インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

Stellar memory の続き

1 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月24日(土)19時07分37秒
調子に乗ってたらスレの許容量が超えてしまいました…。。。
なので続きを載せます。
多分(てか絶対!)あまるのでその他の話もちらほらと…。
2 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月24日(土)19時08分16秒


「矢口さん」
「?…」
両手を広げて堪えながら笑顔を作った。
「吉澤の胸貸してあげます」
「え…?」
「その…「裕ちゃん」の代わりにはならないかもしれないですけど…」
とことん自分はお人よし馬鹿だと思った。
わざわざ恋敵にまでなりきるなんて…。
「人肌が恋しくなる時って、あると思うから…」









「よっ…しざゎ、さっ………裕ちゃ…っ!」




あたしの胸に顔を預けて泣き出す矢口さんの背中を、あやす様に撫でた。
「ゴメン…ゴメンね……たし…あたしっ……!」
それは、愛した人に見立てたあたしに対してですか?
それとも、あたしの中に見た愛した人に対してですか?

まぁ…どっちでもいいです。
たとえ後者の方でも、それでも構わない。
矢口さんがそれであたしを必要としてくれるなら。

あたしは…「裕ちゃん」になりきる。




3 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月24日(土)19時08分50秒






―――――――――……



―――――……






泣き腫らした矢口さんはしばらくすると気恥ずかしそうに、体を離して「あ
りがとう」と小さく言った。肌寒いと思ったことなんて、これっぽっちも頭
になくて、あたしは矢口さんと一緒に満天の星空を眺めていた。

「星…綺麗だね…」
「そうですね…」
「知ってる?今こうやって光って見える星はね…」
「とっくの昔に死んじゃって、光だけ見えてるんですよね」
「知ってるの?星の事詳しいんだ」
「いいえ、教えてもらいました」
「へぇ、誰に?」



4 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月24日(土)19時09分57秒



その時に見える星の光は、もう既に存在しないモノ。
見えてるからといって、もうその場所にはいない。
でもね、矢口さん知ってました?
星が消えたその場所で、また新しい星の種が出来るんです。
死んでしまった星のカケラから、新しい星がまた生まれるんです。



だから、ね?



まだ「裕ちゃん」の事、忘れられないかもしれないけど

犯した罪の重さは計り知れないけど

あたしと過ごした時の記憶、もう無くなっちゃってるかもしれないけど



負けませんから

待ってますから








「一番大好きな人に、です」









また一緒に笑いあえる日を―――――――







                 ―――――END


5 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月24日(土)19時12分09秒
ほぉらね!やっぱり余った!(あたり前だ)
最後の最後で、はぁ〜…アフォでーす。スレッドまんぱーい。

>>432ヒトシズク様
 (0^〜^)<生きてるってスバラスィ〜♪

>>433読んでる人@ヤグヲタ様
 無事完結いたしました。ありがとうございます。

>>434名無し読者様
 まぁ、あちらからいらっしゃった!思いがけない読者様…。
 嬉しいです☆ありがとうございます。
6 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月24日(土)19時14分01秒
無事完結することが出来ました。
今までレスしてくださった方々、それから読んでくださった方々、
ありがとうございました!
7 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月25日(日)01時43分18秒
完結おめでとうございます。そして乙彼様でした

矢口が正常に戻って吉澤とのことは失われましたけど、
これからが本当の矢口と吉澤の始まりなんですよね。
吉澤は体を張った賭けに挑んだ甲斐があったってモンですね。
こんな吉澤ならこれからも矢口を幸せにしてくれることでしょう
良かった良かった
8 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月25日(日)14時36分13秒
なんかいい終わり方でよかったです。
9 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月25日(日)15時09分19秒
脱稿お疲れ様でした。
矢口がよっすぃ〜のコトを忘れてしまったのは残念ですが、
とても綺麗な終り方で良かったです。
では、次回作も期待してます。
10 名前:HALコン。 投稿日:2002年08月26日(月)22時54分21秒
久々によしやぐ長編(?)作品を見つけてかなり嬉しかったです!!
作者様、完結お疲れさまでした。すごく楽しかったです!また時間を見て読みかえしたいと思います☆
次回作も期待してますが、出来れば、今回の話の番外編なども読みたいとか思ってしまいました。
梨華ちゃんのその後とか、よしやぐのその後とか。…欲張りですか?私。
これからも楽しみにしていますので頑張って下さい!!
11 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月28日(水)16時15分54秒

『ねぇ…早くぅ…』

「ね、ねぇっ!やっぱマズイって!」
「しーっ、静かに!」

そこは都内のとあるスタジオ。
本日ここではあの超人気アイドルグループ・モーニング娘。の番組収録が行わ
れていた。が、ただ今の時間は休憩中。
ハードなスケジュールの合間に与えられる少しばかしの一時。
きっと皆、少ない時間を有効に活用してその心身共に癒されているのだろう。


『まだなのぉ…?』
『もうちょっとです…』

「うわぁ〜…や、やばいやばい…やばいよぉ〜!」
「だから静かに!」

そんな貴重な休憩時間を割いて、決して良いとは言い切れない事をしている二匹のウサギちゃん。
12 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月28日(水)16時16分32秒


「うああぁぁ〜…ヤベーヤベーよぉぉ…!」
頬を赤らめ一人何やら暴走しているのは、訛りが強い期待の新人ダークホース
目と目があって泣く子も黙る、びっくり顔のホッピーでホップ高橋愛。

「もぉ静かにって言ってるのに!」
とか言いながら結構自分も大声出してるのは、頭脳明晰パクパク金魚、いつも
完璧、今日の私も美人です?紺野あさ美。


このウサギちゃんたち。
二人揃って楽屋のドアに耳をそばだて、中の様子を窺っていた。

13 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月28日(水)16時17分51秒


『あっ、やっ…、それダメ!』
『えぇ〜?』
「「ぶっ!!」」
そこってドコ!?なんて思い耽りながらそんな二人が聞いているのは、楽屋か
ら聞こえる誰かの声。おそらく、多分、いいや絶対、これは。
その声は聞いただけで分かる、やっぱりメンバー愛でしょう。


『よしっ!じゃあ…』
『もぉ…』
この二人が聞き間違える筈がない。
なぜなら、愛・あさ美、それぞれ自分の教育係である人なのだから。
『よっすぃ〜!イジワル…』
『ダメですよぉ〜、安倍さぁん』

誰もいなくなったと思った楽屋内で二人きり、何やらアヤシ〜イ会話を繰り広
げ、先ほどの安倍のその甘〜い囁きと言ったら生半可なものではなかった。

14 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月28日(水)16時18分31秒



事の始まりは今からおよそ数分ちょっと前。
本日2度目の休憩時間に入ったモーニング娘。のメンバー達、お昼のお弁当も
渡されそれぞれ昼食を取り終えた頃の事。残りの休憩時間を堪能するため、各
自バラバラの個人行動をとっていた。
別段、楽屋にいても大してする事はなかったので、ほとんどのメンバーは楽屋
には留まっていなかった。まぁ、食後楽屋でをまったりしたいと思うのならば
話は別なのだが。

愛・あさ美も前者の方なのだが、ただこの二人は昼食時に渡されたお茶だけで
は物足りず、飲み物を買うために出て行っただけだったので結果的には後者の
方なのであった。



二人そろって飲み物を買い終え楽屋まで辿り着き、そのドアを開けようとして
ドアの隙間が数センチ生まれた時、中から例の二人の会話を耳にしたのだ。

15 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月28日(水)16時19分08秒

安倍と吉澤、なんとも意外なこの組み合わせに最初は耳を疑っていたが、中で
の話し声を耳にする度そんな事はどうでも良くなっていた。
とにかくヤバイ。そぉ〜とぅにヤバかった。
『あっ…ソレやだぁ〜…!』
なんて安倍の甘く悶えるような声や、
『へっへっへ〜♪』
などと言う吉澤の、イジワルそうな笑い。

そんなものを間近に聞いてしまったとあれば、たかが15〜16の少女なんか
は入るに入れずそのドアの前で立ち往生してしまうのは自明の理。
(別に年齢の指定は関係ないと思われるが)
それでどうにもする事が出来ず、ドアの外で頬を赤らめながら中の会話に聞き
入っていたのだった。もちろん、見る事なんて到底無理な話。


16 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月28日(水)16時19分47秒


さすがに5期メンバーの中でも年長の愛、これはマズイと思うのか、夢中で聞
きいるあさ美をなんとか説得しようとしているが、当のあさ美はそんな事は聞
く耳持たずといったカンジで軽く受け流していた。
「ああああさ美ちゃん、やっぱり立ち聞きってぇのは…」
「座ってるよ」
「そういう事じゃなくって…!」
愛を無視してあさ美は中の状況を冷静に分析していた。
「ねぇ、これってさぁ…浮気にはいるよねぇ?」
「ふぇっ!?」

あさ美の言う<浮気>とは吉澤の事を指していた。
吉澤は現在矢口と交際中で、メンバーも公認の毎日ラブラブバカップル。
よくTV・ラジオで見かける矢口の吉澤に対するラブコールは必須。
「よっすぃ〜カッコイイはあとはあと」なんて言うのは日常茶飯事。
お姉さんチーム(この場合、飯田・安倍・矢口・保田の4人を指す)の中でも
吉澤と絡みが多いのはやはり矢口だろう。
(某番組で吉澤自らが関わりあっているのは保田であるがそれはいいとして)
17 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月28日(水)16時21分00秒

一方吉澤も「矢口さんカワイイですね〜♪」なんて言ってる時はちょくちょく
見かけるが、それについては矢口だけに限らず他メンにもちょっかいをかけて
おり、それが元で矢口との喧嘩になる事もしばしばあった。

ひどい時には楽屋中に私物が飛び交い、吉澤が一方的に受ける攻撃に他メンも
とばっちりを食らっていた事があった。その戦いは伝記に残るほどの攻防だっ
たという事だ。
まぁそんな事があっても、最後には結局、吉澤が謝り、甘い言葉で締めくくり
もう次の日にはまた二人の間には甘い空気が流れているのだ。

もちろん、吉澤も矢口の事は好きなのだから本当に浮気(こういうのは本気と
言った方が正しいのか?)なんていう事はなかった。
けれど今この状況は間違いなく、浮気と称しても過言ではない位の勢いだ。

18 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月28日(水)16時21分53秒


「うううう浮気って…よよよ吉澤さんがぁ!?」
愛はこれ以上いったらどうなるの、位のびっくりした顔になる。
それとは対象的にあさ美は余裕の面持ちでピッタリとドアに寄り添っていた。
「愛ちゃん興奮しすぎ!声抑えて」
「そそ、そんな事言ったってなぁ…」
「まぁ吉澤さんってジゴロっぽいしねぇ…分かる気はするけど」
「ジ…ジゴロ…」
「そんなことより中だよ中っ!」
そう言ってあさ美は再び真剣な眼差しで食い入るように耳を澄ませた。


『やぁっ!ダメッ!』
「「!?」」
その声を合図に二人とも思いっきり耳を近づけた。
『もぉっ!なっち怒るよぉ…!?』
『どぉぞぉ?そんな安倍さんもかわいいスから』
『少しは優しくしてくれたって…』

「うっわぁ〜…これはもう…」
「な、な、な、な、な…!!!!」
ようやく頬をピンク色に染めたあさ美。
愛と言ったらすでに口をパクパクさせて、まるで第二のあさ美だ。

19 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月28日(水)16時22分35秒




『じゃ…コレ、とりますね?』



((なっ、何ぃぃぃ〜〜〜〜!!?))
吉澤のその言葉は二人の興奮を頂点まで持ってくるのに十分だった。
「と、と、とるって…何を?」
「けっ、決定的〜〜〜〜〜!!」


『んもぉ…』
「んもぉ…だって!どうする愛ちゃん!!」
安倍の声マネをしながら、何故か愛に意見を求めるあさ美。
「そそそそんなこと聞ぐなぁっ!!」
おたおたとたじろぐ愛を尻目にあさ美は落ち着き払ったまま、ドアから耳を離
そうとしなかった。



20 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月28日(水)16時23分20秒

え〜っとスレのリサイクルで短編です。
くだらない話ですがご賞味くださいませ。
更新回数は2回で終了となります。


>>7名無し読者様
 ありがとうございます。無事に完結する事ができました。
 本当は最後、矢口は死んじゃう予定だったんですけど…こっちにしてよかっ
 たと思いました!

>>8名無しさん様
 毎回レスありがとうございました。とっても励みになりました。
 実はもっと黒い話だったのですが…こっちでもいいですよね。

>>9読んでる人@ヤグヲタ様
 こちらも毎回のレス非常に感謝してます。ありがとうございます。
 早速次回作です(w

>>10HALコン。様
 ありがとうございます。そうなんですよね、最近よしやぐの話をなかなか見
 つけられなくて…なので書いた次第でございます(爆
 番外編ですが…調子に乗ってただ今執筆中です(w
21 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月28日(水)16時24分49秒
すいません…また間違えちゃいました。
上の欄…あぁ…鬱だ…。
22 名前:無謀な読者 投稿日:2002年08月28日(水)20時54分41秒
はじめまして、Stellar memoryをずっとROMってました。毎日ドキドキしながら更新を
待っていたこの作品も完結し、かなり重い内容でしたが、感動しました。すばらしい作品をありがとうございました。
さて、今回の話は180度違ってかなり明るいお話のようで、こちらの作品も楽しませていただいています。
これからもがんばってください。
23 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時53分30秒

『よっすぃー…ダメだって…!』
『いいじゃないですか…もうここまで来たんですし』

「うぁ…あああああ…」
「あ、愛ちゃん…?」
先ほどから愛の様子がおかしい。
顔を真っ赤にして肩を震わせ、必死に何かに耐えているようだ。
それがなんなのか、あさ美にはまったく分からなかったが。

「あ、あ、あ、あさ美ちゃんっ!!」
「えっ、何?…ってキャアアッ!?」
言うが早いか、愛はあさ美に襲い掛かったのだった。
その華奢な体からは想像も出来ないような力が加えられている。
「も、も、も、もう…うち…うち…」
「ちょっ…待って愛ちゃん!こんな所じゃ…、でなくて何言ってんの!」
すでに猛獣と化した愛はその驚くべき力であさ美を押し倒しその上に組み敷い
た。そしてその顔が段々とあさ美の唇目掛けて迫ってくる。
「あさ美ちゃん…」
「あああ、愛ちゃんっ!?ちょ…待って…待ってってば…!」

24 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時54分17秒







「待て言うとろーがぁぁっ!!」
「ゴフッ!!」
あさ美の正拳突きが見事、愛のみぞおちに入った。
真っ直ぐ、鋭く、それでいて滑らかに、かつ素早く。
日ごろの鍛練のタマモノだった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…まったく…油断も隙もあったもんじゃない…」
「うぇっ…ごほ、ごほ、ごほ…ごめん…あさ美ちゃ…」






25 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時54分57秒




「何やってんの?」






「「ひいっ!!」」
当然、と言ったように二人はびくりと肩を震わせた。
間の抜けた自分達に対する問いに、おそるおそる首を向ける。
「…後藤…さん」
手には紅茶のペットボトルとポッキーの箱。食後のおやつか何かだろう。
小首をかしげながらまじまじと不思議そうに愛とあさ美を見比べている。
「入んないの?」
後藤は楽屋のドアを指差しそう言った。

「いえ…ごほっ…入りたいんですけどぉ…」
後藤の登場で正気に戻ったのか、いつもの愛に戻っていた。
安心したあさ美は愛の後に言葉を繋げた。
「入れないんです…」
「はっ?」
もじもじと答える二人に後藤は心底分からないと言うかのように聞き返す。
「何?誰かいんの?」
「いえそのぉ…」
「いる事はいるんですけど…」
「んぁー?ナニナニ、なんなワケ?」
いい加減キレそうな感じになってきた後藤を見て、ヤバイと察したあさ美はお
そるおそる後藤に耳打ちした。
「実は…」
26 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時55分38秒





「はぁ〜!?よっすぃーとなっちが中で×××してるぅ?」
「ごっ、後藤さん声が大きいです!!」
「はっ!むぐっ………」
慌てて楽屋のドアに目を向けるが、中からでてくる様子はなく、とりあえず一
安心したあさ美と愛。後藤も一応口を抑えてしばらく黙っていた。
「…で?それ本当なの?」
一段落着いた所で、後藤は静かに二人に尋ねた。
「実際には見てないですけど…いや見たらやばいんですけど…」
「声が聞こえたんで…」
「あ、見てないんだ」



「…………」
「…後藤さん?何考えてるんですか?」
「へっ?い、いやいや、別にぃ〜?ただこれをやぐっつぁんが目撃したら、ど
 うなるかなぁ〜…って思ってさ」
そう言った後藤の顔は、隠しているようだったが笑顔になっている事は明白だ
った。唇の端がピクピクして目が泳いでいる。
「…よっすぃー、バカだなぁ…ふつーこんなとこでしないって」
後藤の言葉にいささか疑問を感じた二人だったが、気にしない事にした。
それより気になるのは中の二人の行動。
何故あの二人が『アンナコト』を『コンナトコ』で。
そして今現在…どうなっているのか。

27 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時56分17秒


『あっ…やあっ…もうっ!ダメェ!!』
「「「ぶはっ!!」」」
今度は3人そろって噴出した。
「な…なっち…ダメって…ダメって…?」
「あ〜あ〜あ〜あ〜……」
「あ、愛ちゃんしっかり…!」



しかしここで気付くべきだったのだ。




後藤が紅茶、ポッキーを手に楽屋に持ってきた。
と、いう事は他のメンバーも楽屋に戻ってくると言う事は大いに考えられる。
誰が戻ってきても不思議はない。
そして矢口なんぞが戻ってこようものなら…。

28 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時56分48秒



「あれ〜?ごっちんたち何やってるのぉ?」

「あ、梨華ちゃん」
なんの同様もなく後藤は振り返った。
石川の特徴ある声ならば誰しも分かるであろう。それはあさ美にとっても愛に
とっても同じ事だった。
「…って、ごっちん鼻血…」
「ふぇ?あ、あぁホントだ」
知らず知らずのうちに後藤は多大な量の血を噴出していた。
「なぁに?何かあったの?」
鼻血大放出の後藤にポケットティッシュを差し出しながら、石川は言った。
後藤はもらったティッシュを早速鼻に詰めながらそれに答えた。
「実はねぇ…」
「あ、ちょっと後藤さん…!!」
後藤を止めようとあさ美は声を少しだけ荒げた。
「紺野も使う?」
「え?」
そこで平然と言ったように石川があさ美にポケットティッシュを差し出した
もしや…と自分の鼻の下に触れてみると、真っ赤な血に染まっていた。
「いただきます…」
その横で愛は一人静かに中の様子を窺っていた。

29 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時57分22秒




「「「「…………」」」」

その後、覗き魔軍団に後藤・石川も加わり、皆頬を染めながらぴったりドアに
耳を当て離れようとしなかった。中の様子はいっこうに変わる気配がなく、相
変わらず安倍と吉澤の甘いやりとりは続いている。
『やぁっ…お願いやめてぇ…』
『へっへっへ〜、どこがいいかなぁ〜♪』
『あっ…ダメッ!!』
『安倍さんの「ダメ」は「いい」なんですよねぇ〜?』



「こ、こ、これは…もぅなんとも言いようのない…」
「ね?ごとーの言ったとおりでしょ?」
ティッシュを丸めた鼻センが、なんとも間抜けなゴマキ。
皆さんこれは必見ですよ、なんて事を見えない誰かに思っていた愛、あさ美。
「よっすぃーが…浮気するなんて…」
考えてなくはないけど信じられない、と言う石川。
後藤も合わせてウンウン頷いている。

30 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時57分52秒


「でもなんで寄りによって安倍さんなのよ…いつも近くに手ごろな相手がいる
 ってーのに…バカよっすぃー…」
そうして斜め下を睨みながらチッ、と舌打ちをする石川。その声はいつもと調
子が違って半オクターブほど低かったのは気のせいか。
「「「はっ?」」」
「えっ?こ、こっちの話!」
顔を上げた石川はいつもの石川だった。


『はっ…!やぁぁっ!!』
『ほら…早く開いて』
ザッと4人は同時に視線をドアに向けた。
「いいい、今、ひひひ、開いてとか言った!?」
「あ〜わ〜あ〜わ〜…!!!!!」
「愛ちゃんしっかり!」
「でもこれが矢口さんとかに見つかったらオオゴ…」
31 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時58分42秒





「何してんの?」



「「「「ぉわあっ!!」」」」
これ以上は無いというくらいのバッドタイミング。
そこに矢口が現れた。
「やややや、やぐっつぁん…!!」
「あー何だぁ?ごっつぁん、鼻血出したの?エロいなぁ〜はあとはあと
 あっ!紺野もかよ!」
「やややや、これは…!!」
4人揃ってオタオタワタワタ。
「まぁいいんだけどさ」
とりあえず話題が変わってほっとなる4人。

32 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時59分16秒


「ちょっと通らしてくんない?楽屋にケータイ置き忘れちゃってさぁ」
フェイントだった。
そのまま自分達の前を通り過ぎると思っていたあさ美たちは、気を抜いてしま
い矢口を楽屋のドア前まであっさりと通してしまった。
4人の頭脳に激しかった痴話ゲンカの内容が走馬灯のように駆け巡る。

マネージャーにもらった差し入れのケーキが吉澤の顔に直撃する。
それを見て一番悲しんでいた辻。飯田にすがり付き、泣き声をあげたその激し
さは言葉では言い表せず、矢口を止めようと必死になった保田も顔面に矢口の
投げたファンデーションが当たり、のっぺらぼうのようになってしまって顔が
認識できなかった。ドアの外では加護が面白そうに矢口やら吉澤やらを応援な
んてしていた。






あの時の光景がまた蘇る―――――――。



「ダッ、ダメェ―――――――!!」




33 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)05時59分47秒



ガチャ―――――――。


「よっすぃー!?何してんの!?」
((((そら来た!!))))
これから起こるであろう事を予想して4人は目を瞑った。









「あ゛―――――!負けた―――――!」






「へへへ〜♪これで4連勝ですね〜」
「あ〜んもう!なんで勝てないかなぁ!!」
4人は揃って楽屋の中の様子を見た。
そこにいたのは腕を組みながらにやにやしている吉澤と、頭を掻きながら口を
への字にしている安倍の姿。
そしてその二人の間にぶっ散らかっている何十枚ものトランプ――――。
((((はぁっ!?))))
34 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)06時00分21秒


「いやぁー安倍さん神経衰弱、弱いですねぇ」
「「「「はぁっ!?」」」」
今度は声に出した。
「何でだろうなぁ、なっち記憶力ないのかなぁ?」

「もぉよっすぃーなにやってんだよぉ!矢口以外の人と二人っきりになっちゃ
 いけないって言ってるでしょーが!!」
「あ、すんません、矢口さん」
そしていつものようにぴったりと寄り添い、あたりに甘〜い空気が流れ出す。
周りの者など眼中には入っていない。


「もぉぉぉ!!なっつぁんもよっすぃーも何やってんだよ!!」
ついにキレた後藤が叫びだした。
「「へっ?」」
まったくもって訳がわからないと言う風に二人は目を見合わせる。
「もっと普通に神経衰弱すりゃあいいのに、なんでなっつぁんあんな色っぽい
 声ださなきゃなんないのさぁ!!」
「え?なっちそんな声出してた?」
「出してたの!それによっすぃーもあんな甘く囁かないでよね!!」
「えー?あたしは別に普通のつもりだったんだけどなぁ」

35 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)06時00分57秒




「ちょっとあんたら廊下にまで声響いてるわよ」
そこに辻加護小川新垣を引き連れた保田が登場してきた。
「あれ?圭ちゃんどこ言ってたの?」
と、後藤を無視して安倍が言った。
「カオリに言われてこいつら探してたのよ、もうすぐ収録だから」
「あっもうそんな時間?よし!皆行こうか!」
まくし立てるように安倍はさっさと楽屋から出て行ってしまった。
「もぉっ!何なんなのよぉ!!ってか辻ぃ!ごとーのポッキー食べんな!!
 加護も、紅茶飲むなぁ――――!!」
「やっぱり浮気相手ならだんぜんチャーミーよね、よっすぃーはあとはあと
口々に好き勝手な事を言って(やって)メンバーは皆スタジオに向かった。







こうしてお騒がせな一日は幕を閉じたのだった。



36 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)06時01分34秒










「はぁ〜ぁ、やっぱり吉澤さんが浮気なんてあり得ないよね、愛ちゃん」
「そうだね…そうだよね!」
「…どうしたの、愛ちゃん」
「ううん!なんでもないよ!」
そんな愛を不信に思いながら、あさ美は「そう」とだけ言った。

(そうだよ…吉澤さんが浮気なんてするはずないよね、あんなにラブラブなん
 だもん……そうだよ…、安倍さんの首にあった印は多分蚊にさされたか何か
 だよね…そうだよね!)


「愛ちゃーん!何やってんのー?」
「あっ、今行くー!」
37 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)06時02分30秒





―――――――――――――




――――――――





「よっすぃー?行かないの?」
「あ、ヨシザワちょっとマネージャーさんに呼ばれてるんで、矢口さん先行っ
 てて下さい」
「そう、早く来るんだよ」
「はぁい」



―――――――バタン



「ふぅ〜、さてと…」
楽屋に一人になった吉澤は携帯を手に取り何やらメールを打ち始めた。

【安倍さんへはあとはあと
 今日はなんだかジャマが
 入っちゃったので、
 続きはまた夜に…
 楽しみにしてます♪
 安倍さん可愛かったです         
         吉澤 】


「ホントにねぇ…紺野たちあんなデッケー声出して気付かれてないと思ってた
 のかなぁ?なワケないっしょ…。まぁスリルはあったから、新鮮だったけど
 ね。フフ♪安倍さんも結構大胆だからなぁ。今日の夜はどうしようかなぁ…
 泣かせちゃうってのもいいね」


と、楽屋に腹をすかせたオオカミ一人、携帯片手にニヤけながら呟いていた。



幕は……やっぱり閉じてなかったみたい♪





38 名前:とある日のデキゴト 投稿日:2002年08月30日(金)06時06分58秒

とある日のデキゴト―――――――終
39 名前:ココナッツ 投稿日:2002年08月30日(金)06時08分23秒
はい終了。この後もちょくちょく短編書いてくと思います。

>>22無謀な読者様
 ありがとうございます!読んでくださってたんですね。
 あんな駄文を…めっちゃうれしーです!これからもがんばります!
40 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月30日(金)09時12分44秒
吉澤オオカミ、何故か憎めない(w
この後の短編も楽しみにしてます。
41 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月01日(日)20時08分28秒



「はぁ〜あ…」
矢口はうな垂れ大きなため息を一つ口にした。
その視線の先には愛しい愛しいよっすぃーこと、吉澤ひとみ。
しかしそのコは今日もまた、他のメンバーにちょっかいかけている始末。


「安倍さ〜んはあとはあと今日もカワイイですぅ〜」

「ごっちん今度あたしとデートしてね?」

「飯田さ〜ん今日もキレイですね〜はあとはあと

「高橋ぃ〜、ヨシザーとお茶しない?」

「梨華ちゃ〜ん、そのおかず食べさして〜、あ〜んはあとはあと

「圭ちゃ〜ん、お茶とって〜」

最後のは微妙に違うが。

42 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月01日(日)20時09分17秒



(まったく…いいかげんにしろっつの!)
本当ならば今すぐ走りよってぶん殴ってやりたいのだが、そこは大人の女を演
じる。恋人が浮気なんぞしていても、余裕の表情で耐え抜く。
前回、楽屋での大喧嘩によって、周りの者にこっぴどく叱られてからは、多少
のことでは動じないようにと決めていた。それによく考えれば、自分が妬いて
る所を相手に見せるなんて、なんだか負けた気がして嫌なのだ。

恋は惚れた方の負け、というのをどこかで聞いた。



「だったらもうヤグチの負けかもなぁ」
負けるのは死ぬほど嫌いだが、好きな人だからしょうがない。
どんなに浮気まがいの事をしていても、好きなんだからしょうがない。
恋は盲目、よく言ったもの。

じゃあ、吉澤は?と言う問いを誰かから受けたのならば、矢口はすぐに答える
事ができるだろうか。
43 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月01日(日)20時10分05秒



「お悩みですか?」
「うわぁっ!?」
急に視界に入ってきたその顔に目を丸くする。
その距離、わずか数センチ。
「お悩みですね?」
そんな事はどうでもいいと言った風に同じ事を聞いてくる。

「なっ…なんだよ紺野!」
びっくりするだろ、と続けようとしたが当の紺野は聞こうとしない。
「その悩み、この私が解決して差し上げましょう!」
「はぁっ?」


「で、何を悩んでるんですか?」
「ワケもわかんないで『解決しましょう』とか言っちゃってんの?」
「相談されてもいない事が分かる訳ないじゃないですか」
「いや…そりゃそうだけどさ…」
(今日の紺野、いつもより怖い…)

紺野の迫力に押されながらも、懸命に立ち向かう。
「で?悩みって言うのは?」
「いや…いいよ、後輩に頼っちゃ先輩としての威厳がなくなっちゃう」
頼られる先輩を目指している真里にとって、そんな事ができる筈もない。
丁重にお断り申し上げる。
44 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月01日(日)20時10分55秒



「そんな事言ってていいんですか?」
「へ?どういう…」
ゆっくりと紺野は自分の後ろに視線を移した。






―――――――――


「ねぇひとみちゃん、今日ヒマだったら家来ない?」
「う―――ん…遠慮しとくよ〜、矢口さんに怒られちゃう」
「いいじゃない、別に変な事しようなんて言ってるんじゃないんだし」
「え〜ダメだって〜」
「何もしないんだから〜、いいでしょ?」

そこには、石川に迫られていながらまんざらでもない吉澤の姿が。
(おいおいおいおい、ダメとか言っときながらニヤニヤしてんなよ!
 オマケに石川…、何もしないとか言っといて絶対ウソだな…)



「っていうか、紺野、あんた知ってんじゃん!矢口の悩み!!」
「はて?私はただ後ろに振り向いただけですが…」
どこかしら妖艶さをかもし出す紺野の笑みに、少なからずと言うか、完全に
苛立ちを感じた矢口。
(こいつ…矢口に言わせようとしてる?何で?)
45 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月01日(日)20時11分51秒



「辛いでしょう?苦しいでしょう?全てを吐いてしまいなさい、そうすれば
 すぐ楽になれますよ?」
まるで教会の神父の様な、はたまたどこかの怪しい宗教の信者の様。
「ふ…ふん!」
「後輩とか先輩とか、そんなものは関係ありませんよ?そんな事に捕われてい
 ては、幸せを自ら取り逃がしている様なモンですよ?」
「ぐっ…」
「さあ…吐いてしまいなさい」

「ぐぐっ…」
「さあ…」

「ぐうぅ…」
「さあ、さあ」

「うううぅぅ…」
「さあ、さあ、さあ、さあ、さあ、さあ」

46 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月01日(日)20時12分32秒






「実は…」
迫力負けした矢口だった。






47 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月01日(日)20時13分26秒
更新終了。前回の短編の続き物になってしまいました。

>>40名無しさん様
 ありがとうございます。なんか自分で書いててワケ分からなくなって
 きました(w
48 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月01日(日)20時14分21秒
すいません、またやってしまいました。
名前…。はぁぁ〜…。
49 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月02日(月)11時18分47秒
失礼ながら、メール欄のとこの作者さんの慌てっぷりは面白いッスね。
もちろん作品の方も。
これからも、ROMって、影ながら応援してます。
50 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月02日(月)15時23分19秒
いつのまにかこんなに更新されてる。
何気に紺野がおもしろい
よしやぐ好きなんで、頑張ってください。
51 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月04日(水)00時30分22秒





「…なるほど、吉澤さんの浮気を直したいのですね?」
「うん…」
「分かりました、私にお任せください」
胸を張って意気揚揚と立ち上がる紺野。
「って、どうすんの?」
「簡単です」
どこから持ち出してきたのか、ゴソゴソとカバンを漁っている。
そして中から取り出したのは小さな瓶に入った薬のようなもの。
「それ何?」


「名づけて『ラブ・ポーション』!!」
まるでド○えもんの様に掲げて見せる。
「らぶ…ぽーしょん?…何?」
「直で言うとホレ薬です」
「最初っからそう言えよ!」
矢口のツッコミを完全無視し、薬の説明をしている。
「これを飲むと、一番最初に見た人にメロメロになります」
「メロメロって…死語…つか、そんな薬どこで手に入れたの?」
「作りました」
「えっ?紺野が!?」
「私の頭脳と技術があればこんな薬は容易いです」
「へぇー、どうやって作ったのさ」
そう言うと、またゴソゴソとやり始め、一冊の古い本を差し出した。

52 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月04日(水)00時31分51秒



「コレに書いてありました」
「…『誰でもカンタン黒魔術の秘薬』…ウソくせー!」
「失礼な、そんな事ある訳ないじゃないですか」
「そんな自信満々に言うんだったら効果は絶大なんだろうね?」




「もちろんです」
「ねぇ、今の間は何?ねぇ…紺野」
「細かい事を気にすると、シワが増えますよ」
「!?…ま、まぁいいか…じゃ、早速」
痛いところを突付かれてとっさに話題を変えた矢口。
紺野の『ラブ・ポーション』に手を伸ばそうとしたが。






―――――――ヒョイ


ピン、と腕を思いっきり頭上に伸ばされる。
当然、矢口の身長からするとそれは届かないわけで。


53 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月04日(水)00時32分25秒
「…………」
「…………」
「……ちょうだいよ」
「使用料、2,625円(税込み)になります」
「はぁっ!?何それ!!」
「このスバラシイ発明品をただで、ロハで使おうと言うんですか」
「『悩みを解決しましょう』とか言ったのアンタでしょー!?」
「私に頼んだのは矢口さんでしょう?」
「なっ…だから知らないふりして…汚いっ!!」
「そんな事ありません、これはかなり、かなーり良心的なお値段です。
 本来ならば、ウン十万はくだらない品なんですよ?」
「ぐううぅぅぅぅ……!!」
54 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月04日(水)00時33分11秒







「……ほら」
「毎度どぉもです♪」
大安売り・大セールに弱い矢口だった。








55 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月04日(水)00時34分15秒





「コレを使えば吉澤さんは矢口さんに惚れ込む事間違いナシです」
「で、浮気の心配もなくなると…」
紺野から受け取った薬をマジマジと見つめる。
薄いピンク色をしたそれは、なにやらいかがわしい雰囲気をかもし出す。
瓶のふたを開けて匂いを嗅ぐと、甘ったるい匂いが鼻の奥を刺激した。
思わず顔を歪ませる。はっきりいってあんまり飲みたいと思うものではない。
作用的にも、見た目的にも。


「コレ、どーやって飲ませりゃいいのさ」
『ラブ・ポーション』の内容量はおよそ20〜30cc。ひと口で飲み下せるほ
どの用量だ。
「襲うなりなんなりして、無理やり流し込めちまうってのはどうですかい?」
「紺野絶対どっか頭のネジ外れてるだろ…」
とりあえず、今の時点で紺野は無視する事に決めた矢口。
「どうしよっかなぁ…飲み物に混ぜるのが一番手っ取り早いけど…」
「それは全部飲ませないと効果はありませんよ」
「うーん、それじゃあジュースに混ぜたらいつ飲み干すかわかんないしなぁ、
 他の人が飲んじゃうかもしんないし」

56 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月04日(水)00時35分17秒






「……よし、今すぐ飲ませるにはこれっきゃないね」

何か不適で妖しい笑みを振りまく矢口だった。





57 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月04日(水)00時36分20秒
今日は大丈夫!!(w

>>49名無しさん様
 お恥ずかしい…(汗  何でこう慌てるんだろうなぁ…。
 応援、非常に嬉しいです。

>>50名無しさん様
 5期メンで私のイチオシは紺ちゃんです。あの雰囲気が…。
 よしやぐ、って最近あんまり見ないんで…寂しいです。
58 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月04日(水)00時53分01秒
うぉ、最初から読みました。やぐよしってあんまり読んだことなかったんですけど…
これ読んでからはまりそうです(w

何気に…高紺が面白い(ww
んでもって好きなCPであります♪(w
今度の話も面白そうなので期待!
59 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月05日(木)20時19分33秒



ソワソワソワソワ―――――……






モジモジモジモジ―――――……






「よっすぃーまだかなぁ?」
トイレの中で興奮を抑えながら、矢口は大きなため息を一つ漏らした。
その手にはもちろん、例のホレ薬。(紺野の命名、ラブ・ポーション)
60 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月05日(木)20時20分24秒


矢口はトイレに吉澤を誘い出し、そこで薬を飲ませる事にした。
この薬の効能から言って、他者が周りにいると失敗する可能性がおおいにある
為、二人っきりになれるこの空間を作戦実行の舞台に選んだのだ。

かと言って、いきなりこの瓶を吉澤に差し出して『飲んで』なんて言ったって
嫌がられるのは目に見えている。自分だっていきなりこんなワケの分からない
飲み物を無理やりに飲まそうとされるなら、抵抗するだろう。
しかし、そんな事では悩んでいられない矢口は、紺野のアドバイスを元とした
計画を立てていたのだった。




愛しの吉澤を取り戻すため、そして吉澤とのランデブーのため、思い立ったら
即実行!と、何度も繰り返し唱えていた矢口。
この後やってくるであろう甘い時の始まりを予期し、胸を躍らせ今か今かと待
ち望んでいた。




そして――――その時はついにやってきた。






61 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月05日(木)20時21分10秒





―――――――――カチャ




「矢口さん?」
愛しの子羊は間の抜けた笑顔を見せながら禁断の扉を開けた。



(ついに…ついに、この時が来た…!!)
辺りの人にも振りまきたい位の嬉しさが、矢口の心を支配した。
喜びにはを噛み締め、吉澤へと視線を移す。
瞳が合うと吉澤はあの包み込むような笑顔を向け、それを受けた矢口は大きな
期待と共に失神しそうになった。

「話って何ですか?矢口さん」
試合開始のベルが矢口の頭の中だけに響いた。


62 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月05日(木)20時21分42秒





「あのね…」
矢口は、今までにほとんど使った事のない、色っぽく艶っぽい瞳で吉澤を見つ
めた。お得意の上目使い攻撃が炸裂する。
こうされると弱い、数少ない吉澤のウィークポイント。
案の定、吉澤は挙動不審になりながら矢口を見下ろしていた。

「な、何ですか?」
「ヤグチ…寂しいんだ…」
「え?」
「だって…最近、よっすぃーかまってくれないし…」
控えめなセクシーさ、かつ行動は大胆にカワイらしく。
これらを踏まえた、矢口究極の甘えんぼ攻撃が始まった。
ジワジワと吉澤を壁際に追い詰めていく。



「よっすぃー…もうヤグチの事きらいになった?」
「へ、そ、そんな事あるわけ…」
「もうそれ何回も聞いたんだけど、いっこうに治まる気配がないんだよね…」
ここで本来予定にはない、自分の思った事を口にした。
こんな事を言うつもりはなかったのだが、より演技に現実性を出す為に少しだ
け自分の本音が顔を出してしまった。
吉澤はビクビクしながら矢口の成すがままになっていた。
「あ、あの…」
「まぁ…それでもヤグチはよっすぃーの事大好きだから…」
「…矢口さん…」

63 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月05日(木)20時22分19秒






「ねぇ…キスしてもいい?」
久しぶりの恋人の誘惑に、吉澤は一発でコロリだった。
「…はぃ…」
矢口の顔がゆっくりと近づいてくるのを感じ取った吉澤は、ぐっ、と思いきり
瞳を閉じた。

(よっしゃ!今だ!!)
それを見た矢口は、素早く懐に隠し持っていた『ラブ・ポーション』を取り出
し瓶のふたを開け、入っていた分全てを自分の口に含んだ。
甘ったるい香りが口いっぱいに広がり、やや顔をしかめるがそんな事は気にし
ていられない。すぐに吉澤に口付けた。


「んんっ!?」
すぐさま異変に気付いた吉澤だったが、口の中にはもう甘すぎる液体が注ぎ込
まれる。唇が塞がれている為吐き出す事も許されなかった。
矢口の肩を押し込み抵抗の意を示すが、矢口も負けじと吉澤の頬を両手で掴み
液体が飲み込まれるまで力を込めた。
64 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月05日(木)20時22分49秒

吉澤の口内に滑り込ませた舌で探る。
そこにはまだドロドロとした感触が確認された。
(う〜ん…なかなか飲まないなぁ…)
「んっ!…ふぁっ…ん…!!」





「んあっ……!」
とこらが急に吉澤の体が揺らいだ。
それと同時に吉澤が後ろの壁に寄りかかったまま膝を崩した。
どうやら力が抜けて自分の足では支えられなくなったらしい。
それを見逃す筈もない矢口。

吉澤の顎を軽く上に向けさせ、『ラブ・ポーション』がこぼれない様にした。
そして少しだけ唇を離し
「飲んで」
と小さく囁き、またキスをする。
吉澤の口内から液体が全てがなくなるまでそれを繰り返した。


65 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月05日(木)20時25分46秒
更新終了。この話やばくなってきたなぁ…。

>>58名無し読者様
 マジですか!仲間が増えるってのは嬉しいですね〜。
 これからもドンドン染まっちゃってください(w
 高紺はこの後も出す予定です。
66 名前:HALコン。 投稿日:2002年09月06日(金)03時52分57秒
は〜。よしやぐサイコー!!!!!!
作者さん、どこまでもついてくっス!!頑張って下さい。
67 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時32分13秒

そんな事をしばらく続けて、ようやく口内にあの甘ったるい味が無くなる。
矢口は少し名残惜しそうに、けど満足げに唇を離し吉澤を見つめた。
恍惚とした表情で吉澤は首をもたげ壁に体を預けていた。
(ホレ薬…効いたかな…?)

「よっすぃー?一個聞いてもいい?」
「…何ですかぁ?」
トロンとした瞳に、矢口は押し倒したい衝動に駆られたが残された理性をフル
活動させそれをしのぐ。



「もう浮気しない?」
唐突な質問だったが、それが今の吉澤の心境を露わにするには十分だった。


68 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時32分49秒

吉澤はキッ、とあの真剣な男前の視線を矢口に向けると言った。
「何言ってるんですか?」
「えっ?」
「あたしが今まで浮気した事ありましたか?」
それは開き直っているのか、それとも自覚が無いのか矢口は薬の効き目がない
と感じ肩を落とした。
けれどそれは間違っていた。

69 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時33分26秒



「あたしは矢口さん一筋なのに…」
「よ、よっすぃー!」
「あたしには矢口さんしか考えられません」

(やったー!ラブ・ポーション効果あり!!)
ゆっくりと抱き寄せられ、矢口ははっきりとした確信に身を委ねた。

「よっすぃー好きっ!!」
「あたし、もう矢口さんしか見えません」










その時、



―――――――カチャ


「よっすぃー、いるのぉ?」


70 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時34分05秒

「あ」
やって来たのは石川だった。
矢口と吉澤が抱き合っているのを見て、表情が変わる。
「きゃ――――!!矢口さん何やってるんですか!?私のよっすぃーに!!」
「おわっ!!」

石川は矢口目掛けて突進し、吉澤の胸へと飛び込んだ。
「あっ、コノヤロ!ヤグチの指定場所に!!」
吹っ飛ばされながら悪態をつき続ける矢口だった。



ちゃっかり吉澤の胸をゲットした石川は、片手で吉澤の頬を包み甘えた口調で
吉澤に甘え始めた。
「よかったぁ、矢口さんと二人で出て行ったからよっすぃーが何かされるんじ
 ゃないかって心配してたんだよ?」
「お前に言われる筋合い無いぞ!!っつか離れろぉ!!」
とことん矢口は無視する石川。
空いている方の手は吉澤の腰に回されていた。
「大丈夫?何にもされてない?」
全く失礼この上ない。

71 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時34分36秒

ところが次の瞬間、目を疑った。
吉澤の片手が石川の腰へ、もう片方が自分の頬に置かれている石川の手の上に
重ねられた。
「よ、よっすぃー!?」
思わずその名を叫ぶが吉澤の行為は止まらない。
「よ、よっすぃー?」
しかけた石川自身も驚いていた。


「好きだよ梨華ちゃん」
「え……!?」
「ふぇっ!?」
吉澤のその瞳は、間違いなく矢口ではなく石川に向けられていた。
矢口は驚きを隠せず、どうすればいいのか分からない。
(な、何で?ラブ・ポーションは!?)

「…梨華ちゃん」
「よっ…ひとみちゃん…はあとはあと
(オイオイオイオイ、どさくさに紛れて『ひとみちゃん』かよ!!)
ほって置かれた矢口は突然の出来事に口をパクパクさせ、
まるで第三の紺野(r
72 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時35分10秒



そんな事は露知らず、人格の変わった吉澤は石川を口説き落としにかかった。
「梨華ちゃんだけが好きだよ」
「ホ…ホント!?ひとみちゃん」
(はっ!このままいくとヤバイ!!)
吉澤のマジ口説きに、石川はもうトロトロにとろけそうな位だった。
そして二人の唇が段々と近づいていくのがはっきりと分かる。
薬の効果があった、なかったはこの際別として、今は石川と吉澤を離す事に専
念しようと考えた矢口。

吉澤の襟首をものすごい勢いで引っ掴み、足早にトイレから立ち去った。



(何で!?薬効いてたと思ったのに、どういう事!?紺野はどこ行った!)
「ちょっ…矢口さんくるし…!」







一方、トイレに一人残された石川は


「ねぇ…ひとみちゃん、早くキスしてぇ…?」


未だ降り注ぐ事のない吉澤の唇を、目を瞑って心待ちにしていた。







73 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時35分40秒





―――――――バンッ




「たのもうっ!!」
矢口はいつかのテレビ収録の様に、いきり立つサムライの如く楽屋のドアを開
けた。楽屋にいたのは飯田・5期メンのみだった。

「あ、やっと来たぁ!もう、これから撮影入るってのに二人していなくなっち
 ゃうんだから!!あれ?石川は!?」
慌てたリーダーに平謝りして、矢口は目もくれず紺野の所へ歩み寄った。

74 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時36分37秒




「紺野ぉ!」
「はいっ?」
「こっち来ぉい!!」
5期メンの固まりから紺野を引き離し詰め寄る。
「薬飲ませたのに効いてないとはどういうこっちゃ!!?」
「え?あの、順を追って説明していただきたいのですが…」
「だからよっすぃーにホレ薬飲ませたのに効いてないんだよ!!」
矢口の必死の訴えに、紺野は顔を吉澤の方に向け納得し頷いた。


「あ、なぁるほど」
「ん?って、あ―――――――!!」
普段の紺野ならここで『そんな事ありません、私の薬は完璧です』なんてうん
ちくたれそうなものなのに、一発で信用した紺野に妙な違和感を感じ振り返る
と、吉澤が今度は飯田に手を出していた。
75 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時37分10秒


「ちょっ…よっすぃーどうしちゃったの!?」
「どうもしませんよ、あたしは。ただ飯田さんを愛してるだけですから」
「いや、話が支離滅裂なんだけど…ていうか、矢口はどうしたの!?矢口は!
 付き合ってるんでしょう!?」
「何言ってるんですか…あたしは飯田さんの事以外、考えてませんよ」
「えっ…ちょ…やっ…まっ…!」
何がなんだか分からない飯田は、顔を真っ赤にしながら今の状況を確認した。
多分、頭の中はオーバーヒートしているだろう。


「ちょっと待て―――!!!」
今度は矢口は吉澤から飯田を引っぺがすべく(本来は吉澤が飯田にくっついて
いるのだが)二人の間に割り込み吉澤を押さえつけた。

「飲ませたんですか?薬」
何事もないかのように紺野は平然と言ってのける。
「飲ませたのにこんなになっちゃったんだよぉ!!」
「おかしいですねぇ、確かに分量はあってた筈なのに…やっぱり動物実験しな
 かったのがいけなかったのかなぁ?」
「してないのかよ!!」

76 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時37分48秒



そんな会話をしている中、楽屋に息を切らせた保田がやってきた。
「あ、吉澤こんなとこにいた!!ちょっとアンタ早く来なさいよ!
 プッチの撮り、今からするって聞いてたでしょ!?何分遅れてんのよ!!
 後藤ですらもう来てんのに…!!」

それを聞いた吉澤、スッと体を起こし暗く沈んだ顔でドアに近づいていった。
「そっか、プッチ最後の撮りだったんだっけ…」
「…そうよ、だから早く来いって…!!」
保田も少し悲しそうな顔になったけれど、それを遮り吉澤はとんでもない事を
発表した。
「実は…みんなにはまだ言ってなかったんだけど…」
77 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時38分25秒







「あたしも実はモーニング娘。を脱退するんだ!!」








『えぇ―――――――――っ!?!?』






78 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時39分02秒

吉澤突然のビックリ発言にその場にいたメンバー全員が駆け寄る。
「ど、どういう事、吉澤!!アンタも脱退するの!?」
「そんなの全然聞いてないよ!?つんくさんが言ったの!?」
「吉澤さん、本当なんですか!?」
目頭を抑え、吉澤は力なく頷いた。

「ちょっと…あたし、つんくさんに聞いてくる!!」
そう言って保田は楽屋を出て行った。



吉澤の肩を掴み、もう一度静かに矢口は問いただした。
「ねぇ…よっすぃー、ホントにモーニング。辞めるの?」
けれどその矢口の問いに吉澤は、
「辞めるような、辞めないような…でも結局は、みたいな」
「は?」
吉澤のアバウトな答えに皆、頭を悩ませた。

「とりあえず、収録いってきまーす!」
吉澤は元気よく、何も知らない保田の後を追った。


79 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時41分56秒


「紺野!!」
「はい?」
「どうなってんのさ!よっすぃーメッチャおかしくなってるじゃん!!」
「そんな事言われましても」
私に責任はない、と言うようにプゥ、と頬を膨らませる紺野。
「あの薬の効能、誰にでもホレまくる薬ってなワケじゃないでしょうね!?」
「それはいくら何でもありませんから、ご心配なく」
「じゃあ、一体…!!」

その時、紺野の横で事態を把握していた高橋が声をかけた。
「あのぉ〜、いっこいいですか?」
「何、高橋」
「あさ美ちゃんが作った薬って、もしかしてこの本の?」
高橋は『誰でもカンタン黒魔術の秘薬』の本をどこからか取り出した。
「うん、そうソレ」
矢口は頷く。
「あさ美ちゃん、薬の作り方覚えてる?」
「もちろん、えーっと…」
記憶の糸をたぐり寄せ、集めた材料を思い出す。


「確か…トカゲの尻尾にカエルに砂糖と塩と…高麗人参、それから…」
(げっ…そんなもん入れたのか、オエッ)
一つ一つ指折りで数えていく紺野に合わせながら、高橋は本をパラパラとめく
り、最後に言った。
「それ、ホレ薬の作り方?」
「え?」
目を見合わせ、本に視線を向け高橋が指差すページを読む。
80 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時42分37秒




「矢口さん、すいません」
「なっ、何が?」
「間違ってしまいました」
「はぁっ!?」
「見てください」
紺野はページを開いたまま、矢口に渡した。
そこは索引のページ。『ホ』行のところに書かれているホレ薬を探し出す。
すると…
「ホレ薬とホラ薬が並んでのってるんですよ、だから…」
「えっ…じゃあ、よっすぃーが飲んだのは…」






「ホラ薬です」








「紺野ぉぉぉぉ―――――――――!!!」






矢口の叫び声はいつまでも響き渡っていった。




81 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月08日(日)07時43分17秒
更新終了ですがまだ終わりません。続きます。

>>66HALコン。様
 よっしゃ付いて来ぉい!(w
 やっぱよしやぐ最高、最強ですね。
82 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月08日(日)09時28分35秒
なんか楽しいですねぇ・・・。
何気に紺野がいい。
83 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月08日(日)09時38分07秒
ワラタです。
この先の吉がむっちゃ楽しみですね。
84 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月08日(日)12時06分33秒
紺野ワラタ(w
高橋と紺野の助け合い??もおもしろいですね〜(w
やぐよしも楽しみだし高紺も楽しみです。
85 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時50分49秒

あの後気が済まないと言って、さらに紺野に新たな『ラブ・ポーション』を作
らせた矢口。
けれど…




『矢口さんできました』
『よし、飲ませてくる!』


―――――――――…


『おい、なんか穴を掘り始めたぞ!』
『これは『ホリ薬』ですね…』
『なんだよそれぇ!!もっとちゃんとしたの作れ!!』



86 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時51分25秒


さらに…



『矢口さんできました』
『よし!今度こそ!』


―――――――――…


『おい、なんか放心状態になってるぞ…』
『これは『ホゲ〜薬』ですね』
『なんだそりゃあ!!』




87 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時52分00秒



それから矢口をなだめるのにとんでもない労力を消費した紺野と高橋。
と言っても、実際疲れ果てていたのは何故か無関係な高橋のみだったが。
紺野は紺野で騒ぎ立てもせず、ただ冷静に「矢口さん落ち着いてください」を
繰り返すばかり。
しかし紺野が言えば言うほど矢口は唸り、喚き、叫ぶ。
それでさらに高橋は気力を減らしたのだった。

とりあえず今日の仕事を先に終えてから事を進ませようと、なるべく3人は早
めに自分の仕事をこなしていった。



そして仕事を終え、楽屋で密談する3人――――。

88 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時52分30秒





「…はぁぁぁ…」
「さっきからため息ばっかりですね、矢口さん」
「何かあったんですか?」
矢口は仕事中もずっと考えていた。

吉澤に飲ませたのは『ホレ薬』ではなく『ホラ薬』。
紺野の大失敗でそんな事になってしまった。
まぁそれはいい。今さらそんな事で怒っても無駄な体力を使うだけだと改めて
考えてよぅく理解した。


けれど矢口はその時気付いてしまったのだ。

『ホラ薬』を飲んだ吉澤の行動・言動。


『ホラ薬』はウソをつくようになってしまう薬。
その薬を飲んでしまったらつきたくなくても、ウソをつく様になってしまう。
吉澤が石川や飯田を口説いていたときの事。
自分も脱退するのだと言っていたときの事。
全ては真っ赤なウソ。
89 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時53分09秒





『梨華ちゃんだけが好きだよ』

『飯田さんの事以外、考えてませんよ』

『あたしも実はモーニング娘。を脱退するんだ!!』



全部ウソ。

矢口自身にも言われたことも全て。






『あたしは矢口さん一筋なのに』
という事は、矢口ではなく二筋も三筋も通ると言うこと。

『あたしには矢口さんしか考えられません』
つまり他に考えられなくも無い人物がいると言うこと。

『あたし、もう矢口さんしか見えません』
矢口以外にめっちゃかーいい人がいると言うこと。



90 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時53分45秒


「はぁぁぁ…」
ため息は尽きない。


「そんなに気にすること無いですよ、嫌われてる訳じゃないんですから」
慰めてるのかそれとも分かってないのかポッと紺野の口から出た。
「おめー知ってんじゃんかよ!」
「さて?」
「っ…!」
これ以上いくとまた叫びだしそうなのでこらえる事にした。

「でも、どうしたらいいんでしょうかねぇ…」
高橋も話題に加わり、一同、吉澤の浮気解消のために悩む。
91 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時54分16秒

「あ、そーいや、ヤグチ金払ったのに何にもなってないよ!」
はっと思い出したように矢口が顔を上げた。
「ちっ」
「おい今舌打ちしたろ?そのままネコババしようとか思ったろ」
「いえいえいえいえいえいえそんな事は」
「なら矢口にまた新しい薬作ってよ、金出してんだからさ」



「えっ?」
「何?嫌なわけ?」
「いえそういう訳じゃあ…」
驚いた。
まさかこんなにおちょくられても(紺野自身はおちょくってるつもりはない)
まださらに自分に頼ってくるだなんて(矢口にしたら頼ってるわけでもなく、
損した分を取り戻そうとしているだけ)

「そんでさーヤグチ考えたんだよね」
「何をですか?」
「よっすぃーをどうにかするのが無理ならヤグチ、自分をどうにかすりゃ何事
 もOKなんじゃないかって」
「?どういう事でしょうか?」
「だからぁ」
92 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時54分46秒




矢口の言い分はこういう事。


とかく吉澤を変えようと言うこと事態が無駄。
無駄ではないのかもしれないけど今回の出来事でかなり大変な事態に陥ったた
めにもうこれ以上何かしようという気にはなれない。
それなら吉澤の気が他へ向かないように、矢口自身を変えてしまえば万事何事
も円満解決できるのだ、と。

「つまり魅力の無い自分を変えたい、石川さん風に言うとせくしーべいべー
 いろっぺー女になりたい、と」
「あさ美ちゃん…」
「ヤグチは十分色っぽいけど…ま、そういう事」
93 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時55分21秒

「では具体的にはどういったカンジで?」
「胸」
一つ返事で矢口は答えた。
「むね?とはアレですか?胸囲、バスト」
「そうそう」
「胸をどうしろと」
「おっきくならないかなぁ」
「ボインにしたいんですか?」
「ん、まぁ…矢口ちっちゃいからさぁ」
そう言って自分の胸に視線を撫で下ろす。

「石川とかごっつぁんとか、いっつもうらやましいなぁ〜って思うんだよね」
「バストアップの薬ですか…」
顎に手をついて考える紺野。
「できる?」
「できないことはないと思いますが…体内の女性ホルモンを急激に活発化させ
 るか、増幅させるかしてそれを…」
「いや、あれ、説明はいいよ、それよりできるかできないかが知りたいから
 で、できるんだね?」
「約束はできませんが…」
94 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時55分57秒




「そういえばアレ、この前あさ美ちゃんが作ったあの薬、あれって確か胸囲が
 大きくなる薬じゃなかったっけ?」



「「え?」」
思い出したように高橋が告げた。
「そ、それマジ!?」
「はい、こないだあさ美ちゃんがそれで誰かからお礼を…」
「紺野その薬ちょうだい」
どんな物なのかも聞かずに、即矢口は紺野に詰め寄った。
「いや…あれは…ちょっと、それに今ここにはないですし…」
(あの薬は…いくらなんでも)
95 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時56分37秒


「これでしょ?あさ美ちゃん」
高橋が黄色に輝く液体の入った瓶を取り出した。
「なっ…ななななんでここに!?っていうか愛ちゃんそれどっから!!」
「その薬なの?」
言うが早いか、高橋の手からその瓶を素早く奪い取った。
「や…矢口さん!それはダメ…!!」
「この薬さえあればぁ…よっすぃーとの仲も取り持てるし、念願だったバスト
 アップも…よっしゃあああああっ!!!」
先走った妄想により、すでに薬が効いたかのように歓喜の声をあげる矢口。
「…………」
(と…止められない…)


「そんじゃーね〜はあとはあと早速家帰ったら飲むよ!あんがとね!」
はじめと違うウキウキ気分で矢口は帰宅してしまった。
残った紺野・高橋は…。


96 名前:とある日のデキゴト〜矢口真里の苦悩〜 投稿日:2002年09月11日(水)18時57分30秒



「あ〜ぁ…いいのかなぁ…」
紺野が矢口の出て行ったドアを見つめながらポツリと呟いた。
「何が?」
「さっき愛ちゃんが言ってたあの薬ね…確かに胸は大きくなるけど」
「え…まさか何かあるの?」
「あれ実はさぁ…」







「筋肉増強剤なの」
「…………ええ?」
バストアップの薬とはほど遠いそのネーミング。
「確かにあの薬を飲めば胸は大きくなるけど…それは単に胸板が厚くなるだけ
 で、バストが大きくなる訳じゃないんだ」
「えっ…えええぇぇぇぇ――――――――っ!?」


「でもまぁ…矢口さんがいいって言ったんだし…」
「じゃ…じゃあ明日になったら矢口さん…」
「ムッチョマッチョしたいわ♪」
「い…、いいのかぁ〜!?それでいいのかぁ〜…!?」









                        つづく(のか?)



97 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月11日(水)18時58分16秒


この話はここまで。また今度…。


>>82名無しさん様
 紺ちゃんはこういうイメージなんですよね、自分の中で。
 思いません?(w

>>83名無し読者様
 すいません。この話は一旦ここで切ります。
 またネタが上がったら続きを書きますのでそれまでよろしくです。

>>84名無し読者様
 高紺は5期メンカップリングで一番好きなんです。
 やぐよしは言うまでもなく(w
98 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月12日(木)12時37分39秒
あーおもろい!このオハナシはこれで完結ですか?お疲れ様です。
ココナッツさんが書かれるやぐよしがめっちゃ好きです。
一人から回りしているやぐっちゃんかわいいです。
なにげに外しているこんこん大物です。それをフォローする愛ちゃん・・・・お疲れ様です。
99 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時02分00秒
え〜と残りで考えてたStellar memoryの番外編をやりたいと思います。
ご了承くださいませ。
ちなみによっすぃーに変わって、やぐっつぁん視点で行きます。
100 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時02分54秒


【Stellar memory 〜星のカケラ〜】

101 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時03分33秒





いつも同じ夢を見る。







102 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時04分06秒




赤い、赤い――――――真っ赤な夢。
上も下も右も左も全て真っ赤に血塗られていて、あたしの視界を奪う。




誰か――――――助けて…!



そしてまた、いつもと同じ方向に進んで行く。
そうすればいつもと同じその場所に、あたしに背を向けたあの人が―――。

103 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時04分35秒




『矢口…』
『裕ちゃん!裕ちゃん…良かった生きてたんだ…!!』
そしていつものように走り寄っていく。
あの人はいつものように笑いかけてくれて。


でも、
『矢口…助けて…』
その顔はすぐに一変してしまう。
『ゆ、裕ちゃん…?』
『痛い…』
『えっ…ど、どこが…?どこが痛いの?』





『あんたに刺されたトコ…』







真っ赤な夢―――――――。








104 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時05分18秒


最近そんな夢ばっか見て、夜中に目が覚める。
夢を見るのは眠りが浅い時ってどっかで聞いた事があったから、お医者さんに
頼んで睡眠薬を分けてもらったんだけど…。その夢が消える事はない。
多分この夢は、あたしの中にある罪の意識。

最初に聞いたときは死にたかった。
裕ちゃんが死んだ、って…。
そして裕ちゃんを殺してしまったのは、あたし自身。
あたしの中の知らないあたしが裕ちゃんを死に至らしめた。



「裕ちゃん…ゴメンね…」

何度言っても足りない。
そんな言葉なんかであたしのシタコトは許されるわけじゃない。

でも…あたしはやってない…。




まだ暗い病室の中であたしはいつも同じ事を思う。





105 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時05分48秒


朝早く、まだ他の病室の人たちは起きてない頃にあたしは目を覚ます。
一番に行く所は屋上。
朝の冷たい風にさらされるのが好き。
体の中にしつこく残ってる眠気を一気に吹き飛ばしてくれる。
誰もいない静かな空間が好き。
いつも物思いに耽るあたしにはちょうどいい。

この病院の中であたしは一人。
看護士さんたちやお医者さんたちはあたしの素性を知ってるから、よほどの事
がない限りこの部屋に入ってこようとしない。そりゃそうだよ、病人とは言え
ヒトゴロシなんだから。
あたしは本来ならこんな普通の病院なんかじゃなくて、ちゃんとした精神病院
に行かなくちゃいけないはずなのに…。
106 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時06分35秒

あたしの中の2人の人格の存在はとてつもなく大きい。
みっちゃんたちは<マリ>と<ヤグチ>って呼んでたみたい。どっちも自分の
名前だからなんか変な感じ。
その2人はもうあたしの中にはいない。
実際に会った訳じゃないけど、なんとなく、そう思う。
あたしの中に溶け込んで1人の<矢口真里>になった。
その2人はあたし、あたしはその2人。



なのに…あたしの中で一番大事なところが欠落してる。





あたしが覚えているのは裕ちゃんといつもの様に楽しく暮らしていた日々。
多重人格だって事もはっきり自覚して、それでも楽しく過ごせていた日々。



そして―――――裕ちゃんに結婚する事を聞いた。



どうしようもなく寂しい思いと、どうしようもなく悔しい思い。

そしてどうしようもなく、裕ちゃんが憎いと感じた。
107 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時07分14秒




そこであたしの記憶は途切れてる。




あたしは今ここにいる。
誰が必要としてくれるわけでもない。
でもあたしはここにいる。

死ぬ事よりも生きる事の方が辛いなんて、今まで思ったこと無かった。



108 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時08分05秒

「矢口さ〜ん、メロン食べませんかぁ?」
いつもの調子で入って来たこの人。
今日はメロンをお皿に乗せてのご登場。

「吉澤さん」
「安倍さんのお見舞い品なんです、甘くておいしいですよ」
そう言って冷たく冷やされた赤肉のメロンを一切れ差し出した。
吉澤さんは自分の分のメロンを口に運びながらもなお、話を止めない。
「なんか安倍さんの実家って北海道らしくて、実家から送られてきたのを持っ
 てきてくれたんです。夕張メロンだって」
「え…もらっちゃっていいの?それ…」
「いいですよ〜、安倍さんも言ってたし…矢口さんにもあげろって」
109 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時09分10秒

吉澤さん。
聞いた話によると、今から2ヶ月とちょっと前の間、多重人格となっていたあ
たしは吉澤さんの家にお世話になっていたらしい。
そのときの事は…悪いけど何も思い出せない。

この病院の中でまともに話をしてくれるのはこの吉澤さんぐらい。
まるでそうするのが当然のように明るい表情であたしの所にやってくる。

どうしてなんだろう…。
その2ヶ月の間で友達(?)になったからって、人を殺しちゃった人の所に好
き好んでくるもんなのかな。
だって2ヶ月だよ?たったの2ヶ月だよ?
あたしだったら…来たくない。
2ヶ月以上の、もう何年も付き合ってきた友だちでも…考える。

110 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時09分53秒



吉澤さんといると心地良い。
あの笑顔から見られるホンワカした雰囲気を、体が覚えている感じがする。
あったかくて、優しくて、ゼンブを包んでくれそうな瞳…。
あたしは……それを知ってる?

「メロンちっちゃく切りますか?」
「あ…うん」
小さいナイフを取り出して、器用にメロンの果肉を皮から切り取っていく。
そうして完全に切り離された果肉を今度はひと口大に切っていき、綺麗に皿の
上にのせた。

「はい」
「ありがと」
吉澤さんからお皿を受け取ると、彼女の袖の裾から見え隠れする包帯に気が付
いた。右腕にグルグルと巻かれた白い包帯。そして今ここからは見えないけれ
ど、胴体にも何重に巻かれている。


あたしが付けた傷を覆い隠す為に。



111 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時10分34秒




どうしてそんなケガをさせる事になったのか。
誰もその事を話しているのを聞いた事がない。と言っても、そんなに知り合い
がいるわけじゃないけど。
みっちゃんや安倍さん、そして当然吉澤さん自身も何があったのか言わない。
あたしもそんな彼女達の雰囲気を感じ取って聞く事ができないでいる。
この2ヶ月の間に、何があったのか…。




112 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時11分08秒

「お〜、あまぁ〜♪」
「ねぇ…吉澤さん」
メロンの味に浸ってる所悪い気はしたけど。
「なんですかぁ〜?」
太陽みたいな彼女の笑顔があたしには眩しすぎた。
「……ん…何でもない…」
「?」


今はやめておこう。


「さ、ほらほら食べてください」
「あ…うん」
小さく丁寧にコマ切りされたメロンを一切れ口に運ぶ。
熟した果肉が程よく冷やされていてホントにおいしい。
ん、甘い…。

113 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時12分01秒



この安らぐ空間を誰にも壊して欲しくない。
ヒトゴロシの烙印を自分で押したあたしと何事もなく接してくれるこの人と。
でもそれが叶わない事は分かってる。
自分で犯した罪からは、決して逃げる事はできない。

「あ、そうだ矢口さん。さっき安倍さんが来た時に矢口さんに話があるって」
吉澤さんは少し言いにくそうな顔をして言った。
大体その話の内容は分かっている。
それでも一応、聞いてみた。

「あ…あの…明後日の、裁判の事で…どうとか」

驚きもしないし不安にもならなかった。
「そう」
「…………」
それを聞いたあたしよりもそれを告げた吉澤さんの方が辛そう。
気にしないでよ。
吉澤さんが気にすることじゃないよ。

「ありがとう」
「あ…いえ…」


114 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時13分55秒

裁判の事なんて、あたしはよく知らない。
何かした人が誰かに訴えられて裁判所に連れてかれて、そして弁護士をつけて
もらって自分のした事が悪い事なのかしてもいい事なのか、それを見定めて。
最終的にその何かした人の罪はどのくらいのものなのか、見当つけて。
その後は知らない。
軽ければ罰金や懲役何年か。
重ければ無期懲役、それかどこかの国では…死刑とか。
日本にはほとんどないみたいだけど。

そんな中で、あたしはどうすればいいんだろう。

自分が犯したつもりの無い罪で裁かれるなんて―――――。


115 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月12日(木)20時14分48秒

始めはこんな感じで…。
よっすぃーより書きやすいなぁ。

>>98名無し読者様
 はい、一応 〜矢口真里の苦悩〜 の部分は終了しました。
 …という事は他メンの話も…、書けたら書きます(爆
 ありがとうございます!
116 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年09月13日(金)12時49分26秒
「Stellar memory」の続編(?)が始まったんですね。
今後の展開を楽しみにしてます。
117 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月13日(金)17時19分49秒
おおっ!
急にマジメな話しに戻りましたね。
こっちも楽しみです。
続きが知りたかったもので・・・・。
えっと、私バカなんですよぉ。
それで、今の矢口真里ってゆうのは本当の姿ってゆうか
もとに戻ったってことですか?
ってことは、昔のこととかも覚えてるわけで・・・・。

そんで、よしこさんと居た時の、ヤグチとときどきでてくるマリが
多重人格の人(?)ってやつなんですか?

えっと、簡単に言っちゃえば、ヤグチとマリがでてきたときに
本当の矢口真里はいなかった、と。
そんで、なかざーさんから結婚の話を聞かされたときから、
ヤグチとマリがでてきたわけですか?

わかりずらい説明ですいません。
私、さっきもいったとうりバカなんです。
118 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月18日(水)18時42分36秒



――――――――


―――――…






「現在彼女は訳あって診療中で、まだ裁判を受けられる状態ではありません」
「しかしそんな事を理由にしていては…」

大きな部屋に響く二つの声。
あたしの弁護士さんと向こうの弁護士さん。
あたしはそれをただ黙って真ん中で聞いている。
周りから感じる、あたしをあざ笑うかのような視線と単なる好奇心の目。

「ですから…!」
「彼女は現に…!!」
「弁護人は言葉を控えてください」
裁判官の言葉でそれはおさまった。
そして今度、口を開く権限があたしの所にやってきた。

119 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月18日(水)18時43分12秒



「被告人、何か訴える内容は?」
全員の目がこちらに向けられる。
「あ…の…」
「何か?」
全部言いたかった。
あたしはやってない。
あたしは無実だ。
あたしは知らない。
あたしは…。

「被告人?」
「…すいません、よく…分かりません…」
その場が一気にざわめく。






「ふざけるな!!」



その中でも一際耳に届いたのがその声。
「お前のせいで…裕子は…!!」
ボロボロと大粒の涙を流すその男性。
ああ、この人が…。
そうなんだね裕ちゃん。
優しい人なんだ。
こんなに泣くなんて。


それを…その仲を引き裂いたのは…あたしなの…?

でもそれだけ好きだったんだよ、裕ちゃん。


120 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月18日(水)18時43分44秒


それから裁判は持ち越されることとなった。
曖昧な理由で3人もの人を殺しただなんて事は許されない。
世界にはそういう人もいるだろうけど。
あたしはそこまで卑劣じゃあない。


お父さん、お母さん、裕ちゃん…。
皆あたしが殺してしまった人たち。
しかも、殺した時のあたしの記憶はまばらでうろ覚え。
どうやって殺したのかすらも、話を聞くまではよく分からなかった。



ただ覚えてるのは、その人たちに対する憎しみと、怒りと

そして血に染まったあたしの手。

あの真っ赤な夢。





こんな事ありえると思う?


121 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月18日(水)18時44分25秒



警察の人に連れられてあたしは裁判所から病院に戻ってきた。
病室に戻るまでの間、警備の人が2〜3人あたしに付く。
そして病室に戻った後も、警備の人はその病院のどこかで待機している。
あまりぴったりと尾行するのはプライバシーの事もあるから控えさせてもらっ
てるけど、それでもあたしには監視の目がいやらしい。
どこにいても、誰かに見られてる。

「早く戻ろう…」
でもどうせ、部屋に逃げたって何にもならない。

122 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月18日(水)18時45分07秒
更新しました。少しですが…。

>>116読んでる人@ヤグヲタ様
 ありがとうございます。多分短い話になると思いますが
 よろしくお願いします。

>>117名無しさん様
 はい、大体の話はそうです…が、<マリ>と<ヤグチ>が
 出て来たのは裕ちゃんと会う前です。分かりにくかったですね(汗

123 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
124 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年09月19日(木)13時11分14秒
矢口はかなり可哀相な状態ですね・・・。
この先、どーなっちゃうんだろう・・・?
125 名前:HALコン。 投稿日:2002年09月22日(日)07時50分35秒
あああー!!やぐたん〜!
作者さん続きがむっちゃ気になります!!!!
楽しみにしてるので頑張って下さい!!
126 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時51分42秒


病院備え付けのパジャマに着替えて、白いベッドの上に座り込んだ。
何も聞こえない。
自分の耳がどうにかなったんじゃないかって錯覚するくらい。
それがあたしに重くのしかかる。
気を取られる物が何もないから考えたくも無いことを考えてしまう。


お父さんに裏切られて、お母さんに裏切られて、信用してた人に裏切られて。
何だか生きてる人全てが信じられなくなってきた…。

「ぅあ〜…ダメだ…飲みモンでも買ってこよ」

127 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時52分19秒


病室を出てすぐ左の曲がり角のところにある売店で缶コーヒーを一つ買った。
でもその後は…本当に何もする事がない。
部屋で飲もうと思ってもう一つ缶コーヒーを買う。
誰かと話とかしたいけど、知り合いはさっきも言ったけどあんまりいない。
みっちゃんは仕事が忙しくてあんまり来られないし。
プルタブを引くと、コーヒーの香ばしい香り。
ひと口運ぶと砂糖入りのを買った筈なのに、それは苦いばかりだった。

そのまま廊下を進んで行くと、あまり来た事の無い部屋が並んでいた。
「あれ…違う病棟に来ちゃったのかな…」
何も頭に入らなくて気付けばいつの間にか全然逆方向に来てしまっていた。
「こっちじゃないっつーの…」


ふっ、とすぐ横の病室に気がついた。
そこはあたしの部屋と同じ個人部屋で、名前は…。
「…吉澤…ひとみ」

あ、ここ吉澤さんの病室だったのか…。
一回も来た事無かったから気付かなかった。
……入ってみようかな。



128 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時53分05秒







―――――――カチャ



「あ」
「あ」

ノブを回そうと手を伸ばした時、1秒早くドアが先に開いてた。
見ると部屋から顔を出したのは見た事ない女の子。
「あ…えと…」
「………」
で、でも一応吉澤さんの知り合いだよね。
挨拶しといた方がいいか。
「こ、こんちは」
「…こんにちは」
ちょっとぎこちなくだけど、相手も一応笑顔で返してくれた。


「…ひとみちゃんなら…今お薬切れてたらしくて貰いに行きましたけど…」
「あ…そうなんだ」
ひとみちゃん…って吉澤さんの事か…。
知り合いどころか仲良いんだなこの人。
「多分、もう戻ってくると思いますけど…」
吉澤さんの友達らしいその人は、少し遠慮がちにドアを開いた。
二人でいるトコ邪魔しちゃ悪いよね…。
「いや、いいです」
「でも…」
「ホントいいです、じゃ…」
129 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時53分36秒




「あれ、矢口さん」


振り向くと、あの笑顔の吉澤さんが立っていた。
「帰ってきてたんですね」
「あ…えっと…」
「どうしました?遊びに来てくれたんですか?」
ニコニコしてる吉澤さんに「違う」とも言い切れず、かといって二人の邪魔を
したらマズイと思ったあたしは言葉に詰まった。
どうしよう…別に立ち寄っただけって言うのも…なんか。
心の中でメチャメチャ返答に困って慌てるあたしがいる。
その時、自分の左手に感じる冷たい物に気がついた。


「コレ、メロンのお礼」
とっさに持っていた缶コーヒーを目の前に差し出した。
「え、そんなのいいのにー、安倍さんから貰ったのに」
「いいからいいから、安倍さんには後であたしが何か渡すから」
「そぉですか?じゃありがたく」
「ん、貰っといてよ」
ポン、と缶を投げ渡した。
それを受け取ると吉澤さんはもっと笑顔になって嬉しそうだった。
缶コーヒーくらいでそんな顔できるんだね。
130 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時54分07秒


「じゃね」
「え、もう行くんですか?せっかく来たんですし、話しませんか?」
「いいよ、友達来てるんでしょ?またね」
「あ、矢口さん!」
吉澤さんが止めるのも聞かずにあたしはダッシュでそこから去った。




なんだろう…。
邪魔するのも悪いかな…って思ったのかな。
せっかく友だちがお見舞いに来てくれてるんだからね。
結構仲良さそうだったし…ひとみちゃんって呼んでたよね、確か。
カワイイ娘だったな…吉澤さんとお似合い。
腕組んだりなんかして、デートしたりして…。
もしかしたらそういうカンケー?

131 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時54分38秒





あれ?何考えてんだろあたし。
………何か、あんまりいい気分じゃ…ない。
いいじゃん別に、吉澤さんが誰と付き合ってようと。
あたしには関係ないんだから。





132 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時55分22秒

看護士さんに聞いて、ようやく自分の部屋まで戻ってくる事ができた。
恥ずかしかったなぁ…「部屋が分からなくなりました」なんてフツーに聞いち
ゃったから思いっきり変な顔されたよ。
自分の病棟だけ聞けばよかった…。

「はぁ〜っ」
大きなため息をつきながらベッドにダイブ。
病院特有の薬臭い空気がなんだか落ち着くような気がする。
コロン、と何回も寝返りをうった。
頭にあるのは今の状況をどうやって過ごすか。
「やっぱり吉澤さんのところに行ってればよかったかな…」
天井を見ながら呟いた。
「いやいやいや、二人の所を邪魔しちゃダメダメ」
勝手に一人で疑問符投げかけて、勝手に一人で応答してるあたしって…。

133 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時56分30秒


そういえば吉澤さんのお見舞いに来てたあの娘…。
あの娘を見た途端、少しだけど胸が痛かった。
なんだろう…なんでだろう…変なの。
あの娘がどうしたの?
違う、あの娘じゃなくて…。

「…吉澤、さん」
そうだ、吉澤さんとあの娘が一緒にいるの想像したら…痛くなった。
考えれば考えるだけ痛くなる。
「…どうして…?」


134 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月24日(火)20時57分33秒
更新終了です。

>>124読んでる人@ヤグヲタ様
 悲劇のヒロインって感じですかねぇ…。
 (〜T◇T〜)<勝手に悲劇にすんなよぉ!

>>125HALコン。様
 ありがとうございます!
 一週間ほど更新してませんでしたね、申し訳ありませんです…。
135 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年09月25日(水)14時37分04秒
今回のコトは、よっすぃ〜とのコトを思い出すキッカケになるかな?
136 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時19分28秒



「どうしてなんやろなぁ…」
頭を抱えてうずくまっているみっちゃん。
隣では安倍さんも一緒になって悩んでいる。
「なんでこの2ヶ月間の記憶だけないんやろなぁ」
「うーん…なんかのショック…とか」
「そんな曖昧な…」

あたしがここに入院する事になってから、この二人は未だ取り戻せていないあ
たしの記憶を呼び起こそうと、日夜考えてくれていた。
今日もまた、あたしの病室でいろいろ調べた事を話し合っていた。

137 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時19分59秒


「その2ヶ月の間で、真里ちゃんの中にほんっっっのちょっとでも記憶に残っ
 てる事なんかあったらいいキッカケになる思うんやけどなぁ」
「でもさぁ…肝心の吉澤さんの事が思い出せないとなると難しいよ」
「せやなぁ」
いつも二人が話し合う時、当たり前の様に吉澤さんの名前がいくつも出る。
吉澤さんと過ごした2ヶ月間。
あたしが思い出せないその2ヶ月間に、あたしと吉澤さんに何があったって言
うんだろう…。

「なぁ真里ちゃん、ホンマに思い出せんのか?『吉澤ひとみ』の事」
グッ、と顔を近づけて来るみっちゃん。
「うん…ゴメン」
「「はぁ…」」
そしてまた今日も何の手がかりが掴めないまま終わろうとしていた。
でも今日は…一個だけ、聞いてみたい事があった。
138 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時20分37秒



「ねぇ…みっちゃん」
「ん?」
「あのさぁ…吉澤さんと一緒にいたあの女の子、…誰?」
「女の子?」
「えーと…茶髪のちょっと色黒な…」
あたしがそう言うと、みっちゃんも安倍さんも少し顔が強張った気がした。
「…その子が、どうかしたん…?」
「あ…どっかで見た事ある気がするんだよね、でもどこだったか…」
そう言うと、今度はちょっとだけ安心したような表情を見せる二人。

「あの子はねぇ、石川梨華ちゃんって言うんだよ」
安倍さんが答えてくれた。
「吉澤さんの友だちなの」
『友だち』の部分だけ妙に強調された言い方だったけど、今はとりあえず気に
しない事にしよう。
ふーん…友だち、だったのかぁ。



「あ」
「なんや?どないした?」
「え、あ、何でもない…」


痛くなかった。
吉澤さんと石川さんの事を考えても、何ともなかった。
それよか、気分が良いかもしれない。
…え?どういう事…?

139 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時21分11秒



「んー今日も何も見つからんかったなぁ」
「大丈夫!なんとかなるっしょ!」
「あんた気楽やなぁ…」
「そうじゃないと続けてらんないよ、じゃ!真里ちゃん、したっけね」
みっちゃん、安倍さんはいつものように来てそして帰っていく。
もう何日もこんな事が繰り返されているのに、あたしの記憶はどこかに行って
しまったまま帰って来ない。
どうして…思い出せないの…?


140 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時21分43秒



「矢口さん!」
「!…あ」
吉澤さん…。
「平家さんたち帰ったんですか?」
「うん…」
あの二人を見送るために外に出たあたしを追いかけてきたらしい。
「やっぱり…まだ、思い出せませんか…?」
「うん…ゴメン」

どういうわけか、あたしがみっちゃんのカウンセリングを受けている間は、吉
澤さんは一緒にいることがなかった。
あんなに吉澤さんの話題が出てるのに…。
「あの…吉澤さん…」
「何ですか?」
「さっき聞いたんだけど…石川さんって子…」
「あぁ、梨華ちゃんですか?さっきちょっと会いましたよね」
梨華ちゃんって呼んでんだ…。
また…胸が痛い。
141 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時22分16秒

「友だち…?」
重い口をなんとかこじ開けてやっとそれを言葉にした。
「はい」
「そう、なんだ…」
なんでまたホッとしてんの?あたし…。
「あはっ、あたしてっきり二人は付き合ってんじゃないかなぁとか思ってた!
 違ったんだね〜あはははっ」
安堵感からあたしは無意識にそんな事を口走っていた。
あぁもうっ…自分で何言ってんだか。

「………」
「あ…えっと…」
吉澤さんは黙り込んでしまった。
聞いちゃいけない事を聞いちゃったんだろうか。
「…そんな事絶対にありません」
「え?!」
心の中で考えてる事が分かったのかと思って必要以上に驚いてた。
けどそれは違っていて、吉澤さんは真っ直ぐあたしを見つめて、その瞳はどこ
か悲しさや悔しさや怒りの熱を帯びていた。
142 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時22分47秒

「あたしは…好きな人いますから」
「あ…そうなんだ」
「………」
そう言ってフイッと顔を背けてまた黙り込んだ。
そっか…いるんだ…。

「ね…その人、どんな人?」
ピクッ、と肩を震わせて吉澤さんは何も言わない。
…聞いちゃいけない事だったのかな?
「………」
「…言いたくなかったら…別に…」



「…さん、です…」
「え?」
聞こえるか聞こえないか位の声で呟いたのが聞こえた。
143 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時23分20秒

「矢口さん…」
「何?」
「…早く、思い出してくださいね…」
そう口にした吉澤さんは顔を見せずに病院の中に戻っていってしまった。
「吉澤さん…」
あたしはそこでしばらく立ち尽くしていた。
吉澤さんが最後に見せたあの表情はずっと頭の中に残っていて、それが何故か
消える事はなかった。

結局聞かなかったあたしと吉澤さんの過去。
ていうか聞けなかった。
なんだかとても大事なことのような気がして。
言葉にするのは簡単だけど、ホントに大事な事。
ずっしり重い、あたしと吉澤さんの2ヶ月間。
理由は分からないけど自分で思い出さなきゃいけない事だと本能的に感じた。

思い出したい…思い出してあげたい…。

144 名前:ココナッツ 投稿日:2002年09月27日(金)22時24分34秒

更新終了。後何回で終わるかなぁ…。

>>135読んでる人@ヤグヲタ様
 それは…秘密です!
 戻る場合と戻らない場合…どっちがいいかなぁ…。
145 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年09月28日(土)13時56分09秒
思い出してほしい・・・。
146 名前:娘。 投稿日:2002年09月30日(月)09時27分22秒
矢口早く思い出せ!
吉澤耐えろ!
147 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月02日(水)06時45分16秒



『矢口…助けて…』



また赤い夢を見た。
血に染まった裕ちゃんとあたしの手。
拭っても拭ってもそれは落ちなかった。

「……裕ちゃん…」
この夢には、どうしても慣れる事は出来ない。

いつになれば…この夢から本当に目覚める事が出来る…?

148 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月02日(水)06時45分51秒




日課のようになってしまっていた屋上までの散歩。
今日は何故か、する気にならなかった。
目が覚めてもずっとベッドの中でヒマを持て余しているだけ。

運ばれてくる病院食にもほとんど手をつけずにいる。
満腹感は感じないし、空腹感がある訳でもない。
どんな食べ物も味気ないように思えて、食が進まない。

ふと、窓の外の景色に目がいった。




風に揺れる木々。
時に強く、時に弱くそれは揺らめく。
風に身を任せて流れる木の葉。
その木の葉に今自分がなれたらどんなに楽か。
全てを任せて自分はただただ揺らめいていればそれでいい。
全てを誰かに、何かに任せてしまいたい。

けど、いつかは散ってしまうのが運命。

149 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月02日(水)06時46分28秒


「…しおらしいあたしなんて…きしょ…」
自分の事を苦笑しながら再び窓の外を見る。

もうそろそろ夏も終わるし、外はちょっと涼しくなってきてる。
夜になったら結構寒いよね。
肩出した服はもう着れないなぁ。

150 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月02日(水)06時47分04秒



――――――――パシッ



「…あれ…?」
一瞬、頭にちくりとした小さな痛みが走った。

「……何?」
それはすぐに消えてしまった。
でも今の痛みは普段の偏頭痛とか、そういうのじゃない。





――――――――パシッ



また…。
今度はあたしの視界から一瞬光が消えた。
それから頭の中にある風景が広がる。
「…いたっ…」
ヤバイ…本格的に痛くなってきた…。
ちくちくとした痛みが次第にズキズキとした物に変わっていって、頭を抱え込
まずにはいられない。
何…?一体なんなんだよぉ…!

151 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月02日(水)06時47分47秒

「矢口さーん、もらったケーキ一緒に食べませんかぁ?」
痛みに歯を食いしばっている時に聞きなれた声が聞こえた。
あれは…吉澤さん?
「ぅ…よ…ゎさ…」
声を出しているつもりでも、それは呻き声となって表に出された。
「え…、矢口さん!?」
慌てて駆け寄ってくる吉澤さんの足音が聞こえる。

「矢口さん!?どうしたんですか矢口さん!」
「ぅ…ぁたま…いた…」
何とか開いた瞼の隙間から吉澤さんの顔を見つけた。
頭を抑えていた手を吉澤さんの顔にゆっくり近づけると、吉澤さんはそれを優
しく握り返してくれた。
152 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月02日(水)06時48分17秒

あったかい…。
この感じ…。
「矢口さん!大丈夫ですか!?」
するとその痛みが急に、何事も無かったかのように消えていくのが分かった。
浮かんできた汗が段々と収まってくる。

「どうしたんですか?ナースコール、呼んだ方が…!」
「ううん…大丈夫だから…」
握られた手に力を入れて続けた。
「このままで、いて…」
「…矢口さん…」
そうしてまたゆっくり瞼を閉じた。


153 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月02日(水)06時54分39秒
朝から更新しました。

>>145読んでる人@ヤグヲタ様
 (〜T◇T〜)>分かんないよ〜分かんないよ〜

>>146娘。様
 (0T〜T0)>耐えらんないよ〜耐えらんないよ〜
154 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)19時13分06秒
番外編で吉澤と出会う前のやぐちゅー書いて欲しいな。

何となく作者さんが分かった気が(w
違ったらすいません。元のCPのファンなので・・・気が向いたらまた書いて下さいね(w
お願いします。
155 名前:HALコン。 投稿日:2002年10月03日(木)10時50分34秒
やぐたんには、やっぱりよっすぃーが必要なんですね!!
二人が幸せになるように願いつつ続きを待ってまーす!!!!
作者様がんばって下さい!
156 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月03日(木)16時48分07秒
今回の頭痛は記憶が戻る前兆かな?
157 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月06日(日)09時54分10秒






『……り』
ふわふわした心地良さにとろける様な感覚。

『…ま…り』
とっても優しくて、とっても懐かしい。

『…真里』
誰…?



一つの影が遠くに見える。
裕ちゃんじゃない誰かの…。
自分から近づいて行ってるのか、影が近づいて来てるのか、有耶無耶に思って
いる内にいつの間にかその影は目の前に。

その影はゆっくりと振り返る。




『真里』




その顔は――――――紛れもない、あたし自身だった。


158 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月06日(日)09時54分42秒


『真里…』
あたしの目の前にいるあたしがそう囁くと、そのあたしはスッとバックに溶け
込むように消えていった。

誰…?あたしだけど、あたしじゃない…。




『真里』
すると、また後ろからあたしを呼ぶ声。
振り向くとそこにいるのは…あたし。

誰なの!?…ねぇ、答えて…!



にっこりと微笑んだもう一人のあたしは、クルッと背を向けると
勢いよく走り出す。
走り去ったあたしが向かったその先に、あたしは目を見開いた。

二人のあたしが仲良く笑い合い、こちらを見ていた。


159 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月06日(日)09時55分20秒


『大丈夫だよ』
右側のあたしが言った。
何?何が…?分かんないよ、ちゃんと説明してよ。

『安心して』
そして左側のあたしも口を開く。
何言ってんの?…あんたたちはあたしなの?
ねぇ、答えてってば。




『『心配するような事は何も無いから』』

視界が白に包まれた。





160 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月06日(日)09時56分03秒



真っ白い。
周りには何もない。
あたしだけがいるこの空間。
あの二人――――二人のあたしは、一体ドコ?

自分の六感をたよりに前も後ろも分からない状態で
必死に見えない出口を探す。
見えない、聞こえない、自分以外の存在が分からない。

自分独りだけ。




つぅ、と頬っぺたに一筋、冷たいものが流れるのに気付く。
独りはヤダ…。
誰かいないの…?
ねぇ、誰か…!








『『大丈夫』』


突然、唇に暖かい感触がした。



161 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月06日(日)09時56分45秒



―――――――――



―――――




もう頭の痛みは無くなってた。
まるで永い間眠っていた様で、体が思うようにちゃんと動かせない。
でももう少し、このままでいたい気もする。

(…この匂い…)
自分とは違う、安心する匂い。
ずっと前から知ってる様で、今初めて知った様で。

重い瞼をこじ開けて、それを確かめた。

162 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月06日(日)09時57分15秒




吉澤さん…!
信じられなかった。
間近にある吉澤さんの顔。
その距離、ゼロ。

吉澤さんは…あたしにキスしていた。


柔らかく重ねるだけの控えめなキス。
あたしは開いた瞼を、もう一度閉じた。


吉澤さんに起きてるのがバレないか、あたしはそんな心配をしてた。
少しでも体を動かせば、目覚めている事に気付かれる。
キスされている事は別に嫌じゃなかった。
それどころか、この時がずっと続いていればいい、なんて思う…。


163 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月06日(日)09時57分58秒




ぽた


(………?)
その時あたしの頬に何かが当たった。
水…?
…違う、多分これは…涙…。
吉澤さんの…?

すると唇からぬくもりが消え去っていった。
唇が離れてしばらくは何も音と言う音が聞こえなかった。
目を開けて確かめる事ができないから、あたしは瞼の外に何かしら変化に気付
くまでは体を動かせずにいた。



ぽた


雫はまた、あたしの頬に落ちた。
泣いてる…?吉澤さん、どうして…。

あたしが、記憶をなくしちゃったから…?
吉澤さんとの思い出をキレイさっぱり忘れたから…?


そして重く引きずるような足音が遠ざかっていくのを感じると、ドアがゆっく
りと開く音がして、閉じた音がした。


164 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月06日(日)09時58分34秒
更新です。遅くて申し訳ありません(汗

>>154名無し読者様
 わ、分かったって…何が?ドキドキ(w
 やぐちゅーですか?考えた事なかったなぁ。ネタがあったら考えたいです。
 多分時間かかると思いますが、なんとかやっていけたら。

>>155HALコン。様
 はい!がんばります!
 二人がハッピーエンドを迎えられる様に…。

>>156読んでる人@ヤグヲタ様
 そうですね、そんなカンジです。
 もう後ちょっとしたら核心に入れるので、なんとか更新していきたいです。
 
165 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月06日(日)11時24分24秒
なんか、かなりせつない展開ですね〜。
ああ〜、続きが待ち遠しいです。
166 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時32分13秒

吉澤さんが出て行ったと分かった後も、あたしはしばらくそのままだった。
唇に残るその感触を、その匂いを、その暖かさを噛み締めたくて。

けれどそれとは裏腹に、鮮明に蘇らす事の出来る今の行為をどう受け止めれば
いいのか分からない。
吉澤さんが、まさかあたしを…なんて自意識過剰的な事が頭をよぎる。
大概あたしもバカだ。
在り得ないよ、んな事。



それに大体…、こんな事思っちゃいけないんだ。

吉澤さんがあんなケガをする事になったのはあたしのせい。
吉澤さんを泣かせたのもあたしのせい。
全部、あたしのせい。



そして何より、幸せになる筈の裕ちゃんのジャマをしたくせに――――。





イヤな子だ、あたし…。
そう…そうだよ、よく分かってるじゃん。
あたしは人を愛する資格なんて無い。
人に愛される資格も無い。
167 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時32分48秒


…愛する?
誰を?
愛されるって?
誰に?
そんな事考えた事無いよ。
少なくとも、記憶を取り戻してからは。

取り戻した?
記憶を?
吉澤さんの事も思い出せないのに?


吉澤さん?
好きなの?あたしの事。
違うよね。
でもあたしは…。
あたしは?



「好き…?」


………う…顔熱い…。




168 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時33分29秒





―――――――コンコン


「ひっ…はいっ!」
急の来訪者に心臓が飛び跳ねそうな勢いだった。



―――――――カチャ

「な〜んだべ」
チャームポイントとも言えるそのカワイイ訛り声。
ドアの横からひょっこりと覗き込むその顔に緊張していた頬も緩む。
「オバケでも見たような勢いじゃん」
「安倍さん…びっくりさせないで」
「真里ちゃんが勝手におどろいたんだよ〜」

まったくもー、なんていいながら安倍さんはあたしのベッドの横のイスに腰掛
た。手にはまたお見舞い品らしき物がある。
「えへへー、今日はくだものでーす」
安倍さんは嬉しそうだ。
何で嬉しそうかって言うと…。
169 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時34分01秒



「桃もあるよ?」
「…あ、あは、じゃそれを…」
「ん!」
バスケットの中からピンク色した桃を受け取る。
甘い水蜜の香りに、思わず鼻を寄せた。
「熟れてるから手でも剥けると思う」

すっ、と爪で切り込みを入れてゆっくり皮を剥く。
白い果実が顔を出して、匂いがより一層広まっていった。
いい匂い…。

そのままあたしも丸まんま、桃をひと口かじった。


170 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時34分38秒



「ん〜!おいし〜このリンゴ」
自分も食べるから。
っていうか、丸かじりしなくても…。

「ほらほら、真里ちゃんも食べて食べて」
「あ…うん」
「あっ、それともこっちのバナナとかの方がいい?ブドウもあるしー」
何でも今まで持ってきていたお見舞い品は、安倍さんの勤続中の署から経費で
落としてるそうだ。
しかも安倍さんが秘密で。

それは果たしていいのか?って聞くと
『あ〜いいのいいの、バレたら始末書書けばいいだけだから!』
…ってさ。
いいのかな〜?

171 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時35分08秒




「………!」
「? どした?」
「あ、や、何でも…」
「顔赤いよー、風邪でもひいたかい?」
「…かも」
何とか誤魔化せたかな…?

自分の頬っぺたに触れるとまだ少し熱を持ってた。
多分、顔はまだ赤い…。
バカ…、バカだあたし。

果実が口に触れた途端、吉澤さんのキスを思い出した。


ハズい…。
まるで欲求不満に陥った中学生みたい…。
172 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時35分47秒


「ん、そーだ、さっきそこで吉澤さんに会ったんだけど…」
「ふひゃっ!?」
「………何?」
「んぁ!やっ!何でも…」
な…なんだって安倍さんは、こうもタイミングがいいんだろ…。


「なんかもうすぐ退院するんだって?」
リンゴをかじりながら安倍さんは言った。


「え…?」
「え…、って、あ…もしかして知らなかった?」
退院…吉澤さんが…。
まずかったかなぁ、とポリポリ頭を掻く安倍さんにあたしは詰め寄った。
「退院って…いつ…」
「え〜あ〜いや〜、なっちもよく分かんないんだけど…来週あたり…かな?
 真里ちゃんと違ってあんまり長く病院にはいられないんだって」
「あ…そう…」
そうだよね、吉澤さんはケガしてるだけだもんね。
『してるだけ』って…あたしがケガ『させた』んだけどさ。
そっか…退院か…。
さっきここに尋ねてきたのは、その事を伝えるため…かな。

173 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時36分17秒


「それで次の裁判の時には、吉澤さんも参考人として来るから…」
「…はい」
そっか、まだ終わってなかったんだっけ…。
あたしがまだ曖昧なこと言ってるから判決が下らなくって、何回か重ねてそれ
で最終的に罪の重さを決めるんだって。
今度はそれに吉澤さんも加わって。

なんか…複雑。


174 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月08日(火)01時37分58秒
更新終了。
あと…どのくらいで終わるか見当がついてない…。

>>165読んでる人@ヤグヲタ様
 ありがとうございます〜!
 そんな風に言ってもらえると、やっぱ力入ります。
175 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月08日(火)13時31分48秒
う〜ん・・・なんか矢口は自虐的になってますね。

>作者さん
>あと…どのくらいで終わるか見当がついてない…。
これは、まだ当分終りそうも無い、と思ってもいいんですか?
だったら嬉しい〜♪
176 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月09日(水)17時25分51秒
この先、どうなっていくのかが楽しみです。
177 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時11分36秒

それからあたしは、吉澤さんとほとんど会話する事がなくなっていった。
頻繁にあたしの病室まで訪れてきていた吉澤さんも、何故かいっこうに顔を見
せなくなり、その状態のまま何日かが過ぎた。

「…はぁ…」
もう3日くらい経ったかなぁ…?
吉澤さんと話さなくなってから。
お互いに避けあってるのか、病院内でもほとんど、ってか全然顔を合わせてな
いような気がする。

悶々と考え込んで、イライラする。
いつ吉澤さんは退院するんだろう…。

吉澤さんが退院すれば、もうほとんど会うことはない。
あるとすれば裁判所くらいなもんか。
少なくとも、前のように話す事は到底無理になる。
178 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時12分11秒

このままでいいの?
何にも話さずに、このままバイバイも言わないままで。
自問自答を繰り返す。

やっぱり、今でもいいから会いに言ってみたら?
あの出来事があった時、あたしは寝てた事になってるんだし。
気付かれなきゃオッケーだよ。

でも、会って何を話せばいい?
会ったら会ったでそれはいいけど、その先をどうするか。
気の利いた会話なんて、思い浮かばないし。
もしかしたら、顔を見るのも辛いかもしれないし。
沈黙になるのは…イヤだ。


でもそれ以上に、今のままって言う方がイヤ。


179 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時12分45秒

やっぱり…会いに行こう。
行けば何とかなるよね。
そうだ、吉澤さんもずっと黙ってるなんて事は………あるかもしんないけど。
大丈夫だよね…。
意を決して、あたしはベッドから下りると吉澤さんの病室に向かった。
少しだけ騒がしい廊下を進んで行くにつれて、足が重くなっていく様だった。
180 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時13分45秒



―――――――



楽しい時間ほど早く過ぎる。
嫌な時間ほどゆっくり進む。

吉澤さんの病室に向かうまでの間、楽しい時間じゃないはずなのに、早く着い
てしまった。

「ぅ〜……」
ドアの目前で、あたしは押し黙ったまま。
ノブにかけた手を動かそうとはしない。
ここまできたのはいいけど…やっぱり場を前にするとね…。
さっきまでの勢いは消え、驚くほど消極的になってしまったあたし。

いきなりたずねて変じゃないよね。
普段通りに「やっほー」とかって話し掛ければいいよね…。
いつも吉澤さんだって、やってたんだから…。


『……ゃん、…レ……こに』

あれ…、話し声が聞こえる。
誰か来てるのか、部屋の中から吉澤さんではない、他の誰かの声がした。
誰だろ…。
中に気付かれないように、音をたてずにドアを開いて中の様子を窺った。
181 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時15分08秒

中にいたのは、もちろん吉澤さんと
「……あの人…石川さん、だっけ…」

吉澤さんはベッドに腰掛けて、石川さんは横で花瓶の花を取り替えていた。
お見舞いに来た…のか。
…また、胸が…。
左胸をギュッと締めて、また中を見た。



『…ケガはもう大分治ったって?』
『…ぅん…』
笑顔の石川さんとは対象に、吉澤さんの表情は暗かった。
『じゃあもうすぐ退院できるんだね』
石川さんは、まるで自分のことみたいに喜んでる。
でも、本人の吉澤さんはそうでもないみたい。
『いつになれば退院できるの?』
『…先生が言うには、明日にでも…いいって』

「明日…」
あたしは戸惑いを隠せなかった。
早すぎた。別れの準備もできてないのに。

『そっか!よかったじゃない、家に帰れるんでしょ?』
『…………』
吉澤さんは無言だ。
俯いちゃったから表情が読み取れない。
でも、その雰囲気は重苦しいものに感じた。
『どうしたの、ひとみちゃん。…嬉しくないの?』
182 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時15分43秒

『…ねぇ、梨華ちゃん…』
『ん?』
『退院…しなくちゃ、ダメかな…?』
『どういう事?』
『…退院しないと、いけないのかな…』
顔を上げた吉澤さんは、弱った子犬のような顔をしていた。

『何言ってるの…ひとみちゃん、そんなのダメに決まってるじゃない』
『…お金…倍、払えばなんとかならないかな…』
『無理だよ!…全快した患者さんをいつまでも寝かせておけるほど、病院はヒ
 マじゃないんだよ?いつ、どんな時に急患が入るか分からないんだよ?』
『……患者、か…』
183 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時16分17秒



『あたしもケガすれば…入院してられるかな…』
『えっ…?』
まるで別人を見てるようだった。
吉澤さんだけど吉澤さんじゃない、…そんな気がした。
『ひとみちゃん…それ本気で言ってるの…?』
『………』
『冗談でしょ?…もう、脅かさないで』
『………』
何も言わなかった。
吉澤さん…どうしたの…?


184 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時16分57秒


『…あの人?』
石川さんの口調が少し重くなって聞こえた。
『そうなんでしょ?』
『………』
『あの人がいるから、退院したくないなんて言うんでしょ?』
怒りの面が垣間見えた石川さんは正面に向き直った。

『…そんなに好きなの』
『………』
『そんなにあの人のほうがいいの?』
あの人…?一体誰の事だろう。
話から察すると、聞けなかった吉澤さんの好きな人だよね…。
185 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時17分28秒

『…梨華ちゃん』
『忘れられたのにどうして好きなのよ』
『………』
『…立って』
石川さんに言われるがまま、吉澤さんはゆっくりと立ち上がった。
『…ひとみちゃん…』
『梨華ちゃ…』
「!」
石川さんはそのまま倒れこむようにして、吉澤さんに抱きついた。
吉澤さんは困った顔をしていたけど、でも振りほどこうとはしないで胸の中の
石川さんを上から見つめていた。
それが…あたしの胸の痛みを倍増させた。
186 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時18分03秒
更新しました。また梨華ちゃん登場。

>>175読んでる人@ヤグヲタ様
 そうなんですよ〜、ラストは決まったんですけどそこまでどうやって
 持っていこうかという…。

>>176名無しさん様
 期待を裏切らないように、がんばりたいです!
187 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時18分56秒
花版で新作始めました。
こっちの話が終わるまではゆっくりとした更新になりますが。
今度はちょっとやぐよしから離れていしよしです。
まぁ、でも矢口さんは絡ませますケド。。。(w
188 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月10日(木)19時21分28秒
もしよろしかったら覗いてみてください。

…って入れんの忘れてた…。(鬱
どーもお騒がせしました。
189 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月12日(土)14時54分39秒
矢口はまだよっすぃ〜の好きな人が判んないんですか・・・
ちょっと鈍感かも(w
190 名前:HALコン。 投稿日:2002年10月12日(土)21時53分49秒
わ!!たくさん更新されてますね!
娘。小説で今、一番の楽しみなので頑張ってください!!
ヘタレよっすぃ〜頑張れ!!
191 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月14日(月)20時12分02秒


『ごめんなさい…でも、私まだ…』
『梨華ちゃん…』
ドアの隙間から聞こえてくるくぐもった声は、
痛いくらいにあたしの耳に届く。
『ゴメン』
そう言って吉澤さんの腕は石川さんの背中に回された。

その大きな体にすっぽりと収まった体は小さく震えている様で。
『辛い思いばっかりさせてるよね』
やめて…お願い、吉澤さん。
あたし、どうにかなっちゃいそうだよ。
やっぱりあたし吉澤さんの事……。
192 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月14日(月)20時12分36秒


――――――チャッ


「!?」
迂闊だった。
話に聞き入ってて身を乗り出していて、ドアが半分ほど開いてしまった。
盗み聞きしていた事が…バレた。
「矢口…さん」
「………」
二人ともこっちを凝視していた。
「あ…ごめ、ん…」
193 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月14日(月)20時13分15秒

「あたし…あの……ゴメンッ…!」
「矢口さん!」
振り切ってその場から逃げるように走った。
これ以上あの場にいる事に耐えられなくなった。
吉澤さんの顔をまともに見られなかった。
そして何より
こんなあたしを見られたくなかった。


それからあたしは自分の病室に逃げ帰り、
また部屋に一人で閉じこもった。
布団を被ってベッドに潜り込んで、一人きりの空間で
あたしは自分が分からなかった。

194 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月14日(月)20時13分47秒



それから数時間。
寝ようと努力しても、なかなか寝付けない。
そろそろ日も落ちて外は綺麗な夕焼けの色に染まった。
ヤケに静かに感じる。
あれから吉澤さんと石川さんはどうしたんだろう。
吉澤さん、あたしの事どう思っただろう。


195 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月14日(月)20時14分22秒




―――――――トントン...


控えめなノック。
ガバッと身を起こして頭の中を一気に整理する。
もしかして吉澤さん…?
理由もなくそう思ってしまうのが、あたしの悪い癖だったりする。
「どうぞ」

ゆっくりと開いたドアの向こうに立っていたのは、
信じられない人だった。
196 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月14日(月)20時15分38秒
少しだけ更新終了。終わる兆しが見えてきたかも。。。

>>189読んでる人@ヤグヲタ様
 やっぱニブ過ぎですかね、やぐたん…。
 いいかげん気付かせますね(w

>>190HALコン。様
 そそそそんな、良いんですかそんなこと言って!
 調子に乗りますよ!?どうしてくれますか!(w
197 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月15日(火)13時37分57秒
あうぅ〜、凄く続きが気になる切り方・・・。
198 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月15日(火)21時27分32秒
「…石川、さん…」
「こんにちは、入っても良いですか?」
「あ、あぁ…どうぞ…」
石川さんはそれを聞くと、静かにドアを閉めた。
「…イス、あるけど…」
ベッドの横にあるパイプ椅子を指差す。
でも石川さんは首を縦に振ってそれを促した。
「おかまいなく、すぐ帰りますから」
「そう…」
顔が引きつる。
意外にも平然とした態度の石川さん。
もっとおとなしめの人かと思ってたんだけど、そうでもなかった。

「あの…さっきはごめんなさい」
「…いいえ、驚きましたけど…今度からはノックしてくださいね」
それに頷きはしなかった。
もうあの部屋に入る事はないと想ったから。
199 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月15日(火)21時28分50秒
「記憶を無くされたって聞きました」
あたしをジッと見つめてそう言った。
「…何?」
「覚えてません?私以前にも一度、矢口さんと会ってたんですよ」
「え…そうなの?」
「やっぱり覚えてないんですね」
なにやら挑発的な石川さんの口調。

「まぁ、ひとみちゃんの事も覚えてないんだから当然でしょうね」
また同じ事を言われた…。
そんな風に言われれば、あたしは何も言い返すことが出来ない。
「私にとっては好都合ですけど」
「え…?」
「矢口さんはひとみちゃんの事、どう思ってるんですか?」
「…!」
「それを聞きに来たんです」

聞きに来たって…あたしが吉澤さんを好きかって?
さっきの事で思い知った。
キスされた時、あたしは…嬉しかった。
吉澤さんと石川さんが抱き合ってた時、悲しかった。
あの腕の中にいるのが自分だったらどんなにいいかって考えた。
あの腕を独り占めしたかった。
200 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月15日(火)21時29分46秒

「私はひとみちゃんが好きです」
そんなあたしの心中を察したかの様に、石川さんは先に口を開いた。
別にあたしは信じられない事はない。
薄々感づいてたから。
面と向かって言われたことは、多少、驚いたけど。
「矢口さんと付き合っていた時、ムカつきました」
「え…?」
あたしと吉澤さんが付き合ってた…?
何言ってるの、この人…。
「奪ってやろうと思ってたのに、無理でした」
「石川さん…?」
「ひとみちゃんの中には、あなたしか居なかったから…」

「…どういう…」
「知らない振りするの止めて下さい。もう大体分かるでしょ?」
石川さんの瞳が伝えようとしている事は分かる。
それは多分、あたしが背を向けていた事。
期待を裏切られ批難される事を恐れていた事。
あたしは満たされちゃいけないのに…。
201 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月15日(火)21時30分24秒
「ひとみちゃん、私にすごく優しくしてくれます」
あたしは少し放心状態になりながらも、なんとか聞き入れた。
「でも…」
「!? 石川さ…」
驚かない筈がない。
石川さんは、急に来ていたシャツを脱ぎ始めた。
隙間から覗く褐色の綺麗な肌。
羨ましいくらいの細身。
「何やって…!」

その時、あたしは見てしまった。
彼女の両の二の腕には、何個もの細い切り傷の痕があったのを。

「それ…」
それを指すと石川さんはグッ、と下唇を噛んであたしを睨んだ。
「ひとみちゃんが優しくしてくれるのはこの傷のせいなんです」
その箇所を抑えてプルプルと震え出した。
窓から入る光が瞳に反射している。
石川さん、泣いてる…。
202 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月15日(火)21時31分05秒

「ひとみちゃん…何度も私に謝ってきました。
 ゴメンね…って、会うたびに何回も…何回も…。
 本当はヤな筈なのに、私が抱きついても抱きしめ返してくれました」
大きな雫が頬を伝った。
「ひとみちゃんのせいじゃないのに…、まるで自分の事みたいに…」


―――――――パシッ


頭痛が始まった。
石川さんの言葉が鼓膜に染みる度、それはどんどん大きく――。

「悔しかったです…そんなにひとみちゃんに想われてるのに…
 なのに自分は何も知らないみたいな顔して…」
「石川さ…」
「私が何したんですか…?好きな人に優しくされてるのに嬉しくない…。
 この傷があるからひとみちゃんは私に優しくしてくれる。
 でもそれは全部…全部あなたの為だから!」


―――――――パシッ


傷…?
あたしの為?
「あなたが私に付けたこの傷のせいだから!」
203 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月15日(火)21時32分18秒


傷つけた…あたしが、石川さんまでも…。

不意に―――――
「ひとみちゃんにも安倍さんにも、あなたにこの事は言っちゃいけないって
 言われてたけど…」
心に黒いシミが出来たような気がした。

「だからってあたしは黙ってられない…」
「やめ…て」
「もう、これ以上…」
黒が、黒が黒が黒が黒が――――

「ひとみちゃんを束縛するの止めて下さいっ!!」

広がった。

204 名前:ココナッツ 投稿日:2002年10月15日(火)21時33分53秒
書けたトコまで更新しました。

>>197読んでる人@ヤグヲタ様
 早めに更新しました(w
205 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月16日(水)16時35分28秒
ドキドキする展開ですね。
もしかしてあの人格が目覚めようとしてる!?
206 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月17日(木)02時28分17秒
我が国において多重人格者による犯罪は刑事責任を問われませんがなにか?
207 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月17日(木)11時21分07秒
>>206
多重人格者でも刑事責任能力が有るか無いかを判断する為、
裁判や精神鑑定にかけられますか何か?
208 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月18日(金)16時56分15秒
あぁ。
心が痛いです
でも、気になってしょうがない・・・
209 名前:HALコン。 投稿日:2002年10月20日(日)03時20分14秒
またまた、たくさん進んでますね!!お疲れさまです。
嬉しいかぎりです!ハッピ〜☆と言うことで、ついに石川さん行動に移ってしまいましたね!
矢口さんどうなっちゃうの!?続きが〜!!
めちゃ楽しみです!!
210 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時00分23秒




「キャアアアアア――――ッ!!」



石川さんの高音が響き渡る。
あたしは朦朧とした意識の中で、かろうじてそれだけを聞き取る事
ができた。
「や…いやぁ……」
石川さんはまるで化け物でも見る様に、あたしを見る。
いや、見ているのはあたしの右手の中にある、この血に染まった
真っ赤なナイフかもしれない。
生暖かいその感触は、どこか懐かしく思わせて、鳥肌が立った。

ボタボタと滴り落ちる赤い液体は、床に着地し広がっていく。
どこかでそれと同じ物を見た気がする。
頭の中でこだまする。
あたしを誘う声が。
211 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時01分02秒

手首の感覚は無く、神経が途切れたみたいに痛みを感じなかった。
変わりに左手首から血が溢れ出るのを感じ取る。
切り裂かれた手首から、どくどくという音と共にそれは失われていく。
視界が歪んではっきり物が見えない。

「一体何の……なっ、何やってるんですか!?」
誰かの声がする。
何やってるかって…?
あたしにも分かんないよ。
「先生を呼んで来て!早く!」
ほっといてよ…うるさいよ…。
「止血をしないと…!」



――――――――――


―――――……



212 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時01分38秒


それから、あたしは呼ばれてきたお医者さんと看護士さんに取り押さ
えられて何かの薬を打たれた。
そしてまたしばらくベッドで安静にさせられた。
石川さんは、気が付いた時にはもうこの部屋から居なくなっていた。
いや、居たのかもしれないけど、あたしが気が付かなかったのかも。
…あぁもうどうでもいいや。

左手首にぐるぐる巻かれた包帯。
今になってものすごく痛かったんだと思う。

あの時…あたしの中にはあたしじゃない人がいた…。


右手に握った果物ナイフ。
あれは本来、石川さんに向けた物の筈だった。
自分でも分かった。
また同じ事の繰り返しになる、って。
だから、あたしは――――――。

213 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時02分08秒


「…矢口さん」

不意に名前を呼ばれてドアの方を見た。
「吉澤さん…」
いつになく、自信の無い顔をした彼女がそこにいた。
「話…聞いたんですけど…」
「………」
「梨華ちゃんが…」
息が切れたように言う。
「手首…大丈夫ですか?」
…どうして…?
「梨華ちゃんも、気が動転してたらしくって…」
…どうしてあなたは…。


「……って」
「え?」
あたしの口から出た言葉は、とてつもなく冷たかった。
214 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時02分40秒


「出てって」

「………!?」
「全部アンタのせいだ」
「矢口…さ…」
「あたしも石川さんもアンタに振り回されてる」
「………」
「…あたしとアンタが2ヶ月間何してたか知らないけど」
こんな事言うつもりじゃなかったのに、なんてのはもう遅い。
「今のあたしにしたら、迷惑なだけなんだよ」
215 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時03分13秒





「もうあたしに構わないで」






涙も流さずにただ悲しそうな顔をして吉澤さんは出て行った。
「………っ…」
目頭が熱い。
言ってしまったのは自分なのに泣いた。
そんな事をしたくせに泣いた自分に
そんな事をした自分に腹が立つ。
違うんだよ本当は。
誰も悪くないんだよ。
なのにどうしてだろうね。
涙が止まんないよ…。
216 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時04分23秒




「………!!」


――――――バンッ

次の瞬間のあたしは部屋を飛び出して走った。
裸足のまま、わき目も振らずに。
「…矢口さん!!」
今出て行ったばかりの吉澤さんともすれ違ったけど、関係なかった。
「矢口さん、どこに…!!」
名前も呼ばれてもあたしは振り返らない。
皆、猛ダッシュで廊下を駆け抜けるあたしに注目してる。
中には何か怒鳴ってきた人もいたけど、
そんなことに気が回らないほどだった。

気付いた時には、もう外に飛び出していた。

217 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時04分56秒


雨は降り続く。
ポツポツと大人しかった雫も、今じゃ大きく声を上げる。
まるで泣き叫ぶように―――――。



人ごみに紛れて傘もささずに、あたしはただ歩いた。
あの病院にはもう居る気がしなくなったから、なんていうのは
表向きの意味で、実際は…逃げただけ。
自分から。
吉澤さんから。

ビチャビチャに濡れた髪や服が体に張り付いて気持ち悪い。
隣を通り過ぎる人も不信がってあたしを見ていく。
当たり前だ。
病院服を着たままでいかにも入院患者です、ってな感じだし。

この先の事なんて考えてない。
どうにかしようなんて思ってない。
遠くにいければいい、ただそれだけで。
ダメだねこんなんじゃ。
ヒトゴロシがふらふら外うろついてちゃ…。
指名手配されちゃうよ。
「フフ…アハハハ……」
でもさ…今のあたしにはこういうのがお似合いかもね。
218 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時05分44秒

ふらふらした足取りで、あたしは誰に案内される訳でもなく道を進む。
足もそろそろ痛くなってきた。
あたし…どこに向かってるんだろう。
分からない。
分からない…けど、知ってる様な気がする。
この道も、この風景も、この雰囲気も…。
どこかで…。




―――――――パシッ

「う…!」
またあの痛みが襲ってきた。
やっぱりあたし、知ってるの?ここの通りを――――。

人がごっちゃになってる駅のホームが見える。
雨なのにも関わらず賑わう人々。
確かここで…。



―――――――パシッ

そう、確か…ここだった。
ここ?
何が?
なんだったっけ…。
ん、と…。


―――――――パシッ

とっても大切な事…。
ここに…えっと…確か。
確かこの先に…。

219 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時06分16秒




「あった…」
薄暗い路地裏。
小さな電灯。
そしてそこには汚いゴミ捨て場。

この場所―――――…。



―――――――パシッ

もうちょっと…。
もうちょっとで、何か…何か思い出せそう…。
…だけど…なんかまだ薬が抜け切ってないのかクラクラして。
目が霞む…足が重い…頭が痛い…。
ダメだ…。


あたしはそのまま、白いゴミ袋の上に倒れこんだ。



220 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月01日(金)18時07分03秒
>>205読んでる人@ヤグヲタ様
 さぁ…それはどうでしょう?

>>206名無しさん様
 えーとその事についてですが、この話の場合矢口の他の人格が引き起こ
 した事件であり矢口の実際の罪には問われません。
 が、この時点では矢口は記憶が戻った事になっており、その為刑事責任
 能力があるかないかの裁判となっております。
 言うなれば207さんのおっしゃったとおりです。
 分かりにくくてすいませんでした。(ぺこり


>>207名無し読者様
 助言ありがとうございます。

>>208名無しさん様
 遅れまして、申し訳ありません…(謝

>>209HALコン。様
 ありがとうございます!はい、ようやく更新いたしました。
 

いや〜、十日ほど更新できないでいました。
また例の如く、パソコン使いすぎです、ハイ。。。
ふがいなくてど〜もすいません。
いきなりですが、次回最終回です。
221 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年11月02日(土)01時48分13秒
次回最終回ですか・・・。
どういう結末になるのか、凄く楽しみです。
終っちゃうのは寂しいけど・・・。
222 名前:HALコン。 投稿日:2002年11月02日(土)05時13分34秒
少しの間、更新がストップされてたので心配してましたが、今日来てみたら更新されてたので安心しました。
ついにクライマックスですか!気持ちが通じ合えることを期待したいです!!
作者様、頑張って下さい!!
223 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月02日(土)13時30分00秒
最終回っ!?
楽しみにしていた小説が終わるのは寂しいですが
放置よりもマシなので、頑張ってください。
224 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)17時46分12秒
矢口が辿り着いたのはあの場所ですね。
吉との記憶が戻るのでしょうか・・
225 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時34分39秒


『真里、矢口真里って言うんだ』

ん…?あたし…?



『…吉澤…ひとみです』

…吉澤さん…?


まどろみの中で、あたしは今までとは明らかに違う夢を見た。
そこにいるのはあたしと吉澤さんだけど、そのあたしはあたしじゃない。
勝手に動いて喋ってる。
なんだろう…?こんな夢見た事なかった。
今までとは何か違う、何か…。

226 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時35分09秒

『夢じゃないよ』

誰かの声がする。
『夢なんかじゃない』
また。
『思いだして』
誰…?一体何を思い出せばいいのさ…。
『大丈夫、できる。真里になら、きっと。だってこの夢は…』
あたしが見ていたその『矢口真里』はあたしに向けて微笑んだ。



『キミが見ていた現実なんだから――――』




227 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時35分49秒
「……ん……ちさん…!」
ペチペチと頬を叩かれて、瞼を開ける。
そこには見慣れた顔が、今にも泣き出しそうな表情をしてる。
「…ぅるさいよ…」
「矢口さん!」
よかった…、と小さく呟いて肩を撫で下ろした。
ふと今の状況を振り返ると、あたしは吉澤さんに抱きかかえられていた。
「こんな所で…寝ないで下さいよぉ」
心配そうな顔も子どもみたい。
「…あんたに言われたくないよ」

「矢口さん…」
何しに来たの、なんて言える立場じゃない。
あれだけ自分勝手なこと言っといて。
「構わないでって言わなかった?」
「…すいません」
「謝んないでくれる?ムカツクから」
「………」
あたしと同じ病院服で、雨に打たれてビチャビチャになったあなた。
「バカだね、ホントバカだよ」
「………」
それでもあなたは何も言わない。
228 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時36分21秒

「なんなのさ…」
「………」
「迷惑だっつってんじゃん…」
「………」
「…今のあたしにはなんも分かんないんだって…!」
「………」
「あんたの事何にも分かんないんだって!」
涙が雨と混じって頬を流れる。
それはとても冷たく感じた。
229 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時37分59秒
しばらく黙って俯いていると、ふわっと暖かい感触に包まれて
目の前が真っ暗になった。
前にも感じたその匂い、体温。
「…触んないでよ」
なんて口では言いながら抵抗らしき事もしない。
本当はずっと触れたかった、ずっとこうされたかった。
意地っ張りなあたしはそれを全部拒否してた。
「触んないで、って…ば…!」
ぼろぼろと零れ落ちる涙。
その広い背中に腕を回して抱きついた。
力を入れると、自身で傷つけた手首が痛んだけど、
それでも力は緩めなかった。
ゴメンね…こんなになってもまだ強がってる。

それから彼女は重苦しく口を開く。
「あたし、バカでした」
「…んなの…知ってる…」
「…矢口さんや梨華ちゃんの事、一番先に考えてるつもりが自分の事
 しか考えてなかったんですね」
「………」
「いつも二人の間をフラフラして…口ではハッキリした様な事言って
 たけど、結局はどっちつかずな態度取って…」
あたしの背中に回された腕の力が少し強くなった気がした。
「梨華ちゃんにも…悪い事、してた…」
「……」
「ゴメンなさい…ゴメン、なさ…!」
230 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時38分33秒
あたしよりも大きい筈の彼女が今だけは小さく見えた。
肩を小さく震わせながらなおも彼女は言い続けた。
「でもっ…あた…あたしはぁ…!」
再び蘇るあのこめかみに走る痛み。
何故かそれは今では心地良くさえ感じる。
それが意味する物は…。
「あたしは…っと…ずっと…」
「うん…」

――――――――パシッ




「ずっと…矢口さんのっ、…とが……」
「ぅん…」

――――――――パシッ




「…ぃ…き、…っから…」
「………」

――――――――パシ…




「大好きだから……!」





――――――――


――――……



雨はもう止んでいた。



231 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時39分03秒
「ゴメンなさい、梨華ちゃんを…許してあげてください」
「バカ」
「えっ…」
緩んだ腕から少し離れて顔を見上げる。
「お人よしバカ」
「…別に今に始まった事じゃ…」
「相変わらずバカ…」
小さく呟いたその言葉が、あなたには聞こえた様で。
「全然分かって無いじゃん…」
「え…?」

「あの時…バイトの帰り」
「………」
「あの人…石川さんの所、行かせたくなかった」
「…矢口…さ」
「一緒に帰って、一緒にゴハン食べたかった」
「……!」
あなたの顔はいつもよりもちょっとマヌケ。
ポカンと開けたその口、どーにかしてよ。
あたしの気持ち話してんだからさぁ。

「あたしがイヤだと思うって事、分かってた筈なのにさ…」
それでもまたあなたは拍子抜けした顔をしたまま。
「誰にでも優しいんだから…」
でもあたしからは視線を逸らさずに。
232 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時39分44秒

「思い出したよ…」
ふっ、と微笑んでまたあなたの顔を見つめる。
これを言ったら、あなたはどんな顔を見せるだろうって、
そんな気持ちになりながらニヤケタ顔がとまらない。

ゴミ袋の上で気持ちよさそうにグーグー寝てたあなた。
今でもまだ思い出せるあの寝顔。
今と同じでちょっとマヌケだったけど、とってもかわいかった。
そこは灯りも少なくてほとんど真っ暗だったのに、
その中であなたを見つけた。
そう、例えば今みたいな感じ。

あたしの大事な人。
あたしの宝物。
あなたもそれと同じ事を思ってるって、考えてもいい?
あたしを見つけ出してくれた…あなた。

だから言ってもいいよね?
あなたが待っててくれた、あたしが言いたかったこの一言。
233 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時40分15秒



「よっすぃ〜大好きだよ」



そう言ってから瞳を閉じて、懐かしいその唇に口付けた。

楽しかったあなたとの記憶。
ようやく手に入れた。
やっとあなたに触れられた。
「大好き、だよ…」
「矢口さ…!」




234 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時40分57秒




「いたぞ!!」

「!?」

血相を変えた幾人もの警察が、あたしを睨みつけ走り寄る。
やっぱりまずかった。
あたしが勝手に外に出るのは…。

これ以上は無理。
あなたまで巻き込むわけにはいかないんだ。

「ごめんね…」
「…矢口さん」
するりとその暖かい腕の中から抜け、体を離す。
「もうダメだよ…」
その頬を撫で上げて呟いた。
「ヤです…もう、イヤなんです…」
手に温かな雫が落ちる。

「もう一人になるのはイヤなんです…!」
顔をくしゃくしゃにして泣き喚くあなた。
バカ、矢口だってそうだよ。
もう離れたくなんかないよ。
ずっと一緒に居たいよ。
235 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時41分43秒

「来い!!」
腕を思いっきり鷲掴みされ、向こうに停められたパトカーへと誘導
された。

「…ったぁ、…もうちょっと優しくしてよね」
女の子なんだから。
「ふざけるな!」
二人の警察官があたしを挟むようにして車まで連れて行く。
あ、やば、服濡れまくりだ。
「ねぇ、服濡れてんだけど」
「知るか!さっさと乗れ!」
あんたらの心配してんのに…。
いいけどね。

「矢口さんっ!」
その声に立ち止まり、振り返る。
「あたし…、あたし…!」
「よっすぃー」
236 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時42分31秒

待たせちゃってゴメンね。
でもまた待たせる事になる。
それを終えるのがいつになるかも分からない。
それでもこれだけは言える。
自信持って、胸を張って。



あたしはあなたを…吉澤ひとみだけを愛してる。



「あたしはどうなるか分かんない。
 またよっすぃーに辛い思いばっかりさせちゃう。
 だから…矢口の事はもう忘れてもいい」
「矢口さ…」
「でもね…矢口は忘れないから…絶対、もう二度と…」

今となっては<マリ>と<ヤグチ>に感謝したい。
その事に気付かせてくれたのは、多分あたしの中のこの二人。
もう現れないと思う、今度こそ…。
二人はあたしの中に溶け込んでいる。
消えた訳じゃない。
あたしの中で一緒に、居る。
237 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時44分46秒
「あたしだって…忘れませんよぉっ!!」
「よっすぃー…」
「待ってますから…ずっと、待ってますから…だから…!」
あなたの後ろに輝く星。
とってもキレイ…。
また一緒に見れたらいいね。




「…ありがと…」




星はいつだってその光を失わない。
時には太陽の光に負け、地上の雲やスモッグに負け、
その姿は覆い隠される。

でも
その後ろで、いつでもいつまでも輝き続ける。
その命果てるまで。
あなたに光を届ける為。




             ―――――END
238 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時45分45秒

>>221読んでる人@ヤグヲタ様
 ありがとうございます。ようやっと終わる事が出来ました。
 どうでしょうか?お気に召していただけたでしょうか?(ドキドキ

>>222HALコン。様
 どうもその事では大変ご心配かけたようで…。
 でもやっと終わりました。今までありがとうございました。

>>223名無しさん様
 やはりご心配をかけたようで…。(気のせい?(w)
 長かったです…ここまで。ありがとうございました。

>>224名無し読者様
 こうなりました。なんだかハッピーエンドなのかよく分からない
 またしても中途ハンパな終わり方ですが…。ありがとうございました。
239 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月03日(日)03時46分20秒
……………………終わった。
ハッピーなのだろうか…自分でもよく分かりませんが、こんな感じで。
なんだか矢口と裕ちゃんとの生活も書かなかったし、
梨華ちゃんは、なんか悪役っぽいまま終わったし…。
読者様が消化しきれない部分もたくさんあると思います。
とりあえずこの話はこれで完結とさせていただきます。
いままでありがとうございました。(ぺこり
240 名前:ミニマム 投稿日:2002年11月03日(日)04時06分05秒
お疲れ様です。よかった!よかった!
完結してヨカッタ。内容がよかった。リアルタイムで良かった。
梨華ちゃんには申し訳無いのですが
え〜〜〜話しやね。
始まりも終わりもアノ日と同じ『アノ場所』なんですね。
正しく「生存者発見」って感じです。
矢口さんのリストカットしはビックリしました。
もしや走り出して…になったらまで空想・妄想しちゃいました。ホ
さて、もう一度
Stellar memory から読みなおしてきます。
番外編は有るのでしょうか?有って欲しいなぁ〜
241 名前:HALコン。 投稿日:2002年11月03日(日)07時11分56秒
お疲れさまでした!
最終回、感動しました!!最後は心が通い合って良かったです!
これからも作者様のよしやぐ作品を期待してますので、気が向きましたらその時は是非ヨロシクお願いします!
いしよしも頑張って下さい〜!!
242 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月03日(日)11時23分31秒
お疲れ様でした!
ラスト、よかったです。
番外編とか続編とかあったら嬉しいです。

やぐちの記憶が最後には戻ってよかったです。
243 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年11月03日(日)17時33分31秒
脱稿お疲れ様でした。
最後に矢口の記憶が戻って良かったです。
それに記憶を取り戻した場所が2人の出合った場所ってのが良かった。

矢口は身柄を拘束されてしまったけど、
しっかりとお互いの気持ちが通じ合ったので、
ハッピーエンドと言えるのではないでしょうか?
では、次回作があることを願い、期待して待ってます。
244 名前:ココナッツ 投稿日:2002年11月17日(日)22時10分17秒
>>240ミニマム様
 ありがとうございます〜!ようやっと終われてホッとしました。
 最後まで読んでくださってありがとうございました!
 番外ですか?…どうしようかなぁ(w

>>241HALコン。様
 ありがとうございます!感動でしたか!そうですか!(w
 いや〜うれしいです。よしやぐ、また書いてみようと思います。
 いしよし…の方は更新が出来ない状況に…。真にどうも…。(汗

>>242名無しさん様
 ありがとうございます!ラストどうしようか迷ったんですけど…。
 記憶が戻らないでそのまま…ってのもあったし、でもこれにして良かった
 と思います。

>>243読んでる人@ヤグヲタ様
 ハッピーでいいですかね?よかったです!まぁやぐっつぁんが戻るのは
 いつになる事やら…。やっぱ自分はやぐよしが合ってる事に気付いた今日
 この頃です。ありがとうございました!

Converted by dat2html.pl 1.0