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アル中のドクロ
- 1 名前:バードメン 投稿日:2002年09月02日(月)21時18分52秒
- 青板で書いていた者です。
再び、いしよしを書きたいと思います。
相も変わらずヘタレな文章ではありますが、お付き合い頂けると嬉しいです。
更新は、のんびりと行います。
吉澤さん主人公です。
- 2 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月02日(月)21時19分23秒
- ステージに立つ。
小さなライブハウスだけど、あたしが、今一番大好きな場所。
歌詞、コード進行、ギターソロ。大丈夫、全部覚えてる。
アドリブもパフォーマンスも楽勝。
何をやっても、楽しくて楽しくて仕方がない。
ラストの曲の、リフ。
どこにも難しいトコなんかない。
なのに…危うく、ピックを落っことすとこだった。
客席で突っ立っている、綺麗な綺麗な女の子。
その娘と、目が合ってしまったから。
その娘に、目を奪われたから。
『よっすぃー!』などと飛び交う、ファンのコ達の黄色い声援。
それが、すーっと耳から遠のいた。
狂喜乱舞盛り上がる客の中に一人だけ、
悲しそうな顔でじっとあたしを見つめる女の子。
淡いピンクのワンピースがよく、似合ってる。
まるで、そこだけ光が差しているみたいだった。
スポットライトに照らされているのは、あたしじゃなくてその娘に思えた。
恋に落ちた。
彼女に、心を奪われた…。
- 3 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時20分15秒
- 「おつかれー」
「おつかれさん」
アンプや機材が雑然と並び、ほとんど物置に近い控え室。
汗を拭うと、何とも言えない充実感が広がる。
「吉澤!」
怖い顔をした圭ちゃんが、イキナリあたしの肩を叩いた。
「何ですか?」
「あんた、最後の曲、間違えたでしょ」
「ん、ああ、アドリブでごまかしたんですけど、バレてた?」
「バレるって!あたしを何だと思ってんの?世界一のドラマーになる女よ!」
圭ちゃんは冗談っぽく胸を張る。
よく言うよ。
まあ、確かに、ウマいけどさ。
圭ちゃんほどのドラムを叩ける人は、この辺ではそうそういない。
「まったく、吉澤はいっつも調子に乗るんだから。こないだも調子に乗ってステージから…」
いつものように、お説教が始まる。
我がバンド『プッチモニ』のリーダー兼ドラムの保田圭殿は、
少々、いや、かなり、お小言が多い。
あたしは、やれやれと溜息をついた。
- 4 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時21分15秒
- 「まあまあ、いーじゃん。ところでさ、今日の客すごいノリよかったね」
お説教を止めようとしたのか、
ごっちんが圭ちゃんの首にしがみついて話題を変えた。
「ごっつぁんは黙っててよ」
「もーいーじゃん。吉子も反省してるってさ、ね?」
長い髪を揺らして、人懐っこい笑顔で笑う、ベース担当の後藤真希。
同い年で、同じクラスだ。
あたしがこのバンドでボーカルとギターを務めるようになったのは、
この、ごっちんの誘いがきっかけだった。
『ねぇ、歌える?ギターは?あ、違う、あたし怪しい人じゃなくて。
もしできるなら、うちのバンドに、入って』
転校初日、
少々緊張気味だったあたしに突然話し掛けて来たごっちんは、無表情で少し怖そうで…。
ビビッたあたしは、思わず首を縦に振ってしまった。
幸い、ギターは小さい頃からやってたし、歌もそこそこ歌える。
何でも、前のボーカルが突然抜けたとかで、困っていたらしい。
その辺の事情は、よく知らない。
- 5 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時21分55秒
- とにかく、
スリーピースのバンドプッチモニが不思議な成り行きで誕生して、一年が過ぎた。
活動は小さなライブハウスが中心だけど、
固定のお客さんもいるし、地元じゃちょっとした有名バンド。
まあ、圭ちゃんのドラムはプロ並だし、
ごっちんのチョッパーはめちゃくちゃカッケーし、
あたしのギターとボーカルも…、当然と言っちゃ当然と、少し自惚れたりしている。
「ホント、今日はいいライブだったよねぇ。ね、吉子」
ごっちんは体を伸ばしながら、満足げな笑顔をした。
「あの娘、…綺麗だったなぁ」
「アタシのこと?」
「圭ちゃんは黙っててよ」
しゃしゃり出てきた圭ちゃんを二人で押しやる。
- 6 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時22分38秒
- 「何?カワイイコでもいたの?」
ごっちんは、興味津々といった感じであたしを覗き込んで来た。
「うんっ!なんかね、すげー綺麗なコでぇ、ピンクのワンピース着ててぇ…」
「え?そんなコいたっけ?盛り上がりすぎててよくわかんなかった。あー、ちょっと後悔」
「あんた達ねぇ、いい加減女の子にデレデレしてないで、彼氏の四、五人くらい作ったら?」
圭ちゃんが呆れたようにあたしとごっちんを交互に見る。
「ってか、四、五人もいらないし」
あたしは速攻で切り返した。
「あー、なんかさぁ、こう、運命的な出会いとか、ないかなぁ」
ごっちんがボヤく。
運命的な出会い…か。
あの娘、名前、何かな。
また、会いたいな…。会えるかな…。
- 7 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時23分11秒
- 「じゃ、次の練習の時にね」
ライブハウスの前で二人と別れ、家路につく。
この瞬間が、一番嫌いだ。
テンションが一気に落ちる。
寂しい、というのかもしれない。
家に帰っても、誰もいない。孤独。
両親の離婚。
それにともない、一年前、母にくっついてこの街にやって来た。
けど、その母は、半年前不慮の事故でこの世を去ってしまった。
あたしは、優しくて強い母が大好きだったから、
一人きりで、悲しくて、寂しくて、どうしようもなくて。
母がいないのなら、いっそのこと死んでしまおうかとさえ思った。
そんなあたしを勇気付けてくれたのは、音楽。
プッチモニがなかったら、
あたしは今ごろこの世にはいなかったかもしれない。
母を裏切るみたいで父のところには行けず、
今は、狭いアパートで一人暮らしをしている。
それでも学費や生活費は父が毎月送ってくれるし、高校は楽しい。
問題はない。一人きりの孤独感を除けば…。
- 8 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時24分01秒
- ライブハウスから家までの道のりの間には、ちょっとした繁華街がある。
『もう帰るの?どっか行かない?』
なんて、勘違いなおじさんやお兄ちゃんが話し掛けてくるから、やたらウザッたい。
あたしは、疲れた体に鞭打って早足で歩いた。
肩に担いだギターは、少し重い。
「やっぱギター変えようかなぁ。レスポールは少し重いし…」
一人でブツクサ呟きながらただただ歩く。
繁華街の、建物と建物の間、
日の当たらない路地裏の入り口を通り過ぎた時、ふと、何かが引っかかった。
引っかかったと言っても、紐でもナンパでも当然なく、
何か、こう、直感的な違和感。
何だ?
そう、建物と建物の間の狭い道に、何かが、いた。
何かが、見えた。
多分…、普通ではありえないもの。
何が?
何だろ、何だろ、すげー気になる。
- 9 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時24分49秒
- あたしは、オバケや妖怪の類いは、はっきり言って苦手。
ごっちんと圭ちゃんにムリヤリ有名な心霊スポットへ引っ張っていかれた時は、
腰抜かして半ベソかくという、恐ろしくカッコ悪い、醜態を晒してしまった。
普段だったら、暗いとこや怪しいとこには、絶対に行かない。
でも、その時はなぜか、湧き上がる好奇心に勝てなかった。
狭い路地に分け入ってみる。
やっぱり、何かいる。
気配を感じる。
それが何かは暗くてよくわからないけど…、
こんなとこにいるモノなんて、どうせろくなもんじゃないだろう。
ドラマや映画だと、さしずめ効果音付きで死体がドドーン!と登場するとこだろうか。
一瞬脳内に浮かんだモノは、
血ミドロだったり、バラバラだったり……、
それはもうとにかくスプラッターな世界。
死体はやだなぁー。勘弁してよ。
頭を振ってそれを振り払うと、おっかなびっくりソレに近付く。
そこに、いたのは……。
- 10 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時25分31秒
- 「うおぁっ!!何やってんの!?」
あたしは、飛び上がって大声を上げた。
そこにはなんと、大の字でのびてる、女の子が、いた。
しかし、返事がない。
とりあえず、血ミドロでもバラバラでもなかったけど…、
まさか……、やっぱり、死んでたり、し、て。
「ちょ、ちょ、ちょっと!!キミ大丈夫?ねぇ、ちょっと!!」
青くなったあたしは、慌ててその娘にかけ寄り、抱き起こして思いっきり揺さぶった。
「…んー?」
その娘は鈍く唸る。
よかった!生きてる!
「ねぇ、大丈夫?」
「んー?ココ、どこ?」
「どこって…」
答えようとした瞬間、その娘の息が顔にかかって、あたしは思わず顔をしかめた。
……酒、くさっ。
「んー、気持ち悪ぅい」
なんのこたぁない。つまり、ただの、…酔っ払い?
- 11 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時27分50秒
- 安心するのと同時に、何だか猛烈に腹が立って来た。
人騒がせな!こんなトコで寝てんなよ!
「ちょっと、キミねぇ、こんなトコに寝てたら危ないし、さっさと家帰って……あれ?」
言葉の途中で、やっと気がついた。
この娘、さっき、客席にいた…あの娘じゃん…。
圭ちゃんにお説教される原因になった、あの娘じゃん。
あたしがヒトメボレした、あの……。
「もぉ、何?うるさいなぁ」
呆然としていたあたしの前で、その娘はゆっくり目を開く。
あたしと目が合うと、酒に侵されたそのしかめっ面が、花が咲くように一気に輝いた。
「イチイさんっ!!」
そう言って飛びつかれ、
酒の匂いと味を、いきなり口内に流し込まれてしまった。
つまり、キス。
何が起こっているのかさっぱりわからず、あたしはただ、目を白黒させるだけしかできない。
何してんだよ!この人。
……ってか、『イチイ』って、誰?
ちなみに、あたしはヨシザワ…。
- 12 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時28分27秒
- 「……あれ?」
彼女は首を傾げる。
散々ブチュッとブチュッとして三分後、まじまじ見つめ合って三分後、やっと、気付いたらしい。
「誰でしたっけ?」
こっちが聞きたい。
ポカンと口を開けたあたしに、その娘は慌てて謝った。
「あ、ご、ごめんなさい。あたし、酔ってて」
「あのさ…」
「あれ?何で間違えたんだろ、全然似てないのに。サヤカはもっと男前で、優しそうで…」
それじゃあ、あたしは一体何なんだ。
少々ふてくされて、下唇を噛む。
「ねぇ。キミさ、今日、ライブに来てたよね」
「え?さあ。あたし酔うと記憶なくなるんです」
「あ、そ…」
何となく……、さっそく失恋した気分で、ヘコんだ。
- 13 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時29分18秒
- 「あーあ、ダメだなぁ、あたしって。ごめんなさい」
「まあ、いいけど」
「すいません。じゃ、お世話になりました」
その娘はそう言って立ち上がりかけて、よろめいた。
慌ててささえる。
「危ねー。真っ直ぐ歩けてないじゃん。大丈夫?」
「ごめんなさい。……あれ、気持ち悪、吐きそう」
「うわっ!!ちょっと待って!!」
「うえぇー」
血ミドロでも、バラバラでもなかったけど…、ある意味、スプラッターな世界。
あたしは、グッタリして天を仰いだ。
『運命的な出会い』がキレイなのは、ドラマの中だけらしい。
- 14 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時30分11秒
- 「大丈夫?」
「あ、あの、ホント、ごめんなさい」
すっかり恐縮している彼女に、あたしはコップに入れた水を渡した。
すいません、と言って、遠慮がちに受け取る。
少々粗末なこの部屋は、あたしの家。
ほっとくわけにもいかなかったし…、幸い近かったし…、担いで、連れて来た。
まあ、きっかけ欲しさと、
ほんっっの少しの下心(?)があるというのも、間違いではなかったり…。
うん、でもほら、仕方ないじゃん?
あのままあんなトコに寝かせといたら、危ないしね。
別にうちは、あたしの他に誰もいないしね。
彼女がコクッと水を飲んだ。ゆるやかに動いた喉に、目を奪われる。
今までヒトメボレなんてした事なかったけど、
ああ、どうやら、本当にホレてしまったらしい。
ちょっと一癖ありそうなコなのが気になるけど…。
- 15 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時32分15秒
- 「ねぇ、キミさぁ、名前は?」
「何でそんな事聞くんですか?」
「え?あ、いや、『キミ』とか言うのも呼びにくいしなぁ、なんて、思ったりなんかして」
少しおどけて答えると、彼女は、うーん、と唸って、いぶかしげにあたしを見た。
「知らない人に名前とか教えちゃいけないって、イチイさんも言ってたしなぁ」
知らない人の家で、水を飲むのはいいのだろうか。
「うーん、ま、いっか。あたし、石川梨華です。梨華でいいです」
「そっか。あたしは、吉澤ひとみとイイマス」
ペコリと頭を下げて、いささか遅めの自己紹介。
『よっすぃー』というニックネームを教えたら、
「ヘンな名前だね」、と笑ったから……、そう呼んでもらう事にした。
梨華ちゃん、か。
かぁわいーなぁ。
- 16 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時33分05秒
- 「ところでさ、なんであんなトコに転がってたの?危ないじゃん」
「なんでだろ。覚えてないなぁ」
梨華ちゃんは顎の辺りに手をやって、首を傾げる。
その時、チラリと見えた彼女の左手首の内側。
そこに、真横に引かれた、何本もの線が見えた。
それは、ためらい傷の痕…だよね。
新しいものではないようだったけど、痛々しくて、思わず目を逸らす。
「どうしたの?……あっ」
梨華ちゃんは慌てて左手首を右手で隠した。
「あ、これね、うん、別に何でもないから」
そして、そう言って取り繕うように笑う。
- 17 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月02日(月)21時34分01秒
- 「ごめん…」
何となく、気まずい雰囲気。
「あ、あたしの方こそ、ごめんなさい。迷惑かけちゃったよね。帰るね、ありがとう」
気まずさを断ち切るように、梨華ちゃんは立ち上がった。
「待って、梨華ちゃん。送るよ、危ないから。家どこ?」
「ううん、いいよ、悪いし」
「送るよ」
「ほんと大丈夫だから」
梨華ちゃんの目は泳いでいて、ひどく動揺してるように見えた。
何か、事情があるのだろうか。
「あの、もう遅いし、よかったら、泊まってかない?」
気付いたら、彼女の腕を掴んで引き止めていた。
あたしが誘ったのは、多分、彼女の瞳に嘘が見えたから。
ホレた弱み、そのまま帰すわけには行かなかった。
出会ったばかりなのに、少し、大胆すぎるだろうか。
- 18 名前:バードメン 投稿日:2002年09月02日(月)21時37分34秒
更新終了です。
今回はこんな感じで。
今の時期にこの設定はどうかなぁ、と思う部分もあったんですが、
アンリアルという事もありますし、もう開き直って書いてしまいます。
では、また次回の更新時にお会いしましょう。
- 19 名前:w 投稿日:2002年09月02日(月)22時43分36秒
- どう、展開していくのか楽しみですね。
執筆、頑張って下さい。
- 20 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月03日(火)01時13分53秒
- 面白そうです。期待
- 21 名前:オガマー 投稿日:2002年09月03日(火)03時56分25秒
- ぉぉ!不思議なタイトルのいしよし小説だなぁ、と
少し怪訝に思いながらやってきてみたら(爆)
バードメンさんだったのですねw
今回も面白そうで期待ですw
- 22 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時07分53秒
- 「何か、帰りたくない理由が、あるんでしょ?」
そう聞くと、梨華ちゃんは、息を飲んでじっとあたしを見た。
どうしてそんな事を知ってるの?
そう言いたげな顔。
あたしはわざと肩をすくめて、「もう遅いし」と後付けした。
「でも…、悪いよ。知り合ったばかりなのに、よっすぃーに迷惑かけてばっかりだし…」
「別にいいよ。こうして知り合ったのも何かの縁だし、ほら、もうお友達じゃん?」
「友達…」
梨華ちゃんは目をふせた。少し複雑な表情が浮かんでいたから、
「あ、いや、別に、なんもしないし、ほら、女同士だし、ヘンな意味はないよ」
慌てて付け加えた。
でも、ホントは、ヘンな意味もすこぉーしだけあったりする。
期待はしないけど。
真っ暗な天井。
この部屋に、二つ布団が並ぶのは、半年ぶりだろうか。
母さんが、死んで以来だな。
なんだか、嬉しい?
孤独な夜を過ごさなくていいのも、半年ぶり。
- 23 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時08分25秒
- 「ねぇ、答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど…」
と、前置きして、
「イチイさんって、梨華ちゃんの恋人か何か?」
やや遠慮がちに聞いた。
隣の布団に寝ている梨華ちゃんの顔を見る。
彼女は真っ直ぐ天井を見つめたまま、あたしの方を見ずに答えた。
「うん。でも…」
「でも?」
「……何でもない」
「そっか…」
やっぱり、いるんだ、恋人。
あたしは、梨華ちゃんに気付かれないよう、こっそりため息をついた。
「よっすぃーは、親切だね」
「そう?」
「うん、親切だよ。でも、ちょっとヘンな人だよね」
ヘンな人呼ばわりかよ。
ガックリして、あたしは、も一つついでにため息をついた。
「ひっでー」
「だって、知り合ったばかりの得体の知れない人を家に泊めるなんて、しないよ?普通」
「うーん、そっかな。まあいいじゃん、ヒマ人なんだよ。独りだから」
「独り?」
不思議そうに訊く彼女の顔が、こちらへ向く。
- 24 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時09分03秒
- 「んー。色々あったっていうか、なんだろ、いわゆる複雑な家庭環境ってヤツなのかな。
まあ、単純な家庭環境ってのもなかなかないけどさ。
うん、それなりに色々あるじゃん?梨華ちゃんだってそれなりに色々あるでしょ?
あんまり、帰りたくなさそーな感じの顔してたし…ま、それはいいけどさ」
あたしは、明るく軽い感じで話した。
『ヒトメボレ』と『単純に寂しかった』いう部分は、飲み込んでおいた。
梨華ちゃんは、また天井に向き直る。
「そう。あたしは、帰りたくないんじゃなくて、帰る場所が……ない」
「え?」
「おやすみ」
「あ…、ああ、うん、おやすみ」
あたしは、それ以上何も聞かなかった。
布団を口元まで引っ張り上げた彼女の指が、
ほんの少し震えているように見えたのは、夜の闇のせいの錯覚なんだろうか。
それをボンヤリ考えながら、目を、閉じた…。
- 25 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時09分48秒
- 寝苦しい。
浅い眠りの中、突然、息苦しさに襲われた。
息を吸うことも吐くこともできない。
首が、絞まってる。
苦し…。
誰?誰かいる。
うっすら目を開けると、あたしの上にのしかかっている人影。
その手が、あたしの首を両手で絞めていた。
暗闇の中に、うっすらと輪郭が見える。
梨華ちゃん?
さらに強く絞められる。
ぐっと詰まって、意識がひどくボンヤリした。
何が起こっているのか、まったくわからない。
不意に、あたしの頬や額に、パタパタと水滴が降ってきた。
……泣いてる。
どうして、泣いてるの?
誰が泣かせたの?
悲しいの? つらいの? 苦しいの?
ねぇ、どうして泣いてるの?教えて。
遠退いていく意識の中、
あたしは、彼女の濡れた睫毛にそっと指先で触れた。
そっと……。
- 26 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時10分26秒
- 「梨華ちゃん!」
はっとして目を覚ますと、
部屋の中にはすでに柔らかな朝の光が差し込んでいた。
あたしは、隣の布団に目をやる。
梨華ちゃんは、そこで穏やかに寝息をたてていた。
あれは、夢?
自分の首を触って確かめる。
なんともない。生きてる。
やっぱり、夢か。
安心して、ほっと息を吐いた。
でも、涙の感触は、リアルに指先に残っていた…。
- 27 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時11分16秒
- 「梨華ちゃん、あの、もし、その、もしよかったらなんだけど…」
緊張した。
こんなに緊張したのは、初ライブの時以来だ。
もうしばらく、うちにいない?
そう誘うだけなのに、声が震えた。
何やら怪しいギャグや照れ隠しな戯言を、いっぱいくっつけてしまった。
うん、なんだか、純情なオイラ。
『世界のジョークショー』はウケなかった。
ライブのMCでは結構好評なのに……。
もっと、一緒にいたいと思った。
好きだから。
梨華ちゃんには帰るところがないらしいから。
そういう理由もあるけど、
一番の理由は、あたし自身が寂しいからなのかもしれない。
- 28 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時11分46秒
- 梨華ちゃんは、
「やっぱよっすぃーって、ヘンな人だね」
と、言って、目を細めて嬉しそうに笑った。
心臓鷲掴み。止まるかとさえ思った。
やっぱ、完全にホレてる。
片思い?だけど。
ああ、何か、曲を作ろう。
『バイオリン ピアニストに恋をしたんだ 弦切れても
バラバラの音符はいつか 聞こえない愛の歌になる』
- 29 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時13分09秒
- 「吉子ー!!」
ごっちんが、後ろから飛びかかって来て抱きついた。
「いってぇよ」
「もうチャイム鳴ったよ?帰ろうよ、今日練習だし」
「あ、そっか」
遅れると圭ちゃんに怒られる。
あたしとごっちんは、急いで教室を出た。
もう、放課後かぁ。
いつもは退屈で仕方のない授業も、
恋をするとこんなにも早く終わるものなのか。
いや、寝てただけってのもあるけど。
梨華ちゃんの顔を思い浮かべて心が弾んだり、
『イチイさん』って人の事を考えてブルーになったり、
恋って、なんて忙しいんだろう。
そんな事を思いながら、練習スタジオまで、早足で歩いた。
- 30 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時14分06秒
- 「ねぇ、ごっちん、恋って、不思議だよね」
「は?頭でも打ったの?」
クールに切り返すごっちん。
これ以上不審な行動やらかしたらクビね、と付け加えられ、
あたしは、少しすねた。
「おっそい!!時間厳守っていつも言ってるでしょ!!」
スタジオに入った途端、圭ちゃんの文句が飛んで来る。
「だってさぁ、吉子がニヤニヤしたり、ため息ついたり、ボーッとしててヘンなんだもん」
ごっちんが口を尖らせた。
すると、
「もとからでしょ」
圭ちゃんが、やれやれと肩をすくめた。
どういう意味だ?
あたしは、さらにすねた。
- 31 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時14分48秒
- 「じゃ、今日はこのくらいで終わろっか」
大学生である圭ちゃんは、この後コンパが控えてるとのこと。
よって、練習はかなり早めに切り上がった。
まったく……、さすが『時間厳守』の圭ちゃんだ。
少し呆れたけど、あたしにとっては好都合。
早く、家に帰りたい。
帰りたいと思ったことなんて、母さんが死んで以来初めて。
なんだか、梨華ちゃんのおかげで初めての事だらけだなぁ。
梨華ちゃんに…、会いたい。
部屋に、いてくれるだろうか。
学年はあたしの一コ上だけど、高校は行ってないらしい。
あたしは学校に行かなきゃならなかったから、留守番を頼んだんだけど……。
黙って出て行ったりしてたら、どうしよう。
そうなったら、もう会えない…かも。
早く、帰らなきゃ。
- 32 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時15分23秒
- 「吉子。ゴハンでも食べてかない?」
楽器と機材を片付け終わると、ごっちんが肩を叩いた。
「ごめん。あたし、急いでるから、先帰るね!」
「あ、吉子!」
猛スピードでスタジオを出ようとしたところ、ごっちんに呼び止められる。
「なに?」
「気を付けて帰んなよ。そんなに慌ててたら、車にでも轢かれちゃいそうだぞ?」
そう言って、ごっちんは冷やかすようにニヤっと笑った。
「大丈夫だよ。そんなヤワじゃねーって」
「吉子いなくなったら、困るんだからね」
「おう!!」
拳を突き出して、威勢よく返事をした。
「いなくならないでね。……ちゃんみたいに」
ごっちんがあたしの背中に向かって呟いた言葉は、よく聞き取れなかった。
- 33 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月03日(火)19時15分54秒
- 走る。
ギターが邪魔だ。
走る。
そこのハイカラオバサン、どいて下さい。
あたし、急いでるんデス。
不安と期待が入り混じって、なんだか、胸のあたりがモヤモヤする。
何でこんなに必死になってんだろ。
昨日会ったばかりの、酔っ払い。
あたし、まだ、彼女のこと何も知らないのに。
ああ、恋とは、なんて不思議なものだろう。
「ただいまっ!!」
豪快にドアを開けて、思わず叫んだ。
「へ?」
必死の形相で息の乱れたあたしを、キョトンと見つめる、……梨華ちゃん。
「よ、かったぁぁ」
彼女の姿を部屋の中に見つけて、ほっとして、心底安心して、腰が抜けた。
ヘナヘナ座り込んだあたしを見て、梨華ちゃんは怪訝な顔をする。
「どうしたの?」
「あは、あはは、何でもない」
あたしは、照れて笑ってごまかした。
やばい。バカみたいだ。
でも、やっぱり、好きだ。
- 34 名前:バードメン 投稿日:2002年09月03日(火)19時26分36秒
- 更新終了です。
はじめだけは急ぎ足で更新、この後はのんびりいきます。
レスありがとうございます!
>19 w 殿
頑張ります!
さっそく見つけて頂き、すごく嬉しかったです。
展開は…、なんとか楽しみにして頂けるよう精進いたします。
>20 名無し読者 殿
ご期待に添えるよう、精一杯努力いたします!
>21 オガマー 殿
そうです、自分でした。あはは(汗
なんか胡散臭いタイトルばっか使ってしまって。ええ。
でも、どうしても使いたかったタイトルなんで、
なんとか面白くなるよう努力します。
では、また次回の更新時に。
- 35 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年09月03日(火)21時21分25秒
- お・・・面白い^^
楽しみにしてます^^
がんばってくださいね!
- 36 名前:オガマー 投稿日:2002年09月04日(水)00時35分01秒
- いえいえ、ちゃんと内容とも合ってるようなので今では面白いタイトルですよw
ぐほぉー、やっぱりいちーちゃんは…
- 37 名前:名無し作者 投稿日:2002年09月04日(水)01時38分10秒
- タイトルに惹かれて読んで見たら新作ハケーソ!!
ものスゴク壷です。
続き楽しみ!!
- 38 名前:37 投稿日:2002年09月04日(水)01時41分51秒
- 酔(ryです。スマソ。。。
- 39 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時49分59秒
- 少し首を捻って躊躇った彼女。
「あ、あのー、おかえり」
この言葉でいいのかな…、そういう不安が読み取れた。
彼女がそこにいてあたしを迎えてくれた事が嬉しくて、
必要回数以上の「ただいま」が口からぼろぼろとこぼれた。
ドアを閉めてカギをかけて。
窓は、開けよう。
- 40 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時50分36秒
- 「どう…かな、よっすぃー」
「うーん……」
考え込むあたし。
心配そうに見つめる梨華ちゃん。
「おいしくない?」
「うーん…。なんか、たぶん…、味噌入れすぎ?」
あたしを待っていてくれたのは、梨華ちゃんと、その手料理。
すっげー嬉しいんだけど……。
うん、でも、あまり、というか全然、料理の才能はないらしい。
「ごめんね」
梨華ちゃんは、申し訳なさそうにションボリする。
あたしは焦った。
「あ、いや、嬉しいよ。すげー嬉しいよ!ただ、ちょっとその、ちょっぴり辛いっていうか」
ホントは高血圧になりそうなくらいすごい味付けのお味噌汁だったけど、
まあ、言葉を濁しておいた。
しかし、コレはすごい。
お徳用の味噌を、一気に全部ぶち込んだかのような……。
- 41 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時51分14秒
- 「あーもう、ほんとごめん。あたし、あんまり味わかんなくて…」
「や、謝んなくてもいーって。まじで嬉しいし。ありがと」
あたしの顔が自然にほころぶ。
誰かが待っていてくれて、誰かが隣にいてくれて。
そーゆーのって、すごく幸せな事なのかもしれない。
しかも、それが恋をした相手なら、なおさら。
もっと彼女のことを知りたいと願うのは、贅沢だろうか。
聞きたいことが、山ほどある。
でも、聞けない。
彼女の心には、多分、触れて欲しくない傷があるんだろう。
傷は治っても、痕は残る。
その左手首のように。
『イチイさん』
その人は、梨華ちゃんを癒してはくれないの?
あたしだったら……、
やめよう、虚しい。
- 42 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時54分19秒
- 今夜も布団が二つ並ぶ。
隣で眠る梨華ちゃんを、どうしても意識してしまう。
昨晩よりも、緊張。
「梨華ちゃん、もう寝た?」
小声で話しかけると、梨華ちゃんはゆっくりとこちらを向いた。
「ん?まだだけど、どうしたの?」
「あ、あのさ、……やっぱいいや。何でもない」
「ヘンなよっすぃー」
彼女はクスッと笑う。
意気地なしめ。
あたしは、心の中で自分をなじった。
「あのさ、梨華ちゃん、えーっとね……」
「なに?」
「えーっと、あの……」
これじゃちっとも話が進まない。
あたしは布団の中で握りこぶしを作った。
しっかりしろ、吉澤。気合だ気合。
「あの、恋人さんには、連絡しなくていいの?ココいる事とか」
「なんで?」
「や、心配してるんじゃないかなぁ、って思ってさ」
「……うん。そだね。イチイさん、心配性だから。
でも、ちょっと今は会いたくないっていうか、会えないっていうか」
- 43 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時55分04秒
- 梨華ちゃんは、寂しさを隠そうとするかのように微笑んだ。
蛍光灯の明かりは消してあるけど、それがはっきり見えた。
抱きしめたくなる。
そういう強い引力をもった笑顔。
それは、あたしに向けてるの?
それとも、イチイさんに向けてるの?
隣で眠る梨華ちゃんとの距離は、あと何センチメートル?
いや、多分、キロメートル単位。
くっそお、誰なんだよイチイさんって。
あたしよりカッケーのか?
カッケーのか?
カッケーんだろうな…。
まったく、心配性なんだったら迎えにでも来てやれってんだ!
……。
やっぱダメ。できれば、来ないで。
- 44 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時55分38秒
- 「で、他に聞きたいことは?」
梨華ちゃんは目を閉じ、寝返りをうってあたしに背中を向けた。
「とりあえず、そんだけ」
あたしも目を閉じて、背中を向けた。
「どうして…、何も聞かないの?」
背中から聞こえる彼女の声は、少し震えている。
「うーん。聞かれたくないのかなぁ、と思って」
「あたしが、もし泥棒とかだったらどうするの?危ないんじゃない?」
「あー、そっか。そこまで考えてなかった。でも、泥棒だったらとっくに逃げてるはずでしょ?」
「詐欺師だったら?」
「あはは。似合わねーよ」
「じゃあ、殺し屋だったら?」
「かっけー」
「……。やっぱり、よっすぃーってヘンな人だよね」
「ホメてる?」
「全然」
梨華ちゃんが、クスクスと笑った。
あたしもつられて、照れながら笑った。
- 45 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時56分30秒
- 笑って…くれた。
ただそれだけで、心が弾んで目が冴える。
なんて不思議なパワー。
梨華ちゃんのこと、もっと知りたい。けど、
彼女が自分から話してくれるようになるまで、待とうと思う。
待てればいいと思う。
正直、イチイさんの存在には、胸が痛くなる。
でも、仕方ないじゃん。
恋をしちゃいました。
だから、仕方ないじゃん。
だから梨華ちゃん、まだ、どこにもいかないで。
『ベイビー 君に名前はいらない 国はいらない
だってベイビー だってベイビー ベイビーはベイビーじゃん』
- 46 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時57分17秒
- 教室の窓の外は、どんよりとした曇り空。
雨が、降りそで降らなさそで降りそで降らなさそう。
「吉澤、この問題を解いてみろ」
微分積分、わかりそうでわからなさそでわかりそうで……、
やっぱりわからない。
今日の空模様と数学が比例してる。ついでに心も。
ふう、やってらんねー。
あたしは、教室の窓からずっと空を見ていた。
何回ため息をついただろう。
「今日元気ないじゃん。どした?」
「ごっちん……、オイラの悩みを聞いてくれる?」
「んあ?正露丸なら持ってない」
「は?」
「え?食べ過ぎてお腹こわしたんじゃないの?」
どうしてそうなる…。
普段の行いが悪いんだろうか。
「もう、いい」
「うそうそ、冗談だってば。何?ごとーが聞いたげるよ」
ごっちんは慌てて取り繕って、
隣の席から椅子を引っ張って来ると、『お悩み相談』の体勢に入った。
- 47 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)16時57分54秒
- 「なになにー?ほら、話してみなよ」
どういうわけか、ごっちんの目はやたら輝いている。
やはり、おもしろがってるんじゃ…。
疑わしい。
「やめとく」
「えー、なんでよ。いいじゃん、話してよぉ。聞きたいじゃん」
ごっちんは、口を尖らせて駄々をこねた。
こういうごっちんには、少し弱い。
うーん、まあいいか。
あたしは、簡潔に話すことにした。
「実はさぁ、好きな人ができてさ。でね…」
「子供ができたの?」
「ちっげぇーよっ!!」
「冗談だってば」
ごっちんは、わざとらしく肩をすくめた。
まったくもぉ!絶対からかってるよコイツ!
「あー、とにかくね、他に恋人のいる人を好きになっちゃったのっ!そんだけ!!以上!!」
あたしは、少々キレ気味に、勢いにのって早口でまくしたてた。
- 48 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)17時00分40秒
- ごっちんは、なるほど、といった具合に手を打つ。
そして、
「そっか。よっし、ごとーが解決方法を考えてあげよう」
と、あたしの顔の前に人差し指を突き出した。
「あぁ?そんなんあんの?」
「つまりー、あれでしょ?ガーっとやってバーっとやってグワーッとやっちゃえばいいじゃん」
ガーっとやってバーっとやってグワーッ……?
あの、さっぱりわからないんデスガ。
「はぁ?」
戸惑うあたし。
そのこめかみを、ごっちんがつついた。
「もー、吉子にぶいなぁ。わかんないの?」
あのね、普通わかんないと思うんだけど…。
ごっちんは不敵に笑う。
「あのね、つまり、ヤっちゃえば?盗っちゃえば?ね?吉子」
「…もう、いい」
あたしは、諦めた。
あまり…、というか、
まったく、参考にならない…。
- 49 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)17時01分36秒
- ガーっとやってバーっとやってグワーッ…ガーっとやってバーっとやってグワーッ…。
擬音達が、頭の中をぐーるぐる。
窓の外には、雨の粒が落ち始めている。
あーあ。
傘、持ってくればよかったな。
- 50 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)17時02分16秒
- 土砂降りの帰り道、
傘を持ってないあたしは、とりあえず走る。……のは途中でやめた。
「あー、ツイてないな」
完全にずぶ濡れになって諦めて、
雨に打たれながら、テクテク歩いた。
風邪ひいて声が潰れたりなんかしたら、圭ちゃんに大目玉くらうだろう。
やっと我が家の前まで辿り着いた時、
アパートの前に、見覚えのあるブルーの傘が見えた。
あれは、ウチの傘だよな。
- 51 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)17時02分54秒
- あたしは、はっとして立ち止まった。
それは、傘をさした梨華ちゃん。
膝を抱え込むようにして、道路の脇にしゃがみこんでいる。
「何してんのさ!こんなトコで」
慌てて駆け寄った。
あたしを見上げた彼女の目は、ほっとしたように笑う。
「あ、あのね、傘、持ってってなかったみたいだったから。
迎えにでも行こうかと思ったんだけど…、よく考えたら、学校どこかわかんないし。
とりあえず、ここで待ってたの。でも、もう濡れちゃってるよね、ごめんね」
いいよ、そんなん…、言いかけた時、
前髪をつたい落ちる雨の雫が目に入って、反射的に瞼を閉じた。
次に目を開けた瞬間に見えたのは、ひらりと地面に落ちる傘。
- 52 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月05日(木)17時03分27秒
- 突然の出来事。
梨華ちゃんが、あたしに抱きついた。
息が、止まるかと思った。
濡れて張り付いた服越しに、彼女の体温が伝わる。
そして、引っくり返って雨に打たれるブルーの傘が、彼女の肩越しに見えた。
「梨華ちゃん、雨が…。あの、あたし、ずぶ濡れだし…」
彼女は、構わずあたしの肩に顔をうずめる。
数秒の沈黙。そののち、
「イチイさん…」
梨華ちゃんは、雨音にかき消されそうなほどの、小さな小さな声で呟いた。
彼女の肩を、雨が濡らす。
あたしの肩を濡らしているのは、雨か、それとも…、涙なのか。
そして、あたしの頬を濡らすものは、一体どっちなんだろう……。
- 53 名前:バードメン 投稿日:2002年09月05日(木)17時14分00秒
更新終了です。
読んで下さった皆様、ありがとうございます。
>35 ヒトシズク 殿
ありがとうございます。
嬉しいです。
楽しみにして頂けるような作品になるよう、精一杯頑張ります。
>36 オガマー 殿
ありがとうございます!
終盤近くには辻褄があってくると思います。
いちーちゃんは……。
もうしばらくお待ちください。
>37、38 酔(ry 殿
見つかってしましました。あはっ。
確かにクッキーは…、自分も2レス目でやらかしました。あは。
買います、書きます、頑張ります。
では、また次回の更新時にお会いしましょう。
- 54 名前:オガマー 投稿日:2002年09月05日(木)22時56分29秒
- おもしれー!!
っていうか、切ないです…。
もうほんとに尊敬です。
どうしてこんな小説が…
泣きそうですよほ。。
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月06日(金)01時39分22秒
- 面白いです〜。で切ない!
「ガーっとやってバーっとやってグワーッとやっちゃえばいいじゃん」
って男に言うアドバイスなのにヨシコにいっても全然違和感がない・・・・
そうだヨスコ!ガンガン逝っちゃえ!
- 56 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年09月06日(金)03時08分44秒
- 作者さん、もしかして
TMGEやROSSO好きっすか?
- 57 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年09月06日(金)20時28分03秒
- な・・泣きそう・・・。
バーメンドさんの作品は読んでます。
ホント上手ですね〜・・・。
更新楽しみに待ってます!
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月07日(土)01時22分24秒
- バードメンさんの新作!
あのバンドなタイトルなのに見落としてました(w
吉の気持ちを考えると胸が・・・イタイです。
どうか治す薬を(w
- 59 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時08分46秒
- 雨は止まない。
心は晴れない。
虹は、まだ見えない。
彼女の心に、止まない雨が降る。
彼女の心に虹をかけるのは、誰だろう。
多分、イチイさん。
それならあたしは…、
引っくり返って雨に打たれている、あのブルーの傘だ。
彼女の手から手放されたその傘。
雨に濡れるブルーは、あたしの心。
それでも、いい。
梨華ちゃんは、イチイさんを想ってる。
あたしは、叶わぬ恋をしたかもしれない。
それでも、いい。
イチイさんとやらが、どんな人なのかは知らない。
どうして、梨華ちゃんを悲しませるんだろう。
悔しい。
梨華ちゃんはあたしに、『代わり』を求めてる、多分。
でも、彼女が望むなら、それでもいい。
あたしが、その涙を拭ってあげよう。
だから、もう泣かないで。
- 60 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時09分42秒
- 左手で彼女の顔を上げさせ、
雨なのか、涙なのか、
その頬を伝う水滴に、そっと口付ける。
その水滴が、涙じゃなくて、ただの雨だったらどんなにいいか。
そう、思った。
それから右手で彼女の左手首を掴んで、
その深い傷痕に、そっと口付けた。
そしてゆっくりと唇を這わす。
触れた部分は、雨で冷たい。
でも、あたしの心臓の鼓動は、やけに熱く大きく跳ね上がった。
梨華ちゃんの顔を見ると、
どこか遠くを見ているような表情をしていた。
あたしではない誰かを見てるんだろう。
お願い、こっちを見て欲しい。
- 61 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時11分04秒
- 視線を合わせて、
あたしは、諭すようにゆっくりと、気持ちを言葉にした。
「あたし…ね、梨華ちゃんのこと…、好きになった」
「…え?」
「好き」
キッパリ言うと、梨華ちゃんの顔には、戸惑いが浮かぶ。
あたしは、それに構わずゆっくり唇を重ねた。
ひっぱったかれるのは、覚悟の上。
息もできないほどにピッタリ隙間を埋めたキスは、
時間にして、ほんの数秒。
雨は、さらに激しくなった。
彼女の髪を撫でて、それから、身体を離す。
「……ごめん。風邪ひいちゃいそうだよね」
少し後悔を残しつつ、
あたしは、部屋に入ろうと促した。
彼女は、俯いたままそれに従った。
アパートのドアを開けながら、唇を噛む。
苦しいぐらいに胸を締め付ける感情と衝動。
それを必死に押さえつける。
外は土砂降り。
閉めきった部屋の中にさえ、激しい雨音がついてくる。
- 62 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時11分51秒
- 梨華ちゃんは、ずっと黙ったまま、口を開こうとはしない。
気まずい雰囲気が、二人の間に流れる。
気の利いた言葉なんて、何にも浮かんでこない。
歯がゆさに身悶えるような、
どうしようもない感覚が、あたしの中で渦巻いている。
一人の寂しさより、二人でいても寂しいことのほうがずっとつらいって、
そんな歌があったよなぁ。
だからどうしたってワケじゃないけど。
「はい、コレ。着替えたら?」
梨華ちゃんに着替えを手渡す。
それから、彼女に背を向けて、自分も着替えることにした。
体が、完全に冷え切っている。
このままだと、本当に風邪をひきそうだ。
- 63 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時12分50秒
- 「なんか、ごめんね」
Tシャツを頭からかぶりながら、あたしはとりあえず謝った。
梨華ちゃんの返事は聞こえない。
着替えている衣擦れの音だけが、聞こえる。
ああ、こんな時、どうすりゃいいんだろ。
その辺のこと、ごっちんにアドバイス受けとけばよかったな。
ガーッとかバーッとかじゃなくて。
着替え終わっても、
テーブル挟んで向かい合い、沈黙のまま。
しかもなぜか、二人して正座。
何を話せばいいのか、話題が浮かんで来ない。
『あの、ご趣味は?』
『お茶を少々』
そんな空想の会話が、あたしの脳内で繰り返された…。
気まずいお見合い(?)は、約二時間後、ようやく終わりを告げた。
終了を告げたのは、梨華ちゃん。
「あ、あのさ、よっすぃー、オナカ空いてるよね。何か作ろうか?」
梨華ちゃんはそう言いながら立ち上がり、台所で仕度を始めようとする。
「…うん」
遠慮気味に頷いて、彼女の背中を見送った。
- 64 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時13分27秒
- しかし、ただ座ってボンヤリ待つのも、手持ち無沙汰で居心地が悪い。
それに、梨華ちゃんの料理の腕も、結構怪しい。
あたしは、何か手伝おうかと台所の方へ歩み寄った。
「なんか、することない?」
「あ、いいよ。大丈夫」
振り返らず、キャベツを千切りにする彼女。
トントンと、小気味いい包丁の音が響く。
何だか、懐かしい感じがする。
母さんが死んで以来、料理とかろくにした事なかったしなぁ。
少し感慨にふけりながら、
ふと、梨華ちゃんの手元を覗きこんでみて、危うく貧血をおこしそうになった。
彼女の左手の指先に、いつの間にかボルドーの血が滲んでいる。
「梨華ちゃん!指、切ってんじゃん!!」
慌てて大声を出すと、
梨華ちゃんはポカンと口を開けて、自分の指を見つめた。
「あ、ほんとだぁ」
「ホントだ、じゃねーよ」
ボンヤリしている梨華ちゃんにあきれつつ、
あたしは、彼女の手をとった。
- 65 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時14分00秒
- 「えーっと、救急箱ってドコにあったかなぁ。傷テープかなんか貼っとかないと」
押入れの中身を思い浮かべつつ、焦るあたし。
それに対し、
「セロテープでいいんじゃない?」
梨華ちゃんは、他人事のように言い放つ。
おいおい、セロテープじゃ駄目だろ…。
傷は、結構深いようだ。
彼女の指先には、後から後から、血が滲んでくる。
とりあえず、消毒とかしなきゃいけないかな。
どうしようか。
手当ての方法を考えるうち、
どういうわけか、いつか見た昼メロのワンシーンが頭の中にふと浮かんだ。
えーっと、あれは確か…、
男の人が女の人の切れた指先を口に含んで、
そんで、『ドキッ』とか、なっちゃって、
それから、ドラマティックなBGMが鳴り響き、
そして、『ガバッ』と、何やら怪しい展開に…、
……。
そ、それはダメだ。
頭を振って、浮かんだ絵図を否定した。
- 66 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時15分00秒
- 梨華ちゃんは不思議そうな表情であたしをじっと見ると、
「大丈夫だよ、このくらい」
穏やかに言って、傷口をすっと舐める。
その仕草は、何だかすごく刺激的に見えて、
あたしの顔は、自分の意思とは無関係に赤くなってしまった。
「ねぇ、よっすぃ…」
「ん?」
「……」
「何?どしたの?」
「よっすぃー…、さっき言ってくれたこと…、本当?」
『さっき言ってくれたこと』……、なんだっけ。
頭の中で反芻してみる。
思い当たったのは、雨の中での告白。
「あ、あれね。あれはぁ、うん、ホントだよ」
改めて考えると、少し恥ずかしい。
あたしの視線は、思わず泳いだ。
それに対し、梨華ちゃんの目は、あたしをじっと見据える。
彼女の左手がふわりと持ち上がって、あたしの頬に触れた。
すごく、ドキドキする。
- 67 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時15分36秒
- 「ウソ…だよね」
梨華ちゃんは、無表情でそう言った。
何を、考えているのだろう。
そして、あたしの次の言葉を待たず、
突然、彼女の右手が振り上がる。
何か銀色に光るものが、空を切った。
それは、あたしの首の手前でピタッと止まる。
梨華ちゃんの手に握られているのは、先ほど彼女の指を傷付けた包丁。
その包丁が、あたしの首に突きつけられている。
「な、何して…」
驚きと緊張で、あたしは一歩も動けなくなった。
状況が飲み込めない。
「いつかは、いなくなるんだよ?…ね?よっすぃ」
梨華ちゃんの表情は変わらない。
一体、何がどうなってこうなってるんだろう。
理由も、彼女の言葉の意味も、まるでわからない。
「あの、梨華ちゃん…?」
「ずっと…、一緒にいてくれる?」
縋るような、切ない表情になった彼女の目は、鋭くあたしの心を射抜く。
もしかして……、
一緒に死のうとでも言ってるんだろうか。
- 68 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時16分59秒
- あたしにとっては、完全に予想外の出来事。
唐突に訪れた、バイオレンスな展開。
死ぬ?
なんでなんでなんで?
でも…、キミがそう望んでいるなら……。
「いいよ」
「え?」
あれもこれも…、
やり残した事や思い残すことなら、たくさんある。
別に死にたくなんかないんだけど。
まだまだ、やりたい事はたくさんあるんだけれど。
彼女が苦しむか、自分が死ぬか。
どちらかを選べというのなら、別に死んでもいいかもしれない。
どういうわけか、あっさりそう思った。
すげーな、あたし。
自分でも驚きだ。
- 69 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時17分56秒
- 「いいよ。そうしたいならそうすればいいじゃん」
それに、大好きな彼女に殺されるんだったら、本望だ。
「梨華ちゃんがそうしたいなら、そうすればいいよ」
「どうして、そんな簡単に言えるの?ホントは死にたくなんかないでしょ?」
「うん。でも、梨華ちゃんのためにだったら、死んでもいいかなぁって。あは、あはは…」
「ヘラヘラしないでよ!よっすぃーは、死ぬってことがどういうことかわかってないんだよ」
「わかんないよ。でも、もういいや」
あたしは、目を閉じた。
包丁はあたしの首にくっついたまま。
時間が凍りつく。
永遠とも思えるような、長い長い沈黙。
- 70 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時19分09秒
- 二人立ち尽くしたまま、どれくらい経ったのだろう。
「…ばか…じゃないの」
沈黙を破り、梨華ちゃんは、泣き崩れた。
「うん、そだね。梨華ちゃんのこと、めちゃくちゃ好きになっちゃたみたい」
「ば……か…」
梨華ちゃんは、泣きながらきれぎれにそれだけを繰り返す。
あたしも、梨華ちゃんを包み込むように抱き締めて、
「好き」
その言葉だけを繰り返した。
心から素直な気持ちを、
ただただ、繰り返した…。
彼女の中で、一体何が起こっているんだろう。
彼女は、何に苦しんでいるんだろう。
さっぱりわからない。けど…、
あたしは、もう決めたんだ。待つって。
好きだから。
自分でも、『おかしいんじゃないか?』って思うくらいに、
彼女のことが好きみたいだから。
それ以外に、意味なんてない。
彼女を泣かせて苦しめているだけのイチイさんになんて…、
絶対負けない。負けたくない。
- 71 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時19分57秒
- 学校からの帰り道。
バラバラに散らばった人ごみをぬって、一点を目指し走る。
ここ何日かの、あたしの習慣。
できるだけ早く、梨華ちゃんの待つ家へ帰りたい。
乱れる息に邪魔されぬよう、もつれる足に邪魔されぬよう、
会いたい気持ちだけに集中して。
通い慣れたモノクロームの街並みは、ほんの少し、色を持ち始めた。
そして、梨華ちゃんの笑顔は、ほんの少しだけど、増えたような気がしてる。
すべては、心の持ちよう。
『いいことある』
思い込めば、なりそうじゃん。
そんな、瞬間。
- 72 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時21分03秒
- 繁華街を通り抜ける。酒くさいおじさんにぶつかった。
「あ、すいません」
「バカヤロー!前見て走れ」
怒鳴られても、最近のあたしはご機嫌なんだ。
家まで、あと少し。
「ごめんなさい、急いでるんで」
おじさんにペコリと頭を下げ、再び走り出そうとした時、
路上に座り込んで歌う、ストリートミュージシャンの歌声に気付いた。
思わず、足が止まる。
しなやかに伸びる歌声と、心に染み入るようなギターの音色。
ボーイッシュな服装で、マーチンのギターを抱えて歌うその女の人には、
人をひきつける、明らかな才能があった。
- 73 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月13日(金)17時22分44秒
- 「あ、あの、上手いですね」
あたしは、その女の人に近付いて、話しかけてみた。
演奏を中断し、彼女はけげんな顔であたしを見る。
「んー?なに?」
「あ、あの、すいません、邪魔しちゃって」
「別にいいけどさ」
めんどくさそうにそう言いながら、
ピックをギターの弦に挟んだその人は、思ったよりずっと若い。
活発な印象のショートヘアと、大きな瞳が魅力的だと思った。
「あの、すげー上手いなぁ、と思って…。もしかして、プロの人だったりするんですか?」
「あ?……わっははは。いきなり何?あんた、お世辞うまいね」
彼女は、何言ってんの?とでも言いたげに笑う。
「や、別にお世辞とかじゃなくて…」
「あはは。あんたもギターやってんの?」
「はあ。そうっすけど」
「へー、そうなんだ。頑張れよ、若者!」
そう言って、彼女はニカっと笑った。
それは、とてもとてもステキな笑顔。
うん、なんか、いい人かもしれない。
「若者って…、自分だって若いじゃないですか」
親しみを込めて、笑顔で切り返す。
彼女は、もう一度ニカっと笑った…。
- 74 名前:バードメン 投稿日:2002年09月13日(金)17時38分13秒
更新終了です。レス、ありがとうございます!
>54 オガマー 殿
そ、尊敬って(汗
とんでもないです。ヘタレです。そんなモンじゃないです。
でもすごく嬉しくて、ニヤーっとしてしまいました。
押しても引いても引っ張っても、ヘタレです。
>55 名無し読者 殿
ありがとうございます!
ガンガン…いけるのでしょうか、吉澤さん。
作者としては、応援してあげたい気分です。
どうなることやら(w
>56 グラスホッパー 殿
そのとおりです。
三度の飯より大好きです。
>57 ヒトシズク 殿
ありがとうございます。
全然上手ではないです。
更新の度に、他の作者様の作品を読む度に、ヘコんでおります。
>58 名無し読者 殿
再びあのバンドなタイトルです。
しつこくあのバンドなタイトルです(w
処方箋は『ロデオ・タンデム・ビート・スペクター』で。
この話を書く時は、ずっと聴いてます。
テーマソングってトコでしょうか。
- 75 名前:オガマー 投稿日:2002年09月13日(金)18時04分13秒
- 誰?誰なんだ?
なんかすごくいいです。
続き期待w
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月13日(金)22時40分53秒
- 名作の予感がする・・。更新がんがって下さい。
- 77 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年09月14日(土)00時11分03秒
- >74
やっぱりそうでしたか!
自分はHEY!HEY!HEY!で彼らを見てからの
大ファンです。
頑張って下さい!
- 78 名前:酔っ払りゃー 投稿日:2002年09月14日(土)13時22分50秒
- んんん!
思わず息を止めて読んでしまいますた。。。
さすがです
- 79 名前:名無し 投稿日:2002年09月14日(土)17時59分53秒
- 活発な印象のショートヘアと、大きな瞳。
そしてシンガーソングライター目指している人と言ったら・・・
これからよっすぃーの周りも大きな変化が起きそう。
続き期待!
- 80 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時50分14秒
- しばし、軽い会話を交わした。
サバサバした立ち振る舞いと、
「わっはははは」と、豪快に笑う顔は、自然体で曇りがない。
「じゃな、頑張れよ、若者」
彼女は、ギターを抱え立ち上がった。
「またそれですか」
「あはは」
そして彼女は、笑顔のまま立ち去ろうとする。
あたしは、慌てて声をかけた。
「あ!待って下さいよ。あの、名前とか…」
「ん?名前?あたしはイチ…。うーん、ま、別に名乗るほどのモンじゃないよ」
またどっかで会うんじゃない?そんな具合にヒラヒラと手を振って、歩き出す彼女。
ほんの少し、足を引き摺っているように見えた。
足、どうかしたのかな。
それでも、
背筋をピンと伸ばしたその後姿は、なんだか、すごくカッケくて。
あたしは、彼女が曲り角に消えて見えなくなるまで、目で追ってた。
- 81 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時51分12秒
- なんか、かっけー。
『イチ…』ナントカって言いかけてたけど…?
イチっていう名前なのかな。
名犬イチ公…。
おお。
ハチだ、そりゃ。
まあ、いいや。
「あ!やべっ!早く帰んなきゃ」
あたしは、腕時計を見ながら慌てて走り出した。
時計のデジタルは、帰宅予定時刻を大幅に過ぎていた。
早く、早く帰ろう。あたしの帰るべき場所へ。
- 82 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時51分52秒
- 『ピンポーン♪』
ドアの脇のボタンを押すと、
手狭な部屋には少々不釣合いの、高音でやたらでっけー音が鳴る。
自分の家なんだから、別に呼び鈴を鳴らす必要はないんだけど…。
「おかえりなさい」
ドアが滑らかに開いて、梨華ちゃんが迎えてくれる。
コレが、すごくお気に入り。
自然と笑みがこぼれる。
「ただいま、梨華ちゃん」
少し、
いや、かなり嬉しいカモ。
「よっすぃ、ゴハンは?」
「ん、いただきマス」
梨華ちゃんの料理の腕は、一向に成長する様子を見せない。
けど、あたしはそれでもいいんだ。
嬉しいじゃん。
なんか、新婚さんみたいで照れんだけどさ。
幸い、オイラの味覚はデリケートじゃないし…、
って言ったら、梨華ちゃんは怒るかな。
- 83 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時52分52秒
- 他の事なんてどうでもいいんだ。
梨華ちゃんがそばいてくれれば。
さあ、歌を作ろう。
ドキドキと安らぎが同居する、
この複雑な気持ちを、メロディに乗せよう。
梨華ちゃんへの想いを込めて。
さっき路上で出会った、ストリートミュージシャンなハチさん。
あの人も言ってたよ。
頭の中で、ハチさんとの会話が鮮明に甦る。
「あたし、自分のために歌うのは、もうやめたんだ」
ハチさんは、どこか遠くを見ようとでもするかのように、空を見上げた。
「やめたって?」
「今は、大切な人のためだけに歌うことにしてる」
だからプロになることは目指してない、彼女はそう付け加えた。
「大切な人?家族とか、恋人とかですか?」
「ま、そんなとこ」
「へー」
あたしだったら、間違いなく梨華ちゃんのためだな。
そんな事を思って、少しニヤけた。
彼女は、そんなあたしの様子を少し怪しんでみせて、それから
「あのコが、あたしを変えたんだ」
ポツリと呟いた。
- 84 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時53分38秒
- ハチさんは、サバサバと男前な雰囲気で、すごくカッコよく見えた。
一聴しただけでもわかるような、有り余る才能にもけして自惚れず、
誰かのためだけに、ただただ歌う人。
そんな印象があった。
うーん、やっぱりカッケーな。
ソウイウモノニ ワタシハナリタイ、ってな感じ。
石川啄木を引用したい気分。
……ん?あれ?
何か、ちげーような気がする。
宮沢ナントカだったっけ?
まあ、いいや。
- 85 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時55分16秒
- 「梨華ちゃん、お風呂、先入れば?」
ゴハンを食べた後、
あたしは、台所で洗い物をする彼女の背中に声をかけた。
「あ、でも、まだ終わってないし」
「いーよ。やっとくから」
できるだけスマートに、洗い物をかって出る。
男前なヤツになろう、
安易なその決意は、ハチさんの影響だろうか。
梨華ちゃんが来てから、家の中の事はまかせっきりになってたし。
好きになってもらうには、こんな努力も必要かもしれない。
「♪あーの娘みたぁいなぁー、色っぽい女にぃーなりぃたい」
鼻歌も快調。
あたしは、茶碗やコップを次々と洗い上げる。
よし、後はすすいで拭いて食器棚にしまって…っと。
二分十五秒で全部終わらせよう。
…それは無理だな。
- 86 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時56分02秒
- 頭の中で、『洗い物大計画』を練り上げる途中、
不意に、後ろから声がした。
「よっすぃ、そういえば、あとお洗濯もあったんだけど」
「洗濯?それもあたしがや…」
すすぎ途中の皿を持ったまま振り向いてみて、
あたしは、危うく、引っくり返るトコだった。
どういうわけか、ホントにどういうわけなのか、
いや、お風呂入ろうとしてただけなんだろうけど、
とにかく、半裸の梨華ちゃんが、そこに立っていた。
あたしは思わず、あっちこっちに目をそらして、
特に見たいわけでもない押入れの襖に、焦点を絞った。
- 87 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時56分55秒
- やば。
なんかあたし、思いっきり動揺してるような…。
いや、ほら、こんな事にいちいちドキドキしてたら、
温泉や健康ランドには行けやしないじゃん。
落ち着けよ、吉澤。
その辺は女同士なんだし。
まあ、ついてるモンは一緒だし……いや、待て待て。
そういう考えもどうだろう。
困った。
なんか、こう、
蛍光灯の下だと、目のやり場に困るというか。
明るすぎて、物凄く露骨に見えてしまうというか。
とにかく、隠して隠して、といいマスか。
- 88 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時57分54秒
- 「りっ、くぁ…」
不覚…。
『梨華ちゃん、服着たら?』
そう言いたかったのに、あたしの言葉は、初っ端から見事に裏返った。
不自然に泳ぐ視線と、おそらく真っ赤になっているであろう、この頬。
そして、ニワトリ並みに甲高く引っくり返ったこの声。
どう考えても、あたし、そぉーとぉーカッコ悪い。…恥ずっ。
「よっすぃ?」
梨華ちゃんは、さも何でもないことかのように、近付いて来る。
そして、あたしの顔を下から覗き込んだ。
どういうわけか、
『おーい!!』
と、窓から皆に手を振りたい衝動にかられた。
懐かしの、『だっちゅーの』ポーズ状態になってる彼女。
なかなか、グラマー…。
- 89 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時58分28秒
- さて、困った。
八方塞がりな気分のあたしは、とにかく、パッと後ろを向く。
「よっすぃー?どうしたの?」
どうしたの?…じゃねーよ。
わざとやってるんじゃあるまいな。
「梨華ちゃん梨華ちゃん!あの、洗濯もやっとくから、早くお風呂入って、早く」
まくしたてて、息が乱れた。
酸素を取り戻そうと、大きく深呼吸。
一回、二回、三回…。
落ち着け、落ち着け、あたし。
そうだウィーアーライブ、女同士なんだぞ。
何を焦っている、吉澤。
ふー、危ない危ない。
スマートスマート。かっけく。
- 90 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)12時59分09秒
- 深呼吸をたっぷり十五回繰り返し、
なんとか平常心を取り戻したあたしは、
頬の温度が下がるのを待って、薄く微笑んで振り向いた。
「梨華ちゃ…」
あたしの言葉は、途切れた。
彼女は、すでに全裸だった…。
ガックリと脱力。
あたしは、今度こそ本当に引っくり返った。
梨華ちゃん。
わざとじゃ、ないよね?
- 91 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)13時00分08秒
- 今夜の空は、とても澄んでいた。
満月の明かりが、柔らかく窓辺に差し込んでいる。
涼やかな風が、風呂上りの濡れた髪に通り抜けて、とても心地良い。
「ねぇ、よっすぃー、何か弾いて」
梨華ちゃんは、はしゃいだようにあたしにギターを手渡した。
そして、窓際に腰掛ける。
部屋の明かりと月明かり、
両方に照らされた梨華ちゃんは、柔らかくあたしに笑いかけてくる。
その透き通った瞳の色と、滑らかな起伏にとんだ身体のラインに、目を奪われた。
彼女は、とてもとても綺麗だった。
今にも消えてしまいそうなほどに。
本当に、消えてしまいそうなくらいに……。
いつか、イチイさんのもとへと帰ってしまうんだろうか。
そう思うと、あたしの胸には、たくさんの不安が溢れ出す。
それを誤魔化そうと、あたしはポロポロとギターの弦を弾いた。
浮き沈みする、空想の音階でできている、恋の歌。
…彼女は、気付いているだろうか。
- 92 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)13時00分51秒
- 「ねぇ、梨華ちゃん…」
「なに?」
「……大好き、デス」
彼女は、クスッと笑った。
「どうして?あたしなんかを…?」
「うーん。わかんないケド。ひとめ惚れしちゃったんだな、これがまた」
「ヘンな酔っ払いだなぁ、って?」
「や、その時じゃなくて、ライブハウスで会った時。見に来てくれてたでしょ?」
梨華ちゃんは、急にあたしから目をそらして、窓の外を見た。
「……。プッチモニ…?」
「うん、そう」
「イチイさんが、いたバンド…」
「うん、そ…、え?今、なんて?」
「…ごめんね」
それっきり、梨華ちゃんは黙ってしまった。
- 93 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月18日(水)13時01分33秒
- 流れの早い雲が、一瞬だけ月を隠す。
空は澄んでいるのに、二人の間には透明な壁がある。
そんな気がして、切ない。
間を埋めるようにギターを掻き鳴らすと、
バチンと音がして、細い六弦目が弾けて飛んだ。
「痛っ」
「どうしたの!?」
「あ、いや、弦が切れただけ」
何でもない、と言う代わりに笑顔を作ると、
梨華ちゃんは立ち上がって、あたしに歩み寄って来た。
「大丈夫?怪我とか、しなかった?」
「へーき」
「そう、よかったぁ」
安心したように微笑む彼女と裏腹に、あたしの心は、ひどく痛んだ。
こんなに近くにいるのに、彼女が見てるのは…。
人間は、とても欲深い。
あたしの心は、ただ待つのみでは、満足できないらしい。
心臓の鼓動は、四分音符から十六分音符へ…。
- 94 名前:バードメン 投稿日:2002年09月18日(水)13時18分56秒
更新しました。
レス、非常に嬉しいです。本当に、ありがとうございます。
>75 オガマー 殿
続き、お待たせいたしました。
ハチさん(?)でした。
出し惜しみです。
多分。
>76 名無し読者 殿
と、とんでもないです。
自分的には、『迷作』の予感です。
あらぬ方向に行ってしまわぬよう、がんがります。
>77 グラスホッパー 殿
おお、そうでしたか。
もしや『GT400』歌ってた回ですかね。
あれは、リピートしすぎてビデオテープがのびてしまいました(涙
とにかく、頑張ります。
- 95 名前:バードメン 投稿日:2002年09月18日(水)13時19分34秒
>78 酔っ払りゃー 殿
吸って下さい、吐いて下さい。
さあ、一回、二回、三回…、
あ、余計なお世話ですかね(汗
>79 名無し 殿
やはり、アコギと言ったらそれですね。
そして、あの人と言ったら、あれですね。
きっと…、いや、多分…、いや、
自分で書いてるくせに、まだ謎です。
続き、頑張りますです。
- 96 名前:オガマー 投稿日:2002年09月18日(水)15時10分32秒
- ハチさんでしたか。
そーですかー。
うわーん、なんだか切ないよほ。
- 97 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年09月18日(水)16時55分47秒
- せ・・・・切ない。。。
よしこに幸せが来ることを祈ってます。
梨華ちゃんはまだイチイさんのことを思ってるんですね。。。
更新楽しみに待ってます!
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月18日(水)22時05分18秒
- よしこはギターの練習しなくていいのか?(笑)
ちなみに細いのは1弦です。
- 99 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年09月19日(木)00時10分16秒
- くわーーー、よしこ切ねえっ!
でもイチイちゃんがどうからんでくるのが正直楽しみ。
続き、頑張って下さい!
>94 いえ、「バードメン」の時です。
一発で惚れました!
- 100 名前:名無し 投稿日:2002年09月19日(木)20時58分39秒
- 言っちゃった!よしこ言っちゃった!!
彼女の思いは届くのか?弦のようにはじけない事を願います。
- 101 名前:w 投稿日:2002年09月20日(金)18時43分40秒
- 上手いなぁ・・やはり、名作の予感!
ジェニ〜と力を合わせて、頑張って下さい。
- 102 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時10分36秒
- 風が、吹いた。
いや、実際には、吹いた気がしただけなのかもしれない。
頬を微かに撫でたのは、風だったのか、錯覚だったのか…。
「梨華ちゃん、やっぱり、イチイさんのこと…好きなの?」
聞くまい、と思っていたのに…。
意思と無関係に、言葉が滑り出た。
梨華ちゃんは躊躇ったように俯き、それから、少し間を置いて、コクリと頷いた。
噛み締めるように。
自分に言い聞かせるかのように。
心から、胃の奥から、何か正体不明のモノがわき上がって来る。
強いアルコールを流し込んだ時の感覚に似た、
痛くて熱い、何か。
頭が、沸騰したようにグラグラと揺れて、
悲しいのか、つらいのか、それがよくわからなかった。
- 103 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時11分33秒
- 梨華ちゃんは、曖昧な笑顔を作る。
「うん…。好き…、なのかな。わかんない。もしかしたら、恨んでるのかも」
「どういう…」
「イチイさんは、いなくなっちゃった」
あたしの言葉を遮った彼女は、それから少し首を振って、
「ううん、違うかな。いなくなったのは、……あたしカモ」
「え?」
「逃げたの。何もかも、色んなことから」
「逃げた?」
「そう。だから、よっすぃのトコにいる」
あたしには、意味がさっぱりわからない。
理解するのに、テストの成績は関係あるだろうか。
ちなみに、現代文と数学は、とても人には言えない点数だ。
- 104 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時12分26秒
- 首を傾げてみせると、彼女の瞳がフワリとした光を放つ。
「あのね、よっすぃー。あたし、出て行くね」
「は?」
一瞬、思考が止まった。
膝に乗せたギターが支えを失ってゴロリと転がり、微かな不協和音を立てる。
「今、何て…?」
「出て行く」
キッパリと言った彼女の顔は、
何かを悟ったかのように、迷いがない。
言葉が鼓膜に届き、そして、脳内で繰り返される。
出て行く…?
確かに彼女はそう言った。
- 105 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時13分49秒
- 出て行く…、梨華ちゃんが…、ココから…。
様々な方向に飛び散るはずの言葉や想いが、
ぐるぐると螺旋状に回り始める。
愕然とした。
意味は理解できても、心臓の中心にある感情が、激しく否定をしている。
「なんで…?」
「多分、あたしはココにいちゃいけないんだと思う」
「なんで!?」
「あたし、絶対よっすぃのこと傷付けちゃうカラ」
「そんなこと、ないよ。あるわけないじゃん!」
「ううん。もう、いいの」
「よくねーよ!!」
「ありがとう、よっすぃー」
梨華ちゃんは立ち上がり、少し微笑んだ。
答えを導き出した過程はわからない。
でも、彼女は、きっとホントに出て行くつもりだ。
引き止めなきゃ。
心がそう訴えている。
- 106 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時14分42秒
- あたしは、歩き出そうとした彼女の肩を、ムリヤリ掴んで引き止めた。
「待って、待ってよ、梨華ちゃん。何でイキナリ出て行くになんだよ!意味わかんねーよ!」
「よっすぃーは、ホントに優しいね」
「そんなこと…」
「よっすぃーは、イチイさんとは…、違う人なんだよね」
梨華ちゃんはあたしと目を合わさず、少し、唇を噛んだ。
「よっすぃ、ごめんね。あたしこれ以上、もたない」
走り出す梨華ちゃん。
振り切られて、
あたしの指は、彼女の肩から離れた。
背中を見送る。
現在位置から玄関口まで、目測で約四メートル。
この距離を駆け抜けるのに、彼女は何秒かかるであろうか。
ほんのニ、三秒ののち…、
唐突に、連続した大きな大きな音が、耳に飛び込んで来た。
『ドバーンッ!!ズデーン!!』
擬音にすると、こんな感じだろうか。
- 107 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時15分15秒
- なんだ?
何の音だ?
不思議に思い覗いてみると…、
なんと、梨華ちゃんが玄関口で引っくり返っている。
あれ?
「何…してんの?」
「いったぁいぃ」
しかめっつらの梨華ちゃん。
あたしは、あっけに取られて唖然とした。
音の正体は、
彼女がドアに思いきりぶち当たって派手にコケた、効果音だった。
なんてことだ。
慌てていたのか、必死だったのか、
どうやら、玄関のドアを、『開け忘れた』らしい…。
- 108 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時16分09秒
- 梨華ちゃんはぶつけたオデコをさすりつつ、憤然とした様子で立ち上がる。
そして、
「もう!なんで玄関にドアがあるのよ!」
そりゃあるだろ。
ドアがあるから玄関なんじゃん…。
「いたぁーい、もう!なんで開かないのよ!」
あの、
ドアノブを回さないと開きませんが。
こんな安アパートに、自動ドアが完備されているとでも?
「開けゴマ!!」
だいぶ混乱してきたようだ…。
- 109 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時17分07秒
- 慌てて駆け寄る。
「梨華ちゃん、ちょ、ちょっと、落ち着いて!大丈夫?」
「もう…。何で…、何でなの…?」
怒りをなだめようと手を添えた肩。
小刻みに震えているのに気付き、あたしはハッとした。
「梨華ちゃん…?」
泣いてるの?
「よっすぃー、ごめん…。ごめん…」
梨華ちゃんは、顔を両手で覆った。
「よっすぃーを見てると、イチイさんを思い出すの…」
ザクリと、傷を深くえぐられた感じがした。
また、それか…。
あたしは、遠回しにフラれているんだろうか。
こんな時は、何て言えばいいのだろう。
「んー、あー、…じゃ、イチイさんって、あたしに似て男前なんだねぇ。カッケー」
おどけて茶化したあたしは、まるでピエロ。
「…ううん。よっすぃーとイチイさんは、似て…ないよ」
「あー、そっかぁ。じゃ、オイラのがかっけーのかな、あはは」
玉乗りもジャグリングも出来ない、付け焼刃なピエロ。
白塗りメイクで、この傷を隠してしまいたい。
間抜けな自分に、ウンザリ。
- 110 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時18分39秒
- 謝らないで。比べないで。ココにいて。
イヤだ、イヤだ、イヤだ。
梨華ちゃんが、大好きなんだ。
例え気持ちが届かなくても、
もう少し、あと少し、一緒にいたいんだ。
「イチイさんとこ、送ってこーか?もう夜遅いし」
何言ってんだ?吉澤。
もっと他に、言うべきことはないのか?吉澤。
期末テスト、現代文は二十四点だった。
今の台詞、点数つけるなら、ゼロ。
のび太くんもビックリだ。
ドラえもーん…、なんて、いやしないし。
まあ、笑って言えたから、五点ほどオマケしとこうか。
どうでもいいけど。
- 111 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時19分50秒
- 「よっすぃ…」
梨華ちゃんは顔を上げ、涙の溜まった瞳で、あたしをじっと見る。
「もっと早く、よっすぃーに逢いたかった」
言葉とともに、水滴が一つキラリと光って、彼女の頬を伝った。
もっと早く…?
早く逢えていれば、どうだというのか。
期待と絶望を同居させる、ありがちな台詞。
そんなの、ズルイ。
「イチイさんより早く梨華ちゃんと出逢えていれば…ってこと?」
「違う…そうじゃなくて…」
「じゃあ、何だってんだよ!」
思わず、少し卑屈な言葉が滑り出る。
「ねぇ、あたしは、梨華ちゃんにとって、イチイさんの…、代わり?」
「違うっ!!」
梨華ちゃんは、大声で否定した。
それは、あまりにも大きすぎる声で…、
きっと、ご近所中に響き渡ったに違いない。
他人事みたいに、そう思った。
- 112 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時21分07秒
- 否定してくれてただけでも、マシなのかな。
もう手を振るしか、ナイのかな。
「送るよ」
あたしは、彼女を促した。
彼女は、「いい」と断って、そのまま黙った。
沈黙。
重い空気が流れる。
一分…、二分…、三分…。
ふと、ハチさんの、凛とした後ろ姿が思い浮かんだ。
こーゆー時ハチさんだったら、笑顔で見送るだろうか。
何となく、そんな事を考える。
未練がましいのは、きっとカッコ悪い。
けど、言わせて欲しい。
「梨華ちゃん…、行かないで」
歌うだけじゃ、足りないよ。
振り向いて、欲しい。
- 113 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年09月27日(金)19時21分48秒
- つらそうに、唇を噛み締めた彼女。
「よっすぃー…あたし…ホントは…」
声は、ひどく弱々しかった。
だから…、
抱き締めた。
細い身体と腕は、あたしを振り払おうとする。
「ちょ、よっすぃ、離して」
「やだ」
「お願い」
「いやだ!いやだいやだいやだ」
ああ、何てカッコ悪い、これじゃ駄々をこねるガキんちょじゃねーかよ。
気のきいた言葉や行動は、なぁんにも浮かんで来ない。
困らせているカモしれない。
梨華ちゃんの顔を、見れなかった。
- 114 名前:バードメン 投稿日:2002年09月27日(金)19時40分45秒
更新しました。
レス、ありがとうございます。
>96 オガマー 殿
そうなんです、ハチさんでした(w
切なく書けてますでしょうか。
なんだか中途半端な気がして、ヘコんでみたりしてます。
>97 ヒトシズク 殿
更新、お待たせして申し訳ないです。
楽しみに待って頂けるほどの価値があるか、自信がないです。
自分も幸せを祈っております。
>98 名無し読者 殿
あ、バレてしまいましたか。
あは、あはは…と、笑って誤魔化しておきます。
訂正して頂き、ありがとうございます(ペコリ
- 115 名前:バードメン 投稿日:2002年09月27日(金)19時41分51秒
- >99 グラスホッパー 殿
がんばります。
イチイさんは、どう絡んでくるのか、ですかぁ。
果たして期待にこたえられるのか…、自分にプレッシャーかけておきます。
おお、なるほど、『バードメン』の時ですか。
あれは惚れますよ、ええ。
>100 名無し 殿
言っちゃいましたねぇ。
はじけて…、♪飛んで飛んで飛んで、回って回って回って落ちるぅ
という歌をなぜか思い出しました。
あ、関係ないですね、すいません(汗
>101 w 殿
そんなことないです。
いや、もうホントに、自分の中では『冥作』の予感です(汗
ジェニ〜のご機嫌とりつつ、頑張ります。
で、
頑張って下さい、と、返してみます。
では、また次回の更新時にお会いしましょう。
- 116 名前:オガマー 投稿日:2002年09月28日(土)00時10分41秒
- あー。
なんかかわいい(w
吉澤さんも石川さんも。
でも、たまらなく切ないぃ…。
- 117 名前:w 投稿日:2002年09月28日(土)00時24分04秒
- 私の「名作リスト」には、既に載っています。製本決定です(w
バードメンさんの作品を読むと、溜息をついてしまいます。
「書くの、やめちゃおっかなぁ〜」なんて気に、させられます(w
しかし、ご本人に応援されると、逃げる訳にもいかないので。
スレ放置だけはしないように、頑張ります!
バードメンさんも頑張って下さい。
- 118 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年09月28日(土)00時36分17秒
- 梨華ちゃんを不器用に引き止めるよしこが良いですね。
なんかスゲー切なくなってきました。
頑張って下さい。
- 119 名前:赤毛の名無し 投稿日:2002年09月28日(土)01時35分49秒
- 玄関のドアを開け忘れた石川さんに笑わせていただきました。
まさか、あんな切ないシーンからああくるとは思ってなかったので。
最高です。
- 120 名前:名無し 投稿日:2002年09月28日(土)21時49分37秒
- やっぱよしこは考えぬいた言葉よりも直感で行動ですね。
ガンバレよしこ!作者さんも頑張って下さい!!
- 121 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時30分55秒
- 彼女の肩は、強く抱き締めるほどに、ガクガクと揺れる。
「な…で……さ…の…?」
「え?」
涙が彼女の声を殺していて、よく聞き取れない。
あたしは、腕の力をさらに強め、
そして、言葉を聞き取ろうと、彼女の口元に耳を寄せた。
「なんで、イチイさんじゃないの?」
絶望的な言葉が、鼓膜に反響する。
深く深く、心臓に突き刺さる。
それでも、梨華ちゃんを離したくなかった。
あたしは、じっと痛みに耐えた。
こんなこと、何でもない。
梨華ちゃんが消えてしまうことが、一番ツライ。
梨華ちゃんが苦しむより、あたしが苦しんだほうが、いい。
彼女はまだ、あたしの腕の中にいる。
今なら、まだ間に合う。
行かせてなるものか。
寂しいんだよ。好きなんだよ。
それしか、言えない。
- 122 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時31分43秒
- 寂しい気持ちは夜を越えて。
引きとめるために腕に込めた力は、月の光に後押しされて。
「一緒に、いて」
押し付けがましい、みっともない。
そんなコトは、もうどうでもいい。
「あたしは、イチイさんの代わりでも、いいから」
「そうじゃないっ!なんで、そうやって惑わすの?」
跳ねるようにそう言って、彼女はあたしの頬の辺りを両手で掴む。
「あたしは、イチイさんが好きなの、好きじゃなきゃいけないの。それに…」
「それに?」
「いつか必ず…、いなくなるから」
そう呟いた梨華ちゃんは、自分の左手首に視線を落とした。
- 123 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時32分25秒
- その姿を見て、直感で悟る。
そう…か。
それが、梨華ちゃんの背負う、十字架なんだね。
その傷は、イチイさんのせいなんだね?
あたしは、振り返って真っ直ぐ台所に向かった。
後から後から押し寄せてくる、怒りによく似た激しい感情。
そのやり場を探して、包丁を手に取る。
銀色に光る切っ先。
自分の手首に押し当て、
そして、ぐっと力を込め…。
「よっすぃぃ!!」
思いっきり引いたと同時に、梨華ちゃんが叫んだ…。
- 124 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時33分41秒
- 「…ざわ!!吉澤!!」
ボーっとしていたあたしの頭に、
怒声と圭ちゃんの掌が飛んで来て、思わず仰け反る。
「いってぇー!何すんだよ!」
「最近オマエ、たるんでるぞぉ!!」
そう耳元で叫ばれ、頭の芯がクラクラと揺れた。
店は、かなり混雑していた。
ガヤガヤとしか表現できない人の声。
単なる雑音にしか聞こえない。
体がだるい。
腕は筋肉痛。
眠気がとれない。
完全に寝不足だ。
なのに…、
すでに三杯目。
ハッピービール、好き好きビール、
飲みまくりな圭ちゃんが、目の前に…。
「まったくもぉ、飲みすぎじゃないのぉ?」
ごっちんが、隣で呆れたように溜息をつく。
「ほっといてっ!」
圭ちゃんが、それをキッと睨んだ。
- 125 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時34分34秒
- 練習帰り、
未成年二人を居酒屋へ拉致った、大人な圭ちゃん。
その顔は、たったの三十分で真っ赤になった。
ただでさえ飲み会大好っきー、な圭ちゃんだけど、
今日は、いつもにもましてペースが早い。
何か、あったのかな。
「年上だから」と強がっているのか、
圭ちゃんは、弱いところをあたしやごっちんには見せたがらない。
そういうトコロ、少し、心配。
様子をうかがう。
すると、
「かもーんなっ!!」
圭ちゃんは、妙な大声で店員さんを呼び、
「へい!かっちょいーおにーさん、ビールもう一丁っ!!」
……。
ノリノリだ…。
少し、いや…、かなり、後悔。
ってか、まだ飲むのかよ。
あたし眠いし、帰りてーんだけど。
- 126 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時35分25秒
- 梨華ちゃん…、どうしてるかな。
ボンヤリした頭に、華奢な彼女の感触が甦ってくる。
あの時、
梨華ちゃんが止めなかったら…、
止めるのが、
あとほんの一、ニ秒でも遅れていたら…、
あたしは今頃、病院だっただろう。
もしかしたら、『あの世』だったかもしれない。
「よっすぃ!!」
そう言って突き飛ばされて、
手から滑り落ちた包丁の金属音が、耳に焼きついている。
梨華ちゃんは、怒った。
これ以上どうやっても怒れないというぐらいに、物凄い勢いで怒った。
引っ叩かれて、「ばかっ!!」と叫ばれた。
何度も、何度も、一晩中怒られた。
朝日が差し込む頃になって、
「ごめん…」
すっかりしょげたあたしは、小声でそっと謝った。
「ばか…」
小声で返した梨華ちゃんは、少し微笑んでくれた。
- 127 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時36分40秒
- あたしは、ホントにバカかもしれない。
一体、何をしようとしてたんだろ。
あんな事して、どうなるというんだろ。
自己満足だ。
なんの解決にもならない。
『一緒にいたい』
そう願っているのに、自ら独りになるとこだった。
彼女を、独りにしてしまうところだった。
ふー、危ない危ない。
人間、思いつめると、何をしだすかわかんねーモンなんだなぁ。
- 128 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時37分16秒
- 「吉子っ!!」
「え?」
不意にごっちんが呼ぶ声が聞こえて、我に返る。
「助けてぇ!!」
「へ?」
見ると、
『よいではないか、よいではないか』
といった感じの圭ちゃんに、ごっちんが襲われている…。
「ごっちーん、チュウしよー」
「や、やめてよ圭ちゃん。ちょ、ちょっと、吉子、助けてよ」
「あー…。ご愁傷さまデス」
圭ちゃんがごっちんの唇を捕らえた瞬間、
あたしは、すましてそっぽを向いた。
ごっちんの悲鳴が聞こえたような気がしたけど…、
無視しておいた。
あー、危ない危ない。
人間、酔っ払うと、何をしだすかわかんねーモンなんだなぁ…。
- 129 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時38分25秒
- 「はぁー、疲れた」
酔いつぶれてしまった圭ちゃんを家まで送り届けた後、
あたしとごっちんは、静まりかえった暗い帰り道を、のんびり歩いた。
「まったくもう。圭ちゃんって、酔うとたち悪いよねぇ」
ごっちんは、ブツクサ言いながら道端の空きカンを蹴っ飛ばす。
カーンと、
乾いた音がして、空きカンは前方で跳ねた。
何となくその行方を目で追いながら、
「うん。…でも、梨華ちゃんよりまだマシかな」
「んぁ?今なんか言った?」
「なんにも」
「んー?」
ごっちんは不審そうに首を捻って、
「なんかさぁ、最近、吉子ってヘンじゃない?」
あたしの顔を、横からひょいと覗き込んで来た。
「いや。ヘンなのは、もとからだし」
「あーそうだね」
「……。おいっ!」
納得すんなよっ!
今のはボケたんだよっ!ツっこめよっ!
- 130 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時39分24秒
- 「あは。ところでさ」
ごっちんはふにゃっと笑って、
「こないだ言ってた、『好きな人』ってヤツはどうなったの?」
「え?んー、あー、うーん、えーっと…」
「ヤっちゃった?」
「ヤってねーよっ!!」
焦って否定すると、
つまんなぁい、といった具合に、ごっちんは口を尖らせる。
「なんだ。せったくごとーがアドバイスしてやったのに」
「なんかさー、ごっちんおもしろがってねー?」
「もちろん!きまってんじゃん」
「あのね…」
あたしは、もういい、と言うかわりに、深く息を吐いた。
無理矢理飲まされたアルコールが、少し香る。
- 131 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時40分43秒
- ごっちんは、もう一度ふにゃっと笑った。
その頬は、少し上気している。
こちらもやはり、無理矢理飲まされたアルコールのせいだろう。
「ま、それは冗談だけど…。なんか、あったの?」
「うん…。色々…ね」
「ふーん。やっぱり、その、好きな人が原因?」
「うん、そう…。梨華ちゃんって言うんだけどさぁ…」
「なに?」
ごっちんは慌てたように、
「吉子、もっかい言って」
「え?梨華ちゃん…だけど。どしたの?ごっちん」
「梨華…ちゃ…ん…?」
一瞬、ほんの一瞬だったけど、
ごっちんの表情が凍りついたのが、はっきりわかった。
「どうしたの?」
思わぬ反応に驚き、尋ねる。
「や、何でもない」
ごっちんは軽く頭を振ると、
「知ってるコと、名前が同じだったから」
なんでもないよ、と言いたげに、明るめの表情を作った。
その仕草は、何となくわざとらしい。
- 132 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時41分20秒
- 「知ってるコって?」
「ん…?いや、ちょっとね」
言葉を濁される。
「何だよ、それ。なんか気になんじゃん」
「ん、いや、何でもないってば。ちょっと勘違いしちゃって…」
ごっちんは、あたしから視線をそらした。
あたしが何度聞いても、
ごっちんは、それ以上答えてはくれなかった。
「じゃあね、吉子」
「うん…。ばいばい」
T字路に突き当たり、手を振って左右に別れる。
歩き出しかけたけど、
なぜか気になって、あたしは後ろを振り返った。
少し猫背気味に歩く、ごっちんの背中が見える。
ごっちんは振り返らない。
背中は徐々に小さくなって、やがて…、
曲がり角に消えていった。
- 133 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)21時41分56秒
- なんだろ。
なんか、様子がおかしかったな。
心がザワザワと、妙な動きを始める。
イヤな予感…ってのに、ならなきゃいいけど。
ま、いっか。うん。
気にしすぎだよな。
ストレスは胃腸によくないし、なんて。
あたしは、一つ頷き、
気持ちを切りかえるために、前を向いて歩き出した。
『うん、そんなはずない、あのコなはず、ないよね』
まるで、自分に言い聞かせるように、ごっちんが呟いていた言葉。
それがリピートされるのを拒否しようと、明るい歌を口ずさむ。
それから、口笛まで吹いた。
なぜか、足取りが重い。
ポケットに突っ込んだ指に、少し力を込めて、
そして、気付かないふりをして…、
あたしは、梨華ちゃんが待つ家へと急いだ。
- 134 名前:バードメン 投稿日:2002年10月03日(木)21時58分14秒
更新しました。
レス、とてもとても感謝しております。
>116 オガマー 殿
そろそろ、大変になってきました。
かわいかったり切なかったり、
という具合に書くのは、なんて難しいんだろうと感じるこの頃です。
>117 名前 : w 投稿日 : 2002年09月28日(土)00時24分04秒
や、ほんとに恐縮です。
読んで頂けてるだけで、幸せでございます。
自分は、書きながら「難しい…」などと、
いつも溜息をついておりますので、
単にそれが伝染したのではないかと…。多分。
こっそり、しれっと、読んでます。
ぜひ、頑張って下さい、と、プレッシャーをテレパシーで送ります。
- 135 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月03日(木)22時00分04秒
- >118 グラスホッパー 殿
ありがとうございます。
果たして、自分はどこまで切なく書けるのでしょう。
冗談入れてごまかすクセを、なおしたかったりしてます。
>119 赤毛の名無し 殿
どうして、ああなったんでしょうねぇ…。
きっと、作者のヘタレっぷりが伝染してるのでしょう。
でも、ありえないボケをやらかす石川さん、非常に好きなので。
>120 名無し 殿
頑張ります。
今回も、吉澤さんの直感頼りです。
それがないと話が進まないことは、ここだけの話です。
…あれ?バレてしまいましたね。なんて、冗談です。
では、次回の更新時にお会いしましょう。
あ、すいません!>117のレス、なぜか日付がくっついてます。
すいません、何か間違えたみたいです。
ほんとすいません。
- 136 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年10月03日(木)23時32分53秒
- うおお、何かがありそうな予感....
期待しています、頑張ってください!
- 137 名前:オガマー 投稿日:2002年10月04日(金)06時01分29秒
- 過去に一体何があったんだろう…。
続き、楽しみにしてまふ(w
- 138 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月05日(土)13時19分30秒
- わーはっはっ! 私は神だ! 神様でんねん!
このスレに呪いを掛けた!
「よしりか」が幸せになるように、呪いを掛けた!
それ以外を書こうとすると、このスレは消え去るであろう!
同じような事を、あちこちで書いているような気がする。
- 139 名前:名無し 投稿日:2002年10月05日(土)18時16分12秒
- よっすぃー切ない・・・
でもよっすぃーの行動がなんかミュージシャンっぽい、パンクぽい。
ごっちんの謎も楽しみです。
- 140 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時18分02秒
- 空には、この季節特有の、
ハケで、すっと線を描いたような薄い雲が流れている。
まるで、「秋です、秋ですよ」と主張しているかのようだ。
平均気温が低下していくに伴なって、空気は徐々に澄んでいく。
冬の一歩手前、
水が氷に変化する一歩手前の予感を感じるその季節には、
どことなく、懐かしい匂いのする風が吹く。
流れる雲は、どこへ行くんだろう。
空気と混ざり合う雲。
手をかざして捕まえようとしたら、指の間からすり抜けた。
子供の頃は、よかったな。
「雲は、綿菓子と同じようなものなんだ」
そんな幻想を、なんの疑いもなしに信じることができた。
でも今は…。
秋が、『人恋しい季節』とされている理由はきっと、
人が大人になり、ほんの少し、成長する季節だから…、
だったり、するのかもしれない。
- 141 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時19分01秒
- 鏡の中の自分と向かい合う。
左右四つずつ並ぶピアス。
あたしは、左耳の一番上を、一つ外した。
「塞ぐの?」
梨華ちゃんが鏡越しにあたしに尋ねる。
「うん、ピアスの数って、奇数がいいらしいんだよね」
「ふーん。でもあたしは一個ずつだから、偶数だよ?」
彼女は、何気ない様子で自分の耳に触れた。
ピアスの穴の数って性格出るよね、そう言いながら、
あたしは彼女と視線を合わせる。
鏡越しに見る梨華ちゃんは、まるで別人のようにも見えた。
そしてその耳には、
彼女の趣味とは違う、ユニセックスなデザインのピアスが光っている。
- 142 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時19分39秒
- 「ねぇ、よっすぃー、ちょーだい、それ」
「ん?何を?」
振り向くと、
彼女は、あたしがたった今外したばかりの、
クロムのピアスを指差す。
「それ、よかったらちょーだい?だめ?」
「コレ?何すんの?」
「別に…、なんでもないんだけど…」
「うーん。ま、いいよ、はい」
あたしは、梨華ちゃんの掌に小さな銀色の破片を乗せた。
彼女は少し照れたように笑って、
それから、自分の耳のピアスを外す。
「なんとなく、気分転換したくて…」
言葉とともに光る銀色は、何を意味するのだろう。
あたしも、気分を変えようか。
髪の色は、オレンジとベージュとピンクを混ぜた、
少し、明るめの色にしよう。
こういう時だけは、女って結構得な生き物だな、と思う。
髪、爪、アクセサリー、化粧品…。
気分を変えるきっかけは、ほんの些細な事で充分だったりするから。
よくありがちな、
『失恋記念に髪を切る』とかは、少し古いと思うケドネ。
- 143 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時20分26秒
- 気分転換、か…。
あたしは前髪をかきあげながら、
タンスの上に置いてある卓上カレンダーに目をやる。
今日は金曜日。明日は休み。
明日になれば、
梨華ちゃんとイチャイチャでき……ればいいのになと、溜息をつく休日。
そうだ。
「梨華ちゃん、あのさ、明日、どっか行かない?」
「え?」
「梨華ちゃん、ずっと家ん中にいるからさ、たまには外に出たいかな、と思って」
「あ…、うん。でもあたし、あんまりお外って好きじゃなくて…」
彼女は、言いにくそうに俯く。
まだ、心の中に何かを抱えているのだろうか。
「なんで?明日天気いいらしいよ」
できるだけ、何でもないことのように言う。
梨華ちゃんは、また言いにくそうに目を伏せ、
「あの…、日焼けするから」
小さな声で呟いた。
あたしは、脱力して危うくすっ転ぶとこだった。
- 144 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時21分41秒
- 朝がやって来る。
今朝は、たまたま早く目が覚めた。
いや、ホントは目覚し時計を三つほどセットした。
うん、朝から、めっちゃいい天気。
体重計は占い。
結果は……、まあ、置いとこう。
サングラスのレンズの色、
淡いブルーにして正解だったな。
梨華ちゃんと街を歩きながら、あたしは心の中で頷いた。
これから訪れる季節に向けて仕度を始めた街並みは、
また、モノクローム。
何か色をつけないと、気分も変えらんねーし。
しかし、それにしても…、
よくよく考えてみれば、これはもしかして、
デート…だったり、すんのかな。
さっきから、心臓が、バクバク。
だってさ、日の光に照らされた梨華ちゃんは、綺麗なんだよ。
夢なんじゃないかって、疑っちゃうほど。
- 145 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時22分37秒
- 少しさびれた映画館の前で、梨華ちゃんは立ち止まる。
そして、
「ね、よっすぃー、映画見よっか」
極上の笑顔をあたしに向けた。
なんですと?
えーが?
それはそれは、お決まりなデートコース。
手を握って、歩きたい…じゃなくて、映画を見たい。
そんでもって暗がりで…。
……いやいや、待て待て。
頭の中で何やら怪しい『下心』が描かれるのを、焦って否定する。
すると、
「どしたの?よっすぃー」
きょとんとした梨華ちゃんが、じっとあたしの目を覗き込んで来て、
余計に焦った。
「え?え?いや、あー、そうだね」
泳ぐ視線を隠せず、あっちへこっちへ目を向ける。
- 146 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時23分25秒
- 映画、映画、えいが、ねぇ。
最近見てないなぁ。
えーっと…。
キョロキョロしていると…、
ふと、映画館の入り口、
もぎりのおばちゃんが座るカウンター横のポスターに、目が止まった。
あれは……、
おお!
思わず、ちょっとはしゃぐ。
ディカプリオじゃんか!
レオさまじゃんか!
『三本立て』と躍る文字が安っぽいけど、
綺麗なハリウッド女優と、ブチュっとブチュっとする、
レオナルド・ディカプリオがそこに、いた。
レオさま主演、
『ロミオ+ジュリエット』
何回も繰り返し見た、
あたしの、大好きな映画だ。
- 147 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時24分12秒
- 「梨華ちゃん、コレ見た事ある?すげーイイんだよっ…って、あれ?」
コレ見よーぜ的に彼女の方へ振り返ってみて、
あたしは、はっとした。
ポスターを見つめる彼女の顔には、
ツライとサビシイの中間のような、何とも言えない翳りが浮かんでいた。
「お、おーい…。どうしたの…?」
遠慮気味に肩を叩くと、彼女はボソボソと呟く。
「ロミオとジュリエット…。あたし…、この話、きらい」
「え?…あ、そっか。ディカプリオはタイプじゃない?」
「へ?」
梨華ちゃんは一瞬驚いたように目を見開いて、
それから、
「…ふっ、あははは。そうじゃなくて…あはは」
口元をおさえ、いかにもおかしそうに笑った。
- 148 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時24分57秒
- あれ?あたしなんか、間違った事言ったのかな。
意味がわからず首を捻っていると、
彼女の細い指が、不意に、あたしのシャツの袖を掴む。
「よっすぃーは、ディカプリオがタイプなの?」
梨華ちゃんは、冷やかすように言った。
『いや、あたしは、梨華ちゃんがタイプ』
喉元まで出かかった言葉を照れ笑いに変えると、
「じゃ、見よっか」
彼女が、シャツの袖を笑顔で引っ張る。
それに導かれるまま、あたし達は、映画館の中へと入った。
腕が、妙に緊張する。
あたしは、ディカプリオファンだと、皆に公言していた。
でも…、
今日ほどディカプリオに感謝した日は、ない。
なんとなく、『レオさま、ありがとう』、なんて…ね。
- 149 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時25分59秒
- 暗がりの中、幕が開く。
さすが『さびれた映画館』と言うべきか…、
やたら客が少ない。
映画が始まって、およそ五分。
あたしは、ノリノリで一番前の席に陣取ったことを、早くも後悔し始めていた。
『ああ、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?』
『おお、ジュリエット、キミはどうしてジュリエットなんだ?』
正直、今日ばかりは知ったこっちゃあない。
真後ろの席から、ボソボソと話し声が聞こえる。
「…ねぇ…キス……して」
「ダメだよ…こんなとこじゃ…人いるし…」
「えー…やだ……キスしてくれなきゃ…泣いちゃう…」
「ダメだよ…あとで…さ」
「もう…やだ…えっちなんだからぁ…」
『よそでやれぇぇぇ!!バカップル!!』
ああ、思いっきり叫びたい。
つまり、真後ろの席で、
どこぞのカップルがイチャイチャベタベタしてるわけで…。
何だか落ち着かないし、
キレてるあたしを見て、
梨華ちゃんは隣で、さっきから必死に笑いをこらえてるし…。
咳払いなどしてみたが、効果はないようだ。
- 150 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時26分47秒
- 「なんだかさぁ、妙なことになっちゃったね」
梨華ちゃんが小声で耳打ちしてきた。
「そぉだね、最悪」
あたしも、小声で返す。
それから、
スクリーンからの青白い明かりの中で、顔を見合わせて笑った。
「ねぇ、よっすぃー」
「ん?」
「あたしね、ジュリエットになりたかったの」
「へ?なんの話?」
「うん…えっとね…」
彼女は、何かを言いかけて躊躇い、
「ううん、何でもない」
首を振って、スクリーンに向き直った。
「…そう」
あたしもスクリーンへ視線を戻し、
しばらく、黙って映画を見る。
- 151 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時27分45秒
- 『ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?』
『ジュリエット、キミはどうしてジュリエットなんだ』
クライマックスは近い。
愛し合っているのに、運命に引き裂かれる二人。
約束のキスは、儚すぎて切ない。
儚いからこそ美しく感じる、
だからこそ悲しい、二人の物語。
「ねぇ、よっすぃー」
「ん、え?何?」
スクリーンに集中していたあたしは、少し慌てて彼女に顔を向けた。
「何?」
「……」
「梨華ちゃん?」
映画のストーリーはほったらかしにして、
梨華ちゃんは、黙ったままこちらをじっと見る。
彼女の瞳は、あたしの目を捕らえ、
視線を逸らすことができない。
- 152 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時28分29秒
- 映画の台詞や効果音、後ろのカップルの話し声、
全ての音が、急速に遠のいていく。
微妙に変化する薄明かりの中で、
あたしは、身動きひとつできなくなった。
どれくらいそのままなのか…、
時間の感覚が完全に狂っている。
きっと今、
スクリーンにはエンドロールが流れてる。
でも、そんなことはどうでもいい。
「梨華ちゃん…」
目を閉じ、
互いの唇が、どちらからともなく重なる。
触れた暖かさで、脳の芯が痺れた。
- 153 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月06日(日)17時29分04秒
- 梨華ちゃん。
あたし達が、もし、映画の中の登場人物だとしたら、
もしも、
『ロミオとジュリエット』の物語の中に、生きていたとしたら…、
あたしは、
短剣を自ら胸に突き立てることも、
毒薬を飲むことも、
銃で頭を打ち抜くことさえ…、
今なら、何だってできる気がする。
それくらい、大好き。
大げさだと、笑う?
甘ったるい嘘だと、否定する?
キザな口説き文句だと、馬鹿にするのかな。
うん、多分、それも正解だと思うよ。
現実は、
そんなにドラマチックでもロマンチックでもないし。
あたしは情けないヤツだから、
あたしは、ロミオじゃないから…。
でも、
触れた唇をこのまま離したくないし、
抱き締めたこの華奢な身体を、離す気はないんだ。
例え、彼女の望む『ロミオ』が、他にいたとしても…ね。
今思ってることを全て伝えたら、
彼女は、「ばか」と微笑むだろうか。
- 154 名前:バードメン 投稿日:2002年10月06日(日)17時44分56秒
更新しました。
さて、そろそろ動き始める……んでしょうか。
レス、嬉しいです。ありがとうございます。
>136 グラスホッパー 殿
何かはあります。
でもあまりに『何か』がありすぎると、
一気にクライマックスへ進んでさっさと終わってしまうので、
引っ張ってみます。あは。
>137 オガマー 殿
何があったのかは、徐々に徐々に、小出しです。
そんなに勿体つけるほどの、たいした話でもないかもしれませんが…。
ええ。
- 155 名前:バードメン 投稿日:2002年10月06日(日)17時46分34秒
- 続き。
>138 ひとみんこ 殿
呪いですか。
まあ、もともと『ドクロ』なんてタイトルですし、
あまり縁起のいいもんじゃないような気がしてます。
>139 名無し 殿
おお、パンクっぽいですかぁ。
シドとナンシーみたいな、
エキセントリックな二人を描けるようになると、
この話ももう少し面白くなると思うんですが…。
なんせ力量が足りません、ええ。
さて、では、また次回の更新時にお会いしましょう。
- 156 名前:オガマー 投稿日:2002年10月06日(日)21時23分31秒
- うーむ。
いいですな。
いい。ネタも随所に盛り込まれ(w
そして、最後のよっすぃ〜の心のセリフ。
舞台。すごく好きです。このシーン。
- 157 名前:名無し 投稿日:2002年10月07日(月)12時55分46秒
- 今回の更新はやばい、色が綺麗に書かれていて情景がすごい浮かびました。
改めて作者さんの実力を知りました。
シドはすごいですよね。ベース弾けないのにピストルズに入ったんだから。
- 158 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年10月07日(月)23時50分16秒
- 今回のよしこは少し「女の子」してた気がしました。(女の子なんだけど)
すんげえいいです、最高っす!
「何か」も含め期待しています。頑張ってください!
- 159 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時12分42秒
- 明かりも、光もいらない。
触れ合えば、全ての輪郭がわかるから。
あたしは、暗闇の中で、何度も何度も彼女と唇を重ねた。
止まらない。
愛しい気持ちが、溶けて流れ出す。
流し込むように、
こじ開けた彼女の口内の感触を、ゆっくりと確かめた。
外れたブレーキは、二度と、もとに戻らない。
走り出した心は、もう、止まらない。
ありふれた文章で表せるほど、想いは直線的。
それに反比例して蛇行する運命は、一体どっちに転ぶのか。
離れないように、想いが消えてしまわぬように、
抱き締めて、ただただ、彼女の存在を確かめる。
徐々に満たされていく気持ち。
けど、閉じた瞼のスクリーンに上映されるのは、
カラカラ笑う、月夜のドラキュラ。
ダラダラ踊る、アルコホリック・ゾンビ。
これは…?
何かの終わりと変化を告げる、サイレンなのかもしれない。
『不吉な予感』とも、言うのかな。
ボンヤリ考えると、少しだけ、涙が出てくる。
だけど、そんなモンは、ゴミ箱に捨ててしまおう。
買いすぎたポップコーンを、踏みつけるように…、
不安は、ねじ伏せてしまおう。
- 160 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時13分45秒
- ようやくこちらに飛んで来た幸せの鳥の色は、
ブルーなのか、それともブラックなのか。
きっとブルーだ。
そう、見間違いでも、何でもいい。
何だっていい。
でっち上げでも、構わない。
唇を離す。
目が合うと、気恥ずかしいのか、梨華ちゃんは俯く。
その様子が、かわいいやら、こっちも照れくさいやら…、
一気に押し寄せてくる、ごった煮状態の感情に、あたしは、言うべき言葉を一瞬見失った。
「…っ、あ、ご、ごめ…ん…」
なんで、謝ってるんだろう。
違う違う、そうじゃなくて。
- 161 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時14分28秒
- 「梨華ちゃん、あのさ…、こんなこと言うのも、なん…」
急に掌を口に押し当てられ、あたしの言葉は止まる。
「言わなくて、いい」
「…?」
「もう、いいから」
ゆっくりと、言い聞かせようとする。
彼女の切れ長の目から放たれた光の色は、
熟れて落ちたチェリーのように赤かった…ような気がした。
とても魅惑的で、口付けを誘う色。
「あたしね、よっすぃーに言わなくちゃいけないことが、いっぱいあ…」
今度はあたしが彼女の言葉を止める番。
口を塞いでいた彼女の手、指を絡め取るようにギュっと握り、
もう、いいから。
言葉の代わりに、深い口付けを。
訪れた沈黙。心地よい間。
貪るように、噛み付いた唇は、彼女の香りがした。
- 162 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時15分01秒
- 『あの頃はさ…』
そんな言葉で始まる話を、これまで幾度も繰り返してきた。
何度も何度も、同じように。
あの頃はよかった。あの時は大変だった。
そんな言葉で振り返るたび、キレイな『思い出』に書き換えられる記憶。
皆、きっと気付いてる。
だけど、
飽きもせずに、これからも繰り返すんだろう。
でも、それでいいんだと思う。
思い出を語る。
あの頃…。
そんな風に笑えるのは、『今』があるから。
そう、思う……いや、
そう思いたいカラ、ね。
- 163 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時15分53秒
- 日曜の夜は、体がだるい。
いや、別に、梨華ちゃんと何やら怪しいコトをしたから、
とか、そんなわけじゃない。
そんなコトは、してないデス。
したくないわけじゃ、ないんデスガ。
まあ、それはいい。
とにかく、
「ほらほら、練習するわよ!」
張り上げて、ドラムがダンっと鳴った。
スタジオ内の空気がビリビリと震える。
圭ちゃんが、何やらそぉとぉー張り切っている。
どうしてそんなに気合が入っているのか…。
うーん、わからない。
あたしは、ギターを持つ手を外し、ぷらぷらとごっちんに向かって振ってみせた。
『お手上げ』
そんな具合。
すると、
「けーちゃーん、吉子がやる気ゼロ。サボってるよぉ」
「なにぃ!?」
睨まれる羽目になった。
- 164 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時16分37秒
- 何があったのかは知らないけど、
今日の圭ちゃんはやる気三割増し。
あたしのやる気は、『帰りたい』の方向へ下降気味。
何時間繰り返しただろう。
「ほらほら、もう一回頭から」
「もー、けーちゃぁん、何時間練習すんのぉ?」
さすがのごっちんも、口を尖らせ、ブツブツと不満を訴え始めた。
無理もない。
朝の八時集合で、現在の時刻は十一時。
もちろん、夜の、だ。
めちゃくちゃだよ。
帰りたいよ、圭ちゃん。
勘弁してよ、圭ちゃん。
寝不足はお肌によくないよ、圭ちゃん。
ね、そろそろ、帰りましょうよ、そうしましょうよ。
あたしは、ごっちんと二人して、
無言の圧力を圭ちゃんに送ってみた。
「はい、じゃ、もう一回いくわよ!」
効果なし…。
- 165 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時17分37秒
- 「と、言いたいトコだけど」
圭ちゃんは、ニヤリと笑い、
「今日はこれくらいにしとこうかしらね」
手に持ったスティックを、くるりと回す。
よ、よかったぁ。
あたしは、ごっちんと同時に安堵の溜息を漏らした。
「あっ、そういやさ、ごっつぁん」
「何?」
「知ってる?アイツ戻って来てるって」
「え?マジで!?マジで?けーちゃん!」
突然、ごっちんは、飛び上るように圭ちゃんに詰め寄った。
嬉しそうにじゃれつく、猫みたいな仕草だな。
そんな事を思いつつ、何の話かわからないあたしは、ポカンと二人の様子を見つめる。
圭ちゃんは、くっついてくるごっちんを引き剥がし、
「落ち着けって」
と、頭を撫でた。
「なんかね、一ヶ月くらい前からこっち戻ってるらしいよ」
「そーなの?ごとー知らなかったよぉ。けーちゃんずるぅい」
「あたしもさ、今日ヤグチから聞いたばっかなんだよね」
誰の事言ってんだろ。
ヤグチさんってのは、圭ちゃんと同じ大学の人だよね。
- 166 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時18分22秒
- あたしは、何気なく二人の話に耳を傾ける。
「もう!帰って来てるなら来てるって、連絡くれればいいのにぃ。何してんだろ!」
「アイツはさぁ、そういうヤツじゃん。昔っから」
「足…、具合、どうなのかな」
「んー、後遺症は、やっぱり残ってるってさ。でも、リハビリは順調らしいよ」
「元気かな」
「そりゃ、あの荒れてた時よりかはマシなんじゃないの?」
「そか。あの時はね…」
「ね。…あの時はさ、どうなるかと思ったけどね。アイツも、プッチも」
「…うん」
二人は、どこか遠くを見るような眼差しで押し黙る。
そこには、何か懐かしくて暖かいものを思い出す時のような、
優しさに満ち満ちた雰囲気があった。
- 167 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時19分23秒
- 「ねぇ、なんの話?」
あたしは、二人の顔を交互に見回しながら尋ねる。
「…ん?あのねぇ」
ごっちんが微笑んで、
「昔話だよ」
圭ちゃんが、優しげに笑った。
「あの頃はさ、いっつも四人で一緒にいてさ、楽しかったよね」
独り言のように呟くごっちん。
「でもさ、今も楽しいよ、ごとーは」
あっけらかんと言いながら、圭ちゃんの顔を覗き込んだ。
圭ちゃんは、馬鹿じゃないの?とでも言いたげに、
ごっちんの頭をガシガシ撫でる。
「あはは、あの時があるからさ、今こうして頑張れるんじゃん」
ニカッと、お得意のウインク付きで。
「おお、さすが、けーちゃん、大人だぁ」
「何か、ヤな感じね。まあ、でも……」
「どしたの?けーちゃん」
そこで初めて、圭ちゃんの顔が曇る。
「んー?あのコにも、言ってあげたかったな、と思ってさ…」
でも、それは、ほんの一瞬。
- 168 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時21分25秒
- 「ねぇ、だから何の話だよ」
仲間外れの気分にいじけたあたしの声は、
圭ちゃんの気合を入れて歩き出した声に、かき消された。
「よっしゃあ!焼肉行くぞ、焼肉!ビール飲むぞぉ!」
「ええー!?」
こんな時間から焼肉かよー!
そう不満を訴えようと圭ちゃんの肩を捕まえると、
「あっ、そうだ」
圭ちゃんは突然振り返る。
「あんたも今度、会う?アイツと連絡取れたら、の話だけど」
「へ?誰と?」
キョトンとしたあたしの耳に、ごっちんの無邪気な声が飛び込んで来た。
「いちーちゃんと、でしょー?」
「…誰?」
「サヤカだよ。…あ、そっか。あんたは直接知らないんだよね」
圭ちゃんはポンと手を打って、
「イチイサヤカ。あんたの前に、うちのボーカルしてたんだよ」
- 169 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月11日(金)22時22分48秒
- その言葉は、鼓膜にぶち当たるより先に、
あたしの頭を、ガツンと直接殴った。
ガンガンガンガン、
ハンマーで、何度も叩かれるように頭痛がして来る。
何となく、何となくだけど…、
梨華ちゃんが、あたしに何を重ねているのか、
どうしてあたしにイチイさんを重ねるのか、
わかった、気が、する、何となく…。
「おーい、吉澤、どうした?」
「や…めとく」
「ん?そう。別にいいけど…、何か、あんた顔色悪くない?」
「や、そんなことないよ」
「そう?」
肩をすくめる圭ちゃん。
「おごってやるのに」
「や、いいよ別に」
「珍しー。吉子がそんなこと言い出すなんて、明日絶対雨だね」
悪戯っぽく言ったごっちんの笑顔が、少し、痛かった。
雨ではなく、槍が降りそうな気がしてる、今。
会いたくない。
っていうか、会わせたく、ない。
『戻って来てる』?
つまり、どっか行ってたわけだ。
だから、梨華ちゃんと会えなかったわけだ。
梨華ちゃん、泣いてたよ?
何してたんだよ。
でも、
市井さん。
悪いけど、今さら、返せねー。
ロミオ、あんた、いっつもジュリエットを悲しませるばっかりじゃんか。
- 170 名前:バードメン 投稿日:2002年10月11日(金)22時34分54秒
更新しました。
そういえば、「アルカホリック・ゾンビ」は仮タイトルでした。
ゾンビとドクロ…。どっちもどっちですね…。
レス、ありがとうございます。
>156 オガマー 殿
ありがとうございます。気に入って頂けましたか?
ネタを盛り込まないと、何だか書いてる本人が苦しくなって来るので…。
まだまだでございますです。
>157 名無し 殿
実力と言われるものは、ミジンコなみです、ええ。
でも、このシーンは綺麗に描きたかったので、
そう言って頂けると、嬉しいです。
そこがシドのすごいトコですよね、やっぱり。
あのありえないめちゃくちゃ感がパンクでしょうか。
>158 グラスホッパー 殿
ありがとうございます。今回は女の子な感じでいきました。
どちらかと言えば、そっちの方が書きやすい感じがしてました。
期待に答えられるかは、自信なしです、ええ。
- 171 名前:オガマー 投稿日:2002年10月12日(土)01時54分18秒
- 最後の一文にやられた…。
どうなっちゃうんだー…。
何があったんだろう。
続き期待w
- 172 名前:名無し 投稿日:2002年10月13日(日)14時14分47秒
- 市井さんとよっすぃー。これぞ因果律というものか・・・
作者さんの文章がどんどん詩的に成ってきていてすごく感情移入しやすいです。
これからも頑張って下さい。
- 173 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時01分47秒
- 「梨華ちゃん、コレ、何?」
「じゃがいも…だよね、多分」
「観葉植物になってるけど…」
「うん、すごいね」
「…ね」
「梨華ちゃん、あたしのパジャマがないんだけど…」
「あれ?確か、畳んでしまっておいたんだけど」
「どこに?」
「えーっと…どこだっけ」
「タンス?」
「あ、冷蔵庫の中だ」
「…は?」
何か悩み事でもあるのか、、
それとも、ただ単にぼーっとしているだけなのか…。
このところ、彼女は少し、上の空。
- 174 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時02分40秒
- 夕闇が、辺り一面に広がる。
陽が落ちるのが早くなって来たよなぁ。
そう思い、窓の外を少し眺めてから、部屋のカーテンを閉めた。
いつものように、梨華ちゃんと向かい合って夕食を食べる。
今日のご飯は、オイラが作った。
自信作。自分でも、なかなかウマイと思う。
それでも、彼女は上の空。
箸はあらぬ方向へ動き、空気を掴んでいる。
「ね、ねぇ、梨華ちゃん、どうしたの?」
「…ん?何が?」
「や、なんかさぁ、さっきからぼーっとしてるから…」
「え?そう?別にぼーっとなんかしてないよ」
「そうかなぁ」
「うん、そうだよ。よっすぃが作ってくれた、このコロッケおいしいね」
笑顔を返し、揚げ物を取って頬張る梨華ちゃん。
あたしは、箸を動かす手を止め、その様子を伺う。
うーん、やっぱり、何かおかしい。
ちなみに、それはトンカツだと思う…。
- 175 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時04分10秒
- 「ねぇ、梨華ちゃん、どっか…、具合でも悪いとか?」
「ううん、すごい元気」
そう言いつつ、彼女は空のコップを口元に運び始めた。
「梨華ちゃん?」
「んー?」
「それ、中身入ってないよ」
「…え?あ、あれ?」
気付いて慌てた瞬間、彼女の手からガラスのコップが滑り落ちる。
カツーン、とテーブルに当たって、
コップは床で跳ねた。
「キャ」
「っぶねー」
当たり所がよかったのか、コップは幸い割れなかったらしい。
あたしは、ゴロリと転がったそれを拾い上げ、梨華ちゃんに手渡した。
「あぶないじゃん。怪我したらどーすんの」
「あ…ああ、ごめんね」
「大丈夫?」
「うん」
「ホントに?」
「うん。…たぶん」
何となく、困惑しているように見えるその表情。
梨華ちゃんは、その表情のままあたしをじっと見つめ返す。
- 176 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時05分48秒
- 「あの…、なに?オイラの顔、なんかついてる?」
「ほくろ…」
「げ!?ひっでー!人が気にしてることをぉ!」
「ん、ごめん」
彼女の口元がクスっと笑って、
それから、あたしの頬にその唇が降った。
チュっと、耳のすぐ近くで音がして、同時に、顔中の血管がぶわっと広がる。
「な、な、なに、何して…」
「うーん、なんとなく?」
梨華ちゃんは、少し眉を上げて、首を傾げた。
か、かわいい。
やばい、そーゆーのは、ちょっと反則…。
あたしは、反射的に視線をずらす。
- 177 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時07分09秒
- 「なんか、さ、どうしたの?いきなり」
照れ笑いを浮かべつつ、おどけてみると、
梨華ちゃんは、少し間をおいて、あたしの肩に額をくっつけて来た。
「あたし、どうしたらいいのか…、わかんない」
「何が?」
「…よっすぃーはさ、なんで、あたしのこと、好きになったの?」
「ん?え?」
「あたし、よっすぃーに好きになってもらう資格、ないよ」
「資格?」
「そう…。資格」
「資格なんて要るの?人を好きになるのに、いちいち試験とかあっちゃたまんないんだけど」
「試験は、苦手?」
「うん」
「そう」
「で、梨華ちゃん?」
「ん?」
「何、してるの?」
「何って…」
キョトンとした顔で、こちらを見上げる彼女。
その手は、あたしのシャツの、一番上のボタンにかかっている。
- 178 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時08分35秒
- …ん?
頭の上にクエスチョンマークの浮かぶ。
それを気にする様子もなく、
彼女の小さくて細い指先は、ゆっくり、一つずつ、ボタンを外していく。
胸元が、なんとなく落ち着かない。
けど、一体何が起こっているのかも、よくわからない。
あたしは、ただ呆然と、滑らかな手の動きを見下ろしていた。
彼女の手は、四つ目のボタンに掛かる。
親指と人差し指が器用に動いて、シャツが、するりとはだける。
そこで、
ようやくあたしは我にかえった。
「わ!ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
慌てて後ずさって、
「な、な、な、何を!」
搾り出した声は、情けないくらいに震えている。
- 179 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時09分37秒
- 目を見開いたあたしに対し、
彼女は、眉間に少し皺を寄せ、縋るような表情を返した。
「…よっすぃ、やっぱり、ダメかな」
「い、いや、ダメじゃないけどさ、でも…」
「でも?」
「あー、えーっと、ほら、こう、もっと、お互いの事をよく知ってから…」
一体、あたしは何を言っているのか…。
これじゃ、一人で『昭和』だ。
「だって、わからなくなるカラ」
「え?」
「不安…なの」
梨華ちゃんは、目を伏せる。
「よっすぃーといるとね、すごい、ドキドキ…する」
「あ…」
胸がいっぱいになって、言葉が喉につっかえる。
恋の矢が、心臓を貫いた気がした。
甘く、疼く傷。
あたしは、今、多分、梨華ちゃんの二倍くらいはドキドキしてる。
- 180 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時10分29秒
- 「でもね、わかんない。それは、よっすぃに対してなのか、それとも…」
彼女が言わんとすることは、すぐにわかった。
あたしに重ねた、あの人。
あの人と重ねた、あたし。
でも…。
- 181 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時11分04秒
- 「だから、繋ぎ止めておいて欲しいっていうか…、なんて言うか…」
「梨華ちゃん…」
「いっそのこと…ね、がんじがらめに、縛り付けておいて欲しいって言うか…」
「梨華ちゃん、あのね…」
「だか…ら…」
声が途切れる。
彼女の頬に、水滴が伝うのが見えた。
あたしは手を伸ばして、それを親指で拭う。
それから、下を向いた彼女の顔を覗き込んで、微笑んだ。
「あはは。あいにくね、あたし、SMのシュミはねーし」
「な!?違っ」
慌てて顔を上げた彼女の頬が、真っ赤になる。
あのね…、
言われなくても、放したり、しないよ。
放したり、するわけないじゃん。
- 182 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月13日(日)22時12分03秒
- 「手ぇ、貸して」
返事を待たずに、あたしは、彼女の左手を取った。
手首の傷を見られたくないのか、彼女は躊躇うように少し身体を固くする。
「大丈夫」
一声掛けて、小さな手の薬指に、そっと口付けた。
「よっすぃ…?」
「約束する。だから、あたしの方を、向いてて欲しいんだ」
ごめんね、梨華ちゃん。
あたしは、そんなに準備のいい方じゃないし、用意周到でも、ないからさ。
指輪は、ないんだよ。
それに、恥ずかしいからさ、これで、精一杯。
甘く縛る鎖を、キミに…。
なんて、ちょっぴりクサイかな。
うん、絶対クサイ。うん。
だってさ、自分でもわかる。
バカみたいに、顔が真っ赤になってるのが、…ね。
- 183 名前:バードメン 投稿日:2002年10月13日(日)22時20分07秒
更新しました。
レスありがとうございます!
>171 オガマー 殿
これからですね、多分。
うーん、でも、どうなんでしょう。
辻褄合い始めるのは、もう少し先ですねぇ。
>172 名無し 殿
あまりポエミー過ぎるのもどうなのかなぁ、などと、
結構不安だったりもします。
なので、そう言って頂けると嬉しいです。
青の方は、余ってるものは使ってしまえ的な感じでした、あは。
では、また、次回の更新時に。
- 184 名前:オガマー 投稿日:2002年10月14日(月)00時07分15秒
- 辻褄はまだ合ってないにしても、
めちゃくちゃ萌えますた(w
- 185 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年10月14日(月)01時02分19秒
- うお、遊び呆けていたら更新されてた!
しかし今回の話、ちょいドキドキしてしまいました。
- 186 名前:クロイツ 投稿日:2002年10月14日(月)09時08分16秒
- どうも!!クロイツです!!
ずっと読ませて頂いてたんですが、書き込むのは初めてですね〜!!
このまま密かに応援してるだけにしよーかとも思ってたのですが…とうとう、我慢できなくなってしまいました。
イイ…!!!
すっごく好きです、この作品…!!!
しかも今回のヨッスィーがもう…!!!
石ヲタでなちヲタな私ですが、ヨッスィーにときめきまくってます!!
続き、楽しみにしてますね♪がんばってくださいませ☆
- 187 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月14日(月)10時02分07秒
- くっ、薬指に口付け!
どこをどうしたら、そんなこと、思い浮かぶんですか?
まいったなー、腰がくだけそうになりますた。
- 188 名前:名無し 投稿日:2002年10月14日(月)15時19分26秒
- 石川さんの色々なキズが消えるように
色々なところにキスしちまえヨシオ!!
- 189 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時12分23秒
- あの時のあたしには、彼女が必要で、
ただ、一緒にいることだけが、全てだった。
それが間違いだと知ったのは、もっと、ずっと後のこと。
あの時、
あたしには、もっと他に気付くべきことがあったんだ。
どうして、見えなかったんだろう。
あんなに近くに、
一番近くに、いたはずなのに…。
どうして、気付いてあげられなかったんだろう。
あんなに抱き合って、あんなにキスをして、
何度も、確かめ合ったはずだったのに…。
後悔は雨となって降り注ぎ、大地に落ちる。
河となって流れた時間は、この胸を、いつまでも締め付け続ける。
今も、甘い痛みと、大人になってしまった寂しさを、残したままで…。
- 190 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時13分19秒
- 「寒ぃー」
ゆっくりと息を吐く。
微かな白い霧が鼻先に立ちのぼって、
それから、すっと、空気に混ざっていった。
「今日は結構あったかいよ?天気もいいし、お布団干そうかな」
梨華ちゃんは、微笑みながらカーテンと窓を開け放す。
朝の光が眩しい。
顔をしかめる。
と同時に、冷たい風がひゅうっと吹き込んで来た。
「寒いって!閉めてよ」
「もぉ、よっすぃー。このくらいで寒がってちゃダメだよ。真冬になったらどうするの?」
「なったらなったで考える」
彼女は少し呆れて溜息をつき、「しょーがないなぁ」と窓を閉めた。
- 191 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時13分56秒
- 「梨華ちゃんは、寒くないの?」
「うん」
「すげー。やっぱりホントだったんだぁ」
「何が?」
「色黒の人の方がさ、寒さに強いって聞いたことあんだよね」
「よっすぃ!それひどい!そんなことないもん!」
梨華ちゃんは、頬を膨らませて怒り出す。
「ご、ごめん、ごめんってば。マジでごめん」
布団叩きが飛んで来たので、あたしは慌てて謝った。
じゃれ合って、それからキスをして、
顔を埋めた首筋には、微かなウルトラマリンの香り。
目一杯に吸い込むと、冷たい空気は三十八度、
体温より高く跳ね上がる。
梨華ちゃん。
そう呼んで、好き、と囁けば、
何もかも、うまくいく気が、している。
- 192 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時14分59秒
- 「えーっと…、あれ?…んーっと、おっかしいなぁ」
夕暮れ時の街は、
どこかの家から流れてくるカレーの匂いと、
お母さんと手を繋いで童謡を口ずさむ子供。
そして、ほろ酔い気味に歩くサラリーマンなどなどで、ごったがえしていた。
その道行く人のほとんどが、
けげんそうな顔であたしを見ながら、通り過ぎて行く。
当然だろう。
顔面蒼白で道のド真ん中に突っ立ってるヤツがいたら、
不思議に思うのも無理はない。
しかし、あたしはそれに構わず、ポケットを探る。
ゴソゴソと、探して探して…、
あちこち探ってみるが、やはり目的のものは見つからない。
ジャケット、シャツ、ジーンズ、スニーカーの中から、はては、靴下まで確認した。
だけども、やっぱり…、
「ない…」
ない、ない、ない。
やべー!
やっべーよ!
暑くもないのに、汗がどっと吹き出す。
- 193 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時16分10秒
- ない。
おつかいのメモが…、どこにも、ない…。
しばし呆然。
そして、ハッと我に返り、またポケットを探る。
探したところで、見つかるはずがないのは、もうわかっていた。
しかし、探さずにはいられない。
「梨華ちゃん…」
思わず呟く。
彼女の顔が、ありありと目の前に浮かんで来た。
どうしよう。
絶対……、怒られる。
- 194 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時17分08秒
- 『もぉ!子供じゃないんだから!』
昨日もおつかいと頼まれ、そうやって怒られたばっかりだ。
単純に、アジとサバを間違えて買ってしまっただけだったのに…。
一方的に怒られて、プライドもあったし、ついつい、
『梨華ちゃんが料理すっとどっちでも一緒じゃんか!』
なんて口を滑らせてしまい、ちょっとしたケンカになった。
ちなみに、間違った原因が、
『鯵』と『鯖』の漢字が読めなかったことにあったとは、言えなかった…。
ケンカは、したくない。
怒った彼女は、かなり強情だから。
口をへの字に曲げて、話もしてくれない。
昨日の夜は、一応あたしから謝ったけど、
寝る時背中を向けられてしまい、そぉーとぉー、寂しい思いをした。
寝顔見れねーってのは、結構ヘコむもんなんだよね…。
どうしよう…。
くっそー、多分、どっかでメモ落っことしたんだ。
何を、買ってこなきゃ、いけないんだったっけ?
メモの内容を思い出そうと、頭を抱えてみる。
しかし、何一つ浮かんで来ない。
- 195 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時18分04秒
- うーん…。ダメだ、こりゃ。
ああ、もう、しょーがねー…。とりあえず、行ってみっか。
諦めたあたしは、
「あぁー、もう!」
苦し紛れに舌打ちして、歩き出した。……途端、
ドンっと衝撃。
何かに、思いっきりぶつかった。
「うあっ!」
「うあっ!」
二つ同時に声が上がって、ぱっと左右に別れる。
「何…だよ!」
いってーよ。
文句でも言おうかと顔を上げ、あたしは、障害物の方に目をやる。
「あっ!」
「あっ!」
再び、声が同時に上がった。
障害物、いや…、この人は…、
「うわ、ハチさん!!」
「あぁ?」
障害物ことハチさんは、不機嫌そうに顔をしかめる。
- 196 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時18分56秒
- 「誰だよ、ハチって」
あら?…ハチさんじゃ、なかったっけ?
いや、でも、確かに、あの時路上で歌ってたハチさんだ。
おかしいな。間違えたか?
あたしは、恐る恐るもう一度尋ねる。
「あのー…、ハチさんじゃ、なかったですかねぇ…」
「はぁ?何だよ、それ」
「い、いや…」
「犬?」
「…は?」
「鳩?」
「え?えーっと…?」
「んー…?」
まったく同じように首を傾げて、二人して、キョトンと見つめ合う。
沈黙。
何やら、とっても気まずい。
でもそれは、
ほんの数秒ののちに、ハチさんが吹き出した事によって破られた。
「……ぶっ、あは、はははは、わはは!」
腹を抱えて、豪快に笑うハチさん。
- 197 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時19分32秒
- 何だか理由が曖昧で、あたしは、少し戸惑った。
「あ…れ…?」
「あは、ははは、はは、苦しー、腹いてー」
「あのー…」
「いや、も、ほんと、いい!いいよ!それ、あはは」
肩をバンバン叩かれる。
「あ、あの、痛いデス。やぱ、何か、おかしいですか?」
「わははは、やー、もう、ハチでいいよ、うん。あはは」
「はあ…」
「ハチって…、ぅははは。ちゃん付けとかさ、母さん、なんて、ヘンなあだ名は前にあったけどさぁ」
「え!?子供いるんすか!」
「…ぶっ!違ぇーし!うわっははは、おもしれー。」
ひとしきり笑って、ようやく落ち着いたハチさんは、
目に涙を溜めつつ両手を拝むように合わせ、
「ごめんごめん」といった具合に、ウインクした。
あ、やっぱり何となく…、
この人、いい人な気がする。
あたしは、そのウインクに、親しみを込めた笑顔を返した。
- 198 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時20分13秒
- 「しっかしさぁ…」
ハチさんは、山積みにされているピーマンの袋を手に取って、
「何でまた、スーパー?」
また、戻す。
「や、これには色々とワケがありまして…」
「ふーん…、あ、カレシに手料理?」
「や、あの、微妙デス、そのへんは」
「ふーん」
ホントは、カノジョに無理矢理おつかいに出されたワケだけど…、
『カレシ』と言われたのを、
わざわざ『カノジョ』に訂正するのは、何となく気がひける。
しかも、おつかいに行かされてるってのも、少し、情けない気がした。
- 199 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時20分49秒
- 「でさ、何買うの?」
「さ、さあ、何でしょう…」
「はあ?」
「あ、いや、その…、あっ、じゃあコレ買います」
「春菊?」
「まあ…」
「で、あとは?」
「えーっと…」
「何?」
「あー…、じゃ、コレを…」
「トマト?」
「そう見えマスね…」
「他には?」
「じゃ、じゃあ、コレにしようかな、と…」
「牛乳?」
「ですね…」
「何作るの?」
「さあ…、何でしょう…」
さっきから、ずっとこんな調子。
何やら話が弾んでしまい、「ココで立ち話もなんだから」と、
一緒にスーパーに行く事になってしまったのは、ほとんど奇跡的な成り行きだった。
- 200 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時21分29秒
- スーパーに向かって歩きながら、普通に喋ってる間はよかった。
しかし、スーパーの中に入ってしまうと、
メモをなくしたあたしは、何を買えばいいのか、さっぱりわからなかった。
うろたえてはいけない。そう思い、
とりあえず、目に付いたモノを適当に買い物籠の中に放り込む。
ハチさんは、かっこいい。
素直にそう思えた。
だから、
『実は、おつかいメモをなくして、何買えばいいのかわからないんデス』
そーゆー風に言うのは、ちょっと恥ずかしく思えたわけで…。
- 201 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時22分08秒
- 会計前の烏龍茶を振り回しながら、
「なんかさぁ、おもしろいね」
ハチさんは楽しそうに笑う。
「そうっすか?」
あたしはちっとも楽しくない。
「やー、なんかさ、おもしろいよ、キミ、うん。…あっ、名前なんてーの?」
「吉澤ひとみデース」
「ほお、なるほどね、そっか」
彼女はうんうんと頷き、
「ま、よろしく」
そう言って、あたしの肩をポンポンと叩く。
彼女のショートヘアが、柔らかに揺れた。
あたしはそれを、なぜか、羨ましいと思った。
籠の中には、何やら怪しいラインナップの食材が山積みになっている。
それを横目に見つつ、
あたしはヘンな見栄を張ったことを、なんとなく、後悔した。
- 202 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月15日(火)20時22分55秒
- スーパーの出入り口には、買い物中のご主人様を待つ、子犬がいた。
ハチさんは、それにニッコリ笑いかけた後、
「じゃーな、吉澤」
ヒラヒラ手を振って、くるりとあたしに背を向ける。
歩き出したその背中。
少し足を引き摺っているけど、やはり、かっこいい。
見送って、重いスーパーの袋を持ち直す。
それから、あたしは、ゆっくりと家に向かって歩き出した。
空を見上げると、
今夜の月は、少し、欠けていた。
- 203 名前:バードメン 投稿日:2002年10月15日(火)20時32分33秒
更新しました。
レス、ありがとうございます!
>184 オガマー 殿
萌えましたか。嬉しいです。
自分には、あれでもう精一杯です。
いっぱいいっぱいです。
>185 グラスホッパー 殿
ドキドキして頂けるとは、嬉しいです。
当初はどっちかっていうと、ハラハラする感じにするつもりでした。
でも、変えました、ええ。
- 204 名前:バードメン 投稿日:2002年10月15日(火)20時33分21秒
- レスの続き。
>186 クロイツ 殿
では、はじめまして、とごあいさつを。
吉澤さんにときめいてるんですかぁ。よかったです。
しかしながら、
これからカッコ悪くなる可能性もないわけではないので…。
>187 ひとみんこ 殿
いや、あの、その、あまり深く考えてなかったです。
なんとなく、です。なんとなく。
>188 名無し 殿
これから、どうなるか、ですねぇ。
石川さんのキズ、一体、どうなってしまうでしょうか。
では、次回の更新時にお会いしましょう。
- 205 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月15日(火)21時40分41秒
- いえいえ、キスでエンゲージなんて普通出てきません。
買い物でドジをして梨華ちゃんにボロクソに言われてる
よっすぃ〜に萌え萌えです。
- 206 名前:酔っ払い 投稿日:2002年10月16日(水)08時22分39秒
- おつかい吉子かわええ〜
ところで晩ご飯何食べたんだろうw
- 207 名前:名無し 投稿日:2002年10月16日(水)17時52分48秒
- よっすぃーと石川さんの日常的な幸せを見せ付けられる(w更新かと思ったら
キラーパスを出してくる作者さんが素敵!!
そういえば自分の山形県出身の友達も色黒です。
- 208 名前:クロイツ 投稿日:2002年10月16日(水)22時01分16秒
- 大丈夫です!!かっこ悪い吉澤さんにもときめきそうですから!!
つーか私、石ヲタなんですがね…。もちろん、梨華ちゃんにもときめきまくってます!!
今回、ハチさんとのやりとりがすごい好きです。
そしてヘンな見栄を張った吉澤さんが可愛くてもー!!
続き、楽しみにしてます!!
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月18日(金)21時01分45秒
- うわっ…
おおおおおおもしろひ……
今まで見逃していたことを恥じるです。
- 210 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)22時59分23秒
- イチイさんとやらは、花をくれるそうだ。
イチイさんとやらは、「ありがとう」を大切にする人らしい。
イチイさんとやらには、夢があったという。
イチイさんはロミオ役で、梨華ちゃんはジュリエット。
さて、あたしには、何の役ができるだろう。
舞台に立つには、何かが…、いや、
何もかもが、足りない。
大きな劇場。
音響に細心の注意を払ったであろうその天井は、
高く、そして、芸術的に美しい。
あたしは、その観客席に、佇んでいた。
自分以外にその場にいるのは、舞台上のロミオとジュリエットだけ。
スポットライトが、舞台を照らす。
青から赤へ。
変化する照明が眩しい。
どこか幻想的で、どこかが現実的。
- 211 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時00分02秒
- 『あなたは、ロミオではなかった』
『キミは、ジュリエットではなくなった』
舞台の二人は、壊れたぜんまい式のロボットのように、同じ台詞を繰り返している。
何かがおかしいそのやり取りには、効果音はない。
スピーカーから直接耳元に響く声は、どこまでも反響する。
まるで、
他人を遮断している二人だけの世界を、外側から、覗き見ている気分だった。
割り込む隙は、入り込む隙間は、あるのだろうか。
運命、あらすじ、起承転結…、
全てが、二人に味方しているように見えた。
嫉妬に狂ったあたしは、舞台に駆け上る。
いつの間にか、握り締めていたピストル。
その銃口をロミオの眉間に、ゆっくり突きつける。
それから目を閉じ、
手にぐっと力を込め、引き金を、引く。
『ガチン』
鈍めの金属音。
微かな振動。
手の中のリボルバーには、弾が、入っていない。
ひどい無力感に襲われ、吐き気さえ込み上げる。
あたしは力と気力を地面から抜き取られたみたいに、呆然とした。
何も、考えられなかった。
- 212 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時00分52秒
- すると突然、頭の上で、衝撃音がした。
爆発でも起こったのかと思えるほどの、大きな大きな音。
そのすぐ後に、連続して、
アルミニウム缶が、ぐしゃりとひしゃげる時のような、妙な音。
さらに、ガラスの弾けて砕ける音が、耳に飛び込む。
顔を上げると…、
スパンコール、スターダスト、散らばったダイヤモンド。
何かが、照明に照らされ、キラキラ光って落ちた。
我に返って前を見ると、そこにいるはずのロミオは、跡形もなく、消え失せている。
不思議に思い辺りを見回すと、
悲しげに微笑むロミオが、いつの間にか、観客席で手を振っていた。
ジュリエットは、観客席の様子を無表情に見つめ、
そしてそのまま、黙って、舞台から降りて行った…。
「ま、待って!…待って!…」
背中を追いかけ、必死に訴える。
でも、声が実際に出ているのかどうかは、わからない。
『そして、誰もいなくなった…』
幕が下りる。
拍手は聞こえない。
壊れて終わる、ロミオとジュリエットの、お芝居。
- 213 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時01分54秒
- そんな夢を見て、飛び起きた、朝…。
「…っが!」
バッと跳ねて上体を起こす。
心臓が、破れそうなほどの音を立てていた。
一瞬、ココがどこなのかわからなくなって、パニックに陥りそうになる。
どこだ?なんだ?だれだ?あれは夢?あたしはどこに?
冷や汗で張り付いた前髪が、気持ち悪くて仕方がない。
「んー…?よっすぃ…?」
隣りの布団から、寝ぼけた声がする。
「あっ、ごめ…。起こしちゃった?」
「寝相ぉ…、悪いねぇ…。それに…魘されてたよ?」
間延びした声で言いながら、目をごしごし擦る梨華ちゃん。
その前髪は跳ねていて、サイドの毛先はあちこちへ散っている。
- 214 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時02分31秒
- 寝癖頭の彼女に、かわいい、と笑うと、
不思議そうにこちらを覗き込んだ来た瞳が、ほんの少し沈んだ。
「よっすぃ、大丈夫?」
「え…?」
「顔色、あんまりよくない…」
「そう?んなことないよ。へーき」
「そう…。なら、いいけど」
そう言った彼女は一度俯き、しばしの間の後、でも、と言いながら、
あたしの頬に触れる。
心配してるんだろう。
「ダイジョウブだよ」
歯を見せて、ニッとやる。
「でも、なんか、いっつも無理してるように見えるから…」
「そんなことないよ。ちょっと、ヤな夢見ちゃってさ」
「怖い夢?」
「ん、そんな感じ。でも、ただの夢だから」
そう、あんなモンは、夢だ。
顔を洗って、歯を磨いて、新しい服に着替えれば、それでいい。
朝日は、すでに昇っている。
- 215 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時03分16秒
- 「♪大丈夫きっとー大丈夫ぅ」
教科書なんか入っちゃいない空っぽの鞄が、ブンブンと空中に舞っている。
鞄を振り回すごっちんの鼻歌は、珍しく調子っ外れだった。
ちょい後ろから追いかけて来るそれを聴きながら、学校へ向かう。
あたしの足取りは、少し重い。
「吉子!危ない!」
「え?」
振り向いたと同時に、側頭部が電柱と正面衝突する。
ゴーン。
鈍く頭に反響して、目の前に星が散った。
「いってっー…」
吐き出すように言って蹲ると、ごっちんは慌てて駆け寄って来た。
「ちょ、ちょっと吉子、大丈夫?」
「ん、あぁ、全然大丈夫、イッツイージー、イエイ」
「ねぇ…、アタマ、大丈夫?」
「あのね、どういう意味?」
ごっちんは「あはは」と笑って、また、鞄を振り回す。
- 216 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時04分23秒
- 「んあー、いい天気ぃ」
ニコニコ顔で空を見上げた彼女は、とってもご機嫌らしい。
ホント、珍しいこともあるもんだ。
この分だと、天気は下り坂だな。
ね、九月生まれの愛想なし。
前を向いて歩き出した瞬間、
振り回したごっちんの軽い鞄が、すっとあたしを追い越して、前方へ飛んで行った。
ごっちんは慌てる様子もなく、それを拾って、
「んーほんと、いい日だぁ。サボってどっか行く?」
悪戯っぽく笑う。
「あのね…」
もっとマジメに…、
言いかけて、止めた。
あまり人のことは言えない。
- 217 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時05分07秒
- 「ねぇごっちん、なんかイイことあったのぉ?もしや、コレ?それともコレ?やるねー」
からかうつもりで、親指と小指を交互に立てたあたしの質問。
彼女からは、即、嬉しそうに大きく弾む声が返ってくる。
「あはっ、違うよっ!もっと嬉しいことだよ!いちーちゃんとね、連絡取れた!」
「イチ…ィ…。あー…、そう」
あたしの声は、二日たった風船のようにしぼんでいく。
「どうしたの?」
「別に」
あまり、関わりたくない。
本音はそれだけど…。
「よかったね、ごっちん」
仕方なしに、でも優しく、ポンポン、と彼女の肩を叩いた。
「うん!」
とびっきりの笑顔で頷いた彼女は、さらにそぉとぉー嬉しそうに、はしゃぐ。
- 218 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時06分21秒
- 「会えるのホント久しぶりなんだよねー。一年ぶり…ううん、もっとかなぁ。楽しみぃ」
「ふーん」
適当に相槌を打つ。
テンションの違いは、仕方がない。
「いちーちゃん、海外に行っててね」
「そう」
「事故に遭ったあとに、会ったのが、最後だったかなぁ。マジで死ぬ程心配で…」
「事故?」
「そ。いちーちゃんはねぇ、スーパーマンみたいな人なんだよぉ」
「は?スーパーマン?」
「あ、間違えた。ウーマンなんだけどさ」
「いや、そこはどっちでもいいんだけど…。事故って?」
「うーんとね、起死回生?うーん、なんだろ、奇跡の生還?」
「は?」
「うーん、三途の川を渡りかけて、戻って来たって、言ってた、いちーちゃん」
「それ…って…?」
うん、と一つ頷き、「あのね…」と話し始めた彼女の表情に、
そこでやっと、本日初めての、翳りが見えた。
あたしは、これから聞く話の内容を予想しつつ、
ごくりと、唾を飲み込んだ…。
- 219 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時07分02秒
- イチイサヤカには、夢があったという。
『ウタを歌いたい。人の心を包み込むようなウタを創る、シンガーソングライターになる』
『ウタを歌いたい。自分の心を納得させる事の出来る、プロの歌を歌う』
そして、イチイサヤカは、海外へ旅立った。
運命の悪戯は、そこで訪れる。
それは、ある意味、ありふれた事故だった。
そして、ある意味、奇跡的な事故だった。
とてもとても悲しいすれ違いを生む、きっかけでもあった。
- 220 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月18日(金)23時08分08秒
- 「交通事故?」
「そう」
ごっちんが俯くと同時に、彼女の髪はさらりと顔にかかる。
彼女はそれを自然な仕草で、ゆっくりと耳に掛けた。
「命はね、とりとめた。医者に言わせると、奇跡なんだって。けど…」
「…けど?」
「いちーちゃんの足は、動かなくなった。それに、連絡が遅れて…、ごとー達は…」
言葉を切り、間を置いて、ゆっくり息を吐くごっちん。
つらい出来事だったのだろう。
思い出すのを躊躇うかのように、少し、間を置く。
それから…、
「いちーちゃんは、死んだと思ってた」
ほんの少し、唇を噛んだ。
- 221 名前:バードメン 投稿日:2002年10月18日(金)23時18分53秒
更新しました。
やっと、話が動き始めたような気はしてます。
レス、ありがとうございます。
>205 ひとみんこ 殿
あの、いや、本当にですね、私はたいした事ない奴ですから、ええ。
そんな事はないんですよ。
>206 酔っ払い 殿
晩御飯は、春菊のトマトソース和えミルク風味…とかでしょうか。
いえ、多分、
ごった煮あたりが妥当ではないかと。
- 222 名前:バードメン 投稿日:2002年10月18日(金)23時19分43秒
- レスの続きです。
>207 名無し 殿
そうですかぁ。やはり、色黒の人は寒さに強かったりするんですかねぇ。
自分のキラーパスは、
全然違う方向に飛んで行ってオフサイド、とかが、似合いそうな気がします。
>208 クロイツ 殿
や、あの、その、期待されたり楽しみにして頂ける価値は、
あまりないかもしれません。
ですが、嬉しいです。
>209 名無し読者 殿
発見して頂き、
そして読んで頂き、嬉しいです。
ありがとうございますです。
では、また次回の更新時に、お会いしましょう。
- 223 名前:オガマー 投稿日:2002年10月19日(土)03時18分51秒
- ぬぉぉ…
ついに真相が小出しに…
ごっちんの髪の表現がなんかグッときた。
- 224 名前:名無し 投稿日:2002年10月19日(土)18時17分01秒
- うゎあ〜何だこの展開は!!
すげぇドキドキしてきた。
更新超期待、頑張って下さい。
- 225 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年10月20日(日)00時08分02秒
- おお、いったいどーなるんだ。
滅茶苦茶先が気になる!
- 226 名前:クロイツ 投稿日:2002年10月21日(月)22時30分41秒
- どきどきしながら読みました!!
どーなっちゃうんでしょう…!!どきどきわくわくっ!!
いつもいつも、楽しませて頂いております。
続き、すっごい楽しみです♪
- 227 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時31分46秒
- 「どういうこと?」
「うん、あのね…」
ごっちんは、躊躇いがちに一つ頷き、
まるで独り言のように、脈絡なくボソボソと喋り出す。
「いちーちゃんはね、こう、なんていうか、上昇志向?強かったっていうか、
ま、自分でも冗談半分言ってたんだけど…。そんで…」
夢を叶えるには、まだまだ勉強が足りないって、
プッチ辞めて、一人で海外に旅立って行ったんだよね。
一年…半くらい前だから、吉子が転校してくる前になるね。
プッチモニから抜けたのは、別に裏切りとかそんなんじゃ全然なくて。
いちーちゃんの夢とか、やりたい事は知ってたし、
いちーちゃんのためにはその方がいいって、ごとーも圭ちゃんも思ったから、
快く送り出してあげたんだけど…、あ、そういえば、梨華ちゃんは反対してたな。
あっ、梨華ちゃんって、いちーちゃんの彼女サンな人なんだけどね…。
- 228 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時33分07秒
- 向こうに行ってすぐだったかな。
いちーちゃんが、車に撥ねられて、重体って…、知らせが入って。
ドライバーの人はさ、泥酔してたんだって。
ひどいよね。
それで、
呼吸停止、心停止のとこまでいって、ほぼ助かる見込みはないっていう話だった。
助かったことは、ほとんど奇跡で…。そんで、
なんて言うか、
やっぱり海外と日本だったからね、情報と状況にすれ違いがあってね。
いちーちゃん、向こうに行ったばっかりだったから、
まだ連絡先とかもはっきりしてない状態だったし。
伝言ゲームと同じ感じかな。子供の頃とか、やらなかった?
その伝言ゲームみたいに…、
なんでだろ。
伝わるうちに、どこかで情報がすりかわった。
いちーちゃんは、亡くなったって。
そーゆー風に、なっちゃって、
それ、皆信じちゃってさ、泣いて泣いて。
- 229 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時34分25秒
- 不思議だよね、
ちょっとの間違いで、
人間関係もすれ違っちゃった。
そして、いちーちゃんと梨華ちゃんも…。
死んだと思ってたいちーちゃんが、生きてるって、聞いた時は、
嬉しいっていうより、
もう、ホント、すんごいびっくりした。
幽霊んなって、帰って来たのかな、とか、
本気でそこまで考えたよ。
神様が仕組んだ伝言ゲームなんだとしたら、運命ってすごく残酷だよね。
そのせいで……り…、ううん。
でも、それは、
『奇跡』ってやつの代償だったのかもしれないなぁ、って、
今はそういう風に思うようにしてる。
そういう風に思わないと、やってらんないから。
代償なんて…、そんな言い方は、あんまりしたくないんだけど…。
そうしないと、
皆、壊れそうだったから。
特に、いちーちゃんの荒れ方は、ちょっとひどかったし…、ね。
- 230 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時35分06秒
- 言いながら、首を傾けたごっちん。
サイドの髪は、また、さらりと落ちた。
彼女は、少し神経質に髪をかきあげ、話を続ける。
「それで、すごく、ゴチャゴチャしちゃって…。すごく、色々あって…
いちーちゃん、一旦日本に戻って来たんだけど…、
うん、でも、それはほんの少しの間で…
向こうにはすごい技術持った医者もいるし、
足の治療と、それと、音楽の勉強もまだ足んないって、
また海外に戻って行ったんだ。
別の願いが出来たからって…、いちーちゃん、そう言ってたっけ。
あんなにヒドイ目にあったのに…、いちーちゃんは、やっぱすごかったな」
- 231 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時35分55秒
- ごっちんが、次々と言葉を紡いでいくほど、
黙って聞いていたあたしの口は、ポカンと開いていく。
一つ一つの単語や言葉が、耳へ入って来ては、出て行く。
あたしは必死に、その収納場所を探す。
それでも、右耳から左に流れ、そしてまた右へ。
幾重にも重なって、ぐるぐる回っては流れる。
- 232 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時36分47秒
- 夢を追いかけて、一人旅立ったイチイさん。
誰かの想いより、夢を選んだイチイさん。
誰かの想いを、無視したイチイさん。
無視したのは、きっと、梨華ちゃんから贈られた想い。
不慮の事故。
彼女は生死の境を彷徨い、何かを失って、何かを手に入れた。
彼女が失ったのは、梨華ちゃん
彼女が手に入れたのは、新しい夢。
二人の間に生まれた、すれ違い。
梨華ちゃんの手首のキズ。
回る。全ての事が、ぐるぐるぐるぐる。
『梨華ちゃんは、イチイさんの前から、いなくなった』
『リストカット』
『ロミオとジュリエット』
- 233 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時37分35秒
- 何となく、理解できた。
直感だ。
あのキズは、愛の誓いだったんだろう。
イチイさんは、死んだはずだった。
少なくとも、梨華ちゃんは、そう思っていた。
イチイさんが助かったことは、奇跡。
運命の悪戯。
バラバラに散らばっていく、
単語、言葉、ヒント、キーワード、クロスワード、
イチイさん、梨華ちゃん、イチイさん、梨華ちゃん…。
点を線で繋いで、
ムリヤリ拾い集めて、方程式に当てはめる。
数学が苦手なあたしにしては珍しく、答えは、スムーズに導き出された。
- 234 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時38分05秒
- エックス、イコールは…、
恐らく、
『梨華ちゃんは、
イチイさんの後を追い掛けようと、自ら、手首を切った。
多分、彼女は…、死ぬことを望んでいた』
「そ…ん……な…」
搾り出した声が、喉元で引っかかって、逆流しかける。
「吉子…?どうしたの?」
ごっちんの気遣いの声は、急に遠くなった。
膝が、
身体が、地面までもが、ガクガクと揺れている。
力が、入らない。
いつの間にか握り締めていた掌。
指を一本一本、ゆっくり開いてみる。
ブルブルと震えるその手を、あたしは、呆然と見下ろしていた。
息が、苦しい。
吐き気がする。
イヤな予感がする。
胸騒ぎがする。
- 235 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時38分56秒
- あたし、どうしちゃったんだろう。
怒り?恐怖?それとも、嫉妬?
奥底からわき上がる、この気持ちは、何だろう。
一体、何だろう。
ショック…というのかな。
薄々は、わかっていたけど…、
梨華ちゃんがどれほどイチイさんのことを愛していたのか、
見せつけられたような気分だ。
梨華ちゃんは、
悲しみ、苦しみ、全てを背負い、全てに絶望して、
流れる血と切り裂いた皮膚という、十字架を刻み付けた。
でも、イチイさんは、生きていた。
死んだはずのイチイさんは、本当は生きていた。
そこに、すれ違いと溝が出来た。
- 236 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時40分05秒
- 大好きな映画の、ラストシーン。
擦れ違いと誤解の末に、死を選んだ、ロミオとジュリエット。
二人は、それでも幸せだったんだろう。
永遠の愛を誓い、
ずっと二人一緒にいることのできる、永遠の眠りについた。
二人は、幸せだった。
擦れ違った、イチイさんと梨華ちゃん。
具体的なことは、もうよく分からない。
けど、梨華ちゃんは、苦しんでる。
二人は、ロミオでも、ジュリエットでも、ない。
そう。違う。
- 237 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時40分37秒
- 「ごっちん、イチイさんと、会うの?」
「ん?うん。今度の土曜に軽く飲もうかって…」
「そっか。じゃ、会えるんだね、イチイさんと」
「どうしたの?急に」
ごっちんは、キョトンとして、不思議そうに覗き込んで来る。
「会ってみたいんだ。ちょっとさ…、言いたいことも、あるし」
「言いたいこと?何を?」
「ちょっと、ね」
「ふーん。ま、いいんじゃない?吉子も誘おうかって、圭ちゃんとも言ってたんだよね」
「そっか。なら、ちょうどいいね」
「そだね」
ごっちんは目を細めて笑う。
「なんかさぁ、新旧プッチモニ集合、って感じじゃない?いいかもねー」
新旧…ね。
その部分が、やけに、苦しかった。
- 238 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時42分48秒
- それから、数日間、あたしは一体何をして過ごしたのか、
ほとんど記憶がない。
おとといの昼御飯は何を食べたっけ?
昨日見たドラマは、どういうストーリーだったんだろう。
思い出せない。
ブラックアウトと同じ感じだろうか。
梨華ちゃんと見た空が青かったこと。
梨華ちゃんの膝枕で眠ったこと。
それから、
彼女の冷たい指先を、両手で包んで暖めてあげたこと。
覚えているのは、多分、それくらい。
梨華ちゃんと、一緒にいたこと。
覚えているのは、多分、それだけ。
- 239 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時43分40秒
- 欠落していった部分は、きっと、どうでもいいことなんだろう。
どうでもいい事が、どうでもいいがゆえに、
どうでもいい記憶として、処理され消去される。
アルコールやアップジョンなんかより、ずっとひどい中毒だ。
あたしにとって、梨華ちゃん以外の事は、すでに雑音でしかないのだろう。
- 240 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時44分17秒
- 星の点がパラパラと散るダークグレーの空に、
針で引っ掻いたような、細い細い三日月が浮かんでいる。
雲の流れは早い。
隠れては顔を出し、顔を出してはまた隠れる。
『もういいかい』
『まぁだだよ』
かくれんぼを繰り返す今夜の月は、
ほんの少し赤みがかっていて、なぜか異常なほど鮮やかだった。
寒気がひどい。
全身が、ガタガタと音を立てて震えている。
風邪を、引いたのかもしれない。
- 241 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時46分21秒
- あたしは待ち合わせ場所へと歩きながら、
パーカーのポケットに手を差し入れる。
ポケットの中にはビスケットが……、いやいや、
てのひらサイズの紙箱が入っている。
それをゆっくり取り出す。
端の方が少しヘコんでいる、マルボロの箱。
随分前に、圭ちゃんがうちに忘れて行ったものだ。
『今度会った時に渡そう』などと思いつつ、あたしもずっと忘れていたもの。
十三本中身の残るそれを、なんとなく引き出しの奥から持ち出して来た。
一体、あたしは、何を考えてコレを持ち出したんだろう。
とりあえず、一本取り出してくわえる。
そういえば、コレ、いつのなんだろ。
タバコって、賞味期限あったかな…。
火を点けようとしてふと考え、やっぱりやめた。
寒さに震える冷えた手で、箱を握り潰す。
- 242 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時46分57秒
- 興味本位で吸ってみて、思いっきりむせて、
「ガキ」と冷やかすように笑われたのは、いつのことだっただろう。
中学生くらいだったかな。
別に、どうでもいいんだけど。
あたしは、もっと、大人になりたい。
おかしな嫉妬や、やりきれない気持ちに振り回されることのない、
かっこいい大人になりたい。
いきなりなるのは無理だけど。
それから、もし願いが叶うとしたら、子供の頃に戻りたい。
好きなものは好き。
ワガママ言って駄々をこねて、欲求に対して正直に振舞えていた、
子供の時のように、素直になりたい。
どんなに願っても無駄だけど。
- 243 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時48分26秒
- どうしようもない事、やりきれない事は、確かに存在する。
あたしは、地面を蹴って走った。
タバコと矛盾を、コンビニ前のゴミ箱に、突っ込んで…。
どうしてあたしは、こうも中途半端なんだろう。
今夜、家に帰ったら、少しくだらない話をして、
それから、彼女を抱こうか。
そんな事を、考えてみたりした。
- 244 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時49分15秒
- 「いらっしゃいませ!」
店に入るとすぐに、やけに元気な歓迎の声が飛んで来る。
呼び出された居酒屋は比較的空いていて、先に来ているはずの三人は、すぐに見つかった。
「吉子ー!こっちこっち。ここ」
狭い店内の一番奥の席に、手を振るごっちんが見える。
「遅いよ。もう先に飲んでるよ?」
続いて圭ちゃんが、ジョッキをこちらに見せる。
近づいていくと、もう一つの人影が見え…。
「…え?」
これは、誰?
思わず、何度も目を擦った。
まさか…。
こんな馬鹿げた偶然、あっていいのかよ。
- 245 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時49分55秒
- 驚いた。
とにかく驚いた。
あまりに驚きすぎて…、
まばたきするのを忘れた。
息を吸う事も、吐く事も、忘れた。
何もかも、忘れそうになった。
「いちーちゃんだよ」、と紹介され、
目が合った瞬間、頭の中が、真っ白になった。
「吉澤って、やっぱあんただったのかぁ」
そう言って微笑んだ『イチイ』さんの印象は、
あたしが想像していたものとは、随分違っていた。
だって、この人は…。
そう。
見覚えのある、活発な印象のショートヘアと、魅力的で大きい瞳。
この人が…、
「市井…さん…?」
「ははっ。市井さん、じゃなくて、ハチでいいよ」
三度目の再会。
ハチさん、
いや、
イチイさん。
- 246 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時51分45秒
- 三度目の正直は、あたしの頭を痺れさせた。
自分ではない誰かの声が、耳の奥で聞こえる。
これは、誰?
これが、イチイさん。
イチイさんハチさんイチイさんハチさんイチイさんイチイさん……市井さん。
「吉子?どしたの?口開いてるよ?」
呆然としているあたしの目の前で、ごっちんが手を振る。
「ってか、サヤカと吉澤って知り合いだったの?知らなかったよ」
「はは。かわいいかったからこないだナンパした。なんてね」
オーバーな動作で冗談を言って、市井さんは、テーブル上のグラスを取る。
突然、感情がドっと流れ出してきて、止まらなくなった。
苛立ちと、ドス黒いコールータールが、心を覆っていく。
- 247 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時52分20秒
- この人は、なんで、笑っているんだろう。
梨華ちゃんはあんなに苦しんでいたのに、
どうしてこの人は何事もなかったかのように、アルコールを口に運んでいるんだろう。
イライラする。
すごくイライラする。
感情の波はどんどんささくれ立って、そして、針のように尖っていく。
その中には、確実に嫉妬も混ざっているだろう。
ウンザリするほど情けない浮き沈みを繰り返すあたしより、
市井さんの方が、かっこよく見えるから。
梨華ちゃんは、市井さんと一緒にいたほうが、幸せになれるかもしれない、
そんな事まで、思い浮かんだから。
- 248 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時53分25秒
- あたしは歩み寄って、市井さんの胸倉を掴んだ。
不意をつかれた彼女の身体は、引っ張られて仰け反る。
手に持たれていたグラスが落ちる軌道が、はっきり見えた。
まるで、スローモーションのように。
ガラスの破片とアルコールは、乾いた音を立てて飛び散る。
「な…」
「あんた、こんなとこで、何してんの?」
至近距離で睨みつけ、放った言葉は、自分でも驚くほど冷たい響きを持っていた。
「何が…?」
「どうして、迎えに行かないんだよ!」
そのまま、シャツごと身体ごと、力一杯揺さぶる。
「どうして、どうして…なんだよ」
「な、何…言って…」
「なんで、苦しめるんだよ!!」
ありったけの大声で叫ぶ。
- 249 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時54分21秒
- 店内は、水を打ったように静まり返った。
店員さんや何人かのお客さんは、
「おいおい、酔っ払いの喧嘩か?やめてくれよ」
とでも言いたげに、怪訝な顔でこちらの様子を伺っている。
圭ちゃんもごっちんも、市井さんでさえも、
ポカンと口を開け、目を見開いたまま、激高したあたしを見つめている。
何が起こっているのか、よくわからないといった感じだ。
そもそも、あたし自身も、何をしているのか、よくわからない。
- 250 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時55分06秒
- 「アンタ、ちょっと、いきなり何してんの!手、離せって、吉澤!」
一番先に我に返った圭ちゃんが、慌てて止めに入る。
「…っ…るせーよ!!もー、わけわかんねーよ!」
「何言ってんの!わけわかんないのはアンタでしょ!!離せって!」
「どうして、あんたが、市井さんなんだよ…」
「え?」
「なんで、梨華ちゃんを、守ってやらなかったんだよ」
「梨華ちゃん…って…?」
市井さんの顔は、凍りついた。
いや、市井さんだけじゃない。圭ちゃんもごっちんも…。
その場の空気が、一瞬にして凍りついた。
- 251 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時55分45秒
- 「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて。あのさ、何言ってるのか、わかんないんだけど」
取り繕うように少し微笑んで、市井さんはあたしをなだめる。
「わからないはずない!」
言葉は、口から飛び出すほどに、高く激しくなる。
「あんたのだろ!」
「何が…」
「梨華ちゃんだよ!あんたの、だったんだろ!」
市井さんは驚いたように目を見開き、
「ねぇ、まさかとは思うけど、石川…梨華…?」
それから、勘ぐるように眉をひそめた。
- 252 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年10月25日(金)18時56分27秒
- 「当たり前だろ!!他に誰かいんだよ!!り…」
「待って、吉子」
あたしの口を塞いで、唐突に、ごっちんが割って入ってくる。
「ちょっと待ってよ。っていうか、なんで、吉子が梨華ちゃんのこと、知ってんの?」
「何でって…。あたしの好きな人なんだよ。彼女なんだよ」
「はあ?あのさ、人違いじゃ、ないの?」
「何でだよ。そんなはずない」
「いや、でも…」
三人は互いに顔を見合わせて、口篭もる。
「何?」
「いや…。まさか…ねぇ」
「なんだよ!はっきり言えよ!」
「とりあえず、その手、離しなさいよ」
圭ちゃんがあたしの手首を掴んで、市井さんから引き剥がした。
「あの、何怒ってるのか知らないけどさ、多分人違いだよ」
市井さんは、困ったような顔をして、乱れた襟元を直す。
それから、
「だって、石川は、もういないから」
目を伏せて、呟いた。
- 253 名前:バードメン 投稿日:2002年10月25日(金)19時09分27秒
更新しました。
少々考えるところがありまして、
次の更新が遅くなるかもわからないので、今回は多めの更新です。
>223 オガマー 殿
今回は、かなり大出し気味です。
いかがでしょう。
まだ、もう少しあるんですけどね。
>224 名無し 殿
何でしょうね、この展開は。
えっと、あの、その、期待して頂けるような、
すごいものではないかもしれないので、まったりお待ち下さい、です。
- 254 名前:バードメン 投稿日:2002年10月25日(金)19時10分23秒
- レスの続きです。
>225 グラスホッパー 殿
一体、どうなるんでしょうかねぇ。
自分は、いつになったら終われるのかが、気になってきました。
>226 クロイツ 殿
ありがとうございます。
あの、でも、あの、あんまりドキドキもワクワクも、
期待できないかもしれません。
期待外れなものを書いてしまいそうで、恐ろしいです。
事態は収束に向かってるような気がします。
では、次回の更新時に、お会いしましょう。
- 255 名前:名無し 投稿日:2002年10月25日(金)19時43分35秒
- 面白すぎる・・・
この言葉しか出てこない自分に腹が立ってきます。
作者さんは文章の緩急のつけ方が巧いので一回一回の更新に飽きがきません。
更新お疲れ様でした。次回の更新も楽しみにお待ちしております。
- 256 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月25日(金)20時45分46秒
- んあ!( ´ Д `)!
そーきたか!意表つかれますた。。。
ヲモしろひ。
続きにキターイ(・∀・)
- 257 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月25日(金)22時46分47秒
- Σ(0 ゚ 〜 ゚)〈……まさか
- 258 名前:オガマー 投稿日:2002年10月26日(土)00時51分40秒
- ウソーン!!
…どうなるんだぁー!!!
- 259 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年10月26日(土)02時48分04秒
- うわ・・・・
ほんとに一体どうなるんだろう・・
- 260 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月26日(土)08時35分37秒
- 皆さんが色々レスされているので、あたしゃ言葉がありやせん。
ちょっとだけ想像して見るも、この先の展開、見当もつきません。
- 261 名前:辻斬り 投稿日:2002年10月28日(月)23時51分04秒
- ・・・ずっとROM専に徹するつもりだったのですが、作者さんのパンクな世界観と
まさか・・のラストの予感に思わず飛び出してしまいました。。
再び草葉の陰に潜ってまいります。頑張ってくださりませ。
- 262 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時10分32秒
- 「は?何だって?」
しっかり聞こえてはいた。
けど、意味を理解することが、できなかった。
「何言ってんの?」
もう一度聞き返す。
市井さんは急に真顔になって、ゆっくり口を開く。
「石川は、死んだんだよ。もう、いない」
だから人違いだ、と彼女は続けて、固く唇を結んだ。
「……は?」
言葉が、続かなかった。
死んだ?いない?この人、一体何を言ってるんだろう…。
頭が、急速に混乱していく。
ウンザリするほど不味いオレンジゼリーを、
スプーンでめちゃくちゃに混ぜるイメージ。
テンションは下がり、心拍数は急激に上がる。
- 263 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時12分03秒
- 「吉澤!」
「…え?」
「アンタさ、謝りなさいよ」
圭ちゃんは、呆然としていたあたしの肩を叩いて促す。
「まったくもう」
ごっちんは、勘違いもいい加減にしてよね、と付け加え、やれやれ、と頭を振る。
勘違い?人違い?
いや、そんなこと、絶対にない。
あるはずがない。納得できない。
「待ってよ、。どういうこと?」
周りの客に会釈する市井さんを、もう一度捕まえる。
「吉澤!やめなって!」
慌てて遮る圭ちゃんの声を無視して、市井さんを目をじっと見て訊きなおす。
「どういうことですか?」
「だから…、石川は、もういないんだよ」
市井さんは、苛立ったように少し声を荒げる。
「あたしが、殺したようなもんだ」
「…な、に?」
「だから……」
その後に続いた言葉を、信じたくなかった。
- 264 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時12分55秒
- 耳を塞ぐ。
こめかみを押さえる。
混乱は、激しくなった。
四方八方へ散らばる気持ちを抑えきれず、手近にあった椅子を力任せに蹴っ飛ばす。
バキっと妙な音がして、木製の椅子の足は、無残に折れた。
店員さんが慌てて飛んでくる。
「お、お客さん!困りますよ。喧嘩ならよそでやって下さい!」
「あ、ああ、すいません。弁償します。で、もう、帰りますから。ほら、吉澤」
店員さんに謝りつつ、圭ちゃんは、あたしの袖を掴んで外へ出ようと促す。
その手を振り払い、
「ごめん、帰る」
それだけ告げて、あたしは店の外へと飛び出した。
飲んでもいないのに、足がふらついていた。
もう、耐えられなかった。
複雑に絡んで入り混じる想いで、涙が零れそうだった。
- 265 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時13分50秒
- 「…ただいま」
「おかえり。早かったね」
あたしを部屋に迎え入れてくれた梨華ちゃんの笑みは、
とてもとても暖かくて、ほっと息を吐くと、心は暖色系の光に包まれる。
「よっすぃ、何か、食べる?」
「んー、じゃ、軽いモノとか…。うーん、何でもいいや」
彼女は、わかった、パスタならすぐできるから、と
キッチンへと歩きかけ、なぜか急に立ち止まる。
それから、躊躇ったようにあたしを見た。
「ね…、何か、あった?」
「え?なんで…?」
「なんとなく。顔に書いてある…カナ」
「そう?んー、ちょっとね、悪い夢を見た…ような感じ」
『悪い夢』か…。
口に出してみて、その言葉が持つ響きの馬鹿馬鹿しさに、改めて気が付く。
夢だ、これは夢だ、何かの間違いだ、と、
言い聞かせるために、自分で自分に貼り付ける嘘だ、多分。
- 266 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時14分53秒
- 全ての事柄に目を瞑り、都合の悪いものは踏みつけて、
ひたすら踊り続けることができるなら、どれほど幸せだろう。
星のカケラが頭に落ちて砕けて、弾け飛んでもいいのに。
そうすれば、何も考えなくてすむ。
依存しているというのなら、別にそれでも構わない。
もうどうでもいいかも。
梨華ちゃんが消えた後の世界に、何が残る?
少なくとも、あたしには、何も残らない。
怖い…のかな。
『石川は、自殺したんだよ』
市井さんから聞いた事実を、さっきからずっと頭の中で反芻している。
「あたしのせいだ」と市井さんは言った。
自分のせいだ、自分が夢を追いかける事に酔ったせいだ、と…。
あの人は、散々自分を責めたんだろう。
記憶の断片を丁寧に話すその瞳の奥には、自虐的な傷跡が残っていた。
「あたしの命は、石川からもらったもんだと思うから」
そう言って唇を噛んでいたから、それ以上何も言えなかった。
- 267 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時15分42秒
- やっぱり、人違いなのか?
いや、そうじゃない。
人違いだと、信じこみたいだけ。
一応アルデンテではあるけど、不思議な味のするパスタ。
それを食べた後に胃が痛くなったのは、料理のせいなのか、それとも…。
どっちのせいなのかな。
寝転がって天井を見上げる。
蛍光灯の中を彷徨う、電子と光の粒子が見え……るわけないか。
どうも、落ち着かない。
嫌な予感が、まとわりついて、離れてくれない。
「よっすぃ…」
唐突に、視界に割って入り、あたしを見下ろす梨華ちゃん。
「もしかして、市井さんに、会った?」
「…ぇ?」
ギクリとした。
「な、何で?」
動揺を悟られないよう、
あたしは、慌てて起き上がり、彼女の目を見ないようにした。
- 268 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時16分25秒
- 梨華ちゃんの瞳は、あたしの視線をつかまえようと、追いかけてくる。
「よっすぃー、こっち向いて」
まわり込まれて、ムリヤリに覗き込まれる。
「ねぇ、お願い、よっすぃ。言わなくちゃいけないことがあるの」
「ん、え?何が…?」
「よっすぃ…、あたしね、もうわかってるの」
「だから、何が…」
言いながら、梨華ちゃんの手を握ってみて、ふと、気付く。
これって……。
心臓が、急に、飛び跳ねたように激しい音を奏で始めた。
「…え?」
ありえない、と、思った。
冷たい。
シャレにならない。
まるで、氷のようだ。
暖かさや温もりなど、微塵もない。
生きてる人間の体温じゃ…ない。
そう、思った。
- 269 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時18分13秒
- 驚きで、あたしの呼吸は異常に乱れ始める。
酸素が足りなくなる。
「り…か…ちゃん、これって…」
彼女の唇が「ごめんね」と動いて、それから、すっとあたしの唇に重なる。
冷たい舌が隙間から割り込み、あたしの口内を優しく彷徨った。
「…り……梨華ちゃ…」
「ごめんね…。何から話せば、いいのかな…」
戸惑うあたしの口元に、彼女の囁きがきれぎれに降りかかる。
「…あたしね、感覚がないの、何一つ。何もわからない…」
指を切っても気付かないし、料理の味だってわからない。
ごめんね。あたしの料理、ひどかったよね。
でも、どうしてかな。
よっすぃに触った時だけ、痛い。
よっすぃに触れた時だけ、少し…、少しずつだけど、色んな感覚が、甦る。
前にね、ドアにぶつかっちゃた時あったでしょ?
あれね、すっごくびっくりした。
何でぶつかったのか、何でオデコが痛いのか、わからなかったから。
もしかしたら、神様とか、なんかそーゆーすごい力持った不思議な人が、
『キミはもう少しココにいるべきなんだよ』って、教えくれたのカモ。
- 270 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時19分21秒
- あのね…、あのね…、
市井さんを、責めないであげて。
もう、いいの。
市井さんのことはもういいの。
市井さん、ずっと泣いてた。
あたしに花を供えて、ごめんねって謝って、自分を責めてた。
『あたしは、夢を追いかける自分に酔ってた。あたしのせいだ』って。
でもね、もう、市井さんは、歩き出したの。
自分の力で自分の道を。新しい夢を抱えて。
最初は、それがどうしようもなく寂しくて、つらくて、
あたしは、市井さんのために死んだのに、なんて、
押しつけがましくがましくて、卑屈なことばっかり考えてた。
置いていかれた気がした。
捨てられて、忘れ去られていく気がした。
でもね…、
それは、間違ってたんだよね。わかってる。
苦しかったよ。すごくすごく。
どうすればいいのか、全然わからなくて、混乱してた。
あたしはもう、誰かに依存するのはやめたいの。
気付いたの。人には必ず、『自分』っていう境界線があるって。
誰もあたしの『もの』じゃないし、あたしは、誰かの『もの』じゃない。
- 271 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時20分12秒
- あたし、どうして今ここにいるのか、ホントはよくわからないんだ。
よく、覚えてないし。
あ、ほら、酔っ払ってる時って、
ありえない事とか、どうしてなのか、不思議で仕方ないことを、
やらかしちゃったり、するでしょ?
理屈も通じないし、理由もない、わけのわからない事。
なんでよっすぃーと出逢うことができたのか、
説明なんて、できないんだけど。
けど、これだけは、言える。
あたし…、あたし…ね、死んでるの。
一旦言葉を止めて、じっとあたしを見る彼女。
その眼差しに、僅かな赤い光が灯った。
「そんな…。そんな馬鹿なことあるわけな…」
「お願い、聞いて」
彼女の指先に口元を塞がれ、あたしの言葉はそのまま途切れる。
- 272 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時20分52秒
- 数秒にも数時間にも思える、長くて短い間を置き、
彼女はまた、ゆっくりと喋りだす。
「自分で、手首、切ったの。大好きだった市井さんが、いなくなったから…。
耐えられなくて、何もかも嫌になって、死んだ。
あたしも、酔ってたのかな。
悲劇のヒロイン……、ジュリエットみたいに。
あたし、どうしてここにいるんだろうね。
わからない、けど、わかったこともあるの。
あたし、もう、ここにいちゃ、いけないと思う。
今なら、わかる。今なら、全部見ることが、できる。
あたしは、死んだ。この世のものじゃない人ってヤツだから…」
- 273 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時22分29秒
- ありえない…。
普通じゃない。
何を言ってるのか、わからない。
彼女の言葉を否定しようと、必死にもがく。
「ありえねー。そんなん、信じられないよ」
「よっすぃ…」
「どうせ、嘘でしょ。あたしが幽霊とか怖い話苦手っての知ってて、からかってるんだよね」
「よっすぃ、違う」
「まったく、梨華ちゃんひどいなぁ。でも、そんな子供だましの話じゃ、騙せないよ」
冗談でしょ、と、おどけてみせる。
でも、自分が笑えているのか、わからなかった。
うまく笑顔を作れているか、自信がなかった。
- 274 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時23分20秒
- 「よっすぃー、泣かないで」
「泣いてなんかな……、あれ?…っかしいな…」
口角は確かに上げている。
頬の筋肉も動いている。
それなのに…、
水滴が、勝手に目から零れて、頬から顎へと伝う。
あたし、どうして、泣いてるんだろう。
違う、こんなはずじゃない。
あたしは、泣いてなんかない。
服の袖でごしごしと目と頬を擦る。
泣いてなんかない。
だって、泣く理由が、ないじゃんか。
泣く理由なんか、どこにもないじゃんか。
だって、またいつもの、冗談でしょ。
『くだらないよ』って、呆れたような仕草でからかえば、
彼女は頬を膨らませて、かわいく怒ってすねるんだ。
そうだよ、きっと。
そうだよね、梨華ちゃん。
そうだと、言ってよ。
- 275 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月01日(金)21時24分01秒
- 「泣かないで」
彼女の華奢な腕が、すっと肩に回って、それから、引き寄せられた。
ぎゅっと、抱き締められた。
彼女の胸の中は、優しくて柔らかい。
でも…、
冷たかった。
彼女の心情や、あたしの願いとは裏腹に、冷たかった。
また、水滴が、落ちる。
ポタポタと落ちて、彼女の肩を濡らす。
『ごめん。もう、無理なの。
よっすぃーを、暖めてあげられない。
あたしがあたしである事を、受け入れたから…』
彼女の声が、耳鳴りとなって、響いた。
あたしは、どうして泣いているのかな。
- 276 名前:バードメン 投稿日:2002年11月01日(金)21時36分55秒
更新しました。
レス、ありがとうございます。
>255 名無し 殿
いや、あの、とんでもないでございます。
毎回毎回、自分の文章に、
「あれ…?」と、腹を立てているいるところです。
試行錯誤しつつ、頑張っております。
ありがとうございます。
>256 名無し読者 殿
意表をつくことができて、ほっとしたりしております。
すぐバレてしまったらどうしようかと、
最初からハラハラしていたヘタレな作者でございます。
>257 名無し読者 殿
まさか…、ですね。
多分、そのまさかです。
おそらく、そのまさかだとは、思いますです。
- 277 名前:バードメン 投稿日:2002年11月01日(金)21時37分56秒
- レスの続きです。
>258 オガマー 殿
どうなるんでしょう。
なるようになります……、すいません。
なんとかしますなんとかします。
>259 グラスホッパー 殿
ほんとにどうなるんでしょう。
ええ、なんとかします。
納得して頂けるようなものに、なればいいのですが。
- 278 名前:バードメン 投稿日:2002年11月01日(金)21時39分37秒
- さらに、レスの続きです。
>260 ひとみんこ 殿
この先の展開は、ああなってこうなって、それから…。
すいません、あと少しだけ、お待ちください。
>261 辻斬り 殿
そうなんですかぁ。飛び出して来て頂けたんですね。
斬られてしまわぬよう、必死で頑張ってます。
あ、潜らないで下さると嬉しいです。
さて、いよいよ、ここまで来ました。
次回の更新で、完結する予定です。
最後までお付き合い頂けると、嬉しいです。
- 279 名前:オガマー 投稿日:2002年11月02日(土)04時45分38秒
- どうにかしてください。
何がなんでもしてください。
。・゚・(ノД`)・゚・。
- 280 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年11月02日(土)07時32分56秒
- ふ〜、そう来ますか? ちょっとため息付いてます。
深呼吸して待ってます。
- 281 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)17時56分52秒
- タイトルのなかに謎は隠されていたわけか…やられました。
- 282 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時22分49秒
- 根拠のない希望を、明日に繰り越そうとするのは、どうしてなんだろう。
明日がある。明日になれば。
心の中で唱えれば、明るくなれる気がする。
例えどんなことが、あったとしても、例え同じことの繰り返しだとしても、
誰のもとにも平等に、
とにかく、明日はやってくる。
二人上にも、例外なく。
あたしは、変化なんて、何にも望んではいない。
ただ、彼女がそこにいてくれる。
それだけで、よかったのに…。
- 283 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時23分30秒
- 今日は、彼女の誕生日らしい。
知らなかった。
ついさっき、教えてもらった。
「早く言ってよ!プレゼントとか…、用意したかったのに」
そう言って、怒ったら、彼女は、
「もう、もらったから、いい」
満足そうに微笑んでいた。
早起きをした。
何気ない日常が、まだそこにあった。
梨華ちゃんと、話をした。
恥ずかしくなるくらい、正直な気持ちで、いろんな話をした。
それから、テレビを見た。
料理番組、ワイドショー、再放送のドラマ、エトセトラ。
内容は、どうでもよかった。
別に知ってても知らなくても、どっちでもいい情報が溢れていた。
でも、あたしは、その一つ一つを、一生忘れないだろう。
もう、わかってるんだ。
大事に思う、大切に思う気持ちが、不思議な力をくれる。
約束は、きっと守れない。
出逢ったのは、運命。
別れるのも、また運命。
その向こうへ行く。もう、戻れない。わかったんだ。
伝わったよ、梨華ちゃん。
キミの言いたいこと、言葉にしなくても、ちゃんとわかったよ。
- 284 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時24分03秒
- 「ねぇ…」
不意に、彼女の手が、あたしの手に重なった。
ブラウン管を眺め回していた自分の目を、慌てて彼女の方にやる。
無言のまま見つめ合って、彼女の瞳の奥の奥を覗き込んだ瞬間、
突然、火がついたみたいに心が暴れだした。
感情が、堰を切って流れ出す。
大好きで、愛しくて、苦しくて、切なくてたまらない。
夢中でキスをして、舌を絡めて、抱き合って、互いを求める。
止まらないし、止められない。
求める気持ちが、溢れて、服を脱ぐのも、もどかしい。
力の限り彼女の輪郭を抱き締め、むさぼる。
彼女と肌を重ねるのは、初めてだった。
寄り添うように抱き締めて眠った事はあるけれど、それだけだった。
特に必要性を感じなかったし、
安易に行為に至るのも、恥ずかしい気がしていた。
けど、今は違う。
できるだけ、できる限り、彼女に近付けるように。
願わくば、彼女と本当の意味でひとつになれるように。
- 285 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時25分00秒
- 大好き、大好き、大好き…。
心と声で叫び、何度も彼女の名前を呼ぶ。
「よっすぃ…」
きれぎれに求める彼女の囁きは、耳の後ろで、甘く溶ける。
お互いの存在を確かめ合うように、
何度も身体を重ねて、何度も交わった。
引き寄せるように、あたしの首に力強く回された彼女の腕には、
見えるはずのない、感じるはずのない温もりが、確かに在った。
カーテンの隙間から漏れる、僅かな光を反射する彼女の瞳や、
しなやかに揺れて広がる、少し長めの茶色い髪。
健康的に伸びる足と細い腰。
触れると柔らかな弾力と滑らかさを返す、少し浅黒い肌。
全てを焼き付けようと、無我夢中で求める。
押し寄せる甘い疼きに耐えるように反る身体と、噛んだ唇、
そのか細い曲線の全てに、何度も口付けた。
あたしの身体を優しく這う彼女の指先と唇で、頭の芯は完全に痺れる。
息遣い、切なげに漏れる二人の声は、部屋の空気を震わせる。
時間が、止まればいいのに。
馬鹿げたこととはわかっている。
それでも、願わずには、いられない。
- 286 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時26分19秒
- 抱き合った後の、だるさと眠気が身体を包んでいる。
梨華ちゃんを後ろから包み込むように抱き締めて、少しの眠りに落ちていた。
どれくらい眠ったのだろう。
随分長い時間、意識を手放していた気がする。
瞼を開けてみる。
それと同時に、彼女は上体を少し起こし、
寝返りをうつようにこちらを向いて、
あたしの胸元に潜り込む。
- 287 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時27分19秒
- 「よっすぃーって、肌、綺麗だね」
そう言って、彼女はあたしの肩の辺りに手を滑らせ、
往復しながら輪郭をなぞった。
「そう…かな」
「そうだよ。白くて透き通ってて、綺麗。羨ましいな」
梨華ちゃんは悪戯っぽく微笑む。
「あたしより、よっすぃーの方が、よっぽど幽霊っぽいよ」
「笑えない…」
あたしは、口の端を少し持ち上げるだけで、精一杯。
不意に、彼女の唇が近付き、肩に降る。
それから、首筋にも落ちた。
口元までのぼった後、彼女の指を絡めとるように握って、また、キスをした。
- 288 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時27分54秒
- 「…ごめんね」
何が?と、彼女は微笑みを作る。
「や、何ていうか、その、あたし、はじめて…だし…」
彼女はもう一度、何が?と、訊きなおして、今度はキョトンとした。
「あー、うーん、いや、その、抱くとか抱かれるとか、そーゆーの…」
小声でボソボソと伝える。
「え?」
「やっぱいいや」
急に恥ずかしくなって、会話を打ち切ったあたしは、
起き上がって冷蔵庫へと歩いた。
背後から、彼女の冗談っぽくはしゃぐ声が、追いかけてくる。
「あー、そっか。こーゆー時って、大人のせくしーべいべーな女の人なら、
『すごくよかったわよ』とか、『かわいかったわよ』とか、言うのかな」
「そ、それは、昼メロかなんかの見過ぎなんじゃ…。
っていうか、今時昼メロでもそんな事言わないんじゃねーの?」
- 289 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時28分40秒
- あたしは、苦笑いしつつ烏龍茶のペットボトルを取り出し、口に含んだ。
「そっかな」
「そうだよ」
「でも…」
「何?」
「よっすぃ、すっごくかわいかったよ!」
「ブッ!…ゲホッ」
思わず吹き出し、烏龍茶が口の端からこぼれる。
口元を、手の甲で拭いながら振り返ると、
満面の笑みの彼女。
は、恥ずかしい。
何やら物凄く恥ずかしい…。
わざとらしいオーバーな動作で「もう!かわいい!」と抱きつかれ、
あたしは、すっかりしどろもどろになる。
「あー…、いやー、り、梨華ちゃんも、かわ、かわい…かった…」
頬と耳がカっと熱くなった。
- 290 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時29分23秒
- 梨華ちゃんは、下を向いたあたしを覗き込み、
「あたしのが、年上だもん。1コおねーさんだもんね」
そう言って、からかう。
「三ヶ月くらいしか変わらないじゃん。すぐ追いつくよ」
せめてもの反撃として、彼女を抱き寄せて口付けた。
「そうだね。すぐ追いつくね。…追いつくどころか、追い越しちゃうね」
「え?」
「よっすぃ、あたし幸せだよ」
「何言って…」
「あたしの時間は、今日で、止まる。あたし…、帰らなきゃ」
決意を秘めた、彼女の表情。
迷いも、曇りもなかった。
多分、もう、繋ぎとめることは、無理なんだ。
そう悟り、あたしは、唇を噛み締めた。
涙が、零れないように。
- 291 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時30分13秒
- 「よっすぃー、空が見たい」
「空?」
「うん。よっすぃと一緒に」
彼女が外に出ようと誘うから、
二人で手を繋いで、近くの川べりへと歩いた。
ずっと無言のまま…。
握り締めたその手が離れないように、ぎゅっと力を込める。
話すことなんか、もう何もなかった。
触れた部分から、気持ちはちゃんと伝わると信じたい。
口を開くと、張り詰めた感情の糸が緩んで、涙が零れそうだ。
斜め上を見る。
空には、オレンジや黄色や赤や青のペンキ缶やスプレーを、
全部引っ繰り返して適当に塗りたくったかのような、馬鹿馬鹿しいほどの色彩が溢れている。
夕日が滲んでいるのは、あたしの目が潤んでいるからだろう。
景色がいつもと違っているのは、別れの予感に支配されているからだろう。
- 292 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時30分52秒
- 風は、何千本もの針のように肌を刺す。
耳と頬が冷えきって痺れるから、
彼女の身体にできるだけ身を寄せて、冬の鋭利な刃物から逃げた。
こちらを見上げて少し微笑んだ彼女は、気遣うように優しく指を絡めて握りなおす。
あたしが深く吐いた息は、白くなって薄い煙になり、
物悲しく消えては、また立ちのぼっていく。
梨華ちゃんの口元には、
ただただ澄んだ空気だけが、目には見えない流れを作っていた。
堤防から川を望んで、あたしはため息を漏らす。
水は夕日を跳ね返して、穏やかに流れていた。
- 293 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時31分30秒
- 「下まで降りようよ」
不意に、川へ向かって走り出した彼女。
後を追いかけて、あたしも斜面を下りる。
川のすぐ手前まで近づいた彼女は、
振り返って「ありがとう」と言った。
膝が震えた。
行かせたくない。
行かせたくない。
- 294 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時32分33秒
- 彼女は微笑んで言葉を続ける。
「よっすぃー…あたし、帰るね。ホントに、大好きだよ…」
あたし、よっすぃーにいろんなものを、たくさんたくさんもらったのに、
あたし、何も返すものが、ないね。ごめんね。
よっすぃーのおかげで、あたし、幸せになれたよ。
『幸せですか?』って聞かれたら、笑顔で頷ける。
救われた気がする。よっすぃーは、あたしを助けてくれたんだよ。
今まではね、
一緒にいることだけが、全てで、それ以外は意味がないって思ってた。
けど、今は違うよ。
あたしね、いっぱい罪を犯した。
自分が生きてる意味とか意義とか、そういうものを、相手に委ねてた。
あたしと一緒にいることを選んでくれなかった市井さんを、恨んだこともあった。
代わりによっすぃーを連れて行こうかとも思った。
かき乱して、傷付けた。
- 295 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時33分23秒
- あたし、ひどいよね。
勝手に来て、勝手に帰る。
よっすぃーの気持ちを利用して、
自分一人で満足してるだけみたいだよ。
あたしのこと、キライになってもいいよ。
幻滅してもいいよ。ううん、幻滅して欲しい。
そのほうが、よっすぃーは楽になれる。
でも、できれば、忘れないで。
あたしのこと、ほんのカケラだけでもいいから、覚えていて欲しい。
ただ、それだけで、いい。
あたしにできることは、よっすぃーの幸せを祈ることぐらいかな…。
よっすぃーは、一人じゃないよ。
自分で選んで、自分の道を歩いてね。
なんか、自分で何言ってるのか、よくわかんなくなってきた。ごめん。
ちょっと説教臭いかも。
でも…ね、
あたしの方が一つお姉さんだから。…なんてね。
- 296 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時34分15秒
- よっすぃー、泣かないで。
きっとまた、どこかで逢えるよ。
ホントは、帰りたくない。
いやだよ?よっすぃーと、離れたくない。
でも、ダメ…。
あたしは、ここにいちゃいけない。
あたしは、何ていうか…、この世のものじゃないし。
あたしは、天使で、悪魔で、幽霊で、
もしかしたら、ゾンビとか、ジェイソンかもしれなくて…。
あたしはね、
歯は剥き出しで、目と鼻だけ真っ黒な穴がポッカリ開いてる、
中身は空っぽで、がらんどうの……、ドクロだから。
よっすぃーにはね、瞳にも胸にも、その手の中にも、
血とか、筋肉とか、そういうものと一緒に、
たくさんたくさん、未来が詰まってる。
わかったの。それを受け入れることが、できたの。
だから…。
あたしは、何も言えなかった。
ただ黙って、彼女の言葉の一つ一つをゆっくり飲み込んでいた。
- 297 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時34分48秒
- 深呼吸をして、やっと一言だけ搾り出す。
「ありがとう」
そう言って、口付けを交わした。
最後になるであろうその唇は、暖かく感じた。
二人で過ごした時間が、渦巻いて冷たい風に乗り、優しくて懐かしい歌を奏でる。
彼女の頬に、いくつもの水滴が、わっと溢れて伝いはじめた。
夕日がその道筋に輝いて、光の線を作っている。
あたしの目と頬は、ボロボロとこぼれていく涙で、ぐちゃぐちゃに濡れていた。
拭っても拭っても、無駄だった。
- 298 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時35分23秒
- あたしをその場に残し、一人斜面を駆け上がった彼女。
明るく笑い、「またね」と、堤防の上から大きく手を振る。
極上の微笑みだけが、残る…。
踵を返して歩き出したその背中が、少しずつ、見えなくなっていく。
あんなに抱き締めて確かめた輪郭も、華奢な腕や足も、
どんどん、遠ざかっていく。
どんどん、見えなくなっていく。
行かないで。
行かないで。
大好き。大好きだから。
嫌だよ。
梨華ちゃん、ここにいてよ。
大好きなんだ。
声が喉元で詰まって、胃に逆流した。
仕方なしに飲み込んで漏れるのは、
どうしようもない切なさと寂しさと、嗚咽だけだった。
- 299 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時36分19秒
- 涙は、とめどなく流れる。
あたしは、跪いて顔を両手で覆い、
子供みたいな大声で、いつまでもいつまでも泣き続けた。
水分とともに、心の奥の何かが、流れ出していく気がした。
もう会えないことを納得しようとする気持ちと、
『またね』と笑ってくれた彼女の気持ちが、入り混じってせめぎあう。
追いかけることも、引きとめることもできない。
どうしようもない現実が、確かにそこに存在していた。
駄々をこねても、ワガママを言っても、彼女を困らせるだけだ。
彼女はそばにいてやれない自分を呪い、悔やみ、また、傷付くだろう。
やりきれない想いが、ただ、胸の辺りを強く押し上げる。
「…くっ……ぅ…りか……ちゃん…りかちゃん」
蹲って体を丸めて、彼女の名前を呼ぶ。
涙があとからあとから滲み出ては零れ、止まらない。
ムダだとわかっているのに…。
泣いたところで、彼女は帰って来ない。
なのに、どうしてあたしは、泣いているんだろう。
なんで…。
- 300 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時37分09秒
- どれくらいそうしていたのか。
不意に、冷たく柔らかな感触が、前髪に降った。
慌てて顔を上げ、周りを見回す。
すっかり日は沈み、辺り一面は、夜の闇に包まれていた。
その闇の中に、対照的な白い無数の粒が、ふわりと舞い落ちているのに気付く。
「…雪」
掌で、粒の一つを捕まえる。
カケラの雪は、すーっと溶けて、あたしの手に僅かな水の跡を残した。
彼女の、落し物かもしれない。
そんなことを、思う。
彼女がどこへ帰るのか、
誰も知らないし、誰にもわからない。
もしかしたら、あの空の向こうへと行くのかな。
あとからあとから舞い落ちる白は、
天使が空へ飛び立つ時に落ちる、羽のカケラのようだった。
空へと、あの空へと向かうかもしれない彼女の、最後の贈り物。
そう信じた。
- 301 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時37分41秒
- 真っ直ぐ空を見上げる。
涙で滲んで混ざり合った白と黒は、幻想的で、どこか現実離れしていて、
そして、とてもとても、美しかった。
梨華ちゃん、大好き。
また、逢えるよね。
きっと、いつか、どこかで。
だから、そこで、見ていて欲しい。
あたしの方を向いていて、欲しい。
一緒にいたかった。
いくら後悔しても、足りない。
もっと早く出逢えていれば…、そんなことも、思った。
でも、
もう、どうにもならないカラ…。
あきらめにも似た、大人への第一歩を、踏みしめることにしたよ。
それでも…、
『サヨナラ』は、絶対、言わない。
- 302 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時38分30秒
- 季節が変わった。
太陽と風が、青空と桜の花を食い散らかした。
侵食されて粉々になる、春の色彩が眩しい。
アスファルトに落ちている、色あせた薄ピンクは、旅立ちの期待を予感させた。
街角に寝そべっている日差しは、暖かすぎる。
冬向きの服は、べっとり汗ばんでしまうくらいだ。
あたしは、一つ、大人になった。
十八歳の誕生日は、少しの切なさと希望が同居する、記念すべき日。
「吉子、おめでと。おばちゃんの仲間入り、おめでと」
ごっちんが、悪戯っぽく笑ってあたしの肩を叩く。
「ああ…」
圭ちゃんが隣にいるから、あたしは、わざと苦笑いしてみせた。
- 303 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時39分14秒
- 「何かさ、なんとなくだけどさ、吉子、最近変わったね」
「そう?」
「うん、雰囲気とか、柔らかくなったよね。なんかあったの?」
「うーん…」
あたしは少し考え、それから、「別に」と答えた。
理由は、勿体無かったから。
あたしと、彼女の、二人だけの、思い出にしておきたい。
なんて、そんな気分。
「あ、そうそう。今日の打ち上げ、サヤカも来るってさ」
「もー、けーちゃん、まだライブ始まってもいないのに、打ち上げの事話すのやめてよ」
「うるさい!いーじゃんか」
「まったくもう、酒、酒、ってそればっかじゃん」
「ほっといてよ!」
ごっちんと圭ちゃんが、じゃれ合って、はしゃいでいる。
- 304 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時39分44秒
- あたしはそれを、とても穏やかな気持ちで、眺めていた。
この二人もまた、過去を乗り越え、試行錯誤を繰り返しながらも、
『今』と『未来』を追いかけているんだろう。
結局、梨華ちゃんのことは、二人には言わなかった。
二人はもう歩き始めているから、
話す必要は、ないと思った。
市井さんとは、あらから、何回も話す機会があった。
でも、梨華ちゃんとのことは、言わなかった。
それに、あたしも何も聞かなかった。
新しい道を、歩んでいるから。
それぞれの心と、それぞれの未来があるから…。
もう、それでいいと思った。
想いは全て心の中に。
人に委ねるものじゃなく、自分で納得して解決していくもの。
それで、いいや。
- 305 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時40分35秒
- ステージに立つ。
小さなライブハウスだけど、あたしが、今二番目に大好きな場所。
歌詞、コード進行、ギターソロ。大丈夫、全部覚えてる。
アドリブもパフォーマンスも楽勝。
何をやっても、楽しくて楽しくて仕方がない。
ラストの曲の、リフ。
どこにも難しいトコなんかない。
大丈夫。
そこで見ててよ。
ねぇ、梨華ちゃん。
客席には、微笑む彼女がいる。
初めて会った時の彼女の瞳は、市井さんの影を見ていた。
過去の亡霊を見ていた。
でも、今は、違う。
目を合わせて、笑いあえる。
余計な雑音は、いらない。
空想と思い込みの音階で構わない。
- 306 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時41分06秒
- 嬉しそうな顔で、じっとあたしを見つめる彼女。
淡いピンクのワンピースが本当によく、似合ってる。
まるで、そこだけ光が差しているみたいだ。
あたしは、あの日からずっと、彼女の名前を呼び続けている。
でもそれは、未練とか感傷とか、後ろ向きな衝動では、ないと思う。
一番大好きな場所。それが、彼女だから。
ありえない事、説明できない事が、起こった。
これはどういう事なのか、これは、何であるか、
定義したところで、空しいだけの出来事。
だから、深く考えるのは、もうやめよう。
人に話したのなら、『夢でも見たの?』とか、『気でも違ったか?』とか、
あるいは、『怖いよ!』と、悲鳴をあげられ逃げられるかもしれない。
- 307 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時43分37秒
- あたしはこれから、彼女が犯した罪を、半分だけ背負ってみようと思う。
しっかり前を見て、みっともなくても迷っても、手を伸ばす事をやめない。
何の障害もなくキレイに真っ直ぐ進めると思い込めるほど、
もう子供じゃないけれど、
それでも、彼女の分まで、できるだけ真っ直ぐ生きようと思う。
努力だとか、前進だとか、ビューティフルスターだとか、
ムリヤリ背中を押す流行歌。
『夢は叶うよ 絶対叶うから』と、
無責任に言い放つラブソング。
鼻で笑っていたそんなものを、奥歯で噛み砕いて、飲み込んでみてもいい。
『未来行きの切符』なんて都合のいいものはないから、
とりあえず、自分の足で、WONDERLANDとやらを、目指してみようかな。
- 308 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時44分53秒
- 何でもいいよ。
他人の基準はどうでもいい。
知らねぇってんだ。
邪魔するなら、蹴散らしてやる。
絶対に忘れない。
二人で過ごした思い出は、二人だけのもの。
灰になって真っ黒になった記憶と歌が、また、新しい何かを生む。
そう信じたいから、絶対に、忘れない。
でもね、
ひとつだけ、聞いておけばよかったと、後悔したことがあるんだ。
彼女を思い出そうとする時、どっちの空を見上げればいいのか、わからないんだ。
ステンレスでできてるみたいに見えるビル群の間なのか、
絶え間なく行き交う車のノイズの中なのか、
計画的な緑が乗っかっている、穏やかな公園なのか、
それとも、高くて狭い、真上の青なんだろうか…。
時々、困ったり、してる。
- 309 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時45分38秒
- 彼女は、あたしの心に大きくて深い傷を残していった。
痛みはない。
切なさと愛しさと、悲しみと喜びが、いっしょくたに詰まっている、甘い傷。
傷は治っても、痕は消えない。
けど、いいんだ。
それは、彼女が確かに存在し、二人心を分かち合えたことの、証しだから。
ふと、思う。
どこかの誰かが、不特定多数に向けて、お座なりに投げかけた質問があった。
いつのことだっただろう。
どこかの街角だったのか、放課後の教室だったのか、場所もよくわからない。
『おしゃれ』と『トんでる』のぎりぎりの境界線な衣装着た、
やけに足の長い歌手が、歌ってたような気もする。
- 310 名前:アル中のドクロ 投稿日:2002年11月02日(土)21時46分08秒
- 受け流していたその質問。
今、ちょっと気まぐれに、答えてみようかと思う。
『愛はどこからやってくるのでしょう』
答えは、微かなアルコールの香りとともに、この胸に、ある。
fin.
- 311 名前:バードメン 投稿日:2002年11月02日(土)21時46分58秒
無事、完結を迎えることができました。
本当に本当に、ほっとしております。
私の駄文にお付き合い下さった皆様、
本当に本当に、ありがとうございます。
- 312 名前:バードメン 投稿日:2002年11月02日(土)21時47分41秒
- 『アル中のドクロ』という言葉を、タイトルに使いたかったがためだけに、
ムリヤリでっち上げてしまった話です。
力量不足丸出しで、申し訳ないやら恥ずかしいやら、
何やら、ヘンな汗が噴き出して来たり、してました。
それでも、ヘタレなりには頑張れたので、自己満足はしております。
今後の予定はまだ未定なんですが、
やりかけている事を終わらせたら、少し休憩しようと思っております。
そのうち、また懲りずに書き出すと思うので、
よろしければ、お付き合い頂けると、嬉しいです。
ありがとうございました。
- 313 名前:バードメン 投稿日:2002年11月02日(土)21時48分13秒
- レス、ありがとうございます。
本当に、励みになりました。
>279 オガマー 殿
どうにかしました。
何が何でもしました。
例えムリヤリだろうと、どうにかしました。
泣かないで下さい。
暖かいレスいつも感謝しておりました。
>280 ひとみんこ 殿
こう来ました。
深呼吸して頂けましたでしょうか。
ありがとうございました。
>281 名無し読者 殿
ありがとうございました。
この話は、タイトルが全てだったりします。
それ以外は、何の取り柄もない気がしてます。
- 314 名前:名無し 投稿日:2002年11月02日(土)22時59分14秒
- 見た事あるタイトルだと思ってこの作品を読み始めました。
まったくこの意味に気付かず後付けだろと思って読んでいた自分が恥ずかしいです。
吉澤さんが石川さんを見つけたのも奇跡じゃないし
石川さんが吉澤さんを見ていたのも市井さんの影を見ていただけでは無いと自分では勝手に思い込んでおります。
正直な事を言わせてもらいますとブラック・タンバリンよりも自分は感動してしまいました。
二ヶ月間ぴったしお疲れ様でした。またバードメンさんの作品が読めるとうれしいです。
- 315 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)23時54分49秒
- お疲れ様でした。
もう涙が止まりませんでした・・
バードメンさんの小説はいつも「リズム」を感じます。今回も全編を通して流れる、
どこかパンクな雰囲気がとても好きです。
そしてバードメンさんの「いしよし」。せつなくて温かくて、「恋」の甘さや痛さ
が滲んでますね。大好きです。
しばらくゆっくりされて、また新しい何かが浮かんだら、いつでも書いて下さい。
楽しみにしてます。
- 316 名前:婆金 投稿日:2002年11月03日(日)02時47分50秒
- 完結、お疲れさまでした。
何て言うか、
一縷の、でも確かな希望が未来の力になっていく、そんな感じが好きです。
何を書いているのか自分でもよく分かりませんが
とても好きです。
ありがとうございました。
- 317 名前:ルーク 投稿日:2002年11月03日(日)03時00分13秒
- 初めまして。
今日初めて一気に読ませていただきました。
こんなに泣いたのは、久しぶりくらいにぼろ泣きしてしまいました。
すごくよかったです。
前作のブラックタンバリンもすごく好きでしたが、
こちらも物凄くよかったです。
本当に感動しました。
いつか、吉澤と石川がまた出会えるとこを願ってしまいました。
はい、繰り返しになってしまいますが、
本当に本当に本当によかったです。
これからもがんばってください。
それでは、失礼します。
- 318 名前:オガマー 投稿日:2002年11月03日(日)03時19分49秒
- お疲れさまでした。
ジーンと響きました。
それはもう、喜びでもなくて悲しみでもなくて寂しさでもなくて…
なんだか、ほんとにジーンと痺れましたわ。
よちぃ。カッケーよ、アンタ。
大人よちぃの未来に乾杯。
完結お疲れ様です。素敵な作品をありがとうございました。
- 319 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年11月03日(日)10時15分33秒
- 完結、お疲れさまでした。
私の乏しい言葉では、感想が言い表せません。
有りとあらゆる感情が入り乱れています。
本当に素晴らしい作品、有り難うございました。
次回作、楽しみにしています。
- 320 名前:W 投稿日:2002年11月03日(日)10時39分59秒
- お疲れ様でした。
実は、この作品を読むの中断していたんですよ、読むと凹むから(w
今は、思い切って読み上げてよかったと思っています。
バードメンさんの、どこかリリカルな文章って、凄い大好きです。
一休みしたらまた、素晴らしい作品を綴り上げて下さい。
元気を貰いました。素敵な作品をありがとう。
- 321 名前:クロイツ 投稿日:2002年11月03日(日)16時08分26秒
- 涙が…止まりません。
感動です。
すばらしい…!!!
こんな結末になるなんて、想像もしてませんでした。
それ故に、感動もひとしお…。
すごいです。
これ以上の言葉は、出て来ません。
お疲れ様でした。
そして…すばらしい作品を、ありがとうございました。
- 322 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月03日(日)21時50分26秒
- 初レスです。久々に泣かせていただきました。
月並みな言葉しか出てこない自分がもどかしいけど…。
胸が「ぎゅー」っとなりました。バードメンさんの世界観、大好きです。
本当に良いお話をありがとう。
- 323 名前:名無しのケリー 投稿日:2002年11月04日(月)18時21分55秒
- 完結お疲れさまでした。
ホントもう、感動しました。
いつか吉がWONDERLANDに行けることを願っとります。
WONDERLANDはこの世界じゃないってことを知ってると歌っている方もいますが(w
素晴らしい作品をありがとうございました。
- 324 名前:じゃない 投稿日:2002年11月04日(月)21時50分26秒
- 秀
逸
で
した・゚・(ノД`)・゚・。
- 325 名前:グラスホッパー 投稿日:2002年11月05日(火)00時04分35秒
- 完結おつかれさまでした。
読んでいると、笑ってしまったり、切なくなったり、ジーンとしたり、
涙がでたり、そして、感動した作品でした。
本当に素晴らしい話を有難うございました。
- 326 名前:バードメン 投稿日:2002年11月06日(水)17時46分09秒
たくさんのレス、本当に感謝しております。
今更言わなくてもバレてるとは、思うのですが、
タイトルは、thee michelle gun elephantの、
『シトロエンの孤独』の歌詞から取ってます。
絶対これ使ってやる、と意地になった結果の話です。
>314 名無し 殿
あの、あの、全然恥ずかしくないです。
あまりに早くバレてしまうと、作者自身が恥ずかしいので、
それで、いいのではないかと。ええ。
後付けといえば、後付けです。ストーリーを、後付けなんです。
本当に、タイトルが、全ての話となりました。
前作も同じ事してるんですが、
それよりかは、幾分マシになったのではないかと、勝手に思っております。
二ヶ月間、本当にありがとうございました。
>315 名無し読者 殿
勢いだけで、押し切ったような、気もしてます。
寄り切りました。
上手投げです。……すいません。
嬉しすぎて、何を書いてるのか、よくわかってません。
また新しい何かが浮かんだ時、
もしよろしければ、お付き合い頂けると嬉しいです。
ありがとうございました。
- 327 名前:バードメン 投稿日:2002年11月06日(水)17時47分01秒
- レスの続きです。
>316 婆金 殿
何て言うか、最後の方は、とりつかれたように書いてました。
自分で何を書いてるのか、よくわかってなかったことは、内緒です。
自分で自分の駄文を読むのが、苦しくて恥ずかしくて、
仕方なかったです。
それにしても、さっそく読んで頂き、嬉しかったです。
ありがとうございました。
>317 ルーク 殿
初めまして。
実は途中でプチスランプに陥りまして、
ぐったりして、久しぶりにちょっと泣いてました。内緒です。
前作も、読んで頂けたんですかぁ。
私は難しいことは書けないので、
えーっと、どっちも、気軽に読んで頂ける事を目標に書いてました。
私も繰り返しになってしまいますが、
本当にありがとうございました。
- 328 名前:バードメン 投稿日:2002年11月06日(水)17時47分54秒
- さらに、レスの続きです。
>318 オガマー 殿
前作に続き、いつもありがとうございました。
痺れましたか。
御詫びに、マッサージでもいたしましょうか。
健康的なマッサージなので、心配無用です。
私は、一足先に、焼酎というあまり色気のないもので、
乾杯してしまいました。
>319 ひとみんこ 殿
いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました。
凄く感謝しております。
なかなかうまい具合に表すことができない自分が、情けないです。
次回作は、まだ全然わからないのですが、
よろしければ、お付き合い下さい。
>320 W 殿
いや、あの、ほんと、全然ヘコむ必要は、ないと思います。
私の文章は、無駄が多いです。
しかしながら、元気を分けることができて、
とても嬉しいです。
とりあえず、かなり長めの『一休み』に入ろうかと、思っています。
ぜひ、私の分まで、頑張って下さい。
しれっと読んでます。
- 329 名前:バードメン 投稿日:2002年11月06日(水)17時48分52秒
- もっと、レスの続きです。
>321 クロイツ 殿
あの、あの、泣かないでください。
こんな結末になってしまいました。
あまりすばらしいものでは、ないです。
タイトル通りです。
もう、ただそれだけです。
本当に本当に、ありがとうございました。
頑張って下さい。
>322 名無し読者 殿
読んで頂けてすごく嬉しいのに、
私も、月並みな言葉しか出て来ないです。
もどかしいと言いますか、情けなかったりします。
気に入って頂けたのなら、幸せです。
こちらこそ、ありがとうございます。
>323 名無しのケリー 殿
歌ってる方も、いらっしゃいますね。
あの方はあの方で、すごーく好きです。
きっと、吉澤さんも、行けるのではないでしょうか。
ありがとうございました。
ただひたすら、ほっとしております。
- 330 名前:バードメン 投稿日:2002年11月06日(水)17時49分34秒
- とどめに、レスの続きです。
>324 じゃない 殿
あっ!
あ、あの、あの、ちょっと、いや、
かなり、びっくりしてしまいました。
心臓が、バクバクしております。
涙流して喜びます。
幸せです。
>325 グラスホッパー 殿
書いていると、ぐったりしたり、楽しかったり、
目が霞んで、ビタミン不足を実感したり、
いろいろ大変だった作品でした。
こちらこそ、ありがとうございます。
ノーヘルには、気をつけて下さい。
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