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天使になる方法
- 1 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年09月14日(土)01時06分05秒
- 初めて書かせていただきます。にゃんちゅーと申します。
ちゃんと小説になっているのかかなり不安なんですが、
よろしくお願いいたします。
年齢などは実際のものとは微妙に違います。
- 2 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時12分30秒
- 「ねー。けーちゃん」
「………ん?」
「けーちゃんのさー。初恋の人ってどんな人?」
「は?」
「ね。どんな人?」
「………」
「ねー」
―― その日その瞬間
「……ごとーさん?」
「ん?」
「どーして突然そんな質問でしょうか?」
「あー、んとねぇ」
「はいはい」
「………だ、から」
「はい?」
「退屈っっ、だから」
「はいぃぃい〜〜っっ?」
―― 彼女は激しく退屈していた
- 3 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時14分49秒
◇ ◇ ◇
- 4 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時20分12秒
- 「いったぁーーっ。だってこの問題全然わかんないんだもんっ」
部屋中に響き渡るような豪快な音でバコッと一発叩かれたその頭を、両手
で押さえながら後藤真希は涙目で訴える。今年の誕生日で17歳になる高校2
年生。正直すぎるその性格が自らに災いをもたらした決定的瞬間である。
「あーんたねっ。ちゃんと勉強しとけって言ったでしょーがっ」
そしてそんな真希を仁王立ちして一睨みしているのは保田圭。大学の英文
科に通う21歳のその右手には、たった今、真希の頭に豪快な面を決めた英語
の教科書が丸められた状態で握られている。
「だってぇ〜。この問題難しすぎるんだもんっ」
「あんたっ。この前教えたところ、家に帰って復習しなかったでしょっ」
「うっ………」
「だ〜か〜ら、こんな簡単な問題も解けないのっ」
「いたたたたたっ」
圭の左手によって作りだされた特製握り拳で、頭をぐりぐりされて真希が悶絶
する。
- 5 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時25分01秒
- 「やるべき事をやらないで、退屈っ、なんてわけのわかんないこと言ってんじゃ
ゃないわよっ」
「うわぁぁっ。暴力反た〜いっ」
「うるさいっ。こーいうことされたくなかったらちゃんと勉強しなさいっ。わか
った?」
「あぁああっ。わかったわかった。わかりましたぁ〜っ」
「で。問題が解けないからって変な質問しないのっ。いい?」
「はいはいはぁ〜いっ」
「ふむ…。わかったんならよろしい」
やっとのことでぐりぐり攻撃から解放されることとなった真希である。
- 6 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時31分16秒
- 「あんたねー。最近たるんでるわよ」
「…あ…うん」
「あれだけ順調に上がってた成績もここんところ横這い状態じゃない?」
「………うん」
「このままだと、あたしがおばさんに首にされる日も近いわね」
「えっ?それは困るっ」
「ならもーちょっと気合い入れなさいよっ」
「うんっわかったっ。けーちゃんに会うためにがんばるっ」
「こらっ。そのためだけに勉強しなーいっ」
「だってぇ〜。なるべくたくさん会いたいもんっ」
- 7 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時35分42秒
- 圭と真希は家庭教師と生徒の関係。そして二人は恋人同士であったりする。
二人は小さな頃からのご近所さんで、真希にとっての圭は「近所のけー
おね〜ちゃん」。圭にとっての真希は「近所のちっちゃい真希ちゃん」。
甘えん坊の妹としっかり者の姉、という感じの二人が恋人同士になったの
は、真希の学力アップを願う真希の母が、まじめで成績優秀だった圭に家
庭教師を依頼し、真希が圭の家に、圭が真希の家に頻繁に出入りするよう
になったことがきっかけだったりする。
- 8 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時38分43秒
- 「はい。こことこことここ。ちゃんと復習することっ」
「うんっ」
「よしっ。じゃ、今日の勉強はここまで」
「やったぁーーーーっ」
「こらっ。やったーの前にあいさつっ」
「あ、そか。ありがとうございましたっ」
「はい。また次もがんばろうね」
「うんっ」
「えーっと。次はあんたんちでいいんだっけ?」
「うんっ。今度はごとーんちで」
- 9 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時42分13秒
- 家庭教師の日は週に2回。日によって、真希の家と圭の家の都合の良いほ
うを使って勉強は行われている。そしてどうやら次の勉強は真希の家で
行われることが決定したようだ。
- 10 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時47分35秒
- 「ねー。けーちゃん」
「ん?なに?」
「初恋の人ってどんな人だった?」
「あー?またさっきの質問?」
勉強道具を片付けながら真希が質問する。
「そ。教えてよ」
「あんたね。恋人の初恋の話なんか聞いて何がおもしろいのよ」
「いてっ」
そしてまたもやバコッと頭を叩かれる真希である。
- 11 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時52分22秒
- 「もぉ〜。けーちゃんのけちぃーっ。どーして教えてくれないの?」
「………増やすわよ」
「へ?」
「宿題」
「げっ…」
「どう?増やしてほしい?」
「いいです。教えてくれなくていいです」
「わかったんならよろしい」
「なんだよぉー。いじわるぅー」
宿題という最強の敵のまえに見事に散った真希はぶーっと頬をふくらませて圭に
小さく抗議する。
- 12 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)01時58分01秒
- 「だいたいさ。どーして初恋の話なんか聞きたいわけ?」
「………なんとなく」
「はぁ?」
「なんとなく聞きたかったのっ」
「なにふくれてんのよっ。相変わらずわけわかんないわね」
実は最近読んだ初恋の人同士が結ばれる恋愛小説に感動して、いろんな
人の初恋の話を聞いてみたかったりする真希なのだが、そのことを圭に
話すのはなんだか照れてしまうのである。
- 13 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)02時03分30秒
- 「いいもんね〜。よっすぃーに聞くから」
「あー、これから吉澤んちに行くって言ってたわね」
圭は真希が持ってきたバックをチラッと見た。
(どーして一泊するくらいでこんなに大きな荷物になるのよ)
いつも必要最小限のものしか持たない圭にとって、今日の真希のバックの
大きさは永遠の謎である。
- 14 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)02時11分59秒
- 「うんっ。今日はよっすぃーんちにお泊まりなんだぁ〜」
「吉澤んち、ご両親とも出かけてて今日は帰ってこないんでしょ?
って。ちょっとあんた。さっきの質問、吉澤にもするつもり?」
「うん。そだけど」
「あんたも物好きねー」
「いいじゃん。聞いてみたいんだもぉ〜んっ」
「無理矢理聞いたりしないのよ」
「そこらへんのところは心得てるから大丈夫っ」
自分の人差し指で、真希はへへへ〜んと得意げに鼻の下のあたりをこすって
みせる。
- 15 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)02時21分58秒
- 「あ、そうだ。けーちゃん」
「なによ」
「いとこがね。会いたいって言ってた」
「あー。アメリカから帰ってきたって人?」
「そそ」
父親の仕事の関係でアメリカで暮らしていた真希のいとこが帰国したのは
三日前のことだ。
「けーちゃんが英語勉強してるって話したらさ。ぜひ会いたいって」
「そ。あたしはいつでもいいわよ。勉強にもなるしね。その人、英語
ベラベラでしょ?」
「うんっ。ちゃんと日本語もしゃべれるけどね」
「あー。そーじゃなきゃ、あんたと会話成り立たないもんねえ」
いたずらっ子のようにニヤリと笑って圭が真希を見る。
- 16 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)02時29分56秒
- 「げっ。ひどいよぉー、けーちゃんっ」
「あははっ。ごめんごめんっ」
「もぉ〜っ」
ぶーっと真希が頬をふくらます。
「ちゃんと英会話も教えてあげるから、がんばればしゃべれるようになる
わよ」
真希はまだ頬をふくらませたままだ。
- 17 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)02時35分14秒
- 「そのいとこさんにも教えてもらえばいいじゃない?」
「あ、そっかーっ!先生が二人だもんっ。ごとーもすぐにしゃべれるようにな
るよねっ!?」
今までのご機嫌ナナメをどこかに吹き飛ばしてキラキラとした笑顔で少し興奮
気味に答える真希は、実は結構単純だったりする。
(すぐにかどうかは謎よね………)
そう思う圭だが、口にはださないでおいた。
- 18 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)02時39分45秒
- 「ところでごとー。吉澤と何時の約束?」
「午後1時っ」
「え?間に合うの?あんた」
「へ?今何時?…って、あーっ!遅刻するーっ」
どうやら勉強が終わった後、長居をしすぎたようだ。
- 19 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月14日(土)02時43分17秒
- 「ほら。慌てないのっ。ケガするわよっ」
「うんっわかったー。けーちゃん行ってきまーす!」
「行ってきまーすじゃなくて、おじゃましましたっ!ここはあんたの家じゃない
っつーのっ」
「は〜いっ。おじゃましました〜っ」
「ホント気をつけなさいよっ」
「うんっ。明日帰りによるよっ。いる?」
「いるわよ。日曜日で学校もないし、特に行くところもないしね」
「おっけっ。んじゃ明日ねっ」
そう言うと真希はバタバタと圭の部屋を出ていった。
「まったく。いつも落ち着きないわね」
その後ろ姿を見送りながら、圭はやわらかく微笑んだ。
- 20 名前:みるきぃー 投稿日:2002年09月14日(土)21時38分26秒
- ついにアップしましたね(・_・)
続き楽しみにしてますよん♪
・・・私の方は更新が滞ってますが、来週にはなんとか(^^;)
- 21 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)00時43分40秒
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
- 22 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)00時46分38秒
- 「ねー、ごっちんっ。どー思うっ?」
「いやー、どーって言われてもねぇ…」
結局30分程遅刻して吉澤邸に着いた真希である。
そして友人、吉澤ひとみは少々機嫌が悪かった。
真希の遅刻が原因。というわけではない。そんなことを理由に機嫌を悪くしてい
たら機嫌がいくつあってもたりなくなってしまう。
- 23 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)00時49分09秒
- 「あたしはさー。英語は大好きなんだよっ」
「わかってるって」
ひとみはガリガリと勉強するわけでもないのに、そこそこに成績がいい。
クラスで五本の指に入るくらいの点数は常にゲットできるのである。
ちなみに、同じクラスである真希も圭の愛ある指導のおかげで、七、八本
の指に入るくらいに成績が上がっていたりする。
- 24 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)00時51分19秒
- 「好きな教科にどーして家庭教師なんだよっ。ったく、母さん何考えてる
んだかっ」
「まーまー、落ち着いて」
確かにひとみは英語が好きである。
が…。「好き」だから「できる」わけではないのであって………。
- 25 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)00時53分34秒
- クラスで五本の指に入るひとみの成績が人差し指一本だけにならないの
は、実は英語のせいだったりするのである。クラス全員の目が点になっ
てしまうような信じられない答えを連発して、英語の授業を寒いものに
してしまうなんてことは日常茶飯事であり…。
だが、本人にはあまりその自覚はない。
だってひとみは英語が『大好き』なのだから。
- 26 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)00時56分04秒
- (おばさんの気持ちもわかんないでもないよね…)
ガリガリと勉強するわけでもないのにクラスで五本の指に入る成績。
そして、英語の点数が取れるようになれば、その指が一本になることも
可能…。
「英語の家庭教師でもつけてみようかしら?」
という考えにひとみの母がいきついたとしてもおかしくはないのである。
- 27 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)00時58分31秒
- 「で、いつから?」
「ん?」
「家庭教師がくるの」
「あー、今探してるとこみたい。決まったらすぐに来ることになるんじ
ゃない?…ほんと、いらねっつーの」
相変わらず不機嫌なひとみである。
- 28 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時01分30秒
- 「あのさ。もしよかったらけーちゃんに聞いてみようか?」
「保田さん?」
「うん。ごとーの他にも家庭教師やってるみたいだから、時間が空いてる
かどうかよくわかんないけど。もしかしたらよっすぃーも教えてくれる
かもしれない」
「あ、それいいなあ。どーせ習わなきゃいけないんだったら、知ってる人
に教えてもらったほうがいいし」
「そ?んじゃ聞いてみとくよ」
「うん。頼んだ!母さんが見つけてきた家庭教師なんか却下却下っ」
そう言ってひとみは片方の眉をキュッと上げてニヤリと笑った。
多少機嫌もよくなってきたようだ。
- 29 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時04分40秒
- 「んじゃ、よっすぃーの機嫌がちょっぴりよくなったところで、はじめます
か?」
「おっけおっけ」
二人はガサガサとテーブルの上に勉強道具を広げていく。
ひとみの両親がいない夜を楽しく快適に過ごすために、授業で大量に
出された宿題を先に片づけてしまおうというのが二人の計画だ。
決してまじめなタイプではない真希とひとみだが、やるべきことはきっ
ちりやって、自分たちの責任を必ずちゃんとした形で果たしてから大い
に羽目を外すので、学校での人気も高く、教師からの信頼も厚い。
まあ、そんな人気も信頼も、二人には全く興味のないものなのだが。
- 30 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時06分54秒
◇ ◇ ◇
- 31 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時09分15秒
- 「相変わらず保田さんとは仲いいの?」
数学の問題を解いているところでひとみが真希に声をかけた。
「ん?仲良しだよ〜」
なんとも言えない笑顔で真希が答える。
- 32 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時12分06秒
- 「ほぉ〜。幸せそうですなあ〜」
「えへへへ」
「いいよなぁ〜。うらやまっすぃ〜」
その笑顔を見ながらコツンと真希のおでこを叩き、ひとみも微笑む。
- 33 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時13分55秒
- 「ねえねえ、よっすぃー」
「ん?」
「よっすぃーの初恋の人ってどんな人?」
「へ?何?突然」
圭になんと言われようと、やはりこの質問をひとみにぶつける真希である。
- 34 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時19分15秒
- 「ここ来る前にさー。けーちゃんに聞いたんだけど答えてもらえなくてさー」
「それで、あたしに同じ質問ですかい?」
「うんっそっ。最近興味あるんだよねー」
「初恋の人、ねえ………」
ひとみが少しだけ口ごもる。
「っていうかさ。よっすぃーって、あれだけもてるのに誰とも付き合わないよ
ね」
「あー。それはごっちんだって同じじゃん」
「ごとーはけーちゃんがいるからさ。他の人と付き合う気ないし」
「あー、うん。そっかー」
「よっすぃ〜はそういうわけでもないでしょ?まあ告白されて、はいお付き
合いしましょってもんでもないと思うけど…」
「あー、まあー、ねー………」
「………」
「ん?」
「ところでさ。この問題。解き方わかる?」
「あー、これはさ…」
あまり多くを語りたくないといった感じのひとみの口調を感じ取って、真
希は何事もなかったように話題を変えた。
- 35 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時22分37秒
- ボーッとしているように見えて、実は真希は人の心を感じとるのがうまく、
相手の気持ちにあわせて行動できるタイプだったりする。またそれを無理
なくなんとも自然にやってしまうので、相手に不快感を与えない。
そのおかげで、あまり気にせずに相手のテリトリーに入っていくわりに、
それを相手に拒絶されることはめったになかった。
「で、こーやると…。ほれっ、ばっちり解けるわけ。わかった?」
「あー、そかー!わかったー!なんだよ、結構簡単じゃん。ごとーもやれ
ばできるってね」
真希はノートに向けていた顔をひょいっと上げて、ひとみを見てニカッと
笑った。そして満足そうな顔をしながら再びノートに顔を戻し、解き方を反
復し始めた。
- 36 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月15日(日)01時26分51秒
- 「………あのさ、ごっちん」
「ん〜?なに〜?」
「さっきの話なんだけど…」
「ん?」
「初恋の人は?ってのと、誰とも付き合わないよねってやつ」
「うん」
そんな真希の笑顔のせいか、相手に不快感を与えない彼女の得な性格の
おかげか、ひとみは、あまり語りたくなさそうな彼女の中のその何かを
真希に語ってみようという気になったようだ。
「小学校んときにさ………」
「うん…」
真希は再びノートから顔を離すと、シャープペンシルをテーブルの上に置い
て、ゆっくりひとみの方を見た。
- 37 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年09月15日(日)01時44分38秒
- 更新しました。アップするのって時間かかるんですねー(^_^;)。
>みるきぃー
うん…アップしてみました…(_;)。
レスありがとう(笑)。
明日も仕事なキミにかなり同情(^_^;)。
- 38 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時15分09秒
- 「5年生くらいだったかなぁ。夏休みに花火大会があってさ」
「うん」
「クラスの友達んちにおっきいベランダがあってさ。そこに呼ばれたんだよね」
「花火見ようって?」
「そ。どーせだったらうちで見なよーって。よしこんちよりよく見えるよーって」
「…よし、こ?」
「あー。ちっちゃい頃はそー呼ばれてたんだよね。よっすぃ〜って呼ばれる
ようになってからは、減っちゃったけど。よしこって呼ばれるの」
「………へぇ〜………」
「ん?なんか気になる?」
何か考え事をしているような真希の表情が気になったのか、ひとみが尋ねる。
「いや。なんでもない。続けて」
ニカッと真希が笑った。
- 39 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時18分06秒
- 「うん…。で、約束した時間にその子んちに行ってみたら、お客さんがきて
てね」
「よっすぃーの知らない人?」
「うん。そこんちのお父さんの仕事の関係の人の家族だとかいってさ。父親
と母親と中学生の娘さんの3人家族」
「うん」
「花火がきれいに見えますよーって、友達のお父さんが呼んだみたいで。で、
一緒に見ることになったわけ。っていっても、大人はリビングでお酒なんか
飲みながらしゃべってて、結局子どもだけで見ることになるんだけど」
「うん」
「きれいな人でさ…」
「ん?」
「その中学生…。今考えたらそんなに歳も離れてなかったんだろうけど、な
んかすごく大人に見えてさー。今話してても、子どもってくくりにいれち
ゃー悪い感じがするくらい」
確かに、小学生から見る中学生ってのはずいぶん大人に見えたもんだよな。
と真希は思う。
- 40 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時21分53秒
- 「何年生?」
「ん?」
「その人」
「それがさ。はっきり覚えてないんだよね」
「そなの?」
「うん。実は名前も覚えてない」
「ありゃ。そなのかー」
「聞いたような気もするんだけどねー。なんか覚えてない」
ひとみが苦笑しながら右手でガシガシと頭をかいた。
「んじゃ呼ぶときはどーしてたの?」
「友達が『おねーちゃんおねーちゃん』って呼んでたから、あたしもそう呼ん
でたんだと思う」
「思う?」
「なんかさー。そのへんの記憶があいまいなんだよね」
そう言ってひとみはまた苦笑した。
- 41 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時28分57秒
- 「でさ。花火って結構長いじゃん?途中休憩挟んだりして1時間近くあるでしょ?」
「うん。そだよね」
「その花火を子ども3人で2階に行っちゃ〜ベランダで見て、飽きたら下に降りて
つまみぐいとかしてー、って繰り返しをやってたわけ」
「うん」
「で、途中でさ。友達のお母さんがスイカ切ってくれることになって。友達が、
切るところが見たいって言うから、その中学生と二人だけでベランダに行くこ
とになってね。やさしい人だったから、二人っきりになれるのがなんか嬉しく
てさー」
「うん」
「二人で2階にあがって、隣同士に並んで座ってさ。こー、ベランダの格子のとこ
ろから足出してぶらぶらさせて『きれいだね〜』とか言いながら花火見てたらさ」
「うん」
「キスされた」
「ん?」
「突然キスされた。あなたみたいな人が好きなのって言って」
「うん。そか…」
「ほら、あたしその頃から背とか高かったし、よく男の子に間違えられたりして
たからさ。むこうにしてみたら男の子にしてるようなつもりだったのかもしれ
ないんだけど、なんかすごくドキドキしちゃってさ」
- 42 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時32分13秒
◇ ◇ ◇
- 43 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時36分57秒
- あの瞬間のことは今でも鮮明に覚えている………。
(…えっ?)
初めは勘違いだと思った。
でも次の瞬間、もう一度同じ感触を頬に感じて、それが勘違いではないこ
とを確信した。
(…どうして…?)
隣に座るその人のほうを見てそう聞こうとしたのと
耳元で彼女の囁きが聞こえたのはほとんど同時だった。
「あなたみたいな人が好きなの…」
そのまままた頬に口づけられた。
- 44 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時39分26秒
- 「…ど、して…?」
そう聞くのがやっとだった。
声が少しうわずったのが自分でもわかった。
「だから…、好きなの」
スッと伸びてきた右の手と、少し遅れて伸びた左の手のひらで頬を
そっと包み込まれた。
じっと見つめられてどうしていいのかわからなくなった。
- 45 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時43分00秒
- 「きらい…?」
ふるふると首を振った。
「いや、じゃ、…ない?」
ギュッと目をつぶって首を縦に振った。
どうして目をつぶってしまったのか自分でもわからなかった。
「…よかった」
そう声が聞こえて目を開けると目の前で彼女はやわらかく微笑んでい
て、その顔を心の底からキレイだと思った。
- 46 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時49分18秒
- 彼女の顔がゆっくりと近づいてきて、その唇が自分の唇にそっと触れた。
キスされたのは初めてだった。
女の人の唇はこんなにやわらかいんだと思った。
男の人の唇を知っているわけでもないのに、なぜかそう思った。
そっと押し倒されて、また口づけられた。
頬に、鼻に、顎に、唇に、ゆっくりと、何度も口づけながら彼女は言う。
「好きなの…あなたみたいな人が…」
されるがままになりながら、どうにかなってしまいそうなほどの心臓の
ドキドキが、彼女に聞こえてしまうのではないかとそればかりを気にし
ていた。
誰もいないベランダに二人きりで、静かな空に鮮やかに花火が上がっ
ていた。聞こえてくるのは、ドンッという花火の音と、自分の心臓の
ドキドキと、うわごとのような彼女のセリフ。
「あなたみたいな人が好きなの」
- 47 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)22時59分18秒
◇ ◇ ◇
- 48 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)23時03分25秒
- 「それから?」
「ん?」
「それからどうなったの?」
「別にどうにもならない」
「そなの?」
−『おねーちゃーんっ!よしこーっっ!スイカ食べよーっ!!』−
「スイカの用意ができたのを知らせに友達が階段を駆け上がってきてさ」
−彼女はスッと自分から身を離した−
- 49 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)23時18分00秒
- 「で、それっきり」
「そなのか」
「そ」
「そか」
「うん…。で、あれ以来誰にもドキドキできなかったりする」
ほら。小学生にはかなり強烈な出来事だったみたいでさー。と、ちょっと
おどけたようにひとみが言う。
「そ、か」
「ときめかなきゃ、誰とも恋なんてできないじゃん?」
「うん」
「だから誰ともつきあわないってわけ」
「ん。そか」
「うん…」
「ね…」
「ん?」
「会いたい?その人」
「そーだなあ………」
…忘れたことは一度もない…
「会いたい、…かな………。おかげでこっちはあれから恋もできないでい
るんだからさ」
…今でも心臓がドキドキして胸が痛む…
- 50 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)23時33分51秒
- 「そかぁ〜」
「…うん」
「よっすぃー…」
「ん?」
「なんかごとー。けーちゃんに会いたくなった」
「うん…そっかぁ……って、えっ?」
「ちょっと行ってくる!」
「は?ちょっ、行ってくるって…」
「すぐに帰ってくるから待ってて!」
「え、え?え?」
真希はそう言い残すと、バタバタとひとみの部屋を出ていった。
「ごっちん…」
残されたひとみはただただ唖然とするばかりで。
「キミの行動…。時々わけわかんない…」
バタバタと真希が出ていった部屋の扉を見つめながらそう呟いた。
- 51 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)23時36分42秒
- そしてそんなひとみの呟きなど聞こえるはずもなく、勢い良く吉澤
邸を飛び出した真希は、すでに目指す場所への道を急いでいた。
そしてポケットから取り出した携帯電話で番号を検索する。
「一応連絡しておいたほうがいいよね〜。と、あったあった」
ピッとボタンを押して耳に携帯を持っていく。
「あ、もしもし?」
数回の呼び出し音のあと、電話が繋がった。
- 52 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)23時38分47秒
◇ ◇ ◇
- 53 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)23時39分59秒
- さて、その頃圭はというと…
『けーちゃんの初恋の人ってどんな人?』
静かになってしまった部屋で、真希の言った言葉を思い出していた。
- 54 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)23時42分29秒
- (初恋の人って、ねぇ…)
この質問に圭がはっきりと答えられないのには訳がある。
(あんたよ。なんて本人目の前にして言えないわよ)
そう。保田圭の初恋の人は、後藤真希、その人なのであって…。
初めは「近所のちっちゃい真希ちゃん」だった。
そのちっちゃい真希ちゃんが、恋の対象に変わったのはいつだったか………。
(あたし、結構待ったんだよ?)
ちっちゃい真希ちゃんがちょっぴり大人になって、自分を恋愛の対象に見
てくれているとわかったときは、飛び上がってしまいそうな程嬉しかった。
(わかってる?ごとー…)
もちろん、そんなことは絶対に口に出さない圭である。
- 55 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月16日(月)23時45分21秒
- 自分の中にある溢れんばかりの気持ちをもっと素直を伝えられたらと思う。
だが、照れてしまってどうもうまくいかないのである。
「もうちょっと素直になれませんかね?保田さん」
自分自身に向かって呟いてみる。
「ま、それができれば苦労しないんだけどさ…」
そう言って圭が苦笑したとき、
「!」
突然携帯が鳴った。
「………後藤?」
その着信音は、真希用に設定されているもので。
「もしもし?………あんた、吉澤んちからわざわざなんの用よ」
ピッとボタンを押して携帯を耳にあて、最初に圭の口からでた言葉は、
例のごとく、そのやわらかな表情とは正反対なものだった。
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月21日(土)03時45分58秒
- おもしろっすね。
よっすぃーの想い人も誰なのか気になる・・・(w
- 57 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時18分54秒
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
- 58 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時21分43秒
- 「ごっちん。まだ保田さんちかなぁ」
ひとみはそう呟いて自分の腕時計をちらりと見る。
真希が勢いよくひとみの部屋を飛び出してから一時間程の時間が経過し
ていた。
- 59 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時25分41秒
- (今日はもう戻ってこないかもしれないな)
目の前のテーブルの上に広げられたままの真希の数学のノートを見つめな
がらひとみはそう思う。
真希と圭は仲がいい。
甘えん坊で素直に愛を表現する真希を圭は愛しくてたまらないのだろうと
ひとみは思う。ただ、恥ずかしさからか人前でベタベタすることを嫌う圭が、
目に見えるような行動で真希に対しての愛情を表現することはめったにない。
どちらかというと真希を突き放しているような発言ばかりが目立つのだが、
そこには圭の真希に対する深い愛情が感じられて、ひとみはそんな二人の
関係をいつもうらやましく思っていた。
「それに比べてあたしはさぁ…」
昔の出来事に縛られて、新しい出会いにドキドキすることも忘れてしまって
いる。
「いや…違うか…」
ドキドキはする。彼女を思い出すとき。
きっと、自分のドキドキはいつも一旦停止になっていて、彼女を思い出すと
きだけそのボタンが解除されるのだ。
そしていったん解除されたドキドキは、ギュッと胸をしめつけていつも激し
く自分の中のなにかを苦しくさせる。
- 60 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時29分58秒
- 「いっちゃってるよな、あたし…」
そう呟いてひとみは自嘲気味に笑う。
あの日の出来事に、あの日の彼女に、ずっと自分は恋をしているのだと
ひとみは思う。
誰もいないベランダと、
静かな空にあがる鮮やかな花火と、
自分の心臓のドキドキと、
うわごとのような彼女のセリフ。
『あなたみたいな人が好きなの』
甘く心地よく身体の中に響くその声が、心を捕らえて離さない。
せめてこの思いを伝えることができたら、このなんとも言えない苦しいドキ
ドキから解放されるのだろうか。
そうすればすんなりと次のステップへ進んで、彼女とは違う別の誰かにドキ
ドキとときめくことができるようになるのだろうか。
- 61 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時32分59秒
- 「ふぅ…」
ひとみは大きく一つ息をはいた。
ある日突然、彼女が目の前に現れたら、と思う。
あるはずのない現実だとわかっている。
でももしもその瞬間がくることがあるのなら、それは息をのむような突然の
出来事であるといい。そう、あの日の彼女の口づけのように…。
「…覚えてるわけないじゃん…。あれから何年経ってると思ってんだよ…」
そこまで思いを巡らせて、ひとみはさらに自嘲気味に自分自身に問いかけた。
たとえもう一度出会うことができたとしても、彼女がひとみのことを覚えて
いるという保証はどこにもないのだ。
- 62 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時36分49秒
- 「それでもこんなに会いたいなんてさ…」
年を重ねれば重ねるほど、大人へと近づいていけばいくほど、大きくなって
いく彼女への想いを最近のひとみは自分の中でうまく処理できないでいた。
普段のひとみはどちらかといえば冷静なほうで、自分の感情をうまくコントロ
ールできないタイプの人間では決してない。
しかし、彼女にとらわれ続ける自分自身を、今のひとみは自分でもどうしてよ
いのかわからないでいるのである。
「ホント…、責任とってほしいよ…」
そう恨み言をため息のように小さく吐き出して、ひとみは目の前のテーブルに
自分のおでこをコトンとつけた。
その時、
- 63 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時40分35秒
- ガチャッ バタンッ パタパタッ パタパタパタパタッ
そんな思いをどこかへ吹き飛ばしてしまうような勢いで、家に駆け上がってく
る足音がひとみの耳に届いた。
「あれ?…ごっちん、戻ってきたんだ」
おでこをテーブルからはなし、頭をあげて、もうすぐ開くであろう自分の部屋
の扉を見つめてひとみは呟いた。
そして数秒後、ガチャッと扉が開いて、ひとみの予想通りひょっこりと真希が
顔を出す。真希とひとみ。足音だけでお互いがわかる仲である。
「よっすぃー」
「あー。おかえりー」
「連れてきた」
「へ?」
そして二人の会話は微妙にかみ合っていなかった。
- 64 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時45分39秒
- 「連れてきた、…って、誰を?」
「家庭教師」
真希がニカッと微笑む。
「へ?保田さん?」
そう真希に質問したひとみだが、真希は扉の向こう側の誰かに声をか
けていて、ひとみの質問に答える気配はない。
「ほら、入って入って」
「え…、あの…、ほんとにいいのかな…?」
扉の向こうから、真希の呼びかけに答える戸惑ったような声がする。
(……誰……?)
その声は保田のものではなかった。
「大丈夫だって。ほら、入って」
「あの…。おじゃま…します…」
真希に促されて、その声の主がその顔いっぱいに戸惑いの表情を浮かべ
ながらひとみの部屋に入ってくる。
その人物はひとみのから程良く離れた場所に立ち、勉強道具がひろげら
れたテーブルの前に座っているひとみが見上げる形で二人は顔を合わせ
た。
(……え?……)
その瞬間、ひとみはグッと息をのんだ。
いや、もしかしたら気がつかないうちに、なにかしら言葉を発してしまっ
ていたかもしれない。
家庭教師だと真希が連れてきた人物。今、目の前にいるその人にひとみ
は見覚えがあった。
- 65 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時48分15秒
- (どうして?)
頭の中でぐるぐると言葉がまわっていてひとみはうまく考えをまとめること
ができない。なぜ真希が連れてきた人がこの人なのか。どうして今、自分の
目の前にこの人がいるのか。頭の中で繰り返される言葉とは別にわけのわか
らない感情がひとみの身体中を駆けめぐっていて、ただでさえまとまらなく
なっているその思考をさらに混乱させていた。
「ど、いう…こと…?ごっちん…」
ひとみはゆるゆると立ち上がり、声にならない声を絞り出しながら真希を見
る。
(答えてよ、ごっちんっ)
いつまでも質問に答えない真希がやさしく微笑んでいるような気がした。
- 66 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時50分51秒
- 「…ちゃん…どういう、…こと…?」
そしてそんなひとみの耳に、自分と同じように声にならない声で真希に質問
する自分ではない声が飛び込んでくる。
(……え……?)
導かれるように、ひとみは真希のほうへと向けていた顔をゆっくりとその声の
方向へ向けた。
- 67 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時53分36秒
- 「真希、ちゃん…どういう、…こと…?」
視界に入ってきたその人は、苦しそうにその胸を押さえながら、ひとみと同じ
質問を真希にぶつけていた。
(……どうして……?)
いつまでもまとまらない思考の中でその人物にひとみは問いかける。
(……どうしてあなたがここにいるんですか……?)
そして何かに反応するように、真希を見つめていたその人物の顔がゆっくりと
ひとみの方へと向けられる。
ひとみは呆然と立ちつくしながらその動きを見つめ、泣いてしまいそうな気持
ちがしているのは勘違いかな、などとまとまらない頭の中で考える。
身体の中では相変わらずぐるぐるとわけのわからない感情が駆けめぐってい
て、今にも外に飛び出してしまいそうな勢いだった。
- 68 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)01時56分36秒
◇ ◇ ◇
- 69 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時02分26秒
- 今から一時間程前…。
「けーちゃんに会いたくなった」
そう言ってひとみの部屋を勢いよくバタバタと飛び出した真希は、目指す
場所への道を急ぎながらポケットから取り出した携帯電話で番号を検索し
ていた。
「一応連絡しておいたほうがいいよね〜。と、あったあった」
ピッとボタンを押して耳に携帯を持っていく。
「あ、もしもし?梨華ちゃん?真希だけど。今、暇?行ってもいい?…うん
うん……。んじゃ行く」
用件だけ伝えると真希は電話を切る。
- 70 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時05分24秒
- 真希のいとこ、石川梨華がアメリカから6年ぶりに帰ってきたのは、三日
前のことである。
(いなくなったのが突然なら、帰ってきたのも突然でさ。ホント梨華ちゃん
には驚かされっぱなしだよ)
石川邸までの道を急ぎながら真希は思う。
梨華の父は大学教授で、自分の研究が認められたとかで、その自分を認
めてくれた大学で教鞭をとるために、家族を連れて6年前に突然アメリカ
へ行ってしまった。
そして娘の梨華は真希より3つ年上の20歳。歳が近いことも手伝ってか、数
人いるいとこの中でも真希と梨華は小さな頃から仲が良かった。
だから、6年前の突然の引っ越しを誰よりも悲しんだのは真希だったし、
今回の突然の帰国を誰よりも喜んだのも真希である。
- 71 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時08分05秒
- 『一番の被害者はお母さんと私だよぉ〜。研究って言っちゃ〜突然引っ越し
させられるんだから』
6年ぶりに会った梨華はそう言って笑っていた。
もともと綺麗な顔立ちだったが、6年経ってその美しさに磨きがかかってい
た。
『私が綺麗?…真希ちゃん…、そんなこと言ったら綺麗が怒るって』
しかし当の本人はその美しさを全く自覚していない。
- 72 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時09分14秒
- 「…よっすぃーはよしこって呼ばれてた…」
そんな美しいいとこを思い出しながら、真希は呟く。
「それだけでやってみる価値はあるっ」
真希が駆け足になるのと同時にその顔がキリリと引き締められた。
- 73 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時11分46秒
◇ ◇ ◇
- 74 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時13分05秒
- 「真希ちゃん。なんの用だろう…」
まだ片づけの終わっていない自分の部屋で、石川梨華は今切れたばかり
の電話を見つめながら呟いた。
- 75 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時14分52秒
- 「今会うのはなんだか恥ずかしいな……」
6年ぶりに会った真希は全然変わっていなかった。
もちろんその容姿は大人っぽく変貌していた。小さな頃からかわいい感じ
だった真希が、外見もその愛すべき人間としての中身も、自分の想像通り
に成長していたという事実が、再会の日の梨華を幸せな気分にさせていた。
- 76 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時18分01秒
- 梨華は昔から、いつもはボーってしている感じの真希が、その顔をキリリ
と引き締める瞬間が好きだった。
「だからしゃべりすぎちゃったのかなぁ…」
6年ぶりの再会の日。6年分大人になったその顔を、キリリと引き締めた真
希が梨華に聞く。
『ねえ。梨華ちゃんの初恋の人ってどんな人?』
どうしてそんな話になったのか……。
あ、真希ちゃんのこういう顔が昔から好きだったっけ。
そう思ったときにはもうしゃべりだしていた。
(もしかしたら、ずっと誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない…)
そう梨華は思う。
- 77 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時21分22秒
- あの夏の日、なぜあんなことをしてしまったのか、梨華は何年も経った今
もあの日の自分自身の行動を理解できずにいた。
初めて会った子にキスしてしまうなんてことは、ましてや押し倒してまでキ
スしてしまうなんてことは、普段の梨華の性格からは考えられない行動だっ
た。
「花火、の…せいかな…」
ドンッという音とともに静かな空にあがる花火はとても綺麗だった。
自分がいつもと違う自分になってしまったのも、すべてあの花火のせいのよ
うな気もする。
- 78 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時23分26秒
- 「もう、高校生くらいになってるかな…」
よしこちゃんって呼ばれていた。
二人っきりになれたことが嬉しかった。
花火に照らされた横顔をすごく綺麗だと思った。
気がついたら頬にキスしいて、ゆっくりと押し倒したあとのことはうまく
思い出すことができない。
誰もいないベランダと、
静かな空にあがる鮮やかな花火と、
彼女の心臓のドキドキと、
うわごとのような自分のセリフ。
「あなたみたいな人が好きなの」
記憶に鮮明に残っているのはそれだけ。
あれからすぐに引っ越すことになってしまって、ちゃんとした名前も確かめ
ることができなかった。
- 79 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時27分04秒
- 『会いたい?』
真希にそう聞かれたことを梨華は思い出す。
会いたい。
だっていつもいつも思い出すのはあの時のことなのだ。
あの日以来、何かが足りないと感じる自分がいるのだ。
きっと、あの花火の日に、自分は何か大切なものを置き忘れてしまったの
だと梨華は思う。
もしあの日に戻ることができたとしたら、置き忘れてしまったなにかを取り
戻すことができるのだろうか。そうすれば、なにかが足りないと感じるこの
心の中を満たすことができるのだろうか。
- 80 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時29分06秒
- 「はぁ…」
梨華は大きく一つため息をつく。
ある日突然、彼女が目の前に現れたら、と思う。
あるはずのない現実。
でももしもその瞬間がくることがあるのなら、それはどうしうもなくドキド
キとして、耐えられないほどに胸が苦しくなってしまうような、そんな出
来事であるといい。そう、あの日の彼女の、心臓のドキドキのように…。
- 81 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時31分27秒
- 「…覚えてくれてるわけないのに…」
そこまで思いを巡らせて、梨華はぽつりと呟く。
もしも花火の日の彼女にもう一度と出会えたとしても、彼女が梨華のこと
を覚えているという保証はどこにもないのだ。たとえ覚えてくれていたと
しても、あんなことをしてしまった自分のことをこころよく思ってはいな
いだろうと梨華は思う。
「それでもこんなに会いたいなんて…。ばかだなぁ、私…」
シクシクとする胸の痛みを感じながら、梨華は再びため息をついた。
- 82 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時32分40秒
◇ ◇ ◇
- 83 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時36分42秒
- かけがえのない友人吉澤ひとみが『よしこ』と呼ばれていたということは、
ひとみ本人から聞くまで真希は全く知らなかった。
だから、梨華の『よしこちゃん』と友人『よっすぃー』が真希の頭の中で結
びついたのは、ひとみに花火の日の話を聞いている途中だった。
もちろん。二人の話が隅から隅まで一致しているわけではない。
だが、よしこちゃんとよっすぃーが同じ人物であるということは、ほぼ間違
ないだろう。それに、その可能性がたとえ100%ではないとしても、二人を
会わせてみる価値はあると真希は思う。
だって、ひとみも梨華も、花火の日の彼女に『会いたい』と自分に言ったのだ。
ひとりはそれ以来誰にもときめくことができないといい、もうひとりはその日
に何かを置き忘れたようだと言う。
- 84 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時38分38秒
- 「そんな6年ぶりの再会は劇的でなくちゃね」
真希はそう呟きながら携帯を取り出す。
あと5分ほどで石川邸に到着するところまでやってきていた。
「あ、けーちゃん?ごとー」
『あんた、吉澤んちからわざわざなんの用よ』
携帯から圭の声が漏れ聞こえる。
「がんばるから」
『は?』
「ごとー、がんばるからっ」
『………』
「けーちゃん…?」
なぜだか、梨華の家に着く前に、圭にがんばれと言って欲しかった。
- 85 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時40分52秒
- 『あのさ。ごとー…』
「ん?」
『いつも通りでいいわよ』
「え?」
予期せぬ答えに思わず真希が聞き返す。
『何にがんばるのかよくわかんないけどさ』
「うん…」
『あんたはいつも一生懸命で、いろんな事にがんばってるじゃない?
だから、いつも通りでいいわよ』
「けーちゃん…」
『聞いてんのっ?』
「…あ、うんっ!」
ここぞってときに、いつも一番欲しい言葉を圭ちゃんはくれる
- 86 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月22日(日)02時42分50秒
- 「圭ちゃん」
『なによ』
「大好き」
『………』
「けーちゃん?」
『知ってるわよ。ばか』
きっとこの愛しい人は、今、携帯を握りしめながら真っ赤な顔をしている
に違いないと真希は思う。
『がんばりなさいよ。いつも通りに』
「うんっ」
そう言って真希が携帯を切ったのと、石川邸に到着したのはほとんど同
時だった。
「いつも通りに…」
真希は門の前で大きくひとつ深呼吸をして、それからゆっくりと石川邸
のチャイムを押した。
- 87 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年09月22日(日)02時49分15秒
- 更新しました。
>>56名無し読者さん
レス、ありがとうございます!
はー、レスがつくとこんなに嬉しいものなんですねー(しみじみ)。
これからもコツコツ更新しますのでよろしくお願いします。
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月22日(日)09時14分48秒
- 初めて読みました。回想シーンが幻想的で良いなぁ
これからもチェックします
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月22日(日)09時49分50秒
- 今一気読みしました。
おもしろいです!
更新楽しみにしてます。頑張ってください。
- 90 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月22日(日)15時46分04秒
- めっちゃおもしろいです!!
更新が待ちどうしいです。頑張ってください!
- 91 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月25日(水)01時26分32秒
- 最初のCPでマターリかと思いきや、こんなステキな展開が―――!!
コツコツ読ませていただきます(w
- 92 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時00分32秒
◇ ◇ ◇<BR><BR><BR>
- 93 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時03分08秒
- 「家庭教師したいって言ってたよね?」
そう言われて、この前真希に会ったときに「家庭教師のバイトとかやって
みようかなぁ」と話したことを梨華は思い出す。
さっき電話で話してから走ってここまできたのか、真希の身体はうっすら
と汗ばんでいた。
- 94 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時05分33秒
- 「ごとーの友達がさ。英語の家庭教師探してるんだよね」
真っ直ぐに梨華を見つめながら真希が続ける。
会えないでいた6年の間に、真希は自分のことを『ごとー』と呼ぶように
なっていた。しかしいとこである梨華の前では少し照れがあるのか、『真希』
と『ごとー』と『あたし』が入り交じって使われていたりする。
「うん…。はい、これ。ウーロン茶なんだけど…」
「あ、さんきゅー」
梨華が差し出したコップを受け取ると、真希はその中身をごくごくと飲み干
していく。その動作とともに真希の喉のあたりがグッグッと動き、キリリと
冷やされたウーロン茶によってその渇きが潤される。
「んーっ、んまいっ。ありがとっ」
真希が梨華へ向けて力強く差し出し返したコップの中で、溶けきらずに残っ
た氷がカランと音を立てた。
- 95 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時10分13秒
- 「どう?やる?」
「…あ…。私…で、いいの?」
受け取ったコップをコトンと机の上に置きながら梨華が聞く。
「もちろんっ。梨華ちゃんなら文句ないと思うよ」
「え?」
「あ、…ほら。生の英語を身につけてるわけだしさ」
「あ、うん…そっか」
「よしっ!じゃ、決まりねっ?…えーっと、友達の名前は吉澤ひとみ。字は、
っと…。なんか書くものある?」
「え?…あ、はい、これ…」
真希が渡された紙にさらさらと『吉澤ひとみ』と書いて梨華に手渡す。
- 96 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時12分10秒
- 「あたしと同じ17歳。性格はさっぱりしてるから、教えやすいと思う。クラ
スではよっすぃーって呼ばれてるよ」
「うん。わかったー…」
渡された紙を見ながら、吉澤ひとみちゃん、吉澤ひとみちゃん、と梨華
は小さな声で呪文のように繰り返す。
その様子を見つめながら、こういう生真面目なところがなんとも梨華ち
ゃんっぽいよな、と、真希がやわらかく微笑んだことを梨華は知らない。
- 97 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時16分44秒
- 「じゃ、行こうかっ」
梨華をやさしく見つめながら真希が言う。
「へ?どこへ?」
紙から顔を離し、よくわからない、という表情で梨華が真希を見る。
「よっすぃーんち」
「え、え?今からっ?」
「いえ〜すっ。決めたんならはやめに会っといたほうがいいでしょ?」
当然っ、と言わんばかりの表情でニカッと笑って真希が梨華の腕を掴む。
小さな頃から真希の行動は唐突なところがあって、その行動に梨華はよ
く驚かされていた。
- 98 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時23分04秒
- 「ちょっ、ちょっと、真希ちゃんっ」
梨華はその手を振りほどこうと、慌ててあいている方の手で、自分の腕を
掴む真希の腕を掴み返す。
「…梨華ちゃん…」
眉を八の字にしながら抗議の目を向ける梨華の顔を、笑顔を消した真希
が神妙な顔つきで見つめる。
「なに…?」
「そんな目してもだめ」
そう言うと真希はニカッと満面の笑みを復活させ、梨華の腕を掴むその手に
ギュッと力を込めた。
- 99 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時24分43秒
- 「んじゃっ、しゅっぱ〜つっ」
「ちょっと、真希ちゃんっっ」
力強くズンズンと歩き出す真希に、嫌がる梨華が引きずられていく。
「待ってよ、真希ちゃんっ!もぉ〜わけわかんないよぉ〜っ」
梨華の悲痛な叫びを残して、二人は部屋をあとにした。
- 100 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時30分54秒
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
- 101 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時33分42秒
- 「ひどいよ、真希ちゃん。会ったこともない人の家に突然連れてくるなん
て…」
結局無理矢理真希にひっぱられて、梨華はわけがわからないままに吉
澤邸の前まで連れてこられてしまっていた。
- 102 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時37分16秒
- 「どーせ知り合いになるんだからさー。それならはやいほうがいいじゃ
んっ」
梨華の苦悩など完全無視で真希はご機嫌である。
(なんでそんなに嬉しそうなのよっ)
梨華はそんな真希を見ながら、心の中で文句を言う。
そんな梨華の不満の声が聞こえたかのように真希はクスッとやわらかく
微笑むと、
「ほらっ。よっすぃーは二階の自分の部屋にいるはずだからっ」
そう言っておじゃましますも言わないうちにガチャッと玄関をあけて上
がり込み、パタパタと吉澤邸の二階への階段を上がっていってしまう。
両親は出かけていて、今日は『ひとみちゃん』しか家にいないのだと、
梨華はここに来る途中に真希から聞かされていた。
- 103 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月29日(日)22時40分55秒
- 「あー、真希ちゃんっ。待ってー…」
梨華は申し訳なさそうな小さな声を発しながら真希を追いかける。
ここまできたら、はいさようならと帰ってしまうわけにもいかない。
(もぉっ、どーにでもなれだよっ)
梨華は覚悟を決めてトントンと吉澤邸の二階への階段をのぼりはじめた。
- 104 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年09月29日(日)23時19分13秒
- 更新しました。
>>88 名無し読者さん
レスありがとうございます!
こんな駄文にお褒めの言葉、嬉しいです。(うれし泣き)
これからもがんばりますのでよろしくお願いします。
>>89 名無し読者さん
ありがとうございますありがとうございます!
こんな駄文にお褒めの言葉、嬉しいです。(またうれし泣き)
これからもがんばりますのでよろしくお願いします。
>>90 名無しさんさん
ああっ…、ありがとうございます!(またまたうれし泣き)
こんな駄文にお褒めの言葉、嬉しいです。
これからもがんばりますのでよろしくお願いします。
>>91 名無し読者さん
ううっ…、ありがとうございます!(そしてここでもうれし泣き)
こんな駄文にお褒めの言葉、嬉しいです。
これからもコツコツがんばりますのでよろしくお願いします。
- 105 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時14分45秒
- 二階の部屋の前では、先に到着した真希がガチャッとその扉を開け、身
体を半分だけ中へいれた状態で部屋の中にいる『吉澤ひとみちゃん』と
思われる人物と話をしている。
「…てきた、…って、誰を?」
「家庭教師」
「へ?保田さん?」
部屋の中から声が漏れ聞こえ、梨華の耳に届けられる。
- 106 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時18分05秒
- (やさしそうな声…)
その声は少し丸みを帯びたやわらかな声で、その事が緊張した梨華の心の
中をを少しだけ穏やかな気持ちにさせた。
(吉澤ひとみちゃん…どんな子だろう…)
きっとやさしい感じの子に違いない。その声から梨華は勝手にそんな想像を
する。
そして
「ほら、入って入って」
話が終わったのか、上半身だけを部屋の中へ入れていた真希が、ヒョ
イッと身体を戻して梨華を促す。
「え…、あの…、ほんとにいいのかな…?」
「大丈夫だって。ほら、入って」
「あの…。おじゃま…します…」
戸惑いながら梨華は扉の向こう側へ足を踏み入れた。
- 107 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時21分41秒
- 綺麗に片づけられた部屋の中の、勉強道具らしきものが広げられたテ
ーブルの向こう側に、透き通るように白い肌の少女が座っている。
少女から程良い位置に立った梨華が、見下ろす形で二人は目を合わせ
た。
- 108 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時24分03秒
- (……え……?)
その瞬間、梨華の心臓がドキンッと大きく一回脈を打った。
6年分の成長を遂げているが、梨華はその少女に見覚えがあった。
(…よし…こ、…ちゃん……?)
さっき一回、ドキンッと脈を打った心臓が、今度はドキドキと激しく
脈を打ち始め、胸をギュッと締めつけて梨華を苦しくさせる。
(……どう、して……?)
人違い?いや、そんなはずはない。あんなに会いたいと願った彼女を、
見間違えるわけはない。
- 109 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時27分46秒
- 「真希、ちゃん…どういう、…こと…?」
どんどんと苦しくなっていくその胸を押さえながら、梨華は声にならない
声を絞り出して真希に問いかける。
なぜ彼女が、今自分の目の前に存在しているのか。真希が無理矢理に
自分を連れてきた場所が、なぜここだったのか。
すべては真希が知っているはずなのだ。
(答えてっ、真希ちゃんっ)
しかし当の真希はやさしく梨華を見つめるだけで、答えを返してくれる様
子はない。
「ど、いう…こと…?ごっちん…」
(……え……?)
そして真希の答えを待つその耳に、やはり声にならない声で自分と同じ質
問を真希にぶつける自分ではない声が届けられる。
梨華は導かれるように、その声の方向に顔を向けた。
- 110 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時29分48秒
- ゆっくりと、梨華が顔を向ける速度にあわせて、自分を見つめて呆然と立
ちつくす少女の姿がその視界の中に入ってくる。
(……あ……)
儚げに自分を見つめる彼女が、なんだか今にも泣きだしそうな顔をしてい
るようなそんな気がして、それで初めて、自分も泣きそうな気持ちなんだ
と梨華は気づく。
(あれ…どうして私…こんなに泣いちゃいそうな気持ちなんだろう………)
梨華の心臓のドキドキが、さらにその胸を締めつけた。
- 111 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時31分14秒
◇ ◇ ◇
- 112 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時32分30秒
- (ビンゴッ!!)
自分の目の前で呆然と見つめあうひとみと梨華を見ながら、真希は心の中
でガッツポーズを決めていた。
- 113 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時35分42秒
- (やっぱり梨華ちゃんはよっすぃーの花火の日の彼女で、よっすぃーは梨
華ちゃんのよしこちゃんだった)
見つめあったままで時間が止まってしまっているひとみと梨華によって、
よっすぃーとよしこちゃんが同一人物である確率は真希の中で100%になっ
ていた。
(あともう一押しだね。うん)
真希は心の中でそう呟いて、ひとみの方へそっと近づきその肩に自分の右手
をおく。
「梨華ちゃん。こっちが吉澤ひとみ。さっき教えたから字はわかってるよね?
ごとーの友達で、ただ今英語の家庭教師を募集中。って、これもさっき話し
たからわかってるか」
そして梨華の方を向いてそう説明する。
「吉澤、…ひとみ……」
真希の声がきこえたのか、梨華はそう呟く。
しかしその顔は呆然とひとみを見つめたままだ。
- 114 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時39分38秒
- (ありゃー。梨華ちゃん、かなり重症だよ)
真希は苦笑しながら、今度は梨華のほうへ近づく。
そしてその肩に自分の手をのせ、ひとみを見る。
「こっちは石川梨華。字はこんな字ね」
真希は梨華の肩にのせた手をすっと離し、テーブルの上に広げっぱなしの数
学のノートにサラサラと「石川梨華」と書いてひとみに渡す。
「梨華ちゃんはごとーのいとこ。6年ぶりにアメリカから帰ってきて英語ベラ
ベラ。よっすぃーの家庭教師にどうかなと思って連れてきた」
「石川、梨華……」
渡されたノートを見ながらひとみが呟く。
そしてその視線はすぐに梨華のほうへと戻される。
(あは。こりゃよっすぃーも重症だわ)
呆然と梨華を見つめるひとみを見ながら真希は再び苦笑する。
- 115 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時42分11秒
- (ごとーができるのはここまで)
見つめあう二人を見ながら真希はやわらかく微笑み、そっと部屋の扉の
前まで移動する。
そして後ろ手にガチャッと扉を開けて少し大きめの声で二人に声をかけた。
「あとは二人でゆっくり話し合ってね」
その声に驚いたひとみと梨華がハッとしたように真希を見る。
「ごっちん…」
「真希ちゃん…」
そんな二人を見て真希はニカッと笑う。
- 116 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時44分21秒
- 「よっすぃー。そこのごとーの荷物はまた明日取りに来るからさっ」
「あ…、う、うん………」
ひとみが答える。
「梨華ちゃん。今日はちょっと遅くなるっておばさんに伝えておくよ」
「あ…、うん…わかった…」
梨華が答える。
「んじゃ、またねー」
ひらひらと手を振りながら身体を反転させ真希が部屋から出ようとした時、
「ごっちんっ!」
「真希ちゃんっ!」
ひとみと梨華、二人に真希は呼び止められた。
- 117 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時46分12秒
- 「ん?」
真希がその声に振り返る。
「「ありがとうっ!!」」
そこには、このうえなく幸せそうな表情でその顔を上気させ、それでいて
今にも泣き出しそうな顔をしたひとみと梨華がいた。
「どういたしまして」
真希はニカッと笑っておどけたようにぺこりとおじぎをすると、再びひら
ひらと手を振りながらひとみの部屋をあとにした。
- 118 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時49分27秒
◇ ◇ ◇
- 119 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時51分30秒
- 真希が部屋を出ていったあと、ひとみと梨華は真希へと向けていたそ
の視線を再びお互いのもとへと戻していた。
- 120 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時52分24秒
- 「あ…あの。初めまして」
初めに言葉を発したのはひとみだった。
「…は…初めまして」
頬をほんのりと赤く染めながらぺこりと頭を下げるひとみにつられるように
梨華も頭を下げる。
「で、あの…お久しぶりです…」
「うん。久しぶりだね」
梨華はひとみを見つめてやわらかく微笑んだ。
ずっとずっと見たかった笑顔だ。そうひとみは思う。
- 121 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時55分47秒
- 「石川…石川梨華っていうんですね。名前」
「うん。よしこちゃんは吉澤ひとみ、なんだね…。ずーっとよしこち
ゃんって名前だと思ってた。バカだなぁ私」
梨華が苦笑しながらしながら肩をすくめる。
「いえ、あの…。あの頃みんなによしこって呼ばれてたから、勘違いしち
ゃうのもわかります…」
そう言うとひとみは目をつぶって静かにひとつ深呼吸をし、そしてパチン
と目を開けると真っ直ぐ梨華を見つめて言った。
「…あの。ずっと、ずっと会いたかったです」
それはまるで愛の告白のようで。
「…うん。……私も、だよ…。ずっと会いたかった………」
そしてその告白に、真っ直ぐにひとみを見つめて梨華が答える。
- 122 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)01時58分33秒
- 「もし会えたら話したいことがたくさんあると思ってたんだけど、
何から話したらいいのかよくわからない」
そう言ってひとみが苦笑する。
「私も…。もし会えたら、たくさんいろんなこと話したいって思って
たのに…」
ひとみにつられるように梨華も苦笑する。
「これから時間をかけて、ゆっくりいろんなこと話して、いろんなこと
知りたいです…」
「うん…。時間をかけてゆっくり…」
そういって二人はやわらかく微笑む。
あれから誰にもときめくことができなかったこと。大切な何かをあの日
に置き忘れてきたような気がして日々を過ごしてきたこと。そして、あ
れからずっと、あなたに恋をしているのだということ。
たくさんの想いは、これからゆっくりと伝えていけばいい。
- 123 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時00分46秒
- 「あ!」
突然梨華が何かを思いだしたように叫んだ。
「ど、どうかしましたか?」
その声に驚いたひとみが梨華に問いかける。
「私で、いいの?」
「へ?」
「家庭教師」
まじめな顔で梨華がひとみを見る。
「もちろんですっ。…あなたじゃなければ…、嫌です」
まじめな顔でひとみが答え、二人は幸せそうに笑った。
- 124 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時03分05秒
- 『ねえ。初恋の人ってどんな人だった?』
1人の少女の飽くなき追求は、その友人、吉澤ひとみと、いとこ、
石川梨華に多大なる変化をもたらすこととなった。
- 125 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時04分50秒
◇ ◇ ◇
- 126 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時06分12秒
- さてそのころ、真希はと言うと………。
吉澤邸をあとに、一人てくてくと家への道を歩きながら
「「ありがとうっ!!」」
愛するいとこと友人に、同時に感謝の気持ちをあらわされた、そのこと
を思い出しながらなんともいえない喜びに浸っていた。
- 127 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時07分45秒
- (二人とも幸せそうだったよね)
二人のあんなに幸せそうな顔を作った、その源に関わることができた自
分がなんだか誇らしかった。
自分の行動によって人が喜んでくれることの喜び。
このくすぐったい感情を真希は噛みしめていた。
- 128 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時09分59秒
- (よっすぃーと梨華ちゃんが再会するきっかけを作ったのが自分だとしたら、
これって、愛のキューピットってやつ?)
(キューピットってことはさ。今日ごとーは、天使になったってことだよね?)
そう考えると身体中がワクワクドキドキして、胸の中がホワンと暖かくなって
くる。
- 129 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時10分55秒
- 真希は両腕を自分の身体のほうに小さく折りたたんで、両手を上下にパタパタ
と動かしてみる。そう。天使の羽のように。
- 130 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時12分12秒
- パタパタ パタパタ パタパタパタ
(天使………天使………)
パタパタ パタパタ パタパタパタパタ
(うんっ。悪くないっ)
このままふわりと宙に浮いて、空を飛んで行けそうな気がした。
- 131 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時13分00秒
- 「あ〜。最高に幸せな気分だよ〜」
このとてつもなく幸せな気分を、今すぐ誰かに伝えたかった。
- 132 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時15分06秒
- 「よしっ」
キリリとした顔で気合いを一つ入れ、真希は折りたたんでいた両腕を
ゆっくりと、真っ直ぐ水平にピーンッとのばす。
「左右確認、前方注意っ。視界は良好ですっ」
行き先はただひとつ。
「後藤真希。ただ今より圭ちゃん邸へ向かいますっ。ぶぅ〜〜〜んっ」
天使から飛行機へと変身した真希は、目指す保田邸へ向けて勢い良く駆け
出した。
- 133 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時16分42秒
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
- 134 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時17分40秒
- そして保田邸前。
興奮気味の真希がすごい勢いでチャイムを押している。
- 135 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時20分26秒
- ピンポ〜ンッピンポンピンポ〜ンッピンポンピンポン
ピンポ〜ンッピンポンピンポンピンポピンポ〜ンッ
「けーちゃ〜んっけーちゃ〜んっ、開けてよぉ〜っ」
「ちょっとあんたっ。そんなにピンポン鳴らさなくても聞こえてるわよっ」
真希のピンポン攻撃で玄関までやってきた圭は、少々不機嫌モードだ。
「けーちゃんっ。ごとーさっ。今日、天使になったっ」
「はっ?」
そんな圭の機嫌はお構いなしで、左右の腕を自分の身体のほうにちっち
ゃく折り曲げて、両手を上下にパタパタと小刻みに動かしながら楽しそう
に真希が話す。
- 136 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時24分49秒
- 「なんなのよ。その手は」
「だからさ〜。天使だってばぁ〜。キューピットっ」
そう言ってパタパタと自前の羽を動かしながら、真希はご機嫌で圭のまわり
をまわり始める。
「あんた。相変わらずわけわかんないわね」
「もぉ〜。わかってないのはけーちゃんっ」
すごい勢いで現れて、嬉しそうに「天使天使」と言いながら自分のまわりをま
わる真希に圭は少々あきれ顔で。そしてコツンとひとつ、自称天使の頭を叩
きながら聞く。
「で、がんばれたの?いつも通りに」
「うんっ。だから天使になれたっ」
「そ。じゃ、教えなさいよ」
「え?」
- 137 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時26分32秒
- 真希がその動きを止め、キョトンとした顔で圭を見る。
なんだかよくわからないといった顔の真希に、圭はどうしようもないわねぇと
いう表情で少しだけ自分の顔を近づけると、腕組みをしながこう続ける。
「天使になる方法。それを教えにきたんじゃないの?」
「あっ!うんっ!!」
圭の問いに最高に幸せそうにニカッと笑って答えた真希は、再びパタパタとそ
の羽を動かし始めた。
- 138 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時30分29秒
- 「ほらっ。はやく入って」
「は〜いっ。ただいま〜っ」
「こーらっ。ただいま〜っじゃなくて、おじゃましますっ。ここはあんたの家
じゃーないっつーの」
「は〜いっ。おっじゃまっしま〜すっ」
そう言って忙しそうにパタパタと羽を動かしながら部屋に上がっていく真希を
見送りながら、圭は「やれやれ」と呟き、
「だいたい、今日は吉澤んちに泊まるんじゃなかったわけ?」
そのうしろ姿に小さく疑問をなげかけながらクスッと微笑む。
そして真希が開けたままにしていった玄関のドアをゆっくりと閉め、
「ちょーっと天使っ。靴くらいそろえなさいよっ」
そのあとを追った。
- 139 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時40分29秒
◇ ◇ ◇
- 140 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時42分19秒
- さて、それから数週間後………。
「んあ〜、うまいっ」
真希と圭は真希の部屋でチョコレートケーキを頬張っていた。
- 141 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時43分38秒
- 「ちょっと。口のまわりにケーキたくさんついてるわよ」
「うへ?」
「しょーがないわねー」
そう言って圭が真希の口のまわりのケーキを指で拭って自分の口に入れる。
今日は圭が真希に勉強を教える日。要するに家庭教師の日なのである。
そして今は前半の勉強が終わって休憩時間の真っ最中。「これ。途中でど
うぞ」と真希の母が持ってきたチョコレートケーキと紅茶を二人で試食中だ。
- 142 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時45分17秒
- 「ねえ。後藤」
「ん?なに?」
「あんたのさ。あんたの初恋の人ってどんな人だったの?」
さりげなく圭が質問する。
自分は答えることができないくせに、実は前からこの質問を真希にぶつけ
てみたかった圭なのである。
「んぁ、初恋の人?ごとーの?」
「そーよ。あんたのよ」
(ま、どーせ。幼稚園の時の○○先生とか言うんだろうけどさ)
結構現実的だったりする圭である。
- 143 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時47分34秒
- 「けーちゃん」
「なによ」
「けーちゃん」
「なによ」
「けーちゃん」
「だからなんなのよっ」
「初恋の人」
「はっ?」
「けーちゃんがごとーの初恋の人」
……えっ……?
- 144 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時49分46秒
- 「うそ………」
「どして?ごとー、人好きになったのけーちゃんが初めてだよ」
え、えっ?………ってことは、あたしとごとーはお互い初恋の人同士で
付き合ってるってわけ?……うわっ……あ……だめ……ベタすぎる……
あ……でもちょっと……いやかなり…嬉しい、かも……でも…うわ……
- 145 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時52分34秒
- 「どしたのけーちゃん?顔、赤いよ?」
「なっ、なんでもないわよっ」
口元を手を押さえながらどんどんと赤くなっていく圭を心配そうに
のぞき込みながら真希が聞く。
「ほんと大丈夫?真っ赤だよ、顔………」
「あー、うるさいわねっ。大丈夫ったら大丈夫なのっ」
「熱あるんじゃない?」
「あああぁっ。触らなくていいからっ」
熱を計ろうとおでこに手をあてようとする真希から圭が逃げる。
そんなことをされたら、もっと赤くなってしまってのぼせてしまう。
「もぉー。けーちゃん、今日なんか変だよぉー」
「あー、わかたからっ。勉強再開するわよっ」
「うぇーっ。まだちょっとしか休憩してないじゃんっ」
「うるさいっ。始めるったら始めるのっ」
「あーっ。けーちゃんのいじわるぅーっ」
そんなこんなでいまいち素直になれない圭だったりするのだが………。
- 146 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)02時58分45秒
- その後、この日なぜ圭がまっ赤になってしまったのかというその理由
を聞かされた真希が、
「わ〜っ!運命だね〜っけーちゃ〜んっ」
と圭に飛びつき………。
「ちょっとあんたっ!離れなさいよっ」
と、人目もはばからず抱きつく真希を、顔を赤くしながら必死に引き
離そうとする圭の姿がひとみと梨華によって目撃されるのはまだ少
し先の話で………。
そして
「相変わらず仲いいや。あの二人」
「私達だって、仲良しでしょ?」
そう言って、キュッと梨華に手を握られて、圭以上にひとみが真っ赤
になるのも、それからもうちょっとだけ先の話だったりするのである。
- 147 名前:天使になる方法 投稿日:2002年09月30日(月)03時00分57秒
- 後藤真希と保田圭。吉澤ひとみと石川梨華。
これから先も四人の恋は、まだまだいろいろと忙しいことの連続のよ
うで…。
退屈している暇はどこにもなさそうだ。
−終−
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)03時15分05秒
- 面白いです。
次回作も期待しています。
- 149 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年09月30日(月)03時35分28秒
- 時間ができたので最後まで更新。
最初にアップした日に、ああ、やっぱりやめときゃよかったと
後悔してから約2週間。こんなへなちょこな文にレスをつけて
くださった皆様、本当にありがとうございました。そして…
最後まで読んでくださった方がもしもおられましたらこんな
駄文におつきあいありがとうございました。
皆様のやさしさに感謝いたします(ぺこり)。
- 150 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年09月30日(月)04時00分59秒
- >>148 名無し読者さん
ああっ。レスありがとうございます!
最後まで読んでくださったこと感謝します。
次回作…。あの、もしも書けましたら…(^▽^;ゞ
- 151 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月30日(月)16時17分43秒
- 面白かったです!!
次回作も期待してます。
- 152 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月01日(火)00時57分43秒
- ほのぼのした雰囲気がよかったです。
続編も読みたいなー・・・なんて。
- 153 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月01日(火)03時25分46秒
- 一生懸命なごっちん、せれを優しく見守る保田さん。
いいですね。この二人大好きです。
次もこの二人だとうれしいです。
がんばってください。
- 154 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年10月04日(金)00時18分58秒
- よっすぃー、梨華ちゃんで
天使になる方法の番外編を
めちゃめちゃ短いお話で…。
- 155 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時22分01秒
シーンと静まりかえった部屋の中で、カリカリとシャープペンシ
ルを走らせる音が響く。
真剣な顔でテーブルの上の問題用紙に向かっているのは吉澤ひ
とみ。
- 156 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時25分41秒
「あれ…?」
「ん?」
「ここ、…は……」
「…あーここはね…。比較級+than〜、で…」
「あっ、わかりました!」
そうだそうだそうだったと納得の表情のひとみの隣で、今のひとみ
の「わかりました!」、にその人は小さくため息をつく。
「…ひとみちゃん…」
「…はい?」
「敬語はだめって、…いったよね?」
「あ…」
しまった、という顔をして、ひとみはその人−石川梨華を見た。
- 157 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時29分33秒
「約束、…したのになぁ…」
ちょっぴり哀しい、というような仕草で、梨華がチラッとひとみを見る。
「すみません…」
「あ、ほらまたぁ〜」
「あ…」
ああ、またやってしまいましたとその顔に大きく書いて、愛しい人
を見つめるひとみの口は、『あ…』の形で固まったままで…。
そんなひとみの視線の先で、たまらず梨華がクスクスと笑いだした。
- 158 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時31分56秒
◇ ◇ ◇
- 159 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時36分24秒
「ごめん。どうしても今までの癖が抜けなくて…」
ひとみがガシガシと頭をかきながら申し訳なさそうに梨華に言う。
――敬語、そろそろ卒業しようよ――
そうやわらかく微笑まれて、その心臓をドキドキさせながら、ひと
みが梨華の「敬語禁止」の提案を受け入れたのは先週のことで。
「ま、今日のところは許してあげまっしょ〜、と、はいっ87点っ。
こっちはよくできました」
にっこり微笑んで、自分の手元にある紙を「はいっ」と梨華がひと
みに渡す。
- 160 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時42分28秒
「え?87点?」
「うん。よくがんばったね」
「ほんとだ…」
手渡されたのはさっきまで必死に解いていた英語の問題用紙。
梨華によって採点され、『87』と書かれている。
「あなたの…、あ、いや…あの、梨華、ちゃんの…おかげ…」
「はい、よくできました」
梨華がやさしく微笑む。
実は敬語禁止と一緒に、「梨華ちゃん」と呼ぶこともひとみは約束
していたりする。
「あ、ヒントあげたところはしっかり点引いといたから」
「え、…うそ…」
「比較級+than〜。ちゃんと覚えてね?」
「うう…」
梨華がひとみの家庭教師になって数ヶ月。
その英語の力を、ひとみは確実に進歩させていた。
そして二人の関係も、ゆっくりと確実にその歩を進めている。
- 161 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時48分13秒
「あ、そだ。大丈夫だよ?」
「え?」
「日曜日」
梨華がにこっと笑う。
「ほんとっ?」
「うん」
- 162 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時49分08秒
この前の勉強のときに、今度の日曜日に一緒にビデオを観ようと
ひとみは梨華を誘っていた。
(恋愛映画っ!…いや、感動の超大作ってのもいいかなぁー…)
梨華のO.Kの返事に、ひとみはワクワクとその胸を躍らせる。
そしてそんなひとみの耳に、届けられる愛しい人の声は…
「血がドバーッと出るヤツがいいよねっ」
………え………
- 163 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時53分18秒
会えない間に出来上がった、自分の中の想像のキミ。
目の前のホンモノのキミは、想像通りだったり、全くの別人だったり…。
――だから恋はおもしろい――のだ
想像通りに進まないから…
いろんなキミに出会えるから…
- 164 名前:だから恋はおもしろい 投稿日:2002年10月04日(金)00時55分16秒
そんなことを考えながら
(ドバーッならやっぱバトルロワイヤルかな、うん)
ひとみは心の中でそう呟いて、その顔にやわらかな微笑みを咲かせた。
−終−
- 165 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年10月04日(金)01時25分37秒
- 更新しました(^_^;)。
154−164「だから恋はおもしろい」。
>>151 名無しさんさん
レスありがとうございます!!
最後まで読んでくださったこと感謝します(ぺこりぺこり)
もしもまたアップすることがありましたらよろしくお願い
します。
>>152 名無し読者さん
こんな駄文にレスありがとうございます!
そう言っていただけるとすごく嬉しいです(ぺこりぺこり)。
今回はよっすぃー、梨華ちゃんでその後を書いてみました(^_^;ゞ。
もしもまたアップすることがありましたらよろしくお願いします。
>>153 名無し読者さん
レスありがとうございます!
そう言っていただけると嬉しいです(ぺこりぺこり)。
私もこの二人が好きなので、いつかごっちん圭ちゃんで何か
書けないかなぁと思っています。 もしもまたアップすること
がありましたらよろしくお願いします。
- 166 名前:153 投稿日:2002年10月04日(金)03時13分33秒
- 番外編読ませていただきました。
なんか初々しい感じがいいですね。
次回作が楽しみです。
やっぱりCPは・・・。
待ってます。
- 167 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月04日(金)15時41分59秒
- いいですねぇ。血がどばぁの映画を二人はどんな顔をしてみるんでしょうか。
最近この二人の絡みTVではますますなくなっていきますが、
せめてお話の中では甘甘のままでいてほしいです。
- 168 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月05日(土)13時09分28秒
- 梨華ちゃんもよっすぃ〜もかわいいっすねぇ。
今度は圭ちゃんとごっちんの番外編もぜひ!!(w
- 169 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年10月31日(木)00時35分35秒
ごっちん、梨華ちゃんで、ありがちな話を…。
- 170 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)00時37分34秒
「うわっ」
「あ…」
――今日は一緒にビデオを見る約束だった。
- 171 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)00時39分25秒
◇ ◇ ◇
- 172 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)00時41分23秒
「あの映画、テレビでやってたから録画しといたんだけどさ」
「ほんとっ?」
「見に来る?」
「うんっ」
前から見たかった恋愛映画。
そう約束したのは二日前。
待ち合わせた学食で、お昼ご飯を食べてるときだった。
見たいって言ってたことを覚えていてくれた。そのことが嬉しかった。
もちろん、一緒に見ることができるってことも……。
- 173 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)00時46分40秒
「あれ?おっかしいなあ」
そして
二日後の約束の今日。
「ここに置いといたはずなんだけど」
自分の部屋の、本来あるべき場所から姿を消してしまったビデオを、
愛しい恋人後藤真希−通称ごっちん−は、眉間にシワをよせながら
探してる。
探しても探しても見つからないビデオに、ちょっぴりごっちんは不機
嫌モード。
そして、そんな不機嫌な恋人を見つめている私はというと、
「寄せたシワもサマになってるよねぇ…」
なんて考えて、不謹慎にもちょっぴり顔を赤らめていたりする。
ごめんね、ごっちん。でもねでもね。私をこんなにドキドキにさせる、
あなたが悪いと思うわけ…。
だってその不機嫌そうな顔も、すごくサマになってるんだもん…。
- 174 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)00時50分35秒
「うーん…、どこいっちゃったのかなぁ…」
眉間のシワをどんどんと深くさせていくその横顔に、私のドキドキが
ちょっぴり大きくなる。
きっと世の中には何をやっても絵になる人と、がんばればがんばるほど
「えっ?」になっちゃう人がいて。当然ごっちんは前者のタイプ。
そして私は、たぶん誰が見ても、明らかに、後者……。…はぁ〜…。
と…
「んっ!もしかしてっ!」
突然ごっちんがそう叫んで立ち上った。と思ったら、バッと部屋の扉
を開けて、そのままスタスタとどこかへ行ってしまった。
(え?な、なに?)
結果、誰もいない部屋にポツンと私一人だけ…。
- 175 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)00時54分09秒
「ごっちん。どこいっちゃったのかなぁ…」
なかなか戻ってこないごっちんを八の字眉毛で待ちながら、はぁ〜っ
とひとつため息をついて、持ち主がいなくなって静かになってしまっ
た部屋をぐるりと見渡してみた。
この部屋は、ホントいつ来てもかっこいい。
センスの良い家具。
落ち着いた雰囲気の壁紙。
独特な清潔感。
部屋って持ち主に似るのかな…。
「ん?それじゃあ、私はセンスなくて汚いってことになっちゃうじゃんっ」
ブンブンブンッと首を振りながら、私、石川梨華は自らたてた説を自ら慌て
て否定する。
積み上げられた本。
ピンクのカーテン。
ピンクの枕カバー。
ピンクのシーツ。
ピンクの………
ピンクの……
……………
………
自分の部屋を思い浮かべて、私はもうひとつ、はぁ〜っと深いため息を
ついた。
今度、ごっちんに部屋の模様替え頼もう……。
- 176 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)00時56分12秒
◇ ◇ ◇
- 177 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時01分11秒
「あったよ〜」
私が自分のセンスのなさを自覚してネガティブモードに入ってから数分後。
ビデオ片手にニコニコしながらごっちんが戻ってきた。
「弟が勝手に持ってっちゃってたみたいでさ〜」
「ゆーき君?」
「そ。あのバカ、人の部屋に勝手に入っていろんな物持ってっちゃうか
ら困るんだよね〜」
ごっちんは弟のゆうき君とすごく仲がいい。
その証拠に、あのバカなんて言いながら
「ま、そーいうごとーも勝手に部屋に入ってビデオ取ってきたんだけどさ」
って言ってニッて笑ってる。
もしこれから家族が増えることがあったとしたら、弟ってのもいいよね。
ごっちんの笑顔は私をそんな気にさえさせる。
「さて、見ますか?」
「うんっ」
「じゃ、梨華ちゃんはここ座って」
ごっちんが自分の隣をトントンッて叩いたその場所に、私はちょこんと
座った。こういうの、恋人同士って感じでいいな……。
「んじゃ、いくよっ」
「うんっ」
「スタートーッ」
大きな声でかけ声かけて、ごっちんがリモコンのボタンを勢いよく『ピッ』
って押した。
- 178 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時06分40秒
前から見たかった恋愛映画。
恋人のごっちんと二人で見る。
はずだった。
けど…。
「うわっ」
「あ…」
実際に目の前で始まったのは
『あっ…ぁっ…』
なぜか女の子同士の情熱的な絡みで……
『…ん…っあ…』
聞こえてくるのは頭に血がのぼっちゃいそうな喘ぎ声で…。
もちろん、私だって全然経験ないってわけじゃない。
ごっちんとそれなりのことだってしてきたし。
でも目の前に展開されてるそれはすごく激しくて、今まで自分たちが経
験してきたものとはあきらかに違ってて…。でも不思議と見ていてイヤ
な気持ちになるようなものじゃなくて…。
「エッチビデオなんて男の人向けにできてるから、女の子が見てもつま
んないよ〜」なんてクラスの友達が言ってたけど、そうじゃないビデオ
もあるんだ……。
でも、すごい…。
- 179 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時08分47秒
◇ ◇ ◇
- 180 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時12分44秒
「はぁ〜…」
結局流されるままに最後までビデオを見てしまった。
なんだかのぼせちゃって身体があつい…。
突然濃厚な映像を見せられたうえに、部屋の中に漂ってる変な静寂が微
妙な空気をつくりだしていて、なんだかすごく気まずい感じで、そのこと
がまた少しだけ私の体温を上昇させる。
そしてこの体温上昇の直接の原因となったビデオはというと、『ゆーきの
ヤツっ!』ってごっちんに文句を言われながらデッキから取り出されて、現
在机の上に放置状態。
- 181 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時18分58秒
「ごとーはさ。こーいう激しいエッチは見るのもするのもあんまり好き
じゃないな」
突然ごっちんが口を開いた。
その顔は私の座ってる場所とは反対の方向に向けられてて、こっちからは
はっきり見ることができない。
でも、『やってられないぜ』というような口調とは裏腹に、ほんの少しだ
け見ることのできるその頬はほんのり色づいていて、その染まり具合は明
らかに『ドギマギしてます』という感じ。
もちろん、もちもん私だってドギマギしてる。
あんなビデオ見たの初めてだし…。
でも…
甘えん坊なんだけどどこかクールで、ホントは一つ年下なのに黙ってると
いつも私より2、3歳は年上に見える愛しい人が、ちょっと激しいビデオ見
ただけで年相応なこんな困ったようなドギマギした顔を見せるんだってこ
とを発見して、私は自分のドギマギなんてどこかへ放り出して、なんだか
微笑ましい気分になってた。
- 182 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時20分43秒
心の中がほんわかする感じ…。
そんな私の気持ちを知りもしないだろう当のごっちんは、まだほんのりと
頬を赤く染めている。
(あ〜な〜んかかわいいなあ)
って、その横顔を見ながら素直に思った。
その瞬間。
どうしてかな。そんなごっちんを、ちょっとだけいじめてみたくなった。
そう…ほんのチョットだけ…。
- 183 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時23分38秒
「ねえ…」
「ん?」
なに?って顔をしてごっちんがこっちに顔を向けた。
その頬はまだ赤い。
私はそんなごっちんの耳元にそっと近づいて、囁くように尋ねてみる。
「ホントに…好きじゃない?」
「ん?」
「…激しい、エッチ…」
「え…?」
ボッて、まるで火がついたみたいに一瞬のうちに、ごっちんの顔が今まで以
上に赤くなった。
(あ…かわいい…)
なんだろう?その顔を見たら、胸がキュッと締め付けられたような感じにな
って、なんだか不安定な、でもドキドキして体温が少し上昇したような、な
んとも言えない不思議な気持ちになって、そこから全く歯止めがきかなくな
った。
- 184 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時29分10秒
自分でもわけがわからないうちに勝手に身体が動く。
「ねえ…」
耳元から少し顔をずらして首筋に口づける。
「ちょっ、梨華ちゃんっ」
ごっちんがイヤイヤって感じで後ろに手をついて逃げる。
「ホントに…好きじゃない?」
追いかけるようににじり寄って耳朶を甘噛みする。
なんだか、「殿っおやめください」「よいではないかよいではないか」みたい
な体勢…。
- 185 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時33分26秒
「…んっ」
一瞬ビクッと身体を揺らしてごっちんがまた逃げる。
「ねえ…」
そんなごっちんを視線と身体でゆっくりと追いかける。
そう…ちょっと淫らな感じに…。
「あ…ちょっ、と梨…あっ…」
困ったように逃げながらごっちんが『なんで?』『どうしたの?』って顔してる。
そうだよね。だって今まで一度も私のほうからこんなことしたことないから…。
だって、だってね…。
「…真希ちゃん…」
真希ちゃんって呼ばれてごっちんがまた頬を赤らめた。
二人っきりのときは真希ちゃんって呼んでって、ごっちんが言ったんだよ?
その頬に首筋に、ゆっくりと、執拗に口づけを落としながら私は言葉を続けた。
「ごめん…私…。スイッチ、入っちゃったみたい」
「…んぁっ…スイッ、チ、って……」
少し荒い息でそう言った後、『あっ』て顔してごっちんがこっちを見た。
その目はいつもと違ってうるうると潤んでてなんだかちょっと淫靡な感じで、
それを見たら胸がまたキュッてなった。
- 186 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時37分31秒
……………
…………
………
「ねえ…」
「ん?」
それはまだ身体を重ね始めて間もない頃。
いろんなことが不安で、聞いてみたこと…
「私といて、楽しい?」
「楽しいに決まってるじゃんっ。もーね、ごとー幸せの絶頂〜」
「じゃあ…あの…」
「はいはい」
「私と、その…、して、楽しい?」
「え?」
ごっちんはキョトンとした顔してこっちを見た。
「だから、あの…。ホントにしたいって思ってくれてる、のか、な…って…」
「あはっ。思ってるよーっ。あたりまえじゃないっ」
ごっちんの目はやさしく笑ってた。ウソ言ってる目じゃない。
「じゃあ…さ…したくなるのっ、て…あの…どんな、時?」
「う〜ん…、いろいろだな〜。ちょっとした仕草とか表情見たときとかに…」
そう言うとごっちんは目を瞑って「う〜ん」と唸って。
それから数秒後、閉じてた目をゆっくりと開けて、真っ直ぐに前を見ながら
ポソッポソッって感じでこう言った。
- 187 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時42分23秒
「あんまりうまく言えないんだけどね」
「うん…」
「入るんだよね。スイッチが」
「スイッチ?」
「うん…。こー、カチッて、さ…」
「(カチッ、かあ…)」
「でね」
「うん…」
「それ入っちゃとさ」
「うん…」
「もう誰にも止めらんないの」
「そ、なの…?」
「うん、そ。たとえ梨華ちゃんがダメっていってもね。…止められない」
そしてその後少し間があいて、
あ、でもさ!って、突然口調が変わったと思ったら
「まあ、梨華ちゃんがどぉ〜してもイヤだって言うんだったら、ごとーも
3回に1回くらいは我慢にチャレンジしてみてもいいんだけどさぁ〜」
そう言うとごっちんはクルッとこっちを向いて、右手と左手の人差し指で
私の目の前にビシッとバッテンマークを作って
「でもたぶんダメ。っていうか、確実に無理」
って言って、あははって笑った。
………
…………
……………
- 188 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時46分17秒
「い、つ…?」
焦点の定まらない目で私を見ながらごっちんが聞く。
「え?」
「スイッ、チ…」
「…わかんない…。なんかかわいいな、って思ったら…急に…」
質問に答えながらも、耳を首を頬を顎を、甘噛みする。
首から下にはまだいかない…。だって、そこより上をまだ味わい尽くして
ないもの…。
私の中の衝動はおさまる気配はない。
「…んっ…あ…あっ…」
それどころか、頭の中までしびれてしまいそうなごっちんの甘い声で、衝動は
高まっていく一方で…。
でも…
- 189 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時49分20秒
「ちょ…ちょっと待って!梨華ちゃんっ!」
突然、強い力で押しかえされた。
ごっちんは両腕をピンッと伸ばして、自分から私の身体を引き離してる。
(え?…もしかして…怒っちゃったの…?)
不安で私は一挙に涙目になった。
(でも、でも…。今更やめてっていわれても困るよぉ〜っ)
自分の中の衝動をどうしていいのかわからない私はまた涙目…。
(どうしようっどうしようっ。どうすればいいっ?)
私が眉毛を八の字にして、頭の中をぐるぐるさせてると
「…わかった、から…」
上がった息を少し整えながら、ごっちんが言った。
「わかったから、…ちゃんとキス、から、して…?」
- 190 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時53分44秒
あ…。
そうだ…。
私、まだごっちんにちゃんとキスしてない…。
言われるまで全然気がつかなかった自分が恥ずかしかった。
ごっちんはいつも「好きだよ」って言って、やさしいキスから始めてくれるのに…。
私は自分の衝動にまかせて、ごっちんの気持ち全然考えてなかった…。
(私…私…全然だめじゃんっ!ごっちんより年上なのにっ。お姉さんなのにっ)
後悔で頭がぐるぐるしてくる。
そしたら
「そんなに眉毛下げなくても大丈夫だから」
私の気持ちを察したように、ごっちんがクスッて笑いながら頭をなでてくれた。
それだけで、心の中がすーっと楽になった気がした。
…そうだ…ごっちんはいつもやさしい。
「梨華ちゃんが、ごとーにしたいって思ってくれて、すごく嬉しいよ」
「ほん、と…?」
そして私よりずっとずっと大人だ。
「だから、さ…」
スッとごっちんの両腕が私の首にまわされた。
そして…
「やさしく、して…」
耳元でそう囁かれて、私の中の、最後のスイッチが入った。
- 191 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時54分50秒
◇ ◇ ◇
- 192 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)01時59分16秒
「んあっ。今日はいい天気で気持ちいいね〜」
両腕を空の方にぐーっとのばして、ごっちんが言った。
「うんっ」
「これで土曜出勤じゃなきゃ、もっと最高なんだけどさぁ〜」
今日は土曜日。
完全週休二日制が始まって、ほとんどの高校生はお休みの日。
でも生徒会役員だけは話し合いのために特別登校。
「ごっちんごめんね。私のせいで…」
高校三年生。就職試験や大学受験を控えたこの学年で生徒会役員なんて
やりたがる生徒は皆無に等しい。
でも誰かがやらなきゃ生徒会は動かない。
で、私が副会長を押しつけられちゃったわけで…。
そして
「梨華ちゃんがやるならごとーもやるっ!」
と立候補してまで二年生の書記になったのがごっちんで…。
「いいのいいのっ。ごとーは不純な動機で書記を勝ち取ったんだから、
めんどうなことの一つや二つ、ど〜ってことないよぉ〜」
学校への道も梨華ちゃんと一緒なら楽しいしね。
ごっちんはそう言って右目をキュッて瞑ってウィンクをくれた。
- 193 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)02時02分49秒
「それよりさぁ〜」
「ん?」
「その『ごっちん』っての。そろそろ卒業しない?」
「…あ…」
「ごとーはさっ。『ごっちん』より『真希ちゃん』がいいな〜」
「あ…ごめん。二人のときはそう呼ぶようにしようと思ってるんだけど…」
「だめっ!」
「へ?」
「みんなの前でもそー呼ぶことっ!!」
うんうん、それがいいそれがいいって、ごっちんは1人で頷いて納得してる。
「えーっ。恥ずかしいよぉ〜。『ごっちん』って呼び方に慣れちゃってるしぃ……」
なんかねぇ…。呼び方を急にかえるのは…。ちょっと。恥ずかしい…。
- 194 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)02時07分45秒
「…梨華ちゃん…」
「ん?」
「…たくさん…呼んでくれたじゃん…」
「へ?」
「この前…」
「?…この、前…??」
頭の上に「?」マーク全開の私の顔をのぞき込んで
「ビ・デ・オ・の・日ぃ〜っ」
ごっちんがニマ〜ッて笑った。
「!!あ、あ、…あれはっ…」
しどろもどろになりながら、自分の顔がバーッて赤くなっていくのを感じた。
「『真希ちゃん』だけじゃなくて『真希ぃ〜』とも呼んでくれてさぁ〜。もぉ〜ごとー
感動したよぉ〜」
「あ"ーーーっ!!やめてぇーーーっ!!」
思い出しただけでも恥ずかしくなる。どーかしてたんだよぉ、あの日はぁーっ。
「たくさん名前呼んでぇ〜。たくさ〜んしてくれたじゃんっ」
ごっちんはニヤニヤしながら、このこのぉ〜と肘で身体をつついてくる。
どーしてこんなことを平気で言えるんだ。この人はっ。
ブツブツ文句を言ってると
「あの日あれだけ何度も呼べたんだからさ」
突然大人っぽい表情になって
「人前でちょっと呼ぶことくらい、きっとなんでもないよ」
私の頭をやさしくなでてニコッて笑う。
きっとこーいうところに惚れちゃったんだ…私…。
- 195 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)02時12分57秒
「ほらっ。『真・希・ちゃん』」
「…ま…き…ちゃ…ん…(ゴニョゴニョ)」
「もぉ〜っ。それじゃー聞こえないよぉ〜。ほらっ。『真ぁ〜希ぃ〜ちゃんっ!』」
「まぁ…きぃ…ちゃん…(ゴニョゴニョ)」
「もぉ〜、全然聞こえないよ〜!エッチのときはあんなに何度も呼んでくれたじゃんっ」
「あーもぉーっ!わかったよぉ〜っ!…真希ちゃんっ!!!!」
「はいっ。よくできましたっ」
またニコッて笑って頭をなでてくれた。
「んあーっ。今日はいい日だぁ〜っ」
ごっちんはニカーッと笑って、また両腕を空に向かってぐーっとのばした。
いつか、心の中で呼びかけるときも「真希ちゃん」って呼べる日がくるのかな…。
そー言えば、『先輩』が『梨華ちゃん』になったのはいつだったっけ?
あとでゆっくり思い出してみるのもいい、かな…。
- 196 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)02時17分10秒
「あっ!そうだっ!」
いろいろ思いを巡らせているうちに、大切なことを思い出した。
「ねえねえ、真希ちゃんっ」
「ん?なに?」
「あのビデオ。どうしたの?」
「んあ?ビデオ?」
「うん。元々は恋愛映画が録画されてたはずのビデオ…」
エッチビデオが重ね録りされてたけど…。
「かえしておいたよぉ〜。ゆーきが楽しみにしてるだろ〜し」
「あ、そなの?」
「うんっ。すんごく楽しんだと思うな〜」
ニヤニヤしながらごっちんが言う。
「楽しむって…(エッチ!)」
私が頬を赤らめてると、ごっちんがすました顔でこう言った。
「ドリフの大爆笑、上から録画しといてやったから」
- 197 名前:スイッチ 投稿日:2002年10月31日(木)02時29分21秒
え?
…ドリフ…?
………え?
…………え?
「ええええぇええぇぇええええっ!!!???」
画面の前で呆然と立ちつくすゆうき君の姿が目に浮かんだ。
「大丈夫大丈夫っ。あれ、『重ね録りしてもいつまでもキレイ』ってビデオだから」
ごっちんが嬉しそうにあははって笑った。
(ほんとにもぉ〜この人はっ)
私もつられてあははって笑う。
「さっ、行こっ。話し合いに遅れちゃうよっ」
そう言って軽やかにごっちんが走り出す。
それにあわせて、彼女の制服の、折り目の綺麗なスカートが楽しそうに揺れた。
「あ、待ってよぉ〜っ」
慌ててあとを追いかける、私のスカートもきっと楽しそうに揺れてる。
−終−
- 198 名前:にゃんち 投稿日:2002年10月31日(木)02時39分01秒
- 更新しました。
169−197「スイッチ」。
- 199 名前:にゃんちゅ− 投稿日:2002年10月31日(木)02時41分20秒
- あれ?(^_^;)にゃんちゅーの「ゅー」がいつのまにか消えてる(笑)。
どうしてだろう??
- 200 名前:にゃんちゅー 投稿日:2002年10月31日(木)03時55分59秒
- よくみると、にゃんち、ってかわいいですねー。
改名してみようかな、とか思ってみたり…(笑)。
>>166153さん
レスありがとうございます!
圭ちゃん、ごっちんのはずがいつのまにかごっちん、梨華ちゃんに…。
すごくファンで毎晩こっそり見に行っているHPのCP、圭ちゃんごっちん多い
です(^_^)。
>>167名無し読者さん
レスありがとうございます!
最近、よっすぃー、梨華ちゃんはTVなどでの絡みが少ないみたいですね。
小説では人気のCPですね(^_^)。
>>168名無し読者さん
レスありがとうございます!
か、かわいいですか?そう言っていただけるとすごく嬉しいです。
もし書くことができましたら、今度は圭ちゃんごっちんで(^_^;)(笑)。
- 201 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月01日(金)22時32分25秒
- いしごま!!!
とってもよかったです。
また何かあったら書いてくださいw
にゃんちゅーさんの作品好きです♪
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