あなたの為に
- 1 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時14分45秒
- 初のカキコになります。
取り敢えず完成している第1章から載せてみます。
アドバイスを頂きたいと思ったので、
思い切って全ての章が完成する前に載せる事にしました。
文章的に分かりにくい等、ありましたら
注意して下さい。
ではつたない文章ですが、よろしくお願いします。
- 2 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時20分30秒
- 今日はアタシにとって特別な日。
そう、今日から高校生になるんだ。
一応、有名な私立の女子高に通うことになっている。
新しい環境に向けて期待と不安で胸一杯…のはずだった。
でも、実は違う事で頭が一杯なんだ。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月28日(水)01時28分42秒
- 何も変わらない毎日。平凡に生きていくんだ思ってた。
そしてそうなるハズだった。
年の割にませたガキのあたしは
―このまま普通に勉強して高校、大学、と進んで
会社入って腰掛けOL。普通のそこそこのカオした
まあまあの収入でそれなりの性格な男と結婚して
子供産んで。老後は穏やかに2人で生活。
あたしなんて所詮こんななんの面白味もない
人生歩んで終わって行くだけなんだろな…
なんて中学生ながらたまに人生について考えて
溜め息ついたりなんかしてた。
そう、昨日、つまり
2000年4月10日午前零時零分までは。
- 4 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時31分16秒
- 明日から高校生だという事で、
それなりに期待やら不安やらで
一杯だったアタシ。
夜型で朝激弱なアタシは
昨日も夜更かししてTVみたり
漫画読んだりしてた。
…すると、夜の十一時半を回った辺りから
ヘンな事が起こりだした。
【ねえ、そろそろじゃないかしら?】
【アホ、まだあかんて】
【あの、2人ともうるさいのれす。
バレちゃうのれす】
―ん!?―
誰も居ない筈の自分の部屋で
声がしたのに驚いて辺りをキョロキョロ見まわした。
…けど、誰も居る筈がなかった。
当たり前だよね。何やってんだろアタシ…
落ち付きを取り戻してまた雑誌に目を落とした。
- 5 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時38分38秒
- …十一時五十分頃。
【ねー、もういいでしょう?】
【アホ、まだやってゆってるやんけ!!
それから何回も言うけど自分喋り方キモいで】
【あー、こんな大事な日にまでそれ言うんですか?
ひどいです…】
【ひどいです、ってなんやそれ。良い子ぶっとんちゃうで】
【あの、2人とも声が大きいのれす…】
【ハイハイ、ののちゃんの言う通り2人とも
静かにしなさい】
おかしい。なんだこの声は…
そう思ってもう1度辺りを見まわす。
しかし当然誰も居なかった。
―なんかヘンだな…ま、いっか。空耳アワー…
楽天家のアタシは特に気にもせず
コンポのリモコンでラジオを付けた。
- 6 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時39分45秒
- 「えー、今日もお別れの時間となってしまいました。
お相手は……でした、
ではまた来週、バイバイっ」
ラジオでは女性パーソナリティーが終わりの挨拶をしていた。
―このラジオが終わりって事は
もう十二時か。明日入学式だしそろそろ寝よっと…
そう思ってベッドから立って
コンポにお気に入りのCDを入れ、
CDモードに代えようとしたその瞬間。
「ピー…」とラジオから十二時の時報が聞こえると同時に、
「「「「せーの…まーきちゃん、高校生おめでと!!」」」」
とアタシを祝う声がした。
「え!!??あ、どーも…」
あんまり大きい声だったからビックリして、
つい誰もいない空間に向かってお辞儀をしつつ
間抜けな返事をしてしまった。
- 7 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時42分15秒
- 「もー、一体何!?誰!?出てきてよ!!
何、もしかしてビビってんの!?出てきなさいよ!!」
アタシはパニクったあまり訳のない事を大声で
喚きちらしてしまった。
すると、
【ここれす、真希ちゃん。別にビビってないのれす。
真希ちゃんの頭の中なのれす】
って子供の声が聞こえた。
ハァ!?アタシの頭の中!?寄生虫でも入り込んだ?
あ、もしかして寄生獣?ミギーだったらいいかな…
でもミギーは右手じゃん…
あれ、でも声は頭の中から聞こえるんだっけ?
完全にテンパって自分で何を考えているのかも
分からなくなっていた。
- 8 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時44分40秒
- 【まぁそーなるわな。ウチんときもそーやったし。
つーかミギーって誰?】
【そうそう。しょうがないしょうがない。
ポジティブポジティブ♪】
【いや自分全く意味不明やで】
【はいはい、あんた達はいいから黙ってて。
…しょうがない、あたしが説明するわ】
は?なに?この人達。
頭の中にガラの悪い関西人とワケの分からない女の子
と唯一マトモそうな女の人と。
あとさっきのカワイイ声の女の子と。
合わせて四人もいるって事?
アタシ本人合わせて5人!?てか本人ってなんなんだよ。
この人達もアタシの中にいるってことはアタシ?
あー、余計ワケわかんなくなってきた!!
ガシガシと頭を掻いていると
さっきのまともそうな人の声がした。
【ごめんね、真希ちゃん。
急でビックリしてるのは分かるんだけど、
まず説明するから聞いてくれる?】
優しい声に少し落ち付きを取り戻したアタシは
とりあえず落ち付こうと、ベッドに座って考えた。
- 9 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時47分47秒
- うん、悪い人じゃあなさそうだ。
それに何が起こってるか説明できるみたい。
とりあえず説明を聞かなきゃ何も分からないよね。
うん、話、聞いてみよう。
…でも、どうやって返事したらいいのかな?
【ありがとう、聞いてくれるのね。
あ、真希ちゃんがあたしたちに伝えよう、って
思ったことは自然にあたし達に伝わるから、
そう思うだけで会話はできるの。覚えておいて。
また後で詳しく説明するけど
…そうね、まずは自己紹介だけしておきましょうか】
へー、考えるだけでねぇ…
『うん。わかんない事だらけだからとりあえず
誰がアタシの中にいるのか教えて?』
- 10 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時49分24秒
- 【まずウチは裕子や。裕ちゃんって呼んでくれで
ええで】
―あ、さっきのガラの悪い関西人だ。
【だれがガラ悪いクソババアやねん!!
これでもウチは有名な豪族のなぁ…】
『あ、ゴメンナサイ、考えたこと分かっちゃうんだ。
でも誰もクソババアなんて…ちょっとまって、
てことは考えたことは全部バレちゃうってこと?』
【いや、そういうワケじゃあないねんけどな。
その、なんや…その辺の難しいことは麻耶に任すわ】
【じゃあとりあえず自己紹介だけ済ませちゃいますね。
アタシは梨華。江戸時代出身です。チャーミーって呼んでね♪】
さっきのヘンな人か。やっぱりヘンだな…
【グスッ、変な人だなんて…ひどい…】
『あわわ、変じゃない変じゃない!!
すっごくカワイイ声してるね?』
【そう?ありがとう、ウフッ♪】
もう泣き止んでるし…
【人間ポジティブに生きなきゃ♪】
あ、伝わるんだっけ…難しいな。
て言うか人間なの?
まあ江戸時代とか言ってるくらいだから人間か…
- 11 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時51分18秒
- 【梨華ちゃんって呼んであげればいいのれす。
あたしはのの。むろまちじだい出身れす。
のの、とかののちゃん、とか
呼んでくれればいいのれす】
『キミもカワイイ声してるね。よろしくね』
【てへてへ。よろしくれす】
【最後に、あたしは麻耶。一応、なんていうか…
この三人のまとめ役?みたいなもんね。
これからいろいろ困ることも多いと思うけどよろしくね】
『よろしくお願いします。
麻耶さんは出身時代とかって何時なんですか?
ていうか出身時代って何なんですか?』
【ああ、その話からしなきゃいけないのね…
ていうかまだ何も話してなかったわね。
朝何時に家出るの?】
えっと…確か8時40分から入学式だから…
『えーっと、8時前には出たいです』
- 12 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時52分42秒
- 【そう。じゃあ7時過ぎには起きなきゃね。
…今日はもう寝たらどう?詳しい事はまた明日
説明するから。ホントに長くなっちゃうから、
おいおい説明していった方がいいと思うの】
『そうですね。じゃ、今日はもう寝ます』
【うん、そうした方がいいわ。
後、明日、学校ではわたしたちは話しかけないけど
1つだけ注意しておくわ。時計見てくれる?】
アタシはそう言われて時計を見た。
驚いたことに午前零時の時報を聞いてから、ニ時間が過ぎていた。
―もうニ時間も経ってる…
【そう。ニ時間も経ってるの。
真希ちゃんとあたし達は会話してるけど、
それは真希ちゃんの頭の中ででしょ?
つまり、周りから見ると真希ちゃんは
ただボーッとしてるだけに見える訳。
外でアタシ達と話してたら…
分かるでしょ?
それに今も、話始めた頃と体勢は全く変わっていないはずよ。
ずっと同じ体勢でボーッとしてる訳だから、
ヘンな人、って思われてもしかたないわね】
- 13 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時54分08秒
- アタシは自分の体勢を確かめた。
確かに話始めたときと同じようにベッドに座っている。
ちょっと腰が痛くなってたから軽く捻ってみた。
『はい、分かります…外ではあんまり
麻耶さんたちと話さない方がいい、ってことですよね』
【そういう事。まあいろいろ聞きたい事は
あるだろうけど今日はもう寝なさい。
明日からっていうかもう今日からだけど高校生なんでしょ?
入学式遅刻したらシャレにならないもんね】
『はい。おやすみなさい』
【おやすみ】
―そこでなぜかアタシと麻耶さんの会話(?)
は途絶えた。頭からはなんの声も聞こえてこない。
気配も消えたみたいだ。
- 14 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)01時57分43秒
- …分からない。あまりにも分からない事だらけだ。
まず、あの5人は誰なのか。ていうか何なのか。
アタシとなんの関係があるのか。
何故アタシの頭の中にいるのか。
何故昨日出てきたのか。出身時代ってなんなんだ?
…ダメだ。明日麻耶さんに聞くこと整理しようと
思ったけど多すぎて整理できないや。
…ま、いっか。みんな悪い人じゃなさそうだし
なんとかなるっしょ。それにちょっとおもしろそうだし。
なんか今日から人生のベクトルが変な方向きそうな気がする…
なんてね。
よし、寝るべし!!
アタシは持ち前のお気楽さで全てを片付けて、
軽く伸びをしてから1階に降りて歯を磨き、
部屋に戻ってすぐに布団に潜り込んだ。
- 15 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)02時00分40秒
- 更新終了です。
遅くなりましたが、ジャンル的にはファンタジー系…かな?
って感じです。学園生活も描きつつ。
- 16 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時02分18秒
- …てな感じで今に至るってワケ。
低血圧の上に昨日の事件で寝不足なアタシなのに
今朝は意識がハッキリしてる。
というかハッキリし過ぎて寝た気がしない。
ふと時計を見ると7時ちょうどだった。
トントントン…
と階段昇って来る音がする。
足音がドアの前で止まったかと思うと、
ノックも何もせずにガチャリとドアを開けながら
弟が叫んでいた。
「マキちゃん、今日入学式だろ!!
今日ぐらいはやく起きろよ!!…ってあれ?」
いつもならまだ爆睡中のアタシが
ベッドに腰掛けているのを見て弟はビックリしている。
「おはよ」
「…あ、あぁ。おはよ」
- 17 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時04分27秒
- 「うるさいなー、…まだ7時じゃない。
あと十五分ぐらい大丈夫だよ。
それにノックぐらいしなさいよね」
…なんて文句を言って布団にもぐり込んで、
そこから十分ぐらい姉弟の小さな戦争が始まって
やっとアタシが起きる、
ってのがいつものパターンなのに
今日は既に起きている上に文句1つ言ってこないもんだから、
弟はまだ信じられないといった様子で入り口近くで
突っ立っていた。
「あ、もう御飯、出来てるからさ。
早く降りてきなよ」
と意識を取り戻したように言った。
「分かってる。すぐ行くよ」
答えると弟はどこか納得が行かない様子で
「早く来なよ」と一言置いて
首を傾げながら戻って行った。
- 18 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時07分08秒
- 正直ユウキと口論してる気分じゃないんだよね。
すまぬ、弟よ。
恒例行事をサボったお詫びを入れてから立ち上がり、
大きく伸びをした。
「んーーーっっ…ふぅ」
カーテンの隙間から射していた光がとても綺麗だったので
ちらっとカーテンを開けて外の景色を覗いてみた。
2階から見る朝は家の玄関から見るそれとはまた違って
とても綺麗だった。
空が綺麗で、真っ青な空と白い雲のバランスが素晴らしかった。
何より、空気自体が輝いているように見えた。
―へー、部屋から見る朝の景色ってこんなに綺麗だったんだ。
いつもは景色を見る余裕なんてまったくないアタシは
つまんないことに感動してる。
爽やかな気分になったところでもう1度軽く伸びをし、
部屋をでて1階に降りた。お母さんと弟は既に食卓についていた。
- 19 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時09分49秒
- 「おはよ」って軽く声をかけて、洗面所で顔を洗って
食卓に戻る。もそもそと食事を口に運んでいると、
「ねえマキちゃん、なんかあったの?」
といつもは食事中に声なんかかけてこないユウキが
話しかけてきた。
「ん?なんで?」
昨日の事をまさか言うワケにもいかないので
適当に返事をする。
「いや、なんか様子が変だったからさ。
なんかあったのかなーって思って」
「んー、別に何にもないよ。
ま、今日からアタシも高校生なんだし
ちょっとは変わんないと、って思ってさ」
「ふーん。ならまあいいんだけどね…」
ユウキは何か少し寂しそうにしてる。
さては朝の恒例行事、密かに毎朝楽しみにしてたな?
昔からちょっとシスコンの気があるからね、ユウキは…
「あー、朝アタシと喧嘩できないのが
寂しいんでしょ?カワイイヤツめ♪」
「ばっ、違うよ!!なんで好き好んで喧嘩なんか
しなくちゃいけないんだよ!!ったくワケわかんねぇよ…」
「はいはい、照れるな照れるな。
また遊んであげるから。ごちそうさま」
朝、少食のアタシはユウキをからかうだけからかって
席を立った。ユウキは面白くなさそうにしてたけど。
- 20 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時12分19秒
- 歯を磨いてちゃんと顔を洗い、制服に着替えて軽くメイクをする。
実は、有名な高校ってのもあったけど、
受験した一番の動機は制服がカワイイってことだった。
着替えてから鏡の前で色々ポーズをとってみる。
うん、イケてんじゃん!!さすがアタシ。
なんてことを勝手に思ってからチラっと時計をみると、
針が8の手前で重なっていた。
ちょっと早いかな、と思いながらも
初日ぐらいは早めに出とこうと思って、
充電してあった携帯をポケットにいれて部屋を出た。
玄間で靴を履き替えて
「いってきまーす」と声をかけ
「いってらっしゃい、後で行くからね」という返事を背に家を出る。
外の景色はさっき部屋から見たのとは全然違うかったけど、
やっぱりいつもより輝いてた。
- 21 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時15分11秒
- 第1章‐運命‐
アタシの通う高校は家から徒歩と電車合わせて
大体四十分ぐらいの距離。
これなら朝弱いアタシでもギリギリ通えるかなって感じ。
家から歩いて最寄駅まで行って、電車に乗って一本。
乗り換えなきゃいけないんだったらちょっと考えてたかもね。
昨日の事を考えながら電車に乗っていると、
いろんな線が通ってる大きな駅に着いた。
あ、ここってよしこが乗って来る駅だっけ。
あの子朝も強いからこの時間ぐらいにちょうど居るかも、
なんて思ってたら
「プシュー…」ってドアが開いて、
何人かが降りたあとに列の先頭で並んでた
よしこが乗ってきた。
金髪のショートカットに特徴のある頬っぺた。
周りにいる人達とは違ったオーラを放っててすぐに分かった。
向こうもアタシに気付いたみたいで
ニコニコしながら近づいてくる。
- 22 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時16分33秒
- 「ハーイ、ごっちん!!久し振り!!」
「おはよ。久し振りって先週会ったじゃん?」
「おはよ。そうだっけ?気にしない気にしない。
お、相変わらずプリティだねぇごっちん。制服似合ってるじゃん」
「そう?よしこも似合ってるよ?」
「それは当たり前。日本人の常識。インディアン嘘つかない」
「ハハ、何それ。相変わらずワケわかんないね」
この朝から「ハーイ」とか言ってるテンション高い女子高生は
アタシの親友、吉澤ひとみ。
中学3年からアタシと同じ学校に転校してきて、
なんでも生まれも育ちもアメリカで
日本にもその時初めて来たらしい。顔はカワイイんだけど
中学生のクセに金髪だし、メイクはバリバリしてるし。
なんだこいつ、って初めは思ったけど
偶然空いてたアタシの隣の席に座ってから話してみると
とっても気が合って、
すぐにおたがい親友と呼び合えるぐらい仲良くなった。
- 23 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時17分58秒
- 見かけによらずメチャ頭良くて、1年の勉強で
アタシと同じ高校に受かるまでに成績を上げてきた
(じつはその高校って全国的に有名な進学校なんだよね。
アタシも見かけによらず頭は良いらしい。
勉強はそんなに好きじゃないんだけど)
時はビックリした。それに日本語もペラペラなんだ。
小さい頃から家では日本語だったとからしくて。
…とにかく面白いヤツだ、って事。
開くドアの反対側に持たれかかりながらよしこが話しかけて来た。
「そういえばごっちん、ウチらが行く高校って
カワイイ子がたくさん居るって有名なんだよね?
楽しみぃ!!」
よしこはホントに楽しみにしてるみたいだ。
何がそんなに楽しみなんだ?
「いやカワイイ子は多いらしいけど女子高だよ?
居るのはみんな女の子だよ?」
「うん、分かってるよ。ウチ別にそんなの気にしないもん。
相手が女でも。プリティなガールならオールオッケー♪」
- 24 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時21分25秒
- よしこは平然ととんでもない事を言ってのけた。
アタシはビックリして「ちょ、ちょっと待って」
と言い、額に手を当てて「考える人」のポーズで
少し考えこんでしまった。
ちょっと待て。落ち付け、落ちつけよ真希。
アタシ達は女。ウチらの高校に居るのは女。
つまりよしこ曰くオールオッケー♪なのは女。
ということは女と女。子供は出来ない結婚も無理。
ふむふむ、そういうことか。…って違うな。よし。
少し整理してから顔を上げて、思い切ってよしこに訊ねてみた。
「フー。…よしこ?」
「何?ごっちん」
「単刀直入に聞くけど…よしこってレズなの?」
「いや、違うよ?」
「え、でも女の子オッケーって言ってたじゃん」
「カワイイオンナの子『でも』ね。
キュートなオトコの子でもでも全然オッケーだよ。
まあ結局好みであれば何でも良いってことかな?」
よしこは『でも』を強調して言った。
「へー、そうなんだ…」
- 25 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時23分28秒
- 初めて出会った種類の人間にアタシは驚きを隠せなかった。
ってか今まで全然気付かなかったよ。バイ、ってやつなのかな…?
あ、でもそんな言葉ってあんまり使うと良くないんだっけ?
女子高だし、女の子同士…ってのもあるのかな、とは思ってたけど…
…まあ別にそんなに気にはならないんだけどね。
「○○駅、○○駅―」
アタシ達が降りるべき駅が告げられて、2人並んで電車を降りた。
一言も発しないアタシによしこが改札を通ってから
「ごっちん、軽蔑した?」
とセリフと全くマッチしない能天気な顔と声で
話しかけてきた。アタシも平静を装って返事する。
「ううん、別に。そうだったからといって
よしこがよしこじゃなくなるワケじゃないしね。
それに向こうでは結構普通だったんじゃない?
そういうの」
「お、さすがマイベストフレンドだね。
日本じゃあんましそういうの受け入れられないって
聞いたからさ。中学では一応隠してたんだ。
向こうでは男同士、女同士も結構普通でさ。
その環境のせいってワケじゃないけど、
あたしってオトコの子を好きになったりオンナの子を好きになったり
色々だったんだ」
アタシが全然気にしてなさそうにしてたのが嬉しかったのか、
よしこは笑顔でそう話してくれた。
よしこが男を好きになろうが女を好きになろうが
ホントに関係ないしね。
- 26 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時24分37秒
- …でも、マジで女の子を好きになった事あるんだ。
付き合った事もあるのかな?
「あのさ、ちょっと聞きにくいんだけどさ、
その…女の子と…」
「ああ、SEX?あるよ?」
「ばっ…ばかっ!!公衆の面前でなんて事言ってんのさ!!
付き合ったことあるのかって聞こうとしたの!!」
よしこは平然と質問以上の答えを返してきた。
近くに居た人が何人かアタシのバカでかい声に振り返る。
アタシは一気に真っ赤になってしまい、
大声で叫んだ後、よしこの背中をバシバシ叩いてしまった。
「イテ、イタイよごっちん!!」
「もー、急になんてこと言い出すのさ。
もういい、1人で学校行く!!」
よしこと一緒に居るのが恥ずかしくなってしまったアタシは
1人でスタスタ歩き出した。
「待ってよごっちん、ごめんって。
良いじゃん別に、どうせ次に聞くつもりだったんでしょ?」
「違うよ!!そんな事聞くワケないでしょ!!」
そりゃほんのちょっとは聞く気あったケドさ…
- 27 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時27分02秒
隣でよしこが話しかけてくるのを全部無視して
速歩きしてるうちに校門が見えて来た。
一応女子中学生の憧れの的であるこの学校。
中等部もあるけど、メチャクチャ難しいもんだから
高校から狙ってる人の方が多いっていうヘンな学校だ。
あらためて見てみるとそれなりの風格を醸し出している。
「お、学校見えてきたよ、ごっちん!!」
そろそろ許してやるか、と思って
「うん。まず体育館に集合だっけ…ん?よしこ?」
って答えたら、よしこは前を向いて固まっていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「よしこ、どしたの?」
「ごっちん、あの子見てよ!!
超キュートじゃない?
あ、隣にいる人も超クール!!かっけー!!」
よしこの向いてる方を見ると、親と一緒に来ている新入生を
集合場所に案内している先輩らしき人が2人いた。
2人とも細かいとこまでは見えないけど、
1人はかなりちっちゃくてカワイイ金髪の人。
確かに可愛い。なんとなくよしこが好きそうだ。
もうひとりは背は普通で黒髪のショートカット。
パッと見ただけでもかなりカッコイイ。
- 28 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)14時29分11秒
- 更新終了です。
展開遅すぎかも・・・
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月28日(水)14時48分58秒
- ごっちんの頭の中も気になるけど
最後に出てきた二人ってもしかして・・・。
- 30 名前:i 投稿日:2002年08月28日(水)23時10分34秒
- >名無し読者さん
読んで下さってありがとうございます。
もしかして…であってると思われますよ。
ベタなCPも登場します。
良かったらまた読んでやって下さい。
- 31 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)13時49分08秒
- だんだんと2人に近づくにつれてよしこは更に騒ぎだした。
「ごっちん、やばいよ。
あの小さい方の人かなりタイプ。
超ラブリーだし、キュートだし。惚れちゃったかも…」
なんて何がヤバいんだか1人ではしゃいでる。
入学式なのに金髪でデカイ新1年らしき女が騒いでるもんだから
はっきり言ってカナリ浮いちゃってる。
でも、
「よしこ、ホラちょっと落ち付きなよ」
…なんて言ってるアタシの目は
さっきから黒髪の方の人に釘付けになってる。
ホントにカッコイイかも…それに綺麗だし…
サラサラのショートヘアと見つめてると吸い込まれそうな瞳が
アタシを惹き付けて止まなかった。
- 32 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)13時55分12秒
- アタシ達2人は知らないうちに言葉を失って、
それぞれ思い思いの人を見つめながら歩いていた。
「新入生の方は別室に集合してください。
保護者の方は体育館で席に座ってお待ち下さい」
と案内している声を聞きながら2人の前を通り過ぎる瞬間、
振り返りながら黒髪の人を見つめていると、
一瞬目が合って、その人がニッコリ爽やかに笑ってくれた。
ダメだ。後藤真希十五才、完全にノックアウトです…
どうやらアタシは完全にホレてしまったみたいだ。
名前も何も知らない、それも女の人に。
なんでなんだかわかんないけど、一目惚れってヤツ?
ビビッと来たんだよね、ビビッと…
正に目と目が合って…ってヤツだね。
- 33 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)14時01分15秒
ずっとお互い黙って歩いてたアタシ達だったけど、
突然よしこが口を開いた。
「…ねぇごっちん」
「なに?」
「・・・ウチあの人マジで好きになっちゃったかも。
なんかビビッと来たっていうかさ、
なんていうか…運命感じちゃった。」
どうやら表情からしてよしこは本気みたいだ。
それに思ってた事は同じだったみたい。
…よし、アタシも言っちゃおう。よしこにならイイや。
- 34 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)14時04分37秒
- 「実はアタシも…」
「え?」
「いや多分よしことは違う方の人だと思うんだけど。
…好きになっちゃった。
通り過ぎる時に目ぇ合っちゃってさ、ニコって笑ってくれたんだ。
…その笑顔にやられちゃいました」
「へー、そうなんだ…ごっちんが女の子をね…」
よしこは目を真ん丸くして驚いてる。
でも、ふーん、って感じで、そんなに意外でもなかったみたいだ。
「うん…なんか自分でも良くわかんないんだけどさ。
好きになっちゃったら関係ないよね、性別なんて」
「そうそう、関係無い関係ない!!
愛にカタチはナッシング!!」
「そーだそーだ!!愛に形はないんだ!!」
校舎までの桜咲く道のりではしゃぎまくって浮きまくってるってのに
アタシ達は全然気にならなかった。
なんかよしこと2人だけの秘密が出来たみたいで嬉しかった。
【なあ、あの2人もそうちゃうんか?】
「へ!?」
- 35 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)14時06分31秒
- 2人ではしゃいでいると、急に頭の中で声がして、
「へ!?」なんて間抜けな声を出してしまった。
そうだ、昨日…
昨日の事を思い出した。
朝よしこと会ってからすっかり忘れてたけど、
今アタシの中には四人が住んでる(?)んだった。
【そうれすね。感じるのれす】
【凄い学校ですね。真希ちゃん入れてこれでもう
四人目ですよ?】
【うーん、何か原因があるのかもね。
また気付いた事があったらみんな言ってね】
【【【はーい】】】
アタシが聞き返す間も無く四人の気配はそこで消えていった。
- 36 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)14時09分35秒
・・・なんなんだ。あの2人…ってさっきの先輩2人のことだよね。
アタシを入れて四人?…てことはあと1人はよしこ?
ほんっとワケわかんないよ、あの四人…
「っちん、ごっちん!!」
「え…あ、ああ、何?」
よしこが呼んでるのに気付いた。
なんか突っ立ったまま宇宙と交信してるみたいになっちゃってたみたいだ。
「いや『何?』じゃなくて。
なんで急に立ち止まってボーっとしだしたの?
マジビビったよ。立ったまま気ぃ失っちゃったみたいで」
「あ、ああ、なんでもないよ。
ちょっと急にクラス分けのこと気になってさ。
なんでもない。ウン、なんでもないよ」
「そう?ならいいんだどさ。
お、あれが体育館か。
アタシ達の集合場所は校舎の中だからこっから入らないとダメだね」
アタシが言ったしょーもない言い訳を信じたのか信じてないのか
よしこは何も詮索してこなかった。
普通のテンションに戻ったアタシ達は
気付くと校舎の入り口に辿り着いていた。
- 37 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)14時13分42秒
- 校舎は結構なボロさだった。まあ受験した時に分かってたんだけど。
受験料ぼったくってんだからそれで建て替えろよ、とか
思ったりしたけどそれは心の中にしまっておいた。
校舎に入り、2階に上がる。中も結構なボロさだ。
集合場所は割と大きな部屋で、
部屋の中はすでに生徒で溢れかえっていた。
中ではスーツを着た先生らしき人が繰り返し叫んでいた。
「えー、後ろに貼ってあるクラス分けの表を見て
左から1、2,3,4組の順に、
前から出席番号順に並んでください」
―えーっと、アタシは…あった。1組か。
よしこは…お、1組だ!!
「よしこ、クラス一緒じゃん!!」
「あ、ほんとだ!!先生もグレートなクラス分けするねぇ。
センスあるよ」
「なんのセンスだよ(笑)
じゃ、アタシ前の方だから、また後でね」
「うん、また後で。バーイ」
出席番号が後ろの方なよしこと分かれて
アタシは人の波を掻き分けて前の方に進んでいった。
ていうか誰が誰かわかんないんだから
出席番号順になんて並べないじゃん。
何考えてんだろ。しゃーない、適当に話かけるか…
- 38 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)14時17分46秒
- 整列した後そのまま体育館に連れて行かれて、
入ると先輩と親達の盛大な拍手で迎えられた。
保護者席の横を通る時座ってるお母さんと一瞬目が合ったのが
何故か少し嬉しかった。
式はどこにでもある普通のモノで淡々と進んでて、
まあこんなもんだろって感じだった。
理事長の挨拶です、という紹介があって、起立、礼、着席のピアノの合図が
終わって席に座った時。
【真希ちゃん、真希ちゃん】
と麻耶さんがアタシを呼ぶ声がした。
…ったく、今度は何なんだよ…
『なんですか?学校では話かけてこないハズなんじゃ…』
【いや、ちょっと気になることがあってね。
今なら大丈夫かなと思って】
『さっきの話ですか?なんか四人がどう、とかいう』
【そう、その話なの。
さっき校門の所で案内してた金髪のちっちゃい子と
黒髪のボーイッシュな子居たでしょ?
どんな手を使ってもいいからあの子達と仲良くなって欲しいの】
- 39 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)14時25分10秒
『へ?』
どんな手を使ってでもって・・・何かえらく物騒だな。
【そんな必要ないんちゃうか?多分2人は気付いとるで。
ヘタしたらあの子も気付いてるかもしれんしな】
―あ、祐ちゃんだ。
【そうかな?まあ真希ちゃんの場合はちょっと特別だからね…】
『ねー裕ちゃん、あの子、ってよしこのこと?』
【そうや。朝ごっちんと一緒におった金髪の子。
ちなみに四人ってのは2人組とごっちんとその子のことな】
【祐ちゃん、その話はまた後でね。
真希ちゃん、とりあえずそういうワケだからよろしく。
できるだけ早く、できれば今日中に接触して欲しいんだ。
じゃあまた家で】
『あ、麻耶さん、待って!!』
―ってもう居ないや。いっつも一方的に消えちゃってさ、
どういうシステムなんだよ。帰ったらいろいろ教えてもらわなくちゃな…
麻耶さんと裕ちゃんが消えてすぐにまた
「起立」の合図があった。
―え、うわ、ちょ、ちょっと待って―って・・・
え、あ、・・・ガシャン!!
慌てて反応したアタシは立つ時に足に椅子を引っ掛けて
通路側に椅子と一緒に倒れてしまった。
「ガシャンドタン!!」という
ド派手な音が静かな体育館に響き渡ると共に、
アタシは地面に座り込んでいた。
- 40 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月29日(木)14時49分04秒
- ―しまった、やっちゃった―
思った時には時既に遅く、みんなの注目を一身に集めてしまっていた。
さすがに入学式の途中だったから笑い声は聞こえなかったけど、
みんな「なんだ?」って顔でこっちを見てる。
隣の子が「大丈夫?」と気遣ってくれているのに軽く答えながら
急いで立ち上がり、椅子を立てて顔を真っ赤にして俯いていると、
「着席」の合図の後の
「えー、大きな音でしたが大丈夫ですか?…ゴホン、では次に新一年生各クラスの
担任を紹介したいと思います。では担任の先生方どうぞ」
という教頭先生らしき人の言葉で恥ずかしさ倍増。
でも担任の先生は気になったので顔を上げて舞台を見ると、
四人の先生が立っていた。左から1組、2組…なのかなと思って
一番左を見ると、茶髪のあんまり先生らしくない人が居た。
- 41 名前:i 投稿日:2002年08月29日(木)14時50分21秒
- 更新終了です。
第1章…長い…
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月29日(木)16時40分43秒
- まったく先がわからない!!
何なんだろう。がんばってください!!
- 43 名前:i 投稿日:2002年08月30日(金)00時08分19秒
- ―なんだありゃ。どう見てもただのそのへんのニーチャンじゃん。
あれが超有名私立の教師?しかもアタシのクラスの担任?
「えー、1組の担任をさせていただきます寺田と申します。
担当教科は音楽と美術です。よろしくお願いします」
「いいな、つんくさん担任だって」
「ねー、いいよね。初めてじゃない?担任持つの」
「あーあ、アタシ2年遅く生まれてくれば良かった」
先生の挨拶が終わると、アタシの印象とは裏腹に
上級生がうらやましがる声が方々から上がった。
なんだなんだ、そんなに良い先生なのか?
まあ担当教科が音楽と美術ならあの見た目でも有り得るかな。
ていうか音楽と美術っておかしくないか?
普通どっちかでしょ。…やっぱヘンな先生だ。
他の普通の先生らしい担任の紹介は特にざわつく事も無く終わり、
教頭先生が入学式の終わりを告げた。
「えー、この後新入生と保護者の方はそれぞれの教室の方で
お待ち下さい。
ではこれにて2000年度明清学園入学式を終了致します」
大恥をかいた思い出としてアタシの中にいつまでも残るであろう
入学式は終わった。
- 44 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時10分14秒
- 教室に入るとまた出席番号順に座らされて、
親達は後ろに並んで担任が来るのを待った。
暇だったアタシは周りの生徒達を一通り見まわしてみた。
なるほど、確かに可愛い子は多い。
けどアタシと同じレベルなのはよしこぐらいだな。
…なんて自惚れてたら担任の寺田先生が入ってきた。
先生は教壇に上がるとまずみんなの顔を一通り見まわして
何を納得したのかかるく頷いた後、
黒板に「寺田光男」と綺麗な字で書いて挨拶をした。
「えー、これから1年間担任をさせていただきます
寺田です、よろしく。
保護者のみなさま、本日は入学式に御出席いただき
ありがとうございました。
1年間、至らない所も多々ありますでしょうが
どうぞよろしくお願いします」
先生に合わせて親達も深々と頭を下げる。
- 45 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時11分34秒
- 「えー、本校の規則等は生徒証にも書かれておりますし、
学校案内の方もご覧になっておられることでしょう。
それに頭の良いお子さん達のことですから
重ねて注意しなくても大丈夫かと思います。
連絡事項は生徒にプリントにして渡しておきますので
後でご覧下さい。
今日はもう保護者の方にはお話しすべきことはございませんので
お帰り下さって結構です。
生徒の方もプリントを配ってニ、三説明をして
すぐに返しますので。本日はどうもありがとうございました」
親達は頭を下げている先生にもう1度深々と頭を下げ、
教室を出て行った。
あれ、普通親と子供って一緒に帰すんじゃ…
…なんかちょっとヘンだなって思った。
- 46 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時12分53秒
- 廊下を行く親達の足音が収まってから、
先生はもう1度話を始めた。
「…もうええかな。
ふー、どうも親御さん居られたら緊張してあかんわ。
まずな、これ標準語ってのがどうもニガテやねん。
あーゆーセリフも好きやないし」
…なんだこの人?
そう思ったのはアタシだけじゃないハズだ。
急にくだけた調子で、
流暢な関西弁で話始めた先生に対してそう思ったのは。
周りを見てみると案の定みんなあっけにとられた様子をしてる。
「あー、そんな緊張せんでええで。
これから1年付き合っていかなあかんっちゅーのに
気ィ使い合っとったら持たへんわ。
それから先生のことも『寺田先生』とか堅苦しく呼ばんでええから。
2年とか3年はみんな『つんくさん』とか呼びよるし
自分らもそれでえーからな。
えーっと…じゃあまずは自己紹介してもらおか。
せやな…じゃあハイ、そこの金髪から!」
- 47 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時15分06秒
- …はい?
急な展開にまだワケがわからない、といった様子のみんなを全く無視して
先生はいきなり自己紹介しろとか言いだした。
「えー…」とか「いきなり?」とか
いう声が上がる中、初めに指名されたのはよしこだった。
「ほーい」
という間延びした返事と共によしこはあっさり立ちあがった。
やっぱよしこは大物だわ…
平然と立ったよしこは凄いと思う。
「ねーつんくさん、なんでウチからなんですか?
普通出席番号順とかじゃありません?」
「お、自分ノリええなあ。初めはさすがに『先生』て
呼ばれる思たわ。自分…吉澤か。
吉澤から当てた理由はハッキリ言って別に無い。
なんかおもろそうやったから当てただけ。
はい、自己紹介どうぞ!!」
―ハハ、なんだそりゃ。
よしことつんくさんの会話でみんなの緊張も少しほぐれたのか、
ちらほら笑い声も聞こえた。
- 48 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時16分21秒
- 「えー、吉澤ひとみ、十五才。誕生日は4月12日。
趣味は買い物、特技はバレーボール。
長所は…明るいとこかな。あと金髪と。
あ、一応生まれてから中三になるまでアメリカに居ました。
アメリカに行く時はなんでも聞いてね、一応詳しいから。
みんなよろしく、仲良くしてね!!」
パチパチという拍手と共に
「へー、アメリカに居たんだって」
「おもしろい子だね。可愛いし」
とかいう声が聞こえて、座った瞬間よしこは隣の子に話しかけられてた。
どうやらつかみはバッチリのようだ。
「良い感じなってきたやん。
吉澤にはこれからも期待しとるで、イロイロと。
じゃあ次は…自分、そこの前から2列目の彼女いこう」
よしこを初めに指名したのは大正解だったみたいだ。
つんくさんの司会(?)っぷりがおもしろくて、
クラスの雰囲気もよくなってきてなかなかの盛りあがりを見せている。
- 49 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時17分49秒
つんくさんが次々と指名していく中、アタシは結局最後になってしまった。
「よっしゃ、次が最後やな。
よし、そこの一番後ろの彼女!!ビシっとキメてや!!」
―キメるって何をだよ…
少々戸惑いながら席を立った。
「えーっと、後藤真希です。
趣味はポラ集めと買い物。
特技はギターをちらっと弾けたりします。
後は…」
【真希ちゃん、真希ちゃん!!】
「わあ!!」
緊張しながら自己紹介してた中、急に甲高い叫び声が頭の中で響いて、
つい「わあ」とか叫んでしまった。
【あ、ごめんね、やっぱり後でいいわ】
「梨華ちゃんだったのか…
急に凄い声で叫ばないでよね…ってもういないし…
ったく…」
呟きながらハッと気付くと、
つんくさんやみんなが呆然としてた。
教室はシーンと静まりかえっちゃってて、
あっちゃー…またやっちゃったよ…て思ってたら、
急にみんなが爆笑しだした。
「アハハッ、ごっちん、リカチャンって誰だよ!!」
ってよしこも笑ってる。
「いや自分「わあ!!」は無いで「わあ!!」は。
何にびっくりしたんか知らんけどすっごい表情やったで?
とか思ったら
『リカチャンだったのか…』とかめっちゃ真顔で言い出すしホンマ、
自分おもろ過ぎやで。つーかリカチャンって誰なん?」
つんくさんが笑いながら聞いてきた。
- 50 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時20分11秒
- …まさかアタシの脳内に住んでる女の子です、とは
言えないよなぁ…
返事に困ったアタシは、
「あ、いや、ちょっとアタシの守護霊の子が
急に話かけてきてビックリしたもんで…」
なんて頭の中でボツにした意見と似たような事を言ってしまった。
…そしたら、またみんな爆笑しだした。
「アハハ、守護霊ってなんやねんそれ。
自分ホンマおもろいな。
綺麗なカオしてええキャラしとるわ、
入学式ん時コケてたんも自分やろ?
ホンマウケるわ…」
―ま、ウケたからいっか…
と今度は恥をかき慣れてたからか、
良い方に解釈して済ませることができた。
みんなの笑い声がおさまるのを待って、
「中学の時は『ごっちん』とか『マキ』とか
呼ばれてました。よろしくお願いします」
パチパチ…盛大な拍手を受けてアタシは席についた。
- 51 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時21分24秒
- 「よっしゃ、今年はなかなか粒揃いやな。
ええクラスの担任持ったもんやで。これから楽しみやわ。
あ、それから今後、後藤は学校内で守護霊と話すの禁止な。
みんなビックリするし。
じゃあ、しょーもないプリント配るから後ろに回してな」
つんくさんの言葉にまたどっと教室が沸く。
よしこの方を見ると向こうもこっちを見てて目があった。
「楽しくなりそうだね」ってメッセージを込めて
軽くウィンクしたらよしこも分かってくれたみたいで返してくれた。
ホントに楽しい高校生活になりそうだ。
- 52 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月30日(金)00時26分01秒
- プリントを配られて、プリントとは全く関係無い
つんくさんの雑談を聞いた後に解散になった。
何人かはすぐに帰ってたけど、まだほとんどみんな教室に残ってた。
よしこに聞いた話では、アタシが自己紹介してる時、
急に1人芝居でも始めたんじゃないかってぐらい
突然叫び出したらしい。
よしこは
「ごっちんってあんなキャラだったっけ?もっとクールだったよね」
なんて言ってて、
あれは演技だったんじゃないかなんて思ってるらしかった。
「ねーよしこ、これからどうする?」
「うーん。買い物もこの前行ったしなぁ。
とりあえずベタだけど入学記念でプリクラ撮っとく?」
「うん、いいね。とりあえずそれいっとこうか」
あ、忘れてた。麻耶さんがあの2人組と
今日にでも仲良くなってくれって言ってたっけ。
それにアタシも早く仲良くなりたいしね。
「あ、よしこ、その前にちょっと行きたいとこ
あるんだけどさ、良い?」
「オッケー。どこ?」
「えっと、あのね…」
さすがに3年が新入生の案内ってのは無いよな。
じゃあ2年の教室だな…でも何組なんだか…
なんて思ってたその時、
ガラガラ…とドアが開く音がして、
まだ帰っていない生徒たちの注目がドアに集まった。
そこには…朝の2人組がいた。
- 53 名前:i 投稿日:2002年08月30日(金)00時36分25秒
- 更新終了です。
≫名無し読者さん
応援ありがとうございます。
できるだけ頑張りますのでよろしくお願いします。
次回はちゃんと2人登場します。
- 54 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月30日(金)14時50分27秒
- ごっちんの自己紹介はかなりウケました。
やっと二人登場ですね。楽しみだぁ。
- 55 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時00分31秒
- やっぱりみんな気になってたみたいで、
「あー、ホラ、あの人、朝の…」
「うんうん、やっぱかっこいーよね」
とかいう話し声が聞こえる。
「えーっと…あ、いた、紗耶香、あの2人じゃない?」
「え、どこどこ…お、そうだそうだ。あの2人に間違い無いよ。
やっぱ1組だったね。矢口、行くよ」
みんなの注目を集めながら二人はアタシ達の方へ
どんどん近づいてくる。
ドアを背にして見ていなかったよしこも気配に感づいて
振り返ってみて、驚いていた。
2人はアタシ達が座ってるすぐ近くまでくると、
「ここ、良いかな?」と黒髪のショートの人が話かけてきた。
「あ、ハイ…」
ドキドキしながら返事したら、
アタシの隣に黒髪の人、よしこの隣に金髪の人が座った。
- 56 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時02分54秒
- 「朝、目ぇあったよね。覚えてる?」
急に黒髪の人がニコッて爽やかに笑いながら話し掛けてきて、
「あ、ハイ…」
アタシは緊張しててまた同じ返事を返してしまった。
「そんなに緊張しなくていいよ。
あたし2年1組の市井紗耶香。よろしくね」
先輩に微笑みかけられて、
―この爽やかな笑顔…たまんないっす…
なんてオヤジみたいなこと思ってた。
「アタシも2年1組なんだ。
矢口真里、ヨロシクね。
まりっぺ、とかやぐっちゃん、とか呼んでくれたらいいから」
よしこの方をちらっとみたら矢口先輩の方向いて
ポケーってしてた。
―おいおい、見とれてんじゃないよ…
どうしよ。えっと、えっと…あ、アタシも自己紹介しなきゃ。
「あ、あの、アタシ1年1組14番後藤真希です。
あの、なんて呼んでくれてもいいです。
よろしくお願いします」
とたどたどしいながらも自己紹介を終え、
まだポケっとしてるよしこを肘でつついて促す。
よしこもハッとしたみたいで、
「あ、あたし1年1組34番吉澤ひとみです。
よしこ、とかヨシザワ、とか何でも呼んで下さい」
と自己紹介した。
- 57 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時05分56秒
- 「うん、2人ともよろしくね。
…矢口、どうも全然気付いてないみたいなんだけど。
ひょっとして吉澤さんも何も知らないのかな?」
「そうみたいだね。どうしよっか…
ねえ後藤さん、吉澤さん。この後予定ある?」
先輩の問いに、平静を取り戻したよしこが答えた。
「あ、あの…
ごっちんがどっか行きたいとこあるらしいんですけど…」
よしこは『お願いだから「いや、別に無いよ」って言って!!』
って目でアタシに訴えてる。親友同士でこそ成せるアイコンタクト。
でも心配ないよ。アタシの第1目的、接触することはすでに果たされたから。
『大丈夫、分かってる』って視線をよしこに送る。
相手の気持ちを理解しつつ視線をやり取りする間約0,5秒。
嗚呼素晴らしきかな、親友同士。
「いや、別にないですよ。大丈夫です」
よしこの期待通りの答えを返し、再びアイコンタクトを交わす。
「そうなんだ。じゃあさ、とりあえずゆっくり話せるとこ行かない?」
「いいですよ。実はアタシも先輩達とお話したいことあったんです」
「へ?そうなの?」
よしこが間抜けな顔でこっちを向いた。
「うん、ちょっとね…」
「あれ、紗耶香…この子ちょっと知ってるみたいだよ」
「…うん、後藤さんは何か知ってるみたいだね。
よし、じゃああたし達が良く行く喫茶店いこっか」
市井先輩が良く行く喫茶店!?やった!!
「ハイ、行きます!!」
アタシは喜び勇んで返事した。
「おし、決まり!」
市井先輩と矢口先輩はそう言ってドアから出て行った。
アタシ達も急いで荷物をまとめ、先輩達を追いかけた。
- 58 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時11分05秒
- 喫茶店に行く間は前に市井先輩と矢口先輩、
後ろにアタシとよしこっていう風に並んで歩いてたから
よしことばっかり話してた。
「ねぇごっちん、先輩に話あったってなんなのさ?」
「いや実はね、アタシもわかんないんだ」
「はぁ?何それ?」
「いや、ホントなんだ。
とりあえず先輩と話してみないとなんにもわかんないんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
よしこは何故かまた、あんまり詮索してこなかった。
「ここだよ」
学校から駅までの道にある商店街の途中で
路地みたいな道を横に逸れて先輩達が立ち止まったのは、
『好青』っていう洒落た小さな、穴場って感じの喫茶店だった。
喫茶店っていうかちょっとバーみたいな雰囲気もある。
この店周りだけ、なんかちょっと空気が違うカンジがする。
なんて言うか…ちょっと入り辛いって言うか…
「こんちは」
と慣れた感じで市井先輩が中に入って行く。
「お、サヤカに矢口じゃん。いらっしゃい。
後ろの二人は?」
「うん、新入生なんだ。
金髪の子が吉澤さんで、この子が後藤さん」
「後藤です」「吉澤です」
「へー、新入生ね。あんた達がここに連れてくるってことは…
そっち関係?」
「まあね、でもこの子たちほとんど何も知らないみたいなんだ。
だからちょっとここで話しようと思って。
いつもの席空いてるかな?」
「ああ、空いてるよ。ホラ、2人困ってんじゃん、
早く座りな」
突っ立っているアタシ達を店の主人らしき女の人が
気遣ってくれた。
「あ、ゴメンゴメン。じゃ、とりあえず座ろっか」
市井先輩は店の奥の隅っこの席に案内してくれた。
- 59 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時15分05秒
- 「えーっと。さっき紹介したけどあたしが市井でこっちが矢口。
改めてヨロシクね」
「「あ、よろしくお願いします」」
「あ、そうだ、
2人ともお昼まだでしょ?今日は入学祝いに矢口先輩が奢ったげる!
なんでも好きなもの頼んで良いよ」
「お、気前良いねぇ。そーだね、じゃあまずはお昼にすっか」
先輩達は思い思いの料理を注文してる。
矢口先輩が奢ってくれるのは嬉しいけど、
初めて来た上にメニューも何も無いアタシ達は
何を頼んでいいか分からなくて何も言えなかった。
「ん?どしたの?何でも良いよ?今日はお金持ってるからさ」
「いや、あの、メニューとか無いんで何頼んでいいか…」
「あ、そっか。そだね。よし、ねーあやっぺ。アタシとサヤカのさっきのヤツ
無しにしてさ、四人で食べれるように適当になんか持ってきてよ。
ゴージャスなやつね!!」
「矢口あんたお金あんの?」
「今日は持ってるよ!!ジャンジャン作っちゃって!!」
「了解」
「あやっぺの料理めっちゃウマいんだよ。アタシちょー好き。
お金無い時でもサービスしてくれるしさ、
遊ぶっていうかダベるときはいつもここなんだ」
- 60 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時18分25秒
- どうやら先輩達はここに相当通っているみたいだ。
なにやら事情もありそうだし。
店内を見まわしてみると、店の前の汚い道とは裏腹に、
明る過ぎない照明と
壁やインテリアのレトロな雰囲気がとっても良い感じだった。
入り辛かった雰囲気も、
店の中は凄く温かくて優しい空気で満ちていた。
「えーっと、2人のことはなんて呼んだらいいかな…
サヤカはどう思う?」
「あたしは後藤と吉澤、って呼ぶよ。なんか呼びやすいんだ」
「えー普通じゃん。なんかつまんないなぁ。
アタシはやっぱあだ名で呼びたいな。
そだな…じゃあ、ごっつぁんとよっすぃーで!!
ちなみにこれ今矢口が作った。どう?」
「あ、ハイ、なんでもいいです。
矢口先輩の好きな呼び方で」
「カワイイですね、よっすぃーって。気に入りました」
「よし、決まりね!!ごっつあんとよっすぃー。
なんかいいな、うん、我ながら傑作なり」
面白い人だな、矢口先輩って。
ちっちゃいくて元気な矢口先輩を見て
よしこもそう思ったみたいで楽しそうに笑ってた。
「サヤカー、出来たヤツから持ってってー」
「お、料理できてきたみたいだからあたし取ってくるよ」
「よろしくー」
「バカ、矢口も行くんだよ」
「えー…分かったよ、行くよ。
じゃ、2人とも、ちょっと待っててね」
そう言って先輩達はカウンターの方まで料理をとりに行った。
- 61 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時43分12秒
- 黙って待ってたら、よしこが何か気になったみたいで話し掛けてきた。
「ねーごっちん」
「ん?何?」
「確認しとくけどさ、ごっちんが好きなのって
市井先輩なんだよね」
またこいつは急にそんなこと言い出して…
…って思ったけど、よしこの顔があまりにマジだったから
「うん、そうだよ」って普通に答えておいた。
- 62 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時45分30秒
「…ウチさぁ、どうもホントに、マジで好きになっちゃった
みたいなんだ。初めてなんだ、こんな気持ち。
なんだか胸がモヤモヤするって言うか…誰にも渡したくない」
よしこは真顔のままそう言った。
こいつ凄いこと言うな…誰にも渡したくないって
アタシ達まだ会ったばっかだぞ?先輩に彼氏が居るかどうかも
分かんないのに…
「でもさ、よしこ。先輩だってあんなにかわいいんだからさ、
彼氏とかいるかもしんないよ?」
「…そうだね。後で聞いてみるよ」
おいおい。いきなりそんなこと聞く気かよ。
てかなんかいつものよしこと雰囲気違くない?
おちゃらけた雰囲気全然ないんですけど…
…まあそれだけマジってことか。
「ホントに本気なんだね。それだけ本気なんだったら
アタシも応援するよ」
「うん、ありがと。ていうかごっちんは本気じゃないの?
朝、ホレたって言ってたじゃん」
よしこの問いにアタシは即答することが出来なかった。
正直、まだ良く分からないんだよね…
「うーん、…好きなことは間違い無いんだよね。
よしこと同じでビビッときたし…
でもまだ良くわかんないんだ。女の人と…っての初めてだしさ。
もうちょっと先輩の事知ってからじゃないと…」
「そっか」
よしこはそう言って、また何かを考えているような表情に戻った。
直感をそこまで信じきれるよしこを凄いと思ったし、
うらやましくも思った。
- 63 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時46分26秒
- 少しの間二人とも黙ったままだったけど、
先輩の帰りが、料理を取りに行っただけにしては
あまりにも遅いのに痺れを切らし、アタシは沈黙を破った。
「先輩達遅いね」
「だよね。料理取りにいった、って言っても
そこに誰も居ないしさ。店長さんらしき人までいないよ」
カウンターの方を覗いてみると、確かに誰も居なかった。
「ホントだ。3人ともどこ行ったんだろ…
それにさ、良く考えてみたらお昼時なのにアタシ達四人しか
客がいないっておかしくない?」
「そうだね。この店ってどうなってんだろ」
よしこがそう言ったとき、奥のドアが開く音がして、
出てきた3人が目に入った。
「分かったね、今日はまだやめときな」
「…分かったよあやっぺ。矢口も良いよね」
「…うん。今日はやめとこう」
やめとく?何をやめるんだ??
先輩達の会話の意味がアタシには全く分からなかった。
- 64 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時48分59秒
- 「…よし、出来た!!まずこれふた皿もってきな」
「サンキュー、お、うまそ♪」
「はい、サヤカはこれね」
「ありがと。ほら、早く持ってかないと2人待ちくたびれてるよ」
おいしそうな料理を持って先輩達が戻ってきた。
「ゴメンゴメン、ちょっとあやっぺに用事あってさ、
話し込んじゃった。ゴメンね」
「いや、全然大丈夫っす!!全然待ってないっすから!!」
「そう?よっすぃーは良い子だねぇ」
矢口先輩にそんな事を言われてよしこは真っ赤になっちゃってる。
こんなカワイイ一面もあったんだな…
- 65 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時50分11秒
- 市井先輩がお皿を取りに行って、
もう二皿の料理と一緒に帰ってきた。
…と思ったら、
「よし、これで全部だね。
じゃあまずは乾杯から…ってなんにもないじゃん。
そういや飲み物頼んでなかったっけ。
おーいあやっぺ、生中四つ!!」
って矢口先輩がとんでもないことを言い出した。
おいおい、高校生が昼から生中って…
「バカ矢口、制服でしょ!!ちょっとは考えな!!
ったく、2人もびっくりしてるじゃんか。
あやっぺ、あたしコーラね。2人は何が良い?」
やっぱり市井先輩につっこまれてるし。
市井先輩がコーラならあたしもそうしよっと。
「あ、じゃあアタシもコーラで…よしこは?」
「あ、ウチはオレンジジュースお願いします」
「じゃあコーラ2つとオレンジジュース2つお願い」
「はいよ」
「おいサヤカ、勝手に頼むなよぉ」
「じゃあ何、違う物頼む気でもあったわけ?」
「いや別にないけどさぁ…」
「じゃあつまんないこと言わないの」
「ちぇ、いっつもサヤカはさ…ブツブツ…」
- 66 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時55分16秒
- そんな2人の息の合った(?)やりとりを聞いてると
店長さんらしき人が飲み物を持ってきてくれた。
「はい、どうぞ。あ、アタシ店長の彩っていうの。
後藤さん、吉澤さん、よろしくね」
「「あ、よろしくお願いします」」
「じゃあごゆっくり」
そう言って彩さんはまた調理場に戻って行った。
ウェーブのかかった長い髪が綺麗な、
ヤンママ、ってカンジのちょっと怖そうな人だったけど、
声は優しくて良い人そうだった。
「じゃあまずは乾杯しよっぜぃ。いつものヤツいく?」
「そうだね、今日はカオリいないけどやっちゃおっか。
じゃあ矢口どうぞ」
「おし、じゃあごっつぁんによっすぃーはね、
アタシが『乾杯ベイベー!!』っていうから
『ベイベー!!』って返すんだよ。分かった?」
乾杯べいべー?なんだそりゃ?
正直『どうかな?』なんて思っちゃった。
「「は、はい、分かりました」」
「ちゃんと恥ずかしがらずにノリノリで言うんだよ?
ノリ悪いと盛り上がらないからね」
「「分かりました」」
「じゃあいきます、ごっつぁんとよっすぃーの入学を祝って…
かーんぱい、ベイベー!!」
「「「ベイベー!!」」」
四人でカチン、とグラスを合わせた。
恥を捨ててノリノリで言ってみたら意外と気持ち良かったりした。
先輩達は言った後も「イェーイ」なんて言って
2人でグラスを合わせてる。
- 67 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)00時57分15秒
- 市井先輩はコーラを一気飲みして
「クーっ!!やっぱコーラだね!!
あやっぺもう一杯!!」
なんて言ってる。
コーラ一気飲みって実は凄いんじゃ…
彩さんは水とグラスを四つ持ってきてテーブルに置いた。
「サヤカ、あんたいっつもコーラ飲み過ぎ。
ウチにあるだけ全部飲む気?はい、水。
どうせ今日も長く居座る気なんでしょ?
後はセルフサービスでお願いね」
市井先輩は
「しゃーない、水で我慢するか…」
って氷の入った空のグラスを寂しげに見つめてる。
そんなにコーラ好きなのかな。だったら…
「あの、良かったら、ちょっと飲んじゃったけど
アタシのコーラ、どうぞ」
って言ってみた。
「お、マジで!?サンキュ♪」
市井先輩はそう言ってまた一気飲みした。
あ、同じとこ飲んでる…関節キスだ…ちょっと嬉しいかも。
「ふーありがとね、後藤。
ちょっとばかし満たされたよ」
「サヤカ、あんたほんとコーラ飲みすぎ。
ったく、それで太らないのが不思議だよ…」
「アタシは矢口みたいにお菓子パクパク食べないからね。
ホラ2人とも食べて食べて。話はそれからにしよ」
市井先輩がそう言ってくれたから
「「あ、ハイ、いただきます」」
て2人で言って料理に手をつけた。
- 68 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)01時00分48秒
- …おいしい!!
「お、これめっちゃウマいよごっちん!!」
「これもかなりおいしいよ!!てか全部おいしー!!」
「でしょでしょ、あやっぺ料理上手いんだよねー。
じゃあアタシたちもたべよっか。いただきまーす」
「いただきます」
四人で黙々と食べていると、料理は一瞬にして無くなってしまった。
ホント美味しかったな。いつもこんなとこ来てたら
食べすぎてすぐ太っちゃいそうだよ。
「ふー、おいしかった。ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「ふぃー、食った食った。やっぱあやっぺの料理最高!!」
「ごちそうさま。ねぇ2人、まだ食べれる?」
「あ、はい…少しなら…」
「あ、あたしも少しなら…」
「よし、じゃあデザートといきますか。
あやっぺ手作りのチーズケーキがこれまた美味しいんだ。
デザートは市井先輩が奢ってあげるよ。2人は紅茶大丈夫?」
「あ、紅茶好きです」
「ウチも。大丈夫です」
「おし、じゃああやっぺ、紅茶とチーズケーキ四つお願い」
「はーい。今日はえらく気前いいのね。
それに今日の料理ただでさえ豪華にしといたんだから
太るよ?」
「いいのいいの、今日は新しい仲間が増えた記念なんだからさ」
「分かった分かった。すぐ持っていくから」
その後、彩さんが持ってきてくれた
おそらく今まで食べた中で一番美味しかった
チーズケーキと紅茶をいただいた。
彩さん曰く、紅茶にはちょっとこだわりがあって、
ストレートでしか出さないらしい。
確かに牛乳や砂糖を入れるには勿体無いほど
良い香りで、おいしい紅茶だった。
- 69 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)01時04分05秒
- みんなが紅茶を飲み終わって一息ついた辺りで、市井先輩が話を始めた。
―お、あの話かな?…って思ってたら違ったみたいだ。
「ふー。それでさ、本題なんだけど…って
言いたいんだけどさ。今日はその話やめとくよ」
「え?」
「…いや、誘っといて悪いんだけどそんな急な話でもないしさ、
せっかく出会ったんだから
もっとお互いのこと知りたいじゃん?
それにね、この事にはあたし達の先輩もちょっと絡んでるんだ。
先輩にちょっと話してからにするよ」
「そうなんですか…」
「うん、まあいいじゃん。
ねー、ごっつぁんとよっすぃーの事も聞かせてよ。
どこの中学だったの?」
市井先輩の表情が何か隠してる風で
理由も微妙に言い訳っぽかったけど、
仲良くなりたいのはアタシも一緒だったからその事は伏せておいた。
- 70 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)01時04分54秒
- 少しごまかされた気もしたけど、
アタシは何も知らないしよしこも知らないみたいだから
そこからはずっと世間話で盛り上がってた。
それにアタシも市井先輩の事いろいろ知れて、
仲良くなれて嬉しかった。
時間を忘れて話してて、ふと時計を見たらもう5時だった。
「あ、もう5時じゃん。そろそろ帰る?」
「そうだね、後藤は門限あるらしいし
また学校でいつでも会えるんだし、今日はこれくらいにしよっか」
「あ、ちょっとまって。ねぇサヤカ、あれだけは聞いとかなきゃ」
「え…あ、そっか、クラブね。
あのさ、2人はもう入るクラブとか決めてんの?」
クラブか。軽音かバスケか、てとこなんだけど…
「あ、アタシはバレー部に入ろうと思うんですけど」
よしこはまあそうだろうな。
先輩もさっきの話でバレー部だった話が出たからなのか納得してる。
「うんうん、やっぱよっすぃーはバレー部だよね。
あ、まだ言ってなかったけど矢口背ぇ低いけど
バレー部なんだ。よろしくね、よっすぃー」
「え、そうなんですか?よろしくお願いします!!」
よしこに『やったね』って目で合図すると
『やったぜ!!』って視線が返ってきた。
「吉澤はやっぱバレー部か。
後藤は?中学んときバスケやってたんだよね。
バスケ部入ってくれんの?
あ、でもギターも弾けるって言ってたから軽音?」
- 71 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)01時06分25秒
- ていうか市井先輩の居るクラブがいいんですけど…
あれ、ちょっとまてよ、いま『入ってくれんの?』って
言ったよね。てことは…
「あ、やっぱ運動続けたいんでバスケ部入りたいんですけど…」
「お、良いねぇ。バスケ部新入部員1人ゲット!!
あたしバスケ部なんだ。一応スタメンでSGやってます。
よろしくね、後藤」
やった!!読み的中!!
よしこともう1度視線を交わしてから、
「はい、よろしくお願いします!!」
って元気良く返事した。
「ウチらホントに縁あるねぇ。
…ね、もう仲間なんだからさ、2人とも敬語使うのやめなよ。
それに『矢口先輩』とか呼ばれんのなんかくすぐったいんだよね。
よそよそしいしさ、なんか呼び方考えてよ」
「うん、そだね、どうせこれから嫌ってぐらい一緒に居るんだし。
アタシも『市井先輩』ってのはちょっとねぇ」
先輩に『仲間』って言われたのは嬉しいけど
急にタメ語になるのはちょっと抵抗あった。
ホントに良いのかな。アタシは先輩と親しげできるのは嬉しいんだけど…
よしこはちょっと戸惑ってるし…
- 72 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)01時10分17秒
- 2人ともちょっとの間戸惑ってたけど、
アタシは市井先輩と仲良くなりたい気持ちが強くて
思い切ってあだ名で呼ぶことに決めた。
うーん、なんにしよっかな。
矢口先輩はアタシのことごっつぁんって呼んでるから…
やぐっつぁん!…おし、決まり。
市井先輩は…サヤカ!!とは呼びにくいよなぁ…
サヤカさん…さやりん?…有り得無い。
市井ちゃん!!…ってなんだよそれ。
…お、ちょっと待てよ?市井ちゃん、ってなんか
親しげでよくない?よし、これでいこう!!
「じゃあ、やぐっつぁんと市井ちゃん、
て呼んでいいですか?」
ってアタシが言ったら、
「プッ…キャハハハ!!市井ちゃんだって!!
サヤカが市井ちゃん!!あのカッコつけサヤカが!!
はー、マジウケるよ、ごっつぁん最高!!」
って矢口先輩は急に爆笑し出した。
「あ、アタシはやぐっつぁんで全然OKよ。
ねー、サヤカも良いよね?」
「カッコつけってなんだよ…って矢口笑いすぎ。
…うん、それでいいよ」
やった、市井ちゃんって呼べるんだ。なんか嬉しい…
- 73 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年08月31日(土)01時12分28秒
- 「あの、吉澤はですね、やっぱ先輩なんで
『矢口さん』と『市井さん』って呼びたいんですけど…」
―なんだなんだよしこ、せっかくやぐっつぁんと
親密っぽくなれるチャンスなのにさ。
まあよしこは縦の繋がりには妙にキッチリしてるからね…
、
「そっか。まあ吉澤はなんかそういう感じだし
いいよ、それで。後藤に『市井さん』とか呼ばれるのは
ちょっと抵抗あるけどね」
「あー、なにそれ。市井ちゃんひどーい」
市井ちゃんがちょっとイジワルっぽく言ったから、
アタシはなんの抵抗も無くタメ語で話せた。
それにしても会って1日でこんなに仲良くなれるなんて
思わなかったな…
そのあと、あれだけ料理とデザートを食べて
四人でたった三千円だったのにビックリしつつ、
彩さんにお礼を言って店を出た。
駅に着くと、市井ちゃんとやぐっつぁんは
反対方面みたいでそこで別れることになった。
「市井ちゃんやぐっつぁん、今日はごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。とってもおいしかったです」
「いいよいいよ。
これからはあんまし奢れないかもしれないけどね」
「じゃあ、また詳しいことは明日ね。クラブ見学も明日からはじまるし。
後藤、待ってるよ」
「よっすぃーも来てね、待ってるよん」
「うん、絶対行くよ、バスケ部」
「あたしも絶対行きます」
「うん。じゃーまた明日。バイバイ」
「ばいばーい」
「バイバイ」
「さようなら」
市井ちゃん達とはそこで別れて、
別々のホームへ向かった。
- 74 名前:i 投稿日:2002年08月31日(土)01時23分36秒
- 更新終了です。
≫名無し読者さん
こんな作品を楽しみにして下さってありがとうございます。
実は結構ベタな展開になります(死)
これからもよろしくお願いします。
途中1つだけ、某超有名少年漫画と設定が被ってる所があります。
基本的にオリジナルでパクったつもりは無いのですが、
そのへんは突っ込まないで頂けるとありがたいです。。
- 75 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月31日(土)18時18分16秒
- 今日初めて読みました。この四人が一体何なのかすごい楽しみです。
- 76 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時25分47秒
- 市井ちゃんと別れてよしこと2人っきりになってから、
今日の事を少し振りかえってみた。
「でもさ、良かったよね、仲良くなれてさ。
アタシ朝市井ちゃん達に会った時さ、
『どうやって近づこうかな』なんて考えてたんだよね」
「あー!!ウチもそれ考えてたよ!!
とりあえずクラスと部活調べて…とか思ってたもん」
「そういえばさ、よしこやぐっつぁんに彼氏いるかどうか
聞いてみるんじゃなかったの?」
「いや、やっぱ本人目の前にするとさ、緊張しちゃって
聞けなかったわ」
「そっか。うん、今日はよしこに乙女チックな一面があるって
分かった事も1つの収穫だったよ」
「なにそれー。ウチも女なんだからね。
あ、そういえばさ、つんくさんっておもしろくない?」
「うんうん、初めは『なんだこのニーチャンは』とか
思ってたけどおもしろいし良い先生だよね」
いろいろ話してるうちによしこが降りる駅に着いて、
よしこと別れた。
その後はアタシの最寄り駅に着くまで寝てしまって、
駅前のコンビニにも寄らずに家にまっすぐ帰った。
- 77 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時27分40秒
- お昼に食べすぎたせいかあんまりお腹が空いてなかったし、
イロイロ聞きたい事があったから、「御飯、後でいいから」
ってお母さんに声かけてすぐ自分の部屋にこもった。
ベッドにドサって飛び込んでから、
そろそろ、いろいろと話してもらわないとね。
まずは梨華ちゃんに自己紹介の時の事聞かないと…
って思ってまず梨華ちゃんに呼びかけてみた。
『ねぇ、梨華ちゃん?』
【あ、真希ちゃん、お帰りなさい。何か用?】
―いやあんたね、何か用って…
【アホちゃうんか自分?
自分でよびかけといて(何か用?)やあらへんでホンマ…】
祐ちゃんのナイスツッコミが入って、梨華ちゃんもようやく思い出したようだ。
- 78 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時30分17秒
【あ、ごめんなさい真希ちゃん。
あの時呼んだのはね、あの先生がちょっと気になったからなの】
『先生って…つんくさんのこと?』
【そうそう。あの時ね、あの人もそうなのかなって思ったんだけど
分かんないの。反応がとっても弱かったの】
【え、梨華ちゃん、あの先生もそうだったの?】
―あ、麻耶さんだ。
【はい、ほんとに反応があったの一瞬だけだったし、
なんか普通とはちょっと違う感じだったし、
確信持てなかったから言わなかったんです】
『そうだそうだ、朝からさ、
【あの人も(そう)】とか
【あの2人も(そう)だ】とかいってるけどさ、
アタシ達ってなんなの?何が【そう】なの?』
朝からずっと疑問に思ってた事を聞いてみた。
- 79 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時31分27秒
- 【ああ、それな…なあ麻耶、もう言ってもええやろ?】
【そうだね、もうそろそろいいかな。
どうする、祐ちゃん説明してくれる?】
【よっしゃ。あのなごっちん、心して聞いてな】
『うんうん。何?』
【まずはウチらの存在やねんけどな。
…まあ分かり易く今風に言うと、幽霊、ってとこやねん】
『幽霊?』
【うん、まあ幽霊なんて言葉は曖昧な定義しかないから
相応しくないんかもしれんけど。
…そうやな、魂、って表現した方がしっくりくるかな】
―なるほど。「魂」か。
そういやなんとか時代出身とかって言ってたっけ。
『へー、じゃあさまよえる魂がアタシに取り付いた…ってワケ?』
- 80 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時41分40秒
- 【いや、それもちょっと違うわ。
ウチらが何なんかってのはまだちょっと言われへんねん。
ていうかウチらの存在をごっちんに気づかせたんが
つい最近やったってだけでな、実はごっちんが生まれた時から
…正確には生まれてくるって決まった時からウチらここにおってん】
『へ?そうなの?』
【そうやねん。うーん、全部話してたらホンマに長いし
ごっちんもウチらのこと受け入れてくれてるからな、
かいつまんで話すで。
ごっちんが気にしてた何が(そう)かってことやねんけどな】
『うんうん』
- 81 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時43分10秒
- 【簡単に言うとごっちん達は霊能力者って事やねん】
『霊能力者ぁ?』
【いや正しくは違うんやけど、
超能力って言うよりは霊能力、って言った方が近いと思う。
まあ分かり易いやろ?】
―そういえばユウキが読んでた漫画に
霊能力者って出てきた気がする…じゃあ…
『え、じゃあさ、アタシも指の先から弾が出たり
なんにもないとこから剣出せたりするの?』
【あー、そういう事できるヤツも自分らの中におるかも
しれんな】
『へー、そうなんだ…なんか凄いね。
あ、ねぇねぇ、アタシの能力ってなんなの?』
【そう、それやねん。ごっちんの能力はな…】
『能力は…?』
―お、なんだろ?植物から武器を作るとかオシャレなやつがいいな♪
- 82 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時44分09秒
- 【何も無い】
『へ?』
―え、今「ない」って聞こえたんですけど…
【いやだから、何もないって】
『…マジっすか?』
【マジっす】
『インディアンは?』
【嘘つかない】
『マハリクマハリタ』
【ヤンバラヤンヤンヤン…って何言わすねん!!
無いもんは無いの】
―おいおい、なんにもないのかよ…
なんかよしこみたいなこと言っちゃったし…
正直ちょっと期待してたもんだからガッカリしちゃった。
ていうかある意味裕ちゃん達が居るってのも
能力なのかも…なんかショボいけど……
- 83 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時44分54秒
- 【まあまあそんなに落ち込まんと。
能力はないかもしれんけど
ごっちんには重要な使命があるから】
『重要な使命って?』
【いや、それはウチらの口から言うべきことやないねん。
なあ麻耶?】
【そう、その話は市井さん達がしてくれると思うわ】
―もしかして、急に「アナタは地球の平和を守るために…」
とか言われてウルトラマンみたいな
宇宙人と戦うたびに街をバキバキ破壊する
ありがた迷惑なヒーローになっちゃうとか?…絶対イヤ。
アタシが不吉な事を考えてたら、麻耶さんが違う話題を振ってきた。
【あ、そうだ。アタシ達のことなんだけど…】
『ん、何ですか?』
- 84 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時45分47秒
- 【なんか急に出て来たり消えたりして
分かりづらくない?自己紹介の時とか入学式の時も
びっくりさせちゃったでしょ?】
『ええ、そりゃもう。めちゃめちゃ急なんだもん』
恥をかいた入学式とちょっとウケた自己紹介を思いだした。
【ゴメンね、ホントは昨日の夜話しとくべきだったんだけどね。
じゃあののちゃん、お願いね】
【分かったのれす】
―あ、ののちゃんだ。やっぱカワイイ声してるよな…
【じゃあ真希ちゃん、頭の中に部屋をイメージしてくらさい。
何にもない、透明な箱みたいな部屋れす。
周りは真っ暗で…】
ののちゃんに言われた通りに部屋をイメージすると、
ホントに頭の中に部屋が出来たような感じになった。
- 85 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時48分58秒
- ていうか、アタシの体はそこに無いけど、
意識はその透明な部屋にあるみたいな状態で、
周りは真っ暗で何も無かった。
【そうそう、その調子れす。
その中に、のの達の声から思い浮かぶそれぞれの顔や体を
イメージしてくらさい】
―祐ちゃんは…ちょっとケバい感じかな。20代後半…いや30近いかな?
金髪で…
って想像したてたら、気付いたら部屋の中に
イメージ通りの祐ちゃんの姿があった。
真っ暗だけど、祐ちゃんの姿ははっきりと見える。
―わ、すっごーい!!じゃあ次は梨華ちゃんで…
かわいくてちょっと顎がしゃくれてるけど…美少女って感じだな。
すらっとしててちょっと色黒で…
ののちゃんは、ちっちゃくて、八重歯が出てて…
ちょっと丸っこい感じだな…
麻耶さんは…あれ、意外と幼い感じだな。
ショートカットで…同い年ぐらいかな?
アタシがイメージしたっていうか、
どこかからみんなの外見に関する情報が
頭に流れ込んできたって感じだった。
- 86 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時50分14秒
- 【よし、できたのれす。
真希ちゃん、もういいれすよ。これがのの達の姿れす】
さっきの部屋の中に四人が並んでた。
アタシがイメージした通りの姿で動いてる。
『へー、それがみんなの姿なんだ。
んで、この部屋はどうすればいいの?』
【真希ちゃんがこの部屋のことを思ってくれれば
すぐ部屋は出てくるのれす。
分かり易く言うとテレビのスイッチをON、OFFに切り替える
イメージれす。
逆にのの達が話しかけるときはあたし達の方から
この部屋を真希ちゃんに出すからそれで話せるのれす。
それで、これからは真希ちゃんがアタシ達に伝えたい、って
思ったことしか伝わらないれすから。安心してくらさい】
『うん、分かった。とっても分かり易いよ。ありがと、ののちゃん』
【てへてへ…】
―あれ?
ののちゃんがてへてへって笑った後パッて消えちゃった。
- 87 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時51分21秒
- 『あれ、ののちゃんは?』
【ああ、ウチらいっつもこの部屋の中におるわけやないから。
いつも2、3人は居るやろうけどまあその辺はまだ秘密や】
実はあんましわかり易くないかも…
よし、ちょっと整理してみよう。
まず裕ちゃん達は魂みたいな存在で、詳しい事はまだ秘密。
アタシ以外の仲間はみんな能力を持ってて、
アタシには重要な使命がある。でもそれはまだ秘密。
部屋の事は大体分かったけど、これまた詳しい事は秘密。
…って肝心な事は全部秘密じゃん!!
『…ねえ祐ちゃん、実は肝心な事、何も教えてくれてなくない?』
【あ、ああ。まあ今日は大筋を話したってことでな。
まだ話してへんこともあるけどまああんま気にしなや。
どうせこれから嫌でも知らなあかんねやから】
- 88 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時53分47秒
- 頭の中で実体化して動きながら喋る裕ちゃんの姿は
今までと比べても何の違和感も無かった。
良くわかんないけど凄いな、コレ。
実はそんなに納得してなかったけど、
市井ちゃんに聞けばいいやって思ったから納得したことにしておいた。
『うん、分かったよ。じゃあ今日はこれくらいにしとこっか。
おやすみ、裕ちゃん』
【はいよ。おやすみごっちん】
ゆうちゃんはおでこのとこでキザっぽく
指を揃えてピースして軽くキメながら消えてった。
いつのまにか他の3人も消えてたから部屋を閉じた。
へー、ホントにテレビのON、OFFって感じだな。
テレビの中に入ってるみたいな…
もっかい出してみて…あ、誰も居ないや。閉じとこっと。
フー…なんか裕ちゃん達と話してると疲れるな…
時計を見るともう9時になろうとしていた。
げ、もう9時じゃん。
…てことは3時間ぐらい喋りっぱなし?
そりゃ疲れるよ…
同じ姿勢だし、時間の概念まったくないし…
あの部屋に時計でも置いて欲しいな。
とりあえずおフロでも入ろっと…
- 89 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時55分22秒
- そう思ってベッドから立ちあがって伸びをしてから
何気なくカバンに入れっぱなしだった携帯を取り出すと、
『不在着信1件』って文字が見えた。
えーっと、誰だろ…お、よしこか。
珍しいな、電話なんて。いつもメールなのに。
そう思ってよしこにメールを送ってみた。
『ゴメン、着信気付かなかったよ。
でも珍しいね、電話なんて。
なんかあった? 』
―送信、っと。
よし、おフロおフロっと…
…って思ったらすぐ携帯が震えた。
着信画面に『吉澤ひとみ』って名前が出てる。
そんなに急な用事なのかな?
…まあいいや。
「もしもし?」
- 90 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)20時57分30秒
「あ、ごっちん?」
「どしたの、電話なんて。めずらしいじゃん」
「ああ、うん。ちょっと用事あってさ」
「なにさ、改まっちゃって」
―用事だったらメールでもいいじゃん?
なんだろ…
「ああ、別に大したことじゃあないんだ。
明日さ、今日と同じ電車乗ってきてくれない?
ちょっと話あるんだ」
―話?…あ、もしかしてさっき裕ちゃんが言ってた話かな?
「あのさ、話って…その…能力、ってヤツ関係の話なの?」
「……それ、誰に聞いたの?」
―げ。よしこ、なんか怒ってる…
よしこは急に今まで聞いた事ないくらい
真剣な声で聞いてきた。
「あ、いやその、別に誰に聞いたとかそういうアレじゃなくて…」
「あ、なら良いんだ。もしかして誰かにバレちゃってんのかとか
思っちゃってさ、あせっちゃったよ」
- 91 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)21時02分16秒
- ―ふー。元に戻った…
「もー、ビックリさせないでよ。急に恐い声になるんだもん」
「いや、ゴメンゴメン。なんか誰かから聞いた風な
口ぶりだったからさ。まあでもごっちんが知ってるんなら
…うん、そういう事だね。話は早いよ。明日絶対同じ電車乗っててね」
「うん、分かった」
「じゃ、また明日ね。バーイ」
「バイバイ」
ピッ…
…ちょっとまてよ。今思い出したけど、
よしこはその話知ってたんだよね。
ならなんで先輩の前でその話しなかったんだ?
よしこが何も知らないフリしてる事に気付いて、
しかも、祐ちゃんの話からすると、
いずれアタシが知る事になるってのはよしこも
知ってるハズなのに隠してた、ってことが物凄く気になって、
一瞬あの部屋出そっかなって思ったけど
また長くなりそうだし、誰もいなさそうだし、
明日よしこに会うまで待つ事にした。
今日は疲れたからもうおフロ入って寝よっと…
- 92 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)21時08分57秒
おフロ上がりに、ユウキに「明日は早めに起こしてくんない?」
って頼んでおいたから、今日は朝の恒例行事も繰り広げつつ、
早めに起きることが出来た。それでも結構ギリギリだったから、
急いで用意して走って駅に向かう。
「ふー、間に合った」
なんとか間に合ったアタシは、よしこが乗ってくる駅に着くのを
立ったままドアにもたれて寝ながら待った。
「ごっちん」
「んあ?ああ、よしこオハヨ」
「おはよ。ってか立ったまま寝てどーすんだよ(笑)」
「あはは、いやまあ寝るの好きだし」
―アタシって最近ワケわかんないな…
なんて思いつつ、
「あ、そういやよしこ。話あるんじゃなかったの?」
って聞いてみた。
- 93 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)21時09分46秒
- 「あ、うん。その話なんだけどね。
ごっちんはもう気付いたの?
…その、なんていうか…自分の中に居る誰かに」
「え?なんでよしこ知ってんの?」
「ああ、まあそれはいいじゃん。
で、気付いたんだよね?」
笑いながらごまかすよしこがちょっと気になったけど
まあそこは見逃しておこう。
「気付いたっていうか気付かされたっていうか…
裕ちゃん達のことでしょ?」
「え?『達』って何人もいんの?」
「うん。四人いるよ」
「四人…?ヘンだな…母さんの話では1人のハズなのに…
どういうことだろ…」
よしこは何か納得いかないことがあるらしくて
ブツブツ呟いてる。
- 94 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)21時10分44秒
- 「何、よしこどしたの?」
「ああ、いやなんでもないよ。
ふーん、じゃあウチとか矢口さんとかが
チカラ持ってんの知ってんだよね」
何故かよしこは声をちょっとひそめて
「うん知ってるよ。
あ、ねえねえ、よしこの能力ってなんなの?」
「あ、それはまだ言えないよ。
実際使う時になってからのお楽しみ」
「えー、なにそれぇ」
不服そうに言うアタシによしこはなんでか驚いた顔をしてる。
「ていうかさ、ホントにごっちんなんにも知らないんだね。
チカラについての話とかさ、みんなの前でするのって
ダメなんだよ」
「え、そうなの?」
- 95 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月01日(日)21時11分37秒
- 「うん。ちょっと考えりゃ分かりそうなもんじゃん?
まあウチも昔母さんに良く注意されたけどね」
―あ、そりゃそっか。
言ってみりゃ超能力みたいなもんだし、
世間に知れたらどうなるか…
…だからアタシに何も言わなかったし、
昨日教室でその話しなかったんだ。
「そうだね。じゃあまあ見れる日が来るの楽しみにしてるよ」
「いやごっちん、楽しみにしてるって…まあいいや。
今日矢口さん達と話する時にその話もでるでしょ…」
―…なにそれ。だって能力見てみたいじゃん。
てかアタシ1人なんにも知らないみたいでヤだな…
何かイロイロ知ってる風なよしこにちょっとムカついたけど、
市井ちゃんに聞けばいいや、って思ってそのまま流しといた。
- 96 名前:i 投稿日:2002年09月01日(日)21時17分51秒
- 更新終了です。
>名無し読者さん
読んで下さってありがとうございます。
4人が何なのか、ってのはもうすぐ明らかになりますので
また読んでやって下さい。
第1章、第二章と続いていけば、設定上、
異様な長さになってしまうかもしれませんし、
夏休みが終わるので更新速度も今よりは落ちるかもしれません。
完結はいつになるか判りませんが、
お付き合い頂けると嬉しいです。
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月02日(月)05時23分37秒
- この話好きです。
楽しみに待ってます。
- 98 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時12分56秒
- 学校では思ったよりレベルの高くない授業が繰り広げられてて、
「ふーん、こんなもんか」と毎時間思いつつ
6時間を過ごした。
…そして、待ちに待った放課後。
よっし、バスケ部行くぞ!!!
実は中学の時スタメンで、チーム内では一番上手くて
エースみたいな存在だったアタシ。
バスケにはちょっと自信あるんだ。
終礼が終わると、つんくさんが出て行くより早く
教室を出て更衣室へ向かった。
パパっと着替えてバッシュを持って体育館へ。
- 99 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時13分29秒
- 中をちらっと覗いてみたものの、
まだ早すぎて誰も居なかった。
―あちゃ、早く来過ぎたか…
用具の場所も何も知らなかったから
誰か先輩が来るのをじっと待つしかなかった。
軽く柔軟してたらドアが開いて、音がした方を見たら
ジャージとTシャツ姿で入って来た市井ちゃんと目が合った。
うー、カッコイイ…ジャージ似合い過ぎっす…
青地に白のラインが入ったジャージに
白のナイキのプリントTシャツ。
なんてことないカッコだけど凄くサマになってる。
- 100 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時15分48秒
- 「お、後藤来たねぇ。あたしより早いなんて凄いね」
市井ちゃんはなぜかちょっと驚いてた。
「うん、終礼終わったら速攻で来ちゃった」
「そっか。でも部活まだ始まんないよ?」
「え?そうなの?」
もう3時半なのに…
「うん、部活って基本的に4時からなんだ。
ホラ、ウチの学校一応学業優先だからさ。
担任から説明あったでしょ?」
「いや昨日は雑談聞かされて終わっちゃったんだ。
プリントは配られたけど説明は何も無かったよ」
「なにそれ?担任誰だよ…ってああ、後藤の担任ってつんくさん?」
「そうだよ」
「ったくつんくさんもしょうがないな。
ホント適当なんだから…まあ4時からっていっても
アタシはいっつもこれくらいからやってるけどね」
やっぱりつんくさんは有名みたいだ。
…おもしろいのと適当なので。
市井ちゃんは「しょうがないな」って言いながら
用具室みたいなとこに入っていった。
- 101 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時16分27秒
- まず体育館にモップ掛けしてから
ボールを1つ渡された。
「ほい、これ。あたし見てるからさ、適当にやってみてよ」
「えー、見てるの?一緒にやろうよ」
さすがにじっと見られてるのは恥ずかしいよ…
「いーじゃん、どれくらい出来るのか見せてよ。
ほらつべこべ言わずにやるやる」
市井ちゃんは急に先輩っぽい口調になってそう言った。
―しょうがないな…
しかたなくアタシは1人でやり始めた。
まずは斜めから、軽く左右にドリブルして
ステップからバンクショット。
ボールは勢い良くボードに当たってゴールに吸い込まれた。
「ゴン、パシュッ!」
お、入った!!良し良し、勘は鈍ってないみたいだ。
- 102 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時17分32秒
- 一発決めて調子に乗ったアタシは昔のプレイを
すぐに取り戻した。
レッグスルーやバックチェンジからフェイドアウェイ、
ドライブからロールターンでふわっと浮かせるレイアップ。
どのシュートも「シュパッ」て音をたてて
綺麗にゴールに吸い込まれていく。
おいおい、なんかめっちゃ好調なんですけど…
中三で引退して以来しばらくやってなかったのに
現役時代より上手くなったんじゃないかって思うぐらいだった。
市井ちゃんはしばらく黙って見てただけだったけど、突然
「…ねえ後藤、ちょっと1on1やってみない?」
って誘ってきた。
- 103 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時20分15秒
- 「え?市井ちゃんと?」
「うん。あたしディフェンスだけでいいからさ」
「別にいいけど…ヘタでも文句言わないでよ」
「言わないよ。…ほい、いつでもいいよ」
って言って、市井ちゃんはフリースローライン辺りで構えた。
正直、1on1には自信があったし、
市井ちゃんが、高校バスケがどのくらいのレベルなのか
見てみたかった。
・・・よし、本気でいっちゃおう。
そう思ってグッと腰を落として右足を前に出して構えて、
市井ちゃんをジッと見据える。
…さすがにスキが無いな…
市井ちゃんのディフェンスフォームは
アタシが今まで見た中で一番綺麗で、ホントにスキが無かった。
腰はちゃんと落ちてて、手もしっかりボールをチェックしてる。
なによりバランスが最高。抜ける気配が無い。
- 104 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時21分49秒
- かなり長い間ジリジリ探りを入れてたけど、
ドリブルで抜くのは無理だと思ったアタシは
自分が一番得意なプレイで攻めることに決めた。
これで無理だったらなにしても無駄だもんね。
まずボールを持ったまま左右に揺さぶった後、
全速で右からドライブして出来るだけゴール付近まで切り込む。
やっぱり市井ちゃんのディフェンスは上手くてピッタリ着いてきたけど、
それも気にせずに、ノッキングモーションの間に
左右に視線でフェイクを入れた後
一瞬ゴールを見てシュートフェイク、
その瞬間に右斜め後ろに小さく最速でステップバックして
これまた最速でジャンプシュート。
…まあ言っちゃえばただのスピード勝負なんだけど。
- 105 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時23分03秒
- ―おし、いった!!
…って思ったけど、ブロックに跳んだ市井ちゃんの
中指の先にボールが掠ってしまっていたらしく、
シュートはリングに「ガンッ」て当たって外れてしまった。
―あーあ、チェックされちゃった。
やっぱ高校バスケは違うな…
なんて思ってたら、パチパチパチ…って拍手が聞こえた。
「すごいすごい!!キミどこのバスケ部の子なの?」
「サヤカ、この子あんたの知り合いなの?」
っていつのまにか体育館に入って来てた
背の高いロングヘアーの人と、
ちっちゃくて色白の、笑顔がめっちゃかわいい人が言った。
- 106 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時24分53秒
- 「お、なっちにカオリじゃん。早いね…ってもう五十分か。
うん、この子ね、ウチのドラフト1位指名選手…まあ今決めたんだけど。
あ、ホラ後藤、自己紹介」
「あ、はい、1年1組14番後藤真希です。
今日はバスケ部見学に来ました」
―アレ?
何故か先輩達は固まってる。
ちっちゃい方の先輩がなんとか口を開いた。
「ちょっと待って、ねぇ紗耶香、この子…新入生?」
「そうだよ」
市井ちゃんは何故か得意げだ。
「キャー、すっごーい!!
ちょっとねえキミ、名前は?趣味は?ポジションは?」
小さい方の人は急に奇声を上げて、アタシの肩を両手で掴んで
ぶんぶん揺さぶり始めた。大きい方の人は、信じられない、って感じで
こっちを見てた。
ていうかそんなに大したプレイしてないのに
そんなに驚かなくても…
アタシが困ってるのを見て、市井ちゃんが助け船を出してくれた。
- 107 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時29分04秒
- 「ちょっとなっち、やめなよ。
後藤困ってるじゃんか。
紛れも無く昨日入学したウチの1年だよ。
ほら、カオリもいつまでも固まってないで自己紹介して」
大きい方の先輩はハッとして、
「あ、ああ。あたし3年1組の飯田香織。
ポジションはセンターで、一応キャプテンやってるの。
カオリって呼んでくれていいから」
って自己紹介してくれた。
「アタシは3年1組の安倍なつみ。
PGやってます。副キャプテンでっす。
なっちって呼んでね♪」
なっち先輩はどうもぶりっ子になる癖があるみたいで、
可愛く笑いながら自分のことを
「なっち」なんて呼んだ。
- 108 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時32分51秒
- カオリ先輩になっち先輩かぁ。個性的な人達だな…
「んでね、昨日言ってた話に関わってる、って先輩は
この2人なんだ」
「え?そうなの?」
じゃあこの人達も能力者?
…なんかちょっとそれっぽいかも。
「え、じゃあサヤカ、あやっぺが言ってた
今年の…ってのはこの子の事なの?」
カオリ先輩はやっぱり何か知ってるみたいだ。
「うん、まあね…
あ、もう4時回ってるよ、カオリ、号令かけて」
「あ、ああ。よし、バスケ部集合!!
見学に来た一年も集まって!!」
4時を回ってボチボチ人も集まってきた体育館の中に
カオリ先輩の声が響く。
- 109 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時39分21秒
- 1年の見学者はアタシを入れて十人だった。
それぞれ自己紹介をして、みんな経験者だったから
すぐ練習に入れられた。
…正直言って、新入生はみんなあんまし上手く無かった。
ていうか先輩達も、市井ちゃんとカオリ先輩となっち先輩が
ズバ抜けて上手くて、他の人達に合わせちゃってる感じだった。
ふーん、高校バスケってこんなもんなんだ…
ってのが素直な感想だった。
「ちょっと集合!」
カオリ先輩の掛け声にみんなが集まる。
先輩は、
「新入生がどれぐらいやれるか見てみたいからさ、
丁度十人いるし適当にチーム分けて試合やってみてくれない?
じゃあ、十分休憩して、それから始めるから」
って言って水を飲みに行った。
「えー、どうやって分ける?ポジションかぶっちゃってるよね」
「お互い実力もわかんないのにねぇ」
「早く先輩達とやりたいよね」
- 110 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時40分56秒
- 経験者ぶって調子に乗りまくってるみんなにムカついて
―いや、あんた達の実力とかはっきし言って関係ないから。
なんて口にだしたらみんなブチ切れ確定な事を考えながら、
「ねーねー、背の順でいいんじゃない?
みんな言ってるように実力とかわかんないんだしさ、
ポジションとかも今はどうでもいいじゃん」
って言って、無理矢理チームを分けてった。
みんなもまあ納得したのか、すんなり分かれてくれた。
しょうがない、1人で適当にやるか…
- 111 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時43分04秒
- 試合が始まっても案の定みんなのプレーは酷いもんで、
チームプレーなんてものは無いも同然だった。
おいおい、これがバスケかよ…
まあ適当にやっとこ…
なんて思って、運良く背からいってポジション的に
SFだったアタシはボールを持ったら一人でガンガン
点取りにいった。
試合は二十分で終わったけどアタシ一人で
三十点以上とった。
みんな実力差に気付いたのか、疲れただけなのか知らないけど
終わってからも膝に手をついてハァハァ言ってる。
カオリ先輩は満足そうになっち先輩となんか話してた。
市井ちゃんとちらっと目が合うと、
こっちを見て苦笑いしてた。
適当に流してこれだもんな…中学ん時より酷いよ
なんて思ってたら、カオリ先輩がクラブの終了を告げた。
「お疲れ様。
みんな知ってると思うけど、ウチの学校ってクラブ
6時までなんだ。だからもう片付けなきゃいけないの。
新入生は疲れてるだろうし片付けしないで上がっていいよ。
じゃあ、今日はこれで解散!!」
「ありがとうございましたー!!」
- 112 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月06日(金)23時45分31秒
- 1年のみんなは今度は腰に手を当てて
フラフラ歩いて帰って行った。
あの動きで疲れるもんなのかねぇ…なんて思って
アタシも帰ろうとしたら、市井ちゃんに声をかけられた。
「ねぇ後藤、疲れてるだろうけどさ、この後ちょっといいかな?」
「うん、いいよ。別にあんまし疲れてないしさ」
市井ちゃんはまたちょっと苦笑いして、
「ハハ、そっか。じゃあ掃除終わったらすぐ更衣室行くからさ、
待っててよ」
って言った。
「うん分かった。じゃあ先行ってるね」
―あ、しまった、門限…
まあいいや、、部活で遅れるって言ったら
大丈夫か…まぁいいや、取り敢えず着替えよっと。
- 113 名前:i 投稿日:2002年09月06日(金)23時48分32秒
- 更新終了です。
>名無し読者さん
気に入って下さってありがとうございます。
まだ序章だし、ヘンな文章ですが
これからも読んでやって下さい。
次当たりからそろそろ序章の山場に入りますので、
真剣に改稿してから載せます。少し間が開くかもしれませんが、
またヨロシクお願いします。
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月07日(土)00時58分05秒
- はじめて読みましたが面白いですね。
謎がありすぎてまだ展開がわかりません(w
ますます気になります!
頑張ってください
- 115 名前:77 投稿日:2002年09月08日(日)20時01分08秒
- おもろいです。謎だらけで続きが気になります!
自分はバスケ部なので、バスケシ−ンかなりリアルで楽しいです!!
頑張ってください!
- 116 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時22分56秒
- パッと着替えをすませ、
1年のみんなに「おつかれ」って声をかけて
更衣室前の階段に座って市井ちゃんを待つ。
お母さんに一応「部活でちょっと遅れるかも」って
連絡を入れておいた。
市井ちゃんはすぐに走って来てくれて、
「あ、ゴメンゴメン。すぐ着替えっから」
って言って中に入ってったけど、ホントにすぐ出てきた。
「ふー、お待たせお待たせ。
あ、後藤、門限は大丈夫なの?」
「あ、うん。高校入ったしさ、
部活だって言ったら別になんにも言われなったよ」
そう、今まであれだけ門限にうるさかったお母さんも何故か
今日は「そう、早く帰ってきなさいね」って言ってきただけだった。
「そう。じゃあ『好青』いこっか。
矢口と吉澤も来てるハズなんだ」
「うん、良いよ」
市井ちゃんは汗も拭かずに出てきたみたいで、
ハンドタオルで顔を拭きながらそう言った。
2人で学校から帰るなんて恋人みたいでなんかちょっと嬉しかった。
- 117 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時24分16秒
- 好青へ向かう間、市井ちゃんは
いつもとは少し違った雰囲気で、
何か考え事をしてるのか、言葉を1つも発さなかった。
重苦しい雰囲気になってるのに気付いたのか、
やっと
「あのさぁ、後藤、バスケ部入ってくれるの?」
って話掛けてくれた。
…でも、どう考えても考え込んでた事とは違う話題だった。
「へ?なんで?」
「いや、あそこまで他の新入部員とレベル違うとさ、
面白くなかったんじゃないかなって思って…
それにさ、分かってると思うけど、
ハッキリ言って後藤だったら即スタメンなんだよね。
上級生もあたし達以外はあんなもんだから
高校バスケってあんなもんか、って失望させちゃったかな…なんて思ってさ」
あー、やっぱバレてたんだ。
そりゃあれだけ適当にやってりゃバレるよね…
「うん、正直、ちょっとガッカリだったとこはあるよ。
1年のみんなはハッキリ言って上手くなかったし、
先輩達も…」
- 118 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時25分16秒
- 「うん…」
市井ちゃんは申し訳なさそうにそうに頷いた。
「でもね、市井ちゃんとの1on1は楽しかったし、
練習見ててなっち先輩とカオリ先輩もかなり上手いって分かったし。
…アタシが中学の時さ、周りの子みんなあんまし上手くなかったんだ。
あ、でもすっごいみんな頑張ってくれて、とっても良いチームでさ、
大好きだったよ」
「うん」
「でも今度は市井ちゃんや先輩達がいるじゃん?
上手い人達と一緒に試合出たいし、
やっぱりアタシ、バスケ好きだし。バスケ部はもちろん入るよ。
1年の子達とも前のチームみたいな関係築けるかもしれないし。
それに市井ちゃんとの1on1で勝たないとね」
そう言ったら、市井ちゃんはふっと笑って
「そっか」ってだけ言ってまたまっすぐ前を向いて歩きだした。
- 119 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時26分20秒
- 市井ちゃんの雰囲気が何か昨日と違ってたから、
黙って横に並んで歩いてたらすぐ好青についた。
今日は結構人が入ってて、
昨日と同じ席にやぐっつぁんとよしこを見付けた。
「あ、ごっつぁんにサヤカ、こっちこっち」
向こうもこっちに気付いてくれた。
市井ちゃんがカウンター奥に居る彩さんに軽く挨拶した後
「あたしコーラね。後藤は?」
「あ、じゃあアタシもコーラで」
って注文してやぐっつぁん達の席へ向かう。
「ふー、疲れた疲れた」
て言って市井ちゃんがやぐっつぁんの隣に座った。
アタシもよしこの隣に座る。
「おつかれ。どう?今年の新入部員は」
やぐっつぁんが市井ちゃんに聞いた。
「ああ、一人すっごいのがいてね。
あたしが一対一で決められそうになっちゃったよ」
「へー、凄いんじゃん。名前は?」
「後藤って言うんだけど。知ってる?」
「へ?ごっちんなの?」
やぐっつぁんのビックリしてる顔は
ちょっとバカっぽくてなんかおもしろかった。
「そ、この後藤。今年は楽しみだよ。4人目が入ったからね」
「へー、ホントだね。いっつもあと一人いればなぁ…
って言ってたもんね」
- 120 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時27分19秒
- 「うん。あ、バレー部はどうだったの?」
「ウチも吉澤っていうすっごいのが来ました」
「あ、吉澤やっぱ上手いんだ。
背ぇ高いし、なんか上手そうだもんね」
「うん、よっすぃーは凄いよ!!
もうあなたのプレーにメロメロ!!って感じ」
「ハハ、どんな感じだよ。
ふーん、じゃあ吉澤もバレー部正式に入るんだ?」
「あ、ハイ。入るつもりです」
「じゃあ今年はお互いに楽しみだね。
試合の応援にも気合い入るってもんだよ」
よしことお互い「やったね」って視線を交わす。
クラブの話で盛りあがってたら、
彩さんがコーラを持ってきてくれた。
「はい、お待ちどうさま。
あ、これはサービスね。
…サヤカ、世間話も良いけどちゃんと話す事話しなさいよ」
- 121 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時28分20秒
- 「お、サンキュ。
…分かってるよ、あやっぺ。そろそろしようかなって思ってたとこなんだ」
「そう、ならいいけど。じゃあしっかりね」
「うん」
彩さんは市井ちゃんの肩を軽くポンって叩いて奥に戻って行った。
サービスといって彩さんが持ってきてくれた
クラッカーみたいなものはとってもおいしかった。
―ついに市井ちゃん達とあの話するのか…
やぐっつぁんとよしこも『話』ってのがなんなのか
分かってるみたいで、ちょっと緊迫した雰囲気になってる。
そんな中市井ちゃんが、コーラを一気飲みしてからゆっくり話を始めた。
- 122 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時29分27秒
- 「じゃあさ、本題なんだけど…
2人ともどこまで知ってるの?」
「ウチは…多分大体の事は知ってると思います」
「そっか。後藤は?」
「あ、アタシはあんまり知らないんだ。
市井ちゃん達が能力を持ってる、ってことと
アタシにはなんか重大な使命があるとかってことぐらい。
詳しいことはなんにも知らないんだ」
「うん、そっか。まあ大体予想通りかな?」
「そだね。ごっつぁんの知ってる範囲も
まあ予想どおりだね」
―予想通り?なんだそりゃ。
よしこが知っててアタシが知らないってのも予想通りなの?
アタシだけなんにも知らないのか…
「後藤が知らないのは当たり前なんだ。
あたし達が話すことになってるから」
―へー、そうなんだ。そう言えば裕ちゃんもそんなこと言ってた
気がするな…
- 123 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時30分42秒
- 「まずさ、あたし達が力持ってるの知ってるんだよね。
なんであたし達がそんな力持ってるのか、とか思わなかった?」
「うんうん、思ったよ。それに何でアタシには力が無いのかとか」
「あ、その話はまた後でするよ。
あたし達が力を持ってるのはね、後藤を護らなきゃいけないからなんだ」
へ?アタシを守る為?悪者をやっつける為じゃなくて?
「アタシを守る?」
「うん。まあ言ってみりゃ後藤の為って事。
それはさっき言ってた後藤に何で力がないのかって話と繋がるんだ」
ああ、なるほど。アタシに力が無いからアタシは護られる、てことか。
「アタシに力が無いから市井ちゃん達が護ってくれるんでしょ?
じゃあさ、アタシに力が無いのは重大な使命、ってのを果たす為なの?」
- 124 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時31分59秒
- 「そう。ていうかね、後藤に力は必要ないんだ。
…じゃあ順追って話してくね。
後藤が背負ってる使命、ってのはね、
大げさに言えば世界の平和を護る…ていうか維持するってことなんだ」
「世界の平和!?」
あまりのスケールの広さに驚いて叫んでしまったけど、
周りの人達の話声にかき消されて助かった。
よしことやぐっつぁんが全然動じないのにもびっくりした。
「…まあ驚くのも無理ないよね。実はね、
この話、あたし達は小さい頃から聞かされてたんだ。
自分の力に気付いて親に聞いたときにさ、
その話されてさ。多分吉澤も同じだと思う」
よしこは「うん」って頷いてる。
そう言えば朝、そんなこと言ってたな。
- 125 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時33分08秒
- 「自分に力があったらちっちゃい頃に
分かっちゃうもんね」
「うん。初めて自分に力があるって知った時は
そりゃもうびっくりしたよ。母さんに言ったらさ、
『その力は絶対お外で使っちゃだめよ』ってキツく言われてね。
なんでなんだろ、こんなに面白いのに、とか思ってたんだけど、
中学に上がってすぐ、力を持ってるワケを聞かされた時にさ、
なんつーのかな…初めて実感したよ。
軽々しい気持ちで力使っちゃいけないんだ、って」
市井ちゃんは言葉を選びながらゆっくり話を進める。
すぐに使命の話はしなかった。
よしことやぐっつぁんもじっと黙って聞いてる。
- 126 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時41分25秒
- 「それでね、その使命ってヤツなんだけど…
日本にはね、実はもう1つの世界と繋がる
『穴』みたいな物があるんだ」
「穴?」
「うん。なんでかわかんないんだけど日本だけなんだ。
もう1つの世界ってのはあたしも良く知らないんだけど。
昔からその事は知られてて、
いくつかはもうしっかり閉じられてて開くことは無いんだって」
―なるほどね。良く分かんないけどその『穴』を塞ぐことが
アタシの使命なんだ。
どんどん飛躍していく話にも、
アタシの中にヘンなモノが住み付いてたりして
驚き慣れてるせいか、なんとかついていく事ができていた。
- 127 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時42分24秒
- 「じゃあその『穴』を塞ぐ事がアタシの使命なの?」
「うん、でもそれだけじゃないんだ。
その穴を広げようとしてるヤツ。
こっちの世界では『鬼』って呼ばれてるんだけど。
そいつらも一緒に封印しなくちゃいけないんだ。
また広げられちゃったら一緒だからさ。
…その『鬼』の中でも穴を作る事ができるほど
強い力をもったヤツは初め9匹居たらしいんだけど、
2年前になっちが1匹封印して残りは1匹だけらしいんだ」
「え、なっち先輩が!?」
なっち先輩がアタシと同じ?
「うん。なっちも後藤と同じように高校に入った時に
知ったんだって」
「へー、そうなんだ…」
今度色々話聞いてみたいな…
- 128 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時44分01秒
- 今度色々話聞いてみたいな…
「それでね、後藤。落ち付いて聞いて欲しいんだけど…」
市井ちゃんが今までよりもっと緊迫した顔で話す。
あまりに真剣なのでアタシまで緊張してしまう。
「うん…」
「…なっちの時はね、…仲間が一人死んでるんだ」
…え?死んだ?
あまりの内容に茫然としてしまって、声も出せなかった。
いくら世界の平和を護るって言っても
穴塞いで鬼倒すだけなんでしょ、なんて軽く思ってたから。
「あのね、後藤、ほんとに落ち付いて聞いて欲しいんだ。
…その子はね、なっちを庇って死んだらしいんだ」
- 129 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時45分07秒
「なっち先輩を、庇って…?」
「うん…」
え、なっち先輩を庇って、って……どういう事…?
市井ちゃんは言葉に詰まってしまって
話が続かなくなってしまった。
何かを必至に伝えようとしてるみたいだけど言葉にならない。
アタシはまだ訳が分かっていなかった。
…人が死ぬくらい危険な事だって実感がまだ無かった。
…市井ちゃんがとっても真剣な表情で俯いてるから
しばらく誰も何も言えなかったけど、
辛そうな市井ちゃんを見かねてやぐっつぁんが
「…サヤカ、大丈夫?矢口が話そっか?」
って声をかけた。けど、市井ちゃんは
「…いや、いいよ、あたしが話すって言ったんだから」
って断って、またゆっくり話を始めた。
- 130 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時46分39秒
- 「…後藤の使命、ってのはね…
…もちろん鬼と穴を封印する事なんだ。
…でもね、その時にね、…もう2度と出てこないように、
… …自分も一緒に封印しちゃわなきゃいけないんだ…」
…え?自分も一緒に封印しちゃう?…それって…
…アタシ、死んじゃうってこと?
何度も言葉を詰まらせながら言い終わった後も
市井ちゃんはずっと辛そうに、じっと何かを堪えるように俯いてた。
市井ちゃんがその事を言い終わると同時に
今まで感じたことの無い重さの空気が辺りを包み込んだ。
え、何…全然分かんないよ…
アタシは全然信じられなくて、
「え、冗談だよね、そんな…
急にそんなこといわないでよ、ハハ、やだなぁ市井ちゃん」
なんて引きつった笑顔を浮かべながら、
場の空気と全く合わないセリフを吐いてしまった。
冗談だよ、って笑ってくれるのを期待しながら。
- 131 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時47分30秒
…でも、3人とも暗い表情で俯いてるだけだった。
アタシの変なセリフと笑顔がさらに場の雰囲気を重い物に変えてしまう。
え…ちょっと待ってよ…みんな…ウソでしょ?
アタシが死んじゃうなんて…?
「ちょっとちょっと、待ってよ、冗談なんでしょ?
何とか言ってよ、ねぇ市井ちゃん」
さっきより一段と明るい声で話しかけても
市井ちゃんは何も言ってくれなかった。
やぐっつぁんとよしこの暗い表情が無言の返答だった。
- 132 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時48分33秒
…ちょっと…ホントなの?
ウソじゃないの?アタシ、死んじゃうの?
誰か、ウソだって言ってよ。ねぇ…
重い空気が漂う中、
3人で物凄く長い間黙ってたら、市井ちゃんが小さく口を開いた。
「ゴメン、後藤。…でもね、」
「ウソだ!!そんなの絶対ウソだ!!
いくら市井ちゃんだからっていきなりそんな事言われても、
そんなの信じないよ!!
みんなでアタシを騙そうとしてるんだ!!
そうだ、そうに決まってるよ!!
もういいよ、そんな事するならアタシ帰る!!」
市井ちゃんが何か話そうとしてるのは
分かってたけど、話をこれ以上聞くのが怖くて、
3人に怒鳴り付けてカバンを持って
立ちあがった。
「待って後藤!!」
市井ちゃんが呼び止めてるのが聞こえたけど
聞こえないフリをして逃げる様に店を飛び出した。
- 133 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時49分13秒
―ウソだ、ウソに決まってるよ!!
みんなでアタシを騙そうとしちゃってさ、
よしこだって明日しばらく口利いてやんないから!!
「さっきのはウソだ」って、
「みんなでアタシを騙してる」って事にして、全力で走った。
走って走って走りまくった。
…走り過ぎて息が切れて、気付いたら駅に着いてた。
- 134 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時50分17秒
その後、どうやって家に戻ったかも覚えてない。
気がついたら次の日の朝で部屋は薄暗く、ベッドに制服のまま、
掛け布団の上に寝ていた。
―なんだ、アタシ…なんでこんな格好…
!!そっか、昨日あのまま…
…昨日の事を思い出した。
アタシの使命。封印する事。自分と一緒に…
正直、まだ実感は無かった。
- 135 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時52分02秒
- 昨日、あれだけ重い雰囲気の中で言われたんだから
本当のことなんだ、って思うけど、
普段通りの朝を迎えた今じゃ、
あんな現実離れした話、全部ウソなんじゃないか、
って思えてくる。
当たり前だ。
急にアナタの運命はこういう事になっておりますので死んで下さい、
なんて言われて、ハイ分かりました、なんて納得できるハズがない。
―…でも、もし本当だったら…
もし本当だった時の事を考えると
怖くて泣きそうになってしまう。
…死にたくない
アタシの本能が『もし本当だったら』って考えるのを
拒絶してるのか、1度頭に浮かんでもすぐに否定してしまう。
「そんなこと有り得ない」って…
- 136 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月11日(水)23時53分59秒
- 不意に時計が目に入ると、もう9時前だった。
小鳥のさえずりももうあまり聞こえない。
学校、始まってんじゃん…
授業はもう始まってる時間だ。
どうやら今日はユウキも起こしに来ていないらしい。
それに今日は学校へ行く気にはならない。
…話の続きを聞くのが怖かった。
―今日はずっと寝とこう…
何の解決策にもならないけど
その場をしのぐには最良の案を頭の中で採用して
もう1度寝る事に決め、枕に顔を埋めた。
もう、何も考えたくなかった。
- 137 名前:i 投稿日:2002年09月12日(木)00時01分19秒
- 更新終了です。
>114さん
読んで下さってありがとうございます。
謎はこの章ではあまり明かされないかもしれませんが、
ハッキリ言って展開はベタです(笑)
また読んでやって下さい。。
>115さん
バスケシーン、気に入って下さって嬉しいです。
僕自信もバスケは大好きなので、
上手く描けているか心配でした。またよろしくお願いします。
今回のシーン、改稿すると言っておきながら、
忙しさのあまりそのまま載せちゃいました。
多少は手直ししながら載せたのですが、
今回ほど自分の文章力の無さが歯痒かったシーンはありませんでした。
大事なシーンだけに、もっとゆっくりやりたかったのですが、
序章なので取り敢えず全部のせちゃおうと思って載せました。
だんだん勉強していきたいので、今回はこれで許して下さい。
今回に懲りずにみなさんまた読んでやって下さい。。
- 138 名前:77 投稿日:2002年09月14日(土)01時29分59秒
- まだまだ謎がいっぱいで楽しい!
作者さんファイト(^^)
- 139 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時02分30秒
- 「…後藤の使命、ってのはね…
…もちろん鬼と穴を封印する事なんだ。
…でもね、その時にね、…もう2度と出てこないように、
……自分も一緒に封印しちゃわなきゃいけないんだ…」
「後藤の使命は…」
「封印することなんだ」
「鬼を」
「穴を」
「…自分自身を」
―!!…なんだ、夢か…夢にまで出てこないでよ…って…
「わぁ!!!」
「おはよ、後藤」
目を覚ますと、枕元に、優しい笑顔で椅子に座ってる市井ちゃんが居た。
「市井ちゃん…」
アタシは驚きのあまり声も出ない。
「おはよ、後藤。
…って言ってももう1時だけどさ」
「…市井ちゃん、学校は?」
そう、学校はまだ終わってないハズだった。
「吉澤に聞いたら後藤、今日休んでるって言ってたからさ。
3時間目終わったらフケて来ちゃった。
お母さんに『真希の部屋上がって待っててやって下さい』って
言われたからさ、勝手に入っちゃった。ごめんね。
あ、一応ノックはしたよ?」
- 140 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時03分34秒
- 市井ちゃんは「へへっ」っていたずらっぽく笑いながら言った。
でもアタシが好きなその笑顔もすぐに曇ってしまう。
「それに、昨日…あんな話しちゃったし、さ…」
しばらく沈黙が訪れた。
…でも、先に口を開いたのはやっぱり市井ちゃんだった。
「…後藤、信じられないかもしれないけど…
あたしも信じたくないんだけど、
…昨日の話はホントなんだ」
「いいよ、その話は!!もういい!!」
アタシはやっぱり話を聞くのが怖くて
ヒステリックに叫んでしまった。
でも市井ちゃんは落ち付いてて、
布団にもぐり込んでしまったアタシの手を両手で取って、
ギュッ、て強く握ってくれた。
「ねえ、後藤。…つらいかもしれないけどさ、話、聞いて欲しいんだ」
「…」
アタシは何も答えられなかった。
市井ちゃんは優しい声で話し始めた。
- 141 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時05分19秒
- 「あのね、昨日の話はね、
やっぱりホントの事なんだ。それは変わらないんだよ。
…でもね、誰かがそれをやらなきゃいけないんだ。
誰かがやらなきゃ日本は、世界はめちゃくちゃになっちゃう。
…鬼は物理的な攻撃とかが効くような相手じゃないんだって。
封印する以外に道は無いらしいんだ。
…あたしもね、初めてその話を聞いた時は
『へー、その子かわいそうだなぁ。あたしじゃなくて良かった』
ぐらいにしか思ってなかった。
でもね、あやっぺから『あんたの高校に今年入ってくるよ』
って聞いて、まっ先に見てみたくて入学式の案内役引き受けて。
…後藤と目が合った時、すぐ分かったよ。
ああ、この子なんだ、って。
…それに、この子は死なせちゃいけない、って思ったよ。
…あたしが護ってあげなきゃ、って」
市井ちゃんの話を聞いて、
やっぱり本当なんだ、って分かって
また泣きそうになっちゃったけど、
『護ってあげなきゃ』って言葉が一瞬どういう意味なのか
分からなくて、布団から顔を半分出してみた。
市井ちゃんの優しい目と見つめ合う形になる。
布団に隠れてたアタシの目を見つめながら話しててくれたみたいだ。
- 142 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時06分03秒
- 「…後藤、心配しなくても大丈夫だよ。
あたしが護ってあげる。あたしが身代わりになってあげるから」
―…え?
市井ちゃんが何を言ってるのか分からなかった。
―身代わりに、って…死んじゃうんだよ…?
当惑してるアタシの表情を見て、
市井ちゃんはニッコリ笑って頭を撫でてくれた。
アタシが大好きな笑顔で。
- 143 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時07分28秒
- 「今日ね、なっちと話したんだ」
そう言えばなっち先輩もアタシと同じだったんだ。
明日香って人が身代わりになったって…
「…いろいろ話、したんだ。
なっちの事はまた後藤自身でなっちに聞くのがいいと思う。
…それでね、実は身代わりになる方法なんて簡単なんだって。
教えてもらったんだ、方法。
あたしが身代わりになってあげるよ。護ってあげる。
だから後藤は何も心配する事ないよ」
市井ちゃんは落ち付いた声のままそう言った。
「何言ってんの市井ちゃん。
身代わりになるって……死んじゃうんだよ?」
アタシが聞いても市井ちゃんは笑って
「うん」って頷くだけ。
「ダメだよそんなの!!市井ちゃんが死んじゃうなんてヤダよ!!」
アタシが思わずガバっと布団をはね除けて叫んでも、
市井ちゃんは平然と
「いいんだ。後藤が生きててくれたらそれで」
って言うだけ。
- 144 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時09分02秒
「ダメ、ダメだよ!!絶対ダメ!!ダメだからね!!」
―そう、絶対ダメだ。
市井ちゃんがいない部活なんて、学校なんて、生活なんて、
全部意味ないよ。
アタシは泣きながら「ダメ、絶対ダメ」って
市井ちゃんにしがみつきながらずっと叫んでた。
会ってまだ二日しかたってないけど、
アタシはいつのまにか本気で市井ちゃんの事が好きになってた。
…ううん、違う。女の子を好きになる、って事に戸惑って逃げてただけで、
実は初めてすれ違ったその時から好きだったんだ。
市井ちゃんのいない世界なんて考えられない。
笑顔が。声が。市井ちゃんの全てが。
どれか1つでも欠けてる世界なんて無意味だ。
最後はすすり泣くだけになってしまったアタシの頭を撫でながら、
市井ちゃんは
「あのね、後藤と目が合った時、もう1つ思った事があるんだ」
って言った。
- 145 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時11分44秒
「…この子の事好きだな、って。
後藤はもちろん女の子だし、
会ったばっかなのにヘンな話なんだけどさ、
なんか『好きだな』って感じだったんだ。
一目惚れ…ってのとはちょっと違くて、
運命…っていうのかな?みたいなの感じたよ。
他にもなんか色んな想いが込み上げてきて…
この子はあたしが護らなきゃって思った。
あたしの命なんてどうでも良い、この子さえ生きててくれれば、って」
「…」
―市井ちゃんもアタシの事が好きだった…?
それで身代わりに…?
…でもそんなのおかしいよ。間違ってるよ。
好きな人の為に死ぬなんて絶対間違ってる。
自分が死ぬかもしれない、って事より
市井ちゃんがいなくなっちゃうって事の方が
アタシの中ではるかに大きくなっていた。
抱き合うような体勢になってて、市井ちゃんの温もりが直に伝わってきて、
なおさら市井ちゃんへの愛おしさがつのる。
市井ちゃんの表情を見ても本気だってことは分かった。
…でもそんなの絶対駄目だ。
アタシの為に市井ちゃんが死んじゃうなんて絶対に駄目だ。
- 146 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時12分40秒
- 今度は、沈黙を破ったのはアタシだった。
抱き付いてた体を少し離して市井ちゃんの目を見つめる。
「…アタシもそうだよ。
初めて会った時から、校門ですれ違った時から
市井ちゃんのこと好きだった。
…でも、今そんなこと言われても全然嬉しくないよ!!
死んじゃやだよ!!
市井ちゃんが居なくなるんだったら
アタシが生きてく意味なんて何もないよ!!
それにアタシの為に死んでくれても全然嬉しくなんて無いよ。
好きな人残して自分だけ死ぬなんて絶対間違ってる!!」
- 147 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時14分43秒
- アタシも好きだったって事に驚いたのか、
市井ちゃんは少し黙り込んでしまった。
でも、市井ちゃんはちょっと辛そうな笑顔を浮かべながら言った。
「そうなんだ。後藤もあたしのこと好きでいてくれたんだ…アリガト。
…なっちも同じような事言ってたよ。
残された者がどれだけ辛いか、
大切な人を残して死ぬ事が果たして本当に良い事なのか、
とか良く考えてから決めなって。
実はなっちね、
身代わりになる方法聞いてもなかなか教えてくれなかったんだ。
でもあたしが後藤の事好きだって事とか
どれだけ本気だってこととかを伝えたら、
『いいよ、教えてあげる。でもサヤカ、これだけは約束して。
絶対仲間全員に相談する事。そして了解を得る事。
それからなっちに了解を得た事を報告する事。
これ無しに勝手にやったら、なっちサヤカの事絶対許さないからね』
って言って教えてくれたんだ」
- 148 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時19分41秒
- 「じゃあダメだよ!!アタシそんなの絶対認めないもん!!
ホラ、もうダメじゃん。市井ちゃんを死なせたりなんかしない!!
身代わりになんてさせたりしないもん!!」
アタシはもう1度市井ちゃんに抱き付いた。
今度は抱き締めるような感じで。
市井ちゃんを死なせたくない。その気持ちばっかり言葉になってしまう。
市井ちゃんもアタシの背中に手を回してくれる。
「…あたしもね、なっちに言われて色々考えたんだ。
本当に正しいことなのか、とか、みんな許してくれるのかな、とか。
…正しいかどうかなんて分からない。
仲間を放って勝手に死ぬのは確かに自分勝手な事かもしれない。
でも、あたしは後藤を死なせたくない、守りたい。
その気持ちに勝てる理屈なんて何も無かったんだ」
市井ちゃんはゆっくりと自分の気持ちを語ってくれた。
- 149 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時20分38秒
- 昨日、その事を話す時の市井ちゃんの表情を思い出した。
とっても辛そうだった。でも頑張って話してくれた。
それに、ホントは自分は死ななくても済むのに、身代わりになるなんて
本気で言ってくれてる。
…アタシは逃げてしまった。市井ちゃんがアタシに話す時、
どれだけ辛かったかなんて全然考えてなくて、
みんなに「ウソだ」なんて怒鳴り付けて逃げてしまった。
…もう逃げない。こんなにアタシの事を思ってくれてる人が、
アタシが思ってる人が苦しんでるのに、アタシ一人逃げる訳にはいかない。
自分の運命を受け入れよう。
アタシがやらなきゃ家族も友達も、みんなヘンなことに巻き込まれちゃう。
それこそ死んじゃうかもしれない。
お母さんもユウキもお姉ちゃんも…
よしこもあいぼんもやぐっつぁんも…それに市井ちゃんも。
…そうだ、たくさんの大切な人の命を守れるなら
アタシ一人の命なんて安いもんだよ。
- 150 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時22分04秒
- しばらく抱き合ったまま2人で鼻をすすり合ってた。
抱き締め合ってるのは心地よかったけど、
市井ちゃんの匂いと制服の匂いが混じりあったのを
ふと感じた事をきっかけに、アタシはまた少し体を離した。
「…ねえ、市井ちゃん。
市井ちゃんがアタシを死なせたくないって
思ってくれてるのと同じくらい
アタシも市井ちゃんを死なせたくないって思ってるよ。
これは分かってくれるよね?」
「…うん、分かるよ」
「じゃあさ、やっぱり市井ちゃんがアタシの身代わりに、
ってのはおかしいよ。
だってアタシが自分で自分を封印しちゃう、ってのが
ホントなんでしょ?
2人とも同じ気持ちならさ、やっぱり運命に従うべきだよ。
どんな方法を採っても誰かが悲しむ事になる。
それなら運命だ、って割り切れる方がいいでしょ?
…もう逃げたりしないよ。
みんなを護る為だもん。アタシが選ばれたんだからさ、仕方ないよ」
市井ちゃんはアタシの目を見たまま動かなかった。
- 151 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時22分42秒
- …怖くない、って言ったらウソになる。
でも決めた。市井ちゃんやみんなを護るって。
護れるのはアタシしかいないんだから、って。
…そして、もう1つ決めた事があった。
「でも後藤、」
「市井ちゃん」
アタシは市井ちゃんの言葉を途中で遮った。
「1つだけお願いがあるの」
「…何?」
「この話はもう絶対しないって事。
みんなで、鬼を封印するって話する時でもアタシが死ぬ、って話は
絶対しないで欲しいの」
アタシがあまりにも真剣な顔で言うから、
市井ちゃんはもう何も言い返せ無かった。
「…分かった」
ってだけ言って、昨日みたいに辛そうな表情で俯いてしまった。
「1つだけって言ったけど、もう1つお願いしたいんだ。
…もう、そんな顔、しないで」
「…え?」
「そんな悲しそうな顔しないで。
市井ちゃんがそんな顔してるとアタシまで悲しくなっちゃうよ」
- 152 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月15日(日)02時23分20秒
- 「後藤…」
市井ちゃんの声は涙を堪えてるからなのか、少し震えてた。
「…ね、市井ちゃん。
これから短い間かもしれないけどさ、アタシと付き合って欲しいんだ。
いつも一緒に笑ってて欲しい。いつもそばに居て欲しい。
一緒にいろんな思い出作りたいんだ」
「…ック…後藤っ」
市井ちゃんは涙を流しながらアタシの頭を抱き寄せた。
アタシはもう泣かなかった。泣きそうだったけど必死で涙を堪えた。
今泣いちゃうといろんな思いが溢れて決心が揺らぎそうだったから。
ずっと優しく市井ちゃんの頭を撫でてあげてた。
- 153 名前:i 投稿日:2002年09月15日(日)02時27分03秒
- 更新終了です。
>138さん
いつもありがとうございます。
取り敢えず序章は一気にいきたいです。。
頑張ります!!
今回はほんの少しですが手直ししました。
出来はあまり変わりませんが…
まだ出てきていない人物の名前がありますが、
序章では一切出てきません。ご了承を…
序章ですし、読んで下さってる方もいらっしゃるので
一気に行きたいと思います。
- 154 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月16日(月)18時28分57秒
- 更新がんばってください!
しかし、後藤いきなり辛いよなー。
- 155 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)20時33分38秒
- どのくらい経ったのか分からないけど、
しばらくして市井ちゃんは泣き止んだ。
「…後藤、ゴメンね…ほんとに辛いのは後藤なのにさ…
…なのにあたしが泣いちゃって…情けないよホント…」
市井ちゃんはもう1度ギュッ、て強くアタシを抱き締めた。
「ううん、そんなことないよ。アタシの為に泣いてくれて、
アタシの為にあんなに悩んでくれてたって分かって嬉しかったよ。
今度はアタシがつらくなって、泣いちゃうかもしれないけど、
その時はよろしくね?」
アタシは出来る限りの明るい表情で言った。
市井ちゃんが謝ることなんて何も無いんだから。
市井ちゃんは手を離して制服の袖で目をゴシゴシ拭うと、
「…よし、後藤!!着替えろ!!」
って何かを吹っ切ったようなカオで言った。
- 156 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)20時36分12秒
- 「へ?着替えるって?」
「いや、そんなしわしわな制服じゃ外行けないっしょ?」
「え、どっか行くの?」
「うん、遊びに行こうよ」
遊びに行くって…
出来れば今日はこのまままったりしてたかったんだけど…
ホントはこの暖かい雰囲気のまま2人でいちゃいちゃしてたい気分だった。
「…どこ行くの?」
「どこでも良いよ。ゲーセンでも良いし、
映画でも良いし。とにかくどっか行こっ!!」
市井ちゃんはそういって強引にアタシを着替えさせ、
お母さんにバレないようにこっそり連れ出した。
最近お母さんうるさくないし帰ってからなんとかすりゃいっか、
なんて思いながらアタシも市井ちゃんに付いて家を出た。
- 157 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)20時48分49秒
- 電車に乗って大きな駅まで出てから
ちょっと遅めなお昼御飯食べて映画観て、
ウィンドウショッピングしてゲーセンでプリクラ撮って。
別に特別な事は何もないありふれたデートコースだけど、
今のアタシにはその「ありふれたデート」がとても大切なモノの様に思えた。
制服の市井ちゃんと私服のアタシっていうかなり変な組み合わせだったけど、
全然気にならなかった。
市井ちゃんはさっきまで泣いてたのがウソみたいなはしゃぎ様で、
ずっとアタシの手を引いて先に立って歩き回った。
つられてアタシのテンションも上がって
2人で騒ぎながら街を歩く。
いろいろ歩き回って「初デート記念にプリクラ撮ろう」
って事になってゲーセンに着いた時にはもう6時前だったけど、
それからずっと1時間くらい、プリクラを撮れるだけ撮った。
一台のプリクラを2人で占領して、
軽く手を繋いだだけだったり、
市井ちゃんが後ろからアタシの腰に手を回してたり、
アタシが市井ちゃんの頬っぺたにチュッてしてたり、
と考えられる限りのポーズで。
カーテンに囲まれた空間にゲーム達の騒音も相俟って
自然と2人とも積極的になってどんどん距離も縮まって、
最後には完全に抱き合ってディープキスしてるショットもあった。
「これだけ撮ったら分けるの大変だよなぁ」
なんて言いながらも市井ちゃんはとっても嬉しそうで、
大好きな市井ちゃんスマイルにアタシの顔も思わずほころんでしまう。
- 158 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)22時51分33秒
- 「2つに切るだけだから案外楽だね」
市井ちゃんが、店に備え付けてあるハサミで
山のようなプリクラを2つに切ってくれる。
全部切り終わって半分渡してくれて、
ハサミを置いてある台の上で順番に見てたら
市井ちゃんが、
「うわ、ちょっとコレ、やばくねー?」
と言って見せてくれたのは、
最後に撮った、2人で抱き合ってディープキスしてるショットだった。
「なんでー?良いじゃんコレ、後藤は好きだな」
2人がキツく抱き締め合ってるところに
お互いを思う気持ちが表れてて、
アタシ的には凄くお気に入りだった。
- 159 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)22時52分44秒
- 「いや、好きとかそういう問題じゃなくて…
…そりゃ市井も好きは好きだけど…
ちょっとやりすぎたかなって。
ホラ、舌が絡んでるとことか見えちゃってるしさ…」
ホントだ、こりゃちょっと生々しいな…
良く見ると二人の口と口の間から、
舌と舌が絡み合ってる様子が見えた。
…でも、やっぱ良いよ、コレ。
市井ちゃんのトロンとした顔、普段のかっこいい市井ちゃんと違って
めちゃめちゃかわいいもん。普段もかわいいんだけど。
よしこに見せて良い?って聞こうとしたら、
「こりゃ矢口には見せらんねーな」
って言葉が聞こえた。
- 160 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)22時54分23秒
- 「なんで?」
「え?」
「…なんでやぐっつぁんに見せられないの?
後藤と付き合ってる、って事がバレるの…嫌?」
アタシは「市井ちゃんと付き合ってるんだぞー!!」って
みんなに言って回りたいぐらいなのに・・・
「…」
市井ちゃんは髪をかき上げて、
少し起こったような表情で、
何て言おうか迷ってるみたいだった。
あ、市井ちゃん困ってる・・・
…そうだよね、女の子同士、なんて普通に考えたらおかしいし、
みんなには言えないよね…
なにワガママ言ってんだろアタシ…
「ごめん、ごめんね市井ちゃん。
そうだよね、後藤と付き合ってる事なんか
みんなに言えるハズないよね。
…ワガママ言っちゃって、ごめんね」
多分引きつっちゃってるだろう笑顔を
精一杯浮かべて市井ちゃんに謝った。
- 161 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)22時59分18秒
- …でも、市井ちゃんの表情は変わらなかった。
…もしかして嫌われちゃった?
そんなの絶対嫌だよ、
「市井ちゃん…」
アタシがもう1度謝ろうとしたその時、
市井ちゃんの柔らかい匂いがアタシを包んだ。
「え、どしたの、市井、ちゃん…?」
「…バカ」
「え?」
「後藤はバカだ」
「え…」
市井ちゃんのちょっと怒った様な声は初めてだった。
それに、ゲーセンの入り口付近で人通りも多いのに
急に抱き締められて何がなんだか分からなかった。
- 162 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時00分54秒
- 「市井がそんな事、思うハズないだろ?
矢口だって、市井が女の子と付き合ったぐらいで
軽蔑する様なヤツじゃない。
それぐらい分かるだろ?
…ちょっと恥ずかしいだけだよ、あのプリクラ見せるのが。
軽い気持ちで言ったのにさ、後藤は深刻に受け止めちゃって…
まあそれだけ本気で好きで居てくれてるってのは
伝わったけどさ、…もうあんなに悲しそうな顔、するなよ」
そうだったんだ…怒ったような顔してたのは、
アタシが市井ちゃんややぐっつぁんを信じてなかったからだったんだ。
ホント、アタシはバカだな…好きな人を信じられないなんて…
「ゴメンね、市井ちゃん…」
アタシも市井ちゃんを抱き締め返して、
今度は違う意味で謝った。
「ホラ、また謝る。
後藤が何やっても市井に迷惑なんて掛からないんだからさ、
市井に謝る必要なんて無いんだよ、もう謝るの禁止、分かった?」
市井ちゃんは体を離してそう言った。
もう顔は怒って無くて、子供を叱るお母さん、て感じだった。
「うん、ゴメン…あ、」
「ホラ、また…
もう、そんな悪い口はこうして塞いでやる…」
「んっ、…」
- 163 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時02分16秒
急にキスされて頭の中が真っ白になる。
ちょっ、市井ちゃん、こんなとこで…みんな見てるよ…
さっきみたいに閉鎖された空間じゃなくて、
公衆の面前でのキス。
恥ずかしさも興奮も、さっきとは比べ物にならない。
市井ちゃんの舌が侵入してくると同時に
アタシの舌も市井ちゃんを求めて動く。
…もう、お互いを求める事以外は何も考えられなかった。
お互い息が続かなくなってなって口を離す。
荒い息遣いが収まってから、
「…もう、市井ちゃん、絶対誰かに見られたよ?」
ってちょっと拗ねてる感じで言ってみた。
「大丈夫だと思うよ?
プリクラ撮ってる人は居なかったし、
ドアが開く音もしなかったし、柱の陰になってるし…
まあ、店の中に居る人には見られたかもしれないけどね。
市井は別に気にしないよ?」
- 164 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時04分07秒
- さっきのアタシの言葉が気になってたのか、
市井ちゃんはそう言ってくれた。
でもそんなの分かってるよ。態度で示してくれたじゃん。
…ちょっと過激だったけど。
「…そうだね、後藤もあんまり気にならないよ…
でも、もうあんまり外ではしないでね?」
「…うん、分かってる。
後藤を安心させようと思って勢いで突っ走っちゃったけど、
実はちょっとやりすぎたかな、って後悔してるかも…」
市井ちゃんは今更顔を赤らめだした。
…恥ずかしがる市井ちゃんもとってもかわいかった。
「アハハ、なに今更恥ずかしがってんの市井ちゃん、
もう遅いよ、絶対誰かに見られてるよ?」
あんまりかわいかったからちょっと意地悪して
からかってみた。
「…うるさい、市井、実はシャイなんだぞ…
絶対見られたとか言うな…くそー、やっぱしなきゃ良かった…」
- 165 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時05分40秒
「なにいってんの、嬉しかったよ?
市井ちゃんの気持ち、ちゃんと伝わったから。
後悔なんてして欲しくないよ」
市井ちゃんがアタシを思う気持ちとか、
色んな感情が一気にさっきのキスで伝わってきて、
なんかとっても感動的だった。
「…うん、そうだね、市井も別に後悔はしてないよ。
…でもこのゲーセンは早く出よう」
「うん、なんかアタシも恥ずかしくなってきたし…
行こっ、市井ちゃん」
今度はアタシが市井ちゃんの手を取ってゲーセンを出た。
2人とも顔を真っ赤にしながら。
- 166 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時09分30秒
- 店を出ると、辺りはもう真っ暗だった。
ちょうど繁華街には一番人が溢れる時間帯で、
ゲーセンの前の通りも人で一杯だった。
「あ、市井ちゃん、そろそろ帰らなきゃ。お母さんも心配してると思うから…」
「あ、うん、そだね。帰ろっか」
手を繋いで駅に向かう。
駅前に着いて、繋いでいた手が離れたかと思うと
市井ちゃんがスカートを翻しながらくるっと回ってこっちを向いた。
「ねえ後藤、あたしからも1つお願いがあるんだ」
「え、うん。何?」
- 167 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時11分17秒
「…あたしにはね、辛い事とか、苦しい事とか、
そういうの隠さないで欲しいんだ。
どんなつまんない悩みでも聞かせて欲しいし、
泣きたい時はこんな胸で良ければいつでも貸すし、
寂しい時は連絡してくれれば深夜でも早朝でも、
いつでも飛んでいくからさ。
…だから、あたしの前では素直で居て欲しい。
つまんない隠し事とかしないで欲しいんだ」
市井ちゃんはアタシの目をじっと見てそう言ってくれた。
市井ちゃんの気持ちがうれしくてまた泣きそうになっちゃったけど、
もう泣くのは嫌だから、バッて市井ちゃんに抱き付いて、
「うん…ありがと……約束するよ…市井ちゃんには絶対隠し事しない」
って言ったまましばらく抱き合ってた。
- 168 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時13分47秒
- 別れ際に、そういえばまだメアドと番号を交換してなかった
事に気付いて、お互いに教えあった。
「絶対今日電話するね」
って約束するのを忘れずに。
さすがに怒られるかな、って思って家に帰ったけど
お母さんは今日も何も言って来なかった。
「おかえり、もう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
って会話を交わしただけで。
お母さん最近どうしちゃったんだろ。
なんかちょっと元気無いような…まあアタシが言える事じゃないけど。
オフロに入って部屋に戻るとすぐに
市井ちゃんに電話した。
- 169 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時15分09秒
- よしこややぐっつぁんに「心配掛けてごめんね」って言う事とか、
明日から一緒に学校行く事とかを約束した。
話してたのは他愛も無い事ばっかりだったけど、
なぜかそれがとっても楽しくて、明日の朝まででも話は尽きなさそうだった。
でもさすがに十二時を過ぎた辺りで、
「ねぇ後藤、そろそろ切らない?
もう3時間も喋りっぱなしだし後藤、携帯でしょ?
多分凄い事になってるよ、値段。
あたしもまだ話してたいんだけどさ、
明日も学校あるしお互い今日は疲れてるだろうし」
って市井ちゃんが言った。
確かに、明日朝寝坊して一緒に学校行けなくなる、
なんてのは絶対イヤだ。
- 170 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年09月21日(土)23時19分52秒
- 「…うん、そうだね。
じゃあまた明日の朝だね」
「ん、遅れんなよ?
後藤、朝弱そうだからなー」
「そんな事ないよ、大丈夫。
じゃあね市井ちゃん、おやすみ」
「おやすみ」
「……」
「……」
「……」
「どーしたんだよ後藤、切って良いよ?」
「なんだよぉ、市井ちゃんこそ先切ってよね」
2人とも相手が先に切るのを待ってたらしい。
同じ事を考えてたのが嬉しくて顔もついニヤけてしまう。
「あーもう、これじゃあキリないからせーので一緒に切るよ。
せーの、」
プツッ。ツー、ツー、ツー、……
切った後もちょっと間携帯を見つめてニヤけてた。
携帯を優しく充電器に置いてからベッドに
ドサって寝転がる。
明日ちゃんとよしことやぐっつぁんに謝らなきゃな。
お母さんとユウキにもちょっと言っとかなきゃ…
ふー、って一息ついてたら頭の中に例の部屋が現れた。
- 171 名前:i 投稿日:2002年09月21日(土)23時26分48秒
- 更新終了です。
>154さん
応援ありがとうございます。
これからは割と明るい方向へ物語が進んで行きますので
後藤さんも幸せに…なっていけばいいと僕も思います。
序章以外はまだ書き終えてないのでまだなんとも…
後藤さんあと二日で卒業ですねぇ…
かなり辛いけど、
いちごまヲタの僕としては市井ちゃんとの絡みが
あるかも、っていう一縷の望みだけが希望の光です。
でも多分無いんだろうな…
後藤さん頑張れ!!
- 172 名前:-第1章‐運命 投稿日:2002年10月03日(木)23時29分33秒
- 【…ごっちん?】
あ、裕ちゃんだ。
『裕ちゃん?』
【…もう大丈夫なんか?】
『うん、心配掛けてごめんね』
【いや、ごっちんはホンマに強い子や思うで。
高校入ったばっかりであんな事聞かされて…
ウチが聞いたんは大人になってからやったからな】
【うん、凄いと思うよ。
アタシは凄くちっちゃい頃から聞かされてたから
それが当たり前で、なんの疑問も持ってなかった。
周りの人もアタシが死んで当然だ、って態度だったし】
ちょっと待って。今「ウチも」とか「あたしも」とか
聞こえたんだけど…
- 173 名前:‐第1章‐運命 投稿日:2002年10月03日(木)23時30分10秒
- 『…もしかしてさ、今の裕ちゃん達って
今まで穴を封印してきた人達の魂なの?』
【…御名答。
今ごっちんが見てるあたしらの姿は
一緒に封印されてる姿やと思ってくれたらええわ。
まあ封印されてる姿…って言っても存在せんねやけどな】
『…そうなんだ。あれ、でもさ、
封印された鬼って8匹じゃ無かったの?
裕ちゃん達って4人しか居ないよね』
【うん、あたし達は魂だけ抜け出せたの。
他の人達は封印する時に力を使いすぎちゃって
全部一緒に封印されちゃったんだ】
【まあ、封じる者の力も強い弱いあるしな】
『へー、そうなんだ…』
- 174 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月03日(木)23時35分57秒
- 【まあ大丈夫そうで安心したわ。
…ほんまにごっちんは強い子やな。
ごっちんが事情を知った所で
話したい事もあるんやけど、
明日またやること一杯あるやろうし
今日はもう寝た方がええわ。おやすみ】
『うーん、アタシが強いんじゃなくて
市井ちゃんが居てくれたおかげだと思うよ?
1人じゃどうなってたか分からないし…』
【せやな…】
裕ちゃんは、ふって微笑ってそう言うと、
おでこの上に軽く手を挙げて消えてった。
【…アタシは市井さんのおかげ、ってのも
あるかもしれないけど、
やっぱり真希ちゃん自身の強さがあってこそだと
思うな。アタシがもし真希ちゃんだったら
どうかなっちゃってたかもしれないよ。
じゃあおやすみ真希ちゃん、またね】
『…ありがと、梨華ちゃん。おやすみ』
梨華ちゃんは可愛く、小さく手を振って消えてった。
今日はもう寝るかな…
昨日あれだけ寝たのになんか眠いや…
アタシはそのままの体勢で
布団も被らないまま目を閉じた。
- 175 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月03日(木)23時36分43秒
- 「マキちゃん、起きなよ。マキちゃんってば」
ん…あ、ユウキだ。今日は起こしにきてくれたんだ…
「どーすんの?今日も休むの?」
「ん、大丈夫。今日は行くよ」
アタシは目を擦りながら、なんとか上半身だけ起こして返事した。
「そう?最近元気無かったみたいだからさ。
色々あるんだろうけど、あんま無理しないほうがいいよ?」
「うん、ありがと…ユウキ、心配掛けてゴメンね?」
- 176 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月03日(木)23時40分40秒
- ユウキはアタシらしくない珍しいセリフにちょっと驚いたみたいだったけど
「なーに言ってんの、今更。
心配掛けるなんて今に始まった事じゃないだろ?
…家族なんだからさ、水臭いこと言うなよ」
なんてこれまたユウキらしくない事を言ってくれた。
でも、そう言ってくれた弟の顔はアタシが見た事ない顔で、
とっても大人っぽくてオトコらしかった。
知らない間に成長してたんだね…
最近じゃあ朝と晩の御飯時ぐらいしか
顔を合わせなくなったアタシには
弟の成長に気付くハズも無かった。
「じゃ、行くんなら早く降りてきなよ」
自分の言葉に照れてしまったのか、
ユウキはそう言って足早に部屋を後にした。
弟に心配掛けるなんてダメなねーちゃんだね。
あんなにかわいい弟だもん、アタシが守ってあげないと…
アタシはユウキの後ろ姿を見送ってから、
「よし」と決意を確認するように1つ頷いて
勢い良く布団を跳ね除けた。
- 177 名前:i 投稿日:2002年10月03日(木)23時44分42秒
- 少ないですが更新終了です。
新学期が始まるとやはり更新ペースは落ちてしまい、
読んで下さってる方、おられたら申し訳ありませんです。
できるだけ早く更新するようにします…
- 178 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月04日(金)15時37分34秒
- はじめて読みました。
すっごい面白いです!!!痛いけど・・・
続きがめっちゃ気になる〜
マターリ待ってますので更新がんばってください!
- 179 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時11分48秒
- 「お、おはよ、後藤」
「市井ちゃんおはよっ!」
市井ちゃんとは学校の最寄駅で毎朝待ち合わせして、
一緒に学校に行く事を昨日約束した。
駅から学校までなんて短い距離だってことは分かってるけど
そんなことは問題じゃなかった。
要は雰囲気よ、雰囲気。
学校に着いて、階段の途中で市井ちゃんと別れて教室に向かう。
教室に入ったらまっ先に、
やっぱり早く来ていたよしこの所へ向かった。
「よしこ、おはよ」
肩をポンッって叩いて声を掛ける。
「あ、ごっちん…おはよ」
予想通りの優れない表情。
- 180 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時13分33秒
- やっぱりね…沈んでるとは思ってたケドさ・・・
「朝っぱらからなーに暗い顔してんのよ!!
よしこらしくないぞ?
…アタシはもう大丈夫だからさ」
「でも、ごっちん…」
何かを言おうとするよしこを手で制して、
前の席に向かい合うように座ってから昨日の事を話した。
「あのね、よしこ。
昨日アタシ学校休んだじゃん?
…まあ理由は大体分かると思うけど。
それで昼過ぎに目が覚めたら市井ちゃんが居てさ、
めっちゃビックリしたよ。
授業サボって来てくれたんだ。
そしたら急に「あたしが身代わりになる」なんて言い出してさ…
…まあそれから色々あって、決めたんだ。
自分の運命を受け入れるって。
正直、世界の平和とかそんなのは結構どうでもいいんだ。
でもね、大切な家族や友達の命を護る為ならアタシ一人の命ぐらい
安いもんだ、って思ったよ。
何より市井ちゃんを身代わりにするなんて絶対ダメだしね。
…だからよしこももうそんな顔しないで。
アタシと居る時はいつものよしこでいてよ。
そんな辛そうなよしこ、見たくないよ」
- 181 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時14分35秒
- 「ごっちん…」
よしこがちょっと泣きそうになってるのが分かった。
涙が少し溜まっている目の端を軽く拭ってあげた。
「ほらぁ、泣かないの、もう。
そんな女々しいよしこ、やぐっつぁんに嫌われちゃうぞ?
あ、そうだ。アタシね、市井ちゃんと付き合ってるんだ」
「え、そうなの?」
よしこは目を拭いながら聞いてきた。
「うん。なんか皮肉なもんなんだけどね、
お互い運命感じてたみたい。
よしこも頑張って早くやぐっつぁんに気持ち、伝えなよ?」
- 182 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時16分20秒
- 「…そうなんだ。おめでとごっちん。
よし、ウチも頑張る!!
早く矢口さんに気に入ってもらうぞ!!」
ふー、やっといつものよしこに戻ってくれた。
「そうそう、その意気その意気。
よしこだったら絶対大丈夫だからさ、頑張りなよ」
アタシはそう言った後、また肩を軽く
ポンポン、って2回叩いて自分の席に向かった。
机に荷物を置いてよしこの方をちらっと見たら、
よしこはまだ制服の袖で目を擦ってた。
親友の鼻を啜る音が何故かアタシの涙を誘った。
- 183 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時17分12秒
- その日はつんくさんの音楽の授業が2時間あった。
学業優先とか言っといてなんで週に4時間も芸術の授業があるのか
ワケわかんなかったけど、
つんくさんの授業はとっても楽しかったから、
生徒的には全然OKなんだろうなと思った。
そして放課後。当然終礼が終わると同時に更衣室にダッシュ。
サッと着替えて体育館へ。
今日も一番かな、って思ったら市井ちゃんがもう来てた。
「おっす後藤、早いな」
「市井ちゃんの方が早いじゃん、まだ3時半にもなってないよ?」
モップ掛けをやり始めたところだったから
アタシも並んでモップを掛ける。
- 184 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時18分20秒
- 「後藤、吉澤とちゃんと話した?」
モップを掛け終わって用具室から道具を出してる時に
市井ちゃんが聞いてきた。
「うん。まあ話したっていうかアタシが説明したって感じだったけどね。
よしこも分かってくれたと思うよ。
そうだ、やぐっつぁんって好きな人居るの?」
「…なんだよ、もう浮気か?」
市井ちゃんはこっちをジロって見ながらそんな事を言った。
「っ違うよ、そんなワケないじゃん!!
よしこがやぐっつぁんの事好きだって言うから聞いてみたの!!」
「ハハ、冗談だよ、冗談。
ったく後藤はカワイイなぁ。すぐ本気にするんだもんな」
- 185 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時19分39秒
- 「もー、市井ちゃんのイジワル!!
…で、どうなの?彼氏とか居るの?」
「いや、実は入学式の日にさ、初めて会った後に
あたしが後藤の事好きだ、って矢口に言ったらさ、
『矢口もあのキンパの子タイプかも』
って言ってたんだよね。タイプだって言ってただけだから
わかんないんだけどさ、結構気に入られてると思うよ」
「え、そうなんだ。
じゃあよしこもガンガンいってオッケーなんだね。
出来るだけ押すように言っとくよ」
「うん。多分イケると思うよ。
…よし、これで全部だな。今日もやる?1on1」
ボールやら得点板やらを全部出し終わった所で
市井ちゃんがそう言ってきた。
そう言えばアタシ、市井ちゃんのプレイちゃんと見た事無いな…
- 186 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時20分09秒
- 「それもいいんだけどさ、
今日は市井ちゃんのプレイ見せてくれない?
アタシちゃんと見た事ないからさ」
「じゃあやっぱり一対一やろーよ。
市井の場合その方が分かり易いと思うんだ。
今日は後藤がディフェンスしてよ」
「うん、分かった」
昨日の市井ちゃんと同じようにフリースローライン辺りで構える。
実はアタシはディフェンスはあんまし得意じゃない。
でもそれは試合中のややこしいディフェンスの話で、
一対一なら話は別。自信はある。
「じゃあ行くよ」
市井ちゃんはそう言って軽くボールをつき始めた。
- 187 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時26分42秒
- アタシはとりあえず様子を見るつもりで、
取り敢えず全てのパターンに対処できる間を取っておいた。
これならスリーが来てもブロックできる―
そう思ってたし、自信もあった。
しばらく様子を見てた市井ちゃんのドリブルのリズムが変わる。
来る―
そう思って警戒を強めたアタシの右を抜こうとして
市井ちゃんがドライブしてきた。
あれ、意外と速くないな…
そう思ってピッタリついていく。
- 188 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時28分55秒
- 市井ちゃんは中に切り込んでくると思ったら
意外と浅く入ってきて、
スピードを一瞬緩めてもう1度上げたと思った瞬間に
ステップバックしてシュートを打った。
げ、速っ―
ステップからシュートまでの間が
アタシとは比べ物にならないぐらい速かった。
しかもステップバックした先はスリーポイントラインの外側で、
少し離れ気味に守ってた事もあって、慌ててチェックしにいった手は
シュートを打った後の市井ちゃんの手に触れただけだった。
シュパッ…
ボールがネットに突き刺さる音が
アタシ達以外誰もいない体育館に小気味良く響いた。
- 189 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時29分50秒
- 「ふー。まあこんなもんかな」
市井ちゃんは涼しいカオでそう言ってボールを取りにいった。
「市井ちゃん凄いじゃん!!
シュートモーション速すぎだよ!!」
「そう?まああたしにはアレしかないからね。
スリーだけは自信あるんだ」
そう言って、ボールを取って帰ってくる時に
今度は左0度から軽くひょいってシュートした。
ボールは高くて綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれた。
シュートフォームはしなやかで美しく、
いつもアタシがシュートを打つ時に頭の中で思い描いている
フォームそのものだった。
「ほえー、きれーなシュートだね…
やっぱ高校生はすごいや」
アタシが感心したように言うと、
「何言ってんの。
後藤も大したもんだよ?それこそ超高校級って言っても良いと思う。
あたしは一回みられちゃうと1on1じゃちょっと弱いんだよね。
試合じゃ止められない自信あるんだけど」
- 190 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時30分40秒
- そっか。一対一じゃあスリーが来るって分かってたら
引っ付いて守られたら終わりだもんね。
でも、確かに試合でこんなスリー打たれちゃたまんないな。
「ねえ、なっち先輩とカオリ先輩も同じくらいできるの?」
「ああ、なっちは確率だけだったらあたしより良いんじゃない?
まあなっちが打つ時はオープンの時がほとんどだからかもしれないけど。
それにPGだけあってパスセンスめっちゃ良いんだ。ゲームメイクも上手いよ。
カオリはセンターにしちゃちょっと背低いけど、
その分シュートレンジ広いしパワーとジャンプ力は凄いよ。
スピードもハンドリングもセンターにしちゃかなりのもんだと思う」
へー…みんな凄いんだ…
「え、じゃあさ、大会とかでも結構いいとこまで
いくんじゃない?優勝とかしたことあるの?」
あんましバスケが強い、って話をウチの高校では聞いた事なかった。
- 191 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時31分37秒
- 「うーん、あんましこういう事言いたくないんだけどね…
…なんていうかさ、その、後の2人がね…」
少し言い難そうに市井ちゃんはそう言った。
あ、そっか。残り二人はあの先輩達の中からだもんね。
3人じゃちょっとキツいかもね…
他の先輩達があんまり上手くないのは練習を一回見ただけで分かってた。
「なるほど…確かに3人じゃ強いとこと当たったらちょっとキビしいかもね…」
「うん。それにあたし達背ぇ低いしさ。
そこ付かれたら結構弱いんだ…でも、今年は4人目が居るからね。
もっとスピードある展開に持って行けるし、簡単には負けないよ」
「うん、まかしといて!!スピードには自信あるから!!」
市井ちゃんが『4人目』って言ってくれたのがとっても嬉しかった。
その時、ドアが開いてカオリ先輩となっち先輩が入って来た。
「お、サヤカに後藤じゃん。今日も早いね」
「おっすー。早いね2人とも」
「あ、カオリになっちじゃん。
昨日ゴメンね、何の連絡も無く休んじゃってさ」
そうだ、昨日市井ちゃんもクラブ休んじゃったんだ。
- 192 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時32分24秒
- 「気にすることないよ。
一昨年のなっちも似たような感じだったべ。
…そういう時期だもんね。
なっちは立ち直るのに一週間くらいかかっちゃってさ、
その間カオリと明日香が毎日家まで来てくれてね。
そりゃもう助かったもんさ」
なっち先輩は一昨年を思い出すようにしみじみ言った。
なっち先輩もやっぱ仲間の支えがあったから乗り越えられたんだ…
市井ちゃんをちらって見たら目が合って、
ふっ、って微笑んでくれた。
同じこと考えてたみたいで嬉しかったから、
ちょっと間ニヤニヤしながら見つめ合ってた。
- 193 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時34分03秒
- なっち先輩とカオリ先輩はなにやらコソコソ話し合ってたけど、
「うん、そうだね」とか2人で言ってからこっちを向いた。
「それにしてもさ、後藤はすごいね。
1日で出てくるなんてさ。…ホント凄いと思うよ」
カオリ先輩がアタシが凄いみたいに言うもんだから、
「あ、いえ、市井ちゃんが居なかったら
多分アタシも一週間でも1ヶ月でも引きこもってたと思います。
市井ちゃんが居てくれたから受け入れられたようなもんですから…」
って言ったら、
「そっか…良かったね、良い仲間が居て。
…ねえ後藤さんにサヤカ、ちょっと今日クラブ終わったら話しない?
好青でも行ってさ。話したいこともあるし、聞きたい事もあるっしょ?」
ってなっち先輩が誘ってくれた。
「あたしは良いけど…後藤は大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。あ、よしことやぐっつぁんはどうする?」
「あ、そうだな。ねえなっち、仲間がもう2人居るんだけどどうする?
呼んだ方がいいなら呼ぶけど」
- 194 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月10日(木)02時34分50秒
- なっち先輩はもう1度カオリ先輩となにやら視線を交わした。
「いや、二人には悪いんだけどさ、
今日はちょっと後藤さんとサヤカだけにして欲しいんだ。
またみんなで話することはあると思うから」
今日はアタシと市井ちゃんだけに話があるみたいだ。
「…うん、分かったよ。何か言っておきたい事あるんでしょ?
今日はアタシ達だけしとくよ」
市井ちゃんは何か納得したみたいだけど、
アタシには何がなんだかわからなかった。
- 195 名前:i 投稿日:2002年10月10日(木)02時39分50秒
- 更新終了です。
>178さん
応援ありがとうございます!!嬉しいです!!
マタ-リ待ってて下さるのはとってもありがたいです。
また気が向いたら読んでやって下さいね。
バスケは一応この先ストーリーと絡めていく気なので、
ワケ分からん、って感じの読者様はなんでも聞いて下さい。
なんでも答えさせていただきます。分かりにくくてすいません。
- 196 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月15日(火)21時44分43秒
- 面白いです。続きが楽しみです。
頑張って下さいね。
- 197 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)19時57分29秒
- その後、着替える時によしこに
「ゴメン、今日は先帰るね。
これを機にやぐっつぁんと
お近づきになれよ!! 真希」
ってメールして、市井ちゃんや先輩達と好青へ向かった。
好青につくまで、市井ちゃんはなんかずっとなんか考え込んでるみたいに
前向いてて話し掛けれる雰囲気じゃなくて、
ずっと押し黙ったまま並んで歩いてた。
- 198 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)19時58分20秒
- 好青に着くと、彩さんが心配して声を掛けてくれた。
「いらっしゃい…お、今日はカオリになっちも一緒か。
…後藤さん、もう大丈夫なの?」
「あ、ハイ、心配おかけしました。
もう大丈夫です」
「そっか。後藤さんは強いね、なっちよりずっとしっかりしてるよ」
すかさずなっち先輩が文句を言う。
「あやっぺ何それー。ちょっと酷くない?」
「なに言ってんの、一週間も心配掛け通しでさ。
カオリと明日香、何度も相談に来てたんだよ?」
「そーそー、なっちが引きこもってっからさぁ、
ウチらほんっと心配してたんだよね。
好青にも毎日来てたよ」
好青ってやっぱチカラ持ってる子の集まる場所なのかな。
なんかそんな感じ…
「ホラ、今日も話すことあるんでしょ?
いつもの席開いてるから早く行きな」
「あ、うん、そだね。ゴメンゴメン」
カオリ先輩となっち先輩が2人だけで話してるのを見かねて
彩さんがそう言った。
- 199 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)19時58分54秒
- 今日はアタシと市井ちゃん、なっち先輩とカオリ先輩が
隣に座った。
「じゃあさっそく本題に入るんだけどね、
…サヤカ、あの話はどうなったの?」
なっち先輩は座ってすぐ話を始めた。
あの話ってなんだろ…
「うん…結局後藤が反対してさ、身代わりは無しって事になったよ」
ああ、身代わりがどうとかって話か…なっち先輩に聞いたって
言ってたもんね。
「そっか。まあ考えてみりゃ当たり前なんだけどね。
なっちも明日香が事前にそんな事言ってきたら絶対ダメだ、
って止めただろうし。
…でも、サヤカはやるつもりなんでしょ?」
「!」
市井ちゃんはハッと顔を上げてなっち先輩を見た。
- 200 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時00分29秒
- 「…やっぱりね。サヤカは強情だからさ、
なっちとの約束破ってでもやるんじゃないかって、
教えた後にちょっと後悔したんだ」
なっち先輩が呆れたように言うと、
市井ちゃんは「しまった」って顔して俯いてしまった。
アタシはなっち先輩の言葉が信じられなかった。
「…市井ちゃん、本当なの?」
ウソだよね、昨日、分かってくれたもんね?
…でも市井ちゃんは何も答えなかった。
そんな…あの時分かってくれたって思ってたのに…
「ねえ市井ちゃん!!ホントなの?答えてよ!!」
「…うん、ゴメン…」
―パンッ!
アタシの中にいろんな感情が込み上げてきて、
気がついたら泣きながら市井ちゃんの頬っぺたを殴ってた。
- 201 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時01分13秒
- 「どうして!!あの時あんだけ話したじゃん!!
アタシ、市井ちゃん分かってくれたって思ってたよ!!
市井ちゃんなら分かってくれたって!!
なのにどうしてまだ勝手に身代わりになろうなんて思うの?
アタシ頑張って運命受け入れるって決めたのに、
それでも納得してくれなかったなんて、分かってくれなかったなんて…
そんなの、悲しいよ…」
市井ちゃんと心が通じ合った、って思ってたのはアタシだけだったのかな…
市井ちゃんの心にはアタシの決意なんて全然響かなかったのかな…
先輩達はずっと黙ってたけど、
気付いたらアタシだけじゃなくて市井ちゃんも泣いてた。
「ゴメンね、後藤…ゴメンね…
あたし後藤の決意を聞いてさ、
後藤が居なくなった世界の事想像してみたら
怖くなっちゃって…
あたし、ホントは、後藤を守りたいんじゃなくて、
後藤が居ない世界で生きるのが、ただ怖いだけだったのかもしれない。
自分が逃げてただけかもしれない…
あたし、ホント最低だよ…」
市井ちゃんとアタシの嗚咽だけが静かな空間に響いていた。
- 202 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時02分46秒
- アタシ達が泣き止む事は無くて、4人ともずっと黙ったままだった。
先輩達も何も言わずに黙ってる。
「…後藤、ホント、ゴメン…
でもあたしね、後藤が死んじゃう、って思ったら
どうしようも無くて…
昨日もね、適当な気持ちで言ったんじゃないんだよ。
さっき言ったような気持ちもあるかもしれないけど、
後藤を守りたいってのは本心で…
何もしないまま、ただ見てるだけなんて、
あたしには無理だよ…そんなの…
もう、どうしたらいいのか分かんないよ…」
市井ちゃんの目から大量の涙がこぼれ落ちる。
アタシもつられてまた泣いてしまう。
…様子を見かねたなっち先輩が、
「ね、2人とも、今日はもう帰った方が良いよ。
明日また2人で話しなよ。もう遅いしさ、
2人とも疲れてるっしょ?」
って優しく言ってくれた。
アタシ達はまだ涙が止まらなくて、
駅までの道でも誰も一言も発さないまま、
「…じゃあね、後藤さん」
っていう別れ際のなっち先輩の言葉にも反応できなくて、
鼻をすすりながら電車に乗った。
そう言えば、学校の帰り道って嫌な思い出しかないな…
まだぼやけてる視界に入る夜景はどこか寂しかった
- 203 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時04分03秒
- もう家族に心配かけるのだけは止めよう、
そう思ってなんとか涙だけは帰り道で止めた。
元気良く「ただいま」って声掛けて、
顔を見られないようにすぐ部屋にこもる。
鞄をその辺に置いて、服を着替えて
すぐベッドに飛び込んだ。
市井ちゃん…
もうアタシもどうしていいか分かんないよ…
布団に顔をうずめてそんなことを思ってたら、
―ジリリリリン…ジリリリリリリン…
鞄の中から、黒電話の音に設定してる着信音が鳴り響いた。
- 204 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時04分46秒
- 誰だろ…
気分が晴れるなら電話でもなんでもいいやって
思って画面を見たら、
「吉澤ひとみ」って出てた。
よしこか。また電話ってなんだろ…
「はい」
「ああ、ごっちん?明日CD持ってきて貰おうと思って
電話したんだけど」
なんだ、それだけか…
「あ、うん良いよ。昼休み言ってたヤツでしょ?」
「そうそう。お願いします」
ちょっと話、聞いてもらおっかな…
よしこにさっきまでの事を話してみる事にした。
「…ねえよしこ、ちょっと話聞いてくれる?」
「うん?何、改まっちゃって」
「あのね…」
市井ちゃんが実はまだ身代わりになるつもりで居た事とかを
詳しく話した。よしこはたまに相槌を打ちながらも黙って聞いてくれた。
- 205 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時05分36秒
- 「どう思う?…例えにして悪いんだけどさ、
もしやぐっつぁんがアタシでよしこが市井ちゃんの立場だったらさ、
どうすると思う?」
「…ウチも市井さんと同じこと考えると思う。
もし矢口さんが絶対自分でやる、って言ったとしても、
市井さんと同じように勝手に身代わりになろうとすると思う。
…市井さんさぁ、多分ごっちんの決意が心に響かなかったとかじゃなくてさ、
ごっちんの意志の固さを感じて余計そう思ったんだと思うよ?」
- 206 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時06分19秒
「なんで?」
「だって、ウチだったら矢口さんがそんな事言い出したらさ、
余計に『この人を守らなきゃ』って思うよ。
『矢口さんがこれだけ固く決心してるんだから諦めよう』
なんて思えるはずないっしょ?
ごっちんが市井さんと逆の立場だったら、って考えてみなよ」
市井ちゃんと逆の立場だったら…
そうか、『ハイそうですか、じゃあ御自分でどうぞ』なんて
なるワケないな…余計に守りたくなっちゃうよ。
- 207 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時07分04秒
- 「そうだね…アタシも多分そうなると思うよ…」
「でしょ?…ウチだってごっちんを死なせたくないって気持ちは、
市井さんには負けるかもしれないけど、もちろんあるしね。
…やっぱりさ、こればっかりは2人で話し合って
解決する以外何も方法は無いと思うよ。
もしかしたら2人とも納得する方法なんて無いのかもしれない。
でも、2人でなんとかするしかないと思う。
悔しいけど、ウチらにはどうすることも出来ないからさ…」
- 208 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時09分17秒
- そうだね…2人でなんとかするしかないもんね…
「…うん、明日ちゃんと話してみるよ。
ありがとね、よしこ」
「何言ってんの。ウチなんてなんにもしてあげられなくて…」
「そっちこそ何言ってんのだよ。話聞いてくれたじゃん、
親友として。それだけで十分ありがたいよ」
「ごっちん…」
ったくよしこは涙もろいんだから…
「ホラ泣かないの。
もー、朝も言ったでしょ?
あ、そう言えばさ、部活の時に市井ちゃんと話したんだけどさ、
やぐっつぁんもよしこの事気に入ってるらしいよ」
「え、そうなの?」
- 209 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時11分30秒
- そこから少しやぐっつぁんの話をして、電話を切った。
よしこの話では今日も一緒に帰ったらしく、
結構良いカンジになってきてるらしい。
ふー。まあよしこの事だからうまくやってるとは
思ってたけどね。
…市井ちゃんに電話しよっかな…
…いや、やっぱこういう事は直接話さないとね。
よし、明日の朝待ち合わせ場所に行ってみよう。
市井ちゃんだったら絶対来てくれるはずだもん。
よしこと話してちょっと元気になったアタシは、
敢えて市井ちゃんにその夜連絡しなかった。
絶対来てくれるよね…
- 210 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時12分17秒
- 次の日の朝、待ち合わせ場所に決めてある、
学校の最寄駅のみんなが使う階段じゃない
学校から遠い方の出口に出る階段に行ってみた。
約束の時間より十分ぐらい早めに行ったその場所は、
いつもにまして人が少なかった。
…だから、手摺りに持たれてる市井ちゃんを見つけるのはすぐだった。
市井ちゃん、やっぱり来てくれてる…
なんとなく呼びかけづらくて
無言で近づいてたら、途中で市井ちゃんが気付いてくれて、
軽く「よっ」って手を挙げて言ってくれた。
昨日みたいに顔は笑ってなかったけど。
- 211 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時13分06秒
- 「…早いね、後藤。まだ十分ぐらいあるよ?」
「なに言ってんの、市井ちゃんのが早いじゃん」
そう言えば昨日もこんな話したな…
アタシがそう思ってたら、
「なんか昨日の部活始まる前もこんな話したよね。
あたし達って2人ともせっかちなのかな」
って言って市井ちゃんは笑った。
「後藤も今それ思ってたよ。
…今日さ、来てくれたんだね」
「…うん。やっぱりあたし達でちゃんと話し合わないとさ、
すれ違ったままなんて嫌じゃん?」
「うん、後藤もそう思ってちょっと早く来てみたんだ」
- 212 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時13分37秒
- 「そっか…じゃあさ、好青はまだ開いてないけどさ、
どっかその辺入って話しない?…1時間目はサボり覚悟になるけど」
「いいよ。てゆーか後藤、授業サボってばっかだね」
「ホントだ、入学したばっかなのにもうサボりまくってんじゃん、
この不良娘が」
「ぶー、なにそれー。市井ちゃんもそうじゃん、
不良娘じゃん」
「アハハ、そーだね、不良カップルだ!!」
「市井ちゃんとだったら何カップルでもいーよ!!」
やっぱり心は繋がってる。そう感じた。
アタシの事を市井ちゃんが分かってくれてないなんて有り得ないもんね。
- 213 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時14分25秒
- 駅前のファーストフード店に入って、
ガラガラの店内の一番奥に座る。…もし見つかったらシャレにならないしね。
「後藤、何が良い?何も買わないのも悪いからさ、
なんか買ってくるよ」
「あ、じゃあね…コーラ」
「なんだ、朝っぱらからコーラ飲むの?
…まあ市井もなんだけど。じゃ、行ってくんね」
市井ちゃんがコーラ飲むの分かってるからコーラって言ったんだよ…
アタシもコーラばっか頼んでるから
単にコーラ好きな子って思われてるのかな。
それとも気付いてくれてるのかな?
- 214 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時14分58秒
- 市井ちゃんはすぐに戻ってきた。
「店員さんめっちゃダルそーでさ、
寝ぼけてんのか知らないけどSって言ったのに
Mサイズ持ってきたよ。ちょっとラッキーだね」
「あ、ありがと。いくらだった?」
アタシが財布を取り出そうとしたら、
「あ、いいよこれくらい。デート代ぐらいは彼氏が持たないとね」
なんて良くわかんない事を言っておごってくれた。
じゃあアタシは市井ちゃんの彼女ですか…まあそうなんだけどね。
それにこれってデートじゃないんじゃ…
って突っ込むのは心の中だけにしておいた。
- 215 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時16分24秒
- 「…うん、今日もやっぱりコーラがウマイ!!
……よし後藤、互いに全てをさらけだして話し合おうじゃないか!!」
市井ちゃんは一気に半分くらいコーラを飲んで
トレイにドンッって叩きつけて、
朝なのに異常にハイなテンションで言ってきた。
昨日あんな風になっちゃったから
明るく話できるようにしてくれてるんだと思う。
「そうだね。市井ちゃんの前では隠し事しない、って
約束したもんね」
「うん、したね。じゃあ後藤さんからどうぞっ」
市井ちゃんがズイっと両手を差し出す。
- 216 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時19分54秒
- 「じゃあアタシから話するね。
…ていっても何も変わってないんだけど。
一番強いのは市井ちゃんを死なせたくないって気持ちで、
その次が家族や友達を死なせたくないってこと。
あ、世界の平和とかそういうのって、
結構どうでも良かったりするんだ。
……やっぱりね、怖くない、って言ったら嘘になるよ。
やっぱり今でも怖いよ。すぐにでも逃げ出したいくらい怖い。
でもね、市井ちゃん達を守りたいって気持ちがやっぱり強くてね、
みんなを守れるんならアタシ一人の命なんて良いかなって思えるんだ」
市井ちゃんはゆっくり話すアタシの目をじっと見つめて、
「うん、うん」って時折頷きながら話を聞いてくれた。
- 217 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時20分29秒
- 「…そっか。
あたしもね、やっぱり気持ちは変わってないんだ。
後藤を死なせたくないって気持ちが一番だよ。
後藤を守れるんならあたしの命なんてどうでも良いって思う。
あたしが後藤の世界で死んじゃった世界でどうのってヤツ、
昨日言ったじゃん?でも良く考えたらあんなのどうでも良い事なんだ。
後藤が死んじゃったらなんて考えてる時点で最低だよね。
…ゴメン、昨日のあたしはホントどうかしてたよ」
- 218 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時21分24秒
- 市井ちゃんは、話すときもじっとアタシの目を見て、
最後はちょっと俯いちゃったけど、話してくれた。
お互いの今の気持ちを語ったところで
なんの解決にもなっていないことは分かってた。
「あのね、市井ちゃん…」
「待って、もうちょっと聞いて欲しいんだ。
このままじゃ解決しないのはあたしも分かってる。
…それに、解決策なんて今のこの状況じゃ何も無いのも分かってる。
昨日ちょっと考えてみてあやっぺに電話で相談したんだけどさ、
あやっぺの話によるとね、封印しに行くのは、
正確には分からないけど来年なんだって。
だからまだかなり時間あるんだよね。
それでね、あたしもうちょっとこの事について調べてみようと思う。
穴ってこの近くに出来るわけじゃなくてさ、できるのは地方らしいんだ。
夏休みもあるし、実際今までに封印した穴がある
地方に行って調べてみてもいいしね。
でも時間があるって言ってもやらなきゃいけないことは
たくさんあるらしいから、調べてばっかってワケにはいかないけど。
だから2人がどうの、ってのはもう少ししてから…
…いつがいいだろ。とにかくもう少ししてからにしようよ。
それまではさ、出来る事は全部やってみたいんだ」
- 219 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時22分28秒
- …なるほど、市井ちゃんが今日やけにテンション高いと思ったら
来年だって分かったからか。まだ半年以上あるんだもんね。
アタシもそれを聞いたらちょっとホッとした。
市井ちゃんがどれだけ頑張るつもりなのかは目をみればすぐに分かった。
…学校を辞めてでも調べに行きそうな勢いだった。
「…うん、そうだね。
後藤も頑張って調べる!!
でも市井ちゃん、学校休むのはダメだよ」
「ほえ、なんで?」
さも学校を休んで当然と思ってたかのように惚けた顔で
聞く市井ちゃんに、釘を刺しといて良かったと思ったアタシだった。
「当たり前でしょ!!
休んでばっかいたら進級出来なくなっちゃうじゃん!!
頑張ってくれるのは嬉しいんだけど、
市井ちゃんが学校来なかったらつまんないしさ…」
そう。実はこっちが本心。市井ちゃんが居ない学校なんてつまんない。
- 220 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時23分00秒
- 「後藤も来りゃいーじゃん」
「へ?」
「いや、だから一緒に行こうよ。
さっき、後藤も頑張る!!、って言ってたじゃん。
旅は道連れ世は情け…ってちょい違うか」
やっぱ今日の市井ちゃんはテンションがおかしい。やけに子供っぽい。
これがホントの市井ちゃんなのかな?
ていうかアタシも連れて行く気だったんだ…
「あのね、市井ちゃん。
後藤が言った頑張るってのはね、
学校へ行きながら休みの日とかに頑張るって事であって…」
「あー、そっか。そういうことね。OKOK。
市井も後藤と一緒にスクールライフをエンジョイしたいしね、
じゃあ学校行きながらがんばろー!!」
市井ちゃんはあっさり折れた。
なんなんだ、今日の市井ちゃんは…
ま、なんかかわいいから良いんだけどね…
子供っぽい市井ちゃんは、それはそれでかわいかった。
「よーし、そうと決まれば後藤、行くぞ!!」
「え、どこへ?」
「決まってんだろ、学校だよ学校。
なっちやカオリにも心配かけてるしさ、
クラブもちゃんと出なきゃね。ほら、行くよ」
良かった。またゲーセン行くぞとか言い出すのかと思ったよ。
「うん!!」
差し出された市井ちゃんの手を取って
繋いだままファーストフード店を出る。
- 221 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時23分48秒
- 外の景色は中学の時、
遅刻してそのまま1時間目をサボった日によく見ていた風景に似ていて、
どこか懐かしかった。
人が少なくて、でも変わらない朝の雰囲気で。
…でも、今は一人じゃない。
アタシの手の温もりの先には市井ちゃんが居る。
昔はなんだか憂鬱だったこの風景も、
人があまりいないせいか世界中に2人っきりになったみたいで、
今日は心地良く感じる。
信号待ちのアタシ達の前を通りすぎる車の存在も消えちゃったみたい。
「何してんだよ後藤、ホラ、行くぞ」
市井ちゃんがぼーっとしてるアタシの手を引っ張ってくれた。
「あ、うん!」
元気良く返事をして、急いで市井ちゃんの隣に並びかける。
- 222 名前:第1章‐運命‐ 投稿日:2002年10月17日(木)20時31分16秒
- 「ねえ市井ちゃん、いいの?学校近いのに手ぇ繋いでて。
バレちゃうかもしれないよ?」
「え、後藤はそういうのバレたら嫌?」
「いや後藤は全然良いんだけど、
市井ちゃんシャイだって言ってたから気にならないかなと思って」
「なーに言ってんの、市井にはこんなかわいい彼女がいるんだぞ、って
みんなに見せ付けてやりたいくらいだよ」
「…アハっ、アリガト!
じゃーアタシもこんなかっこいい彼氏がいるんだぞって
見せ付けちゃう!!」
アタシは市井ちゃんの手をブンブン振り回しながらそう言った。
市井ちゃんも「やめろよー」とか笑いながら言ってるけど
一緒に手を振って、手を繋いだまま歩いてくれた。
市井ちゃんがそばに居てくれたら、
どんな辛い事があっても大丈夫。
市井ちゃんが助けに来てくれるって信じてるから。
もしすれ違っちゃっても大丈夫。
アタシと市井ちゃんの心が離れることは無いから。
例えどんな運命が待っていたとしても…大丈夫。
「ね、市井ちゃん?」
「ん?」
「ううん、何にもない」
「そっか」
市井ちゃんはふわっと優しく微笑んだ。
第1章‐運命‐ 終
- 223 名前:i 投稿日:2002年10月17日(木)20時35分12秒
- 更新終了、第1章終了です。
第二章は加護編もある程度書き終えてるので
近いうちに始めます。
題名があまりにも適当なので変えたいのですが、
容量も余ってるので同じスレでいきます。
またよろしくお願いします。
≫196さん
ありがとうございます、頑張ります。
良かったら第二章も読んでやって下さいね。
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月23日(水)21時17分21秒
- 第1章完結、お疲れさまでした。
次章も楽しみです。
ゆっくりお待ちしてますんで頑張って下さい。
- 225 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月05日(火)23時04分10秒
- マターリ待ってます。
- 226 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時27分31秒
- ウチは加護亜依。プリチーな十三才、今年から中学2年や。
バリバリの奈良人やねん…けど、この春から、
つまり中2から親の都合…じゃなくてウチの都合で
東京っちゅー大都会に越して来たんや。
ウチの都合ってのは、
それはそれは深い事情がやねんこれが…
第二章‐胎動‐
- 227 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時28分44秒
- 「…亜依、もう着くよ、亜依」
「ん?ん…」
目をうっすら開けると
ウチの目の前5センチぐらいにえらくテカったモノが見える。
なんやこのテカテカの物体は…あぁ、お母んの鼻か。
近い、近すぎるでお母ん…いくら若い言うてもそこまでドアップはキツいわ…
それにしてもこのベッドえらい寝心地悪いな…
この岩のような固さのベッドといい、ガタガタ揺れる具合といい、
家のオンボロ車とええ勝負や…ってこれどう見ても車のシートやんけ!!
- 228 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時30分48秒
- 車のシートの粗悪な感触にハッキリ目が覚めて、
我が故郷奈良を捨てて東京に移ってる途中やったんを思い出した。
…それにしても相変わらず事故車も真っ青のボロさや。
そりゃ寝起きも悪なるで。
優れない気分のまま起き上がって目を擦り、
窓を覗くとその景色は普通の住宅街で、
なんやイメージしてた大都会、って感じやなかった。
これが東京か。奈良の住宅街とあんまし変わらんやん。
やっぱ渋谷とか原宿とか行かな東京の真髄は味わう事は出来んらしいな。
なんてゆーかこう、見渡す限り人、人、人、ビル、ビル、ビル、みたいな。
- 229 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時31分46秒
- その後5分ぐらい走ると、お母んの
「着いたよ、新しい家」
って声と共に車が止まった。
改めて外を覗いたそこには
意外とまともなマンションがそびえ建っていた。
…おいおい、こんなマンション住んで大丈夫かいな。
正直、初めに抱いた感想がそれやった。
ウチの家は自慢や無いけど裕福な方やない。
奈良に住んどった時からそれは十分分かってた。
だから「東京に引っ越す」って聞いた時も
「東京って地価高いんやろ?大丈夫なん?」
なんて聞いてもーたぐらいや。
そん時は、あんたはそんなこと気にせんでえーの、って
ゴマかされたけど。
- 230 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時32分12秒
- 「なにしてんの亜依、早く降り。サッサと荷物運んで
挨拶回りするよ」
せっかちなお母んが急かして来たから
挨拶回りなんか今時やるんかいな…と思いつつも
「うん、分かった」
って素直に車を降りてトランクの方へ回る。
- 231 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時34分04秒
- ウチの荷物は、っと…
まずは東京進出を機に買ってもらった携帯。
某有名メーカーのバリバリ最新機種や。
でもdo○omoやないで。
ウチどうも好きやないねんな、『最大手』っちゅーもんが。
…後は確かこのリュックに全てが詰め込まれてるはずやな。
うむ、このズシッとくる重み、間違いあるまい。
「用意できたで」
- 232 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時35分47秒
- 「あ、じゃあこれ持って先上がっとき。
オートロックの番号は0510やから。
はい、これ部屋の鍵」
「オ、オートロック!?」
…ホンマかいな。つい口走ってもーたやんけ。
ウチの家族がオートロックなんてハイカラなモンを搭載した
マンションに住むことが有り得るなんてな…
つーかお母ん、こんな重いもん可愛い1人娘に持たすなや…
お母んはウチに食器が入った重いダンボール箱と鍵を渡して
またトランクの方を向いた。
- 233 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時36分23秒
- 改めてマンションを見たら、
何の変哲もない普通のマンションやったけど、
白い壁のキレイさをみると新築っぽくて
結構ええお値段しそうな物件やった。
まあええわ、ウチが気にする事でも無いやろ。
何百年ローン組んでるか知らんけど…あ、賃貸か?まあどっちでもええわ。
今はここに住めるって事実を素直に喜んどかんと
親にも悪いっちゅーもんや。
クソ重い荷物を持って玄関を入るとすぐに、
例の文明の利器オートロックのボタンが見えた。
- 234 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時37分54秒
- お、あれやな。
…てゆーかオートロックっていかにも絶対安全な風に言いよるけど
たった四桁やったら最高でも一万回やりさえすれば
いずれは開けられてまうんちゃうんか?
しかも「0000」とか「9999」とかにはさすがに無いやろ。
それに「9998」「0001」、いや「0200」「1131」すらも有り得んかもしれん。
…となると、確率的にはやな…三つ以上同じ数を含まない
四桁の数の組み合わせと考えるとやな、余事象の計算から…ふむ。
さらに四桁を押す時間を1,5秒、
ポンコツ機械が識別する時間を0,5秒、いや0,3秒として、
ワンセットの作業にかかる時間はたった1,8秒。
試行の間隔をいれてもまあ2,0秒か。
すると、5分以内に開けられる確率は…
ふむふむ、やっぱり5桁か6桁ぐらいにはしてほしいもんやな。
…いや、ちょっと待てよ。何回か以上失敗したら
コンピュータが作動して警報鳴って管理人のバーコード頭のおっさんが
飛び出してくるとかいうハイテク機能が付いてるって可能性もあるな…
…おっさんの身長が170cm、体重が65kgとするやろ。
そしたら、ウチが能力を使わずに勝てる見込みは薄いな。
どうしたもんか…いやまてよ、携帯の角っこで頭カチ割るって手もあるな…
とすると、五回以上失敗したら警報が鳴って、
オッサンに勝てる確率を、まあ最悪能力使うとして100%とすると…
……
「あんた何してんの?ボーっと突っ立って」
- 235 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時42分24秒
- 「え!?あ、ああ、なんでもないなんでもない、すぐ開けるわ。
ちょっと考え事しててん。えー、0、5、1、0、っと。」
お母んの声になんとか意識を取り戻した。
―あぶないあぶない。また突っ走ってもーた…
そう、容姿端麗頭脳明晰、性格も良く品行方正で完全無欠なウチにも
たった1つ欠点がある。
自分でも分かってるんやけど、ちょっと考え出したら
全然関係無い事まで暴走して考え込んでしまうことや。
その間は当然周りの事なんて何も見えんようになる。
妄想癖に近いもんもあるかもしれへんな…
まあ別に直そうとは思ってないねんけど。
なんや、天才には不可欠な悩みってヤツ?
ウチが思うに、かのアインシュタインもやな…
…おっと、また突っ走るとこやった。
―ピー、ガー…
ほー、開きよった。やっぱ初めて見ると感動するもんやな。
- 236 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時43分41秒
- 開いたドアに感心しつつ中に入って鍵を見たら、
「1003」って数字が見えた。
10階かいな、荷物重いしエレベーターやな、って思ってエレベーターに乗ったら
ボタンが「10」の次は「R」になっててこれまた驚き。
おいおい、最上階かいな。
最上階はなんや知らんけど高いとかいう話らしいやん。
もしかしてサラ金とかに手ぇ出してんちゃうやろな…?
こりゃ後で小1時間問い詰めんといかんな…
中学生らしくない悩みを抱えながらエレベーターを降りて
部屋に向かった。見晴らしも結構ええ感じやん?
1003、1003、っと…お、ここか。
取り敢えずアホ程重いダンボール箱を下に置いて
鍵を開ける。
- 237 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時46分34秒
- へー、良いやん。
床もフローリングで綺麗やし、やっぱ新築はちゃうなぁ。
広さ的にも家族3人で住むには十分や。
キッチンも…合格点やな。
やっぱりキッチンはしっかりしてんといかんからな。
ウチの部屋、ウチの部屋は、と…おっと、こりゃトイレやな。
となると…お、ここか。
……感動や。この真っ白な壁。広いスペース。
人の心は生まれた時は白い紙とはよくいったもんや…ってそりゃ違うな。
…待っててな、すぐウチ色に染めたるからな…
- 238 名前:第二章‐胎動‐ 投稿日:2002年11月20日(水)05時47分57秒
- 家具も何も無い部屋の
床に座りこんでしばらく感動に浸っとったら、
「亜依、なにしてんの!
箱置きっぱなしやないの。お母さんも荷物一杯もってるんやから
アンタこれぐらい持ってってよ」
ってお母んの声で現実に引き戻された。
「ほーい」
また叱られてもしょーもないから
一応返事しといた。
しゃーないな、ちょっとぐらい働こか…
「よっこいしょ…おっと、『よっこいしょ』は
老化の始まりや。注意しとかんとな…」
ウチはゆっくり腰を上げた。
- 239 名前:i 投稿日:2002年11月20日(水)05時57分21秒
- 更新終了です。
≫224さん
楽しみにして下さってて有難うございます。
更新ペース、あまり早くないかもしれませんが
また見てやってください。
≫225さん
ペースは遅いかもしれませんが、
今回もまったりとお待ち頂ければありがたいです。
加護ちゃんのキャラですが、
リアルとあまりにかけ離れてしまいました。
他のキャラもある程度いじっているのですが、
加護ちゃんは特にですね…
- 240 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時23分19秒
- 荷物も運び終わって、引越センターのニーチャンが家具を運んできてくれて
…ってじゃあ食器とかも運んでもらえや!!
…まあええわ。とにかく引越しが完了して、次はお母ん曰く挨拶回りや。
挨拶は意外にもお隣サンと管理人のオッチャンとこだけやった。
オッチャンの頭はフサフサやった。
義理固いお母んのことやから隣3軒ぐらいは行きよるかなと思ったけど
さすがにお母んも常識はあるようやわ。
- 241 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時24分09秒
- 「それから亜依、アンタこのマンションの向かいの右隣にある
後藤さんってとこ挨拶行っといで」
は?マンションの向かいの右隣?義理固いにも程があるでお母ん…
「なんで?」
「その後藤さんのとこの娘さんが
『あの子』らしいわ。だからこのマンションに越して来たってのも
あるんよ。近いやろ?」
お母んは「あの子」の部分をやけに強調して言った。
- 242 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時25分24秒
- ああ、なるほどな…まあ不自然極まりない挨拶やけどええか。
しかもおばあちゃんの話によると向こうはまだ何も知らんハズやんけ。
変人やと思われるんちゃうか?
向かいのマンションに越して来た加護と申します…
…ウチやったら「ハァ?」やな。
まあええわ、どうせ顔ぐらい見とかんといかんしな。
「分かった、行ってくるわ」
「はい、じゃあこれ持って行っといで」
「ほーい」
お母んから手渡されたお菓子を持って
ウチは後藤さん宅へと向かった。
- 243 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時28分50秒
- えーっと、後藤さん後藤さん、
…お、これか。
後藤さん宅は、まあ普通の家やった。
可も無く不可も無く、ってとこかな。
よし、とりあえず行ってみるか…
―ピンポーン
ゴホン…
軽く咳払いして喉の調子を整える。
やっぱ出会いはつかみが肝心やからな。
ここはボケんと可愛い中学生を演じとくんがbetterや。
「はーい」
「あ、向かいのマンションの1003に越して来た加護と申します。
只今ちょっと挨拶回りの方、させて頂いておりましてですね…」
「あ、はい、ちょっとお待ち下さい」
…やっば。自分でも分かるぐらいヘンな口調になってもーた。
あれやったらどっかのセールスマンやん。
まあこんなプリチーな声したセールスマンはおらんけどな。
- 244 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時30分29秒
- ドタドタ…って音がしたから
ウチはもう一回咳払いして声を元に戻した。
―ガチャッ
「はい、…あれ?…あ、ねえ、お母さんは?」
扉が開いて出てきたのは高校生風の、
まあウチには劣るけどなかなかイケてる姉ちゃんやった。
…一目で『あの子』やって分かった。
この子かいな…ホンマ何も知らんみたいな気楽な顔しとるわ…
まあ何も知らんねやけどな。
「あ、さっきのはウチやで。ちょっと礼儀正しくしてみてん。
あ、申し遅れました、向かいのマンションの703号室に越して来ました
加護亜依です。よろしくお願いします、えっと…」
「あ、これはこれはご丁寧に。真希、後藤真希です。
こちらこそヨロシクね、あいぼん」
後藤さん家の真希ちゃんは
向かいのマンションから挨拶に来たウチに
なんの疑問も持つことなく挨拶してくれた。
この子も義理堅くて人情に厚いタイプなんかな?
- 245 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時32分13秒
- 「じゃあ真希ちゃんやな。ヨロシク」
ってオイ。待てや。あいぼん?なんや、新種のボンバーマンか?
「な、なあ、あいぼん、って何?」
「ああ、亜依ちゃんの事。なんかあいぼん、って感じしない?」
…そりゃウチも最近ちょっと丸くなってきて
ボンバーマンっぽくなってきた感は否めへんけどもやな…
それは関係ないか。
「うーん、…まああいぼんでも何でもええよ」
寛大なウチはちょっと?なとこもあったけど
真希ちゃんのエヘへ、って笑顔が可愛かったから許したった。
- 246 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時33分45秒
- 「あ、あいぼんはいくつなの?」
どうやら真希ちゃんはウチを只の
「近所に越して来たかわいい女の子」
として認識したみたいや。
チカラ持ってる者とそうでないものの区別もつかんのかいな。
「13やで。今度中学2年やねん。真希ちゃんは?」
「15。今度高1なんだ。ねえあいぼん、大阪から来たの?」
「いや、奈良やで。まさか関西弁は大阪だけやとか思ってん
ちゃうやんな?」
「あ、いや…アハハ、実はそう思ってたんだけど…違うみたいだね、ゴメン」
真希ちゃんはちょっと照れたようにアハハ、って笑った。
なんかウチはこの笑顔に弱いみたいや。
愛すべき故郷奈良の存在を否定された(それはちょっと違うか)のに
真希ちゃんの笑顔で全部どーでも良くなってもーた。
ていうかオトコやったらこの笑顔でみんな瞬殺ちゃうんか?怖い子やで…
- 247 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時34分57秒
- 「まあええわ、ウチらこれから仲間なるんやし、改めてヨロシク。
せや真希ちゃん、携帯の番号教えてくれへん?
こっち来る時買ってもらってんけどまだ誰も知り合い居らんから
メモリ0件やねん」
そう、携帯を買ってもらいはしたものの000番が家の番号とか
家族の番号とかってのもなんか嫌やから、
まだ何も登録してへんままやった。
まあ真希ちゃんやったら可愛いしこれから守って行く人やから
相応しいかなって思った。
「あ、うん、いいよ。番号はこれで、アドレスは…」
「ふんふん、これで良し…と。
ふー、これで記念すべき第1号は真希ちゃんやな」
「あ、アタシで良かったの?」
「えーねんえーねん、これから長い付き合いになるんやし」
「うん、そーだね」
真希ちゃんはニコッと笑って普通に返してきた。
ウチが何回か探りを入れてるのにも全然反応ナシ。
これもちょっと後でお母んに聞いとかんとな。
- 248 名前:第二章−胎動− 投稿日:2002年12月07日(土)23時36分55秒
- …せや、真希ちゃんに東京案内してもらお。
お母んとかと行くより綺麗なねーちゃんと行った方がええわ。
「じゃあ真希ちゃん、後でウチの番号書いたメール送っとくわ。
…なー、春休み中にどっか連れてってくれへん?
ウチ東京の事何も知らんねん。知り合い1人も居らんし」
得意の上目遣い&甘えた声を一発かましてみた。
子供っぽい見た目も時には役にたつ。
「うん、いーよ。一回2人でデートしよっか」
真希ちゃんはあっさりOKしてくれた。
おばあちゃん、東京にも良い人はおったで…
「ホンマ?ありがと!!じゃあお母さんとか待ってるし
もう行くわ。またメール送るし詳しい事はそれで決めよ」
「うん分かった、メール待ってるよ」
そこでウチは、お母んが渡してくれた土産物を
持ったままやったんに気付いた。
「あ、これつまらないものですがどうぞ。
多分ほんまにつまらんもんやと思うけどゴメンな。
じゃあバイバイ」
「アハ、あいぼんっておもしろいね。ありがと。
バイバイ」
そこで真希ちゃんとは手を振って別れた。
何度も振りかえって見た真希ちゃんの笑顔は、
やっぱりめっちゃ可愛かった。
- 249 名前:i 投稿日:2002年12月07日(土)23時38分58秒
- 更新終了です。
ひっそりとsage進行でいこうと思ったのに
チェックするのを忘れる忘れる…
次回はちゃんとsageでいきます。
- 250 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月17日(火)23時14分46秒
- sageて待ってます。
頑張って下さい。
- 251 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月05日(日)23時09分25秒
- 待ってます。
- 252 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月27日(月)17時11分29秒
- 待ってるよ。
- 253 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月17日(月)18時14分39秒
- 保
- 254 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月01日(土)11時33分09秒
- 待ってます。
- 255 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)08時48分27秒
- 保全
- 256 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)21時53分04秒
- ho
- 257 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月10日(土)00時12分49秒
- ze
- 258 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月11日(水)01時21分34秒
- mu
- 259 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月21日(月)03時00分41秒
- 保全します
- 260 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月01日(金)21時29分35秒
- ♪
- 261 名前:奈々氏 投稿日:2003/10/20(月) 21:07
- 初めて読みました。
続きまってます。
保全です。
- 262 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/04(木) 13:34
- 初めて見ました。
面白いっすね!
頑張ってください。。。
保全。。。
Converted by dat2html.pl 0.1