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グラフィティ
- 1 名前: 投稿日:2002年08月21日(水)08時10分25秒
- 約1年振りです。
本作はPart2なのですが話自体は別物です。
Part1は
http://etm.s3.xrea.com/
にあります。以上宣伝。
そんなに長くないので一気にいきます。
- 2 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時11分49秒
- フカフカのベッドに飛び込む。スプリングが弾む。初夏の匂いがする布
団に埋もれる。ベッドの横にあった置き時計を手にとり、白張りの天井に
向かって投げた。当たるスレスレのところで時計は俺の元に落ちていく。
キャッチした手が痛かった。チクタクと微かな針の音が聞こえた。時はあ
いも変わらず流れている。雲は常に風にさらわれる。全ての人間が、明
日を1時間後を1分後を1秒後を思い描きながら生きている。また、俺は
時計を投げる。寝ながら投げるとコントロールは上手くいかないもので、
俺の取れる範囲を超えて、床に叩きつけられる。電池が外れ、時計は時
を刻むのを止める。針は3時25分24秒を指している。時計は止まって
も雲は止まらない。過去は一定のスピードで遠い記憶へと追いやられる
はずなのに、耐え難い挫折はずっと俺の胸に頓挫する。
- 3 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時12分19秒
- ◇
- 4 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時18分32秒
- 天井が高くなった。キレイになった。部屋が大きくなった。自分の部屋
にテレビが付いた。隣りの人の声が聞こえなくなった。数年前、家族を
襲った突然の不幸からは考えられない優雅な生活。誰もが「羨ましい」と
言う。だけど、きっと他人の言う「羨ましい」ほど俺は満足していない。こ
の広い部屋は俺が本当は辿りつけなかった架空の城。小っぽけな欲望
に手を差し伸ばした結末は果てない挫折。
何となくテレビをつけてみた。歌番組が流れていた。真希ちゃんが映っ
ていた。大好きな姉、夢のようなものを作ってくれた姉、そして、俺の心を
壊してくれた姉―――遠くて近い存在は俺の砕けた心を今なお粉々にする。
- 5 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時20分17秒
- それは自分の弱さのせいだと分かっていながら、認められない自分が
いる。すぐさまテレビの電源を切る。意味無く日に焼けた足を伸ばし、立
ち上がる。全身を映す鏡に視線を向ける。まだ大人になっていない身体
の上にこけしのように乗っているスーパーアイドルにそっくりの顔は、幼い
頃は誇りであり自慢であった。
前進しつづける俺の分身が俺の存在自体を脅かしていると感じはじめ
たのはいつ頃だったのだろう。自己憐憫のなれの果ては応援すべき対象
への苛立ち。鏡の向こうの自分――それはきっと”真希”――に銃に見立
てた指を突き立てる。
「バン」
男っぽいしゃがれた声が部屋に響く。せめてもの抵抗。せめてもの優越
感。そのあとに訪れる虚脱感から逃れることはできない。鏡に映る俺の脳
天を打ちぬいた銃を下ろすこともできずに目を逸らす。今日はいつにもま
して蒸し暑くて汗が滴った。何かが待っている予感がした。
- 6 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時22分25秒
- ◇
- 7 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時23分33秒
- 夢なんてなかった。周りの友達を見ても夢なんて明瞭に持っている奴な
んていなかった。ただ、今だけのために生き、女の子を苛めて笑い、親や
先公に楯突き、ツレとバカやっていればよかった。だから夢を持っていな
いことに何の劣等感もなかった。頭は良くなかったし、適当に入れる高校
に行って、適当に仕事を紹介してもらって、適当に結婚して、適当に生き
るんだろうと思っていた。俺の生き方に努力なんて文字はなかった。
「あたし、歌手になりたい」
その兆候はあった。しかし、そうはっきり口にした時、食事中だった俺は
思わず箸を落とした。その時俺が硬直した理由は真希ちゃんの発言だけ
じゃなく、その眼があまりにも決然とした、そう、まるで戦場に向かう兵士
のような強烈な光を放っていたからだと思う。
- 8 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時24分25秒
- 地元では美人で歌が上手くてちょっとした有名人だったことは確か。い
や、だからこそ俺は「浮かれてるよ」「バカじゃねぇの」って思った。多分、
この時から俺は嫉妬の種を燻らせていたんだと思う。夢なんてカッコ悪
い――正確には、夢なんて見て、叶わなかったらカッコ悪い――なぜか俺
は真希ちゃんの意志の強さを突然訪れたオヤジの不幸と重ね、嘲笑気味
に反発した。
どんなに強く生きたって、運命の糸はある日突然切れてしまう。それは
神のみぞ知る必然なもので悲しいくらい平等なもの。想いが強ければ強
いほど、失敗した時に虚しさだけが抽出される。
無理だ、無理だ、無理だ――繰り返される心の叫びは何故か焦燥の色
を交えて、真希ちゃんには届かずに自分の血液内を駆け巡る。
- 9 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時25分05秒
- ◇
- 10 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時27分42秒
- 真希ちゃんは母ちゃんを説得して、ミュージックスクールに入って、オー
ディションをいくつか受けた。そして、受けた数だけ落ちた。落選通知が来
るたびに「もう諦めたら?」って言ってやろうと真希ちゃんの前に立った。
でも言えなかった。悔しさで歯を食いしばる真希ちゃんは、愚かで、バカ
でカッコ悪かった。その弱々しい姿が俺を閉口させたのだ。
言葉を失い、立ち尽くす俺に真希ちゃんはいつもの口調で「何よ」って言っ
てきた。俺は目を逸らしながら「別に」と突っぱねた。「変なヤツ」って言われ
たので、俺は少し頬を膨らませた。場を去ろうとする真希ちゃんの背中に向
かって思わず声が出た。
- 11 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時28分14秒
- 「がんばれよ」
そんな意中にない言葉を受けて振り向く真希ちゃんは綺麗だった。横の小
窓から差し込む朱色の陽光が真希ちゃんの髪を金色に輝かせる。驚きの入
った顔がゆっくりと柔らかな微笑みに変わる。
「ありがと」
俺はそのたった一言、そのありふれた素っ気ない会話に篭る穏やかな温
もりに、ほんのわずかな間だけだが見惚れてしまった。そしてこの些細な出
来事が血の繋がった弟として何かを変えていった。適当に生きるのが自分
の人生だと感じていた俺はこの時から違う道を模索しようとしていたのかも
しれない。それがイバラの道だと、そして決して未来には繋がらない道だと
は知らずに。
- 12 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時28分48秒
- ◇
- 13 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時31分27秒
- 母ちゃんに「これでダメだったら諦めなさい」と最後通告を受けたオーデ
ィションの直前。
夏休みということもあって真希ちゃんは髪を金色にした。母ちゃんは放任
主義な割にそういう面に関しては厳しい人だったので、当然のように真希
ちゃんを叱った。しかし、真希ちゃんは押し切った。それはある意味、母ち
ゃんが出した「最後通告」の承諾との交換条件だった。
今度のオーディションは今までとは違い、ASAYANというテレビ番組が企
画したもので、オーディションの様子がテレビで放映されるようだ。今まで繰
り返してきたオーディションとは明らかに規模が違うし、既に売れているモー
ニング娘。というグループの追加メンバーの募集というものであり、場慣れ
しているはずの真希ちゃんでもかなり緊張していた。
- 14 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時32分20秒
- 背水の陣ということもあって、今まで以上の強い意志を感じたけど、意志が
強いから受かるというものでもないし、1万人以上の応募の中から二人しか
受からないんだから、それでも落ちると思った。
しかし、真希ちゃんは合格した。母ちゃんはあまり喜んだ顔を見せなかった。
多分、期待よりも不安のほうが大きかったんだろう。
テレビ局の人が訪れ、食卓の風景を撮ることになった。俺もちょっと映った。
次の日、姉のこと、そして、テレビに映ったことを友達に自慢しようと思った。
それだけだった。その時はただそれだけで満足だった。
- 15 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時32分54秒
- ◇
- 16 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時44分43秒
- うだるような暑さに耐えかねた俺はエアコンの電源を入れた。肌に張り
付いた汗がさっと消えていく。エアコンの前に立ち、相変わらずの茶髪を
なびかせる。
芸能界を”引退”してから、少しだけ髪は伸びている。前髪を一本引っ張
ってきてその長さを確かめる。生え際は少し黒い。染め直すか黒く戻すか
を考えている最中、設定温度に到達したのかエアコンの風が止まったの
で何かどうでもよくなった。
右のポケットに入れていたケータイがブルった。見てみると出会い系サイ
トへのお誘いメールだった。欺瞞と自嘲とほんの少しの幸福だったたった
一人の空間をジャマされた気がして、些細なことのはずなのに、すげぇム
カついた。
- 17 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時45分18秒
- だけど電源を切る勇気はない。ケータイという情報の網にがんじがらめ
になった現代っ子は一人でいることに、具体性のない不幸に苛まれる。
俺も例外ではない。孤独は最大の敵なのだ。得体の知れない敵に囲まれ、
テンパっていた時に、逃げ道を与えてくれたのが一本の電話だった。
仕事として使われなくなって、メールや電話がめっきり減った、今や飾り
にすぎない携帯電話を握り締める。あの時、ああしていたらこの脆弱な心
は変わらなくても、違った価値観を見つけ、違った生き方を見つけていた
はずだ、なんて過去の愚行をいつも呪う。
しかし、どうやったって人は”今”を生きるしかないのだ。過去を背負い、
予想もつかない未来に怯えながら俺は空洞化した”今”を過ごすことに痛
みのない苦しさを感じていた。
- 18 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時47分24秒
- ◇
- 19 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時48分39秒
- 状況が一変した。一番変わったのは言うまでもなく真希ちゃんだった
けど、俺の周りも変わった。祝福の電話が鳴り止まなかった。夏休みの
間にあるの登校日に学校に行ったら、「お前の姉貴だろ? すげぇな」と
まるで俺がヒーローになったような気にさせられた。
真希ちゃんはものすごく大変そうだった。帰らない日が増えた。家に
帰ってきても、すぐ眠りに入る生活が続いた。こっそり部屋を覗いてみ
ると貪るように眠っている真希ちゃんがいた。昔は結構よく見ていた寝
顔だった。子供のような無邪気な表情はちっとも変わっていないと思い
ながらほっとする自分がいた。
そんな中、母ちゃんが真希ちゃんの初ライブに招待された。場所は東
京読売ランド。8月ももう終わりだったけど、残暑の厳しさが象徴されて
いた日だった。ステージに現れた真希ちゃんは輝いていた。観客のあち
こちから飛び交う真希ちゃんへの応援コールは、俺と真希ちゃんとの数
字にすると20メートルほどの短い距離を遠くさせた。いや、実際遠い存在
になった瞬間だったんだろう。
- 20 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時50分04秒
- 歌っている途中、深い眠りにつく真希ちゃんの寝顔を思い出した。あの
時の純粋な寝顔は別に昔の真希ちゃんに戻ったわけじゃないんだと思
い知らされた。変わってないはずがない。真希ちゃんは前を見て、全速
力で駆け出した。そして俺の手の届かないところに行ってしまった。
ずっと昔、公園の砂場で二人っきりで遊んだことを思い出す。「帰るよ」
と言われ、掴まったあの時の小さくて柔らかい手をもう俺は捕まえること
はできない。俺は取り残されたんだと思い知らされた。
沸き上がる歓声の中、無意識にギュッと拳を握り締めていた。
- 21 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時51分10秒
- ◇
- 22 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時52分31秒
- 学校が始まり、真希ちゃんは髪を黒く戻した。その頃には真希ちゃん
は完全に芸能人になった。生で見るより、ブラウン管越しで真希ちゃん
を見る機会のほうが多くなった。モーニング娘。の活動が最優先になり、
学校へは空いている時間しか行かなくなった。
コンビニでの立ち読みが自然と日課になっていた俺だけど、ある女
性誌の表紙で見つけた真希ちゃんへの得も言われぬ中傷を見て、そ
れも止めた。真希ちゃんにその記事のことを「嘘ばっかりだね」と呆れ
笑いながら伝えると、「仕方ないよ」と疲弊した顔で笑っていた。
芸能界って怖いところだと思う。それでも飛び込む価値があるところ
なんだと思う。俺は普通に学校に通ったが、友達も先生も近所のおば
さんも俺の顔を見るなり、真希ちゃんの話題に触れた。もちろん、歯が
浮くくらいの絶賛の嵐。これが当人だったら恥ずかしくて赤面している
だろう。俺は前と同じように少し浮かれた気分になった。
- 23 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時53分04秒
- 真希ちゃんがあの顔で「かわいい」ともてはやされる全国区のアイド
ルになれるんだから、俺にも素質があると、名前も忘れた真希ちゃん
が有名になった後に一方的に”友達”という契約をさせられた野郎に言
われた。
トイレの鏡で自分の顔を確認し、初めて自分に対して笑ってみせた。
自分も全国民にチヤホヤされるアイドルになった気がした。しかし、この
時、気づくべきだったんだ。俺はすでに”後藤ユウキ”じゃなくなっていた
ってことを。
- 24 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時53分46秒
- ◇
- 25 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時57分16秒
- モーニング娘。のライブに招待された。俺は関係者席のあんまり盛り
上がらないところにいたんだけど、他の席は凄かった。あんなに多くの
人が真希ちゃんに視線を向けている。真希ちゃんが手を挙げると万近
くの客が歓声を上げる。
あのステージの上には選ばれた人がいる。その中に真希ちゃんがい
る。俺と似た作りの顔の姉がいる。一人の客として席に座る自分から何
がが燻った。ここで何もすることなく、ただ姉の輝きを見つづけることが
苦痛になった。
その日、俺は楽屋を訪れた。ライブを無事終え、満足感でいっぱいのモ
ーニング娘。の人たちと真希ちゃん。俺を見ると真希ちゃんは迷惑そうな
顔をしながら、顔をほころばせた。他のメンバーも興味津々な顔つきで俺
に挨拶してきた。
多分、この時はそんな気はなくて、ただ漠然と羨ましさと嫉妬と野望が
少しずつあって、それがミックスされた、夢とか意志とか希望とかには到
底到達していなかったはずの儚い感情だけがあった。しかし、火種と呼ぶ
には十分なくらいあった。
- 26 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時58分11秒
- 同じ時にモーニング娘。のマネージャーさんと会った。独特の引き笑いを
しながらにんまりと口を歪め、俺に「こんにちは」と言ってきた。あんまり付
き合いたくないタイプの人間だなというのが第一印象。
この人は俺の目の中に存在する小さな火種を見逃さなかった。俺が楽
屋から離れ、帰ろうとした時にそのマネージャーが後ろから声をかけてきた。
「君もお姉さんみたいになりたくない?」
もう一度言うと、それは決して夢とかではなかった。真希ちゃんみたい
な強靭な意志もなかった。形にならないほどの小さな小さな感情が砂磁
石のように僅かに寄り添った結果、何かが始まる音がした。
いつしかそれを”夢”を見つけた瞬間なんだと、自分の強い”意志”なん
だと思い込んだ。薄暗い廊下での敏腕マネージャーと呼ばれた男の一言
で今日のあのステージに立つ俺の姿が目に浮かんだ。
俺は旅立ちを決めた。
- 27 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)08時58分52秒
- ◇
- 28 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時01分04秒
- 真希ちゃんとケンカした。とは言っても、昔のような思ったことをバンバ
ン口にして、取っ組み合いをするようなものではなく、お互いを卑下し、悔
恨を残してしまうような汚いケンカだった。
真希ちゃんは「芸能界は甘くない」とか「あんたにできるわけがない」とか
頭ごなしに俺の可能性を否定してきた。俺は初めて真希ちゃんへの中傷
記事を見たあの日から芸能界の恐ろしさを知っていたつもりだった。そし
て、歌手になると心に決めたあの日から覚悟はできていた。だからこそ、
真希ちゃんの有無を言わさぬ否定は納得がいかなかった。
愚かなことに、真希ちゃんは「あんたにはできないことをあたしはやってい
るんだ」という優越感に浸っていたいだけなんだと思った。
「どうなっても知らないからね」と言い残して真希ちゃんは消えた。その後
ろ姿に落選が続いていた頃の弱々しくて、でも純粋な野望に満ち溢れてい
た真希ちゃんはいなかった。日本中でもてはやされ、国民的アイドルになっ
た姉は俺には逆に濁って見えた。それからしばらく口を聞かなかった。
- 29 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時01分36秒
- ◇
- 30 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時05分55秒
- ダンスレッスン、ボイストレーニングとデビューに向けて地道な練習を繰
り返しているとき、マネージャーの和田さんは「明日、お前と一緒に活動を
するメンバーを紹介する」と言ってきた。
俺はソロ活動ではないと思っていたのであまり驚かなかった。そして、
同じ時に「お前を後藤真希の弟として売り出すつもりはないから」と言わ
れた。つまり和田さんは俺を一個人”後藤ユウキ”として才能を感じてくれ
ているということだ。
すごく嬉しかった。ずっと胸に去来していたわだかまりがふっと軽くなった
感覚を覚えた。真希ちゃんに「ざまあみろ」と言ってやりたくなった。
次の日、事務所でソニンとケンに会った。二人とも緊張の面持ちで俺を
見た。ケンは褐色の肌が光る筋肉質な体つきだが顔にはあどけなさが残
る少年。ソニンという少女はどうやら韓国人みたいだが日本語が流暢でコ
ミュニケーションに困ることはなく、俺は韓国に偏見はなかったのですんな
りと受け入れられた。
真希ちゃんがモーニング娘。のメンバーとの初顔合わせの時は心臓が破
裂しそうなくらいバクバクしたと言っていたが、俺にはあまりそういったことは
なかった。
- 31 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時07分50秒
- 二人とも俺が後藤真希の弟だいうことは和田さんから聞かされているよう
で、その点に関しての説明の類はなかった。その時の会話はあまり弾むこ
とはなく、相性がピッタリだとは思わなかったが、これからゆっくり仲良くな
っていけばいいことだし、文句はなかった。
初顔合わせが終わり、家に帰ろうとした時、俺はソニンに声をかけられた。
誰もいない薄暗い廊下の曲がり角で、蚊に刺されたのか左肘の上あたりが
痒かったなんてどうでもいいことをなぜか鮮明に覚えている。
「実はユウキ君に会う前に、真希さんに会ったことがあるんだよね」
少し照れながら髪をいじる仕草は子供っぽくて、年上には見えなかった。
彼女は俺より先にプロダクション入りしていたので、真希ちゃんに会う機
会があったんだろう。「ふーん」と軽く受け流した俺の目を見ながら、ソニン
は微笑む。
「お姉さんに『あなたのことをよろしく』って深々と頭を下げられちゃった」
その後、「これから頑張ろうね」と握手を交わし、彼女は駆け足で去って
いく。俺は握手をした右手の温もりを感じながら、その場に立ち尽くした。
- 32 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時08分37秒
- ソニンはいい奴だと思った。そして同時に真希ちゃんの頭を下げる姿を
想像した。何が優越感に浸りたいだ。真希ちゃんはずっと俺のことを考え
てくれている。否定を押し切った俺を姉として責任を持って、精一杯応援し
てくれる。
いつだってそうだ。右手の感触はソニンから与えられたものだったけど、
いつしか、真希ちゃんの手を握った遥か昔の感触と重ね合わせていた。
荒波が迫ってきても怖くない。俺はこの右手がある限り、生きてゆける。
ずっと引っ張られてきたあの温もりが、いつしか遠いものとなっていたあの
温もりがぐっと近づいた気がした。
芸能界に飛び込んで良かったと赤くなった左肘をさらに掻きながら思った。
- 33 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時09分16秒
- ◇
- 34 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時11分57秒
- 2000年の春、レッスンを重ねながら俺らはついにブラウン管デビューを
果たした。とはいっても歌手デビューではない。フジテレビの「笑う犬の冒
険」という番組でオープニングのバックコーラスを務めることになったのだ。
俺が何より嬉しかったことは出演中は帽子に黒の大きめのサングラス
をしていたため、俺が後藤真希の弟だということが一見だけではわから
なかったということだ。
七光りは大成しないことは俺でも知っていた。だから真希ちゃんの弟と
いうことを売りネタにはしたくなかった。CDデビューは未定だったけど、こ
れから上手くやっていけるような気がした。
そんな中、メンバーの一人であるケンが脱退することに決まった。突然
のことだった。俺たちは長い年月に渡って、行動を共にしたわけでもない
し、その短期間が濃厚なものでもなかったが、それなりのショックはあった。
俺たちの作ろうとしてきたグループが否定された気がしたからだろう。
- 35 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時12分31秒
- 理由は「サッカーがしたい」ということだった。確かにサッカーの話をよくす
る奴だったが、そこまで熱意を持っているとは思えず、絶対何かあると疑っ
た。その点を問い詰めてはみたがケンは口を開こうとしなかったので、「お
前みたいな中途半端な人間が何やっても上手くいかねぇよ」なんて鼻息を
荒くして吐き捨てたが、ケンはどこぞの不良が見せるような荒廃した面構え
をしながら、俺をまるで加害者のように睨みつけてくる。
第一印象だったあどけなさは面影すらない。俺がのけぞった後、ケンは
薄く笑んだ。まるで俺の遥か前を走り、ボロボロになってしまった大人の笑
みだった。
「中途半端なほうがいいことだってあるよ」
意味不明な言葉だったが、今ならわかるような気がする。俺の行為は全
てが愚かなものだったけど、その実いつも何かに追い詰められていた。
「いいじゃん」なんて口で言うのは簡単で、すっごく投げやりな言葉だけど、
それはそれで結構難しい。
気づいたときはもう俺は芸能界にはいなかった。
- 36 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時14分51秒
- ◇
- 37 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時18分22秒
- 「お前が後藤真希の弟であることを公表することになった」
和田さんの口からそう俺に伝えられた。和田さんはしきりに「すまん」と
謝っているのを見て、俺はどうでもよくなった。顔の作りは双子のように似
ているし、こんなことはいずれはバレることで、ほんの少しだけ早くなった
だけのこと。所詮は実力主義なんだから、この逆境を乗り切れてこそ箔が
つくだなんて楽観的に思っていた。
乗り切れる根拠はどこにもないわけで俺は愚かだった。そこには自惚
れがあったに違いない。なぜ、そこまでこの時点で自信を持てたのか今
となっては首を捻ってしまう。
同じく横で聞いてきたソニンは少し顔色がよくなさそうに見えたが、俺が
「頑張ろう」と囁くと彼女は笑ってくれたので大丈夫だと思った。
- 38 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時19分14秒
- 「まあ、そうしたほうが早く売り出せるからな」
その場で最後に言い残したこの言葉は和田さんなりのポジティブな考え
方だったと解釈した。しかし、俺たちに背を向けるその横顔が一瞬、俺た
ちを欺く悪意の塊をした表情に見えてしまう。ソニンはその顔は見なかっ
たようだ。「どうしたの?」と蒼ざめる俺の顔を見ながらソニンは言う。
彼女は顔に出やすいタイプだ。安心させるために「なんでもない」と言っ
て、和田さんの横顔から感じたものを錯覚だと思い込んだ。
それから1週間後、俺たちは『EE JUMP』というグループ名でデビューし
た。真希ちゃんと同じつんくさんプロデュース。明るいポップスで名曲だと
は思わなかったが、悪い曲だとも思わなかった。
もちろん、俺たちにその良し悪しを判断する権利は与えられていない。
ただ売れるように必死になって歌うだけだ。
- 39 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時20分12秒
- 業界のことは詳しく知らないが新人としては破格の待遇で、インストアイ
ベントはもちろん、HEYHEYHEYなどのメジャーな音楽番組にも出演が決
定し、以前から出演していた「笑う犬の冒険」のタイアップもついた。これ
は和田さんの手腕に依るところだろう。
これからは表舞台に立ち、一層多忙になる。その時色々バッシングの
類を受けるかもしれない。しかし、それを覚悟でこの世界に飛び込んだ
んだ。どんな圧力にも耐えて見せることを密かに誓った。
しかし、それは子供騙しのようなあまりにも脆いものだった。
「後藤真希さんの弟だそうです」
「顔そっくりだね]
「真希ちゃんってどんな人?」
「お姉ちゃんの部屋ってどんな感じ?」
「ゴマキって――」
「姉ちゃんはいつも――」
わかっていたはずなのに、”後藤真希”が俺にまとわりつき、俺の心を
壊していく―――。
- 40 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時20分48秒
- ◇
- 41 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時27分00秒
- インストアイベントで全国各地をまわるということを真希ちゃんは体験し
ていない。既に売れているモーニング娘。のメンバーとして入ったからだ。
しかし、普通の新人歌手ならみんなやっていることで俺らも例外ではない。
今までに行ったところがないところを休みなくまわった。デビュー曲は思
ったより売れなかった。2曲目も同じくパッとしなかった。
売れない可能性は十分覚悟していたのに、焦燥がじわじわと背中を登る。
「地道な活動が実を結ぶんだ」と和田さんにしつこく言われ、俺たちは地方
をまわった。
俺は段々とこのインストアイベントに嫌気がさしてきていた。長い時間か
けて辿り着いた先には俺が描いたライブとは程遠いくらいの少人数でのラ
イブ。
来るやつは男が多くてそのほとんどがソニン目当て。ステージの上で目
立つはずの俺は影の存在に過ぎない。そして、なんといっても、数少ない
俺への眼差しが俺にではなく俺を通して真希ちゃんという存在に向けられ
ていることが心にヒビを増やしていく。
- 42 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時27分32秒
- 芸能界は甘くないと覚悟していた。真希ちゃんの弟だとバレた後は真希
ちゃんと比較され、七光りだと蔑視されることはわかっていた。
だけど、俺が思っていたバッシングとは少しだけ違っていた。真希ちゃんと
”比較”されているわけではなかった。そもそも”後藤ユウキ”という人間を芸
能界は認めさえしていなかったのだ。
デビューしたのは俺ではなく”後藤真希の弟”だった。七光りと蔑視される
以前の問題だった。
「ユウキ、よかったな。がんばれよ」
3rdシングル『おっととっと夏だぜ! 』はDVD付きということもあってか
1、2枚目よりは売れた。そんな時に中学校のダチに電話で一言そう言
われた。そのダチというのは夢も未来像もない時代によくつるんでいた
奴で心を許せる数少ない人間だったが、ここんところは忙しくて会って
いなかった。
- 43 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時28分40秒
- 素直に嬉しかった。芸能界入りして初めて”後藤ユウキ”が現れたよう
な気がした。それから忙しくていつの間にか途絶えていた電話を再びよ
くするようになった。
あの頃に戻りたい―――いつしかヒビの間からそんな煩悶する声が聞
こえてくるようになった。
そもそも歌手になることは夢ではなかった。真希ちゃんを見て夢を持つ
ことに、そして叶うことに憧れていただけだった。それは一歩前に進んだ
という意味のつもりだった。
3rdシングルが売れ、軌道に乗りかけていた”後藤真希の弟”は”後藤ユ
ウキ”のせいで今ゆっくりとブリリアントロードを踏み外す。
- 44 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時29分18秒
- ◇
- 45 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時33分40秒
- 4thシングルの発売が決まり、同時にインストアイベントが行われるこ
とも決まった。はっきり言って納得が行かなかった。3rdで売れたのにな
ぜまた同じ事をやろうとするのか。
それに何と言っても相変わらず俺は”後藤真希の弟”という立場でし
か認められていないということが苛立ちを増やす。いつの間にか俺の
心はヒビどころか割れてしまっていた。
ソニンにその悩みを打ち明けることはできなかった。それは同じグル
ープのメンバーでありながら、信頼を築けていなかった何よりの証拠だ
ろう。異性ということで下らない男のプライドも邪魔したのかもしれない。
昔から自分の弱さを誰かに吐き捨てられる人間ではなかった。いや、そ
れ以前に自分の弱さを弱いと認められない人間だったんだ。
とにかく、ソニンの前では常に平静を保った。悲しいぐらいにそれは完
璧だった。
- 46 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時36分45秒
- 「今? 遊んでるよ」
例のダチの一言で俺は脱走する気になった。夢なんてなくていい。俺が
和田さんに声をかけた時に生まれたものは決して夢なんかじゃなかった。
意志でもなかった。ただ自分には不可能なことがやけに現実を帯びてい
て、まやかしだとは薄々気づいていながら俺はそれを押さえつけ、夢だと
いうことにした。
最初の一歩から俺は間違えていたんだ。だから、脱走は突発的な出来
事だったとはいえ、全てが挫折に終わり、閑居な生活に埋もれている今で
は間違っていないと思っている。もし留まっていたら、今頃はもっと悲惨な
ことになっていたかもしれない。
あの行動こそ俺が俺たる所以だからだ。あまり誉められた行動ではない
けど、中学生であった俺の本質部分の衝動だった―――2001年8月12日。
俺はマネージャーと口論になった挙句、現実から逃走をした。
捨てるんじゃない。”後藤ユウキ”を生き返らせるために俺は逃げた。
- 47 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時42分04秒
- ◇
- 48 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時42分36秒
- いつの間にか眠ってしまったみたいだ。
頬や肘、膝から感じる気持ち悪さのせいで目が覚めた。汗びっしょりだ
った。エアコンを見ると止まっていた。どうやらつけた時に数時間経った
ら勝手に止まるようになっていたらしい。
ベタベタのシーツから離れ、途端に肌に浮かび上がる汗を拭った。窓を
開けるともう日が落ちていて、薄闇になった空と大地を幾千もの雨が結ん
でいた。
まだ梅雨の真っ最中であることに気づいた。本格的な夏に入る前の1ヶ
月。白い天井と黒い空のコントラストが映画のスクリーンのように記憶の
像を映し出した。
- 49 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時45分06秒
- 俺は少しの眩暈を感じ、目をパチパチとしばたかせた。瞬く間に思い出
がくっきりと浮かび上がり、現在の世界に過去の余韻が焼きつく。
梅雨のじとじととした雨が好きだった幼い頃の俺と真希ちゃん。一緒に
濡れながら色んなことをして遊んだ。夢とか意志とか何もなくても最上級
に幸せだった。
ある日、突然の豪雨により10メートル先が見えなくなり、俺は泣きなが
ら、近くにいるはずの真希ちゃんを探した。俺はここにいるよ、だから早
く見つけてって。そう、俺はいつだって真希ちゃんを探していた。例え嫉妬
に変わる存在でも、例え手が届かない存在でも真希ちゃんを見つめてい
た。
俺はここだよ――そう何度も叫びながら真希ちゃんを見つけ、勢いその
ままに抱きついた。感じるのは真希ちゃんの体温と、一定の速度で内側
から真希ちゃんを叩く穏やかな心臓の鼓動。
この全身を覆う真希ちゃんという存在が幼い俺の全てだったんだ。
- 50 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時45分55秒
- 物音がして俺は部屋を出た。今日は母ちゃんも真希ちゃん以外の姉貴
も来ないはずだ。少しの警戒心を持って、階下に降り、玄関に行くとそこ
にはズブ濡れの真希ちゃんがいた。
俺はさっきまで脳裏に残っていた過去の残像とダブらせて見てしまい、
一度ギュッと目をつぶった。背中を向けている真希ちゃんは靴紐を解いて
いるようだ。
「なんで濡れてんだよ?」
早く帰ってきたことより、俺はこっちを疑問に思った。いつもならタクシ
ーで家の手前まで来るはずで、どんなに激しい雨でも濡れることなんて
ないはずだからだ。OLのような白系のカッターシャツを着ているせいで、
ブラジャーが薄っすらと見え、茶色の髪は濡れたせいで黒くなり、髪先か
らポタポタと水滴が滴っている。
靴を脱ぎ、髪を一度かきあげてから真希ちゃんは立ち上がり、俺を見
た。俺は本能的に身構えてしまう。肌にもいっぱい雨がついていたせい
か、やけに暗く見えたのだ。
- 51 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時46分39秒
- 「お母さんは?」
真希ちゃんは濡れている理由を説明しようとせず、俺にそう聞いてくる。
今日は仕事でいないことを告げると「ふーん」と言いながら台所に向かい、
古いせいか低く唸る冷蔵庫の扉を開け、何かないか物色しはじめた。
その間に俺はタンスから大きめのタオルを持ってきて真希ちゃんに渡す。
真希ちゃんはヨーグルトを食べていた。俺はもう一度何故濡れているのか
聞こうと対面の椅子に腰掛けたとき、真希ちゃんはゆっくりと口を開く。
「あたし、娘。を卒業することに決まった」
濡れた髪。濡れた頬――真希ちゃんは決して泣いているんじゃないと
信じたい。
- 52 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時47分09秒
- ◇
- 53 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時49分04秒
- 最低3ヶ月間の休養が決まった後は暫く、ダチの家にお世話になっ
たり、野宿をしたり、色々なところを転々とした。
修学旅行で行く予定だった京都に行って、ぼんやりと空を眺めたりし
た。薄いサンダルを通して、アスファルトの熱が足の裏に伝わってくる。
変装用にかけた黒のサングラスを強い光が刺し貫く。日に焼けた腕は
遊んだ結果ではなく、この夏は何もしなかったという悲惨な証だ。
黒い腕を見て、ようやく挫折を身に感じた。圧倒的な虚無感はきっと
多忙だった生活への憧れ。
後悔だけを手にして家に帰るとたまたまオフだった真希ちゃんと出くわ
した。真希ちゃんとは脱走以降は会っていなかったのできっと酷いことを
言われるだろうと思い、まだ言われてもないのに変にムカつき、俺は真
希ちゃんを睨みつけた。
- 54 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時49分34秒
- 「おかえり」
しかし、予想に反し真希ちゃんは何も言わなかった。俺の脱走のせいで
真希ちゃんはきっと多方面から色々言われたに違いない。もしかしたら
謝罪もしたかもしれない。今後の真希ちゃん人気にも影響を及ぼすかも
しれない。
しかし、それでも真希ちゃんは俺を非難してはこなかった。最低の芸能
人の烙印を押された俺を唯一、一人の男として見ていてくれた。
俺はバカだから、感謝の気持ちを表すことはできなかった。ただ単に「た
だいま」と言えばいいことだろうに、その時は無言のまま、ただ自分の情け
なさに悔しさだけを募らせた。
- 55 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時50分07秒
- ◇
- 56 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時56分08秒
- 俺が休業している最中に、市井さんのソロデビューが決まった。
11月にフォークのアルバムを出し、12月にプレデビューのライブを開く。
そして、4月頃本格的にデビューするようだ。
俺はその話を業界の誰からでもましてや真希ちゃんからでもなく、「強」
にした扇風機に直に当たりながら、ぼんやりと見ていた昼のワイドショー
で知った。
その話題の途中、俺の名前が出てきてドキリとした。市井さんとはつい
2ヶ月ほど前に、スキャンダルされたところだったのでそのことについて
触れていたのだ。
市井さんはモーニング娘。を辞めてからも時々ながら俺の家、というか
真希ちゃんの家に遊びに来ていた。あのスキャンダルの元になった駄菓
子屋でのツーショット写真もたまたま二人で買いに行ったときに撮ったもの
であって、報道されたような恋人同士というわけではなかった。
ただ、俺は市井さんが好きだった。そして多分市井さんも俺のことに好
意に近いものは寄せていたと思う。
もし、出会い方が違っていたら――もし俺がデビューしていなかったら、
もし市井さんがモーニング娘。を辞めていなかったら、今とは違った形に
なっていたかもしれない。
- 57 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時57分53秒
- 市井さんはモーニング娘。を辞めたことを後悔していて、娘。が出ている
番組は見ないと言っていた。俺は真希ちゃんという存在が常に俺の前に立
ち塞がっていた。
俺たちの間にはコンプレックスという言葉がピッタリのネガティブな共鳴
があった。それをお互い認め、舐めあっていることにいつしか気づき、そ
んな自分たちを恨んだ。
これが普通の恋人にはなれないどうしようもない壁だった。
だから今、再デビューしてパッとしないながらも、あの後悔を別のものに変
えようと活動していることを手放しで喜びたい。俺にはブラウン管越しに見る
市井さんの姿はあの時の市井さんを飛び越えて輝いて見えた。
- 58 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)09時58分38秒
- ◇
- 59 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時05分05秒
- 俺の復帰話が持ち上がった。ソニンは”EE JUMP Featuring ソニン”と
いう訳のわからない名義で一枚CDを出している。その歌を聞いたとき、
俺なんて要らないとつくづく感じた。
しかし、その頃の俺は友達もいなくなっていた。デビュー前のようにバ
カなことをやって、ただ笑って生きたいと思っていたのに、なぜか前と同
じように純粋に笑えなくなった。
その原因は時のせいかもしれない。もしくは俺が一度でも夢を見てしま
ったからかもしれない。一度壊れた形のないモノはもう二度と元へは戻ら
ない。先へと進むために新しいモノを作るしかないことを痛感した。
だから俺は逃げた芸能界というイバラの道にもう一度戻った。ソニンは
ほんの半年も満たないのにやけに大人っぽくなっていた。その分、冷たく
も感じた。それは芸能界を一人で生きてきたという自信であったのと同時
に、逃げ出した俺への侮蔑でもあったと感じた。もちろん、それはわかっ
ていたことでゆっくりと罪滅ぼしをすればいいと思っていた。
- 60 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時06分08秒
- 結局、2002年1月31日、ニッポン放送の特別番組で俺は復帰をした。ソ
ニンは「嬉しい」と何度も言ってくれた。俺は俺にしか感じられない冷たい
視線にその裏に潜む怪しい影を感じてしまう。
そもそも復帰した時の決意なんて薄弱なものだった。ただ流されて、夢
だとは全く思わずに、居場所のなくなった俺の意志のない復帰に過ぎな
かった。
多忙で逃げた。怒られるのが嫌で逃げた。”後藤ユウキ”を認めてくれなく
て逃げた。遊びたくて逃げた――何一つ解決していなかった。いや、むし
ろ俺を壊す要素は増えた。
「これからは二人で頑張ってやっていきたいと思います」
多分、ソニンは本当は半年間俺に対する部分は変わらないでいてくれたん
だと思う。歌に対して純粋な気持ちは同じだった。違うのは成長の証として
一人で生きていたことに自信と誇りを持ったことだ。それだけだったのに、卑
屈な俺は取り違えてしまったんだ。
- 61 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時06分52秒
- 脱走して戻った俺はデビュー前のバカやっていたあの頃には戻れなかっ
た。それと同じだった。EE JUMPに復帰した俺はつらいながらも必死でやっ
ていたあの頃には戻れなかった。それはダチやソニンが変わったのではな
く、俺が変わったせいだ。
崩壊への道程が復帰した時点で刻まれていた。
- 62 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時07分45秒
- ◇
- 63 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時10分41秒
- ジャニーズジュニアのHとは逃走する前から面識があった。
友達というほどでもなかったが芸能界の数少ない話相手の一人だった。
復帰してから出たミュージックステーションで再びHと顔を合わせる。
「面白いとこ、連れてってやろうか?」
おそらくなぜ逃走したのか聞きたいのだと思った。そういう輩は結構い
て、そのほとんどが結果的には俺を嘲る方向へともっていこうとしていた
ため、少々うんざりしていた時だった。
だから、「今忙しいから。又今度な」と生返事を返しておいた。後日テレ
ビ局の廊下で再びHと会い、同じような言葉で誘われた。丁度和田さんに
叱られ、むしゃくしゃしている時だったということもあって、今度はオッケー
をしてしまう。
- 64 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時11分17秒
- 連れて来られたところは新宿の歌舞伎町。飲酒歴はほとんどなく、タバ
コもデビュー前にちょっとだけ吸っていたぐらいの綺麗な体の俺にとって、
夜の歌舞伎町の雰囲気は初体験だった。そして、俺たちは「クラブNOW」
という店に入った。
そこはキャバクラ店だった。露出の激しい女の人や目を悪くしそうな装
飾とかを見ると、最初は場違いな気がして、終始俯き加減だったが、乗せ
られるがままに飲んでしまったお酒の勢いも手伝ってか、開放的になって
しまう。
Hはなぜ逃走したのか興味本意で聞いてくることはなかった。ロレツの廻
らない舌でどうして聞かないのか尋ねると、「理由なんてどうでもいいよ。た
だ逃げ出したお前がカッコいいって思ったから誘った」だなんて言う。
- 65 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時13分16秒
- こんなバカげた言葉でも感動してしまう俺がいた。Hとは親友になれる気
がした。それからHはジュニアの裏話を暴露し、俺は制作しているアルバ
ムのレコーディングのつらさや真希ちゃんへの嫉妬を吐露した。
閉じ込められていた鬱積が吐き出される快感とともに、俺は最初とは逆
に俺のほうからHを誘ってキャバクラに何度も足を運んだ。
その間のレコーディングはストレス発散の場ができたおかげか順調だっ
た。和田さんにも誉められることが多くなった。ソニンは復帰後初めて本当
の笑顔を見せてくれたような気がした。全てが上手くいっている――初めて
芸能界で生きていけるという自信が生まれた次の日、キャバクラ通いがバ
レ、俺の芸能生活は突然幕を閉じた。
- 66 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時13分47秒
- ◇
- 67 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時18分48秒
- 2002年7月31日、真希ちゃんの卒業が伝えられた。そして翌日の今日、
映画の制作発表と同時にその件について真希ちゃんはコメントすることに
なっている。
家を出る真希ちゃんは別段変わりはなかった。脱退が決まってから3週間
も経っているので、もう本人の中では事実として消化しきったところがあるの
だろうか。
俺はこの間真希ちゃんとほとんど口を聞かなかった。元々、話すことは少
なかったがこの期間は意図的に避けていた。
俺はずっと考えていた。俺にとって真希ちゃんは何なんだろう、と。
大好きな姉、夢のようなものを作ってくれた姉、そして、俺の心を壊してくれ
た姉――俺の前には常に真希ちゃんがいた。超えられない壁として立ちはだ
かった。その存在は羨望になり、嫉妬になり、敵意の対象にまで到達した。
- 68 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時19分56秒
- 穏やかに流れる時の中で生活するようになり、俺は真希ちゃんの背中を
追うのを止めた。挫折感を追っ払うことはできない。虚脱感は相変わらず
突発的に訪れる。
だけどこの3週間で、俺の中の真希ちゃんに対する嫉妬だけは消えてい
た。俺は真希ちゃんが苦しみ悶えつづけたデビュー前を知っている。デビュ
ー後、想像もつかない不安を抱えていたことを知っている。そんなことは一
切忘れて俺はいつしか真希ちゃんの輝いている瞬間だけを見て嫉妬した。
今回の卒業の件で真希ちゃんはあまり感情を出していない。あまりにも淡
々としていて、弟の俺でも悔しいのか嬉しいのかその真意を測り取ることは
できない。
ただそのことで真希ちゃんは一人になる術を覚えたんだなって思った。別に
ソロになるという意味ではなくて、精神的な一人立ちということ。
それが俺には悲しく見えた。
- 69 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時20分32秒
- 俺がずっと見つづけた真希ちゃんの背中は違う方向に曲がっちゃったよ
うな気がした。それは追うのを止め、遠い位置から客観的に見ることがで
きたからわかったことなのかもしれない。
真希ちゃんは別に俺みたいな挫折をしていない。それでも、芸能界という
世界に作られた自分ではなく、本当の自分がふっと現れて、道を踏み外し
たあの時の俺と同じような気がした。
気のせいであってほしいと心から願った。
- 70 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時21分28秒
- ◇
- 71 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時24分54秒
- その日の夜。ジュース片手に漫画を読んでいる時、夜の風に乗って鳴る
かすかな風鈴の音を掻き消すように玄関の扉が開く音が聞こえた。
真希ちゃんだ。おもむろに時計を見ると22時を回ったところだった。俺と
目が合っても「ただいま」も言わない。俺がさっき見た部屋の掛け時計に目
をやってから、ミニコンポの電源を入れた。どうやらラジオを聞こうとしてい
るようだ。
「なんだ、やってないじゃん」
真希ちゃんは少し落胆したような声をあげ、電源を切った。その時によう
やく矢口さんのオールナイトニッポンを聞こうとしたのだと気づいた。今は
野球中継の関係でやっていないようだ。
いつもはオールナイトニッポンなんて聞かない。だから今回の自分の卒
業が影響しているのだとすぐわかった。
- 72 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時26分27秒
- 卒業に対しての感情がそこに垣間見えた。それはあまりにも小さい姉の
背中―― 一人になることは覚えたのに孤独になることへの耐性はない矛
盾した姉。ぼーっと見ている俺に気づき、真希ちゃんは「何よ」と言ってき
た。俺は「別に」と突っぱね、目を逸らした。すると「ヘンな奴」と言われた。
「おやすみ」
そう俺に言い、自分の部屋に向かう姉の背中を俺はぼんやりと眺めて
いた。
芸能界を引退したことについても真希ちゃんは逃走したときと同じように
俺を貶すことはせず、ただ一言、「おつかれ」と言うだけだった。それを一
種の優越感ゆえの淡白な言葉だと誤解していた。しかし、今では姉なりの
激励だったんだと信じている。
- 73 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時27分19秒
- そう思えたのは血の繋がりのせいなのかもしれない。俺は後藤真希の
弟であることは嫌というほど思い知らされている。しかし、それと同時に真
希ちゃんは後藤ユウキの姉でもあるんだ――今回の真希ちゃんの卒業を
機に、そんな当たり前すぎることをいつしか忘れてしまっていたことに気
づいた。
もう、俺が真希ちゃんの背中を追うことはない。だけど、遠くからでいい
から時々は見ていたいと思う。そして、真希ちゃんも振り返り、俺を見て
くれたら嬉しいと思う。
だって、俺たちは姉弟だから。決して一方向の関係じゃないんだから。
- 74 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時27分53秒
- ◇
- 75 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時33分02秒
- 「モーニング娘。に入るオーディションの時も、その前もやっぱりずっと
1人で歌いたいという気持ちはずっとあった」
「1年ほど前くらいから話を徐々に徐々に進めて行きました」
「1人の活動にもっと専念したいなあと思って卒業します」
次の日の芸能ニュースで真希ちゃんのコメントが放送された。
これらは真実だ。真希ちゃんは元々モーニング娘。に入りたかったわけ
ではなかった。1人で活動したいという気持ちはあった。
真実だとわかっているのに、このコメントを聞いて俺は悔しくなった。な
んとなくその真希ちゃんの意志を利用されただけのような気がするのだ。
昨日の弧弱な真希ちゃんを見ているからこそそう邪推してしまうのかもし
れない。
- 76 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時35分03秒
- きっと真希ちゃんの持っていた夢はモーニング娘。に入って少し変わっ
てしまったんだと思う。
モーニング娘。に入り、歌を歌い、メンバーと笑い、新曲が売れたことを
喜び、ドラマにも出演するなど、自分でも想像もつかなかった世界での出
来事の繰り返しにそれが夢であったかどうかさえわからなくなってしまった
んだと思う。
結局真希ちゃんは何が夢かわからないまま流されてしまった。その点は
俺と似ている。
「1人で歌いたい」――真希ちゃんはいつしかそれを夢だと思い込んだ。
そんな気がしてならない。卒業は始まりだなんて言うけど、決して眩い光を
求めてのスタートでないのは明らかだ。”元モーニング娘。”という冠は諸刃
の剣で、活動の仕方を誤れば、真希ちゃんはどんどん飽きられてしまう。
真希ちゃん自身、わかっているだろうから期待よりずっとずっと不安が大
きいのだろう。
- 77 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時35分34秒
- それがあのラジオにかじりつこうとする小さな真希ちゃんを生んだんだ。
一人になっても矢口さんらメンバーがいることを確認したかったんだ。大丈
夫だよ。メンバーは誰一人として、ずっと”モーニング娘。だった後藤真希”
は忘れない。その心にはずっとモーニング娘。という名の家族の一員とし
て刻まれているはず。だから孤独だなんて思わないでほしい。
しかし、そんな言葉たちを孤独に怯える真希ちゃんに直接伝えることは
できない。俺から言ったって、他人の戯言にしか聞こえないと思う。俺がで
きるのは弟として長い年月育んできた関係を思い出してもらうだけだ。
- 78 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時36分11秒
- 「何よ」「別に」「ヘンな奴」――軽すぎる一言が俺たちの間では繰り返
された。
「がんばれよ」――俺は落選つづきだった真希ちゃんにそう言った。
「ありがと」――真希ちゃんは笑ってそう言った。
「おかえり」――逃走して帰ってきた俺に真希ちゃんは怒りもせずただ
そう言った。
「おつかれ」――芸能界引退が決まったあと、真希ちゃんは優しげにそ
う言った。
そう、ただその一言だけで俺は報われた。俺たちは姉弟だから。それ
だけでいいんだ。
- 79 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時36分46秒
- ◇
- 80 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時40分46秒
- 自分の部屋の全身を映す鏡の前に立ち、前に進むことを止めた愚かな
人間を見つめる。立ち止まった両方の足には足かせがついているように
重く、次の一歩を踏みしめることができない。
人は俺をバカな奴だと罵るだろう。その蔑みに今の俺は耐えることがで
きないだろう。後悔はいつも感情のすぐ近くに存在する。きっとこれらは拭
い去ることは一生できない。
俺はこれからどういう人生を歩むのか見当もつかない。だけど、そんな
時代の流れに取り残され、真新しい孤城で佇む俺を母ちゃんや真希ちゃ
んは責めようとはしない。だからそれに甘えて、ゆっくりとでもいいから空
洞化した”今”に真希ちゃんたちの優しさや想いを詰めこもう。そして薄暗
い未来への道を確認して、いつか次の一歩を踏みしめようと思う。
俺は後藤ユウキだという自信を持って。後藤真希の弟だという誇りを持
って。
- 81 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時41分19秒
- ◇
- 82 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時43分34秒
- 2002年9月23日。真希ちゃんの人生の第一章が終わった日。
帰ってきた真希ちゃんはもう泣き枯れたのか、俺に見せる表情はいつ
もの憎たらしい姉の顔だった。これから真希ちゃんはどうなっていくのか
わからない。ソロ活動が上手くいかない可能性だって高い。不安ばかり
のスタートを切った。
それでも、もし最初からソロ活動していたらとか、もしまだモーニング娘。
を辞めないですむことができたならなんて考えてはいないはずだ。
真希ちゃんは俺とは違う。だから大丈夫。きっと大丈夫。その夢が意志
がモーニング娘。であったことに誇りがある限り、絶対大丈夫。
真希ちゃんは自分を常に見つめながら”今”を強く生きる。それだけは
誰にも変えられない。俺にできることは一緒に”今”を生きながら、そっと見
守るだけだ。
「おかえり」
その一言で、真希ちゃんは微笑みを湛える。
「ただいま」
俺はあの陽光に包まれて輝いてみえたデビュー前の真希ちゃんを思い
出す。
そしてまた、俺たちは同じ明日を迎える。
- 83 名前:グラフィティ2 投稿日:2002年08月21日(水)10時44分18秒
- - END -
- 84 名前: 投稿日:2002年08月21日(水)10時44分53秒
-
- 85 名前: 投稿日:2002年08月21日(水)10時45分32秒
-
- 86 名前: 投稿日:2002年08月21日(水)10時46分14秒
- グラフィティ2
>>2-83
- 87 名前: 投稿日:2002年08月21日(水)10時57分34秒
- またいつか。
- 88 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月21日(水)19時45分41秒
- フィクションなのにリアルで切なすぎて苦しくなりました
これ読めて良かったありがとう
- 89 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月22日(木)06時29分32秒
- こういうの好きだなぁ
- 90 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月24日(土)19時34分00秒
- (・e・)ノ<ここまで読んだ
- 91 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月31日(土)04時39分52秒
- あんた、ホントにすげえよ!
圧倒された。
この作品を書いてくれたことに感謝。
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