下手な小説書かせていただきます

1 名前:空唄 投稿日:2002年08月27日(火)12時15分33秒
短い話を書きます。
多分つまらないとは思うのですが、更新量でごまかせたらと……(汗
2 名前:baby blue 投稿日:2002年08月27日(火)12時16分36秒
 よっすぃーが消息を絶った翌日、事務所内は騒然としていた。
 連日予定を組まれている私たちにとって、歯車の一部を失うわけにはいかな
かったのだ。
 現に、一日仕事がキャンセルされただけで、事務所の周りはスポーツ紙やら
週刊誌やらの記者で埋め尽くされている。
「あ〜もう、どうしたのかな、よっすぃー」
 矢口さんが心配そうな声音で呟き、オロオロと辺りを歩き回った。
 それがよっすぃーのことを心配しているのか、モーニング娘。のことを心配
しているのか判断するのは難しかったので、私は黙って事の成り行きを見守る
ことにした。

 しばらくして、腰の辺りにかすかな振動が伝わる。
 慌てて席を外し、トイレに駆け込んだ。

 着信は、よっすぃーからだった。
3 名前:baby blue 投稿日:2002年08月27日(火)12時17分12秒
『もしもし、梨華ちゃん?』
「もしもしじゃないよっ!」
 思わず声を張り上げてしまい、私は慌てて自分の口をふさいだ。力が抜けて、
そのまま便座に腰をおろす。
「……どこにいるの?」
 私の問いかけは耳元にじりじりという音を響かせただけで、よっすぃーの回
答は得られなかった。
 気持ちを沈めるため壁紙に引いてある線の数を数えようと思ったが、上手く
集中できない。
 どうにかこうにかちょうど十本目を数え終わったところで、受話器越しの声
が響いた。
『電車の中』
「電車? 電車って何処の?」
『さあ』
「さあってちょっと……」
 のらりくらりとした受け答えに、イノシシのような私の言葉はひょいっと交
わされる。
 それでも私は、赤い布をめがけて突進するしかなかった。
4 名前:baby blue 投稿日:2002年08月27日(火)12時17分49秒
「帰って来て」
『えー、じゃあ迎えに来てよ』
「どこにいるの」
『さあ』
 クスッという笑い声が聞こえた。
 馬鹿にされている。
 血が上りそうになるのを必死でこらえ、つとめて優しい口調で尋ねた。
「お願い、教えて」
 しばしの沈黙。
 思わずため息が漏れる。今度は、線を何本数えればいいのだろうか。
 しかし、予想外にもさっきから数えて、十三本目の線を数え終わったときに、
彼女の声が耳に届いた。
『北に向かってる』
「え? ほ…他には?」
『じゃ、待ってるから』
「ちょっ!」
 切れた。
 私の耳には、耳障りなツーツーという音だけが残り、地面に携帯を叩きつけ
た。
 もう一度彼女に電話をかけてもつながらない気がした。
 もう一度壁に目を向ける。
 じーっと壁を見つめる。
 三十四本、三十五本……。
 いつまでも続いていく線を眺めていると、頭の先のほうがしびれたみたいに
なって、目の前がチカチカした。
 最近は忙しい日が続いていたから、貧血かもしれなかった。
5 名前:baby blue 投稿日:2002年08月27日(火)12時18分36秒
 トイレを出るとすぐに、ロッカーに入れてあったハンドバックを取り出す。
 財布の中には三万、そして銀行のカード。
 さし当たっての不自由はなさそうだった。
「あの、矢口さん」
「……え?」
 よっすぃーのことで頭が一杯になっている彼女が、私の言葉に振り向いたの
は、ちょうど私が50メートルを走りきるくらいの時間が経った後だった。
「ちょっと出かけてきますね」
「は? え、何?」
「じゃあ、失礼します」
「え、ちょっと待てよ!」
 矢口さんの静止の言葉も無視して、走り出す。
 そんな叫び声にも、周りのみんなはよっすぃーのことで大慌てなためか、さ
したる反応は見せなかった。
 よっすぃーのせい?
 私は自分の考えに苦笑した。
 彼らは、いつだって私たちのことを気になどしていなかったではないか。
6 名前:baby blue 投稿日:2002年08月27日(火)12時19分09秒
 北。北か。
 北という漠然なヒントしか持たなかった私は、とりあえず東京駅に向かった。
 彼女のことだ。北といったからには、北海道や青森までは行ってしまうのだ
ろう。
 東京から電車に乗りしばらくの間北に行くと、次第に乗客もまばらになって
くる。
 新幹線を使わずに鈍行でどこまでもいった。
 なんとなく彼女も、ゆっくりと北に上って行っている気がした。

 窓から見える田園の風景。
 光の乱反射が窓を通して目に入った。
 窓を開けると穏やかな風が、秋の匂いを私の元へ運んでくる。
 ああ、そろそろ稲も収穫の時期だったか。
 そんなことを考えながら黄金色の景色に見入っていると、私の意識は次第に
闇へと飲み込まれていった。
7 名前:baby blue 投稿日:2002年08月27日(火)12時19分39秒
「……あれ?」
 気付けば辺りは闇に包まれていた。
 まだ眠っているのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
 聞いた事のない地名がアナウンスされ、その後の言葉から、そろそろ終点が
近いことも知った。
 とりあえず、車内から降り、乗り継ぎの電車が来るのをひたすら待つ。
 時刻表を見たら、次に来るのは一時間後と記されていた。
「よっすぃー、待ってるかな」
 少しだけ考えたら、バカバカしくなった。
 私は彼女が何処にいるのかも知らないのだ。もしかしたら、行き先が違うこ
とだって考えられる。
 でも、それならそれで構わなかった。
 きっと、ずっと走り続ければ、よっすぃーが見たのと同じ景色を私も見る。
8 名前:baby blue 投稿日:2002年08月27日(火)12時20分18秒
 次に来たのは、乗る予定の電車ではなくて、何処に行くのかもわからない夜
行列車。
 もしかしたら、北に行くのではないのかもしれない。
 しかし、私は迷わずそれに乗り込んで、車掌さんから切符を買った。
 しばらくすると先ほど眠ったばかりだというのに、強烈な眠気が襲ってきた。
 携帯を取りだすと、いつのまにか大量の着信があった。履歴からそこにかけ
る。
「もしもし、矢口さん?」
『もしもしじゃないよっ!』
 静かな車内に、高い叫び声が響いた。何人かは私のほうを振り向いて、驚い
た顔をした。
『……どこにいるの?』
「電車の中」
『電車? 電車って何処の?』
「さあ」
『さあってちょっと……』
 矢口さんの慌ててる様子が目に浮かぶ。
 他の人たちは、私がいなくなったことを気にとめてくれるているのだろうか。
9 名前:baby blue 投稿日:2002年08月27日(火)12時20分48秒
『帰って来て』
「えー、じゃあ迎えに来てくださいよ」
『どこにいるの』
「さあ」
 一瞬だけ、間があいた。
『お願い、教えて』
「北に向かってます」
『え? ほ…他には?』
「じゃ、待ってますから」
『ちょっ!』
 受話器の向こうではまだ何か行っているようだったが、私は構わず電源を切
った。

 まぶたがゆっくりと落ちてきた。なんだか心地よい。
 次に起きるのは昼なのか、夜なのか。
 それがわからなくなるくらい、ずっと電車に乗りつづけるのも悪くないと思
った。

 さて、私は何処に向かっているのだろう。
10 名前:空唄 投稿日:2002年08月27日(火)12時22分40秒
baby blue 終わりました。
下手な話ですが、感想など頂けたら嬉しいです……
11 名前:NOW 投稿日:2002年08月29日(木)01時08分02秒
 久しぶりのオフ。
 一人家でのんびりと過ごす。
 みんなといるのは楽しいけど、やっぱりたまには静かに休みたいよね。

 音楽もかけずにぼうっとしていたところへ、携帯の着信音が鳴り響いた。
『やっほ。暇してますかー。』
 ごっちんからだ。
 きっと特に用事はないのだろう。
 でも、とりあえず、彼女が暇を持て余しているというのは、ヒシヒシと伝わ
ってくる。
 返さないのも悪いというのと、何もすることがないのとで、私はメールをす
ぐに返した。
『暇だよ。どっか行く?』
 次のメールは、一分と待たずに来た。
『行く行く! なっちの好きなところでいーよ。』
 それを見て、クスリと笑いがこぼれる。
 ごっちん、ほんとに暇だったんだね。
 でも、もしかしたらどうしても私と会いたかったのかもしれない。
 そんなことを考えて苦笑した。

 どうしても会いたかったのは私のほうかもしれないな。

『おっけー。とりあえず、会ってからきめよっか』
 一息ついて、そうメールした。
 なんとなく、今すぐごっちんに会いたかった。
12 名前:レンズ 投稿日:2002年08月29日(木)01時09分28秒
「ほらほら、こっち向いて」
 写真を手に、矢口を追いかけまわす。
「あーもう、止めてよー。圭ちゃんが取る写真、センスないんだからさー」
「なによー!」
 趣味である写真の腕を馬鹿にされては、黙っているわけにはいかない。

 そんな時に後ろから声がかかる。
「保田さん、石川のことも撮ってくださいよ」
「やめときなよ、梨華ちゃん」
 相変わらず失礼なことを言う矢口を遠くに追いやり、石川のほうに向き直っ
た。
「じゃあ、こっち向いて〜。そうそう、笑って」
 色んな表情の石川を取る。
 色んな表情の石川をレンズ越しに見つめる。
 今のあたしには、こんな方法でしか彼女を見つめることが出来ないから。

「じゃあ、もう一枚撮るよ」

 だからあたしは、今日も写真を撮り続ける。
13 名前:空唄 投稿日:2002年08月29日(木)01時10分56秒
NOW >>11
レンズ >>12
14 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月29日(木)11時12分39秒
正直、終わりがわかり辛い、と思った。
悪く言えばオチがわからない…

baby blueはおもしろかったよ。
15 名前:枯れ葉 投稿日:2002年08月29日(木)17時51分42秒
 外には枯れ葉が舞い散っていた。

 もうずいぶんと寒くなってきていて、私は今日も外に出ずに家の中で丸まっ
たりしている。
 スイッチの付いていないコタツに入り、みかんに手を伸ばした。
 そうやって時間を潰していると、そう言えば以前にもこんなことがあったな
などとしみじみ思い出してしまう。
 私がごっちんと過ごした二度目の秋。

――梨華ちゃん、ずっと一緒だよ。

 私は頭をぶんぶんと振り、コタツから這い出た。
 こんな日はしんみりとして駄目だ。
 少し頭をすっきりさせようと思い、風呂場へと行く。
 シャワーから出たお湯は肌を焼くくらいに熱かった。
 私は温度を下げることはせずに、そのままビリビリとした感覚に身を委ねる。
 こんなときでも頭に浮かぶのは彼女のこと。
 私をおいていなくなった彼女のこと。
16 名前:枯れ葉 投稿日:2002年08月29日(木)17時52分34秒
 シャワーから上がって、私は髪も乾かさずに台所へと向かった。
 温かいお茶を入れようとして、はたと気付く。
 風呂上りの火照った体で熱いものを飲む趣味なんて私にはなくて、彼女との
生活が体の芯にまで染み渡っていることを実感した。
 使い道のなくなってしまったきゅうすをしまおうかとも考えたが、思い直し
お湯を注ぐ。
 茶碗にお茶を入れ、居間まで持っていく。
 茶柱でも立っていないかと視線を落とすが、予想通り水面が静かに揺れてい
るだけだった。

 先ほどと同じようにコタツに足を入れ、熱いお茶をすする。
 窓の外には、枯れ葉が舞い散っていた。
 そう言えば、ごっちんが私の元から去っていったのは、まだ木々が青く染ま
っていた頃だった。
 いつのまにか、季節は流れていく。
 外だけではなくて、私の部屋の中も、いつのまにか季節が通り過ぎていたこ
とに気付く。
 クッションは一つしかない。
 コップも茶碗も歯ブラシも、全てが一セットずつなくなっていた。
 もう、ごっちんがいた季節は戻ってこないのだ。

 そしてまた、季節は変わる。
 彼女がいなくなって初めての、氷の季節へと。
17 名前:空唄 投稿日:2002年08月29日(木)18時01分38秒
>>15-16 枯れ葉

>>14 名無し読者 さん
感想ありがとうございました。
オチがわかりづらい…というのは参考になりました。
自分の中でも、ラストがちょっと急ぎすぎた感があります。
「枯れ葉」は、それなりに対応したつもりですが、まだオチが弱いかも……
18 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月30日(金)06時51分18秒
個人的にはすごくイイ感じです。
想像の幅が多く残されてる感じで。勝手にいろいろ思えるし。
次回作も期待してます。
19 名前:ここでおやすみ 投稿日:2002年09月01日(日)00時00分08秒
 目を開けたらそこは、いつもと変わらない景色だった。
 私の部屋のベッドで、いつもと同じように夜の時を刻む。
 暗がりの中、目を凝らし、そっと手を伸ばした。
 柔らかい感触と、身じろいだときに彼女から漏れた声。
 自然と口元に笑みがこぼれた。
 ……夢じゃなかったんだ。

「梨華ちゃん……」
 聞こえないように囁いたつもりだったのに、寝返りを打った彼女と目が合っ
た。
「ん……矢口さん?」
 眠そうな目をこすり、私に向け笑顔を作る。
 そんな彼女の頭をそっとなでてやる。
「まだ朝じゃないから、寝てて大丈夫だよ?」
 ハイ、という言葉を言い終わるか終わらないかの所で、彼女の瞼がゆっくり
と落ちる。
 その様子を眺めてから、私も瞳を閉じた。
20 名前:ここでおやすみ 投稿日:2002年09月01日(日)00時00分39秒
 私たちは、いつまでこうしていられるのだろう。
 もしかしたら、いずれは別れてしまうのかもしれないし、二人がおばあさん
になっても、ずっと一緒にいられるのかもしれない。
 そんなことを考えていたら、自然と涙が溢れてきて、私はゆっくりとかぶり
を振った。
 大丈夫。私たちは、きっとこれから、数え切れないほどの思い出を刻んでい
く。
 そしてきっと、こんな夜もあったなって、笑いながら思い出すんだ。

 しばらくそうしていたら、閉じた瞼の上から、かすかな光を感じた。
 もうすぐ夜が明ける。
 そうしてまた、彼女と同じ場所で、新しい一日を迎える。
 明日は二人で何をしよう?
21 名前:ここでおやすみ 投稿日:2002年09月01日(日)00時01分15秒
 私はそっと手を伸ばし、彼女の手を握った。
 確かな温度。
 無意識か、彼女の手にも微かに力がこもる。
 徐々に熱を持つその手に心地よさを感じながら、私の意識はゆっくりと闇に
包まれていく。

「おやすみ、梨華ちゃん」

 願わくば、いつまでもこの手が離れませんように。
22 名前:空唄 投稿日:2002年09月01日(日)00時06分03秒
>>19-21

>>18 名無し読者 さん
ありがとうございます。
オチをしっかりさせたいというのと、断定したラストにしたくないということの、
板ばさみに悩まされていましたが、そう言っていただけると嬉しいです。
修行のつもりでこのスレをやっていますので、これからも是非ご意見くださると嬉しいです。
23 名前:シトラス 投稿日:2002年09月04日(水)14時45分15秒
どういうこと?」
 俯くごっちんを視界に捉えながら、私はできるだけ穏やかに聞いた。
 でも、もしかしたらその言葉には少しだけ、刺が入っていたかもしれない。
「今、言った通りだよ」
 弱々しいながらも、しっかりとごっちんは言った。
「紗耶香がごっちんにしたこと、まさか忘れたわけじゃないっしょ」
 うん、とごっちんは頷く。
「今ごっちんは、それと同じ事をなっちにしようとしてるんだよ?」

 出来れば、紗耶香の名前は出したくなかった。
 ごっちんが私の元へ来た日、それはつまり、ごっちんと紗耶香との別れの日。
 迷ったカモメのように、彼女はフラフラと私の元へ降り立った。
 あの日の傷ついた瞳を、なっちは――私は絶対に忘れない。
24 名前:シトラス 投稿日:2002年09月04日(水)14時46分37秒
「わかってる……わかってるよ」
 泣きたいのは私のほうなのに、彼女の瞳がゆらりと揺れる。
「紗耶香のとこに帰るの?」
「違うよ」
 でも、と続ける。
「あの日の市井ちゃんの気持ちと優しさは、わかったかもしんない」
 ごっちんは、寂しげな色を瞳にたたえ、笑った。

 その後何回か、未練がましく会っては見たけど。
 彼女は、私が瞬いたその瞬間を狙うように、姿を消した。
 正確には姿を消したのではないのだけど、きっともう私の声は届かない。
 私の目では、彼女の背中を追うことはできない。
 迷ったカモメは、きっと自分の居場所を見つけたから、私の元を飛び立って
いってしまったのだ。
 そうして、今度は私が、迷ったカモメになった。
25 名前:シトラス 投稿日:2002年09月04日(水)14時47分11秒
 「また会おう」って言葉すら言えなかった私はきっと、もうごっちんに会う
資格すらない。
 でもいつか、両手でおさまりきらない位の季節が過ぎて、あの時のごっちん
の優しさに気付くことが出来たなら。
 その時は、きっと、私が自分の居場所を見つけれたときなんだって思う。

 その日まで、迷ったカモメは軽やかに空を舞おう。



シトラス …… FIN
26 名前:空唄 投稿日:2002年09月04日(水)14時51分26秒
>>23-25 シトラス

更新量でごまかすはずが、更新も遅い……(汗
もし読んでくださっている方がいたらすみません。
27 名前: 投稿日:2002年09月05日(木)02時22分11秒
 ゆっくりと夏が目の前を通り過ぎて、気が付けば長月。
 未だ衰えない陽光が視界を滲ませて、なつみは思わず顔をしかめた。
 耐え切れずに右手をかざすが、指の隙間から葉漏れ日のように溢れ出す陽射
しがなつみの顔に、雪白の筋を描いた。
 彼女の中には、眩しさにかき消されぬような思いもあって、自然と悪態が口
をついて出る。
 ――私が見たかったのはこんな青天井なんかじゃない。

 なつみの周りが慌しくなったのはここ数ヶ月。
 改編だかなんだかわからないけれど、気付けば最年長の仲間入りを果たして
いて。
 自分とお姫様の座を争った子が抜けるのは正直嬉しくないでもなかったけど、
自分がお姫様の座にいられなくなったことも自覚している。
 とは言え、もちろん去って行く彼女の将来を憂慮している自分もいたりして、
頭の中が常にぐるぐると回っている状態だった。
28 名前: 投稿日:2002年09月05日(木)02時22分58秒
 そんななつみに与えられた、一日だけの休暇。
 故に本来ならば、このような碧空には感謝をしなければいけないのだが、今
のなつみに、気持ちいいお空、などと鼻歌を歌えるような余裕はなかった。
 いっそのこと、台風でも来てぐちゃぐちゃに頭の中をかき回してくれたら、
どれだけ楽か。

 フウっとついたため息が、緩やかに天に舞い上がり、一瞬だけなつみの視界
に陰を落とす。
 はっとして天上を仰ぎ見れば、変わらぬ青空がなつみを覆っていた。
 疲れのせいかと思いながらも、不思議と引っかかる出来事に、なつみはしば
し足を止めた。
 ぐるうりと一帯を見渡し、流れる群集に意識を向ける。
 虚ろな瞳と、魂のように体から抜け出すため息。
 先ほどと同じように、なつみの周りに闇が立ち込めた。
 しかし今度は、一瞬だけの出来事ではなく、劇画か何かのように何度もチカ
チカと点滅を繰り返す。
 次第に暗澹としてくる空に、なつみはもう一度、ため息を吐き出した。
 いくつかのため息が重なり合い、雨雲となる。

 そして雨が降り出した。



雨 …… FIN
29 名前:空唄 投稿日:2002年09月05日(木)02時24分39秒
>>27-28
30 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月05日(木)11時14分35秒
読んでますよ!
更新のペースはいい感じじゃないでしょうか?
今回は、リアル?系の話ですかね。ちょっと切ない…
31 名前:ぼくらが旅に出る理由 投稿日:2002年09月07日(土)03時46分14秒
 モーニング娘。を辞める、と切り出されたのは最近のことではなかった。
 初めにその話を聞いたのは、一年程前だったと記憶している。
 その時は私の静止の懇願に対し、「なっちを一人には出来ないもんね」と笑
って言ってくれたのだった。

 でも、今回は。

「ねえ、見て見て、なっち。東京タワーって夜でも明るいんだねぇ」
 そんな私の心のうちを知ってか知らずか、彼女は必要以上にはしゃぐ。
 煌びやかな明かりの下にあって、私たちの征途は暗く朧気ない。そんな道次
で彼女は笑っていた。
 奥底にこみ上げてくるものがあって、私は思わずごっちんを抱きしめた。
「ちょっ…なっち……?」
 戸惑う彼女をよそに、ギュッと力を込める。
「元気で」
 耳元でそっと囁いた。涙で紡がれた音だった。
 離れるわけじゃないんだから、となだめる彼女の手が背中を撫でるたび、私
を言い様のない哀傷が襲う。
 消えていく言葉の中に優しさが見えるから、聞き分けのない自分が余計惨め
になるのだ。
32 名前:ぼくらが旅に出る理由 投稿日:2002年09月07日(土)03時47分12秒
 みながそれぞれに旅に出る理由を持っている。
 ごっちんにだってそれがあるから、私は何も言うことが出来ない。……年下
のくせに、と思わないこともなかったけど。
 私にもいずれは、旅に出る日が来るのだ。
 ただ彼女の方が、ちょっと早かっただけ。

「手紙書くよ」
 やっとのことでそれだけ言った。
 ごっちんは、いつでも会えるじゃん、と言った後、私の方を向いて真面目な
顔を作った。
「私も、返事返す」
 晩夏の風が吹いて、私たちの肌を冷やす。それでも私の肌は火照ったままで、
微かな熱が夜の静寂に溶ける。
 そのまま、私は彼女の唇に想いを重ねた。


 彼女は、もうすぐ旅立つ。ほんのしばしの別れ。

 そして、それでも毎日は続いていく。



ぼくらが旅に出る理由 … FIN
33 名前:空唄 投稿日:2002年09月07日(土)03時54分52秒
>>31-32 ぼくらが旅に出る理由

なちごま三部作(?)完

>>30 さん
ありがとうございます、またしても更新が……(汗
「雨」は一応リアルのつもりです。
これまではずべてリアルのつもりですが、「モーニング娘。」という単語は出ないことも多いですね。
34 名前:名無し 投稿日:2002年09月07日(土)16時22分23秒
ぼくらが旅に出る理由が一番グッとくるもんがありました。
「手紙書くよ」
「私も、返事返す」
短かくて不器用だけど伝えなきゃいけないものが伝わって良かった。
35 名前:虹の午後に 投稿日:2002年09月09日(月)03時38分53秒
 本番の合間に空き時間が出来て、私は窓から街を見下ろす。
 本当なら台本でも読んで次の本番に備えなければいけないのだけど、私は眼
下に開けるその眺望に目を奪われていた。

 私は、北海道の、何処までも永遠に続くような平原を見るのが好き。
 雪解けの水の袂に腰をおろし、淡い春の色を見るのも好き。
 でも、ここから覗くその景観は、今までに見たのとは違った感慨があった。

 灰色に塗り固められたコンクリートの大地に、独特の光彩を放つ自動車が一
定の間隔をとって流れていく。
 様々な色彩が交差して街を作り出していた。
 しかし、目がチカチカとするようなその鮮やかさに昂揚した私の感情は、瞬
く間に冷めていって、微かなエンジン音とカラスの鳴き声だけが、耳の奥に残
る。
 どうして、と自問自答するも満足な答えは得られず、呆然とその場に立ち尽
くすことしか出来なかった。
36 名前:虹の午後に 投稿日:2002年09月09日(月)03時40分16秒
 こんなに綺麗なのに。
 こんなにカラフルなのに。
 人工物の赤。人工物の青。人工物の――

 ああ、そうか。
 私が好きなのは、私が好きだった北海道は……。
 不意に郷愁なんかが胸に押し寄せてきて、私の涙腺を緩める。
 千紫万紅に輝く雫は、都会の街に散乱して、乱反射した光が虹色に世界を染
める。
 雫は地面に吸い込まれ、しばらくして大きな虹の橋を作った。

 私は吸い寄せられるようにその光景に見入る。
 街は何事もなかったかのように、その流れを止めない。
 不意に誰かに言いたい衝動に駆られ、私は窓に背を向け、楽屋を振り向いた。
 その先には、安部さんがきょとんとした表情で目をパチクリさせている。

37 名前:虹の午後に 投稿日:2002年09月09日(月)03時41分44秒
「どした、紺野?」
 にこぉっと目を細める安倍さんに少しの間だけ心奪われた私だったが、慌て
ていつもの表情を取り戻す。
「あの、虹が」
 かろうじてそれだけ言うと、安倍さんは「ほんと?」と嬉しそうに首をかし
げて、席を立った。
 少しの間待って、私は再び窓に目を向けた。

「ほんとだぁ」
 何も包み隠さない安倍さんの表情が羨ましくて、私は口を開く。
 私がさっき持った疑問をぶつけたら、何て言うだろうって。
「こんな美しい景色なのに、何で街は変わらず動くんですか?」
「え?」
「私は北海道の方が好きです。いつまでも景色は変わらない」
 思った通りに困った表情になった安倍さんを見て、少しだけ後悔した。
 安倍さんは、そうだね、とだけ言って黙った。
38 名前:虹の午後に 投稿日:2002年09月09日(月)03時43分18秒
 しばらくの間、私たちの間の景色は変わらなかった。
 私たちの間にあるのは、微かなエンジン音とカラスの鳴き声。
「でも、それが東京の美しさなんじゃないかなぁ」
 安倍さんは遠くを見ていた。
 ずっと北の方。きっと、海だって越える。
「変わるから綺麗なの。そういう美しさもあるってこと」

 そう言って、ニコリと笑う。
 ここ意外にも好きな場所がある人だから、言える言葉。
「って、なっちは思うんだぁ」
 おどけたような声に、私を再び郷愁が襲う。
 また、だ。
「ちょ、ちょっと。どうしたのさぁ!」
 安倍さんの胸に、体を預けた。
 衣装の色が次第に濃く染まっていくのに気付き、私は慌てて頭を離す。離れ
なかった。
 私を包み込む、安倍さんの手。
39 名前:虹の午後に 投稿日:2002年09月09日(月)03時44分14秒
 雫に濡れたその服は、きっともうじき虹を作る。
 大きな大きな虹を作って、私はまたその光景に魅入られるのだ。
「もう少しだけこのままでいてもらってもいいですか?」
 安倍さんの表情は見えなかったけど、私の頭をなでるのそのちっちゃな手の
ひらは、暖かくて優しい。

 外からは、微かなエンジン音とカラスの鳴き声が聞こえる。

 虹の午後に、私は恋をした。
40 名前:空唄 投稿日:2002年09月09日(月)03時47分27秒
>>35-39 虹の午後に

>>34 名無し さん
ありがとうございます。
台詞書きが得意ではないので、いつもどうすれば少ない言葉で伝えられるか考えてます。
なので、そう言ってもらえて嬉しいです。
41 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月09日(月)23時27分52秒
なんかあったかくて切なくていい感じです。
勝手なこと言ってすいませんが、
42 名前:春風 投稿日:2002年09月12日(木)23時59分47秒
 花の名前をごっちんはいくつ覚えているでしょうか。
 なっちは、ごっちんの言葉と花の名前を一つずつしっかりと刻み込んで、ご
っちんと共に過ごしました。

 ごっちんはもういません。
 なっちの言葉をごっちんはいくつ覚えているのでしょうか。
 なっちは、涙を流すたび、花の名前とごっちんの言葉を一つずつ忘れていき
ます。

 季節は変わって春。
 ごっちんはなっちと同じ春風を、何処か遠くで見ているのでしょうか?

 もう涙は出ません。
 でも、ごっちんの言葉はたくさんたくさん私の中に残っています。
 花の名前は、もう全て忘れてしまいました。

 桃色の花が、春風に流されて、なっちの元へ降り注ぎます。
 確か、この花を見たときごっちんが言った言葉は、
「いつまでも一緒だよ」
 だった気がします。

 なっちはもう花の名前を一つも覚えていません。



春風 … FIN
43 名前:空唄 投稿日:2002年09月13日(金)00時02分39秒
>>42 春風

>>41 さん
感想ありがとうございます、嬉しいです。
それにしても、更新が遅くなってしまいました……。
これからも頑張って更新するので、よろしくお願いします。
44 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月13日(金)13時16分40秒
穏やかな空気だけど、どこか寂しい……そんな印象を持つ短編集ですね。
すごく好きです。
個人的に、1つ1つのタイトルのセンスがすごくいいなと思いました。
後藤が絡むと、やはりどうしても涙が……いや、後藤好きなんですけども。
45 名前:滲む夜景と共に 投稿日:2002年09月14日(土)03時39分36秒
 街の景色は時間に追われるように姿を変え、一帯は次第に明かりの量を増し
ていく。
 月影はネオンの光に飲み込まれ、その色を消した。

 屋上から眺める街の眺望が、私は好きだった。
 視界の隅の明かりが消え、どこかでまた灯る。蜃気楼のように、消えてはま
た現れる。
 街の中心街は煌びやかなネオンに包まれ、あるときを境に、いっせいに消え
てしまう。

 滲む景色の奥に、私はごっちんの笑顔を思った。
 この街のどこかに彼女はいて、夜更けの輝きの中に埋もれている。
 その中にいる彼女は、この街が放つ眩い光を知ることはないのだ。

 一つ一つ、街は平静を取り戻していって、変わりに東の空が一日の始まりを
告げる。
 私の視界に移る街は、徐々に滲んでいく。

 隣のビルの屋上で、鳥がさえずった。
 私は街に背を向け、屋上へ別れを告げる。

 私の背中に映る街は、再び日常を取り戻す。
 ごっちんの笑顔もまた、街の雑踏の中に溶けていく。
 全ては滲んでいった。
 もう、取り戻すことは出来ないのだ。



滲む夜景と共に … FIN
46 名前:空唄 投稿日:2002年09月14日(土)03時44分34秒
>>45 滲む夜景と共に

うわー、すてっぷさんの新作だぁ。こんな近くで、ちょっとプレッシャー(w

>>44 さん
ありがとうございます。
確かに寂しい話が多いなぁ、と自分ながらに思ってしまいます。
それでも好きといってくれて感謝です。
タイトルを誉めて頂いてなんですが、メール欄に記入してあるものに関しては歌からとっています。
47 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月23日(月)22時12分02秒
短編にしておくには勿体無い世界観が多くて、引き込まれます。
次の作品はいつになるのか、楽しみです。
そしてごっちんが出てくるなら、なお嬉しいです(w
48 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月03日(木)14時48分55秒
コテハンレスはしない主義なので名無しで。

すごくきれいな文章の大ファンです。
しっとりとした感触などは、もう見習いたいくらいです。
いろいろとお疲れでしょうが(w がんばってください。
49 名前: 投稿日:2002年10月07日(月)03時03分08秒
 歩きなれた並木道。
 地面に落ちた花びらが吹き上がり、私の視界を覆う。
 そのピンクに抱かれたまま、いつかの春を思った。
 長い歳月が経った今でも、振り返ればすぐそこにある。

 程なくして、右手の温もりに力がこもった。
 頭一つ分小さい矢口さんが、不安そうな眼差しで私を見上げる。
「梨華ちゃん、誰のこと考えてた?」
「別に」
「後藤のこと?」
 踏みしめた花びらは濃い色をつけ、確かな跡を残す。
 しばらくその様子を眺めた後、私は矢口さんを見下ろした。
 栗色の髪が微かに舞って、私の頬をくすぐった。

「はい」
 一瞬、矢口さんの目が一回り大きくなる。
 それを見て、私はクスリと笑った。
「矢口さんと私のこと、どう思ってるかなって」
 矢口さんは、少し遠くを見つめていた。
50 名前: 投稿日:2002年10月07日(月)03時03分48秒
 愛していた人。
 もうこの人以外は愛さない、と決めていた人。
 彼女と歩いたこの道を、違う誰かと歩くなんて思いもしなかった。

「認めて……くれないかな?」
 不安そうな矢口さん。右手を離し、その髪の毛にそっと触れる。
「大丈夫ですよ」
 そう言った私の周りに、柔らかな風が吹いた。
 桜の花びらが舞い、私たちを包む。
 涙の匂いがした。それは、彼女の匂い。
「大丈夫です」

 しばらくして、風は止んだ。
 私の顔が笑みで崩れる。きっと彼女も微笑んでいるのだろう。

 矢口さんの左手を、もう一度握った。
 一度後ろを振り返り、また歩き出す。
 風はもう吹かない。
 少しだけ、涙の匂いがした。
51 名前:空唄 投稿日:2002年10月07日(月)03時10分48秒
>>49-50

>>48 さん
ありがとうございます。
後藤さん出てきましたが…多分期待には添えなかったのではと思います。
この世界観を気に入っていただければ幸いですが、
正直、世界観だけしかない話ばかりで、申し訳ないです(w

>>48 さん
ありがとうございます。
一ヶ月近くも待たせてしまって、もうホントに、頭が上がりません。
修行のつもりでスレを立てたので、綺麗と言ってもらえて嬉しいです。
そう言えば、自分と48さんの好きなカップリングをシャッフルすれば、王道になることに気付いた。
52 名前:安らげる場所 投稿日:2002年10月10日(木)01時59分50秒
 ラジオの仕事も終わり、十月の宵の道を歩く。
 忍び寄る冬の気配に気付かないフリをしながら、私の足取りは軽い。

 普段の私の家路をたどる足取りは重く、視線も歩く三歩先。風に揺れる街路
樹の息遣いなどに気付く余裕もないが、今日は違う。
 一歩一歩確かめるように歩みを進め、緩やかに流れる時の流れに身を委ねる。
 それでも自然と動きを早める両足に苦笑しながら、私は玄関のベルを押した。

「はーい」
 鼻にかかったような高い声が聞こえた後、ワンテンポ置いてガチャリと音が
鳴った。
 滲む笑顔を抑えながら、ひょいと出てきた彼女に悪態をつく。
「今、なんで間があったんだよ」
 すると彼女もプクッと頬を膨らませて言った。
「チャイムとか押さないで、電話してください! 覗き穴見にくいんですよ?」
53 名前:安らげる場所 投稿日:2002年10月10日(木)02時00分32秒
 腰に手を当てて仁王立ちの彼女を押しのけ、私は中に入る。
 暖房でも点けていたかのように、暖かかった。
「寒いんだから、早く入れてよ」
「もう入ってるじゃないですかぁ」
 暖房は点けていないのに、梨華ちゃんがそこにいるだけで、暖かかった。

「紅茶でも入れますね」
 お願い、と言った私を見て微笑む彼女がいなくなった後、そっと瞼を閉じた。
 薄れ行く遠い記憶が溢れ出し、鼻の奥が熱くなった。

 私はどうして、裕ちゃんとの別れを受け入れることが出来たのだろう。
 裕ちゃんが私の前からいなくなる日、私も消えてなくなるのだと思ってた。
 でも、今私はここにいて、滲んでくる笑顔を抑えられないでいる。

 いや、なんとなくはわかってるんだ。
 梨華ちゃんと出会った日に、ちょっとだけその謎が解けた気がしたから。
54 名前:安らげる場所 投稿日:2002年10月10日(木)02時01分11秒
「どうしたんですか?」
「なんでもない」

 私は梨華ちゃんの肩に体を預けた。
 ほっそりとした肩に帯びた熱が、震える子猫のような私を、温かく包み込む。

「雨だ」
 私に気を遣ってか、そのままの姿勢で梨華ちゃんが言った。
 カーテンで閉ざされた空間の向こう側から、雫に濡れた葉の囁きが聞こえる。

 降りしきる雨の中で、ひとりぼっちの私を想像した。
 寒くて、寂しくて、きっと私は耐えることなど出来ないだろう。
 それでも今、私はここにいる。

 梨華ちゃんの入れてくれた紅茶を一口飲む。
 水面に映る私の顔が、歪んで消える。
 私はゆっくりと瞼を閉じた。
 次に目を開けるときには、私の安心しきった顔が映っているだろう。
 温かな闇の中で、そんなことを思った。



安らげる場所 … FIN
55 名前:空唄 投稿日:2002年10月10日(木)02時03分36秒
>>52-54 安らげる場所
56 名前:やきそばパン 投稿日:2002年10月11日(金)00時39分28秒
 街の音が遠い。
 キラキラと輝く月明かりが、一人ぼっちの私を照らす。
 屋上のくすんだ白い壁にもたれかかって、大きく息を吐いた。

 私は、こうやって屋上に一人でいるのが好き。
 全ての音から遮断されて、闇夜を見上げていると、全てがくだらないことだ
って思えるから。
 この世界は、十代の少女が生きていくのにいらない情報が多すぎるのだ。

 私は一人ぼっちでも生きていける。
 みんなから離れて壊れてしまうほど私は弱くはない。
 それだけで十分だった。
57 名前:やきそばパン 投稿日:2002年10月11日(金)00時40分26秒
 しばらくして、入り口のドアが開いた。
 ガチャリという音が重く響いて、私は体を強張らせる。

「ごっち〜ん。こんなとこにいた」
 柔らかで独特なイントネーション。
 ……なっちだ。
「もう、びっくりさせないでよー」
 安心と同時に体の力が抜け、ずるずるっと壁から滑り落ちる。

「何してたの?」
「星見てた」
「そっか」
「うん」
58 名前:やきそばパン 投稿日:2002年10月11日(金)00時41分15秒
 微かに、車のエンジン音が聞こえた。そして、また静寂が戻った。
 二人ぼっちの屋上は、やけに温かくて、元々きつい方ではない私の涙腺を、
さらに緩める。
 なっちはそんな私にチラリと視線をやり、気付かなかったかのようにまた視
線を元に戻した。

 ぐぅ。

 沈黙に支配される世界に、情けない音が響き渡る。
「なに、お腹すいたの?」
 頬を真っ赤に染める私に、なっちのクスクス笑いが聞こえる。
「わかった、何か買ってくるからちょっと待ってて?」
 そう言って立ち上がるなっちに、慌てて手を伸ばす。
「何?」
 不思議そうに見つめるなっちから瞳を逸らし、なんでもない、とだけ言った。
59 名前:やきそばパン 投稿日:2002年10月11日(金)00時41分54秒
 屋上にドアの音が響き渡り、再び一人ぼっちになる。
 何も聞こえない世界。
 風の音が聞こえて、私は必要以上に首をすくめた。

 怖い。
 コワイコワイコワイ――

 一人ぼっちでやれそう?
 そんなわけない。
 私は、一人をこんなにも恐れている。
 本当に一人になるのが怖いから、私は一人ぼっちの振りをしていただけだ。
60 名前:やきそばパン 投稿日:2002年10月11日(金)00時42分26秒
 そのとき、ライトの灯りが一瞬途切れる。
 ビクリと身をすくめた後、首元に温かい何かが触れた。
「お待たせ」
 なっち。
 優しい笑顔。
 右手にやきそばパンを持ってちょこんと佇んでいる。

「ちょ……どしたのさ?」
 私から零れ落ちた雫が、コンクリを黒く染めていく。
 その染みは大きく広がっていって、屋上全てを覆うかのように思われた。
 いつまでも流れる涙を止める術を、私は知らない。
61 名前:やきそばパン 投稿日:2002年10月11日(金)00時43分10秒
「え……?」
 頭のてっぺんに温かさを感じて、上を見上げる。
 小さくて柔らかななっちの手。
 なっちの笑顔が緩やかに降り注いで、私の涙を魔法のように止めた。

「お腹すいたっしょ?」
 そう言って、右手に持ったやきそばパンを差し出す。
 私は、黙ってそれを受け取り、一口だけかじる。
「……しょっぱい」
 ソースと涙が混じった味。
 しょっぱくて、辛くて――

「でも、おいしいよ」

 その温度以上に、温かかった。
62 名前:やきそばパン 投稿日:2002年10月11日(金)00時43分57秒
◇ ◇ ◇
63 名前:やきそばパン 投稿日:2002年10月11日(金)00時45分01秒
 私は今日も一人ぼっちで屋上にいる。
 慣れ親しんだ仲間達は、もう傍にはいない。

 私は、いつかのように朧げに輝く闇夜を見上げた。
 あの日見上げた空と、何も変わらないようにすら見える。

 一人ぼっちでやれそう?

 誰かの声が聞こえた。
 私は一度目を閉じて、再び開く。そして、ニコリと笑った。

 うん、きっと大丈夫。

 白のくすんだ壁にもたれかかりながら、私はそっと呟く。
 それからもう一度月を見上げ、左手に持ったやきそばパンを一口かじった。



やきそばパン … FIN
64 名前:空唄 投稿日:2002年10月11日(金)00時46分53秒
56-63 やきそばパン
65 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月17日(木)13時21分17秒
よかったです。
66 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月22日(火)18時03分00秒
超超超超超亀レスで申し訳ないのですが、今になって「雨」の真意が分かりました。
脱帽です。
真似したいな、なんて一瞬でも思ったことが恥ずかしくなりました。
マターリがんがってくらさい。
67 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月19日(火)12時42分36秒
ホジェム
68 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月11日(水)00時40分35秒
ホジャム
69 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月01日(水)23時46分42秒
保全
70 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時25分38秒
 曲がり道は、いつも急に訪れる。

 私たち五期メンはいつも一緒。余りに引っ付きすぎて、飯田さんとかに「私
たちだって話し掛けられるの待ってるんだよ?」なんて注意されたりする程だ。
 だから、かっこよく言えば、これは必然。いつもおしゃべりしている人に惹
かれるのも、当然のことであるはずなのだ。
71 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時26分35秒
「それでね、昨日の晩、かぼちゃが……。って、まこっちゃん聞いてる?」
 あさ美ちゃんが怒った風に言う。ほっぺが膨らんだ。あさ美ちゃんが怒ると、
いつもよりもさらに丸顔になって、愛嬌が増す。これが一緒に過ごした一年で
見つけた、凄く素敵な事。
 私はまあまあとなだめた。それは逆効果だった。頬のふくらみがさらに増し
て「もう知らない」とそっぽを向かれた。

 いつまでも続けばいいと思った。私はずるいから想いは伝えられない。へら
へら笑って気持ちを誤魔化すだけ。
 それでも、四人でいつまでもいたいというのは偽りのない思いだった。
72 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時27分26秒
「ねぇ、麻琴。あさ美ちゃんのこと好きなんやろ?」
「ええ、いや、そんな」
 わかっとるって。そう言って愛ちゃんは笑う。あさ美ちゃんにも気付かれて
るのかな。そう思ったら顔が火照った。
「麻琴かわいい」
 愛ちゃんの今にも噴き出しそうな顔。頬をつつかれた。言葉に詰まって、ま
た笑われた。

 いつまでも続けばいいと思った。私の気持ちは伝わらないまま。それでもた
まに、こうやってからかわれたりして。私はしどろもどろで誤魔化して。それ
はささやかな秘密の遊び。楽しかった。それなのに。
73 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時28分10秒
 それは突然だった。
 多分、十月の半ば頃。急に四人でいる時間が減った。あさ美ちゃんは愛ちゃ
んといることが多くなったから、自然と私は里沙ちゃんと一緒に過ごした。
 仕事は相変わらずで、一緒のものが多いはず。もしかして、新編成の影響か
な? でも、あさ美ちゃんはタンポポだし、愛ちゃんはミニモニ。だった。

 そのうちに、私の誕生日がきた。あさ美ちゃんからもプレゼントを貰った。
慌てて選ばれたような感じだった。気のせいかもしれない。でも、私はそう感
じた。
 嬉しそうな顔を見せたら、あさ美ちゃんはほっとしたように笑った。ごめん、
気付いてるよ。忘れてたんでしょ? そう言おうとした自分に驚いた。

 誕生日が終わっても、依然二人は一緒だった。だから私も里沙ちゃんと一緒
だった。
 寂しくなんかないよ。里沙ちゃんと一緒にいるんだもん。自分ではそう思っ
てたけど、やっぱり一年という歳月は長いみたいだった。
74 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時30分00秒
 ある日の帰り道。月が綺麗な夜だった。白い息を吐きながら帰る私を、二人
は最初の曲がり角で待っていた。
「どうしたの?」
 私は首をかしげながら聞いた。二人は長いこと待っていたらしく、足を何度
も揺すっていた。それでも私の姿を確認すると、寒さに強張る顔のまま笑って
見せた。
「何かあった?」
「え、何で?」
「何か最近元気ないから」
 少しは気にしてくれてるんだ。思わず笑みが零れた。脇を通った自動車がご
おっと音を立てる。排気ガスがどんよりと残った。
「別に大丈夫だよぉー」
 ははは。笑ってみた。やけに乾いた響きを残すその音は、出した張本人を驚
かせた。
75 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時30分45秒
「ほらぁ。真琴のことだから大丈夫だって言っとるのに」
 愛ちゃんが横から言葉を挟む。言葉の端に見え隠れする訛りがいちいち気に
障った。この訛りを優しい音色だと思ったのは、遠い昔のことじゃない。
 何かあった? 言えるわけないじゃん。
 麻琴のことだから大丈夫? そんな風に買いかぶらないで。
 帰ろう。そう言って歩き出す。月の綺麗な夜だった。足音が三つ続いて、い
つもの分かれ道で一つになった。
 はぁ。白い息が漏れた。煙のように舞い上がって消えた。何処かで見たこと
のある色だと思った。そうだ。さっきの排気ガス。
 もう一度車が通る。排気ガスと私の息が混ざり合って闇に消える。なんとな
く、私の心模様のようだと思った。
76 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時32分43秒
 誕生日から二週間くらい過ぎた頃。いつものように里沙ちゃんと帰る。その
日の里沙ちゃんは少し饒舌で、少し影があった。
「いいよなぁ……」
 ポツリと呟く。
「え?」
 思わず聞き返した。里沙ちゃんは物事をはっきり言う子だ。愚痴のようなも
のは滅多に口にしない。
「あ、何でもないよ」
「何でもなくないよ」
 だから、きっと何かあるはずだ。私はどすんと胸を叩いた。
「ほら、お姉さんに何でも言ってみなさい」
「まこっちゃん、それ似合わない」
 里沙ちゃんはうふふと笑う。そして、空を見上げた。私もつられて天を仰ぐ。
どんより雲が広がって、わずかな隙間に星の瞬きが漏れる。
77 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時33分27秒
「あさ美ちゃんはいいなぁ。みんなから好かれて」
 夜風が吹いた。ざわっと涼しげな音がした。風の音だろうと思った。でも、
もしかしたら、里沙ちゃんの言葉が鳴らした音かもしれない。
「愛ちゃんとか……」
「とか?」
「……えっと、まこっちゃんとか、さ」
 それか、私の心の音。
「私だったら、いつでも受け入れるのに」
「里沙ちゃ……」
 一瞬だけ笑顔が見えた。そのすぐ後、里沙ちゃんは私に背を向け走り出す。
足音にかき消されて言葉は最後まで届かなかった。それに安堵している自分が
いて、私は両手で顔を覆った。
78 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時34分17秒
 その日から、何かが変わった。自信がついたのかもしれない。だとしたら、
凄くずるい自信だ。逃げ道を確保したという自信。
 それでも、私がきっかけを欲していたのは事実で。その日、あさ美ちゃんに
メールを送った。「明日の夜、時間ある?」
 返事はなかなか来なかった。十一時が過ぎる。眠ろうと思って目を閉じても、
睡魔は一向に訪れなかった。今日の里沙ちゃんとの会話を三回思い出した頃に、
硬い振動音が聞こえた。
「うん、いいよ。私もちょっと用事があったから」
 用事? 思い当たる節を探そうとして止めた。あさ美ちゃんと長い会話をし
たのはいつのことだったろう。
 それでも、頭はぐるぐると回る。相談かな。愛ちゃんには言えないこと? 
つまり何。愛ちゃんについて。二人は仲悪い? そんなことない。じゃあ何さ。
私ならどう? あさ美ちゃんには言えないこと。あさ美ちゃんのことが好き。
それって――
 そこで、ようやく眠気に襲われた。明日になればわかる。そんな当たり前の
ことが今の私には重かった。
79 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時34分48秒
 次の日。私とあさ美ちゃんは別の仕事だった。待ち合わせは夜の七時。早め
に会おうかとも思ったけど、ここ一ヶ月くらい、あさ美ちゃんは仕事が終わる
と、いつも愛ちゃんと何処かに消えるのだ。
 時間つぶしに事務所に戻った。ジュースでも買おうと廊下に出る。曲がり角
の辺りで声が聞こえた。気にすることもないと思ったが、思わず立ち止まる。
聞き覚えのある声だった。右手には自動販売機。私は真っ直ぐに進む。
 突き当たりのドアから光が漏れる。確かあそこはレッスン室。あさ美ちゃん
の唄声は、確かにここから聞こえてきていた。
 ドアに手をかけ、少しだけためらう。何故。別にやましいことなんてないじ
ゃない。今度こそドアを少し引く。
 わずかな隙間から中の様子が覗いた。愛ちゃんがいた。二人向かい合うよう
に立っている。あさ美ちゃんの笑顔がやけに眩しかった。きっと私には向けら
れない笑顔。いつのまにか、唄声は途切れていた。
80 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時36分01秒
「誰?」
 あさ美ちゃんの声。微かに開いたドアに気付いたようだ。私はそのままドア
を開いた。
「まこっちゃん……」
 目を逸らされる。突然脳裏に昨日のメールがよぎった。用事があるから。愛
ちゃんも少し気まずそうにしている。
 しばしの沈黙。愛ちゃんに視線を移す。あさ美ちゃんに戻した。口を開こう
としたら、愛ちゃんが先に言葉を紡いだ。
「せっかくだから今でいいんじゃない?」
 二人が顔を見合す。あさ美ちゃんが少し緊張した面持ちで頷く。私のほうを
向いた。口を開く。でも、今度は私のほうが早かった。
「じゃあ、私も今でいいや」
 驚くほど滑らかに言葉が発せられた。口元に笑みが零れるのがわかる。あさ
美ちゃんを真っ直ぐに見た。ばれないように息を吸い込んだ。
「里沙ちゃんとね、付き合うことにしたんだ」
81 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時36分37秒
「え?」
 あさ美ちゃんが言葉を詰まらせる。愛ちゃんが目を大きく見開いた。私は構
わずに続ける。
「二人には伝えとかなきゃと思って」
 私は笑う。不意に二人を遠く感じた。そっか。私は逃げたんだ。目的地に辿
り着く直前で、私は後ろを見てしまった。
「そ……っか……」
 あさ美ちゃんが微笑む。視界が揺れた。ゆらゆら揺れて、視線を逸らした。
「ごめん、やっぱり今日の約束無しにしよう」
 辛うじて言えた。そして笑う。上手く笑えた?
 返事は怖くて聞けなかった。言葉が返ってくる前に部屋を出た。ドアが完全
に閉まると私はすぐに走った。途中、自動販売機が目に映る。もしこのとき、
ジュースを飲んでいたら。あきらめ悪いよ。そんな声が頭に響いた。
82 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時37分48秒
 そのまま事務所を出た。駅に向かう。駅はどっち? ああ、右手の方だっけ。
 重たい足を引きずって、右に方向転換。一歩目の途中で腕を引かれた。
「まこっちゃん、どうしたの?」
「里沙……ちゃん」
 心配そうな瞳。何が、と聞こうとして自分で気付いた。頬が熱い。また目の
前が揺らいだ。
 あさ美ちゃんの笑顔。愛ちゃんの笑顔。二人の会話。里沙ちゃんの言葉。ど
うしようもなくなった私が、最後にすがりついたもの。
 あさ美ちゃんを好きでいるのは辛い。愛ちゃんと争うのは嫌だ。今、目の前
にいるのは誰?
「ねえ、大丈夫?」
「大丈夫……。大丈夫だから」
 声がかすれる。一度しゃくりあげた。揺らいだ視界の先に、里沙ちゃんの顔。
心配そうに上目遣いで見つめる。その表情に何かが壊れた。

「里沙ちゃん。私と付き合って」
83 名前:空唄 投稿日:2003年01月09日(木)07時42分20秒
とりあえずここまでで。
短くないじゃん、と言われたら返す言葉もございません。
レスは後ほどお返しします。
今日中に完結させたいなあ。
84 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)10時20分32秒
キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
保全の甲斐があったってもんですよ。
今日中の完結、楽しみにしております。
85 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時28分51秒
 困った。どうしよう。
 そのとき、私はとても困っていた。十月も半ばに差し掛かると言うのに、未
だにまこっちゃんへの贈り物が決まらない。
 かぼちゃの煮物。ダメだ、そんなの。いや、まこっちゃんは喜ぶかもしれな
いんだけどさ。
 洋服とか。ブランド物なんてどうだろう。まこっちゃんに似合いそうなとび
っきりかっこいい奴。これもダメ。気を遣わせちゃう。
86 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時29分26秒
 結局、一人では決まらないと判断。愛ちゃんに相談してみることにした。こ
ういう時、年上はホントに頼りになるよね。
「あらら。麻琴に恋しちゃったのか」
 これが彼女の一言目。隠してたはずの想いをあっさり当てられて、どうして
いいかわからなくなった。
「そんなに驚くなぁ。最初からわかっとるって」
 ぽんぽんと頭に手を置かれる。私は「うん」と曖昧に笑う。愛ちゃんは腕組
みをして、うーんと唸る。
「おぉ」
 ポンと高く大きな音。愛ちゃんの顔は満面の笑み。
「唄がいいって」
「唄?」
 唐突な言葉。私は首を傾げる。プレゼントと唄の繋がり。あ、もしかして。
「唄を贈るの?」
「当たりぃ」
 そっか。それならお金で気を遣わせることもない。きっと喜んでくれる。で
も、一つ問題があった。
「何の唄?」
87 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時29分58秒
 私の質問に、愛ちゃんはくるりと後ろを向いた。自分の荷物へ向かっていく。
荷物の中をしばらくかき回して、一冊の本を取り出した。パラパラページをめ
くる。
「これなんかどー?」
 目当てのページが見つかったらしい。私に差し出す。譜面は読めないけど、
どうやら合唱曲のようだ。愛ちゃんらしいと思った。
「ホントは合唱曲なんだけど一人でも唄えんのさ」
 ほら。そう言って唄ってみせる。伸びやかな声。愛ちゃんの声は本当に綺麗
だ。いつ聞いても惚れ惚れする。
「出来るかなぁ」
「まだ後一週間あんだから大丈夫。教えるし」
 愛ちゃんが笑顔を見せる。この顔を見ると本当に出来る気がするから不思議
だ。
「お願いします」
 頭を下げる。まかしといて、と威勢のいい声が聞こえる。後一週間必死で頑
張ろう。私の脳裏にまこっちゃんの笑顔が浮かんだ。私もつられて笑顔になっ
た。待っててね。頑張るから。「うん」とまこっちゃんが頷いた気がした。
88 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時31分43秒
 誕生日までの一週間。練習は思ったより上手く進まなかった。仕事のせいと
言えばそれまでだけど。それでも、毎日の練習は欠かさなかった。

 誕生日の前の日。愛ちゃんは渋い顔をした。理由はわかっていた。とてもじ
ゃないけど、聞かせられるものじゃない。もしかしたら、今の段階で唄っても、
まこっちゃんは喜んでくれるのかもしれない。けど、そんなのは嫌だった。
 私は、愛ちゃんと一緒にプレゼントを買うことにした。愛ちゃんはもう買う
ものが決まっていたみたいで、すぐに済んだ。私は少ない時間の中で無理矢理
にプレゼントを決めた。
 悔しかった。久しぶりに泣いた。誕生日には間に合わなかったけどいつか聞
かせよう。愛ちゃんがそう言って、私はそれに頷いた。
89 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時32分20秒
 プレゼントを渡すと、まこっちゃんは微笑んだ。微笑む? 変な感じ。普段
のまこっちゃんはもう少し無邪気に笑う。それでも、笑ってくれたことは嬉し
かったし、嫌な顔をされなかったことにほっとした。

 誕生日が終わっても練習は続いた。愛ちゃんが唄って、私はその真似をする。
次第に声量が増すのが自分でもわかる。いつ完成するだろう。難しい曲だけど、
そんな言い訳はいらない。早くまこっちゃんに聞かせたい。それだけを思って
いた。
90 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時32分53秒
 今日はやけに上手くいく。高音部が擦れないし、低音部が綺麗に伸びる。後
少し。そう言って愛ちゃんが笑う。今はもう難しい曲だなんて思わない。時間
も忘れて必死に唄う。
「今日はこの辺で切り上げよう」
 愛ちゃんが大きく息を吐く。私もそれに頷いた。
 唄は全身を使う。体中にだるさを感じて、ベンチにへたり込んだ。コートか
ら携帯を取り出す。着信一件。まこっちゃんからだ。「明日の夜、時間ある?」
「どうしたぁ?」
 愛ちゃんが携帯を覗き込む。
「まこっちゃんからだよ」
「明日の夜かぁ。そろそろ唄ってみん?」
 私は驚いて愛ちゃんの顔を見る。愛ちゃんはにぃっと笑う。これが愛ちゃん
からのゴーサイン。とうとうまこっちゃんに聞かせられる。
「うん、唄ってみる」
「じゃあ明日はおさらいだぁ」
 明日の仕事は昼には終わる。その後からでも夜まで時間はたっぷりある。最
後の仕上げをして、最高の唄声を聞かせよう。
 「うん、いいよ。私もちょっと用事があったから」そうメールを返す。遅く
なってごめんね。明日ようやく、本当のプレゼントを届けられそうだよ。
91 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時34分35秒
 今日も調子がいい。そう言ったら「上手くなったんだよ」と愛ちゃんに誉め
られた。
 最後にもう一度通すことになった。心を込めて唄う。目の前にまこっちゃん
の顔が浮かんだ。きっと今まで出最高の出来。唄い終わって愛ちゃんに視線を
向けると、満面の笑みを返してくれた。
 そのとき、ギィっという音がする。少しだけドアが開いていた。
「誰?」
 間もなくドアが一杯に開かれた。
「まこっちゃん……」
 聞かれた? 何となく恥ずかしくなって目を逸らす。愛ちゃんも少し気まず
そう。誰も口を開かない。少しだけ時間が経って、愛ちゃんの声が聞こえた。
「せっかくだから今でいいんじゃない?」
 愛ちゃんに視線を向ける。大丈夫だよ。愛ちゃんの瞳がそう言っているよう
に見えた。だから私はそれに頷く。
 ゴクリとつばを飲み込む。ゆっくりと口を開いた。でも、それよりも早く、
まこっちゃんは言葉を紡いでいた。
92 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時35分08秒
「里沙ちゃんとね、付き合うことにしたんだ」
「え?」
 言葉が上手く入ってこない。まこっちゃん、今なんて言った? リサチャン
トネ、ツキアウコトニシタンダ。本当に? 聞き間違いではないの?
「二人には伝えとかなきゃと思って」
 そう言って笑った。聞き間違いなんかじゃなかった。まこっちゃんは確かに言
ったんだ。まこっちゃんの口で。里沙ちゃんと付き合うって。突然の言葉に、よ
くわからなくなった。私が今どうしてここにいるのか。何のために唄っているの
かも。
「そ……っか……」
 泣くだろう。自分でそう思った。でも、私の顔が作り出したのは、笑顔だっ
た。
「ごめん、やっぱり今日の約束無しにしよう」
 まこっちゃんの用事って、それだったんだ。あれ? 私の用事ってなんだっ
け。はは。もうよく覚えてないや。
「麻琴!」
 ガタン、という音と、愛ちゃんの声はほぼ同時だった。すぐ後に、まこっち
ゃんの足音が響いた。愛ちゃんに腕を捕まれる。ドアの方まで引きずられた。
「あさ美ちゃん、いいの?」
「何が?」
「麻琴のこと!」
93 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時35分40秒
 愛ちゃんは凄い剣幕で怒鳴りつける。まこっちゃんのこと。今の私に何が出
来るの? 愛ちゃんだって聞いたじゃない。里沙ちゃんとね、付き合うことに
したんだ。
「いいの」
 どうして涙が零れないんだろう。それだけが不思議だった。私の顔には能面
のように笑顔が張り付く。気持ち悪い。
「来年、聞かせられるといいな」
「え?」
「せっかく練習したんだもん」
 走り去ったまこっちゃん。その先にはきっと、里沙ちゃんがいる。来年の誕
生日。二人の前で上手く唄えるかな。こんなことなら、ラブソングを練習して
おくんだった。
「せっかく……練習したんだもん」
「あさ美ちゃん……」
 声が擦れる。そこで初めて、喉が痛んでいることに気付いた。でも、もうい
いんだ。来年までにはきっと直るよね。そのときにはきっと、二人に最高の唄
を。
94 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時36分13秒
 一ヶ月が経った。吹っ切れたつもりだったのに、未だに上手く喋れない。こ
んな自分が本当に嫌になる。まこっちゃんからは話し掛けてくれるのに、私は
相槌を返すだけ。視線も極力合わせないようにする。
 愛ちゃんはそんな私に優しかった。麻琴はあさ美ちゃんのことを好きに決ま
ってる。彼女は決まってそういうのだ。それでも、現実は私にだって見える。
彼女の隣りにいるのは里沙ちゃんであって、私ではない。
 きっとなにかあるんだよ。そう言った愛ちゃんが二人を問い詰める場面を何
度も見た。それでも返ってくる返事は、いつも二人同じ。それは私をますます
暗くさせた。
 こういうとき、仕事は全てを忘れさせてくれる。年末年始の特番続きのスケ
ジュール。それは私を落ち着かせてくれた。
 このまますべて忘れてしまえれば、どれだけ楽だろう。そう考え始めた頃の
ことだった。
95 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時36分45秒
「あさ美ちゃん、ちょっといい……?」
 珍しく歯切れの悪い口調。私は里沙ちゃんの誘いに黙って頷く。人のいない
ところがいい。里沙ちゃんはそう言って、荷物置き場へと歩いていった。私も
それに着いて行く。
「あさ美ちゃん、まこっちゃんのことどう思ってるの?」
「え?」
「……」
 真剣な表情。初めて見るその表情に、私の顔が強張る。
「里沙ちゃんたち、付き合ってるんでしょ?」
「そんなことはどうでもいいの」
 どう思ってるの? いまさら私に言えって言うの。急に悔しさが込み上げて
きた。私が責められる筋合いなんてないじゃない。
「別になんとも思ってない」
 はっきりと言う。ズキリと何処かで音がした。せわしなく繰り返されるスタ
ッフの会話が耳に残る。小波のように繰り返される。
「まこっちゃんがかわいそう」
 里沙ちゃんは、突然そんなことを言った。かわいそう? 私じゃなくて、ま
こっちゃんが?
 耳をつんざくような音がこびり付いて離れない。里沙ちゃんの言葉が拍車を
かけた。
96 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時37分29秒
「意味がわからないよ」
「わかってるくせに」
「わからない」
「わかってる!」
「わかんな――」
「まこっちゃんは、私のこと好きじゃないもの!」
 音が途切れた。その言葉がシャープに鼓膜を震わす。
「え……?」
「私だって、相手の気持ちがわからないほど、子供じゃないんだよ。あさ美ち
ゃんを好きだってことぐらい、すぐにわかる」
 静かな声。里沙ちゃんの瞳から雫が零れる。
「私たちは付き合ってなんかない。だから……だからさ、遠慮なんかやめてよ!」
 絞るように叫んだ。耳じゃなくて、心が痛い。
「あの……。私……」
 言葉が出ない。里沙ちゃんの嗚咽だけが響く。私は何処で間違った? 何処
ですれ違ったんだろう。
 不意に愛ちゃんの声が聞こえた気がした。必死に練習した唄。もし彼女の誕
生日にあの唄を届けられていたら。練習したんだから、そう言って笑えていた
ら。一体私たちはどうなっていただろう。
97 名前:贈る唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時39分19秒
「もしもう一度」
 里沙ちゃんは、涙声のまま必死に言葉を紡ぐ。
「まこっちゃんを泣かせるようなことをしたら、絶対に許さない」
 真っ赤な瞳。私の目を真っ直ぐに見据える。私は自然と頷いていた。里沙ち
ゃんは「屋上だよ」と言って、私は何も言わずに走り出す。ごめんなさい。荷
物置き場を出てしばらくしてから叫んだ。里沙ちゃんに届いて欲しかった。で
も、聞こえないでいて欲しかった。
 階段を駆け上がる音。かんかんと鳴り響く。一段二段。少しずつ彼女の元へ
近づいていく。ずっと先に扉が見えた。その先に彼女はいる。
 彼女の顔を見て最初に言う言葉。お誕生日おめでとう。どんな顔をするのだ
ろう。きょとんとした顔をする? それとも、心底呆れちゃうのかな。それで
も彼女はきっとその後で「遅いよ」って言って笑うんだ。そしたら私はこう言
おう。
「二ヶ月遅れの唄を贈るよ」



贈る唄 … FIN
98 名前:空唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時40分07秒
……ごめんなさいごめんなさい。
99 名前:空唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時40分49秒
急展開なんだよとか叩かないで。
100 名前:空唄 投稿日:2003年01月09日(木)12時47分54秒
>>70-82
>>85-97 贈る唄

>>65 さん
ありがとうございます。
まさか、やきそばパン食べたくなってもらえるとは思いませんでした。
まだ覚えてくれていたら、これからもよろしくお願いします。

>>66 さん
ありがとうございます。
買いかぶりすぎです(w 勿論作者としても色々考えながら書いていますが。
真似などせずとも、十分に面白い話だと思います。

>>67-69 さん
ごめんなさいごめんなさい。
ようやく更新しました。

>>84 さん
ありがとうございます。
今日中になんとか終わりました。
保全本当に(●´ー`●)ありがとう。
ちなみに、監禁( ^▽^)しないよ。
101 名前:freebird 投稿日:2003年01月12日(日)02時36分02秒
テレビには今日も笑顔で踊るあたしが映っている。
しばらくして、あたしの出番は終わり、別の出演者にカメラが回された。
テーブルの上の紅茶を一口すすって、リモコンを握る。早送り。
十分ほど進めると画面が青い背景に変わる。テープが切れたようだ。
「ふぅ」
溜め息をついて、次のビデオテープを入れる。
これが今日消化予定の最後の一本。再生ボタンを押して、画面が切り替わるのを待つ。
画面に映ったのは、またあたし。司会者の問いかけに笑顔で答えを返している。
自分の出演した番組のビデオを見るのが日課だったはずなのに、最近は仕事が忙しすぎてなかなか見る時間が取れなかった。それに反比例するように増えるビデオの量。
102 名前:freebird 投稿日:2003年01月12日(日)02時37分23秒
いつものように飛ばし飛ばし自分の映っている場面だけを見ていると、馴染みのある顔が画面一杯に映し出された。
『藤本美貴、モーニング娘。入り!!』
それは一週間ほど前に本人の口から聞かされていたことだけど、改めてこうして見せられると、事実なんだって実感する。
あたしはミキすけの普段の顔を思った。
愛想笑いなんかじゃない、とびっきりの笑顔。それこそテレビには出せないような、怒ったときの無表情な顔。
もしかしたら今あたしが心を許せる唯一の友達なのかもしれないな、と思う。

だからあたしにはわからなかった。
モーニング娘。にようやく入れた、と喜ぶ彼女が。
今のワイドショーでのコメントも、テレビ用のコメントと言うわけではないことを知っている。
彼女はあたしに報告をするとき、例のとびっきりの笑顔を見せた。
何でも分かり合えると思った友だからこそ感じた、落胆と侮蔑。そして、不思議な既知感。
嬉しそうに語るその傍で、あたしが見せた一瞬の表情に、恐らく彼女は気付いていないだろう。

ねえ、気付いてる?
ミキすけはあの日、背中に生えた翼をむしられて、籠に入れられたんだよ。
気まぐれな鳥が、何処にも飛んでいかないように。
103 名前:freebird 投稿日:2003年01月12日(日)02時38分06秒
突然、テーブルが嫌な音を立てた。
携帯が激しく振動して、あたしの頭の奥の方に不快な響きをもたらす。
無視しようかとも思ったけど、この仕事とは関係のない友人の名前に、あたしは考えを改めた。

「もしもし、亜弥?」
「そーだよ。どうしたの、久しぶりじゃん」
「迷惑かとも思ったけど、どーしてるんやろって思って。まぁ、テレビで見てるんやけどね」
「あははは。そんなの、いつでもかけてきてくれればいいのに」
「いや、なんか最近忙しそーやんか?」
地元の友人は思った以上に変わっていなかった。
真っ白な思い出に包まれたあの日々から、気付けばもう二年以上経っていて、あたしは無性に悔しい気持ちになった。
その理由はあたしにもよくわからないけど、以前から感じていた漠然としたものの正体だってことはわかる。
あたしはこの二年でここまで上り詰めた。
この二年はかけがえのない時間だったはずだ。
104 名前:freebird 投稿日:2003年01月12日(日)02時38分37秒
「でも、亜弥も大変そうやねー」
「え、あたしが?」
「うん。うちらが遊んどるときに仕事仕事やんか」
「あー……」
それはそうだ。
あたしは誰よりも高く飛ぶんだ。
高く飛ぶためには助走がいる。飛びつづけるためには翼をはばたかせなければいけない。
あたしにとってそれこそが仕事であって、つまり仕事をするのは必要なことであって――
「でもまぁ、それはねぇ」
あたしは電話越しに伝わるはずもないのに、曖昧に微笑んで見せた。
電波の影響か、友人の声がざらりと嫌な音を鳴らした。
「スケジュールとか管理されるんやろ? 恋なんておちおちしてられんのちゃう?」
「えっと、それは……」
「でも亜弥はやっぱりすごいわ。うちには出来んもん。アイドルはやっぱり違うんやねー」
あたしはミキすけがモーニング娘。入りを打ち明けたときの表情を思い出した。
どこかで見たことがあると思った、核心に気付いていない無邪気な笑顔。
105 名前:freebird 投稿日:2003年01月12日(日)02時39分18秒
ビデオが一瞬途切れて、すぐに次の番組が始まる。
さっき見たのと同じように、笑顔で司会者に答えるあたし。
その画面に反射して、携帯を握るあたしの笑顔が見える。

――ねえ、気付いてる?
  ミキすけはあの日、背中に生えた翼をむしられて、籠に入れられたんだよ。
  気まぐれな鳥が、何処にも飛んでいかないように。

「もしもし。亜弥?もしもし?」

あたしは今、空高く飛んでいる。
高く、高く、ひたすらに高く。
不意に横を向くと、あの笑顔を浮かべたミキすけが、あたしの隣りで気持ちよさそうに浮かんでいた。
この空を包み込む籠に気付かないまま。



freebird … おわり
106 名前:空唄 投稿日:2003年01月12日(日)02時41分35秒
前回の短編は失敗でした。
107 名前:空唄 投稿日:2003年01月12日(日)02時42分19秒
なので、早めの更新。
108 名前:空唄 投稿日:2003年01月12日(日)02時42分59秒
>>101-105 freebird
109 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月12日(日)10時38分37秒
(0^〜^)<今回のかなりイイ!
110 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月02日(日)21時12分55秒
あやみきよかったです。
ちと泣けました・・・。
111 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)22時58分23秒
∋oノハヽo∈
(〜^◇^)<やぐやぐ♪

112 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)15時24分03秒
ホッゼーン
113 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月05日(木)17時01分56秒
保守
114 名前:名無し 投稿日:2003年07月23日(水)09時56分18秒
リクです。
やぐよし書いてください

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