんの、いつもの
 ように穏やかな笑顔で口にされた言葉だったけれど。
 ………けれど。


299 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時53分46秒

 ねえ、何か違うよ。ごっちんの笑顔は、どこか不自然だよ。
 彼女特有と言える、ある種無邪気で、またそれに相反して時に小悪魔の
 ような魅力を持つ心からの笑みじゃないんだ。

 だってごっちんは、そんなに大人びた笑顔を作らないよ? 
 もっともっと、子供な部分を持っているはずでしょう?

 ( あたしが、こんなだから……あたしが、バカみたいに子供過ぎるから… )
 ―――― それもこれも、原因は自分なんだ。
 やっぱり知ってる。ごっちんは、あたしが別れてからも、よっすぃを見てた
 こと。気が付くと、よっすぃを目で追っていたあたしを。
 ……でも……今は、違う。違うのに。


300 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時54分29秒

 握り締めた拳の中、手の平にじっとりと汗を掻いているのが分かったけど、
 あたしの意識は目の前のごっちんにだけ向けられていた。
 「よっすぃ」の名前が彼女の口から飛び出した途端、激しく動揺して頭の中
 が再び真っ白になってしまっている自分がいる。
 
 違うのに。
 もう、よっすぃは関係ないのに。

 ( ごっちん、違うの……違うんだよぅ…… )
 口の中がカラカラに渇いて、弁解することさえ出来ないあたしは、ただ間抜
 けにも口をぱくぱくと動かすだけだった。
 息が荒くなり、動悸は増すばかり。嫌な汗を、全身に掻いていた。

 そんなあたしの内心の焦りに全く気付く様子もなく、ごっちんは相変わらず
 視線を床に落としたまま、はっきりとした口調で続ける。

 「 でも、好きな気持ちは変わらないよ。梨華ちゃんが辛いときは幾らでも話
  聞くし、どこにいても駆けつける。だから、大丈夫だよ」  
 「……違う」
 「梨華ちゃん?」


301 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時55分02秒

 震える声で、何とか口にしたあたしの言葉に、ごっちんは相変わらず表情
 を変えずに少し、首を傾けて。その真っ直ぐな瞳に見つめられ続けるのは、
 あたしの汚い心の中まで見透かされている気がした。

 「ごっちんは、よっすぃの代わりなんかじゃない……。大事な、大事な……」

 1番重要なところで、詰まってしまう。
 受け入れられなかったら? ごっちんの『好き』って言葉を、あたしは履き違
 えて考えているんじゃないの?
 ――― ただの、勘違いって可能性は?

 「大事な、メンバーなんだから……」
 「うん、分かってるよ」
 「…大事な………」


302 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時55分34秒

 結局、弱虫なあたしはそれ以上口にすることが出来ずに。
 不安に押し潰されてしまいそうで、胸が熱くなって。ごっちんの顔を直視
 出来ずに、あたしは俯いてた。

 「分かってるよ、梨華ちゃん。娘。のメンバーは皆、仲間思いだもんね。
  梨華ちゃんだってそうだよ。大丈夫、知ってるから。でもね」 
 「……」

 あたしを諭すように次々言葉を繰り出すごっちんだけど、あたしは答える
 ことすらしなかった。今、口を開いたら自分が何を言い出すか分からない。
 “辞めないで” ――― ?
 “あたしもごっちんが好き” ――― ?

 何を言っても、ごっちんを困らせることにしかならないように思えた。
 そして、それ以上に、自分が泣いてしまう気がした。


303 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時56分04秒

 「それでも後藤は、よっすぃの代わりになりたいと思ってたんだ」
 「………なんでッ…」
 「本気で、梨華ちゃんを笑わせてあげたかった。喜ばせてあげたかった。
  それらが全部、よっすぃになら出来るって後藤は知ってたから」
 「…………」
 ( ちが……違うよ、ごっちん…っ! )

 ―――― 肝心な言葉はいつも、言えない。
 一歩一歩、ごっちんは遠くに行ってしまうんだ。 

 「違う!ごっちんは、よっすぃの代わりなんかじゃないよ!! あたしは…
  あたしは、そんな風に思ってないよ!?」
 「梨華ちゃん…」
 「違うもん、ごっちんは、よっすぃじゃないって。あたしは別に、ごっちんに
  よっすぃのかわりなんて望んでなかったよ…?」
 「……」

 あたしの言葉にごっちんは無言のまま、ゆっくりと頭を振って。
 優しい瞳で、あたしを見返した。どこまでも澄んだ、どこまでも深い、どこま
 でも暗い光を灯した湖のような真っ直ぐな瞳で。 


304 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時56分42秒

  
 「後藤はね。本当に梨華ちゃんが好きだったから。正直、よっすぃに嫉妬
  したりもしてたんだ」
 「…え……」
 そしてごっちんは、あたしが口を挟む余地もない様な打ち明け話を始める。

  「……でも、よっすぃにやぐっつぁんが好きだって、打ち明けられたとき。
  後藤はそれを応援するって約束したんだ。――― 梨華ちゃんが、どんな
  によっすぃを好きかって、知っていたのに」
  「…………」


305 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時57分21秒

 “あのねーごっちん、よっすぃがね”
 “ねえねえ、それじゃよっすぃも呼ぼうよ”
 “ごっちん、よっすぃと何話してたの?”
 ―――― どうして、ごっちんはあたしとよっすぃの邪魔するのよぅ!


 異常なくらい、よっすぃに執着していたあたし。その姿を、ごっちんは全部
 見てきているんだ。だから、彼女の言葉に、あたしは何一つ反論すること
 なんて出来っこない。
 癇癪も起こした。涙もいっぱい流した。全て、よっすぃに起因することで。 

「それって、ある意味 『裏切り』だよなあって思った。でも、後藤は親友の
 言うことを応援しようと思った。 ………梨華ちゃんじゃなくて、よっすぃを
 優先させたんだよ」

 ( 裏切り……? )


306 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時58分11秒

「最低でしょ、こんなヤツ。傷付いてる梨華ちゃんを慰めるフリして、本当
 は何もかも知ってたんだから。よっすぃを大好きな梨華ちゃんを、裏切っ
  ていたんだから」
 

 誰が、誰に対して?
 ごっちんが、あたしに対してそう思ってたということ?
 あたしが、あんまりよっすぃに依存していたから。離れようとしなかったから。
 ごっちんを邪魔者扱いしたから。
 ごっちんの好意にも全く気付かなかったから?

 全部、あたしの独りよがりな思い込みやワガママで、ごっちんもよっすぃも
 振り回してた…? だから、責任感の強いごっちんは、あたしじゃなくて、
 よっすぃが矢口さんを選んだことに、罪悪感を感じてたんだ ―――

 「だって、ごっちんは何も悪くなんてないじゃない……悪くなんて……」


307 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時59分02秒

 ああ、ダメだよ。
 ごっちんは、他人を決して追及しない。その分、自分を責めてしまうんだ。
 あたしのせいで、ごっちんが必要のない罪の意識を感じているのなら、あ
 たしにはそれを取り除いてあげないといけない義務がある。
 ……でも。
 どうやって?

 今さら、どうやってごっちんに弁解すればいい?

 また変なことを言って、ごっちんを傷つけることにならない?

 ごっちんを目の前にして、ちゃんと喋ることなんてできるの?

 自分の気持ち、素直に言えるの? あたしに、それが出来るの?

 …………


308 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)22時59分39秒


 何も言えない。
 ただでさえ、ここ最近はごっちんとまともに向き合って話したことなんてない
 のに、自分の気持ちを素直に吐露するなんて不可能に近い。
 そう思ってた ――― 思い込んでたあたしには、何も言えなくて。

 当たり前だね。自分で「無理だ、無理だ」なんて決め付けたら、何も行動を
 起こせるはずがないんだ。
 自分が自分を信じてあげなきゃ、他に自分を突き動かす力なんて、湧いて
 くるはずもないのに。 


309 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時00分19秒

 「前にね、梨華ちゃんにズバリ言われたとき、思ったんだ。『ごっちんは知っ
  てたんでしょ』って。泣きながら、梨華ちゃんに言われた言葉、ずしって重
  く後藤の心にのしかかったよ。だってそれ、事実だったから」 
  
 「でも、あれは……」

 ――― 確かに言ったよ、あの時、失恋した夜。
 でも、あれは単なる八つ当たりだ。あんまり自分が情けなくて、心が荒んで
 いて、感情をぶつける相手がごっちんしかいなかったから。
 八つ当たりだったんだ、ただの、八つ当たりだったのに。

 そんな感情任せの言葉が、ずっとごっちんを苦しめていた?
 優しい彼女をずっと、ずっと、ずっと、……苦しめていたの?

 「そんなつもりじゃ、なかったよ……なかったんだよぉ……」
 
 悪くないじゃない。ごっちんに、非なんて少しもないじゃない。
 親友を、本当に好きな人と結ばせてあげたいと思う気持ちが、そんな思い
 やりが、どうして間違ってるなんて言える?


310 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時01分25秒

 よっすぃがあたしじゃなく、矢口さんを選んだこと。それに協力してあげる
 ことが、どうして間違ってるなんて言える?
 一体誰に、そんなことを言う権利があるの? 
 どうして、ごっちんが苦しむ必要があるっていうの?


 あたしとよっすぃの間で板挟みになっていたごっちんは、優しすぎるが故、
 どんな道を選んでも、誰かを傷付けるってことが苦しかったはずで。
 泣くのがあたしでも、悩むのがよっすぃでも、最終的に誰よりも胸を痛めて
 いたのはごっちんなんだ。

 頼らなければ、ごっちんがそんな思いをすることはなかったのに。
 見返りもないごっちんが、そんな思いをする必要もなかったのに。


311 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時01分58秒

 全部、あたしが追い詰めていたから……。
 よっすぃに感情をぶつけるんじゃない、ごっちんに、溜め込んだ鬱憤を晴ら
 す様に八つ当たりしてしまったのはあたしだ。
 追い詰めたのはあたしだ。
 「……ごっちんは、何も悪くないよぉ……」

 ごっちんは、あたしの言葉にまた、ゆっくりと首を左右に振った。

「それで、よっすぃとやぐっつぁんが付き合いだして、今度は調子よく傷心
 の梨華ちゃんに近付こうだなんて、出来なかった。慰めるのは後藤の役
 目だったかもしれないけど、それは愛情じゃなくて同情だよ」
 「………同…情…」

 足が、膝が震えてきて涙が出そうになる。
 でも、我慢するんだ。ここで泣いたら、何も話なんて出来なくなる。ごっちん
 に、これ以上自分の弱い部分なんて見せちゃいけない。

 耐えるんだ、絶対に。


312 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時02分33秒

 「後藤は、本当に梨華ちゃんが好きだった。…だから、そんな卑怯なことは
 できないと思った。だけどさ?」

 ごっちんの表情は変わらない。あたしを見つめる真っ直ぐな眼差しも、微動
 だにせずにそこに佇む姿勢も。
 彼女はいつだって ―――― 1人で立っているんだ。誰の助けも借りずに。


「それでもやっぱりね、そばにいると……いつも一緒にいると、時々、自分
の理性を、抑えられなくなりそうになってることに気付いた。 梨華ちゃん
の横顔とか、背中を見て……何回も、『好きだよ』って言いそうになった」
 「……そんな……」

 ( 全然気付かなかったよ、そんな風にごっちんが思っていたなんて… )
 だって、あたしは鈍感だったもの。
 そしてごっちんは、心の中を隠すのが上手いんだもの。
 あたしはごっちんが、悩みなんて持ってるはずないって、決め付けていた
 んだもの ――― 


313 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時03分06秒

「今までは、辛うじて抑えてきたけど。だって、梨華ちゃんが困るのなんて
  目に見えてるし」
 「………」
 自嘲気味に笑うごっちんに、ただ首を左右に振ることでしか答える術を持
 たないあたし。これじゃ一体、どっちが年上だか分からない。

 そしてごっちんは、あたしの返答など期待していないんだろう。あたしが
 駄々っ子の様に首を振り続けるのを気にする様子もなく、言った。

 「だって、分かるもん。後藤が、梨華ちゃんの視界に入ってないことくらい。
  どれだけ、梨華ちゃんのことずっと見てきたと思ってるの?」

 ( どれだけ……? )


314 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時05分34秒

 ………
 『ねえねえ梨華ちゃん。よっすぃと、一緒にカラオケ行かない?』
 『…後藤さん』
 『ごっちんでいいって、何回も言ってるのにー』
 『梨華ちゃんて固いからねー』
 『な、何よぉよっすぃ。だって後藤さんは先輩なんだよ?』
 『固いカタイ、梨華ちゃんかた〜い』
 『あはははははぁ、梨華ちゃんカタイ〜肌は黒い〜』
 『ふっ、2人してひどいーっ』


315 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時06分05秒


 ――― 覚えているのは、もう随分昔のこと。
 最初に仲良くなったのは、もちろん同期で娘。入りしたよっすぃだったけど、
 もともと人懐こくて誰とでもフレンドリーなよっすぃは、同い年のごっちんと
 打ち解けるのも早かった。

 あたしが、年下の先輩にあたるごっちんをいつまでも「後藤さん」と呼んで
 いた時、「ごっちんて呼んでよー」って、よっすぃとごっちんの2人に、笑い
 ながら怒られたこともあったっけ。

 その時から、ごっちんはいつも穏やかに笑ってたんだ。
 誰に対しても、どこか一歩引いたような態度で接している印象の強いごっ
 ちんだけど、根は純粋で優しくて。
 そして、いつもふざけ合ってるよっすぃや、よく懐いているように見えた保
 田さんとの仲は、誰もが認めるプッチモニの結束の強さを表していた。


316 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時06分38秒

 ―――― 分からないよ。

 だって、あたしには何もない。
 ユニットが一緒だった訳じゃない、よっすぃがいなければ、とても今の様に
 対等に話せていたかだって疑問なんだ。
 加護ちゃんや辻ちゃんのように無邪気に甘えることも出来なかったし、年上
 のメンバーのように、ごっちんを支えてあげていた自負もない。

 「分からないよぉ…どうして、ごっちんがあたしなんて……」

 本当に心当たりも何もない。自分がごっちんにしてきた行いの数々。
 むしろ、呆れて嫌われている方が自然じゃないかと思えた。
 
 でも、ごっちんはそれに対しては何も答えずに。
 小さく肩を竦めて、泣きたくなる程優しい声で、静かに言った。


317 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時07分22秒

 「後藤が望むのはね、梨華ちゃんが心から笑ってることなんだ。そして、
  その笑顔を作れるのは後藤じゃない。だから、もういいんだ。今まで、
  ちょっとでも後藤のこと頼ってきてくれた、それだけでいい……」 

 ―――――
 ――――

 “それだけでいい”

 それだけでいい? ……あたしは、嫌だよ。
 違うよ。駄目だよ。ごっちん、分かってないよ!
 だってあたし、あたしは、ごっちんがいなきゃ………

 「駄目だよ。あたしにとって、ごっちんは必要なんだよ!? どうして、ごっ
  ちんはそうやって全部1人で決めちゃうの?」


318 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時08分03秒

 もうほとんど泣き声で、あたしが振り絞るようにして発した言葉に、彼女は
 困ったように眉を寄せて、それでも口元に湛えた笑みは絶やすこと無く、 
 小さく頭を振った。

 
「きっと、今梨華ちゃんが後藤に気持ち傾いてるのは、……ううん、違う。
  側にいて欲しいって思ってるのは、失恋して、傷ついて、たまたま後藤が
  優しくしてたからだよ」
 「………違うもん………ごっちんに、そばにいて欲しいんだもん……」

 「――― 後藤は、梨華ちゃんが傷つくの知ってた。だから、予め優しくする
  ことが出来た。もし、この立場が圭ちゃんとか、他の誰であっても、きっと
  梨華ちゃんはその相手になびくよ。間違いない」

 「ちが……」

 否定する言葉すら、ごっちんは聞き入れてくれる気配もない。
 真っ直ぐな眼差しの奥に秘められた決意は、きっとあたしの想像以上に
 ずっとずっと、強いものだったんだろう。


319 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時08分35秒

 「……梨華ちゃんがよっすぃを好きになったのは、よっすぃがよっすぃだから。
  でも、後藤をにそばにいて欲しいって思うのは、後藤が全部事情を知って
  いたからなんだ。“たまたま”後藤がその役目を負っていたからなんだ」
 「………ちがう…よぉ…」
 
 「梨華ちゃんはさぁ。寂しいから、誰かに側にいて欲しいんでしょ。だから、
  その相手は後藤じゃなくてもいいんだよ」

 ( ―――― ! )
 頭を、ガツンと殴られたみたいな衝撃。“誰でもいい”なんて、そんな風に
 ごっちんに思われていたんだっていうショック。
 そして、今あたしがごっちんに向けて抱いている思いが、「勘違いなんだよ」
 って、宣告されているように感じた。


320 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時09分52秒

 ( ……ダメだよ、もう……あたし……もう、ダメだ… )

 やっぱり、無理なんだ。
 あたしには、ごっちんへの思いを告白することさえ、もう許されないんだ。
 ………
 呆然として、もはや何も ―――― 弁解する気力すら沸いてこない。
 きっとごっちんは、あたしの本当の気持ちには何も気付いていないけれど、
 告白する勇気は出ない、あんまり自分が情けなくて。

 ( あたしに、ごっちんに想いを告げる権利なんてないんだよ… ) 

 「悪かったね。色々忙しいときに、こんなことでわざわざ屋上まで出て来て
  もらっちゃって。話したいことはそれだけだから」

 少しだけ目を伏せて、ごっちんは思い出したように「忘れていいから」って
 付け加える。酷くその言葉に、彼女との距離を感じてしまう。
 そして、ごっちんはクルリとその場で踵を返した。長い髪がふわりと舞って
 一瞬あたしはその綺麗な髪に、目を奪われていた。
 でも。


321 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時10分44秒


 「バイバイ、梨華ちゃん。後藤の役目はもう終わり。いい恋見つけなね」
 
 どんな鋭いナイフよりも、あたしの胸を深く抉る残酷な一言。
 ( ………え?… )

 『バイバイ』

 背を向けたままごっちんは、最後の最後まで淡々とした態度を崩さずに、
 きっぱりとそう言い切って。あたしが言い返すのを待つこともなく、そのまま
 真っ直ぐに屋上から降りて行ってしまったんだ。

 結局、何一つあたしは自分の思いを告げられず。
 さよならを告げられていることさえ、反応できずに。


322 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時11分26秒


 「………っ…」
 ごっちんがいなくなった後も、しばらくあたしは動けなかった。
 悲しいのか悔しいのか分からないけど、強く唇を噛み締めたまま、スカート
 を握り締める手の甲に1粒2粒水滴が落ちてくるのを感じて、あたしはそこ
 で初めて、自分が涙を流していることに気がついた ――――


 ―――
 ――――


323 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時12分06秒

 畳み掛けるように告げられた衝撃の事実。
 ごっちんが卒業?9月23日に卒業?ごっちんの誕生日に卒業……

 嫌だ、嫌だよそんなの。

 『好きだよ』
 なんて、一方的に告げられて。
 その直後に、さよならを言われて。
 どうしたらいいの? あたしは、――― どうしたらいいんだろう?


 こんな時。辛いとき、泣きたいとき、思い切り、叫びたいとき。
 側にいてくれたのはごっちんだけだったのに。ごっちんだけが、あたしの苦
 しみを分かってくれると思っていたのに。
 一緒にいられると、何の疑いもなく思ってた。

 ………そもそもそれが、間違いだったんだ。


324 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時12分38秒

 ごっちんが悩んでいるところなんて、見たことがない。彼女が、愚痴を漏ら
 しているところも見たことがない。
 怒っているところも、怒鳴っているところも、あたしは1度だって見たことが
 ないんだ。―――― それだけで。

 それだけで、充分分かるじゃない。
 彼女が、ごっちんが、決して他人に弱さを見せる子じゃないんだって。

 年上なのに、頼りないあたしに。泣いてばかりのあたしに。ごっちんが、
 そんな弱い心の中を曝け出してくれるはずなんてないじゃない………。 

 『好きだったよ』


325 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時13分08秒

 ――― だから、今になって告白したの?
 卒業が決まったから? あたしが、よっすぃのことを吹っ切れたから?
 ううん、そうじゃなくて………

 不意に、自分のしてきた数々の行いが、次々に頭の中に蘇る。
 よっすぃのことを好きだと打ち明けたこと。
 付き合えるようになったと報告したこと。
 休みの日に、2人で遊びに行ったとはしゃいで言ったこと。
 振られて、散々泣いたこと。愚痴ったこと。

 そして ―――― ごっちんの手を振り払った瞬間のこと。
 

 もし、本当にごっちんがあたしのことを思ってくれていたんなら。あたしが
 彼女にしてきた行為のほとんどが、彼女を傷つける手段になっている。
 あたしが覚えてるごっちんの表情は、いつだって笑顔で。
 傷付いてる素振りも、痛みも、微塵も感じさせなかった………。


326 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時13分45秒

 「……何で……どうして……」

 ああ。でも、違うね。 

 “……梨華ちゃん……?”

 あたしがごっちんの手を振り払って、保田さんにすがりついたあの時。
 俯いていた彼女の表情が、笑顔だったはずがない。
 傷つけた。
 いっぱい、いっぱい傷つけた。
 誰よりあたしを心配してくれて、誰より1番そばにいてくれた彼女を。

 「ばか………あたしの、ばかぁっ……」


327 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時14分23秒

 呆然として呟いた言葉を、聞く人は誰もいない。
 こんなときに、側にいてくれたごっちんがいなきゃ、あたしは涙さえ上手に
 流すことが出来ない。
 あたしは1人。今は、独り。

 ( 1人にしないで。……1人にしないで…… )
 泣くときは、隣りにごっちんがいなきゃ安心して涙も流せないことに、今さら
 ながら気付かされる。
 
 ――― 『後藤は、梨華ちゃんのことが好きだったよ』  


 その意味に、薄々気付いていたんだ。
 何故、卒業が決まってから打ち明けたのか。何故、“好きだった”、なんて
 過去形なのかも。
 ( ヤダよ……嫌だよ、そんなの…… )

 ……………


328 名前:6 confession 投稿日:2002年09月26日(木)23時14分55秒


 それを告白した時点で、ごっちんの決意は変わらないこと。
 認めたくはなかったけど、何処かでそれを感じ取っていたんだ。

 ………きっともう、ごっちんは、あたしの側にいるつもりはないんだって。




329 名前:いち作者 投稿日:2002年09月26日(木)23時17分28秒
 少し頑張って多めに更新してみました。更新分は>>292-328です。
 後藤真希卒業後、初更新。
 
 >>285 ROM読者さん
 後藤っぽいですか、打ち明け方。(一応)リアルを目指している作者としては、
 これ以上ないお褒めの言葉として受け取らせていただきます。観察はもちろん
 しているのですが、後藤は特殊なメンバーなので個性を出しやすいんですよね。

 >>286 1450さん
 デジカメ日記は、彼女の私服を拝見できましたね(w
 卒業ライブはニュースでしか見ていないのですが、自分的には石川と加護で
 後藤を捕まえる(?)シーンが気になって仕方ありません。。。 

 >>289 名無し読者さん
 早いものですね。もういしごま17歳同士です。年上に見えない石川と、年下
 に見えない後藤のペアは微妙にハラハラできるので好きです。告白編、前編
 だけは卒業に間に合いましたが……また続きも読んでいただけると嬉しいです。
330 名前:いち作者 投稿日:2002年09月26日(木)23時18分13秒
 >>290 @さん
 逆になりましたね。独特の世界ですか…この先、その世界観を崩さないよう
 頑張りますので、またよろしくお願いします。そろそろ他のメンバーも絡んで
 くるかなーな展開になるかと思われますので。

 >>291 いしごま防衛軍さん
 毎回レスいただいて本当に嬉しいです。そうですね、いしごまついに第一歩
 を踏み出しましたが。まだ話的には終わりそうもありません。
 いきなりギャグな展開になったら怒ります……よね(w

 もうそろそろ新スレを立てるかもしれませんが、ここまでお付き合いいただい
 てる読者の皆様、どうか次のスレもまた暇つぶしにでも目を通していただけれ
 ば幸いです。(まだ分かりませんけども…)

331 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月26日(木)23時28分36秒
作者さんお疲れさまです。
リアルタイムで読ませていただいてました。
切ないです。現実とシンクロして、涙が止まらないです・・・。
梨華たんの心の描写とごっちんの言葉にはまりました。
梨華たん、頑張って・・・。
332 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月27日(金)10時48分01秒
この小説が更新されてると自分でも驚くくらい嬉しいんですけど・・・。
どういう形にしろ後藤と石川の心が救われますように。
333 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月27日(金)12時59分45秒
ううーーーー切ない!!ものすごく切ない!!ああごっちん、梨華たんを
見捨てないでくれー。読んでて涙が出てきましたよ!!
梨華たん勇気を出すんだ!!って今の梨華たんはそんな状態にありませんね。
どうなるんやろうか気になります!!更新待っています!
がんがってください!!応援してますよ!
334 名前:コウ 投稿日:2002年09月27日(金)22時10分38秒
ぅぁぁ・・・
こんな切なくて辛い告白なんて。
梨華たん、自分に負けないで・・・。
そしてごっちん、梨華たんから離れないで・・・。
涙が止まりません!!
335 名前:ROM読者 投稿日:2002年09月28日(土)06時37分25秒
お互いの繊細な心理描写にグイグイ引き付けられます。
なぜか祈りながら読んでました。お願いだから・・・
336 名前: 投稿日:2002年09月28日(土)19時36分13秒
言われてたりするトキって何も思わないで
後になっていっぱいいろんなコト思うんですよね・・・
切ない。。。梨華たんは言えるのでしょうか。
それと私事なんですがもしも〜の方でまたいしごま書きます(爆
まだ誰にも言ってません(w
337 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年09月29日(日)00時58分43秒
うぉ!仕事忙しくて読めなかった間に
なんて悲しい展開になってるんだ・・・
梨華ちゃん頑張れ、幸せを掴んでくれ!
って言うか、キミがごっちんを幸せにしてくれ〜!
338 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月29日(日)13時47分56秒
初レスです
なんていうか・・・すごいの一言
添い寝以来の感情移入できる作品に巡り合えた気がします
ごっちんもいいけど、梨華ちゃんの気持ちも痛いほどわかる
今後はひっそりと見守っていきます
339 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時47分33秒

 ごっちんがあたしに「卒業」することを告げた後、あたしとごっちんの距離は
 ぐっと開いた。……違う、きっと『元に戻った』だけ。
 前は、ごっちんが積極的にあたしに話し掛けてくれた。けれど、もうごっちん
 があたしを気に掛けてくれることはなくなった。

 何でも真っ先にあたしを見てくれたごっちんの目線は、もうあたしだけを特別
 に映してくれることはなくって。
 ごっちんから働きかけてくれないと、こんなにもすぐ、消えてしまうような希
 薄な関係だったなんて、思いもしなかった。

 「なぁなぁ、ごっちんと梨華ちゃん、喧嘩でもしたん?」
 「えー?なんで?」
 「最近、あんまり一緒におらへんもん」
 「……やぁ、なんだか加護をからかいたいんだよ、今の気分は」
 「何言ってんねーん」


340 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時48分42秒

 口ではそう言いながら、ごっちんに構ってもらっている加護ちゃんは、本当
 に嬉しそうだった。姉妹みたいに仲の良い2人を見ていると、不意に胸が
 ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。

 そうだよね。加護ちゃんだって、ごっちんと話したかったんだよね。


 「あ、後藤さーん」 
 「おぉ紺野。また、なんか絡み多いね、新曲でも。よろしくね」
 「はいっ、嬉しいです!」

 紺野だって、ごっちんに憧れてるって言ってたもんね。
 ごめんね、あたしが、ごっちんを今まで独り占めしてたんだ。


341 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時49分39秒

 頬をうっすらと上気させて、弾むような声でごっちんと接している紺野を見
 ると、どうしようもなく寂しくて、やるせない気持ちになる。
 あんな風に、素直にごっちんへの好意を表せることができる後輩の姿。

 絶対に、それがあたしには出来ない行為だって分かってるからこそ、切な
 くて、寂しくてたまらない。


 自分の好きな人が、他の子と仲良くしている、それだけで胸を掻き毟りたく
 なるくらい動揺してしまうこと。心が痛むこと。よっすぃが矢口さんに心を移
 し始めた頃に、それは嫌というほど経験したはずだったけど。

 でも、あの時とは全然違うんだ。
 あたしとよっすぃには、あの時はまだ、確かに「恋人同士」という絆を持って
 いた。でも、今のあたしとごっちんには、それがない。
 公然と、ごっちんに好意を示すことが、許されるはずもなく。
 ――― そして、ごっちんもまた、こんなあたしを受け入れてくれる筈もない。


342 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時50分31秒

 ごっちんの手を振り払ったあの時から、あたしと彼女の間に出来た“溝”は、
 気付いた時にはもう、修復不可能な位に深くなってしまっていたんだ。 

 ほんの少しの勇気でいい。
 ちょっとだけ声を大きくして、彼女の名前を呼びかければいい。

 「……ねえ、ごっち…」

 「 ―― ごっち〜ん、ののがケーキ焼いてきてん、食べへんか?」
 「あー、今行くよー」
 「梨華ちゃんも、ケーキ食べへん?おいしそうやで!」
 「……あ、あたしは、いいよ……」

 なのに、ほんの僅かな勇気すら、あたしには持てない。
 周りの環境はどんどん変化してくのに、あたしだけが変わらない。成長して
 いない。どんどん、取り残されていく……
 そんな、どうしようもない不安。
 「…………ばか…」


343 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時51分31秒

 ………
 ごっちんは、他のメンバーに対してまだ、「卒業」の事実を告げてはいなか
 った。あたしだけが、それを知っていた。
 本当は、あれは夢だったんじゃないのかな。本当は、ごっちんは卒業なん
 て、しないんだよ。全部、夢の中の出来事で。

 ――――
 ―――
 「ごっちん、ごっちん!一緒にご飯食べ行こー」
 「ハイハイ、甘えんぼさんだなぁ加護は。あんまりくっつくなって」
 「えへへへ。あ、紺ちゃんも一緒行く?」
 「はいっ。ご一緒させてください」


 けれど、もちろんそんな都合のよい展開になる訳ない。
 ――― 全部、夢なんかじゃなくて。現実に、あたしはごっちんに「卒業」を
 告げられたこと。さよならを言われたこと。嘘なんかじゃない。
 全部、全部、逃れようのない現実に起こったことだった。


344 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時52分21秒

 「そういやさ、紺野も痩せたよねー。加護も見習えよぉ」
 「うぐーぅ。ごっちんの意地悪ぅー」
 「ふふふふ」
 「紺ちゃん、笑わんといてやっ!」

 ( ……いいなぁ、楽しそうで )
 あんなにも、常に寄り添っていてくれたごっちんが、今あたしの側にいて
 くれないこと。それが、何より全てを物語っていた。

 ( …………あたしは、あの輪には入れないもの…… )


345 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時53分04秒

 何度も何度も、あたしはごっちんを見ていた。
 でも、彼女があたしに視線を向けてくれることは1度もなくて。その代わり、
 時々ごっちんの隣りにいる紺野と目が合ってしまうことが、何度かあった。
 彼女の透明感溢れる性格を現すかような、真っ直ぐな目。
 迷いのない光を帯びた、潤んだ大きな瞳。

 ――― あたしが、持っていないもの。


 「後藤さん、あのですね……」
 「どした。またなんか悩み事?」

 小さな声で、それでも全身全霊で、ごっちんへの好意を表しながら、一生
 懸命に言葉を選んで話す少女。離れていても分かる、その少女 ―――
 紺野の真剣さ、ひたむきさが。


346 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時53分51秒

 「最近、紺野歌うまくなったじゃん」
 「あっ、ありがとうございますっ」

 ごっちんが紺野を相手にしている姿を見かける機会は日に日に増えていっ
 たけど、それは必ずしも不自然な光景ではなくて、むしろ当たり前のように
 すら感じてしまう。
 だって、あんなに純真な子に、顔を赤らめて必死に話し掛けられたら、元々
 優しいごっちんが、放っておくはずがない。

 紺野を、好きになってくのかな、ごっちんは……。
 あたしは、自分の足元さえ、見失いそうになっていた。


347 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時54分33秒


 居場所が見つからないの。
 ねえごっちん、あたし、バカだから、自分が何処にいればいいのかも分か
 らないよ。……色んな人に嫉妬して、勝手に落ち込んでる。
 自分だけが不幸な目に遭ってるなんて考え方、間違ってるって思うよ?
 
 でも、やっぱりね、ごっちんがそこにいないのは寂しくって。


348 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時55分21秒

 騒々しかったはずの楽屋の中がいつの間にか静かになっていて、あたし
 はようやく、部屋の中に誰も残っていないことに気が付いた。
 ううん、最初は、ちゃんと意識はあったんだ。1人1人、お疲れさま〜って
 楽屋から出て行くのは。

 思考が止まってしまったのは、きっとごっつぁんが出て行ったとき。
 加護ちゃんや、紺野を連れて出て行ってしまったとき。
 今日も、会話どころか1度も目が合うことすらなかった。

 振り向いてくれないことが分かっているのに、彼女がドアを開けて出て行く
 まで、ほんの僅かな期待を込めてその姿を目で追ってしまうあたしは、や
 っぱり弱虫以外の何者でもないね。
 ( ……そろそろ帰らなきゃ……家に帰らなきゃ……… )

 のろのろと、重い腰を上げると、不意に目頭が熱くなった。
 ちょっと前までは、1人で帰ることなんてほとんどなかったんだ。


349 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時56分08秒

 よっすぃに振られてしまったとき、あたしの隣りにはごっちんがいた。
 でも、今あたしの隣りにいてくれる人はいない。
 ごっちんに、振られたわけじゃないのに。それどころか、「好きだった」、
 なんて信じられないような告白まで受けたのに。

 どうして、あたしは独りぼっちなんだろう。
 泣きそうだよ。ねえごっちん、あたしね、強い人間じゃないの、弱いんだよ。

 ( 自業自得 )

 もっと早く、ごっちんの想いに気付いていたら。その存在の重さを、ちゃんと
 認識していることが出来たなら。 
 あたしはきっと、素直にごっちんに想いを告げることだって出来たのに。


350 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時57分04秒

 ………馬鹿みたい。
 ごっちんが、同情でも何でも、優しくしてくれてることは、分かりきってていた
 はずじゃない。気付かないはずがないじゃない……
 当たり前にそこにあるものだと思い込んで、自分勝手に振舞ってきたあたし
 自身の報いなんだから、誰を責めることだって出来ないよ。 

 ( …がんばれ、がんばれ梨華。ねえ、がんばってよ )

 自分自身を叱咤激励してみても、何にもならないことくらい分かるけど。
 いくら、彼女が卒業するって言っても、メンバー同士だっていう絆は何も変わ
 らないんだから、そう悲観的になっちゃダメだって言い聞かせる。
 
 だって、ごっちんは、ごっちんだよ。
 ちょっと声を掛ければ、話を出来る距離にいるじゃない。
 変わらないよ、変わらないはずだよ。 
 …………


351 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時58分03秒

 ―――― 何も変わらない? 本当に?
 よっすぃや、付き合いの長い保田さんや、飯田さん、安倍さん矢口さんたち
 ならそうかも知れない。
 何だかんだいって、ごっちんの加入時、彼女にとって1番辛い時期を乗り越
 えてきたとき、その時間を共有してきた彼女ら、お姉さんチームのメンバー
 を、ごっちんがとても信頼してるのは、見ていてよく分かるもの。

 親友のよっすぃに対してはもちろん、離れたってその結びつきは失われるこ
 とはないと思う。プッチモニの絆は、うらやましくなるほど強かった。

 でも、あたしはどうなの?
 以前、よっすぃとごっちんの仲の良さについて軽い嫉妬を覚えたときの感情
 が湧きあがってくる。自分だけ、取り残されているんじゃないかって、不安。

 
352 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)21時59分13秒

 ――― 寂しいよ。
 「ごっちん、寂しいよぉ〜……ッ…」
 
 アニメ声、と称されることの多い、落ち込んだ気持ちにはあまりに釣り合わ
 ないあたしの声。そんな自分の甲高い声に涙が混じって、何だか惨めさを
 通り越して、自分自身が滑稽にさえ思えてきて。

 気付こうともしなかった。考えようともしなかった。
 ごっちんが側にいないことが、こんなに孤独で、こんなに寂しいなんて。

 自分の思い上がりに気付いた。
 どうして、ごっちんはあたしから離れていってしまったのか、なんて、考える
 間もなかった。分からないはずがなかった。


353 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時00分07秒

 ――― 当然の報いだわ。
 ごっちんは優しかった。それを、あたしは勘違いして受け止めていた。
 当たり前のようにそこにあったんじゃない、ごっちんが、あたしを心配してくれ
 る真摯な気持ちを、驕り昂ぶった態度で接していたのだから。

 
 1度だって、あたしはごっちんにお礼を言ったことがある?
 側にいてくれてありがとうって、口にして言ったことがある?
 

 『梨華ちゃん』


 だって、ごっちんはいつもそこにいてくれたから。
 振り向いた先に、いつも笑っていてくれたから。
 泣いてるときは、慰めてくれていたから。
 よっすぃと付き合う前も、付き合ってるときも、別れた後も、ごっちんの態度
 は何も変わらなかったから。


354 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時00分53秒

 ……変わらなかったんじゃない。

 『後藤はずっと、梨華ちゃんが好きだったよ』
 
 ………変えられなかっただけ?


 あたしが、よっすぃを好きだったから言わなかっただけで。
 別れて傷ついていたから、言わなかっただけで。
 本当は、ずっとごっちんはあたしを好きでいてくれたっていうこと?

 そんなごっちんに対するあたしの態度は、どうだった?

 『卒業するんだ』


 あたしは…………


355 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時02分01秒

 “独り”が怖いと思っていた。独りぼっちになるのは嫌だった。
 でも、きっと。
 ごっちんが感じていた孤独は、あたしの比じゃない。

 たった1人で加入してきて、様々なプレッシャーや過度の期待に応えてき
 た後藤真希という女の子は、あたしが想像するよりもずっと、“独り”になる
 寂しさを恐れていたんだ。

 周囲の目は、いつでも淡々としたごっちんのことを、「クールで物事に動じ
 ない」タイプだと評価していた。

 確かに、ごっちんにはそういうところがあるかも知れない。けれど、それが
 全てじゃない。だからと言って、ごっちんが 「強い人間だ」という安直な結
 果に繋がるわけでも、決してないよね?

 ごっちんは、自分の本質を隠してそれに答えていたんだ。それは、ただの
 強がり。周囲の期待を裏切らないための、演技。


356 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時02分46秒

 それが、ただ1人でモーニング娘。というグループに加入したごっちんの、
 芸能界という戦場で生き抜いていくための戦い方だったんだろう。 
 何でも出来る子だと思っていた。歌だってダンスだって、何だって器用に
 こなせる優等生だと思っていた。気配りを忘れないのは、自分に余裕が
 あるからだと思っていた。 


 ………どうして、上辺だけしか見ていなかったの?


357 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時03分36秒

 ねえ。ごっちんだって、寂しかったんだよ。
 あたしの側にいてくれたとき、あたしと同じくらい、ごっちんも誰かに側に
 いて欲しかったんだよ。話を、聞いて欲しかったんだよ!
 独りぼっちが寂しいのは当たり前じゃない。

 あたし達は、特別じゃない。ごっちんだって、特別な人間じゃない。
 内面は、ごく普通な女の子なんだよ?


 どうして、あたしは上辺だけしか見ていなかったの?
 あんなに一緒にいたのに。どうして、自分の苦しさしか考えてなかったの?

 「……うっ…うぅ〜っ……」

 胸が苦しくなる。
 視界が水鏡に映ったように歪んだ。泣けてきた。
 
 …………


358 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時04分26秒


 「どうしたのよ、石川?」
 「……保田さぁん……」
 ノックもなしにドアが開いて、驚いた表情の保田さんがそこに立っていた。
 
 「みんな、とっくにタクシー呼んで帰り始めてるのに、あんた1人だけ来ない
  から…早く来なさいよ、途中まで送るわよ?」
 「………ッ…」
 「ちょっとどうしたの〜」
 さすがに、後輩がたった1人、楽屋で顔を歪めて泣いてるのだから驚くのは
 当たり前だろう。保田さんは元から大きな目を更に見開いて、あたしの側
 へツカツカと歩いて来ると、肩を軽く叩いた。
 
 「何があったのよ、ちょっと、泣くんじゃないわよ、話してみなさい?」
 「………うぅ、っくぅ〜、……っ…」

 我ながら情けなかったけど、泣いてるときに優しく言葉を掛けられると、余
 計に涙が出てきてしまうのは止めようもなくって。
 どうしようもないくらい声が震えているあたしに、保田さんは困ったように
 眉を寄せていたけど、すぐに優しい顔になった。


359 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時05分18秒

 「あんたは〜、まぁた何かやせ我慢して無理したんでしょう」
 「っふうぅっ……だってぇ……」

 よっすぃのことで悩んだ後は、ごっちんに心が揺れてるなんて我ながら浮
 ついた人間なのかもって思ってた。

 「吉澤と別れた直後も、しょっちゅうそんな顔してたもんね」
 「………保田さぁん…っう…っ」

 けど。
 本気でごっちんのこと好きになってなきゃ、こんなに思い悩んだりしない。
 こんなに泣けない。こんなに苦しくならない。

 『梨華ちゃんが、好きだったよ』

 ――― でも、もう嫌われちゃったよね。確実に、呆れられてるよね。
 もう、ごっちんはあたしに対して好意なんて持ってくれてないよね。
 遅いよ、もう、全部遅すぎるよ。
 ごっちんは、卒業しちゃうんだ。当たり前にそこにいてくれると思っていたけ
 ど、もう、一緒に歌うことも踊ることも、なくなっちゃう。


360 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時06分16秒

 「今まで言えなかったけど……」
 あたしの肩に手を置いたまま。保田さんが、嫌に神妙な口調で口を開く。
 「石川は、吉澤と付き合ってたから言えなかったけど」
 「え……?」

 「私、アンタのこと好きだからね。そろそろ、我慢しなくてもいいでしょ?」

 えっ……


 突然の保田さんの告白に、言葉を発する間もなく。
 気付いたら、あたしは保田さんに抱きすくめられていた。

 「や、すださ……ん……」
 さっきとは違う意味で声が震える。保田さんの体はあったかくって、彼女
 の愛用のコロンの香りがあたしの鼻腔をくすぐった。甘い、香り。
 
 「石川、力抜いて…」
 強く抱かれて身動き取れないあたしの耳元に、保田さんはいつになく優し
 い声でそう囁く。
 何だか、身体がふわふわして立っている感覚もなくなってきた。
 ダメ。流されたら……今、あたしが好きなのは………


361 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時07分08秒

 好きなのは、誰?
 ――― ごっちん。ごっちん。ごっちん……
 いつも、側にいてくれたのはごっちんだった。辛いとき、泣いてるとき、滅茶
 苦茶に落ち込んで凹んでるとき、側にいてくれたのはいつも…………そう、
 ごっちんだった。


 でも。

 『もう、1人で大丈夫でしょ?』
 『後藤の役目は終わりだよ』
 『好きだったよ。梨華ちゃん』
 『バイバイ、梨華ちゃん』


 別れを告げられたんだっけ、あたし。
 どうしてかな、どうしてうまくいかないのかな。あたし、やっと気付いたのに。
 もう、ごっちんはいない。あたしの側にはいてくれない。


362 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時08分09秒

 「保田さん……」
 「何?」

 疲れたよ。
 不毛な恋は、したくない。恋愛で、悩んで、もう、泣くのは嫌。
 あたし、誰かを想うの下手だから。これ以上、頑張ることなんて出来ないよ。

 「このまま、ずっと抱き締めてもらってていいですか……」

 妥協なんかじゃない。
 保田さんなら、きっと、あたしのこと幸せに……ううん、大事に思ってくれる。
 ほら、だって保田さんだっていつもあたしを支えてくれていたもの。
 歌だってダンスだって、何でも教えてくれたもの。

 あたしって、やっぱり鈍感なんだ。そうだよ、保田さん、最近はよく遊びに
 誘ったり食事に連れて行ってくれたりする機会、増えてた。
 だけど、保田さんがあたしに好意持ってくれてるなんて知らなかったもん。


363 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時09分03秒

 1つのことを考えると、他のことに全く意識が回らなくなるのは悪いことかな。 
 少なくとも、今のあたしには、同時進行で2つ以上の物事を考えることなん
 て無理なんだ。 
 ―――― だから………もう、これでいい……。


 『ごめんね、梨華ちゃん。ウチ、矢口さんが好きなんだ。やっぱり』

 『バイバイ、梨華ちゃん。後藤の役目はもう終わり。いい恋見つけなね』


 好きになるより、好きになってもらう方が楽だもの。
 ねえ、楽な方法を選ぶのって、卑怯かな。
 だけど、もう疲れちゃったんだ。自分の気持ちさえ上手く把握できないあた
 しが、誰かを愛することなんて無理なんだよ。
 
 好きになってくれた相手を傷つけて。
 そして、相手を傷つけたことに自分が傷ついて。


364 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時09分50秒

 「石川? 辛いときは、私が側にいるから。今なら泣いていいわよ」
 「保田さ……」
 「私が、ずっと抱き締めててあげるから」
 「…………」
 もう、あたし、疲れちゃったよ。

 ( ごっちん…… )


 ――― 『泣いちゃえ。気が済むまで。後藤は、ここにいるから』
 
 もういないんだよ。
 ごっちんは、あたしのことを抱き締めてはくれない。
 今、あたしの側にいるのは保田さんだ。
 抱き締めてくれているのは保田さんだ。


365 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時10分48秒
   
 「石川……大事にするから……」
 囁いた保田さんが、あたしを抱き締める腕に力を込めた。もう、全てがどう
 でもいいやって思えるような、そんな気分になってくる。
 ( ……ごっちん )
 けれど、そんな風に楽な方へ流されそうになるあたしを戒めるかのように
 脳裏を過るのは、どうしても彼女の姿なんだ。

 『ねえ、梨華ちゃん』

 
 ………そう言えば。1度でも、あたしはごっちんに強く抱き締められたこと
 なんて、なかったな。ふざけて抱き合うことはあっても、本気で抱き締めて
 くれたことなんてなかったな。

 いつでも、どんな時でもごっちんは、壊れ物でも扱うみたいにそっと、あたし
 の手を握ってくれているだけだった。
 「………ッ……」
 息が止まりそうになる。胸が焼け付くみたいに熱い。


366 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時11分40秒


 ―――― 好きになるより、好きになってもらう方が楽?

 『後藤は、ここにいるから』

 ―――― だって、ごっちんは………

 「………うっ、〜っ……」
 そして、涙が溢れる。
 彼女が、どれだけあたしを大切にしていてくれたのか。 
 今になって、ようやくごっちんの気持ちが理解できた気がして。  

 『心配しなくても、後藤は梨華ちゃん最優先の人生だよー』
 『梨華ちゃん、ちゃんと笑えるじゃん』
 
 思い出す。

 『……後藤はずっと、梨華ちゃんが好きだった……』

 ただ、黙って寄り添っていてくれたごっちんの姿。
 あたしの身体を抱き締めるんじゃない、いつも彼女は、あたしの心をずっと、
 包み込んでくれていたんだ。
 ( ……あたし、あたし………どうして今まで…… )


367 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時12分27秒

 ――――
 ―――――

 「……っく……うっ……っ…」
 「石川。大丈夫よ、私がついてるから」
 「……っふぅ……っ」

 馬鹿だ、あたし。今頃になって気付くなんて。
 愛されていたんだ。
 ちゃんと、あたしは彼女に愛されていたんだ。大事にされていたんだ。
 番組の合間に、ライブの待ち時間に、移動中に、一緒の部屋で、はしゃぎ
 合って夜更かししたときに。
 
 何度も交わしてきた何気ない会話達の中に、いくらでもヒントは散りばめ
 られていた。意識していれば、いくらでも推測することはできた……。
 どうして、あの時。
 屋上で、ごっちんに告白された、あの時。


 ―――― あたしも、ごっちんが好き ――――
  

368 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時13分19秒

 あたしは素直に、彼女の気持ちに答えなかったんだろう。
 自分のことばかり考えて、どうしてごっちんのことを信じなかったんだろう。 


 『後藤はねー、本当は寂しがりやなんだよぉ』
 『……同期って、いいよね』
 『あのさぁ、梨華ちゃんはさあ、後藤がいなくなったら、寂しい?』


 今度は、あたしが彼女に答えてあげなきゃだめなのに。

 ――― 『後藤がいなくなったら、寂しい?』

 ごっちんだって、愛されていなきゃいけないはずなのに。
 …………
 

 ――― 『寂しい?』

 あたしは、ごっちんを愛してあげなきゃいけないのに。


369 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時14分11秒

 「………うっ…く………」
 ぼろぼろと、後から後から涙が溢れて頬を伝う。
 止めることなど出来なかった、しゃっくりも止まらなかった。
 
 ………
 本当は、傷付きやすくてガラス細工みたいに脆くって、繊細なごっちんは。
 きっと寂しがっているのに決まっているのに。誰よりも、深い愛情を欲して
 いるのに決まっているのに。
 

 側にいてくれたごっちんに、「好きだ」と言ってくれたごっちんに、あたし
 はちゃんと答えなきゃいけないのに、今度はあたしから彼女との距離
 を埋めなきゃいけないのに ―――


370 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時14分54秒

 「石川、泣かないで。泣かないで」
 「……やすださぁっ……うっ…」

 耳元で、何度も保田さんが優しく囁いてくれていたけれど。

 保田さんの声は聞こえていたけれど、それでも。
 どうしても、ごっちんの言葉ばかりが頭の中をぐるぐる回っていて。
 ごっちんの笑顔ばかりが頭の中から離れなくって。


 いつの間に、こんなに好きになっていたんだろう?
 よっすぃを好きだったその気持ちが、いつの間にこんなにごっちんに傾い
 ていたんだろう?


371 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時15分55秒

 『梨華ちゃん』
 『梨華ちゃん』
 『梨華ちゃん』
 ………

 あたしを呼ぶ、低めの声。あたしを見る、優しい眼差し。
 それらは全部、あたしに対する同情だと思ってた。
 失恋した可哀想な友人に対する、同情だと思ってた。でも、ただの同情
 なんかじゃない、それは『愛情』を根底にした、何より澄んだ気持ちで。

 ……分かってる、ようやく、分かったのに。

 あたしは自ら、彼女が伸ばしてくれた手を振り払ってしまった。

 「石川、涙………」

 保田さんの声とともに、あたしの頬がその彼女の細い指で拭われた。
 胸が熱い。全身が震えている。

 『後藤が、側にいるからさ』

 ……嘘つき。側にいるって言ったじゃない。


372 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時16分59秒

 「保田さ……えぅっ……ふぇ……っ」
 「話してみなさいよ、楽になるから」
 「……っえっ…く、……っうーっ…」 
 

 ねえごっちん、あなたは今、何してるの、誰といるの?
 後輩たちと食事でもしてるかな。一緒に遊んでいるのかな。


 ………
 ねえ、ごっちん。あなたは独りぼっちじゃないよね?
 寂しがってなんていないよね?
 夜になって、1人で泣いてることなんてないよね?
 卒業することに、不安を感じて悩んでなんていないよね?
 
 ――― もし彼女が、たった1人で孤独を感じていることがあるのなら。

 お願い、誰か。
 ………罪深いあたしに代わって、あの人のそばにいてあげてください。 
 


373 名前:7 self - hatred 投稿日:2002年10月01日(火)22時17分48秒


 失って気付いた。
 保田さんの愛情を受け取って気付いたんだ。
 ――― 意地悪で天邪鬼でいたずら好きでいつも眠そうで、でも憎めない
 笑顔を持つ、子悪魔みたいな年下のあの子を。
 
 誰よりも、愛していたことに。




374 名前:いち作者 投稿日:2002年10月01日(火)22時18分46秒
 今回もかなり頑張って大量(かな?)更新しました。
 ようやく1スレッドを使い切るくらいでしょうか…。次回更新時には、新スレを
 立たせていただこうと思いますのでよろしくお願いします。
 たくさんのレスをいただいて、恐縮ながらより一層気合入れてがんばります。

 >>331 名無し読者さん
 リアルタイムですか、嬉しいです!ありがとうございます。
 横アリ行かれたのですか、本当にうらやましい限りです、(○^〜^)<いいなぁ〜
 現実とシンクロできるよう、もっとサクサク更新したかったのですが、駄目でしたね(w

 >>332 名無し読者さん
 何ともありがたいお言葉ですね、本当に感謝感謝でございます。
 始まって以来、ずっと重いノリで進行しているものですから、少し読んでいて
 気分が暗くなるかもしれませんが、また読みに来ていただければ…

 >>333 いしごま防衛軍さん
 最初からお付き合いいただいて、ありがとうございます。結局、こんな展開
 になってきてしまいました。ここまでくると、さすがに作者としても主役2人
 が可哀想になってきましたので、何とかしないと(w
375 名前:いち作者 投稿日:2002年10月01日(火)22時19分25秒
 >>334 コウさん
 辛い展開ですねえ。しかし、現実世界で卒業があったのでどんどん切ない
 方向にもっていっても違和感はないかな、と。メディアに出ないも卒業の
 背景を、想像を膨らませて書いていますが、この先はどうなるですかね。
 
 >>335 ROM読者さん
 お互いに不器用な2人、というのが作者の中でのいしごまという定義なの
 で、多分読んでくださっている方を苛立たせているかもしれませんが…
 心理描写に関しましては、石川のネガティブさに助けら(ry

 >>336 @さん
 新作情報、ありがとうございます!まつごまも良かったですけども、やはり
 基本はいしごまということで(w  自分の好きな作品が更新されてると
 やっぱり嬉しいものですね。こちらも、よければまた寄ってやってください。

 >>337 名無しごまたんさん
 仕事忙しかったんですね、お疲れさまです。そして、また読みに来ていただ
 いてありがとうございます。そうですね、どんどん石川が凹んでいく様子が
 切なく思っていただければ自分的には成功です!
376 名前:いち作者 投稿日:2002年10月01日(火)22時20分57秒
 >>338 名無し読者さん
 初レスありがとうございます!感情移入して読んでいただいているという
 ことで、本当に嬉しいです。(表現力が足りなくて申し訳ないです)
 ひっそり見守っていただけるということですが、よければ「添い寝」という
 作品を教えていただけると……速攻で見に行きますので(w

 というわけで、このスレでの更新はここまでになります。
 各話のショートカットは
 
 ≪1  with friends≫ >>1-14
 ≪2  love affair≫  >>18-43
 ≪3  a pain≫ >>48-84
 ≪4  uneasiness≫ >>92-180
 ≪5  stupid girl≫ >>188-255
 ≪6  confession≫ >>266-328
 ≪7  self - hatred≫ >>339-373

 次スレもどうぞお付き合いのほどよろしくお願いします。
 移転した際には、またこちらで告知させていただきますので。

377 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月01日(火)23時05分07秒
リアル系の娘小説でここまで気持ちを掴まれた話は初めてですよ。
なんかもう言葉が見つからない・・・次スレ楽しみにしてます。
378 名前:ROM読者さん 投稿日:2002年10月02日(水)01時21分07秒
大量更新御疲れ様です。今、一人静かに切なさに浸っています。
梨華ちゃんのモノロ−グだけで1スレいっちゃいそうな勢いで
すね。次スレ移転まで、また最初からじっくりと読み直します。
379 名前:ROM読者 投稿日:2002年10月02日(水)01時23分05秒
すいません。自分のHNに「さん」は余計でした。
380 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年10月02日(水)10時15分54秒
なっなんとヤッスーも梨華たんのことが!!
梨華たんはどうするのかものすごく気になります。
自分はいしやすもいしごまも大好きなんでなんとも言えない状況です。
最後まで気が抜けないっす!!更新待っていますよ!
がんがってください!!
381 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)19時00分24秒
初めて読みました。
もうどっぷり浸かっちゃいましたw
作者さんの文才には驚きです!!!
続きがめちゃくちゃ気になります。
マターリ更新待ってますのでがんがってください!!!
382 名前:名無しごまたん 投稿日:2002年10月03日(木)01時11分31秒
梨華ちゃん、なんて切ねぇんだ
ごっちんの卒業ライブ以降、泣かないって決めてたのに・゚・(ノД`)ノ・゚・

383 名前: 投稿日:2002年10月03日(木)21時08分49秒
大量更新お疲れ様です。尊敬しますよぉ。
そんなに更新したらうちの場合1ヶ月放置状態になるかも(w
やっすー出てきましたね。気持ちはすべてごっちんなのに・・・
梨華たん切ない。。。ずっと応援してますよ。
384 名前:1450 投稿日:2002年10月04日(金)00時55分30秒
人が死なないのに泣ける小説はこの作品が初めてです。ごっちんも梨華たんも
切なすぎる……お互いに気持ちは同じなのになあ…。
下手にベタベタしない分、より一層のリアルさを感じずにはいられません。
どこかぎこちない、それでも思いやり溢れるごっちんに涙。
後悔しながら、気持ちを伝えられない梨華たんに涙、涙です。
385 名前:いち読者 投稿日:2002年10月06日(日)16時52分46秒
 次スレに移行する前に、レス返しさせていただきます。
 お付き合いいだたいた方々、本当に感謝の気持ちでいっぱいです!

 >>377 名無し読者さん
 ありがとうございます!後藤の卒業には間に合わせられませんでしたが……
 次スレで完結させますので、もう少しお付き合いください。お願いします。

 >>378 ROM読者さん
 最初からじっくりと読まれると、かなりの粗を発見されてしまうとヒヤヒヤ
 しています(w   なかなか話が進みませんが、次スレもよろしくです。

 >>380 いしごま防衛軍さん
 ちょこちょこ出ていた保田、本格的に始動(?)です。メディアから推測し得る
 いしやすに近づけたいと思ってるのですが……自分もいしやす好きなので(w

 >>381 名無し読者さん
 新たな読者の方を確保できて嬉しいです!!まだまだ文章については他
 の小説を読んで勉強中ですが、お褒めの言葉ありがとうございます。
386 名前:いち作者 投稿日:2002年10月06日(日)16時53分29秒
 >>382 名無しごまたんさん
 卒業ライブ、自分も見たかったんですけどね…。自分的には卒業前夜の
 後藤コメントでお腹一杯です。泣けますた。次スレもよろしくお願いします!

 >>383 @さん
 @さんのところが1ヶ月も更新止まったら……かなりショックですよ!そんな
 訳で更新お待ちしています(w  とりあえず次スレでは石川が頑張る……かも。

 >>384 1450さん
 非常に嬉しいお褒めの言葉、ありがとうございます。この話ではまだ世界観が
 7月くらいなんですが、どうぞ最後までよろしくお願いします。


 ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとございます。
 本当は1スレッドで終わる予定だったのですが、どうも終わらなかったため
 次スレに移転させていただきます。もしよろしければ、またのお付き合いの程
 よろしくお願いします!

387 名前:通りすがり 投稿日:2002年10月12日(土)17時26分06秒
次スレ
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/green/1033890892/
388 名前:通りすがり 投稿日:2002年10月12日(土)17時27分44秒
ageてもた。。。
すいません、作者さま
389 名前:いち作者 投稿日:2002年10月13日(日)21時26分27秒
>通りすがり様

すみません、何かを忘れてると思ったら次スレ張ってなかったんですね。
本当にありがとうございます。忘れっぽい作者で申し訳ないです(汗

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