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I don't believe love

1 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月10日(火)21時11分28秒
紺野と小川の恋愛モノを書かせていただきます。
あとは後藤・高橋・松浦がちょこまかと。
話の六割ほど元ネタのマンガ有り。
不快に思われる方がいましたら申し訳ないです。
2 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月10日(火)21時21分22秒
 雪の降る朝、少女は粉雪を被った郵便ポストの前で立ち止まると、濃紺のコートに手を入れて一通の封筒取り出した。
 桜の花びらの様に控えめなピンク色の封筒には、丁寧な字で受け取り人の名前が書かれている。
 その名を見た少女は穏やかな微笑みを浮かべ、ポストにそっと投函した。
 それから少女は陸橋を歩いた。
 薄暗い朝日が遠くに見え、時折、電車が通り過ぎて行く。
 愛らしい紅色の唇からは白い息が吐き出され、澄んだ黒い瞳には決意の色が浮かんでおり、少しだけ潤んでいる。
 春は間近。アスファルトを覆う雪は柔らかく、水音をたてて靴の下で溶けた。
3 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月10日(火)21時23分07秒
 暫くして少女は陸橋の真ん中で止まった。胸の高さまでしかない危険防止用の金網は所々破れて破損してる。 辺りは不気味なくらい静かで、絶え間無く降り続ける雪は地面に吸い込まれるようにレールへ積もり、陸橋から下を覗くと目が眩みそうだ。
 瞳に映る最後の世界に瞼を閉じ、心を落ち着かせた後、少女は金網に手をかけ身を乗り出した。
 そして、空へと飛び立った。だが、少女の背中には既に羽根はない。
 鈍い衝突音が辺りに響くことなく雪に吸収され、銀色の世界に一輪の紅い花が人知れず咲く。
 少女の想い人の心にずっと咲き続けるであろう 鮮やかな花だった。
4 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月10日(火)23時11分33秒
 都心から離れた土地に向かう電車は普段よりも混んでいた。
 それでも、座席に座る人々の間には余裕があり、あさ美は車両を見渡すと一番端っこの席へ座った。
 暫くは向かいの窓を流れる風景を見ていたが、途中の駅から目の前に立ったサラリーマンが広げた卑猥な週刊誌が視界を被い、あさ美は視線を膝に落とした。
 綺麗にプレスされた漆黒のスカートが電車の揺れに合わせてひらひらと足を扇ぐ。
 ブレザーも紐タイもハイソも全て黒。
 パッと見た感じ喪服のようにも見え、女子高の制服にしては可愛らさがないが、あさ美は気に入っている。
 カトリックの学校
特有の厳格で清楚な雰囲気をそのまま身に纏っている気がするからだ。
5 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月10日(火)23時13分19秒
「ママ、また雪が降ってきたよ」
 隣に座る幼稚園生ほどの女の子が舌っ足らずな喋りで窓の外を指差し、母親の服を引っ張った。
 声につられてあさ美も ふと顔を上げて外を見る。羽根のようなふわふわの雪が宙を漂っていた。
 都心から離れた所とは言え此処も東京。地面を隠すほど雪が降るのはとても珍しい。
 やんだかと思ったらまた降る。今朝からずっと不安定な天気。
 白銀の地を走り抜けて行く電車の車窓に映る景色は、あさ美をノスタルジックな気分にさせる。
 しかし、ついこの前まで見ていた風景と同じじゃないか…と、あさ美は瞼を閉じて思いなおした。
6 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月10日(火)23時14分40秒
 紺野あさ美が北海道を出て寮のある東京の女子高に入学してから一年経つ。家族と離れることを少しは寂しく思う時が来るかと考えていたが、この一年そんなことを思ったことなどなかった。
 それどころか、春休みを利用して昨日までの一週間を実家で過ごしたことを後悔している。
 しかし、故郷の北海道をあさ美は大切に思っている。おそらく家族のことも。
 腿の上に置かれた革のバッグを抱き締めると、あさ美はそこに顔を埋めた。
7 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月11日(水)00時37分25秒
激しく期待。
8 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時04分49秒
 あさ美は決して家族を嫌っているわけではない。両親を尊敬しているし、一緒に暮らしていた時に喧嘩の絶えなかった妹も可愛いと思っている。東京の高校に通うことを許してくれたことを感謝している。
 でも、隣に座って雪を眺めて楽しそうに喋っている親子とは少しばかり異なる関係だとあさ美は思う。
 例えるなら、あさ美の家族への気持ちが100だったとしても、家族のあさ美への気持ちは未知数、もしくは‥‥0に近い。
 どこからか、ヘッドホンから漏れたシャカシャカと煩い音楽が聞こえてきて あさ美は不機嫌に顔を上げた。
9 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時07分08秒
 目の前にはさっきまでいた筈のサラリーマンの姿はなく、代わりに若いフリーター風の男が立っていた。
 携帯でメールを忙しそうに打ち、耳にはヘッドホン。ジェルで濡れた髪が車内の明かりの下で厭らしく光っている。
 以前、外出許可をもらって渋谷に遊びに行った時に声をかけてきたナンパ男に似ているとあさ美は思った。
 いくら無視してもナンパ男は横に並んで歩きながら自分の腕に触って、しつこく話しかけてきた。
 誘う声は段々と大きくなり、最後には腕を無理やりに引っ張って何処かに連れていこうとしたので、あさ美は手を振り払って人込みを縫うように走って逃げた。
10 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時08分03秒
 それ以来、あさ美は男性に強い不信感を持っている。
 イヤな思い出に眉をしかめながら男の手元を見ていると、男はあさ美の視線に気付き、不意にメールを打つ手を止めた。
 あさ美の大きな瞳には 自分を興味深く覗き込む男のニヤけた顔が映り、あさ美は慌てて視線を逸らした。
 少しの間を置いてから 再びメールを打ち始めた音が耳に届く。 ヘッドホンから聞こえる耳障りな音楽もそのまま。
 早く降りたい、そう思った時、タイミング良く電車は目的の駅に着いた。
11 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時11分41秒
 電車から降りてホームから窓を振り返ってみた。あの若い男があさ美が座っていた席に座るのが見えた。
 早朝の為か、ホームにはあさ美をいれて5人くらいしか人がいない。ベンチに座って新聞を読んだり、隠すことなくあくびをしたり、各々の時間を過ごしている。
 あさ美は駅から出ると、片手を何気なく胸の位置に上げた。
 雪はやんでいて、溶けた雪の雫が並木の葉を伝ってパタリと手の平に跳ねた。
12 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時15分47秒
 駅から徒歩15分ほどあるいた所に、学校と寮はある。
 周囲は住宅に囲まれはおらず、広大な土地のほとんどは学園の所有するもので、そこには都心では見られないバカでかい体育館やらプール、毎朝ミサが行われるお御堂などが建てられていた。
 黒い鉄のサクに一まとめにされた学園。同じ土地に住む一般人を一切寄せ付けない。
 サクの中は独特の空気が溢れ、部外者から見れば不気味な、学園の者から見れば神聖な世界が出来ていた。
 黒塗りのペンキが剥がれかけている重い鉄の門を押し開けて、あさ美は一週間ぶりに見る 壁に蔦の這ったレンガ作りの校舎と寮に目を細めた。
 空に浮かぶ濁った雲のせいで、全体的にどんよりとした影を落としている。
 溜息を一つ吐くと、寮につづく真っ白な並木道を歩いていった。
13 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時16分59秒
 木にとまる小鳥の囀りに耳を傾けながら歩くあさ美の耳に、寮が近づくにつれ人の話し声が聞こえてくるようになった。
 まだミサの時間まで随分あると言うのに寮の前には人だかりが出来ていて、ひどく騒がしい。
 何事だろうと歩を早めたあさ美に気付いたクラスメイトの一人が手を振って駆け寄ってきた。
「あさ美ちゃんっ!」 叫びにも近い声で名前が呼ばれる。
 それを合図に他の少女たちも あさ美に気付いて声をかける。どれも見知った顔ばかりだ。
「おはよう、どうしたの?」
 のんびりした声で朝の挨拶をしながら階段を上った。
14 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時18分28秒
 しかし、クラスメイトの表情は強張っており、あさ美に駆け寄ってくる少女もいれば、奥の方で泣いている少女もいる。
「聞いた?あの人 死んじゃったって!」
「一大事や!一大事!」
 いつもはこんな時間に起きているはずのない、あさ美と仲の良い辻希美がまくし立て、どちらかと言うとあさ美とはあまり仲の良くない加護亜依が鼻息荒く叫ぶ。
 あさ美は軽い目眩を感じつつも、唇に人差し指をあてて二人を制止た。いくらなんでも今日の二人はうるさ過ぎだ。話も上手く伝わってこない。
「死んじゃったって、誰が?」
 そう尋ねた途端に、周りからも声が上がり始める。
15 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時21分22秒
「合唱部の歌姫だよ」「一昨日の朝に陸橋から落ちたらしいよ」
「あそこの陸橋ボロかったもんね」
「雪で足とられたんじゃないかだって」
「電車にもひかれたのかなぁ‥」
 最後の方はあさ美に説明すると言うよりも少女たちの雑談へと変わっていた。
 自分を取り囲む少女たちの輪からあさ美は抜け出し、希美の傍に寄った。
「びっくりしたね。春休みあけに こんなことあるなんて」
 希美は眠たそうな目を曇らせて、傍にきたあさ美に話かけた。
 亜依も さっきまでの興奮が落ち着いたらしく、黒目がちの瞳を希美と同様に曇らせている。
16 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時24分11秒
 石畳の上で溶けかけている雪を見遣ってから あさ美は胸を掠めた動揺を誰にも悟らぬように希美の顔を覗き込んで口を開いた時だった。
「‥‥愛ちゃんは‥好きだったんだよ。紺野さんの‥ことが」
 震える小さな涙声があさ美の肩を叩いた。 騒がしかった少女たちのお喋りがぴたりと止まり、視線はあさ美に注がれる。
 希美と亜依の目もあさ美の反応を伺うように上目遣いになる。
 あさ美は声のした方にゆっくりと向き直ると、声の主を冷めた目で捉らえた。誰の目からも分かるくらい あさ美の表情は鋭い顔つきに変わっている。
 声の主は、奥の方で泣いていた松浦亜弥だった。
17 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時26分46秒
「亜弥ちゃん、やめなよ」
 泣きじゃくる亜弥を慰めていた友人が あさ美に近づく亜弥の肩を押し止める。
 それでも尚 何か言いたげに亜弥は口を開くが、唇が震えて思いが声にならない。
 亜弥の様子に あさ美は露骨に溜息をつき、亜弥へと一歩前に出た。
「からかうのは もうやめて下さい。そんな話 二度と聞きたくないです!」
 普段の穏やかな あさ美らしからぬ強い口調に、亜弥も周りにいるクラスメイトたちも息を呑んだ。
 一気に静まった敷地内には小鳥の囀りだけが気持ちよく響く。
 思わず声をあらげたことに、あさ美は心の中で舌打ちをした。
 周囲からの評価を気にしてのことではなく、こんなことで取り乱してしまった自分への苛立ちからだ。
18 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時28分56秒
「‥‥ミサは いつも通りに?」
 出来るだけ優しい声で希美に問いかけた。 希美は大きく瞬きをして頷いた。
「それじゃ、あとでね」
 気まずい空気から逃れたい。痛いほどの注目を浴びながら あさ美はその場を立ち去ろうと 亜弥の横を通り過ぎる。真っ赤に泣き腫らした目で亜弥が未練がましく見つめるのを無視した。
「待って、わたしも行く」
 あさ美の後を希美が追う。
「愛ちゃんは‥‥!」「もうやめなよ、亜弥」
「紺野さんに言ったってしょーがないって」 亜弥と、亜弥を制する声が背後から追い掛けてくる。一度も振り返ることなくあさ美は寮に消えていった。
 友人に支えられて亜弥も仕方なく部屋に帰り始め、亜依も後ろを歩く。
19 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)06時31分39秒
 後に残された少女たちは、泣き顔を俯かせて消えてゆく亜弥の後ろ姿を見て声をひそめた。
「松浦さん、泣いてるけど実は喜んでたりして」
「あ〜、それあるかも」
「ライバルは少ない方がいいもんね」
「まさか‥そんなわけないじゃん」
「いやいや、松浦さんならありでしょ」
 好き勝手に笑いとばし、寮の階段を上り出す少女たち。その声はやがて遠退く。
 誰もいなくなった寮の玄関に 一足早い春の風が吹き抜ける。ところどころに積もった雪が太陽に照らされて宝石をちりばめたように輝きだした。
 空を被う灰色がかった雲は風に流され、いつの間にか暖かな陽気に変わっていた。
20 名前:名無し 投稿日:2002年09月11日(水)06時34分50秒
名無し読者様>レスありがとうございます。激しい期待にそえるよう頑張らせていただきます。
21 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月11日(水)11時39分53秒
>20
何度でも言いたい。
激しく期待してます。
頑張って下さい。
22 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月11日(水)14時52分39秒
おもしろいぃ!
おがこん好きっす!しかしたかこんも好きなので
高橋が亡くなったのはかなすぃ・・・
続きが気になります
23 名前:名無し 投稿日:2002年09月11日(水)19時20分22秒
>21名無し読者様
レスありがとうございます。
川o・д・)ノ<激しく頑張ります!

>22名無し読者様
レスありがとうございます。
たかこん好きな方にもどことなく見せ場が出てきますので お楽しみ下さい。
24 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)19時28分29秒
「亜弥ちゃんが言ったこと気にしない方がいいよ」
「うん‥ありがとう」 ありきたりな言葉を交わし、途中の階で希美と別れた あさ美は、二人部屋のある5階へと上っていった。エレベーターがあったなら‥なんて贅沢は望まない。
 他の生徒たちも今朝帰ってきたばかりなようで、大きなバッグ片手に部屋にも入らず廊下で声を弾ませて何か立ち話をしている。
 春休みをそれぞれ楽しんできたのだろう。 寮で暮らす大半の生徒は実家に帰り、親や地元の友人と過ごす。 今回、東京に来てから初めてあさ美は北海道に帰った。
25 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)19時32分36秒
 本当は戻る気など全くなかったのに 地元の幼なじみによって半ば強引に北海道に召喚されたのであった。
 結果、散々だったと思う。だからイヤだったのに。
 しかし、そんな愚痴を真希に言ったなら、「帰る家があることはいいことだよー」
と、返されるに違いない。
 やっとたどり着いた部屋のドアのぶを握り、一週間 留守にした部屋が荒れていないことを祈りながら あさ美はドアを開けた。
26 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)19時34分12秒
「‥‥あー、あさ美だぁ。久しぶりだねー。うわっ、生真面目に制服で戻ってきてるよー」
 あさ美を出迎えたのは、妙に間延びした喋り方をする同居人の後藤真希だった。
 ジャージスタイルで頭はぼさぼさ。
 開け放たれた窓辺に椅子を置いて坐り、起きているのか寝ているのか区別のつかないトロンとした目をあさ美に向けている。
「後藤さんこそ珍しく早起き」
「んー?外がうるさくてねー。寝れるわけないじゃん」
 真希は長く伸ばした茶色の髪を面倒くさそうにかきあげて煙草を灰皿に押し付けて消した。
27 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)19時36分11秒
 床には化粧品やアクセサリー、雑誌等が散乱している。お菓子のカスも目立つ。
 室内はあさ美の予想通り荒れていた。
 一週間 留守にしただけでこの有様だ。
 部屋に篭った白い煙にあさ美は顔をしかめ、手で宙を扇いでわざとらしく咳ばらいし、着ていたコートをベッドに投げた。
「私もさっきひどい目に遭った」
「じゃー、あの話 聞いたんだ」
「‥‥高橋さんのことでしょう?」
 真希は特に返事をする様子もない。潰した煙草の吸い殻を爪先で弄びながら窓の外を見ている。
28 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)19時39分32秒
 5階だけあって眺めが良いのだが、ここから特に何も見えないのはあさ美も真希も知っているので、何を見ているのかなんて訊きはしない。
 都心から外れた田舎から見える景色はちゃちなものばかりだ。
「これ何?」
 隣にある真希の机の汚さを悲惨に感じながら、机にバッグを置いたあさ美の目にピンク色の封筒がとまった。「それはねー、いいものだよ」
 二本目の煙草を取り出して火をつける。
「可哀相な高橋愛ちゃん‥‥死んじゃって」 さほど感情の込められていない言葉と共に煙を吐き出す。真希の口元は微かに笑っていて、煙草を持つ手はあさ美が気になっている封筒を指している。 
29 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)19時41分02秒
 灰がこぼれそうなのを注意しようかとあさ美は思ったが、口をつぐんで封筒を手にとって訝しげに眺めた。
 見覚えのある几帳面な字であさ美の名前と寮の住所が書かれ、裏返すと『高橋愛』とだけ書かれていた。
「昨日きたみたい。夜帰ってきたらポストに入ってた」
「‥‥窓、閉めて。寒いよ」
 どこまでも淡々と、それでいて可笑しそうに話す真希にあさ美は思わずキツイ口調になる。
 真希がからかい半分に愛の名前を口にしたことで、あさ美は無性に腹が立った。
 さっき亜弥を冷たく突き放したのも 愛の名前を口にしたから。
30 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)19時44分27秒
 死んだ生徒のことを引っ張り出して茶化されたから頭にきたのであって、何か他に特別な感情があるからではない。
 絶対にそんなことはない。あさ美は自分に言い聞かせるように心の中で強く繰り返す。 封筒を持ったまま机の前で突っ立っているあさ美のブレザーの端を真希が引っ張った。あさ美はそれで我に返った。
「読むの?いつも捨ててたじゃん」
「あぁ‥うん。もう高橋さんはいないから」 返事をしてからあさ美は笑いたくなった。 読むと決める前に、既に手が封筒を開けていた。無意識にだ。
「高橋さんの最後の言葉だもの。だから、読まないと」
31 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月11日(水)19時46分11秒
 ふうん、と つまらなさそうに鼻をならして真希はクローゼットを開け、
「代償は死かぁ。高橋ちゃん、自分が死んじゃうなんて思わなかっただろうねー。返事ほしい、なんて書いてあったりして‥」
上目遣いに あさ美へ悪戯っぽく笑う。
 そして、鼻歌を歌いながら着替え始めた。 あさ美は、相変わらず真希の冗談は笑えないと思って頭を振り、丁寧に折り畳まれた一枚の紙を封筒から出して広げた。
32 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月12日(木)16時25分39秒
先が気になる話ですね。
33 名前:名無し 投稿日:2002年09月13日(金)01時45分04秒
>32名無し読者様
レスありがとうございます。
川o・д・)ノ<これからも気になってやって下さい!!

( ´ Д`)<なかなか進まないけど(ボソリ
34 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月13日(金)01時47分32秒
 封筒の色よりも やや濃いめのピンクの用紙の真ん中には、二つ折りにした際についた線が綺麗な谷を作り、紙全体から飴菓子みたいな甘いほのかな香りがする。
 手紙に目を通す前にあさ美は真希に気付かれないよう深呼吸をした。がらにもなくドキドキしている。
 愛からの手紙はこれで一体 何通になるのだろう。覚えてはいない。
 今まであさ美の元に届けられた封筒全て几帳面な字で宛名と宛先、愛の名が書かれていた。
 返事を返さなくても愛は変わらぬことなく一字一字を丁寧に書いて送ってきた。
35 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月13日(金)01時50分13秒
 もしあさ美が手紙を捨てることなく読んでいたなら、その字だけで、高橋愛と言う少女の純粋さを理解したことだろう。
「んん〜?あさ美、まだ読まないのー?」
「あっ、ちょっ、覗かないで」
 着替え終わった真希があさ美の肩に顎を乗せて手紙を覗き込む。 あさ美は掌を広げ、真希の額を掴んで後ろに押しのけた。
 イタタタッと小さな悲鳴を漏らして真希は大人しく顔を引っ込め、自分に背中を向けて窓辺に移動したあさ美に甘えた声を出す。
「あさ美ちゃーん、あたしも読みたいなぁー」
「そんな声だしてもダメです。後藤さん、少しだけ静かにして」
「感じ悪ぅ‥‥‥あさ美〜‥‥こっち見ないし‥」
36 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月13日(金)01時51分06秒
 まだ何か言いたそうに真希がぶつぶつと声を漏らしていたが、あさ美は聞こえないふりをして いよいよ手紙を読みにはいった。
 それは、ダークワインのボールペンで綴られた数行のあっさりした文だった。
(‥紺野さんへ。最後に‥‥これが私の愛‥これが私の‥‥) 
 そこまで読んであさ美の喉がグッと鳴って空気が胃に落ちた。
 視覚から、紙のざらりとした感触を媒介に指先から、目を背けたくなるような言葉が
あさ美に流れ込んでくる。
 ものの十秒もしないうちにあさ美は読み終わり、目頭を押さえ、片方の手で手紙をくしゃくしゃに握った。
37 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月13日(金)01時52分37秒
「んあ?変な声出さないでよー。恐いじゃんか‥」
「事故じゃないの!?」
 不思議そうに自分を見上げる真希の顔と共に、先程聞いたクラスメイトたちの会話が頭の中をぐるぐると回った。
 あの人が死んだ。死んじゃった。死んじゃった。死んだ。あの人が。一昨日の朝に。死んじゃった。落ちた。あの人。高橋さんが。陸橋から。陸橋から落ちた。雪の朝。歌姫。死んじゃった。愛ちゃん―――高橋愛。
 一昨日の朝、愛は足を滑らせて陸橋から落ちて死んだ。
 そうじゃないのか?あさ美は唇を噛む。
38 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月13日(金)01時53分51秒
「どうしたの‥‥あさ美?」
 ただならぬ様子に真希はベッドから体を起こした。
 そして、立ち尽くすあさ美の体を自分に向かせ問い掛ける。
「‥‥‥うそ‥‥でしょ‥」
 強く握られていた拳から力が抜けた。握り潰された手紙が床に落ちて部屋の中に小さな波紋を起こす。
 真希は、屈んで手紙を拾い上げ、シワを伸ばして読んだ。
 一瞬、驚きの表情になるが、真希の顔色は変わらない。
「‥‥‥これ、あさ美あての遺書じゃん」
 その言葉に あさ美は瞼を閉じる。
「遺書‥‥か」
 感慨深げに呟き、真希は手紙を机の上に置いた。
39 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月13日(金)01時56分08秒
 その時、ドアがノックされ、返事をする前に開いた。希美が顔を覗かせる。
「そろそろミサ始まるって」
「おう、ありがとー。‥辻ちゃん、お願いあるんだけどさー、うちら少し遅れるって先生に言っといてー」
 俯くあさ美を横目で気にしながらも、希美は艶のあるポニーテールを揺らして頷き ドアを閉めた。
 真希は再び あさ美に向き直る。
「今日はミサさぼっちゃ‥」
「こんなの‥‥私が何したって言うのよ‥!」
 自分の肩を抱く真希を押し退けて あさ美は乱暴にドアを開けて廊下へ飛び出した。

「あさ美っ!ちょっと待ってよー」
40 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月13日(金)01時57分58秒
 真希の声に廊下を歩く生徒たちが何事かと振り返る。あさ美は呼び声を無視して階段を駆け下りた。
 ただ前へ前へと走り抜けた。
『 これが私の愛。
これが私の心臓の音。 アナタには分かっているはず――』
 遺書の文面が、愛の声で囁かれる。 
うるさい!うるさい!うるさい!うるさい! あさ美は思いきり叫びたい衝動に駆られたが寸でで押し止めた。『――アナタには分かっているはず』
 激しく頭を振る。歌声のような囁きを振り払うように、全てを忘れたい為に。
「‥分からない‥‥私には‥分からない‥!」
 息をきらしながら
あさ美は途切れ途切れに呟いた。
41 名前:名無し 投稿日:2002年09月13日(金)02時10分01秒
レス37の出だしは、

「んあ?変な声出さないでよー。恐いじゃんか‥」

ではなく、

「‥‥‥高橋さんは‥‥どんなふうに死んだの?」
 あさ美の呻くような声に真希は雑誌から顔を上げる。
「んあ?変な声出さないでよー。恐いじゃんか‥」

でした。
申し訳ないです。
42 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月13日(金)13時00分01秒
気になる!!ものすごく気になります。更新待ってますよ!
43 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月13日(金)22時26分35秒
気になりますーーー!!!
朝読んだんですが気になって気になって(w
授業も手に・・・(をい
44 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月15日(日)09時29分25秒
大作の予感。
45 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月15日(日)15時24分10秒
実はこれの元ネタの漫画が好きなので、かなり期待してます。
6割ほど元ネタありということなので、残りの4割で展開される作者さんの世界が楽しみです。
ちょくちょく読みに来ますので頑張ってくださいね。
46 名前:名無し 投稿日:2002年09月16日(月)00時14分52秒
>42いしごま防衛軍様レスありがとうございます。
川;・-・)<更新遅いですが読んで下さいませ。気にして下さいませ。

>43名無し読者様
レスありがとうございます。
(*´ Д`)<授業を手につかなくさせるアタシって罪な女。

>44名無し読者様
レスありがとうございます。
予感では終わらせません(キパーリ
川;’−’川<‥‥なんて言えないわ〜、わたす。

>45名無し読者様
レスありがとうございます。
元ネタ知ってる方に読んで頂くのは かなり緊張しますね(汗
元ネタの雰囲気を壊さずに、自分の世界を書くのは難しいですが頑張ります。
∬´▽`∬<‥‥で、ワタシの出番は まだですか?
47 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)10時41分23秒
 土埃で汚れた石畳の階段をゆっくりと上り、大きな焦げ茶色のドアが開かれたお御堂へとあさ美は入った。
 整然と並ぶ上等な木で出来た長椅子は ほとんど席が埋まっている状態。
 仕方なく後方の壁に凭れ掛かる。前から2番目の椅子にクラスメイトと談笑する希美の後ろ姿を見つけたが、今は何を話すのも億劫なので声をかけないでおいた。
 こんな気分でもタイを正して平然を装っている自分に嫌気がさすけれど 真希のようにサボるなんてことは性格的に出来ない。
 部屋を飛び出したものの、結局自分はいつも通りお御堂に足を向けていた。
48 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)10時43分23秒
 変に真面目なところがあるあさ美に、真希はよく、
「そんなんで疲れないのー?」
と笑って訊いてくる。 あさ美から見たら、真希は逆に不真面目すぎるし、とても2才年上とは思えない。
 それが気遣いだと分かっていても。
 あさ美の隣に数人の少女が移動してきた。 そのうちの一人と目が合い、逸らされる。 亜弥のクラスメイトだ。
 距離を置く為に少しだけ横にずれ、気まずさに視線をお御堂内へ泳がせた。
 何を話しているのか、希美は楽しそうに笑っている。笑う度に頭が揺れて、ポニーテールが可愛らしく跳ねている。
 ガキっぽいからと言ってお団子頭から卒業したのはいつからだったけ?――どーでもいいことを考えた。
49 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)10時44分30秒
「聞いた?合唱部の高橋さんが死んだってやつ」
「知ってる!さっき先輩から聞いた」
「可哀相だよね。私、あの人の歌好きだったのに‥」
 あぁ、ここでもまた愛の話しだ。あさ美は嫌なモノから目を逸らすように露骨に少女たちから離れた。
 ところが、また別の場所でも 違う少女たちのグループが愛の話しをしているではないか。
 前から、後ろから、左右から。
 知らないうちに、お御堂全体が 愛の名前で溢れている。
 あの高橋愛が死んだのだから話題にのぼらないわけがないし、仕方がない、とあさ美は本日何度目かの溜息をつく。
50 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)10時46分45秒
「あそこの陸橋 すごく高いの」
「顔なんてぐしゃぐしゃになったんだろーね」
「やめてよぉ」
「雪降ってたんでしょ‥ソーゼツ‥」
 古びた陸橋を飛び越え、白い雪の絨毯の上に落ちてゆく愛。
 華奢な体は叩きつけられ、飛び散った赤い血が雪に染み広がった様は、きっと見事な赤い大輪の花を咲かせただろう。
 無残だが、どこか妖艶なものを感じさせる愛の白く冷くなった肌を這う赤い筋を あさ美はリアルに見てとった。
 愛はどうして死を選んだのか?
 その理由に気付けない自分は罪深いのか? あさ美には問うことしかできない。
51 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)10時48分42秒
「やっぱ此処に来てたかー」
 気怠さを隠さずにゆっくり隣を見ると 真希が立っていた。
「‥‥悪い?」
 あさ美の素っ気ない返事に真希は肩を竦め、希美のいる席へと視線を向けてあさ美に座るよう促す。
 つい今し方まであさ美を悩ませていた少女たちの囀りは止んでいて、祭壇の方には教師たちと校長が既に来ていた。
「今日のミサ、追悼だってさ――高橋愛ちゃんの」
 希美に近づくあさ美に素早く耳打ちし、真希はペロっと舌を出した。
52 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)10時51分50秒
「‥‥悲しいことをみなさんにお知らせしなければなりません」
 磨かれた透明ガラスから射し込む光が紡ぐベールは祭壇の上で踊り、黒いスーツに身を包んだ若い女性が 柔らかな声で あさ美たちに語りかける。
「先週、高等科2年の高橋愛さんが‥‥お亡くなりになりました」 金に近い茶色の髪、すらりとした長身。綺麗に化粧された顔。
 校長の石黒彩は、この地域一帯を所有する理事長の娘で、今は、もめにもめている人事の関係で一時的に職務を任されている。
 熱心なクリスチャンらしく、あさ美は彼女が早朝のお御堂で祈りを捧げる姿を幾度となく見かけたことがあった。
53 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)10時55分46秒
 朝日を浴びたその姿は神々しく、天空を飛び交う天使よりも、優しく微笑む聖母に似ているとあさ美は思う。「――駅近くの陸橋の金網の破れ目から‥」 天窓から入ってきた風で彩の長い髪が黄金色に波立ち、溜息が出る程に美しく煌めく。「彼女は我が校のよき生徒であり――
彼女の歌声は私たちの――」
 その光景に心奪われるあさ美。
 愛の死に涙を堪えていた少女たちではあったが、彩の語りが涙を誘い、至る所から鳴咽が洩れ始めた。

「本当に‥不幸な事故でありました‥‥。」

54 名前:パープル 投稿日:2002年09月16日(月)13時24分38秒
オイラの小説とかぶってしまいましたね・・・。雪板の「心臓の音」です(^_^;)
かぶっちゃったよ〜〜〜〜〜〜〜〜涙 どうしよ〜〜〜〜〜〜。
まぁお互い頑張りましょう・・・。ハイ。
55 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月16日(月)19時09分07秒
自分も上に載っているので見てきました。
元ネタがあるのでしょうがないでしょうが…
どちらも楽しみです!
頑張ってください。
56 名前:名無し 投稿日:2002年09月16日(月)19時45分13秒
>54パープル様
レスありがとうございます。
書きずらいとは思いますが、お互い頑張りましょう。

>55名無し読者様
レスありがとうございます。
オリジナルで違いが出せるようにはしたいですね。
頑張ります。
57 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)19時46分29秒
 不幸な事故――。
 最後に告げた彩の言葉に あさ美は睫毛をふせた。祈るように組まれた指がギュッときつくなる。
 このお御堂の中心に立つ彩が聖母ならば、その周りを取り囲む少女たちは天使。
 そして、一人うなだれている自分は罪人。 神の――愛からの最後の審判を待つ身。
 自分に下されるであろう最悪の審判に、誰も泣いてはくれないだろう。
『紺野さんへ――最後に』
 愛はどうだろうか? 少女たちのすすり泣く音は暗闇へと消えていった。
58 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)19時47分53秒
「 あーさ美 」
 呼び声と一緒にペチッと肩を叩かれた。
「朝食行こうよ。あたし お腹空いちゃった」
 真希のいつもと変わらぬ態度に安堵する反面、あさ美は腹ただしい気持ちが隠せないで勢いよく椅子から立ち上がった。
 八つ当たりだとは分かっている。でも、止められない。
「不幸な事故?
‥‥愛ちゃん‥高橋さんは‥‥自殺したんだよ!?」
「あさ美に遺書を残してね」
 だからどうしたんだと言うような真希の我関せずな口調に あさ美は目を細める。
「だからさー、あさ美はどうしたいわけ?
みんなにホントのこと知らせちゃう?」
59 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)19時49分46秒
 誰もいなくなったお御堂を見渡す真希。
 静寂に還ったお御堂内。笑いを含んだ声があさ美の頭上に響く。「金網が破れてなくても高橋さんは陸橋から落ちたって、ね」
「後藤さん!?」
 あさ美は真希を黙らせようと肩を掴んだ。 しかし、真希は 険しい表情のあさ美に構わずに続ける。
「真の事実は‥‥愛してやまない親友への恋心にたえきれず――」 自殺しちゃったんですってさ、そう小声で付け加えた真希。肩を掴む手から力が抜けのを感じた。
 それと同時に、お御堂の外にいる希美の手が強張る。
 二人の少女のやり取りを希美がドアの隙間から見ていることを
神ですら気付かない。
60 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)19時50分56秒
「あさ美はさ、高橋さんが好きだったんでしょー?
ほんのちょこっとでもさ。違うかなぁ?」
 あさ美は真希の問いに何度も何度も首を振る。長く黒い髪を狂ったように宙に舞わせて何度も。
 希美は 自分が見たことのないあさ美の様子に恐くなり、ドアから後ずさって食堂に走って行く。
「落ち着きなって、紺野さん。
そんなんじゃみんなに怪しまれるってー」
 真希の言う通りだ、と あさ美は首を振るのをやめた。
 額に滲む汗を拭い、乱れた髪を耳にかけて歩き始める。真希もその横を歩く。
61 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)19時52分11秒
「ごはん食べたらさ、気晴らしにどっか行こう。
こんなんじゃ授業受ける気もしないよ」
 まともに授業に出たことがない真希が言うのだから冗談には聞こえない。
 綺麗に切り整えられた爪を弄りながら 真希の頭の中は既に渋谷やら原宿やら繁華街に飛んでいる。
 楽しそうに鼻歌を歌う。
「私はいいから‥‥」「え〜?行こうよー。辻ちゃんに上手く誤魔化してもらってさ」
 自分を引っ張る真希の腕をあさ美は振り払う。
「そんなんだから前の学校退学になっちゃったんですよ。
私のことは もうほっといて!」
62 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月16日(月)19時53分48秒
「うわっ、痛いトコついてくれるねー。
何それ?さっきの仕返しのつもり?」
 振り払われた手を見つめ、苦々しく舌打ちをする。
 ドアの前で真希へと振り返り、あさ美は極めて冷たい目で言い放った。
「まだ何が起こったのか分からないの。
でも、分かるつもりもないの。
‥‥高橋愛は死んだ。真実はそれで十分よ」「それが あさ美の答え?」
「そうかもしれない」 ドアが開かれる。
 真希は外の まばゆさに顔を伏せた。
63 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)21時00分11秒
 愛の葬儀の日、もう降ることはないと予想されていた雪が 愛との別れを惜しむようにさらさらと降った。
 高校入学の為に福井から出て来た愛の親代わりである叔母の家で式は行われ、仕事で多忙な愛の両親の姿はそこにはなかった。
 両親の涙がない悲しい事実を知ることなく、飾られた写真に映る愛は無邪気に笑っている。
 柩におさめられている遺体は顔だけ何故か無傷で、自分の運命を全て受け入れたようにその表情は穏やかだ。 弔問に訪れた人々の髪や肩にはパウダースノーがちりばめられ、黒の喪服は白い聖衣へと変わり、愛は神の御手に引かれながら天に昇った。
64 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)21時01分02秒
 季節は急速に春へと向かっている。
 つい先日に雪が降ったと言うのに、今日には花壇の土から芽が吹き出て、青空では鳥が追いかけっこなどしている。
 教室の窓から見える風景は、のどかなものだ。あさ美は日誌を書く手を止めて しばし外を眺めた。
 北海道はまだ雪が残っているだろう。風も冷たいに違いない。
 それに比べて、此処は楽園みたいだ。
 ずっとこんな平凡な日々が続けばいいと願わずにはいられない。 ‥‥願わなくても続くと思っていた。
 自嘲気味になっている自分に気付き、少し笑みを洩らす。
65 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)21時03分15秒
「ちょっとええか?」 再びペンを握ったあさ美に影がかかった。 声の主はすぐ分かったし、内容もほぼ察しがつく。
「あさ美、あんた何で高橋ちゃんのお葬式に来なかったん?」
 亜依が言い掛かりをつけるような口調と、非難めいた目で あさ美を見下ろす。周囲にいるクラスメイトが遠巻きに二人を伺っている。
 あさ美は少女たちの野次馬的な視線に半ば呆れながら 亜依に答えた。
「私には関係ない人だもの。クラス違うし」「関係ないって‥‥同じ学年だし、あんたクラス委員やん。
高橋ちゃんとも友達やろ?」
 ちょうど教室に入ってきた希美に亜依は「なぁ?」と同意を求めるが、希美はワケが分からず八重歯を覗かせ曖昧に笑う。
66 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)21時04分29秒
 あさ美は希美を見遣ると、日誌を閉めて椅子から立ち上がった。 いきなりのことに亜依は後ろにのけ反る。「な、なに!?」
「―――彼女とは友達でもないし」
 亜依や希美、クラスメイトが注目する中を無表情で通り抜けて行く あさ美。
 それ以上 何も言わずに教室から出ていってしまった。
「友達でもないし、の続きは何なんや!
いけすかない奴やなぁ」
 あさ美の出ていったドアに亜依は吠える。「まあまあ、亜依ちゃん落ち着いて」
「イヤや。どない落ち着けっちゅーねん」
 希美の制しにも頭を振って拒否する亜依に、クラスメイトたちはやれやれと顔を見合わせた。
67 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)21時06分07秒
 淡々と物事を進めたり、あまり感情を表に出さないあさ美、
 関西出身で明るく何でも豪快に行う亜依、この二人は事あるごとに衝突する。
 迷惑なのは、あさ美と亜依の言い合い(?)がある度に、被害を受けるのは何も関係のないクラスメイトたちだ。
「決まったって!」
 微妙な雰囲気の中、新垣里沙が叫びながら駆け込んできた。
 よっぽどの重大ニュースらしく、小さな肩が上下に激しく動いている。
「合唱部‥今度の‥全国コンクールのメインパート‥‥松浦さんに決まったみたい」
 息をきらして言うと、里沙は亜依と希美の傍に坐った。
68 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)21時08分17秒
 亜依が里沙の肩を労うよう叩く。
「新垣ちゃん、お疲れさん。予想どおりやな」
「松浦さん以外 考えられないもんね」
 他の生徒たちも里沙の言葉を聞いて お喋りに花を咲かせる。
「やっぱ高橋さんが死んで 松浦さんが得してるよねー」
「石川先輩を独り占め出来るし」
「次期部長も松浦さんに決まりでしょ」
 吐き出される言葉のほとんどが嫉みや、毒を含んでいる。
 暫くして、話題は別のものに変わっていった。
 希美は聞き耳を立てながら目線だけは、隣で あさ美の文句を言っている亜依と里沙を向けていた。
 時折、亜依のマシンガントークに疲れた里沙が、希美に助けを求めてくる。
69 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)21時10分30秒
『愛が死んだことで亜弥が一番得をした』
 希美は苦しそうに唇を歪める。
 そして、昨日の葬儀に来ていなかったあさ美のことを思う。
 本当に得をしたのは誰なのか。
 あさ美は愛のことを本当はどう思っているのか。
「‥‥あさ美ちゃんはさぁ」
「ん?どした?」
「まだ気にしてるのかな‥‥あのこと」
 思わず呟いた独り言を亜依に聞かれ、希美は言葉少なく話す。
「気にしてるんとちゃう?
イヤやねー。あんなお遊び根にもつなんて。あさ美のそーゆうとこが嫌いやねん」
「あれって本当の話しなの?
高橋さんがそんなことするなんて信じられないよ」
「松浦はありえるけどなぁ」
70 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)21時13分22秒
 愛と一番のライバル関係にあった亜弥だが、愛の死に一番泣いたのも亜弥だ。
 二人の奔放な会話にいたたまれなくなって希美は口をつぐんだ。 愛の追悼があった後、誰もいないお御堂で偶然見てしまった真希とあさ美の不穏なやり取りを思い出す。
 内容は聞こえなくても、愛が絡んでいることはすぐに分かった。 愛の死、あさ美の取り乱し様。
 全てはあの『お遊び』が原因なのだと希美は思った。
71 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)22時02分43秒
 教室を出た後、春風に煽られる木々に縁取られた清々しい小道を、あさ美はどこかスッキリしない気分で歩いた。
 革靴の下で小石がじゃりじゃりと鳴ると
頭がずきりと痛む。
 普段は気にならないことでも過敏に反応し、神経質になり過ぎている。
 亜依が余計なことを言うからだと、あさ美は苦々しい思いで 爪先にあたった石を薮に蹴った。
72 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月17日(火)22時07分11秒
 教室も廊下も、何処もかしこも 高橋愛のことばかり。
 職員室で何気なく耳に入ってきた話しに
嫌気がさす。
 初の全国大会出場を決めた合唱部のメインソロを愛から亜弥に代わったらしい。
 このことで、愛の話題は当分 静まりそうになかった。
 ただのお茶飲み会も同然だった合唱部を全国にまで導いた愛。
 澄んだ歌声は少女たちを魅了し、入部希望者はあとをたたなかった。
 去年のクリスマスのミサにアヴェ・マリアを歌った姿を今でも鮮明に覚えている。
 愛が歌った後、自分が一筋の涙を流していたことも。その頃から愛を意識し始めたことも。
 いつの間にか辿り着いた寮の前で あさ美は もう一つ 石を蹴った。
73 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)03時50分35秒
 部屋に入った あさ美の目にとまったのは不自然に盛り上がった真希のベッドの毛布。 なんの躊躇いもなくバッとめくると、真希と、真希の背中に手をまわすド派手な金髪の少女が現れた。
 今まさに‥な所を襲撃したせいか、少女はあさ美を睨みつけている。
「矢口先輩、他生徒の出入りは禁止ですが」 毛布を床に放り投げて あさ美は通算3度目の忠告を口にする。「おまえさぁ普通
毛布めくるかなぁ」
「先輩がいるとは思いませんでしたので」
「うそつけ!!」
「やぐっつぁん、今日は大人しく帰った方がいいかもしれない」
74 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)03時53分00秒
 下着姿のままあさ美に掴みかかろうとする矢口真里を真希は慌てて抑えた。
 あさ美から発せられる不機嫌ビームをすぐさま敏感に察知したからである。
 あさ美は空手の茶帯を持っている。軽くデコピンしだけでノックアウトしてしまいそうに小柄な真里を 今のあさ美なら本気で相手にしかねない。
「放せよ ゴトウ!
こいつ一発 殴らせろ」
「やめときなって。
あさ美 今 機嫌悪いんだからー。
骨一本は逝っちゃうよ」
 暴れる真里を真希が抑えている間に あさ美が制服を集め、
「今夜そっち行くからさー。
じゃね、やぐっつぁん」
 真希は真里を廊下に放り出した。
75 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)03時54分35秒
「そうゆうことですから」
 そう言って 今度はあさ美が制服を廊下に投げ、ドアを閉めた。「おいおいっ!服くらい着させろよ。
放置かよっ!?」
 真里がドアの外から空しいツッコミをいれる。
「ムカツクなぁ‥‥ゴトウ、夜にメールするから。
あと、紺野!おまえ
覚えてろよな」
 ヤクザまがいの台詞を吐き捨てて、真里は制服を抱え走り去っていった。
「矢口先輩ってば足音まで小さい」
「あっ、やぐっつぁんに言ってやろー」
 悪びれた様子のない真希。シワの寄ったシーツの上で大きく伸びすると、椅子に坐って鞄から教科書を取り出す あさ美の背中に話しかけた。
76 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)03時55分29秒
「あさ美も今日はサボり?」
「平家先生が風邪でお休みだから自習だって」
「ふぇー、二日酔いとかじゃないのー」
 ごろんと仰向けになり 真希は笑う。笑い声が天井に反響して 面白く聞こえ、わざと声を出し続けてると
あさ美が振り返った。 眉間に深く怒りが刻まれている。
77 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)03時56分31秒
 あさ美の怒りに動じる気配もない(つもりもない)真希は、頬を膨らませ 面倒くさそうに起き上がる。
「何よー。うるさいなら教室で勉強すればいいじゃん」
「‥‥教室の方が うるさいからいいわ、我慢する」
 あさ美はろくに真希の顔も見ず、ぷいっとノートに向き直った。「あさ美らしくないじゃん。
‥やぐっつぁんを部屋に入れたこと怒ってんのー?ごめんねー」
 いつもなら何かと理屈をこねて言い返す
あさ美が大人しく引き下がった。真希は バツが悪そうに謝るが、あさ美は「別に」と一言しか返さない。
78 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)03時58分53秒
 しかし、暫くして、真希が煙草に火をつけた時に、
「後藤さんが悪いんじゃないの。
私がイケナイの」
あさ美の弱々しい声が洩れた。
 煙草から立ち上る煙のようにか細い。
「教室の方がうるさいって‥‥誰かに何か言われた?」
 高橋愛ちゃんのことで、と付け加え、ふうっと煙を美味しそうに吐き出す真希。
 あさ美は真希からは視線を逸らし、窓の外の一点を見つめる。
「お葬式に行かなかったこと言われただけ」「あー、昨日だったっけ?あたし何してたかなぁ」
「後藤さんのことなんて聞いてないよ‥」
「いいじゃん、少しは気にしてよー‥‥って、あれ?何処だー?」
79 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)03時59分45秒
 片手に煙草を持ち、ベッド周辺をまさぐる真希を、呆れてながら見遣るあさ美。
 立ち上がって机の上に置いてある空き缶を目の前に差し出す。
「サンキュウ♪」
 灰皿代わりの空き缶を受け取り、真希は定位置である窓辺に凭れかかった。
「ぶっちゃけ お尋ねしますが、紺野さん、あなたは高橋さんをどう思ってますか?」
「別にどうも思って‥」
「あのことが許せないんでしょ?
あさ美って根暗だねー」
 真希の恐いもの知らずな物言いにあさ美は閉口する。
 その質問や意見が全て図星だから、と言う方が正しいかもしれない。
80 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)04時01分10秒
 全てピンポイント。 地雷踏みまくり。
「高橋さんも亜弥ちゃんも ほんの悪戯のつもりでやったんだし。可愛いじゃない」
 とんだ悪戯だと あさ美は思い、鼻で笑った。愛の話から逃れたくて 部屋に来たらまたこれだ。
 自分はどうやらこの呪縛に完全に足を掴まれたらしい。
 開き直って 真希の話しに聴き入った。
「成績優秀、クラス委員長、品行方正。
1年C組、紺野あさ美をゲットせよ!
勝った方がコンクールのメインをはれる景品付き」
 こりゃお買い得だね、クックと喉の奥で笑う真希に、あさ美は引き攣った笑みを零す。
81 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)04時02分52秒
 どんなシビアな話しをしている最中でも繰り出される真希のジョーク。やはり笑えないのに、笑っている自分が不思議。
「松浦さんは からかってるって分かった。でも‥愛ちゃん、ううん、高橋さんは‥‥」 空を渡る鳥の群れが絶妙なVの字を作る。 窓の外を眺める あさ美は 広がる青空に、愛と過ごした1ヶ月にも満たない日々を思い浮かべた。
 楽しかった毎日、それは本当に呆気なく終わった。きっかけは、希美の言葉だった。
『亜弥ちゃんと高橋さんのゲームのこと知ってる?
合唱部の間で噂になってるらしいよ‥』
 ある日の放課後、希美が言いずらそうに
あさ美に耳打ちした。
82 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)04時07分43秒
「結局、二人ともゲームオーバー。
高橋愛ちゃんはふられちゃいましたとさ。
加護ちゃんから聞いただけだから詳しい話は知らないけど。

 空き缶に煙草を押し潰し、真希があさ美に事の経緯を話すよう促すが、あさ美は まっぴらだと首を振る。
「後藤さんは あれが自殺の原因だって言いたいの?
1年生の‥2ヶ月も前のことなのに」
「亜弥ちゃんは梨華ちゃん一筋だからゲームのつもりでしてたとは思うけどー‥‥これマジトークね。
高橋さんは違ったと思うよ」
 愛の何が違うのかとあさ美は胸を押さえ、耳を塞ぎたい衝動にかられる。ずっと打ち消してきた考えを 真希から聞くのが恐い。
83 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)04時09分04秒
「懲りずに何通も手紙送ってきたよねー。
あさ美、読まないで破いちゃってたけど、大体 内容 分かってたんでしょ?」
 真希はそんな あさ美の苦悩を知ってか知らずか 勿体ぶった仕草で煙草に火をつけてくわえる。
 
84 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)04時10分33秒
「死に至るほどの愛!なんてドラマチック。‥‥高橋さんはさー、本気で あさ美が好きだったんだよ。
ちょっとストーカーっぽいけどさ」
 そう言った後も、真希の話しはまだ続いていたが、あさ美の耳には全く入ってこなかった。誰の言葉も一切 拒絶する。
 真希の言った、ある一つの台詞が心を闇で被っているから。
『高橋さんはさー、本気であさ美が好きだったんだよ』
 あさ美も薄々は感づいていた。愛が冗談で自分に告白してきたのではないことを。
 破り捨てた手紙の数だけ 愛が悩んでいるであろうことを。
85 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)04時12分51秒
 しかし、考えれば考える程に、猜疑心だけがそれを打ち消すように増殖した。
 自分に近づいたのも始めから からかい目的だったのでは?
 愛を信じてしまった自分を哀れに思って
手紙を送ってくるのでは?
 それとも、手紙をよこしてくることも ゲームなのではないか? 人の心なんて移り気なもの。奥底なんて見えやしない。
「私は信じない‥」
 鳥も何も見えなくなった空に 重い口を開く。
『これが私の愛。
 これが私の心臓の音』
 愛が自分を好きだったなんて信じない。
 堅く握られる あさ美の拳。真希は 投げやりに言う。
「あさ美の好きにすれば」

86 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)17時54分45秒
 深みのある茶色のロングコートを羽織った少女が人気のない駅のホームに降り立った。 耳障りな機械音を発して電車は少女の後ろで走り出す。
 小川麻琴は夕暮れの中に溶けてゆく電車の姿を振り返りはしなかった。
 まだ冬が終わったばかりとは言え、麻琴の纏っているコートは
いささか厚ぼったく感じられる。
「此処ってマジで東京なの‥?」
 ホームから眺める田舎町の風景は 麻琴が住んでいた土地とさほど変わりはない。
 唯一の違いは、山が見えるか、海が見えるかくらい。
 麻琴の田舎は後者で、此処は山よりの為か全体が閉鎖的に見え、意味もなく肩がこりそうだ。
87 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月18日(水)17時56分29秒
 駅周りには住宅がビッシリ詰まっており、麻琴が憧れていた東京の賑やかで華やかな雰囲気など微塵もなかった。
 もっとよく目を凝らした先には線路をまたぐ古びた陸橋があり、黒い人影のようなものが立っていた。夕日が作り出した悪戯なのかもしれない。 
 麻琴は逆光に目を細めて その人影をジッと見つめた。だが、麻琴の瞳には おぼろげにしか確認できず、長い髪がオレンジの光の中を泳いでいることしか分からない。
「やばっ、そろそろ行かないと」
 麻琴は、大きなスポーツバッグを持つとホームの階段を下りていった。
88 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月19日(木)14時10分54秒
おっ小川登場(w
続き楽しみっす
89 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月19日(木)17時39分33秒
やったー! 小川登場。
90 名前:名無し 投稿日:2002年09月19日(木)20時46分26秒
>88名無し読者様
レスありがとうございます。
やっと小川が登場しました。長かった‥(汗

>89名無し読者様
レスありがとうございました。
喜んでいただけて光栄です。小川には これから頑張ってもらいます(w
91 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月19日(木)20時49分10秒
 駅から出ると地図を片手に麻琴は目の前に幾重にも伸びる大通を見回した。
 横を通り過ぎて行く人の幾人かは、季節はずれのコートを着て辺りを不慣れに進む麻琴を振り返る。麻琴は道を探すことに懸命で、それに気付く様子もなかった。
 麻琴は地図に首を捻り、仕方なく交番へと足を向けた。
 交番にいたのは仏頂面の中年の警官。麻琴が申し訳なさそうに声をかけると、渋々といった感じで話しに耳を傾ける。
「あの、聖敬学園はどの道から行けばいいんでしょうか?」
 警官は麻琴の持つ地図を睨むように見てから「あぁ、あそこね」と説明し始めた。
92 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月19日(木)20時51分56秒
「転校生?」
「あっ、はい。そうです」
「事故があった矢先に転校するなんて大変だねぇ」
「はぁ‥事故ですか?」
「そこの陸橋でね。
幽霊が出るとか出ないとか‥その地図貸してくれる?」
 話しの途中で麻琴から地図を受け取り、行くべき道をマーカーで色づけをする。
 黄色の蛍光ペンが軽快に紙の上を滑るのを見る麻琴は、小学生も怖がらないような警官の噂話しに笑いを堪えた。
 自分がホームから見た人影がもしそうなら笑えないけど‥。
「‥‥で、そこからこの道を真っ直ぐ行けば、5分かそこらで着くから」
「ありがとうございました!」
 丁寧に礼を言うと、麻琴は急いで交番を出た。時計の針はとっくに約束の時間を過ぎている。
93 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月19日(木)20時53分20秒
 まずは、右手にある並木道を行って‥そこを左に‥‥んー、でもなぁ‥。
 顎に手をもってゆき、交番の前で暫く考え込む。
 結果、麻琴は説明された道ではなく、学園とは反対方向である線路沿いの道を歩き出した。
 数分歩いたのち、すっかり薄暗くなった寂しい空気の中にポツンと佇むモノが麻琴の目に見えてきた。
 先程、ホームから見えた古びた陸橋。
 電流が弾けるような音を立てて青白い電灯を点し、金網を両手で掴み、長い黒髪を横に垂らして俯く人影が電灯の下に現れた。
「女の子‥?」
 麻琴は一歩 後退し、橋の真ん中を凝視した。
94 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月19日(木)20時56分33秒
 こんなに近くで見ている筈なのに、ホームから見た時のように姿が ぼやけている。
 おぼろ月の如く淡いカタチ。
 冷たいものが背中に流れ、麻琴は唾を呑み込んだ。これが 警官の言っていた、女生徒の幽霊であろうか?  だが、黒いスカートからは 細くて白い足が覗き、麻琴の視線に気付いたのか、こちらを見下ろしている。
 吸い込まれてしまいそうなほど大きな瞳だと 麻琴は思った。
 強い生気は感じられないものの、人影がちゃんとした生身の人間だと分かり、安堵の息と共に、どっと汗が出る。
 麻琴は興味本位で陸橋へと訪れた自分が急に阿保らしくなり、その場を立ち去ろうとするが、しかし、次の瞬間に体が凍り付いて動けなくなった。
95 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月19日(木)20時57分43秒

「嘘‥‥でしょ」

 背中に羽根のない黒い天使が堕ちてゆく。 少女は遠目からでも分かるくらい華やかに麻琴に微笑みかけると、金網を乗り越えた。
96 名前:読者 投稿日:2002年09月22日(日)00時04分17秒
すごく面白いです。
こんなに面白いと、元ネタも気になります。
良かったら教えていただけないでしょうか?
97 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時26分11秒
「好きにすれば、か‥」
 確か、この学校に入りたいと母親に言った時にも言われた。
 そして、今度は真希に。
 下から吹き込んでくる風に髪を煽られ、あさ美は顔をしかめた。 投げやりにあさ美との会話を打ち切った後、真希は何を考えているのか分からない相変わらずの表情を外に向け、自分の方を見ることはなかった。
 そして、あさ美はまた部屋を飛び出した。 真希の言うように
自分の好きにさせてもらおうじゃないか。
 これが自分の答えの出し方だ。
 それはあまりにも突発的で、あまりにも暴走に近い。
 愛をこの手で消す。二度と自分の前に現れないよう微塵に。
 その思いで あさ美は此処に来た筈であった。
 
98 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時27分18秒
 駅の明かりが目に滲む。愛が飛び立った陸橋に来てから 随分と長い時が経っていた。もう夜だ。
 淋しい空気に決断を揺るがされている。
「私‥‥どうすればいい?」
 愛に供えられた花束たちに あさ美は語りかける。ジュースやお菓子、ぬいぐるみ。
 それらを嬉しそうに抱きかかえる愛が瞼に浮かんできて あさ美は目頭が熱くなった。 愛に死なれてから
あさ美の中は愛のことばかり。
 生徒たちの後ろ姿に愛を探している。
 ずっと愛のことだけを考えている。
「愛ちゃんの遺書が頭の中で響くの」
 あなたの歌声で‥。
99 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時28分59秒
 金網を握る手に力をこめた。
 この高い陸橋から愛は飛び降りたのだ。
 目が眩む。それでもあさ美は下を見ることをやめはしない。
 この下で愛が両手を広げて自分を待っている気がした。
 あとを追えとでも言うのか?それが愛の望みなのか?
 制服のポケットからおもむろに愛からの遺書を取り出す。
 紙からは飴菓子のような香りは消えていて、花束の きつい匂いが あさ美に絡みついてくる。熟しきって甘くて重い。眠い。
 死んだらずっと眠っていられる。悩む必要なんてない。
「私も‥行けるかな‥‥‥っ!!」




 ――愛ちゃん?


100 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時30分56秒
 今までにない強い風が吹き荒れる。
 あさ美は何かに腕を引っ張られ、我に返った。
 一瞬、愛に手を掴まれた錯覚に陥ったが、耳に入ってきた声は 愛のそれとは全く違うものだった。

「あれ‥?生きてる」

 突然の出来事に、あさ美は驚いて、腕を掴まれたまま尻もちをつく。
 麻琴が細い目を見開いて、あさ美を見下ろしていた。
101 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時34分04秒
 自分の腕を掴む麻琴を あさ美は腰を上げるのも忘れて見入る。 暑苦しいロングコートを着て、肩にはスポーツバッグをかけている。なんとも不格好な少女。
 なんなのだろう?
「あ、あのぉ‥」
「確かに誰か飛び降りたのに‥わたしの見間違えかなぁ」
 あさ美を無視して麻琴は陸橋の下を覗き込むが、線路には何も落ちていなかった。ましてや 女の子の死体などは‥。
 麻琴は ほっと胸を撫で下ろした。新天地に来た その日に、いきなり目の前で飛び降りをされ、死体など見せつけられたら心臓に悪い。
102 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時35分50秒
「‥あの!放してもらえませんか?」
「あっ、ごめんごめん」
 さっきよりも大きな声で話し掛けられ、麻琴はやっと あさ美の存在に気付いて慌てて手を放した。
 あさ美は 金網の目に指をかけて立ち上がり、スカートについた土埃を叩き落とす。
 塵が風に舞って電灯の光に吸い込まれるのを目で追っていた麻琴は、緊張が解けたのか含み笑いを零した。
 あさ美は訝しげにそれを見る。
「あぁ‥‥ごめんね。幽霊とか飛び降りとかバカげた話だと思ってさ」
 『飛び降り』‥‥あさ美はそれを聞き逃さなかったが、麻琴はあさ美の肩が小刻みに震えたのを見逃す。
103 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時38分14秒
「ビックリしたよ。
もしかしたら自殺かと思って」
 あさ美は、麻琴に歩み寄った。
「‥‥なんで」
「え?」
 自分と真希しか知らない愛の自殺のことを通りすがりの少女がなんで知っているのだ?「愛ちゃんが自殺したこと なんで知っているの!?」
「えっ、な、なに?」「何処で聞いたの!?」
 コートの襟を引っ張られた麻琴は無我夢中で叫んだ。
 背後から、金網の軋む音が聞こえる。このままだと自分が落ちてしまうではないか。
 幻覚で見た少女の代わりに。
「わたしが聞いたのは幽霊の話しだけだよ!自殺なんて知らないってば!」
「本当に?」
「ホントだよ!事故で死んだ娘の幽霊の話」「じゃあ、飛び降りの話は?」
「それは‥‥さっきまで橋見てたら、誰かがこっっから飛び降りたように見えたってやつ‥わたしの勘違い!」
104 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時39分18秒
 念を押すようにあさ美が睨むと、麻琴は細かく震えている顎で頷いた。
 あさ美は襟を掴んでいた手を放した。
 解放されて、2・3度 咳込んだ麻琴は、喉を抑えた。あさ美に文句を言おうとするが、あさ美の着ている制服を見て 罵声を飲み込んだ。
 闇に溶けてしまいそうな黒。羽根のない黒い天使。
 しかし、麻琴の見た少女とは顔が違う。
「もしかして、その制服‥‥聖敬?」
「そうですけど」
 あさ美の落ち着きはらった声が即座に答えた。
 陸橋から突き落としそうな勢いで麻琴を問い詰めてきたのが嘘のようだ。
105 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時41分06秒
 自分を質問責めにしたかと思ったら、平然とした顔で眉一つ動かさない‥。
 なんて奴だ、と麻琴は心で舌打ちをしつつも、あさ美との会話を続けた。見た感じ、自分と同じ学年だろうし、学園まで案内してもらえるかもしれない。「わたし、今日 聖敬の高等科の2年に転入することになった小川麻琴」
 一気に自己紹介した麻琴に、あさ美は興味なさそうな態度を露骨にとる。虚ろな目で暗くなった線路の行く先に視線を移し、
「紺野あさ美、高等2年‥」
水分がなくなったカラカラの声で呟く。
「おー!やっぱ同い年かぁ。あさ美ちゃんて呼んでもいい?」
 初対面の麻琴にファーストネームを呼ばれることに抵抗を拭えないが、麻琴のニコニコ顔に圧されて頷いた。
106 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時43分57秒
「で、あさ美ちゃんは此処で何してたの?
死んだ娘のお参り?」「そうなのかも‥」
「かもって、変な答え方するね」
「変かなぁ」
 麻琴が あさ美の曖昧な返事に笑う。よく笑う人だなとあさ美は思った。
 自分とは正反対だ。 素直に感情を出せる麻琴に、あさ美は嫉妬で胸がチクリとする。「うん‥変だよ」
 そして、麻琴も胸に小さな痛みが走った。「そうなのかも」と あさ美が言ったことに対してだ。
 そう返事をした時、あさ美は ぞっとするくらい悲しそうな、それでいて綺麗な表情をした。
 特別な理由があるわけではなく、ただ、あさ美の その悲しそうな顔に胸が痛んだ。
107 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時47分05秒
 自分と同い年の、それも あさ美のように可愛らしい感じの女の子が、そういう表情をするのを見るのは初めてだった。
「あさ美ちゃんは まだ此処にいる?」
 麻琴の声が急に少し大きくなって、あさ美はビクッとした。口調も変わった。
 視線も あさ美の顔から外しがちに話す。 麻琴の様子を不思議に思いながら、あさ美は 愛の遺書が手に握られているのを思い出し、遺書を電灯に透かして考え込んだ。
 そして、真ん中から破った。麻琴は何か言いたそうに黙って見ている。 
 
108 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)15時50分00秒
 ビリビリに引き裂いた遺書は ピンク色の細かな紙屑と化し、これからの季節に咲き乱れる桜の花びらのようだ。
 あさ美は夜空に向かって それを撒き散らした。さらさらと闇の中に舞う。
「綺麗な夜桜でしょ?」
 あさ美の何も映っていない瞳と抑揚のない言い方が不気味。返事をしないでいると、あさ美は 瞬きをした。
 ――これが、私の答え。
さようなら、愛ちゃん‥‥もう二度と私は振り返らない――。

 ほくそ笑んで歩き出す。その背中が視界から完全に消えまるまで、麻琴は夜桜の行方を見守っていた。
109 名前:名無し 投稿日:2002年09月23日(月)15時54分17秒
>96読者様
レスありがとうございます。
元ネタは、萩尾望都の『トーマの心臓』と言う作品です。
少女マンガです。

∬´▽`∬<‥‥あんまり絡みないね。
川o・-・)<恋愛モノなのにね。
(*´ Д`)<実はゴマコンだったり(ry

ベタベタな恋愛小説が好きな方には物足りなくてスミマセン(汗
110 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月23日(月)18時43分32秒
なんか引き込まれますよ。更新楽しみに待っていますよ!!
111 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)22時22分27秒
 擬似桜を見ながら麻琴は、今日 発ったばかりの故郷を思い出した。
 麻琴の家の庭にある立派な桜の木。
 まだ蕾は閉じていて、あさ美が散らしたような 鮮やかな花は咲いてはいなかった。
 それは田舎の桜だけには限らず、この一帯の桜の木も まだポツリポツリとしか咲いてない。
 堅い皮膚に被われた幹を天に伸ばす姿に、麻琴は涙が出そうになる。
 去年、庭の縁側で祖母と桜を見上げ、二人だけでお花見をしたことが懐かしい。
 しかし、麻琴の口から出たのは、
「‥‥おばあちゃんのバカ‥」
 精一杯の強がりだった。
112 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)22時23分20秒
 麻琴は自分の境遇を嘆いたことは一度もない。嘆くよりも怒り、怒りよりも笑う。
 両親が離婚しても
どうでもよかった。
 祖母がいてさえくれれば それだけで充分だった。
 新潟県の日本海沿いにある市に 麻琴は住んでいた。
 両親が離婚したのはつい一年前。決定的な原因はないけれど、喧嘩の絶えない二人に、いつかは離婚するのだろうと麻琴はほんやりと考えてはいた。
 不便な田舎暮らしから解放されたい母は生まれ育った実家から出たいと言い、無関係な父が出て行くのは当たり前。
 父も母も麻琴を引き取りたいと申し出てたが、麻琴は拒否した。
113 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)22時26分03秒
 田舎に一人残される祖母を思うと出来なかったし、それ依然に、麻琴は祖母が大好きだったからである。
 そして、両親は家を出て行き、麻琴と祖母の二人暮らしが始まった。
 老人と子供、二人だけの田舎暮らしは不自由と言えば不自由。
 孫を不敏に思う祖母に心配をかけないよう、麻琴は いつも笑っていた。
 ずっと笑っているつもりだった。
114 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)22時30分19秒
 薄い夜霧と木々に囲まれた街外れに学園はあった。
 あさ美と不自然なかたちで別れ、学園まで自力で着いた麻琴は、校長室までの行き方を通りがかりの生徒に教えてもらうと、校内へと入っていった。
 それから10分後。 麻琴は広い校内で迷子になっている。
 古い木の作りの廊下と階段と黒い制服を着た少女たち。
 現代とは思えない世界。居心地が悪い。
 不気味な迷路に迷い込んだみたいだ。
 制服を着用していない麻琴は、当然、廊下を通りすがる生徒たちから極めて浮き立ち、好奇の視線を浴びていた。 
115 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)22時31分56秒
「あさ美のことでなんであたしが怒られるんだよー!」
「ごっちんの普段の行いが悪いからでしょ♪それより、あさ美ちゃんが心配だよぉ。
変な男にナンパされて、あんなことやこんなこと‥‥。
いやっ!そんなの悲しすぎるぅ」
「まーた始まったよ。あさ美ならダイジョブだって‥イタッ」
 迷っていることと、ぶしつけに浴びせられる視線に苛立った麻琴は、階段から下りてきた二人組の生徒と肩が触れたことにも気付かないで歩みを進めるが、
「ちょーっと待った!」
麻琴とぶつかった少女が乱暴に後ろ襟を掴んできた。
116 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)22時33分38秒
 辛い態勢で麻琴が振り返ると、整った顔立ちの茶髪の少女がムスッとした表情で麻琴を見ている。
 その少女は、あさ美とのことで不機嫌になっている真希だった。「あたっといて無視かよ」
「はぁ?」
 ちょっと触れただけなのに、とんだ言い掛かりだ。
「ごっちん、やめなよぉ。可哀相じゃない。大丈夫?ごめんね」
 ヘリウムガスを吸ったような声の少女が
麻琴の襟首から、真希の手を引きはがし、眉毛を八の字にさせて麻琴に謝った。
 ベタベタとやたら体を撫でてくる。
 それを見た真希は、不満そうにヘリウムガスに言う。
117 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)22時34分42秒
「梨華ちゃんは、女の子に優しいですねー。‥見境ないんだから」「フェミニストと言ってよぉ。
で、あなたのお名前と学年は?」
 ヘリウムガス―石川梨華―は、麻琴の肩に手を置き、瞳を輝かせて尋ねてきた。
 美人だが、肌の色が黒い。今時ガングロ?と思いながら麻琴は答える。
「高等2年の小川麻琴です。今日、転入してきました」
「小川麻琴ちゃんかぁ、よろしくね♪
私は、高等3年の石川梨華。
趣味は お買い物と‥」
「女の子あさりです」「ごっちん!でたらめ言わないでよぉ。
麻琴ちゃんが引いちゃうじゃない」
118 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月23日(月)22時43分31秒
 へらへらと笑う真希は、完全に梨華の反応を楽しんでいる。会話に取り残されそうな麻琴は、恐る恐る二人の間に割り込んだ。
「すみませんが校長室は‥」
「あたしは高等2年の後藤真希。でも、年は小川ちゃんより上だからー、そこんとこ夜・露・死・苦」
「きゃっ、ごっちん恐い〜。
でも、カッコイイぞ♪」
「梨華ちゃんはキショイね」
「うん、よく言われるぅ」
 延々と続くのではないかと 麻琴は溜息をつく。二人とも美人なのだが、どことなくズレてる。あさ美も変わっていたし。この学園にはまともな奴がいないのか‥。
 話しかけることを諦めて 麻琴は階段を上り出した。
「ちょーっと待った!」
 二度目のダメだし。「校長室探してるんでしょ?こっちちだよー」
 階段の下で、手招きをする真希。
 麻琴は有り難いような、素直に喜べないような気持ちで階段を下り、梨華と真希に挟まれる。
「さっそくなんだけどぉ、麻琴ちゃんは部活は何に入るつもり?」 そう言って梨華は更に麻琴に近づいた。
 
119 名前:名無し 投稿日:2002年09月23日(月)22時51分20秒
∬´▽`∬大活躍更新

>110いしごま防衛軍様
レスありがとうございます。
更新楽しみにしていただけて嬉しいです。
頑張ります。

TFP見てたら
( T ДT)の脱退が嘘に思えますた。
120 名前:訂正 投稿日:2002年09月23日(月)23時03分23秒
レス118の
「校長室探してるんでしょ?こっちちだよー」
は、
「校長室探してるんでしょ?こっちだよー」でした。
スミマセン。
121 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月24日(火)17時13分36秒
おお!!梨華たん登場ですな。いしごま万歳!!
小川がこれからどう関わっていくのか楽しみです。
122 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月26日(木)03時11分20秒
 梨華の肩と麻琴の腕がもう少しで触れ合う距離になった。梨華からふんわりとイイ匂いが届く。
 どこのコロンだろうか?
 麻琴はメンズの香りが好きで、去年までは父親のをよく借りていた。
 しかし、好きな香りがあっても、どんな香りが自分に合うのかよく分からない。
 梨華のつけている香りは、梨華にぴったりだと思った。
「部活ですか?」
「うん♪ウチの合唱部に入らない?
部員が一人減っちゃって寂しいのよぉ」
 お願い、と目を潤ませる梨華に困惑する麻琴。真希に助けを求めるが、笑っているだけで何も言わない。
123 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月26日(木)03時13分44秒
 麻琴は顔を赤らめて困った。そうゆう趣味はないけれど、梨華のような女の子らしくて可愛い娘に目を潤まされたら少しはときめいてしまう。
 だが、どんなに梨華が可愛くてもお願いには応えられない。
 前の高校では水泳部で体を動かしていたため、突っ立って歌を歌うだけの部活など麻琴には耐えられそうにないからだ。
「わたしは出来れば運動部が‥」
「う〜ん。じゃあ、お茶飲みに来るだけでもいいしぃ。
おやつも付けちゃう。ひとみちゃんのケーキ、柴ちゃんのクッキーは最高」
 甘いモノが大好きな麻琴の目が輝く。まんまと罠にかかった獲物に、梨華は心の中でガッツポーズ。
124 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月26日(木)03時16分43秒
「マジっすか!?おやつ付き?」
「付けちゃうわよぉ。なんだったら、私も付けちゃう♪」
 梨華は、麻琴の右腕に自分の左腕を巻きつけて誘惑を続けた。
 大きな胸の弾力のある柔らかい感触が 腕にあたり、麻琴はくすぐったい気持ちになっる。
 ところが、次の会話を聞いて、麻琴の心のビジョンは、あの表情をしたあさ美で埋めつくされ、真希と梨華の姿を見失ってしまいそうになった。

「高橋さんの後釜にでもするつもりー?
死んでからまだ二週間も経ってないのに。
梨華ちゃん、ヒドーイ」

「そんなんじゃないもん!
愛ちゃんのことは‥言わないで‥」

125 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月26日(木)03時20分23秒
 絡められた腕にキュウッと力が篭り、梨華の表情が曇る。和やかなムードも。
 『死』『愛ちゃん』、二つの単語から自然と導き出される名前。

 紺野あさ美。

 あさ美ちゃんが言ってた話しと何か関係ある、と麻琴は思った。「それって、駅の陸橋から自殺した愛ちゃんって娘ですか?」
 ニヤけていた真希の顔も曇る。それを見て麻琴は、深くは触れてはいけないことなのだと理解し、すぐさま自分の無神経さを後悔した。
「ううん‥愛ちゃんは事故だよぉ」
「そっ、陸橋の金網の破れ目から落ちちゃったの。
だれー?そんなこと言ったのは」
「‥‥2年の紺野あさ美ちゃんです」
 その答えに、「あのバカ‥」と真希が唸るように呟く。
126 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月26日(木)03時22分57秒
 校長室と書かれたプレートのついたドアが見えてきた。
 麻琴は、また真希を怒らせるようなことをしたのではないかと
梨華に寄り添ってビクビクする。
「あの娘ちょっと変だからねー。
ここだけの話しだけど、最近、ノイローゼ気味で頭がさぁ」
 人差し指で宙にクルクルと渦巻きを描きながら、やけにあっけらかんと話す真希。
 梨華の腕に隠れた麻琴を引っ張り出すと、校長室のドアの前に立たせ、

「‥‥あさ美に近づかない方がいいよ。
何かあってもー‥知らないよ」

麻琴にしか聞こえない声で言い放った。
127 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月26日(木)03時26分53秒
 窓の隙間から入り込んだ風の具合で、真希の髪についた煙草の強い匂いがする。
 梨華の甘い匂いとは正反対な苦い香り。
『あさ美に近づくな』『何かあっても‥』
 真希は確かにそう言った。
 なんで?どうして? あさ美ちゃんに近づくと何かある?
 そりゃあ、出会い方は最悪だったけど。
 殺されかけたりしたけど。
「じゃーね、小川ちゃん。彩っぺ校長によろしく言っといて」
「部活のこと考えておいてね。ちゃお〜」
 この学校で上手くやっていけるだろうか。 麻琴は此処に来たことを本気で不安に感じるが、気持ちを奮い立たせるとドアをノックした。
128 名前:名無し 投稿日:2002年09月26日(木)03時47分26秒
>121いしごま防衛軍様
レスありがとうございます。
いしごまも大好きです。
おがこんより目立っちゃってますが(鬱

( ^▽^)<主役の二人が影薄くなってまいりました♪

129 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月26日(木)11時59分46秒
おがこんのからみももっとみたいっす!!
ごっちんの言葉が気になります。何かってなんでしょうか?
んーものすごく気になる。
130 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月29日(日)02時45分57秒

「失礼します」

 彩は部屋の奥の机にいて、ラテン語が書かれた古い書物を見ながら紅茶を飲んでいた。 机に近づいてきた麻琴に、小さな穏やかな声で何か言うと、軽く微笑む。
 広くもなく、狭くもない空間を本棚が占拠している。
 その他には、ソファセットとテーブル、壁に掛けられた十字架。 窓にはブラインドも何も降りていない。
 窓と言うキャンバスに濃紺が塗りたくられ、カーテンなどの類はなかった。
「初めまして、小川さん。
学園長代行の石黒です」
「あ‥‥初めまして‥よろしくお願いします」
 ウェーブがかった茶色の長髪、目鼻立ちがハッキリしていて、華やかな美人。
 差し出された右手を戸惑うように握る。
 今度は、透明明マニキュアが塗られた爪とキメ細かい手の甲に、麻琴は目を奪われた。
131 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月29日(日)02時47分12秒
「新幹線が遅れたそうだけど、大変だったでしょう?」
「い、いいえっ!めっちゃ大丈夫です!
‥って、約束の時間より全然遅れたのに何言ってんだ、わたし。
すみませんっ」
 彩は笑わずに、何回か軽く頷いただけだった。
 怒っているのかと麻琴は思ったが、彩は一呼吸置くと、笑顔を見せた。
「事故じゃしょうがなもんね。
私も今日は電車の信号点検のせいで会議に遅刻したわ。
まっ、とにかくそんなに緊張しないで。
表情堅いぞ」
 急にフランクな話し方に変わった。麻琴はそのことがちょっと気になった。
132 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月29日(日)02時50分23秒
 しかし、さっきまでの堅苦しい口調よりも、今の方が自然な喋りで、これが彩の素なのだと思った。そう思ったら、麻琴は少しだけ肩の力を抜くことができた。
「それじゃ、もう知っているとは思うけど、ウチの学校の規律とか説明するね」
 そうは言ったものの、説明などは数分で終わり、雑談へと会話は移っていった。
 内容のほとんどは、彩が北海道、麻琴が新潟といった感じの雪国つながりである お互いの故郷の話し。
 そこから更に話題は逸れて行き、何故 彩のような若い女性が校長をしているのかと尋ねると、
「叔父さんが今 色々と大変で‥。
父親に命令されたの。叔父さんが戻るまで、とりあえず お前が代わりをやっとけってね」
「なんか‥いいい加減てゆーか、アバウトとゆーかですね」
「小川さんの言うとーり。
でも、まあ、OLしてるよりは楽しいから」 そう言いながらも困ったように話す。
133 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月29日(日)02時51分51秒
 部屋の中は二人の声だけで、ドア一枚を隔てた向こうは音楽が流れていた。
 カトリックの学校には似つかわしくない最新のJ−POP。誰でも知っているようなメジャーな曲。
 完全に陽が落ちて、暗闇に点った外灯の隙間を車の走る音が交錯する。
「騒がしくてごめんね」
 彩はドアに向かって苦笑いした。
「最近、ああなのよ。ついこの前‥‥生徒が一人事故に遭って。
彼女たちなりのお弔いみたい。
高橋さんはクラシックの方が好きなんだけどね」
 はぁ‥?と麻琴が眉を下げて声を出し、彩を見た。
 再び浮上した愛の名前。下手な相槌は打てない。
134 名前:I don't believe love 投稿日:2002年09月29日(日)02時57分45秒
「高橋さんの歌は本当に良かったわ。
小川さんと同じ2年生でね‥‥不幸な事故でもういないけど。
もう一度だけ聴きたかった‥」
 なんだか湿っぽくなっちゃったね、そう言うと彩は目の下を拭った。
 愛のことになると誰もが唇を噛むような表情になる。
 麻琴は一人だけのけ者にされた気分になった。
 今日、ここに来たばかりなのだから当然と言えば当然。
 だが、言葉を探す気力がなくなり、感情だけが胸に込み上げる。「わたしには‥」
 声がかすれた。自分の声じゃないみたい。「わたしには」
 もう一度言って、その後の言葉が続かなくなり、麻琴は意味のない寂しさをこらえた。

 わたしには‥‥関係のない話です。

「どうしたの?」
 彩が麻琴の顔を覗き込んで言った。
 麻琴は拒むように顔を背けた。
 ドアが重くノックされる。
「失礼いたします」
 あさ美の姿が目の前に現れた。

135 名前:名無し 投稿日:2002年09月29日(日)03時06分45秒
>129いしごま防衛軍様
レスありがとうございます。
おがこんの絡みは次回から本格的に始まる予定です。
後藤さんの言葉は カナーリ後になってから分かります(汗

恋愛モノ改め、紺野と小川のシリアスな学園物語になりそう(鬱
感想いただけると有り難いです。
136 名前:訂正です。 投稿日:2002年09月29日(日)03時13分20秒
レス130
 今度は、透明明マニキュアが

訂正:
 今度は、透明マニキュアが

レス132
「なんか‥いいい加減てゆーか

訂正:
「なんか‥いい加減てゆーか

読みづらくなってスミマセン。
137 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月29日(日)21時21分38秒
うーん、気になります!!
138 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月01日(火)00時19分03秒
気になる気になるw
139 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月01日(火)17時16分30秒
>恋愛モノ改め、紺野と小川のシリアスな学園物語になりそう(鬱
シリアスな展開でも大歓迎ですよ!なんでも来いw
つーか先が気になります。がんばってください!
140 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月01日(火)20時18分33秒
今日始めて読みました。めちゃくちゃ面白いです。
こういう雰囲気の小説、大好きです。
紺野が小川に対してどう惹かれていくのか?
続きがすごく気になります。おがこん、最高です。
141 名前:読者 投稿日:2002年10月11日(金)23時03分50秒
続き楽しみにしています。
142 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月25日(金)23時54分57秒
続きまだっすか?
143 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月07日(木)12時49分55秒
途中で放るなら書くな!
君は読者を裏切ったんだよ。
終わらせるなら顔出して説明しろ!
144 名前:名無し。m(__)m 投稿日:2002年11月07日(木)14時53分56秒
読者の方々に大変ご迷惑をおかけしました。放置状態にしていたのは、自分の力不足と責任のなさにあります。申し訳ございません。原作とオリジナルの世界を混ぜ合わせて書くことに行き詰まっていました。
他に理由を加えるならば、高橋さんへの役フリに失敗した事もありす。
それでも更新する意思はありましたが、いつになるかは自身でも把握できかねますので、読者様のおっしゃるように、理由を説明した上で放棄宣言をさせて頂きます。
今までずっと待っていて下ださった方がいましたら、重ねてお詫び致します。
本当にすみませんでした。

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