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月明かりの下で
- 1 名前:旅人 投稿日:2002年08月26日(月)18時49分01秒
- ===================
恋なんていらない。
愛なんていらない。
だって、そんなのはただのまやかしに過ぎない。
全ては錯覚が、全ては勘違いが引き起こす感情。
そして、いつかは失うものだとわかりきっていて。
どうして誰かを好きにならなければならない?
…そんなのはきっと、言い訳の1つに過ぎないのかもしれない。
怖いだけなのかもしれない。
ううん、怖いんだ。実際に怖いんだ。
自分が自分じゃなくなる感覚が、きっと怖いんだ。
そのくせして、きっと求めてる。
私を狂わせて、と。
====================
- 2 名前:旅人 投稿日:2002年08月26日(月)18時51分51秒
- 「ひとみちゃん?」
ふと甘い声がした。慌てて体を椅子から起こす。
「一人で3つも机占領しないでよぅ」
「あはは、ごめんごめん。」
ウチは笑って体を起こすと机を元通りにした。
ガタガタ、と机が床を擦る音が、夕暮れの教室に響く。
「大丈夫?」
顔を見ると梨華ちゃんはちょっと不安そうな顔をしている。
なんでそんな顔をされるのかわからない。
ただ横になっていただけでそんなに心配するかなあ?
「怖い顔してたよ?…それでもって、悲しそうな目してた…」
そういう梨華ちゃんの方が悲しそうな顔になっている。
「えー?見間違いじゃない?
あー、もしかしたらちょっと緊張しているのかも。
明日試合だしね。」
「練習試合でも緊張するんだ?」
「そりゃあやっぱり多少はするでしょお。
梨華ちゃん、うちのことなんだと思ってるのぉ」
梨華ちゃんは笑うと
「帰ろう?」とうちの手を引っ張ってきた。
- 3 名前:旅人 投稿日:2002年08月26日(月)18時52分46秒
- 時計を見ればもう6時半。
部活が終わるのが6時過ぎで、教室に戻ったのが6時20分頃。
ほんの10分だけか。
ふと外を見ると空は既に紫色から紺色に色を変えようとしていた。
梨華ちゃんは手をつないだままウチの鞄を持つと
廊下に出ようとした。
「ちょっとちょっと。鞄、鞄。ちゃんと自分で持つから。」
そんなことを言いながら二人で玄関に向かう。
6時半ともなると、さすがに人も殆どいなくなる。
二人の足跡が良く響いた。
さすがに10月ともなると廊下の空気はひんやりし始める。
部活でかいた汗もすっかり引いて、体も少し冷えている。
そんな中、梨華ちゃんにつながられた手だけが
やけに熱を帯びているのは、きっと気のせい。
- 4 名前:旅人 投稿日:2002年08月26日(月)18時53分58秒
- 今日はここで。
つたない文章&硬いというか、淡々と進むと思いますが、
よろしくお願いします。
…恥ずかしいので、sageで頼んます。(汗
- 5 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年08月26日(月)21時04分30秒
- いしよし・・・ですか?続きが気になります・・・
すんごい期待してます!
更新楽しみに待ってます。
- 6 名前:旅人 投稿日:2002年08月27日(火)09時32分05秒
- ====================
恋なんていらない。
愛なんていらない。
周りが「彼氏欲しい」「彼女が欲しい」
そういうたび、うんざりしていた。
「吉澤には好きな人、いないの?」
「あの人、お勧めだよー。付き合ってみれば?」
余計な、お世話。
勿論、そんなことはおくびにも出さずに、
笑顔で適当に相槌を打つ。
なんでみんな恋したがるのか、わからない。
いや、恋をする、好きになる。
それはいい。
好きになって、その人と付き合いたい、そういうのはいい。
わからないのは、「恋人が欲しい」とうい人たち。
彼氏、彼女と言う肩書きが欲しいだけなのだろう。
なんでそんなにダレカと付き合いたがるのだろう?
=====================
- 7 名前:旅人 投稿日:2002年08月27日(火)09時32分48秒
- いつもと同じ朝。
いつも通りに6時半に起きて、7時に家をでる。
学校には30分前の8時に着いてしまうけど、
教室が騒然としてくるまでの20分間が好きだから。
クラスメイトのごっちんには
「20分あるなら私はその分寝ているけどねえ…」なんて
言われているけれど、ウチとしては
時間に追われたくないだけなんだよね。
いつものように、窓際にある自分の席に腰を下ろすと
窓を開けて遠くを眺めた。
秋風が心地よい。残暑が厳しい日もあるけれど、
それでもだいぶ涼しくなってきた。
- 8 名前:旅人 投稿日:2002年08月27日(火)09時33分41秒
- ドアを開ける音がする。
自分の腕時計に目をやるとまだ8時5分。
こんな時簡に誰かが来るわけが、ないのに。
自分の世界を壊されたような感じがして、
それでもちょっととぼけた感じで
「おはよー」と言いながら振り向いた。
同じクラスの男子、というより隣の席のヤツだった。
そいつは隣の机に鞄を置くと机に腰掛ける。
「早いね。どうしたの?」
「んー。いや、ちょっとな。吉澤と話したいことあってさ。」
- 9 名前:旅人 投稿日:2002年08月27日(火)09時34分38秒
- 「何?」
「吉澤さぁ、石川先輩と仲いいよな?」
「まぁね」
…恋の相談だな、これ。仲を取り持ってくれってやつだろ。
そいつが二言目に言ったことは予想通りだった。
「俺さ、石川先輩が好きなんだ。
でさ、石川先輩さ、今はフリーなんだよな?
でも好きな人がいるかどうか、とか誰なのかは知っているか?」
「いや、そこまでは…。」
「なんで?仲いいのに?」
「や、仲はいいけどさ。でも恋の話はあまりしないなあ。
好きな人がいるのかどうかさえも知らないよ」
「聞いてみてくれないか?頼むよ!」
「自分で言えよー」
「いやいや、告白は自分でするさ。でもその前にさ、ねっ」
- 10 名前:旅人 投稿日:2002年08月27日(火)09時35分13秒
- いつも思うんだけどさ。
付き合っている人がいるかどうか、聞いてくれ。
これはわかる。いたなら諦めよう。そういう感じだから。
中には略奪をたくらむ人もいるけれど、大抵は諦める。
でも、好きな人がいるかどうか。
どっちみち告白するつもりならさ、別に前もってリサーチする必要は
ないんじゃないのかなあ?
- 11 名前:旅人 投稿日:2002年08月27日(火)09時35分54秒
多分。
相手によって決めているんだ。告白するかどうかを。
自分より劣っていると思ったら、告白。
自分より優れているやつだと思ったら諦める。
そんな感じ。
なんだかね。
- 12 名前:旅人 投稿日:2002年08月27日(火)09時37分54秒
- 今日はここまでっす。
>ヒトシズクさん
レスが早速付いてる!嬉しかったです。(0^〜^0)
いしよしです、はい。でも…甘くは無いかも。うぅ。
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月27日(火)18時57分23秒
- シニカルな吉澤は珍しいので期待
- 14 名前:旅人 投稿日:2002年08月28日(水)09時02分34秒
- 人が増えてきた。
姦しくなってくる。
朝の話題、昼の話題。
やっぱり高校生の話題ってのはどこも似たり寄りけり。
自分の恋の話。のろけ話。噂話。
芸能界の話。
部活の話。
生徒会などの話。
色々な話題が耳に飛び込んでくる。
でも、多勢で群れるタイプじゃないウチは
相変わらず窓から外を眺めていた。
ふと門を見るとごっちんが駆け足で入ってきたのが見えた。
ごっちんもこっちに気づいたらしく、
あはーと笑いながら手を振ってくる。
チャイムの音が聞こえた。
…遅刻だな、こりゃ。
- 15 名前:旅人 投稿日:2002年08月28日(水)09時03分32秒
- 「後藤!おまえいつもぎりぎりだな!」
「先生よりは先に教室に入ったから遅刻にはならないですよねー?」
駆け足の音とともに二人が駆け込んできた。
ウチのクラスのルールとしては、チャイムがなったあとも
一応担任の先生より先に教室に入ればセーフ。
「あのなぁ、後藤…確かにルールはルールやからセーフやけど。
頼むからもっと余裕もって来いや?」
「布団が私を放してくれないんですぅ」
「いいからさっさと座り。」
「あは、間に合った」
ごっちんはそういいながらうちの前の席に座った。
「センセとの競争楽しんでるだけじゃ?」
「やー。中澤先生だからできることだねえ」
前を見ると中澤先生はちらちらこっちを見て
苦笑いしながら出席を取っている。
なんだかんだいって先生もごっちんとの競争を楽しんでたりして。
- 16 名前:旅人 投稿日:2002年08月28日(水)09時05分16秒
- 昼休みを告げるチャイムが鳴った。
再び教室は騒然とし始める。
うちの机に椅子を向けたごっちんと、お弁当を広げた。
「そーいえばさ、山崎にさ、恋の相談かな、されちゃったよ」
「山崎…あぁ。」
ごっちんはちらっと隣に目をやった。
山崎は購買部にでも行ったのだろう、そこは空席となっていた。
「で?誰との仲を取り持って欲しいって?」
「梨華ちゃん」
「あは。梨華ちゃん先輩かぁ。で、どうするの?」
「いいよって返事してないんだけどさ。なんか押し切られた。」
- 17 名前:旅人 投稿日:2002年08月28日(水)09時07分33秒
- 「あ、ね、吉澤に後藤。二人ともさ、好きな人とかいないの?」
「「ん?」」
声をした方に目をやるとクラスメイトの3人グループがいた。
恋バナと噂話が三度の飯よりも好き、な感じの人たち。
「いや、ウチは別に…」
「んー。私も」
「えー。じゃあさ、どういう人がタイプ?」
その問いには、ウチもごっちんも芸能人の名前をあげてかわす。
「いやいや、そうじゃなくってさ。たとえばうちのクラスの人たちとか」
「いないよ、特に」
「えーなんでー?恋しようよー」
「面倒くさい…。いーじゃん、別に?」
「初恋いつ?今までの恋の話聞かせてよ」
「そういえば吉澤と後藤の恋の話って聞いたことないよね。
さぁ、今すぐ吐けっ」
「おえぇ」
「よーしーざーわー」
- 18 名前:旅人 投稿日:2002年08月28日(水)09時08分28秒
- 結局話をさせられた。話さないとどこにも行けない雰囲気だったから。
ごっちんも疲れた顔をしている。
ごっちんも普段はそんなに恋の話で盛り上がるタイプじゃないから
ウチと気があったのかなあ?ま、それだけじゃないけどね。
- 19 名前:旅人 投稿日:2002年08月28日(水)09時10分05秒
- 帰宅部のごっちんと別れを告げた後、ウチは体育館に向かった。
「おい、吉澤」
体育館に向かう階段のところに山崎がいた。
こいつはバスケ部だから必然的に同じ方向に向かうことになる。
「石川先輩にさ、聞いてくれた?」
「いや、まだ。帰りに会うからさ。
でもさ、自分で聞きなよ、そういうの」
「いや、頼むよ。それが出来ないから吉澤に頼んでんだって」
もう何もいう気もしなくて、そのまま体育館に向かう。
その日の部活は他校との合同練習&試合だった。
先輩達が抜けた、新しいチーム内ではやっぱり連携とかが
ぎこちなかったけれど、それは向こうも同じ。
最後にはウチのスパイクで試合を決めて、終了。
- 20 名前:旅人 投稿日:2002年08月28日(水)09時11分11秒
- …梨華ちゃんがウチの教室に来る時間が迫ってきている。
梨華ちゃんはテニス部を夏に引退した後は、
放課後は大学受験のために図書室で勉強しているらしい。
ウチの部活の終わる時間に合わせて、教室に来てくれる。
図書室が4階でウチの教室が3階だから、なんだけど。
そういえばどうして梨華ちゃんと一緒に帰るようになったんだっけ?
…思い出せない。きっかけが。
なんで、だっけ?
- 21 名前:旅人 投稿日:2002年08月28日(水)09時13分50秒
- 今日の更新終了。
>名無し読者さん
最近あまり無い吉澤をちょっとだけ意識して狙ってみますた。
- 22 名前:旅人 投稿日:2002年08月29日(木)08時49分41秒
- 「おまたせ」
その声に思考は遮られた。
「あーうん、今日も勉強お疲れ。」
「ひとみちゃんも試合お疲れ様ー。
ちょっとだけ見てたよ」
「あー見に来てくれていたんだ?どうだった?
ウチかっこいいでしょ?」
「うん、格好良かったよ!」
あまりにもストレートに言われすぎて逆に動揺してしまう。
忘れてた。梨華ちゃんってストレートに言う人だった。
「か、帰ろうよ」
自分の顔が赤くなっていることを悟られないように
顔を背けて言った。
- 23 名前:旅人 投稿日:2002年08月29日(木)08時51分09秒
- 門を抜けて、ぶらぶら歩いている。
「ね、梨華ちゃんってさ、好きな人いるの?」
「な、なに、急に。ひとみちゃんがそういうに聞くの珍しいね?」
「んーちょっとね」
…あれ?なんか顔がこわばってる?なんで?
「いや、あのさウチのクラスの山崎って知ってる?」
「山崎君…?名前だけは知ってる。」
「そっか。」
「その人がどうしたの?」
「山崎に頼まれたの。梨華ちゃんの好きな人知りたいって」
「好きな人はいる、とだけ言っておいて?
誰なのかは、ひとみちゃんにでも言えない。」
「ん、わかった。でもそれだけであいつが満足してくれるかなあ。
誰なのかも聞いてくれってたぶんしつこく言われる」
「言う気は、ないよ?」
「そっか。」
胸の中に芽生えたちょっとした胸騒ぎ。
その胸騒ぎから目をそらすと、今日の練習試合の様子を
梨華ちゃんに話した。
すごい、とかよかったね、とかいちいち喜んでくれる。
だからウチもついつい調子に乗って、饒舌になってしまう。
…そういえば、ウチが饒舌になるのってごっちんを除いたら、
梨華ちゃんにだけ、なんだよね。
聞き上手だよなあ、本当に。
- 24 名前:旅人 投稿日:2002年08月29日(木)08時53分31秒
今日の更新終了。短っ!
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月29日(木)14時06分19秒
- さて、意中のひとは誰かなぁ
- 26 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月30日(金)09時34分33秒
翌日、やっぱり昨日と同じように早く来た山崎と
教室内では二人っきり。
誰かに見られたら噂でも立てられそうだなあ。
そう思いながら口を開く。
「好きな人は、いるみたい。でも誰なのかは教えてもらえなかった」
「本当か?吉澤にでも言わないの?」
「うん。誰なのかは絶対に言わないって」
「そこを何とか…」
「無理だと思うよ。あぁ見えて、梨華ちゃん結構頑固だから。」
「そっか…。」
- 27 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月30日(金)09時35分32秒
昼休み。
「あはー。大変だねえ。」
「ごっちん…。」
「でも梨華ちゃん先輩の好きな人って誰だろ?」
「さぁ・・?」
「興味ないの?」
「別に。梨華ちゃんが誰を好きになろうとウチには関係ないし。
恋愛沙汰に首を突っ込む気はないよ」
「よすこはクールだねえ。あたしは興味あるけどな。
他の人のはどーでもいいけど、仲のいい人のには
やっぱり少なからず興味を持つじゃん。」
「んー」
「あたしにだって好きな人いるよ」
「へ?誰?」
「あ、よかった。少なくとも冷徹ではない。うん」
「……」
「いないよ。あはっ」
- 28 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月30日(金)09時37分06秒
放課後。
いつものように部活を終え、部室で着替え終わった後
いったん教室に戻った。
梨華ちゃんがくるまでの間の教室。
人気がなくなってひんやりした空気が
部活動で火照った体を冷やしてくれる。
「ごめん、おまたせー」
いつもと同じ帰り道。
のはずが、突然梨華ちゃんに、ちょっと別のところ歩かない?と誘われた。
土手沿いを歩きたい、と。
駅までの道は土手伝いに歩いていっても行ける。
でもそこはカップル以外の人はあまり通らない。
第一、暗いし…。
でも梨華ちゃんはウチの手をつかむと、土手の方に引っ張っていった。
- 29 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月30日(金)09時38分01秒
土手についても、駅の方にずっと歩いていっても、
先ほどつかまれた手はずっとつながれたまま。
むしろ、さっきは「引っ張るためにつかんだ」だけの感じが
今は「きちんと」つながられている。
でも女の子同士で手をつないだりするのってよくあるし、
ウチは背も高いし、ちょっとボーイッシュなせいか、
しょっちゅう女の子に手をつながられたり
腕を組まれたりしているから、ある意味慣れている。
梨華ちゃんもそんなもんだろう。
- 30 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月30日(金)09時38分33秒
しかし、梨華ちゃんの手って案外小さいんだ…。
ウチの手が大きいだけ、というのもあるのかもしれないけれど、
でもやっぱり小さい。ちいさくて、やわらかい。
大きくて、ちょっと厚みのある、肉質っぽいウチの手と違う。
なんかやけに梨華ちゃんの手の感触を感じながら、
いつものように他愛ない話をして帰った。
…いつもと同じ、だったはずなんだ。
- 31 名前:旅人 投稿日:2002年08月30日(金)09時40分43秒
- 今日の更新終了。
>名無し読者さん
誰なんでしょうねえ?(笑)
- 32 名前:旅人 投稿日:2002年08月30日(金)09時42分56秒
- 訂正。
>30のところ、
肉質→筋肉質
肉質って何…
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月30日(金)16時00分33秒
- 含みのある終わり方…
気になる(w
- 34 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月31日(土)09時05分07秒
- 次の日。
朝からなんだか周りの様子がおかしいと思っていた。
ごっちん以外誰も話し掛けてこない。
いや、それはある意味いつものこととも言えるけれど、
でも教室を支配する雰囲気が、
ウチに向けられる視線が、何かいつもと違う。
「ね、ごっちん。なんかおかしくない?」
「んぁ?何が?そう?珍しいね、よすこがそういうの気にするなんて」
「ん〜。なんか感じ悪くて…」
そうかな、とごっちんは興味なさそうに、
でも遠くを見てつぶやいた。
- 35 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月31日(土)09時06分17秒
「ソレ」はトイレの個室に入っている時に耳に入ってきた。
トイレってある意味噂の情報源。
どうやら、山崎が梨華ちゃんに告白したらしい、ということ。
それは昨日の夕方だということ。
ふられたらしいという事。
梨華ちゃんそんなこと昨日一言も言ってなかった。
ひとみちゃんは後輩なのに、なんでか何でも話せちゃうんだよね。
そう言っていたくせに。
わかってる。醜い嫉妬だって。
別に梨華ちゃんにだって言いたくないことだってあるだろうし。
同学年の友達だっているし。柴田先輩とか。
- 36 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月31日(土)09時07分20秒
- そんなことを考えながら用をたすと、水を流そうと
レバーに足をかけたとき。
「石川さんの好きな人って、誰だか知ってる?」
「なんかね、山崎君、無理矢理聞いたらしいのね。
そしたらね…」
「誰誰?もー、もったいぶってないで教えてよ!」
「吉澤さん、だって。ほら、バレー部の。」
「えー?女の子でしょ?同性でしょ?」
「うん。でね、多分付き合ってるんじゃないかって」
「いつもあの二人一緒に帰ってるじゃない?
でね、昨日は土手で手をつないでたのを見た人いるんだって」
- 37 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月31日(土)09時07分51秒
- レバーを踏めなかった。
梨華ちゃんの好きな人が吉澤さん?
バレー部の?
…ウチ以外、吉澤って人、バレー部にいない。男子部にも。
いや、さっき同性だといってた。
昨日の帰り道のことも言ってた。
どういうこと?
石川さんは、梨華ちゃんのことで。
石川さんはバレー部の吉澤さんが好きで。
その吉澤さんというのは…
- 38 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月31日(土)09時09分49秒
授業開始を告げるチャイムの音で我にかえった。
慌ててレバーを踏むと、手を洗って教室に駆け込む。
先生はまだ来ていないみたいだ。
前の席のごっちんに声をかける。
「昼休みさ、今日は屋上に行かない?」
「いいよー。天気いいもんね」
昼休み。
さっきトイレで聞いたことを話そうと思ったのに。
全然違うことばかりが口を次いで出る。
違う。
でも、何をどう話せばいい?
ただの噂かもしれないじゃない。
でも。
今日午前中にずっと感じた、周りの視線。
軽蔑と、恐怖心と、好奇心。
それらが入り乱れた視線だった。
気のせい、だと思いたい。
でも思えない。
−−−−−−−−−どうして?
ふと見ると、ごっちんは何か言いたそうにこっちを見ていた。
でも何も言わずに、ウチの調子に合わせてくれている。
きっと、気づいているんだろう。ウチがおかしいってことに。
でもあえて言わない。
それがごっちんの優しさだ。
多分、話せばきちんと聞いてくれるだろう。
「さて、そろそろ教室に戻ろうか。」
「うん。」
「…ねぇ、よしこ」
「うん?」
「いつでも、聞くからね?」
「…ありがと」
- 39 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月31日(土)09時11分35秒
放課後。
梨華ちゃんは今日はいない。
携帯電話に、「先に帰るね」とメールが入っていたから。
そのメールを読んだ時ほっとした。
あんな噂を耳にした後だから。
きっといつもと違う態度をとってしまうだろうから。
一人でぶらぶら帰り道を辿りながら、今日一日のことを回想してみる。
気のせいなんかじゃなく、明らかに周りの目がおかしかった。
いつもなら「よしざわぁ!」「よっすぃー!」って
じゃれ付いてくる人たちも、今日に限って
一回もウチに触れてこなかった。
ただ、今はそれはウチのクラスに限っての話で、
部活ではいつも通りだった。
多分、「噂」はまだウチのクラスだけに留まっているんだろう。
・・・でも、なんで?
- 40 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月31日(土)09時12分30秒
その日の夜、風呂上りで髪も乾かし終えたウチは
ベッドの上で横になった。
携帯電話の、メール着信を知らせるランプが点滅しているのが目に入った。
梨華ちゃんからだった。
「ごめんなさい」
この一言だけ。
意味がわからない。
何を謝っているの?
この時、警報が頭の中で鳴り響いていたんだ。
電話しちゃ、いけないって。
そのままにしておけって。
でもウチは無視した。警報を。
- 41 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年08月31日(土)09時15分11秒
- 本日ここまでっす。
明日は更新休み、でございます。
>名無し読者さん
含みのある終わり方、というのを心がけています。(違
読んでくださってて、本当にありがとうございます!
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月01日(日)00時23分11秒
- おはつでございます。
作者さんの含みのある終わり方にまいってしまいました。
次の交信が待ちどおしいでふ。
- 43 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月02日(月)12時01分37秒
梨華ちゃんは、ウチを「そういう意味で」ずっと好きで。
山崎に告白されて。
断って。
でもしつこく、誰のことが好きなのかを聞かれて。
腕をつかまれていたから逃げられなくて。
「ひとみちゃん。」
そう答えたということ。
呆然としたような顔の山崎を置いて、駆け足で図書室に逃げたということ。
それは、土手を歩こう、と言われた、その日のことだった。
- 44 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月02日(月)12時02分08秒
最後に、
「好きになってごめんね。
別に、付き合ってとかそんなんじゃないから。
だから、私のこと嫌わないで。」
そこで、電話は終わった。
いかにも用意していたような話し方だった。
台詞を書いた紙でも読みながら言ったのかと思うぐらい。
ただひとつ、涙声だったことを除けば。
- 45 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月02日(月)12時02分47秒
ウチは冷静だった。
普通、同性から告白されたらどうなるんだろう?
同性愛者とかそういうんじゃない限り、混乱するだろう。
でもウチはパニックを起こさなかった。
きっと、どこかで気づいていたんだ。
梨華ちゃんに、恋愛感情を抱かれているということに。
でもそれをはっきり聞くのが怖くて、
梨華ちゃんの好きな人には興味のないフリをしていた。
ごっちんだから、
ごっちんは別にウチに対してそういう感情を抱いてないと
わかっていたから、「誰?」って聞けただけ。
- 46 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月02日(月)12時03分31秒
梨華ちゃんはテニス部。
学年はひとつ上。
別に幼馴染でもなんでもない。
なのに、なんで仲良くなったんだろう?
ウチはベッドから体を起こすと日記を引っ張り出した。
梨華ちゃんを知ったのは、高校に入ってからだから、
去年の入学後の日記から読み返してみる。
そうだ。
思い出した。
ドラマの世界にありがちな話。
でもそれが現実にあったということ。
- 47 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月02日(月)12時04分09秒
うちが一年で梨華ちゃんが二年の時だ。
そう、去年の、入梅を知らせる、ある雨の日。
テニス部は雨の時は、たまにだけど体育館の端を借りて
トレーニングをする時がある。
勿論、体育館を使っているバレー部やバスケ部の邪魔にならないように。
そんな時、ウチの打ち損ねた、そのくせ力だけは乗ったスパイクが、
テニス部の女子を直撃したんだ。
「あぶない!」
誰かが叫んだ声で振りむいたその子の顔を直撃。
スピードだけはあった、重い球だったために、
その子は鼻血を出して倒れてしまった。
ウチも気が動転して、慌ててその子を抱きかかえて保健室に運んだ。
……それが、梨華ちゃんだった。
- 48 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月02日(月)12時04分53秒
なんどもなんども謝るウチに、
まだ涙目の顔で、大丈夫だよって笑っていった彼女。
女の子らしくて、綺麗な笑顔。
「鼻骨、折れてない、っすよね・・・?」
「ん、大丈夫みたい。もう痛くないから。」
よかった。その綺麗な顔を傷モノにしなくて。
「今日は、送らせてください。」
ふふっと彼女はウチの言ったことを
面白そうに笑うと、
「喜んで送ってもらおうかしら、吉澤さん。」
「あれ、ウチの名前知っているんですか?」
「バレー部のホープ、吉澤ひとみ。有名だよ?」
知らなかった。確かに中学の時も名を鳴らしていたから
まぁ当然、なのかな?
でもテニス部にも知れ渡っているんだ…。
「ね、私の名前は知っている?」
「え??
あ…え、えーと、あ、石川、先輩?」
「…ジャージの刺繍を読んだだけでしょう。」
「す、すみません」
「いいよぉ、別に。
梨華よ。2年A組、石川梨華。よろしくね」
「あ、はい!1年A組、吉澤ひとみです。よろしくお願いします。」
- 49 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月02日(月)12時05分35秒
それが、きっかけだったんだ。
その日は一緒に帰った。
梨華ちゃんは電車通学。
ウチは駅の向こう側。徒歩通学。(といっても30分は歩くけど)
駅まで送った。
その後も、部活が終わった時間が同じ日のときは
一緒に帰る日もあった。
柴田先輩が一緒の時もあったけど、
柴田先輩は彼氏がいるらしく、その人と一緒の時は
梨華ちゃんと二人だけだった。
ウチは体育会系だから、年上に対しては敬語で
話す癖がある。
謙譲語とか尊敬語とかの区別はできないけどさ。
でも、ですます口調を心がけているんだ。
でも、なんでか梨華ちゃんに対しては砕けた口調で話してた。
自然とそうなっていたんだ。
呼び方も、二人の距離が縮まるにつれて
自然と「吉澤さん」「石川先輩」から、
「ひとみちゃん」
「梨華ちゃん」
に変わっていった。
試験期間で、帰宅部とごっちんと一緒の時、
ごっちんはなぜか梨華ちゃんに凄く懐いて、
「梨華ちゃん先輩」って呼んでた。
- 50 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月02日(月)12時06分19秒
始まりはいつも突然で。
嘘のような出来事だったりもする。
でもきっと、そんなものなのかもしれない。
事実は小説より奇なり。
違うか。
その後は、駅までの15分間の道のりを、
二人で歩く日が増えてきた。
もっと話したくて、遠回りした時もあった。
駅で話し込んだときもあった。
梨華ちゃんが部活を引退して、
一緒に帰れなくなるかな、って一抹の寂しさを覚えていたら、
放課後は図書室で勉強してるから、一緒に帰ろう?
そう言われて、すごく嬉しかったのを覚えてる。
いつから、ウチは梨華ちゃんの気持ちに気づき始めたんだろう?
でも そういう勘というのが働いたのは確か。
何気ない行動。言動。
それらから、なんとなく感じ取っていたんだ。
でも、ウチは気づかないフリをし続けた。
梨華ちゃんも、ウチに気づかれないように、していた。きっと。
でも、気づかないフリをするのはもうおしまい。
ウチはこれからどうすればいいのだろう?
何より、ウチの気持ちというのは?
答えは、迷宮入りしている。
自分の心が、見えない。
…好きになってくれて、ありがとう。
わかったのは、それだけだった。
- 51 名前:旅人 投稿日:2002年09月02日(月)12時08分31秒
- >42 名無し読者さん
レスありがとうございます。
なんだ、つまんねーや、もう交信待たない、なんて思われないように頑張ります。(汗
- 52 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月02日(月)16時25分48秒
- いや、こういう展開ちゃんと書いてくれる作品好きなんで面白いすよ
- 53 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時41分53秒
その日から、しばらく梨華ちゃんとは帰れない日が続いた。
梨華ちゃんは明らかにウチを避けていた。
だからといって、ウチにもなす術を持たずに、そのままにしていた。
周りの視線は少しだけ収まってきていた。
ごっちん以外、誰もウチに触ろうとしなくなったことを除けば。
部活が久しぶりに休みで、ごっちんと一緒に帰ったその日。
折角だから、喫茶店に寄っていかない?
そういうごっちんの提案をうけて、寄っていった。
- 54 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時43分52秒
話も弾んだそのとき、不意にウチの後ろの窓の向こうを見て
なぜか声をひそめてごっちんは言った。
「あれ、梨華ちゃん先輩じゃない?」
振り向くと梨華ちゃんが外を歩いているのが見えた。
…男の人と、一緒だった。
楽しそうに笑って、話している。
身体は触れんばかりに近づいていて。
…なんで? 誰だよ?
ウチのこと、好きなんじゃなかったの?
- 55 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時44分35秒
「誰だろ?」
気のないふりをしてごっちんに相槌を打つ。
でも心中は穏やかじゃない。
―なんで、漣がたっているの?
胃が痛い。
- 56 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時45分06秒
======================
恋なんて知らない。
愛なんて知らない。
恋なんていらない。
愛なんていらない。
この時期にありがちな、一時的な同性への憧れ。
きっと梨華ちゃんのはそれ。
======================
- 57 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時47分02秒
「なんで、そんなことをいうの?」
久しぶりに梨華ちゃんと帰ったその日、
前に見たその男の人とはよろしくやっている?
そう言ったウチへの返事がそれだった。
「なんで、って…」
あ、ダメだ。
胃がキリキリなっている。痛い。
吐き気までしてきた。
自分でもわからないどす黒い感情が
ウチの中で暴れている。
必死で、無視する。
「良かった、じゃん。」
- 58 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時47分52秒
ふと右に目をやると梨華ちゃんはいなかった。
慌てて後ろを振り向くと、
唇をかんで、泣き出しそうな目をして俯いていた。
―ダメ。聞いちゃ、ダメ。
「なんで、そんな顔するの?」
「私が、好きなのはひとみちゃんだよ。」
「あの人は?」
「お姉さんの彼氏。」
「…」
「私は、ひとみちゃんが、好きだよ」
「一時的な、憧れってやつじゃないの?」
「なんで、そんなことをいうの?」
「この年代に、ありがちじゃない?」
「違う!」
そう叫ぶと、梨華ちゃんは走って帰った。
- 59 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時52分48秒
その日の夜、罪悪感に苛まれながら、
胃の痛みに耐えながら明かりを落とした部屋の天井を眺めていた。
追いかけるべきだった?
でも追いかけたところで、何が言える?
−−−携帯電話の呼び出し音でふと現実に引き戻された。
「よすこ、今いい?寝てた?」
ごっちんから電話だった。
「ん、まだ起きてたから。大丈夫。何?」
「あのね、おせっかいかな、とは思ったんだけど。
今日のね、見てた…。」
ごっちんが何について言おうとしているのか、わかった。
「ダメだよ、ああいう言い方。」
「だって」
「あのね。梨華ちゃん先輩の気持ち、否定したらダメだよ」
「なんで」
「…ねぇ、よすこ。何を怖がっているの?」
「…」
「あたしね、付き合っている人いるんだ。」
「え?」
「今まで、言えなかったけど。」
- 60 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時53分40秒
ごっちんの相手は、「安部なつみ」という、ウチの2つ上の先輩だった。
その人も女性。
彼女が卒業した今も、交際は続いているという。
「梨華ちゃん先輩はどうだかわからないけど。
あたしとなっちはね、女の人しか、好きになれないんだ。」
「…」
「ねぇ、よすこはどう思う?
やっぱり気持ち悪いかなあ?」
「や、驚いた、けど。でも別に。
好きだという気持ちは本当なんでしょ?
だったら別に、いいんじゃない?」
「あは。ありがと。
ねえ、あたしにはそういう風に言えるのに、
どうして梨華ちゃん先輩のは信じられないの?」
- 61 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月03日(火)10時54分23秒
なんで?
ごっちんの台詞が頭の中で渦巻いている。
―何を怖がっているの?
―どうして信じられないの?
どうして?
「自分から、目をそらさないで。」
最後のごっちんの台詞が忘れられない。
窓から外を見たら、満月が覗いていた。
照明をおとしたウチの部屋を明るく照らす。
月明かりの下、ウチはずっとずっと考えていた。
――自分から、目をそらさないで。
- 62 名前:旅人 投稿日:2002年09月03日(火)10時55分25秒
- >52 名無し読者さん
ありがとうございます。
レスがあるのってやっぱり励みになります。
- 63 名前:ポロポロ 投稿日:2002年09月03日(火)13時36分14秒
- 今日初めてよみました。すっごい良い良い。
同姓で付き合うことがあたりまえのような小説が多い中、
とても新鮮で、おもしろいです。
期待してるんでがんばってください
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月04日(水)10時49分32秒
- ごっちんええひとや・・・
ごっちんの言うようにヨスコも梨華ちゃん先輩にアタックすればいいのに。
ってもうアタックしたか、しかも顔面に(違
- 65 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月04日(水)12時58分18秒
なんで、ウチは恋をしたくないと思うようになったのか。
その答えはある意味単純。
周りの気持ちが信用できないから。
合コンだの行く奴の気も、
告白されたら簡単に付き合って、
簡単に別れる奴らの気がしれないから。
彼氏が欲しい、彼女が欲しい
万年発情期の周り。
人を人として見ていない、そんな気がしたから。
おままごとのような周りの恋愛ごっこにうんざりしていたから。
- 66 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月04日(水)12時58分50秒
…確かに、そういう人ばかりだけど、
でもそうじゃない人もいるんだってこと、
わかっていたはずなのに。
ごっちんのお姉さんや、
学校の先生、平家先生だったかな。
高校時代の恋人と結婚したらしい。
バレー部のOGの中にもそういう人はいた。
それなのに。
―何を怖がっているの?
ごっちんの台詞がまた聞こえてきた。
…裏切られるのが、きっと怖いんだ。
- 67 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月04日(水)12時59分34秒
初恋のことを、思い出す。
初めて好きになった、クラスメイトの男の子。
ウチは他の人より少し奥手で、初恋は中学の時だった。
中学2年の終わりに、
精一杯の勇気を振り絞って告白したら、付き合ってくれた。
その時は凄く嬉しくて。
でも今以上に幼かったウチは、
その人が他の子とちょっと話すだけでも
やきもちなんか妬いちゃって。
好きだったんだ。本当に好きだったんだ。
ある日、突然振られた。前触れもなく。
どうも、ウチと別れる一週間前から
二股かけて、そしてそっちに行ったという事。
ウチの嫉妬深さに耐えられないということ。
ヤらせてくれないからということ。
その突然の別れは、
幼いウチには、とてつもない裏切りに感じられた。
- 68 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月04日(水)13時00分29秒
その時に知ったのは、
人の心なんてそんなもんだと。
ただ「恋人」という肩書きと、自分が描く「恋」通りに進ませたいだけなのだということ。
そして、
ウチは嫉妬深いということ。
そんなウチは、恋愛には向いていないんじゃないかということ。
それ以上に、一端冷静になったウチの視界に飛び込んできた
周りの恋愛模様は、どうみても「恋愛」ではなかった。
だから。
恋なんてしない。
そう決めたんだ。
「恋愛」という感情に蓋をして、堅く鍵をかけて閉じたんだ。
その鍵は、どこにしまったんだろう?
- 69 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月04日(水)13時01分35秒
ひとつの決心を、した。
もう夜中の二時だったけれど、ごっちんにメールしたら、
珍しく起きていたらしく、電話をくれた。
そして、背中を押してくれた。
「間違ってたってしょうがないでしょう?
迷ってたって始まんないよ?」
そうだね。
何が正しくて、何が間違っているのか。
まだわからない。
もしかしたら、今からウチがやろうとしてるのは
間違っているのかもしれない。
だけど。
――間違ってたってしょうがないでしょう。
迷ってたって始まんないでしょう。
- 70 名前:旅人 投稿日:2002年09月04日(水)13時04分47秒
- >63 ポロポロさん
ありがとうございます。
いやぁ、私、本当はベタという言葉も、くそ甘いのも好きなんですが、
新鮮さを考えたら現実的なものを書いてみたいな、と思いまして。
どこまで現実的に書けるかは・・・??
>64 名無し読者さん
梨華ちゃんはあの時よっすぃ〜にくらった顔面アタックによって
ハートを貫かれた模様です。(違
- 71 名前:m 投稿日:2002年09月04日(水)18時40分48秒
- ・・・いい。段々引き込まれていきました。
更新が楽しみです。頑張って下さい。
- 72 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時49分19秒
「梨華ちゃん、この間は、ごめん」
「う、うん…いいよ…」
梨華ちゃんは俯きがちだ。
夕陽に映えて、赤く染まった顔が綺麗だと思う。
明日から中間試験なんだけど、
とりあえず早くお互いの気持ちをすっきりさせたがいいかな、と
そういうことで、放課後ウチの教室に呼び出した。
- 73 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時49分56秒
「ウチね、梨華ちゃんのこと好きだよ。
傍にいたい、傍にいて欲しい、って思う。」
「…ありがとう。それだけで十分だよ…」
「待って、まだ話し終わってないから。
最後まで聞いて。」
梨華ちゃんはちょっと怯えたような、不安なまなざしで
ウチを見上げた。
簡単に、どうしてウチが恋愛感情を否定しようと思ったのか。
昨日考えていたことを話した。
「恋って、そんなものだよ?
綺麗な恋なんて、ないよ?」
梨華ちゃんはそう言った。
うん、そうだね。ウチが臆病だっただけ、なのかもしれない。
格好つけていただけで。
- 74 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時50分28秒
「梨華ちゃんに対しての好きが、恋愛感情なのかどうかは、
正直言ってわからない。
でも。梨華ちゃんが、お姉さんの彼氏と歩いているのを見たとき、
嫉妬した。悔しかった。寂しかった。
どうしてそう思うのかも、わからない。
ずっと傍にいた友達を取られたような気分だったのかもしれない。」
「…」
「でも。なんだろ。昨日、ずっとずっと考えていたんだ。
ウチ、梨華ちゃんの特別な人でありたい、そう思ったんだ。
その意味はわからないけど。でも・・・付き合ってみたいんだ。」
「…」
「勝手なこと言ってるよね。ごめん。
こんなやり方、やっぱり間違っている、よね・・・」
「遊び、とか、同情とか、リハビリ、とか、そんなんじゃない、よね・・・?」
「それはないよ!
梨華ちゃんじゃなかったら、きっと悩まない。」
自分で言ってて、はっとした。
そうなんだ。梨華ちゃんじゃなかったら、きっと気づかなかった。
「ありがとう。」
そういって、泣き出しそうな顔で笑った梨華ちゃんの顔が
ものすごく儚げで、綺麗で。
それは、ウチのハートを突き刺すのに十分過ぎるほどの効力を持っていた。
だから、思わず、あんなことをしてしまったんだ。
- 75 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時54分40秒
不思議なもので。
「特別になりたい」という思いを認めたら、
梨華ちゃんの想いや自分の気持ちを真っ向から受け止めると覚悟したら、
ふっきれたのか、わからないけれど、
少なくとも昔恋愛感情にした蓋の鍵は見つかったみたいだ。
わからない。
これを「恋愛感情」と呼んでいいのかわからない。
でもすごく愛しい。
前よりも愛しくなっている。
それだけは、本当だから。
- 76 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時55分19秒
話したくて、いつも遠回りした。
その日から、梨華ちゃんとは放課後だけじゃなくて、
朝も一緒に登校するようになった。
土手沿いを、手をつないで歩いて。
梨華ちゃんって、確か大学受験生…なんだけど、
成績はいいし、ある意味そういう勝負事に
私情を持ち込まない強さのある人だから。
それに、推薦だから、よほどのポカをやらない限りは
合格するだろう、そう言われていた。
だから、ウチもちょっと安心して、でも邪魔にはならない程度に傍にいたんだ。
周りなんて、見えていなかった。
- 77 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時56分07秒
周りの視線は相変わらずだ。むしろ、酷くなってきている。
さらに気になるのは、部活動ででも同じ視線が増えたということ。
そして、なんでかウチが部室に入ると、
着替えていた人がそそくさと逃げるように出て行く。
誰もが、ウチにじゃれつかなくなった。
梨華ちゃんとのことがばれる、なんてこと・・あるわけない。
このことを知っているのは、ごっちんただ一人。
もともと、ウチもごっちんも一匹狼みたいなところがあったから、
あまり気にしなかった。
それに、梨華ちゃんの方は、そういう目にはあっていないみたい。
だから、多分違うんだろう。
- 78 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時56分40秒
「お待たせ―」
放課後の恒例の待ち合わせ。
「んー。今日も土手まわって帰ろ?」
「うん!」
ウチの手を握ってドアへ引っ張っていく梨華ちゃん。
「あ、待って。」
ウチは梨華ちゃんを引っ張ると、そっとキスした。
「ちょっと、ひとみちゃん!」
「いいじゃん?」
「ここ、学校だよ?誰かに見られたらどうするの?」
「誰もいないから、大丈夫だよ。
どうせ、あの時だってキスしたし?」
また反論しそうになる梨華ちゃんの口をふさいだ。
唇で。
暗闇の中でもわかるぐらい、梨華ちゃんの顔は真っ赤だ。
- 79 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時57分20秒
===================
恋なんて知らない。
愛なんて知らない。
・・・・・・
ただ、強い想いがそこにある。
===================
- 80 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時58分30秒
すごく怖くなる時もある。
梨華ちゃんが他の男子と楽しそうに話しているのを見たときとか。
梨華ちゃんも、ウチも、ごっちんみたいに生粋の同性愛者というわけじゃない。
だから、いつかは男の人の元へ行ってしまうんじゃないか。
そんな恐怖心から逃れられない。
思い余ってぶつけてしまった。
「やっぱりウチより、男の方がいいんだろ?!」
「なんでそういうこというのよ!
ひとみちゃんが、そうなんじゃないの?」
「違うよ!」
「信じてよ?男だから、女だからってどうでもいいじゃない!
ひとみちゃんだから、吉澤ひとみだから、好きになったんだよ?」
二人とも泣きながら喧嘩した。
ごめんね、ごめんね、ってお互いに言いながら仲直りした。
吉澤ひとみは石川梨華が好き。
石川梨華は吉澤ひとみが好き。
単純なようで、そうじゃない、うちらの関係。
- 81 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)10時59分50秒
「ねぇ、ごっちん。ごっちんさ、悩んだ?」
「そりゃあ、ね。自分が同性しか好きになれないって、
認められたのはやっぱり高校に入ってからだよ。」
「安部先輩に会ってから?」
「ん〜。関係は、あるかも。
でも、中学の時だったら、きっと付き合えなかった。
自分がそうだって認めたくなかったから。」
周りにばれないように、上手に嘘をつく。
異性の芸能人を1人、選ぶ。
初恋などの話も作る。
ばれないように、ぼろが出ないように、用意周到に。
そうやって、中学をすごしてきた。
今も、そうだけどね。
それが、ごっちんの話だった。
だから、恋愛の話を、自分からはしたがらなかったんだ。
恋愛談義に巻き込まれあと、いつも疲れた顔をするわけがわかった。
「あは。でもね、よすことこういう話できるの、嬉しいよ。」
「…うん。うちも、ごっちんがいてくれて、よかった。」
「照れるじゃん!」
照れ隠しにバシバシうちを叩く。
…ごっちん、お願いだから、自分の力の強さ、自覚してよ…
- 82 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月05日(木)11時01分49秒
- >71 mさん
ありがとうございます!
(0^〜^)^▽^)<モット ヒキズリコマレチャッテ♪ オネガイ
- 83 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月06日(金)10時04分41秒
吐く息もすっかり白くなった。
街並みはイルミネーションで彩られ、
待ち行く人たちも浮き足立っている。
そう、今日はクリスマスイブ。
ウチはこの日、梨華ちゃんちにお泊りすることになった。
実は、梨華ちゃんは大学には、推薦受験で無事合格した。
だから、もうそういうことを気にしないで、
デートしまくりってわけ。
夜は梨華ちゃんの家族と一緒にお祝いした。
勿論、梨華ちゃんの家族はうちらの関係は知らない。
それはちょっぴりだけウチの胸を切なくさせたけど。
そんなことよりも。
- 84 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月06日(金)10時05分13秒
…実を言うと、ちょっと、いや、かなりドキドキしてる。
だって、だって、お泊りってことはさ、
同じ部屋で寝るってことでしょ。
…うわ。
今、こうして、先にお風呂に入ったウチは
梨華ちゃんの部屋で、布団の上で待っているわけだけど。
やばい。ウチ、欲情してる。
ただ、隣同士に並べられた布団を見ているだけなのに。
今までだってなんどか欲情したけど、
ここまで浴場の塊が暴れているのって、初めて。
同性相手にも、ここまで欲情できるものなんだ・・・
- 85 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月06日(金)10時05分50秒
「お待たせー。あー。すっきりした。」
!!やばい、やばい。マジでやばい。
ただのパジャマを着ているだけ。
なんだえけど、ピンクのTシャツをしっかりズボンの中に入れている。
そのせいで、そのせいで・・・
む、胸が余計強調されている。
おろしてよぉ!
「ひとみちゃん?」
「あ?あ、何?」
やば。呆けてた。
何処見ていたかばれていないよね?
「とりあえず、照明は落とすね?
でも寝ないでね、ひとみちゃん。」
豆電球のオレンジ色の明かりで、
梨華ちゃんの顔は見える。
「ふふっ。なんか変な気分。」
「なんで?」
り、梨華ちゃんもウチと同じ…?
「だってぇ。好きな人とこうして寝られるって
すっごい幸せじゃない?」
「うん、そうだね…」
ウチがいやらしいだけなんだろうか…。
寝るって言葉ひとつにも反応しちゃったけど、
梨華ちゃんはなんだか…。
- 86 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月06日(金)10時06分47秒
「…キス、してもいい?」
そういいながら梨華ちゃんはもぞもぞと
ウチの布団の中に入ってきた。
!!!
やばいって!
でも追い出せない。
腕は梨華ちゃんをしっかり引っ張って、
ウチの布団の中に引き入れた。
正直者の腕。
そっとキスした。
横になったままのキスってなんだかいつもと違う。
身体が、やけに火照る。
角度を変えて。
下唇を軽く噛んだり、舐めたり。
舌をそっと差し入れる。
すぐに梨華ちゃんの舌が絡み付いてきた。
何度も何度も。
本当に いつもと違う、挑発的なキスを繰り返した。
いつしか、足も絡み付いていた。
- 87 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月06日(金)10時07分23秒
とうとう我慢できなくて。
そっとパジャマの上から、胸に手を這わす。
びくっと梨華ちゃんは一瞬硬直したけれど、
すぐにそれは緩んで。
さらに力をこめてウチを抱きしめてきた。
舌は、足は、さっきよりもいやらしく絡み付いてくる。
唇を離して窓の向こうを覗くと、
ちょうど満月が顔を覗かせていた。
月明かりがウチ達二人を祝福するかのように、
明るく照らし出す。
「月明かりの下で、悦びにもえる貴方が見たい。」
梨華ちゃんの目を見つめて、カッコつけて言うと、
すぐにまぶたに唇を落とした。
「私を、アツくして?」
梨華ちゃんは濡れた目でウチを見上げた。
なんて挑発的な瞳。
お互い初めてのはずなのに、本能というのは
うまく出来ているらしく。
自然とお互いの求めていることをしていた。
月明かりに浮かぶウチ達はきっと…
初めて梨華ちゃんを抱いたクリスマスイブ。
この日を、きっとずっと忘れないだろう。
- 88 名前:旅人 投稿日:2002年09月06日(金)10時08分06秒
- 本日の更新終了。
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月06日(金)14時24分02秒
- う〜あちー
せっかく涼しくなったのにまた暑くなっちゃった
- 90 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月07日(土)11時10分28秒
=====================
恋は下心。
愛は真心。
一方的なのが恋。
お互いを思いやれるのが愛。
・・・・・どっちでもいい。
もっともっと私を狂わせて。
骨の髄まで私を狂わせて。
私もとことん狂わせてみせるから。
私もとことん貪りきってみせるから。
=====================
- 91 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月07日(土)11時11分07秒
年が変わる瞬間は、お互いに自分の家族と過ごしたけど、
携帯電話のメールで、おめでとう、を言い合った。
今年最初のメールが梨華ちゃん。
それだけでもウチは幸せになれる。
嵌ってる。
すっごい、嵌ってる。
こんなに嵌るなんて、あの時は想像もしていなかった。
恋愛をバカにしていた自分が嘘みたい。
誰かを好きになるということは
その想いの分だけの不安や寂しさも抱えることになるけれど。
でもそれ以上に温かくなれるのだということを
梨華ちゃんは教えてくれた。
- 92 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月07日(土)11時11分43秒
・・・・・・
でも、無性に悲しくなる時がある。
でも、無性に悔しくなる時がある。
たとえば、お風呂で自分の身体と対面した時。
たとえば、人ごみの中で、堂々といちゃついているカップルを見た時。
どうして、ウチは女なんだろう?
守りたい、梨華ちゃんを守りたいって思う。
守りたい、だなんて傲慢かもしれないけれど。
ペニスが男の象徴だとしたら、それはいらないけれど、
でもウチについていたら、って思わずにいられない時がある。
ついていたら、もっと深く梨華ちゃんを感じられるのに。
ついていたら、堂々と「恋人です」って親にも言えるのに。
なんで、ウチは女なの?
梨華ちゃんは「吉澤ひとみだから好きになったんだよ」って言ってくれた。
ウチだって、石川梨華だから好きになった。
でも。でも。
悔しいよ。悲しいよ。
男になりたかった。
ねぇ、神様。
どうして「アダムとイブ」を創りあげたのですか?
- 93 名前:旅人 投稿日:2002年09月07日(土)11時14分06秒
- 本日の更新終了ー。
次回は自分の都合により、水曜日になります。
数少ないながらも呼んでくださっている方、よろしくお願いします。
>89 名無し読者さん
ア〜チ〜チ〜 ア〜チ〜♪ (^〜^0;)……
- 94 名前:ポロポロ 投稿日:2002年09月07日(土)15時09分26秒
- くわぁ〜〜せつなさ全開。。。
作者さま、素晴らしく、はまらせてもらってます。
がんばってください。水曜日確実に見にきます♪
- 95 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月10日(火)05時04分59秒
- どうしようもないジレンマだよなぁ…
- 96 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月11日(水)10時19分06秒
初詣は勿論一緒に行った。
願い事は勿論、
ずっと梨華ちゃんといられますように。
二人してあまりにも長く手を合わせて願っていたせいか、
後ろの人や周りには迷惑そうな、怪訝な目で見られちゃったけど。
梨華ちゃんとバツが悪そうな顔をしてくすっと微笑みあう。
冬特有の高い空が気持ちよくて、
きっと、この願いは聞き届けてもらえると思った。
- 97 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月11日(水)10時19分40秒
その帰り、なんでかいきなりごっちんに呼び出された。
喫茶店に行くと、なぜか、柴田先輩も一緒に喫茶店にいる。
ごっちんと柴田先輩って、仲良かったっけ?
そして、なぜか2人を包む空気が重い。
「…ね、梨華ちゃん」
柴田先輩が口火を切った。
「よっすぃ〜と、付き合っているって、本当?」
思わずウチと梨華ちゃんは顔を見合わせた。
このことを知っているのは、ごっちんだけだったからだ。
「本当、なんだ。」
ふっと、柴田先輩は笑って、そういった。
梨華ちゃんは俯いている。
「言って欲しかったなあ。親友じゃなかったの?」
「だって…」
「差別されると、軽蔑されるって、思った?」
力なくうなずく梨華ちゃん。ごめんね、との呟きとともに。
「んー、別にいいけど。ま、そうだよね。怖いよね。」
「問題はね、そんなことじゃないんだよ、よすこ。」
ごっちんが口を開いた。
かすかな緊張が柴田先輩とごっちんの二人に走った。
「…二人の関係ね、ものすごい噂になっているって、知ってた?」
首を横に振る。元々噂話には疎い方だし。
「それでね、話も変わってて…」
- 98 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月11日(水)10時20分42秒
話はこうだった。
ウチが梨華ちゃんに告白して、強引に自分と付き合わせた。
梨華ちゃんは本当はウチと別れたいのに、別れさせてくれない。
ウチは梨華ちゃん以外にも、他の女子をそういう目で見ている。
…云々。
一瞬頭が真っ白になった。
梨華ちゃんも青ざめている。
「…それでね、二人…教室でキスしたり
土手を手をつないで歩いたりしてるじゃない?」
ごっちんは知ってる。
ノロケ話をお互いにしていたから。
だけど、なんで?まさか…
「見てた人も、いるらしいんだよね。
キスしてたところを。」
柴田先輩が口を開いた。
「よっすぃ〜が一方的に悪者になっているんだよね。」
なんで?なんで?
「なんで!」
梨華ちゃんが思わず叫んだ。
周りの視線が一瞬自分達に集まる。
「ちょっとね、聞いてみたの。
この噂話をしていた人に、誰から聞いたのかって。」
柴田先輩が、ちょっとためて、そして続けた。
- 99 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月11日(水)10時23分19秒
「山崎君、て人から、”聞いた話なんだけど、本当?”って
感じで、聞いたって。」
…山崎?
「確かよっすぃ〜やごっちんと同じクラスの男の子だよね?」
ごっちんがうなずいた。
「他の子もね、大体山崎君の名前をあげていたんだよね。
又聞きの子は勿論別だけど。」
もしかしたら。
「私、山崎君に告白された時、ひとみちゃんが好きだって言った…」
その、梨華ちゃんの台詞を聞いたとき、
柴田先輩はすべてを納得したような顔をした。
「たぶんね、いや、絶対に今回の噂は、山崎君が流していると思う。」
噂を流した張本人は自分だと、周りに悟られないようにする方法。
それは
「聞いたんだけど、本当?」と
さも聞いたことを、さらに尋ねるような感じで言う。
噂好きな人中心に、いろんな人にそういえば。
それはおのずと噂となる。
誰が、元なのかを悟られずに。
- 100 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月11日(水)10時24分47秒
「恨まれている、んだろうね。」
うちは、なぜか冷静にそういった。
男は、女よりも恋愛に関しては執念深い、という。
付き合っている間は、男の方があっさりしてるとかいうけれど。
別れた後は、男の方がその恋愛をいつまでも引きずるという。
ストーカーに男が多いのも、そう。
きっと、山崎も。
女なんかにどうして負けなきゃならない、とか
そう思ったのかもしれない。
だからか。
だから、2学期後半は、周りから避けられていたのも。
うちが部室に入ると、着替えいていた周りの人が
そそくさと逃げるように出て行ったのも。
でも、梨華ちゃんの周りではなんともなかったのも。
全て合点がいった。
帰り際に、ごっちんも、柴田先輩も、
あたしたちは二人の味方だからね、
そう言ってくれた。
- 101 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月11日(水)10時25分23秒
「ひとみちゃん、ごめんなさい…。
私があの時に、正直に名前を言わなければ…」
「ううん、あの状態じゃ、多分仕方なかったよ。気にしない!」
梨華ちゃんはすごくうなだれている。
「だーいじょーぶだって!」
つとめて明るく笑って梨華ちゃんの手を引っ張ると、
土手の方に引っ張っていった。
梨華ちゃんはウチと手をつないでいいものかどうかと
戸惑っているのはわかったけど、気づかない振りをした。
- 102 名前:旅人 投稿日:2002年09月11日(水)10時31分42秒
>94 ポロポロさん
嬉しいレスありがとうございます!
最後まではまっていただけたら…。
>95 名無し読者さん
ジ・閻魔。 …スイマセンスイマセン
いつぞやのうたばんで「あぁ男になりたい」って発言してたの、
少しはこういうジレンマも込めて言っていたのかも?なんて。
- 103 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月11日(水)19時11分33秒
- やべー。
面白いす…。
続きが気になって仕方ないですねー。
- 104 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月12日(木)15時23分38秒
三学期。
冬休みをはさんだおかげか、少し周りの視線は収まっていた。
とにかく、山崎を問いただそう。
始業式の後の屋上。梨華ちゃんは先に帰した。
部活云々だとちょっと嘘をついて。
柵にもたれているウチのうしろで、
ドアが開く音がした。
「寒いところに呼び出すなよ。なんだよ、吉澤?」
「なんで、あんな噂流したの?」
山崎の目が揺れた。
「俺じゃ、ねぇよ」
どうみても、自分です、という目だ。
第一、ウチは何の噂かを言っていない。
ウチは噂の流し方を話した。
- 105 名前:旅人 投稿日:2002年09月12日(木)15時24分26秒
「…なんだ、ばれているんだ。そうだよ、俺だよ」
逃げられないと思ったんだろう。
「なんで、女のお前に負けなきゃなんねぇんだ?」
…あぁ、やっぱり。
「それになあ、女同士ってやっぱりおかしいぜ?気もちわりぃ」
キモチワルイ オカシイ
「なんで、おかしいのさ?」
心なしか、声がさらに低くなっている。
ウチの声の低さに一瞬怯えた顔をしたけれど、
すぐにウチを馬鹿にしたような顔をして、
「男は女と。女は男と。それが常識だぜ?」
この時ほど、「男」でない自分を悔しく思ったことは無い。
この時ほど、「男」を振りかざす人を憎く思ったことは無い。
そして
この時ほど、男になりたいと思った自分を愚かに思ったことは無い。
- 106 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月12日(木)15時25分00秒
「…じゃあ、男と女なら、何をしてもいいのか?
暴力をふるっても、傷つけても、虐げてもいいというの?
同性同士だって、異性同士の恋人以上に
お互いを思いやれる人たちだっている。
どっちが正しいんだよ!」
「うるせぇよ!女のくせによ!石川さんを取りやがって!」
「梨華ちゃんはお前のモノになったことないだろ!」
「女のくせに!」
「お前は梨華ちゃんだからじゃない。女なら誰でもいいんだろ?!」
いきなり左頬が熱を帯びた。
逆上した山崎に殴られたことを理解したのは少し後だった。
そして。
すぅっとウチは自分の中が一気に冷たくなっていくのがわかった。
「…先に手を出したのはそっちだからね…」
- 107 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月12日(木)15時25分34秒
「ジ・エ〜ンド…」
山崎が、足元で転がっている。
鼻や口から血を出している。
勿論、ウチも口から血を出しているけれど。
パチパチパチ
突然拍手の音がした。
ドアのところに目をやると、担任の中澤先生が立っていた。
「吉澤、お前強いな…。
で、だ。勿論話は聞かせてくれるな?」
有無を言わさぬ目で言われる。
「保健室にいきぃや。保田先生、まだおるから。」
そういいながら、山崎を見下ろした先生は、
「ま、こいつはどないしようや…」
「ほっといていいんじゃないんですか?」
「そうもいかんやろ。」
う、う〜ん・・・
そんなうめき声とともに山崎が目を覚ました。
「お、起きたか。」
「な、先生?!」
「おう。一部始終見とったわ。」
…見てたんだ。聞いてたんだ。
「山崎。お前は帰り。」
ばつが悪そうな、そして怯えた顔をして、
山崎は走って屋上から姿を消した。
「さて、保健室行こか。」
- 108 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月12日(木)15時26分53秒
「吉澤…。」
あきれた顔をして、それでも丁寧に保田先生は手当てしてくれた。
「捻挫や突き指以外でここに来るとはね・・・」
「はいよ。ココアでええな?」
中澤先生、なんで保健室を自分のもののように使っているんですか?
いつものことなのか、保田先生は特に気にとめもせずに
後片付けをしている。
「さて、と。」
ウチが座っている長椅子の向かいがわに椅子を持ってくると
深く座った。
「3年A組の石川と付き合っているんやて?」
「…はい。」
「まぁ、話全部聞いとったん。
だから、まぁ、山崎と殴り合いして倒したことは
問題にせんといてやるわ。」
「ありがとうございます…」
中澤先生はココアを一口のんで、ふぅとため息をつくと
「石川のこと、本気で好きか?」
と尋ねてきた。
「はい。」
中澤先生の目がまっすぐだったから。
だからウチも迷うことなく答えた。
- 109 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月12日(木)15時27分25秒
「うちはな、別にええと思うで?
さっき吉澤も自分で言ってたけど
大切なのは相手の性別やない。
お互いにお互いを思いやれるかどうか、や。」
もう一口飲むと
「ただ…な。今回の出来事のように、
いや、それ以上に辛いこともあるかもしれへん。
そんな時はうちのところにきぃや。」
そういって、中澤先生はココアの残りを飲み干すと
ごちそうさん、といって、出て行った。
…ありがとう、中澤先生。
中澤先生が生徒に絶大な人気を誇るのもすごくわかる。
保田先生もやさしい顔で微笑んでくれていた。
何も言わないけれど、わかってくれていたんだろう。
胸の奥に、こみ上げてくるものを感じた。
「…ありがとうございます…」
ひとつの勇気を、貰った。
- 110 名前:旅人 投稿日:2002年09月12日(木)15時29分38秒
- 本日の更新終了ー。
あと2回で終わりです。
>103 名無し読者さん
面白いって、言っていただけて嬉しいです。
甘いわけでも、楽しいわけでもなく、淡々と進んでいるから
つまらないって思われてるかなーって思ってたので。
後2回、よろしくお付き合いください!
- 111 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月12日(木)16時36分30秒
- >甘いわけでも、楽しいわけでもなく、淡々と進んでいるから
つまらないって思われてるかなーって思ってたので。
何言ってるんですか。面白いです!
甘いし。最後まで付き合せてください。
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月12日(木)16時40分21秒
- あと二回なんてそんなの悲しすぎる(T▽T)
ROMってましたがずっと読んでますよ!
がんばってください。
- 113 名前:ポロポロ 投稿日:2002年09月12日(木)17時50分03秒
- 二日連続更新なんてありがたい^^とか思ってたら後二回かぁ。。。
残念だけど、作者さんがどういう方向で終わりにするのかも気になるんで♪
まだまだ応援してます。がんばってください。
- 114 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月13日(金)10時22分34秒
- 人の噂も75日とかいうけれど、案外当たっているのかもしれない。
まだまだだけど、一時期に比べたら、
前のように接してくれる人も増えてきた。
山崎はあれから話し掛けてこない。
どうやら、噂を流すのも止めたようだ。
そりゃ、そうだろう。
第一、女に殴り合いで負けた、だなんてみっともなくて言えないだろうし。
ごっちんの彼女の安部さんにも会ったりした。
ごっちんよりも幼く見えるのに、案外しっかりした人だった。
ごっちんも安部さんの前だとさらにユルくなってるし。
二人は色々あったんだろう。
付き合う前からもずっとずっと。
でも、異性同士のカップルなんかよりもずっと爽やかで、
優しい、暖かい雰囲気をしていた。
ウチ達も、こんな風になりたい、そう思わせられた。
柴田先輩はあれからも変わらずに接してくれている。
というより、オヤジが入ったキャラだということを知った。
でも、そんなからかいの言葉さえも嬉しかった。
少なくとも、ウチらを普通のカップルとして見てくれているわけだから。
- 115 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月13日(金)10時23分25秒
もうすぐ梨華ちゃんが卒業する。
ウチは卒業の匂いが漂い始めた街の
ショーウィンドウを眺めていた。
卒業式も終わった後、梨華ちゃんと二人で教室にいる。
この後謝恩会だの、部活でのパーティーだのがあるらしいけど、
ちょっとだけ時間があるらしくて、今こうして来てくれた。
いつもウチが部活終えて、教室に戻って、
勉強を終えた梨華ちゃんが図書室から来て。
何度ここで唇を交わしただろう。
何度ここで抱きしめただろう。
感慨深い。
「卒業おめでとう。」
そっと手をつなぐと、
「特に約束しなくても、行けば必ず会える、
そんな日々も今日で最後だね。」
梨華ちゃんはそうだね、ってうなずくと
うちに身体を寄せてきた。
そっと髪の毛に唇をおとす。
何度キスしても。
何度髪の毛の香りを嗅いでも。
一向に飽きることの無い、
むしろウチの恋心を加速させてくれる。
最高の惚れ薬。
- 116 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月13日(金)10時24分02秒
「梨華ちゃん・・・これ、受け取ってくれる?」
小さな箱を渡す。
包みを丁寧に開いた梨華ちゃんは驚きの顔でウチを見た。
「ウチがはめていい?」
「うん」
そっと梨華ちゃんの右手を持つ。
薬指に、ゆっくりと指輪をはめる。
シンプルなシルバーリング。
「愛してる。」
「・・・もっと。」
「愛してる。」
気が付いたら二人で泣いていた。
抱きしめあいながら、何度も何度も同じ台詞を繰り返す。
「吉澤ひとみは、石川梨華を永遠に愛しています。」
「石川梨華は、吉澤ひとみを永遠に愛しています。」
まだ、たかだか17歳と18歳の恋。
だけど、今のこの気持ちは忘れられない。
永遠に。
夢中で、愛した。愛しぬいた。
このまま、時がとまってしまえばいいのに。
- 117 名前:旅人 投稿日:2002年09月13日(金)10時30分43秒
- 明日が最終回です。ええ、明日です。宣言。(笑)
>111 名無し読者さん
ありがとうございます。
お、面白いですか?ありがとうございます。
次回最後です。よろしくお願いしますー。
>112 名無し読者さん
初レスありがとうございます。
あと1回です。( T▽T)T〜T0)
>113 ポロポロ
実は既に全部書き上げていたんですよ。
毎回それを推敲しながらUPしていたんです。
なので、さくさく、明日も更新いたします。
ポロポロさんの期待をいい意味で裏切るような終わり方ができるといいな・・
- 118 名前:ポロポロ 投稿日:2002年09月14日(土)08時57分27秒
- 今日が最終回なのかぁ。ドキドキしながら待つ。
>期待をいい意味で裏切るような終わり方
って、どんなだろう。。。あと数時間。。。
- 119 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時26分57秒
<エピローグ>
ウチも大学に進学した。
でも梨華ちゃんとは別々の大学。
時の流れ、いうものには、そして世間体というものには逆らえなかったんだろうか。
両方の親にもばれた。
自分の親には泣かれた。
教育が悪かったの?と母は自分を責め、父には殴られた。
そして梨華ちゃんからの手紙も電話も全て取り次いでもらえなくなった。
梨華ちゃんの親には出入りを禁止された。
携帯電話があってよかった。
そう思うほど、本当に携帯電話以外の一切の連絡手段を絶たされた。
会うこと、連絡をとることだけは時の流れと共に、どうにか許してもらえたけれど。
- 120 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時27分35秒
いつしか梨華ちゃんにも、ウチにも異性の恋人が出来た。
お互いに、すんなり別れた。
でも、親友のような、そんな関係は続いていた。
中澤先生のうちに行った時、
「恋人、という形だけが愛の形やないで」
そういって貰えたから。
でも胸の奥に潜む小さな棘はまだ抜けない。
- 121 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時28分06秒
ごっちんと安部先輩は海外に行った。
ニューヨークか、パリか迷ったらしいけど
なぜかハワイにいる。
二人仲良く写っている写真が、毎年送られてくる。
これは中澤先生と保田先生のところにも送られてくるらしい。
後から知ったんだけど、安部先輩は保田先生と中澤先生に相談していたらしい。
担任が裕ちゃん先生って、羨ましいな、って言われた。
ウチと、梨華ちゃんは、お互いに、
あえて言葉でいうならば「バイ」だったがゆえに、
社会を知っていくにつれて、自然とそうなってしまったのかもしれない。
お互いに、きっと弱かった。
高校生だったから、周りを見ずに夢中で愛し合えた。
悲しいけれど、それは現実。
でも、梨華ちゃんを愛したこと。愛されたこと。
それはウチの大きな勇気となってくれていた。
それは真実だ。
- 122 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時28分44秒
お互いに30歳前に結婚した。
子供にも恵まれた。
でも、月明かりを見ると、今でも、いつも思い出す。
梨華ちゃんと愛し合ったこと。
忘れない。忘れられない。
「月明かりの下、悦びにもえる貴方が見たい。」
精一杯カッコつけて言ったんだよ。
気障な台詞で貴方を酔わせてみたくて。
結局、あの後の貴方の台詞に、ウチのほうが酔ってしまったけれど。
- 123 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時29分37秒
…ウチは、還暦を迎えぬまま、孫の顔も見ぬまま死んだ。
気管支炎をこじらせて、そのまま。
月明かりの、下だった。
最後に見たのは、綺麗な満月。
梨華ちゃんの膝枕で静かに死にたかったな・・・
最後の最後まで、結局願いは叶わなかった。
・・・・・・・
天国、というのはあるんだ。
まさに今ウチはそこにいた。
自分の望む年齢の姿にしてくれるらしい。
なるほど。
だからみんな外見がばらばらなんだ。
だって、おばあちゃん、確か87歳で死んだはずなのに、
さっき会った時は中学生だったから。
それでもおばあちゃんだとわかる辺り、
なんとなくこの世界の凄さを感じる。
ウチは、迷うことなく17歳を選んだ。
梨華ちゃんを愛し始めた、17歳を。
- 124 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時30分09秒
梨華は、91歳まで生きた。
「あたしの方が、長生きしなさそうな食生活なのになぁ。
なんでこんなに長生きしてるんだろ・・・」
ふぅ、とため息をつくと、窓の向こうに目をやる。
白い満月が顔を覗かせていた。
・・・自分が死ぬ日ってなんとなくわかるというけれど、本当なんだね・・・
だから、梨華はこの一日、孫や、娘夫婦や、旦那さんに
「ありがとう」といって、自室に戻ったのだ。
旦那さんはちょっと何かに気づいたみたいだけれど、
部屋までは追ってこなかった。
そのことに少しほっとしている自分に苦笑しながら、
梨華は静かにベッドの上に横たわった。
自分の右手をかざす。
薬指にはめられたシルバーリング。
- 125 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時30分41秒
ひとみちゃん。
これね、一回も外したことないんだよ?
旦那さんには 誰からなんだ、ってすごく問い詰められたけれど。
大切な“友達”から、って言っちゃったけど。
でもね。
本当はずっとずっと、貴方だけを愛してたんだよ。
・・・今も。
ねぇ、ひとみちゃん。
二人がもう少し強かったら、今も一緒にいられたのかな?
ごっちんと安部さんみたいに。
ねぇ、ひとみちゃん。
でもね、後悔はしていないよ。
だって。
貴方と愛し合ったということ、今も愛しているということ。
それは真実だもの。
ねぇ、ひとみちゃん・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
- 126 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時31分31秒
・・・・・・・・・・・・・・
「迎えに来たよ。」
「ひとみちゃん!」
「指輪、ずっとずっとしてくれていたんだね」
「うん・・・」
「私18歳になりたい。」
ひとみは嬉しそうに微笑むと、梨華を強く抱きしめた。
自分の中に刺さっていた小さな棘が解けたのを感じていた。
「今度こそは、ずっとずっと一緒にいよう。」
満月が天国に昇る二人を優しく包んでいた。
ようやく、ずっとずっと一緒だね・・・
- 127 名前:月明かりの下で 投稿日:2002年09月14日(土)10時32分08秒
〜終〜
- 128 名前:旅人 投稿日:2002年09月14日(土)10時33分52秒
- 最後なので、思い切ってage。
終わりです。
数少ないながらも読んでくださっていた方、
レスをつけてくださった方、本当にありがとうございました。
励みになりました。
最初は、エピローグのところの、つまり吉澤も高校を卒業した後のことも
小説にしようかと思っていたのですが、それだと冗長になってしまうので、
まとめさせていただきました。
展開早すぎですかね??
最後の最後は現実的な話ではありませんが、
でもそういう形もあってもいいな、って思っています。
>ポロポロさん
ありがとうございました。
期待にそえるような結末を書けたでしょうか?
まだ容量が残っているので、一回読みきりできるぐらいの短編も
いくつかあげたいと思っていますのでよろしくお願いします。
- 129 名前:ポロポロ 投稿日:2002年09月14日(土)10時55分20秒
- お疲れ様でした。
なんとなく、現実的な終わり方で悲しい方向なんだろうなぁって思ってたんですけど、
いくら現実でも、それは悲しいなぁって。
リアルなことなんだから仕方ないのかなぁって悲しかったんですけど。
最後には救いがあってよかった。
いつまでも、二人で一緒に入れる終わり方ですごい良かったです♪
マジでお疲れ様でした。次回作も大期待です♪
悲しい話も楽しい話も大期待してるんでがんばってください
- 130 名前:旅人 投稿日:2002年09月16日(月)17時40分52秒
- >ポロポロさん
レス、本当にありがとうございました。
こういう話は受けないのかな、とかつまんないかなあって
結構凹んでもいまして。(笑)
救われました。いや、マジで。
で、凹みつつも、やっぱりネタが浮かんじゃうと書かずにいられないわけで。
それにこのスレッドもまだ余っているからなーということで、
まずショート・ショートを書きます。
しばし、お付き合いくださいませ。
- 131 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時42分14秒
一面に広がる花畑を見てみたいな。
何の花がいいの?
うーん。菜の花とか向日葵とか。
ピンクの花じゃないよ?
ちょっとー。確かに私ピンク好きだけど。
あー、ラベンダーとかチューリップもいいな。
北海道に行けばぁ?
もー。ひとみちゃんっ。
- 132 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時42分45秒
ベッドの上でごろごろ。
今は何時だ、と時計に目をやると、2時を過ぎてた。
あー。
なんで行っちゃうんだよ。
ひとみは電気を落とすと、枕をぎゅっと抱きしめて眠りに落ちた。
うーん・・・花畑か。どうしよう・・・
始まりは今日の昼だった。
「私、1年間留学するの。」
ウチの部屋に遊びに来た梨華ちゃんがドアを開けるなり言った台詞。
「へ?」
頭がついていけない。
「ニュージーランドに行くんだ。最低でも一年。」
「最低でも、って?」
つか、ニュージーランドってどこだっけ。
赤ちゃんがたくさんいる国はどこ?
乳児ランド。
ニュージーランド。
「ひとみちゃん、ニュージーランドってどこだかわかってる?」
・・・ばれてる。
「オーストラリアの近くだよ。
オーストラリアはわかるよね?」
それぐらい、わかる。南半球でしょ。
季節が日本と逆なんでしょ。
- 133 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時43分44秒
- 「なんで、行くの?」
「留学。語学の勉強したくて。」
梨華ちゃんは英文科2年生。
英語をしゃべれるようになりたい!と言っていたのは知ってる。
だから、留学、かあ。
でも、「最低でも」って?
「ねぇ、最低でも、ってどういう意味?」
梨華ちゃんはその時に初めて、ちょっと困ったような、
寂しそうな顔をした。
「んとね、一年間は必ずそこにいなくちゃいけないんだけど、
その後は、成績と本人に希望によって、期間を延長できるの。」
「こっちの大学は?」
「単位は、向こうで取った分も卒業単位として認めてもらえるから。」
喉が、渇く。
無理矢理唾を作って飲み込む。
「いつ、出発?」
よかった。声は震えていない。
「12月26日。」
- 134 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時44分17秒
「半端だね?」
普通は夏休みから、とかじゃないんだろうか。
「うん。半端なんだけどね。
でもホストファミリーの人が、一緒に新年迎えましょうって言ってくれているらしくて。
だから。」
「そっか。」
「うん。それから、向こうの生活に慣れてから
大学に通った方がいい、というのもあって。」
それ以上、何もいえなかった。
梨華ちゃんが留学したがっていたのは知っている。
うん。
ほら、よかったねって笑顔で言わなきゃ。
「ひとみちゃんも勉強頑張ってね?資格取るんでしょ?」
「うん。」
ウチは福祉学科1年生。
社会福祉士の国家試験は4年の冬だけど、
それを受けるための、ようするに受験資格をとるためには、
受けなければならない講義がたくさんある。
これがなかなかきつかったりする。
この、留学の報告から話がそれて、花畑が見たい、と
梨華ちゃんがいいのだした、というわけなのである。
- 135 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時44分53秒
梨華ちゃんの出発はまだまだ先。
だって今は10月だから。
花畑、かぁ。
留学、かぁ・・・・・・
うーん。
「最低でも1年」なのか。
どーしよう。
告白とかしたいんだけどな・・・
でもなぁ
もし、付き合ってくれたとしても、
向こうでいい人に出会うかもしれないし。
だってほら、「去るもの日々に疎し」っていうじゃん。
・・・・・・だって、いくらなんでもこの年になったらわかるから。
「この痛みは一生消えない」
とか
「離れていてもずっとずっと忘れない」とか。
「一生」なんてものはないんだって。
この痛みも何もかも、忘れていくんだって。
それが人間。ザ・人間。
あーあ。
- 136 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時45分25秒
「臆病者」
翌日、学食を一緒にとっているときに
ごっちんにしれっと冷たく言われた。
そのままごっちんは黙々とすき焼き丼を食べている。
・・・それ何杯目?
「臆病者吉子」
「ごとーさん。一回でいいです。」
「馬鹿吉子」
「いや、もういいです」
「ま、勝手に不幸になってればぁ?」
「・・・・・・」
冷たい。冷たい。ごっちん冷たいよ
「だってさ。吉子、逃げてるだけだもん」
ぐぅ。
「いいから、気持ち伝えなって。
先のこと考えてどーすんのさぁ」
はい、仰るとおりです。
出発するまでには絶対に伝えよう。
とつぶやいたらまた言われた。
「今は10月。梨華ちゃんの出発日はいつ?」
「・・・いや、ウチだってね、ほら、考えているのよ?」
「んあ。何を?」
しれっとウチをみるごっちんの目がちょっと怖いんですけど。
「2ヶ月間、たっぷり遊んで、ウチを目いっぱいアピールして。
そしてクリスマスに告白。」
「・・・うん。頑張ってね」
そこでごっちんはようやく、ふにゃーと笑ってくれた。
- 137 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時45分59秒
ウチは計画実行。
どこにでも連れて行った。梨華ちゃんが希望した場所には何処にでも。
いろんな話をした。
時の流れるのってホント早い。
気づけばもうクリスマスが目の前に迫っている。
・・・クリスマスに告白。
うん、告白するんだ。頑張るんだ。頑張れ、ウチ。
それに、アレもうまくいったし。・・・懐がめっちゃ寒いけど。
手も腰も痛いけど。
「梨華ちゃん、こっち、こっち」
梨華ちゃんにバンダナで目隠しをしてあるところに誘導していった。
「怖いよぉ」
怯えながらも、ウチの手をしっかり握ってついてきてくれる。
おし、着いた。
「梨華ちゃん、もういいよ。」
そういって、優しくバンダナを外してあげる。
いきなり目を刺激した太陽の光に目を細めた梨華ちゃんの目が
今度は大きく見開かれた。
「・・・え? 何これ? うわー・・凄い・・・どうしたの、これ?」
梨華ちゃんは驚きと喜びの混ざった顔、
まさしくウチの想像通りの顔でウチを見た。
そしてまた前に目をやる。
- 138 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時46分32秒
「梨華ちゃん、クリスマスプレゼント。そしてウチの気持ち」
「え・・・」
「花畑、見たいって言ったじゃん。」
「でもなんでこんな冬に・・・?」
「愛です。」
「え?」
「梨華ちゃんへの深い愛は不可能を可能としてくれたのです」
「ひとみちゃん!」
いきなり抱きつかれた。
よろけて後ろに倒れる・・・はずなどなく。
ウチもしっかり梨華ちゃんを抱きしめる。
「1年でも2年でも待っているから。
だから、留学頑張って。」
「うん。待ってて?メールするから。電話するから。」
そこに広がるは花畑。
菜の花も向日葵もラベンダーもチューリップもある。
必死であちこちの温室や花屋に頼みこんで買ったり貰ったりしたもの。
それをまた必死で土を耕して植えた。
富良野盆地のような広大な花畑みたいになんて無理だったけど。
ぜいぜい10坪程度の土地。
おじーちゃんに感謝、感謝。10坪程度の空き地あってよかった。
- 139 名前:花畑の向こうで 投稿日:2002年09月16日(月)17時47分03秒
12月26日。
梨華ちゃんの出発日だ。
今はウチと梨華ちゃんしか、いない。
「ひとみちゃん。プレゼントありがとう」
こつんと梨華ちゃんはおでこをウチの肩にぶつけた。
「ひとみちゃん、いっつも私の願い叶えてくれるね・・」
「ウチは梨華ちゃんだけのサンタクロースだからねえ」
「あの花、持っていけたらいいんだけどね・・」
「へへ。梨華ちゃんが帰国したら、もっとすごい花畑見せたげる」
あーあ、行っちゃった。
さて、今度こそは自分で種まいて、一から育てたのを見せよう。
「すいませーん。ここ、何の種がありますかー?」
- 140 名前:旅人 投稿日:2002年09月16日(月)17時47分55秒
- 『花畑の向こうで』終了です。
今度は軽いタッチのものにしてみました。
- 141 名前:ポロポロ 投稿日:2002年09月17日(火)18時30分44秒
- お!ショートショート♪
カワイイ^^愛っていいねぇ♪
- 142 名前:旅人 投稿日:2002年09月27日(金)18時11分48秒
- ポロポロさん
愛っていいっすよねえ♪
梨華ちゃんが帰国する時は、さらによっちぃの愛情がこもった花畑が
広がっているはずです。うん。
さて、新作、と言っても短編です。
前編後編に分けようかな、とも思っていたんですが、
一気にあげることにしました。
是非、よろしくお願いします。
- 143 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時13分04秒
「ドアが閉まります。ご注意ください」
階段を降りきるのと同時に、無常にもドアが閉まった。
あーあ、乗り損ねちゃった。
今日はもう学校に行く気がしない。
いや、一応高校生。3年生。受験の身。
遅刻してでも、行くべき、なんだろうけど。
というより、いつも余裕を持って家を出ているから、
次の電車に乗ったって十分に間に合うんだけど。
つぅか、今日は終業式なんだけど。
でももう今日はそんな気になれない。
回れ右して、今降りたばかりの階段を登る。
改札口を出て、家とは反対方面に曲がった。
「Petunia(ペチュニア)」という紅茶専門店のドアを開ける。
- 144 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時13分50秒
カランコロン
鈴の音が心地よく響く。
「いらっしゃいませー」
店員がこっちにきた。
「あ、誰かと思えば石川じゃん。
ガッコはどうしたー?」
保田さんだった。
彼女はここの店長さん。
私はここの常連になっていたから、
顔なじみになっていた。
保田さんは理由を特に追求することなく、
私を一番奥の隅の席に案内してくれた。
そこは私の指定席。いつも私が座っていた場所。
- 145 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時14分23秒
「久しぶりだね。
んー。一ヶ月振り、ぐらいかな?」
あー、そうか、一ヶ月振りになるんだ・・・
「恋でもしてて、忙しかったんじゃ?」
そう言って笑いながら保田さんは奥に引っ込んだ。
いつもの、でいいのかしら?そういいながら。
「はい、いつもので。
ところで、わかりますか?」
「うん、わかるよ。恋が終わった顔しているもん」
- 146 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時14分56秒
そう、私は昨日彼氏と別れた。
今日はクリスマス・イブなのに、そのイブを目前にして別れたのだ。
彼と出会ったのはクラスが一緒になった3年生の春。
でも最初は名前と顔が一致している程度で、会話なんて無かった。
それが、2学期に入って一番最初のL.H..Rでの席替えの時に
隣同士になった彼は、こともあろうに、最初の授業の時に教科書を忘れてきたのだ。
「教科書を見せてください。」
そう言ってきた彼と、その日は教科書に目をやることはあまりなく
彼との筆談に時間を費やしていた。
それから彼と声を交わすようになった。
「角煮ラーメン好きなの」と言ったら、
彼は驚きと共に目を輝かせて、
「俺も。もしかして、真夏の光線だなんていう、
ラーメン屋っぽくない名前のところのじゃない?」
「うん、そう!知っているの?」
「知ってる、知っている。俺もあそこ好き。
すげぇうまいんだよな。
今日部活終わった後一緒に食いに行こうよ」
- 147 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時15分31秒
その日から、二人の距離はぐんと近づいた。
一週間に一回は角煮ラーメンを食べた。
「恋人」という存在に昇格したのは、冬の訪れを感じ始めた11月半ばだった。
早い話、彼の誕生日に付き合い始めたのだ。
思えば私と彼の恋愛はラーメンに始まって、ラーメンに終わった。
落葉樹の葉もすっかり落ちた頃。
私はもう、角煮ラーメンは好きではなくなっていた。
多分それは彼も同じだったんだろう。
一昨日、私と彼は、いつものように 真夏の光線に行って、
角煮ラーメンを食べていた。
その日は、私がいくらクリスマスの話題を持ち出しても、
彼はそっけなかった。
それまでは、
「クリスマス、何処に行こうか?」とか
「何か欲しいものある?」とか
そんな風にして、二人で予定を立てるのを楽しんでいたのに。
- 148 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時16分05秒
「別れよう」
彼は出し抜けに切り出してきた。
「そうね。」
私は無意識のうちに、でもごく自然にそう返していた。
クリスマスまではわかれることはないって思っていたけれど、
でも予期していたといえば予期していたことだったから。
その日、初めて、二人とも角煮ラーメンを残した。
恋愛ってこんなにあっけないものなのかしら?
その日の帰り道、私は街を歩きたくなかった。
街も、人もみんなクリスマスの為に活動しているように見えたから。
私のクリスマスはどうなるの?
一人残された気分だった。
ため息をつくと、妙に孤独感と寂寥感に駆られた。
「私のクリスマスはどうなるの?」
保田さんに、一ヶ月の恋のいきさつを話し終えた私は、
言ってもどうにもならないのに、それでもまたつぶやいていた。
「クリスマスなのに・・・」
- 149 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時16分37秒
保田さんは奥のカウンターから出てくると、
一杯の紅茶を持ってきた。
「今日はいつものじゃなくて、特製ブレンドよ。
きっと気分が晴れるわよ。」
その時の保田さんの顔は、幼い子供に
子守唄を謳っているお姉さんのような顔だった。
「ありがとうございます。」
カップを手に取り、口元にもってくると、
甘い香りが鼻腔を刺激した。
その甘い香りは眠気をも誘った。
その香りに誘われるままに目を閉じて紅茶を口に含むと、
別世界にいけそうな気がした。
- 150 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時17分14秒
お母さんの温もりに抱きしめられて、
あやされているような心地よさを感じながら目を開けると、
目の前になぜか一人の女性が座っていた。
女性、といっても、中性的な感じがする。
きっと見ようによっては男性、いや、少年にも見えるのではないのだろうか。
多分、同い年、もしかすると1つや2つぐらい年上かもしれない。
ちょっと大人びたような、それでいて無邪気な感じもする、
とにかく不思議な空気をまとった子だった。
彼女は私と同じ紅茶を注文していた。
飲もうとする前に、匂いをくんくんかいでいる。
何故、私以外客がいないというのに、
他にいくらでも席が空いているというのに、
何故わざわざ私と相席しているんだろう。
待ち合わせでもしていたかしら?
そう錯覚してしまいそうになるほど、
彼女の登場は自然すぎた。
- 151 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時18分10秒
「あたしの名前は吉澤ひとみ。ひとみって呼んでよ。
君の名前は?」
唐突に、その子は自己紹介を始めた。
甘さを含んだ、少し低くて優しい声だった。
心地よく耳に届く。
「梨華。石川梨華。」
何故だからわからないけど、心臓の鼓動がうるさい。
これはきっと、温かい紅茶を飲んだからだ。
この喫茶店の中が暖かいからだ、などと必死で言い訳を考える。
「梨華ちゃんかぁ。」
へへっと人懐っこく笑うと、ひとみは身体を乗り出して、
興味津々という顔で聞いてきた。
「今日はクリスマス・イブだねえ。どんなイブを過ごす予定なの?」
- 152 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時19分22秒
初対面にしては馴れ馴れしいな、と
ここで初めて警戒心を抱くも、
ひとみの透き通るような綺麗な肌と瞳に見とれていた。
かわいい。格好いい。大人っぽい。子供っぽい。
少女。少年。女性。男性。
クール。無邪気。
どの言葉も当てはまり、でもどの言葉も当てはまらない。
一言で片付けられない不思議な空気を持っている。
その瞳の奥には、一種の芯の強さと、射るような鋭さも潜めているように感じた。
「どうしたの?あたしの顔に何かついてる?」
ひとみが顔を覗き込んできた。
そこでようやく、ずっとひとみの顔に見ほれていたことに気づき、
顔が思わず火照ってくる。
慌てて首を横に振った。
「イブの予定なんて、ないわ。」
そっけなく聞こえちゃったかしら?
でもしょうがない。本当のことだし、それ以外に答えようが無い。
「じゃあ、あたしと一緒に過ごそうよ。」
「え?」
- 153 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時19分52秒
耳を疑った。
軽い冗談なら、聞き流した方がいいのだろうか。
でも本気で言っていて欲しい、そう思った。
ひとみと一緒に過ごしたら。きっと楽しいだろうなあ。
そう直感したから。
賭けてみよう。
顔をあげて、ひとみと目をあわせる。
「本当に?」
もしかしたら、顔は真っ赤だったかもしれない。
目も潤んでいたかもしれない。
ひとみはまっすぐに私を見ていた。
私もひとみの目を見ている、そのことにひとみが気づくと、
照れくさそうに笑って、首をすくめた。
目はずっとこっちをみているけれど、
口元が照れくさそうに、何かをいいたそうにもごもごしている。
「本当だよ。一緒に過ごそうよ。」
嬉しさとワクワクする気持ちで胸が一杯。
「うん」
即答していた。
- 154 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時20分27秒
紅茶はまだ半分ぐらい残っていたのだが、
「Petunia」を後にし、私とひとみはいろんなところに行った。
尽きることなく話し続け、でも話し足りなかった。
何処に行ったのかも把握できないぐらいに、
いろんなところに行った。
そういう行為をしたわけでもないのに、
私は、腹部にじんわりとひろがる快楽を感じていた。
いつのまにか、「Petinua」に戻り、二人で紅茶を飲んでいた。
外はもうすっかり日が暮れている。
「今日は素敵なクリスマスイブをありがとう。
本当に楽しかった。」
ひとみは照れながら、
「あたしも・・・」と消え入りそうな声で言っている。
さっきまであんなにお喋りだったのに、
今は挙動不審になっている。
下を向いたり、明後日の方を見たり、
カップの中をのぞいたり、
かと思えば、意味もなく私の顔を覗き込んできたり。
- 155 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時21分34秒
ひとみは意を決したようにようやく口を開くと、
今にも消え入りそうな声で、
「あのぅ・・・・えっと・・・・・
これからも、お会い・・・・・・したりとかぁ・・・・・
出来ない・・・・かな、って・・・
そのぅ・・・・思ったりしちゃってるんですけど・・・・
そのぅ・・・どう、でしょうか・・・・・」
ひとみは明らかに恥ずかしがっていて、
よく耳を澄ましていないと聞き取れないぐらいに小さな声だったけど、
それってつまり、
今日だけじゃなくて、これからも会いたい、
そういう意味なのかな?
私もひとみとこれからも会いたい。
もっとひとみを知りたい。
それは梨華の偽らざる本音だった。
だけど・・・
- 156 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時22分10秒
ひとみを好きになってきていると気づくのと同時に、
胸の奥に不安が募っていくのを感じられずにはいられない。
ひとみといるのは楽しい。
ずっとずっと一緒にいたい。
だけど。
こんな幸せは長くは続かないだろうし、
そのうちにお互いの嫌な面が見えてくる、
そう思うと怖かった。
前の彼のように、あっさり別れてしまうのが怖かった。
だったら。
このまま、今日限りの、甘い夢として終わらせてしまいたい。
私は胸を締め付けるような苦しみを誤魔化すために、
残りわずかな紅茶を飲み干した。
甘いはずの紅茶はやけに苦く感じられた。
最後に残るのは、
最後に待っていたのは
苦味だけなの?
それはこの恋の行く先を暗示しているように感じられた。
- 157 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時22分43秒
楽しい時は楽しくて。
でもすっと消えてしまうものなのかもしれない。
前の恋を引きずるわけではないけれど、
臆病になってしまう。
「ひとみちゃん、あのね・・・」
言葉に詰まる。
何をどう言ったらいいんだろう?
私は今日という日をどうしたかったの?
誰でも良かったの?
ううん、違う。
ひとみだったから。
だから一緒に過ごしたいと思えた。
それは確かな答え。
だからこそ、怖い。
ひとみと時を重ねるごとに、
今の気持ちも、楽しい日々も薄れてしまうんじゃないかって。
深いため息をついた。
制服のスカートを握り締める。
いつしか、願っていた。
楽しかったクリスマスイブが、ずっとこのまま楽しい思い出のままでいられますように。
だから、
全てここで終わりにしよう。
- 158 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時23分19秒
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「石川、起きて。」
聞きなれた声。
両目を擦りながら身体を起こすと、
保田さんがすぐ傍に来て、微笑んでいるのが見えた。
「あれ・・いつの間に?」
ひとみはいなかった。
店内を見渡しても、そこにはがらんした
店内があるだけだった。
ひとみとの出会いも、すべて夢だったんだろうか。
これでよかったんだ。
楽しい思い出は、楽しい思い出のままで。
今、私は悲しいぐらいに現実にいる。
- 159 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時24分21秒
「ペチュニアって花知ってる?」
唐突に保田さんが尋ねてきた。
「ペチュニア・・ですか?このお店の名前ですよね。
花だったんですか?」
「そうよ、花よ。パンジーに似た感じかな。
花言葉はね、『あなたといると心が休まる』なの」
「あなたといると心が休まる・・・」
そうよ。
そういうと、保田さんは、沸いたお湯を見に、奥に引っ込んだ。
ひとみといると、心が安らいだ。
でも、今ここにひとみはいない。
大体、あれは現だったのだろうか。
夢か、現か、幻か。
楽しかったはずなのに、なぜだか沈んだ気持ちのまま
テーブルに目を落とす。
- 160 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時24分56秒
え?
飲み終わった後のカップが二つ。
ひとつは私の。
もうひとつは?
ひとみの?
ひとみと過ごしたのは夢じゃなかったの?
ああ、こういうものなのかな。
ふと思った。
失ってみて初めて気づく。
原点みたいなものに。
二人の時間は確実に、このカップに存在していた。
もう戻らない。
そんな当たり前のことに気づくのはいつだって最後の最後。
私は、何を望んでいたんだろう?
- 161 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時26分14秒
自分のことしか考えていなかった。
それでも最後まで傍にいてくれた彼女。
あいまいな言葉と態度で、きっと傷つけた。
楽しいことだけが続けばいいと思っていた。
でもそれでは何も分かり合えはしない。
それでは本当の愛は育めない。
もしかしたら、ひとみも孤独や苦しみを抱えていたのかもしれない。
あの笑顔の向こうに。
でも私は知ろうともしなかった。努力もしなかった。
もしかしたら、お互いに嫌なところも認め合えて、
それもひっくるめて好きと言えたなら。
それこそが、本当の悦びに変わるのかもしれない。
もう一度、ひとみに会いたい。
私は店を飛び出した。
ディナータイムに差し掛かった街並みは、
あちこちからいい匂いが漂ってきている。
その中を必死で走った。
私より少し背の高いひとみを。
茶色がかかったその髪を。
少年とも少女とも取れる中性的な空気を。
透き通るようなその肌を。その瞳を。
優しい声を。優しいまなざしを。
必死で探した。
- 162 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時26分49秒
足は棒のようになっている。
どこにもひとみはいない。
戻ろう。
Petuniaに戻った。
ドアを開けると、やっぱり鈴の音が鳴り響いた。
目を疑った。
奥のほうに、私の指定席の向かい側に、
私の探していた背中があった。
「ひとみちゃん!」
振り向いたのはまさしくひとみだった。
待ちくたびれたような表情と、再び会えた嬉しさの
入り混じったような、照れくさそうな顔をしていた。
思わず駆け寄って、ひとみの向かい、
つまり私の指定席に腰を下ろすと、息をつく間もなく叫んでいた。
「私、ひとみちゃんとずっと一緒にいたい。」
- 163 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時27分24秒
- ひとみはいたずらっこのような顔をすると、
「あたしね、実はさ、ずっとここでお手伝いしていたんだよね。
ガッコ、行ってないから。
だけど、接客ってなんか苦手だからさ、いつもキッチンにいたんだよね。
梨華ちゃんのこと、知ってたんだよ。
来るたびに話し掛けようかなって思ってんたんだけど・・・。」
「照れくさくてできなかった、でしょ?」
うん、とひとみは小さくうなずくと、
「でも、そしたら、一ヶ月ぐらい、全然来なくなっちゃうし。」
拗ねたようにいうひとみが愛しかった。
「でも、またここに戻ってきたでしょ?」
今度は私がいたずらっぽく笑った。
- 164 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時27分57秒
Petunia。
貴方といると心が休まる。
それは、ひとみ。
ひとみといると、心が休まるから。
後日、保田さんがこっそり教えてくれた。
「石川の好きなピンクのペチュニアはね、自然な心、という花言葉なの。
吉澤の好きな白の方のはね、安らぐ心」
ひとみにぴったりだ、そう思った。
私が一番心が安らぐ場所。
それは「Petunia」であり、ひとみだから。
あなたの「Petunia」は誰ですか?
- 165 名前:Petunia 投稿日:2002年09月27日(金)18時28分37秒
〜終〜
- 166 名前:ポロポロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時47分04秒
- いやぁ、いいですなぁ^^なんかあったかい気持ちになりました。
つか、知らなかったペチュニアってそういう花言葉だったんですねぇ♪
何も知らずに中学の時育てさせられてましたよ^^;
- 167 名前:オガマー 投稿日:2002年09月28日(土)01時15分32秒
- すごくよかったっす!
ハラハラしてドキドキして。
ポロポロさんと同じく温かい気持ちになりました。
- 168 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)22時31分09秒
- 「月明かりの下で」を読んで中学時代を思い出しました。
俺が好きになったのは、この小説で言えば吉なんだけど。
俺が男の良さをおしえてやるよ、とか今から思うと酷い事言った。
でも、山崎の気持もわからなくもないです。
すんません、わけわからんレスで(しかも長い爆)
それだけ作者さんの描写がリアルですばらしいのです。
- 169 名前:旅人 投稿日:2002年10月01日(火)22時58分59秒
- >ポロポロさん
いつもありがとうございます。
温かい気持ちになれました?よかった、よかった(0^〜^0)b
花言葉って調べてみると案外面白いんですよねー。
アジサイは浮気、とか。そういうとんでもないのもあります。(笑
>オガマーさん
ありがとうございますー。
私、オガマーさんのこともよく(?)存じあげております。(w えっへっへ
>168 名無し読者さん
ありがとうございます。
実は、屋上のシーンは、その「俺が男を教えてやるよ」と
山崎が吉をレイプしかける…というのも考えてもいたんですが、
さすがにそれは止めておきました。止めておいてよかったと思っとります。
その話は「リアル」を心がけていました。
なのでそう言っていただけて嬉しいです。
・・・・・・最後の最後の方はリアルじゃなかったけど。
だからかな、「風呂敷を上手に畳むのって難しいんだろうね」と言われてしまいますた。(苦笑
まだ容量が余っているのか…。
またネタが思いついたら書こうと思っていますので、
その時はよろしくお付き合いください!
- 170 名前:旅人 投稿日:2002年11月09日(土)23時10分03秒
- ネタを考えるのって本当に難しいなー…
駄文、しかもまだ出来上がっていないのですが、
とりあえずあげてみます。
圭ちゃん視点で進みます。
駄文にまたお付き合いいただけたら嬉しいです。
- 171 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月09日(土)23時12分33秒
- 全く。あの二人は仕方ないわね。
保田圭はため息をついた
目の先には石川と吉澤が離れて立っている。
離れて、というのはおかしいかもしれない。
なぜなら二人の間に辻と加護がいるからだ。
そして吉澤をはさんだ隣にはカオリがいる。
吉澤は加護に抱きつかれたり、抱きついたり、
カオリとじゃれ合ったりしている。
一方石川は、といえばこちらは辻とじゃれあっていた。
はたから見ればただの仲良しグループ。
でも保田は気づいていた。
石川が吉澤のことを気にしているということを。
- 172 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月09日(土)23時13分15秒
全く・・・。
もう何回目になるのかわからないため息をつく。
少し前の、石川の台詞がフラッシュバックする。
「よっすぃが焼餅焼いてくれるかどうか、試してみたいんです。」
なんでそんなのを試したいのよ?
そう聞く保田に石川は泣きそうになりながら
「よっすぃ、いつもいつも誰かとじゃれあってばかりで。
それは別にいいんですけど、ただ、なんか・・・私が思うばかりなのかな、って。
もし私が他の人にモーションかけられたら、よっすぃはあっさり
私のことを手放しそうな気がするんです。
もしそうなら、傷が深くならないうちに諦めて別れようと思うんです。」
そう答えた。
「吉澤も石川のこと、本当に好きだと思うんだけどね・・・」
「それが、わからないんです。保田さんは、どうしてそう思うんですか?」
どうして。
保田は石川のその問いに答えられなかった。
どうして?
- 173 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月09日(土)23時13分51秒
- なんとなくの勘で、吉澤も石川のことを本気で好きな気はする。
でもその一方で、石川が不安を感じるのも無理もない、と思った。
周りが言うほど、吉澤はフワフワしているわけではない。
確かに吉澤はいろんな人とのスキンシップが多いし、されても拒まない。
過剰に見えるスキンシップをする時もある。
だけど。
顔が、明らかに違う。
加護とじゃれあっている時は年上の子が年下の子をあやすような感じだし、
カオリとじゃれあうのは、単にふざけているだけなのが良くわかる。
でも石川に対しては。
ふざけている、という様子も、あやしているという様子も全く見られない。
むしろ、愛しい人を見るような目を、いや、実際に愛しい人ををみているのだが、
とにかく、そういう感じだ。
そのことに、石川は気づいていない。
でも、気づけ、というのも無理ないかもしれない。
当事者というのは案外盲目的になるものだ。
例えば将棋や囲碁も、対戦している本人にはわからなくても
第三者から見ると戦局がよくわかる。
それと同じなんだろう、きっと。
- 174 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月09日(土)23時15分13秒
でも。
だからといって。
よっすぃの目の前で肩を組んでください、ってねえ・・・
私が吉澤に殺されたらどうするのよ!
これは保田の勘だが。
吉澤はああ見えて、意外と嫉妬深いのではないのだろうか。
その嫉妬深さを隠すために、あえていろんな人とじゃれついているような気もする。
そして吉澤は。
本心をそう簡単に出すタイプではない。
だからこそ、怖い。
石川の頼みを引き受けてしまったことを後悔していた。
- 175 名前:旅人 投稿日:2002年11月09日(土)23時15分52秒
- 今日はここまで。
続きはまだ出来ていませんが、完結させます。
ではお休みなさい…
- 176 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月10日(日)20時28分11秒
- もう1つ、気が重い理由が、実は保田にはあった。
それは保田も、石川が好きだったということ。
ただの教育係として、娘。の仲間として接することに疲れたのはいつだったか。
温泉旅行に誘って、喜んでついてきた石川を
押し倒したくなったことも、石川は知らない。
どんな思いで矢口や辻のように石川にキスを迫っているのか、
石川は知らない。
石川が甘えるように手を繋いでくれる時に、
嬉しさと切なさが保田の胸をいつも締め付けていた。
- 177 名前:旅人 投稿日:2002年11月10日(日)20時28分44秒
いつも頑張って、空回りして、落ち込んで、
それでも自虐しつつも頑張って笑って、いつしか勝ち組となっていく。
そんな石川に嫉妬を覚えなかったといえば嘘になるが、
それでもやっぱりそんな石川がまぶしくて、
そのくせいつも危うくて。護ってあげたかった。
石川を護っているのは自分なのだと思っていた。
吉澤と石川が付き合っているということを知った時、やっぱり、という思いと
もし私が先に告白していたら?という後悔、嫉妬心が交差した。
あんなにいろんな女にふらふらしている吉澤なんかを
どうして、どうして、と思った。
- 178 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月10日(日)20時29分29秒
ライブ前に緊張している石川の手を握って
安心させる役目も、いつしか吉澤の役目となっていた。
いつしか、石川を護るのは吉澤の役目となっていた。
石川を護るのは自分だと、今もこれから先も自分なのだと思っていたのに。
私の方が、吉澤なんかよりも大切に出来るのに。
年下の吉澤なんかより、年上の私の方が大人なのに。
石川みたいなのは、年上で護って上げられる人の方がいいのに。
どうして、どうして。
どうして、吉澤なの?
私も石川と同期だったなら。
石川は私を選んでくれた?
- 179 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月10日(日)20時30分05秒
保田はそこでふっとため息をついて力なく笑った。
答えなど、とうに判りきっているではないか。
たとえ保田も石川の同期となったとしても、
それでも石川は吉澤を選ぶだろう。
同じクラスだったら、友達になっていなかったかもしれないね、などと
あの二人は話していたらしいけど。
でもそれは違うと思う。
確かにタイプの違う二人だ。
グループは勿論別になるだろうし、機会でもなければ、言葉を交わそうともしないだろう。
でも、一端言葉を交わしてみたら。
絶対にお互いに気になる存在になるはずだ。
自分とは対照的な人間を目の前にした時どうなるのか。
何があっても、同じ「輪」の中に入れば、
間違いなくお互いはお互いを探し出すだろう。
- 180 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月10日(日)20時31分58秒
「全く、ね。」
少しはなれたところに座っていたカオリが圭ちゃんどうしたの?と
声をかけてきたのに気づかない振りを保田は立ち上がった。
吉澤。
覚悟してなさいよ。
私だって、石川が好きだったんだから。
- 181 名前:旅人 投稿日:2002年11月10日(日)20時32分49秒
- 圭ちゃんの心境編、でした。
つまんないすかねえ。スイマセン
- 182 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月10日(日)23時08分28秒
- つまらなくないですよ〜
これからの展開が楽しみです。
更新待っています。
- 183 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月11日(月)00時49分55秒
- 圭ちゃん、せつないですねぇ・・
う〜ん、吉はどう感じてるんだろう?圭ちゃんの気持ち、知ってる
のかなぁ・・
面白いですよ。楽しみにしてますので、頑張って下さい。
- 184 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月13日(水)21時05分27秒
ごめんね、吉澤。
もっと早くに知っていたなら、傷つけずにすんだのに。
うぅん、わかってはいたんだと思う。本当は。
でも試してみたかった。
そして。
あわよくば、吉澤から石川を奪い去ってみたかった。
- 185 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月13日(水)21時06分55秒
さて、どうやろうか。
ただ肩を組むだけじゃ、別に吉澤はそんなに焼餅を妬かないだろう。
「肩を組む」
たったそれだけの行為なのに、ひどく難しいことのように感じられた。
そしてひどくエロティックな行為にも感じられた。
ただ、石川と肩を組むことなんて、割といつもしている。
そこを敢えてそう頼んできたということは、
やっぱりそれらしく見えるように肩を組んで欲しい、ということだと、
それはわかるんだけど・・・
「肩を組む」ぐらいしか発想がなかったのか、
「肩を組む」ということに、石川には特別な意味があるのか。
さてはて。
- 186 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月13日(水)21時07分42秒
でもね、石川。
あんた気づいてないと思うけど、
私が肩を組もうとするといつも肩と背中に力を入れているのよ。
手なんてちょっと不自然に内側に入るし。
吉澤が肩を組んだときだけだものね、自然なのは。
ちょっと酷だなあ・・・
保田はその事実を思い起こしてブルーになっていた。
でも。
頼んできたのは石川の方なのだから。
ちょっと好き勝手やらせて貰うわ。
- 187 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月13日(水)21時10分05秒
ある日の撮影のゲームのヒトコマ。
保田のちょっと不穏な雰囲気を感じたのだろう、
吉澤はさっきからしきりに保田を気にしている。
無論、保田は気づいていた。
周りの人は多分誰も気づいていないだろう。
そのぐらい、吉澤の演技は巧かった。
目の前のゲームに熱中しているように見せかけて、
ちょっと目を細めてちらちら保田の言動を伺っている。
じっくり吉澤のことを観察でもしない限り、特に気づかないだろう。
吉澤を訝しく思うものはいない。
保田を除いては。
- 188 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月13日(水)21時10分41秒
ホント、敏感な奴。
でもちょっとわざとらしいよね、その演技。
まぁ、私以外にはばれないだろうけど。
保田は石川と吉澤の位置関係を確認すると、うまく石川の隣に割り込む。
石川もわかっているのだろう、身体をずらして入れてくれた。
そして保田は吉澤からも見えるように少し身体を後ろに下げる。
吉澤が目の前で繰り広げられているゲームに集中しているように見せかけて、
その実はまったく違うところに注意がいっていることを確認すると、
保田はそっと石川の剥き出しになった肩に手を置く。
途端に吉澤の顔が一瞬こわばった。
その刹那、吉澤は歓声を上げ、目の前でのゲームの応援をし始める。
あんた。どう考えてもそのタイミングはおかしいわよ?
うまくいったかしら、などとほくそえみながら石川に目をやると、
石川は吉澤の変化には気づかなかったらしく、ずっと前を向いていた。
―おい!あんたも吉澤を見なきゃ意味ないのよ!
- 189 名前:旅人 投稿日:2002年11月13日(水)21時14分44秒
- 駄文だとはわかっていても、やっぱり誰かに読んでもらいたいのが
人間の(というか作者の)悲しい性…それが人間の本能なんだなぁ、と
じみじみ思ってます。
レスをくれた方、本当にありがとうございます。
吉の圭ちゃんに対する思いは、後日じわじわと出る、予定です。
予定…。
- 190 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月13日(水)22時56分46秒
- >189
おータイムスタンプが1444だ(#´▽`)´〜`0)
更新お待ちしていました。
ラストフレーズに笑わせていただきました。
練った計画もイシカーさんにかかったら…w
じわじわを楽しみにしています。
- 191 名前:ポロポロ 投稿日:2002年11月18日(月)11時14分09秒
- あ!復活してる♪やった☆
作者さんの大好きなんでね^^期待させていただきます
- 192 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月18日(月)21時33分16秒
「あんたも吉澤の顔をみなきゃ意味ないでしょ!」
「・・・」
石川は俯いていて、表情がいまいちうまく読めない。
「肩を組んだときに、吉澤がどんな顔をするか見なきゃ、
焼餅妬いたかどうかもわからないでしょうが」
「・・・・・・です」
「だから、今度はちゃんと見なさいよね。いい?」
「よっすぃ、何も言ってくれないんです。」
「そう、わかればいい・・・え?」
「よっすぃ、何も言ってくれないんです」
保田の問いとは全く違うことを、石川は顔を上げて、
でも目は下を向いたままでそう言った。
実は石川はもうだまっきりだな、こりゃ、とか思っていた保田は
もう少しで聞き逃すところであり、慌てて石川と向かい合うと口をつぐんだ。
- 193 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月18日(月)21時33分54秒
「保田さんの見間違いでなければ、確かに焼餅を妬いてくれたのかもしれない。」
―見間違い、って何よ!
「でも。あの後、結局何も言ってこなかった。言ってくれなかった。いつも通りだった。」
「・・・・・・」
実はこの時点で保田はもう気づいた。
自分が何をどういえば、二人がうまくいくのか、ということに。
でも。今の保田には、そこまで優しくなれなかった。
私は、悪くないわ。
- 194 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月18日(月)21時34分27秒
保田はそう自分に言い聞かすと、石川を慰めに入る。
「石川・・・おごるからさ、映画でも見に行かない?気分転換、気分転換!」
「保田さん・・・」
「まぁ今はちょっと、アタシにもどうしたらいいかわからないからさ。
とりあえずは吉澤のことは忘れなさい!」
「でも・・・」
「んまっ!アタシの誘いが受け取れないというのかしら!」
ちょっと冗談めかしてそういうと、石川は少しだけようやく笑ってくれた。
もっと笑顔にさせたい。
「ベイベー。今日は僕が忘れさせてあげるよ・・・」
「似あわなーい。気持ち悪いですよー」
「んまっ失礼しちゃうわね!学ラン結構似合いますね、って言ってたのはどこのどいつよ!」
「不良圭ちゃん、不良圭ちゃん!気障なのはだめぇ」
「なんだよー。とにかくよぉ、俺が忘れさせてやるからよぉ。
映画に行こうぜ!いいな!」
- 195 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月18日(月)21時35分01秒
いつもの毒舌石川に少し戻ったのを確認すると、保田は石川の荷物も持って
楽屋から出た。他のメンバーは既に帰っていて、残されたのは二人だけだった。
吉澤も既にいないのを、保田も石川も確認はしていた。
実はこのことも、石川を落ちこませる原因の1つでもあったのだが、
保田はそのことには触れないでおくことにしていた。
後ろをついてくる石川の手を引っ張ると、そのままつなぐ。
石川もそれを拒否するでもなく、結局映画館までその手は繋がれたままだった。
ちっ恋人繋ぎをしようと思ったのに。
なんて、保田が目論んでいたことにも気づかずに石川は少しはしゃいでいる。
横目でそれを見ると、すっかり暗くなった空を見上げて、保田はそっと息を吐いた。
- 196 名前:旅人 投稿日:2002年11月18日(月)21時39分15秒
- >190 名無し読者さん
あ、本当だ。言われて気づきました。
ささやかな石吉の神が降臨してくださったのでしょうか?(違)
そうなんです、いくら一生懸命計画を立てても
石川さんにかかったら…
でも前もって石川さんに予告してしまうと、アレなことも
保田さんはわかっていますから。(ニガワラ
>191 ポロポロさん
いつもありがとうございます。
私のが好きだと言っていただけて本当に嬉しいです。
今回のはストックなしで書いてみているので
ちょっとどうなるのか自分でも予想がつかないのですが、
楽しんでいただけたら幸いです。
ところで自分、この話をどう展開させようとしているんだろう…ハテ
- 197 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月26日(火)22時36分49秒
自分の中の欲望が少しずつ火をともしてきているということを
保田は静かに感じていた。
一度は消えた、いや、消したはずの火。
どうやらそれは燻っていただけだったのようだ。
- 198 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月26日(火)22時37分25秒
ある日、保田は一人で楽屋を出ると廊下の椅子に座って一息ついていた。
石川は辻とじゃれついてたのを確認しているから、大丈夫だろう。
しかし、部屋を出るその瞬間、最後に目にとまったのは、
隅の方で一人で座っていた吉澤の、保田を射るような視線だった。
椅子に座ったまま保田は自分の右の手のひらを眺めた。
そしてぐっと握り締める。まるで自分の中の炎を握り締めるかのように。
かつん
小さな音と共にドアが静かに開かれる。
そっちを振り向くと吉澤が出てくるところだった。
吉澤は保田の姿を認めると、開ける時以上に静かにドアを閉めて
保田の方へまっすぐ歩いてくる。
- 199 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月26日(火)22時38分40秒
そんな言葉が不意に保田の脳裏に浮かんだ。
まさしく今の状況がそうではないか。
無表情のまま近づいてくる吉澤の目から、保田は目を外せずに固まっていた。
吉澤の足音以外、廊下の静寂を破るものはない。
「隣、座りますね」
そこで初めて、足音以外に音がした。それは吉澤の声。
低くて、でもいつもの優しさは感じられない。
感情が一切こめられていない平坦な声だった。
「保田さん。」
圭ちゃん、と呼ばなかった。
「梨華ちゃんに、手を出さないでください。」
- 200 名前:旅人 投稿日:2002年11月27日(水)00時17分33秒
- 199の、一番最初に
「蛇に睨まれた蛙」
という言葉を追加してください。(--;; シマッタ・・・
- 201 名前:名無し香辛料 投稿日:2002年11月27日(水)01時24分02秒
- さあ、よっちぃはどうするのか。ヤッスーがよっちぃに怯えるだなんて
新鮮です。更新楽しみにしてます。
>>200
『イエローローズ』という言葉なのかと思いました(w
- 202 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月30日(土)18時31分18秒
「これは、警告ですよ。いいですね?」
静かにそう言うと、吉澤は楽屋に戻った。
楽屋のドアが、やっぱりまた静かに閉まるのを見届けると
保田はふーっと息を吐いた。
その時に初めて、ずっと息を止めていたことに、
いや、息をすることさえ許してもらえなかったことに気づいた。
怖い。怖い。
怖がってる?私が?吉澤を?
怖い。怖い。怖くなんか無い。怖い怖い怖い怖い怖い。
なぜ?吉澤を怖がってるの?
吉澤は、「警告」だと言った。
これ以上石川の心を自分に向かせようとしたら、吉澤はどうなるのだろう。
見たい。見たくない。見たい。見たくない。見たい見たくない見たい見たくない。
見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない。
- 203 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月30日(土)18時31分59秒
保田ははっきりと感じていた。
頭の中で警報が鳴り響いているのを。
これを無視するかしないか。
「だったら、なんで石川を大切にしないのよ!」
胸の奥で広がっていく恐怖心を振り払うように怒鳴る。
でも、染みのように、吉澤によって作られた恐怖心は怒りを産む事さえも認めてはくれなかった。
「なんでなんで!なんで!大切にしてないくせに!大切にしてないくせに!」
怒鳴る。怒鳴る。声を張り上げる。声を振り絞って叫んだ。
吉澤のことなど怖くも無いのだという風に。
同じ台詞を、声を聞きつけて出てきた安倍と矢口に止められるまで、
ずっとずっとその場で保田は叫び続けた。
- 204 名前:イエローローズ 投稿日:2002年11月30日(土)18時32分49秒
安倍と矢口、遅れて出てきた飯田になだめられて保田は楽屋に戻る。
辻以下の年少メンバーが不安そうに保田を遠巻きに見ているのにも、
石川が私のせい?という風に泣き出しそうな顔で自分を見ているのにも、
保田は気づく余裕が無かった。いや、存在すら目に入らなかった。
明らかに、保田が楽屋に足を踏み入れ、
飯田に連れられて隅っこにあるソファに座り込むその瞬間まで、
楽屋は保田と吉澤の二人しかいなかった。
そう、二人しかいなかった。
「圭ちゃん?」
「保田さん・・・」
ふっと吉澤が微笑んで目をそらした瞬間、
保田の視聴覚は正常に戻る。
「保田さん・・・」
石川が泣き出しそうな顔で近づいてきた。
―近づかないで、私に。
- 205 名前:旅人 投稿日:2002年11月30日(土)18時37分27秒
- >201 名無し香辛料さん
煤i; ゜д゜)
な、ナゼ名無し香辛料さんが…
アワワ 名無し香辛料さんの目にとまらないタイプだと思ってたんですが…
確かに吉澤が保田に怯えることはあっても、その逆が書かれるのって
あまり(殆ど?)ないですよね。
さて、吉澤はどうなるのか。それは私にもわかりません。(ってヲイ!)
……見切り発車するんじゃなかった……
いや、がんがります。
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